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唯「はい、和ちゃん」 和「ありがとう……ってこれボツネタ?」

1名無し議論中/自治スレで希望受付中:2011/09/23(金) 12:43:10 ID:I7z5POfo0
和「唯、これはどういうこと?」

唯「だって〜、思いついたんだけど私書けないんだも〜ん」ウルウル

和「はあ……だからってなんで私にわたすのよ」

唯「和ちゃんなら有効に使ってもらえるかな?って思ってぇ」デヘヘ

和「もう……しょうがないわね」

唯「って言うわけで、みんなも『ネタ思いついたけど、うまく書けないよ』とか、『やっぱやーめたっ』とか、
もう自分で書くことないから、誰かに使ってもらってもかまわないなってネタがあったら、どんどん和ちゃんにわたしちゃおー!」

和「え!?みんなの分も!?」

唯「そして、和ちゃん以外の人も面白そうだと思ったら、このスレのネタをどんどん使っちゃおー!」

和「はあ……それはいいけど、>>980になったら次スレ立てるのよ唯」

唯「え〜、私忘れちゃいそうだよ〜、きっと誰かが宣言して立ててくれるよ〜」

和「はあ……あんたって子は……」

唯「みんな優しいから大丈夫だよ」

和「そう、それじゃあ私、生徒会行くね」

唯「あ〜ん、和ちゃんのいじわるぅ」

146いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:46:46 ID:Ic6DMXn20


 時刻が13時を20分程過ぎた頃、唯の携帯電話が振動した。
ディスプレイには田井中律の名が表示され、すぐに振動は止んだ。
それは律からの招待を示す、待ちに待ったワンコールだった。
唯は颯爽と立ち上がると、お化け屋敷を目指して早い歩調で進む。
 律と澪の姿を、唯は待っている間に見ていなかった。
ずっと、お化け屋敷の位置から死角となる場所で過ごしていた為だ。
もし澪が予定よりも大幅に早く駅へと着いていた場合、
来園の時間も前倒しされる可能性があった。
その点を考慮した唯は、死角となる位置に居続ける事が最良だと判断した。
勿論、律本人が13時まで遊んでいて良いと言った以上、
来園の前倒しを本気で恐れていた訳では無い。
単に、唯なりに念を入れた措置だった。
結果、前倒しは行われなかったが、特に損したとは思っていない。
寧ろ、周到に潜んだ分だけ期待は高まり、招待のワンコールから得た喜びも大きい。
事実、お化け屋敷へと向かう唯の気分は、最高潮に昂ぶっている。
 お化け屋敷の入口まで辿り着くと、本日二度目のチケットを購入した。
昂ぶった気分の前では、この出費も気にはならない。
そして屋敷の内部へと入ると、すぐに律が迎えてくれた。
「よっ、唯。待たせたな。いよいよ、ショウタイムだ。
澪が踊るステージまでエスコートするよ。
声聞かれると上手くいかないから、静かにな」
 唯は黙って頷いた。
まだこちらの声を聞かれる距離では無いだろうが、
今から姿勢だけでも作っておきたかった。
 唯の首肯を確認した律は、背を翻すと歩き始めた。
唯もその背を追って、足音を立てないよう慎重に進む。
そして律の歩調が緩やかになった時、唯は悟った。
いよいよもうすぐ、澪を観察する事ができるのだ、と。
 歩調を緩やかに転じてから、幾つかの仕掛けを通過した時。
唐突に律の足が止まり、唯の方へと顔を振り向けてきた。
唯は頷く事で、澪が前方に居る認識を共有したと伝える。
まだ澪は見えていないが、前方から聞こえるすすり泣きと足音が存在を証していた。
 律と唯は仕掛けや壁際を遮蔽物として利用しながら、急く心を抑えて慎重に進んだ。
今まで労を重ねただけに、今更見つかる訳にはいかないのだ。
そして漸く澪の姿を視認する事ができた時には、唯の胸中には感激さえ訪れた。

147いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:48:03 ID:Ic6DMXn20
 澪は頻繁に周囲を気にしながら、恐る恐るといった足取りで歩いている。
その遅々とした歩調も、一応は織り込んでいる事の一つだった。
そもそも唯達が澪に追い付けなければ、観察は成り立たない。
尤も、足音を聞くまでは、座り込んで泣いているものだと予想していた。
追い付ける根拠も、その予想を前提としていた。
それだけに、啜り泣きながらも進む姿勢を観察できる事は僥倖だった。
「律ぅ……何処に居るの?怖いよ、寂しいよぉ」
 澪の口から、泣き言までも零れてきた。
唯は満足そうに微笑む。その姿こそ、唯の見たいものだった。
そして澪を襲う寂しさこそ、味わわせてやりたい感情だった。
「律ぅ……出てきてよぉ、助けてよ……律ぅ……ひっ」
 お化け屋敷の仕掛けが発動される度に、澪の口から悲鳴が漏れる。
唯から見れば児戯のような安易な仕掛けでも、
澪にとっては恐怖の対象となり得るらしい。
「もう嫌だ……早く出たい。律に会いたいよ、律……ひゃっ?」
 通路側面からゾンビのオブジェが表れた所で、一際甲高い悲鳴が澪の口から漏れた。
驚いた澪は反射的に小走りになるが、
天井から吊るされたオブジェに激突してしまった。
「痛っ。って、ひゃあっ?もう嫌だぁ……」
 激突したオブジェが首吊り死体を模した物であると気付いた澪は、
驚愕に満ちた悲鳴を上げると座り込んでしまった。
出口までの道程を既に8割は進んでいるのだが、初見の澪には分からない事情である。
出口まで後少しだと気付かずに、澪は心が折れてしまったのだ。
「律ぅ……何処に居るんだよ……。どうして出て来てくれないんだよ……。
怖いんだよ、助けてよ。今までだって、ずっと一緒だったのに……。
私が必要とする時は、何時も傍に居てくれたのに。
律ぅ、もう一度、私と歩いてよ」
 顔を伏せて屈む澪から、幾度も律の名と助けを求める声が連呼された。
律は満足を表情に浮かべて、膝を崩した澪を眺めている。
澪から求められている事が嬉しいのだろう。
律とは動機が違うにせよ、唯もまた喜びの篭った表情で澪を眺める。
 澪は暫く座ったまま律の名を呼んでいたが、漸く立ち上がって動き始めた。
流石にいつまでも座っている訳にはいかないと、意を決したのだろう。
未だ啜り泣きを漏らしてはいるものの、着実に出口へと向かっている。
 その時、不意に律が耳打ちしてきた。
「いよいよクライマックスだ。ここで見てな、仕上げて来る。
終わったら入口から出てくれ」
 唯が首肯する間も無く、律は壁際を離れて歩き出していた。
「澪ーっ」
 律の呼ぶ声に反応したのか、遠慮の無い足音に反応したのか。
ともかく、澪は振り向いた。
そうして律の姿を認めると、澪の顔に安堵が広がる。
「律っ。来てくれたのかっ。怖かった、寂しかったんだぞ」
 澪はそう言うと、律目掛けて駆け出した。
そのまま律に抱き付くかのように見えたし、澪もそうする心算だっただろう。
だが、律は片手を前に突き出して、澪の動きを制していた。

148いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:49:13 ID:Ic6DMXn20
「律?ど、どうしたんだよ……」
 訝しげな声で戸惑いを表す澪に対し、律の口から冷徹な調子で言葉が放たれる。
「お前な、遅過ぎ。いつまで待たせるの?
一々迎えに来なきゃならない私の事、もっと考えろよ。
それとも私なんてただの下僕で、幾ら待たせても迷惑掛けても構わないとか考えてる?」
「そ、そんな事考えてないよっ。私はただ、怖くて……足が中々進まなくて……。
それに、律も探さなきゃいけなかったし。なのに律は、後ろから出て来て」
「何?私のせいだって言うの?」
「いや、そこまでは言わないけど。
ただ、ゲームを提案された場所から先の通路やオブジェに隠れてるって、
律自身がそう説明してたから。
何で律が私の後ろから出てくるのか、ちょっと意味が……」
 二人の会話を聞いて、唯は律の提案したゲームの内容に想像が付いた。
恐らく律は、自分を探させるゲームを提案したのだろう。
提案した場所から出口までの間に隠れていると言えば、澪の逆走は防げる。
また、探させるという手間を取らせる事で、余計に澪の歩みを遅らせ唯達が追い付き易くなる。
勿論、律は隠れてなどいないので、澪は見つける事ができずに時間だけを浪費する。
その間、澪は律を見つける為に、恐怖の対象を敢えて直視しなければならない。
唯は内心、律の機転に舌を巻いた。
「お前があまりに遅いから、一旦隠れてた場所から出て出口に向かったんだよ。
もしかしたら澪が気付かずに通り過ぎて、お化け屋敷出ちゃったかもって思ってな。
したら、お前居ないじゃん?だから仕方なく、もう一度入口からお化け屋敷入り直したんだよ。
あーあ、余計な出費までお前のせいで掛かったよ」
 恐らく律は、本当に一旦出口から出ているのだろう。ただ、隠れてはいないだけで。
ゲームを提案した後で入口まで戻ろうにも、澪に気付かれてしまう。
目を瞑らせたところで、足音で気付かれる恐れもあった。
一旦出て入り直すという出費は、律にとって不可避だった。
尤も、その出費に付いては、補填できると読んでいたに違いない。
実際、澪はその出費を賄うと言ってきた。
「そ、そのお金は勿論私が払うよ。
ただ、私が律に気付かず出たかどうかは、律には分からなかったの?
だって、私が律の傍を通過していないのなら、まだ私はお化け屋敷の中に居るって事で」
「隠れてるのに視認なんてできるかよ。
足音聞こうにも、お前があまりに遅いんで音楽聞いてた時間もあったし。
聞こえたとしても、お前か他の客かなんて、分かりっこないじゃん。
大体さ、そんなに怖いなら、始めからゲームなんて乗るなよ。断れよ」
「あ、いや。最初は断ろうと思ったんだけど、律が不機嫌になりそうだったし。
折角の提案だったから……」
 澪の承諾は止むを得なかっただろう。
今まで冷たかった律が、漸く態度を軟化させる兆しを見せたのだ。
律の提案を断れる訳も無い。
今を見ても、澪の律を追及する言葉も態度も控え目である。
それだけ、律から嫌われたくないという思いが透けて見えた。

149いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:50:51 ID:Ic6DMXn20
「はぁ?また私のせいにするの?お前の勝手なイメージじゃん。
いい加減にしとけよ?」
「あ、ご、ごめん。次からは気を付けるから。
怖い物は怖いって、そう言うから。だから」
「いや、もういいよ。次からはもう、いちごとか唯とか誘うから。
大体、怖い物やグロいものが苦手なお前とじゃ、遊んでもつまらないし。
やっぱ、こういう遊びも難なくこなしてくれる相手じゃないとなー」
 律は突き放すように言うと、澪を横切り出口へ向かって歩き始めた。
「あ、待って、律。お金、お金払うよ。
私のせいで、二重にチケット代払わせちゃったから」
 遠ざかる律に追い縋って、澪は言う。
「要らねーよ。お前からなんて、何も貰いたくない」
 澪は財布を取り出したが、意外にも律は受け取りを拒否した。
最初は唯も驚いたが、考えてみればその方が効果的だった。
澪に対して、決定的に嫌われたという認識を植え付ける事ができる。
その認識を以ってして尚、澪は律を愛せるのか。
それは冷たく扱っても愛してくれるかという、企画の趣旨と見事に合致している。
出費すら厭わず澪の愛を試し続ける律に、唯は戦慄さえ覚えた。
そして、憂をもっと徹底的に試さねばならないと、自分を鼓舞した。
「そんな……。でも、実質は律のお金なんだし。
私のせいで、被った出費なんだから」
「それでも要らない。そういう理由があっても、お前からなんて貰いたくない」
 律は更に澪を突き放すと、歩みを速めていった。
澪は少し離れてその後を追うが、律に並ぶ事も声を掛ける事もしなかった。
その澪の背は、絶望に拉がれているように屈んでいる。
 唯は二人の姿が去ってから、決意を新たに入口へと戻る。
明日の憂に対する仕打ちを、律に劣らず徹底的なものにしようと。


150いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:52:29 ID:Ic6DMXn20

 明くる日の日曜日、約束通りに唯の家へと律が訪れて来た。
16時という時刻も、示し合わせた通りだった。
「おー、りっちゃん。待ってたよー」
 社交辞令では無く、本当に待ち望んでいた。
実際、定刻の30分前には部屋を出て、玄関に近い居間へと移っていた。
「よっ、唯。お邪魔するよ」
 律は丁寧に靴を揃えて上がった。
「あ、律さん、こんにちはー。ゆっくりしていって下さいね」
 来客を察した憂が二階から降りて来て、律を出迎える。
律を家に招いた事は憂にも話してあるので、落ち着いた対応を見せている。
「こんにちは、憂ちゃん。今日はお世話になるけど、よろしくね」
「こちらこそ。では、お茶の準備してきますね。
そうだ、お夕飯も召し上がっていきますか?三人分、用意しますけど」
「その話なんだけどね、憂」
 話が夕飯に及んだ段階で、唯は割って入った。
憂には律を招いた事と時間を告げたのみで、未だ話していない事があった。
「今日はりっちゃんが、晩御飯作ってくれるんだ。
だから憂は、ゆっくりしてていいよ。
食材も家にある物、使ってくれるって」
「えっ?そうなの?お客さんなのに悪いよ、お姉ちゃん」
 憂は表情に驚きを表し、咄嗟に遠慮した。
「いや、そういう約束でりっちゃんを家に呼んだんだからね。
だからこそ、夕方に来てもらったんだよ。
今からその話を無かった事にするのは、逆にりっちゃんに失礼だよ」
 一昨日の電話で唯が仰いだ協力、それは律に料理を作ってもらう事だった。
自分も律のように料理が上手ければ良かったと、そう思った時に今日の仕打ちを閃いたのだ。
だから唯は、この言葉の中で憂に嘘は吐いていない。
憂に対する害意が巡らされている事を、告げていないだけだ。
「そうそ、失礼とまでは思わないけどさ。
でも、ここまで来たんだから、何もせず帰るってのはちょっと寂しいかな」
 律もまた、唯に加勢してきた。
共犯者の律は勿論、料理を作る事が憂への仕打ちに繋がると承知してる。
その事まで唯は話してあるのだから。
「分かりました。今日はお手間取らせて済みませんけど、律さんに甘える事にします。
本当に有難うございます」
 唯達の言を受けて遠慮は却って失礼だと感じたのだろう、憂は礼を述べて承諾した。
その感謝の対象が、自分を嬲る仕打ちの一環だとは知らずに。

151いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:53:33 ID:Ic6DMXn20
「じゃ、話は決まりだな。で、悪いんだけど、冷蔵庫の中とか見せてもらっていい?
食材とか足りなそうなら、買い足しに行くから。
夕飯まで、まだ時間の余裕があるうちに確かめておきたいんだ」
「あ、はい、勿論構いません。どうぞ」
 憂に案内されて、律がキッチンへと向かった。
唯もキッチンの入口まで向かい、そこから二人の様子を眺める。
「へぇ、食材は量も種類も豊富だし、調味料も色々揃ってるね。
買い足しに行かなくても、大丈夫そう」
 律の感心したような声が響く。
「実は、既に夕飯のお買い物は済ませてあるんです。
量や種類が多いのも、折角の日曜ですから、
月曜とかの分まで含めてまとめて買っておこうと」
「へぇ、偉いね、折角の日曜を買い物に充てるなんて。
お蔭で私一人増えても、充分賄えるだけの量があるよ。あ、でもさ。
予定外に使っちゃうと、また明日か明後日に買い物行かなくちゃいけない訳か。
やっぱり買い足した方がいいかな?」
「いえ、どうせ、いつも余りそうになりますから。
余りを出さないように使い切るのも、一苦労で。
ですから使って頂けるのなら、逆に有り難いです」
 それは唯が知らない憂の苦労話だった。
ただ、律には憂の苦労が分かるらしく、共感を寄せていた。
「ああ、分かる分かる。生鮮食品って、少人数家族に対応しきれてないよね。
二人だと大変だよね」
「ええ、それでも一人暮らしよりは、幾分か楽なんでしょうけど」
 親しげに語らう二人の姿を見て、唯は不安に駆られた。
もし、律が憂に同情心を芽生えさせて、計画に非協力的になってしまったら。
唯の仕打ちは、上手くいかない事になる。
「まーねー、一人用にパックされてるのも見かけるけど、割高だしね。
さって、お喋りはここまでにして、そろそろ調理に取り掛かりますか。
ちょっと時間的には早いかもしれないけど、手間掛けて美味しい物を食べてもらいたいし。
何より、そこの唯がお腹空かせてそうな顔してるからな」
 律は唯を振り向くと、笑みを浮かべてきた。
それは、唯の心情を見透かして心配するなと言っているようにも、
または計画の始まりを告げる合図のようにも映る。
それでも、唯の心に刺さる不安の刺は抜けない。
「あ、私何か手伝いますよ?何もしない、っていうのも悪いんで」
「いやいや、ここは私の腕の見せ所だからさ。
憂ちゃんは休んでてよ」
「やっぱり悪いですよ。せめて、お米だけでも炊かせて下さい。
それに、私自身、料理の勉強をしたいんです。
お姉ちゃんに、美味しい物食べてもらいたいから」
 憂は切実な表情を浮かべて言った。
先日、唯に料理を貶された事が相当応えているらしい。

152いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:54:55 ID:Ic6DMXn20
「まぁ、見てる分には構わないけどさ。あんまり期待しないでよ?
憂ちゃんに勉強させる程の腕なんて、生憎私は持ち合わせてないし。
あ、でも、お米も私が炊くよ。
憂ちゃんには休んでて貰いたいし、一から十まで私が担当したいし」
 憂からの手伝いの申し出を、律は強硬に拒んでいた。
それを見て、唯の胸に漸く安堵が訪れる。
憂が手伝ってしまっては、唯の企みは瓦解してしまう。
尤も、米を炊くという程度では計画に然して影響しないが、
それさえ拒む律に計画への協力の強い姿勢が感じ取られた。
憂と親しげに振る舞いつつも、やはり律は唯の共犯者なのだ。
その確認が、不安の刺を抜き去り安堵を齎している。
「分かりました。では、勉強させて頂きます」
「本当に、そんな大した腕じゃないけどね」
 律はそう繰り返したが、それが謙遜である事を唯は知っている。
嘗て律の手料理を軽音部員で味わう機会があり、その時の評価は上々だった。
唯自身も、律の料理に舌鼓を打っている。
 尤も、律の料理の味を確認した事はあっても、調理の実際を見る事は初めてだった。
憂のように勉強しようなどという気は無いが、律の手際に興味はある。
唯はキッチンの入口に立ったまま、一際の関心を以って律を見つめた。
 律は一通り調理器具を確認した後、米を手早く研いで炊飯器に入れた。
「あ、そうだ。訊き忘れたけど、何かアレルギーとかある?
嫌いなものとか、苦手な味とか」
 律は思い付いたように、唯と憂へ向けて訊いてきた。
食べたい物を聞かない辺りが、他人の為に作る料理への慣れを窺わせる。
食べたい物を聞かれても、咄嗟には思い付かないものだ。
唯とて憂に訊かれて、「何でもいい」と返した事は数知れない。
律は人のそういう傾向を経験的に分かっているらしい。
「私は特に無いかな」
 まずは憂が答え、唯が続く。
「あ、私は辛い物が苦手。りっちゃんなら分かってると思うけど」
「了解。じゃ、そういうの避けて、適当に作るわ」
 律はそれだけ言うと、早速料理へと移った。
まずは時間の掛かるものからと、スープの仕込みが始まった。
その合間に、彩り映えるサラダやデザートが手際良く作られ、冷蔵庫に入れられてゆく。
続いて小鉢が幾つも作られ、食卓へと並べられた。
何れの小鉢も盛り付けにまで気が配られ、料亭の雰囲気さえ醸し出している。
 同時並行で様々な料理を作る律の技量に、憂の口から感嘆の声が漏れた。
憂も調理の腕はかなり立つが、ここまで鮮やかに調理していく事はできないだろう。
ましてや、このキッチンは律にとって慣れない場である。
平沢家で用いる調理器具にしても、律が家で使用している物とは勝手が違うかもしれない。
それら不利な条件に関わらず、律は憂をも凌ぐ手腕を発揮していた。
そしてその事が、唯の計画にとって上手く作用するのだ。
予想以上の律の腕前に、唯は思わず頬を綻ばせた。

153いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:56:30 ID:Ic6DMXn20
 その時、律の頬も綻んだ。
「お待たせ、後一品、メインディッシュだ」
 律はそう宣すると、フライパンで食材を炒め始めた。
それは今までの繊細な調理手法とは違い、大胆な動きと火勢で行われた。
鍋から炙られた食材が宙を舞う様に、憂の口から歓声が漏れる。
テレビ番組でしか見た事の無い技術に、唯も暫し見入っていた。
もし此処が家庭のキッチンでは無く本格的な厨房であったのなら、
調理の実力を更に見せ付けていたかもしれない。
そこだけが、少し残念だった。
「よっし、完成」
 律はその一言とともに火を止めると、皿へと炒めた料理、青椒肉絲を取り分けた。
食材や使用された調味料から青椒肉絲であると予想は付いていたが、
唯はこの場面に至って漸く疑問を口にする。
律の料理を、問い掛けで邪魔したくなかったのだ。
「りっちゃん、チンジャって中華だよね?それ、辛くしてないよね?」
 煮込んでいるスープからは、食欲を誘う香りが漂っている。
その火も止めてスープを器に取り分けながら、律は答えてきた。
「ああ、さっき味の好みは聞いたし、唯が辛いの苦手って分かってたからな。
辛くなんて無いから、安心してよ。
まぁそれで結構アレンジしたから、本格的なチンジャオロースーとは違ってるけど」
 調理の依頼はしたが、具体的なメニューまで指示した訳では無かった。
それでも律は協力者である以上、唯の厭う物は作らないだろう。
そう予想していながらも、唯は少し安堵した。
計画を遂行する為には、多少辛くても我慢して食べる心算だった。
だが、我慢せずに済むのなら、それに越した事は無い。
 青椒肉絲の皿とスープの器を配膳した律は、
米飯や小鉢、サラダと食卓に並べてゆく。
そうしてデザートだけを冷蔵庫に残して、食事の準備が整った。
「凄い、本当に凄かったです。見た目も美味しそうで、勉強になりました。
いや、私の技量じゃ、何処まで実践できるか不安ですけど」
 憂は感嘆を表情に浮かべ、律を讃えた。
「そんな大層なものじゃないって。
それに、重要なのは見た目や技術よりも味だよ。
参考にするかどうかは、味を確かめてから、の方がいいと思うよ。
さ、温かいうちに食べてよ」
「そうだね、温かさも美味しさのうち。食べようよ、憂」
 唯は早速席に付いて、憂を急かした。
仕打ちを早く実行へと移したい思いも勿論あるが、律の手料理に食欲を刺激されてもいる。
意図せず一石二鳥の計画になったと、唯は胸中で思った。
「うん、頂こうか、お姉ちゃん。すみません、律さん。御馳走になります」
 唯に従って、憂も席へと着いた。
「どうぞ、召し上がれ。それじゃ」
 律も席に座って音頭を取ると、三人の声が重なって響く。
「頂きます」
 唯は早速、律がメインディッシュと位置づけた青椒肉絲に箸を伸ばした。
口に含むと、甘味と微かな酸味が舌を心地好く擽った。
律の言う通り、辛さはまるで感じない。
咀嚼すると、千切りされた肉やピーマン、筍の歯応えが快い。
唯は思わず相好を崩し、至福の時に満たされる。
「美味しいぃ、りっちゃん、天才だよー」
「うわぁ、確かに美味しいですね。
辛味が無いのにきちんと青椒肉絲してますし。何より、独特の歯応えがクセになります。
ミシュランに紹介されても、違和感ありません」
 同じく青椒肉絲を食べた憂も、味と律を褒めそやしている。
「そ、そこまで褒められると、おかしーし。大袈裟言うなよー」
 律は頬を染めて俯いた。
仕打ちへの協力という状況でも、褒められれば嬉しいのだろう。

154いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:58:06 ID:Ic6DMXn20
 尤も、協力とは言っても、律が行う事は文字通りのお膳立てである。
憂からの愛を欲する唯こそが、主な役割を担っている。
そしていよいよ、状況が整い機は熟した。
「大袈裟なんかじゃありませんよ、実際に凄いです。
調理の手順だけじゃ無く、味も確かめてみて、参考にしたいと思いました。
さっきも言いましたが、私の腕じゃ此処までは難しいでしょうけど」
 憂は唯の企みなど知らず、相変わらず律を褒めていた。
これから自分が嬲られるとは知らずに。
その無邪気な憂へと、唯は冷酷な同調を浴びせた。
それこそが、狼煙だった。
「だよね、憂の腕じゃ難しいよね。素質が全然違うもんね。
まぁ無理しなくていいよ、期待してないから。
その点、りっちゃんの料理なら、毎日でも食べたいのになー」
 一瞬にして憂の表情が凍り付き、箸の動きも止まった。
唯はすかさず、硬直している憂へと話し掛ける。
「あれ?憂、どうしたの?何か固まっちゃってるけど」
「ああ、うん、そうだよね。私じゃ無理、だよね。
でも、頑張りたい、かな。少しでも、近付きたいから」
 憂は唯の言葉で我に返ったように、慌てて言葉を返してきた。
その途切れがちな言葉に、憂が受けた衝撃の大きさが表れている。
「身の程分かってるじゃん。まぁ、別に頑張って貰わなくて結構なんだけどね。
頑張ったところで高が知れてるんだから。
それで、どうして固まってたの?そっちに付いては、答えてもらってないよ?」
 唯は意地悪く問いかけた。
憂は視線を逸らしながら、言葉短く答える。
「んーん、何でも無いよ、お姉ちゃん」
「何でも無くないよね?ねぇ、憂。
私は姉として、妹の事が心配だから聞いてるの。
それなのに憂は、私の心配を無下に扱う心算なの?素直に答えてよ」
「えっと、ちょっと、ショック受けちゃって、かな。
えっとね、私もね、料理が下手かもしれないけど、それでも頑張ってるんだ。
だから、期待だけでもして欲しいかな、って。そう思って。
それで、できればなんだけど、私じゃ無理とか言わないで欲しいかな。
応援、して欲しいかな」
 唯の執拗な追及を受けて、憂は遠慮がちに言った。
それに対して、唯は大仰に驚いて見せる。
「ええっ?いやいや、何言ってるの。
私が言った事って、憂自身が言った事をトレースしただけだよ?
なのにショック受けたの?」
 唯はそこまで言うと、呆れた表情を繕って続ける。
「あ、もしかしてさ。
憂が、私じゃ難しいとか言ってたのって、慰めて欲しいだけのフリ?
私に、憂もりっちゃんに負けてないよ、とか言って欲しかったの?
うわぁ……」

155いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 22:59:40 ID:Ic6DMXn20
「そ、そういう心算で言ったんじゃないよ。
本音だよ、本当に律さんには及ばないって、分かってるから」
「だったら何で、ショックなんて受けるの?
りっちゃんに負けてないって自惚れてるから、ショック受けたんじゃないの?
思っていた通りの事言われたのなら、別に改めてショック受ける必要無いもんね」
「違うの、言葉の内容がショックなんじゃないの。
言った人が、お姉ちゃんだから、ショックなんだ。
一応、慰めて欲しかった訳じゃ無いよ?
それでもね、好きな人から自分の料理を貶されれば、ショックだって受けるよ」
 憂の表情が、羞恥を帯びて赤く染まった。
律の眼前で姉に対する愛を口走った事に、咄嗟に羞恥を覚えたのだろう。
「ふーん、そういう気持ち、別に分からなくもないかな。
でも私、味に対しては正直だから。
だからね、もう一つ言わせてもらうよ。
憂はさっき、りっちゃんに近づきたいとか言ってたけど、それすら恥じるべき自惚れだよ。
だって、ほら。りっちゃんの料理を食べてみてよ。
これだけ乖離してる人を相手に、肩を並べようだなんて。
ほら、食べなよ。一噛み毎に次元の違いを噛み締めなよ」
 憂は言葉を返してこなかった。
俯いて、小刻みに肩を震わせている。
「返事は?」
 唯が促すと、憂は首肯とともに辛そうな声を絞り出した。
「うん」
 これで憂は律の料理を食べる毎に、自身との差を思い知らされるだろう。
それは唯の計画に、効果的に作用する。
 律の料理を褒める反面、憂の料理を貶す事。
それこそが、唯の計画だった。
この計画を思い付いた契機は、律と話した金曜日の電話にある。
律のように料理が上手ければ、と言おうとした際、唐突に思い付いた。
そのまま律に計画を話して、料理を作って欲しいと頼んだのだ。
 そして律は、唯の期待以上の役を果たしてくれた。
ある程度は料理の腕が無ければ、幾ら憂より上手と評しても説得力が無い。
その点、律の料理は計画抜きに考えても、憂以上に巧みだった。
よって、唯が律の料理を褒めて憂の料理を貶す事に、正当性が付された。
唯の酷評を憂は一噛み毎に、残酷にも自身で正当付ける羽目になるのだ。
 唯は計画の成功を確信しながら、小鉢の一つに箸を伸ばした。
モヤシを和えた料理が中に入っている。
「美味しいー。やっぱり、りっちゃんは凄いや。これ、ナムル?」
「んー、ナムル風のもやし、かな。
コチジャンとかの辛い材料は使わず、塩気で味付けした感じ。
もやしの和風漬物、ってのが一番近いニュアンスになるのかな」
「へぇー、凄いね。到底、憂には真似できないよ。
そもそもそんな発想が無いし、何より技術が無いからね」
 憂は反論も同調もせず、ただ俯いて箸を遅々と動かしているだけだった。
 その後も唯は毀誉褒貶を使い分け、
只管に律の料理と憂の料理を対比させ続けた。
勿論、前者に対しては惜しみない称賛で、後者に対しては仮借ない批判で遇していた。
次第に憂の瞳には涙が溜まり、時折袖で目元を拭う動作さえ見せている。
その間、律は憂に対する攻撃にこそ加担していないが、フォローもしなかった。
その事も、憂に孤独感を味わわせる効を為している。

156いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 23:04:14 ID:Ic6DMXn20



<デザートまで食べきった辺りから。
その描写の直後、唯はもう憂の弁当は要らないと言い、律に昼食をせびる。
憂は迷惑だからと止める。その流れで書いていく。



律の料理を褒めちぎり、憂より上手いと評し、憂の料理の酷評。
律が本当に料理上手な為、単なる嫌がらせとならない効果がある。
つまり、唯の仕打ちに説得力が生まれる。

唯の日曜の計画。それは、律を家に招き、料理を作ってもらうという事。
日曜、それで憂より上手いと評し、憂を凹ませる。
憂にも食べさせ、敗北を認めさせる。
唯はもう憂の弁当は要らないと言い、律に昼食をせびる。
憂は迷惑だからと止めるが、だったら昼食代を寄越せと唯は憂に迫る。


月曜、梓は凹んでいる憂を心配して悩みを聞く。
そして、唯から受けた仕打ちを知って激怒。純にも話して、協力を請う。
何れ和も知るかも。
放課後では、澪からも律の仕打ちを聞き出すかも。


今後の展開として、部活外にも移った律と唯によるテスト。
但し梓は純を巻き込んで憂から事情を聴き始めるほか、紬や澪とも情報の共有を開始。
やがては律と唯からテストの存在を聞き出すが、それを澪や憂に告げるかどうか。
律は澪の前で、他の女と仲良くするとかやる。眼前での唯とのセックスまでいくかも。
唯も憂の前で律と眼前セックス。しかし、憂は澪と違って嫉妬する姿勢を見せない。
逆ギレして、半狂乱にキレる唯とかのネタも。>

157いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 23:11:10 ID:Ic6DMXn20
>>102-155
書いてあったのはここまでです。
なお、>>156に付いては、その時の分の執筆を終えてメモ帳を閉じる際、
直後辺りの展開をメモしておくものです。
次に開いた際、ある程度書いた段階で消しています。
書いている時の勢いによって、次の流れが生まれてくる事が多いです。
なので、閉じる際にメモしておいています。完成までの作業工程の一つですね。

 また、本作を執筆する前に、メモしていた構想も貼ります。
例によって、「自分しか読まない」という前提で書いたものですので、
読者の方には理解不能な個所が多いと思いますが。
以下。

題名案『 唯律「ついてこれるか?」 』 『 唯律「きゃんゆー らぶみ?」 』
あらすじ
[律澪と唯憂。律と唯がそれぞれ、澪と憂に冷たく当たろうと思い立つ。
理由は、自分が何処まで愛されているかを知る為。
どれだけ冷たくあしらわれても着いて来る澪や憂に、満足感を覚える二人。
一方で、澪や憂に同情した紬や梓、純、和から二人は窘められる。
そして紬から「愛を試せば、いずれ後悔する」と警告を受ける。
しかし二人は省みなかった。最終的に、唯は献身的な憂に心打たれ、許しを乞う。
梓には責められるが憂に庇われ、最終的にはU&Iの歌詞を書く。
ここが、ギリギリラインだった。一方で律は、更に澪を試してしまう。
結果、トリガーを引く事になる。唯は憂と仲良くなり、紬は警告が覆った事を知る。
しかしながら律は、極度のヤンデレと化した澪に足を潰されてしまう。
澪のもう一緒に歩いてくれないという発言が、伏線。
そして、澪の物と化す。紬の警告を思い出し、激しい後悔の中で澪に抱かれる律でFIN.

ラストの場面で、澪は律を妻(みたいなもの)として迎え、生活を保障すると言う。
障害者としてのハンデを考慮する必要無く、満たしてやると。
律が事故として口裏を合わせず、損害賠償請求すれば、こちらも虐められたとして訴えると言う。
相殺はされずとも、律や家族の世間体に暗雲が及ぶ。
また、梓や紬達も自分の味方だと諭す。
律は苦痛と絶望の中で、澪が本当に生活を保障するのか疑わしいと反論する。
いつか捨てる気じゃないのかと、反論する。
それに対して澪は
「それを確かめる為の、テストだったんだろ?(充分信じられるくらい、テストしただろ?)」でFIN.


やりたいエピ
1.お化け屋敷での律の言葉は、澪がグロ耐性付けて律の足を潰す伏線。
2.澪が律の弁当かお菓子作ってくるが、律は誤って落としてしまう。
 それで梓がブチ切れ。
3.家計のお金が無くなると泣き付く憂に、売りでもやればとかいう唯。
 その後鏡越しに包丁を握る憂の姿が映る。刺されるのかと思い紬の忠告を思い出すが、
 憂は自傷して「これじゃ売れないね」とか言う。


]

158いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:00:06 ID:q7FxTDAw0
書き手交流スレで勝手に続きを書いてもいいかと聞いたやつです。
唯「同性愛者とかマジきめぇわ」
http://blog.livedoor.jp/vippermusume/archives/4543548.html
の三次創作で、本文もちょこっと変えて書き直していました。
多分もう書くことはないので超長いですが供養にここに落とします


梓(今日こそ唯先輩に告白しよう)ドキドキ


唯「どうしたのあずにゃん。こんなところに呼び出して」

梓「私唯先輩が好きです、つきあってください」

唯「え…あずにゃんって同性愛者だったの?」

梓「え」

唯「気持ち悪いよ」

梓「そんな…先輩っ」

唯「いやああっ、来ないでよ!」バタン

梓「…」

お昼休み!
唯「…てなわけであずにゃ…中野さんに告白されてさ」ヒックヒック

和「よしよし唯、つらかったわね」

律「唯も唯だぞ。抱き着いたりなんかするから勘違いさせるんだ」

唯「ひどいよりっちゃん、私怖かったんだよ」

紬「それよりどうする?もうあの子と同じ部室にはいられないでしょうし。唯ちゃんも、それから澪ちゃんも」

澪「同性愛者怖い怖い…」ブツブツ

律「去年のことがよっぽどトラウマになってるんだな」

和「澪ごめんね。同じ生徒会の人間として謝っておくわ」

澪「…いや、和は悪くないよ。ごめんな。今は唯のことだよな」

唯「うん。中野さんが部活辞めないなら私が辞めようと思ってるけど」

律「待てよ唯、なんで同性愛者のせいでお前がやめなきゃいけないんだよ!」

紬「仕方ないわね。梓ちゃんにやめてもらいましょう」

159いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:00:34 ID:q7FxTDAw0
放課後

梓「」トボトボ

梓「こんにちはー」ガチャ

四人「」シーン

梓「あれ、机が四つしか……あの」

律「あ? お前の席ねぇから」ギロッ

梓「あ……」

紬「さぁ、お茶にしましょ」

律「おームギ、ありがとう」

澪「ありがと、ムギ」

唯「ありがと〜ムギちゃん」

梓「あ、あの、ムギ先輩は、私の……」

紬「ごめんなさい。軽音部以外の人の分はないの」

紬「同性愛は神の意思に背く行為よ。そんな人を入れておけないわ」

梓「!?」


さわ子「それで、昨日梓ちゃんが退部届け持ってきたんだけど」

澪「本当ですか!」

律「やったな! 唯!」

唯「うん。これで安心だよ」

唯「憂に話したら、憂ももう中野さんに近づかないって!」

紬「これで完全に縁が切れたわね!」

さわ子「ちょ、ちょっと待ちなさいよあんた達!大切な後輩が辞めたっていうのに何なのその態度は」

律「あー、そっか、さわちゃんにはまだ話してなかったけ」

さわ子「?」

律「実はあいつ、同性愛者なんですよ」

さわ子「……そう。つくづく運が悪いわねあなた達」

唯「私なんか告白されたんですよ! あー思い出すだけでも鳥肌が」

さわ子「まぁ、そういうことなら仕方ないわね。これは受理しておくわ」

律「ったくどーなってんだよこの学校!こないだもクラスで同性愛者が出たし」

さわ子「悪いわね、やっぱり女子高だから。対策として、隣の男子校の薔薇高校との合併が話し合われてるわ」

唯「そのままの桜ヶ丘でいてほしかったけど、仕方ないよ」

梓(あんなのひどすぎるよ)

梓(きっと今頃先生が先輩達のこと叱ってくれてるはず)

梓「」ガラガラ

梓「あ、憂、おはよー」

憂「ひぃ!」

純「どうしたの憂?」

憂「ううん。今誰かの声が聞こえた気がして」

純「えー。誰もいないじゃん。疲れてるんじゃないの?」

梓「……へ?」

憂「そうかなぁ。昨日ちょっと遅くまで起きちゃってたから」

梓「憂、純?」

憂「ひぃ! また聞こえた」

純「今度は私も聞こえた! 怖いなー。この教室何かいるんじゃない?」

梓「・・・」

160いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:00:58 ID:q7FxTDAw0
梓(そんな……憂達まで……)トボトボ

梓(どうして……同性を好きになるのって、そんなに悪いことなの?)

梓(だってここ女子校だよ……)

先生「はーいHRを始めます」ガラガラ

先生「では出欠を取りますー。安倍さん、伊藤さん――」

梓(部活はやめて、友達はいなくなって……)

梓(何で私がこんな目に……)

梓(ほんとに好きだったのに……。こんなのあんまりだよ)

先生「手島さん」

モブ代「はーい」

先生「中村さん」

モブ子「はーい」

梓「!?」
「あの! 先生、私は!?」ガタッ

教室「シーン」

先生「新田さん〜、根本さん――」 

先生「はーい、それじゃあHRを終わります」

先生「」ガラガラ

先生(ふぅ……。それにしても、家の生徒に同性愛者がいたなんて残念ね)

純「先生、梓の名前呼ばなかったね」ヒソヒソ

憂「うん。さっきメールがあったんだけど、お姉ちゃんがさわ子先生に梓ちゃんが同性愛者だって教えたみたい
  だからそこから伝わったんじゃないかな」

純「クラスのみんなにも梓が来る前に教えといたしね」

憂「同じクラスに同性愛者がいるなんてちょっと怖いもんね」

純「できるだけ早く学校やめてくれればいいけどね」

憂「この分じゃきっとすぐだよ。ほら」

純「何あれ、机に突っ伏して、寝たふり?」プルプル

憂「ちょっと体震えてるし、泣いてるんじゃないの?」プルプル

梓(どうして……どうしてこんなことに……)


体育の時間

先生「はーいそれじゃあ三人組みを作ってストレッチしてください」

純「憂やろ!」

憂「うん。あと一人はどうしよっか」

梓「あ、憂……純」

憂「あ、中村ちゃん、一緒にやらない」

モブ子「え? 私? いつもは中野さ――あ、ううん。いいよ、やろう!」

梓「……」

先生「はーい。作れてない生徒はいませんねー」

梓「あ、先生、あの」

先生「いないようですねー」

161いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:02:09 ID:q7FxTDAw0
公民の時間
先生「今日はこのように、日本国憲法は――」

先生「ちょっと授業内容とはそれるけど、憲法について重要な条文があるので見ておきましょうか」

先生「教科書の一番裏を開いて、じゃあ平沢さん。24条を読んで」

憂「はい。婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が〜」

先生「あ、もう一回。両性、のところを強調して」

憂「はい。婚姻は、『両性』の合意のみに基づいて〜」

梓「……」

先生「はい。いいです」

モブ子「せんせー、両性ってのは、男と女のことですよね」

先生「そうですよ。日本では同性結婚は認められてませんからね」

モブ子「じゃあ同性愛はー?」

モブ美「えー、きもーい」
クラス「どっ」

先生「こらこら。まぁ同性愛に関しては個人の自由だけど、気持ちのいいものではないわね」

梓「……」


昼休み

梓(なんなのこれ……)

梓(なんでみんなで、こんな……)

梓(私が同性愛者だから?)

