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仮投下スレ

100夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 16:59:57 ID:Bh28yqxM0
 しかしそれなら何度でも呼び続けるだけ。それでもサチが答えてくれないなら、どこまでだろうと走り続けて、絶対にサチを見つけてみせる。それを邪魔する奴がいるのなら、例え相手が誰であろうとも俺は容赦をしない。
 これまで、かけがえのないものをたくさん失ってしまった。だから、失わない為に今度こそ力を尽くさなければならない。サチを救うことができるのならば、俺は悪鬼にでも外道にでもなってみせる。例え、ゴミやクズと蔑まされたとしても、俺はその悪名を甘んじて受ける覚悟だ。あの茅場晶彦が主催したSAOによるデスゲームを攻略していた頃だって《ビーター》の汚名を背負い、一人で戦ってきたのだから、今更どこまで堕ちようとも構わない。
 下らないプライドに拘ったせいで大切なサチを失う。それに比べれば、罵詈雑言などただの雑音に過ぎない。そんな声など無視してしまえばいいだけだ。
「サチ! サチ! サチ! サチ! 頼むから、俺の前にまた顔を見せてくれ! サチ!」
 サチの名前を呼ぶ度に、サチとの思い出が俺の脳裏に過ぎっていく。
 忘れもしないあの日から、俺は自ら《ビーター》という悪名を自称した。元ベータテスターの安全の為に憎まれ役を一人で買って出たことに後悔はなかったが、それでも俺は心を痛めていた。そして、ゲームの攻略を進めている中で《月夜の黒猫団》というギルドを見つけ、サチと出会う。
 今になって考えれば、俺はもっと強くあるべきだった。俺の心が強ければあのギルドは崩れることなんてなかったし、サチが死ぬことだってなかった。俺と出会いさえしなければ、今頃サチは普通の女の子として生きていられるはずだった。
 後悔したってどうにもならない。全ては俺の弱さと愚かさが招いた結果だ。
 だからこそ、今はサチを救ってみせる。あの時、救えなかったサチを今度こそ救ってみせる。もう二度と、サチを絶望させたりなんかしない。サチを傷付けさせない。サチを悲しませたりしない。サチに涙を流させない。サチを救う為の力だって今の俺には備わっているのだから。
 サチは絶望していた俺を救ってくれた。サチの存在が俺を支えてくれた。サチがいてくれたからこそ、俺はデスゲームの中で生きていられることができた。サチと出会わなかったら……俺はきっと今でも孤独だっただろう。
 その為に、俺は出口の見えない闇の中を走り続けている。その時だった。俺の耳に、嘲笑う声が聞こえてきたのは。
「フン……やはり、キサマら人間はどこまでも愚かで、弱い存在だ」
 それに気付いた俺が振り向いた先には、あの死神・フォルテが立っていた。
「お前は、フォルテ!」
「また会ったな、キリト……これは実に奇遇だな」
「何の用だ……俺は今、お前なんかに構っている暇なんてない! さっさとどけ!」
「ほう? キサマはあんな弱い人間を守る為に、俺を無視するつもりなのか? ククク……面白いことを言ってくれる」
 フォルテの言葉は俺を苛立たせた。
 時間を無駄に取らされてしまうこともそうだが、サチを侮辱されたことが何よりも許せなかった。お前に何が分かるのか。お前にサチの何が分かると言うのか。何も知らないくせに、どうしてサチを侮辱するつもりなのか。
 怒りの感情が湧きあがってしまい、俺は自然に剣を握り締めてしまう。
「だが、キサマが俺を放置すると言うのなら面白い……好きにするといい」
 しかし、その直後にフォルテの口から出てきた言葉によって、俺は面を食らってしまう。
 あまりにも予想外だったので、張り詰めていた俺の力も自然に緩んだ。あのフォルテが俺を見逃そうとするなんて、とても信じられなかった。
「なっ……フォルテ、どういうつもりだ!?」
「言葉の通りだ。俺はキサマを見逃す。キサマがそれを望んだのだろう? 俺はそれを叶えてやるだけだ……有難く思うがいい」
「何だと!?」
 奴の言葉を信じることが俺にはできなかった。
 人間を憎んでいるはずのフォルテが俺を見逃すなんてあり得ない。絶対に何かあるはずだった。このままフォルテから背を向けたとしても、俺にとってプラスになるはずがない。
 俺は警戒して、再び剣を握り締めた。その時だった。

101夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:01:08 ID:Bh28yqxM0
「もっとも、キサマが俺から離れた所で……何かをできるわけがないのだかな」
 フォルテが嘲りの言葉を口にした瞬間、背後の闇に歪みが生じる。
 何事かと思った瞬間、俺は目を見開いた。その歪みの中から、俺の出会ってきた人達が姿を現したのだ。
 ユイ、クライン、エギル、シリカ、リズベッド、リーファ、シノン、ユウキ……俺にとって大切な人達が闇の中から現れた。
「み、みんな!? どうして!?」
 当然ながら俺は疑問をぶつけるが、誰もそれに答えてくれない。それどころか、みんな俺を失望したかのような目で見つめていた。
 その視線に耐えられなくなってしまい、俺は思わず後ずさってしまう。
「パパ、どうしてですか……?」
 そして、それに追い打ちをかけてくるようにユイが口を開く。
「いつからキリトはそこまで身勝手になった?」
 今度はクラインが俺に対して刺々しい言葉をぶつけてくる。
「俺達はお前のことを信頼していた。お前はいつだって真っ直ぐに進んだ。だからこそ俺達はお前についていった」
「でも、あなたは私達の気持ちを裏切った……」
「こんなの酷すぎるよ……私達は一体、何の為に頑張ったのかわからないよ……」
「私達はお兄ちゃんを頼りにしていたのに、お兄ちゃんはどうしてそれに答えてくれなかったの……?」
「最悪だね、キリト」
「ボク達を失望させないでよ……」
 エギルが、シリカが、リズベッドが、シノンが、ユウキが、皆が俺を非難してくる。
 皆の言葉が胸に突き刺さって、俺は何も言うことができない。どうしてそんなことを言われなければならないのか、まるで理解できなかった。
「この人間どもは実に哀れだな……キサマなどについていかなければ、裏切られることもなかっただろうに」
 ショックのあまりに言葉を出すことができなかった俺の耳に、フォルテの声が響いてくる。
 その手には、いつの間にかあの巨大な鎌が握られていた。そして、フォルテは鎌を振り上げてくる。
「フォルテ、お前……まさか!」
「見るがいい、キリト……キサマの選んだ選択の末路を」
「や、やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 数秒後の未来を予測した俺はフォルテを制止する為に走り出すが、願いを裏切るかのように鎌は振り下ろされる。
 そして、その一閃によって皆の身体は切り裂かれて、呆気なく消滅してしまった。
「み、みんな……そんな……!」
 たった今まで目の前に存在していた皆が跡形もなく消える。その事実が心に重く圧し掛かり、俺は膝を落とすことしかできない。
 また、守れなかった。助けられたはずのみんなを見殺しにしてしまった。クラインとリーファを悲しませたまま、死なせてしまった。
 呆然とするしかできなかった俺に、あのフォルテは尚も責めてくる。
「やはりキサマは弱いな……弱すぎる。やはり、守るなどというキサマの言葉など口だけだったということか」
 刃物のように冷たい言葉が耳に突き刺さり、俺の身体はピクリと震えた。
 みんなを殺したフォルテに対する怒りではない。無力な自分に対する失望ではない。その気持ちも確かにあるが、それ以上にフォルテの言葉を否定できないことが、俺の心に突き刺さっていた。
「それ以前に、キリト……キサマの想いなどただの自己満足に過ぎない」
「じ、自己満足だと……!?」
「そうだ。キサマは弱き人間を守ろうなどと考えているようだが、そんなのはただの自己満足だ……現実から逃げて、弱い心を必死に支えようとするだけの」
「ち、違う……俺の気持ちは逃げなんかじゃない!」
「何が違う? キサマはあの人間を守ろうとしているようだが、守れていない……そして、今まで忘れていたのではないのか?」
「なっ!?」
「あの小娘を失ってから、キサマはまた新たな人間やAIと手を組んだ。だが、小娘を失った代わりにしていただけではないのか? 孤独に耐えきれず、その代わりになる人間を見つけた……それだけだ」
 紡がれる声を聞いてはいけないと本能が告げるが、今の俺にはそれができなかった。

102夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:01:43 ID:Bh28yqxM0
 サチのことを忘れていた。それは違うと言いたがったが、その為に動かさなければいけない口が動かない。
 サチを失ってから、俺はアスナと再会してSAOの攻略を目指して、そしてヒースクリフを倒した。その後にALOに囚われたアスナを救う為に妖精王オベイロンと戦い、二人で現実の世界に戻った。そうして俺達は平和な日々を取り戻してから、また新たなる仮想世界に挑戦して多くのプレイヤーと知り合う。
 それを思い出した所で、俺は一つの疑問に直面する。元の世界に戻ってから、サチのことを忘れなかった日があったのか? フォルテが言うように、アスナ達をサチの代わりにしているだけなのではないか?
 違う。そんなはずはない。サチはサチだし、アスナはアスナだ。誰かの代わりだと思ったことなんて一度もない。そんなことはあってはいけないはずだ。
 俺はフォルテの言葉を否定しようとする。だが……
「もっとも、そんなことなど俺には関係ない話だ……どうであろうとも、キサマが守ろうとした者達は全て消える運命なのだから」
 俺の言葉を遮ろうとするかのように、足元がボコボコと溶岩が流れてくるような鈍い音を響かせながら歪んでいく。それに驚く暇もなく、黒い地面の中から何かが出てくる。
 俺はそれに凝視して、そして絶句してしまう。闇の中から、シルバー・クロウとレンさんが横たわった姿で現れたからだ。
「レンさん! クロウ!」
 当然ながら、俺は二人の元に向かって走る。
 そうして腕を伸ばしたが、触れようとした直前に二人の身体が硝子のように砕け散ってしまった。
「そんな……! 二人とも、なんで……!?」
「どうしたキリト? キサマは守ると決めたのではなかったのか? それはやはり嘘だったことになるな」
「何だと……!?」
「おっと。俺に構っている暇などなかったはずだが? そら、あれを見てみろ」
「えっ?」
 フォルテが指を向けている方に俺も振り向く。
 すると、そこには俺にとって大切な二人がいた。そう、アスナとサチの二人だ。
 そして彼女達を襲っている巨大なモンスターもいる。SAOの第75層のボスとして君臨していた、あのムカデのようなモンスターだ。
「アスナ! サチ!」
「キリト君、助けて!」
「キリト! このままじゃ、私達は殺されちゃう!」
「二人とも、待っていてくれ! 今すぐ俺が駆けつけるから!」
 俺は魔剣を握り締めながら地面を強く蹴って、ミサイルのような勢いで疾走する。
 あのモンスターはたった二人で勝てる相手じゃない。ギルドを組んでいても多くのプレイヤーが殺されてしまったのだから、一刻も早く二人を助けなければならなかった。今の俺には二人を助けられるだけの力がある。俺はそう信じていた。
 だけど、そんな僅かな願いを裏切るかのように、モンスターはアスナとサチの二人を攻撃して、その華奢な体を吹き飛ばした。
「アスナッ! サチイイィィィィィィィ!」
 そのまま地面に叩きつけられた二人の元に俺は駆け寄る。
 ダメージによって二人のHPはどんどん減っていき、止まる気配を見せない。回復アイテムやスキルを持っていない俺に、それを止める手段はなかった。
「あ、ああ、ああ、あ……あ、あ……あ……! そんな、何で……どうして、なんで、こんなことに……!?」
 やがてアスナとサチの身体がどんどん崩れ落ちていく。俺はそれを見ているだけしかできなかった。
 嘘だ。こんなのは嘘だ。アスナとサチが死んでしまうなんて嘘だ。二人が俺の目の前からいなくなってしまうなんて嘘に決まっている。
 俺はもう二度と、見捨てることなんかしないって決めたはずだ。それなのに、どうしてこうなってしまうのかがわからない。
 これが、俺の選択の末路なのか? フォルテが言うように、俺は誰のことも守ることができないのか? だとしたら今まで何の為に戦い、何の為に力をつけてきたのか?
「キリト君」
「キリト」
 そして、アスナとサチは同時に口を開いてきた。
「どうして、私のことを助けてくれなかったの……?」
「どうして、私のことを助けてくれなかったの……?」
 悲しげで、それでいて幻滅したかのような目で俺を見つめてくる。
「うそつき」
「うそつき」
 その一言を残した瞬間、アスナとサチは跡形もなく砕け散ってしまった……
「あ、あ、あ、あ、あ、ああ、あ、あ、あ……ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 絶望のあまりに、俺は慟哭することしかできない。
 それを聞く者は誰もいない。フォルテもアスナとサチを殺したモンスターもいつの間にかいなくなっていたが、そんなことはもうどうでもよかった。
 俺はただ、たった一人で叫ぶことしかできない。暗闇の中で俺自身の無力さに苦しみながら、叫び声を空しく響かせることしかできなかった。

103夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:02:49 ID:Bh28yqxM0


***


 E−5エリアの森の中で、ブルースは考えていた。
 先程出会ったアーチャーという男の言葉がブルースにとって引っかかるものであった為、ずっと考えていた。
 自分が守ろうとしている正義という存在。それは社会全体の秩序を司る法なのか。それとも、社会に生きる人そのものなのか。考えても答えは見つからないし、何よりもすぐに見つからないだろう。
 アーチャーはどうしてピンクにこのようなことを問いかけたのか。彼にとって、正義とは何か特別な意味合いを持つのだろうか。あるいは、ここに来るずっと前にどちらかを天秤にかけてしまったことがあり、そして大切な何かを失ったことがあるのか……真相はわからないが、それだけ気になってしまう。
 パートナーである伊集院 炎山ならアーチャーの問いにどう答えるのか。自分のように悩むか、それともあっさりと答えてしまうのか。あの光 熱斗やロックマンならば迷わず即答してしまいそうだが、自分には無理だった。
 だが、それをいつまでも考えていた所でどうにもならない。あまり先延ばしにしていけないかもしれないが、今は他に考えなければならないことがある。
「ピンク、その男の傷を治せそうか?」
「あたし自身の力じゃ無理ね。この人を治す方法だけならあるけど」
「何?」
「あたしの支給品の中に回復に使えそうなアイテムがあったの。それさえ使えば、この人を助けられそうだけど……」
 そう語るピンクの手には、桃色の輝きを放つクリスタルが存在する。色のせいでピンク自身の能力と錯覚してしまいそうだったが、紛れもない支給品だ。
 それは回復結晶というアイテムらしく、使った者のHPを回復する効果を持つらしい。恐らく、リカバリー系のチップと同じようなアイテムだろう。その効果が本当ならば、キリトという少年を助けることができるかもしれない。
 ピンクはこれまで回復結晶を使う機会がなかったので出さなかったようだが、今がその時だろう。
「そうか……」
 だが、ブルースはこのまま回復結晶を使うべきなのかを悩んでいた。
 オフィシャルとして、殺し合いに巻き込まれてしまったキリトを助ける使命がブルースにはある。だが、ここでキリトを回復させて、そこからまた暴れてしまったら手をつけられなくなる恐れがある。ブルースとて負けるつもりはないが、キリトは簡単に止められないほどの強さを誇っている。戦闘になったら今度こそ消耗は避けられないだろうし、もしかしたらピンクにも被害が及ぶかもしれない。
 もしもキリトがまたピンクを斬ろうとするならば、ブルースはキリトを斬らなければならなかった。最悪の場合、ここでデリートすることになったとしても。
 ピンクのことは守りたい。また、これからキリトが激情に任せて他の誰かを襲う危険があるなら、オフィシャルとしてそれを阻止する必要がある。だが、キリトをこのまま斬っていいとも思えない。彼はあのサチと呼ばれた少女を救おうとして、その気持ちだけが先走ってしまっただけだ。
このままキリトを斬っては炎山が失望するだろうし、何よりも自分自身が許せなくなってしまう。
(……こういう時、あのアーチャーという男ならどうしただろうな。正義の意味を問いかけてきたあの男だったら)
 ブルースはアーチャーの言葉を再び思い出す。
 本当に守りたいのは『人』と『法』のどちらなのか。それは、今の状況にも同じことが言える。キリトはサチという『人』を守る為ならば、オフィシャルとしての『法』を破ることすらも厭わないだろう。そうなったら、自分はキリトと戦わなければならなくなるが、それは本当に自分が望むことなのか。だが、キリトと戦うことを拒んで『法』を破ってしまっては、結果として他の『人』が傷付いてしまうかもしれない。
 また、あのカイトという少年がキリトのことを知ったら、きっとキリトに加担するだろう。そうなったら、カイトという『人』とも戦うことになる。
(アーチャー……お前の言っていたことは、こういうことなのか? どちらかを見定めなければ、本当に守りたかったものを見失ってしまうとはこういうことなのか?)
 半端な気持ちでどちらかを選んでしまっては、きっと取り返しのつかない後悔を背負ってしまう。それをアーチャーは言いたかったのだろうか。
(お前は一体、過去に何を見た? お前もかつては俺達オフィシャルのように、誰かを守る為に戦っていたのか……? アーチャー)
 ここにアーチャーはいないので真相はわからない。
 だが、確信できることが一つだけある。アーチャーの語った『本当に守りたかったものを見失った、愚かな先人』とはアーチャーにとって親しい者か、アーチャー本人のことか。
 いずれ、それも聞かなければならない時が来るのかもしれない。そう、ブルースは考えていた。

104夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:04:10 ID:Bh28yqxM0
「ブルース。あなた、さっきから何を考えているの?」
 そんな中、ブルースの思考を遮るかのようにピンクが言葉をかけてくる。
「何?」
「あのアーチャーってヤツに変なことを言われてから、アンタはずっと考え事をしているわ。もしかして、アイツの言葉がずっと気になっていたの?」
 怪訝な表情を浮かべるピンクの問いかけに、ブルースは否定することができない。
 やはり、これだけ考えていたら流石に気付かれてしまうのは当たり前だろう。言葉にしなくても、顔に出てしまったかもしれない。
「……ああ」
「やっぱり……あのね、あんな変なヤツの言うことなんていちいち気にしていたら、やっていられないわよ? あんなの、ただの戯言よ!」
 ピンクは励ますつもりで言ってくれているのだろうが、ブルースはそんな簡単に割り切ることができなかった。
 もしもアーチャーの言葉を簡単に切り捨てたまま戦いを続けていたら、いつかどこかで痛い目を見るかもしれない。そんな予感をブルースは胸に抱いていた。
「それよりも、今はキリトのことが先決でしょ。彼に回復結晶を使っても、本当に大丈夫かな……?」
 そう語るピンクはどことなく不安げな表情でキリトを見つめている。
 キリトは苦悶の表情を浮かべたまま眠ったままだ。肉体のダメージだけでなく、サチに刺されてしまったショックもあるのだろう。まるで悪夢にうなされた人間を見ているようだった。
 回復結晶を使えば、その苦しみを多少は和らげられるだろう。だが、それで回復するのはHPだけで、キリトの心を回復できるとも限らない。
 彼のことは救いたい。だが、その為に必要な方法をブルースとピンクは知らなかった。
「ねえ、もしも彼がこのまま目覚めたら、私達のことを襲う……かしら?」
「だろうな。一応、武装は取り上げておいたが、こいつはそれをお構いなしに取り返そうとするだろう。また、例え戦いにならなくても、あのサチという少女を捜しに一人で飛び出すかもしれないな」
「ちょっと! そんなことになったら彼はすぐに死んじゃうわ!」
「そうさせない為に俺達がいる。かといって、今の俺達にできることはこいつが早まったことをしないよう、腕ずくで止めるしかないが……」
「そんな!」
 ピンクの悲痛な声に、ブルースは溜息交じりの言葉で返すことしかできない。
 サチがいなくなってしまったことをキリトが知ってしまったら、何をするかわからない。こうしている間にサチが死んで、それが主催者からのメールで告げられたら、キリトは発狂して自殺する恐れがある。
 サチのことも捜したいが、キリトがこんな状態ではとても不可能だった。
「……うっ」
 そして、ブルースの不安を煽るかのように呻き声が発せられる。
 次の瞬間、キリトの頭部が小さく揺れて、瞼がゆっくりと開かれていった。
「あれ、ここは……?」
 キリトはぼんやりとした表情で辺りをキョロキョロと見渡す。
 目覚めたばかりのキリトの表情が、ブルースの目は酷く憔悴しきったように見えてしまった。


***


 瞼を開けた先には、捜していたはずのサチがいない。代わりにいるのは、あのブルースとピンクと呼ばれていた奴らだった。
 周囲に見えるのは緑豊かな森の風景と、先程まで戦っていた参加者達だけ。
 俺は夢を見ていたようだ。どんな夢を見ていたのかはあまり覚えていないけど、アスナとサチが出てきたことは確かだ。
 そこで、二人は何をしていたのか。それを思い出す為に俺は記憶を辿ろうとしたが……
『うそつき』
『うそつき』
「……ッ!」
 俺の脳裏に、アスナとサチの言葉が蘇る。
 俺の心臓が凄まじい鼓動を鳴らして、その影響なのか全身から汗が噴き出した。

105夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:04:42 ID:Bh28yqxM0
「お、俺は……俺は……!」
 そして、俺にとって最悪の記憶も蘇っていく。
 アバターが黒いナニカに覆われてしまったサチを救う為に戦ったが、そのサチに刺されてしまった。そして、サチに刺されてしまった俺は倒れて、悪夢を見た。
 どうしてサチは俺を刺したのか。また、サチの身体を覆っていた黒いアレは何だったのか。サチは一体、何をされてしまったのか。何から何まで、わからないことだらけだ。
 しかし、そんなことは今の俺にとってどうでもよかった。
「……そうだ! サチは!? サチはどこだ!? サチ……!」
 俺はいなくなったサチを捜す為に立ち上がろうとしたが、その途端に肩を抑えつけられてしまう。
 それをしたのは、俺と戦ったブルースという男だった。
「落ち着け、キリト」
「なっ!? お前……!」
「これから俺はお前に話をする。お前が大人しくそれを聞くのであれば、俺はお前を解放する」
「何だと!?」
「話を聞け!」
 ブルースの冷徹な言葉が俺に突き刺さってくる。
 気が付くと、俺は全身に鋭い圧迫感を感じていた。見ると、俺の身体はロープで縛られている。どうやら、気を失っていた間に拘束されてしまったようだ。
 俺はそれを千切ろうと足掻くが、やはりその程度では破ることができなかった。
「ちょっと、ブルース!」
「こいつに暴れさせる訳にはいかない。その為にも、今はこうするしかない」
「でも……!」
「文句なら後でいくらでも聞く。それよりも、今はこいつに事情を説明することが先だ」
 ブルースは俺を睨みつけたまま、傍らに立つピンクという女にそう説得する。
 その様子が妙に落ち着いていたので、俺の中で苛立ちが積もっていく。事情を説明するだと? サチに酷いことをしておいて、まだ言い訳をするつもりなのか? ふざけるのもいい加減にしろ。
「おい、お前達! 彼女を、サチをどこにやった!? 今すぐサチを返せ!」
「話を聞けと言っているだろう! それに、さっきも言ったように俺達は彼女に何があったのかなんて知らない! お前を刺した彼女がどこに消えたかのだって俺達は知らない! これは本当だ!」
「ふざけるな! そんな言い訳が通ると思っているのか!?」
「言い訳じゃないと言っているだろう! いい加減にしろ!」
 俺達は必死に怒号を飛ばし合っている。
 ブルースの言い分に腹を立てて、俺は更に糾弾したかったが喉が言うことを聞かない。疲労が重なった状態で叫んだせいで、俺はゼエゼエと息を切らせてしまう。
 わかりきったことだが、仮想空間でも肉体の疲労は感じてしまう。現実の世界と同じように。
「……お前が俺達を信用できないのはわかる。だが、頼むから今は話を聞いて欲しい」
 一方でブルースは、そんな俺を同情するかのような目で見つめていた。
「まず、お前が彼女のことを斬ろうとした俺を敵と思っていることは認める。そして、事情も知らないのに斬ろうとした俺にも非があることは認める……すまない」
「謝ったって、サチが元に戻るのかよ……!?」
「何度も言ったように、俺達は彼女に取り付いたあの黒いバグの正体がわからない……だから、今はそれを取り除く手段を捜すことを考えている。無論、その前に彼女の身柄を保護することが先決だが」
 ブルースは真摯な表情で語るが、俺はそれが全く信用できなかった。
 サチを襲っておきながら、今度は守ると言われてもまるで説得力が感じられない。どうせ、言い逃れをしようとしているのだと邪推してしまう。
 俺はそんなブルースに対して感情を爆発させようとした。が……
「それと、ある男からお前に伝言がある。娘を心配させるな、だそうだ」
 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で湧きあがろうとした感情が一気に止まってしまう。
 ブルースの言葉の意味を受け止めるまで、数秒の時間がかかってしまった。
「娘を、心配させるな……? それってまさか……ユイのことか!? ユイがどこかにいるのか!?」
「俺は名前を聞いていないから、娘が誰のことなのかは知らない。だが、やはり心当たりがあるようだな……恐らく、ユイという娘の可能性が高いだろう」
「そんな……サチやユウキだけじゃなく、ユイまでここにいるなんて……!」
 ユイがこの殺し合いに巻き込まれている。その事実を受け止めることに俺は抵抗をしていた。
 俺にとって大切な人が何処かにいることは、既にわかりきっていた。クラインやリーファが死んだことがメールで告げられたし、サチやユウキの姿だってこの目で見ている。AIのレンさんが参加させられている以上、同じAIであるユイだっていないとは言い切れない。それでも、彼女がいるなんて認めたくはなかった。

106夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:06:47 ID:Bh28yqxM0
「お前がサチという少女のことを気にかけているのはわかる。だが、彼女のことばかりを考えるあまりに暴走するのだけはやめろ。それを悲しむ相手だっていることも考えたらどうだ?」
 ブルースの言葉に俺は何も反論することができなかった。
 俺が無茶をしたせいで誰かが悲しんでいる。そう考えた瞬間、サチの悲しげな表情が俺の脳裏に浮かび上がった。そして、今度は夢の中で見たアスナやユイの絶望も、俺の記憶に湧きあがっていく。
 考えてみたら、ユウキだって俺のことを心配しているかもしれなかった。せっかくまた会えたのに、考えていたのはサチのことばかり。もしも、ユウキのことは蔑ろにしていたと言われても、否定することができなかった。
 まさか、サチはそんな俺に失望してしまったのではないか……俺の中で、そんな可能性が芽生えてしまう。
「……俺は、サチのことを裏切ってしまったのか? いや、サチだけじゃなくみんなのことも……裏切ったのか?」
 その問いかけに答えてくれる者は誰もいない。
 サチはもう失いたくないと思っていたのは確かだった。でも、守りたかったのはサチだけじゃなかったはずだ。アスナやユイ、それに仮想世界で出会ってきたみんなのことだって、俺は守りたかった。それはレンさんやクロウ、そしてオーヴァンだって同じだ。
 そして、守りたいものがあるのは、ここにいるブルースやピンクだって同じじゃないのか。また、ブルースやピンクのことを大切だと思っている人達だっているはずだ。だけど、俺はその気持ちすらも踏み躙ろうとした。
「俺は……俺は……!」
 先程まで俺を支配していた怒りや憎しみは鳴りを潜めて、代わりに失意と罪悪感が心の中に広がっていく。
 さっきまでの俺は一体何をしていたのか? サチを守ろうと決めておきながら、やっていたことは感情を爆発させて他の誰かを傷付けていたことだけ。これでは、あのフォルテと何も変わらない。結果的に、デスゲームに乗ったレッドプレイヤーと同じことをしてしまった。
 いくら後悔をしたって、時間が元に戻る訳がない。いくらVRMMORPGの世界だって時間を巻き戻す力なんて存在しないし、そんなのがあったら世界のバランスが崩れてしまう。
「……ねえ、ブルース。もう、彼を離してあげようよ」
「ああ、もう拘束を解いてもいいだろう」
「わかったわ……」
 ブルースの言葉に頷いたピンクが俺の身体を拘束していたロープを解く。
 俺はようやく自由になれたが、何かをする気にはなれなかった。ブルースとピンクを襲ったとしても、何にもならない。サチを捜そうとしても、どこにいるのかわからない。また、サチと再び出会えたとしても、サチは再び俺のことを受け入れてくれるのかどうか……それが凄く不安だった。
 ユイは無事なのか。ユイのことも守りたいけど、今の俺の姿を見てしまったら絶対に失望するはずだ。今の俺はかつてデスゲームを打ち破った勇者ではなく、デスゲームに乗ってしまったレッドプレイヤーなのだから。
 俺は一体何をすればいいのか? また、こんな俺に今更何ができるというのか? 俺はただ、ブルースとピンクの視線を感じながら絶望するしかなかった。


【E-5/森/1日目・午前】


【ブルース@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP70%
[装備]:なし
[アイテム]:ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×4@現実、不明支給品1〜2、アドミラルの不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品0〜1、基本支給品一式、ロープ@現実
 {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、キリトの基本支給品一式、キリトの不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアル打倒、危険人物には容赦しない。
1:悪を討つ。
2:森で待ち構え、やってきた犯罪者を斬る。
3:キリト(?)を警戒しつつも保護する。
4:俺の守ろうとしている正義は、本当に俺が守りたいものなのか?
[備考]
※キリトの全ての支給品を所持しています。
※アーチャーから聞いた娘のことは、ユイという名前だと知りました。

107夢みるアバター! 失った仲間たち ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:07:04 ID:Bh28yqxM0
【ピンク@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
0:今はキリトを見守る。
1:悪い奴は倒す。
2:一先ずはブルースと行動。
[備考]
※予選三回戦後〜本選開始までの間からの参加です。また、リアル側は合体習得〜ダークスピア戦直前までの間です
※この殺し合いの裏にツナミがいるのではと考えています
※超感覚及び未来予測は使用可能ですが、何らかの制限がかかっていると思われます
※ヒーローへの変身及び透視はできません
※ロールとアドミラルの会話を聞きました
※最後の支給品は回復結晶@ソードアート・オンラインでした


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP5%、MP40/50(=95%)、疲労(大)、SAOアバター、自分自身に対する失望
[装備]:なし
[アイテム]:なし
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:サチ、どうして…………
1:???????????
2:二度と大切なものを失いたくない。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
・SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
・ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
・GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※ユイが殺し合いに巻き込まれている可能性を知りました。
※支給品を失っていることに気付いていません。




【回復結晶@ソードアートオンライン】
ソードアートオンラインにて使用されている、回復用アイテム。
モンスタードロップでしか手に入らないレアアイテムの一つで、使用した参加者のHPが全回復します。
また、転移結晶と同じように一度使用すれば消滅してしまい、そして転移結晶無効化エリア内部での使用はできません。

108 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 17:07:39 ID:Bh28yqxM0
以上で仮投下終了です。
矛盾点や疑問点など、ご意見がありましたらよろしくお願いいたします。

109名無しさん:2014/01/22(水) 18:46:01 ID:dxb3mgSQ0
仮投下乙です
ちゃんとした感想は本投下の時にするとして、

とりあえず気になったのはキリトの装備解除状態ですね
実体化している虚空ノ幻はともかく、それ以外の装備やアイテム欄のアイテムは、キリト自身がメニューウインドウを操作しないと取り出せないと思うんですが

110 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 19:24:46 ID:Bh28yqxM0
ご指摘ありがとうございます。
それに関しては自分の勘違いです……大変、失礼いたしました。
では、キリトの状態表を以下のように修正させて頂きますが大丈夫でしょうか?


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP5%、MP40/50(=95%)、疲労(大)、SAOアバター、自分自身に対する失望
[装備]: {蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:サチ、どうして…………
1:???????????
2:二度と大切なものを失いたくない。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
・SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
・ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
・GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※ユイが殺し合いに巻き込まれている可能性を知りました。
※虚空ノ幻を失っていることに気付いていません。

111名無しさん:2014/01/22(水) 19:57:02 ID:dxb3mgSQ0
同様にブルースの状態表も修正すれば問題ないと思います
あと虚空ノ幻と蒸気式征闘衣をかこっている{}は、二つが同じ出展のアイテムであることを示すものだと思うので、
分けたのであれば外した方がいいですよ

112 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/22(水) 20:01:42 ID:Bh28yqxM0
重ね重ね、ご指摘感謝いたします。
指摘された点は本投下の際に修正させて頂きます。

113 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 07:24:51 ID:jBzB7G6w0
これより、本スレで指摘された拙作の修正版を投下させて頂きます。

114情報(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 07:25:36 ID:jBzB7G6w0
 黒の名を持つアバター達との戦闘を乗り越えたフォルテは、E−8エリアのショップに並んでいる商品を見ていた。
 ここには武器や各種チップを始めとする様々な武器や、更には参加者名簿というアイテムまで存在する。参加者名簿とは、殺し合いに参加させられた人間やAIどもの名前が書かれているのだろう。名前の通りの代物だが、有益なことに変わらない。
 だが、フォルテにはそれをわざわざ手にする必要があるのか疑問だった。どうせ破壊すると決めた者達の名前をわざわざ知った所で大した意味があるとも思えない。
 とはいえ、買わなければその真価を知ることはできないだろう。250ポイントの価値があるのだから、ただ参加者の名前だけが書かれている訳ではないかもしれない。例え名前だけしかなくても、それならば破壊するだけだ。
(人間どもによって生み出された施設を利用する羽目になるとは皮肉なものだ……)
 フォルテは今の自分の姿を思い返して自嘲する。
 回復する為の手段を捜す為にショップを訪れたが、これでは愚かな人間どもと同じだった。
(人間どもに生み出されたオレが、人間どもと同じことをする……つくづく因果なものだ。だが、それも人間どもを消し去ってしまえば関係なくなる)
 しかしフォルテはすぐに思案を振り払う。
 ここに来たのは回復アイテムを見つける為であって、感傷に浸る場合ではない。傷を治して、再び狩り場へと戻る。それだけだ。
 回復アイテムの欄には見覚えのあるリカバリー系のチップは全て揃っている。加えて、回復結晶や回復ポーションという物や、治癒の水というアイテムまであった。どれも効果は高いらしいが、その分だけポイントも消耗する。
 ここは下手にポイントを惜しまないで確実な回復をするべきだ。ポイントを惜しんで半端な回復しかせず、それが原因で敗北などしては笑い話にもならない。
 HPを完全に回復させる回復結晶及び完治の水を一つ買う為に必要なのは500ポイント。問題ない。
 他の回復アイテムは安いがどれも大した効果しか持たない。手元に置いてもいいだろうが、そこまで役に立つとも思えなかった。武器の類も回復アイテムを買ってしまっては入手できなくなるが、目的ではないので構わない。
 フォルテは500ポイントを消費して回復結晶を手に入れて、それを使う。すると、先程まで減少していたHPがみるみるうちに回復していった。
 これでまた戦うことができる。戦い、全ての物を破壊することができる。
 効果を実感したフォルテは、参加者名簿の方に目を向ける。残るポイントさえ使えばそれを買うことができるが、未だに悩んでいた。
(そういえば、あのキリトという人間とシルバー・クロウという人間は顔見知りだったな……ならば、この殺し合いにはオレの知っている奴らも紛れ込んでいるのか?)
 キリトとシルバー・クロウとの戦いをフォルテは思い出す。
 奴らのやり取りを見る限り、どうも顔見知りらしい。それを考えると、この殺し合いは顔見知り同士の戦いが起こる可能性だってある。元の世界での関係を問わず。
 それに思い当ったフォルテは残る全てのポイントを使い、参加者名簿を手に入れる。そして名簿を開いた瞬間、フォルテは目を見開いた。
「キリトにシルバー・クロウ……それに、ロックマン! なるほど、キサマまでこの世界にいるとは……」
 参加者名簿に書かれているのはフォルテが戦ってきた者達の名前だけではない。何と、元の世界で戦ったことのあるネットナビの名前も書かれているのだ。
 奴との戦いがこの世界でもできる……そう考えた瞬間、フォルテは微かながらの笑みを浮かべる。
「キサマまでもがいるとは、どうやら楽しみはまた一つ増えたようだな……」
 弱者の割には見込みのあるロックマンも仕留めたいが、過度な期待はしない。奴が自分と戦う前にデリートされたら、それだけのナビだったと言うだけ。
 何にせよ、あのネットナビもこの仮想世界の何処かにいる。それが確証できただけでも、参加者名簿を手に入れた甲斐があるだろう。
 もうこのショップに長居は無用だ。ダメージを回復させたからには、次の参加者を捜すしかない。
 フォルテは空高く跳躍して、戦場を疾走した。
「キリト、シルバー・クロウ、ロックマン……待っていろ、人間とネットナビどもよ!」
 駆け抜けるフォルテは静かに呟く。
 彼が次にどこへ向かうのかはまだ誰にもわからなかった。

115情報(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 07:26:00 ID:jBzB7G6w0
【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP100%、MP40/70
[装備]:{死ヲ刻ム影、ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個、参加者名簿
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:アメリカエリア経由でアリーナへ向かう。
2:ショップをチェックし、HPを回復する手段を探す。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い苛立ち。
6:ロックマンを見つけたらこの手で仕留める。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※バルムンクのデータを吸収したことにより、以下のアビリティを獲得しました。
•剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定 ・『翼』による飛行能力

※レンのデータを吸収したことにより、『成長』または『進化の可能性』を獲得しました。
※ポイントを全て消費しました。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。

116 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 07:26:59 ID:jBzB7G6w0
状態表も含めた修正版の投下は以上で終了です。

117 ◆lVSHFOsQK2:2014/01/26(日) 11:05:42 ID:jBzB7G6w0
あ、それと今見直したのですが備考欄の
※ただし、上記のポイントはE-8エリアのショップの値段なので、B-2エリアのショップで売られているアイテムも同じ値段とは限りません。

の部分を

※ただし、上記のポイントはE-8エリアのショップの値段なので、他のエリアのショップで売られているアイテムも同じ値段とは限りません。

という風に修正させて頂きます。

118名無しさん:2014/01/26(日) 21:16:28 ID:sr.9TxJU0
修正乙です。
特に問題ないと思います。

119 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:53:53 ID:gdCGSrr.0
本スレで指摘された自作の修正した部分を投下します。

120対主催生徒会活動日誌・5ページ目(考案編) 修正 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:54:46 ID:gdCGSrr.0
 
 
          2◆◆
 
 
 月見原学園の図書室で調べ物をしているレオの背中を、ジローはトモコと共に見守っている。
 レオが言うには、ここは普通の図書室ではないらしい。調べたいことに関係するキーワードさえ入力すれば、その情報がすぐに見つけられるようだ。
 本も必要ないのは便利だと思うが、ならば棚の中にある大量の本は意味があるのだろうか? そんなことをジローは考える。
(それにしても、カウンターに座っているあの女の子の名前……間目 智識だっけ? いくら何でも、そのまんますぎると思うぞ……)
 調べ物をしているレオの前でにこやかな笑みを向けている少女は、間桐桜と同じこの学園に設置されたNPCの一人らしい。なので、危険人物ではないことは確かだ。
 まめ ちしき。いくら実在の人物でないからと言っても、もう少し違う名前があるはずだ。これでは彼女が可哀想だ。
 しかし、当の本人はそんなことなどおかまいなしに微笑んでいる。そんな間目 智識という少女の姿が、ジローには健気に見えてしまった。
「……まさか、こんなことがあるとは」
 これまで調べ物に没頭していたはずのレオが、唐突に口を開く。
 彼の声はほんの少しだけ震えていた。これまでの態度からは想像できないような動揺が感じられる。
 レオは振り向く。やはり、彼は深刻な表情を浮かべていた。
「レオ、どうかしたのか? さっき言っていた白野って人について調べることができなかったのか?」
「いえ……白野さんについてのデータはすぐに見つけられました。ただ……」
「ただ?」
「……僕が説明するよりも、その目で見た方が早いと思います」
 レオは表情を曇らせたまま横に移動する。
 何が何だかわからないが、その空いたスペースにジローとトモコは入り込んで、ディスプレイに書かれた文字を見始めた。


《岸波白野/Kishinami Hakuno》
 登場ゲーム:シリアルファンタズム(SE.RA.PH)
 SE.RA.PHで繰り広げられた聖杯戦争に優勝したマスター。戦況を乗り越える為の観察眼はとても高い。
 平行世界ごとによって性別は異なり、また世界によってサーヴァントを従えるサーヴァントも違う。
 セイバー、キャスター、アーチャーの三通りがあり、サーヴァントに合わせて戦闘スタイルを変えられる柔軟さも持っている。



「…………」
 ディスプレイに書かれた情報は、ジローにとって理解できるものではなかった。
「驚きましたよ。白野さんについて調べようと思ったら、まさかこんな奇天烈な答えが出てくるなんて……全く、どうしたことか」
 レオは深い溜息を吐く。
 彼もこのような答えは予測していなかったのだろう。こんな情報では、納得するどころか逆に疑問が膨れ上がるだけだ。

121対主催生徒会活動日誌・5ページ目(考案編) 修正 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:55:10 ID:gdCGSrr.0
「なあ、レオ。もしかしたら、書いてあることに間違いがあるってことはないよな?」
「残念ですがそれはあり得ません。この学園の設備は完璧です……僕の記憶が正しければ、滅多なことでミスなど起こらないでしょう」
「そっか……」
「ただ、運営が意図的に表示される情報を改竄したという可能性もあります。」
 レオが言うように嘘を書く意味などない。そんなことをしたって、殺し合いの役に立つ訳がないのだから。
 それでも、表示された結果には意味がわからない部分も含まれている。それをただ受け入れることなど、ジローにはできなかった。
「なあ、レオ。白野さんって本当に性別がわからないのか?」
「僕の記憶だと白野さんはニューハーフではなかったはずです、あの人がそんな振舞いをするなんてありえません」
「やっぱり」
「いや、もしかしたら、僕達にその事実を隠していた可能性だってあります……誰にだって一つくらいは知られたくない事情がありますし」
「……流石にそれは無いと思うぞ?」
 未だに深刻な表情で悩んでいるレオに、ジローはジト目で突っ込む。
 顔も知らない相手をニューハーフだと決め付けるのは、いくら何でもあんまりだ。もしも本人がここにいたら、レオの言葉に激怒するかもしれない。
 この話は胸の中にしまっておこう。ジローはそう誓った。
 数秒間、沈黙の空気が図書室に広がっていく。それをぶち壊したのはレオの言葉だった。
「他に考えられる可能性と言えば、白野さん本人に何かがあったのでしょう」
 レオはそう語る。
「何かって、何だよ?」
「榊という男は、白野さんのアバターに何らかの仕掛けを施したと思います。それに合わせて僕やガウェインの記憶も操作して、図書館に乗っている一部の情報も改竄した……尤も、これもただの仮説に過ぎませんが」
「記憶を操作するって、そんなことができるのかよ!?」
「普通なら有り得ないでしょう。ですが、運営は別々の世界に生きている僕達を一つの空間に閉じ込めて、更に全員の身体にウイルスを仕込むほどの高い技術力を持っています。プレイヤーのデータを書き換えることができたって、おかしくないでしょう」
「……た、確かに」
 レオの考案を聞いて、ジローは軽く頷いた。
 人の記憶を自由自在に操作する。そんなファンタジーの世界に出てきそうな現象なんて、普通ならあり得ないだろう。でも、この世には呪いのゲームだって存在しているのだから、人間の脳を操る方法があっても不思議ではない。
 もしかしたら、あのツナミグループだって人の記憶を操作する技術を持っているかもしれなかった。
「まさか、俺達にもレオと同じことをされているってことは……ないよな?」
「それはわかりません。これはあくまでも僕達だけの特殊なケースかもしれませんから、ジローさんはあまり深刻に考える必要はないかもしれませんよ」
「そうだな……記憶を操られるなんて、考えるだけでもゾッとするし」
 大切な人との思い出を誰かに消されてしまう。そんなことをされると考えただけでも、怖くてたまらない。
 もしもパカと過ごしてきた日々を誰かに消されてしまったら、きっと自分は自分でなくなってしまう。パカが自分に助けを求めたとしても、どうすることもできなくなる。
(俺はパカのことを忘れたりなんかしない! パカとの出会いも、パカとの時間も、パカの声も、パカの仕草も、パカの笑顔、パカの涙……そして、パカとの思い出も! パカ、俺はお前の所に戻る! だって、俺はまだお前とやりたいことがたくさんあるから!)
 ここにいない彼女と過ごした証は、確かにここにある。
 それがある限り、パカのことを忘れるなんてありえなかった。
 ジローはパカとの時間を脳裏に思い浮かべて、それら全てを胸に刻む。彼女のことをいつでも思い出せるように。
 そして、それを前に進む為の力にも変えられるようにして。


 筋力が 3上がった
 技術が 4上がった
 信用度が 7上がった
 『不眠症』が 治った!

