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仮投下スレpart1

1 ◆VxAX.uhVsM:2011/01/16(日) 16:06:09
規制で本スレに書けなかったり、書いたけど自信がない。
という方へのスレです。

391 ◆VxAX.uhVsM:2011/11/23(水) 21:33:19
投下終了です。
名前欄には未対応だったらしくトリがおかしい事になりました、すみません。
誤字脱字、矛盾点などございましたらお願いします。

392 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/23(水) 22:11:34
仮投下お疲れ様です。

……負けたって感じです。
本っ当におもしろかったです。背筋がゾクゾクしました。
途中から、書き手目線がすっぽりと抜けてしまっていました。
そうですよね。善吉はこうでなくっちゃ。
拍手喝采です。言葉にするのが無粋なくらい。
おもしろかったです。

復習→復讐 士会→視界 本もtの→本の 中に→空中に(?)

393 ◆VxAX.uhVsM:2011/11/23(水) 22:28:07
>>392
指摘感謝です。
>>377の復習は復讐に
>>382の士会は視界に
>>384の本もtのは元々の
>>386の中には宙に

です、そして感想…とてもうれしいです、ありがとうございます。
他にもあるようなら指摘お願いします

394 ◆mtws1YvfHQ:2011/11/23(水) 23:32:35
◆VxAX.uhVsM氏、仮投下お疲れ様です。
一通り見ただけなので誤字脱字は見付けられませんでしたが、相も変わらず見事の一言。
美しいも面白い話でした。

感想は以上にさせて頂きまして、刀らしく人らしく、の名簿がないバージョンもありますでのそちらの方を仮投下します。

395刀らしく人らしく ◆mtws1YvfHQ:2011/11/23(水) 23:33:50
「…………とがめ」

 気付けば、呟いていた。
 意識せずにそう呟いていた。
 場所は良く分からない。
 ただ適当な建物の中に入った事だけは分かっている。
 そこに一人の男の死体があった。
 そんなのは如何でも良い。

「……はぁ……」

 人間らしさを削ぎ落とし、刀らしく。
 そう言う風に育った。
 ただ、研磨に研磨を重ねて刀として。
 そう言う風になった。
 はずなのに。
 気付けばそう呟いていた。
 それはまるで、人間のように。

「………………」

 既にないはずの人間らしい部分が揺れ動いていた。
 期間にしておおよそ十一カ月。
 己の所有していた持ち主だからだろうか。
 それとも目の前で殺された筈の存在だからか。
 いやはや父親が殺した男の娘だからか。
 分からない。
 そして多分分かる事はないだろうと思う。
 だが分からないとしても、それでも確かに揺れ動き、その証として死んだ女の名前が出ていた。

「……面倒だ」

 首を振る。
 面倒だ。
 これ以上考えるのは面倒だ。
 元から頭は良くないし、回る方じゃない。
 増して今は死んだはずの人間が生き返っていて何時の間にか死んでいる。
 訳が分からない。
 誰だって、とは言わないがなかなかややこしいと思うだろう。
 だから考えるのを止める。
 短い時を共に生き、別れた女の事を考えるのを止める。
 別の事を考える。

「あー……、とがめがいたって事は否定姫もいるのか?」

 一先ず、否定姫の事を。
 とがめとは少なからず、どころか死の一端すら担った女。
 しかし今は共に旅をしている女を思い出す。
 目を閉じて昔を思い出す。
 過去に浸る。

「はぁ……面倒だ」

396刀らしく人らしく ◆mtws1YvfHQ:2011/11/23(水) 23:36:14
 だが思い出すのも面倒だ。
 足元に置いていたデイパックに手を伸ばす。

「あれ?」

 中身を見るが、あると言われていた名簿がない。
 首を傾げながら何度も見直してもない。

「……あぁ」

 そう言えば鳳凰が幾つか物を抜き取っていた。
 もしかしたらその中の一つが名簿だったのかも知れない。
 しかし困った。
 そうなると否定姫が居るのか居ないのかが分からない。
 いなければ楽だが、いれば見付けないと。
 金銭面に関して言えば、どう足掻こうと頼らざる負えないのだから。
 しかし考えれば考えるほど、

「面倒だ」

 とも言ってられないのが現実。
 まずは手始めに死体が何か、と言うよりも名簿を持ってないか調べるべきか。
 とりあえず服を脱がして、

「……面倒だ」

 調べるのは面倒だから服を斬る。
 眉の辺りが勝手に動いた。
 遠目に見て胸元に傷があるのは気付いていたが、体を貫通するほどの傷だとは思っていなかった。
 貫通させるのは相当な力か鋭い刃物のどちらかが必要だ。
 しかも傷は胸以外にはない。
 それはつまり、最初に当たった一撃で胸を貫いた事を意味している。
 不意打ちか、はたまた実力差か分からないが、

「面倒だな、こりゃ」

 相手にすれば厄介だろう。
 と、している内に当初の目的を思い出して辺りを探るけれども何もなかった。
 こうなると面倒だが、今一番良いのは適当に見付けた奴を殺して名簿を奪い取る事だろう。
 そうと決まれば動くに限る。
 元々考えるのは苦手だ。
 何も考えずに居られた方がずっと良い。
 そう、刀は刀らしく。
 人らしさなんてあって良い訳がない。
 そんな物があったら錆付く。

「錆……」

 昔、錆の名を持つ剣聖と戦った。
 その時、その少し前の事を思い出す。
 言っていた。

 ――拙者は錆にまみれた折れた刀でござる。

397刀らしく人らしく ◆mtws1YvfHQ:2011/11/23(水) 23:41:31
 錆びた刀。
 そうなればどうなるか。
 錆びた刀の末路は知っている。
 折れて、捨てられ、忘れられ、消える。

「俺は、刀だ」

 だけど錆びて、折れて、捨てられ、忘れられ、消えるのを潔しとするつもりはない。
 いや、何よりも錆付くつもりもない。
 ただ刀らしく。
 善悪問わず、男女問わず、老若問わず、ただ斬る。
 そう、斬る相手は選ばない。
 振るわれるがままに斬り、殺す。
 それが刀と言う物だ。
 そう言えば、錆もいるのだろうか。

 ――拙者にときめいてもらうでござる!

 ときめいた。
 そして、あの時はこっちが勝った。
 とがめと一緒に勝った。
 いるかも分からないし、また戦う事になるかも分からない。
 それでも、いればいたできっと戦うだろう。
 斬り合うだけだろう。
 そう、刀らしく、

「虚刀流、鑢七花」

 虚刀鑢。

「いざ、参る――」

 斬るために。



【1日目/早朝/C−3クラッシュクラシック】
【鑢七花@刀語】
[状態]健康 、りすかの血が手、服に付いています
[装備]
[道具]食糧二人分、水、筆記用具、地図
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 1:最初に見付けた奴を殺して名簿を手に入れる。
[備考]
 ※時系列は本編終了後です。
 ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。

398 ◆mtws1YvfHQ:2011/11/23(水) 23:44:45
名簿なしではこんな感じです。
一応両方とも投下しましたが、やっぱり名簿が無い方が良いと言うのであればこちら、後の方を投下する予定です。

変な所などがあればお願いします。

399 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:44:25
>>398
再投下お疲れ様です。

こっちはこっちでいいですね。七花かっこいいバージョンって感じがします。
甲乙つけがたく、僕には選びかねます。

それはともかく、仮投下します。

400狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:45:22
「『"優勝者"目指してどうぞ殺し合って下さい』。ふん。さて、何人いるかな。この中に"本当に

優勝できる奴が"。<<縁>>が合えば、会って見たいものだぜ」

 B−6、展望台。
 会場を北から東へ斜めに走る竹取山。
 その中腹にある――人工的に作られたと思わしき――丘。
 竹にびっしりと覆われた山肌も、その丘の周りだけは地肌をさらしている。
 丘の周りには、車道や登山道はおろか獣道らしきものすらなく、
 青々と群生する竹藪の中、ポッカリと開いたその空間は、気持ち悪いほど竹取山から浮いている



 そんな場所に展望台はあった。
 
「だが、あいつらもわかってるじゃねえか。<<殺し名>><<呪い名>>あわせて6。しかも、死んだと

思ってた零崎人識に、十年もの間<<縁>>の合うことがなかった俺の娘まで」

 その展望台はシンプルな木造の二階建てで、一階が食事処と売店、二階が展望スペースとなって

おり、外には天井つきの駐車場を備えていた。
 食事処の椅子やテーブルから売店の陳列だなに至るまで、あちらこちらに徹底して木材が使われ

ており、コンクリートが使われているとすぐに分かるのは、一階と二階を結ぶエレベータだけ。
 質素ながらも高級、というコンセプトで作られたことをうかがわせる。
 実際、骨組みから外壁、果ては椅子に至るまで、使われている木材は、檜やマホガニー、黒檀な

どの高級、かつ一級の品々だ。

「しかし、こんな早くに出澄が死ぬとは。まあここで死んだということは、今死ななくとも、いづ

れ死んでいたということだろうが、よ。――出澄を殺せる奴か。是非、お目にかかりたいものだぜ

。もしかしたら、俺の敵足りうるかもしれん。仮に会わなかったところで、変わりはいくらでもい

るが、な。――あんなこと、俺の娘でもできまい。展望台に寄っといてよかったぜ」

 特に、エレベータの横に、見せびらかすかのようにそびえる大黒柱は、抱えることができないほ

どに太く、展望台の高さとあわせて考えると、屋久島の千年杉でも使ったのかと思うほど。
 しかし、あまりにも立派すぎるそのつくりは――それぞれの用途にあった木材を使ってはいるだ

ろうけれど――むしろ露悪なまでの成金趣味になってしまっていた。

 駐車場すらも例外ではなく、高級車が並んでいる――間違っても、ツーシータのポルシェなどな

い――のはともかくとして、F1に使われるようなレースカーなど、高級車の区分には収まらない

ようなものが多々あるのは、不自然を通り越して不気味だった。

「それにしても、おもしろい。しばらく様子をみるつもりだったが、こうも簡単に燻りだされると

は。――因果から追放されたはずの俺を、物語から迎えに来るなんてな。こりゃ、動き方を考える

必要があるかもしれん。それに、放送と続けてこうも謀ったように<<縁>>が合うとはな。『串中弔

士』――どんな奴か楽しみだぜ。くっくっく」

 そんな不気味で成金趣味な展望台の二階、展望スペースで狐面の男――西東天はひとり、立って

いた。

401狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:48:32
「『"優勝者"目指してどうぞ殺し合って下さい』。ふん。さて、何人いるかな。この中に"本当に優勝できる奴が"。<<縁>>が合えば、会って見たいものだぜ」

 B−6、展望台。
 会場を北から東へ斜めに走る竹取山。
 その中腹にある――人工的に作られたと思わしき――丘。
 竹にびっしりと覆われた山肌も、その丘の周りだけは地肌をさらしている。
 丘の周りには、車道や登山道はおろか獣道らしきものすらなく、
 青々と群生する竹藪の中、ポッカリと開いたその空間は、気持ち悪いほど竹取山から浮いている。

 そんな場所に展望台はあった。
 
「だが、あいつらもわかってるじゃねえか。<<殺し名>><<呪い名>>あわせて6。しかも、死んだと思ってた零崎人識に、十年もの間<<縁>>の合うことがなかった俺の娘まで」

 その展望台はシンプルな木造の二階建てで、一階が食事処と売店、二階が展望スペースとなっており、外には天井つきの駐車場を備えていた。
 食事処の椅子やテーブルから売店の陳列だなに至るまで、あちらこちらに徹底して木材が使われており、コンクリートが使われているとすぐに分かるのは、一階と二階を結ぶエレベータだけ。
 質素ながらも高級、というコンセプトで作られたことをうかがわせる。
 実際、骨組みから外壁、果ては椅子に至るまで、使われている木材は、檜やマホガニー、黒檀などの高級、かつ一級の品々だ。

「しかし、こんな早くに出澄が死ぬとは。まあここで死んだということは、今死ななくとも、いづれ死んでいたということだろうが、よ。――出澄を殺せる奴か。是非、お目にかかりたいものだぜ。もしかしたら、俺の敵足りうるかもしれん。仮に会わなかったところで、変わりはいくらでもいるが、な。――あんなこと、俺の娘でもできまい。展望台に寄っといてよかったぜ」

 特に、エレベータの横に、見せびらかすかのようにそびえる大黒柱は、抱えることができないほどに太く、展望台の高さとあわせて考えると、屋久島の千年杉でも使ったのかと思うほど。
 しかし、あまりにも立派すぎるそのつくりは――それぞれの用途にあった木材を使ってはいるだろうけれど――むしろ露悪なまでの成金趣味になってしまっていた。

 駐車場すらも例外ではなく、高級車が並んでいる――間違っても、ツーシータのポルシェなどない――のはともかくとして、F1に使われるようなレースカーなど、高級車の区分には収まらないようなものが多々あるのは、不自然を通り越して不気味だった。

「それにしても、おもしろい。しばらく様子をみるつもりだったが、こうも簡単に燻りだされるとは。――因果から追放されたはずの俺を、物語から迎えに来るなんてな。こりゃ、動き方を考える必要があるかもしれん。それに、放送と続けてこうも謀ったように<<縁>>が合うとはな。『串中弔士』――どんな奴か楽しみだぜ。くっくっく」

 そんな不気味で成金趣味な展望台の二階、展望スペースで狐面の男――西東天はひとり、立っていた。

402狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:49:26

 ◇ ◇ ◇


「はぁ、はぁ、はぁ、やっと……着いた。もう、だめ」

 場所は展望台の駐車場。
 僕、串中弔士はあまりのつらさに、たまらず座り込んだ。
 スカートが上がって下着が丸見えになるけど、かまいやしない。
 いくらでも、見やがれ!――って気分。

「こぐ姉ぇ、僕は、もう、だめ……です。待っていて、ください。今、行きます」

 ぜぇ、ぜぇ、と息を切らし、肩を上下させながら、目だけで辺りを見回す。
 ぱっと見た感じ、人はいなさそうだけど――用心用心。
 こんな状態じゃあ先に見つけても、到底逃げられないけど――用心用心。
 いや、もういっそ、殺してくれ!――って感じ。
 殺されなくても死にそう。
 あぁ、死んだこぐ姉ぇが手招きしてる。
 これが臨死体験って奴か。――いや、なんでそんな満面の笑みなんですか、こぐ姉ぇ。

 その笑顔に、僕は我に変えった。――く、苦しい。み、みず。

「んぐ、んぐ、んっぐ、んっぐ――っん! ごほっ、ごほぉ、ごほっ――っ、はぁ、はぁ」

 あぁ、ちょっと楽になった。
 生き返る。
 プハァー、って言いたいくらいだ。
 ――水ってこんなにおいしいんだ。
 僕は、大切なことを学んだ。――手持ちの水全てと引き換えに。――手持ちの水全てと引き換えに!

 まぁ、なんとかなるでしょ。

「さて、もうちょっとだけ、休憩」

 時計を確認。
 うん、大丈夫。
 B−6が禁止エリアになるまで、まだ時間はたっぷりある。
 これなら、じっくりと展望台を探索できる。
 我慢して上ってきたかいがあるというものだ。

403狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:49:55


「串中弔士、がんばりました」

 本当に、がんばった。
 水ぐらい、どーんとプレゼントしてやりたくなるくらいに。
 振り返ってみれば、何度くじけそうになったことか。

 一回目の試練。
 それは、登り始めて数十分。
 山のぼりって、思ったより楽だなぁ、って思い始めたときだった。

 道が、急に歩きづらくなった。
 竹の量が増え、地面のでこぼこがひどくなる。
 道が急になったわけでもないのに、その変化に僕は苦戦した。
 歩けないわけじゃないけど、この調子じゃ展望台に着く前に倒れてしまう。
 人を避けるため、A−6から南下しようと思っていた僕は困った。
 でも、展望台以外に行くところがあるだろうか。
 市街地にでれば、人に会うリスクは格段に上がる。
 悩んだ上の妥協案は、竹取山の浅いところ、市街地付近を通って展望台へと行くことだった。

 そうして、歩き続けて迎えた、二回目の試練。
 それは、展望台がやっと視界に入ってきたころ。
 第一回放送だった。

 その内容は、いろいろと気になることが多かったけれど、一番問題だったのは、展望台が9時からの禁止エリアになってしまったことだった。
 え? そんなぁ、って思った。
 自称マゾの僕でも堪えた。
 コースを変えても結局疲れは溜まり、目的地をマンションに変えようか迷いながら、それでも歩き続けて、ハイになっていたから、なおさらきつかった。
 もう市街地に行こうかと思ったけど、ふりかえればマンションはいつの間にか小さくなっていた。
 戻ったらそれまでの疲れが無駄になる気もして、なかばやけになって上った。

 そして、三回目――最後の試練。
 それは放送の後に歩き始めて、すぐだった。

 いきなり勾配が急になった。
 突然だった。
 一回目の試練なんて、かすむぐらいに。
 不自然なまでに急な変化だった。
 いや、展望台の周辺だけ、たんこぶのように盛り上がっていることはもっと前から気づいていた。
 でも、上るための道、舗装された道路があると思ってて。
 なのに、いざ近づいてみれば、道なんてない。
 あるのは急な斜面だけだった。
 どれだけくたくたでも、僕に選択肢は残されていなくて。
 積み重なった疲れにへとへとになりながらも、僕は力を振り絞って、歩いた。
 そして――

 ついに、展望台へと到着した。
 串中弔士、まっすぐ折れずにがんばりました。
 さすが、名前に一本芯が通ってる。
 イエェー!

「それにしても、なんなんだろう、ここ」

 周りには自動車が十数台ある。
 名前はわからないけれど、どれも見ていて気圧される。
 試しに、そのうちの一台に近づいてみた。
 ガタッ。
 ドアはあっけなく開いた。
 キーも挿しっぱなしだ。

「無用心というより、無人だな」

 もう数台見てみるが、どれも鍵はかかっておらず、キーも指しっぱなし。
 ここまでくると、使ってくださいといわんばかりだ。――車道もないのに。
 とはいえ、仮に車道があっても、運転しようとは思わないけど。
 事故が怖いし、無免許運転は違法だよ。――あれ? でも僕、民家に入って物色しなかったっけ? 

 串中弔士の手は既に汚れていました。――なんちゃって。

「でも、車があれば山から下りるのは楽だろうな。――って下りる?」

 あぁ、そんなぁ。
 嫌なことに気づいてしまった。
 そうだ、下りるのが残っているんだ。

 ここまでがんばって上ってきたのは、下りは簡単だろうと思っていたこともある。
 展望台までくれば、市街地まで続く舗装路が見つかるだろうから、それをたどれば竹の中を突っ切るよりは、ずっと楽に下れると思っていたのに。
 なのに、道がないなんて。
 
「また、竹の中を突っ切らなくちゃいけないのか」

 全身を見渡す。
 服こそ破れていないものの、竹やら草やらのせいで、あちらこちら擦り傷だらけ。
 スカートだったのも痛い。
 ズボンだったらよかったのに。

「仕方がないや。予定通り展望台を調べて、禁止エリアになるまで景色でも眺めて待とう。それから、下山……はぁ」

 こぐ姉ぇ、弔士の試練はまだまだ続くようです。

404狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:51:00

 ◇ ◇ ◇


 『人を生き返らせる』――なんて言葉は、はったりかもしれない。

 ところかわって、展望台一階の売店。
 僕は店内を物色しながら、放送について考えていた。

 ここまでの道中、竹取山で放送を聞いたときは、死んだはずの迷路先輩が名簿に載っているのを見て、驚きこそしたものの、その後に訪れた禁止エリアのショックに上塗りされて、深くは考えなかった。
 けれど、こうしてじっくり考えてみると怪しい気がしてくる。
 特に、迷路先輩が死者として発表されたのが。

 ――あ、虫除けスプレーだ。催涙スプレーみたいに使えないかな。
 シュー。
 ……うーん、頼りないけど、もらっとこ。

 この閉じられた空間に囲われた、僕たち参加者にとって、放送は貴重な情報源だけど、その内容が正しいか確認することはできない。
 例え、本当は参加者の中に迷路先輩がいなくても、知る手段はない。――いることを証明するには、死体を見つければいいけれど、いないことは証明できないのだから。
 こんな状況じゃ、探偵ごっこだって、そう簡単にはできない。

 つまり、名簿の中には、『死者を生き返らせることができる』というはったりを、信じさせる為のダミーが混じってるのでは。
 一度にやる必要はないけれど、放送で少しずつ"殺して"しまえば、気づかれるのを遅らせることができるし。

 それに、ばれてしまっても、主催者たちは痛くもかゆくもない。
 その頃にはもう、餌なんてなくとも殺し合いは進むようになっているだろうし、きっと"殺すことに慣れて"しまっているだろう。
 まあ、それはともかくとして――

 僕は売店の中で道具を集めていた。

405狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:51:31
 ――よし、次は食料だ。あって困るものじゃないし、たくさんもらっていこう。特に水分は、さっきみたいなこともあるかもしれないし、念入りに。
 絆創膏も必要かな。擦り傷の処置でほとんど使い切ったから。
 へぇ、キーホルダーがある。お土産のつもりかな。

 思わず手に取ったものは、三つで一つの金属製。
 竹と、……釘バットと、…………殺人鬼がかぶってそうな仮面。
 ……僕には理解できないかな。
 というか、この建物、見た目と中身のギャップが激しいな。
 見るからにVIP御用達って感じなのに、並んでいるのは駄菓子やコンビニ弁当。
 レストランのコーヒーは紙パックのインスタントだったし。

 ――しかし、いつのまにか、道具の現地調達が当たり前になってしまった。
 元々、支給品を取られたのがきっかけだったけど、自然に行ってる自分が新鮮だ。
 ――まぁ、"慣れた"ってことかもしれないけど。

 ――ん? この空間は……。
 入り口近くの陳列棚の一部が、ぽっかりと空いていた。――あたかも、誰かが持っていったかのように。
 この売店は商品の質こそ平凡だが、その充実振りはすごい。それだけに、その空白は目を引いた。

 ――さて、こんなものかな。
 一通りを見終わったので、今回の戦利品を確認する。

 菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、虫除けスプレー、中華なべ、懐中電灯、絆創膏、etc.

