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本スレ転載用スレ

594 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:02:52 ID:koqtDMYQ

 おそらく承太郎も同じような思考をたどったのだろう。
 近くに犯人の痕跡があるかもしれない。
 そう考え、見渡してみれば、校舎の一階に窓ガラスが割れている箇所がある。
 承太郎はそこに向かったに違いない。

(もし、この人を殺した人と、空条さんが鉢合わせたら……?)

 胸がざわざわする。いてもたってもいられず、しのぶは走り出した。



   *   *   *



 割れた窓ガラス。熱でひしゃげた金枠。無数の弾痕。
 プラスチックの焦げた匂い。腐臭。かすかに混じる、血の匂い。

 ぶどうが丘高等学校の校舎の中を空条承太郎は歩いていた。

(火事、か……?)

 それにしては燃え方が局所的で、爆発物にしては床面の破壊が少ない。と、承太郎は思った。
 金属が溶けるほどの高熱が発されたはずなのに、火は自然に消えている。
 燃えカスが少ない点も不自然だった。一瞬の発火と同時の鎮火。化学的な現象とは思えない。
 というより、実のところひとりの知り合いの『能力』を承太郎は思い出していた。
 情に厚く、生真面目な男の『炎を操る能力』を。

 1年B組の教室に入ったとき、腐臭がひどくなった。
 原因はじっくりと探すまでもなくすぐに判明する。
 人間のような四肢を持ってはいるが、とても人間とは思えない形相をした化け物が教室の中央で絶命していた。
 ところどころが炭化し、凄絶さに色を添えている。
 承太郎は無表情に、焼死体とその周囲を検分した。
 死体はすでに冷たくなっている。数時間前に絶命したと思われた。
 死体の周囲には机とイスが放射状になぎ倒されている。
 どうやら化け物は隣の1年C組の教室を突き抜け、ここまで吹き飛ばされてきたらしい。
 穴の向こうにいっそう煤だらけの机やイスが散乱しているのが見えた。

 C組もB組と変わらない、いや、それ以上の腐臭と血の臭いが充満していた。
 死体はどこにもなかったが、ここで殺し合いが行われたとはっきり理解できるほどの血が床に広がっている。
 学校にはあつらえ向きのサッカーボールが、赤く血に染まっている様がある種不釣り合いだった。
 そして床の上には、ドロドロに溶けたおぞましい『なにか』がある。
 『星の白金』を発現させドロドロの『なにか』を解剖してみる。
 臓物をこねくり回して焼き上げたような異様な物体は動かない。
 それが生物だったとしたら、すでに絶命しているようだった。

 これ以上この教室を調べてもなにも利はあるまい。そう判断した、そのときだった。
 ずずっ、と引きずるような足音が廊下の方から聞こえてきたのは。

(化け物の仲間か?)

 学校を根城にし、迷い込んだ人間を惨殺する化け物を思い描いてみる。
 ポルナレフを斬殺したのは彼らだろうか。
 戦闘の予感を感じながら、あくまで冷静に、承太郎は教室を後にする。

 廊下に出てみれば、50メートルほど向こうにひょろりと長身の男の姿があった。
 男の足取りは重い。脚を引きずるように全身を上下させている。
 怪我をしているのか右腕を無気力にぶらぶらとゆらし、左腕で空気を『掻く』ようにしてこちらへ歩いて来る。

 二人の間が10メートルほどの距離になったとき、男は足を止めた。
 顔をあげ、話しだそうとして、むせ、ベッと口中のものを吐き出す。
 黒ずんだ床の上に、真っ赤な鮮血が散った。

「……エシディシという男を知らないか。
 民族衣装の様な恰好をして、がっちりとした体つきの2メートル近い大男だ。
 鼻にピアスを、両耳に大きなイヤリングをしていて、頭にはターバンの様なものも巻いていた」

 今にも倒れてしまいそうな、か細い声で男は語る。
 ぜいぜいと喉がなり、何度もつばを飲み込んでいた。

「放送を聞かなかったのか?
 エシディシという男は名前を読み上げられた。
 『すでに死んでいる』」

 承太郎のにべもない返答に、リンゴォの灰白色の瞳が暗く沈みこむ。
 モゴモゴとなにか、聞き取れないことを自嘲気味に呟いて、ふたたび彼は歩き出した。
 承太郎は微動だにしない。が、彼はリンゴォを見送らなかった。

「人を殺しそうな目をして、人探し、か。
 死んだはずの男になんの用だ?」
「………………」




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