したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

送り火

101. 漂う紫煙は夕焼けに染まり ◆ppck5xcEk6:2014/10/05(日) 00:33:51 ID:Ad79Z8nk

〈黒鷺:そうなんですよぅ。みんな口ばっかで動かないし〉

 自動更新され、画面には相手の言葉が表示される。彼女は文化祭の責任者だが、クラスのメンバーが働いてくれないらしい。

 何処にでもある――俺自身も経験したことのある――愚痴だ。

 だが彼女には悪いが、俺の視線はチャット・ルームを向いてはいなかった。

 画面右下。時刻表示。

 16:37

 そろそろか。

 そう思って俺はキーボードを叩く。中学の時に叩き込まれた御陰でタイピングはほぼ完璧だ。

〈陸奥:本当そう言う奴等って腹立つよな。俺も経験したから良く分かるよ〉

 取り敢えず此処まで打ってエンター・キー。

 そして間髪置かずに再び、

〈陸奥:おっと、もうこんな時間か。悪いけど落ちますわー〉

〈黒鷺:あ、用事かなんかですか?お疲れさまでしたー!〉

〈陸奥:まぁ似たようなもんかな。また準備の話とか、色々聞かせてくれな〉

〈黒鷺:そりゃもうぜひ!てかお願いですから聞いてください!〉

〈陸奥:楽しみにしてるぜ!じゃあまたなー〉

 そう言い残して俺は退室ボタンをクリックする。

 続けてパソコンの電源も落とし、ブラック・アウトした画面を見て一言。

「まぁ用事と言うか……儀式みてぇなモンなんだがな」

 時計の針は16時43分を指していた。

12903. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/13(月) 09:08:14 ID:qN7UWdeM

「あはは、何でも無いよ」

 其れでも何故か、言葉通りに受け止められる。

 彼女が俺に笑ってくれる──其れだけで俺は、込み上げる何かを実感出来る。其れは、無性に叫んだり飛び跳ねたりしたくなる衝動に似ている。

「ん──」

 両手を組んで伸びをして見せる彼女。それと同時に制服と肌着が上に引っ張られる。

 九月も中旬とは言え、まだ日中は暑い。薄いインナーから白い肌が零れて、夕陽に晒される。

 俺は慌てて──だが飽く迄も自然を装って──視線を逸らす。

 其れに気付きもせずに思う存分伸び切った彼女は、肩から、そして全身から力を抜いた。

 「ふぅ。──さて」

 私は帰るです、と言って挙手敬礼をした。

「何だ其れ」

 俺は笑ったが、

「あぁ、御苦労だった。無事に帰り給え」

 と敬礼で返してやった。

 妙に真面目な表情の二人。そして数拍の後、どちらともなく笑い出した。

13003. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/13(月) 09:08:46 ID:qN7UWdeM

 ひとしきり笑った後、

「良し。じゃあ、まぁ、気を付けて帰れよ」

 フェンスに背を預け、右手をひらひらと振ってやる。

「うん……って、すぐ下だけどね」

「確かに」

 笑う俺に彼女が尚も口を開いた。「て言うか、」

「ん?」

「長門は帰らないの?」

「──あ、そっか」

 それもそうだ。部屋は隣同士なのだ、一緒に帰れば良い話である。

「オーケイ、一緒に帰ってあげよう」

 散々してやられた反撃のつもりで、俺は言ってやった。

「そう言う言い方するんなら、別に一緒に帰ってくれなくて良いですー」

 ──どうやら、敵の方が一枚上手だったらしい。

「……すんません。一緒に帰らせて下さい」

 そして俺は敗北し、もみじは明るく笑い──あの鐘は鳴り止んでいたのである。

13103. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/13(月) 09:11:59 ID:qN7UWdeM



 何と言うことは無い会話を交わしながら、二階分の階段を二人で降りた。

 其々の部屋の前まで来ると、彼女は言った。

 各階の廊下は、屋上ほどでは無いが陽当たりが良い。特に俺から彼女を見ると向こう側に太陽がある為、半眼で無いと堪えられない。

「また、会えるよね」

 俺は眩しさも忘れて目を見開いた。彼女の表情は分からない。俯きがちなのは、歪んでいるのは、眩しさの所為か。

「──やっぱ何か変だぞ? そんなこと訊きやがって」

 わざとらしく後頭部を掻き、呆れたと言う風に言ってやる。

「当たり前だろうがよ。また会おうぜ」

 彼女が顔を上げる。──まただ。また笑顔に影が見える。光の加減だろうか。

「うん、また会おうね」

「おう」

「──ごめん」

13203. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/13(月) 09:13:24 ID:qN7UWdeM