 できれば金属バットみたいな長くて武器になるものが欲しかったけれど、仕方がない。
 レストランも回ったけれど、大したものはなかったし。
 後は――二階の展望スペース、か。

「…………」

 誰かが、いるのだろうか。
 一階は一通り調べた。
 人の気配はなかったけれど、人のいた痕跡はあった。
 レストランには飲みかけのコーヒーがあったし、売店には空っぽの陳列棚。

 エレベータを確認してみる。
 この展望台に階段はなく、二階へ行く手段はこの二台のエレベータだけ。
 そして、階数表示のランプは、それぞれ一階と二階を示している。

 ここ、展望台を誰かが訪れたの間違いない。
 でも、いまだにいるとは思えない。
 なにせ、ここを含むB−6エリアは9時からの禁止エリアに指定されてしまった。
 まして、二階にいるなんて考えられない。リスクが高すぎる。

 たとえば、二台のエレベータを両方とも一階に下ろして、扉の間に椅子でもはさんで動かなくしてしまえば、それだけで詰むことができる。
 この展望台の高さじゃ、飛び降りることもできないから、時間が来て爆死するのを待つしかない。
 少なくとも僕だったら、禁止エリアが関係してなくても、長時間二階にとどまったりしない。
 だから、人はいない――はず。
 けれど、もし、人がいて、その人が危険人物だったら――
 
 詰むのは僕だ。

「まぁ、いるわけないか」

 ここについてから三十分は経ってるし。

 八時半くらいまでは、ここにいる予定だけど、その後どうするかは決めていない。
 人をできるだけ避けたいけれど、人がいないのはどこかなんてわからない。
 簡単な望遠鏡くらいあるかもしれないし、そうでなくとも、周りを見渡せる展望スペースはぜひとも行っておきたかった。

 ピンポーン。
 エレベータの扉が開く。
 僕は一階を念のため見渡してから乗った。扉が閉まる。
 念のため、手には三徳包丁と中華なべ。腰には虫除けスプレーをさし、エレベータのすみに身を寄せる。

 ふと、エレベータに備え付けられた鏡に目がいった。
 そこには、三徳包丁と中華なべを構え、女装した僕がいた。
 ……お母さん、ごめんなさい。

 ピンポーン。
 二階に着いたようだ。扉が開く。すると――え?

「よぉ、遅かったじゃねえか」

 狐の面をかぶり、片手にマンガを持った男が、すぐ目の前にいた。

406狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:52:24

 ◇ ◇ ◇


 僕は――動けなかった。
 その予想外の事態に。
 本来ありえない、人がいるという現実に。
 そして――狐の面をかぶり、マンガを持った、その男に。

 僕は呑まれていた。

「あんまり遅えから、待ちくたびれて、こっちから行こうかと思ってたところだぜ。長々となにやってたんだ。――おい、いつまでそんなところに突っ立ってるんだ。扉が閉まっちまうぞ」

 そう言って、狐面の男は扉が閉まらないように、エレベータのボタンを押さえた。

「あぁ、すみません」

 ――親切な人だな。
 僕はそんな場違いなことを考えながら、エレベータの外へと出た。
 それと同時に、頭が正常な思考を取り戻す。
 ――いや、何が親切だ。これで、僕は逃げられなくなった。どうする? 先に動くか。この距離ならスプレーだって届くだろうし。……でも、エレベータが閉まるまで大丈夫かな。あのお面も問題だけど、これ、ただの虫除けスプレーだし。包丁も、過剰防衛って感じがする。……うーん。

 狐面の男をうかがう。
 手にはマンガだけ。
 ぱっと見、武器を持っているようには見えない。
 お面に隠れて表情は分からないけど、襲ってくる気配もない。

「あの、一応確認しますが、あなたは殺し合いにはのっていないですよね」
「『殺し合いにのっていない』。ふん。そう、かまえるなよ。俺はお前を襲う気はねえ。――お前が俺を襲う気がないようにな」

 ――本当だろうか。
 そのまま、しばらく様子を見るも、狐面の男に動く様子はない。

 僕はひとまず安心して、構えていた三徳包丁と中華なべをおろした。すると、

「あぁ、それでいい。可愛いお嬢ちゃんに、そんな物騒なものは似合わないからな」

 そう、言った。
 で、僕は一応弁解する。――こんな格好で参加させた主催者たちをちょっとだけ恨みながら。

「申し訳ないんですけれど、こんな格好こそしてますが、僕は男です。串中弔士、中学一年生です」
「『僕は男です』。ふん。あんまり可愛らしいから、男だなんて思わなかったぜ。まぁ、男だろうと女だろうと、そんなことは同じことだが」
「…………」

 『男だろうと女だろうと同じこと』――え? まさか、この人も変態? この実験ってもしかして、変態だらけ? ……いや、僕だって自称マゾの変態かもしれないけど。……でも、僕にそんな趣味はない。
 ――まぁ、冗談……だろうし。
 と思いながら、狐面の男を見ると、彼はジロジロと舐め回すように、僕を眺めていた。
 ――まさ……か。

「幸先がいいぜ。アプローチを変えることに決めて早々、こんな"上物"と<<縁>>が合うなんてな」

 狐面の男はそう言って、"犯しそうに"笑った。

 ……嘘ですよね? もしかして、ピンチ?
 命の危険はなさそうだと安心したけど、これは貞操の危機かもしれない。
 らしくもなく、顔が引きつる。
 思わず、一歩引く。
 未知の恐怖が体に走る。

「おい、弔士」
「は、はいぃ!」

 い、嫌だ! そんなの、殺されるほうがマシだ! ――いや、いっそ殺してやる! 殺すしかない! せ、正当防衛だ! 僕は悪くない!
 ま、まずはスプレーで目を狙って、それから――

「俺の手足となれ。お前を<<十三階段>>に加えてやる」

407狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:53:21

 それから、包丁で――って、え?

「<<十三階段>>?」

 僕は思わず聞き返していた。スプレーを狐面の男の目前に、構えた状態で。
 けれど、狐面の男はスプレーなど、視界に入っていないかのように話を続ける。

「平たく言えば、俺の部下だ。世界を――いや、物語を終わらせる為の、な」

 あぁ……なんだ。そういうことか。へんな勘違いをして、パニクって。馬鹿みたいだ。僕らしくもない。……でも、よかった。本っ当によかった。
 ――と、それはともかくとして、
 
 つまり、優勝を目指して手を組もうってことかな。

「『優勝を目指して』。ふん。そんなちんけなものに興味はない。俺が関心を向けるのは物語の終わりだけだ。――世界という名の物語のな。お前にも見せてやる、"終わり"を。俺とともに来い、弔士」

 "終わり"――この実験を壊すってことかな。でも、そういうニュアンスでもなさそうだけど。
 まぁ、それはともかくとして、

「僕のことを評価してくれるのはうれしいのですが、あいにく、僕は誰とも関わるつもりはないんです。積極的に動いたところで僕にどんな得があるんですか。僕だって優勝に興味はありませんから。せいぜい、誰かがこの実験をめちゃくちゃにしてくれるのを祈るだけです。それに、人にものを頼むのには、それ相応の態度というものがあるのではないでしょうか。僕は単なる一中学生ですが、ここではお互い単なる一参加者です。もっと誠意というものを――」
「ふん。なんだ、土下座でもすればいいのか」

 と、狐面の男は、床に手をつき膝をつき、頭を下げていた。

「いやいやいやいや! やめてください! 冗談です! 頭を上げてください! お願いします! <<十三階段>>になることを考えますから!」

 止める間なんてなかった。
 狐面の男はストレッチでもするような気軽さで土下座をしてしまった。

「ふん。じっくりと考えるんだな」
「はい! 考えます! ありがとうございます!」

 からかわれたって感じじゃない。
 きっと、この人にとってプライドなんて、大した問題ではないんだろう。
 僕とは役者が違いすぎる。

408狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:54:07


 狐面の男は、ベンチに向かうと、座ってマンガの続きを読み始めた。
 隣には数冊のマンガが平積みされている。――あれ?

「つかぬことをおききしますが、もしかしてずっとここ――展望スペースにいたのですか」
「そんな訳がないだろう。俺だって人間だ。同じ姿勢でいれば疲れるし、生理作用だってある。眠くもなれば、腹だってすく」

 ――のどが渇けばコーヒーくらい飲むさ。
 と、狐面の男は締めくくった。

 ――あぁ、この人は『本物』だ。
 迷路先輩にだって劣らない『本物』だ。
 僕とは違う。
 『偽者』の僕とは。

「謙遜するなよ。お前は『本物』だ。この俺が言うんだ、間違いあるまい。弔士、お前は『偽者』なんかじゃねえ、まごうことなき『本物』だ。――とはいえ、『本物』も『偽者』も大した違いはないだろうが、な」

 ――そんなのは同じことだ。
 そう言って、狐面の男は手にしていたマンガのページをめくった。

「買いかぶりですよ。誰がなんと言おうと僕は『偽者』です」

 そう、いかれた、『偽者』。

「それに、僕にいったいなにができるんですか。こんな"異端"な場所で」

 知識もなければ技術もない。
 腕力もなければ武道の心得があるわけでもなし。
 そして、支配している駒もなければ、駒を支配する時間もない。
 そんな僕にいったい何ができるのか。

「『こんな"異端"な場所で』。ふん。"異端"の反対は"正統"だったか。――だが、ここは本当に"異端"なのかね。なぁ、"どこが異端なんだ"。比べてみろよ。お前がかつていた場所――お前の言うところの"正統" ――と、ここ――"異端"だったか――の、"どこが違うんだ"。――何も違わねえだろ。そもそも"正統"なんざ存在しねえのさ。そんなもの――"慣れてしまえば同じこと"、だろう」
「…………」

 そう言われて――僕は言葉を返せなかった。

409狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:54:51


 "慣れてしまえば"――確かに、僕は慣れつつある。
 建物に入れば当然のように物を集め、死体を見ても当たり前のように驚かず、人を見かければ自然に警戒し観察する。
 僕はこの"異端"な状況に慣れつつある。
 慣れてしまえば、"異端"だって"正統"になってしまうんじゃないだろうか。
 "非日常"や"異常"が、"日常"になってしまうように。
 僕この世界を認めてしまえば、それは"異端"ではなく"正統"になるのかも――いや、なってしまうだろう。
 でも――

「でも、――"異端"か"正統"か――できるか否か――以前に危険すぎますよ。リスクが高すぎます。危険な目に会うのは、ごめんです」

 だって――死にたくはないのだから。

「ふん。それについては同感だ。俺だって死にたくはない。こんなおもしろい物語の終わりを見ることができないなんて、堪えられないさ。だが、死なないために物語と関わることを放棄するつもりはねえよ。――弔士、お前はどうなんだ。物語を味わいたくないのか。終わりを見たいと思わないのか。――それとも、関わることなく生き延びたとして、その先に何かがあるのか、お前には。なぁ、弔士。"お前には何か違ったものでも待ってるのかよ"」
「…………」

 『その先になにがある』――何があるんだろう。
 仮に、この不気味なほど素朴で、異端な、囲われた世界から、帰れたとして、行き着く先は上総園学園。
 結局、囲われていることには変わらない。
 同じ――かもしれない。でも――

「確かに、帰れたところで何かが待ってるとは思いませんよ。退屈だし、囲われていることには違いがない。――でも、生きていれば未来があるのではないでしょうか。学校だって、いつか卒業できます。そうすれば、何かが変わりますよ。でも――ここで死んだらお終いだ。"終わり"だ。興味がない、って言ったら嘘になりますけど、命を賭けるほどの価値があるとも思いません。生き延びられるとも思っていませんが、せいぜい未来に期待しますよ。それこそ――"同じこと"でしょう。今に期待しても未来に期待しても」

 そう、僕は嘯いた。
 僕がこの状況に惹かれているのは否定しようがない。
 口ではああ言ったものの、こんな"楽しそう"なことが未来に起こるなんて思えない。
 それに、ここには"おもしろそう"な人があふれている。
 今まで会った六人の内、少なくとも三人は『本物』だったし、残りの人たちだって十分にキャラ足りうる素質を持っていた。
 時間はともかく、キャラクターだけなら支配するに不足はない。――本当、ちょっかいをかけたくなる。
 けれど――そんなことはできない。光に誘われて落ちる蛾よろしく、死んでしまうのがオチだろう。
 なんたって、僕はただの中学生。『本物』じゃなくて、いかれた『偽者』なんだから。
 迷路先輩だってあんな簡単に死んでしまったんだから、同程度のこの人に付いていったところで何かが変わるとも思えないし。

「言うじゃねえか。ますます欲しくなったぜ。やはり俺が見込んだとおり、お前には物語の登場人物たる素質があるようだな」
「もういいですよ、そういうことで。『本物』でも『偽者』でも好きなように呼んでください。――そういえば、話題を変えますけれど、……えーと」

 そういえば、名前聞いてなかったな。

「おっと、今はまだ、名乗るときじゃない。名前なら好きに呼べ」

 ……なんだろ、この人。名前なんてなんであろうと同じとか言いたいのかな。
 じゃぁ、狐のお面をかぶってるし、"狐さん"って呼ぶか。

「狐さんは僕がエレベータに乗って現れたとい、『遅かった』『待ちくたびれた』と言っていましたが、気づいていたのですか。僕が一階にいることに」

 竹取山を登ってくる最中の僕をここから見つけたって可能性もあるけれど、違う気がする。
 まるで謀ったかのようにエレベータが来るのを待ち受けていたし。

「そんなことか。簡単だ。こいつのおかげだよ」

410狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:55:45
 そういって、狐さんはデイパックから手のひらサイズの物体を取り出した。
 灰色のフレームとディスプレイだけの簡単なつくり。
 そして、そのディスプレイの中心には点が一つ――いや、よくよく見ると重なった二つの点が明滅しており、さらにそこに注釈をつけるような形で、『串中弔士』『西東天』というメッセージが表示されていた。

「レーダー、ですか」
「あぁ、首輪探知機といってな。近くの参加者の位置が分かる便利な代物だ」

 うらやましい。
 僕なんて、ばかでかいねじと、斬れない刀を支給されて、しかも、両方とも取られたっていうのに。
 ――それはそうと、狐さんの名前は『西東天』っていうのか。『名乗るときじゃない』なんて言ってたけど、隠す気はないのだろうか。
 でも、これなら狐さんについていくのもありかもしれない。
 <<十三階段>>云々はともかく、この支給品があれば人を避けるのも簡単だし。

「うらやましいですね。他には何を支給されたのですか」
「ふん、きいて驚け。こいつ――拡声器だ」

 ふぅん、拡声器か。まぁ、そんなところかな。狐さんにばっかり当たりアイテムが集中しているのもおかしいか。
 と、思ったら――

「どうだ、うらやましいだろう」

 と、狐さんは言った。
 え? うらやましい? それはハズレ――というかトラップだろう。

「狐さん、分かってますか。それを使うと人が集まってしまいますよ。一見すると人探しに便利そうですが、むしろ、危険な人を呼び寄せてしまうと思います。まさか、使う気ではないですよね」
「馬鹿いえ。こんな早くに使ってどうする。まだ早すぎる。そのときじゃねえよ」

 ――そん……な。
 背筋に冷たい汗が流れる。
 "まだ"――それはつまり――"いつか使う"ということ。
 
「全く、ついてるぜ。拡声器だけでも十分だというのに、探知機までくれるとはな。この二つをセットで支給するとは、あいつらもわかってるじゃねえか。これなら、集まってくる奴らとニアミスするなんて興ざめなことを心配する必要なくなるぜ。――"加速した物語から読みはぐれることがねえ"」

 ……あぁ、なんてことだ。
 狐さんが迷路先輩に劣らない? ――なんて見当違いだ。
 とてもじゃないけど、迷路先輩と比べることなんてできない。
 格が違うというより――破格だ。

 世界の――物語の終わり。
 もしかしたら、見れるのかもしれない。
 楽しめるのかもしれない。
 この人に付いていけば、"慣れることのない非日常"を。
 決して"日常"に埋没しない、永遠の"異常"を。
 味わうことができるのかもしれない。
 それは――

 それは、とてもおもしろそうだ。

 ――でも、そんなこと、本当にできるのだろうか。
 だいたい、リスクが減るわけでもなし。
 こんな人に付いていったら、犬死するに決まっている。
 つまらない"異常"もつまらない"日常"も同じことだろう。

 でも――"この人の描く異常は本当につまらないのだろうか"

「さて、どうだ。決心はついたか。何ならもう一度土下座してやってもいいぜ」

 狐さんはマンガをパタンと閉じると、隣のマンガの山に詰み、立ち上がった。

「好きにしろ、弔士。お前が<<十三階段>>になろうがなるまいが、そんなことは同じことだ。だが――」

 そして――

「弔士、俺はお前が欲しいぜ。くっくっく」

 犯しそうに笑った。

411狐のきまぐれ ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 21:56:19





【1日目/朝/Bー6展望台】
【串中弔子@世界シリーズ】
[状態]健康、女装、身体的疲労(中)、露出部を中心に多数の擦り傷(絆創膏などで処置済み)
[装備]三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、
[道具]支給品一式(水を除く)、小型なデジタルカメラ@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、懐中電灯@不明、「展望台で見つけた物(0〜X)」
[思考]
基本:…………。
 ?:できる限り人と殺し合いに関与しない?
 ?:<<十三階段>>に加わる?
 ?:狐さんについていく?
 ?:駒を集める?
 ?:他の参加者にちょっかいをかける?
 ?:それとも?
[備考]
※「死者を生き返らせれる」ことを嘘だと思い、同時に、名簿にそれを信じさせるためのダミーが混じっているのではないかと疑っています。
※現在の所持品は「支給品一式」以外、すべて現地調達です。
※デジカメには黒神めだか、黒神真黒の顔が保存されました。
※「展望台で見つけた物(0〜X)」にバットなど、武器になりそうなものはありません。

※絆創膏は応急処置セットに補充されました。


【西東天@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0〜1)、マンガ(複数)@不明
[思考]
基本:もう少し"物語"に近づいてみる
 1:弔士が<<十三階段>>に加わるなら連れて行く
 2:面白そうなのが見えたら声を掛け
 3:つまらなそうなら掻き回す
 4:気が向いたら<<十三階段>>を集める
 5:ときがきたら拡声器で物語を"加速"させる
[備考]
※零崎人識を探している頃〜戯言遣いと出会う前からの参加です
※想影真心と時宮時刻のことを知りません
※展望台の望遠鏡を使って、骨董アパートの残骸を目撃しました。望遠鏡の性能や、他に何を見たかは不明
※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前が表示される。細かい性能は未定

412 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/24(木) 22:03:59
仮投下終わります。
出だし、型崩れしてしまったので、二回投下しました。
前回の反省を元に、地の文に気を配ったつもりです。

西東天の思考――真心は検証しましたが、時刻は曖昧で、暫定として知らないことに。

上記に対する意見含め、感想、批評、誤字脱字、よろしくお願いします。

413誰でもない名無し:2011/11/25(金) 20:41:14
皆様投下&仮投下乙です

>xR氏
創貴ナース服の発想はナイスw
確かにサイズもぴったりそうだ
骨肉細工で血まで変えるという発想は見事
でもさすがに首輪を外すのは不可能かー
時間も無い中収穫あるんですかね
そういえば会いたい人に会えてるのってぜろりんくらいしかいないな…

>mt氏
どっちもいいですが鳳凰の荷物に名簿が入ってる以上名簿無しの方がしっくり来ます
それにこっちの方がかっこいいw
こうしてみるとまにわにというより刀語組が不憫な気がしてきた…

>Vx氏
>>387で腹には刀が刺さったままとありますが胸ですよね?
それはそうと、ついに人吉ヶ原コンビ解散ですか…
最後まで善吉らしかった、いい最期でした
残り二人がめんどくさいことになりそうですけど

>ai氏
狐さんの参戦時期はいーちゃんと会う前なので死んだと思っていたというより
探していた、などの表現の方が適切かと
後、これは神経質かもしれませんが十三階段は全員眼鏡という暗黙の了解?的なのがあったので
土産物屋で伊達でもいいから眼鏡を手に入れたみたいなのがあればより狐さんが乗り気になるかも
さて感想
大切なはずの水を一気飲みしちゃったり狐さんに土下座させたり弔士君やりたい放題
迷路ちゃんに対する考察もよかったです
狐さんはどこまでも狐さんだったwww

414 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/27(日) 09:13:49
狐のきまぐれ
修正
401
「だが、あいつらもわかってるじゃねえか。<<殺し名>><<呪い名>>あわせて6。しかも、死んだと思ってた零崎人識に、十年もの間<<縁>>の合うことがなかった俺の娘まで」

「だが、あいつらもわかってるじゃねえか。<<殺し名>><<呪い名>>あわせて6。しかも、敵候補として探していた零崎人識に、十年もの間<<縁>>の合うことがなかった俺の娘まで」

405


415 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/27(日) 09:16:50
 ――よし、次は食料だ。あって困るものじゃないし、たくさんもらっていこう。特に水分は、さっきみたいなこともあるかもしれないし、念入りに。
 絆創膏も必要かな。擦り傷の処置でほとんど使い切ったから。
 と、おや?

 売店の一角、レジの近くに『おみやげコーナー』というつり看板が下げられた場所があった。

 「…………」

 "おみやげ"――まさかとは思うけど、参加者を意識したわけじゃないよな。
 もしそうなら、すごい皮肉だ。
 しかし、そう思いつつも、僕は『おみやげコーナー』の商品を片っ端からデイパックに放り込み始めた。

 この売店にどういう意図で『お土産コーナー』が設けられているかは定かでないが、参加者に対する皮肉かもしれない"おみやげ"を買う(貰う)という行為は想像するだけでぼくらしい被虐嗜好を刺激され、収集せずにはいられなくなってしまう。
 こんな挑戦的な『つり看板』を見せられてなお、"おみやげ"を手に取らないようでは、それはもうぼくであってぼくではないと言えよう。
 見ている人なんていないけれど、もしかしたら隠しカメラで監視されているのではないかと思うと、そのカメラごしにいるたくさんの人々の視線が全て自分を向いているようで(「なんであの参加者、なんの役にも立たない"おみやげ"をあんなに必死に集めているんだ?」「もう第一回放送も過ぎたのに、ドッキリ番組だと思い続けているのか?」「そういえば奴は死体をみても大して動揺してなかったよな。作り物だと思ってるのかもしれない」「きっともらった"おみやげ"は家に持ち帰れると思ってるのよ」)、ぞくぞくする。

 ああ、自意識過剰ってたーのし。

 ……まあ、死体が本物かどうか見間違うことはないけれど、ドッキリ番組であって欲しいとはいまだに思っている。
 ようするに、一種のストレス発散行為。

 そんなことを思いながら、"おみやげ"を次から次へと手にとっていく。
 ――しかし、作った人の頭を疑うようなものばかりだなぁ。

 『キシシキの苦い思い出』――竹と釘バットと殺人鬼がつけてそうな仮面がデザインされたキーホルダー。
 『タマモとヒトシキの愛の姿焼き』――女の子を肩車した男の子(ただし、よくみるとナイフを喉元に突きつけられている)のクッキー。
 『リスカの手錠』――手錠の形をしたメモクリップ。ただし、ところどころ赤い。
 『エモンザエモンのお面』――"不忍"と書かれたお面。試しにかぶってみたら、何も見えなくなった。

 他にも、『箱庭学園第98・99代生徒会長の銅像(文鎮)』『マヨイのリュック(消しゴム)』『イオリとソウシキ――受け継がれるもの(ハサミが描かれたタペストリー)』などなど。
 誰が欲しがるのかわからないものだらけ。――"おみやげ"なんてそんなものかもしれないけど。
 と、デイパックに放り込み続けていた僕だったが、ある"おみやげ"を見て考え込んでしまった。

 『チョウシのメガネ』――なんの変哲もないメガネ。S,L,Mサイズの三種類。そして伊達。

 ……"チョウシ"って、僕のことだろうか。
 うすうす気づいていたけど、ここの"おみやげ"は参加者に関係したものらしい。
 表記こそカタカナだけど、名簿と見比べてみれば一目瞭然だ。

416 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/27(日) 09:17:51
となると、このメガネは僕をイメージして作られたものということになる。
 けれど、僕は今までメガネをかけたことなんてない。
 どういことだろう? ――いや、考えるまでもない。
 簡単なことだ。そもそも、手錠や釘バットなんて奇天烈なものが、参加者と関係あるなんて普通はないだろう。
 だから、これら"おみやげ"は参加者に対する嫌がらせなんだろう。
 恐らく、それぞれが幼少期の痛い思い出を呼び起こすようなものに違いない。
 では、僕の場合はどうか?
 もちろん、僕はこのメガネを見ても何かを思い出すことはない。
 しかし、嫌がらせになれさえすれば問題ないのだから、必ずしも参加者に関係あるものである必要はない。
 ならば、このメガネにこめられた意味はこうではないだろうか。

 "お前にはこのメガネがお似合いだ"――と。

「…………」

 うわー、被虐心をくすぐられるなぁ。
 こりゃあ、かけずにはいられないよ。

 S、M、Lの三種類があったので、Sを選んで迷わずかけた。
 びっくりするぐらいピッタリだった。
 ……僕の顔に合わせたサイズを用意するなんて。――僕の予想はどうやら正しいようだ。

 辺りに鏡がないから似合っているかはわからないけれど、つけていて違和感はない。
 せっかくだから、しばらくつけていよう。――うわあ、ぞくぞくする。監視カメラないかなぁ。

 さて、被虐心も満たされたことだし、『おみやげコーナー』はこれくらいにしよう。

417 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/27(日) 09:19:02
それはそうと、この建物、見た目と中身のギャップが激しいな。
 見るからにVIP御用達って感じなのに、並んでいるのは駄菓子やコンビニ弁当。
 "おみやげ"は誰が買うのかわからないようなものしかない。
 レストランのコーヒーは紙パックのインスタントだったし。
 まぁ、参加者向けと考えれば納得だけど。

 ――しかし、いつのまにか、道具の現地調達が当たり前になってしまった。
 元々、支給品を取られたのがきっかけだったけど、自然に行ってる自分が新鮮だ。
 ――まぁ、"慣れた"ってことかもしれないけど。

 ――ん? この空間は……。
 入り口近くの陳列棚の一部が、ぽっかりと空いていた。――あたかも、誰かが持っていったかのように。
 この売店は商品の質こそ平凡だが、その充実振りはすごい。それだけに、その空白は目を引いた。

 ――さて、こんなものかな。
 一通りを見終わったので、今回の戦利品を確認する。

 菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、虫除けスプレー、中華なべ、懐中電灯、絆創膏、"おみやげ"、etc.

