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仮投下専用スレ・第2部

1 ◆yxYaCUyrzc:2016/01/06(水) 20:03:59 ID:1kUrfHtI
作品は完成したんだけどいきなり本スレに投下できるほど自信がない……
いろんな人の意見を聞いてもっといい作品にしてから改めて本スレに投下したい!

……そんな人のためのスレッドです。
修正用スレ(本投下した作品をwikiに掲載する時の修正箇所の明記するスレ)
転載用スレ(本投下の最中に規制されてしまって以降のパートを投下するスレ)
これらと混同の無いよう注意してご利用ください。


前スレの1000到達に際し新スレ立てました。ご活用ください。

170際会 その2 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/06(日) 21:43:10 ID:dBatcEpE
ホテルからたっぷり300メートルは離れたあたり。
しかしあくまでも今の蓮見琢馬は『スタンドは使えるが無害な無気力少年』だ。歩き方に迷いこそないが、過度に周囲の警戒をすることもしない。
無言の不意打ちがなかったことも、ムーロロからの警告や尾行もないことは偶然とはいえ琢馬にとって幸運だった。

そう、あくまでもここからが本番だ。
琢馬はなにも『あいつらの遺体争奪戦に巻き込まれてたまるか!逃げ出してやるぜ!』だとか『もう何でもいいや〜ふらふら』だとかのためにホテルを出たのではない。
二度ほど深呼吸をし、ゆっくりと口を開いた。

「あんたに……協力したい」


琢馬の目の前には誰もいない。傍から見れば、虚ろな目をして道のど真ん中で独り言をつぶやく危ないヤツにしか見えなかった。
それでも言葉は続く。

「いや、協力だなんて偉そうなことを言いたいんじゃあない。
 俺はあんた――あなたに『ついていきたい』ただそれだけなんだ」

そう。これこそが琢馬の辿り着いた答え。

「あなたには何か『とんでもない目標』があるんだろう?
 それを達成したとき、あなたの目の前に何が映っているのか。
 あるいは達成できなかったとき、あなたは一体どうなってしまうのか。
 俺はそれを見てみたい。そして俺に教えてほしい」

――訂正しよう。ある意味で琢馬は答えを出すことを放棄した、と言えなくもない。

「俺には人生を賭して果たすべき目的がある――あった。
 それは達成されたとも言えるし、達成できなかったともいえる。
 俺は目的を失った。ずっとそのことだけを考えて生きてきた、そんな目的を。目標を」

掠れた声色でありながら、それが消えることはない。
その目は下を向きながら、輝きを失うことはない。

「あなたに『俺に目標をくれ』なんて贅沢な頼みをするつもりはない。
 教えてほしいなんて言ったが、あなたはあなたの目指すべきところに行くだけでいい。
 本当に、ただただついていきたいだけなんだ。
 それをあなたが受け入れてくれるなら、なんだってやってやる」

泣いているわけでも、怒っているわけでもない。
焦っているわけでも、恐れているわけでもない。
蓮見琢馬の表情は、いつもと変わらない無機質なそれだった。

171際会 その3 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/06(日) 21:44:33 ID:dBatcEpE
「……」

言いたいことをすべて言い切ったのだろう。
口を閉ざした琢馬の頬を緩やかな夜風が撫でた。

「……」

琢馬自身にもわかっていたことだった。
ただ、あの場で、あの状況で、そして自分の出来うることを考えに考え抜いた結果だった。
普段なら絶対にしないであろう、そんな賭け。

「……」

つまり――琢馬の言葉に、呼びかけに。
返事をするものは。
彼に答えを見せるものは。

「……」

「……」

「……なんてな」
琢馬が踵を返す。ホテルに戻り、再びあの居心地の悪い空間に戻るべく。



――と。少し琢馬から視線を変えよう。ここで登場人物その2についてだ。
彼について一言二言の説明をするなら……

マル1、『彼は究極の天才である』
マル2、『彼は別に人間を殺したいと思っているわけではない』
前者は改めて言うまでもないが、言っておかなければならない。問題はマル2の方、これが少々厄介だ。
彼が到達したい場所はあくまでも『自分が究極の生命体となること』である。
そのために脳を押す装置を作り出した。それだけでは足りないと赤石を求めた。それが偶々人間の手にあっただけである。
食事に関しても、自分が必要なカロリーを得ることができれば、何も人間や、その脳を押した吸血鬼を食わねばならないという訳でもない。

少々話が逸れたが、自分の邪魔をしなければ異種だろうが同種だろうが彼は――カーズは殺さないのだ。
崖に咲く花を踏むこともなければ、犬を見殺しにすることもない。
克服すべき太陽も、その輝きを己の瞳に映せば感動の声さえ漏らすだろう。

要するに何が言いたいかと言うとだな……


「なんだって――か」

カーズにとって、この提案は悪い話ではなかった。

「ククク……今の演説を、まさか大統領だとかいうの“だけ”に聞かせていたわけではあるまい?」

そのバケモノじみた……いや、実際に人間から見れば十分にバケモノなんだが、目と耳が道の真ん中で呟き続ける琢馬をとらえていた。
独り言を終えて元来た道を戻ろうとする琢馬の背後。つまり先ほどまで琢馬が見つめていた方向に姿を現す。

「そうだろう?だからこそ、このカーズを前にしてそんな顔でいられるのだろう?」

振り返った琢馬の目がカーズと合ったとき。
琢馬の口角がほんの少しだけ上がったように見えた。
夜の闇で誰にも分らないほどごくわずか。少なくとも俺にはわからなかったが――カーズは分かったのかもしれない。

「そして――フフ。人間はこういう時、だいたいこう言うそうじゃあないか」

笑いをこらえきれないカーズと、こちらもまた表情が緩む――安堵したような顔をした琢馬。

そう。カーズの言った通りだった。
琢馬は自分の体に吸い込まれた『遺体』のパワーが一体何なのか。
耳に入ってくるその遺体の情報。生前が“何者”であったか。なぜこんなゲームバランス崩壊のようなものが点在しているか。
なぜそれを知っているものがいるのか。なぜスティーブン・スティールが殺されたのか。なぜ遺体と遺体が引かれあるのか。
それらを踏まえての先の独り言――演説、大立ち回り。そういっても過言ではないだろう。
ある意味では、むしろ大統領には本当に“聞かせるだけ”でカーズのような“ドでかい目標を持つもの”に接触してもらうところまでが琢馬の作戦だったのかもしれない。
むろん、大統領が接触してくれたのなら、それはそれで琢馬にも動きようがあったのだとは容易に推測できるけど――

「NNN???『なんだって』ェェ?
 今『なんでもする』って、そう言ったよなアァァァ〜〜?」

言いながらついに高笑いを始めるカーズ。
それを静かに見守る琢馬。ほんの少しだけ洩れた溜息は安堵のものか、あるいはカーズの言い回しに引っかかるところでもあったのか。
それは本人にしか分からないだろう。敢えて言及するのは避けさせてもらうよ。


――と。
ここで最初のテーマに戻る。
『考えるのをやめる』ということについて。

何がどうあっても考えるのをやめることが出来ないであろう蓮見琢馬は、考えに考え抜いて、カーズに接触した。
だがしかし、双葉千帆のことを『考えるのをやめた』とも表現できなくもない。

一方でカーズは一族の中でも――つまり全ての生物の中でもダントツに頭がいい大天才。考えることに関して右に出るものはそういないだろう。
だが、そんなカーズが『考えるのをやめた』という話を我々は知っている。

さてさて、カーズ討伐同盟やら聖人の遺体の争奪戦やらで周囲がざわつく中。
ある意味では誰よりも早くカーズに接触したといえなくもない琢馬。
この出会いがどう転がっていくのか。皆も少し“考えて”みておくれよ――

172際会 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/06(日) 21:45:11 ID:dBatcEpE
【D-3 路上/一日目 真夜中】


【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(小〜中に回復)、疲労(なし〜小に回復)
[装備]:遺体の左脚
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子/噴上)、壊れた首輪×2(J・ガイル/億泰)
    ランダム支給品1〜5(アクセル・RO:1〜2/カーズ+由花子+億泰:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる
0.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる
1.目の前の男(=蓮見琢馬)に興味
2.ワムウと合流
3.エイジャの赤石の行方について調べる
4.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする
[備考]
※スタンド大辞典を読破しました。
 参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
 現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのは承太郎、吉良、宮本です。
 まだ琢馬の事は詳細を聞いていない&見ていないので把握していません。
※死の結婚指輪がカーズ、エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
 ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
 (そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
 1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
 2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
 3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
 4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『BLOOD PROUD』参照)
※遺体の左脚の入手経路は シーラEの支給品→シュトロハイム→カーズ です。
※カーズの首輪に「何か」が起きています。どういった理由で何が起きてるかは、次以降の書き手さんにおまかせします。
※康一たちとカーズの移動経路はE-4→ F-4→ F-3→ G-3→G-2 です。
 その間に夜(〜20時)までに発動する禁止エリアは存在しませんでした。


【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(極小)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る……?
0.ドでかい目標を持つものについていき、『答え』をその目で見る
1.その“もの”カーズと接触。あとはカーズの指示次第だが――?
2.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない=思考0へ
[備考]
※参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
※琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
 また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
 また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
※ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
 琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。
※DIOの館を手ぶらで出てきましたので、以下の所持道具を館に置いてきています。カーズの指示次第では放置して立ち去るつもりです。
 基本支給品×3(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、
 不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み、遺体はありません) 救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ

173際会 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/06(日) 21:45:57 ID:dBatcEpE
以上で投下終了です。
タイトルの「際会=さいかい」は偶然の出会いの事らしいです。
さて内容ですが、同盟より先にカーズと接触する人がいてもいいかなと。
あとは自暴自棄キャラって早々に動かさないと後が大変そうという独断と偏見ですw
カーズはカーズで自由奔放キャラですし。ということでこの二人を接触させる結果にしてみました。
誤字脱字や矛盾点などありましたらお気軽にご連絡ください。それでは本投下時にまたノシ

174名無しさんは砕けない:2017/08/12(土) 05:48:04 ID:DcMsNAkU
投下おつー
そう、我々は誰もが知っている!
『考えるのをやめた』という話を!
だが本当に我々は『考えるのをやめた』というのがどういうことなのか、理解しているのか?
『考えるのをやめた』とは何かを『考えるのをやめた』ではないか?
否、そもそも我々は考えようともしなかったのではないか。我々は知らない。誰も、知らない……。

