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第二次二次キャラ聖杯戦争 part4

1名無しさん:2019/01/06(日) 16:25:18 ID:w3v7G4MM0

ここは様々な作品のキャラクターをマスター及びサーヴァントとして聖杯戦争に参加させるリレー小説企画です。
本編には殺人、流血、暴力、性的表現といった過激な描写や鬱展開が含まれています。閲覧の際は十分にご注意ください。

まとめwiki
ttp://www63.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16771/

前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1420916017/


【参加者名簿】

No.01:言峰綺礼@Fate/zero&セイバー:オルステッド@LIVE A LIVE
No.02:真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー&セイバー:神裂火織@とある魔術の禁書目録
No.03:聖白蓮@東方Project&セイバー:勇者ロト@DRAGON QUESTⅢ〜そして伝説へ〜
No.04:シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア&アーチャー:雷@艦これ〜艦隊これくしょん
No.05:東風谷早苗@東方Project&アーチャー:アシタカ@もののけ姫
No.06:シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD&アーチャー:ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
No.07:ジョンス・リー@エアマスター&アーチャー:アーカード@HELLSING
No.08:衛宮切嗣@Fate/zero&アーチャー:エミヤシロウ@Fate/stay night
No.09:アレクサンド・アンデルセン@HELLSING&ランサー:ヴラド三世@Fate/apocrypha
No.10:岸波白野@Fate/extra CCC&ランサー:エリザベート・バートリー@Fate/extra CCC
No.11:遠坂凛@Fate/zero&ランサー:クー・フーリン@Fate/stay night
No.12:ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人&ランサー:セルベリア・ブレス@戦場のヴァルキュリア
No.13:寒河江春紀@悪魔のリドル&ランサー:佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ
No.14:ホシノ・ルリ@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-&ライダー:キリコ・キュービィー@装甲騎兵ボトムズ
No.15:本多・正純@境界線上のホライゾン&ライダー:少佐@HELLSING
No.16:狭間偉出夫@真・女神転生if...&ライダー:鏡子@戦闘破壊学園ダンゲロス
No.17:暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ&キャスター:暁美ほむら(叛逆の物語)@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-
No.18:間桐桜@Fate/stay night&キャスター:シアン・シンジョーネ@パワプロクンポケット12
No.19:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/zero&キャスター:ヴォルデモート@ハリーポッターシリーズ
No.20:足立透@ペルソナ4&キャスター:大魔王バーン@ダイの大冒険
No.21:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん&アサシン:ニンジャスレイヤー@ニンジャスレイヤー
No.22:宮内れんげ@のんのんびより&アサシン:ベルク・カッツェ@ガッチャマンクラウズ
No.23:ジナコ・カリギリ@Fate/extra CCC&アサシン:ゴルゴ13@ゴルゴ13
No.24:電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ&アサシン:甲賀弦之介@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
No.25:武智乙哉@悪魔のリドル&アサシン:吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険
No.26:美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ&バーサーカー:黒崎一護@BLEACH
No.27:ウェイバー・ベルベット@Fate/zero&バーサーカー:デッドプール@X-MEN
No.28:テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-&バーサーカー:ガッツ@ベルセルク

2名無しさん:2019/01/06(日) 16:26:03 ID:w3v7G4MM0

【ゲームルール】

舞台はムーンセル・オートマトン@Fate/EXTRAに寄り添う『方舟』内部に再現された空間です。
方舟はムーンセルを外部演算装置とすることで稼働しているため、基本的なルールは月の聖杯戦争に準じます。

『方舟』が外部においてどういう風に観測されたかは世界ごとに変ります。
ある世界では聖遺物として観測・解釈されていますし、ある世界ではムーンセルの子機のような扱いです。
内部がある種仮想空間になっていることは共通しています。

参加者は自発的に参加する場合もあれば、勝手に呼ばれる場合もあります。
方舟の遺物『ゴフェルの木片』を入手していることが条件ですが、入手の方法、またその他の条件は問いません。
キャラクターの所持品が実は木片が加工されたものだったとして設定しても構いません。書き手の想像力の可能性に委ねます。
またある世界では木片はデジタルデータで、しかも名前が違っているかもしれません。
その為、何が『ゴフェルの木片』であったかを登場話で明示する必要はないでしょう。

ある解釈では舞台は方舟ですが、マスターとサーヴァントが男女のつがいとなる組み合わせである必要はありません。
性別を問わず、生き残りが二人になった時点で聖杯戦争は終了します。

マスターの所持品や武器・礼装の持ち込みは可能です。

全てのマスターは最初記憶を封印されており、その違和感に気付き記憶を取り戻すまでが予選になります。(Fate/EXTRA準拠)
記憶を取り戻すと同時に令呪を入手、サーヴァントの契約に移ります。
取り戻す記憶には聖杯戦争のルール等も含まれます。
 
用意された土地は様々な作品世界の混成です。少なくとも型月世界観の土地(久遠寺邸@魔法使いの夜 等)は含まれています。
またNPC(モブキャラ)が存在しており日常生活を送っています。
具体的には、現代の市街を中心として参加マスターの原作の土地が混ざり合った状態となります。

令呪に関して、三画全て失ったとしてもサーヴァントとの契約が維持できる場合は消去されることもありません。
逆にサーヴァントとの契約を失った時点で消去がはじまります。

監督役のルーラーは原作通り各サーヴァントへ命令可能な令呪を持っており、二回ずつ使用することができます。
基本的に彼らは中立ですが「無差別に一般NPCを大量に襲う」「ルーラー自身を狙う」「冬木の街の日常を著しく脅かす」等を行った主従にはペナルティを課します。

3名無しさん:2019/01/06(日) 16:26:39 ID:w3v7G4MM0

【書き手ルール】

≪予約ルール≫
予約についてはしたらばの予約スレにて行う。
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16771/1406639857/

●予約期限は一週間です。ただし五話以上書いている方は予約期限を三日間延長できます。

●予約ができるようになるタイミングは以下の通りです。
・投下完了宣言から24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 03:00に投下完了→24時間後の7/28 03:00の翌0時→7/29 0:00予約解禁)

・予約破棄宣言後の再予約は24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 20:00に予約破棄→24時間後の7/28 20:00の翌0時→7/29 0:00に予約解禁)

・予約破棄宣言の無い予約期限切れの場合、24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 23:00に予約→1週間後の8/3 23:00に締切時間、連絡なし→24時間後の8/4 23:00の翌0時→8/5 0:00に予約解禁)


≪会場ルール≫
・所持金はNPC時代の金銭引き継ぎ、通貨単位はpt、価値は日本円と同等。
 一話目書き手が状態表におおまかな感じで書く(いっぱい、とか極貧など)

・一日一回昼12時にルーラーから各マスター、サーヴァントへ残人数を告知する。

・検索施設はMAP内に三か所(月海原学園、図書館、病院)
 情報の絞り込みができればパラメータとスキル、生前の伝承が分かる(宝具は分からない)
 また正午の時点での残り人数も確認できる

≪時間について≫
時間の区切りは4時間単位。

■時間表記
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜間(20〜24)


≪状態票テンプレ≫

【X-0/場所名/○日目 時間帯】

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

4 ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:27:44 ID:VW/HurTw0
あけまして投下します

5THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:29:50 ID:VW/HurTw0


春川英輔の知識と知能をクローニングした人格プログラム。
それがHALの正体だ。
零からアメーバ一匹も創造できない21世紀の黎明において、プログラム上とはいえ自身の完全なる模倣を造り出す、当時からすれば途方もない偉業。
日本有数の天才である春川のデータを精密に模倣(コピー)し、思考と記憶を寸分違わず再現されている。
その意味ではまさしくHALこそは春川英輔の「もう一人の自分」だといえよう。

しかし春川はHALだが、HALは春川ではない。
国内のあらゆるサーバーにアクセスして瞬く間に掌握し、去った後は尻尾を掴む痕跡も残さない。
電脳空間で最適された意志持つプログラムによる、他と隔絶したハッキング能力。
これは電子上に住まうHALであるが故に獲得した能力であり、同等の頭脳を持つ春川であっても人間である限り、同様の成果を出す事は不可能に近い。
さらに寿命という概念の消失。あくまでデータの塊であり自己変革を繰り返すHALに肉体の生存限界は存在しない。
自らの手で消滅する、人間でいう自死の選択肢は春川から与えらておらず、外部の手で破壊されなければ幾らでもHALは存続できる。
永遠の計算。無制限の自己改革。それがHALに課せられた最大の、そして唯一の意義だ。

春川が死すともHALは消えず、その逆も然り。
これだけでも、既に二者は完全な同一個体とはいえないだけの差異が生じている。
『電人HAL』と自ら称したプログラムとは、いわば宿主が消えても地に残り続ける陽炎。人の背に張り付く影(シャドウ)でありながら個別した人格(ペルソナ)だ。

「……だが私と春川の目的は変わらない。
 その為の私であり、その為のHALだ。それを成す事のみこそ私は生きる。1ビットたりとも変化してはいない」

研究室。
最低限の明かりがあり、大型の冷蔵庫が稼働しているような音が鳴る暗い部屋で、いまや一人であるHALはいる。
春川として個人の身分と研究室を得ている現在、ここはHALの手で日々改造を施されている。
物理的にではない。春川の地位とマスターである能力を用いれば幾らかの資材を投入する事は可能かもしれないが、科学、物理を用いた防備がサーヴァントに有効になり得はしない。
コンクリートであろうがカーボンであろうが、霊体化なり、あるいはもっと直接的な攻撃なりで容易く陥落する他ない淡い砦だ。
ならばHALが行える、霊子の海におけるマスターの備えとは即ち―――

光の線が、部屋の壁から天井にかけてまで走った。
電灯は点いていない。この部屋を照らすのはコンピューターのスイッチや画面から出る光と、時折走る光条のみだ。
幾つかの光条が駆け巡り、暗闇に沈む部屋の内部を露わにする。
人の形はやはりHALのひとつのみ。それ以外には気配もない。
光が途絶える。部屋は再び闇に溶ける。光は循環しておりそう遠くない内にまた光条が走ってくる。
その僅かな間に、影も形も見えない中から声がした。

