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【オリスタ】Change a gear,Change THE WORLD【SS】

1 ◆gdafg2vSzc:2016/06/22(水) 21:31:44 ID:ZWWtRpvo0
 あるきっかけでスタンドを発現させた不良高校生、汀一勝(みぎわ・かずかつ)

 様々なスタンド使いに出会ううちに、彼は自分の住む街を包まんとする「悪意」に気付き。

 仲間達と共に立ち向かって行く事になる。


 一人一人のできることは些細な事。

 でも、その些細な事が重なり、僅かでも世界を変える事が出来る……かも知れない。

 これは、そんな物語。


【はじめに】

※作者はこれまでちまちま創作はしてましたが、ジョジョものは初めてです。

※ちまちま創作してた割に、文章や表現力は稚拙、語彙や発想が貧弱であろうかと思われます。

※勢い重視で書くために、作者も気付かない矛盾やミスが出てくるかもしれません。

※更新速度や更新量は不規則になるかと思われます(数日で1スレだけ、とか)

※感想などは(話の途中であっても)お好きなタイミングでぶっこんで貰ってもらって構いません。

……以上、異存が無いということでありましたら、よろしくお願いいたします。

132第8話 ◆gdafg2vSzc:2018/09/13(木) 15:53:14 ID:ZdSayY2U0
>>131
「な、なんだそれ? 聞いた事あるかぁ、沼?」

「あー、なんか名前くらいしか知らねッス」

 当然のように首を傾げる汀と沼田。

「そーゆーのは、ほら、沙枝先輩のが詳しいと思うッス」

「だそうだが……知ってるか? 沙枝ぇ」

「はぁ……ちょっとは世間の事にも興味持ちなさいよ」

 いつもの汀の無知っぷりに溜息をつく沙枝。

「とはいえ、私も大雑把にしか知らないけど。確か、アメリカに本拠を置く財団で、設立したのは財団の名前と同じスピードワゴン氏……一代で財を築いた石油王だったと思うけど、ネルソン君?」

「Yes、間違って無いよ」

 確認するように顔を伺う沙枝に、小さく頷くネルソン。

「その目的は自然保護や医療技術の発展など、世界の人々の生活と福利厚生の為に働いている、と聞いてます。日本にも東京に支部があったと記憶してるけど」

「OK」

 沙枝の発言を受け、小さく頷くネルソン。

「沙枝の説明で一応は間違っていない。実に一般的で、模範的な認識だよ」

「模範的?」

 ネルソンの言葉に違和感を覚える沙枝が口を開くより早く。


「……でも一方でこんな噂があるんだ」


 黙って話を聞いていたルイが喋り出す。

「スピードワゴン財団の中には超常現象を研究する部門があって、世界中で起きている超常現象の調査や隠蔽に関わっているって」

「超常現象の、調査――!?」

「それって」

 ルイの言葉に、汀と沙枝が息を呑み、ネルソンの顔を見るが。

「一説では既に地球外生命体とコンタクトを取ってるとかいう話もあるよ。そもそも財団が超常現象に関わっていると言われたのが数年前に『ムー』に載っていたイギリスのUFO目撃に関する……」

 話に夢中で、少し早口になっているルイはその様子にも、自分が何げに重要な事を言ってるのにも気付いておらず。

「悪い、ルイ、ちょっとストップだ」

「……え?」

「超常現象の調査、その中に入ってるって事か? スタンドも」

「……あ、ああ!」

 汀の言葉に、ルイも驚きの声を上げる。
 
「そこんとこ、どうなんだ?」

「……ああ、ルイの言う事は半分ぐらい正解さ。超常現象の研究・調査を行う部門は存在する」

「半分?」

「ああ、流石に宇宙人にはまだお目にかかって無いよ。ボクは居るかもと、は思うんだけどね」

 少しだけおどけた様子で肩をすくめて小さく笑うネルソンだが。

「だが、スタンドも確かに調査対象だ。そして」

 その表情が険しく引き締まる。


「ボクは……財団に所属するエージェント。その目的は、スタンド使いによる犯罪の調査と、犯罪者の追跡だ」


「ええ!?」 

「そんな、私達と歳、変わらない、よね?」

「まぁね。若い方が怪しまれない場合もあるし、ボク自身はスタンド経験は長いからね」

 言い放たれたネルソンの正体に、驚気を隠せないルイと沙枝。

「……成程な。まぁさっきの俺や洪だっけか? 奴との立ち回りで只者じゃないと思っていたが。正直驚いたぜ」

 先までネルソンの言動を目の当たりにしていた汀だけは、落ち着いた様子で頷く。

「驚いたが正体は分かった。次だ、ネルソン。目的はなんだ?」

「ああ、話すよ。まずはこれを見てほしい」

 言いながら、ネルソンが汀達の前に、数枚の写真を広げる。

「……へえぇ、綺麗な人」

 写真には共通して1人の女性が映っていて。

「これが、さっき言ってたレディ・リィか? だが」

「みんな顔が違うんだけど」

 2枚の写真を手に取った沙枝が、困惑した風に言葉を漏らす。

133第8話 ◆gdafg2vSzc:2018/09/27(木) 18:22:37 ID:R8ZY3EC20
>>132
 写真には……風景や他の人物は違えど1人の女性の姿が写されていて。

「ああ、それがレディ・リィだ。顔が違うのは度々整形を繰り返しているからで」

 説明しながら、広げられた写真の中の2枚をネルソンが指す。

「更に言えば、この写真の間でおよそ10年離れている」

「え……」

「整形してるとは言え……変わって無いように、それも相当若く見えるな」

 写真を自分の顔に近づけ、まじまじと見る汀。

「ああ。実際の年齢も、本名も、現在の顔も不明だ。スタンド使いである事は分かっているが、その能力も不明」

 手に持っていた別の写真の端を、鬱陶しそうに指で弾きながらネルソンが説明を続ける。

「財団がレディ・リィの存在を感知したのが15年ほど前。当時は香港に拠点を置く中華系マフィアのボスに取り入っていた」

「そんな前から……」

「ああ。当時起きたマフィア同士の抗争の中で、存在とレディ・リィがスタンド使いらしいという情報が財団に入って調査していたんだ」

「けどよぉ」

 首を傾げ、頭を掻きながら汀がネルソンに問う。

「ネルソン……お前のお仲間の手際をさっき見て思ったんだが。いや、こんなの聞くのは失礼かもだが」

「言いたい事は分かるよ。なんでそんな長い間確保できなかったのか、かな?」

「ああ」

「理由は幾つかあるんだけどね。一番大きいのはレディ・リィ自身がこれまで表立って動かないと言う事」

「厄介だな……」

「正体が割れても、裏社会に強いコネがあってそれをツテに逃走を続けてる。洪のような私的に親しい『用心棒』も居るしね……SPW財団も万能ではない、って事さ。残念ながらね。実地で動けるスタンド使い自体が少ないのが現状さ」

「ま、確かにやり手っぽい雰囲気はあるな」

 青いチャイナ服を着込み、笑顔でいかつい男性をエスコートするレディ・リィの写真を床に置きながら、深刻そうな顔で汀が溜息をつく。

「女も武器にしてるんだろうけど。まぁでも……俺はもっと胸がデカい方が良いけどな!」

 真剣な表情から一転、間の抜けた笑みで自らの胸の前で手を円を書くように動かし『巨乳』のジェスチャーをする汀の頭に。

「もぉ、こんな時に……バカ」

「おうっ、空気が重いから和らげたんじゃんかよー」

 沙枝のツッコミの拳が軽く当てられる。

 その様子を見ていたルイ達に、苦笑交じりとはいえ笑みが零れる。

「悪い、ネルソン。話を続けてくれ」 

「OK。財団が最後にレディ・リィを探知したのは5年前。当時彼女は中国の青島市で、麻薬密売を行う組織の、やはりその黒幕となる男の傍にいた。財団は中国政府と協力し、麻薬組織への攻撃を仕掛け、同時にレディ・リィの確保を試みた……だが、逃げられた」

134第8話 ◆gdafg2vSzc:2018/10/11(木) 15:53:12 ID:6DlVjKQ60
>>133
 逃げられた、そう告げ目を閉じ、ふぅー、と大きく溜息を吐くネルソン。

