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少女漫画キャラバトルロワイアル 第二巻

1名無しさん:2013/05/30(木) 21:45:38 ID:eKlMnmjk0
このスレは少女漫画のキャラクターによるリレーSS企画、少女漫画キャラバトルロワイアルの本スレです。
クオリティは特に求めません。話に矛盾、間違いがなければOK。
SSを書くのが初めての方も気軽にご参加ください。

企画の性質上残酷な内容を含みますので、閲覧の際には十分ご注意ください。
また、原作のネタバレが多々存在しますのでこちらもご注意ください。

前スレ
少女漫画キャラバトルロワイアル
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1284816080/

【避難所】ttp://jbbs.livedoor.jp/comic/5978/
【まとめWiki】ttp://w.livedoor.jp/girlcomic/
【参加者名簿】ttp://w.livedoor.jp/girlcomic/d/%bb%b2%b2%c3%bc%d4%cc%be%ca%ed
【ルール(書き手ルール含む)】ttp://w.livedoor.jp/girlcomic/d/%a5%eb%a1%bc%a5%eb

2 ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:46:55 ID:eKlMnmjk0
仮投下スレにて投下した自作の投下、及び◆o.l氏の代理投下を行います。

3リアリストは現実が見えない ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:47:32 ID:eKlMnmjk0
「ふう……ひとまず、動きやすい服装になったか」
若者らしい衣服に身を包み、鏡夜はため息を一つつく。
遊園地から脱出し、たどり着いた先の市街地で、宣言通りに別の服へ着替えていた。
制服では機動性に欠け、身分が公になりやすい――――というのは建前。
本音は鏡を通して自身に着けられている首輪の形状を知るため。
そして仕掛けられているであろう小型カメラを覆うため。
今、鏡夜の首には流浪のヒーローのような、真っ赤なスカーフが巻き付けられている。
「ふにゃー」
「……お前はいいな、緊張感がなくて」
特に何かにおびえるわけでもなく、毛繕いを繰り返す猫を見てぽつりという。
実際、ここまで用心に用心は重ねてみた。
だが誰かに出会うということはなく、すんなりと市街地に来ることが出来た。
殺し合いに招かれている人間は40人、経っている時間はそう長くはない。
これは、幸運と捉えるべきか。

ともかく、当初の目的だった首輪の隠蔽及び形状の確認を行うことは出来た。
キャーの着けている首輪とはまた少し違った、凹凸のないツルツルとした首輪。
手触りと外観だけでは、工具が立ち入れそうな隙間は無いように感じる。
そして何より強力な爆発と、主催の一存による高速応答を可能にするだけの部品が、このサイズに詰め込まれているとは考えにくい。
カメラや盗聴を考えれば、それだけ通信に使う部品も増える。
爆薬が占める領域は、自然に少なくなっていく。
出来る以上のことは無理をしない、下手に手を入れて爆発でもすれば、それこそ終わりだ。
生憎とこんなところで死ぬわけにはいかない。

ならば、隅々まで調べられるような首輪サンプルがあればいいのだが――――

ザッ、と足が止まる。
感じ取ったのは一人分の気配。
初めての人間との遭遇に、鏡夜は気を引き締めていく。
正直者か、熱血漢か、殺戮者か、嘘つきか。
考えられる可能性を全て頭に入れながら、ゆっくりと気配へ近づいていく。

「あっ……」

そうして道の先で出会ったのは、小さな少女だった。
声をかけようと、鏡夜が口を開く。
その瞬間、少女はドサッと倒れ込んでしまった。
緊張の糸が切れたのか、はたまた別の要因か。
ともかく状況を見極める必要がある。
鏡夜は急いで少女に駆け寄り、声をかける。

「大丈夫か!?」

少女の返事は弱く、微かに聞こえる声もうまく聞き取れない。
……これだけ弱っているなら、見捨てるべきか?
邪な考えがよぎるのを、振り払う。
人として正しい道を踏み外すわけには、いかない。
少女の額に手を当て、熱を確かめていく。
表面に浮かんだ汗の先からは、普通の人間の体温が伝わってくる。
手首を掴んで脈を確かめ、流れるように呼吸を確かめていく。