「儂を伴わずに敵方との交渉を済ませるとは、我が主も剛毅なものよ」

視覚無き世界で聞こえた、木の葉がこすれるような男の声。気配を察知させず存在のみを誇示するさまはアサシンのサーヴァントの見本となるべき手並みだ。
そのサーヴァント・甲賀弦之介のマスター、HALは当然驚くことなく従者の帰還を迎え入れた。

「裏の空間での私の性能は証明された。あそこでならサーヴァントをも凌ぐ相手に対しても私は優位に立てるよ」
「それほどに摩訶不思議なる空間が用意されてるとはな。不安要素はまだ残るが、使わぬ手はあるまい」
「ああ、侵入経路は限定されているが、ここに引き込めればより確実に勝利をものにできる。
 私の存在を嗅ぎつけ迂闊に近づいた者ほど罠に嵌め易くなる」

"噂"を元に見つけた、影の冬木市とでもいうべき空間。
その侵入を果たしたHALは独り精査をしている最中にも、アサシンに命じ表の冬木市で間諜の任を続行させていた。

6THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:30:31 ID:VW/HurTw0


「案の定、幾らか制御を外れた者がおる。完全に意識を取り戻さずとも、指令を忘れ無差別に破壊を振り撒く例が散見された。
 書面にあった者共の処理は終えたが、少数は握り潰す前に御用になってしまっている」
「あの英霊の性質に中てられたが故の暴走だからな。それも当然の理だ」

ベルク・カッツェの起こした騒動、その後処理である。
そもそもの発端とは、あの扇動のサーヴァントと接触したHALが彼の排除を目論んだ事が始まりとなる。
結果としてカッツェの討伐は成ったものの、その過程で生じた様々なトラブルの弊害はHALの戦略にも少なからず影響を及ぼした。
その最たるものこそ、カッツェの能力による電子ドラッグ感染者の暴走だ。

電子ドラッグの元の構造は犯罪願望の表層化。それを暴き立てるあのサーヴァントとの相性は格別に悪かった。
能力は元より性格が致命的に尽きる。保身を捨てた子供の癇癪じみた感情でHALの兵隊は狙いに定められ、その統制を大いに乱された。
その可能性を当然考慮していたHALだ。直後から手を走らせ迅速にネットワークを再構築してある。
けれどもどうしても取りこぼしは否めない。手が及ぶ前に異常行動に出る輩握り潰す事はかなわない。

憂慮すべきは、その他のマスターに目撃される事態だ。
あれだけ派手に騒いだ事態だ。直接関わらずとも遠巻きに見ていた陣営はどこにでもいたはず。
そうした相手にこそ俄然見つかる危険がある。
だからこそのアサシンの単独行動だった。本流の忍の英霊はHALよりもずっと速く現実での状況把握に向いてる。
兵隊の情報を握らせた上で、大学付近の一帯を走らせて虱潰しに監視させたのだ。
それによってHALも兵達の動きを完全把握し、被害を最小限に抑えることが出来た。

もっとも問題は。
その最小限こそが最大の被害となったことだったか。

「そうか、ホシノルリが気づいたか」

電子の妖精と名高い女性警視のマスターが電子ドラッグにたどり着いた事についても、HALに冷静さを奪うには及ばなかった。
むしろ順当な結果ともいえよう。警察の身分とカッツェのマスターを保護しているという二点から選出した相手だが、第二の狙いは彼女の品定めでもあった。
早期からターゲットとしていた、HALを上回る情報処理能力の正体。警視という権限ある立場。
宮内れんげというイレギュラーがなければ恙無くカッツェを仕留められていただろう。
その優秀さを鑑みれば、混沌下した街中で不審な兵に気づき電子ドラッグを解析する……という結果も予測の範疇だ。

「加えて、同様の能力を持つと思しき"ますたあ"と盟を結んだ様子。そちらも我らの兵を抑えており、傍らの英霊共々油断がならぬ」

シオン・エルトナム・アトラシアとの接触の場面も、弦之介は余さず観察していた。
HALの尖兵の安否の確認の為に街中を馳せていたのだから、そのうち二名も確保していた者に行き着くのは自明の理だ。
ここで更なる解析が及ぶ前に芽を潰すのがHALの従者としては常套であるが、そこは甲賀の忍、獲物を前に迂闊を見せる愚は犯さない。
呑気にも会話しているシオンのサーヴァントが、周囲を取り囲む結界を糸で編んでいたのを看破していた。
触れれば絡め取られるか、鳴子の要領で敵を感知するか。張り巡らされた隙のない配置。抜け目のない切れ者だ。
さらに敵は一騎ではない。必殺の瞳術といえど弱卒でもない猛者相手に軽率に使うべきではない。よって強襲は避け監視に留めていた。

「手を出す事を控えた君の慧眼に感謝しよう、アサシン。確かにホシノルリは難敵となる。同じくシオン・エルトナムについても油断を許されない相手となるだろう」

シオンの情報は、学生の身でありながら錯刃とは別の大学の研究室にも出入りするほどの才女という線から引き出せた。
穂群原学園はいまや魔境と化している。あそこから生き延びているだけでも手練れには違いない。あるいは元凶そのものか。

「だがそれでも、今の私の優位を崩すには届かない。
 リカバーは充分聞く範囲であり、巻き返しを許さぬ準備も整えてある」
「……捕らえられた兵から、此方の所在が割れる心配も無いのだな?」
「一人はランダムに選んだ人間。片方はうちの生徒だがそこからここに行き着くには理論の飛躍が過ぎる。
 あの二人の頭をどこまで洗おうと私と犯人を結ぶ線が伸びるのはあり得ない――――――とは言い切れないのが、聖杯戦争の恐ろしさだな」

見破られるのはまだ先の時間と豪語していた昼にも、HALの予想もつかない方法から正確に位置を見破られた出来事を思い出す。
電脳冬木市には古今東西の英霊の奇手妙手が揃っている。どれひとつとってもHALの牙城を飲み込む恐るべき津波。

7THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:31:47 ID:VW/HurTw0


「やはり、引きこもっているのはこの辺りが限界のようだな」

どの道、いつまでも穴蔵のまま勝てるなどとは思ってない。情報収集は勝利の為の策の一環。来る攻め時に確実な道程を築く方策。
見に徹し過ぎればいずれ機を見失い、受け身にならざるを得なくなる。

「―――いいだろう。ホシノルリ。シオン・エルトナム・アトラシア。魔神皇。まだ見ぬ数多のマスターよ。
 ここからは第二局面だ。0と1の世界の住人、電人HALの真髄を披露しよう」

静かなる宣言に呼応するように、床、壁、天井を伝う光条が一斉に励起した。
黒の空間を埋め尽くして流れる無数の光は、さながら宙を星々が舞う構図を思わせる。
あるいは魔術師の称するところの、『魔術回路』と呼ばれる小宇宙のイメージか。

これこそが、HALの施した改造の全容だった。
禍津冬木市にて試行し、採集したデータを元にした法則。これを表の冬木市でも再現が可能な空間の構築。
限定的だが、裏で示した能力の数割をここでなら引き出す事ができる。
これは驚くべき領域に指をかけた行為。遠く隔てた異邦の世界の法則をも学習し始めた、人工知能の進化過程。
いわばHAL流の魔術工房。電人本来の能力を現実でも発揮する術をHALは手にしたのだ。
ここでなら魔神皇やサーヴァント相手ならともかく、マスターを相手にまず遅れを取りはしないだろう。
兵隊とアサシンとで集めた情報を元に相手を燻り出し、新たな手札をぶつけこれを討つ。

「使える男か、あの引き入れた"ますたあ"は」

自らが離れている間にHALが新たに手に入れた"戦力"―――テンカワアキトに、弦之介は怪訝に尋ねた。
NPCを殺傷しお尋ね者となり切迫していたアキトを、保護と引き換えにHALが協力関係を結んだ形だ。
今は適当な配下の一人の家に入れ匿っている。NPCの警察の目をかいくぐるぐらいHALにはわけもない。

「直接戦闘に特化したクラス、殺意の塊のようなサーヴァントだ。加えて社会的立場の不利。
 切り捨てるに易く、使うには旨味がある。君にとっては最高の相性であり、私にとっては最適な同盟相手だ」

アキトの擁するバーサーカーは自陣営に欠けていた破壊力を持つ有用な戦力だ。
裏切りのリスクは常に控えているが、切るタイミングを選べる機会は圧倒的にHALにある。
元より乗らざるを得ない状況だからこそ持ちかけた提案。イニシアティブはこちらが握ってるといっていい。

軽快な電子音が部屋に鳴った。電脳工房の中、指の動きでデータごと手元に引き寄せ内容を解く。

「噂をすれば影だ。早速あちらから要求が来た。
 我等の走狗になる気はない、あくまで討つべき敵は自分で決める、か。フッまあいいだろう。有用性を示す為にも少しは好きにやらせておくか」

手早く望むものを仕込んだデータをメールに加工して送り出す。これでまたひとつ盤面が動いた事になる。
データでしかない体に、静かな熱が疼いてるのをHALは知覚した。
単なる一時のエラーかもしれない。戦士でも魔術師でもないHALに、戦争に沸き立つという感情はない。
春川であった頃から出会う事のなかった、同じ分野で自分と比肩し超える天才に興味を覚えこそすれ、目的を傾けるだけの指向が生じるわけもない。
ならばこれは、はじめから胸に抱いていた熱。
強敵を退け、艱難辛苦を乗り越え、聖杯を手にするという、初志の目的を認識したが故。
【刹那】に至る瞬間を想起した、ひとりの男から継いだ夢が生んだ熱(バグ)だった。

8THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:32:35 ID:VW/HurTw0










眠りを必要としないサーヴァントに、昼夜を通しての行動に支障はない。
魔力さえ足りてれば休息を挟まず連日で街中を駆け巡っていても疲労消耗とは無縁だ。
あるとすれば精神的な疲弊だが、歴戦の英雄が一日二日で音を上げようはずもない。
草木も眠る丑三つ時も超え、間もなく朝日が昇ろうとしてるこの時刻でも哨戒するアーチャー、アシタカもまた例外ではない。

あれから。
岸波白野の戻らぬアパートで待ち続け、流石に周囲の不審の目も出てくるようになって、遂に開かぬ扉をあとにした。
一応玄関には書き込みをしたメモ帳を入れてある。
聖杯戦争だのマスターだのといった内容を大っぴらに書くのははばかられたため、とりあえずは早苗の名前と連絡先、安否の確認を記してある。
帰宅した白野が手紙を読めば、少なくとも早苗の存在には気づきはする。そこから先は未知数だ。
監督役の少女は、聖杯について知りたいのであれば岸波白野を探すといいと伝えた。
けれど白野が味方になるとまでは言っていない。聖杯に詳しい事と好戦的である事は、合わさっても決して矛盾しない要素だ。
むざむざ所在を明かし、かえって襲撃を受けるかもしれない。逆に警戒され避けられてしまうかもしれない。
既に白野は敗退し、倒した方のマスターが戦利品替わりに見つけ、悪用される結果もあり得る。
そうした最悪の可能性を想定した上で、早苗は決めた。悪手でも、愚かでも、迷ったままでも。ひとつの心を決め、その心に従う行いをした。
サーヴァントであるアシタカはその決断をこそ尊ぶ。主が進む道を決めたならば、崖に足を踏み外さないよう眼前の霞を払う。
主従や忠義といった習いに囚われなかった生前だが、サーヴァントとして、傍らに付く隣人として、アシタカは早苗を支えるべく尽力する。

早苗は既に自室にて眠っている。
目立った傷も霊力の消耗もないが、精神の疲弊は重くのしかかっていたのだろう。
少し横になるだけと言っていたが、一時間も経たないうちに安らかに寝息を立ててしまった。
それでいい。あてもなく彷徨っても焦りばかり募り疲れが嵩むばかりだ。いずれ来るその時まで、休めるうちは休むべきだ。
アシタカも独断で戦火に飛び込む事はせず、斥候の役目に徹する。早苗の住居とは別のマンションの屋上に立ち、河を挟む街を見渡す。

遠方を見渡す千里眼。山を超えたもののけの存在を察する感覚が昇華した気配感知。多くの生命が息づく様をアシタカは見た。
街を祭りの最中であるかのように賑わす熱狂の渦。突如空に出現する船。
南に生い茂る森を焦がすほどの、燃え盛る無数の生命の雀躍。
見てるのみでは会話や表情、事の仔細を掴むまではいかない。しかし凄絶極まる戦いが繰り広げられていたのは違えようもない。
聖杯戦争は着々と進行している。早苗の煩悶など一顧だにせずに。失われる命の是非はともかく、それもまた揺るがぬ事実だ。


―――森から抜ける奇妙な影を捉えたのは、そんな時だ。


精錬な鎧姿の、金の髪の少女。
先日の朝にもその姿は見ていた。監督役を務める裁定者のサーヴァント、ルーラー。
彼女は一人ではなかった。年端もいかない幼い少女を連れている。手を取り歩調を合わせ、気遣う様子を見せながら。
その幼子にも、アシタカは見覚えがあった。早苗が気にかけていた、夜の街で同盟を組んだらしきサーヴァント二騎の傍にいた子供。
その子供がルーラーと一緒に連れられて歩いている。なんとも珍妙な光景だ。アシタカの関心の対象に視線は寄せられていく。
子供の方のサーヴァントはどうしているのか。ここからでは霊体化して付いているか判別がつかない。
二人はどこへ向かうのか。ルーラーの帰る先といえば教会だが、子供もそこに連れる気なのか。
拭えぬ疑問に悩み――――――――――自らに向けられた視線に総毛立った。

9THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:33:14 ID:VW/HurTw0


ビルの屋上から躊躇なく飛び降りる。生前騎馬もないままでは肝を冷やしたろう高さもサーヴァントになった今ではおそるるに足らない。
地面に足が着いてすぐさま弓と矢を手元に現出させ、即座に矢を番える準備を終える。歴戦のガンマンの早撃ちに似た、まさに瞬間の切り替えだった。
振り向く先には暗闇と人工の光源。人影は見受けられない。あくまでも視界内においては。

"―――――――――いる。"

眼よりなお鋭敏になった感覚が告げている。
この方角の先。姿は見えず、声も届かぬほど遠くの地点から、自分は視線を交差させていると。

おそらくはアーチャークラス。高い視力か、それに変わる感覚を備えた自分と同系統の能力の持ち主か。
矢が飛んでくる気配はない。あからさまに戦意があるでもない。不気味なほど変化はなく、空は静寂だ。

"――――――――――仕掛ける気はない、か"

向こうが感じた以上、こちらが見返すのも感じてるはず。
自分と同じく、斥候の任を優先としていたのだろう。そして同じ対象を見ていた事でかち合った。
ルーラーの挙動には誰もが注目する。その点を見過ごし関心を傾け疎かにしていた己の落ち度だ。

視線が逸れた気配はない。向こうもどう出るか考えあぐねていると見える。
実体の構成を解れさせる。睨み合いを続けていても埒が明かない、こちらから潔く身を引いておくべきだろう。
第三の観察者が現れないとも限らないのだ。ここで泥沼化は避けたい。
早苗の住むマンションからはやや離れているが、追跡を撒く予防策だ。
風に流されるが如く、霊体化したアシタカは夜気に溶け街に降りていった。










「――――――引いたか。賢明な判断だな」

完全にサーヴァントの気配が絶たれたのを確認してから、矢にかけた指から手を離す。
アシタカが向けていた視線の先。新都と深山町とを繋ぐ赤い大橋の上。鉄骨に立つ赤い外套は、クラスを同じ弓兵とするサーヴァント、エミヤだ。
忍者のサーヴァントを討ち倒した後にも休息を挟まず偵察に出ていた中でのサーヴァントの感知。
すぐに身を隠されてしまったため姿は確認できずじまいだったが、同じアーチャーのクラスと当たりをつける。
弓兵の鷹の眼から逃れ狙撃のリスクを真っ先に殺した動きは、同じ戦法を用いるが故と思ったからだ。
少なからず消耗の身、事を荒立てる気はなかったが、それはお互い様だったらしい。緊迫した雰囲気は一瞬で、あちらから霊体化して範囲から離脱していった。
状況を読み身を引く冷静さ。共闘する候補に一考しておいてもいいだろう。
とはいえ相手の顔も声も禄に視認出来ていない、通路でたまたま視線が重なった程度の交錯だ。
少なくとも、今はまだ意味を持つ事のない接触だ。

切嗣は先に拠点に帰してある。あそこに潜む別の暗殺者(アサシン)の警戒からだ。
念入りに追跡の可能性を潰し、未だ騒然とする雑踏に紛れ、複数ブラフを撒きもした。令呪も因果線(ライン)の異常もなく、マスターは未だ無事だ。
戦闘中を見計らっていたのなら、アサシンのマスターだけでなく切嗣も闇討ちをかけられてもおかしくなかった。
身を潜めていたのが功を奏して運良く発見されずに済んだか。確率では半々だ。
サーヴァントの守りなきマスターに及ぶ暗殺者の牙がどれだけの驚異となるか。それを承知している切嗣は、夜が明けるまで行動は控える予定だ。
これもまた複数のクラスが入り乱れる方舟の聖杯戦争ならではの着眼点だろう。既存の知識を更新しただけでも生き延びた甲斐はあった。

こうして冬木の街を俯瞰していても、戦闘行為は禁じられ偵察のみに留めている。
新都と深山町と結ぶ赤い大橋。その鉄骨の上に立ち街の全景を見渡している。
C-6地区―――大学のある場所で起きた暴動は収まったようだ。生憎切嗣を運ぶ最中だったので、事の成り行きを見届ける事は叶わなかったが。
さぞ複数のサーヴァントがひしめき合う伏魔殿だったろうが、見る限り派手な破壊の跡はなく比較的戦闘の規模は広がらなかったようだ。
破壊の度合いでいえば、南の森林地帯の方こそ甚大そのものだ。
森が丸ごとくり抜かれたような跡。圧倒的に呵責なき破壊。随分と血の気の多い輩もいたものだ。
自分達も知る、図書館で交戦した紅血の吸血鬼。あれだけの戦鬼であれば宝具を開封すれば、この被害も頷けるか。
鬱蒼と生い茂る森林地帯という戦場も、アーチャークラスの千里眼にとって視界の障害にはならない。

10THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:33:56 ID:VW/HurTw0


二騎の英霊は倒れ、マスターもまた森を出た様子もない。
それはいい。潰し合いの末勝者も敗者も共倒れになった。労せず難敵が落ちた最良の展開だ。
懸念はルーラーに手を引かれていた、年端もいかない少女の存在。
単なる巻き込まれたNPCにしては行き過ぎた保護。マスターだとすれば尚更に平等の立場である裁定者の座が揺れる。
なにがしかの異常。ルールにない不測の事態が発生したか。

「システムの異常。規格外のサーヴァントとらしくもないマスター。
 まあ、珍しくもないが」

それ以上の追求もせず、橋から動かずに街を見やる。
方舟のマスターにはNPCの時代から引き継いだ役割がある。学生や公務など制限を受ける職であれば朝に向けて準備をしている時分だ。
ここで派手に事を仕出かす真似もすまい。街の暴動と、森の大戦。一日目に起こる戦いはこれにてお開きとなるだろう。
斥候はここらで終わらせマスターに報告する段だ。切嗣は今も一睡もせず情報の整理作業に没頭してるだろう。
決して無傷の体ではないが行動に問題ない以上、寸暇を惜しんで次の戦略を巡らせてるはずだ。

