したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

本スレ転載用スレ

957キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:58:19 ID:t.jtYj9s
そして、ジョニィ。ルーシーは右に座った青年の顔を横目で眺めた。
呼吸をしているかどうかもわからないほどに、ジョニィは穏やかに見えた。体中の力が一切感じられない。だが眼光だけが、飛び抜けて鋭い。
こわばった目が一つ一つを見透かすように注がれている。机の上に置かれた右眼球に。ディエゴの持つ左眼球に。そしてルーシーの膨らんだ腹部、遺体の頭部に。
ジョニィ、あなたを本当に信頼していいの? ルーシーはそれを問いかけられない。
自分が夫を失ったように、ジョニィも唯一無二の親友を失った。しかし同じ悲しみが一切ジョニィからは感じ取れなかった。それがルーシーをためらわせる。

テーブルのナプキンを握るものはまだ誰でもなかった。四人の腹の探り合いは続く。ムーロロが姿勢を正すとゆっくりと机の上の右眼球に手を伸ばした。
ムーロロはディエゴとジョニィに目配せを送る。別に盗もうってわけじゃない。ただ今からちょっとした手品をお見せしよう。
上品で丁寧な態度でムーロロの手が眼球に触れかけた。眼球はムーロロの手が触れる前からズズズ……と音を立ててムーロロ自身の手の方へ引っ張られていった。まるで何かに引かれ合うかのように。

「どこだ」

ムーロロが手を引っ込めると、眼球は勢いをなくした。眼球が心細げに動くのをやめるのを見て、ディエゴがムーロロに訪ねた。

「どこの部位だ」
「それを知ってどうなる。それに俺が教えるとでも?」
「だがお前はそれがどなたの遺体かもわかっていない」
「いいえ、彼は知っているわ」

ルーシーが二人の間に割って入った。ムーロロは批難するような目で向かいのルーシーを見つめたが、彼女はそれを無視した。

「あなたとジョニィの来訪を教えてくれたのも彼。私が数時間気絶している間に何が起きたかを曖昧ながらも教えてくれたのも彼」

ルーシーにとって何より優先しなければならないのは自身の安全だった。
交渉が暗礁に乗り上げれば、ディエゴは文字通り牙を向くことになりかねない。
ディエゴを飽きさせてはならない。ディエゴを餓えさせてはならない。進展を印象づけるためにルーシーはムーロロの一部を売り渡した。

「彼の情報網はホンモノよ。路地裏の排水管の数まで彼は知ってるの」
「女は信頼ならないな、ボルサリーノ。あしながおじさんは骨折り損だ」
「見返りが凶暴な恐竜野郎だったとは―――割に合わねぇよ、ほんと」

ムーロロがぼやいた。向かいから送られた恨みがましい目線にルーシーは顔を伏せる。結局のところ、今のルーシーに許されたことは見極めることだけだ。
遺体に相応しいのは誰か。机に座ったのはディエゴ、ムーロロ、ジョニィの三人だけだった。
三人の中に白馬の騎士はいなくとも、遺体が揃うまでは安全を保証してくれるパトロンがルーシーには必要だった。
なにせカーズが遺体の一部を所持しているのだ。自体は一刻を争うことになっている。

「そうなるとジョニィ、お前がこの場で一番貧乏神だ」

ディエゴの言葉に全員の視線がジョニィに向く。
遺体に関する情報のアドバンテージはこのテーブル上には存在しなかった。そうなれば残すは誰が、いくつ、遺体を所持しているかだ。
ディエゴはさりげなさを装って眼球をジョニィの方向へ誘導した。眼球の勢いは止まり、ルーシーとムーロロのちょうど間で勢いをなくす。
ジョニィは遺体を所持していない。ディエゴとムーロロはその事実を同時に確信した。

「俺は馬車馬のごとく働いた。ボルサリーノは王女様の護衛兵。王女様は玉座に座ってふんぞり返るのが仕事ってもんだ。
 お前は一体何を持っている? 空手でノコノコ賭博場にやって来る田舎者でもないだろう。財布の中身を見せてもらわなきゃカウンターには座れないぜ」
「机につくのに参加料を取られるって話は聞いてない」




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板