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俺「ストライクウィッチーズと洒落込もうか」

1名無しさん:2013/04/07(日) 02:07:57 ID:qhlpEsaY
ストパンの世界に俺を入れてイチャイチャしようずwwwwwwwwww っていうスレ
         ∧
         / |
        〃 .|
       .//  |           ___ _,. イ
      / |  /  _ __     /       /
      ( |. /; ; ; ; ; ; ; ;.;.;>、/ /    /
      ヽ.! /; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; < ̄ ̄
      / V; ; ; ; ; i; ; ; ; ;.;.丶; ; ; ;ヽ
     .///; ; ;./; ;/|; ; ; ; ; ;.;.;l; ; ; ; ;.i
     |/; ;./ ; ;/; ;/ .l .ト、; ; ; ;.;ト; ; ; ;.;\ _,
    ノ ; ; |; ;ノイ/⌒l | | ; ;7⌒| ; ; ! ̄
   /!|; ;A ; ; l∧|⌒リ  ! ; ;/ ノヘ!. ; ;l
      |.!/{ ト、 ト弋シア ノ/弋シア; ;ノ
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   ./; ;/; ; ; ;>ーヽー穴t;. |  '´
   /; ;/ ; ;/ヽ、 \ /《ム,\⌒≧
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660名無しさん:2015/09/12(土) 20:34:28 ID:A8Ah7DAQ0
乙乙

661名無しさん:2015/12/26(土) 18:37:22 ID:CqmkQtuw0
荒らされて以来久しぶりに来たけど最近は落ち着いたみたい?
来年はブレイブウィッチーズ楽しみですね

662鋼な俺:2016/01/13(水) 02:28:51 ID:UhXOn5zA0
おひさしぶりです。時間が開いて申し訳ありません。投下します

663鋼な俺:2016/01/13(水) 02:31:54 ID:UhXOn5zA0
眼下には海。それより少し手前に6つ。人間の戦闘機にも似た怪異が編隊を組んで進んでいた

背後からは太陽が昇りつつある

俺「敵機6視認! 10……から12m位の戦闘機にも似た形だ! 速度は400! 高度は5000! 南東から基地の方角に向かっている。いつもの定期便だろう。迎撃する。よろしいな?」

ミーナ『ええ,お願いします。取りこぼしても此方から十分に迎撃可能な範囲ですので無理はしない様お願いします』

俺「了解。そう言う事だ,シャーリー,ルッキーニ。燃料的にも十分余裕は有るが,俺は泳げん。手早く片付けよう。シャーリー。戦闘の指揮は予定通り君が執ってくれ」

シャーリー『了解』

出撃前に打ち合わせで,戦闘時の指揮権をイェーガーに渡すと言った時はシャーリーに猛反対された。だが,戦闘直前にもなると,流石に腹を決めたらしい

ルッキーニ『泳げないの? じゃあ,あれやらされるかな?』

俺「あれ?」

ルッキーニ『知らないの? ストライカーの模型履かされて海に入れってやつ』

そんな拷問めいた事をさせられるなんて知らなかった

俺「……ガランドめ……聴いてないぞそんなの」

シャーリー『まあまあ。みんなやってるしさ。じゃあ,さっきの打ち合わせの通りに』

664鋼な俺:2016/01/13(水) 02:35:00 ID:UhXOn5zA0
シャーリー軽く手を振り敵の編隊目掛けて降下する。それに少し遅れてルッキーニが降下を始める

ああ言う形をしたネウロイは一般的に前方への攻撃力が高いとされる為,それに習い初撃は反撃の危険の少ない一番後方に加える

後方上面から降下して一撃,直ぐに上昇,離脱した所に二人目がもう一撃

退屈ではあるが,確実かつこの数の差をひっくり返せる戦術として最も有効な物だった

BARの曳光弾が最後部のネウロイに突き刺さり,装甲を穴だらけにする

続いてルッキーニが止めを刺す

敵の編隊が散開し,追撃しようと上昇する。意外と反応が早かったが,どの敵もそもそもの速度が足りず,射程に収められない様だ

あれなら援護は必要無さそうだ

俺「シャーリー,ルッキーニ。お見事! 敵の反応が少々早いが,あれなら想定範囲内だろう!」

シャーリー『なら良かった。じゃあ予定通り,私が上空待機する』

俺「頼む。ルッキーニ!」

ルッキーニ『了解!』

665鋼な俺:2016/01/13(水) 02:38:14 ID:UhXOn5zA0
どうやら敵はロッテとケッテに分かれてカバーしあう積もりらしい。だが,どうしても数の多いケッテは動きが鈍く,数の少ないロッテは捕らえられた時の危険が少ない。ここはケッテで一番後ろに着いている機を狙うのが良いだろう

俺「ルッキーニ。ケッテの最後尾。通り抜ける前に上昇。良いな? 行くぞ!」

返事も聞かずに降下を始める

基本的には敵はまっすぐ進んでいるので距離600辺りから射撃ができる筈だ

同高度での格闘戦では照準からからはみ出るまで近付けと言うが,今の様な一撃離脱でそれをやると射撃時間が極端に短くなってしまう

MG151/20を構え直し,目標を照準内に収める

距離はあと1000もない

少し銃身をずらし,目標の未来位置に合わせる

真後ろから降下したお陰で,偏差はそこまで難しくない

距離は更に近付き,700を切る

息を大きく吸い,引き金を引く

目標が直前に軽く回避行動を取るが,もう遅い

5発に一発の割合で入っている緑の曳光弾が目標に吸い込まれ,装甲を削る

すぐに敵は照準いっぱいまで近付く

666鋼な俺:2016/01/13(水) 02:41:35 ID:UhXOn5zA0
射撃を切り上げ,敵の真上を通らない様斜め上に向かい上昇を開始すると,前方に少し距離を置き,ロッテを組んだ敵が向かってくるのが見える。しかし,それもシャーリーが危険と判断すれば攻撃を加えるので,あまり脅威にはならないだろう

後ろを振り向くと先ほど攻撃した目標が白い破片となって散って行くのが見える

撃破したルッキーニはロッテを組んだ敵に捕捉されかけていたが,上空からシャーリーがバラ撒いた弾にビビってすぐに追撃を諦めた様だ

シャーリー『ナイスキル』

俺「よし。このまま行けば……!」

667鋼な俺:2016/01/13(水) 02:45:01 ID:UhXOn5zA0
「作戦終了との事です! ネット用意! ラック準備急げ!」

内線を取った整備士がそう声を張り上げるとのんびりしていた整備士は慌しく動き出し,忙しそうにしていた整備士はもっと忙しそうに動き回る

滑走路から格納庫に入って少しの所にネットが張られる

俺はウィッチになってからの殆どの時間を広いアフリカで過ごしていたらしい。なので,501の様な基地での着陸は少々慣れないとの事で,整備士にオーバーラン防止用ネットを頼んだらしい

トゥルーデ「少佐がアフリカに居たなんてな。その前はスオムスに居たらしいし。流石はガランド少将のお気に入りと言う事か」

手に持っていたコーラをトゥルーデが後ろから取り上げ,口を付ける

エーリカ「撤退戦の頃はそんな風に考えられなかったって?」

トゥルーデ「ああ。で,どうだった?」

エーリカ「スオムスの後一週間の空白期間が有って空軍の非ウィッチ航空隊に1ヶ月。その後アフリカに転属して1週間。そして501に着任。あと,元々彼は陸軍の人間だったのに,原隊は空軍管轄の部隊とされている。これ以上はここで調べても解らないと思う。ウルスラに頼む?」

トゥルーデ「いや,良い。本来関係の無い事だ。放って置くのが安全だろう」

そう言って私の横に中身の詰まったコーラの瓶を置く

668鋼な俺:2016/01/13(水) 02:48:05 ID:UhXOn5zA0
エーリカ「んあ……んッ! でも,少し気になるんだよね。何があって空軍の原隊になっているか。とか,そもそもガランド少将がどうやって彼と知り合ったかとか」

トゥルーデ「歯で開けるなよ……まあ,確かにそうだが。知ってどうする?」

エーリカ「ああ,興味が有るだけだよ」

トゥルーデ「珍しいな。お前が」

エーリカ「そりゃね。だってウルスラを振ったんだよ?」

トゥルーデ「はぁ!?」

669名無しさん:2016/01/23(土) 02:23:40 ID:PD6re2B60
しえん

670名無しさん:2016/01/25(月) 22:28:58 ID:6Xw7UFbo0
とりあえず乙でいいのかな

676名無しさん:2016/06/22(水) 05:24:14 ID:DBNn8d3A0
(新年)初投下です

夜の帳が引き上げられ、東の空がうっすらと白みがかる頃。
全身を凍り付ける空気が蔓延するウィッチ用宿舎の通路を、女が一人歩いていた。
割り当てられた自室を出てから、一分もかからない距離を歩く智子は白い頬を赤らめ、とある一室の前で立ち止まった。
そわそわと身体を動かす様から彼女の頬に差し込む赤みが、寒さによるものだけではないことが伺える。
黒真珠を思わせる双眸は潤んだ光を帯び、その奥底に宿る光は嬉々とした色を孕んでいた。

熱の篭った吐息を零し、智子は古ぼけた扉に伸ばした手を、不意に胸元へと引き戻す。
そうしてまた、躊躇いながら扉に手を伸ばしては、胸元に戻すといった動作を何度も繰り返す。
視線の先に立つのは、廊下と目の前の部屋とを隔てる古めかしい扉。
その先で、今もまだ寝息を立てている部屋の主は、昨日再会を果たした彼。
昨夜は同じ布団で寝ることを断られたため、消灯時刻が近づいたことを理由に部屋から追い出されたが、今日は違う。
時間が許す限り――それこそ一日中彼の傍にいることも、話をすることも出来る。
そのことが嬉しくて、嬉しくて。
逸る気持ちを抑え切れず、早朝から足を運んだ智子であったが、この後の行動を決めあぐねていた。

677名無しさん:2016/06/22(水) 05:28:35 ID:DBNn8d3A0

どんな言葉をかけながら、彼を起こせばいいのだろうか。
どんな笑顔を浮かべると、寝起きの彼には魅力的に映るだろうか。
頭の中に浮かび上がるのは、寝ている彼を起こす自分の姿。
あの日彼を喪った後も、妄想のなかで幾度も繰り返してきた、愛しい男性を起こす場面。
しかしいざ実際にその場面に直面してみると、あれやこれやと考えが浮かび、上手くまとまらない。
それでも悩んでいては何も変わらない。智子は思考を切り替える。
成長した彼の無防備な寝顔はどう変わっているのか。寝起きの癖は変わらないままなのか。相変わらず寒さに弱いのか。
七年以上経った彼の寝顔や、寝起きの姿を早く見たいという気持ちを原動力に。
意を決し、冷気によって冷やされた扉を数回ノックする。
返事はない。物音も、聞こえない。

智子「俺? もう起きてる?」

今度はノックの回数を増やし、声もかけてみる。やはり返事はない。
起床時刻前なのだから寝ていて当然かと思いつつ、智子は恐る恐るドアノブを握り、回してみる。
鍵はかかっていない。
部屋の主を起こさぬよう、音を立てずにドアを開けて室内へと足を踏み入れる。
無用心だと思うよりも先に、弾む気持ちが彼女を突き動かしていた。

678名無しさん:2016/06/22(水) 05:31:55 ID:DBNn8d3A0

智子「……は、入るわよぉ?」

暗闇に慣れていくに連れて、徐々に部屋の全体図が明瞭となる。
薄暗い部屋のなか、ベッドの上では部屋の主を寒さから守るかのように、幾重にも折り重なった布団が鎮座していた。
それらに守られ、徐に身体を上下させながら寝息を立てる想い人の影を捉えた途端、智子の頬に差し込む赤みがその色を濃くしていった。
寝ている彼を起こさないよう、後ろ手にドアを閉め、足音殺してベッドに近づく。
一歩進む毎に、胸の高鳴りが激しいものへと変わっていく様を感じながら。

