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【ガーネット】「柘榴石の心(グラナート・クオーレ)」【クロウ】
1
:
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 10:53:25 ID:6AP6NM8.
やるしかねえ……
2
:
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 10:54:10 ID:6AP6NM8.
これより投下させていただきます。
<注意事項>
・他のSSに比べ、台詞が少なめです。(特に1話)
そのため少し読みにくいかもしれません……
・今書いているところまですぐに追いつかないよう、チマッチマ投下になる可能性がございます。
ご了承下さい。
3
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 10:56:10 ID:6AP6NM8.
スタスタスタスタスタ・・・
(もう四時半かよ・・・あぁ、どうしよう・・・)
俺は今、ネアポリスの街の裏路地を走り回っている。
ついさっきまで、俺はある友人と街で遊んでいた。
彼は喧嘩っ早い・・・というか、何かにつけて自分を強く見せようと、よく他人に喧嘩を売る人だった。
彼が俺とつるんでいるのも、ある種自分を強く見せるためなんじゃあないかと、俺は薄々感じている。
というのも、俺は結構気が弱いタイプで、不良との喧嘩なんてまっぴら御免な性格なのだ。
そして今俺は、はぐれてしまった友人を捜すため、裏路地を走っている。
確か・・・
俺が友人から目をそらしている間、彼の「待てやゴラァ!」という声を聞いた。
そして俺が振り向いた時は、既に彼は裏路地の中へと走っていったのだ。
それ以来、彼の姿が見当たらない。
恐らく、友人はひったくりにでも合ったのだろう。
強気な彼のことだから、相手がどんな奴であろうと追いかけてブチのめそうとするに違いない。
たとえ相手が・・・
ギャングであろうとも・・・
「あッ! ・・・!!」
数分が経ち、俺が友人の姿を見つけたとき、思わず叫び声をあげそうになった。
4
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 10:57:05 ID:6AP6NM8.
そこには友人が、一人のチンピラ風の男と対峙していたのだが・・・
友人はチンピラと喧嘩を“しているようには見えなかった”。
というのも、その時俺の目には、「見えてはいけないような何か」が、チンピラの側に存在しているように見えたのだ。
その存在は、「人のようであって、明らかに人ではなかった」・・・
全身は白く輝き、隆々とした体つきは、さながら守護神のような雰囲気が漂っている。
そして、その存在には下半身が無かった。
上半身のみの存在が、二つの奇妙な機械と共に浮遊していた。
「何なんだ・・・」
俺はそう呟くしかなかった。
友人は満身創痍であった。
息が荒く、口から血が垂れている。
「ロッソ・・・こっちに来ちゃあ駄目だ・・・すぐに逃げろ・・・ッ!」
友人は俺に気付くとそう宣告した。
だが俺は動けなかった。チンピラに取り憑いているあの存在が・・・あまりにも強大に見えた。
「友達か? いい所に来たじゃあねぇか。
おめぇにとってのいいATMだと思うぜ、フフフッ!」
チンピラは友人にそう言った。
いつもだったら友人が激昂するような言葉だったが、今の友人にはもうそんな余裕は無い。
「逃げろロッソォ!」
友人にそう怒鳴られても、俺の足は一歩も動かなかった。
5
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 10:58:08 ID:6AP6NM8.
俺・・・「ロッソ・アマランティーノ」は、ここネアポリスで生まれ育った。
昔から引っ込み思案な子だったが、まあ友達がいないわけでもなく、平穏無事な生活を送ってきた。
ただ、俺は何故か霊感がかなりあるらしく、今まで何度も幽霊を見たことがあったし、会話してしまったこともある。
そういえば、俺の父さんも幽霊が見えるとか言ってたっけ。
霊感とは遺伝するものなのか・・・
ひいお爺ちゃんの霊、病院で死んだ人の霊、野良猫の霊、投身自殺した人の霊・・・
どれも見たときは驚いたが、恐怖はあまり感じなかった。
だが、今目の前に存在する「あれ」は明らかに違う。
幽霊のようでもあるが、その姿はあまりにも奇怪すぎる。
なんといっても、あの存在は纏っている「オーラ」が違った。
何もかもを寄せ付けない、圧倒的なオーラ・・・とてもこの世のものとは思えない存在であった。
6
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 10:59:06 ID:6AP6NM8.
「ヌオオオオオオォォォォ!!」
不意に友人がチンピラに飛びかかる。しかし「あの存在」が、チンピラへの攻撃を許さなかった。
「ぐぁッ!」
謎の存在は友人の首をつかんで持ち上げる。
友人はジタバタするが、謎の存在は杯を高く掲げるが如く、微動だにしなかった。
友人には、あの存在が見えないだろうか?
「おいおい、まだやる気かァ? そろそろ観念したらどうだ?
いきなり財布を盗っちまったのは、そりゃあ謝るよ。だがよォ、年上への礼儀ってモンがあるんじゃあねぇのか?」
チンピラが友人に言った。
「お前にゃあ“これ”が見えねえだろ? 突然殴られたり、こうやって首根っこ掴まれて空中に浮いたりして、訳わかんねぇよなァ?
こいつぁ『スタンド』っつーらしいぜェ。まぁ古い言い方をすりゃあ『超能力』ってとこかぁ」
(スタンド・・・?)
