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SRPGバトルロワイヤル8
1
:
◆j893VYBPfU
:2011/02/16(水) 00:57:31 ID:TzbLndQo
ルールなどは
>>2
-
詳しくはまとめwikiをどうぞ。
【まとめwiki】
ttp://www36.atwiki.jp/srpgbr/
【したらば】(作品の修正スレ・仮投下スレ・死者スレなどはこちら)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14091/
【過去スレ】
SRPGバトルロワイアル企画スレ
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1164191107/
SRPGバトルロワイヤル1
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1178981646/
SRPGバトルロワイヤル2
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1193849696/
SRPGバトルロワイヤル3
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1205662859/
SRPGバトルロワイヤル4
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1224581120/
SRPGバトルロワイヤル5
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248313700/
SRPGバトルロワイヤル6
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1262002256/
SRPGバトルロワイヤル7
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281581561
199
:
Desperado
◆j893VYBPfU
:2011/12/10(土) 21:29:08 ID:???
「七三、てめえも今更騎士気取りたいなら、今ここで時間稼ぎにオレに殺されるんだなッ。
だったらさっきの言葉も撤回してやるよ。『馬鹿が無駄死にしやがった』ってね?
で、そのメスガキも後であの世に送ってやるから、この俺に感謝するこったな?」
――アルガスへの侮蔑は続く。
お前がどう足掻こうとも、それは全て無駄なものでしかない、と。
その能力も、心構えも、全てを嘲笑う。
この人間獣は心得ているのだ。己とアルガスとの彼我の実力差を。
だからこその、この余裕。
だが、サナキはその得意げな嗤いに、ただ深く溜息を付き。
ヴァイスのその在り方を、ただ哀れみ蔑んだ。
「…馬鹿はおぬしじゃよ。そして哀れなのものよのう」
「…なんだと?」
サナキは、これまでのヴァイスの罵倒の中で。
彼の本質を充分過ぎる程に理解していた。
弱者にしか強気に出られぬ、そしてそれを嬲り抜く事によってしか
己の存在意義を取り戻せない、救いようのない愚物。
そこには優雅さや尊厳など、欠片も有りはしない。
――だが、だからこそこちらも助かるというもの。
絶えず他人を見下す事を喜びとする卑しい性格というのであれば?
余裕を見せようとして有頂天となる分、足元を掬い易いという事でもある。
“漆黒の騎士”が敵に見せるような、強者が持つ余裕とは似て非なるもの。
200
:
Desperado
◆j893VYBPfU
:2011/12/10(土) 21:29:39 ID:???
サナキはこの絶望的な状況の中で、ヴァイスの性格に恐怖する事なく。
むしろ矮小な人物である事に、僅かながらも勝機を見出し――。
サナキは不敵に口元を歪め、笑いながら言い放った。
「……アルガスを見てみい。おぬしにすっかり怯えておる。
足腰が震え過ぎて、まともに戦えるかどうかすら怪しいわ」
言葉の内容とは裏腹に、自信に満ちた口調でもって。
その態度に、騎士見習いはおろか眼前の獣すら驚きの目で彼女を見る。
「…おいおい。それが分かってて、どうしてオレの方が馬鹿なんだ?」
人間獣はその笑みにむしろ毒を抜かれ、ただ呆然と疑問を口にする。
現実を認識しているにも関わらず、何故貴様は心が折れぬのかと?
「じゃがの、目は死んではおらん。むしろ燃え盛っておる。怒りにの。
たとえ己が恐怖しようとも、主を守るために前に出る。命賭けでの。
その心構え、実に天晴れな騎士のものだとは思わぬか?」
サナキは哂う。貴様ごとき愚物には、永久に理解出来ぬ美徳だろうと。
確信をもってその問いに答える。
「貴様も一見騎士のようじゃが、そうしたくなる他人は、果たしておるのか?
他人に庇われた事は果たしてあるのか?そんなもの、一切ないじゃろ?
人はどれだけ他人に為に尽くし尽くされるかで、その価値がわかる。
確かに己は大事じゃ。じゃがそれしかないのは獣にすら劣る屑じゃ。
犬畜生とて、その家族だけは人間以上に育み大事にするからの」
サナキは嗤う。貴様ごとき芥屑には、永久に縁無き世界だろうと。
侮蔑をもってその愚かさをなじる。
201
:
Desperado
◆j893VYBPfU
:2011/12/10(土) 21:30:13 ID:???
「命惜しくば、疾く失せるがよい。この騎士の面汚しめが。
お主のその目、わたしが始末してきた元老院の下衆どもそっくりじゃわ。
濁り切った上に、欲と見栄しか在りはせぬ。実につまらぬ。
身分を問わず、真に卑しきものは皆同じ目をするもんじゃの」
サナキは嘲笑う。その身分ではなく、ヴァイスという存在の卑しさを。
アルガスは、己に向けられたその信頼に、感動に打ち振るえ。
ヴァイスは――。
「黙れッ!黙って聞いてりゃいい気になりやがってッ!
何様のつもりか知らねぇが、てめえこそ身の程って奴を教えてやるよッ!
そして舐めた口を聞きやがった事を、後悔して殺してやるからなッ!」
激昂と更なる殺意をもって、対峙する。
これ以上の言葉は要らぬと、その態度で雄に語る。
「…アルガス」
「…はっ」
サナキはこの人間獣に向けた言葉とは対照的に。
労りの言葉を、アルガスに向ける。
「頼むぞ」
「承知いたしました。この生命に代えましても」
アルガスは決意をもって前に出る。
主の信頼には、勇気でもって。
202
:
Desperado
◆j893VYBPfU
:2011/12/10(土) 21:30:52 ID:???
二人とも、勝利を確信しているわけではない。
身体能力、装備、戦場経験、それら全ては向こうが上。
それは人間獣の纏う殺気からも、充分に感じ取れる。
勝っているのは数のみだが、それすらも足手纏い付き。
状況はむしろ絶望に近く、むしろ全滅の可能性は高い。
だが、その危険を充分に理解しりつつも。
己の矜持の為、主の生命の為、決して引けぬ戦いというものはある。
己が主の言う「生き様の、格の違い」を、今こそ知らしめる為にも。
今のアルガスに、保身と逃避はありえない。それは今こそ真に騎士たらんとする為に。
それが故、刺し違える覚悟でアルガスは構え。
「オレ、あの兄貴に特攻して犬死ってのは絶対嫌ッス。
しばらく空気で良いッスか?」
空気の読めぬ生き物は、場違いな戯言を口にする。
「違うぞアルガス。二人であの屑を成敗して、全員が生きるんじゃ」
「…ありがたきお言葉」
サナキは笑いかけながら前に出る。
従者の忠誠には、恩情でもって。
現実を見据えた上で、自らもまた生命を賭け戦いに臨む。
その困難をも承知の上で、全員の生存を心より望む。
従者に正しき道を示す為、仲間の身を案じるが為。
己のみの保身など下賤の所業だと、その行動で嘲笑う。
203
:
Desperado
◆j893VYBPfU
:2011/12/10(土) 21:31:43 ID:???
「…オレはガン無視ッスか?そりゃ空気で良いッスかとは言ったけど、酷えッス…」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえッ!今すぐ死ねッ!」
場違いな生き物の戯言は黙殺され。
だが獣にはその気高さはやはり理解できず。
獣は腰の鞘から、その鋼の牙を剥き出しにして躍り掛り――。
四人の命運を賭けた戦いの火蓋は、今切って落とされた。
【D-3/平原/二日目・深夜】
【サナキ@FE暁の女神】
[状態]:精神的疲労(軽度)
[装備]:リブローの杖@FE、真新しい鋸
[道具]:支給品一式
[思考]1:アルガスの行く末を見守る。
2:帝国が心配
3:皆で脱出
4:アイクや姉上が心配
5:魔道書等の充分に力を出せるアイテムが欲しい、切実に。
6:目の前の痴れ者(ヴァイス)を、アルガスと協力して成敗する。
【アルガス@FFT】
[状態]:ラムザに対する憎悪(重度)、サナキに対する忠誠心、強い決意
[装備]:手編みのマフラー@サモンナイト3
[道具]:支給品一式×2
[思考]1:サナキに相応しい騎士となるよう務める。
2:戦力、アイテムを必ず確保する。
3:サナキが望まないので、とりあえず私怨は抑えてみる
4:騎士として、目の前の敵(ヴァイス)を排除する。
5:漆黒の騎士(ゼルギウス?)が参加している可能性を警戒。
204
:
Desperado
◆j893VYBPfU
:2011/12/10(土) 21:32:23 ID:???
【ホームズ@ティアリングサーガ】
[状態]:全身に打撲(数箇所:中程度)、精神的疲労(重度)、軽い混乱
背中に投げナイフによる創傷(重傷)、暗闇
[装備]:プリニー@魔界戦記ディスガイア、肉切り包丁
[道具]:支給品一式(ちょっと潰れている)、食料(一食分消費)
[思考]0:ゲームを破壊し、カトリと共に帰還する。
1:カトリを連れて安全な場所(E-2の城)まで逃げる。
2:……ち、く………しょう……………
[備考]:漆黒の投げナイフが背中一本に突き刺さったままです。
重傷ではありますが、意識は辛うじてあります。
その追加効果により、異常状態「暗闇」が発生しています。
【プリニー@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:ボッコボコ(行動にはそれほど支障なし)
[装備]:なし
[道具]:リュックサック、PDA@現実
[思考]1:とりあえず、上手く空気で居続けられそうッスね。
2:ボーナスとか出ないッスかね?
3:今の主人、嫌いじゃなかったッスけどね…。
【カトリ@ティアリングサーガ】
[状態]:重症(心身衰弱:大)
[装備]:火竜石@紋章の謎
[道具]:ゾンビの杖@ティアリングサーガ、支給品一式(食料を一食分消費)
[思考] 0:みんなで生還
1:意識不明につき、思考不可。
[備考]:火竜石による消耗と一度致命的な攻撃を受けたため、
かなりの消耗をしたままです。
道具を使っても短時間での回復は有り得ません。
205
:
Desperado
◆j893VYBPfU
:2011/12/10(土) 21:33:07 ID:???
【ヴァイス@タクティクスオウガ】
[状態]:サナキに対する怒り(重度)、
疲労:中程度(死神甲冑の効果により回復は比較的早いと思われます)
左眼に肉切り用のナイフによる突き傷(失明)
背中に軽い打撲(死神の甲冑装備中はペナルティなし)
右腿に切り傷(軽症)
右の二の腕に裂傷、右足首に刺し傷(全て処置済)、やや酷い貧血、
死神の甲冑による恐怖効果、および精気吸収による生気の欠如と活力及び耐久性の向上。
[装備]:ブリュンヒルト@TO、死神の甲冑@TO、肉切り用のナイフ(2本)、
漆黒の投げナイフ(4本セット:残り3本)
[道具]:支給品一式、栄養価の高い保存食(2食分)、麦酒ペットボトル2本分(移し変え済)
ドラゴンアイズ@TO外伝
[思考]1:自身の生存を最優先。
2:何としてもタルタロスの信頼を得る。
3:まずは目の前の四人を嬲りものにしてから殺す。
4:いずれは全員皆殺し
5:ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねえッ!死ねッ!
[備考]:ホームズ達四人の名前を、盗み聞きでようやく把握しました。
サナキに対して激しい怒りを抱いている為、首輪の効果で身体能力が向上しています。
一方で理性が薄まっているので、判断能力が若干低下しています。
[共通備考]:
暗闇(異常状態):視力が悪くなり、移動と回避ができません。更に被ダメージが増加します。
時間経過やアイテム・治療魔法で治ります。
206
:
◆j893VYBPfU
:2011/12/10(土) 21:34:41 ID:???
以上で投下終了です。
誤字脱字、矛盾、指摘や感想等有りましたら遠慮なくどうぞ。
207
:
◆j893VYBPfU
:2011/12/14(水) 11:26:27 ID:???
時間の修正忘れてました。
二日目の未明ということで。
深夜のままだと、あまりにも時間が立たなさすぎてます…。
208
:
◆j893VYBPfU
:2011/12/16(金) 22:50:38 ID:???
久々にWiki修正。
ついでに自作の二人称等や誤字脱字の訂正も同時に行いました。
現在、Wikiはセキュリティ上の問題で、パスワードがないと
編集出来ない設定となってますので、何かあればおっしゃってください。
209
:
源罪な名無しさん
:2011/12/20(火) 22:11:45 ID:???
投下来てるじゃないか!
乙っす
210
:
◆j893VYBPfU
:2012/02/20(月) 23:06:26 ID:???