智子「俺? もうすぐ起床時間よ?」

これでは寝顔が見られないではないかと不満を零しつつ、自分に背を向ける部屋の主に柔らかな声音で語りかける。
当然の如く返事は無い。
自身の声に反応して時折、布団に包まれた体躯が布擦れの音を立てて動くだけだ。

智子「ねぇ、俺?」

もう一度呼びかける。今度は布団の上に手を添えて、軽く揺すってみる。
布団越しに彼の身体に触れた瞬間、不意に昨日の記憶が――逞しい成人男性の体躯に成長した彼に抱き留められた記憶が浮かび上がった。
温かく硬い胸板と腕に抱き留められた感触までもが肌の上に蘇り、頬に帯びた熱が際限なく高まっていく。

679名無しさん:2016/06/22(水) 05:34:59 ID:DBNn8d3A0

智子「はぁ……」

形の良い桃色の唇から、熱が篭った吐息が零れ落ちる。
願わくは、またあの頃のように彼の胸元に顔を埋めて眠りに就きたい。
彼の腕に包まれ、その温もりを感じながら、まどろんでいたい。
いいや、出来るものなら彼に覆い被さる布団になりたい。
包まれるだけでなく、今度は自分が彼を包みこんで、癒してあげたい。
こんな布切れよりも、自分の身体のほうが彼を温められるはずだ。
いっそのこと布団を引き剥がして抱きついてみようかと、思考が徐々に危険な領域に足を踏み入れた矢先のこと。

「……ん」

智子「……ぁ」

布が擦れる音を立てて、部屋の主が寝返りを打った。
露となったのは、久方ぶりに目にする想い人の寝顔だった。
もう二度と、目にすることが出来ないと思っていた愛しい男の寝顔だった。
その安らかな寝顔から、改めて彼が生きている現実を実感した智子は、目元に込み上げてきた雫を拭い顔を近づける。
これくらい近くから見つめてもいいわよねと、返す相手のいない言葉を零しながら。

680名無しさん:2016/06/22(水) 05:38:09 ID:DBNn8d3A0

智子「……おれ」

温もりが感じられる距離まで、顔を近づける。すぐ目の前まで、それこそ唇同士が触れ合う寸前の距離にまで。
寝息が頬をくすぐる。その温もりが智子の全身を、芯から温めていく。
このまま時間が止まれば、いつまでも彼の傍にいられるのに。
叶わぬ願いを抱く智子の目の前で、寝顔を晒す男の瞼が不意に強張った。
ベッドの上で横たわる彼の長躯が、布団の山が、微かに震えた。

智子「……あら?」

その寝顔から離れた智子の目に映ったものは、布団からはみ出した彼の下半身だった。
おそらくは寝返りを打った際に、掛け布団を蹴飛ばしてしまったのだろう。

智子「(身体を壊さないうちに、戻したほうがいいわよね)」

視界の隅で何かが蠢いたのは、皺になった掛け布団を掴んだときのことだ。
形の良い眉を顰め、視線を移す。“それ”を捉えた瞬間、智子の全身が硬直した。
視線の先に佇む彼の下半身――その、ある一点。
ちょうど股座に当たる部分が、異様なまでに盛り上がっているではないか。
あたかもテントを張るが如く、棒状の物体が布地を押し上げる光景を前に、智子の白い喉が音を立てた。

681名無しさん:2016/06/22(水) 05:41:33 ID:DBNn8d3A0

智子「あ、わ……わ」

隆起の正体が想い人の盛り上がった男性器だと理解した瞬間、智子は自身の頬がそれまでとは比にならぬほどの灼熱を帯びる様を感じた。

智子「(あ、あああああ、あれよね!? 朝に起こる、生理現象のようなものよね!?)」

初めて目にする、朝勃ちという男性特有の生理現象。
恋慕の念を寄せる相手の逸物は、布地の下からでも形状が分かるほどに雄々しく反り立っていた。
再び智子の喉が、静かに音を立てた。
自然と呼吸が、荒いものへと変わっていく。
視界から外そうにも、目線を逸らすことが出来ない。
それどころか、手が自然と、彼のモノへと伸び始める。

智子「はぁっ……はぁっ……はーっ」

頭のなかに靄のようなものが広がり、それが冷静さと理性を覆い尽くす。
智子の脳裏を駆け巡り、支配していたのは女としての衝動。
妄想のなかで何度も自身の純潔を散らした彼の雄。それが、いま目の前にある。

――どれくらい硬いのだろう。
――どれくらい熱いのだろう。
――触りたい。
――見たい。

――欲しい。

682衝撃波:2016/06/22(水) 05:46:56 ID:DBNn8d3A0

肥大する衝動に比例して、激しさを増す心臓の高鳴り。
一秒が永遠にも感じられるなか、遂に智子の白い指先が、それへと触れた。
指の先端に伝わる熱と硬さを感じた瞬間、智子は頭を槌で殴られたかのように、脳が揺れる感覚を抱いた。
布越しだというのに、こんなにも熱いのか。こんなにも硬いものなのか。
もはやこれ以上、正常な思考を働かせることができなかった。
そのまま残る細指を、牡竿に這わせようと動かす寸前、我に返り瞼を閉じて彼の逸物を下半身ごと布団で覆い隠す。

智子「わ、わたし……何てことを……」

薄桜色の唇から漏れ出す声音に満ちていたのは、怯えの感情。
自身に潜む雌が、自分でも気がつかぬ内に膨れ上がっていた。
もしも理性が戻ることなく、あのまま指を這わせていたらどうなるのだろう。
もしもそれで彼が目を覚ましたら、どうなっていただろう。
きっと、寝込みを襲った女と軽蔑されるに違いない。
また会えただけでも、充分に幸せだったというのに。
いつの間にか、次の欲求が――彼だけの女(もの)になりたいという願いが生まれていることに。
その欲求すら抑え込めない、自身の弱さに智子は唇を噛んだ。

智子「ごめんなさい……」

自分だけが独り、抜け駆けをしていることをかつての仲間たちに向かって。
そして、勝手に部屋に入り込んだことを目の前で寝息を立てる彼に向かって。
小さく謝罪の言葉を漏らした智子は、自身の黒髪をかき上げて、静かに男の寝顔に顔を寄せる。
せめて彼が目を覚ますまで、間近で見つめていたい。
あわや再び唇同士が触れ合う寸前の距離まで近づいた瞬間、想い人が唐突に瞼を開けた。

683衝撃波:2016/06/22(水) 05:50:09 ID:DBNn8d3A0

普段なら目を覚ましてから、思考が働くまでに数分の時間を要する。
けれども、今回ばかりは状況が異なっていた。
瞼を開けた先の視界を占めるのは、見慣れた天井ではなく、息が止まるほどの美貌。
西欧人のそれとはまた異なる柔肌は、雪のように白く。
目にしただけで手触りの良さを期待させる黒の長髪は、漆を思わせるほどの艶を帯びている。
黒真珠を覆い隠す瞼から伸びる睫は、どこか羞恥に耐えるかのように、小刻みに震えていた。
そして、あと少しで自身のそれに触れる距離まで肉薄していたのは、形良い桜色の唇だった。
自身の視界を独占する美貌の主が、昨日に再会を果たした穴拭智子だと気がついた瞬間、俺は息を呑んだ。

俺「(な、何だ!? なんで智子が俺の部屋に!?)」

何故、智子が自分の部屋に入り込んでいるのだろうか。
何故、智子の唇が自身のそれに近づいているのか。
次々と疑問が脳裏を駆け巡るも、それらは眼前に迫る美貌によって、すぐさま掻き消されてしまう。

静止の声をかけようにも、僅かでも身体を動かせば彼女の唇を奪いかねない。
だというのに、智子になら唇を奪われても構わないと思ってしまっているのは。
彼女の黒髪から発せられる仄かに甘い薫香にばかり意識を向けてしまっているのは、男としての悲しい性なのか。

かといって、このような形で大切な妹分の――智子の初めてを奪うわけにもいくまい。
何とか首だけでも動かして彼女の唇が、自身のそれに触れないよう体勢を変える。
その際に生じた微かな布擦れの音に気がついたのか、智子が瞼を開いた。
お互いの瞳を見つめ合う時間が続き、

684衝撃波:2016/06/22(水) 05:54:41 ID:DBNn8d3A0

智子「え? あ、あ……わ……」

俺「よ、よぉ。おはよう……智子」

再会してから、初めて間近で見る彼女の面差しが次第に赤みを増していった。
段々と黒い瞳には透明な雫が滲み出てきた。
そして、感情の高まりを抑え切れなくなったのか。
言葉にならない叫び声が、室内に響き渡った。

智子「ち、違うのよ!? ここここ、これはぁ! ちょっと貴方の髪の毛に埃がついてたから、取ろうと思ってたたたた、だけなのよ!?」

整った美貌を高潮させ、涙まで浮かべて、機銃掃射もかくやの勢いで言い訳を並べ立てる妹分の姿に俺は口元を綻ばせた。
随分と昔にも、こんな風に似たような言い訳を聞かされたことがあったな――と胸裏で独りごちながら。
どれだけ見目麗しく成長しても、あの頃と変わらぬ智子が目の前にいる。
自分が、自分だけが知っている智子が、そこにいる。
そのことに、愛おしさと懐かしさが混じる感慨を抱いた俺は、自然と彼女の頬に手を添えていた。

智子「あっ……」

頬を触れられ、ほんの一瞬だけ身体を強張らせたものの、すぐさま力を抜いて瞼を閉じる。
その手の温もりに、優しさに身を委ねるかのように。
安らぎに満ちた表情が、智子を彩った。

685衝撃波:2016/06/22(水) 05:57:53 ID:DBNn8d3A0

俺「俺のこと、起こしに来てくれたんだよな?」

智子「……うん」

瞼を閉じたままの智子が小さく頷いてみせると俺は静かに破顔した。
手の平を満たす倫子の頬の柔らかさを感じながら。

俺「そっかそっか。ありがとうな、智子」

智子「その、迷惑……だった?」

俺「まさか。俺が寒さに弱いの知っているだろう?」

だから気にするなと笑い飛ばすも、彼女に笑みが戻ることはなかった。
おそらく昨晩、寝床を共にしたいという願いを拒否されたことが智子のなかで尾を引いているのだろう。
俺としては大人の女へと成長した妹分を襲わぬための防衛手段だったのだが、自身を兄貴分として慕う智子は、甘えたかったのかもしれない。
再会するまで智子のなかで自分は死んだ人間だったのだ。
そんな自分とまた巡り会えたことを考えると、些か大人気ない対応だったか。

俺「(もう少し構ってやれば良かったか)」

放っておけば朝食まで昨夜のことを引き摺るかもしれない。
俺は考えを巡らせる。
時間にして一分にも満たない短い間黙考を続け、素直に思いの丈を吐露することを決めた。

686衝撃波:2016/06/22(水) 06:00:57 ID:DBNn8d3A0
俺「あー……智子?」

智子「……なに?」

俺「その、だな。別にお前と一緒にいるのが、嫌なわけじゃないんだぞ? 俺だって……お前にまた会えて嬉しいんだ」

段々と声音が尻すぼみになっていく。
それはきっと、これから紡ぐ台詞が自分でも気障なものだと自覚しているからだろう。
次第に頬が、耳が熱くなっていく様を実感しながら、俺は尚も言葉を続ける。

俺「……ただ、な。お前が綺麗に成長し過ぎて……傍にいると何というか、凄く落ち着かないだけなんだよ」

告げられた台詞に智子は目を丸くした。
小さく口を開け放ち、こちらを見つめる美貌。
思わず心臓が跳ね上がる感覚を抱くも、俺はすぐさま口を開く。

俺「黒髪も……その、陸軍にいた頃と違って艶があるし」

智子「え……あ。そう、かしら?」

言われて、肩から流れる自身の黒髪に手を遣る智子。
形の良い唇は心なしか綻んでみえた。

俺「肌も、あの頃と同じように……いや。あの頃以上にきめ細かくて」

智子「……あ、あぅ」

俺「体つきだって……その、なんだ。ちゃんと大人のそれになってるからさ」

一瞬だけ、彼女の陸軍服を下から押し上げる二つの膨らみに視線を注ぎ、すぐさま逸らす。

687衝撃波:2016/06/22(水) 06:04:43 ID:DBNn8d3A0

智子「そ、それって!!」

弾け飛んだ言葉に続いて智子が身を乗り出した。

俺「う、うん?」

智子「私のことをその、女として……見ているって、ことで……いい、のよね?」

自身のシャツを両の手の指でぎゅっと握り締めながら、真っ直ぐに自分を見つめてくる智子の言葉に俺は首肯した。
途端に智子の頬に朱色が戻る。形の良い唇が更に綻んでいく。