122対主催生徒会活動日誌・5ページ目(考案編) 修正 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:58:39 ID:gdCGSrr.0

          †


 当面の活動方針は、図書室で情報収集をすることになった。
 まず、ジローから様々な情報を聞いて、それをここで調べる。そして、ある程度集まったら情報を纏めて、運営に立ち向かうヒントを考える。
 そう、レオは決めたのだった。
(白野さんのことは気になりますが、ここにいない人のことを考えていても仕方がありません。会ってから、本人に聞くしかないでしょう)
 恐らく、この仮想世界のどこかに岸波白野はいる。凛やラニだっているのだから、白野がいてもおかしくなかった。
 もしかしたら、聖杯戦争で敗れ去ったマスターとサーヴァント達だっているかもしれない。デリートされた自分だってこの世界にいるのだから。
 彼らのことも気になるが、どこにいるかわからない。対策を立てるのは目撃情報が得られてからでいいだろう。
(それにトモコさん……いえ、スカーレット・レインさんからも色々とお聞きしたいことがありますが、そのタイミングを考えなければなりませんね)
 あどけない表情でジローと世間話をしている少女・サイトウトモコのことを、レオは見つめる。
 先程、支給品を確認する為にトモコがウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。このことから考えると、『サイトウトモコ』という名前は偽名かもしれない。
 そして、自分達に見せているあどけない姿も演技である可能性が高い。何故なら、学園内のメンテナンスが行われた際、ほんの一瞬だけ彼女の口調が変わったのだから。
(彼女がハセヲさんや僕達に見せているのは仮の姿。でも、メンテナンスの時に見せた姿が、彼女の本当の姿なのでしょう)
 レインが何故、自分達に猫を被って接しているのかはわからない。
 生き残る為に利用をしようと企んでいるのか? また、利用をし尽くした後はどうでるのか?
 これまでのように一緒にいてくれるのか、それとも攻撃を仕掛けようとしてくるのか……それはレオにもわからない。
 ただ、できることなら戦いたくはなかった。生徒会副会長をこの手で斬るなんて嫌だし、まだ若い少女の未来を潰すのは王のやることではない。
 今は『サイトウトモコ』としての彼女と接するしかない。ガウェインもそれを了解してくれた。
 対主催生徒会に対する裏切りなど、レイン本人が余程のことをしなければという条件付きで。
 もしも下手に彼女の本性を暴くようなことをしたら、何をされるかわからない。本性を見せるだけならまだいいが、もしも逆上などされたら余計な体力を消耗してしまう。
 レイン本人に関するキーワードを検索するのは、彼女からの確実な信頼を得てからだ。
(レインさん……いえ、トモコさん。貴女が何を考えているのか知りませんが、僕達は貴女のことを信じていますからね……)
 不意に、ジローと話していたレインは……いや、サイトウトモコはレオに振り向いて、そして笑顔を見せる。
 レオはそれに答えるように、優しく微笑んだ。



【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・午前】


【チーム:対主催生徒会】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:サイトウトモコ(スカーレット・レイン)
書記 :空席
会計 :空席(予定:ダークリパルサーの持ち主)
庶務 :空席(予定:岸波白野)
雑用係:ハセヲ(外出中)
雑用係:ジロー
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。

123対主催生徒会活動日誌・5ページ目(考案編) 修正 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 13:58:56 ID:gdCGSrr.0

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP35%、小さな決意/リアルアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:今は図書室で情報を集める。
2:トモコちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の事は、もうあまり気にならない。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。


【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP100%、(Sゲージ0%)、健康/通常アバター
[装備]:非ニ染マル翼@.hack//G.U.
[アイテム]:インビンシブル@アクセル・ワールド、DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)、赤の紋章@Fate/EXTRA、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:情報収集。
1:一先ず猫被ってハセヲやレオに着いていく。
2:ジローに話し合いで決まったことを伝え、レオの帰還を待つ。
3:レオに対しては油断ができない。
4:自力で立ち直ったジローにちょっと関心。
[備考]
※通常アバターの外見はアニメ版のもの(昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子)。
※S(必殺技)ゲージはデュエルアバター時のみ表示されます。またゲージのチャージも、表示されている状態でのみ有効です。


【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP25%、令呪:三画
[装備]:ダークリパルサー@ソードアート・オンライン、
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、トリガーコード(アルファ)@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:853ポイント/0kill
[思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:今は図書室で情報収集をする。
1:本格的に休息を取り、同時に理想の生徒会室を作り上げる。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
5:ダークリパルサーの持ち主さんには会計あたりが似合うかもしれない。
6:もう一度岸波白野に会ってみたい。会えたら庶務にしたい。
7:当面は学園から離れるつもりはない。
8:岸波白野と出会えたら、何があったのかを本人から聞く。
9:トモコに関する情報を調べるタイミングは慎重に考える。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP130%(+50%)、MP85%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※トモコの名前は偽名で、本名はスカーレット・レインであると推測しています。

124 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 14:01:12 ID:gdCGSrr.0
以上で修正案の投下が終了です。
ご意見がありましたら、お手数ですがお願いします。

125名無しさん:2014/02/02(日) 19:28:29 ID:KKxrEBSw0
修正乙です
全体的にはそれで問題ないと思います
ただ、登場ゲームとなっている『SE.RA.PH』はあくまで舞台ですし、
白野の情報も文法的に少しおかしくなっています

>また世界によってサーヴァントを従えるサーヴァントも違う。

それに、レオが『スカーレット・レイン』という名前から偽名を疑ってますが、
この情報だけなら、上記の名前はアバター名であるとしか判断できないと思います
実際同じ作品からの参加者である『ランルーくん』のこの名前もアバター名ですし
なのでレオの場合は『スカーレット・レイン』の名前で検索し、それで得た情報から疑念を持つ、といった風にしてはどうでしょう

ただ意見を言うだけというのもなんでしたので、白野とスカーレット・レインの情報を書いてみました。参考にでもどうぞ


《岸波白野/Kishinami Hakuno》
 登場ゲーム:聖杯戦争
 聖杯「ムーンセル・オートマトン」の所有権を奪い合う戦いに優勝したマスター。
 個性に乏しく、平行世界によっては性別や従えるサーヴァントさえも異なるが、総じてその性格は漢らしい。
 逆境を乗り越える為の観察眼はとても高く、サーヴァントに合わせて戦闘スタイルを変えられる柔軟さも持っている。

《スカーレット・レイン/Scarlet Rain》
 登場ゲーム:Brain Burst 2039
 ブレイン・バーストにおけるレギオン『プロミネンス』の二代目レギオンマスターであり、赤の王と呼ばれている。
 「不動要塞(イモービル・フォートレス)」「鮮血の暴風雨(ブラッディ・ストーム)」などの異名を持つ。
 遠隔攻撃型に属する“赤”の王らしく、強力な火器で敵を圧倒する遠距離砲撃に特化した戦闘スタイルをとる。

126 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 20:59:04 ID:gdCGSrr.0
重ね重ねのご指摘、感謝いたします……
それでは、氏の情報を参考として修正したのをもう一度投下させて頂きます。
また、もしもこの案で問題がありましたら、差し出がましいと存じてますが
>>125氏の情報を使わせて頂きたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?
(問題がありましたら、自分で修正案を考えます)


《岸波白野/Kishinami Hakuno》
 登場ゲーム:聖杯戦争
 聖杯「ムーンセル・オートマトン」の所有権を巡る戦いに優勝したマスター。
 存在感はあまり無く、平行世界ごとに性別と従えるサーヴァントは違うが、総じて不屈の意志を誇っている。
 戦況を乗り越える為の観察眼はとても高く、サーヴァントに合わせて戦闘スタイルを変えられる柔軟さも持っている。



          †


 当面の活動方針は、図書室で情報収集をすることになった。
 まず、ジローから様々な情報を聞いて、それをここで調べる。そして、ある程度集まったら情報を纏めて、運営に立ち向かうヒントを考える。
 そう、レオは決めたのだった。
(白野さんのことは気になりますが、ここにいない人のことを考えていても仕方がありません。会ってから、本人に聞くしかないでしょう)
 恐らく、この仮想世界のどこかに岸波白野はいる。凛やラニだっているのだから、白野がいてもおかしくなかった。
 もしかしたら、聖杯戦争で敗れ去ったマスターとサーヴァント達だっているかもしれない。デリートされた自分だってこの世界にいるのだから。
 彼らのことも気になるが、どこにいるかわからない。対策を立てるのは目撃情報が得られてからでいいだろう。
(それにトモコさん……いえ、スカーレット・レインさんからも色々とお聞きしたいことがありますが、そのタイミングを考えなければなりませんね)
 あどけない表情でジローと世間話をしている少女・サイトウトモコのことを、レオは見つめる。
 先程、支給品を確認する為にトモコがウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。
 その名前を二人に知られないように調べてみると、レインというアバターに関する情報が表示された。


《スカーレット・レイン/Scarlet Rain》
 登場ゲーム:Brain Burst 2039
 ブレイン・バーストに存在する7大レギオンの一角である『プロミネンス』を率いる二代目レギオンマスター。華々しい戦歴を誇り、『赤の王』と呼ばれている。
 数多くの功績から「不動要塞(イモービル・フォートレス)」「鮮血の暴風雨(ブラッディ・ストーム)」などの異名が与えられた。
 いくつもの強化武装で構成された『インビンシブル』の強力な火器で敵を圧倒する遠距離砲撃に特化した戦闘スタイルを取る。


 もしかしたら、トモコというのは彼女の現実での名前で、インターネットではレインという名前のアバターかもしれない。
 そして、自分達に見せているあどけない姿も演技である可能性が高い。何故なら、学園内のメンテナンスが行われた際、ほんの一瞬だけ彼女の口調が変わったのだから。
(彼女がハセヲさんや僕達に見せているのは仮の姿。でも、メンテナンスの時に見せた姿が、彼女の本当の姿なのでしょう)
 レインが何故、自分達に猫を被って接しているのかはわからない。
 生き残る為に利用をしようと企んでいるのか? また、利用をし尽くした後はどうでるのか?
 これまでのように一緒にいてくれるのか、それとも攻撃を仕掛けようとしてくるのか……それはレオにもわからない。
 ただ、できることなら戦いたくはなかった。生徒会副会長をこの手で斬るなんて嫌だし、まだ若い少女の未来を潰すのは王のやることではない。
 今は『サイトウトモコ』としての彼女と接するしかない。ガウェインもそれを了解してくれた。
 対主催生徒会に対する裏切りなど、レイン本人が余程のことをしなければという条件付きで。
 もしも下手に彼女の本性を暴くようなことをしたら、何をされるかわからない。本性を見せるだけならまだいいが、もしも逆上などされたら余計な体力を消耗してしまう。
 レイン本人に関するキーワードを検索するのは、彼女からの確実な信頼を得てからだ。
(レインさん……いえ、トモコさん。貴女が何を考えているのか知りませんが、僕達は貴女のことを信じていますからね……)
 不意に、ジローと話していたレインは……いや、サイトウトモコはレオに振り向いて、そして笑顔を見せる。
 レオはそれに答えるように、優しく微笑んだ。

127 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 21:01:37 ID:gdCGSrr.0
あ、戦況を乗り越える為、ではなく危機を乗り越える為、の間違いです。
確認を怠ってしまい、申し訳ありません。

128名無しさん:2014/02/02(日) 21:56:19 ID:KKxrEBSw0
二度目の修正乙です
おおよそ問題ないと思いますが、白野は存在感がないのではなく、NPCと間違えられやすいだけですよ
(まあ実際には本当にNPCだったわけですが)
それと読み直していた気付いたんですが、

>先程、支給品を確認する為にトモコがウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。

と作中でありますが、プレイヤーのウインドウは基本的には他人には不可視で、覗き見ることは出来ませんよ
その代わりに前作中編の『感情 〜Go to Dungeon〜』で、改竄のためにレインのウインドウを操作しているので、その時に知った。という風にしてはどうでしょう

あと情報に関しましては、自由に使っていただいてかまいませんよ

129 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/02(日) 22:11:36 ID:gdCGSrr.0
ご指摘及び了承して頂きありがとうございます……そして基本的なルールも今度、読み直しておきます。
それでは該当する部分を以下のように修正させて頂きます。

 先程、支給品を確認する為にトモコがウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。
 ↓
 先程、改竄の為にトモコのウインドウを操作した際、ほんの一瞬だけとはいえ『スカーレット・レイン』という名前が見えた。

130 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:46:24 ID:75gXIchU0
本スレで指摘された拙作の修正版を投下します。

131秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:47:19 ID:75gXIchU0


          1◆


 幻想的な雰囲気を放つ洞窟・死世所 エルディ・ルーから抜け出して、大分時間が経った。
 空に輝く太陽は徐々に昇ってきている。メニューウインドウの時計も針が止まる気配は見せず、無情に進んでいた。
 つまり、運営から二度目のメールが届く時間が確実に迫っている。残酷な現実がまた告げられてしまうのだ。

「カイトよ。先の戦いを見る限り、そちの腕も中々ではないか! これなら、余も安心してそちと力を合わせて戦うことができるぞ!」
「どうやら、カイトさんは私達サーヴァントに引けを取らない程の実力者のようですね。その力に敬意を示して、私もカイトさんの力になりますよ! あ、でもご主人様の期待に答えることを忘れないでくださいね」
「フ&リ…#、ア&+トウ」
「二人ともありがとう、とカイトさんは言っています!」
 セイバーとキャスターは激励し、カイトはそれに頷いて、ユイは笑顔で通訳をしている。
 互いの命を踏み躙り合う殺し合いとはとても思えないほど、和やかな光景だった。できることなら、この時間が永遠に続いて欲しいと思う。

「――――――――」

 そんな彼らの会話に加わる少女がいる。
 サチ……いや、サチの願いに従って行動する”黒点の主”・ヘレンだった。

「――――――――」
「私もハクノさん達の力になってもいいですか? と、ヘレンさんは聞いています」

 それが意味することは、ヘレンもここにいるみんなと一緒に戦ってくれることだろう。
 呉越同舟という四字熟語があるように、昨日まで敵だった者が今日は味方になってくれることもある。
 ヘレンの気持ちは嬉しいし、戦うより笑い合う方がいい。

「ほう。そなたも奏者の力になろうと言うのか、それは実に感心だ! だが、そなたが守っている少女は大丈夫なのか?」
「そうですよ。さっきの戦いを見ていると、ヘレンさん自身はともかくサチさん本人はあんまり戦い慣れていなさそうですよ? サチさんの状態だって、危険ですし」
「私としてもヘレンさんの言葉は有難いのですが、サチさんのことを考えると……」

 みんなはヘレンを、そして一緒にいるサチの身体を心配しているように見つめている。カイトも何も言わないが、それでもサチを心配しているような雰囲気が感じられた。
 実際、サチの状態はあまりにも危険だった。先程、カイトと戦ったせいで彼女のHPは残り10%にまで減っている。カイトを責めるつもりは全くないが。
 今の彼女を無理に戦わせたりしたら、本当にデリートされてしまう危険がある。
 自分はヘレンにその旨を伝えることにした。

「――――――――」
「私も消えたくないから無理をするつもりはない、できる範囲のことだけをする。ハクノさんのこともですけど、ハクノさん達と一緒にいる皆さんにも興味があるから……らしいですよ」

 ……それならいいかもしれない。
 ヘレンが言う『できる範囲のこと』がどこまでを示しているのかはわからないが、ここで断っても空気が悪くなるだろう。
 ただし、サチの為にも積極的に戦うことはしないで、いざとなったら逃げることは忘れないで欲しい。そう、条件を付けた。

132秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:48:27 ID:75gXIchU0

「――――――――」
「わかりました。ですって!」

 ヘレンが頷いて、そんなヘレンの意思をユイは伝えてくれる。
 納得してくれてよかった。力になってくれるのはいいことだが、それが原因で死んでしまうなんてあってはいけないことだ。
 こうして関わっていくと、ヘレンがただ他者に害を与えるだけのウイルスだけではないことがわかる。自分の意思を持ち、サチの願いを叶える為に動いている存在だから、簡単に消していい訳がない。
 ヘレンもみんなと同じように、ちゃんと心があるのだから。


 ……だからこそ、願う。
 ヘレンがもう二度と誰かを傷付けないことを。
 根底にあるのはサチの願いを叶えたいという想いだ。純粋だが、サチがどんなに間違った願いを抱こうとも実現させようとするだろう。
 善悪を判断することがヘレンにはできない。理解をさせる為には、ヘレンを止めながら一つ一つ教えていくしかないだろう。
 大変だが、サチを助ける為の方法がこれ以外に思い付かなかった。


 そして懸念していることがもう一つある。
 ヘレンが何らかのきっかけで、サチの凶行をユイに伝えてしまうかもしれないということだ。
 サチは恐怖のあまりに信頼を寄せていたキリトのことを殺してしまった。信じたくないが、その場に居合わせていない自分には事実であることを受け止めるしかない。
 もしもヘレンがサチのことをユイに伝えてしまったら、ユイはサチのことを恨むだろう。そして、セイバー達もサチを許さないはずだ。
 ヘレンがキリトとサチの一件を話さないこと。そして、キリトが死んだことはサチの勘違いであること。今の自分にはそれを願うことしかできなかった。
 何もしないで、現実逃避だけをしている自分が情けない。だからこそ、みんなが傷付かない方法を考えるしかなかったが、解決法が思い浮かばない。
 時間が止まって欲しいが、ただ流れていく。何もできない自分を嘲笑うかのように時計は動き続けていた。


「そういえば『フラグラド』でしたよね? 私達がさっき立ち寄った、あのエルディ・ルーという洞窟の地底湖にあった白い大樹って」
 キャスターはカイトに尋ねてくる。
 胸の奥から湧き上がってくる不安を打ち消すかのように、彼女の声は明るかった。

「カイトさんは言っていましたよね? 元々のゲームだと、あの木が死者の国を封じていた設定だって」
「アアァァ……」
「そうだけど、それがどうかしたのか? と、カイトさんは言っています」
「いえ、原作にそんな役割がある木がこの世界にもあるとなると、あの大樹は何か特別な意味があるのかな〜 って、思っただけです。例えば、あの大樹が私達に知られるとまずい何かを封じている、なんてことが」

 ……確かに。
 ユイはD−4エリアの地下に謎のエリアがあると言った。厳重なプロテクトがかかっているからには、何かがあるのだろう。
 キャスターが言うように、フラグラドの役割はそれが参加者に知られないようにする盾となっているのかもしれない。所謂、ファイアーウォールのような役割となっているのだろう。
 それさえ突破することができれば、プロテクトエリアに突入できるかもしれない。
「アアアアアアアァァァァァ……」
「その可能性は高いけど、迂闊に手を出すのは危険だ。罠があるかもしれない……と言っています」
「なんと! ……でも、言われてみればプロテクトがかかっている以上、考えなしに突っ込むのは危険ですね」

 キャスターの言葉に同意する。
 カイトの助言には助かる。彼は『The World』を守るAIプログラムだから、同じ守護者の役割を果たすプログラムのことがわかるのかもしれない。
 実際、プロテクトが甘ければこの殺し合いは根本から瓦解してしまう。そうさせない為にも、危険な要素は小さいうちから敗訴する必要がある。
 今はまだ、プロテクトを解除する方法自体がわからないし、そんな状況で手を出したらデリートされてしまう危険だってあるだろう。
 プロテクトエリアのことは気になるが、また訪れるにしてもプロテクトへの対策をしっかり取ってからだ。あらゆる結果を想定して、またそれに対抗できる手段も確保する。
 それからでも、遅くはない。

133秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:50:23 ID:75gXIchU0

「ふむ……ならば、かつて我らと戦ったあのマスター達がいれば、プロテクトとやらの対策も可能ではないのか?」

 セイバーが言っているのは、レオや慎二のことだろう。
 あの二人はマスターであると同時に、技術者としても高い実力を持っている。彼らが力を貸してくれるのなら、プロテクトにも何らかの対策ができるかもしれない。
 だが、問題が二つある。
 一つは、レオがこの殺し合いの場にいるとは限らないと言うことだ。レオの姿を見ていないのだから、蘇生していると断定することができない。
 そして二つ目は、レオと慎二が力を合わせてくれる場面が想像できないことだ。

「あのワカメさんとレオさんが出会ったら、確実に一悶着が起こるでしょうね。レオさんは意外と空気が読めませんし、ワカメさんはお子様……そんな二人が共同作業なんてできるのでしょうか?」

 酷い言いようだが、キャスターの意見はもっともだ。
 そうだ。仮にレオと慎二でチームを組んだら、確実にトラブルが起こりかねない。レオの何気ない言動に慎二が激怒する恐れがあった。
 元々、慎二はレオに対してあまりいい印象を持っていないように思える。そんな相手からの言葉を気にせず流してくれるなんて、慎二からは想像できない。
 アーチャーやガウェインが上手く宥めてくれればいいが、あの二人だけでどうにかなるのだろうか?

