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俺「ストライクウィッチーズと洒落込もうか」

1名無しさん:2013/04/07(日) 02:07:57 ID:qhlpEsaY
ストパンの世界に俺を入れてイチャイチャしようずwwwwwwwwww っていうスレ
         ∧
         / |
        〃 .|
       .//  |           ___ _,. イ
      / |  /  _ __     /       /
      ( |. /; ; ; ; ; ; ; ;.;.;>、/ /    /
      ヽ.! /; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; < ̄ ̄
      / V; ; ; ; ; i; ; ; ; ;.;.丶; ; ; ;ヽ
     .///; ; ;./; ;/|; ; ; ; ; ;.;.;l; ; ; ; ;.i
     |/; ;./ ; ;/; ;/ .l .ト、; ; ; ;.;ト; ; ; ;.;\ _,
    ノ ; ; |; ;ノイ/⌒l | | ; ;7⌒| ; ; ! ̄
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224名無しさん:2013/06/18(火) 00:47:01 ID:E0ogOvTM0
おつおつ
ID同じだからあぼんが捗る

232名無しさん:2013/06/18(火) 00:53:10 ID:tHoodqdE0


なかなか味わい深い話しやね

233名無しさん:2013/06/18(火) 00:53:29 ID:E0ogOvTM0
伸びてる理由ってあらしくんがレスしてるからじゃね?w

うける

235名無しさん:2013/06/19(水) 10:28:06 ID:jNNIRHuM0
乙でした

236名無しさん:2013/07/30(火) 02:27:59 ID:dtOloK/Q0
なあ、今結局ここはどうなってるのよ?
あらしが酷くなってからずいぶんと離れていたし、たまに顔出す程度で現状がわからん。

ここも最終レスが6/19ってことはすでに死んでしまったのか……?

237管理人:2013/07/30(火) 03:04:15 ID:???0
>>236
死んでないよ。
とはいえ、管理人ひとりで騒いでてもアホ丸出しだから見守ってるだけ。
何かあるんだったら管理スレのほうにドゾ。

ちなみに、こんな時間に反応したのは、仕事の都合ですから
常に張り付いてる訳じゃありんせん。念のため

238名無しさん:2013/08/04(日) 19:11:51 ID:uAT7z.iE0
こっちはあんまり人いなさそうだしな…
投降するにしても向こうと両方び投稿するとかどうだろうか?

239管理人:2013/08/05(月) 23:06:24 ID:???0
>>238
そのあたりは、それこそ投下する人の選択次第だから、俺としてはなんとも言えないな。
やっぱり向こうに愛着があるっていう人もいるだろうし
「お前なんか信用できるか」ってんでこっちを忌避してる人もいるだろうしね。
そうでなくても両方で投下するってのも面倒だろうし。

まあ、向こうでふつーにちゃんと復活してくれるんならこっちはゴミ扱いでもどうでもいいしねえ。

240名無しさん:2013/08/06(火) 17:17:56 ID:j6kDAX3U0
個人的には荒らしにすぐ対応してくれるこっちが良いが、向こうにも愛着がある

向こうは荒らしが邪魔、こっちは人が少ない、か

241衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:18:18 ID:BQ30L.Pw0
管野『――攻撃くるぞっ!』

俺「ッ!」

インカムから迸る管野の叫びよりも先に、矢継ぎ早に放たれた熱線に身を翻す。直後それまで飛翔していた空域を疾走する紅蓮光。
欧州各地に点在する高名な建築物の数々を紙細工の如く容易に切り裂き、焼き払うほどの火力に男の面差しが歪に強張った。
前方に佇む中型からの熱線が掻き消えると同時に携行火器の引き金に指をかけ、発射。重い銃声を伴って銃口が発火炎を吐き出す。
連射される7.92mm弾が暗夜よりも深い中型の装甲を削り始める。俺を含めた第502統合戦闘航空団に所属する魔女全員分の集中砲火を浴び、中枢であるコアがその姿を現した。

ロスマン『――コアが見えたわ!』

俺「サーシャ!!」

間髪入れず蒼空に轟く銃声。一発でコアを撃ち貫かれた中型が霧散するよりも先に、次の標的へと肉薄していく魔女たちの後姿から俺は眼下の大地に視線を落とす。
地上部隊に対して立て続けに行われる爆撃。それに伴う爆音、破壊音が人間の断末魔すら掻き消す地獄絵図。
人類側は前回の作戦時での残存戦力に合わせ連合軍からの増援を、ネウロイ側は侵略拠点である都市奪還のため前回以上の戦力を投入した。
地上に展開される歩兵及び陸戦魔女部隊に降りかかる砲火を排除し、逸早く制空圏を確保および拡大せよ。それが第502統合戦闘航空団に課せられた指令であった。

ニパ『――不味い!』

ラル「各機! 目標を軽爆撃級に設定! 攻勢開始!!」

眼前に展開される爆撃機級の編隊が地上に展開されている陸戦部隊に向けて爆撃を開始した。
風切り音を奏でながら大地に吸い込まれていく爆薬の数々に、俺は無言で右手を伸ばして極細状の衝撃波を五指の先端から照射する。
直後、都市と空中の中間にて発生する無数の光。全弾撃墜を確認するとともに爆撃機級の編隊に携行火器の銃口を向けて引き金を引く最中、耳元に装着しているインカムが軽いノイズを走らせた。

242衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:19:06 ID:BQ30L.Pw0

サーシャ『――俺さん……こうなった以上は何も言いません』

俺「悪いな。最後の最後に我侭聞いてもらって」

流れ出した声は真正面の標的を見据えながら断続的に対物ライフルの引き金を絞るサーシャのそれであった。
日頃に比べ幾分か落ち込む声色から彼女が自分の身を案じていることを察した俺は、口許に苦笑を零しながらも引き金を引き続ける。
思えばここ数日は彼女らに心配をかけてばかりだ。基地を飛び出し、戦場に入り込み、ジグラットの崩壊に巻き込まれた。
まだ半世紀も生きていない若造であることは自覚していたが、青臭さだけはとっくの昔に抜け落ちているものとばかり思っていた。
にも拘わらず、この有様だ。魔力障壁を展開すら力を失っているというのに乱戦の渦中に身を置いている始末だ。
どれだけ世界を渡り歩いても。どれだけ砲火のなかを突き進み、実戦経験を積んだとしても。
結局自分は未だ青臭いままの若造なのだと己の未熟さに自嘲の念を禁じえない。
なにが自分をここまで変えたのかと原因を探り始める。時間にして数秒、答えはすぐさま弾き出された。
愛しい女性の笑顔を脳裏に思い浮かべ、銃口炎に照らされる俺の表情が緩やかに綻んでいく。
あの笑顔のためなら、彼女のためなら自分は何度だって命を張れる。
この感情が青臭いというならば自分は一生青臭い小僧だと嘲笑われ続けても構わない。
けれども、

ロスマン『最後だなんて……縁起でもないこと言わないでください』

クルピンスキー『そうだよ。君には何が何でも生き残ってもらうからね? 途中で死んだりして、隊長を泣かせたら一生恨むよ』

俺「わかってる。俺だって惚れた女の泣き顔なんざ見たくないんでね」

それでは無意味なのだ。片方が生き残るような結末など彼女は望んでいない。
彼女が欲しているのは自分が隣にいる平穏な未来。故にここで死ぬわけにはいかない。
露出したコアに銃弾が直撃。砕け散る爆撃機級から視線を外すと同時に再びインカムから雑音が迸った。

243衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:19:58 ID:BQ30L.Pw0

サーシャ『魔法力の消費が激しい衝撃波の使用は可能な限り控えてください。通常火力での破壊が困難な場合はこちらが適時指示を出します』

俺「了解」

返事とともに残る爆撃機級への攻撃を開始。視界に入る敵勢力の観察も並行で行う。
現状は502を含めた航空歩兵部隊の奮迅により制空圏は微かではあるが確実に広まりつつあった。時折入る地上部隊に配備された高射砲による援護射撃がその勢いを後押している。
この状態を維持できれば制空圏確保も時間の問題だろう。

俺「(しかし……ここまで執着する理由はなんだ?)」

人類は廃棄都市の完全なる奪還のために前回以上の戦力を動員した。
同様に怪異側も先の激戦など前哨戦とでも言うように大量の兵力を投入したが、奴らにとってこの廃棄都市は貴重な戦力を投入するほどの価値があるのだろうか。
大型とはいえ所詮は一都市に過ぎない。更に付け足すならば類似する場所など欧州を探せばいくらでも転がっている。だというのに第二波戦力を動かす真意とは何なのか。
疑問と考察を幾度も巡らせた結果、俺の脳裏に一つの仮説が導き出される。
ネウロイが身を削ってまでこの地に執着する理由。それは、それは……

――この地でこれから何かを行おうとするためなのではないか……――

俺「ッ!?」

思考は前触れも無く耳元に届いた、砲声や爆音とはまた異なる轟音によって掻き消された。
視線を十時方向へと向けるや否や俺は反射的に身体を強張らせる。
作戦領域である都市に隣接した山々を越えて姿を見せた歪な影。
甲虫――それも眼下の都市に跋扈する蜘蛛型や蠍型とは比べ物にならないほどの大きさだ。
ジグラットに匹敵するサイズの四つ足。対航空歩兵用の赤い砲門があたかも天道虫の斑点のように散りばめられた背面。それだけならば何ら脅威にはならなかっただろう。

244衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:20:35 ID:BQ30L.Pw0

しかし背面に連結された巨大な砲身の凶悪過ぎるフォルムに否応無く視線が移ってしまう。
一撃で都市一つ消滅させられる程の火力を有していることがサイズと口径から容易に想像できる。
流石にこの乱戦の最中で使用してくることは考え難いが、だとしても迅速に撃破することに越したことは無い。
同じ考えに至ったのか巨大甲虫型を最重要破壊対象と判断し攻撃を開始する各航空歩兵隊。

