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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

256不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:45:48 ID:BCnupaGE0
 
 「……しかし、やはり弱いな」

 鳳凰は己の腕を動かしながら呟く。新しく取り付けた、その両腕を。
 もとから分かっていたことではあったが、否定姫から移し替えたこの手足はさほど身体能力に優れたものではない。
 というか、腕力も耐久力もはっきり言って凡百並だ。脆弱と言ってしまってもいい。
 ただ、腐敗などの死後損壊が思いのほか進行していないのは助かった。空調により店内が涼しく保たれていたのが幸いしたのだろうが、身体から血が抜けていたことも要因としてあるのかもしれない。
 そうは言ってもやはり、今までの両腕とは比べるべくもなく弱すぎる。
 岩をも砕く右腕と、忍法記録辿りを宿した左腕。今更ながらに、あの両腕を失ってしまったのは痛い。
 そう思うと、また怒りがふつふつと湧き上がってくる。
 冷静に考えねばならないということは、百も承知ではあるけれど。

 もちろん道行く途中で使えそうな身体が見つかればそちらに付け替えるつもりではいるが、そう都合よく死体が転がっている可能性を前提に動くなど愚行が過ぎる。
 もし今の身体で、あの少年と再び鉢合わせたとしたらどうする?
 無論、戦えないということはない。いくら手足が凡百の力しか持たないとはいえ、それを駆るのは真庭鳳凰。武器のひとつも持てば、相手が手練でもない限り十分に戦うことは可能。
 しかし一度不覚を取っている以上、どうしても余裕をもって挑むことができないのも事実。
 あの『矢』以外に、鳳凰にとって得体のしれない武器を所有している可能性も十分ありうるのだから。
 加えて、あの少年の仲間と思しき、もうひとりの少女。名前が確か無桐伊織と言ったか。
 警戒すべき対象というなら、あの少女こそ警戒すべき対象だった。両足をへし折っておいたから、すでに戦闘不能と考えるのが妥当なのだろうが――
 炎刀すら通用しないと思わせるあの反応、あの身のこなし。
 殺意に満ち溢れた――否、殺意そのものであるかのような、あの『鬼』の如き気迫。
 一度は撃退し、両足をへし折ってなお、警戒を解く気がしない。
 仮にあれともう一度戦う機会があったとして、自分は勝てるのだろうか?
 今の自分に、あの二人を正面から抹殺することなど可能なのだろうか?

 「…………」

 厨房からテーブルフロアへと戻り、調達した物をテーブルの上に並べる。
 ナイフ、フォーク、牛刀、出刃包丁、調理用のガスバーナーなど。
 他にも武器になりそうなものはあったが、デイパックを奪われてしまったため持ち運べる量には限りがある。ここからさらに厳選しなくてはならない。
 自らの身体を武器として使えない今、武装しなければいけないのは仕方のないことだが――この程度ではやはり、心許ない。
 何か、このありあわせの武装以外にひとつ。
 急場しのぎでも構わない。満足のいく身体を揃えられるまで、打っておける策は何かないものか――

 「……ん」

 こつん。

 足先に何かが当たり、床に視線を落とす。
 そこに転がっていたのは否定姫の首だった。おそらく死体を蹴倒した際、勢いでテーブルの上から転がり落ちたのだろう。
 相変わらず、綺麗な表情をしている。
 それだけを見れば、眠っているだけと見まごうような穏やかな死に顔。

 「顔――か」

 鳳凰は己の顔にそっと手をやる。
 この顔は、正確には鳳凰自身の顔ではない。彼のかつての親友であり否定姫の腹心、左右田右衛門左衛門から奪い取ったもの。
 その忍法と、人格を必要としたがゆえに。
 鳳凰は思う。
 この「顔」は、真庭忍軍の頭領としては必要なものだ――だが。
 今、この状況で必要とすべきは、この「顔」ではないのではないか?
 あの憎き少年にも、この顔はすでに割れている。あの二人にもしまだ仲間がいたとしたら、自分が危険人物であると他の参加者に広められている可能性がある。
 戦闘に向いた手足をほぼ失った今、この顔に固執するというのは利益よりも不利益のほうが多いのではないか?
 今必要なのは、この顔よりも。
 組織の長としての統率力、求心力を兼ね備えたこの人格よりも。
 周囲に蔑まれ貶められ孤立しようとも、すべてを踏み台にして何度でも這い上がる、そんな高慢で傲慢で狡猾で厚顔無恥な、不屈なる野心家の人格。
 たとえば。
 たとえばこの女のように。

 「……否定姫」

 尾張幕府に二人の鬼女あり。
 この否定姫が鬼女と呼ばれる所以を、鳳凰はよく知っている。
 奇策士とがめの下、この女を失墜させるのに一役買ったのも、そこからしぶとくも復権したことを奇策士に伝えたのも自分だった。

257不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:46:39 ID:BCnupaGE0
 潰しても潰しても這い上がって来よる――そんな言葉をあの奇策士に吐かせたというだけで、この女の質の悪さは知れようというものだ。
 自分がこの女を殺せたことも、実のところ偶然にすぎないと思っている。おそらく唐突にここへ連れてこられてから、協力者を得る間もなく自分に出会ってしまったのだろうが――
 逆にもし、この女を先に見つけていたのが左右田右衛門左衛門だったら。あるいは他の、この女に同調するような協力者を得ていたとしたら。
 その場合、この女がこの殺し合いにおいて何をしでかしていたか、想像するだに背筋が凍る。
 そう思えるくらい、この否定姫という女は底が知れない。

 この女のようになりたいなどとは、死んでも思わないが。
 もしそれが「必要」なのだとしたら。
 生き残り、目的を達するために、それが必要なことであるのなら。
 何を捨て、何を得るのか。
 この場で自分が捨てるべきものは、そして代わりに得るべきものは何か――

 「――――――――」

 おもむろに、鳳凰は否定姫の首を床から拾い上げ、さらにテーブルの上から牛刀を掴み取る。
 その切っ先を否定姫の首の顎下あたりにあてがうと、そのままずぶりと刃を皮膚の下に押し込み、輪郭をなぞるようにして顔の表面を切り取り始める。
 素早く、しかし丁寧に。
 顔面だけでなく、髪の毛も頭皮ごと剥ぎ取る。長い金髪を一本も落とすことなく皮膚に残したまま、それをずるん、と頭部から引き剥がした。
 そして間を置かず、今度は牛刀を自分の顎下にあてがい、躊躇なくそれを自分の顔面に突き入れる。
 ずぶずぶと、ざくざくと。
 切り取った否定姫の顔と全く同じ形に、己の顔面と頭部の皮膚を、肉ごとえぐるように剥ぎ取っていく。
 最後は半ば力任せに、ぶちぶちと嫌な音を立てながら顔の表皮を引っぺがす。ぼたぼたと、むき出しの顔の表面から鮮血と肉片が滴り落ち、床に赤黒い染みを作る。

 その顔を――かつての親友から奪ったその顔を、その場に放って。
 代わりに否定姫の顔を、面でもかぶるかのように己の顔へと運ぶ。


 ――忍法命結び。


 穏やかながらも、まごう事なき「死者の顔」だったはずのそれは。
 今再びゆっくりと、「生者の顔」として目を見開いたのだった。



   ◇     ◇



 「ふむ……こうしてみると、意外になかなか悪くない」

 店内にあった鏡に自分の姿を映しながら、鳳凰は新たな手足や顔の感覚を確かめるように動かしてみせる。
 白く透き通った肢体、長い金髪に、青い瞳。
 体幹の違いこそあるものの、それは紛れもなく否定姫の姿だった。

 「『変態』は蝙蝠の専門だが、『変装』程度であれば我でもこの通りよ。この女に変装する日が来ようなど、よもや夢にも思わなかったが――」

 そう言う声も、ほとんど否定姫の声そのものだった。命結びの効果というよりは、しのびとしての技術の一環であるらしい。
 ちなみに今、鳳凰が身にまとっているのはしのび装束でなく、きらびやかな女物の衣装である。言うまでもなく、否定姫から剥ぎ取った着物だった。
 鳳凰の体格で女物の着物を身につけるというのは少々難があったが、否定姫が女性としては長身だったこともあり、寸足らずになるということはなかった。
 どころかむしろ自然に、違和感なく着こなしている。
 帯の中や袖の下など、あちこちに仕込んであるナイフや出刃包丁の存在も気づかせないくらい、自然に。
 否定姫を知らない者が見たとしても、まず女性であると信じて疑わないだろう。
 血で汚れていることが難点といえば難点だったが、そこはまあどうとでも言いくるめられる。少なくとも、襤褸切れのようなしのび装束を着ているよりは幾分まとものはずだ。
 これなら右衛門左衛門を欺くことも可能だったか――などと今となっては無意味な思考が頭をよぎるも、さすがにその考えは即座に否定する。
 あの男相手では、欺くどころか声をかける前に看破されてしまうに違いない。蝙蝠の忍法でも騙し切れるかどうか。

 そもそもこの変装は、否定姫を装うことを目的としてはいない。
 自分が真庭鳳凰だと気づかせないこと。
 真庭鳳凰が危険人物だと知る者を欺くことこそ、この変装の目的。
 単純ではあるが、不意を打つのに「変装」は極めて有効な技術。特にあの少年――櫃内様刻に接触する際には存分に効果を発揮するだろう。
 言ってしまえば十全に戦える手足を得られるまでの苦肉の策ではあるのだが――しかし。

258不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:50:18 ID:BCnupaGE0
 
 「…………ふふふ」

 唐突に。
 冷徹な彼らしくもなく、愉快そうに鳳凰は笑いを漏らす。
 いや、それはもはや「彼らしく」と言ってしまっていいのかもしれない。元は他人のものであるとはいえ、その『顔』はすでに鳳凰のものとなっているのだから。
 否定姫の顔を――人格を手に入れた鳳凰は、どこか満足げな雰囲気をその表情に漂わせていた。
 この女のようになりたいとは思わないと、心の中では明言しておきながら。

 「不思議なものだな……顔を捨てたばかりだというのに、今こそおぬしの心中が真に理解できる気がするぞ――右衛門左衛門」

 否定姫の顔で、鳳凰はそんなことを言う。
 この世で唯一、否定姫が己の腹心として傍に置くことを選び、それに忠実に仕え続けた男、左右田右衛門左衛門。
 その心中を、彼はどう理解したというのだろうか。
 死んでも誰かの下につくことなどない誇り高き男――かつての親友を、鳳凰はそんなふうに評していた。
 その親友が、生涯をかけて忠誠を誓った相手。
 その「顔」を手に入れたことで、何かを汲み取ったということなのか。



 ――あなたの夢を否定する。
 ――現実しかないと否定する。
 ――否定して否定して否定する。
 ――何も叶いやしないと否定する。
 ――ただ無意味なだけだと否定する。
 ――ご都合主義なんてないと否定する。
 ――今のあなたの思考すべてを否定する。
 ――否定して――否定して否定して――否定して否定するわ。



 「否定する」


 殺した女の、今際の際の言葉を思い出して、
 鏡に映った自分の顔に向かい、鳳凰はその言葉を否定する。



 「おぬしの言葉を否定する。
  現実にとらわれる必要などないと否定する。
  否定して否定して否定して、否定する。
  叶うものもなくはないと否定する。
  無意味なものなどないと否定する。
  ご都合主義も虚構ではないと否定する。
  おぬしの否定すべてを否定する。
  否定して――否定して否定して――否定して否定して否定しよう」



 鳳凰らしくなく、しかし彼らしく。
 あるいは「彼女らしく」。
 否定的な口調で、否定的な笑顔で、鳳凰はすべてを否定する。

 「ふふふ――いずれはこの顔も捨てることにはなるだろうが……それまではこの女の真似事をしつつ殺し合いに臨むというのも、面白くなくもない」

 二重否定の言葉でそう言って。
 一度は打ち捨てたはずの右衛門左衛門の顔を、袂の中にそっとしまい込む。
 そうするのが自然というかのように。
 かつての親友と、今の自分の顔。そのふたつが共にあるのが当然とでも言うかのように。
 
 「そろそろ移動するか。急ぎたい心地ではあるが、体力を無駄にできる身体でもない。慎重に、ゆるりと動かねばならぬな」

 鏡の前を離れ、鳳凰はゆっくりとした足取りで歩みだす。
 慎重という割にははっきりとした目的地すら決めていないが、そんな矛盾すらも否定するように。
 左右ちぐはぐな両足で、レストランを後にする。

 否定姫の顔、否定姫の人格。
 この上なく否定的な、この世のすべてを否定するためにあるかのような人格。
 その対象に例外はない。己の腹心も、自分自身ですらもその人格は否定する。
 それがもともとの人格である、真庭忍軍の頭領としての「真庭鳳凰」をも否定しかねないという危険をはらんでいることに、鳳凰はまだ気づいていない。



【1日目/夜/G−8 レストラン付近】

【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、精神的疲労(小)
[装備]矢@新本格魔法少女りすか、否定姫の着物、顔・両腕・右足(命結びにより)、真庭鳳凰の顔(着物の中に収納)、「牛刀@現実、出刃包丁@現実、ナイフ×5@現実、フォーク×5@現実、ガスバーナー@現実」
    (「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する。
 1:真庭蝙蝠を捜し、合流する。
 2:櫃内様刻を見つけ出し、必ず復讐する。
 3:戦える身体が整うまでは鑢七花には接触しないよう注意する。
 4:否定する。
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。


 ※レストラン内の否定姫の死体はほぼ食い荒らされました。
 ※鳳凰のしのび装束はレストラン内に放置してあります。

259 ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:54:22 ID:BCnupaGE0
投下終了です。
指摘または感想などあればよろしくお願いします。

260名無しさん:2013/12/08(日) 13:07:50 ID:OBwzY0d.0
投下乙です

これはまた力作キター
なんている人間カクテルw
否定姫がこうなるとは…

261名無しさん:2013/12/09(月) 09:21:14 ID:82d0KnIM0
投下乙です
ついに来ちゃったよ食人イベント!
タイトル見た瞬間に嫌な予感しかしなかったけど…
禁止エリアで首輪パーンも予想してただけにそれ乗り切るとは鳳凰さんさすがだわ
そういやこのロワ死体損壊結構あるな

262名無しさん:2013/12/11(水) 00:29:43 ID:zv.b.WDg0
告知

明日12日に交流所にて新西尾ロワ語りがあります
書き手読み手問わず質問・感想等いただけたら幸いです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1385131196/

263 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:49:54 ID:BjeSxi3Y0
日和号、都城王土の投下を始めます

264働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:51:18 ID:BjeSxi3Y0

「全く不本意な事だが仕方あるまい」

そう一人呟く。
ついでに携帯で時間を確認する。
間もなく放送が始まろうと言う時刻。
だが俺には関係ない。
既に何処が禁止エリアになるかは聞かされている。
そのついでとばかりに、わざわざこんな場所にまで足を運ばされた訳だが。
もう一度形態を見遣る。
どうせ連絡は来ないだろう。
だが、しかし、

「…………来たか」

微かに音が聞こえた。
巡回ルート上で待つ事、もはや三十分以上。
こんな風に待っているのは暇だったのだ。
だがそれも仕方ない。
未造のため。
音へと向く。
ゆっくりとやってくるそれは人型。
だが異形。
人は決して四本足でも四本腕でもないのだから。

「日和号……いや、微刀『釵』」
「――――――人間認識」

近付いて来ていた人形の動きが一度止まり、そして、目が開く。
どうすれば良いか分かっていても、普通なる俺だから、思わず身構えてしまう。

「即刻斬殺」

四本の手を己の前で合わせるようにして一瞬。

「人形殺法【旋風】」
『どうも皆さん。時間になりましたので』
「こんな時にか……」

高速回転。
風車のように。
回転させながら迫る。
ガラクタの悉くを刻みながら。
つくづく調子を外してくる。
仕方なく小さく首を振り、指差し呟く。

「…………止まれ」

一言。
聞こえるか聞こえないか。
その程度の言葉で、

「――」

日和号は、停止した。
全ての動きを完全に止め、勢いのまま転がり止まる。
無言のままその近くまで寄る。
微かに振動はしている
だがそれだけ。
動き一つ出来はしない。
簡単な事だ。
日和号もとい微刀『釵』。
その動力源が何か。
それは、太陽でありそれを元にした発電。
即ち、太陽電池である。
流石に百年単位で劣化しないと言うのは見事と言えよう。
四季崎の、と言うより未来の技術は侮り難い。
全く、忌々しい話だが。

265働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:53:27 ID:BjeSxi3Y0
「即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺」
「……放送が止んだか」

何時の間にか放送は終わっていた。
大した内容ではあるまい。
どうでも良い話だ。
それよりも今は、こいつに指示を出すのが先である。

「斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺」
「黙れ」
「即こ――――――」

軋むような音を立てただけで、動かなくなった。
電気を動力源にすると言う事。
微刀『釵』などと言う大層な名前を付けていても所詮、電子機器である。
ロボットと言い換えた方が正しいか。
まあ閑話休題。
ならば。
13万1313台のスーパーコンピューターを操る事。
たかだかキリングマシーン一つを完全に制御する事。
どちらが難しいなど知れていよう。

「……普通の俺がこんな事をする羽目になろうとは」

そう悔やんでみても今更だ。
もはや賽は投げられている。
それが例え四十人殺すとしても。
黒神めだかと敵対するとしても。
俺は最早止まれない。
曲がる事すら、許されない。
投げてしまったのだから。
今更引き返そうとも思わない。

「…………未造…………俺は…………」

とぅるるるるるるる。
と。
遮るように音がした。
半ば無意識的に手を動かし、耳に当てていた。

266働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:53:57 ID:BjeSxi3Y0

「――待っていたぞ、萩原。
 生憎『腐敗』の方は俺の手に負えそうにはなかった、とだけ言っておこう。

 ――止められないのも予想通りか。
 つくづく貴様の想定通り、掌の上と言う訳か。
 で、だ。
 その「やっていただきたい仕事」とやらは『選外』の?

 ――急ぎか?

 ――ほう?
 何か想定外の出来事でもあったのか?
 
 ――なるほどな。
 いったいどこから漏出したのやら。
 普通なる俺には皆目見当も付かないなぁ。
 そちらに心当たりはあるか?