ドドドドドドドドドドドドドドド・・・
一方友人は、もはやチンピラの言葉を聴くこともできない状態だった。
謎の存在によって少しずつ首が絞められ、顔面は青くなり、白目をむき始めたのだ。
7
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 11:00:09 ID:6AP6NM8.
そしてついに、友人の腕がダラリと垂れ、動かなくなった。
「ケッ」
ドサッ
謎の存在が、完全に気を失った友人を地面に投げ捨てると、チンピラは俺に向かって言った。
「おめぇの友達はよォ、ちと生意気が過ぎると思うぜェ。今度からキチンと注意しといてくれよな」
「ぁ・・・ぁ・・・」
チンピラが近づいてくる。
俺は恐怖していた。
チンピラが近づいてきたからではない。「あの存在」・・・スタンドが近づいてきたからであった。
「俺は『ビアンコ』ってんだ。とりあえず、出来の悪い友達に変わって、俺に金払ってくんねぇか?」
「・・・・・・・・」
「どうした? もしかして、おめぇにも“これ”が見えんのか?
ほぅ、だったら凄いことだぜ、どうだ? 俺のスタンドは? 『エイフェックス・ツイン』って名付けたんだぜ」
人のようであって、明らかに人ではないその存在・・・
「スタンド」と呼ばれるそれが、今まさに俺の目の前まで迫ってきている。
俺は恐怖と絶望に襲われていた。
「あんまりビビらなくても大丈夫だぜェ。今あるだけの金を素直に払ってくれれば、なんにもしねぇからよ」
俺は震えながら、尻のポケットにある財布に手を伸ばした。
8
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 11:00:54 ID:6AP6NM8.
「そうそう、その素直さが大事なんだぜ。『礼儀』っつーのはそういうもんだ。
ほら、また丁度いい所に友達2号が来たみたいだぜ」
(友達・・・2号・・・?)
俺の後ろから近づいてきたのは、見た目は俺と同い年くらいの少年であった。
「あいつもおめぇの友達だろ? あいつにも先の友人の責任とって貰うからな!」
全く見覚えのない少年であった。綺麗な金色の髪を前で3つにカールさせ、後ろでは長く伸ばして編んでいる。
(こっちに来ちゃ駄目だッ!)
そう叫びたかったが、目の前に迫る圧倒的な存在(スタンド)に恐怖していた俺は、声を出すことすらできなかった。
だが、後に俺は別の理由で声を失うことになる。
金髪の少年は、俺達の近くまで来ると、ビアンコにこう言い放った。
「立ち去れ、今すぐにッ!」
「・・・んだと?」
「立ち去れと言っているんだ。
こんな子を襲って金を巻き上げるなんて、恥ずかしくないのか?」
「なんだてめぇ・・・随分とヒーロー気取りだな。さっきのガキより生意気だぜ」
ビアンコの言葉には殺意が篭もっていた。
しかし、俺の目の前にいる金髪の少年の目には、殺意を遙かに凌ぐ「意志」があるように見えた。
9
:
◆LglPwiPLEw
:2009/10/31(土) 11:02:25 ID:6AP6NM8.
はい、今日はここまでです。続きは明日の予定。
いつも大体こんな調子の投下になると思います……
10
:
名無しのスタンド使い
:2009/10/31(土) 11:12:50 ID:65UMngqI
乙!!
これは面白そうだなwwww
期待してます!
11
:
名無しのスタンド使い
:2009/10/31(土) 12:40:32 ID:???
乙!
12
:
◆WQ57cCksF6
:2009/10/31(土) 13:00:21 ID:???
乙!ロッソとジョルノに期待ッ!!!
13
:
名無しのスタンド使い
:2009/10/31(土) 15:35:00 ID:p1RfFDlk
やっぱチンピラだなw
乙
14
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:48:06 ID:6AP6NM8.
「ざけんじゃねぇぞ!!!」
ビアンコは急に大声を出し、傍らのスタンドを少年に差し向ける。
「『エイフェックス・ツイン』!!」
(駄目だ、終わったッ!)
スタンドの拳が少年に迫り、俺は思わず目をそらした。
だが・・・
「『ゴールド・エクスペリエンス』!!」
少年がそう叫んだのを聞き、俺はすぐに少年を見た。
この時、俺は再度驚愕し、声を失った。
もう一つの「スタンド」だ・・・!
もう一つ、黄金色に輝く守護神が、ビアンコのスタンドの拳を受け止めていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「何だと!? 『スタンド』! てめぇも『スタンド使い』なのかッ!?」
驚いたのは、俺だけではなかったようだ。
「てめぇ、こいつのダチ公じゃねぇな! ナニモンだよおい!」
「これ以上やるとお前が血を流すことになる・・・今すぐ引け」
「答えろってんだよォォォ〜〜〜〜!!!
ヌアアアアァァァァ!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
パニックに陥ったようにも見えるビアンコが、少年に向かって嵐のような連打を浴びせる。
しかし、少年の黄金色のスタンドは、その凄まじい拳の一つ一つを難なく受け止めていた。
15
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:49:03 ID:6AP6NM8.