俺「……ぁ」

思わず、声が漏れた。
自分でも、それが声なのだと遅れて気がつくほどの小さな声だった。

智子「そう……なの。っふふ……そう、なんだ」

花が咲いたような笑み――という言葉は、きっと今の智子が浮かべる笑顔を差しているのだろう。
嬉しさと、喜びに満ち溢れた微笑みを前に俺は思う。
この笑顔を、いつまでも見つめていたい。
いつまでも、愛でていたい。

智子「朝からごめんなさい。先に行って待っているから……早く、来てね?」

想い人が自身の笑みに魅了されていることに気づかぬまま、智子は寝台から下りる。
そうするや否や身を翻し、小走りで部屋を出て行った。

688衝撃波:2016/06/22(水) 06:11:05 ID:DBNn8d3A0
俺「智子……」

部屋を出て行く智子の後姿に、返事すら返せないでいた俺は重々しい音によってようやく我に返った。
頬が熱い。胸の辺りから響く鼓動が、やけに煩く感じる。
俺は口を開いて肺一杯に溜め込んだ空気を、大きく吐き出した。
気恥ずかしさを含めたあらゆる感情と一緒に。

俺「あぁ……まずいな」

寝癖のついた髪に遣った手を乱暴に動かす。

俺「ありゃ反則だろう」

彼女の笑みに、俺は心奪われていた。
微笑み一つで奪われるとは随分と安い心だなと自嘲しつつ、今後について思案に耽る。
妹分である智子を女として意識してしまっている自分は、どう彼女と関わっていけばいいのだろうか。
彼女が慕う兄貴分として振舞えるだろうか。
次に彼女と顔を合わせるとき、この気持ちを封じ込めておけるだろうか。
どちらも、やり遂げる自信がなかった。
更には幹部会も近い内に開かれる。
腹に一物抱えた魑魅魍魎どもに足元を掬われぬよう振舞わなければならない。
表と裏の二つとも多難に満ちている現状に、俺は再び深く溜息を吐いた。

689名無しさん:2016/06/22(水) 06:14:22 ID:DBNn8d3A0
今日はここまで

それにしても大雨程度で川の堤防が決壊するとは

690名無しさん:2016/06/23(木) 15:28:28 ID:ot9GkTTk0
なんたるムッツリスケベ (女の方が)
けど、実際智changはもし男ができたら絶対どハマりするよね……
ともあれ乙乙

いらん子は作者がハルキゲニアに旅立ってしまわれたのが残念極まるなぁ

691名無しさん:2016/06/26(日) 17:28:22 ID:ujCJex8s0
乙乙

692ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 20:25:34 ID:sB6VQk8Q0
新作です。


19XX年、某日、帝政カールスラント。
初夏の太陽が、南の空へと移りつつある。
穏やかな風が、微かに花の香りを運んでいる。
街の教会から、鐘の音が厳かに響く。
扉が開く。礼装の紳士達、華やかに着飾った乙女らが笑みをかわしながら現れる。
彼らは扉の外に集まり、これから出てくる主役を待ち構えている。そよ風に乗って、楽しげな喧騒が届く。

やがて、一際大きな歓声が上がり、
教会の入り口に眩しいほど真っ白なタキシード、ウェディングドレスに身を包んだ新郎・新婦が現れた。

平和なよき日。怪異、ネウロイとの戦争に勝ち、ようやく手に入れた平穏。

だから、今まで誰にも話したことのない話をしよう。
俺とクルト、そしてミーナの話だ。

693ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 20:30:33 ID:sB6VQk8Q0
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとクルト・クラッハフェルト、そして俺の3人は幼なじみだ。
音楽がきっかけで、俺たちは出会った。

1934年、春。
俺がその日、何をしててそこに行き着いたのかは覚えていない。確か路地裏を散歩だか探険だかしてたんだがだと思うんだが……。
当時俺は、いわゆるガキ大将だった。擦り切れたズボンのポケットに一切れのパンを突っ込んで、朝から晩まで街の裏道や野原を駆けずり回って……
まぁ、どうでもいいか。
とにかく、俺はその日ヴィルケ家の近くにいて、そこで音楽を聞いた。

弦楽器の音色と、微かなソプラノヴォイス。行く手にあった家の、ちょっとした庭園の奥の窓からだった。
俺はぶらぶらと庭園を横切って (悪ガキだったので平気で他人の家の敷地を横切った) 、ほんとうに何の気なしに、窓から声を掛けた。

「へい」

中にいたのは、俺と似たような年頃の少年と、少し年下と見える女の子の二人だった。
少年はヴァイオリンを提げていて、女の子は手ぶら。二人でひとつの譜面台の前で練習をしていたらしい。
二人は急に、しかも窓の外から声を掛けられて、びっくりして演奏をやめてしまっていた。

694ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 20:35:51 ID:sB6VQk8Q0
少年は柔らかそうなフランネルの白いシャツ、膝丈の紺のズボンをサスペンダーで吊っていた。女の子は胸元にフリルをあしらった淡い桃色のワンピース。
一目でいいところのお坊ちゃんお嬢ちゃんと知れるなりだ。
対して俺は、擦り切れてつぎのあたったズボンと、お袋が毎日洗濯してくれてたから色だけは真っ白だが肌触りはガサガサの麻シャツに、くたびれたハンチング帽。
普段なら、声を掛けたり掛けられたりなんて絶対にありえない相手だ。ただ、彼らが演奏していた音楽について、俺はひとつ我慢ならないことがあった。

俺は窓枠に手をかけながら言った。

「お前ら中々上手いな!だが選曲がなってねぇ。そんな黴臭い音じゃジジィどもしか悦ばないぜ?」
「だ、誰ですか」

そして少年の (当然の) 問いを無視して、ヒョイと窓枠を乗り越え部屋に滑り込んだ。
そこは楽器室だった。ヴァイオリンやギター数丁と、その頃は名前も知らなかった金管楽器。ニスと木材の匂い。


少年は庇うように俺と女の子の間に立った。女の子は少年の服の裾を握って、身体を少年の後ろに隠すようにして、俺を見ていた。
二人ともいきなり上がりこんできた俺を警戒していたのだろう。
あとで知ったが、俺は少年と同い年で、当然ながらそのときは同じガキ同士だった。
だが線の細いタイプだったその少年と比べて、俺はガキながら大柄な方だったし、物言いも腕白だった。
そんなのがズカズカ入ってきたのだから、特に女の子が怯えるのは無理もない話だ。

695ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 20:42:12 ID:sB6VQk8Q0
俺はそんな彼女の不安に全く気づかず (もっとも、気づいていたところで配慮するようなデリカシーもなかったが) 無遠慮に室内をじろじろ見て回り、目当てのものを見つけた。
磨き上げられたグランド・ピアノ。毛ほどの躊躇いも見せず歩み寄る。女の子が声をかけてくる。

「それ、お父様のピアノ……」

だから触ってはだめ、とはっきり言えはしなかったにせよ、その子の口調は俺を咎める色を含んでいた。
だが俺はそんな控えめな抗議を無視して、勝手に鍵盤蓋を開け、2つ3つ鍵盤を叩いて具合を確かめた。
さすがに見かねた少年が声をかけてきた。

「ちょっと、君――」

俺はチッチッチッ、と気取った仕草で指を振り、それを遮った。

「本物の音楽ってのはこういうもんだ」

鍵盤上で俺の指が踊った。跳ねるようなタッチから、肘ごと押さえ込む重音。
二人ともが一瞬呆気に取られる。

「シュレーゲ・ムジーグ (ジャズ・ミュージック) ?」

少年が呟く。見た目からは、俺の繊細な指捌きが想像できなかったんだろう。二人とも目を丸くしていた。

696ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 20:48:28 ID:sB6VQk8Q0
俺は酒場つきの宿屋の息子で、酒場の喧騒を子守唄代わりに育ってきた。
酔っ払いのたわ言、喧嘩の怒号、大声の合唱、そして何より、良識ある大人たちが「騒々しい」と形容し眉をひそめる、素晴らしい音楽の数々。
6つの時分には、俺はホールに据えてある年代もののピアノ、ギター、サックスで自分の好きな音を出せるようになっていた。

俺は即興で好きなように弾きながら、まだヴァイオリンを下げたままの少年に話しかけた。

「ほれ、どうしたよ。合わせてみな」

少年は一瞬躊躇ったが、それでも促されるままにヴァイオリンを構えなおした。俺は手を止めずに、入ってくるに任せる。
最初は恐る恐る来るかと思ったが、意外にやつは大胆に参戦してきた。
跳ねる高音、流れる低音、スウィング、スウィング、スウィング。

いつの間にか女の子は、ピョンピョン身体を跳ねさせながら俺たちのセッションに聞き入っていた。
初めて聞いたのかは知らないが、心を揺さぶる本物の力が音楽にはある。
身体の奥からウズウズさせるテンポ、心躍る旋律。

それが、俺とクルトとミーナの出会いだった。

697ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 20:53:40 ID:sB6VQk8Q0
俺たちはすぐに仲良くなった。
ミーナは偉い先生の下で音楽の手ほどきを受け、お上品な音楽に飽きたときは俺たちとセッションを楽しんだ。

俺は店の手伝いをサボって、ミーナやクルトは音楽の先生の目を盗んで、たびたびこの秘密のギグは催された。
あるときはミーナの屋敷で。あるときは開店前の俺の店で。

俺は二人に秘密の抜け道とハゼが釣れるドブ川とガラクタいじりを教え、二人は俺に詩と読書と静かに語らう喜びを教えてくれた。

クルトが近所の悪タレどもに侮辱されたとき、俺が先にそいつらをぶん殴って大喧嘩になったこともある。
多勢に無勢ではあったが、俺もクルトも絶対に負けは認めなかった。
結局二人して傷だらけになって帰ることになり (勝敗は俺たちの名誉の為に伏せる) 、後で二人ともミーナにしこたま怒られた。一緒に絆創膏を貼ってもらいながら。


何年かの平和な時が過ぎた。少年たちは成長し、女の子は少女となった。

698ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 20:58:17 ID:sB6VQk8Q0
いつの頃からだろう。俺はミーナに惚れていた。

俺のピアノにあわせて歌う彼女を見ていたときからだろうか。
それとも、町外れの草原で、3人でピクニックをしたときからか、
喧嘩の傷に絆創膏を貼ってもらったときからかも知れない。

俺はミーナに惚れていた。
だが同時に、彼女がクルトに惚れていることにも気付いていた。

ミーナのクルトを見る目には、俺や他の誰を見るときとも違う光が宿っていた。
俺自身が彼女に恋をして初めて、俺はその光の正体に気が付いた。

ウジウジ悩むのは性に合わなかったし、『まぁクルトなら仕方ない』と俺はあっさり見切りをつけた。
……つけた、つもりになった。
きっと俺は隠し通せる。いずれ時期が来れば、ただのいい思い出になる。そのときそうは思った。
ただ、その『時期』が来るには、思ってたよりは長い……ずっと長い時間が必要だった。

699ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:03:44 ID:sB6VQk8Q0
 
 
 
そして戦争が始まった。

700ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:07:55 ID:sB6VQk8Q0
大昔から、人類の歴史にはしばしば怪異、ネウロイが出現してきた。
ただ、今回のネウロイの進攻は、これまでのものとは大きくその性質を異にしていた。

『進攻』。
ネウロイの出現にこんな言葉が使われたことはなかった。
これまでのネウロイはあくまでも謎の怪物、局地的な災害のようなもので、組織だった攻勢を仕掛けてくる存在ではなかった。
しかし1937年の扶桑海事変を皮切りに、連中は明らかに、戦争の論理でもって人類の領域を切り取り始めた。