 できれば金属バットみたいな長くて武器になるものが欲しかったけれど、仕方がない。
 レストランも回ったけれど、大したものはなかったし。
 それよりも……ちょっと貰いすぎたかな。どうみても"おみやげ"が邪魔だ。でも、今捨てると負けた気がするからしばらくは持っておこう。
 さて、後は――二階の展望スペース、か。

「…………」

 誰かが、いるのだろうか。
 一階は一通り調べた。
 人の気配はなかったけれど、人のいた痕跡はあった。
 レストランには飲みかけのコーヒーがあったし、売店には空っぽの陳列棚。

 エレベータを確認してみる。
 この展望台に階段はなく、二階へ行く手段はこの二台のエレベータだけ。
 そして、階数表示のランプは、それぞれ一階と二階を示している。

 ここ、展望台を誰かが訪れたの間違いない。
 でも、いまだにいるとは思えない。
 なにせ、ここを含むB−6エリアは9時からの禁止エリアに指定されてしまった。
 まして、二階にいるなんて考えられない。リスクが高すぎる。

 たとえば、二台のエレベータを両方とも一階に下ろして、扉の間に椅子でもはさんで動かなくしてしまえば、それだけで詰むことができる。
 この展望台の高さじゃ、飛び降りることもできないから、時間が来て爆死するのを待つしかない。
 少なくとも僕だったら、禁止エリアが関係してなくても、長時間二階にとどまったりしない。
 だから、人はいない――はず。
 けれど、もし、人がいて、その人が危険人物だったら――
 
 詰むのは僕だ。

「まぁ、いるわけないか」

 ここについてから三十分は経ってるし。

 八時半くらいまでは、ここにいる予定だけど、その後どうするかは決めていない。
 人をできるだけ避けたいけれど、人がいないのはどこかなんてわからない。
 簡単な望遠鏡くらいあるかもしれないし、そうでなくとも、周りを見渡せる展望スペースはぜひとも行っておきたかった。

 ピンポーン。
 エレベータの扉が開く。
 僕は一階を念のため見渡してから乗った。扉が閉まる。
 念のため、手には三徳包丁と中華なべ。腰には虫除けスプレーをさし、エレベータのすみに身を寄せる。

 ふと、エレベータに備え付けられた鏡に目がいった。
 そこには、三徳包丁と中華なべを構え、メガネをかけて女装した僕がいた。
 ……お母さん、ごめんなさい。

 ピンポーン。
 二階に着いたようだ。扉が開く。すると――え?

「よぉ、遅かったじゃねえか」

 狐の面をかぶり、片手にマンガを持った男が、すぐ目の前にいた。

418修正版状態表 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/27(日) 09:20:16
【1日目/朝/Bー6展望台】
【串中弔子@世界シリーズ】
[状態]健康、女装、身体的疲労(中)、露出部を中心に多数の擦り傷(絆創膏などで処置済み)
[装備]チョウシのメガネ@オリジナル、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明
[道具]支給品一式(水を除く)、小型なデジタルカメラ@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、懐中電灯@不明、おみやげ(複数)@オリジナル、「展望台で見つけた物(0〜X)」
[思考]
基本:…………。
 ?:できる限り人と殺し合いに関与しない?
 ?:<<十三階段>>に加わる?
 ?:狐さんについていく?
 ?:駒を集める?
 ?:他の参加者にちょっかいをかける?
 ?:それとも?
[備考]
※「死者を生き返らせれる」ことを嘘だと思い、同時に、名簿にそれを信じさせるためのダミーが混じっているのではないかと疑っています。
※現在の所持品は「支給品一式」以外、すべて現地調達です。
※デジカメには黒神めだか、黒神真黒の顔が保存されました。
※「展望台で見つけた物(0〜X)」にバットなど、武器になりそうなものはありません。
※おみやげはすべてなんらかの形で原作を意識しています。
※チョウシのメガネは『不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界』で串中弔士がかけていたものと同デザインです。Sサイズが串中弔士(中学生)、Lサイズが串中弔士(大人)の顔にジャストフィットするように作られています。

※絆創膏は応急処置セットに補充されました。


【西東天@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0〜1)、マンガ(複数)@不明
[思考]
基本:もう少し"物語"に近づいてみる
 1:弔士が<<十三階段>>に加わるなら連れて行く
 2:面白そうなのが見えたら声を掛け
 3:つまらなそうなら掻き回す
 4:気が向いたら<<十三階段>>を集める
 5:ときがきたら拡声器で物語を"加速"させる
[備考]
※零崎人識を探している頃〜戯言遣いと出会う前からの参加です
※想影真心と時宮時刻のことを知りません
※展望台の望遠鏡を使って、骨董アパートの残骸を目撃しました。望遠鏡の性能や、他に何を見たかは不明
※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前が表示される。細かい性能は未定

419修正版状態表 ◆ai0.t7yWj.:2011/11/27(日) 09:23:57
修正、投下完了しました。

>>413
勉強不足で申し訳ありません。
人識とメガネ、ありがとうございました。

420正義の味方 ◆0UUfE9LPAQ:2011/11/27(日) 19:24:52
変わらずファイルを見つけた棚の前、約束の時間まで後13分。
火憐さんのところまで行かないと。
あれ…そういえば

「火憐さんには見せないつもりだけど」

万が一このファイルを見られたらどうしよう。
僕のページは別に保存してある。だからそれを見られる心配は無い…けど。

「僕一人だけのページが無かったら疑うよな…」

あえて確認してなかった僕のランダム支給品ということにしようか。
それなら僕のページが無くてもそこまで言われないだろう。

「でも僕以外にも見せちゃいけない…というか見せられない人がいっぱいいるし、いっそのこと危険人物のページは全部取ってしまおうか…」

さっき見た零崎一賊のページと他にも危険そうな人が載っているページを丁寧に引き千切る。殺したくなってっくるな…
さすがに何枚もポケットに入らないな…出てくる心配はあるけどデイパックの中に入れよう。
いっそのこと棚から適当なファイルを引っ張り出して中身を入れ替えようか、間違えないように違う色のものの方がいいな。
これでいいかな…中身は「怪異の王 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード研究レポート」どれどれ、ページを捲る。
へぇ、吸血鬼のことなのか…火憐さんのお兄さんのこともあるし、ついでに中身も持って行こうか。
…よし、作業は全部済んだ、後は火憐さんのところに行こう。

 〜〜〜〜〜

「やあ火憐さん。とりあえず戻ってきたよ」
「お、お帰り。宗像さん」

時間は6時5分前。何もせず待つには微妙に長いので簡単にお互いの成果を報告し合う。

「私はこれとこれかな。宗像さんはどうだった?」

火憐さんが持ってきたのはDVDと一冊の本。DVDは後で見るとして、本は「よく分かる現代怪異」…怪異か。
さっきのファイルの中身を持っててよかった。ここであの参加者名簿を見せるわけにはいかないし何の成果も無しというのは言いづらいからね。

「僕はこれしか見つけられなかったよ」

そう言ってファイルを見せる。

「ふーん、そうか。じゃ早速DVDを確認するか」

そう言ってDVDコーナーへ向かおうとする火憐さん。
放送が間もなく始まることを分かっているのだろうか。殺したくなるじゃないか。

「もう1分もしないうちに放送が始まるんだから、待った方がいいと思うよ」
「あ、あちゃ、そうだった。私としたことがすっかり忘れてたよ。教えてくれてサンキューな」

わかっていなかった。というか忘れていたようだった。まったく…殺したい。
そして放送が始まる。

421正義の味方 ◆0UUfE9LPAQ:2011/11/27(日) 19:25:44

 〜〜〜〜〜

―実験の最中だが、放送を始める。

放送が始まった。理事長とは違う老人の声、聞いたことがない声だな…殺したい。
名簿が解禁されるが、ファイルを見てしまった僕にはほとんど意味が無い。
まずは死亡者から発表するようだ、順々に読み上げられていく。

―零崎曲識

ファイルで見た零崎一賊の一人、死んでしまったのか。
彼は限定条件付きの殺人鬼と書いてあった。
もし彼が殺人衝動を抑える方法を知っていたのなら、僕はそれを知る機会を永久に失くしてしまったことになる…

―とがめ

僕がこの会場で出会って一番に刺した彼女。
致命傷は避けたし出血も少なくなるようにしたはずだから僕の刀とは別の要因で死んだのだろうか…
火憐さんはとがめさんの名前を知らないんだっけ、特別な反応はない。

「くそっ!こんなに人が死んでるなんて!」

7人目が読み上げられた時点で火憐さんが怒鳴った。
まさか僕も6時間でこんなに死人がいるとは思わなかった。それに、まだ死亡者の読み上げは続くようだ。

―阿良々木暦
―阿久根高貴

「「え」」

僕と火憐さんの声が重なった。
阿久根高貴。箱庭学園生徒会書記。
僕とはほとんど直接の関わりがなかったけど、彼も死んだのか。
それよりも―
阿良々木暦。吸血鬼。そして火憐さんのお兄さん。

「嘘…嘘だよな…」

横で火憐さんがショックを受けている。当然だろう、自分の兄が呼ばれたんだから。
返事をしてあげたいけど、ここで返事をすると禁止エリアを聞き逃す可能性がある。
殺したい…っていけないいけない、我慢しなきゃ…

―俺からも以上だ。

放送が終了した。
幸い禁止エリアはどれもここから遠い、地図に記入するだけでいいだろう。
それより今は―

422正義の味方 ◆0UUfE9LPAQ:2011/11/27(日) 19:26:03

「なぁ…宗像さん、兄ちゃんが死んだなんて嘘だよな?」

いつの間にか火憐さんが床に座り込んでいた。
救いを求めるような目で聞いてくる。殺したい。
だけど―

「残念だけど、放送に嘘は無いと思うよ」

僕は残酷な答えを返す。

「例えばの話、僕か火憐さんの名前が読み上げられればすぐに嘘とわかるだろう。
 逆に、目の前に誰かの死体があったとして、それが誰なのかわかっているのに、
 読み上げられなかったらそれも嘘だとわかる。
 それにこれは『実験』だ。
 どの学問の研究者にしろ、どの分野の研究者にしろ『実験』において嘘をつく
 理由も必要もどこにも無いんだよ。
 不知火理事長なら尚更だ。
 だから本当に残念だけど、君のお兄さんは
 死んでしまった…誰かに殺されてしまったんだよ」
「そ、そんな…」

火憐さんの声がどんどん小さくなっていく。殺したい。
だけどこのままにしておくわけにもいかない。

「火憐さんの持ってきたDVDを見れば、君のお兄さんや他の人を殺した人を確認できると思うけど…火憐さんは犯人をどうするつもりなんだい?」
「……ちょっとだけ考えさせてくれないか…」

そりゃそうだろう。自分の兄を殺した犯人の処遇をすぐに決められるわけがない。

「僕はDVDを見れるように準備をしてくるから、そこのソファーに座って考えるといいよ。くれぐれも建物から出ていったりしないようにね」
「いや、その心配は無いよ。結論は出した」

もう決めてしまったようだ。本当にちょっとだけだった。

「私は『正義の味方』だ!
 殺し合いなんか絶対に乗らない!
 兄ちゃんを殺した奴は許せないけど、だからといって殺しはしない!
 兄ちゃんの前まで連れてって謝らせてやる!
 他の奴らもそうだ!
 そいつらが殺した奴の前まで引っ張って謝らせる!
 そして殺し合いに乗るようなやつも!
 こんな馬鹿げたこと考えたじーさんに協力する奴ら全員!
 一人残らず私がぶっ飛ばしてハッピーエンドを迎えてやる!」

『正義の味方』なんだから!と火憐さんが所信表明を終える。
最初と変わらない正義のあり方だった。
奇麗なあり方だった。
そうだ。だから僕は彼女を守ろうと決めたんだ。
もっと彼女の正義の味方ごっこを見ていたいから―

423正義の味方 ◆0UUfE9LPAQ:2011/11/27(日) 19:26:35
 〜〜〜〜〜

「なぁ、宗像さん。これも電源入らないよ」

場面変わってDVDコーナー。
さっきのDVDを再生しようとしているのだが…

「僕のところもだめみたいだ…他のをあたってみよう」

今のところ二人で10台試したがどれも電源が入らない。
故障とは違うみたいだから理事長がわざとそうしたのだろう。

「あ、電源入った」

火憐さんの声がする。殺したい。
僕が使おうとしたプレーヤーは使えない。
どうやら使えるのは1台だけみたいだった、でも1台使えれば十分だ。
火憐さんのところに行く。

「使えそうかい?」
「うーん、電源が入ったはいいけど使えるようにならないんだよなー」

画面が青くはなったはいいけどそこから一向に進展しない。

「叩いたら調子よくなるかな?」

お婆ちゃんの知恵袋的なことを言ってディスプレイをバシバシ叩く火憐さん。
叩くならプレーヤーを叩けばいいのに…しかも結構音が大きい。殺したくなるなぁ…

「宗像さん、ちょっと離れてくれるか?」
「…?わかったよ」

火憐さんに言われて離れる僕。殺し…

「あちょーーーー!!」

途端、火憐さんの声と共にディスプレイがプレーヤーの上から消えた。
代わりにプレーヤーの上には火憐さんの足…が通り過ぎて行った。
そしてディスプレイが床に落ちた音。

「…は?」

火憐さんはローリングソバットを決めていた。
いやだから、なんでローリングソバット…
あまりの衝撃で殺人衝動が一時的に引っ込んでしまったみたいだ。

424正義の味方 ◆0UUfE9LPAQ:2011/11/27(日) 19:26:56
「あちゃ、強すぎちまった」

強すぎる、なんてものじゃないと思う。
じゃなかったらあんな重いディスプレイが5m以上先まで吹っ飛ぶものか。
それにディスプレイはプレーヤーの上に固定されてたはずだし。

「…DVD再生できなくなったけどどうするんだい?」

プレーヤーは全部調べたけど使えそうなのはこれしかなかった。
そして唯一使えそうだったプレーヤーはたった今火憐さんが破壊した。

「他あたれば使えそうなとこあるだろ!」

あっけらかんと火憐さんが言う。
誰のせいでこうなったと思ってるんだろう。
とは言っても火憐さんを責めても始まらないので地図を広げる。
DVDプレーヤーが無くてもパソコンがあれば再生できるだろう。
パソコンを置いてそうなところは…

「じゃあネットカフェか斜道郷壱郎研究施設に向かおうか」

何を研究しているかはわからないけど研究施設なんだ。
パソコンを置いていないわけがない。

「おう!早速行こうぜ!」

蹴り飛ばしたディスプレイには目もくれず出入り口へ向かう火憐さん。
少しくらい気にしたらどうなんだろう…
と、火憐さんが出入り口に入った瞬間

――ビィィィィィィィィィィィィィ

防犯ゲートがあったのだろう、けたたましい音が鳴り響く。
原因は多分あれだ、火憐さんが手に持ったままのDVD。
確かDVDは貸出用じゃなかったはず、防犯タグがついていてもおかしくない。
となるとまずい、近くに殺し合いに乗った人がいたら見つかる恐れがある。
早くここから離れた方がいいな。
走って火憐さんに追いつく。

「火憐さん、今の音で人が来るかもしれないから急いでここから離れようか」
「え?別に急ぐ必要なんてないだろ」
「だから、今の音でもし近くに殺し合いに乗った人がいたら困るだろう?」
「んなもん、私が一人残らずぶっ飛ばすから心配無いよ」
「だから一旦態勢を整えるんだよ」
「そっか、んじゃ走るぞー!」

凄いスピードで走りだす火憐さん。
結局名簿をしっかり読めなかった…後で余裕ができたら読むしかないな。
それにしてもさすがだな、僕も千刀を全部捨てないと追い越せないや。
だからといって遅れるわけにはいかない。
だって、僕は彼女を守らないといけないんだから。

425正義の味方 ◆0UUfE9LPAQ:2011/11/27(日) 19:27:17

【1日目/朝/F−7】
【宗像形@めだかボックス】
[状態]健康 走行中
[装備]千刀・?(ツルギ)×872
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0〜2)、「参加者詳細名簿×1、危険参加者詳細名簿×1、ハートアンダーブレード研究レポート×1」
[思考]
基本:殺したいけど、死なせたくない
 0:ネットカフェか斜道郷壱郎研究施設へ向かう
 1:火憐さんを守る
 2:誰も殺さない。そのために手段は選ばない
 3:殺人衝動は隠しておく
 4:機会があれば教わったことを試したい
 5:とりあえず、殺し合いに関する裏の情報が欲しい
 6:零崎一賊の誰かと話がしたい
 7:火憐さんに参加者詳細名簿は見せない
 8:DVDを確認したい

[備考]
※生徒会視察以降から
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※危険参加者詳細名簿には少なくとも宗像形、零崎一賊、匂宮出夢のページが入っています
※上記以外の参加者の内、誰を危険人物と判断したかは後の書き手さんにおまかせします

【阿良々木火憐@物語シリーズ】
[状態]健康 走行中
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3) 、「よくわかる現代怪異@不明、バトルロワイアル死亡者DVD(1〜10)@不明」
[思考]
基本:この実験をぶっ壊す。悪人はぶっ飛ばす。絶対に殺し合いには乗らない。
 0:ネットカフェか斜道郷壱郎研究施設へ向かう
 1:兄ちゃんを殺した人を見つけて兄ちゃんに謝らせる
 2:DVDを再生して、【悪】が分かれば、そいつをぶん殴る
 3:そんでもって殺した人に謝らせる
 4:白髪の女の子と合流したい
 5:本も読みてえな

※辺りに防犯ゲートのブザー音が鳴り響きました。が、そこまで大きくないため同じエリア内にいても聞こえていない可能性があります


怪異の王 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード研究レポート@オリジナル
文字通り怪異の王にして鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードについての研究レポート
あくまでもハートアンダーブレードについてのことなので忍野忍になってからのことは記載されておらず、
そのため二代目の眷属である阿良々木暦についてのことは詳しく記載されていない

426 ◆0UUfE9LPAQ:2011/11/27(日) 19:34:00
仮投下完了です

何分初SSということもあり未熟な点も多々あるとは思いますが、指摘・感想お待ちしてます

427 ◆xzYb/YHTdI:2011/12/09(金) 20:31:48
感想は感想スレに書かせていただきます。

ともあれ。
自分は傾物語【怪】の続編を投下していきたいと思います。
はじめに言っておきましょう。◆mtws1YvfHQ氏の作品を愚弄したといわれても返す言葉もございません。
そのような心持ちで、広い心で読んで頂けると幸いです。

428 ◆xzYb/YHTdI:2011/12/09(金) 20:32:29



003


全くもって。僕たちの物語はいつになったら終止符を打ってくれるのか。
僕は以前から常々そう感じていた。
最終話と銘打ってからどれだけの月日が経ち、そのたびにカレンダーは捲られて、いくつもの暦が坦々として否応なく進んでいったことといったら。
そのお陰さまで僕のキャラが全力疾走でゲシュタルト崩壊を招き、負のスパイラルを巻き始めてしまったではないか。
どこをどう間違えたらニヒルなクールツッコミキャラから、
変態(じゃないけどここは崩壊の度合いを分かりやすく示すための誇張表現だ)なボケツッコミ両立キャラクターが出来上がるんだよ。
なんでドラゴンクエストの呪文で例えるところのマヒャドだった僕に、メラゾーマが加わってんだよ。
どんな二重攻撃だよ、技名にすると「凍る火柱」じゃねえか、矛盾すぎんだろ。
せめてそこはメドローアにしてほしかった。
光って主人公っぽいし。(全てを消滅させる云々は置いといてだ。決して妹のファーストキスを消滅させるとかそういう欲望の塊でいったわけではない)。

そんなわけで早く僕の崩壊を止めてほしいと願っていたところで天からの囁きで僕の耳にはとある伝聞を託された。
最終巻が出るという話を。
つまるところ僕は犯罪なんて犯しようが無いし綺麗なままで物語を終了することが叶ったのだ。
そもそもの話、欲望(性欲とは限らないが)の暴走が恐ろしいものだと身に沁みた僕にはもはや犯罪なんて無縁なのだから。
火災時の「おかし」がなんたるかを知った僕にとっては戯言も甚だしかったな。
あれだろ? 「押さない、駆けない、喋らない」だろ?
けどさ前に聞いたんだけどさ、それにも地域性があるみたいで。
場所によっては「おはしも」て感じらしいぜ。確か「幼い、はしたない、少女、戻さない」だっけ。
確かそんな感じだ。

話が何時の間にかずれていたが、そんな終了が立ちこめている中。
僕は新たな物語の火蓋を切って開けたようだ。
その名も靴物語! 副題は〜こよみエンド〜! 命名、忍!
ワクワクが止まらないぜ!
まあ嘘だけど。
リスペクトのリスペクトだ。

