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本スレ転載用スレ

351 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:02:50 ID:52T8yFhU
少年の澄んだ目線はずっと彼女にそそがれていた。
責めるわけでもなく、恨みを込めたでもなく。
康一の視線は、ただひたすら真っすぐに由花子の中へと突き刺さっていた。
由花子が呟く。


「……何よ、戦う気なの?」


緑色のスタンドは控え目に姿を現していた。康一の上に馬乗りなった由花子、その脇三メートルほど離れた場所に、ふわりと浮かんでいる。
由花子は少しだけ力を緩めると、汚らしい昆虫を眺めるかのよう眼でエコーズのほうを向く。
康一が何を考えているのかはわからないが、そのスタンドは由花子に対峙するでもなく、ただそこに浮いているだけだった。
攻撃の姿勢を見せるでもなく、逃走の準備をするわけでもなく。エコーズは時折身体を揺すり、首を傾げるようなしぐさを見せた。
いちいち癪に障るやつだ、と少女は思った。

死ぬならさっさと死ねばいい。戦うならさっさと戦えばいい。
いちいち反発するガキだ。何故こうも無駄に抗うのか。どうして人がこうしようとした時に、それを邪魔するようにたてつくのか。
ああ、いらつく。黙って従えばいいものを。アンタは黙って私の言う通りにすればいい、それだけでいいのに……ッ。
そんなこともできないのか! そんなことすら邪魔しようというのか!

真意の見えない行動は彼女を惑わせる。エコーズの無機質な顔。何も浮かべない康一の顔つき。
その二つの曖昧さは少女を戸惑わせ、苛立たせ、そして怒らせた。
もしかしたらそれこそが康一の策なのでは。そう思ったが感情は押し殺せなかった。

由花子は緩めていた両手を完全に離し、スタンドを展開していく。
逃げ道を塞ぐように、ゆっくりと、だが広範囲に真黒な髪の毛が伸びていく。
四方八方、縦横無尽。部屋を、そしてそれどころか民家を丸ごと包むように、由花子の髪は張り巡らされていった。

エコーズはまるで蜘蛛の巣に迷い込んでしまった蝉のようだった。
逃げ道は塞がれ、自由に動くスペースはほとんどなく、視界はもはや真黒に染まっている。
時刻は早い時間だというのに室内は薄暗く、電気をつけなければとてもじゃないが廊下を進むのも困難だろう。

挑発にのっても構わない。やるっていうのであれば徹底的に、体の芯から刻みつけてやろう。
エコーズを切り裂き、同時に本人の首をへし折ってやる。
肉体的だけではなく精神的象徴としてのスタンドまでをも、彼女は切り刻み、八つ裂きにしようとしていた。
それほどまでに由花子は、猛烈に、そして容赦なく、康一の全てを破壊つくそうとしていた。

「…………」

エコーズが動きをピタリと止める。ラブ・デラックスが伸ばしかけていた末端を宙で留めた。
戦いはしんとした空白の後に起こる。短い間だった。その一瞬の間の後に、静寂が引き裂かれた。

緑色のスタンドが風のように動いた。その尾を丸め、解き放つ。狙いを定め放ったその一撃、弾丸のように一直線に向かっていく。
なだれ込む髪の毛は一部の隙間もなく、空間を押しつぶす。まるで堤防が決壊したかのように、黒い影が部屋中を覆い尽くした。

ズシン、と揺れる音。パリン、と割れる窓。床に倒れていた康一は突如跳ね起き、由花子を突き飛ばす。直後、少年が痛みに呻く声が聞こえた。
二人がいる民家はなんとか崩れ落ちるのを堪えていたが、ラブ・デラックスがトドメとばかりに柱を叩き折り、家は壊滅状態へと追い立てられた。
天井が崩れ、床は割れ、屋根が大きく傾いた。なんとか全壊はしなかったものの、崩れた民家の外観は同情を誘う。




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