そして1939年。俺たちの住む欧州は帝政カールスラント、その隣国オストマルクに大規模なネウロイの進攻があった。
その勢いは留めがたく、カールスラントに迫るのも遠くないと思われた。

ネウロイは、たとえ破壊できたとしても、瘴気をばら撒いて辺りを人間の住めない土地に変えてしまう。
ゆえに何としても、やつらを封じ込めなければならない。
帝政カールスラントでは軍備の拡張が急ピッチで進められていた。

701ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:14:06 ID:sB6VQk8Q0
3人の中で軍に最初に志願したのは俺だった。
オストマルクがきな臭いってんで、軍が兵を募ってたんだ。
腕っ節には自信があったし、おいおい親父の店を継いだときに、「元歴戦の勇者、今は酒場の主」ってのもカッコいいと思ったからな。

そして幸運にも、俺には戦士の素質、ウィッチの適性があった。
魔力を持ち、魔導エンジンを稼動させてストライカーユニットを動かすことができる異能。
ストライカーユニットはネウロイの攻撃や瘴気を防ぐシールドや、ウィッチ自身の身体能力を強化する機能を持つ。
ストライカーユニットを装着したウィッチは、空を駆け、あるいは地を走り、生身では到底扱えない重火器を軽々と振り回してネウロイと戦う、強力な戦力になる。

ウィッチの適性は、男に現れるのはすごく珍しい。
俺は陸軍で実施されてる適性検査を受けた。規則で男でも全員受検を義務付けられていたものだ。
「一応やっておくか」以上のものではなく、技師たちも機械的に結果を処理していた。
だから俺が機械に乗り、何らかの結果が出たとき、まず連中は首を傾げていた。
彼らは最初は怪訝そうに、やがて目の色を変えてあれこれ操作盤をいじりはじめ、結果を3度確認してようやく納得した。
俺はその週のうちに、陸戦型ストライカーユニットの操縦者となることが決まった。

最初の実戦で、敵中で瘴気に巻かれて孤立していた味方部隊を救出し、俺は鉄十字章を授与された。

クルトは喜んでくれたよ。
ミーナは、無茶をしすぎだと心配そうだったが。

その後、過酷で容赦のない訓練と、より過酷で容赦のない実戦を経て、俺はひとかどの陸戦ウィッチになっていった。

702ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:17:20 ID:sB6VQk8Q0
俺に次いで、ミーナに魔力が発現し、彼女は航空ウィッチに志願した。
航空学校への入学許可証を、誇らしげというよりむしろ申し訳なさそうに見せに来たのを良く覚えている。

クルトは反対したらしいが、俺は彼女の背中を押した。
勇気ある決断、立派な志である、と。一緒に戦えて嬉しいと。
そう、俺は心配よりも喜びが先に立った。

俺がもう少し内省的な人間だったら、俺の中の喜びの正体に気づいただろうか?
彼女と一緒に戦えるのが嬉しいのはもちろんだった。
ただ、俺はむしろ、彼女が俺と――クルトではなく――同じ道を、選んでくれたことで、クルトに対して密かな優越感を抱いていたのだ。
今なら、そうだったのだと分かる。

気づいていたとしたら、その後に起こったことが変わっただろうか。例えば、……いや、詮無い事か。

最後に、クルトも軍に志願した。
ミーナが志願したときから決めていたらしい。

703ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:23:52 ID:sB6VQk8Q0
軍に入ってから、俺たち3人が会う機会はかなり少なくなった。任務であちこちに移動したし、何せ戦時中だ。数少ない非番の日が重なることは少ない。
だから、その日3人が集まることができたのは奇跡的な偶然だった。

前線から少し離れた地方都市の貸しスタジオ。俺が一番最初に到着し、まずミーナを出迎えた。
他愛無い話をしていると、すぐにクルトがやってきた。ミーナが弾む声で出迎えた。

「よく3人とも都合がついたわね」
「ああ。俺は本当は夜までかかるはずだったんだが、思ったより人数が足りてたらしくてな。ミーナは?」
「私は、今度の作戦関係で少し近くに来てたの」

ミーナはそれ以上は言えない、というそぶりをして見せた。まぁそうだろう。一応は軍事機密だ。
秘密にしたところで、ネウロイにどれほど有効なのかは知らないが。
俺はクルトに話を振った。

「そっちの調子はどうなんだ?」
「毎日毎日、油に塗れてばかりさ」

クルトは首をすくめて見せた。クルトは資格を取って整備兵に志願し、先月から近くの基地で働いていた。

「ストライカーの整備兵って、競争率けっこう高いんだろ。ウィッチとお近づきになりたいって男どもが群がるらしいじゃないか」
「確かにそういう傾向はあるかもね」
「実際のところ、どうなんだ?かわいいウィッチと仲良くなれたか?」
「ええと……」

クルトは少し言葉を捜すように黙った。その視線が、ちらとミーナに向かったのを俺は見逃さなかった。
ミーナもまた、その逡巡を見逃さなかった。

704ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:29:55 ID:sB6VQk8Q0
「クルト、なんで言葉を濁すのかしら」
「ミーナ?いや、君が思うようなことはないよ?」
「私が何を想像してたか、分かるのかしら?」

ミーナは顔は微笑みながら、しかし静かな迫力を秘めた口調でクルトを追求している。
クルトはミーナに気圧されたように身を反らせながら、あれこれ言い訳していた。

俺はそんなミーナと一緒になってクルトをからかいながら、しかし同時に軽い苛立ちを感じていた。
ミーナとクルト、二人のやりとりが ――喧嘩しているように見えて単にじゃれあっているだけのやりとりが―― 酷く癇に障った。
俺から振った話題であり、この苛立ちは理不尽なものだ。それは百も承知であったのだが。

「だから、僕はそんなことしないよミーナ。」
「ええ、ええ。知っていますとも。でもね――」
「なぁ、二人とも。そろそろ一曲演らないか?」

俺はやや強引に話に割って入った。おもむろに立ち上がり、スタジオの隅にセットされている楽器類に歩み寄る。

「まだ早いんじゃない?」
「そうだよ。夜は長いんだし……」

言って、くすくすと笑うミーナとクルト。
俺は振り返る。

「いいから、始めるぞ」

ぼそっと、思ったより不機嫌な声が出た。二人の表情から笑みが消えた。

705ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:33:50 ID:sB6VQk8Q0
しまった、まずい。そんなつもりは。
俺は慌てて取り繕う。急いで焦っただけだという風に。

「ほ、ほら、借りてる時間にも限りがあるだろ?」
「え、ええ」
「……そうだね。始めようか」

二人もぎこちなく頷いた。


その日のセッションは、あまりいい出来ではなかった。
俺のリズムキープはやや乱暴になったし、クルトも何度か音を外していた。
歌うミーナがおろおろと困っているのが分かった。罪悪感を感じたが、どうにもならなかった。

706ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:41:33 ID:sB6VQk8Q0
■■■■

ネウロイは封じられねばならない。その目標とは裏腹に、人類は劣勢を強いられていた。
絶えざる瘴気と鉄火の攻勢により、人類はオストマルクから撤退せざるを得なくなった。やがては帝政カールスラントからも。

1940年。
「最も長い撤退戦」が始まった。

大ビフレスト作戦、そしてダイナモ作戦。
後方も予備もない、正真正銘の全力出動。
首都を失い、小ビフレスト作戦で避難し切れなかった民間人と、軍自身の撤退戦。
俺たちは祖国を捨てて逃げたのだ。

必ず奪い返しに来る。
俺は燃えるカールスラントを網膜に刻み付けてから、西へ向けて街道を走り始めた。

707ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:49:11 ID:sB6VQk8Q0
陸戦型ストライカー、「Ⅱ号歩行脚」の機関砲の砲身に一羽の鳩が止まっていた。

照準器の向こうを、多脚型のネウロイが移動している。
金属質の装甲で覆われたずんぐりとした立方体に近い車体に、同じく装甲で覆われた太い六本足。
全体的に左右対称で無機質な平面で覆われた体躯に、短砲身の主砲が唐突に突き出していて、それが前面なのだろうと推測できる。
俺達の部隊は200メートル程離れた茂みに伏せて、そいつらをじっと狙っている。

俺はこの撤退戦で、殿の部隊に居た。
カールスラント軍は民間人を前後に挟んだ編成となっている。
前方部隊がネウロイを追い払いながら、後方部隊がネウロイを押しとどめながら進む。
連合軍が、ダンケルクで港湾部の安全を確保した後、こちらに向かって進軍してくれているはずであり、
彼らと民間人を安全に合流させるのが当面の軍事目標だ。

ネウロイの追撃は厳しく、後方部隊は少なくない損害を出していた。
しかしそれでも、最後尾に位置していた俺達の部隊は、寡兵ながら遅滞戦闘でよく粘っていた。

道は斜めに俺の前を横切っている。
あと少しで敵部隊は完全に俺達のキルゾーンにおさまる。あと少し。あとほんの数十メートル。

目標の左右軸の移動に合わせて、じりじりと狙いを修正する。
その僅かな振動が砲身に伝わり、鳩が飛び立った。
一両のネウロイが、僅かに砲身をこちらに向けたような気がした。
背筋を嫌な汗が伝った。

708ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 21:55:21 ID:sB6VQk8Q0
ネウロイに目はあるのだろうか。人間の目は動くものに特に注意を払う。
同じような茂みがいくつかあり、その中の一つから鳩が飛び立った。人間なら無意識にそこに注目するだろう。
ネウロイはどうだろう。ここで伏撃を狙う俺に気づいただろうか?

ネウロイには人間のような目はついていない。しかし恐らく光を感じるセンサーはあるのだろう。
俺は確かにその「視線」を感じた。
息を殺してそのネウロイの様子を窺う。耳の奥で血潮がごうごうと鳴っている。
敵部隊はまだ完全にキルゾーン内に進入していない。
いまだゆっくりと進行中……否、足を止めた。気づかれた!

「攻撃開始!」

号令が発せられるや、引き金を握りこむ。連続する轟音。伏せていた全車両が攻撃開始。
魔力強化された徹甲弾が、ネウロイの黒い平面装甲に突き刺さる。血が噴出すように火花が飛び散り、装甲が砕けていく。
視界の端で、ぱっと羽が散るのが見えた。
十字砲火を受けて、たちまち数両のネウロイが崩れ落ちた。生き残りが味方の残骸を盾にして反撃を開始する。

ウィッチのシールドは強力だが、さすがにネウロイの砲弾を正面から受け止めるのは危険を伴う。
そこで車体ごとシールドを傾け、斜めに受けて弾く。背筋が凍るような金属音。

鉄の焦げる匂い、瘴気と硝煙。振動、至近の着弾に舞い上がる土煙。空気を弾丸が切り裂く音、爆発音、エンジン音、怒号と悲鳴。
どちらかが死ぬまで続く、無様なセッション。

今回、最後まで生きていたのは俺たちの方だった。

709ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:02:07 ID:sB6VQk8Q0
「なんとか片付いたか」

汗をぬぐいながら呟く。奇襲が功を奏し、こちらの部隊の損害は軽微だった。
何両か被弾し履帯が外れていたが、修理すればすぐにでも移動を再開できるだろう。しかし急がなければ。
突出してきたネウロイをこうやって逐次始末しながら、俺たち自身も撤退しなければならない。大陸に置いてけぼりを食らったらことだ。

ふと見ると、足元に一羽の鳩の死骸があった。嘴から舌をだらんとたらし、血を吐いていた。
先ほどの戦闘で、発砲の衝撃を間近に受けたのだろう。ほんの偶然だ。偶然俺は生きて、こいつは死んだ。
この戦闘の当事者は俺のほうであったのに。

「……すまんな」

俺は小さくひとりごちた。


そのとき、す、と足元を影が走った。同時に空から響くエンジン音。再び背筋が粟立つのを感じながら、仰ぎ見る。
同じように空を見上げた兵士の一人が、悲鳴じみた声を上げた。戦車兵にとって、最も遭遇したくない敵がやってきた。

「ネウロイ攻撃機視認!」
「急降下爆撃が来るぞ!退避!」

もはや修理だの何だの言っている暇はない。全員が手近な動ける車両に掴まり飛び乗り、一目散に森に向かって走り出した。
空中の敵をどうにかする手段を、この戦車隊は持っていない。隠れてやり過ごす以外に手はない。
陸戦型ストライカーは戦車のように人間を乗せられないが、俺も自分の手で一人の兵士を掴み上げて (機関砲に比べれば大した重さじゃない) 履帯に巻き込まないよう注意しながら走った。

710ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:06:56 ID:sB6VQk8Q0
頭上から風切り音がする。サイレンの音にも似た、独特のエンジン音が響く。

急降下爆撃機型ネウロイは目標を定めると、地面に対して40度以上、場合によっては70度もの急角度で急降下し突入してくる。
単に目標の頭上を航過しながら爆弾を放り出すより狙いが付けやすく、また爆弾にもスピードが乗るので命中率も高い。
直撃すれば、いくらストライカーユニットで強化したウィッチのシールドといえど、ひとたまりもない。
戦車のみならず、地上洋上のヴィークルにとって、急降下爆撃機型のネウロイは最も身近な死神だ。

そして今、その鎌の切っ先が俺の首にかかっている。
木立は疎らで、ネウロイの狙いを十分に妨げてはくれない。
抱えている兵士が大声で何事かを喚いている。
放り出してやりたいが、スピードを落とすわけにはいかないし、後続の車両に轢かれてしまったら大変だ。とはいえ、爆撃でぶっとぶのとどっちがマシだろうかな?