ともかくとして。
二度目の粗筋となるが(決してアニメドラゴンボール的な意味合いではない)、確かに僕の中では新しい物語は始まっている。
人殺しの話。
終わりなど見えない追いかけ物語。
語り部としてまだ完結していない物語を語るとなると些か侘しく心苦しく、先行き不安となってしまうがいた仕方ない。
ったく、たまには隣にいる忍ちゃんが語ってくれないものか。
だれだよ怪異には語り部をやらせんとか言った奴は、こっちの身も考えてほしい。
大体アニメの僕はほとんど一人称やってないだろ。
文字だよ、文字。やっぱ世間は三人称なんだって。
そうそう、主人公の主観とかはどうでもいいのさ、何が起こってどう解決したのか。これが重要。


004


さて、阿良々木暦、忍野忍一行は依然としてそこから動いていなかった。
策ともいえない奇策を練りこんで、編み出した結果がやはりその結果な訳なのだが。
地図が無い。
やはりこの失態がこの進行の遅れを表すのに一番適切なものである。
要するに云い方を変えるのであれば。地図が無いから動きたくとも動けない。
と、言うのが現状であり、その様子は阿良々木暦を幾らか苛立たせる。
こんなことをしている間にも恋人である戦場ヶ原ひたぎが死んだ――――そうなったと思うと苛立ちを回避させるのは難しかった。
そんな中、ようやくにして――――。

「ごめんなさい、僕が悪かったです」

び、びっくりしたー。
思わず声を出してしまう。
すると忍の方はこちらを向き(ちなみに体勢は僕が胡坐でその上に忍がいるままだ)不審者でも見てるかのような視線をくれる。
止めてくれよ、興奮するじゃないか。

429 ◆xzYb/YHTdI:2011/12/09(金) 20:33:58
にしても本当に三人称小説が始まるところだった。
とんだレボリューションもあったもんだな。
そんな事を思っていると忍の方から。

「……なに謝っておるのじゃ?」

なんて言われたので返す必要があろう。

「いや、どさくさに紛れて忍の身体のあちらこちらをいやらしく触っちゃったからさ」
「なんか話を逸らす魂胆は丸見えなのにおまえ様が言うとやけに説得力や納得のいく弁論じゃの」
「何を言ってるんだよ、僕はドラゴンボールを集めきった時に
 『ギャルのパンティをおくれ』と全力で答えれるほどのお約束を守り抜く自分の欲など決して見せない無欲な奴なんだぜ」
「結果的には性欲がきっちりと解消されとるの」
「しかし本当にウーロンは偉大だと僕は思うぜ。本来ああいった場面であればいち早く自分の欲のため仲間を裏切ってでもを言うべき場面なんだよ。
 それが悟空あれブルマであれなんであれだ。例えば億万長者になりたいとウーロンが言うよりも早く言えばそいつは億万長者になったんだよ。
 いわゆる争い事の種になるよな、今まで作りあげてきた友情なんて無に変えるぜ。だが、ウーロンという豚は違ったんだ。
 自らが非難の対象になることによってその争いごとを回避させたんだ。
 ギャルのパンティという誰も欲しがらないようない後腐れも残らない様なくだらいものによってな」
「長々とおまえ様はウーロンの立場を昇格させてなにがやりたいんじゃ」
「ようするにだ、時には変態的要素も必要だよな、って話をしたいんだよ」
「主人公あるまじき発言じゃな」

と。
楽しい会話をしている時間もお開きの時間が来たらしい。
瓦礫の山が崩れる音を聞いた。
近くに人がいる。
それを感じ取るには十分なものであった。

僕は忍を追い払い立ちあがる。
いよいよ――――僕の物語も輪廻に入る余地が出来たようだ。
僕は音源の方に視線をやる。
遠くはないようで案外近そうだ。

さて、じゃあ。ようやくと言ったところで。
殺し合い、バトルロワイアルへの初の乱入話を語る時が来たようだから。

精々足掻こうと思う。
反逆劇―――――第一章の始まりだ。

「いくかの―――我が主よ」
「おう、いこうぜ―――忍」


005



その道中。
轟音の根源へと辿りつこうと歩みを進めていたのだが。
僕は一つの危機的状況と遭遇する。
ていうか多分こっちが話の軸になってそうな光景を目の当たりにする。

いる人物は、妙な震え方をしているの白髪女の人を傍らに配置して。
橙色の髪を有する人物を二人の制服姿の女の子と男の子……ではなく二人の女の子が支える。
そのつかまっている奴に対面し何やら呟いている。

という言い方もまどろっこしいのでさっさと正体を明かしてしまおう。
首輪を律義に付けた五人の姿。
確か目に入る奴から順番に言っておこう。
白髪の女性―――そして奇策士、容赦姫もといとがめさん。
制服に身を包むは、病院坂黒猫さん。
違う制服に身を包むは、病院坂迷路さん。
鮮やかな橙色の髪をした奴は、想影真心さん。
そして何やら呪文みたいのを唱え中なのが―――時宮時刻。

って、呪文って―――。
確か奴の呪文って――――。

「おい、忍」
「わかっておる、少々ピンチの様じゃからの」

《操想術》。
いわば、簡易的に行える催眠術。
名簿を見たときからヤバそうな奴とは思っていたが本当に乗ってやがった。

何て思っている場合ではない。
何気に色々と緊急事態である。
少なからず、お喋りをしている暇はなかろう。
忍は僕の影に隠れ、僕はその現場に急いで駆けだす。
別にこそこそと迫るつもりはない。

430 ◆xzYb/YHTdI:2011/12/09(金) 20:34:43
むしろ気を引けたのならそれで既に作戦はほぼ成功している。
呪文を止めれれば―――最重要目標は既に達成したも同然だ。

その作戦通りにことは進んだようで。
ある程度僕が近づいた時、その音に感づいたのか三人の視線を感じた。

ただ僕はその時には目を開いていない。
こいつに限っては、目を開かなければ勝てない相手ではないことを。
《操想術》に妥当することは可能なのは、名簿を見て――――知っている。

だから僕は。
不要湖の中を目をつむりながら走る。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「なっ………!」

恐らく相手、時宮が感じたことについては二つほどあるだろう。
一つに、僕が首輪をしていないこと。
二つに、《操想術》の打倒方法を知っていたこと。
つまり僕がそれなりのイレギュラーであることを感じ取ったのだろう。

「……守れ」

そう時宮のものであろう声が聞こえる。
正直言って僕は目の前の光景を知っている訳ではないのだが、それでも、もうそろそろ時宮と激突するであろう頃あいとみていた。
もしくは避けられているか。その二つに一つだと思っていたのだが。
―――なのだが。

「―――へ?」

僕がぶつかったのは、男性のごつごつした体ではなく、柔らかな女性のものだった。
さらに言うと僕にぶつかられた相手は、吸血鬼性がそれなりに上がって筋力も相応に上がっているはずの僕を受け止めた。
ようするに、時宮時刻を誰かが庇った―――それも異様な筋力を持つ奴が。

だが、まだいける。


まだ殺し合いを何とも思っていない様な奴を打倒するべく手札は残っている。



「忍――――やっちまえ」

途端。
僕の背後から気配を感じたかと思うと。

「ふはははは! ひれ伏せ! 愚民ども!」

変な高らかなる笑い声をあげながら、忍が懐中電灯で照らされて出来た影により―――現れた。
そこからは早かった。
きっと僕の頭上を越えたのだろう(僕の背が低いわけではなく、忍の跳躍力が異常なだけなのだが)。

「しのぶちゃああああああああああああん、キィィィッック!」

なんか変な方向にボルテージが上がっていることはさておいて(どうやら失敗を取り返したいらしい)。
忍は恐らく(生憎だが、万が一に備えて目は瞑っている)、ライダーキックの如く技を繰り出した―――と思う。
前々から思っていたのだが少なくとも初代の仮面ライダーたちはどのように空中からあのような方向転換しながら蹴れたのか不思議ではあったが、
生憎今回のライダーは忍である、そんなニュートンの法則がなんぼのもんだ。
ていうかおい、すげー砂煙が舞ってるじゃねーかよ。
しかし、だ。その時僕が聞いた時宮の声は、またしても。

「守れ」

の一言。
次の瞬間、ドサリ……と言った具合の効果音が僕の耳に届いた。まあそんな可愛いもんじゃなかったけど、一つの方は。
きっと、支えが無くなって真心さんの身体が地に落ちたのと、忍の奴に蹴られた―――多分病院坂のどちらかが吹き飛んでいったのだろう。
……最初見たときから少しは感じ取ってはいたものの、やはりそうだったのかな。
病院坂黒猫さんと、病院坂迷路さんが―――すでに《操想術》に掛かっている。だから、真心さんの体を支えていたのだろう。

まあそれならそうで、解かせればいい。
骨折とかしてないといいのだが。
だが、次に聞こえてきたのは忍が起こす乱闘の音かと思いきや。

「退くぞ、黒猫、迷路」

遠くの方から聞こえた時宮の台詞。
同時に僕の前にいた人物、黒猫さんは足早と立ち去ってゆき、僕はそのまま体重をかけていたせいで転び落ちることとなる。
そして次に聞こえてきたのは。

「おまえ様。逃げられたぞ」

そんな忍からの一言。

「――――は?」

と、伏せていた僕は顔だけでもぱっと上げると、
そこにはいたのは、約三つの人影。

431 ◆xzYb/YHTdI:2011/12/09(金) 20:35:02
倒れ伏す想影真心さんと、呆然としているとがめさんと、やれやれと言った具合の忍。
時宮時刻と病院坂黒猫さん、迷路迷路さんの姿は遠目でうっすらと見えた。
そして、近くにあったガラクタの山を崩壊させつつ、道を崩しながらに進んでいった。

「いやのう、儂が空中に飛んでる間に逃げ出したかと思うと、山を崩してきおるからの」
「いや、そのさせる前の時点でおまえなら何とか出来たんじゃないのか?」
「そうはいうけどのお、あの迷路とか言ったかの。あやつが邪魔して所為でな。なにかと不自由じゃたんじゃよ。本気で薙ぎ払うわけにもいかんしの」
「……成程な」

と、僕は砂埃を払いつつ。
僕は得心もいったので、この話をいったん打ち切る。
過ぎたことを言ったところで仕方がないだろう。

と、言うところで。
僕は残った二人の様子を伺おうと思って立ちあがったんだけど。
同時に駆け足の音。
そして、声。

「おい、おまえら」

乱暴な声。
振り返ると、そこにいたのは制服姿の男―――櫃内様刻。
血相変えて僕たちに迫りくる。
とはいえまあ理由は大方予想付いてるけどさ。

「なんだ、おまえは」

余所余所しいがそう呼ばざる負えないからな。
なんだかまどろっこしいがここは我慢の時だろう。

「病院坂黒猫と迷路ちゃん―――制服姿の女の子二人と一人の男を見なかったか」

案の定、予定調和。
きっとこのタイミングで現れたということはそう言うことなのだろう。
だから、僕は。

「あっちに行ったよ」

と、正直に言い、指をさしておく。
《破片拾い》、最善を尽くす人物。
殺しまでするかはどうか分からないけれど、どうやらあの人物を敵視しているのは目に見えている訳だし。
ここであの男を屈することに成功さえすれば、あの男の無力化に成功する訳だし。

「そっかありがとう」

というと踵を向けて走りだした。
僕はその背中を見ながら、一つ。

「目を合わすなよ」

と助言を一つ。
本当であれば、僕が行くべきなのは分かっているし、
そうでなくとも僕が付いて行くべきなんだろうけれども。
この意識が混濁して身体が麻痺しているような状態の二人を置いていくわけにはいかない。


それこそ、世界よりも目の前の女の子を救った方が後腐れがないし、後悔もしないだろう。


ここで僕が行ってしまったらそれはそれで僕がここにいる存在意義を見失ったも同然だ。
だから、僕はここにいよう。
せめてこの二人が立ちあがるまでは、ここにいよう。
様刻君が返り討ちにされるかもしれないけれど…………どうやらその必要もないみたいだし。



「よっ、ほっ、ふんっ、ぬ……やっと、抜けれたぜ。あー首が痛ぇ」



斑模様な髪が特徴の殺人鬼。零崎人識がここにいた。

432 ◆xzYb/YHTdI:2011/12/09(金) 20:38:31
以上です。なんか鳥が間違って前トリになってるが気にしないでください。
なんか中途半端なところで終わってますが、
「混沌は始まり、困頓はお終い」とのクロスとしてはここで大体終わりですので。
何か感想等頂けると幸いです。

433 ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:42:48
仮投下します。結局、最終日にずれ込んでしまいました。

434青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:44:20

 青色サヴァンと詐欺師の情報交換。
 否、情報交換という名の騙しあい。
 両者が対峙する場所は、会場内から接続できる、
 とあるローカルネットに開設されたチャットルーム。

 第一ラウンド。
 勝者――玖渚友、判定勝ち
 決まり手――貝木泥舟が「球磨川禊」でないことの看破

 続いて、第二ラウンド。
 先手――「球磨川禊」改め「戦場ヶ原ひたぎ」扮する、貝木泥舟
 後手――「黒神めだか」を名乗る、玖渚友
 審判――なし

 初手は以下の通り。

『hitagi>ランドセルランドに向かいなさい』

 ◇ ◇ ◇

「と、このように<<暴力の世界>>は<<殺し名>>7名と<<呪い名>>6名に分類できるのです。
 そして、この私、イオリちゃんは、その中でも、殺し名序列三位であると同時に、
 忌み嫌われ度一位の<<零崎一賊>>の末娘なのです」
「へえー、伊織は殺人鬼なんだな」

 斜道卿壱郎研究所にある、かつて兎吊木垓輔が使っていた研究棟の屋上。
 そこで、無桐伊織と櫃内様刻は話していた。

「おや、驚かないんですね。殺人鬼と聞いて、引くと思ったのですが」
「いや、驚いちゃいるけど。裏の世界がそんな風になってるとも思わなかったし。
 でも、殺人鬼だからって、"殺さないことができない"わけじゃないだろ。
 それに、"助ける"って言ってくれたのに、殺すなんていまさらだろ。そういう趣味でもない限りさ」

 時宮時刻を殺すため、伊織に助けを求めた様刻だったが、
 ――助力を得ること自体はつつがなく終わったものの――
 様刻の意に反し、すぐに出発することはできなかった。
 伊織の同行者たる玖渚友の作業が終わっていなかったためである。
 そこで、様刻は終わるまでの間、
 <<時宮>>を知っているらしい伊織からレクチャーを受けることにした。

「確かに私はそういう趣味をもっていませんが、
 こっちの世界には変態なら人がたくさんいると思いますよ。多分。
 かくいう私も被害者の一人ですから。
 それに、"殺さないことができない"――それ自体はその通りですけど。
 これで結構大変なんですよ、殺すのを我慢するの」
「…………」
「…………」
「…………」
「あっ、大丈夫ですよ。伊織ちゃんは櫃内くんを殺したりしませんから。
 実は事情がありまして。哀川のおねーさんと約束しているのです、人を殺さないと」

435青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:45:25
「哀川って確か、裏の頂点に位置する人だっけ? この実験にも参加させられてるみたいだけど」
「いえ、頂点という何か違う気がするんですが――そう聞こえてしまいましたか?
 ――でも、あの方なら負けることはないでしょうね。何しろ通り名の一つが<<人類最強>>ですからね」
「さっきも思ったけど、凄い通り名だな。<<人類最強>>――もう、その人が優勝でいいんじゃね。
 ――あっ、でも目的は"完全な人間の創造"だったか?」
「確かに哀川のおねーさんが優勝するとしか思えませんね。生身で電車を止められる人が他にいるとは思えません」
「……なあ、そいつ人類に区分していいのか?」

 伊織のいう約束にどれだけの効力があるのか疑問に思ったサマトキだったが、
 イオリが約束を破ることはないだろうと考えた。
 我慢するのがどれくらい大変なのかサマトキにはいまいち実感できないが、
 約束した相手がそんな規格外ではとても破る気にはなれまい。
 ばれた時が怖すぎる。

「それはそうと、玖渚さんはいつまでかかるんだろな。
 まあ、時宮時刻の手がかりさえ見つかれば、どれだけかかってもかまわないんだけど」
「それは私も同じです。人識くんと双識お兄ちゃんに会いたいですよ」
「……お兄ちゃん、か」

 その言葉をきいて、様刻は自らの妹――櫃内夜月を思い出す。
 いろいろと世話のかかる妹だが、サマトキにとってかけがいのない「家族」だ。
 もうここに知り合いはいない。
 それは――どこか皮肉で、しかもささやかなものだが――間違いなく不幸中の幸いだった。

「まあ、双識お兄ちゃんに関しては本当に生きていたら、ですが」
「うん? まだ疑ってるのか。言ってただろ、生き返らせることもできるって。こんだけのことができるんだ。
 それくらいできても不思議じゃないと思うぜ、僕は。ほら、クローンとか使えばできそうじゃん」
「それは反則だと思いますが、そんなところかもしれませんね」

 ちなみに、伊織は他の零崎と積極的に会うつもりはなかった。
 彼女は零崎でありながら殺しを禁じられている。
 また、死を偽装するために他の零崎とほとんど会っていない。
 そのせいか、「零崎」としての意識もどこか中途半端で、人識と双識以外を家族とは思えなかったし、
 曲識が死んだことをきいても大して同様はしなかった。
 ――会ったこともない親戚の葬式で、悲しめと言われても困るだけだ。

「しかし、クローンですか。魅力的な技術ですね。」
「クローンがか? あれか。不死身になれるとか思ってんのか。
 けど、オリジナルとコピーを同一人物と言えるのは、周りから見た場合だけだろ」
「いえいえそうではなくてですね。クローンを自由に作れれば殺し放題じゃありませんか。
 誰にも迷惑はかかりませんし。それなら、哀川のおねえさんも許してくれるんじゃないでしょうか」
「……まあ、許してくれるかはともかくとして、
 あいつらがクローンを使ってるってのは、あくまで仮定だけどな」

 伊織が殺人鬼だと分かっても身じろぎ一つしなかったサマトキではあったが、
 笑顔で"殺し放題"と言う伊織には少し引いた。

「……えーと、本題に戻すぜ。それで、その<<時宮>>に弱点とかないのか」
「うーん、私も直接会ったことはないですからね。
 今までの知識だってほとんどが人識くんの受け売りですし、そこまで詳しくはないんですよ。
 やっぱり、先手必勝ですかね。出会いがしらにブスリと」

436青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:46:44
「できれば即死はさせたくないんだけどな」
「恨みいっぱいですね。PPをなくしてからいたぶりたいというわけですか。
 でも、難しいんじゃないでしょうか。ただでさえ、サマトキくんは操奏術にかかっちゃってるわけですし」
「……ああ、それも考えなくちゃいけないんだよな」
「一緒に考えてみましょう」
「悪い、伊織。この借りは必ず返す」
「まあ、自分で言い出したことですから。伊織ちゃん主人公化計画にもプラスになりますし。
 もちろん、手伝うのは人識くんを探すついでですけど」
「ああ、見つかるといいな、人識が。俺もなにかできることがあれば手伝うよ」

 二人は朗らかに笑いあった。

 ◇ ◇ ◇

『medaka>それはどういう意味だ?』

 ディスプレイに表示された文字を見て、貝木泥舟は満足そうにコーヒーをすすった。
 貝木が初手を打ってから反応が返ってくるまでには、僅かな間(ま)があった。
 その間の長さから相手の動揺具合を量り、次の一手を決める。

『hitagi>皆まで言わせる気?
 hitagi>役に立つと思うわよ。あなたが優勝する気なら関係ないけどね』

 「黒神めだか」の問いにカイキは多くを語らない。
 ただ、思わせぶりなことを言うだけだ。

 ――優勝するつもりの参加者には価値がない
 ――具体的に言うことができない
 この二点から、気づいてくれるだろう。
 いや、気づいてくれなければ困る。

 "ランドセルランドに脱出の手がかりがある"――と騙っていることに。

『medaka>なるほど、言いたいことはわかった。だが、根拠はあるのか』

 返事が返ってくるまでは僅か三秒。
 その速さは期待以上だ。
 この相手なら問題あるまい。
 十分な勝率がある。
 なぜなら貝木が仕掛ている嘘は、相手が優れていればいるほど効果を発揮するのだから。

『hitagi>ないわよ。これはあくまで嘘、いえ、冗談だから。ごめんなさい、時間もないのに』

 そして、ここからが重要だ。
 長すぎても短すぎてもいけない。
 貝木は五秒を数えてから、次の文をまとめて送信した。

『hitagi>さて、次の情報を出すわね。まずは、危険人物について
 hitagi>白い髪に白い着物。長い髪を一つにまとめた女、鑢七実
 hitagi>あちこちが裂けた制服を着た少女、名前は不明
 hitagi>それから、あなたも知っている、江迎ムカエ
 hitagi>この三人は危険よ』

437青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:48:02

 セオリー通りに行くなら、情報は小出しにしていくべきだが、貝木はそうしない。
 むしろ、大量の情報を一気に与える。
 情報を貰い逃げされる可能性など考慮しない。
 貝木の目的は情報を得ることではないのだから。

『medaka>どのように危険なのだ』

 相手の返事が返ってくるまで二秒と少し。
 ここまでは貝木の思惑通りだ。
 そして、次の反応の速さで勝敗が決する。
 三秒以上ならば、貝木の負け。
 二秒で及第点か。
 そう思いながら、次の文を送る。
 今度のはさっきよりもさらに長い。

『hitagi>鑢七実は多分、いわゆる奉仕マーダーよ。
 hitagi>敵意むき出しだけど、情報を欲しがっているみたいだから、うまくやれば隙を作れるかも。
 hitagi>それに、見かけに反してパワータイプだから、不意打ちさえ気をつければ大丈夫よ。
 hitagi>制服の少女は、疑心暗鬼になっているみたい。誰彼かまわず攻撃してくるわ。
 hitagi>説得は無理だと思うから、逃げるか殺したほうがいいわよ。
 hitagi>江迎迎えは、あなたも知っての通り、精神が不安定すぎるわ。
 hitagi>ともに行動するにはリスクが高すぎる。――この状況に怯えてるみたいだし――。
 hitagi>思い込みが激しいから、話術でやり込むのもありだけど、隙をみてさっさと始末したほうがいいわ。だまし討ちがお勧めよ』

『medaka>ふん、言われなくとも<<過負荷>>など生かす気はない。
 medaka>制服の少女にしたって同じだ。たとえ改心したところで、そんな弱い心の持ち主など、足手まといにしかなるまい』

 返事はすぐに返ってきた。
 そのラグは、一秒にも満たない。
 貝木泥舟は相手が策にはまったのを確信した。

 ◇ ◇ ◇

『medaka>ふん、言われなくとも<<過負荷>>など生かす気はない。
 medaka>制服の少女にしたって同じだ。たとえ改心したところで、そんな弱い心の持ち主など、足手まといにしかなるまい』

 玖渚友は自らが打ち込んだ文を見て嘆息した。
 危ないところだった。
 あのペースのまま進めていたら、どうなっていたことやら。
 今の段階で本来の目的を思い出したことは幸いだ。

