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仮投下スレ

1名無しさん:2013/01/13(日) 01:01:55 ID:DSSJeVnc0
投下する際に内容に不安がある場合などはここを利用してください

2 ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:09:20 ID:ToYDvbE60
これより、予約分の仮投下をさせていただきます。

3AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:10:30 ID:ToYDvbE60

     0

 ――――深い、茫洋とした海の中を漂っていた。
 光に照らされた明るい水面と、光の届かぬ暗い水底の狭間で。
 浮かぶ事も、沈む事もなく、まるで自身が海の一部であるかのように。

 その感覚は、あながち間違いではない。
 事実この体は、末端から色彩を失い、海へと溶け出している。
 ゆっくり、少しずつ、けれど一瞬で、この広大な海の一部へと変わっているのだ。
 ……それは外側だけではなく、内側も同様に。

 ここに至るまでに刻んだ決意も、
 後を託した彼女への願いも、
 共に戦ってきた相棒との記憶も、
                全て。


 永遠にも感じる刹那の一瞬。「私」は己の最期を知覚する。


 不正なデータとして分解され、ただの情報として削除される。
 後に残るのは、かつてそういう存在がいたという残滓(ログ)だけだ。
 その結末は変えられない。変え様などないし、そもそも望んで至った結末だ。
 ……だからだろう。不思議と恐れは懐かなかった。

 母の胎内で眠る赤子のように、電子の海に擁かれている。
 それが人の原初の記憶だからか。そんな経験など無いのに、なぜかそう思った。
 ―――ああ、そうか。
 『死ぬ』のではなく、『消える』のでもなく、母なる海に『帰る』のだ。

 そう思い、僅かながらの安堵を覚えた。
 それでも解れていく記憶を掻き集め、
 決して手放さないように握り締め、
 落としてしまわぬ様に抱き締め、
 胎児のように膝を抱え込んだ。

 それでも記憶は解れていく。それでも体は解けていく。
 そうして遂に、魂ともいえる何かが消え始め、

 沈むでもなく。浮かぶでもなく。
 「私」は唐突に、電子の海とは違う暗闇へと落ちていった――――

     1◆

 ―――それが、ここに来る直前の記憶だった。

 そんな回想をついしてしまう程に、事態は混迷を迎えていた。
 唐突にVRバトルロワイアルとやらに強制参加させられたから、ではない。
 もちろんそれは思案すべきではあるし、第一に対処すべき事だ。
 だがそれを後回しにしてしまう程に厄介な事態が、同時に三つほど発生したのだ。

 一つ目の事態は、現在目の前に居る人物。
 継ぎ接ぎだらけの橙色の服を着た、まるでゾンビかフランケンの様な少年。
 最初はエネミーかとも思ったが、襲いかかって来る様子はなく、また敵意も感じ取れなかった。

 彼と遭遇したのは、バトルロワイアルが始まってそう間もなくだった。
 残る二つの事態に困惑していた時に、まるで幽鬼のように彼がふらりと現れたのだ。
 そうして突然現れた人物に警戒を見せていたこちらへと近寄り、何かを訴える様にジッと見詰めて、

「アァァァァアアァァァ……」

 と、唸る様な、言葉になっていない声を口にした。
 襲ってくる様子もなかったのでしばらく待ってみたが、彼から出るのはそんな唸り声ばかり。
 彼が何かを訴えているのはわかる。だが肝心な、何を訴えているのかが、一向に把握できなかった。
 かと言って諦めて立ち去る様子もないので、どうにも対処に困っていた。

 ―――そんな彼を後目に言い争う、背後から聞こえる三つの声。
 それが二つ目の事態。自身の相棒であるサーヴァント“達”の事だ。

4AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:11:03 ID:ToYDvbE60

『余こそが奏者のサーヴァントにして唯一のパートナーなのだ! 貴様ら二人は疾く何処へと立ち去るが良い!』
 と宣言するのは赤いドレスの様な(本人曰く)男装をした少女、セイバー。

『何をおっしゃりますかこの泥棒猫は! ご主人様のサーヴァントは私ただ一人に決まっているんです! 貴女の方こそ今すぐに消えてくれませんか!?』
 そう返すのは狐の耳と尻尾を生やした青い着物の女性、キャスター。

『少し落ちつきたまえ二人とも。今は言い争うよりも、事態の解明を優先すべきだろう。
 もっとも、私もマスターのサーヴァントである事を譲るつもりはないがね』
 比較的まともな事を言っているのは赤い外套の男性、アーチャー。

 彼女達は霊体化している為、目の前の少年には姿も見えず、声も聞こえていないだろう。
 だが傍目にも怪しい人物である彼をほったらかして言い争っているのは、自身への信頼の表れだと思いたい。

 彼女達が三人とも己のサーヴァントである事は間違いない。
 セイバーとも、アーチャーとも、キャスターとも、最後まで共にいた記憶はある。
 だが同時に、己のサーヴァントは一人だけだった筈なのも確かなのだ。
 この矛盾。記憶の齟齬を解明するには、三つ目の問題が大きな障害となっていた。
 そしてその三つ目の事態とは――――

「                」

 と思考を巡らせたその時、どこからか少女の悲鳴が聞こえてきた。
 同時に、現在の状況を正しく思い出す。
 今はバトルロワイアル――聖杯戦争と同じ、正真正銘の殺し合いの最中だと言う事を。

「――――――――」
 直後、唸り声を上げるだけだった少年が、弾かれるように声の聞こえた方へと駆け出した。
 聞こえた声の感じから判断すると、そう遠くには居ないだろうが、同時に急いだ方がいい事も判る。
 すぐに己がサーヴァント達へと声をかけ、自分も少年を追って走り出す。

『了解したマスター。二人とも、言い争いは後だ。今は奴を追うぞ』
『むう、致し方あるまい。だが余は貴様等の言い分を認めた訳ではないからな!』
『それはこっちの台詞です! 貴女こそこれで終わったとは思わないでくださいね』
 アーチャーの言葉に従いながらも、セイバーとキャスターはまだ睨み合っている。
 どうやらこの問題の解決には、相当な時間がかかりそうだった。

 先を行く少年を追いかけながら、自身の戦力を再確認する。
 悲鳴があった、という事は、誰かが襲われているという事だ。つまり戦闘になる可能性が高い。
 とはいっても、セイバー達の戦闘能力はちゃんと覚えている。三人いれば、余程の相手でない限り負けないはずだ。
 ただ問題は―――

 そう湧き上がる不安を一先ず仕舞い込み、悲鳴の元へと駆けつける。
 このデスゲームで自分はどうすべきなのか、その覚悟を決める為に。

     2◆◆

 ―――一人の少女が、息を切らして走っている。
 その必死さは、まるで立ち止まれば死ぬと信じているかのように。
 そしてその考えは、紛れもない事実だった。

「ハァ……ハァ……ハァ―――」
 取得したマップデータを頼りに、高いビルの立ち並ぶフィールドを駆け抜ける。
 今は視認できないが、追跡者は迷うことなく私を追って来ている。
 それは迫り来る反応からも間違いない。

「ハァ……ハァ、ッ……ハ―――」
 「息が切れる」という体験を、初めてしている。
 これは苦しい。運動を嫌う人の気持ちが、少しだけ理解出来た。
 でもそれ以上に、私には疲れるという機能は無いはずなのに、こうして息が切れているのが不思議だった。

 ……いや、それを言うのなら、今感じている感覚全てが初めてで、この上なく鮮烈だ。
 今まで私が感じていたものが0と1(データ)で再現(つく)られただけの偽物なのだと、否応なく思い知らされる。
 風を受ける感触。駆け抜ける地面の硬さ。肌から伝わる温度。そして―――受けた傷の『痛み』。

「ハッ……、ハッ……、――ッハ」
 そうだ、勘違いしてはいけない。
 今私が息を切らしているのは、『疲労』からではなく『恐怖』からだと言う事を。
 追跡者は今も追って来ている。その恐怖が、こうして私を喘がしている。

5AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:11:38 ID:ToYDvbE60

     †

 それはデスゲームが始まってそう間もなくの事だった。
 初めは突然の事態に混乱したが、私はすぐに両親か、せめて他のプレイヤーを見つけようと判断した。
 ALOでそうしてきたように広域マップデータへとアクセスし、プレイヤーの反応をサーチして、一番近くの反応へと向かう事にした
 そして取得できた一エリア分のマップデータを頼りに、フィールドの一角を曲がった時、
 ――その『存在』と遭遇した。

 赤い、人型をした異形の巨人。
 顔に人間の様な目、鼻、口はなく、代わりに白いラインが顔を画く様に入っている。
 両腕は筋肉によってか異様に膨れ上がり、背中からは羽の様なものが生えている。
 そして何より、その巨人から放たれる“何か”によって、自分のみならずフィールドまで震えているような気さえする。

 ―――モンスター。
 そんな単語が浮かび上がった。目の前の赤い巨人は、どう見たってモンスターだ。
 だが、どうしてここにモンスターがいるのか。
 初めにサーチをした時、近くには幾人かのプレイヤーの以外には、“何の反応も無かった”のだ。
 まるで唐突に出現したとしか思えなかった。

 幸いにして、巨人はまだこちらに気づいていないらしく、何をするでもなく佇んでいる。
 その湯巣に、今すぐここを離れるべきだと判断し、慎重に、一歩ずつ後退りした。
 ……その、直後だった。


「ふふふ……。さあ、鬼ごっこを始めましょう」
「フフフ――。一生懸命、その子から逃げてね」


 不意に聞こえてきた、誰かの声。
 と同時に、巨人が唐突に振り向き、その視線が私を捉えた。
 何故、と考える間もなく、巨人が接近し、拳を振り下ろした。
 私は咄嗟に後ろへと飛び退いて、その一撃を回避する。
 標的を外した巨大な拳は、地面を打ち砕いて破片を撒き散らす。

 巨人の攻撃を躱せたのは、様々な戦いを見ていた事と、巨人の攻撃が大振りだったからに過ぎない。
 けれど戦闘経験の私には急な回避モーションは難しかったようで、バランスを崩して尻餅をついた。
 それと同時に、地面に打ち付けた臀部と、右の二の腕から『痛み』を感じた。
 思わず二の腕を押さえてそこを見れば、小さく刻まれた、赤いダメージエフェクト。
 どうやら、砕かれた地面の破片で切ったらしい、と私の冷静な部分が判断を下す。

 大丈夫。傷は浅い。けれど―――“痛い”。
 私は、生まれで初めて感じた痛みに思考を停止させた。

 私が過ごしてきた世界――SAOとALO。そのどちらにおいても、『痛み』は存在しなかった。
 正確に言えば、ペイン・アブソーバによって遮断されていたのだが、それでも現実の肉体を持たない私には無縁の感覚だった。
 そう。精神的な『痛み』は知っていても、肉体的な『痛み』に対する経験は皆無だったのだ。
 だがそれ故に私は、全く未知の感覚に、この上ないほどに混乱したのだ。

 けどそんな私の様子など関係ないように、再び拳を振り上げる。
 その光景を見て私が感じたのは、紛れもない『恐怖』だった。
 私は生まれて初めて、死ぬ事に恐怖を感じたのだ。

 ―――死ぬ。
 巨人の一撃を受ければ、左腕の傷とは比べものにならないくらいの『痛み』を受けて死ぬ。

 そんな確信に満ちた予感が、私の心を埋め尽くした。
 私は堪らず悲鳴を上げて、巨人から背を向けて逃げ出したのだ。

6AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:12:00 ID:ToYDvbE60

     †

 そして今、私は懸命に逃げ続け、巨人は変わらず私を捕捉している。
 移動速度は私よりも巨人の方が早い。
 それでも私が逃げ続けられているのは、私がマップデータを取得していた事と、巨人の反応をキャッチ出来ているからだ。
 けれど、少しでも逃げ道を間違えたるか、躓いてこけてしまえば、すぐに巨人に追い付かれてしまうだろう。

「パパ………ママ―――」
 誰よりも大好きな二人を呼ぶ。けれど、二人はここには現れない。
 もし彼らが近くに居るのならば、最初にサーチした時点ですぐに向かっている。
 けれど二人の反応はなかった。つまり、すぐに駆けつけられる距離には居ないという事だ。
 その事実が、かつて私が観察し続けた『絶望』という感情を湧き上がらせ、肥大化させていく。

「パパ、ママ……助けて―――!」
 助けを求めて、懸命に二人を呼ぶ。
 無意味な行為と解っていても、その言葉が止まらない。
 だって二人は、パパとママは、私達が出会ったデスゲームを終わらせた英雄だ。
 特にパパは、ゲームマスターのヒースクリフを倒し、妖精王オベイロンを倒し、ママを助け出した勇者だ。
 二人が来てくれればきっと、どんな怪物だって、あの巨人だって倒せるはずなんだから――――

「、あっ――――」
 躓いた。
 余計な事を考えたから、足元がおろそかになったのだ。
 余裕が無いのにリソースを割けば、ラグが生じるのは当然だ。
 その一瞬の動作の遅延に足を取られ、僅かに体が浮いて、地面に打ちつけられた。
 同時に痛みと、それ以上の恐怖が襲って来る。

 すぐさま体を起こし、起き上がる。
 巨人が来る前に、早く逃げなくては。
 そう思い、走り出そうとして、

 突如としてすぐ側の壁面が粉砕され、その瓦礫が、左脚を強く打ち据えた。

「        、あぁああぁああぁぁぁあッッ………!!!」

 先ほどとは桁違いの痛みに、絞り出すような悲鳴を上げる。
 同時に走り出そうとした慣性が制御を離れ、私の体は再び地面に打ち付けられた。

「あ―――ぁああ………ッ!」
 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
 欠損した訳ではない。ダメージはあるが、動作に問題はない。
 それでも『痛み』が、足を動かす事を妨げる。
 動けない。動きたくない。これ以上痛い思いをしたくない。……死にたくない。
 これが恐怖……『死の恐怖』。アインクラッドにおいて、多くの人を始まりの街へと縛りつけた感情。

「ぁ……う、うう……ッ」
 痛みに阻害されて、左足がうまく動かない。
 それでも地面を掴んで這うように前へと進む。
 少しでも遠くへと逃げる為に、恐怖に強張る体を必死に動かす。
 砕かれた壁を見れば、そこから赤い巨人が、瓦礫を踏み砕いて姿を現した。

「ぁ……、ぁあ………」
 『死の恐怖』が、私を飲み込んでいく。
 あまりの恐怖からか、悲鳴さえもう掠れるようにしか出ない。
 そんな私を追い詰める様に、巨人が更に一歩踏み出した――その瞬間。

 突如私の背後から飛来した蒼い炎が巨人を急襲した。
 その攻撃に巨人は歩みを止め、襲い来る蒼炎を巨腕で振り払う。

「えっ……?」
 思わず炎が飛んで来た背後へと振り返る。
 そこにはいつの間にか、継ぎ接ぎだらけの橙色の服を着た少年がいた。
 まるでモンスターの様な外見だが、反応から彼もプレイヤーだとすぐに気付く。
 少年は私の横を通り過ぎると、禍々しい双剣を具現化して逆手に構え、巨人と相対した。
 ――まるで巨人に対して、自分が相手だと言わんばかりに。

7AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:12:46 ID:ToYDvbE60

「……あなたは?」
「……………………」
 応えはない。少年は巨人へと集中している。
 巨人もまた、私よりも少年の方を脅威と判断してか、警戒らしき動作を見せている。

  ―――君、大丈夫?

 突然現れた少年に気を取られていると、背後から唐突に声をかけられた。
 びっくりして振り返ると、そこには学生服を着た女の人が、心配そうな顔をしていた。
 そしてその背後には、二人の女性と一人の男性が、女の人に従うように傍にいる。
 その姿に私は、助かった、と危機が去った訳でもないのに安堵した。

     3◆◆◆

 継ぎ接ぎの少年――カイトがこのバトルロワイアルに呼ばれた時、彼は人間で言う混乱した状態にあった。
 何しろいきなり『The World』から全く未知の世界へと転送されたのだ。
 プレイヤーの形をとって『The World』を修正するプログラムである彼は、その事態に対応できなかった。
 現在の事態も把握できず、修正プログラムとしての権限も使えない状況で、目的と取るべき行動を見失ったのだ。

 だがその時、一人のプレイヤーと思われる人物と遭遇した。
 そこで彼は、そのプレイヤーに同行する事で、当面の方針を得ようとした。
 『The World』で言えば、そのプレイヤーのパーティーに入り、リーダーを任せようとしたのだ。

 しかし彼には、相手に上手く自分の意思を伝える事が出来なかった。
 彼の未熟なプログラムには、意思疎通という点において大きな問題があったのだ。
 そして当然のように、コンタクトは失敗。彼に出来たことは、その人物へと訴えるように唸り声を上げるだけだった。

 だがそんな時、少女の悲鳴と、見知った反応を感じ取った。
 行動の優先順位を変えるのは早かった。
 カイトは一目散に反応を感じる場所へと向かった。
 そしてそこに居たのは、一人のAIと、赤い異形の巨人。

 赤い巨人の方は、全く見覚えがない。『The World』には存在しないモンスターだ。
 だが少女の方からは、覚えのある反応を感じ取ることが出来た。

 即ち、自らの主――女神AURAの反応だ。

 そう理解した時、カイトの目的は定まった。
 何故少女から女神AURAの反応があるのかは解らない。
 だがその反応が己が主の物であることは間違いない。
 ならば女神AURAの守護者として少女を護り、眼前の敵を打ち倒すのだと。

「ア゛アアァァァア!!」

 そうしてカイトは声を上げ、ある種の使命感を胸に、双剣を構えてスケィスへと突撃した。

     †

 先を走る少年の背中を追いかける。
 おおよその位置は把握しているのか、彼の走りには迷いが見られない。
 一体どこを目指しているのかと思いつつも、幾つかの角を曲がったところで、

「あぁああぁああぁぁぁあッッ………!!!」

 車が家屋にぶつかったかの様な音と、その直後に絞り出す様な悲鳴が聞こえた。
 聞こえた悲鳴に、焦燥感が強くなるが、同時に安堵もした。
 たとえ悲鳴だったとしても、声を出せたという事はつまり、声の主はまだ生きているという事だ。
 そうして聞こえた悲鳴を頼りに、一層強く地面を蹴って最後の角を曲がり、
 視界に入った赤い異形の巨人に、思わず足を止めて目を見開く。

「馬鹿な。なぜ彼奴がここに居る!」
「ヤバイ……めっちゃヤバイですよこれ! 尻尾にビンビン来てますって!」
「出来れば、二度と相手にしたくなかったのだがな」
 驚きを口にしながらセイバー達も実体化し、すぐに周囲を警戒する。

8AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:13:19 ID:ToYDvbE60

 ――ジャバウォック!
 その巨体から放たれる凶悪な魔力を見間違えるはずがない。
 あれは間違いなく、ありす達の“お友達”のジャバウォックだ。
 何故ここに、と思わず叫びそうになるのをどうにか飲み込んで、周囲を見渡し警戒する。

 ジャバウォックの近くには一人の少女がいる。おそらく悲鳴の主は、その少女だろう。
 だがその少女を護る様に、少年が双剣を逆手に構えてジャバウォックと相対していた。
 ならば自分は、と少女へと駆け寄り、大丈夫かと声をかける。
 いきなり声をかけられた少女は驚いた顔をした後、安堵したように緊張を解いた。

 少女に手を貸し、立ち上がらせる。
 その際に少女に残る傷に思わず顔をしかめる。
 だが彼女が無事だったことを喜ぶべきだと、すぐに表情を和らげる。

「私は大丈夫です。……あ、あの」
 そう躊躇いがちに聞いてきた少女の問いを、話は後で、と遮る。
 危機はまだ去った訳ではない。まずはジャバウォックをどうにかしなければならない。
 それにまだ、あの少年の正体も判明していないのだ。

 少女を背に庇いながら、少年とジャバウォックを観察する。
 少年は……少なくとも、今は敵ではない。
 最初にすぐに襲ってこなかった事と、少女を助けたことからそう判断できる。
 対してジャバウォックからは、初めて遭遇した時ほどの凶悪な魔力は感じられない。
 だがその力がなおも驚異であることは容易に想像できる。

 ちらりと、アーチャーへと視線を送る。
 それを受け取ったアーチャーは、僅かに首を振って答える。
 ――不可能、か。
 アーチャーの能力ならば、“ヴォーパルの剣”を作り出せるのでは?と思ったのだが、どうやら出来ないようだ。
 単に作り出せないのか、それとも効く程の効力を持たせられないのか、あるいは“制限”からか……。
 いずれにせよ、ジャバウォックの弱体化は望めないらしい。

「ア゛アアァァァア!!」
 その、僅かな目配せの隙に、少年がジャバウォックへと突撃した。
 止める間もない。
 少年は一瞬でジャバウォックの懐に潜り込むと、双剣を振るってその胴体を切り刻む。
 あまりにも超高速の連続攻撃に、まるで少年が三人に分身したかのようにさえ見える。
 そして少年がジャバウォックの横合いを過ぎ去った時、その胴体には、三角を描くように傷痕が刻まれていた。

 目を見張るほど強烈な連続攻撃。
 例えサーヴァントであっても、無防備に食らえば倒されかねないだろう。
 ――――しかし。

「        ッ!!」
「……………………ッ!?」
 名状しがたい叫び声とともに、少年の身体が弾き飛ばされ、フィールドの壁に激突した。
 技後硬直の隙をついて、ジャバウォックがその巨腕で少年を薙ぎ払ったのだ。
 そしてさらに、ダメージの反動で動けない少年に止めを刺そうと、ジャバウォックが右腕を振りかぶる。
 それを見過ごすわけにもいかず、即座にセイバー達へと指示を出す。

「了解した!」
「余に任せよ!」
「無茶言いますね!」
 それに従ってセイバー達はジャバウォックの元へと駈け出す。
 そんな間もあればこそ、ジャバウォックは少年へと、その大きな拳を勢いよく振り下ろした。
 その一撃を先行したキャスターが、玉藻鎮石(たまもしずいし)と呼ばれる鏡を翳して防ぐ。
 ドゴン、と尋常ではない衝突音が響き、キャスターが苦悶の表情を浮かべるが、完全に守りきる。
 だがその隙に、セイバーが渾身の魔力を込めた一撃でジャバウォックの左腕を切り落とす。
 更にアーチャーがガラ空きとなった懐に潜り込み、飛来した双剣と共に三連撃を叩き込み、その巨体を弾き飛ばす。

 ――直後。唐突に襲ってきた立ち眩みに、ガクンと膝を落とした。

「だ、大丈夫ですか!?」
 背後の少女が、慌てて声をかけて来る。
 急速に力が抜けていく。
 どういう事かと考え、すぐにその理由に思い至る。

 ――そういうことか。
 この異常は単純に、急激な魔力消費によって、肉体が異常をきたしたのだ。
 おそらくだが、サーヴァントを実体化させると、その維持にマスターの魔力が消費されるのだ。
 それがマスターである自分に掛けられた制限。
 そして自分は今、サーヴァント三騎分の魔力を一気に消費している。この立ち眩みは、それが原因だろう。
 そうと分かればどうという事はない。これが彼女達を従える対価なら、安いものだと自分に言い聞かせる。

9AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:14:01 ID:ToYDvbE60

 ――大丈夫だ。心配ない。
 心配少女にそう言って、どうにか自力で立ち上がる。
 それでも少女は心配そうな表情を見せるが、その視線を振りきってジャバウォックへと向き直る。
 弾き飛ばされたジャバウォックは地面に横たわっている。

 〈呪層・黒天洞〉でジャバウォックの一撃を防ぎ、〈花散る天幕〉で防御手段を一つ減らし、〈鶴翼三連〉で大ダメージを与える、加減無しの三連携。
 即興にしては上手くいった。並大抵の相手ならば、これで終わっているだろう。
 だが、ジャバウォックを相手にしては、これでも安心する事は出来ない。

「そんな……!」
 その様子に、少女が驚きの声を上げる。
 ジャバウォックが何事も無かったかのように立ち上がったのだ。
 そして肘から先を失った左腕を不思議そうに見つめた後、ゆっくりセイバー達へと向き直る。
 その次の瞬間にはもう、切り落とされた左腕も、胴体に受けた傷も完全に修復されていた。

 ……やはり、“ヴォーパルの剣”がなければ倒せないか。
 泰然とした様子のジャバウォックを見て、内心でそう嘆息する。

「アァァァ…………」
 とそこで、ジャバウォックの一撃から持ち直したのか、少年が立ち上がる。
 戦意はまだあるらしく、その眼はしっかりとジャバウォックを捉えている。そしてその右腕を掲げ、ジャバウォックへと突き付ける。
 するとその腕に、半透明のポリゴンを何枚も重ね合わせた、腕輪の様なものが      。

 ――――――――。
 あれは、『危険』だ。
 あの腕輪は、“自分達”にとってこの上なく危険な『力』だ。
 決して何があろうと、あの腕輪の『力』だけは受けてはいけないと。
 さもなくば、『自分』が『自分』でなくなるのだと、理性より先に本能が理解した。

 腕輪は回転する三枚の赤いポリゴンを出現させながら、まるで何かの準備を整えるかのように、より大きく展開していく。
 そして最大限に展開したのか、三枚の赤いポリゴンの回転が止まり、直後、少年の腕輪から極彩色の光が放たれ、ジャバウォックの身体を貫いた。

 光に貫かれたジャバウォックは突然苦しみ出し、その凶悪な気配を急速に萎ませていく。
 それを好機と見たセイバー達が、渾身の攻撃をジャバウォックに叩きこむ。
 無防備に攻撃を受けたジャバウォックは、ズン、と音を立てて倒れ、その体を崩壊させていく。
 まるで“ヴォーパルの剣”を使われたかのようなあっけなさ。
 謎のスキルで怪物を弱体化させた少年を、その場に居る全員が強く警戒する。
 だがその中で一人――いや、二人だけが、少年の腕輪の力を正しく理解し、恐怖していた。

「ああ! お姉ちゃんみーつけた!」
「よかったねあたし(ありす)。また遊んでもらえるわ」

 ――――――ッ!
 背後から唐突に聞こえた声。咄嗟に振り返り見た光景に、思わず自分の目を疑う。
 手を握った少女と同じくらいの年齢。双子のようにそっくりな姿。白と黒の砂糖菓子。
 いるはずのない二人の少女――ありすとそのサーヴァント、アリス/キャスターがそこにいた。

「……あれ? あれれ? 確か、お兄ちゃんじゃなかったっけ? でもお姉ちゃんだったような気も……。どっちだっけ?」
「うーん……どっちでもいいんじゃない? 今はお姉ちゃんなんだし、お姉ちゃんという事にしたら?」
「いいのかな? それで」
「いいのよ。それで」

 ……ここで、ジャバウォックを見た時からの疑問が浮かび上がる。
 記憶の断片から、一つの確かな事実を掬い上げる。
 彼女たちは聖杯戦争の第三回戦にて敗北し、ムーンセルによって消去された――つまり“死んで”いるはずなのだ。
 だが現に、目の前には二人のありすが存在している。
 これは一体、どういうことなのか……?