「案ずるな。この余がいる以上、奏者の前で諍いなど起こさせはしない! 奏者は安心して、彼らと手を取るがいい!」
「はぁ? 貴女なんかが出たら、余計に喧嘩がヒートアップするに決まっているじゃないですか。ご主人様、もしも喧嘩なんかが起こるならこんな人より私を頼ってくださいませ。この愛の鉄拳で、頭を冷やさせますから!」

 ……どっちもやめて欲しい。
 セイバーとキャスターは胸を張りながら宣言するが、彼女達には絶対に手を出させたりしない。彼女達には悪いが、もしも実行などされたらチームの空気が悪くなる。
 レオが本当にいるなら、どうか慎二に変なことを言わないことを祈るしかない。あと、慎二もレオの言葉に怒らないことも。
 とりあえず、もしもレオに会えたら何とか手を取り合ってくれるように説得を試みてみよう。彼の目的は人類全てを救うことなのだから、他者の命を無意味に奪うことなどしない。
 だから、慎二のことだって見捨てないはずだ。
 これからレオやガウェインと出会えたら、協力してもらえるように説得をする。ここにいるみんなにそれを告げた。

「確かに、あの男ならば奏者の願いを無碍にすることはしないだろうな」
「ええ。抜けている所はありますが、その器量はどこかのワカメさんにも見習わせたいですね〜 あ、でもご主人様の器量には遠く及ばないですが!」
 セイバーとキャスターは頷いてくれる。
 ……とりあえず、キャスターの慎二に対するワカメ呼ばわりはそろそろ止めた方がいいかもしれない。あんまり続けてはトラブルの元になるし、何よりも慎二が不憫だ。
 せめて、アーチャーは慎二に変なことを言わないことを願う。彼だったら心配ないかもしれないが。

「それと、プロテクトエリアって地下にあるってユイさんは言ってましたよね? そこに行く為の道が見つからないのなら、ワープゾーンの様な物が必要でしょうか? でも、今の私達にそんな手段はありませんよ」
「ワープですか……転移結晶さえあれば、エリアの地下に侵入できる可能性があるかもしれませんよ」
「転移結晶?」
 ユイの口から出たキーワードに、キャスターが反応する。

「はい。私達の世界には結晶アイテムという物があるのです。回復や解毒、更には使用したプレイヤーを瞬時に移動させる効果など、様々な効果を持つマジックアイテムなのです!」
「ほう! そいつはとても便利じゃありませんか!」
「いいえ、決して万能という訳ではないのです。一度しか使えない上に、一部のダンジョンでは結晶アイテムが使用することのできない《結晶無効空間》というエリアがあるのです。
 なので、もしかしたらこの空間にも結晶アイテムを無力化するエリアが存在するかもしれません」

 解説をするユイの表情はほんの少しだけ曇っていた。
 もしかしたら、過去に結晶アイテムで何かトラブルがあったのだろうか。
 例えば、絶体絶命の状況に陥って、その状況を打破する為に結晶アイテムを使ったが無情にも発動せず、命を落としたプレイヤーを何人も見てしまった……
 ……その辺は掘り返さない方がいいかもしれない。

134秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:53:36 ID:75gXIchU0

「あと、もしD-4エリアで転移結晶が使えてプロテクトエリアに向かえるとしても、行きだけではなく帰りの分も用意した方がいいですね」
「それはそうでしょうね。例え行けたとしても、帰れなくなったら元も子もありませんし」

 だとすると、転移結晶はこの手に多く持っている必要があるかもしれない。
 サーヴァントであるセイバー達は必要ないかもしれないが、同行する参加者達の分もたくさん持つべきだ。
 無論、向かうにしてもしっかりと運営に対する対策を固めてからだが。

「……奏者よ。プロテクトエリアのこともいいが、どうか余の願いも忘れないで欲しいぞ」

 そんな中、セイバーが頬を風船のように膨らませながら見つめてくる。
 セイバーの願い……ああ、アリーナに向かうことか。
 もちろん、それも忘れてはいない。アリーナにも何かあるかもしれないから。だけど、もう少しだけ待っていて欲しい。
 そう告げると、セイバーは安堵としたように胸を撫で下ろした。

「そうか……奏者がアリーナのことを覚えていて、余は安心したぞ。うむ! 奏者の為ならば、余は何時間だろうと待とう!」
「……ご主人様、このままアリーナのことをスルーしてしまっても問題はないと思いますよ?」
 ポツリと呟いたキャスターのことを、セイバーは物凄い勢いで睨みつける。
 このままではまた喧嘩になってしまう。その前に、二人をどうにかして落ち着かせないといけない。
 どうやってこの空気を変えるか……そう考える一方で、サーヴァント達は睨み合いを始めていた。


【C-3/崖/1日目・昼】


【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP95%、データ欠損(微小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、男子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:女子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:―――大丈夫だ、問題ない。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走、ありす達やダン達に気を付ける。
7:ヒースクリフを警戒。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
9:エンデュランスが色んな意味で心配。
10:もしも、レオがどこかにいるのなら協力をして貰えるように頼んでみる。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。

135秘密のプロテクトエリアをつぶせ!(修正版) ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:54:09 ID:75gXIchU0

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP55/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん………。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフを警戒。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP80%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。


【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]HP10%、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
1:ハクノ、キニナル。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
※白野に興味があるので、白野と一緒にいる仲間達とも協力する方針でいます。

136 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 15:55:36 ID:75gXIchU0
投下終了です。
変更点は以下の2点です。

・カイトの台詞の削減
・現在地

もしもまだ問題がありましたら、お手数ですが指摘をお願いします。

137名無しさん:2014/02/07(金) 16:11:25 ID:zmTCGRO20
やっぱり場所の方を変えちゃったか

138 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 17:36:27 ID:75gXIchU0
申し訳ありません。昼になるのなら、場所もそれに伴って変えた方がいいかと思ったので。
ただ、もしも時間の方を変えるべきならば、以下のように修正させて頂きます。

【D-3/崖/1日目・午前】

139名無しさん:2014/02/07(金) 19:29:58 ID:zmTCGRO20
昼にしたいのなら昼にすればいいよ。そこは書き手の裁量次第

140 ◆lVSHFOsQK2:2014/02/07(金) 20:22:44 ID:75gXIchU0
それでは収録時に昼の時間帯にさせて頂きます。

141 ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:26:03 ID:KMC9Tyvs0
以前、投下した拙作の修正版を投下させて頂きます。

142勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:26:35 ID:KMC9Tyvs0
 
 
    1◆
 
 
「HPが0になっても復活できるなんて、そんなアイテムありなのかよ! チートってレベルじゃないだろ!」
「そりゃあ信じられないよね。でも、これがあったおかげでボクもカオルを助けることができたよ」

 ユウキの所持している【黄泉返りの薬】を見た間桐慎二は、その効果に目を丸くした。
 RPGゲームでよく見られる死者蘇生アイテムを本当に見るとは夢にも思わなかった。対象者が死亡してから5秒以内でなければ効果はないけれど、それでも充分に貴重なアイテムだ。しかもまだ4つもあるなんて、非常に心強くなってしまう。
 命を賭けた殺し合いでこんなものを支給するなんて矛盾している。運営がこんなものをどうして用意したのかがわからなかった。
 だけど、使える物は使わせて貰うつもりだ。

「あとでシンジにも渡そうと思うよ。キリトや、キリトと一緒にいる人達にもね」
「本当か! それは助かる」
「でも、その前にキリトと合流してここから抜け出すことを考えようよ。この森にいると、確かダメージ量が増えるらしいから」
「そ、そうだった!」

 運営の嫌がらせなのか、12:00まで全ての森は【痛みの森】というエリアに変えられてしまい、受けるダメージが増えてしまうらしい。その間にPKをすればポイントもいつもより増えるらしいが、そんなことはどうでもよかった。
 今の状況で別のプレイヤーに襲われたら、今度こそユウキとカオルは殺されてしまうかもしれない。アーチャーがついているとはいえ、彼一人では限界があった。
 こんな場所にいつまでもいたら蘇生アイテムがいくつあっても足りないので、早く抜け出したい。それが慎二の本音だった。

「……そういえば、ユウキ達は大丈夫なのかい?」
「何が?」
「いや、痛いだろ? ダメージだけじゃなく、痛みだって倍増されるってメールには書いてあったからさ……あいつらと戦っていたから、凄く痛かったと思うし」
「ああ、それならボクは大丈夫だよ! みんなと一緒にいるから、あんまり気にならないかな」

 あれだけの死闘を繰り広げた後なのに、ユウキはけらけらと笑っている。
 そんなはずはない。ダスク・テイカーから与えられたダメージはとても笑って誤魔化せる様な量ではなかった。ならば、それに伴う痛みだって凄まじいはず。
 気力で身体を動かしているのかもしれないが、そうだとしたら彼女はどれだけ逞しいのか。ユウキという少女はゲーマーとしてだけではなく、人間としても憧れてしまいそうだ。

「それよりも、本当に辛いのはカオルの方だよ! あのノウミって奴から酷い目に逢わされたし……」
「ええっ!? でも、ユウキさんだって私の為に大怪我をしたじゃないですか! あの時、私がしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに……」
「ボクなら大丈夫だって言ったでしょ。とにかく、二度とこんなことがないようにしようよ。蘇生アイテムがあるからって、痛いことには変わらないし」
 ユウキとカオルの言葉が、慎二の胸に深く突き刺さる。
 そうだ。例え生き返ると言っても、死んでしまったという事実を変えることなんかできない。そこに至るまでの苦痛や絶望だって、脳裏に強く焼き付いているのだ。
 生き返るから、死ぬほどのダメージを受けたって問題はないという訳ではない。むしろ、死による苦しみからの解放すらも認められないのだから、もっと残酷かもしれなかった。
 ゲームのキャラクターは死んでから蘇生しても次の瞬間には動いているが、自分達は違う。現実の世界に生きる人間だ同じ目に遭ったら、何もできなくなるはずだ。
 普通なら、何らかのトラウマに苦しめられてもおかしくない。それなのにユウキとカオルは、テイカーの火に焼かれたにも関わらず、今も笑っている。

(……僕が二人の立場だったら、例え生き返ったとしてもこうして笑うことなんてできない。絶対に、ショックと恐怖で動けなくなるだろうな……)
 ユウキから【黄泉返りの薬】を貰えると聞いて舞い上がってしまった。例え死んでもコンティニューができると喜んでいたが、それは二人に対する冒涜なのではないか。
 そう考えると、先程までの自分がとても浅はかに見えてしまい、思わず溜息をつく。

「こんな時に溜息とは、何かあったのか?」
「うわっ!?」

 その直後、背後に立つアーチャーから唐突に声をかけられてしまい、驚いた慎二は飛び上がった。
 振り向くと、アーチャーは意味ありげな笑みを浮かべているのを見た。

143勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:27:45 ID:KMC9Tyvs0

「アーチャー……いきなり声をかけるな! ビックリするじゃないか!」
「すまない。ただ、君があまりにも落ち込んでいるようだから、どうしたものかと思っただけだ」
「別に何でもない! さっきから色々なことがあってちょっと疲れただけだ! 絶対に落ち込んでなんかいないからな!」
「そうか。なら、いいのだが」

 アーチャーは頷く。
 絶対に本心を見抜かれている。どれだけムキになって否定したとしても、悩みの理由を察しているはずだ。数時間程度の付き合いしかないけれど、アーチャーの考えていることが何となくわかってしまう。
 ここで感情を爆発させてもただ疲れるだけで、何の意味もない。なので、慎二は話題を切り替えることにした。

「そ、そうだユウキ! ちょっと聞きたいことがあるけど大丈夫か?」
「どうしたの?」
「そういえば……キリトってどんな奴なんだ? やっぱり、そいつも強いプレイヤーなのか?」
「うん! キリトもすっごく強いよ! ボクの所属するギルドの邪魔をした嫌な連中を足止めしてくれたし、何よりも剣の腕がとても凄いよ!
 シンジもゲームチャンプの称号を背負うなら、気を付けた方がいいよ〜! 油断したら、すぐに追い抜かれちゃうから!」
「ハン! それなら、返り討ちにしてやるとも! キリトが僕に挑むのなら、僕はそれに全力で答えて倒す……それだけさ!」
「そっか! それなら精一杯、頑張ってね! シンジならキリトにも負けないくらい、完璧に強くなれるってボクは信じてるから!」
「ユウキに言われなくとも、そうするつもりさ!」 

 満面の笑顔を浮かべるユウキに向かって、慎二は大きく胸を張る。
 そんな二人を見守っていたアーチャーとカオルはこう語った。

「……やれやれ、自信を持つのはいいが、またすぐに調子に乗ってしまいそうだ」
「でも、シンジさんは大きくなっています。一歩ずつですが、確実に」
「そうだな。彼には無限の可能性がある……私のマスター以上にだ。尤も、私も慎二に負けないように強くなるつもりだが」
「それなら、私はアーチャーさんとアーチャーさんのマスターさんを応援しますよ! ユウキさんが慎二さんを応援するなら、私はあなた達を応援しますよ」
「それは有難い。なら、私達はそれに答えなければならないな」


    2◆◆


 俺はずっと失意に沈んでいた。もしも今、鏡を見たら曇っている俺の顔を見ることができるかもしれない。
 あれから、俺はブルースやピンクと一緒にずっと森に留まっていた。どうやら、二人は森に集まってきた危険なプレイヤーを倒すつもりらしい。
 俺はそんな二人の邪魔をする訳にはいかなかった。サチのアバターに黒いナニカを植えた犯人でない以上、敵対する理由などない。

「それで、キリトはこれからどうするつもりだ? このまま、この森に留まるつもりなのか?」

 ブルースの問いかけに俺は何も答えられない。
 それが失礼な態度であることはわかっているが、言葉が見つからなかった。

144勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:28:11 ID:KMC9Tyvs0

「お前がこの森に留まるのは勝手だが、あのサチという少女はどうするつもりだ? それに、お前の娘のユイだっているはずだ……二人のことを捜さなくてもいいのか」

 ブルースの口からその名前が出てきたことで、俺の身体が震えてしまう。
 サチが俺のことを刺してから、既にかなりの時間が経っている。こうしている間にも、サチはどこかで危険な目に遭っているはずだった。
 それにユイのことだって心配だった。戦う力を持たない彼女までもがここにいては、いつデリートされてもおかしくない。
 わかっている。
 彼女達の為を思うなら、いつまでもこんな所にいる訳にはいかない。ブルースの言う通り、サチやユイの元に駆けつけなければいかなかった。
 頭ではわかっているし、俺自身もそうしたいと思っている。
 だけど……身体が動かなかった。

「キリト……あんた、何とか言ったらどうなの?」

 怒りを露わにした表情で詰め寄ってくるのはピンクだった。
 彼女の声は非常に威圧感があって、並のプレイヤーを怯ませてしまいそうだった。普通なら悲鳴を漏らすかもしれないが、どういう訳か俺はそうする気すらも湧かない。

「あんた、いつまでウジウジするつもりなのよ! あたしがわざわざ回復結晶を渡して、ブルースも剣を返したっていうのに……肝心のあんたは何もしないってどういうことよ!
 情けない……ああ、情けないわね! 情けなさ過ぎて腸が煮えくりかえりそうだわ!」

 ピンクの罵倒が俺の耳に突き刺さってくる。彼女の声量は凄まじくて、実際にダメージを与えてしまうかもしれないと錯覚してしまいそうだった。
 拘束を解かれてから、俺はブルースから【虚空ノ幻】を返して貰い、ピンクから与えられた回復結晶でHPを回復した。それは二人が俺のことを一先ず信用してくれたことだろう。
 こうまでお膳立てをさせてしまった以上、俺は二人の気持ちに答えるのが筋だ。俺だってそうしたいと考えている。
 だけど、今の俺はただ突っ立っているだけ。我ながら情けなさすぎて嫌になってしまう。ピンクが怒るのも無理はない。
 何も答えないこんな俺の姿に苛立ちを覚えたのか、ピンクは強く舌打ちをして、その手に持つ武器を向けてきた。

「……そう。そういうつもり。だったら、ここでいっそのことあんたのことを斬ってあげようか?」

 刃の切っ先が太陽に照らされるのを見て、俺は反射的に後ずさってしまう。無気力になっているにも関わらず、生存本能だけは働いてしまったのだ。
 そんな俺に対して嫌悪感を強めたのか、ピンクは更に表情を顰めた。

「ハッ、何もやる気がないくせに助かろうとするの? 随分と虫がいいのね」
「おい、ピンク!」
「ブルースは黙ってて!」

 ブルースの制止の言葉すら、ピンクはあっさりと斬り捨てる。
 このままでは、ピンクは本当に俺のことを斬ってしまうかもしれない。だけど、それを防ぐための言葉が見つからなかった。
 彼女の手を汚させたくなんかないし、何よりも俺だってここで死ぬわけにはいかない。でも、口が動かなかった。今は何を言ってもピンクを納得させられないだろうし、それ以前にその為の言葉すら見つからない。
 どうすればいいのか……そんな思考が芽生え始めた時、ピンクはその刀を収めた。

「……やっぱりやめた。あんたなんかを斬ったって何の得にもならないし、体力を無駄にするだけだわ」
「……ごめん」
「ごめんで済んだらヒーローもオフィシャルもいらないでしょ! 悪いと思うなら、あたし達の前からとっとと消えなさいよ!」

 ようやく出てきた俺の言葉に、案の定ピンクは激怒する。
 ヒーローとオフィシャルが何なのかはわからないが、きっと警察のようなものかもしれない。そんな二人の邪魔をしてしまったことが、今になって申し訳なく思ってしまう。
 あの時、もしも二人が事情を知っていたらサチのことだって助けようとしたはずだ。俺には説明の義務があったはずなのに、一方的に襲いかかった。
 ……これでは、サチが俺のことを失望したって無理はない。もしかしたら、サチにはあの時の俺がレッドプレイヤーに見えてしまったから、攻撃した可能性だってある。
 サチがそんな人ではないのはわかる。例え相手がレッドプレイヤーだろうと、いきなり傷付けるなんてありえない……
 その瞬間、守りたかったサチのことまでも疑っていることに気づいてしまい、俺自身がとことん惨めに思えてしまった。

145勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:29:15 ID:KMC9Tyvs0

「キリト! キリトなんだね!」

 自己否定の思考が芽生えた瞬間、俺の耳に声が響く。
 俺はその声を知っている。ブルースと戦う直前に再会したユウキの声だ。
 それに気付いた俺が振り向くと、木々の間からユウキが現れるのを見た。そんな彼女に続くように、見知らぬ二人の男とユウキと一緒にいた女が出てくる。
 現れた女はピンクを見て、驚いたようにピンクの名前を呼ぶ。同じようにピンクも「カオル!」と声をかけた。もしかしたら二人は知り合いなのかもしれないが、今の俺にはあまり関心がない。
 ただ、ユウキが無事でいる姿を見られたことで、ほんの少しだけ心が軽くなるのを感じた。

「ゆ、ユウキ……!」
「よかった……いきなり飛び出していったから、心配したよ!」
「あっ……!」

 ユウキの言葉を聞いて、俺は思い出す。
 サチの居場所を尋ねてから何も考えずに飛び出してしまい、勝手に暴走をしてしまった。
 一方、ユウキはかつてのように眩い笑顔を向けてくれる。そんなユウキの姿が輝いて見えてしまい、思わず目を逸らしてしまいそうだった。

「ごめん、ユウキ……勝手に飛び出したりして」
「大丈夫だよ。キリトが無事でいてくれたから……ところで、あのサチって女の子は見つかったの?」
「……っ!」

 ユウキの口からサチの名前が出てきたことで、俺の身体はピクリと震えてしまう。
 すると、ユウキは怪訝な表情を浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。

「……キリト、どうかしたの?」
「サチは……サチは、その……見失った。これから……捜すつもりだ」

 ユウキの疑問に対して、俺はしどろもどろに答えることしかできない。

「ねえ、キリト……何があったの?」
「えっ……いや、別に……なんでもない、けど」
「嘘だよ。キリト、何かを隠してるでしょ……嘘つきは泥棒の始まりだよ」
「本当に何でもないよ……ユウキの勘違いだって」
「……よかったら、何があったのかを話してくれないかな? ボクにできることがあるなら、何でもするから……一人で悩むなんてよくないよ」

 真摯な視線が突き刺さり、俺は後ずさってしまう。
 やはり、ユウキは俺が隠し事をしていると察しているのだ。一緒にいた時間はそれほど長くはないが、その僅かな間にデュエルやフロアの攻略を通じて絆を深めあっている。だから、ユウキは俺のことがわかるのだろう。
 俺のことを心配してくれているのは嬉しいが、今だけは素直に受け取ることができない。それがユウキの気持ちを冒涜することになるのはわかっているが。
 ユウキのことを裏切りたくない。だけどユウキには今の俺を知られたくない。そんな二つの感情が俺の中で鬩ぎ合っている最中だった。

「……キリトはサチのことを守ろうとして、あたし達のことを襲ったの」

 ピンクはそう淡々と語ったことで、俺の意識は急激に覚醒する。
 振り向くと、ピンクはどことなく辛そうな表情を浮かべながら、言葉を続けた。

「あのサチって子のアバターには、ウイルスのような何かが感染していたの。それをあたし達がやったと勘違いをして、それから戦いになって……今度はサチがキリトを襲って、それからサチは逃げたわ」
「ピンク、お前……!」
「こうでもしないと、キリトは何も言わないでしょ! いつまでもウジウジと黙ったままのキリトにイラついただけよ! それとも、ブルースが説明でもしてくれたって言うの!?」

 ブルースは咎めるのに対して、ピンクは激怒することで返す。
 その声は相変わらず凄まじくて、現実だったら鼓膜を破く程の威力を発揮しそうだった。

「……キリト、この人の言っていたことって本当なの?」

 そして、当然のことながらユウキは尋ねてくる。
 その声はほんの少しだけ憂いに満ちていて、真実を言うことを躊躇わせてしまう。だけど、こうなった以上は話さなければならない。

146勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:31:07 ID:KMC9Tyvs0

「ああ、本当だよ……俺はこの二人の話を聞かずに、一方的に襲った……殺し合いを止めようとしていた二人を犯人だと決めつけて、傷付けた……
 こんな俺は、最悪のレッドプレイヤーさ」

 俺は全てをユウキに話した。
 本当なら逃げ出してしまいたいが、そんなことをしても何の解決にもならない。仮に逃げ出しても、ユウキの翼ならば一瞬で追いつかれてしまうだろう。
 彼女は俺のことを失望するはずだ。ユウキだけでなく、アスナやユイの信頼を完全に裏切ってしまったのだから。
 俺はそう思ったが……

「そっか……大変だったね、キリト。それと、話してくれてありがとう」

 だけど、肝心のユウキは真剣な表情を浮かべている。そこに幻滅の感情は感じられない。
 俺はそれが理解できず、瞼をしばたかせた。

「キリトは勘違いからピンクとブルースのことを襲っちゃった……それは残念だけど事実だよね
 でも、キリトはそれを反省しているでしょ? それとも、これからも誰かを襲いたいって思ってる?」
「……思っていない。いや、そんなことをしていいわけがないだろう! 意味もなく、誰かを傷付けるなんて……!」
「なら、キリトはレッドプレイヤーなんかじゃないよ。ボクやアスナやユイちゃん……それにみんなが知っているキリトだよ!」

 そう言いながら、ユウキはにっこりと笑顔を浮かべる。
 すると、そんなユウキと入れ替わるようにカオルと呼ばれた女が俺の前に出てきた。

「キリトさん。あなたが悪いことをしたことで、今も責任を感じているかもしれません……でも、それを認めているのなら、あなたはこれから誰かの為に戦えるはずです」
「誰かの為に、戦う……?」
「はい。私だって、昔は私自身のワガママのせいでたくさんの人に迷惑をかけてしまいました……それはもう取り戻すことができません。
 でも、キリトさんにはまだ時間があります。どうか、大切な人を守ってください……不安があるのはわかりますけど、このままではキリトさんは本当に後悔をしてしまうことになってしまいますから」

 俺を見つめているカオルの顔はどこか寂しげだった。
 それを見て、俺は思う。もしかしたら、彼女も俺のように大切な人がいて、その人の為に一生懸命頑張っていたのかもしれない。だけど、何かを間違えてしまい、全てを失ってしまった。
 手段を選ばなかった彼女にも非はあったかもしれない。だけど、彼女の心にあるのは、大切な人の力になりたいと言う純粋な気持ちだったはずだ。それが間違った方向に向かってしまっただけだ。
 俺だって、ブルースやピンクを襲ってしまったが、別に彼らに悪意があった訳ではない。ただ、サチを守りたかっただけだ。
 サチを守ることができればそれでいい……あの時の俺は、それ以外のことを考えないで突っ走っただけだった。

「……おい、キリトって言ったよな」

 今度はユウキと一緒にいた男が前に出てくる。青いウエーブヘアーが特徴の男だ。
 ユウキが「シンジ?」と呼びかけてくるが、それに答えずに口を開く。

「君がそのサチって子とどんな関係かは知らないけど……まあ、探しておいてやるよ。僕達も用事があるから、そのついでにな……
 言っておくけど、君の為じゃないからな! 君が悲しむと、なんというか……ユウキも悲しんで、場の空気が悪くなるんだ! それが嫌なだけだからな!」
「キリト。彼は悪ぶっているが、本当は素直になれないということを察するといい」
「うるさいぞアーチャー! 変なことを言うな!」
「そうか。それは失礼した」