 ――なければないでどうとでもするだろう、貴様は?
 だが一応、気を付けて置こう。
 貴様の言う、『策』の実行のためにな。
 気に入らぬが。

 ――――――ふん」

切れた連絡から耳を外す。
俺の悩みすら読んでいたようなタイミング。
悩む事すら掌の上とでも言うのか。
だとするなら気に入らん。
が、その掌の上から逃れられない。
孫悟空ではあるまいが。

「さて。早く斜道に任された仕事を果たすとしよう」

足元で動かない微刀を見据える。
ただ指差し、命ず。

「――立て」

奇妙な震えを伴いながら、立ち上がる。
俺の『言葉』がなければすぐさま襲い掛かってくるだろう。
最も、それを捻じ伏せるだけの準備はあったが。
取り越し苦労と言う奴だ。

「言葉を発する事を許す。命令を上書きする。内容を復唱せよ」
「――」

語らない。
動かない。
仕方ない。

「 上 書 き す る 」

「――上書きする」

267働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:55:01 ID:BjeSxi3Y0
微刀は。
僅かな間を置いて、口を開いた。
それに、微かに揺らいだ。
何を、と言われれば心だろう。
顔を顰めている俺に気付く。
機械であれば自在。
である筈なのに、一瞬であれ俺の命令を受け入れなかった。
その一事に、この微刀の内側の何かを感じる。

「――復唱せよ」
「復唱せよ」

何時ぞや未造が言っていた、機械の「痛み」や「眠さ」。
負の情報と言うべきか感情と言うべきか。
そう言う物を垣間見た気になる。
だが、気になっただけだ。
首を振り、払う。
俺に分かる筈もない。
どれだけそんな気になった所で。
俺に出来るのは「知る」事ではなく、「知らしめる」事だけなのだから。

「――不要湖より移動」
「不要湖より移動」
「行先、ランドセルランド」
「行先、ランドセルランド」
「内部巡回」
「内部巡回」
「それ以外変更なし」
「それ以外変更なし」
「即時行動」
「即時行動――即時行動。即時行動。即時行動」

繰り返し。
繰り返しながら、機械的に微刀は歩き始める。
安定している筈の四足で、揺れながら。
段々と遠ざかって行く。
気付けば口が開いている。
それを閉じ、目を背ける。
長き時を過ごせば道具に魂が宿るとか言う話を、無関係だとは思いながらも片隅に思い出しながら。
遠く、忌まわしい連中の居る場所。
皮肉な事にこのバトルロワイヤル最大の安全地帯を見て呟く。

「未造……」

答えはない。
当然の事と知っているが。




【1日目/夜/E-7不要湖】
【都城王土@めだかボックス】
[状態] 健康
[装備] 携帯電話@現実
[道具] なし
[思考]
基本:不知火の指示を聞く
 1:行橋未造の安全が確認が出来れば裏切る
 2:萩原子荻と協力
 3:萩原子荻の元に向かう
[備考]
 ※「十三組の十三人」編より後からの参加です。
 ※首輪は付いていません。
 ※行橋未造が人質に取られているため不知火に協力しています。
 ※行橋未造が何処にいるかは分かりません。
 ※どこに向かうかは後の書き手にお任せします。

268働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:56:30 ID:BjeSxi3Y0



かくして殺人人形は動き出す。
向かう先にどれだけの人間が居るか知らず。
また、どれだけの人間を殺す事になるかも知らず。
ただ機械的に。

「――即時、行動」


【1日目/黎明/E‐7不要湖】
【日和号@刀語シリーズ】
[状態]損傷なし、ランドセルランドに移動
[装備]刀×4@刀語シリーズ
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。即時行動

[備考]
※不要湖からランドセルランドに移動しています

269 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:57:14 ID:BjeSxi3Y0
以上です。
いつもどおり妙なところなどございましたらよろしくお願いいたします。
謎に急いだので粗い部分があると思いますので

270名無しさん:2013/12/13(金) 13:14:14 ID:515tShuY0
投下乙です
予約が入った時点でメンツからして予想はできたけど…w
まあ元々原作で灰賀欧がどうやって設定してたんだろうって感じではあるしむしろ原作よりも納得できるというか(ry
ランドセルランドが火種になってるというのにここで更に危険因子が
到着はしばらく先になりそうだけどそこにいるメンバー次第で惨事の予感
指摘としては>>264で携帯が形態になっているのと日和号の時間が黎明になっています

また、投下からかなり経って指摘するのもなんですが気づいてしまったので
>>257で否定姫の顔を剥がす描写がありますが、否定姫の参戦時期が原作終了後である以上長髪という表現を使うのは不自然に感じました

271 ◆wUZst.K6uE:2013/12/13(金) 23:39:57 ID:a.GnZ.JMO
投下乙です。
本当に速攻で爆弾落としに来よった・・・
今のとこランドセルランドに到着してるのは三人だけど・・・日和号に勝てそうな奴一人もいねえ!
これはもしかすると日和号が参加者を差し置いてトップマーダーに躍り出る可能性が微レ存? 微刀だけに(
王土さんは相変わらずいいように使われてるなぁ・・・ただこの人が今後どう動くかで結末が大きく変わってきそうな気はする。頑張れ普通さん。


>>270
おうふ、ラストで髪型が変わってたのを完全に失念してました・・・申し訳ない。
wiki収録時に「短く揃えられた金髪」に直させてもらいます。

272名無しさん:2013/12/14(土) 14:48:57 ID:FZs.s.ys0
投下乙です

273名無しさん:2013/12/15(日) 14:30:09 ID:6XN2X.AM0
投下乙です

すげえ、原作よりもらしいといえばらしいわあ
これはもう先がどうなるか…
ランドセルランドでの大参事は避けられるのか?

274 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/15(日) 22:16:43 ID:wqbBMHxA0
>>270

気付きませんでした。
ありがとうございます。
訂正をこちらでやると面倒なので、申し訳ないのですがWiki収録時にていせいしておいていただけるとありがたいです。
お手数かけて申し訳ないですが、よろしくお願いします。

275 ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 13:55:56 ID:3RnAGsM.0
予約分投下します

276共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 13:57:01 ID:3RnAGsM.0
東から昇る満月を左に、僕は伊織さんを背負って歩く。
デイパックで両手が塞がっているせいで地図を開くことはできなかったが、山火事のおかげで方向だけは間違っていないと確信できた。
地球温暖化がどうのこうのと叫ばれている現在、森林火災ともなればそれこそ温室効果ガスがなどと言われるのかもしれないががそんなもの命の前には二の次だ。
生憎というほどでもないが、文字通り自分に火の粉がかかりさえしなければ僕に関わる筋合いはない。
そもそも殺し合いが行われている場所で同行者のことならともかく、山火事を心配するくらいなら自分の身の心配をするに決まっている。
尤もなことを言ってしまえば、こんなことをやらせる主催がたかが山火事をどうにかできないとは思えないし。
僕のような平々凡々な高校生だけなら別として、玖渚さんのような人まで巻き込めるような奴らが。


――どうも皆さん。時間になりましたので……


……参ったな。
放送が始まってしまった。
できることなら放送が始まる前に辿り着いてからゆっくりメモをとりたかったのだが……
そうでなくとも、薄暗くなってきているし街灯が周囲にない今普通にメモを取るだけでも厳しいものがある。
……あ、そうだ。
伊織さんが起きないよう気を遣いながら、ポケットにつっこんでいたスマホを取り出す。
本題に入るまでの話が長いという老人にはよくある習性のおかげか、録音機能を起動させるまでの間に大事な情報が読み上げられることはなかった。
それでも聞いておいて損はないのと、余計な雑音は入れない方がいいだろうと思って、足は止めておいた。
よく見たらメールの着信を示すアイコンがあった――これがさっき玖渚さんが言ってたメールのことだろう。
後で確認しておこう。





「…………ま、処置はこんなものでいいか」

その後、薬局に到着した僕は店内にあったソファーに伊織さんを寝かせると、外に出て手頃な枝を二本、切り落としてきた。
もちろん添え木にするためだ。
普通に生活していれば中々身に付く機会はないであろう骨折の処置の知識を僕が持っているのは、一度妹である夜月の足を折ったことがあるからだ。
これだけ言えば、妹に虐待を強いる酷い兄としか思えないだろうがこれにはちゃんと事情があった。
あったのだが、今になって思い返してみると妹の骨を折る必要はどこにもなかったわけで……
しまったな、まったく弁解になっていない。
やはり機会があったら昔の僕をぶん殴っておこう。
まあ、それはそれとして。
僕は考える。
先の放送について。

西東天
哀川潤
想影真心
西条玉藻
零崎双識
串中弔士
ツナギ
左右田右衛門左衛門
宇練銀閣
貝木泥舟
江迎怒江

死者はこの順番で呼ばれていたが、順番の法則性がわからない。
五十音順でないのなら可能性としては死んだ順番だろうか?
だが、それもDVDを再生してみれば違うということがわかってしまった。
DVDのナンバリングは死んだ順番になっていたし。
ならば死んだ場所で区別しているのかと思えばそうでもない(ほぼ同じ場所で死んでいた人がいたし)。
となると、僕の凡庸な頭脳から導き出される答えは一つしかない。

――僕達が知らない何か独自の法則が存在する

277共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 13:58:19 ID:3RnAGsM.0

もったいつけたが言ってしまえばわからないのと同義だ。
実は適当という可能性だってないとは言い切れないんだし。
これ以上考えても堂々巡りになるだけだと判断し、別のことを考える。
時宮時刻と、その前に日之影空洞という青年をもを殺していた和服の女と近くにいた学ランの男についてだとか。
ちなみに薄々予感はしていたのだが、時宮時刻が死ぬ瞬間を見ても何の感慨も湧かなかった、和服の女についても同様。
零崎軋識を殺した人物が最初は伊織さんのお兄さんである零崎双識と全く同じ外見をしていたのに白髪(とがめ、だったか)の女に変身していたことだとか。
ツナギと零崎双識が殺された映像と江迎怒江が死んだ(自滅した?)映像では途中から上空から撮影された映像に切り替わっていたのはどうしてなんだろうだとか。
串中弔士と貝木泥舟を殺した真庭鳳凰の右腕の威力に被害を受けることはなくてよかったと今更ながら安堵したりだとか。
禁止エリアの場所からして真庭鳳凰は逃げ遅れて今頃死んでしまったのだろうかだとか。
僕は考える。
今の僕にはそれくらいしかやれることがないから――





「ぅ……むぅ……ふわぁ、……ぉはようございます……」
「おはよう。と言ってももう夜だけどね」
「起きたときにはおはようと言うものでしょう。……えーと、今何時ですか?」
「七時はとっくに過ぎてるよ。それと事後承諾で悪いけど伊織さんの持ってたDVDも全部見させてもらった」
「それは別に構いませんが、どうやって見たんですか?」
「鳳凰さんからもらったデイパック、あの中にノートパソコンがあったから使わせてもらった。他にも役立つものはいっぱいあったし後で分けようと思うんだけど」
「異論はありませんが……」
「どうしたんだ?口ごもって」
「いや、本題には入らないんですねえと思って」

ようやく目覚めた伊織さんと他愛のない会話を交わすが、やはり躱すのは不可避のようだった。
ふう、と一息ついて、告げる。

「……いいニュースと悪いニュース、どちらから聞きたい?」
「こういうときはいいニュースから聞くものじゃないですかねえ」
「そうかい……いいニュースは玖渚さん達も人識もまだ生きてるってことだ」
「で、悪いニュースは双識さんはもういない、と」
「それと、哀川さんも、だったよ」

僕とは関わりのなかった人だけに正直に言うならなんの感情も持てないのだが、それなりに気まずそうな表情で言う。
そんな僕の心情を知ってか知らずか、伊織さんはきょとんとした表情で、

「はあ、そうですか」

と答えただけだった。
その顔面の裏表のなさに拍子抜けした僕はつい訝しんでしまい、聞く必要もないことを聞く。

「……反応はそれだけか?」
「こう見えても驚いてはいるんですよ?でもどこか納得してるだけで。いくら哀川のおねーさんでも死なない保障はどこにもなかったんですし……ただ」
「ただ?」
「約束、破ってしまいましたなあって。人識くんに怒られちゃいますよう……」

殺人を犯してしまったことより約束を破ってしまったことを気にする様は一般的に見れば滑稽に映るかもしれないが、僕はそうは思わなかった。
――僕も同類だし。
以前夜月から借りた推理小説を読んだときに『なぜ足し算や引き算をやるような感覚で人を殺すのか』考えたことがあったが今なら身に沁みてわかる。
ニュースなんかでよく見る『かっとなって殺してしまった』という理由の方がしっくりくるかもしれないが。
だからこそ、僕は未だに伊織さんと共にいるのだろう。
その道を先に行く教範者として――あるいは同じ道を逝く共犯者として。
かつて『世界対しに嘘をついた』から『世界から騙されている気がしている』ように、『殺す』ことを知ってしまったからこそ『殺される』ことを意識せざるを得ない。
りりすと箱彦もこんな気持ちだったのだろうかと今更のように思い知る。
もっと早く気づいていれば全てを間違えてきたようにはならなかったかもしれない――これも今となっては詮のない話だが。
だが、しかし。

278共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 13:59:14 ID:3RnAGsM.0
「なんだ、それなら心配する必要はないさ」
「どういうことですか?」
「掲示板に貼られていた動画は8本しかなかっただろ?」
「一つが様刻さんのもので……つまり」
「まあ、そういうこと。先に破っていたのは人識の方だったからそこまで気に病むことはないよ」

人一人殺しておいて気に病むことはないとは大した言い種だが、正直な感想だしそう思ってしまうのも仕方がない。
彼女と親友が殺人を犯していたところで変わらず接し続けられるような人間なのだから――結局のところ僕というやつは。

「どっちにしたっていずれ死んでしまったらあの世で絶対に怒られちゃいますよう」
「いずれ死ぬとか人聞きの悪いことを言うなよ。……まあそのとき僕もいたら一緒に謝ってやるからさ」
「人間生きてればいつかは死ぬものですよ。たとえこの殺し合いをなんらかの形で乗り切ったとしてもいつかは死ぬときがやってきます。申し出はありがたいですけどね」
「……できれば普段から意識せずに過ごしたいものだけどね」
「そういえばどうして人識くんのこと知っていたんです?生きてたことじゃなくて、殺してたことの方ですけど」
「玖渚さんからメールが来てた。動画の方はおまけで宗像さんが目覚めるのがいつになるかはわからないからランドセルランドに到着するのが遅れるかもしれないってさ」

『おまけ』などと銘打っていたが、本来ならこっちも本題に匹敵するようなものだとは思うが。
というか、あえて僕がまだ伊織さんに伝えてない『本題』がなければ動画の方が本題になるのは間違いなかった。
罪を犯した映像を見せることで自戒させようだとか玖渚さんはこれっぽっちも考えちゃいないだろう。
僕がこういう人間であることを差し引いてもきっと微塵も思っちゃいない。
ただ、無いよりは有った方がいいから、伊織さんもいるから人識の情報を伝えるついで、程度で送ったんだろうなということくらいは十分予想できる範囲だった。
再確認するが、やっぱり玖渚さんは――異常だ。
人間なのか疑いたくなるくらいに。

「……遅くなるというのならもう少しここで休んでも大丈夫ですかね」
「できるだけ急いだ方がいいのは確かなんだけど……少しくらいならいいんじゃないか?」
「松葉杖や車イスはなかったんですよね?」
「薬局だからな、処方箋受付のコーナーにこうやってソファーがあっただけでも御の字だ」
「では交代しましょうか」
「交代?」
「様刻さんもお疲れでしょうし、ここで一度身を休めてみてはどうかと。具体的に言っちゃえば寝てしまえと」

休息は図書館でとったとはいえ、言われてみれば始まってからまともに睡眠はとっていなかったのを思い出す。
早朝に泣き疲れて研究所で少しだけ寝てしまっていたが、あれをまともな睡眠とは呼びがたい。
それに、いざ意識してしまうと途端に眠気が襲ってきた。

「……伊織さんがそういうならいいけど、何かあったらすぐ起こしてくれよ」
「わかっていますよう、でないと私もお陀仏ですし」
「ああ、それと、僕が寝てる間にDVDを見るなら別に反対はしないしスマホから動画を見たって構わない。放送も最初の部分は入っていないけど録音もしてある。
 一度に情報を出し過ぎるのも、と思ってさっきは言ってなかったけど玖渚さんからのメールは絶対見ておくべきだね。
 基本的に全部僕のデイパックの中に入っているし、首輪探知機もあったから周囲700メートルくらいは人が入ったらわかると思う。
 そしてこれは余計なおせっかいかもしれないけど、伊織さんが一番見たがってるであろうDVDは26番で僕個人としてはオススメしないのが28番だ。
 もちろん伊織さんが見たいというなら反対はしないけどね……他に質問は?」
「そこまで丁寧に言ってくださったのにあるわけありませんよう。まあ、何かあれば対応できる範囲でなんとかしますし無理そうなら起こしますから」
「うむ、ならよし」

そう言い残して僕は横になる。
膝枕などを狙うつもりは毛頭ないが粗相をしでかす事態を避けるために頭は伊織さんの方に向けておいた。

「おやすみなさい」
「おやすみなさい」

果たして、どちらが先に言ったのだったか。
どちらだったところで薄れる意識の中では些事にすぎないことだけど。





…………そういえば、昨日も満月じゃなかったっけ……?

279共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 14:00:08 ID:3RnAGsM.0


【1日目/夜/G−6 薬局】
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、睡眠、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   首輪探知機@不明、誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:zzz……。
 1:休んだら玖渚さん達と合流するためランドセルランドへ向かう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰かわかったが、さしたる感情はない。
 3:僕が伊織さんと共にいる理由は……?
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。

280共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 14:00:28 ID:3RnAGsM.0

すうすうと寝息をたてる櫃内様刻の横で無桐伊織は食い入るようにスマートフォンの画面を見つめる。
放送の内容も一度聞けば十分だったし、既に本人から教えてもらっていることをわざわざ見る必要もないと『病院坂黒猫』のファイルは再生すらしていなかった。
人を殺すという行為は思ったより気持ちが悪いということを伊織は身を以て知っている。
故に消去法で彼女が何度も再生を繰り返すのは『匂宮出夢』とタイトルがつけられたファイルのみ。
最初は自身のよく知る顔面刺青の青年だけを見ていた。
12時間以上前のこととはいえ、彼女にとってはやっと確認できた姿であることは間違いない。
まずは健在を喜んだ。
続いて、今まで目にする機会がなかった彼の戦闘技術に感心した(以前に哀川潤と共闘したときは圧倒的すぎて手も足も出なかった)。
いつしか、焦点が相手の女性に移っていく。

「……人識くんがやたら言ってた出夢って人、こんな方だったんですねえ……」

感慨深げに呟き、思いを馳せる。
今まで知ることがなかった新たな一面を知ったことで思うことはあるのだろう。

「……キスまでしちゃって……電話して冷やかしてあげちゃいましょうか――なんちゃって」

玖渚からのメールには零崎人識の電話番号も添付されていた。
必要な情報が埋もれるのを避けるために最後に回したのは様刻の配慮だったらしい。

「そういえばランドセルランドの番号も持ってましたし、人識くんがいるかもしれないのならそっちに電話するのもありかもしれませんが……」

聞く者はいないとわかっていても口を動かすことはやめない。

「……それにしても、双識さん、半信半疑でしたがいたんですねえ……哀川のおねーさんだって人類最強じゃなかったんですか……なんで死んじゃったんですか……でも……」

独白する声が滲んでいく。

「……人識くん……本当に、本当にっ、無事でよかったですよぉ……っ」

思いが、溢れる。
が、その目から雫が零れ落ちることはない。
その選択肢を選んだとしても今はそれを見る者も咎める者も誰もいないというのに――


【1日目/夜/G−6 薬局】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:…………
 1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
 2:様刻さんが起きたら玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
 5:人識くんとランドセルランドへの電話は……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像は匂宮出夢と零崎双識については確認しています。他の動画を確認したか、またこれから確認するかどうかは以降の書き手さんにお任せします。

281 ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 14:03:51 ID:3RnAGsM.0
投下終了です
伊織ちゃんが義手でスマホいじってますけど罪口製ならきっとタッチパネル対応もしてるよねってことで深くはつっこまないでください
他にも何かありましたら遠慮無くお願いします

また、最後になりましたが今年も新西尾ロワをよろしくお願いします

282名無しさん:2014/01/15(水) 10:16:03 ID:rKEVrxrwO
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
142話(+5) 17/45 (-0) 37.7(-0.0)

283 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/17(金) 23:51:16 ID:SsUFqggk0
真庭鳳凰の投下を開始します。
短めです。

284一足一動 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/17(金) 23:53:13 ID:SsUFqggk0

歩く。
同時に、最善の策を考えねばなるまい。
この場合の策は奇策などである必要はない。
純然たる、策だ。
生き残るための方策とも言える。
即ち、何処に行くか。
あるいは何処に行かないか。
これが問題だ。

「何せ」

見下ろせば。
脆弱な体を、三肢を使っている状態。
一撃必殺として元通りの足は出来るだけ温存するとしよう。
その場合、使うのは道具と限られる。

「否」

足を温存するなどと始めから考えるべきではない。
奇襲で殺す必要を感じれば。
そう言う時に温存するのは愚。
罷り間違って仕留め損なうなどと言う事があれば、

「否」

罷り間違う事など十二分に考えられるのだ。
事実、あの時、我は勝ち掛けていた。
そして今は万全でない以上。
なればこそ。
温存すると確定する必要はない。
必要に応じて考える。
それでよしとすべきだろう。
何はともあれ策だ。
行動をどうするか。
最も隙の少ないのは、動かない、と言う事だ。
動けばどうしても隙は生じる。
特に今。
この体で生じる隙は不味い。
何かあっても対処が遅れる可能性はかなりある。
幸いにして頭の中にある地図で言えば端。
寄ってこようなどと考える者はまず、