彼女らが手にする銃器が空に鮮やかな炎の華を咲かせる光景をよそに、ラルは脳裏に策を巡らせていた。
巨体とそれを支える頑強な四つ脚から機動力はさして高くない。問題は機動力の低さを補うほどの防御力にある。
先刻から機銃弾の豪雨を浴びているというのに、巨大甲虫型の歩は止まるどころか鈍る気配すら見せていない。並大抵の火力では決定打はおろか致命傷を与えることすら至難だろう。

下原『――ここからでは脚部しか確認出来ませんが……現状、対地兵装らしき存在は見当たりません』

管野『――けどよ! んなもん無くたってあの脚さえありゃ!!』

ロスマン『――蹴散らされるのは目に見えるわね』

ジョゼ『――空から攻撃するにしてもあの数の砲門です。下手をすれば撃ち落されます』

管野『――だったらあの無駄にでかい脚ごとぶっ壊してやるよ!!』

俺『――よせ。それでお前の手が砕けたらどうする? いや……おい、まて』

245衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:21:12 ID:BQ30L.Pw0

戦意を燃やす管野を諌める俺の何かを察したかのような言葉に、思考の海から現実へと帰還するラル。
視線を標的に注いだ瞬間、悪寒が背筋を駆け抜けた。歩を止めた巨大甲虫――その背の砲門が明滅を開始する姿に。
嫌というほど見慣れたあの現象は――

ラル「――全機ッ! 障壁展開!!」

弾かれた動作でインカムに手を伸ばすなり回線を全航空歩兵に接続。
ワンテンポ遅れ、巨大甲虫の背面から伸びた幾条もの熱線が空中を飛び交う航空歩兵たちに殺到していった。次いでノイズを伴った状況報告が飛び交う。
撃墜された者、ストライカーを大破に追い込まれ飛行が困難になった者。
戦友を墜とされ怒り狂う者。
一瞬で十を超える航空歩兵が戦闘不能に追い込まれた状況にラルは端整な美貌を歪めた。

ラル「なんて範囲だ」

周囲を飛び交う目障りな存在を叩き落した巨大甲虫が再び移動を開始する。
自分が墜とした少女たちが迎える命運など歯牙にもかけぬ標的の態度に腹の底から湧き上がる怒りを抑えつつ、改めて状況整理に徹した。
対物ライフルの一撃を以ってしても貫くことが叶わなかった装甲からやはり最大の難所はあの鉄壁なまでの頑強さにある。
現状、502が有する火器ではあの城壁を破壊することは不可能と断じて良いだろう。
列車砲級の火力ならば損害を与えることも可能だろうが、生憎とこの場には“グスタフ”も“ドーラ”も配備されていない。高射砲も残る爆撃機級の撃墜が終わるまでは巨大甲虫の相手に回せない以上はやはり携行火器で食い止めるしか手は無い。
そのときラルの思考は辿りつく。辿り着いてしまう。
列車砲以上の火力を有する男に。堅牢無比な装甲を突破し、搭載された核の破壊が可能な航空歩兵の存在に。

246衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:22:42 ID:BQ30L.Pw0

俺『――こいつは俺の出番かな』

そして、その男は携行火器を左手に持ち替え空いた右の肩を回していた。
象嵌された黒瞳が硬質なる戦意の光を弾く。あたかも天を舞う狩猟者のそれを髣髴させる眼差しを捉えた瞬間、ラルは全身に寒気が駆け抜ける感覚を抱いた。
不意に視線絡み合う。途端、頬を綻ばせる俺。

俺『――あれほどの装甲じゃ単なる集中砲火だと時間がかかる。出力を上げた衝撃波なら突破口くらいは拓けるさ。ただ、まぁ。少しばかり距離を縮める必要があるけどな』

確かに俺の衝撃波ならば巨大甲虫が放つ熱線を押し返し、損傷を負わせることも可能だろう。けれども彼は既に魔力障壁を展開する力を失っている。
あの数の熱線を全て回避する空戦技量を有しているとしても、防ぐ術が無い以上は一度でも直撃すれば死に至ることは火を見るよりも明らか。
薄皮一枚で繋がる彼をあの紅蓮光の群れに向かわせるなど地獄の淵に突き落とすようなものである。恋人としてそのような特攻を看過できるはずがない。
しかしそれはあくまでグンドュラ・ラルとしての考えでしかなく。今の自分は第502統合戦闘航空団の司令として、この現状を打破しなければならない。軍人としての判断を優先するならば、作戦成功の確率を少しでも引き上げるために彼を巨大甲虫へと送り出すことだろう。

ラル「(……私は、どうすればっ!!)」

躊躇いが脳裏を支配する。愛しい男の身を案ずる自分と軍人としての自分。
二人の己に挟まれたラルは胸中に渦巻く逡巡が次第に痛みを生み出していく感覚を抱いた。
彼を向かわせれば作戦成功率も上がるだろう。けれど彼が確実に生きて還ってくる保証など、どこにもないではないか。
送り出した結果、今度こそ彼が還って来ない結果に終われば……

247衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:23:18 ID:BQ30L.Pw0

ラル「(い、やだ……もう。いやだ……!!)」

悲痛な叫びが胸裏で木霊する。
もうあんな思いは沢山だ。寂しさも、切なさも。痛みも、悲しみも。
二度と味わいたくない。

俺『――なぁ。グンドュラ』

震える身体を包み込んだのは他の誰でもない恋人の声音。
振り向けば真摯な光を宿した黒瞳と視線が絡み合う。
一歩間違えれば確実に命を落とす状況にこれから飛び込むというのに、男は驚くほど柔和な笑みを湛えていた。

俺「こうして俺の出撃を認めてくれたってことは。お前もあのときに覚悟を決めてくれたってことじゃないのか?」

先刻までの凛々しさは消え、大切な存在を喪うやもしれぬ恐怖に震える恋人から目を背けずに紡ぐ。人を愛するということは同時に喪失の恐怖を背負うということ。
その恐怖を背負わせた元凶は間違いなく俺自身だろう。
もしも彼女と出会わなければ、彼女に惹かれなければ、その心を動かしさえしなければラルは優秀な航空歩兵としていられただろう。
けれども、けれども……

俺「信じてくれ、としか言えない」

後悔はない。ラルと出会ったことも、ラルを愛すると決めたことも。彼女もそれは同じであるはず。
今日まで散々世界を放浪してきたし、これからもそうだと思っていたが、今は違う。
守るものが出来た。仕事を終えてまた次の目的地を目指すわけにはいかなくなった。
ならば、そろそろ根を下ろす頃合なのだろう。彼女とともに生きる為に。
しかしそのためには乗り越えなければならない壁が、いま眼前に立ち塞がっている。

248衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:24:10 ID:BQ30L.Pw0

俺「それに。なにも俺だけであのデカブツを倒そうとは思っていないさ」

言うなり周囲を見回す。

指の骨を鳴らした管野が白い歯を見せつけ、不敵な笑みを浮かべた。標的が大きいほど落とし甲斐があると日頃から豪語するだけあり、この状況に一切臆していない。

携行火器を構えるジョゼと定子の姿が視界に入る。既に自分たちの役目を察した彼女ら二人は既に臨戦態勢を整えていた。

日頃自身の不幸体質を嘆く姿は消え去り、断固たる戦意を瞳に宿すニパ。スオムス空軍十指の実力者としての矜持を顕現させる少女の姿に俺は高揚感を伴った頼もしさを抱いた。

柔和な笑みを浮かべるロスマンが頷く。手のかかる教え子を見守るかのような笑みに俺はそっと背中を押されたかのような感覚を覚えた。

新型種が投入されたにも拘わらず普段と変わらぬ流し目を送るプンスキー伯爵が細指で巨大甲虫型を指差す。端整な美貌に象嵌された瞳が物語る意図に俺は頷きを以って返した。

危険な役目を押し付けてしまった負い目から双眸に不安げな光を漂わせるサーシャ。
しかしすぐさま他の手段の模索が無意味だと悟り、自らの役割に徹するかのように対物ライフルを構えなおす。

ラル「本当に…………アレを斃せるんだな?」

声が震える。吐き出したものが言葉として形を成しているのか自分でも確信が抱けないほどに。
ただ判っていることは彼の瞳と言葉に一片の迷いが見出せないということ、
筆舌に尽くしがたい覚悟を傷だらけの全身に宿しているということ、
そして自分が根拠も無しにその光を信じてしまっているということ。

249衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:24:58 ID:BQ30L.Pw0

ラル「……本当に、帰ってくるんだな?」

俺『…………必ず』

耳朶を打つ力強い言葉に頬が綻んでいく。
あぁ、まただ。何一つ根拠も確証もないというのに。
つい先刻まで胸裏を苛んでいた不安と躊躇いの姿が消えていく。

ラル「………わかった。敵の注意は私たちが引きつける。“命令”だ……必ず帰って来い!!」

あのときとは違う。
この手は届く。絶対に死なせない。何が何でも守り切る。
必ず全員で、生きて還る!!

