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殴り書き

1名無しさん:2017/01/12(木) 22:37:24
 主人公。
 それは物語の主役であり、物語を牽引していく重要な役割を持った者のことを言う。
 主人公が抱える物語。それは彼らにとって様々ではあるが、古来より、主人公と称される人々は様々な局面で歴史に名を遺してきた。
 そして、そんな主人公たちの傍らには常に、とある役割を持った者が同時に存在していたものである。
 主人公と共に歩み、陰に日向に主人公を支え、主人公を引き立てる――。
 見ようによっては、主人公以上に重要な存在……いや、そんなことを言っては不遜に過ぎるが、しかし、それぐらいの気概を持って挑むべき役割を持つ者たちがいる。

 その者たちのことを――人は『親友』と呼ぶ。

2名無しさん:2017/01/12(木) 22:37:44
――― * ―――

 都内某所のイベント会場。全体の照明がほとんど落とされた広いホールの中、数千人以上の人間が暗所の中各々に宛がわれた座席に座り、今か今かとその時を待っていた。
 彼らが胸中に抱く思いは緊張と興奮に違いないだろう。なんて言ったって、この俺もまったく同じ気持ちを抱いているのだから。俺と彼ら、そこには何の違いもありはしない。
 数千の群集が暗闇の中で見つめるのは、ホールの中心に据えられたステージである。腕時計を見やれば、盤面は所定の時刻を示そうとしていた。
 もうすぐだ、誰かが口に出し、緊張を鎮めるため皆が一斉に深呼吸をする。

「3,2,1……」

 やがてどこからともなくカウントダウンが始まり、皆がゼロ! と叫んだ時。
 一斉にホール中の照明が点灯する。
 そんな中で一際眩く照らし出されるのは、ホール中心に据えられた一枚のプレート。そこには、こう書かれている。

『全日本親友協会・第224回月次総会』

「――これより、全日本親友協会、第224回月次総会の開催を、ここに宣言いたしますッッ!!」

 暗闇の中スタンバっていたのであろう、全日本親友協会の職員が、ステージ上で高らかに宣言した。
 途端、割れるような歓声がホール中を包む。ああ、もちろん俺だって拍手は忘れちゃいない。
 今から月に一度の、『親友』の、『親友』による、『親友』の為の宴が始まるのだから。

「会則宣誓!」
『ひとーつ! 親友たるもの主人公のために存在すべし!』
『ひとーつ! 親友たるもの主人公を支えるべし!』
『ひとーつ! 親友たるもの主人公を裏切るなかれ!』

 全日本親友協会。俺が籍を置くこの協会は世界各国に存在する親友協会の中でも一際長い歴史を持ち、遡っては飛鳥時代――中大兄皇子(主人公)と中臣鎌足(親友)の時代に、中臣鎌足によって設立されたと謳われている。
 その存在意義は主にふたつ。全国の主人公たちを支える全国の親友たちが集まり、互いの親友ライフをサポートすること。そして、リアルタイムで集計される主人公ポイント(※主人公が主人公らしいことをすることによって加算されるポイント。行動如何によっては減少することもある)と、親友ポイント(※親友が親友らしいことをすることによって加算されるポイント。行動如何によっては減少することもある)の累計によって変動するランキングにより、全国の主人公について序列付けを行うことである。

 皆の月次総会への熱狂は、この全国主人公ランキングがもたらす興奮による。誰だって自分の主人公のランキングが上がれば嬉しいし、誇らしい。それに加えて、こんな主人公の親友をやっているんだぞという自尊心が。幸福感が。親友たちの心を満たすのだ!

 当然、全日本親友協会に所属している俺にも主人公がいる。幼馴染みの伊佐山優斗。名前からして主人公感マックスの俺の主人公だ。

「――それではみなさんお待ちかね、全国主人公ランキングの発表です!!!!」

 司会進行の言葉に、会場の喧騒がより大きくなる。この一月で、俺も結構親友ポイントを貯めているし、陰からのサポートの結果、優斗の主人公ポイントもわりと加算されているはず。きっと優斗の序列は上がっている。
 主人公の序列が上がると、同時にその親友のベストフレンダーランクという序列も上がる。ランクが上がると協会からの様々なサポートを受けられるようになり、主人公にもっと様々なサポートをしてやれるようになる。主人公の序列を上げれば、親友のランクが上がり、それは主人公のためになる。まったく、誰がこんな素敵な好循環システムを考え着いたというのだろう。ああ、だから、頼む。優斗の順位が上がっていますように! そして俺のランクも上がり、優斗をより一層手厚くサポートできますように!