「無駄・・・無駄なんだ・・・何をやっても・・・」
怒りとも恐怖とも取れる、鬼のような形相で少年に襲いかかるビアンコとは対照的に、
少年は驚くほどの冷静さを保ちながら「スタンド」を操っている。
あぁ・・・何なんだ・・・俺は夢でも見ているのか・・・?
数十分前までは、ごく普通の少年としてこの街に居たはずいたのに・・・
友人がこの路地裏に駆け込んでから、運命の歯車が狂いだしたのだ。
いや、「狂いだした」というのは間違いかもしれない。
もしも運命の歯車が正常に動作していて、俺が今ここにいるのも“正しい運命”なのだとしたら・・・?
今目の前で繰り広げられている、常識を超越した戦いを、素直に受け入れるしかないのだろうか・・・?
少年は一歩後ろに退き、ビアンコとの間合いを取った。
ビアンコは汗を噴きだし、息を荒げている。
「はぁ、はぁ・・・ざけんなよ・・・『スタンド使い』だと?」
「無駄だ・・・これ以上無駄な体力を使わせないでくれ・・・」
「生意気すぎて反吐が出るぜ・・・俺は年上に対して礼儀のねぇ奴が一番嫌いなんだよ!!」
「まだやる気か? ならば暫く眠ってもらうぞ」
16
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:49:47 ID:6AP6NM8.
「フ・・・フフッ、あぁ、打ってこいよ・・・ほら来いや」
それまでのパニック状態が嘘のように、ビアンコは急に冷静さを取り戻した。
(・・・何故だ?)
少年はスタンドを出したまま、ビアンコをじっと睨んでいた。
そしていきなり前に踏み込んだかと思うと・・・
ドガァッ!
「ぐふッ!」
ダメージを受け、後ろに吹き飛んだのは・・・
少年の方であった。
ドシャアァァッ
(!? 一体何故だ? 先に踏み込んだのは少年の方なのに!)
「ッハハハハ! ざまあねぇな!」
ビアンコは高笑いしている。
ダメージを受けた少年が地面に倒れたまま言った。
「“壁”・・・見えない壁があった。それがお前の能力か」
「ほー、随分勘が鋭いな。そうだ、これが俺の『エイフェックス・ツイン』の能力だ。
ほら、左右をよく見ろよ」
!
いつの間にか、俺の後ろの方に、あのビアンコのスタンドと一緒に浮いていた機械のようなものがあった。
少年から見ればビアンコとの間に左右二つ、離れて浮いている。
「『衛星』だ。この二つの『衛星』は透明な『壁』を発生させて攻撃を跳ね返すッ!
てめぇはこのカウンターをモロに受けたんだぜ!」
17
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:50:50 ID:6AP6NM8.
「そしてッ!」
ビアンコが倒れている少年にズンズンと歩み寄る。
「ここでてめぇの敗北は決定した! クソ生意気なガキめ、頭をぶっ潰してやるぜ!」
駄目だ、今度こそ少年は・・・!!
「ヌアアァァァァァァァァ!!」
その時、俺にはビアンコの雄叫びに混じって、少年の声が聞こえたような気がした。
「カウンター? それならば・・・
この『ゴールド・エクスペリエンス』にも優秀なカウンターが存在する・・・」
ドガドガドガドガドガドガドガドガ
ズガァーーーン!!!
凄まじい轟音と共に、地面が粉砕される。
少年は・・・死んだ・・・のか?
辺りは静寂に包まれた。
思えば、俺はここに来たときから一歩も動いていない。
砂埃がおさまると、そこにいたのは・・・
全身に打撃を受け、大の字になって倒れるビアンコと、無傷の少年の姿があった。
(・・・!? 一体何が?)
地面が瓦礫と化している中で、少年はゆっくり立ち上がって言った。
「『ゴールド・エクスペリエンス』によって地面を何匹かの虫に変えていた。
攻撃の反射効果を持つその虫を、お前は無茶苦茶に叩いたのだ。
あとの攻撃は防ぐことなどたやすい」
18
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:51:39 ID:6AP6NM8.
虫? 反射効果?
何が何なのか分からないでいる俺に向かって、少年は服の埃を払いながら話しかけてきた。
「今すぐここから逃げた方がいい。
あそこで倒れている子を病院に連れていってくれ。ここから近いはずだ」
「ぁ・・・」
何を喋ったら良いのか分からなかった。
その時、向こう側から一人の男が駆けてきた。
「あぁ居た居た、捜したっスよォ〜。急にいなくなって・・・」
「いやぁ、すみません」
男は少年を捜していたらしい。
少年はうやうやしく返事をしている。
男は俺達が居た場所の有様を見て言った。
「・・・また・・・“一暴れ”したんスか・・・?」
「はい・・・そうです」
「お人好しなのはいいんスけどねぇ〜、
あんまり堅気を巻き込むのはマズいと思いますよォ〜」
「そうですよね・・・すみません」
間延びした喋り方の男と、金髪の謎の少年・・・
一体何者なんだ?
どちらも敬語で話しているが、どっちが上司なのだろうか?
「車の方は用意してありますから、すぐに出発できますんで」
「ありがとう、このまま行くことにしますよ。
その前に、あの子に言っておきたいことが・・・ッ!!」
「何ッ!」
19
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:52:22 ID:6AP6NM8.
