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オリロワアース

1名無しさん:2015/05/06(水) 16:45:35 ID:pYFZnHTQ0
ここは、パロロワテスト板にてキャラメイクが行われた、
様々な世界(アース)から集められたオリジナルキャラクターによるバトルロワイアル企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。

まとめwiki
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17154/

前スレ(企画スレ)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/

・参加者
参加者はキャラメイクされた150名近い候補キャラクターの中から
書き手枠によって選ばれた50名となります。

また、候補キャラクターの詳細については以下のページでご確認ください。

オリロワアースwiki-キャラクタープロファイリング
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/12.html

企画スレよりキャラメイク部分抜粋
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/109-294



地図
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/67.html

399ドミノ†( ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:30:04 ID:z1sNcr8Y0
____////|はじまり|



 大空蓮(アースR、生徒会長)は、遊びに全力な、頼りになる兄ちゃんという言葉が似合う少年である。

 過去に親友がいじめられていたのを諌めた経験から、彼は自分をヒーローの役に置くことを決めていた。
 荒事が起きれば自作の仮面とベルトを装着して現場に向かい、
 虐げられている者を救い、虐げていたものに制裁を加える。
 体力テストで全て最高点を取れる持ち前の運動神経と身体能力は、彼の学園の平和のために存分に使われていた。

 だからこの殺し合いに呼ばれたとき、彼は主催者に尋常ならざる怒りを覚えたし、
 その次に考えたことはといえば、親しいものや弱きものがこの場でいたぶられ、殺されるのを止めることだった。
 支給品は三つ。
 身を軽くする魔法のマント(アースH)、屋台のヒーロー仮面(いつも使ってるのと同じもの)、
 まさかの仮面の本人支給に嬉しがりながらまず二つを装着すると、本当に自分がヒーローになった気分になった。

(よし、沢山の人を救おう。きっとツバキも応援してくれる) 

 かけがえのない親友である愛島ツバキのことを思いながら、
 大空蓮は最後の一つの支給品である、黒い柄をした銀色の剣に手を伸ばした。
 どんなわるいやつでもやっつけるつもりで。
 主催者が用意した中でも有数のハズレ支給品かつ最悪の支給品であるそれを、握って、しまったのだ。



____////|おわり|



「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!」

 ――加速。

「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!」

 ――加速。

「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!!」

 ――加速、加速、加速、加速。

 呪いを鍋で煮詰めたかのようなおぞましい叫び声と共に戦場の速度は上がり続けていた。
 剣が振るわれる速度が、刃が鳴り火花を散らす速度が、
 地面を足で蹴る速度が汗を流す速度が傷を負う速度が思考速度が限界を超えてなお上がり続けていた。

 速度。

 それは意思なき呪いのみで動く魔剣が、思考することができる人間に勝利するための知恵。
 シンプルな浅知恵にして、効果的な戦略。
 ラインハルトも渡月も、気づいたときには遅かった。
 魔剣のがむしゃらで隙だらけの太刀筋も、人の思考速度を無視して振るい、
 その隙を突く暇を与えずに重ねて重ねて重ね続けることでガードを破り、肉を裂き、骨を割る。
 一撃の重さもかなりある。速度の乗ったそれは、いずれ命すら穿つ。

「やりますね……!」
「殺人鬼が防戦一方とは、面白い光景だな」
「尋問官さまにだけは言われたくありませんけど!」
「全く、君は早く死んでくれないかね!」

400ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:30:50 ID:z1sNcr8Y0
 
 こうなってしまえば人間は、人間である以上後手に回らざるを得ない。
 幸運は接近戦に長けた者がこの場に二人おり、相手の手数を事実上半分ずつ引き受けられることだろうか。
 早々に鰺坂ひとみを失ったラクシュミーもこの二人に劣らぬ剣術の心得はあったが、
 ラクシュミーが五分と持たなかったのに対し、
 ラインハルトと渡月がある程度魔剣の攻撃を捌けているのは、つまりは単純な手数の違いだった。
 そしてそんな数の不利をあざ笑うかのように魔剣の速度はさらに上がっていく。

「あ、あんなの……宿主の身体が持たなくなるんじゃ……」

 後方から時折闇属性の攻撃でサポートするジェナスがおどつきながら懸念するもその懸念はハズレだ。
 ある程度の動体視力があれば見えることだが、
 大空蓮に絡みつく魔剣の枝触手は、戦闘開始から今までその数と面積を増やし続けている。

 生体魔剣セルクは宿主の戦闘欲や加虐欲に働きかけ、
 それを増大させると共に、より自らとのシンクロ率を高める“浸蝕”も同時に行っている。
 じきに人から魔剣へと、彼の身体の構成物は置き換わってしまうのだ。
 そうなればもう最悪、魔剣は魔剣のまま人の身体を手に入れ、魔王へと昇華される。

 さらにひどいことに、本来ならば年端のいかぬ少女でも抑えられるはずのその呪いじみた浸蝕力は、
 主催側に居る老齢にして醜悪な錬金術師の魔術により、ブーストされてしまっている。

 
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!」


 泣き声にも似た叫び声は、浸蝕の痛みによってあえぐ大空蓮自身の声なのかもしれなかった。
 “大空蓮”は消滅し、その身体が魔王セルクへと変貌するまでどれほどなのか。
 少なくとももう、腕を通り越して肩まで、黒の枝は到達しようとしている。

 一秒に六回繰り出される剣戟を捌きながら、ラインハルトがため息を吐くのも致し方ないことだった。

「……協力など、何十年ぶりか」
「?」
「後ろの黒の小娘。落ちながら己は見ていたぞ。お前は、瞬間移動じみた技を使えるだろう」
「え……は、はい……」
「今から口頭で作戦を伝える。全て覚えてその通りに動け。敵を無力化する」
「……は、はいっ」
「それと舌悪な殺人鬼」
「丁寧語を使っているのに舌悪って言われたのは初めてですよおじさま」

 渡月は頬を膨らませる。
 その仕草には年頃の少女のような可愛げがあったが、ラインハルトは無視して続けた。

「今から、己は最も得意とする剣術スタイルに戦闘方式を変える。
 ゆえに〆はお前が担当しろ。お前は人間のクズどころの騒ぎではない汚物存在だが、その剣の腕だけは本物だ」
「その言い方で人が素直に言うことを聞くと思っているなら、なかなかあなたもクレイジーですね」
「せいぜい良い働きを見せろ」
「無視は悲しいですよ」

 ラインハルトは構えを変えた。
 腰を低く落とし、足を前後に開く。剣は地面に平衡に、突きの構えを取る。

 金毛の尋問官が最も愛している剣術は――フェンシングだ。


「――Prêts?(準備はいいか?)」


 作戦の説明は手短に済ませ、
 ラインハルトはドイツ人らしからぬ流暢な仏語にて開始の合図を化け物に問うた。
 化け物は意味のない叫びで返すのみだった。
 ラインハルトは思う。
 人間は無価値な憎むべき生き物だが……思考することすらできぬ化け物は、ただただ哀れだと。
 ただただ、哀れでしかないと。そう思った。


「Allez!(始めるぞ!)」

401ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:33:23 ID:z1sNcr8Y0
 
 
 合図と共に動く。
 まず剣崎渡月が一旦魔剣から離れ、側部へ、そして後方へと移動を試みる。
 魔剣は剣であるがゆえに、視覚情報などを人間部分に頼っている可能性があった。
 挟み撃ちを強いることで人間部分の対応力を越えることができれば、さらなる隙へと繋げることが可能かもしれない。

「◆◆◆◆!!」
「お前の相手は、己だ」

 魔剣は追って渡月へと斬りかかろうとしたが――そこへラインハルト。
 空気を切り裂く鞭のような音。
 踏み込むと同時に飛び離れるような高速の剣さばき、突きと返しの閃き、フェンシング。
 ラインハルトはフェンシング仕込みの鋭い突きでヒット・アンド・アウェイを繰り返す。
 ヒット時は極限まで迫っているのに、離れればそれはもう生体魔剣の間合いの外。おそるべき脚力だ。

 つまり手数が何だ、当たらなければどうということはない、ということである。
 牽制のフェンシングで与えられる傷はかすり傷にすぎないが、じわじわと削る上に、
 いざとなれば心臓を突くことも可能なフランベルジュという武器選択。無視はできないいやらしい攻撃。
 そしてラインハルトのほうにばかり気を取られれば、後ろに回った渡月の格好の的……。

「――――◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆……!」

 魔剣は自分の今までのやり方に“対策”されたことを感じ取ったらしい。
 動揺した……というよりは、ルーチンを組み直しているかのような、若干の挙動硬直がみられた。
 シークエンス・プログラムされた機械のように、無感情にこちらの対応に対応を返そうとしている。
 そしてこの隙はおそらく、剣で踏み込むべきではない。
 機械的であるがゆえに人間の対応力よりはるかに早い切り替えの後に首を跳ね飛ばされるのがオチだ。

 しかし銃弾ならば一手早い。

「やれ!」
「……当ったれぇえええええええええええッ!!!!!」

 ビルの屋上から黒き小さな魔女の、喉全開の叫びが轟く。
 彼女の魔法、3mのショートワープは横方向よりもむしろ縦方向でその真価を発揮する。
 ラインハルトが近畿純一を殺し切るくらいの時間がかかってしまうはずのビル屋上への移動を圧倒的速度で成し遂げ、
 ジェナス=イヴァリンはアースFにはあまりない狙撃手の忘れ形見を、即興の知識で仲間の仇へと撃ち放った。

 彼女には実際、ラインハルトと渡月に割り込まれ命を拾った瞬間に逃げるという選択肢もあった、
 でも引きこもりの彼女と少しの時間だったけれど一緒に過ごしてくれた仲間二人の仇を、取りたいというエゴくらいは持っていた。
 瞬間的な思考硬直の隙を突いた完全な一撃。
 銃弾は反射神経などでは避けられぬ速度で、魔剣の化け物へと迫る!


「◆◆◆、◆!!!」

 
 魔剣は辛うじて、大剣の剣身を盾とし、その銃弾を弾くことに成功した。
 それが詰めへの最終手順になっていると気付いていながらも、そうせざるを得ない。
 完全に無防備になった背面へと迫るは日本刀、殺人鬼、剣崎渡月。
 女学生は慣れた手付きで大空蓮の身体を切断しにかかった――その右腕を!!

「――――――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!」
「ああ……久しぶりの、感触です♪」

 赤い靴を踊らされ続けた少女がその足を斬られてしまったように。
 銀の剣で斬らされ続けた少年はその腕を斬られることで、正気に戻すことができる。


 黒の右腕が宙を舞う。


 魔剣と魔剣に浸蝕されていた腕はしばらくはびたびたと跳ねていたが、
 エネルギー不足か、すぐに動かなくなった。

402ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:34:59 ID:z1sNcr8Y0
 
「これで終わり、ですね」

 腕だけを斬るこの作戦に違和感を感じる人もいるかもしれない。
 人間嫌いのラインハルトが、人間を魔剣から助けたという形になったこの結末――。
 ただ感情論で言えばこれは慈悲にもなるが、実際はラインハルトの冷酷な判断によるものだ。

 おそらくここで、完全な無防備の形からなら渡月には少年の殺害も可能だった。
 それをしなかったのは、寄生されている以上宿主が死んでも動く可能性を考慮する必要があったからだ。
 確実な“無力化”ならば必然的に腕を跳ね飛ばすのが一番合理的という結論になる。
 それだけの、ことである。

「あ……」

 だからラインハルトは、正気を取り戻して、
 ヒーローの仮面を取り落した少年の、嬉しそうで、でもいまにも泣き出しそうな表情を見ても何も思わない。
 何も感じない。
 ただただ、職務をまっとうするためにフランベルジュを持って歩み寄るのみ。
 ジェナスの様子を見ていれば分かる、魔剣に寄生されていたとはいえ、少年は殺人を犯した。
 ラインハルト・ハイドリヒの倫理では――人を殺した者は、殺されなければならない。

「ありが、とう……ござい、ます……」
「感謝を述べるな、反吐が出る」

 その感謝が嘘ではないことが分かってしまうラインハルトにとって、
 少年の胸に突き立てようと振りかざすフランベルジュは、珍しく重みを感じるものだった。




「そうそう、ありがとうだなんて言わない方がいいですよ」

 だからだろう。
 ラインハルトは、少し遅れてしまった。
 少年を一撃で逝かせる攻撃を執行したのは、ラインハルトではなく剣崎渡月であった。
 少年の首が、跳んだ。

「だって私もそこの人も、“ヒーロー”なんかじゃない。自分のエゴを貫いただけですから」

 ねぇ、そうでしょう、おじさま?
 変わりない笑顔を向ける剣崎渡月は、大空蓮の首を刎ねたというのに顔色一つ変えていない。
 驚くべきことかどうなのか、彼女は三日月宗近はもう持っていない。
 剣崎渡月がその手に携えている業物は、先ほど自らが斬り飛ばした、生体魔剣セルクへと変わっていた。
 生体魔剣は、殺人鬼の手に。

「え……あ、あの……何を、して……?」
「……やはりな」

 スナイプの役割を果たしてラインハルトたちの元へと帰還したジェナスが口をあんぐりと空けて固まる。
 一方でラインハルトは、この状況を予見していたようで、目を細めつつため息。

403ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:36:21 ID:z1sNcr8Y0
 
「最初からその魔剣狙いだったんだろう、殺人鬼。
 先ほどまで殺し合っていた己に協力を持ちかけたのも、そこの小娘に優しく話しかけたのすら。
 お前自身がその剣を手にし、己を殺すための布石。――知っていたのか? その剣のことを」
「ええ。私はこう見えても、大衆向け・マニア向けを気にしない乱読家ですので。
 『ハイルドラン・クエスト』、けっこう面白いんですよ。地獄に売ってるかは分かりませんが、見かけたら読んでみてください。
 ちなみに私の推しは城門飛ばしのアステル・ウォランス青年です、イケメンなんですよ彼」
「う、嘘……さ、さっきまで、仲間だったじゃ……」
「黒の小娘。邪魔だ、失せろ」

 ラインハルトがうろたえるジェナスに厳しく言葉を刺した。

「結局、当初のこの殺人鬼との殺し合いが再開するだけの話だ。
 所詮人間など、このような下賤な生き物であると……それだけの、話だ。
 巻き込まれて死にたくはないだろう。自慢の逃げ技(ワープ)で逃げろ、この女もそのくらいは待つ」
「あは、信頼して頂けているみたいで」
「お前は一方的より拮抗した殺し合いを望むのだろう。見抜くまでもない」
「分かって頂けてるみたいで嬉しいです♪」
「……あ……え……」
「いいから、行け」

 ふらふらとラインハルトの近くまで歩み寄って来ていたジェナスは、
 そこでラインハルトの皮靴により、蹴り飛ばされる。

「任務ご苦労だった――――お前はもう必要ない」
「あ……う……うわあああああああん!!」

 走り、ワープし、ジェナスはその場から去る。
 改めてその場には、血に濡れた空気と二人の殺人者だけが残った。

「さて、空気が戻ったな」
「どうして私が正気を保っているか聞かないんですか?」
「大方、その剣の殺戮衝動と同調できる者なら意識を奪われないといった所だろう。聞くまでもない」
「あ、正解です。じゃあ始めましょう」

 と、唐突に。
 雑談を途中で切って、二人の刃が交わる音が再開する。
 かと思いきや、ラインハルト・ハイドリヒと剣崎渡月は交戦しながら雑談を始めた。
 達人レベルの剣の嵐の中で、言葉と言葉もまた交錯する。

「あは、楽しいですね、おじさま!」
「そうか」
「おじさまが楽しくなさそうなのが少し残念ですけどね。どうしてそんなしかめ面なんですかね?
 人生、もっと楽しんだほうが得だと思うのですが、何に悩んでいるんですか?」
「そうだな、何だろうな」
「はぐらかさないでくださいよ、斬りますよ?」
「斬れるものならやってみろ」
「そう簡単にはいきませんね。まだまだ私は人間ですので」

 剣崎渡月は魔剣の浸蝕を抑えることに成功している。
 剣の寄生を拒むと言うことは人間の反応速度に収まるということで、
 生体魔剣セルクというチート武器を手にした剣崎渡月ではあるが、危険度も練度もそう上昇したわけではなかった。
 ではなぜ彼女が魔剣入手にこだわっていたかというと、これは単純に、エゴである。

「いい挑発ですね、乗りたくなってしまいます。でも本当、生きたいように生きればいいと思いますよ?
 私なんてほら、ちょっとこの剣で人を斬ったら楽しそうだなー、
 って思いつきだけでさっきの流れまで演じたんですし? いや本当に、美しい剣ですよね」
「……生きたいように生きる、か」
「あは、大人だからできないとかですか?」
「そうじゃない。そういう部分では悩んでさえいない」

404ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:37:47 ID:z1sNcr8Y0
 
 ラインハルトの袈裟切りが首をこてりと傾けてカワイイポーズをとっていた渡月の服をかすめる。
 服二枚を貫通して柔肌に赤い線。
 意に介さず、渡月は魔剣を振るい、ラインハルトの胸先から憲章のようなバッジを弾き飛ばす。
 雑談をしながらもその剣舞はメリーゴーランドではなくジェットコースターだった。

「己は」

 ラインハルトがフェイントを交えた剣を繰り出しながら叫ぶ。

「己もまた、自らが憎む人間であり、殺人者であることに自己矛盾を抱えているだけにすぎない」

 それは普段から冷酷無比鉄面皮の尋問官からは想像できない、感情の吐露だ。

「人間を無価値だとしか思えない己こそが無価値な人間なのではないのか?」

 斬りかかる。

「本当に尋問され、死に至らしめられるべきは己ではないのか?」

 斬りかかる。

「人の嘘が、心が分かってしまうようになってから、
 醜さを把握できるようになってから、ずっとそう思っていたのだ」

 斬りかかり、受けられる。
 渡月の反応速が上がった。
 生体魔剣セルクと殺人鬼との協力的な調和が、徐々に深まりつつある。

「お前は思わぬのか。自分の信念が抱える脆弱性を。
 例えばそうだな、誰すらも越えて一番になりたいという話だったが、
 自分より優れている部分がある者を越えぬうちに殺してしまったらどうなる。
 越えていないのに殺してしまったら、もうその部分は越えられないのではないのかね」
「それは――」