『hitagi>あら、凄い暴言ね。生徒会長ともあろう人がそんなことをいっていいのかしら?』

 相手の文を見てにやりと笑う。
 こちらが本当に「黒神めだか」か疑っているのだろう。
 だが、玖渚にとってその問いかけは好都合だった。

『medaka>大なる悪を斃すためには仕方のないことだ。
 medaka>余計な詮索はするな。さっさと次を教えろ』

438青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:49:01

 言葉を慎重に選びながら答える。
 あくど過ぎても駄目だ。
 あくまで、「黒神めだか」を演じなければ。

『hitagi>あら、ごめんなさい。じゃあ、次は殺し合いに乗っていない人を教えるわ。
 hitagi>顔面に刺青を入れた少年、零崎人識。
 hitagi>ポニーテールの中学生、あららぎ火憐。
 hitagi>この二人は恐らく、大丈夫よ。
 medaka>どうやって、判断したのだ。
 hitagi>零崎人識については、結果論よ。情報交換をしたけど、襲い掛かってくる気配すら見せなかったわ。
 medaka>その情報交換の中身を教えてもらおうか』

 印象操作に使えそうな取っ掛かりを探しながら情報を交換していく。
 ただし、あまり時間をかけるわけにもいかない。
 幸い、相手も時間をかける気はないようだ。――いや、当たり前のことだが。

『hitagi>始まってすぐだったから、大したことは話していないわ。零崎姓を持つ人に会ってないか聞かれただけよ。
 medaka>いいだろう、続けろ。
 hitagi>アララギカレンはもともとの知り合いよ。ここに来てからは会ってないけど、殺し合いには乗らないでしょうね。
 hitagi>格闘技をかなりのレベルで習得しているけれど、あくまで一般人よ。
 hitagi>賢い子だから、優勝するなんて無謀なことはしないでしょうよ。正義感も強いし。
 medaka>願いをかなえるために殺し合いに乗る可能性はないのか? アララギコヨミという人物は恐らく家族だろう。
 hitagi>そういわれると自信がないわ。確かに、アララギコヨミは彼女の兄だし、仲もいいから。
 hitagi>まぁ、仮に乗っていたとしても見抜くのは難しいかもしれないけど。演技がうまいから。
 medaka>かまわん。仮に乗っていたとしても、一般人程度どうにでもなる』

 あの情報に気を取られたのは大きなミスだったが、なんとかなりそうだ。
 いわゆる対主催のイメージも、消せそうだ。

『hitagi>あら、そう。自信があるのね。ちなみに、これで私の情報は終わりよ。質問はあるかしら?』
『medaka>場所の情報はないのか?』
『hitagi>ランドセルランドだけじゃ不満? あいにく、教える気はないわ。居所を特定されても困るから』

「うにー。詰めがあまいなあ。僕様ちゃんが"黒神めだか"か疑うなら、
 "少年"と同一人物の可能性も考えなくちゃ駄目だよ。そっちの居場所くらいお見通しだって」

 medaka>いいだろう。では、次は私の番だ。

 ◇ ◇ ◇

 medaka>いいだろう。では、次は私の番だ。

 貝木泥舟はその文を見て少しだけ肩を緩めた。
 貰うだけ貰って、情報をよこさない可能性も考えていたが、
 相手にその気はないようだ。
 こちらの目的はすべては果たし終わっているとはいえ、
 貰えるものは貰うに越したことはない。

『medaka>哀川潤に気をつけろ。赤い髪に長身の女だ。
 medaka>骨董アパートの辺りであったが、殺し合いを楽しんでいるようだ。実力も相当のものだぞ。恐らく、優勝候補の一人だろう。
 hitagi>それはそれは。貴重な情報をありがとう。でも、いいの? 場所を教えて。
 medaka>あいにく、私は貴様と違って力があるからな。
 medaka>哀川潤にこそ遅れを取ったが、たいてい奴は返り討ちにできる。
 hitagi>それはうらやましいわね』

439青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:50:02

 情報を頭に叩き込んでいく。
 メモはとらない。
 たとえ手書きであろうとも、文字は信用されやすい。
 騙す道具として最適だが、アキレス腱にもなりうる。
 不用意に書き留めるのは命取りになりかねない。
 必要になってから作ればいい。

『medaka>無駄話はこれくらいにして次にいくぞ。
 medaka>先ほど貴様が行った鑢七実だが、奉仕マーダーだそうだが、対象は鑢七花だろう?
 hitagi>恐らくね。もしかして会ったのかしら。
 medaka>いや、会わなかったが、私が殺した少年が、スーパーマーケットの南西で会ったそうだ。殺し合いには乗ってなかったらしい。
 hitagi>そういえば、その少年の名前は?。
 medaka>強情な奴でな。ついぞ吐かなかった。黒い髪の少年だ。学生服を着ていた。もしかしたら、アララギコヨミかもしれんな。
 hitagi>ふーん、そう』

 情報は吐いたのに、名前は不明――それは不自然だ。
 やはり、この相手は「黒神めだか」ではないかもしれない。
 しかし、名を偽っているのはこちらも同じだ。
 下手に指摘すれば、こちらに飛び火しかねない。
 この会話ログは大事な手札の一つだ。
 余計な詮索をして不純物を混ぜらても困る。

『medaka>それから、時宮時刻。こいつは大したことがない。逃げ足が早いだけの奴だ。
 hitagi>もしかして、殺そうとしたの?
 medaka>思い出すだけで忌々しい奴だ』

「……考えることは同じか」

 ここまでの会話から推測できる「黒神めだか」は、過剰で偏った正義感を持った人物。
 そして、自らの悪評が広まることに考えがいっていない、もしくは気にしていない人物。
 だが、――気にしていない可能性はともかく――考えがいっていないことはありえない。
 この相手はその程度ではない。

『medaka>それはともかく、これで私の情報は全てだ。
 hitagi>ずいぶん少ないわね。まだ隠してるんじゃない。
 medaka>そういう貴様こそ、やけに多くの参加者と会ったようだな。捏造しているのではないか。
 hitagi>そんなわけないでしょ。ログが残るチャットで嘘など付くわけないでしょ』

 恐らく相手は――本人かどうかはともかくとして――
 「黒神めだか」の噂を意図的に広めたいのだろう。
 それも、危険人物として。

『medaka>どうだかな。まあ、その度胸は褒めてやる。もし会ったら、そばに置いてやろう。
 hitagi>それは楽しみだわ。ぜひそうしてね。もし会ったら』

 なにはともあれ、目的は果たせたようだ。――"お互いに"
 見方次第では、貝木と「戦場ヶ原ひたぎ」は共犯ともいえるかもしれない。
 まあ、せいぜい騙されてもらおう、馬鹿な参加者共には。

440青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:50:51

『hitagi>じゃあ、せいぜい頑張って私の嘘をあばいてね。さようなら。
 medaka>ああ、貴様もせいぜい殺されないようにがんばるんだな。
 ―hitagi = Log Out―
 ―medaka = Log Out―』

 ◇ ◇ ◇

「どうしようかな。結局いーちゃんの情報は得られなかったし」

 ログを読み返しながら、玖渚友は嘆息する。

「うーん、それにしても危なかったよ。うっかり"黒神めだか"の印象操作をし忘れるとこだった。
 修正はできたと思うけど、いまいちだなあ」

 "あの情報"に反応してしまったのは失敗だった。
 あれでは興味があると思われても仕方がない。
 これで、"黒神めだか"に脱出重視のイメージが付いてしまった。
 結果的に危険対主催のイメージを植えたものの、十全ではない。

「貰った情報にしても、ここまで僕様ちゃんの持ってるのとは相性が悪いし。
 全部かぶると貰う意味がないけど、全くかぶってないと推理もできないや」

 情報を頭の中で組み立て、真偽を推理していく。
 すぐに分かるのは、零崎人識の情報くらいだ。
 人識が無桐伊織のことを話していないのはおかしい。
 また、江迎ムカエの情報も怪しかった。
 「戦場ヶ原ひたぎ」がもたらした情報の中に、箱庭学園の関係者は江迎しかいない。
 相手は箱庭学園のことを中途半端に知っていたが、その情報ソースは江迎である可能性は十分にある。
 だとしたら、自らの正体を隠すために、江迎を始末したがっても不自然ではない。

 零崎人識と江迎ムカエ、この二人の情報には気をつけたほうがいい。
 そう結論付けた玖渚であったが、しかし、それ以上の推理はできなかった。
 いや、そんな些細なことを推理している余裕はなかった。

「あの情報さえなければ。どんなつもりでくれたのか知らないけど、有難迷惑だよ。
 むしろ鬱陶しいや。なんてものを押し付けてくれたんだよ」

 "ランドセルランドに行きなさい"
 玖渚友は貝木泥舟の期待通り、メッセージの裏を正確に読み取っていた。

 根拠がない、といったことも。
 冗談だ、と断ったことも。
 時間もないのに、と謝ったことも。

 そのすべての意味を悟っていた。

 その上で、玖渚友は改めて考える。
 あのときは、主催者の監視を恐れているのにハッキングを恐れないことや、
 手がかりを見つけたにもかかわらずネットカフェにいるのをおかしく思ったが、
 工学的な知識、技術が必要で、なおかつ、
 その情報がすでに主催者にばれていると仮定すると、疑問はなくなった。
 また、"時間もないのに"という言葉から、
 その手がかりに何らかの時間的制約があると読み取り、
 かつ、自らの本来の目的を思い出して、思考を強制中断してしまった。

441青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:51:39

 しかし、落ち着いて考えれば、その情報の信憑性は零に等しい。
 あのとき考えた仮定にしたって、
 「戦場ヶ原ひたぎ」が放送をまたいでネットカフェに滞在している点を加えると、
 おかしくなってしまう。
 もちろん、その疑問にだって説明をつけようと思えばつけられるが、
 その説明もまた、新たな疑問を呼び寄せてしまう。
 その繰り返しばかり。

 罠である可能性は十中八九どころではない。

 だが、それでも無視することはできなかった。
 これが他の情報なら、推定有罪にしてしまえばいいのだが、脱出の手がかりとなると話が違う。
 仮に本当だった場合、無視することは脱出の手がかりを捨てることになりかねない。
 それは避けたかった。

 それに、クナギサはその情報を嘘だと断定できなかったことも問題だった。
 次から次へと沸いてくる疑問だったが、不幸なことに、玖渚はそのすべてに対し説明をつけられてしまった。
 嘘でない確率が零でないことを確かめてしまった。

「どうしようかな。僕様ちゃん自身が行くかはともかく、なんらかの手を打つ必要はあるかな。
 ――嘘でも本当でも、いいように踊らされてる気がするけどね」

 玖渚は自嘲する。
 先ほどのやり取りで玖渚は自らの目的を果たした。
 しかし、それだけでは「戦場ヶ原ひたぎ」に買ったとはいえないだろう。
 むしろ、相手の情報に頭を悩ませている現状を見るに、負けたというべきだ。
 挑発に乗っておいて、なんてざまだろう。

「ホント、話術では負けちゃったって感じかな。でも、負けっぱなしにするつもりはないけどね。
 なんたって、僕様ちゃんは裏技をもってるからね。伏線だって張ってあるし」

 ディスプレイに向き合うと、キーを連打し始める。
 ネットカフェのパソコンが起動してないのを確認し、
 "作業"を始めた。

 先ほどの「戦場ヶ原ひたぎ」と「黒神めだか」の会話ログから察するに、
 このログが他の参加者に見られることを前提として、
 相手が情報の提示をしていることが玖渚には分かる。
 ――同じことを玖渚も考えていたから。

 となると、相手にとってこの情報交換はあくまで後々の伏線でしかないだろう。
 勝負なんて言ってこそいたが、「黒神めだか」など相手の眼中にはないのだろう。

 その具体的な思惑まではわからないが、
 会話ログが「戦場ヶ原ひたぎ」の手札であることがわかれば十分。
 おそらく、相手は嘘の根拠としてこの会話ログを使うつもりだ。
 嘘だとばれても、ログにそう書いてあったと主張すれば、
 責任は「戦場ヶ原ひたぎ」や「黒神めだか」に押し付けられる。

442青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:52:39

 しかし、それは会話ログが不変であることが前提。
 もし、相手の知っている会話ログと"現在の"会話ログが違っていれば、
 「戦場ヶ原ひたぎ」や「黒神めだか」のせいにすることはできない。
 むしろ、窮地に立たされるだけだ。

『hitagi>鑢七実は、いわゆるマーダーキラーよ。敵意むき出しだけど、誤解しないように。
 hitagi<間違っても攻撃しないこと。好戦的で強いから、命の保障はできないわ。
 hitagi>まあ、見かけに反してパワータイプだから、逃げる文には問題なさそうだけど』

『hitagi>零崎人識は多分安全よ。情報交換をしたけど、襲い掛かってくる気配すら見せなかったわ。
 hitagi>それに、立ち振る舞いが素人じゃなかったわ』

『medaka>クラッシュクラシックの辺りで会ったが、てんで話しにならんな。
 medaka>自称最強の痛い奴だ。評価できるのは、言い訳と逃げ足の速さくらいだろう』

『medaka>いや、会わなかったが、私が殺した少年が、西東診療所の南で会ったそうだ。殺し合いには乗ってなかったらしい。
 medaka>それから、トキノミヤジコク、こいつは奇妙な術を使う。気をつけろ』

「ログなんかあてにしちゃ駄目だよ。そんなものどうにでもなるんだからさ」

 玖渚はログを書き換えていく。
 どちらの発言かは気にせず適当に。
 玖渚友の目から見てもでたらめになってしまったが、
 それくらいがちょうどいいだろう。
 "いーちゃん"なら、情報が出鱈目だと気づくだろうし。
 ヒントだって残してる。

「んで、これは……ホントなら消しとくべきだけど、仕方がないかな」 

『hitagi>ランドセルランドに行きなさい』

 現時点では決めてこそいないものの、
 ランドセルランドに行くことを選択肢として残している現段階では、
 このログを見た危険人物と会うのを防ぐためにも、削除するべきだった。

 しかし、玖渚は手をつけない。
 もし、この情報が本当だった場合、ランドセルランドに向かう参加者は多いほうがいい。
 時間的制約の可能性を見出してしまった以上、伝える参加者をえり好みする余裕はないのだ。
 まして、この情報を主催者が得ていれば、最悪、6時間後には禁止エリアになってしまうのだから。

「よし終わりっと」

 仕上げとばかりに、自らが開設した掲示板に書き込みを行う。

『iori>チャットログを見てください。おもしろいものがありますよ』

 これで一勝一敗だ。
 球磨川禊でないことを看過したことも含めれば、玖渚は二勝。
 しかも、相手は負けたことに気づいていないのに対し、
 玖渚は自分がどこで負けたか気づいている。
 見ようによっては、二勝零敗。

443青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:53:26

「せいぜい信用を落とすんだね」

 玖渚友はにっこりと笑った。

 ◇ ◇ ◇

「……まずいな」

 貝木泥舟は手に持ったカップを一瞥すると、中のコーヒーごとダストボックスに捨てた。
 きまぐれとはいえ、ミルクとシュガーをいれたのは失敗だった。
 ただでさえ薄いコーヒーは、ミルクによって味を曖昧にされ、砂糖の甘さだけが際立ってしまった。
 とても飲めた代物ではない。

 次からは気をつけることにしよう。――貝木はそう思った。

「さて、どうするか」

 地図を眺めながら先ほどのやり取りを思い返す。

 貝木の思惑は十全に果たされた。
 それはひとえに「黒神めだか」が優秀だったからだ。 

 "ランドセルランドに行きなさい"

 あの短時間で情報の真偽を暫定的に判断できる者は多くはいまい。
 示唆していることにすら気づかない者もいるだろう。

 だが、「黒神めだか」は気づいた。
 しかも、情報を検討し、信じる価値があると判断した。
 ――あの短時間に、独力で。

 普通ならこうはいかない。

 凡俗なものは疑問を覚えたとき、人に尋ねるか、辞書やネットなどから調べようとする。
 それは、怠けているわけではなく、ただ単にそうするのが早いから。
 さっきのようなシチュエーションが訪れれば、それとなく根拠を聞きだそうとするだろう。――監視のリスクを犯してでも。

 だが、天才は違う。

 天才は疑問が生じても人に尋ねない。
 代わりに、自分で考える。
 そうするほうが早いから。聞いたり調べるとかえって時間がかかってしまう。
 監視のリスクなんて無駄なものを背負う必要はないのだ。

 おかげで、貝木の嘘は揺らぐことがなかった。
 もし根拠を聞かれていたら、ボロがでていた可能性もある。
 なにしろ、フォローする材料を用意していないだから。

 定石通りにいくなら、相手に「情報」を信じさせるため、もっともらしい「根拠」を用意するところ。
 しかし、貝木にそんな面倒くさいことはしない。――「根拠」など相手に考えさせればいいのだから。

444青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:54:11

 どれだけもっともらしい「根拠」を与えたところで、ばれる時はばれる。
 常に信じられるのは、自分だけ。他人なんて信用ならない。
 しかし、その「根拠」を考えたのが騙される本人だった場合はどうか。

 「詐欺師」が「根拠」を考えた場合、
 その「根拠」が間違っていると気づいたとき、
 「相手」は「情報」も間違っていると思うのが普通だ。

 しかし、「相手」が自ら「根拠」を考えた場合は違う。
 「根拠」に矛盾が生じても、大本の「情報」を疑うのは稀。
 むしろ、「根拠」に正当性を与える新たな「根拠」を探してしまう。
 「情報」を否定するためには、自らが考えた「根拠」を否定しなくてはいけないから、それを避けるために。
 相手の間違いを指摘することは簡単だが、自分の間違いを認めることは難しい。

 そして幸いなことに、「相手」は「詐欺師」の嘘を見破り、
 「詐欺師」とわかった上で情報交換ができる人物だ。
 貝木の代わりに「根拠」を考えてくれる。

 とはいえ、こんな手は常なら使わない。
 嘘は大きければ大きいほどいい――なんて言っても、実際のところ、
 多くの者は大きな事態に直面すると逃げてしまう。真偽の判断すらせずに。
 宝くじを買わない人は多いが、保険に入らない人は少ない。
 危ないものには近寄らざるべし。

 だが、"脱出の手がかり"は例外だ。

 ここでは、あらゆる結果は"生きる"か"死ぬ"に集約される。
 優勝か脱出、それ以外の"生きる"方法はないに等しい。
 "生きる"に直接つながる"脱出の手がかり"の価値は莫大だ。
 そして、嘘だったとしても、"死ぬ"可能性が増えるだけだ。
 しかし、"死ぬ"リスクは、ここに招かれた時に背負ってしまっている。
 それも膨大に。
 十万の借金が百万になるのは嫌でも、一億が一億百万になるのは案外気にならない。
 人が一生に稼ぐお金を二億〜四億とすると、すでにそれだけの負債を抱えているともいえるだろう。
 なんであれ、膨大すぎるものは人の感覚をマヒさせる。
 逆に言えば、量が少ないものはそれだけでありがたがられる。
 例えば、希望とか。

 まあ、実際の思考過程はわからないし、
 相手が今も信じ続けているとは思えないが、
 少なくともあの時点では信じていた。
 それだけで貝木にとっては十分だった。
 それに、究極的には信じようと信じまいと同じことだ。
 あんなのはただの伏線にすぎないのだから。

(得られたネタは思ったよりも少なかったな)

 哀川潤、鑢七花、時宮時刻。そして、黒神めだか。全部で四人分。
 鑢七花の情報は鑢七実への保険になるかもしれない。うまく使えばやり過ごせるだろう。
 哀川潤、時宮時刻の情報は、現時点ではどう生かせるかわからない。おいおい、使い道を考えていこう。
 黒神めだかの情報は諸刃の刃だ。恐らく、多大な嘘が混じっていることだろう。
 下手に使えば自らの首を絞めかねん。だが、使い方次第ではとんでもない役に化けるだろう。

445青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:54:57

(せいぜい使わせてもらおう)

 貝木はこの情報を信じるどころか、
 検証する気すらほとんどなかった。
 ただ、相手を騙す手段にするだけ。
 たとえ間違っていたところで構わない。
 責任は「黒神めだか」にかぶせてしまえばいい。

(あとは、あの情報がうまく働いてくれればな)

 貝木の目的、それは阿々々木火憐の印象操作だった。
 詐欺師としての貝木泥舟を知っている者は、邪魔以外の何者でもない。
 今後の展開を見据えると早いうちに手を打っておく必要があった。

 対象は三人。阿々々木暦、阿々々木火憐、戦場ヶ原ひたぎ。
 
 阿々々木暦はすでに死んでいる。
 戦場ヶ原ひたぎは、名を借りて「詐欺師」に仕立て上げた。
 そして、阿々々木火憐には"賢い"というイメージを与えた。
 重要なのは、どっちつかずな状況を作り出すこと。
 チャットログから火憐の情報を得たものは、本物とのギャップに戸惑う。
 賢いとは見えないだろうから、「戦場ヶ原ひたぎ」の情報を疑うだろう。
 しかし、"演技がうまい"、"死んだ阿々々木暦と仲がいい"という情報のせいで断定ができなくなる。
 火憐が優勝して暦を生き返らせるために馬鹿なふりをしているのではないかと、疑わざるを得ない。
 ひたぎや火憐が悪評をばらまけば、貝木も疑いの対象になるだろうが、問題ない。
 灰色でさえあれば、黒にすることも白にすることも、容易いことだ。

 そして、その情報をチャットログに残すにあたり、追求はできるだけ避けたかった。
 やりすごす自信も用意もある。
 しかし、この時点で詳細に説明すると、後々身動きがしづらくなる。
 そこで、貝木は「黒神めだか」の思考力を削るために、
 "ランドセルランド"というスケープゴートを用意した。
 あれだけの重大情報があれば、どうしても思考力はそちらに割きがちになる。
 ――考えないことは難しい。

 "時間がない"というのもその戦略の一つだ。
 "脱出の手がかり"に時間的制約があるとわかれば、急ぐあまり情報交換は雑になるだろう。
 情報をまとめて出したのも、"時間がない"ことへの裏づけと、相手の考える時間を減らすためだ。
 もちろん、相手がこちらの示唆に気づかない可能性は気がかりだったが、
 ――気付かなければ、思考力はともかく、時間を減らすことはできない――
 相手は瞬時に気付き、その上、情報交換を巻きでやってくれた。

 あまりに思惑通りで、貝木が驚いたくらいである。

 ちなみに、江迎怒江を危険人物に指定したのに深い意味はない。
 死んでくれたら貰いもの、程度。
 正直、江迎は手に余る。
 感情的で思い込みが激しすぎる。
 思い込みが激しい人物は騙しやすいが、コントロールは難しい。
 恋心が憎しみに変わることは珍しくない。
 女の逆上ほど怖いものはないのだ。
 ――まあ、会えば再び手駒にするだろうけど。

446青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:55:45

(さて、行くか)

 荷をまとめて外に出る。
 こちらの居場所が分かるとは思わないが、
 先の「黒神めだか」が襲撃してくる可能性は零ではない。
 そうでなくとも、ここについてから数時間経つ。
 立地も比較的中心であるし、これ以上の滞在は危険だろう。