インターミッション的に、主催側書いても良いかな?
レイム側を書いて見たいのですが。
211
:
◆j893VYBPfU
:2012/07/19(木) 22:46:27 ID:???
ゴードン、ミカヤ、アイクで予約いたします。
212
:
◆j893VYBPfU
:2012/07/21(土) 00:21:40 ID:???
すいません。予約を一旦破棄します。
213
:
◆j893VYBPfU
:2012/07/21(土) 22:30:56 ID:???
大変良いお知らせです。
SRPGロワに専属絵師さんが付きました。その名もHoly氏と申します。
現在二枚程イラストを書いていただいております。
下記URLのPixivから閲覧可能ですが、近いうちにこちらのWikiからでも
閲覧可能なように致しますので、どうかよろしくお願い致します。
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?id=390710
214
:
holy(N/N)
:2012/07/22(日) 06:20:07 ID:PE6NOHp2
↑にてご紹介にあずかりましたholyと申します。よろしければ以後お見知りおきください。
やくざさんには専属絵師とまで言っていただきましたが、そんな大層な者ではありません><;
私「今更だけど絵がうまくなりたい」ヤクザさん「じゃあ、SRPGBRでなんか描けば?」と
お誘いを受けましたので、支援...になるかどうか分かりませんが、修行(おい)をかねて描いていければなと...。
しかもSRPGBRは楽しく読ませていただいているものの、SRPGはほとんどやった事がないという残念な人間ですので、
色々と教えていただけたら嬉しいです>< どうぞよしなに〜。
215
:
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:20:30 ID:???
ゴードン、ミカヤ、アイクで予約いたします。
216
:
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:21:10 ID:???
ゴードン、ミカヤ、アイクを投下します。
大変長らくお待たせいたしました。
217
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:22:53 ID:???
「おい、貴様そこで何をしている?」
――まずい、非常にまずいぞ。ゴードン…。
背に投げかけられた、青髪の青年の冷えきった言葉に。
わたしは血も凍る思いで声のした方へと振り返った。
「ミカヤに一体何をしていると聞いている?」
どうやらミカヤ君の知り合いであるその青年は、
ゆっくりと背中の剣を引き抜き、大股で近付いてくる。
一体、何の為に剣を抜いたのかなど、もはや考えるまでもない。
つまりは、わたしを斬り捨てるつもりなのだ。
第三十七代地球勇者である、このわたしを!
意識のない少女に暴行する変態と見倣して!
いかん!
いかん!
いかん!
いかんぞ―――!!
「NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
これは海よりも深い事情があってだな…」
このままでは本当に変態と見倣された挙句、殺されてしまう!
なんとか弁解する方法を見つけねば!
「…今更、言い訳と命乞いか?
無様だな。貴様も戦士ならせめて武器を取れ。
せめてもの情けだ。最期の死に華程度なら咲かせてやる。
それとも、女子供相手にしか勇敢には振る舞えないのか?」
218
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:23:25 ID:???
――話しを聞いてくれ青年よ!わたしは、わたしは今…。
猛烈に悲しんでいる!
◇ ◇ ◇
俺は沸き上がる雑念を今一度振り払うと、城内の探索を再開した。
まだ何か使えそうなものがあるかも知れず、
あるいは他の参加者がいるのかもしれない。
あと、肉があれば言うことはないのだが…。
だが、俺の期待は全て裏切られ、徒労のまま一時間が経過する。
そして――。
悪鬼使いキュラーと名乗るものによる、臨時放送が行われた。
「その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
貴方達のご健闘に期待しておりますよ…。」
219
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:24:03 ID:???
――卑劣な手を。
俺はヴォマルフと協力関係にあるらしき男の、自己陶酔めいたその放送を。
軽蔑と嫌悪感を抱きながら、一言一句に及ぶまで聞き覚えた。
臨時放送の意図など、もはや考えるまでもない。
だが、考えさせられることは多々ある。
このゲームに積極的に乗った“貢献者”とやらが存在するという事。
放送の間隔と制限時間が等しくなった為、積極的に動き回らねばならぬという事。
首輪が全ての参加者にとって特別な付加価値を得たという事。
武器庫が全て施設に集中するため、その周辺での遭遇と戦闘が加速するであろう事。
このままでは、この殺し合いは否応もなく加速することだろう。
俺はこれから予測される事態の数々に重い溜息を吐きながら、
まずは“武器庫”とやらの確認に、城内の地下室へと向かった。
やがて、俺はそれを見つけ扉の前に立つ。
その先には、神殿の如き威容を感じさせる、純白の博物館があった。
“武器庫”という呼び方から、傭兵団にある倉庫のような猥雑なものを想像していたが。
世界が異なれば、武器庫の形式も大きく異なるのか?
いや、違うな。これもヴォルマルフ達による演出と考えるべきだろう。
ただ、その純白に清められた空間には。
大義の欠片もない殺し合いで無辜の人間の首を狩り、その証を捧げて回る外道を
『神聖な儀式』だと来訪者を唆すような、製作者達の悪意が透けて見えた。
だが、奴らの思惑に大人しく従ってやる気は更々にない。
220
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:24:34 ID:???
ならば――。
一度、「特別な処置」とやらが万全か否か試してみるか?
俺は庫内へと踏み込むと、まっすぐに俺の名が刻まれた台座の前へと向かい。
昔、俺の親父から貰った剣が収められている硝子の箱を確認すると。
掌を組んで一つに固めたその拳を、渾身の力で叩きつけた。
――衝撃音が、庫内に響きわたる。
腕にまで伝わる、異様な手応え。
だが肝心の硝子の箱は傷一つ、罅一つ入ることはなく。
常軌を逸したその健在ぶりを、この俺に見せつけた。
――なんだ、これは?
硬い。
異常なまでに、硬い。
硝子本来の硬度を完全に超越した、その異常極まる堅牢。
まるでかつての漆黒の騎士の鎧に斬り付けた時のような
その異常性に、俺は少なからず動揺を覚えた。
この手応えには、散々に覚えがあるが故に。
そして、キュラーの「特別な処置」への自信に納得する。
もし、これがあの『女神の祝福』と同等の処置が施されているのなら?
主催者側の意図を無視して武器だけを得ようとする、
参加者達のあらゆる努力は無に帰すだろう。
だが、俺は鼻を鳴らす。
敵が犯した、致命的な不手際に。
もし、これが俺の想像通りの措置を施しているならば。
それに傷を与える術も、また俺の手元にある。
221
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:25:06 ID:???
――ぬかったな、キュラー。
俺は同じく『女神の祝福』が施された神剣――エタルドを鞘から引き抜き。
深く腰を落とし、大きく脇に構え。
――俺にこれを与えた事を、後悔するがいい。
構えた神剣を、水平に薙ぎ払う。
ぱかん、と乾いた音が鳴り。
俺の斬撃は、硝子の箱の天板を見事切り裂いた。
だが、 硝子の天板がゆるりとずれ、地面へと落ちたのと同時に。
「……台座が、光っ――――?」
閃光、轟音、そして強烈な衝撃に俺は吹き飛ぶ。
その原因が、台座自体が爆発したものである事に気づいたのは、
俺がすぐ後ろの台座に叩きつけられて気を失い、
しばらくして意識を取り戻した後の事であった。
222
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:25:55 ID:???
「……ぐっ……」
身体中の突き刺すような痛みが、意識を鮮明にする。
いや、“それら”は実際に突き刺さっていた。
見れば爆発で砕け散ったものが俺を装飾し、赤と透明の無骨な彩りを添えている。
ただ硝子が目に突き刺さらなかったのは、不幸中の幸いというべきか。
俺は己の愚かさを恥じ入る。
そもそも、考えておくべきではあったのだ。
これだけ周到に多くの人間を拉致し集めた連中が、
初歩的な手抜かりをするはずがあるのかという事を。
案の定、収められていた俺の剣は、爆発の衝撃で根元から折れていた。
これでは、殆ど使い物になりそうにない。
無事であるのは、手に持つエタルドのみである。
つまり、俺は無駄に傷だけを負ったという事か。
だが、今更悔いた所で仕方ない。
俺は体中に突き刺さる硝子を一つ一つ引き抜き。
ばらばらになった形見のリガルソードを仕舞い、
傷の応急措置を行うと、この場を後にした。
◇ ◇ ◇
――しばらくして。
俺は武器庫の向かい側にある、三つの木製の扉の前へと立っていた。
やはりというか、どの扉も施錠され「特別な措置」が施されている。
223
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:26:36 ID:???
だが、それは裏を返せば扉を破壊して先を行く事は可能という事になる。
そして、付け加えればそれもまた爆発する可能性があるという事になる。
「………………………」
――いや。一度や二度程度の失敗で懲りるなど、俺らしくもない。
俺は俺を貫き通せばよい。賢しく考えて危険を避けるなど性に合わん。
やれることをやり、失敗を繰り返しても。
そのまま前に突き進めばそれでいい。
そう開き直ると、俺は中央の扉の前へと立ち。
俺の敵にして師の動きを記憶より呼び起こし。
その何物をも断つ剛剣を模倣、――もとい再現を行う。
「月光――」
その一撃は、外壁と施錠ごと『措置』の施された扉を見事両断した。
俺は爆発に備えて身構えたが、その扉が爆発することはなく。
崩れ落ちた扉の上半分が、その先へと消える――。
「………?」
破壊した扉の向こう側は、先の見渡せぬ漆黒があるばかりであった。
まるで物質化した闇を敷き詰めたような、その空間の先に扉は落ち。
だが、それが地面に落ちた音は聞こえず。
俺は扉があった場所に頭を突き入れ、その先を覗き込むと。
そこにはこことはまるで別の、地下通路があるばかりだった。
そして、その真下には俺が切り落とした扉が落ちている。
224
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:27:07 ID:???
「…行ってみるか。どの道、他にあてもない」
俺は破壊した扉をくぐり抜けると、その正面にも
『武器庫』と書かれた部屋が目の前にあった。
怪訝に思い通り抜けた道を引き返すと、
確かにそちらにも俺がいた『武器庫』は存在する。
「…どういう事だ?これは、一体…」
だが、論拠もなく一々考えた所で答えなど出るはずもない。
俺は先へと進み、新しく見つけた『武器庫』の扉を開け、
その中を覗くと――。
――その部屋の中で、俺の戦友を相手に言うもはばかる不埒な行為に走る、
不審な中年男を発見した。
◇ ◇ ◇
「はあっ…、はあっ…」
わたしは右腕の切傷を治療の杖で塞ぎ終えると。
意識を失ったままのミカヤ君を背負い、
薄暗い地下通路を、長い間さ迷い歩いていた。
225
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:27:49 ID:???
ミカヤ君は血を失い過ぎた事により、低体温症を起こかけていた。
この夜空の中薪を起こせば、ゲームに乗った敵にまで居場所を教えかねない。
なによりこのまま外気に彼女を晒せば、最悪凍死すら有り得ると判断し、
近くの塔へと戻り、毛布や暖炉といった暖を取れるものを探していたのだが。
――残念な事に、そんな都合の良いものなど一切なく。
ただ徒に時間を浪費している内に、キュラーとやらの臨時放送を迎えてしまった。
その邪悪に思う所は多々あるのだが、今はミカヤ君を救う事こそが先決と思い至り。
放送内容にあった地下室へと向かい、そこに一縷の望みを託していた。
だが…。
――ない。
そこも純白の大理石による悪趣味な空間があるばかりで、
暖を取れる空間などどこにも見当たらなかった。
――どこにも、ないではないかっ!
運命の無情さを憤ろうとも、どうにもならない。
ミカヤ君の体温は、こうしている間にも奪われ続けている。
ならば――。
「仕方あるまい…」
――ミカヤ君、許せよ…。
わたしはミカヤ君の服を脱がして肌着だけの姿にすると、
それにならってわたしも半裸になり、彼女を優しく抱き寄せる。
226
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:28:26 ID:???
――酷く、冷たいな。
まだ女性としての成熟が始まる前の、か細く未熟な少女の身体。
だが、女性特有の柔らかさは健在で、その感触に戸惑いはするものの。
触れている箇所が凍える程に冷たく、わたしは身震いを起こす。
だが、これこそが彼女が今味わっている、
いや、わたしが徒労により味あわせてしまった寒さなのだ…。
――わたしは、彼女とより密着の度合いを深くする。
そうだ。どうかわたしから多くの熱を受け取り、
その元気をいち早く取り戻して欲しい…。
だが、ここでわたしは一つ残念な事を思い出す。
ここは『武器庫』だ。
このままでは“武器を調達しに”このゲームに乗った者が
他の参加者の首輪を提げてやってくる可能性がある。
そして、今のわたしはミカヤ君とともに無防備を晒しているのだ。
――これは非常に不味いぞ、ゴードン。
第一、この光景を誰かに見られれば、あらぬ誤解を受けかねない。
特にあの悪魔達に見つかれば、何を言われるか知れたものではないではないか!