 問いかけは、相手と魔剣の調和を崩す意味でも放った言葉。
 しかし返ってきたのは、ラインハルトのフランベルジュにひびが入る音だった。
 セキュリティホールの穴を付くかのような、
 動揺していてはとても不可能な、精密な攻撃。
 手が痺れる。辛うじて取り落さずに持ち続ける。渡月はあっけらかんと言う。

「それはもちろん。死んだ方が悪いんですよ♪
 私に殺された人は、どんなスキルとかどんな強さとか、
 どんなカリスマとかどんな優しさとかどんな複雑な立場とかを持ってても、殺された時点で私より下で、決定なんです。
 私に殺されてしまう時点で、私より劣っているんですよ、その人は」

 剣崎渡月は、止まらない。
 ラインハルトのいかなる言葉でも、彼女を揺らがせることはできない。
 ラインハルトが嘘を見抜けてしまうがゆえに。
 この少女は一点の曇りも負い目もないただの殺人鬼であるということがラインハルトには分かってしまう。
 悩むことを忘れた殺人鬼。
 ある意味ではそれは、ラインハルトにはまぶしく思えた。

405ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:39:03 ID:z1sNcr8Y0
 
「おじさまは、私に殺されたいんですよね?」

 渡月もまた、ラインハルトの深くまで斬り込む。

「おじさまがその長い人生で終ぞ会えていなかった、
 “人間なんて無価値である”と認めた上で好きなように生きている私が、
 枯れかけのおじさんからすると少し羨ましいとかそんな感じですかね?」
「……何を」
「じゃなきゃ、不利になると分かっていながら私にやすやすと魔剣を渡さないのではないですか?
 あは、……人間に絶望しながら人間として生きるのは、さぞお辛いでしょう。
 安心してください、私の腕なら一瞬ですよ。抵抗せずに首でも差し出してくれれば、一瞬です」

 さあ!
 踏み込み、ヒビをさらに深めるように打ちあった渡月は、すべてを見透かしたかのような笑顔を見せた。
 だがラインハルトは冷酷な無表情のままだった。
 無感動の、ままだった。

「……生憎むざむざと死ぬつもりはないし、死にたいなどと言うのもお前の誤解だ」
「強がり?」
「強がりではない。己は本当に、強いからな」

 理解、協調、速度の上昇――魔剣とのシンクロが深まるほどに精緻さと手数を増す剣崎渡月の斬撃は、
 しかしラインハルトを決定的に傷つけることができない。
 魔剣に操られるのではなく、渡月が操っているが故の弱体化?
 それもあるが、先ほどの戦闘とは違い一対一だし、ラインハルトは事実上二倍の手数を捌かなければならないのに。
 上がるギアに、上げるピッチに、ラインハルトはついてくる。
 冷や汗かかずについてくる。

「……あは?」

 剣崎渡月もさすがに口の端を釣り上げて苦笑だ。

 馴れて、きている。

 機械めいたシークエンスに人間が勝利する方法のもう一つ。それは学習。
 慣れること。慣れてしまうこと。ラインハルト・ハイドリヒは、魔剣の速度に、慣れてきていた。
 それだけではない。剣崎渡月の剣のクセも、すでにラインハルトの頭の中だ。

「残念だが殺人鬼……お前は己とダンスを踊りすぎた」
「……嘘ですよね? わ、私を泳がせたのが……単純にあとからでも、私に対応できるからだなんて……!」
「嘘かどうか、見抜ける目を持っていれば分かったろうにな」

 斬りかかる。
 その一撃で完全にガードを外し、
 不可避の二の太刀を袈裟に叩き込む。
 それはあまりにも綺麗な流れで。思わず渡月も、笑ってしまった。

「お前の論理に則れば。お前を殺す己は、お前より永遠に上と言うことだが、気分はどうだ」
「あは……あはははは……っ♪」
「悩むことのない、眩しいほどに阿呆な太刀だった。本能のみでお気楽に生きるのはさぞ楽だったろうが。
 己が唾棄する“人”からすら外れてしまったお前は獣――ただ哀れみの対象でしかなかったよ、最初からな」
「あははっ、う、ううううふふふあはは……!」

 涎を垂らしながら命の危機に興奮する渡月は、結局は狂ったシリアルキラーだった。

「ラインハルト・ハイドリヒ。――地獄でこの名を復唱し続けろ、殺人鬼」
「あは……あはははは……た、楽しかったです……!!」

406ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:40:30 ID:z1sNcr8Y0
 
 フランベルジュが致命的に肉を裂く。
 飛散する鮮血。
 ぐるんと白目を向いた女学生が、その意識をこの世から手放した。
 死んだ。
 同時にフランベルジュは折れて役割を失った。

 生体魔剣セルクが、死体を動かしてでも挑んでくるか、ラインハルトは残心しておいたが……それもなかった。
 この魔剣はあくまで持ち手の生の感情に付け込んで悪魔にする剣のようだった。
 誰かに使われないように自分で持とうかとも考えたが、やめた。

 懐から支給品のマッチを取り出す。火をつけ、渡月に放り投げた。
 助燃物はなかったが、どうもこのマッチはよく燃えるらしく、すぐに一人と一振りは炎に包まれた。
 そう、魔剣ごと燃やして消してしまうのが、ここでは最もマシな解決策だろう。

 燃え盛る殺人鬼に背を向けて、
 尋問官はもう一本マッチを取り出すと、胸ポケットに入れておいた煙草に火を点けた。

「まだまだ」

 紫煙くゆらせながら、目的なき断罪官は歩む。

「まだまだ――まだまだだ……己の死に場所は、ここじゃない……」






 そしてアサルトライフルの乾いた発砲音が響き、人間嫌いの断罪官のこめかみを貫いた。





_______/|エピローグ|


 

「みんな、死んじゃった。ヒーローマスクの変な人も、殺人鬼のお姉さんも、金髪のおじさんも」

 街は燃えていた。
 ヒーローと神様がその街にたどり着いた時には、その区画は燃えていた。
 ビル十棟ほどが並ぶ大通り、いったい何がどうなってここまで延焼したのか、
 まるで殺戮が起きた場所の全てを覆い隠して炎上するかのように、そこにはもう誰も入れない。
 救いの手さえオコトワリだ。

「おじさんは、私が……必要と、してくれなかったから、殺しちゃった」

 炎のすぐそばで壊れたように笑っていた黒の少女を、
 その場から引き離そうと駆け寄った巴竜人は、淡々とした少女の独白を聞く。
 殺してしまったと言う。
 汚れてしまったと言う。
 その声は後悔に血塗られて、確かに濁っていた。
 だが波長を解析すれば、もともとは小さくも澄んだ声だったと言うのが、竜人にはありありと分かった。

407ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:41:55 ID:z1sNcr8Y0
 
「助けてくれた人なのに……突き放されたのが、辛すぎて……へへ、えへへへ、や、やっちゃった」
「お、おい待て! 落ち着け! 待て!」
「もういいの」

 ジェナス=イヴァリンは歩き出す。
 竜人はそれを助けたい。

「わたしを助けないで、ヒーローさん」

 炎に向かって、歩き出す。
 竜人はそれを、止めたかった。

「わたし、もう……汚れちゃったから。生きてるの、つらいから。
 多分わたしなんかより……ずっとあなたに助けてもらいたいって思ってる人が、いると思うから」
「待てよ馬鹿野郎! 早まるな!
 汚れた? んなもん洗えばいいんだ!
 どれだけ汚れようが、人間はやりなおせるんだよ! 俺はなあ……俺だって!!」
「……馬鹿だって……わたしも、思うけど。
 助けられといて、こんなのって、怒られると、思うけどさ……もう、無理だ……」

 道神の玄武が見守る中で。
 黒の少女を、巴竜人は無理にでも引き戻そうと、
 即座にスピードに優れたガイアライナーに変形し、その機動力で追いすがる。
 服の裾を、掴もうとした。
 でもそれは、叶わなかった。

 ジェナス=イヴァリンはショートワープを使い、巴竜人から3m遠ざかった。

「ごめんなさい」
「……」
「ありがとう、ヒーローさん。――さようなら」

 力なく笑って、殺人者は炎の中へと消えた。
 一度倒れてしまったドミノは全て倒れ終えるまで止まらない。
 強く固く、死ぬと決めてしまった少女を、

 ヒーローが救うことは、できない。



「……ちくしょう……」

 ここには大きい水源もない。
 いずれ鎮火はするだろうが、アクアガイナーで消火をするには火の手は強すぎた。
 燃える町を悔しそうに見つめ、竜人は地面に拳を殴りつけようとする。

「ちく、しょ……う!?」

 しかし玄武が重力を操って、竜人の拳をふわりと浮かした。

「ダメやで、それは」

 驚いて振り返る。物悲しそうな顔で玄武は竜人を見て、首を振った。
 辛い感情を地面に叩き付けるのはダメだ。それでは、逃げになってしまう。
 ヒーローは。ヒーローだからこそ。
 救えなかった者の思いも全て、背負わなければならない。

 ……巴竜人は三回深呼吸をして、立ち上がった。

408ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:43:03 ID:z1sNcr8Y0
 
「玄武さん」
「……なんだい、少年」
「俺たちがもっと早く着いていれば――誰か一人くらいは、救えたんじゃないか?
 間違えちまってたかもしれねえ“ヒーロー”も、間違えちまった今の女の子も、病院で死んじまったやつらも。
 こんなあっけなく死ぬべきやつらじゃなかっただろ。もっと、生きて、よかったはずだろ」
「……そうやもしれんね」
「過ぎたことをとやかく言うつもりはない……俺たちの行動に問題があったとも思えない。
 ただただ、タイミングだけが遅すぎて。それで死んじまうのかよ。それで、最悪な方向に、転んじまうのかよ。
 こういうことが、今までにも無かった訳じゃねえけど……そのたびに思うぜ」
「……」
「こんな機械の身体になっても、俺たちは無力なときは無力だってな」

 どれだけ個の力があろうと。
 幾度の改造を受け、あるいは幾柱もの神がその中に入っていようと。
 彼らは、ヒーローは、救えるものしか救えない。
 救えない者は救えない。

「巴やん」
「でも俺はさ……死ぬのが救いになるだなんて、
 “自分を無くす”のが救いだなんて、信じたくねえんだ。こんな身体だからかもしれねーけどさ。
 まあ、誰もが強くはあれねえし、逃げたい気持ちもそりゃあ分かるし、俺自身だって何度も何度も悩んだ。
 俺の“ヒーロー”は悪への反抗でしかなくて、俺は正義なんかじゃないのかも、とか、色々さ」
「……」
「でも……悩んだからって、立ち止まっちゃ、いけねえんだよな」

 それでも巴竜人はヒーローで在り続ける。
 危うく消えてしまう所だった自分と言う存在の意味を、証明し続けるため。
 あるいは自分を救ってくれた、最高のヒーローの存在を、肯定し続けるために。
 悪の改造を施された身体を、正義のために使い続ける。

「次の現場を探そう。俺たちが、俺たちで、救える命を探そう」

 涙を流す機能は、機械の身体にはついていなかったけれど。
 巴竜人は手で眼を拭って歩き出した。

 どれだけの命をその手から取りこぼしてしまおうとも、
 どれだけその身の内に、危険を抱えていようとも。
 ヒーローは、止まらない。
 ヒーローは、続かなければならない。
 ヒーローという名のドミノ倒しは、永遠に倒れ終わっては、いけないのだ。



【鰺坂ひとみ@アースMG 死亡確認】
【プロデュース仮面@アースC 死亡確認】
【近畿純一@アースM 死亡確認】
【ラクシュミー・バーイー@アースE 死亡確認】
【大空蓮@アースR 死亡確認】
【剣崎渡月@アースR 死亡確認】
【ラインハルト・ハイドリヒ@アースA 死亡確認】
【ジェナス=イヴァリン@アースF 死亡確認】


________|end|

409ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:45:19 ID:z1sNcr8Y0
 

【F-1/ビル街/1日目/早朝】

【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:次の現場を探す。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。

【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、朱雀の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
(玄武)
基本:若者の行く末を見守る
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。


※F-1の大通り付近のビル街で火事が発生しました。
 辺りの死体や支給品などを焼きつくし、放送後には鎮火します。
※でも魔剣は消えないかもしれません。


【生体魔剣セルク@アースF】
参加者候補の一人リロゥ・ツツガに寄生している魔剣。製作にはヘイス・アーゴイルも関わった。
悪魔との戦争で瀕死で落ち延びた魔王の息子、セルクの無念と憎しみと怒りを込めた魂が宿っている。
正しい者が持てばその中に潜む闘争心を引き出して乗っ取り、暴れさせる。
正しくない者、特に戦闘する意思がある者と利害が一致した場合は、乗っ取らずに持ち手にある程度は任せる。
ロワに持ってこられるにあたりサン・ジェルミ伯爵の手によって強化されている。戦闘スタイルは単純で、手数で押し切るタイプ。

410ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:50:23 ID:z1sNcr8Y0
投下終了です。ズガン枠をふんだんに使ったボーナスステージ的なお話ということで。

>>390-398 が前編 「ドミノ†(始点)」、
>>399-409 が後編 「ドミノ†(終点)」となります。何かあればどうぞ。

411名無しさん:2015/08/02(日) 12:55:43 ID:RC/jdhCg0
投下乙です。
どんなキャラでも呆気なく死ぬのがパロロワだけど、皆皆、花火のように散っていったなぁ。
竜人・道神組の明日はどっちだ?

412名無しさん:2015/08/02(日) 16:19:10 ID:jbEM2G.o0
投下乙です。
皆呆気なく死んでしまってなんという無常感。ただ、プロデュース仮面だけはちょっと笑ってしまいました。
ちょっと気になる点、竜人と朱雀の互いの呼び方は前話では「道神君」「巴さん」だったのにいきなり下の名呼びになってるのに違和感が
あと、竜人の読み方は「たつと」です

413 ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 16:50:08 ID:VIM7PRjU0
>>412
おおう、呼称確認足りなかったですね…
夜にwiki収録と同時に修正致します、申し訳ありません…!

414名無しさん:2015/08/02(日) 18:27:59 ID:jbEM2G.o0
状態が朱雀の人格になってますけど、玄武の間違いでは?

415名無しさん:2015/08/02(日) 21:37:51 ID:RC/jdhCg0
あの、近畿純一の描写で、
>整髪料で逆立てた髪
って有りますが、キャラクタープロファイリングだと、純一の髪は肩まで伸ばしてあるんですが・・・

416 ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 21:51:58 ID:08ti5vSY0
>>414-415
うわああ申し訳ないです…んー色々な所に見落としが発生してたみたいですね。
とりあえず上げて頂いた分はwikiで修正しておきました。
他にも探しときますが、あればどんどんどうぞです
長くなると見落としも多くなるようなので仮投下を使うなど今後はします…

417 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:56:11 ID:kGznglRM0
投下します。

418438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:58:33 ID:kGznglRM0
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり



暗闇に久澄アリアの血から生まれた血槍が飛ぶ。
「ひゃっはははははははは!!」
松永久秀はそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「どうしたァ? まさかこれっぽちで終わりじゃァねえよなァ?」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ひゃはははは!そう来なくっちゃなァ!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ほら来いよ妖術使い――じゃなくて何とかジョ……水洗便女だったか? ひゃはははは!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「折角この松永弾正久秀が直々に相手してやってんだァ。喜べよォ便所女」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「てめェの怨みってのはこの程度かァ? 公衆便所さんよォ」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「俺より上だと思い込んでるクソどもをぶっ殺す……その肩慣らしに丁度いいわァ……」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「オラオラ攻撃遅ェぞ!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「いいねェ憎悪や怨念ってヤツは。何度向けられても飽きねェ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「オラどうした、こんなんじゃ長慶も殺せねェぞ!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「遅ェんだよォ鈍ェんだよォ弱ェんだよォ!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「てめェのチンケな術で三悪様が殺せるかよォ――!ひゃはははははは!!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ひゃっははははははははははははははは―――――――!!!!!!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ひゃははは――ハァ」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「まだ続くのか」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「おい」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「おいコラ、クソ便所」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ちょっと」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ちょ待てよ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ちょっと待てって」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「待てっつってんだろ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「待――」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が
血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が血槍がぎゃり血槍が血槍が血槍が血槍が血槍がぎゃり血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が

419438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:59:53 ID:kGznglRM0
「待てっつってんだろうがァァァ――!!こンの腐れ便器女がァァァ――!!」

久秀は絶叫しつつ、再び血槍を蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とす。
しかし糸に絡まった血槍や切り落とされた血槍はドロリと溶けてその姿を失くすと、再び血槍の形となって久秀に襲いかかってくる。


「しつけェぞテメ――!!」

少し遊ぶつもりで戦い始めたはずが、気づけば周りが明るくなりかけている。
松永久秀と彼女が殺した魔法少女アリアの血液が化けた血槍は、かれこれ数時間も戦い続けていた。


「いつまでも現世にへばりついてんじゃねェェ――!」

久澄アリアの死体から魔力が枯渇するまで血槍の攻撃は続く……それは久秀にも分かっていたが、まさかこんなに長続きするとは計算外だった。
もともとアースMGでも有数の実力者であるアリアの魔力貯蔵量は、普通の魔法少女に比べてもケタ違いに多い。
だがこれほどの魔力があるのなら、何故彼女は生前にそれを使わず、久秀に一方的に嬲り殺されたのか。


「さっさと地獄に流れやがれェェ――!!このクサレ便所がァァ――!!」

アリアのいたアースMGにおける魔力とは、希望や勇気や想像力などのポジティブな精神力を変換して作られるものである。
しかしそれとは別に、怒りや憎悪や絶望といったネガティブな感情を破壊の魔力に変換する外法も存在しているのだ。
魔法少女の仕事には、そうした外法を使う悪の魔法少女との戦いも含まれている。
然らば、百戦錬磨の魔法少女であるアリアが己が使うかは別としてその外法の術を知っていたとしても何ら不思議はない。
ぎゃりぎゃりぎゃり

「てめェみたいなクソガキが俺の邪魔をしようなんざァ五百年早ェんだよォ――!!」   ぎゃりぎゃり

長時間に渡る拷問の中で蓄積された憤怒・憎悪・屈辱・絶望は、意図してか、それとも無意識の本能的にかアリアの中で膨大な魔力に変換され
それでもアリアの生前は彼女の肉体と精神――無意識下の善意や倫理といったものがブレーキとなり、内に留められていた。
しかし彼女が殺され枷が外された瞬間、魔力は外界へと溢れ出し、アリアの最後の意志の命ずるがまま憎き久秀に襲いかかったのだった。