「青島市の関係者にその組織と通じてる奴がいたらしくて、そこから情報が漏れたらしい。結果的に組織を壊滅するには至ったが……レディ・リィは既に行方をくらましていた」

「なるほどな……」

「そして、レディ・リィやその仲間の行方は分からなくなってしまった。だが……ここ最近になって洪を始めとするリィの仲間が此処に、南風市に集まっているのを突き止めた」

 説明しながらネルソンが別の写真を数枚、汀達の前に広げる。

 そこには、洪をはじめとして何人かの男が映っていた。

「それで、ボクが調査の為に派遣されたというワケさ。短期留学という形で、財団が手を回してね」

「すげぇな、財団。それで、だ」

 顔を洪達の写真に向けたまま、汀がネルソンに尋ねる。

「少なくとコイツらは、敵になるわけだな」

「ああ。ただ……問題は洪がスタンドを習得していたと言う事だ」

 頭を掻き、心底困った様子で再び溜息を吐くネルソン。 

「他の連中も習得している可能性があるし、他に仲間がいる可能性もある。少なくとも『霧吹き男』という協力者がいるワケだし。正直、もっと楽にやれると思ったんだけどなぁ」

「ネルソン君……そんな簡単にスタンドって習得できるものなの?」 

「いいや」

 沙枝の問いかけに首を横に振るネルソン、その表情は渋いままである。

「産まれながらにその才能を持ち、物心ついた時から使えたり、ある日突然発現する者もいるが、ごく稀だ。多くの場合は様々な外因によってもたらされる」

「外因……それって」

「ああ、沙枝達の場合は霧吹きによって噴きかれられた液体、という事になるかな」

「なんなの、その液体って?」

「Sorry、その中身の想像はつかない。推測はできるが」

「って、そんな簡単にスタンド使いになれる薬みたいなのってできるの?」

「これまでの、ボクの知る限りでは無い。だから困ってるんだ」

 ルイの問いかけに、ネルソンの表情がますます厳しくなる。

「その男がどれだけの液体を有してるかは定かで無いが……スタンド使いを量産する術を持っているってのがね。そして裏社会に通じるレディ・リィが側にいる」

「あ……!」

「無論液体を吸った者全てがスタンド使いになるとは限らないだろうが……これが裏に流れたとしたら? いや、既にもう取り扱われていると考えてもいいだろう」

「……ヤバいな、これ」

 ネルソンこれまでの説明で、汀達も事態の深刻さを理解する。

「ああ。だからこそ、レディ・リィの所在を暴く事が急務だ……」

「想像以上に大変な事になっちまったな。だが、俺はハナっからこんな事をした奴を許せない、って言ってたんだ」

 ぱん、と汀が自らの左手を右拳で打ち、気合を入れる。

「手伝うぜ、ネルソン」

「私もよ。知ってる人が被害に遭うかもっ考えたら……嫌だもの」

「ぼ、僕も……正直怖いけどね」

「それが普通ッスよー、ルイ。まぁ俺もスタンド無いなりに手伝うッス」

 4人の改めての決意表明に。

「巻き込んでしまったみたいで悪いけど……ありがとう」

 ネルソンがはにかみ笑いを見せながら感謝を告げる。

「とはいえ、情報が不足してるからすぐには動けない。だから基本的にはリィや霧吹き男の仲間の襲撃を警戒して貰う形になるけど」

「ああ。上手く行けば捕まえて色々聞き出せるかも知らんしな」

「そうだね……っと、そうだ、ネルソン君! 肝心な事聞いて無い!」

 不安げに呟いていたルイが、ずい、と身を乗り出し。

「What? 何だい?」

「これ! スタンド! スタンドの事! そもそもこれって何なの!?」

 パープル・レインを出し、指差しながらネルソンに迫る。

135第8話 ◆gdafg2vSzc:2018/10/25(木) 15:51:05 ID:xsPjuqrI0
>>134
「ああ、スタンドの説明がまだだったね。OK、簡単にだけど話すよ」

 パープル・レインを指差し苦笑するネルソン。

「スタンドってのは……人間の持つ精神力が『力』として具現化したものだ」

「精神力……で、でも自分で言うのもアレだけど、僕って気弱だしそんな力に目覚めそうに無いけど」

 自分の掌とパープル・レインを見比べつつ、ルイが少し困惑気味に呟く。

「性格的な気弱さと、本質的な精神力とは関係無いよ。あくまで個々の持つ資質みたいなものさ」

「それに気弱って言うけどよ、ルイ。お前は自分が思ってる以上にはしっかりしてるぜ」

「そ、そうかな……」

「そうッスよー、もっと自信持っていいと思うッス」

 気合を入れるように背を叩かれながら汀や沼田に褒められ、恥ずかしそうに頬を掻くルイである。

「続けていいかな」

「おう、悪い。続けてくれ」

「さっきも言ったけど、スタンド使いになる要因は幾つかある。産まれながらに才を持つ者も居るし、スタンド使いの子供に資質が遺伝する事もある。だが、一番多いのは外因に拠るものだ。事件や事故に巻き込まれたり、みたいなね」

「んで、俺達の場合は『霧吹き男』の薬ってことか?」

「薬……とは断定できないけどね。財団が調査し仮定している例では『ウイルス』がある」

「ウイルス? ウイルス進化論みたいな?」

 ルイが興味深げに身を乗り出して尋ね。

「Yes……スタンド使いを生み出す道具のようなものがあってね」

 ネルソンが小さく頷く。

「それに使われている石にある種のウイルスが封じられているらしい。それがスタンドの才覚を呼び起こさせるという事が分かってきているんだ」

「ウイルス……って事は私達が噴きかけられた液体にも」

「そうだね、沙枝。そのウイルスが液体に混入していたか、あるいは同等の力を持った薬品なりが使われていたか……というのがボクの推測さ」

「なるほどな……」

「できれば、前者であって欲しいけどね。ウイルスなら培養も難しいが薬品なら成分さえ分かれば量産できるし。逆に言えばそれをヒントに敵の居場所を絞る事もできるだろうけど……まぁ、ボクの勝手な希望だけどね」

 言いながら、また厄介そうに顔を歪め頭を掻くネルソン。

「なんにせよ、ボクの事情については説明した通りさ。後はさっきも言った通り、ある程度の目処がつくまで襲撃者に備えるぐらいしか出来ない」

「ま、俺達もできる限りの事はする」

「ありがとう、汀、皆も。力を借りるよ」

「構わないさ。でだ、ひとついいか、ネルソン?」

「なんだい?」


「お前はどうやってスタンド能力を手に入れたんだ?」

136第8話 ◆gdafg2vSzc:2018/11/08(木) 21:14:34 ID:whkAPmKM0
>>135
「……」

 質問を受けたネルソンの表情が曇り……その手が、無意識に髪の間から覗く傷に触れるのを見て。

「あ、いや、悪い。嫌な事聞いちまったか?」

 ネルソンの触れてはいけない『境界』に触れてしまったのを悟り、慌てる汀。だが。

「Sorry、あまり良い思い出じゃないからね……今は話したく無い」

 申し訳無さそうに言いながら、穏やかな笑みを浮かべるネルソン。

「そうか、すまんかった」

「でも、この力を、スタンドを自分が正しいと思える事に使いたいって気持ちは本当だから」

「ああ、それは分かるぜ。よし、この話は終わりだ」

 ぱん、と掌を打ち、重くなりそうな空気を断ち切る汀……と。


――ぞっ。


「……!」

 汀の背を走る悪寒。同時に、窓の外に『気配』を感じ。

「え? 汀君?」

「しっ、ルイ……静かにしてろ」

 立ち上がりながらそっと窓に手をかける汀、そして。


「誰だぁ!」

 大声と共に窓を開け放つ、その瞬間!

