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本投下用スレ

1◆zpXCCwT6ao★:2010/12/19(日) 00:13:00 ID:???0
SSの本投下を行う際はここに。

2 ◆T0ldTcn6/s:2010/12/22(水) 23:50:00 ID:sby6ncLw0
今まで使ってきた本スレが500KBに達したのでこちらに移動します。

3運命の輪(逆位置) ◆T0ldTcn6/s:2010/12/22(水) 23:50:57 ID:sby6ncLw0

「他に使えそうな人材はいるか」
「いません。百歩譲って誰かを挙げろというなら言葉でしょう。
 混乱のせいで伝達が遅れたようですが、グラハム・エーカーと鏡音リンは死亡しています。
 場所はもしかしなくてもデパートです」
「ああ、そりゃ言葉の仕業だな。そん時の映像は?」
「残念ながら。ちょうど監視の死角に入っていたようです」
「……そういやデパートはボロボロだったな。
 ベジータのせいでただでさえ多かった死角がさらに増えたんだっけか」

……もしもデパートの監視が健在であれば。
キョン子がキョン子ではなくなったことに気づけたかもしれない。
今まで何もしなかったキョン子にチルノのような心境の変化が訪れるはずがない。
キョン子がキョン子である限りグラハムを嵌めることも、言葉に取引を持ちかけることもあり得ないのだ。
だが、今や穴だらけとなった監視は真実を霧の中に隠してしまう。
ユベルが制限を打破した事実を、主催者陣営は誰一人として知らない。

運命は主催すら嘲笑う。

「ああ、右上。あなたまさか桂言葉を引き込む気ですか」
「さすがにそこまで抜けてねーよ。あいつは扱いにくいだろ」

++++++

メタナイトが情報を提供した次は俺たちの番だった。
主催との衝突が明確になった今、コソコソと主催に怪しまれないようにする配慮なんて必要ない。
遠慮なく音声偽装装置のスイッチを入れてから――
デパートで起こった全てを掻い摘んで話す。
この情報交換で、箱庭の全体像が朧ろげながら見えてきた。

――生存者から逆算してドナルドは死亡してるな。

放送が終わってしばらくした後に生存者が一人減ったことは既知だ。
それにメタナイトの情報を合わせると、死んだのはドナルドしか考えられない。
当面の危機は去っていたようだ。
……というより主催の相手でいっぱいいっぱいなんだから去ってくれないと困っていた。

――塚モールにやってくるのはグラハム、リン、キョン子、言葉の4人。

何というか、あまり待つ意味のない顔ぶれだ。
グラハムはA-10を乗り回すだろうから、別行動になるのは必定。
残りのメンツは絶望的だ。
キョン子は毒にも薬にもならないだろうし、リンと言葉に至っては毒にしかならない。

――行方不明はチルノとときちくの2人か。

あの様子からしてときちくを探す必要はないだろうし、向こうから接触もしないだろう。
もしかするとどこかで隠れて俺たちの様子をうかがっているかもな。
とすると問題はチルノ。
主催者の本拠地に乗り込むのが行動方針の中核を占める今、彼女の力はなくてはならないものとなっている。

――ちくしょう、何で肝心な時に居やがらないんだあのバカ氷精。

「やむを得ない、チルノを探そう。塚モールには置手紙の1枚でも残しておけばいい」

我ながらバカらしいとは思う。
にもかかわらず提言したのは、単に他の選択肢がそれ以上にバカバカしかっただけの話。

「残念だが、手掛かりがないぞ。分かってるのは右上の仕業だろうということぐらいだ」

4運命の輪(逆位置) ◆T0ldTcn6/s:2010/12/22(水) 23:51:47 ID:sby6ncLw0

メタナイトの突っ込みも分かっていた。
今から会場内を歩き回ったところで時間が足りない。
せめて、場所ぐらい見当が付いていないと探しに行けない。
しかし、それでも――チルノを欠いた状態で攻勢に移るのは拙すぎる。

「今の俺達にはチルノの力が必要不可欠なはずだ!
 手掛かりのあるなし以前に、彼女がいないと話にならないだろう!
 それに、A-10を駆るグラハムとは足並みを合わせることができない」
「……キョン子とリン、言葉はどうするつもりだ。
 チルノの心配も大事だが、彼女たちにも気を配るべきではないか?」

はっ、メタナイトらしい。
見上げた騎士道精神だが、それは無意味だ。
リンと言葉に与える「生存切符」はもとより存在しない。
具体的にはプレミアム首輪は残り1個しかない。
生存枠が致命的に足りない。
この事実、俺が伏せてるからメタナイトは知らないんだったな……実に滑稽だ。

それ以前にさ。
言葉は元・危険人物で今は危険人物予備軍。
リンは亡きドナルドの手下だから良くて元・危険人物。
こんな奴らのフォローなんて願い下げだ。だから――

「リンと言葉に情けをかけるなんてあり得ないだろ。
 この2人の経歴を考えてみろよ。
 気配りしろってんならキョン子だけで十分だ。
 そしてキョン子の面倒ぐらいグラハムならできる」
「それが貴様の本音か、タケモト――見損なったぞ」
「へー、俺のことをずいぶん高く評価してたんだな、メタナイト」

「おい、2人ともやめないか!」

++++++

「はぁ……やっぱり遠すぎるかしら」

内輪もめに乗じると決意したはいいものの、離れすぎてて口論してるのか相談してるのかまったく聞き取れない。
4人が向き合ってるのは間違いないのだが、はたしてそれはプラスになってるのかマイナスになっているのか。

「いっそ身内同士で殺し合ってくれればいいのに」

思わず黒い願望を独り言つが、それが現実になるとしたらまだまだ先だろう。

「片腕も動かないし、休憩時間と考えた方がいいのかもしれないわね」

何というかその方が前向きな気分になれる。
半ば現実逃避といえなくもないが、正直打つ手がない。
タイムリミットもあるんだから、現実を直視すればするほど憂鬱になれる。

咲夜は知らない。
東の端で咲夜の望むモノが芽吹き始めていることを。

運命はどこまでも罪深い。

++++++

5運命の輪(逆位置) ◆T0ldTcn6/s:2010/12/22(水) 23:52:26 ID:sby6ncLw0

――おい、2人ともやめないか!