「ご主人様、考えるのは後です! 今はこの場を切り抜ける方法を!」
 キャスターの言葉で我に返る。
 そうだ。今は考えるよりも先に、目前の脅威に対処すべきだ。
 彼女達が何故ここに居るのか疑問が尽きないが、相手にしている余裕はない。

「それにしても、“ヴォーパルの剣”を使わずにあの子を倒すなんて、お姉ちゃんたち凄いね」
「籠めた魔力が甘かったのかしら。そこのお兄ちゃんのスキルの効果なのかな?」
「わからないわ。けど、お姉ちゃんと遊べるのは楽しみね、あたし(アリス)」
「そうね、楽しみ。今度は何して遊びましょうか、あたし(ありす)」

10AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:14:26 ID:ToYDvbE60

 二人のありすは、相変わらず自分達だけの世界でおしゃべりしている。
 対して少年の方を見れば、ジャバウォックの時と違って戦意を感じられない。
 元々目的も、敵か味方かも分からないのだ。戦力としては期待できないだろう。

 ――この少女を、ジャバウォックに襲わせたのは、なぜ?
 碌な答えは期待できないが、念のために問いかける。
 場合によっては、行動を改めなければならない。

「だってその子、ジャバウォックを見て逃げようとしたんだもの」
「逃げるのを見たら、追いかけたくなっちゃうよね。兎とか」
「だからその子で、鬼ごっこをして遊ぼうって思ったの」
「鬼はあの子。その子は兎。捕まえたら首をちょん切っちゃうの」
「ふふふ………。ちょん切って、どうするの? あたし(アリス)」
「フフフ―――。そうね、どうしましょうか。あたし(ありす)」

 子供特有の残酷さに、思わず渋面を浮かべる。
 心配になって横目に見てみれば、少女は顔を青ざめて震えていた。
 視線を戻せば、話は終ったとばかりに、ありす達はまたおしゃべりに興じている。

 アリス/キャスターのステータスはオールE。サーヴァントとして最低限といった程度だ。
 その能力・宝具こそ脅威だが、セイバー達が三人で掛かれば問題なく倒せるだろう。
 だが彼女達のいる場所は、セイバー達からは少し遠い。少しでも間を与えれば、一瞬で逃げられる。
 そして魔力の消費速度から予測すると、セイバー達を維持できるのは、保って残り二分強程度。
 行動するなら、彼女達がおしゃべりに夢中になっている今の内だ。
 ここは―――

    A.ここで倒す
   >B.今は逃げる

 アリスの宝具は、一度発動してしまえばある種の無限ループに陥ってしまう。
 セイバー達の維持に時間制限がある以上、彼女たちに逃げに徹せられてしまえばこちらが不利となる。
 ましてや今は、守るべき少女がすぐ側にいる。彼女を戦いに巻き込む訳にはいかない。
 ――今は逃げて、大勢を整えるべきだ。
 そう判断し、少女の手を取って後退りをする。

「お姉ちゃん、逃げちゃうの? それじゃつまらないわ」
「そうね、つまらないわ。……そうだ。また“鬼ごっこ”なんてどうかしら」
「“鬼ごっこ”をもう一度するの? おんなじ遊びなんて、あきないかしら」
「大丈夫よ。さっきは私達が鬼だったけど、今度はお姉ちゃんに鬼になってもらうの」
「まあ、それなら大丈夫ね」
「ええ、きっと大丈夫よ」

 その途端、それを見咎めたありす達が、次の“遊び”を決定する。
 ――“鬼ごっこ”。
 ありす達が告げるその遊びに、背筋が凍るような悪寒が走る。
 マズイ。何の対策もしていない今、“あれ”を発動されたら全滅する!
 逃げる余裕はない。即座にセイバー達へと、ありすを止める為に指示を出す。

「任せよ!」
 セイバーが先行し、ありす達へと大剣を一閃する。
「危ないわ」
 その一撃を、アリスが手刀に魔力を込め弾き返す。
 速さだけを優先させた一撃では、アリスの防御を破れない。

「これは躱せるか!」
 だがアリスが反撃するより早く、アーチャーが〈“赤原猟犬(フルンディング)”〉を放つ。
 赤光を纏った魔弾は、直線状に居るセイバーを迂回するようにアリスへと襲いかかる。
「簡単ね」
 それをアリスは、ありすの手を引いきながら大きく飛びのいて回避する。

「気密よ、集え!」
 そこへ、キャスターが〈呪相・密天〉を発動する。
 その魔力に導かれ、風が集束してありす達を閉じ込め押し潰す。
「ふふふ」
「フフフ―――」
 その大気の壁による圧縮から、ありす達は転移する事で脱出した。

「お姉ちゃん、もう終りなの?」
「じゃあ鬼ごっこをはじめよう?」
 楽しげに笑う二人の少女。
 彼女達は近づくには遠く、離れるには近い微妙な距離に居る。
 今攻撃したところで、すぐにまた逃げ回られるだけだろう。

 まさしく楽しげに遊ぶ子供。
 周囲の人間を翻弄して、徒労させる小悪魔。
 逃げに徹した彼女達は、やはり簡単には捕らえられない。
 しかし―――布石はすでに打ってある。

11AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:15:01 ID:ToYDvbE60

「ッ!」
「?」
 その一手に、ありすはまだ気づいていない。
 気付いたアリスが、咄嗟に振り返る。
 ……だがもう遅い。
 もはや転移での回避は間に合わない。
 二人の少女へと、回避したはずの赤い魔弾が襲いかかった。

 “赤原猟犬”は、射手が健在かつ狙い続ける限り標的を襲い続ける魔剣だ。
 たとえありす達がどこへ逃げようと、アーチャーの視界に居る限り、その魔弾から逃れる事は出来ない。

 ありすを庇い、アリスは渾身の魔力を四肢に込める。
 しかし彼女の防御力では、魔弾は防ぎきれない。
 例え倒すには至らなくても、大ダメージは免れないだろう。

 そうして、大気を震わす衝撃を伴って、赤光が弾けた。
 その瞬間、赤光の魔弾が二人の少女を貫く光景を、誰もが光景を幻視し、
 ――しかし、その光景は訪れなかった。

 光に眩んだ眼が視力を取り戻し、驚きに目を見開いた。
 目の前には魔弾に貫かれたはずの二人の少女が、なおも健在。
 そして彼女達のすぐ側には、紫の毛並みをした猫のような獣人がいた。

「――――大丈夫かい? 二人とも」
 猫の獣人が、ありす達に声をかける。
 その手には異風な形状をした、紫色の刀剣が握られている。
 緋の猟犬は、彼女の持つ魔剣によって防がれ、弾き飛ばされたのだ。

 そして“赤原猟犬”での追撃は、もう望めない。
 十分な魔力を籠められなかった魔弾では、標的へと翻るのは一度が限界だった。

「………マ$………」

 不意に少年が、何かの言葉を口にする。
 だが彼から初めて聞いた意味を持った単語は、なぜかノイズが奔った様によく聞き取れなかった。

「遅いわチェシャ猫さん。もう少しでケガするところだったわ」
「遅刻はダメだよ。首をちょん切っちゃうんだから」
「コメンゴメン。首は切られたくないから、今度はちゃんと気を付けるよ。
 でもありす達だって悪いと思うな。僕を置いて先々行っちゃったんだから」

 ありす達と猫の獣人は、親しげに会話をしている。
 だが隙だらけという事はなく、彼女達は警戒を全く解いてない。
 例え今仕掛けても、“名無しの森”を出現させるだけの時間は稼がれてしまうだろう。
 ともすれば、ジャバウォックさえも再び呼び出されてしまうかもしれない。

「まあいいわ。今回だけは許してあげる。
 それじゃああたし(ありす)。今度こそお茶会を開きましょう」
「うん、そうしようあたし(アリス)。
 みんなで一緒に、ごっこ遊びをはじめましょう」

 二人のありすから、膨大な魔力が放たれる。
 規格外の『力』の具現。その予兆で、フィールドが軋み始める。
 現れるのは“名無しの森”か、“ジャバウォック”か、あるいは両方か。
 何が現れるにせよ、まず無事では済まないだろう。

 脳裏に一抹の不安が過る。
 果して自分は、生き残る事が出来るのか、と。
 ……いや、なんとしても生き残るのだ。
 今この手には、守るべき命が握られているのだから。
 繋いだ少女の手を強く握り、そう覚悟を決めた、その時だった。

「二人とも、ちょっと待ってくれるかな」
 一体どういうつもりなのか、猫の獣人がありす達に制止の声をかけた。

「チェシャ猫さん?」
「どうして邪魔をするの?」
「いやほら、彼らだってジャバウォックと遊んで疲れてるだろうしさ、少しは休ませてあげたらと思ってね。
 それにあの子も鬼ごっこで逃げ切ったんだし、ご褒美を上げなきゃ」
 その言葉にありすは少し考えた後、納得したように頷いた。

「うん、そうだね。疲れてたら、思いっきり遊べないよね。
 ねぇあたし(アリス)、お茶会はまた今度にしましょう」
「もう、しょうがないわね、あたし(ありす)は。
 いいわ、今日のところは見逃してあげるね」
 その言葉と同時に、密度を増していた魔力が霧散する。言葉通り、見逃してくれるという事だろう。
 獣人の方を見てみれば、彼女はありす達に見えないようにウィンクをしてきた。
 助けてくれた……のだろうか。
 だとすれば彼女は、一応ありす達の仲間ではあるが、完全な仲間という訳ではないのかもしれない。

12AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:16:10 ID:ToYDvbE60

「それじゃあバイバイ、お姉ちゃん」
「また新しい遊び、考えておくね。
 行きましょう、チェシャ猫さん」
「二人とも、また置いてかないでよ。
 あ、そうだ。僕の名前はミアって言うんだ。お互い、生きてたらまた会おう」
 そう言って二人のありすと猫の獣人――ミアは、どこかへと走り去って行った。
 そしてその姿が見えなくなると同時に、ようやく危機を脱したのだと理解した。
 そのことに安堵すると同時に、今更ながらに心臓の鼓動が激しくなっている事を自覚する。

 ――だが、これで全てが終わった訳ではない。
 深呼吸して、改めて継ぎ接ぎだらけの少年と相対する。
 彼は双剣を納めながら、こちらへと近づいてきている。
 最初にあった時、少年は唸るばかりで何もしてこなかった。
 だが少年の見せたあの『腕輪の力』を思い出し身構える。

 ジャバウォックを一瞬で弱体化させたあの力。
 もし自分があれを食らってしまえば、『自分』の全てが消えてなくなる。
 そんな、絶対的な確信に満ちた予感があった。

 そして少年は会話をするのに十分な距離で立ち止まると、

「アァァァァアアァァァ……」

 そう、最初と同じように様に、唸り声を上げたのだった。
 張り詰めた緊張の糸が緩み、警戒心が薄れた。
 密かに警戒していたセイバー達も、思わず警戒を解く。
 まるでふりだしに戻る。
 一体どうしろというのかと、頭を抱える。
 するとその時、思わぬところから、神の啓示の如き一声が届いた。

「あの……この人、あなたに何かお願いしたい事があるそうですよ?」

 思わず弾かれる様に振り向き、声の出所である少女をまじまじと見つめて、訊いてみた。
 ――彼の言ってる事、わかるの?

「はい。何となくではありますけど」
 その言葉に、おお、と感嘆の声を漏らす。
 何となくだとしても、混迷する事態を解決できるのなら、それに越したことはない。
 両手で少女の手を握り、迷わず少女へと助けを求める。

「いいですよ。これくらい、お安いご用です。
 私も助けてもらった恩を返したいですし」
 そう言って少女は快く引き受けてくれた。
 これでようやく、現状を先に進められそうだ。
 その安堵とともに、少女へとありがとうとお礼を言う。

「あ、そうだ。先に自己紹介をしておきますね」
 少女のその言葉に、大切な事を思い出した。
 そうだ。自分達はまだ、お互いの名前も知らないのだ。

「私はユイと申します」
「……カ#ト」
「えっと……彼はカイトって名前だそうです」

 ユイに、カイト。
 おそらく、これから共に闘うであろう仲間の名前を、大切にかみしめる。
 カイトの言葉は、先ほどと同様によく聞き取れない。
 だがユイの助けがあれば、一応の意思疎通は出来るだろう。
 少女達へと向き直り、自分の名前を告げる。
 自分の名前は―――

    A.フランシスコ…ザビエル!
   >B.岸波 白野。

 ――岸波 白野だ、よろしく。
 二人へと向けて、精一杯の信頼を込めてそう口にする。
 ………なぜか一瞬、脳裏に妙な名前が浮かんだが、その名前だけは間違いなく、致命的に間違っている。
 誰が何と言おうと、自分の名前は岸波 白野だ。決してフランシスコな単語ではない。

「ハクノさんですね。これからよろしくお願いします」

 ユイの呼び掛けに何となく安心しつつ、それじゃあ、と気持ちを切り替える様にマップデータを開く。
 カイトの頼みを聞くにしても、こんな場所ではまた襲撃されかねない。
 まずは安全な場所に向かった方がいいだろう。
 するとユイがまた、自分達を助ける一言を口にした。

「あ、周囲のマップデータでしたら、既に取得してあります。
 ですので、道案内は私に任せてください」

 ……ホントにこの子は、天使か何かなのだろうか。
 そんな風に思いつつも、ユイの道案内で安全な場所へと移動を始めた。

13CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:17:12 ID:ToYDvbE60

     4◆◆◆◆

 二人の少女の後をついて、猫の獣人――ミアは歩いていた。
 自分の事をチェシャ猫と呼ぶ彼女達は、二人で楽しげに談笑しながらどこかへと向かっている。
 その場所を、ミアは知らない。
 少女達の仲間という立場に居ながらも、ミアは仲間の輪の中にはいなかった。

 それも当然だろう。
 二人の少女にとって、ミアは“新しいおもちゃ”という認識でしかない。
 毛色の変わった、物珍しいおもちゃ。飽きたら当然、捨てられる。
 事実ミアは、一度少女達に殺されかけていた。

 ユイが遭遇し、彼女を追いかけたジャバウォックは、その際に召喚されたものだ。
 ミアはジャバウォックの攻撃を辛うじて掻い潜り、逆に一撃を加えた事で生き延びた。
 もちろんただ一撃を与えただけではない。攻撃した際に、武器のアビリティが発生したおかげだ。
 発生した効果は、バッドステータス・魅了。
 効果は一瞬しか発生しなかったが、それでも一瞬、ジャバウォックは少女達の敵になったのだ。
 そのおかげで、ミアは少女達に興味を持たれ、結果生き延びる事が出来たのだ。

 【誘惑スル薔薇ノ雫】――それが二度も彼女を救った武器の銘だ。
 この剣はどういう訳か、今までのどんな剣よりも彼女の手に良く馴染んだ。
 まるでこの剣が、元から自分の一部であったかのように感じるほどに。
 そしてそれほどまでに馴染む剣だからこそ、二回も窮地を切り抜けられたのだ。

 この剣が彼女を救った、二回目の出来事。
 それは少女達を狙った赤光の魔弾を弾き飛ばした事だ。
 あの魔弾を受ければ、生半可な剣では砕かれ、合わない武器だったならば逆に弾き飛ばされていただろう。
 その証拠に、魔弾を弾き返した際の衝撃がまだ抜けず、腕には痺れたような感触が残り、上手く力が入らない。
 この剣だからこそ、ミアの思い描いた通りの結果を齎す事が出来たのだ。


 ここで一つの疑問が残る。
 ミアはなぜ、少女達を救ったのかという事だ。
 おもちゃ扱いされ、飽きて殺されてもおかしくない状況で、元凶である少女を救った理由。
 それは………実を言えば、ミア自身にもわからなかった。

 ミアの“生きて”きた『The World』はネットゲーム。つまり他人と共に楽しむゲームだ。
 その世界でミアは、あるプレイヤーと一緒に様々な楽しみや喜びを見出してきた。
 だからだろうか。たった二人で完結している少女達に、他者と繋がる楽しみを知って欲しいと思ったのだ。

 強いて言えば、ミアは少女達を助けた理由はそれだけだ。
 それがどうして命を掛ける理由になったのかは、ミア自身にも解らなかった。
 だが彼女にはそれが、とても大切な事だと思ったのだ。

「ねぇあたし(アリス)、このご本面白いわ」
「そうねあたし(ありす)、すごく面白いわ」
「書いてあることは難しくて読めないけど、空飛ぶご本なんて初めて」
「それに二つに分かれたわ。あたし(ありす)とあたし(アリス)でお揃いね」

 少女達は今、支給されたアイテムを装備した際に発生した現象にはしゃいでいる。
 アイテム名は【途切レヌ螺旋ノ縁】。ミアの持つ魔剣と起源を同じくする魔典だ。
 月と太陽の意匠がなされたその武器は、白い少女が装備すると同時に二つに分かれ、もう一人の黒い少女にも装備されたのだ。
 それが当然の事だと、ミアは理由もなく納得していた…………いや、理由ならある。
 あの魔典の本体。碑文の第五相。『策謀家』の異名を冠した双子の名は――――――

「ねぇチェシャ猫さん。チェシャ猫さんは、次はどんな遊びがしてみたい?」
「―――そうだね。宝探し、なんてどうかな?
 別に形のある物じゃなくても、綺麗な風景とか、そういう形のないものでもいいんだ。
 自分が『これはいいモノだ。大切にしたい』って思えるモノを探すんだ」
「まあ。それは素敵ね、あたし(アリス)」
「ええ、素敵だわ、あたし(ありす)。でも疲れないかしら」
「疲れたら、お休みしなきゃ。そしたらもう遊べないわ」
「遊べないのはイヤね。もっともっと遊びたいわ」
「そうね。もっとずっと遊んでいたいわ」
「ずっとずっと、ずーっと―――」

 ミアに話を振られたのは一瞬。それ以降はまた、少女達は二人だけの輪に戻っていった。
 その光景に、ミアは思わず苦笑を浮かべた。

14CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:17:32 ID:ToYDvbE60

「まずは、名前を呼んでもらう事から頑張らないとな」

 少女達の呼ぶチェシャ猫は、少女達がつけた“おもちゃ”としての名前だ。
 いわば、子供が自分のお人形に名前を付けるようなもの。そこに人形自身の意思は関係ない。
 だからもし、少女達がちゃんと名前を呼んでくれたのならば、それは“個人”として認められたという事。
 少女達の輪に干渉する権利を得たという事だ。

 そう言う意味では、岸波白野という人物は近いところに居る。
 少女達は最初から、彼女だけは個人として見ているように感じられた。
 だとすれば、彼女の協力が得られれば、少女達の心を動かせるかもしれない。

「ここにエルクがいたら、もう少し楽しかったんだろうけどなぁ」
 ついぼやいて、そう言えば、と思いだす。
 あの場に居た、カイトと非常によく似たプレイヤー。
 彼はあの時、間違いなく自分を見てある名前を口にした。

「……マハ……か」
 そう呼ばれるのは二度目だが、その名前を聞くとどうも胸がざわつく。
 もしかしたら彼は、何かを知っているのかもしれない。
 今度会えたら、訊いてみる事にしよう。

「ま、死なないように頑張らないとね」

 岸波白野と協力するにしても、カイト似のプレイヤーに話を聞くにしても、まずは自分が生き残らないといけない。
 そしてこれがかなりの難題でる事は、想像に難くない。
 今一つ『死』というモノが実感できないが、嫌な感じがするのは確かだ。

「ねえエルク、見守っていてくれるかい?」

 アイテム欄から【エノコロ草】を取り出して問いかける。
 当然答えはないが、【エノコロ草】から香る匂いに、何となく勇気付けられる。
 そうしてミアは【エノコロ草】をアイテム欄に戻すと、談笑する双子の様な少女達に追従していった。

【F-8/アメリカエリア/1日目・深夜】

【ありす@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(微小)
[サーヴァント]:健康、魔力消費(小)
[装備]:途切レヌ螺旋ノ縁(青)@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:アリスと一緒に“お茶会”を楽しむ。
1:新しい“遊び”を考える。
2:しばらくチェシャ猫さん(ミア)と一緒に遊ぶ。
3:またお姉ちゃん/お兄ちゃん(岸波白野)と出会ったら、今度こそ遊んでもらう。
[備考]
※ありすのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※ありすとキャスターは共生関係にあります。どちらか一方が死亡した場合、もう一方も死亡します。
※ありすの転移は、距離に比例して魔力を消費します。
※ジャバウォックの能力は、キャスターの籠めた魔力量に比例して変動します。
※キャスターと途切レヌ螺旋ノ縁の特性により、キャスターにも途切レヌ螺旋ノ縁(赤)が装備されています。

【ミア@.hack//】
[ステータス]:腕力低下
[装備]:誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.
[アイテム]:エノコロ草@.hack//、基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
基本:死なない程度に、ありす達に“楽しみ”を教える。
1:まずはアリス達に自分の名前を呼んでもらう。
2:岸波白野の協力を得たい。
3:カイト似の少年(蒼炎のカイト)から“マハ”についての話を聞きたい。
4:エルクに会いたい。
[備考]
※原作終了後からの参戦です。
※ミア(マハ)が装備する事により、誘惑スル薔薇ノ滴に何かしらの影響があるかもしれません。

【途切レヌ螺旋ノ縁@.hack//G.U.】
赤い太陽を模したタイプと青い月を模したタイプの、二つの姿を持つ魔典。
第五相の碑文使いのロストウェポン。
条件を満たせば、パワーアップする(条件の詳細は不明)。
・無尽ノ機略:攻撃スペルのエレメンタルヒット発生確率25%アップ。及び攻撃スペルの威力が25%アップする

【誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.】
紫色の刀身にバラの意匠をした、異風な形状の刀剣。
第六相の碑文使いのロストウェポン。
条件を満たせば、パワーアップする(条件の詳細は不明)。
・魅惑ノ微笑:通常攻撃ヒット時に、バッドステータス・魅了を与え、かつレンゲキが起きやすくなる

【エノコロ草@.hack//】
別名猫じゃらし。いい匂いがする。

15CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:18:21 ID:ToYDvbE60

     5◆◆◆◆◆

「―――と、いう事らしいです」
 ユイの通訳を聞いて、なるほど、と納得する。
 彼女のおかげで、カイトが何を訴えていたのか、ようやく理解できた。
 簡単に言えば、自分にマスターの代理をやってほしい、という事なのだろう。

「アァァ…………」
 短い唸り声と共に、カイトが首肯する。
 ふむ、と唇に指を当てて考えるが、結論はすぐに出た。
 このバトルロワイアルを生き残るには、間違いなく多くの協力が必要だ。
 腕輪の事もあって苦手意識があるが、彼の助けが頼もしい事に変わりはない。
 カイトへと向き直り、握手を求めて右手を差し出す。
 ――これからよろしく頼む。

「……ヨ%*ク」
 カイトは差し出された右手と、自分の右手をジッと見た後、戸惑いながらも手を繋いでそう言った。
 彼が戸惑ったのはおそらく、握手というものを知らなかったからだろう。

「ハクノさん、私も握手していいですか?」
 カイトとの握手を終えて手を離すと、ユイがそう訊いてきた。
 断る理由もないので、その要望に応じて手を繋ぐ。
 先程は意識しなかったが、彼女の手からは少女らしい柔らかさと温もりを感じた。

「ほら、カイトさんも」
「…………」
 そう言ってユイは、今度はカイトと握手としている。
 その繋いだ手を見て、ユイは嬉しそうに微笑んでいた。
 その光景を微笑ましく思いながら、窓の外へと視線を向ける。
 高いビルが多く見える景観は、ともすれば、いつか夢で見た光景に似ている気がした。


 ユイを通じてカイトから事情を聴く際に、一緒に大凡の情報交換も済ましておいた。
 二人から得た情報は、SAOにALO、そして『The World』。そして彼女達自身の正体の事。
 自分も月の聖杯戦争と、そして自分の正体の事を、既に彼女達に話してある。
 そしてそれらの情報から分かった事は、どうやら事態は、思っていた以上に厄介なものらしいという事だ。

 情報を纏めたところ、どうもそれぞれが知る技術や情報に矛盾があるのだ。
 自分にはSE.RA.PH.での記憶しかないが、聞いた限りでは2030年代になっても、表立った技術は2000年代から変わっていない。
 しかし少女の話では2025年には完全なフルダイブ技術が確立され、魔術師(ウィザード)の真似事が可能となっているらしい。
 ところが2017年に存在したはずの、少年の語った『The World』というMMOを、少女は聞いた事がないと言う。

「おそらく、並行世界(パラレル・ワールド)の類いだろうな」
 と、話を聞いたアーチャーはそう言った。
 並行世界。在り得たかも知れない、ifという可能性の世界。
 だがそれを証明する術がない今、深く考える意味はないだろう。
 しかし同時に、今の自分に大きく関わりのある事でもあった。

「そう言えばハクノさん。一つ、訊いてもいいですか?」
 ふと思い至ったように、ユイが質問をしてきた。
 断る理由も無いので、質問を受け付ける。

「今気付いたんですが、ハクノさんの話ではマスター一人に対し、サーヴァントも一人ですよね。
 ならどうしてハクノさんには、セイバーさん、アーチャーさん、キャスターさんと三人もいるんですか?」

 ……痛いところを突いてくる。
 そう思うと同時に、マイサーヴァントが約二名ほど実体化する。

「その通りだ少女よ! 奏者のサーヴァントは余、ただ一人で良い! なぜなら奏者は余の物なのだからな!」
「何をおっしゃいますか! ご主人様は貴女の物じゃなくて私のモノです! ていうか、私がご主人様のモノです!」
「な! 貴様こそ何を言うこのピンクなINRAN狐め! ええい、そこに直れ! 叩き斬ってくれるわ!」
 ………………はぁ。と、すぐに喧嘩を始めた二人を見てため息をつく。
 セイバー達が実体化すると――戦闘中程ではないとはいえ――魔力を消費する。
 なので、喧嘩をするために実体化するのは止めて欲しいのだが………この願いは聞き届けられそうになかった。

16CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:19:55 ID:ToYDvbE60

「それで、実際のところどうなのかね?
 誰が君本来のサーヴァントなのか判るか?
 あるいは、この三重契約に心当たりは?」
 実体化したアーチャーの問いに、首を横に振って答える。
 実のところこのバトルロワイアルに呼ばれてからというもの、どうにも記憶があやふやなのだ。

 己がサーヴァントは一人だったと記憶しているのに、三人それぞれと共に闘い続けた記憶がある。
 他にも、凛と協力し、ラニと戦った記憶があるのに、その逆に、ラニと協力し、凛と戦った記憶もある。
 まるで複数のパズルのピースの様に、整合しない断片的な記憶が入り混じっているのだ。
 ただ、心当たりと言えば―――

 と、メニューを呼び出して、“ある装備”を変更する。
 その瞬間、一瞬のエフェクトに包まれる。
 直後、先程まで“女性”だった自分の身体が、一瞬で“男性”に変わっていた。

「ほう、これはまた」
「どういう事でしょうか」
 二人は驚き、不思議そうに呟く。
 アーチャーまで驚いているのは、最初に装備変更をしてみた時は、セイバー達の喧嘩に掛かりきりだったからだろう。
 ただ、変わった後の姿でいたのに気付かなかったというのには、少し引っ掛かりを覚えるが。

「ハクノさん。それは任意で出来るのですか?」
 ユイの言葉に頷く。
 どうやら支給されていた二つの礼装、月海原学園の【男子学生服】と【女子学生服】を切り替える事で身体も変わる様だ。
 つまり現在は、【男子学生服】を装備している事になる。
 ちなみに身体の性別を決めるためなのか、両方外すといった事は出来なかった。
 装備制限からは免除されているようだが、おかしな状態なのには変わりない。
 ついでに言えば、サーヴァントを三騎も従える代償か、自分のアイテムはこの二着の学生服だけだった。

 ――まったく、あの榊という男は何を考えてこんな状態にしたのだろう。
 確かに以前、慎二のイタズラで性別が変わった記憶はあるが、それにしたってこれはヒドイと思う。

「何を言うか奏者よ! そなたが今の姿であろうと、余は一向に構わんぞ?
 先程までの愛らしい少女の姿も良かったが、その男子の姿もなかなかに悪くない……いやむしろ良い!
 男と女、二つの姿を纏めて楽しめてお得ではないか!」
「そうですよご主人様。どんな姿であっても、ご主人様がご主人様である事に変わりはありません。
 まあもっとも、ご主人様は魂的には男性なので、男性の姿の方が好ましいというかぁ、私も妻として嬉しいというかぁ。
 キャッ、言っちゃった(はぁと)」

 ――君達、仲いいね。
 先程まで喧嘩していた二人が意気投合するのを見て、思わずそう口にする。

「良くなどないわ! まぁ余とて、愛人の一人や二人なら広い心を持って認めよう。
 だが、本妻だけはダメだ! 奏者の一番は、余、ただ一人で良い!」
「そうです! 一夫多妻(ハーレム)なんて今どき流行りません!
 ご主人様の愛を受けるのは、妻であるこの私ただ一人で十分です!」
「むむむ……!」
「ぐぬぬ……!」

 ……いわゆる同族嫌悪というものだろうか。
 どこか似た者同士な彼女達は、だからこそお互いに譲れないのだ。
 そんな風に思いながらも、無言で礼装を交換して女性に戻る。
 なぜかと言うと、キャスターのオシオキが怖いとか、そんな理由ではない。

「えっと……ハクノさんは確か、ムーンセルに削除されている最中に巻き込まれんたんですよね」
 ユイの質問に頷くと、彼女はすこし考えるように俯いた。
 そしてすぐに、何かに思い至った様に手を伸ばして額に触れてきた。

「ちょっと、調べさせていただきますね」
 彼女がそう言って目を閉じると、身体にこそばゆい感覚が奔った。
 そのまま数秒ほど待つと、ユイが顔をしかめた。

「これは……酷いですね。中途半端に削除されたせいでしょうか。
 アバターやメモリーを含めた、色んなデータが破損しています。
 ここまで来ると、エラーを起こしていない事が不思議ですね」

 それは……またなんとも……。
 聞いておいてなんだが、よく無事に動けているな。

17CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:21:49 ID:ToYDvbE60

「はい。アバターは所詮データで出来た体ですから、その学生服の礼装で一時的に再構成しているのでしょう。
 ただメモリーの方は、恐らくですが、ハクノさんを知る他の方のメモリーを参照しているのだと思われます。
 セイバーさん達三人との同時契約も、多分その為の処置でしょうか」

 つまり、今自分が覚えている記憶は自分の物ではなく、セイバー達から借りた物。という事だろうか。

「半分はそんな感じですね。正確には、セイバーさん達の記憶をもとに修復されている最中なのでしょう。
 ただその影響は、セイバーさん達も受けていると思われます。ハクノさんの性別が変わった事に、特に違和感を覚えなかった事がそうかと」

 なるほど。と納得する。
 そう言えばありす達も、自分が男性だったか女性だったかで、一瞬迷っていた。
 おそらく、記憶の矛盾を減らすために、相手側にも参照させているのだろう。

 だが同時に、どれが本当の自分の記憶なのかと疑念が浮かび上がる。
 他者の記憶をもとに修復された記憶は、本当に自分が辿った道筋の記憶なのか、と。

「そう心配するなマスター。もとより記憶というのは曖昧なモノだ。
 例え記憶の全てが偽物だったとしても、その中で見つけた、自分が正しいと思う事を成せばいい。
 それに、ムーンセルの性質を考えれば、記憶の真贋に意味はない。アレは起こりえる可能性の全てを計測し記録するモノだ。
 ならば、今ある君の記憶は、君が成し得た可能性の集まりとも言えるのだからな」

 ………ああ、そうか……そうだった。
 元より自分自身が偽物だったのだ。そしてそんな自分を、彼女達はマスターと認めてくれたのだ。
 悩む必要なんてなかった。自分はただ、自分の思うままに行動すればいいのだ。
 ――ありがとう、アーチャー。

「なに、礼を言う必要はない。私は、自分が思った事を口にしたまでだよ」
 アーチャーはそう言って謙遜する。
 だが彼のおかげで、覚悟――自分が何を目的にするかが定まった。

 ――このバトルロワイアルを、止める。

 月の聖杯戦争も、たった一人しか生き残れないバトルロワイアルだった。
 だがあの戦争には皆、自らの意思で、それぞれの覚悟を懐いて参加したのだ。

 けれど、このバトルロワイアルは違う。
 ユイも、カイトも、もしかしたら他の参加者達も。
 多くの人が自らの意思とは関係なく参加させられているのだ。
 そんな覚悟も何もない戦いを、認める訳にはいかない。

 ――力を、貸してくれるか?
 答えのわかりきった質問を、己が相棒達に投げかける。

「奏者よ。それは答える必要のある問いか? だが、敢えて答えて欲しいのなら答えよう。
 余はそなたが命じるのであれば、そなたの剣となって如何なる敵も討ち倒してみせよう」
「そうですよご主人様。そこの赤い人が剣なら、私は鎧になります。ご主人様には毛一筋分の怪我もさせませんから、ご安心ください。
 あと、私の方がこんな無駄に赤いのより何倍も役立ちますから、是非ご命令は私に下さいね」
「な、何を言うか! 余の方が貴様の何十倍も奏者の役に立つわ!」
「あら。でしたら私はその何百倍も役立って見せます」
「おのれ雌狐め、言わせておけば!」
「まったく、君達には協力するという考えはないのかね?
 だがマスター、彼女達の言う通りでもある。君はただ、君が思う事を、思うままに命ずればいい」

 セイバー達の言葉に、改めて勇気付けられる。
 彼女達がいれば、どんな困難でも乗り越えられる様な、そんな気がしてくる。

「あの、私もご協力します。
 出来る事は少ないですけど、少しでも恩を返したので」
「アアァァァアァァ……」
「カイトさんも協力してくれるそうです」

 ――二人とも、ありがとう。
 そう協力を申し出てくれた二人にお礼を言う。
 ただ、出来ればユイには、安全な場所に隠れていて欲しいのだが。

「でしたら、普段は《ナビゲーション・ピクシー》の姿になっておきますね。
 そうすれば、ハクノさんの制服の胸ポケットに入る事が出来ますし」
 ユイはそう言うと、一瞬光に包まれた後、小さな妖精の姿に変身した。
 なるほど。その姿ならどこにでも隠れる事ができるだろう。
 ……しかし、ならばなぜその姿でジャバウォックから逃げなかったのだろう?

「この姿になるには、他のプレイヤーの五メートル以内に居ることが条件のようです。
 それ以上離れると、強制的に通常アバターに戻ってしまうみたいで。
 それにあのジャバウォックは、プレイヤーではありませんでしたし」

18CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:23:06 ID:ToYDvbE60

 確かにポケットに入るほど小さく、空も飛べるとあっては、狙い辛いことこの上ない。
 だが五メートル以内ならば、いずれは追いつめられるという事か。

 だがとにかくこれで、ユイの安全は確保された訳だ。
 自分の傍に居れば、一緒にセイバー達が護ってくれるだろうし。

「――さて奏者よ。目的も決まり、少女の安全も確保できた。
 となれば次は目的地だが、とこへ向かうのかは決めてあるのか?」
 セイバーの質問に、月海原学園を目指すと答える。
 ユイが取得したマップ情報によると、現在位置は【F-9】のホテルだ。
 月海原は【B-3】に在るので、そこへ向かえば自然とマップを横断する事になる。
 そうすれば様々な人物と遭遇できるだろうし、結果として多くの情報を得られるだろう。

「道中で戦闘になった場合の事も考えておかねばな。
 マスターの最大魔力量では、サーヴァント一人が全力で戦えるのは十分。全員揃ってならば三分程度だろう。
 私は単独行動スキルのおかげで、一時間程度ならば魔力供給なしでも行動できるが」

 セイバー達の事は信頼しているし、大概の相手は倒せると思うが、可能な限り切り札はとっておきたい。
 魔力も可能な限り回復、温存したいので、道中の戦闘は基本カイトに任せたい。
 そう言うと、カイトは頷いて承諾してくれた。
 そんな彼にお礼を言い、指示は任せてくれと胸を張る。
 これでも毛色の違う三騎ものサーヴァントと共に闘ってきたのだ。多少の自信はある。

「ではご主人様。手早く準備を整え、学園へと向かいましょう。
 あの榊という男の言葉が真実であれば、時間はほとんど残されていません。
 まったく。結果としてご主人様が助かった事には感謝しますが、そのお体にウイルスを仕込むだなんて!
 ………あのクソガキ、マジ許しません!」

 バトルロワイアルの参加者達に感染しているという、24時間で発動するというウイルス。
 これがある限り、参加者は必ず誰かを殺さなくてはならない。
 だが同時に、これこそがバトルロワイアルを止めるカギでもあるのだ。

 第一に、一人殺すごとに6時間の猶予が与えられるのなら、その猶予を作り出す“何か”があるはずなのだ。
 その“何か”を突き止め、効果を永続的に出来れば、ウイルスは発動せず、誰かを殺す必要はなくなる。

 第二に、仮に報酬が真実だとし、優勝したとしても、ウイルス自体をどうにかできなければ意味がない。
 なぜなら自分やユイ、カイトのような“現実の肉体を持たない存在”は、どうしたってログアウトが出来ない。
 つまり、ウイルスに感染したアバターを破棄し、現実に帰って生還するという手段は使えないからだ。
 こうして自分達にも優勝する権利が与えられている以上、ウイルスを駆除するワクチンがなくてはならない。
 ならば、ワクチンを獲得し、複製する事ができれば、このバトルロワイアルは完全に止められるはずだ。

「さすがご主人様。すでにそこまで考えついていたとは。
 最弱の身で聖杯戦争を勝ち残っただけあります。情報戦なら誰にも負けませんね」

 だがそれも、みんなの協力があったからだ。
 もし自分一人だったなら、とっくに敗退していただろう。
 それはこの殺し合いでも同じだ。みんなと協力しなければ、バトルロワイアルは止められない。

 ユイへと向き直り、改めて協力を申し込む。
 ワクチンはおそらく、榊が持っているだろうから、現状では入手は望み薄だ。
 なら当面の目標は、猶予を作り出す“何か”の解明と、榊の元へ辿り着く経路の捜索だろう。
 つまり、PCボディやマップのデータを詳細に取得できるユイの協力が必要だ。

「はい。任せてください!」
 ユイが小さい胸を張ってそう応える。
 凛やラニがいればより確実だが、彼女達がバトルロワイアルに参加しているかは判らない。
 それに出来れば参加していて欲しくないという思いもある。期待はしないでおこう。

19CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:23:38 ID:ToYDvbE60

     †

 行動方針が決まり、白野達はそれぞれの支給品を確認して移動の準備を始めた。
 とは言っても、白野の支給品は二着の学生服だけで、カイトの支給品は彼の固定装備で占められていた為、実質ユイに支給されたアイテムを確認して分配しただけなのだが。

 ユイに支給されたアイテムは【五四式・黒星】【空気撃ち/三の太刀】【セグメント3】の三つ。
 一つ目の【五四式・黒星】は念のためにと白野が装備する事になった。
 彼はこの拳銃を持った時、重いな、と呟いたが、ユイにはなぜか、その言葉の方が重く感じられた。
 二つ目の【空気撃ち/三の太刀】はそのままユイが、護身用として装備する事になった。
 この礼装のスキル〈魔力放出〉ならばピクシーのままでも使えるし、彼女が逃げる程度の時間も稼げると判断しての事だ。
 三つ目の【セグメント3】はどうやらカイトに関わる物らしかった。
 しかしカイトは自分が所有するよりも、ユイに持っていて欲しいとの事なので、これもユイが所有する事になった。


 そうして全ての準備が整った時、ユイは一人、窓の外を眺めていた。
 この世界に来てから、彼女が経験した事は全てが鮮烈だった。
 見える世界も。聞こえる音も。香る匂いも。触れる温もりも。
 もっともっと見てみたいと思えるほどに、美しく思えた。

 とりわけ、手を繋いだ時の感触はよかった。
 握った手の温度や、微かに感じる鼓動。
 相手と“繋がっている”という感覚が、確かな形でそこにあった。

 けどアレは……『痛み』という感覚だけは、駄目だった。
 痛い思いは、二度としたくない。
 だから怖い思いも、二度としたくない。
 あの『痛み』を思い出すだけで、今にも壊れてしまいそうだった。
 このままこの部屋に閉じこもって、全てが過ぎ去るのを待っていたかった。

 そう思いながらもユイが白野に協力すると決めたのは、『痛み(ソレ)』こそが“生きる”という事だと、知っていたからだ。
 彼女の父――キリトは、『痛み』を耐え抜いて立ち上がり、オベイロンを倒した。
 彼女の母――アスナは、『恐怖』を踏み越えて始まりの街を飛び出した。
 二人は現実で――『痛み』に満ちた世界で、ずっと生きてきたのだ。
 だから自分も、そうありたいと思った。父と母の娘だと、胸を張っていたかった。

「ん……?」
「…………」
 不意にユイの頭が、ぎこちなく撫でられた。
 顔を上げてみると、カイトがジッとユイを見ていた。
 心配してくれたのだろうかと、何となくユイは思った。

 彼の言葉が解るのは、私と彼が同じAIだからだろうか。
 同じNPCでも、白野には彼の言葉がノイズのように聞こえるらしい。
 私やカイトは、既存のコンピュータで作られた“トップダウン型”のAIだ。
 だが白野はいわば、人工《フラクトライト》と同じような、人間を基にした“ボトムアップ型”のAIだと思われる。
 つまり“人間”か“コンピュータ”、そのどちらに近いかが、彼の言葉が理解できるかどうかの境界線なのだろう。

 セグメントを預けられた際に訊いたところカイトの目的は、アウラのセグメントを護り、主の元へ帰る事らしい。
 ならばセグメントは彼が持っていたらいいと思ったのだが、彼曰く力不足だからだそうだ。
 というのも、彼の本来の世界――つまりバックアップの完璧な状態で、既に何度も敗北した経験があった。
 そうなると、何のバックアップも受けられないこの世界では、自身の独力だけでは確実性に欠ける。
 そこで代わりに、白野に護られる私にセグメントを託し、彼のサポートを受けながら一緒に護ろうという事らしい。

 なんともNPCらしい合理性というか、らしからぬ自主性というか。
 彼のプログラムが不完全でなければ、私なんかよりもっと人間らしくなっていたかもしれない。
 そうなると、彼を生み出した究極AIと呼ばれるアウラは、一体どれほどの存在なのだろうか。

20CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:24:17 ID:ToYDvbE60


  ――ユイ、カイト。そろそろ行こう。

 白野がそう言って出発を促す。
 既に霊体化しているのか、彼女のサーヴァントは見えない。

「はい、今行きます」
「……………………」

 白野の制服の胸ポケットへと入りこんで、頭だけを出す。
 父とは違う居心地だが、悪くはない。
 カイトも白野の傍に立ち、いつでも追従できる。
 それを確認すると、白野は一つ頷いてホテルを後にした。


 ――『死の恐怖』は、未だ拭えていない。
 けれど、だからこそその『恐怖』に立ち向かうのだ。
 かつて父と母がそうしたように。自分もそう在れるように。
 ……そう。この街が自分にとっての“始まりの街”なのだ――――


【F-9/アメリカエリア ホテル周辺/1日目・深夜】

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(中)
[サーヴァント(Sa)]:健康、魔力消費(小)
[サーヴァント(Ar)]:健康、魔力消費(小)
[サーヴァント(Ca)]:ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]:五四式・黒星@ソードアート・オンライン、女子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:男子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:月海原学園に向かい、遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:ありす達に気を付ける。
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※アバターは装備している学生服によって決定します。
 どちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと三分程度です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:ダメージ(小)、MP70/70、『痛み』に対する恐怖/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。

【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:ダメージ(中)
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護るり、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。

21CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:24:47 ID:ToYDvbE60

【男子/女子学生服@Fate/EXTRA】
月海原学園指定の標準学生服。
このロワで岸波白野が装備した場合、男子用か女子用かでアバターの性別が決定される。
・boost_mp(10); :装備者のMPが10上昇する。

【空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA】
フィールドスキル・魔力放出Aが使用可能となる礼装。
長距離に魔力の弾丸を放ち、命中した相手を一手分スタンさせられる。
・boost_mp(70);:MPが70上昇
・release_mgi(a);:魔力攻撃でスタン+長射程

【五四式・黒星@ソードアート・オンライン】
正式名称トカレフTT-33。
《死銃》がGGOのプレイヤーを、現実においても殺害する際に使用した拳銃。
実際にはこの銃に現実のプレイヤーを殺害する力はなく、《死銃》の協力者が現実で銃撃に合わせて直接殺害していた。

【虚空ノ双牙@.hack//G.U.】
蒼炎のカイトが使用する、禍々しい三股の刃の双剣。
・タイイング:通常攻撃ヒット時に、(15%の確率で)対象のHPを強制的に半減させる。

【虚空ノ修羅鎧@.hack//G.U.】
三蒼騎士専用の軽鎧。
・物理攻撃のダメージを25%軽減する。
・魔法攻撃のダメージを10%軽減する。

【虚空ノ凶眼@.hack//G.U.】
三蒼騎士専用の装飾品。
・武芸ノ妙技:アーツの消費SPが25%軽減される。

【セグメント3@.hack//】
分裂したアウラの構造体の一部。
三つ全部集めると……?

22 ◆NZZhM9gmig:2013/01/20(日) 13:27:40 ID:ToYDvbE60
以上で仮投下を終了します。

白野の性別やサーヴァントの三重契約、その他にも不安な点があるので、
何か意見や修正した方がいい点などがありましたら、お願いします。

23名無しさん:2013/01/20(日) 16:33:31 ID:tI08BNzE0
サーヴァント三騎がかりなら規格外クラス以外ボコボコにできちゃうんですが大丈夫なんですかね?(小並
)

24名無しさん:2013/01/20(日) 17:09:21 ID:ThY2Jkgo0
そこらへんは別に大丈夫じゃない?
消耗激しそうだし宝具とか使えばすぐ戦闘不能だろうし
何にせよ仮投下乙です、自分は問題ないと思います

25 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:02:29 ID:R7afigR.0
ロール・ピンク・アドミラルで予約した者です
完成しましたが、少し気になることがあるので先にこちらに投下します

26 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:03:07 ID:R7afigR.0
 会場のどこかの森の中。
 ヘルメットを被り、サングラスをかけた二頭身のアバターがそこにいた。

「どうなってんのよ、これ?」

 アバターこと、野球チーム『デンノーズ』の遊撃手、ピンクが辺りを見回す。
 自分の体がオンラインゲームのアバターになっている事や、周りが全く見覚えのない森の中である事に戸惑いを隠せないようだ。
 あのゲームはパソコンのモニターを見ながらアバターを操作するものだったはずだ。こうやって自分がアバターの中に入るというものではありえない。
 おまけに周りからピンク自身が持つ常人の数倍もの感覚が絶えず情報を拾っている。どうやら今の状態でもリアルでの超感覚は健在のようだ。

(ひょっとして、これがハッピースタジアムの本選? 野球ゲームのはずじゃなかったの?)

 最初に思い浮かんだ可能性は、先日予選を突破したオンラインの野球ゲーム『ハッピースタジアム』の本選というもの。
 ツナミの技術力なら、このようにアバターの中にプレイヤーが入るというような状態もできるかもしれない。
 最初に出て来たあの侍みたいな格好のアバターも、デウエスと同じようなものと思えば納得できなくはない。
 だが、ハッピースタジアムは野球ゲームだ。間違ってもこういう殺し合いなどではないし、何より本選開始はまだ先だ。

(でもこういう事ができそうなのってツナミぐらいしかいないし……ダメね、分かんない)

 少しだけ考えるが結局ツナミが怪しいという事くらいしか思いつかず、考えを早々に放棄する。
 ダークスピアからの警告の穴を見つけた時といい、自分の弱点を見抜いた時といい、こういう頭脳労働はジローの領分であって自分は実際に動く方が向いている。
 ……しかし、もし本当にツナミが関わっているのなら妨害はまずいんじゃないだろうか。
 ダークスピアから散々釘を刺されている状態で、その上こんな大きな行動を邪魔したら今度こそどんな目に遭わせられるか分かったものじゃない。
 だが、それでもヒーローがこんな殺し合いを見逃していいとも思えない。一体どうするべきなのか。

(そういえば、この体はあたしの体なのよね)

 ふと、ピンクの脳裏にある考えが浮かぶ。
 今の自分の体はツナミネット用のアバターだが、リアルの自分はヒーローの一人、桃井百花ことピンクなのだ。
 そしてピンクとしての能力である超感覚は今の体でも使えた。ならばもしかしたら。

「変・身!」

 もしかしたら、変身できるのではないか。
 そう思って、リアルと同じように変身しようとするピンク……が、数秒経っても何も変わらない。

27 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:03:30 ID:R7afigR.0
「って、やっぱりできるわけないか」

 どうやらここでは、超感覚は使えてもヒーローへの変身は不可能らしい。
 考えてみれば超感覚は常日頃、それこそゲームでも使っていたし、変身していなくても使えるから今の体で使えてもおかしくはない。
 が、体が違う以上変身できないのは当然と言えば当然である。この分では透視能力の方も使えないと見ていいだろう。
 それに超感覚だって人間の脳の許容範囲を軽く超える情報量を一気に取り扱う以上、今の体ではリアル同様に使えるとは思わない方がいいかもしれない。

「――――あな――――ビじゃ――――」
「――――ゲーム――――ツナミ――――」

「話し声、ってことは近くに誰かいるみたいね」

 そうしていると、北の方から話し声が聞こえた。
 普段の感覚から考えると、少し遠いが視認は可能な程度の距離にいる。
 片方は聞き覚えのない女の声だったが、もう一人は少し前に試合をしたチームのリーダー……確かアドミラルとか言ったか。
 マナーは褒められたものではなかったが、ゲーマーとしての腕は確かだった。
 話の内容から察するにアドミラルは乗っていないようだし、女の方も同様に乗ってはいなさそうだ。
 ここが森の中である以上、こっちは向こうの二人には見つかっていないはず。乗ってないならもしかしたら協力できるかもしれない。
 そう考えて二人に接触するために声の方を見て――――

「――――え?」


     ◆


 時間はほんの少しだけさかのぼる。

「え? あなたはネットナビじゃないの?」
「これはゲーム用のアバターで、ちゃんと操作してる人間はいるんだ。
 それに、ネットナビなんて物は聞いた事も無いぞ。ツナミの新製品か何かか?」

 森の中、ピンク色のネットナビ・ロールと、眼鏡をかけ、大斧(おそらく支給品だろう)を持った二頭身のアバター・アドミラルが話をしている。
 この会場で初めて出会った人物だが、殺し合いには乗っていないとの事なので行動を共にしているのだ。
 今の話題はネットナビについて。名前からして何かのオンラインゲームのキャラとは思えないし、ツナミの新製品か何かだろうか。

「信じられない、今の世の中でネットナビがいない人がいるなんて……
 それにツナミなんて会社も聞いた事ないし、一体どういうこと?」

 そう言うロールも、ネットナビの存在を知らないアドミラルを不思議に思う。
 何しろ何十年も前に開発され、今なおネットワーク社会を構成する重要な要素だ。知らない方がおかしい。
 それに、ツナミという企業の存在も、今聞かされるまで知らなかった。
 真っ先に名前が出るという事は、少なくともネットワーク分野ではかなり大きい会社なのだろうが、それならN1グランプリのスポンサーもやっているI・P・C社の名前が出るだろう。
 全く知らない情報を知っていたり、知っていて当然のことを知らないアドミラルは一体何者なのか。

28 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:03:56 ID:R7afigR.0
「ところで、あんたにはどんなアイテムが配られたんだ?」

 そう考えていると、アドミラルが急に話題を変えてきた。
 あまりにも急な話題転換だったが、よく考えてみればまだロールは支給品を見ていない。
 少しおかしいと思うが、道具の確認は確かにした方がよさそうだ。

「え、アイテム? そういえば、まだ見てなかったわね。
 ちょっと待ってて、今見てみるから」

 そう考えたロールは、そう言って視界からアドミラルを外し、メニューを操作してアイテム欄を開く。
 支給されたのは最初の話に出ていたテキストデータ以外だと、一挺の銃とマガジンが5つ。他にも何かあるようだ。
 説明を見ると、『SG550』と呼ばれる現実に存在するアサルトライフルらしい。マガジンはこの銃に対応したものらしい。
 ネットナビである自分は見た事が無いが、アドミラルが言ったようなどこかのゲームの中から持ってきたものなのだろう。
 そうしてSG550の説明画面を閉じ、別の支給品の説明を見ようとして――――