梓(何で誰かを好きになるだけでこんな目に遭わなきゃいけないの?)

梓「あ……お弁当が……」

グチャ・・・

梓「そういえばさっきトイレに行った時、憂達が私の机の周りに集まってたけど……」

梓「なんでここまで……」

純「見てよ。梓の奴相当こたえてるみたい。こりゃやめるのも時間の問題だね」

憂「純ちゃんも人が悪いねぇ」

純「憂程じゃないよ」

梓「……」

憂「あれ、なんかこっち向かってきてるよ」

純「えー、嘘でしょ」

梓「ねぇ、憂、純」

純「おホン、ういー、ちょっと数学で分からないとこがあるんだけど」

憂「うん。どこどこ」

梓「ねぇ、なんで無視するの?私が同性愛者だから?ねえ、私、憂にも純にも迷惑掛けないから……唯先輩のことも諦めるから。ねぇ」

純・憂「…」

梓「ねぇ憂ったらっ!」ガシッ

憂「きゃー!」

モブ「ちょっとあんた憂に何してんのよ!」ドカッ

梓「あ、痛いっ!」

クラス「ちょっとどうしたの?」

モブ「こいつがいきなり憂に掴みかかったのよ!」

クラス「えー、さいってー」

梓「何だ、見えてるんじゃん」

モブ「は? 何訳わかんないこと言ってんのよ」

梓「ねぇ、見えてるのになんで無視するの!? 私が何か悪いことした!?」ガシッ

モブ「きゃー! 助けてー!」

クラス「大丈夫中村!? ちょっと離れなさいよ!」ドカッ

梓「いたっ」

クラス「このっ、このっ、この汚物、同性愛者!!」ドカッドカッドカッ

梓「あ、いたっ、やめてっ、あっ」

先生「ちょっとあなた達何してるの!」ガラッ

モブ「あ、先生! こいつがいきなり憂と中村に掴みかかったんです!」

モブ「引き剥がそうとしたから抵抗したのでちょっと手荒なことを……」

先生「そう……二人とも大丈夫?」

憂「あ、はい、平気です」

モブ「ちょっとびっくりしましたけど」

先生「……中野さん、ちょっと職員室まで来なさい」

梓「あ……」

先生「後の子は遊んでていいわ」

モブ「おら、さっさと行けよ!」ガンッ

梓「いたっ」

先生「いいから早く来なさい」

162いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:02:37 ID:q7FxTDAw0
職員室

先生「それで、先に手を出したのはあなたなのね?」

梓「でも、憂達が先に私のことを無視して……」

先生「そういうことを聞いてるんじゃないの」

先生「先に手を出したのはあなたなのね?」

梓「何でですか! 先生も朝私のこと無視しましたよね! どうしてですか!
  私が同性愛者だからですか?こんなのおかしいですよ!」

さわ子「ふー」ガラガラ

さわ子「あ……あず、中野さん。どうしたんですか、いったい」

先生「いえ、この子が他の生徒に暴力を働いたみたいなんですけど、言ってることが支離滅裂で」

梓「あ! さわ子先生!」ガシッ

さわ子「わ! ちょっとどうしたのよ!」

梓「先輩達は、先輩達はどうしましたか!? ちゃんと叱ってくれましたか? 
ちゃんと理由をきかない限りは退部なんて認めないって昨日言ってくれましたよね!?」

さわ子「え……言ったけど、ちゃんとした理由があったみたいだから退部届けは正式に受理したわよ」

梓「え……」

教室

モブ美「ねー、どっちかさ、ちょっと体に傷でも付けてみたら? そしたら中野、退学とかになるんじゃない?」

モブ江「あ、それいいかもね。中村やってみたら?」

モブ子「えー。そんなのやだよー」

モブ美「大丈夫だよ。ほら、ここにコンパスあるからさ、これを手にちょっと刺してさ、目に向けられたけど手で防ぎましたとか言えば一発だよ」

モブ子「えー、痛いのはちょっとなぁ」

モブ江「何言ってるのよ。名誉の負傷じゃない」

モブ子「えー、どうしよう。ねぇ、憂」

憂「えいっ」ドスッ

モブ子「えっ!」

純「わっ!」

モブ美「おおー! 流石憂!」

憂「これでお姉ちゃんが助かるなら……みんな口裏合わせてくれる?」ダラダラ

モブ美「任せといてよ! 全力で追い出すわよあの同性愛者!」

憂「いたた……あ、でもお医者さんとかに調べられたら自分で刺したってバレちゃうかなぁ」

純「大丈夫じゃない? 保険の先生はこっち側だろうし、警察呼んで鑑定なんてことにはしないでしょ、多分」

モブ子「すみませーん」ガラガラ

梓「あ……」

先生「あら、どうしたの?」

モブ子「あ、平沢さんがさっき怪我したところが痛むっていうんで保健室にいったんですけど、保健室に誰もいなかったので……」

先生「そう。今保険の先生外出してるのよ。ちょっと見せてみて」

憂「あ、はい」

先生「どれどれ。え!? これを中野さんがやったの? コンパスよね、これ」

梓「!?」

憂「はい。取っ組み合いになった時。目に刺されそうになったんですけど、何とか手で」

先生「ほんとなの、あなた達」

純「はい。凄い形相で、一瞬ほんとに目に刺したのかと思いました」

梓「え、ちょっと先生、私そんなことしてません!」

先生「何で早く言わないのよ。これはちょっと酷いわね……」

先生「中野さん、本当にやったの? これはちょっと注意だけじゃ済ませられないわよ」

梓「違います! 私こんなことしてません!」

先生「駄目ね。錯乱してるわ。平沢さんが嘘付くはずもないし……。手はまだ痛む?」

憂「あ、大分おさまっては来ました」

先生「ちょっと梓ちゃんの処分を考えないといけないから。一回教室に戻ってくれる? どうしても痛む時はまた職員室に来て。
    保険の先生も1時には帰ってくるはずだから」

憂「はい」

先生「梓ちゃんはちょっとこっち来て」

梓「先生! 私本当にあんなことしてません! 信じてください! 先生!」

さわ子「……」

梓「さわ子先生! 助けて!」

さわ子「……憂ちゃん、待って」

憂「はい?」

さわ子「ほんとに、梓ちゃんが刺したの?」

憂「……はい」

梓「先生! 嘘です、信じないで下さい!」

163いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:03:09 ID:q7FxTDAw0
唯「あ、憂からメールだ。あ、ちょっとみんな、中野さんが暴力事件起こしたみたいだよ!」

律「はぁ? 何考えてんだあの汚物。本当同性愛者は何考えてるかわかんねぇな」

澪「暴力事件って、何か処分とかされるのかな」

唯「んー詳しい内容は書いてないから分からないけど、もう大丈夫だよって書いてあるし、そうかもね」

紬「でも大丈夫かな梓ちゃん……。そんなことする子じゃなかったし、相当追い詰められたんじゃ」

律「何言ってんだよ、同性愛者は危険なもんなんだよ。エリなんかアカネに執拗な付きまといをしてたらしいし」

アカネ「」ビクッ

律「あ、悪い」

三花「アカネ大丈夫?」

アカネ「う、うん…」

唯「アカネちゃん、かわいそうだね」

和「ひどい話だわ。表面的には親友でも、陰ではアカネを脅して性的嫌がらせをしてただなんて」

和「無事滝さんは退学になったけど、彼女の傷が早く癒えるといいわね」

唯「うん、私はアカネちゃんみたいにならなくてよかったよ」




先生「中野さん。正直に言って」

梓「本当です! 信じてください! 私、刺したりなんか……」

梓母「先生!」

先生「あ、お母さん。今日はわざわざすみません」

梓母「いえ、でも、梓が暴力事件を起こしたなんて、どうして……」

先生「本人も相当錯乱してるみたいで、それとお母さん、お子さんのことなんですけど……」

梓母「はい?」

先生「言いにくいんですけど、梓ちゃん、同性愛者みたいなんですよ……」

梓母「……え?」

先生「ですから」

梓母「冗談ですよね先生! 家の子が同性愛者なんて!!」

先生「残念ですが……。何でも昨日、軽音部の先輩に告白して振られたみたいで、
    今回の出来事も、それが絡んでるみたいです。刺されたのは、その先輩の妹で……」

梓母「もしかして、憂ちゃんですか?」

先生「あ、知ってるんですか?」

梓母「はい。よく家にも遊びに来てましたし……、憂ちゃんのお姉ちゃんを尊敬してるとも家で何度も言ってましたから。
    まさか、恋心を抱いてるとは想いませんでしたけど……」

先生「辛い気持ちは分かりますけど、お母さんがしっかりと受け止めてあげないと」

梓母「憂ちゃんの方は大丈夫なんですか?」

先生「はい。かなり強く刺されていた様ですが、部位が部位なので大事には」

梓母「良かった。それにしても、あんなに仲良くしてたのに……」

先生「失恋のショックが大きかったのかもしれません」

梓母「家は共働きで、職業柄梓を一人にしてしまうことも多かったですけど、
   それでも、欲しいものは買い与えていたし、家に居る時はできるだけ愛情を注ぐようにしてたのに…。
   女子校に行くのも、最初は反対してましたけど、梓がどうしてもここじゃなければ駄目だと言うから……。
   それが、どうして同性愛者になんて……。やっぱり、育て方を間違ったんでしょうか」

先生「そんなに落ち込まないで下さい。これからどうするかを考えましょう。
    それで、梓ちゃんの処分なんですけど」

梓母「はい」

先生「学校側としては、自主退学という形で済ませたいですが」

梓母「梓は何て?」

先生「何分まだ錯乱してる状態で……」

梓母「そうですか」

先生「梓ちゃんのところへ行きましょうか」

梓「はい」

先生「梓ちゃんのお母さんを連れてきました」

校長「ああ、ご苦労さまです」

梓「あ、お母さん」ダッ

梓母「梓」

梓「お母さん、みんながね、私が同性愛者だからって苛めるんだよ。
  先輩も憂もみんなもね。同性愛者とは付き合えないって、同性愛者だからお前が悪いんだって。
  ねぇ、お母さんは私の味方だよね? お母さんは私の味方だよね?」

梓母「梓……」

校長「お気の毒に……処分の方は後日決定したいと思いますので、今日のところはお子さんを家で休ませて上げて下さい」

梓「お母さん。私は何も悪くないんだよ。処分なんていらないって教えてあげてよ」

梓母「平沢さんの家にお詫びに行きたいのですが……」

校長「平沢さんの家は今両親不在みたいですし、二人とも顔を合わせたくないと言ってるようですから」

梓母「そうですか……すみません」

梓「ねぇお母さん、お詫びなんて必要ないんだよ? どうして、お母さん?」

梓母「梓、ごめんね。お母さんの育て方が悪かったから……」ギュッ

梓「どうして泣いてるの、お母さん?」

164いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:03:54 ID:q7FxTDAw0
唯「いやーそれにしてもさっきはびっくりしたよー。いきなり先生に呼び出されるんだもん」

澪「唯のことだから、また何かやらかしたのかと思ったよ」

唯「えー、酷いよ澪ちゃん」

律「まったくどこまでもはた迷惑な奴だよな。これだから同性愛者は」

唯「憂を刺したってのは絶対許せないよ」

律「憂ちゃんも刺し返してやればよかったのにな。正当防衛だし、同性愛者なんか何されても文句言えねぇだろ」

唯「憂はいい子だからね。でも私が刺し返したいくらい……あ」

澪「梓だ」

紬「横にいるのはお母さんかしら」

唯「……」

律「何かこっち見てるぞ」


梓「あ、唯先輩!!」

梓母「あ、平沢さんと、軽音部の皆さん。家の子が迷惑かけたみたいで」

唯「……いえ、いいですから。二度と私達に近付かない様に言っておいて下さい」

澪「おい唯!」

梓母「いいのよ……。ごめんなさいね」

梓「唯先輩! 私憂のこと刺してなんかいませんよ! 唯先輩の妹にそんなことするわけないじゃないですか!
  唯先輩!」

唯「……」

梓「唯先輩……、もう告白なんてしませんから、傍にいるだけでいいですから、許してくださいよぅ」

律「何言ってんだこいつ」

梓母「梓!」

唯「……行こうみんな」

澪「ああ」

律「ちっ」

紬「……」

梓「唯先輩! 待ってくださいよ! 唯先輩ぃ……」

梓母「梓、今日はゆっくり休んで、これからの事考えましょうね」

梓「……」



梓父「それにしても、よりによって家の子が同性愛者なんて……だから俺は女子校に行かせるのなんか反対したんだ!」

梓母「何よその言い方。最後にはあなたも賛成したじゃない!」

梓父「お前が梓の意見を尊重してあげようとしつこく言ったからだろ! それでこの結局このザマだ!
    次は、梓の意見を尊重して、同性愛も尊重してあげようとでも言い出すのか? 良いお笑い草だな!」