撃発しかけたタケモトとメタナイトを俺は一喝した。

「タケモト。逸る気持ちは理解できる。
 だがそんな時こそ心の置きどころを見失うな」

無慈悲、冷静沈着、保身主義者。
そのいずれもがタケモトという人間を端的に表す単語だ。
だからこそ見落としていた、タケモトの本質を。
彼は俺や馬岱のように死と隣り合わせに生きる存在ではない。
言葉を処断するという冷酷な提案も。
プレミアム首輪の個数を伏せるという惨酷な判断も。
他者を捨て石にするような冷血な行動も。
源泉は「死にたくない」というごくごく当たり前の願望だったのだ。
「万人受けしない性格」をしていても本質はあくまで一般人。

だから脱出につながる「道」を見つけてしまったばっかりに、今まで抑えてた感情が溢れたのだろう。
1秒でも早く家に帰って平穏に暮らしたい、そんな当たり前の焦りが落ち着きを乱してしまった。

「メタナイトもだ……タケモトはお前のように強くはない」

彼がわずかに感情を奮わせたのはタケモトの言動が自らの精神に反したからだろう。
しかし、メタナイトの信念は弱者にこそ優しくない。
世界の大部分を占める、平和を満喫する者たちには彼の信念は遠いものに映るはずだ。

「……どうやら大人気なかったようだ。タケモト、すまなかった」

メタナイトは謝罪したが、タケモトはだんまりだ。
当然、険悪な空気はそのまま。
やれやれ、これは少し時間が必要みたいだな。
馬岱は……やはりというべきか、少し呆れ気味に腕を組んでいる。

――仕方ない……俺が仕切るか。

「俺に提案がある、聞いてくれ」

++++++

タロットの大アルカナに属するカードが1枚、運命の輪。
その逆位置は……情勢の急激な悪化、暗転、別れ、すれ違い、アクシデントの到来を示す。

++++++

今すぐに主催のもとへ向かう、それがスネークの提案だった。
チルノがどこに分断されたかは分からないが、目的そのものは主催打倒。
ならば本拠地に向かった方が結果的に確実に合流できる……生きていれば。
4人で先行するのは戦力に不安があるが、ここまで来るとむしろ時間制限の方が深刻だ。
既に主催の提示したタイムリミットまで8時間を切った。
グラハムも我々が動いたことを知れば、航空戦力で援護するはずだ。

「以上だ……反対意見や質問はあるか?」

メタナイトは。
タケモトは。
馬岱は。
スネークの提案に対し――

6運命の輪(逆位置) ◆T0ldTcn6/s:2010/12/22(水) 23:52:57 ID:sby6ncLw0
【C-4 塚モール入り口 / 2日目・夕方】
【タケモト@自作の改造マリオを友人にプレイさせるシリーズ】
[状態]:精神疲労(小)、僅かな焦り
[装備]:アイスソード@ちっこい咲夜さん、プレミアム首輪改
[道具]:[タケモトのデイバッグ]
支給品一式(水一食消費)、精密ドライバー@現実、野菜ジュース@ぽっぴっぽー、 
ドアラの首輪、シルバーウルフ(12/12)、(予備弾188本)@フルメタル輪ゴム鉄砲、万葉丸(11/30)@零シリーズ 
強姦パウダー@ニコニコRPG(4/9)、ブロントさんの首輪(真っ二つ)、
プレミアム首輪×1、小型位置音声偽装装置(現在オン)×2、隠し部屋に関する説明
プレミアム首輪の設計図、工具、隠し部屋のカギ、三国志大戦カード(不明)@三国志大戦
モンスターボール(空)@いかなるバグにも動じずポケモン赤を実況、キモイルカのメモ
DMカードセット(天使のサイコロ、スタープラスター)@遊戯王シリーズ、ブレード@サイべリア
北条鉄平の首輪
[思考・状況]
1:???
2:自分が生き残るために最善の行動を取る。
3:大連合は組まない、最低限の人数で行動。
4:規格外の者に対抗出来るように、ある程度の戦力が欲しい
5:最後の一個のプレミアム首輪はとりあえず改造しない。
※射命丸から首輪に関しての情報を得ました。
※会場のループを知りました。
※殺し合いの目的をショーだと推測しました。
※積極的な脱出は不可能と考えました。

【馬岱@呂布の復讐】
[状態]:精神疲労(中)、疲労(小)
[装備]:鍬@吉幾三、三国志大戦カード(群雄SR馬超)@三国志大戦、プレミアム首輪改
 包丁@会場内
[道具]:基本支給品×8(水、食料三食消費)、ヒテンミツルギ極意書@ニコニコRPG
    張遼の書@ニコニコ歴史戦略ゲー、医療品一式
    セーブに使って良い帽子@キャプテン翼、射影機(07式フィルム:28/30)@零〜zero〜
    予備07式フィルム30枚、寝袋@現実、普通のDMカード数枚@現実
    DMカードセット(スピード・ウォリアー、魔法の筒、ガーゴイル・パワード)@遊戯王シリーズ
    折り畳み式自転車@現実、乾パン入り缶詰×3@現実
    忍具セット(火薬玉、忘却玉)@忍道戒、不明支給品0〜1
    ねるねるね3種セット@ねるねるね、鏡(破損)@ドナルド、美希の私服
    禁止エリア解除装置@オリジナル、リボン@FFシリーズ
    てゐの木槌@東方project(破損)、防弾チョッキ@現実
    上海人形@東方project、変化の杖@ドラゴンクエスト
[思考・状況]
[思考・状況]
1:???
2:これからは生きるために戦う。
3:もっと武器が欲しい。
※参加者の多くの名前を見た覚えがあることに気が付きました。ニコ動関連の知識の制限は実況者達等に比べて緩いようです。
※徐々に記憶制限が解けてきた様です
※藤崎の荷物は馬岱が回収しました。上記通り支給品が幾つか破損しています。

【ソリッド・スネーク@メタルギアソリッド】
【状態】肉体疲労(中)、全身に擦り傷、切り傷
【装備】コルトパイソン(6/6、予備弾45)@現実、TDNスーツ@ガチムチパンツレスリング、越前の軍服、プレミアム首輪改
 愛犬ロボット「てつ」@日本郵販テレホンショッピング
【持物】支給品一式(水、食料一食消費)
 やる夫の首輪、ハイポーション@ハイポーション作ってみた、馬鹿の世界地図@バカ日本地図、全世界のバカが考えた脳内ワールドマップ
 咲夜のナイフ@東方project、さのすけ@さよなら絶望先生、基本医療品、至高のコッペパン×3@ニコニコRPG
 タバコ一箱@メタルギアシリーズ
【思考・行動】
基本思考:情報を集める。
1:???
2:自分から攻撃はしない。見つかった場合も出来れば攻撃したくない。
3:十六夜咲夜のような奴が居れば、仲間に誘った後、情報を聞き出した後倒す。
4:てつを使用し、偵察、囮に使う。
5:十六夜咲夜、ドナルドを警戒
6:これ以上仲間を死なせない
[備考]
※馬鹿の日本地図の裏に何か書いてあります。