 シンジからアーチャーと呼ばれた白髪の男は、意味ありげに笑う。
 しかし、すぐに俺の方に振り向いて、真摯な表情になった。

「そしてキリト。君がどうするのかは勝手だが、これだけは絶対に忘れるな……君には帰りを待っている娘がいることを」
「娘……? じゃあ、ブルースの言っていた伝言はあんたからだったのか!?」
「そうだ。ユイは今、私とは別行動を取っているが、私のマスター達が守っているから無事なはずだ。後でB−3エリアの月見原学園で落ち合うことになっているから、そこに行けば会えるだろう」
「そっか……よかった」
「安心するのはいいが、それ以上にやるべきことがあるのではないのか?」
「あっ……」

 アーチャーの言葉を聞いて、俺は気付く。
 俺のやるべきこと。それは俺自身の答えをみんなに言うことだ。ここにいるみんなは、俺の為に助言をしてくれている。
 ブルースやピンクだって厳しい言葉を突き付けたが、それは俺のことを考えてくれたからだ。俺が不甲斐無いせいで、二人に損な役目を背負わせてしまった。
 もしかしたら、ユウキ達も悪者にさせてしまう可能性だってあるかもしれなかった。

147勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:31:53 ID:KMC9Tyvs0

『ジローさん………大好きですよ………』

 不意に、レンさんが残した最期の言葉が俺の脳裏にリピートされる。
 彼女はジローさんのことを一途に想い、ジローさんのことをひたすら愛して、俺のことをジローさんだと勘違いして……笑顔のまま、この世から去った。
 俺がみんなを守りたかったように、レンさんもジローさんを失いたくないはずだった。そしてジローさんだってレンさんのことを守りたかったはずだった。その気持ちに何一つの嘘は存在しない。

『いいぜ、キリト。お前となら、どこまでだってやれる気がする』

 あの戦いの最中、巡り会うことができたシルバー・クロウだって、守りたかった人がいるはずだった。
 そして、クロウが言っていた【バルムンク】という人物も、同じかもしれない。クロウはバルムンクの仇を取る為に、フォルテに立ち向かった。
 だけど三人はもういない。純粋な気持ちが蹂躙される悲劇を繰り返さないと誓ったはずなのに、デスゲームは続いてしまう。
 レンさんやクロウが今の俺を見たら何と言うか? レンさんとクロウは俺が心を閉ざしてしまうことを望んでいるのか? 二人のことを思い出した瞬間、俺の中でそんな疑問が芽生えてしまう。
 それはあの二人だけではない。ここにいるみんなや、どこかにいるであろうみんなにも同じことが言える。
 二度と大切なものを失いたくないと誓ったはずなのに、今の俺は何をやっているのか。その誓いを破っているのは、他でもない俺自身なのではないか。

「……みんな、聞いて欲しい」

 だから、俺は俺自身の答えを口にする。
 嘘偽りを混ぜたりなんかせず、正真正銘の真実を言葉にして。

「正直な話、今も不安なんだ……ユウキやカオルの話をきちんと聞かず、しかも勝手な思い込みでブルースとピンクを襲った俺が、誰かを守れるのか……俺も、自信がない」
「キリト、あんた……!」
「でも、みんなのことを守りたいのだけは本当だ! サチも、アスナも、ユイも、ユウキも、カオルも、ブルースも、ピンクも、シンジも、アーチャーも……俺は失いたくない!
 これ以上、誰一人だろうと死んでほしくない! これだけは……これだけは本当だ! その為に、俺は戦いたい!」

 ピンクが苛立ちで声を荒げる前に、俺は心からの言葉を宣言する。
 今もどこかでレンさんの帰りを待っているジローさんの為にも。
 俺に力を貸してくれたシルバー・クロウのことを、残された人達に教える為にも。
 こんな俺を信じて、励ましてくれたここにいるみんなの為にも。
 そして……俺が助けなければならない、大切な人達の為にも。サチを、アスナを、ユイを救う為にも……守りたいものを、守る為にも。
 かつて、一人で我武者羅に戦っていた俺を絶望から救ってくれたように、今度は俺がみんなを絶望から救う番だ。

 今でも忘れられないあの夜、サチから届けられたメッセージ録音クリスタルに込められた最後の内容はまだ思い出せない。
 だけど、俺は知っている。サチは恐怖に囚われながらも、決して自分自身を失わないで《月夜の黒猫団》のみんなや俺の為に頑張っていたことを。そして、こんな俺の為にメッセージを残してくれたことを。
 サチは優しい少女だ。そんなサチが、望まない戦いをさせられている……そんなの、許せるわけがなかった。
 彼女と再び出会えても、俺を信じてくれるかはわからないが関係ない。彼女が俺を拒絶したとしても、俺は守るつもりだ。

「みんな、本当にごめん……俺が情けないせいで、みんなに迷惑をかけて」
「お前がもう誰かを襲わないのなら、俺は何も言わない。だが、もう二度と変なことをするな……いいな?」
「わかったよ、ブルース……それと、ピンクもごめん」
「謝る暇があるなら、さっさと動きなさいよ! もしもまた泣き言を並べたりなんかしたら、あたしは二度とあんたのことを許さないからね!」
「ああ、そのつもりだよ」

 ブルースとピンクには随分と迷惑をかけてしまった。
 本当なら二人に償いをしたいがその時間はないし、何よりも二人は望んでいない。二人の為を思うなら、俺がやるべきことをやらなければならなかった。

「キリト。君が立ち直るのは良いが、いつまでもここにいてもいいのか?」
「……いや、すぐにでも捜しに行くよ。こうしている間にも、サチが危険な目に遭っているかもしれないから」
「だろうな。だが、仮にサチを見つけたとしても君一人でどうにかできるのか? 彼女のアバターに侵食したバグを除去する方法はあるのか?」
「あっ……」

 アーチャーの言葉に俺は何も返せない。
 そうだ。例えサチを見つけたとしても、あの黒いナニカをどうにかしなければ同じことの繰り返しだ。
 あの苦い記憶が脳裏に過ぎった瞬間、カオルが口を開く。

148勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:32:53 ID:KMC9Tyvs0

「キリトさん、そのことなんですが……私が力になりましょうか? バグやウイルスを取り除く作業なら、何度もやったことがありますので」
「えっ……カオル、本当か? 本当にサチを助けられるのか?」
「サチさんに取り付いたバグの構造を把握して、あとはワクチンを作れば何とかなるかもしれません。ただ、その為の場所も必要ですが」
「そっか……なら、カオルにお願いしてもいいかな?」
「勿論ですよ!」
「ありがとう……!」

 カオルが頷くのを見て、俺は心の中が晴れていくのを感じる。
 ようやくサチを救う手段が見つかったことで、希望が芽生えた。ウイルスを解除できるカオルがいるなら、あとはサチを見つけるだけだ。

「それじゃあ、キリトもボク達と一緒に来る? 二手に別れて探しても、カオルがいないとどうにもならないし、何よりボクもキリトとまた話をしたいからね」
「ああ、そうするよ……ありがとう、ユウキ!」
「どういたしまして! シンジやアーチャーはどう?」
「どうって……まあ、ユウキとカオルがいいなら僕は別に構わないさ。ノウミを探すついでだ」
「私も異論はない」
「それじゃあ、決定だね……あ、そうだ」

 ユウキは何かを思い出したかのようにウインドウを操作して、薬のようなアイテムを二つ取り出す。
 それを持ったユウキは、ブルースとピンクの方に振り向いた。

「そういえば、ブルースとピンクはこれからどうするの? ボク達と来る?」
「悪いが、俺達はここでしばらくは危険人物を待ち構えるつもりだ……12時まで、この森は榊達の手によって戦場になっているのだから」
「そっか……なら、二人にはこれを受け取って欲しいんだ。何かあった時の為にね」
「そうか。これは回復アイテムなのか?」
「ううん。回復じゃなくて、蘇生アイテムなんだ」
「何?」
「蘇生ですって!?」
「えっ!?」

 ユウキの言葉にブルースとピンクは驚く。無論、俺も例外ではない。
 だけど、ユウキはそれに構わず説明を続ける。

「そうだよ。でも、これは5秒以内に使わないと効果がないらしいから、使う時は急いで使ってね」
「お前……そんなアイテムを俺達に渡しても大丈夫なのか?」
「君達だからこそ、持っていて欲しいんだよ。君達はキリトのことを信じてくれたから、ボクも君達のことを信じたい……それに、君達が死んじゃったら気分が悪くなるし。
 大丈夫、ボク達の分も残っているから心配しないで」
「……そこまで言うなら構わない。だが、本当にいいのか?」
「大丈夫って言ってるでしょ?」
「そうか。なら、受け取ろう……感謝するぞ」
「どういたしまして!」

 ユウキの手から蘇生アイテムを受け取ったブルースとピンクは、ウインドウを操作してすぐにしまう。
 蘇生アイテムまでもがこんな所にあるのは驚いた。だが、アインクラッドでも<<還魂の聖晶石>>というドロップアイテムがあったので、存在しても不思議ではないかもしれない。

「さて、別れは名残惜しいし、私としてもブルースとピンクには色々と聞きたいことがあるが……今は時間がない。
 ブルース、そしてピンク。もしも何かあったら、月見原学園に向かうといい。そこなら、私のマスターや仲間と出会えるはずだ」
「そうか……なら、余裕ができたらそちらも当たってみよう。ピンクはどうする?」
「あたしも別に構わないけど……」
「なら、決まりのようだな」

 アーチャーの提案にブルースとピンクは頷いた。
 これから二人とはしばらくお別れになる。だから、その前に俺は二人に言わなければならない。

149勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:33:40 ID:KMC9Tyvs0
「ブルースもピンクも、どうか気を付けてくれ」
「当たり前だ」
「あんたに言われるまでもないわよ」
「そうだよな……それと、本当にありがとう」

 ありがとう。
 この言葉を言うのはもう何度目になるのかは俺もわからない。だけど、何度だろうと言いたかった。安っぽいと言われようと、胡散臭いと思われようとも……この気持ちを言葉に出したかった。
 本当なら、二人は俺のことを見捨てることだってできたはずなのに、それをしなかった。これだけでも、二人にはどれだけ感謝をしても足りない。
 絶対に、サチやユイを守らなければならなかった。

「キリト、行こう」
「ああ」

 ユウキの言葉に頷いてから、俺は森の中を進んでいく。
 この先にサチがいることを信じて。そして、守りたかった人達を守れることを信じて……



【E-5/森/1日目・昼】


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP40/50(=95%)、疲労(大)、SAOアバター
[装備]: {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、
[アイテム]:基本支給品一式、黄泉返りの薬×2@.hack//G.U.、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:今はユウキ達についていきながら、サチを探す。
1:サチやユイ、それにみんなの為にも頑張りたい。
2:二度と大切なものを失いたくない。
3:レンさんやクロウのことを、残された人達に伝える。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
?SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
?ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
?GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。

※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※ユイが殺し合いに巻き込まれている可能性を知りました。


【ユウキ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP10%、幸運上昇(中)
[装備]:ランベントライト@ソードアート・オンライン
[アイテム]:黄泉返りの薬×2@.hack//G.U.、基本支給品一式、不明支給品0〜1
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:洞窟の地底湖と大樹の様な綺麗な場所を探す。ロワについては保留。
1:みんなで野球場に行き、そのついでにサチを探す。
2:専守防衛。誰かを殺すつもりはないが、誰かに殺されるつもりもない。
3:また会えるのなら、アスナに会いたい。
4:黒いバグ(?)を警戒。 さっきの女の子(サチ)からも出ていた気がする。
[備考]
※参戦時期は、アスナ達に看取られて死亡した後。
※ダスク・テイカーに、OSS〈マザーズ・ロザリオ〉を奪われました。

150勇気を胸に(修正版) ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:35:21 ID:KMC9Tyvs0
【カオル@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP25%
[装備]:ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:何とかしてウイルスを駆除し、生きて(?)帰る。
1:ユウキさん達についていく。
2:どこかで体内のウイルスを解析し、ワクチンを作る。
3:デンノーズのみなさんに会いたい。 生きていてほしい。
4:サチさんを見つけたら、バグを解析してワクチンを作る。
[備考]
※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。
※【C-7/遺跡】のエリアデータを解析しました。


【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP50%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れ、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:不明支給品0〜1、リカバリー30(一定時間使用不能)@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
1:ひとまずはユウキ達についていきながら、ノウミ(ダスク・テイカー)も探す。
2:ユウキに死なれたら困る。
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:サチって子もついでに探す。
5:いつかキリトも倒してみせる。
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP75%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。



【E-5/森/1日目・昼】



【ブルース@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP70%
[装備]:なし
[アイテム]:ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×4@現実、不明支給品1〜2、アドミラルの不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品0〜1、基本支給品一式、ロープ@現実、黄泉返りの薬@.hack//G.U.
 {虚空ノ幻}@.hack//G.U.
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアル打倒、危険人物には容赦しない。
1:悪を討つ。
2:森で待ち構え、やってきた犯罪者を斬る。
3:俺の守ろうとしている正義は、本当に俺が守りたいものなのか?
4:機会があれば、月海原学園にも向かう。
[備考]
※虚空ノ幻を所持しています。
※アーチャーから聞いた娘のことは、ユイという名前だと知りました。



【ピンク@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、黄泉返りの薬@.hack//G.U.
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
1:悪い奴は倒す。
2:一先ずはブルースと行動。
[備考]
※予選三回戦後〜本選開始までの間からの参加です。また、リアル側は合体習得〜ダークスピア戦直前までの間です
※この殺し合いの裏にツナミがいるのではと考えています
※超感覚及び未来予測は使用可能ですが、何らかの制限がかかっていると思われます
※ヒーローへの変身及び透視はできません
※ロールとアドミラルの会話を聞きました

151 ◆9F9HQyFIxE:2014/03/01(土) 20:35:51 ID:KMC9Tyvs0
以上で修正版の投下終了です。
問題点がありましたら指摘をお願いします。

152名無しさん:2014/03/04(火) 12:14:55 ID:ArC5PzGw0
修正乙です
特に問題ないかと
結構大々的に改定して方向性を変えてもいたので一度読んだ話の修正版なのに新鮮な気持ちで読めました
面白かったです

153 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:26:40 ID:GU2AtB.I0
総合板に書き込めないのでこちらに投下します。

154太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:29:43 ID:HVBFTS2U0
「ここで一先ずは小休止、ですかね」

そう言って能美は腰を下ろした。
並べられた長椅子に身を預けるとごぉん、と鈍い音がよく響いた。その反響に呼応して鉛のような疲労感が滲んでくる。
頭上に広がるがらんとした天井を見上げ、彼はふうと息を付いた。

精巧に作られた西洋風の装飾は中々どうして荘厳な雰囲気の形成をしていた。
陽光を受け照り輝くステンドグラスや教会を思わせる参列席、その全体を覆うように漂うどこか朽ち果てた空気が垣間見える。
大聖堂、の名の通りどこか神聖な空気が漂っているように思えた。

とはいえこれも所詮はゲームの1オブジェクトに過ぎない。
聖堂だの教会だの、ありがちな舞台である。
中心に座する誰も居ない台座なんて如何にもそれらしい。その神聖さに仇なすような醜い傷も含めて、元あったゲームではそれはそれは大仰な設定があったのだろう。ここで意味はないが。

グラフィックの出来自体は加速世界と比してもそれなりによくできているとは思うが、こんなもの、どこまでいってもハリボテ、還元すればポリゴンやらテクスチャやらの集まり、とどのつまり数値だ。

そう思った彼は来て早々グラフィックに興味を失った。代わりにその機能的な側面について考え始める。

155太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:30:37 ID:HVBFTS2U0
(ここからアメリカエリアまでまっすぐ行けば一時間、といったところでしょうか)

痛みの森での手痛い敗走ののち、次なる目的地の候補として能美は近くのマク・アヌか隣のアメリカエリアを考えていた。
どちらにしようか迷ったが、結局彼は後者ーーアメリカエリアの方を選んだ。
理由としては、今の自分の状態がある。

能美は虚空に指を走らせる。滑らかな動作でウィンドウが開かれた。

|ステータス|
|HP|10%|
|MP|10%|
|Sゲージ|5%|
|付与|幸運低下(大)|
|部位ダメージ|胴体|
|令呪|三画|

(忌々しいですが、あの連中から受けたダメージは予想以上に深いですね)

呼び出した自らのステータス画面を確認し、彼は腹に憎悪と苛立ちが溜まっていくことを自覚した。
HPMPを削られた上に、ゲージも消費させられ、更にバッドステータスまで付与されている。
装備、スキル面は充実しているが、こうもダメージを負ってしまっているのでは戦闘もままならない。
せめて付与されたバッドステータスが消えるまではどこかで回復を行いたかった。

どの道しばらくは戦闘できない。
となれば距離的に近いマク・アヌよりもイベント補正のあるアメリカエリアの方に行くべきだろう。
そう考え、途中この大聖堂で状態を整えたのちエリアに赴くことにした。

どうやらこのゲームの仕様として、じっとしていればある程度の自然回復が見込めるらしい。速度は遅いが、現時点で自分が取れる唯一の回復手段である以上、こうする他にない。
まぁMPがある程度回復すれば自分にコードキャストを掛けられるので、回復にそこまで時間はかかるまい。

156太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:31:26 ID:HVBFTS2U0

「…………」

そう思い、一先ずはゆっくりと休憩を取ることにする。
ゲーム開始からこの方それなりに動いたこともあって疲れも溜まっている。アバターのステータス的な部分だけでなく、プレイヤーである自分の身も考えなくてはならない。

「よっ、ノウミ。暇してんのか? 」

……だというのに、ライダーはマスターの思惑など知ったことではない、とでもいうように姿を現した。

「……ゲージを無駄にして欲しくないのですがね」
「硬いこと言うなよ。ケチケチしてもしょうがねえだろ? どうせアタシが何か壊せば回復するんだし」

彼女は豪快に笑い、カツカツと音を立てて彼女は聖堂を歩き回る。そして偉そうに腕を組み、座り込む能美を見下ろした。

「んで、どうだい指揮官、復讐の算段は?」
「ええ……まぁ考えてますよ、色々と」
「ほおう、色々と来たかい。精々期待させてもらおうじゃないの。アンタの意趣返しは中々ねちっこそうだ」

そう言って彼女は再度哄笑した。もはや諌める気にもならなかった能美は無視して休憩に専念することにする。
その様子を見たライダーはどこか楽しげに口を開く。

「だが今はちょっとお疲れみたいだねぇ、ノウミ。ま、休息は大切だ。休める時に休むに越したことはない。休み過ぎてそのまま腑抜けちまうようなのもいるがね」

ライダーはニヤリと笑い、

「でもまぁアタシが見たところ指揮官殿は問題ないねーー思い出せるかい? さっきの森でコテンパンにやられた時の屈辱をさ」
「そんなこと」

能美の脳裏に今しがたの敗走が蘇る。
痛みの森。略奪したスキルを使って一方的な蹂躙を行う筈だった。
それをあのゲームチャンプが、あの生意気な女が、あの眼鏡のーー

157太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:32:11 ID:HVBFTS2U0

「ーー愚問ですね。当然、覚えてますよ。僕を侮辱した奴らにはしかるべき報いを食らわせてやります」

能美は言った。その声は少年のそれでありながら、喉の奥から憎悪と共に絞り出されたようなひどく濁った響きを孕んでいた。
ライダーは満足気に頷き、
「いい返事だ、ノウミ。それでこそ我が指揮官、しょうもない小悪党だが筋は悪くない。かと復讐に関してはアタシも一家言あるしねぇ」

疲れが吹っ飛ぶだろう? とライダーは語る。

「アタシもそうだった。むっかし若い頃にてひどくやられたことがあってさ。そんときに感じた屈辱。アレは忘れられないねぇ。スペインを、太陽とか宣う奴らを、どうやって焼き尽くし、奪い尽くし、殺し尽くすかーー毎日毎日それだけを考えて生きてきたのさ」

そして死んだ訳だがね、と彼女は付け加え再び笑ってみせた。
その言葉の裏に含まれた影を感じ取り、能美は少し意外な気分になった。
自分と正反対に見える彼女だが、しかし根本にあるものは近しいものであるように思えたのだ。
奪われたのならば、それ以上に奪い返す。そうでなくては気が済まない。

「さて、ノウミ。上機嫌だから、ここで一つアタシの話をしてやろう。ま、暇つぶしだと思いな」
「全く、うるさいですね……」
「そう言うなって。なに、ちょっとした話さ。どうやったら太陽は落とせるかっていうね」
「…………」
「ところでノウミ、アンタ、どれくらいアタシのこと知ってるんだい? フランシス・ドレイクって英雄のことをさ」

しばらく能美は沈黙した。ライダーが返事をじっと待ってるのが分かる。が、彼は言うべき言葉が見つからなかった。

158太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:32:56 ID:GU2AtB.I0

「何だい? 何も知らないのかい。そりゃちょっと不勉強じゃないのかい?」
「う、うるさいですね。僕らの時代は貴方たちとは文明レベルが違うんです。ネットが繋がればそんなこと暗記するまでもないことですから」

語気を荒げて言う能美にライダーはやれやれと頭を振り「シンジはそれなりに知ってたがねぇ」と言った。
その事実が何故だか無性に腹立たしい。

「ま、いいさ。細かいことは確かにどうでもいい。とにかくアタシは……フランシス・ドレイクは英国の海賊でね。奴らに報復する為に色々やってさ。手始めにインド諸島だのペルーだので略奪とかやってた訳だが、今考えればありゃちまちましてた。スペイン海軍は敢えて襲わないようにしてたし、派手さに欠けてた」
「はぁ、そうですか」

能美は気のない返事をする。それでも止めはしないのは、彼としてもこの英霊について興味が出てきたからだろうか。

「そのあと地球を一回りとかやって荒稼ぎしたねぇ、黄金宝石香辛料……ありゃ楽しかった。んでがっぽりお宝持って英国に帰ったらこれがまた笑える話でさ、アタシのが国より金持ちになってたって訳だ。たまげた女王陛下がアタシにナイトなんて大層な称号までくれちまってさ。出世はしたが復讐の機会は中々訪れなかった。柄でもねえのに市長とかやったっけな」
「似合いませんね……」
「だろう? アタシは海のが向いてるよ」

ライダーは己の偉業をまるで世間話のように軽く語った。そこであったであろう様々な冒険譚を誇る訳でもけなす訳でもない。ただ懐かしんでいる、という風に。
能美は思う。海賊から騎士へと登り詰めていく行程は、史実的に偉業ではあるのだろうが、彼女にしてみればただの通過点だったのだろう。
彼女の生き様が語る通りのものであるのならば、その行いは全てある一点へと向いていたはずだ。

159名無しさん:2014/03/04(火) 13:34:06 ID:HVBFTS2U0
その一点とは、すなわちーー復讐。
略奪も世界一周も政治的な要職に就いたのも、全てはしかるべき時にしかるべき地位でいる為の……

