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作品投下専用スレッド2

469レクイエムは誰がために  ◆92mXel1qC6:2011/09/27(火) 04:23:42 ID:oc4bCHTY0
倒壊音が立て続けに背後より響く中、シルファ達は必死の思いで逃げていた。
追ってくる者もいない以上、逃げるという言葉を使うのはおかしいかもしれない。
あの時、あの場では、妥当な判断であった以上、戦術的撤退と呼んでも差し支えないかもしれない。
それでも、シルファからすれば、これは紛れも無い逃亡だった。
人間を護ると誓ったはずの身でありながら、人間に助けられ、あろうことかその恩人をおいて逃げた、ただの逃亡だった。

あの後。
立華奏、岡崎朋也両名が、いや、正しくは、立華奏が駆けつけてくれたこともあり、戦況は一変した。
音無と二人がかりをして圧倒された女傑、カルラを相手に奏は一人で互角以上に戦いを推し進めた。
それほどまでに、立華奏は強かった。
人ならぬメイドロボの身で言うのもおかしな話だが、否、人の叡智に作られたメイドロボだからこそ言える。

立華奏は人智を超えた存在だった。

無から有を創造するハンドソニック。
条理をねじ曲げるディストーション。
世界より身を浮かすディレイ。

垣間見たのは少女の手札のほんの一部だけだったが、それでも、シルファは断言できる。
如何なメイドロボにもあのような芸当はできないと。
その超越した能力を使いこなす立華奏は、こと戦闘面においては、自分はおろか、姉のミルファ、イルファすら追随を許さない存在だと。
分かっている、分かっているのだ。

「おい、良かったのかよ、あんた! あいつ、あんたの知り合いだったんだろ!? あーっと……」
「音無、音無結弦だ。奏から俺のことは聞いていないのか?」
「あいつ、あんま自分のこと話してくれなかったからさ。それに何だかよく分からねえことも言い出すし」
「……よく分からない、か。それでも、あいつの強さは分かってるだろ」
「まあ、な」
「なら、そういうことだ。あいつは絶対に、あのカルラってのには負けないさ」

音無の言葉は何も希望的観測に沿うものではない。
そのこともシルファには十分に分かっている。
カルラが全てを貫く矛だとすれば、奏は全てを弾く盾だ。
そう言い現せば、矛盾という故事のように結果は相討ちだが、カルラも奏も人間だ。
誰かに使われるのではなく、自ら動く、人間だ。
そしてその動くという要素にこそ、奏がカルラに負けないと言い切れる秘訣がある。

速さだ。

こと速さにおいて、奏はカルラを遥かに上回っているのだ。
それは、もし奏が身の危機に瀕しても、逃げの一手を打てば、確実に逃げ切れるということを意味する。
常人ならば、カルラに背を向けるなど自殺行為にすぎないが、奏なら、逃げ切れるまでの数発は、ガードスキルで凌ぎきれる。
そう判断したからこそ、奏のことをよく知る音無はもとより、不満を感じている朋也も、こうして逃げを選択したのだ。

ああ、だから。
だから。
今この身が切り裂かれん程に軋みを上げているのは、奏のことが心配だからじゃない。
護ると誓ったはずの人間に助けられ、あろうことか置いて来た我が身の不甲斐なさを恥じてのことだけではない。
要らないと、邪魔だと。
言外に訴えられたことが答えているのだ。

何度でも言おう。
シルファ達は逃げている。
奏の助力で優勢に立ったはずのカルラから、逃げている。
何故か。
普通に考えれば、奏と協力して立ち向かうべきではないか。
いくら奏が相性もあり優位に立てているとはいえ、カルラが強敵なことには変わらない。
ならばこそ、微力ながらも、助太刀すべきだ。
特にシルファはメイドロボだ。
人を助けることが本業だ。
元がロボサッカー用に設計されていたこともあって、ただでさえ高性能なメイドロボの中でも、運動能力は群を抜いている。
経験不足故にイルファほどではないが、それでも、カルラと紛いなりにも打ち合えた位だ。
援護の一つや二つはできるはずだ。
シルファ自身、そう思っていた。
思っていたのに。


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