7運命の輪(逆位置) ◆T0ldTcn6/s:2010/12/22(水) 23:54:03 ID:sby6ncLw0
【メタナイト@星のカービィ(メタナイトの逆襲)】
[状態]ゼロマスク (半分破壊)、左腕から出血(応急処置済み)、
 疲労(中、但し右腕に関してだけは休憩かアイテムによる治療が必要)
[装備]七星宝剣@三国志9、ゼロの仮面(顔が入るサイズに改造、半分が損壊)@コードギアス
 プレミアム首輪改
[道具] なし
[思考・状況]
基本思考:参加者の救出及びゲームからの脱出
1:???
2:格納庫か地上か、いずれかのルートによる運営基地への攻撃
3:チルノの探索
[備考]
※フランドール、スネーク、藤崎、馬岱と情報交換をしました。また、東方project出展のキャラについてそれなりの情報を得ました

【C-4 塚モール近辺の民家 / 2日目・夕方】
【十六夜咲夜@東方project】
[状態]吸血鬼化、右腕不随、攻守半減、疲労(中)
[装備]時計型麻酔銃@名探偵コナン、日光遮断のための服装、メス32本
[道具]支給品一式(水抜き)、
 ライトセイバー@外人が想像したとてつもない日本が出てくるゲーム(RedAlart3)、
 痛PSP@現実、マスクザ斉藤のマスク@ニコニコRPG 
 [装備] 
[思考・状況]基本思考:優勝し、死亡者含め全ての参加者を元の所に戻すと主催に望む
1:参加者がモールに集まるまでしばらく待機。
2:気を払いつつ休息を取る。
3:対主催組の仲間割れに乗じて優勝を狙いたい。
【備考】※ときちくは姿しか知りません。
※時間操作は4秒が限度です。停止した後に使用するには数秒のブランクが必要です。
 疾風のゲイルの効果が時間停止に効力を及ぼしているかは不明。
※主催者側が参加者を施設を中心として割り振ったと推理しました。
※高い能力を持つ参加者は多くが妖怪と考えています。
※サムネホイホイ(出だしはパンツレスリングだが、その後別の映像は不明)は、A-5の平原に投げ捨てられました
※一度幻想の法則から外れた者ももう一度幻想の法則の中にもどせば幻想の法則が適用されると推理しました。
※ヤバいDISCがINしました。スタープラチナの真の能力にも気づきました。
※吸血鬼化しましたが、本家吸血鬼と比べると回復やパワーアップが小さいです。
※基本支給品と計量匙、及びフジキがC-4からD-4にかけて散らばっています。
※塚モールで火事が再発していますが、雨のため火勢はそれほどでもありません。
※べジータと情報交換をしました。しかし自分が吸血鬼であること、美希やDIOを殺害したことは伏せています。
※阿倍さんのツナギ@くそみそテクニック、便座カバー@現実はDIOのデイバッグと一緒に病院の奥の部屋にあります。
※激しい吸血衝動に襲われ自我と本能がせめぎあっています。しかしドナルドの魔力が消え次第半減します
※ときちくの言った事には半信半疑ですが、状況を利用できると考えました。

8 ◆T0ldTcn6/s:2010/12/22(水) 23:54:40 ID:sby6ncLw0
投下終了です。
まあタイトル通りの内容ということで。

9コメント数:774:2010/12/22(水) 23:58:01 ID:jJyIOTwU0
投下乙です

緊迫した状況ですね。
全員の集合は時間がかかりそうだし、懸念材料も多いし。

10コメント数:774:2010/12/23(木) 10:48:57 ID:iKtj.elQ0
投下乙です
だいぶ展開が固まってきたな…

本スレは創作板に立てずここにしていいのかな?

11コメント数:774:2010/12/23(木) 19:28:33 ID:fDVFtz220
創造板に新スレ立ててしまった
したらばで続きをするつもりだったらすまない

ニコニコ動画バトルロワイアルβ sm19
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1293099150/

12 ◆F.EmGSxYug:2011/03/04(金) 07:11:30 ID:LJOMlZi60
例のごとくバイさる食らったのでこっちに。

13夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:12:00 ID:LJOMlZi60

(3人掛かりだというのにこちらの攻撃は全く当たらないとはな……!
 相手の動きを止めない限り、勝ち目はない……手はないのか。
 最低限、俺の弾丸が尽きる前に相手の飛び道具を使い切らせる程度は必要だ)

以前の戦いで咲夜を圧倒できたのは遠距離からの攻撃に徹したことと、
ベジータの存在があったことが大きい。
かつての勝利は、この戦況を判断する何の理由にもなりはしない。
確かに、咲夜は消耗しているのかもしれない。
事実、時を止めている間は回避に専念し、メスを投げてこない。
時が動いている間も、三人がかりの遠距離攻撃の前に近づいてこれない。
しかしそれはこちらが合流したことで速攻を諦め、
武器を温存し持久戦に持ちこもうとしているのではないかとスネークは危惧しているのだ。
だが、攻撃を当てられる方策が、全く思い浮かばなかった。

「……どうしたのかしら?
 私には、かすりもしていないけれど」

挑発的な言葉と共に、冷たい表情で咲夜は空から見下ろしてくる。
分かりやすい挑発だが、効果的だ。
今のところ相手にこれと言ったダメージを与えていないのは咲夜も同じだが、
手を出さなくなったからダメージを与えていない咲夜と、
手を出し続けているのにダメージを与えられない三人では事情が異なる。
唇を噛みながらもスネークがコルトパイソンの弾を再装填した瞬間、
攻撃を待つことなく時を止めてきた咲夜が位置を大きく変えた。
エレベーター乗り場のほぼ真上――それは、スネークのいる位置の真上でもある。

「リロードの隙を狙うつもりならば!」

羽ばたく翼。
即座に反応したのは敵位置を素早く察知したメタナイトだ。
出せる限りの全速力で、スネークと咲夜の中間にあたる空間へと飛行、
剣を振り上げ、竜巻を起こさんと腕を振る。
元々、純粋な速度ではメタナイトの方が勝っている。
ある程度の距離があれば時を止められるか否かという差を緩和できるくらいの実力はあるのだ。

だが。
それが、命取りとなる。

14夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:12:31 ID:LJOMlZi60

「えっ?」
「メタナイト!?」

チルノの口から呆けたような、そしてスネークが半ば悲鳴のような声を漏らした。
突如メタナイトの体から、噴水のように吹き出す血。
ナイフもメスも、何も刺さっていないのに、だ。
吹き上がる血と正反対の道筋を辿るがごとく地面へ落ちていく、メタナイトの体。
そして空中に撒き散らされて落ちるだけのはずの血は――
何かに染み込んだように、空中で赤い線を作る。
それを視認したスネークは、はっとなって言葉を漏らした。