「はぁ・・・はぁ・・・ざけんなよ・・・」
本当に一瞬の出来事だった。
倒れていたはずのビアンコが、急に俺を後ろから押さえつけ、動けなくしたのだ。
勿論スタンドも出している。
「てめぇら動くな!! 動いたらコイツの頭をカチ割るッ!!
どっちかが銀行にでも行って、今すぐ100万ユーロ持ってこいや!!」
全身をボコボコにされ、顔も醜く変形したビアンコは、もはや理性を失っていた。
「・・・ま〜た、面倒くさい奴が居るもんスねぇ・・・」
男がリボルバー式の拳銃を取り出す。
少年もスタンドを出していた。
「動くなっつってんだろがァーーーッ!!」
ビアンコのスタンドの拳が、俺の頭に押しつけられる。
その時の俺は恐怖を通り越して頭が真っ白であったが、少年と男の行動だけは、何故かはっきりと記憶に残った。
「奴は見えない壁を作っています。そこを攻撃しないように」
「はい、了解っス」
ドォーーーン!!
男は天に向かってリボルバーを発砲した。
「威嚇のつもりかァ!! ざけんじゃねぇよ!! もうコイツを・・・」
ビアンコのこの言葉を聞いたときから、俺は頭を割られる覚悟をしていた。
20
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:53:08 ID:6AP6NM8.
だがいつまで経っても、スタンドの拳は飛んでこなかった。
そのかわりに飛んできたのは・・・
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ビアンコの断末魔の如き悲鳴だった。
ビアンコはよろめき、俺から手を離した。
それと同時にスタンドも消え、俺は恐怖から解放されたのだった。
「よっしゃあ! ナイスだぜ『ピストルズ』!」
俺はビアンコから離れながら、男がピストルズと呼んだ方向を振り向いた。
「オレノオカゲダナ! カクドガバッチシダッタゼ!」
「チゲーダロ! オレガミギニチョウセツシタカラダ!」
ミニサイズの小人のようなものが、空中でなにやら言い争いをしている・・・
あれも「スタンド」の一種なのか!?
「『壁』なんてモンは越えりゃいいだけの話だ。
10メートル位まで上がりゃ、壁を越えて弾丸が飛んでくぜ」
もしかして・・・
あの小人のようなスタンドが、弾丸の動きを操作したのか?
そんなことを思っていると、少年が足を撃たれて苦しむビアンコの所へ歩み寄っていった。
「グフゥ・・・あぁ、もう何もしませんッ!! 本当に反省してますッ!
頼むから命だけはァーーー!!」
ビアンコは急に泣いて命乞いを始めた。
・・・正気に戻ったのだろうか?
21
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:54:21 ID:6AP6NM8.
「おいおい、ざけんじゃねぇぞォ〜。
てめぇみたいに急に謝る奴が一番怪しいんだ」
男はあくまでもビアンコを疑っている。
「うぅッ、俺は・・・『スタンド』が使えるようになったばっかりに・・・
こんな下らない事ばかりするようになった・・・」
「! 急に、スタンドが使えるようになったのか?」
少年が何かに気付いたようにビアンコに尋ねた。
「あぁそうだよ・・・ある時街の人混みの中で、突然脇腹を服ごと切られてな・・・
その時からハッキリと、このスタンドが使えることに気付いたんだ」
「・・・やはり・・・これも“教団”の仕業ですかね・・・ミスタ」
「・・・かもしれないスね」
ミスタと呼ばれたリボルバーの男、そして少年は何やら深刻そうな表情である。
あの二人にどんな事情があるのか分からないが、俺には関係ないことだ。
ただ一つ言えることは、俺と友人はあの二人に命を救われたのだということ。
せめてお礼だけは言っておこうと、俺は少年に近づいた。
「あの・・・助けて頂いて・・・」
「いや、お礼はいらないよ。ほら、あの子も目を覚ましたみたいだ。
路地裏は危険だから、これからは無闇に入らないように」
22
:
第1話 黄金の邂逅
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:55:34 ID:6AP6NM8.
少年が言ったとおり、倒れていた友人は意識を取り戻したようだ。
だが、このまま何も言わずにいる訳にはいかなかった。
「せめて・・・お名前だけでも・・・
あっ、俺はロッソっていいます」
「名前? 僕は・・・『ジョルノ・ジョバァーナ』・・・」
ジョルノ・ジョバァーナ・・・
少年がそう名乗ったとき、俺は少年が持っていた偉大なる「意志」を感じた気がしたのだ。
ビアンコを睨んだときのあの目も然り・・・
このジョルノという少年は、俺と同じくらいの年齢でありながら「背負っているもの」の重さが違う。
カリスマ性とでも言えようか。
一体彼は・・・
「僕達はもう行かなくちゃあならない。
最近イタリアの街はますます荒れてきているから、くれぐれも気をつけてね」
「・・・はい」
辺りはすっかり暗くなり、街灯が頼りなさげに灯っている。
「それでは、アッディーオ(さようなら)・・・」
ジョルノは、俺に向かって別れの挨拶をすると、この場を立ち去ろうとした。
だが彼はすぐに立ち止まり、俺に振り返るとこう言った。
「いや・・・アリーヴェデルチ(また会いましょう)かな・・・」
第1話 完
23
:
◆LglPwiPLEw
:2009/11/01(日) 09:56:29 ID:6AP6NM8.