「否」

そうは、居ない、かも知れない。
それだけだ。
だからレストランに籠るのはありだ。
考えながら振り返る。

「だが」

同時に危険も付き纏う。
レストランまでは、這った跡がある。
決死で這ってきた。
痕跡など気にしていない。
つまり動かなければ何れ場所が割れる可能性がある。
来るならば罠を張って、とも行く。
しかし外から炙り出される事はなきにしも有らず。
炙り出されれば、

285一足一動 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/17(金) 23:56:56 ID:SsUFqggk0

「簡単に」

まな板の上の鯉に同じ。
鯉と言えば魚。
そう言えば喰鮫はどう死んだのやら。
傍若無人が服を着たような物だが、実力は確かだった。

「否」

その実力の確かさに、付け入られたのだろう。
慢心。
それが怖い。
あの時の我もあるいは。

「……さて」

唇の端を噛み、頭を切り換える。
動くのならばどう動くかだ。
まず不要湖方向は論外。
這った跡がある。
だから図書館にあるはずの、あの少女の死体は後回しにせざるを得ない。
あの二人に会う可能性もあって、逸れる必要が不可欠だった。
仮に行くとしても、別方向から向かう方が良い。
次いで因幡砂漠は問題外。
砂漠ではあまりにも姿が目立つ。
それに、胴元もとい大元は我でも、否定姫の足が耐え切れると思えない。
つまり二ヶ所。
薬局か、骨董アパート。
そのどちらかを選ぶ。
二択と簡単に言えるが、難しい。
今、最も必要な物を選ぶべきか。
それとも、崩れた廃屋を見に行くか。
意味を求めるか無意味に行くか。

「だが」

一概には決め難い。
しかし、だ。
何もせずに終わると思えない。
動かなければなるまい。
水面に波紋を起こさねばなるまい。
蝙蝠にのみ頼らず。
ならば、我のみならず、経過と共に増えるであろう怪我人が欲する物は、

「……薬」

つまりは薬局。
薬があるはず。
誰かしら居る可能性もあるが、対処次第。
それに薬を幾らか持っていれば、近付き易い。
懐に潜り込みさえ出来れば、隙を突くのも容易い。
否。
こう言う考えがいかぬ。
窮鼠猫を噛む。
残った我の足まで奪われれば堪った物ではない。
なかなか思い通りに考えられないものよ。

「では」

卑怯卑劣も委細問わず。
油断間断抜からず断とう。
隙を空かさず余さず突こう。
強も弱も全て、食らい尽くしてくれようぞ。

「真庭鳳凰、いざ罷り通る――」

286一足一動 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/17(金) 23:59:53 ID:SsUFqggk0



【1日目/夜/G−7】

【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、精神的疲労(小)
[装備]矢@新本格魔法少女りすか、否定姫の着物、顔・両腕・右足(命結びにより)、真庭鳳凰の顔(着物の中に収納)、「牛刀@現実、出刃包丁@現実、ナイフ×5@現実、フォーク×5@現実、ガスバーナー@現実」
    (「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する。
 1:真庭蝙蝠を捜し、合流する。
 2:櫃内様刻を見つけ出し、必ず復讐する。
 3:戦える身体が整うまでは鑢七花には接触しないよう注意する。
 4:まず薬局に行き、状況を見る。
 5:可能そうなら図書館に向かい、少女の体を頂く。
 6:否定する。
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。

287 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/18(土) 00:01:59 ID:V9uAxDac0
以上です。

速攻で遭遇はどうだろうと思い色々と考えましたが、まあ良いかと思いそのままにしました。
何時もの事ですが、妙な所などございましたらよろしくお願いいたします。

288名無しさん:2014/01/18(土) 01:50:54 ID:7N1DDBkwO
投下乙です
早速フラグが立ったよー!
様刻くん熟睡中だしこれはピンチ
否定しまくってるのに鳳凰らしさもあるのはさすが

…ところで結局近くにあっただろう阿良々木さんのマウンテンバイク見つけられなかったんだね
見つけたところで乗りこなせるかは別の話だが

289 ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:06:26 ID:OY0w9FPI0
投下します

290牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:07:56 ID:OY0w9FPI0
   ☆    ☆


手をつなぎ、どこまでも行こう。
君となら、どこまでも行ける。

だから、どこにも行かないでほしい。
僕の手を離さないでほしい。
君と僕はどこまでも一緒だから――――。


   ★    ★


元々ネットカフェに向かっていた理由はただ一つだった。

鑢七花による思わぬ妨害を受けて、ぼくたちはランドセルランドに向かうための方法を思索していた。
あるいは向かわないにせよ、これからどうするのかとかも話し合っていたが、その話はいいだろう。

鑢七花を対峙するためにぼくは改めて、箱庭学園で見た腐敗した扉についての考察をしたり、
りすかが彼と箱庭学園で対峙したと言うので、その時の状況を聞いてみたり、
蝙蝠と彼はもともと顔を合わせたことがあると言っていたので、詳細を聞いてみたり。
考え得る限りあらゆる策は練ってみたものの、いまいちぱっとする案もなく過ごしていた。
ぼくとりすかが考えている傍ら、蝙蝠に他の死亡者DVDを見せて手掛かりがないか探させたが特に収穫はなかった。
そんなところに放送が流れた。

大半の面々はまあ、知り合ってもないし、粗雑な言い方だがこの際どうでもいい。
零崎双識だって、確かに拍子抜けこそしたが、死んだ分には問題ないので、特別言うことはない。
ただ、ツナギ。
彼女に関しては流石のぼくでも無視するわけにはいかない。
属性『肉』・種類『分解』の魔法使い。
はっきり言っておくが、ぼくは彼女が死ぬとは全くもって想定していなかった。
彼女に敵うものがいるとすれば、それはずばり魔眼遣いぐらいなものだと、勝手に思い込んでいた。
現にぼくは彼女がこの場で死んだと思われる原因が二つしか思い浮かばない。
一つは廃病院で遭った時、ぼくがそうしたように彼女に許容量以上の魔力を取り込ませること。
そうすれば実質彼女は無力化したも同然である。(とは言ったものの単純な肉弾戦も彼女はこなせるが)
そしてもう一つは、鑢七花と同じ。
あの腐る『泥』を――あるいは同じ原理のものを目一杯に浴びた。
同じ『分解』同士、どっちに強弱が傾くかは生憎ぼくにはわからないが――ぼくにはそれしか考えられなかった。
魔法使いは魔法に頼りすぎてしまう、という一般的な弱点こそあるが、並大抵のものがそんな隙を突けるとは思えないしな。

少し耽る。
そして、二人を見た。

蝙蝠はいつも通り。
りすかは少し悲しそうだった。
ぼくはりすかの頭を撫でる。
りすかから呆けた声を聞けたところで、ぼくは蝙蝠に命令を下す。
――ネットカフェに行くことを、命ずる。

「あ?」
「理由を聞きたいのがわたしなの」

いや、そうは言われても、ぼくとしても不甲斐ない事にこれと言った論拠はない。
ただ携帯端末から掲示板を作れるとは思えないし、
恐らく掲示板を作った人間はそれなりにスペックの整ったコンピュータの置いてある施設に居るんじゃないかって踏んでいる。
ぼくたちが訪れる頃合いに当人がいるかは定かではないが、それだけのコンピュータがあれば何かできるんじゃないかって思う。

291牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:08:39 ID:OY0w9FPI0

「……」

蝙蝠は「意味分かんない」と言わんばかりの顔をして顔を伏せる。
代わりにりすかが「具体的に?」と問う。

具体的に――。
具体的には『ぼくたちの知らない死亡者のビデオ』が見れる、とか。
どういう意図で欠かしているかは知らないが、
今掲示板に貼られている動画だって『第一回放送までの死亡者』と考えても少し欠けている。
少し飛躍している発想かもしれないが、
相手が死亡者ビデオの情報を握っていると考えても決して考えすぎではないんじゃないか、とぼくは思う。
死亡者ビデオを自由に閲覧でき、選んだビデオだけを貼れる、と考えることもできなくはない。
だとすると、ぼくたちの立場云々もあるけれど、危険者を知れるという意味では大いにメリットになる。

結局、箱庭学園で遭った都城王土が告げた人間をぼくたちは把握できていない。
これは大変危険な状態だ。都城王土はああいったが、
むろん該当者が全滅しているって事態も起こり得る。
しかし裏を返せば、『それ以上』の実力者が君臨しているという事実になる。
それを知らないのは危険だ。
ツナギを殺すような人間の脅威を知らないのは、これ以上なく危険だ。
だから行く価値はあるんだと思う。
例え空振りだったとしても、どの道今は鑢七花が邪魔でランドセルランドには向かえないんだ。
時間潰しだと思えば、蝙蝠もいいだろう?

「……」

蝙蝠が黙りこむ。
ぼくは釘を刺す。
――裏切りを始めてぼくを殺すのは勝手だが、りすかはお前を許さないよ。と。
りすかの魔法を具体的には告げてない。
けれど、だからこそ、か。

「きゃはきゃは……まあいいぜ。付き合ってやんよ」

素直に応じた。
こうしてぼくらは無事にネットカフェに到着した。
そして蒼色と遭遇する。

292牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:09:12 ID:OY0w9FPI0


  ☆    ☆


雲仙冥利とは風紀委員長である。
実年齢十歳にして我が箱庭学園に通い、表に住まう『異常』の代表格とも言える存在だ。
尤もそれは一年前の話であり、今年は同じく『十三組』であり生徒会長――黒神めだかの方が日の目を浴びているにしろ、
しかし今でも、彼の『伝説』は学内ではそれなりに広まっている。
『モンスターチャイルド』と呼ばれる由縁である『やりすぎな正義』は、一年そこらで風化するものではなかった。
現に今年も吹奏楽部を壊滅状態に陥らせたというのだから、ぞっとする話だ。
(とはいえ保健室に連絡して、何やら極めて手際のいいらしい保険委員を手配するあたり決して非情と言うわけではないようだが)

今現在正義を標榜に掲げる僕としては、否応なしに存在を想起させる存在である。
『バトル・ロワイアル』に参戦してなく、状況が状況だった故に『正義』と聞いて黒神さんを安直に連想させたが、
改めて考え直すと、いやいや『正義』と聞いて彼女を連想するのは大いに間違いであることは明瞭だった。
曰く黒神さんは『聖者』――だったか。


いい機会なので、昔話をさせてもらおう。
あれはまだ雲仙くんが『フラスコ計画』に携わっていた時のことである。
偶然とでも言うべきか、『拒絶の門』の前にて彼と遭遇する機会があった。
普段は風紀委員長として活動していて顔を出さなかったり、
そうでなくとも例外的に時計塔のエレベーターを使える彼と遭遇する確率は極めて低いのだが、何かの『縁』だろう。
僕は偶然と思うことにして、特別気にかける素振りを見せず『拒絶の門』のパスワードを入力する。
出来るだけ人間と関わらないことにしていた僕にとっては、まあ、いつも通りの対応をしたまでだった。

「あ? テメーは確か『枯れた樹海(ラストカーペット)』の宗像くんとか言ったっけか」

最中、(僕からしたら)意外なことにの雲仙くんの方から絡んできた。
『拒絶の扉』は重たい音を立て開く。
丁度パスワードの入力を終えていたのだ。
無視(言い訳がましいが他人と接点を持つことは、当時の僕には避けるべきことだった)しても良かったのだが、
雲仙くんの『正義(やりすぎ)』を知っていた僕は火憐さんに対してそう思ったように、
いざとなったら彼が止めてくれるだろうと考え、彼の言葉に素直に応じる。

時間が経ち『拒絶の門』は閉まる。
これが僕の答えだと判断した雲仙くんは愉快そうに笑みを浮かべた。
小学生の浮かべる目じゃなかろうに。
さて、門番の目もあることだし場所を移そうか。
僕はそう提案して雲仙くんを地上まで誘う。
雲仙くんは異論を呈すこともなく、僕の誘いに乗った。

道中は静かなものだった。
彼にとって僕の立場は――有体に言ってしまえば処罰の対象である。
そりゃあそうだ、僕はこれでも世間では凶悪殺人鬼として名を広めている立場なのだから、風紀委員としては快いものではない。
緊張しないと言えば嘘になる。

「ケケケ! まあそんなに畏まるなよ」

地上に着いたところで彼はこちらを向き、一言。
……今はまだ処罰する気はないってことなのかな。あるいは、僕が凶悪殺人鬼でないと知っているのか。
どちらでも構わないが、攻撃の意思がないことは素直にありがたく受け取っておこう。

「テメーの『異常性(アブノーマル)』はイヤってぐれー知ってんだし、
 エレベーターも動かせねえテメー程度の『異常』に殺されるほどヤワじゃねーぜ。残念だったな」

その通り。
だからこそ、『いざとなった』時なんとかしてくれると信頼を置いて会話をしている。
『いざ』とならないことを願うばかりだ。ただ、一方的に降伏するほど僕も人が良いわけではないけどね。

293牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:11:53 ID:OY0w9FPI0

「『いざとなった』時は、オレの正義がオメーをぶっ潰してやるから、安心して悪ぃーことしてろよ」

なるほど、心強い限りだ。
僕が本気で挑んでも、確かに彼なら返り討にしてくれる。
確信するのに容易いほど、自信満々の返事であった。
しかし僕はその言葉に、ふとした疑問を感じる。
――『悪』は救うのではなく、裁くものなのか。

「はっ! テメーはあれかー? 最近名を馳せる黒神めだかの信者にでもなったんか?
 いけねーぜぇ。正義と聖者をいっしょくたにしちゃあ。オレとヤローは相容れねえよ」

『正義』、『聖者』――僕にはその違いが理解できなかった。
思えばこの時から玖渚さんの言う『正義を捨てるか』、『神を棄てるか』
その意図を理解できていなかったということになるんだろう。まるで成長していない。
ともあれ、不思議そうな顔をした僕を見かねたのか、雲仙くんはこんな話題を振ってくる。

「テメーはよ、日曜日にやってるような特撮ヒーローをなんとなくでも知ってるか?」

なんとなくならば。
古賀さん辺りは割と頻繁に仮面ライダーのポーズをとっていたりしていた。
連れ添う名瀬さんは何やら平成ライダーの方が好きだとかなんとか反論していたが、およそ関係ないことだろう。

「だったら話ははえー。宗像くんはよー、特撮ヒーローが町を襲う怪人をぶっ殺すのを咎めるか?」

どうだろう。
単純なようで、考え出したらキリがないような気がするけれど。

「難しく考えなくていーぜ」

ならば咎めやしない。
それで町に住む者、ひいては地球そのものを救ったんだから咎める必要はない。
そりゃあ相手を殺す結果になるとは言え――あ。

「そうだ、世間一般において『正義』とされる特撮ヒーローは決して相手を救ったりしない。『裁き』を下すんだ」

それが、彼の正義。
もう悪さが二度と起きないように、と。
母が悪戯をした子供を叱るのと、元を糺せば同一なのだ。
今となっては、彼の言う『正義(うんぜんくん)』と『聖者(くろかみさん)』の違いは明確に分かるけれど、
それを知らない、恐らく間の抜けた顔をしていたであろう当時の僕に対して、雲仙くんは語りかける。

「対して、黒神めだか(ヤロー)は違う。あいつは怪人さえも殺してはならねーっつってんだ。
 まあオレも未だ口づてでしか知らねーが、聞いた限りじゃあとんでもねー聖者だよ。
 ヤローは怪人にこう言うんだ。『これからは人を殺すのではなく人を活かす道を歩け』と」

そこだけを聞くと、黒神さんの人望の高さも頷ける思想なんだろう。
怪人をも更生させる。
実に真っ当な主義だとは感じる。
けれど雲仙くんの態度はまるで違った。
忌々しげに、吐き捨てるように。
紡ぐ。

「バカ言ってんじゃねーぜ! そいつは既に悪事を犯したんだ!
 ルールを破った奴が罰を受けるのは当然なんだ!
 それをなあなあでボカシて、贖罪さえすりゃあ許してもらえるって『悪』が図に乗るだけじゃねーか!」

……。
その通りだろう。
掌を返すつもりもないのだが、雲仙くんの訴えは至極尤もなものだった。
故に大半の国々では法律というルールが敷かれている。
別段黒神さんが間違っていると声を荒げて唱えるほど、黒神さんのやり方に賛同できないわけではないが……。

「っと……ケッ。感情的になっちまったぜ」

我に返った雲仙くんは当初のように愉快に挑戦的な笑みを浮かべた。
まったく。背丈が僕の腰ぐらいしかない相手とは言え敵に回したくない男だ。
しかし、どうして彼はこんな話をしたんだろうか。
最初から疑問には思っていたが、話がひと段落した今、改めて質す。

「あー? いやいやテメー自身も分かってんだろ。てゆーか、もう言いたいことの大半はもう済んでんだ。
 要するにだ、警告だよ、ケーコク。確かに今はテメーをぶっ潰すことはしねーが、テメーがオレのテリトリーで殺人を起こした日にゃあ」

瞬間、雲仙くんの眼が僕の眼を捕らえて、射る。

「覚悟しとけよ。オレは黒神のヤツと違って、テメーの異常(じじょう)なんざ省みねー」

恐ろしい子供だ。
僕が殺人を犯せない理由がまた一つ増えてしまった。
当時の僕はきっとここで、『だから殺す』と考えたのだろう。

「やりすぎなければ、正義じゃないんだよ」

彼が最後に呟いた一言は、やけに鮮烈な印象を残した。
だからこそ、今思い出すに至ったのだろう――。

294牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:12:39 ID:OY0w9FPI0


  ☆    ☆


空調の音が煩わしい。
背中を預けるソファーが固い。
不快感と共に、僕の意識は現実へと戻ってきた。

眩しい。
意識が徐々に、現を掴み始める。
なんだか夢を見ていた気がするな――。
どこか懐かしい、覚えておくべきようなこと――なんだっけ。
夢とは往々にしておぼろげなものではあるが、少し気になるな。
僕には予知夢なんて大それたことはできないにせよ。

瞼を閉じたまま、蛍光灯の光に目を慣らす。
そこまで長く寝ていたつもりもないのだが、体感とは反してそこそこの時間を睡眠に費やしたようだ。
片腕がもがれたことも相まって、身体がどことなく重く感じる。
……まあ、千刀なんてもんを携えながら寝たんだから重く感じるのも止むをえまい。

さて。
そろそろ起きようか。
ゆっくり身体を休めるのもいいかもしれないが、そんな猶予は残されていないんだ。
そもそもどうして僕は眠っていたんだっけ――?

しかし、そんな些細な疑問は次の瞬間には吹き飛んだ。
瞼を開き、身体を起こす。
そこはネットカフェのフロント。
奥には玖渚さんがいるであろう個室や、シャワールームに続く通路が見える。
僕はソファーの上で横たわり眠っておったようで、机を挟んで向かいのソファーには、

「――やあ、宗像先輩。おはようございます」

驚いた。
言葉にすれば、この一言に収斂してしまうが、
僕の身に降り注ぐ衝撃は並々ならぬものだった。

「やだなあ、そんな顔してどうしたんですか?」

今、僕はどんな顔をしているのだろう。
分からない。
状況が整理できない。
どうして僕の目の前に――というよりも、『今』、この場に!

「本気でどうしたんですか? 俺ですよ、俺。阿久根高貴、生徒会の阿久根です」

知っている。
だから僕の頭の中で強烈な混乱が生じているのだ。
彼はもう、死んでいるはずなのに!!