「ワイヤートラップか……!」

言ってしまえば事は単純。
エレベーター乗り場の両隣にある小さな店二つ。
時間停止をして回避行動を取りながら、咲夜はそこの屋根に塚モールで調達してきたピアノ線の両端を結んでいたのだ。
薄暗いこの曇天の夕闇では、このピアノ線を視認することは極めて困難。
今まで攻撃しなかったのは片腕でこの罠を設置していたからであり、
流れ弾で黙阿弥とならないよう位置取りに気をつけていたからこそ。
メタナイトは高速で動くがゆえに、この罠のダメージも凄まじいものとなる。
体を両断されなかっただけむしろ僥倖とすら言えたが、
その幸運を喜ぶ余裕はスネーク達には、ない。
スネークとチルノが固まっていた間に、咲夜は時を止めていた。
同時に、今まで温存してきたメスを時の止まった世界で一気に投擲して。
その数、軽く十以上。

「くっ!」
「…………」

チルノは無言で急旋回して回避したものの、スネークはそうはいかない。
フェンスで覆いきれなかった肩口にナイフが突き刺さり、鈍い音と共にもんどり打つ。
コルトパイソンが取り落とされるのを見て、咲夜はそのまま急降下し……
割って入ったチルノの剣と、スタンドの拳を再度ぶつけ合う。
氷のような表情で見つめてくるチルノに、人形のような表情を咲夜は返した。

「何か言いたいことでもあるのかしら?
 生きてる間に、生きてる者のすることがある。
 帰ってこない者に出来る手向けって、それくらいでしょう?」
「そうだね……否定はしないよ」
「…………?」

思わず、咲夜は眉を顰めた。
チルノの唇が僅かに歪んだような、気がする。
だが、その変化は悲しみでも苦しみでも怒りでもなく、まるで――

「チルノ!」

それでも、スネークが叫ぶのを聞きながら、時を止めた。
微かな違和感を覚えたが、どちらにせよやることは変わらない。
あとは、無防備なチルノを殺すだけでいい。
弱体化した今の状態でも、これだけ接近していればそれを成す事は容易い。

容易い、はずだった。



15夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:14:31 ID:LJOMlZi60

「……っでぇ!」

エレベーターの昇降路を降り終わったタケモトは、
同時に悲鳴を挙げるはめになった。
……もっとも、正確には途中でうっかり手を離して落ちたのだが。
普通だったら骨折もしかねない落下距離だったが、
幸い天使のサイコロのおかげで軽い打撲で済んだ。
腕をさすりながら中に入ると、馬岱が奥を見つめつつ身構えている。

「いたた……こっちはなんともないみたいだな。おい馬岱、上で……」
「しっ、静かに!」

とりあえず咲夜に襲撃されたことを伝えようとした瞬間、
いきなりセリフの先を塞がれた。
振り向いてタケモトを見つめる馬岱の表情は、真剣だ。
ひとまず小声で問いかける。

「……何があった?」
「まだ、ない。だが、耳を済ませてくれ。何か聞こえないか?」

その言語に黙りこむ。
……確かに足音のようなものと、何かの吐息が聞こえる。
少しずつこちらに届く音量を大きくしながら。
人のものではない。これは間違いなく獣のそれだ。
タケモトが唾を飲んで身構えてから、十数秒後。
珍妙な鳴き声と共に、醜悪な怪物が姿を現した。

「わんわんお!」
「わんわんお!」
「ガルルルルル……」
「わんわんお!」
「……なんだよこりゃ!?」
「まさしく生物災害って感じだな……
 これならもう少し手札を残してればよかった」

思わず声を漏らす二人。タケモトは悲鳴、馬岱は苦い声だったが。
タケモトの視界に入ったのは一言で表現すると、触手が背中から生えた大型犬。
それがあの潰れ饅頭を想起させる声で吠えながら迫ってきている。普通の狂犬らしい唸り声を挙げている個体もいるが。
その数は、少なくとも片手の指で数えられる数ではない。
タケモトも馬岱も、生理的な嫌悪と軽い混乱が綯い交ぜになった表情だ。
まともに犬らしく唸る個体も混じっているのが、尚更混乱を煽る。

――とある生物が犬に寄生した結果生まれたクリーチャー、コルミロス。
侵入者への対策として、運営はそれを地下に放っていた。
これらの生物兵器は運営側にもあまり統率が取れず、
自分たちにも害が及びかねないことから厳重に封印されていたが……
オートマンが全滅した今、代用の戦力として運営が派遣したのだ。
代わりに、基地の地下部分は完全に放棄することになったが、
どのみちほとんど機能を失っているのだからあまりダメージはない、
というのが運営長の判断である。
調達してきた世界が世界故に鳴き声がアレだが……その凶暴性は変わらない。

「ともかく来るぞ、構えろ!」
「マジかよ……」



16夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:18:49 ID:LJOMlZi60

【Ⅴ】

チルノが咲夜にやられるとスネークが覚悟した瞬間だった。
目の前で、予想とは全く違う光景が繰り広げられたのは。

「なに!?」

眼前で広がった光景に、思わず目を見張る。
なぜか、いきなり咲夜が吹き飛んで倒れている。
一方、チルノは地面に膝をついて俯いている。致命傷の類はないようだ。動く様子もないが……
呆然とするスネークの足元に、DISCが落ちてきた。
……スネークは知らないがこれはスタープラチナのDISCであり、
スタンドDISCはそれが自分本来のスタンドでない場合、
頭部に強い衝撃を受けた時に外れることがある。
逆に言えば咲夜はなぜか、いつの間にか、そのレベルのダメージを受けたということだ。
いつの間にか、に関しては、咲夜の能力で理由が付くかもしれない。
だが、肝心のダメージを与えたものが、スネークにはわからない。

「ぅ、くっ……どういう、こと……!?」

フラつきながら立ち上がる咲夜を見て、スネークは我に帰った。
コルトパイソンなどを拾い上げ、即座に発砲する。
一発目は普通に避けられた……ものの、完全に反応しきれなかったか咲夜の肩を抉る。
二発目を放った瞬間、スネークの視点で咲夜は転移した、つまり時を止めたが、
今までの回避と比べ移動した距離が小さい。
スネークにも、ありありと分かった。
今まで見せてきたスネークにとっての咲夜が持つ背後霊のようなもの――
いわゆるスタンドが出ていないことと、明らかに時間停止中に動ける距離が減っていることが。

(足を痛めたか、或いは止められる時間が減ったか――
 ならば、勝ち目はある!)

