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【オリスタ】メゾン・ド・スタンドは埋まらない【SS】

1 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:03:21 ID:vIyspCZI0
SSを「ぶっ書いた」!

※注意※
このSSには以下の成分が含まれていません。
・上手な文章・構成
・ジョジョらしさ
・早くて定期的な更新

そんな感じで何卒よろしくお願い致します。それでは本編スタート。

21話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:05:12 ID:vIyspCZI0
〜門北町(もんほくちょう)〜

 関東・K県の東端にある門北町はそれはそれは寂れた町でございます。

かつては好景気の波に乗り大型ショッピング施設やホテルが次々に建ち、多くの人で

賑わったと聞きますが、現在は殆どの建物が姿を消し、人々の喧騒は10年以上の

時を経てすっかり静まり返ってしまいました。

交通の便も良いとは言えません。何せ電車も地下鉄も通ってないのですから。

(最盛期には駅を作る計画も何個かあったようですが、全て中止となっています)

一応バスが走っていますが、正直本数が多いとは言えず、日々の足として使うには

かなり厳しいでしょう。この町で暮らすなら自家用車は欠かせません。

名産品も特に無く、さらに―――――――――


「……本当にロクな情報がないな」

 スマホの画面に映る「門北町」に関する様々なネガティブな情報の数々。
最後まで読むのも億劫になり、スマホをポケットにしまうと
青年・藤鳥天(ふじどり てん)は深く溜息を吐いた。

31話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:06:39 ID:vIyspCZI0
この春から社会人になるにあたり、就職先の近くにあるアパートの一室を借り
一人暮らしを始めようとネットで賃貸物件を探し始めたのは一週間前のことだ。


「……ココだ!ココに決めた!永住する!早速契約しよう!」

自宅のパソコンで賃貸情報サイトにアクセスし、会社近くのアパートで検索して
一件目のアパートのページを見た瞬間に発した言葉である。
まだアクセスしてから5分も経っていない。
たまたま遊びに来ていた天の彼女はそのあまりにも早すぎる決断っぷりに驚いたという。

「ちょ、ちょっと天!まだ何も見てないじゃない!もっと詳しい情報も見なきゃ!」

「えーっと、この手のサイトってすぐ契約とかって出来ないのな、
一度不動産屋に問い合わせなきゃダメらしい」

「当たり前でしょ、ちょっと見せて……ってここ門北じゃない!
陸の孤島で有名な場所よ、アンタが一番嫌がりそうな場所だからよしたほうがいいって」

アパートがある場所があまり評判の良くない所だと知っていた彼女は天に警告するが。

「問題ねーよ、住めば都って言うだろ」

彼女に言われた言葉を天は全く気にしていなかった。
彼が生まれ育った町もあまり人で賑わった場所ではなく、「何も無い町」という言葉に
慣れているというか一種の耐性のようなものを持っていたからである。
何も無いといってもコンビニ位はあるだろうし、暇なら電車で繁華街に行けばいいのだ。

とはいえ、町が賑わってるに越したことはなく、就職先の近くにあり家賃も手頃な物件など
他に沢山あったわけだが、天は頑なにこの門北のアパートがいいと言って聞かなかった。

「アンタって本当に言い出したら聞かないわね……どうせ『コレ』に釣られたクチでしょ?」

天の彼女は「まったく」と言わんばかりの溜息をつくと、サイトのある部分を指差した。

「ギクッ!いやぁーあはははははは…(なんで分かったんだコイツ!?あれか、読心術か!)」

「んなもん分かるわよ、何年アンタと付き合ってると思ってるの?」

(人の心を読むんじゃあない!そんなに顔に出やすいのか俺!?)

実際、天はページを見た瞬間、一目惚れに近い感情をこのアパートに起こしていた。
彼の心を射止めたのは素晴らしい景観でも広々とした間取りでもない。
ページに書かれてあったとある一文、たった一行の言葉に天は度肝を抜かされたのだ。



【敷金・礼金不要 家賃も『一切頂きません』。※要面接 メゾン・ド・スタンド】



(敷金礼金家賃不要……ってタダで住めるのかココ!?住む住む!ここに決めた!)