 頷く俺に、彼女は口の中でそう言い、左手を翳して右手でドアノブを掴んだ。

「じゃあね」

「ん」

 きぃ、とドアが啼き、彼女は部屋に吸い込まれていった。

 取り残されたような気分になった俺は、ふと気が付いた。



 笑顔に影が見えたのは、確かに光の加減かも知れない。

 だが、そうであればこそ、夕陽は俺に向かって差しているのだ。彼女が眩しがる訳は無い。俯く理由も、表情を歪める理由も無い筈である。

 そして──、

133 ◆ppck5xcEk6:2014/10/13(月) 09:17:36 ID:qN7UWdeM
ここまで
ちょっと1レスの文量(改行量)が多かったかな

昨日は更新しそびれてしまったので、夜にも更新する(かも)

134 ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:42:35 ID:5t7N9y8M
結局昨日は更新しなかったマン参上

13503. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:43:26 ID:5t7N9y8M





「彼女は“変なことを言って”ごめん、とは言わなかったし……じゃあ“またね”とは言わなかった」

 あの頃を頭の中に再現する。意識するまでも無く、リプレイされる映像のディテールはメガピクセルだった。

 ──そう。彼女は「ごめん」と言い、「変なことを言ってごめん」とは言わなかった。そして彼女は「じゃあね」と言い、「じゃあ、またね」とは言わなかったのだ。

「それって……」

 息を呑むような朱鷺の声。それで俺は、ふと現実に呼び戻される。

13603. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:43:58 ID:5t7N9y8M

「あぁ、御察しの通りだ。其れきり、彼女とは会ってない」

「住所とか、連絡先も……?」

「全く、知らない」

 肩を竦めて言ってみせる。

「何で……」

「さぁな。……今にして思えば、あの時に無理矢理にでも引き止めて、訊き出さなきゃいけなかったんだろうな」

 だが、其れは出来なかったし、しなかった。

 当たり前だ。そんなもん、大丈夫だと思ったのだ。

13703. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:46:06 ID:5t7N9y8M





 其のツケは翌日の同刻、早くも回って来ることになる。

 チャイムを押してもノックしても反応の無いドア。

「今日はー、長門ですー」

 早くなる動悸を認めたくなくて、平静を装ってドアの向こうに声を遣る。

 三秒、四秒、五秒……返事は無い。代わりに西日と共に烏が、かぁ、かぁ、と啼く。

 其の声に俺は、身体を震わせて振り向いた。三つの黒い点が、オレンジの世界を滑るように飛んで行く。

 そして追い討ちを掛けるように──あの鐘の音が響いた。

 遠くから、微かに。遠くから、確実に。

13803. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:47:38 ID:5t7N9y8M

 オレンジの空気を震わせ、金に舞う埃を揺さぶり、俺の背中に触れた。

 音は俺の背中に当たると全身を這い回り、その蠢く感触に産毛が逆立った。汗が吹き出たが、暑さの所為で無いことは明白だった。

 怖い。──そう、其の時の俺は怯えていた。

 鐘の音は鳴り続けるが、逃げることも出来ない。

 急き立てられるように、奮い立たせるように──逃げ込むように、ノブを捻ってドアを引いた。

 きぃ、と一声だけ啼いて、ドアは開いた。

13903. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:48:41 ID:5t7N9y8M

 其処には見慣れた間取りがあった。其れは我が家が同じ間取りだからと言うことでもあるし、実際に良く見た夕水家の間取りだからと言うことでもある。

 だが、夕陽を受ける玄関には唯の一足も履物が無かった。

 心地良い日陰の涼しさを満たした台所には、冷蔵庫が無かった。食器はおろか、棚が無かった。テーブルが無かった。テレビが無かった。壁の至る所に掛けてあった写真や、もみじが描いた絵も無くなっていた。

 ──そう、あそこには二人で写っている写真が飾られていた。小六の冬休み、珍しく雪が積もった時の写真。いつの間にか無くしてしまい、つい昨日、取り戻そうと決意した風景だ。

