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唯「はい、和ちゃん」 和「ありがとう……ってこれボツネタ?」

1名無し議論中/自治スレで希望受付中:2011/09/23(金) 12:43:10 ID:I7z5POfo0
和「唯、これはどういうこと?」

唯「だって〜、思いついたんだけど私書けないんだも〜ん」ウルウル

和「はあ……だからってなんで私にわたすのよ」

唯「和ちゃんなら有効に使ってもらえるかな?って思ってぇ」デヘヘ

和「もう……しょうがないわね」

唯「って言うわけで、みんなも『ネタ思いついたけど、うまく書けないよ』とか、『やっぱやーめたっ』とか、
もう自分で書くことないから、誰かに使ってもらってもかまわないなってネタがあったら、どんどん和ちゃんにわたしちゃおー!」

和「え!?みんなの分も!?」

唯「そして、和ちゃん以外の人も面白そうだと思ったら、このスレのネタをどんどん使っちゃおー!」

和「はあ……それはいいけど、>>980になったら次スレ立てるのよ唯」

唯「え〜、私忘れちゃいそうだよ〜、きっと誰かが宣言して立ててくれるよ〜」

和「はあ……あんたって子は……」

唯「みんな優しいから大丈夫だよ」

和「そう、それじゃあ私、生徒会行くね」

唯「あ〜ん、和ちゃんのいじわるぅ」

2名無し議論中/自治スレで希望受付中:2011/09/23(金) 12:59:48 ID:I7z5POfo0
3年生の夏休み。
受験勉強の合間にふと今年度卒業なんだなと思う澪ちゃん。
みんなと別れたくないな、そんなことを思いながら、空を見上げると流れ星が。
みんなと離れたくないと思わず願った澪ちゃんだった。
次の日。久しぶりの部活。
澪ちゃんが部室に入ってくると、柴犬とプードルが飛びついてきた。
その2匹からりっちゃんと唯ちゃんの声が。
話を聞いてみると、朝起きたら犬になっていたらしい。
気がつくと、部屋の置くには黒猫とシャムネコがいて。
しかたがないので、澪ちゃんはみんなを家に連れ帰ることに。
途中で合流した和ちゃんや憂ちゃんも一緒に暮らすことにした。

こんな状況に不安になったり、りっちゃんや唯ちゃんが起こすトラブルでどたばたしたりしながらも、みんなといれることに幸せを感じていた澪ちゃんだったがみんなに異変が!
動物の姿で遊ぶことに楽しみを見出したりっちゃんと唯ちゃんが、どんどん言葉を忘れ、行動も動物そのものに。
そんな二人を楽しそうに見つめていたムギちゃんも。
元に戻る方法を一生懸命考えていた、梓ちゃん、憂ちゃん、和ちゃんまでも言葉がおぼつかなくなってきて……。

3いえーい!名無しだよん!:2011/10/02(日) 22:02:06 ID:idz2TKlw0
没ネタ晒しスレね。
便乗して、没ネタのあらすじでも書いておこうかな。

貞子や富江、お岩さん、カヤコといったJホラーキャラが現れ、澪が怯える。
そこでHTTが結託して、ホラーキャラをボコる。
ボコられて敗色濃厚のJホラーキャラは、同盟相手の米国に救援を頼む。
米国は9名からなる精鋭を結成し、
同盟国の英国からの援軍(勿論、ピンヘッド)も加え10名のホラーキャラを日本に派遣。
マイケル・マイヤーズ(ブギーマン)、ジェイソン、フレディ、ババ・ソーヤー(レザーフェイス)、ハニバル・レクター、
ジョン・クレイマー(ジグソウ)、ゴーストフェイス、チャッキー、ピンヘッド、ペニーワイズ
といったホラー軍団と、HTTとの対決の幕が切って落とされるのだった……。

ええ、没です。
勿論、けいおんでやる必要が見いだせない、というのもあります。
また、どう考えてもHTTじゃゴスフェくらいしか勝てそうにない、というのも。
そして没になった最大の理由は、”所謂「僕の考えた最強のホラーキャラ」では無い”という事。
実はこのセレクト、youtubeでマイトップ10発表してる動画群を参考にしたものなんですね。
各動画に共通して大抵入ってる面子をセレクトしたものなんですよ。
これがどういう事かというと、元ネタ見てないものも多いという事。
それ見る事が面倒でした。ITとか3時間だし、
ヘルレイザーの1が見当たらないし、ハロウィンもリメイク後しか無いし。
つーわけで没りました。

4いえーい!名無しだよん!:2011/10/02(日) 22:16:15 ID:idz2TKlw0
あともういっちょ。
池沼スレに落とそうかなー、とか考えたネタ。
ハロウィンのパロで、唯がマイケル・マイヤーズ互換。
憂を殺しかけて精神病院送りになった唯。
だがハロウィンの夜、唯は脱走する。
そして豚のお面を被り、ブヒーマンとして憂の殺害に赴く。
その頃憂は、姉との悲しい思い出を忘れるべく、
自宅に純や梓や和、そして入院前の唯と仲の良かった律達を招いてハロウィンパーティをしていた。
惨劇になるとも知らずに……。


これは単純に時間の問題です。
唯とマイケルには色々と重なる事が多いので、一度はやってみたいパロです。
ただ、ハロウィンまで間に合いそうにない。10/31に投下したかった、って感じ。
SS書くだけなら十分な時間がありますが、その他の事情でちょい暇になれなくて。
そんな訳で、このネタは没。

尤も、唯=マイケルってネタ自体は何処かで使いたい設定です。
加えて、唯が精神病んで憂を襲うようになる理由も考えてはあります。
そんな訳で別SSに形を変えて再利用するか、それとも季節問わずに書くかしたいところです。
今のところ前者が有望。

5いえーい!名無しだよん!:2011/10/05(水) 21:24:51 ID:/U56ztZo0
age

6いえーい!名無しだよん!:2011/10/10(月) 00:41:32 ID:qp8CV6cQ0

んじゃ、没ネタ晒す。

けいおん!×影牢・刻命館シリーズ クロス

プロローグ

紬「ねえ、私たち……友達……よね?」

放課後、お茶の準備をする手を止めてムギ先輩がぽつりとつぶやきました。

唯「そうだよー?」

律「なに言ってんだよムギ、あたりまえだろ?」

澪「律や唯の言うとおりだぞ、ムギ」

唯先輩たちは少しだけ驚いたようでしたが、笑顔ですぐにそう答えました。
でも、なぜか私は何も言うことができませんでした。
さきほどのムギ先輩のつぶやきが余りに幼い響きをもった問いに聞こえたからです。
まるで、親の愛を不安に思う子どもが、お父さんやお母さんにすがるような問いかけ。
それは子どもにとって自分の存在が揺れるほどの不安を目の当たりにした時に発するもの――幼い頃の私が、一人で夕食を食べ、深夜遅く帰ってくる両親をベッドの中で一人待っている時、来てくれるはずもない学校のイベントを知らせるプリントを両親の部屋のベッドに置く時などに何度となく繰り返したものです。

紬「ありがとう……みんな……」

ムギ先輩はそう言って、微笑みます。
その先輩の声で、私は我に返りました。

梓「……ムギ先輩、何かあったんですか?」

紬「……なんでもないの。ごめんね変なこといっちゃって」

おずおずと問いかける私に、先輩は小さく首を振ります。

紬「さぁ、お茶にしましょ? 今日はおいしいミルフィーユよ」

そう言って、ケーキを取り出した先輩はいつものムギ先輩でした。
だから、唯先輩たちも私も、それ以降は普段のようにお茶とケーキと会話を楽しみ、練習をして家路につきました。


――ムギ先輩が学校に来なくなったのは、その次の日からでした。

7いえーい!名無しだよん!:2011/10/10(月) 00:42:12 ID:qp8CV6cQ0

唯「ふわー、ここがムギちゃんがいるっていう別荘なんだ……」

澪「……すごく……でっかいな」

ムギ先輩が休むようになって、二週間、三週間が過ぎ、一か月が過ぎました。
その間に何度となく、私たちはメールや電話でムギ先輩と連絡を取ろうとしましたが、全てなしのつぶてに終わりました。
「ムギの家に行ってみよう」、そう言いだしたのは律先輩です。
さわ子先生に頼み込んで住所を教えてもらい、ムギ先輩の家を訪ねた私たちを待っていたのはすげない対応でした。
落ち込む私たちに、ムギ先輩から短い手紙が届きます。
涙で滲んだ手紙の文面には

「私を友達だと思ってくれますか?
もしも、そう思ってくれるなら、刻命館で待っています」

という言葉が『刻命館』という別荘の場所を示す地図とともに書かれていました。
答えなど、考えずともすぐに出ました。
手紙に書かれた別荘は、琴吹家が一帯を所有しているという遠くの山中にあり、私たちは一番近い土日を使い、電車とバスを乗り継いで向かいました。
朝早くに出て半日近くも電車に乗り、駅からは二時間のバスを使い、停留所から山の中へと向かう、不思議なほどにきれいに整備された車道を歩いて一時間。
どうしてこんな所に作ったのか疑問に思うほどに不便な場所、暗い森の奥、まるで切り取ったように開けた広いに場所にあったのは、あまりに周りとは不釣り合いな、一種異様な雰囲気を放つ大きな洋館でした。
鉄製の格子で出来た門にはツタが絡まり、なぜかそんなことをするのか分からないくらいに高い塀が館の周りを囲んでいます。

律「いいから、感心してないで早く入ろうぜ。
ムギには聞きたいことがたくさんあるんだから」

唯「……ムギちゃん、おみやげ喜んでくれるよね?」

唯先輩が不安そうに持ち上げる持った紙袋の中には、ムギ先輩が好きそうな駄菓子や先輩たちのクラスメイトが書いた手紙などが詰まっています。

律「当たり前だろ。
病気だか家庭の事情かなんて知らないけど、きっと元気になってまた学校に来れるようになるって!」

澪「……そう……そうだよな!」

唯「さすがりっちゃん!!」

律「ふっふっふ、何しろ私は軽音部の部長だからな。
  学校はともかく、軽音部の練習を休んでいるようなムギにはガツンと言ってやらないとだ!
さあ梓もそんな顔していないで、行くぞ!」

梓「……はい!」

返事をする私の手を唯先輩がそっと握ってくれます。
それは、とてもやわらかく、とても温かいものでした。
澪先輩は私と唯先輩にやさしい微笑みを向け、律先輩は元気づけるように笑ってくれます。
もし、ムギ先輩が何かの事情を抱えて悩んでいるのなら、あの時のつぶやきが『あの頃』の私と同じ意味を持っていたのなら、今の私の胸に湧き出る気持ちを分けてあげたい。
私はそう強く思いました。
それは、ムギ先輩がいつも紅茶やお菓子と一緒に私にくれるものです。

早くムギ先輩に会いたい。

胸の中に湧き出る気持ちとは別に、頭の中に広がる不吉な予感を振り払い、私は律先輩が開けてくれた門を抜け、屋敷の中へと入りました。

『刻命館』という名のついたそこに何が待っているのか、知る由もなく。

8いえーい!名無しだよん!:2011/10/10(月) 00:43:11 ID:qp8CV6cQ0

その後のお話……

この後、軽音部のみんなはムギと再会するのですが、同時にムギとともに『ある儀式』に巻き込まれることになります。

その儀式とは、琴吹家の繁栄に手を貸していた『魔神』に、仕掛けた罠によって他人の命と苦痛を捧げる『人間狩り』の儀式でした。

魔神によって、軽音部のメンバーは罠を設置・起動させる『魔手』を与えられます。
以下は、担当する罠の種類です。
(説明はwikipediaから)

ムギ
→シーリング・トラップ(天井設置トラップ)
天井に設置し、起動すると上からトラップが落下してくる。メガロック(巨大岩)のように凄まじい破壊力を持つものと、ガスやカビンなどの攻撃補助的なものがメイン。また、お笑い系トラップとしてタライとオオタライがある。

梓・唯
→ウォール・トラップ(壁設置トラップ)
壁に設置するトラップ。マグネットなど強制移動効果のあるトラップとアロースリットのように投擲武器が飛び出すものがある。

律・澪
→フロア・トラップ(床設置型トラップ)
床に設置・起動させる。マグネットフロアなど強制移動効果のあるトラップとベアトラップ(トラバサミ)に代表される拘束型、ダメージと強制移動を行うマイン(地雷)系とがある。

9いえーい!名無しだよん!:2011/10/10(月) 00:43:58 ID:qp8CV6cQ0

実は、琴吹家は現在、当主であったムギの母が病に倒れ、家が潰れるほどに深刻な危機に直面していました。
ムギの父は琴吹家を――と言うよりは、家を守るために手段を選ばぬ人々から娘を守るため、ムギに儀式を行うよう迫ります。
なぜなら魔神を行使する儀式に必要なのは、琴吹の血を引くものにとって『大切な人間の命』か、もしくはその『大切な人間』と釣り合うだけの多くの人々の苦痛と命を供物として捧げること。
母親にとっては、それが夫と娘のムギ。

本来ならば、その夫と娘のムギの代わりとなる多くの人々を様々な方法で揃えて行うべきなのですが、病んだ母親にはそれを行う力は残っていません。
どうしても琴吹の家を存続させたい者たちは、病んだ母を人質にしたり、儀式を行える唯一の存在であるムギを薬漬けにするなどして無理やり儀式を行わせようとしていました。
逆に、琴吹の家を潰そうとするものは、ムギの母と娘のムギの命を狙おうとしています。
父親はそれを察知したのでした。

ムギもまた、自分にとっての大事な人間である父や母、軽音部の友人たちを供物になど出来ようはずもなく、また自分が儀式を拒んだり、自殺しようとも、病んだ母が自分の代わりに死をも厭わない方法で儀式を行うよう強いられることを知り、儀式を行う決意をします。

『大切な人間』――軽音部の仲間を犠牲にせず、その代わりとなる多くの人の命を犠牲にする道を選んで。

ところが、自分を殺しに来る琴吹の家を潰そうとするものが用意した人々を殺して儀式を行うムギに、魔神は新しい条件を付けます。
それが、ムギにとって『大切な人間』である軽音部の友人と共に儀式を行え、出来ないのであれば、もっと多くの供物を用意しろ、と言うものでした。
もし、来ないのであれば、『大切な人間』の条件から外れ、必要な供物はぐっと少なくなります。
『大切な人間』である彼女たちを犠牲にしないよう、多くの人の命を手にかけているムギにとってはそれはありがたいことです。
しかし、ならばなぜ自分は『大切な人間』である彼女たちを犠牲にしないよう、ここまで苦しい思いをしなければならないのだろうか。
ムギは苦悩し、それを見て魔神は喜びます。

既に何人もの人を殺め、その重みによって壊れ始めていたムギは梓たちに手紙を送ります。
まるで、親の愛を不安に思う子どもが、父親や母親にすがるように、

「私を友達だと思ってくれますか?
もしも、そう思ってくれるなら、刻命館で待っています」、と。

10いえーい!名無しだよん!:2011/10/10(月) 00:44:55 ID:qp8CV6cQ0


血塗られた館、『刻命館』で繰り返される血の儀式がもたらすものは、

梓「ムギ先輩?! 今何を?!」
紬「人を殺したの。見れば分かるでしょ?」

律「ドアが……開かない?」
紬「逃げられるわけ、ないじゃない……」

軽音部のメンバーの運命は、

唯「今……わたしが手を振ったら、か、壁から矢が……
  そしたら、あの人の胸に、矢が生えて――」

澪「私はっ!!殺すのもっ!!殺されるのも嫌だ!!」
律「私だってそうだよ!!!」

館に隠された謎とは、

梓「魔導器……?」

澪「部屋が……新しい部屋が……」
律「人を殺せば、その分大きくなるっていうのか?!」

ムギに救いは訪れるのか、

紬「……たすけて……たすけて……っ」

物語の結末、その全ては『刻命館』の中に……


けいおん!×影牢・刻命館シリーズ クロス

紬「『刻命館』へ、ようこそ……」

11いえーい!名無しだよん!:2011/10/10(月) 00:48:25 ID:qp8CV6cQ0

という訳で、ここまでダラダラ書きましたが、没です。
これは、一レス投稿スレでもらった「かげろう」というお題から思いついた、『影牢』ネタのクロスです。
原作のゲームとは違い、五人それぞれが罠を担当するというアイデアを思いつき、それで色々と妄想していたのですが没になりました。

没の理由
・ 長くなりそう
・ 暗いので飽きる
・ ムギが可哀そうすぎる(バッドエンドしか浮かばない……)
・ 他のメンバーが儀式に参加する過程を描くのがツライ

罠のコンボとか考えるのは凄く楽しく盛り上がったのですが、それ以外を書くのがたる過ぎました。
あと、心情うんぬんをやりだすと地の文が多くなって読む方もげんなりでしょうし、

「これ、オリジナルでやった方が早くないか?」

「でも、これオリジナルでやっても、テクモの刻命館シリーズの単なる二番煎じだよね?」

「あ\(^o^)/」

的なセルフツッコミが入って没になりました。

壊れかけて、ポロポロ泣きながらみんなとの思い出や友情にすがるムギちゃんは書いてみたかったんですがw

12いえーい!名無しだよん!:2011/10/11(火) 00:08:43 ID:jVbthH.20
没というか書く時間ないのでほぼ断念ネタ

けいおん×ワイルドアームズ

世界観だけ借りたクロス
クラシックギターしかないような世界で唯がエレキギター(ARM)を発見
ARMは忌み嫌われてるので町を追われ、渡り鳥になる

旅先で同じく渡り鳥の梓と晶に出会ってしばらく同行
晶が離脱、以降恩那組で別行動
HTTを組むもしばらくして梓が離脱、わかばガールズを組んで別行動
この三組のバンドで対立して戦ったりしながら、真の敵のデスデビルの存在を知ってしだいに協力
唯がゼファー、梓がラフティーナ、晶がジャスティーン、さわちゃんがルシエド
ラスボスは多分唯のアークインパルスで倒す

13いえーい!名無しだよん!:2011/10/11(火) 00:28:46 ID:jVbthH.20
もう一つ

けいおん×スターオーシャン3

ストーリーだけ借りたクロス
普通の高校生活を送っていた唯がある日、工事現場の物が降ってくる事故に遭う
しかし力が覚醒して降ってきたものを消滅させる
翌日、校舎の亀の置物(タイムゲート的なもの)から警告を受け、エクセキューショナー出現
平沢父、母が現れ唯、憂、あと和の能力について説明
唯がディストラクション、憂がアルティネイション、和がコネクション
FD空間に乗り込んで開発元の京都3Dアニメーション本社に乗り込む
エクセキューショナーによる破壊に反対するかきふらい及び声優陣を味方につけ、社長を撃破
ここからSO3のエンディングと同じ展開

14いえーい!名無しだよん!:2011/10/12(水) 01:01:46 ID:bPZC.g7Q0
クロスやパロが没率高いみたいね。

15いえーい!名無しだよん!:2011/10/12(水) 01:40:46 ID:3vLx29Kc0
>>14
うん、キャラクター、世界観と大体材料が揃っているから、ネタ出しや書き始めた時点で先が見えちゃうんだよね。
ある程度の予定調和で終わってしまうというか……

あと、クロスやパロ以外だとバラして他のSSにリサイクル出来ちゃうし、
あまりにオリジナル要素を出し過ぎると、オリジナルでやった方が……ってなっちゃう。

というか、もっとかわいい軽音部のみんなを書きたいんだよな。

16いえーい!名無しだよん!:2011/10/14(金) 00:48:49 ID:pwO7nBjo0
おいらもクロス。
唯=ラインハルト
和=キルヒアイス
憂=アンネローゼ
澪=ミッターマイヤー
律=ロイエンタール
梓=ミュラー
純=ビッテンフェルト
ムギ=ヒルダ
イチゴ=オーベルシュタイン
さわちゃん=フリードリヒ4世

で銀英クロス書こうと思ったけど、ほかの登場人物をどうするかとか、長くなりそうだとかで断念。
誰か、リップシュタット戦役と、双璧相打つあたりだけでいいから代わりに書いてくれw

17いえーい!名無しだよん!:2011/10/14(金) 01:15:31 ID:YCR1rs4E0
>>16
和憂か……なるほど、良いセンスだ!!