…単に住むのに金のかからない所が気に入っただけの話である。

41話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:07:55 ID:vIyspCZI0
メゾン・ド・スタンドは埋まらない

episode 01 「MIRACLE MEETS」


「家賃が不要というのは本当ですよ、大家さんに何回も確認しましたから。実際我々も
調査をしましたが欠陥住宅では無いですし、外観も綺麗なものですよ。写真見ますか?
こんな新築のような綺麗な所、門北じゃなけりゃ月8万は取れますよ、本当勿体無い。
正直言いますとここに住みたいって人は毎年かなりいるんですよ。でもページにもあったように
大家さんと一度面接して頂き、合格した人だけが住む事を許されているそうです。
ですのでまずは現地のアパートへ行く必要があります。その時に町の雰囲気も
実際に確かめてみたらいかがでしょう、住むかどうか決めるのは
それからでも遅くはありませんよ」

奇跡の出会い(天曰く)から数日後、問い合わせた不動産屋から貰った言葉である。
これは所謂「入居審査」というもので、通常は申込書類を元に審査をしたり
不動産屋を訪問した際の服装や人柄等の情報で判断することが多いが、
最近では大家と直接会って面接する形が増えてきているという。

面接の予約を入れてもらい次の日曜日、天はそのアパートに行く事になったのだが。


「まず電車に乗ってY駅まで行き、その後バスに乗って……何番系統のバスだっけ?」

天は持っていたカバンから賃貸情報サイトの画面を印刷して作った簡単な資料をを取り出し
ルートを再確認する。現在地点は天の実家の最寄駅の改札口前、まだ電車にも乗っていない。

「フムフム、6番系統のバスに乗ればいいのか……どこのバス停で待てばいいんだ?」

資料の再確認はこれで12回目である。そしてバス停に関する情報が資料には
載っていないということを再確認するのはこれで4回目である。

「何度見ても載って無い……仕方ない、スマホで調べるか」

51話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:09:24 ID:vIyspCZI0
 藤鳥天という男は「事前の下調べ」というものをあまり……いや、全くしない。
就職活動をしていた時もこれから受ける会社がどんな業種でどんな仕事をするのか、
筆記試験や面接の傾向は……といった基本的な下調べを一切せず
勢いだけで受ける会社を決め、ぶっつけ本番で試験や面接に挑んでしまう。
良く言えば決断力があり、悪く言えばいきあたりばったり、後先を全く考えない性格が災いし
就職先は全く決まらず、大学卒業ギリギリになってようやく内定が一つ貰えたのであった。

 門北へ向かう際も、不動産屋の資料やプリントした賃貸情報サイトに載っている
最低限の情報や簡単な地図に頼りきりで、行き先までのルートをネットで調べる等の
詳細な情報収集を一切行ってこなかったから、いざ当日になって行き方もわからず慌てるのである。


「……このバス停で待てばいいはずなんだけど、待てど暮らせど来る気配がないぞ?」

電車に乗り、K県で一番賑わっているY駅に到着した天は
スマホの情報を頼りに目的のバス停に着いたわけだが、どういうわけかバスが来ない。
かれこれ2時間は待たされている。

退屈なので天はバス停の時刻表に目を通した……が、汚れていてどうにも字が読みにくい。
どうやらかなり古いバス停のようだ。辛うじて分かる情報はこの時刻表はやたら空白が多く
バスは滅多にここに来ないのだろうというネガティブなモノだけある。
天はは電車内で見たネットの情報を思い出した。

(バスは走ってるが本数は少ない、暮らすなら自家用車は必須……か)

バスが滅多に来ない。一昔前ならともかく今は21世紀、それも関東の中でも
比較的栄えてるはずのK県でまさかこんな目に遭うとは思いもしなかった。

バイクの免許は持っているから中古の安い奴でも買って使うかと考えていた時である。
遠方から一台の古びたバスがこのバス停に向かって走ってきていた。

61話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:10:38 ID:vIyspCZI0
【6系統 門北車庫】

間違いない、目的のバスである。
バスは停留所に止まるとプシューッっと大きな音を立てて入口の扉を開ける。
天はバスに乗り込むと定期入れに入っている交通用電子マネーを
使おうとした……が、肝心のカードリーダーらしき物が
どこにも見当たらない。

(あれ?どこにカードをタッチすればいいんだ?……もしかして無かったりする?)