第1話終了です。
コロネはおろか、ワキガまでもが活躍してしまいましたが、
2話以降はきちんと主人公達が戦いますのでご安心を……
第1話で使用させていただいたスタンド
No.215 「エイフェックス・ツイン」
考案者:ID:Licx5cnkO
絵:ID:iWCqjA8h0
絵:ID:836DgT2dO
(原作より)
「ゴールド・エクスペリエンス」
「セックス・ピストルズ」
呼んでくれた方グラッツェ!
そして荒木先生すみませんでした……
24
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/01(日) 11:14:59 ID:65UMngqI
乙ッ!!
第2話からロッソのスタンドが出るのかな
楽しみだwwww
25
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/01(日) 13:27:12 ID:???
乙!!
26
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:12:14 ID:6AP6NM8.
イタリア某所
ホールはほぼ満員だった。
聴衆は「彼」の演説が始まるのが待ちきれない様子である。
一枚のパンフレットに書かれた演題は「神の満足なさる世界とは」。
ブザーが鳴り、ホールの照明が落ちる。
一分ほど経った時、ステージが照らされ、「彼」が姿を現した。
万雷の拍手が巻き起こる。
「彼」はステージの上手から中央の演台に向かって、ゆっくりと歩いていく。
やがてマイクの前にたどり着くと、聴衆に向かって一礼し、挨拶をした。
そして「彼」は、実に紳士的な、人を惹きつける口調で、こう話し始めた。
「皆さんは、『善人』と『偽善者』の違いは、何だと思いますか?」
27
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:13:00 ID:6AP6NM8.
学校にて PM 3:30頃
あれ以来、俺はなかなか眠れなかった。
「スタンド」という、科学では到底説明できそうにない存在のことだ。
何故俺には見えて、友人には見えなかったんだ?
ちなみにその友人はあの体験でノイローゼになり、ずっと学校に来ていないのだが・・・
調べても調べても、一向に情報は得られない。
正直、もうそんなことなど忘れて、勉強に集中したかった。
だが“あんなもの”を見てしまっては、忘れることなど不可能だった。
授業がすべて終わり、俺は学校を後にする。
いつものように、俺は少し斜め下を向いた状態で歩きながら校門を出た。
・・・人影に気付く。
俺はゆっくりとその方向を見た。
「・・・!! うわっ!」
俺は思わず叫んでしまった。
無理もないと思う。なぜならそこにいたのは・・・
「よっ、元気か?」
あのビアンコだったからだ。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・
あれだけ重傷だったはずなのに、すっかり回復してしまっている。
俺は早足でその場を去ろうとした。
「いや、ビビらなくていいんだ、もう金を取ったりはしねぇ!
そんな下らないことはもうしないって決めたんだ!」
28
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:13:39 ID:6AP6NM8.
ビアンコの言葉は嘘には聞こえなかった。
だがつい数日前、俺を人質に取ろうとした男と、そう易々と会話していいものなのだろうか・・・
「おめぇ・・・ロッソ、だっけか? どうしてもおめぇと友達に謝っておきたかったんだ。
学校は調べたんだがよ、住所までは分からねえから、友達んとこに案内してくれねぇか?」
「え?・・・あぁ、はい」
俺はなんとなく、返事をしてしまった。
ネアポリス市街 PM 4:00頃
友人の家までは遠い。
俺は寮住まいなので家に帰る心配はしなくていいのだが・・・
「この男」とずっと歩き続けるのは、かなり神経にこたえた。
「俺もよォ〜、一介のギター弾きとして、また一から始めようと思ってんのよ」
「そうですか・・・」
しなくてもいい心配であるのは分かっている。
ビアンコはすっかり改心した様子だ。
だが俺は、彼のことをどうしても受け付けることが出来なかった。
恐怖ではなく、何か別の理由があるのだろうか・・・
・・・そういえば・・・
俺が気になって仕方がなかったこと、スタンドについて、彼はどれだけ知っているのだろう。
俺にとって(距離的な意味で)一番身近な「スタンド使い」である。
29
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:14:05 ID:6AP6NM8.
俺は勇気を出して彼に問いかけてみた。
「ビアンコさん・・・」
「ん?」
「急な質問ですけど、『スタンド』って、一体何なんですか?」
ビアンコは数秒黙っていたが、その後の返事は・・・
「さぁ〜な、さっぱり分からん」
「・・・・・・」
「なんだ、気になってたのか?」
「はい」
「俺もよォ〜、急に使えるようになったもんだから、どんなのかって言われても分かんねえんだよ。
『スタンド』って名前と、一人一能力を持つってことは・・・俺のダチから聞いてたんだ」
「えっ、友人さんも『スタンド使い』なんですか?」
「あぁ、まぁそうだ・・・」
ビアンコが少し物憂げな表情になったが、気にしたら負けだと思い、俺は言及しなかった。
しかしその後すぐ、ビアンコの方から話があがった。
「そうだ、スタンドが見えるんならよ、おめぇもスタンドが使えるってことだぜ」
「え、そうなんですか?」
「あぁ、スタンドっつうのはスタンド使いにしか見えない。
つまりおめぇがスタンドを使えないはずがねえんだよ!」
「・・・・・・」
俺がスタンド使い?