「わ!?」

「What?」

 飛び込んできた黒い塊が、沙枝に目掛け飛びかかり――


「あら、マンヂウじゃない、びっくりしたぁー」

「ま、まんぢう?」

 マンヂウ……と呼ばれた全身灰色の猫が、沙枝に抱えられて、にゃあ、と一声鳴き。

 汀達に、人の多さに気付いて目を丸くして固まる。

「うん。この近所の皆で世話してる野良猫なの」

「なんだよ、ったく……嫌な予感がしたから敵かと思ったぜ……」

 沙枝に顎の裏を掻かれてゴロゴロと甘えた声を出すマンヂウを見ながら、気が抜けた様子で座り込む汀。

「ははは、さっきまで戦ってたし、仕方ないね」

「だな……緊張しすぎだ」

 マンヂウに手を伸ばしつつ、苦笑する汀であった……



 しかし。

『聞イタぞ、聞イタぞ』

 猫に……マンジウに気を取られていた汀達は、寄付かなかった。

『知ラセルぞ、敵のコト、知ラセルぞ』

 窓の下側、汀達に見えない屋根の上に「それ」が居たのを。

137第8話 ◆gdafg2vSzc:2018/11/18(日) 19:48:40 ID:2yPXpEsE0
>>136
「それ」は照る照る坊主のような姿と大きさをしていたが、顔には笑っているような大きな口しかなく。

 その裾からは小さな足が覗いていた。

「それ」はふわり、と屋根から道路に降り、ある場所に向かって走って行く……と。

『見タぞ、見タぞ』

 街の至る場所から。

『俺は見ツケタぞ、見ツケタぞ』

 複数の「それ」が集まり、次第に数を増し集団となりながら道路を爆走して行く。

『俺は渡リをツケタぞ』

 しかし、街を往来する人々は「それ」が側を通るにも関わらず、気付く様子もない。

 そして。

『見テタぞ見テタぞ、洪がヤラレタぞ、死体は隠サレタぞ』
『まぢでカ まぢでカ』
『ナラ急グぞ、急グぞ、あるじ二知ラセルぞ』

 川原の方から合流した「それ」が、洪の死を他の個体に知らせる……


 やがて「それ」等は、街の一角にある駐車場に止めてある青い軽自動車の前に集まり。

『ナギサぁー、タダイマダぞ、タダイマダぞー!』

 小学生の集団が挨拶するかのように、運転席側のドアに一斉に声をかけ 

「ん……お帰りなさい、《レジストロ》」

 ドアが開き、名を呼ばれた黒い服を着た人物……渚が身を乗り出しながら。

 足元のスタンド……レジストロ達に手を伸ばし。

「よしよし……何を見聞きしたのかな?」

「俺カラ言ウぞ、言ウぞ」
「次は俺ダぞ」
「俺もキイテクレダぞ」

 渚が頭を撫でた個体が、渚に……この一日で南風市で起きた出来事を伝えていく。

 やがて。

「……成程ねぇ。リィさんの仲間がやられちゃったかぁー」

 洪の事、汀達の事、ネルソンとSPW財団の事を知った渚が、頬に指を当てながら少し困ったように首を傾げる。

「直接見タのは俺ダぞ」

「はいはい、よく頑張った」

「ダカラ、モット褒メルぞー!」

 洪の顛末を直接見ていた、という個体が渚の胸に飛び込もうとするが。

「……調子に乗るんじゃない!」

「アウッ!」

 渚がその個体を掌で叩き落とし、地面に落ちた所を踏み付ける。

「アアアアァ、あふん、モット踏ンでぇ……」

「ふぅ……自分のスタンドながら、どうしてこーゆー性格なのか……」

 踏みつけられながら顔(?)を赤くする個体に呆れ溜息を零す渚。

「まぁ、こっから先は大澱さんの判断だし……お仕事お仕事」

「アフン」

 助手席に無造作に置いてあった、可愛い猫のイラストが施されたカバーのつけられたスマホを手に取りながら、踏みつけていたレジストロを離す渚。

 渚こそ、大澱が頼りにしている情報屋であり、己のスタンドによって情報を収集していたのであった。

「さ、お前達。また行ってらっしゃい」

『行ッテクルぞー! ナギサ!』

 渚の激励を受け、再び集まっていたレジストロ達が街に散っていく……が。

「あ、ちょっと待って」

「アウゥ!?」

 渚が無造作に、レジストロの1体の頭を掴む。

「貴方には、やって欲しい事があるんだけど」

「何ダぞ?」

 頭を掴まれたまま、胴体をぷらぷらと揺らすレジストロ個体に対して。

「ん。ちょっとね」

 に、と笑う渚の顔には、楽しそうな笑みが浮かんでいた……


渚:スタンド《レジストロ》
その能力によって洪の死の隠蔽、汀達の所在、ネルソンの正体が明らかにされる。
この情報が大澱達によってどう活かされるかは……未知数。


【8:ネルソン・P・海原、その正体と目的と……END】
【And see you next episode……】

138第8話 ◆gdafg2vSzc:2018/11/18(日) 19:58:06 ID:2yPXpEsE0
>>137
【8話:初登場オリスタ】

No1904
【スタンド名】 レジストロ
【本体】 情報屋。性別は決めてない:渚
【タイプ】 遠隔操作・群体型
【特徴】 無数にいる、身長15cmくらいの小人。のっぺりとしたシンプルなデザイン。
【能力】 最多のスタンド。最高のヴィジョン数を持つ。
それぞれがわずかな知能を持ち、命令を与えておけばある程度勝手に動作する。
1体のヴィジョンが見聞きした内容は他のヴィジョンにも伝わる。本体への直接の連絡は無い。
(ピストルズと同様、AからBへの伝達の後、Bから本体に口頭で伝える必要がある)

破壊力-E スピード-C 射程距離-A
持続力-A 精密動作性-C 成長性-B

情報屋、という設定とスタンドの厄介さで採用させていただきました。
南風市中心部全域をカバーしているであろうと思われ(汗)

汀サイドとしては早くコイツなりを確保したいとこではありますねー
まぁそう簡単にはいかさんけどな!(ゲス顔)

ここまで読んでくださった皆様に感謝です。ありがとうございました。

さて、次回は……大澱側の味方(or協力者?)が登場予定ですが……やっぱり予定は未定です。
次回以降も目を通して頂ければ幸いです。

追記:あ、レジストロの『』、途中から「」になっとる(汗)
あとネルソン「スタンド使いが惹かれあう」ルール言うて無い(汗)まぁ作外で説明したって事でー

139第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/01/17(木) 10:47:14 ID:JXxf7fmk0
【9:『問題』不運は努力で回避できるか?】

 汀達と洪が戦った数日前の深夜。
 美良川の河川敷、兎橋の舌。

「……ちっくしょう」

 普段から猫背な背中を更に丸め、天然パーマでくしゃくしゃの髪を更に苛立たしげに掻き毟りながら。

「ふざけやがって、クソ店長がぁ」

 細身の男……土浚幸彦(つちさらい・ゆきひこ)は普段からの泣きそうな顔を更に怒り交じりの悲しみに歪め、滲む涙を目で拭う。

 この日、幸彦は3ヶ月前にようやく見付けたアルバイト……居酒屋の店員をクビになったのだった。

 理由はこれまでの仕事の出来と要領の悪さ。しかし。


「ああ、なんで俺、こんな運悪いんだろ……」

 その原因は、幸彦だけに依存するものではなかった。

 たまたま騒音が酷かったため、または客の勘違いによるオーダーミスの連続。
 何度確認しても間違えられてしまう。

 酔った客に踏まれたり、体当たりされた結果、運んでいた料理や食器を落とす。
 それも何度も。注意してても。1日に5回やられた事もある。

 他の店員からの伝達ミスによってシフト変更が伝わらず、結果無断欠勤扱い。
 店長に説明しても「お前が悪い」の一点張り。

 客に一方的に因縁をつけられて殴られた事もある。 
 その時も店長の見解は「お前の接客が悪い」で済まされた。

 自分にも多少非がある事は幸彦にも分かっている、それでも。

「ちっくしょお」

 自分の運の悪さを呪い、幸彦はまた頭を掻き毟る。


 思えば、自分は産まれたときから運が悪かった。

 産まれた時、首に臍の緒が絡み死ぬ寸前であった、と母親に聞かされた。
 小学校の遠足なんかの楽しいイベントがある時に限って、病気や親戚の不幸で休まざるを得なかった。
 高校入試や大学受験ももインフルエンザや交通事故に巻き込まれて十分に受けられず。
 小さな不幸に至っては、数え切れないくらいある。

「あああぁー! ちっくしょー!」

 怒りに任せて足元に転がる空き缶を蹴り挙げる幸彦。

 宙を飛ぶ空き缶は、兎橋の橋脚に当たり……

「っつ!」

 跳ね返り、幸彦の頭に命中する。

 あまり痛くは無かった、が、自分の不運ぶりに。

「あ、ははは、なんだこれ、なんでこんな、俺は、運が悪いんだよ!」

 自嘲の笑いを浮かべながら、頭を抑え蹲る幸彦――その背中から。


「不運、それもまたひとつの才能かも知れないな」

「!?」

 声がかけられ、顔を上げ振り返った幸彦の顔に…『それ』が噴きかけられた。

140第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/01/24(木) 09:49:50 ID:2QqQVzI20
>>139
 翌日の夜。