「……次のカモを探すとするか」

 ネットカフェの自動ドアをくぐり、貝木泥舟は歩き出した。
 コンクリートに転がっていたゴミが踏みつけられ、クシャリと音を立てた。





【1日目/朝/D‐6ネットカフェ】
【貝木泥舟@化物語】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜8)、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、貴重品諸々、ノーマライズ・リキッド」
[思考]
基本:周囲を騙して生き残る
1:ネットカフェから離れる
2:ランドセルランドには当分の間近づかない
3:怒江はとりあえず保留
[備考]
※貴重品が一体どういったものかは以後の書き手さんにお任せします。
※「」で括られている物は現地調達の物です。
※取得した鍵は、『箱庭学園本館』の鍵全てです。

※貝木泥舟が得た情報は以下の通りです。容姿は省略します。
・哀川潤 骨董アパートの辺りで遭遇。殺し合いを楽しむ危険人物。実力もあり。
・鑢七花 スーパーマーケットの南西にいた。殺し合いには乗ってなかった。
・時宮時刻 逃げ足だけの雑魚





 ◇ ◇ ◇

『ランドセルランドですか。罠かもしれませんが、確かに見過ごせませんね』
『僕はどっちでもいいけどな。時宮時刻を殺すこと以外は、二の次だ』
『そうなんだよねえ。しかも、本当だとしても主催者にばれっちゃってるかもしれないんだよねえ』

 兎吊木垓輔の研究棟の、とある一室。
 "作業"を終えた玖渚友は「戦場ヶ原ひたぎ」から得た情報を
 無桐伊織と櫃内様刻の二人と共有するべく、話し合いをしていた。
 "脱出の手がかり"のこともあるので、一応筆談である。

447青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:56:39

『嫌な人ですね。貧乏くじを押し付けようって気、満々じゃないですか。
 人識くんの情報も、嘘っぱちみたいですし』
『残念だったな、伊織』
『そういう様刻くんこそ、時宮時刻の手がかりが得られなくて、残念でしょうに』

「…………」
「どうしたんですか」

『いや、なんでもない』

 ちなみに、様刻は人識と会ったことを伊織には話していない。
 この斜道卿壱郎研究所で会ったことを知ったら、
 痕跡を探すために出発が遅れるかもしれないと思ったのがそもそもだ。
 しかし、玖渚の作業の間に話さなかったのは、時宮時刻対策に熱中しすぎたせいである。
 いや、話す時期を逸したというべきか。
 数時間前のことである。いまさらだ。

『僕様ちゃんもあの詐欺師には困ったよ。情報もほとんど引き出せなかったし』
『玖渚さんがそう言うなんて。その詐欺師には気をつけなくちゃいけませんね』
『うん、手も足もでなかった』

 様刻が伊織に隠し事をしている一方で、
 玖渚もまた、「黒神めだか」の印象操作をしたことをと話していなかった。
 伊織の名前を借りたのは話したが、
 ――玖渚が情報に精通していることを知るものが、
 妙な勘繰りをするのを避けるためであり、
 また、伊織もさして咎めはしなかった――
 印象操作を隠しているのは故意、いや、悪意ゆえだった。

『というか、僕はどこに向かえばいいんだ?
 あれから数時間経っちまったし、方角だけでも知りたんだけど』
『ごめんね、様刻君。僕様ちゃんを待ったせいで』
『あ、いえ。玖渚さんは悪くありません。
 僕一人でやらなくちゃいけないのに、手伝ってもらってるんですから』
『じゃあ、ランドセルランドに向かうのはどうですか? あてもないことですし』
『でも、危険だよ。人が集まってくるかもしれないし』
『僕はかまいません。時宮時刻を探そうにも方角すらわからないし、
 とりあえず、伊織と玖渚さんに付いていくつもりです。
 ――ここに立てこもるっていうならともかく』
『私も様刻くんと同じです。玖渚さんのボディーガードをすると決めましたから』

 無桐伊織と櫃内様刻は、手元の紙から顔を上げて、玖渚を見た。
 殺意やら悪意を、それぞれに抱えている三人ではあったが、
 その部屋の中はどこか和やかな空気に包まれていた。

「うにー。困っちゃうなあ」

448青色サヴァンと詐欺師のデュエット ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:57:19

 玖渚友は苦笑した。





【一日目/朝/D-7斜道郷壱郎の研究施設】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]殺人衝動が溜まっている
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)、謎の黒い物体
[思考]
基本:玖渚さんと行動する
 1:玖渚さんの提案を聞く
 1:玖渚さんのボディーガード。
 2:とにかく、人識くんと合流したい。
 3:双識お兄ちゃんとも会いたい。
 4:様刻君を助ける 。
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※零崎一族が全滅する前からの参戦、もしくは、その事実を知りません。
 ※「時宮」への対策を櫃内様刻とともに練りました。成果は不明。
 ※謎の黒い物体が何なのかはまだ分かっていません。


【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本:時宮時刻を殺す
 1:玖渚友の提案を聞く
 2:無桐伊織、玖渚友と同行する
 3:時宮時刻の情報を集める
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※無桐伊織から<<暴力の世界>>や赤き制裁について簡単なレクチャーを受けました。
 ※「時宮」への対策を無桐伊織とともに練りました。成果は不明。


【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 1:ランドセルランドのことも含め、どうするか決めなくちゃいけないよね。
 3:舞ちゃんに護ってもらう。
 4:いーちゃんとも合流したい。
 5:ぐっちゃんにも会いたいな。
 6:様刻くんが同行してもかまわないよ。
[備考]
※「ネコソギラジカル」上巻からの参戦です。
※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイヤルについての情報はまだ捜索途中です。
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました。

※ランドセルランドを含め、玖渚友がどうするかは不明


※玖渚友が得た情報は以下の通りです。容姿は省略します。無桐伊織、櫃内様刻と共有済みです。
・ランドセルランドに脱出の手がかりがある
・鑢七実 奉仕マーダー。情報を欲しがっている。見かけに反してパワータイプ
・(西条たまも) 無差別。疑心暗鬼になっている。名前は聞いていない。
・江迎怒江 怯えてる。精神的に不安定。
・零崎人識 多分安全。零崎姓の情報を求めている。
・阿々々木火憐 阿々々木暦の妹。賢い。正義感が強い。格闘技を習熟。演技がうまい。兄妹仲がいい。戦場ヶ原ひたぎの元からの知り合い。


※現在チャットログには以下の情報が書き込まれています。
・"ランドセルランドに脱出の手がかりがある"(ただし、直接そう書いてはいない)
・鑢七実 マーダーキラー。好戦的で強い。敵意むき出し。見かけに反してパワータイプ。
・(西条たまも) 無差別。疑心暗鬼になっている。名前は聞いていない。
・江迎怒江 怯えてる。精神的に不安定。
・零崎人識 多分安全。零崎姓の情報を求めている。
・阿々々木火憐 阿々々木暦の妹。賢い。正義感が強い。格闘技を習熟。演技がうまい。兄妹仲がいい。戦場ヶ原ひたぎの元からの知り合い。
・哀川潤 自称最強の痛い奴。逃げ足と言い訳だけは評価できる。クラッシュクラシック辺りで会った。
・鑢七花 西東診療所の南にいた。殺し合いには乗ってなかった。
・時宮時刻 奇妙な術を使う。自らの分身を見せる。

※現在掲示板には以下の書き込みがあります。
iori>チャットログを見てください。おもしろいものがありますよ。

449 ◆ai0.t7yWj.:2011/12/11(日) 15:59:46
仮投下完了です。指摘・感想・意見、よろしくお願いします。

450 ◆ai0.t7yWj.:2011/12/14(水) 21:50:00
test

451 ◆ai0.t7yWj.:2011/12/14(水) 22:18:05
すみません。いろいろと読み返したら前の話との整合性が取れていませんでした。
リレー小説としてこれではあんまりだと思うので破棄します。

それから、今回書いていて気になったことを挙げておきます。
僕が書くとは限らないですが、参考までに。

玖渚友と貝木泥舟が会話している場所は、チャットルームのように自由に見ることができるのか?

『なに、単純なことだ。――――ここにいた少年を殺したからだ』
『勿論、最初の少女が姿を偽っている可能性は普通に考えて高い。』
少女←誤植?

玖渚友は、生徒会選挙戦を途中までしか知らない?
(志布志戦の後のめだかの言動は解釈の余地ありとして、球磨川が生徒会入りしたことを知っていたらめだかを敵視する必要はないのでは)

今回、自分の力量を思い知りました。
書くのを止める気はありませんが、一度プロセスを見直してみようと思います。
それと、破棄こそしましたが「青色サヴァンと詐欺師のデュエット」の駄目だしをしてくれると今後の参考になるので、時間のある方はお願いします。

452 ◆xR8DbSLW.w:2011/12/15(木) 18:32:42
破棄、了解しました。

で、まだ作品は完成してないので後回しといたしまして。
指摘の方を受けましたので返答をさせていただきます。
自分の質問に対する受け取り方が間違っていたりしていたらまたその時は言って頂きたいです。

では、まず簡単なのから「少女が誤植かどうか」ですが。
誤植ではなかったと記憶しています。
確かそのパートというかその節の地の分は貝木を焦点と当てていた地の文だったかと思いますので、
一番最初に現れた時には
少女っぽい口調で話していた玖渚のことを「最初の少女」という言葉に置いたかと思います。
ですが、別に変えちゃダメなところでもないと思いますのでまだ分かりづらければそれはそれで変えていこうと。

「チャットルームの閲覧」については、後続の書き手さま方に一任してもよろしいかと。
というより玖渚の操作一つでログそのものを消せるという可能性も秘めてますし、
そもそもチャットなのかも怪しいかな、と。
(貝木が玖渚によって無条件でそういうサイトに飛ばされたところなどを見ると)

そして最後に「玖渚のめだかボックス認知度」ですが。
確か理由づけとしましては、こういったことを考えていたかと。
そもそも、玖渚はそのビデオを早送りで見ていました。故に情報も途切れ途切れ。
いわば簡単な流れ、簡単な台詞程度しか読み取っていません。

というのもありますが、簡単に言うと。乱神モードのあれです。
あの、球磨川とめだかと善吉の紹介ページを見せていた、って描写を加えていたと思うんですけど。
(ここから自分が描写してなくて申し訳ないのですが)
そこで玖渚は善吉の「普通」は知っていたわけです。で考えた。
別に人吉善吉が死ぬことは普通にあり得る話である、と。
そこで彼女はプロフィールに書いてあった「乱神モード」というものを考慮しておいて、

①本編で触れたとおり、「正義」としての黒神めだかを優勝させない、蹴落とすため。
②「暴走」としての黒神めだかを発動させる前に誰か強力な対主催の矛先を向ける為。
 及びそう言った噂を聞いた戯言遣いが黒神めだかと接触を極力避けるように仕向けるため。

つまり黒神めだかがどのような時期であれども、彼女の行動自体は変わりませんし。
玖渚が黒神を敵と認識したのは、バトルロワイアルという不確定要素であるが故。
(時計台のめだか(改)のような人格支配に陥る事態もあることを恐れて。時宮もいるし)

みたいな感じですね。
後付け設定みたいで申し訳ないですが、この様な形で。
不明瞭でしたら、また言ってください。
必要であればWIKIで少々内容の補完をさせていただきます。
それでは以上です。

453 ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:23:56
>>451への追加回答。

作品自体の感想ではないのですが、一つ気になったことが。
予約中に死者スレに投下するのは如何なものか、とは失礼ながら感じました。
もちろんのこと、このロワ自体を盛り上げてくれるのは大変嬉しいことではありますし、
氏は気分転換程度で書いたかもしれません。
ですが、残念ながら破棄する結果にいたりました。
氏が改めて見直して、おかしいなと思えるのでしたらそれはきっと時間が足りなかったということ。
無論それは本来であればしょうがないことです。
しかし今回の場合は氏に時間が全然なかったかのようには思えません。
こういった言い方はどうかとは思いますが、死者スレに投下なされるぐらいには。

まあ要するに僕から言いたいことは。
その一:根詰めろとはいいませんがあくまで予約中は執筆優先で頑張ってもらいたい。
その二:そういうのが難しそうであるならば、ある程度書きためしてから(既にしてもらっていたら申し訳ない)予約する
………かな。

ちょっと自分としては「これってどうなの?」とは思いましたので、一応言っておこうかと思います。
氏、ないしは読み手さま方、他の書き手さま方に不快な思いを必要以上に与えてしまったのであれば大変申し訳ございませんでした。


では自分でハードルを上げてしまったかのような気もしますが、
黒神めだか単独SSの投下をしていきます

454ローリンガール(ロンリーガール) ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:25:54


 □


「問題ない。」と呟いて


 □



人吉善吉。


改めて言うと、彼は普通だった。
普通だった。
さながら空気の如く、当たり前のように黒神めだかの隣にいた少年。

普通に弱くて。
普通に怖がりで。
普通に頑張って。
普通に悔しがり。
普通に優しくて。
普通に怒って。
普通に抗って。
普通に戦って。
普通に努力して。
普通に強くなって。
普通に人を好きになり。
普通に誰かを守りたいと思い。

だからこそ、普通に格好いい彼は――――死んだ。

いつだって挫けなかった彼は。
いつだって諦めなかった彼は。
いつだって屈しなかった彼は。

確かに目的を成し遂げた。
けれど、死んだ。

普通に勝って。
普通に負けた。

ゲームに勝って、勝負に負けた。
めだかを救うというミッションは成功した。
生きて主催者を打倒するというミッションは失敗した。

勝ったり負けたり。
何処にでもあり触れていた少年はやはり普通であり。


普通に終わる。


彼、人吉善吉の人生はそんなものであった。

455ローリンガール(ロンリーガール) ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:26:35



 □


意外なことに。
彼女、黒神めだかの激情の鎮まりは早かった。
ぺたり、といった具合に沈んでいた重い腰をあげ。

彼女はそのグルグル巻きの包帯を整えて、検分する。
彼女は瞳から流れる涙を手で乱暴に拭い、傍観する。
彼女は傍らにある親しき仲であるものを、観望する。

思い返せば、十三年間。
色々なことがあったと思う。

特に彼女の通う学校、箱庭学園に通ってからは色鮮やかな生活を送れていた。
波瀾万丈、波瀾曲折。
意気揚々、意気衝天。
果敢へと勇んでゆくその主人公の物語は褪せを見せない。
日頃常にいつだってその主人公の物語は鮮やかに魅せた。
まるで週刊少年ジャンプの如く、飽きを見せない華麗なるストーリー構成は確かに主人公の貫録だろう。

そんな彼女は、今。
視線を現実へと向ける。

決意の意思を瞳に宿して。
意識を現実へと向ける。

視線と意識を向けられた現実は、やはり変わらず殺し合い。
「バトルロワイアル」と称された馬鹿げた実験。
フラスコ計画の延長線上なのか、はたは全く違う実験なのか。
今の彼女には分からない。
分からない故に、全貌がつかめない故に、手の施しようがない。


彼女は毅然とした態度でそんな現実を、眺める。
眺めて、嘆息。そして心のうちでは燃えあがる。

「―――――さて」

さて、そんな具合で。
彼女は言葉を漏らす。
彼女は泣き喚いた後の第一声を、感慨もなく呟いた。

目の前の死体――――――――人吉善吉の死体を一瞥。
丁度肺の辺りにポッカリと開くその傷口からは、未だに生の証であった真紅の血液を惜しげなく垂れ流す。
本人の意思なんて無視して、否。この場合既に彼の意思などこの世には無いのだが。

彼女は一瞥をくれた後、一旦瞳を閉じて視界から光を失くす。
視界に広がるのは、無限の闇。


「―――――さて」

再度、退屈そうに同じことを呟き、瞳を開ける。
一度空を仰いで、薄らと浮かび上がってきている朝日へと目をやった。

そして指を、唇へと持ってきてなぞる。

「………ふ、これは善吉にしてやられたな」

思い返すは、彼。
人吉善吉の死の直前に起きた光景。

彼は決死の思いで最期の言葉を紡いだ。
彼は必至の想いで最期の行動へ移した。

その思いは、今にして振り返れば行橋未造の『異常性』をもってするまでもなく、理解出来た。
彼の思いを、彼の愛を、彼の直向きさを。
奥歯で噛みしめる、この苦痛を。

「―――――ふむ」

半ば放心にも似た心境で彼女は零す。
視線は相変わらず人吉善吉に向いており、
感動の再会にはあまりにも程遠い再会を前にして、彼女の心は確かに揺れた。


だが。


これで、乱心―――乱神したままで終わる程。
この黒神めだかは甘い存在ではなかったということだ。

彼女は無意識に思い返していた。

かの夏の日。
生徒会戦挙、書記戦。黒神くじら対志布志飛沫の戦いを。

456ローリンガール(ロンリーガール) ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:26:59
正確に言うと、黒神くじらが発生させた『凍る火柱』という過負荷を。

体温を操る過負荷。
熱くも、寒くも、自由自在。

生憎のところ。
今の彼女にとっては、その全ての力を吸収するには叶わなかったが、


頭を冷やすことぐらいなら体現できた。


だから、彼女は徐々に落ち着き始めるに至れた。
だから、彼女は普段通りに元に戻ることに成功する。

だからこそ。
だからこそ彼女は、悲しんだ。

その人の死に。
その人の喪失に。

冷静に眼前に広がる対応して、
熱く感情は燃えあがり、その末に出でた言葉は――――。


「さすがに…………きついな」


やはりもなにも。
彼、人吉善吉の死の憂いだった。

綺麗な顔で死んでいる。
某野球漫画を揶揄するような、その端麗な死に顔に死に際は今でも彼女の脳内では再生可能なほど。
印象的で、強烈で、インパクトがあり、鮮烈で、感動的だ。

誰が何と言おうとも、彼女の心内では、絶望的な結果だろう。背徳的な結末だろう。
たとえばこれが赤の他人であればまた違っただろう。
たとえばこれが無関係者であればまた異なっただろう。

けれど生憎ながら。残念ながらそうはいかなかった。
このバトルロワイアルの台本に置いて、このイベントはそうはいかなかった。
この台本に置いての、このイベントの役割は。

『準主人公の華麗でいて感動的な幕引きと、主人公の覚醒と哀哭』

そんな一行と各々のアドリブ。
絶対的に揺るがないその結末に置いて、彼女はやはり抗う術はない。
なにも彼女は、どこぞの天才占術士じゃあるまいし、未来を読むことなど不可能だ。
彼女は彼女なりに生きた。
彼女は彼女なりに最善を尽くした。

―――それでも。
運命の前に屈した。
負けてはいないが、膝を付く。

故に、先ほどまでの泣く結果に至る。
壊れの兆しを、堂々と見せつけた。
誰に構う訳でもなく。
誰に慰めを貰う訳でもなく。
一人でに、一人の為に、ただただ泣いた。

まあそれも今では大分収まり、静かに佇んでいるのだが。
ともあれ、彼女は言葉を紡ぐ。

「戦場ヶ原ひたぎ上級生……か」

彼女は一人の女性の名前を発する。
先ほどまでの混乱ではそのまま殺していたかもしれない女。
遠慮、容赦、分け隔てなく、無残に貪るように殺そうとしていた女。

紫がかった長髪を振り乱し、唐突に現れて、何をしだすかと思ったら殺人を犯した。
さながら刀のように冷たく。まるで刀のように無情に。刺し殺す。
よりにもよって、目の前で。
よりにもよって、人吉善吉を。


と、彼女はそんなことを思い出していると同時に、もう一つの事柄を思い返していた。


黒神めだか(改)の時の行動を。


彼女はよりにもよって殺人を犯していた。
一人の男と、一人の女を。
一人は阿良々木暦といったのを覚えている。

瞳を閉じれば、今でもその男の死に際を、思い返せる。


―――以下阿良々木暦之回想場面。

457ローリンガール(ロンリーガール) ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:27:19



 ○


僕、阿良々木暦の人生に置いて例えば危機的状況というのは幾つも体験してきた。もしくは目撃してきた。
地獄の様な春休みの一件を筆頭に。
悪夢の如き黄金週間の件だってそうだった。
戦場ヶ原の蟹だって。
八九寺の蝸牛だって。
神原の猿だって。
千石の蛇だって。
羽川の猫の上乗せだって。
火憐ちゃんの蜂だって。
月火ちゃんの件だって。

どれも危機的状況だった。
危機的状況で絶体絶命にも似た状況だってある。


けれど、今回の話はあまりにも――――。


「………馬鹿らしいだろ」


素直にそう思った。
殺し合い? なんだそりゃ。
意味が分からん。

例えば、この件をお約束の怪異の仕業だと考えよう。
だが考えても見よう。

怪異は人の思いから成るものだ。

たとえこれが、怪異が一端を追っていたところで、根源がいるには違いないという話だ。
なんなんだよ、そりゃ。
誰がこんな悪趣味な催しを企んでんだよ。

と、程好く憤慨し、思案に暮れていると、気配を感じた。
影から、スッと。
言わずもがな僕の相棒、忍野忍だったわけなのだが。
見たところ、僕の首にも嵌っている首輪はしていないようだ。

「………どうみる、我が主様よ」
「そんな事言われも僕は困る、全然意味が分からん」

大体こんなもんアニメ化できるかよ。
ようやく僕たちの知名度もそこそこの盤石なものに成りあがったって言うのに。
深夜枠だとしても保護できないぞ。


そんなことで言い争っていると、またもや一つの気配を背後から感じた。
忍は途端として影に潜る、さっき打ち合わせた結果だ。
さすがにいきなり首輪もしていない忍を会わせるわけにはいかんだろう。

さて、そんなわけで振り返る。
そこにいたのは――――包帯ぐるぐるの女の子だった。
意味が分からなかった。
どんな時代を先駆けたファッションだよ。

けれど、僕としてもここで逃げていては流石に話にならない。
流石にそうやすやすと殺し合いを乗る訳もないだろう。
ていうか最悪どんな奴であろうと、僕は―――死なないからな。
そんな希望に満ちた能力ではないんだけど、ここまであり難いと思った機会は未だかつて、そしてこれからもないだろう。

なんてわけで
僕は歩みだし、彼女に話を掛ける。

「………よお、出会って早々悪いけど僕の名前は阿良々木暦だ」
「成程、私は黒神めだか(改)です」

改?
……ま、よく分かんないけどなんか僕には予期もしない何かがあるんだろう。
ていうか会って早々名前について突っ込めるほど僕に適応能力はない。
少なからずこんな目に遭って身心ともに結構疲れてんだよ。

でもやっぱり、やることだけはやらなきゃな。

「で、だ。黒神さん。会って早々だけど戦場ヶ原って人見なかったか?
 そりゃいないに越したことはないんだけど―――――どうしても、な」

やはりこればかりは。
こればかりは無視はできないよ。
僕がいる以上………そう言う可能性だって否めない。

「いえ、私は貴方に初めて遭いました」

だが、返ってきた答えはあんまりにも当然で。
至極納得のゆくものだった。まあそりゃこんな始まって数分だ。

458ローリンガール(ロンリーガール) ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:27:53
そもそも出会っていたら近くにいない理由も特にないだろう。

だから僕は、当たり障りの無い答えを返したつもりだった。
つもりだった。
だった。

「そうか、そりゃあ変なことき……………い、て?」

―――――――結果的に言うのであれば、つもりで終わった。
終わった。終わった?
何で。
何で。
ナンデナンデナンデ。


「な………ん……  ……?」


見れば、僕の心臓にはポッカリと穴が開いていた。
手刀。
それが見事に僕の心臓を貫く。



あれ………。
意識が遠のいていく。

僕が“この程度”で意識が遠くなる?