わたしは思い直すと、ミカヤ君を抱きかかえたまま
『武器庫』からいち早く退避しようとしたのだが。
「おい、貴様そこで何をしている?」
227
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:29:03 ID:???
――どこかしら冷ややかな声が、庫内に響き渡り。
退避するよりも早く、わたしの懸念は見事的中してしまった…。
◇ ◇ ◇
背に投げかけられた声のした方へと、血も凍る思いで急ぎ振り返ると。
武器庫の入口の前に、蒼髪の鍛え抜かれた身体を持つ男が立ち塞がっていた。
その顔には覚えがある。詳細名簿に記載されていた「アイク」という青年だ。
確か、彼はミカヤ君の知り合いだったはず?
そして、彼はその名簿に記す所によれば――。
「誰もが古い友のように親しげにその名を口にする。
【蒼炎の勇者】と」
その内容が正しければ、彼は我々の敵ではない。むしろ味方だ。
そして、おそらくは誰にでも優しい気さくな好青年なのだろう。
しかも、彼は【蒼炎の勇者】…。
そう、わたしと同じ勇者なのだ!
――おお、素晴らしいぞゴードン!これは、実に幸先がいい!
わたしはどこかしら強ばった面持ちの異世界の勇者に、
小粋なジョークを交えた小話でその緊張を解きほぐそうと話しかけるよりも早く。
228
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:29:36 ID:???
「ミカヤに一体何をしていると聞いている?」
…………………はい?
警告というよりは威嚇に等しい程に、低く声を唸らせ。
ゆっくりと背中の剣を引き抜き、大股で近付いてくる。
おい、どういう事だゴードン?
好青年と評される割には、何だか空気が酷くおかしくはないか?
彼はこのわたしを“仲間”というよりは“敵”を、“敵”というよりは
“穢れきった汚物”を見るような目で睨み付けてきた。
――そこで、唐突にわたしは思い出す。
このわたしとミカヤ君の状態が、今どうなっているかという事に。
そして、ミカヤ君の知り合いがそれを見れば、
どういう誤解を招きかねないのかという事に。
な、な、ななななななな!何ということだ!ゴードンッ!!
一体、何の為に剣を抜いたのかなど、もはや考えるまでもない。
つまりは、わたしを斬り捨てるつもりなのだ。
第三十七代地球勇者である、このわたしを!
意識のない少女に暴行する変態と見倣して!
いかん!
いかん!
いかん!
いかんぞ―――!!
229
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:30:11 ID:???
「NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
これは海よりも深い事情があってだな…」
邪悪なる敵と戦って、敗れて散るのはまだいい。
悪は残るが、このわたしの遺志を引き継ぐものは必ず現れるし、
命懸けで悪に立ち向かってこそ地球勇者の本懐でもあるからだ。
――だが、この挑まれた戦いは違う!あまりにも酷すぎる!
わたしが卑劣極まりない強姦魔と誤解され、正義の裁きを受けるだなどと!
このままでは、わたしがかの青年に対して誤解を解かぬ限り!
どう転んでも「強姦魔」の評価は揺るぎないものと成り果ててしまう!
屈辱だ!
地球勇者としてあまりの屈辱だ!
魔界勇者などというレベルを、はるかに超越した屈辱だ!
このままでは本当に変態と見倣された挙句、殺されてしまう!
しかも、この空間には逃げ場がない!
なんとか弁解する方法を見つけねば!
――だが、かの青年は酷く冷ややか声でわたしの弁明を拒絶する。
「…今更、言い訳と命乞いか?
無様だな。貴様も戦士ならせめて武器を取れ。
せめてもの情けだ。最期の死に華程度なら咲かせてやる。
それとも、女子供相手にしか勇敢には振る舞えないのか?」
230
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:30:45 ID:???
剣の切っ先をこのわたしに突き付ける青年。
その声は、まるで死刑判決を述べる裁判官のように。
漂白された庫内に、無慈悲に響きわたった。
わたしの声は、彼には決して届かない。
誤解を解ける唯一の鍵であるミカヤ君は、未だ眠りについたまま。
これでは、説得など出来ようはずがない。
――話しを聞いてくれ青年よ!わたしは、わたしは今…。
猛烈に悲しんでいる!
【B-2/塔の地下武器庫/1日目・夜中】
【ゴードン@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:半裸、右腕に切傷(応急処置済)
[装備]:ダグザハンマー@TO、回復の杖@TO、バルダーダガー@TO
[道具]:支給品一式×2
参加者詳細名簿(写真付き)@不明、呪いの指輪@FFT
[思考]1:NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
2:目の前の青年(アイク)の誤解を、なんとか解きたい。
3:ミカヤ君!どうか早く、早く目を覚まして欲しいっ!
[備考]:ゴードンは何故オリビアがアンデット化したのかは把握していません。
右腕の負傷は、治療の杖により傷口は塞いでいますが、完治していません。
激しい運動をした場合、再び傷口が開く可能性があります。
231
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:31:15 ID:???
【ミカヤ@暁の女神】
[状態]:半裸、昏倒
[装備]:スターティアラ@TO
[道具]:支給品一式、
[思考]1:疲労による昏倒により思考不能
【アイク@暁の女神】
[状態]:全身にかすり傷・硝子による刺し傷・軽度の火傷
左肩にえぐれた刺し傷・右腕に切り傷(全て応急処置済み)
貧血(軽度)、中程度のダメージ。
[装備]:エタルド@暁の女神、リガルソードの柄@蒼炎の軌跡
[道具]:支給品一式(アイテム不明、ペットボトルの水一本消費、地図は禁止エリアに穴が開いている)、応急措置用の救急道具一式
[思考] 1:『蒼炎の勇者』として、この場で為すべきことを為す。
(テリウスの未来の為、仲間と合流しゲームを完全に破壊する)。
2:主催と因縁がありそうな者達(ラムザ・アティ)と合流し、協力者と情報を得たい。
3:リチャードとシノンの死体を見つけ次第埋めてやる。
4:漆黒の騎士に出会ったら?
5:今度ネサラに出会った場合は、詳しく事情を問い詰める。
6:目の前のミカヤに手を出そうとしている変態を始末する。
[備考]:リガルソードは殆ど柄のみになってます。
折れて粉々になった刀身は、支給品袋に回収しています。
[共通備考]:【B−2】の塔、【E-2】の城、【H-7】の城、【C-6】の城の
武器庫前の地下通路の扉はそれぞれがワープ装置で繋がっています。
支給品の鍵で解錠するか、『女神の祝福』が施された武器で
破壊する事が可能です。
【B−2】の塔と【H-7】の城を繋ぐ扉が、アイクによって破壊されました。
【H-7】の城にある武器庫のアイクの台座が硝子ごと爆発しました。
内部にあったリガルソードは折れましたが、アイクが持ち去っています。
232
:
Unavoidable Battle
◆j893VYBPfU
:2012/07/25(水) 16:31:52 ID:???
投下完了いたします。
233
:
源罪な名無しさん
:2012/07/28(土) 13:26:52 ID:???
激しく乙です。
234
:
名無しですかあなたは!
:2012/08/01(水) 01:36:22 ID:T8nJEdNo
非常に乙です
235
:
源罪な名無しさん
:2012/08/13(月) 09:58:17 ID:???
Pixivに新作キタ━(゚∀゚)━!
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=29301459
マルスとカチュア(…)ですな。
あんたステルスする気ないだろって顔になっとる。
236
:
◆j893VYBPfU
:2012/08/22(水) 11:13:46 ID:???
アティ&ネスティで予約
237
:
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:08:20 ID:???
アティ&ネスティで投下。
238
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:09:44 ID:???
「その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
貴方達のご健闘に期待しておりますよ…。」
僕は、アティとともにその不吉極まりない内容の“臨時放送”に聞き入っていた。
僕達が倒した筈の敵による、本来の予定にはない…。
あらゆる意味において“有り得ない”その放送。
――だが、その悪意に満ちた意図のみは十分過ぎる程に理解できる。
そして、キュラーの復活と彼の手による放送が、一体何を意味するのかも。
僕は同じ参加者であるマグナと、その仲間達との事を。
虚言と姦計を司る魔王レイム=メルギトスとの間で演じた壮絶な死闘を。
アティに打ち明けた。
――僕の生まれに関する事柄のみを、上手く取り除いて。
彼女はその内容の全てを熱心に聞き入っていたが、
僕では気付かぬ部分を補完するために――。
彼女自身のいきさつと、彼女とディエルゴとの関係、
そして、それらを繋ぎ合わせる二つの魔剣の事を――
僕の話しの後に、包み隠さず全てを打ち明けた。
「――私が知るディエルゴなら、先程の悪魔達と手を組むとは思えません。
ディエルゴは――かけがえのないものを奪われて果てた方々の無念が、
ハイネルさんを核として一つとなった、復讐者達の軍団(レギオン)なのですから。
それが人を苦しめる事だけが喜びであり、
それにより生じる負の感情を糧とする悪魔と手を組むという事は…。
利用し合うという事自体、考えられないかと思います」
239
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:10:16 ID:???
そして、同時に彼女から聞かされたディエルゴについての情報からも、
キュラー達との同盟関係は有り得ないと断言出来る。
むしろ、ハイネルならキュラーのような悪魔達こそ真っ先に殲滅するだろう。
ハイネルのディエルゴとは、彼がかつて世界に抱いた愛情の裏返し的存在。
被害者の憎悪や悲憤を晴らす為に存在する、言わば“復讐者”であるならば?
純粋に悪しき収奪者であり捕食者など、決して認めたりはしないだろうから。
「――だとすれば、むしろ倒れたキュラー達がディエルゴを糧として蘇った…。
そういう可能性は、どうだろうか?」
――そう。サプレスの悪魔は人間の絶望を始めとする、負の感情を糧とする。
ならば、実はまだ生きていたキュラー達がディエルゴを残さず糧とし、
その絶望を取り込んだなら、ディエルゴの存在を知ったとしてもおかしくはない。
そして、ディエルゴの想念は悪魔達にとってこの上ない滋養となりえるだろう。
ただでさえ、奴らには血識という異能もあるのだ。
だが――。
「それは、出来る可能性がないとは言えませんが、極めて困難かと思われます。
世界の意思そのものを、それと万物を繋ぎ合わせる共界線(クリプス)を、
一介の悪魔に取り込めるほどの器があるとは思えません…。
むしろ、その強すぎる力を制御しきれず、破裂してしまうのではないでしょうか?
ディエルゴを取り込むには、それこそ“魔王”とすら呼ばれる存在でもない限りは…」
アティが困難を喩える為に口にした、何気ない単語――。
だが、その偶然の一致に僕達は気付かされ。
「――そう、か…」
「――そう、ですね…」
「「虚言と奸計を司る魔王、メルギトスならあるいは…」」
――黒幕の存在を察し、そこに意見の一致を見た。
240
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:11:01 ID:???
そう。あの悪魔王がディエルゴすら取り込み、復活を果たしていたのであれば?
得られた力を活かして、配下のキュラー達を蘇らせることなど造作もないだろう。
もしかすれば、あの会場にいたヴォルマルフ達もまた蘇った存在なのかもしれない。
そして、それはすなわち――。
「アティ、どうやらこの主催者は思ったよりも随分と厄介らしい…」
「ええ、そうですね。そして、それが真実なら――」
僕やアティにとって深い因縁関係によって結ばれた…。
正しく不倶戴天の仇敵である事を意味する。
奴等を倒さない限り、僕達はおろかこの世界の危機は去りはしないだろう。
ましてや、様々な異世界から別の参加者を呼び出す事が出来るというのであれば?
その逆もまた可能であると、考えるべきだろう。
そして、何よりあの悪魔王がこの世界一つの支配だけで満足するとは、到底思えない。
――即ち、これは全世界にとっても危機であるという事か。
「――私の手で、絶対に阻止しなければなりません。
メルギトスがハイネルさんの遺志を弄び、そして皆を狂わせるのであれば。
それが私がハイネルさんに出来る、せめてもの恩返しですから」
そう言って彼女は遠くを睨み、固く拳を握り締めた。
これまでは、今にも壊れそうな程の脆さを見せていたにも関わらず。
別人かと思える程に変じた彼女の貌に、僕は少なからぬ驚きを覚えた。
――あるいは、これこそが彼女本来の姿なのかもしれない。
だが、僕はその貌にどこかしらマグナのような危うさを感じ。
「私じゃない。私“達”、だろ?」
241
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:11:34 ID:???
