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499 ◆Ok1sMSayUQ:2010/11/22(月) 23:42:04 ID:8yC98TwE0
「今はどうなんだよ」

 自分でもわけのわからない質問だと思いながらも、内奥から湧き出る不可思議な熱情を抑えきれず、
 ありのままに言葉を続けてしまっていた。

「今は、もっと他に好きなものがあるのか」
「……多分」

 少し俯き加減に、躊躇うように。しかしはっきりと、奏は言葉にしていた。

「まだ本当にそうなのか、分からないけど。でも、麻婆豆腐は好き。とっても。これだけは確か」
「だろうな」

 それは見ていれば分かる。
 だから、答えはもう出ているも同然だった。
 今は変えられる。少なくとも、彼女は変えている。
 だったら、自分の今は? 自問してみて、答えはすぐには出なかった。
 出るわけがなかった。諦めに浸ってきたそれまでの自分がいたからだ。
 ただ、と朋也は思う。この少女と一緒にいれば、多少なりとも答えは見えてくるのではないだろうか。
 茫漠と漂っているよりは、きっと。

 ちんっ、と甲高い音が鳴り、麻婆豆腐の完成を奏に伝えた。
 聞くやいなやレンジから麻婆豆腐のパックを取り出す。が、熱かったのか、掴んだ瞬間ぶんぶんと手を振っていた。
 なんとも微笑ましい光景だと思いながら、朋也も焼きそばパンを一つ手に取る。
 そういえばこれは無銭飲食になるのだろうかとふと思った朋也だったが、緊急事態ゆえ見逃してくれるだろう。たぶん。
 最後の晩餐にだけはならないようにしよう、と念じてから奏の方に向かうと、
 麻婆豆腐のパックをつまんだまま立ち往生する奏がいた。

「何やってんだ」
「……盛り付けられない」

 器がないとのことだった。
 ちょいちょい、とおでん用の器を示してやる。
 奏は頷いた。

「……」

 そして、朋也をじっと見ていた。

「何だよっ」
「手」
「塞がってるから俺に取れと」

 こくり。
 お前どんだけ麻婆豆腐手放したくないんだと突っ込みたくなった朋也だったが、
 純真無垢な表情かつ期待の視線を含ませた奏に見られては抵抗という選択肢は即座に消え失せた。

「ったく……」


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