「クソが……!」

焦燥を押さえつけ、より隠れるのに適した場所へ向かって走る。エンジン音が近づく。振り返っている余裕はない。
俺は覚悟を決めかけた、その瞬間。

『シュトゥルム!』

無線から少女の声が響き、頭上から唐突に殺気が消えた。
思わず振り仰ぐと、今まさに爆弾を投下せんとしていたネウロイたちの横っ腹を、帝政カールスラントのエンブレムをつけた航空ウィッチの部隊が食い破ったところだった。
被弾したネウロイが火を噴きながら墜ちていく。

711ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:13:42 ID:sB6VQk8Q0
『そこの君、危なかったねー』

編隊の一つを率いている少女 (もちろんウィッチだ) が無線で声をかけてきた。今俺を狙っていた奴を墜とした娘だろう。
短めの金髪、ただ一部分だけ髪の色が変わっている。恐らく、魔力の発現により使い間の耳に当たる部分が現れているのだろう。

「ああ、助かった。さすがにタマが縮み上がったぜ」
『タマ……?男の子?珍しいねぇ』
「まぁな。とにかく、礼を言う。ブリタニアで何か奢らせてくれ、戦友」

そこへ、新しい声が無線に入ってきた。

『フラウ、無駄話しないの。まだ敵が残ってるわよ』
『はぁーい』

フラウ、というのは今俺が話していた娘の名だろうか。見ると、返事をしながら手を振っていた。
そして、彼女に注意するこの飛行隊長と思しき声に聞き覚えがあった。

「もしかして、ミーナか?」
『あら。そういうあなたは……』
「俺だ。助けてくれてありがとうよ。部隊の連中もそう言ってる」
『間に合って良かったわ。幸運を!』
「そっちも」

例の一件以来、ミーナともクルトとも少し顔を合わせづらかったのだが、自然に話すことができた。俺は内心、ほっと息をついた。
フラウと呼ばれた少女が合流していく中隊の先頭に、確かにミーナがいた。長い髪をなびかせ飛んで行く。可憐なウィッチ達の中にあって、なお一層優美に気高く。

「美しい……」

部隊の誰かが呟いた。
俺も心底同意見だった。

712ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:17:37 ID:sB6VQk8Q0
俺たちはその後、何とかダンケルクに辿りついた。これから放棄するとはいえ、一応まだ人類の勢力圏であり、一安心といったところだ。

ガリアのパ・ド・カレーに展開した部隊の撤退が遅れている、という情報が入ってきたのは、そんなときだった。
このままでは、救出船に間に合わない、と。
カレーには、クルトの所属する部隊がいた。

ネウロイがいなければ、人間同士の世界大戦が起こっていただろう、というのはよくある言説だ。
資源や領土を奪い合う相手がネウロイから人間へと変わるだけで、結局のところ歴史に大きな変化は起こらないのだ、としたり顔に語る学者もいる。

ただ、末端の兵士にとって、人間との戦いとネウロイとの戦いには大きな違いがある。それは「降伏が許されるか否か」だ。
人間同士の争いなら、敵地に取り残され、追い詰められた兵士には降伏する権利がある。捕虜にはなるが、少なくとも死にはしない。
無論、降伏が許されず虐殺されたり、捕虜になったとしても非人道的な扱いを受けたりする可能性はあるが。
しかしネウロイ相手にはそもそも降伏という選択肢が意味を持たない。戦えなければ、殺されるだけだ。
そしてカレーで戦う兵士に、後者の運命が容赦なく襲い掛かろうとしていた。

俺は到着してすぐ、まだストライカーすら外していない状態だったが、その場で援軍に志願した。今も胸を張っていえるが、そのときの俺に迷いはなかった。
クルトが恋敵であるということも意識を外れてはいなかったが、その事実は俺の決断を一切鈍らせはしなかった。
部隊が再編成され、俺たちは再び求めて戦場に向かうこととなった。

713ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:21:48 ID:sB6VQk8Q0
カレーはダンケルクから僅か40km程度の距離にある。しかしその主要な連絡線にネウロイが進入し、ちょうど段階的撤退の最中にあったカレーの部隊と鉢合わせたらしい。
立ち往生している間に続々とネウロイが集まってきて、身動きが取れない状況だった。

援軍はダンケルク側からネウロイの前線を突破し、なんとかカレーの連中との合流に成功した。

俺の小隊は彼らが撤退する道路の維持を命じられた。道脇のトーチカに篭って、うぞうぞと街道へ寄って来るネウロイを撃ち続ける。
照準、射撃。照準、射撃。再装填、照準、射撃。単調なビート。
ダンケルクからほんの数十キロしか離れていない場所なのに、ネウロイどもはキリなく現れた。この果てのなさに、カールスラントは、人類は追い詰められたのだ。
返し矢が雨霰と飛んでくるが、幸いなことに小型のやつらばかりで、頑丈で分厚い鉄筋コンクリート製のトーチカを破壊できる大口径砲を装備した大型ネウロイはいなかった。
おそらく軽装の足が早いやつだけが先行して来ているのだろう。この調子ならいくら寄って来ようがⅡ号の機関砲で一掃できる。
だが、あまりグズグズしていると大型が追いついてくるだろう。さっさと片付けてトンズラといきたいところだ。

背後の街道を猛スピードのトラックが次々と通り過ぎていく。あれらの車両には疲れきった兵士たちが詰め込まれている。
彼らはもう祈るくらいしかできない。どうか弾に当たりませんように、地雷も踏みませんように。

やがて残りの弾薬が心もとなくなり始めた頃、最後尾のトラックが見えた。もはやこの部隊より内陸に、生きた人間は残っていない。

「さぁ、もうここに用はない。俺たちも撤退しよう」

ネウロイの攻勢が途切れたタイミングを見計らい、トーチカを出る。

まったく唐突に、目の前を通過中だった最後尾のトラックが爆発し横転した。

714ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:26:35 ID:sB6VQk8Q0
「8時方向、戦車砲!」

だれかが叫ぶ。軽戦車の口径ではありえない。砲弾の飛んできた方角へ首を巡らせると、4kmほど離れた丘の上にゴマ粒のようにネウロイが見えた。
はっきりとは分からないが、大口径砲を装備した支援火器型だろう。足の遅い連中だが、ついに追いついてきたのだ。
見る間に稜線を越え、同じような影が数両現れた。

「退却する!急げ!」

隊長が命令を下した。断固とした口調だった。横転したトラックは捨て置かれた。
トラックは車両前部を撃ち抜かれ吹き飛ばされていた。運転手は即死だ。撃たれたことも痛みも感じる暇はなかっただろう。
この距離の第一射が命中するとは、不運だったとしか言いようがない。
後部車体は比較的原型をとどめていた。生存者がいるかも知れない。しかしすぐにもタンクに火が回り、残った部分も爆発炎上するだろう。
隊長の命令は的確といえた。

だが、俺は見つけてしまった。
横転した荷車の中、何人もの兵士が折り重なって倒れている中に、よりにもよって、クルトがいたのだ。
自分の血の気が引いていく音が聞こえた。ざわざわと、皮膚の下で一万匹の虫が一斉に這っているような。
隊列を離れて駆け寄る。

「おい、どこにいく!?」
「敵が来るぞ」

誰かが声をかけてくる。無視する。脂汗が背中をじっとりと濡らし、一気に寒くなったような錯覚を覚えた。
心臓が早鐘を打つ。叫び出したいような気がしたが、何を叫びたいのか自分でも分からず、また舌が乾燥して口腔にはり付いて声が出せなかった。

715ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:33:53 ID:sB6VQk8Q0
転げるように荷車に取り付き、覗き込む。中は暗く、しかし見える範囲でも其処此処に血糊が飛び散っていた。
被弾の衝撃で何らかの部品が跳ね回ったのだろう。微かにうめき声が聞こえる。幾人かは生きているようだ。
クルトは動かなかった。しかし奴さんを引っ張り出す過程で、その胸が上下していることに気づいた。
呼吸している!生きている!嗚呼!
とはいえ、意識がない。担ぎ上げて、脱出しなければ。他の生存者は……。

俺がそこまで考えたところで、ガソリンに引火し、トラックは再び爆発した。クルト一人をシールドで庇うのが精一杯だった。

俺はクルトを、クルトだけを引きずって離れた。それ以上の余裕はなかった。
燃える車の中から、弱々しく、しかし確かに生きた人間の悲鳴が聞こえた。今でも覚えている。忘れたくても忘れられない。
そして匂い。硝煙と金属が焦げる匂い、ガソリンの匂いに混じって漂う、肉の焼ける匂い。

ただそのときの俺には、感傷や罪悪感に浸る暇はなかった。またぞろ小型ネウロイがわらわらと現れ、追ってきていたのだ。
彼方からの砲撃も始まっていた。俺たちを助けようと飛び出しかけた一人の陸戦ウィッチが、目の前に戦車砲が着弾したために慌てて遮蔽の陰に戻っていった。

小口径の機銃が雨霰と降り注ぐ。背筋が凍るような金属音、擦過音、風切り音。もがくようなエンジンと駆動系のうなり声。足元で土煙が跳ねる。
もちろん地面だけ狙ってくれるような奴らではない。俺の機体に、体に、クルトに容赦なく弾丸が襲い掛かった。クルトを装甲と俺自身の体で庇いながら、俺は進んだ。

車体ごとシールドを傾け、必死でネウロイの攻撃を弾く。それでも何発かが貫通し、シールドを支える腕に衝撃が走る。確認する余裕はない。
俺はそれでも断固として前進した。前方の丘の陰で味方が待っている。援護射撃を繰り出しながら、大声で俺を呼んでいる。
履帯が止まった。何かが挟まったか、ギアに被弾したか。駆動系をカットオフ。普通に歩くように脚を動かして、一歩ずつ前進する。あと少し。あとほんの20か30メートル。
断続的な衝撃。目に血が入る。興奮で痛みを感じないが、確実に被弾している。……もしや、ここが俺の死に場所か?
クルトを抱える腕に力がはいる。と、クルトが小さく身じろぎした。

716ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:38:11 ID:sB6VQk8Q0
「う……」
「クルト!?おい、しっかりしろ!」
「……君、なぜここに」

気絶していた割りに、クルトはしっかりした調子で喋った。確認する暇がなかったが、大きな怪我は無さそうだ。

「こっちの台詞だ。面倒かけさせやがって」
「助けに来てくれたのか……すまない」
「自力で動けるか。あと少しだ。せーので、走るぞ」
「分かった」

俺たちはネウロイの斉射が途切れたタイミングを見計らい、最後の力を振り絞って、駆け出した。
履帯の動かない俺はクルトの少しあとを、後方からの射撃を防ぎながら走った。
小型ネウロイが追いすがってくる。機体後方に向きを固定した機関砲を撃ってけん制する。
一両がめちゃくちゃに機銃を乱射しながら肉薄してきた。俺は腰部ハードポイントに吊ったマインゲショス (魔導手榴弾) で迎撃しようとして、それを取り落とした。