梓母「何よ! 自分は梓のことなんか全然気にかけもしないで全部私に任せっきりだった癖に、こんな時だけ私のせい?」

梓父「しょうがないだろ。子育ては女の仕事だ」

梓母「随分古い考えね。あなたがそんなだから梓もああなったんじゃないの?」

梓父「同性愛尊重は新しい考えってか? はっ」

梓母「とにかく、私だけの責任じゃありませんからね」

梓父「俺はもう知らんぞあんな奴のこと。金は出すが面倒を見るつもりはない」

梓「……」

梓「どうしてこんなことになっちゃんだろ……」

梓「私が、同性愛者だからかなぁ」

梓「でも、初めて、初めて本気で人を好きになったのに。その相手が、たまたま女の子だったってだけなのに」

梓「それだけでどうして……」

――……唯先輩のことも諦めるから。ねぇ

梓「諦められるわけ、ないよ……」

梓「唯先輩ぃ」 ガチャ

165いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:04:11 ID:q7FxTDAw0
唯「憂、手大丈夫?」

憂「うん、もう痛みはないよ」

唯「そっか。それにしても、憂にこんなことするなんて、絶対に許せないよ」

憂「……うん」

唯「今日は大変だったね。もう寝よっか」

憂「そうだね」
ガンッガンッガンッ

唯「!?」

憂「お客さん? 誰だろ、こんな夜中に?」

唯「学校から連絡が行って、お母さん達が帰ってきたのかも」

憂「それなら鍵使うはずだよ」

唯「でも、案外鍵なくしちゃったのかもしれないし」タタタタッ

憂「あ、お姉ちゃん!」

唯「はいはーい」ガチャ

唯「え……中野、さん」

梓「あ、唯先輩!」

唯「何しに来たの? それに……何でギターなんか持って」

梓「あ、これは、唯先輩にギターを教えて貰おうと思って」

唯「は……? ギターなら中野さんの方が上手じゃん。馬鹿にしてるの?」

梓「いえ、技術じゃないんですよ。私なんか唯先輩の足元にも及びません」

梓「さっきですね。唯先輩を好きになった時のことを考えていたんですよ」

梓「ほら、何気なく好きになってたような恋に置いても、恋に落ちる一点はあるものだって言うじゃないですか。それがいつだったのか考えてたんです」

梓「そしたらですね、ケーキに夢中になってる先輩、だらしなくパンダみたいに机の上に突っ伏してる先輩、すぐに抱きついて私を懐柔してしまう先輩、とにかく色んな先輩が浮かんで来たんですけど」

梓「どうしても私の脳裏に焼き付いて離れないのは、新歓ライブの時のとても伸びやかに、羽ばたくように演奏をしている先輩だったんです」

梓「一目惚れってことになるんですかね? 私は、唯先輩の最初の演奏を聞いたときにもう既に恋に落ちていたみたいなんです」

梓「だから、私があの演奏を身に付ければ、この心の痛みもおさまるかもしれないと、唯先輩を諦められるかもしれないと思って
  それで、ギターを教えて貰おうと思って……だから唯先輩お願いしますよ。私が唯先輩の音を手に入れれば、私はもう唯先輩に縛られなくて済むんですから」

唯「……かげっ……して……」

梓「え?」

ドカッ
梓「あっ」ガンッ

唯「いい加減にしてよっ!」

唯「さんざん私達に迷惑かけといて! 憂のこと刺しといて!」

唯「謝りもしないで、ギターを教えてくれってどういうつもりなの!?」

唯「大体何? 黙って聞いてれば恋の瞬間だの恋に落ちただの好き勝手言って」

唯「私達女同士だよね? 気持ち悪いんだよっ!」

梓「だからそんなのは勝手な価値観じゃないですか。私は全然気持ち悪いと何か思ってません。
  でも、どうやらそれじゃあ世間が認めてくれないみたいですから、唯先輩の音を手に入れようとしてるんですよ。
  音楽に恋するのは、別に気持ち悪くありませんよね? 澪先輩もそんなこと言ってましたし」

唯「いい加減にしてよ! 何訳わかんないこと言ってんの? 音? 私の音? 意味わかんないよ! これ以上私達に迷惑かけないでよ!」ドカッ

梓「あっ」

グシャ
梓「あ……むったんが……」

憂「お姉ちゃん、夜中にそんな大声出さないで。しょうがないよ。梓ちゃん頭おかしくなっちゃったんだよもう相手にしないで鍵しめちゃおう。
  どうしてもしつこい様だったら警察呼ぼう。ね?」

唯「なんで、なんでこんな奴に……」

憂「しょうがないよ、お姉ちゃん」ガチャ

梓「あ、唯先輩ぃ……」

梓「ヒク、ヒクッ…」

166ここからオリジナル:2014/06/06(金) 20:05:08 ID:q7FxTDAw0
梓(どうしちゃったんだろう…律先輩も、澪先輩も、ムギ先輩も、さわ子先生も、憂も、純も、みんなも、お母さんも、お父さんも)トボトボ

梓(…唯先輩も)

梓(ムギ先輩に至っては、あんなに百合好きだったのに)

梓(同性愛って…女の子を好きになるのってそんなにいけないことなの?私はただ、唯先輩が…)ジワ・・・

梓「ヒック、ヒック…」


梓「!?」ガシッ

梓(ちょ…いきなり口を押さえられて、路地裏にっ…)ズルズル

梓(お、襲われる!?)

?「しーっ、静かにして!ひどい顔ね、これで涙をふきなさい」

梓「はい?…あ、貴方は、曾我部先輩!」

恵「久しぶりね、梓ちゃん、だっけ」

第一章 完

恵「びっくりさせてごめんなさい。同性愛者だとばれてしまったあなたが見ていられなくて」

梓「はあ」

恵「安心して。私はあなたの味方よ。というか、同胞、かしら」

恵「私もね、秋山さんを好きになってストーカーしたことで、同性愛者だとばれて、退学になったの」

梓「まったく…え、退学!?」

恵「そう。自主退学という形だったけど、それまで生徒会、教師共々にいじめられ、追い詰められたの」

恵「そのあとも同性愛者を受け入れてくれる学校なんてなくて、両親にも半ば見捨てられたわ」

恵「知らないのも無理ないわよ。生徒会長が同性愛者じゃ学校中がパニックになると踏んで、内密に処理したでしょうから。たぶん私は勝手に転校して行って、あとは真鍋さんが生徒会長を継いだ形じゃないかしら」

梓(待って、退学?先輩はたしかにストーカーしたけど、ちゃんと卒業までいたはず…)

梓(今更だけどなんかおかしいよ、この世界…)

梓「わ、私も苛められました。軽音部を無理やり辞めさせられて、教師ぐるみで無視されて、友達だった憂も純も味方してくれなくて、身に覚えのないことで退学させられて、両親も…」

梓「先輩…同性愛って、そんなにいけないことなんでしょうか…」

恵「そうね。でも、よくあることなのよ」

恵「同性愛を理由としたいじめや退学、リストラはザラ。もっとひどいと濡れ衣を着せられ、逮捕されることだってある」

梓(濡れ衣…)

恵「同性愛者は罪を着せやすいの。いくら自分はやってないって言っても、同性愛者だというだけで警察も裁判官も聞く耳持たないから」

梓「そんなひどいこと、許されるわけないです。とっくに問題視されてるはずです!」

恵「誰も問題視しないわ。同性愛者だから」

梓「そんな…おかしいです。私たちただ、女の子を好きになっただけなのに…」

恵「ええおかしいわ。だからね、私達日本に革命を起こそうとしてるのよ。ねえ梓ちゃん、秋山さんの後輩だと見込んで話があるの。あなたも私達と一緒に来ない?秋山さんと同じクラスだった滝さんもこの間入ったのよ」

梓(ムギ先輩の転身、曾我部先輩の退学、同性愛者に対して異様に厳しい世界、そして革命…)

梓(間違いない、私、パラレルワールドに迷い込んでしまったんだ。それならこの世界の私は、いったいどこに?)

恵「無理強いはしないわ。でも聞いて。私たちはこの現状を打破して、自由に恋愛のできる社会、好きな人を好きと言える社会を目指そうとしてるのよ」

梓(好きな人を好きと言える社会…唯先輩への想いを隠さなくていい社会…)

梓「参加します!」

恵「本当!?」

梓「ええ、やってやるです。その前に待っててください、家に戻って荷物とってきます」

恵「ありがとう!必要な荷物は、財布、衣服、下着、筆記用具、秋山さんの写真…」

梓「やっぱやめます」

恵「待ってええええ!」

167いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:07:12 ID:q7FxTDAw0
中野家
梓母「梓!どこ行ってたの」ギュッ

梓「お母さん…」

梓母「梓、お父さんとは離婚が決まったの。私は梓を見捨てたりしないわ。一緒に同性愛を治していきましょう、ね」

梓(お母さん…ごめんね)

梓の部屋
梓「念のため『百合』とググってみよう」

梓「…うん。見事に花しか出てこないね。『やおい』に至っては何も」

梓「おっと、こうしちゃいられない。荷造り荷造り」

梓「よし」

『お父さん、お母さん、さようなら。
梓は旅立ちます。
好きな人を好きだと言える、そんな社会をつくるのです。
探さないでください。また、どこかで会いましょう。by梓』

平沢家
唯「うい〜こわかったよう」

憂「よしよしお姉ちゃん。もう大丈夫だよ。よく頑張ったね。あの同性愛者は帰って行ったよ」

唯「憂に怪我させるなんて許せないもん!憂のためなら頑張るもん」

憂「お姉ちゃん…」

憂「さあ、テレビ見てあんな子のことは忘れちゃおうね」

唯「うん。テレビテレビ〜」

憂「あの海外ドラマ録れてたよ。一緒に見よう」

唯「おお、どうなったのかな。あれ前回男の人が女の人庇って代わりに撃たれちゃったんだよね。感動的だったなあ〜」

憂「そうだね。感動的だよね〜」


恵「今日は遅いから、ホテルに泊まりましょう。明日私たちの場所へ案内するわ」

梓「はい」

恵「革命には資金も必要だから、同室でいい?」

梓「何もしないなら」

恵「何もしないわよ。私が手を出すのは秋山さんだけ!」

梓(住む世界が変わってもこの人はこの人だ)

梓「私も唯先輩以外は興味ありませんので」

梓恵「ハハハハハハハ…」


梓「お風呂さっぱりしたー・・・恵先輩はもう寝ちゃったのかな」

梓(こんなことになるなんて正直現実味がなくて夢みたいだよ。でも散々痛い目に遭ったから夢じゃないだろうし…)

梓「!」ギュッ

恵「梓ちゃんって髪下ろすと、秋山さんみたいねーサラサラ―」

梓「や、やめてください」

梓(何なのこの人。いきなり抱き付いて来て、髪を撫でてきて…)

恵「秋山さん…」

梓(まるで…唯先輩みたい…)

唯『気持ち悪いよ』

梓(たとえパラレルワールドの唯先輩でも、唯先輩に拒絶されたことには変わりない)

恵「…ねえ、秋山さんが軽音部でどうしていたか教えてくれる?」

恵「あれから辛い時、いつも思い描くのが秋山さんのステージでの姿だった。そうして自分を励ましてきた。秋山さんがいたから生きてこれたの」

恵「そのせいで今の状況に陥ったのだとしても、私はこの想いを悔いていないわ」

梓(私だって同じだ。ステージの上の唯先輩はとても輝いていて、だから軽音部に入った)

梓「澪先輩は、だらしない軽音部の中でもとてもまじめで、後輩の私を可愛がってくれました」

恵「やっぱりー、ああ、秋山さんを近くで拝めて、そのうえ可愛がられるなんて羨ましいわー」

梓「ええ。時々恥ずかしがり屋だったり怖がりだったり、ちょっと頼りないところもありましたけど、ギターの練習も見てくださって、私澪先輩を尊敬してました」

恵「でしょー」

梓「…だけど私は、澪先輩ではなく、軽音部一だらしのない唯先輩に惹かれていました」

梓「気が付くといつも唯先輩のこと考えて」

梓「いいところも悪いところもみんな大好きで」

梓「それで今日思い切って告白しようと…」ジワ

恵「梓ちゃん…あなたはとても勇気があるわ。告白するなんて。私にできたのはせいぜい付きまといだけよ」

梓(それはそれで勇気があると思いますが)

梓「実は私、別の世界から来たんです」

梓「元の世界では、この世界より同性愛者に優しかったです。偏見や差別がないわけじゃなかったですけど、この世界のそれよりましでした」

梓「それどころか、好む人さえ存在しました。あの世界のムギ先輩がそうでした」

梓(前にムギ先輩に聞いたことあるけど、彼女は妹分に百合漫画を勧められたことが百合にはまるきっかけだったらしい)

梓(同性愛が極端に異端視され、百合というジャンルのないこの世界だから、ムギ先輩はあんなこと…)

恵「なんて素晴らしい世界なの!私もその世界にいれば、秋山さんと今頃はめくるめくランデブーの世界に…」

梓「それはないですから!てかあなたあっちでもアウトなことしてますから!」

168いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:07:34 ID:q7FxTDAw0
元の世界
唯「ねーあずにゃん、なんか今日私のこと避けてるみたいだけど、どうしたの?」

