したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

渡来船2

1カサブタ:2012/03/06(火) 22:56:29
※注 この小話は、過去に愛璃さんが某サイトにて投稿したシリーズを私が脚色したものです。
オリジナルの渡来船2とは一部設定が異なります。

2カサブタ:2012/03/06(火) 22:57:27
とある夏の夜、ここはハンガリーの片田舎ホロウ・クイ。ある夜、この人里離れた寒村の中心にある古城で盛大なパーティが開催されました。

宮殿の豪華な広間では紳士淑女たちが軽やかにステップを踏んで、
華やかに仮面舞踏会が繰り広げられていた。
その中でも一際めだったカップルが広間の中央で踊っていた。

一人はこの城の城主であり、仮面舞踏会の主催でもあるキルシュ伯爵である。由緒正しい貴族の血を引く伯爵であり、有数の大富豪でもある彼は、この古城でまさに中世の貴族さながらの悠々自適な生活を送っていた。彼は道楽好きで知られ、今では村の数少ない行事であるこの仮面舞踏会も元々は彼の思いつきで始められたものだった。

身長が180センチくらいある大柄な体格の持ち主であり、豊かな黒い髪は腰のあたりまで長く伸び、顔立ちも端正ですごく凛々しかった。きめ細かな白い肌に厚みのある口唇は、真っ赤で力強さが感じられた。

もともと病弱だった彼は、数年前まで病気療養中で暫くこの舞踏会にも姿を現さないでいたものの。今ではそれが嘘であったかと思うくらいに回復して周囲を驚かせたものでした。

黒い燕尾服の上に黒いマントを羽織り、そして黄金仮面の奥の瞳は優しく淑女を見つめていた。
そんな瞳に見つめられるとどんな女性でも彼に魅了されることだろう
事実、この仮面舞踏会に出席している大半の女性は彼のファンだった

今宵、伯爵の相手となった淑女の方は、危なっかしいステップで彼についていこうと必死で踊っていた。彼女にとって今日は、記念すべき舞踏会デビューの日でもあった。
今年数え年で17歳になり、名前はマリアといいます。町にある宿屋を死んだ両親に代わって姉とともに切盛りするしっかり者の少女であり、チャーミングで器量よしの看板娘だ。 もちろん、普段はこんな舞踏会とは無縁で、仕事以外では、読書することと絵を描くことくらいが楽しみのごく普通の町娘でした。実は今回の舞踏会も、招待状は姉に届いたのですが、優しい姉は彼女にチャンスを譲ってくれたのだった。

彼女にとってキルシュ伯爵とダンスをするなんて夢のような状況でした。
彼女の今まで知っている伯爵というのは、まわりの女性達が黄色い声をあげては噂しあっている、そんな姿だけでした。
男性を知らない彼女にとっては、初めて憧れた男(ひと)でもあったのです。

3カサブタ:2012/03/06(火) 22:59:24
「よりによって舞踏会デビューの日に、伯爵様のお相手だなんて・・・」

嬉しくて飛び上がって喜びたい反面、回りの女性達からの厳しい視線を仮面越しからでも感じられます。
そんなプレッシャーの中、彼女のかわいいフリルのついた純白のドレスは、室内の熱気と冷や汗でぐっしょりと濡れてしまいました。

「きゃあ!」

伯爵とリズムをあわせようと必死だった彼女だったのですが、微妙にタイミングが狂ったのです。
足を床に下ろした瞬間、自分のドレスのスカートを踏んで、バランスをくずしてしまったのです。

「おっと、大丈夫ですか?お嬢さん」

「あッ、大丈夫です!」

広間の床に倒れそうになった彼女を伯爵が支えて優しく抱きしめたのでした。

「踊り疲れたみたいですね!私も疲れたから、すこし中庭でやすもう」
「・・・はい、伯爵さま」
まわりの女性達から冷ややかなそして妬ましい視線を感じる中、両肩を優しく抱く伯爵さまの手からは、
白い絹の手袋ごしでも温もりを感じることができたのです。

「今夜の月はいつにもまして輝いている。
お譲さんのその美しさが、月の女神アルテミスを嫉妬させるのだろう・・・」

「そんな嫉妬だなんて・・・」

「だって、そうだろう。私達が広間から出るとき、あそこにいたすべての女達の想いがわからなかったのかい?」

「・・・・・」

伯爵はワイングラスに赤ワインを注ぐと、私に手渡したのでした。
その時の私の気持ちは複雑にゆれ動いていた・・・。

「美しくなるには、どうしたらいいと思う?」

私は伯爵さまに質問されたが、なんて答えていいのかわからず、グラスに注がれたワインを見つめていた。

「美しい」ってどういうことだろう?・・・今までそんな事すら考えもしなかった。
伯爵は答えに窮してる私をみていたのだが、おもむろに庭先に行くとたくさんある赤い薔薇を1本摘んできた。

「答えは、目の前にあるよ」

そう言うと私に薔薇を渡してくれました。
私はおもむろにそれを受け取ったのです。

4カサブタ:2012/03/06(火) 23:00:37
「痛ッ!」

無用心に受け取ったので、なんと薔薇のトゲで右手の人差し指を刺してしまったのです。
人差し指から血がにじみはじめてきたのです。
それをみた伯爵さまは私の前に跪くと、傷ついた右手をつかんできました。
その時です!
私の血を見た伯爵さまは不気味に笑い出したのでした!!