思わず自分の右手を見る。いつの間にか、右手は真っ赤に染まって、指が何本か欠けて骨が見えていた。
呆けたのはほんの一瞬だが、それが致命的な隙となった。肉薄してきたネウロイが俺に体当たりした。
シールドはギリギリ保った。しかしストライカーユニットは過負荷で一時的に行動不能に陥り、俺はもんどりうってうつぶせに倒れこんだ。
クルトが顔色を変えて振り返る。

「おい……!?」
「そのまま走れ!行け!」

俺は怒鳴りつけると、仰向けになって身を起こし、残った指で無理やり俺に体当たりしたネウロイを撃ちまくった。

717ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:42:07 ID:sB6VQk8Q0
正確な狙いは期待できなかったが、その必要もなかった。何せ向こうから寄って来ている。ネウロイは弾が尽きたのか、機銃ではなく踏み潰して俺を殺そうとしているようだった。
俺に撃たれて火花を噴き出しながらも、執念さえ感じる動きで俺に近づいてきていた。

クソが、これが俺の死か。まぁいい。仕事は果たした。俺が殺されてる間に、クルトは逃げ切れるだろう。
静かな諦観と、ちょっとした満足感が俺を満たした。しかし

「うおおおおおお!!!」

クルトが雄叫びを上げながら駆け寄ってくるのが視界の端に映った。
馬鹿野郎、せっかく俺が捨て身で気を引いてるってのに!ウィッチでもないのに何をする気だ。無駄死にだ。
そう叫ぼうとした。

クルトは無意味なバンザイアタックを仕掛けたわけではなかった。
クルトは俺が落としたマインゲショスを片足で軽く蹴り上げ、掴んだ。そのまま流れるように安全ピンを抜き、目の前のネウロイの足元に訓練通りの鮮やかなアンダースローで放り投げた。
完全に回避も防御も不可能な位置。歴戦の兵士もかくやという、冷静で見事な投擲だった。
爆発。未知の金属でできたネウロイの数tはある体躯が、一瞬衝撃で浮き上がる。破壊のエネルギー全てを食らった証拠だ。さすがのネウロイも一撃で崩れ落ちた。

「クルト、お前」
「今のうちだ、早く来い。走れ、兄弟!」

クルトは目を丸くする俺を、整備兵らしい手馴れた操作でストライカーから強制排出し、俺の腕を自分の肩に廻して体を支え、走り出した。
俺はほとんど引きずられるように走った。周囲に弾着の土煙が立つ。もうまともなシールドも装甲もない。被弾すれば今度こそ死ぬ。

そんなときであったのに、俺はガキの頃のことを思い出していた。
街の悪ガキどもと喧嘩になって、ちょうどこんな風に、傷だらけの泥だらけになりながら、二人で肩を貸し合って帰ったことがあった。

俺たちはギリギリで丘の陰に駆け込み、そこでばったりと倒れこんだ。

718ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:46:05 ID:sB6VQk8Q0
その後、俺たちは味方の部隊に救助され、ダンケルクに運び込まれた。

担架に乗せて運ばれていく俺とクルト。ウィッチと一般兵は別のテントだ。
俺はミーナに、クルトの方についてやれと言った。ミーナは少し躊躇うそぶりを見せた。
俺が重ねて促すと、彼女は「ありがとう」と万感を込めて囁き、俺の額にキスをして (その感触の、何と甘いことか!)、俺の傍を離れていった。

その感情が巣食ったのは、生還してできた一瞬の心の隙だったのだと思う。
俺がクルトの方に行け、と言った。
しかし彼女が実際に後ろ姿を見せたとき……告白するが、俺ははっきり後悔した。

『クルトを連れ戻すべきではなかった』
『帰還したのが俺一人だったなら、彼女を独占できたのに』
と。

俺はそんな自分をひどく恥じて、無理やりにミーナの後ろ姿から顔を逸らし、目を閉じた。


クルトは結局大きな怪我はしていなかった。戦車砲の直撃だの弾雨の嵐だのに遭っておいて、運のいいやつだ。

俺は、右手の中指と薬指の一部、小指の殆ど、そして残った指先の細かい触覚を失った。
左手は親指と人差し指の先を少し削れられるだけで済んだ。
喪失したのは第一関節より末端側だったから、少しずつ盛り上がってもとの長さになるかもしれないそうだ。
本来なら両手とも手首から先を切り落とさなければならないような傷だったんだが、俺の頑丈さは並じゃなかったからな。

「握力と人差し指さえあれば、引き金は引ける。大したことじゃねぇさ」
俺は笑って見せた。
クルトは笑ってはいなかった。ミーナは泣いていた。

この手では引き金は引けても、ピアノは弾けないだろう。二度と以前のようには。
いつかの晩の、あの不ぞろいのギグが、俺たちの最後のセッションになった。

719ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:49:57 ID:sB6VQk8Q0
俺は二人に会うのを避けるようになった。クルトに変に責任を感じさせたくはなかったし、
俺自身、俺の弱い心が囁く、
「クルトは俺に命の借りがあるのだから、ミーナを俺に譲って身を引くべきだ」
という声を恐れていた。


心まで鉄でできていたらよかったのに。
誰を傷つけることもなく、誰に傷つけられることもない鉄の心であれば。

俺は強い男になりたかった。
一人でどんな痛みにも耐えられる男になりたかった。

だから誰にも今まで話さなかったし、気取られもしなかった。

俺は耐え切った。
今日、ようやくひとつの区切りがつく。

今日、ミーナとクルトが結婚する。

720ミーナの幼馴染な俺:2016/07/03(日) 22:53:04 ID:sB6VQk8Q0
19XX年、よく晴れた日。
中天にかかろうという太陽が輝いている。木々の新緑が柔らかな影を落とす。
どこかから子供たちの歓声が聞こえてくる。

今日、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケはクルト・クラッハフェルトと結婚する。

彼女は、教会で、真っ白なドレスを着て、同じく真っ白なタキシードを着た恋人とキスをしている。

信じられないくらい真っ青な空に、白い鳩が飛んでいく。
幸せという言葉を絵にしたら、きっとこういう光景だろう。

俺は教会の外、道一本隔てた庭園から、その様子を見つめている。

俺の話はここまで。
思い出話はハッピーエンドでおしまいだ。

じゃあな。

721名無しさん:2016/07/03(日) 22:57:57 ID:sB6VQk8Q0
ミーナルートに見せかけたやせ我慢は男の美学ルート、おしまい。

722名無しさん:2016/07/05(火) 17:38:58 ID:TpT2ehoQ0
乙乙

723名無しさん:2016/10/08(土) 01:30:13 ID:xp8Sf8vI0
ブレイブウィッチーズ開始で少しは人が増えないものか

724名無しさん:2016/11/12(土) 21:26:04 ID:VNvzfwSg0
ブレパン放送でここのこと思い出して、何年かぶりにきたけど…まだ残ってたかー

725名無しさん:2016/11/25(金) 00:45:09 ID:hgUzOB3o0
直ちゃんが可愛い…ニパも可愛い…502結成小説を参考に何か書いてみようかな…

726名無しさん:2016/12/02(金) 21:24:25 ID:24G8kbHA0
「はっはっ……はぁっ、はっ」

白い息を吐き出しながら智子は基地内の廊下を走る。
その足取りは、彼の部屋へ向かっていた時のそれとは比にならないほど軽やかなものだった。
伝えられた言葉が、自身の息遣いとともに脳裏に蘇る。
それは、心の底から欲しかった言葉だった。
妹としてじゃない。いまの彼は、自分を一人の女として意識している。
ならば、彼が自分のことしか考えられないようにしてみせよう!
そのためにも今日一日、ずっと彼の傍にいよう!

727名無しさん:2016/12/02(金) 21:27:29 ID:24G8kbHA0
―――
――


そのような期待に胸を膨らませていた数時間前の自分を叱咤したい衝動を抑え、智子は物陰に半身を潜めていた。
恨めしげな光を宿す瞳に映るのは、想い人が他の女との談笑を楽しんでいる光景だった。
話によると彼は戦闘時以外は基地清掃の仕事を与えられ、平時は掃除用具を片手に基地内を徘徊しているらしい。
一部の基地職員の口からは彼がモップ片手に天井や基地外壁を歩いていたという信じ難い情報が飛び込んできたが、おそらく何かと見間違えたのだろう。

彼の姿が見えなくなっていることに気がついたのは朝食後だった。
同じ場で食事を摂っていた502の魔女たちですら彼が退室したことに気づかなかったのだから、驚きである。
慌てて基地内を探し回ること数十分。
ようやく彼の姿を発見できたものの、その隣には先客がいた。
そして彼は、その先客と楽しげに談笑していた。
先客である少女もまた、彼との語らいを楽しんでいるのか弾けんばかりの笑みを口元に湛えていた。

728名無しさん:2016/12/02(金) 21:30:32 ID:24G8kbHA0

智子「(何よあの子……あんなに大きいなんて)」

反則じゃないと後に続く言葉を胸裏に零し、目を細める智子。
視線の先で自身の想い人と話す少女。
きめ細やかな白い肌。短めに切られた金の髪。
そして、身に纏うニット生地の軍服の下から押し上げて自己主張している連山。
その二つの山は少女の微かな動きにも敏感に反応し、小さく揺れたわんでいた。
余りの迫力に、思わず半歩ほど後ろに退いた智子は、反射的に視線を自分の胸元へと落とす。
視界に入るは陸軍服を下から押し上げる自身の双丘。決して小さいほうではない。
むしろ今の自分ならば当時同じ部隊に所属していた武子たちとも、良い勝負が出来るのではと確信できるほどには成長している。
しかし、

智子「(俺も、あれくらい……大きいほうが良いのかしら……)」

少女――ニッカ・エドワーディン・カタヤイネンの胸は余りにも、強大過ぎた。
ただ膨れ上がっているのではない。
むしろ、大きいだけならば自分にも勝ち目はあっただろう。
だが少女のそれは大きさと形が完璧に両立している。
天は二物を与えぬという言葉は嘘だったのか。
どうみても完璧なものが二つもあるじゃないと口のなかで叫びつつ観察を続ける。

729名無しさん:2016/12/02(金) 21:33:40 ID:24G8kbHA0

ラル「二人とも寒いなかご苦労」

ニパ「あっ、隊長」

智子「……なッ!?」

どうにか怪しまれぬよう自然なタイミングで会話に入り込めないかと画策していると、不意にラルが加わった。
昨日、初めて対面した際は意識すらしなかったが、彼女の連山もまたニパに負けずとも劣らぬ姿を軍服の下から見せつけていた。
しかも身に着けているコルセットのせいで余計にサイズが強調されているような気がしてならない。
現に俺を見れば不躾な視線を送らぬよう目線を泳がせているではないか。
それは、自分よりも若い彼女らを女として意識している何よりの証であった。

智子「ぐぬぬ」

悔しさの余り声が漏れる。
朝はあれほど自分の魅力を伝えてくれたのに。
あれほど自分の魅力に戸惑っていると言ってくれたのに。
それなら、それなら……

智子「もう少し……私だけ見てくれても、いいじゃない。ばかっ」

「やぁ、穴拭中尉」

智子「んひゃぁ!?」

730名無しさん:2016/12/02(金) 21:37:31 ID:24G8kbHA0

切なげな想いが冷えた風によって掻き消された矢先のこと。
背後から声をかけられ、思わず裏返った悲鳴を上げてしまう。
情けない姿を見られたことに対する羞恥心に頬を微かに紅潮させながら振り向く。
目の前にはペテルブルグ基地で最初に出会ったウィッチの姿があった。

智子「い、いきなり何よ。悪いけど夜のお誘いならお断りよっ」

出会って早々、晩酌を共にしないかと誘われたことを思い出し、先手を打つ。
どうもこの人間は自分の後輩と同じ類に属している気がしてならない。
うっかり誘いに乗ってしまった日には、どうなることやら。