 幸彦は、前日にクビになった居酒屋を訪れて、店長と対峙していた。

 ただ、その表情には余裕ともとれる笑みが浮かんでいて。

「……何しに来やがった」

 丁度忙しい時間に呼び出され手を止められたことも加え、店長の表情と言葉には苛立ちがありありと浮かんでいたが。

「いやー、昨日はすいませんでした」

 幸彦は意に介する事なく、軽い口調で頭を下げ。

「……謝ってもクビは撤回しないぞ、ああ?」

 その態度が、店長に更なる苛立ちを沸き上がらせる。

 しかし。

「ええ、分かってますって。ただ、ちゃんと謝っておきたくて……」

「お、おお?」

「これまで色々後迷惑お掛けしました、本当にすいませんでした」

 幸彦がしおらしい表情を見せ、深々と頭を下げる姿に虚を突かれる店長。

「あ、ああ……俺も言いすぎたかもしれんわ」

「いえ、俺がいけなかったんですよ。改めてすいませんでした。店長、頑張ってください」

 謝りながら、握手を求め手を差し出す幸彦……


(イインダヨナァ、ヤッチャッテ)

(ああ、やってくれ。《バッドサイクル》)


 その背後に……でっぷりとした人型、幸彦が「バッドサイクル」と呼ぶ「スタンド」が立っている事に。

 そして、差し出した幸彦の掌の上に、その人型の存在がべっとりと『黒いヘドロ』のようなものを乗せている事に。

 店長はおろか、店内の客や従業員全て気付いていなかった。そして。

「お、ああ、ありがとな」

 店長が幸彦と握手し、ヘドロがべったりと店長の手にまとわりつく。だが、店長はそれに気付く様子もなく。

「じゃ、お前も頑張れな」

 幸彦に愛想程度の笑いを浮かべ、背を向けた……その背中に。

(コイツハオマケダゼ)

(うわ、お前、腹黒ぉーい)

 命じられたワケでも無いのに、バッドサイクルが両手に持っていたヘドロをなすりつけ。

(まぁいいや。これでオサラバだ。後はどんだけ影響するかだな……俺があげた『不運』がな)

 幸彦は心中でほくそ笑みながら、そそくさと店を後にした。


……数日後、全国区で放送される朝のワイドショー。

 政治化のスキャンダルや大物スポーツ選手の引退などが取り上げられる中、あるニュースが5分ほどの枠を取って報じられた。

 それは、南風市という小さな街の居酒屋で起きたある事故であり。

 夕方、開店前に一人でその店の店長が仕込みをしていた所、居眠り運転していた軽自動車が店に突入。
 その衝撃で壁際の棚が倒れ、店長が下敷きになった所でコンロの火が棚に引火、火災が発生。
 突入した車の主の通報によってすぐさま消防車、救急車が訪れ店長は救出されたものの……
 搬送していた救急車が交差点で侵入して来たよそ見運転の車に衝突され、その衝撃で店長は救急車の外に投げ出され。
 そこに信号無視のバイクが突っ込み、跳ねられたという。

 幸い店長は一命をとりとめたものの、全治に1年以上かかる重態であると言う。


「こんなこと言っちゃぁ不謹慎なのは承知だけどさぁ、そのヒト、運割る過ぎるよねー」

 番組のメインコメンテーターである毒舌で有名な男性キャスターのO氏は、ニュースをそう締めくくった。

141第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/02/14(木) 09:42:52 ID:U9GKLClA0
>>140
「あっはっはっはぁ! ざまーみろ! 流石、俺の不運!」

 市内のアパートの一室。

 件の報道をテレビで見て店長の顛末を知った幸彦は、大袈裟なくらいに手を叩いて嘲笑う。

「おっと、もう出てきた」

 その掌や腕に、じわぁ、と……汗のように黒い液体が滲み出し、すぐにネバネバと粘性を持ち、固まろうとするのを。

「すまん、取ってくれ、《バッドサイクル》」

『了解』

 傍らのバッドサイクルが指で削ぎとり、窓の外に投げ捨てた。


 数日前、液体の効果によってスタンド、バッドサイクルを得た幸彦の身体からは常にこの液体が現れるようになった。

 それだけでなく、街中の人間にも人により差はあれ「それ」が存在するのが見えるようになり。

 幸彦は、それこそが自分や他人の持つ『不運』であると直感で理解した。

 同時に、バッドサイクルはその不運を弄る事ができると言う事も。

 そして、やはり自分の不運は他人に比べて多く、拭っても拭ってもしつこく現れる事に改めて自分は運のない人間なんだ、と痛感した。

 だが……バッドサイクルさえいれば自分の不運は取り除ける。なんなら今回のように嫌な奴に押し付けるのもアリだ。

「ははは、最高だねこりゃ」

 そう考えると愉快な気分になり。

 満足げに笑いバッドサイクルの肩をポンポンと叩く幸彦、その側には。

『ドウだ? ドウだ? すたんどハ理解シタかダゾ?』

 1体の《レジストロ》がベッドの上で子供のように跳ねていた。

 この個体こそ、渚によって「やってもらいたい事」……幸彦との渡りを命じられた個体である。

 この個体を通じて幸彦にはスタンドの理屈や、自身がスタンドを与えた男の仲間のスタンドである事が知らされていた。

「ああ、理解したぜ。本当いいな、これ」

『ソウかソウか、良カッタぞ。ソレデだ、幸彦』

「あん?」

『チョット、多キメの小遣イ稼ギシタクナイか?』

「小遣い稼ぎぃ……って、うお!?」

 幸彦が聞き返すより早く。

 レジストロの頭部が横に平べったく伸び、同じく細長くなった口から。

 ポラロイドカメラのように、数枚の……汀達の映った写真が出てくる。

「な、なんだよ、こいつらは?」

『ソイツラは、俺タチノ主人ニトッテ邪魔な奴等ダぞ。所在ナドは写真ノ裏ニ書イテある』

 元の姿に戻りながら、レジストロが説明し。

『ソイツラの誰デモイイ、1人始末スル毎ニ、2千万ダスソウだぞ』

「2せんまん!? いや、し、しかし……始末って!?」

 写真を手にした幸彦の表情が固まる。

「つまり、それって、殺せって……ことか?」

『始末、トシカ言ワレテナイぞー』

 困惑する幸彦を、より口角を上げてニタニタ笑うレジストロ。

「いやいやいや、流石に……」

『イヤァ、直接手ヲ下す必要ハナイだろ? ソコに映ッテる連中をチョイト『不運』にシテシマエバイイダケだぞ』

「いや……でも」

『モチロン敵ハすたんど使いダゾ。デモ、不運マデはドーシヨーモナイぞ』

「しかし」

 美味しい話に誘惑されそうになり、躊躇う幸彦に。

『……幸彦ォ、お前ハコレマデ十分不運を味ワッテキタぞ』

 レジストロの……渚から教えられた悪魔の囁きが投げつけられる。

『ソロソロ報ワレテモイイト思ウぞ? ナニ、人がヒトリ不運で死ヌ、ソレダケダ』

「……」

 幸彦から言葉はなく、代わりに……ごくり、と大きく唾を呑む音が響く。

 暫しの沈黙、そして。


「本当に払ってくれるんだな、金?」

『約束スルぞ』


……幸彦は、悪魔の誘いに乗った。

142第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/03/11(月) 22:05:31 ID:lzeWslM60
>>141
 数日後の日曜日、昼過ぎ。
 南風市の中央商店街の一角にある公園。