29 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:04:20 ID:R7afigR.0





















 ざしゅ。

30 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:04:41 ID:R7afigR.0
「――――え?」

 音とともに感じたのは痛み。
 より正確に言えば、肩口から何か重く鋭いもので叩き斬られたような痛みだ。
 予想もしなかった攻撃に思わず膝をつき、その場に倒れ込むロール。
 痛みでふらつく視界を何とか前に向けると、アドミラルが手に持っていた大斧をロールの体から引き抜いている。
 何故アドミラルが斧を? まさか今のはアドミラルがやったのか? 何故? どうして?
 苦痛と疑問が頭を駆け巡る中、アドミラルが口を開く。

「チッ、一回斬った程度じゃ死なないか」

 ……つまりは、そういう事。「殺し合いに乗っていない」というのは嘘だった。
 アドミラルは殺し合いに乗っていて、ロールを殺す為に今まで乗っていないフリをしていただけ。
 それが真相だった。

「アドミラル、どうして……どうしてこんな事……!」

 ざしゅ。
 ロールが問い質そうとするも、アドミラルはそれを無視して再び一撃。
 大斧がロールの体を叩き潰し、引き裂き、痛みを与えながら、HPをガリガリと削っていく。
 戦闘タイプではないロールにとって、受けたこともないような痛みが身を裂き、抵抗を封じる。

「痛い……痛いよ……」

 ざしゅ。
 苦しむ声にも耳を傾けず、一撃。
 幸か不幸か、この斧は元々存在していたゲームでは強力な部類に入る武器だ。苦しむ時間はそう長くはならないだろう。
 ……もっとも、これが弱い武器ならブルースをも上回る持ち前のスピードを使って逃げるくらいは出来たのかもしれないが。
 あるいは、もう少しだけ未来のロールならメットールを召喚して抵抗するという手も使えただろう。
 が、何を言おうがもう遅い。もはや自力で動くことすらかなわないロールには、今やどちらも不可能になってしまったのだから。
 HPはもう残り僅か。あと一撃受けたらそのままHPが尽き、デリートされるのは間違いない。
 そうして、アドミラルが再び斧を振り上げ――――

「い、いや……助けて、ロ――――」

 ――――ざしゅ。


【ロール@ロックマンエグゼ3 Delete】

31 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:05:04 ID:R7afigR.0
     ◆


「まずは一人ってとこか」

 そう呟きながら、アドミラルがロールの支給品を回収する。
 真っ先にSG550とマガジンを回収し、装備を自分に支給された両手斧『人でなし』からSG550へと変更。
 FPSやRTSが本業であり、斧以外の武器が支給されなかった彼にとって、こうも早く銃を入手できたのは僥倖だと言うべきだろうか。

 彼がリーダーを務めるチーム・ジコーンズ。
 かつて栄光を誇った強豪チームだったが、近年は大会優勝も出来ずスポンサーからも見放される落ち目のプロゲーマーチームである。
 後がない今、彼らは再起を賭け『呪いのゲーム』と噂されるハッピースタジアムの大会へと参加し……決勝で敗退して消えたはずだった。
 それが今、アドミラルだけがこうやって別のゲームに参加している。
 決勝の相手であるデンノーズが『顔のない女』との試合に勝ったのか、それとも何の関係もない第三者によるものか。
 いずれにせよ、こうして別のゲームに参加している。それが現状だった。

 ドロップアイテムを全て回収し、次に行く場所を考える。
 周りを見ると、すぐ近くに平原が見える。森の中と言っても端の辺りだったという事なのだろう。
 平原に出て少し右を見ると、遠くからでも分かる程の巨大な建物が見えた。
 平原があり、すぐ後ろに森があり、巨大な建物が見える場所となるとD-6くらいしか無い。ならばあの建物は大聖堂か。
 森の中を歩き回るのも非効率的だし、人が集まるであろう建物を目指すのもいいかもしれない。
 考えをまとめると、さっきまでロールのデータ残骸があった場所を振り返り、もう聞く相手がいない答えを告げる。

「さっき『どうして』って聞いたよな? せっかくだから答えてやるよ。
 俺はプロのゲーマーだ。だからどんなゲームだって、誰よりも上手くできるんだ。
 その俺が、ゲームで負けるわけにはいかないだろ?」

 アドミラルには、一つ信じているものがある。
 それは、『プロである以上、どんなゲームでも誰より上手くプレイできる』という矜持だ。
 遊びでゲームをやってる連中とは違う。来る日も来る日も練習し、頭の中をゲームだらけにしている自分達にとって、ゲームとは人生そのもの。
 だからこそ敗北は許されない。人生全てをかけている以上、誰よりも上手くて当然なのだ。
 大会で優勝できずにくすぶっていても、それこそ専門外の野球ゲームとはいえデンノーズに二度敗れた今ですら、この矜持は捨てないし捨てる気もない。
 だからこそ彼はこの殺し合いに乗った。デス『ゲーム』を誰より上手くプレイし、クリアするために。
 敗北が死に直結すると言っても、このゲームに参加する前までやっていたゲームだって似たようなものだ。今更躊躇など無い。
 ツナミの存在を知らない相手がいたり、ネットナビという未知の存在がいるようだが、そんな事は関係ない。ゲームである以上、この手でクリアするのみだ。

「……そう言えば、最初のルール説明の時にあいつがいたな」

 足を進めようとした時に、最初のルール説明の場を思い出す。
 アドミラルにとっての宿敵であるデンノーズのキャプテン、ジロー。
 最初のルール説明の時、彼がそこにいたのが見えた。
 本業ではない野球ゲームとはいえ、二度もジコーンズを、自分を破った……ライバルと認めた男。
 あの男がここにいるのなら、このゲームはリベンジの場にちょうどいい。

「待ってろよ、今度のゲームは絶対に俺が勝ってやる!」

 ――――今度こそ、勝つ。
 目にライバルへの闘志を漲らせ、大聖堂の方へと歩き出した。


【D-6/森/1日目・深夜】

【アドミラル@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康
[装備]:SG550(残弾30/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×5@現実
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品1〜2、人でなし@.hack//
[思考]
基本:この『ゲーム』をクリアする
0:とりあえず大聖堂に向かう
1:ゲームクリアのため、最後の一人になるまで生き残る
2:ジローへのリベンジを果たす
[備考]
※参戦時期はデウエスに消された直後です
※ネットナビの存在を知りました
※ツナミの存在を知らない相手がいることを疑問視しています

32 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:05:30 ID:R7afigR.0
     ◆


 全てが終わった後、惨劇の現場からすぐ南のE-6エリア。
 そこではピンクが必死になって走っていた。
 その顔は恐怖に歪んでおり、知らない人物が見たら到底ヒーローには見えないだろう。

(逃げなきゃ、あいつから離れなきゃ!)

 さっきは接触しようかとも考えていたが、あんな惨劇が起こった後ではそんな気など完全に消え失せた。
 何せ見知らぬアバターが惨殺される様を、斧でズタズタに切り刻まれる音を、常人より遥かに鋭い五感でしっかりと捉えてしまっていたのだから。
 人間態の時でも銃撃を痛い程度で済み、ヒーローの姿ならロケット弾にも耐え切り、戦闘用サイボーグすら倒せるリアルの肉体ならまだここまで恐れずに済んだだろう。むしろ退治することもできた。
 だが、この体は野球ゲーム用のアバターだ。RPGの戦闘程度ならこなせるが、それでもリアルの肉体よりずっと弱い。
 もう少し後の……例えばダークスピアとの決闘が終わった頃ならまだしも、今のピンクにこんな状態で戦えるほどの根性は無い。
 とにかく逃げなければ。ピンクの思考はその一言だけで埋め尽くされていた。


【E-6/森/1日目・深夜】
【ピンク@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:恐怖、半泣き
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:死にたくない
1:アドミラルから逃げる
[備考]
※予選三回戦後〜本選開始までの間からの参加です。また、リアル側は合体習得〜ダークスピア戦直前までの間です
※この殺し合いの裏にツナミがいるのではと考えています
※超感覚及び未来予測は使用可能ですが、何らかの制限がかかっていると思われます
※ヒーローへの変身及び透視はできません
※ロールとアドミラルの会話を聞きました

支給品解説
【SG550@ソードアート・オンライン】
スイス・シグ社のアサルトライフル。
300m先の的に連射した場合、7㎝×7㎝以内に集弾できると言われる程の高い命中精度を誇る。
劇中ではGGOでダインが使用していた。

【人でなし@.hack//】
.hack//絶対包囲に登場する両手斧。攻撃力30。
装備すると以下のスキルが使用可能になる。
アクセルペイン:両手斧スキル。物理範囲攻撃。
アントルネード:両手斧スキル。闇属性の物理範囲攻撃。
ギアニランページ:両手斧スキル。闇属性の物理範囲攻撃。アントルネードより攻撃力が高い

33 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:09:13 ID:R7afigR.0
投下終了
ロールちゃん、すいませんでしたorz

では、気になる点を2つ
1:アドミラルのキャラ。こういうので合ってましたっけ?
2:ピンクの能力。超感覚だけ使えるようにしましたが、リアルの能力使用は可能にしてよかったんでしょうか?

では、回答願います
あ、タイトルは通しになったら付けます

34名無しさん:2013/01/20(日) 22:36:46 ID:vV981NvQ0
1.アドミラルのキャラ
合ってる、と思う。

2:ピンクの能力
リアルの能力持ち込めないのは非フルダイブ型の宿命だから仕方ないかと

35 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:00:12 ID:4F9s92/s0
修正版投下します

36逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:00:58 ID:4F9s92/s0
 逃げる。
 ランサーをほとんど完封同前に葬った化け物から逃げる。
 逃げるはアウラのセグメントを持つ魔術師の少女、遠坂凛。
 対して追うはモルガナの生み出した禍々しき波の一相、スケィス。

「ったく、しつこいわね!」

 悪態をつきながらも逃げる凛。後方からはスケィスがかなりのスピードで接近してくる。
 ランサーが足止めをしていたからまだ距離があるとはいえ、このままではいつ追いつかれても不思議ではない。
 彼女が目指している逃げ場は日本エリア。確か地図では近くにあった。
 地図を見る限りでは学校が二軒にショップが一つ。おそらく日本の町のような場所なのだろう。
 それならば、今いるような何もない平原よりはまだ逃げやすいはずだ。

「このっ!」

 追ってくるスケィスへとcall-gandorを放って足止めを試みる。
 先程ランサーと共に戦っていた時に使った時にも全く効いていなかったのだから、ダメージがあるとは思っていない。
 だが、ダメージにはならないにしても多少の足止めにはなるだろう――――と思っていた。
 確かにスケィスは止まった。だがそれも一瞬の事。
 一瞬だけ止まった後、何事も無かったかのように再び動き始めた。これでは足止めになんかなりはしない。

(ダメージが通らないのは分かってたけど、足止めにすらならないって言うの……!?)

 その事実に戦慄する。
 何せダメージは通らない。足止めも無駄。おまけに足も速い。ほぼ詰んだも同然の状態だと再認識したからだ。

 が、事実は違う。
 ほんの僅かではあるが、確かにスケィスにダメージは通っているのだ。
 先程までのスケィスならば、一切のダメージが通らなかった。それは事実だ。
 だが、今のスケィスの状態はプロテクトブレイク。この舞台ならデータドレインを使わずともダメージが通る。
 ランサーが自分の命すら捨ててまで足止めをした、その成果がこの状態だ。
 ……今凛が持っている攻撃手段ではどの道倒すことなど不可能であり、ほぼ詰んでいる事に変わりはないのだが。

37逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:01:35 ID:4F9s92/s0
「痛っ!?」

 そして今、「ほぼ詰んだ」状態から「ほぼ」の字が消えた。
 何もないはずの場所にも関わらず、何かに激突し転倒する凛。
 慌てて正面を見ても、ただの平原以外に何も無い……が、激突した以上何かがあるのは確か。
 目には見えないが、何か壁のようなものがあるのは確実だ。

「嘘、この私がこんなくだらないミスをするなんて……」

 見えない壁があると認識した瞬間、自分のした失敗を悟り愕然とする。
 目の前には平原が広がっているが、その方向には見えない壁。
 こうなっているエリアがあるとすれば、地図に何も表記されていなかったエリアだけだ。
 つまりは、走る方向を間違えてしまったという事に他ならない。
 長年テロリストとして活動してきた普段の凛ならば決してしないような失敗。
 だが、先程の死の恐怖や、相棒と再会してすぐに失った事。そして何事もなかったかのように追ってくるスケィス。
 それらの要因が凛を少なからず動揺させた結果がこれだ。
 今すぐ方向を変えて走ったとしても、今のタイムロスのせいで間違いなく追いつかれる。
 絶望と諦めが凛の心身を支配し始め――――

(……まだよ、こんな所で死ねないわ!)

 ――――その絶望を振り払う。
 自分の足で逃げ切れないのなら、支給品を使えばいい。
 それを可能とする道具は、先程の装備確認で既に見付けてある。
 急いでメニューを開き、アイテム欄からその道具を出して使おうとする凛。
 が、それを手に持った瞬間凛の体が宙へと浮かび上がった。

「しまった――――!」

 浮かび上がる瞬間、自分が何をされたかを悟った。
 ランサーに致命傷を与えた、あの攻撃を自分にするつもりなのだと。
 現に凛の後ろには、先程までスケィスが持っていたケルト十字の杖が浮かんでいた。

38逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:02:08 ID:4F9s92/s0
 ――――宙に浮かぶ凛の体が、杖に磔にされる。

 ――――凛が自分の手を、正確には持った道具を見る。

 ――――スケィスが手を掲げる。

 ――――凛が支給品に魔力を込める。

 ――――スケィスの手の周りに、腕輪のようなポリゴンが展開される。

 ――――凛の手の中にある支給品が光りだす。

 ――――スケィスの手からノイズが走り、放たれる。

 ――――直撃する寸前、凛の姿が掻き消える。

 ――――ノイズが杖しか無い空間を駆け抜ける。

 ――――凛の姿はどこにも無い。

 後に残ったのはスケィス一体。今のデータドレインで倒したはずの凛の姿はどこにも無い。
 今まで追っていたアウラのセグメントを持つ者を見失い、その場で止まる。
 そのうち、見失ったものは仕方ないとでも考えたのだろうか。
 いなくなった凛……いや、見失ったセグメント1を追う事を一時中断し、改めてセグメントの捜索を始めた。


【C-2/ファンタジーエリア/一日目・黎明】

【スケィス@.hack//】
[ステータス]:ダメージ(微)、プロテクトブレイク(一定時間で回復)
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:アウラ(セグメント)のデータの破壊
2:腕輪の力を持つPC(カイト)の破壊
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊
4:自分の目的を邪魔する者は排除

39逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:02:44 ID:4F9s92/s0


 ◆


 時間は少しだけ戻り、会場のどこかの建物。
 周囲の壁の張り紙やテーブル、カウンターがある所を見るに、どこかの食堂か売店といったところか。
 尤もカウンターには誰もいないため、少なくとも今は利用できないだろうが。

「デウエスに勝ったと思ったら殺し合いをやらされて、そして今度はどこかの食堂か? 一体どうなってるんだ?」

 その食堂にいた二頭身の人物……アバター名『ジロー』が周囲を見回しながら考える。
 確かここに来る前の最後の記憶は、デウエスとの最後の試合に打ち勝った瞬間。
 最初の場所にいたあの侍はサーバーがどうこう言っていたから、多分ここはネットの中なのだろう。
 だとしたら、全部終わったと思った瞬間に連れ去られたという事か。終わったと思ったらまたも命の危機か。

「そうだ、荷物を見ておかないと」

 溢れ出す徒労感を抑え、メニューを開く。
 ツナミの重役と思われる銀髪の女。彼女からの逃走の際に銃弾を使い果たした経験から、装備の大切さは身に染みて分かっている。
 支給された荷物を調べてみると、支給された荷物の中にDG-0という名の二挺拳銃があった。
 ……いや、拳銃と呼ぶにはかなりデザインが奇抜だし、何より銃身の下からエネルギーでできたような刃が出ているから拳銃と呼べないかもしれないが。
 現実でも生身で巨大フナムシや自立移動する無数の蜘蛛型爆弾、果てはレベル4生物兵器すら拳銃一挺(うち二回は実銃ではないが)で相手取ったジローなら、少しは扱えるかもしれない。

「……ただのフリーターの俺が、何でこう何度も命の危機を味わう羽目になってるんだ?」

 嫌な考えが脳裏をよぎるが、無視する事にした。
 とにかく、すぐにDG-0を装備するが、左手側の銃は持て余し気味だ。
 さすがに二挺拳銃は経験がないのもあるし、何より人を殺したくはない。使うとすれば自衛用くらいだろう。

(おいおい、何甘い事言ってんだよ)
「……誰かと思ったらお前か」

 そう考えていると、何者かがジローの考えを茶化す。
 それは、呪いのゲームの事件に巻き込まれた頃からジローに語りかけてきていた正体不明の何か。
 かつてそいつは、「俺は『俺』だ」と名乗っていた。とりあえずは便宜上『俺』と呼称する。

(死にたくないんだろ? だったらどうするかは決まってるよな?)
「どういう意味だ」

 聞き返すジローだが、何を言い出すかなど既に分かっていた。
 こうやって『俺』が話しかけてくる時は、必ず弱い考えや悪い考えを吹き込みに来る。
 例を挙げるとすれば、「この際逃げてしまえ」「どうせ何をやっても無駄」など。
 漫画などに出て来る心の中の悪魔。『俺』の行動を何かに例えるとすればあれだ。
 ならば今回もまた、ろくでもないアドバイスをしに来たのだろう。

40逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:03:19 ID:4F9s92/s0
(この殺し合い、乗っちまえよ。
 どうせ生きて帰っても無職のままなんだし、優勝してたっぷり賞品貰って帰ろうぜ)
「ふざけるな! 俺は絶対に、殺し合いなんかしないぞ!」

 案の定である。
 ここは殺し合いの場で、殺さなければウイルスや他の参加者の手で殺される事になって、その上豪華な優勝賞品まである。
 故に死にたくないのなら、もしくは賞品が欲しいならどうしても乗る必要があるのは明白だ。
 だが、人殺しをする気などジローには無い。声を荒げて『俺』へと反論するが――――

(おいおい、殺さないとお前が死ぬんだぞ?
 それに、呪いのゲームで何十人も消してきたんだ。今更何人殺しても大して変わらないさ)

 ――――そう言われて言葉に詰まる。
 デウエスを倒せば全て元に戻るとはいえ、それでも呪いのゲームでかなりの数……3チーム分なら30人弱か。それだけの人を消してきたことには変わりない。
 なら、呪いのゲームと同じように参加者を消す……殺す方向で動いてもいいんじゃないか?

「……それでも俺は、殺し合いになんか乗らない。乗ってなんかやるもんか!」

 その考えを一蹴する。
 かつて先輩と友人が消えた時や、渦木に殺人の疑いをかけられていた時ならばもしかしたら乗っていたかもしれない。
 だが、デウエスとの戦いを乗り切った今のジローなら、『俺』の口車に乗るような事はしない。

(ハハハ……人がせっかく親切にアドバイスしてやってるのに。
 ツナミの人間に爆破されかけた時みたいに、また死ぬような目に遭ってから後悔しても遅いぞ)

 そう言って、ジローを嘲笑しながら『俺』が消える。
 消えた『俺』の言葉が頭に残ってはいるが、それでもきっと何とかなるはずだ。

「デウエスだって倒せたんだ、今回だってきっと何とかなる」

 そう言ってDG-0をテーブルに置き、荷物の確認を再開した。


 ◆


 それからどれだけ経っただろうか。一人の青年が階段を上って来る。
 その姿は野球の白い野球のユニフォームを着ており、部活帰りの生徒にも見えなくはない。
 ……ただし、その両手に持っているブレード付き二挺拳銃が無ければの話だが。

41逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:04:00 ID:4F9s92/s0
「デウエスが関わってる訳でもないのに、ネットの中で現実の体を使う事になるなんてな」

 青年が呟く。その声は確かに先程まで食堂らしき場所にいたジローの声だ。
 先程荷物を調べていた時に、【使用アバターの変更】という項目を見つけ、調べてみた結果がこれだ。
 その姿は現実世界の彼と同じもの。ツナミネットのアバター『ジロー』ではなく、それを操作するプレイヤー『十坂二郎』の姿だった。

 ジローは知らない事だが、この殺し合いの会場では実際に使用したアバターが複数存在するのなら、使用するアバターを変更する事が可能になっている。
 そう考えれば、デウエスとの最終決戦には現実世界の姿で試合に臨んでいたのだから「複数のアバターを使った」とも取れる。
 故にジローがアバターを切り替えられるのも当然だ。

 二頭身のアバターのままでいるより、こちらの方が動きやすいのは確かなので、アバターはこのままにしておく。
 辺りを見ると、目の前には学校によくある昇降口が。どうやら地図にあった日本エリアの学校のどちらからしい。
 ならばさっきまでいた売店兼食堂は、この学校の購買部なのだろう。ついでに昇降口がある以上、ここが一階のようだ。

(ここは学校だったのか。何かあるかもしれないし、調べてみよう)

 そう考え、学校の探索を始める。
 幸か不幸かこの学校、少なくとも足音が聞こえる範囲には乗った人間はいないようだ。
 もし誰かいるのなら、結構大きな声だった『俺』とのやりとりが聞こえているはず。
 それにもかかわらず誰も近付いて来ない以上、聞こえる位置に人がいないか、いるとしても乗ってはいまい。
 とりあえず手近にあった教室に足を踏み入れ……ようとした瞬間、異変が起きた。
 一瞬前まで無かった光が、ジローを後ろから照らしだした。

「なんだ!?」

 そう言い終えるが早いか、後ろに現れた光が消える。
 何が起きたのかと思い後ろを振り向くと、先程までいなかった少女……遠坂凛の姿があった。

 何故彼女がここにいるのか。その答えは先程スケィスから逃げる際に使った道具にある。
 それは、彼女にとっても馴染み深い道具。SE.RA.PHで行われた聖杯戦争で使われていたものだった。
 だからこそ、説明も見ずにすぐさま使う事が出来たのだ。
 消耗品の上に一つしか支給されなかったが、使わなければやられていたのだから仕方が無い。
 道具の名はリターンクリスタル。
 月海原学園一階へと帰還するためのアイテムである。

42逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:04:31 ID:4F9s92/s0
【B-3/日本エリア・月海原学園一階/一日目・黎明】

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、現実世界の姿
[装備]:DG-0@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:え、誰?
2:『俺』が鬱陶しい
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。

【遠坂凛@Fate/EXTRA】
[ステータス]:疲労(小)、サーヴァント消失
[装備]なし
[アイテム]セグメント1@.hack//、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝を狙うかは一先ず保留
1:助かった……?
[備考]
※凛ルート終了後からの参戦です。
※コードキャスト「call-gandor」は礼装なしでも使えます。他のものも使えるかは後の書き手にお任せします。
※リターンクリスタル@Fate/EXTRAは消費されました。

【全体備考】
※何もないエリアは見えない壁で仕切られています。
※購買部にNPCがいないため、購買部での買い物はできません。


支給品紹介
【DG-0@.hack//G.U.】
ハセヲXthフォームの使用する双銃。銃身の下にあるブレード部分での近接戦闘も可能。
劇中ではドッペルゲンガー戦のサブイベントをクリアすると手に入る。
ダブルトリガーを使用可能にする「ダブルトリガー」と、HPが減る程破壊力を増す「復讐の弾丸」の二つのアビリティを持つ。

【リターンクリスタル@Fate/EXTRA】
使用すると月海原学園一階にワープする。劇中ではアリーナからの脱出に使われていた。消耗品。
劇中では月海原学園購買部で購入可能な他、アリーナで拾う、エネミー戦で手に入れるなどの方法で入手可能。
本ロワでは主な入手経路だった購買部が使えないため、補充は絶望的である。

43 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 21:06:12 ID:4F9s92/s0
投下終了。修正点は以下の通りです

・購買部の状態の追加
・それに伴うジローのスタート地点の変更
・DG-0の扱い
・ついでにちょっとした加筆

通るかどうか、判定お願いします

44 ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:46:09 ID:FN0ljzxk0
修正版投下します。
今のところ前半部分の修正は誤字のみなので、一先ず後半のみ投下します

45それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:47:40 ID:FN0ljzxk0








現れたのは炎と、そしてクラインの怒号だった。
そこは闇に覆われた空間。黒を基調としたパネルで構成された大地に、光源一つない空が掲げられる。
だが、揺光の目の前は暗さとは無縁だった。それとは対極に眩しさがあった。
炸裂する光。そしてそれは炎が迫っていることを意味していた。

「うわぁっと、何、これ!」
転移早々出くわした危険な場面に、揺光は驚きの声を上げ、身をかがめ炎を避けた。
元紅魔宮チャンピオンの名は伊達ではない。ブランクはあるが、アリーナでトッププレイヤーであった彼女だ。鍛え上げた反射神経が功を奏し、回避することに成功した。
そのまま走り、クラインに近づく。

「待ち伏せ、やっぱり居たね」
「ああ……、でも、ありゃあ待ち伏せってより」
クラインは目の前に迫る脅威へと目を向けた。
パネルに置かれた青く光る円状の紋様(このエリアのワープゲート?)を守るようにそいつは居た。
その容姿がまた異様だった。先ず揺光やクラインのように人間の姿をしていない。
メカニカルな意匠をしたボディを、バネのような四足でパネルを踏みしめ支えている。その身は赤く燃え盛る炎を身に纏っていた。
たてがみのように炎を揺らす頭部からは、時節「ヴォォォォ」と獣のような唸り声を上がり、そこに理性があるようには見えなかった。

「ボスだな。門を守る為に配置されたボスモンスター」
「全くだね。この調子で、本当にこのエリアに何か隠されてるといいんだけど――っと」
炎の敵は「ヴォォォォォォォォ」と更なる叫びを上げ、再度攻撃をしてきた。
炎を吹き出し、燃え盛る炎がパネルを這うように進む。二人は散開して、それを避ける。決して速い攻撃ではない。不意打ちの初撃と違い、余裕を持って回避することができた。
とはいえ、揺光にはそこから反撃に転じることはできなかった。双剣があれば別だろうが、今の自分の装備はあの大剣。重いのでまだオブジェクト化していない。
だが、クラインは違った。刀を振るい、敵へと真直ぐに突っ込んで行った。