梓「唯先輩…」

唯「なんかあったのなら、相談してくれるかな。だって私はあずにゃんの先輩だからね!」フンス

梓「唯先輩、私、先輩のこと…」

唯「あずにゃん?」

梓「っ、忘れてください!」ダッ

唯「あずにゃーん!」


梓(何考えてるんだろう、告白なんてしたら唯先輩に嫌われて、軽音部を追い出されて、居場所を失うにきまってるのに)タッタッタ

梓(毎日毎日唯先輩に抱き付かれて、気持ちを隠すのもうまくいかなくなっちゃうよ…)ジワ

梓(いっそ軽音部やめちゃおうかな。気持ちがばれて嫌われるよりはましだよね)ぐしっ

〜♪

梓(唯先輩からの着信だ。どうしよう今は出たくない。声が聞きたいのに…)

唯「あずにゃん、あずにゃーん?」

梓(追ってきた!ヤバい隠れよう)

唯「どこ行っちゃったの?私が何か悪いことした?謝るから出てきてよ、ねえーっ」

梓(ごめんなさい唯先輩、貴女は悪くないんです。同性を好きになってしまった私が異常なんです)


梓(唯先輩、ずっと探してくれてたなあ。悪いことしたな。ますます顔合わせられないよ)

梓(やっぱ軽音部やめようかな…)トボトボ

梓(隠れてたせいで随分帰るの遅くなっちゃったよ)

梓「ただいま」

梓(っていっても両親はいないけどね。久々にテレビでも見るかな)

梓「…女の子と女の子がキスしてるアニメ。え、ええええええええええ!?」


梓『混乱してるようだね』

梓「あ、あなたは!?」

梓『私はこの世界の中野梓。今はあなたのもともといた世界にいるの』

梓『端的に言うとね、この世界はあなたのもともといた世界より、同性愛者に優しいの』

梓『あなた唯先輩が好きなんでしょ』

梓「う、うん」

梓『だから唯先輩に告白しても大丈夫。多分、居場所を失うことはないから』

梓「そうなの?」

梓『困ったらムギ先輩にでも相談するといいよ』

梓『この世界にいる私としては、随分ひどい目に遭ったから文句の一つも言いたいけどね』

梓「あ、あの」

梓『あなたはせっかく恵まれた世界に来たんだから、幸せをつかんでほしいな』

169いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:08:12 ID:q7FxTDAw0
恵「梓ちゃん、起きて」

梓「うーん・・・」 

恵「行くわよ、私達の場所へ」

梓「あ、はい」

梓(あっちの世界の私、うまくやってるかな)

梓(正直言うと、戻りたい。でもあの私も唯先輩を好きみたいだし…今更戻ったって)

梓(大体私はいつから何でこの世界に来たんだろう。今更だけど)

恵「梓ちゃーん?」

梓「にゃ、今行きますー」

恵「髪が長くてうまく解かせないの?私がやってあげる」

梓「い、いいです一人でやります」

恵「遠慮しなくていいって。これは秋山さんの髪秋山さん…ああ」うっとり

梓「」ゾクッ


ホテルを出ると、そこに見知らぬ男の人がいました。
?「やあ」

恵「わざわざ迎えに来てくれたんですか!?」

恵「この子が新しい仲間の梓ちゃんです。梓ちゃん、彼は私たちのリーダー、阿部さんよ」

阿部「ほう」

梓「よ、よろしくです」

阿部「よろしく。ところで、やらないか」

梓「」


学校
唯「おはようみんな!昨日はびっくりしたよーいきなり中野さんが家に来てね」

律「その中野さんだけどよ、昨日いきなり失踪したらしい」

唯「え、じゃああの後…」

澪「ああ。梓のお母さんが最初に気づいて、今警察がいろいろ探してるんだって」

律「このまま現れないでくれるとありがたいけどな」

唯「…」



阿部さんの車で、私たちはとある住居へ連れていかれました。
なんでも同性愛者などセクシャルマイノリティーたちがここでは一緒に暮らしているらしい。

恵「ここに仲間を集め、Sexual Minority Unionを結成しているの。通称SMUというわ」

梓「SM・・・ですか」

恵「そんなところで切らないでよ。略称なら普通ソースメジャーユニットとか札幌医科大学とかのことを指すから、外で話しても安全なの」

恵「で、そのSMUのリーダーがさっきの阿部さん。男性同性愛者のほとんどは彼のおかげで集まったの」

恵「やらないかっていうのは単なる口癖だから気にしちゃだめよ」

梓「は、はあ」

恵「まあとにかく、今日から梓ちゃんはこの部屋ね」ガチャ

「あ、曽我部寮長お帰りなさい」

「その子かわいー。新メンバーですか?」

恵「中野梓ちゃんよ。エリちゃんや私と同じ桜ヶ丘出身。仲良くしてあげて」

エリ「そうなんだ、よろしくっ」

梓「よ、よろしくです」

恵「じゃあ私、これから会議に行くから」バタン

梓(恵先輩あんな調子だけど生徒会長だったもんね…ていうか寮長って)

エリ「梓ちゃんって確か唯たちと同じ軽音部だよね」

梓「は、はい」

「知ってるの?」

170いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:09:10 ID:q7FxTDAw0
(下校中のムギの目の前にメンバーの一人が描いた百合漫画を落としておく。)

紬「…ん、何かしらこれは。漫画?」ヒョイッ

紬「え…ウソ、女の子同士がキス!?」

紬「こ、こんなのいけないわ…でも、ちょっとだけなら…」ドキドキ

紬「…」ペラッ

紬「ふ、ふつくしい…!」キマシタワー

紬「女の子同士の恋愛ってこんなにきれいなのね」

紬「梓ちゃんを追い出して、惜しいことしたかも。でも唯ちゃんと澪ちゃんが怖がってたし…」

紬「エリちゃんとアカネちゃんのことだってあるし…」

紬「ううん、あれはエリちゃんが一方的に嫌がることをしたからいけないのよ。男女だってよくあること。合意があれば…」

斎藤「何をしてらっしゃるのですかお嬢様」

紬「あ、斎藤」

斎藤「な、同性愛を描いた漫画ですと!?」バッ

紬「あっ」

斎藤「こんなもの読むべきではありません!」ポイッ

紬「…」

斎藤「私たちは、お嬢様に悪影響を与えるものをふれさせないように、細心の注意を払ってきたというのに…」

斎藤「同性愛者を複数生み出したとされる桜ヶ丘高校も、もうすぐ転校することが決まっているのです」

紬「…え?」

紬「ちょっと待って斎藤、私はまだみんなと軽音部やっていたいの。第一梓ちゃんなら退学になったでしょう!」

斎藤「お嬢様を、同性愛者どもから守るためなのですよ」

紬「…」

斎藤「さあ、戻りましょう」


恵「あれでいいのかしら」

梓「ええ、私の読みは当たっていました。彼女は元の世界では百合好きだったんです」

恵「なるほど、住む世界が違っても本質は変わらないってことね」

梓(あなたもね)


琴吹家
紬「ねえ斎藤、なぜ神は同性愛を禁じているのかしら」

斎藤「何をおっしゃっているのですか。当然でしょう。紬お嬢様、貴女がどうやってお生まれになったかを考えればわかるはずです」

斎藤「旦那様と奥様が愛し合ったからなのですよ」

紬(嘘。お父様とお母様が愛し合っているところなんて、私見たことないわ。政略結婚だったって言うじゃない)

斎藤「お嬢様、転校先の学校は…」

紬(もういや、どうしてみんな勝手に決めてしまうの?)

紬(菫だって、お姉ちゃんと言ってくれなくなって)

紬(そうだ、家出しちゃおう。今夜にでも…)




紬「私家出するのが夢だったの〜」

梓「来ました!何とか説得して引きずり込んでください」


なんだかんだでムギ先輩が仲間に入りました。

紬「まあ革命!私革命に参加するのが夢だったの…あら?」

ちなみにややこしいことにならないように、私と恵先輩はムギ先輩に気づかれないよう変装しています。

紬「あなた、どこかで会ったこと…」

梓「き、気のせいっす!世の中には似た人間が三人はいるっていうっスから、そのせいじゃないっすかね!」

紬「そう。私、琴吹紬です。よろしくお願いします」

梓「な、中村彩菜っす。よろしく」

171いえーい!名無しだよん!:2014/06/06(金) 20:10:54 ID:q7FxTDAw0
『同性愛は自然に反しているのは大きな間違いであり、自然界においても同性愛行動は見られる。たとえば暗闇で相手の性別が確認できないため、キタノヤツデイカは相手が同性でもかまわずに交尾する…』

夜、私たちは一か所に集められこのような抗議を受けていました。
恵先輩によると、『同性愛は異常だという偏見や自己否定を払しょくするため』だそうです。

紬「へー、生き物って面白いのねー」

『世界人口は70億を超えた。このまま増え続けると危ない。繁殖を義務付けるのは間違いだ』

『同性愛はこのように至って正常である。その抑圧された正常な愛の形を、われわれで取り戻そうではないか』

一同「おー!!!」

紬「お〜♪」

梓「お、おー…」



憂「ええっ、こっちにはいらっしゃいませんが…はい…はい、では」ガチャ

唯「どうしたの憂、誰からの電話?」

憂「斉藤さんって人から。琴吹さんがいなくなっちゃって、そっちにいないかだって」

唯「え、嘘。ムギちゃんが!?」

憂「まさか梓ちゃんの失踪とは関係ないだろうけど…」

唯「だったら怖すぎるよ…ムギちゃん大丈夫かな」

憂「大丈夫だよきっと。律さんか澪さんの家にいるんじゃない?」

唯「それならいいけど…」

革命の様子がテレビに映り、そこにいるムギにびっくりする唯たち。
この後梓たちは革命を起こし、桜ヶ丘高校に突撃
ここで、実はエリとアカネがかつて付き合っており、二人の関係がばれた時にアカネが迫害を恐れてエリに罪を着せたことが判明。

三花「私たちを騙してたの⁉」
信代「うわ、ないわ〜」
いちご「きも」

革命のドサクサで撃たれそうになる唯を庇って負傷する梓。そこで唯は心を打たれ、梓に辛く当たったことを後悔する。
そこで、憂が梓を嵌めたことも判明し、唯は憂を引っ叩いて叱る。
梓(やっぱり唯先輩は唯先輩だ。優しい唯先輩だ…)
唯はむったんを壊したお詫びにギー太を梓にやる。そこで嬉しく思いながらも、唯への気持ちが冷めていることに気づく梓
最終的には唯は考えを変え、同性愛者のための音楽活動を始める。ムギもそれに協力し、琴吹家は同性愛者のために働きかけるようになる。
エリとアカネはよりを戻す。梓と恵がくっつく。元の世界では唯梓がくっつく。
俺たちの戦いはこれからだ!

やりたかったシーン
・たまたま女の子を好きになっただけ、と言う梓に、恵は「その言い方は好きじゃない。自分は同性愛者として女の子の澪を好きになった」と諭す。
・仏像爆弾を落すエリ
・「百合が増えたら競争相手が減る」と諭され、一瞬納得するさわ子。しかし阿部さんと道下君を見て
「ゲイも増えたら意味ないじゃないのー!」
・梓は何故パラレルワールドに来た?ヒントはスピッツの曲だ!

没った理由は、戦闘シーンが苦手なのと時間ないから。あと細部(?)がなかなか決められないから。

172いえーい!名無しだよん!:2014/09/08(月) 14:37:17 ID:.rqwOfNo0
かの人が使ってくれることを夢見て
NL注意

律「なんちゃってレズ」
澪に告白された律は、同性愛への好奇心から澪と付き合うようになる。
しかし澪にしょっちゅう「私達結婚できない、子供も産めない、将来どうするの」とこぼし(澪は謝るのみ)
澪とのセックスを「こんなことされた、気持ち悪い」と軽音部やクラスメートに笑いながら触れ回り(それで梓に非難される)、
果ては男に言い寄られ、二股の末澪を捨てる。
そして悪びれもせず「女同士でいつまでも付き合えるわけないじゃん」「澪は私の事好きなんだろ、だったら私の幸せを祝福すべき」と言い放つ。
律と付き合い始めた男は純の兄、敦司。澪は彼女に憧れる純を使って律と敦司を別れさせようと…

173いえーい!名無しだよん!:2014/10/07(火) 23:36:45 ID:afWLQCPgO
>>92
魅入ってしまった…。
すごく面白いです!