僕は幽霊でも見ているのか。
そんなわけあるか。――幾らなんでも非現実が過ぎる。
それはアブノーマルでもマイナスでもない、ただのオカルトだ。
……まあ、代々僕の家は『魔』を討つ家系故に「オカルトは信じられない!」なんて声を大にして叫ぶ真似こそしないが、
唐突に幽霊が現れて、受け入れられるほど、僕の器は大きくない。

「まあこんな場ですからね。気持ちが荒ぶるのも分かりますが、一回落ち着きましょう。
 ほら、これ。あそこにあったどりんくばーから注いできましたから。飲んでください」

彼の言葉に従うわけではないが、確かに落ち着くべきだ――少し落ち着くんだ。
……うん、大丈夫。大丈夫だ、頭は正常に働く。
僕は差し出された飲み物は飲まず、改めて注視する。

改めて見ると――まず間違いなくそこにいるのは『阿久根高貴』くんに違いない、
彼と会話を交えたことなど数えるほどしかないが、その点に関しては保証できる。

しかし、だからといって彼を阿久根高貴だ、と断言するわけにはいかないだろう。
繰り返すようだが彼はもう、この世に居ない。死んでいるのだ。
定時放送だけでなく、死亡した瞬間をとらえたビデオまで目を通した上で理解しているのだから、揺るがない事実だ。
すべて主催者からの虚偽だというのなら、彼がここにいる理由もギリギリ通じるが、そこまで懐疑的になる必要もないだろう。

スリーブレスの血染めの白シャツに、サイズのでかいだぼだぼのズボン。
首には同じく赤く染まったタオルが巻かれ、手には麦わら帽子が握られていた。
その血に塗れていること以外に関しては、牧歌的な服装でこそあれ、その風体はまるで似つかわしくない。
目まで垂れた男にしては長い金髪に、爽やかな顔。
牧歌的とはまるでかけ離れた今風な男の姿である。
僕は彼の名前を知っている。阿久根高貴くんだ。
箱庭学園現生徒会書記の、特別(スペシャル)――そしてプリンス、か。
彼に付けられるあだ名と言うのは生徒間でも多々あるが、しかしそれも過去の話だ。
今、彼に付けられる呼び名は唯一つ、『死人』、である。

295牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:13:45 ID:OY0w9FPI0
死んだ人間は、元に戻らない。
例外こそいるが――球磨川禊の様な埒外こそいるが、阿久根高貴にそんなスキルはない。

もしかすると後に球磨川禊が、阿久根高貴の蘇生を行ったのかもしれない。
それでも疑問は残る。
何故彼は、零崎軋識の服装をまとっているのか。
この服装は間違いなく、零崎軋識のものだ。今でも僕は、あの時の、本物の殺人鬼と邂逅した時のことは鮮明に覚えている。
圧倒的な実力差をもってして死ぬところだったのだ。忘れるわけがない。

まあ別に阿久根くんがそんな似合わない服装をしていることに疑問を抱いているわけでもなく、
『どうして死人の、それも血塗れである他人の服装をわざわざ着るような真似をしているのか』。
はっきりとは認識できなかったが、確かに阿久根くんの服装は、死ぬ間際斬られたこともあり血塗れだった(僕と同じ箱庭学園の制服だ)。
蘇生したとして、着替えたいという気持ちは分からなくもない。
けれど仮に球磨川禊が蘇生させたというのであれば、服装の傷や汚れを『なかったこと』にするのぐらい、容易いことだろう。
わざわざそんな血塗れの服を奪うことはない。
服装の傷や汚れをなかったことにできない事情があったにせよ、それでも他の施設をあたって工面すればいい話だ。

きっとこれは球磨川くんによる蘇生じゃない。
というよりも、蘇生と言うわけではないだろう。
蘇生であれば、こんな服装に関する違和感なんて生じないはずだ。
阿久根高貴くんは、特別だ――スペシャルだ。
ある意味では生徒会一の切れ者と言ってもいいだろう。
そんなヘマ、と言うよりも愚かな行為は絶対にしない。
必要もなく波風を立てる阿久根高貴くんではない
というのは実際に会った印象もあるにせよ、学校での評判や、先の詳細名簿からくるものだが。

ならばなんだ。
零崎軋識の服装を着ている理由はなんだ。
……僕はそれを知っている、と思う。
それらしい記述を、僕は『見た』覚えがある。
あれ――は。
確か。

「真庭、蝙蝠」

呟き、確かめる。
忍法・骨肉細工。
肉体変化のスキル。
真庭蝙蝠と言う参加者は、そんなスキルをもっていたはずだ。
だとすると――だとすると。
条件には、当てはまる。
彼が阿久根高貴と、零崎軋識に変態できるとするならば、この異様な組み合わせに、説明も付く。

「きゃは――」

阿久根くんの姿をした彼は。
そして。

「きゃはきゃはきゃはきゃは!!」

阿久根くんの声で、不愉快な甲高い哄笑をあげる。
ミスマッチ。
間違っても、阿久根くんならこんな声は出さないだろう。
こいつは、阿久根高貴じゃない。
今なら断定できるだろう。
こいつは――――。

「申し遅れたな。おれは真庭忍軍十二頭領が一人――真庭蝙蝠さまだ。おはようってところだぜ、宗像先輩」

真庭蝙蝠。
――真庭忍軍、か。
今の世になって、まさか忍者と遭遇するとは思っていなかった。
記述にも遭った通り、史実の忍者と言うよりは、週刊少年ジャンプにでも掲載されていそうな忍者なのだけれど。
まあそれでも忍者は忍者である。
油断ならないことこの上ない。

戦うつもりだろうか。
僕はこいつを払いのけることができるか。

296牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:14:20 ID:OY0w9FPI0


ぱんっぱんっ――――


と、興ざめ。
或いは救済の手拍子が鳴った。
蝙蝠の背後から手拍子は鳴る。
ソファーの裏に座っていたらしい。
まるで名探偵コナンのようなポジションにいるな、と考えていると『その子』は姿を現した。
そこには一人の子供がいる。
小学生ぐらいの背丈だが、それに似つかわしくないほどの意志の強さを、瞳の奥から感じ取れた。
そんな毅然とした小学生を、これまた僕は知っている。
供犠創貴。
『魔法使い』使い。
幸せの追求者。
小学生離れをした思考回路の持ち主である。
彼は僕から見て蝙蝠の右隣に座す。

にしても幸せの追求者、か……。
それは、僕――火憐さんの正義に通ずるものがある。
能動的か、受動的か――そんな差があるとはいえども。

「ふん」

ぱち、ぱち、ぱち。
一度鼻を鳴らし、供犠くんは手を打つ。
拍手、と見做していいんだろうか。

「すごいね、あんた。称えるに値するよ――宗像」

褒められて疑るていうのも何だか人が悪いようだ。
しかし僕の立場からしたら、今この場で褒められる、というのは甚く気持ち悪いものだった。
場違いにも程がある。
第一、どうして彼がここに。

「確かに阿久根高貴は死人――偽物だと断ずるには易いけれど、見事蝙蝠だと見破った」
「まあ阿久根高貴に変態してたのは、知り合いである宗像先輩への御心遣いっちゅーわけよ」

いらない気遣いだ。
余計なお世話も甚だしい、胸中で返しながら疑り深く供犠くんを見る。
――見たところ、懐に拳銃が仕舞いこんであるようだ。今、一度触った。
どういうつもりだ。
蝙蝠と同盟でも組んでいるのは別段構いはしないのだが、どうして今この場に現れた。

「暗器に加えその冷静な観察眼は実に有用だ。
 だがどうしてもその力を活かしきれてないんじゃないか――あんたならもっと凄いことが出来る」

回りくどく供犠くんは褒めたたえる。
もどかしい。言いたいことがあるなら、早く告げて欲しい。
僕としては『真庭蝙蝠』のスタンスが分からない以上気を抜けない。
名簿の記述通りの人間だとしたら、彼を倒すべきだ。
彼は『悪』――なのだから。
僕の杓子定規の判定とはいえ、人に命乞いをさせるのを愉しむ人間を善人とは言い難い。
今だって阿久根くんに変態して、まるで彼の死を侮辱しているかのような態度を取っている。
声には出さないが、どうしてそんな非道な真似が出来るんだか。僕にはとうてい理解が出来ない。

ふと窓から外を見る。
太陽は沈み切り、恐らくは月は未だ顔をのぞかせていないのだろう。
夕闇が窓の外で映えていた。
そういえば真庭と言えば様刻くんたちは大丈夫だろうか。
景色を見る限り放送の時刻は過ぎているようだが――難なくやり過ごせただろうか。どうにも心配だ。

いや。
今は様刻くんたちを信じよう。
僕は今、もっと心配すべき人間が他に居る。

「……ん? どうかしたのか」

供犠くんが問う。
そこで僕は改めて部屋一面を見渡す。
味気ない蛍光灯――粗末な備品の数々――虚しく照るドリンクバー――奥へとつながる通路――階段。
いない。
もしかしたら奥で作業をしているのかもしれないが、見当たらない。
青が。蒼が。
玖渚友が、いない。

「玖渚友……ああ、奥に居るよ」

297牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:15:03 ID:OY0w9FPI0

良かった。
ひとまず胸をなでおろす。

「水倉りすか。知ってるだろ? 彼女と一緒に作業をしている」

水倉りすか。
『赤き時の魔女』、『魔法狩り』。
小学五年生。僕にはその意味合いは分からないが、属性『水』、種類『時間』、顕現『操作』の運命干渉系の魔法使い。
曰く時を操る魔法使いとのことだが――。
まあ、いい。とりあえずは彼を信じるとしよう。
断って奥を見に行くのも構わないが、……蝙蝠に隙を見せるわけにもいかないしな。
如何せん、なまじ情報を得ているが故に警戒せざるを得ない。
そんな僕の態度を見破っているのか、先ほどから蝙蝠は愉快そうに笑っている。

息を大きく吐く。
ひとまず、リセットだ。
視点を供犠くんと蝙蝠に戻そう。
今一度姿勢を正す。

「さて、話が逸れたがここでぼくから一つ提案がある」

左人差し指を伸ばし、僕の目を強く見つめる。
吸い込まれるような瞳に僕は一瞬意識を持っていかれた。
……油断ならない子だ。雲仙くんといい、最近の子供は発育が良いようだ。
そして供犠くんは提案を告げる。

「ぼくの奴隷になれよ、宗像形」

……、……。
言葉が詰まる。
なんだかよく分からないが、今日はよく勧誘される日だ。
零崎軋識や無桐伊織さんからは殺人鬼と。
阿良々木火憐さんからは正義そのものと。
狐面の男、西東天からも勧誘を受けたし。
今度は供犠創貴くんから奴隷の勧告か。
降ろした左腕で銃に触れ、供犠くんは言葉を重ねる。

「あんたがぼくたちを知っているように、ぼくたちもあんたのことは知っていた。
 にしても、どうやらぼくは人を過小評価してしまう悪癖でもあるのかな。
 ただ大量の武具を仕舞えるという点以外に魅力を感じなかったが、大したもんだよ」

底知れなさ。
剛毅とした立ち振る舞いは人間離れしているかのよう。
そういう意味では、あの『最悪』とは表裏一体の存在である。
隙があるようで、隙のない。
毅然としているようで、飄々として。
この底知れなさは、相手を試すようなこの奥深さは、おぞましいものがある。
僕は答えなければいけない。
――お断りだと、狐面に対してそうしたように。
僕にはしなくちゃいけないことがあるんだ、と。

「安請け合いするつもりはないが、言ってみろよ。場合によっては手伝うぜ」

……。
うん、そう言ってもらえるのはありがたいけれど。
これは僕が成すべきことであって、僕にしか成しえないものだ。
『正義そのもの』になるだなんて他人に手伝わせることじゃないしね。

「……」

供犠くんの表情は変わらない。
試すような瞳からは何も窺えない。
そんな時だった。

298牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:15:36 ID:OY0w9FPI0


「――きゃは」


蝙蝠が笑った。
だが阿久根高貴の声ではなかった。
僕はこの声もまた知っている。
これは――これは! ――――零崎軋識の!
供犠くんに引っ張られていた意識を蝙蝠に移す。


「面白い事をいう奴だ。――青髪のあいつを守れなかった奴がそうもぬけぬけと、よく言えるぜ。
 ――きゃはきゃは、あー愉快ったらありゃしねー。抱腹絶倒もいいところだ」


そう言って、蝙蝠は口に手を突っ込む。
明らかに顎が外れたようにしか見えないその光景を見ながら、僕は押し黙っていた。
無論のこと蝙蝠の奇怪な身体の仕組みに驚いて絶句している訳ではない。
彼の発した言葉に、僕は黙らざるを得なかった。

玖渚さんが死んだ――。
僕は無意識のうちにその言葉を反芻していた。
口からスラリと直刀を取り出した蝙蝠は、さも当たり前と言わんばかりに、返す。

「いやいや、当ったりめーだろーが。おれさまはしのびだぜ?」

明瞭で明白。
これ以上ないほどの模範回答だった。
しのびが無力な人間をむざむざと野放しするわけがない。
そっか……。玖渚さんは逃げれなかったのか。
僕は守れなかった。
反芻する。
玖渚さんが死んだ。
守れなかった。
正義。
正しく義しい。
僕は。
僕。
宗像形。
正義そのもの。
守れない。
何一つ。
火憐さん。
玖渚さん。
様刻くん。
伊織さん。
何一つ。何一つ。何一つ。
何一つ。何一つ。何一つ。
伊織さん。
様刻くん。
玖渚さん。
火憐さん。
何一つ。
守れない。
正義そのもの。
宗像形。
僕。
僕は。
正しく義しい。
正義。
守れなかった。
玖渚さんが死んだ。
巡る。――思考が巡る。

299牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:16:35 ID:OY0w9FPI0


























――――――――――――――――ああ。

300牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:17:15 ID:OY0w9FPI0
そうか。
そうだったんだ。

供犠くんが溜息を吐く。
そして――拳銃を懐から抜き出し僕をめがけて撃つ。
事前に行動が読めていたので、このぐらいだったら避けるに容易い。

――そっか。
呟き、自覚する。
供犠くんが僕を攻撃するってことは、つまりはそういうことだ。
僕の中で、灯る。
『炎』が音を立てて。

なんで僕は凶悪犯罪者と騙り、閉じこもっていた?
それは人を殺したくないから。
人を殺したくない理由は、それは悪くて悲しいことだから。
僕は知っている。
かつて僕が僕を『悪』とみなし、閉じこもっていたように。
殺人鬼は悪であることを、殺人者は悪であることを、殺人犯は悪であることも。
だとしたら伊織さんも軋識さんも人識くんも様刻くん、勿論僕も黒神さんも、当然きみも、裁かれてしかるべきだ。

簡単だったんだ。
殺して思わず救われてしまったから、勘違いをするところだった。
殺すのは、何がどうであろうとも――『悪』だ。
『悪』は救うのではない、『悪』は裁くべきである。

真庭蝙蝠、供犠創貴。彼らは玖渚友を殺した。
この事実が示すものは極めて単純。
炎がめらりと揺らぎ立つ。
心にともる焔が僕へ命ずる。
正義を執行しろ――正しくなくとも義しくなくとも真っ当しろ――。
僕は神になるつもりはない。
ただただ、悪を裁けばいい。

炎が、僕を焼く。
これまでの戯言に翻弄される僕を抹消するように。
言葉を紡ぐ。


だから殺す――――と。


甘さを捨て、あまつさえ格好良くもないけれど。
僕はどこまでも行こう。
火憐さんが目指した、『悪』のない世界へと。
マシュマロを溶かす様に燃え盛る。
僕の正義が、油を注いだように燃え盛る。

ごめんね火憐さん。
僕はきみのような『正義の味方』でありながらも同時に『神の味方』であるような生き方は出来ない。
僕はきみの言う通り――――――『正義そのもの』になる。
神を棄てることを、僕は選択する。

なるほど、玖渚さんはすべてお見通しだったということか。
――僕がこれほどまでに人を殺さなくちゃいけないと思ったのは、初めてだ。

「おいおい、殺すってことはあんたの言うところの『悪』なんだろ?」
「きゃはきゃは――正義のために悪に染まるってのは本末転倒じゃねーか?」

供犠創貴が呆れたように僕を見下し、
真庭蝙蝠が極めて楽しそうに、僕を見下した。
なんだっていい。
きみらがどう言おうとも関係ない。

これまで忘れていた、雲仙くんの言葉を借用する。
きみたちは畑に住まう害虫を駆除するのを悪いことだと言うのか?
特撮ヒーローが敵を爆死させるのを悪だと言うのか? ――誰もそんな非難を浴びせない――なぜか?
なぜならそれらは正しいことを目的とし、正義を掲げて執行するからだ。断言する。

僕は、清く、正しく、
めだかさんのようにいかなくとも、潤さんのようにいかなくとも、火憐さんのようにいかなくとも、胸を張って正義を執り行う。
正しければどんな行為も『悪』じゃない。
友達のために――正義のために戦う僕が、火憐さんや潤さんが正義だと認めた僕が、『悪』であるはずがない。


人殺しは悪いことだ。
だけど、悪を裁くことに罪はない。

301牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:17:41 ID:OY0w9FPI0

供犠くん知ってるかい?
僕は投げかける。
極めてよく聞く、この世の摂理を。

なにを、と彼が返したので、僕は直ぐ様答えを返す。
正義は必ず勝つんだよ、って。

初めてあった時の凛とした火憐さんの顔が脳裏をよぎる。
そうだね。
決して驕るわけではないけれど、――間違ってるこいつらなんかに、僕は負けない。


「知ってるよ、だからあんたが負けるんだ」


そんな僕をつまらなそうに、
供犠創貴が言葉を返した。だから殺す。
――僕の名前は宗像形。唯一つの十字に基づき、これより『正義』を、死刑執行する。



【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(小) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失?、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)
[装備]千刀・ツルギ×536@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:『悪』を殺す。
 1:供犠創貴と真庭蝙蝠を殺す。
 2:伊織さんと様刻くんを殺す。
 3:『いーちゃん』を見つけて、判断する。
 4:黒神さんを殺す?
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています

302牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:19:06 ID:OY0w9FPI0



   ★    ★


「あんたは大物になるよ」

そんなことをぼくに言った女がいる。
彼女の一言で、昔の愚かしいぼくは“更生”させられた。
この世のすべてを下らないと謗り、だからといって特別なにかを志している訳でもなかった、
それこそ下らない人間だった昔のぼくを更生した。

「あたしとあんたはいい親子になるよ」

彼女はぼくの母親になりたかったらしい。
今までの、そしてそれ以降の名義上の母とは違う、真の意味でぼくの母親になりたかった。
結局その言葉に意味がどれほどあったのかは定かでないが、
確かに――確かに『彼女』はぼくが今までで唯一『母』と呼んだ人間である。

『彼女』のことが頭をよぎる。
宗像形を見ていたら、ふと思い出した。
『彼女』の存在を。
『折口きずな』という母親の存在を。


宗像形は阿良々木火憐という女性の言葉で“更生”されたらしい。
立ち合わせたわけでもないし、聞き伝えであるため詳しいことはぼくも分からないが、
誰かの言葉を契機に“更生”した、という点において、ぼくと彼は極めて類似している。

宗像形は阿良々木火憐から『正義そのもの』と。
供犠創貴は折口きずなから『みんなを幸せにする人間』と。

そういった面では、比較的ぼくは彼に対して複雑な心境である。
加えぼくは目的に向かい邁進する人間は大好きだ。
支えて、援助して、使ってあげたくなる。
宗像形は聞いたところによると、『正義になりたい』とはっきりと目標に向かっているようだ。

好感が持てる。
普段だったら応援してやっても十分良かった。
けれど、今回ばかりは駄目だ。
それは彼女に対する謀叛となる。
曰く「余計なものは処分しておいていい」とのこと。
本来であれば彼女としては宗像形、彼をそのままコキ使うつもりだったらしいが……、
ぼくたちがネットカフェに訪れたことでおじゃんとなった。
まあ、むろんぼくの駒として宗像形を迎え入れるという選択もあったが、彼女は「それは無理だ」と返した。
実際あってみると、彼女の言い分はよくよく理解できる。
ぼくや彼女はともかく――蝙蝠やりすかは彼とは相容れないだろう。

蝙蝠だけならば、そろそろ向こうも裏切りを考えている頃合いだろうし、
ぼくも今後についてどうしようか悩んでいたところだから、別段困りはしない。
しかしりすかは別だ。りすかだけは手放すわけにはいかない。
ただでさえ――ただでさえツナギというぼくの愛すべき駒が死んで苛立っているのだ。
りすかさえも喪うわけにはいかない。