ラル「聞いての通りだ。我々はこれからこいつの援護に入る」

「絶対に死なせはしない! 俺も! そして諸君もだ!!」

自身に刻み込むが如き宣誓。
威厳溢れる声音は空を駆ける雷電にも似た鋭さを秘めていた。

ラル「お前の背中は私たちが守る。思う存分暴れて来い」

言うなり笑みを浮かべる。
周囲の人間を安心させるいつもの微笑み。
既にその青い双眸に迷いは無く、歴戦の航空歩兵が宿すに相応しい凄烈な眼光が宿っていた。

250衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:26:02 ID:BQ30L.Pw0

ラル「あの虫を地面にキスさせてやれ」

俺「……あぁ。委細承知」

口元を綻ばせて応える。
携行火器を背負い、これから自分が対峙すべき怨敵を見据える。

ロスマン『――俺さん。ご武運を』

管野『――今度こそ早く帰って来いよ!!』

クルピンスキー『――もしも無事に帰ってこれたらキスしてあげよう』

ハスキーな声音とともにプンスキー伯爵の妖艶な眼差しが俺へと流される。視線を注がれた本人はというと気恥ずかしそうに頬を掻くなり空を仰いで茶を濁した。
その光景を前にした途端、ラルは胸裏に粘性を帯びたどす黒い感情が渦巻いていく感覚を抱いた。
微かだが自然と膨れる頬。目を細めて非難の意思を顕にする。
こんなにも嫉妬してしまうものなのか、こんなにも容易に妬いてしまうほど自分は嫉妬深かったのかと感じつつも恋人睨む眼差しは下ろさない。

ラル「…………むぅ」

不意に非難めいた眼差しがクルピンスキーの艶を帯びた視線と絡み合った。
跳ね上がるラルの心臓。その目線の奥底に混ざりこんだ不吉な気配が彼女の身体を強張らせる。
その直後、彼女の予感は見事に的中した。

251衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:26:38 ID:BQ30L.Pw0

ラル「あの虫を地面にキスさせてやれ」

俺「……あぁ。委細承知」

口元を綻ばせて応える。
携行火器を背負い、これから自分が対峙すべき怨敵を見据える。

ロスマン『――俺さん。ご武運を』

管野『――今度こそ早く帰って来いよ!!』

クルピンスキー『――もしも無事に帰ってこれたらキスしてあげよう』

ハスキーな声音とともにプンスキー伯爵の妖艶な眼差しが俺へと流される。視線を注がれた本人はというと気恥ずかしそうに頬を掻くなり空を仰いで茶を濁した。
その光景を前にした途端、ラルは胸裏に粘性を帯びたどす黒い感情が渦巻いていく感覚を抱いた。
微かだが自然と膨れる頬。目を細めて非難の意思を顕にする。
こんなにも嫉妬してしまうものなのか、こんなにも容易に妬いてしまうほど自分は嫉妬深かったのかと感じつつも恋人睨む眼差しは下ろさない。

ラル「…………むぅ」

不意に非難めいた眼差しがクルピンスキーの艶を帯びた視線と絡み合った。
跳ね上がるラルの心臓。その目線の奥底に混ざりこんだ不吉な気配が彼女の身体を強張らせる。
その直後、彼女の予感は見事に的中した。

252衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:27:23 ID:BQ30L.Pw0

クルピンスキー「ねぇ、おれ――」

俺『やらんぞ』

返されたのは極限にまで冷気を孕んだ声音。
あたかも罪人を黄泉路へと送る断罪の執行者が如き鋭さにクルピンスキーの身体があたかも金縛りにでもあったかのように硬直した。
初めてストライカーを履き、ネウロイと対峙したときに感じたそれを遥かに上回る恐怖に脳がけたたましく警鐘を鳴らしている。

俺『伯爵。お前の魔手は届かない』

本能が告げる。これ以上、彼女に深く関わるなと。間違っても彼女を口説き落とそうなど考えるなと。

『残 念 だ っ た な!』

クルピンスキー「ははは。いやだなぁ……冗談だよ。そんな風に見つめないでよ!」

ロスマン『――おふざけはその辺りでやめておきなさい。隊長、ご指示を』

ラル「ブレイブウィッチーズ! 全機、攻勢再開!!」

遠方から轟く対空高射砲の砲声。
それを戦闘再開の号砲とし、勇壮なる航空歩兵たちは一斉に標的へと向かっていった。

253衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:28:07 ID:BQ30L.Pw0

猛然と迫る紅蓮の熱線が魔力障壁に激突する。
障壁越しに伝わる衝撃にラルは反射的に歯を喰いしばった。新型だけあってか対象へと突き進む速度も、密度も。通常の航空歩兵とは一線を画している。

ラル「相変わらず凄い火力だな!」

クルピンスキー『――だけど攻撃は僕たちや他の部隊に集中してる! これならいけるかもしれない!』

ロスマン『――いけるかもじゃなくて、上手くいかせなきゃ駄目なのよ!』

二人のやり取りを耳にするラルの視界に影が横切った。
黒髪を靡かせながら対象への距離を詰めていく恋人の背に、少女の身体が僅かに固まる。けれども次の瞬間にはすぐさま攻撃を再開する。
この手で守ると誓った。
ならば自分は自分に出来ることを貫くまで。

ラル「(信じているぞ……信じているからな……)」





俺「(あの砲身が邪魔だな)」

少女の想いを背に受け、男は巨大甲虫が背負う巨砲を改めて観察する。
艦船に搭載されたものよりも遥かに巨大な砲を。都市一つ容易に焼き尽くしてしまうほどの砲を。
威力、射程。そのどちらも、装甲各部に設置された砲門から放たれる熱線の上をいくのはフォルムからみても明らかである。
万が一、地上や航空部隊にでも使用されることになれば連合軍の敗北は確約されてしまう。
それだけではない。放たれたら最後、作戦領域を突き破り遥か遠方の市街地にさえ到達するだろう。

254衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:29:02 ID:BQ30L.Pw0

俺「(砕くか)」

ここで後顧の憂いを断つべきだ。
加えて言えば敵の攻撃手段は少しでも減らしておくに越したことはない。
蜘蛛型が歩行を止めると同時に周辺空域に放射される熱線が消失した。
おそらくは対空用に用いる熱線のエネルギーを全てあの砲身から放つ攻撃に費やしているのだろう。
脚を止めたのは発射時の誤差を少しでも抑えるため。

俺「(ここで使っちまうか?)」

――魔技。
稀代の魔女――薔薇十字が創り上げた術式を基に独自の理論で編み出した術技であり、言うなれば“俺たち“にとって切り札のようなもの。
が、俺が習得した魔技は徹底的に破壊力と範囲を強化されており、その威力は最大時では宇宙一つを砕くほどに至っている。
下手をすればこの星にまで損害を与える危険も孕んでいる以上、現時点では術式による魔技の使用は控えるべきだろう。

ジョゼ『――俺さん!』

砲身の奥底に灯る紅蓮の炎を見咎めた俺は迷わず右の掌を打ち出した。砲身内部へと潜り込んだ衝撃波が放たれた熱線と激突。
衝撃波を通して右腕に伝播するインパクトに面差しを歪める。
あたかも濁流を素手で受け止めているかのような衝撃に右腕の骨格が軋む感覚に苛まれる。
このまま押し返し、砲身を破壊することも可能だが今後の戦況を鑑みればここで魔法力を消耗するのは得策ではない。
思考を巡らせている隙を突いて熱線の出力を引き上げる巨大甲虫型。必然的に砲身内部に放出される衝撃波が押し返されていく。
その単純なまでの力押しから巨大甲虫型が秘める明確な殺意が自身に注がれていることを察し、俺は唇を吊り上げた。低脳な異形の分際で生意気にも意思を有するとは。

255衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:29:44 ID:BQ30L.Pw0

俺「(――は。目にもの見せてやるよ)」

対象を胸裏で嘲笑い、衝撃波の出力を砲身の中間地点まで押し返す段階まで引き上げる。今後どう転ぶか分からぬ戦況を踏まえるとここで砲身を破壊するほどの魔法力の消費は避けなければならない。この後には堅牢な装甲を破壊する作業も控えているのだ。多少時間はかかるものの俺は出力の維持に徹した。

サーシャ『砲身が!!』

航空歩兵と巨大甲虫が鬩ぎ合いを開始して数分足らず。変化は目に見える形となって現れた。突如として黒い巨大な砲身に奔る亀裂。内側から白光を滲ませるそれは瞬く間に砲身全体に駆け巡り、目を凝らせば凶悪な砲身のフォルムがその姿を歪に変えていく。刹那、大音響を伴った衝撃が周囲に迸った。
俺の目論見はこれにあった。自ら貴重な魔法力を消費せずとも衝撃波を砲身内部に押し込めておけば巨大甲虫自身が放つ熱線の熱量と衝撃波の熱量が重なり合う。その結果、砲身内部は熱の過剰供給状態に陥り、許容量を超えた極度の負荷に耐え切れず砲身は破裂する。爆発の影響を直に受け巨大甲虫型が数歩、後退した。その巨体が故に体勢を整えるには幾許かの時間を要するらしい。

ラル「各機! 手を休めるな!」

四肢を曲げ、不気味な間接音を響かせて、周辺に散在する航空歩兵が放つ銃弾を浴びながら体勢を整える巨大甲虫を尻目にラルは青空を舞う男の姿を探していた。
引き金にかける指はそのままに、照準が乱れないよう両腕に力を込めながら。
視界の片隅に対象を捉え、安堵の意思を口元に浮かべる。が、その笑みはすぐさま掻き消えた。
右腕を押さえる、恋人の姿。表情を歪ませながら左腕で右腕を押えつける姿が少女の胸を深く抉る。
痛みが治まったのか俺は巨大甲虫型への接敵を開始する。遠ざかる後姿。
後ろ髪を引かれる思いを振り払い、ラルは標的の注意を引きつけるために陽動を続けた。

256衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:31:29 ID:BQ30L.Pw0

俺「(大人しくはしてくれないか!)」

空を引き千切り、俺が猛然と巨大甲虫型に迫る。大きく身体を捻っては熱線をいなし、衝撃波を放射。
着弾した部分が大きく拉げていることから威力はまだ落ちてはいないようだ。
ネウロイもまた砲身を砕いた彼が最も厄介な戦力だと認識したのか他の航空歩兵への攻撃全て眼前を飛び回る蝿へと向けた。
矢継ぎ早に放たれる熱線の弾幕。

俺「こいつは……凄いな」

口から洩れたのは純粋な感嘆。地獄の針山とはこのような光景を指すのだろう。
容赦無く迫り来る猛威を紙一重の領域で避ける俺の胸裏でそんな考えが過ぎる。黒い山肌から無数の紅い棘が生まれる様は正に針の山と称すに相応しい。
無策に近づけば奈落へ堕ちた罪人と同じ末路を辿るのは必至。
故に一定の距離を保ち防御と攻撃を繰り返しながら突撃のタイミングを図る。