「あ……」

小さな口から漏れ出す弱々しい声が、鏡夜の耳を撫でる。
続く弱々しい吐息が、彼女が生きているという事を示してくれる。

「大丈夫か、おい!」

軽く頬を叩き、少女の気を取り戻そうとしていく。
それだけでは戻らないとみた鏡夜は、支給されていたハンドタオルに水をしみこませ、少女の顔を拭っていく。

4リアリストは現実が見えない ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:47:54 ID:eKlMnmjk0
 
「ん……?」
「気がついたか」

ようやく気を取り戻したのか、弱い声と共に少女は目覚めていく。
鏡夜は思わずホッとした表情を浮かべてしまう。

「しかし、君のような少女まで参加させられているとはな……よっぽど悪趣味な催しが好きらしい」

少女は首輪を着けている、それ即ちこの殺し合いの参加者であるという事。
こんな少女でも、巫女の対象にしようとしているのか……?

「あ、あの……」
「ん、ああ。すまない」

考え込みそうになったところに、少女の声が鏡夜を止める。
はっきりと気を取り戻したようで、もじもじと恥ずかしがりながら鏡夜を見つめている。

「私は鳳鏡夜、君の名前は?」

にこやかな表情で、少女の緊張をほぐそうと挨拶していく。

「月……小泉月です」

珍しい名前だな、と感嘆しながらも、鏡夜はさくさくと本題に切り込んでいく。

「君、この殺し合いが始まってから、誰かに出会ったか?」
「いえ、特に……」
「そうか……」

一つ質問を投げかけただけで、月の声は再び震えていく。
本当は首輪についてなど、もっと深い話題に入りたかったが、この様子だとろくに情報は得られないだろう。
尤も、こんな少女に情報を期待する方もどうかしているのかもしれない。
いくら情報がほしいからといって、少し焦りすぎたか……?
ここは一度頭を冷やし、考え直す必要がある。

「あの、よかったら一緒に行きませんか……? 一人は、寂しくて……」

一人で考え込んでいた鏡夜を、月の声が引き戻す。
それは、同行を求める申し出だった。
この殺し合いには幾多もの人間がいる、殺しに躊躇いのない人間も少なくはない。
そんな中で、か弱い少女が誰かに助けを求めるのは当然の行動だろう。

「子供にこんな事を聞くのは酷かも知れないが、自分の身は自分で守れるかい?」
「えっ?」
「生憎、超怪力もないし、超能力も持ってない。
 未知の技術が蔓延している中で、どんな力を持った人間が来るかはわからない。
 君をいざというときに守りきれる自信は、正直言って無い」

そんな彼女に、鏡夜は事実を突きつける。
鳳鏡夜という一人の人間は、見てくれの通り只の人間だ。
人を守る、だとかいう芸当ができる能力など持っているわけがない。
そんな中で、少女を守りながら生き残ることができるか……?
答えは、限りなくノーだ。
そして何より、鏡夜も生き残りたい。
自分が生き残るのに精一杯なのに、他人に割いてやれる余裕など持っている訳がない。
同情や哀れみで身を動かすのは、死に近づくのに等しい。

「安全な場所、があるとは思えないが……ともかく、安全な場所を探して身を隠しておいた方がいいだろう。
 これはいざというときの道具くらいにはなるさ、持っていくといい」

5リアリストは現実が見えない ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:48:36 ID:eKlMnmjk0
 
だが、このまま突き飛ばすのもあまりに非情すぎる。
使える道具を何も持っていなそうな少女に、自分の使わない道具を渡す。
拡散型催涙スプレー、大の大人から隙を作るぐらいは出来るだろう。
問題は、彼女がこれを使う余裕があるかどうかだが。
今の鏡夜には、そこまで気にしてやれる余裕も無い。