それでも――万が一に蝙蝠やりすかをも上回る逸材だって可能性だってある。
現実には叶わなかったにしろ、できるだけ多く彼女の情報を聞いておきたかった。
故にぼくは彼が起きるまで待っていた。
見計ろうと。
この行為は、ぼくがどこか心の奥底で、彼に対して感じたシンパシー故の温情だったんだろう。
甘いとは思う、思うが――どうしても重ねてしまう。

結果的には蝙蝠の嘘の所為でご破算になったが、ある意味では助かったとも言える。
これで和解の道はなくなった。
吹っ切れれる。

303牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:19:48 ID:OY0w9FPI0

ぼくは見方を変える。
宗像形は『ぼくの越えるべき壁』と。
あまりに在り方が似ているが故に。
同族嫌悪と言う言葉はある――あまりに似ているもの同士は相容れない。
そう思えば、ぼくは彼を容赦なく殺せる。
そうだね――、りすかと彼。どちらをとるかと言われたら天秤にかけるまでもなく、ぼくをりすかを選ぶ。

だからぼくは――表裏一体の存在、宗像形だって殺してみせる。

ぼくは、後悔なんて、しない。
後悔なんて、ありえない。
やり直すには、ぼくはあまりに手を汚しすぎた。
悔むことさえ偽善的に、独善的に成り下がる。
星空の下、りすかはそんなぼくを許してくれた――許してくれた、けれど。
血に染まったぼくの手が雪がれるわけではない。
今更遅い。
犠牲は犠牲。生贄は生贄。
踏み越えた者として、踏み越えた屍を、矜持を持って見下してやる。
だから必要となれば宗像形だって、ぼくは踏み越える。

この観察眼は、この頭脳は、この度胸は、この器用さは、ぼくの全ては――この世を幸せにするためにあるのだ。

――――ぼくは負けない。
こんなところで腐るつもりもない。
ぼくに似た存在を倒せないようでは、水倉神檎だって越えられない。
どころかぼくの目指すはその先だ。
水倉神檎だって過程の一つ。
向こうがどんな信念を持っていようとも、ぼくは負けない。
彼が己の『正義』のために闘うならば――ぼくは世の『幸福』のために。


【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:宗像形を倒す。
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません

304牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:20:45 ID:OY0w9FPI0



   ★    ☆


到着。
玄関の死体に関しては何も言えないの。
もう、どうしようもなく死んでいるとしか、言えないの。

玄関からネットカフェ内に入ると、独り寝ていたの。
死んでるんじゃないみたい。
寝ている宗像さん(というのは後から知るの)を蝙蝠さんに見張らせ、
わたしとキズタカが奥の探索を始めたところに現れたのが――彼女・死線の蒼――玖渚友なの。
キズタカは拳銃を構える。
そこでクナギサさんは椅子を回し、こちらを向いたの。
その瞳は青く――蒼く――碧い。深い深い群青色。
まるでわたしと対を成すような青い少女だったの。

「きみは?」

キズタカが尋ねる。
わたしは何も言わない。
いつも通りなの。

「私? 私は玖渚友。きみのことは知ってるよ。『「魔法使い」使い』。後ろのあの子は『赤き時の魔女』、でしょう?」
「…………そうか。だったら話は早いね。ぼくの名前は供犠創貴。彼女の名前は水倉りすかだ」
「うん、知ってる。ランドセルランドで黒神めだかと合流するっていう手筈だったのも、私は知ってる」

キズタカもわたしとおんなじように押し黙る。
黙らざるを得ないっていう状況なのが今なの。
けれど引いているだけじゃ話は進まないのも、分かっているつもり。
キズタカが話し始める。

「そう、羽川翼さんと交流があるんですね」
「羽川翼……? ああ、うん。まあ交流はあるね。
 まあそんな話はいいんだよ。私がしたいのは、これからの話なんだからさ」
「……ご尤もで。じゃあ単刀直入に切り込むけどきみが掲示板の管理人、でいいのかな」
「ふうん、どうして?」
「いや、これといった理由はないよ。ただ情報をかき集める一環として『トリップ』の構造っていうのは知っているんだけど、
 『◆Dead/Blue/』なんて意味のとれる『トリップ』は滅多に作れない。
 偶然の産物と言われればそれまでだけど、きみの外見も合わさってあまりにこれは出来すぎている、と思わないのか?
 そんな都合のよさそうなトリップを瞬時に作成できるだなんて、地味だけど並大抵の人間にはできない。
 プログラムから隙にいじれる管理人だったら、あるいはそれぐらい容易なことじゃないかなって」

偶然と言うのはそれほど嫌いでもなかったが、先日大嫌いになったもんでね。と忌々しげに小声で呟く。
お兄ちゃんの『魔法』のせいかな。確かに、少なくても『今』のわたしとしてもあの魔法はおぞましいものなの。

「それに、管理人でもない人間がこんなところでネットを開いて何をしているのか、ぼくは逆に不思議に思う。
 確認してないけど、おそらく回線はロクに繋がらないだろう。これは試したけど警察だって呼べないし。
 『掲示板を作れるほどの技術』を有する人間でない限り、この場に限りはネットカフェにいる理由なんて取り立ててないだろう」
「うん――その通り。うーん、いーちゃんに分かればそれでいいって思ったけど、どうもあからさま過ぎたみたいだね。
 別に嘘をついてもしょうがないからばらすけど、私が管理人だよ」

思いのほかあっさり白状したことに、共々内心驚いたの。
キズタカの弁は確かにその通りなのかもしれないけれど、どれもこれといった決定的な論拠のない言葉。
返しようによってはどうにも覆せるのがキズタカの弁なの。

「だったら、どうしたいのかな? きみたちは」

そこでクナギサさんは切り込んできた。

「そうだね、知っている情報を吐いてもらう。さもないと撃つよ」
「私もまだ死にたくはないからね。別段それは構わない。
 ――ただ一つ。協定を契らない? きっときみたちにとっても有益になるだろうし」
「協定?」
「きみたちが口にした通り、『私がたくさんの情報を有している』からこそ接近してきたんだと思う。
 実際それは間違いじゃないし、私がきみたちに与えれる情報はきっといっぱいある」
「だから、それを無条件で教えろとぼくは言ったつもりだ」
「嫌だよって言ったらきみは私を殺すんだよね?」
「……そうだ」
「けどさあ、それってきみたちを不利にするってわからない?
 ――私を殺す姿は知っての通りビデオで撮られるんだよ?
 確かに参加者は残り半分以下――怪しまれても『優勝』するだけならあるいは可能かもしれないね」

305牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:23:44 ID:OY0w9FPI0

と。
クナギサさんに指を指されたのがわたしなの。
わたしを指さして、つまんなそうに続ける。

「それはりすかちゃんを殺すことに繋がるんだけどね。きみはそれでいいの?」
「――――」

キズタカは答えない。
わたしは何も思わない。

「あくまで主催者を打倒することを目的とするんならさ――。
 互いに平和的にいきたいと思わない? 思わないの? 『「魔法使い」使い』。
 それともきみには、周囲から孤立してもりすかちゃんと二人だけで主催者を打倒できる作戦でも練れているのかな?」

嫌味な言い方なの。
色合いも含めて仲良くできる気がしないの。

「……生憎ぼくには『誰』が『どうやって』死亡場面を映したDVDを添付しているのか、さっぱり分からない。
 今のところ有力な説はあんたが何処かから探り出して添付しているって説だ。
 つまりぼくはきみを殺せばそんな事態は起こり得ないって信じて疑わない。
 ――死にたくなければ、そのぐらいは教えておいた方がいいんじゃないのかな」
「自分の無知をそんな胸を張って言われても困るよ。ただまあ、その通りだね。――教えてあげる」

クナギサさんはそこで、図書館の役割なんかを話してくれたの。
確かに添付そのものはクナギサさんがやってたけれど、ビデオそのものは第三者が簡単に見れる。
真偽はともあれ、合理には叶っている話なの。
辻褄が合うのが第一回放送までの死者しか添付できない理由。
キズタカも同じように考えたみたい。

「できれば自分の目で確かめたいところだけど、一応信じるとするよ。
 それにそうだね。そのDVDを取りに行った人間がぼくたちの悪評を広めたら立ち回り辛い。
 なるほど――あんたの言い分はよく分かった。ただぼくからも一つ条件がある。とっても簡単なことだ」
「何かな?」
「あんたは情報をたくさんもっていると言った。無論一個の情報を出してネタ切れなんてわけがないだろう。
 だから協定の提案者として誠意を見せてほしいんだ――ぼくたちの知らない情報を一先ず一つでいい、教えてもらおう」
「……うーん」
「結局図書館にあるってことは、図書館で誰かがDVDを見つけなきゃいいって話だろう?
 確率的には決して高いわけではないんだ。『ビデオに撮られる=ぼくたちの悪評が出回る』でない以上、
 決してそれはぼくがあんたを殺してはならない理由には成りえないんだ」
「……この辺りが限界かな。いいよ一つ教えてあげる」

そう言って、クナギサさんはその細い指で――ハードディスクを――『ディスク』を!

「これはちょっとわけあって入手した――――」
「――――お父さんからの『ディスク』ッ!?」

……あ。
思わず叫んでしまったの。
思わず叫んでしまったのがわたしなの。
露骨に思わず分かり易くどうしようもなく叫んでしまったのがわたしなの。
隣でキズタカがやれやれ、呆れた表情で溜息をついて。
クナギサさんが――にんまりとした表情で。おぞましい表情で。

「――協定に則らない場合、データ消去して、これ真っ二つに折るから」


   ★    ☆


『デバイス』
一口に言ったらたくさんあるのがその言葉なんだけど、
この場合クナギサさんのもっていたハードディスクを指すの。
同時に、一致するのがわたしたちの探していた『ディスク』。
水倉神檎の残した『ディスク』。

分かれているのが、わたしは魔法的見解。
クナギサさんは科学的見解という『解析』の方法なの。
欲を言うなら、黒神真黒なる人が生きていたら楽だって聞いた。
けど、死んじゃった。
わたしが巻きこんだ――巻き込んだ。
影谷蛇之の戦いの時のように、多くの人間を巻き込んだのがわたしなのかもしれない。
ツナギ……さんも。
正直怖かったのが彼女だけど、それでも。それでも。
知り合いが死んだというのは辛いことなの。

306牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:25:14 ID:OY0w9FPI0
約束を守っているのがキズタカなの。
嘘を吐かないって。
わたしの気持ちを考える――って。
ツナギさんが死んだことをわたしが悲しんでいると慮って、わざわざネットカフェまで来てくれた。
キズタカはそれを言葉にしないけど、なんとなくわかる。
わたしの頭を撫でてくれたキズタカの手から、そんな思いが伝わったの。

だから、応えるべきなのが、わたし、水倉りすか。
キズタカの期待に応えたい。
わたしを必要としてくれたキズタカの気持ちに応えたい。
それに、お父さんが絡んでいるって言うのならば――なおさら。

「んー……。本当にこれ、水倉神檎の『ディスク』なの? 僕様ちゃんは未だに信じがたいんだけどなー」

クナギサさんが尋ねる。
ほんとう。と答える。
一人称が変わったのは蝙蝠さんに協定の話やら情報交換が済んでからなの。
詳細名簿やら――不知火やら。

「いやーうん。不知火袴が水倉神檎の影武者って言われれば、確かにそんな可能性はするんだよねー。
 『黒神』と『不知火』――『白縫』の対関係のように、『水倉』と『不知火』――『火を知らず』は関係性はありそう。
 勘ぐりすぎだと思うんだけど、判断するには難しいところだよ」

うんうん、と頷きを繰り返す。
ディスプレイから目を離すのがクナギサさんで、それを見つめるのがわたしなの。

「まあ僕様ちゃんは一度調べきったつもりでいたからね。
 元々新しい情報が見つかることに期待はしてなかったんだけど、その分だとあなたも同じようだね」

頷く。
『ちぃちゃん』が欲しいよ、とぼやいているの。
だれだろう。

「けどね、一つ分かったことは多分この『ディスク』一つで情報は『完結』してないみたい。
 改めて考えると、『不知火』の意味や『箱庭学園』の諸々を知ったところで、事態が好転するってわけでもないし。
 黙って見ていろとは言われたけれど、だからといって今回ばかりは静観してる場合じゃないよね。
 もっと違う――鍵となる『断片』は他にもきっとどこかに『落』とされてるよ」

まったく、『破片拾い(ピースメーカー)』の名は伊達じゃない、とか言ってみたいなあ。
と、どこかに向かって送られる期待の眼差し。……なんだか可哀相なの。

ここで転換するのは話題。

「それで、あなたは創貴ちゃんを助けに行くの?
 僕様ちゃんときみたちの協定はこう。
 1:創貴ちゃんたちが僕様ちゃんを殺さない、代わりに僕様ちゃんの持ってる情報のほとんどをあげる。
 2:ついでに僕様ちゃんをランドセルランドまで送って、『いーちゃん』に合わせてほしいこと。
 大雑把に言っちゃえばこんなもんだよね」

また頷く。
あれから結局立場対等に協定は組まれることになったの。

「だから、別に僕様ちゃんとしてはどっちが死のうが構わないわけ。
 形ちゃんが生き残ったらふつーにそのまま頼りにさせてもらうし、
 創貴ちゃんらが生き残ったら、協定通りにしてもらう。
 だけどさあ、起きたら困っちゃうことが一つあるんだよね。
 つまりは同士討ちってやつなんだけど、そうしたらいろいろと絶望的じゃん?」

また頷く。
加えて言うなら。
宗像形さんが起きる前に退散する案も無論あったの。
あったけれど――蝙蝠さんが断った。それにキズタカも同意した。
蝙蝠さんの理由は聞けなかったけど――キズタカは一度話がしてみたいって言ってたの。
ちなみに初めに宗像形を殺してもいいんじゃないのかって言いだしたのはクナギサさんなの。
『死ななくても支障はないとは言え――ぶっちゃけ形ちゃんを一人野放しにするぐらいなら殺した方がいいよ』って言ってた。
『殺人衝動がいつ爆発するか分からない代物を目の届かない場所に放置するのはよくない』って言ったのもクナギサさんなの

307牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:26:59 ID:OY0w9FPI0
「よーって僕様ちゃんは、どっちかに圧倒的に勝利して欲しいわけ。
 そーゆーわけでさっき創貴ちゃんには宗像くんの情報をたくさん与えたんだけど、
 蝙蝠ちゃんに関しては、僕様ちゃんも読めないんだよね。一応同盟は組んでるって言ってたけどいつまで持つか分からないし。
 場合によっては裏切られるって可能性もあるわけ。それぐらいだったらきみが舞台に立ってとっとと片付けたほうがいいんじゃないって」

その通りなの。
あの人の『暗器』にとって天敵なのが、わたしの『魔法』。
同じく蝙蝠さんの考えが読めないのがわたし。
だけど、キズタカは言ってくれた。
――お前の魔法は制限が課されている。下手に『殺されない』ほうがいい――って。
命じられたら、従わないわけにはいかない。
キズタカを信じるのがわたしの仕事だから。

だからわたしは。

「ん? 僕様ちゃんからもっと情報を引き出しとけって?
 ……うにー。信用されてないなあ僕様ちゃん。帰ってきたら教えてあげるのに。
 まあいいよ。じゃあ、創貴ちゃんと蝙蝠ちゃんと形ちゃんを信じて、水倉神檎の娘――私と一緒に考察しようか」

それがいいの。
それにキズタカがわたしを必要とするならわたしはそれが分かるから。


【1日目/夕方/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪、ランダム支給品(0〜5)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 1:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 2:黒神めだかと『魔法使い』使いに繋がり?
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。真庭狂犬の首輪は外せてはいません
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]零崎人識に対する恐怖
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:キズタカに従う
 1:クナギサさんと話す
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします

308牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:27:36 ID:OY0w9FPI0


   ■    ■



――――きゃは。
きゃは――――――きゃは―――。
斬りたい、この、刀で、人を、思い切り、ぶった切りたい。
おれさまが嘘をついた理由なんて簡単だ。
いつものような接待であり――――どうせ斬るなら、しょせんは餓鬼の供犠創貴じゃなく、腑抜けたスカスカの正義やろーでもなく、
おれに対して全力で歯向ってくる奴を倒した方が――――面白い。そんなおれの欲。

案の定キレやがったぜ。
それでいい。
それでこそ、『斬り甲斐』があるってもんよ。
今はまだ創貴の同盟には応じておこう。こいつを斬りてえ。

……きゃは。
刀の毒、ねえ。
子猫ちゃん。言い得て妙じゃねえか。
鉛の鈍器でも、まらかすっちゅー代物でもねえ……この刀で斬ってみてえ。


きゃは、きゃは――――きゃは。



【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中
[装備]軋識の服全て、絶刀・鉋@刀語
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:宗像形を斬る
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰が記録辿りを……?
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※絶刀は呑み込んでいます
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません

309 ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:30:02 ID:OY0w9FPI0
以上で投下を終了します。
避難所スレにて指摘を貰いました蝙蝠ですが、
こちらからは言及することは致しません。
どちらにとってもらっても私個人としては構いません。
それでもやはり言及するべきという場合は、wikiにて追加させていただきます

310名無しさん:2014/02/24(月) 10:42:20 ID:HEJ1z3LQO
投下乙です
宗像君が正義こじらせちゃったよ!
さりげなく様刻と伊織も殺すってなってるあたり手遅れ感あるけどめだかちゃんについては疑問符がまだ残ってるから踏み留まれるといいなぁ…
まあ、回想の雲仙君との会話で嫌なフラグばっちりありますけどね(しろめ)
そして玖渚、お前悪女もいいとこいってるぞw
ちゃっかり勝った方にのっかります(意訳)宣言してるし…
人識が創貴たちと敵対してるのも玖渚はちゃんとわかってるはずだから創貴も創貴で蝙蝠以上に厄介な爆弾抱え込んでるしなあ
これどっちが勝っても玖渚には被害無いあたりタチ悪い

311名無しさん:2014/02/24(月) 15:17:56 ID:9v30r1RI0
投下乙です

想像以上に酷い状況だわw
宗像君が予想してたがそうなったかあ
玖渚は玖渚で…いや、これは平常運転か
でもタチが悪いわあw

312名無しさん:2014/03/15(土) 00:27:25 ID:satE6Pg20
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
144話(+2) 17/45 (-0) 37.7(-0.0)

313 ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:00:29 ID:GqeB6rDY0
投下します

314Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:01:28 ID:GqeB6rDY0



ほんとのことだけで生きてゆけるほど
僕らは強くないさ強くなくていい
――――いい?