運賃箱には小銭を入れる所と千円札を入れる所の2つしかなく、
昔あった乗車カードを入れる箇所すらない。現金払いのみである。

いつもの習慣が使えず戸惑っていると、運転席に座る男が天に向かって
いきなり話かけてきた。暗くて良く見えないがヒゲを生やした40代くらいの男だろうか。

「おう兄ちゃん見ない顔だね、ボロっちいバスだけどゆっくりしていきな」

「えっ!?ど、どうも(急に話かけてきた、何だコイツ!?)」

「悪いな、見た通りのオンボロバスだから電子マネーとか使えねーんだ、現金で頼むわ」


天はようやく支払いが現金オンリーだという現実を知り仕方なく小銭を入れた。
久しぶりに現金払いで乗車した気がしたが、そんなことより天はこの気さくな運転手に
圧倒されかけていた。この男、初対面のはずなのにやたら気軽に話しかけてくる。

「新顔なんて数ヶ月ぶりじゃねーの、門北に何の用だい?」

「……近々引っ越す予定で。客の顔を覚えているんスか?」

「このバスは滅多に客が乗らないからよ、乗る客の顔は自然に覚えちまうんだぜ。
しかしそーか、門北に引越しかぁ……ケケケッ」


運転手の最後の笑いが、天には意地悪く聞こえた。
「あんな所に引っ越す物好きがいるのか」そんな意味が含まれている……ような気がした。

「まぁこれから何度か顔を合わせるかもしれんから覚えといてくれ。俺は村上、アンタは?」

「(いきなり名乗られてしまった)えーっと、藤鳥です」

「そーかそーか、よろしくな藤鳥の兄ちゃん!それじゃ出発するぜ!」

71話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:11:49 ID:vIyspCZI0
 村上なるオッサンに顔と名前を覚えられてしまい、門北に着く前に
町の洗礼を受けた気がした天であったが、ようやくバスが動き出そうとしていた。
天はバスの一番後ろの席に座るとようやく一息つく。
運転手によれば、目的の停留所「門北町」へは30分くらいかかるそうだ。
「安心しな、着いたら起こしてやるから寝ちまってもいいぜ」と親しげに言われたので
天はその言葉に甘えることにした。

その時である。


「……って、待ってぇ、そのバス乗るから待ってくれえぇぇぇ!」

後方から女性の声が聞こえた。後ろを振り向くとこのバスに向かって叫んでいることが
わかった。バス停に向かって必死の形相で走っている。

どうやらこのバスに乗ろうとしていたらしい。しかしバスはプシューッっと大きな音をたて
既に入口の扉を閉めてしまった。まもなく動き出すだろう。
一方、女性はバス停に辿り着くまでにあと数秒はかかる。普通ならもう間に合わない。

(運の悪い女だ、これじゃあバス停で2時間待ちコース確定だな……ん?)

天は窓ガラス越しに女性の顔を見た。10代後半、高校生くらいだろうか。ショートヘアの
髪にはウェーブがかかっていて、ハッキリと見えないが顔立ちも悪くないように見える。

(結構可愛い方……かな?遠くでハッキリしないから近くで見てみたいな)

 天はゆっくりと動き出しているバスの中でもう会う事はないであろう少女に
少しだけ興味を持った。あの子がどんな顔か見てみたいという、彼女持ちの身分にしては
あまり関心しない動機ではあるが、少女に対してある気持ちを起こしていたのは確かであった。


(……あの子を『助けてみるか』)