今も出血する肩に、力が入る。
少しばかり立ち位置を変え、コルトパイソンのグリップを両手で掴み、
エレベーターの出入口の脇にあるパネルに背を密着させる。
メスもかなり数を消費しているはず。もしかすると全て使い切っているかもしれない。
問題は、コルトパイソンに装填されている弾の数が四発であること。
恐らく、再装填するような隙はまだないだろう。
つまり残り四発で、最低でも隙を作らなくてはならない。

(奴の優位に変わりはない……
 恐らく奴は接近を狙ってくる。
 この銃の装弾数が何発か、今までの戦闘でバレているだろう。
 あの様子だとチルノは気絶しているのか?
 警戒しているのか、咲夜が追撃する様子はないな……
 いったい何が起きたのかは知らないが、頼りにはできん。
 決着は、奴が仕掛けてきてから俺との距離を詰める間に決まる)

スネークの額から、汗が落ちる。
吹き飛んだおかげで彼我の距離は数十メートルほど離れたが拭う余裕はない。
恐らく二度の時間停止でほぼ距離は詰まり、三度目があれば即死だろう。
一度構えを解くだけで、大きな隙になる。

17夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:19:19 ID:LJOMlZi60

――アオオオオオオオン

突如スネークが背後に背負っているエレベーターの昇降路から響く、犬の鳴き声。
言うまでもなく、地下に放たれたクリーチャーのものだ。
スネークは事情を知らないもののその荒々しい吠え声に、
地下にいる仲間の安全を思い浮かべ、気を逸らさずにはいられず……
その瞬間に咲夜は時を止め、地を蹴った。
接近してきたのに気付いたスネークは即座に発砲する。1発、2発。
連射ではなく、1発目を誘いにして2発目を当てるような撃ち方。
一発目の回避のため、咲夜の速度は緩まった。
だが2発目が届こうかという瞬間に、またしても時間は止まる。
スネークが動き出したときには、大幅に詰まっている距離。
即座に連射されたコルトパイソンの銃弾は……
しかし、咲夜の肩と脇腹を抉るに留まり。
咲夜は小さく呻きながらも、無理矢理に足を踏み出した。

「私の――勝ちよ!」

同時に時を止め、咲夜は一気に距離を詰める。
再度時が動き出した時には、もはや咲夜とスネークの距離は5mも開いていない。
弾は撃ち切り、距離はない。
――しかし。

(そうだ――接近する! お前は俺の動きにのみ注視している。
 銃を撃ちきった以上、リロード前にケリを付けようとするはずだ。
 迅速かつ確実に……お前のような、冷静な殺人者ならば!)

これこそが、スネークの狙いだった。
咲夜が新たに時を止めたことに気付いた瞬間、スネークは即座に叫んでいた。
「切り札」を動かす、逆転の一声を。

「今だ、攻撃しろ!」
「!?」

いきなりの台詞に咲夜が怯んだ瞬間、昇降路から一つの影が飛び出した。
咲夜が時を止めるより早く鉤爪で殴りかかる灰色の影。
薄暗い闇の中に、凶悪な鉤爪を光らせる。
そのモンスターの名を、ガーゴイル・パワードという。

タケモトは降りる際に昇降路内にこのモンスターを召喚し、潜ませていた。 
カード自身は昇降路の入り口に残して、だ。
そしてスネークがコルトパイソンを拾った際、同時にこのカードも回収。
コントロールを受け取り、いつでも攻撃を出せるようにしたのだ。
移動中、最悪の状況に備えてあらかじめ考えておいた策のうちの、最後。

(ここだ! ここで勝てなければ――終わる!)

咲夜の右半身から赤色が迸る。
突如襲いかかったガーゴイル・パワードの鉤爪を受け止めきれず、
右目及び右肘から先が血飛沫と共に飛んだ。
しかし、それでも咲夜は倒れなかった。
コルトパイソンの弾を再装填する余裕はない。時を止める前に勝つしかないのだ。
スネークは咲夜自身がかつて持っていたナイフを取り出し、斬りかかる。
避けるのは不可能。防ぐための盾もない。時間はまだ止められない。
だが、咲夜は動いた。
顔を自分の血で濡らして、それでも。

「まだ、よっ!」

ナイフを、肘から先が無くなっていた自分の右腕で受け止めていた。

18夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:21:47 ID:LJOMlZi60

「なにっ!?」

驚愕したスネークの顔に迫り来る左腕。
予想外の行動にスネークは防御できずに殴り飛ばされ、
入れ替わるようにガーゴイル・パワードが踊りかかる。
咲夜の胸に突き刺さる鉤爪。
だが一瞬の後には、ガーゴイル・パワードが両断されていた。
消えていく、鉤爪の悪魔。

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

スネークの目前では、ライトセイバーを手に持っている咲夜が荒い息を吐いている。
胸を貫かれながらも時を止め、近くに落ちていたライトセイバーを拾い上げてガーゴイル・パワードを両断したのだ。
元々ライトセイバーはスネークがいた場所に向けて投げられたのだから、
近くに落ちていることは偶然でも不運でもない、必然に過ぎない。
むしろ幸運なのは、今だ立ち続けられる根性か。
スネークは起き上がろうとするものの、
どう考えても咲夜がライトセイバーを振り下ろすほうが早い――
その状況に敗北を認めざるをえないスネークの体が強張ると共に。
赤い血が、勢いよく吹き上がった。

「ぁ……」

咲夜の血が、彼女の背中から。
遅れて口から零れ落ちた赤い鮮血が、地面を濡らす。
スネークが顔を向き直せば……
少し離れたところでメタナイトとチルノが、体を伏せたまま咲夜へ向けて剣を向けていた。
二人とも、生きている。
ふらふらと、咲夜は数歩つんのめって……それでも、倒れない。
壁に背を預けて、ライトセイバーを構える。寄りかかった箇所はあっと言う間に赤色だ。
今までのような冷たさも威圧感も、もはやない。
明らかに、体はほぼ死んでいる。だが、目だけは、死んでいない。
思わず、スネークは問いかけていた。

「……まだ、やるのか?」
「言ったはず、よ?
 私は私の、生きて帰りたい理由が……ある」
「…………」

19夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:22:23 ID:LJOMlZi60

スネークは起き上がらないまま、無言でコルトパイソンの弾を込めた。
もはや時を止める力もないのか、咲夜は血を吐きながらスネークに走りよってライトセイバーを振り上げる。
その速度は、普通の人間が歩くよりも遅く……頭に狙いを付けるのは、容易だった。
銃声。
いつの間にか月光に変わっていた明かりに風の傷と氷の傷を照らされながら、
咲夜は地面にゆっくりと倒れ込んでいく。
地面とぶつかって、小さく間抜けな音を立てる、咲夜の体。
それを見ても……スネークはまだ、硬くなった体をリラックスする気には、なれなかった。