炎の敵に接近し、刀を振り合げ、その身を斬った。
敵は未だ反応できていない。防御などできる筈もなかった。
が、揺光はそこに違和感を覚えた。

(今、奴の炎の色が――)

「ん? 何だ、この手応え――」
クラインの声が響き、そして彼の身体が吹き飛ばされた。
斬りつけられた筈の敵は、斬撃を全く意に介さずその手を伸ばすことで、己の身に張り付く剣士を振り払ったのだ。

「クライン!」
揺光は名を叫ぶ。幸い、それ程のダメージはなかったのか。すぐに身を起こし、クラインは再び刀を構える。
殴打を受けたと思しき腹部を抑えつつも、その眼光は衰えていない。

「大丈夫なのか!?」
「ああ、俺は大丈夫だがよ。さっき、たぶん無敵状態だったぜアリャ」
今しがたの攻撃の分析を彼は口にした。
無敵時間。ゲームにおいてダメージが全く通らなくなる状態だ。
だが、ゲームである以上、それが完璧なものである筈がない。何らかの制限、あるいは上限が設定されてある筈だ。

「多分、奴の纏ってる炎の色が関係してる、と思う」
「マジか。じゃあ……」
「さっきは緑だった。きっとあの色が変わると付加される効果も変わるってことじゃないか」
見れば、敵の両脇に立つ蝋燭のオブジェクトがある。
この近辺全体が敵により炎に包まれている為、埋もれてしまっているが、他の炎と違い、そこに立つ炎には奇妙な点があった。
ゆらゆらと立つ緑色の炎を敵越しに睨みながら揺光は口を開く。

「あの蝋燭の炎と、あの敵が纏っている炎の色が対応している。アタシはさっき見てたから分かる」
と、その時蝋燭の炎の色が変わった。
片方は緑のままだったが、もう一方の色が変わり、橙の火が灯った。
すると、その場に不気味な人魂が現れた。橙の色の火の玉に、目元の吊り上った人面が浮かんでいる。
その炎が場を徘徊しだしたのだ。それも二つ。一方が揺光とクラインの下に近づいてくる。

「うわっ!」
二人は火の玉を避けた。その瞬間、敵の火炎放射が場を走った。
二つの炎が揺光に迫る。彼女はそれを身を捩りかわそうとする。が、完全にはかわしきれず手元に熱が走る。

46それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:48:09 ID:FN0ljzxk0

(熱……本当に炎だ)

The Worldではありえなかった感覚に戸惑いつつも、揺光は敵から距離を取る。
火の玉の方はぐるぐると同じ場を回っている。動き自体は単純なものだ。
敵の火炎放射にしたところで、軌道は一直線だし、発動もそう早いものではない。
が、それらの技が組み合わさることで攻撃パターンが複雑化し、無敵時間も相まって敵を難攻不落のものにしているのだ。

「やっぱり、あの蝋燭を何とかしないとダメなようだね」
揺光は大剣をメニューから取り出し、ぼそりと呟いた。
恐らくあの敵のパターン変化はあの蝋燭がカギを握っている。ならば、それをどうにかすれば敵は大幅に弱体化する。
先ずあの蝋燭を殴ってみればいい。ダメージによって破壊できるものの可能性がある。

「こりゃあ、マジでボス戦染みて来たぜ」
クラインが言葉を漏らす。確かに、こういったタイプの敵は、対人戦と言うより寧ろクエスト内に配置されるボスモンスターに近い。

「なぁ、揺光。お前、あの敵を回り込んで蝋燭を攻撃、できるか?」
どうやらクラインも揺光と同様の分析をしていたようで、そう尋ねてきた。
やはりあの蝋燭をどうにかしなくては話にならない。それは分かっている。

「……微妙」
が、揺光はその提案に頷くことができなかった。自らの獲物を握りしめる。重い。双剣士である彼女にとって、その重さは未知のものだ。
それに、今しがた感じた炎――確かな死。それが彼女の肩に、僅かながらに重しを乗せていた。
揺光とてゲームが現実に影響を及ぼすような事態を体験してこなかった訳ではない。
謎のPKにより未帰還者にされ、目覚めた。そして、それでも危険を承知で再びハセヲの下に駆け付けた。覚悟だってあった。
だがそれでも、明確な死に触れたことで、剣が鈍ってしまうこともあり得る。
そして、自分の失敗は自分だけでなく、パーティ全体を死へと追い込みかねない。故に安易に強がりを見せる訳にも行かないのだ。

「そうだな。現時点の俺らの装備じゃあ、ちょっと厳しそうだ」
クラインも揺光の言葉に含まれた思いを読み取ったのか、そう口にした。
デスゲームを経験してきたというだけあって、その言葉には重みがあった。

「ここは一旦退くか」
そう言って、クラインは後方を顎で示した。
退く。逃走。その選択肢はある。敵はどうもあの場から動きそうにもないし、わざわざ追ってくるようにも見えない。
ウラインターネットへの侵入という目的は既に果たしたし、あの敵は無視して先に進むのが賢明な判断かもしれない。

「1、2、3で後ろにダッシュだ」
「…………」
釈然としない表情を浮かべながらも、揺光は無言で肯定の意を示した。
合図を取り、そして二人は走った。

「ヴォォォォォォォ!」
後ろで唸り声が響いた。が、予想通り追ってくる気配はない。
二人は眩い線上から離れ、暗い迷宮へと足を進めていった。

そうして、戦場から十分に距離を取り、周りに敵が居ないことを確認したところで、二人は一度立ち止まり、息を整えた。

「あの炎のロボット、ずっとあの場に居座るみたいだったな」
「……ああ」
揺光の漏らした呟きに、クラインが相槌を打った。

「アメリカエリアからこっちにやってくる奴らが、これからも襲われるかもしれないんだよな」
揺光の大剣を握る手が強まった。
今さっき自分たちが逃げ出した敵が、これからも人を襲うかと思うと、脚が鉛のように重くなる。
これはただのゲームではない。このゲームは、この世界は、真の死と地続きなのだ。
実際に死に触れたことで、そのことがより一層現実味を伴って感じられる。
そんな場で、死を振りまく敵を前におめおめと逃げ出したことも。

ウラインターネットは静かだった。
ところどころに走るノイズ以外は、何もない。
ダンジョンというものにはおどろおどろしいBGMが流れるのが相場だが、それがないことが逆により一層空間の不気味さを助長していた。

「アタシさ、もう一回、あの炎の奴に挑んでみる」
「お前」
揺光は呟き、クラインに向き合った。
そして、大剣を見せつけ、真剣な顔をして彼を見上げた。

47それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:48:35 ID:FN0ljzxk0

「あのボス倒さないと、どうも前に進んだ気がしないんだよね。今、ここで倒しておきたい」
「…………」
「だからさ、頼む。危険だし、あんまり賢明とも言えないだろうけどさ、もう一回あの敵に挑みたい」
これ以上、あの敵を放置しておけば、更なる被害が出る。
特にアメリカエリアからこちら側に転位する場合、無防備なところを不意打ちされる形になる。
二人は何とか回避したが、このままでは犠牲者が出るのは必至だろう。

「頼む、か」
クラインはそう呟き、そして顎を撫で、へっと笑った。

「そうだな。俺も《風林火山》を率いる身としてあんな奴を放置しておけねえ。
 再チャレンジ、すっか」
「だね! じゃあ……」
そう言って、元の場に駆け戻ろうとした揺光を、クラインの声が引きとめた。

「まぁ待てよ。装備を整えてからいこうぜ」
「装備? そうは言ったって、他に何も……」
きょとんとする揺光に向かって、クラインが何かを放り投げた。
板状のそれをキャッチして、揺光は怪訝な顔でそれを眺めた。

「やるぜ。アイテム欄に戻せば、使い道が分かる」
「これは……」
言われた通りにメニューに戻し、その結果アイテム欄に現れた名を見た時、揺光は驚きの声を上げた。

「切り札、だ。これで奴を倒す」

















「ヴォォォォォォォォ」
B-10/ウラインターネット。
炎の包まれるそのエリアの中心に鎮座する敵――フレイムマン。
今しがた逃げ出したその場に、二人のプレイヤーが戻ってきた。

「行くよ!」
「おう!」
互いに鼓舞し合うように声を掛け、共に剣を握りしめる。
そこに、先ほどの戦闘と違うところがあった。
装備自体は何ら変わりがない。だが、その組み合わせが変っているのだ。

赤髪の少女、揺光は長い刀を握りしめ、
バンダナを巻いた男、クラインは身の丈ほどもあろうかという大剣を構えていた。

「ヴォォォォォォ」
フレイムマンはそれを不審に思うようなことはしない。
元よりそれ程複雑な思考ができるようにはプログラムされていない。
ネットバトル特化のネットナビとしてカスタマイズされた彼だ。
ただ目の前のものを燃やすことにしか興味などない。

その敵に対し、揺光が一歩踏み出した。

(一度やってみたかったんだよね、コレ)

そして、言う。

48それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:48:52 ID:FN0ljzxk0

「《ジョブ・エクステンド》!」

その声と共に、彼らは敵へと向かい駆けた。
二人の動きには無駄も迷いもない。態勢を立て直し、戦略を練った結果だ。
刀を使い、俊敏な動きを持って揺光が蝋燭を破壊し、大剣を持ったクラインが一撃で仕留める。
それを可能にしたのが、クラインの支給品であり切り札『ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)』である.

ジョブ・エクステンド。この場での装備制限を一時的とはいえ解除し、扱える武器を追加するアイテム。
マルチウェポンのそれのように1コマンドで武器を変更できるようにはならないが、それでも幅の広がった戦略と戦術は、強力な武器となる。
ただし使用可能なのは一度限り――正に切り札である。

(流石に見た目までは変わらないか。でも、これなら!)

刀の扱いが、自然と頭に浮かぶ。次にどう動けばいいのか、手に取るように分かる。
軽い。刀身も、身体も、心も。どこまでも速くなれる気がした。
フレイムマンがファイア・ブレスを放つ。だが、それを掻い潜り、更なる攻勢へと転じる。
狙いはフレイムマンではない。その奥に坐する二つの蝋燭だ。

「てぇあああああ!」
――スキル・叢雲
日本刀カテゴリの上位スキルにして、強力な範囲攻撃を叩き込む居合技。
頭に浮かんだそれを発動し、蝋燭に刃が走る。
ダメージを受けた蝋燭から炎が消える。予想通り、ダメージを与えることでこの火は消すことができた。

「今だよ! クライン」
「ああ!」
そこにクラインが来た。
大剣を振りかぶり、事態に未だ反応できないフレイムマンに迫る。
やはり蝋燭の火と、フレイムマンの炎は呼応していた。
揺光の攻撃と時同じくして、その身体から吹き出ていた炎が消えている。頭部から僅かに漏れ出ているのみだ。

「おおおおおおお!」
叫び上げ、クラインもまたソードスキル《アバランシュ》を発動する。
両手用大剣の上段ダッシュ技。雄叫びを上げ、フレイムマンに突っ込んでいく。

「ヴォォォォォォォォ!」
フレイムマンが叫びを上げる。
その身に大剣を直接受けては、決して無事では居られない。獣のようなうめき声をあげ、その身を捩り苦しみを表す。

「くそっ! しぶてえな、コイツ」
だが、それでもまだ倒れる気配はない。
フレイムマンとてWWW幹部が手塩にかけてカスタマイズした強力なネットナビ。
直撃したとはいえ。剣の一撃で倒れるような柔な敵ではない。

「ならよ! これで」
クラインはそこで更なる技を使おうとする。
一撃で駄目なら、何度でも叩き込めばいいだけだ。そう考えたのだろう。怯むことなく攻撃しようとする。

しかし、それは少し安易だった。
揺光ならばそこで一度退いていたかもしれない。アリーナでの対人戦に慣れた彼女ならば。
対人戦の経験がない訳ではなかったが、モンスターとの戦闘を主としていたクラインは失念していた。
目の前の異形の敵が、決められた動きしかしないモンスターなどではなく、脆弱な思考力ながらも自分で考え自分で動く存在だということを。

「バトルチップ『ホールメテオ』」
フレイムマンもまた、状況を打破すべく、札を切った。
それがどのような性質を持ち、どう使えばいいのかは、フレイムマンとて分かっていた。
発動と同時に、杖が現れ、頭上の空間が歪み、その奥から炎を纏った岩石が噴出する。
それも一つや二つではない。無数の隕石があられのように降り注ぎ始めたのだ。

「何!? これ」
揺光は焦る。その振り続けるメテオを必死に避けようとするが、何しろ突然のことだ。
上手く対応できず、足をもつれさせる。クラインもまた焦りの表情を浮かべている。

「ヴォォォォォォォォォォォォ!」
そこにフレイムマンのブレスが無慈悲に放たれる。
メテオと同時にその炎を避けることは揺光にはできなかった。
目の前に迫る熱の壁を感じ、彼女は目を瞑り、死を覚悟する。

49それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:49:08 ID:FN0ljzxk0

そこに青い影が走り抜けた。

「大丈夫?」
「え?」
間一髪、炎を身に受けようとしていた揺光を、その影が救い出していた。
その手に抱えられる形となった揺光は、その影の姿を見た。
顔を覗けば、フレイムマンと同じくロボのような外観であり、水色のスカーフが走る度に揺れる。
彼は揺光を抱えたまま、ある程度フレイムマンから距離を取った後、声を上げた。

「フレイムマン!」
「ヴォォォォォ(コゾウ……お前か)!」
その手から降りた揺光は、その外観とやり取りから、二人が同じゲームのアバターであり、また敵対関係にあるということを推しはかった。
何時の間にか隕石は止んでいた。だが、フレイムマンの後方に据えられた蝋燭に再び炎が灯っている。橙と赤。
再び人魂が場を徘徊し出す。フレイムマンは初見時と同じく赤い炎を纏っていた。具体的な効果は分からないが、何かしら付加効果を得ていると思って良い。

そして、その下に横たわる剣士の姿があった。

「クライン!」
至近距離で炎を受けたのだろう。顔を苦痛に歪ませながら、胸を押さえている。
フレイムマンがその口を開ける。そのモーションは何度も見た。ブレスの前兆だ。クラインに留めを刺そうとするのだろう。
クラインの下に急ぐべくと、揺光が近づこうとするが、人魂に遮られる。間に合わないのか。
そう思った時、隣を青い人が駆けていく。無駄のない走りでクラインを救うべく地を蹴る。その姿は忍者を思わせる。

間に合うか、そう思った時ブレスが放たれた。
だが、その射線上に居たのはクライン――ではなかった。
青い人だ。敵は最初からクラインではなく、そっちを狙っていたのだ。

「くっ」
青い人が焦りの声を漏らす。クラインを救うことを念頭に置いたが故、上手く回避ができず、その足が一瞬止まる。
フレイムマンからすれば別にフェイントでも何でもなかった。彼としては青い人――ロックマンが現れた時点で、彼しか狙おうとしていなかった。
その時、

「ヴォ!?」
ブレスを吐いていたフレイムマンが、突如唸り声を上げた。
その身に剣が突き刺さっていた。
無視した存在。先ほどまで横たわっていた筈の男が起き上がり、その大剣を突き立てたのだ。

「おおおおおおおお!」
「クライン!」

炎の中で、剣が振るわれる――
















クラインこと壺井遼太郎は己の間近に迫る死を感じていた。
直撃こそ免れたものの、炎をその身に受け、更にメテオを追い打ちを食らった。
既にHPバーは赤に突入している。あと一歩でゲームオーバー――死だ。

50それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:49:36 ID:FN0ljzxk0

「おおおおおおお!」
だが、クラインは怯まず、恐れず、戦うことを選んだ。
剣を突き立て、炎の敵を討ち果たさんとする。

「ヴォォォォォ!」
敵、フレイムマンもまたうめき声を上げ、炎を振りまく。
その火がクラインのHPを更に削っていく。それを横目にして尚剣を叩き込んだ。
自らを鼓舞すべく叫びを上げある。熱さも痛みも、もはや気にならなかった。

「クライン!」
揺光の声がした。
揺光。この場で会い、パーティを組むことになった赤髪の少女。
先ほどの接敵から、またこの場に舞い戻るような真似をしなければ、こんな状況には陥らなかっただろう。
だが、自分はこの道を選んだ。そのことに後悔はなかった。
噛み合わないことがあろうとも、何処かで確かに繋がっている。そう彼女は口にした。

(そんな奴が頼むって言ってきたんだぜ。俺によ)
ならば、自分がそれを無下にできる訳がない。
自分とてこの敵を打ち倒す必要性は感じていた。その為に、自分の切り札も揺光にやった。

会ったばかりのプレイヤー。この状況下で、自分のアイテムをそう易々と他人に見せる訳には行かない。
そう思い、互いの装備を確認し合った時も、ジョブエクステンドの存在は伏せた。そのことに後ろめたいものを感じなくもなかったが、仕方がないことだと割り切った。
が、結果的に渡してしまった。頼まれた以上、最善を尽くさない訳には行かないだろう。そう考えて。
結局、そういう性分なのだと思う。

(だからよぉ、キリト)

剣を振るいつつ、思うのは一人のプレイヤーの存在だ。
SAOにログインして以来の縁が続いている一人の剣士。彼はだが、自分に頼ることを良しとしなかった。
クリスマスのイベントでさえ、決して自分からは助けを求めようとはしなかった。
それを立派だと思うものか。腹立たしいとすら思う。何故、ああも一人で行こうとするのか。

人が一人で生きていくことが不可能だという簡単な事実を、何故分かろうとしないのか。

(繋がってんだよ。何処かで)

この場にキリトが居ることは知っている。
繋がりは切れてはいない。自分がこうして戦っていることも、自分の知らない形でキリトに繋がっているかもしれない。

「倒れやがれぇぇぇぇ!」
叫びながら、大剣を振るい、ソードスキルを叩き込む。
フレイムマンもまた必死に抵抗をする。烈火を纏い、熱の波を繰り出し、渦巻く炎を吐く。
その身体に、剣を突き立てる。

その剣もまた、繋がりであった。
クラインの握る大剣。それは近い未来、キリトがSAOをクリアした後、ALOでの武器となったものだ。
無論、彼はそのことを知る由もない。だが、そこには確かに繋がりがあった。

そして、その時は訪れた。

「ヴォォォォ……ヴォ!」
「――へっ」
フレイムマンの動きが止まった。
クラインが薄く笑みを浮かべる。フレイムマンは目を見開き、信じられないとでも言わんばかりに己の身体に注視している。
その身からは炎が消え、内部から崩壊していく。ボディがところどころ爆発し始める。

「――クライン!」
揺光の声を聞いた。
次の瞬間、フレイムマンがクラインを巻き込み爆散した。
















閃光が晴れた時、そこにはもう誰も残っては居なかった。
フレイムマンの炎は全て消え、エリアには再び薄暗い闇が戻ってきた。
赤いバンダナの剣士の姿は、消え去っていた。
彼の振るっていた大剣が、まるで墓標のように地に突き刺さっている。

「僕が……もう少し早く来ていれば」
ロックマンは悔やむようにそう口にする。
実際、彼は二人よりもこの場に近い位置に居た。
が、ウラインターネットの複雑な構造を潜り抜けなければならなかったロックマンに対し、真直ぐと一本道を歩いてきた彼ら。その差は大きかった。
結果として、ロックマンは一足遅れてこの場に駆け付けることになる。
フレイムマンと戦う二人の人間を見て、急いで間に入ったのだが、それでも犠牲を出してしまった。

「…………」
生き残った少女は黙って、クラインが居た筈の場を見ていた。
その瞳に映るのは、何もない虚空。自分と同じく無念を感じているのだろう。

「アイツさ……戦ってたんだよな」
ぽつりと少女が声を漏らした。
ロックマンは何も言わなかった。彼女は慰めの言葉など必要としていない。それくらいのことは分かっていた。

「アタシと一緒に、戦っていたんだ」
その独白は、火の消えた戦場に響き、そして消えていった。

51それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:49:56 ID:FN0ljzxk0


【B-10/ウラインターネットエリア/1日目・黎明】
※クラインとフレイムマンの支給品が門付近に落ちています。
※アメリカエリアへ繋がるワープゲートの形状はエグゼのバナー(パネルに張り付いた円)と同じです。

【ロックマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP90%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、熱斗の所に帰る
1:少女(揺光)の話を聞く。
2:落ち着いたらネットスラムに行く。
[備考]
※プロトに取り込まれた後からの参加です。
※アクアシャドースタイルです。
※ナビカスタマイザーの状態は後の書き手さんにお任せします。
※榊をネットナビだと思っています。また、榊のオペレーターかその仲間が光祐一郎並みの技術者だと考えています。
※この殺し合いにパルストランスミッションシステムが使われていると考えています。

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2(武器ではない)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:…………
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません


・支給品解説
【ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)】
The World R:1の両手剣の装備制限が一時的に解除されるアイテム。効果は10分で使い捨て。
指定のモーションで武器を振れるようになる他、スキルも使用可能になる。

【キリトの大剣(ALO)@ソードアート・オンライン】
ALOにてキリトが使用していた身の丈ほどもある大剣。
重い。

【あの日の思い出@.hack//】
Lv51の両手剣。刀に分類される。
使用スキルは
雷烙
叢雲
メライドーン

【ホールメテオ@ロックマンエグゼ3】
目前に杖を置き、炎属性の隕石を降らせるバトルチップ。
ホールメテオは敵エリア全体に隕石を降らせる
杖を破壊されると攻撃を中断する。





【クライン@ソードアート・オンライン Delete】
【フレイムマン@ロックマンエグゼ3 Delete】

52それはさながら燃えるキリンのように(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 22:55:38 ID:FN0ljzxk0
投下終了
変更点としては
・フレイムマンの幽霊ナビはカット
・アイテムによるジョブ・エクステンドの仕様変更(効果は一時的なもの)
・誤字、状態表の修正
になります

気になる点としては、装備制限解除の対象がThe World R:1のものであるという点です。
装備制限を解除するアイテムを出せないかなーという意図で出した支給品なので、こういう風な仕様にしましたが、
R:2のみ可という意見もありましたので、そちらの意見が多いならば刀の出典をR:2のものに変えます

53 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:36:39 ID:Fsiz6i7s0
これより、第一放送案の仮投下をさせていただきます。

54第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:37:25 ID:Fsiz6i7s0
明けない夜は無い。
あらゆる創作物で多用されるそのフレーズは、この仮初の世界においても例外ではなかった。
空を覆う闇は既に薄れ、陽光と思わしき作り物の光が会場全体に差し込み始めている。
現在の時刻は、現実世界で言えば凡そ午前六時頃といったあたり。
学校なり職場なり、向かうべき場所へと向かう準備をしている者達もいる頃だろう。

ただしそれは、リアルな日常ならばの話だ。
今、この空間において繰り広げられているのは、そんな日常からは遥かにかけ離れたゲーム……
命を賭けた、殺し合いである。


『グッド・モーニン……参加者諸君。
 気分はどうだ?』


その事実を認識させるかの様に、会場全体へと残酷なモーニングコールが響き渡った。
遅れて数秒後、あらゆるエリアの中空にウィンドウが出現する。
バトルロワイアル開始より、六時間……一度目の定時放送が始まったのだ。


『VRバトルロワイアルがはじまってから、丁度今で六時間が経った。
 これから俺達運営側より、一度目の定時放送をさせてもらうぜ……
 大切な情報やお知らせがあるから、聞き逃さない様によ〜く集中することだな?』


ウィンドウに映し出されているのは、榊とは違う別の男であった。
膝上までを包む艶消しの黒いポンチョを身に纏い、目深く伏せられたフードによってその表情は一部分しか見えないが、それだけでも映画俳優並に優れたビジュアルの持ち主である事が察せられる程のレベルだ。
加えてその声もまた、見事なまでに張りのある艶やかな美声なのだが……なぜかその声には、深い異質さがまとわりついている。
軽快さとは裏腹に、酷く冷酷な雰囲気を感じさせるものだった。

55第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:38:00 ID:Fsiz6i7s0

『まず最初に、ここまでのゲームオーバープレイヤー……死んだ連中の名前を上げさせてもらう。

 バルムンク。
 ロール。
 ウズキ。
 クライン。
 フレイムマン。
 レン。
 遠坂凛。
 リーファ。
 トリニティ。
 クリムゾン・キングボルト。
 ワイズマン。
 アドミラル。
 
以上、12名だ……あぁ、聞いて疑問に思った奴もいるだろうから捕捉させてもらうと、この中にサーヴァントは含んじゃいないぜ』


―――何せ奴等は、道具みたいなもんだからな。


そう、聞いた者によっては大激怒しかねないだろう一言を実に気軽に言い放つと、男はクククと喉を鳴らし、小さく唇の両端を釣り上げた。
嘲笑っている……愉しんでいるのだ。
この名前を聞き、怒り、悲しみ、嘆き、唖然としているだろう参加者達の様相を想像して、この男はあろう事か愉悦を覚えているのだ。
今、参加者の大多数より自身に向けられているであろう負の感情すらも、その為のスパイスに変えて。


『ククク……中々な数だな。
 それだけこの会場には、死にたくないって足掻いてる奴等が多いんだろうなぁ?
 そりゃそうだろう……他人を殺さなけりゃ自分が死ぬんだ。
 だったら、殺すしかねぇ……なぁ?』


さながら地獄の悪鬼が如く、男は囃し立てる。
もっと殺しあえ、もっと潰しあえと……そう煽るかの様な口調で、彼は会場内にいる者達へと語りを続けた。

56第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:38:37 ID:Fsiz6i7s0

『そこで、だ。
 ここまで生き残った全プレイヤーに、俺達からささやかなプレゼントをしたいと思う。
 このゲームを、もっとエキサイティングに楽しんでもらうためにな……アイテム欄を見てもらおうか?』


そう告げると同時に、男もまた画面の向こうで手元を動かしウィンドウを操作した。
それが、運営側―――所謂GMにのみ許されているであろう特殊な代物である事は、想像に容易い。
彼はたった今、生き残っている全ての参加者に対して、あるアイテムを送ったのだ。


『どうだ、見えただろう?
 これが運営側からお前達に贈るプレゼント……参加者名簿だ。
 こいつには、このバトルロワイアルに参加している全プレイヤーの名前が載せられている。
 ククッ……実を言うとな、俺達も少し不公平じゃないかと思ってたのさ。
 何せ、自分以外の参加者を殺し尽くせば優勝とは言ったが……
 考えてみりゃ、自分以外にどれだけの参加者がいるかを把握する手段がお前達には一切無かった訳だ。
 ゴールが見えないまま走り続けるマラソンってのも、辛いもんだろ?』