「あの……ありがとうございます」
「気にしなくていいさ」

月は感謝の言葉を述べ、鏡夜はフフっと笑ってその場を立ち去っていく。
立ち止まっている時間はない、この殺し合いを転覆させるにはまだまだ情報が必要なのだから。

「行くぞ、キャー」
「ふにゃー」

呼びかけられた獣が、のしのしと鏡夜の後を歩いていく。
鏡夜は知らない、気づいていない。
その獣が、自分に降り懸かっていた災厄を振り払ってくれていたことなど。



「クソッ!!」

鏡夜が遠く見えなくなってから、月は市街地の一角のバーで暴れていた。
理由は勿論、鏡夜に自身のアリスが効かなかったから。
誰かを釣るために瞬間移動のアリスストーンで適当に移動し、そこで男の気配を察知したまでは良かった。
出会い頭に気絶したふりをし、体を傍に寄せて首に噛みつくまでは上手く行ったというのに。
そこからいくら力を使っても、鏡夜を操ることが出来なかった。
噛みつくことすら出来なかった浅葱の時とは違い、しっかりと首元に噛みついたというのに。
どれだけ念じようと、どれだけ力を使おうと、鏡夜を思い通りにすることは出来なかった。

正直、その時点でかなり狼狽えていた。
だが、迂闊に不利になる情報を伝えるわけにもいかない。
だから、問いかけには「誰にも会っていない」と答えた。
正直に「浅葱に会った」と言えば、変な状況になるのはわかっているからだ。
「とっても強い頼りになる男の人」と言えば、なぜその元から離れたのか?
「いけ好かない人殺し野郎」と言えば、どうやってそこから逃れることができたのか?
どう伝えようと、怪しい状況になるのは見えている。
ましてや、自分が人殺しに乗っているということを悟られてはいけないのだ。

「だからああいうガキは嫌いなんだよ……」

そこまで考え、ロック割りのウイスキーが注がれたグラスを手でカラン、と鳴らしてから壁に投げつける。
パリン、とガラス特有の小気味の良い音が鳴り響き、店の照明の光に反射してウイスキーが煌めいていく。
結局、いくら考えれど自身のアリスが利かなかった理由はわからなかった。
アリスの寿命が来たわけでもない、アリスの力を盗まれたわけでもない、鏡夜に無効化のアリスが宿されていたわけでもない。
なんだかわからないが、自分の力を阻害された。
その事がひどく彼女の頭に響き、苛つかせている。

「クソッ!」

テーブルをダンッと叩きながら、彼女は新たなグラスにウイスキーを注ぐ。
酔っている場合ではない、そんなことはわかっているから。
飲みもしないウイスキーをグラスに注いでは、壁に投げつけることを繰り返す。
二連続で年下にナメられた苛立ちを、解消するために。

6リアリストは現実が見えない ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:49:21 ID:eKlMnmjk0
 
【F-2/北部市街地/午前】
【鳳鏡夜@桜蘭高校ホスト部】
[状態]: 腹黒メガネキャラ、首に噛まれ跡(自覚なし)
[服装]: 桜蘭高校男子制服
[装備]: 眼鏡
[道具]: 基本支給品、キャーの写真と説明書、タオル
[思考] 
基本: 青龍の力は誰にも渡さない
 1: 下記のことを行いつつ、G-4にある祭壇へ向かう。
    ・他の参加者と接触し情報を得る(相手は慎重に選ぶ)
    ・島の中に名簿に記載されていない人間がいないかどうかを調査
 2: 首輪には盗聴器と隠しカメラ、爆弾が内蔵されているという前提で、己の真意を主催に悟られないよう行動する。
 3: 首輪を解除するために、まずは盗聴器とカメラの有無をはっきりさせたい。
 4: 鬼宿、角宿、亢宿は、心宿の仲間かもしれないが、貴重な情報を持っている可能性もあると推測。
 5: ホスト部のメンバーは心配だが、捜そうにも当てが無いので今のところは上記1と並行して捜すに留める。
[備考]
※ハルヒがホスト部に入部したよりは後からの参戦。詳細は後続の書き手氏にお任せします。
※キャーがサーチェスの力を食べられることは説明書に記載されていなかったため把握していません。
※月に噛まれましたが、キャーが無効化しています。