「ごめんなさい、遅れちゃった」

「あ、ううん。僕も今来たところ」

 待ち合わせ場所として使われる地元出身の偉人の像の元で待っていたルイに、沙枝が声をかけて小走りに近づいていく。

 この2人が待ち合わせしていたのは、デート……という訳でなく。

「ごめんね、雨月君。付き合わせちゃって」

「でも良かったの? 僕で」

 洪の襲撃以降、ネルソンにできるだけ単独での行動を控えるように言われていた事もあり。

 参考書等買い物がしたい沙枝がルイを呼び出したのだった。

「うん、汀君に先に声をかけたんだけど『小難しい本とかの買い物なんて向かないしヤダ』って」

「ああー、そうなんだ。汀君らしいや」

「本当。でも……まさかこんな街中で攻撃なんて、ないと思うけど」

 少し不安げに呟きつつ、周囲を見渡す沙枝。

 数年前に郊外に出来たショッピングモールのせいで客足が減ったとはいえ、天気の良い日曜昼間の商店街は人で賑わっていた。

「うん、あんまり気にしなくて大丈夫だと思うよ」

「そうよね……気にしすぎて神経質になっても駄目だし。うん」

 不安を振り払うように沙枝が頷き。

「じゃあ行こうか、雨月君」

 ルイと一緒に歩き出した……


「うん。で、まず何処へ……あっ!」

……直後だった。


「!? どうしたの!?」

 突然のルイの声に驚き、足を止める沙枝。

 ルイは側の歩道橋へ続く階段や、その上を走る電線に目を向けていたが。

「あ、いや……あーあ、やられちゃった」

「ああー……」

 ルイの右肩、薄手のトレーナーの上に。

 歩道橋の欄干に止まっている鳩の仕業だろう、鳥の糞がくっついていた。

「折角新しく買って貰った奴だったのになー、ツイてないや」

「ちょっと待ってて。これ」

 残念そうに顔をしかめるルイの横で、沙枝が持っていたハンドバッグからウエットティッシュを取り出し。

「使って……きゃ!」

「あ。ごめんなさーい」

 渡そうとした直前、歩きスマホをしていた女性がぶつかり、沙枝の持っていたウエットティッシュが車道に落ち。

「ああー!」

 通り過ぎていく車が次々とそれを轢いて行く。

「ちょっと、貴女……って、ああもぉー」

 自分にぶつかった女性を探そうとするも、既に人ごみの中にその姿が消え。

 沙枝は腹立ちに頬を膨らませる。

「あはは、仕方ないよ。こんな事もあるよ」

 その様子に苦笑しつつ、ルイが持っていたハンカチで糞を摘み取る。

「折角の日曜だし、気にしないでで行こうよ」

「うーん……そうよね」

 納得いかない様子で首を傾げつつもルイに促され、再び歩き出す2人。


 その2人を。

「よーし。よくやった、バッドサイクル」

不運を落とシテ引っ付けるトカ、最初は馬鹿なアイデアと思ったガ』

 歩道橋の上から、幸彦とバッドサイクルが眺めていた。

 ルイの頭から肩にかけて、歩道橋の上からバッドサイクルが落とした『不運』がべっとりとくっついていたが。

『意外にイケるモンだな』

「馬鹿とか言うなよ、結果オーライだ」

 ルイ達スタンド使いにも『不運』が見て手いるかと言う懸念もあったが、ルイがそれに気付く様子は微塵も無く。

「よっし。後は俺の『不運』で自滅するのを待つだけだ。追うぜ」

『了解』

 幸彦は、2人をゆっくりと尾行し始める……

143第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/04/04(木) 17:38:43 ID:UohRw14E0
>>142
 1時間ほど後。

「ううーん???」

「雨月君……なんていうか、その」

 商店街の外れ、小さなカフェのテラス席。

 ルイはしかめっ面でズボンに付いたコーヒーとケーキの生クリームをタオルで拭きとり。

 その傍らでは沙枝がどうフォローしていいか分からず、困り顔で言葉に詰っていた。

「ツイてないね……なんか」

「うん……そうだね」

 沙枝の言葉に、ルイは苦笑しつつ。

 カフェの店員が用意してくれた別のタオルで、まだズボンに染み付いたコーヒーを絞り拭いていく。


 バッドサイクルの『攻撃』を受けた後。

 別人と間違えられて難癖をつけられたり。
 目当ての本の最後の一冊が目の前で他の客に買われたり(なお沙枝は目的の買い物が出来た)
 細い路地から飛び出してきた自転車とぶつかりそうになったり、と。

 バッドサイクルのなすりつけた不運が、じわじわと、しかし着実にルイを苦しめていた。

 ルイのズボンの生クリームとコーヒーも。
 ルイ達に品物を運んでいた店員が、つまずいた際にぶちまけたものであった。


「まぁ、さ。こんな日もあるよ……コーヒー代タダになったし良い事もあったしさ。こんなもんかな」

 自分の運の悪さに自虐的に笑いつつ、だいぶ水分のとれたズボンを叩くルイ。

「でも……おかしくない?」

「おかしいって?」

「例えば、敵のスタンド攻撃とか」

 真顔で言う沙枝の言葉に、きょとんとした表情を見せ。

「ははは、まさかぁ。そんなスタンドあるぅ?」

「無いとは言えないじゃない」

 沙枝の心配を笑い飛ばす。

「あったとしてもさ、地味な不運ばっかりだし、危害を加えるって言う意味では大した事ないじゃない」

「でも……んんー、なんかねー」

「考えすぎだよ、樹野さん」

「……考えすぎ、か。そうかもね」

「そうそう」

 そうかもね、と言いつつ未だ納得しきれてない沙枝に屈託ない笑顔を投げかけ。

 不運など気にする様子も無く、グラスに残っていたアイスコーヒーを一気に飲むルイであった。


 一方。

「おい、どうなってんだ?」

 少し離れたビルとビルの間の路地、カフェからは死角となる場所で。

「まだ前々効いて無いじゃないか」

『マー、焦るなヨ。今回の不運は数日分ノヲ練りに練った特別品ダ』

 ずっと尾行し、2人の様子を窺っていた幸彦がバッドサイクルに文句を垂れていた。

『アノ店長の時だって、効くマデ少し時間がかかったダロ?』

「そーだけどよー……ああくそ、イチャイチャしやがって」

 当人達は普通に会話しているだけなのだが、その様子は幸彦にはデートとしか見えてなく。

「くっそ、ムカつくぜ。さっさともっと酷い目に遭えっての!」

『彼女いないもんナー、オ前』

「うっせぇ! って、うわ! 取ってくれ!」

『ハイハイ……ッと』

 怒りに任せてバッドサイクルを殴る幸彦の腕に、汗のようにぶわっと不運が滲み出し。

 バッドサイクルが手馴れた様子で掌で拭い、地面に捨てながら。

『アイツラ、動くゼ』

 ルイと沙枝がカフェから出て行くのを確認し、よそ見していた幸彦に知らせる。

「よし、追うぜ。んで、あわよくば不運追加だ」

『OK……上手く行けばいいガナ』

 ほくそ笑みながら、幸彦はまた尾行を開始した……


 そして。
 先に言ってしまえば、幸彦が不運を追加するまでもなく……
この後、ルイ達に危険な不運が襲いかかる。

144第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/05/05(日) 17:50:17 ID:7At94EZk0
>>143
 15分ほど後。

「ああー、まただぁ」

 早足で交差点に向かっていたルイと沙枝の目の前で、歩行者用の信号が赤に変わり。

「なんか本当ツイてないわねー」

「そうだね。3回連続、いや、4回目だったかな?」

 これまで立て続けに赤信号に捉まっていたルイが苦笑する。

「流石にこれはおかしいかなぁ……」

「うーん、でもさっきもルイ君自身が言ってたけどさ。攻撃にしては、大人しいよね」

 目の前を走りぬけていく車やバイク、信号に目を向けたまま、とりとめのない会話をする2人。

 2人のいる交差点は、大きな幹線道路の交差する大きな通りであり。

 広めの歩道に街路樹が並ぶ、見通しの良い場所であった。

「まぁ、やっぱり気にしなくていいんじゃない? 運が悪い日、ってだけだよ」

「そう……かなぁ」

 側の大きな街路樹に寄りかかるようにして信号待ちをする沙枝の横で。
 
「そうそう……ふああぁ」

 自分の状況を知らず、暢気に大きな欠伸をするルイ……のどかな陽気が、眠気を誘っていた。


>>>>>

【南風市在住、K氏(仮名)、会社員32歳の証言】

……ええ、はい、あの日の事ですね。

 前日、ちょっと仕事でトラブルがあって、夕方からから会社で作業をしてました。ええ、残業ですね。

 作業が終わったのが……確か、朝6時前だったと思います。

 んで、会社で仮眠を取って起きたのが昼過ぎ、確か1時前だったと思います。

 腹が減ってたんで会社を出て、側のコンビニでおにぎりとブラックの缶コーヒーを買って食べて飲んで。ついでにガムも買って。

 まぁ、ちょっと眠気はあったんですけど、いつもガム噛んでたら大丈夫でしたし。

 それで、車でアパートに帰ろうとしたんです。  


 あはは、はい、そうですね。ちょくちょくあるんですよ、徹夜で残業。

 まぁちゃんと働いた分出るんで、その辺はまだ他所のブラック企業よりかはマシですが。
 
 だから……正直、油断してたんでしょうね。

 いつもそれで平気だったから、今日も大丈夫だろうっていうのが。

 今にして思えば……はい、甘かったって思います。なんで歩いて帰らなかったんだろうって。

 その日、いつもよりなんだか心地よいぐらいに暖かくて。

 眠気が断続的に来てたんですけど、まぁ大丈夫だろって……うう……

 それで……南風通りと中央通りの交差点が近くなったところで……一瞬意識が落ちて。

 衝撃と衝撃音、悲鳴で気がついた時には……うあぁ……ああああ……[以下嗚咽が続く]