81話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:12:55 ID:vIyspCZI0
 天は後部座席の右端に座り直すと、右手をバスの窓ガラスの前にそっとかざした。
瞬間、掌からロボットの手のような『何か』が飛び出し、窓ガラスに貼り付いた。
「これで良し」天はニヤリと笑い『何か』を窓から離した。窓ガラスには
『何か』が貼りついてた場所にバーコードのような縦線模様が浮かび上がっていた。

 
異変が起こったのはそれからすぐの事である。
本来なら速度を上げY駅から離れる筈のバスが、一向に速度を上げようとしない。
いつまで経っても時速10キロ未満のノロノロとしたスピードのままなのだ。

「あれー、おかしいな?遂にエンジンがイカれちまったかぁ?」

運転手も異変に気が付いたらしく、アクセルを必死に踏んでいるようだが、
それでも速度は上がる気配すら無い。天はスマホを弄りつつこの光景を眺めていた。


そうこうしている内に先程の少女がバス停に到着、バスに気付くと今度はバスに向かって走り
そのままバスに追いついてしまったのだ。
少女に気付いた運転手は「しょうがねーな」と言うと入口を開ける。
女性はそのまま勢いよくバスに乗り込んだ。

「ハァハァ…良かった、間に合ったぁ……フェーッ!」

「全く、誰かと思えば『コネコ』じゃねーか。乗り遅れるたぁ珍しいな」

「買い物してたら……遅くなったんだよゼヒゼヒ……、でも……バスに追いつけて
本当に良かったあハァハァ」

91話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:14:32 ID:vIyspCZI0
 運転手に「コネコ」と呼ばれていた少女は息を切らしながらも無事乗車することに
成功したようだ。小銭を入れると息を整えながら天の座る後部座席の方に進んで行く。


(ほぉーっ、やっぱ中々可愛い……けど何か色々とキャラが濃いなこの子)

天はようやく少女の顔を間近で拝むことが出来た。が、この少女中々に個性が強い。
ウェーブがかかってると思っていた髪はよく見るとボサボサの寝癖だし、目の下には
クッキリと濃いクマが出来ている。見た感じ、化粧の類もしていない。
オマケに走ってきたせいか汗だくで、焦っていたのか表情も少々変顔になっていた。
それでいて可愛いと思ってしまうのは素材がいいからか、単に天の好みの問題だろうか?

(中々面白い顔だな、でも可愛いから良いか。何よりあの子も嬉しそうだし……な)

天は一人納得すると掌から出ていた『何か』に視線を向け、一瞬目を見開いた。
すると『何か』は天の掌に吸い込まれるように戻っていった。
掌に完全に戻ると手をポケットにしまい、何事も無かったかのように目を閉じた。

「でもよ、今エンジンが壊れたかもしれないから運行出来ないかも……うぉッ!?」

運転手は先程の要領でアクセルを踏み込んだ。するとバスは踏み込みに合わせて
スピードを上げ急発進した。少女は転びそうになる。

「あれ、戻った?悪い悪い、エンジン直ったみたいだ、そんじゃ改めて出発だぜぇー!」

バスはようやく本来のスピードを取り戻し、Y駅から離れていく。
窓ガラスにあった縦線模様はいつの間にか消えて無くなっていた。


天は門北町に着くまで眠るつもりで、目を閉じたまま夢の世界へ行くつもりだった。
完全に眠りにつく直前、天は2つの音を聞いた。
一つは自分のすぐ隣に誰かが座る音。もう一つは自分に向かって発せられた高めの声。


「あ、あの……先程は『ありがとうございました』……って寝てんのかい」

101話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:15:50 ID:vIyspCZI0
奇妙な夢を見た。