【キャー @ぼくの地球を守って】
[状態]: 元気、鳳鏡夜の支給品
[服装]: 全裸
[道具]:
[思考] 
 1: 鏡夜についていく。
[備考]
※首輪をつけています。参加者がつけている首輪と性能や爆破の条件が同じかどうかは不明です。
※実際の大きさは数センチ程度のはずですが、このロワでは2メートル弱くらいの大きさで支給されています。
※サーチェスの力を食べます。この能力には制限がかかっているかもしれません。
※どうやらアリスの力も食べられるようです。
※キャーが地球語を理解しているかどうかは後続の書き手氏にお任せします。

【小泉月@学園アリス】
[状態]:イライラ、幼女バージョン
[装備]:瞬間移動のアリスストーン@学園アリス
[道具]:基本支給品(ランダムアイテム0〜2)、ガリバー飴(−10歳)×10個
[思考]
基本:最後の一人になる
1:最後の一人になるため行動
2:浅葱との同盟はとりあえず守るが、そのうち出し抜いてやる
3:ガリバー飴がどこかにあれば手に入れたい

7愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:50:06 ID:eKlMnmjk0
 
「足手まといを抱えてたら、俺が危ないだろ?」

意識が途切れる直前に迅八の鼓膜が拾ったのは、あまりにも感情を感じさせない言葉だった。
ぷつんと目の前がブラックアウトし、視界が暗く染まるのと同時に、全身の筋肉が強張っていくのを感じる。
必死にもがいて生を繋ぎ止めようとするも、それはあまりにも無駄な努力というよりなかった。
何せ、呼吸すらろくにできないのだ。咽喉が大きく開かず、唇は弱弱しく震えて声にならない吐息を漏らすだけ。
指先は硬く緊張したまま固定されたかのように動かないし、そもそも全身がじりじりと痺れてまるで思い通りにならない。



(……ああ、また俺が最初に死ぬのかよ)



ふと頭をよぎったのは、あの時とまるで同じ己の境遇に対する、皮肉めいた想いだった。
そんな場合でないのは分かりきっていたが、あまりの不甲斐なさと運の無さに思わず笑い出したくなってしまう。
……俺は俺で、俺はアイツで、アイツは俺で、アイツはアイツ。
自分と彼はあくまでも別個の人格の筈で、けれどある意味では最も近い魂を持った存在だろう。
完全に引き離して考えることも、百パーセント同一視することも、どちらも間違っている。
けれど、よりにもよって彼と同じような最期を迎えなくてもいいではないか――――。
ふははっと、最早動かない口唇が、最後の力を振り絞るようにして自嘲の笑みを形作った。


何度夢に見たか分からない、前世での光景を今になってまた思い出す。
星間戦争によって母星が塵芥と化した後、自分達は筆舌に尽くしがたい程の激論を交わした。
「地球に降りるべきではないか」「いや、このまま己の任務を遂行すべきだ」
「帰るべき星も無いのに、正論を言うな」「いっそ、皆で手を繋いで自害でもした方がましだ――――」。
意見の違う者同士で酷くいがみ合い罵り合い、時には掴み合いの喧嘩にまで発展したこともある。
なにせあの温厚な木蓮ですら、バケツを振りかぶって繻子蘭に泥水を浴びせかける始末だったのだから。

けれどその結論を出す前に、神は彼らに罰を与えたのだ。

基地内で発生した病原体は瞬く間に数と範囲を増殖させていき、どれほど手を講じようとも対抗策は見つからなかった。
母星が消滅している状況では、限られた資源と機具のみでワクチンを精製することなど到底不可能であったし、
かといって新種の病原菌を保有した身体では、今更地球へと降下することも出来ない。
八方塞がりになった七人は、ただただ怯えと悲しみの中で、己の死を待つことしかできなかった。
一日でも長く生き延びたいという想いと、いっそ早くこの恐怖を終わらせてほしいという歪んだ欲求。
矛盾した感情を抱えながら日々を過ごす彼らは、皆一様に精神が摩耗していた。