「ふふふッ、ふはははッ!」

そして、私の顔を見上げたのです!
あーなんてことでしょう・・・神様・・・!
あの優しかった仮面の奥の瞳は真っ赤に充血し、厚みのある口唇からは2本の長く大きな牙が伸びていたのでした!!

「きゃあ!」

私はびっくりして伯爵さまのつかんでいる右手をふりほどこうとしましたが、できませんでした。
人間の力ではない信じがたいような力を感じたからです。
すると伯爵さまはつかんでいる私の右手を、おもむろに自分の口唇に押し付け、血を吸い始めたのです。
伯爵さまに吸血されるたびに、私は今までに味わった事のない感覚が全身を襲ってきました。

「ああん・・・」

「おかしくなりそう・・・」

イッてもイッってもその感覚がさざなみのようにやってくるのです。

「・・・はッ、はく・・しゃく・・・さ・・・ま・・・」

黒く揺れ動く伯爵さまの長い髪をみつづけながら、
私の視界は真っ白になって、気を失いました・・・。

5カサブタ:2012/03/06(火) 23:01:53
2

「う、ううっ・・・」

少女が意識を取り戻したのは、あたりの闇がまた一段と濃くなった頃でした。
呻き声を発しながら上半身を起こした少女は、キョロキョロとあたりを見回しました。

「・・・ん」

マリアが見たものは窓が一つもない石造りの部屋でした。
部屋の中は冷たく張り詰めた空気が漂っていました。
部屋の四方には松明の明かりが煌々と照らしだされていて、
樹脂が焦げるかすかな音だけが聞こえてきました。
マリアは静寂に息苦しさを感じ、ごくりと唾を飲み込んだのでした。

「ここはどこ?」

なんとマリアが寝かせられていた場所は、大きな石の上だったのです。

(なぜ私、こんな所で寝ていたんだろう?
そうだわ!私は憧れていた伯爵様とダンスして踊ったんだっけ!そして・・・)

マリアは優しかった伯爵様が欲望を剥き出しにして変身していく姿を思い出して身震いするのでした。
そして、さらに自分の身体が震えているのは恐怖の為だけではないことに気づきました。
(え・・・? な・・・なにこれ)

シーツが掛けられていたために分かりませんでしたが、起き上がって冷たい空気に触れたことで自分が裸である事にようやく気づくのでした。
(わ・・・わたし、何をされるんだろう・・・。 怖い・・・。なぜわたしがこんな酷い目にあわないといけないの・・・)

その時でした!
2つの黒い影が部屋に入ってきたのです。
それは床に引きずるほどの長く黒いマントにすっぽり身を包んでいました。
1人はキルシュ伯爵本人で、もう1人は深くフードをかぶっているため顔までは見えませんでしたが、
姿から見て女性であることは想像がつきました。

「ふふふッ。 お目覚めかなお嬢さん。我が城へようこそ。」

伯爵の声をきいたマリアは背筋が凍る思いでしたが、勇気を出して言い返しました。

「私をどうするつもり・・・? どうしてこんなことをするの?!」

「おやおや・・・、これは驚いた。 大抵の娘達は恐怖のあまり声すらも上げられないというのに。
これは有望かもしれないな、ローズよ。」

伯爵に寄り添う、ローズと呼ばれた女性はクスリと笑いました。

この女も伯爵とグルなのか・・・。彼と同じ黒いマントを着ている所をみると彼女も吸血鬼?
一体、彼らはどうして私を連れてきたのだろう? まさか、私の血を吸うために?

「ふふふッ、この状況にあっても思考することをやめないか。実に素晴らしい娘だ。
どうして私がダンスの相手にあなたを選んだかお答えしましょうか?」

・・・!!
(なぜ私が考えている事が、伯爵様に伝わったのだろう・・・
伯爵様が本当にヴァンパイアだから・・・?)
そんな疑問をよそに、伯爵は真相を打ち明けたのでした。

「あなたのご察知のとおり、私はヴァンパイアなのだよ。とはいえ、元々は人間だがね…。

知ってのとおり、ヴァンパイアは人間とは違う。
人間以上に完全に近い存在だ。人間では持ち得ない強大な力を持ち、他の生き物のように死ぬことも無い。素晴らしいとは思わないかね?
私もかつてはおとぎ話だと思っていた。しかし、私はこのローズと出会ったことがきっかけでヴァンパイアが実在することを知り、その魅力に心を奪われてしまったのだ。
しかし、残念なことに今世界にいる多くのヴァンパイアは到底、知的とは言い難い、醜く、荒々しい化物だ。 

ここにいるローズも私もそんな現状を憂慮している。本来、ヴァンパイア達は彼女のように美しく、神に等しい崇高な存在であるべきなのだ。」

伯爵は、揚々と演説を続ける。ローズは黙っていたが、その目はまるで品定めをするようにマリアに注がれている。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板