深夜、ひと気の無い路地を俺は一人歩いている。足音以外の音は無い。

突然響き渡る銃声。俺は音がした方へ走った。

しばらく走るとそこは公園。犬を連れた人が倒れていた。

頭から血を流している。近づくと何かに頭を『撃ち抜かれた』痕がクッキリと残っていた。

さっきの銃声の元はコレだったのか?そう思うと後頭部に硬い物が当たったことに気付く。

「^^^^、;;;;?」

背後で誰かが俺に語りかける……が、日本語ではないのか、何を言っているか全く分からない。

直後、後頭部の硬い物から放たれたモノが頭に、脳味噌に入っていくのがわかった。

それが「銃弾」だとすぐ気付けたのは、先程の銃声と同じ音が響いたからだろう。

本来なら既に死んでしまっているはずだが、なぜか俺は死ぬこともなく
「ああ、頭に当たってたのは拳銃だったのか」と他人事のように考えていた。
その後俺はスローモーション映像の如くゆっくりと地面に倒れこんだ。

「***、%%%。」

背後にいた奴はまた理解出来ない言葉を並べると、俺の頭を掴み上げ
後頭部に空いた小さな穴を見つめた。すると脳に残っているはずの銃弾が
ひとりでに動き出し、頭の穴から外へ飛び出していったのだ。

銃弾は俺を撃った奴の掌に戻るとそいつの持つ拳銃の中にひとりでに入っていった。

拳銃を懐にしまったソイツは、俺の頭を掴んだまま語りかける。

相変わらず終始何を言ってるかわからない奴だったが、最後に放った言葉だけは理解できた。



「$$$!”””、>>>……『オメデトウ』!」

111話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:17:10 ID:vIyspCZI0
『次は【門北町】、【門北町】でございます。』

「……!!」

夢の中の人物の言葉を聞いた直後、天はバスのアナウンスに起こされる形で目を覚ました。
腕時計を見るとあれから30分経ったようで、バスは予定通りの時刻に目的地に着いたようだ。

「……またこの夢か」

天が『銃で撃たれる夢』を見たのは今回が初めてではない。
最初に見たのが1ヶ月前。目を覚ました時、彼の体は恐怖で大量の汗をかいていたという。
それからというもの、週に一度のペースで全く同じ内容の夢を見るようになった。
深夜に響く銃声、公園の死体、直後に撃たれる自分、謎の人物からの賛辞。
自分の死を見せられる奇妙で不快な夢を見続け天の精神は疲弊していた。
先程の少女程ではないが、彼の目にもクマが出来ている、少々寝不足気味であった。

眠い目をこすりながらバスを見渡すと、先程の少女の姿はなかった。
どうやら寝ている間に別の停留所で降りたようだ。天はもう会う事はないであろう
少女の姿を思い出す。眠る直前、天に話かけてきた声は少女の物で間違いないだろう。
少女の言葉に返事をしないまま眠ってしまったが、折角お近づきになった手前、
会話の一つでもしたほうが良かったのだろうかと天は少し後悔した。


(まあいっか……ようやく門北に到着か、どんな場所かな……って何だコレ!?)


バスの窓から町の景色を見ようとした天が見たものは、文字通りの「何も無い町」であった。
彼が思う何も無い町とは家やマンションばかりで店や遊ぶ所が少ない、所謂『住宅街』なのだが
門北町は違った。店はおろか、家もマンションも無い…というか建物が全く無い『無の世界』。
アスファルトの道路と平行して流れる大きな川以外に存在するものは遠くを見ても無い。
いや、よーく見ると遥か遠くの方に小さく四角い建物が数個建ってるが、
それでもあまりに寂しすぎる。

寝ている間に異世界にバスごと飛ばされたのだろうか?
目を白黒させている天に気付いたのか運転手が話しかけてきた。

「どーよ兄ちゃん、本当に何も無いだろ!よく言われるよガハハハハ!」

「運転手さん……何スかココ!元の世界に帰りたいんですけど!?」

「ところがドッコイここが現実なんだな!バブルの頃はビルとかがアホみたいに建ってたけど、
バブルが弾けて全部キレイに無くなって、ついでに店や家も殆ど無くなったらしいぜ!
今あるのは僅かな家と商店街だけさ、ガハハハハ!」