つまり、自己の思惑に没頭できる時間は、今だけということだ。


――――――この聖杯戦争は正常なるか否か。


方舟内に再現された冬木市に召喚されて以来、常に思考の隅に置いていた問題。
概要こそ召喚直後に書き加えられた基礎知識に入ってるが、確証を得るには心許ない。
しかし自身にはそれを調べる方法も、時間も、多くは残されていない。
唯一といえる手段は、このまま勝ち進み最期の一組に残ること。
優勝者となれば自然聖杯へ繋ぐ扉は開かれ、真実も明らかとなるだろう。地道ではあるが確実だ。
元より勝ち残る気でいるのだから方針を変える事もない。
仮に聖杯に異常があり、悪災を撒き散らす代物だとすれば、その時は破壊すればいい。そこの判断を過つ衛宮切嗣ではない。
多くを救うという正義の為に少数の犠牲を厭わないという裁定は、自身の願いすらも傾く天秤に置く事を選ぶのも躊躇しない。

だからこのまま続ければいい。
敵を出し抜き、慮外から不意打ちを食らわせ、人情の訴えも無視して、速やかに掃討すればいい。
いつもの掃除屋の仕事と同じだ。意思のあるなし程度の差で、血潮にまで染み付いた殺戮の技巧が鈍りはしない。
仮想世界の疑似生命の住人と何処とも知れぬ世界のたかだか二十数名。世界の維持の為には取るに足らない犠牲。

ああ、けど。
全てを殺し尽くして、ただ独り立つ勝利者である彼を待つものが、あの日の地獄に送り出すだけなのだとしたら。
そんなものは始まり(ゼロ)に至るだけで、全ての行いは虚無(ゼロ)でしかない。

元の世界に帰還した切嗣がどのような状況に置かれるかは分からない。
異世界に流れた影響は歴史の流れを歪ませ、世界の修正の利かない事象の変化を及ぼしかねない。
そうなれば、この切嗣の行動で座に刻まれた己がどうなるわけもない。
己が死に、生まれ直した運命の日を回避したとて、還るものはない。

聖杯の力が真実本物であれば、いい。切嗣の願い。どれだけ子供じみた絵空事の理想でも現実に叶うのならば構わない。
英霊エミヤという機構が二度と生まれない世界――――――それは己の願いにも合致する。

「これは奇跡か、迂遠な嫌がらせか、それとも最後のダメ押しのつもりなのか――――――
 なんにせよ機会をくれたというのなら利用させてもらうとしようか」

待ち受ける未来、突きつけられる結末を思い描いても、男はいつものように皮肉げに笑った。

11THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:35:49 ID:VW/HurTw0









奪われたものを取り戻す為に、大切な思い出を捨てた。

悩もうが嘆こうが嗤おうが、自分で切り捨てたものはもう返ってこない。

飼い犬も傀儡も今更だ。どう思われようと、胸の欠けた穴の懊悩に比べれば苦痛にすらならない。



『もう一人の自分に出会わなかったのか』。
表に戻る手段も不明で、戻ったところで逃げ場がない立場にいる中での誘い。
そんな分かりきった答えより前に、提案を持ちかけた相手にそんな問いを投げかけた。
返ってきた答えは要領を得ず曖昧だったが、あの空間が電脳空間であれば、そこを自在に操るこいつはそれこそ誰かの作った"自分"なのかもしれない。


鈍る眼でも感じる光が、夜が明けたのを告げる。
どこの誰とも知らない、自意識が飛んだとしか思えない虚脱した連中が用意した部屋に連れられてから一夜。
つまりはもう、開戦の合図だ。
たが。それより先に。



『………………条件がある』
『今から言う二人の情報を教えろ。特に――――の方は――――――――――』



最初に同盟を組んだ相手。

戦わず、他愛のない話をしただけの少女。

自分を揺さぶる問いを投げかけ、不合理な宣言を目の前で告白した彼女。



記憶を取り戻してから、自分が最も"自分"らしかった時。
"自分"を殺した自分が持っていてはいけない思い出を、捨てなければならない。

12THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:36:59 ID:VW/HurTw0

【C-6/錯刃大学・春川研究室/二日目・早朝】


【電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]『コードキャスト:電子ドラッグ』
[道具] 研究室のパソコン、洗脳済みの人間が多数(主に大学の人間)
[所持金] 豊富
[思考・状況]
基本:勝利し、聖杯を得る。
 1.潜伏しつつ情報収集。この禍津冬木市は特に調べ上げる
 2.ルーラーを含む、他の参加者の情報の収集。特にB-4、B-10。
 3.他者との同盟,あるいはサーヴァントの同時契約を視野に入れる。
 4.ホシノルリを『ハッキングできるマスター』として認識。排除の方法を練る。
 5.魔神皇の陣営を警戒
 6.テンカワアキトを利用。しばらくは好きにさせる。
[備考]
※洗脳した大学の人間を、不自然で無い程度の数、外部に出して偵察させています。
※大学の人間の他に、一部外部の人間も洗脳しています。(例:C-6の病院に洗脳済みの人間が多数潜伏中)
※ジナコの住所、プロフィール、容姿などを入手済み。別垢や他串を使い、情報を流布しています。
※他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒しており、現在数人のNPCを通じて監視しています。
 また、彼はルーラーによって行動を制限されているのではないかと推察しています。
※サーヴァントに電子ドラッグを使ったら、どのようになるのかを他人になりすます者(カッツェ)を通じて観察しています。
 →カッツェの性質から、彼は電子ドラックによる変化は起こらないと判断しました。
  一応NPCを同行させていますが、場合によっては切り捨てる事を視野に入れています。
※ヤクザを利用して武器の密輸入を行っています。テンカワ・アキトが強奪したのはそれの一部です。
※コトダマ空間において、HALは“電霊”(援護プログラム)を使えます
※自分の研究室を"工房"に改造しました。この空間内なら限定的にコトダマ空間内での法則を使えます。
※テンカワアキトと協力関係を結びました。適当な配下のNPCの家に匿っています。

【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク 〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:健康
[装備]:忍者刀
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:勝利し、聖杯を得る。
 1.HALの戦略に従う。
 2.自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。
 3.性行為を行うサーヴァント(鏡子)、狂想のバーサーカー(デッドプール)への警戒。
 4.戦争を起こす者への嫌悪感と怒り。
[備考]
※紅のランサーたち(岸波白野、エリザベート)と赤黒のアサシンたち(足立透、ニンジャスレイヤー)の戦いの前半戦を確認しました。
※狂想のバーサーカー(デッドプール)と交戦し、その能力を確認しました。またそれにより、狂想のバーサーカーを自身の天敵であると判断しました。
※アーチャー(エミヤ)の外見、戦闘を確認済み。


[共通備考]
※『ルーラーの能力』『聖杯戦争のルール』に関して情報を集め、ルーラーを排除することを選択肢の一つとして考えています。
 囮や欺瞞の可能性を考慮しつつも、ルーラーは監視役としては能力不足だと分析しています。
※ルーラーの排除は一旦保留していますが、情報収集は継続しています。
 また、ルーラーに関して以下の三つの可能性を挙げています。
 1.ルーラーは各陣営が所持している令呪の数を把握している。
 2.ルーラーの持つ令呪は通常の令呪よりも強固なものである 。
 3.方舟は聖杯戦争の行く末を全て知っており、あえてルーラーに余計な行動をさせないよう縛っている。
※ビルが崩壊するほどの戦闘があり、それにルーラーが介入したことを知っています。ルーラー以外の戦闘の当事者が誰なのかは把握していません。
※性行為を攻撃としてくるサーヴァントが存在することを認識しました。房中術や性技に長けた英霊だと考えています。
※鏡子により洗脳が解かれたNPCが数人外部に出ています。洗脳時の記憶はありませんが、『洗脳時の記憶が無い』ことはわかります。
※ヴォルデモートが大学、病院に放った蛇の使い魔を始末しました。スキル:情報抹消があるので、弦之介の情報を得るのは困難でしょう。
※B-10のジナコ宅の周辺に刑事のNPCを三人ほど設置しており、彼等の報告によりジナコとランサー(ヴラド3世)が交わした内容を把握しました。
※ランサー(ヴラド3世)が『宗教』『風評被害』『アーカード』に関連する英霊であると推測しています。
※ランサー(ヴラド3世)の情報により『アーカード』の存在に確証を持ちました。彼のパラメータとスキル、生前の伝承を把握済みです。
※検索機能を利用する事で『他人になりすます能力のサーヴァント』の真名(ベルク・カッツェ)を入手しました。

13THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:37:31 ID:VW/HurTw0

【C-7(北西)/民家/二日目・早朝】


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]毛細血管断裂(中)、腹部にダメージ(中)、魔力消費(小)
[令呪]残り二角
[装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾
[道具]地図(借り物)
[所持金]豊富、ただし今所持しているのは資材調達に必要な分+α
[思考・状況]
基本:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を
 1.他のサーヴァントの情報を得る。
 2.他のマスターに同盟、休戦を打診する。
 3.使えそうなNPC、および資材の確保のため街を探索する。
 4.好戦的なマスター、サーヴァントには注意を払っておく
[備考]
※この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。
※NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。
※この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。
※搬入業者3人に暗示をかけ月海原学園に向かわせました。昼食を学園でとりつつ、情報収集を行うでしょう。
 暗示を受けた3人は遠坂時臣という名を聞くと催眠状態になり質問に正直に答えます。
※今まで得た情報を基に、アサシン(吉良)とランサー(エリザ)について図書館で調べました。
 アサシンは真名には至ってませんが、ランサーは次に調べれば真名を把握できるでしょう。
※アーチャー(エミヤシロウ)については候補となる英霊をかなり絞り込みました。その中には無銘(の基になった人)も居ます。
※アーチャー(アーカード)のパラメーターを確認しました。
※アーカードを死徒ではないかと推測しています。
 そして、そのことにより本人すら気づいていない小さな焦りを感じています。
※NPCから受け取った情報の詳細は、次の書き手に一任します。