俺「破ッ!!」

大型ネウロイから放たれる極太のビームと衝撃波が両者の中間地点で激突。盛大な爆発を巻き起こす。空中に漂う噴煙を引き千切り、一直線に大型へと肉薄。
両の掌から衝撃波を噴射することで追加推進機の役割を果たすそれは迅速に敵対象との距離を消していく。敵機が攻撃を放つのが先か。それとも自身が先か。
乾坤一擲の大勝負。迷いは無い。決して死に逝くわけでもない。
仲間が開いてくれた血路を無駄にしないため。ただ勝利をもぎ取ることに尋常ならざる妄執を全身に内包した男は一個の砲弾と化していた。

257衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:32:14 ID:BQ30L.Pw0

俺「――ッ!!」

初めて触れる異形の装甲。手の平に伝わる凍てついた感触。
俺はある男を思い出していた。
あの男ならば、魔法力を用いずとも素手でこの堅牢な外殻を叩き砕くことが出来るのだろう。

俺「消し、飛べッ!!」

幾多の航空歩兵を葬ってきた悪しき甲に手を添えた次の刹那、最大出力の衝撃波を零距離発射。
両の掌か放射された破壊の奔流は鉄壁の防殻を易々と粉砕し、核が存在する内部を完膚なきまでに蹂躙していく。両腕に伝わる微弱な振動。轟音に紛れ、微かな破砕音が耳朶を打った。
直後、巨大甲虫型が白光放つ結晶となって砕け散る。
光の破片が降り注ぐなか、歓声を耳にしながら俺は周囲を見回し、敵の全滅を確認した後離脱を開始した。

258衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:33:02 ID:BQ30L.Pw0




巨大甲虫型の撃破から既に数十分の時間が経過した。
魔力切れを起こし、前線から撤退する航空歩兵が何名か現れたものの敵勢力が誇る侵略の要を破壊したことで人類側の反攻に勢いがつく最中。
愛機のエンジンを轟かせながら友軍機とともに敵の布陣を崩すクルピンスキーは背筋に悪寒を感じ、上空を仰ぐ。
青空に走る、黒々とした帯状の雲。それは決して自然界が生み出す暗雲ではなかった。
航空歩兵たちが飛び交う空域よりも更に高高度の空中に集束する暗雲。
帯電し、徐々にその規模を膨れ上がらせ、形を成していくその光景に彼女だけではなく都市上空に展開されていた全ての航空歩兵が動きを止めた。

ジョゼ「うそ……」

クルピンスキー「……そんな」

ラル「まさか……」

ロスマン「巣を……ここに張るつもりッ!?」

祖国を奪われた者にとって決して忘れようが無い光景にロスマンの端整な容貌が悲痛な色を伴って歪んでいく。
巣の誕生。
正に怪異はこの場所に新たな侵略拠点を築き始めたのである。
好転していた戦況が瞬く間に覆された瞬間であった。

259衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:33:53 ID:BQ30L.Pw0



新たな巣の顕現によって戦況は一変した。
頭上に敵の本拠地が出現したことで眼下の歩兵隊は退却を始めていた。作戦司令部から全軍への退却命令が下るのも時間の問題だろう。
都市全域に展開されていた各部隊の士気が著しく低下する空気を肌で感じるクルピンスキーは苦虫を噛み潰した表情を端正な容貌に浮かべていた。
巨大甲虫型を撃破し、活路を開いたと思った矢先に発生した巣の誕生という異常事態。
あえて希望をちらつかせ、一気に叩き落とす。相変わらずの卑怯な戦術に憤りすら覚える。

クルピンスキー「うっ……あぁ……」

不意に視界が歪んだ。
どうやら自分が把握している以上の疲労が蓄積されていたようだ。加えて上空には禍々しい暗雲。
悪化した戦況が精神的重圧へと繋がり、肉体的疲労と相成って眩暈を引き起こしたのだろう。
幸い魔法力はまだ切れていない。障壁も展開できる。
けれど、

ロスマン『――伯爵っ!?』

インカムから聞こえてくる声音は焦燥の色に染まっていた。
先生のこんな声を聞くのはいつ以来だったかなと胸裏で零すクルピンスキーは傍に寄ってきた小さな戦友に笑いかける。

260衝撃波 ラル√最終話前編:2013/08/24(土) 05:34:25 ID:BQ30L.Pw0

クルピンスキー「っははは。大丈夫だよ……そんな顔しないで」

弱々しい笑みを零したその瞬間、何かが視界を掠め飛んだ。
空中を引き裂くかのように吹き飛ばされたそいつは速度を落とすことなく大型に向かって肉薄し、速度と飛翔力を維持したまま激突。
衝突対象と命運を共にするまでの数瞬、遥か眼下の地上から吹き飛ばされた物体の正体が少女たちの視線に晒される。
ボディの左右から、杭を連想させる六つの脚部。打ち上げられた物体が歩兵掃討用の蜘蛛型であると気付くと同時に結晶化。

下原『――今のは……』

クルピンスキー「まさか、陸戦型ッ!?」

砲撃によって吹き飛んできたわけではない。仮にそうであるならば、相応の砲声が轟くはず。
しかし蜘蛛型が打ち上げられた際、火器が放つ砲音は何一つ耳には届かなかった。

俺「来たか」

結晶化する寸前の蜘蛛型を見咎めた俺の口元が歪んだ。その眼差しの先にあったもの――それは、黒の装甲に落ちる拳大の窪み。
自分が知る限り、このような馬鹿げた芸当を行えるのは一人しかいない。
蜘蛛型が殴り飛ばされてきた方角に視線を落とした瞬間、下卑た哄笑が彼の耳朶を打った。

続く

261名無しさん:2013/08/24(土) 05:38:19 ID:BQ30L.Pw0
以上で投下終了
後編はオリ要素が強く投下するほどの内容ではないと判断したのでwiki直投となりました
エピローグも時間の都合上、直投となりました
それとエピローグでラル√はとりあえずの終了となりますが最終話後編からエピローグまで一気に話が飛びます
これは単純にエピローグに至る話を一つずつ書いていたら、いつまで経っても終わらず智子√にも入れないためです。イチャイチャは短編で思う存分やるので
あと最後に、

ラル√はb●d endになりましたのであしからず

262名無しさん:2013/08/25(日) 13:28:30 ID:nnhpYMns0
乙乙
最近イチャイチャが足りない気がするので全裸待機

263名無しさん:2013/09/25(水) 22:21:32 ID:HEN2EUdc0
今更新しい俺書きたいとか言ったらどうなる?

264名無しさん:2013/09/25(水) 22:22:54 ID:HEN2EUdc0
sage忘れたすまん

265名無しさん:2013/09/26(木) 02:11:58 ID:qDfLnbOE0
好きにしたらいい
エタらんようにな

俺は完成してから投下することにしてのんびり書いてるよ
未完成で投下し始めたら途中で飽きそうでな

266名無しさん:2013/09/27(金) 01:01:31 ID:6bk7.h6M0
了解。

ちなみに、オールスターみたいに何人か出したい場合はどうしたらいいだろう。
許可を取ろうにも、正直間違いなく返答は返ってこないだろうし。

今のところ
サンダヘ・キャリバー・蒼穹3・魔女槍・花火・喉・よっさん・父と子・俺TUE・ミノムシ・赤鼻
を出したいなと思ってる。

ただ、そのままの俺を出すんじゃなくて、あくまで参考にする感じ(でないとよっさんが出たら作品が終わる)
作中では呼び方も変えるつもり(なんとなくわかるようにはするけど)

何人か「ご自由に」みたく書いてあるけど、書いてない人は諦めるべきだろうか?

267名無しさん:2013/09/27(金) 07:45:30 ID:FFM26Fnc0
オールスターでご自由になら使っていいはず

まあよっさんよりヤバイのがちらほらいるがwww

268名無しさん:2013/09/27(金) 20:48:53 ID:KaWg0rg20
そんな事するくらいなら出さない方がいいな

269名無しさん:2013/09/28(土) 00:12:30 ID:8V9qhFsA0
そんな事するくらいならっていうのはその部分?
出すならそのまま出せよっていう感じ?

出すこと自体やめたほうっていうなら、違う俺を投下しようと思うけど。

270名無しさん:2013/09/28(土) 00:21:15 ID:98k9I7kU0
書きたいように書いたらええんや!
じゃないとモチベーションが続かん
投下さえあるなら何でもいい

271名無しさん:2013/09/28(土) 00:47:33 ID:8V9qhFsA0
書き手のファンとしては、やっぱり壊されたくないイメージとかもあるのかなぁ・・・と

272名無しさん:2013/09/28(土) 01:12:19 ID:zby9mPDc0
出すならそのまま出した方がいい

それに他の作者の作品はお前の部品でもなきゃ客寄せの撒き餌でもないからな?