 其処からは一切の生活感が欠如していた。家具と呼ばれる物の他、凡そ生活用品らしい物は一つも見付けられなかった。

14003. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:50:01 ID:5t7N9y8M

 頭の中が真っ白になった。──いや、色も分からない。目に見える物が何もかも信じられず、視覚も聴覚も何処か違う所へ飛んで行ってしまったかのようだった。

 玄関から差し込む強い陽の熱と、響き続ける鐘の音だけが俺を現実に繋ぎ止めていたが、其れでも俺は、離れた所から俺を見ているような気分だった。

「おう、朝木さん家の坊主じゃねぇか」

 低い声が背中にぶつけられた。俺は首を巡らせることも出来ないように思えたが、視界は白髪混じりの男性を捕らえていた。皺を刻みながらも脂を失っていない顔──此のアパートの大家だった。

14103. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:51:37 ID:5t7N9y8M

「夕水さん家な……。何か知らんが、突然出て行ったよ」

「何か……聞いてませんか」

 自分が自分で無い感覚とは、こう言うことを言うのだろうか。自分の声を録音して聴いてみると全く違う声に聞こえるように、誰が発した声かを判別するのに少し時間が必要だった。

「何も聞いてないし、訊きもしなかった。まぁ──こっちとしちゃ、貰えるモンが貰えりゃ、其れで構わないしな」

 脳と心臓が一気に炎上した。次の瞬間、俺は大家の襟首を締め上げていた。

14203. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:52:24 ID:5t7N9y8M

「手前ぇ……っ」

 何故そうしたかは分からない。

 だが、勝手に息を荒くしている俺に、「……坊主、」

 大家の声は冷静だった。

「詮索屋は嫌われるぜ」

 恐らく、此の襤褸アパートを経営して行く秘訣であり──人生の先輩としての忠告だったのだろう。

 其れでも、

「其れでも──其れでも俺は……っ!」

「離せ」

 大家が鬱陶しげに右手を振るうと、俺は無様に尻から墜ちた。

14303. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:52:56 ID:5t7N9y8M

「ほら、さっさと出てくれねぇか。空き部屋だからって勝手に入られちゃ困るんでね。──ほれ、俺ぁ鍵を掛けに来たんだ」

 ポケットから小さな鍵を取り出す。何とも安っぽい鍵だが、夕陽を受けて金色に光っている。

 俺は何も言えないままに立ち上がり、廊下に出た。

 ドアが啼き、空き部屋として──元・夕水邸として、閉鎖する。鍵が掛けられ、其れは完全な物となった。

「そうそう」

 鍵をポケットにしまうと、大家は思い出したように言った。

14403. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:54:03 ID:5t7N9y8M

「夕水さん家の嬢ちゃんにな、返しといてくれって頼まれた」

 そう言って左手を差し出されて初めて、大家がCDを持っていることに気付いた。

 ハートに包帯が巻かれた、手描きタッチのジャケット。

 あれは確か、中二に上がる前の春休みだったか。久し振りに声を掛けられたから何かと思えば、貸してくれと頼まれたのだった。

「有難う……御座います」

「あぁ、料金外だがサービスにしといてやるよ」

 じゃあまたな、と言って大家は背を向けた。

14503. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:55:01 ID:5t7N9y8M

 俺は何も言わず、CDに目を落とす。シンプルで優しいジャケット。

 ──でも。

 そう言えば──そう、良く考えてみれば可笑しな話だ。まさか──いや、でも。何故だ?

 疑問符を次々に浮かべている俺は、大家の足音が止まったのに気付かなかった。「お前ら、」

 反射的に顔を向ける。

14603. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:55:39 ID:5t7N9y8M

「中坊んなって話さなくなったと思ってたが──」

 大家の背中は、右肩から袈裟懸けに橙の光を受けている。其の姿は歳を感じさせないように見える。

「嬢ちゃんは、ちゃんとお前を見てたんだな」

 そうだ。此のバンドの曲を聴くようになったのは、もみじと話さなくなってからだ。俺が此のCDを持っていると、どうして彼女は知っていたのか。

14703. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:56:52 ID:5t7N9y8M

 何も言えず、再びジャケットに視線を注ぐ。

「へっ、お前にゃ勿体無ぇぐれえだ」

 足音が再び聞こえ始め、遠去かって行く。

「こんな所で洟ぁ垂らしてる、糞坊主にはよ」

 ──五月蝿い。

 そう言おうとして、喉の奥から言葉は出て来てくれなかった。

 包帯を巻いたハートが滲んで見えたのは、紛れもない事実だったから。

148 ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 11:57:31 ID:5t7N9y8M
ここまでだお

149晒すスレの者 ◆iJwtISSDjM:2014/10/14(火) 19:10:52 ID:MVy4UzJk
大家さん渋いな!
何か壮大な過去がありそうだぜ!