ネットで見たネガティブな情報は、恋人の言ってた事は正しかったのだ。町は寂れ、人はいない。
こんな場所が現代にあるのか。超が付く程の楽天家の天も流石に頭がクラクラしてきていた。

121話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:18:55 ID:vIyspCZI0
そうこうしている内にバスは停留所に到着してしまった。

このまま終点まで乗って、降りずY駅に戻ろうかと考えたが、せっかく来たのにアパートを
見ずに帰るのも勿体ないと思った天は席から立ち上がり、無人の異世界に
足を踏み入れようとしていた。


バスを降りる直前、天は運転手からアドバイスを貰った。

「兄ちゃん、バスを降りたら目の前にデカい橋があるからまずは橋を歩いて川を渡りな!
渡りきったら左に曲がって後はそのまま真っ直ぐ行けば目的地だぜ!」

「?目的地って何スか?」

「兄ちゃん『なんとかスタンド』って所に行くんだろ?毎年何人もその場所目当てに
バスに乗る奴がいるから自然に道案内出来るようになっちまってな!違ってたら悪いな」

天もその場所目当ての一人なので問題ない。運転手に礼を言うと天はバスを降りる。
バスはそのまま次の停留所へ向かい走り去っていった。

(……あの運転手とはまた会いそうな気がするぞ?)

停留所に降りた天は辺りを見渡す。
本当に何も無い所だ。目に映るのは遠くまで続く道路と大きな川。
そしてその川に架けられたこれまた大きな鉄の橋。運転手が言っていたのはコレだろう。
これが門北の唯一の名所なのだろうか。

 橋を渡ってる間にスマホで周辺の地図を検索した。何か希望は無いか、せめてコンビニでも。
希望は意外と直ぐ見つかった。コンビニ大手のオーソンがこの近くにあったのだ。
しかもこの橋を渡り左に曲がってすぐの所にある。進行ルートと重なった幸運に
天は感謝した。良かった、コンビニさえあれば多少の不便も目を瞑れる。

(とりあえず肉まん!オーソンのジャンボチーズ肉まん食おう!俺の大好物!)

橋を渡りきった天は左に曲がると軽い足取りでオーソンに向かった。

131話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:20:05 ID:vIyspCZI0
「確かにオーソンはあった……あったけどよぉ……!!」

 天はようやく見つけたオアシスこと『オーソン・門北町店』の前で
跪き項垂れていた。

 あれから数分で店が見えたのは良かった。しかしどうも店内が薄暗い。
不審に思った天は駆け足で店の前まで近づく。真っ暗だ。店内は電気が点いていなかったのだ。
これはどういうことだろうか。答えは入口のドアにはっきりと書かれていた。

オーソン 門北町店
営業時間 AM9:00〜PM:10:00
定休日 日曜


「何でコンビニに定休日があるんだよォォォォォ!しかも日曜日!」

コンビニは24時間営業が当たり前と思っていた天に突きつけられる容赦の無い現実。
しかも営業日でも9時開店10時閉店と、そこらのスーパーと変わらない営業時間ときている。
要するに人がまるで来ないから無駄に長く営業しててもしょうがないという事なのだろう。

「ああ……チーズ肉まん食いたかった……希望は絶たれた」

生まれて初めて血涙というものを流した気がした天は立ち上がると重い足取りで
本来の目的地へ歩き出した。

141話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:21:41 ID:vIyspCZI0
ネットによると目的地『メゾン・ド・スタンド』はここから歩いて10分の所にあるらしい。
道を歩いているとオーソンを境にちらほらと建物らしきものが確認できるようになった。だが
殆どが住宅で、店もたまに在るが既にシャッターが下りて数年以上営業していないようだ。

運転手が言うには僅かな住宅の他に商店街があるとのことだが、今のところ
それらしき施設は見当たらないし、この先の道にもそんな物がある気配はない。
もっとも、こんな無人の町の商店街なんてたかが知れている。
TVでよく見る「シャッターだらけの商店街」を見せられるのがオチだ。


静かな道路を歩いている間、天は目的のアパートについて考えていた。
アパートの名前である「メゾン・ド・スタンド」。「メゾン・ド(maison de)」は分かる。
フランス語で家とか建物って意味の言葉だ。deは英語のofに位置する言葉だったはず。
だが「スタンド」という言葉はフランス語ではない。STAND……英語である。
複数の言語が混ざったこのアパート名を直訳すると「スタンドの家」となる。
……スタンドとは一体何だろうか?