自暴自棄で考えるのをやめたようでやめてないようでやめたとも言える琢馬はこのロワというかジョジョじゃ珍しいタイプな気もする

175 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/14(月) 14:36:48 ID:UtWUOXss
感想いただきありがとうございます!
もう少し期間を置いたら本投下を行いたいと思っております。

176名無しさんは砕けない:2017/08/17(木) 13:05:22 ID:W4JvXzRQ
投下乙です!
カーズに生存ルートが見えない………

177 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/18(金) 22:47:45 ID:o.OyDEgY
感想ありがとうございます!
えーと…本投下、といっても少々の誤字訂正だけになりそうですが、矛盾点その他は大丈夫でしょうか…?
リアル都合のため早くても22日火曜日の本投下になるかと思いますので、何かありましたらお気軽にレスください。。。

178引力 その1 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/12(日) 20:49:52 ID:9NyNyp/E
彼らの話をするとき、あるいは聞くとき。どうしても避けては通れない言葉がいくつか存在する。
今回はその中から『引力』というキーワードについて考えよう。

だが――今回は悠長に問答をしている場合じゃあなさそうだ。事態は刻一刻と変動している。
まずは答えを話そう。というよりも読んで字のごとくさ。引力とは『力』だ。

力……パワーとかエネルギーと言い換えても良いかも知れない。
引き合う、引き付けあう“力”。シンプルだが、それゆえに重要な要素だと言っても良いかもな。

――さて。“事態は刻一刻と”なんて言ったが今どうなっているか。
そうだな、これも結果から説明しようか。そのほうが紛らわしくないだろう。


トリッシュ一行はルーシーに出会うことが出来ずにいた。それは一体なぜか?そこに関わってくるのが『引力』だ。


まずはトリッシュ。ルーシー(と思しき存在)の声を聴き。
それをナランチャと玉美に問い。そこから幻聴だの罠だのという、ある意味お約束なやり取りをし。
そうこうしている内に、というのは少々違うが――ルーシーの声は彼女の耳に届かなくなった。

では話題に上がったルーシーはと言えば。こちらは改めて説明するほどでもないが……
DIOの館でのやり取りを思い出してもらえればトリッシュに声をかけている余裕なんか存在しないとわかるだろう。


つまり――トリッシュとルーシーの間にはたらく“引力”は弱まり。
もっと言うならルーシーの側はジョニィ・ジョースターというより大きな“力”に『引き寄せられた』という訳だ。


話をトリッシュ一行に戻そう。
“メッセージ”が途絶えたとはいえ。それが罠であれ何であれ。他に行く当てがないのもまた事実。
敵も味方も数少ない現状、とにかく移動すべきだというトリッシュ自身の提案で、再び北を目指すことになった。


そしてここに新たな『引力』が発生する。

179引力 その2 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/12(日) 20:52:23 ID:9NyNyp/E
目指していた方角にて地鳴りとともに突如出現した巨大な鉄塔。
玉美に曰く『地元の観光名所にそっくり』とのことだが、なぜそれが今ここに?
先の幻聴、そしてこのタイミング。何もない訳がない。無視できる訳がない。

ちなみに鉄塔それ自体もイギーに支給された紙から地球の『引力』に従って地面に突き刺さった訳だが――今回は置いておこう。
彼らを呼び寄せた“力”は鉄塔のもつ“パワー”の比ではなかったのだから。


最大限の警戒をし。最小限しか音を立てずに歩み続けるトリッシュたち。
不意に先頭を行くナランチャが手を伸ばし立ち止まる。
振り返りこそしなかったが、トリッシュにはその表情がどんなものかは容易に想像できた。

「……いくつ?」
スパイス・ガールを介しての問いに、開かれた指が折られて形を作る。『2』だ。

この状況、何をもって優位とするか。単純に数が多ければいいというものではない。
それどころか、後方の警戒を請け負った玉美の腰が引け始めている気配すらある。
これで数にしてみれば互角、守りながら戦闘になるとしたらむしろマイナスだろう。

チラリと振り返ってみれば玉美と目が合った。
瞳が揺れ、一瞬後には口から弱音が漏れ出しそうな表情ではあったが、それを軽蔑することは出来ない。
く、と小さく頷き前を向きなおせば今度はナランチャと目が合う。
少し細められた目は、それも玉美を軽蔑する眼差しではない。『任務を全うするギャングの眼差し』だ。
しかしその“一人で行く決断”を許す訳にはいかない。首を振りナランチャを制する。

迅速な決断を求められるトリッシュ。
チリチリとした緊張感が限界に達する。
自身の体調やルーシーの心配もあるからと撤退を宣言しようとした刹那。

「ふたつ先の角にいる三人組!俺たちはこのゲームに否定的な者だッ!
 今からそちらに出ていくが、対等な出会いをお願いしたいッ!」

180引力 その3 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/12(日) 20:52:56 ID:9NyNyp/E
ここで!このタイミングでッ!?ギョッとする三人。
ナランチャがレーダーを数秒見つめ、頷く。間違いない、声の主はこっちに来る。
しかも相手はこちらの人数まで言い当てた。それが何を意味するかは想像に難くない。
真っ先に力を抜き、スタンドを引っ込めたのは意外にも――いや当然、トリッシュ・ウナ。
次いでナランチャと玉美。隊列も崩して横並びに立ち尽くす。

間もなくして現れたのはバンダナの男と、犬。
先ほどトリッシュが“なんにん?”ではなく“いくつ?”と問うたのはこの可能性を考慮してだったのだが、そんなことを喜んでいる場合でもなくなってしまった。

「俺の無礼な願いを聞き入れてくれてありがとう。
 さてお三方、こんな夜道にどこへ行こうというんだい?」
バンダナの男から発せられたそれは先ほどの声色と同じ。つまり――

「オイオイオイオイ、油断させようったってそーはいかねーぜ」
「そッ、そーだそーだッ!こっちは三人、てめーは一人と一匹じゃあねーかッ!」
と、トリッシュの心配を代弁するかのようにナランチャと玉美が凄む。
だが口に出さ無くても……慌ててトリッシュが制するが、相手の男は柔らかい笑みを浮かべていた。
(犬のほうは警戒しつつも興味なさげに顔を掻いていた)

「まさか!もし、俺たちがゲームに乗っていたとしたら君らに声をかけずにそのまま襲ってるさ。
 ま、もっとも俺は女性には手を上げるなんてゲス野郎みたいな行動はもってのほかだと思っているがな。
 それで、シニョリーナたち。君らはどこかに向かっているように見うけられるが……こんな暗い夜道は危険だ。
 俺も一緒に行こう。君の力になりたい」

……ん?
と不思議がる暇さえ与えられないようだ。つくづく状況は変化し続けるものだと痛感する。

「オイてめー、こんな場所でナンパかよ!?」
「サラッと文面から俺ら抜いてってるんじゃあねェーッ」

戦闘前の威嚇合戦とは少し毛色の違う敵意を自分の両サイドから感じ始めるトリッシュ。
二人の頭に軽くゲンコツを食らわせ、口を開く。

「……ここで断ってもあなたのこと、絶対に諦めなさそうね。
 確かに私たちはある場所に向かっていたところ。あなたたちが来た方向よ。
 とりあえず、そこらで情報交換といきましょうか」


――と。分かったろう?
トリッシュたちに働いた『引力』はシーザー・ツェペリとイギーとの『引力』だったって訳だ。

そして最初に言った通り、引力とはすなわち“力”だ。
ナランチャのエアロスミス、つまりスタンドパワー。
シーザーの波紋レーダー、呼吸が生み出すエネルギー。
それに比べたら、そりゃあ鉄塔が引力によって落っこちただなんて、些細にもほどがある。

おっと、最後に一つ。
俺が感じ、そしてどうしても君らに伝えたかった『引力』の凄さを彼らのセリフとともに紹介して終わりにしよう。


「ところでシニョリーナ。俺は君に会ったのが初めてな気がしないな。どこかで会ったことがあるかい?」

「「て、テメェ性懲りもなくトリッシュ(様)のこと口説いてんじゃあねえよッ!」」

「――あら不思議ね、気のせい程度なら、私もあなたの事を初対面のようには感じられないわね」

「「えっ……エエェ――――ッッ!?」」

181引力 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/12(日) 20:53:34 ID:9NyNyp/E
【D-3とD-4の境界付近 民家内/一日目 真夜中】


【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:健康
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る
0.今後もトリッシュ様のお役に立つでござる
1.なんだこのナンパ野郎ッ許さんッ!が、トリッシュ殿の命令なのでとりあえず情報交換してやる
2.ナランチャは気に食わないが、同行を許してやらんこともない

【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
    不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.なんだこのナンパ野郎ッ!?でもトリッシュがあぁ言ってるし情報交換だけすっか
1.早くフーゴとジョナサンを探しに行こう
2.玉美は気に入らないけど 、まあ一緒でもいいか

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:健康
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服、遺体の胴体
[道具]:基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する
0.とりあえずこの二人組(?)と情報交換
1.さっきの声……ルーシー?今聞こえないのはなぜ?
2.フーゴとジョナサンを探しに行きたいけど、DIOの館に行くべき?
3.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発(ほぼ回復済み)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック、シルバー・バレット
[道具]:基本支給品一式、モデルガン、コーヒーガム(1枚消費)、ダイナマイト6本
   ミスタの記憶DISC、クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC、イギーの不明支給品1
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒
0.シニョリーナ一行と情報交換しよう
1.フーゴ、どこに……?とにかくフーゴに助かってほしい
2.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す
※DISCの使い方を理解しました。スタンドDISCと記憶DISCの違いはまだ知りません。
※フーゴの言う『ジョジョ』をジョセフの事だと誤解しています。

【イギー】
[スタンド]:『ザ・フール』
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[状態]:疲労(ほぼ回復)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する
0.こいつら(トリッシュ一行)と情報交換?勝手にやってろ、とりあえずついてくけど
1.あいつ(フーゴ)、どこ行きやがった!?
2.コーヒーガム(シーザー)と行動、穴だらけ(フーゴ)、フーゴの仲間と合流したい
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わないけど、DIOを倒したのでちょっと見直した

[備考]
※イギーのデイパックと中身の基本支給品(食料無し)は鉄塔付近に放置してあります。
※トリッシュを中心とした地図は他の遺体の点在箇所を示しています。部位は記されておらず、持っている地図に書き写されました。
 DIOの館以外に星が記されているかどうかは以降の書き手さんにお任せします。
※トリッシュとシーザーの面識と引力については完全に“気のせい”です(ジョジョロワ1stのオマージュですので影響力はありません、あってはなりません)

182引力 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/12(日) 20:55:02 ID:9NyNyp/E
以上で投下終了です。
だいぶ短い話になってしまいましたが、過疎な現状、とにかくフラグ立てまくってどうにか動かそうともがいております。
誤字脱字や矛盾の指摘等ありましたらお気軽にレスください。
本投下は少し時間をおいて行いたいと思います。それではノシ

183名無しさんは砕けない:2017/11/12(日) 23:07:47 ID:tJ2JGEd.
投下乙です!
シーザーとトリッシュの組み合わせとは懐かしいですねぇ!