273名無しさん:2013/09/28(土) 01:20:52 ID:8V9qhFsA0
了解。

ちなみに出すのは、俺が最終戦で英雄集結みたいな展開が好きだからというだけで、客寄せとかに考えていたわけではないです。
まぁ、読んだ人が「これはww」とか思ってくれたらうれしいけど。

そもそも、最初はここで言うつもりもなくて、最後にわかる人にはわかる程度に出すつもりだった。
ただ今の状況から、少しでもかぶってるとパクリってなるかもだから、それなら最初から言っておいたほうがいいかなと思って。

274名無しさん:2013/09/28(土) 03:08:51 ID:MnOqmx2s0
一行書いてもパクリ言い出すやつがいるから被ってる云々は気にしないが吉
最早被らん方がおかしいぐらいに数はある訳だし

275名無しさん:2013/09/29(日) 00:10:43 ID:e/3yg29I0
うーん、とりあえず呼び名を(最初に少ししか出番ないけど)元俺に戻して、それからまた後日ーって感じにします。

もし投下することになったとして、
妄想の塊なので、文章力がアレなのはご勘弁を。

276名無しさん:2013/10/11(金) 21:14:20 ID:77R3J6Kk0
PCの中身が消えて(SSはバックアップあって無事だったが)、修正したSSが修正しなおしになった。
急いで復旧して、近々投下します。

美「これは―――確かに昔よりも魔力が上がっている・・・!」

的な感じになると思うのでよろしくお願いします。

277衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:14:37 ID:db.pfs5g0

「ペテルブルグ基地にですか? 私が?」

朝食を終えるなり司令室に呼び出された智子は執務用チェアに腰掛けるハッキネンから告げられた辞令に首を傾げた。
また随分と急な話だ。年季の入った木造の執務用デスクを隔てた先にある氷の美貌を見つめながら、そう胸裏で零す智子。
昨夜までハッキネンの口からそのような話を一度も耳にしていなかっただけに智子がそう考えるのも無理はない。
彼女の心情を察したのか、レンズ越しに佇むハッキネンの瞳に浮かぶ光がその鋭さを増した。

ハッキネン「えぇ。貴官には暫くの間、ペテルブルグ基地に出向いてもらいます」

智子「理由を訊いても?」

ハッキネン「知っての通り先の戦いで第501統合戦闘航空団がガリアに展開されていた巣の撃滅に成功しました」

その話は智子の耳にも入っていた。
ブリタニアを拠点とする第501統合戦闘航空団。“ストライクウィッチーズ”と称される少女らの奮迅によってガリアの巣は消滅した。
それは人類がネウロイに占領された領土を奪回したと同時に憎き異形どもの活動圏を大幅に縮めたことに他ならない。
いまや連合軍各部隊はこの勢いに乗るべく戦力の再編を急務とし、攻勢作戦の数を増やそうと画策している。
極北に位置するここスオムスのカウハバ基地もまたその一つだ。

ハッキネン「私たち第507統合戦闘航空団は502や503の背後を防衛する役目があります」

小さく、そして得心がいったように智子はハッキネンの言葉に頷く。
つまるところ、自分たち507とペテルブルグを拠点とする502との相互連携を更に深めるため部隊員の誰かを送ることになった。
そこで自分に白羽の矢が立ったのだろう。
おそらくはここ第507統合戦闘航空団がかつて“いらん子中隊”と呼ばれていた時期から部隊長を務めていたからではと結論付ける智子。

278衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:15:18 ID:db.pfs5g0

智子「つまり相互連携を更に深める必要があると?」

ハッキネン「話が早くて助かります」

智子「ですが私は既に上がりを迎えています。仮に飛べたとしても障壁を張る力はもう残っていません」

ハッキネン「戦闘に出る必要はありません。既にあちらには追加の補充要員がいます。貴官は直接現地に赴き、502の戦況を綿密に把握してもらいたいのです」

――尤もその補充要員も既に障壁を展開する力を消失していますが。
後に続いた言葉が気になり、智子は片眉を上げた。
魔力障壁を失っているということは502が有するその補充要員とやらも自分と同じく上がりを迎えているのだろう。
だとすればそのような状態であるにも拘わらず、何故502に留まっているのか。
502は欧州戦線のなかでも随一の激戦区を担当する攻勢部隊であり、魔力障壁を失った者がそう易々とついていける場所ではない。
障壁に頼らずとも卓越した飛行技術で補っているか。
あるいはあらゆるハンデを覆すほどの強力な固有魔法を有しているか。

智子「(強力な固有魔法…………)」

件の補充要員がどんな航空歩兵なのか推測するなかで、自身が挙げた言葉に智子は表情を曇らせた。
脳裏に蘇るのは今まで見てきたなかで群を抜いた強力な固有魔法を有する航空歩兵の存在。
それはかつて同じ部隊に所属していた航空歩兵であった。今も尚胸に秘めた恋慕の念を向ける相手であった。
自分を庇い、敵が放った凶弾を浴びて故郷の海へと落ちて、沈んでいった彼。
伸ばした手は届かず、血に塗れた彼の体躯は海面に叩きつけられ、暗い水底へと吸い込まれていった彼。

279衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:15:55 ID:db.pfs5g0

智子「(おれ……)」

ハッキネン「穴拭中尉?」

智子「あぁ、すみません」

ハッキネン「気が乗りませんか?」

智子「いえ。そういうわけでは……」

ハッキネン「……当初は“彼女”に出向いてもらおうと考えていたのですが」

智子「……あぁ」

やや強調されて告げられた彼女という言葉。その言葉が誰を指しているのかをハッキネンの曇った表情から察した智子は苦味を含んだ笑みを零した。
同時に何故自分が選ばれたのかにも得心がいった。
なるほど、確かに。“彼女”では下手をすれば502の士気に悪影響を及ぼしかねない。
ただでさえ507は周辺のウィッチ隊から色々と噂されているのだ。
その元凶を送り込めばどうなるか。瞬時に理解した智子は大人しく右腕を持ち上げ、敬礼の仕草を取った。

智子「了解しました。穴拭智子、任に就きます」

ハッキネン「ありがとう。既に出発準備は整いつつあります。貴官の準備が整い次第、今日中に出発できます」

280衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:16:39 ID:db.pfs5g0

柔らかな笑みを携えてそう返すハッキネンの表情はどこか晴れやかなものだった。どうやら本当に自分以外に的確な人員が思い浮かばなかったらしい。
もしも自分がこの任務を引き受けなければ誰が派遣されていたのだろうか。
もしも自分がこの任務を引き受けなければ彼女の心労はどうなっていたのだろうか。
そんなことを考えながら、ハッキネンの眼差しを背に浴びる智子は司令室を後にした。
ペテルブルグで自分を待ち構える数奇な運命の存在など露とも知らずに。

「よぉ」

智子「ペテルブルグ行きが決まったわ。早ければ今日にでも出発できるみたい」

司令室を出た矢先のこと。
廊下の壁に背を預け、口元に含んだ煙草の先端から紫煙を燻らすビューリングを捉え、司令室でのやり取りを簡潔に告げる。
智子の言葉に目を丸くしたビューリングは壁から背を離して咥えていた煙草を手に取り、

ビューリング「随分と急だな」

智子「本当よね。でも向かう先が近くて助かったわ」

仮に行き先がアフリカやブリタニアならば長旅を覚悟しなければならなかったし、簡単に引き受けることもなかっただろう。
そういった意味では出向先がペテルブルグなのは素直に喜べた。

ビューリング「ハルカの奴が聞いたら何て言うだろうな」

智子「初めはあの子を向かわせるつもりだったみたいなんだけど」

ビューリング「確かにあいつを行かせたら大変なことになるな。お前が選ばれて良かったよ」

281衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:17:28 ID:db.pfs5g0

廊下に設置された喫煙所の灰皿に咥えていた煙草の先端を擦り付けるビューリングが小さな笑みを口元に浮かべた。
ハルカと呼んだ問題の人物の人となりを熟知しているからこその笑みだろう。

ビューリング「行くんだな?」

智子「もちろん。そういうことだから、ハルカが暴走しないようにお願いね」

ビューリング「…………あぁ。わかったよ」

厄介そうな表情を浮かべて返すビューリング。
その表情から如何に彼女が件の人物に手を焼いているかが伺える。
智子がその人物の手綱を、隣を歩く戦友に託した直後のことだった。

「それってどういうことですかぁぁぁぁぁ」

智子「そのままの意味よ」

背後から伸びてくる悲哀に塗りつぶされた声音に智子は振り向きざまに返す。
目の前に立っていたのは扶桑海軍の白い軍服を身に纏う少女。
愛らしい容貌の持ち主はいま、その澄んだ瞳に涙を浮かべてこちらを見つめていた。
まるで今生の別れとでもいうかのような。まるで飼い主に捨てられた犬のような。
悲しみに満ち溢れた色を瞳に湛える少女こと迫水ハルカの態度に智子は溜息を吐く。

282衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:18:07 ID:db.pfs5g0

ハルカ「それにっ! どうして智子中尉と離れ離れにならなければいけないんですかぁ……ひっく」

智子「どうしてって言われても…………」

そういう指令なんだから仕方ないでしょうという言葉はあえて呑み込む。
こうなったハルカは何を言っても聞く耳を持たないからだ。
だから後に続く言葉もきっと。

ハルカ「私も一緒に連れていってくださいよぉぉぉぉ」

ほら、やっぱり。

智子「駄目よ。あなたは大人しく待ってなさい」

ハルカ「でもっ! でもぉぉぉぉぉ!!!」

智子「あのねぇ」

太ももの辺りに縋り付きぐずる後輩の姿を前に両手を腰に当てる。何やら指が揉むような動きをしているが、この際それは黙っておこう。
予想していた展開だがこうも酷く悲しむとは。先輩として悪い気はしないがいつまでも縋り付かれては出発の準備にすら取り掛かることが出来ない。
どうしたものかと頭を悩ませ、智子は隣のビューリングに目線を送る。
救難信号をキャッチした彼女はしばらくの間端正な美貌をしかめ、智子の白い太ももに縋るハルカを自分の許へと引っ張り出した。

283衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:18:45 ID:db.pfs5g0

ビューリング「ほら、こっちへ来い」

ハルカ「な、慰めてくれるんですか?」

ビューリング「そんなわけあるか。ただお前がいつまでも駄々を捏ねるとトモコが安心して出発できないだろう」

――お前は尊敬する先輩を困らせるのか。
そう後に続けるビューリングの言葉に俯くハルカ。小柄な身体を小刻みに震わせ、顔を上げる。
既に涙は消え去っていたものの幼さが残る可愛らしい顔には不安の色が残っていた。