STANDという単語には様々な意味がある。基本的には「立つ」という意味だが
他の単語を組み合わせることで色々な言葉が生まれる。
stand by meで「側にいる」いう言葉になるし、stnad up toだと「困難に立ち向かう」
という文章になる。ガソリン「スタンド」といった馴染みの言葉もあるし
映画や音楽CDのタイトルなどにも使われる非常にポピュラーな英単語だ。
だが何故アパート名に使われたのかは天には結局わからなかった。

(もしかして何か元ネタがあるのか?面接で聞かれたら厄介だな、どうしよう……?)

151話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:22:47 ID:vIyspCZI0
 それにしても人の気配が無い。今まで結構な時間を歩いてると思うが、未だに
通行人に出会ってないのだ。そういえば横の自動車用道路に車は一切走っていない。
ここいらの住民は何処へいってしまったのだろうか。宇宙人にでも連れ去られたかと
馬鹿馬鹿しいことを考えながら空を見ると不思議なモノが目に飛び込んできた。

「……お?UFO(未確認飛行物体)か?」

…といっても映画や漫画に出てくる銀色の円盤ではない。object(物体)というより
human(人間)と言ったほうがいいだろう。



UFH(未確認飛行人間)、人が空を飛んでいた。地上から遠く離れた上空で宙に浮いていた。



しかも良く見ると単に宙に浮いているわけではない。何かに座ってるように見える。
目を凝らして見ると、箒(ほうき)のような棒状の『何か』に座り浮いていたのだ。
絵本に登場する魔法使いのような存在はしばらく宙に浮いているとやがて動き出し
北の方へ飛んで行き消えてしまった。

161話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:24:23 ID:vIyspCZI0
「……何だ、『化け物』かツマラン。てゆうかこの町にも化け物っているんだな」

飛行人間を呆然と眺めていた天だったが、別段驚くことも恐怖を感じることもなく
何事も無かったかのように再び歩き出した。


「銃で撃たれる夢」を見て以来、天の目には「化け物」が映るようになっていた。
そいつらは常に人の側に立っている。恐らく人間にとり憑いているのだろう。
そいつらは明らかに人ではない。基本的に人間のような形をしているが
容貌は人間のそれではない。獣のような奴もいたし、目が何百個もある奴もいた。
他人には言っていないが、そいつらが別の人間に危害を加えている光景を見たこともある。

初めて見た時はあまりの恐怖に体が震え、数日家に篭り外出できなかった天だが、
次第に化け物に対する恐怖は薄れ、今では遭遇してもあまり興味も持たなくなっていた。
頻繁に町中で見かけて慣れていったということもあるが、恐怖を克服できた一番の理由は、

「自分自身に化け物が取り憑いた」という一点に尽きるだろう。

「そいつ」は天の右手から飛び出してくる。明らかに人のモノではない三本指の手が
自分の体から出て来る様を初めて見たときはショックで数時間ほど失神してしまった。
だが天に取り憑いたソイツは意外と物分りが良いことが分かった。「出てくるな」といえば
素直に自分の体に引っ込むし、逆に出てこいといえば掌から飛び出るのだ。
今では言葉にしなくとも心の中で思えばソイツは思った通りになってくれた。

取り憑いた化け物が不思議なチカラを持っている事も不思議と愛着を沸かせた。
化け物の腕を何かに触れさせると、触れられた物が皆「ポンコツ」になるのだ。
車はスピードがメチャクチャ遅くなるし、屈強な男も途端にケンカが弱くなる。
天はこのチカラを「呪い」と呼び、いたずら感覚で色々な物を呪って遊んでいた。