184名無しさんは砕けない:2017/11/14(火) 23:27:28 ID:q.GWsZtc
投下乙です
じっくりと、でも確実に動いていくのが醍醐味なので先が楽しみです
イタリア人のカップル・・・うっ、頭が・・・

ところで宮本のメモはどうなったのでしょうか
あとレーダーとかで触れられていないシルバー・バレットは?
この2つが忘れられているのがちょっと気になりました

185 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/15(水) 08:55:34 ID:K5fc0oVg
感想、そしてご指摘ありがとうございます。

えー、宮本メモ・シルバーバレット、完全に失念しておりました。
本投下の際に以下のように修正しようと思います
・メモ:シーザーのセリフと状態表に追加
・シルバーバレット:ナランチャの「いくつ?」の数ほか、人数に関わるセリフを修正

上記の修正で問題ないか、また、その他にもまだ修正が必要そうな点がありましたらご連絡ください。。。

186 ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:25:53 ID:.nAPIYLU
ジョナサン・ジョースター、ジョニィ・ジョースター、ルーシー・スティール
投下開始致します。

187すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:26:58 ID:.nAPIYLU

――D-2、倒壊したサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の跡地にて。
後二時間ほどで日付が変わろうかという深夜、瓦礫の中に佇む一組の男女の姿があった。
辺りを見回して人を探す彼らの名は、先ほどDIOの館から脱出したジョニィ・ジョースターとルーシー・スティール。

「……やっぱり、誰もいない?」
「ああ、伝言でもあればと思ったけれど、本当に何も残っていなかった……
 こんな場所にいつまでもいたくないっていう気持ちはわかるけれど」

彼らの目的は第三放送直前、ジョニィが教会地下で遭遇した『ジョースター』との合流。
共通の仲間たるマウンテン・ティムは所在不明、ルーシーが呼びかけたトリッシュ・ウナもここまで来る間に遭遇せず。
そうなるとせめて、この教会跡でジョニィが遺体の中心と語るジョースターとの接触を試みたかったのだが……

「ジョニィ、わたしはその……ジョースター?
 その中の誰とも会ったことがないのだけれど……本当に信頼できる相手なの?」
「全員がそうかはわからない……けど、話が分かりそうなのはちゃんといた……
 それにぼくたちが会ったDIOという男は、似ていたディエゴと一緒で間違ってもいい奴じゃあなかった……
 だったら、ジョースターの側はぼくらの味方になると考えてもいいんじゃあないか?」

結果はまたしても空振り――目的の男たちは一人も残っていないどころかその足取りすら掴めない有様。
ムーロロの情報網、そしてその基盤であろうスタンド能力を考えると、このタイムロスは非常に痛かった。

「……聞きたいのは憶測でなく事実よ。実際会って、私が決めるしかなさそうね……
 あのムーロロが既に他の全員を私たちの敵に仕立てあげている可能性もある以上、油断はできないッ!
 …………他のジョースターはあなたよりかはましだといいのだけど」
「……わかったよ、今はそれで構わない……で、どうするんだ? ぼくにはこれ以上の案内はできない……
 地図を頼りに遺体を探す……いや、それより遺体の所有者に呼び掛けてここに来させられないのか?」

――『遺体』と『ジョースター』のどちらを優先させるべきか。
どちらも現在はわからないことが多く、しかも感覚だよりというのがなおさら不明瞭。
セッコを送り出した後二人は多少の口論を経て、結局ジョニィがルーシーを説き伏せてここまでやってきたが……
それが何の成果も得られなかったとあらば多少不機嫌にもなろうというもの。

「そんなに便利なものじゃあないわ……呼びかけても相手が聞いてくれるか……
 いえ、そもそもこちらの声がきちんと届いているのかすらあいまい……
 ただ、どこかにいることがわかるだけ…あなたこそどうなの?」
「ぼくも同じ…というより、さっきまではまるで誰かが呼んでいたようにだいたいの方向がわかったけれど……
 あの時だけが特別だったのか、今は何も感じない……
 この会場のどこかに何人かいる……それだけで、どこにいるのかは全くわからない」

不確かすぎる感覚では人探しに有力とは言えず、お互いに小さくため息を吐く。
……だが、次の瞬間ジョニィが目線を外す。

「いや、訂正する……『今』『ここに』誰かが来た……」

言いつつ一歩前へと出る――繋がりを感じるとはいえ、それが『味方』であるかは別問題なのだから。

188すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:30:53 ID:.nAPIYLU

#


「きみは、ジョニィと……そちらの女性は?」
「そういうきみはジョナサン、だったな……」

やってきたのは黒髪に精悍な顔つきの青年――ジョナサン・ジョースター……!
エア・サプレーナ島で目覚めた彼は仲間と合流すべく、川沿いを北上してようやく教会へと戻ってきたのだ。
他に誰かいないかと辺りを見回しつつ歩み寄ろうとする彼に対しジョニィは――



                                  ドン!!




                       ――――何の前触れもなく『タスク』を構え、発射したッ!!



「うわっ!!?」

不意を突かれたジョナサンは録に回避すらできなかったが……爪弾はどうにか体ギリギリを掠めるだけに止まった。
反射的に掠めた箇所を確認――『穴』は、無い。
次いで驚きの表情を浮かべるとともにジョニィの方へと向き直るが……
視線の先にはジョニィが殺意の表情とともに、相も変わらず構えていた。
――下手な動きをすれば即座に再攻撃するといわんばかりに。

「質問に答えるのは構わない……だが、それ以上近づくことは許さない……
 彼女こそルーシー・スティール、あの時話したスティール氏の婚約者そのひとだ……
 さあ答えたぞ。今度はこっちの質問に答えてもらう……
 さっきここの地下にいたきみたちはいったい、どういう繋がりなんだ?
 そしてあの後、ここで何があったんだ?」

まだ困惑顔のジョナサンに冷え切った声で要求、回答、そして質問が矢継ぎ早に浴びせられる。
初対面の時と同じ、あるいはそれ以上か。
一度対話した相手――加えて、ジョナサンは知らないが先の会話内容――からすれば過剰すぎる警戒だったが……

「……わかった! 望むならこの距離で、そちらの質問に答えよう!
 その上で撃つなら撃て! ただし撃った瞬間ぼくの丸太のような足蹴りが君の腕を折る、それでもいいのなら!」

そこはジョナサン、困惑こそすれどこれしきでひるむような男ではない。
むしろ知りあいとはいえ状況がわからない中ひとりで現れた相手に対しては当然の反応。
婦女子を守りながらとあらばなおさら慎重にもなると勝手に納得、負けじと覚悟を見せつけていた。

「あの場にいた者たちは、簡単に言えば血の繋がりがあるぼくの子孫たち!
 彼らはぼくの子供に孫に、そのまた子供……皆、ぼくから見て未来から連れてこられたといっていた……
 今ならはっきりと言える……ぼくらの姓が同じなのは偶然でなく、きみもおそらくそうだからだ……!」
「……なるほど、ね。やっぱりそういう繋がりか……血統についてはやはり心当たりはないが…………?」

思うところはあったが納得まではいかず、その指先はジョナサンの方を向いたまま……
ジョニィは一瞬ちらりと明後日の方向を見てすぐに視線を戻し、ジョナサンの言葉の続きを待つ。
対するジョナサンも相手を見くびってはおらず、いざとなれば本気で相手の懐に飛び込む覚悟だった。

189すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:34:05 ID:.nAPIYLU

「もう一つの質問の答えだが……ぼくらはあの後地上に出て、ディオ――きみが撃ったあの男と決着をつけた……
 教会が崩れたのは戦闘の影響……そして戦いの後、ぼくだけが川に流されてようやく戻ってきたところだ……
 気絶していたため放送も聞き逃してしまったし、ほかの皆がどうなったかはわからない……」
「………………」

返答が終わっても彼らの距離は変わらず、また向けられた指先にも動きはない。
どちらもまるで相手の次なる発言を待ち続けているかのような、長い沈黙が訪れる。
数分はそんな状態が続いただろうか……先に口を開いたのは、ジョニィだった。

「……放送を聞き逃したといっていたが、よければ教えようか?」
「いいのかい? ぜひともお願いする」
「……ジョニィ」

こちらは疑いまでは持っていないのか、狙われたままとは思えない口調でジョナサンが答える。
一方ルーシーは咎めるようにジョニィの方を見るが、彼は向き直りもせずに続けた。

「彼が答えた質問はふたつ、ぼくはひとつ……それくらいはいいだろう?
 ……それにひょっとしたら、彼は知らないのかもしれない」
「…………わかったわ」
「……?」

その様子を見てジョナサンは訝しむ。
ジョニィのみならず初対面のルーシーまで――どころか、むしろ彼女の方が――自分を警戒していることを。
そして『知らない』とは何のことか……と考えるうちにジョニィの口から第三放送の内容が告げられる。
ジョナサンにとっては悪夢……いや、夢ならどんなに良かっただろうかとさえ思える悲報が。

「そんな……ツェペリさん……それにF・F、花京院、仗助まで……
 いったいあの後何が起こったというんだ……それにほかの皆はどこへ……?」

同じ情報でも、聞く者が変われば当然反応も異なる。
スティーブン・スティールの死もジョナサンには優先度が低く、そこに対する反応はさほどでもなかったが……
話が先へ進むにつれ、ジョナサンの表情は驚愕に困惑、そして悲嘆に染まっていく。
加えて、教会近辺には仲間たちの姿が一人も見当たらなかったという事実もそれに追い打ちをかけていた。

「死者を悼むのも、仲間を心配するのも結構……だが、あんたが今やるべきことはそうじゃあないだろう?」
「……すまない、その通りだ」

さすがに見かねたのかジョニィは未だ指先を向けたままながらも彼に言葉をかけ……
ジョナサンもその不屈の精神力で顔を上げ、あらためて二人へと向き直った。

「きみらは、これからどこへ行くんだい? ……よければぼくも一緒に」
「それは――――――」

顔を見合わせた後、二人は同時に言った。


                              「「教えられない(わ)」」

190すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:36:38 ID:.nAPIYLU

#


――先程の対話からしばらくして。
ジョニィとルーシーは同行を断ると何処かへと去っていき……残されたジョナサンはその場に留まっていた。
ひょっとしたら皆が戻ってくるのではないかという希望を込めて……現実は非情であったが。
そんな彼に声をかける者は誰もおらず――――