3名無しさん:2017/01/12(木) 22:38:15
――― * ―――

「――由々しき事態だ」
「とおっしゃいますと?」

 全国親友協会の総会から一晩明けた翌日。俺は放課後の教室でクラスメイトの田井中千尋と顔を突き合わせていた。
 田井中千尋。クラスでの彼女の立ち位置を一言で表現するならば、少し地味目なメガネ少女と言ったところだろう。
 だが、俺にとって彼女は全く別の意味を持つ存在である。何故ならば、彼女は全日本親友協会から出向してきた協会職員だからだ。
 
 協会出向職員は主人公と親友の傍にあり、主人公ポイント(※略称は主P)、親友ポイント(※略称は親P)の計上や、親友業務のサポートを主に行う立場にある。親友協会は全国主人公ランキングによる主人公の序列付けを行っていることから、その職員が特定の主人公に肩入れすることは望ましくないのだが、彼女は有能故にそこらへんのバランス感覚が上手く、俺もかなり世話になっていた。
 
「昨日の総会で、優斗のランキングを聞いただろう?」
「はい。全国2458位。景山さんのベストフレンダーランクはBランクのまま変動なしです」
「くっ、まさか優斗の序列が下がるとは思っていなかった……」

 そう、昨日の全国主人公ランキングで、優斗は全国2458位とされてしまっていた。先月の順位が2281位であることを考えれば大幅な下落。
 優斗の親友である俺は大いに自尊心を傷つけられたが、何よりも優斗の順位を落としてしまったという事実が重たく心にのしかかっていた。
 優斗のポテンシャルを考えれば、全国1000位以内に入ることは容易いはずなのだ。いや、そんなところにいていい男じゃない。アイツならばいつの日か頂点を――全国主人公ランキングの1位を取れるはずなのだ!

「俺は悔しくて仕方がない……優斗の順位を落としてしまったこと、そして、俺がいまだBランクベストフレンダーに甘んじていることが!」
「ええ、わかります景山さん」
「だからだ。来月の総会に向けて今すぐにポイントを稼ぐ必要がある、と俺は考える」

 全国主人公ランキングの更新は月に一度行われる。月次総会の翌日から主P及び親Pの計上期間が始まり、次の月次総会開始直前に終了する。つまり、ポイント計上チャンスはもう始まっている。うかうかしてはいられないのだ。

「今日の時点で景山さんの親友ポイントは2増加していますね」
「消しゴムを貸したからな」
「なるほど。ちなみに伊佐山さんの主人公ポイントは変動なしです」

 田井中が手元のスマホを確認し、俺が今日稼いだ親友ポイントを教えてくれた。協会職員はこのようにして俺たちのような親友をサポートしてくれるのだ。

「だが、親友ポイントを毎日2ポイント増やしただけじゃ、月に60ポイント……これじゃ序列下降は確実だ」
「ええ、そう思います。確か景山さんの目標は、伊佐山さんの全国主人公ランキング2000位以内入賞、それに伴うAランクベストフレンダーへのランク上昇でしたね」
「ああ、その通りだ」
「とすると……そうですね、今月で両ポイント合計400ポイントは稼ぎたいところです。欲を言えば500」

 田井中から告げられた数値に俺は眩暈を覚えた。
 消しゴムを250回貸せば稼げるってところか……だが、優斗は毎日消しゴムを忘れるようなやつではない。いっそのことあいつの消しゴムを秘密裏に処理してしまおうかと考えたが、それではあまりにリスクが高すぎる。主人公から拒絶の意思を見せられると親友ポイントは一気に減少するのだ。
 ここはやはり……以前から温めていた計画を実行するほかないか。