「小便垂らしの雑魚淫売が調子に乗りやがってよォォォ〜〜〜!!」

キリがないのなら久秀はさっさと逃げればいいのだが、現実は中々そうはいかない。
普通なら恨みに任せた場当たり的な攻撃では妖怪化している彼女を殺すことは不可能だ。     ぎゃり
だが場当たり的でもこう数が多いと、何かの間違いで久秀のウィークポイントである平蜘蛛に中るかもしれない。
久秀の胎内某所に隠された平蜘蛛は、妖怪と化した彼女にとって唯一にして最大の弱点だ。一撃されたら即死亡の部位を庇いつつ離脱することを、血槍の群は許してくれない。


「便所にこびりついたクソの分際で俺様の手を煩わせるんじゃねェェェ!!!」

刀も蜘蛛も血槍を捌くので手一杯だった。
妖怪ゆえに戦い続けても疲労はしないが、こう無駄な戦闘をしている間に貴重な時間は飛ぶように過ぎ去っていく。
このままでは戦場で後れをとる――その考えが久秀を焦らせていた。


「がァ!!クソッ!クソッタレ!!」

ついに業を煮やした久秀は決断する。     ぎゃりぎゃり
血槍を操る魔力の源である久澄アリアの死体を破壊することを。

死体を破壊する――といっても、刀も蜘蛛も槍を相手しているので使えない。
だが久秀はそれらに代わる飛び道具を、すでに久澄アリア自身の支給品の中から見つけていた。

420438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:01:10 ID:kGznglRM0


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「畜生――畜生がァァァァァ……!!」

しかし、そのような支給品があるのなら久秀は何故もっと早く使わなかったのか。
そう――もしも支給品が他の物品であったなら、久秀は躊躇うことなくそれを使い、さっさと戦いを切り上げていただろう。


「クソ……クソ……ッ!!」

刀と蜘蛛糸の限界を越えた酷使で作られたほんの僅かな隙に、久秀は『それ』を取り出してアリアの死体へと放り投げる。
『それ』は一個の茶碗だった。しかしただの茶碗ではない。

戦国の梟雄であり凶悪無惨の戦闘者である一方で、松永久秀は戦国随一の文化人、数寄者でもあった。
そんな彼女の磨きぬかれた感覚は、一目見てその茶碗が天下の逸品であることを見抜いていた。

流石に彼女の命である平蜘蛛には及ばないが、それでも国の十や二十に匹敵する名品であることは間違いない。
なぜこんな殺し合いの場にこのような素晴らしい茶器が紛れ込んだのか、久秀は疑問に思いつつも
この茶碗に巡り会えたこと、価値の分からぬ便所女の手から救い出せたことを喜び、この戦いが終わったら自分の茶器コレクションに加えようと大事にしまっておいた。


「クソッタレがァ――――!!」

だが背に腹は代えられない。
戦場において初動の遅れは即ち敗北に繋がる。
そして松永久秀はもう遅れ放題遅れていた。
このままでは主催者にどっちが上か教えるどころの話ではない。


「点火!」

茶器を爆弾にする能力。
彼女が妖怪化するに際し、再生能力、蜘蛛の使役とともに備わった特殊能力である。


                               ヽ`
                              ´
                               ´.
                           __,,:::========:::,,__
                        ...‐''゙ .  ` ´ ´、 ゝ   ''‐...
                      ..‐´      ゙          `‐..
                    /                    \
        .................;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::´                       ヽ.:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.................
   .......;;;;;;;;;;゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙       .'                             ヽ      ゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙;;;;;;;;;;......
  ;;;;;;゙゙゙゙゙            /                           ゙:                ゙゙゙゙゙;;;;;;
  ゙゙゙゙゙;;;;;;;;............        ;゙                              ゙;       .............;;;;;;;;゙゙゙゙゙
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              ノi|lli; i . .;, 、    .,,            ` ; 、  .; ´ ;,il||iγ
                 /゙||lii|li||,;,.il|i;, ; . ., ,li   ' ;   .` .;    il,.;;.:||i .i| :;il|l||;(゙
                `;;i|l|li||lll|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il `,  ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|lii゙ゝ
                 ゙゙´`´゙-;il||||il|||li||i||iiii;ilii;lili;||i;;;,,|i;,:,i|liil||ill|||ilill|||ii||lli゙/`゙
                    ´゙`゙⌒ゞ;iill|||lli|llii:;゙|lii|||||l||ilil||i|llii;|;_゙ι´゚゙´`゙
                         ´゙゙´`゙``´゙`゙´``´゙`゙゙´´


投げられた茶碗がアリアの首無し死体に命中すると同時に、目を潰す閃光と轟音が大地を震わせる。
そして朦々した土煙が消え去った後には――久澄アリアも、茶碗も、大きく抉られた地面の他には何も残されてはいなかった。

421438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:02:12 ID:kGznglRM0



ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「クソがァ…………」

アリアの死体消滅と同時に、血槍も形を失ってただの血糊に還る。
戦いを制した久秀の顔にはしかし、喜びの色はない。
仕掛けられた血の槍地獄から抜け出すのに払った代償は、彼女にとってあまりに高すぎた。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「チッ……」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「ん?」

さっさとその場を離れようとして――久秀は気付く。
自分のすぐ背後から聞こえる、ぎゃりぎゃりという奇音に。
そして首筋に伝わる、僅かな震えに。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり


「キャオラッッッ!!」

久秀は地を蹴って飛鳥の様に中空で回ると、一瞬前まで自分がいた空間に大典太光世の切っ先を向ける。

だがそこには誰一人、何一つとして存在していなかった。

「何ィ……!?」

逃げる暇はなかったはずだ――だがそこには、音の原因も、震えの源になるものも無い。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「!?」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

再び背後に音と震えを感じ、久秀は躊躇うことなく斬りかかる。
しかし名刀の刃は空しく宙を切るだけだった。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「これは…………」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

常人ならこの不可思議に混乱する所だが、久秀は早くも喝破した。
この音と震えが、自分にぴったりと憑いていることに。


「……!!」
久澄アリアの支給品から奪った手鏡で、久秀は背後の音の源――自分の首筋を見る。

「――ンだ、こりゃァ……?」

ソレは彼女の首の後ろ、首輪の表面に存在していた。
大きさは人差し指ほどの血の塊だった。形は錐形をして、先程戦った血槍の槍先に似ている。

ソレは槍先の先端にあたる鋭い切っ先のみで久秀の首輪に接し、猛烈な勢いで回転していた。
もし彼がアースRの出身ならば、その形状と動きを見てドリルを連想したことだろう。

ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「チッ!このッ!!」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

久秀は大きく首を振るが、その血槍先は首輪の一点から離れず回転したまま憑いてくる。

ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「てめェ――!」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

手で払いのけようとしたその時、

ちゅるん

という音を残して、その血槍は消えた。



後には、首輪の表面に錐で突いたような小さな穴一つが残されていた。

422438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:04:12 ID:kGznglRM0


「こ、これは……!!」

残された首輪の穴を確認した久秀の手から手鏡が落ち、砕けた。
今や全てがはっきりしていた。あの小さな血槍の目的は久秀の首輪に穴を空けることにあった。
そして今、穿たれた小さな小さな穴を通じて、元の血液へと戻った血槍は首輪の内部へと侵入したのだ。

松永久秀の首輪の中に。


「がッ…………!!」

その目的は久秀にも容易に想像できた。
魔力爆破――アリアたち魔法少女は魔力、久秀たち妖怪は妖力と種類は違えど
心霊的エネルギーを破壊エネルギーに転化するのは、慣れた術者にとってはそう難しいことではない。

無論本来であれば、妖怪である久秀にとって魔力爆破などカンシャク玉ほどにもダメージを与えない。
ましてや爆発するものが人差し指の先程の量の血液で、しかも穴を掘って魔力を使い果たした残りカスの爆発など、文字通り屁でもない。

しかし、もしその爆発がこの妖怪でもなんでも爆死させる首輪の誘爆を引き起こすとするなら――――


「クソッ!クソッ!」

久秀は慌てて穿たれた穴を下にして首輪をトントンと叩くが、血は出てこない。


「スベタがッ……!!最初からこれが狙いで……!!」

緊縛され拷問を受けている間に、久秀が通常の攻撃では死ぬことのない魔人だということをアリアも悟ったに違いない。
そして一縷の望みをかけて、久秀の首輪を狙ったのだ。
久秀を襲った無数の血槍は、首輪を削る際にどうしても発生する震動と掘削音を誤魔化し、久秀の意識をそちらに向けさせないための囮だった。
本命である血の小型ドリルは、おそらく戦闘の最初期に切り捨てられた血槍に紛れて密かに久秀の背後に回ったのだろう。
そして削り始めた――妖怪である久秀にとって致命傷になりえない頚動脈でも頭蓋でもなく、その首に嵌められた首輪の表面を。
こんな奇跡的超絶技が可能だったのは、術者である久澄アリアがアースMG世界屈指の魔法少女――それも水を操る魔法を最も得意とする――であったからに他ならない。

無論分の悪い……極めて悪い賭けだったことは間違いない。
もし戦闘の最中でも久秀が僅かな違和感に気付いていたら、もし久秀に平蜘蛛というウィークポイントが存在せず早々に場を切り上げていたら
もしもっと早く久秀が茶器爆破を決断していたら、もしもっと掘削困難な素材で首輪が作られていたら――――
アリアの遺した作戦は失敗に終わっていただろう。
だがアリアにとっては幸運な、そして久秀にとっては不運なことに、そうはならなかった。
久秀は最初は圧倒的強者としての驕りから、途中からは苛立ちから、気をとられて首輪の異変に気がつかなかった。
もし戦国時代の松永久秀なら、戦場の僅かな違和感を逃すことなど有り得なかっただろう。
しかし彼が甦ったアースEは小規模な戦闘や暗闘があるとはいえ太平の世、そこでの暮らしと、人間を捨て妖怪化した事による己が力への過信――それが戦国の梟雄を鈍らせていた。

423438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:04:55 ID:kGznglRM0


「だが……だが何故だァ!? 売女の死骸はもう無いはず……!!」

魔力の源であるアリアの死体はたしかに消滅した……ならば何故血ドリルは動き続け、今も首輪の中で動いているのか。

首輪から血を出そうと地面を転がり七転八倒する久秀の目は、偶然にもその答えを捉えた。



切断された久澄アリアの生首。
焼けただれ、血と泥に塗れた苦悶の形相の首は、久秀には嘲笑っているように見えた。


「このッ――――!!便j」

最後の司令塔を砕き潰そうと久秀は急いで駆け寄る。

だがアリアの生首に手が届く瞬間、彼女の首輪の中でアリアの最後の魔力が爆発した。
それは小さな爆発だったが、内部から首輪の誘爆をさそう目的は辛うじて果たすことができた。


          ,,-'  _,,-''"      "''- ,,_   ̄"''-,,__  ''--,,__
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          て   / ,,-",-''i|   ̄|i''-、  ヾ   {
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    .(:::::{:(i(____         i|     .|i          _,,-':/:::}
     `''-,_ヽ:::::''- ,,__,,,, _______i|      .|i--__,,----..--'''":::::ノ,,-'
       "--;;;;;;;;;;;;;;;;;""''--;;i|      .|i二;;;;;::---;;;;;;;::--''"~
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                 i|        |i
                 .i|          .|i
                .i|           |i
               .i|      ,,-、 、  |i
               i|      ノ::::i:::トiヽ、_.|i
           _,,  i|/"ヽ/:iヽ!::::::::ノ:::::Λ::::ヽ|i__n、ト、
     ,,/^ヽ,-''":::i/::::::::/:::::|i/;;;;;;/::::;;;;ノ⌒ヽノ::::::::::::ヽ,_Λ
     ;;;;;;:::::;;;;;;;;;;:::::;;;;;;;;:::/;;;;;;:::::::::;;;;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::;;:;;;;:::ヽ


早朝の森の清冽な空気を震わせて、諸行無常の理をあらわすかのような汚い花火が上がった。


【E-4/森/1日目/早朝】

【松永久秀@アースE(エド) 死亡】

※E-4/森に天下五剣「大典太光世」@アースE、マッチ@アースR、松永久秀の蜘蛛柄の着物、基本支給品二人分が放置されています。


支給品説明

【平沢家家宝の茶碗@アースR】
平沢茜の実家である平沢家に門外不出の家宝として代々秘伝されてきた茶道用の茶碗。
お宝鑑定団が卒倒するレベルの国宝級超逸品である。

【手鏡@アースR】
なんの変哲もない普通の手鏡。

424 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:06:48 ID:kGznglRM0
投下終了です
やばいと思ったが爆発欲を抑えきれなかった

425名無しさん:2015/08/10(月) 09:14:23 ID:Dw/HGv8E0
投下乙です
汚ねえ花火だ。小さい爆発というには大爆発に見えるAAですね

426名無しさん:2015/08/10(月) 14:06:17 ID:F5Dw3N9Y0
あまりにもふざけすぎています
カオスロワでやった方がいいのでは?

427名無しさん:2015/08/10(月) 18:46:03 ID:5.fc8rdQ0
うーん

428名無しさん:2015/08/10(月) 22:37:12 ID:3jz7eBk20
投下乙
やはりロワとは地獄だな(ニッコリ)

私的にはAA無しだったら大丈夫かと…

429 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 23:55:46 ID:kGznglRM0
皆さん感想ありがとうございます。
指摘された>>420>>423の二ヶ所の爆発AA部分は削除します。

430 ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:11:38 ID:cjK35EqA0
早乙女灰色 雨谷いのり 投下します

431似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:12:46 ID:cjK35EqA0
何かを志し、それに向かって努力し、そしてついにそれを成し遂げる。
古今東西あらゆるアースどこにでもありふれるこういう成功物語は、しかし、具体的な例となると極端に少なく、大抵の人間は、妥協し、享受し、静観して、挫折する。
が、この挫折者、転落者は記録や歴史に滅多に残らず、多くは塵となって消えてゆく。
今回は、同じ世界から呼ばれた二人の落伍者の遭遇を紹介しよう。
一人は正義の味方を志し、しかし姉の死をきっかけに堕落し、灰色の生き物になり。
一人は正義の味方を志し、しかし師匠の死をきっかけに転落し、真の正義/悪を殺す悪になり。
出発点は近く、身近な死をきっかけに変質し、そして二人は歪んだ道を歩き出す。
その道は、C―7、平原で交わることとなった。


歩みは依然、重い。
移動を開始して数分、歪んだ魔法少女、平沢悠との戦いによるダメージは今もなお、いのりの体を蝕んでいた。
それでもいのりが遅くながらも歩みをとめないのが、彼女のプライドとは別に、此処が広い平原だからというのもあるだろう。
ところどころに木陰が出来ているが、ほとんどは足首ほどしかない短い草ばかり。
これでは、すぐに危険な参加者に見つかってしまう。

(なんとか……学校まで……)

そう思い、足に力を込め、一歩ずつ歩く。
あばらが折れ、内臓に傷がついてもここまで動けるのは、彼女がその短い人生のほとんどを修行に費やしたからか。あるいは、性格を豹変させるまでに至った負の心が為すものか。
とにかく、彼女は学校へ向かい、緩慢と前進していた。
が、呼吸をするたびに頭に霞がかかる。それを振り払うようにいのりは首を振る。
負傷はいのりの予想以上に集中力を奪っていた。
――そう、接近する人間に気付かぬほどに。

「ふん、こんなところでお前に会うとはな」

その声に、いのりは慌てて振り向く。灰色の大男。政府直属ヒーロー、早乙女灰色がそこにはいた。

いのりは灰色に向かってナイフを構えた。頭の靄も瞬時に晴れ、全身の倦怠感も一時は忘れる。
敵に遭遇した際の即座の戦闘態勢。これも、いのりの師匠が遺した、死なないための技術だった。

「そう構えるな。首輪の色を見ろ。オレ達は同じ陣営だ」

「確かに同じ陣営。でも、お前は信用できない」

お互い、面識はなかった。ただ、どちらもその活躍や噂は聞いている。
いのりは、早乙女灰色という男が好きではなかった。
娘と一緒に活動し、ヒーロー協会ではなく、日本政府の依頼を受けて戦うヒーロー。
そして、この男は日本政府の命令で罪なき人間も殺しているという黒い噂が絶えない。
もしその噂が本当なら、灰色はいのりの敵だ。

「お前は罪のない人間を殺す。そんな奴を誰が信用できるか」
「ふん、嫌われたものだな。まあいい、オレもお前に好かれようとは思わん」

ただ、と灰色は続ける。

「情報くらいは交換しないか。何も一緒に行動しようというつもりはない。が、同じ陣営の相手とそう何度も会えるとは限らんのでな。お前も危険な人物の情報は知りたいだろう」

もっともな提案だった。いのりも頷き、言う。

「わかった。まずお前から話せ」

432似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:14:15 ID:cjK35EqA0
冷淡なないのりの態度にしかし灰色は何も言わず素直に口を開いた。

「まず、危険な怪物をが空港で暴れていた。今は怪人のようなものになっているが、それでも俺やお前が適う相手ではないだろう。発見したら逃げろ」

「怪物が……怪人……?」

「鱗のようなものがある、女性型の怪人だ。まあ、見ればわかる。どうやら理性はほとんどないようだから、逃げること自体は容易いだろう。他に出会った者は麻生叫という口縫いの高校生だ。外見は異形だが、無口なだけでさしたる害はない。会ったら保護してやれ」

その言い草にいのりは眉を顰める。

「なぜお前は保護していない。ヒーロー協会には属していないとはいえ、お前もヒーローだろう」

「生憎オレは足手まといを保護する気はない。それにあいつは妹を探すといったからな。それに付き合わされるのは面倒だ」

ヒーローとしてはあまりにも身勝手な灰色の言葉は、いのりの心に重い不快感を漂わせる。
思わず糾弾しようと口を開きそうになるが、すぐに自分も似たようなものだと気が付き、睨み付けるだけに留まった。

「とにかくオレが出会った参加者はこの2人だ。一人と一匹と言ってもいいのかもしれんがな。さあ、次はお前の番だ。……といっても、その有様を見れば、危険な参加者に出会ったことはわかるが」