【C-7/冬木大橋/二日目・早朝】

【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Staynight】
[状態]身体の右から左に掛けて裂傷(中)、疲労(中)、魔力消費(大)
[装備]実体化した時のための普段着(家主から失敬してきた)
[道具]なし
[思考・状況]
基本:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を
 1.切嗣の元に戻る。見た内容の報告を。
 2.出来れば切嗣とエミヤシロウの関係を知られたくない。
[備考]
※岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。
※エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しました。B-4での戦闘を見てその考えを強めました。
※『殺意の女王(キラークイーン)』が触れて爆弾化したものを解析すればそうと判別できます。ただしアーチャーが直接触れなければわかりません。
※バーサーカー(黒崎一護)の仮面の奥を一瞬目撃しました。
※B-4での戦闘(鬼眼王バーン出現以降)とその顛末を目撃しました。
※C-6での暴動、D-9での戦い、そこから出てきたルーラーとれんげを遠巻きに観察しました。C-6は切嗣を帰すタイミングで把握は半端です。
※アシタカの姿は視認出来ていません。

[共通備考]
※C-7にある民家を拠点にしました。
※家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。
※吉良吉影の姿と宝具『殺意の女王(キラークイーン)』の外観のみ確認しました。
 宝具は触れたものを爆弾にする効果で、恐らくアサシンだろうと推察していますが、吉良がマスターでキラークイーンがサーヴァントだと勘違い。
 ただし吉良の振る舞いには強い疑念をもっています。

14THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:38:38 ID:VW/HurTw0

【C-9/マンション(自宅)/二日目 早朝】

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:健康
[令呪]:残り2画
[装備]:なし
[道具]:今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか
[所持金]:一人暮らしには十分な仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺したくはない。誰にも殺し合いをさせたくない。
1.岸波さんは……
2.岸波白野を探し、聖杯について聞く。
3.少女(れんげ)が心配。
4.聖杯が誤りであると証明し、アキトを説得する。
5.そのために、聖杯戦争について正しく知る。
6.白野の事を、アキトに伝えるかはとりあえず保留。
[備考]
※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。
※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが、あくまで外観的情報です。名前は把握していません。
※カレンから岸波白野の名前を聞きました。
岸波白野が自分のクラスメイトであることを思い出しました。容姿などは覚えていません。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※アキト、アンデルセン陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。なお、彼らのスタンスについて、詳しくは知りません。
※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)のパラメータを確認済み。
※アキトの根城、B-9の天河食堂を知りました。
※シオンについては『エジプトからの交換留学生』と言うことと、容姿、ファーストネームしか知らず、面識もありません。
※岸波白野の家の住所(C-8)と家の電話番号を知りました。
※藤村大河の携帯電話の番号を知りました。
※白野の自宅ポストに名前と連絡付きの手紙を入れてあります。(聖杯戦争に関わる内容は書かれていません)


【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】
[状態]:健康
[令呪]
1. 『聖杯戦争が誤りであると証明できなかった場合、私を殺してください』
[装備]:現代風の服
[道具]:現代風の着替え
[思考・状況]
基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る。
1.早苗を護る。
2.使い魔などの監視者を警戒する。
[備考]
※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※教会の周辺に、複数の魔力を持つモノの気配を感知しました。
※吉良が半径数十メートル内にいることは分かっていますが詳細な位置は把握していません。吉良がアシタカにさらに接近すればはっきりと吉良をサーヴァントと判別できるかもしれません。
※C-6での暴動、D-9での戦い、そこから出てきたルーラーとれんげを遠巻きに観察しました。
※エミヤの姿は視認出来ていません。
[共通備考]
※キャスター(暁美ほむら)、武智乙哉の姿は見ていません。
※キャスター(ヴォルデモート)の工房である、リドルの館の存在に気付いていません。
※リドルの館付近に使い魔はいません。
※『方舟』の『行き止まり』について、確認していません。
※セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)、シオンとそのサーヴァントの存在を把握しました。また、キャスター(シアン)を攻撃した別のサーヴァントが存在する可能性も念頭に置いています。
※キャスター(シアン)はまだ脱落していない可能性も念頭に置いています。

15THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:38:54 ID:VW/HurTw0

【?-?/(HAL配下の家)二日目・早朝】


【テンカワ・アキト@劇場版機動戦艦ナデシコ-Theprinceofdarkness-】
[状態]疲労(大)魔力消費(大)、左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲
[令呪]残り二画
[装備]CZ75B(銃弾残り5発)、CZ75B(銃弾残り16発)、バイザー、マント
[道具]背負い袋(デザートイーグル(銃弾残り8発))
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
1.早苗を――――――
2.五感の異常及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
3.利用されてると分かっていてもHALに協力。
[備考]
※セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
※演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
※ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
※割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
※寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
※D-9墓地にミスマル・ユリカの墓があります。
※アンデルセン、早苗陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。
※美遊が優れた探知能力の使い手であると認識しました。
※児童誘拐、銃刀法違反、殺人、公務執行妨害等の容疑で警察に追われています。
 今後指名手配に発展する可能性もあります。
※HALと協力関係を結びました。適当な配下のNPCの家に匿われています。


【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]ダメージ(中)
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
※警官NPCを殺害した際、姿を他のNPCもしくは参加者に目撃されたかもしれません。

16 ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:40:00 ID:VW/HurTw0
投下終了です。今年も細々とよろしくお願いします

17名無しさん:2019/01/09(水) 23:41:39 ID:0OhwzuoY0
投下乙です!
アキトさん、ついに早苗と決着を着けるのか?

18 ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:48:32 ID:y0KF6vnQ0
お久しぶりです
避難所に仮投下していたものをこちらに投下します

19『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:50:06 ID:y0KF6vnQ0

これはまだ日を跨ぐ前、B-4エリアからバーサーカー、黒崎一護が主の下へ帰還した直後のことだった。



(思っていたほど魔力が枯渇していない?)

令呪の内容を消化し戻ってきた一護の状態、美遊自身のコンディションを一通りチェックして意外な事実に気がついた。
彼は違反行為があったという主従がいる、恐らくは多くの主従が集まってきたであろう激戦区に行っていたはずだ。
それなのに美遊の魔力はほとんど持っていかれておらず、一護も魔力が枯渇ないし枯渇寸前といった様子には見えない。
不可解な出来事に首を傾げるばかりだった。

この時点においてまだサファイアを取り戻していない美遊に視覚共有などという芸当はこなせない。
故に一護が出向いた先で何があったのかは推測する他ないが、いくら何でもロクな戦闘もなくさっさとサーヴァントを斬り伏せて戻ってきたなどと楽観的な思考はしない。
戦闘自体は行ったはず。それも場所がB-4なら超速再生を使わされるような事態も複数回あったと考えて然るべきだ。

(……まさか、バーサーカーの貯蔵魔力だけで乗り切った?)

サファイアはない。しかし美遊の魔力はほとんど使われていない。
だとすればもうこの可能性ぐらいしか考えられない。
考えてみればこれまでの美遊は一護への魔力提供に専念していた。僅かでも魔力不足に陥ることのないよう魔法少女としての機能を全て切って。
そうしていたのは「バーサーカーは消費魔力が他クラスより段違いに多い」という聖杯から齎された基本的な情報が頭に入っていたからだ。
だからテンカワ・アキト(この時点で美遊はガイという名前だと認識していたが)のバーサーカーと戦った時もアキトに取り押さえられる瞬間まで一護への供給は続いていた。
つまりあの時点で一護は彼が保有できる魔力貯蔵量の上限いっぱいまで魔力を溜め込んでいた。

(だとすれば―――戦っていない時の魔力供給さえ怠っていなければ、供給を完全に切っても一回は全力で戦闘ができる!?)

この瞬間、美遊はようやく一護の魔力消費量を過大に見積もり過ぎていたことに気がついた。
あるいは聖杯からの知識を額面通りに受け取りすぎていた。
バーサーカーは殊更に魔力を喰う、マスターに特段の負荷をかけるクラスである。これは事実だ。
またバーサーカーとして現界した黒崎一護は戦闘に大量の魔力消費を要し宝具に至っては令呪の補助なしには使えない。これも事実だ。
しかし―――だからといって最高のコンディションの状態から通常戦闘を一回行った程度で枯渇するほど魔力保有量の少ない、脆弱な英霊では断じてない。



美遊の想像は半分は外れていたが半分は的中していた。
一護はB-4では消滅寸前の槍兵を一息に斃して美遊の下へ帰還したが、B-4に辿り着く前にはアーチャー・エミヤと交戦していた。
数々の投影宝具を用いて的確に一護の弱点を突いたエミヤの奮戦によって一護は何度も超速再生を使わされており、魔力放出じみた飛ぶ斬撃も使用している。
それだけの抵抗を受けた上で、ある程度の魔力を残したまま美遊の下まで戻ってきた。
これは前述の通り事前に魔力を十分に貯め込んでいた故のことでもあるが、もう一つ美遊が知らない理由が存在する。

そもそもサーヴァントというカタチに当てはめ劣化させた状態で現界させているとはいえ、英霊を人間の魔力だけで維持することは極めて困難だ。
それこそ代を重ねた家系の一流の魔術師ですら維持するだけで魔力の大半を持っていかれる。
その問題を解決するため、聖杯戦争の期間中は聖杯がある程度サーヴァントの現界維持に必要な魔力を肩代わりしている。
とはいえここまでしても魔力を持たない一般人ではサーヴァントを運用することは難しい。
通常戦闘を行うだけでも数日に渡る魂喰いを必要としたケースも存在するほどだ。

20『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:50:52 ID:y0KF6vnQ0

だがこの聖杯戦争では一般人のマスターが多数参加しているにも関わらず、魂喰いによらずある程度の継戦を行えたサーヴァントが複数いる。
ニンジャスレイヤーなどはその最たる例だろう。単独行動のスキルを持つとはいえマスターを失った後ですら複数回に渡る戦闘行為を行えていた。

何故このような現象が起きたのか。その答えは聖杯がサーヴァントに対して働きかけるバックアップの差にある。
もとより魔術的資質の有無を問わずゴフェルの木片を持つ者を無作為にマスターを招集したのがこの聖杯戦争だ。
そのため通常の聖杯戦争よりも聖杯がサーヴァントを維持するバックアップが大幅に強くなっているのである。
この通常以上の聖杯によるサーヴァントへのバックアップは当然一護にも働いていた。
こうした要因もあってそれなりの余力を残したまま令呪の命令を消化して帰還することができたのだった。




(もしそうだとしたら、わたしがそうと気づいていなかっただけで、使える手札は無限に広がる!)