――気が付けば、僕は自分でも驚くべき事を口にしていた。
マグナとその仲間達以外の他人の事など、どうでも思っていたはずの自分が、だ。
「ああ、勘違いするなよ?君を助けようという親切心など毛頭ない。
元より、メルギトスは僕にとっても因縁のある、許せない敵なんだ。
奴を放ってはおけないし、君一人では勝利も覚束無い。
利害が一致するなら、手を取り合った方が効率が良い。
だから君を利用する。だから、君も僕を利用すれば良い」
僕自身と、マグナ達の為に。
これ以上、僕の仲間を失わない為に。
だからこそ、彼女に協定を申し込む。
同盟ではない。互いに負担をかけない、相互利用という形で以て。
いや、もしかするとこの時すでにアティを仲間だと認識していたのかもしれない。
――だが。
「いえ、折角の申し出は嬉しいのですが、それはお断りいたします」
彼女は僕の提案を、笑顔で断った。
…何故だ?君にとって何一つ損があるという訳でもないだろうに。
「私達が協力し合うのでしたら、お互いに“仲間”であって欲しいのです。
分かり合わず、ただ利用し合うだけの関係なんて、私には我慢出来ません。
こんな形とはいえ、せっかく私達はこうして知り合えたんです。
だったらお互いの事を、もっともっと知り合いたいですから。
それが私がお断りする、たった一つの理由です」
真剣な笑顔で彼女が告げる、あまりにも些細な一つの理由。
初めは僕をからかっているものとばかり思ったのだが。
それは決して冗談や思いつきで述べたものではない事は、
そのしっかりとした口調からも理解出来――。
242
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:12:24 ID:???
「…言いたい事は分かった。そんなことで良ければ、君の条件を飲もう。
だが、一つ聞きたい。それは君にとって、何よりも重要な事なのか?」
僕は驚き呆れつつもその条件を飲み、彼女は同盟関係を快諾した。
だが、それは拒否に値する程の本当に重要な事柄なのだろうか?
あるいは、それは方便に過ぎず、別の理由でもあるのだろうか?
となおも訝しがる僕に、彼女は破顔して答える。
「はい。私にとっては、それこそが何よりも一番大事なことですから」
「分かったよ。しかし、君は本当に変わり者だな…。
以前から周りにそう言われたことはないのかい?」
「ええ。よく言われますよ?」
「まったく、君という人は…」
彼女の実にあっさりとしたその答えに、僕はただ苦笑するしかなかった。
ともあれ、黒幕の正体と謎は図らずしも見えてきた。
――だが、それよりもまず先に片付けるべき問題がある。
「ただ、まずは…」
「ゼルギウスさんの、事ですね?」
「…蹄鉄の音どころか、全ての音がまるで聞こえない。
あの少年の獣めいた気配も、全く感じられない。…気付いていたか?
つまり生き残ったのは奴で、今頃は君を探しに村を徘徊でもしているのだろう。
さながら、生者を追う死神のようにな。…君は、どうするつもりだ?」
彼女も僕の顔から意図を察したのか、その顔を引き締めて答える。
漆黒の騎士をどうにかしない事には、この場を生き残る事すら危うい。
そして、障害全てが片付いた今、奴の狙いはアティにこそあるというのだ。
そして彼女の返答は――。
243
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:12:56 ID:???
「こちらからも探して、もうこんな殺し合いに乗る事は辞めていただくよう、
そして出来れば私達に力を貸してくださるよう、説得いたします」
――彼女の答えは、予想通りのものではあった。
経緯はさておき、結果としてアティは漆黒の騎士に一度助けられている。
見るからに情に厚そうな彼女が、奴の暴走を放置しておくとは思えない。
だが、奴が彼女に従うとは思えず、むしろ冷笑と白刃で返答する可能性が濃厚だ。
故に問う。当然のように起こり得る事態を、どう解決するつもりなのかを。
「もし、君の願いが聞き入られなかったら?」
「私が、ゼルギウスさんを止めます。必ず…」
――その返答には、これまでの彼女にはない力強い響きがあった。
決して譲らない。それ以外の事態など、決して起こさせはしない。
断じて阻止する。そのような、揺るぎない決意。
「果たして君に、それが出来るのか?」
「…それは、わかりません。でも、私がやらなければいけない事なのです。
彼をこのままにしておきたくありませんし、今度は私が助ける番ですから。
それに、やはりゼルギウスさんが幸福であるとは思えません。
だからこそ、話し合って止めたいのです。
彼にはまだ話し足りないことだって、一杯ありますから。だから…」
――やはり、よく分からない事を言う。
アティを突き動かすものは、徹頭徹尾個人的な感傷に過ぎない。
良くも悪くも優しすぎる、彼女らしいその信念の発露。
おそらく、彼女は「奴を確実に阻止出来る勝算」といった、
合理的なものは一切持ち合わせていないのだろう。
そうなれば、このまま彼女に付き従うのは危険でしかないのだが。
現実逃避した人間の夢想とは到底思えぬ、彼女の尋常ならざる気迫に
何かしらの可能性のようなものを感じ――。
244
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:13:34 ID:???
「…何を馬鹿なことを、とはもう僕も言わない。
だがな、一つだけ言っておく。結果がどうなろうと、君は絶対に生き残るんだ。
君はメルギトスを倒すために、重要な役目を担っているのだからな?」
「…ネスティさんも、ですよ?」
――僕は今一度、彼女の我儘に付き合ってみる事にしてみた。
◇ ◇ ◇
「これは、酷いな…」
「ええ…」
借りていた民家を出て、漆黒の騎士を探しに村中を徘徊しているうちに。
僕達は奴等の戦闘が行われた跡を発見し、その異常性に驚愕した。
村の一角には、かつて人間と軍馬だったものが散らばっていた。
犠牲者達の撒き散らかされた鮮血が、通りを赤く彩り。
飛び散った肉片と臓物が、むせ返るような臭いを放ち。
そして力任せに薙ぎ倒され、倒壊した一軒の家屋。
それらは、ここで行われた戦闘の激しさを、何よりも雄弁に物語り。
――焼き焦がす炎こそないものの、その光景はレムル村の虐殺を思わせる凄惨さがあった。
「これは全部、あの漆黒の騎士がやったことなのか?」
「…それは、わかりません。調べてみないことには…」
吐き気を催さずにはいられぬこの光景に、彼女は酷く顔を青褪めてはいたが。
やがて、決心したようにその顔を引き締め。
「…ごめんなさい。失礼します」
245
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:14:07 ID:???
彼女はその死体の前で頭を下げ、その衣装に鮮血が付くのも厭わず、
直接その手に触れ、真剣な顔で残骸の状況を詳細に調べ始めた。
――やがて、一通り確認が終わり。血に塗れた彼女は僕に向き直る。
「…何か、分かったのか?」
「この方の生命を奪ったのは、やはりゼルギウスさんです…。
でも、気になる点が幾つかあります」
そういって、彼女は腕の切断面が鋭利な刃物で切られたいるにも関わらず、
人馬の首や胴体が斧らしきもので引き潰されたものとなっている事を示す。
――奴の得物は斧だったはず?まだ何か、隠しているものがあるという事か。
だが、それ以上に振りまかれた血潮の量が、二人分では足りないことや、
成人男性にしては、明らかに小さい足跡等が幾つかある事を指摘し。
「ゼルギウスさんは、さらにここで戦闘を繰り返しているようです」
「やはりか…。で、その相手の事は分かるのか?」
騎兵と歩兵の戦闘で、民家がその巻き添えを受けて倒壊するとは思えない。
この場で戦闘が繰り返された可能性を、僕も考えてはいたが。
その懸念は的中し、彼女は倒壊した民家から発見した黒い尻尾を見せ、
その相手が人外のものであることを僕に伝えた。
「この方の足首に残った手形を、ご覧になってください。
人では有り得ない物凄い力を持った…、おそらくは女の子のようです」
比較的原型を留めていた下半身と首と両腕、そして肉塊と化した胴体から。
状況的には、その少女?が彼の死体を武器にして漆黒の騎士に殴りかかり、
それを奴が叩き落とすなりして、死体が散華したという事らしい。
――これが直撃していれば、奴もただでは済まなかっただろうが。
246
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:14:43 ID:???
だが、僕はこの少女らしき人外の怪物じみたその腕力よりも。
それを軽くいなした“漆黒の騎士”の技量にこそ、戦慄を覚えた。
――あの赤い悪魔を惨殺したという実績もある。
不利な状況や物量差をものともせず、それを容易く覆す程の戦巧者。
それは、他人の弱点や隙を見出す事に酷く卓越しているに違いない。
元より地力に劣る存在を殺すなど、赤子の手を捻るより容易い事だろう。
――果たして、アティは漆黒の騎士を止められるものなのだろうか?
その時僕は、彼女を無事助けられるものだろうか?
僕は背筋に冷たいものが流れ落ちるのを、感じずにはいられなかった。
「…で、その人間離れした力の少女はどうなっている?」
「傷付いて、どこかに逃げられたのでしょうか…」
そう言って、アティには聞いてみたものの。
僕はその少女らしきものがどうなったか、大方の想像は付いていた。
奴や少女の死体らしきものが、どこにも見当たらない。
そして、三人分以上の血がここで流されている。
倒された男のデイバッグも回収されていることから、
すなわち――。
「あるいは、別の場所で漆黒の騎士に殺された、か…
いずれにせよ、全ての戦闘行為は終了したと見るべきだろう」
僕の推論に、アティはびくりとその小柄な身体を震わせる。
まるで、彼女自身が少女にそうしたかのように、
アティは罪の意識に苛まされ、その顔を更に暗くした。
だが――。
247
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:15:31 ID:???
「…ただ、ここで手当を受けた可能性もあるのです」
アティはそう言って、一つの血に塗れた地面を指差す。
そこは血とは別に、明らかに水で湿ったような跡があった。
まるで、その場で傷の消毒でも試みたかのように。
「その女の子に仲間がいて、彼らに助けられたのでしょうか?あるいは…」
「いずれにせよ、このままでは憶測の域を出ない。
一度、当事者達の口から確認する必要があるな」
漆黒の騎士が、わざわざ敵に治療を施すといったことはないだろう。
無論、漆黒の騎士が負傷して自らの手当をここで行ったという可能性もあるのだが。
少女がどうなったかについては、聞いておく価値がある。
死体を振り回して鈍器にするような、あらゆる意味において非常識な輩なのだ。
道徳倫理が一切通用しない人外である以上、この殺し合いに乗っている可能性は高い。
本音を言えば、厄介者は共に倒れてくれた方が有難いのだが…。
それだけは口を紡ぐ事にした。
「とはいえ、どこに潜んでいるかだ。それが分からない事にはな。
今頃は君でも探しにここを去ったか、あるいはどこかで休んでいるか…。
唯でさえこの状況を築き上げ、なおかつ生き延びたような化け物が相手だ。
たとえ傷を負っていようと、決して楽観など出来る相手ではない。
…どうする、アティ?」
僕の発言にアティは俯き、ますますその顔を暗くしていたが――。
――…
――――…?
―――、――――――。
…唐突に、彼女は驚愕にその顔を跳ね上げた。
248
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:16:41 ID:???
「どうしたんだ?」
「えっ…ごめんなさい。ネスティさん…」
―――――――
――――――――。
――、――――――
――――!!
彼女はまるで何か得体の知れないものに気付いたかのように、
何者かの気配を伺い、不安げに周囲に視線を動かしていたが。
僕には一体何が起こっているのか、まるで理解する事が出来ず。
――――…
――…
――――…
――、――――…。
「…声が、聞こえるのです」
「なんだって?」
――――――――――
――――――
――、――――!!
一体、誰の声を聞いているのだろうか?
幻聴ではないのか、となお問い質す僕に。
彼女は大きくかぶりを振り、その声の主を僕に教えた。
249
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:17:42 ID:???
「碧の賢帝(シャルトス)の声が、はっきりと…。
適格者を待ち望み、手に取る者を探しているようなのです。
私の事は忘れてしまったのか、覚えてはいないようですが…。
でも、あの剣はその意思と共に失われたはずなのに」
そうは語るが、やはり僕の耳には何も届かない。
気配のようなものは、言われてみれば感じる気もするのだが。
適格者の器になければ、魔剣の声など一切聞こえないという事か。
――あるいは、己の意思を伝えるに値しないと見下されているか。
いずれにせよ、事態が剣呑極まりないのは確かだ。
「君が言っていた、二つの魔剣の事か。だが、何故だ?」
「それは、わかりません…。ですが、一つだけ言えることがあります。
あの剣はディエルゴの力と意思の一部であり、使う毎にそれに近付いていくのです。
ですから、あれを誰かがその声に釣られて、魔剣を濫用してしまえば…」
そう言うと、アティは焦りの色をより深いものとする。
彼女だからこそ、わかるものがあるのだろう。
その魔剣とやらが、どれだけ手に負えず、抗い難い代物であるかという事を。
――もし、半端な適格者が剣を手にして、それを暴走させてしまえば?