……澪紬……さわ憂……だと……?なにそれ新しい

恵先輩を上手く和や澪と絡めた役柄に出来ればワンチャンあるかも
自分なら、帝国側でキャスティングするなら、アンネローゼ様に和ちゃん、ジークに憂をあてるかな
それか、いっそのこと同盟側で書いちゃうか

18いえーい!名無しだよん!:2011/10/14(金) 15:58:34 ID:pwO7nBjo0
>>17
唯=主人公でシスコンでラインハルト。
ススコンで憂がアンネローゼ。
唯の親友でしっかりしてるので、和ちゃん=ジーク
女好きの変体でさわちゃん=フリードリヒw

親友同士で、まじめなミッターマイヤーが澪で、やんちゃそうな律がロイエンタール。
まじめで後輩ポジの梓はミュラー。なんとなくのりで純ちゃんがビッテン、バイエルラインでもいいかなとも思ったけどw。
ていとく達よりもヒルダっぽいなと思い、ムギ=ヒルダ。
しゃべり方でいちご=オーベルw
となったわけなんだけど。

けいおんの楽しいのりを取り込んで書けたら面白かっただろうなあと思うんだけどね。
同盟側は・・・なんか難しそうだなあ。
ヤンが唯として。
憂か梓がユリアン、和か澪がキャゼルヌに?
あと生真面目なキャラってムライとフィッシャーだけど、余った方持ってくるのやだしなあw

19いえーい!名無しだよん!:2011/10/14(金) 16:01:41 ID:pwO7nBjo0
あれ?澪と唯の下記間違いかと思ったけど、ひょっとしてヒルダ勘違いしてる?
ヒルダはカイザーリンだよ。
ミッターマイヤーの奥さんはエバ

20いえーい!名無しだよん!:2011/10/14(金) 20:28:17 ID:j/J4C6t60
信代「よせよ・・・痛いじゃないかね・・・」

21いえーい!名無しだよん!:2011/10/15(土) 01:00:03 ID:WEkMXT520
>>20
似合いすぎて困るw

22いえーい!名無しだよん!:2011/10/18(火) 01:17:09 ID:k2XWfSuA0
幻想水滸伝2に当てはめて唯→主人公、和→ジョウイとかいいかなと思ったけど
憂→ナナミでうわあああああああ
そして没です

23いえーい!名無しだよん!:2011/10/22(土) 01:16:08 ID:XWioVfcA0
ん?ななみんが姉だから、憂=主人公とか。

或いは、聡=主人公、律=ななみ、澪=ジョウイとかね。

しかしルカ・プライトの配役が気になる。

24いえーい!名無しだよん!:2011/10/22(土) 08:41:57 ID:t6pT.pV.O
キャサリン・ブライト「フハハハハハ!ブタは死ね!」ビシッ ズバァッ

25いえーい!名無しだよん!:2011/10/22(土) 22:14:50 ID:KuaDvjsU0
寧ろ、カキ・フライト

26いえーい!名無しだよん!:2011/11/30(水) 18:32:54 ID:MQvD5uus0
クロスばかりどんどん思いついて困る そして書く時間ない……
サモンナイトのクロスでリィンバウムに召喚されたりとか、サキュバスクエストのクロスで夢魔化したあずにゃんvs唯のバトルとか

27いえーい!名無しだよん!:2011/11/30(水) 19:18:26 ID:oo2WOCro0
クロスネタは実際に書くと比較的長くなりがちだからな

28いえーい!名無しだよん!:2011/12/28(水) 22:24:20 ID:F67a1fj60
『けいぶおん!』或いは『けついおん!』
CAVESTGとのクロス。

 戦争が頻発する世界となってしまった。
その原因が、軍需企業である琴吹社である。
軍事製品を売る為に、謀を巡らして紛争を頻発させていたのだ。
そして琴吹社は唯達が嘗てバンドを組んでいた紬の会社であり、梓や純もそこで働いている。
唯達は戦争を煽る紬達の暴虐に、心を痛めていた。
 そんなある日、国連の特使となった和が唯達の前に現れた。
「私と契約して、琴吹社をやっつけてよ!
願い事、何でも叶えてあげるよ?」
 国連は嘗て紬の親友であり内情を知っている唯達に、琴吹社の空爆をお願いしてきた。
最新鋭の二人乗り戦闘機を二機与えるとの事。
更に成功報酬として、国連ができる範囲内で何でも願いを一つ叶えると言った。
しかし、国連が民間企業の殲滅を依頼するなど、露見してはならない事である。
なので、作戦の成否に関わらず、唯達は作戦後には死ぬ事をも義務付けられる。
 紬や梓・純の暴走を止めたいと思っていた唯達は、それでも承諾した。
例え殺してでも暴走を止めたいと、そして──自らの命を失ってでも。
特使である和を大佐に据え、唯憂と律澪はそれぞれの戦闘機に乗り込むのだった。

 迫りくる鬼畜兵器に苦戦しつつも、琴吹家の奥にまで攻め入ってゆく唯達。
斉藤「ウェーハッハッハッハ!俺はここだぁー!」
 そこに立ちはだかる、執事の斉藤。通称ウェッハ。
斉藤「痛ぇよー!ぶっころーす!」
 苦戦の末撃破し、
斉藤「お嬢様ぁー」
更に奥に攻め入っていくと、遂に紬の篭る要塞・コトブッカニアが姿を現した。
猛攻に猛攻を重ねてコトブッカニアを落とすと、中から梓を伴った紬が機体に乗って登場。
その機体こそが、黒翼型近接支援残酷戦闘機・コトブッカニア・ドゥームギーである。
澪「ずっとこの時を待っていた。必ず死なす!」
 律を悲しませた紬を、澪は許すことができなかった。
憎悪に満ちた澪となり、ドゥームギーに猛攻を浴びせる。
律も悲しみを感じながらも、ドゥームギーと戦う。
 律澪機体を挟み込んで上下から弾幕を浴びせるビットに苦戦しつつも、どうにか発狂形態に辿り着く。
簾状の弾は思っていた以上に避けにくく、何度も被弾してしまう。
ボムを打っても、ドゥームギーから発射されるボムで相殺されてしまう。
それでも何とか倒す事に成功する。
散ってゆく紬に対し、律は呟くのだった。
律「no remorse」

 しかし、まだ終わっていなかった。
次は純が登場し、梓に跨って攻撃してくる。
疲労の色が濃い律澪に代わり、唯憂が迎撃する。
 双方打ち合いの末、純&梓ッカにダメージを与える事に成功した唯憂。
しかしそれは、発狂への入り口に過ぎなかった。
純は語り始める。自分と梓は紬を止めたかった、と。戦争を止めさせたかった、と。
だが力不足だった為、止められなかった。
それどころか琴吹家の中枢に巻き込まれ、戦争の扇動に加担せざるを得なくなってしまっていた。
純「今度は、憂に頼みたいんだ」
 憂と唯ならば戦争を止めさせられるかもしれないと、純は言う。
そしてその為には、自分達を凌ぐ力を手に入れなければならない、と。
 発狂した梓の弾幕は量が凄まじく、何度も唯憂を死へと誘う。
純「ほら、しっかり」 純「憂ならできるよ」
 被弾する度に浴びせられる激励の声。
だが、このままでは勝てないと悟った憂は、姉との融合を決意する。

憂「融合すれば、ガルーダになれるんだ」
唯「これからは、ずっと一緒だよ」
憂「お姉ちゃん、行くよ!」
唯「いつでもいい、憂!」
唯憂「はぁぁぁぁぁ!」

 融合して真ガルーダとなった唯憂は、光点ずらしを編み出して純&梓ッカを撃破する。

 そうして琴吹社を潰した唯達だが、死ぬ事が嫌になってしまった。
紬も梓も純も居ない世界で願い事など無く、それぞれの相方と愛の逃避行をしてしまいたかった。
 しかし、それを国連が許すはずも無かった。

和「よくぞここまで出来たものね。
  貴方達は琴吹社の全てを奪ってくれた。
  でも貴方達の今の行為は、重大な裏切りと言えるわ。
  よって私自らの手で罰を与える」

 フグ刺し──洗濯機──後光レーザー

和「死ぬがよい」


はい、勿論没です。
けいおん関係無さすぎ。

29いえーい!名無しだよん!:2012/02/16(木) 02:45:34 ID:pTBl2/820
こういう熱いSSが少なくなってきたな
厳しいかぁ

30いえーい!名無しだよん!:2012/03/24(土) 21:45:55 ID:g0yTbA8I0
ボツネタスレに書いて諦め付けようとして結局まだちまちま書いてる乗ってあるよな

31いえーい!名無しだよん!:2012/05/26(土) 18:03:45 ID:rLMCWAko0
ここまで聡ハーレム無し

32いえーい!名無しだよん!:2012/06/18(月) 23:57:03 ID:chqY53Ds0
さわ子「悪の教典」

33いえーい!名無しだよん!:2012/08/16(木) 00:36:20 ID:UeABT7no0
エルム、悪いけ、ヘルレイザー、ITと立て続けに見た事で、ノルマ達成^^

34いえーい!名無しだよん!:2012/09/20(木) 22:26:59 ID:jHO/lqhU0
SS減ってるよなぁ

35いえーい!名無しだよん!:2012/10/01(月) 00:54:48 ID:V74/zAqI0
けいおんで領有権主張問題!
律の領有権を主張する梓や唯、紬が、律を実行支配する澪と争いを繰り広げる。

時事ネタ見て思いつきはしたんだけど、
尖閣問題とかとの関連を連想されるのは嫌だからやめとこう。
あの騒ぎ見て、キーワードから思いついたに過ぎないし。

36いえーい!名無しだよん!:2012/10/01(月) 00:58:05 ID:V74/zAqI0
上のって、結局は関連付けるつもりなんてないしね。
時事問題のキーワードと絡む、ってだけで。
ああいうの無知だし。

それにどうせ時事ネタやるなら、もうちょっと知識ある分野でやりたいね。

例えば南欧ソブリン問題。
実は放漫財政のツケではなく、経常収支不均衡が原因である、
みたいなお話をけいおんで。
こちらは実際の時事問題と関連付けてやっても構わないのだけれど、
どう関連させるかが分からない。

37いえーい!名無しだよん!:2013/01/04(金) 02:12:04 ID:tfmRaftg0
░█

38いえーい!名無しだよん!:2013/01/04(金) 12:05:30 ID:tGb6UizgO
ボツネタの恵梓です

「おはよう。梓ちゃん!そして、明けましておめでとう。今年もよろしくね。」

「…不法侵入しといて、ナチュラルなスマイルで挨拶しないで下さい」

「朝食できてるわ。顔を洗ってこないとダメよ?
この会話新婚さんみたいね////」

「あなたも澪先輩も、時々日本語が通じないんですね」

「安心して。梓ちゃん。『みおみお』はあくまでアイドル…。私達が出逢うキッカケにはなったけど、愛してるのは梓ちゃんだけよ///」

「何一つ安心できませんが」

「たしかに!梓ちゃんはみおたんに似ていることは認めるわ!でも、そう思ってたのは最初だけ…。私は今、真実の愛に目覚めたの」

「現実にも目覚めて下さい」

「そんなに照れなくても…」

「頭のお花畑に除草剤ぶちまけて下さい」

「ツンデレなのね!」

「とっとと帰ってくれませんか?」

「そんな梓ちゃんも好きよ!」

「ポジティブって、行き過ぎると迷惑なんですね」

「梓ちゃん…もしかして…
まだ私が梓ちゃんを、みおたんの代わりにしてると疑ってるの?」

「疑ってるのは脳みそのほうです」

39いえーい!名無しだよん!:2013/01/20(日) 00:43:14 ID:W.VC8R4Q0
便さん主催の茶会の時は、これに似たスレが一番盛況だったよね。
あっちはとっくに閉鎖しちゃってるし、こっちに書きかけて投げたSS落とそうかな。

40いえーい!名無しだよん!:2013/01/20(日) 01:04:46 ID:VFXJMmrM0
良いと思うぞ!

41いえーい!名無しだよん!:2013/01/20(日) 21:55:39 ID:3VGKBjXw0
 律は団扇を必死に煽り、自分へと風を送り込む。
真夏だと言うのに、澪の部屋は窓が密閉され冷房も働いていなかった。
「暑いな。汗で服も身体もベトベトだ」
 額に汗の粒を浮かべた澪が放つ言葉に、
律は呆れたような面持ちで返した。
「なら冷房付けろ。或いは窓開けろ。それ以前に」
 律は澪の服を指差してから、続けた。
「その厚着を脱げ」
 薄着をしている律でさえ暑いのだ。
上下共に冬用のトレーナーを着込んでいる澪が、暑さを感じないわけは無い。
実際、澪は頻りに暑いとぼやきながら、大量に水を飲んでいた。
部屋に放置されている温い水だから腹を下す心配は無いだろうが、
身体を冷やす用は為さない。
身体を滂沱の如く伝う汗の量を増やすだけだ。
 律の指摘を受けた澪は、嬉しそうな笑みを浮かべて言った。
「律も大胆になったよな。脱げ、だって。
そんなに私を脱がしたいのか。いいよ、律になら、見せてあげる」
「いや……そういう意味じゃ無くって。
全裸になれって言ってるんじゃ無くて。誘ってるんでも無くて。
単純に、暑いなら薄着になれっていう意味であって」
 律の意見は冷静な指摘のようだったが、
繰り返される単調な語尾から動揺が見て取れた。
澪はそんな律を愉しむような目付きで見ると、ゆっくりとズボンを下ろした。
トレーナーに隠されて腰や臀部は見えないが、律には刺激的な映像だった。
「実は私、ショーツもブラジャーもしてないんだ」
 澪はそう告げると、律の動揺はいよいよ激しさを増す。
「いや……冗談だよな?な?」
「嘘じゃないよ。ほら」
 澪は一気に上着も脱ぎ去った。
「ばっ、まだ心の準備が……」
 慌てて目を瞑った律に対し、澪はからかうような笑みを浮かべて言う。
「ははっ、何を勘違いしてるんだよ、律」
「えっ?」
 ゆっくりと目を開いた律の目に、
紺色の競泳水着を着込んでいる澪の姿が飛び込んだ。
「って、中にスクール水着、着てたのかよ」
「マニアックな言い方だよね、スクール水着だってさ。
ところで律、やけに慌ててたけど、もしかして私の裸見れるとか期待しちゃってた?」
「べ、別にそんなんじゃ……」
 図星を衝かれた動揺が、言葉に表れている。
「残念だったな。そこまでガード甘くないよ」
 そう言いつつも、澪は妖艶な笑みを浮かべて身体を撓らせた。
「いや……その恰好も充分刺激的だぞ?」
 律は素直に告げる。
実際、紺の競泳水着は、澪の豊満な身体のラインを艶やかに映えさせている。

42いえーい!名無しだよん!:2013/01/20(日) 21:56:55 ID:3VGKBjXw0
 澪の豊かな乳房は水着の胸元を大きく膨らませ、
隆起した乳首が先端部に突起を形作る。
腰の上辺りの横腹は僅かながら括れてはいるが、
やや膨らんだ下腹部が健康的な体型を主張していた。
澪の女を証す部位は見事に盛り上がって水着を張らせ、
下腹部と二つの曲線を作りあげている。
そして下腹部の両脇から伸びる白い脚は、長く逞しい。
太腿は柔らかそうな肉を纏って、ダイレクトな印象を澪に添えている。
 滂沱のように流れる汗を吸った水着は、
本来の紺色を更に濃く映えさせて澪の身体に張り付く。
注視すれば、臍を示す窪みさえ見て取れた。
その汗は未だ流れており、身体の末端から滴が垂れている。
今も、股下に作られた水滴が、一筋の滴となって床を打った。
水滴を放った部位も汗に依って張り付いた為か、
陰影がくっきり映る程に水着が喰いこんでいる。
そこだけ、微かな黄ばみが濃紺の中に混じって見えた。
その扇情的な光景は、律の視線を釘付けて──
「何処見てるんだ?」
 唐突に声を掛けられ、律は凝視していた視線を咄嗟に外した。
「べ、別に。何処も見てねーし。暑くてぼーっとしてただけだし」
 不自然さが際立った動作をフォローしようと試みたが、
口を衝いて出る言葉さえ不自然な言い訳だった。
「そう?ここを見てたと思ったんだけど、気のせいだったかな?」
 澪は若干背を反らして、腰を前へと突き出す姿勢を取った。
律が黙していると、澪の口から続けざまに言葉が放たれた。
「それとも、私が意識し過ぎたのかな?」
 挑発的な仕草と口調に、律は圧倒されて反駁できない。
すると澪は両脚の間隔を少し広げて、次の言葉を放ってくる。
「私が”ここ”に意識を集中させ過ぎちゃってたのかな?
律の前だから、しょうがないけど」
 ”ここ”という言葉には、明確なアクセントが込められていた。
そして僅かながらも、その部位は蠕動していた。
 堪らず、律は屈服する。
「ごめんっ澪っ。そうだよ、そこ、見てたよ……」
「凝視していた事に付いては謝らなくていい。
律に水着見せて、それで反応してくれないなら寂しいからな。
プライドだって傷つく。勿論、律限定だけれど」
 澪は挑発的な声音から一転、優しげな声で言葉を紡いだ。
律は安堵しつつ、惚けた声で澪の名を呼ぶ。
「澪……」
 そして声を上気させて、言葉を続けた。
「安心していいよ、澪。
蠱惑的なその身体を見て、澪命な私が興奮しないわけ無いからさ。
今だって興奮を抑えるのに精一杯だ。
だから、そのボディを誇ってくれて構わな」
「いや、何いい話で終わらせようとしてるんだよ」
「え?」
 呆れ返った澪の声に話を遮られ、律は頓狂な声を上げた。

43いえーい!名無しだよん!:2013/01/20(日) 21:58:05 ID:3VGKBjXw0
「凝視していた事は謝らなくていいけどさ、
嘘吐いた事に関しては怒ってるよ。
しかもその反応だと、反省してるようには見えないね。
罰を与えないと」
 澪は楽しげだった。
「罰……」
 淫靡な連想を齎すその言葉を復唱して、律は生唾を飲み込んだ。
「そう、罰だよ。
併せて確認もしないとね。
律は私に興奮したって言ったけど、
それが嘘じゃないっていう事を証明してもらうやり方で罰を与える」
 痙攣したように、律の身体が震えた。
それは恐怖故ではなく、期待故の震えだった。
律は声に悦びを漲らせて、罰を乞う。
「ああ、罰してくれ。そして試してくれ。
きっとその罰を喜んで受けて、嘘じゃないって証明するから」
「そう、良かったよ。罰を快諾してくれて。
それも、喜んで受けてくれるなんてな」
「良かった?不確定要素だったみたいに言うんだな。
本当は、分かってたくせに」
 挑発的な笑みを浮かべ、律は言った。
「生意気な顔だね。その顔、すぐに歪めてあげる。
なぁ律。見ての通り、あんな恰好していたせいで私の身体は汗だくだ。
舌で綺麗にしてくれないか?」
 澪は腕を上げて、律に腋を見せ付ける。
毛の処理を完璧に済ませた、滑らかな曲線を描く腋だった。
滴る汗が艶の効果を果たし、より扇情的な雰囲気を纏わせている。
「罰じゃなくてお願いなんだ?なら断れるよね?」
 律が悪戯っぽい笑みと共に言うと、澪は言葉を改めた。
「そうだな。じゃあ訂正するよ。
舌で舐めて綺麗にしろ」
「仰せのままに」
 おどけた調子で言ってから、律は澪の右腋へと顔を近付けた。
そして、すかさず鼻で息を吸った。
強烈な匂いが鼻腔の奥を直撃して、律の脳を揺さぶる。
「汗相当かいてるせいか、すっげ匂いだな」
 律はそう言葉を放ちながら、期待に満ちた目で澪の顔を見やった。
羞恥で朱に染まった顔を拝めるかと思ったが、澪の表情は毅然としたものだった。
完全に肩透かしを食った律に、澪の余裕に満ちた声が降ってきた。
「へぇ?そういうのも好きなんだ?なら、舐めさせる前に堪能させてやるよ」
 その発言が終わるか否かのうちに、澪は腕を下げて腋に律の頭を抱き込んだ。
二の腕と胸部側面に圧されて、律の鼻は澪の腋へと押し付けられる。
「ほら、存分に堪能しなよ。望んだ事だろ?」
 柔らかい澪の肉の感触と、粘つく汗の感触。
二つの感触が律を蹂躙してゆく。
「澪っ、これじゃ舐められないよ」
 鼻が潰れているせいか、妙な声が律の口から漏れ出ていた。

44いえーい!名無しだよん!:2013/01/20(日) 21:59:09 ID:3VGKBjXw0
「舐める前に、鼻で悪戯したいんだろ?させてあげる」
「ていうか、鼻押し付けられてるから、匂い嗅げないよ。息吸えないから」
「頑張ってみな?おっと、そういえばご褒美じゃなくて罰だったな。
またまた訂正するよ」
 そこまで言ってから、澪は声調を冷たく鋭いものへと変じた。
「できる、できない、じゃない。嗅げ」
 律の背筋に電流が走ったような感覚が駆け抜けて、うなじに鳥肌が立った。
その心地好い刺激に酔って、律は蕩けた声を返す。
「うん。頑張るよ」
 肉をかきわけるように鼻で必死の吸引をすると、
匂いと共に汗の水分が鼻腔へと入ってきた。
そして、不完全な吸い口特有の音が部屋に響く。
水と匂いの強烈な刺激を受けた鼻は、痛みを脳に伝えてくる。
脳は伝わってくる痛みを、悦びへと変換して律を溺れさせた。
更に溺れたい、その一心でひたすら律は吸引に没頭する。
 律が吸引行為に疲労故の限界を感じた時、澪が締めていた脇を開いた。
「もういいよ。お疲れ様」
「ん」
 律はゆっくりとした動作で、鼻を腋から離す。
水分まで吸ったせいか、鼻水が垂れそうになっていた。
ティッシュを探して視線を彷徨わせていると、不意に澪が顔を近付けてきた。
「汗吸ったせいで、鼻が詰まっちゃってるんだな。
いいよ、綺麗にしてあげる」
 途端、鼻を澪の口に塞がれた。 
律が驚きの声を上げる暇も無く、口で鼻を強く吸われた。
垂れかけていた鼻水を、吸い上げてくれているのだろう。
「ん……」
 異物が吸い出される心地好さに、意図せず声が漏れ出た。
続いて、澪が喉を鳴らして嚥下する音も聞こえた。
自分の体液が澪の身体へと吸収された。
その思いに律が浸っている時、鼻に更なる心地好い刺激を感じた。
澪が口を密着させたまま、舌で鼻の穴を舐め回してくれているのだ。
「ふはぁ……」
 律は気の抜けた声を上げて、膝を折った。
快楽の齎す脱力に、立っている事さえできなくなったのだ。
だが、律が地へと身体を付ける前に、澪が抱いて支えてくれた。
律は甘えるように身体を預けて、上気する澪の体の熱を感じ取る。
そして澪の全身をねっとりと湿らす汗が、粘つく感触を律の肌へと伝えてきた。
熱と汗に塗れて、律は果てたような陶酔の声を上げる。
「はあぁ……澪ぉ……」
 澪は腕を上げて、腋を強調しながら言った。
「いい顔してるね、可愛いよ、律。それに、美味しかった。
ほら、今度は律が舌を頑張らせる番だ。舐めな?」
 澪のもう一方の手に顎を掴まれ、腋へと顔を誘導された。
律は口を開いて、眼前に迫った腋へと舌を這わせる。
「んんっ」
 今度は澪の口から声が漏れ、続いて艶やかな吐息が漏れ出た。
律は舌先で擽るように、腋を舐め回す。
「うっんっ。いいよ、いいよ律ぅ」
 喘ぎに似た澪の艶美な声が、律にとって最高のご褒美だった。
口中に広がる汗の味も、律を悦ばせる。
「さぁ、律。今度は、こっちだ」
 澪はもう片方の腕を上げ、そちらの腋も晒した。
腕を上げる際、汗が糸となって引かれていた。
また、腕に圧される事で堰き止めてられていた汗が、澪の身体のサイドを流れてゆく。
それは律にとって、欲情を亢進させる情景だった。
 律は促されるまま、片方の腋へと顔を動かして舌を伸ばす。
舌が触れた途端、塩辛い刺激が走った。
先程の腋は律が鼻を付けた際に、汗が含む塩分も一部拭き取られていたのだろう。
こちらの腋には、塩分を薄める事情は無い。
律は澪の汗の味を、存分に堪能した。