先程のバスで起きた一連の奇妙な現象、
あれは全て天に取り付いた化け物の「呪いのチカラ」が引き起こした出来事である。
天の右手から飛び出した化け物はバスの窓に触れ、バス全体を呪ってみせた。
呪われたバスはポンコツになり、スピードが全く出ないガラクタになってしまった。
窓に浮かび上がった縦線模様は対象を呪った証なのだと天は解釈している。
呪いは天の意志で解除することが出来る。方法は戻せと心の中で思うだけと容易だ。
呪いを解かれたバスは元に戻り、本来のスピードも出せるようになった、という訳である。


話を戻そう。呪いのチカラで遊んでいた天、しかし遊びに飽きた彼は
自分の中の化け物をあまり呼び出さなくなる。
(実際、今日バスの中で化け物を呼び出したのも一週間ぶりの事であった)
化け物は得体の知れない存在ではなかった。人の言う事も聞いてくれる、
良く見ると化け物達の姿はどこか可愛らしかったり格好良かったりする事に気が付いた。
故に化け物達を見ても天は以前のような恐怖の感情を抱かなくなっていた。
空を飛ぶ魔法使いという『普通の人間の姿をした化け物』など論外だったというわけだ。

171話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:25:37 ID:vIyspCZI0
Y駅からバスで30分、停留所から歩いて15分弱。
天の長いようで一時間以内に収まった短い旅もようやく終わりを迎えることとなった。

天はカバンの中から不動産屋から貰ったアパートの写真や資料を取り出した。
白く塗られた2階建てのアパートは正に新築と言っても過言ではない程非常に綺麗である。
アパート自体は20年前から存在しているが、3年前に建て直して耐震性も備わってるらしい。
室内も良い。間取りは1LDK、ネット環境も光回線を導入済、生活に必要な家具も付いている。
写真に写っているテレビなんか天の部屋にある物より遥かに高性能で大画面だ。
風呂とトイレが別々なのも地味に嬉しい。

不動産屋が勿体無いと言うのも分かる。こんな綺麗で家具付きの1LDK、なのに家賃はタダ。
車やバイクを持っていれば30分くらいでY駅近くの繁華街に行けるのだ。

その代わり地元の環境は「異世界」というに相応しい劣悪さを持っているが。
バス停からここまで、まともに営業してそうな店はオーソン以外見当たらなかった。
この町では買い物はどうするのだろうか?まさかネットで買えというのだろうか。



日曜の午後1時。晴れ渡った青空の下、藤鳥天はメゾン・ド・スタンドの前に立っている。
旅の最終目的地、家賃無料の夢のようなアパートの前。


外国の城を思わせる巨大な門が天とアパートの間に立ち塞がっていた。

181話前編 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:28:06 ID:vIyspCZI0
「……何よこれ」

天が門北を歩いている頃、天の彼女・大河原咲良(おおかわら さら)は自宅で
恋人が住もうとしているアパートについてネットで調べていた。
門北については事前に知っていたが、アパートに関しては全く知らなかったので
ネットで耳寄りな情報を見つけて天に電話で教えてあげようと考えていたのだが。

【あのアパートはやべぇよ、マジで『出る』からなユーレイが】

【地元じゃ有名な心霊スポットだよね、俺なら金貰っても住まねーwwwww】

【あんな所に住んでる奴の気が知れないよなー、絶対呪われるって!】

門北について語るマイナーなネット掲示板にて、メゾン・ド・スタンドについて話す人がいたのだが
どの人も口を揃えてこのアパートを「化け物が出るアパート」と評していたのだ。
このアパートを良く言う人などこの掲示板にはいなかった。
ここに住もうとしてるのは何も知らないよその人間か家賃に釣られたバカか
肝試し好きのバカしかいないのだと。そんな書き込みで埋まっていた。


(天……アンタ今とんでもない所に行こうとしてるわよ!?大丈夫なの!?)


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