                          『随分と嫌われたものだなあ、ジョジョ?』



――――いや、いた。
『リンプ・ビズキット』の能力で蘇り、いまや彼の『そばに立つもの』―――DIO。
その胸中こそ不明だが……結局ジョナサンは、DIOとの同行を選んでいたのだ。
先ほどの対話の際、別段何かするでもなしに終始黙ったままだった彼が……ここにきて喋りはじめる。

「……誰もが会って間もない他人を手放しで信用できるわけじゃあない、彼らにも事情があるんだろう……
 それよりディオ、ここであの後何が起こったのか、きみはどう思う?」
『おや、過去のことを調べるのはおまえの専門分野だったはずだが……?
 まあいい、俺の推測でよければ聞かせてやる』

……忘れがちではあるがこの二人、数時間前お互いの全てをかけて戦った宿敵同士。
それが今、様々な意味でかりそめに近いとはいえ昔のような友人に近い立場で現状を相談している。
――本人たちの自覚通り、これほど奇妙な関係も他にないだろう。

『おまえも見ているだろうが、鐘楼にいた俺の部下――ジョンガリ・Aというが――おそらく奴が『何かした』……
 そうでなければ最後に見てから放送までの短い間に、少なくとも怪我が軽かった花京院が死ぬとは思えん』
「……!」

他二人――自らが致命傷を与えたであろう者――については一言も触れず、さらりと述べた。
良く言えば客観的、悪く言えば他人事な見方であるが、それでも自分が見えていなかった箇所を指摘してくる。
思わず耳を真剣に傾けるジョナサンだったが、さすがのDIOにもそれ以上の考えはなかったようであり……

『後は正直俺にもわからん……教会の崩落を見てやってきた何者かの対処か、他に何か理由でもあったのか……
 ともあれ生き残り全員でどこかに移動した、と見るべきだろうな。いずれにせよ確かなのは、ジョジョ――――――』


                        『おまえはあいつらに『見捨てられた』ということだ』


聞き終えたジョナサンはわずかに嘆息する。
単なる嫌味かそれとも現実を突きつけられたのか……彼ら以外には判別できない奇妙な友情もまた健在だった。

「ディオ、理解しろとまではいわない……だがわからないわけではないだろう? 彼らはそんな人間ではない」
『ほう? ではおまえが目覚めてからここに戻る途中、あいつらの誰とも出会わなかったのをどう説明する?
 まさか偶然行き違いになったなどという答えで俺を失望させないでくれよ?』
「………………」

191すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:38:46 ID:.nAPIYLU

DIOの見解にうまく反論できないのが癪ではあるが。
現在地である教会跡にメッセージすら残されていない以上、可能性は限られる。
仲間たちは自分がここへ戻ってくることを想定していなかったか、あるいは急いで移動する必要があったか……
ジョナサンの出した答えは後者だったが……全く手がかりがない不安からか、やや自信なさげであった。

「その時点でぼくよりも優先すべき、なおかつ急を要する事態があったんだろう。
 重症を負った者もいたし、彼らを急いで治療するためにいったん場所を移したのかもしれない……
 ぼくは見捨てられたのではなく、ひとりでも大丈夫だと信用されていたんだ……たぶん」
『信用ときたか……その信用とやらであれだけ痛い目を見てまだそう言えるとは見上げた精神だ、敬意を表させてもらおう』
(………………承太郎)

そのやり取りでジョナサンの頭の中にひとりの男の姿が浮かぶ。
自分の想像よりもずっと危うかった彼は、無事なのだろうか。
おそらく生きてはいる、だが自分が最後に見た限り彼は相当の重傷、さらには一緒にいた花京院が――――

(いや……覚悟はしておくが、ぼくがいま考えるべき事ではない)

彼は一人ではない――生き残ったジョセフとジョルノがいる(アナスイもいるけど)。
DIOと戦う中承太郎の胸中を知った彼らが一緒にいる以上、最悪の事態は免れているはずだと自分を納得させる。

『さてジョジョ、このままでは何も進まんぞ……いい加減動くべきではないか?』
「……そうだな、それじゃあ空条邸へ向かおう。
 確かそこで第四放送時に仲間たちと待ち合わせをしたと聞いたし、皆もそこへ向かったのかもしれない」

それでいいかい、と目配せして意見を求める。
DIOはそんなジョナサンの順応性の高さに呆れつつ、面倒そうに答えた……が。

『好きにしろ、どのみち俺に選択権などないのだからな……
 ところであらためて思ったのだが――ジョジョ、おまえに隠しごとはやはり向かんようだ』
「……それは、どういう意味だ?」

……手を当てた口元はその時、笑みを浮かべていたのか不機嫌そうに結ばれていたのか。
DIOは一瞬だけ沈黙したのち、彼らの去った方角を眺めながら言った。


                         『――――あの二人、明らかに俺が『見えていた』』

                                 「……えっ?」


衝撃の発言にびくり、とジョナサンが震える。


                           ――――それ以上近づくことは許さない……


DIOの言葉が本当ならば、先ほどのやり取り全てに説明がつく……ついてしまう。
――いきなり撃たれたのも、近づくことすら許されなかったのも、行先も目的も教えてもらえなかったのも。


                         ――――ひょっとしたら、彼は知らないのかもしれない


DIOは透明ゾンビ、つまり普通なら相手に見えないということはなんとなく理解できている。
彼らに話さなかったのはそのためだが……そこから誤解が生まれたのかもしれない。
『知らない』とはすなわち、そばに立つDIOの存在を自分が認識していないということだったのではないか。

192すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:40:06 ID:.nAPIYLU

                              ――――教えられない(わ)


さらに理解する……
彼らは知り合いである自分と、敵であったDIOが並んで立っているのを見て……
そして自分がそのことに一言も触れようとしないのを見てさぞ葛藤していただろうことを。
あの程度の対話では到底足りぬほどに聞きたいこと、言いたいことがあったであろう事実に。

「…………本当、なのか?」
『俺は『見られている』感触には特に敏感でな……そしてあの出会い頭の一発……
 あれの狙いが俺でなければおまえはとうに地面に転がっていただろうよ……
 何より話の途中、大げさに目線をそらせば奴らも一瞬そちらを見た以上、ほぼ確実だ……』

どちらも言われなければ偶然で済ませられる、というよりそう思っていた。
だがあらためて考えてみれば確かにその通りであり、半信半疑だったジョナサンも信じざるを得なくなる。

「…………一体、何故ッ!」
『……見えた理由か? ――――さあな。
 おまえは俺の状態について理解しているからいいだろうが……
 他のやつらに今の『俺たち』はどう映るのか、一度その無い脳みそでよく考えてみることだな……』

混乱するジョナサンはDIOの言葉が意味ありげな間を置いたことにも気づかない。
無駄だとわかりつつ彼らの去った方を向くも、既にその姿は見えなくなっていた。
状況が好転するはずもないのに呆然と立ち尽くしてしまうのは、後悔という人の性であろう。

『追うか? 今ならまだ間に合うかもしれんぞ』
「…………いや」

相手の目的地がわからない現状では合流できる可能性は低い。
例え合流できたとしても、今のままではまた撃たれるのが関の山だろう。
先程DIOについて言わなかったこともあり、どう説明すべきかジョナサンには良い考えが浮かばなかった。
結局進路は最初の考え通り、空条邸――東のままとなる。

『しかし昔を思い出すなあ、ジョジョ?
 主導権を握っているようでその実、俺に全てを奪われていき……気付けばおまえはひとりきりだ……』
「ディオ、きみというやつは……いや、ぼくは絶対に屈したりなんてしない……
 きみもぼくももう、あの時のような子供じゃあないんだ」
『フフフ、黙って立っているだけでこれでは、実際俺が口出しを始めたらどうなることやら……
 まあ安心しろ、俺はお前に逆らわん――黙っていろ、あるいはいっそ消えろと命令すれば、従ってやるさ』
「……命令なんてしない。もしおまえが人に害をなすというなら……
 その前にぼく自身の手で、今度こそ完全に消滅させてやる」

はっきりと最後の言葉に返すと、しっかりとした足取りでジョナサンは再び歩き出す。
傍目には一人で、その実傍らに一人の男を伴いながら…………

(ジョジョ、気付いていないようだな?
 おまえが俺を連れていくことを選択した時点で、その決意が全く意味などなさないことを……
 本当に度し難い甘ちゃんよ――それこそ、子供の頃から全く変わらず、な…………
 まあ、その甘さゆえに先ほども見逃してもらえたのだろうが……)

かつて死闘を繰り広げた宿敵と共闘する――聞こえとしてはこの上なく良い響きだろう。
だが、それは同時に事情を知らぬものに対して巨大な爆弾を抱えるということにもなり得るのだ。
これから彼らが出会う者たちの誰が味方となり、誰が敵となるのであろうか…………?

193すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:41:33 ID:.nAPIYLU


【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会跡 / 1日目 真夜中】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:波紋法
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:左手と左肩貫通(応急処置済)、疲労(中〜大程度に回復)
[装備]:リンプ・ビズキットのスタンドDISC、透明なDIOの死体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒
1.第四放送までに空条邸に向かい、そこで仲間と合流したい
2.蘇った(?)ディオと共に行く、ただし何かあれば即座に対処
3.ジョニィたちと再会したらディオのことを説明したい

※ジョニィから第三放送の内容を聞きました。
※DIOとどの程度情報交換したかは後の書き手さんにお任せします。

【透明になったDIOについて】
0.能力は原作に準拠。スタンドビジョンはなく、死体を透明ゾンビとして復活させ使役する。
1.あくまでもリンプ・ビズキットによって生み出されたものなので『世界』は使用できない。
2.同様の理由で吸血もできないと予想されるが、ゾンビの本能での『食らいたい衝動』はある。ただしDIO自身の精神力で抑制中。
3.原作の描写から、遺体が動いているわけではないが、透明DIOにダメージがあれば遺体にフィードバックする模様。つまり大統領が回収したDIOの遺体に変化がある。
4.リンプ・ビズキットに課せられた制限は『使役できる人数』のみ。ただし詳細は不明。
5.DIO自身はなかなかハイな状態。しかし尊敬するジョナサンの命令には(能力を抜きにしても)従うつもりなので、彼が死ねといえば喜んで自殺するだろう……



【D-2→??? / 1日目 真夜中】

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1 → Act2 → ???
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:右頬に腫れ
[装備]:ジャイロのベルトのバックル、遺体の右目
[道具]:基本支給品、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロの無念を――
1.ルーシーと共に行動。当面の目標はジョースター一族と合流すること。ただしDIOは避ける。
2.遺体を集める

※Act3が使用可能かどうかは次の書き手さんにお任せします。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:処女懐胎
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド、大量多種の角砂糖と砂糖菓子
[思考・状況]
基本行動方針:??
1.ジョニィと共に行動し、遺体を集める。身の安全を最優先。DIOは避ける。


【備考】
・ジョニィとルーシーは透明ゾンビのDIOが視認できていました。
 一度全ての遺体を取り込んだり遺体の『眼球』を所持していたからなのか、部位関係なく遺体を所持していたからかは不明です。
・この後二人がどこへ向かうかは後の書き手さんにおまかせします。

194 ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/13(土) 18:45:22 ID:.nAPIYLU
以上で投下終了です。
大規模バトルの準備を整えていく……実現するかは不明ですが。

透明DIOに関してちょっと独自の設定があるので仮投下させていただきます。
この点や他にご指摘、感想などありましたら遠慮なくお願い致します。

195名無しさんは砕けない:2018/01/13(土) 21:00:13 ID:8K9cVgAg
おお!ブラボー!あけおめです!投下乙です!
透明ゾンビの可視化についてはせっかくのDIO様復活(?)なら他キャラとの絡みを増やせるので良いと思います
遺体の影響で可視化できる範囲を融通効かせてくれているので問題ないかと
明後日の方向〜も再度読み返してすごくおしゃれさを感じました
重ねてですが投下乙でした!

196 ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/20(土) 23:55:29 ID:UUJdlnPE
ご意見、感想ありがとうございます。
レスが少ないのは如何ともし難いですが一人でも読んでくれる人がいる限り書き続ける所存です。
とりあえず問題は無さそうなのでもうしばらくしたら本投下したいと思います。

197名無しさんは砕けない:2018/01/22(月) 08:38:41 ID:9uqO726g
遅くなりましたが、投下乙です。
私も195氏と同様の理由でDIO可視化はありだと思います。
遺体の影響とか、主催者の制限で“目を凝らせば見える程度に〜”とか、解釈は多々あると思います。
本投下にも期待しています!

198名無しさんは砕けない:2018/01/22(月) 19:47:26 ID:irE1rWC.
リンプ・ビズキット側の制限にするにはロワ序盤でスポーツマックスが発動したときにエンヤ婆やDIO、ウォルペまで透明で見えなかったはずだから首輪だけじゃなくて別途一捻りいるかも
DIO様すげぇ!で済むかもだけど

199 ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:06:37 ID:RH.Zpfbs
ジョセフ・ジョースター、ジョルノ・ジョバァーナ、カンノーロ・ムーロロ
投下開始致します。

200Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:09:22 ID:RH.Zpfbs


――ボスが姿を現した。

その噂はギャング組織、パッショーネ内を電撃のように駆け巡り、多く……いや、ほぼ全ての者に驚愕をもたらした。
さらにその正体が若干15歳の少年とくれば、すさまじい混乱の渦が巻き起こったであろうことは想像に難くない。

そんな混乱を意にも介さず……むしろそれに乗じたというべきか。
若きボス――ジョルノ・ジョバァーナは大胆に、且つ迅速に組織を統率していったのだが……
その手腕を見てなお、全員が納得したわけではなかった。
わかりやすい例を挙げれば、組織の設立は何年前で当時彼は幾つだったと思っているのか、といったもの。
そんな声が密かに、しかしあちこちで上がるのもある意味当然なほどジョルノは『若すぎた』。

そのような声が『不信』に変わり、真実か否か探ろうとする者が現れるまで時間はかからなかった。
無論、組織においてボスの正体を探ることが何を意味するかは周知の事実。
だがこの一件はそれを踏まえてなお、調べる価値があると判断されたのである。
万が一ジョルノが『偽物』だった場合、個人の立場どころか組織全体がひっくり返りかねないのだから。

飛び交う噂やその出所から真実を突き止めようとした者。
部下や情報屋に金や権力を使って探らせた者。
自らボスへと近づいて探りを入れた者。
手段は様々だが、ボス側に悟られぬよう密かに……それだけは共通して、決して少なくない人数が動き出した。
しかし、彼らの『調査』は早々に行き詰る。

――ジョルノ・ジョバァーナ、これはイタリアで名乗っている名前であり本名は汐華初流乃。

   現在ネアポリス地区の高校に在学、同学校の寮に住む15歳の学生。

   一見普通の少年だが裏では『いろいろ』やっており、他ならぬパッショーネに目をつけられたこともある。

   母親は日本人、父親はイタリア人だがこちらは義父。

   どちらも碌に面倒を見なかったため親でさえ彼の細かい行動についてはよく知らない――

そんな公言されている当たり障りのない事実だけで満足できるはずもないが、そこから先が出てこない。
手掛かりといえそうなのは「理由は不明だが、彼は幼い頃からギャングと関わっていた」という程度。
結局、深入りを避けた者は関係あるんだかないんだか……そんな宙ぶらりんな情報しか入手できなかった。

ならば、と幾人かは別方面からの調査を試みた。
彼のルーツ……本来の父親から何か足取りを掴めないかとはるばる海外まで足を運んだのである。

だが、この父親も父親でまた謎の存在であった。
単にネアポリスでの聞き込みだけで、顔も名前も住んでいた地域もあっさり判明する。
にもかかわらず、現地の人間からも記録からも何故かその父親の情報がまったく出てこない。
そして、手間取っているうちに彼らはその地で妙な集団に囲まれ、こう質問されるのだ。

                    「――何故、『彼』のことを調べているのですか?」

その相手が最近組織と提携した、とある財団の人間だとわかればそこまで……泡を食って逃げ帰るほかない。
即座に身を隠す、あるいは依頼主へ調査結果と「これ以上は無理だ、オレもあんたもヤバイ」という言葉だけ残して去っていった。

201Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:11:22 ID:RH.Zpfbs

……とまあ、だいたいの者は何の成果も得られずに終わったのだが、これらはあくまで一般的な調査の範疇。
組織の一部において重要視されていた『スタンド能力』を扱う者たちを忘れてはならない。
無論ほとんどの者はそもそも動かないか、または能力的、立場的に独力で動かざるを得なかったのだが……

カンノーロ・ムーロロも動いた人間、そのうちの一人。
自分の命すら惜しくない彼は大胆にもそのスタンド能力でジョルノ本人をマークするという手段に出た。
物陰や地面、壁の隙間から……気づかれないようにではあったが、逐一彼の行動を監視させたのである。

結論から言えば、ムーロロもまた決定的な証拠は得られなかった。
それどころか逆に暗殺チームに情報を流していた事実をつかまれ、後に彼はボスから呼び出される。
そこで「ぼくにもプライベートはある」と告げられたことで彼の監視は終わりを迎えるのだが……
その対峙が行われたのはこの殺し合いが起こらなかった、まったく別の世界での話。


――――結局、少なくない人数が動いたにもかかわらず『真相』にたどり着いた者はひとりとしていなかった。
だが逆にその事実でこれまで通りの『謎のボス』に箔がつき、次第に本物だ偽物だという声も消えていった。

カンノーロ・ムーロロは、これからそんな謎のボスと『初めて』顔を合わせることになる―――


#



C-3、DIOの館……その門前。
D-2から近くの橋を渡り、そのまま北東へ進んできたのはジョルノ・ジョバァーナとジョセフ・ジョースター……
彼らは先ほど探知した『敵の敵』と接触するべく、回復も兼ねてやや時間を掛けつつもここに来ていた。
完全に同時というわけではなかったが、C-3とD-3の境目にある橋を南下したジョニィ達とすれ違って。

「――――よう、待ってたぜ」
「「……!」」

だがいざ館内へ入ろうとした矢先に彼らは出鼻を挫かれる。
中から無造作に門を開け、姿を見せたのは彼らの来訪を既に察知していたカンノーロ・ムーロロ。
目的の人物があまりにも堂々と登場したことに二人は一瞬気を取られ、相手に口を開く隙を与えてしまう。

「あー、言いたいことは山ほどあるだろうが、堂々と密会ってのもアレだ、こいつの中で話そう」
「……それは」

差し出されたのはムーロロ自身がここまで持ってきた『亀』。
説明しようともせず、さっさとその中へ吸い込まれるように入っていく。
返事すら待たない一方的、されど断れない提案により即座に会話のペースはムーロロに握られた。
……しかし。

「いかにも罠ですってカンジだが……脳ミソ足りてねーな。ケケケ、それじゃあさっそく亀ごと――」
「待ってくださいジョセフ、ぼくはこの亀を知っている……入るだけなら何も問題ないでしょう。
 彼についてはまだわかりませんが――周囲には誰もいませんよね?」
「ん? おう、そりゃあ問題ねーぜ」

残された二人だったが、これしきのことではうろたえない。
頭脳派な彼ららしくまずは意見交換と周囲の警戒、同時にそれでいて迅速に行動を決めていた。
……それすら、ジョルノは亀を知っているという事実を逆手に取ったムーロロの策とも知らずに。

202Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:13:22 ID:RH.Zpfbs

「……では、ここはあえて相手の懐に飛び込んでみましょう。
 おそらくですが、相手がこうして姿を見せたこと自体追い詰められている証拠でしょうから」
「出たとこ勝負ってわけか、チトまどろっこしいが……よーし、乗ったぜ」

まずジョルノが亀の中へと入り、真似してジョセフが続く。
中に広がる空間にジョルノは多少の警戒、ジョセフはそれに物珍しさも合わさって視線を動かしていたが……
すぐに彼らの視線は正面のソファーにどっかりと腰掛ける伊達男――ムーロロへと移る。

「ようこそ……ここには上座も下座もねえから席はご自由に。
 飲み物は……あー、さすがに飲んでる場合じゃあ――」
「おれはコーラで」
「………………おう」

互いに臆すような気配など微塵も見せず、ジョルノとジョセフは揃ってソファーに腰を下ろす。
まずはどちらも沈黙……ムーロロの出方を待っていた。

「もう知ってるかもしれんが、フェアということで一応名乗らせてもらうぜ。
 オレはカンノーロ・ムーロロ。組織の情報分析チームを任されてる……あー、この辺の説明はいらねえかな」
「「……」」