『また勝てなかった』






「――でも次は、勝つ」






『……とは言ったもののどうしようか。めだかちゃん見失っちゃったし』
「さっきまでのお姿が台無しですよ」

いつものように、けれどどこか嬉しそうにため息をついてわたしは球磨川さんの返事を待ちます。
今のわたしは彼の刀。
従僕が主人に逆らわないようにわたしも所有者である球磨川さんの指示がないかぎり動けません。
七花もきっと――ああ、とがめさんがいなくなった後は自由に行動したのかしらね。
かつてのわたしのように。
そうでなければ錆ついた意味がないのですから。
……こうして思うと錆びるのも悪くはない――むしろいい。
七花に会ったら謝らなくてはいけませんね。
とは言ってもまだ会いたくない、会うとしてもそのときを引き延ばしたいと思っているわたしがいるのも事実。
七花に殺してしまってもらいたい。
球磨川さんに最期まで付き従いたい。
相反する二つの思い。
どちらを優先するかでこれからの行動にかなり響いてしまします。
…………………………さて。
こういうときにこそ四季崎が茶々を入れるかと思ったのに静かですね。

――なぁに、こいつは冗談抜きでおもしろそうなものが見れると思ったからな――おれが干渉して左右しちまうのはもったいねえ――

つまりこれからはもうちょっかいをかけられることもないと。

――まあそういうことだと思ってくれていい――おまえの機嫌を損ねてこの先が見れなくなっても困るしな――呼ばれない限りは出るつもりもねえよ――

それはありがたい、と素直に受け取っておきましょうか。

『どうしたの、七実ちゃん?さっきから黙っちゃって』

では迷うのもほどほどにして本題に戻りましょう。

「いえ、少し考え事を」
『ふうん……?まあ、いいけど。僕としてはめだかちゃんを探したいところなんだけどね』
「ではそうしましょうか」
『……七実ちゃんのしたいことがあるなら優先するよ?』

315Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:01:54 ID:GqeB6rDY0
「今のわたしはあなたの刀。あなたのすることに異論は唱えず、あなたの命令があれば誰が相手だろうと斬る、一本の刀です」
『そういう堅っ苦しいのは抜きにしていいって。あたりも暗くなってきたしとりあえず……』

途中で球磨川さんの口が止まった理由はわたしにもわかったので何も言いません。
視界を少し滑らせて林へ目線を向けるだけ。
草がかすれるような小さな音ではなく木が倒れた大きな音のした方向へ。

『めだかちゃんじゃないとは思うけど行ってみる?』
「禊さんがしたいのならそのように」

そして。
そして。
そして。
それは林に踏み入れてすぐ見つかった。
ところどころが溶けた倒木。
その側にうつぶせで倒れている男。
短くなったぼさぼさの髪。
見覚えのある泥だらけの着物。
わたしは男を――彼を知っている。

「…………七花?」

まだ会いたくはないと思っていたはずの弟の姿。
探していたうちは見つけることはできず、いざ逢いたくないと思ってしまった途端に遭ってしまうとはままならない。
本当に、ままならない。

「――おーるふぃくしょん」

球磨川さんが何かを言うよりも先に勝手に動いた。
動いてしまったと言った方が正しいのかもしれない。
ただ、七花が、弟が、無様に倒れているのを見ていられなかったのかもしれないしそうでなかったのかもしれない。
とにかく、結果としてわたしは『おーるふぃくしょん』を七花に使った。
その後のことを考えずに。
その前のことを『なかったこと』にした。

――幽霊の笑い声が背中を撫でたような気がした。





髪は戻った。
顔の傷も消えた。
けれど、泥は落ちていない。
おかしい。
わたしの見稽古が不完全だった?そんなはずはない。
ならばもう一度――

「おーる――
『やめた方がいい』

使おうとして球磨川さんに止められる。

『七実ちゃんらしくない反応だったけど、それが探していた弟くんだったのかな?』

今更ながらに気づいてはっと息を呑む。
刀になると決めたばかりなのに勝手な行動を――あまつさえ斬らずに治すとは。
だが、心の中では安心もあったのだろう。
ぬるい友情をモットーのひとつに掲げる球磨川さんなら、

316Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:02:46 ID:GqeB6rDY0
『うん、よかったじゃないか。ずっと探してたんだろう?会うことができてよかったね!』

きっとこうやって不問にするだろうと期待していたのだから。

「よかった――いえ、ここは素直に悪かったと言っておきますか。『まだ』会いたくはありませんでしたし」
『そういうものだよ、過負荷(ぼくら)はね。そして弟くんが被っている泥も過負荷だ』
「……どういう意味ですか?」
『過負荷を『大嘘憑き』で『なかったこと』にすることはできない。やっと気づいたことだけどね』
「ああ……それでわたしの病魔も消せなかったのですね」
『申し訳ないけどそういうこと。過負荷でこんなことをするとなると心当たりは江迎ちゃんしかないけど……』
「あら、江迎という名前だったのですか、彼女」
『ん?僕は学園で七実ちゃんと一緒になったときは江迎ちゃんはいなかったはずだよね?』
「その前に少しだけ会ったのですよ。彼女が桃の髪をした女で間違いないのならば、ですが」
『うんうん、江迎ちゃんに間違いないね』


『それで』


飄々とした声色が、


『一応確認しておくけど」


変わる。


「そのとき七実ちゃんは江迎ちゃんに何をしたのかな?」


有無を言わせないものへ。

「……毟ろうとしましたが逃げられました、というよりかは逃がしたと言った方が正しいですかね」

だから答える。
素直に。
正直に。
実際にそのときのわたしは彼女の『弱さ』を見取らないためにあえて戦闘を早めに切り上げさせた。
当初は連戦に向かないこの体で長期戦をするわけにはいかないという事情があったからこそのものだと思っていたのだけれど。
閑話休題。

『なら問題はないね!まあ、僕が江迎ちゃんと会ったときは泥舟ちゃんと仲良くやっていたし』

括弧をつけて球磨川さんはさっきまでのように話します。
ただ、動揺しているようにも見えたのは気のせいだったのでしょうか。
最初の放送の直後にも似たような反応を見た気がします。
あのときは、確か――阿久根とか言う方が呼ばれていましたっけ。
宇練さんと遭遇したときに話していたはず。



――ああ、なるほど



ぬるい友情だなんて自身で謳ってはいたけれど、実際は全然ぬるくなんかないのね。
むしろ熱い友情って言ってしまっていいくらいじゃない。
まあ、わたしにも同じことが言えるんだけど。

317Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:03:48 ID:GqeB6rDY0
「先程は勝手な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした。弟が被ってるその泥について詳しく聞きたいのですが……」
『だからそんな堅苦しくなくていいのに……弟くんは、なんというか――感染してる、って感じかな』
「感染……ですか?」
『かなあ。僕も初めて見るからなんとも言えないけど……弱さが内からじゃなくて外に出てるとでもいうのか』
「弟本人には何の問題もなく、泥だけが問題だと?」
『だろうね。「大嘘憑き」で傷は消えたのに泥が落ちてないのがその証拠だ』
「木が倒れたのも、枝が所々不自然に落ちているのもそれによるものだと」
『そう思って間違いないだろう。やっぱり七実ちゃんとしては弟くんがこのままになってるのを見過ごすわけにはいかないよね?』
「……え?それはもちろんですが」

反射的に答えたわたしが球磨川さんを見ればその手には螺子が。


『だから』


この螺子は――黒神めだかとの戦いで使っていたもの。


『悪いけど』


それがどんどんと伸びていき――


『こうさせてもらうよ』


七花を背中から、貫いた。

――幽霊の声は聞こえない。





真庭蝙蝠を追っていたはずだが途中から記憶がない。
足を滑らしたのか頭をぶつけたのか猛烈な頭痛に襲われたのか――それすらもわからない。
ただ、気がついたら急速に意識がはっきりして、そして今まで全身に走っていた痛みが消えていた。
人の気配を感じて飛び起きる。
……おかしい。
体の感じがいつもと違う。
被った泥とは関係ない、奥底から出るような違和感。
けど、そんなものを気にする余裕はなかった。
なにせ、おれの胸の中央から『何か』が飛び出ているのだから。
痛みはないが、こんなものが刺さっていて平静にしていられるおれではない。
胸の中央ってどうしても悪刀のことを思い浮かべちまうし……

「七花」

なんてことを思っていたら呼び止められた。
ようやく視線を動かすと目の前に二人いた。
一人は知らない顔だ。
そしてもう一人は――

「姉ちゃん……?」
「ええ、そうよ」

本当に、いた。
死んだはずの姉ちゃんが。

318Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:04:21 ID:GqeB6rDY0
おれがこの手で殺したはずの姉ちゃんが。

「本物、なのか?」

知ってるやつで死人じゃない方が珍しかった。
名簿にとがめがいた、まにわにがいた、宇練銀閣がいた。
真庭鳳凰も、左右田右衛門左衛門も、真庭蝙蝠も、おれが殺したはずなのに実際にいた。
それでも生きているときから死人のようだった姉ちゃんが生きていることが信じられなくて。
だから、つい、馬鹿げたことまで訊いていた。
ここまで来て、本物じゃないはずがないというのに。
頭の悪いおれでもいいかげん気づくようなことなのに。
ただ、それでも。


「今更なことを訊くのね、気づいているくせに」


「でも、ひとつ言っておかないといけないことがあったわ」


「わたしは今、この人――禊さんの刀だから」


「命令とあらば七花を斬るし、今は七花に斬られるつもりもない」


「最初は七花に殺してもらうつもりだったんだけど……色々と事情が変わって」


「ごめんなさいね」


耳を疑った。
だって、姉ちゃんが、あの姉ちゃんが誰かの刀になるだなんて。
一度とがめの刀になるという話もあったけど、あれは本気じゃなかったはずだったし。
何が姉ちゃんをそこまで変えたかなんて……一つしかないじゃないか。


『せっかく姉弟で会えたところでそんな物騒なこと言うわけないじゃないか、七実ちゃん』


『おっと、自己紹介が遅れたね』


『僕は球磨川禊。箱庭学園の3年-13組生で今は七実ちゃんの持ち主ということになっている』


『それと、君の胸に刺さってるそれは僕のスキル「却本作り」によるものさ』


『君が被っていた泥は過負荷によるものだったから「大嘘憑き」じゃどうしようもできなくてね』


『仕方がないから「却本作り」で上書きさせてもらった』


『例えるなら消しゴムで消せない落書きがあったから修正液を使ったというところかな』


『副作用というか本来の効果で肉体も精神も技術も頭脳も才能も僕と同じになるけど』

319Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:04:45 ID:GqeB6rDY0


『そこはまあ、不可抗力として受け止めておいてくれ』


『あのままだと君は無残に腐っていくのみだったんだし僕はそれを助けたんだ』


『だから』


『僕は悪くない』


姉ちゃんを変えたのは姉ちゃんの持ち主に決まっている。
じゃなかったら姉ちゃんが持ち主――球磨川の刀になろうだなんて思わないはずだ。
かつておれがとがめの心意気に惚れたように。
それだから、なのか。
それなのに、なのか。
何の感情も湧いてこない。
驚き、だとか。
怒り、だとか。
悲しみ、でさえも。
昔のおれでさえも何かしらの反応はできたはずだろうに。
それもこれも胸に刺さったこいつのせいだというのだろうか。
だとしたらどうなのだろう。
ありがた迷惑なのか。
それともただ素直に感謝か文句のどちらかを述べればいいのかも――わからない。
ただひとつ言えたことは――


「物騒な音が聞こえたから何事かと思って来てみれば……球磨川、貴様らの仕業か?」


乱入者によって考える余裕などなくなったということだ。


「おや、鑢七花。なぜ貴様がここにいる?」


そして、おれにとっては絶好の雪辱を晴らす機会だというのに怒りは湧いてこない。
闘争心だけは膨れあがっていたが。





ん、また僕の出番かい?
やれやれ、語り部なんてそこにいる誰かに担当させればいいじゃないか。
そうもいかないから僕がやるはめになってるんだろうけどね。
確かにこの四人の中で誰かに語り部をやらせるというのはいい判断ではない。
彼らのこれまでの因縁を考えるなら第三者視点で語るというのが得策だ。
だからといって僕なんかにやらせず神様にでもやらせときゃあいいのに。
それとも、悪魔様にやらせるかい?――なんてね。
まあ色々と承知の上なんだろうけど、一応言っておくぜ。
これから先何が起ころうと――僕には一切関係ないし、僕は一切関係していない。



「ひたぎちゃんを追いかけていたんじゃなかったのかい?どうしてこんなとこにいるのさ」

320Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:05:19 ID:GqeB6rDY0

球磨川くんがめだかちゃんに尋ねる。
その疑問は至極尤もだが、ここは割愛して僕が答えておこうか。
一言で言えば見失ってしまったのさ。
闇雲に探し回ったけど足跡一つ見つけることはできず、七花くんが被った過負荷の影響で木が倒れた音を聞き駆けつけたわけだ。
いやはや、人識くんの逃げ足には感服するね。
40キロ後半強の女子高生を背負ってめだかちゃんから逃げおおせるとは。
かつて人類最強と鬼ごっこをやってたりもしたんだし殺し名の皮を被ってるだけあって伊達ではないということかな。
そういえば七花くんのこれまでも曖昧だったっけ。
なに、彼は途中で力尽きただけさ。
何重にも着ていた着物のおかげで体幹部は被害が薄くて済んだものの剥き出しの手足や頭はそうもいかなかった。
頭痛と吐き気に苛まれながら触れた木の枝を溶かして落として進んでいたものの、とうとう限界を迎えた――ということさ。
球磨川くんと七実ちゃんの発見が遅かったらそのまま死んでいてもおかしくなかっただろうね。
その後の対処も彼らの持ち得る手段としてはおよそ的確だったと思うよ。
まず『大嘘憑き』で損傷した肉体を回復させ、『却本作り』で上書きすることで過負荷がこれ以上感染することを防ぐ。
ほぼ最善の手法ではあったのだが、彼らは気づいてないだろうね。
気づく必要もないだろうけど。
それにあたって七花くんの色々が犠牲になってはいるが、そんなものは些事だろう?
じゃあ彼らの今の話に戻ろうか。
僕がここで話している間にまどろっこしいところは済ましてしまったようだし。
ふーん、球磨川くんは七実ちゃんに待機の命令を出したのか。

「私は貴様がここにいる理由を聞きたいのだがな、鑢七花。貴様にはまだ眠ってもらうはずだったが」

めだかちゃんにとっての目下の疑問は七花くんの存在だ。
彼女にとって彼はまだデング熱の影響下で高熱で動けなくなってるはずだったしね。
しかし『五本の病爪』は元々僕のスキルだったのに伝聞だけで完成させてしまうとはなあ。
病気を操るスキルとはいえ、基本的には相手を病気にすることの方が当然使い道は多い過負荷なんだが。
まあ、あのままあそこにいれば江迎ちゃんの過負荷の影響で骨の髄まで残らなかっただろうけどさ。

「あんたがいなくなってからしばらくしたらなんともなくなったよ。疲れとかは残っちまったけどな」

おかげで右衛門左衛門とやったときは苦労したよ、というぼやきはめだかちゃんには聞こえなかったようだ。
聞こえてたところで時間の問題だったんだろうけど。
だがそれでも七花くんの発言はめだかちゃんを動揺させたようだ。
言ってしまえば中途半端な対応をしてマーダーを自由にしてしまったんだから。

「そもそもめだかちゃんはなんでひたぎちゃんにこだわるんだい?やっぱり善吉ちゃんを殺されたから?」

そしてここにいるのはめだかちゃんの動揺が治まるまで素直に待つような人じゃない。
特に――球磨川くんはね。
それにしてもちゃんと見抜いていたんだなあ。
そこは弱さという弱さを全て知り尽くしている球磨川くんだからこそだろうけど。
案外カマをかけただけかもしれないけどね。
いずれにせよ、図星だったわけで。

「……っ、それもある、が、先程左右田右衛門左衛門の名が呼ばれてしまったからな。彼奴の主君である戦場ヶ原ひたぎ上級生になおのこと会わねばならん」
「ちょっと待て。右衛門左衛門の主君が誰だって?」
「戦場ヶ原ひたぎ、と聞いたがそれがどうした」
「おれはそんなやつ知らねえぞ。あいつの主君は否定姫だけだ」
「しかし、確かに……」
「あいつは最期まで否定姫の腹心だったよ。殺したおれが言うんだから間違いない」
「なっ、貴様……殺したとはどういうことだ!」
「もういいよ、めだかちゃん」

おやおや、一気に核心に触れてしまったみたいだね。
いよいよ種明かしの時間にでもなるのかな。

321Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:06:13 ID:GqeB6rDY0
「めだかちゃん、君は間違えていたんだよ。
「最初からね。
「君が阿良々木暦くんを殺さなければひたぎちゃんは善吉ちゃんを殺すことはなかった。
「ひたぎちゃんは君を殺そうと躍起になる必要はなかったし、僕も殺されずに済んだんだ。
「僕はまあ、こうして生き返ることができたけど、他の人はそうもいかない。
「左右田ちゃんの件だって君の対応は間違っていた。
「何があったのかは知らないけど、想像はできるよ。
「どうせ君のことだから馬鹿正直に言うことを信じたんだろう?
「実を言うと僕も左右田ちゃんには一度会っていてね。
「彼からは殺されかけたんだよ。
「敵前逃亡したからあえなく勝てずじまいの無様な姿を晒しただけだったけど。
「まあ僕がどんな姿を晒そうがそれは関係のない話だ。
「重要なのは彼が殺し合いに乗っていたことだよ。
「別に殺し合いに乗ったこと自体は重要じゃない。
「パニックになってなりふり構わず他人を襲うことだってないわけじゃない。
「まあ左右田ちゃんはわかってて乗ったみたいだったけど。
「おっと、こんなことは今はどうでもいいことだったね。
「肝心なことは一点。
「君はみすみす彼を見逃したことで他の人を危険に晒したんだ。
「しかもそれだけじゃなく同じことを弟――七花くんのときにもしたわけだ。
「順番が逆かもしれないけどそんなことは関係ないね。
「左右田ちゃんよりかは剣呑だったようだけど、いずれにしてもマーダーを野に放ったのには変わりない。
「しかも七花くんは左右田ちゃんを殺しちゃったわけだ。
「わからないかい?
「君が対処を間違えたからこうなったんだよ。
「何もしなくても人が人を殺すなんて明らかだ。
「現にもう28人死んでいるんだしね。
「だというのに君は何もしていないに等しい。
「人殺しを看過できないからと手元において監視することもせず。
「これ以上の被害を出さないために心を鬼にして殺すこともせず。
「一見安全策ともとれるようなことをしたつもりで放置したんだ。
「実際は安全でもなんでもなかったのが明らかだけどね。
「ああ、そういえばどうして君が暦くんを殺したことを僕が知っているかについて説明していなかったっけ。
「どこかで誰かが誰かを殺した瞬間の映像が手に入るようでね、それをまた別の誰かがネットに流してるんだよ。
「携帯電話とかパソコンとかがあれば誰でも簡単に見ることができる代物だ。
「つまり、大多数の人間に君の所業は知られているということだよ。
「生憎僕はそういった物は持ってなかったんだけど人脈はそれなりに築いていたからね。
「もちろんばっちり見させてもらったよ。
「そしてガッカリした。
「まさか君がいの一番に人殺しをするだなんてね。
「だからさっき会えたときは嬉しかったんだよ。
「君は僕の気持ちを受け入れてくれた。
「ま、ひたぎちゃんにすぐ邪魔されちゃったけど。
「今は邪魔の入らない状況でリベンジってところだというのに。
「なんだいその体たらくは。
「そういう意味では今のめだかちゃんの格好はとってもお似合いだと思うよ。
「その服、まるで『お前に生徒会長はふさわしくない』って言われてるようじゃないか」

たたみかけたねえ。
いつものめだかちゃんならそれこそ先程のように突っぱねて「こまけえこたぁいいんだよ」みたいなこと言って向かっていったんだろうけどタイミングが悪かった。
むしろよかったとでも言うのかな。
七花くんの存在、そして発言で動揺した隙を球磨川くんは見逃さなかったわけだ。
滅多に見られないめだかちゃんの弱さが垣間見えた瞬間ではあったわけだしねえ。
『却本作り』で七花くんは半分封印されているようなものだし七実ちゃんは球磨川くんの不利益になるような行動はしない。
御託はいいからめだかちゃんは実際にどうしたのか教えてくれって?
僕としても楽しみではあったんだが控えさせてもらうよ。
続きをお楽しみに、ってね。
だって、そこまで語ってしまうのは野暮というものだろう?

322Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:06:54 ID:GqeB6rDY0
【一日目/夜中/E-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」


今度こそ僕は、勝つ。
黒神めだかに、僕は勝つ。
――七実ちゃんもその気みたいだしさ


[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える?
 0:命令があるまで待機。
 1:七花以外は、殺しておく?
 2:球磨川禊の刀として生きる。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします

323Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:07:15 ID:GqeB6rDY0

【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語
[道具]支給品一式、否定姫の鉄扇@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:もう、狂わない
 0:? ? ?
 1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
 2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先?
 3:哀しむのは後。まずはこの殺し合いを終わらせる
 4:再び供犠創貴と会ったら支給品を返す
 5:零崎一賊を警戒
 6:行橋未造を探す
[備考]
 ※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです
 ※『完成』については制限が付いています。程度については後続の書き手さんにお任せします
 ※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃に耐えられない程度には)
  ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです
 ※都城王土の『人心支配』は使えるようです
 ※宗像形の暗器は不明です
 ※黒神くじらの『凍る火柱』は、『炎や氷』が具現化しない程度には使えるようです
 ※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(詳細は後続の書き手さんにお任せします)
  また、『五本の病爪』の制限があることに気付きましたが詳細はわかっていません
 ※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです
 ※左右田右衛門左衛門と戦場ヶ原ひたぎに繋がりがあると信じました
 ※供犠創貴とかなり詳しく情報交換をしましたが蝙蝠や魔法については全て聞いていません
 ※『大嘘憑き』は使えません
 ※鑢七実との戦いの詳細は後続にお任せします
 ※首輪が外れています


【鑢七花@刀語】
[状態]『却本作り』による封印『感染』?、覚悟完了?
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:? ? ?
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない?
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします

324 ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:09:25 ID:GqeB6rDY0
投下終了です
ひっどいぶん投げであることは自覚してるので何かあれば遠慮なく言ってください

325名無しさん:2014/03/21(金) 16:09:24 ID:6D.WYJYA0
投下乙です。
さあめだかちゃんツケ払いの始まりだ

持ち主を喪った七花のところに、持ち主を手に入れた七実が現れるというのが皮肉…

326名無しさん:2014/03/22(土) 12:17:50 ID:NKDZe7os0
投下乙です

327 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:18:23 ID:eR1uFKvU0
零崎人識と戦場ヶ原ひたぎの投下を開始します。

328冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:19:49 ID:eR1uFKvU0

「人間の死には、『悪』という概念が付き纏う。ってのが兄貴の持つ信念みたいなもんだった」
「……………………」

全く唐突に零崎人識は語り出す。
別に誰に聞かせるようでもなく。
別に誰に言ってるようでもなく。
別に誰にどうするようでもなく。
ただ思い付いた事を喋るように。
ただ思い出した事を呟くように。
ただ、懐かしむような顔をして。

「それを言ってた兄貴に何か言ったような気がする。
 逆になんにも言ってないような気もする。
 だが思ってるんだ。
 人間の死には、『悪』なんて概念は必要ないってな」
「……………………」
「聞いちゃいねーか」

かはは、と零崎さんは笑った。
言いたかったのはそれだけだったらしい。
黙々と歩き続ける。
静かに、手を伸ばす。
腕を、零崎さんの首に。

「よっと」

絡み付く直前、動いた。
零崎さんがどう動いたかまるで分からない。
しかし次の瞬間、わたしの体は地面に落ちていた。
何が。
そう思っても体が動く。
殆んど間髪を入れず体を起こして、包丁を抜く。
それを、軽く肩を竦めるだけで、零崎さんは何も言わなかった。
何も出さず、来るなら来いとでも言うように。
何かあるのかしら。
ゆっくりと時間が流れる。
でも、決心が付いた。
不意に踏み出す。
首へと包丁を突き出す。
対してただ一歩踏み出しただけに見えた。
次の瞬間には、わたしの手から包丁は消えていた。
零崎さんの手に包丁が握られ、肩が裂けた。
何が起きたのよ。

「くっ……!」
「で、さぁ」

向き直って肩を抑える。
何事もなかったような顔で。

「どう思う?」
「……何がよ」
「人間の死には一体何が必要か、さ」

329冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:22:13 ID:eR1uFKvU0
片手で包丁を弄び、零崎さんは笑った。
気圧されたように下がっていた。
下がって、しまった。
それを全く見もせずに。
指先で自在に包丁を弄ぶ。
答えなど求めてないような。
答えなど聞く気もないような。
答えなど元から知ってるような。
鼻っから期待してないような顔で。

「……………………知らないわ」
「そうか?」
「生きるのには一体何が必要かは知ってるけどね」
「……へぇ」

包丁が止まる。
笑ったままの人識が、わたしに向いた。
先を促すように顔を動かす。
それでも油断なく。
むしろ何時でも逆に殺せるように、でしょうね。
一本の刀を抜く。
片手で振り回すのは無理ね。
鞘を投げ捨てて、柄を両手で握り、その鋒を真っ直ぐ向けて。

「思いよ。思いさえあれば、生きていけるわ」
「俺は水と食い物だと思うけどな」
「そう言う事じゃないでしょ?」
「どう言う事なんだろうな」
「からかってるの?」
「さぁ? それで」
「何事もなかったように続けるつもりね」
「もちろん」
「呆れ果てた愚物ね」
「殺人鬼なんでな」
「あなたって最低のクズだわ」
「また妙な所から持ってきたな、おい」
「そうでもないわ。それよりあなたの所為で話が逸れたじゃない」
「俺の所為かよ!?」
「じゃあ誰の所為よ」
「お前の所為だろ」
「あなたって」
「それはもう良いから」
「ちっ」
「おい、今舌打ちしなかったか?」
「あぁ、ごめんなさい。次からは聞こえないようにするわ」
「そっちか!? 謝るのはそっちか?!」
「少しは落ち着きなさいよ。ハゲるわよ」
「ハゲるかよ」
「その歳で白髪なんだから分からないわよ?」
「あー。確かにな。もうすぐ二十歳だけどそれでこれはまずいかなー」
「え?」
「え?」
「……ごめんなさい。あなたって、幾つ?」
「え? 19」
「……うそ、あなたの身長、低過ぎ?」
「おい。おい! 失礼だなおい!」
「ご、ごめんなさい。真面目に話をするわ。それで、何の話だったかしら? 最近の投稿スピード? 死者数?」
「おい。おい……そんなあからさまに話題変えようとするなよ……」
「チビ」
「殺すぞ!」

330冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:23:39 ID:eR1uFKvU0
やれやれと。
どちらとも言わず首を振った。
それぞれの獲物の切っ先を向け合ったまま。

「復讐するわ。
 黒神めだかに。
 優勝するの。
 阿良々木くんのために。
 どんなに罪に塗れても良い。
 どんな罰でも甘んじて受ける。
 どんな重みを背負ったって良い。
 だからこそ、私は、絶対勝つのよ。
 あなたを殺して、黒神も殺して。
 彼がそんな事願ってなくても
 絶対に別けも渡しもしない。
 押し潰されたまま生きる。
 叶えるわ、彼の復活を。
 それだけ決意してる。
 それでも勝てるの? 勝てると、思う?」
「なぁ」

ただ呟く。
問い掛ける。
笑ったままで。
髪を軽く掻揚げ。
包丁の先をを向け。
どうでもよさそうに。
零崎さんは言ってくる。

「人間生物を殺すにはどうすれば良いと思う?」
「………………決まってるでしょ」
「お? どうするんだ?」
「こうすれば、いいのよ!」

一歩の踏み込み。
刀が振り下ろされる。
にやにやと笑ったまま。
零崎さんが包丁でそれを受け止め、

「は」

あっさりと斬れ、

「あああああ!?」

体を捻った。
早過ぎない、ちょっと。
刀はそのままの勢いで地面を斬って、止まった。
それも勢いがなくなって、と言う形で。
肩の痛みの所為で振り回し辛い。
慎重に刀を持ち上げる。
その頃には多分五歩くらい、人識が下がっていた。

「はああああ!? はあ? はあああ! はああああ?!」
「…………」

331冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:25:39 ID:eR1uFKvU0
うるさい。
やたら叫んでうるさい。
無言で踏み込み。
刀は横薙ぎに振る。
包丁の残った鉄の部分で受け止めた。
でも関係なく斬れる。
体に届く前にはしゃがんで逃げていた。
今度は十歩以上。
すばしっこいわね。

「ねーよ! ねーよ!! 幾らなんでも有り得ねーっての!」
「何がよ」
「馬鹿、そりゃ、包丁が斬られることがだよ!」
「なんでよ? こっちは刀、そっちは包丁。不思議でも何でもないわ」
「馬っ鹿! これだから素人が! 素人の素振りの威力なんてたかが知れてるわ! あーあ、そう言えば随分あっさりあいつの首を落としてると思ったわ!」
「そうでもないでしょ」
「あるわ! 首の骨の太さ考えてみろ! ナイフだったら何回かは受けれるぜ、普通! 包丁でも一回はいけるって」

話をしながら、向こうから距離を詰める。
自然な動作で。
むしろ私の方が身構えた。
何かあるのかしら。
しかし五歩ほどの所で止まり、服に手を入れながら目を細めた。
その目は私ではなく刀身に注がれている。
よく知らないけど、珍しいのかしら。

「…………何よ?」
「気にしてなかったが、珍しいモンだなそれ」
「私が知るわけ無いでしょ」
「もうちょいよく見てみたいな」
「近付いたら見れるわよ?」
「真っ二つになるくらいじっくり?」
「ご名答」
「そのついでに答えてくれよ」
「なにを」
「お前はさ、心ってどこにあると思う?」
「……頭の中じゃない?」
「そっか」
「もう良いかしら?」
「良いぜ」
「じゃぁ」

死になさい。
言いながら、踏み込んだ。
今度は逃がさない。
斜めに振り上げた刀。
真っ直ぐ、振り下ろす。
対して零崎さんは。
服の中を掻いていた手を出すと。
軽く横に一歩動いた。
だけ。
逃がさない。
強引にでも追おうと腕を動かす。

332冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:27:15 ID:eR1uFKvU0
「!」

空を、斬る。
斬った。
零崎さんが移動した場所はそのままだったのに。
そうして。
何もなかったみたいに。
私の横に。
立った。
にも関わらず、わたしは動かない。
否。
動けない。
腕も真っすぐにしか下ろせなかった。
顔もまるで、動かない。
違う。
指の一本も動かない。

「な、こここれれはは……!?」
「極限技」
「きょく?」
「もとい、曲芸糸。糸ってのは、イトだぜ? 思ったより強度があるだろ?」

そう言われれば、体の至る所に妙な喰い込みが見える。
糸。
細い食い込みが幾つも。
まさか急に体が動かなくなった時の。
そう、気付いた。
気付くのはあまりに遅過ぎた。
歯軋りをし、それでも無理矢理体を動かす。
動かそうとする。
動けない。
至る所が裂け、血が滲み、宙に赤い糸の存在を示す。
しかしそれだけ。
どれだけ血を流そうと、体がほとんど動かない。
指一本分すら動けていない。
むしろ動こうとすればするほど肉に食い込んで、骨が軋む。
それでも。
動こうとしている内に、手から、刀を奪うようにして取られた。
目と目が、合う。
今まで、見た事のない。
目が。
なによ、この目。
まるで、まるで。
思考が止まった。
一瞬の怯みだったと思う。
切っ掛けになったんでしょう。
見逃しては、くれなかった。

333冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:31:08 ID:eR1uFKvU0
「ちなみに人間生物をどうやって殺せばいいかだけどよ、俺は」
「まちなさ」
「こうすればいいと思う」

一歩。
前に進んできた。
切っ先を上げて。
さながら別れのために手でも振ろうとするように。
それだけだった。
それだけで、止んだ。
世界が、真っ赤に染まる。
喉から血が溢れていくのを感じる。
それで 、歯を剥く。
首 伸ばしてでも。
動かないなり でも。
動ける ら噛み付い でも殺す。
私は。
私 まだ。
何も出 ていな のよ。

「  、   」

引 抜かれた。
拍子に体から、何か 消え 。
嫌 。
待ちな いよ。
待ってよ。
胸を、刺さ た たい。
痛くは い。
痛み ない。
 だ、致命 な何 がされた。
それだ は分かっ 。
紛れ うのない致命 を。
与 ら た。

「   !」

 だよ。
ま 、生き る。
そ 声を張っ も、何 出な 。
なにか 流 出て くのだ を感じ 。
動き さい、体。
う きな い、腕。
首で いい。
口 も い。
 でもい 。
わたし ゆう ょう て、阿 々 くん 。
って、 ら。
あそ にい の 、

「      ?」

 良々  んじゃ い。
いつ らそ に。
 づかな った 。
いた らい  、いえ  い に。
もっ  や き  い 。
ばか。

334冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:33:02 ID:eR1uFKvU0





一分も経たず、戦場ヶ原ひたぎの動きは止まった。
片手を振る。
細い糸が手に集まった。
横に人識が動くのと、ゆっくりと、ひたぎの体が地面に倒れたのはほとんど同時。
血溜りに、沈んだ。
湿った音を立てて。
崩れ落ちていた。
それでも人識は刀を振る。
手始めに足を斬る。
次に脚を。
振り下ろされて腰が。
薙がれて胴を。
刺された胸を。
内蔵が解され。
肩を。
腕を。
手を。
指を。
首を。
喉を。
顎を、口を、歯を、鼻を、耳を、目を、脳を。
次々と解して。
丹念に並べて。
骨も揃えられ。
血溜りの中に、晒された。

「殺して解して並べて揃えて、晒してやった」

かはは。
と。
人識は血溜りの傍に腰を下ろす。
崩れ落ちた肉塊を眺め。
不意に、

「見当たらねえ、か」

首を振った。

「やっぱやるもんじゃねえわ、こんな事」

思い出したような顔で立ち上がり、伸びをする。
すぐ傍に落ちていた刀の鞘を拾い、刀を振る。
血が点々と跡を残す。
鞘に仕舞う。
ついで血溜りの中のデイパックを鞘に引っ掛けるように拾い上げ。
歩き始めた。
方向は、E-6。
戯言遣いとの合流地点。
そちらに向けて、歩き始めていた。

335冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:34:31 ID:eR1uFKvU0



「あ、そーだ。どーせだから今は亡きおにーちゃんに合わせて言っとくか」



「それでは――零崎を始めよう」



「なんて――――かはは、そんな柄じゃねえな」



「そんな人間じゃなかったろ、俺。いやいや鬼だし人間失格だった」



「ったく、何勝手に死んでんだよ…………本当に、よ」



【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ 死亡】



【一日目/夜/D-5】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語 、医療用の糸@現実、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×8(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×2@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:戦場ヶ原ひたぎ殺しちまったけどま、いっか。
 1:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 2:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴を捕まえるか殺す。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:この刀(斬刀・鈍)、ちょっと調べてみるか。
 6:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には戯言遣い、ツナギ、携帯電話その2、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします



 ※D-5の戦場ヶ原ひたぎの死体は、特に頭の部分を念入りに解された状態で並べられています。

336 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:37:55 ID:eR1uFKvU0


以上です。
後半一部は読み難いけど割と読めるのを目指して書きました。
いやぁ、色々と展開を考えていましたけど比較的マシな終わり方になり一安心です。
何時も通りになりますが、感想や妙な所などございましたらよろしくお願いします。

337 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:44:33 ID:eR1uFKvU0
早速で失礼します。

>>332
21行目内の 曲芸糸 ではなく 曲絃糸 でした。
Wikiに記載する際に変更をよろしくお願いします。

338 ◆ARe2lZhvho:2014/03/23(日) 09:15:02 ID:6ztwDIJE0
投下乙です!
前話が前話だったから絶対穏やかじゃすまないだろうと思ってたら案の定というかでも衝撃的というか
シリアスで始まるのかと思ったらナチュラルにギャグにシフトしてそういや斬刀の威力に驚くよなあと納得しかけた矢先にこれは…!
ヶ原さんの断片的な最期もいいし、一人になったことでやっと零れ出た人識の本音がもうね
指摘としては、>>330
>包丁の先をを向け。
をが二つあります
状態表の携帯電話についての記述がおかしくなっているところがありますのでそこも修正が必要かと

また、拙作のVelonicaですが別所で指摘を受けたため修正してWikiに収録します
『泥』の対処の描写を増やすのみで本筋には影響はありませんが約一名状態表が大幅に変更になるかと思いますがよろしくお願いします

339名無しさん:2014/03/23(日) 11:39:50 ID:8V2l6yOA0
投下乙です

うわああああっ
凄い事になっちゃってるよおお
戦場ヶ原さん、お休み…

340 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:19:35 ID:HI3cDlfE0
お二方投下乙です!

>Velonica
前々からそういうフラグはたってましたがいよいよ始まりましたね。めだかちゃん。
ごめんなさい、今回書く話が書く話なものでめだかちゃんに関して上手い感想が言えませんが、
とりあえず七花さあ……真偽不明の血のせいなのかなあ……w
あと七実さんかわいいです。うーん、球磨川のカリスマやなあ……。
(修正は個人的にはOKだと思います)
というわけでこれから繋がせてもらいますね!

>冠善跳悪
あーあ、あーあ! 半分覚悟していたけどやっぱりえぐい。えぐいぞ。
悲鳴をあげながら読ませていただきました。やばいぐらい面白かった(語彙貧困)。
戦場ヶ原最期の声も甚く胸に刺さるし、
人識のぼやきも、そうだよなあ、ってしみじみしちゃう。
合間合間のとぼけた会話なんかも西尾らしいと同時に後半の悲壮感を誘うし。
改めてすごく面白かったです! とにかくそう思わせる傑作でした。
ひたぎさん、お疲れ様、南無南無

341 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:20:44 ID:HI3cDlfE0
そういうわけで投下を始めます

342 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:21:35 ID:HI3cDlfE0
少々遡り。
戦場ヶ原ひたぎは球磨川を神様モドキと呼んだが、
その実、球磨川はどうしてそのように呼ばれたのか、覚えがない。
さもありなん。
神様を知っている人間なんて限られている。
神様がいる理由を知る人間なんてごくわずか。
球磨川が知らないのも、当然の結論だ。

だが。
対して戦場ヶ原ひたぎは神様に遭ったことがある。
紆余曲折を経て。
あまりの辛さに。
あまりの悶えに。
あまりの、思いに。
神に願った。
神を頼った
決して悪いことではない。
神頼みなんて、大半の人間がすることだ。
ひたぎがどれほど本気で頼ったのかは関係ない。
事実、彼女は、神に遭った。
おもし蟹。
思いとしがらみの神。
思いを奪っていく。
否、思いを奪ってくれる神様。
神に遭ったことで、ひたぎは思うのを止めた。
重さをなくしたのだ。
等価交換。
実際に等価なのかもこの場には関係ない。
結論として。
戦場ヶ原ひたぎは重みを失って、思いを失って、辛さから、解放された。
悩みもなく、全てを捨てることが出来た。

その様と、辛さに苛まれ、闘っていたが、
結果として記憶を奪われた八九寺真宵が重ね合わさって見えた。

同時に。裏側として。
おもし蟹と球磨川禊が。
少しダブって見えたのだ。

とはいえあくまでモドキ。
神とはまるで違う。
全くと言っていいほど、性質は違う。
第一球磨川の記憶消去は本人の意思をまるで無碍にしていた。
あんなのが神であるものか。
戦場ヶ原ひたぎは理解していた。
故にひたぎの意識があくまでめだかから揺らぐことなく、今に至っている。

むろん球磨川禊は知らない。
知らないが。
後にこの世に神様がいることだけは認識する。
モドキならぬ、本物。
本物にして化物。
黒神めだかを中心にして化物の話を、知ることとなる。



  ■■■■

343 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:23:24 ID:HI3cDlfE0

「つまりは球磨川よ、私は脱げばいいのだな」


間髪いれずに脱ぐ。
一瞬の出来事に周囲三人(内一人はそれどころではなかったにしろ)は呆気にとられた。
どうして自らの胸倉を掴むようにして、そのまま空を切るように腕を振っただけで、下着姿になることが出来るのか、とか。
そういったツッコミはこの場には適さない。
たわわに実った胸元から取り出した鉄扇を扇ぐ彼女に対し、
対面する学ランの男・球磨川禊は間を置き、呆れたように訊ねる。

「きみは人の話を聞いていたのかい」
「年がら年中誰からの相談をも請け負うこの私に、愚問をするでないぞ球磨川」

澄ました顔を濁らすことなく、球磨川の瞳を睨みかえさんと。
以後も扇ぎ続け、静かに告げる。

「私は、出来ることから済ませただけだ。
 似合わないと言われて何食わぬ顔で着ていられるほど、私も図々しくない」

どうだろうね、と球磨川は肩をすくめ、
逃げず、格好つけず括弧つけず、めだかと向きあう。

「僕が言いたいのはそう言うことじゃないんだけどなあ」
「安心しろ、分かっておるよ。貴様の言わんとすることは」

そこで始めて、めだかは顔に陰を差し、
扇で口元を覆うようにして語る。

「言われるまでもなく、私は殺人を犯したよ。
 阿良々木暦、多くを知っている訳ではないが、戦場ヶ原ひたぎ先輩がああも心酔する人間だ。
 偉大なる人格者だったんだろうよ。おぼろげながらも私だって覚えておる」

