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本スレ転載用スレ

994 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:34:24 ID:LDnjk14k
恐竜に追われること早十数分。奴らは文字通り、蛇のようにしつこかった。
襲いかかってくるようならば返り討ちにしてみせる。だらだら追いかけるようなら一気に加速して振り切ってみせる。
だが恐竜たちは姑息で、賢く、狼のように統率の採れた集団だった。プロシュートと千帆の乗ったバイクを追いかけて、回り込んで―――とにかくうっとおしかった。プロシュートがいらいらを表情に出さないようにするのに苦労するほどだった。

サイドミラーの中で三匹のうち、二匹が細い路地裏へと飛び込んだ。プロシュートは頭の中で地図を思い描いた。西への逃げ道を塞ごうって魂胆らしい。
以前ギアは3にいれたままで、速度計は40キロに届くか届かないかをさまよっている。プロシュートは顔をしかめ、もどかしい思いをアクセルに変えた。
いい加減追いかけっこにはうんざりした頃だった。


「あっ」


ヘルメット越しに千帆がくぐもったつぶやきを漏らした。同時にプロシュートはバイクのハンドルを右に切ろうとして―――間に合わない、と思った。
路地裏から突然身を投げ出した小柄な男の体にバイクが迫る。プロシュートは三人全員が無傷でいられることを諦めた。中でも一番優先順位の低かったのは、ようやく馴染み始めたバイクそのものだった。
バイクすべてをめちゃくちゃにする必用はなく、そうする時間もパワーも足りなかった。右ハンドルを思い切り握り、前輪を止めた。二人の体が前に投げ出されると同時にバイクの横っ面に一撃をぶちかました。

「『グレイトフル・デッド』!」

金属がひしゃげる音、息を呑む音―――宙に投げ出され、ぐるりと世界が大きく回った。頭上の街灯が空を横切り、目の中でアーチを描いた。
千帆を抱きかかえるようにかばい、スタンドで着陸の衝撃を和らげた。かばいきれなかった左肩に大きな傷みが走り、プロシュートの息が止まった。

衝撃の余韻が道路の端々に広がっていた。
横っ面に投げ出されたバイクは歩道をフラフラとさまよったあと、力なく民家に激突した。
空に向かってかしあげられたタイヤが風車のように大きく回っていた。
エンジンの熱がむわっとアスファルトを撫で、痛む体にじわじわと染みこんだ。

「立てるか?」
「……だいじょうぶ、です」

千帆に傷はなかった。ヘルメット越しに目を白黒させながら、必死に冷静さを取り戻そうとしていた。プロシュートは頷くとそのまま伏せていろ、と小さく言った。
腰を落としたまま振り返り、跳ね飛ばしかけた男の影に目を向けた。影は路地裏に体半分入れたまま、こちらをじっと見つめていた。あちらにも怪我はないようだった。影はこちらの安否を気遣うでもなく、大声で悪態をつくでもなく、惑わしげに体を揺らしていた。

プロシュートは千帆に合図を出し、ついてくるように指示を出す。
千帆は慣れない様子で拳銃を取り出すと、それを両手で握り締め、背後を警戒しながらプロシュートの背中に張り付いた。
プロシュートの中では怒りが渦巻いてた。それは突然飛び出してきた男への怒りでもあったが、どちらかといえば自分のマヌケ具合に向けられた怒りだった。

運転に100%集中できていたか? ノー。周りへの警戒を100%怠っていなかったか? ノー。 遺体の気配に気を取られていなかったか? ノー。
宮本と名乗る少年がもたらした情報が常に目の端でちらついていた。情報不足の中、いくら考えても結論は出ないとわかっていたはずなのに、現状戦力も情報も足りなさすぎるという杞憂がプロシュートの判断をにぶらした。
これで『足』も失った。抱えるのは傷ひとつつけたくない妹分と拳銃二丁、残るは育朗が残した『甘ったれ精神』だ。




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