45いえーい!名無しだよん!:2013/01/20(日) 22:00:09 ID:3VGKBjXw0
「気持ちいいよ、律ぅ」
 自分の名前を、澪が愛しげに呟いた。
律も返す。
「はふぅ、澪ぉ……」
 律は味と匂いと熱気の三つに蹂躙され、足から力が抜けていく事を感じた。
再び膝を折る訳にもいかない。
律は澪の胸部に手を添えて、それを支えに立ち続けた。そして、舐め続けた。
「ふふ。頑張ってる律の姿、可愛いよ。
でもね、何処にお手々、置いてるんだろうね?」
「ふぇ?澪の柔らかいところ……駄目?」
「うん、駄目だよ。だから、これもお仕置きに加算するよ」
 律は事実上、許可を得たと思った。
このお仕置きを律が悦んでいる事など、澪とて分かっている。
だから律は手を胸部に添えたまま、舐め続けた。
 しかし、いつまでも脱力に傾く身体を支え続ける事はできなかった。
「もぉ駄目」
 律は間の抜けた声で言葉を放つと、澪の身体に顔を預けたまま膝を折った。
顔を澪の身体へと埋めるように押し付け、そのまま下ってゆく。
顔に胸部や腹部の柔らかい感触を、水着越しに感じた。
その柔らかさと水着の触感が心地好い。
やがて臍へと達し、そのまま下腹部、
そして一際熱を放つ部位へと律の顔が到達した。
熱だけではなく匂いも粘度も感触も、他の部分より激しかった。
「あふっ」
 胴体の末端である股下を通過した為、律の顔が澪の身体から離れた。
粘つく糸が引かれて、澪の水着末端と律の顔を結び付けている。
この糸も、律の身体が地へと達する頃には千切れてしまうのだろう。
そう思ったが、糸は千切れれず律の身体もそれ以上は崩れなかった。
澪が太腿で律の顔を挟み込み、それ以上の崩落を防いでくれていた。
「危ないところだったな、律」
「ありがと、澪」
 見上げた先に、見下ろしている澪の姿が目に映る。
律と糸で繋がっている部位は、すぐ眼前にあった。
そこから放たれる匂いと熱気が律の顔周辺に充満し、
強烈な刺激が感覚器官を見舞ってくる。
また、粘性の滴が垂れて、律の顔へと降ってきていた。
「澪……そこも……汗かいてるよね?綺麗にしてあげる」
 太腿の柔らかい感触に浸っていたい思いもあったが、
激しいフェロモンを発散する箇所に惹かれていた。
繋がっている糸の下へと這わせようと、律は舌を延ばす。
しかし、届かなかった。
「澪ぉ……」
 律は愛しげに呟いて、頭を移動させようと試みた。
挟む太腿の間を這うように、徐々に律は頭を進めてゆく。
進むたび、太腿の柔らかく豊満な肉と自身の頬が擦れた。
 律は舌先が届くまで、後少しの所まで来ていた。
垂れる雫を舌で受けながら、最期の漸進を試みる。
だが、残り一センチにも満たない距離で、その舌は止まった。
頬に感じる肉の感触も、やや硬くなっている。
澪が太腿を締めて、律の頭を固定したのだ。
「澪?」
 訝しげに呟いて、潤んだ瞳を上目に向ける。
向けた先では、冷たく見下ろす澪の表情があった。
「許可無く動いたら駄目だろ?まずは首から舐めて欲しかったんだよね。
罰なんだから、私の言うとおりに動かないと駄目だ。
勝手な事をするから、また律の罰に一つ追加しなきゃいけなくなった」
 澪はそこで言葉を切ると、愉しそうな笑みを浮かべて続けた。
「たっぷり愉しめるな」
 律も応じて言葉を返す。
「たっぷり愉しんでよ」
「ああ。さて、今言った通り、次は首だ。
首から徐々に下っていって、上半身全体舐めてもらおうかな。
ああ、お臍の辺りまででいいよ。
そのちょっと下には、レッドポイントがあるからな」

46いえーい!名無しだよん!:2013/01/20(日) 22:04:25 ID:3VGKBjXw0
>>41-45
かなり前に書いてた、ただのエロSS。
飽きたのか途中でずーっと止まってました。もういいや、没で。

この頃はまだ、台詞と文章の間でも詰めて書いてましたっけ。
改めたのは、ここで指摘されてから。
あと、当時は律のキャラ把握が甘かったせいか、口調がおかしくなってます。

47いえーい!名無しだよん!:2013/03/20(水) 11:51:06 ID:QIaFiVKg0
夏休みに紬の船に乗って船旅にでたら嵐にあって船が転覆。気がついた唯たちはそれぞれ米軍と旧帝国海軍に救助され、過去の戦争の惨劇があり、先人の働きがあって現代の幸せな日常があることを身をもってしる。

48いえーい!名無しだよん!:2013/03/20(水) 11:52:24 ID:QIaFiVKg0
夏休みに紬の船に乗って船旅にでたら嵐にあって船が転覆。気がついた唯たちはタイムスリップして太平洋戦争時間の米軍と帝国海軍それぞれ救助され、過去の戦争の惨劇があり、先人の働きがあって現代の幸せな日常があることを身をもってしる。

49いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:29:56 ID:RQaJ.osU0

純「……無性に嗅ぎたくなるニオイってあるよね」

梓「ガソリンのニオイとか」

純「マッチ消したあとのニオイもいいなぁ」

菫「え、えっと。オーブンを焼く時の匂いっていいですよね!」

純「スミーレだけなんかブルジョワジーだし!」

さわ子「あるわねー。私もガソリンのニオイが結構好きだったのよ」

さわ子「免許取って車に自分でガソリン入れるようになったら

嗅ぎ放題だと思ってたのよ」

梓「なんでそこで間を取ろうとするんですか?」

さわ子「……何よー。ちょっと盛り上げたかったのよ」ブスッ

さわ子「でも、実際にずっと嗅いでたら具合悪くなったわ」ムスッ

純「先生がめっちゃ投げやりになった」


ガチャッ

憂「遅くなってゴメンね。お菓子持ってき―」

菫「…」

純「…」

梓「…」


さわ子「…」

憂「…たよ?」


純「わーい」パチパチ

菫「ではお茶入れますね」

さわ子「これよこれ。この時のためだけに働いてるのよー」

さわ子先生が机に突っ伏した。

梓「先生は何しに来てるんですか?」

さわ子「つかの間の休息を求めて来てるのよ!」

梓ちゃんの問いかけに頭だけを起こして先生が応えた。


憂「♪」カチャカチャ キリキリ

純「…」クンカクンカ

憂「純ちゃん?」

純「あ、いや、ホラ。なんか手伝えないかなって」


梓「純、ちょっ」グイッ

純「ホラ押したら危ないじゃーん」グイグイ



憂「切り終わったから食べよ?」


憂「はい、梓ちゃん」カタッ

梓「はーい」カタッ

憂「純ちゃん」

純「わーい」

憂「先生」カタッ

さわ子「わーい!」

菫「…♪」コポコポ


純(このニオイの存在に気付いたのは一ヶ月ほど前だった)

梓(憂からほんのりと漂う何とも言えないニオイ)

純(それはガソリンやマッチはおろか焼きたてのパンだって敵わない)

純(私達のフェバリットスメルだった)

純(そのほのかに漂うニオイは瞬く間に私達を虜にし)

梓(今や憂のニオイなしでは私たちの日常はままならなかった)


梓(確かに唯先輩もいいニオイがした)


梓(でも今の憂は唯先輩なんて足元に及ばないほどイイ匂いがする)

純(憂の匂いは依存するニオイだ)

純(よく香水のいい匂いがする人がいるけど、そんなレベルじゃない)

ずっと嗅いでいたい。そう思ってしまう

純「はぁ…憂…」

あの匂いの依存性は危険を感じる


(スミーレはそうでもないみたいだけど)

(麻薬みたいで怖いときがある)

憂「お湯汲んでくるね」スッ

純(ああんイイ匂い…)

梓(おまけに憂が通り過ぎた時の残り香。これもたまらなくいい匂いなのだ)

50いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:31:26 ID:RQaJ.osU0
― 


梓「おはよう」

梓「…?」クンカクンカ

梓(あれ…?いつもよりニオイが強い…)

憂「梓ちゃん?」

梓「あ、いや、なんでもない!」

梓(ま、いっか!)

梓(…いいニオイだなぁ)



梓「純!ちょっと」

純「え!?」

梓「…ほら」

純「…」クンカクンカ

純「ホントだ!」

純「いいニオイだな…」スーハースーハー

梓「…天国にゃん」スーハースーハー

憂「?」

純「あ、いや。お茶がいいニオイだなって」

梓「そ、そう。今日の葉っぱっていつもと違うの?」

憂「スミーレちゃんだからわかんないな」

直「なんだろ」

菫「え?」

菫「こ、こんにちは」

直「…あ…れ…?」

直「」ドサッ

菫「え?え?」

菫「…ぁ」ビクゥッ

菫「」ドサッ

純「え?」

梓「は?」

憂「ど、どうしたの!?」


電線に止まる雀が三羽。

川を泳ぐ鯉もいつもと変わらない。


― 同時刻・ 女子寮 唯の部屋

唯「ふふふーん」バリバリ

律「また荷物送ってもらったのか?」ゴロゴロ

唯「うん。夏服忘れちゃってたんだもん」


律「…うわ、またその文字Tかよ」
唯「えへへへ」

澪「『げんごろう』って…」

律「すずむしってのもあるぞ」

唯「…ん?」

律「お?」

唯「…なんか臭い」

澪「臭い?」

唯「ほら。クサいよ」

澪「クサいクサいって言うなら人に突きつけるんじゃない」


律「どれどれ?」

りっちゃんがTシャツに鼻先を近づけた。

律「むしろなんか洗剤とは違うイイ匂いがするな」

律「え…?」

澪「…別に普通だと思うけど」

唯「りっちゃん。ぶっちゃけだよ」

律「おう」

唯「憂って体臭キツいよね」

澪「……唯」

律「お前って奴は……

唯「うん」

澪「病院行け」ポン



― 同時刻 職員室

教頭「警報が出てるらしいんだが…」

堀込「なんのだ?」



さわ子「…うーん」カタカタカタ

さわ子「!」クンクン

さわ子(あら?憂ちゃんの匂い?)

さわ子(どうしてここで…?)クンクン

さわ子「…いい香り」

さわ子「…!」ドサッ

堀込「お、おい山中?」

堀込「…うぐ!?」

堀込「な…なんだこのニオ…」

堀込「ぶご!」ドサッ

校長「ぶぼ」ドサッ



テレビ『対象区域の皆さん。落ち着いて、風上、東に向かって避難してください。

繰り返します。ガスの風上、東に向かって避難してください』

点けっぱなしのテレビではアナウンサーが呼びかけを繰り返している。

さわ子「まだ何人か!」
教頭「今は目の前の生徒を見ろ!」

堀込「とにかく早く離れるんだ!」
堀込「荷物は諦めろ!今は逃げろ!」

中には上履きやユニフォーム姿のままとにかく風上へ走らされる生徒達。

逃げる生徒が途切れた所で先生達も走り出す。

「いやああああああ!」
「山中ぁ!」

堀込先生はさわ子を引っ張り、悔しそう振り返りながら桜高を後にした

51いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:31:57 ID:RQaJ.osU0



「職員室誰もいないよ…」
「なんでぐちゃぐちゃなんだろ?」

誰もいない校内。あれだけいる
気配もない。

憂「」
純「直ちゃんのパソコンからネット繋がらないかな」
梓「やってみようよ!」


梓「なんだろ?」



『 梓純憂ちゃん
大至急避難
桜ヶ丘中学校か桜台小学校へ
急いで 』

殴り書きのメモが落ちていた。




― 寮 食堂

誰も見向きもしないテレビはだらだらと昼の情報番組を垂れ流している。

恵「ニオイ?」

律「唯ったら憂ちゃんの事散々言うんですよ」

恵「そもそも私は人の匂いなんて気にするモノじゃないと思うけどな」

恵「匂いの個性も人それぞれとかね」

恵「別にヒドイ匂いとかってわけじゃないんでしょ?」

澪「そうですよね。全く唯ときたら」

唯「えー?でも憂はちょっと」モグモグ


テレビ『番組の途中ですが、予定を変更して臨時ニュースをお送りします』

いきなりテレビはどうでもいいバラエティから報道番組に切り替わった。

唯「え?」

律「何?」

恵「?」

全員が一斉にテレビに注目した。

『豊崎県庁、県警、藤東市役所からの情報によりますと、現在藤東市内で大規模なガス漏れが発生している模様です』

『繰り返します。現在、藤東市内で大規模なガス漏れが発生しています。住民の皆さんはガスの元栓を締め、

窓や戸を開けて換気してください。また指示があった場合は速やかに従って避難してください。繰り返しお伝えします』

律「お?」

澪「なんだ?」

唯「桜が丘?」

恵「え?何?何?」

テレビ『豊崎県藤東市で現在大規模なガス漏れが発生している模様です。住民の皆さんはガスの元栓を閉め、窓や戸を』

唯「ガス漏れ!?憂大丈夫かな」

澪「電話するか…」

― 桜が丘 路上

広報車『こちらは藤東市役所です。現在市内で大規模なガス漏れが発生しています。』

緊急自動車とカラフルな防護服の消防士や警察官が犇めくアーケード街。

消防士「酸素濃度異常なし」

自衛隊のヘリコプターが道路をヘリポート代わりに続々離陸していく。

自衛隊員「収容完了!離陸!」



医師1「ダメ!黒!次!」

医師2「赤だ!搬送してくれ」

看護師1「落ち着いて!息を深く吸って!」

救急隊長1「了解!」

看護師2「大丈夫ですか!?」

救急隊員1「聞こえますかー?」

救急隊員2「手が足りない!」

救急隊長2「こちら桜が丘救急1!応援要請の必要あり!」

自衛隊員4「手が足りません!」

― 現地指揮所

「―を除いた地域では異常が全く見られません」

「北部、東北方面隊の全ヘリをかき集めろ!」

「北に展開してる部隊から順々に撤退させろ」

― 平沢家前

憂「…おばあちゃん」ヘタッ

とみ「」チーン

憂「…ううっ…どうして…」

憂「なんで…?」

憂の頭上には綺麗な初夏の青空が広がっていた。





律「唯も確かに独特の匂いがするよな」

澪「ああ、確かにな。意識しないと気づけないんだけどさ」

唯「私ってクサいの!?」

紬「ううん。逆よ」

澪「すごくいい匂いなんだよそれが」

律「そうそう。シャンプーでもないし洗剤でもないし。香水でもないんだけどな」

紬「一度知ったらやめられないような魔力がある匂いよ」

52いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:35:36 ID:RQaJ.osU0

― 藤東市・市境

市境。頑丈な鉄のゲートが国道の下り車線をがっちりと封鎖し、

道路情報掲示板は「国道72号線 この先通行止」を点灯。

ゲート横にある差込式表示板には「通行止」「災害」の2枚が差し込まれた。

さらに大型のLED表示板を後ろに乗せた警察車両がサイレンを鳴らして現れ、

路肩に停車すると後部のモニターに巨大な文字を表示した。

<この先> <災害発生> <通行止> <豊崎県警察>と4パターンが機械的に点滅していた。

その手前には足止めを食らった車が片っ端から

警察官「通行止めです!Uターンしてください」ピーッピピピッ

パトカー『現在国道72号線通行止です通行止めです』ブオオオン

カムリ「なんだよなんだよ?どうなってんだ」

マーチ「ちょっとー!?あり得ないわよ!」

Kei「何事かしら?」「さあ?」

ハイエース「おいおい…」

bB「早く行けよババア!」

警察官がクラクションを鳴らす車を怒鳴りつけた。

警察官「だからUターン!Uターン!通行止めだから」

bB「あんでだよUターンって!?」

警察官「災害だつってんだろうが!指示に従え!」

警察官2「おい!ゲート開けろ!先遣隊が来る」

警察官3「ゲート開けて下さい」

職員「ゲート開けます!」

職員がゲートのロックを解除し、鋼鉄製のゲートがゆっくりと左右に開いていく。

ゲートが完全に開き終わったときには対向車線を逆走する車列がすぐ傍まで来ていた。

『緊急車両通過します緊急車両通過します』

先頭のパトカーがマイクでがなり立てて通り過ぎる。

青色のトラックのような車体に白字で豊崎県警察とだけ書かれた車両を皮切りに、

サイレンを鳴らした警察車両の車列が延々と通過していく。

警察官「だから早くUターンして!後ろ詰まってるから!」

呆然とするドライバーを警察官が再び怒鳴った。

bB「…はい」

最後尾のパトカーが通過すると同時に、車列が一台ずつUターンを開始する。

警察官2「ゲート閉めてー!」

職員「ゲート閉鎖!」

その横で鋼鉄製の頑丈なゲートが再び黄色い巨体を軋ませながら国道を分断していった。

― 県央自動車道 藤東中央インターチェンジ

桜が丘へ向かう高速道路の料金所。

全てのレーンの信号灯が赤に変わり、<閉鎖中>に切り替わる。

同時に本線の上下車線に設置される大型の情報掲示板は

[下り桜が丘IC方面 通行止 ここで降りよ]に切り替わった


― JR藤東駅

ターミナル駅の藤東駅。

JRは一旦全ての運行を中止したのち、桜が丘方面を除いた区間の運行を再開したため、

駅はごった返していた


桜が丘方面の発車案内には調整中の三文字のみが表示され、桜が丘方面へ向かう電車はホームで停車したままになっていた

改札口では乗客と駅員が押し問答を繰り返し

運行情報 <桜が丘方面は運行を見合わせています。現在、運行再開は未定です。>

駅員「現在、桜が丘方面の運転を見合わせています!」ザワザワ

「なんでー!?」「全然家と連絡が取れない!」「お願いですからなんとか―」

駅員「安全に運行できると判断できれば運行は再開しますから!」

「こらー電車を動かせ―!」

駅員「それは出来ません!」

「俺は線路を歩くぞ!」

駅員「あっちょっとアンタ!」

1人が線路に飛び降りたのをきっかけに、ホームの乗客がどんどん線路に降りはじめた。

53いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:36:40 ID:RQaJ.osU0

― 音楽準備室

直「なんか具合が…」

菫「だ、大丈夫?」

菫「あれ?」

菫も足元が覚束なかった

純「スミーレ!?」

梓「奥田さん!?」

純「スミーレ!?」ダキッ

純「大じょ…ひぐっ」

梓「え?じゅ…あええっ」

純「」

梓「…う…い…」

憂「いやあああああああ」

…………
………
……








― 総理大臣官邸・危機管理センター

総理大臣官邸地下にある危機管理センター。

おっとり刀で国のエラい人達が駆けつけていた。

「藤東ガスからの報告によれば、現在のところ地中配管には異常が見当たらないとのことです」

「現在までの被災者数は?」

「県警テレヘリの報告によりますと、桜が丘地区はほぼ全滅状態と言っても過言ではないかと…

現在までに125名の死亡を確認していますが…死者は今後さらに…」

「そんなこと発表できないぞ!」

「全く平穏な気象条件下でこの事態です。テロの可能性が非常に高いです」

「一帯は火山性ガスなどが発生するような土地でもありません」

「大規模なガス漏れの可能性だってあるだろう」

「現在までに判明した死者数は62名です」

エラい人達がみんなで勝手に言いたい事を騒ぎ、報告する人は必死に声を張り上げる。

「UH−1からの映像入ります!」

そんな阿鼻叫喚に割って入るようにセンターの真正面にある一番大きなディスプレイに

自衛隊のヘリコプターが撮影して伝送してくる今現在の光景が映し出された。



「なんだこりゃ…死の街じゃないか」


「現在化防小隊が調査に向かっています」



― 桜高前

大型ヘリコプターが着陸すると、横のドアから迷彩服の自衛隊員が降りてくる。


自衛隊員A「ケミカル1よりサクラ!降下終了!」シューシュー

自衛隊員B「計測値は?」シューシュー


自衛隊員C「……異常値なんて出てないぞ」コヒュー

自衛隊員B「どうなってるんだ?」シューシュー

自衛隊員C「……わからん」シューシュー

自衛隊員D「……まるで嘘みたいになんでもないじゃないか」

自衛隊員E「……都市ガスじゃないのか?」

自衛隊員F「偵察車を待って前進。それまで周辺に被災者がいないか捜索する」


― 平沢家前


憂「…梓ちゃん…純ちゃん…菫ちゃん…」グジグジ

憂「ううっ…うっうっ」グスグス


自衛隊員1「生存者だ!」

自衛隊員2「救出!救出するぞ!」

自衛隊員3「コバト6よりスバコ!生存者発見!繰り返す!生存者発見!」

自衛隊員4「」

憂「……!」スッ


― 危機管理センター

「生存者発見!」

危機管理センターのエラい人達は現場には聞こえもしないのに一斉に拍手し、

その後それぞれ席から立ち上がって喜び出した。

官房副長官は胃のキリキリが急に治ったので冷めたコーヒーを一気飲みした。

「やった!」

「早く救出しろ!」

エラい人達は今度は救出の瞬間を観ようと画面に詰め寄った。

54いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:37:51 ID:RQaJ.osU0
― 平沢家前

自衛隊員「大丈夫ですか!?」

自衛隊員2「陸上自衛隊です!助けに来ました!」

迷彩色の防護服を着た自衛隊員達が憂に向かって走ってくる。

憂「自衛隊の人…私助かるんだ…」

自衛隊員1「立てますか!?」

その光景を見た憂が立ち上がろうとした時には、

自衛隊員が駆け寄って手を差し伸べていた。


自衛隊員1「……うぐっ」

憂「……え?」

自衛隊員2「……な?」

憂に手を差し伸べたまま隊員は憂の足元に倒れ込んだ。

さらにそれを助け起こそうとした隊員もそのまま崩れ落ちる。

自衛隊員3「ケミカル2よりサクラ!現在女性とコンタク……」

自衛隊員3「え?」

憂「だ、大丈夫ですか!?」タタッ

自衛隊員5「じょ、状況ガス!」

自衛隊員5(まさか、この娘が!?)