――――そして、死者を決める悪趣味なルーレットが最初に選んだのが、玉蘭だった。

8愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:51:04 ID:eKlMnmjk0
 

発病を知らされた時、酷く恐ろしかったのを覚えている。
己が死ぬことそのものよりも、愛する人を残して、一人で先に逝かねばならないことが。
彼女と自分は互いに思い合う無二の恋人同士でも何でもなく、単なるこちらの片思いでしかなかったけれど、
それでも、あの心優しい女性が共に過ごした仲間の一人を失って、平静でいられるとは到底思えなかった。
せめて、不安に苛まれる彼女の隣に、最期の瞬間まで寄り添っていてあげたかった。
「俺が君と共に居る」「ずっとそばに居るから恐がらないで」と、そう言って彼女に笑いかけたかったのに――――。
けれどそんなささやかな願いは呆気なく霧消して、現実の玉蘭は何一つ確かなものを残せないまま、
次第に弱っていく身体を寝台の上で掻き抱きながら、徐々に眼前へと差し迫る己の死に怯え苦しんでいるだけだった。

嗚呼と声も上げずに天を仰ぎ、己の星回りの悪さを嘆く。

なにせ、結局自分は、またあいつに頼らねばならないのだ。
本当ならこんなことは口がひん曲がったって言いたくないし、言われる側の当人も御同様だろう。
だがいくら腹立たしく不本意な頼み事であろうと、他にそれをお願いできる相手はいないのだ。
前世では最大のライバルで友人で、卑怯な手で彼から愛する女性を奪っていった憎むべき恋敵。
そして今生では、生意気で少しも可愛げがなくて、本性隠してこそこそ裏工作ばっかりしてやがる最低最悪なクソガキ。
けれど悔しいことに、誰かに彼女を委ねなければならないとしたら、それは一人しかいないから。



(輪……、お前が坂口さんを守るんだ)



そう心中で訴えて、それにしてもと迅八は吐息した。
こんなことになるのなら、もっと早く思いを伝えておけばよかった。
自分の中へと転生した玉蘭の恋心は、結局、実るどころか蕾にすらなることなく枯れ果ててしまったのだ。
まったく、これでは玉蘭も浮かばれないことだろう。
来世の己の駄目さ加減に、忸怩たる思いで呆れ返っているかもしれない。
玉砕覚悟で告白していれば、こんなやりきれなさを抱いたまま人生の幕を引くこともなかったのに、と。

けれどそれでも一方で、迅八には確証があった。
それは「もしかしたら」などという希望や願望ではなく、必ずやそうなるはずだという確信。



(……俺は生まれ変わっても、きっともう一度君を好きになる。
 この命が失われても、来世で君と逢えるのを待っているから――――)



玉蘭の恋が迅八の中で蘇ったように、迅八のこの感情もまた、何時か何処かで再び芽吹く。
一度目は「木蓮」、二度目は「木蓮ヲ愛ス」、そして三度目は「木蓮ヲ永遠ニ愛ス」
彼が一生を賭けて誓った恋に、俺もまた殉じよう。
彼が胸を焦がした木蓮と、自分が思いを寄せた彼女はあくまでも別の女性だけれど。
それでもきっと、この魂が朽ち果てぬ限り永遠に、俺は、俺達は、君に心を奪われる運命なのだろうから。



     ○     ○     ○

9愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:51:25 ID:eKlMnmjk0
 


「……っ!?」

頭の奥底の辺りが、冷たい刃のような痛みをキィンと訴える。
それと同時に誰かの言葉が脳裏を走り去った気がして、その薄気味の悪い感覚に吐き出したくなった。
槐を前世に持つ一成がいるのならば、テレパスを送信された可能性もあるだろうが、
少なくとも名簿を見る限り、彼はこの場には存在していない。
恐らく、単に気を張りすぎて少々過敏になっているだけなのだろう。
そう己に言い聞かせ平静を保とうと努めるも、輪の精神は既に限界を超える間際寸前にまで追い込まれていた。
当たり前だ。輪は、この殺し合いの中で自分が勝者になることに対して、絶対的な自信を持っていた。
自身のサーチェスならばよほどのことがない限り敵は無いと、ある意味では楽観視さえしていたと言える。
それでも決して慢心するというわけではなく、アリス能力者とやらには最大限の警戒を怠らないつもりだった。
少女に知っている限りの情報を引き出させ、それをもとに今後の計画を練り直そうと想定していた。
けれど唐突に訪れたのは、あまりにも予測不可能な現実で――――。