「黒い大きな腕を使う、少女に出会った。悪人の空気を纏っている」

「悪人の空気とはまた曖昧だな」

と言いながらも灰色はその空気がどういったものかは容易に想像できた。
何度も悪と対峙と次第に分かってくるのだ。
一目見て、悪だと感じ取る。油断が死に繋がるヒーロー業界において、この力を持っているかいないかは、そのまま生死を分ける分水峰になることもある。
もっとも、このセンスを完全に信じ切り、それだけで悪人だと判断して襲い掛かるような者は、ヒーロー業界では狂人と扱われるが。

「ワタシが会ったのはそいつだけ」

「そうか。貴重な情報に感謝する。……ふむ、他に話すようなことも無い。別れるとするか」

「私は廃校へ向かっている。お前はどうする」

「ならばオレは北上しよう。これ以上お前と一緒に行動して刺されるのは御免だ」

そう言って、灰色はいのりに背を向け、どこまでも広がっていそうな平原を歩き出した。
背を向けてはいるが、いのりが後ろから襲い掛かってもすぐに対応できるように、常に気は張っている。
いのりは灰色の後ろ姿に興味は示さず、そのままさっきまでと同じように、廃校に向かって、足を進めだした。
灰色と出会った緊張、それに伴い分泌された脳内麻薬が切れる前に、彼女は少しでも距離を稼ぎたかった。

ヒーロー協会からのはみ出し者二人の情報交換は、こうして何事もなく終わった。



(次は殺すか)

いのりと別れて数分も経たないうちに灰色はそう考えていた。
彼の目的は、この殺し合いで悪を為し、自分の弟子に殺されることだ。
そして、その目標を達成するためには、雨谷いのりを殺すのが普通の考え方だろう。
しかし、灰色はそうしなかった。
いのりが負傷していても、敗ける可能性があったから。
それも確かにある。
が、灰色がいのりを襲わなかったのには、もっと明確な理由があった。
裏切りのクレア。
エンマに匹敵する身体能力と大人の狡猾さを備え、灰色の姉とは違い直接ヒーロー協会に反旗を翻した怪物。
そして、雨谷いのりの復讐対象。

433似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:15:03 ID:cjK35EqA0
クレアと遭遇することを灰色はそれ程恐れていない。
彼女はある程度は、それこそ怪人パーフェトのような狂人とは違い、話が分かる狂人だ。
情報や支給品の提供で見逃してもらえることも夢物語ではない。
それに、殺されるならばそれはそれで構わない。
頭を撃ち抜いたり、飛び降りる気は無いし、死なない努力はする。が、殺されることにそれほど恐怖感は無かった。

だが、エンマとクレアを会わせることは何としても避けたい。
幼いぶん思考が単純なエンマにとって、クレアは猛毒だ。
殺されるだけならいいが、変な思想を植え付けられたら最悪。
灰色は幻視する。
早乙女エンマがクレアの力で悪に堕とされ、自分の前に立ちはだかる未来を。
それはきっと、死より不快なことだ。
それはエンマ、灰色だけでなく、彼の姉、早乙女鉛麻も侮辱する行為だ。
彼女は絶望こそしていたが、決してヒーローであることはやめなかったのだから。
そして、裏切りのクレアはそれを容易く行いそうな不気味さがある。
が、灰色は積極的にクレアを討伐しようとする気はなかった。
それは自分ではクレアに勝つことは難しいという客観的事実や、たかが一参加者に構ってはいられないという冷静な判断によるものだ。
だから、雨谷いのりを襲わなかった。いや、殺さなかった。
クレアを憎み、復讐を誓う彼女は、あわよくばクレアに辿り着き、殺すまではいかないにしても腕の一本や二本は道連れにしてくれるかもしれない。
灰色はそれを期待し、雨谷いのりを見逃した。

だが、同時に灰色はいのりに失望をしていた。
この短時間で、あそこまで傷を負うことになった彼女は、灰色が思っている以上に、直情的で、不器用な生き方をしているらしい。
いのりの境遇が知っている。思う所がないわけではない。
が、いのりは灰色の生き物ではない。彼女は復讐者だ。
ならば踏み込んで語るつもりはない。彼は自分の同類にしか内面を明かさないし、過去を語らない男なのだ。
次に会った時、復讐を達成できていなければ、あるいは幸運にも達成していれば、その時は容赦せず殺そう。

灰色の男は、その時の殺害方法を考えながら、いつのまにか町へと入っていた。

【C-6/町/1日目/早朝】


【早乙女灰色@アースH(ヒーロー)】
[状態]:灰色
[服装]:ヒーロースーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:エンマに殺されるため、悪を行う
1:麻生嘘子だけは保護しておく
2:死んだらそれはそのときだ。
3:平原から北上。
4:雨谷いのりに今度出会ったら殺す



「次は殺す」
ワタシはそう口にした。
決意を口に出すと、さらに強固になる。
これは師匠がワタシに教えてくれた考え。
師匠が死ぬ前は、独り言は恥ずかしいと嫌がっていたワタシだけど、今はそれが自然に実行できる。
きっと今のワタシの有様を見たら師匠は怒ると思うけど。
でも、悪は悪でしか殺せない。
ワタシは間違っているけど、でも、弱い私にはこれしか方法がないのだ。

早乙女灰色。あいつからも悪人の気配がした。
きっと噂通りの奴なんだろう。
自分の地位や金のために罪のない人間を殺すような、そんな最低の悪党なんだろう。

でも、ワタシはそんな悪党を殺せなかった。
自信がなかったから。
今のコンディションで早乙女灰色を殺せるとは思えなかった。

裏切る直前までヒーロー協会に属していた裏切りのクレアは、その戦闘方法が記録されているし、彼女の戦っている姿を見た者も多い。
けど、早乙女灰色は表立った戦闘のほとんどを娘に任せている。その戦闘能力の詳細を、ワタシはほとんど知らない。
今まで、然したる興味も無かったから、というのもあると思うけれど。

「ぐっ……」

あいつの姿が見えなくなった辺りで、ワタシのあばらは再び痛みだした。
緊張がとぎれてきたんだろう。

とにかく今は学校に行って休息と治療を。
それまでは、それこそクレア本人にでも出会わない限り、戦闘は避けるべきだ。

けど、もし、体力がある程度回復して、また灰色に会ったら、今度は悪としてあいつを殺す。
次は、殺す。

【C-7/平原/1日目/早朝】


【雨谷いのり@アースH】
[状態]あばら骨骨折  それに伴う疲労(小)
[装備]:ナイフ×2@アース??
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:『悪』を倒す。特にクレア
1:学校で保健室を探し、休む
2:灰色は今度出会ったら殺す

434 ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:16:30 ID:cjK35EqA0
短いですが、投下を終了します

435 ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:11:55 ID:/5XIYF.A0
>438年ぶり2回目
アリアさんの怨念ー!めっちゃ大健闘してる!これはアリアさんが正義の魔法少女の意地を見せた形ですね…
久秀はもっと暴れてから無様に爆散してほしいと思ってたんですが、爆発させたくなっちゃったならしかたない
本文に勢いがあってこれはこれでけっこう好きな感じでした。またなんかやりたくなったらやっちゃえばいいのさ!

>似たもの同士が相性がいいとは限らない
灰色のヒーローと対悪のヒーローの邂逅……渋い!
情報交換を穏便に終えつつも互いに相手を殺すことしか考えてなかったっていう関係がすごいツボです
灰色がいのりちゃんを見逃す理由が、裏切りのクレアによるエンマ洗脳を想定してるってのもいろいろ考えられている

遅れましたが予約分投下します

436D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:13:51 ID:/5XIYF.A0
 

「だいたい分かった」

 警察署の『応接室』と書いてある個室の中心に黒田翔琉が立っていた。
 その近くにはホワイトボードが運び込まれており、黒のマジックで様々な情報や推測が描かれていた。
 ホワイトボードは狭すぎて、すぐに埋め尽くしてしまったので、壁にも書いてある。壁でも足りなかったので、床にも書かれていた。
 天井は届かなかったので書かれていない。

 旗についての情報。
 黒田の知っている自分の世界についての情報。
 そして、鉄缶に入っていたマスコット――ピンクのカエル「キュウジ」から聞いた、“魔法の国”の情報。
 あまりに書きまくられてしまったため、部屋はまるで呪いの言葉がびっしりと書かれているかのようにさえ見える。

「だいたいわかったって……」
「理解した、ということだ。事件の全容の理解は解決への第一歩、すべての探偵が行うべき初期項目。
 現状で分かっているなにもかもを洗い出して、未知のピースを推測で埋める、地道だが必要な作業だ、それが今終わった」
「……だ、だからってここまで書き込むことないじゃないか、かけるくん!
 床も! 机も! この缶まで! 文字だらけになっちゃって……」
「紙を取りに行くのは面倒だったからだな。俺は基本的に安楽椅子派なんだ」
「ものぐさなのかアクティブなのかはっきりしようよ……」

 テーブルの上、缶の中に入っているキュウジは呆れかえる。
 その缶にも情報が書き込まれている。
 「キュウジ オス 魔法少女のマスコット ショッキングピンク 羽虫が好き 猛禽類が嫌い 特技は大ジャンプ 趣味は歌……」
 テーブルにも情報が書き込まれている。
 「仮称:魔法の国 の魔法少女と呼ばれる存在を契約によって造り出す、マスコットと呼ばれる存在で……」
 もはやキュウジのプライベートな部分は年齢以外すべて洗い出されてしまった。年齢だけは死守した。
 そこはやっぱり現実的なところなので夢を与えるマスコットであるキュウジとしても教えては商売あがったりなのだ。

「というかかけるくん、こんなに情報ばっかり書いて、どうしようっていうのさ!」
「情報の大切さが分からないか? では試しにひとつ整理してみようか。
 まず――前提条件。俺が見ているこのピンクのカエルが幻覚でないのなら、”世界は複数ある”ということだ。
 時代考証も、なにより環境考証までてんでチグハグ、そもそも俺の世界観には喋るカエルも魔法少女も居なかった。
 同様にキュウジの世界では、探偵稼業は魔法少女の仕事の範疇で、
 探偵は居なくもないが、探偵だらけになるような土壌はない世界観だ。つまり、俺たちは別々の世界から来た」
「うん……そこは間違いないと思うよ……?」
「なら確定条件としよう」

 言いながら黒田はまだ文字の書かれていなかったソファーをひっくり返し、
 背に「1・世界は複数ある」と書いた。
 やっぱりアクション派じゃないのかとキュウジは思う。格闘が苦手な頭脳派とはちょっと思えない。

「そしてこの確定条件を”分かるところまで”詰めていく」

 書いた文字から線を伸ばし、項目を分けていく。
 ――どういう世界があるか?
 ――いくつ世界があるか?
 ――なぜ世界が複数あるのか?
 ――完全に別個の世界なのか? それともどこか一つから分岐した並行世界か?

「少し思いつくだけでもこれだけの条件が出せるわけだが、さてどれが“分かる”?」
「どれもわからないと思うなあ……」
「分からないのは情報が足りないからだ。他から情報を手に入れれば、確定したり推測できるものもある。
 例えばこの“参加者候補名簿”は大きな情報だな。
 俺もキュウジも知らない名前が載っている。というところ。そして、俺とキュウジが知っている名前の数も大事だ」

 黒田翔琉は“参加者候補名簿”をびらりと見せる。
 すでに警察署で調達したマーカーによって、
 黒田が知っている名前とキュウジが知っている名前には線が引かれている。
 全体で載っている名前の数は150弱。
 そして、黒田とキュウジがそれぞれ知っていた名前と、共通して知っていた名前を合わせて、30程度となっていた。
 ちなみに共通して知っていた名前とはすなわち偉人勢の名前のことだ。

437D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:15:21 ID:/5XIYF.A0
 
「偉人勢はとりあえず除く。本当に呼ばれているならそれは別の世界からの可能性が高いからな。
 二人がそれぞれ埋められた名前だけ数えると、20弱だった。
 一人につき10人程度の知り合いがいることになる。
 ということは単純計算なら、この殺し合いに呼ばれた世界は15個あるということになる。
 ……ただ、考慮すべきは、“同じ世界だけど知らない人”の存在だ。
 俺の世界からも俺が知っている著名人以外に呼ばれていたりするかもしれない。実際に、一般人に見える名前もあるしな。
 そう考えるともう少し減るわけだ。10個前後、あるいはもっと少ないか。
 さらに殺し合いに呼ばれなかった世界の存在も考慮しておこう」

 黒田はソファーに文字を追加する。
 世界は複数ある――いくつ世界があるか?
 ⇒少なくともこの場には10前後。呼ばれなかった世界を含めればもっとあるはず。

「なるほど……そういう流れだったんだ。すごいやかけるくん。やっぱり探偵だったんだね」
「探偵だぞ。そしてこの程度で驚いてもらっては困る。
 こうして推測した情報が他の謎の手掛かりや、新たな謎となるということもあるわけだ」

 黒田はさらに分岐を増やしていく。
 もはや問答もなしに、謎を増やしては推測し、答えを出していく作業。
 恐ろしいスピードでマジックを書き連ねていくその姿はまるで魔法陣を書く魔術師のようだ。

 ――10前後の世界はそれぞれどういう世界か?
 ◆探偵の世界と魔法少女の世界。ほかにも職業や概念に特化した世界があるか?
 ◆参加者名簿は日本語で書かれていた。全員が日本語を理解できるとみるべきか
   あるいは他の参加者にはその世界の言語で渡されているのか?
 ◆キュウジも日本語は理解可能。最初に流れたスピーカーからのアナウンスも日本語だった。
 ◆日本があるという点ではこちらの世界とキュウジの世界は共通している
  ⇒並行世界説の補強?
 ――そもそも世界が沢山あるとすれば――なぜその10前後の世界から呼ばれたのか?
 ◆キュウジは「旗」を見ていない 旗は関係ない?
 ――誰が集めたのか?
 ⇒たくさんの世界を集めるならばその世界について知っている存在が必要
  また、自分の世界以外の世界に干渉できる存在も必要となる
  この島のような世界に連れてこられているが、こんな島はキュウジも俺もしらない
  世界を移動させる力を持っている存在もまた必要
 ◆また、

「ちょ、ちょっとかけるくん!」

 あまりに終わりそうにないのでキュウジは思わずストップを掛ける。
 黒田翔琉もそこでようやくキュウジの存在を思い出したかのようにマジックを書きなぐる手を止めた。

「おっとすまんな。ついつい探偵モードに入ってしまっていた」
「ほんとうにやめてよ……その辺のおはなしをこれまでして、もう分かることは全部分かったんでしょ?
 いまのはおさらいなんだから、そんなに根をつめないでよ。僕らはその先の話をすべきだと思うな」
「同感だ」

 そう、今の推理過程はここまでの情報交換の合間にずっとなされてきていたことで、
 だから壁にも床にもびっしりと文字が這わされているし、黒田はもう推理の果ての「答え」まで出している。
 確認作業に時間をかけるほど今日の探偵に余裕はない。
 ぱんぱんと服についたホコリを払ってから、ごきごきごきりと黒田は肩を回した。

「重要な“成果”だけを確認しよう。

 分かったこと。
 ひとつ。 世界が複数あると分かったこと。
 ひとつ。 主催は複数の世界から人を集めて殺し合いをさせていること。
 ひとつ。 主催には複数の世界に干渉できるだけの強大な力があること。

 推測できたこと。
 ひとつ。 「チーム」は世界ごとに分けられている可能性があること。
 ひとつ。 「旗」は主催が俺の世界に干渉したことを表していた可能性があること。
 ひとつ。 この島もまた、主催によって造られたものである可能性があること。

 まあ他にもいろいろと考えはしたが、まだ推測の域を出んな。閉じこもっていては情報も足りないか」

 根拠や論理は割愛するとして、
 この一時間程度のグリーティングで黒田翔琉が「理解」したのは以上の成果だ。
 かねてからの懸念だった「旗」事件についての推理が出来たのは非常に大きなことだった。
 さらに、自分が置かれている状況についてもある程度の把握を得た。

438D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:17:17 ID:/5XIYF.A0
 
 複数世界から人を集めての殺し合い。
 理由はまだ不明だが、おそらくは世界ごとにチーム分けをし、
 どういうわけかどのチーム――どの世界が生き残るかを決めようとしている。
 その力はあまりにも強大で、黒田翔琉に太刀打ちできるものかはかなり怪しい。
 ――ここまで、分かった。 

「さて、そして最後の問題」

 そしてそれでもひとつ問題は残った。
 その問題は――ここが机上ではなく現場だということだ。

「俺はこの場で何をすべきか、だが――」

 事件が起こった後ではない。今まさに起こっている真っ最中だということだ。
 こんなとき、探偵はどうすべきか。


 ――黒田翔琉は探偵として、何をすべきか。


 ぎょろりと黒田の黒目がキュウジに向いた。
 キュウジはぎょっとした。先ほどまでの探偵の鋭い目とは違う。
 その目にはこの理不尽への怒りが、正義に燃える男の怒りが、炎として灯っていた。

「何をすべきか、だが。そんなものは決まっている。
 ……俺にもかつては師匠が居た。
 探偵の師匠だ。その人は探偵になろうと目を輝かせていた俺に、いきなりこんなことを言うような人だった。
 “いいかカケル、探偵は事件を解決している時点で負けだと思え。出番があった時点で敗けだと思え。
  探偵の仕事なんてのは火事の消火だ。延焼しないようにする後始末だ。燃えたものは結局、戻らねえ”」
「かけるくんの……師匠……」
「事件が起こってしまっているという事態そのものを、重く見るような人だった。
 確かにそうだと、俺も思う。解決するのは楽しいし好きだが、解決するような事件が無くなるのが一番だ。
 まあ理想論だ、事件が無くならないから俺たちみたいのがいるわけだしな。それでも、探偵(おれたち)だって思ってるんだよ」

 黒田翔琉は言った。

「人を悲しい目に合わせるクソ野郎は許せねえって、探偵(おれたち)だって思ってるんだ」

 力強く、宣言した。

「俺は――この事件(殺し合い)を止めるぞ、キュウジ」
「かけるくん……!」
「そしてそれに際して一つ、質問がある」
「え?」
「キュウジ。魔法少女のマスコット。マスコット学園では主席だったが、未だ契約者はおらず。
 マスコットは、契約者を自らと一蓮托生とする魔法少女に変えることができる。そうだな?」
「え……うん……」
「ならば」


 そして力強く、質問した。


「ならばお前は、俺を――魔法少女にできるか?」



【A-4/警察署/1日目/早朝】

【黒田翔琉@アースD】
[状態]:健康
[服装]:トレンチコート
[装備]:キュウジ@アースMG
[道具]:基本支給品、週刊少年チャンプ@アースR、タブレット@アース???
[思考]
基本:この事件(殺し合い)を止める
1:眠気は覚めた
2:そろそろ動き出す
3:剣崎渡月に注意
4:詩織やナイトオウルたち知り合いも気になるが…
[備考]
※「旗」は主催によるものと推理しました。
※複数世界の存在と、主催に世界干渉能力があることを推理しました。
※チーム=アースや言語変換、偉人勢の世界があることなどについては推測程度。

439 ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:19:54 ID:/5XIYF.A0
できるんでしょうか。投下終了です。

440名無しさん:2015/08/23(日) 01:29:02 ID:YHBwkX920
投下来てた!お二方乙です!