俺の場合、てっきり霊感が強いからスタンドが見えるのかと思っていたが・・・
スタンドの謎は、ますます深くなるばかりだった。
30
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:14:31 ID:6AP6NM8.
ネアポリスの街はずれ PM 4:20
俺たちはネアポリスの市街を抜け、人通りの少ない道を歩いている。
友人の家まではもう少し先だ。
「不思議なんだよなぁ〜。あの時おめぇを掴んだ瞬間から、急に戦う気が失せたんだよ。
でも俺その時ヤケクソだったからよ、身代金なんか請求しちまったけどさ」
「へぇ〜・・・」
俺は聴いているのかいないのか分からない返事をする。
「もしかしたら、それがおめぇのスタンド能力かもしれねえぜ」
「えっ、何がですか?」
「・・・もういいわ!」
ビアンコとはもうだいぶ打ち解けてきた。
・・・のはいいが、彼は喋りっぱなしでうるさい人間であることが判明した。
いちいち聞くのが面倒臭いため、こうやって聞き流してしまうことが多くなってきた。
俺が聞き上手でないだけなのだろうか・・・
今日初めて彼と会った時の、あの拒絶感の原因は、もしかしたらビアンコのこの性格にあったのかもしれない・・・
「いや、すみませんでした」
「ったくよォ、年上の話はキチンと聴かなきゃ駄目だろうが!
礼儀がなってないぜ!」
31
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:14:52 ID:6AP6NM8.
ビアンコがそう言った時だった。
俺たちがいる10m程先の路地裏から、一人の男が飛び出してきた。
彼は・・・血にまみれていた。
「うっ!」
俺は思わず目を背けた。
「おい、なんだありゃあ!」
ビアンコも驚いている様子だ。
「ギャングの抗争か何かでしょう、知らないふりして行きましょうよ!」
「いや違う、よく見ろ!」
正面に目を向けた。もう男はいない。
「今の奴・・・“『スタンド』を出していた”・・・
反対側の路地裏に逃げた。追うぞロッソ!」
「え、えぇぇぇぇ〜〜〜っ!?」
ビアンコは男が逃げた路地裏に全力疾走した。
俺は迷った。ビアンコに付いていくか、踵を返して逃げるか・・・
頭の中は800%後者を選んでいた。
だが・・・
ビアンコに付いた紐に引っ張られるように、俺の足は路地裏の方向に走っていってしまった。
俺は、弱気な自分を責めた。
32
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:15:18 ID:6AP6NM8.
郊外の路地裏といっても、狭くて汚い感じはない。
むしろ一つの小道のように、実に歩きやすい場所であった。
だが今は、そんなことは言えない状況である。
ビアンコは、路地裏に入って5m程の所で停止した。
俺もその手前で止まり、ビアンコの先にあるものを恐る恐る見た。
さっきの男がいる・・・
全身が血にまみれ、歩くのもやっとの状態にすら見える。
ビアンコの言っていたとおり、彼はスタンドを出していた。
見た目はまるで陸軍兵士のような、ほっそりとしたスタンドだった。
そしてその男の、さらに先には・・・
男と女が、ペアのように並んで立っていた。
その男もスタンドを出している。女の方はスタンドを出していないようだ。
「逃げたって無駄よ。
あなたの首をどっちの手柄にするか決めるまで、おとなしく待ってなさい」
ペアの片方の女が言った。
やはり男は、この男女に襲われていたようだ。
「『ロベルト・ヴェルデ』・・・助っ人でも呼んだか」
もう片方の男が、ビアンコと俺の存在に気付いてしまった。
「! お前達、ここは危険だ! 今すぐ逃げろッ!」
ロベルト・ヴェルデと呼ばれた血だらけの男は、振り返ると俺たちに忠告した。
33
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:15:38 ID:6AP6NM8.
だがビアンコは、俺の一番言って欲しくなかった台詞を言ってしまった。
「い〜やっ、逃げるわけにはいかねえ。
同じ『スタンド使い』同士の喧嘩、見過ごすわけにはいかねえッ!
『エイフェックス・ツイン』ッ!!」
ビアンコが自らのスタンドを解き放つ。
「何ッ! スタンド使いなのかッ!?」
ヴェルデは驚いている。
「2対2よ・・・不本意だけど、これでフェアな戦いになったんじゃない? アランチョ」
「『敵』に味方するものは全て殺れとの命令だ・・・
誰であろうと全力で潰すんだぞ、チレストロ」
「了解」
(え? え? なんか俺たちが勝手に敵にされちゃってる?
何これ!? どういうこと!?)
どうしようもなく混乱していた俺の頭は、突然の轟音によって正気に戻った。
ズゴオォォォォォォン!!
轟音と共に地面が瓦礫と化し、砂埃が舞い上がる。
何が起こったのか分からない俺は、元の広い道路へ闇雲に逃れた。
「ロッソ、逃げんな!」
後ろでビアンコの声がしたが、気にしたら負けだ。
あぁ、あのジョルノという少年に注意されたばかりなのに・・・
無闇に路地裏には入るなと・・・
路地裏は、本当に危険がいっぱいだ。
34
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:23:46 ID:6AP6NM8.