悔いに満ちているんだろう。
語り口が僅かに震えているのを、球磨川は感じた。
めだか当人も気付いたのか、言葉をそこで切ると、大きく息を吸って、再度紡ぐ。

「きっと私の後悔なんて、意味ないんだろうよ。
 さっき戦場ヶ原先輩と対面してようやく理解した。
 私がどう思おうとも、私は実際に罪を犯した。
 その事実はどう足掻いても拭えない。そして許されることもないのでだろう」

球磨川禊が死んでいた頃。
黒神めだかと戦場ヶ原ひたぎは、無言で向かい合っていた。
正鵠を射るならば、動けなかったから、という言葉を脚注に加えるべきだろうが。
ともあれ、その時にめだかは察した。
ひたぎの瞳の色を見て。
憎悪に染まるその瞳を見て。
否応なしに伝わる。
自らの罪深さを。洗脳されていたからでは済まされないほどの、行いだと。

間を置き。
一つ息を付く。
扇を止める。
自然な風が周囲の木々を鳴らすのを聞き、
三度扇を扇ぐと瞳に輝きを灯し、しっかりとした口調で宣告す。

「しかしだ、球磨川。だからといって、人を信じない理由にはなりえないだろう?
 確かにそこの鑢七花は殺し合いに乗っていたのかもしれないよ。
 冷静になって考えてみれば、左右田右衛門左衛門に嘘を吐かれていたのかもしれない」

“凍る火柱”
頭を冷やす。
考えてみれば明瞭。
仮にも殺し合いに乗った人間の言葉だ。
信憑性があるとは言い切れない(それは七花にしたって同じだが)。
客観的に考えて、この場で七花が妙な嘘をついて食って掛かる理由がない以上、
そしてあの場、明らかにめだかに協同しようとは考えていなかった左右田を疑うべきなのは、やはり明らか。
明らかには違いない。
でも。

「それでも、人間を信じることが、人を殺してしまった私でも出来る、数少ないことだと信じておる。
 人間は分かりあえる。普通も、特別も、異常も、過負荷も、悪平等も関係なく。それは、貴様を通じて学んだことだぞ、球磨川」

めだかは左右田を信じたことを恥じていない。
恥じるべきことではないと考える。
人を信じることが肝要なのだ、と。
あまりに正しく、まっすぐに、異常だった。

「もう一度言おうか、球磨川」

仕切り直す様に。
黒神めだかは、扇を音を立て閉じ、球磨川を指す。
不敵に佇む球磨川に動じることなく言い張った。

344 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:24:43 ID:HI3cDlfE0

「私は誰からも気持ちも受け止めるつもりだよ。
 それは勿論、そこの鑢七花だって同じだ。少し後回しになってしまうが、彼とだっていつかは向きあうさ」

七花の胸に刺さる三本の“却本作り”に一瞥をくれ、
もう一度球磨川に向き直る。
扇で扇ぐ、その顔はどこまでも凛と澄んでいて、涼しげだ。

「今は殺し合いに乗っているのかもしれない。
 だが、かつては素朴純朴、人間として真っ当な人生を歩んでいたんだろう。
 理不尽にも殺し合いに巻き込まれやむを得ない事情や背景を抱え彼らは闘っているにすぎまい」

私と違ってな、と。
最後に彼女は付け加え。
謳い文句を、
彼女が彼女たるに相応しい言葉を以て。

「ならば、まだ取り返しがつくのならば、救わねばなるまい。手を差し伸べてやらねばなるまい。
 私は見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた女だよ。そこに殺人鬼も過負荷もない。同じ、愛すべく人だ」

左手を胸の前で握る。
ここに心があるんだ、と言わんばかりに。

「球磨川よ、現に左右田右衛門左衛門は鑢七花に殺された。
 放置をしたことは、確かに判断を誤ったのかもしれん、それでも、私は決して人を殺さなかったことを後悔はしない。
 人殺しの罪深さを、私は知っているつもりだ。知ってるが故に、“殺す”なんて真似は絶対にしない。
 そしてその罪深さをこの鑢七花のような人間に悟らせるのが、今の私にできる最善だ」

これが今の私の答えだ、そう、締めくくる。
鉄扇をぱちん、と鳴らして閉じる。
流れるように鉄扇を胸元に仕舞い、下着姿のまま、威風堂々と仁王立ち。
球磨川禊は誇らしげな様子をしばし、黙視し、そして。

「そう」

極めて簡素に。
されど見定めるような視線は変わらず。

「じゃあいいよ、行こう。めだかちゃん。ならば試してみようじゃないか。
 きみのスタンスがどれだけ愚かで、どこまで馬鹿げてるか。きっとすぐに分かるさ」


  ■■■■

345 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:25:14 ID:HI3cDlfE0
却本作りの影響を受けてからと言うもの、鑢七花の熱量が急速に冷めていたのは、三人が共有する暗黙の事実だった。
めだかも多少戸惑ってはいたが、それまでそうしていたように、“五本の病爪”で無力化を図って、
戦場ヶ原ひたぎを追う旅路を続けた。球磨川もそれに続き、予定通り、七実が七花を連れる。ほどなくして七花は眠る。
忍法足軽もあって、手を引くには七実の虚弱さでも十分だった。

このような形で二人を追っていた鑢七実、
普段と比べては周囲に対する注意力も散漫になっていた、が。
“それ”がなんなのかは直ぐに分かる。
死霊山を壊滅させた末に、それとなく手に入れた“交霊術”を以て。
七実は感じる。
人が向こうに居るという旨を二人に伝えると、二人は進路を変えて、ほどなくして“そこ”に至った。

“なにか”がある。

肉のように見えた。
そんな曖昧な印象を抱かざるを得ないほど、ぐちゃぐちゃな“なにか”がある。
強烈な死の臭い。
血の臭いだ。もしかすると人間の肉の臭いなのかもしれない。
ともあれ生理的嫌悪を彷彿させるのに十分な異臭と塊が、そこにはあった。
“それ”を見て、七実は。

「ひたぎ、さん」

思わず声に出てしまう。
あまりの思いに。
重すぎる、思いに。
もしくは重さじゃ量れないほどの禍々しき思いに。
数刻前、球磨川禊を殺したことに関してさえもチャラにしてしまいそうなほどの思いの塊が集約されている。
決して穏やかなものではない。
少し気を抜けば圧倒されてしまいそうな“思い”。
募り募った怨念が顕現していた。

「“これ”が戦場ヶ原ひたぎ、だと」

ふと呟いた七実の言葉を聞き逃す黒神めだかではなかった。
呟くように、確かめるように、自問するように、小さな声で、だけどはっきりと反芻する。

「鑢七実。確かに今、そう言ったか?」
「ええ。“これ”は間違いなく戦場ヶ原ひたぎの肉塊でしょう」
『うん。頭がやけに徹底的に破壊されているから分かり辛いけれど、
 服装らしき布切れといいひたぎちゃんであるという可能性は十分あるね、これは』

商店街のくじ引きでも行うような気軽さと遠慮なさを前面に押し出して、肉塊に手を突っ込む。
弄り、確かに血濡れてこそいるが布切れであろうとそれを取り出して『大嘘憑き』と呟いた。
大嘘憑きで血が捌ける。
だからこそ、よくわかる。
“それ”は紛れもなく戦場ヶ原の着衣していた服であり。
肉塊はどうしようもなく戦場ヶ原ひたぎのものだと。
黒神めだかは認識せざるを得なかった。
震える足を、手で押さえながら、震える声で問う。

「ちなみにだ、鑢七実。貴様は推理だてて判断したわけじゃあるまい。どうして、“判った”んだ?」
『そういや僕も気になってたんだよね。どうしてなの?』
「“交霊術”っていう技です。会得した当初は大したものではないと思っていましたけれど。
 めだかさん、あなたなら、わたしから忍法爪合わせを会得したあなたならこれぐらい訳ないと思いますが」
「ああ、そうだな。みなまで言わんでもいい」

そう言って。
めだかは一度瞼を閉じた。

『めだかちゃん、わざわざ聞かなくてもいいんだぜ』
「止めるな球磨川、止めないでくれ」

私には聞かねばならない義務がある、と。
数秒後、彼女は大きく息を吸って。
今しがた七実の“姿”を見て“完成”させた“交霊術”を発動させる。
瞼を、ゆっくりと開けた。

「あ、」

最初は絞り出すような声だった。

「ああああああ、」

しかし次第に、声ははっきりとした絶叫として、張り上げられた。
普段から、親からさえも疎まれて育った鑢七実でさえ、あまりの“思い”に一度はたじろいだのだ。
人を幸せにすることだけが生きる目的だった黒神めだか。
そのためには幼馴染さえ見限った、蔑ろにした黒神めだか。
しかし、今、その幸せにするべき“人”から、溢れんばかりの飽和した“思い”が、めだかを裏切る。
純粋な悪意が襲い、害意が苛み、嫌悪が虐げる。
加えて言うなら、七実のそれを、さらに完成させた交霊術はより晴れやかに、思いを伝えているのだろう。
澄んで澄んで澄み渡った怨嗟の声が、めだかを直撃する。

黒神めだかに。
戦場ヶ原ひたぎの。
“思い”は。
“恨み”は。
“憎しみ”は。
重い、重い、オモイ。
志半ばに殺されてしまった彼女の“声”は。
実態をもたないまま、されど確実にめだかの心を凌辱する。

346 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:27:12 ID:HI3cDlfE0

「あ゙あ゙あ゙あ゙ああああああああああああああああああああああアあ!!」

発狂したように叫ぶ。
思い伝わるままに。
膝をつき。
頭を抱え。
喉を裂けんばかりにひっかき。
喉を潰さんばかりに吠える。
いつしか声が止んだ。
単に喉に限界が来ただけだろう。
胸を掻き毟る。
心を裂くかのように、何回も何回も。
ひたすら、なにかに憑かれたように、何回も何回も。
掻く、毟る。
いつしか手は自分の血で濡れたいた。
意識した、途端疲労が襲う。
這いつくばる。
今度はまだ乾き切っていないひたぎの血が、彼女の長い髪、肉をと染め上げた。
下着の色も、すっかり白から赤へと変色している。

球磨川はそんなめだかの姿を見て。
特に表情を変えたりはせず。
詰め寄り、労わるように肩を抱く。
あくまでいつものように、普段通りに、なじるように問い掛ける。

「分かるだろう、めだかちゃん。これがきみの犯した間違いだ。
 むろん、ひたぎちゃんが死んだのはきみの所為じゃない。ただその事実はそれだけでしかない。
 きみは人間失格にひたぎちゃんを任せてしまったんだってね。殺人鬼を無用に信じてしまったのは、どうしようもなくきみだ」

ぐちゃり、球磨川はひたぎの肉を掴みあげ、
めだかの前で弄ぶようにいじくりまわす。
ぐちゅり、ぐちゅり。
音は止まない。
めだかは動かず。
ただ、蹂躙される肉塊を虚ろ気な瞳で見つめた。

「左右田ちゃんを殺した七花くんを見逃したのもきみ。
 きみの異常なまでの甘さが、あるいは二つの死を招いたのかもしれないね」

「      ぁ  」

なおもめだかは立ち上がらず。
ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり。

「勘違いしないでほしいけど、僕はきみを責めたいわけじゃない。
 ただ、そろそろいい加減。きみも上じゃなくて前を向く時が来たんじゃないかな。ほら、前には現実が待ち構えてる。」

「ぅ、  ォえ 、げほっ 」

なおもめだかは物語らず。
ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり。

「なるほど、人を信じる。いい言葉だね。実にプラスな考えだ。
 きみは特上の異常(アブノーマル)で極上の正(プラス)だった、人間としてきみの行いは正しかった。正しすぎた。
 変な言い回しだけど、化物じみてるとしか言いようがないほどに。故に対処を間違えてしまった。」

「あ゙、ああ、  あ」

なおもめだかは凛とせず。
ぐちゅ、ぐしゃり。
肉が、崩れ落ちた。

「さあ、めだかちゃん、認めちゃえよ。そうすれば楽だぜ。
 “私は間違えるべきだった”って。正しいだけじゃいけないんだって。ほら、一緒に堕ちてこうよ。
 たまには先輩らしく、きみの手を引っ張ってやるのも、悪くないさ」

血に塗れた手を、自らの制服で拭う。
黒い制服が一部朱に染まる。
その時だった。

347めだかクラブ  ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:29:15 ID:HI3cDlfE0

「あ、ああああああっ!」

不意に、としか言いようがないほど唐突に。
黒神めだかが叫ぶ。
何事だと問う前に、黒神めだかの身体が浮いた。
球磨川禊も、鑢七実も何もしていない。
さも自然かのように、めだかの身体は誰の意思をも鑑みず、ぐんぐんと追いやられ、
壁に激突した。
激突し、張り付けられて、そのまま動かない。動けそうにない。
磔刑のごとく。
ともすれば強風に叩きつけられたようにも見える。
しかし、七実と球磨川、両者共々周囲に気を張るが何も感じることが出来ない。
当然だ。
周囲には人影一つない。
“そこ”にいるのは。
いや、“どこにでも”いるのは。

「か、 、 か、に?」
「蟹? 蟹なんて見えないけど、七実ちゃんはどう?」
「いえ、わたしには」

圧迫されているからか、喉が潰れるほど叫んでいたからか。
息も絶え絶えに、されど確かにそう言った。
今もなお、壁に身体がめり込んでいく。
彼女の名前は黒神めだか、潰されて死ぬほど軟に構成されてはいないだろうが、
罅割れていく壁が、力の強力さを物語っていた。
人間を超越する力。
怪物をも凌駕する力。
神の力。
神様の力。


かつて戦場ヶ原ひたぎが行き遭った怪異、神様。おもし蟹。
蟹は今、黒神めだかに恵みを施さんと、この場に君臨した。




―――――第×箱 めだかクラブ――――

348 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:33:00 ID:HI3cDlfE0
投下終了します。
演出上の都合上状態表はオールカットしました。
wiki収録の際には、時間帯は夜中、場所はD-5 ひたぎの死体の近くでお願いします。

同じくひっどいぶん投げを自覚しているので何かありましたら遠慮なく言ってください!

349名無しさん:2014/04/01(火) 00:50:22 ID:5iGXenO.0
投下乙です!
これはひどい(褒め言葉)
ヶ原さんが球磨川を神様モドキと言った理由に納得し、似合わないから脱ぐという思考回路に笑いが漏れたけど穏やかに済むはずもなく
えぐい、実にえぐいわあ…
普通なら死んだら終わりなんだけど終わりにさせない手段があるというのも考え物
発狂一歩手前まで行ってそこに現れた救世主
果たしてめだかちゃんはズルをするのかどうか

350名無しさん:2014/04/01(火) 21:13:11 ID:KXpboMtA0
投下乙です

ここはパロロワ、原作とは違う展開が当たり前
だからめだかちゃんとクマーの物語もまた原作と違う訳で…
俺もこれはひどい(褒め言葉)と思う
めだかちゃんがここでズルをするのかしないのか気になる

351名無しさん:2014/04/02(水) 23:42:32 ID:URg/f89E0
さすがマイナスと言わざるを得ない
誰一人として得してないもんな
このままじゃめだかちゃんもどうなるかわからないしめだかちゃんが球磨川を改心させなかったら球磨川はずっとそのままだし
その球磨川についていく七実と、この先どうなるかわからない七花も・・・
果たしてめだかちゃん、そして球磨川一行もどうなるんだろうか

352名無しさん:2014/04/04(金) 00:35:18 ID:WV.MwyOA0
投下乙です

冒頭でいきなり脱ぎ始めたのを見て、ああこれぞめだかちゃんだってなった
普段のめだかちゃんなら絶対にズルはしないんだろうけど、その「普段じゃない」状態に持っていくのが上手い

353 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:14:04 ID:UxVDJzFM0
◆mtws1YvfHQ だった者です。

櫃内様刻、無桐伊織、真庭鳳凰の投下を開始します

354狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:18:21 ID:UxVDJzFM0

音がした。
足音が聞こえてきた。
慌てて揺するのと、それと目が合ったのは同時だった。
殺気が膨れ上がる。
抑えようとしてなのか分からないけど。
何か覚えがあるような、ないような、そんな。
でもそれは有り得ない。
だって。

「あら……初めまして」

そう言う彼女とは、初めて会うんですから。



トリガーを落として向ける。
その相手。
見知らぬ相手だ。
金髪の女。
服装がまるで合っている。
時代錯誤の貴族と言われても納得出来るだろう。
牛刀を引き摺ってさえなければ。
それに何故か見覚えのある。
それが、口を開いた。

「あんた達ってまさかこの殺し合いに参加しちゃってたりする訳?」
「……さあね」
「ふーん、否定する」
「…………」
「そんな小さな物向けてきた所で威嚇にもなりはしないわよ?」

とりあえず無言で引き金を引いた。
その足元に向けて。
乾いた音が鳴って、床に穴が空く。
警告だ。
弾が入っていると証明するための。
不愉快そうに顔を歪めた。
だけだった。
距離を縮めてこようとしないが、
遠ざかろうともしない。

「…………ふーん。え、何よそれ? 初めて見るわね」
「銃だよ、銃。見て分からないのか?」
「はっ、否定する。銃ってのはもっと筒が長いのを言うのよ。まぁ例外はあるけど。それとも何かしら。変態刀の一つ、炎刀がそれだって言うのかしら?」
「……僕の質問に答えてもらう」
「否定する。義理がないわとね」
「義務はあるぞ」

もう一発。
弾がもったいないけどそうも言ってられない。
何か可笑しい。
銃を知らないだと。
テレビを見た事がある奴ならまず知ってる。
見た事がなくとも普通知識として知ってる。
歴史なり何なりの授業の教科書に載ってるような物だ。
なのに知らない。
有り得ない。
まして可笑しいのは、銃と言えば、筒が長い物、と言う言葉。
ライフルか。
それだったら拳銃を知って然るべき。
だとするなら、拳銃を知らない上で筒の長い銃を知っている。
火縄銃とかか。
まさか、と思わないでもない。

355狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:20:02 ID:UxVDJzFM0

「否定する」
「……立場が分かってるのか?」
「馬鹿らしいこと言うじゃない。だったらさっさと足をそれで何とかすれば良いじゃないの。それをしないのは出来ないから? いいえ、元からするつもりがないからでしょ?」
「出来るさ」

するつもりは確かにない。
仲間が一人でも欲しい状況なんだから。
足手まといを作るのは下の下。
敵対するようなら容赦はしない。

「交換条件と行きましょう」
「なに?」
「いや、わたしさ。ついさっきまで寝てたのよ。起きたら持ち物全部なくなっちゃってて困ってる訳」
「だから?」
「食べ物頂戴? そしたら話せるだけの事は話すわよ? あ、ついでにこれ上げるから」
「…………………………」

うん。
持っていた牛刀を捨てて。
出刃包丁とナイフが五本にフォークが五本。
懐から出して捨てた。
うん。
図太いってレベルじゃねぇぞ。
図太いってレベルじゃねぇぞおい。
殺し合いの最中で寝て。
起きたら持ち物がなくなってて。
挙げ句の果てに食べ物の要求。
図太いってレベルじゃねぇぞ。
今まで生きてるのが不思議なレベルじゃねぇか。
しかも持ち物がなくなってるって事を寝てる間に盗られたとすれば。
運が良すぎる。
具体的に言えば、怪しいってレベルじゃないぐらい怪しい。

「…………」
「で、どうなのよ。くれるの、くれないの?」
「どうこうする前に条件がある」
「何かしら?」
「服を脱げ」
「……は?」
「脱げ。そしたら渡す」

脱いだら怪しい。
よっぽど空腹なら分からないでもないけど、そんな様子じゃない。
もし脱いだら、油断させて近付くのが目的と考えて良いだろう。
これが今、考えうる最良の手だ。
どうくる。

「うわぁ」
「うわぁ」

そんな考えを巡らせてると、前後から声がした。
え。
あ。


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