んなアホな。
けれど確かに、僕の力は徐々に抜けていき。
終いには僕の体は乱暴に背後から地面へと沈んでいく。その音はやけに小さく聞こえる。


そこで僕はようやくにして理解した―――――受け入れた。


成程。僕は―――――終わるんだ、と。


はあ、と吐けない溜息を内心で吐きながら。
僕は視線を黒神めだか(改)とやらから離し、空を仰いだ。

星がキラキラと輝き。
月光が綺麗に僕の身体を照らす。



今日は、綺麗な星空だ。



――――――月の綺麗な夜だった。

459ローリンガール(ロンリーガール) ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:28:13



 ○


―――以上阿良々木暦之回想場面。


ともあれ。
確かに彼女、黒神めだかは戦場ヶ原ひたぎの名前を知っていた。
少なからず名簿で見る限りの「戦場ヶ原」は彼女しかいない。
ならば、彼女の身の周りにいた者どもが固まって参加したように、
既に亡き阿良々木暦の周辺から人を拾ったというのも頷ける話である。とりあえず黒神めだかはその様な結論に至った。

そんな風に。
考え到り、思い至り、歯軋りを鳴らす。
終いに、悶えて憤慨――――そして。


「……これは一生物の失態だな」


阿良々木暦の殺害を悔やみ、責任に潰される。

思えば、なんで彼女は洗脳されていたのか。
思えば、なんで彼女は殺人をしていたのか。
分からない、覚えていない。

けれど。それでも。
殺人を行使したのは覚えている。

そして―――――殺人した相手が人吉善吉を殺害した相手の親しき仲だったというのは目に見えていた。
知った時には既に遅い。
気付いた時には既に虚しい。

「………ッッ」

感情に任せて、近くに遇った物を殴る。そして壊す。
迸る感情は、どこまでも引き返せずに。
流されて、流されて。

漂流した先は、何処までも広がる無限の自責。


「―――はぁはぁ」


考えてみれば、阿良々木暦が死んだのは自分の意思の弱さの所為だ。
考えてみれば、戦場ヶ原ひたぎが狂ったのは自分の行いの所為だ。
考えてみれば、人吉善吉が死んだ結果になったのも自分の所為だ。


よくよく考えてみれば。
自らしっかりさえしていれば、回避できたイベントばかりだ。


なのに―――起こった。
起こったものは起こった。


「………不甲斐ないばかりだな、善吉がいなかったらどうなったことか」


と、再度。
再度大好きで、大好きな人吉善吉の死体に目をやる。
相も変わらず綺麗な死に顔。

自らを救って死んだ。
自らを庇って死んだ。

自らの失態を拭ってくれた。
自らの不覚を除いてくれた。

だからこそ。
遅くなったが、言うべきなのだろう。

言うべきなのだ。

460ローリンガール(ロンリーガール) ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:28:41
丹精をこめて。
真心をこめて。

温かく、お別れを言う場面なのだから。



「ありがとう、善吉」



そして。
彼女は宣言するのであった。



「安心しろ、善吉。私はもう誰にも負けない。挫けない。
 勿論残り私の不始末は私が拭う――――――先あたっては戦場ヶ原上級生を正してやる」



力強く、堂々と。
威風堂々。英姿颯爽。


凛っ!! として、立ちあがる。



そして、刀を拾う。
善吉を殺した凶器となったその刀を。
ついでに彼の背負っていたディパックを。


そして、彼女は。
善吉の腕から、血汚れた腕章を貰う。


『庶務』と、書かれたその緑の腕章を左腕に装着する。


いわば「一人生徒会」と呼べし時代の再構築。
庶務は死んだ。
書記は死んだ。
会計はいない。
副会長は分からない。


生徒会長は――――失格だ。


故に彼女は一から歩みだす。
故に彼女は一から立て直す。


「さあ、善吉。しばしの間――――お別れだな」


彼女は言いながら踵を返す。
そして、「主人公」黒神めだかは目覚めの時。

と、歩みに踏み切ろうと足を出した時。
彼女ははっ、と言った具合に何かを思い出したかのような表情を浮かべ、振り向かずに、善吉に告げる。

最後に。
最後に彼女……黒神めだかが、人吉善吉にかけた言葉は――――。

「善吉、貴様はよくやってくれたよ。この私に。私でもどうにもできなかったことを成し遂げてくれた」

一息。
長い長い、一息。

そして吐きだす。
特になにを思っている訳でもなく、ただ思っていたことを。

感慨もなく、平坦に、呟いた。



「ただ、『敵』に情けをかけること自体は、どうかと思うぞ」



その主人公は、正しすぎる。

461ローリンガール(ロンリーガール) ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:28:58
正しすぎて、なにも知らない。
教えなければなにも知らない。

人吉善吉がどれだけの覚悟で戦場ヶ原ひたぎに刃を向けたのか。
人吉善吉がどれだけの気力で黒神めだかに愛を授け逝ったのか。

理解はしていても感じることはできないのだ。
ついでに言うならそれを正す者は既にいない。

人吉善吉は―――既に死んだ。



故に彼女に―――――――救いはない。



最後の別れは、余りにも、あんまりだった。
静かに二人の出会いと別れは幕を閉じる。



彼女たちの十三年間は、今ここに休載とする。



続きがあるかは、運命次第。




仲間という名の枷を解き放った彼女はどのように動くのか。
幼馴染という名の敵を喪失した彼女がどのように働くのか。

人の心を理解できるようになるのか。
はたは直ぐ様消し去られてしまうのか。


それはまだ、分からない。


「それでは、この場に置いて」


だから彼女は歩くのだ。
自らハッピーエンドを掴みとるために。



「生徒会を執行するっ!!」



【1日目/朝/C−3】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]「庶務」の腕章@めだかボックス
[道具]支給品一式×3、ランダム支給品(4〜8)、心渡り@物語シリーズ、絶刀『鉋』@刀語
[思考]
基本:もう、狂わない
 1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
[備考]
※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです。
※『完成』については制限がついています。程度については後続の書き手様にお任せします。
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃には耐えられない程度には)
ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです。
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※宗像形の暗器は不明です。
※黒神くじらの『凍る火柱』は「炎や氷」が具現化しない程度には使えるようです。
※めだかちゃん(改)は解けました、それに伴いめだかちゃん(改)の思考が消えています(次回SS以降消してもらって構いません)。
※戦場ヶ原ひたぎの名前、容姿、声などほとんど記憶しています

462 ◆xR8DbSLW.w:2011/12/16(金) 21:29:45
投下終了です。
賛否両意見どちらでも受け付けます。

463誰でもない名無し:2011/12/17(土) 17:25:57
仮投下乙です
参戦時期を善吉が敵になってからとは…週間連載のいい点を利用しましたね
フラスコ計画を知っているという点で対主催の宗像君と組めるかも…
マーダーが減ったというか消えたのは惜しいですがそこは別の人に頑張ってもらうほか無いですねw
でもこの状態だと阿久根さんの遺言の影響はあるのだろうか…

464 ◆mtws1YvfHQ:2011/12/25(日) 22:41:39
今更ながら◆xR8DbSLW.w氏、仮投下お疲れ様です。
悪くもめだかは正し過ぎる。
それが良く出た作品だったと思います。
マーダーが減ったのは残念ではありますが、本投下しても何ら問題はないかと。
感想が短く申し訳ない。

これ以前の物に関しては離れ過ぎているので割愛。

それではこれより仮投下を始めます。

465一つ、オモイ ◆mtws1YvfHQ:2011/12/25(日) 22:42:54
 もう何度目か、胃の中の物を吐いた。
 中身など既になくなっている。
 それに吐き過ぎてもう口の中が酸っぱい。
 それでも吐いていた。

「…………」

 それでも唾を吐き出して歩き始める。
 重い。
 ある程度冷静さを取り戻せば、何とも重い。
 足が進み辛い。
 体が如何にもだるい。
 理由は考えるまでもない。
 始めて人を殺したからだと考えなくても分かる。
 傷付けた事は何度もあった。
 それこそ、数え切れない位。
 そう言えば阿良々木君と出会った時も、傷付けたんだっけ。
 口の中にホッチキスを突っ込んで、カチッと。
 うん、今思えば少し悪い事をしちゃった訳だけど。

「そう思えば、懐かしいわね」

 色々と合った。
 色々と会った。
 色々と遭った。
 心も体も傷付けた事は幾らでもあった。
 それでも、誰かを殺したのは今回が初めてだ。
 真っ直ぐな刀でざっくりと、容赦なく突き刺して、殺した。
 本当ならあの女ごと殺してしまう筈だったのに邪魔されて。
 その所為で人吉君の事を無駄にしてしまった。
 確実に殺せると思って動いたのに殺せなかった。
 殺し損ねて、殺してしまった。

「…………はぁ」

 それが、重い。
 別に殺した事については反省していない。
 正しいとは思ってないし、悪いと思っても反省はしていない。
 それでも間違っていたとは思わない。
 これが私なのだから。
 これが私なりの、愛なのだから。
 それでも、そう思っても、重い。
 始めて人を殺した事が。
 それがひたすらに重い。
 人吉君を殺した事が重い。
 反省するつもりはないが重い。
 あの女を殺せなかった事が重い。
 ただ無駄にしてしまった事が重い。

「うっ……ぐ」

466一つ、オモイ ◆mtws1YvfHQ:2011/12/25(日) 22:43:32
 吐き気がまた込み上げて来る。
 思わず口元を抑える。
 例えそれが愛の為だと思っても。
 例えそれが意味ある事だと思っても。
 例えそれが優勝するのに必要と思っても。
 未だに手に残り消えぬ肉を貫く感覚は何とも、重い。
 手を洗っても決して消えないだろうと思うほど、重い。
 目を背けようとも逃れられないと思いそうなほど、重い。
 心の奥底にゆっくりと時間を掛けて染み込むように、重い。
 多くの時が過ぎようとも残り続けるだろうと思うほど、重い。
 それこそ、こんな思いを捨てたいと思ってしまうほどに、重い。

「           」

 重い。
 重い。重い。
 重い。重い。重い。
 重い。重い。重い。重い。
 重い。重い。重い。重い。重い。
 重い。重い。重い。重い。重い。重い。
 重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。
 重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。
 重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。
 重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。重い。
 体が、心が、重い。
 こんな思いをし続ける事になるのか。
 一生。
 一生こんな思いをし続ける事になるのか。
 そう思えば、重い。
 重過ぎる。
 吐き気がする。
 それこそ。

 こんな重さ、なくなってしまえば良いと思ってしまうほど。

「――っ!」

 そう思っただけだった。
 それだけだった筈なのに。
 背筋に酷く冷たい物が走る。
 何とも懐かしい感覚がする。
 何とも恐ろしい感覚がする。
 これは、この感じは、

「おもし――蟹、さま?」

 あの神さまが来た。
 いや、来てくれたと言うべきなのかも知れない。
 否、この場合だと来てしまったと言うべきなのか。
 すぐ後ろにいる。
 すぐ後ろで、私を見ていると、分かる。
 偶然か、それとも必然か。
 二度も出逢ったからだろうか。
 おもし蟹さま。
 二つのオモイを引き受ける神さま。

467一つ、オモイ ◆mtws1YvfHQ:2011/12/25(日) 22:44:07
「ぅ――、ぉ」

 言葉が詰まる。
 それでも言おう。
 言わないといけない。
 今言わなければ、後悔する。
 絶対に後悔する事になる。
 だから、

「どうか――」

 言葉は辛うじてだけど、出た。
 だったら言える。
 思いを言う事が出来る。
 どうか、おもし蟹さま。

「私の、この思いを――」

 お願いしますから私のこの重いを。
 どうか、どうか、

「――持って行かないで下さい――!」

 持って行かないで下さい。
 この思いは。
 この重しは。
 私が背負う。
 覚えていなければ。
 重いと感じるからこそ、それが私の力になる筈だ。
 あの女を殺す力に。
 だから、持って行かれては困る。
 どれだけ重かろうと。
 どれほど辛かろうと。
 どれほど酷かろうと。
 どれほど先まで残る事になろうと。
 この思いはきっと、この重さはきっと、力になる筈だから。
 あの女を、黒神めだかを殺して優勝する為の力になる筈だから。
 だから持って行かれる訳には、行かない。
 後ろにいるおもし蟹さまは動かない。
 ただ漠然と居る、と感じる。
 それに何も言わずに進む。
 口の中は未だに酸っぱいけれど、それでも心なしか、思いを吐露したからなのか軽くなった足を進める。

「ごめんなさいね、人吉君」

468一つ、オモイ ◆mtws1YvfHQ:2011/12/25(日) 22:44:34
 心の中に思っていただけの事を、小さく呟いてみる。
 何処か分からないけれど、奥底に響く。
 それでも立ち止まるつもりはない。
 立ち止まる理由にはならない。
 私は、優勝する。
 人吉君が庇ったあの女を、黒神めだかを絶対に殺して、その上で優勝する。
 吐き気は失せている。
 覚悟に揺らぎはない。
 必ず優勝する。
 だから、それまでの間、

「待っててね、阿良々木君」

 あの場所で、待っていて。
 土の中で悪いけど。
 好きだと口にするつもりはないけれど。
 それでも見守ってくれると、嬉しいかな。



【1日目/朝/C−3】
【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態]右足に包帯を巻いている、逃走中、強い罪悪感
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0〜1) (武器はない)
[思考]
基本:優勝する、願いが叶わないならこんなことを考えた主催を殺して自分も死ぬ。
 1:今はまだ逃げる。
 2:黒神めだかは自分が絶対に殺す。
 3:使える人がいそうなのであれば仲間にしたい。
[備考]
※つばさキャット終了後からの参戦です。
※名簿にある程度の疑問を抱いています。
※善吉を殺した罪悪感を元に、優勝への思いをより強くしています。

469一つ、オモイ ◆mtws1YvfHQ:2011/12/25(日) 22:45:09
 戦場ヶ原ひたぎが過ぎ去った後にも前にも、そこには何もいなかった。
 少なくとも、おもし蟹と呼ばれるような物はどこにもなかった。
 誰も見てはいない。
 いや、元から怪異とはそう言う、見えない物なのかも知れないが。
 それでも、いると思っていた戦場ヶ原自身も振り向いて見ていない。
 果たしてそれが人を殺した彼女の思い浮かべた想像だったのか。
 それは分かりはしない。
 実際見えないだけでそこにいたのかも知れないし、いなかったのかも知れない
 あるいは、戦場ヶ原の心の中にはその時だけでも確かに居たのかも知れない。
 だがそれはもう分かりはしない。
 戦場ヶ原の重さはそのままなのだから。
 しかし本当か嘘かも分からない存在であっても、強い意味はあった。
 おもし蟹と言う思いを重さと共に引き受ける神らしからず、思いをより重く戦場ヶ原に残す事になった。
 人一人を殺したオモサが。
 決して後に退けない思いとして。
 決して逃れられない重しとして。
 優勝のための思いに。
 黒神めだかを殺す為の重しに。
 より強く。
 より深く。

470一つ、オモイ ◆mtws1YvfHQ:2011/12/25(日) 22:50:55

以上です。
勝手に神様だしていいのか悩んだ末に蛇足的な物を状態表の後に書きました。
蛇足的な物があった方が良いか無かった方が良いか、矛盾している所がないかなどの意見をお願いいたします。
結構心配なので気付き易いようにあげさせて頂きます

471誰でもない名無し:2011/12/26(月) 11:28:44
仮投下乙です
神様はどこにでもいる、と化物語本編で言及されてあるので下手に支給品扱いするよりはいいかと
蛇足的なものはあった方がいいと思います
ヶ原さんの思いがより強調されているようでとてもよかったので
感想ですが、この手のマーダーはなんか新鮮
このまま壊れるのかうまくやるのか楽しみです

473誰でもない名無し:2012/01/03(火) 20:54:41
唐突ですが、番外編のようなおまけのような。
そんなssを書きましたので投下してみたいと思います

474誰でもない名無し:2012/01/03(火) 20:55:06

時刻は七時。
普通の人間―――少なからず「普通」の学生であれば起床しても何ら不思議ではない時間。
いや場合によっては遅刻を危惧されてもどこも不思議ではない時間。

朝日が差し込み、あたりが徐々に騒がしくなる一方で彼女は静かに座っている。
幼すぎる矮躯で、目の前にある菓子を遠慮なく頬張りそれでもやや不機嫌そうに彼女はいる。
先端が渦巻いたアホ毛を揺らしながら「きゅぽきゅぽ」なんて可愛らしい効果音を醸し出しながら、
彼女はひたすら食す。
さながら今のこの苛立ちを抑える自らの抑制剤として使っているような。そんな感覚さえ覚えてしまう。
彼女の傍には誰もいない。
彼女の隣にはあいつがいない。
そしてもう隣にいることは叶わなくなった。
まあ彼女がそこまで現段階で知っているかはともかくとして。

ともあれ、彼女は独りここにいる。
仲良しすぎるあいつもいなければ、仲悪すぎるあいつもいない。
すこしばかり仲間になったあいつもいなければ、親族であろうあいつもいない。

誰もいない。
誰もかもがいない。
辺りが騒がしかろうと、ここはただただ静寂だ。侘しい以前の問題だ。
それでも、そんな中で予鈴が鳴る。

いつもと変わらない、不変な、普遍な音。
しかし今では煩わしいとさえ思う。―――――正しく言うと、不気味が悪い。

「いつもの日常」とは圧倒的に、絶対的に、絶望的に違うこの日に置いて授業なんて受けてたまるか。
正確に言うと、マイナス組の一員にとっての彼女にはそんなこと些細な問題でしかなかったが。
彼女は感ずる。
またなにやらおかしな事が巻き起こっている、と。

それが面白いともつまんないとも彼女には分からない。
参加すべきイベントなのか避けるべきイベントなのか、常に傍観者を気取る彼女でもそれは知るに至らない。

だからひたすら食す。
次の行動に移すまで、自らの欲のままに。
ただその裏では頭脳はフル稼働中である。
今どうするべきか。
考えて、考えて、考え抜いて―――――手が止まる。

とはいえども案が思いついた訳でもない。
それでも手が止まったことには手が止まったのだ。

ここは考えても仕方がない。
だから、行動に移そう。そう思い至る。

故に彼女は携帯電話を取った。
慣れた操作でアドレス帳から一つの電話番号を導き出して、一瞬の間の後、通話ボタンを押す。


ツー、―――ワンコール


ツー、―――ツーコール


ツー、―――スリーコール。


そして。

475誰でもない名無し:2012/01/03(火) 20:55:25
そのすぐ後に、ガチャリと機械的な音が鼓膜を刺激し、声が聞こえた。


「おや、袖ちゃん。なんのようですか?」


答える不知火袴の声を聞き、彼女は口角を上げる。
《正喰者》不知火半袖は、箱庭学園理事長室に意味もなくそこにいた。


誰もいない、理事長室に。



 □



その席には、誰もいない。
その席の主は例の如く、予想通りにいなかった。
主の母は表情を歪ませる。

朝、目を覚ましたら、忽然と行方をくらました可愛い我が息子。
過負荷との争いが合った手前警戒を怠っていた訳でもない。
しかしそれでも置手紙の一つも無しに愛する我が子が消えた。

あり得ない、普通に考えてあり得ない。
なんだかんだいって母思いの息子のことだ、家出なんてするわけないし、するにしたってもうちょっと丁寧にするであろう。
加え聞くところによると、生徒会長である彼女と生徒会書記である彼、そして副生徒会長である彼。
五人いる生徒会の中で四人も同時に姿が消えたとなれば大騒ぎするほかないだろう。
先ほど残った一人、生徒会会計であるある彼女に確認を取ってみたところ、

生徒会会長、生徒会副会長、生徒会書記、生徒会庶務、軍艦塔管理人、元生徒会会長、過負荷組の一人、殺人鬼の紛いもの。

計八人。
多すぎる、普通に考えて多すぎるこの人数。
――――決して家出なんかではない。結論付けるには容易かった。
付け加えるならば誘拐という結果も考え難い。ていうか無理だ。
少なからず、生徒会の一同がたかだか誘拐犯程度に負けるなど考えつかない。

そして事実、その両方とも違う。
いやある種では誘拐なのかもしれない。
しかしなんであれども、彼女にはどうしてもその光景が導き出せなかった。

あまりにも唐突でありながら規模大きくて釈然としない。
雲を掴む方が容易いのではないかと想わせる絵空事。彼女はそう考える。

ギシィ、そんな歯軋りの音が鳴り響く。
これが生徒会主催のなにかドッキリ企画であるならば会計がここにいるのはおかしい。
かといって彼ら全員に共通する事柄といっても「箱庭学園の生徒」ということぐらいしか思いつかない。
手詰まり。チェックメイト。
そう脳内が結論付けるが彼女はまだ諦めない。
希望を瞳から滾らせ、前を見る。

既にその息子は帰らぬ者になったと知らずに。
彼女は裏舞台で暴れ回る。それが結果、作用するのか作用しないのかは分からない。

けれど彼女も歩いていた。


人吉瞳もまた、箱庭学園を歩く。



 ○



「もう、火憐ちゃんったら、私に何も言わずにジョギングに向かうなんてさ」

阿良々木月火はバール、バールのようなものではなくまんまバール。世界一バールらしいバールをもってある部屋に忍び込こもうと画策していた。
むろん、兄であるところの阿良々木暦を起こしに行くためだ。(余談ではあるが本来、そのような目的の場合バールを持ち込むのは不要と思われる)

476誰でもない名無し:2012/01/03(火) 20:55:42
今回はどのような面白い反応ととるのか。
今回はどのような仕置きがまっているの………いや、この話はやめておこう。
どういう意味でもランランと効果音が出そうな調子で(バールを片手に)実の兄である部屋の前までやってきた。
そしていつもの調子でドアを開ける。
アニメ版であれば階段から突き落とすとか、関節技を繰り出すとかなんとも可愛らしいことをやっていたものだが、
残念ながらここでのアクションは違う。
「早く起きてよぅ、おにいちゃん!」と猫みたいに甘えた声で――――

「いつまで寝てるのよ、死ね」

前言撤回。
冷たい声で、枕元を狙ってバールを振りかぶった。
そして、勢いに任せてバールは枕を貫きベットに損害を与えることとなる。

ただ、そこで問題なのはそこではない。


「―――――あれ? お兄ちゃんは?」


兄の反応が全くと言っていいほど――――なかったことだった。
まあ仮に今の彼の姿がここに在ったところで、返事がないのには変わりないが。


そんな最中のことであった。先日吹き飛んでこの間修復したばかりの玄関の方からインターフォンの音が鳴る。




 ○


「ふぅむ」

神原駿河は困っていた。
割と買ったばかりである携帯を弄って、何度も同じ携帯番号へと繋げている。
けれど結果は全て残念なものであり、彼女としては落胆の色を隠せない。