>>>>>

「!?」

 ごがん、と言う重いモノが乗り上げるような衝撃音と、悲鳴が真横から聞こえ。

「なっ―!」

 顔を向けたルイ達の目に。

 歩道に乗り上げ、自分達の方に向かってくる軽自動車が入る。

 軽自動車は、まるで『他の歩行者をかわすかのように』歩道を走行し、ルイ達に襲いかかる……


「リリカル・グラウンド!」


……直前、沙枝の側に現れたリリカル・グラウンドが、街路樹を殴る。

145第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/06/06(木) 10:57:39 ID:oEfktU2Y0
>>144
【南風市在住、K氏(仮名)、会社員32歳の証言(続き)】

[数分後]

……ああ、はい、失礼しました。

 思い出してしまって……取り乱してしまいました。

 気付いた時には歩道を走行してて、パニックでハンドルもろくに操作できなくて。

 ブレーキを踏もうにも、乗り上げた衝撃か何かでブレーキが故障していたらしくて。


 目の前に人がいる、って確認したときは……もうダメかと思いました。

……不思議なもんですね。ああいう時って、周りの時間がゆっくり流れているように感じて。

 で、頭の中では自分の人生終わったとか、罪もない人を殺しちゃうとか、いろいろ考えて。

 それで、思わず目を閉じた瞬間でした。

 どん、って足元から突き上げる衝撃があって、車が倒れながら側のビルの壁に迫るのが見えて。

 それで、壁にぶつかった衝撃で頭を打って、気を失って。

 気づいたら病院でした。


 たまたまそのタイミングで、地下の老朽化したガス管が破損して、その圧で地面が街路樹の根っこごと持ちあがって。

 その衝撃で車が横倒しになったらしい[※1]って、後から聞きました。

 偶然に助けられたんだなあって……運がいいのか悪いのか。

 ええ……被害を出してしまったのは、申し訳ないです。でも。

『自分以外誰もケガしなかった』のだけは、幸いでした。ええ、本当に。

[インタビュー終了]

※1:実際には樹野沙枝のスタンド『リリカル・グラウンド』による植物操作能力によるものである。
事件後、当SPW財団によって上記証言通りの『ガス管の老朽化』というカバーリングがなされた。 

>>>>>

「……っ」

 横倒しになってビルの壁に突っ込む軽自動車と、寄ってくる野次馬達。

 それらを見る沙枝とルイの表情は、青ざめ、強張っていた。

「これって……僕たちを狙って?」

「でも」

 野次馬の間から、運転手の様子を窺う沙枝。

 運転手の会社員らしい男は、頭から血を流して気を失っていた。

「運転してる人も怪我してるし、敵としてもこんな自爆みたいなことはしないと思うわ」

「だとしたら……」

「ええ。馬鹿らしいかもしれないけど。ルイ君の不運は……スタンド攻撃による可能性があるわね」

「……信じられないけど、そうかも。でも」

 ルイの顔に浮かぶのは、困惑。

「不運なんて、どうしたらいいんだろ」

「分かんないわ。本体を探して叩くとかしないと。でもとりあえず汀君たちに連絡しないと」

 言いながら、手早くハンドバッグからスマホを取り出し。

「あ、もしもし、汀君?」

 手早く連絡をつけていく沙枝。

「じゃあ僕はネルソン君に……って、ええー」

 ズボンのポケットからスマホを取り出し操作しようとしたルイの目に飛び込んできたのは、真っ暗な画面。 

 どうやら『不運にも』充電を忘れ、バッテリーが切れていたようである……


 一方。

「……あいつら、かわしやがった」

 道を挟んで様子を見ていた幸彦が、舌打ちしながら近くの路地に飛び込み。

「おい、どういうことだ? かわされたぞ!?」

 呼び出したバッドサイクルに悪態をつく。

『流石に相手ガすたんど使イダナ。うまくイナサレタってトコロか』

「感心してるんじゃねぇよ」

『ケド、見たダロ? 確実ニ襲い掛カル不運ノ質は上がってイルぜ』

「ああ……そうだな」

『アト一手、って所サ』

「ああ、信じるぜ。お前も、俺の不運も……っと」

 事故現場から急ぎ足で離れるルイたちを確認し。

「また後でな」

『OK』

 幸彦がバッドサイクルを戻し、追跡を開始する……

146第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/07/04(木) 21:36:12 ID:YrnDNHOU0
>>145
 数分後。


「うん、今東通りを学校のほうに向かって歩いてる」

「OK、できるだけ早く合流するよ」

 ネルソンとスマホで通話し、周囲の様子を窺いながら、速足で歩く沙枝。

 その背後から、ルイが不安そうにきょろきょと周囲を見回し、ついていく。

「あと……汀には連絡は?」

「してる。こっちに向かってるはずだけど」

「OK」

 打つ手も思いつかないものの、ネルソンの提案で合流することとなった沙枝たちは。

 先の乗用車の追突未遂、自分たち以外への被害を懸念し、ルイと沙枝は大通りから曲がり。

 日曜にしては人通りも車も少ない……車道と縁石で区切られた歩道を歩いていた。

 沙枝達が今いる場所は所謂オフィス街であり、都会程ではないものの、それなりに高いビルが立ち並ぶ区画であった。

「それにしても、不運か……厄介だな」

「うん。まぁ、それも推測でしかないけど」

「周囲に気を付けて、沙枝。さっき言ってたみたいに不意に横道から車が、なんてこともあるし」

「ええ、分かってるわ」

 沙枝もルイも、充分に注意している『つもり』だった。
 
 しかし、沙枝は会話しながらであったが故に注意が無意識に散漫となり。

(もしかしたら、この近くに本体がいるかも)

 ルイは、自分の身に降りかかる出来事の根本を断ちたいと考え……敵の本体とスタンドを探していた。

 だから。

 自分たちの前方の『あるもの』の存在に気付いていなかった。



 同じ頃。

「よーっし、仕事終わりだー!」

「お疲れさんです」

 あるビルの屋上付近の外壁。

 日曜日にも関らず(いや、だからこそ?)ビルの外壁清掃を行っていた作業員2人が、小型の作業用ゴンドラの上で仕事の終了を喜び小さくハイタッチする。

「んじゃ、上げますね」

「ああ……しかし」

 後輩らしい若い男がゴンドラの操作ボタンを押し。

 ゆっくりとゴンドラが屋上に向けて上昇していく。

「こいつも年期入ってるよなー」

「このビル備え付けの奴でしたっけ。古いですけど、大丈夫ですかね。今更ですけど」

 ゴンドラは昔ながらの武骨なデザインであり、塗装はされていたが、ところどころが剥げ錆が浮き上がっていた。

「はははは、馬鹿言うな」

 不安げに呟く後輩の背を、ガタイの良い先輩が軽く叩いて笑う。

「人様の命を預かるもんだぞ。メンテぐらいしてるって」

「ですよねー、あ、つきました」

「おう、先に降りな。んで、茶ぁ取ってきてくれ」

「はい!」

 後輩が先にゴンドラから降り、屋上の日陰に置いてあった荷物に駆け寄り。

「よっこい、しょ」

 その後から先輩が下りる……


 ぎしり。

「?」

 何か金属が軋むような音が聞こえた気がした先輩だっただ。

「何してんですか?」

「あ、おお」

 後輩に呼ばれ、そちらに歩み寄っていく先輩ー


 のちに2人は『ゴンドラは休憩後、作業の終わりに固定して撤収していたから大丈夫だと思った』
『だから、あんな事になるとは思わなかった』

 そう証言したという。

147第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/08/01(木) 08:32:08 ID:hOg2d4MQ0
>>146
 少し後。

「あ、ネルソン君だ」

「本当だ、よかった」

 自分たちの進行方向の先、赤信号の横断歩道の向こうで手を振るネルソンの姿を確認し。

 ルイ達も手を振り返し、早足で前方に歩いていく……と。

「……あっ!」

「ルイ君!? 大丈夫?」

 縁石沿いに作られていた、雨水を逃がすための側溝。

 普通なら金属の網が嵌められているはずの側溝は、誰かの悪戯なのか外されていて。

 ルイがそこに足を取られ、前のめりに転んでしまう。

「あいたた……うん、大丈夫。本当ツイてないや」

 心配そうな沙枝に、苦笑して返しながら起き上がろうとするルイ……

「……?」

 その目に、自分たちを覆う「四角い影」が、大きく揺らめいたのが見えて。

 ルイが頭上を見上げた、その瞬間……頭上で鈍く重い金属音が響き。


「危ない! 《パープル・レイン》!」

「え、きゃぁ!」


 突如、ルイに突き飛ばされ……尻餅をつくように倒れる沙枝。その目に入ってきたのは。

 自分を突き飛ばした後、縁石に寄り添うようにうつ伏せで倒れこむルイとパープル・レインの姿、そして。

……がしゃあああぁん!