「……守る?」

今しがた輪の中を駆け抜けていった言葉の残骸が、折れた矢のように突き刺さる。
ただの幻聴でしかないはずのそれは、しかし輪の心を抉り取るには十分に足るものだった。

「……、そんな、そんなことが出来るわけないだろう!!?」

叫ぶ己の声すら憎い。細く甲高い声は完全に子供のそれで、声変わりすらまだなことを指し示している。
小さすぎる両掌を見つめ、細すぎる脚で狂ったように地団太を踏む。
成人男性の手にかかれば簡単に捻り潰せてしまいそうな小さな体躯は、孤独に過ごした九年間の体現だ。

「この身体で……! サーチェスもない状況で!! 
 こんな……、何もできない子供の身体で……、オレにどうしろっていうんだよ!!!」

自問自答するも答えなど出るわけがなく、頭がおかしくなりそうだった。
己が絶対的な強者であるという自信の源であった彼の武器、サーチェス。
それを強奪された今、輪には最早、何も残っていないといっても過言ではなかった。
あくまで平均的な小学生レベルの体力しかないこの身体で正面から大人とやりあっても、勝てるわけがないのだ。
かといって、従順でいたいけな子供の振りをして隙を狙うにしても、リスクは大きい。
どんな方法を使ったかは分からないが、先程の男は輪の目的も能力も、ムーンネームすら把握していた。
次に出会った参加者が、また輪の正体を見抜いていないとは限らないだろう。

茫然と見開かれた瞳から、涙がぽたりと一雫だけ零れ落ちた。
泣いている暇など無いというのに、一度崩れ落ちかけた膝には力が入らないままで、無為に時間ばかりが過ぎていく。
立ち上らなければいけない、歩き出さなければいけないと、頭では理解している。
けれど「今の自分が闇雲に動いたところで、一体何ができるのか」と、一度そう考え始めてしまうともう駄目なのだ。
底無し沼のように深い思考の泥に足を取られたまま、諦めとしか言えない感情が全身を黒く支配する。
怯えが四肢へと蔦のように絡みつき、輪から冷静さと戦う気力を少し、また少しと確実に掠め取っていく。

「ありす、オレは一体どうすればいい? どうすれば君を……」

10愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:51:36 ID:eKlMnmjk0
虚空へ問いかけたところで、小枝を踏み折るようなか細い音が鳴り響いたのを耳聡く聞き留めた。
彼女の笑顔を思い出し、狂気に染め抜かれそうな精神を必死にこちら側へ繋ぎ止める。
痙攣しかけるほどに震える指先でデイパックへと手を伸ばし、武骨な金属の塊をそっと取り出した。
サーチェスに万全の信頼を置いていた最前まで、支給された慣れない武器などまるで使うつもりは無かった。
しかし今の自分にとっては、掌中のこれが唯一ともいえる生命線だ。
子供の手に余る大きさのそれはずっしりとした重量感で、人の命を刈り取る道具としての重みを感じさせてくれる。
手にしたそれを眼前に構えると、ガサガサと揺れ動いている茂みの辺りへ躊躇なく照準を合わせた。
誰かがこちらに接近しているのは明白で、少なくとも体格から、それが亜梨子でないことだけは確定的だった。

