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避難所スレ
161
:
ほんの少しの休息
◆OSPfO9RMfA
:2015/01/11(日) 12:43:27 ID:VwonU1yw0
「チャカが盗まれた?」
「し、しーっ!! アニキ、声がでかいですぜ!!」
「声がでかいのはお前の方だ」
人気のない路地裏で、二人のヤクザが会話していた。
藤村組の傘下の、無名に等しい組の、弟分と兄貴分だ。
「チャカの手入れが終わった後、誰かに背後からポカリと殴られて……俺、どうしたらいいんすかね……」
「そりゃまぁ、まずはケジメだよな。これぐらいで済めば良い方か?」
「そっすよね……トホホ」
兄貴分は左手の小指の方から二本指を立てる。ガックリと項垂れる弟分を見て、兄貴分は溜息をつく。可愛い弟分であり、その可愛さが余っての指導不足だとすれば、自身のミスだ。
「まぁ、取り返せたらお涙貰えねぇか、上の方には俺が陳情しとく。俺の管理不届きでもあるからよ」
「あ、アニキィ……アニキィ!! うおぉぉぉんっ」
兄貴分の器の大きさに、弟分は男泣きする。兄貴分は背を叩いて慰める。
「泣くな泣くな。報告がてらそいつを探しに行くぞ。キッチリ落とし前つけねぇとな。で、盗まれたのは預けていた俺のチャカと、お前のチャカだけか?」
「へい……手提げ式の金庫ごと盗まれました……」
二人は事務所に向かって歩きながら会話する。
弟分が言うには、拳銃の手入れをし、手提げ式金庫に入れた後に、何者かに背後から殴られて金庫ごと盗まれたという話だ。
補充の弾丸は大きな共同金庫に保管してある。そちらの方は無事ということらしい。
「手入れの最中に盗まれなかったのは不幸中の幸いだが、だから手提げ式の金庫はやめとけって言ったんだ。あんなのドリルとか万力とか使えば壊れちまうからな――ん?」
兄貴分は路上の草むらに何かが投げ捨てられているのを目敏く発見する。
近づいて草むらをかき分けると、手提げ式金庫が目に映る。弟分が管理していた手提げ金庫と同じ型だ。こじ開けられており、中身は空のようだ。
「あ、あーーーーー!! こんなところに!」
「……」
兄貴分のヤクザは違和感と、何とも言い難い不安を感じた。
確かに“ドリルとか万力とか使えば金庫をこじ開けられる”と兄貴分自身も言った。
だが、“容易に”とは欠片も思ってはいない。
誰にも見つからないような安全な場所まで持っていき、そこで時間を掛けて金庫破りをするのが普通だと思っていた。
――こんなに短時間で金庫を破り、こんな路上に捨てた?
――まるで“この場で金庫を破って投げ捨てました”と言わんばかりに?
背後で騒ぐ弟分を無視し、慎重にじっくりと金庫を探る。
そして、ある事実に気付き、凍り付く。
「――指は諦めた方が良いかもしれねぇな」
「え、アニキ、それはどういう――」
弟分は怪訝そうに兄貴分に尋ね――彼も理解して凍り付く。
「これは、腕どころか命までもってかれねぇ……」
金庫には“まるで純粋な握力でこじ開けた”ような指先の跡が、くっきりと残っていた――
◆
天河食堂に戻ったテンカワ・アキトは一息付いた。
首尾は上々だった。
ヤクザの事務所から拳銃の入った手提げ式金庫を盗み、人気のないところでバーサーカーのガッツにこじ開けさせた。中身さえ奪えば後は用はない。金庫を捨てて、即座にその場から立ち去った。
予定では大型金庫の方を狙うつもりだったが、たまたまヤクザが拳銃を手入れし、手提げ式金庫に保管する様子を見て標的を変えた。
彼を気絶させ、手提げ金庫ごと頂戴した寸法だ。
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