「いずれ使い手を取り込み、『ディエルゴが完全な形で復活する』という訳か。
いや、『メルギトスがさらなる力を得る』とでも言い直すべきなのか?
ましてや、この村には漆黒の騎士が潜んでいる。そうなれば…」
万一、適格者と漆黒の騎士がぶつかれば、暴走の危険性は極めて高いものとなるだろう。
これほどの地獄を生み出せる猛者というのであれば、生半可な力では太刀打ちできまい。
いや、魔剣の力を以てしても、確実に勝てるという保証はない。
奴の力量は現場に残された死体の状況から考えても、明らかだ。
ならば、魔剣の使い手は後先を顧みぬ程の力を、それに求める事になりかねず…。
250
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:18:13 ID:???
「そんなっ…。今すぐ、探さなければ!
そんなことになってしまえば、みんなっ、みんな……っ!」
「落ち着けアティ!状況をようく考えるんだ!
適格者は世界中を探しても殆ど存在しないといったのは君自身だろう?
だったらおそらく、魔剣に呼ばれているのは君だけだ、違うか?」
魔剣の恐ろしさを、ある意味最も容易く想像出来るせいなのか?
悪夢の未来を想像し、恐慌状態に陥った彼女を。
強く両肩を揺さぶり、強引に落ち着かせる。
――やれやれ。どうやら僕が彼女の代わりに、状況を分析する必要がありそうだ。
「それに第一、その漆黒の騎士がそれを拾い持ち歩いている可能性だってあるんだ。
奴が君の言う適格者の器にあるとは到底思えないし、
ならばなおの事他に適格者がいた所で、再契約など難しいだろう?
奴から魔剣を奪い取るなど、至難のわざだろうからな」
「…………………………っ」
僕は可能な限り案ずるに足る根拠を並べて、彼女を落ち着かせようと試みる。
ほとんどは当て推量で根拠など何もないが、それでも沈黙を続けるよりはマシだ。
だが、肝心の彼女がこの状態であれば、奴との接触は危険に過ぎるかもしれない。
――まさに今、懸念した通りの事態が発生しかねないだろうから。
僕はそう判断し――。
「…いいかアティ、落ち着いて聞いてくれ。
この村から逃れよう。ここは危険すぎる」
村の捜索の間、ずっと考えていた安全策を口にした。
「えっ?そんなっ…」
251
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:18:48 ID:???
信じられない、といった顔を向ける彼女に。
僕は苛立ちのあまり、思わず声を荒げた。
「君はバカか?!状況をよおく考えるんだ!
漆黒の騎士は生き残り、まず間違いなく次の狙いは君だろう。
そして君の言う魔剣もすぐ傍にある。それもまた君が狙いだ。
奴とぶつかれば、再び君が手に取ってしまう可能性は決して少なくない。
そして奴に追い込まれて迂闊にそれを使えば君という存在は消され、
ディエルゴは、いやメルギトスは完全な力を得るだろう。
そうなれば、このゲームに巻き込まれた全ての人間の…。
いや、巻き込まれた全ての世界の命運は尽きてしまう!」
これまでの状況から考えれば、それは充分に起こり得る事態である。
いや、むしろこういった状況を人為的に作り上げる為にこそ、
ディエルゴはこの悪趣味な殺し合いを開催したのかもしれない。
魔剣の暴走を促し、それにより適格者を乗っ取り、完全なる力を取り戻す――。
それこそが、メルギトス=ディエルゴの最も望みそうな筋書きなのだから。
「そもそも、彼に戦闘を挑まれた場合、魔剣の力無しで勝てるとでも思うか?
不思議な力に一切頼らず、ただ磨いた技量のみで己を圧倒する敵をねじ伏せるような、
厄介極まりない相手が。それに、奴の言い分を信じるというのであれば、なお危うい。
軍の頂点にいた英雄というのであれば、人を欺き殺す事にかけて奴はプロ中のプロだ。
軍を抜けた君にとって、まさに天敵の類だろう。君の言う話し合いが通用しなければ…。
その結果、失われるのは君の存在だけでは済まないんだ!」
今置かれた状況は、ほぼ最悪に近い。
故にこそ、僕は言い聞かせる。彼女自身の肩にかかる、責任の重さというものを。
彼女が個人的な感傷に溺れた結果が、最終的に恐るべき惨禍を引き起こす可能性を。
そして、それは決して少なくはない可能性を秘めているのだ。
252
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:19:26 ID:???
だが、彼女は自分の気持ちを抑えない。抑えようともしない。
それは、更に硬化させた表情からも容易く伺えるものであり。
「いいか、アティ。もう一度よく考えてくれ。
それに漆黒の騎士を説得したいなら、まずは仲間を集めてからでも良くはないか?
カーチスという男だって、もしかしたらすぐ駆けつけてくれるかもしれない。
奴とて大勢で一度に来られれば、こちらを奇襲するような軽率は控えるだろう。
勝算のない戦いを、プロならなおさら避けるはずだからな。君の危険も減る。
説得は、改めてその時にでもゆっくりと行えばよい」
故にこそ、僕はさらに言い聞かせる。
妥協案、ないし彼女が納得できるであろう落し所を模索する。
彼女は見た目に反して恐ろしく頑固だ。決して己というものを曲げない。
己を曲げず、数々の修羅場をくぐり抜けて来た自負もそうさせているのだろう。
だが、その決して折れぬ意思が裏目に出る局面というものもある。
第一、彼女とその実力を全面的に信頼しても良いものかどうか…。
故に眼前の危険は出来るだけ避けて、安全策を取るべきなのだが。
とはいえ、僕が強引に彼女を無から連れ出そうとした所で、
彼女は僕の手を振りほどき、独断で行動しかねないだろう。
そうなれば、過程は違えど結果は同じとなる。
…だからこそ、彼女の同意を得ねばならない。
「…一体、何を迷う必要がある?
もし今すぐにでも奴を阻止しに動く必要があるというのなら、教えてほしい。
それだけの理由が僕に説明出来るというのなら、僕も考えを改めよう。
だが、一つ言っておく。もはや君一人の感傷で決めて良い問題ではないんだ。
それをよく考えた上で、納得の出来る返事というものを聞かせて欲しい」
253
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:19:56 ID:???
故にこそ、僕は重ねて言い聞かせる。
これがこの場において、最も合理的な判断であるという自信もある。
だが、残念な事に僕の言葉に彼女に納得する気配は、一向に見られない。
置かれている状況に自覚はあり、それに悩んではいるようではあるが…。
――メルギトスがこの場を見ていれば、思い切り哄笑している事だろう。
僕は胸に込み上げる焦りを、必死で抑えながら。
この場を上手くまとめ、彼女の独走を抑える次の言葉を必死に探し続けた。
…すぐ傍に潜んでいるであろう一振りと一人の死神に、戦慄を覚えながら。
そして、彼女の回答は――。
【C-3/村/1日目・夜中】
【アティ@サモンナイト3】
[状態]:左腿に切り傷(応急措置済)、精神的疲労(中度)、衣装が血塗れ
[装備]:呪縛刀@FFT
[道具]:支給品一式
改造された無線機(故障中)@サモンナイト2(?)
[思考]1:メルギトス=ディエルゴを、どうにかしなくては。
2:ゼルギウスさん(漆黒の騎士)の暴走を、必ず阻止する。
3:対話と交渉で、ヴォルマルフからベルフラウの蘇生法を得られる?
[備考]:改造された無線機は、ヴァイスとの戦闘時による衝撃で故障しています。
正常に動作させるには、適切な部品を集めて修理を施す必要があります。
キュラー達やヴォルマルフ達がディエルゴの力で蘇生した可能性から、
対話と交渉によるベルフラウの蘇生に不安を抱いています。
ハーディンと軍馬の死体の状況を入念に調べていたので、服が血に塗れてます。
254
:
闇に潜み見つめるモノ
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:20:29 ID:???
【ネスティ@サモンナイト2】
[状態]:全身に火傷(応急措置済)、身体的疲労(軽度)、精神的疲労(軽度)
[装備]:ダークロア@TO 、村人の服@現実、顔を除いた全身に包帯
[道具]:支給品一式(食料1/2食分消費) 、蒼の派閥の学生服(ネスティ用)、
エトナのボンテージ(サイズは大人用)、予備の包帯
[思考]1:メルギトス=ディエルゴを倒して、元の世界に帰還する。
2:自分と仲間(アティを含む)の身の安全を優先
3:自分がマグナに信頼される人間である為に、アティに協力。
4:アティの無謀ぶりと漆黒の騎士に強い危機感。
5:アティに己が融機人である事を話すか、考え中。
6:自分の心を救ったアティへの感謝と好意(及び劣情?)
[共通備考]:村の戦闘跡から、漆黒の騎士の戦闘力をある程度把握しました。
主催がディエルゴに深く関わりのある存在である事を確信しました。
アティとネスティは共に、悪魔王メルギトスがハイネルのディエルゴを
吸収して復活を遂げた存在ではないかとの推測を立てています。
そして、魔剣の暴走を促し、適格者を乗っ取り力を取り戻す事が
このゲーム開催の目的ではないかとも考えています。
255
:
◆j893VYBPfU
:2012/08/29(水) 03:21:47 ID:???
これにて投下終了です。
ご意見等あればお願い致します。
256
:
名無しですかあなたは!
:2012/08/31(金) 00:24:55 ID:T8nJEdNo
投下乙です、先の展開に期待
257
:
源罪な名無しさん
:2012/09/04(火) 10:07:20 ID:???
とりあえず、問題なさそうなのでWiki登録しますね
258
:
源罪な名無しさん
:2013/02/13(水) 14:27:41 ID:Be5rWcpk
あげ
259
:
源罪な名無しさん
:2013/02/14(木) 23:39:12 ID:???
いや、あげる必要はないってw
260
:
◆j893VYBPfU
:2013/02/22(金) 10:08:23 ID:???
タルタロス、ネサラ、パッフェル、マグナで予約します。
人、いるかな?
261
:
源罪な名無しさん
:2013/02/23(土) 22:35:19 ID:???
お待ちしてます!
262
:
◆j893VYBPfU
:2013/03/09(土) 08:55:57 ID:???
予約の延長を。
263
:
源罪な名無しさん
:2013/03/10(日) 15:53:17 ID:???
おお、久しぶりの予約入ってた!
ここにいるぞ!
264
:
◆j893VYBPfU
:2013/03/15(金) 10:17:19 ID:???
予約の延長を…。
265
:
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:29:54 ID:???
予約から随分と遅れましたが、
タルタロス、ネサラ、パッフェル、マグナで投下します。
266
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:30:41 ID:???
駆ける、駆ける、駆ける――――。
私はただ、暗闇の草原を駆け抜ける。
己の甲冑は、道中の目立たぬ場所に脱ぎ捨てて来た。
先程の戦いでルヴァイドを斬り捨てた時、その甲冑の手応えのなさを疑問に思い。
そして薄紙にも等しい装甲を、一切の疑問もなく身に付けていた事が理解出来ず。
この島でのこれまでの不可解な出来事の数々から、思い当たるものを感じ。
念の為にと己の甲冑も試してみれば、やはり容易く曲がり斬れた為である。
おそらくは、この殺戮劇の主催者がゲームの平等性を重んじるために、
あらかじめ身につけていた防具を無力化していたのだろう。
現に、あの小物もまた本来の防具から着替えていたのだ。
ならば、今の防具は無意味どころか、文字通り足手纏いでしかない。
むしろ身軽になった方が、一刻も早くマグナに追いつけようものだ。
とはいえ、この暗闇の草原の中で。
厭おしい…。いや、ある意味愛おしい彼を探すのは一苦労やもしれぬが。
私とマグナの因縁だ。この私が諦めぬ限り、必ずや再会は果たされるだろう。
―――いや、果たされるべきなのだ。
これは宿命であり、運命なのだから。
マグナとて、私が殺した仲間にあそこまで言われたのだ。
「“お前は奴よりも強い”」とな。
267
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:31:15 ID:???
彼の言葉を信じようとせず、いつまでも逃げ回る“超律者”など有り得ぬだろう?