174いえーい!名無しだよん!:2014/10/28(火) 23:10:34 ID:aiT1OMCg0
>>92
憂「お姉ちゃん」唯「何?憂?」
とちょっとだけ似ているような

175いえーい!名無しだよん!:2015/01/12(月) 23:34:39 ID:x3zXDk6Y0
途中放棄してスレを落とした人も、ここで結末だけ書いてもいいんじゃないかな

176いえーい!名無しだよん!:2015/04/19(日) 21:28:19 ID:LQ.S.1SI0
またもや長文コメント書いて、菫ノートのコメント欄汚すのも気が引けるので、こちらで。
こういう使い方はスレの趣旨とはちょっと異なるかもしれないけど、お許し頂きたく。
自分なりの解釈の付記なので、このスレが一番近い気もしますが。



感想付記
・澪「仮面ライダー零」

 律だけ記憶が蘇るのならば、ピンチ回も効果的に挿入できそうですね。

 ショッカー社に乗り込む段になって、怖くなって逃げたくなる澪。
死ぬ事が怖い。そしてそれ以上に、簡単には死ねない事が恐ろしい。
それでも、敵の計画を知ってしまった以上、ショッカー社に乗り込んで阻止しなければならない。、
ただ、その情報漏洩自体、罠だと分かっていた。

 決意の付かぬまま、律に遭いたくなって田井中家へ。
連戦と敵の卑劣な攻撃が祟り、傷と疲労の言えない満身創痍の身体を引き摺って二階へ上がる。
見た目だけは、平静を装って。昔のように、制服を着て。
丁度、律は風邪で寝込んでいたが、澪の足跡を察知して当ててくる。
律のベッドに頭を預けて、ピンチ回のように会話を交わす内に、
澪はこの律を守らねば、と決意する。
 だが、部屋を出て行こうとする段になって、律が引き留めてくる。
「えーっ?行かないでよー。側に居てよー」と、不安な声で。
律も澪とは会えない事を、勘づいているらしい。
澪は例の困ったような愛しむような複雑な笑顔を向けて、「やれやれ」と返す。
折角決意が固まったのに後ろ髪を引かないで欲しい、でもこの愛しい律の為ならどんな苦痛も厭わない、
という複雑な胸中があった。
 そうして、律を寝かしつけた後。
澪は悲壮な決意をもって、負けると分かっている罠の場へと、
傷つき疲弊した身体で乗り込んでいく。


 などと、ピンチ回との相性も良さそうですね。
ピンチ回の律の寝室シーンにおける、律を慈しむ澪の態度や台詞、表情が、
私の中ではどうにもこの作品の澪とリンクしてしまいます。
特に、部屋を去ろうとして、律に引き留められた直後に見せた澪の色々な思いの籠もった笑顔は、
重なり合ってしまっています。

 それも、基本的には臆病だけど大事な者の為ならば苛烈な自己犠牲にも耐える、
というある意味悲しい類いの強さを澪から感じ取ったからかもしれません。
少なくとも私見では、そういう強さや悲しさが彼女にはあるように思えました。


 このように、様々なifを考えさせる読後感のSSでした。
ここまで読者を引き込める筆力は、私には真似のできないレベルです。
それは、二次創作される側の一次創作レベルの影響力なのですから。
また、その筆力で、多様なifを考えさせてください。

177いえーい!名無しだよん!:2015/04/20(月) 01:55:46 ID:fCTqlwGk0
>>176
それの作者はここ見たくないって言ってた気がするよ

178いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:43:36 ID:9Nk/JtMM0
没ネタと言いますか、ただいまSS速報Rにて連載中の律誕生日SSの没バージョンですが。
供養したいと思います。

179いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:44:28 ID:9Nk/JtMM0
 彼氏が居ると宣した田井中律の言葉に、秋山澪は凍り付いた。
平沢唯達も動きを止めて、見開いた目を律へと向けている。
八月を迎えて夏休みに馴染んだ学校は、学期内に比べて静かだった。
対照的に軽音部部室は騒がしかったはずだが、
律の発言によって喧しい面々は声を失くしてしまっている。

「彼氏くらい居るし。馬鹿にすんなよなー」

 静寂の中、律が前言を繰り返した。
その瞳の端に溜まった涙の跡は、まだ乾いていない。

「それも、嘘、だよね?
それも強がって意地張ってるだけなんだよね?」

 先立つ話題で中野梓と一緒に律を煽っていた唯が、確認するような口調で問い掛けた。
前段となった話の流れを考えれば、唯の挟んだ疑問に不自然はない。
ただ、唯自身も判じかねているのか、語勢は失速していた。
律を茶化していた時は、断定するような語調だったはずだ。

 澪も断じる事が出来ず、声を差し挟めない。

「嘘なんかじゃないから。胸囲も彼氏も、私の言う通りだから」

 律が見せ付けるように、胸を張って言う。
先程まで、唯や梓に茶化されていた胸だった。
その直前の記憶が脳ではなく、胸に蘇る。
.

 学期内から軽音楽部で活動していた彼女達五人は、
夏休みも部室で活動する事にしていた。
この部の活動は演奏とティータイム、即ち音楽とお喋りの二つの面を持つ。
演奏の練習を体面とするならば、ティータイムは本心に当たるだろう。
その、ティータイムの最中だった。

180いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:45:20 ID:9Nk/JtMM0
 人気の少ない学内の一室に、気心の知れた少数が集まる状況。
そこでは当然のように、際どい話題も展開された。
閉鎖性と秘密を打ち明け合うような興奮が、彼女達を大胆にさせたのだろう。
それが先程の、体格の計測値を打ち明け合う土壌となった。

 澪も含めた部員全員が、一人ずつ自身のスリーサイズや身長及び体重を申告してゆく。
琴吹紬に澪が睨まれた事を別とすれば、それは大過なく進んでいった。
だが、最後に迎えた律の申告で、雰囲気は一転する。
恥じらいながら口にされたその値を、唯や梓が相次いで嘘だと囃し出したのだ。

 唯達が槍玉に挙げた対象こそ、胸囲だった。
他の値は見目に反していないが、そこだけは澪も律の申告を疑っている。
ただ、唯達に加勢する事もしなかった。
いつもの通り、茶化す唯や梓と、反発する律の騒動を呆れた思いで眺めていた。

「まぁ言った事が本当でも、私の方が大きい事に変わりないけどねー」

 律の反応が面白いらしく、唯が煽る。
唯は律に構って欲しいのか、余計な干渉をする事が多々あった。

「何さ。大きくたって、見せる相手も、揉ませる相手も居ないくせに」

 唯の眉が眉間に向けて弧を描いた。
惚けたような見目に反して、唯は自尊心が強い。
女としての矜持を突かれて、黙っていられる筈もなかった。

「りっちゃんも男なんて居ないくせに。
まぁセックスアピールのない身体じゃあ、男から相手にされるの難しいかもねー。
私の方が雄を捕食するのは早いよ、絶対。
雌として私の方が成熟してるもん」

 唯の性格を承知している澪だが、今度ばかりは見逃せる分水嶺を越していた。
言い過ぎだと窘めようとした時、律が涙交じりに言い放ったのだ。
「彼氏なら居るし」と。
.

181いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:46:17 ID:9Nk/JtMM0
 澪は胸に刺さったままの棘を洗い流そうと、紅茶を一口啜った。
意図に反して、棘も痛みも抜けない。
それでも、動揺を腹の底に飲み込む事ができた。

 一瞬の驚愕は皆も同じ事。
今の自分は逸早く冷静さを取戻し、傍目には落ち着いて見える筈だ。
澪は穏やかでない腹心を、表情に出さぬよう徹する。

「いやいや、嘘ですよ。
彼氏が居るような素振り、今まで見せてなかったじゃないですか」

 梓も動揺から立ち直ったのか、冷静な反論を放っていた。

 確かに、梓の言う通りだ。澪は心の中で相槌を打つ。
律に恋人が居るような気配を、澪は今に至るまで感じてこなかった。
それどころか、律は自分の事が好きなのではないか、とさえ思っていた。

「そんなの、私をよく見ていなかったってだけだし。
皆が見ていない所で、色々やってるんだよーだ」

 律の言葉が、澪の胸奥に氷柱となって降り注ぐ。
律に対する見通しが、間違っていたという事なのだろうか。
もしかしたら、本当に律は自分の知らない所で、恋人を作っていたのかもしれない。

「りっちゃんたら、逸早く抜け駆けしてたのね。いいなぁー」

 律に向けられた紬の声と瞳には、羨望が籠もっている。
半信半疑の唯達とは違い、律の言を信じているらしかった。
友人としての立場で素直に振る舞える紬が、澪には羨ましくさえ思えてくる。

「ねぇねぇ。その彼氏ってさー、どんな人?」

 反面、唯の放った質問からは、律を試す意図が感じられた。
相手に付いて説得力のある話が出来るのか否か、確かめる問いに他ならない。

182いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:47:44 ID:9Nk/JtMM0

「素敵な人だよ。カッコいいし、頭もいいし、優しいし。
スポーツだって万能で、ロマンも分かってくれて、乙女心を理解してて。
とにかくっ、王子様みたいな人なのっ」

 自分の言葉で陶酔したのか、律の瞳が蕩けてゆく。
だが、言っているうちに含羞が込み上げてきたらしい。
慌てたように強く言い切って、話を切り上げていた。
それでも『王子様』という羞恥に値する表現を使う辺り、
余韻から冷め切ってはいないのだろう。

 感情を忙しく往来させる律の姿に、澪の胸が騒いだ。
具体的な”誰か”を思い浮かべているように見えてならない。
本当に、彼氏が居るのだろうか。

「へー。で、その王子様って、何処の学校の人なのー?」

 問う唯の顔には、意地の悪い笑みが浮かんでいる。羨ましいくらい、余裕の表情だ。
澪とは違い、唯は律の言う事を虚言だと断じているらしい。

「何だよー、興味津々に次々と訊いちゃってぇ。
唯ってば飢えてるみたいだしっ。言っとくけど、あげないんだからなー」

「貰わないよ。ていうか、盗らない為に訊いてるんだよ。
そんなに濡れしてくれる人なら、りっちゃんの彼とは知らないまま、
好きになっちゃうかもしれないじゃん?
私って疼いて痒くなっちゃうと、くぱぁ、止まれない止まらないからね。
でも特徴が分かってれば、好きになる前にブレーキ掛けれるでしょー?」

 目の下を窪ませた挑発的な笑みとともに、唯が言う。
溢れた皮膚が瞳を押し上げ、眼孔が山形の弧を描いていた。

 澪はその唯の表情に、眼窩に入った鎌を見た。
それは友人を茶化す目付きではない。
獲物を甚振る眼だ。

183いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:48:47 ID:9Nk/JtMM0
「ふんだ。彼は唯なんかに靡かないよーだ。私以外の子に興味ないもん。
ただ、言いたくないってだけ。だって、恥ずかしいし」

 唯の首から上の全ての相貌に、満足そうな笑みが浮かぶ。
──ふーん。言いたくないんだ?言えないんじゃなくて?──
そう顔に書いてあるかのようだ。

 律の反論を苦し紛れの言い訳とみて、尻尾を出させた気分で居るのだろう。
具体的な話を厭う態度は、嘘の露見を恐れる者に共通する態度でもある。
澪とて律以外の者を詰問する状況であれば、唯と同じ認識を持ったかもしれない。

 ただ、澪は律の性格を知悉している。
少なくとも律の態度を、虚言の説に蓋然性を付す材料だとは見ていない。
律は羞恥を感じると、途端に逃げの態勢に移る所があった。
先程、恋人を褒めていた最中、急に話を切り上げた態度にも表れている。

「へーえ。言いたくないんだ。恥ずかしいから?
彼とか言ってるけど、親友の私達に、名前も教えてくれないのかなぁ。恥ずかしいから?
あずにゃんや、りっちゃんは勇気がないよねぇ」

 唯が同意を求めた相手は、傍らで意地の悪い笑みを浮かべている梓だった。
加勢する気配を漂わせている彼女が、唯に便乗しない訳がない。

「唯先輩の言う通りですよ。よくそんな恥ずかしがりやが、彼氏なんて作れましたね」

 勇気がなく、恥じらいやすい──そう、澪も律に対して、唯や梓と同じ認識を持っていた。
律から日々受ける言行織り交ぜた接触の数々に、
澪は友情では収まらない思いを感じ取ってきている。
交尾に誘う雌の雰囲気をさえ、察した事もあった。
だが、その誘惑に乗る動きを見せた途端、律は積極的な雰囲気を引っ込めてしまう。
澪は律のそういった態度を、勇気がない故だろうと見立てていた。
モーションを仕掛けても相手が食い付いた途端、怖気付いてしまうのだろう、と。

「そんな事ないし、勇気ならあるんだからぁ。変な勘違いすんなよぉ」

184いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:49:55 ID:9Nk/JtMM0
 唯や梓に向けられた律の反論が、澪の見通しへと直撃する。
律に対して抱いていた印象など、澪の自意識過剰が齎した勘違いかもしれないのだ。

「意気地なし」

 澪は誰にも聞かれないよう、小声で呟いた。
律が積極的な態度を翻す度、胸中で彼女を責めてきた言葉だ。
律は自分を愛していると、信じて疑わなかった日々に戻りたい。
澪はその思いを、胸中に留められなかったのだ。

「へー、勇気、あるんだ?じゃ、当然デートの時とかも、積極的にイっちゃてるよねぇ?
恥ずかしがったりしてないよねぇ?」

「ふんだ、唯ったら、がっついた発想しかできないんだから。
私はそんな飢えた獣みたいな事しないよーだ。
私から行かなくても、彼の方がちゃんとリードしてくれるし」

 一瞬で唯の顔から色が消え、冷たい瞳が律を見下ろす。
失言を悟ったのか、律は慌てて目を逸らしていた。
反論に躍起になる余り、唯を怒らせると怖いという事さえ忘れていたらしい。

「獣?へー、彼氏が居て飢えない渇かない人の言う事は違うねえ。
私、なんか、すっごい惨めな気分になっちゃったなー。
まあ、でも、本当の事なら、我慢してあげてもいいけど」

 奥に闇を覗かせた丸い穴に見据えられ、律は縮こまってしまっている。
それでも唯は容赦する事なく、押し殺した低い声を律の頭上へと降らせていた。

 哀れな律を見ていると、助けてやりたくなってくる。
一方で、律が本当に恋人を作ったのならば、もうそれは自分の役目ではないのかもしれない。
二つの思いが澪の胸中で鬩ぎ、決断と行動を遅らせた。

「ねぇ。りっちゃんの彼って、りっちゃんをどんな風に扱ってくれるの?」

185いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:51:04 ID:9Nk/JtMM0
 葛藤を決着させられない澪に代わって、紬が穏やかな声を割り込ませていた。
尤も、緊張を緩和するだけが介入の目的ではないだろう。
純粋な好奇心も多分を占めているに違いない。

「お姫様みたいに扱ってくれるよ。でもね、時々サディスティックになっちゃうの。
恥ずかしい事もやらせてきたりして。りーっ」

 唯に射竦められていた態度から一転、紬に答えた律は全身で羞恥を表現していた。
真赤になった顔が両手で覆われ、椅子から浮いた両足は交互に激しく振り動く。

「馬鹿?」

 冷徹な声を放つ唯の双眸は、冷たい瞳から冷めた目に変わっている。
律の返答に憧憬の眼差しを向ける紬とは対照的だった。
紬の介入は、彼女自身の好奇心を満足させるだけの結果に終わったらしい。
唯と律の対立を緩和するには、効を為していなかった。