自衛隊員3467 「!」

自衛隊員3『こちらケミカル2!現在地、ガス検知!』
自衛隊員4『状況、ガス!』

自衛隊員4『これを顔に!』

救助用のガスマスクを取り出して憂に渡す自衛隊員。

自衛隊員6『ここから退避する!君もいs』

そのまま隊員は憂にマスクを渡せぬまま倒れ込む。

憂「ひっ!?」

自衛隊員5『あの子を―』

自衛隊員6『なんだ!?おい―』

自衛隊員3『ケミカル2からサクラ!負傷者発せ―』

だが彼らはガスマスクも虚しく次々とアスファルトの上に斃れていった。

憂の手を引こうとした隊員がピクリとも動かなくなり、また憂だけが取り残された。

憂「…あ…ああ…やだ…やだよ…」

再び静かになってしまった住宅街の通りには、

通信機の受話器から聞こえる安否を問う声と憂の嗚咽が響いていた。



― 郊外 桜ケ丘バイパス

市街へ通じる6車線の幹線道路がその道幅を利用して臨時ヘリポートになった。

避難する人々はそれぞれ整列してヘリコプターを待ち。

やがて羽を前後に持った大型のヘリコプターが続々と着陸すると

後ろの大きなハッチを開けて避難する人達を飲み込んでいった。




― 危機管理センター

「藤東現地指揮所より報告!自衛隊部隊に死傷者!」

「どうなってんだ!この政権を潰す気か!?」

「移動しているマルUを中心に汚染範囲が拡大しています」

「現在このマルUの詳細は調査中です」

55いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:39:21 ID:RQaJ.osU0


『―降下します』

「人だ」

「人だぞ!」

『若い女性に見えます』


『厚木の降着はもういっぱいです』

『横田から協力の申し出が来ています!』

『政府専用機を出して輸送しろ』

『政府は災害緊急事態宣言を発令』

『指定公共機関』

『NTTの回線を全部災害対策体制に移行』
『バス会社とJR、私鉄各社にも災害輸送態勢』

『原発は全部止めろ!万一汚染されて制御できなくなったらシャレにならん!』

『NHKと民放全てに割り込みで緊急放送する用意を』

テレビ『現在も毒ガスの発生源とみられる地点は移動しており、該当区域には順次避難指示が出されています』

『該当区域にお住いの皆さんは、自衛隊員、警察官、各係員の指示に従って避難してください』


『有毒ガスの発生により、避難指示が発令されました。こちらは市役所広報車です』


ガス体が風で移動しているのではないかと思案されます


憂「お姉ちゃん…」トボトボ


「どうするんだ!首都圏に入ってこられたら被害は今までの比じゃないぞ」

「現在、平沢憂は国道沿いを徒歩で東進中です。

よって進行方向上に対人障害を帯状設置し、これを阻止します!」

「万一対人障害を突破された場合は?」

「その場合、第二ラインに待機した普通科が制圧します」

「普通科が行動不能になった場合は?」

「コブラです」

『午後二時、自衛隊のヘリコプターが捉えた生存者の女性とみられる映像です。

この女性は藤東市郊外の国道で―』

澪「あれ?」

律「これって」

紬「もしかして」

唯「憂だ!」

56いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:41:24 ID:RQaJ.osU0
― 桜ケ丘バイパス

自衛隊員「…」

自衛隊員16「…」ドサッ

小隊長「……な…何が……」


憂「う…うう…」

小隊長「あ、アイツだ!アレがガス体の中心部だ!」

小隊長「た、退避!退避するぞ!おい機関砲!射撃用意!」

銃手「は、は!?」

小隊長「アレだ!アイツを撃て!アレがガス体だぞ」

銃手「し、しかし!」

小隊長「どけバカ!」

小隊長は銃手を押しのけ、照準もせずに重機関銃のトリガを押した。

憂の周りのアスファルトは粉々に吹き飛び、破片が憂に降りかかる。

憂「ひっ」

怯えてその場に屈みこむ憂を見て銃手は小隊長を取り押さえようとする。

銃手「隊長!やめてください!」

小隊長「バカ!今俺らがやらなかったら誰がアイツを止めるんだ!」

― 防衛省

「マルUは現在もOHが追尾中です」

「あの女性が発生源で間違いないのか」

「化学学校の拡散シミュレーション、特殊武器防護隊による拡散計算をはじめとし、

各種情報を合わせた結果、95%の合致です!発生源とみて間違いありません!」

「このままでは首都圏、東京潰滅です!阻止しなければなりません!」

「…民間の報道ヘリの状況は?」

「現在マルUから半径40キロ圏内を飛行禁止区域として通達しています。問題ありません」

「民間人はもちろん誰もいないな?」

「例えまだ区域内にいたとしても…もう…」

「……予定通りF−2に爆撃させよう」


― 寮 談話室

テレビ『―政府は毒ガスの発生源を特定し、自衛隊による発生源の封じ込めを決定しました』

『発生源と封じ込め作業の内容について詳細はまだ明らかにされておらず、』


紬「」


澪「どんないい香りでも多すぎたりしたら臭いからな…」


紬「…唯ちゃんと憂ちゃんがお互いに匂いを中和し合ってたんじゃない?」

律「酸性アルカリ性とかじゃないんだからさ…」

澪「だとしたら今頃桜が丘はどうなってるんだ…」

唯「うーん」

紬「修学旅行なんかで家に居ない時期は?」

澪「すぐには匂いが強まらないんじゃないか?

離れていると徐々に中和効果が薄れていくんじゃない?」

紬「…だから二ヶ月たった今、中和効果が完全になくなって…」

律「匂いが強くなりすぎて毒になったのか…」



澪「地雷!?なんでそんなことを!」

律「」

紬「憂ちゃん…」


唯「憂が原因なんだ…」


澪「じゃあなんで今までこんなことにならなかったんだろう…」

紬「仮にだけど…時間が経つと中和効果が薄れるんじゃ」

澪「同じ家に住んでたわけだし、ずっと憂ちゃんの体臭も唯の体臭もそれぞれ中和され続けていたのか」

唯「うーん?」

澪「ってことは…憂ちゃんと唯を引き合わせれば…」

紬「…この被害も収まるってこと?」

律「すげぇ!大発見だ!」

テレビ『避難指示の対象区域にお住いの皆さんは、係員の指示に従って冷静に行動してください』

57いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:42:55 ID:RQaJ.osU0
― 仮設ヘリポート

機上整備員「うい?」

普通科隊員「UI」

機上整備員「ういるす?」

普通科隊員「…UIな」

機上整備員「意味は何なんですかね?」

普通科隊員「さぁなぁ」

普通科隊員「とにかくこれを空中散布してこいとさ」

機上整備員「わかりました」

― 藤東飛行場 


― CH−47JA機内

機上整備員「汚染を考え高度は常時2000フィート以上を維持します」


唯「」

機上整備員「また、現地到着前に」


― 総理大臣官邸前

黒塗りの高級車で溢れかえる官邸周辺。

「CIA日本です!」

― 

唯「お母さんがまだお仕事してた時に自分で開発中の薬を飲んだ」

唯「本当は私が原因」

唯「無臭でいて依存性と継毒性の物質を分泌している」

唯「憂は私の毒性を中和するために生まれてきた」

唯「憂は真逆の物質を分泌していた」

唯「けれど憂から出すその物質の一般の人には関係ない物質」

唯「体内に蓄積し続けて…ある一定の限界を越えた時に」

唯「それは毒となる」

唯「中和し合った状態の私たちと長い間接触し続けた人達は

ワクチンを投与したと同様に耐性がつき、すぐに死ぬことはない」

唯「けれど短期間、私たちのどちらかに接触しただけの人は…」

唯「…死んじゃう」


― CH−47JA機内

甲高いキューンという音と羽の音でがものすごくうるさい機内。

しかも出入口の様なところは全部閉まらず、隙間から空が見える。

機上整備員「」

澪「…ちょっと待った。憂ちゃんの体臭がヤバいってことは…

同じ期間離れている唯も同じく中和効果が薄れ―」

澪「…ムギ」

紬「…もしかして」

律「まさか!?」

律「マズいじゃん!」

澪「…?」

澪「そうか!憂ちゃんがああなったってことは唯も―」

紬「すみません!大至急着り―」

ムギが自衛隊の人に駆け寄った。

機上整備員「?」

その時だった。

甘い匂いが鼻をくすぐった。

紬「…?」

律「…?」

すごくいい匂い。

嗅いではいけないイイ匂い。

でももう一度嗅ぎ直してしまった。

澪「…もしかして」

律「…ぁぐっ!」

澪「…うっ!」

胸が痛くなった。

紬「…ああっ!」ドクゥン

唯「り、りっちゃん!?澪ちゃん!?ムギちゃん!?どしたの?」アタフタ

澪「…りつ…ムギ…」フラフラヨロヨロ バタッ

律「…み…お…」ヨロヨロ ドサッ

紬「…澪ちゃ…りっちゃ…」フラフラ ドサッ


操縦士「ぐ…!?」ガクッ
副操縦士「ま…さ…か」ググッ

整備員「く…そ…ガス…」フラッ

CH−47JA「」フラフラフラフラ


澪「…ゆ…い…」

唯「…み、澪ちゃ」

律「…ゆ…い…せめて…に…」ガシッ

唯「り、りっちゃぁぁぁんん」テヒシッ

紬「…ゆいちゃ…」テフラフラ

唯「むぎちゃあああん!!!」


唯「りっちゃ…みおちゃ…」ブワッ

唯「…むぎちゃ…うい…」ポロポロポロポロ


CH−47JA「」ヒュウウウウウウウ

高度計「1020…960…550…400…」グルグルグルグル

ビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッビッ

ガタタタッ ガタタタ

唯(…落ちてく)

唯「みんな…ごめんね…」


澪「…げほっ!ごほっごほっ…!げほっ…!」

もうだめだ。

唯の顔がボヤけてく。さよなら…唯…。

ごめん…。

58いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:45:10 ID:RQaJ.osU0


『攻撃コードH・R・1を認証せよ!』

『F/A-18発進命令』

『標的は陸上自衛隊、CH-47JA、機体番号521331!』




澪「…あ…あれ?」ウスメ

唯「み、澪ちゃぁん!」ダキッ


急降下するCH−47JA。

けたたましい警告音で機長と副操縦士も目を覚ました。

操縦士「…ぐ…はぁっはぁっ…!」

迫っている地表。

副操縦士「…げほっげほっ…高度…下がってます!」

声を絞り出して機長を左手で殴り、

そのままありったけの力で操縦桿を引き上げる。

操縦士「…ぬぐ!上がれ上がれぇ!」

目を覚ました機長が操縦桿との戦いに加わって

CH−47JAは再び揚力を取り戻し、エンジン全開で上昇する。

唯「澪ちゃん…よかったよぉ…」

澪「唯…そうか…憂ちゃんの臭いの範囲内に入って中和されたのか…」

律「…ぐほっげほっ…はぁっはぁっ…」ガバッ

紬「…ごぼっごほっ」ムクリ


律「…あ…あれ?」

唯「りっちゃん!」

そのCH−47JAに再び災難が訪れた。

CH−47JA「ビッビッビッビッ」

操縦士「SAM!?」

操縦士「嘘だろ!」

操縦士「SAMだ!」

副操縦士「そんな!?」

操縦士「緊急回避!」

整備員「!?」

整備員「掴まって!」


律「え?」


操縦士「ダメダメダメだ」

副操縦士「ゴールドフィッシュよりフィッシュボウル!」

ミサイルを探知した自機防御装置が花火のようなフレアをばら撒き始める。

それを完全に無視してヘリに音速で向かうミサイル。

爆風がエンジンを止め、破片はテールローターや機体を引きちぎった。




唯「憂は臭くないよ」

憂「…本当?」

唯「うん」ダキッ

憂「お姉ちゃん」


澪「…やっぱり1+1は…2だったんだ…」ガクッ


「在日米軍が介入すると言ってます!」

「ふざけるなバカ野郎!」

エラい人の1人が報告した人に掴みかかった。

「私に言わないで下さい!」

「この政権を潰す気か!」
「とっくに潰れとるよクソ野郎!」

野次が飛んだ。

汗臭いエラい人が波平頭のエラい人に食って掛かる。

「クソ野郎とはなんだこのクソハゲ!」

「やるか!?」
「廊下に出ろ!」
いい年した2人は廊下にフォークダンスよろしく横移動を始めた。

「チヌークからの通信が途絶えました!」

2人がドアの所までたどり着いた途端、情報担当の防衛省キャリアが絶叫した。

「なっ!?何ぃ!?」
「も、もうだめだ…」

いい年した二人は掴みあったまま固まっている。
それを見ながら情報担当が更に小声になって付け足した。

「…レーダーからも消えました」
「きゅ、救出は!?」

「汚染ラインを越え、既に桜が丘に進入していましたので…」

「ヘリは高度2000フィートを維持していました。

墜落したということは…平沢唯さんをはじめ全員の生存は絶望です…」

目を合わせないでキャリアが続けた。

「終わった」
「どうすりゃいいんだ」
波平頭はしきりに無い髪の毛を掴むような仕草を繰り返し
汗臭い方はワイシャツの袖をしきりに爪でカリカリ引っかいていた。

59いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:46:38 ID:RQaJ.osU0
― 桜が丘 東部 住宅街

唯「……んっ」

気が付くと青空が見えた。

私は土の上に寝っころがっていた。

起き上がって土を払う。

足元を見ると紫色の小さい花がいっぱい咲いていた。

辺りを見渡すとちょっと離れたところにヘリコプターが倒れている。

そこでようやくヘリコプターが落っこちたのを思い出す。

「み、みんな!?」

花を踏むことに一瞬迷ったけど私はヘリコプターに向かう。

ヘリコプターの出口の所に自衛隊の人が倒れていた。

中学校の理科を思い出しながら脈を取ってみる。

……脈はない。

ヘリコプターの中を覗き込む。

ひっくり返ったヘリの中にりっちゃんがいた。

慌てて私は隙間から中へ入り込む。

壁に貼られた網や窓のくぼみに足を取られながらなんとかりっちゃんに近づく。

「りっちゃん?」

仰向けになったままのりっちゃんは返事をしてくれない。

「りっちゃん!」

私はりっちゃんを揺さぶった。

りっちゃんは起きてくれない。

ほっぺを涙が伝ってるのがわかる。

もうだめだ。もうだめなんだ。

私は止まらない涙を擦りながら外に出た。


涙が止まらない。
「ひっく」

今度はしゃっくりが止まらなくなった。

「ひっく」
「…なすびの色は紫」

…澪ちゃんに教えてもらったおまじないだ

これでしゃっくりはホントに止まる。

しゃっくりが止まった場所から4歩ほど歩いたトコに澪ちゃんがいた。

「…澪ちゃん?」

澪ちゃんに触った。



パトカーが3台止まっている。

でも辺りを見てもおまわりさんはいなかった。

車も自転車もバイクも道路にそのままだ。

ちょっと歩くとドアを開けっぱなしの車が止まっていた。

鍵が付いている。

免許があれば乗れたのにな。早く教習所に行けばよかった…。


道路に白い粉がいっぱい撒かれている。

うっすら山になった粉はそよ風で少しずつ飛び散って広がっていく。

触らない方がよさそう。

60いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:47:04 ID:RQaJ.osU0
そして憂がいた。

そんな二人を上空から見つめる目があった。白色の無人偵察機。

ぬるっとした形の機体には星マーク。

偵察機の高性能ビデオカメラは2人を捉えてどこかへ伝送し続けていた。。

― 

「ご決断を。国連が介入するかの瀬戸際です」

「……攻撃を許可する」

― 航空自衛隊 三沢基地

朝日の中、青い塗装の戦闘機が続々と滑走路に滑り込んでくる。

滑走路手前に並んで順番待ちする戦闘機の翼には白い誘導爆弾が4発。

機体は朝日を浴びて白く輝き、誘導爆弾に塗られた白色をより艶やかに強調した。

戦闘機は順番が来る度、2機ずつ排気口を赤く輝かせながら轟音を残し飛び立って行った。




『攻撃態勢』

『投下まで15秒』

『そのまま維持』

『ターゲットコンタクト。スタンバイ』

『投下まで1ミニッツ』


『ターゲットクワイット』



 ※


唯「…ふー」

梓「暑いですしそろそろ休みませんか?」

トマトの茂みの中からあずにゃんが顔を出した。

夏の太陽がまぶしい青空を見上げると、

飛行機雲を曳きながら飛行機が三角に並んで空を飛んでいる。

唯「よし!じゃあ憂にトマト渡して来る!」

梓「転ばないで下さいね」

あずにゃんの声がトマトの茂みのどこかからか聞こえた。

私は深呼吸するとザルを抱えて憂の待つ家へ走る。



拝啓

晶ちゃん。お元気ですか?桜が丘は暑いです。

そっちはどうですか?今日は

― 唯「憂って体臭キツいよね」 糸冬

61いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 18:51:57 ID:RQaJ.osU0
憂の体臭が臭いみたいな立逃げが流行った時期に書いてたネタです。
大学生編と高校生編の開始などで若干アップデートを経たものの
ネタもネタですし結局陽の目を見ることはなく長い間放置されていました。
この度供養も兼ねて。

62いえーい!名無しだよん!:2013/04/02(火) 19:06:18 ID:RQaJ.osU0
あ、推敲し過ぎて肝心な事書き忘れました。
MEMORIESの最臭兵器から大分貰ってます。
MEMORIESは面白いので是非ともご覧ください

63いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 18:08:15 ID:BH7TS0xk0
途中までは書いたけど、一年以上も前から放置してるSS。
今後、要所々々のネタを使う事はあるかもしれないけれど、
この続きを書く事はないと思うので晒します。

64いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 18:09:00 ID:BH7TS0xk0
[唯side]

 五月二十六日は天気予報が外れて、朝から豪雨となった。
唯は部屋の窓からその事を確認すると、落胆の溜息を吐いた。
昨夜の時点では、律を遊びに誘おうと考えていた。
会えない日は心が切なさに軋む程、唯は律に恋情を募らせているのだから。
今も、昨日学校で会ったばかりだというのに、既に律を恋しく思っている。
だが、この雨では誘っても律に断られるだけだろう。

 律に対する恋心を、唯はずっと隠してきた。
友人という関係性を維持したい保身だけが、理由ではない。
横恋慕だという引け目があったのだ。
律は澪と公然の恋仲であり、唯は叶う事のない恋だと分かっている。
それでも思うだけ、会うだけなら許して欲しいと、律を想い続けてきた。

「許してくれないみたいだね。ほら、天気まで私の横恋慕に怒ってる」

 唯は寂しげに呟くと、ギターを胸に寄せた。
これを題材に歌詞でも作ろうかと、そう思った。
唯が作った歌詞は今まで食べ物に関するものが多かった。
恋に関する歌詞は澪のフィールドだった。
それでも、律に対する思いを込めた歌を作りたかった。
『冬の日』のように歌い、『冬の日』と異なるオリジナルの想いを乗せる。
『冬の日』とは違い、澪から託される事はないと分かっていても。

 会いたいという思いから歌詞を綴り始めた時、インターホンの鳴る音が響いた。
こんな天気に誰が何の用だろうと、唯は不審に思いながらも部屋を出る。
階段の途中で、憂が来客の応対をする声が聞こえてきた。
引き返そうかと思い一瞬足を止めたが、唯はすぐに歩みを再開する。
その憂の声が、珍しく落ち着きのないものだったからだ。
厄介な客でも訪ねて来たのなら、憂に加勢しなければならない。
姉としての矜持を糧に、唯は玄関へと向かった。

 憂の背が見えた時、唯はそっと声を掛けた。

「憂、どうしたの?」

「お姉ちゃん……」

 唯の声に反応した憂が、戸惑いの篭った瞳で見返してきた。
その憂の後ろに、敷居を跨ぐ事なく佇んでいる来客の姿があった。
来客が誰であるかを視認した途端、唯にも動揺が広がった。

「りっちゃん……」

 憂が戸惑うのも、無理はない。
律の身はすっかり濡れそぼり、被服から水滴が間断なく垂れている。
この豪雨の中、律は傘も持たずにやって来たらしい。
そして律は、泣いていた。
涙と雨滴の区別が分かるほど明確に、泣いていた。
断続的に、嗚咽を漏らしながら。

65いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 18:21:29 ID:BH7TS0xk0

「ど、どうしたの?りっちゃんっ」

「ぐすっ、酷いよ、酷いよ……えぐっ」

 唯が問い掛けてみても、泣きじゃくる律は明瞭な答えを返せなかった。
唯は理由を聞く事は諦めて、まずは律を上がらせる事にした。
開け放されたドアからは、雨が地に叩きつけられる轟音が届いてくる。
この雨に濡れた律を着替えさせ、暖を取らせる方が先決だろう。

「事情は後でゆっくり話してくれればいいよ。
今は取り敢えず、上がって?着替えたりしないと、りっちゃん風邪引いちゃうよ」

 律は首を振ると、自分の被服を指差しながら言う。

「唯の家、濡れちゃうよ……」

 今度は、明瞭な言葉が返ってきた。
ただ、満足できる答えではない。

「いいの、そんなの。りっちゃんの身体の方が、大事だよ」

唯は律の袖を引っ張って無理矢理家に入れると、ドアを閉めた。
激しい雨の齎す轟音が収まり、代わって律の身体から滴る水滴の音が際立つ。

「ほら、上がって?遠慮は要らないよ。
それで着替えたら、何があったか、話してくれればいいよ」

 唯が袖を掴んだまま言うと、律は項垂れて再び嗚咽を漏らし始めた。

「あ、いや。言いたくないなら、無理に言わなくてもいいけどさ」

 本当は、律がこうなってしまった原因を聞きたかった。
愛している人が泣いているのだ。力になりたかった。

 律は首を振ると、途切れがちに声を漏らし始めた。

「私……嫌だって、嫌だって言ったのに……酷いよ……」

 滴り落ちる水滴に、涙が混じった。
不穏な空気を察した唯は、憂にそっと目配せして場を外すよう促す。

「あ、お姉ちゃん。私、タオル取ってくるね。
お風呂のスイッチも入れてくる」

 聡い憂はそう言うと、玄関から離れた。

「嫌だって言ったのに……無理矢理……」

 憂が離れたタイミングで、唯の不安を増す言葉が放たれた。

「ど、どういう事っ?」

 自然、唯の問う声も勢いが強くなった。

66いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 18:23:38 ID:BH7TS0xk0

「私……嫌だって言ったのに……澪ったら……無理矢理……ひぐっ……酷いよ……。
こんなのって……私……抵抗したのに……敵わなくて……」

「もういいっ、もういいよ、りっちゃん」

 事情を察した唯は、守るように律を抱き締めた。

「澪の事、信じてたのに……どうして……私の身体……」

 それでも、律の言葉は止まらなかった。
悲しみを吐き出すように、涙とともに悲痛な声が吐き出されてゆく。

「痛かったよ……怖かったよ……好きだったけど……強引になんて……酷いよ……」

 律の身体が震え始めた。
唯は律を抱く力を強めたが、それでもその震えは止まらない。
こんな小さくて細い身体の震えさえ止められない、その無力さが歯痒かった。

 勿論、その震えは精神的な衝撃だけが原因ではないだろう。
雨に濡れた事による寒さも、関係しているのだ。
唯はその事に改めて気付くと、暖を取らせるという当初の目的も思い出した。

「りっちゃん、まずは温まろう?
憂がお風呂のお湯付けてくれたから、シャワー浴びてね。
その間に、着替えとか用意しておくから」

 律は再び首を振ったが、唯は有無を言わせない語勢で押し通した。

「だーめっ。言っておくけど、このままじゃ帰せないよ?
傷付いた友達、放ってなんておけないもん。
このまま風邪なんて引かれたら、あずにゃんやムギちゃんに私が怒られちゃうよ。
だから、私を助けると思って、ね?」