「おかしいな、朝から戦場ヶ原先輩の麗しい声を聞けないだなんてとんだ不幸もあったものだ」

既に日課となりつつある「固定」も済ませ、
大袈裟な気持ちで携帯電話を使い連絡を取ろうと思っていた相手、戦場ヶ原ひたぎは何回電話をかけたところで電話に出ることはなかった。

「はっ! さてはとうとう阿良々木先輩とあんなことやこんなことを――――っ!」

とピンク色の妄想を孕ませたところで、素に戻る。
さながら名探偵でも思い浮かべているのか、片手を顎へと添え、考えついた。

「いやいや、それならば朝に電話に出ないことの理由にはならないだろう。
 ―――――いやまあ阿良々木先輩ならば早朝野外プレイなんてアブノーマルなこともやりかねないが」

本当にお前は先輩を敬っているのかという発言はさておいて。
これは緊急事態だ。経験論。今まで培ってきた些細な経験から嫌な悪寒を背筋に宿すのにさほど時間はかからなかった。
だからこそ、気付いた時には足は動いていた。

とはいったところで、まずやることの優先順位を間違えていたことに気付く。
それは阿良々木暦の電話番号に電話をかけることだった。
ここで解決すればわざわざ出向く必要もない。むしろありがた迷惑にも程がある。

477誰でもない名無し:2012/01/03(火) 20:56:14
故に彼女は淡い期待を乗せ、通話を試みたのだ。

だが、淡い期待は淡い期待でしかなく。
容赦遠慮など砕き散り、何コールしたところで、結局は意味がなかった。

「あの慈悲深い阿良々木先輩が私のことを無視するはずがないしな。
 いやこのように言うと私が自意識過剰な女に聞こえるかもしれないが、まず無視することはないだろう」

言葉に出して、確認する。
確認して、この現状を確かめる、受け入れる。

唐突に消えた先輩二人、もしかしたらそれ以上の人間のことを思う。
少なからず昨日まではその様な気配はなかった――――と思う。

だが現実は消えた。
どう足掻いたところで現実は現実。
目を逸らしても、目を瞑っても、目を凝らしても、目を潰しても現実は変わらない。


彼女の尊敬する先輩を含めた人間が消えた。



さながら、神隠しの如く。


「―――――怪異」


故にその答えに至るのは、残酷にも無情にも簡単であった。
だから、彼女は駆けだした。
曰く装備している加速装置を惜しげなく使って、彼女はとりあえず走り出す。


猛ダッシュで、駈け出した。

478誰でもない名無し:2012/01/03(火) 20:57:41
投下終了です。
まあ活かす機会があれば活かしていただけたら嬉しいですし、
活かす機会がなければただのおまけssとして投下しました。

感想等あればお願いします

479 ◆0UUfE9LPAQ:2012/01/05(木) 22:38:05
投下乙です
今週のめだか読んだばかりなんで不知火の暗躍が気になっちゃうところ
そして月火ちゃんが相変わらずw
神原と月火ちゃんの絡みは原作にはなかっただけにおもしろそうですね
よかったらまた続き投下してください

では、羽川翼と西条玉藻で仮投下します

480つばさゴースト  ◆0UUfE9LPAQ:2012/01/05(木) 22:42:48
 001

……迷ったにゃ、ここはどこにゃ?
あ、今の俺は鼻がきくんだから地図にゃんかに頼ってないでいーさんかあの男を探せばよかったにゃ。
俺は鼻をひくつかせる――が覚えのある臭いはにゃい。
…どうやら風上の方じゃにゃいようにゃ。
ん?違う方からにゃんか臭うにゃ。
ここからは見えにゃいけど行ってみるかにゃ。
無理に跳ぶ必要も飛ぶ必要も無いし歩くにゃ。
そして歩いていった先には。
二本の刃物を持った一人の女がいたにゃん。

 002

怪異の俺が言うのもにゃんだけど気持ち悪いやつだにゃ。
でももっと気持ち悪いのはあいつが持っている黒い刃物―ご主人の知識によると日本刀とか言うやつにゃ。
俺としちゃーとっととあいつらを探して殺したいところにゃのににゃあ…
一応話しかけてみるかにゃ?

「お前、誰にゃ?」
「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ…私は西条た…ゆらぁり…まもちゃんで…ゆらぁり…すよお」

気持ち悪いにゃんてもんじゃにゃかったにゃ…
「ゆらぁり」にゃんていうわけのわからない言葉を抜いて考えるにゃらこいつの名前は西条玉藻でいいんだろうけど、こいつは人間なのにこれ以上会話はできにゃい気がするにゃ。
いーさんやあの男を見たか聞いても無駄だろうにゃ。
だったら―とっとと逃げるにゃ。
思うが早いか俺は跳んだ。
にゃんかいつもより跳べにゃいにゃあ…でも人間にゃんかにゃ追いつけにゃい距離だし心配にゃいにゃ。
そう思い俺は振り向く。

「にゃ、にゃあ!?」

振り向いた先にはあいつがいたにゃ。
目を輝かせながら追いかけてきてたにゃ。
いにゃ、輝かせるとは違うにゃ。
こいつの目は獲物を追いかけるときの目にゃ…どうやら俺はやり方を間違えたらしいにゃ。
にゃら、さっきよりも強く跳んでやるにゃ。
俺は足に力を込める。

「これにゃら大丈夫だろーにゃ」

わざと戻るように跳んでやったから、俺が消えたようにしか見えにゃいだろうにゃ。
この俺が人間ごときにびっくりさせられるにゃんて本来あってはにゃらにゃいことにゃ。
さて、とっととあいつらを探しに行くにゃ。
にゃんか後ろがうるさいにゃあ…後ろ?
恐る恐る振り向いた先には――

481つばさゴースト  ◆0UUfE9LPAQ:2012/01/05(木) 22:43:35
「だからにゃんであいつがいるんだにゃ!」

あいつは変わらず追いかけて来てたにゃ。
顔がさっきより嬉しそうだにゃ…もっと気持ち悪いにゃ。
もうめんどくさいにゃあ、動けなくするかにゃ。
ご主人の知らにゃい顔みたいだし殺しても問題にゃいだろ。
とりあえずエニャジードレインすればたいていのやつは動けにゃくにゃるはずにゃ。
ナイフや刀は怖いが斬られにゃきゃいい話だにゃ。
俺は立ち止まりあいつが来るのを待つ。
あいつは俺がその場から動かにゃいことに多少の疑問は持ったようだが結局突っ込んで来たにゃ。
動きが気持ち悪いがそれだけのことにゃ。
怪異の身体能力で対応できにゃいわけじゃにゃい――むしろのろく見えるくらいだにゃ。
さっきはちょっとびっくりしただけにゃんだからにゃ!
猫の敏捷性を使って俺はあいつの後ろに回り込む。
ゴールデンウィークのことがあるから刀には一応警戒しておくにゃ。
あのときの刀とは全然違うがそれにしたって切られたら痛いにゃ。
そして俺は後ろから思いっきり抱きついてやったにゃ――

 003

あれ?
にゃんであいつと離れてるんだにゃ?
あいつがエニャジードレインから逃れようとしたにゃらまだわかる。
一瞬触れただけで動けにゃくにゃるくらい疲れるから振りほどくことにゃんてできにゃいけど、まだわかる。
でも、俺が離れた。
俺の方から離れた。
にゃんでにゃ?
……そうだにゃ、いつものエニャジードレインと違ったからにゃ。
にゃんか気持ち悪いもんが流れてきたにゃ。
あいつがおかしいんかにゃ?
それともその刀かにゃ?
まあいいにゃ。
我慢できにゃいわけでもにゃいし。
さっき服を脱いでおいてよかったにゃ。
濡れて動きにくいったらにゃいし、エニャジードレインもやりやすくにゃるにゃ。
そういえば俺はパジャマを着てたけど、にゃんでブラジャーもつけてるんだにゃ?
普通パジャマの下にブラジャーはつけにゃいもんだが。
……考えても仕方にゃいにゃ。
エニャジードレインにびっくりしたのかそうじゃにゃいのかわからにゃいけどあいつは俺を不思議そうに見てるにゃ。
にゃら好都合にゃ。
一瞬で距離を詰め、俺はあいつに真正面から跳びかかる。
まずは両手首を掴む――それだけでナイフは地面に落ちた。

「ゆ、らぁ…りぃ!」

が、こいつ刀を動かそうとしているにゃ!
触れてる部分が狭いとはいえたいしたやつだにゃ…
でも、エニャジードレったから動きがのろのろにゃ。
こんにゃの普通の人間でも対応できるくらいだにゃ。
みゃあ、こんにゃの足を使えば楽勝にゃ。
刀の峰に足を乗せ、地面に叩き下ろした――つもりだったにゃ。

482つばさゴースト  ◆0UUfE9LPAQ:2012/01/05(木) 22:44:08
 004

「6時間以上も毒刀を持っていて発狂してるだけなんて本当に人間か?
「西条玉藻っつったか、あいつは人間のふりした現象だろ
「あ?俺が誰だって?
「変体刀を作った刀鍛冶、四季崎記紀って言やわかるだろ
「知らない?おいおい、いくらなんでもそりゃないぜ
「旧将軍も尾張幕府も聞いたことがないだと?で、江戸幕府ならあると…
「つまり、ここは改変に失敗した未来ということか
「大体四百年後の世界ねぇ…炎刀や微刀の技術を仕入れたのは確かこの辺だったな
「絶刀なんかはもうちょっと先になるんだが
「おおっと、今のはただの独り言だ
「それにしてもなかなか興味深いな…
「毒刀の毒に冒されてちゃんと自我があるとは初めて見る
「怪異…か、刀作ってばっかりだったがそういう話は朧気ながら聞いたことはあるぜ
「四季崎の家系にそういうのを相手していたやつもいたようないなかったような
「どっちだったところで俺には関係無いんだけどな
「ま、毒刀には技術云々はともかく怨念は一番こもってるから…何?
「三行以上の会話は理解できない?
「要約してやると、俺は刀の怪異でお前の言うエナジードレインとやらで吸収されたってことだ
「吸収されてお互いなんともないというのは不思議だが詳しいことは俺にもわからん
「怪異ならではの親和性とかじゃねーの?
「そして殺し合いとは最高の状況じゃねーか
「虚刀の完了はこの身をもって確認したがあいつがどう立ち回るのか気になるところだ
「っと、そもそもいないと話にならねえ
「名簿見せろ、途中までしか見てねえじゃねえか
「どうやって見せるか?いや、普通にお前が見ればいいだけだ
「…やっぱりいるな
「よし、俺がお前を手伝ってやるからお前が俺を手伝え
「よろしく頼むぜ、子猫ちゃん」

 005

……とみゃあ、こんにゃ感じで頭の中で話しかけられたにゃ。
ちにゃみに俺がエニャジードレった結果、西条玉藻は俺の目の前で倒れてる。
刀に触れたときに流れ込んできたのに反射的に手を離してしまったからにゃ。
驚いたとかそんにゃんじゃなくて本能的にゃものだったけどこうやって声がする限り意味はにゃかったみたいだけどにゃ。
融合や同化とは違うみたいだけどこれをにゃんて言うかは俺にはわからにゃいにゃ。
少にゃくとも視覚は俺のものを使ってるみたいだしにゃ。
それと、俺と同じでご主人の知識も共有してるみたいにゃ。

「共有じゃねーよ、ちょっと頭の中見せてもらってるだけだ」

…俺の考えてることも丸わかりみたいにゃ。
見られたところで俺馬鹿だからそんにゃ関係にゃいけどにゃ。
さっきの話で俺がわかったのは二つ。
一より大きい数がわからにゃい俺にしては上出来にゃ。
まずはさっき言ったように、俺の中に四季崎記紀とかいう変にゃ奴が入って来たこと。
そして、お互いがお互いのことを手伝うこと。
俺がこいつの目的はわからにゃいのはともかく俺の目的が何にゃのかわかるんかにゃ?

「結局は一緒だよ。この殺し合いの促進だ」

物騒にゃこと言いやがったにゃ。
さっきまで殺そうとしてた俺が言うことでもにゃいけどにゃ。
でもそもそもの俺の目的はご主人のストレスを解消することだしにゃあ…

「だからこの殺し合いに乗ればそのストレスとやらも解消できるって言ってんだ」

どうやらまたこいつのターンが始まるみたいだにゃ。

483つばさゴースト  ◆0UUfE9LPAQ:2012/01/05(木) 22:46:10
 006

「そのストレスってのは色恋沙汰だろ?
「それでお前のご主人とやらは恋する男がいる、と
「いやー、いい青春してんじゃねーか
「でもその恋する男にはすでに女がいた
「一番の理想はお前のご主人とやらとその男が好き合うこと
「だがそれはあくまで理想、叶わない可能性もある
「ならば亡き者にして永遠の片思いをしようという腹づもりだった
「そして幸か不幸かその男は死んじまった!
「さてここで問題だ
「ストレスの原因はすでに消え去った
「さらにお前はそれを知ってしまっている
「ならなんでお前は引っ込んでない?
「存在が薄れてるわけじゃないみたいだがそれにしたっておかしいだろ
「そこで、一つ仮説を立ててみる
「ストレスの原因は他にもあったんじゃねーか?とな
「言うまでもなくその原因とはこの殺し合いだ
「こんな状況に放り込まれて正常でいられる方がおかしいよな
「さあお前ならどうする?
「一番いいのはこの会場からの脱出だ
「ところがお前らの命はその首輪に握られている
「となると次善の策として優勝を狙う、ってのが妥当な策だ
「ついでに優勝の褒美としてその男を生き返らせて恋仲になるってのも悪くねーぞ
「そうすれば綺麗さっぱりお前はご主人とやらのとこに帰れるんだ
「というわけでだ、お前が殺し合いに乗る理由がわかっただろ?
「俺の理由?
「さっきちょろっと言ったろ
「ここには俺の息子がいるからな
「完了は確認したがそっから先どうなったのかってのに興味がある
「殺し合いに乗って動き回れば遭遇しやすくなるだろ?
「ただそれだけさ
「ここまで長かったけどわかったか?」

 007

「……つまり、俺がこの殺し合いに乗ればそれがご主人のためににゃるのかにゃ?」
「それだけわかりゃ上出来だ、俺の目的はあくまでついでだからな」
「にゃら、まずはこいつどうするかにゃ?」
「あーそいつはほっとけ」
「にゃんでにゃ?」
「こいつはおもしろいからな、俺の息子と会ったときどうするか気になる」
「すぐ殺せるのにもったいにゃいにゃ」
「そうやって見境無く殺してたらつまんねーだろ」
「つまんにゃい?」
「強い奴殺して回ったら俺の息子に勝てる奴いなくなんだろ」
「俺がいるにゃ」
「お前のそれはいささか反則的だからな、俺は傍観者として戦いを見たいんだよ」
「……しょうがにゃいにゃ。わかったにゃ」

せっかくの獲物にゃのにほっとくことににゃりそうにゃ。
にゃら、突っ立ってにゃいでとっとと行くかにゃ。
いーさんがいたのはあの学習塾跡だったよにゃあ…
それってどっちに行けばいいにゃ?

「地図見せろ。それと方角示すやつくらいあるだろ」
「…これかにゃ」
「そっちだ、右だよ。ああ、後毒刀持ってけ」
「……あれは気持ち悪いにゃ。触りたくもにゃいにゃ」
「その気持ち悪さの原因は俺だからな、もう持っても問題ない。なんだったら袋に入れればいいだろ」
「そういうことにゃらわかったにゃ」

俺は刀を拾い上げ袋に入れる。
確かに持っても何も感じにゃかったにゃ。
今度こそ用もにゃいし出発するにゃ。
臭いもにゃいし歩くかにゃ。
無駄にゃ体力使いたくにゃいし見えるか臭うかしたら走ればいいにゃ。
そうして俺は歩き始めたにゃ。

(こいつはおもしろいことになってきたな…こんな人間がいるとは他にも期待できるぜ、次はどんな奴に会えるのかねぇ)

484つばさゴースト  ◆0UUfE9LPAQ:2012/01/05(木) 22:47:12
【1日目/午前/F-4】
【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]ブラック羽川、四季崎記紀と一体化?、体に軽度の打撲、顔に殴られた痕、下着姿、騙された怒り、学習塾跡に移動中
[装備]なし
[道具]支給品一式、毒刀・鍍、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本:ストレスを発散する
 1:いーさんを殺すために学習塾跡まで戻る
 2:絶対にあの男(日之影空洞)をぶち殺す
 3:結局こいつは何にゃんにゃ?
[備考]
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です。
 ※全身も道具も全て海水に浸かりました。
 ※阿良々木暦がこの場にいたことを認識しました。
 ※四季崎記紀の言ったことをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします。

【四季崎記紀@刀語】
[状態] ブラック羽川と一体化?
[装備]
[道具]
[思考]
基本:息子(鑢七花)がどうなったのか見てみたい
 1: 他にはどんなおもしろい奴がいるのか会ってみたい
[備考]
※新真庭の里で七花と戦った後からの状態です。
※ブラック羽川を通じて羽川翼の知識や記憶を見れるようです。
※ブラック羽川の体を完全に乗っ取れるかは不明です。

 008

「…………すぅ」

見逃してもらうような形になった西条玉藻は道端ということを気にもせず熟睡していた。
接触面積が狭かったとはいえ障り猫にエナジードレインされたのもあるが、毒に冒され動きっぱなしだったのだから無理もない。
いくら狂戦士と言えども所詮は女子中学生。
しかし、眠ったままでも愛ナイフを放さないところはさすが狂戦士というべきか。
次に彼女が目覚めるとき、目の前に広がる景色は何なのか。
次に彼女が目覚めるとき、目の前に待ち受けるは誰なのか―

【1日目/午前/F-4】
【西条玉藻@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(大)、熟睡中
[装備]エリミネイター・00@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本:
[備考]
※「クビツリハイスクール」からの参戦です。
※毒刀の毒が残っているかは不明です。

485 ◆0UUfE9LPAQ:2012/01/05(木) 22:50:31
仮投下完了です
一応リスタート前のを参考にして四季崎を登場させましたが、独自解釈を含むので意見を募集します
他にも指摘・感想等あればお願いします

486『無かった事にするよ』:『無かった事にするよ』
『無かった事にするよ』

487 ◆0UUfE9LPAQ:2012/01/11(水) 15:34:52
感想ありがとうございます
問題なしということでしたらこのまま本投下したいのですがPCの調子が悪く、現在投下できない状況です
申し訳ないですが代理投下をお願いします

488 ◆mtws1YvfHQ:2012/01/24(火) 22:43:45
仮投下開始します

489 ◆mtws1YvfHQ:2012/01/24(火) 22:45:03
 異常な存在感。
 その男を表す言葉はそれで足りた。
 理事長室奥の椅子に座り、その前の大きな机の上に足を乗せながら腕組みする姿は傲慢。
 見下すような視線と醸し出される威厳は、まさに古の暴君。

「やっと来たか……俺を待たせるとは鈍い奴らだ」

 そこにその男が居た事を知らない者からすれば酷く理不尽な物言い。
 しかしそれもまた型に嵌ったようにしっくりとくる。
 目を細め、鼻を鳴らす。

「まぁ良い。ここで長話している時間はない」

 そう言って、体の何処にどう力を入れたのか、足を乗せていた机の上に立っていた。
 だが威圧感は何ら変わらない。
 精々元は低かった目線が高くなった程度で、より一層偉そうに見える。
 そして、この場にいるならある筈の首輪がない事がよく分かった。

「何も言わないか……では先に名前位名乗っておこう」

 見下すような態度のまま、男は言った。

「俺の名は都城王土。貴様らには特別に、未来永劫この名を頭に刻む事を許す」



 男の名乗りが終わった瞬間二人は動いた。
 真庭蝙蝠は十字架をクナイか何かのように真っ直ぐに投げ、更に天井へと跳ぶ。
 前と上からの同時攻撃。
 分かり易くも有効な攻撃手段に対し、悠然と都城王土は腕組みを解く。
 中、

 パン。
「!」

 乾いた銃声が一つ鳴り、王土の足元の机に穴を一つ作った。
 供犠創貴が咄嗟に引き抜き、狙いもろくに定まっていない状態で撃ったのだから当たる筈もない。
 しかし一瞬であれ、王土の注意が十字架と蝙蝠の二つから逸れた。

「きゃはきゃはっ!」

 頭上から響く笑い声。
 目前に迫る十字架。
 王土は咄嗟に十字架を上に弾くが、蝙蝠には当たらずしかも腕の範囲内。
 躊躇いも無くその頭に拳が振り下ろされた。
 鈍い音が一つ鳴り、その体は吹き飛ぶ。
 理事長室の入口の方へと派手に、来賓用に置かれていたらしい、テーブルを壊してなお止まらず、幾らか転がった末に止まった。
 丁度良く拳銃を持っていた創貴の足元で止まった。

「! ……テメェ」
「チッ」

490 ◆mtws1YvfHQ:2012/01/24(火) 22:46:19
 不機嫌そうな声を出す蝙蝠を無視し、しかし相変わらず偉そうに、舌打ちをしながら王土は立ち上がった。
 両手を頭の横に上げているが、見るまでもなく形だけの物だと分かる。
 形だけの降伏。
 それに創貴の目の色が僅かに変わったが、

「行くぞ蝙蝠……いや、一応その辺りを見てから来てくれ」

 王土の反応を見つつ指示を出すだけに留まった。
 一瞬顔を歪めるも、ブツブツと文句を言うだけで机の陰に消えた。
 待つ事数秒。

「何かあったぞ」

 竹刀を入れるような袋を持って立ち上がった。
 中に何か入っているようで、僅かに形が見え隠れしている。
 形状としては刀か何かか。

「他には?」
「なさそうだ」
「じゃあ来い。こいつが何か持ってないか調べるぞ」
「なんでおれが……」

 形ばかりの文句を口にしながらも、壁に突き刺さった十字架を抜いてから、王土の体を調べ始めた。
 不審な物はすぐに見付かった。
 蝙蝠がズボンのポケットから引き出したのは、携帯電話。
 取り出された瞬間、王土の口元に小さな笑みが浮かぶ。
 それを拳銃を向けたままの創貴は見逃さない。

「捨てろ」
「あん?」
「それがここで役立つとは思えない。捨てるのが無難だ」
「へぇ、分かった」

 そう言いながらも少しの間は名残惜しそうに弄んでいたが、窓に向かって放り投げた。
 易々とガラスを突き破り、下へと落ちて行く。
 だが誰もそれを目で追わない。

「…………」
「…………」
「…………外に行く方が都合が良いだろう? 行くぞ」

 偉そうに言う王土の言葉に、二人は従った。



 と言っても、形だけは変わらず進行方向に背を向けた蝙蝠が先頭に、後ろから拳銃を向けられた王土が二番、最後に創貴の順。
 だが形だけに過ぎなかった。

「さて、何から話すか……まず敵意がない事を示す為に俺が奴に協力させられている理由から話すべきか?」
「きゃはきゃは、手短に頼むぜ?」
「不愉快な笑いだ。貴様は黙ってろ――俺の唯一無二の家臣が人質に取られてな。行橋未造と言うのだが」
「どう言う方法で?」
「知らん。何時の間にか、と言う表現がこれほど適している場面がないと思うほど、何時の間にか、だ」


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