私の言葉を否定するために、マグナには是非自ら手を汚す覚悟を決めて貰いたい。
…そうでなければ、私がつまらぬのだ。
そうして現実に向き直り、ようやく奮い起こしたその健気な意志を。
私は真っ向から打ち砕き、貴様の全てを否定し尽くしたいのだ。
――わかるな、マグナよ?
私は湧き上がる熱い期待を胸に、口元に笑みを浮かべると。
草木を蹴散らす勢いで、彼を追い求め続けた――。
◇ ◇ ◇
「へえ、何一つ真剣に話しをする気はないって訳だ…」
私は、身体の線が強調されたあられもない姿で。
ハンサムな青年の腕に抱かれながら、人では絶対に眺める事が叶わない…。
絶景を見下ろしながらのデートに誘われ、そのムードに酔っていました。
身体は打ち震え、鼓動は激しく脈打ち。
ああ。このまま胸は張り裂け、天にも登りそうです――。
…って、なんですかこれぇ!全然違いますよぉ!
これ、言っている人誰ですかぁ!ぜぇんぶ訂正してくださいよぉ!
268
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:31:58 ID:???
濡れて張り付いたシーツと寒空のせいで、凍える程ガタガタ震えててぇ!
人を人と思ってなさそうな、不審人物さんにとっつかまってぇ!
いつ突き落とされるか分からないから、心臓バクバクものでぇ!
このままだと、胸どころか全身が落下した衝撃で引き裂けてぇ!
全然別の意味で昇天しちゃいますよぉ!
…って、よく考えたらこれ、全部皮肉になってるじゃないですかぁ!!
ううっ、ひどいですよぉ…。しくしくしく…。
まあ、取り敢えず文句は置いといて。
この状況は、もう致し方ないですね。
薬や拷問だってそりゃもう慣れっこでしたけど、
このままでいて良い事はなんにも無い訳ですし。
だったら、相手がたとえこの殺し合いに乗っていても、
ばらしても問題の無い事だけ正直に喋っちゃいますか?
だってこのやさぐれフレイズさん、明らかに目が据わってますし…。
「もー、そんな怖い顔しないでくださいよー?
北の城で二人組に襲われた事とか、今すぐお話ししますから、ね?
とは言え、本当に寒くって凍えそうで仕方ないですから…。
その間、毛布代わりにぎゅっと抱きしめてもいいですか?
ちょっと位なら、そっちも抱きしめたり、触ったりしてもいいですから。
あっ、もちろんリアーネさんには黙ってあげますよ?」
269
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:32:29 ID:???
とまあ、相手にさりげなく接触を試みる。
相手にスケベ心が少しでもあれば、それを逆手に取って
隙を見て逃げるなり関節でも極めたりのしちゃえば良い訳で。
まあ組討とか寝技の類なら、房中術の一環というか締めで、
(最近使ってないとはいえ)得意中の得意な訳なんですけどね。
“茨の君”ヘイゼルの名は伊達じゃない、ってことで。
「生憎、ニンゲンなんてゲテモノつまみ食いする趣味は俺にはねえなあ?
…だがま、降ろすってのならいいだろ。ちっとは気も変わったみたいだしな」
だが、ニンゲンの私に一切魅力なんて感じやしないのか。
大きな溜息を吐くと、侮蔑丸出しであっさりと誘惑を切り捨てた。
……うら若き乙女をゲテモノ呼ばわりだなんて、ちょっと酷過ぎますよー。
そりゃまあ、中身はおばさんだったりしますけどね…。
とまあ、泣きたい気分は抑え込んで。
元々あまり興味がないのは感じてましたから、それならそれで良いとして。
ニンゲンを嫌がっているのなら、それを逆手に取れば良い訳で。
「わー。どうも、ありがとうございますぅ。
それにごめんなさい。そんなにくっつかれるのお嫌でしたなら、
今すぐ離れて着が「ダメだ」」
270
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:33:13 ID:???
私に着替えさせようと仕向けてその隙に逃げる、
二段構えの策だったんですが…。
間髪入れずに即ダメ出しって…。
「取り敢えず、話が全部終わるまでこのままだ。
着替えの振りをして逃げられて、変な事周りに吹聴されても困るんでね。
そのまま風邪引きたくないなら、さっさと知っている事を全て喋るんだな」
やっぱりというか、全部バレバレみたいだったみたいで。
私達二人はは地面に降下した後――。
この滑った鞭みたいなので縛られたまま、ご丁寧に距離を置かれて。
自分の名前と、先程自分に起こった事のみを正直に話し始めました。
+ +
「…なるほどね。話しはわかったよ、パッフェルさん。
あんたが襲われた城に向かう前にここの死体を一度目撃していた訳で…。
で、水浴び中に襲ってきたその二人組の金髪男がデニムって名前で、
もう一人の金髪女が“姉さん”と呼ばれてたわけか。
おまけにそのヤバイ連中はこのゲームに乗っているに違いない、と」
やさぐれフレイズさんは、私の与えた情報を呟き。
噛み締めるように、その内容を確認する。
「で、何より――。
この主催者は再び復活した“源罪のディエルゴ”って奴の可能性が高く。
おまけにそいつはあんたと因縁深い関係にあり、
おそらくは報復の為にこのゲームで嬲られちまってるって訳か?」
271
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:33:53 ID:???
こっちの身元を探られるのは、正直少々痛手ではあるのですが…。
このやさぐれフレイズさんは、どうにもこちらの事を知っている節がある。
“偽名でも構わない”って自信満々で言うって事は、
裏を返せば本名を知っているって言っていることですよね?
フフン、一言余計でしたねー。
っていうか、私も大概迂闊の極みなんですけどね…。
「ええ、まあ概ねそんな感じですよー」
ただし、その話しを終えた後のやさぐれフレイズさんは。
露骨に舌打ちをすると、俯いて顎に手をやり何やら悩み出しました。
(ちっ…、しっかしまあ…。あいつらの向かった先じゃねえか…)
とか、思わず口から漏れたのは聞こえましたが。
何やら、非常にマズイ事でもあったのでしょうか?
見たところ、それほど深刻な事態でもなさそうですが…。
とは言え、意識が私以外に向いているならしめたもの。
――この隙に、さっさと退散してしまいましょうかね?
私は、気づかれぬよう身体を少しづつよじり。
縄抜けの要領で、絡みつく触手から逃れようと試みる。
後ろ手に縛れた腕を少しづつくねらせて抜きに掛かり、
まずは手首の自由を取り戻す。
そして触手を掴み、一気に触手を緩めようとしたその先に――。
272
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:34:28 ID:???
「えっ…?!」
触手の締め付けが唐突に厳しさを増し、さらに複雑な形へとに絡みつくと。
身体の妙なところばかりを、その先端がまさぐり始めました…。
「ちょ…、んっ、やめ、いや…っ!!」
って、なんですか!なんなんですかっ!
このハレンチな扱いは!って、ちょっ、そんな所に入らないでくださいよ!
んむっ、はっ、あっ…て、嫌ですってば!なぜ妙に手馴れてるんですか!
貴方「ゲテモノに興味はない」って、そう言ってたじゃないですかあ!
やめてくださいよおっ!…いい加減、泣いちゃいますよおっ!
「あー、すまねえ。少しばかり失敗しちまった。
まだ、こいつの扱いになれてねえんだわ…」
私の抗議の視線を、どこ吹く風と受け流し。
全く悪びれる様子のない、やさぐれフレイズさん。
手元の仕掛けを適当に握りしめている辺り、本当なのかもしれませんが…。
だからって、この扱いはあんまりじゃないですかあ!
『彼氏持ちのうら若い乙女に変な行為を強制された』って、
貴方の奥さんに訴えますよぉ!!
「…とはいえ、あまり態度が良くねえな。
…試しに隙を見せてやれば、即これだ。
その分だと、まだまだ俺に隠しておきたい事とかいっぱいあるんだろ?
…たとえば“既に誰かを殺している”とかな」
273
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:35:10 ID:???
そういって視線だけをこちらに向けたが、その底冷えがする鋭い眼光は。
先程の考え事自体が、私を試す欺瞞であった事を意味し。
「案外、既に何人か殺して浴びた返り血洗い流している所を、
あんたの言う二人組に襲われたとかじゃないのか?
まあ、他にも腑に落ちない点は色々とあるんだがね…」
私はそれに見事釣られてしまい、いらぬ誤解を増させてしまったという訳で――。
「それじゃあ風邪引かないうちに、もう少し洗いざらい話して貰おうか?
…出来れば、こっちとしても穏やかにいきたいものだがね」
余計に警戒心を煽ってしまった私は、このあられもない姿のまま
尋問を続行される事になってしまいました…。
◇ ◇ ◇
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」
真っ暗になった草原を、何度もつまづきそうになりながら。
俺は必死に駆け抜ける。アルフォンスから、ただ逃げ延びる為に。
アメルが何者かに殺されてしまったという事。
アルフォンスが俺を騙し続けていたという事。
ルヴァイドが俺をかばい、そして死んでしまったという事。
そして何より、それらの全ての出来事に対して――。
俺は何も出来やしなかった事。
274
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:35:43 ID:???
アルフォンスの言葉が、痛みと共に胸に蘇ってくる――。
『そういえば、貴様が言っていた娘は死んだようだな。
確か、アメルと言ったか?
貴様がべらべらと勝手に話していた事だが
貴様はその娘に如何報いろうというのだ?』
そう。何も報いれてなんか、やれていない。
何をすれば良いか、見当も付かなかったから。
――いや、違う。
決してやってはいけない事しか思いつかなかったから、
俺はまともに答えることが出来なかったんだ。
アルフォンスや、アメルを殺した誰かに復讐でもするのか?
…でも、それで死んだ人達が戻ってくる訳じゃない。
それに、殺した側だってアルフォンスのように
自分なりに考えた上での結論かもしれないんだ。
それが正しいか、間違っているか以前に――。
その思いまで踏み付けて否定する事なんて、俺には出来ない。
それこそ、優勝を果たしてディエルゴに蘇生でもお願いするのか?
…馬鹿げている。俺がそんな事をして取り戻した命なんかで…。
アメル達が喜ぶはずなんか、絶対にない!!
第一、あいつを放っておけば本当に世界は終わってしまうんだ!
傀儡戦争や、島での出来事を思い出せ!!
275
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:36:16 ID:???
だったら、
だったら、だったら、だったら――っ!!
一体、どうしたら良いって言うんだ?
…なあ、ネスティ。お前なら「君は馬鹿か?!」って言いながら
俺の代わりに冴えた方法を考えてくれるだろう?
――いや、別にあいつじゃなくてもいい。
誰か
誰か
俺に、教えてくれ!!頼むよおっ!!
そのどうしようもない現実をいっぺんに目の前に突き付けられて。
色んな事が悔しくて、悲しくて。
頭の中がぐしゃぐしゃになって、気づけば視界が涙でぼやけて。
このまま走り続けていれば、もしかすれば嫌な現実からも逃げられるんじゃないかと、
そんな都合の良い事を考えていれば――。
絶対にそうはさせないと、現実がアルフォンスに手助けして周り込んだのか。
くぐもった悲鳴のような、だがどこか色っぽさを含んだような…。
俺のよく知る女性の、ただいつもより一音階は跳ね上がった声。
そして何かを焦がしたような臭いと熱を、
近くの茂みから感じ取り。
276
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:36:52 ID:???
その場所に近づいてみると――。
木に寄りかかり、ぐったりとした顔をしたパッフェルさんと。
彼女を鞭のようなもので拘束する、髪を後ろに撫で付けた男が。
――俺の視界に飛び込んできた。
+ +
「…話しは分かった。なるほどね。
道理で随分と良い度胸しているし、逆に現役程鋭くもねえってことか。
確かにそれは俺に隠しておきたい事だってのは、充分納得出来る道理だ」
「ごほっ…、ごほっ…、ぶふぇ!!……ぐずっ…。
……ええっ。そ…っ、そうで、すよっ、ねぇ?」
私はイスラ達と遭遇したことを除き、
これまでにあった事を全て正直に話しました。
そして、自分がかつては『茨の君』と呼ばれた元暗殺者である事も。
勿論、すぐには話したりはしませんでしたが。
そう簡単に口を割れば「まだ本当に隠している事が別にある」と
更なる追及を受けちゃいかねませんからね。
まあその為煙で燻されたりとか色々されましたが、この際仕方がありません。
マグナさんや先生達の事を隠しておけるなら、大したことないですし。
っと思った矢先に――。
「だが、あんたが本当に隠しておきたい事は、そんな些細な事じゃねえ」
277
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:37:43 ID:???