「…………っ、くぁっ……っ!!」

引き金に掛けられた指先を何の感慨もなく引けば、肩が千切れそうなほどの凄まじい衝撃が自分にまで襲い掛かる。
予想を遥かに超えた激痛に苦悶の表情を作りながらも、手にした武器を離すことだけはしない。
掌に握られているのは、44マグナム。
映画「ダーティーハリー」で使われたことでも有名なこの大型拳銃は、
本来、大型獣を狩猟する際に、ライフルの代わりとして用いられるほどの、凶悪な殺傷力を持つ銃器である。
ガンマニアなら垂涎ものの一品ではあるが、生憎、現在の持ち主にその手の趣味は無い。
そして残念なことに、輪には銃に対しての興味も執着もなければ、知識すら全くと言っていいほどに無かった。
44マグナムは、確かに標的に当たりさえすればその破壊力は物凄い。
しかし一方でその高すぎる威力が災いし、慣れない射手が撃てば、それこそ上体が仰け反るほどの反動を受けてしまう。
子供の輪であれば、下手すれば細腕がねじ切れてもおかしくないだろう。
そのうえ一度撃てば、体勢を立て直し、次弾を照準・発射するまでに、かなりの時間的なロスも生じる代物だ。
少なくとも、獲物の全貌すら見えていない状態で無闇やたらな威嚇射撃に使うような銃では決してない。

だが、肩口ごと吹っ飛びそうな痛みすらも、今の輪を止める障害にはなりえなかった。
脳内を占めるのはただ一つ、亜梨子を守らねばという想いだけで、それ以外の一切が消え失せていた。


「ありすを守るんだ……! オレが……、今度こそオレが!!!」



     ○     ○     ○



轟音と同時に、突然、真横に茂っていた枝葉が弾け飛んだ。
飛び散った木々の破片が肩へと強かにぶつかり、唐突な痛みに眉を顰める。

(な……っ、何だ一体!?)

予想だにしなかったいきなりの攻撃に驚きながら、姿勢を低くして生い茂った下草へ身を隠す。
硝煙と土埃が薄く立ち込める草原は視界が悪く、こちらからは敵の姿を確認できない。
とはいえそれは、恐らく相手についても同じことだろう。
もしも自分が視認できているのなら、もっと的確に狙いを定めたうえでの射撃が行なえたはずだ。
環はそう判断すると、向こうに気取られない様じりじりと歩を後ろへ戻した。
敵前逃亡など恥ずべきことではあるが、しかし問答無用で拳銃を撃ってくる相手などどうしようもない。
このまま草叢伝いにこの場を離れなければ、ホスト部の皆と再会することすら出来ずにお陀仏だ。
僅かずつながらも確実に左右の足を動かして、一歩、また一歩と相手から距離をとる。
出来るだけ音を立てないように、相手に位置を気取られないよう慎重に、との思考とは裏腹に、
混乱と焦燥でぐるぐると回り続ける心の方は、早く早くと全身を急いて、すぐにでも全力で駆け出させようとする。
大声を上げて走り出したくなる欲求を押し殺し、震える身体に鞭打って、冷静になれと己に言い聞かせた。

11愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:51:49 ID:eKlMnmjk0
 
――――――けれど。

環の推測は決してそう外れていなかった。選択した戦略も、さほど悪いものではなかったはずだ。
相手が自分の正確な居場所を把握できていなかったのは明白だったし、
だからこそ、無理に戦闘を考えず逃げに徹しさえすれば、茂みの中に居るこちらに勝算があったのだ。
予想外だったのは、相手が環の思う以上に冷静さを失しており、無茶を覚悟で強引に草の中へ飛び込んできたこと。
そして何より、眼前に現れたのが、環が思い描いていた殺人者とは百八十度正反対の外見だったことだ。

「…………なっ、子供!?」

環の前に佇む彼は、まだ小学校低学年くらいであろう小柄な少年だった。

「まさか……」
「子供は人を殺さないって思ってるの?」

くすりと何処か自嘲的な笑みを唇の端に浮かべると、少年は環に銃口を向けた。
見ていて馬鹿馬鹿しくなるくらい、現実味のない光景だ。
年端もいかない幼い少年に拳銃を突きつけられているなど、冗談にもなりはしない。

「待て!なぜこんなことをする!あんな主催者の言うことを鵜呑みにするのか!?
 仮にこの場の全員を殺したからといって、本当に君一人が生き残り助けてもらえる根拠など――――」
「…………は?」

投げつけたのは、説得とさえ言えないただ感情が発露されただけの言葉だった。
しかしそれは意外なことに、環が想像した以上に相手を揺るがせた結果となったらしい。
射抜かれるほどの鋭利さを湛えた双眸がこちらを睨みつけると共に、血反吐を吐くような言葉が空を裂く。