「……え?」

 その姿をかき消し、圧し潰すように落下してきた……作業用ゴンドラだった。


「いやああああぁ! 雨月くぅん!」

「Goddamn! なんてこった!」

 あまりの出来事に、頭を抱えて叫ぶ沙枝。そして、赤信号を無視して駆け寄るネルソン……

 そして、ゴンドラと縁石の隙間から流れ出る……


「よっしゃぁ!」

 顛末を路地裏から見ていた幸彦が、小さく叫びながら拳を握る。

「ははは、直前なんかスタンドを出していたみたいだが……」

 泣き叫ぶ沙枝と、それを宥めゴンドラどけようとするネルソンの姿を眺めながら。

「あのルイとかいう奴、流石に終わったろ。流石、俺の不運だぜ」

 己の不運の末の「勝利」を確信し、笑いが収まらない幸彦。

「あはは、これで金ゲットだ! ついでに他の奴も」

 だが。

「俺の不運で……え……えぇ!?」

 その顔から、笑みが消えていく。


「……ごめん。心配かけちゃった」

「え……え?」

「Oh……Cool」

 ゴンドラと縁石の隙間から流れ出たのは……

『己の体を液状化させた』ルイだった。

 スライムのような姿になりながらも、申し訳なさそうな顔を沙枝たちに向けたのち。

「解除……っと、いたたたた」

 すぐさま能力を解除し、立ち上がった。

148第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/09/05(木) 10:30:06 ID:9OMyjJR.0
>>147

「え、えぇ?」

「パープル・レインの能力か。でも」

 無事な様子のルイの姿に混乱を隠せない沙枝の横で。

「確か、生物はAsphyxia……仮死状態になるはずじゃ」

 冷静にネルソンが分析する。

「うん。でも、ちょっと試してみたんだ。自分に使ったらどうなるかって」

「Oh……どうなるか分からないってのに、勇気あるね」

「あはは……好奇心から試してみたんだ。試しに腕だけ。そしたら、動かせたから全身でもいけるかなって」

 ネルソン達に対してはにかんだように笑いながら答えるルイ。

「だから、とっさに自分の体を液状化して、そこの側溝に滑り込ませたんだ。でもまぁ……痛っ」

 その手が側溝の端で擦れ破れたズボンと、そこから覗く擦り傷に伸びる。

「無傷、ってワケにはいかなかったけど……って」

「……よ、良かったあぁ〜!」

「い、樹野さん?」

「だって、あんなの……絶対ルイ君死んじゃったかと思って、わああぁ〜!」

 ぽかんとした顔で説明を聞いていた沙枝の目が潤み。

 安堵からか、膝をつき泣き崩れる。

「ゴ、ゴメン。先にこんな風に使えるって言っといたら良かったけど、隠し玉にしたかったから、え、えと」

 その様子に狼狽え、言葉をかけ続けるルイの側で。

「まぁ良かった。But、その不運が消えたわけじゃないからね」

 ネルソンが注意深く身構え、周囲を警戒する―


 一方。

「うおぉい! バッドサイクル! どういうこった!?」

 幸彦は苛立ちを隠すことなく、バッドサイクルを呼び出す。

「かわされたじゃないか!」

『知らネーヨ。マァ、相手のすたんど能力が上手だったッテ事さ』

「くっそー、厄介な」

『ダガ、不運はドンドン強くなってる』

「ああ、そうだな! あと2、3手って所だな。ついでに他の連中にも不運を盛って」

 ほくそ笑む幸彦の横で、バッドサイクルがヘドロ塊のような不運の塊を手に持つ。


「あのルイとかいうガキだけじゃなく、みんなぶっ潰してやる!」


 決意を新たに、宣言した―そんな幸彦の「不運」は2つ。

 ひとつは、バッドサイクルを出していたこと。そして。


「……おいテメー! 不運が、ルイが、どうしたって?」

「げ!?」

 その姿と会話を……偶然裏道を通っていた汀に目撃された事である。

149第9話 ◆gdafg2vSzc:2019/10/10(木) 08:40:57 ID:ioj9o8Qc0
>>148
「状況はよう分からんが……」

「ひ、す、スタンド使い……だと」

 一歩、一歩、幸彦に詰め寄りながら。

 自らのスタンド、ギア・チェンジャーを発現させる汀。

「あいつらの、仲間か……」

『オイオイ、どーするンダよ? コイツに不運ヲ盛ルにも、遅イぜ?』

「ど、どーするもこーするも」

 怯える幸彦の額に冷や汗と……不運が滲み出るが。

「や、やるしかないだろ!」 

 不安や怯えを払拭するように叫ぶ幸彦。

「幸いアイツらには気づかれてない、だから、ここでコイツを倒してしまうんだ!」

『オイオイ』

「お前、ガタイそれだけいいんだから喧嘩ぐらい行けるだろ!? なぁ!?」

『マァ、ヤレと言われタラ、ヤルがね』

 互いのスタンドを見比べながらバッドサイクルを、つまりは己を鼓舞する幸彦。

「あくまでやる気か。なら……容赦しねぇぜ」

 ボクサーのように拳を構えるバッドサイクル、その背後に隠れる幸彦を睨みながら。

 汀が、ギア・チェンジャーが……さらに一歩、深く相手に向けて踏み込んだ、直後。


「やれええぇ、バッドサ」
「だりゃあぁ!」


 バッドサイクルの拳より早く。

 己の身に『6速』のギアを埋め込んだギア・チェンジャーの速く重い一撃が、バッドサイクルの腹を捉え。

「……がふっ」

 幸彦の身が、くの字に曲がる。そして。

「覚悟はいいな! だああぁりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあぁー!」

 宣言通り、ギア・チェンジャーの容赦ない拳のラッシュがバッドサイクルを襲い。

「ぐがががががが、がはあああぁ!」
(な、なんだよぉ! 畜生! うまくいってたのに!)

 打ちのめされる幸彦の頭の中を、声にできない怨言が巡り。

「―りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあぁっ……しゃあぁあ!!」

「ぐ……はあああぁ!」
(なんでだ、何がいけなかったんだ、あああぁー!)

 アッパーカット気味の止めの一撃を受け、バッドサイクルもろとも宙に舞う幸彦。

『マァ……ナンダ……《不運》ダッタンダナ……』

 その耳に届いたバッドサイクルの呟きは、幸彦自身の諦念だったのか。

 吹き飛ばされた幸彦の身体は、そのままの勢いで路地から車道に転がり……

「え!?」

 車の急ブレーキ音と、鈍い衝撃音が周囲に響いた。

150第9話 ◆gdafg2vSzc:2020/01/16(木) 09:35:42 ID:kmrDr46M0
>>149

「What!?」

 背後で聞こえた車の急ブレーキ音と鈍い衝撃音に、ネルソン達が振り返ると。

「汀君?」

 その目に、急停車した乗用車とその前方で倒れる男―幸彦と。

 側の路地から慌てた様子で飛び出し、困惑した風に幸彦と車を見比べる汀の姿が飛び込んできた。

「何かtroubleか? ちょっと見てくる。沙枝達は此処にいて」

「うん、わかった……」

 道路を横切り、汀のほうに走っていくネルソンを見送る沙枝とルイ。

 その周囲には事故を目撃し、野次馬たちが集まってきていて。

「まずいわね、これでまた何かあったら」

 また『不運』に無関係な人間を巻き込んでしまうことを危惧する沙枝だったが。

「うん、でも……なんか妙に肩が軽くなった気がする」

「そう?」

 腕をぐるぐると回した後、空を仰ぎ背伸びするルイ。

 その身体に盛られていた不運は、幸彦の―バッドサイクルの戦闘不能によって。
 乾いた泥のようになってルイの体から崩れ落ち、風化していった。

「だからもう大丈夫な気がする、なんとなく……あ」

「どうしたの?」

 地面に視線を向けたルイの少し驚いたような呟きに、沙枝が不安な様子を見せる―だが。

「あはは……これだよ」

 笑いながらルイが側溝から出る際に折れ曲がったズボンの裾に指を伸ばし。


「やっぱり、不運は消えたみたい。ツイてるや」


 おそらく、側溝に落ちていたのが挟まったのだろう。

 しわくちゃになり、少し汚れた一万円札を広げ、沙枝に小さく笑ってみせたー
 

幸彦:スタンド《バッドサイクル》……全治6ヶ月の重体
事故後、霧吹き男の仲間による暗殺を妨げるべく、SPW財団の管理する病院に収容された。
……ただし、その際に搬送していた救急車が追突事故を起こされたり、入院先の病院で一人だけ食中毒になったりしたのだが、それはまた別の話である。