 唯の熱意に押されたのか、漸く律は首を縦に振った。
そして泣いて枯れた声で、礼の言葉を放ってきた。

「ごめんな、ありがとな、唯」

「私の方こそ、ありがと。浴室、案内するね」

 唯は律の腕を引いたまま、廊下を先導して歩いた。


67いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 18:33:30 ID:BH7TS0xk0



 唯は脱衣場に着替えを届けるついでに、曇りガラス越しに律の様子を窺った。
曇りガラスでぼやけているが、それでも入念に身体を洗う律の動作が分かった。
澪に汚された身体を清めるような、念の入れ方だった。
もしかしたら、傘を差さずに豪雨の中歩いた事も、澪の穢れを落とす為だったのかもしれない。
唯にはそう思えてきた。

 こちらから見えるという事は、向こうからも見えるという事。
あまり長居する訳にはいかないと、唯は視認もそこそこに脱衣場を出た。

 脱衣場を出た唯は、キッチンを覗いた。
そこでは憂が、マグカップの用意をしていた。

「律さん、どうしたんだろうね」

 唯の姿を認めた憂が、心配そうに呟いた。

「うーん……まだ話を聞いてないから、何とも言えないよね」

 唯はそう返しつつも、実際には見当が付いていた。
律の言葉は断片的で要領を得なかったが、
それでも凄惨な事情を推量するには十分だった。
澪に無理矢理、強姦されたのだと。

「まぁ、でも、大丈夫だよ、憂。
私が力になるから。憂は心配する必要ないよ」

 想定される事情がデリケートなだけに、律と二人きりになるべきだと唯は思っていた。
憂が居ては、律も話しづらいだろうと。
その意を込めた言葉だった。

「うん、分かってる。律さんが上がり次第、飲み物だけ部屋に届けるから。
その後は、律さんの力になってあげてね」

 情報不足故に具体的な事情を想像できない憂でも、
律の様子から尋常でない事情があると察してはいるのだろう。
話し始めるタイミングの示唆まで与えてくれていた。
よく見れば、用意されたマグカップも二つだった。
始めから、唯に任せるつもりだったらしい。

「ありがとね。良くできた妹を持って、お姉ちゃんは嬉しいよ」

 憂の頭を撫でてやると、嬉しそうな笑みが返ってきた。
悲痛に歪んだ律の表情も、こういう表情になればいいと唯は思った。

 自室に戻ると、書きかけの歌詞が目に入った。
律に会いたいという思いが、一行だけ綴られている。
この雨では律に会えないと、つい先程まで沈んていた事を唯は思いだした。
会えた今となっても、気分は晴れない。

 唯は歌詞の書かれた紙を片付けると、外を見遣った。
雨は未だ激しい勢いを削がず、水の粒を窓に叩きつけている。
この雨の中、律はどのような思いで歩いて来たのだろうか。
その胸中を思った時、部屋のドアがノックされた。

「どうぞー」

 唯が努めて明るい声を出すと、ドアが開いて律が顔を覗かせた。
律の表情には未だ翳があったが、訊ねてきた当初と比べれば落ち着いて見える。

「入るね、唯」

 律の声も、落ち着きを取り戻していた。

「うん、適当な所に座ってよ。飲み物はちょっと待っててね。
今、憂が持ってくるから」

「うん、ありがと」

 律が礼を言いながら床に座った直後に、再びドアがノックされた。
憂が飲み物を持ってきたのだろう。

「どうぞー、入っていいよー」

「入るね、お姉ちゃん」

 その言葉とともにドアが開き、片手にトレーを持った憂が入ってきた。
トレーの上には、湯気を立てる二つのマグカップが載せられている。
そのマグカップを憂は、それぞれ唯と律の前に置いた。

「ありがとね、憂」

「ありがと、憂ちゃん」

「どういたしまして」

 唯と律の礼に対して笑顔で応じてから、憂は部屋から出て行った。

68いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 18:34:43 ID:BH7TS0xk0

「あ、そうだ、唯。えっと、服とか、その、下着とか。ありがとね」

 律は今、唯の服を着ている。
先程、唯が脱衣場に届けたものだ。

「んーん、気にしないで。サイズは……ちょっと大きかったかな?」

 唯の方が背丈がやや勝っており、肉付きも良かった。
それ故、律の体型に比して、少し被服が大きく見えた。
ただ、違和感が際立つ程でもない。

「いや、丁度いいくらい、だよ。
それで、下着の事なんだけど……」

 律は頬に仄かな羞恥の色を浮かせ、言葉を淀ませて俯いた。
唯は機転を利かせて、律の後を引き取って言う。

「ああ、心配しないで。あれは新品だから。
もしもの時の為に、予備を買ってあるの。それを使っただけだよ」

 律は少し安心したように、小さな吐息を漏らした。

「そっか。あ、その分のお金、払うよ」

「いやー、受け取れないよ。非常用に買ったけど、結局使ってない下着なんだから。
そんな下着が、家には山ほどあるんだ。使い道ができて、有り難いくらいだよ」

 実際には、非常用の下着を大量に備蓄などしていない。
勿論、律に対する配慮故に、繕った言葉だった。

「いいの?ごめんな、唯。今度、何かでお返しするからさ」

 律とて唯の配慮に気付いているのだろう。
金銭の受け取りを唯が拒んでも、埋め合わせの意思をなおも口にしていた。

「気にしなくていいのに」

 唯はそう言うとマグカップに口を付け、中身のホットレモネードを一口飲んだ。
時間が経っているせいか、人肌程度の飲みやすい温度になっている。
唯に倣うように、律もマグカップに口を付けていた。

 一口飲む事が合図でもあったかのように、マグカップを置いた律の表情は強張っていた。
いよいよ事情が話されるのだと、唯は察した。
唯も倣ってマグカップを置くと、真剣な表情を律へと注いだ。

「……今日はさ、いきなり唯の家に来たりして、ごめんな。
ずぶ濡れだったから、驚いたろ?」

「んーん、気にしないで。まぁ驚きはしたけどね。
それに丁度、りっちゃんに会いたい気分だったし」

「でも、シャワー借りたり服を借りたり、迷惑掛けちゃった。
そこは謝る。ごめん」

 丁重に頭を下げた律に対し、唯は手を振りながら応じた。

「気にしなくていいよ、りっちゃん。迷惑だなんて思ってないんだし。
あのまま帰られちゃった方が困るし、
私の家に寄らずにずぶ濡れのまま彷徨われると、もっと困っていたよ」

「本当は、すぐに帰るつもりだったんだ。
信頼できる誰かに、会いたかっただけで。
少し話を、聞いてもらいたかっただけで……聞いてくれる?
嫌な話になるし、信じてくれないかもしれないけど」

「りっちゃんの言う事なら、信じるよ」

 唯は律を安心させるように、力強く言った。

「ありがと。実はね、昨日、学校が終わった後、澪の家に泊ったんだ。
お互いの家に泊まるのはよくある事だから、私は何も思ってなかった。
油断、してたんだ。それで……夜……」

 律の声が震えて、途絶えた。
その先を言う事に、今更ながら躊躇いが生じているのだろう。
唯は急かす事なく、穏やかな眼差しで律を見守った。

 眼差しとは対照的に、唯の胸中は激しく波打っている。
今の穏やかな顔も律を慮ったもので、無理して繕っているに過ぎない。
いつまでこの激情を胸中に抑え込めるのか、唯とても分からなかった。

69いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 18:35:43 ID:BH7TS0xk0

 律はホットレモネードを飲んで一息吐くと、再び口を開き始めた。

「私、澪に、無理矢理、お、犯されたんだ……。
私が嫌だって言っても、聞き入れてくれなくて。
好きなら、問題ないはずだって。私も澪を求めてるはずだって。
そもそも恋人の部屋に泊まるって事は、身体を許した事と同じだって言い出して。
私、そんなつもりじゃ無かったんだよ。
今までも、友達だった頃みたいなノリで泊まりに行ってたから。
澪の事、本当に信じてたから」

 律はそこまで言うと、口を閉じて目元を拭った。
話す為には思いださなければならない。
それが落涙する程に、辛い工程だったとしても。

 今度は、唯がホットレモネードを飲む番だった。
一息付く動作を入れて、心を落ち着かせたかった。
勿論、律の挙動や言動から、予想が付いていた話の展開ではある。
それでも、心は激しい衝撃に揺れた。
具体的な話を聞くに至り、事の深刻さが改めて認識されたのだ。
涙ぐむ律の姿も、唯の衝撃を増幅させている。

 唯は震える手で、マグカップをコースターに置いた。
その震えが律への憐憫と澪への怒り故である事は、唯自身分かっている。
ホットレモネードを飲んでも、結局心は落ち着かなかったのだ。

 唯が激する感情を胸中に燻らせているまま、律の話が再開された。

「私もね、抵抗したよ。それでも、澪の力に、私が敵う訳なかった。
逆に、私が抵抗すればするだけ、澪は興奮しだして……。
余計手酷く、お、犯される羽目になった。
澪はね、歌いながら私を犯したり、怒りながら私を犯したり……。
倒錯的な事までやり始めて……。
私の身体は、そうやって一晩中、滅茶苦茶に弄ばれたんだ……」

 再び律の瞳に涙が浮かんだ。

「りっちゃんっ」

 限界だった。
唯は律に涙を拭く暇も与えず、衝動的に彼女の細い身体を抱きしめた。
律の小刻みな震えを感じながら、唯は優しく言う。

「辛かったよね、怖かったよね」

「うん、そして……長かったよ……。
朝になって漸く解放されて、私は澪の家を飛び出したんだ。
でも、家に帰る気になれなくて。一人で居るのが、本当に不安だったから。
誰かの側に居たかった、話を聞いてもらいたかった。できれば助けて欲しかった。
それで、頼れそうな人が、唯しか思い浮かばなかった。
澪って私なんかと違って、色々な人から信頼されてるから」

 確かに、紬や梓に話したところで、律の話よりも澪の方を信じるかもしれない。
勿論、律が信頼されていない訳ではない事を、唯は知っている。
だが澪に対して寄せられる率直な信頼を見れば、律が弱気になる事も理解できた。
そのような中で、唯一信頼できる相手として選ばれた事が、唯は少しだけ誇らしかった。
律がここまで悲惨な状況に見舞われていなければ、素直な喜びも抱けた事だろう。
だが今は、律の胸中を慮れば、到底喜びなど抱ける状況にない。

「もう大丈夫、大丈夫だよ。私が、りっちゃんの力になるから。
今日は一日、一人になんてさせないよ。そうだ、お昼ご飯も食べてってよ。
憂は料理が本当に上手なんだから、りっちゃんとも話が弾むと思うな」

 唯は包容力を感じさせるよう努めて言った。
先程抱いた誇りは、律を守ると言う義務感へと転じている。
今の律が頼れる存在は自分しか居ないという事に、気付いた結果だった。
だからこそ、頼もしい存在を演じたかった。

「わ、悪いよ。さっきも言ったけど、すぐに帰るつもりだったんだ。
なのに、お昼ご飯まで食べてくなんて……」

 律は慌てたように手を振った。

70いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 18:36:17 ID:BH7TS0xk0
 律は慌てたように手を振った。

「遠慮しないで。それに、誰かの側に居たかったんでしょ?
だから私に、その誰かの役割を与えて欲しいな」

「誰かの側に居たいけど、これ以上迷惑を掛ける訳にもいかないから。
本来はこれ、私の問題、なんだし」

 気丈な言葉とは裏腹に、律の表情には弱気が走っている。
唯はそれを見逃さず、手を差し伸べるように言う。

「迷惑なんかじゃないよ。
だってね、今日はもともと、りっちゃんと遊びたかったんだ。
こんな天気じゃなかったら、誘うつもりでいたくらいだし」

「そんな、気を遣わなくても……」

 唯の言葉は真実だったが、律は気遣いだと感じたらしい。
それでも唯はめげなかった。

「これは本当の話だよ?本当に、遊びたかった。
それにそういう予定がなくても、こんな天気の中、帰せないよ。危ないもん」

 唯は外を指し示しながら言った。
唯の指先に釣られて、律の視線も外を向く。
そこには相変わらずの豪雨が展開されている。

 天気の事もあるがそれ以上に、律の今の心理状態では帰せなかった。
危うげな心を抱えた律を、一人にはできなかった。

「うん……分かった。じゃあ、今日は甘えさせてもらうね。
ありがとね、唯。ほんと、ありがとう」

 唯の言う事も尤もだと思ったのか、律は少しの間を空けてから頷いた。

「そのお礼は大袈裟だよー。
友達の家で雨宿りする、なんて普通の事でしょ?
じゃ、憂にお昼ご飯は三人分用意するよう、伝えてくるね」

 唯は笑顔でそう言うと、立ち上がった。

 部屋を一旦出て律の姿が見えなくなると、唯は胸中で自分を窘めた。
律と過ごせる喜びを抱いてしまい、その事に罪悪感を覚えたのだ。
原因となった事情を考えれば、喜んでいい事ではない、と。

 勿論、喜びよりも律に対する哀情の方が強い。
そしてそれと同じくらい、澪に対する怒りがあった。
憎悪や軽蔑を交えたその怒りは、唯の胸中で沸々と滾っている。
そういった感情を友人へと向ける事に対しては、唯は全く罪悪感を抱かなかった。
それ以前に、澪の事などもう友人とは思っていなかった。

71いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 20:46:44 ID:BH7TS0xk0

*

 温風と律の指の感触が心地好くて、唯は目を細めた。

「唯の髪、ふわふわしてて可愛いな」

 唯の髪の毛を手で解しながら、律が感想を漏らした。
入浴を終えた唯は、律から髪を乾かしてもらっている。

 夜遅い時間に聞くドライヤーの音は、普段なら唯に眠気を齎す。
だが今は、もう22時を回っているというのに、微塵も眠くならなかった。
律と夜を共有している事で、気分が昂ぶっているのだろう。

「えへへ、でもそんな事ないよぉ。私の髪って、扱いにくいでしょ?癖が強いから。
その点、りっちゃんのサラサラで柔らかい髪質が羨ましいよ」

 先に律が本日二度目の入浴を終えた時には、唯が律の髪を解して乾かした。
その際に手に覚えた柔らかな感触には、素直な羨望を抱いている。

「ええっ?そっかなぁ。私は唯みたいにふわふわで可愛い感じが、好きだけどなぁ」

 いつものような会話に、唯は少しだけ安心した。
律は朝に見た時よりも、大分心の余裕を取り戻している。
少なくとも夕食の時には既に、憂の調理を手伝える程には回復していた。
それでも、それは繕える程度の余裕を取り戻したというだけで、
実際には律の心が未だ痛みに軋んでいる事を唯は見抜いている。
だからこそ、今日は律を帰さなかった。

「ありがとね、りっちゃん。あ、そうだ。
りっちゃん、お父さんやお母さんには電話した?」

「うん、唯がお風呂に入ってるうちに。
二日連続の外泊だから怒ってたけど、許してもらえたっぽい。
でも、良かったの?
お父さん、迎えに車出そうかって言ってたから、帰ろうと思えば帰れるけど」

 朝方に比べれば幾分落ち着いているものの、振雨の勢いは未だ強い。
22時過ぎという時間と併せれば、少女の一人歩きは危険である。
ただ、律の親が車を出すならば、安全面の問題は解決される。
それでも唯は、律を帰そうとは思わなかった。
律の精神状態が心配だった。それに関連して、まだ話していない事もある。

「うんっ、ここまで来るんじゃ、大変だろうしね。
明日になれば雨も止むはずだから、その時にゆっくり帰ればいいよ」

 天気予報では、夜中にも雨は止むとの事だった。
今日の雨はその天気予報が外れた結果ではあるが、二日続けて外す事はそうそう無いだろう。

「ありがと。じゃ、今夜もお世話になるね。あ、パジャマもありがとね」

「んーん、気にしないで。ダブダブだったりしない?」

「うん、大丈夫。あ、そろそろいいかな。唯、髪の毛乾いたよー」

 温風が止まり、律の指も唯の髪から離れた。
少し、唯は名残惜しかった。

72いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 20:47:42 ID:BH7TS0xk0

「ありがと。じゃ、髪も乾いたし、そろそろ電気消してベッドに入ろうか。
まだ眠くないかもしれないけど、寝付けるまで、お喋りでもしてさ」

 律は昼食後に一旦、眠りを取っていた。
昨夜、夜を徹して澪の玩具にされたのだ。
疲労を察した唯が、寝かしつけていた。
その為、律はまだ眠くはないかもしれない。
それで構わなかった。暗闇は人を大胆にさせる。
その効果を利用して、律の本音を探りたい事があった。

「ん、そうだね。まだ、疲れは取れてないし。
早めに寝ようか。勿論、唯とお喋りしてからだけど」

 律もすんなりと同意したので、二人は同じベッドに入った。
もしかしたら律は唯と同じベッドに入る事を嫌がるかもしれないと、
始めはその可能性も考えていた。
律は性的な事で精神に傷を負っている為、
唯相手でも警戒する懸念があったのだ。
そうなったら自分は床に寝ても良いと、唯は思っていた。
同じベッドではなくとも、話はできるのだから。

 だが律が抵抗を見せずに同意した為、唯は更なる義務感に駆られた。
これ程までに信頼されているのだから、応えて守ってやらねばならない、と。

 電気を消すと、唯は律と同じ枕に頭を預けた。
そして早速、聞きたかった事を訊ねてみようと、頭を律へと傾けた。
だが、律が言葉を放つ方が早かった。

「あのね、唯」

 パネル類のみが光源という薄暗い部屋の中、律の不安そうな声が染み入る。

「なぁに、りっちゃん」

「私、月曜、学校行くの怖いよ。行きたくないよ。
澪に、会いたくないんだ……」

 唯は息を呑んだ。月曜の学校に来るかどうかこそ、唯が律に訊ねたい事だった。
律は月曜の学校に来ないのではないかと、ずっと唯は気にしていた。
だからこそ唯は、律の帰宅を阻んだのだ。
あのまま帰らせては、不登校になってしまいかねない、と。

 そしてその事に関連して、話しておきたい事があった。

「りっちゃん、大丈夫だよ。私が居るから。不安に思う事なんて、何一つないよ。
りっちゃんの事、私が守るから。澪ちゃんなんかに、私負けないもん。
それに、あずにゃんやムギちゃんも、きっと私達の味方をしてくれるよ」

 暗い部屋の中でも、律が弱々しく首を振る姿が見えた。

「駄目だよ、こんな事、梓やムギに話せないよ……。
別にあの二人を信用してない訳じゃないけど、唯だからこそ話せた事で。
それに、唯に迷惑掛けられない。部活の皆にも。
唯と澪が対立してHTTが割れたりしたら、私やだよ。私のせいだし」

 どうして被害者の律がこんな思いをしなければならないのかと、唯は腹立たしかった。

「別に割れたら、直せばいいよ。
ぶっちゃけて言うとね、ベースの代わりなら心当たりがある。
あずにゃんや憂の友達で、私の中学の後輩なんだけどね。
まぁ、こういう性的被害は隠したがる人が多いから、
あずにゃんやムギちゃんには黙っておくけどさ。
ただ、澪ちゃんに付いては、毅然と対応した方がいい。
分かってる、りっちゃんが不安だって事。でも、私が付いてるから。
私が澪ちゃんから、りっちゃんを守るから。だから、学校には安心して来てね」

 唯が励ますように言っても、律は首を振るばかりだった。

「無理だよ……いくら唯でも、澪には勝てないよ。
唯が傷つくところ、見たくないよ。
澪はね、とっても怖くて独占欲が強いんだ。
私に色目使ったってだけで、何人もの子が……破壊されていったよ。
だから、駄目だよ……」

「大丈夫。私に、秘策があるから」

 律を安心させる為、唯は胸を張って言う。
それは決して虚勢などではない。確かな勝算があった。
一撃で澪を崩落に至らせる、それだけの策が。

「秘策?」

73いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 20:49:05 ID:BH7TS0xk0

「うん。澪ちゃんの強さは、正当性にこそある。
りっちゃんの恋人だっていう正当性があるから、りっちゃんの事では周囲に強く出れる。
だから、その正当性を失くさせてやればいい」

 唯はそこで一旦言葉を切ると、深呼吸してから続けた。

「りっちゃん、私と付き合お?澪ちゃんなんかと別れてさ。
もうあんな事する人の側には、居れないでしょ?」

 律が息を呑む音が聞こえてきた。
数泊の後、戸惑う様な声が、その同じ口から発せられる。

「な、何言って……。そんな事、澪が許す訳ない……」

「りっちゃんは、澪ちゃんの私物じゃないんだよ?
澪ちゃんと付き合い続けるかどうかは、あくまでもりっちゃんの意思が決める事。
だからきちんと意思表示すれば、澪ちゃんは受け入れるしかない」

「で、でも……」

「りっちゃんが力を貸してくれれば、私は澪ちゃんに対抗できる。
恋人っていう肩書は、守る事に強力な正当性を付けれるんだ。
そうなれば澪ちゃんが何を言っても、第三者のお節介な横槍でしかなくなる」

「ま、待てって、唯。そんな理由で、人と付き合えないよ。
それじゃ私、唯を利用してるみたいじゃんか……。
駄目だよ、そんな事したら」

 唯は優しく微笑んだ。

「優しいんだね、りっちゃんは。でも、安心して。
私、りっちゃんの事、好きだから。
だから、利用とは違うよ。
好きだから守りたい、好きだから告白して付き合う、普通の事でしょ?」

 再び、律が大きく息を呑む音が聞こえてきた。
暗闇に慣れてきた唯の目は、律の瞳孔が大きく開く様まで捉えている。

「い、いや。そこまで、気を遣わなくても……。
私の為に、そんな方便まで使わなくても……」

「嘘じゃ無いよ、真意だよ。お昼にね、私、今日はりっちゃんと遊びたくて、
誘うつもりだったって言ったでしょ?
りっちゃんはそれも気遣いだと感じたみたいだけど、本当の話なんだ。
だって、私、りっちゃんが好きだから、毎日でも会いたいと思ってる。
澪ちゃんの手前、遠慮してたけどね」

 語勢こそ言い聞かせるような穏やかさを保っているが、唯の胸中は必死だった。
何としても思いを伝えたいという、激しい衝動が駆け巡っている。

「そ、そんな。でも、何でこのタイミングで?
今まで、告白なんて、してこなかったのに。今まで、そんな素振り、見せなかったのに」

74いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 20:49:41 ID:BH7TS0xk0

「へー、素振りが見えなかったんだ?まー澪ちゃんの手前、隠そうと努めてきたからね。
私ね、本当は、この恋は隠したまま終わらせるつもりだったんだ。
澪ちゃんになら、りっちゃんを任せていいって、そう思ってたから。
澪ちゃんの事、本当に親友だと思ってたから。
でも、それは錯覚だった。私は間違ってたんだ」

 唯は静かな声でそこまで言うと、目を伏せた。

「唯……その、今まで、その気持ちに気付いてやれなくて、ごめん」

 律は神妙な声で謝ってきた。
それを受けた唯の瞳から、自然と一筋の涙が零れる。
謝ったという事は即ち、唯の告白を信じたという事でもある。
自分の気持ちを理解してくれた事が、唯には嬉しかった。
嬉しさ故の、落涙だった。

