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692Hariti ◆ApriVFJs6M:2011/01/17(月) 21:53:33 ID:sNXtQluY0
 


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「わかってはいたんです……わたしにそんな大それたことなんてできないって」

 結局、早苗が冷酷な殺人者になりきることはできなかった。
 渚と秋生のために母と妻を封印してまで一人の少女を殺したというのに。

「でも、もう後には引けなかったんです。もうわたしの手のひらは血に染まってしまって、ここで引いたらなんのためにあの子を殺したんだって」

 早苗は鈴の前で己の犯した罪を告白した。
 それはさながら告解室で懺悔をする敬虔な信徒ような姿だった。
 鈴は何も言わず早苗の言葉に聞き入っていた。

「だから……迷いながらもあなたたちを殺すつもりでした。アルちゃんの声を聞くまでは――」

 朦朧とした意識の中に見た早苗の姿。
 まだ幼いアルルゥが年上の女性に母親の影を見たのはごく自然なことだった。
 だがその声のおかげで早苗は寸でのところで踏みとどまれたのだった。

「くすっ……身勝手ですねわたしは。もう一人殺してしまっているのに何を言ってるんだか」

 溜息混じりの自嘲の笑み。早苗の背負った罪はあまりに重い。
 今までずっと黙ったままの鈴であったが、口を開き言った。

「ううっ……あたしは何を言えばいいかわからない……ごめんなさい」
「いいのよ鈴ちゃん。ただ誰かに聞いてもらいたかっただけだから」
「でも……もう早苗さんがもうひとごろしをしないなら、あたしが何かいうべきことじゃないんだと思う。うう……やっぱり何を言えばいいかわからない」
「鈴ちゃん……」

 その言葉が早苗を幾分か楽にさせ、己の罪を苛ませる。


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