返事すらせず、黙って睨む……というより胡散臭い目で見ているといった感じだろうか。
理由は異なれど、ジョルノもジョセフもこの相手に自己紹介など必要ないと理解していた。
それを裏付けるかのように、ムーロロ側に警戒は最小限しか見られない。
何もしないうちにいきなり自分が殺されはしないという確固たる自信があるかのようだった。

「さっそくだが本題に入らせてもらうぜ……カーズを倒すのに手を貸してほしい」
「理由は」
「残る参加者の中で、積極的に殺しまわってるのはもうあいつひとりだけ……
 つまりあいつさえなんとかしちまえば、あとは全員で協力して……わかるな?」
「戦略は」
「まず、やつは第四放送時に会場の中央に現れる――こいつは確かな情報だ。
 そして戦力の提供はできるんだが、策はない……むしろそっちにあるんじゃあないか、なあジョセフ?」
「……え、おれ?」

ジョルノの無駄を削ぎ落した質問と、予測しているかのようにすらすら返すムーロロ。
そんな二人が織りなす超スピードの会話の最中、突如話を振られてジョセフは面食らう。
だがそれでも、カーズの話題となれば自分以外に語るものはいないということで頭に手を当てつつ喋り始める。
柱の男についてほとんど知らないジョルノも一旦口を閉じ、そちらに注意を向けた。

「……あいつは、ひとをだますのが得意なスンゲー悪趣味なやつだぜ……
 だから事前の戦法は決めねえ方がいい……決まった動きしかできねえんじゃあ速攻やられちまう……」
「もう少し具体的に……弱点とかねえのか?」
「そりゃ簡単、あいつはズバリ太陽の光に弱いぜ…もっとも、この時間じゃあ無いものねだりだけどよ……
 おれの波紋はそれと同等のエネルギーだから、そいつを叩きこめりゃ有効だ……叩きこめりゃ、な」
「……オメー、質問の意味わかってるか? 結局オレたちにはどう戦えってんだ?」

あれも駄目、これも駄目……素か挑発かは不明だが建設的な意見が出てこない。
うんざりした声で問われたジョセフはしばし逡巡する。
一度は勝利した彼といえど、カーズ相手に楽勝!となるような方法などまったく思い浮かばなかった。

203Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:15:24 ID:RH.Zpfbs

「そこなんだよなあ……なあ、こっそりあいつの首輪爆破できたりしねえ?」
「……それができるなら、わざわざオメーらにこんな話持ちかける必要なんざねーだろ」
「ケッ、偉そうにしといて結局人任せかよ……
 はっきり言っとくけどあいつに波紋無しで挑むのは無謀だぜ、触っただけでアウトだからな……
 そっちが提供する戦力に波紋を使えるやつは?」

ジョセフの質問に、ここで初めて考え込むようなしぐさを見せるムーロロ。
今現在ジョセフを除けば残る波紋使いは二人、彼らの居場所もだいたいわかっている。
だがジョナサンはムーロロ側が提供するわけではないし、シーザーはそもそもフーゴの味方で協力は難しい。
それらを正直に言うこともできない以上、ムーロロの回答は――

「…………いねえな、今のところひとりもいねえ……残念ながらな」
「では、正面からの接近戦は避ける方向で――」
「オイオイジョルノくん、だれかお忘れでないかね? 具体的にはきみの目の前にいるナイスガイとかねぇ……」

……一瞬の沈黙。

「……何?」
「……ジョセフ、それは――」
「心配ご無用! 知ってんだろ? こう見えてもボクちゃん、あいつに一度勝ってるもんねぇ〜」

ジョセフの提案を理解したうえで、なお納得しかねるムーロロとジョルノ。
彼は単なる(で片づけるにはいささか疑問だが)吸血鬼であるDIO相手にすら苦戦している。
今度の相手はより上位の存在である柱の男、しかも今はジョナサンを欠いてひとりきり。
過去の実績は聞いているものの……やはり、実際見るのと聞くだけなのでは受け止め方が違うのだ。

「なんだねその目は、ひょっとして疑ってる? 自慢じゃあねーが、元々柱の男は四人とも俺が倒したんだぜ!
 それに今なら奥の手もあるし、ダイジョーブよぉ〜ん」
「…………奥の手ってのは?」
「チッチッチッ、わかっちゃいないねえ……秘密だからこその奥の手だぜ?」
「……やれやれ、まあだいたい予想はつくけどな……今はそれに賭けるしかねえか」

見ている方が不安になるほど軽い態度に疑惑のまなざしが突き刺さるが、ジョセフは意に介さない。
何か言いたそうなジョルノに対しムーロロは先手を取り、言った。

「それじゃあ後の細かいことはこっちで話し合っとくから……
 ジョセフ、オメーは外に出てこの亀を持って会場の中央に向かってもらおうか」
「……オイ待て、なんでおれが――」
「カーズの時間指定は第四放送時、あと一時間ちょっとしかねえ。
 ところがこの亀は自力じゃあ文字通り亀の歩みなのさ……
 オレはジョルノと策とか連携とか話し合わなくちゃならねえし、亀をもって走れるのはオメーだけってわけだ。
 ほら、急がねーと間に合わねえぜ?」

さっさと行け、とばかりに手で追いやるような仕草を見せるムーロロ。
当然そんな扱いにジョセフが黙っているわけもなく――

「てめー、このおれを顎で使おうって――」
「ジョセフ、言う通りにしてください」

――横から口をはさんだのはジョルノ。
相手の思惑はともかく、下手すると時間どころか全てが『無駄』になるのは彼としても避けたかった。

204Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:17:22 ID:RH.Zpfbs

「カーズが現れるのは第四放送時の会場中央、つまり空条邸の近く……この意味が分かりますね?」
「……チッキショ〜! 揃って澄ました顔で労働強制しやがってっ!
 これから敵と戦いますって人に無駄な体力使わせんじゃねーッ!」
「おう、落としたりすんじゃあねーぞぉ?」

ジョルノの最低限のフォロー――自分たちが間に合わなければ待ち合わせをした仲間たちが危険に晒される。
それを理解したジョセフは文句を言いながらも亀の外へと出ていった。
……残ったのは、二人のギャング。

「――――あー、話はまとまった。今現場に向かってる……オメーも第四放送までに来い」
「…………盛り上がってるところすみませんが」

ムーロロは帽子からトランプのカードを取り出すと、それに向かって喋る……勿論一人芝居ではない。
もはや能力を隠そうともせず、おそらくは先ほど言った『戦力』の誰かに連絡しているのだろう。
ジョルノはそんな彼を黙って眺めていたが、連絡が終わったのかカードを離したムーロロに向かい――


           「――――ぼくらはまだ、あなたに協力するなんて言った覚えはありませんよ?」


――平然とそう言い放った。

「…………おいおいおい」

さすがにムーロロも驚くが、確かにジョルノもジョセフも協力を承諾などしていない。
だがなし崩し的とはいえ、どう見ても協力する流れだったのも事実。
このタイミングでの拒絶は完全に予想外……でもなかった。

(やりかえされた……ってわけか)

今はちょうど仲間に「交渉がうまくいった」と連絡した直後。
このまま何もせず交渉がご破算になれば……少なくとも仲間内でのムーロロの面目は丸つぶれになる。
退くに退けない状況を作り出し、相手を強制的に同じテーブルにつかせる……まさに先程彼が使った手だった。

(有効ではあるが、嫌らしいやり方だ……計算高いうえに最初から人を信じていねえな……
 正直、こんな状況でもなきゃ相手にしたくねえタイプだが……)

必然、ムーロロもまた同じように会話の主導権が相手に奪われたと感じつつも反論せざるを得ない。
……だが、同時に彼にはこの先の展開もある程度予測がついていた。
ジョルノが「あるもの」を要求するであろうことが。

「……ここまできて、そりゃ無いんじゃあねえか? あんたは柱の男を知らないからそんな事が――」
「いえ、協力してカーズを倒す……その考え自体は悪くありません。問題は――――」

一呼吸置くと同時にジョルノの目つきが変化する。
今までも鋭く睨みつけるようではあったが、さらに険しく――『敵』を見る目へと。

「あなたを信用していいのかどうか、です。自分のケツに火が点いているのはわかっていますよね?」
「あー、やっぱりそう来るよな……当然、理解してるさ」

205Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:19:22 ID:RH.Zpfbs

持っている情報の異常なまでの多さと新鮮さ――情報収集能力に長けているということ。

これまで一切戦闘などしたことのないかのような小奇麗な身なり――後方支援に徹してきただろう証。

そしてたった今見せた、離れた相手への情報伝達が可能なスタンド能力。

全ての情報が以前ジョナサンから聞いた『DIOの部下』へとつながっていく。
会場のほとんどの参加者の位置を知ることができる者とはこの男だと、ジョルノは確信していた……!

「それは、認めるということでいいですね」
「……ああ、オレは嘘もつくし隠し事もするが、いくらなんでもあんたや承太郎を騙しきる自信はねえ」

『裏切り者』……DIOが死亡した以上その表現は過剰かもしれないが、鞍替えしたのは事実。
いざというときに裏切られ、スマンありゃ嘘だったでは済まされない――
ジョルノの言葉にムーロロは大きく息を吐くと、やはりすらすらと話し始めた。

「確かにオレはDIOの野郎に脅される形で手を貸して、あんたらの情報を喋っちまったさ。
 オレのスタンドはお世辞にも戦闘向きとは言えねえ。
 コウモリ野郎と思うかもしれないが、そうしなきゃオレが殺されてたからな……
 許してくれなんてありきたりな言葉じゃあ納得できねえだろうが――――」
「……おい」

――走りつつも聞き耳を立てていたのか、ムーロロが言い終える前にジョセフの声が降ってくる。
先程までの調子の良いそれとはまるで異なる、底冷えするような声。
外にいなければおそらく相手の胸倉をつかむくらいはしていただろう気迫だった。

「てめえ……それじゃあ……てめえのせいで仗助たちは……!」
「ジョセフ、制裁は後回しです……口だけなら何とでも言えますよね」
「…………」

バッサリと切り捨てるジョルノに悪態すらもつかずに外の声は止む。
だがジョセフの怒りをそのまま示すかのように彼の移動スピードは上がっていた。
そのやり取りを見届けると、ムーロロは再び口を開き言葉を続ける。

「DIOが死んだ今、オレがあんたらと敵対する理由はねえ。
 持ってる情報は包み隠さずやるし、気が済まないってんなら何発かブン殴ってもらってもかまわねえ……
 罪滅ぼしなんて大層なもんじゃあねえが、オレはあんたらと『協力』したい……
 オレは、生きてここから出たいんだよ……」
「……フゥーッ」