…って、いきなりバレバレですか。
ちょっと、もう勘弁してくださいよ?
まだ続くんですか、このイヤラシイ取り調べ?!
「な、なあに言って、んっ!…っぐぅ?!」
私が抗議の声を上げるよりも早く――。
このやさぐれフレイズさんは鞭の柄を強く握り締め、
私の首をより一層強く絞め上げました…。
ちょっと、これ…。まさぐったり、絞めたりって…。
真面目に使われても、あまり洒落になってないですよ…。
「…瞳の輝きが違う。自分がどうなっても良いと覚悟を決めている。
自分より身近の誰かの事を考え、真剣に庇っている。そんな眼だ。
自分の事しか考えられねえ奴は、もっと濁るか媚びた瞳をする」
そういって、一旦鞭を緩ませ――。
やさぐれフレイズさんは笑うように口元を歪ませましたが。
「俺もあんたと同じ気持ちになった事はあるから、よおく分かるさ。
そりゃ、誤魔化すのは無理ってもんだ?」
私を覗き込むその視線は、獲物を伺う猛禽の鋭さを見せていました。
…うあっちゃー。全然信用してませんね、こっちを。
「それにな、“源罪のディエルゴ”の話が本当だとすれば…。
あんたの仲間たちも一緒に報復されてたってなんら不思議じゃあない。
与える情報量を少々間違っちまったな、元暗殺者のパッフェルさん?」
278
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:38:45 ID:???
迂闊…。
それに何気に人を見る目があるってのが、痛いですね…。
立ち振る舞いから察するに、異世界の同業者なんでしょうかね?
私は軽口を利きながら気を逸らそうと試みましたが、
私の話しなんてまるで聞いちゃいない様子で――。
「…当ててやろうか?多分、ただの仲間なんかじゃねえ。
あんたにとってはとびっきりに大事な恩人か恋人か…。
そういうかけがけのない存在まで、一緒にこちらに呼ばれちまった。
だからこそ、こうなってまでその人を庇う。さっきの話しじゃ概ね彼氏だろ?
…で、最後の質問だ。一緒に呼ばれた大事な彼氏さんは、一体誰なんだ?」
無論、これは嫌になるくらいのズバリな的中率なんですが。
敵か味方かもわからない相手に、マグナさん達の事なんて話せる訳がなく。
「そんな方、そもそも私にはいませんからっ♪」
「…そうかい。そりゃ残念だ」
そう言って、あくまでもシラを切っていると。
やさぐれフレイズさんの顔つきが険しくなり。
「これでも、傷だけは付けずに紳士的に振舞った積もりなんだがね。
当然、方針を切り替えてもっと痛め付けて欲しいなら話しは別だが…。
でも、あんたの様子じゃどんな拷問にかけたって無駄って所だろ?」
呆れたように大きな溜息を一つ付くと、
私の顔を覗き込み――。
279
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:39:38 ID:???
「だったら、これで終わりにしようか?
俺もあまりこういうのは趣味じゃないんでね…」
――ああ、やっぱりそうくるわけですね?
ごめんなさい、マグナさん。そして先生…。
私は彼の嫌な決断を察し、覚悟に身を硬くしたところ――。
「――なあ、嘘だろう…。パッフェル、さん?」
「…えっ?」
聞き覚えのある、呟くようような、縋るような小声が聞こえ。
続いて剣の鞘走る音と、続いて茂みを踏み荒らす音が響き渡り。
音のした方角を振り向いてみれば――。
私が今思っていた人が。想っている人が。
剣を担ぐように構えて、やさぐれフレイズさんに襲いかかりました。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「…ん?って、おい!いきなりなんなんだよ!」
ぶおんっ、と大きく勢いの付いた斬撃が直前まで彼のいた空間を切り裂き。
その威勢に驚いたやさぐれフレイズさんが、大きく後ろにさがりました。
……随分と慌てたせいか、手に持っていた鞭まで手放してしまい――。
「…マグナさんっ?!」
「…ちっ、仲間かっ!」
280
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:40:12 ID:???
間一髪、って所でしょうか?
マグナさんは激高し、雄叫びを上げながらなおも彼を追い縋り。
ただ、その暴れぶりはまるで悪鬼憑きが暴れ狂ったようにも、
離れた母親を求めて泣きじゃくる子供のようにも見え。
うん、私としてはそこまで想ってくれているのは嬉しいんですけど…。
こう、なんでしょうかね?ちょっとだけ、怖いんですけど。
まるで、私の知っているマグナさんじゃないみたいで。
もしかして、さっきの言葉でも聞かれちゃいました?
…あっちゃー、どうしましょう?
誤解どころの騒ぎじゃないですよ、これ…。
「許さねえ!お前だけは、絶対に!!」
「くそっ、このタイミングでかよ…ったく!」
やがて、丸腰の自分が不利だと思ったのか。
やさぐれフレイズさんは大きく舌打ちしながら、
その翼を羽ばたかせ、上空へと逃げ去りました。
…でも、これでまずは一安心といった所なんでしょうかね?
私は緊張の糸が切れ、その場にへたりこんでしまいました。
「くそっ!逃げられたか、あいつ…っ!!」
「た、助かりましたぁ…」
やがて、彼を追いかけるのを諦め。
剣を鞘に収め、こちらにやってきたマグナさんを見て――。
281
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:41:03 ID:???
「あ…っ?」
【「君の□□の所に行くんだ、そして愛を告げろ。 相手が答えたなら、□せ」】
どくんっ
――その胸が一際、大きく高鳴りました。
そして身体が、吐く息が唐突に熱を帯び。
マグナさんを、見て――。
【「方法は任せる、この身体を使って精一杯誘惑してやる事だな」】
どくんっ
一体どうしてこんな、と理由を考えた頭も、
ふわっと溶けたように――。
【「□し終えたとき、お前は□□□□□□□□全てを思い出す」】
282
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:41:36 ID:???
ああ。
ああ、そう言えば――。
どくんっ
どくんっ
どくんっ
どくんっ
どくんっ!!
――大事な命令が、与えられていたわ…。
+ +
「大丈夫か!パッフェルさん!」
――目の前には、命令の対象がいる。
283
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:42:14 ID:???
「はぁ……っ、はぁ……っ」
「酷い事を!…っと、ごめん!俺の上着を用意するよ…」
身体に纏わり付いていた触手が、シーツとともにずり落ちて。
全裸となった私に見蕩れた彼は、その貌を見る間に紅潮させ。
露骨に目を逸らし、慌てて脱いだ上着を乱暴に押し付けた。
彼の喉からごくり、と唾を飲む音こそ盛大に聞こえたものの。
そのまま劣情に任せて、襲いかかるような真似はしないようだ。
そして「上着を着たら教えて欲しい」と言い放つと、慌てて私に背を向ける。
なんとか気を逸らそうと、言葉にならぬ言葉を投げかけてくる青年。
ぎくしゃくとした動作が酷く滑稽さを伴うが、それで気付いた事もある。
…どうやら、彼はこの私に劣情だけでなく好意も抱いているらしい。
私としてはどうでも良いが、仕事をこなす上では実に都合が良い。
こういう初心な青年の方が、心も緩みやすく仕留めやすいからだ。
とは言え、流石に後味は悪いものとなるだろう。
もしかすれば、裏切られた苦悶の貌と絶望の断末魔が
数日は脳裏から離れないかもしれない。
だが、それも仕方がない。
――いや、いい加減慣れるべきなのだ。
“茨の君”として、この先生き続けるためには。
心を凍らせ、人形となるしかないのだから。
284
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:42:58 ID:???
――ならば、せめて彼が逝くまでの間は。
少しぐらい、甘い夢を見させるのも良いのかもしれない。
それが、私として出来るせめてもの行為。
私は諦観のうちにその頭を切り替えると。
「…な、なあ、パッフェルさん。さっきの言葉なんだけ……んっんむっ?!」
背中を向ける彼を後ろから抱き付き、言葉も聞かずにその唇を奪う。
そして彼の身体から熱を奪うように、凍えたその肢体を押し付けて。
――甘い吐息を、耳元に吹き付ける。
「さあ、ボウヤ…。一緒に遊びましょう?」
「…っ!いきなりどうしたんだよ?!パッフェ…んむっ、んん!!」
なおも開く彼の口を、私の口を重ねて塞ぎ。
その口内に、私の舌を割り込ませる。
私の舌が唇を舐め、歯茎をねぶり、彼の舌を転がして。
――口内を思う様、執拗に蹂躙する。
驚きの余り後ろに引いた舌を、なお追いすがりそれを弄び。
聞かせるようにじゅるりと音を立て、彼の唾液を飲み干す。
やがて、私は唇を離し。
身体は預けたまま、そして耳元で熱く囁く。
285
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:43:35 ID:???
「…抱いて?」
「ええっ?!な、ななななななに言ってるんだよパッフェルさん?!
ちょっと、いきなりおかしいよ!それに、今はそんな事している場合じゃ…」
“茨の君”としての情欲に爛れた仮面を被りながら。
――私は標的の貌を覗き込み、その様子を注意深く観察する。
瞳は潤み、頬は紅潮し。身体が火照り脈打つのを全身の肌で感じる。
劣情に流されつつあるようだが、あまりに唐突過ぎる行為のせいだろう。
未だ、身体の強張りと警戒心が抜けきれていない。
とは言え、こちらを拒むまでは至れないようだ。
――どうやら、彼が油断しきるまではもう少し準備が必要なようだ。
「……今すぐ欲しいの。
それが私の気持ち。それとも、私とじゃ嫌?」
私はそう言いながら、その背に胸を強く押し付け。
身体を上下に動かし、擦れる感触を伝えながら。
彼の顎と腰に手を回し、そこにあるものを確かめる。
――万一のために、先に腰にある剣は奪うべきだろう。
いや、むしろ今回はより確実にそれを使うべきか?
「そ、そんなことはないですよ!でも、やっぱりこんな形でなんて…」
「慣れていないなら、任せて?私が教えてあげるから…。」
なおも食い下がる彼の唇を再び奪い、強引に黙らせて押し倒す。
彼の腰に手を当て、履物をずらし。
不自然にならぬよう剣の鞘も外す。
286
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:44:27 ID:???
「この様子じゃあ、準備はいらないかしら…」
私はいつも通りに、寝かせた標的に跨り。
両足を絡めて、彼が動かぬよう押さえ込む。
――再び、彼の貌を覗き込む。
彼は既に私に夢中だ。その視線と手は肢体に向けられ、
もはや何をされても、不審に思う事はない。
――どうやら、これ以上の演技は必要ないらしい。
私は彼と繋がりながら、手にある剣を後ろで引き抜き。
逆手に握りしめた剣を、大きく振り上げる。
「ごめん、ね…」
「えっ?」
夢見心地だった彼が、視界に映る白刃を認めて血の気を失う。
だが、もう遅い。これで……。
――――唐突に私へと叩きつけられた、濃密な殺意。
当然、目の前の彼のものではない。ならば、誰が?
考えるよりも早く、私は地を蹴り彼より離れる。
「……ッ!!」
「私の獲物を横取りされて貰っては、困るな?」
287
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:45:01 ID:???
――鋭い痛み。それを感じる場所は、背中。
どうやら、背後からの斬撃をよけそこなったらしい。
だが、皮一枚だけで済んだのは、僥倖というべきか。
標的のいる傍らには、隻眼の騎士らしき男がいた。
――彼の仲間なのか?
「泥棒猫には、早々に退場してもらおうか?」
ロレイラルの機械兵士を思わせる、抑揚のない声が響き渡る。
「…あ、アルフォンス!!な、なんで…?
まさか、俺を助け……?ぐはあっ!!」
仲間らしきものが来たにも関わらず、困惑の表情を浮かべる標的。
そして、隻眼の騎士は彼の下腹を勢い良く蹴り上げ。
胃に収めてあったものが、地面に撒き散らされる。
「ぐぅ……えっ!っ……ぎ、があ……っ?!」
「目は、覚めたか?いつまで呆けているつもりだ?」
私に剣を向けながら、標的を冷ややかに見下ろす隻眼の騎士。
…実に、余計な事をしてくれる。
吐瀉物にある臭気と腹部への突き刺さるような痛みが、
無理矢理にでも標的の意識を鮮明なものにするだろう。
これでは、もう迂闊に手を出せない。
288
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:45:40 ID:???