ハルカ「ちゃんと……帰って来ますよね? そのままペテルブルグに転属、なんてことはありませんよね?」

智子「仕事が終わればちゃんと帰ってくるわよ」

ハルカ「変な男に誑かされたりしませんよね!?」

智子「あるわけないでしょうが……」

ビューリング「こいつに惚れた男がいることぐらいお前も知ってるだろ」

284衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:19:24 ID:db.pfs5g0

智子「……もういないけど。それでも私はあの人のことを愛しているわ。だから他の男に靡くなんてこと……絶対に無い」

ハルカ「うふふ。どこか貞淑な未亡人っぽい……そんな智子中尉もす・て・き!」

智子「はぁ……じゃあ後のことは頼んだわよ」

両手を頬に添え腰をくねらす後輩に背を向け自室へと歩き出す。
早いところ出発の準備をしなくては。せっかく今日中にも発てるよう取り計らってくれたのだから。
そう自身に言い聞かせ歩く速度を速める智子。

ハルカ「あぁん! 智子中尉ぃぃぃぃ」

艶を帯びた後輩の叫び声を耳にしながら。
その後輩を押さえ込もうと悪戦苦闘する戦友の声を聞きながら。
智子は自室への帰路を辿るのだった。

285衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:19:55 ID:db.pfs5g0

智子「他の男、か」

閉めた自室の扉に背を預け誰にとも無く呟く。
五年以上も前に死んだ男に想いを寄せる自分は世間からみればどんな女に映るだろう。
一途或いは未練がましい女か。
尤もどう評価されようが自分が抱くこの感情が揺れ動くことなど万に一つ有り得ない。
物心ついたときから抱き続けているこの恋慕の念をそう簡単に捨てられるわけがない。

智子「ねぇ、俺。私ね? ペテルブルグに行くことになったの」

棚に立てかけられた写真に。写された自分の隣に立つ彼に語りかける。
まるでそこに想いを寄せる彼がいるかのように頬を智子は綻ばせる。

智子「どれくらいかかるか分からないけど……任せられた以上は精一杯こなしたいの」

柔らかな声音で。
まるで自分が胸の裡に秘めていた想いを告げるかのように智子は言葉を紡いでいく。

智子「あなたが命をかけて守ってくれたこの命を無駄にしないためにも、ね」

写真立てに手を伸ばす。
綺麗だ、と彼が褒めてくれた手を。あのとき届かなかった手を。堕ちる彼の手を掴むことができなかった手を。

智子「だから……お願い。少しだけでいいの。私に、力を貸して」

そっと彼の顔に口付けし、写真立てを鞄の中に仕舞い込む。
万が一の時のためにと愛刀、備前長船を手に智子は自室を後にした。
向かう先にて待ち受ける数奇な運命を彼女が知るのはまだ先の話である。

286衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:21:31 ID:db.pfs5g0

デスクの上に広がる書類を前にラルはマグカップに残る珈琲を飲み干し、腕を組む。
象嵌された一対の青い瞳に浮かぶのは珍しく困惑の光。
彼女の目の前にある書類。それは数日ほど前、隣国スオムスのカウハバ基地から送られてきたものだ。
そこには502との相互連携を深めるために507から一人の航空歩兵をペテルブルグに出向させるといった文章が書き記されている。
それだけなら何の問題は無いのだが彼女の瞳に困惑の光を生み落としたのは送られてくる航空歩兵の存在にあった。
カウハバから送られてくる航空歩兵。名は穴拭智子。
扶桑海の巴御前と称され、扶桑陸軍が誇る屈指のエースが一人。
既にあがりを迎えてはいるものの歴戦の戦士の来訪は502の士気への良い刺激になるだろう。
しかし……

ロスマン「……隊長?」

ラル「穴拭中尉の経歴に扶桑皇国陸軍飛行第一戦隊とある」

書類の一箇所を、その細い指の先端で軽く突く。
扶桑陸軍飛行第一戦隊といえば当事の扶桑陸軍の精鋭が集っていた部隊だ。
そのなかでも“扶桑海の電光”と称された加東圭子とは直接顔を会わせ、彼女の取材を受けたこともあった。

ロスマン「その部隊って…………!!」

ラル「あいつが……俺の奴がかつて所属していた部隊だ」

287衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:22:07 ID:db.pfs5g0

ラルの放った一言にロスマンの小柄な体躯が硬直した。彼女もまた俺の経歴が記載された書類に目を通した一人である。
彼が公式記録で戦死者として処理されていることは他ならぬ彼自身の口から聞かされたことだ。
しかし戦死者の烙印を押された彼が今もこうして生きていることを。戦闘脚を装着して空を舞っていることをかつての仲間らは知っているのだろうか。
胸裏に生じた疑問を抑え切れぬままロスマンは口を開く。

ロスマン「俺さんは第一戦隊の方々に何か連絡は」

ラル「取っていない。あいつは自分の生存を誰にも告げていない」

自身を育てた、たった一人の身内にも。
大切な家族と断じたかつての戦友たちにすら。俺は己が生きている事実を今も伏せたままでいる。

ロスマン「では穴拭中尉にとって彼は」

ラル「死人、だろうな」

同じ部隊に所属していたということは彼が撃墜された瞬間を目の当たりにしていた可能性が高い。
或いは彼が撃墜される切欠となった僚機こそが穴拭智子その人なのかもしれない。
無論どちらもラルの推測でしかない。
確かなのは穴拭智子という女にとって俺という男は今日まで死人であり、その認識があと数時間後には崩れ去るということだ。
死んだと思い込んでいた男の生存を知ったとき彼女はどんな態度を見せるのか。精神的なショックを受けなければ良いのだが。

288衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:22:42 ID:db.pfs5g0

ラル「俺はいまどこにいる?」

ロスマン「今なら滑走路の清掃に向かっているかと」

ラル「そう、か……」

ロスマン「穴拭中尉のこと伝えておきましょうか?」

問いかけに黙り込む。
かつての仲間がペテルブルグにやってくる。そう伝えようとラルは何度も声をかけようとした。
しかし、もしも伝えていたら彼はどうしていただろうか。
大切な家族にすら自身の生存を伝えなかった男だ。
彼女の来訪を告げれば、此処へ来る前に姿を消すことも考えられなくは無い。
広範囲と高威力を兼ね揃えた固有魔法を有する彼が出て行けば502の戦力は大幅に低下してしまう。
そうなれば間違いなく今後の反抗作戦に支障が出る。

ラル「(……本当に、それだけなのか?)」

戦力の低下。本当に自分はそれだけを危惧しているのだろうか。
胸中に生じる言い知れぬ不安。ラルは以前にも同じ感覚が胸裏を満たした記憶を思い出す。
それは彼がブリタニアへと向かう前のこと。あのときも、胸の内を薄ら寒いものが渦巻いていたのを思い出す。
何故こんなにも彼が離れることを不安に思うのだろうか。
自身の胸の裡に満ちる不可思議な感情に対する答えを見出せず、ラルは無言で首を横に振った。

289衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:23:18 ID:db.pfs5g0


前触れも無く鼻の先端が痺れる感覚に思わず右手を伸ばす。
まるで何か柔らかいものに。
例えば唇のようなものを軽く当てられたようなむず痒さに俺は伸ばした右手の指先で鼻頭を軽くこする。
そんな俺の姿を真横から見つめるニパが箒を動かす手を止めた。

ニパ「どうしたんだ?」

俺「……何だか急に鼻の先端がむず痒くなった。何だろ」

ニパ「乾燥しているからとか、かな?」

箒の柄を胸元に寄せ、小さく首を傾げる彼女の姿に愛くるしさを覚えつつ俺は痒みが納まった鼻先から指を離した。
今度買出しに出る時は肌に塗るクリームを買う必要があるな。
そう胸裏でぼやく俺に、

ニパ「それで話しの続きなんだけどさ」

ニパが再び箒を握る手を動かす。
箒を握る手と腕の動きに合わせて微かに揺れたわむ彼女の豊かな連山から俺は目を逸らして秋の空を仰ぎ見た。
ラルから清掃員という隠れ蓑の役割を与えられてからどれだけの月日が経過しただろうか。
今日も今日とて灰色の制服を纏い、箒と塵取り片手に滑走路の掃除に出向いた彼を迎えたのが同じように箒を手にしたニパであった。
その彼女の口からカウハバ基地から補充要員がここペテルブルグ基地にやってくるという話を聞かされたのが僅か数分前のことだ。

290衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:23:52 ID:db.pfs5g0

俺「カウハバ基地からの補充要員の話だったな」

ニパ「うん。第507統合戦闘航空団から航空歩兵が一人こっちに来るみたいなんだ」

俺「カウハバとここは近いから人も送りやすいんだろう。それで誰が来るんだ?」

問いかけに対しニパは首を振るだけだった。

ニパ「実は私もまだ知らないんだ。隊長とロスマン曹長が話しているのを偶然耳にしただけだから」

「綺麗な娘、可愛い娘が来てくれると嬉しいな」

俺「よぉ伯爵。またエディータから逃げてきたか?」

突如として背後から会話に入り込んできた声の主に振り向く。
そこにはもうじきここへやって来るであろう件の航空歩兵に想いを馳せ、嬉しそうに頬を緩ませるクルピンスキーの姿があった。
しかしその嬉しげな表情も俺からの一言により一瞬で掻き消えることとなる。

291衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:24:36 ID:db.pfs5g0

クルピンスキー「僕を見かけたら何かやらかしたって思うのはやめて欲しいね」

俺「じゃあ何で後ろからエディータが走ってきてるんだ?」

不機嫌そうに頬を膨らませる長身の少女の後ろを肩越しに眺め、指差しながら一言。

クルピンスキー「嘘ッ!?」

やや意地の悪い笑みを浮かべながら放たれた俺の言葉に慌てて背後へと振り向く。
そこには顔を紅く染めて得物である指示棒の先端を片方の手の平にぴしぴしと叩きつける小柄な女性の姿が、