……無念そうではなく、また自嘲するようでもない喋り方。
先のジョセフとは対照的に、声から感情が全くと言っていいほど読み取れない。
ムーロロの声は、よほど心理に長けた者でなければ真実か否か判別できそうもないほど無機質だった。
聞き終えたジョルノは静かに息を吐き……


                            「今の話は、本当ですか?」



――――そう質問した。

206Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:21:33 ID:RH.Zpfbs


それは一見何の変哲もない質問であった。
だが言ってしまえば、この質問こそがある意味この話し合いの全てを決定づけたといってよい。

まずはジョルノ、彼にとってこの質問は彼らしからぬことに、無駄を多分に含んでいた。
答えが返ってくればいいな、とその程度の気持ちでした質問。
気の緩みとかではない、傍から見れば本当に些細で、同時に重大な質問をしてしまったのだ。

一方のムーロロは、まさにこの質問でジョルノを『見限った』。
彼としては、今すぐ潔白の証明として何かけじめをつけさせられるとでも考えていたところにこれである。

(こりゃダメだな、甘さに付け込んで利用してやるつもりではあったが……いくらなんでも度を越してる)

この質問、答えなど最初から決まりきっている。
例えるなら相手に「前のボスを殺して組織を乗っ取ったんじゃあないのか」と聞いたとして。
真実がどうであれ、「ええそうです」なんて答えるやつがどこにいるというのか。

(質問自体が『罠』の可能性は……ねえな)

一時的に彼の上司だった男、ブローノ・ブチャラティは相手の汗を見て嘘を見抜けたそうだが……
もしジョルノがそれに類する何かを持っているのなら、自分の本心などとうに見抜かれているはず。
ならばこの質問に裏はない……つまりは、この状況でそんな程度の駆け引きしかできない男だということ。

ジョルノが組織のボスかどうかなどもはや興味すらなかった。
確かに感じるものはなくはない、だがそのカリスマはDIOに遠く及ばない……
この殺し合いにおいて自分を導きたるボスの器ではなかったと、顔には全く出さずとも失望していた……!

とはいえ質問に質問で返したり、あるいは答えないわけにはいかないと思考を戻す。
返された答えは、どこまでもシンプルな一言だけだった。







                                 「嘘だ」

207Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:23:25 ID:RH.Zpfbs


――次の瞬間、ムーロロは吹っ飛んでいた。
体ごと部屋の壁に叩きつけられ、そのままずるずると床に崩れ落ちる……!

(――――!!? ッ……ぁ……な……く……やら………れ…………)

自分が攻撃を受けたことに今更ながら気が付く。
殴られたのは腹……! 防御するどころかそんな思考をする暇さえなかった。
まるで内臓ごとブチ抜かれたような……あるいは本当にブチ抜かれたのかもしれないすさまじい痛みに動けない。
だがそれすら気にならないほど、頭の中はある疑問でいっぱいだった。
その疑問とは…………



                      (――――今……『答えた』のは誰だ……!!?)


自分ではない。
ジョセフでもない。
ましてやジョルノであるはずもない。

それなのにどこからか声が聞こえてきたという、不可解極まりない現象。
誰がどうやって、そして何故あんなことを言ったというのか……?
状況を知るべくどうにか顔を上げたムーロロの目に、疑問の答えはすぐ飛び込んできた。

(なん……だと?)

それでも信じがたい……直接現場を見たわけではないが、彼は既に死んでいるはず。
その死体でさえ、今ここにあるわけがない。
だが事実、その人物はそこにいた――――



                        (――――こいつの名は……そうだ……)











                     (――――ジャン・ピエール・ポルナレフ……ッ!!)






                     ――――片目に眼帯を付けた、銀髪の男が……!

208Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:25:26 ID:RH.Zpfbs



――ボスが姿を現してからしばらく後、その正体云々とは別の噂が流れたことがある。
組織には『秘密のナンバー2』がいるのではないかという噂が。

いわく、ボスは若すぎる、交渉などの際表に出る代理人あるいは相談役となりうる年長者がいるはずだとか。
実質的な副長であるはずの拳銃使いがふと「ナンバー2はオレじゃない」と言ったとか言わなかったとか。
そんな小さなことから出てきた、出所さえもはっきりしない噂。
結局噂のナンバー2が姿を見せることは一切なかったため、すぐに立ち消えていった……その程度の話。

ボスを調査する際、ムーロロもその件について調べてはみた。
だがジョルノの外出時、いくら尾行させてもそれらしき人物とコンタクトをとっている様子はない。
直接会わずに指示しているとも考えたが、使用した電話にもメールにも記録がまったくない。
最終的には周囲と同じく、そんなナンバー2は存在しないという結論に達していたのだが……

(ありえねえ……こいつは第一放送前に死亡して、しかも承太郎に埋葬されたはず……
 死んだ後に発動する能力……? だとしても、いったいいつ……この亀の中に……?)

亀の入口は一か所のみ、しかも入るときはトランプのサイズだろうと必ず内外両方から丸見えになる。
つまりさすがのウォッチタワーといえど亀の中までジョルノの追跡は無謀と判断。
ジョルノが留守の際に侵入を試みたことはあったが、中には誰もいない……そうとしか確認できなかった。
招かれざる客には決して姿を見せない者がいるなどとは夢にも思わずに。

結果、実在した噂のナンバー2――ポルナレフの存在にはたどり着けなかったのだ……!

(……ち…き……しょう……)

手足に力が全く入らず、反撃どころか逃げることすら叶いそうもない。
それを理解したうえでとどめをさすつもりもないのか、既にジョルノたちはムーロロに見向きもしなかった。
……映画のワンシーンか何かだったか。
壁際にてライトで照らされ、追い詰められたスパイが撃たれて斃れる場面が自分の状態に重ねられる。
ただひとつ、異なるのは――



                ――――自分には、何のスポットも当てられていないことだった。




#



「よかったです……あなたがここにいてくれて」

多少ながら緊張が解けた顔でジョルノが言う。
わかってみれば単純……彼が先ほどした質問はムーロロではなくポルナレフに向けたものだったのだ。
時間のずれなどでポルナレフが亀の中にいなかった場合、無駄どころか信頼を失いかねない危険な『賭け』……
だが、ジョルノは見事それに勝利した……!

209Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:27:23 ID:RH.Zpfbs

「確証まではなかったのか? だとすると少々、危うい質問だったな……
 もしわたしの答えがなかったら、どうするつもりだった?」
「その時は見限られていたでしょうから、実力でねじ伏せる……やることは同じです。
 同盟を組みたかったのは事実ですが、彼を本気で信用するつもりなんてありませんでしたから」

いつも通りしれっとした顔で物騒なことを言うジョルノだが、ポルナレフが嫌悪感を示すことはない……
長い付き合いとまではいかないがジョルノのことはよく知っていたし、彼はずっと『見ていた』のだから。

「それが正解だ……ヤツは裏で密かに厄介な連中と組んでいるしな。
 まずはDIOによく似た、恐竜を操るディエゴ・ブランドー……
 それに蓮見琢馬……こいつはミスタともう一人、ミキタカという者の殺害に関わっている」
「……!!」

早速出てきた新たなる情報……まだ見ぬ、しかしどちらも因縁のある敵の存在にジョルノの眉がピクリと動く。
とはいえ口振りから察するに今すぐその二人と何かあるわけではないと判断し、話の続きに耳を傾ける。

「幸い、この部屋をよく使っていたおかげでヤツの持っていた情報はすべてここにある。
 カードを会場中に散らばらせることによる情報収集能力は大したものだが……
 ただ一点、すぐ傍にいたわたしの存在に気づけなかったのが致命的となったな……」
「灯台もと暗し、というやつですか――――んっ?」

唐突に亀が微妙に揺れる。
二人が見上げると、いい加減様子がおかしいことに気づいたジョセフがのぞき込んでいた。

「ジョセフ、どうかしましたか?」
「いや、ちょっと寒気が……じゃなくてそっちだよ、なんか知らねーおっさん増えてるし、何が起こってんだ?」
「おっさん、か……フッ、心配ない。わたしは味方だよ……『ジョースターさん』」
「???」

怪訝な表情のジョセフを見ながら、微かに笑ってポルナレフはジョルノへと向き直る。

「しかし、本当に待ちわびたぞ……
 この亀は開始からずっとヤツが持っていたし、信用できそうな者はひとりとして中に来なかったからな……
 DIOと出会ってしまったときには正直、既に肉体がないというのに背筋が凍るような感覚すら覚えたよ……
 まあ、そのあたりの話は後にして――――ム!?」

言葉途中で表情が変わったポルナレフにつられ、ジョルノも彼の視線の先へと振り向く。
そこにいたムーロロが――――


                「ジョルノ! ヤツが……いないッ!! どこに行ったッ!?」
                             「……なっ!?」


                      ――――忽然と姿を消していた。



「……ジョセフ! 鍵を外してください!」
「え……鍵? こ、これかッ!?」

中から飛ばされた指示にほぼ反射的に亀の背中についている鍵を外すジョセフ。
すると目の前に、ジョルノが引きずり出されてきた……ジョルノひとりだけが。
周囲を素早く見渡し、次いでジョセフに目を向けるジョルノ。
その目は、先読みに長けた彼でなくてもすぐわかるほど質問の内容を雄弁に語っていた。

「……い、いや、さっきから他には誰も出てきてねーぞ……?」
「……!!」

近くにムーロロの姿はない――つまり亀の中に隠れていたわけではないし、外のジョセフも見ていない。
何をどうやったのか、手段はわからないが彼らは完全にムーロロを見失った……!
ここに来て初めてジョルノの額に汗が浮かぶ。

「まずいぞ……! 今ヤツに逃げられたのなら、ヤツの仲間も全員敵にまわるのは時間の問題……
 そうなったら、一時的な同盟どころの話じゃあないッ!」


なぜならそれは、この一件におけるジョルノの唯一の誤算だったのだから……!

210Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:29:22 ID:RH.Zpfbs



【C-3とC-4の境目 橋上 / 1日目 真夜中】



【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:『隠者の紫(ハーミット・パープル)』AND『波紋』
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:全身ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、基本支給品×3(うち1つは水ボトルなし)、ショットグラス、念写した地図の写し、ココ・ジャンボ
[思考・状況]
基本行動方針:チームで行動
1.どこかに消えたムーロロを探す?
2.それともこのまま空条邸に向かって仲間と合流する?
3.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる
4.リサリサの風呂覗いたから念写のスタンド、ってありえねーからな、絶対

※『隠者の紫』の能力を意識して発動できるようになりました。



【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(小)、精神疲労(中)、両腕欠損(治療済み、馴染みつつある)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ、念写した地図の写し
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える
1.どこかに消えたムーロロを探す?
2.それともこのまま空条邸に向かって仲間と合流する?
3.ポルナレフと情報交換したいが……時間がない

※先に念写された『アイテムの地図』は消されてしまいましたのでメモ等はないですが、ジョルノのこと、もしかしたら記憶している・か・も



【備考】
・亀の中にムーロロの所持品(基本支給品、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、角砂糖、
 不明支給品(1〜8、遺体はありません))が放置されています。

【ポルナレフについて】
 参加者とは別のポルナレフ。
 ココ・ジャンボが五部終了後の時点で支給品にされたため、最初からずっと亀の中に幽霊として潜んでいました。
 ムーロロの行動を始め、亀の中の出来事及び亀から見えたものは全て彼も見ています。
 ひょっとしたら主催者に連れてこられて支給品にされるまでの出来事も見ているかもしれません。

211Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:31:22 ID:RH.Zpfbs


#


(ここは……オレは……いったい)

同時刻、ムーロロはどこかの街中にいた。
先程壁にたたきつけられた時と同じ体勢のまま、無数に並ぶ電柱のひとつ……しかもそのてっぺんに腰掛けて。

何故?という疑問が真っ先に出てくることだろう。
今のムーロロは動くことすら困難な状態。
そんな彼がどうしてこんなところにいる――もとい、移動できたというのか……しかも一瞬で。
本人すらも理解していないその理由は、彼の背中にあった。

遺体の脊椎部分、それが奇跡を起こして彼を瞬間移動させた……純然たる事実だけ言えばそうなる。

とはいえ、それでもなお疑問は尽きない。
確かに敵から逃れられたという意味ではムーロロにとって有益と言えるだろう。
だがジョルノは攻撃を行ったものの、敵と認識していたにもかかわらずムーロロにとどめを刺さなかった。
つまりあのまま殺されはしない――どころか、彼を『利用』するために治療していた可能性まである。
こんな人気すらない場所にわざわざ移動させられ、果たして助かったといえるのだろうかという話だが……

(どうする……まずオレの腹はどうなってる……?
 助けを呼ぶか……そうだとして、誰に……治せそうな奴は…………
 くそっ、駄目だ……声が……出せねえ……)

当のムーロロにとっては現状把握とその打破で精一杯……理由まで考えている余裕はなかった。
あるいは、どうにか逃げられた……その程度くらいは頭のどこかにはあったかもしれないが。
だが、彼は大きな勘違いをしていた。


     『君の無敵さは実のところ、無駄だ。どんなに強くとも、君は禁止エリアに入っているんだから。無駄無駄……』


苦難は終わらない……それどころか、さらなる試練がすぐさま襲い掛かることを……!

(……ッ! ウソだろ!? おい!)

誰もいないとすっかり油断しきっていた所に浴びせられる静かで、それでいて威厳を感じさせる声。
だが今の彼にとっては単に耳障りで、しかも聞きたくない事実を告げる声にしか感じなかった。

今のムーロロはまともに歩けないほどの重体。
しかも自分が会場のどこにいるのか、どちらにどれだけ移動すれば禁止エリアから逃れられるかもわからない。
おまけに大半の道具はデイパックと共に亀の中に置き去りという三重苦。

何かの拍子にもう一度場所が移らないものか、などとは考えもしなかった。
遺体が起こす奇跡のことをムーロロは知らないし、知っていたとしても不確かなものをあてにはできない。
ムーロロが助かるには運と……彼自身の生への執着力に賭けるほかなかった。

(……冗談じゃあ……ねえ!)

212Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:33:22 ID:RH.Zpfbs

失って困るものは命すら含めて持っていないはずの彼だったが、この時ばかりは『目的』があった。
それが、この土壇場における行動につながったのかもしれない。

(どうにか……しねえと……)

電線――通電の有無に関わらず、移動経路とするには無謀が過ぎる。
そうなると電柱からなんとしても降りなければならず、事実ムーロロはそうしようとしたのだが――

(う……グッ……!)

腹に受けたダメージのせいでうまく手足にも力が入らず、彼の場合はスタンドで踏ん張ることもできない。
結果、碌に動かぬうちにバランスを崩し、あわや爆死を待たずして転落死かと思われたが……

(いや……これでいい……これしかねえ……)

ムーロロはあえて上半身から、スカイダイビングのごとく大の字の体勢で空中に身を投げ出した。
見ようによってはまるで自殺するかのように、胸から地面に飛び込む形で。
そして……激突の瞬間。


                         ボ  ヨ  ヨ  オ 〜 ン


間の抜けたようにも聞こえる音と共に、ムーロロの体が弾き飛ばされる。
垂直ではなく、低めの角度で……なるべく遠くへ離れるように。
当然、着地地点にはまたしても地面への激突が待っていたが……一切逆らおうとせず、思いっきり転がったッ!
少しでも距離を稼ぐための、いわば悪あがき。
幸い建物などにぶつかることはなく、勢いも体力もなくなり本当に動けなくなったところで地面に寝転がる。

(…………どうだ……?)

これで駄目ならもはや打つ手なし、覚悟を決めて耳を澄ます。
はたして首輪は――











                        ――何の音も発していなかった。

(……………………)

そのまま寝転ぶ彼の懐から転がり落ちたのは、ボヨヨオンの文字が書かれた岩のかけら。
ジョルノたちと戦闘になった場合を考え、保険として心臓を守るため胸に忍ばせておいた支給品。
惜しむらくは相手が狙ったのが仕込んだ胸でなく腹だったことだが。
役目を果たした文字はそのまま消え去ってしまったが、ムーロロは見てもいなかった。

213Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:35:23 ID:RH.Zpfbs

(……………………)

ひとまず禁止エリアからは脱出した……とはいえ、助かったとはまだまだ言い難い。
それでも一息だけはつける状況だったが……そうはしなかった。
彼の精神は、そんなことすら忘れるほどに乱れていたのだから。

(…………クソッ!!)

ジョルノは何故自分を殺さなかったのか……答えは簡単、利用価値があったからだ。
おそらく交渉の早い段階から自分を動けず喋れずの状態にして『戦力』だけ乗っ取るつもりだったのだろう。
そう考えればあのタイミングでの協力否定も納得がいく。

(どいつも……こいつも……)

そして自分を現在の状況に追い込んだ、もう一人の『犯人』。
こんなところに自分を連れてきたのは何故なのか。
何か用があった――だとしても何故、姿を見せない?
禁止エリアで始末するため――ただでさえ瀕死で、今まさに無防備な自分を放置して?
いくら考えようとも答えの出ない不可解な現象に苛立ちばかりが募る。

(……ナメやがって……ッ!)

無性に腹が立っていた。
自分をまるで相手にしなかったジョルノたちにも。
無責任にワープさせ、自ら手を下さずしかも死すら見届けようとしない『誰か』にも。
誰からも相手にされない……今までの人生において当たり前だったはずのそれに、彼は酷く腹を立てていた。
数秒後、ムーロロはふっ、と息をつく――――



            (ああ、わかったよ……そんなにオレの相手をしたくないなら……



                            相手にしないまま殺されても、文句はねえよなあ…………?)



                                          ――それは、ひとりの暗殺者が誕生した瞬間だった。



もし、ムーロロがDIOに味方したりしていなければ。
もし、ムーロロがジョルノに『敵』とみなされていなければ。
そうすればジョルノとの対面により、彼は真に『恥』を知っていたかもしれないのに。
たったひとつ、出会う順番が違っただけでムーロロの運命は変わってしまった。


彼の人生は、目先の怒りや苛立ちを晴らすことだけがすべて……『恥知らず』のままなのだから――――

214Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:37:22 ID:RH.Zpfbs



【B-1とB-2の境目付近 / 1日目 真夜中】


【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:腹部ダメージ(大)
[装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット
[道具]:遺体の脊椎
[思考・状況]
基本行動方針:目先の怒りや苛立ちを晴らす
1.他のことなんて知ったこっちゃない、ジョルノたちに「復讐」する

※腹部のダメージは肋骨が折れて腹筋を傷付けている程度で、それに伴い声が出せません。
 長く放置しすぎると死ぬかも。
※現在、手元に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
 会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。


【備考】
・23時に設定された禁止エリアはB-1でした。
・ムーロロが誰かに「第四放送までに(会場中央に)来い」と連絡しました。
 具体的な相手や人数は不明です。


【支給品】
ボヨヨン岬の岩のかけら(第四部)
元はペットショップの支給品。

広瀬康一のスタンド「エコーズ」のしっぽ文字ボヨヨオンが張り付けられた岩のかけら。
原作では尖った大岩に張り付けられていたが、ロワ仕様で手のひらサイズ程度の大きさ。
何かが激突するとすごい勢いで弾き飛ばすが、弾かれたもの自体は無傷。
ロワでは弾くのは一回きりで、使ったらただの岩に戻る。

215 ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 00:41:46 ID:RH.Zpfbs
以上で投下終了です。
遅ればせながらあけましておめでとうございます。
一年に一作はちょっとペース遅すぎて笑えない……

いろいろとぶっ込んであるのでまずは仮投下させていただきます。
矛盾、意見などありましたら遠慮なくお願いします。

216 ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/14(月) 01:24:35 ID:RH.Zpfbs
すみません、些細な点ですがひとつ追加を。
ジョセフ、ジョルノの思考・状況の一番下に

第四放送時に会場中央へ行き、カーズを倒す

が入ります。

217名無しさんは砕けない:2019/01/14(月) 12:10:00 ID:2bgEyrxY
仮投下乙です!そしてあけおめです。
色々ブッこんではありますが、ここまで過疎の現状、このくらいはむしろ歓迎なのでは、と思っております。
しいて一つ指摘するならば、ジョセフはムーロロと以前(エリナばーちゃん治療のくだりで)出会っていますので、何らかの反応が欲しいかと思います。
メチャ語りたい感想は本投下の際にとっておきます。

……俺もどこか書いてどんどん動かさないとなあ

218名無しさんは砕けない:2019/01/14(月) 20:11:05 ID:Bjsg66Hc
あけおめですね!
今年もこうしてロワを見ることができて幸せです

219 ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/17(木) 22:38:40 ID:Ln2H0M7I
ご意見ありがとうございます。
ジョセフとムーロロの邂逅に関しては亀に入る前にちょっと会話を追加する予定です。
後ジョルノは琢馬ともチラッと会ってたのでそこの地の文も直します。

人が少ないのは相変わらずですがとりあえず否定的な意見はないようなので修正したら日曜あたりにでも本投下に行こうと思います。
他に意見などありましたら引き続きお待ちしております。


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