 唯は涙を袖で拭うと、再び笑顔を律へと向けた。

「んーん、いいの。気付かせないように、してきたから。
それでも抑え切れずに、りっちゃんばかりに話し掛けたり、遊びに誘ったりしちゃったけどね。
それに、今、気付いてくれたのならいいよ。
それでね、教えて欲しいな。私の気持ちに、応えてくれるのか。
勿論、私と付き合えなくても、私は澪ちゃんからりっちゃんを守るよ。
正当性はなくなるけど、それでも私、りっちゃんの力になりたいから。
だから、正直な気持ち、教えて欲しいな」

 唯は迫る事なく、優しく諭すように問い掛けた。
切なさで破裂寸前の心を、無理矢理に抑え付けて。

 律は頭まで布団を被ると、可愛らしい声で小さく唸り始めた。

「うー、うー」

 すぐにその唸りは収まり、律は恥じらうように顔を半分だけ布団から出した。
律の表情のうち、目から上の部分が覗けた。
瞳は潤み、耳は赤い。
そしてその視線は、唯へとまっすぐ注がれている。
唯は見返すだけに留め、言葉で急かす事はしなかった。

 律はそうやって暫く唯を見つめた後、口を開いた。

「あのね、私もね、唯の事、好きだよ。
今までは、友達として、だった。
でもね、今はね、唯に……恋しちゃった、みたい」

 律はそこまで言うと、再び布団の中に頭を埋めてしまった。
唯はその上から、律の頭部を優しく撫でた。

「ありがと。じゃあ、私と、付き合ってくれるんだね?」

「うん……唯に、付き合って欲しい。澪とはもう、これっきりにするから」

 律の声が、布団の中からくぐもって聞こえた。

「ありがとうっ。ねぇ、りっちゃん。お顔、見せて欲しいな」

 律の顔が、再び半分だけ布団から覗いた。

「あはっ、りっちゃん、お顔真っ赤。可愛いー」

「ゆ、唯だって、真っ赤じゃんかー」

 暗い室内でもお互いに視認できる程、顔は染まっていた。

「えへへ、だって、大好きなんだもん。
りっちゃんと恋人になれるなんて、夢の中だけだったから」

 恋仲になる契機が律の悲劇でさえなければ、
唯は今の感情を嬉しいと表現していただろう。
澪が律を暴行しなければ、叶わぬ恋のままだった。
だが、律の受けた恥辱を僥倖とは到底思えない。
胸中で鬩ぎ合う複雑な感情に、唯は目頭が熱くなった。
涙が悲喜交々のカクテルとなって、頬を伝う。

「わっ、唯、泣かないで」

 途端、律が慌てたように手を伸ばし、ハンカチで唯の涙を拭ってくれた。
今度は、自分の袖で目元を拭う必要などなかった。

「ありがとね、りっちゃん。ほんとに、ありがとう」

「お礼を言うのは、こっちの方だよ。
私を好きになってくれて、ずっと好きでいてくれて、本当にありがとう。
そんな唯に応える為にも、澪との恋人関係はもう終わらせるね。
澪は怖いから、伝えるの勇気が要るけど……」

 澪に対する怯えを表すように、律の肩が震えた。
唯は優しく律の手を握って言う。

「大丈夫、大丈夫だよ、りっちゃん。私が居る。
私が居るから、怖い事なんて何も無いよ」

「うん……唯が居るから、澪が居なくても、私はやっていけるよ」

 律は安心したように、頭を預けてきた。
慈しみを込めて頭を撫でてやると、律は擽ったそうな笑みを見せた。
そのまま暫く撫で続けていると、やがて安らかな寝息が聞こえてきた。
昼過ぎに一度睡眠を取ったとはいえ、
昨夜に澪から凌辱された疲労がまだ癒えていないのだろう。
それでもその寝顔は、穏やかだった。唯の掌の下、安心しきっていた。

 唯は自分が眠りに落ちるまで、ずっと律の頭を撫でていた。
律の可愛らしい寝顔に、浸るように見入りながら。

75いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 21:02:37 ID:BH7TS0xk0

*

 日曜の朝、唯が目を覚ますと既にベッドに律の姿は無かった。
カーテンから零れる木漏れ日は、雨が去った事を示している。
それでも、律はまだ帰ってはいないだろう。
律儀な律が何も挨拶をせずに帰るとは、考え難かった。

 部屋を出ると、階下から憂と律の話し声が聞こえてきた。
やはり、律はまだ帰っていない。
声の聞こえる方向に向かって歩くと、すぐに二人がキッチンに居ると分かった。
唯はそのままキッチンに向かう事はせず、まずは洗顔して歯を磨いた。
更に、髪も念入りに梳かした。
恋人である律の前に出る以上、身嗜みは整えたかった。
例え既に、寝顔を晒した後だとしても。

「世の中には、二通りの女が居る。
一つは付き合う前こそ綺麗に繕うけど、付き合った途端堕落するタイプ。
もう一つが、付き合った後こそ、自分磨きに余念がないタイプ。
私は後者」

 鏡に向かって呪文のように呟いてから、唯は洗面室を後にしてキッチンへと向かった。

「おはよー」

 快活な声を響かせて唯が朝の挨拶を放つと、キッチンに居た憂と律も挨拶を返してきた。

「おはよう、お姉ちゃん」

「あ、お、おはよっ、唯」

 頬を朱に染めた律の、慌てたような挨拶が可愛かった。
告白が昨夜という事もあり、まだ新しい恋人の唯に慣れていないのだろう。
律の初々しさに微笑みながら、唯は席に座った。

 座ると同時に、憂と律が朝食を並べてくれた。
トーストとサラダ、スクランブルエッグ、ミネストローネ、それにコーヒーも供された。
珍しいメニューだと思いながら、唯は食卓を眺めた。
姉の友人が来たという事で、憂も腕を振るったのかもしれない。

「ありがと、憂、りっちゃん。二人はもう、食べたの?」

 食卓に並べられた食べ物は、唯を中心に配置されている。
また、分量も一人分らしかった。

「うん、先に頂いたよ。お姉ちゃん、起きてこなかったから」

 二人を代表して、憂が答えた。

「起こしてくれても良かったのに。
そうだ、りっちゃん。朝食はどうだった?
憂もお料理が上手だから、美味しかったでしょ?」

 家族ぐるみで律と仲良くしたいという願望が、唯にはある。
憂が朝食に腕を振るった今こそ、妹を売り込む機会に思えた。

76いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 21:03:41 ID:BH7TS0xk0

「え?ああ、まあ、うん」

 律は歯切れが悪そうに答えた。
もしかしたら、憂の手料理を褒めた事で、
律が嫉妬に近い感情を抱いたのかもしれない。
そう思った唯は少し反省しながら、律の機嫌を取るように言い足した。

「あ、勿論、りっちゃんに比べたら、まだ未熟な所もあるかもしれないけどね。
そういう所の指導も含めて、憂と仲良くしてあげて欲しいな。
私、りっちゃんの手料理も、大好きで毎日食べたいと思ってるから」

「あ、あー、うん」

 律の歯切れは、悪いままだった。
唯が次なる言葉を探している時、堪りかねたように憂が口を挟んできた。

「あのね、お姉ちゃん……実はね……」

 憂は言い難そうに言葉を切った。

「ん?なぁに?どうしたの?憂」

 唯が先を促すと、憂は律を一瞥してから口を開いた。

「実はね、今朝のご飯、律さんが作ってくれたんだ」

「えっ、そうなの?」

 唯が視線を向けると、律は小さく頷いた。
唯自身、朝食のメニューに違和を感じてはいた。
平沢家の朝食は基本的に、和食である。
それを唯は、憂が客の手前だからと張り切ったのだと思っていた。

「ごめんね、りっちゃん」

 唯は自分の勘違いを、素直に謝った。

「ん、気にしなくていいよ。それより、美味しい?
苦手なもの入ってたりしない?」

 律の興味は早くも、唯の料理に対する感想へと移っている。

「うんっ、美味しいよっ。だからこそ、もっと早く食べたかったなー。
偶々今日起きるのが遅かった事が、悔やまれるよ」

 パンよりも米の方が好きだとは、勿論言わなかった。
律の気分を損ねたくはない。
また、普段はもっと早起きだと、それとなく匂わせた。
実際には、今日とて休日にしては早い方である。
律の手前、繕って見せたかった。

 と、そこに、唯の目論見を覆すような、憂の横槍が入った。

「偶々って、お姉ちゃん、休日はいつももっと遅いでしょー。
そういえば、今日は珍しく、洗顔や歯磨きも済んでるんだね。
いつもは寝ぼけ眼でご飯食べてから、顔洗ったり歯を磨いたりしてるのに。
今日は寝癖まで直ってるね」

「ちょっ、何言ってるの、憂っ。
わ、私、普段からそんなだらしなくしてないもんっ」

 唯は慌てて言うと、軽く憂を睨み付けた。

「えっ?お、お姉ちゃん?どうしたの?」

 憂は戸惑ったようだった。
その態度に、唯も少し冷静さを取り戻した。
憂の横やりも、決して悪意があるものではないのだ。
憂は唯と律が恋仲になった事を知らない。
故に、律の前で唯が繕おうとする動機に、気付けるはずもなかった。
憂はただ、普段のように戯れただけなのだ。
責めるような態度を取る事は、少し厳しすぎたかもしれないと。
唯は反省して、憂に向ける表情を和らげて言う。

「ごめんね、憂。ただ、今日からは、しゃっきりするから。
その決意表明、っていうだけだよ」

77いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 21:04:29 ID:BH7TS0xk0

「あ、うん。私の方こそ、変な事言ってごめんね」

 憂は謝りつつも、腑に落ちない様子を見せている。
姉の変化を、訝っているのかもしれない。

 そんな憂の様子を眺めながら、唯は思った。
今、律との交際を憂に明かしてもいいのではないか、と。
どうせ、明日以降は徐々に律との交際も公然のものとなるのだ。
澪と律を別れさせる以上、隠れて交際する必要などないのだから。
それに、家族ぐるみで律と仲良くしたい、という唯の願望もある。

 少し考えた末、唯は律へと向けて問い掛けた。
律の考えも反映されるべき問題だと、そう判断したのだ。

「ねぇ、りっちゃん。
どうせすぐに明らかになる事なんだから、憂には今のうちに言っておいちゃう?
昨夜の事。ああ、昨日の夜、話した事のうち、私とりっちゃんに関係する事ね」

「ん、んー。そう、だな。どうせすぐに分かる事だし。
それに、隠れたままじゃ、唯と仲良くするにも限度ができちゃうし。
でも、恥ずかしいから、唯から言って欲しい、かな」

 もともと、唯から提案した事でもある。
唯は首肯で律に応じると、憂へと向き直った。
その憂は疑問を表情に浮かべて、二人を交互に見ていた。

「ねー、聞いて、憂。実は重大発表があるんだ。
というのは、昨夜より、私とりっちゃんは付き合う事になりましたー」

 憂は呆けたように黙った。
そして数秒が過ぎた頃、驚きを露わにして小さく叫ぶ。

「ええーっ、そ、そうなのっ?さ、昨夜よりって……」

 憂は顔を赤くして、それきり黙った。
憂の勘違いを悟った唯は、慌てて言う。

「ちょっ、ちょっと、勘違いしちゃだめ、憂。
プラトニックだよ?プラトニックな告白だよっ?」

 性を思わせる話題は律の精神に好ましくないと、唯は言った後で気付いた。
咳払いを一つすると、速やかに話題を転じる。

「まぁそういう訳だからさ。これからも、りっちゃんと仲良くしてね。
それはそうと、憂。私が来るまで、ここでりっちゃんと何を話してたのー?」

「ん、料理のお話。律さん、凄いんだよー。
こんな少量の料理でさえ、味付けとか完璧なんだ。
だから料理教わってたの。あ、そういえばね」

 憂はおかしそうに含み笑いを漏らしながら続けた。

「私ね、その時、律さんに言ったんだ。律さんみたいなお姉ちゃんも欲しいなー、って。
そしたら律さん、顔赤らめてたけど。そういう事だったんだね。
うふふ、本当にお姉ちゃんがもう一人できたみたいー」

「へぇ、やっぱり二人は話が合うんだね。
りっちゃんも、憂と仲良くしてあげてね」

「うん。私だって、妹ができた感じだし」

「あっ、じゃあ……」

 憂の恥じらいを含んだ視線が、律へと注がれる。

「ん?憂ちゃん、どうしたの?」

 先を促す律の、首を傾げた仕草が可愛らしく唯に映る。

「えっとね、じゃあね、律さんの事、律お姉ちゃんって、呼んでいいですか?
ご迷惑じゃなければ、ですけど。
あっ、勿論、学校とかでもそう呼ぶ訳じゃなく、こういう身内の場でのみ、ですけど」

「大歓迎だよ。私も、憂ちゃんみたいな妹が欲しいなって思ってたし」

 憂の頼みに、律も快諾を返していた。
律と家族ぐるみで仲良く付き合うという、唯の願いが叶った形である。
長期的な付き合いには、家族の協力や理解が欠かせない。
これが同性愛ともなれば、尚更である。

「良かったね、憂。でも、憂がりっちゃんの義理の妹になるって、
私とりっちゃんって本当の夫婦だね」

 唯は微笑みながら言った。

「あっ」

 律は気付いたように小さく叫んだ。
その頬には朱が宿り、律の羞恥を表していた。


78いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 21:04:59 ID:BH7TS0xk0


 唯が朝食を終えると、律が食器を流しに下げた。
そのまま洗おうとしたので、唯は引き留める。

「いや、そこまでしてもらったら、悪いよ。自分でやるから、大丈夫」

「そ?でも、お世話になったんだから、洗うくらいの恩返しは」

 唯は律の口の前に人差し指を立て、その先を遮った。

「私達は夫婦、でしょ?恩返しとかは、ちょっと似合わないよ。
それに私、お嫁さんにばかり家事やらせたりしないよ」

「そっか。じゃあ、唯に洗ってもらうよ。
それにしても、すっかり晴れたな。
泊めてくれてありがと。おかげで、安全に帰れるよ。風邪も引かなかったし」

「えっ?もう帰っちゃうの?」

「うん。私も唯と一緒に居たいけどさ。家の事とかもあるし。
特に今回は、突発的に澪の家から渡ってきたから、色々と滞ってるんだ。
親や聡も安心させないとだし」

 唯としては残念だったが、律の言う事も尤もだった。
何より、律の意思を尊重せずにいれば、澪のようになってしまう。
それだけは避けたかった。

「そっか。まぁ、しょうがないよね。どうせ、また明日会えるし。
あ、そうだ。それで明日の事なんだけど」

 居間に引き払っている憂に聞こえぬよう、唯は声を潜めて続けた。

「いつもは、澪ちゃんと一緒に登校してるんだよね?
明日から私、りっちゃんの家まで迎えに行こうか?」

「いや、唯の登校経路から外れる事になるから。そこまでしてもらうのは悪いよ。
いつもより早く出て、澪との登校時間ずらそうと思う」

「あ、じゃあ、こうしよう。私の家とりっちゃんの家の岐路があるでしょ?
時間はりっちゃんに任せるから、そこで待ち合わせようよ。
澪ちゃんがりっちゃんの近くに居る時、必ず私が対応できるような態勢にしたいから」

「それは有り難いけど、いいの?唯、朝弱いんでしょ?」

「全然問題ないよ。
りっちゃんに早く会いたくて、どうせ明日からは早く目が覚めちゃうよ」

「ありがと、でも、悪いな」

 律は申し訳なさそうな顔になった。

「そんな顔しないで。りっちゃんの為なら、私、何も苦にしないから」

「じゃあ、唯が困った時は、何でも相談してくれな。
その時は、私が力になるから。恩返し、っていう訳じゃないけどさ、夫婦なんだし」

「うんっ、夫婦だから、ね」

「うー、何か照れるね」

 一頻り二人で笑った後、唯は律を玄関まで送りだした。
律はその途中で居間に立ち寄り、憂に帰ると挨拶していた。
その際に憂も付いてきて、玄関で律を見送る人数は二人に増えた。

「じゃあね、唯、憂ちゃん」

「うんっ、また明日ね、りっちゃん」

「律お姉ちゃん、また来てね」

 手を振って敷居を跨ぐ律の表情は、安らかだった。
昨夜のような絶望は、もう影を潜めている。
けれども唯は安心していなかった。
澪と学校で対峙する明日からが、正念場なのだから。
唯は一層、気を引き締めた。

79いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 21:11:38 ID:BH7TS0xk0

*

 月曜の朝、教室に澪が入ってきた事で、一気に律の身体が強張った。
唯は安心させるように、その手を握ってやった。

 澪はクラスメイトに挨拶しながら、自分の席にまっすぐ向かっていた。
そこで鞄を下すと、律へと視線を注ぎながら歩いてくる。

「おはよう、唯、律」

「あぅ、お、おはよ、澪」

 澪の挨拶に律は気弱な声で返していたが、唯は敢えて無視した。
挨拶など、する気にもなれなかった。
しかし澪は唯に構う事はなかった。
あくまでも、律のみに澪の言葉が注がれる。

「今日はどうしたんだ?一人で登校する、とかメール送ってきて。
学校に朝早く用事でもあったのか?」

「いや……そういう訳じゃ無いけど。それに本当は、一人で登校した訳でもないけど。
それはそうと、今日は澪に、伝えなきゃならない事が、あるっていうか」

 律の気弱な視線が唯へと送られた。
その視線に釣られるように、澪の視線も唯へと注がれる。

「りっちゃんはね、今日は、私と一緒に登校したんだ。
もう澪ちゃんとは、登校したくないってさ」

 説明を促すような二人の視線を受けた唯は、
語勢を強めて澪に向けて言った。

「は?」

 間髪置かず、澪の口から短い声が漏れていた。
唯の説明が理解できずに、口が反射的に動いたかのように。
それでも唯は構わずに続ける。

「で、伝えなきゃならないって事が……ここじゃ、人が居るね。
ちょっと、付いてきてくれる?」

 唯は澪の返事を待たずに、律を伴って歩き出した。
澪の都合などどうでも良かった。

「あ、待てよ。ホームルームが始まる前に、終わる話だろうな?」

「うん。話って言っても、一方的な宣告だから」

 後を追う澪の疑問に、唯は吐き捨てるように答えた。
澪と視線を合わせる事も、歩調を緩める事もなく。

 唯は屋上へと通じる階段の踊り場で止まった。
ここならば、この時間帯に人が通る気遣いはない。
そう判断した唯は振り返ると、澪を真っ直ぐ見据える。

「で、伝えなきゃならない事って、何なんだ?」

 気丈な声とは裏腹に、澪の表情には不審と不安が浮かんでいる。

「簡単な事。りっちゃんはね、澪ちゃんと別れるってさ」

 澪の瞳は驚愕に大きく見開かれ、その視線が律へと向かった。
対する律は澪の視線から逃れるように目を伏せて、小さく何度も頷いている。

「な、何だよ、それっ。まさか、あれか?
この前の、その、件、か?金曜日の夜の……事か?
あれに付いては、私も悪かったと思ってる。
だからその事に付いて、話があるんだ。一度、二人きりで話そう」

 唯の言を肯定する律の仕草に、澪は慌てたように言い連ねてきた。
慌てながらも、金曜の件の具体的な内容は伏せている。
律を襲ったとは、唯の手前で言えないのだろう。
唯がその件に付いて既知だという事を、澪は知らないのだ。

80いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 21:12:58 ID:BH7TS0xk0

「あのね、澪ちゃん。そんな話、もういいよ。りっちゃんは」

「黙れっ。唯になんて何も言ってない。私は、律と話があるんだ」

 澪は唯の言葉を遮って、怒鳴りつけてきた。
唯はその剣幕に怯む事無く、強い語調で言う。

「りっちゃんの方こそ、澪ちゃんとは話す事なんて何もないよ。
私が受けて立つ。だから、澪ちゃんはもう、りっちゃんに関わらないで」

「何も知らない無関係なお前が、口を挟むな。
私と律の問題だ。だから、律と二人で話を付ける。
唯はどっかに消えてくれ。邪魔なんだよ」

「何も知らない?無関係?
くすっ、澪ちゃんたら呑気だねー。
私ね、知ってるよ?金曜の夜に何があったか」

 荒ぶる澪を嘲笑うように、唯は言った。

「えっ?まさか、律。お前、唯に、喋ったのか?」

 途切れ途切れとなった澪の言葉が、律へと向かった。
その声からはもう、勢いが消えている。

 剣幕が失せてもなお澪に恐れを抱いているのか、律は小さく頷くだけだった。
だがそれだけで十分、澪に致命的な一撃となっている。
澪はよろめく身体を支えるように、壁へと手を付いた。
そんな澪に対して唯は容赦する事なく、追い討ちとなる言葉を浴びせる。

「そ。りっちゃんから教えてもらったよ。
ああ、そうだ。さっき澪ちゃんは私の事、無関係とか言ってたけど。
もう、無関係じゃないよ?だって、私、りっちゃんとお付き合いしてるから。
うん、澪ちゃんの方こそ、もう無関係な人だね。
だからね、言わせてもらう。もう私のりっちゃんに、近寄らないでっ」

「あ……う……。嘘、だ。嘘に決まってる」

 澪は呻くようにそう言うと、律に掴み掛かった。

「なぁ、律。嘘だろ?唯に騙されてるんだろ?な?
金曜の件は謝るし、もうあんな事しないからさ。
やり直そ?な?」

「止めてっ、りっちゃんに乱暴しないでっ」

 唯は澪に体当たりして二人を引き離すと、律を庇うように立った。

「何だよ、何だってお前は邪魔するんだよ」

 澪は恨みがましく唯を睨みながら、苛立ちを隠さずに言った。

「澪ちゃんの邪魔をしてるんじゃない。りっちゃんを守ってるんだ」

 唯は吐き捨てるように言うと、律の手を引いて歩き出した。

「あ、待てっ。待てって、律」

 澪が追い縋ってきたが、唯は無視して歩くペースを速めた。
律が頼もしそうな目を向けてくる事に、誇りを感じながら。

 律の名を呼びながら付き纏ってくる澪も、人目が多くなると静かになっていった。
教室に入る頃には完全に黙り、唯達とは距離を取って後ろを歩いていた。

 ただ、澪が律を諦めたとは、唯とて思っていない。
澪は人目を気にして、黙っているに過ぎないのだ。
執念深い澪の事だ、すぐにでも律を奪う算段を始めるかもしれない。
それを防ぐためにも、早めに律との恋仲を公にすべきだと、唯は思った。
周囲から恋仲と認められれば、澪とて手が出しづらくなるだろう。
強引な手段に澪が訴えれば、その時は周囲を味方に付けられるとも踏んでいた。
特に部活の仲間である紬と梓には、今日にでも知らせたかった。
その二人は唯が信頼する相手であり、澪に対する抑止力の強い相手でもある。
そして関係を明かす事に、律が抵抗を覚えないであろう相手だった。
後はいつそれを律に相談するか。
そのタイミングを考えながら、唯は自席に座った。

81いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:13:22 ID:BH7TS0xk0

*

 放課後、唯と律が部室に来た時、既に他のメンバーは揃っていた。
その中には澪の姿もあり、紬や梓と談笑している最中だった。
到底、律との別れを悲しんでいるようには見えない。
また、唯に怒りを持っているようにも見えない。
その平静な姿が、不自然なものとして唯に映る。

 今日、澪が見せた感情の起伏は相当に激しかった。
唯と律の交際を知った時は取り乱し、その後は抑鬱と興奮を繰り返した。
抑鬱状態の時は暗い表情で一人俯き、興奮状態の時は律に接しようと必死な様子を見せていた。
そのサイクルは今日の授業を全て終えるまで、繰り返されたものだ。
だからこそ、今の落ち着いた澪は違和感があった。

「あら。すぐに二人のお茶、用意するわね」

 唯と律の姿を認めた紬が、談笑を切り上げて席を立った。

「ありがとー、ムギちゃん」

「ありがとね、ムギ」

 唯と律は順に礼を言って、隣り合った席へと腰掛けた。

「同じクラスなのに、澪先輩達と大分時間差がありましたね」

 二人が座ると同時に、梓が話を向けてきた。

「私達は、ちょっと教室を出るのが遅かったからね。
話もしてたし」

 実際には、唯達が遅いというより、澪が早かった。
澪はホームルームが終わるとすぐ、脇目も振らずに教室を出て行ってしまった。
紬が慌てて後を追うように向かった為、唯達が残された格好となったのだ。
唯はそれを好機と捉え、今日の部活で関係を明かそうと律に持ちかけた。
律はすぐに快諾してくれた。
尤も、金曜の件に付いては喋らないよう、ここでも繰り返し頼まれた。
唯とても、その件に触れるつもりは始めから無かった。

「ああ、それで遅くなったんですか。
それにしても、澪先輩とムギ先輩が先に来て、
律先輩と唯先輩が二人揃って遅れるって……。
やっぱり、成績の事で先生からお話が……ぷっ」

「中野ぉっ」

 納得したように言う梓に対して、すかさず律が声を飛ばした。
普段と変わらぬ微笑ましいやり取りに、唯はふと目眩を覚えた。
この見慣れた日常の裏側で、律は陰惨な目に遭ったのだ。
そのあまりにも極端なコントラストが、唯の現実感さえ揺さぶっている。

「まぁまぁ。でも律だって、そんなに成績は悪くないよな?
偶に私に、勉強を頼みに来るけどな」

 宥めるように割って入った澪こそが、律を悲惨な目に合わせた張本人だった。
にも関わらず、馴れ馴れしい言葉を律へと向けている。
唯は我慢できずに軽く睨み付けたが、澪に動じた風は見られない。
梓や紬の手前、明白な敵意を剥き出す訳にはいかない。
唯は歯痒い思いを抱きながらも、すぐに目を逸らした。

「ああ、まぁ、うん、そうだな。
色々と、勉強の事で、世話になったよな」

 梓や紬の目を気にしている点は、律も同じらしい。
躊躇いながらも、澪へと言葉を返している。

82いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:14:00 ID:BH7TS0xk0

「律は飲み込みが早いから、教え甲斐があるよ。
でももうちょっと、自主的に取り組む癖を付けた方がいいな。
ドラムの練習にしても、さ」

 律との会話を繋げる澪に、唯は歯噛みして拳を握り締めた。
朝の一件から部活が始まるまで、唯は澪から律を守ってきた。
律に近付いて話しかけようとする澪を、それとなく妨害してきた。
澪が近付く度に律を連れて離れ、澪が話しかけようとする度に律と排他的な話題を共有した。
それを行う為にも、唯はずっと律の側に居た。
結果、唯の努力が功を奏し、澪は空回りするばかりで今まで律と話せないままだった。

 だが、今の状況下では、唯が今まで取ってきた手段は使えない。
五人という少人数しか居ない空間の為、強引に二人を離す事は目立ち過ぎる。
また、律のみと排他的な話題を展開する事は、梓や紬の手前ではあまりにも不自然だった。
反面、澪にとっては、これ以上に都合の良い状況はない。
仲違いが公然のものとなっていない以上、唯は強引には動けない。
また律も澪に話しかけられれば、自然を装って対話せざるを得ない。

「うん……そうだね。勉強も部活も、頑張るよ」

 現に律は言葉短いながらも、澪へと言葉を返している。
紬や梓に、部内の空気が険悪だと思わせたくないのだろう。

「ああ。そうすれば、梓にも心配掛けなくなるよ。
梓はちょっとからかい気味に言ってたけど、律の勉強も心配なんだよ。
な?梓っ」

 澪とて、自分に有利な状況だと分かっているに違いなかった。
だからこそ、律へと積極的に話しかけているのだ。
そして今や、梓をも会話に巻き込もうとしている。

「はいっ。まぁ、澪先輩が付いてるから、私と同級生になる心配まではしてませんけど。
補修や追試で、部活が休みになると堪りませんからね。
律先輩、頑張ってもらいますよっ」

 梓も澪に同調した言葉を放ち、会話へと加わった。
それによって、唯はより一層苦しい立場に追い込まれた。
律を澪との会話から離そうとすれば、梓とも摩擦を生じかねない。
律を満足に守れない悔しさに、唯は歯軋りしそうにさえなった。
早く律との恋仲関係を明かして、公然の仲になりたかった。
そうすれば、律を無理矢理独占して澪から遠ざけても、不審を買う事は無いだろう。
恋人を独占しようとする事は、自然な傾向なのだから。
いっそ今、会話の流れもタイミングも無視して明かしてしまおうか、と。
唯がその衝動に駆られた時だった。

 眼前に紅茶の注がれたカップが置かれて、唯は我に返った。
それとともに、紅茶を用意してくれた紬が心配したように話しかけてきた。

「どうしたの?思いつめたような、怖い顔してるけど」

「え?私、そんな顔してた?気のせいだよー」

 唯は笑顔を繕って言うと、紅茶を啜ってから続けて言う。

「うんっ、ムギちゃんのお茶は美味しいね。
お茶、入れてくれてありがとねー」

「とんでもないわ、お茶入れるのに時間掛かっちゃったりして、ごめんね。
それはそうと、本当に何でもないの?
唯ちゃん、とっても深刻な顔をしていたのよ?」

 紬にしては珍しく食い下がってきた。
無自覚に浮かべていた表情なので、どういう顔をしていたのか自分にも分からない。
唯は逃げるように言葉を返す。

「うん、ちょっと考え事をしていただけだから」

83いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:14:43 ID:BH7TS0xk0

「考え事?何か問題でも抱えているのなら、相談に乗るけれど。
話すだけでも、気が楽になるかもしれないし」

 唯が浮かべていた表情が余程気になっているのか、紬は尚も追及してきた。
自然、部内の注目も唯に集まる。
注目を逸らそうと、無難な答えを探した唯だが、ふと気付いた。
自分に耳目が集まっている今、澪達の会話も止まっている。

 この機会を利用しようと、唯は思い立った。
考え事を作って吐露する事で、別の話題を提供する。
それによって澪から会話の主導権を奪う算段だった。

「別に悩みとかじゃないんだけどね──」

.


 唯の目論見は惨憺たるものに終わった。
唯の提供した話題は梓の怒りを買い、部内に重苦しい雰囲気が立ち込めてしまった。
誰も喋らない時間の中、静かに紅茶を啜る音だけが時折響く。
そうして全員の紅茶が漸く空になった頃、澪が口を開いた。

「そろそろ、練習、するか?」

「ええ、そうですねっ、しましょう、練習」

「それがいいわ。なんたって、軽音部だものね」

 張りつめた沈黙を払拭するように、梓と紬が順に同調を示した。

「ほら、律もいつまでも座ってないで。
梓やムギもやる気なんだから、練習するぞ」

 澪が律の手を引いて、立ち上がらせた。
このままでは、澪から律を守りきれない。
その焦燥が、唯を駆り立ててゆく。

「唯ちゃん?どうしたの?」

 一向に立とうとしない唯に不審を感じたのか、紬が訝しむように声を掛けてきた。
その言葉をトリガーにして、唯は弾かれたように言う。

「あっ、あのねっ。練習する前に、皆に発表があるんだっ」

 再び、部内の注目が唯へと集まった。
先程、注目を集めた時に、発表しても良かった。
羞恥から先送りにしてしまった事を、唯は重苦しい沈黙の中で悔いていた。
その後悔を発散するように、唯は一思いに言葉を吐き出す。

「土曜日から私とりっちゃんは、お付き合いする事になりましたー。
えっと、皆も、これからも私達をよろしくねー」

 そこまで言ってから律へと視線を向けると、同調で続いてきた。

「うんっ、そうなんだ。よろしくねー」

 紬達は呆気に取られた表情を浮かべるだけで、言葉を返してこなかった。
唐突な発表なのだから、無理もない反応だと唯とて思う。
だから唯は構わずに、話を切り上げるように言う。

「発表っていうのは、これだけだよ。じゃ、練習しよっか」

84いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:15:20 ID:BH7TS0xk0

 唯は律へと駆け寄って手を取ると、澪の手から引き離した。
恋人として認識されたのだから、この行為に非難される謂れなど無いと確信していた。
事実、澪の抵抗は無かった。

 唯はそのまま律の手を引いて、部室の黒板の前へと向かう。
そこが、唯達がいつも練習する模擬ステージだった。

「ちょっ、ちょっと待って下さいっ。唯先輩っ、律先輩っ」

 模擬ステージに辿り付く前に、梓の声が部内を劈いた。
唯は足を止めると、警戒しつつ振り返る。
梓の語勢は、到底祝福を期待できるようなものではない。

「な、何?あずにゃん、どうしたの?」

「どうしたのって、こっちの台詞です。
律先輩は、恋人が居るでしょう?
なのに一体どうして、二人が付き合うんですか?」

 梓は険しい表情を浮かべながら詰問してきた。
ただ、律の恋人に言及した時だけは、憂いの篭った横目で澪を見遣っている。
その態度から、唯と律の恋仲を歓迎していない事は明らかだった。

「えっと、澪とは、別れたから」

「はぁっ?」

 蚊の鳴く様な声で答えた律に、梓の頓狂な声が続いた。
その梓の声が大きかった事に萎縮したのか、律は怯えたように目を伏せてしまった。

「あの、何を言ってるんですか。
あんなに仲が良かったじゃないですか。
何があったのか知りませんが、もう少し冷静になったらどうですか?」

 梓の語勢は強く、弱々しい律の姿に対する容赦は感じられない。
唯は庇うように律の前に立つと、梓に向けて口を開く。

「あのね、あずにゃん。りっちゃんだって、色々と悩んで結論出したんだよ。
それに、別れは二人の問題なんだから、りっちゃんだけ責めるのは酷だと思うな。
言い分は、りっちゃんにだってあるよ?」

「二人の問題?何自分は関係ないみたいな事言ってるんですか、唯先輩。
そうですよ、別れただけでは終わってません。新しく恋人まで作ってます
唯先輩だって唯先輩です。親友の彼女寝取るみたいな真似して、見損ないましたよ」

 梓は唯にまで噛み付いてきた。
先程唯が提供した話題に対する怒りが、未だに尾を引いているのかもしれない。

「寝取るって、変な言い方は止してよ。
私達の選択、尊重してくれてもいいと思うな」

 唯も自然と、語調が刺々しくなった。

「あのね、唯ちゃん。私は皆の選択、尊重したいわ。
新しい出発を、祝福だってしたい。
それに、女の子同士が付き合う所を見るのは好きよ?
そういうマイノリティな性癖が自分にあるって事も、承知してるわ。
でもね、それでもね。友達の恋人と付き合うっていうのは、少し違うと思うの」

 紬までもが、梓に加勢していた。
劣勢に立たされた唯は、苛立ちを隠さずに言う。

「何さ、私達が悪い事したみたいに。
りっちゃんが誰と付き合おうが、勝手でしょ。
りっちゃんは澪ちゃん以外の恋人作っちゃいけないの?
りっちゃんにも私にも、恋人を選ぶ自由くらいあるよ」

85いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:16:07 ID:BH7TS0xk0

「寝取ったり裏切ったり、そういうのが悪いって言ってるんです。
議論を摩り替えないでください」

「だからっ、寝取ってないもんっ。裏切ってだっていないよっ」

 相変わらず”寝取る”という表現を使う梓に、唯は怒りを露わに叫んだ。

「じゃあ、どうして澪先輩は、あんなに悲しそうな顔してるんですか?」

 梓は打って変わって冷静に言うと、澪を視線で示した。
梓に倣って視線を向かわせると、澪は唇を噛んで立ち尽くしていた。
その顔色は蒼白で、歪んだ目元と伏せられた瞳が唯に映る。

「律先輩と唯先輩の行為が裏切りでないのなら、あんな悲しそうな顔しますか?
あの澪先輩が祝福もせず、ただただ悲しみだけを浮かべますか?
到底祝福できないような経緯で二人が付き合っているから、
沈痛な顔をしているんじゃないんですか?」

 梓の言う通り、到底祝福できない経緯があって唯と律は付き合っている。
だが、それを言う事はできない。

「唯ちゃんが発表してから、ずっと悲しそうな顔してたわ」

 唯が黙りこくっている機に、紬が梓に加勢するように言葉を添えた。
その顔は、唯を責めているようにも、澪を憐れんでいるようにも見えた。

「で、律先輩。澪先輩と別れたっていうのは、いつの話なんですか?
少なくとも私は、二人の間にそんな素振りは見ていません」

 梓は唯に代わって、律へと質問を転じた。

「それは……」

 律は瞳を泳がせて、続きを躊躇うように言葉を切った。
唯は律の代わり、梓へと答える。

「それはあずにゃんには関係の無い事でしょ?
付き合ったり別れたりは、当事者同士の問題だよ?
余計なお節介はすべきじゃないと思うな」

「なら、律先輩と付き合っただなんて、発表しないでくださいよ」

 梓は嘲笑を浮かべて言った。
その笑みは唯の怒りを沸点へと導き、行為へと駆り立てる。

「あずにゃんっ」

 頬を張ろうと、唯は一歩を踏み出した。
その時、消え入るような静かな声が、部室に響いて唯の手を止めた。

「今日。今日の朝、だよ。いきなり、別れを告げられた」

 声の主は、澪だった。
そのか細い声も未だ悲痛を浮かべた顔も、唯には同情を引く為の演技にしか見えなかった。
唯の予想通りだとするならば、紬と梓の顔にその効果が窺えた。
梓は表情に怒りを漲らせ、紬は悲しそうな顔を浮かべている。

「えっ?今日、ですか?それ、律先輩と唯先輩が付き合った後じゃないですかっ」

 梓の声は澪と対照的に、激しく昂ぶったものだった。

「酷い……」

 紬も続いて、愕然としたように呟いた。

86いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:16:47 ID:BH7TS0xk0

「やっぱり、裏切ってるじゃないですかっ。寝取ってるじゃないですかっ。
二人とも最低です。澪先輩に謝ってください」

 梓に言葉激しく責められても、唯に反論はできなかった。
唯と律が付き合う少し前に、律と澪が破綻同前だったと言えたのなら。
どれだけ胸がすく思いを抱ける事だろうか。どれ程、痛快な気分になれるだろうか。
それでも、背後に居る律の胸中を慮れば、その衝動に身を任せる事などできなかった。

「私はね、りっちゃんと澪ちゃんが別れて新しい恋人を作っても、問題は無いと思うわ。
だって、恋は自由だもの。でもね、それでも。
新しい恋人ができたから澪ちゃんを捨てたのは、とても酷い事だと思うの。
その相手が唯ちゃんだっていうのも、私は酷いと思うわ」

 紬も窘めるような口調で、唯と律の交際を批判してきた。

「何さっ、何も……」

 何も知らないくせに、と叫びたかった。
澪が何をしたのか知らないのに、糾弾する二人が腹立たしかった。
その事情さえ明かせれば、澪と唯の立場は逆転するだろう。

 だが、律は唯以外には話せない事だと言っていた。
その気持ちも良く分かる。
性犯罪の被害者は、羞恥から自分の被害を語りたがらない傾向がある。
それ故に、性犯罪は親告罪となっているのだ。

 何より、律は自分を信頼して、羞恥に耐えて話してくれた。
その信頼を、裏切る事などできなかった。

「あまり、律を責めないでやってよ。
至らない私が悪いんだから……」

 唯が言葉を引っ込めて黙っていると、今度は澪が口を開いた。
そのわざとらしさに、唯は咄嗟に澪を睨み付けた。
白々しいと、図々しいと、痛罵してやりたかった。
だが、この状況で澪を批判しても、梓と紬の反発を買うだけだろう。

「そんなっ、澪先輩に落ち度なんてありませんっ。
澪先輩は今までだって、律先輩に尽くしてきました。
反面、律先輩は澪先輩に迷惑掛けてばっかで、あまつさえ裏切りさえ……」

「そうよ、澪ちゃんに悪い事なんて、何もないわ。
ね、元気を出して?私が力になるから」

 実際、梓と紬は相次いで澪を庇い慰めている。
それも、事情を知らない故であろう。
梓と紬の同情を砕く切り札を握っているのに、自分はそのカードを切れない。
唯はその歯痒さと悔しさに、拳を握り締めて叫ぶ。

「もういいよっ、私達、勝手に付き合うから。
行こっ、りっちゃん」

 唯は律の手を引くと、部室のドアを目指して歩いた。
部室から出てドアを閉める時に室内を顧みると、紬と梓と目が合った。
梓の視線には怒りが、紬の視線には軽蔑が、それぞれ篭っている。
唯はその視線に気圧されるようにして、ドアを閉めた。
澪の表情を窺う間も無かった。

「ごめんね、りっちゃん。嫌われちゃったね」

 階段を下りながら、唯はそう律に謝った。
梓や紬が味方になる事を期待していたが、逆効果だった。
結局、二人は律の幸福よりも澪の欲望を選んだという事なのだ。
その落胆も、唯を苛んでいる。

「でも、これで堂々と、唯と居られるから」

 そう言って唯の肩に頭を預けてくれる律だけが、せめてもの救いだった。

87いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:17:24 ID:BH7TS0xk0

*

 金曜日、朝から降っていた雨は午後に入り勢いを強め、窓を叩く音さえ聞こえてくる。
そういえば先週の金曜日は晴れていた、唯はふとそう思いながら窓の外を見た。
先週、雨が降ったのは、土曜日だった。
その事が、ひどく象徴的な出来事のように、唯には思える。

「昨日までの雨が五月雨で、今日からの雨が梅雨ですよ」

 部室内では、緩やかな雑談が交わされていた。
今も梓が、外で振っている雨に関連した話題を振っている。
丁度月が五月から六月へと変わった日である事も、梓の話題に影響していた。

「いや、梅雨の定義って、そういうのとは違うと思ったけど。
梅雨前線の影響が梅雨、じゃなかったか?」

 澪が首を傾げながら、梓の説に疑問を投げかけた。

「そもそもね、梅雨も五月雨も同じ意味なのよ。
五月雨は五月っていう漢字を使うけど、それは陰暦の五月を意味しているから。
今で言えば、丁度六月くらいの季節に当たるの」
 
 続いて紬も補足を交えながら、話題に入っていった。

「へぇ、五月雨って梅雨と同じだったのか。
六月の雨が梅雨とイコールじゃないのは知ってたけど、そっちは知らなかったよ」

 澪は感心したような声を上げた。

「わ、私だって、六月の雨が梅雨と同じだとは思ってませんっ。
さっきのは、ただの冗談で……」

 慌てたように釈明する梓の声が、部室内の雰囲気に賑やかさを添えた。

 そんな中、唯は話題に参加せずにいた。
先週の金曜日までなら、きっと唯も話に入っていった事だろう。
今となっては律くらいしか、唯が友好的に接する部員は居ないのだ。

 梓や紬と険悪になってからも、律と唯は毎日部活へと顔を出していた。
律には部長としての責任感があるのだろうし、唯には付き添って守るという目的もあった。
また、このまま部活に行かなくなれば、排斥されたのは自分だという事にもなる。
律を襲った澪が擁護され、律を守った自分が排斥される事が理不尽に思えた。
だからこそ唯は、針の筵となっている部室へと毎日訪れていた。

 それでも、律よりは部活における苦痛は少ないのかもしれない。
律にとっては梓達から蔑まれる事以上に、澪から付き纏われる事の方が苦痛だろうから。

「そうですね。梅雨の時って、湿気が多いから食べ物が傷みやすいですよね」

 唯が考え事をしているうちに、話題は梅雨の時期における食中毒の多発に移っていた。
梓の言葉で、唯はそれを知る。

「この時期は賞味期限にシビアにならないとな。
そうだ、律。特に律は自炊が多いから、気を付けろよ?」

 澪が律へと話し掛けて、自分達の会話に誘った。
その事で律がまた一つ苦痛を受けたと、唯は内心歯軋りしたくなった。

 ただ、梓達は律の参加を歓迎しないだろう。
現に梓も紬も、冷めた表情で律を見ている。

「ああ、うん。気を付けるよ」

 律は澪を見ずに、素っ気無い口振りで答えた。
澪とは極力話したくない、その態度が全面に表れている。

 その澪は、火曜日以降も律に近付く素振りを何度も見せていた。
その度に唯が澪を退けて、律を守らねばならなかった。
今日もその事で幾度も、唯は神経を磨り減らしていた。

 ただ、部活の時間となると、律を守りきる事が難しくなる。
どうしても、律と澪の距離が近くなるからだ。
また、澪を退けようとすれば、彼女に同情的な梓と紬の反発を買うだろう。
事実、一昨日も律を巡り澪と衝突しかけて、梓から詰られ紬から窘められた事がある。

88いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:18:09 ID:BH7TS0xk0

「ああ、頼むよ。律が”変な物”食べて食中毒起こすなんて、想像もしたくないからな。
捨てるのも賢い選択だぞ」

「澪ちゃんっ」

 唯は堪らず叫んでいた。
以前と同じように梓や紬と反目してしまう事は、理解していた。
それでも、我慢できなかった。
律へと話し掛け続ける澪の執拗さに、唯の忍耐が限界に達した訳ではない。
もっと瞬間的な激情故の咆哮だった。
澪は急激に、そして直接的に、唯の沸点を衝いたのだから。