150 ◆ppck5xcEk6:2014/10/14(火) 20:25:49 ID:UJ0uNm5Y
>>149
有難う
大家さんは苦労人です(たぶん)

151 ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:23:24 ID:TMrkivb2
昨日の更新、大事なとこのコピペミスに気付く
やっぱスマホはアカンね(責任転嫁)

ちゅーことで>>147はミス

15203. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:25:35 ID:TMrkivb2
>>147の差し替え)

 何も言えず、再びジャケットに視線を落とす。

「へっ、良い娘じゃねぇか。お前にゃ勿体無ぇぐれえだ」

 足音が再び聞こえ始め、遠去かって行く。

「こんな所で洟ぁ垂らしてる、糞坊主にはよ」

 ──五月蝿い。

 そう言おうとして、喉の奥から言葉は出て来てくれなかった。

 包帯を巻いたハートが滲んで見えたのは、紛れもない事実だったから。



 紫がかった空に烏が一声、二声と啼くまで、俺は呆然とジャケットを見詰め続けた。

15303. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:26:45 ID:TMrkivb2





「……と、まぁ。長い話になっちまったな」

 出来る限り明るい調子で言う俺。ふと見れば、夕陽は目線の高さまで降りて来ている。

「うぅん……そんなこと、無いよ」

 俺にとって辛い話だが、彼女にとっては更に辛かっただろう。

「話してくれて有難う」

 笑顔を作って朱鷺は言った。

「そりゃ、な。……お前さんとは此れからも、良い友人で居たいから」

 表情を見られたくなくて、腰掛け直しながら視線を落とす俺。

「あーあ」

 弾けたように声を上げる彼女。ふと出来た影に顔を上げてみれば、彼女の背中が其処に在った。

15403. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:28:02 ID:TMrkivb2

「完全に相思相愛ですもんねぇ。そりゃ敵う訳無いや」

 背中越しの声。

「その上、ナニゲに友達宣言されちゃったし……あーあ」

 二度目の「あーあ」にも何も言えずに落とされた影を見詰めていると、影は一歩、二歩と遠ざかった。

「でも、良かったのかな。伝えられたし。こんだけ話して貰えたし。此れからも──」

 彼女は振り向くこと無く、柵にもたれ掛かった。

「友達で居れるんだし」

 苦笑を作ろうとした俺に、朱鷺の声が降り注ぐ。「ねぇ、長門さん」

 首を巡らせた彼女の瞳が、夕陽を乱反射させている。「どうした?」

「……煙草を一本、貰えないかな」

 俺は視線を逸らし、泳がせて躊躇った。だが彼女は、しっかりと俺を見ている。

「ん……分かったよ」

15503. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:28:54 ID:TMrkivb2

 観念した俺は、ジャケットのポケットから箱を取り出す。使い捨てライターも箱の中に突っ込んである為、先ずはライターを取り出し、それから一本を抜く。

 有難う、と笑顔で言って朱鷺は煙草を受け取った。「どうすれば良いの?」

「咥えて」

「ん」

 彼女が咥えた煙草の先端にライターを近付け、左手で風除けを作ると、右手の親指で石を回す。二度、三度と回すと、ガスに火が点き煙草を炙った。

「吸って」

「……ん」

 朱鷺は少し顔をしかめながら、煙を肺に取り込む。

 ふと、見守る俺と視線が絡んだ。すぐに彼女は煙草に注意を戻し、人指し指と親指で煙草を摘んで口から離すと、息と共に大きく煙を吐き出した。

 そして一言。

「苦い」

 咳き込むことも無く初めての喫煙を果たした彼女が発したにしては、意外な言葉だった。

 俺は思わず吹き出してしまった。むっとした様子の彼女だったが、すぐに一緒になって笑い出した。

15603. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:30:38 ID:TMrkivb2



 彼女の手元から昇る紫煙は、夕焼けに染まっていた。

 彼女の手元から昇る紫煙は、何も語らなかった。



 彼女の手元から昇る紫煙は、秋雲に溶けて行った。

15703. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:31:59 ID:TMrkivb2