男の言う事は一理あった。
参加者全てをPKすればゲームクリアとはいうものの、その参加者がどれだけいるかが把握できなければ、プレイヤー側にはクリアの目途が一切立てられない。
どこまでPKすれば良いのかが、誰にもまるで分からないのである。
それははっきり言ってしまえば、バトルロワイアル形式のゲームとしては致命的といってもいい欠陥だ。
ゲームバランス自体が破綻していると言っても過言ではないだろう。


『だがそれも、これで一安心だ。
 この名簿さえありゃ、他にどんなプレイヤーがいるかなんて一発で分かる……』


故に、問題を解決すべく運営側が早急な対応を実地したかの様にこの男は告げているのだが……



『……自分にとって大切な奴や、ぶっ殺してやりたいくらいに憎い奴がいる事もな?』



当然、目的はそれだけではない。
ゲームの更なる加速……この名簿によって、更に会場内での争いが活発化する事。
それこそが、男が、運営側が望むものに他ならないのだから。

57第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:39:03 ID:Fsiz6i7s0

『さて……次にだが、マップを開いてもらおうか。
 これから大体一時間後だが、一部のエリアを進入禁止にさせてもらう。
 
 場所は二つ、【E-6】【F-10】だ。

 今後、この二箇所への立ち入りは禁止させてもらう。
 もし警告を破った場合は、ウィルスが自動的に作動する……ゲームオーバーだ。
 これからゲームが経過するに進むにつれて、進入禁止エリアは徐々に増えていく……つまりだ。
 一か所に隠れてやり過ごそうなんて甘い考えは通じないぜ?』


朝焼けに映し出されているウィンドウは、丁寧にも男の全身像からマップ全体像に切り替えられており、今しがた告げられた二箇所のエリアが赤く明滅している。
恐らくは、参加者達が現在見ているであろう手元のマップにも、同じ表示がされているだろう。
これもまた、バトルロワイアルを加速させる為の仕掛けなのだろうか。
少なくとも男の口からは明確にその意図が読み取れる。
ゲームを停滞させない為のルールというのも、これが殺し合いだという点さえ除けば、確かに分からなくはない話だ。


『さあ、放送もこれで終わりになっちまうが……
 最後に、お前達生き残ったプレイヤー達へと、俺と、そして榊からメッセージがある。
 そいつを聞いてもらうとしよう……まずは俺からだ』


そう言うと、男はパチンと指を一度鳴らし、低く湿った笑い声を上げた。


『いいか、お前等?
 さっきも言ったが、このゲームじゃ他の誰かをPKしなきゃ生き残れねぇんだ。
 生き残りたけりゃ、兎に角誰かをぶっ殺せ……ククク。
 もし、誰かを犠牲にしてまで生き残りたくないなんて綺麗事を言うつもりなら、俺から良い事を教えてやるよ。
 このバトルロワイアルでPKをして……それが誰の罪になる?
 殺しをしてしまったプレイヤーの罪か?
 ノー、アブソリュートリィ・ノーだ……だってそうだろ?
 お前達はVRバトルロワイアルって『ゲーム』をしているだけなんだ。
 ただ、ゲームルールに従ってPKをしているだけに過ぎない……PKされたプレイヤーを殺してるのは、このゲームの運営だ。
 だから、プレイヤーは何も悪くねぇ……何の罪も犯しちゃいねぇ。
 殺人罪が適用されるなら、PKした奴じゃなくて運営側って話になるよなぁ?』



――――――だから、遠慮なんかする必要はねぇ……ただゲームを愉しんで、殺せばいいんだよ。



それは、今までのどんな言葉よりも熱が込められた一言であった。
参加者の多くを誘い込まんとする、強烈な誘いだった。

58第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:39:32 ID:Fsiz6i7s0



かつてこの男が、かの浮遊城で多くの者達を魅了し、思うが儘に操ったのと同じ……悪魔の囁きに他ならなかった。



『俺からは以上だ。 
 六時間後に生き残っていたなら、また声を聞かせてやるよ。
 じゃあな……と、いけねぇな。
 大切な事を言い忘れていたぜ……榊に代わる前に、教えておいてやろう。
 この俺の名前をな』


最後に男は、一拍置いた後に静かに口を開いた。

この放送が始まった時から殆どの者達が気になっていたであろう、己が名を答える為に。


かつて浮遊城アインクラッドで、最凶最悪のレッドプレイヤーとして恐れられていたその名を、告げる為に。


『PoH……それが俺の名前だ。
 じゃあ、今度こそグッバイだ。
 このバトルロワイアルを、精々愉しんでくれ……イッツ・ショウ・タイム』



◇◆◇



『やあ、諸君。
 まずはここまでの健闘を、素直に祝福させてもらおうじゃないか。
 第一次放送までの生存、おめでとう!』


それから物の数秒が経過して。
中空のモニターに一瞬ノイズが奔ったかと思うと、いつのまにか映し出されている人物が切り替わっていた。
和装をしたちょんまげの男……言うまでも無く、榊だ。
彼は実に楽しそうに、且つ尊大な様子で参加者達へと祝福の言葉を吐いた。
無論それが、心からの祝福であるか否かは、言うまでも無いだろう。

59第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:40:11 ID:Fsiz6i7s0

『さて、言いたい事は殆どPoH君に言ってもらえたから、私からは手短にさせてもらうよ。
 ああ、彼と私の関係だが、一応は仲間という事になるかな?
 本来ならこの第一放送は進行役として私が全て取り仕切るつもりだったのだが、彼が是非にと言ってきたものでね。
 折角だから、役目を一部譲らせてあげたのだが……全く、見事なものだよ。
 流石はあの世界でカリスマプレイヤーと言われていただけの事はある、聞いてて嫉妬を覚えてしまいそうなぐらいじゃないか』


苦笑しつつ、しかしながら素直に榊はPoHの演説を認めていた。
己もこういう役割ははじめてという訳ではないが、自身ではああも鮮やか且つダイレクトに言う事は出来なかったかもしれない。
そう、彼の言葉を聞いて実感していたからだ。
しかしながら、だからと言って全てを彼に持っていかれては進行役の名が泣く。
ここは自身も、バトルロワイアルを更に盛り上げるべく働かねばならない。


『話を戻そう……私から君達プレイヤー諸君に告げたいのは、優勝賞品についての補足だ。
 私はあの広場で、君達に確かにこう告げた。
 
 【元の場への帰還】と【ログアウト】、そして【あらゆるネットワークを掌握する権利】を進呈する。
望むなら現実で使える金銭や地位も加えて与えよう……と。

 それが本当なのかどうかは、あの時も言った様に私を信じてもらうしかないが……』


そこまで言うと、榊は一呼吸を置いた後、静かに笑みを浮かべた。
先程のPoHとはどこか違い、しかしどこか似た様子が見て取れる……邪悪さが垣間見える笑みを。


『さて、君達の中にはこのバトルロワイアルの参加者について、疑問を感じた者達がいるんじゃないか?
 
「どうしてこいつがここにいるんだ?」「このプレイヤーが、ここにいる筈が無い」……と。

 本来ならばこの舞台に絶対にいる事が無いプレイヤーの存在を、不思議に思った者がいる筈だ。
 分かりやすい例を上げるなら、既に死んだ筈の者が生きているといったケースか。
 ふふ……頭のいいプレイヤーなら、既に私が言いたい事が何なのかを把握出来ているのだろう?』

60第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:40:42 ID:Fsiz6i7s0

榊が言わんとしている事は、ある意味ではPoHの誘惑よりも遥かに強烈なそれだった。


ダスク・テイカーの様に、本来ならば既にゲームの舞台から下ろされた筈のプレイヤーが参加している事実。


ユウキやカオル達の様に、既に命を落としてこの世を去った筈の者達が参加している事実。


そして、おもむろに始まった優勝賞品についての補足説明。


これらが意味する事は、一つ。


『もう一度言おう……私は、このバトルロワイアルに優勝した者の望みを叶えようじゃないか。
 死んだ者ともう一度会いたいという……そんな願いですらも!』


ゲームの優勝者には、死者の復活を約束する。
榊は、そうプレイヤー達に告げたかったのだ。
バトルロワイアルが進めば進む程、死者の数は比例して増えていく。
その過程で、大切な者を失い戦意を喪失するプレイヤーは確実に出てくるだろう。
そうなってはこのバトルロワイアルが停滞してしまう……それでは困るのだ。
わざわざオーヴァンと接触までして舞台を加速させようとしているのに、勢いを殺してしまう訳にはいかない。


『生き残りたいならば!
 大切な者と共に生きる日々を再び手に入れたいならば!
 富と名誉を手に入れたいならば!
 平和な日常を、取り戻したいならば!!
 PoH君の言った通り、遠慮は無用だ……心に思うがまま、闘うがいい』


だからこうして、彼は餌を用意したのだ。
あらゆる参加者達が、殺し合いに乗り気になれる様……
その心の隙間に、弱さにつけ入れる、極上の賞品を用意したのである。

61第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:41:35 ID:Fsiz6i7s0


『では、私からは以上だ。
 次はまた六時間後になる……諸君の健闘に期待しているよ』



その声が響くと同時に、会場全体にブツッとノイズが走り、ウィンドウが消滅する。
熱い悪魔達の呼び声はこれで終わりを告げた。
VRバトルロワイアル第一放送は、これにて終了したのだった。



◇◆◇



「ふぅ……いやぁ、流石だよPoH君。
 レッドプレイヤーのカリスマと言われる所以を、十分に思い知らされた。
 やはり君をプロデュースした私の目に、狂いは無かったということかな?」

「ハッ……お前程じゃねぇさ。
 最後の最後で極上の餌をぶらさげるとは、俺よりよっぽどの悪魔に見えるぜ」


放送を終えてから、しばらくした後。
空が無い出来損ないの空間―――オ―ヴァンが足を踏み入れたあのデバッグルームで、榊とPoHは静かに嗤いあっていた。
互いに、他者を騙しその心を弄ぶ術に長けた者同士……色々と思う所があるのだろう。
しかし、参加者を煽り殺し合いに乗せるという目的を考えれば、この第一放送は上々の結果といったところか。
そう言えるだけの自信が、彼等にはあったのだ。


「だが、まだまだだ。
 彼等にはもっと舞台を加速させてもらわなければ困る……私達の目的を、果たす為にはね。
 その為に態々、アイツにも接触したんだ」

62第一放送 悪魔の呼び声 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:44:13 ID:Fsiz6i7s0

「オーケイ。
 ま、俺は俺で愉しませてもらうさ。
 この愉快なゲーム……猿どもの殺し合いをな」


PoHはポンチョの下で細い身体を折り曲げ、くくくと笑う。
彼には、愉しみでしかたないのだ。
自身の手でPKを行うのも勿論悪くは無いのだが、それ以上にVRバトルロワイアルの参加者達が互いに殺し合う様は、彼にとって最高に興奮を覚えるショーでもあった。


(……やれやれ……バトルロワイアルの進行を早める目論見は成功したのだろうが……これは、中々危険な男を引きこんでしまったのかもしれないな)


「ククク……」


ここは、かつてのSAOとは違う。
死ねば現実世界でも命を落とすという点こそ共通しているが、このVRバトルロワイアルにはSAOとは決定的に違う点がある。
苦痛を和らげるペインアブソーバが無い。
異性からの理不尽な接触を避ける為の倫理保護コードが無い。
かの浮遊城で多くのプレイヤーを縛りつけていた原則が、この会場では何も適用されていないのだ。
これがどれだけの惨劇を生みだすかは、想像するに難しくない。


―――さあ、殺し合え。醜悪に、無様に、滑稽に踊ってくれ。
 


―――イッツ・ショウ・タイム……!!




【運営側:PoH@ソードアート・オンライン】

63 ◆uYhrxvcJSE:2013/08/09(金) 03:44:44 ID:Fsiz6i7s0
以上、放送案仮投下終了いたします。

64名無しさん:2013/08/09(金) 10:47:34 ID:0zsJHjTQ0
投下乙です
一応上げておきますね

それにしても、PoHですか……とんでもない危険人物が主催側に出てきましたね
ただ、主催者側とはいえ、参加者決定時のルール的に大丈夫なのかなとちょっと疑問です

65名無しさん:2013/08/09(金) 18:30:07 ID:WNvisJ3g0
仮投下乙です。
ここでPoHの煽りとか、放送鬼畜すぎるw
自分的には全然ありだと思いますが、禁止エリアについてだけは空欄にしておき、後日相談して決定するのが無難ではないでしょうか?

>>64
ルール的に大丈夫なのかというのは、「SAOの文庫化されてないweb版はNG」のところでしょうか?
だったら一応、PoHは原作8巻とプログレッシブ1巻で既に登場してますし、アニメにも一応出てますから問題はないかと思いますが……

66 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:31:39 ID:.TVwiD1g0
仮投下します

67convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:33:43 ID:.TVwiD1g0
|件名:定時メンテナンスのお知らせ|
|from:GM|
|to:player|

○本メールは【1日目・6:00時】段階で生存されている全てのプレイヤーの方に送信しています。
当バトルロワイアルでは6時間ごとに定時メンテナンスを行います。
メンテナンス自体は10分程度で終了しますが、それに伴いその前後でゲートが繋がりにくくなる他、幾つかの施設が使用できなくなる可能性があります。
円滑なバトルロワイアル進行の為、ご理解と協力をお願いします。

○現時点での脱落者をお知らせ致します。
|プレイヤー名|
|バルムンク|
|ロール|
|ウズキ|
|クライン|
|フレイムマン|
|レン|
|遠坂凛|
|リーファ|
|トリニティ|
|クリムゾン・キングボルト|
|ワイズマン|
|アドミラル|

上記12名が脱落しました。
現時点での生存者は【43名】となります。
なお他参加者をPKされたプレイヤーには1killあたり【300ポイント】が支給されます。
ポイントの使用方法及び用途につきましては、既に配布したルールテキストを参照下さい。

68convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:34:03 ID:.TVwiD1g0


○【1日目・6:00時】より開始するイベントについてお知らせ致します。

【モラトリアム】
場所:日本エリア/月海原学園。
6:00〜18:00までの時間中、校舎内は交戦禁止エリアとなります。
期間中、交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられます。

【痛みの森】
場所:ファンタジーエリア/森
6:00〜12:00までの時間中、該当エリア内でのダメージ倍率が二倍になります。
その際、被ダメージの痛覚も併せて増幅されて再現されます。

【幸運の街】
場所:アメリカエリア全域
6:00〜12:00までの時間中、該当エリア内でPKを行った場合、ドロップするアイテムが一定確率でレアリティの高い物に変化します。
なお変化したアイテムを元に戻すことはできません。

【1日目・6:00時】より開始するイベントは以上になります。

では、今後とも『VRバトルロワイアル』を心行くまでお楽しみ下さい。


==================

本メールに対するメールでのご返信・お問い合わせは受け付けておりません
万一、このメールにお心当たりの無い場合は、
お手数ですが、下記アドレスまでご連絡ください。
xxxx-xxxx-xxxxx@royale.co.jp

69convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:34:27 ID:.TVwiD1g0






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0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
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1010101
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――vol.1――記録――セーブデータ――情報――断片――フラグメント――軌跡――
――救世主――ネオ――理由――RELOADED――ガッツマン――男――アッシュ・ローラー
――REVOLUTIONS――トリテニィ――死別――凛――死の恐怖――スケィス――データドレイン――蒼炎――
――ユイ――岸波白野――三重契約――ゴースト――ユウキ――カオル――死者――
ラニ――出会い――リーファ――SAO――ゲーム――慎二――ヒースクリフ――勝利――ライダー――
略奪――ダスク・テイカ――デュエル・アバター――シルバー・クロウ――蒼天――翼――バルムンク
――死神――フォルテ――強者――GAP――レン――悲哀――剣士――キリト――
人間――ランルーくん――化物――ヴラド3世――愛――エンデュランス――
コンフリクト――揺光――クライン――フレイムマン――エクステンド――切り札――
――ロックマン――ウラインターネット――ツインズ――モーフィアス――死者――リコリス――
――碑文――アトリ――ウズキ――惑乱の蜃気楼――シノン――遭遇――マク・アヌ――恐怖――
――スミス――エージェント――ワイズマン――おでん――
クリムゾン・キングボルト――上書き――カイト――齟齬――志乃――疑問――答え
――プロ――アドミラル――ロール――PK――ボルドー――ブルース――正義――
ピンク――ジ・インフィニティ――逃避――ジロー――選択――レオ――ユリウス――
――生徒会――ハセヲ――決意――表と裏――スカーレット・レイン――リアル割れ――
ブラック・ロータス――黒雪姫――嘘――アーチャー――ブラックローズ――騎士――ダン・ブラックモア――
黒――キャスター――鏡の国――ありす――猫――ミア――現実――アスナ――AIDA
――サチ――信頼――オーヴァン――榊――トワイス――真実――……――vol.2――



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0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
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70convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:35:25 ID:.TVwiD1g0




集積されていくデータの断片を私は無感動に見上げていた。
最初の六時間。このゲームはこれで最初の区切りを迎えたことになる。
その間に観測されたデータはこうして集められ、二進数に還元され、それぞれがカタチを得ていく。
そのカタチは未だ欠片に過ぎないが、それ故に意味がある。
不確定性は時に他の何物より価値を持つことがあるのだ。

同時に、私はつい先ほど出会った一人のプレイヤーを思い出していた。
榊が私に似ていると表現したバグに取り憑かれた男。
成程確かに容姿は似ているかもしれない。だがやはり私と彼は決定的に違う人間だ。少なくとも私はそう思う。

「真実」

オーヴァンという名の彼は、それを求めた。
榊に対しまともに応対する気がなかったが故の言葉なのだろうが、しかし恐らくそんなものはここにはない。
今は、まだ。

世界はカオス系だ。
ハイゼンベルクやゲーデルがラプラスの魔を殺して以来、ニュートンが描いた過去と未来の区別のない世界は既に崩壊した。
何がどう作用するのか分からない。何が何を生むのか分からない。それが今のこの世界だ。
そんな世界で真実を求める。それがどういう意味を持つのか、彼は果たして分かっているのだろうか。

「何にせよ」

今は観測するのみ。
私はそう呟いた。

不確定な世界を確定させること。事象の収縮。そうすることで世界は形作られる。
ゲーム開始当初は不確定であった世界も、観測することによってこうして確定され、データとして記録された。
この断片が、最終的にどんな絵となるかはカオス系の海に沈んでいる。
それを確定させる唯一の手段が観測である。重なり合わせの猫とて観測されればひとたまりもない。

データの集積が終了すると、私はそのデータをファイルへと移した。
そのファイルにvol.1と適当に名づけ、指定の場へと保存する。
観測の記録を以て、始まりの六時間の世界は確定されたのだ。

私は次なる欠片を観測する。
世界を、確定させる為に。





***ROYALE-system Ver2.1***



now loading.......

71 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/10(土) 19:36:17 ID:.TVwiD1g0
放送案でなくメール案になってしまいましたが、投下終了です

72名無しさん:2013/08/11(日) 20:13:11 ID:HzmAR5Wk0
投下乙です
メール方式ですか。ある意味このロワらしい方法ですね
それにしても、心当たりのない場合って……参加者以外に届くのか?

>>69でダスク・テイカーの名前がミスしてますよ

73名無しさん:2013/08/11(日) 21:54:26 ID:JW9RpMIA0
投下乙
1Killあたり300ポイントか。レオがサヴァイウバトルで10戦して500ポイントなところをみると、多いと見るべきか、少ないと見るべきか

イベントのほうは、【モラトリアム】はみんなが月海原学園に逃げてきそう
っていうか、配布されたテキストに書いてあるから、わざわざイベントとして告知する必要ないような……

【痛みの森】は【幸運の街】と違ってメリットがないから、参加者が離れていくだけな気がする。
ダメージと痛覚だけじゃなく、獲得ポイントとかも二倍にするのはどうでしょう

74 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/11(日) 23:11:15 ID:wlEIiMf20
>>72
本当だ、ありがとうございます
採用された場合は直しておきます

>>73
そうですねー、痛みの森はちょっと修正します
採用されれば、ですが

75 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:50:01 ID:O33XXsHM0
修正案投下します

76 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:50:51 ID:O33XXsHM0
ゆっくりと目蓋を開けると、見覚えのある黒い空白が視界を覆ってきた。
焦点の定まらない目でそれを眺めていると、不意に俺はハッとして飛び起きた。
急いでウィンドウを開く。メニュー画面が示す時刻――04:33というのを確認した後、俺は思わず息を吐いた。

「一時間強ってところか……」

ぼそりと呟く。眠ってしまっていた時間のことだ。
俺はうすぼんやりした頭を強引に覚醒させ、記憶を思い起こす。
俺は今VRバトルロワイアルというデスゲームの只中にある。ここに囚われた俺の開始地点はここウラインターネット、そこでレンさんと出会い、ネットスラムを目指した。
フォルテと遭遇し、途中でまさかの再会を果たしたシルバー・クロウの助力もあり、何とかこれを撃退。そしてその最中――

「あ、起きましたか?」

飛び起きた俺に声が掛けられた。
振り向けばそこにはエリアの闇の中に在って尚照り光る純銀のアバター――シルバー・クロウが居た。
彼の言葉に俺は頷き返し、そして周りを見た。視界の端に引っかかるようにネットスラムの光が見える。
大体の目算に強めに掛けられた遠近エフェクトを加味して、今自分たちが居る場を予想する。恐らくここはネットスラムからそう離れていない位置だ。

「すいません、気絶していたキリトさんを無理に動かすのも問題かと思いまして……」

俺の視線をどう受け取ったのか、シルバー・クロウが何故か弁明にするように言った。

「いや、いい。謝るのはこっちの方だ。随分時間を食わせてしまったな」

あの戦いの後、自分は気を失ってしまった。
その後シルバー・クロウがここまで連れてきてくれたのだろうが、自分をかついで動くのは負担だっただろう。
加えて彼は寝ている自分を一時間以上守ってくれたのだ。彼自身も疲れているだろうに。

「まだ休んだ方がいいなら、それでも……」
「俺なら大丈夫だ。それより、ちょっと急いだ方がいいかもな」

俺は伸びをしながら、すぐにでも移動できることをアピールする。
実際、少しばかり時間を掛け過ぎた。榊の言葉が真実ならば、最初のタイムリミットは一日目終了時……脱出の為に掛けられる時間に余裕はない。
それをこうして浪費してしまったことは痛い。その間俺は何もできてはいないのだから。

「分かりました。じゃあ先ず……ショップとか、ですか?」

その旨を告げると、シルバー・クロウはおずおずと提案してきた。
俺が眠っていた間にも彼は今後の方針について考えていたようで、彼の案は先ず近くのショップに行き、その後知った場所である梅郷中学校に行く、というものだった。

「本当はそこでキリトさんを休ませようとしたんですけど……どうも地図の見た目ほど近い位置にはないみたいで」

このウラインターネットは迷宮のような、それこそゲームのダンジョンのような構造している。
俺がネットスラムを探すのに手間取ったように、直線距離は大したことなくとも、実際に行くとなると予想以上に時間が掛かることもある。
それでもシルバー・クロウならば飛行スキルを使って多くの道をショートカットできただろうが、それはあまりにも目立ちすぎる。
安全に休める場所を探すのにそのような手段を使っては本末転倒だ。故にシルバー・クロウはショップの探索を見送り、一先ずここで俺を休ませてくれていたらしい。

「ショップか。そうだな、ちょっと見ておきたい場所ではある」

エリアのあちこちに配置された施設だ。
どのようなものなのか、ゲーム全体の把握と言う点でも一度寄っておいた方がいい場所だろう。
俺はシルバー・クロウの提案に同意し、ショップ探索に乗り出すことにした。
ALOアバターによる飛行でエリアを一気に横断してしまうというのも考えたが、その結果ゲームに乗り気な連中に見つかってしまっては面倒なことになる。
故に今まで通りマッピングを交えて歩いていくことにした。
俺もそうだが、シルバー・クロウもこの手の作業には慣れたもので、動き出してからはスムーズに行動することができた。
二十分足らずでショップに繋がるポータルを見つけ出し、俺とシルバー・クロウは目的地に着いていた。

77矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:51:54 ID:O33XXsHM0
「確かにちょっと面倒な場所だったな」

ショップ自体はエリアの中でも独立したパネルの上にあり、ポータルを通してではないとこれないような構造になっていた。
直接地図上の位置を目指しても無駄という訳だ。何ともいやらしい。
しかしまぁ落ち着いてエリア探索をすることができれば、見つけにくいという訳でもない。
俺やシルバー・クロウのようなゲーマーならば尚のことだ。

そうして辿り着いたショップだが、しかしそこで俺たちは何もすることがなかった。

「まぁ、予想してしかるべき事態ではあったな」
「そうですね……」

理由は簡単だ。金がない。
ショップというだけあって、そこでは売人(面相の悪いロボット型のアバター)が幾つかアイテムを売っている場所だった。
しかし俺もシルバー・クロウも、このゲーム内での通貨というものを持っていない。そもそもどうやって稼ぐのかも分からない。
これが普通のRPGならばモンスターを倒せば勝手に溜まっていくのだろうが、このVRバトルロワイアルに雑魚モンスターというのは配置されていないようだった。


「考えられるとしたらアリーナか……それかPKボーナスってとこか」

その辺りのことは現状GMからのアナウンスを待つしかない。
とにかく今の自分たちではショップで何もすることができない、という訳だ。
俺たちは売人から「ヒヤかしはカエりな」と罵られつつ、ショップを後にすることとなった。

しかし全く無駄足という訳でもない。
売られているアイテム一覧にはシルバー・クロウの持っていた「バトルチップ」を始めとして中々興味深いものがあり、その説明を見るだけでも情報収集にはなった。
その手の情報が手に入ったことも、今後何かしら得になるだろう。

「……で、次の行先だが」

ショップを後にした後、俺は口を開いた。

「梅郷中学校に行くのは構わないが、その前にファンタジーエリアに行かないか?
 一番大きく、そして中央にあるエリア。恐らくここが一番人も多い」

歩きながら考えていたプランを俺はシルバー・クロウに提示する。
シルバー・クロウは梅郷中学校に行く、と言っていたが、どうやら彼自身も特に当てがある訳でもないらしく、ただ知った場所であるから、という訳だそうだ。
確かに何時かは行かなくてはならない場所ではあるだろうが、しかし急務と言うことではない。
ならば人と情報の集まりそうなファンタジーエリアを経由するというのも悪くない筈だ。
それにファンタジーエリアへの転移門のあるB-9を探索すれば、ウラインターネットのほぼ全域をマッピングしたことになる。
今後またここに来ることがあっても、その情報は非常に有益だろう。