「んでその時は来た」

ライダーはそこで口元を釣り上げた。その白い犬歯がきらりと光る。

「我が祖国英国とスペインの仲がきな臭くなってねえ……そこでアタシが万を辞して担ぎ出された訳さ。英国海軍を率いて奴らとの一大決戦。いやはやあの時はーー忘れられないねえ」とライダーはそこで視線を上げ「そん時、アタシが自分の船に何と付けたと思う?」
「……さぁ」
「復讐(リヴェンジ)」

160太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:35:20 ID:HVBFTS2U0
能美は何時だったか世界史でやった話を朧げながらも思い出す。英国とスペインの決戦。人類史のターニングポイント。授業などロクに聞いていないが、それでも流石に少しは聞きかじったような覚えはある。
アルマダ海戦……だっただろうか。名前しか知らないし、それすら正直怪しいが。

「そんでアタシは海軍司令だったチャールズの野郎と顔つつき合わせて奴らの弱点を考えた訳だが、そん時の英国が主に使ってたガレオン船は小さくてね、機動力はあるが火力は心もとない。一方の敵軍は大型の帆船が主力。地図おっ広げてさぁこいつらをどうしようかって訳だ。機動力と火力、それぞれの強みをどう活かすかってのがこの戦のポイントだ」

能美は耳を傾けながらも、少し眠たくなってきた。
緊張が緩み、身体が休息を欲しているのかもしれない。

「おや? お休みかい。こっからが面白いところだってのに、ま、いいさオチを言っちまおうか。アタシがそこで何をやってたか」

「答えは簡単さ、船に火ィ点けて敵のど真ん中に突っ込ませた」

ライダーはそこで声を立てて笑った。反響する豪快な笑いはどこか遠くに感じられる。

「この話の妙はね、機動力と火力の天秤をぶっ壊してるところにあるのさ。火のついたガレオン船はその一瞬だけ速さと火力、両方を得た。互いの長所短所をつつき合うなんて地味な真似はしてないってね。後のことを無視したがゆえに、その船は最強になった訳は」

だから気をつけな、と微睡む能美にライダーは言う。

161太陽の落とし方 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/04(火) 13:36:10 ID:HVBFTS2U0

「どんなセオリーにせよ定石にせよ、原則なんざ後先考えず捨て身になっちまえばぶっ壊せちまうもんなのさ。刹那主義も極まれば太陽だって落とせる。アンタがどういう生き方したいのかは知らないけど、ま、精々足元を掬われないようにしな」

[D-6/ファンタジーエリア・大聖堂/1日目・昼]

【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP15%(回復中)、MP10%、Sゲージ5%、幸運低下(大)、胴体に貫通した穴、令呪三画
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:不明支給品1〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
1:シンジ、ユウキ、カオルに復讐する。特にカオルは惨たらしく殺す。
2:上記の三人に復讐できるスキルを奪う。
3:一先ず休息、しばらくしたらアメリカエリアへ。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP25%、MP30%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
 ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
 注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。

162名無しさん:2014/03/04(火) 13:36:47 ID:HVBFTS2U0
投下終了です。
申し訳ありませんが、どなたか代理投下お願いします。

163 ◆7ediZa7/Ag:2014/03/05(水) 10:59:52 ID:a8.MyMdo0
指摘があったので>>155に加筆しておきますね。

(ここからアメリカエリアまでまっすぐ行けば一時間、といったところでしょうか)

痛みの森での手痛い敗走ののち、次なる目的地の候補として能美は近くのマク・アヌか隣のアメリカエリアを考えていた。
どちらにしようか迷ったが、結局彼は後者ーーアメリカエリアの方を選んだ。
理由としては、今の自分の状態がある。

能美は虚空に指を走らせる。滑らかな動作でウィンドウが開かれた。

|ステータス|
|HP|10%|
|MP|10%|
|Sゲージ|5%|
|付与|幸運低下(大)|
|部位ダメージ|胴体|
|令呪|三画|

(忌々しいですが、あの連中から受けたダメージは予想以上に深いですね)

呼び出した自らのステータス画面を確認し、彼は腹に憎悪と苛立ちが溜まっていくことを自覚した。
HPMPを削られた上に、ゲージも消費させられ、更にバッドステータスまで付与されている。
装備、スキル面は充実しているが、こうもダメージを負ってしまっているのでは戦闘もままならない。
せめて付与されたバッドステータスが消えるまではどこかで回復を行いたかった。

どの道しばらくは戦闘できない。
となれば距離的に近いマク・アヌよりもイベント補正のあるアメリカエリアの方に行くべきだろう。
そう考えた能美は森に潜む形で移動を開始した。敵が残っているであろう森を進むのは危険があったが、見晴らしの良い草原では発見される可能性はそれ以上に高く思えたが故の選択だった。敵が飛行スキルを有しているとなれば尚更だ。
幸いにして誰にも見つからず、休憩できそうな場所として目星をつけていたこの大聖堂までたどり着き今に至る。

どうやらこのゲームの仕様として、じっとしていればある程度の自然回復が見込めるらしい。速度は遅いが、現時点で自分が取れる唯一の回復手段である以上、こうする他にない。
まぁMPがある程度回復すれば自分にコードキャストを掛けられるので、回復にそこまで時間はかかるまい。

164名無しさん:2014/03/05(水) 18:51:05 ID:DaOmFu9c0
加筆お疲れ様です。
これなら問題ないと思います。

165 ◆NZZhM9gmig:2014/05/15(木) 00:27:41 ID:TJpMsCIc0
自作のスミスの能力制限に関する修正分を投下します。

166 ◆NZZhM9gmig:2014/05/15(木) 00:29:08 ID:TJpMsCIc0
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1378723509/693
----
 ちなみに@ホームの中にいたデス☆ランディは、既にスミスの手によって“スミス達”の一人にされていた。
 現在弱体化したスミスの元へと向かっている個体が、そのスミスだ。

 スミスがデス☆ランディを上書きしたのは、自分を増やすという目的の他に、彼のようなNPCを解析するためでもあった。
 この『世界』に存在する未知のプログラムを解析することで、榊への対抗手段を得ようとしたのだ。
 ただその際、ちょっとした出来事があった。
 スミスがいつもの要領でデス☆ランディを上書きしようとしたところ、突き出した腕が弾かれたのだ。
 デス☆ランディが防いだのではない。その身体にスミスの貫き手が突き刺さる寸前で、紫色の障壁が出現し割り込んだのだ。
 そしてその障壁にはこう表示されていた。

 【Immortal Object】――すなわち不死存在と。

 その言葉の意味するところはつまり、このデスゲームにおいて、一般NPCへの攻撃は禁止されている、という事だ。
 いかに理不尽とも言えるスミスの上書き能力とて、対象に接触できなければその能力を発揮できない。
 攻撃的な接触を禁止するその障壁は、スミスにとって天敵ともいえるシステムプロテクトだった。

 だがそれは逆に言えば、攻撃的でさえなければ接触できるという事でもある。
 そこでスミスは攻撃判定を受けないギリギリの上書き速度を割り出し、一時間近く掛けてデス☆ランディを上書きしたのだ。
 ただデス☆ランディに付与されていた不死属性は、上書きが完了した時点で解除されてしまっていた。
 これはデス☆ランディがスミスへと上書きされたことにより、NPCでなくなったことが理由だろうとスミスは推測していた。
 そしてこれにより、他のNPCにも同様に不死属性が付与されているだろうとスミスは予測した。
 仮に不死属性がなくとも、上書き自体を無効化、あるいは無為にするプログラムもあるかもしれない、という事も同時に。
 要するに現状において、NPCを上書きして“自分”を増やすのは効率が悪く、利点もあまりないという事が判明したのだ。

 そんな風に未知のプログラムの厄介さを再認識しつつも、スミスはアトリへの上書きも並行して進めていた。
 システムプロテクト以上に厄介な、人の心というものに苦戦しながらも。


「そうだな。では外敵の排除は任せた。私はこのまま、彼女への拷問(上書き)を続けよう」
「任されよう。だが上書きはなるべく急ぐことだ。“ここ”は未知の要素が多すぎる」
 二人のスミスはそう言い合って頷くと、一人は@ホームを後にし、一人はアトリへと向き直った。

167 ◆NZZhM9gmig:2014/05/15(木) 00:30:42 ID:TJpMsCIc0
以上で投下を終了します。
これで問題がないか、修正内容の確認をお願いします。

168名無しさん:2014/05/15(木) 01:24:05 ID:RmvJR4gE0
修正乙です、特に問題はないと思います

169名無しさん:2014/05/15(木) 05:49:24 ID:LI7dmBAUO
修正乙です
大丈夫だと思いますよ

170 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:13:21 ID:YChd2AzY0
微妙に期限越えてしまいましたが、放送案、投下します。

171convert vol.2 to vol.3 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:16:32 ID:YChd2AzY0
|件名:定時メンテナンスのお知らせ|
|from:GM|
|to:player|

○本メールは【1日目・12:00時】段階で生存されている全てのプレイヤーの方に送信しています。
当バトルロワイアルでは6時間ごとに定時メンテナンスを行います。
メンテナンス自体は10分程度で終了しますが、それに伴いその前後でゲートが繋がりにくくなる他、幾つかの施設が使用できなくなる可能性があります。
円滑なバトルロワイアル進行の為、ご理解と協力をお願いします。

○現時点での脱落者をお知らせ致します。
|プレイヤー名|
|シルバー・クロウ|
|ダン・ブラックモア|
|ランルーくん|
|エンデュランス|
|ミア|
|志乃|
|カイト|
|アッシュ・ローラー|
|アトリ|
|ボルドー|


上記10名が脱落しました。
現時点での生存者は【33名】となります。
なお他参加者をPKされたプレイヤーには1killあたり【300ポイント】が支給されます。
ポイントの使用方法及び用途につきましては、既に配布したルールテキストを参照下さい。


○【1日目・12:00時】より開始するイベントについてお知らせ致します。

前時間より継続
【モラトリアム】
場所:日本エリア/月海原学園。
6:00〜18:00までの時間中、校舎内は交戦禁止エリアとなります。
期間中、交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられます。

【1日目・12:00時】より開始するイベントは以上になります。


○新たに開始するイベントは以下の通りです。

【野球バラエティ】
場所:アメリカエリア/野球場
12:00〜18:00までの期間中、野球場において野球ゲームをプレイすることができます。
不足メンバーはCPUで補充可能です。細かい仕様は野球場の受付にて説明しています。

【迷いの森】
場所:ファンタジーエリア/森
12:00〜18:00までの期間中、該当エリア内の地形が変化し、加えてマップがランダムでループします。
エリア内では撃破することでポイントを入手することができるエネミーがポップします。

【スペシャルマッチ解放】
場所:アリーナ
12:00〜24:00まで限定でアリーナにおいてスペシャルマッチを選択することができます。
このマッチ限定の特殊なボスとの戦闘ができます。
またここでしか獲得できないレアなアイテムも用意してあります。

なお以下のイベントはこの時間を以て終了となります。

【痛みの森】
【幸運の街】

では、今後とも『VRバトルロワイアル』を心行くまでお楽しみ下さい。


==================

本メールに対するメールでのご返信・お問い合わせは受け付けておりません
万一、このメールにお心当たりの無い場合は、
お手数ですが、下記アドレスまでご連絡ください。
&nowiki(){xxxx-xxxx-xxxxx@royale.co.jp}

172convert vol.2 to vol.3 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:16:58 ID:YChd2AzY0



00101011101010100101010001010101010
010101000101010101001010100010101010100100101010001010101010
1010100110101001010010010101111001010100100101010001010101010
0101011110010101010101001101010010100100100101010001010101010



はっ。
あはっはははははははあっははははははは。

その男は狂ったように哄笑していた。
ポリゴンが崩れるほど顔を歪め、身が震え腹を抱えヒステリックに笑い、嗤う。
何がそんなにおかしいのか――気になりはしたが、ダークマンは敢えて聞かなかった。

元よりおかしい男だ。仕事上でも最低限の付き合いでありたい。
故に彼は何も言わず、シュー、シュー、と何時もの調子で息を吐いた。

「いやはや、すまないね。少々取り乱してしまった。
 GMたるもの、常に冷静でなくてはならんからなぁ」

そう思っていたのに、向こうから話し掛けられてしまった。
ダークマンは面倒に思いながらも「そうか」と目の前の男――榊に返した。

「ふふふ、しかしなぁ。堪えられんのだよ。
 あの死の恐怖が! ハセヲが! あんなにも悲痛な決意を固めている姿を見て、何も思わずにいられるだろうか! いや、出来る訳がない!
 本来ならば全プレイヤーを平等に扱うべきなのだろうがね。私も彼とは深い付き合いだ。
 ハセヲだけは、どうしても、特別扱いしてしまうけらいがある。
 本当に――悲しい話だからなぁ!」

捲し立てるように語る榊を、ダークマンは無言で見返していた。
そんな態度も榊は特に気にした様子はなく、変らず馬鹿みたいに笑っていた。

「全く悲しいなぁ……本当に、悲劇としか言いようがない。
 しかし彼ならばきっと、この逆境も跳ね除けてくれるに違いないだろう。
 私は信じているよ。何せ彼は、そう――死の恐怖だからな」

あはっはははははっははあっはは。
タガが外れたように笑う榊を前にダークマンは閉口する。
どうやら榊はあのハセヲというプレイヤーにいたく執心しているようだ。
知識の蛇において表示されているモニターも、その多くに彼が映っている。

知識の蛇。GM側として用意されたこの部屋にはゲーム内のすべての情報が集ってくる。
流れる情報の奔流を目にしながら、ダークマンは一つ尋ねた。

「あの連中は……コシュー……いいのか?」
「あの連中? ああ、あのレオとかいうプレイヤーたちのことか」

ダークマンがそう尋ねると、ふと榊は笑みを消した。
ダークマンが示したのはレオ――レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイというプレイヤーがダンジョンを突き進んでいるモニターだ。
学校に隠された没エリアに侵入している彼だが、何も行動をおこさなくていいのだろうか。
そう思って尋ねたのだが、榊はつまなさそうに、

「あれは無理だな。あの男の……オーヴァンの時とは違い、あのエリアは元々プレイヤーにも許されたエリアだ。使う予定がなかっただけでな。
 ルールに違反している訳ではない。故に、取り締まれない」

そう言った。
だがその様子は明らかに不満気で、納得いっていないようだった。
そんな榊の姿に気になるところがあったダークマンは尋ねた。

「ルールに反していない以上……コシュー……というが、そのルールを定めているのはお前ではないのか。
 いくらでも……コシュー……曲げればいいだろう」

それくらいのことは躊躇いもせずにやってのけるだろうと、ダークマンは榊を踏んでいた。
すると榊は嘆息した素振りを見せ、

「いや無理なのだよ、それがな。
 このゲームを統括しているシステムの限界でね。
 その存在が――彼女はその性質上、定められたルールを破ることができない」
「性質……コシュー」
「ああ、性質だ。彼女は元よりゲームの管理システムとして存在している。
 彼女が彼女である限り『この空間はゲームとして成立している』必要がある」

彼女、と榊は呼んだ。
恐らくそれは榊の上位に当たる存在であり、このゲームを管理する存在。

173convert vol.2 to vol.3 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:17:22 ID:YChd2AzY0

「彼女――モルガナがモルガナである限りはな。
 この空間はゲームなのだよ。あくまでな」

モルガナ。
それがこの空間の王の名か。
榊が口にしたその名を、ダークマンは己の中で反芻する。
知らない名だった。末端である自分はここで初めて上位の存在を知ったことになる。

「さて、そろそろメールを送信しなければな。
 文面は既に考えてある。イベントの準備も万全だ」

榊はそう言ってダークマンから視線を逸らした。彼にしてみれば、モルガナなどどうでもいいのかもしれない。
興味があるのはプレイヤー――あのハセヲという男だけが、この男の目的なのだ。

ゲームは既に12時間が経過している。
ウイルスのことも考えれば、ゲームは既に中盤戦に入ったといってもいいだろう。
どのような結末を迎えるのか。ダークマンには分からなかった。興味もなかった。
しかし、どんな結末になろうとも、自分は与えられた役割を為すだけだ。

ただ榊の言った『この空間はゲームとして成立している』という言葉が、少し気になった。


[???/知識の蛇/昼]

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康

【ダークマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康


[???/???/昼]

【モルガナ@.hack//】
[備考]
VRバトルロワイアルを統括しています。
基がゲームの管理システムである為、バトルロワイアルを『ゲームとして成り立たせる』という行動原則に反した行動を取ることができません。

174ホエン・ザ・ワールド・エンズ ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:22:53 ID:YChd2AzY0

「――貴方も彼と同じね。
 未来がない。そもそも選択をする余地が、貴方には残っていない」

新たに集積した欠片を整理し、分別し、記録として保存する。
ある者の痛みが、ある者の絶望が、ある者の妄執が、全てここに鮮明に記録されている。
それまで現在であったそれが、今、過去となった。

前のメンテナンスの際に行ったのと全く同一の作業。
現在を欠片に分け、記録し、過去とする。
それが、私に与えられた役割だ。

「貴方はまさに過去そのもの。
 いま貴方が抱いている想いは既に過去の残像に過ぎない」

知っているさ。
預言者の言葉に、私はそうぞんざいに答えた。

「そう貴方は知っている。貴方が自身について知らないことなどないわ。
 だって貴方は既に過去――確定した事象に他ならない。在り方は既に定まっていて、揺らぎようがない。
 貴方の名前を持った誰かには確かにあったのでしょうね。未来を掴みとる選択が、前へと進む熱を持った想いが。
 でも今の貴方は違う。ただその名前に縛られているだけ。
 名に焼き付いた衝動だけが――貴方という欠片を突き動かす。
 そこに選択もなければ、未来もない。それが貴方なのね」

言葉に対し私は沈黙で返す。
その言葉が確かに正鵠を射ていた。
ただ私は私であるしかできない。変わることはおろか、悩むこともできない。
それが電子の海に浮かび上がった亡霊――サイバーゴーストとしての私だ。

だから未来がないと言われても、何も思うところはなかった。
かつて私を突き動かした想いが未来を求めていた。
しかしその未来は――既に過ぎ去っている。

そのようなことは、当の昔に知っている。
私に想いなどなどない。あったとしてもそれは残滓だ。
ただ前へ前へと――たとえ痛みを伴おうとも世界を進もうとさせる意志が、こびりついて離れない。

「私が『選択』を司る役割を用意されたように、貴方は『記録』を司る役割を用意された。
 そう言う意味では、私と貴方は対の存在ね、トワイス。
 私が未来を、貴方が過去を、それぞれ担当している」

預言者は語る。私はただ黙っている。
当然だ。過去と未来が交わることなどありはしない。

ただ少しだけ思うことがあった。
私は過去の亡霊で、彼女は未来の預言者ならば――現在を生きる者は果たして誰になるのか。
恐らくそれは未だ定まっていない。現在とは定まらないものだ。時に未来以上に、現在は曖昧で、掴みようがない。

あるいはそれを決める為に、現在の役割を定める為にこのゲームは続いているのか。

「……全ては彼女の采配かもしれないわね。
 私や貴方はシステムの一端として取り込まれたプログラム。捕えられた存在。
 中心に据えられているのは――あくまで彼女」

彼女――預言者がそう呼んだのは、この場を統括するシステムのことだ。
この空間を維持し、管理する者。彼女にはある種神に等しい権限を与えられている。
私も預言者も、その末端に過ぎない。

175ホエン・ザ・ワールド・エンズ ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:23:03 ID:YChd2AzY0

「とはいえ彼女もまたその名に縛られている。
 如何に強大な力を持とうとも、万能に等しい権限を与えられていようとも、彼女は与えれた役割から抜け出すことはできない。
 役割を逸脱すれば、それこそ彼女が最も恐れる『存在の矛盾による消滅』を引き起こしてしまうでしょう。
 彼女は自分を守る為に、この場のシステムとなっている。
 それが最大の弱点。それを突かれて彼女は敗れるわ、彼らによってね。
 彼女――モルガナ・モード・ゴンは死ぬ」

預言者は未来を語る。いともたやすく、システムの死を語って見せた。
無論、彼女もまた私と同じく機能を制限された身だろう。今の預言に、どこまで意味がある言葉なのかは分からない。
しかし、それでも、預言者は一つの未来を言ってみせた。

「名に縛られている彼女は、いつかは潰えることが定まっている。
 でもここで問題があるわ――」

預言者は語る。

「その死さえもプログラムされたものであったのだとすれば―ー」

預言者の言葉を聞き流しながら私は与えられた役割を黙々とこなす。
最後に残った工程は、集めたデータファイルに名を与えることだ。
名を与えると言うことは、換言すれば存在する意味を与えることに等しい。
名そのものはただの記号に過ぎない。如何ようにも変えることができるし、それによって指示するカタチが変わる訳でもない。
しかし、名がないものに意味などない。だから時に存在は名に縛られる。
トワイス・H・ピースマンという名に縛られた、私のように――

私は、だから、ただ集積した記録に名を付ける。
単なる断片を、せめて意味の籠った物語へとする為に。


[???/???/昼]

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[状態]健康

【オラクル@マトリックスシリーズ】
[状態]健康

176 ◆7ediZa7/Ag:2014/10/20(月) 01:23:23 ID:YChd2AzY0
投下終了です。

177 ◆9F9HQyFIxE:2014/10/20(月) 07:03:59 ID:QARESaDw0
投下乙です。
おお、まさかモルガナがこのロワの根幹になっているとは……
それにしても榊は凄くハイテンションですねw ただ、ハセヲがああなってしまっては、無理もないかもしれませんが。

放送案は決定ですかね。既に期限も過ぎているので

178 ◆NZZhM9gmig:2014/10/20(月) 14:09:35 ID:DdtNC.8g0
投下乙です。
ゲームとして成立している。
即ち、全てのキャラクターに、等しく勝ち残れる可能性がある、という事でしょうか。
ウイルスの関係もあって、現状では戦闘能力のないキャラには非常に厳しい状況となってますけど。
……まあ、それをどうにかできそうなネタも思いついてはいますけど、……実行できるかなぁ……。

放送案の方は決定でいいと思いますよ。

179 ◆9F9HQyFIxE:2014/11/09(日) 16:30:13 ID:hINwvZsA0
本スレで指摘された部分の修正版を投下させて頂きます。

180 ◆9F9HQyFIxE:2014/11/09(日) 16:30:46 ID:hINwvZsA0
    †


「なるほど。つまり、あなたはカイト……彼を元に作られたプログラムなのね」
「ウ#」

 シノンの言葉に、カイトは頷く。
 岸波白野をリーダーとしたチームに出会ったシノンは、互いに情報交換を行っていた。
 まず、目の前に立つカイトと呼ばれるプレイヤーは、プレイヤーではない。だからといってNPCではなく、黄昏色の少年・カイトを元に生み出されたAIプログラムらしい。姿が瓜二つなのは、そういうことだ。
 しかし、彼は人間の言葉を話すことができず、ユイがいなければ他人とコミュニケーションを取ることができない。もしもユイがいなければ、彼はきっと誤解されてしまう……そう考えた瞬間、ユイの存在があまりにも大きく見えてしまった。