いなかった。

冷えた風に冷やされた滑走路の上にあるのは隣接した森林から運ばれてきた落ち葉だけ。
その落ち葉もまたすぐに風に飛ばされ視界から外れていく。

クルピンスキー「いないじゃないか!」

俺「はっはっは。すまんすまん」

クルピンスキー「まったく、女を騙すなんて酷い男だなぁ。ニパ君、こういう男とは付き合っちゃ駄目だからね?」

顔をしかめ。俺から守ろうとニパを抱き寄せるプンスキー伯爵。
単に自分を出しに使ってニパの柔らかな肢体を堪能したいだけなのだろうが、ここではあえて言及するのはやめておこう。
毎度彼女の悪癖に注意をしていては気が保たない。それにいくらクルピンスキーとて越えてはならない一線くらいは弁えているだろう。多分。

292衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:25:18 ID:db.pfs5g0

俺「なによ? 麿のどこが悪い男だというの?」

ニパ「まろ?」

クルピンスキー「何だい? その聞き慣れない言葉は」

俺「その昔、扶桑のやんごとなき方々が使っていた一人称さ。可愛い女の子の写真を沢山箱に詰めて送ると喜ぶよ」

クルピンスキー「カールスラント空軍にも自分のことをわらわと呼ぶ航空歩兵がいるけどね。ただ俺がそれを使うと違和感しかないよ」

彼女にしては珍しく、そして恐ろしく真面目な口調と表情を伴った言葉に肩をすくめた。
どうやら「俺、麿化計画」は早くも頓挫してしまったようだ。
やや気落ちしている最中、伯爵が口にした航空歩兵に俺はある少女の存在を思い出す。
彼女が所属する基地で過ごしたのは何年前だったか。
当時の自分は薔薇十字から与えられた最奥術式を習得し、それを基に自分の魔技を編み出している最中だった。
寝る間も惜しんで修練を重ね、ようやく魔技の基礎段階である“顕現”に到達できたのは彼女――ハインリーケに別れを告げる数日前の出来事だ。
たしか最後にこんなやり取りをしていたはず。

293衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:25:48 ID:db.pfs5g0

―――数年前、某前線基地にて

俺『姫様! 姫様ァ!!』

ハインリーケ『何じゃ騒々しい』

俺『一大事でございます!』

ハインリーケ『一体何事じゃ。申してみよ』

俺『今日を持ってこの基地から出て行くことになった。世話になったな』

ハインリーケ『ふむ……それは寂しくなるのぉ――って、はぁ!?』

俺『そんなわけで行くから! じゃ!!』

ハインリーケ『ちょっ! 待て! わらわはそんな話聞いておらんぞ!!』

俺『わーいわーい。新天地、新天地。わーいわーい』

ハインリーケ『こらぁ! 待たぬか! 俺! おれぇぇぇぇぇ!!!』

―――

思い返せば滑走路で待機している輸送機に向かって走り始めたときに彼女が何かを叫んでいたような気がする。
しかし今となっては確認のしようが無い。彼女が今どこで何をしているのかも分からないし、彼女もまた自分がこうしてペテルブルグ基地にいることも知らない。
もしも再び顔を合わせてしまったとき話を聞かずに飛び出したことへの怒りをぶつけられそうだが、心の広い彼女のことだ。
きっと笑って水に流してくれるに違いない。彼女に世話になった分、少しでも多くのネウロイと不穏分子を始末しよう。

294衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:26:27 ID:db.pfs5g0

ニパ「そ、それで! 話に戻るけど!!」

プンスキー伯爵の抱擁を振りほどきながらニパ。

クルピンスキー「噂の航空歩兵のことだね。そのことなら小耳に挟んだよ」

俺「ほぉ?」

クルピンスキー「何でも既に上がりを迎えているらしいよ」

ニパ「え……」

俺「…………それは、戦力になるのか?」

そう呟く俺の言葉も尤もだった。
上がりを迎えたウィッチは魔力障壁を展開する力を失う。なかには飛ぶための魔法力すら喪失する場合もある。
彼のように衝撃波を強引に障壁の形状へと変化させて代用する例外もいる。
しかし固有魔法すら持たぬウィッチは成人を迎えれば障壁展開能力はおろか飛行する力すら失うことが大半だ。
上がりを迎え、障壁を展開する力を失っているであろう航空歩兵が一体何の目的でここペテルブルグを訪れるのだろうか。

クルピンスキー「補充要員っていうけど実際は502の視察だと思う。こっちの戦況を把握して戦略を練るんじゃないかな?」

そんな俺の疑問を見透かしたかのようにクルピンスキーが口を開いた。
要は502の戦況を直接把握することで自分たち507がどう動くべきかを見極め、互いの戦略的連携を深めるつもりなのだろう。

295衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:27:02 ID:db.pfs5g0

俺「そうなると直接前線に出ることはないってことか」

ニパ「じゃあ今までと変わらないのか……」

戦力の増強を期待していたのか肩を落とすニパを尻目に俺は手を顎下に添える。
スオムスから派遣される“上がり”を迎えた航空歩兵。そのスオムスといえば自身の妹分の智子が派遣された北欧諸国の一つである。
もし彼女が無事に生きているのならば今頃は上がりを迎えているはず。あるいは派遣されてくる件の航空歩兵こそが……

俺「いや、まさかな……」

首を振って俺は思考を打ち切った。
仮に智子が他の航空歩兵と同じように上がりを迎えているのならば扶桑に帰国しているはず。
魔力障壁を展開する力を失った状態のまま欧州戦線に留まったところで一体何ができよう。
きっと故郷に戻って自由に暮らしているに違いない。見目麗しい彼女のことだ。案外好いた男を見つけ幸せな家庭でも築いているのではないか。
自身が愛した妹が障壁を失ったまま今も戦場に出ていることを認めたくなかった俺がそう結論付けていると不意に彼の耳朶をクルピンスキーの弾んだ声音が掠めた。

296衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:27:45 ID:db.pfs5g0

クルピンスキー「おっと! 噂をすれば」

ニパ「もう来たんだ……」

二人の声に顔を上げ、視線を巡らせると滑走路に向かって少しずつ高度を下げてくる点のような物体が視界に入った。
おそらくは例の航空歩兵を乗せてスオムスから出発した輸送機だろう。

俺「それじゃ邪魔にならないよう退散しますかね」

帽子のつばを摘むなり深く被る俺。

ニパ「私も別の所に向かうよ」

箒を片手に基地の中庭を目指して歩き始めるニパ。

クルピンスキー「それなら僕はここで噂の航空歩兵を歓迎するとしよう」

二人が別の方向に向かって歩くなかクルピンスキーは両の手を大きく横に広げた。全ては可憐な航空歩兵をこの手で抱きしめるために。
たおやかな繊手を握るために。
相変わらず自身の軸を固持し続ける戦友の後姿に振り向き、俺は素直に感嘆するのだった。

297衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:28:30 ID:db.pfs5g0

ペテルブルグ基地の滑走路に降りた智子を待ち受けていたのはクルピンスキーと名乗るウィッチだった。
長身に優雅さを漂わせる振る舞いから彼女が噂に聞くプンスキー伯爵であると智子は一目見て察した。
そして、どことなく彼女の全身から自身の後輩と似たような気配も感じ取った。
妖艶な流し目を何度か注いでくる彼女に案内され、智子はいまペテルブルグ基地の司令室にて部屋の主と執務用デスクを挟む形で対面している。

ラル「よく来てくれた穴拭中尉。ようこそ、ペテルブルグへ。歓迎しよう」

統合戦闘航空団の司令を務めるだけあり明るい声色のなかに威厳が含んだ声音が司令室に木霊する。
彼女こそがグンドュラ・ラル。
人類第三位の撃墜数を誇り、欧州戦線随一の激戦区を担当する第502統合戦闘航空団の司令を務める女傑である。

智子「カウハバ基地から参りました穴拭智子中尉です」

ラル「噂は聞いているよ。扶桑海の巴御前殿」

智子「もう昔の話です」

――扶桑海の巴御前。
随分と久しぶりにそのような呼び名で呼ばれた気がする。

ラル「なに階級は気にせず自由に話してくれて構わん。気を遣わず何か気がついたことがあれば遠慮なく言って欲しい」

それが我々502と君たち507の相互連携をより深めていくはずだと続けるラルの言葉に智子は肩の力を落とした。
向こうがそう言ってくる以上、気を遣う方が失礼といえよう。

298衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:29:29 ID:db.pfs5g0

智子「気遣い感謝するわ。それなら早速聞きたいことがあるのだけど」

ラル「我々が抱えている補充要員のことかな?」

自分がどういった質問をぶつけてくるのか、あらかじめ予想していたのだろう。
象嵌された青い瞳を瞼で隠すラルの表情が僅かに翳りを見せた。

智子「えぇ。事前に受け取った資料には肝心の補充要員の情報が記載されていなかったわ」

カウハバ基地を発つ際、ハッキネンから事前に手渡された書類の束を足元に置いておいたバッグから取り出し掲げて見せる。
それは502の部隊員の戦績や経歴といった情報が簡単にまとめられていたものだ。
しかしそのなかに502に属している補充要員の情報が記載されたものは含まれていない。
それはつまりカウハバ基地司令のハッキネンでさえ502が抱える補充要員の詳細を把握していなかったということ。

ラル「追加の補充戦力は非公式なんだ」

智子「非公式?」

ラル「ある人が独自に抱えている戦力といった方が正しいな」

智子「……私兵、ということかしら。それで、そのある人って?」

ラル「ガランド少将だ」

299衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:30:04 ID:db.pfs5g0

意外な人物の名前が飛び出したことに智子は目を丸くした。
アドルフィーネ・ガランドといえばカールスラント空軍のウィッチ隊総監ではないか。
彼女の私兵、それはつまり懐刀と称しても何ら差し支えは無いだろう。
そのような人物が何故ここペテルブルグ基地に派遣されたのか。
いや、欧州随一の激戦区を担当する攻勢部隊が第502統合戦闘航空団だ。今後の反攻戦を少しでも有利に進めるために遣したのだろう。
あのガランド少将が認めた航空歩兵とは一体どんな人間なのか。