 澪は”変な物”と言った時、蔑むように唯を見ていたのだ。
律にとっての自分の有り様を、否定された思いだった。

「余計なお世話だっていうのが、分からないかな?
そういう鬱陶しい干渉をりっちゃんが嫌がってるの、分からないかな?
分かんないようなら、りっちゃんに話し掛けないで欲しいな。
りっちゃんの今カノからの、お願いだよ」

 唯は恫喝じみた低い声を、喉の奥から絞り出して言った。
最後に立場の違いを強調する言葉を、歪んだ笑みとともに添える事も忘れなかった。

「唯先輩、酷いですっ。
折角、澪先輩が律先輩みたいなのを気遣ってるのに、なんて言い草するんですか。
律先輩には本来、澪先輩から気遣われる資格なんて無いのに……。
それでも澪先輩は、話し掛けてあげてるんですよ?」

 澪を声で牽制し言葉で挑発する唯に、早速梓が反駁を浴びせてきた。

「そもそも、澪ちゃんが気遣う必要なんて無いもん。
だって、りっちゃんには私が居るからね。
ほら、余計なお世話でしょ?」

 唯は余裕に満ちた笑みを繕って返した。
律を蔑ろな呼称で呼ぶ梓への怒りを、無理矢理抑え込むように。

「ああ、そうでしたね。お似合いなのが居ましたね。
律先輩みたいなのには、相応しい相手ですよ。心底からそう思います」

 梓の頬に嘲りが浮かんだ。
それとともに、唯は自分の表情から笑みが消えた事を自覚した。
もともと冷静では無かった唯に、怒りをこれ以上抑え込む余地など最早無かったのだ。
唯は衝動のままに拳を握り締め、梓の名を呼ぶ。

「あず」

「ま、待ってっ」

 唯を遮って、紬の声が割って入ってきた。
唯は動きを止めると、紬を見遣った。
その紬は温和な表情で唯の視線を迎えると、言葉を続けた。

「二人とも、冷静になろ?きっと、疲れているのよ。
だから、怒りっぽくなっちゃうんだわ。
そうね、もういい時間だし、そろそろ部活も終わりにしよ?」

 まだ、いつも帰宅する時間にはなっていない。
だが、梓と徹底的に対立するつもりなど唯にはなかった。
ましてや、この針の筵のような空間に、長時間居たいとも思わない。
紬の提案を拒む理由など、唯にはなかった。

「そうだね、今日はちょっと、調子出ないしね。
帰ろうっか、りっちゃん」

「うん、天気も悪いしね。これ以上悪くなる前に、帰った方がいいよね」

 唯が視線を向けながら言うと、律も頷きながら返してきた。

「ティータイムだけで終わった感が否めませんが……仕方ありませんね」

 梓も不承不承といった様子を見せながらも、紬の提案に従っていた。
自分が険悪な雰囲気を作った一人であるとの、負い目があるのだろう。

89いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:18:44 ID:BH7TS0xk0

「皆がそう言うんじゃ、仕方ないっか。
来週こそ、みっちり練習しような」

 そう言う澪の表情には、残念そうな表情が浮かんでいた。
律に近付ける部活の時間を長引かせたい、その思いがありありと表れている。

「じゃ、解散だね。さ、りっちゃん。帰ろうねー」

「あ、待って、唯ちゃん」

 唯が律の腕を取った時、紬が再度横槍を入れてきた。
唯は首だけ紬へと振り向けて言う。

「なぁに?ムギちゃん」

「えっとね、お話があるから、残ってもらえないかな、って」

「駄目だよ、りっちゃんと一緒に居たいもん」

 紬の言葉に、唯は即座に首を振って返した。
この状況下で唯が律の下を離れれば、澪に絶好の機会を与えてしまうだろう。
律を守る事など、不可能になる。

「ああ、りっちゃんも、ね。二人にお話があるの。
梓ちゃん、澪ちゃん、ごめんね。
悪いけれど、先に帰ってて?」

 本当に始めから二人に話があったのか、それとも唯の懸念が通じて配慮したのか。
紬の本心は、唯には分からない。
分からないまま、紬の視線は既に澪と梓へと向いていた。

「えっ、その二人とだけ話すって、どんな話?」

 澪が不審を表情に滲ませながら、紬に問い掛けた。

「さわ子先生から、言伝頼まれてるの思いだしちゃって。
ちょっと長くなりそうだから、先に帰ってて欲しいの」

 唯は即座に、紬の答えが方便だと分かった。
長くなるような話を、言伝に頼む訳がない。

 ただ、梓はそれで納得したらしく、首を縦に振ってから口を開いていた。

「ああ、成績の話ですか。さわ子先生も大変ですね。
そういう生徒を二人も受け持っちゃって」

 梓は抜け目なく、毒を放つ事も忘れていなかった。

「うーん、長くなるって言っても、なぁ。言伝じゃ高が知れてるだろうし。
対面して言わないとなると、然程重要でもないんじゃ……」

 尚も逡巡を見せる澪の袖を、梓が引いた。

「いいじゃないですか。
きっと残酷過ぎて、対面して話すのが憚られたんですよ。それ程の成績って事です。
あの二人の学業に関する話は聞かないようにしてあげるのが、
せめてもの優しさってものですよ」

 梓は嫌味を含んだ笑みを漏らすと、続けて言った。

「ただ、学業の事で言伝を頼むのなら、ムギ先輩より私に任せてくれればよかったのに。
バッサリとイってやるのに」

 唯とて可愛がってきた後輩だったが、その態度に対しては憎しみしか湧いてこなかった。
澪と連れ立って部室から去る梓の背中を、強く睨み付けた。

90いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:19:30 ID:BH7TS0xk0

「梓ちゃん、本当に神経質になってるみたいね。
それとは別に、私の方から謝っておかなきゃいけない事があるわ」

 梓と澪の姿が扉の向こうに消えてから、紬が口を開いた。

「予想は付くよ。さわちゃんから言伝頼まれたって、嘘なんでしょ?」

 唯が先回りして言うと、紬はあっさりと首肯した。
虚言を見破られて、動揺した風さえ見られない。

「ええ、ごめんなさい。どうしても、二人と話したい事があって」

 唯と律の仲を祝福して味方になる、という話だろうか。
だからこそ紬は、梓と澪を帰らせたのだろうか。
胸中に浮かんだ考えを、即座に唯は否定した。
その話をするのであれば、澪と梓の不審を買いかねない状況にするはずがない。
澪と梓を帰らせるのではなく、初めから居ない時にすべき話なのだ。

「というより、お願いしたい事かな」

 実際、続いて放たれた紬の言葉が、唯の否定を裏付けていた。
紬は自分の立場を伝える為ではなく、要求を伝える為に唯達を残したのだ。

「お願いって、何かなぁ?」

 唯は低い声で、紬を促した。
その内容次第では、紬と決定的に対立する事さえ厭わない覚悟があった。

「単刀直入に言うわ。唯ちゃんとりっちゃんに、別れて欲しいの。
そしてできれば、りっちゃんにはもう一度、澪ちゃんと付き合って欲しいなって」

 紬が言うや否や、隣から律の息を呑む音が聞こえてきた。
そのまま言葉を失くした律を代弁するように、唯は言う。

「お断りだよ。私とりっちゃんが別れなきゃいけない理由なんて、ないもん」

「あるわ。分かるでしょ?最近、部内の関係がギスギスしてるのが。
それは二人の恋愛の成立過程に問題があるから、よ。
ねぇ、もし、私のお願いを聞いてくれるのなら。
今の刺々しい雰囲気を一掃して、前みたいに皆が仲良い関係に戻れるよう努力するわ。
私は前みたいに、皆で仲良くなりたい。
その為にも、私に力を貸してくれる?」

 紬はそう言うと、片手を伸ばしてきた。
握手を求める仕草だと唯は分かったが、その手を握るつもりは無かった。
応じる事など、到底できない要求なのだから。

 唯は差し出された紬の手を冷めた目で一瞥してから、言葉を返す。

「雰囲気が悪いのは、澪ちゃんやあずにゃんのせいだもん。
いや、ムギちゃんだって加担してる。
それなのに自分が私達を攻撃した事を棚に上げて、その言い分は図々しいよ」

「攻撃したつもりは無いのだけれど……。
ただ、澪ちゃんが、あまりにも可哀想だったから。
同情心が反映されて、唯ちゃんにはそう映っちゃったかもしれないわね」

 紬は手を伸ばしまま、釈明してきた。
唯は勿論、その言葉を額面通りには受け取らない。故に、手も握らない。

91いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:20:14 ID:BH7TS0xk0

「あれだけ言っておきながら、わざとじゃありません、
みたいな言い訳が通用すると思うの?
ねぇ、私、そこまでお人好しに見えるかなぁ?」

 唯は首を傾げながら、微かに凄んで見せた。

「ごめんね。でも、それも今日まで、よ。
唯ちゃん達が協力してくれるのなら、
今後は、攻撃と思われるような言動は取らないと約束するわ」

 紬の声は落ち着いていた。
唯の威嚇を受けても、紬に怯んだ様子は見られない。
更に、伸ばしている手を縦に振り、態度でも協力を促してきた。
それでもなお、唯は手を握らずに言う。

「もう一度言うけど、お断り、だよ。
この際だから、はっきり言っちゃうね。
私は部活内の平穏を乱してでも、りっちゃんと付き合い続ける。
私とりっちゃんの仲は、誰にも邪魔させない」

 唯はきっぱりと、拒否の意思を伝えた。
紬の言う平穏とは、律が澪の接近を甘受する事が前提となる。
性的加害者である澪と再び仲良くするとなれば、律の受ける心理的な負担は計り知れない。
律の犠牲の上で繕われた平穏など、唯には許容できなかった。

「そう……そこまで言うのね。なら、いいわ」

 紬は手を引くと、言葉を続けた。

「最近の部活は、雰囲気が刺々しくて重かった。
今日も衝突したから、これ以上放置したら後戻りできなくなると思って、
強引に引き留めたんだけど。
実際には既に、手遅れだったみたいね」

 紬の口から、深いため息が漏れ出た。

「うん、手遅れなんだよ」

 もう一週間も前に、と唯は胸中で付け加えた。

「それを確認できて、私の立ち位置も決まったわ。
もう、唯ちゃん達を擁護する事は勿論、許す事もできない。
私は、澪ちゃんの側に立たせてもらうから」

 紬はそれだけ言うと、背を翻して去って行った。
今更だと、その背を見送りながら唯は思った。

*

92いえーい!名無しだよん!:2013/07/21(日) 22:23:41 ID:BH7TS0xk0
>>64-91
ここまでです。他のネタで書いてるうちに、自然とお蔵入りになりました。
ちなみに、唯澪「two side angle」というタイトルで考えていて、
唯sideと澪sideの二部構成で構想していた経緯があります。
冒頭の[唯side]とかいう記述は、その名残です。

93 ◆UwUOv4/shU:2013/08/25(日) 20:20:16 ID:G.s4zap.0
テ ス ト
… !「」

94いえーい!名無しだよん!:2014/01/13(月) 01:41:38 ID:2MIkUBes0
 訪ねてくるなり、律は機嫌が悪そうだった。
尤も、律が怒っていても怖くはない。
膨らませた頬さえ、小動物を思わせて唯には可愛らしく思えた。

「むくれちゃって、どうしたの?」

 そう訊ねながらも、唯には察しが付いていた。
今日はクリスマス・イブであり、律は恋人の澪と過ごしたいはずである。
それが一人で突然唯の家へとやって来たのだから、澪と何らかの衝突をしたに違いなかった。

「聞いてよ、聞いてよ。澪ったらね、酷いんだよ?
ファンクラブの集いに出席しなきゃならないんだって。
イブはいつも、私と過ごすはずなのに。馬鹿澪ー」

 律はそう捲くし立てると、拗ねたように目を斜め下へと逸らした。

「しょうがないよ。
澪ちゃんのファンクラブの人達には、
HTTのライブチケを捌くの協力して貰ってるんだから。
澪ちゃんにしても、あまり無下にはできないんじゃないかな」

 唯は澪を庇いつつも、少し不思議だった。
一昨日に律と会った時点では、そんな愚痴を聞かされていない。

 澪がファンクラブの集いに出席するならば、律も事前に知らされているはずである。
勿論、事前に知らされても律の性格を思えば、当日になって拗ねる事は十分にあり得る。
だがそれ以前に、澪がイブを自分と過ごさないと知った時点で、
律の発作めいた愚痴に唯も巻き込まれていた事だろう。

「そりゃ、唯の言う事も分かるよ?
HTTのライブの成功には、ファンクラブの助力もあってこそだよ。
だからと言って、何もイブに私ほったらかして行く事ないじゃんかー。
澪にとって本当に大切な物は何なのか、分からなくなっちゃったもん」

 律はまるで、「仕事と私、どっちが大事なのっ?」とでも言いたげだった。
その返答は澪の真意を軽く伝えるに留めて、
唯は抱いた疑問をそれとなく聞きだすように言う。

「澪ちゃんがライブの成功に尽力するのも、りっちゃんを想っての事だよ。
それにさ、りっちゃんだって、事前に知らされていたでしょう?
今日はライブがあるから、一緒には過ごせませんって。
それなのに責めたら、澪ちゃんが可哀想だよ」

「んーん、昨夜まで知らなかった。急に決まった事だもん。
和に猛コールされて、急遽出る事になったらしいし。
断固、拒否して欲しかったのに」

 律は悔しそうに唇を尖らせた。
和の誘いに応じた、という点も気に入らないに違いない。
以前、澪が和と仲良くなった事で、律が構われなくなる時期があった。
その時に律は、嫉妬に駆られて寝込んでしまってさえいる。

 反面、唯は和が絡んでいると知り、得心がいった思いだった。
和は澪ファンクラブの会長も務めている。
それは前会長から生徒会長の座とともに押し付けられたものだったが、責任感の強い和の事だ。
不本意な仕事であっても、全力で取り組む事だろう。
今回にしても、ファンクラブから澪の出席を望む声が相次ぎ、
その声に押される形で澪に頼み込んだのかもしれない。
或いは、前生徒会長からの要請もあったか。
何れにせよ、和は澪のプライベートを守りたかったはずである。
それでも耐え切れずに圧力へと屈してしまったからこそ、急遽の依頼となったのだ。

 その自身の解釈に納得しながらも、唯は別の解釈の誘惑に駆られていた。
それは、和が自分の為に、
ファンクラブのクリスマス・イブ・イベントを開催した、というものである。
以前、唯は律に対する恋慕の思いを和へと打ち明けた事があった。
和は澪には勝てぬだろうと諭しながらも、
「それでも律に恋するなら、頑張りなさいよ」と激励もしてくれていた。

 勿論、都合の良い妄想だと分かっている。
そもそも、澪をイベントという名目で拘束したところで、
律が唯の家へと行くかどうかまでは和にも分からぬ事なのだから。
それが分かっていながらも、「頑張りなさいよ」という和の声が脳にリピートされて消えない。

「そっか。それは確かに、りっちゃんが可哀想だね。
じゃあさ、私と一緒に、楽しいイブを過ごそっか?
澪ちゃん達より、楽しんじゃお?」

 脳裏でリフレインする声に押されるように、唯は律を誘った。
どうせ律の機嫌など、澪に優しくされてしまえばすぐに直ると分かっている。
それでも──否、だからこそ──
律とイブを過ごしたかった。
奇跡のような一時を大切にしたかった。

「うんっ、和なんかが誘ったイベントより、楽しい時間にしようなー」

 元々、唯と遊ぶつもりで来たのか、律は即答で承諾してくれた。
それが澪に対する当て付けとして、自分を利用する意図だったとしても構わなかった。

95いえーい!名無しだよん!:2014/01/13(月) 01:42:04 ID:2MIkUBes0

*

 唯にとっては、奇跡のような時間だった。
音楽CDやファッションのショッピングを楽しみ、喫茶店を何軒も梯子した。
HTT全員で買い物や喫茶店に出掛ける事はあっても、
律と二人きりという機会は今日に至るまで訪れていない。

「似合うかな?」

 五軒目となる喫茶店の中、唯がプレゼントしたヘアバンドを付けた律が言った。

「うん、似合うよ」

 黄色の細いヘアバンドが輪のように映り、律が天使にさえ見えてくる。

「ありがと。澪も、可愛いって、言ってくれるかな?」

 楽しい一時に水を差すような言葉が、律の口から漏れ出ていた。
イブも夕刻に差し掛かり、そろそろ澪が気になり始めたのだろう。
奇跡はもう、終わりに近付いているのかもしれない。
唯はその終わりをもう少し先に伸ばそうと、話を逸らして答える。

「誰だって、可愛いって言うよ。
ね、りっちゃん。そろそろ、イルミネーションが点灯される頃合いだよ。
そっち、見に行こうか?ロマンチックなの、りっちゃん大好きだもんね」

「イルミネーションかぁ。行こっ、行こっ」

96いえーい!名無しだよん!:2014/01/13(月) 01:44:26 ID:2MIkUBes0
>>94-95
何気なしにフォルダ見てたら発掘したもの。
書いた事さえ忘れてたけど、更新日時が一年ちょっと前だった。
多分、このアイデアは直後の澪誕SSに活かされてます。
それでこっちは没ったのかな。
取り敢えず、このスレに打ち捨てときます。

97いえーい!名無しだよん!:2014/03/12(水) 12:59:17 ID:uzU207Wo0
>>91
何これ超気になる
澪サイドだと多分全然違うのかな

98いえーい!名無しだよん!:2014/04/08(火) 14:16:35 ID:qFwTbr2k0
琴吹家企画で考えてたもの。


作中時間から7年が経過し、斉藤菫は初の「任務」に就いていた。
時が流れ、より大きくなった琴吹グループは、その力をもって不当に扱われる身の者達(極端な貧困層、悪い例だと奴隷など)を救うことに意義を見出していた。
否、厳密にははるか昔から危機に瀕している他人を救うことには躊躇しない血筋だったのだ。オーストリアでとある一家を救い、斉藤の名を与えるほどには。
ゆえに、その事実を知った菫が将来的にその任をこなしたいと思うのは必然であった。
形式上の雇い主である琴吹の手となり足となり、1人でも多くの人を救う。その一歩を、彼女は今、踏み出そうとしていた。

さすがに未熟な菫は任務達成寸前で多少窮地に陥るが、琴吹父か斉藤執事かまぁなんか適当なそのへんの誰かに助けられる。
己の未熟さを悔いつつも、自分が救った人達の笑顔に顔を綻ばせる菫。
だが、人を救うということは簡単なことではない。今回だって、彼らをまだその場から掬い上げただけにすぎない。その先が、彼らには見えていない。
「・・・あの地獄のようなところから助けてくれたことには感謝してる。でもおれ達、これからどうすればいいんだ?」
その答えを、菫は持っていない。
「・・・!」
しかしそれでも、持っている人を知っている。
いつの間にかそこにいた、可憐にして力強い、琴吹グループ現総裁を知っている。ずっと昔から知っている。

「・・・そういうことなら、みんな、私の家に来てみない?」

99いえーい!名無しだよん!:2014/05/01(木) 10:30:01 ID:RAPc0dco0
>>91
律の鞍替え早いなw
澪も本当は律のこと大事したかったけど小学生からの想いが爆発してまったと解釈するよ仮にも付き合ってたのに惨め過ぎるし

100いえーい!名無しだよん!:2014/06/02(月) 21:33:43 ID:Ic6DMXn20
今更ながら、>>64-91の執筆前の構想(粗筋)を貼ります。
自分さえ分かればいい、という前提で書いていた粗筋なので、文章として雑です。
あくまでも他者に読まれる事を前提としていない舞台裏なので、理解できないとは思いますが。
以下


題名『 唯澪「two side angle」 』

入れたい描写
1.ロミジュリ、木のシーンの再現。澪が木を登って、律に会いに来る。
唯視点ではヤる台詞の次の日のシーンで、匂わせるだけ。澪視点で記述。

2.五月雨20ラブの歌詞をなぞる、澪と律のセックス。←澪視点冒頭。
私の恋はホッチキスをなぞって、唯が澪にホチキス攻撃のラスト近くのシーン。

3.聡に唯は会うも、聡は反発。「澪ねぇ以外の姉何て、俺やだかんな」とか唯を突っ撥ねる。←唯視点。

4.部活で、澪の眼前で、梓に純を誘うよう促す唯。 ←澪視点。
梓は、今年は無理だろうとの事。
なお、唯視点で伏線は貼り済み。

5.紬は、唯と律に別れるよう促した事(六月一日の件)を、澪に告げる。
交渉が決裂した事も。
どうして自分達を帰らせたのかとの澪や梓の問いに、
二人が居ては喧嘩になるだけだろうと思ったからだと答えさせる。そして紬は謝る。


あらすじ
[
 唯視点と澪視点の、ツーサイド記述。三人称。
 唯視点では、澪にレイプされたと、唯に泣き付く律からスタート。
以前から、唯が律に恋心を寄せていた描写と併せて、チャンスが訪れたと唯は律を慰める。
それとともに、澪に怒りを抱く。
 唯はそれを機に、律と付き合い始める。
澪の律奪還が始まるが、言葉激しく澪を攻撃し、律を守る。
ここでは、唯視点故、澪の悪辣さを際立たせて記述。
唯は紬や梓からも攻撃される。
ところが律は、やはり澪が好きだった。
やがて度重なる澪の求愛や同情に心動かされ、唯を捨てて澪と付き合う事を考える。
そうして澪に乗り換えた後、唯の襲撃。
澪と唯は激しくバトり、結局律を手に入れられず、
唯はズタズタになって頽れる。
そうして唯は律と澪の交際を認めざるを得なくなり、言葉を放つ直前で視点チェンジ。
この言葉を放つ前に、ひきつけておく。

 澪視点では、律を犯す場面から。澪としては合意のつもり。
嫌がる律の態度も、澪の恋心を加熱させる。
 やがて唯と律が付き合い始める。寝耳に水の澪は、唯に交渉開始。
唯は澪を弾き続ける。ここでは、律を寝取った唯の悪辣さを際立たせて記述。
唯のねちっこい所も。
それでも紬や梓の協力も得て、律の心を再度動かす。
しかし唯はそれを許さず、追ってくる。
言い合いの末、律に惚れられている澪が唯を言葉でボコって勝利。
しかし、唯の態度に、もしかしたら悪辣な意図は無いのでは、と澪は思う。
唯を見直しつつある時、唯の口から、二人を認める言葉が飛び出てくる。
澪は歓喜。唯に対する評価もポジティブに変える。
しかし、去り際、唯に後ろから抱き竦められる。
唯は耳元で、律を泣かせたら奪うという事や、幸せにしないと許さないと、澪を脅す。
唯に恐怖しつつも、澪も奪ったら今度こそ許さないと言い返す。
豪雨の中、不気味に笑いあう二人。
奇しくも笑いあう二人という構図は、律の願ったものだった。
ただ、笑い方が違うだけで。それでFIN.
律の願いは、途中の律の台詞で描写。
]


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