「……仇は、討ったか」

小さく、呟く。
少し離れたところで、メタナイトが心のなかのモヤを吐き出すように深い息を漏らす。
少なくとも自分のモヤはそれだけでは吐き出せそうにないと、スネークは思った。

(急にタバコが吸いたくなった……ライターを探すか)

そんなことを、ふとスネークは思った。



20夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:23:31 ID:LJOMlZi60

その後、メタナイトとスネークは至高のコッペパンを食べて回復した。
……もう、あと一個で全てこれを使いきってしまうことになる。
幸いなのは、なぜかチルノの体があまり負傷していないことだ。
この局面で回復せずに済んだ、というのは大きい。
しかし、あの現場を見たスネークには奇妙にしか映らない。

「……あの時、咲夜に何かしたのか?」
「あの時っていつさ?」
「お前が気絶する前のことだ」
「ああ……あれ。
 ユベルってカード、あるよね。その力を使った。
 時間を止まっている間でも傷つかず、攻撃を反射できる。
 だからこの体に大して傷もなくて、済んだんだ」
「確かそのカードを持っていたのは、キョン子だったはずだが……」
「今から説明するよ。
 そろそろ言葉も来るんじゃないかな。だからもう少し待っててくれないかな」

チルノの口はさも当然と言った様子で喋ったが、
メタナイトとスネークは驚かざるを得なかった。
言葉が来る。それはいったい、どういうことなのか。

「何があったんだ?」
「だから、それを説明するんだよ」
「……悪いが、俺は先に行くぞ。タケモト達が危険かもしれない。
 言葉に関しての判断はメタナイトに任せる」
「了解した」

メタナイトが頷くのを見ると、スネークは素早く昇降路の仲へと姿を消そうとして……
一言だけ、付け足した。

「もし余裕があったら……咲夜に壊されたてつの奴を埋めておいてくれ。
 あいつはただの機械だが、それでも今まで俺の役に立ってくれた」

タバコを咥えたまま、吐き出すようにそう言い残してスネークの姿は消える。
チルノの口は、そのまま話を進めることにしたようだ。
 
「右上にいきなりワープさせられたのは知ってるはずよね。
 だけど右上はこっちとは別のところに行ったらしくて、見当たらなかった。
 だからとりあえずみんなの所に戻ったら、襲われてた……右上に。
 ……グラハムも、リンも、死んだよ。
 その時の戦いで、マッハキャリバーも故障しちゃって」
「何だと!?」
「キョン子も怪我をして連れて来れそうにないから、手当をして置いてきたんだよ。
 けど、キョン子は言葉と一緒にいたくないって言うし……
 どうせ他に行くところもないから、最低限の荷物を残して言葉を連れてきた。
 幸い、魔導アーマーっていう機械があったから、それで移動してね。
 ここの近くまで来たところで戦いが起こっていることに気づいたから、
 あたいが一人で先行したんだ……あ、来たみたいだ」

21夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:24:20 ID:LJOMlZi60

チルノはそう言うと、響き始めた機械音の方向に振り向いた。
現れたのはやはり魔導アーマー。但し、その右腕は無くなっていたが。
乗っている言葉は手袋らしきものを両手に付けている。
更に首には改造したプレミアム首輪を装着している事に気づき、
僅かにメタナイトは目を細めた。

「あれは、グラハムのものか?」
「そう……あたいが外して、付けさせた」
「あいつは、大丈夫なんだな?」
「大丈夫だとかそういうこと言ってる場合じゃないって思うんだけど。
 それに、急ぐんだよね?」
「……そうだな。
 地下に降りる前に、少し待ってくれ」

そう言って、咲夜の遺体へと振り向くメタナイト。
そのまま静かに眼を閉じる。三秒ほどそれを維持した後、もう十分だ、と告げた。
チルノの首が、傾げられる。

「……黙祷?」
「彼女のやったことは許されることではないが、
 私は美鈴と共にいた。これはそれだけの分だ」
「そう」
「チルノ……私はお前こそ、もっと咲夜を悼むものだと思ったが」

知り合いが死んだのに、チルノはどうも感傷が小さいように見える。
もちろん、前回咲夜と戦った後のように不安定なままでも困るが、
今回は変に安定している。それはそれで、逆に心配を掻き立てる。

「もう、そんなことしてる余裕がある状況じゃないよね」
「……そう、か。
 すぐに馬岱達と合流するぞ。言葉が乗っているこの機械はどうする?
 このサイズでは恐らく……」
「右腕を切り落とせば通るかもしれないよ」 

多少の違和感は覚えたものの、結局メタナイトは流した。
運営と内通している、或いは洗脳されてその言いなりになっていると考えるには明らかに無理がある行動だ。
だから少しばかり変なことを言っても、
それはグラハム達が死んで精神が不安定になっているからだろう、で済ませた。
何か企んでいるにしても、運営と戦っている限りならそれでいい、とも。

おかしなことではない。彼には、思いつくことができないからだ。
まさかユベルが体を乗っ取ることができて。
先程の戦いではわざと気絶したふりをチルノの体にさせた上で、咲夜の隙を突いていて。
運営とは違う方向で絶望を撒き散らそうとしているなどとは、決して。
それを知っている参加者は、まだ言葉だけしかいない。

(……まず、生き残らないと意味がない。
 けれど、できるんでしょうか?)