俺は広い道路から、砂埃が出ている路地裏の方を見た。
・・・周りに人はいない。
どんな人でもいいから泣いて助けを乞いたかったが、それができない・・・
ドシャアァッ!
その時、突然何かが路地裏から吹っ飛んできた。
・・・ビアンコだった。
「だっ、大丈夫ですか!?」
俺は彼の元に駆け寄る。
かなり強い打撃を食らったらしく、口から血を流している。
「何なんだあの女ッ・・・!
スタンドでもねえのに、とんでもねえ速さだ・・・
『壁』を作る前に蹴りを食らっちまった!」
ビアンコはゆっくりと起きあがった。
スタンドでもないのに、とんでもない速さ?
一体どういう事だ?
「そうだ、あの人、『ヴェルデ』さんはどうなんですか?」
「知らねえよ・・・やばい、“来る”ッ!!」
「ハッ!」
シュバッ!!
俺とビアンコは、間一髪の所で飛んで『それ』をかわした。
(今のはッ!?)
謎の物体が飛んでいった方向を見る。何もない。
「ロッソ! 後ろだ!」
「!」
俺は後ろを振り向いた。
道路の向こう側から迫ってきたのは・・・
「うわぁッ!」
再び俺は横に飛んで逃れる。ビアンコもギリギリでかわした。
35
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:24:18 ID:6AP6NM8.
ズシュウッ!!
謎の物体が、特急列車のようなスピードで走り抜けていった。
「あれは何なんですか!」
俺は焦りながらビアンコに尋ねる。
「あの『女』だよ! よく見ろ!」
「えっ!?」
道路の向こうで急激なUターンをし、再びこちらに向かおうとしている物体。
よく見るとそれは人間であり、その顔は紛れもなく、先程見たチレストロという女性であることが分かった。
「また来るぞ!」
ビアンコが注意を促す。
しかし・・・
ズガアァァァァッ!!
チレストロは地面から凄まじい火花をあげてブレーキをかけ、俺たちの近くに停止した。
「ごめんね坊や。私の狙いはその男なのよ」
「一体どういう事だ? そのアホみてえなスピードの正体は?」
ビアンコがチレストロに問いかけた。
「ウフフッ、あなたスタンドの事、あんまり知らないのね。
答えはこの『服』にあるのよ」
「!?」
俺とビアンコは驚愕した。
彼女が着ている、ダイビングスーツのようなピッチリとした服・・・
これに一体何の秘密があるのだろうか?
「これが私のスタンド、『アーケイディア』なのよ」
「何だって!?」
俺は思わず声を上げてしまった。
36
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:24:45 ID:6AP6NM8.
「『服のスタンド』だとぉ〜っ? んなバカなッ!」
「そういう訳じゃあないの。
『アーケイディア』は“装着型”。言わば『着るスタンド』。その能力は・・・」
チレストロは一歩足を踏み出したかと思うと・・・
ズドン!!
「ぐふッ!」
一瞬だった。
チレストロは猛スピードで前に滑るように動き、数メートル離れていたはずのビアンコを蹴り飛ばしたのだ。
「ビアンコさん!」
ドゴオォ!!
ビアンコは低く飛んでいき、壁に激突して張り付いた。
「能力は“摩擦”を操ること!
私は足の裏の摩擦をゼロにして、猛スピードで滑ってたのよ」
「・・・!」
なんて恐ろしいスタンドなんだ・・・
スピードだけでなく、パワーも間違いなく桁外れに向上している。
あのスタンドを装着しただけでッ!
ビアンコは地面に倒れた。
俺が近寄ると、既に頭からも血を出し、起きあがることも出来ない状態だった。
確実に骨も何本か折れている。
「坊や、この男の弟か誰かかしら?
ごめんね。邪魔する人は全員殺すことが掟なのよ。私たちに喧嘩を売っちゃった以上、もうやられるしかないの。
諦めて逃げてくれない?」
チレストロは冷酷な言葉を投げかけた。
37
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:25:15 ID:6AP6NM8.
「ロッソ・・・」
不意に、ビアンコが俺に話しかけてきた。
「俺があんなバカな真似をしちまったせいでこんな事になった・・・
俺が悪いに決まってる・・・おめぇは逃げてくれ・・・」
「そんな・・・」
俺は逃げられなかった。
頭の中は逃げたい気持ちでいっぱいだった。しかし身体が、この場から離れることを拒んでいた。
俺は、弱気な自分を責めた。
その時、路地裏の中から人影が現れた。
あのヴェルデという男であった。
「ハァ、ハァ、お前達大丈夫か?」
息は切らしているものの、見た状態ほど苦しそうにしているわけではなかった。
「あなたこそ、大丈夫ですか?」
俺はとりあえず質問してみる。
「俺は大丈夫だ。“この血は俺の血じゃあない”。
ちと厄介だがな」
「えっ?」
聞き返す暇もなく、新たな人影が現れる。
もう一人の刺客、アランチョという男だった。
「しぶとい奴だ・・・おとなしく斬られろ」
そう言われたヴェルデは、アランチョとチレストロの方を向いていった。
「この二人は関係のない人間だ、手を出すのはやめろ!」
38
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:25:51 ID:6AP6NM8.