クルピンスキー「えー、まだ何も言っていないじゃないか」

ほら、残念そうに口を尖らせる。

智子「それで何の用なの? まさか本当に懲りずに晩酌の誘いに来たわけじゃないでしょうね?」

クルピンスキー「いやなに散歩をしていたら、綺麗な後姿を見つけたものでね」

口元に微笑を浮かべるなり、クルピンスキーは片膝をついて智子の指を手に取った。

智子「ちょ、ちょっと……」

クルピンスキー「麗しい巴御前殿。どうか、その優美な黒髪を……この伯爵めに触れさせてはいただけませんか?」

731名無しさん:2016/12/02(金) 21:41:33 ID:24G8kbHA0

姫君に愛を誓う王子、あるいは守護騎士を思わせるほどに真っ直ぐで、熱っぽい声色で想いを紡ぐ。
一瞬でここまで距離を縮めてくるとは。
自身の後輩よりも手練であると認識した智子はそっと指を払った。

智子「じょ、冗談はやめてちょうだい」

クルピンスキー「連れないなぁ。ところでさ、穴拭中尉」

智子「だから晩酌には付き合わないって――」

クルピンスキー「彼のこと、好きなの?」

言いかけた言葉は、それまでの芝居がかったものから一転して親しみやすい陽気さを帯びた声によって遮られた。

智子「は……はぁぁ!? いきなり何を言い出すのよ!?」

クルピンスキー「あれ、違うのかい?」

智子「違うわけがないでしょう! ……っ!?」

反射的に彼女の言葉を否定してしまった智子は一瞬でその美貌を赤らめた。
搦め手に嵌り、彼に抱く自身の恋慕を肯定してしまったのだ。
立ち上がったクルピンスキーは満足げな笑顔を浮かべていた。

732名無しさん:2016/12/02(金) 21:45:18 ID:24G8kbHA0

クルピンスキー「はははっ、扶桑海の巴御前は素直だねぇ」

智子「ううううう、うるさいっ!!」

頬を紅潮させ、声を荒げる智子を前にクルピンスキーはその笑みを濃いものへと変えていった。
彼を見つめる智子の瞳は、大人びた見た目とは裏腹に年端もいかぬ少女のように純粋で美しかった。
想い人を見つめる智子の横顔を目にした瞬間、自分は魅了されていた。
熱を秘める黒の瞳、寒さによるものなのか心の昂ぶりからなのか桜色に染まる頬。
乾燥させぬよう舌で湿らされた形の良い唇。
それら全てに心を奪われていたクルピンスキーは知られぬよう、あえて背後に回って声をかけたのだ。

クルピンスキー「それで、答えはYESってことでいいんだね?」

暫く視線を泳がせていた智子であったが、観念したのか息を深く吐いた。
そして、照れたようにはにかみながら想いを編み込んで、口を開く。

智子「えぇ、好きよ……あの人のことが。どうしようもないくらい、愛しいの」

それは、幼少の頃から抱いていた恋慕の念。
それは、成長するに連れて増していった一途な想い。
彼の周囲にどれだけの女が現れても。自分にどれだけの男が言い寄っても。
変わることがない、変わるはずのない感情だった。

733名無しさん:2016/12/02(金) 21:48:27 ID:24G8kbHA0

智子「だから、彼が生きていて……また会えたことがね。どうしようもないくらい嬉しいの」

クルピンスキー「……あぁ」

凍えた風に黒髪を弄ばれながら、微笑む智子を前にクルピンスキーは静かに嘆息した。
花が咲いたような笑みとは、きっと目の前にいる彼女が浮かべるそれを差す言葉なのだろうと確信する。
寒空の下にいるというのに、見ていて心が温まって、和らいでいく微笑みに知らずと自身の口元まで綻ばせてしまった。
それと同時に、思い知った。
これは口説けない。
これは堕とせない。
仮に男女問わず自分以外の人間が彼女に言い寄ろうと、穴拭智子にとっての特別な人間は、彼一人なのだ。
それは今までも、今も、そしてこれからも変ることはない。
智子とは昨日に出会ったばかりで、彼女の人となりもクルピンスキーはまだ殆ど知らなかった。
にも拘わらず、そう確信させるほどに智子の瞳に宿る光は眩くて、美しいのだ。

734名無しさん:2016/12/02(金) 21:51:36 ID:24G8kbHA0

クルピンスキー「負けたよ……まったく、貴女みたいな人を放って置くなんて。俺も罪な男だよ。辛くなったら、いつでも僕の胸に飛び込んでいいよ?」

智子「お生憎様、彼はそんな酷い人じゃないわ」

クルピンスキー「酷い人じゃない、か。君や、僕たちにとっては……ね」

口から漏れた言葉は巴御前の耳に届かぬよう意図して小さく呟かれたものだった。
航空歩兵でありながら不穏分子を斬って回る彼。
もしも彼女がその事実を知ったら、どうなるのだろうか。
もしも愛した男の裏の顔を見てしまったら、どうなるのだろうか。
自分が見蕩れた笑みは消えてしまうのだろうか。

智子「ねぇ? 聞かせて欲しいの。あの人が此処に来てからどんな風に過ごして来たのか」

クルピンスキー「もちろんさ。その代わり、トモコって呼んでもいいかい?」

一縷の不安を胸に抱くクルピンスキーであったが、自身に詰め寄る智子を前に胸裏をざわめかせる胸騒ぎを押し込めた。
ネウロイ襲撃の警報が鳴り響いたのは、談笑を始めてから五分と経たないときのことだった。

735名無しさん:2016/12/02(金) 21:55:33 ID:24G8kbHA0
―――
――


外の景色から風が吹く音が聞こえる。
それに伴い、全身を包む空気が一層その温度を下げていくのを感じ取れた。
格納庫――そこは魔女たちが有する、機械仕掛けの箒とも称せる戦闘脚が保管、管理されている場所。
彼女らが空を、大地を縦横無尽に駆け巡るために必要な箒が日夜整備されている工房。
そこに智子は手近にあった鉄製のコンテナの上に腰を降ろしていた。
工房を彩る戦闘脚は殆どが先に鳴り響いた警報後すぐに格納庫から目の前の滑走路へと飛び出し、大空へと飛び立って行った。
その中には自身が長年想いを寄せる男のものも含まれていた。
残っているものがあるとすれば、司令でもあるグンドュラ・ラルのそれだけだ。
息を吐き、瞼を閉じて、智子は風の音に意識を向ける。
そのなかに飛び立って行った戦闘脚の音が混ざるのを聞き漏らさないために。
そうしている内に出撃前の出来事が脳裏に蘇った。

――

「駄目よ! 危険過ぎるわ!!」

襲撃に対する編成を伝えられたとき、智子は真っ先に後衛を任された彼に喰ってかかった。
既に俺は成人を迎えている。
飛行はもちろん、固有魔法である衝撃波の使用も可能だが、航空歩兵として致命的な能力が欠落していた。
敵の攻撃から身を守る障壁だ。
障壁を展開する能力を失えば、ネウロイから放たれる熱線を防ぐ術はない。
連中に置き換えれば常時、心臓であるコアを剥き出しにしているようなものである。
未来予知の固有魔法持ちならば障壁など無用の長物に過ぎないのだろう。
現にスオムスから501に派遣されたウィッチはそういった固有魔法を持っていると智子も耳にしていた。

736名無しさん:2016/12/02(金) 21:58:51 ID:24G8kbHA0

「確かに障壁は張れなくなっちまったな」

智子の剣幕とは対象に俺は困ったような笑顔で返すだけだった。

「それなら――」

「だけど、俺の力の根源は残ってる。俺の衝撃波は大勢の敵を消し飛ばすためにあって、それはまだ使える。まだ、まだ戦えるよ」

詰め寄る智子の頭に彼はそっと手を乗せた。
昔から駄々を捏ねると決まって彼は頭を撫でて自分を宥めてきた。
けれど、これは駄々なんかじゃない。
障壁を失ったのは事実で、身を守る術を持たない者が戦場に出たところで逆に危険なだけではないか。

「残り少ないからといって、燻らせるなんて勿体無いだろう? 全部使い切るわけじゃない。それに俺には、仲間がいるからな」

そう反論しようと開きかけた口は、強い意思の光を弾く瞳と言葉によって閉じてしまった。

「大丈夫ですよ。穴拭中尉」

先ほどまで彼を独占していたニパが笑みを作る。彼女ら502の実力を見くびっているわけではない。
ただ、何が起こるか分からないのが戦場ではないか。
彼のことだ。もしも彼女らに危険が迫ったとき、きっと身を呈して守るだろう。
あの日、自分を庇って撃墜されたときのように。

737名無しさん:2016/12/02(金) 22:02:22 ID:24G8kbHA0

「ニパ君の言うとおりだよ、トモコ。大丈夫、必ず僕らが連れて帰るさ」

「というわけだ。頼もしい仲間がいるんだから大丈夫さ」

――わかってよ。
――貴方、もう限界なのよ? いまは飛べて、衝撃波も撃てるけど……それだっていつまで続くかわからないのよ?

「じゃ、行ってくる。ちゃんと全員無事に帰ってくるからな」

「ま、待って! あ、あぁ、行かないで……いかないでよ……」

静止の声は戦闘脚の駆動音によって、掻き消された。
滑走路から飛び立つ魔女たちに紛れた彼の姿が、遠ざかっていく。
もしも、あと数年早く彼を見つけていれば、自分もあの輪のなかに加わることができたのだろうか。
彼が502の面々を眺めたときに見せた信頼の眼差しを、自分も受けることができたのだろうか。
彼と一緒に、あの空へ飛び立つことができたのだろうか。
胸のなかには、もう痛みしか残っていなかった。
かつて扶桑海の巴御前と呼ばれ、銀幕の主役を飾った女は、ただ独り格納庫に取り残された。
徐々に空へと溶け込んでいく想い人の背を、智子は見送ることしかできなかった。


――

738名無しさん:2016/12/02(金) 22:05:43 ID:24G8kbHA0
――

「……ッ」

惨めな思いを振り払うかのように頭を振って瞼を開く。
まるで彼が、もう手の届かないところに行ってしまったみたいだ。
ほんの数年前までは、自分もその輪に加わっていたというのに。
居場所を取られた子どものような、寂寥感を胸の内に秘める智子は不意に背後へと振り返った。

ラル「私を恨むか」

智子「……恨んだって仕方ないじゃない。そんなこと、彼が望まないわ」

足音を伴って声をかけてきたラルに返す。
彼がガランド少将預かりの戦力だという説明を受けた以上、口を挟むつもりはない。
が、それは軍人としての意見であって彼に恋慕の情を抱く女としては今回の出撃は到底受け入れられるものではなかった。

ラル「あいつの力は本物だ」

――そんなこと貴女に言われなくたって、子どもの頃からずっと知っているわよ。
喉下まで出掛かった言葉を無理に飲み込んだ。
彼女に苛立ちをぶつけても仕方がない。

ラル「大型どころかネウロイの部隊すら一撃で殲滅できる破壊力と範囲。もはや戦略兵器の域だ」

智子「そんな、に?」

739名無しさん:2016/12/02(金) 22:09:55 ID:24G8kbHA0
智子「そんな、に?」

告げられた言葉に智子は目を丸くした。
かつて扶桑皇国陸軍として同じ部隊に所属していた際は中型が精々だったはず。
それがこの数年で、ここまで成長するものなのか。
単機で軍勢相手に渡り合うなど、質と量の隷属関係を完全に破綻させているではないか。
そう胸裏で零す智子は知らぬ間に自身の背が粟立っていることに気がついた。
それは決して寒さによるものではないのだろうと思った。
出撃前に自身の頭を優しく撫でていたあの掌から、一体どれだけ強力なエネルギーが放たれるというのか。

ラル「一対多ですらあいつにとっては何ら障害ではないだろう」

陽気な人となりとは反対に、その固有魔法が司る属性は破壊を齎す暴力。
力で以て全てを捻じ伏せる暴君の力だ。
その暴力は間違いなく戦略的価値があるし、いざとなったとき部隊の切札として十分に機能する。
だが、とラルは一つの疑問を抱いた。
どこまでが彼の全力なのだろうか。彼の力はどこまでのものなのだろう。
部隊はおろか大型すら容易く呑み込む彼の異能。
それは、人類を脅かし遥か天空に座する異形の牙城をも滅相し得るほどのものなのか。
疑問が尽きることはなかった。