例えば今までの美遊がやっていたのは、携帯端末やポータブルゲーム機のバッテリーを常に最大に保つようなものだ。
当たり前だがその状態で充電し続けても大した意味はない。よほどバッテリーが摩耗していない限り充電をやめて即バッテリー切れなんて事態にはなり得ないからだ。
つまり今までしていたのはそういう類の、安全策ではあるが無駄が多すぎる行為だったということだ。

であれば、一護をを戦闘させながらにしてカレイドの魔法少女、そのフルパワーを敵マスターにぶつける戦術が成立することになる。
何より、短時間であれ魔力供給を行わなくて良い時間が発生するのであれば美遊自身の戦力でも最大の切り札の運用が現実的になる。

セイバー、アーサー王の力を宿したクラスカード、その宝具の名は『約束された勝利の剣』。
聖剣というカテゴリーでも最強の一角たる宝具の真名解放が可能になる。
「今回はバーサーカーへの魔力供給も行わなければいけないため、真名解放は無理だろう。」。これは一面の事実ではあるし、つい先刻まで美遊もそう確信していた。
しかし、全ては考え方一つだったのだ。想像と発想一つで出来ることと可能性は増える。
とはいえ使えても一度の戦闘につき一度きり、使えば数時間はカードの再使用は不可になりおまけに一瞬とはいえ転身そのものが解けるリスクもある。
特に転身解除がどれだけ致命的な隙かは、夕方の戦闘を思い返せば火を見るよりも明らかではある。

だが手段を「使える」と「使えない」のとでは天と地の差がある。
今思いついた供給をカットした戦術にしても戦闘が長引いたり、敵が予想外の手を使ってきたら容易く破られ得る。
その逆に当初やっていた魔力供給に全てのリソースを使うやり方もそれ自体が全てにおいて駄目だったのではなく、それ一つだけを押し通そうとしたから負けたのだ。
また少し前に考えた魔術回路をフル稼働させて魔力供給と魔法少女の機能を両立する策も魔術回路への過剰な負荷というデメリットは厳然として存在する。もちろんいざという時には回路が焼け付くことも辞さないが。
重要なのは己に出来ることと出来ないことを把握することと、実戦での判断・取捨選択を誤らないことだ。

先ほどのアキトとの戦闘を例に出せばわかりやすい。
この時点での美遊からすれば名称すらわからない転移術の使い手に一本調子の攻めが通じるほど甘くはない。
あの奇襲に確実に反応し、かつ返す刀で仕留めるならクラスカード・セイバーの夢幻召喚が必要だ。
しかしあの転移術の発動条件や予備動作の有無によってはそれすら容易ではない。
……そうなれば、やはり令呪を用いた一撃必殺の奇襲攻撃に活路を見出す他ないか。


(でも、結局サファイアとクラスカードが手元にないことには始まらない)

…と、色々と考えてはみたものの、全てはサファイアとカードを取り戻せてからの話だ。
残念ながら今必要なのはサファイアを使った運用ではなく彼女を取り戻すための策を考えることだ。
そのためなら二画目の令呪を使うことだって辞さない。まずは港に行く、全てはそれからだ。



―――そんな、相棒と再会する少し前の出来事だった。

21『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:51:35 ID:y0KF6vnQ0






  ◆   ◆   ◆





間もなく夜が明けんとする空を少女と死神が駆けてゆく。
新都から深山町へと向かう中、カレイドステッキ・マジカルサファイアは思考を巡らせていた。

(これで……このままで良いのでしょうか)

聖杯戦争が本格的に始まって一日経過し、とりあえず美遊は五体満足で生存している。
テンカワ・アキトに不覚を取りはしたものの、結果的には令呪一画の損失で済み相手にも社会的な損害を強いることに成功した。
テンカワ・アキトとホシノ・ルリ以外のマスターに関してはほぼ情報が無いというのが大きなネックではあるが、それは今後の立ち回り次第で補えないこともない。
何よりサファイアが安堵しているのは、今のところ美遊が直接人間を殺す事態にはなっていないことだ。

……詭弁に過ぎないことはわかっている。
聖杯戦争では契約サーヴァントの死はマスターの死。つまりサーヴァントの撃破は実質的なマスターの殺害だ。
美遊、一護、そしてサファイアは予選で一騎、昨日に一騎サーヴァントを討ち取っている。
であれば見えないところでマスターもアークセルによって消去されているはずだ。
つまり殺人という大きな一線は既に越えてしまっており、その事実にいつまでも目を向けないほど美遊が鈍感でないことも知っている。
あるいは既に自覚してしまっているからこそ優勝狙いへと舵を取るようになったのかもしれない。

そこまでのことを重々承知していながらも、やはり生きた人間に対して直接手を下すような真似はさせたくないと思わずにいられない。
けれど現実はどこまでも非情で、サファイアが美遊にさせたくないことはこの世界で生き残るにあたって必要不可欠なことでもある。
生還できるのは最後まで残った一組のみ。この殺し合いを勝ち抜くことでしか元の世界に帰る道はない。
敵対陣営を倒すにあたってより確実なのはサーヴァントよりマスターを狙うことであり、現に美遊もマスター狙いの攻撃をされたことがある。
そして美遊には敵マスターを屠るに足るだけの力がある。それが幸か不幸かサファイアには判じ得ない。



『美遊様、先ほどのことですが』
「何?」
『本当にこれからは美遊様も戦闘に参加するのですか?』



テンカワ・アキトを策に嵌めてから少し後、美遊はこれから先「全員で戦う」ことについての具体案を出してきた。
これまでの一護に戦闘の全てを任せるスタイルを改めてカレイドの魔法少女の力を出していくと。
状況に応じて一護への供給を行いつつ余剰魔力で魔法少女の能力も護身に使う、魔術回路をフル稼働させるスタイル。
それに加えて予め一護の魔力保有量の限度まで魔力を蓄えさせたという前提で、戦闘中の一護への供給をカットし魔法少女の機能を全開にする、普段の戦い方に限りなく近いスタイル。

確かに可能ではあるだろう。
美遊と合流した際も美遊、一護ともに魔力量には余裕があったことを覚えている。
というより、サファイアは当初から気づいてはいたのだ。
そも並行世界からの無限の魔力供給機能を統括しているのはサファイアだ。どこにどの程度魔力が割かれているかなど当然熟知している。
知った上で、魔力運用次第で戦闘に魔力を割く余裕があることを敢えて黙っていた。
全ては美遊が直接戦わずに済めば、という祈り、あるいは願望から来る思いだった。

カレイドの魔法少女の力は元々クラスカード回収、つまり黒化し現象に劣化したとはいえサーヴァントを相手取ることを前提としたものだ。
正規のサーヴァントには及ばないとは言ってもマスター、人間を基準にすれば圧倒的にも程がある性能であることも事実だ。
加えて夢幻召喚は一時的とはいえ英霊の力を借り受ける絶技であり、敵からすればサーヴァントが二体になるようなもの。

そんなマスターが聖杯戦争の序盤から猛威を奮えばどうなる。
恐れられ、警戒され、全方位から攻撃を受けるか常にアサシンによる暗殺を狙われることは目に見えていた。
ならば本来出せる力を眠らせたままにしておき、ただのバーサーカーのマスターと認識してもらう方がまだしも都合が良い、と判断した。

22『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:52:34 ID:y0KF6vnQ0



「うん。バーサーカーの力押しは確かに強いけどそれ一本じゃ簡単には押し切れない。
わたしたちも戦ってバーサーカーを援護しないと勝てるものも勝てない。
それにマスター狙いの攻撃も多いから守りを固めておくのは大事」
『……そう、ですね』



だがそれでどうなった。
まんまとテンカワ・アキトの術中に嵌り敗北したではないか。
あの敗戦にしてもたまたまアキトに美遊を利用する目論見があったから首の皮一枚繋がっただけで本来なら死んでいる。
美遊がさしたる力を持たない子供のように振る舞おうとも聖杯戦争という現実は誤魔化せやしない。
力を見せつけようがそうでなかろうが他の主従は当然のセオリーとしてマスター狙いを実行してくる。

であれば最早能力の出し惜しみなどしていられる状況ではない。
本気を出し惜しんだまま殺されるようならそんな本気は存在しないも同然だ。
畏怖されようと警戒を招こうと持てる力を出し切らねば生き残ることはできない。

(ホシノ・ルリ……私は貴方が恨めしい)

もし、もしもここに至るまでのどこかで美遊を預けるに足る信頼できるマスターがいたならば。
殺し合いに乗らずに月からの脱出、ないしは聖杯戦争の打破を目的とするような善良な誰かと出会えていれば。
美遊が優勝を目指す意志を固めてしまう事態を避けることができたのかもしれない。

だが結果としてそうはならなかった。
美遊の幼稚園児以下の対人折衝能力も要因の一つではあっただろう。
少なくともアンデルセンから早々に逃げ出したことやアキトに令呪を使わされたことに関してはこちらにも明確な非があった。
しかし彼女―――ホシノ・ルリだけは違った。





  ◆   ◆   ◆





―――その可能性は予想できていたことだったが、しかし出来ることなら的中してほしくはなかった。


「出来れば───貴女が知っていることを、話してもらえないでしょうか」


昨日の午後から夕刻に差し掛かるあたりの頃、交戦の意思はないと言いながら美遊の前に現れた警察官らしき女性、ホシノ・ルリ。
彼女との対話には常に緊張感が漂っていた。とりわけ美遊の警戒心は過剰なまでに高まっており、あるいはルリは美遊のそういう態度に思うところがあったのかもしれない。

だがサーヴァントを連れたマスターがマスターとして交渉に臨む以上互いが臨戦態勢を取るのは至極当然の話だろう。
あくまで日常の延長で、表向きでも一人の神父として美遊に関わったアンデルセンの時とは会話をする上での前提が違う。
ましてやあの場所はサーヴァント同士が戦闘を行う上で騒ぎになりにくい絶好のロケーションだった。
これで騙し討ちを警戒されないとでも思っていたのだろうか?