 秋の陽は釣瓶落とし、とは良く言ったものだ。空は、すっかり夜の色を纏っている。

 其処に突然、大きな華が咲いた。

「あ、煌夜祭が始まったみたい」

 朱鷺が楽しそうに言った。

「トーチ・トワリングも……あぁ、此処からなら良く見える。ほら、あれ」

 彼女が指した広場では既に、薄暗がりの中に幾つかの炎が浮かんでいた。

 ほど無くして、炎の円舞が始まった。炎は闇と闇の間を駆け抜け、夜の帳を粉微塵に切り裂いた。

 演者の意思からも外れたが如く、狂ったように闇を掻き乱す。其の頭上、かなりの低空で再び花火が炸裂した。炎を取り囲む群衆から、わっと言う歓声が上がる。

「綺麗……」

15803. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:33:06 ID:TMrkivb2

 恍惚とした声が彼女の口から漏れる。ふと横目で表情を伺うと、乱れ舞う炎に照らされている。

 炎は瞳と、頬の一筋の中で燃えていた。

 俺は拭ってやりたい衝動に駆られたが、見なかったことにした。

 ──下手な同情に何の意味があるだろう。

 そう自分に言い聞かせようとした時、俺の左手に冷たい人肌が触れる。

「……ごめんなさい」

 濡れた声が聞こえた。

 俺は、下手な同情を、彼女に掛けた。

15903. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:34:47 ID:TMrkivb2





「……っと、此の辺で良いよ」

 煌夜祭も終わり、文化祭は閉幕した。其処此処で打ち上げ騒ぎが起こっている中、俺と朱鷺は入り口のアーチまで歩いて来た。

「え……でも。良いよ、駅まで送るよ」

 彼女は、そう申し出た。慣れてくれたのだろうか、気付けば彼女は、完全にタメ口で話してくれるようになっていた。

「や、悪いよ。片付けとか……友達と騒ぐとか、忙しいんじゃないの?」

「片付けは明日丸一日掛けてするの。皆は今日、私が勝負掛けるの知ってるから大丈夫」

 にや、と笑って見せる。意地の悪い言い方だ。そんな事を言われても、俺は苦笑で返す他に無い。

 ──いや、他にもあるか。

 諦念で、俺は胸中で呟いた。

「御言葉に甘えて、駅まで送って貰おうかな」

 彼女は、笑顔で頷いてくれた。

16003. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:36:13 ID:TMrkivb2



 煌夜祭が終わった時点で、殆どの客は帰ってしまったのだろう。閉幕後の此の時間、街灯に照らされた歩道を歩く影は少ない。

「朱鷺は、此の後どうすんの? 片付けは明日なんでしょ?」

 素朴な疑問だった。

「うん。バスで高校まで帰って、親が迎えに来るの」

「こっから朱鷺の高校まで、バスが出てるんだ?」

「あ、学校が用意したバスね」

「そう言うことか」

 取り留めの無い会話。此の道を逆に歩いていた時と変わらない。

 ──二人の距離は、どうだろう。

 ふと、そんなことを考える。

 ──近くなったか、遠くなったか。

 物理的な距離は変わっていない。問題は──

16103. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:37:32 ID:TMrkivb2

「長門さん」

「ん?」

 俺を見上げた朱鷺と目が合う。

 彼女は視線を前方に戻して、

「今日は来てくれて有難う」

「何を言ってる」

 俺も視線を戻す。

「誘ってくれて有難うよ」

 声こそ聞こえなかったが、隣で彼女が笑顔になるのが分かった。

「それと……うん」

 目を遣ると、少し伏せ気味の朱鷺。

「色々と、有難う」

「其れこそ──俺の方こそ、有難う」

 うん、と彼女は小さく頷いた。複雑な心境だろうが、微笑んでくれる。

 良いのか悪いのか分からないが、俺にも微笑が浮かんだ。

16203. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:39:18 ID:TMrkivb2



 “市民公園前”駅は、小さい割に明るい照明で闇に浮かんでいた。

 出入り口をくぐり、自動券売機で乗車券を買う。

「……さて」

 そう言って俺は、俺の背中を見ていた朱鷺に向き直る。

「今日は本当に有難う。……楽しかった」

「本当?」

「おいおい、楽しんでたように見えなかったか?」

 彼女は笑ってくれた。

 遠くから闇の静寂を破って、音が聞こえる。もうすぐ電車が来るらしい。

16303. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:40:04 ID:TMrkivb2