4名無しさん:2017/01/12(木) 22:38:25

「田井中、俺には以前から考えていた計画がある」
「何でしょうか」
「――ハーレムを、作る」
「なん……ですって……!?」

 世には様々な形の主人公がいる。
 難事件をたちどころに解決する主人公(※例:シャーロック・ホームズ)や、天下統一を成し遂げたりする主人公(※例:徳川家康)、プロ野球において前人未到の投手と野手の二刀流をこなす主人公(※例:大○翔平)などなど。
 その中において、何か偉業を成し遂げるわけではないけれど、しかし、それでも確かな存在感を発揮する主人公がいる。
 それが所謂、ハーレム主人公だ。数多の美少女に惚れられ、数々のラッキースケベイベントをこなし、主人公だけの美少女パラダイスを形成する……そんな主人公。
 俺は、優斗の序列上昇のため、優斗のためのハーレムを作るという案を口にしたのである。

「しかし、景山さん、それはあまりにリスクが高すぎます!」

 田井中が焦ったように言う。無理もない。ハーレム形成により、主人公ポイントは大幅に加算することが出来るだろう。だが、それは諸刃の剣なのだ。ハーレムと親友ポイントは非常に食い合わせが悪い。
 親友ポイントは主人公の機嫌を損ねると減少するだけでなく、親友の行動によっても減少していく。問題はそこにある。
 よしんば無事に美少女ハーレムを形成することが出来たとて、主人公の親友という立場上、ハーレム要員との接触が増えてしまうことは確実。主人公の、主人公のためのヒロインであるハーレム要員との接触が増えるということは、イコール親友ポイント減少の危険性が増大することに他ならないのだ。

「だが田井中、ポイント加算にこれだけ有効な手立てはあるまい」
「くっ、それはそうですが……」

 俺の正論に田井中が言葉を詰まらせるが、それでもなお彼女は何かを言い募ろうとする。それだけ俺の『親友』という立場を慮ってくれているのだろう。まったくいい友人を持ったものだ。
 だが、俺はここで立ち止まるわけにはいかなかった。優斗を、俺の主人公をより高みへ、よりハイステージへ上げるためには、リスクを恐れるわけにはいかないのだ。ハイリスクハイリターン。ハーレムはそれだけの見返りがある。

「流石にひと月でハーレムを作ろうとは思わないが……せめてハーレム要員を一人確保しておきたいな」
「ひとり確保するだけでも……そうですね、主人公ポイント300増加は見込めます」
「やはりな」

 ハーレムの査定ポイントはとても高いのだ。そこに主人公ポイントと親友ポイントの上乗せで、目標の500ポイントは見えてくる。

「ですが……いったい誰をハーレム要員にしようというのですか?」
「……佳水ゆかり」
「!!!」

 田井中の眼鏡越しの瞳が大きく見開かれ、驚愕の色に染まった。
 佳水ゆかり……それは、この学園においては知らぬ者のいない、学園のアイドル的存在。
 芸能人と見紛う最高クラスのルックスを誇り、性格は淑やかで、誰にでもわけ隔てなく接する超完璧美少女。彼女に恋する男子生徒は数知れず。告白を受けた回数も数知れず。だが、彼女に特定の恋人はいないはずだった。だからこそ、そこに勝機がある!

「し、しかし、佳水さんをハーレム要員に仕立て上げるというのは……難易度が……」
「ああ、高いだろうな」
「だったら」
「だが……逆に考えろ田井中。ここで佳水をハーレム要員に仕立て上げれば……間違いない、優斗は、主人公スター街道を駆けあがるぞ。綺羅星のようにな!」
「っ!」

 ごくり、と田井中が生唾を呑み込んだ。彼女も夢想しているのだろう。同じ学園に通い、同じクラスで授業を受けてきた近しい存在が、主人公スター街道を駆けあがっていくその姿を。全日本親友協会に所属するものにとって、主人公のシンデレラ・ストーリーをその目に焼き付けることは何にも勝る幸福、快感なのだ。

「お前は協会職員故に表だって動けはしないだろうが……だが、協力してくれるだろう? 田井中」
「っ、は、はいっ……! 伊佐山さんの……スターダム……!」
「ああ、一緒に見届けよう、田井中!」

 俺と田井中は力強く握手を交わし、そして、優斗のために主人公ポイントを稼ぐことを、佳水ゆかりを優斗のハーレム要員に仕立て上げることを、茜色に染まる教室で固く強く誓い合った。
 俺たちの戦いは――これからだ!


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