「生き残る? 助けてもらう!? ……っ、は、ははははははははは!!!!!!!
 こんな命なんてどうでもいいさ。そんなもの、いくらでも犠牲に出来る。 
 だからありす、代わりに君を……、オレは今度こそ君を……っ、ありす!!」

その叫びに、環は理解する。
少年が殺し合いに乗ったのは、彼自身が最後の一人になるためではないのだと。
彼の言う『ありす』という女性が、何者なのかは分からない。
母親か姉や妹か友人か、或いはちょっとマセてはいるが恋人なのかもしれない。
だが少なくとも彼女が、少年にとって何よりも大切な存在なのだということだけは分かる。
それは、彼にあの小さな手で銃を取り、人殺しの禁忌に手を染める事を誓わせるほどに。


――――だが、それは間違った決意以外の何物でもない。


「……少年、君の言うありす姫とやらは、君がこんなことをして喜ぶような人なのか?」
「…………っ」
「君が人を殺せば、きっと彼女は泣く。女性を泣かせるのは男として最低の行いだ」

環にとって、女性はすべからず笑わせるべく存在だ。
須王の家へ引き取られ日本に移住することが決定した後、母は泣いてばかりいた。
「離れ離れになるなんて」と涙を流して環を抱きしめる母親の顔は、今でも鮮明に覚えている。
だから環は、女性の涙が嫌いだった。全ての女性には、いつも笑顔でいてほしかった。

桜蘭高校所属、須王環。ホスト部創設者兼部長にして自称キング。仇名は「殿」。
彼の掲げる最大の理想にして、部の運営方針は――――――――。



「女性には、常に笑っていて貰わねばならない。それが男(ホスト)の役目だ!!!」

12愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:52:06 ID:eKlMnmjk0
「…………っ、うるさい!! お前に何が分かるっ!!!」

激昂と同時に引き金へと掛けられた指先が一息に引かれ、耳をつんざく爆音が再び辺りを占めた。
瞬間、左肩に感じた肉を焦がすような熱のあまりの熱さに、すぐさま意識を奪われそうになる。
しかし、ここで倒れるわけにはいかない。唇を血が出るほど噛みしめて、痛みで強制的に思考を覚醒させる。
スタングレネード――――。激しい音と光を撒き散らし、周囲の人間の聴覚や視覚を麻痺させる品だ。
相手が銃を撃つのとほぼ同じ瞬間を狙って、環もまた、懐から取り出した支給品を相手へと投げつけていた。
まだ明るいこの時間、それも屋外ではさほどの効力はないだろうが、一瞬ひるませ隙を作ることくらいはできる。
……そうだ。このチャンスを無駄にしてはいけない。子供相手に少々情けないが、今度こそ完全に逃げ延びねば。
痛む肩を掌で抑え、だくだくと溢れる鮮血に眩暈を憶えながら、草原を抜けるためただただ走り去る。
このまま逃げ切って建物の多い市街地まで辿り着くことが出来れば、と決死の思いで願いながら。



……だが撃たれた箇所から止め処なく血が溢れだしている現状で、全速力での疾走をそんなにも続けられるはずがない。
目は霞んで前すらろくに見えないし、足は疲労と痛みでふらつき始めた。体力も限界に近い。

「うぉおっ!」
「きゃぁ!?」

角を曲がり、スピードを緩めかけようとしたところで、出会い頭に誰かとぶつかってしまう。
そのままバランスを崩して二人まとめて倒れ込むが、そこは流石の須王環である。
こんな場面であってすら、一瞬で相手の背中側へと回りこんで自分がクッション代わりになる始末。
そして勿論、指名率7割を誇る部内一の人気ホストは、いつも通りの営業も欠かさない。

「申し訳ないね、姫。少々慌てていたもので……。
 おっと、それにしても、もしかして俺は、気づかないうちに天国へと召されてしまったのかな」
「は?」


「いや。まさか天使が実在するとは、思わなかったものだから」


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