ラル「聞きたいことはまだあるだろうが、細かい話はまた今度するとしよう。今は用意した部屋に荷物を置いて身体を休めてくれ。時間はたくさんあるのだからな」

智子の疑問を遮るかのようにラルは笑みを浮かべた。
見ていて安心できる柔らかな笑みだ。幾多の困難もその笑みで周囲の人間の精神を安心させることで士気を保ち乗り越えてきたのだろう。
けれども智子には何故か彼女の微笑が、何かを隠すために繕われたものにしか見えなかった。
おそらくはその補充戦力が深く関わっているのだろう。今ここで問いただすことは出来るが彼女の言うとおり時間はまだ残っている。
今はまだ急ぐ必要は無いと判断した智子は素直にラルの提案を受け入れることにした。




ラル「さて、どうしたものか……」

一礼した智子が司令室を去り、一人残されたラルは背もたれに背を預けて天井を仰ぎ見る。
使い慣れた革張りの椅子が立てる微かに軋む音だけが静まり返った司令室のなかを木霊する。
その日の椅子は何故だかいつもより硬く感じ、大して休むことができなかった。

300衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:30:38 ID:db.pfs5g0

カウハバ基地から持ち出してきたバッグを肩にかけ智子は自身に割り当てられた部屋へと歩を進める。
初めは基地職員の案内に従っていたのだが急に仕事が入ったらしく、502のウィッチたちの部屋がある階に続く階段を上り始めたときに何処かへと去ってしまった。
要塞を改修しただけあって複雑に入り組んだ造りとなっているが既に目的地の目の前まで近づいていたこともあり智子は大して気に留めなかった。
肩にかけたバッグをかけなおし智子は階段を上る。そうして目的の階へと足を踏み入れ自分の部屋がある方向へと歩き始めた矢先のことだ。

智子「きゃっ!」

「おっと!」

曲がり角に差しかかった瞬間、軽い衝撃が智子の身体を襲った。突然の事態に足元が乱れ、全身のバランスが崩れる。
衝突した反動で彼女の身体は体勢を整える暇すらないまま後ろへと引っ張られていく。
そしてそのまま硬い床の上へと背中を打ちつける寸前、なだらかな背に手を回され抱き止められた。

301衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:31:18 ID:db.pfs5g0

「すみません。大丈夫ですか?」

智子「いえ、私の方こそ……――っ!?」

自身の背中に回された手の感触に智子は僅かの間瞼を閉じた。
硬くて、温かくて、触れているだけで自分に安らぎを与えてくれる手の平。
遠い昔、今は亡き彼に背中をさすってもらった記憶を反射的に呼び起こすなか智子は自分を抱きとめてくれた男へと顔を上げた瞬間、息を呑んだ。
灰色の制服を身にまとう長身の男性。智子の身体を強張らせたのは彼の風貌にあった。

302衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:31:55 ID:db.pfs5g0

智子「う、そ……」

帽子のつばから覗かせる黒い髪と黒い瞳の容貌。それは驚くほどに彼と瓜二つの外見だった。
もしも彼が生きていればきっとこの男のような姿に成長しているに違いない。
そう智子に確信させるほどに目の前の男は彼女が心の底から恋し、愛した彼に似ていた。
もちろん彼であるはずが、俺であるはずがない。
たとえ遺体が発見されていなくとも全身を銃弾で穿たれ、上空から海面へと落下したのだ。生きているはずがない。

しかし遺体が見つかっていないからこそ智子は胸裏の片隅で微かに彼の生存を信じていた。
それがどれだけありえない妄想なのかは智子とて自覚していた。
けれども、たとえ葬儀が行われようと。たとえ墓石が用意されようと。
自身が恋慕の念を抱いた男が想いを告げるよりも先に逝った事実を智子は簡単に受け入れることができなかった。
その頑なな想いはいま衝動へと姿を変えて、彼女の唇を開いていく。
理性は必死に静止の叫び声を上げている。彼は俺じゃない、妙な真似は起こすなと。
それでも胸の裡の片隅に残る、彼がまだ生きているという望みがいまの智子を突き動かしていた。

智子「お、れ……? おれ、なの……? あなたなの……?」

303衝撃波 智子√第10話:2013/11/03(日) 06:32:31 ID:db.pfs5g0

自分とぶつかり後ろへと倒れる女性を抱きとめた俺は目を見開いた。
帽子のつばでよく前が見えていなかったが、この女性よく見れば扶桑皇国陸軍の軍服を身に纏っているではないか。
それだけではない。
その優美な黒の長髪も。雪のように白い肌も。黒真珠のような双眸も。大和撫子という言葉を体現するかのような美貌も。
どれも間違いなく見覚えがある。忘れるはずがない。自身の妹の顔を見間違えるはずが無い。

俺「おまえ……智子、か!?」

304名無しさん:2013/11/03(日) 06:33:59 ID:db.pfs5g0

以上で投下は終了となります

読んでくださった方、ありがとうございました

305名無しさん:2013/11/03(日) 13:23:32 ID:WEz.t7yQ0
おつー

306名無しさん:2013/11/03(日) 17:10:06 ID:JlWp45sk0
おっつおつ

307名無しさん:2013/11/06(水) 14:42:38 ID:g4.OYvOU0
この妹がなぁ……

308名無しさん:2013/11/14(木) 23:33:41 ID:P6PwrKNA0

俺「おっ、戸棚開いてんじゃん」

ジョゼ「俺、さん? こんな夜中に何をしているんですか?」

俺「ん? そういうジョゼこそ。こんな夜更けに台所に忍び込んでくるなんて」

ジョゼ「わ、私は……その」

俺「…………夜食でも食べに来たのか?」

ジョゼ「はう!? ど、どうして分かるんですか?」

俺「同類の匂いは良く分かるのさ。かく言う俺も小腹が空いてな」

ジョゼ「そうだったんですか……」

俺「お腹空いてると寝ようと思っても寝れないよな」

ジョゼ「は、はい。だから、何か軽いものでも良いからお腹に入れようと思って」

俺「それなら今から軽食作るんだけど良かったら一緒に食べないか」

309名無しさん:2013/11/14(木) 23:34:16 ID:P6PwrKNA0

ジョゼ「それは構わないんですけど何を作るんですか?」

俺「今日はハニートーストを作ろうと思う」

ジョゼ「ハニートーストですか!?」

俺「はっはっは。食いついてきたな。やっぱり女の子は甘いものが好きなんだな」

ジョゼ「はっ……こほん。お願いします」

俺「それじゃ早速作り始めるぞ。今回は八枚切りを使う」

ジョゼ「どうして八枚切りなんですか?」

俺「寝る前に軽くお腹のなかに入れるんなら分厚いのよりも薄いほうが良いだろう。それに軽食なら尚更薄い方が食べやすいじゃないか」

ジョゼ「たしかに……この時間帯であんまり大きいのは」

俺「勿論好みも人それぞれだから自分が食べやすいものを使うのが一番だな」

「それじゃまずは食パンを二枚取り出して、トースターに入れて焼く」

ジョゼ「焼き加減はどうするんですか?」

俺「トーストはカリカリっとした方が好きなんだよ……。中途半端に火が通っているのは好きじゃないんだよ……」

310名無しさん:2013/11/14(木) 23:35:34 ID:P6PwrKNA0

ジョゼ「その気持ちは分かります」

俺「これも自分好みで良いんだよ。食べたいものを食べたいように食べるのが一番なんだよ……」

ジョゼ「結構大雑把なんですね」

俺「所詮は夜食ですから。ちなみに今使っているオーブントースターは一度ダイヤルを5の所に回した後少し戻すやり方がトーストを作るのに適しているんだ」

ジョゼ「あまり参考になりませんね」

俺「……なんだか少しずつ言葉に冷たさが混じっているんだけど」

ジョゼ「ご、ごめんなさい。お腹が空いて……つい」 トースター<チーン

俺「焼けた焼けた。ジョゼ、冷蔵庫からバターを取り出してくれ」

ジョゼ「マーガリンじゃなくて良いんですか?」

俺「少し位なら使ってもばれないさ」

ジョゼ「そ、そうですよね。バター……えへへ」

俺「焼きあがった食パンにバターを塗ってくぞー」 ヌリヌリ

311名無しさん:2013/11/14(木) 23:36:13 ID:P6PwrKNA0

ジョゼ「トーストの熱であっという間にバターが溶けていって……この香りがまた」

俺「あぁ〜たまらねぇぜ」

ジョゼ「俺さん! 蜂蜜! 早く蜂蜜をください!!」

俺「はっはっは。落ち着きたまえよ。ほら、ちゃんとここにあるから」

ジョゼ「ほっ。今度は大丈夫みたいですね」

俺「あぁ……今度は大丈夫だな。まさか」

ジョゼ「まさか」

「「蜂蜜が固まるとは思わなかった(思いませんでした)」」

ジョゼ「あんなこともあるんですね……」

俺「あぁ。思えば蜂蜜ってあまり使わないよな」

ジョゼ「ヨーグルトに入れたりホットケーキにかけたりはしますけど。そう頻繁に使いませんよね」

312名無しさん:2013/11/14(木) 23:36:43 ID:P6PwrKNA0

俺「前にホットケーキにかけようと思って蜂蜜が固まっていた時のジョゼの表情は今でも覚えているよ」

ジョゼ「だ、だって! せっかく焼きあがったのに肝心の蜂蜜があんなことになっていたなんて……思いもしなくて」

俺「やはり100円ショップの蜂蜜は早く使ったほうが良いということがこれで分かったな」

ジョゼ「はい……」

俺「それじゃ蜂蜜を塗るぞー」

ジョゼ「おー」

俺「……今日のジョゼはやけにノリがいいね。夜中だから?」


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