740名無しさん:2016/12/02(金) 22:12:57 ID:24G8kbHA0
―――
――



戦闘脚の駆動音を耳にした瞬間、格納庫を飛び出した。
速度と高度を徐々に下げ、滑走路へと降り立つ502の魔女たち。
少女たちの無事な姿を捉え安堵しつつ、彼女らとともに出撃した想い人の姿を探す。
しかし、帰還した魔女たちのなかに、男の姿は何処にも見当たらない。
段々と智子の全身を、悪寒が蝕みはじめる。
それは単に外気によるものなのか、それとも忌むべき過去の記憶が蘇ったことによるものか。
もしかしたら――が胸裏を過ぎる。

智子「(ちゃんと帰ってきてよ……。帰ってくるって、自分で言ったじゃない……!!)」

息苦しさを感じ始めたなか、視界の片隅に小さな黒い点を見つけた智子は自然と駆け出していた。
背後からロスマンが放つ静止の声を気にも留めずに。
駆け寄る自分の姿を見つけた男が、口元に笑みを落とす様を見つけ。
智子は両手を広げて彼の胸元へと飛び込んだ。

智子「俺ぇ!」

俺「おっとと! 随分と熱烈なお出迎えなことで……どうした?」

自分の胸元に飛び込むなり、両の手を背中へ回す智子の抱擁に驚きつつも、彼女の頭と背に手を添えてあやすように撫でる。
押し付けられる母性の柔らかさと温もりに多幸感を抱きながら。

741衝撃波:2016/12/02(金) 22:17:50 ID:24G8kbHA0

智子「無事よね!? どこも、怪我とかしてないわよね!?」

俺「あぁ、大丈夫だよ。俺もみんなも」

智子「よかっ……た。よかったぁ……」

それまで自身の胸元に埋まっていた智子の顔がその姿を覗かせた。
瞬間、俺は息を呑んだ。心臓が一際強く脈動する様を確かに感じた。
黒真珠を潤ませながら、安心し切ったように頬を綻ばせる智子の微笑みに、心奪われていた。
自然と指先が、手が彼女の端整な頬へと移る。
そんな自分の手の平が心地よいのか智子は一度短く“んっ”と呟くなり、身を委ねた。
瞼を閉じた際に浮かび上がった涙が零れ、俺の指が静かに濡れた。

俺「ごめんよ……心配かけさせたな」

智子「いいのっ……みんなが、あなたが無事なら……いいのっ」

端正な美貌を涙で濡らしながら見せる笑みに、俺は心臓を潰されたような息苦しさを覚えた。
彼女から視線を注がれると気恥ずかしさにも似たむず痒さが背筋を走るのに、目を背けることが出来ない。
気恥ずかしい感情を抱きながらも、もっと彼女の笑みを見つめていたいと思ってしまっているのはきっと、

俺「あぁ……ただいま、智子」

穴拭智子に完全に惹かれてしまっているからなのだろう。

742名無しさん:2016/12/02(金) 22:20:57 ID:24G8kbHA0
もう誕生日間に合わないけど、一区切り着くまで待ってたら時間かかり過ぎるから先に書いちゃおう

そんなわけで12話はこれにて終了、ハーイチャイチャイ

743名無しさん:2016/12/03(土) 11:17:20 ID:OM06isgg0
乙乙

744名無しさん:2016/12/05(月) 02:16:24 ID:DY9.S6fk0


745名無しさん:2017/02/05(日) 18:37:30 ID:3.42e2Cs0
偉く懐かしいところだ……まだ機能してたのか
何か書いてみようかしらん

746名無しさん:2017/02/08(水) 01:42:27 ID:93F0k3.s0
>>745
まってるぞー

747名無しさん:2017/02/26(日) 21:34:21 ID:QQwVnXfQ0
ケーブルテレビで見た1期2期とブレイブウィッチーズ、
後同人誌のアフリカの魔女くらいしか見たこと無いんだけど、書いてもいいのかしら……
設定面とか不安が多くて踏ん切りがつかない……
キャラ愛があればいい、のかね……

748名無しさん:2017/02/26(日) 21:59:35 ID:zmCSQdik0
どうぞどうぞ、待ってるよ

749彼方より、もう一度:2017/02/27(月) 01:13:17 ID:dHC0sQBk0
もう設定の整合性とか何とかぶん投げて、思うままに書いたことを初投下させてもらいます。
芳佳ちゃんは可愛い。後宮藤博士はイケメン。生きてないのかなぁ

750彼方より、もう一度:2017/02/27(月) 01:16:52 ID:dHC0sQBk0
それが部屋に現れた時、予感がした。
これは、向こう側への扉なのだと。

歪む空間を前に、その予感を得た時、俺は、ありったけの準備をした。
持てるだけの、科学技術や『魔法』技術に関する資料と文献。莫大な量のデータを取り込んだハードディスク、SDカード、その他の記録媒体。
それを閲覧する為のスマートフォンやパソコンと、バッテリーを充電するための手回し式の充電器。

以前には伝えられなかったことを伝える為に。
あの人に、もっと色々な事を伝える為に。
そして、遂には為し得なかった、あの娘との約束を果たすために。

あらゆるものを詰め込んで、ギチギチになったリュックや鞄を背負う。
その重みは、そのまま、向こう側に残してきた心残りの重みでもあった。

次に、何時戻れるかは分からない。そもそも、戻れるかすらも怪しい。
遺書を書く心持ちで、家族に向けた書き置きを残し、
鍵を閉め、電源ガス栓水道の元栓に至るまで、全てのインフラを根から止め、
使えないとは分かっているが、財布などの貴重品を念の為に持つ。

これで、後始末は成った。
もう、此方側に残した心配事はない。

荷物を引きずるように走り出し、そして、俺は其処へ向かって、意を決して飛び込んだ。

751彼方より、もう一度:2017/02/27(月) 01:20:17 ID:dHC0sQBk0
……それから、通り過ぎていった場所には、微かに見覚えがあった。
異空間。
向こう側と、現実を繋ぐ場所。

一度目に此処を通った時は、パニックのままに通り過ぎただけだった。
二度目には、悲しさと辛さで泣きじゃくり、とても風景を見る余裕は無かった。
だから、この空間をまともに見るのは、これが始めてになる。

うねる様な動きを見せる其処は、透明だった。厳密には、そして理論的には、色がついているのだろう。
そうでなければ、人間が視認することは出来ない。しかし、それを視認することが難しいほどに、一面は澄み渡っていた。

飛び込んだ勢いのまま、ふわふわと前へと進む。何もない異空間を、どこまでもまっすぐ、まっすぐ。

それから暫くして、光が見えた。
出口だ。異空間から抜け出す為の、出口。

速度は変わらぬままに、其処へと引き寄せられる。
きっと、出口の向こうにあるのは、
あの場所だ。あの時、あの人と出会った、あの森だ。
あそこに、もう一度行けるのだ。

近づく。光は、どんどんと大きくなる。
それはやがて、視界を覆い尽くし、目が眩みそうになるほど強くなる。
思わず、目を瞑ったその瞬間、光は極限まで強まり、身体はその中へと投げ出された。

752彼方より、もう一度:2017/02/27(月) 01:25:32 ID:dHC0sQBk0
そして、立っていた。
嘗て見た、木漏れ日の差す草の絨毯。広がる森からは、木の葉の囁く声が聞こえる。
こんな場所が、『日本』にはないことは、散々に調べ尽くして確認している。
何よりも、強く感覚に訴えてくる既視感。此処は間違いなく、あの森だった。

ただ、あの時とは、違うことが一つ。
俺の前に居たのは、あの人ではなかった。
短く切り揃えた、黒の髪。くりくりとした、茶色の瞳。花束を持った小さなその手は、微かに、震えていた。
忘れられようものか。
あの人と共に俺がこの国を離れて、それから、一度も再会することなく別れてしまった、あの娘だった。
彼女は、花束をぽとりと取り落とし、そして、信じられない、といった響きを隠すことなく、震える言葉を紡いだ。

「おじ、さん?」
「はいはい、おじさんですよ」

そういえば、あの頃もこんな風に話をしたっけな、と、前に来た時のことを思い出す。
おじさんという呼ばれ方も懐かしく、あの頃は、背丈も自分の半分ほどしか無かったこの娘が、
今や、青年の年頃かと思わしきほどの成長を見せていることには、不思議な感動があった。
しかし、それを、再会の言葉にしようと思うと、些か気恥ずかしいものがある。

だから、取り敢えず、これだけは言おうと腹を決めていたことだけは伝えることにした。

「遅うなったけど、約束通り帰ってきたよ」

753彼方より、もう一度:2017/02/27(月) 01:30:07 ID:dHC0sQBk0
途端、この娘は、宮藤芳佳は、普段は全く無縁だった涙を目に一杯溜めながら、俺の元へ飛び込んでくる。
以前の小さかった頃のそれとは全く違う、成長を感じる重みを受け止めてやれば、わんわんと泣きじゃくっている。
それだけ、俺が帰ってきたことを喜んでくれている、ということになろうか。
不覚にも、眦が熱くなる。
一時の逗留者に過ぎなかった俺を、これだけ歓迎してくれるとは、思っても見なかった。
或いは、約束のことなど、忘れられているのではないか、とも。
それだけに、感じ入るところは、一入のものでもあった。

ぽろぽろと、涙で服を濡らしながら抱きついてくる芳佳ちゃんの背を軽く叩き、自分の声の震えを努めて抑えながら、
笑みを作って……実際に作れているかは、少々怪しかった。何しろ、今まさに涙が流れそうな心持ちでもあったから……語りかける。

「久し振り。ただいま、芳佳ちゃん」

服の袖で目元を拭い、そして、にっこりと笑って返してきたその笑顔は、
記憶の中に残る、幼い頃の芳佳ちゃんのそれと、何ら変わるものではなかった。

「……お、かえりなさい。おじさん」

754彼方より、もう一度:2017/02/27(月) 01:34:28 ID:dHC0sQBk0
これは、二回目の物語だ。
世人の聞けば、嘲けりを以て一笑に付されるであろう、不思議な物語。
向こう側と、俺がそう呼ぶパラレルワールドで起こった、人々との再会と、それに纏わる諸々に関する物語だ。

755彼方より、もう一度:2017/02/27(月) 01:38:26 ID:dHC0sQBk0
以上プロローグです。
また近いうち続きを書きます。
意味が分からないところはその内分かるように書いていきたいです

756名無しさん:2017/03/01(水) 01:11:28 ID:VjaWqMIo0
乙乙

757名無しさん:2017/03/02(木) 20:39:38 ID:gL2a2tCo0
おっつー

758名無しさん:2017/03/04(土) 19:16:09 ID:7fsRiM3U0
おつ

759短編『これから』:2017/03/16(木) 09:40:05 ID:uBNHz4S20
俺「俺が代わりに死ぬー!」

森に墜落し負傷した管野直枝を地上型ネウロイの集中砲火から庇うため、身を呈して彼女の前へ躍り出た。

当然俺は魔法を使えるわけもなく、というかさっきまで鉄橋の上から自殺しようと川へ身を投げたはずなのに気付けばブレパンの世界にいて、彼女の危機が迫っている状況に遭遇したのだった。

管野「お、おいっ…お前!」

俺「まじでなおちゃん大好き過ぎる本当に愛してるバンザーイ!!」

咄嗟に動いて、自分の死を有意義にしようとした。

不細工で、ちゃんとした仕事も恋愛もこなせず今迄中途半端な人生を辿ってきた終止符としては贅沢なぐらいだ。と、にっこり笑って俺は迫り来る攻撃を受け止めようとする。

俺「…ぐぶぉあっ!!」

しかし衝撃は後ろから飛んできた。彼女の拳だった。

管野「バカかテメー!オレはシールドぐらい張れる!」

そういって傷だらけの身体でシールドを急展開し、俺と自分を守る管野。


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