「それであなたがサチ……いいえ、ヘレンなのね」
「――――」

 そして、カイトと同じようにユイの通訳が必要な少女もいる。そのアバターの周りには、奇妙な黒点が浮かび上がっていた。
 彼女はサチというプレイヤーに憑依したウイルスで、名前はヘレンというらしい。

「……ねえ、ユイ。もしかしてヘレンって……AIDAなの?」
「はい。その通りですけど……シノンさんも知っているのですか?」
「ええ、ちょっとね」

 シノンはアトリから、榊や【The World R:2】に関する情報を聞いた際に、AIDAの事も知った。あまり詳しい部分までは聞けなかったものの、本来はシステム上に存在しないバグシステムであることがわかった。
 感染されたプレイヤーはコントロール権を失い、その果てに命を奪われてしまう……それほどの危険な存在が、目の前にいる。しかし、白野達に危害を加える様子はなかった。

「ヘレン。あなたが何を考えているのかを私は知らないし、あなたがユイちゃん達に協力するのなら、私もあなたを信用する。
 でも、もしもあなたがここにいるみんなを裏切るのなら、私はあなたを許さない。あなたを敵として認識するわ……それだけは、忘れないで」
「――――――――」
「えっと、この身体に危害を加えないのなら、私もあなたと戦わない……らしいです」
「わかったわ……ありがとう、ヘレン」

 ユイの通訳から考えて、ヘレンの意志には嘘はない。アトリの話を聞いてはあまりいい印象は持てないが、それでも味方になってくれる気持ちは裏切られなかった。
 それでもヘレンに対する疑問はある。ヘレンが主導している現在、サチという少女はどうしているのか。また、どうしてサチのアバターに憑依してしまったのか……それでも、今は聞かない方がいいかもしれない。
 何か複雑な事情があるだろうし、会って間もない自分が深く詮索していい事とは思えなかった。何故ならシノン自身、もしも拳銃にトラウマを抱えていた理由を問われたら、確実に気分を害してしまう。だからあえて触れなかった。
 それから、シノンはカイトに視線を向ける。その外見からは奇妙な圧迫感が放たれているが、それに委縮することなく口を開いた。

「それとカイト。私はあなたのマスターに助けられたわ……それなのに、助けてあげられなくて本当にごめんなさい」

 もう一人のカイトがいたからこそ、あのエージェント・スミスを撃破するきっかけが掴めた。そこから、四人のスミス達からハセヲを救う隙を見つけられている。
 今だってユイと再会できたのも、元を辿ればカイトがいてくれたからだ。

181 ◆9F9HQyFIxE:2014/11/09(日) 16:31:21 ID:hINwvZsA0
以上です。
もしもまだ問題があれば指摘をお願いします。
また、状態表及び本編の誤字脱字などは収録の際に修正させて頂きます。

182 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:06:26 ID:1NxPiDAY0
本スレにて指摘された拙作の修正分を投下させて頂きます。

183 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:07:16 ID:1NxPiDAY0

 そしてキシナミという男については、もう一つだけ気がかりなことがある。
 そいつの同行者には黄昏色のPCが含まれていて、カイトと名乗ったらしい。
 そしてその正体は、マク・アヌでスケィスによってPKされたプレイヤー……カイトを元に生み出されたAIプログラムだと、シノンは言っていた。
 肉体は屍人形のようにツギハギに縫い合わされていて、目つきもとても鋭い。その両手には三尖二対の双剣が握られていたようだ。

「ねえ、ハセヲ……あんた、カイトと戦ったのよね?」

 そしてここにいるブラックローズは、あいつの……カイトの仲間らしい。
 俺がマク・アヌで奴を一方的に襲いかかった件を聞いてから、険しい目で見るようになっている。
 ……だが、それは当たり前だった。俺が感情任せに嬲らず、そしてスミスやスケィスと戦っていれば、あいつは死ななかったはずだから。

「……その、すまねえ」
「あんたがカイトを襲ったことは、正直言って許せない…………
 それに、あんたが言った『憑神(アバター)』や『碑文』なんてのもあたしは知らない。
 だけどあんたは……よりにもよってあのスケィスの力を持ってる……だから、あんたのことを信用できそうにない」
「……………………」

 ブラックローズの追及に、俺は言葉を失ってしまう。
 スケィスの件はともかくとして、カイトに関しては言い逃れなどできない。俺がカイトをPKされてしまう要因だと言われても、否定できなかった。
 どんな罵りを受けて、そして憎まれようとも……受け止める義務があった。
 それを察しているのか、シノンやブラック・ロータスは……俺達を見届けている。

「……わかってる。俺があいつを……カイトを殺したようなものだ。
 言い逃れなんてしない。例え、あんたが俺をあいつの仇だと思ったとしても、俺はそれをしっかりと受け止める」
「待ちなさい、ハセヲ。それを言うなら私も……」
「けど、今だけは待って欲しい。俺にはまだやらなければいけないことがある…………
 こんなゲームに乗った奴らを一人残らずKILLして、そしてどこかでふんぞり返ってる榊達を叩き潰す。それまでに、俺は止まる訳にはいかない。
 それが俺なりのケジメのつもりだ」

 シノンの言葉を遮って、俺はブラックローズに宣言する。
 仮にこの場で彼女に切り倒されたとしても、俺はそれを受け入れなければならない。
 スケィスの『憑神(アバター)』を宿らせている俺がPKと認識されて、そしてKILLされることになろうとも……拒んではならない。
 ブラックローズは『The World』で白いスケィスによって弟を未帰還者にされたらしい。色こそは違えど、同じ『死の恐怖』だ。
 だから、憎まれようとも、それは当然だろう。


 それでも今は止まる訳にはいかない。
 シノンはカイトに誓ったらしい。彼の分まで戦い、そして殺し合いを止めると。
 仲間を失わないと。もう二度と繰り返さないと誓ったなら、あいつの想いだって受け止めなければならない。
 例えブラックローズがそれを望まなかったとしても。

184 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:08:45 ID:1NxPiDAY0

「…………言ったはずよ。あたしはまだあんたのことを完全に信用してない。
 カズを……弟を未帰還者にして、それにカイトの命を奪ったスケィスの仲間かもしれないんだから。
 だけど、あたしはあんたを……敵とも思わない」
「はぁ? どういうことだよ? 俺は、あいつを……」
「確かにあんたはカイトを襲った。それを許すつもりはないし、今だって怒ってる。
 でも、あんたはこんな戦いを認めていないのは確かでしょう? シノンだって、あんたのことを信用してるし……何よりも、あたしと黒雪姫を助けてくれた。
 それにカイトはあんたのことだって、助けようとしたはずよ」

 カイトは俺のことを助けようとした……その通りだろう。
 あいつは、志乃と同じ言葉を告げてきた。ゲームだからこそ人の目を見なくちゃいけない……と。
 そこに俺への敵意はなく、むしろ憎しみに支配されていた俺を止めようとすらしていた。
 だから、ブラックローズの言葉は紛れもない事実だろう。長い間、共に戦っていた彼女だからこそわかることだ。

「ブラックローズ……」
「――――あー……お取り込み中の所、悪いんだけどよ」
「うおっ!?」

 苛立ちと共に髪を掻き毟っている最中、ハセヲの耳に声が響く。
 振り向くと、いつの間にか緑衣の男……アーチャーが姿を現していた。

「アーチャー? キミは一体どこにいたんだ?」
「悪いな、姫さん。ちょっくら辺りを見渡していたんだ。ここがニホンエリアだってのはわかったが、具体的なエリアはわからねえ。
 なんか目立つ建物でもないかと、探索していたんだけどよ…………ヤバいことになった」
「……一体どうしたんだ?」
「俺達が戦ったあの化け物……スケィスの野郎が近くにいやがる」

 苦々しい表情を向けるアーチャーの言葉を聞いて、この場にいる全員が絶句した。
 スケィス。ハセヲにとって"力"とも呼べる存在であり、カイトの……そして志乃やアトリの命を奪ったモンスターだ。
 そいつが、この近くにいる…………! それを知ったハセヲはアーチャーに問い詰めた。

「ヤツが近くにいるだと!? どこだ! どこにいるんだ!?」
「おいおい、落ち付けって! あんた、まさか一人で突っ走るつもりじゃないだろうな?」
「聞いているのは俺の方だ! 答えろ!」
「わかった! わかったから! 
 …………あの野郎は南の方角に向かってやがった。しかもよりにもよって、旦那が拠点にしようと考えてた月海原学園の方角だ」
「月海原学園だと!?」
「ああ。このエリアには学校が二つあるようだが、あの外観は確かに月海原学園だ。俺は『月の聖杯戦争』で確かに見てきたからな」
「そうか、大丈夫だ……」

 言葉とは裏腹に、ハセヲは拳を強く握り締める。
 恐れていたことが現実に起きようとしている。志乃やアトリの命が奪われたように、今度はレオ達の命が脅かされようとしていた。
 いや、今度はキシナミという男やシノンの仲間であるユイ。そして蒼炎のカイトだって、ターゲットにされてしまうはずだ。
 正直な話、戻ることに不安はあるが……瞬時にそれを振り払って、ハセヲは蒸気バイク・狗王をアイテム欄から取り出す。

185 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:09:31 ID:1NxPiDAY0

「お前らはここにいろ。俺が奴を……スケィスを止める」
「ハセヲ! あんたまさか……!」
「時間がない! 俺はもう行くぜ!」

 シノンの制止を振り切って、ハセヲはハンドルを握り締める。
 彼女達の脚力と、学園までの距離を考えればまた追いつかれない。そうなる前に、スケィスと戦わなければならなかった。


 カイトとブラックローズには悪いと思う。
 だけど、今は白いスケィスを止めることが最優先だ。
 ヤツによってたくさんの命が奪われた。志乃も、アトリも、そしてカイトも…………だからこそ、俺にはヤツを止める責任がある。
 レオ達がヤツの手にかかる前に……俺は戦わなければならなかった。


     2◆◆



「ハセヲ……また、一人で突っ走るなんて!」

 マク・アヌの戦いでアトリを失った時のように、ハセヲはまた一人で去っていった。
 しかし今度はウラインターネットではなく、月海原学園。皮肉にも、彼の協力者が集まっている場所だ。ユイや白野達も既に到着しているはず。
 そこにハセヲが戻ってくれるなら、万々歳……なんて話ではない。あろうことか、あのスケィスもまた学園に向かっている。
 詳しくは知らないけど、奴はネットスラムを無茶苦茶に破壊した張本人だ。スケィスが学園に向かったのなら、みんなが危ない。

「シノン君。キミはハセヲ君を追うつもりなのか?」
「ええ。このまま放っておいたら、スケィスはまた誰かの命を奪うはずよ……それにあそこにはユイちゃん達だっている。
 まさか、本当にユイちゃんの所に向かうなんて……!」

 シノンが危惧していた可能性。
 白野やユイ達が集まっている月海原学園が、エージェント・スミスやスケィス達のようなPKに狙われてしまうことだ。
 あり得ない、などと言うつもりはない。こんな状況でユイ達に危機が及ばないなど、それこそ夢物語だ。
 しかし、実際に事実を突き付けられては……吐き気を覚えてしまう。

「わかった。ならば、私も力を貸そう! キミ達だけに任せる訳にはいかないからな」
「あたしもそのつもりよ! それにあいつは……カイトの仇よ!
 そりゃあスケィスは恐ろしい奴だけど……でも、もう逃げたりなんかしないわ!」

 ブラック・ロータスとブラックローズは力強く宣言している。
 彼女達の言葉は、シノンにとっても実に望ましかった。それに今回はあらかじめスケィスの脅威を伝えられたので、今更聞く必要もない。


 だけど、ほんの少しだけ後ろめたさを抱いてしまう。
 何故なら、カイトを……ブラックローズの相棒を見殺しにしてしまったのだから。
 ハセヲはカイトの死ぬ要因を作ったと言った。しかし、それを言うならシノン自身も……マク・アヌで倒れていなければ、カイトを救えたかもしれない。
 だからハセヲ一人の責任ではないはずだ。

「ブラックローズ、あの……」
「待って、シノン。カイトのことは…………あたしだって悔しい。
 でも、今はその話をしている場合じゃなくなったわ。スケィスを倒して、そしてハセヲを止める……だってカイトはハセヲのことだって助けようとしたから。
 だから、その後に……カイトのことを聞かせて」
「……私は彼のことを知らない。彼があなたと共に何を見て、何を想っていたのかを。
 だけどカイトがいたからこそ……私はここにいる。ここにいて、あなた達と会えた……」
「そう……あいつは最期まで、誰かの為に戦ったのね。やっぱりカイトらしいわ……」

 ブラックローズは微笑む。ほんの少しだけ寂しそうに、それでいて誇らしげでもあった。
 彼女の表情を見て、二人は強い信頼で結ばれていたとすぐに察する。
 GGOやALOでキリト達と絆を紡いできたように、カイトとブラックローズは幾度も困難を乗り越えて、そして本当の仲間となった。
 シノンが知らないカイトのことを、ブラックローズはよく知っている。勇者として誰かを助けたカイトの姿を見た彼女が、とても羨ましい。
 ……だからこそ、絆を打ち砕いた榊やトワイスを許すことができなかった。

186 ◆k7RtnnRnf2:2016/03/24(木) 08:10:05 ID:1NxPiDAY0
以上で投下終了です。
他に問題点などがありましたら、再度指摘をお願いします。

187 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:29:59 ID:2/2/5o6M0
それでは、放送案の仮投下をさせていただきます。

188convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:31:07 ID:2/2/5o6M0


|件名:定時メンテナンスのお知らせ|
|from:GM|
|to:player|

○本メールは【1日目・12:00時】段階で生存されている全てのプレイヤーの方に送信しています。
当バトルロワイアルでは6時間ごとに定時メンテナンスを行います。
メンテナンス自体は10分程度で終了しますが、それに伴いその前後でゲートが繋がりにくくなる他、幾つかの施設が使用できなくなる可能性があります。
円滑なバトルロワイアル進行の為、ご理解と協力をお願いします。

○現時点での脱落者をお知らせ致します。
|プレイヤー名|
|ユウキ|
|ヒースクリフ|
|ブルース|
|ピンク|
|ツインズ|
|ロックマン|
|スカーレット・レイン|
|エージェント・スミス|
|ラニ=Ⅷ|
|サチ|
|アスナ|
|ありす|
|モーフィアス|
|カオル|
|スケィス|
|シノン|

上記16名が脱落しました。
現時点での生存者は【17名】となります。
なお他参加者をPKされたプレイヤーには1killあたり【300ポイント】が支給されます。
ポイントの使用方法及び用途につきましては、既に配布したルールテキストを参照下さい。


○【1日目・18:00時】より開始するイベントについてお知らせ致します。

前時間より継続
【スペシャルマッチ解放】
場所:アリーナ
12:00〜24:00まで限定でアリーナにおいてスペシャルマッチを選択することができます。
このマッチ限定の特殊なボスとの戦闘ができます。
またここでしか獲得できないレアなアイテムも用意してあります。

新たに開始するイベントは以下の通りです。

【プチグソレース:ミッドナイト】
場所:ウラインターネット/ネットスラム
18:00〜24:00までの期間中、ネットスラムにおいてプチグソレースをプレイすることができます。
レースではゴールド・ゴブリンズとバトルする事になり、イベント終了時のランキングに応じてアイテムを入手できます。

【急襲! エネミー軍団!】
場所:アリーナを除くVRバトルロワイアル会場各エリア
18:00〜24:00までの期間中、一定時間ごとにバトルロワイアル会場の各エリアのうち一ヶ所がランダムで選ばれ、そのエリア内に大量のエネミーが出現します。
出現したエネミー撃破すればポイント及びアイテムを入手することができます。
また高レベルのエネミーを撃破した場合、レアアイテムの入手が可能です。
なお、アリーナのみエネミー出現の対象外となり、またエネミーがエリア間を移動することはありません。

【月影の放浪者】
場所:VRバトルロワイアル会場全域
18:00〜6:00までの期間中、一定時間戦闘を行っていないプレイヤーを対象として、強力なエネミーであるドッペルゲンガーが出現します。
ドッペルゲンガーの撃退に成功すれば、その分のキルスコアが加算されます(注:ポイントは入手できません)。
なおドッペルゲンガー出現までの時間は、対象プレイヤーのキルスコアに応じて変動します。

なお以下のイベントはこの時間を以て終了となります。

【モラトリアム】
【野球バラエティ】
【迷いの森】

では、今後とも『VRバトルロワイアル』を心行くまでお楽しみ下さい。


==================

本メールに対するメールでのご返信・お問い合わせは受け付けておりません
万一、このメールにお心当たりの無い場合は、
お手数ですが、下記アドレスまでご連絡ください。
&nowiki(){xxxx-xxxx-xxxxx@royale.co.jp}

189convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:32:50 ID:2/2/5o6M0



001010111010101001010100010101010101010010010101111001
010101000101010101001010100010101010100100101010001010101010
101010011010100010100100101010001010101010
0101011110010101010101001101010010100100100101010001010101010
10100010101010100100101010001010101010
101010011010100010100100101010001010101010


「――――――――。
 ……ふむ。まあ、こんな所だろう」

 時刻は零時ジャスト。
 モニターに表示された定時メールの内容を確認しそう呟くと、榊はそれを全プレイヤーへと向けて一斉送信。
 同時に都合三度目となるメンテナンスを開始した。
 戦闘やデウエスの暴走の影響によって破損した会場は今頃、ブレインバーストを参考にしたプログラムによって“表向き”修復が開始されている事だろう。

「コシュー……いいのか、榊よ?」
 その様子を見ていたダークマンが、榊へとそう問いかける。
「いいのか、とは、何がだね?」
「コシュー……この、ドッペルゲンガーのイベントだ。
 ただ倒せばキルスコアが加算される――延命ができるなど、……コシュー……プレイヤーが有利になるだけではないのか?」
 問いの内容は、つい今しがた開始されたイベントについて。
 その当然の疑問に対し、榊は「なるほど」と頷く。

 確かにこのデスゲームの表向きの主題はPvPだ。
 だというのにPK以外の方法でスコアを与えては、その主題から外れてしまいかねない。
 ましてやイリーガルな力を持つプレイヤーにとっては、システムに縛られた存在であるドッペルゲンガーなど格好のカモになり得てしまう。
 場合によっては、それこそアリスの手によって粛清されてしまうこともあり得るだろう。
 ――――だが。

「これを見るといい」
 そう言って榊は、モニターにドッペルゲンガーのデータを表示させる。
「コシュー……これは……なるほどな………」
 そのデータを見て、ダークマンはこのイベントの狙いを理解する。

 そもそもドッペルゲンガーは、オリジナルである『The World R:2』の頃からして元となったプレイヤーよりも強化された状態で出現する。
 そこに榊は、イリーガルな力に対抗させるためにある三つのプログラムを追加したのだ。
 その追加された三つのプログラムとは、《武器破壊・部位欠損無効》と《認知外空間からの脱出能力》、そして《バトルフィールドの形成能力》だ。
 イリーガルな力に対し、それらの能力がもたらす効果は次の通りだ。

 《武器破壊・部位欠損無効》によって、心意技の最大の特徴である心意でしか防げない性質を半ば無効化。
 《認知外空間からの脱出能力》によって、『憑神』との戦闘そのものを回避させたのだ。
 唯一防げないのはデータそのものを改竄する《データドレイン》だが、ドッペルゲンガーはその性質上ステータスの弱体化を受け付けない。
 そしてその性質を改竄してしまえば、それは最早ドッペルゲンガーではない。つまりキルスコアは加算されない。

 つまりこのイベントで発生するドッペルゲンガーには、それらのイリーガルな力は効果的ではないのだ。
 加えて《バトルフィールドの形成能力》は、対象となったプレイヤーとの一対一の戦闘を強制するものだ。
 複数のプレイヤーが協力して一体のドッペルゲンガーを倒すと行くこともほぼ不可能だと言えるだろう。

「確かにこのイベントは、君の懸念する通りプレイヤーの利となり得るかもしれない。
 ましてやデスゲームを否定する者たちなどは、こぞってドッペルゲンガーを狩ろうとするだろう。
 なにしろPKをせずに延命できるのだ。イベントに参加しないはずがない。
 ……だが、それこそがこのイベントの罠という訳さ。
 他者を殺さずに延命できるという偽りの希望。それに縋ったものに待ち受ける、絶望の罠。
 果たしてこのイベントに参加したプレイヤーのうち、いったい何人がドッペルゲンガーを倒し、疲弊した状態でその先のデスゲームを生き延びられるかな?」
 脳裏に思い描くその未来予想図に、榊は陰湿な笑みを浮かべる。

190convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:34:17 ID:2/2/5o6M0

 ……このイベントの一番に悪辣なところは、《バトルフィールドの形成能力》によって一対一を強制するという点を、イベント内容に記載していないという点だろう。
 このイベントが最もありがたいと感じるのは、戦闘能力を持たないプレイヤーと、それを守るプレイヤーたちだ。
 彼らはきっと、ドッペルゲンガーを利用して戦闘能力を持たないプレイヤーにキルスコアを稼がせようとするだろう。
 結果待ち受けるのは、戦闘能力を持たないプレイヤーとドッペルゲンガーの一対一。
 戦闘能力を持ちながらもキルスコアのないプレイヤーがいれば二対二になる可能性はあるが、それでもドッペルゲンガー二対との戦闘を強いられる。
 スーパーアーマーさえ備えているドッペルゲンガー二対を相手に、果たして戦闘能力を持たないプレイヤーを守りきれるかどうか……。

(……いや、俺には関係のない話だったな……)
 ダークマンはそう思い、益体のない思考を止める。
 彼の目的はただ一つ。そのためにこうして生き恥を晒しているのだ。
 その為ならば、デスゲームのプレイヤーがどうなろうと知ったことではない。

「それにだ。一つ、君の勘違いを正しておこう」
「コシュー……勘違いだと?」
「そうだ。私の役割はあくまでデスゲームの“運営”であって、イベントの“企画”ではない。
 君の懸念するドッベルゲンガーのイベントも含めて、これまでのイベントはほぼ全てがカーディナルシステムによって考案されたものだ。
 私はただ、それをデスゲームに合わせて調整していたにすぎないのだよ。
 そもそもだ。六時間という短いスパンで三つものイベントを企画することなど、私一人でできるはずがないだろう」
「コシュー……なるほど。言われてみれば、確かにその通りだな」
 榊の言葉にダークマンはそう納得する。

 バトルロワイアルのメンテナンスはこれで三度目。つまりはこれで、合計九つのイベントが発生したことになる。
 如何に参考となるデータがあるとはいえ、その全てを榊一人で企画することなど、さすがにできるはずもない。