「似たもの同士が相性がいいとは限らない」
この二人は確かに似ているところはありますね。
師匠ポジの人を殺されてるところとか、達観してるところとか。
一旦はなんとかなったもののまた会ったときが怖いなあ…

「D-MODE」
探偵黒田の本気。さすがだ…キュウジもいい奴そうでなによりだ。
そしてやはり魔法少女黒田が誕生してしまうのか…!?楽しみだけど、おっさんの魔法少女だなんて見たいような見たくないような…。

441名無しさん:2015/08/23(日) 09:07:37 ID:ydq1Z7tQ0
投下乙です!
「D-MODE」
第一放送前にほとんど論理だけでここまで考察を進めた黒田はさすが探偵といったところ
キュウジもいい相方してるなあ
もし魔法少女になれたら戦闘面での不安も解消できるが、どうなんだろう?
まほいくのように少女になるのか、これゾンのような女装野郎になるのか、あれ、どっちでもおいしい……?

442名無しさん:2015/08/23(日) 12:06:33 ID:K9WKxhTc0
投下来てるじゃないか!

「似たもの同士が相性がいいとは限らない」
あいかわらず澱んだヒーローたちはサツバツとしてますね…コワイ!

「D-MODE」
魔法少女で探偵なオッサン、略してマタオの誕生か?

443CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:18:34 ID:yU85qQho0
代理投下します

444CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:04 ID:yU85qQho0
くははっ!やっぱり俺様の考えた通りだったなぁ、俺様の勘はやっぱ他のやつらとはちげぇんだな」

学校の三階職員室。
愛島ツバキは窓際の教員用作業デスクを眺めながら口許を緩ませた。
そしてツバキは普段なら座れない『教頭』というカード立てが置かれているデスクの椅子に腰かけゆったりとしている。

探索を始め、一時間ほどだろうか。
ツバキと陽太が一通りこの学校を回ったが、ツバキにとってこの学校は見覚えがあった。
何故ならばツバキが普段通う高校のそのものなのであるからだ。
ツバキと蓮がいつも居た生徒会室も、学食も、理科室も、教室もそのままの姿でこの殺し合いの会場に姿を現していた。

「…ツバキ、やっぱりこの学校は君の居た学校なのか」
「さぁねっ。AKANEが俺様の世界の学校引っこ抜いてここにドシーンって置いた『学校そのまま』なのか、俺様の世界の学校をそのままコピーして作り上げた『見せかけの学校』なのかまでは分かんねえよ。俺様のはや様エスパーじゃないしさ」

部屋の片隅で資料に目をやりながら、陽太は確認するかのようにツバキに聞いた。
ツバキも返答のようにはっきりとした確証は持てなかったが、そう予想するのは容易かった。

「どっちにしろとんでもない技術と手間がかかってるのに違いはないか」
「んまぁね♪」
「…なんでAKANEたちはここまでしたんだろうな。やる事は単純なのに」

壁に目をやると、おそらく年季からだろう。黒ずんだシミが見受けられる。
職員の机を見ても、職員の家族の写真や、部活動のスケジュール。添削課題までそのままの姿で置かれてある。
まるである学園のその一瞬を、人間だけ取り除いて切り取ったかのように。

陽太としては疑問だった。
殺し合いをたださせるなら、ここまで本格的に用意する必要はないのではないかと。
ただの道楽目的ではない、何か裏があるのではないかと。
深読みかもしれないが、そう思わざるをえないほどこの学校は不自然だった。

445CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:32 ID:yU85qQho0

「さぁね〜。俺様わかんなぁーい。名探偵でも連れてこいよってなっ」

そんな陽太の疑問を差し置いて、ツバキはへらへらと笑いながらバックから双眼鏡やら、薬品やらなんやらを並べていく。
先程寄った理科室で回収してきたものだろうか。陽太は周囲の敵の有無ばかり気を使っていたのでこういった物は忘れていた。
ツバキは双眼鏡を手に取り、椅子から立ち上がると西の窓際へと行き、そこからの風景を覗いた。

「生物の田邊の机の中にあったんだぜ!教師に対するボートク?ってやつか…おっ。こりゃおもしれえ」
「どうした!」

誰か見つけたのか、と思い陽太はツバキへと駆け寄る。
ツバキはわざとらしそうに、「ほへー」と言いながら、望遠鏡を覗き続ける。

「ヘロヘロの女の子が歩いてきてるぜ、しかも…こっちに!くははっ!よく見れば『戦姫たちの夜に』の雨谷いのりじゃん!コスプレかよっ」
「…!いのり!?」

雨谷いのり。結城陽太の弟子仲間の一人で、ともに修行していた仲間だ。
世界渡航に巻き込まれてからは行方も知れなかったが、まさかこの殺し合いに巻き込まれていたとは。

驚くツバキから半ば強引に双眼鏡を取り、覗く。
確かにいのりだった。しかし怪我でもしたのだろう。数箇所の出血と、脇腹を抑えながら苦痛の表情で歩くその姿は、間違いなく危険な状態だった。


「あれ?知り合い?作者どころか媒体も違くね?あんたら 」
「知り合いも何も…俺の弟子仲間の一人だ!なんであんな姿に…っ!」

いのりは強かった。
それでこそ師匠からも毎日のように褒められていたし、彼女としてもヒーローに対して誇りがあった。
そのいのりがあそこまでぼろぼろになったのにはきっと訳があるはずだ。
陽太も知らぬ、敵が。
双眼鏡をツバキに突き返し、陽太はおもむろに出入り口のドアへと走り、その引手に手をかけようとした。


「どこ行くんだよ」

ツバキが、先程までのふざけた様な喋り方ではなく、冷静に、しかしどこか調子が抜けたように尋ねた。
もちろんツバキも、陽太の行き先など知っている。
しかし、この《打ち切りくん》の物語を知っていた。だからこそ、ここで一応、止めておく必要があった。

物語の中で結城陽太は正義感が強い熱血漢だった。
だからこそ、仲間や無実の人々が痛い目にあったり傷つけられたりすれば頭に血が上ったようになり、「彼らを助けるため」の行動をする。
しかしひっくり返せば「正義感が彼の理性を抑圧してしまう」ことになり得る。
故に「サンライズ」の話の中ではその正義感が彼を単独的な行動へと度々追いやったためかファンからの批判に晒されてしまい、打ち切りの原因の一つとなったのだった。

446CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:53 ID:yU85qQho0
もし、結城陽太がその「サンライズ」の中の本物であるならば、おそらくツバキの話など聞かずに立ち去るだろう。しかし、ツバキとしても何も言及せずに元気に陽太にたいして
「いてらぁーー」と言うわけにもいかない。

ツバキは窓際から陽太へとゆっくりと近寄りながら口を開く。

「…あれが本当にお前の知人の『雨谷いのり』とやらって確証はあるのかよってハナシ。俺様から見たらアニメキャラのコスプレにしか見えないぜぇー?」

ドアの方を向いていた陽太は少し、肩を動かした。
確かにそうだ。世界渡航を経験した自分なら分かる。
ツバキの言う通り、あのいのりは《自分の知っている雨谷いのり》でない可能性だって十二分にある。
それどころか、凶悪的なヴィランであったらどうすればよいのか。
自分がここでやられてしまったら、それでこそツバキも、いのりも、この殺し合いに巻き込まれた人々を助けられないのではないか。

…しかし、それでも陽太は行かねばならなかった。
目の前の困っている人が居るならば、彼は駆けつけなければならなかった。
それが、師匠の教え。
《時が英雄にとっての最大の敵》。
まっすぐに、自分の正義感を信じて、行くしかなかった。

陽太は一旦大きく息を吐いてから、ツバキの方をはっきりと向いた。

「それでも俺は行く!『ヒーロー』だから!助けを求める人が居れば、どんな人でも助けてみせる!」

陽太はそう言うとドアを開け、職員室を走り出ていった。
正義感を胸に抱き、走り抜けていった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

447CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:20:34 ID:yU85qQho0
一人残されたツバキはやれやれと頭を掻きながら、陽太がいつの間にやら降ろしていたディバックも持ち、右手に日輪照らせし蒼穹の銃があるのを確認してゆっくりと職員室を出た。
陽太が走っていって数分後だった。

陽太を最初は追いかけるつもりはなかったが、このままもし死んでしまえば間が悪いし、何よりツバキ自身のせいになりうるのが、なんとなくバツが悪かった。

「…そんなんだから打ち切りくらうんだぜ。『サンライズ』君。
ま、たまにはヒーローの道楽に付き合ってやりますか。くははっ」

ツバキはそう呟くとのらりくらり、ゆっくりと陽太の足跡を追っていった。

【D-7/学校/1日目/早朝】

【愛島ツバキ@アースR】
[状態]:健康
[服装]:女子制服
[装備]:日輪照らせし蒼穹の銃(日光の充電50%)@アースH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、陽太の基本支給品&ランダム支給品0〜3
[思考]
基本:AKANEをぶっ潰す。
1:陽太と一緒に学校を探索したかったんだけどなぁ…まぁいっかだいたい見れたし。
2:平行世界について調べる。
3:陽太を追う

【結城陽太@アースC】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]: なし
[思考]
基本:AKANEと戦う。
1:いのりの元へ行く。

448名無しさん:2015/10/25(日) 01:21:17 ID:yU85qQho0
代理投下終了です

449名無しさん:2015/11/18(水) 01:21:03 ID:vYhxpiSA0
いつのまにやら投下来てた!?
乙です!果たしてどうなるのやら…

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452 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:15:59 ID:zWR9sifI0
テスト

453 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:17:06 ID:zWR9sifI0
短いですが
平沢茜
レイジョーンズ
投下します

454 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:17:53 ID:zWR9sifI0
レイ・ジョーンズは人間の闇を知っている。
「世界崩壊」前の彼は、犯罪者を相手取る仕事をしていた。新人だったが、それでも何度か場数は潜った。だから知っている。良心や倫理観などないかのように振る舞う悪党を知っている。
「世界崩壊」後も彼は極限状態に置かれた人間の醜さを何度も見てきた。それはゾンビとはまた違う醜悪さ。所詮人間も獣に過ぎないと訴えるような、残酷で、冷酷で、恥知らず。

だが、他の世界と比べても遜色なく、あるいはそれ以上に人間の【悪】に触れてきたレイ・ジョーンズでも、彼女、平沢茜は未知だった。

犯罪者、狂人、残虐。

そんな月並みな形容詞では表せないほどの【悪】。
そもそも動機からしてレイには理解ができなかった。

――世界が平凡だったから。

なんだそれは、とレイは思う。
そんなティーンエイジャーが家出をするような理由で、彼女は何人もの人間を殺して、いや、殺し合わせてきた。

その所業、まさしく悪魔(イレギュラー)。

だが、あまりにも理解ができないからこそ、レイはそれ以上、理解することを止めた。
レイの目的は生還である。ならば、ある意味ベテランである茜は重要な要素だ。
生かしておく。それに、外見は妙齢の日本人女性であり、実際に殺人を犯す、または誰かに危害をくわえるところを見たわけではない。

こと、適応力に関しては、レイの右に出る参加者は少ない。レイは心の中から生じる不快感、生理的嫌悪に蓋をして、あくまで善良なアメリカ市民、タフな元SWATとして振る舞うことに決めた。

レイと並んで歩く茜はすっかり登りきった太陽に照らされた海を見ている。
まるで、映画のワンシーンのように、海沿いを歩くレイと茜は、映えていた。

455 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:18:32 ID:zWR9sifI0


レイ・ジョーンズにとって平沢茜は未知である。
が、彼は未知に慣れている。次々に襲い来る不条理に耐性がある。

ならば、平沢茜はどうなのか。
自分のペースを崩さない彼女は、このバトルロワイアルも既知なのか。

結論から言えば、彼女の心中は決して穏やかではなかった。
まず、彼女の感情を占めるものは怒りだ。

観測者、と茜は自分を評価している。
あるいは読者、もしくは視聴者。

彼女は殺し合いを見ることが好きだ。
もし古代ローマに生まれていれば、コロッセオの常連、あるいは運営者に成っているだろうと確信する程度には、好きである。

そう、彼女は殺しあいを見ることが好きなのであって、殺しが好きなわけではない。
何度か見せしめと称して人間を銃殺、あるいは爆殺したことはあるため殺人処女でこそないが、それでもどこぞの狂人のように、殺人そのものには快楽を見出さない。

だからこそ、彼女は自分を殺しあいに招いた『もう一人の私』、AKANEに敵意や憎悪を抱いていた。AKANEも、茜の性質は知っているはずだ。知っていて、それでもなお、彼女を殺しあいに放り込んだのだ。ご丁寧に彼女に殺意を抱いているであろう参加者と一緒に。

ああ、果たしてこれほどの屈辱があろうか。
観客は、コロッセオへと引っ張り込まれ、今度は自分が主催者を喜ばせる劇の一部として扱われている。
家柄を誇らず、友人からも謙虚でいい子という評価を貰っている彼女だが、その本性は自分以外の全てを自分の欲を満たすためにあると思っている悪魔だ。だからこそ、自分がもう一人の自分の肴にされることに我慢できない。
引きずりおろす、と茜は改めて決意を固める。

彼女の心を占めるものは怒りだ。
が、それだけではない。
怒りに次いで大きな感情。それは矛盾のように思うかもしれないが、愉悦だ。

殺し合いに放り込まれたことこそ業腹だが、この趣向は悪くない。
主催者の地位を奪えれば、様々な世界の者たちをロワに参加させることができるのだ。

そのことを考えるだけで、彼女のテンションは上昇する。
ヒーローや探偵、魔法少女や偉人が同じフィールドで殺し合う様を見たら、ここ最近のマンネリも吹き飛ぶだろう。
いや、それだけではない。異世界にまで干渉できる力があれば、妄想だけで終えていたこんな趣向やあんな趣向も……と考え出したら際限が無くなる。
そういう意味では、彼女は今まさに、明日への希望を見つけたといってもいいのかもしれない。

最後に彼女の中で最も小さな、されど確かにある感情。
それは、恐怖だ。
死にたくない、と彼女は思う。
観測者である彼女にとって世界の中心は自分である。彼女は全ての価値を自分に置いている。
だからこそ、人並みに、人並み以上に、彼女は死を恐れている。

平沢茜は聡明である。元々の悪魔じみた閃きと英才教育によって、彼女の思考力は水準を超えている。が、それは殺し合いを生き抜く武器としてはいささか弱い。
何より、彼女は腕っぷしが強くない。元々運動が好きではないのだ。おそらく単純な身体能力なら参加者でもワーストクラス。アースRの参加者だけを比較しても、平均以下であることは確実。

はっきりいって、もし彼女が最初に出会った参加者が、殺意を胸に秘めていたら、平沢茜はとっくに脱落している。
それは彼女自身も重々承知している。

大物ぶるのも、余裕の笑みを見せるのも、全ては経験則だ。
この極限状況でそのように振る舞う者がいれば、他の参加者は警戒、または頼もしく思うだろう。
いずれにしても、生存率は上がる。

彼女が見てきたいくつのも殺し合いでも、マイペースを貫いた参加者は必ず終盤まで残っていた。

経験則に関しては平沢茜はトップだ。
終盤まで生き残る参加者の行動や傾向を分析し、その中で自分でも行える行動を選択。
今まで見てきた何十何百の死と同じにならないように、茜は頭を働かせる。

456 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:19:11 ID:zWR9sifI0


ざあざあと波が揺れている。
港にはいくつか漁船が泊まっていた。
レイが調べたところ、エンジンは問題なく使える。
が、当然沖合に出れば首輪がボン、だ。
レイも茜をそれを理解しているからこそ、今のところこの漁船群にたいした価値を置いていなかった。
「この後どうする、茜」
レイは支給された食料――味気ない乾パンだ――を口に入れながら、横でコーヒー牛乳を飲む茜に問う。
「……そうねー、このまま放送が始まるまで、港に待機ってのはどう?」
ちらりと、レイは腕時計を見た。
もう1時間もしないうちに放送が始まる。
「俺も同じ考えさ。今慌ててここを移動するメリットがない」
「そ。それに茜ちゃんはもー疲れちゃったよおー」
そう言って、ごろんと茜はベンチに体を横にした。
無防備にレイにその肢体を、晒す。
「ジョーンズさーん、マッサージおねがーい」
そう言って、童女のようにあどけなく、笑う。
こういった相手を、レイ・ジョーンズは殺せないと脳内で冷たく計算しながら。
「はは、おやすいごようさ」
そう言ってレイは彼女の踝に手を当てる。
「いやーん、何か手つきがやらしー」
「おいおい、君から頼んだんじゃないか」
そう言って、レイは手慣れた手つきで、彼女の足をほぐしていく。
(あ、思ったよりも上手い、この人)
と、彼女が若干緩んだ脳でそんなことを考えた時。
「ところでさ、せっかく時間があるんだ。さっきの話しの続きをしたいんだけど、いいかい」
(やっぱり、来たか)
平沢茜は考える。
今話すべきこと。まだ話すべきではないこと。それを冷静に吟味しなければならない。


もし第三者が今の二人を見れば、年の離れたカップルだと思うかもしれない。

が、二人の間に絆が芽生える可能性は――今のところ、零である。





【H-5/港/一日目/早朝】


【平沢茜@アースR】
[状態]:健康、精神的疲労(小)、肉体的疲労(中)
[服装]:普通の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒し、自らがこの殺し合いの主催になる
1:AKANEの元へ行く
2:ジョーンズには守ってもらいたい
3:叫、駆、嘘子の動向が気になる
4:放送があるまで港で待機
[備考]※名簿は見てます


【レイ・ジョーンズ@アースEZ】
[状態]:健康 
[服装]:ボロボロのスワット隊員服
[装備]:スペツナズナイフ×4@アースEZ、小説『黒田翔流は動かない』@アースR、仮死薬@アースR
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:主催を倒す
1:一般人は保護
2:茜の話をもっと聞く。そのために今は茜を保護するのが先決か
3:マシロ、マグワイヤーが気になる
4:俺が作られた存在?
5:放送があるまで港で待機
[備考]※平沢茜に生理的嫌悪感を抱いています

457 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:20:30 ID:zWR9sifI0
投下を終了します
タイトルは「悪魔の中身」です

458 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:11:59 ID:ptTP.aTw0
今回も短いですが
卑弥呼
柊麗華
早乙女エンマ
投下します

459みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:13:12 ID:ptTP.aTw0
全身に揺さぶりを感じて、目を覚ます。
すでに日は昇っていた。
視界に入る少女は確か――柊麗華。
そして、どぎついピンク――ピンク?