ルイ:拾った一万円はちゃんと警察に届けた。
その後持ち主が現れず、一万円はルイの手元に渡る。

【9:『問題』不運は努力で回避できるか?……END】
【And see you next episode……】

151第9話 ◆gdafg2vSzc:2020/01/16(木) 09:44:05 ID:kmrDr46M0
>>150
【9話:初登場オリスタ】
No.8244
【スタンド名】 バッドサイクル
【本体】 とにかく運の悪い男:土浚幸彦
【タイプ】 近距離型
【特徴】 全体にでっぷりしてる人型。腹部に矢印で出来た円の形をした模様がある。自我があり皮肉屋。
【能力】 人間の持つ「不運」を可視化し操作する。
このスタンドを発現させた時点で、本体には自分を含めた人間の不運が見えるようになる。
不運は「粘着性の黒い泥」のような形をしていて、不運な人間ほどたくさん、そして頑固にこびりついている。
このスタンドはその不運を引き剥がし、捨てたり他人に擦り付けたり出来る。

…ただし、不運は人間が少なからず持つ「素養」であり、不運を全て剥がしたとしてもちょっとずつ染み出してくる。
(↑は本体の解釈と言うか思考)

破壊力-C スピード-C 射程距離-D
持続力-A 精密動作性-D 成長性-B

自分の案から採用(おい)
原作3部のVSオインゴ・ボインゴ兄弟のように当事者があまり関らないうちに事態が解決してる、みたいなノリの話を書きたくて採用しましたがうまくいかんかった(汗)

ここまで読んでくださった皆様に感謝です。ありがとうございました。

あと更新が遅くなって大変申し訳ないです。
仕事や生活環境の変化で多忙&創作モチベが低下していたのがあります。
今後も相当ゆっくりになりそうですが、ぼちぼちだらだらやらせていただきますねー

さて次回、ちょっと敵サイドの話にしようかなとも思ってますが予定は未定です(汗)

152第10話 ◆gdafg2vSzc:2020/03/12(木) 14:48:06 ID:XFWHejDI0
>>151
【10:………】

 幸彦の襲撃……と呼べるかどうか分からない襲撃から数日後。
 昼休みの海鳴高校、中庭の一角。


「テルテルボーズぅ?」

「Yes、幸彦の証言だと、そのスタンドはレジストロと名乗ったそうだ」

 汀達は、幸彦から得た情報をネルソンを通じて聞いていた。


 得られた情報は、幸彦が『霧吹き男』によってスタンド使いとなったこと。

 使い方に関して、レジストロを通じて知ったこと。

 レジストロは『霧吹き男』の仲間のスタンドであること。

 そして……自分達の命に2千万もの金が懸けられていたこと。


「……けっ、2千万かよ。安いって。ゼロが一つ足りないっての」

「ちょっと、汀君」

「わーってるよ、冗談だ」

 冗談、と告げつつも汀の顔は笑っておらず。

 一緒に話を聞いていた沙枝とルイの表情も険しい。

「でも……そこまで邪魔になると思ったんなら、なんで『霧吹き男』は僕達をスタンド使いになんかしたんだろ?」

「可能性として、自分たちの意に成りそうな相手を仲間として勧誘してる、って事だろうけど」

 俯き加減で疑問を呟いたルイに答えを返しつつ、ネルソンも首を傾げる。

「レディ・リィの仲間や人脈がある事を考えたら、そんな危険な真似をするかなって話でさ」

「成程な……まぁ、とはいえ」

 周りの重い空気を払うように、ぱん、と汀が強く掌を打ち鳴らす。

「多少は進展があったとしたもんか。要はそのレジストロとかいうスタンドを捕まえるなり追うなりして、本体を探せば」

「Yes、敵の尻尾を掴めるかもしれないね。まぁ、簡単にはいかないだろうし、敵の襲撃もあるだろうし」

「でも何もないよりマシ、だな」

「そうよね……あ、そう言えば、ネルソン君」

 汀の言葉に小さく頷いた後、沙枝が思い出した様子でネルソンに問いかけた。

「何だい?」

「あの、前に預けたピンバッジ……何か分かった?」

「Ah-、あれねぇ」


 かつて汀達が笹屋敷で拾い、沙枝が見覚えがあると告げていたピンバッジ。

 その調査を、沙枝はネルソンに依頼していたのである。

153第10話 ◆gdafg2vSzc:2020/08/13(木) 22:02:44 ID:nz4xnrN.0
>>152
「駄目だった、SPW財団のデータバンクを駆使しても合致するものは無かったよ」

 溜息を吐きながら、残念そうに首を横に振り肩をすくめるネルソン。

「ただ、逆に言えばmicroな規模……例えばこの街の、インターネット販売とかもやらないような小さな会社とかが作ったモノなら引っかからないかもね」

「……そういう業者を虱潰しに当たっていかないといけないのか……面倒くせぇ」

「はは、まぁそっちはエージェントに当たらせるよ」

 面倒ごとに露骨に嫌な顔をする汀に対し、苦笑して返すネルソンだったが。

「ま、私たちも少しは手伝うわよ、言い出したのは私だし」

「ええー、任せときゃいいじゃんよー」

「んもー、またそういう事言うー」

 沙枝と汀のある意味いつも通りのやり取りに、自然と頬を緩めていた。

「まぁ、調査協力は在り難いよ。警戒は怠らないでほしいけど」

「ん。今はそれとレジストロの件しかないしね」

「そうだな……くっそ、もっとこう、分かり易い目標がありゃあいいんだが……」

 具体的な行動がとれない現状に苛立たしさを覚え……ぱん、と汀が右の拳で左掌を打ち、空を仰いだー




 その同じ頃。

【10:黒幕とその仲間、その心情と内心と】

 南風市、某所。



 周囲を白い壁で囲まれ、壁際や複数置かれた机の上に顕微鏡などの機材の置かれた、研究室のような部屋。

「……どうしたんだ、淵谷(ふちや)さん?」

 部屋唯一の入り口であるドアの近くに立つ大澱が、部屋の中央に座るボサボサ髪で眼鏡をかけた、くたびれた風体の中年男……淵谷に声をかけた。

「お、大澱……さん、まだ、要るんですか? これ」

 淵谷は困惑しつつ、眼前の机の上に置かれている顕微鏡と、大澱の顔を交互に見る。

 顕微鏡には無色の液体の入ったビーカーが設置され、一見、液体だけのように見える。

「確か『培養』のメドは立ったって、言ってたんじゃ」

「それだけでは足りんからだよ。いいから、やれ」

 淵谷のを鋭い眼光と共に一蹴し、淵谷が恐怖に委縮する……そして。

「分かりました……《ドグラ・マグラ》……!」

 淵谷の側に……全身が真っ黒で、虚ろな目をしたスタンドが現れる。

 全身が黒い中、腰に巻かれている帯は赤、青、白、緑、紫、等々色彩豊かであり……それが逆にこのスタンドの異質さを際立たせているようであった。

「……お願いします、《ドグラ・マグラ》」

 言いながら顕微鏡のレンズを覗く淵谷……その中ではビーカーの中で蠢く楕円上の細菌……バクテリアが無数に蠢いていた。

 そして、ドグラ・マグラが指先をビーカーに入れた瞬間

 ぶわ……!
バクテリアが、在り得ないスピードで増殖を始めた。


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