「……握手」

 彼女は目を伏せて手を差し出した。

 俺は笑って、

「握手」

 握り返す。

 先刻と同じ冷たい感触が掌に伝わる。

「長門さん、暖かい手してる」

「朱鷺の手は冷たいな」

 何でも無いことで笑い合える。俺は良い友人を持った。

 電車の音が近付いて来た。それを聞き付けた俺はホームの方を見遣る。

「また、会えるよね?」

 其の言葉に、俺は再び朱鷺を見た。

16403. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:40:47 ID:TMrkivb2

「──当たり前だ。また会おうぜ」

「うん、会おうね」

「おう」

 其の応えに重なって、電車が駅に着いた。

「本当に有難うな。気ぃ付けて帰ってくれよ」

「長門さんも」

 俺は頷いて、握手したばかりの手で、

「わ?」

 朱鷺の頭を、くしゃくしゃと撫でてやった。

「じゃあな」

 そう言って、彼女が再び顔を上げる前に回れ右して、改札を抜けた。

16503. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:41:28 ID:TMrkivb2

「長門さん!」

 声に振り向けば、俺に乱された髪も其の侭に、今にも崩れそうな顔の朱鷺が居た。

 首を振る彼女。

 きっぱりと、強い調子で。

「駄目」

 俺の右眉が、気付いた拍子で跳ね上がる。「──悪い」

「じゃあ、またな」

 彼女は泣きそうな顔の侭で笑った。手を振ってくれた。

 俺は右手を上げて其れに応え、電車に乗り込んだ。

16603. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:42:06 ID:TMrkivb2



 “市民公園前”駅で乗ったのは俺一人だった。

 俺が乗り込むのを見計らったように扉は閉まり、電車は出発した。



 電車は、俺を俺の日常へと引き戻して行く。

 電車は、朱鷺を朱鷺の日常へと引き戻して行く。



 ──一切の容赦も無く。

 ──微塵の慈悲も無く。

16703. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:43:15 ID:TMrkivb2




 揺れる車内。ふと窓から空を見上げれば、白銀の月が浮かんでいた。

 もみじも何処かで、同じ月を見ているだろうか。



 朱鷺は、泣いてはいないだろうか。

16803. そして紫煙は秋雲に溶け ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:44:41 ID:TMrkivb2





 幾ら考えても答えは出なくて、俺は煙草の箱を握り潰した。





―03. そして紫煙は空雲に溶け 完―

 送り火 了

169 ◆ppck5xcEk6:2014/10/15(水) 15:46:50 ID:TMrkivb2
これにておしまい

170晒すスレの者 ◆iJwtISSDjM:2014/10/17(金) 20:02:39 ID:gZrnW9Hw
切ない!

最後の朱鷺さんは本当は長門くんに駆け寄ってもらいたかったけど
自分の引き際はここだと自分に言い聞かせたんだろうか

煙草がキーアイテムでありながらも主役が高校生なのは、
大人になろうとしていることの表れなのだろうか

てっきりもみじさんは亡くなっているのかと思いきや、
理由を告げずに姿を消したのか
少し希望があるだけにきついぜ……

お疲れ様でした!

171<削除>:<削除>
<削除>

172 ◆ppck5xcEk6:2014/10/18(土) 22:30:03 ID:5CnWii4k
>>170
最後まで御付き合い頂いて感謝です

切なさを楽しんで貰えたなら幸いです
登場人物などの意図を私が説明してしまうのは反則であろうと思うので割愛させて下さい、申し訳無い

ただ、死別だけは避けるよう意識したのは確かです
これはこれで、個人的には色んな意味合いがありますが、上手く活かせられたら幸い

こまめなレスに元気付けられました、有難うでした

173人間 ◆puRgtI1HCs:2014/10/19(日) 22:44:57 ID:IFnZv1hA
誤読を恐れずに感想を述べさせていただきます。

僕はこの物語を、ある種の反復と受け取りました。過去にお互い想いを告げられず別れてしまった主人公ともみじ。
その経験はオレンジ色の風景、それに鐘の音が印象的です。そして朱鷺との交流が、同じシチュエーションで繰り返される。