「そう睨むな、睨むな。妾の名は卑弥呼。お主……えんま、じゃったか?お主の師匠探しを妾も手伝ってやるぞ」

そう言って、ピンク色の髪の少女は微笑んだ。

「安心せえ。妾はお主らのような可愛い女の子の味方じゃ」

えへへ、と麗華は照れたように頭を掻いた。
エンマはそんな二人を無表情に見つめる。

「協力してくれるの?」
「うむ。妾にどーんと任せい」

薄い胸をどんと叩く。
エンマはこの卑弥呼と名乗る少女をチームにいれたメリット、そしてデメリットを考える。
が、今まで損得についても深く考えなかった少女にとって、これは中々難しい仕事だった。
数秒ほど、眉を歪めて額に手を当てた後、エンマは卑弥呼に結論を言った。

「二人かついで逃げると、両手使えなくて困るから」
そこで一度、言葉を切る。
卑弥呼の目を見つめ、続ける。
「もしもの時は、お前は、追いて逃げるから」

卑弥呼は可笑しそうに笑った。
「かまわんよ、妾はジープを持っとる」

こうして、チームは三人になった。

460みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:14:08 ID:ptTP.aTw0


時は数分ほど遡る。
未だ早乙女エンマが眠りについている時。
吸血鬼、柊麗華は昇る太陽の光を体に浴びながら、エンマの寝顔を見つめていた。
(可愛いなあ)
それは肉体の強度的な意味でも、顔かたちのことでも、両方の意味でである。
柊麗華は自分の外見を気に入っている。
気に入ったからこそ、彼は「柊麗華」を皮にして、彼女になったのだ。
しかし、気に入っているといっても、毎日見ていればさすがに飽きる。
この体で小学校に通っている彼女にとって同年代の女子は珍しいものではないが、それでも早乙女エンマは十分に上玉だった。

そして、ジルに追いかけられた恐怖やエンマの持つ暴力に対する畏怖も、数時間経ったことで、収まっている。
(ちょっとならイタズラしても、バレないよね)

思えば、こういう油断や甘さが彼を一度人生からドロップアウトさせた要因なのだが、残念ながらこれは人外になっても治らなかった。

頬に手を触れる。ぷにぷにとして柔らかい。
髪に手を伸ばす。砂で多少汚れているが、それでも口にいれたいほどきめ細かい。

未だエンマが目覚める気配はない。
そっと、麗華は自分の顔をエンマに近づける。

(さすがに唇同士はまずいよね)
でも頬を舐めるくらいなら大丈夫、とエンマは心の中で呟く。

「おお、何と何と!ロリっ子同士の百合じゃと!いいのう、いいのう。妾はそういうのも大好物じゃ!」

突如聞こえた邪悪な声に、麗華ははっと顔を上げた。
自分の目の前にいるのは、一匹の烏。

まさか烏も参加者なのか、と麗華はこの殺し合いの底知れなさを感じ恐怖した。

「うむ、どうしたのじゃ。妾のことは気にするな、邪魔はせんぞ。ただこの式神で記録して動画サイトに上げるだけじゃ」
烏はそんな迷惑なことを言いながら、こちらをじっと見つめる。

(式神……)
と麗華は脳内で検索する。
高位の吸血鬼は使い魔として、蝙蝠などを使役できる。
この烏も似たようなものか、と麗華は推理した。
とりあえず、エンマを起こそうとその矮躯に手を伸ばす。

「しっかし世の中何が起きるかわからんもんじゃのう。怪獣の次は『人外同士』の百合とは!いいのう、いいのう、AKANEもわかっとるのう!」

手が止まった。
(見抜かれてる……!?)

それは柊麗華がエンマに明かしていない真実。
それを、正体不明の式神使いに見抜かれたのだ。
「ん、どうした?起こさんのか?もしやお主、自分が人間じゃないことをその赤いロリに隠しとるのか?ううむ、お主も大変じゃのう」

「あ……」

そして、そのことさえも見抜かれる。
完全に役者が違う、と麗華は痛感する。
後はまだ、この式神使いの良心にかけるだけだが。

「そうじゃのう、お主。妾に協力してきれたら、このことをそこの赤いロリに黙っておいてやるぞ」
「な、何をすればいいんですか?」

哀れな殺人鬼は、邪馬台国を治める女王に縋る。

「うむ、妾はこの殺し合いをもっと面白くする!お主は、その手伝いをしてくれ!」

――――邪悪。

ある意味、ジルやAKANEよりタチが悪い卑弥呼の言葉に、麗華は空を仰いだ。

461みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:14:44 ID:ptTP.aTw0


「怪獣ティアマト」
エンマは静かに呟く。
「うむ、妾も二人、同行者をそやつに殺された。今でこそ縮んで怪人と呼べるほどの大きさになっておるが、それでも参加者にとっては十分な脅威じゃな」
「そ、そんなのまでいるんだ……」
と、怯えた声を出して麗華はエンマを見た。
「でも、エンマちゃんなら、勝てるんじゃない。さっきもあんなでっかい虎を簡単に倒しちゃったし」
「ほう、虎をか。そいつはすごいのう。三国志でも虎に勝てそうな奴はそういないというのに」
「……怪獣はわかんないけど、それくらいの大きさの怪人なら、師匠と一緒に倒したことある。だから、たぶん勝てる」
「ならば、討伐に向かうか。妾も微力ながら協力するぞ。かたき討ちじゃ」
じろり、とエンマは卑弥呼を睨んだ。
「まずは、師匠を探したい。方針は、その後考える」

「うむ、ロリは父親と一緒にいるのが一番じゃ。背徳的なロリも好きじゃが、無邪気に父親と戯れるロリも好きじゃよ、妾は」
「じゃあ、とりあえず北上しませんか。人を探すんでしたら、端より中央のほうがいいと思いますし」
「しかしティアマトに出会ったらどうする?」
「なんとかジープで逃げ切りましょう。卑弥呼さんもさっきそれで逃げ切れたんですし、私達が二人増えても問題ないはずです」
なるほど、と卑弥呼は腕を組んだ。
「それでいいよね、エンマちゃん」
と麗華はエンマを見て、あれっと首を傾げた。
どうにも機嫌が悪そうな表情だった。
「別に、出会って、襲い掛かられたら、倒すけど」
どうやら、麗華の言葉でエンマはヒーローとしてのプライドを傷つけられたようだ。
ごめんごめん、と麗華は大仰に頭を下げる。
そういう顔も可愛いいのう、と卑弥呼はよだれを垂らす。
殺し合いの最中とは思えない、どこかふわふわとした空気が流れた。



エンマは考える。
新しい同行者、卑弥呼。
正直口調は麗華より不愉快だし、髪の色も不自然で好きになれないし、で印象は良くは無い。
しかし、使える。
先程、式神と称してどこからともなく、烏を取り出して見せた。
この烏は卑弥呼と感覚を共有し、索敵に非常に向いている。
制限と、卑弥呼の運動不足からの体力の無さから、一度に2〜3羽しか使えないらしいが、それでも師匠探しには便利な能力だ。
(師匠、今何してるんだろう)
赤い少女は、灰色の男へ思いを馳せる。


面白い奴らじゃのう、と卑弥呼は心中で呟いた。
柊麗華。外見は可愛らしい少女だが、その中身は。
(小物じゃな)
と卑弥呼は断じた。
邪馬台国、そして敵国のクナ国には、こういう輩が大勢いた。
ここまで可愛らしい外見をした者はそういなかったが。

(そして、早乙女エンマか)
もう一人の少女は、レアだ。
二度目の人生で、似たような存在を見たような気がするが、中々思い出せない。
麗華の話しを聞く限りでは、身体能力に優れているらしい。
そして強い躰に見合わぬ、未熟な心。

(ああは言っておったが、ティアマトには勝てんじゃろうな。戦士としての格が違う)

だが、卑弥呼はそこは重要視していなかった。
今、彼女が注目するべきところは外見よりももう2〜3歳遅れているその精神性。
おそらく、「師匠」とエンマが読んでいる男は、中々歪んだ感情を彼女にぶつけていたようだ。

(妾色に染めてから師匠に遭遇というのも面白そうじゃのう。NTRものも妾も好きじゃ)

まあ、とにかく、面白く、面白く。

古き女王は、その邪悪さを胸に秘め、少女達に笑いかける。

462みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:15:14 ID:ptTP.aTw0


柊麗華は高位の吸血鬼ではない。
エクソシストや退魔師、陰陽師と戦闘になれば、なすすべなく退治されてしまう存在である。
柊麗華は天才ではない。
人間であったころは典型的なダメ人間だった。吸血鬼になってからも抵抗の少ない女子供ばかりを襲った(性癖の関係もあったが)

では、柊麗華は同行者二人、二人の少女に対して、何のアドバンテージもないのか。

否、麗華には、二人に対抗する一つの武器があった。

それは。
(限界を知ること)

柊麗華は知っている。
ヒーローや怪人が入り混じるアースHを生きる早乙女エンマよりも。
同じアース出身で、しかし化物としての格で圧倒的に負けている卑弥呼よりも。

彼女は、自分の強さの限界を知っている。
そして、自分より強い者の存在を知っている。

(確かに二人と直接やりあったら勝てない。でも、状況を見極める力なら、この中で私が、いや、『俺』が一番だ)

柊麗華は知っている。
自分を吸血鬼にした真祖の吸血鬼、そのでたらめぶりを知っている。
自分が格下の人外であることを知っている。

だから強者に助けを求める。
だから無力な少女のフリをする。
だから強者の服従を誓う。

だから彼女は、今も生き続けている。

(今に見てなよ、最後に笑うのはこの『柊麗華』だ!)


「ところで、ジープは誰が運転するのじゃ」
「さっきまでは卑弥呼さんが運転してたんですよね」
「じゃが妾も疲れたしのう、麗華、任せる」
「え、あの、私、免許持ってないんですけど」
「妾もじゃ」
「私もだ」
こうして、少女が三人乗ったジープが町を走ることとなった。

【B-6/町をジープで安全運転/1日目/早朝】
【卑弥呼@アースP】
[状態]:健康、興奮
[服装]:巫女服
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、蛇腹剣@アースF、生体反応機
[思考]
基本:「楽しさ」を求める
1:ロリはいいのう!
2:このまま北上
 3:早乙女エンマを染める?
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。
※麗華やエンマが人間ではないことを知りました
※エンマの能力をある程度把握しました
※式神(黒い烏)を召喚できます。詳細な能力や制限は他の書き手さんにお任せします


【柊麗香@アースP(パラレル)】
[状態]:健康 精神的疲労(小)ジープ運転中
[服装]:多少汚れた可愛い服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:生き残る
1:早乙女エンマと卑弥呼を利用する。
2:このまま北上する
3:早くジープの運転に慣れる
※吸血鬼としての弱点、能力については後続の書き手さんにお任せします


【早乙女エンマ@アースH(ヒーロー)】
[状態]:健康
[服装]:血で汚れている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:師匠と合流して、指示を仰ぐ
1:このまま北上する
2:自分から戦うつもりはないが、襲われたら容赦はしない
3:このまま北上
※卑弥呼からティアマトの情報(多少の嘘が混じった)を聞きました。情報がどれだけ正確に伝わったかは他の書き手さんにお任せします
※柊麗華、卑弥呼の名前を知りました

463 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:15:59 ID:ptTP.aTw0
投下を終了します

464 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:43:42 ID:LjUNzr.g0
裏切りのクレア、高村和花、投下します

465桜の意図 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:45:27 ID:LjUNzr.g0
魔法少女とヒーロー、どちらが強いかだって?

そりゃあお前、キャラによるだろ。
最弱の魔法少女と最強のヒーロが戦えばヒーローが勝つ。
最強の魔法少女と最弱のヒーローが戦えば魔法少女が勝つ。
最強の魔法少女と最強のヒーローが戦えば……。

ああ、だめだ。どのキャラが最強かだなんて、ファンそれぞれで違うからなあ。
やっぱあれだ、キャラクターで判断しようぜ。

じゃあとりあえず。異端対決ということで。

元ヒーロー、裏切りのクレア。混血の魔法少女、マイルドフラワー。

強いのは、どっち?



服従か、死か。
裏切りか、死か。
8歳の少女に突きつけられた厳しい選択。

マイルドフラワー、高村和花の瞳は絶望で揺らめいた。

「どうした、さっさと選ぶんだ。私はあまり気が長いほうじゃないよ」

両手を広げ、口を三日月に歪めるその女、裏切りのクレアはマイルドフラワーには悪魔にしか見えなかった。
正義の魔法少女はそこに、確かに悪が在ることを認識する。
だから。

「私は、裏ぎ――らない!」

その宣言と共に右手にステッキが現れる。
とほぼ同時にその先端から桃色の極太レーザーが悪へと襲い掛かった。



『サクライト』
それはマイルドフラワーが唯一覚えている攻撃魔法にして、日本の魔法少女が放つ呪文の中でも、トップ10に入る火力を誇る魔法である。

高村和花は正義の魔法少女である。
アースMGにおいて、魔法少女は平和を守る守護者としての役割を備えている。
彼女たちは迷子の保護、町内のゴミ拾い、企業のイメージガール、だけでなく。
凶悪な犯罪者の制圧、『魔』の討伐、悪の魔法少女との激闘。
これらも正義の魔法少女、それもベテランならば一通り経験していることである。
それでも魔法少女の死亡率はアースHにおけるヒーローのそれよりずっと少ない。
それはヒーローよりも魔法少女は助け合いに重きをおくこと。
世間が魔法少女に非常に好意的なこと。
この2点が大きい。

ならば、魔法少女から、そして心無い世間の大人達から。
嘲られ、苛められ、排除されたマイルドフラワーがそれでも今まで正義の魔法少女として活動できたのは、この呪文のおかげといっても過言ではないだろう。



突如目の前に広がった桜色の世界に、裏切りのクレアは驚愕で目を見開いた。
裏切りのクレアは、それこそ和花くらいの歳の頃から戦ってきたベテランである。
ゆえに、今、自分に迫りくるものがどれほどのものなのか、瞬時に悟る。

「これは、裏切られたな……!」

そう言って、クレアは腰を落とし、両腕を交差して、胸の前で構える。
避けるには、範囲が広すぎる。
マイルドフラワーが放ったサクライトは、東光一に見せたそれより数倍の火力、範囲だった。
故にクレアはかつて『表破り』と言われた時代のように、正面から迎え撃つ。

「しかし、たいした威力だ。ヒーローの放つ必殺技に勝るとも劣らない。だからこそ、私も正々堂々、油断せず。――6割で相手をしよう」

次の瞬間、質量を持ったレーザーがクレアを呑みこんだ。
例えるならそれは巨大なブルドーザー。
あるいは津波。
この呪文を放たれた者は、文字通り吹き飛ばされ、ノックアウト。
それがマイルドフラワーの経験則だったが。

「嘘……」

驚愕と絶望が混じった声が、その喉から洩れた。
裏切りのクレアは、動かない。
身長170、体重50といくつのその体は、しかしマイルドフラワーには大岩のように思えた。
こんなことは未だかつてなかった。マイルドフラワーが敵に本気でこの呪文をぶつけ、それが当たった時。それはマイルドフラワーの勝利とイコールしていた。
魔法が封じない状況に持ってかれた時はあった。
俊敏な相手に避けられたこともあった。
しかし、直撃してもなお拮抗するのは、本当にありえない。

「もしかして君は、私がこの魔法と拮抗していると、思っていないかい?」

クレアのその声は決して大きくはないが、確かにマイルドフラワーの耳に入った。

「ならば、その言葉。裏切らせてもらおう」

90%、とクレアは呟いた。
そして、彼女は左腕を前に出し、掌をマイルドフラワーへと向ける。
そして右腕は静かに後ろに引いた。
桜色の暴虐を、左手だけで防ぎながら、彼女は笑う。

「『表破り』、見せてあげよう」

引いた右腕で拳を固く握りしめ、捻りながら前へ打つ。
――正拳突き。
クレアは『サクライト』にひとつ、突きを放った。

466桜の意図 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:45:57 ID:LjUNzr.g0


「いやはや、たいしたものだよ」

ぱちぱち、とクレアは大仰に手を叩きながら、敗者、マイルドフラワーへと歩みよる。

「その歳で、その矮躯で、そのファンシーな格好で。まさか私に9割出させるとは」

マイルドフラワーは動かない。うつ伏せに倒れこみ、魔法少女としての変身も解除された高村和花は、すでに意識は無かった。

クレアは彼女の首根っこを掴むと片腕で持ち上げ、その胸に耳を当てる。

「ふむ、まだ息はある」

そう言って、クレアは和花を背負った。

「どうやら、思った以上に面白い子みたいだな、君は」

あの時。

クレアの正拳突きが『サクライト』を消し飛ばし、和花を蹂躙した時。
彼女は、恐怖と絶望に顔を歪ませながら。
それでも、確かに。

「笑っていた。安心したように君は笑ったんだ」

あの笑みの理由は何なのか。
クレアはその答えを知っている。

「君は悪に屈しなかった。決して挫けず、自分の最高の攻撃をぶつけ、それでも――届かなかった。だが、誰が君を責められよう。これ以上、君に何を望もう。ここまで頑張ったんだ、けどどうしようもなかったんだ」

高村和花は心のどこかで、負けることを望んでいた。

「だから、私は悪くない。だから、悪に屈しても。裏切ってもしょうがない。……ククク、安心するだろう。自分の非道に、悪行に、裏切りに、大義名分が生まれた時というのは。ああ、わかるぞ。私がそうだった。私も初めはそうだったんだ」