魔導アーマーの右腕が切り落とされるのを発言もせずに見つめながら、
言葉はユベルがチルノを乗っ取ったときのことを、思い返した。



22夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:25:34 ID:LJOMlZi60

【Ⅱ】

咲夜とスネークが戦いを始める一、ニ時間ほど前の話。
右上と戦ったあと、しばらくの間チルノはうずくまったままだった。
図書館の中にいたまま動かないチルノに、
マッハキャリバーの電子音声が届く。機械的だけれど、感情のある、声。

『ひとまず、戦闘機のところへ行くべきではないでしょうか。
 グラハム達が、おそらくいるでしょう』
「あ、そうだね……戦闘機のとこ、いか、なきゃ……
 みんな、待ってるもの」

焦点の定まらない瞳のまま呟く。
体の傷は治っているのに、立ち上がる様子は紙のように覚束無い。
不安から目を逸らして。
剣を隠すようにしまい込んで。
ただ近い事実だけを見て、図書館を出る。目指すは、東。
図書館からA-10の在り処へ向かうには、ループを使用したほうが早い。
地面を蹴ると共に、舞い散る氷粒。通り過ぎた川が後ろに流れていく。
彼女が舞う様は、とても頼りなく――まるで、仲間に救いを求めるよう。

『……もしこの戦いが終わったなら、時空管理局に来ませんか?』

見かねたように、マッハキャリバーは言う。
チルノは首を動かさず、口だけを動かした。

「何ソレ」
『多数の次元世界を管理する組織です。私の相棒も、そこで働いています。
 あなたの体の異常も治せるかもしれませんし……
 治せなくても、連絡をとれる手段くらいは確実に用意できます。
 ですから……あなたは、一人にはなりません』
「考えとくよ……とりあえず、グラハム達に会いに行こ。
 そうしてから、これからどうするか、決めなきゃ」

チルノは、マッハキャリバーの方向を見ない。
落とすように、返事を小さく返す。
寄る辺を他の誰かに求めるかのような飛行は、
デパートを通り過ぎた辺りで止まった。
視界にちらりと映ったのは、魔導アーマーに乗っている言葉とキョン子の姿だった。
あまり自然な組み合わせとは言えない、二人。
……チルノは、何か嫌な予感がした。

「待ちなさいよ!」
「あ……」
「おや」

魔導アーマーの前に立ちふさがるように降り立ったチルノに、
言葉とキョン子は違う反応を見せた。
言葉は警戒するように表情を硬くしたの対し……
キョン子は、僅かに――ほんの僅か、わからない程度に、笑った。
まるで、獲物を見つけたと、言わんばかりに。

23夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:26:06 ID:LJOMlZi60

「なんで、言葉が一緒にいるわけ? いつから外に出て歩いてるの?」
「改心したんだって」
「……グラハム達はどうしたの?」
「ああ、彼ね……
 彼なら私たちが殺した」

キョン子の口が喋り終わる早く、魔導アーマーが動いていた。
放たれたファイアビームが彼女の周囲を焼き尽くす。
言うまでもなく、先手を打ってキョン子の指が操作した結果である。
言葉は僅かに息を飲んだものの、その意図は理解した。

「不意打ち……ですか?」
「……ああ、そうだね。でもまぁ、倒しきれてないみたいだけど」
「え?」

同時に、炎の中から飛び上がる影。
それがチルノだと言葉が確認した時には、既にその影は急降下していた。
魔導アーマーは搭乗者の体を露出させるデザインである以上、
上空から攻撃すれば搭乗者を直接狙うのは極めて用意だ。
飛んだまま突進して、氷の剣をキョン子の左肩へと突き立てる。
突き立てる、はずだった。

「――フン」
「なっ……」

まるで見えない壁にぶつかったかのように、静止させられるチルノ。
更に間髪おかず、今までの勢いが反転したかのように跳ね飛ばされる。
無様に地面を転がって、それでも、左肩の痛みを無視して構え……見た。
キョン子の――否、ユベルの体には、傷ひとつない。

「……なんで、こんなことを」
「こんなことって……何かな?
 私がこんな力を使えること? グラハムとリンを殺した理由?
 ――それとも、自分の現況を、ただ八つ当たりしてるだけかい?」
「ふ――ざけてんじゃっ、ないわよっ!」

叫ぶ。
叫んで、氷弾を放つ。
それでも、結果は変わらない。
氷弾は無残に止まり、チルノは再度跳ね飛ばされる。
地面に顔を叩きつけるチルノに、悠々とユベルは声を投げかけた。

「そうだ……それでいい。
 我慢してないでさらけ出せばいい……苦しみを、悲しみを!
 さぁ、もっと撃ってきなよ!」
「こ、のォ……!」

もはや体を満足に奪い取れるまでに至ったユベルに、直接攻撃は通じない。
例えエクゾディアの力であろうと、ユベルは取り憑いたまま跳ね返すことができる。
……もし持っているデバイスがレイジングハートで、
ここにいるのがチルノではなくパチュリー・ノーレッジなら、
どうにかすることは容易かっただろう。
ダメージを与えない形で、空間ごと固めるような魔法を編み上げたはずだ。
しかし、チルノにそれはできない。
体術をサポートするのが主の、マッハキャリバーではなおさらに。

24夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:28:15 ID:LJOMlZi60

……或いは。
彼女でない彼女なら、そんな方法もあるのかもしれないけれど。

それでも、チルノはバスタードチルノソードを使わない。
体調は万全でなく、倒せる手段が見あたらなくても。
素早く魔導アーマーの攻撃を回避したとはいえ、完全に防ぎきったわけではない。
跳ね返されたダメージと合わせて、行動力は鈍っている。
だが、逆に言えば……ほとんど不意打ちで放たれた攻撃でも、
その程度で済ますことができる戦力差ということだ。
彼女の能力を使えば、打開策を導き出せる可能性は極めて高い。
そういう状況だと……使わざるを得ない状況だと分かっていても。
どうしても、ためらってしまう。

「さて、どうするんだい?」

悪魔は笑う。
チルノは返された痛みに顔を顰めながら、それでも立ち上がる。
ふらふらと、幽鬼のように。
再び飛びかかろうと体を屈めるチルノの行動を、足元からマッハキャリバーが遮る。

『やっぱりあなたは、キョン子ではありませんね』
「これはおかしなことを言うね。見てわからないかい?」
『ユベルというカードは、相手の傷を反射する力を持っていると説明しました。
 ――あなた自身が。そうでしょう? ユベル』
「え……?」

チルノはマッハキャリバーの発言に呆けたような声を漏らしながらも、
それでもユベルから視線をずらさない。
ユベルは多少気に障ったように眉を顰めながら……それでも、同じ視線を返す。
言葉だけは、きょろきょろと二人の間に視線を彷徨わせていた。

「……よくわかったねぇ?」
『疾風のゲイルというカードも、くず鉄のかかしというカードも、
 書いてある通りの効果を発揮して、私たちを助けた……
 ならば、反射する能力もまた、ユベルが絡んでいると考えるのが自然です』
「ふーん、まぁいいさ。その通り……我が名はユベル。
 この体は今、この僕が使わせてもらっている。
 少なくとも、真っ向からの攻撃では僕を倒すことも、
 この体から引き剥がすこともできない……おっと」

返ってきたのは声ではなく、小さな氷弾だった。それも、言葉へ向けて。
フンと鼻で笑って、ユベルは体をずらし弾をキョン子の顔で受け止めた。
代わりに、チルノの頬から血が流れ出す。