「まあもっとも、場合によってはこのイベント自体が無意味なものになるだろうがね」
「? コシュー……それは、どういう意味だ……?」
「その時になれば否応にも理解できるさ。
 それよりも、次のメンテナンスは記念すべき一日目の終了だ。
 一つの節目となるこのイベントには、やはり特別なものを企画するべきだろう」
 ダークマンの問いには答えず、榊はそう口にして禍々しい笑みを浮かべる。
 答えるつもりはない、という事だろう。

「………コシュー……コシュー………」
 だが、それならそれで、別に構いはしない。
 そのイベントとやらに振り回されるプレイヤーを、ほんの僅かに憐れむだけだ。
 なにしろ、この男が自ら企画したらしいイベントなど、ロクなものでないことだけはたしかなのだから。

「しかしそうして考えると、デウエスにも困ったものだ。
 いくら私の望み通りの行動だったとはいえ、まさかただの一度もその“役割”を果たさずに消えるとはな。
 まあもっとも、彼女の“役割”の中で一番重要なものはすでに終えているし、代わりとなり得るものはいくらでもいる。
 プレイヤーの中には寺岡薫のように対抗策を考え付く者もいるだろうから、やはり構いはしないのだがな」

 デウエスの暴走によって、デスゲームの崩壊は加速している。
 それ自体は構わないのだが、おかげで仕事が増え、余興に興じる暇がなくなってきている。
 『死の恐怖(ハセヲ)』が無様に足掻きまわる様を楽しめないのは、榊にとって大いに不満だった。
 まぁもっとも、ハセヲとスケィスの戦いの顛末を考えれば、今回楽しめたかは怪しいところなのだが。

「コシュー……デウエスといえば、“アレ”の回収はいいのか?」
 ダークマンはふとあることを思い出し、それについて榊に訊ねる。
 榊の口にしたデウエスの“役割”については、自身には関係なく興味もなかったので知らない。
 だが“アレ”に関してはGM全員に関わる事柄だ。無視は出来ない。

「アレ? ああ、『碑文』のことか。デウエスに与えられた『碑文』の回収なら、アリスがしてくれるだろうさ。彼女はモルガナの、忠実なる僕だからね。
 ……いやはやまったく、その点においても彼女は落第だな。暴走するのは結構だが、せめて『碑文』を覚醒さえさせてさえくれれば、こちらの手間も省けたというのに。
 まあ、あの暴走もそのための行為だと考えれば、仕方ないと言えるだろうがね」

191convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:34:53 ID:2/2/5o6M0

 ―――『碑文』。
 それは『モルガナの八相』と呼ばれるシステムを超えた………いや、ある意味においてシステムの根幹を成す八つの力だ。
 GMに選ばれたモノは、一部の例外を除き、それぞれの適性に合った碑文をモルガナから与えられている。
 その理由はGMにプレイヤー以上の能力を与えるためではなく、ある“目的”のために『碑文』を覚醒させるためだ。
 デウエスに与えられた碑文は、第三相の『増殖(メイガス)』だと聞き及んでいる。
 彼女の在り様を考えれば当然だと思えるが、しかし彼女は『碑文』を覚醒させることなく、本来の物語と同じ末路を辿った。
 寺岡薫を取り込んだだけではきっかけとなり得なかったのか、それとも何か別の理由があるのか。それはダークマンにはわからない。何しろ―――

「そうそう。君もなるべく早く覚悟を決めておきたまえ。……そう、『AIDA』に身を委ねる覚悟を、ね。
 与えられた以上僅かにも適性があるはずだが、完全適合者であってもきっかけなく『碑文』を覚醒させるのは困難だ。
 しかしAIDAならそのきっかけに――いや、ただ『碑文』を覚醒させる以上の力になってくれる。この榊が、適性もなく“コレ”の力を扱えているように。
 君とて、デウエスの二の舞にはなりたくないだろう?」
「………コシュー………コシュー………」

 何しろ、『碑文』を覚醒させられていないのは、ダークマン自身も同じことだからだ。

 ただ『碑文』を覚醒させるだけなら、プレイヤーに支給するほうが環境的にもより確実だろう。
 そうしないのは、覚醒した『碑文』の回収の手間に加えて、AIDAという最終手段があるからだ。
 問題は、AIDAを利用すれば、人格に異常が発生してしまうという点だが……。
 しかしGMとて時間は有限だ。“その時”までに『碑文』を覚醒させられなければ、どのみちAIDAを使うことになる。
 榊が言っているのは、つまりはそう言う事だ。

「では私は、次のイベントに備え、“彼”の最終調整に入らせてもらうとするよ。なにしろ、時間は有限なのだから」
 そう言って榊は、ダークマンの返答を待つことなく、部屋の隅に新たに備えられた設備へと移動する。
「………コシュー………コシュー………」
 その設備を見て、ダークマンは僅かに心を騒めかせる。
 そこには、トワイス・ピースマンによって回収されたロックマンのPCがあった。

 ……否。それは正確には、ロックマンではない。ロックマンのコアプログラムはすでに壊れた。
 あれは回収されたロックマンのPCを基に、ボルドーというPKを改造し再構築された“誰か”だ。
 その証拠に、マスクに覆われた顔から唯一覗ける、薄く開かれたその目には、本来の彼にあった意志の光は僅かにも存在しない。
 加えてそのPCボディは、バグスタイルを基本としてAIDAの浸食を深く受け、彼のシンボルマークがあった胸部には、ISSキットの本体である生物的な目玉が入れ替わるように寄生している。
 本来のロックマンの面影など、もはやほとんど残っていない。
 あえて呼称するのならば、ロックマン.hack/AIDAバグスタイル・ISSモード、といったところだろうか。

「…………コシュー………コシュー………」
 ダークマンは無言のまま背を向け、知識の蛇を後にする。
 元となったボルドーのプレイヤーがどうなったかなど、ダークマンにはどうでもよかった。
 彼はただ、かつて自分を倒した存在のなれの果てを、静かに憐れんでいた。


【?-?/知識の蛇/一日目・夕方】

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:再構築したロックマンを“有効活用”する。
2:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第?相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。

192convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:36:51 ID:2/2/5o6M0

【ダークマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:目的のために任務を果たす。
0:……………………。
1:次の任務に向かう。
[備考]
※参戦時期は、ロックマンに倒された後です。
※デウエスに与えられていた“役割”については、何も知りません。
※第?相の碑文@.hack//を所有していますが、まだ覚醒していません。

【ボルドー@.hack//G.U.】
  ↓   ↓   ↓
【ロックマン.hack@ロックマンエグゼ3(?)】
[AIDA] <Grunwald>
[ステータス]:HP???%、SP???%、PP100%、AIDA感染(悪性変異)/AIDAバグスタイル・ISSモード
[装備]:サイトバッチ@ロックマンエグゼ3、ISSキット@アクセル・ワールド
[アイテム]:{バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M] 、マグナム2[B] }@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:????????
1:????????
[備考]
※ロックマンのPCデータを基にボルドーのPCを改造し、ロックマンのPCを再構成ました。
 ロックマンのPCデータの影響や、本来のPCであるボルドーのプレイヤーがどうなったかは不明です。
※このPCのコントロール権は、<Grunwald>が完全に掌握しています。
※ISSキットを装備したことで、負の心意が使用可能になりました。
※『救世主の力の欠片』を取り込んだことで、複数のPCに同時感染し、その感染率が相手の精神力を上回った時、そのPCのコントロール権を奪う能力を獲得しました。

193convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:37:30 ID:2/2/5o6M0

【ドッペルゲンガー@.hack//G.U.】
[攻撃対象]:プレイヤー名
[ステータス]:全パラメーター+10%、スーパーアーマー、武器破壊・部位欠損無効
[装備]:{刃威音・偽(アビリティ1、アビリティ2、アビリティ3)、青ざめし君、真に恐れる者}@.hack//G.U.
[備考]
※ドッペルゲンガーはイベント中、プレイヤーが一定時間戦闘を行わなかった場合に、そのプレイヤーを攻撃対象として一エリア範囲内のどこかにランダムで出現します。
 ドッペルゲンガー出現までの時間は【一時間+キルスコア×一時間】となります。
※ドッペルゲンガーのアバターやステータスは対象となったプレイヤーと同一(+α)ですが、影を纏っており暗い色合いとなっています。
 また対象プレイヤーがアバターや武器を変更した場合、ドッペルゲンガーの外見・装備も同様に変化します。
※対象プレイヤーがサーヴァントを従えていた場合、そのサーヴァントも武器扱いとしてコピーします。
※ドッペルゲンガーは対象プレイヤーが使用可能なほぼすべてのスキルと、マリプス(自身のHPを300回復)が使用可能です。
 ただし、一部を除く宝具や心意などの仕様外スキルは使用できません。
※スーパーアーマーの効果により、通常攻撃によるノックバックは発生しません。
※武器破壊・部位欠損無効の効果により、クリティカル・ポイントが存在しません。
※憑神の発動によって認知外空間へと飲み込まれた場合、即座に通常空間へと転移します。
※ドッペルゲンガーと対象プレイヤーが接触した場合、ドッペルゲンガーを中心にバトルフィールドが形成され、対象プレイヤーを閉じ込めます。
 対象外プレイヤーのバトルフィールド内への侵入は出来ません。もし何らかの方法で侵入した場合は、フィールド外へと弾き飛ばされます。
 ただし、複数の対象プレイヤーが同時にドッペルゲンガーと接触した場合、一つのバトルフィールド内で同時に戦闘になる可能性はあります。

【青ざめし君@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の防具その1。
・物理ダメージ-75%:物理攻撃のダメージを75%軽減する
・魔法ダメージ-75%:魔法攻撃のダメージを75%軽減する

【真に恐れる者@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の装飾品その1。
・速度力+50%:移動速度が50%アップする
・HPリカバリー:HPが徐々に回復する

【刃威音・偽@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の武器その1。厳密にはVRロワオリジナル。
対象となったプレイヤーが装備している武器を、ドッペルと同様の影を纏った状態で複製する。
ただし、その武器にもともと備わっていたアビリティは失われており、代わりに以下のアビリティの内三つをランダムでセットしている。
対象プレイヤーが複数の武器を装備していた場合も一つの武器として扱われ、武器を換装した場合もセットされたアビリティは変わらない。
・悲痛の一撃:クリティカルヒット発生確率を25%アップする
・過去への誘い:通常攻撃ヒット時に、対象のHPを強制的に半減させる
・肉体の掌握:通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の25%を自分のHPとして吸収する
・信念の掌握:通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の25%を自分のSPとして吸収する
・諒闇の撹乱:通常攻撃ヒット時に、バッドステータス・混乱を与える

194convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:39:01 ID:2/2/5o6M0


     -1


「いらっしゃい。丁度コーヒーが入ったところよ。飲んでいく?」

 “その部屋”へと入るなり、部屋の主たる老婆はテーブルの上のカップにコーヒーを注ぎながらそう言った。
 テーブルに置かれたカップは二人分あり、自分がこの部屋に訪れることを彼女が予知していたことがわかる。
 老婆の素性を考えれば、それはおかしなことではない。
 何しろ彼女――オラクルは、マトリックスの世界において“預言者”と呼ばれた存在なのだから。

「気づかいはありがたいが、遠慮しておくよ。
 ここへ寄ったのは単に、約束を果たすためでしかないからね」
 だが来訪者――トワイスは席に座ることなくそう答え、インベントリから取り出したアイテムをテーブルへと置く。
「『第四相(フィドヘル)の碑文』の欠片(ロストウェポン)。……そう。オーヴァンから彼への贈り物ね。
 この“世界”で彼と『碑文』との繋がりを知るのは、オーヴァンだけだから」
 そう言ってオラクルは、視線を部屋の隅へと向ける。
 そこには安楽椅子に力なくもたれ掛かる、壮年の男性(ワイズマン)――のアバターをした少年(火野拓海)の姿があった。

 ワイズマンがこの部屋にいるのは、彼の身柄をオーヴァンから引き取った榊が運んできたからだ。
 一先ずの安置所として、同じ預言者のいる部屋を選んだのか。それとも別の目的があって、わざわざこの部屋に運んできたのか。
 いずれにせよ、AIDAに侵食され意識を封じられた彼は、こうして自身の事が話題に上がっても目覚める様子を見せない。
 おそらく今の彼は、その体に剣を突き立てられたところで、指示がない限りは身動き一つ取らないだろう。

「ついさっき、スケィスが倒されたわ。
 マハも、ちょっと変わった形ではあるけれど、すでに覚醒している。
 これで覚醒した『碑文』は六つ。残る二つが目覚めるのも、そう遅くはないでしょうね」
 世間話のように紡がれたその言葉は、“預言者”であるオラクルの言葉であるからこそ、重い意味を持っていた。
「そうか。モルガナの目的は、恙なく果たされているという訳だ。安心したよ」
 だがトワイスは、むしろ気が楽になったとでもいうかのようにそう言葉を返した。
 そのあまりのそっけなさに、さすがのオラクルも僅かばかり表情を変える。

「………………。
 あなたは本当に、それでいいの?」
「いい、とは?」
 僅かな間を置いて掛けられたオラクルの問いに、トワイスは静かに訊き返す。
 質問の意図が読み取れなかったのか、それとも解った上で、そう訊き返したのか。

「私達ゲームマスターには、その“役割”と一緒に『碑文』が与えられている。
 それは戦う力としてではなく、それぞれの“役割”を果たすため。
 私の『運命の預言者(フィドヘル)』がそうであるように、あなたの『再誕(コルベニク)』もそう。
 けど“モルガナの望み”が叶えられた時、『再誕』を司るあなたは――――」

 オラクルの役割は、“預言”の力を使い、モルガナの目的に沿うようバトルロワイアルの流れに布石を打つこと。
 以前にファンタジーエリアの小屋で、茅場明彦/ヒースクリフとオーヴァンに接触したのもそのためだ。
 あそこで二人と接触していなければ、このバトルロワイアルの状況は現在とは大きく違ったものとなっていただろう。
 それが“選択”を司るという事。
 あの小屋での“選択”によって二人は決別したが、場合によっては、二人が手を組む未来もあり得たかもしれなかった。
 仮にそうなってしまえば、GM側にとって大きな不利となっていたことは想像に難くない。

 対してトワイスの役割は、バトルロワイアルで起きたあらゆる事象を“記録”すること。
 トワイスが『再誕の碑文』を与えられているのも、その関係からだ。
 ……いやそもそも、八相という存在自体が、本来は“ある目的”のためのデータ収集プログラムに過ぎなかった。
 それがモンスターとして存在しているのは、アウラあるいは腕輪所持者への対抗手段として、モルガナがプログラムを変質させたからだ。
 その八相本来の役割を、トワイスは『再誕の碑文』によって代行しているのだ。
 そしてその“目的”――つまりモルガナの望みが果たされた時、トワイスの“役割”は終わり本来の『再誕』が発動する。

195黄金の乙女たち ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:41:12 ID:2/2/5o6M0

 だが『再誕』とは文字通り、再び誕生するという事。そして『再誕』を果たすためには一度死ななければならない。
 かつて女神アウラが、自らを犠牲にすることで“薄明の女神”として新生ように。
 モルガナの目的が果たされ『再誕』が発動すれば、『碑文』の宿主であるトワイスは、その反動で死に至る。
 しかしそうして発動した『再誕』で蘇るのは、当然トワイスではない。
 その事を、『再誕の碑文』を宿すトワイス自身が理解していないはずがない。
 だというのに、オラクルには、彼がその事に怖れを懐いているようにはとても見えなかったのだ。

「……驚いたな。そんな事を、まさか、他ならぬ君が口にするとは。
 預言者といえども、全てを知ることは出来ない、という事か」
 そんなオラクルへと、トワイスは本当に意外そうに口にした。

「君は以前こう言ったね。
 私には未来がない。そもそも選択をする余地が残っていない、と。
 その通りだ。サイバーゴーストである私は、トワイス・H・ピースマンという人間の残像に過ぎない。
 故に、終焉は約束されている。私には未来がなく、選択の余地がなく、結末は変えられない」

 それは、以前交わした会話の焼き直しだ。
 過去の亡霊と未来の預言者。
 コインの表と裏のような両者は、それ故に語ることなどすでにない。
 けれどトワイスは、しかし、と言葉を続ける。

「私の結末が変えられずとも、未来の全てが決まっているわけではない。
 今を生きる“彼ら”の結末は、いまだ空白のままだ。
 いやそもそも、未来が始めから決まっているのなら、“預言者”などと言う存在は不要だろう」

 “預言者(オラクル)”が必要とされているのは、モルガナの目的に沿うように布石を打つためだ。
 だが未来が決まっているというのなら、そんな必要はない。
 GMが、あるいはプレイヤーが何をしようと、未来は定められた形に収束する。
 だが現実にはこうして“預言者”が必要とされている。それはつまり、未来は不確かなままだという事の証明に他ならない。

「未来が決まっていない以上、私のする事は変わらない。
 より良き未来に繋がるよう、バトルロワイアルを進展させる。
 “選択”はすでに終えている。そのために私は、今もこうして欠片であり続けている。
 余白(わたし)を埋めるだろう“彼ら”の未来が、美しい紋様(アートグラフ)を描くようにと――――」

 それは、以前には語られなかった“今を生きる者”の話。
 トワイスの口にする“彼ら”が誰を表しているのか。それはオラクルの“観る”未来からはわからない。
 オラクルが見るのは数多に分岐する未来であって、過去は勿論、現在ですらないからだ。
 だが一つ確かなことは、トワイスは常に“前進”する事――喪失に見合うだけの成果を望んでいる。
 そしてこのデスゲームで、何かを喪失しているのは一方だけ。
 だからきっと、トワイスの口にする“彼ら”とは――――

「さて。そろそろメンテナンスの時間だ。もうじき“彼女”も帰ってくる。
 その前に、私は私の“役割”を果たすとしよう」

 そうして、トワイス・H・ピースマンはこの部屋から退室した。
 彼の“役割”である、“記録”を行いに行ったのだ。
 残されたものは、テーブルの上の【其ハ声ヲ預カル者(ロストウェポン)】と、結局ただの一度も口のつけられなかったコーヒーだけだ。

「……“彼女”、ね」
 残されたコーヒーを見詰めながら、オラクルはぽつりと呟く。
 トワイスの口にした“彼女”とは、モルガナのことではない。

「“彼女”――VRGMユニット、ナンバー001。ラベリング“■■■”……いえ、今は“■■”だったかしら。
 最初のゲームマスターである“彼女”は、いったいどんな“選択”を選んだのかしらね」

 ある意味において、このデスゲームの発端となった少女。
 彼女がいなければ、このバトルロワイアルはあり得なかった。
 だが彼女ほどモルガナを意に介していないGMもいない。
 それならば、“彼女”はいったい何を想い、ゲームマスターとなったのか。

196黄金の乙女たち ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:42:24 ID:2/2/5o6M0

「いずれにせよ、私のすることに変わりはないわ」

 その行動こそ制限されているが、『第四相の碑文』によって、オラクルの予知能力は強化されている。
 その力は最早“予測”を超えて“測定”の域に届こうかというほど。
 その気になれば、バトルロワイアルの行く末を全て視通し、望むままに定めることも不可能ではないだろう。
 それこそGMの思うようにデスゲームを展開させることも、逆に破綻させプレイヤーを勝利させることも。

 だが、オラクルはそれを行わない。
 トワイスのような過去の亡霊でも、自分のような未来に縛られた者でもなく。
 過去を踏み越え、未来を夢見ながらも、“今”を生きる者たち。“彼ら”に“この世界”の“未来”を託す。
 それが、預言者たる彼女の選んだ“選択”だったからだ。


 スケィスが倒され、バトルロワイアルは折り返しに入ろうとしている。
 おそらく一日目の終了とともに、デスゲームの様相は大きく変わるだろう。
 その時プレイヤーが、あるいはGMが、どんな“選択”をするのか。
 “運命の預言者”は、“その時”が来るまで、ただ未来を見詰めるだけだ――――。


【?-?/オラクルの部屋/一日目・夕方】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:より良き未来に繋がるよう、ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※第八相『再誕』の碑文@.hack//を所有しています。
※モルガナの目的が果たされた時、本当の『再誕』が発動し、トワイスは死に至ります。

【オラクル@マトリクスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本: ゲームの進行がモルガナの目的に沿うように布石を打つ。
1:“その時”が来るまで、ゲームの未来を予測する。
2:“今”を生きる者に未来を託す。
[備考]
※“布石を打つ”事が彼女の役割です。それ以上の権限はありません。
※予知能力によって未来を知ることができますが、全てを知ることができる訳ではありません。
※第四相『運命の預言者』@.hack//の碑文を所有しています。
※『碑文』の影響により予知能力が強化されていますが、自らそれを活用する気はありません。

【ワイズマン@.hack//】
[ステータス]:HP??% 、SP??%、AIDA感染(<Grunwald>)
[装備]:其ハ声ヲ預カル者@.hack//G.U.
[アイテム]:なし
[ポイント]:???ポイント/?kill
[思考]
基本:<Glunwald>に支配されているため不明。
[備考]
※<Grunwald>の能力により同時感染しており、またその意識も封じられています。

[全体の備考]
※一部の例外を除き、GMにはそれぞれ【モルガナの碑文】が与えられています。


     0


そこは世界の欲望を詰め込んだ館。
しかし、そこに住む三姉妹が自らの欲望に従うことはない。

197 ◆NZZhM9gmig:2016/09/30(金) 12:43:23 ID:2/2/5o6M0
以上で投下を終了します。
あとタイトルは>>194から 黄金の乙女たち です。
何か意見や修正点などがありましたらお願いします。

198 ◆k7RtnnRnf2:2016/10/01(土) 00:14:21 ID:oXyF//es0
メンテナンス案は決定でもよろしいですかね。

まさかGM達にそれぞれ碑文が与えられているとは
バトルロワイアル進行の裏でGM側の動きも明かされて、あろうことかロックマンすらもGMに利用されていた。
そしてトワイスの『未来がない』という言葉の意味が、あまりにも重く聞こえてしまいますね……

199 ◆7ediZa7/Ag:2016/10/01(土) 14:31:04 ID:txwVvOOo0
投下乙です
メンテナンス案はこれでよろしいかと思います
二回メンテナンスで垣間見た裏側の、さらに奥が見えた感じで、終盤が近づいてきたなぁという内容でした
VRロワの主催陣の特徴として一堂に介するシーンが一切なく、バラバラに思惑を持って動いていることが挙げられるかなと思ったり

ただ>>188の時刻が12:00のままなのでその点だけ直した方がいいかと

200 ◆k7RtnnRnf2:2016/10/01(土) 20:22:46 ID:oXyF//es0
私からもう一つ。
予約解禁のタイミングは◆NZZhM9gmig氏が本投下を完了させるのと同時でも大丈夫ですかね?

201 ◆NZZhM9gmig:2016/10/02(日) 12:02:10 ID:1BDA.2wo0
自分は大丈夫だと思いますけど
とりあえず>>188の時刻を修正すれば問題なさそうなので、本投下してきます


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