文章を読み返してみると、「ちょっと、ぼうっとしちゃっただけ」「口の中が苦い」「握手」と言った言葉が何度も反復して使われている所から、そう考えました。

そんな中で、最後の朱鷺との別れは、僕は救いのある展開だと思いたい。主人公ともみじの最後の交流のシーンでは、もみじは煙草を吸わなかった。
けれど、主人公は朱鷺に煙草を吸わせています。ここが、もみじと朱鷺との違い。

文化祭での主人公と朱鷺との交流を甘く儚い思い出として取っておきながら、ネット上で、あるいはリアルの友達として、二人にはこれからも交流を続けてほしいと僕は願いました。

174バブリシャス ◆ppck5xcEk6:2014/10/20(月) 16:57:10 ID:eBkehXDs
>>173
読んで頂いて感謝感謝
語って良いとのことなので、あれこれ御話ししつつ御返事させて頂きやす

> ある種の反復
> オレンジ色の風景、それに鐘の音
正しく、それです
同じシチュエーションを印象づけた上で、変わるものと変わらないものを浮き彫りにさせたかった

> 言葉が何度も反復
普段であれば言葉を変えて表現するところを、敢えて同じ言葉で重ねた部分ですね
御気付き頂けて光栄です

逆に情景描写は同じシチュエーションでありながら、別の言葉を用いて読み飽きないよう努めたつもりですが、どう感じられましたでしょうか

> 救いのある展開
だと私自身も信じています
煙草も然り、別れの言葉も然り、です
パンドラの箱のような作品になっていたら嬉しいなぁ、なんて(喩えが大袈裟ですがw)

> 二人にはこれからも
二人の今後を願って頂いて嬉しい限りです
そこを語るのは流石に蛇足だと思うので割愛させて頂きますがw


読了&感想、どうも有難うでした!

175人間 ◆puRgtI1HCs:2014/10/20(月) 20:54:05 ID:tkMG756w
>>174
なんか堅苦しい文章ですみませんwww
読んだものの感想を書くときはこうなっちゃうんですwwゆるしてwwww

ずけずけと考察をさせていただきましたが、見当違いなことを書いていなかったようですのでほっとしました。

よく、ループものってあるじゃないですか。あれ、同じような展開や描写が続けば退屈で鑑賞を途中で止めてしまうことがあります。
バブリさんの豊かな表現力が、反復という構造に気づかせながら、読み手を飽きさせないことに成功していると思います。
やや硬派な文体の中で、時折艶のあるフレーズを混ぜてくるあたり、ニクいなと思います。いや、面白かった。

パンドラの箱、ですか。そう言われれば……。大げさではないような気がしますよ。

美しい物語をありがとうございました。ごちそうさまです。
また次の作品に期待しております。

176 ◆ppck5xcEk6:2014/10/21(火) 07:52:36 ID:xNN/kQdw
>>175
あぁ、いや、私こそ、このスレではこのテンションで行こうと思うておったのでw
御構いなくですです

> 見当違いなことを
例え私の意図と違う感想を頂いたとしても、それはそれで貴重な意見です
なので気軽に書いて頂けたら嬉しい

> 反復という構造に気づかせながら、読み手を飽きさせない
これは何と嬉しい御言葉……!
成功しているようで安心しました、感謝感謝

> 時折艶のあるフレーズ
おぉ、そんなの書けてましたか私w
もし宜しければ、一つでも良いので該当箇所を教えて頂きたい
……なんて言う厚かましい御願い(´・ω・`)

> いや、面白かった
> 大げさではない
> 美しい物語を
これまた勿体ない御言葉を有難う御座います(´;ω;`)
次……は、いつになるや分かりませんがw
また御付き合いを頂ければ幸せです、本当に有難うでした!!

177人間 ◆puRgtI1HCs:2014/10/22(水) 14:40:50 ID:zlbcVDQs
>>176
レスに気づくのが遅れてしまいました……すんまそん

艶のあるフレーズだなといくつか思いましたものをおつたえ致します。

6レス目
>傾く太陽色に染まる空。雲。家。道。車。人。
この体言止めの繰り返し、好きっすわ。

7レス目
>四辺を囲む銀色の檻が金色の光を反射していた。
銀と金の対比。檻って表現もニクい。122レス目にも金銀の対比がありましたね。
てか冒頭の場面、全部美しい。