「まだやる気かい?」

答えはない。今度は、魔導アーマーの足元で氷塊が現出し、固まる。
だが、こちらはその機械的な足が踏み出されると共に粉砕。
続いて魔導アーマーの胴部へ向けて弾を撃った瞬間、相手の姿勢が傾いた。
撃ち出した弾は、ユベル自身に当たる。返って来る衝撃。
ユベルは乗機を守るために、自分自身を盾にしたのだ。
それでも掌を向けるチルノに、ユベルは肩をすくめる。

25夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:29:46 ID:LJOMlZi60

「やれやれ、いいのかなぁ?
 百歩譲って、君が僕を倒せる方法を見つけたとして……
 それはこの体ごと僕を殺すってことだ」
「……他に、手段はないでしょう」
「手段はない、ねぇ……。
 だったらどうして、君は言葉を殺しておかなかったんだろう……?」
「え?」

突如放たれた発言に、チルノは目を見開いた。
居心地が悪そうに、言葉は身じろぎする。

「だってそうだろう?
 危険だと思うなら、言葉を最初から殺しておけばよかったんだ。
 君たちにとって、言葉は無理に味方にしようとするほど大した戦力じゃなかったんだろ?
 説得できるような相手でも無かったんだろ?
 だから閉じ込めておいたんじゃあないか……
 安全に敵を倒して脱出するためなら、はじめから言葉を殺しておけばよかったんだ。
 なのに君はここに来て、安全のためにキョン子を見捨てようとする。
 ――それっておかしくないかな?」
「うるさい……」
「もし仮に君が敵を倒すためなら、命を守るためなら、
 第三者の死を厭わない方法を取っているとして、
 どうしてグラハムとリンは死ななくちゃいけなかったんだろう?
 ――無駄死にだね」
「うるさいっ!」
『ダメです!』

反射的に斬りかかろうと踏み出すチルノの足を、マッハキャリバーの音声が止める。
地面を踏みしめたところで、かろうじてその足は止まり……
代わりにその耳へとユベルの音声が、ねじ込まれていく。



26夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:30:43 ID:LJOMlZi60

「わかっているよ……
 君は本心からちゃんと考えて、みんなを守ろうと、運営を倒そうとしてはいない。
 それ以外に生きる道が見当たらないから、ただそれに縋っているだけ……
 自分が生きる言い訳に、それを選んでいるだけだ。
 ちゃんと考えて自分の行動を定めてないから、こんな風にバラつく」

ユベルの言葉は続く。
聞くな、と必死にあたいは自分に言い聞かせた。
今考えるべきは、こいつをなんとかすることで、自分のことなんかじゃない。
方法を。
倒すとは言わなくても、こいつを束縛できるような、方法を。

「元の世界に帰ることを最優先にしたいなら、脱出よりも他の参加者を殺すことを優先すればいい。
 失った仲間が大切なら、それの蘇生のために動けばいい。
 でも、君はそれをしなかった……
 結局君にとって、帰りを待つ相手や失った仲間なんて、どうでもいいんだろう?」
「…………っ」

考えるな。
考えるな。
考えるな。
絶対に、その先を、考えちゃ、いけない。

「君は情報交換していた時、妙に文って奴のことばかり言っていたね。
 けど咲夜との話を聞く限り、幻想郷だったかに……帰る場所はある。
 なら、他の友達はそこに暮らしていないのかい?」
「えっ……」

予想外の質問に、思わず声を漏らしていた。顔を向け直してしまった。
そこにあったのは――我が意を得たりと言わんばかりの表情の、悪魔の笑み。

「やはり、君は忘れている――いいや、都合のいい解釈をして誤魔化している。
 君の言う正義とやらで心を覆い隠して、失ってしまった者だけを見て……
 他のまだ生きている友達から、目を逸らしている。
 そちらを見てしまうと、自分が覆い隠しているものが溢れ出してしまうから」
「ぁ……」

とっさに考えないようにした。目を閉じた。思い浮かばないようにした。
けれど、それは……あることを思い浮かばないようにするってことは、
そのことを特定するってことで、とても、思い浮かべることに、よく似ていた。

なんで忘れていたんだろう。
なんで思い出さなかったんだろう。
大ちゃん。大切な友達。彼女が、私の帰りを待っているのに。
あたいは文が死んでから、文のことばっかり考えて……
大ちゃんのことを一度も思い出さなかった。
絶対に、考えちゃ、いけない、って……

27夕夜の靄:2011/03/04(金) 07:31:14 ID:LJOMlZi60

「君は本当の意味で誰かを愛しているわけじゃあない。もう一度言うよ。
 所詮、自分が生きる意味として文の言葉を守っているだけだ。
 文を助けたいなら生き返らせる手段を模索すればいい。
 他の友達のために生きるなら、自分が無事に帰ることを最優先にすればいい。
 君は、自分が帰れないことで君の友達がどんな苦しみを味わうか考えていない」
「そんな、ことして、帰っても……誰も、喜び、なんか」
「本当にそうかなぁ? 帰れないより、よほど喜ぶんじゃないかなぁ?
 痛み、苦しみ、悲しみ、そう言ったものを思う存分共有すればいいじゃないか。
 ただ自分の満足のために、君は君の友達を見捨てているんだ」
「ちがう……ちがうっ!」

気づけば飛んでいた。
グレートクラッシャー。
氷の槌を全力で編みあげて、ユベル目がけて振り下ろす。
気づけば視界は逆転して、あたいの体は吹き飛んでいた。
地面に四つん這いになって、濁っていく視界で、今までのことが流れ出す。
自分は生きていていいのかわからなかった。
ただ、生きなきゃと思った。
だって、そうしないと嘘になる。文の命が。
どんなことをしても生きて、文と最後に話したことを、しないといけないと思った。
忘れることなんてできなかった。
よく考えても分からない、で済ませてはいけないと思った。
だから、これ以上救えなかったものが出ては耐え切れないと、逃避するように。
正義の味方に対する想いは、いつの間にか憧憬だけなく、義務を兼ねていた。

……それは。
文のためじゃなく。
自分の、ため?

背負いきれない、残してきた友達の存在を忘れて、
そっちだけを、見ていた、だけ……?

『聞いてはいけません! ここは一旦引いて……』
「君は誰を守れた?
 文って天狗も死んで、グラハムも死んで、リンも死んだ。
 何人も何十人も死んだ。
 誰を守ろうとしている?
 故郷の仲間を見捨ててまで、何を?」

足元から、何か聞こえる。
それはあたいの味方で、あたいのことを思ってくれていて、
そっちに従うべきだってわかってるのに、頭に悪魔の声が押し入ってくる。


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