標的を遮るようにして、隻眼の騎士が立ち塞がる。
だが、先程の不意討ちの見事な手際から…。
彼が私と近い、闇の存在である事を教えていた。
そしてこの障害は、決して私の手に負えるような存在ではない。
いや、むしろそれから逃げる事すら困難を窮めるだろう。
――格というものが、根本的に違い過ぎるのだ。
(これは…。私では、勝てない…)
これまで私を生かし続けていた暗殺者としての勘が、
その絶望を脳裏に囁いていた。
「その無様なものは早々にしまえ。
さて、貴公は“この私より”強いのであろう?
ならば、立ち上がりそれを示して貰おうか」
だが、青白く光る月明かりを背に、標的に話しかけるその男は。
その貌こそ陰となりよく分からないものの、
その声は歪んだ喜びに弾んだようなものが感じられ。
そして、その研ぎ澄まされた殺意は。
私だけでなく、眼下の青年にも均等に向けられていた…。
◇ ◇ ◇
後一歩という所で、ややこしい事になった。
――だが、明るい材料もある。
289
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:46:13 ID:???
隻眼の騎士の様子から察するに、彼は標的にとっての敵であるらしい。
三つ巴の関係に嵌ったと考えた方が正しいのだろう。
――ならば、隻眼の騎士が彼を殺害するまでを遠巻きに見届け、
その後に逃亡してしまえば?
もはや、自ら手を汚す危険もなくなる。
仕事は無事果たされた事となり、なんら問題はない。
私は後ろ足で隻眼の騎士から更に距離を置こうとした、
その時に――。
「……ッ!!」
斬られた背中が風を受け、その痛みが私の意識を…。
僅かな間、鮮明なものとする。
私は――。
私は――。
そう言えば、一体何をしているのだろう?
彼を殺す仕事についている。それはわかる。
だが、一体誰の命令で?
290
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:46:56 ID:???
【「君の□□の所に行くんだ、そして愛を告げろ。相手が答えたなら、殺せ」】
歪んだ笑みを浮かべる、金髪の青年の顔が脳裏に浮かぶ。
私の乳房を片手で鷲掴みし、その男はさらに囁く。
【「方法は任せる、この身体を使って精一杯誘惑してやる事だな」】
…一体、彼は誰なんだろう?私のいる組織で、顔を見た覚えはない。
そして、その後のほうが酷く大切な事を言っていたような…、
そんな気がする。
【「殺し終えたとき、お前は□□□□□□□□全てを思い出す」】
――いや、それはどうでも良いことだ。
一度“茨の君”として、ヘイゼルとして命令が与えられた以上は、
必ず標的の生命を奪わねばならない。それが、組織の規律なのだから。
そうしなければ、私が生きていけないのだから。
…私の意志など、まるで関係がないのだ。
だが、まだ腑に落ちない点がある。
標的の彼は――。
何故、私の本名を知っていたのだろう?
「パッフェルさん」と。
今や、それを知る者など殆どいないというのに。
いや、それ以前に。
私は今、取り返しが付かない事をしようとしているのではないか?
そんな気がしてならないのだ。
291
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:47:26 ID:???
だが、何故そう感じるのか?
…わからない。
ならば私は、一体どうすれば――。
どうすれば、良いのだろうか?
+ +
――ああ。
探し求めていたぞ、マグナよ。
月下の再会を、心より寿ごう。
だが、私が手に掛けるその前に。
薄汚い暗殺者の色香に惑い、その手に掛かる寸前であったとは。
実に不甲斐ない話しではないか?
それでは詰まらないのだ。
それでは満たされぬのだ。
貴様は必ず殺す。
…この、私がな。
だが、その前に。
我々の逢瀬を邪魔する女狐には、早々に退場してもらおうか?
そう言いたい所だが――。
292
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:47:59 ID:???
何かしら、その女狐の様子がおかしい。
マグナがその女に懸想している。それは見ての通りだ。
だが、それは出会ったばかりの女を見るにしては、酷く生々しい感情をたたえており。
行きずりの女の誘惑に負け、油断しきっていたというよりは、
長い間心より愛した女への、最悪の裏切りに出会ったかのような――。
私がマグナに浮かばせたかった、驚愕と絶望に顔を染めかけていたのだ。
何故だ?
何故、貴様は間女にそのように特別な貌を見せる?
それは、貴様が私に見せるべき貌のはずであろう?
私は形容しがたい嫉妬に駆られ、私はその女を睨み付けるが。
――その女の瞳は、一切の意志を感じさせる事がない程、
焦点というものが合っておらず。
まるで、何らかの暗示にでも掛けられたかのように、
自らの殺意を感じさせることはなかった。
…『暗示』?
そこで私は一つの可能性に思い当たる。
もし、この女が元よりマグナの知り合いであり。
それが催眠術等で操られていた結果なのだとしたら?
この女にマグナが油断し切っていたのも頷ける話しだ。
そして、あの操り人形めいた様子は何よりも。
我々の世界の暗黒系魔法にかかったかのような、酷く知る臭いがした。
――もし、私の推測通りであれば?
293
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:49:45 ID:???
この女には出来るだけ惨たらしく、マグナの目の前で死んで貰う事にしよう。
それこそが、マグナにより深い絶望を思い知らせるという事になるのだから。
ああ、もしこんなことであるならば。
あの小物を、この場にでも連れてくるべきであったな?
そうならばあの女にでもけしかけ、
マグナに愛する者を無残に奪われる悲しみも与えてやれたものを――。
だが、確たる証は何もない。
ならば、一度確かめてはみるべきか?
私は、マグナを、眼前の女狐を手に掛ける前に――。
その関係に探りを入れるべく、次に掛ける言葉を頭で整理し始めた。
+ +
どういうことだよ?
訳わかんねえよ…。
なあ、嘘だよな?
何かの悪い冗談だと言ってくれよ、パッフェルさん。
「彼氏なんて、そもそも私にはいません」なんてさ。
それに、俺に刃を構えたのだって、何か深い事情があって…。
…なあ、答えてくれよ。パッフェルさんっ!!
294
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:50:24 ID:???
俺は視線で訴えるが、彼女は動じない。
むしろ俺もアルフォンスも見えていないかのように、
ただぼんやりと俺達のいる空間を眺めている。
一体、一体どうしちまったんだよ…。
だが、そんな俺の彼女への感傷を。
お腹の痛みと口から臭う酸味が、俺を現実へと引き戻す。
――目の前には、アルフォンスがいる。
俺が履物を直し、立ち上がる所を無表情に眺めてはいたが。
その一つしかない瞳の奥底は、メルギトスのそれよりも濁り切った…。
むしろ不気味な輝きのようなものが確かに見え。
俺は数歩下がり、立ち上がる際に拾い上げた鞭を構える。
酷く心許ない。こういった武器は扱った事はないのだ。
いや、剣でだってあのアルフォンスを止められるかどうか…。
全てを捨てて再び逃げるという手もある。
だが、そんなことは今は絶対に出来ない。
俺が逃げれば、残されたパッフェルさんは一体どうなるんだ?
そんなことをすれば、アルフォンスはルヴァイドに続き――。
彼女をその手にかけようとするだろう。
――アルフォンス自身の生存のために。
そして、俺はまたしてもそれを見届ける事しか出来ず――。
いや、そんなことは絶対に許されない!
295
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:51:26 ID:???
アルフォンスを抑えるのは難しくても。
パッフェルさんを、まずはなんとかしないと。
そして、二人で一緒に逃げて――。
その後、一体どうすればいいのだろう?
それに、パッフェルさんにした所で。
さっきの言葉通り、俺の事なんて本当はどうでもよくて。
むしろアルフォンスみたいに「自分が生きる為に」って理由で。
さっきも邪魔になってしまった俺を、殺そうと考えていたのかもしれない。
…だったら、どうすればいいんだろう?
――もう、訳が分からないよ…。
なあ、どうすればいいんだよ…。
+ +
あーあ、やっちまったな…。
いい加減駆け引きはなしで俺の名前を伝えて、同盟関係でも結ぶつもりだったんだが。
最悪のタイミングであのニンゲンの仲間がやってきて。
全部ご破産になっちまいやがった。
あれが、彼女がかばってた“彼氏の”マグナさんって奴か。
それはよおく分かったよ、パッフェルさん。
296
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:51:57 ID:???
とは言え、これじゃあ弁解も何もあったもんじゃないわな。
少なくとも二人には完全に敵だと見做されちまう。
まあ一旦は逃げ出したものの、様子が気になって遠目で眺めてたんだが――。
なんかあのニンゲンが仲間相手におっぱじめて、その最中にまた別の男が乱入して。
なんだか気が付きゃ三角関係っぽい見事な修羅場が出来上がっちまいやがった。
俺は今の面白そうな状況から、誰に味方して恩を売るかを考えてみる。
誰か一人程度なら、担いでその場から逃げる事も出来そうだが。
そこまでする利益が、果たしてあるかどうか…。
ま、確かにあの源罪のディエルゴを倒した奴等ってのなら、
色々と利用価値や聞くべき情報はあるってもんだろうがね?
…とはいえ、生命の危険が利益を上回るなら話は別だ。
あるいは、身の安全を最優先してこのまま静観を決め込んじまうか?
――さて、どうしたもんだかねえ?
297
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:52:39 ID:???
【D-6/マルスの死体付近・上空/二日目・未明】
【パッフェル@サモンナイト2】
[状態]:全裸、身体的疲労(中度) 、心神喪失状態(暗示の発動)、背中にかすり傷
[装備]:バルダーソード@TO
[思考]1:……マグナを殺す。
2:近くの黒騎士(タルタロス)を、どうすべきか?
3:命令(暗示)の遂行に当たり、最も的確な行動を模索中。
4:何故、標的(マグナ)を殺さねばならないのだろう?
[備考]:デニムによりかけられた「愛した者を殺す」という呪詛が発動中です。
ただし、背中に与えられた刃傷の痛みにより暗示が緩みつつあります。
大きな心身への衝撃や神聖魔法により、解除される可能性があります。
ネサラは既に去ったものだと思っています。
【マグナ@サモンナイト2】
[状態]:精神的疲労(重度)、現実逃避(重度)、上着を脱いでいる、
右頬に打撲(大きく腫れ上がり)、下腹に激痛(外傷はなし)
[装備]:あやしい触手@魔界戦記ディスガイア
[道具]:支給品一式(食料を2食分消費しています) 浄化の杖@TO
予備のワインボトル一つ・小麦粉の入った袋一つ・ビン数個(中身はジャムや薬)
[思考]1:…パッフェルさん、アルフォンス…。一体、どうして?
2:もう何が何だか分かんないよ…
[備考]:マグナの脱いだ上着と濡れたシーツ、およびマルス王子の履物と靴が
マグナの足元にまとめて落ちています。
ネサラは既に去ったものだと思っています。
298
:
行く手を阻むもの
◆j893VYBPfU
:2013/04/06(土) 00:53:12 ID:???
【ランスロット・タルタロス@タクティクスオウガ】
[状態]:疲労(軽度)、軽装、マグナに対する底無しの悪意。
[装備]:ロンバルディア@TO、サモナイト石(ダークレギオン)
[道具]:支給品一式(食料を1食分消費しています)
リュナンの首輪、ハミルトンの首輪、ルヴァイドの首輪
[思考]1:生存を最優先
2:ネスティ、またはカーチスとの接触を第一目的とする。
3:抜剣者と接触し、ディエルゴの打倒に使えるか判断する。
抜剣者もまた利用できないと判断した場合は、優勝を目指す。
4:ヴァイスとの合流前に、邪魔者は確実に排除しておきたい。
5:マグナを必ず後悔と絶望の中で殺害する。
[備考]:パッフェルをマグナの生命を狙った暗殺者だと認識しています。
マグナを排除する前に片付けるつもりですが、
何者かの暗黒系魔法により暗示を受けた可能性に思い至ってます。
状況次第によっては、マグナを苦しめるために利用するつもりです。
己の最初に来ていた甲冑は、D-6へ至るまでの道中で脱ぎ捨てました。
なお、上空にいるネサラには未だ気づいていません。
【ネサラ@暁の女神】
[状態]:打撲(顔面に殴打痕)、飛行中
[装備]:ヒスイの腕輪@FFT
[道具]:支給品一式×2 清酒・龍殺し@サモンナイト2、筆記用具一式、
[思考]1:己の生存を最優先。ゲームを脱出する為なら、一切の手段は選ばない。
2:マグナとパッフェルの二人に味方して、恩を売るべきか?
3:脱出が不可能だと判断した場合は、躊躇なく優勝を目指す。
[備考]:先程のやり取りから、パッフェルがかばっていた(目の前にいる)
青年を「彼氏のマグナさん」だと認識しました。
パッフェルへの尋問から、「源罪のディエルゴ」の情報を得ました。
彼女以外にその仲間が、ディエルゴの報復の為呼び出されている
可能性を疑っています。
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