93レス目
>彼女は所詮、画面の中に居る者に過ぎない。俺にとって黒鷺は、何処まで行っても黒鷺だった。
>だが、彼女は違った。確かに自らの感情を疑問に思いつつも、感情を歪めるような真似はしなかった。陸奥の向こう に、まだ見ぬ長門を見ていた。
陸奥の向こう、ってのがすごいなあ。

137、138レス目
>そして追い討ちを掛けるように──あの鐘の音が響いた。
>遠くから、微かに。遠くから、確実に。
>オレンジの空気を震わせ、金に舞う埃を揺さぶり、俺の背中に触れた。
>音は俺の背中に当たると全身を這い回り、その蠢く感触に産毛が逆立った。汗が吹き出たが、暑さの所為で無いことは明白だった。
音に肌触り、感触を持たせる表現、参考になります。

157レス目
>ほど無くして、炎の円舞が始まった。炎は闇と闇の間を駆け抜け、夜の帳を粉微塵に切り裂いた。
>演者の意思からも外れたが如く、狂ったように闇を掻き乱す。其の頭上、かなりの低空で再び花火が炸裂した。炎を取り囲む群衆から、わっと言う歓声が上がる。
この部分、情景が頭に浮かびすぎてやばいですわ。

ざっと読み返すとこんなものです。シーンで言うと握手の下りとか最高です。
えらく縦にも横にも長いレスになっちまいましたが、ご容赦を。

178バブリシャス ◆ppck5xcEk6:2014/12/19(金) 10:36:05 ID:0/J/2Qok
>>177
これは本当に感謝の極み
とてもとても今後の参考になります
そして遅くなったと言うレベルじゃない御返事……許してくれとは言いますまい(´・ω・`)


> 6レス目
> >傾く太陽色に染まる空。雲。家。道。車。人。
> この体言止めの繰り返し、好きっすわ。

一つ一つピントを当てたかったシーンです
読点で並べると流してしまうかな、と多少強引に句点で並べてみました
好きとは嬉しい評価


> 7レス目
> >四辺を囲む銀色の檻が金色の光を反射していた。
> 銀と金の対比。檻って表現もニクい。122レス目にも金銀の対比がありましたね。
> てか冒頭の場面、全部美しい。

対比、対句が好きなもんで、気付いて貰えて嬉しいです
檻の表現にインパクトを受けて頂けたら光栄


> 93レス目
> >彼女は所詮、画面の中に居る者に過ぎない。俺にとって黒鷺は、何処まで行っても黒鷺だった。
> >だが、彼女は違った。確かに自らの感情を疑問に思いつつも、感情を歪めるような真似はしなかった。陸奥の向こう に、まだ見ぬ長門を見ていた。
> 陸奥の向こう、ってのがすごいなあ。

画面を陸奥と言い換えた場面ですね
直喩よりも隠喩が好みなのです


> 137、138レス目
> >そして追い討ちを掛けるように──あの鐘の音が響いた。
> >遠くから、微かに。遠くから、確実に。
> >オレンジの空気を震わせ、金に舞う埃を揺さぶり、俺の背中に触れた。
> >音は俺の背中に当たると全身を這い回り、その蠢く感触に産毛が逆立った。汗が吹き出たが、暑さの所為で無いことは明白だった。
> 音に肌触り、感触を持たせる表現、参考になります。

ここは冗長になってないか心配だった場面です
が、意図が伝わったようで嬉しく思います


> 157レス目
> >ほど無くして、炎の円舞が始まった。炎は闇と闇の間を駆け抜け、夜の帳を粉微塵に切り裂いた。
> >演者の意思からも外れたが如く、狂ったように闇を掻き乱す。其の頭上、かなりの低空で再び花火が炸裂した。炎を取り囲む群衆から、わっと言う歓声が上がる。
> この部分、情景が頭に浮かびすぎてやばいですわ。

完全に筆が乗ってた場面ですw
頭に浮かんだ情景を思い通りに文章に落とせて気持ち良かった記憶があります
そのまま読者の頭に戻ることが出来たなら、私も文章も、物語も、こんなに幸せなことはありません


> ざっと読み返すとこんなものです。シーンで言うと握手の下りとか最高です。

いや、もう、本当に有難う御座いました
最高とまで言って頂けて光栄の反面、勿体なく思います

文章、文体への感想は非常に貴重で、大変参考になりました
今後とも奮励努力して参りますので御見捨て頂かなければ幸福です


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板