最初から、クレアは和花を殺すつもりだった。
抗うなら、殺し。
裏切るならば真白と光一の前に連れて行き、経緯を歪曲して伝えた後、二人の目の前で和花を殺す。

しかし、彼女は考えを変えた。
この少女に自分と近い何かを感じたのだ。

「ふむ、真白ちゃんがパートナーだとすれば、この子はさしずめ、私の弟子というところか。……そういえば、名簿にはあの馬鹿弟子がいたな」

彼女の脳裏に浮かぶのは、正義感に溢れ、弱きを助け、強きを挫く、そんなヒーローの理想のような青年。
かつてクレアが育て、クレアが裏切った、彼女に最も近付いた男。

クレアは自分の服装をまじまじと見つめた。
戦闘の余波ですでに黒スーツはずたぼろに破れている。

「この恰好であいつに出会うのは、ちょっと嫌だなあ」

【C-3/森/1日目/黎明】



【高村 和花@アースMG】
[状態]:変身解除、疲労(極大)
[服装]:桃色と緑色の魔法少女服
[装備]:ステッキ
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:魔法少女は助けるのが仕事
1:???
[備考]
※夢野セレナや久澄アリアと面識があります。
※キツネ耳と尻尾は出し入れ自由です。


【裏切りのクレア@アースH】
[状態]:健康
[服装]:ボロボロのスーツ
[装備]:転晶石@アースF
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2、アイテム鑑定機@アースセントラル
[思考]
基本:優勝する
1:真白ちゃんを裏切らないとは言ってないよ(笑)
2:目の前の魔法少女を“育てる”?
3:服を探す
4:真白のところへ戻る
[備考]
※詳細な行動動機は他の書き手さんにお任せします
※高村和花と自分が似ていると考えました。彼女の推測が正しいかどうかは他の書き手さんにお任せします

467 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:46:55 ID:LjUNzr.g0
投下を終了します

468名無しさん:2016/02/07(日) 00:55:30 ID:K3weBxjA0
久々に見てみたら投下来てた
投下乙です。素手でビーム消し飛ばせるとかヤバい(確信)

469 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:00:31 ID:MLe/DFvQ0
巴竜人
道神朱雀
ライリー
投下します

470 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:00:53 ID:MLe/DFvQ0
巴竜人と道神朱雀は他の参加者の捜索を続けていた。
朱雀の他人格を警戒しつつも、先のような惨劇は避けねばならない。

「やっぱりこの首輪がネックになるか…」

竜人は自身の能力を発揮するにおいての枷に対する苛立ちを漏らす。

「すまんね、巴やん。私の知識でもこれの構造は分からへんわ。せめてサンプルでもあればちゃうんやけど…」
「サンプル、か…」

生きている自分達の首輪が外せない以上、それはすなわち死体から得たものを指すという事になる。
考えたくはないが、そうした事をする必要もあるかもしれない、と竜人は考える。
だがそもそも、首輪を解析しようとする行為自体が主催に対する反逆行為とみなされる可能性もある。
首輪を得ようとしたら自分の首輪が爆破されるなんて笑い話にもならない。
ともかく今は不確定要素が多すぎるので、首輪に関しては今は保留にしようと二人は決めた。



471 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:01:35 ID:MLe/DFvQ0
「そう警戒しないでくれよ竜人クン、僕は別に君と事を構えるつもりはないんだ」
「悪いがアンタに対していい話は聞いていないんだ。…青竜の事もあるしな」
「あの馬鹿と一緒くたにされちゃうのは心外だなぁ、戦ったってなんにもならない事くらい分かってるつもりだよ」

そう言って朱雀は…正確には朱雀の別人格の一人、"白虎"は竜人に見せるようにして首輪の「G」の文字の部分をトントンと叩いた。

「だってこれ、チーム戦でしょ?青竜は理解してなかっただろうけど、別に僕一人で勝つ必要なんてないさ」

それを聞き、竜人の目つきは険しくなる。
  、、、
「冗談だよ、そういうのを止めたいってのが君の願いだろ。敵に回せばどんな痛い目にあうかって分かってるさ、危うく朱雀君も死にかけたしね。おっと、青竜だったか」

と、皮肉っぽく言う白虎に対し、竜人はバツの悪い表情を浮かべた。

「それにこの体質はどうしようもないしね、そういう動きをするには不利すぎるよ。いつ入れ替わるかは僕にだって分からない。朱雀君や玄武は止めるだろうし、青竜は何しでかすか分かったもんじゃない」
「まあな。分かってても慣れないな、その人格変化」
「精々気をつけてくれよ、僕が死ぬって事は朱雀君や玄武まで死ぬって事なんだからさ。そりゃ君だって避けたいだろ?…っと、誰か来たみたいだね」

二人の視界に入ったのは、金色の長髪が目を惹く少女の姿であった。



472 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:02:23 ID:MLe/DFvQ0
「待ってくれ、俺たちは殺し合いには乗っていない」

竜人と白虎を前にし、明らかに警戒した様子の少女に諭すように竜人は声をかけた。
だが、少女はまるで一切の接触を拒絶するかのような強い口調で叫んだ。

「人間を信用など出来るか!帰れ!!!」
「…人間?」

その、自分は人間ではない、とでも断定するような口調に白虎はいささかの違和感を覚えた。

「さっさと帰れ!醜い人間と話す舌なんて無い!」
「話を聞いてくれ!俺は巴竜人。こっちは道神朱雀、…今は白虎か。話すと長くなるんだが…」
「ちょっと待って竜人君、うん、これはもしかして…」

竜人の発言を遮って白虎は前にズイと出る。そして少女に対しこう尋ねた。

「君の言う人間っていうのはさ…所謂他人を指す代名詞的な意味での"人間"かい?それとも種族そのものを指すって意味かい?」
「はぁ?何言ってんだ、人間は人間だろうが!」
「ふむ、やっぱりか…」

白虎は一人納得した様子で頷き、そしてこう言う。

   、、、、、、、、、
「君…中身は人間じゃないだろう?」


それを聞いて少女―――ライリーは狼狽えた。

「なんでそれを…そんな事どうだっていいだろ!」      、、、、、、、、、
「いやいやどうでもよくない。何故なら僕も…僕達もこう見えて中身は人間じゃないからね」
「達?」
「分かっちゃうんだよね、やっぱり似た者同士、これだ!っていうものを感じるというか」

白虎は続けて自分の中には三体の神獣が宿っており、自分もその神獣の一体である、という事を説明した。
ライリーはにわかには信じられぬ、といった様子であったが―

(確かにこいつの身体からは人間とは違った魔力…いやそれに近い別の力の波動を感じる。あながち嘘じゃないのか…?)

「次にこちらの巴竜人君は人智を超越した能力を持った改造人間なのさ…これが証拠!」

言うや否や、白虎は右の掌を"加速"の能力を用いて超高速で振動させ、竜人の胸元へと突き立てた。
が、竜人はその一撃を一瞬でガイアライナーへと変身を完了し腕を掴んで止めた。

「おい白虎!!」
「ごめんごめん、でも寸止めにするつもりではあったよ?それに止められるって信じてたからね」

事の一部始終を見届けたライリーはポカンと口を開けていた。

「人間が魔物に…変化した?」
「これで分かったろ、僕らが人間じゃないって、じゃあ次は君について教えてもらおうかな

「…なぁ、お前ら本当に人間じゃないのか?」
「君だって似たようなものだろ?見た目だけならどこからどう見たって人間だよ」
「そりゃあ、そうだが…」

渋々、といったていではあるが一応の納得はしたライリーは自分も殺し合いには乗ってはいない事、自分は女勇者と入れ替わったオークである事、アリシアとボーンマンという参加者を探している事を二人へと告げた。

「…俺は一応、まだ人間のつもりなんだけどな。それに何だか騙してるみたいじゃないか」
「しょうがないじゃないか、こうでもしないと彼女は…いや、彼なのかな?どっちでもいいや、とにかくあの子はまともに話してくれなかったよ?」
「まあ、それについては礼を言う」
「どういたしまして」

竜人は礼を述べながらも警戒心は緩めずにいた。そしてそれは白虎だけでなくライリーに対してでもある。

(あの少女の口ぶりの節々に強い憎悪の念を感じる…なにかとても恐ろしい物が潜んでいるかのような…)

一方で白虎はライリーからもたらされた情報を整理していた。

(オークってだけあって頭の出来はそこまで良くはなさそうだな。だが、入れ替わりか…興味深いね。もしかして上手く利用すればこの体質を…)

そして、警戒心持つのは二人だけではなく、ライリーもまたそうであった。

(こいつら…本当の本当に人間じゃない?それとも…)



それぞれの思惑を他所に、時刻は早朝6時―まもなく第一回放送を迎えようとしていた。

473 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:02:42 ID:MLe/DFvQ0
【F-1/町/1日目/朝】

【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:次の現場を探す。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
4:青龍、白虎、ライリーに警戒
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。

【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、白虎の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
(玄武)
基本:若者の行く末を見守る
(白虎)
基本:一応、殺し合いには乗らない。今は
1:多人格体質をなんとかしたい
2:入れ替わりか…
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。

【ライリー@アースF】
[状態]:健康
[服装]:勇者服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:アリシアとボーンマンを探し、護る
1:AKANEと聖十字教会を殺す
2:上記以外であれば自分から襲うつもりはないが、襲ってくるなら容赦しない
3:人間は仲間にしない。信用ならない
4:竜人と白虎は人間…?それとも…?
[備考]
※竜人と白虎を完全には信用していないため、上記以外の事は話していません。

474 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 03:03:01 ID:MLe/DFvQ0
投下終了します

475 ◆aFyiCU5AH6:2017/05/28(日) 11:45:33 ID:MLe/DFvQ0
タイトルは「人でなし達の宴」で

476名無しさん:2017/05/28(日) 14:20:38 ID:TRjQxWJg0
まさか投下がくるとは

477名無しさん:2017/05/30(火) 01:26:40 ID:an5ZT6JY0
投下乙です
ライリー思ったより扱いやすい……のか?
青竜という爆弾抱えてるし、ライリーとも一瞬即発だし、巴は今後も大変そうですねえ

478名無しさん:2017/06/03(土) 11:46:30 ID:QFVzEDBM0
投下乙

479 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:46:35 ID:mPts0UwU0
真白
東光一
投下します

480同盟破棄 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:47:52 ID:mPts0UwU0
「銃を使う気は、なさそうですね」

光一の一挙一動を観察していた真白は、彼が殺し合いの場に向かない人物であることを瞬時に悟った。
軍人空手の型を取りながら、「君を無力化する」と言いのけた光一。それは殺意がないという何よりの証拠だ。
対して自分は生き残る為ならば容赦なく目の前の男を斬り伏せる覚悟がある。これは圧倒的なアドバンテージだと言っても差し支えないだろう。
一つ懸念があるとするならば、先程見せ付けられた不思議な力だ。クレアが連れ去った少女といい、超常的な能力を有する参加者が多いということになる。
しかし真白自体はアースEZの世界でこれまで生き延びてきた実力者とはいえ、ただの無能力者。まともにやり合うにはあまりにも分が悪い。

(ゾンビ能力以外にも何か隠している可能性も考慮するべきでしょうか……?)

再び真白ソードを大振り。
またしても光一はなんとか躱した。とはいえそれが精一杯なのか、それとも本当に無力化しようとしているのか、反撃はしてこない。
本来ならば実力行使で無力化するのが当然であるが、相手は幼い少女。それが原因で光一もイマイチ攻勢に出ることを躊躇して、防戦一方になっている。

2回の攻撃で光一のそういう心情を読み取った真白は、彼のことを甘いと思った。同時に、格好の獲物だとも。
ある程度の実力者なら避けられる前提の動作―――大振りの一筋を光一は見事に躱してのけた。しかしただそれだけ。
どれほどの実力があろうと、その心に他人を殺す覚悟が、殺意がなければ殺し合いでは何の意味もなさない。実力者が自分より弱く、されど殺意が充満している者に呆気なく殺されるなんて、よくあることだ。

「俺の目的は、君を殺すことじゃないからね」
「……甘いですね。ゾンビだからって慢心しているのでしょうか」

再度真白ソードの大振り。
いい加減慣れてきたのか、光一の動作が先までよりもスムーズになっている。

「無理しなくてい―――ぐはっ!?」

光一が言葉を言い終えるより先に、鳩尾に鋭い蹴りが放たれた。
真白はソードがなければ本領発揮出来ないが、だからといって真白ソードに完全依存した戦法は行わない。
時にはこうして肉体を使った攻撃も織り交ぜるし、泥臭い戦い方にも嫌悪感は一切ない。全ては、生き延びるために。

481同盟破棄 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:49:04 ID:mPts0UwU0

あまりもの激痛に体勢を崩した光一の上空へ華奢な身体が舞ったかと思えば、直後に彼の頭を鷲掴みにして地面へ叩きつける。
それと同時に真白ソードを振り下ろせば、それは寸分の狂いもなく彼の心臓を射止める―――予定ではあるが、あえてそこは外す。左肩を刺し、引き抜く。華麗に地面へ着地。

(ここですぐに殺しても良かったのですが……やっぱりクレアさんのことが懸念ですね)

今回ダシにされただけなら、それでも良い。
だが相手は裏切りのクレア。警戒しておくに越したことはないし、何より自分が「クレアは裏切ったのではないか?」と疑問を感じた。そして真白の直感は割とよく当たる。
この幼い身で、裏切りや騙し討ちが当然の世界を生きてきたのだ。そういう本能には人一倍優れているという自負はある。

(今の私ではあの人に勝てません。きっとひとたまりもなく、殺されてしまうことでしょう)

彼我の戦力差は理解している。だからこそ今は頭を絞り、対抗策を練らなければならない。
予想以上に早い裏切りではあると思うが、それでも想定していなかったわけではない。いずれ裏切られるのは確実だとすら考えていた。

「そこで相談……いえ、交渉です。私と組みませんか?」
「こ、これだけの仕打ちをしてどういうことかな……」
「説明を求めるのはもっともですね。ただ私としてはあなたに殺し合いを実感してほしかったです」
「殺し合いを……?」

真白の言葉に驚愕を隠せない光一だが、彼女の瞳を見る限りそれが嘘だとも思えない。

「ここであなたを殺してすぐに逃げ出すことも考えました。ですが、万が一クレアさんと対峙する場面があった時、きっと私単独で対処することは出来ないじゃないですか。
 残念なことに私にはあなたのような特別な力はありません。そしてクレアさんに勝てないことは、本能で察していました」
「なるほど。でも俺は殺し合いには賛同できない」
「それでも構いませんよ。ただし私を襲ってきた相手は容赦なく殺してくださいね、それが条件です」
「……呑めないな。さっきも言った通り、俺は君を無力化するつもりだった」

そこまで聞いても。真白の無表情は変わらない。普通何らかのリアクションをするべきなのだろうが、想定内の返答すぎて特にリアクションを取る必要性が感じられない。

「でもそうしなければ、私は殺されますよ。見た感じあなたは稀にいる正義感の強い方のようですが、それでもいいのでしょうか?幼い命が戦場で散らされることを、良しとするのでしょうか?」
「それは……っ!」

言葉に詰まる。
何か反論してやりたいところでもあるが、真白の言っていることは、この殺し合いにおいてはあまりにも筋が通っていた。
自分達を襲ってきた者を殺さなければ、逆に自分達が犠牲になる。当たり前の理論だ。

((光一よ、この少女の言う通りだ。怪獣から一人でも多くの人々を守るために、私達は生き延びなければならない))
((でも……っ!))
((その葛藤は私にも理解出来る。だがこうしている間にも、私達の世界は怪獣の危機に脅かされていることを忘れないことだ))

「……わかった。でも優勝狙いだけはさせないよ。それだけは認めるわけにはいかない」
「優勝狙いが一番合理的な脱出方法ですが……わかりました。あなたが生きている限り、優勝は狙いません」

真白としては、要は生きて脱出することが出来れば良いだけのことだ。
それにこの男はきっと長生きできない。殺し合いの場ではあまりにも脆すぎるタイプだ。……とはいえゾンビ能力がある以上、そうとも言い切れないかもしれないが。どちらにせよ、ラストまで生き残ったとしてもこの性格ならば自らの手で殺すのは容易いだろう。クレアと一騎打ちするよりはだいぶ気が楽である。
最終的に優勝して脱出するという方針は変えないが、今はひとまずこの男と同行してクレアから逃げるのが最も安全な策だと真白は踏んだ。
しかしこれだけではやはり心許ない。出来ればもっと戦力を増やしたい。そうしなければ、きっとクレアには勝てないし、生き残るのも困難だろうから。

ただし足手まといになるようならば容赦なく見捨てる。自分までこの光一のような正義に染まるつもりは、毛頭ない。

482同盟破棄 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:50:27 ID:mPts0UwU0

「私の名前は真白です。あなたはなんて呼べば良いのでしょうか」
「東光一。光一でいいよ」

よろしく――とは言いづらかった。
何故なら先程まで自分を殺しに掛かってきた相手だ。流石の光一もそう簡単に心を許せない。
しかし少女がこんな性格になってしまったのも、何らかの原因があるはずだ。性格を正す為にも、同行するのは悪くないかもしれない。

「わかりました。では今すぐここから逃げましょう、光一さん。きっともうすぐ、クレアさんが戻ってくるはずです」
「和花は……」
「多分もう殺されているか、最悪―――『裏切り』の犠牲になっています」
「裏切りの犠牲?どういうこ――――うぉ!?」

光一が疑問を口にし終える前に、そんなことを無視して真白は彼の裾を掴みながら強引に連れ去った。
裏切りの犠牲とは、ただの勘のようなものだが……裏切りのクレアなんて名乗る相手が、そう簡単に殺して終わり、とも考えづらい。
恐らく何らかの手を仕込んでいる。それが何かはわからないが、拷問とかならば良いが……例えば自分の支配下にならないか、だとか。アースEZにもその手の輩はよくいた。
だから今は潔く逃げる。同盟を破棄して、一目散に逃げる。あの魔法少女と組まれたら、自分達ではとてもではないが太刀打ちできないのだから。