「成程、それもそうですね」

言われたシルバー・クロウは頷き、俺のプランを承諾した。
そうして次の目的地が定まると、俺たちは再び移動することになった。
先と同じくマッピングしながら進む。警戒しつつも、今度はところどころ飛行も交えてみたが、他の参加者と出会うこともなかった。

その途中、俺も幾らか戦いの熱が引いてきた。
思えばこれまでの道中、俺たちは意図的にある部分に触れてこなかったように思う。
不思議なほどに互いに何も聞かなかったし、言わなかった。問題を先送りにしていたといっても。
だがしかし、死闘の後の興奮も、残り時間に焦る思いも消え去った時、代わりに――今まで目を背けていた喪失感が来た。

78矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:52:11 ID:O33XXsHM0

「…………っ!」

今思い出しても胸の奥に悔恨の念が走る。
レンさん。フォルテとの戦い、その最中で落とした少女。
目の前で彼女が消えゆくさまを為すすべもなく見ていることしかできなかった。
その正体がAIであることなど、何の意味も持たない。自分の隣に居た少女が死んだ。
ただそれだけが現実だ。

「あの……キリト、さん」

弱々しく呼びかけられた声に、俺ははっと振り返る。

「ちょっと言う機会逃してましたけど……やっぱり言います。
 その、ごめんさない。アイツ、フォルテとの戦いに間に合わなくて」

シルバー・クロウはそう言って頭を下げた。

「アイツがAI……と言っていた。それってキリトさんの同行者のことなんでしょう?
 僕が、僕が……もう少し速ければ――」
「違う」

俺は顔を抑えて言った。
そして尚も平謝りするシルバー・クロウに言う。それは違うんだ、と。

「あれは……お前のせいじゃないんだ。あの場で、あの人を……レンさんを助けることができたとすれば、それは俺だった」
「でも……」
「お前の気持ちは分かる。でも、それは違う。全部が全部自分の責任だと考えるのは、駄目だ」

シルバー・クロウはただ俺を助けただけだ。それを褒めこそすれ誰も責めはしない。
にも関わらず、謝ろうとするその姿に、かつての俺が重なる。
あの時――あのアインクラッド最初のクリスマスの時の俺と同じだ。
今ならクラインの言葉が分かる。全て背負おうとしても駄目なのだ。

「……そう、ですか」

俺の言葉にシルバー・クロウは弱々しく答え、俺たちは再び移動を開始した。
心なしかそのペースは下がっている。道中に会話もない。俺が何か言うべきだったのだろうが、しかし何も言えなかった。

シルバー・クロウ。俺を守ってくれていた彼だが、やはりこの状況に堪えているのだろう。
話によれば彼はあのフォルテとこの短い間に連戦したという。しかも彼もまた俺と同様同行者を失っている。
勇ましく戦っていた頃は怒りに任せ忘れることができても、戦いの熱が引いた後になってその事実を噛みしめ再度愕然とする。
何度も見た光景だった。他でもないあの浮遊城アインクラッドで。

「…………」

あの城のことを思い出し、俺の胸に苦いものが溢れてくる。
あるいはあの頃の自分ならもっと機敏に動けたかもしれない。そんなことを考えてしまったからだ。
確かに仮に当時の俺がこの場に居たのなら、レンの死をより早く乗り越えることができただろう。
死というものにある種慣れを感じていた。そうでなくては死んでいた。そんな時期の俺だったならば間を置かず迅速な行動が取れた筈だ。

しかしそれはただ麻痺しているだけだ。死というものに麻痺していた。
当時のアインクラッドの現実ではそれが正しかったのだろうが、俺が帰ってきたあの現実ではそれは間違いだ。
少なくとも俺はそう思う。だからレンの死に即座に割り切るということができなかったのだ。

「着いたな」

不意に見えてきた明かりに、俺はぼそりと呟いた。
その明かりは地面に埋め込まれた薄紅色の円球が光源になっていた。
B-10でも似たようなものを見た。転移門――エリアとエリアを繋ぐポータルだ。

俺とシルバー・クロウは互いに目を合わせ、よしと頷いた。
マッピングが正しければ、このポータルはB-9の、ファンタジーエリアへ繋がるものの筈だ。

79矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:52:28 ID:O33XXsHM0

「シルバー・クロウ。少しここで休んだらどうだ?」
「え?」
「俺は十分休んだけど、その間お前はずっと辺りを警戒していたんだろう?
 なら今度はお前の番だ。俺が見張りをやるからさ」
「でも……僕なら大丈夫ですよ。時間もないですし」

俺は開いたウィンドウの時刻をちら、と見る。5:31。

「時間がないって言っても焦っても何ができるって訳じゃないしさ。大丈夫だ」

そう言って俺はニッ、と歯を見せ笑う。
シルバー・クロウは迷っていたようだが、やはり疲れていたのか、俺の言葉を承諾し、腰を落ち着けた。
それでいい、と俺は胸中で彼に言う。休めば、少し頭が冷える。俺のように。

見張り役として俺は辺りを窺った。
このポータルまで至る道は一本しかなくレッドプレイヤーの存在の察知も容易だ。
割合警戒もしやすいといえるだろう。これならあまり集中力を使わなくても済みそうだ。

「……あの、キリトさん」

そうして休憩時間を取っていると、不意にシルバー・クロウが口を開いた。

「ちょっと聞いてもいいですか? 貴方のこと、貴方自身のこと……」

その言葉に俺は意を決して頷いた。
そのことか。今まで互いに気にはなっていた筈だ。目前の危機や焦りもあり保留にしていたが、二人ともこうして落ち着いた今なら話すべきなのかもしれない。

「ああ、俺も聞きたい、シルバー・クロウ」

シルバー・クロウがごくり、と息を呑んだ。
そうして俺たちは語り合っていく。自分自身について、自分がどのような人間であるかについて。

その結果浮かび上がってきたのは、あまりにも突飛な現象だった。

――時間移動。
俺とシルバー・クロウの話を総合した結果、そんな現象が起こっていることが分かってきたのだ。

眉唾だよなぁ、と俺は胸中でぼやく。

80矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:52:43 ID:O33XXsHM0

かつて比嘉タケル氏が話していた『第四世代型フルダイヴ実験機』に関するオカルトを思い出す。
量子コンピュータには平行世界に同期する可能性があり、結果として他の時間流やパラレルワールドに存在するコンピュータに干渉してしまう……というような話だった筈だ。
俺も最初に聞いたときはそのあまりの現実味のなさに一笑に付したことを覚えている。
正直今でも信じるに値するとは思えない話だが、しかし俺は既に「そうでなくては説明できないこと」を見てしまっている。というか目の前に居る。

俺はシルバー・クロウを見た。
この純銀のアバターは間違いなく、あの「シルバー・クロウ」だ。
比嘉タケルの実験に付き合った結果として一度デュエルし、そして何の因果かこうして再び巡り合い、共に戦うことになったプレイヤー。
他人に話しても「ありえない」としか言われなかった存在だった彼だが、しかしこうして確かに存在している以上、その存在を疑うことはできない。

そしてシルバー・クロウの話によれば、彼は何とA.D.2046年の人間であると言う。俺から見て二十年後の人間だ。
まさか、と思った俺は色々な質問をぶつけたが、その受け答えに嘘があるようには見えず、少なくともシルバー・クロウがそう思っていることは事実だった。
二十年後の人間とデュエルし、あまつさえ共にデスゲームに叩き込まれるようになるとは。時間移動なるものをまさか自分が経験するとは思わなかった。
その事実に俺は驚愕するというよりは困惑し、またシルバー・クロウも同じような心境だったようで、とりあえずこの件に関しては保留、ということにしたのだ。
事態を把握するにはあまりに手に余るように思えた。量子、平行世界、時間流、興味があるといえばある単語群であったが、その手の研究者でもない俺では精々怪しげな仮説を打ち立てる程度が限界だろう。

とはいえ、全く考えない訳にはいかない。というかどうしても考えが行ってしまう。
時間移動や平行世界といった分野について持てる限りの理論を思い返して見る。アインシュタインの相対性理論であったり、ライプニッツの可能世界論であったり、しかし齧った程度の知識でまともな推論を組める訳もなく、やはり途中で思考を放り投げることになった。
が、その最中に俺は一つの現実的な仮説を思い付くに至った。割と説得力があり、そしてあまり信じたくない類の。

フラクトライト。
ここ最近、俺がアルバイトをしていた「ラース」という企業で聞かされた話だ。
旧来のVRマシンとは一線を画する理論に裏打ちされる、新たなVRマシン。
何度か体験したあの世界は、それこそ現実と寸分たがわない、もう一つの現実を形成していた。
あの技術がこのデスゲームに使われている可能性は十分にあるが、しかし俺が考えたのはまた別のことだ。

フラクトライトとは人がどう思考するかを決定づける光子の集合体であり、ざっくばらんにいえば「魂かもしれないもの」だ。
それをデジタルデータで表現する技術を俺は身を以て知っている。
そしてデータである以上、コピーすることができるのだ。コピーしておいたデータを保存しておくことも勿論できる。
ならばここに居る『キリト』はその保存してあったフラクトライトから再生されたものであるという考えはできないだろうか。
このデスゲームの「外」は実はA.D.2046か、それより先の未来であり、もしかして俺もシルバー・クロウも時間を置いて再生されたデータ上の存在でしかない可能性。
その場合このデスゲームはAI同士を殺し合わせる悪趣味な催しということになる。
反吐が出る発想ではあるが、しかし時間移動や平行世界といった可能性よりはずっとあり得そうでもあった。

「……何にせよ、変わらないか」

俺はそこで思考を中断し、厭な考えを振り払った。
シルバー・クロウとの出会いが本当に時間移動によるものなのか、はたまた共にデータベース上の存在でしかないが故のことだとしても、俺は間違いなく生きているし、今ここにある世界は現実だ。
ならば俺がこのゲームに乗ることなく脱出することに変りはない。
今はそれだけ分かっていればいい筈だ。

ふとそこでヒースクリフ――茅場晶彦のことが脳裏を過った。
紛れもない天才研究者である彼がこの場に居たら、どのような考えを示すのだろうか。
そんなことを、考えてしまった。








81矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:52:57 ID:O33XXsHM0


休憩の終わりを告げたのは、一通のメールの着信だった。
時刻にして6:00。俺、そしてシルバー・クロウは突如開かれたウィンドウに弾けるように反応した。
GMからのメール、俺は背中に冷たい汗が走るのを感じつつもメールを開いた。
そしてそこに記された情報を読み取った後、

「――脱落者」

そう、声が漏れた。

ウィンドウを見上げる。外から見れば何もない虚空を、しかし俺には見えるその情報の羅列を俺はただ呆然と見ていた。
【クライン】【リーファ】【レン】。
自分の知る三つの名が、そこにはあった。
その名をなぞるように指を這わせ、そして何かを言おうとしたが、しかし結局喉奥から何も言葉が出て来ることはなかった。代わりに溜息とも笑いとも付かない奇妙な吐息が絞り出た。

メールの着信音の他に音はなかった。静寂だ。元よりこのエリアは静かなのだ。
自分以外の全てがずっと遠くに行ってしまったかのような感覚に囚われる。そんな中、胸奥に走る熱がずっと強く感じられた。
しばらく何もせずにウィンドウを放置していると、ウィンドウが勝手に閉じた。そうして虚空は本当の意味で虚空となった。

「……あ、あの」

声が聞こえた。
シルバー・クロウだ。彼は言葉を選ぶような間を置いた後、婉曲な言い回しで事情を尋ねてきた。
誰か知った名があったのか、と。

「……ああ、三つあった。一つはレンさん、あとは……」

俺は顔を俯かせ目を合わすことなく答えた。シルバー・クロウはそれ以上何も言わなかった。

たまたま名前が一致しただけだ。静寂の中で、ふとそんな考えが脳裏を過る。
羅列されたのはアバター名だけだ。それが俺の知る彼らであるという保証はどこにもない。
だからまだ分からない。本当に彼らが彼らなのか。
立ち尽くす俺がひねり出したそんな可能性を打ち消したのは、もう一人のどこか冷めた俺で、仮に一つだけならばまだその可能性もあるかもしれないが、二つとも無関係、というのは先ずないだろう、とその俺は囁いたのだ。
加えて俺はこのデスゲームがある程度知り合いが集めれていると予想していた。
それは開幕の場で似たようなアバターを持つ参加者が多く確認できたことに加え、レンにとってのジロー、俺にとってシルバー・クロウといった既知の存在が確認できたことから恐らく正しい。

ならば、やはりこの名前は自分の知る彼らなのだろう。
【クライン】はSAOログイン以来の付き合いであった壺井遼太郎であり、【リーファ】は他でもない妹、桐ケ谷直葉である。
そうでない可能性も無論あるが、しかし覚悟はしておくべきだ。

では本当に俺は彼らを失ったのか――
未だ実感が湧かない。当たり前だ。この前まで普通に会って笑って、共にゲームをしていた彼らが、こんな、こんなにもあっさりと死ぬなど。
アインクラッドに囚われていた頃の俺ならば、すぐに事実と受け入れていたのだろうか。
この喪失を。

「行けるか?」

どれだけの時間が経っただろうか。長い沈黙を経て俺は視線を上げた。
その先にはポータル――ファンタジーエリアへの入り口がある。それに近づきつつ、俺はシルバー・クロウを促した。

「……キリトさん」
「シルバー・クロウ。そろそろ移動しても大丈夫か?」
「僕は大丈夫ですけど……でも、」

俺は半ば強引に笑みを浮かべ「大丈夫だ」と再び言った。
無論、それは本心からではない。死を割り切ることなどできはしなかったし、する気もなかった。
しかし立ち止まる訳にいかない。それもまた事実だった。

82矛盾 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:53:14 ID:O33XXsHM0

幾ら悔いても死を取り戻すことはできない。
そのことは、あのアインクラッドで思い知った筈だ。
だから歩かなくてはならないのだ。
死を受け止め、途中で倒れそうになっても、前へ進む。
そうでなくては散った者たちの死に意味が――いや、これはただの感傷か、俺は無理矢理に死に意味を見出そうとしている。
しかしそうでなくては俺が今まで見てきた死者たちが――

「なら、行こう」

纏まらない思考を振り払うように俺は言う。
とにかく死はもう取り返すことができない。レンも、クラインも、リーファも、決して。
ならば進むしかない。それだけは確かな筈だ。

「あの……」

俺の様子を見かねてか、シルバー・クロウが口を開いた。

「僕には正直、今のキリトさんの気持ちは分からないと思います。
 だから、何も言えません。言ってもたぶん薄っぺらいことにしかなないでしょうし……」

でも、と力強く言って彼は俺をまっすぐと見据えた。

「せめて僕を信じてください。頼りならないかもれないけど、精一杯頑張りますから、何かやるべきことがあれば僕に言って下さい」

シルバー・クロウの言葉には不器用な優しさが滲んでいて、そのせめてもの礼として俺は笑ってみせた。
同時に、隣に居てくれてたのが、彼のような人間であったことに感謝する。
付き合いは短い。しかし既に俺とシルバー・クロウの間には奇妙なシンパシーが存在しているようだった。

「ああ、分かった。よろしく頼むぜ、シルバー・クロウ。俺がヤバイ時は助けてくれ」
「はい……、キリトさん。その、僕でよければ」
「丁寧語止めないか? さっきの戦いの時みたいにキリトって呼んでくれた方が良い」
「あ、え、でもキリトさんの方が年上ですし」
「ネットゲームでそんなん関係ないって。ほら、行こうぜ、クロウ」
「え、えーと、分かった、キリト」

そうして俺はシルバー・クロウと共にポータルを潜った。
正直まだ考えは纏まらない。しかし、シルバー・クロウと一緒ならば歩ける筈だ。
そう思い、俺はファンタジーエリアへ跳んだ。
その先に待つものが何であるのか、全く知らないままに。











思えば、この時の俺はやはり混乱していたのだろう。
もう少し頭が回っていれば、自分の思考の矛盾に気づくことができたというのに。
死は決して取り戻せない。そう考えておきながら、時間移動という形でシルバー・クロウの存在を許容した。
明らかに矛盾している。いや、二つの考え自体は共に正しい。ただ正しいが故に、もう少し先まで考えることができていたら、と思わざるを得ない。
何故ならこの先に待っていたものは――

83生きるは毒杯 杞憂の苦しみを飲み干す術を誰が授けよう ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:54:50 ID:O33XXsHM0
(ここから先は変えてない部分は長いので略します)

オーヴァン。
そうその男は名乗った。

「本当に運が良かった。もう少し遅ければすれ違っていただろうからね」

そう言ってオーヴァンは微笑む。確かにその言葉通りだった。
ファンタジーエリアにやってきた俺とシルバー・クロウは日本エリアを目指し西進していた訳だが、話によれば彼らは今まで遺跡を探索していたらしい。
一通り探索を終えた後、次なる目的地としてここから少し南に位置する大聖堂を目指していたという。
となると、少しでもタイミングがズレていれば二つのパーティがこうして相対することはなかったことになる。
だから恐らく幸運なのだろう。これは。

「オーヴァンさんは大聖堂を知っているんですか?」
「ああ、ちょっと大聖堂という場所に心当たりがあってね。もしかして知っているところじゃないか、そう思った訳だよ。
 仮にそうなら是非とも調べてみたい場所でもあるんだ」

シルバー・クロウとオーヴァンが言葉を交わしている。
先の接触を経て、俺たちと彼らは共に行くことにしていた。
当然だがサチも、そしてその同行者であったオーヴァンもまたデスゲームに乗る気はないらしい。
ならば同行を拒否する意味はない。ましてや俺とサチは顔見知りであるのだから。

「そうなんですか。じゃあとりあえず聖堂に行って、それから日本エリアに、という感じですかね」
「そうしてくれると助かる。すまないね、君たちの予定を狂わせてしまって」
「い、いやいや、僕たちこそ一緒に来てくれて助かります。ね、ねぇキリト」

シルバー・クロウの言葉に俺は「ああ」と短く答えた。
もう少し何か言うべきだったのかもしれないが、今の俺にそんな余裕はなかった。
先程から喋っているのはシルバー・クロウとオーヴァンばかりだ。
シルバー・クロウが何とか会話を取り継ごうと話題を出し、それをオーヴァンがフォローするように答える。大体そんな流れだ。
そんなことになっているのは、言うまでもなく俺とサチのせいだろう。

「…………」

サチは出会って以来ずっと黙っている。オーヴァンの影に隠れ、不安そうに俺を見ている。
今しがたの再会で、俺の様子がおかしいことに気付いたのだろう。
それが彼女を不安にさせている。そんなことは言うまでもなく分かっていた。

しかし、俺は未だに何もサチに言えていない。
どんな言葉を掛ければいいのか、俺はどうするべきなのか、全く見えなかったからだ。

しばらくすると、ぎこちなかった会話も途切れた。各人何も言わず、ただ黙々と歩いている。
シルバー・クロウも話を続けることを断念したのか、少し肩を落とし後ろを歩いている。少し無理をさせてしまった。
そんな気まずい沈黙はどれほど続いただろうか。感覚としてそれほど長くなかったようにも思う。

「見えたな」

その沈黙を破ったのは、やはりオーヴァンだった。
見上げると、そこには巨大な橋の上に築かれた巨大な建築物があった。
その荘厳な造りはなるほど確かに大聖堂、と呼ぶに相応しい。
そしてネットスラムの時と同じく、その聖堂はふっと湧いたように感じられた。やはり遠近エフェクトが強まっているのだろうか。

「グリーマ・レーヴ大聖堂。やはり……」

隣りでオーヴァンがぼそりと呟いた。
グリーマ・レーヴ大聖堂。それがこの施設の名のようだ。

「ところで調査の方だが二手に別れるというのはどうだろうか」

大聖堂に近付き、橋の上までやってきたところでオーヴァンが不意にそう提案した。
その言葉は、まるで耳元で囁かれるようにすっと頭に入ってきた。

「聖堂の中と外、パーティを分割して調査する、という訳だ。恐らくそちらの方が効率が良いだろうな。
 どうだろう? 外の調査はキリトとサチにお願いしたいのだがね」

言われた途端、俺は身を固くし、そして同時にサチが肩をビクリと上げたのが見えた。

84生きるは毒杯 杞憂の苦しみを飲み干す術を誰が授けよう ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:55:59 ID:O33XXsHM0
(中略)

(……でも、こんなことは許しておけない。それは変わらない)

何をするかは分かっている。仲間を募ってこのデスゲームを打倒すること。それだけだ。
なら、迷うことはない筈だ。

その為にも、オーヴァンたちと出会えたのは本当に幸運だった。
二人だったパーティが、四人に増えた。この調子で仲間を増やしていくことができるのならば、ゲーム打倒も難しくないのかもしれない。
ハルユキはそんな希望を持っていた。

フォルテの戦いで、キリトの同行者――レンさんというらしい――を助けられなかった、ということへの負い目は正直未だにある。
今思い返しても胸が痛むし、キリトに申し訳ないと思ってしまう。
しかし、他でもない彼自身にその気持ちを否定され、そして短い間とはいえ一息吐けたことで幾分冷静になれていた。
つらい。が、しかし全てを背負い込んで前に進めなくのは、駄目だ。

(キリトとサチさんは上手く話を付けられるといいけど……)

共に戦う為にも、あの二人の間にあるわだかまりを解消して欲しい。
オーヴァンもそう思ったからこそ、こんな計らいをしたのだろう。
見たところキリトもサチも敵意がある訳ではない。寧ろ互いに好意を持っている。
そのあたりの機微は未だに上手く掴めないハルユキだが、それでもそれくらいは分かった。
ならば、話せば分かる筈だ。かつての親友との一件を思い出す。確執はあった。しかしそれを乗りこえ、自分たちは再び親友として絆を深めることができたのだ。

「なるほど……ここはこちらのThe Worldのものか。となると……」

オーヴァンの呟きに、ハルユキはハッとして顔を上げた。
ぼうっとしていたハルユキを尻目に、オーヴァンは大聖堂の奥で何かを調べている。
ただサボっている訳にも行かない。ハルユキは急いで彼の下へ走った。コツンコツン、と足音が広く響き渡る。

奥まで行くと、オーヴァンが誰も居ない台座をじっと見つめていた。
正確には、その台座に刻まれた奇妙な三筋の爪痕を。

「何ですか? これ」

その異様な様子にハルユキがそう疑問を呈すると、オーヴァンはゆっくりと振り向いて、

「爪痕(サイン)だよ」
「え?」
「この現象の名前だ。The Worldで幾つかのフィールドにあったグラフィック異常だ。
 何なのかはよく分からない。しかし、これを名付けた人はこう思ったそうだ」

これは前兆だ、と。
オーヴァンはそう告げた。
ただならぬ様子にハルユキはごくん、と息を呑みそのサインとやらを見つめた。世界を抉り取ったようなその傷は、時節鈍く明滅しており不気味だった。
確かに何か、何か良くないことが起きそうな、そんな気にさせる爪痕だった。

「前兆……」
「そう前兆……まぁただのバグかもしれないがね。
 ――それよりシルバー・クロウ」

オーヴァンはそこでハルユキに問いかける。

「教えて欲しい。先ほど君が言っていたネットスラムの少女のことを。
 彼女が花を残したのは本当かい? 彼岸花……リコリスの花を」

と。

85生きるは毒杯 杞憂の苦しみを飲み干す術を誰が授けよう ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 01:57:02 ID:O33XXsHM0
(中略)

「種は撒いた」

彼はぼそりと呟き、開け放たれた扉をじっと見据えた。
その向こう側のどこかに去っていた二人が居る。キリトとサチ、彼らは種だ。
新たな争いを生む種。彼らの存在はきっとゲームを加速させる。

それをばら撒いたのは、他でもない自分だ。

サチは元より不安定な素振りを見せていた。
そんな彼女は自分に庇護されることにより一応の安定を見せていたが、ふとした拍子に崩れてしまいそうな、そんな危うさが垣間見えていたのだ。
自分に依存していた、といってもいい。
先の仕様外エリアへの侵入の件についても、サチはオーヴァンに対し深くは聞いてこなかった。自分の知るゲームの裏技を試してみた、という自分の言葉をそのまま信じているようだった。

問題はそれを何時「種」とするかだったが、その契機は幸運にも向こうからやってきてくれた。

(キリト――お前に会えたのは本当に幸運だった)

ウラインターネットからやってきたという二人組。
彼らとの接触はオーヴァンにとって非常に有意義なものであった。
シルバー・クロウがネットスラムで見たリコリス――アウラの失敗作の存在、それが求める「意思」のプログラム、そして異なる時間と世界の概念。
どの情報もこのデスゲームの裏側を埋める欠かせない欠片だった。
先のGMとの接触と併せて、早い段階でそれらを察知できたのは、幸運だったとしか言いようがない。

86 ◆7ediZa7/Ag:2013/10/17(木) 02:00:55 ID:O33XXsHM0
以上になります。

主な変更点として
・キリトが気絶から目覚めるシーン及びショップ探索シーンの加筆
・前話読み込み不足の指摘を受けての心理描写の変更
・キリトたちはB-9に迷った末に行くのではなく、途中予定を変更して行くことに
・オーヴァンたちの行動に遺跡探索を追加
となります

87 ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:14:23 ID:gQdu31d.0
修正版投下します

88世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:15:00 ID:gQdu31d.0
その先に居たのは黒い斑点の塊だった。
膨れ上がったAIDAがグロテスクに蠢く。時節不気味な叫び声を上げつつ、その宿主をも巻き込んで膨れ上がっていく。
その核となるのは一つの魔剣だ。潜んでいたAIDAが真紅の魔剣から溢れるように流れてきた。

――喰ワセロ

肥大したAIDAが不気味な声を漏らした。
その表面はぼこぼこと膨れ上がっている。剣の持ち主であるアスナをも取り込んで、黒点の塊が蠢くように増殖していく。

「これは……!」
あの姿には覚えがあった。太白が一般PCを蹂躙していた際に見せたフィールドを覆い尽くす程の黒点。
マクスウェルに潜むAIDAの正体だ。魔剣に収まっていて奴らが、己の危機を察して表面にでてきたという訳か。

これは自分のミスだ。
データドレインを決めていればあのAIDAを駆除できたはずなのに、みすみすその機会を逃してしまった。
黒点の勢いは止まらない。点が線となり面となり球となり空間を侵食していく。