会話をしていても、美遊の警戒心が高まるのも無理はない胡散臭さだった。
聖杯に関してルリも考えるところがあったのだろうが、それにしても脱出するつもりなどと嘯きながらその実具体的なことに関しては何一つ触れようとしなかった。
また話し方も美遊から一方的に情報を引き出そうとカマをかけているのがサファイアから見ても手に取るようにわかった。
もっともルリからすればサファイアが聞いていることなど想定していなかっただろうから当然の話ではあるが。

だからその瞬間にも顔色一つ変えずに対処できた。
美遊が月の聖杯の実在について言及していたその時の出来事だった。
ルリの合図とともにライダーが腰に装備していた銃を美遊目掛けて発砲してきたのだった。
……事前にライダーが一瞬銃に目線を向けたことを念話で美遊に知らせておいて正解だった。
おかげで美遊も取り乱すことなくルリの仕掛けた暗殺に対処することができたのだった。

あるいは、ルリも美遊に何某かの警戒の念を抱いたが故の行動だった可能性もないではない。
実際美遊はあの時点で聖杯を獲る方向に心が傾いていたのでそこを感じ取ったのかもしれない。
だが、だとしてもあの程度のことで会話を放棄しサーヴァントに銃を撃たせるようなマスターではどちらにせよ美遊を預けるに足る人間ではあるまい。
あちらから持ち掛けた会話であればなおさらだ。

23『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:53:20 ID:y0KF6vnQ0



「正直、あそこで撃たれるとは思ってなかった」
「確かにわたしはあの時から聖杯戦争に乗り気になった。でもだからといってあの場でいきなりあの人を殺そうとしたわけじゃない。
第一、まだ彼女からほとんど何の情報も聞けてなかったのにそんなことをする意味がないし論理的に破綻してる。…信じて、サファイア」



ルリとの戦闘を終えたすぐ後、当然サファイアは美遊に真意を問うた。
美遊が他者に過剰なまでの警戒心を抱いていることはわかっていた故に、もしや本当にルリに殺意を向けていたのではないかという疑念もあったからだ。
しかしやはりというべきか、論理を重んじる傾向にある美遊だからこそあの場では警戒心や敵意はあっても行動に移すほど軽率ではなかった。
真に軽率と謗られるべきはやはりあのホシノ・ルリだった。幼子相手に一方的に情報を聞き出して用が済めば即射殺に移るとは。

一応、ルリとの会話から戦闘、そして美遊たちが戦域から離脱するまでの流れはサファイア自身の機能によって動画として録画・保存してある。
これは姉妹機であるマジカルルビーに搭載されているものと同じものだ。
元よりカレイドステッキはクラスカードを回収するために貸し出されたものであり、その記録を得るために有用な機能が同型機のサファイアに搭載されていないはずもない。
とはいえ今となっては戦闘の記録を確認する以外に用途があるとは思えないが。
いや、今の美遊と対話が成立して、かつ記録した映像を見て美遊に同情を示してくれるような都合の良いマスターでもいれば別なのだろうが、そんな者はいないだろう。

ともかく、ホシノ・ルリに関しては脱出を目指しているという言が虚であれ実であれ危険人物であることに疑いを挟む余地はない。
仮に脱出目的だとしてもその過程で他人の命について斟酌するとは到底考えにくい。
加えて彼女は方舟において警察機構に属している人間だ。美遊とサファイアで起こした先ほどの事件についても把握しているかもしれない。
テンカワ・アキトが陥れられた可能性に気づくことも有り得る。十分に注意が必要だ。





  ◆   ◆   ◆




思案しているうちに、新都と深山町を分けるちょうど境目まで出ていた。
今美遊たちがいるのはA-7、冬木市の最北端の上空を飛行して一日ぶりに深山町エリアへと戻ろうとしていた。
何故このような場所を通ることを選んだのか。その理由は冬木大橋にあった。
地理の関係上陸路で深山町と新都を行き来するには必ず大橋を通ることになる。
つまり現在アキトを追っているはずの警察NPCたちも深山町へ逃げ込まれる前に犯人を確保するために大橋で張り込んでいる可能性が高かった。
そこにノコノコと美遊が通りがかればたちまちのうちに補導、あるいは保護されてしまうだろう。どちらにせよ警察のお世話になるわけにはいかない。
さらに大橋が交通の要所であることを考慮すれば、時間帯も相まってアーチャークラスのサーヴァントが待ち伏せをしているであろうことは想像に難くない。
故に美遊は日が昇る前に空路で、冬木市の北端から深山町へと向かうのだ。
美遊自身も転身して空を飛んで、正確には「跳んで」いけば万一敵の狙撃があったとしても一護共々即応することができる。

「攻撃は……来ない?」
『そのようですね。とりあえずは無事に深山町側に入れたようです』

しかし結果としては杞憂に終わった。
少なくとも結果としては美遊たちが敵サーヴァントの狙撃を受けることはなかった。
一つ引っかかるのは一護が大橋の方を注視していたことだ。
こちらの探知では探り切れない距離の敵が彼には見えていたのだろうか?

「とにかく隠れられる場所を探そう」

24『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:53:58 ID:y0KF6vnQ0

深山町に戻ってきたのはあくまで警察の捜索から逃れるためであって、エーデルフェルト邸に戻るつもりはない。
ルヴィアに心配をかけているであろうことは心苦しいが、だからといってNPCである彼女を聖杯戦争に巻き込むわけにはいかない。
そのため深山町で、日が昇りきる前に人目を避けて休息できる一時の拠点を求めていた。
空を飛んで移動するにも明るい時間帯は目立つリスクが増すためそう簡単には使えない。

美遊が降り立った場所はA-3、空路で一気に移動できる美遊の陣営にとって距離の長さは問題とならない。
通行人がいないこともあり、不意の敵襲に備えることを優先して転身は維持したまま周囲の探索を始めた。
何しろこのエリアは本選開始後はもちろん予選時代にも美遊の行動範囲から外れていたため訪れたことがない。警戒するのは当然だった。

「ここ、は……」
『美遊様?』

けれど、美遊はこの周辺の風景に奇妙な既視感を覚えた。
理由はわからない。けれどわたしは此処を知っている。知っている気がする。
知らず、サファイアの制止も無視して駆けだしていた。



「――――――」



そして見つけた。見つけてしまった。
のどかな住宅街の風景から置いていかれたように建つ、寂れた武家屋敷を。
打ち棄てられて時間が経っているのか、外からも朽ちかけているのがわかる。
表札は掲げられていない。誰も住んでいないのだろう。

『美遊様、一体どうしたのですか?』

相棒の声も耳に入ることはなく、そのまま邸内に進入する。
玄関、風呂場、台所、居間、客間……忘れ得ぬ日々の思い出を拾い集めようとするかの如く屋敷を巡っていく。
美遊・エーデルフェルト、いや、朔月美遊にとってこの武家屋敷は人生の多くを過ごした家だった。
美遊には衛宮切嗣に拾われる以前、生家である朔月家で過ごしていた頃の記憶が殆どない。
だから此処は彼女にとってのもう一つの生家だった。

いつしか、庭と土蔵を見渡せる縁側に足を運んでいた。
今でも鮮明に思い出せる。美遊と士郎が本当に兄妹になった夜のことを。
思い出せるのに、目の前にあるのはただの寂れ、朽ちた屋敷だった。隙間風だけが空しく通り過ぎていく。

水滴が落ちた。美遊の頬から零れ落ちた涙だった。
次いで堪えきれず膝から崩れ落ちた。サファイアの声も届かず、ただ嗚咽を漏らす。

この箱庭に兄・衛宮士郎は存在しない。
それは予選時代に学園の高等部に彼らしき生徒を見ないことやルヴィアからも一切話題に出ないことから察してはいた。
だから住人のいないこの寂れた武家屋敷は「衛宮士郎が存在しないifの世界」を再現したのであれば当然あり得る存在だ。頭ではわかっている。

けれど、美遊にとってこの光景はそれ以上の意味を持っていた。
過程こそわからないが、恐らく美遊の兄である士郎は何らかの方法でクラスカードを集めて自分の下まで辿り着いた。
そうしてイリヤのいる並行世界へ送り出してくれた。……けれど兄はその後どうなったのか?

