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迷宮と女冒険者IF 3

53第二話『出会い』 ◆29oZBU0BL2:2021/10/21(木) 22:43:23 ID:faWjLN4.
一方その頃、留守の山吹の神社で悪態をつく美少女がいた。
彼女の名前は、クリエムヒルト=ヴィクトリエ=ルカージュ。
夜の一族であるヴァンパイアと人間の間に生まれたハーフヴァンパイアである。
永い眠りについていたがひょんなことから目が覚め、その場にいた悠美に拾われ彼女の弟子となった。
現在は退魔師として活動中である。

そんな彼女が山吹の神社を訪れたのは、修行のためだった。
悠美に修行のため山吹のもとへ行けと言われたのだが、それがただの修行だけが目的でないことはクリムも薄々察していた。
悠美が若干協会を信頼していないこと、クリム自身の出自。
これらの要因から有力退魔師である自分から、一時的に遠ざけようとしているようだ。

そうして悠美から教えられた山吹の今の住まいを訪れたのだが、まさかの留守である。
外から見ればオンボロで、人の気配を感じられぬ神社。
しかし敷地内に入れば、ところどころリフォーム中の建物が見えてくる。
これはおそらく山吹の結界。
入るまでは本当にこんなところに人がと思ったが、たしかに素晴らしい術者のようだ。
留守だが……

とはいえクリムが不機嫌なのは山吹が留守という理由だけではない。
この街は妙に蒸し暑いのだ。
この街へと来る船旅は問題なかった。
しかしこの街に面する海に差し掛かってからはどろりとした生暖かい風とジメジメした空気に晒されてしまう。
もとよりクリムは汗をかきやすい体質であり、こんな気候ではすぐに汗をかいてしまい……
実際、船を降りて市内中央まで電車に乗り、そこからバスに乗り換えてこの神社までくる過程でかなり汗をかいてしまっていた。
しかも、電車もバスも空調は動いておらず閉め切っていて、蒸し風呂のようだった。

だが、悪いことばかりではない。
良い出会いがあったのだ。
駅前で好ましい少年との出会いが……


港から電車で市内中央まで来たクリム。
ここまでは蒸し暑さ以外は問題なかった。
市内中央まで伸びている路線なぞ、実にわかりやすいのだから……
しかし、問題はこの駅前から山吹の神社へ向かうバス停がどこにあるかだった。
神社は市内南部
南に隣接す町との境にあるのだが、ここらへんは辺鄙な土地のようだ。
交通網も貧弱なこともあって、その方面に向かうバスの乗り場がわからないのだ。
地元在住ならともかく、来訪者であり、ついで国籍も違うとなれば、クリムが分からないのも仕方ないことなのかもしれない。

「あ、あの…大丈夫ですか?」

そんなクリムにかけられた少年の声。
それに振り向くと、そこにいるのは一人の少年。
年の頃は中学生か、あるいは小学生高学年かもしれない。
小柄な身体に幼さを残す顔立ちをしている。
そんな幼さに優しさを内包した温和な顔に、心配そうな表情を浮かべた少年は、クリムが振り向くとときが止まったように固まる。
それはクリムも同じでお互い無言な瞬間が数秒間続く。
少年の方は見たこと無い美しいクリムに見惚れ、クリムのほうは……
そして、先に言葉を紡いだのは少年の方……
このまま黙っていては失礼になるとなんとか言葉を発する。

「え、えーっと…その……、なんか困っていることでも?」

会話が始まり、クリムは目的のバス停の場所を聞いてみる。
少年の言葉に下心や邪念などはなく、こちらを心配しての善意で話しかけてきていることと、クリム自身彼に対しいて好印象を持っているのが理由だ。

「ああ…そのバス停ならあそこ……そこまで案内しますね」

そして二人でバス停に向かいながら会話を始める。
特に話しても問題ない当たり障りのないことを話しながら歩いていくと、お互い名前を知らないことに気がつき……

「あ!僕の名前は晴暁って言います。
瀬田晴暁です。
あ、あの…貴女のお名前は……」

少し恥ずかしがりながらも名前を聞いてくる晴暁。
それに対し、クリムは自身の名前を名乗り……

「よろしくです、ルカージュさん
……え、えっとクリエムヒルトさん?
ク、クリムさん?」

姓で読んできた晴暁に対し、名前で呼ぶよう修正し……
名前を読んだら愛称で呼ぶように修正し……

バス停前まで来たら、彼に関して少し話を聞いてみる。
どうやら彼はこの街の中学校に通っているらしい。
だが、そこまで聞いたところでバスが到着。
本数は少ないが、運悪く…いや運良く早くバスが着いたのだった。

「それでは気をつけて……クリエ…ク、クリムさん」

少し恥ずかしがりならがそう呼ぶ晴暁と別れクリムはバスに乗るのだった。
そのバスはかなり蒸し暑く、一気に気分が急降下していったが……


そんなとてもいい出会いの記憶を思い出しながら、クリムはさてどうするかと考える。
建物内に入って構わないものだろうか?
それともここは山吹の探索と、ついでに街の散策でもしておこうか?


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