「あ、エルク……」
「ミア!」
その身を貫かれたミアが苦悶の声を上げた。
エンデュランスは急いでその身を抱く。彼女は胸を押さえ辛そうにこちらを見上げている。
手の平の中のミアの身体はとても小さく、そして弱々しく見えた。

まるであの時みたいだ――

あの時のミアはゲーム上の“死”すら与えられなかった。
何か大切なものを奪われその身を消滅させた。その時の様がフラッシュバックする。

「違う!」
その光景を振り払うようにエンデュランスは叫びを上げた。

「あの時とは違うんだ……まだ守れる。まだ……」
言い終わらない内に、その姿を変貌させたAIDAの攻撃がやってきた。
喰ワセロ――原始的な衝動を含んだ叫び声を上げAIDAの黒点が猛然と襲いかかってきた
黒点が鳳仙花の実のように周りへはじけ飛んだかと思うと、曲線を描き一点、エンデュランスとミアの下へと集束していく。
咄嗟にエンデュランスはミアを抱きしめた。その背中に光線が撃ち込まれその身を焦がしていく。
その痛みは気にならない。ただミアを守れるのなら――

「エルク……君は」
「喋らないで、ミア。
 言わなくても分かってる。殺しはしないよ。あの人も、君も……」
そう答えるとミアが笑ってくれた。表情が見えずとも分かる。言葉さえ要らない。
確かな“繋がり”があるから。

「……行くよ」
ミアを抱えながらエンデュランスは哀れな敵を見据えた。
AIDAの塊に取り込まれたアスナは何も言わない。意識があるのかも怪しい。
マクスウェルを振るっていた筈の彼女は今や完全にその主導権を魔剣に奪われている。あるいはその感情を餌として食われているのか。

彼女をあんな姿にしてしまった責任の一端は自分にある。
元に戻し、今度はプレイヤーとして向き合うこと。それが自分がやるべきことだ。
ここで憑神を解除して彼女を解き放つ訳にはいかない。

手はある。
今一度データドレインを決めれば彼女からAIDAを取り除くことが出来る筈だ。
かつてハセヲがAIDAに縛られた彼を救って見せたように。

89世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:15:39 ID:gQdu31d.0

「ハセヲ……僕は君の隣に立ち続けたい。だからこそ、ここで逃げ出す訳にはいかないんだ」
故にエンデュランスは戦うことを選ぶ。救う為に、ハセヲと共に歩む為に。
そして二対の存在が対峙した。

「もう一度、僕と踊ろう」
エンデュランス/マハはそう誘うように言い、空間に再び花弁をまき散らす。敵もまたAIDAを触手のように薙ぎ払う。
赤と黒。AIDAと花びらが空間に拮抗するように交わった。
向き合う二つの巨体、そして――激突。

「行くよ」
「――――」
AIDAが吐き出した黒の触手が猛然とマハへと迫る。その数は十を越えている。
花びらがそれを受け止め、零れた分はエンデュランス/マハその手で弾き返す。
間髪入れずAIDAが追い打ちを掛ける。今度は幾つもの触手を束ね極太の光線として放ってきた。
エンデュランスがギリギリのところで避けてみせると、ギギギとAIDAが悔しげな声を漏らした。

赤を侵さんと黒が空間を上塗りしていく。
もはやそこに元のゲームの名残はない。世界の理から外れた、完全にシステム外の一戦だった。

AIDAと憑神、そしてミア。
因縁深い存在同士の激突は、初め互角であったが、徐々に差が付き始める。
憑神・エンデュランス/マハが徐々に苦境に立たされていた。

このデスゲームが始まって以来、彼はあまりに自らの状態を顧みなかった。
ダスク・テイカ―との戦いの傷だってまだ癒えていない。愛に溺れ、愛に酔い、愛に呑まれひたすら会場を彷徨い続けた。
その消耗が、今になって彼を苦しめているのだ。
対する敵の方はプレイヤーの方はいざ知らず、マクスウェルに潜んでいたAIDAはほぼ完全な状態と言ってもいい。

加えてエンデュランスはミアを守りながら戦わなくてはならない。
瀕死の彼女を抱きしめ攻撃を庇わねばならない。それが彼を更に追い詰めていた。

「くっ……でも」
諦める訳にはいかない。
ハセヲを思い出す。彼は決して倒れはしなかった。
如何なる絶望があっても、歩みを止めることだけはしなかった。

黒い閃光がエンデュランス/マハの身体を貫く。
苦悶の声を漏らしつつも、彼は叫びを上げAIDAの塊へと迫っていた。

手の中のミアもまた苦しそうだった。
押されている。このままでは倒れるだけだろう。
何時かと同じように。力を手に入れた筈なのに。

(力だけじゃ駄目なのは分かっている――)

ミアを失い求めた力。守りたいと思った。守るものなど既に消え失せているのに、力がないと不安で仕方がなかったから。
だからエンデュランスはアリーナに固執した。力を示す為に。
でもそれは結局、自己満足に過ぎない。

(ハセヲ……君も、そのことを知ったんだね)

ハセヲ。
力を求め荒んでいた頃の彼もまた、エンデュランスは知っている。
深い事情までは知らなかった。それでも彼が何かの欠落を埋めんとするように力を求めていたのは見れば分かる。
そういう点で自分と彼は似た者同士だったのかもしれない。

(だからこそ、僕は君に惹かれたんだ)

しかしハセヲはそこから一歩踏み出した。それが無意味なことだと気付いたのだ。
その上でハセヲはエンデュランスに言った。お前が必要だと。それがエンデュランスにとって、最も欲していた言葉だと知った上で
自分と同じ道を歩みながら、自分には行くことのできなかった先を言って見せた彼を、エンデュランスは愛したのだ。

(だから、行くよ、ハセヲ。
 君の下へ一歩でも近づく為に。
 時間はかかるかもしれないけど、それでも歩みは止めない)

そしてエンデュランスは咆哮した。

――僕はここに居る。

決して自分を見失ったりはしない。
どんな“繋がり”の果てに自分が居るのかを、決して忘れはしない。
そう思いを込めて。

幾多の弾丸をその身に受けながらもエンデュランス/マハは敵の目前へとたどり着いた。
そして幾多の傷と痛みを上書きするように叫びを上げ、その身をコンバートする。
花を咲く。モルガナ因子が明滅し、そのチャージが始める。AIDAとて黙っては居ない。黒点を散弾のようにまき散らした。

90世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:16:00 ID:gQdu31d.0

「これで……!」
絶え間なく続く苦痛の最中、エンデュランスはその光を高めていく。
その光が頂点に達するのが、黒が自分を喰い尽くすのが先か、凄絶な戦いだった。
二つのイリーガルな力がぶつかり合い、そして――

「あ……」

――黒い力が競り勝った。

データドレインの発動より早く、憑神マハがプロテクトブレイクを起こしたのだ。
憑神を維持できなくなり、徐々にその身を崩していくマハ。抜けていく力。打ちのめされる心。猫の体躯がすうと消えていき、代わりに元のエンデュランスのPCが現れる。
その全てが、己の敗北を示していた。

「そんな……僕は、敗けたのか」
呆然と呟く彼の前にはダメージを受けつつも未だ健在なAIDAの姿があった。
黒点が膨らんでいく。あれが炸裂した時、今度こそ自分は倒れるだろう。

「ミア、ごめん。僕が……僕のせいで」
そう力なく言ってエンデュランスはミアを抱きしめた。
柔らかな温もりが伝わってくる。失っていた筈の過去、取り戻すチャンスを自分は不意にしてしまった。
そう思うと、哀しみより悔しさより、申し訳なさが胸を支配した。

「ははっ、気にすることはないよ。君だけのせいじゃない。元を辿れば僕のせいでもあるしね」
それでもミアはそう言ってくれた。こんな時だと言うのに、どこか悪戯っぽく、蠱惑的に。
そしてミアもまたエルクを抱きしめた。力強くぎゅっ、と。

「不思議だね。こんな時なのに、こうしていると落ち着くんだ。
 今の君はエルクじゃないのに――姿形は全然違っても、そこに居るって分かっているからかな」
「うん、僕もだよ、ミア。これで満足なんて絶対にしてないし、認めたくもない。これがハッピーエンドだなんて絶対に思わない。
 けれど、嬉しいんだ、僕は今間違いなくそう思っている」
顔を寄せ合い、二人は笑った。少しだけ、本当に少しだけ、二人はかつてのように笑い合った。

「ねえ、聞かせてよ。君の名前」
「え?」
「だって君はエルクじゃないんだろ? なら、先ずは自己紹介から始めないと。
 そうでないと始まらない。今はまだ繋がっていないなら、これからまた繋がり直さないとね」
ミアの言葉にエンデュランスは切なげに息を漏らした。
何と嬉しい言葉だろう。何と素晴らしい言葉だろう。そう思えたからこそ、辛い。
これから始まる筈の関係がすぐに終わってしまうことが。

「うん、ミア。聞いて僕の名前はね――」
身を引き裂くような悲しみに襲われつつも、彼は己の名前を告げた。
一言一句はっきりと、切れていた“繋がり”をもう一度やり直す為にも。
その瞳からは涙が零れていたが、しかしそれでも彼は笑っていた。笑おうとしていた。

「エンデュランス、か。良い名前だね。僕はミアだよ、よろしく」
ミアもまたそう言って、ふふっと笑って見せた。抱き合う二人はそうして再び繋がり合う。

時を越え、彼らは巡り会ったのだ。

その感動の最中にも濁流のようにAIDAが押し寄せてくる。
二人の身体を押し寄せてきた黒点が包み込む。その舐めるような感触にエンデュランスは身体の芯から不快感を覚えた。

91世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:16:28 ID:gQdu31d.0

(コイツは僕とミアを喰ってしまおうというのか……!)

AIDAは憑神そして碑文に興味を抱いていた。
現にかつてアトリは第二相の碑文を奪われた。
今回は碑文使いの自分に加えミアも居る。彼女もまた碑文の基となった力をその身に宿しているのだ。
今の自分たちは奴らの餌という訳か。エンデュランスは屈辱に口元を歪めた。

二度目の別離がフラッシュバックする。
チャップチョップ。奪われたモルガナ因子。根こそぎ持っていかれ横たわるミア。

(そんなことを……!)

エンデュランスの身に感情の炎が烈火のごとく湧き上がる。
渡すものか。そんなことを認められるものか。その胸に激情を抱いたエンデュランスは黒点に取り込まれながらも反射的に動いていた。
ミアが持っていたレイピア――それは何よりも手に馴染む巫器――縁が引き寄せたその細剣を手に取り、彼は抱きしめていた彼女を背中から貫いた。

ミアは、笑った。

刃は彼女の身体越しにエンデュランスの身体に届いている。腹部に広がる痛みにエンデュランスもまた笑みを浮かべた。
これで自分たちは死ぬ。奴らに喰われるより早く、この世界から姿を消すことになるだろう。
それでいい。これで自分たちの“繋がり”は誰の手に渡ることもなくなる。

そして二人は今一度顔を寄せた。視線と視線が交錯する。永遠の時がやってきた。
もはや言葉は要らない。身も心も繋がっているのだから。死が二人を別つまで。
自分は時を越え“繋がり”を得た。時の鐘が鳴り渡る。終わりを告げるよ。繋ぐこの手永遠に――

(ハセヲ)

最期に、消えゆくエンデュランスは心の中で呼びかけた。今ならまだAIDAに取り込まれる前に逝ける。自分は自分のまま死ぬことができる。
だからせめて言葉を残そう。その消失の最中もう一人の最愛の人へ。

(結局僕は君のところには行けなかった。駄目だった。哀しいけど僕はここまでだ。
 でも、君なら行けるよ……僕には分かる。分かるんだ……君のことなら……。
 だから、たとえ何が起ころうとも、君にだけは足を止めないで欲しい。
 僕は見ることができなかった道の先へと進み、未来を描くことが――)

92世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:17:02 ID:gQdu31d.0










アスナが目を覚ましたのは、全てが終わった後だった。
ふと目を明けると、そこには灰色のビルに取り囲まれた青空があった。
それをしばらくぼうっと眺めていると、次第にここで何があったのか思い出してきた。

(確かわたしは……ありすを追いかけてて、それであの猫と……)

思い出した途端、アスナは反射的に身を起こし魔剣を構えた。
そうだ自分は戦闘中だった筈だ。猫を追いかけた結果、変な男性キャラが現れ、おかしな空間に連れて行かれた。
その途中で記憶が切れている。確か自分は劣勢だった筈。途中で気絶してしまったのだろうか。

警戒しつつ辺りを見渡すが、しかしそこには誰も居なかった。
アスナは拍子抜けしきょとんとした顔を浮かべた。一体何があったのだろうか。
もしやあの戦いは全て夢のようなものだったのだろうか。覚醒直後の気だるさがそんなことすら思わせた。

(猫を追って変な世界に飛び込んで最後は夢オチなんて、これじゃ完全にアリスね)

ふと湧いて出たそんな考えに嫌悪感を覚えたアスナは思わず顔を顰め、頭を振ってその説を否定した。
確認がてらウィンドウを開く。ステータス画面を見るとHPが減っていた。あの戦いは確かにあった現実なのだ。

では敵はどこに行ったのだろうか。
そう思い周りを今一度見渡す。するとそこには様々なアイテムがカードの形態になって散乱していることに気付いた。

(ドロップアイテム……アイツらは倒されたってこと?
 でもじゃあ誰に?)

自分ではない、と思う。
少なくともその記憶はない。しかし他に誰が居るのだろうか。
辺りを見渡してみたが他の参加者の影はない。

第三者の行いならドロップしたアイテムをこうしてそのままにしているのもおかしい。
善意あるものなら気絶した自分を放っていくこともしないだろう。
ならば考えられるのは敵の自滅だが、それも少し考えにくい。

(何が……あったの?)

不安に思ったアスナは、思わず魔剣を見た。
すっかり手に馴染んだ魔剣。もしやまたしてもこれに救われたか――何故かそんな考えが脳裏を過ったのだ。

(分からないけど……とにかくここに留まるのは危ないわよね)

アスナはそこで一度考えを打ち切った。
何時また敵に襲われるとも分からない。一度落ち着ける場所を探さなくては。
そう思いドロップしたアイテムを集めていると、気が付いた。
己の右腕に、黒くこびりつくグラフィック異常に。

(何これ……?)

それはひどく不気味だったが、どういう訳か恐怖は湧かなかった。
頼もしさすら湧いた。それが何を意味するのか、彼女はまだ知らない。
手に持った魔剣が、地面に擦れて乾いた金属音を響かせる――

【F-8/アメリカエリア/1日目・午前】

【アスナ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP30%、MP70% 、AIDA悪性変異
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、死銃の刺剣@ソードアート・オンライン、クソみたいな世界@.hack//、誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.、不明支給品2〜5
[思考]
基本:この殺し合いを止め、無事にキリトと再会する
1:アリスを討つ
2:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
3:これはバグ……?
[AIDA]<????>
[備考]
※参戦時期は9巻、キリトから留学についてきてほしいという誘いを受けた直後です。
※榊は何らかの方法で、ALOのデータを丸侭手に入れていると考えています。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。 横についても同様であると考えています。
※トリニティと互いの世界について情報を交換しました。
 その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えています。
※AIDAの浸食度が高まりました。それによりPCの見た目が変わっています。
※マクスウェルのAIDAはアスナの意識がある内はAIDAが表層に出て来ることはありません。

93世界の終わりと君と僕(修正版) ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:17:13 ID:gQdu31d.0


こうしてミアとエンデュランスの“世界”は終わった。
アスナはその後疑問を抱えつつもドロップアイテムをストレージへと納めた。彼と彼女が持っていたアイテムは彼女のものになったのだ。

その際に彼女は知る由もない変化があった。
アイテムの中から彼らが持っていた筈のあるものがなくなっていたのだ。

このアメリカエリアでは現在一つのイベントが行われている。
“幸運の街”と名付けられたそのイベントにより、エリアでPKされたプレイヤーがドロップするアイテムが一定確率で変化する。
結果としてあるアイテムが変化していたのだった。

別にそれで何か影響がある訳でもないだろう。
支給アイテムの中でも、特に役立つことのないものだったのだから。
アスナがそれに気付いたとしても、何も思うことはなかった筈だ。

しかしそれに深い意味を見出す者も居たのだ。

そのアイテムは【エノコロ草】
エルクとミアの“繋がり”の象徴。エンデュランスとミアの新たな“繋がり”の道標。
そうしてそれは他の誰のものになることもなく、他の何ものに侵されることなく、唯一彼と彼女だけが持つものとしてこの世界から誰の手にも届かない場所へ消え去った。
何とも歪な形で、決して美しい訳でも幸福さに満ちている訳でもないだろうが、それでもきっとそれはこう呼ばれるに足るものだ。

永遠、と。




【エンデュランス@.hack//G.U. Delete】
【ミア@.hack// Delete】

94 ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 04:22:36 ID:gQdu31d.0
以上で投下終了です。
主な変更点として

・AIDAを鳥型から、vol.3で太白が見せたAIDAの集合体に(それに伴い戦闘描写を変更)
・表層に出てきた理由は「魔剣がダメージを受けたから」に(太白戦でハセヲが魔剣に攻撃した際の描写を参考)
・AIDAが碑文を求める描写+その後のエンデュランスの行動

となります。

95名無しさん:2013/11/21(木) 08:41:42 ID:KG8FqdT6O
修正乙です
二番目と三番目はこれで問題ないと思います
一番目のほうは、AIDAの黒い点は、あくまでもAIDAのいる空間につながる通路です
触手のような例外はありますが、アバターバトルになっても黒い点のままなのはちょっと変に思います
マクスウェルのAIDAの本体が不明なので、仕方ないと言えば仕方ないんですけどね

情報ソース
補完情報の下から五番目
>>ttp://wiki.livedoor.jp/the worldpurasu/d/%A3%C1%A3%C9%A3%C4%A3%C1

96 ◆nOp6QQ0GG6:2013/11/21(木) 14:17:03 ID:gQdu31d.0
了解です。
ではちょっと加筆して

>>88

>黒点の勢いは止まらない。点が線となり面となり球となり空間を侵食していく。
>そしてその奥に半透明の核が見えた。AIDAの黒点に塗れその全容は見えないが、かつてのボルドーやAIDAそのものが表に出てきたということか。

変化はしたが黒点が多過ぎて全容が見えない、という形で

97名無しさん:2013/11/21(木) 15:16:01 ID:KG8FqdT6O
AIDAの本体を確定させないのであれば、そのあたりが落としどころでしょうか
度重なる修正、お疲れさまでした

98 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 16:57:02 ID:Bh28yqxM0
初投下になるので予約分の仮投下をさせて頂きます。

99夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 16:57:57 ID:Bh28yqxM0
 誰かは言った。ロボットは夢を見ないと。機械で作られたロボット達は眠らないし、夢を見る機能を取り付けられることも滅多にない。人間に近くなるように作られない限り、ありえないだろう。
 ならば、アバターはどうだろうか? インターネットコミュニティを利用する人間の分身であるアバターは夢を見るのか。また、機械によって生み出されるAIは夢を見ることがあるのか。人間のように計算や推測をすることはあっても、夢を見ることがあるのだろうか。夢を見るように設定したとしても、それは人間が見ているのと同じ夢と呼べるのだろうか。
 そして、機械によって作り出された仮想空間に生きる者達も夢を見るのか。仮想空間に意識を閉じ込められてしまったら、夢を見ることができるのだろうか。その世界で眠りについたとしても夢を見られるのかどうかわからない。既に夢の中にいるような状況なのだから、そもそも夢を見る必要がないかもしれなかった。
 だからといって、仮想世界に閉じ込められた彼らは夢を見ないという訳ではない。この殺し合いでも既にジローという参加者が夢を見たのだから。
 そして今も、榊達が主催する仮想空間の殺し合いを強いられた参加者の一人、桐ヶ谷 和人は……いや、VRMMORPGの世界ではキリトというハンドルネームで呼ばれている少年は、夢の世界にいた。


***


「ここは、どこだ……?」
 気が付くと、俺は闇の中に立っていた。
 辺りを見渡しても、見えるのは黒一色だけ。夜の闇よりも濃くて、泥のように粘っているような漆黒が俺の周りに広がっていた。まるでRPGに出てくる洞窟のようで、いつモンスターに襲われてもおかしくない。だけど、今の俺にとってそんなことはどうでもよかった。周囲は闇に包まれているが、仮に不意を突かれたとしても負けるつもりはない。こんな状況でも、打開できるだけのスキルを身に付けてきたのだから。
 考えるべきことは、ここは一体どこなのかだ。どうして俺はこんな所にいるのか。殺し合いをさせられていたはずなのに、いつの間にこんな場所に辿り着いてしまったのか。どれだけ考えていても答えを見つけることはできず、俺の中で疑問が膨れ上がっていく。
 しかしここでそれを考えていても意味がない。それよりも、一刻も早くこの暗闇の中から抜け出すことを考えるべきだった。何の明かりもなく、視界が闇に覆われている中を進むのは無謀だが、止まっている訳にはいかない。
「そうだ、サチは……サチはどうなった?」
こうしている間にも、ずっと守りたかった彼女……サチが危険に晒されているかもしれないからだ。
「サチ……サチ! いるなら返事をしてくれ、サチ!」
 闇の中でサチの名前を呼び続けるが、俺の声は空しく響き渡っていくだけだ。返事はないので、他の誰かに届いているとはとても思えない。
「サチ! サチ! 俺だ、キリトだ! 頼むから返事をしてくれサチ! サチ! 俺はここにいるから! サチ!」
 俺は一心不乱に腹の底から叫んでいるが、やはり返事はなかった。
 もう二度とサチを見殺しにしない。こうしてまた巡り合うことができたのだから、彼女を見捨てることなんてしたくなかった。もしもまたサチが俺の前からいなくなってしまったら、俺は今度こそ壊れてしまう。サチの為にも、そして俺の為にもそれだけは絶対に避けなければならなかった。
 サチを守りたい。その想いが今の俺を支える原動力になっているのだから。
「サチ! サチ! サチ! 俺は君のことをもう見捨てたりしない! 俺は君を悲しませたりしない! 俺が絶対に守る! 俺が絶対にサチを守ってみせる! だから……返事をしてくれ! サチ!」
 必死に呼び続けるが、やはりサチは現れない。

100夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 16:59:57 ID:Bh28yqxM0
 しかしそれなら何度でも呼び続けるだけ。それでもサチが答えてくれないなら、どこまでだろうと走り続けて、絶対にサチを見つけてみせる。それを邪魔する奴がいるのなら、例え相手が誰であろうとも俺は容赦をしない。
 これまで、かけがえのないものをたくさん失ってしまった。だから、失わない為に今度こそ力を尽くさなければならない。サチを救うことができるのならば、俺は悪鬼にでも外道にでもなってみせる。例え、ゴミやクズと蔑まされたとしても、俺はその悪名を甘んじて受ける覚悟だ。あの茅場晶彦が主催したSAOによるデスゲームを攻略していた頃だって《ビーター》の汚名を背負い、一人で戦ってきたのだから、今更どこまで堕ちようとも構わない。
 下らないプライドに拘ったせいで大切なサチを失う。それに比べれば、罵詈雑言などただの雑音に過ぎない。そんな声など無視してしまえばいいだけだ。
「サチ! サチ! サチ! サチ! 頼むから、俺の前にまた顔を見せてくれ! サチ!」
 サチの名前を呼ぶ度に、サチとの思い出が俺の脳裏に過ぎっていく。
 忘れもしないあの日から、俺は自ら《ビーター》という悪名を自称した。元ベータテスターの安全の為に憎まれ役を一人で買って出たことに後悔はなかったが、それでも俺は心を痛めていた。そして、ゲームの攻略を進めている中で《月夜の黒猫団》というギルドを見つけ、サチと出会う。
 今になって考えれば、俺はもっと強くあるべきだった。俺の心が強ければあのギルドは崩れることなんてなかったし、サチが死ぬことだってなかった。俺と出会いさえしなければ、今頃サチは普通の女の子として生きていられるはずだった。
 後悔したってどうにもならない。全ては俺の弱さと愚かさが招いた結果だ。
 だからこそ、今はサチを救ってみせる。あの時、救えなかったサチを今度こそ救ってみせる。もう二度と、サチを絶望させたりなんかしない。サチを傷付けさせない。サチを悲しませたりしない。サチに涙を流させない。サチを救う為の力だって今の俺には備わっているのだから。
 サチは絶望していた俺を救ってくれた。サチの存在が俺を支えてくれた。サチがいてくれたからこそ、俺はデスゲームの中で生きていられることができた。サチと出会わなかったら……俺はきっと今でも孤独だっただろう。
 その為に、俺は出口の見えない闇の中を走り続けている。その時だった。俺の耳に、嘲笑う声が聞こえてきたのは。
「フン……やはり、キサマら人間はどこまでも愚かで、弱い存在だ」
 それに気付いた俺が振り向いた先には、あの死神・フォルテが立っていた。
「お前は、フォルテ!」
「また会ったな、キリト……これは実に奇遇だな」
「何の用だ……俺は今、お前なんかに構っている暇なんてない! さっさとどけ!」
「ほう? キサマはあんな弱い人間を守る為に、俺を無視するつもりなのか? ククク……面白いことを言ってくれる」
 フォルテの言葉は俺を苛立たせた。
 時間を無駄に取らされてしまうこともそうだが、サチを侮辱されたことが何よりも許せなかった。お前に何が分かるのか。お前にサチの何が分かると言うのか。何も知らないくせに、どうしてサチを侮辱するつもりなのか。
 怒りの感情が湧きあがってしまい、俺は自然に剣を握り締めてしまう。
「だが、キサマが俺を放置すると言うのなら面白い……好きにするといい」
 しかし、その直後にフォルテの口から出てきた言葉によって、俺は面を食らってしまう。
 あまりにも予想外だったので、張り詰めていた俺の力も自然に緩んだ。あのフォルテが俺を見逃そうとするなんて、とても信じられなかった。
「なっ……フォルテ、どういうつもりだ!?」
「言葉の通りだ。俺はキサマを見逃す。キサマがそれを望んだのだろう? 俺はそれを叶えてやるだけだ……有難く思うがいい」
「何だと!?」
 奴の言葉を信じることが俺にはできなかった。
 人間を憎んでいるはずのフォルテが俺を見逃すなんてあり得ない。絶対に何かあるはずだった。このままフォルテから背を向けたとしても、俺にとってプラスになるはずがない。
 俺は警戒して、再び剣を握り締めた。その時だった。


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