出来るだけ考えないようにしていたことだった。
最愛の兄の願いに応えるためにも今を精一杯に、幸せに生きる。その思いを胸に新たな世界で生きてきた。
けれど、見たくもなかった現実を予想だにしていなかった形で突きつけられた。
恐らくエインズワースの本拠だったであろうあの洞穴に乗り込んで美遊を逃がした兄が無事でいられるだろうか?
そんなわけがない。当然、もう帰ることのない元の世界の武家屋敷だっていずれはこの方舟によって再現されたこの場所のように朽ちていくのだ。

いや、それだけでは済まない。
元より美遊のいた世界は滅びに向かって進んでいた。
命と引き換えに世界を救済するはずだった美遊が消えた以上、いずれは世界全てがこの武家屋敷のように朽ち果てるのみ。
誰かを救うということは他の誰かを救わないということで、美遊が救われたということは他の全てが救われなかったということだ。

25『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:54:38 ID:y0KF6vnQ0



サファイアはただ困惑していた。
美遊がこの屋敷を見るや迷わず中に入っていってしまい、そして理由は不明だが今はこちらの呼びかけも耳に入らずただ泣いていた。
サファイアは美遊の過去を知らない。別段無理に詮索する必要もないと思っていたから。
しかし今の美遊の様子を見ればこの屋敷が美遊の過去と密接に繋がっていることは間違いない。
ただでさえ命の懸かった極限状況だというのにタイミングが悪すぎる。

『美遊様、美遊様!しっかりしてください!』
「あ、サファイア……?ごめん、わたし……」

ようやく返事を返してくれたが酷く憔悴した目をしている。
駄目だ。美遊当人に自覚があるかは定かでないがこの有り様ではとても戦うどころではない。
今他の主従に捕捉されるようなことがあっては不味い。とにかく隠れられる場所が今すぐ必要だ。

『美遊様、向こうに土蔵があります。ひとまずはあそこに隠れて警察の捜索をやり過ごしましょう』

幸いにしてこの屋敷の庭には人一人が隠れるにはうってつけの土蔵がある。
サファイアの提案に美遊は無言で頷き土蔵に移動、戸を閉めて座り込んだ。
もしかするとこの屋敷そのものから離れた方が良いのかもしれないが、サファイアにはこの屋敷と美遊の具体的な関係性がわからないため迂闊なことは言えない。

「…ありがとう、サファイア。ここなら多分大丈夫。
ここに目を向ける人は誰もいないから」



膝を抱えて座り込む。ようやく涙も止まり、思考力が戻ってきた。
霊体化しているが一護の存在も確かに感じられる。気遣ってくれていると思うのは考え過ぎだろうか。
図らずもここは当座の拠点とするにはうってつけだった。食糧や飲料水は十分あるし、他の主従はもちろんNPCもここに目を向けることはない。
唯一サーヴァントの気配を察知される可能性だけが気がかりではあるが、そんなリスクは何処にいようと付きまとうので仕方ない。
警察にしても深山町まで範囲を広げて捜索するのはまだまだ先の話になるはずだ。

一息ついてさらに思考を巡らせる。
やるべきことは明確だ。いや、この場所を訪れたことで明確になった、といった方が近いか。
―――聖杯を獲る。獲らなければならない。
方舟における聖杯が有機物であれ無機物であれ確かに願望器としての機能を有するのであれば真贋は問わない。
聖杯を手に入れ置き去りにしてしまった元の世界を救う。
自分が犠牲にならない限り不可能とされていた奇跡が手を伸ばせば届くところにある。
なら手に入れよう。きっとそれが救われてしまった者の義務であり責任だから。
そうすれば、あるいは兄もどこかで生きてくれていれば、救うことができる。



―――“自分”らしく付き合える人かな。面倒なこと考えず、素のままの“自分”で会える人。
―――そうだな――兄貴みたいな人だったよ、あたしにとってみれば。



「………っ!」

決意を固める。固めようとしているのに先ほど新都で言葉を交わしたあの女性の言葉が頭の中でリフレインする。
誰かは知らない。恐らくNPCだとは思うがそれでもあの女性の言葉が焼き付いて離れない。
聖杯を獲らなければならない以上、当然彼女の言葉だって振り払わなければならなというのに。

彼女はテンカワ・アキトを兄のようだと言った。
冷徹で勝機に貪欲なあの男にそんな一面があるなどとは信じ難い話だったが、女性が嘘をついていたとも思えない。
願いのために誰かを殺すということは、つまり他の誰かにとっての大切な人を奪う行為だ。
もしかするとあのホシノ・ルリにさえ彼女を大切に想う誰かがいるとでもいうのだろうか。
ピンとこないのは自分の人生経験が足りないせいだろうか?

26『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:55:31 ID:y0KF6vnQ0

(……もしそうだとしても、関係ない)

そうだ。躊躇したところで聖杯戦争のルールが変わることは有り得ない。
何より自分は既に顔も知らない誰かを殺している。
予選でバーサーカーが斃したランサーにアキトに強要された令呪によってB-4へ向かったバーサーカーが討ったサーヴァント。
彼らにもマスターがいて、契約したサーヴァントを失った以上はマスターもとうに死んでいる。
直接顔を見ず、手を下さなかったというだけでわたしは既に殺人者だ。
ここで足踏みをして聖杯を手に入れられないなどということがあっては、自らが出してしまった犠牲が無駄になる。
だから進み続ける。それこそが唯一最良の道だから。
世界と兄の二つと天秤にかけるなら、わたしの個人的な感傷の何と軽いことか。

幸いにして見習うべきマスターがいる。
ホシノ・ルリ。あの女性の氷のような怜悧な眼差しは忘れようとしても忘れられるものではない。
彼女のライダーに撃たれた時は自分でもよくポーカーフェイスを保てたものだと思う。もちろんバーサーカーを信じていたこともあるが。
わたしに会話を持ち掛け必要な情報を得るや即座に始末に移ったあの冷徹さ、残忍さこそ今のわたしに必要なものに違いない。

彼女が善人か悪人かで言えば紛れもなく悪人だろう。しかも警察に属する以上その情報網さえも活用できる強敵だ。
だからこそ見習うべき点が多い。目的のためなら何であれ利用し何であれ切り捨て前に進む柔軟な思考力と意志力こそ重要なのだと彼女が示している。
その一点についてだけは、彼女との邂逅に感謝すべきかもしれない。おかげで進むべき道が定まった。

とはいえやはり危険な存在には違いない。
警察の情報網があるということは、戦いが長引くほど多くの情報が手に入る彼女が有利になることを意味する。
どこかで居場所の手掛かりを掴んで早めに倒したいところだ。
…そうなるとサファイアが言っていた、アキトの独り言の中に出たサナエなるマスターと接触を図るのが得策かもしれない。
アキトはサナエを指して自分のような子供を保護すると言い出してもおかしくないと口にしたという。
当然サファイアの自律行動機能を知らないアキトにとっては正真正銘の独り言だっただろう。だからこそ信じる価値がある。
サナエを利用すれば早期にホシノ・ルリを討伐する目途が立つかもしれない。

ともあれ今は雌伏の時だ。
今からの時間帯は登校、出勤で人通りが多くなるので出歩くのは上手くない。
登校の時間帯を過ぎて人通りが少なくなるまではこの土蔵でやり過ごすことにした。

「聖杯に辿り着く。辿り着かなくちゃ、いけない。誰を犠牲にしても、絶対に」

自身に言い聞かせるように呟き、固く膝を抱いた。
外はもう陽が昇る頃だけれど、この土蔵からはそれも見えなさそうだった。



【A-3 武家屋敷の土蔵/二日目 早朝】
【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]健康、他者に対しての過剰な不信感 、魔法少女に転身中
[令呪]残り二画
[装備]普段着、カレイドステッキ・マジカルサファイア
[道具]バッグ(衣類、非常食一式、クラスカード・セイバー)
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟の聖杯』を求める。
0.登校、出勤の時間帯を過ぎるまで土蔵に潜伏する。
1.全員で戦う。どれだけ傷つこうともう迷わない。
2.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。
3.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
4.ホシノ・ルリは早めに倒す。そのためにサファイアから聞いたサナエというマスターを利用したい。
5. 今後は武家屋敷を拠点にして活動する。
[備考]
※アンデルセン陣営を危険と判断しました。
※ライダー、バーサーカーのパラメータを確認しました。
※搦め手を使った戦い方を学習しました。
また少しだけ思考が柔軟になったようです。
※テンカワ・アキトの本名を把握しました。
※サファイアを通じて「サナエ」という名のアーチャーのマスターがいると認識しています。
※アキトの使う転移の名称が「ボソンジャンプ」であると把握しました。
※ホシノ・ルリを悪人かつ危険人物と認識しています。また出会った際の会話や戦闘をサファイアが動画として撮影・保存しています。

【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態] 健康、不機嫌
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を護る
0.美遊を護る。
1.危険な行動を取った美遊への若干の怒りと強い心配。
[備考]
※エミヤの霊圧を認識しました

27 ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:59:07 ID:y0KF6vnQ0
投下終了です
蛇足とは思いますが、避難所で特に反応がなかったので踏み込んだ描写の多い本SSについての私自身の見解をこちらにも記載しておきます

サーヴァントに対する聖杯のバックアップについては、一般人マスターのサーヴァントが描写上かなり動けていることに対する私なりの理由付けです
無論これはリレーを重視したことによって生じたことではありますが、今後も視野に入れてざっくりとでも何か作中における理由付けを行った方が気兼ねなくキャラを動かせるのではないかと考えました

次に上記の聖杯のバックアップに伴う美遊組への恩恵ですが、これは過去のリレーにおける美遊組の魔力消費に関する描写を参考にして描写しました
「サツバツ・ナイト・バイ・ナイト」で美遊がアキトにサファイアを奪われてから令呪で一護をB-4へ差し向けてから「少女時代「Not Alone」」で美遊の下まで帰還するまでの状態表において美遊が魔力消耗(小)のまま変化なし、一護が健康→魔力消耗(中)となっています
本SSにおける美遊の戦闘時における魔力消費の考察全般はこのリレー内容を基に私なりに作中に反映したものです
過去、議論スレで美遊と一護の魔力消費について議論があったことは承知しておりますが、本SSの内容が私なりの解釈となります

またサファイアに動画撮影・保存機能があると描写しましたが、原作ではこの機能はルビーの方にのみ確認されており、サファイアに同じ機能があるか否かは明言されておりません
故に本SSにおける描写は多分に独自解釈が含まれます
ただ私の解釈として、カレイドステッキがクラスカードの回収を目的として貸し出された以上戦闘の記録を保存するためにこうした機能があった方が自然ではないかと判断しました
少なくとも姉のルビーにある以上サファイアにはないと考える方がむしろ不自然ではないかと(ルビーの動画撮影機能も基本ギャグでしか使われていませんが)

最後に美遊、サファイアによるルリへの評価ですが、これは「近似値」において美遊とルリの会話から戦闘を経て美遊と一護が離脱するまでの間が一貫してキリコ視点でのみ描かれていたことを踏まえた上での同シーンでの美遊側の心情描写の補完となります
あくまでも「美遊とサファイアからはルリとキリコがこう見えていた」という程度の意味合いであり彼女たちのバイアスが強くかかったルリ評となります

長文失礼しました
皆様のご意見、感想等をお待ちしております


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