【C-2/公園/1日目/早朝】

【真白@アースEZ】
[状態]:健康
[服装]:私服、汚れているが、それがそこはかとなくえろい
[装備]:真白ソード
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:最終的には優勝する
1:クレアが戻ってくる前に逃げる
2:ひとまずは光一と組み、彼が死ぬまで優勝狙いはやめる。出来れば他にも戦力がほしい
3:ただし最終的にはやっぱり優勝狙い。もし他の脱出法が見つかれば……?
4:光一が足手まといになるようならば切り捨てる
5:クレアさんとは会いたくないですね……
※真白ソードによって戦闘力が上がっています。ソードには他にも効果があるかも
 
【東 光一@アースM】
[状態]:ダメージ(中)、左肩に刺し傷
[服装]:MHC隊員服
[装備]:十四年式拳銃(残り残弾数35/35)@アースA
[道具]:基本支給品一式、超刃セイバーZDVD一巻@アースR、
ディメンションセイバー予備エネルギータンク2個@アースセントラル
[思考]
基本:巻き込まれた参加者を助ける
1:和花ちゃんが心配。
2:真白と組む。出来れば更生してやりたい
3:何で十四年式拳銃なんか・・・?
[備考]
※コスモギャラクシアンへの変身に必要なコスモスティックを没収されています。
他の参加者に支給されているかもしれないし、会場内のどこかにあるかもしれません。
※十四年式拳銃のような古い銃が支給されていることに疑問を感じています。

483 ◆MYPVpX9yeE:2019/07/10(水) 15:51:17 ID:mPts0UwU0
投下終了です

484名無しさん:2019/08/12(月) 20:43:11 ID:fuCt1l7c0
約2年ぶりの投下…!乙です
何気に裏切るより先に裏切られたクレア不憫

485名無しさん:2019/08/25(日) 18:53:46 ID:B0Mrd/rY0
投下乙です

真白ちゃんも中々策士。一筋縄じゃいきませんね。
奇しくもチームシャッフルの形となりましたが、これは吉と出るか、凶と出るか。
また光一は真白とどう接していくのか。
今後の展開が楽しみです

486 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:24:02 ID:ydEk7mzA0
谷山京子
スライムちゃん
東雲駆
片桐花子
投下します

487片桐花子の災難 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:24:46 ID:ydEk7mzA0
「はぁ……はぁ……。ちょっと疲れてきたね……」

みなさんどうもこんにちは?こんばんわ?おはようございます?どの挨拶が正解なのかわからないけど、谷山京子です!
ボクは今、さっき立ち去った華ちゃんをスライムちゃんと一緒に追いかけてます!
と言ってもあの子意外と早くて、なかなか追いつけないけどね……。そもそもボクが傷心してちょっと遅かったのもあるけどあまりそこは責めないで(泣)

そりゃボクは男性器が付いてるけど、乙女心くらいあるから……あんなところを見られてどう声を掛けたらいいのかわからないというのが本音です。
でもスライムちゃんは持ち前のポジティブさで「とりあえず追いかけまショウ!」とボクの手を引っ張って走らせました。
だから今こうして華ちゃんを追いかけてるんだけど……本当にどうやって謝ればいいんだろうね!もう絶望しかない気がするんですけど!

「キョーコさんはさっきの人と知り合いなんデスカ?」

一方のスライムちゃんはさすがモンむすなだけあって、全く息切れもせずにそう質問してきた。
知り合いっていうか初恋の人なんですけどー!なんて言えないよね、うん。スライムちゃん罪悪感を覚えちゃうだろうし。
よし、ここは冷静に落ち着こう。華ちゃんにドン引きされたのはすっごく、すっごく!悲しいけどスライムちゃんは何も悪くないからね!

「うん、クラスメイトの子だよ」
「そうなんデスね。でもどうして逃げたんでショウ?」

うーん……。スライムちゃんってすごく純粋みたいで、さっきのボク達の行為が世間的にアレだっていうことを理解してないみたい。
たぶんあの行為もマナを補充して主催に反逆したいっていう純粋な気持ちからなんだろうなぁ……っていうのがわかるからほんとに責めらんない!
つい出来心で華ちゃんで――しちゃったからきっと罰が当たっただけなんだ。スライムちゃんは何も悪くないんだ。

それにしても今後もマナの補充でナニを刺激されるのは困るなぁ。
少しくらいそこらへんの常識を教えたほうがいいのかな? でもボク女子だからそういう話するのちょっと恥ずかしいっ!
いやそりゃ性欲が強いことは認めるよ? でもボクだって女子だからね? 性欲強い女子も普通にいるからね、男子諸君!

……うん、それにしてもこんなところで恥じらってる場合じゃないんだけど。
だってこれから似たようなことがあったらすごく困るからね。そりゃマナが補充されるのは頼もしいけど、ボク達が不審者扱いされて狙われるとかありそうで嫌だ。
というか何より恥ずかしいよね。普通にやってること露出プレイだもん、そりゃ逃げるよね、うん。

「スライムちゃん、ボクのナニを刺激するのは一般的には恥ずかしいことなんだよ」
「? ナニってなンデスか?」
「な、ナニはナニだよ!? なんだろうね!?」

あああっ、もう自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた! ナニがなんだかわからないよぅ!
ナニは×××だよ、なんて言えることないじゃん! そんなのスライムちゃんに対するセクハラじゃん!

「? キョーコさん? どうシマしたか?」

スライムちゃんがボクの顔色を見ながらキョトンと首を傾げてる。
ていうか走りながら余裕で首を傾げれるってすごいねスライムちゃん!さすがモンむす!

ってそんなツッコミしてる場合じゃない、どうしようこの状況!
ナニはナニだよ、ボクの股間から生えてる×××だよなんて言えないし!スライムちゃんの純粋な心を汚したくない!

そもそも普通の女の子には生えてないのになんでスライムちゃんは何も疑問に思わなかったんだろうね?不思議なことだらけだなぁ!
もしかしてスライムちゃんも生えてる? モンむすだから生えてるの?
いやでもさっきの解説で“普通”、性別を両方持つ人間なんていないって言ってたから違うのか! いやでもスライムちゃんはモンむすだから人間じゃない=生えてる可能性もありえる?
え? ていうか何気にこれよく考えたら、ボクが普通の人間じゃないって言われてない? ちょっとナニが生えてるだけで普通扱いじゃないなんて酷いなぁ(泣)

「と、とりあえず走ろう!スライムちゃん!」
「わかりまシタ!」

あああっ、もうナニだとか×××だとかそういう説明をするのはやめた!
とりあえず走ろう、走ろう!走って気分爽快!ナニもかも忘れよう!HAHAHA!悲しいなぁ!

488片桐花子の災難 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:25:44 ID:ydEk7mzA0


♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


「フラウ・ザ・リッパー……? ああ。あの片桐花子か……」

片桐花子は学校でちょっとした有名人だ。
フラウ・ザ・リッパーという謎の二つ名を自称する痛々しい高校生は、学校でも少し浮いた存在である。
もっとも彼女が何も特異性がないことは、駆も理解しておりあまり警戒する必要はない。

そもそも本当にジャック・ザ・リッパーの子孫であるならもっとこう、オーラのようなものがあっていいはずだ。
何より持ってるナイフが金属製ではなくプラスチックのものだというのだから、彼女は厨二病を脱しきれなかったアレな人としか言いようがない。

「知ってるんですか?」

普段ならフラウ・ザ・リッパーとして年上にもタメ口を聞くことがある花子だが、どういうわけか駆には敬語になってしまう。
一度素で返事をしてしまったというのが大きいのだろうか?

「もちろんだ。意外とキミは有名だよ。……普段とキャラが違うようだが、殺し合いに対する疲れからか?」
「そうですね……。殺し合いっていう実感はないですけどある意味疲れました……」

「ん?」

殺し合いという実感はない?
死体や殺戮現場を見たであろう人物が言うには、程遠い言葉だ。

「……どういうことだ? サイコパスの谷山京子が誰かを殺戮した現場を、見たわけじゃないのか……!?」
「ち、違います!」

駆がこれまで考えていた誤解を、花子は明確に否定した。
彼女が見たのは謎のスライムが女の子のナニを刺激していた現場であり、別に殺戮現場だなんて大袈裟なものではない。
いやまあ乙女心は殺戮されたようなものだが、それはともかく物理的に誰かが殺されたわけじゃないのである。

「……なるほど。俺の誤解か」

そして駆はようやく自分の誤解に気が付いた。
しかし自分の考えが誤解だとするなら、花子は何を伝えたかったのだろうか?
スライムみたいなもの、だとか特に意味不明である。戦場でないなら、武器である可能性も低い。

(そういえば……)

参加者候補リストを広げ、そこに記載されている名前を一通り見てみる。
その中に一際目立つ謎の名前があった。その名も、スライムちゃん。
まるで芸名のような意味不明な名前だが、もしも花子の言っていたスライムのようなものの正体がこのスライムちゃんであるとしたら……。

「……その現場に案内してくれないか?」
「えっ。で、でも……」
「確認したいことがあるんだ、頼む!」
「そ、そんなこと言われても……」
「花子。君の安全は俺が保証する。だから、頼む」
「は、はい……」

そんなに真剣な視線を向けられると、なんだか恥ずかしくなってくる……と思いながらも花子は駆の希望も承認した。


♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

ボクとスライムちゃんが走って暫くすると、向こうに人影が見えてきた。
小柄で色白なあの子は、間違いなく華ちゃんだ!やったー!と思う反面、どうしよう!感もすごい!
とにかく誤解をとかなきゃなんだけど、ナニをしていたことは事実だし……あれこれもしかして何も誤解じゃない?
いやでもボクから進んでやったわけじゃないし、スライムちゃんもマナの補充っていうちゃんとした目的もあったからやっぱりただのアレと違って誤解だよね!
うん、そうだ!そういうことにしよう!ていうか普通に誤解でいいよね!?

向こうからやってくる華ちゃんは、よく見たら少し身長の高い男の人と一緒にいる。
きっとボクとスライムちゃんから逃げ出した後に遭遇して、そのまま同行してるんだと思うけど……ボクやスライムちゃんの変な噂が伝わってないといいなぁ。
そりゃ噂が広まっても仕方ないことはしたよ? でもこれは事故であって、意図的なものじゃないから! 意図的なものじゃなければセーフにならないかなぁ!?

そんなことを考えてるうちに、距離は縮まっていって……気づけばもうすぐそこに二人は来ていた。
華ちゃん、ボクに近づくやいなやすぐに男の人の後ろに隠れちゃったけど……めちゃくちゃ気まずいよ、これ!

「あのー……華ちゃん、さっきはごめんね? スライムちゃんのマナを補充してただけなんだ……」
「ま、マナの補充でナニをナニしないでしょ!適当言わないで!それに華ちゃんって何?」

うわあああん、怒涛のナニなに攻撃だ!
でもがんばれボク、なんとか誤解をとかなきゃ……。

「ほら、華ちゃんの名前って肩斬華でしょ? だからそう呼んでたんだけど……」

アレ? よく考えたらこれってキモい?
勝手にあだ名つけてましたってよく考えたらドン引き案件かなこれ!?

「ふ、ふは……」

華ちゃんの様子がおかしい。どうしたんだろう?

「ふはははは!よくぞ言ってくれた!そう、私の名前はフラウ・ザ・リッパー!肩斬華!」
「え――――?」

今、華ちゃんはなんて言った?フラウ・ザ・リッパー?
え?え?嘘だよね?
ボクの聞き間違いだよね?

489片桐花子の災難 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:27:21 ID:ydEk7mzA0

え?まさか華ちゃんがフラウ・ザ・リッパーだなんて、そんなわけないよね?

「……この子の悪い癖だ、気にしないでくれ」
「かっこいい名前デスね」

男の人とスライムちゃんは焦るボクとは対照的に呑気にしてる。
ああ、そうか。違う世界から来たなら、フラウ・ザ・リッパーのことを知らないんだ……!

「みんな、逃げて!」

スライムちゃんと男の人の手を取って、急いで走り出す。
でも男の人は予想外に力があって、なかなか引っ張れない。このままだと殺されるのに、どうして……!?

「フラウ・ザ・リッパーは殺人鬼の名前です!ボク達と一緒に逃げましょう!」
「……何?」

男の人がフラウ・ザ・リッパーをちらりと見た。
対するフラウ・ザ・リッパー「え?え?」と戸惑ってるように見えるけど、何かの演技?
それとも華ちゃんがフラウ・ザ・リッパーというのはただの冗談? でも殺し合いの場でそんな不謹慎な冗談を言うかな?
というよりもこの華ちゃん、ボクが知ってる華ちゃんとは何か違うように感じられる。ただのそっくりさん?
いやでもさっき肩斬華って名乗ってたし……うーん、よくわかんないけど逃げないと。それともデイパックから何かを出して戦う?銃もまともに使えないのに?

「ワタシが戦いマス、キョーコさん!」
「……待ってくれ、そもそも彼女の名前は片桐花子だ。肩斬華じゃない」

「え?」

どういうことなの?
やっぱりそっくりさん?
そういえば本当にフラウ・ザ・リッパーならこうやって揉めてるうちに攻撃したらいいのに、なかなかしてこないのもおかしいよね。
男の人やスライムちゃんはわからないけど、何も能力や技術を持ってないボクなら簡単に殺せるはずなのに。

「フラウ・ザ・リッパーは彼女が自称してるだけの名前だ。殺人鬼の名前として聞いたことは、一度もない」

え?どういうこと?

「信長さんと同じみたいデスね。たぶん花子さんは別の世界のフラウ・ザ・リッパーだと思いマス」
「「「別の世界?」」」

ボクと男の人と花子ちゃんの声が重なる。
確かに世界が複数あるとは聞いたけど、そういうことってあるのかなぁ。

「はい。たとえば織田信長さんは他の世界では男性って色々な人に聞きましたケド、ワタシの世界では女の子デス」
「うーん、世界毎にそっくりさんがいるっていうこと?」
「かもしれないデス。少なくともキョーコさんと男の人でフラウ・ザ・リッパーに対する印象が全然違ってマス」
「それもそうだねぇ……」

確かにスライムちゃんの言う通りかもしれない。
スライムちゃんが色々と情報を持っていてよかった、このままじゃ誤解したまま逃げ出すところだった……。

「なるほど。確かに参加者候補リストには花子とは別に肩斬華の名前があったな。
 ところで他の世界、という言葉について詳しく聞きたいんだけど……」

「世界はいっぱいあるんデス。ワタシも一度他の世界に飛ばされたから、わかりマス」
「……信じ難いが、スライムの君が喋ったり動いてる時点で常識は超えてる。信じるしかないか」
「ありがとうございマス。確かに他の世界ではスライムが動くのはおかしいみたいデスね」

男の人は飲み込みが早いみたいで、あっさりと理解した。
花子ちゃんは疑問符を頭にいっぱい浮かべてるけど、これが普通だよねうん。というかこのリアクション的に殺人鬼には見えないかなぁ、やっぱり。

「俺は東雲駆。よろしく」
「ワタシはスライムちゃんです、よろしくお願いしマス」
「あ、ボクは谷山京子です。ちょっとナニが付いてるだけの女の子です、よろしく」

スライムちゃんが受け容れられるなら、ボクのナニも受け容れてもらえるよね、うん。
というかこういうことは事前に説明しておいたほうがいいような気もする。急にビックリさせるのもアレだし。

「花子ちゃん、さっきはごめんね。本当にアレはスライムちゃんのマナを補充してただけだから……」
「それより先に謝ることがあるんじゃないか?」

駆さんに言われて、ハッと気付く。
そういえばボク、花子ちゃんを殺人鬼だと誤解してたんだよね。まずはそっちを謝らなきゃじゃん!

「殺人鬼だって誤解してごめんなさい」
「……いいよ」

小さい声だけど、ポツリと呟いた言葉は確かにボクの耳に届いた。許してもらえて良かった……!けどこれからは世界の違いについてもよく考えなきゃね!

490片桐花子の災難 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:28:16 ID:ydEk7mzA0

「花子。これでわかったと思うが、フラウ・ザ・リッパーごっこはもうやめた方がいいかな。ここでは余計な誤解を生むだけだよ」
「はい……」

少し寂しそうな花子ちゃんの声。
フラウ・ザ・リッパーごっこをしていた時の花子ちゃんは、すごく楽しそうだった。きっとそういうのが好きなんだろうなぁ……。
でもフラウ・ザ・リッパーはボク達の世界だと殺人鬼だから、気軽に名乗っていたら絶対に誤解される。だからそれを禁じるのは、仕方ないことなんだけど……ちょっと可哀想かなぁ。

「それにしてもフラウ・ザ・リッパーか……警戒する相手が増えたな」
「そうデスね。ワタシも注意しマス」

駆さんとスライムちゃんが気を引き締める。
スライムちゃんが戦えるのはわかるけど、駆さんも戦えるのかな? なんだかボクや花子ちゃんみたいな、ただの一般人とは違うような気がする。

「さて……それじゃあ情報交換をしてもいいかな。この殺し合い、色々と変則的すぎて出来る限り情報の共有はしておいた方が良さそうだ」
「ワタシはいいデスよ」
「ボクも賛成。このまま一緒に行動してもいいんじゃないかな? 花子ちゃんは?」
「私もいいよ……」

こうしてボク達の情報交換は、始まろうとしていた。

【D-3/草原/1日目/早朝】
【谷山京子@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:パジャマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催絶対許さない絶対にだ
1:東雲駆、片桐花子と情報交換をする
2:東雲駆、片桐花子と一緒に行動する?
※肩斬華のことを意識していましたが…。

【スライムちゃん@アースC(カオス)】
[状態]:マナチャージ(1)
[服装]:とくになし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒しまショウ
1:東雲駆、片桐花子と情報交換をする
2:東雲駆、片桐花子と一緒に行動する?
※氷と癒しの魔法(低級)が使えるらしいです。

【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫、フラウ・ザ・リッパーを警戒
4:谷山京子、スライムちゃんと情報交換をする
5:片桐花子と共に行動する。
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。

【片桐花子@アースR(リアル)】
[状態]:健康
[服装]:学生服
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:帰りたい…
1:谷山京子、スライムちゃんと情報交換をする
2:フラウ・ザ・リッパーが本物の殺人鬼……?

491 ◆MYPVpX9yeE:2019/10/21(月) 13:28:42 ID:ydEk7mzA0
投下終了です

492名無しさん:2019/11/13(水) 23:07:50 ID:/8uk.7oA0
おお、久しぶりに投下来てた。
乙です。
誤解も解けて割と大所帯になったけどどうなるかな。


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