 だが、澪は律と唯の諍いそのものよりも、律の紬に対する返答が気に掛かっている。
律は考える素振りも見せずに即答していた。
元からあった願望を述べたに過ぎないのか、
それとも本当に実在の人物を思い浮かべたのか。
無論、前者だと思いたい。だが、不安が弱気を呼んで、澪の心は後者の可能性に慄いた。

「で、そのデートなんですけど。具体的に、どういう事しているんですか?」

 紬が満足しても、梓は追及の手を緩めない。
執拗で容赦のない所は唯に似ている。
澪も律を詰問に処してやりたい所だが、直截に聞いて絶望を手繰りたくはなかった。
問者の列には連ならず、関心のないよう装って成行きを見守る。

「どんなって。口で言うと難しいけど。色々あるっていうか。
とにかくっ、映画みたいなデートなのっ」

 律は歯切れの悪い言葉を並べた後、小さく叫んで返答を打ち切っていた。
滑らかな口振りで紬に答えていた先程の余裕は、
もうその小さな体から失せてしまっている。

186いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:52:26 ID:9Nk/JtMM0

 或いは、と澪は思う。余裕を失くしている者は、他ならぬ自分自身でないのか、と。
律の所作の逐一を、恋人の存在や不在に結び付けて考えてしまっている。

 一方、梓は淀む律の返答を虚言の証左と捉えたらしい。
吊り上った瞼と口元に宛がわれた両手が、梓の内意を明晰に描出していた。
糾弾の形を醸す梓の嘲笑に、律の身が竦む。

「ぷっ。映画みたいなデートですか。律先輩らしいですね。
ああ、そういえば。もうすぐ律先輩の誕生日でしたね。
その日も、やっぱり映画みたいなデートするんですか?」

「勿論だしっ」

 律は間髪を容れずに答えた。

 そう、律は今月に誕生日を迎える。
当然の事ながら、律はその特別な日を恋人と二人きりで過ごすのだろう。
──自分の知らない律が居る。
澪にとってそれは、現実味を伴わない喪失感だった。

「誕生日に彼氏とデートかぁ。いいなぁ」

 紬の声も現実から遊離しているが、澪と違い憧憬の高揚に満ちていた。
彼氏を嫉む澪と、律を羨む紬の相違なのだろう。

「うん、がっついている身としては、ご相伴に与りたいくらいだよ。
ねぇ、りっちゃん。
そんな飢えた私に、オナネタ提供するくらいの勝者の余裕は勿論見せてくれるよねぇ?」

「えっ?」

 唯の品のないスラングが理解できなかったのか、
或いは言い回しから真意を汲み取れなかったのか。
律の返した促音には、怪訝の念が籠もっていた。

187いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:53:23 ID:9Nk/JtMM0
「だからー、当然私にそのデートを見せてくれるよね?って事だよー。
いいよね?」

 唯は直截に要求を突き付けているが、額面通りにデートを見たい訳ではないだろう。
彼氏が居るのなら見せろと言っているのだ。

「まぁ、素敵。私も見たいなー」

「ええ、お二人に同感です。律先輩、見せてくれますよね?」

 弾む紬の声を追って、梓が畳み掛ける。
紬に他意はないだろうが、梓の意図は明らかだった。
意を通じる唯に、加勢しているのだ。

「いや。見せないよ。二人っきりで過ごしたいし」

 律の返答に、澪は安堵していた。
律が自信に満ちた態度で承諾したのなら、恋人の存在はいよいよ蓋然的となる。
律が渋っている限り、不在に縋る権利は留保されるのだ。

「邪魔なんて野暮しないよー。遠くから見てるだけだから、さ」

 唯が一度断られた程度で、要求を撤回する訳がない。
特に今回は、彼女の矜持が刺激されているのだ。
折れるまで執拗に迫るだろう。

「絶対嘘だ。っ。唯の言う事なんて信じないもん」

 律の中には、まだ唯に対する恐怖心が残っているのかもしれない。
律は唯に対する不信を述べる直前、思い切るような間を置いていた。

「じゃあ言っちゃうけど、こっちも信じられないんだよね。
彼氏が居るって事も、胸のサイズの自己申告も。
うん、見えない見えない、彼氏が居るようにも、胸がそんなにあるようにも」

 嘘だと決めて掛かる口調で、唯が律を煽る。

188いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:54:39 ID:9Nk/JtMM0

「胸だって嘘じゃないし。脱ぐと凄いんだぞー」

 そう言って律が胸を突き出した。
突き出る円錐の鋭角が、周囲の布地を張らせている。
鈍角の膨らみを盛り上がらせ、周囲の布地を弛ませている紬や唯とは対照的だった。
見目の差は、申告された数値で比すよりも開いて見える。

 だが、澪にとっての関心事は、胸のサイズではなく所有者だ。
可愛らしく尖る律の胸が、知らない誰かの手によって蹂躙されているのかもしれない。
考えるだけで、澪の胸は焦燥に掻き回された。

「そうなの?じゃあ、脱いで見せてよ」

 一方、唯は恋人の件から胸の件に関心が移ったのだろうか。
唯は恋人の有無で論われた事に立腹していたはずだ。
にも関わらず、唯は自分から話を逸らしている。不自然だった。

「なっ。何言ってんだよぉ、そんな恥ずかしい事、できる訳ないもんっ」

 律は顔に朱の条を走らせて喚いていた。
羞恥で溢れ返る律の頭には、警戒を喚起するだけの余裕はないのだろう。

「またそれ?
男が居るって話も、胸のサイズ水増しも、恥ずかしいの一言で逃げるの?
いやいや、絶対にどっちかは証明してもらうよ。
じゃないと、りっちゃんの事、許せないな」

「許すも許さないも、ないんだからぁ。唯にそんな事言われる筋合いないし。
信じられないなら、勝手に疑ってればいいじゃんか」

 言い募られて拗ねたのか、言い返す律は唇を尖らせていた。
胸に関しては律の言う通りであると、澪も思う。
唯も含め自分達とて、胸のサイズは自己申告のみで証左など示していない。
律にだけ真である証明を求める道理はなかった。

189いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:55:53 ID:9Nk/JtMM0
 だが、恋人の件は事情が異なってくる。

「いやー、りっちゃんには証明する義務があると思うなー。
あー、義務じゃなくて、何て言うんだっけ?道義的責任?
まぁそんな感じのが、りっちゃんにはある訳よー」

 唯は換言すべき単語を探すように、眉間に指を添えていた。
だが、それとて律を嘲弄する為の、大仰な仕草に過ぎないのだろう。
訝る律に注がれる唯の目元は、獲物を甚振る余裕に満ちているのだから。
唯は始めから、適当な言葉を持っていたに違いない。

「何さ。勿体ぶっちゃって。言いたい事あるなら、暈してないで言えよなー」

「暈す?そっちこそ惚けないで欲しいなぁ」

 唯が乱暴な仕草で髪を掻き上げ、勢いでヘアピンが飛んだ。
落ちた前髪が右目に被さるが、唯は気にした様子を見せない。
対する律は、唯の剣幕に怯えて首の根を縮ませていた。

「りっちゃんってさぁ、私の事、胸を揉ませる相手も居ないだの、
がっついてるだの、果ては飢えた獣だのと散々に言ってくれてたじゃん?
自分は男が居る前提で私を嘲罵したんだから、
当然、居る事を証明しなくちゃならないと思わないかなぁ?」

 鬼気迫らせて凄む唯の声が、低く響く。
唯は律を怯えさせつつも、狡猾に被害者の立場で振る舞う事も忘れていない。

「だって、それは唯が胸の事を言ったからだし」

 対する律は弱い。
抗する声も小さく、唯を刺激しないようにとの細心が読み取れた。

 助けてやりたい。だが──弱く小さな律を守る役目は、誰が帯びているのか。
その思考を払えず、澪は動けなかった。

190いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:57:03 ID:9Nk/JtMM0
「うん。だから、胸が本当に大きい事を証明したら、許してあげるって言ってるんだよ。
いや。それじゃ足りないな。ご自慢のお胸を、皆に見て貰おうねー。
ほら、そこの窓からさ。裸体晒してくれたら、許してあげるよ」

 唯が掛け声に合わせ、左後方を親指で示す。
部室の入口となるドアの正面に配され、唯の席と食器棚の間に位置する窓だ。
夏の日差しを室内へと注ぎ込むその窓に、部員の視線が注がれる。

「そんな恥ずかしい事なんて、できっこないよ。
皆に見られちゃうよぉ。りーっ」

 自分の裸体に注がれる数多の視線を想像したのか、
律は赤面した顔を両手で覆って呻いた。
激しく首を振る仕草からも、恥辱に占められた彼女の脳裡が見て取れる。

「へぇ?友達を侮辱する事は躊躇なく出来ても、
自分にとって恥ずかしい事はできないんだ?
それとも私なんて、友達じゃないのかなぁ?」

 唯の追い込みは徹底していた。
梓が黙っている理由は、今の唯に加勢しても足手纏いにしかならないと悟ったのか。
それとも、唯の追及が度を越していると思い始めたのか。
何れにせよ、梓の存在感は霞んでしまっている。

「唯ちゃん、言い過ぎよ」

 見かねた様子で、紬が割って入った。
見かねた様子──紬は言葉を放つ直前、澪を一瞥している。
何故助けてやらないのか、そう責めているような視線だった。

 一言も声を挟まない澪に、紬は不審よりも怒りを覚えているらしい。
一方、唯や梓は発言しない澪に怪訝を抱いたとしても、それを態度に表しはしないだろう。
律に寄る事の多い澪が黙っている限り、下手に触る益など彼女達にはない。

191いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 00:58:25 ID:9Nk/JtMM0
 そして律。彼女にとって、
自分は既に庇護を求める対象ではなくなっているのかもしれない。
だから、声を掛けようともしてこないのか。

「唯は友達だもん。友達なのに、唯こそどうしてそんな意地悪するの?」

 紬の加勢で勇を得たのか、律が抗議の声を上げた。
澪など頼りにもしていない。

「別に意地悪なんてしてないよぉ。
だって、そんなに胸を見せるのが嫌なら、デートを見せてくれればいいじゃん?
どっちも恥ずかしくて嫌なら、友情よりも羞恥心を守りたいって事でしょ?
私なんか、友達として見てないって事でしょ?」

 強引に迫る唯を見て、澪にも彼女の狙いが分かってきた。

192いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 01:03:34 ID:9Nk/JtMM0
>>179-191
ここまで本文を書いて、導入部を全面的に書き直しました。
唯律の対立構造を先鋭化させると、決まった結末へ向かわせるのが困難になる為です。

一応、書き直しを決める前に、この後どう続けようか考えていた構想があるのですが、下記。

193いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 01:05:58 ID:9Nk/JtMM0
(でも友達じゃないなら、何処までもできる。公開胸晒しだって)

私言ったよね、本当の事なら我慢できるって。それとも我慢しなくていいの?

(友達なら、友情を証明して)


(唯の意図を察する澪。より避けたい事を持ち出す事で云々。)

 夏休み故に人は少ないが、それでも部活に出ている者は散在している。
間違いなく、衆目を引くだろう。

(SNS云々で律の裸がアップされるのは、美しいものだからいい事。
それで実害あるなら、自分が守ってやれる。でも恋人じゃないなら、守れない。)





 唯はデートを見せるかの二択だと言い、友情を証明しろと言う。
友達じゃないなら非情な報復もできてしまうから。
 それは脅迫だと察する澪。
唯は律がデートを見せない限り、服を剥いで裸体を晒させるつもりなのだと。
 胸を見せるかデートを見せるかの二択に追い込まれ、承諾してしまう律。
(香港の件は、澪の回想、若しくは後日に回すかも。)


(
 唯が、彼氏を見せるように言う。
紬も素敵、とか言う。律は恥ずかしいと断る。隠していたのもそれが理由。

 彼氏が居るようには見えない。胸があるようにも見えない。と唯や梓。
対して、脱ぐと凄いと言う律。
「じゃあ脱いでみろ」を誘発し、後々律が脱ぐ伏線とする。
恥ずかしいと断る律。唯or梓は両方とも見せられず、その言い訳も同じ恥ずかしい。
嘘を吐くなら、もっと上手に吐けと律を煽る。平常心を取り戻していく唯梓紬。
「さっきから恥ずかしい恥ずかしいって、りっちゃん、そればっかりだよねー。
肝心な部分は、全部恥ずかしいで」
 その後、
「脱ぐか彼氏を見せるか、どっちか選べ。両方有耶無耶の言い逃げは許さない」
みたいな状況になってしまい、デートを見せる事を承諾せざるを得なくなる律。
疑われている二つの発言を両方とも逃げ切る事はできない、みたいな。
)

194いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 01:17:33 ID:9Nk/JtMM0
>>193は本文の後に備忘録的に書いておいたもの(所謂、自分だけが分かればいいメモ)
をそのままペーストしたので読み難い上に意味不明かと思われます。

勿論、ちゃんとしたプロット類は別にあります。
こうして書き始めたはいいものの、粗筋段階で決めていた結末に到着させるのが難しそうなので、
書き直しと致しております。

実はこの後にも、分岐に迷って保留しておいた没(Ver2)も眠っております。
そちらは本筋が上手くいったので、途中で止まっている以外は本編と特に代わり映え無く眠ったままですが。

Ver3で結末まで書きましたが、推敲で変わった部分もございまして、
最終的にはVer4を原稿として連載・投下しております。

そういった中、冒頭で終わったVer1だけが大幅に異なっておりましたので、供養させて頂いた次第です。

それでは失礼します。

195いえーい!名無しだよん!:2016/08/10(水) 18:55:14 ID:tQNEeWTA0
若干律の口調が気になった


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