アランチョは答えた。
「少年は殺さない。だが、その男は我々に宣戦布告した。
お前の味方であることは明白なのだ」
「そうはさせないッ!」
ヴェルデが力強く反論する。
チレストロが小さな声でアランチョに言った。
「それで・・・私とあなた、どっちが殺るの?」
「死にそうなのが一匹と、大したことのないのが一匹・・・
俺一人で十分だ」
「分かった、じゃ私は見てるわね」
アランチョがヴェルデにゆっくりと歩み寄る。
「お前の貧弱なスタンドで、先に攻撃することを許すよ」
アランチョが挑発した。
「それはどうも、俺のスタンドには“奥義”があるんだ」
「何?」
「いくぜ・・・『ウェポンズ・ベッド』!!」
ヴェルデが、あの兵士のようなスタンドを解き放った。
「そして“こいつ”をスタンドに持たせるッ!」
ヴェルデが上着の中に手を入れる。
そして背中の方から取り出したのは・・・
シャキン!
「に・・・日本刀だと!?」
「いくぜェ! テヤァッ!」
「ぬっ!」
ガキンッ!!
ヴェルデが取り出してスタンドに持たせた日本刀と、アランチョのスタンドの刃がぶつかりあった。
39
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:26:20 ID:6AP6NM8.
「フッ、“奥義”と聞いて何かと思えば、ただの日本刀か・・・
刀剣としての出来はいいかもしれんが、その使い手の実力は・・・
俺の『キラー・スマイル』の敵ではないッ!」
ガガガガガガガガガガガガッ!!
二つのスタンドが持つ刃が高速に交差しあう。
「果たして・・・それはどうかな・・・アランチョさん」
ヴェルデが何やら余裕のある台詞を吐いた。
ガガガガガガガガガズビッ!
「ぐッ!」
ヴェルデのスタンドが持つ日本刀が、一瞬アランチョの右肩をかすめた。
アランチョはヴェルデとの距離をとる。
「あなどっていたな・・・これだけのスピードが出せるとは」
「この日本刀は、現代の剣豪と言われた日本人が使っていた奴なんだぜ。
そんじょそこらの剣とは訳が違うんだ」
「・・・『持った武器が記憶する、最も優れた使い手の動きを体現するスタンド』か・・・
なめやがって・・・」
ブシュッ!
アランチョのスタンドは、本体の傷口に向かって血煙のようなものを吹き出した。
「だが、俺の『キラー・スマイル』の血によってお前のスタンドの動きが止まれば、
その場で俺の勝ちが決定するぜ・・・」
40
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:26:52 ID:6AP6NM8.
そうか・・・
アランチョのスタンド能力は、あの血のような体液で「固める」能力・・・
今傷口に血を吹きかけたのも傷口を「固める」ため・・・
そしてヴェルデが全身につけた血も、このスタンドの血だということが分かる。
足の先までは付いていないため、まだ歩くことはできるが、上半身の自由は奪われているだろう。
スタンドの方は大丈夫そうだが。
「お前の足に何度も血をぶっかけて動きを封じようとしたが・・・
お前のその身軽さだけは評価するよ」
「初めて見たときから、その“血”は直感的にヤバそうだったからな」
「ハッ・・・だが今度は・・・
そうはいかないぜ! 『キラー・スマイル』ッ!」
「うぉっ!」
ガギン!
不気味な笑い顔をたたえたアランチョのスタンドが、突然斬りかかった。
ギリギリ・・・
「こうやって剣圧をかける体勢になれば・・・
苦労せずお前のスタンドに“血”を浴びせられるッ!」
ブシュゥ!
「! しまったッ!」
まずい!
ヴェルデのスタンドが血を浴びてしまった。
『ウェポンズ・ベッド』は、敵の刃を受け止めた状態のまま動かなくなっている。
41
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:27:20 ID:6AP6NM8.
「ハハハッ! いくら最強の日本刀があろうと! 動きが封じられれば全て無力!
さぁ、“裁きの時”だ、死ね! ヴェルデ!」
終わったッ!
『キラー・スマイル』の刃が横一文字に振られる。
俺は目を閉じた。
ガキィブジャッ!!
「グワァァァァァァァァァァァァ!!!」
突如アランチョの悲鳴が響きわたった。
何が起きたんだ!?
俺がそう思った時、自分のすぐ近くでわずかに動く存在に気が付いた。
「『エイフェックス・・・ツイン・・・』」
「ビ・・・ビアンコさん!」
重傷で気を失いかけていたビアンコがスタンドを出していた。
「衛星」が音もなくヴェルデの両脇に接近して、いつの間にか壁を張っていたのだ。
「ぐ・・・グフゥ・・・」
攻撃を跳ね返され、腹を深く切ったアランチョは、その場に膝をついた。
「お前の・・・存在を・・・すっかり忘れていたよ。
『攻撃を跳ね返す』能力なのか・・・クソ・・・」
「アランチョ、大丈夫!?」
チレストロが声をかける。
「あぁ大丈夫だ。これで・・・いい」
ブシュウゥゥッ!!
『キラー・スマイル』が再び血を吹き、アランチョの傷を固めた。
42
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:27:41 ID:6AP6NM8.
「先に狙うべきは・・・お前だった」
アランチョは立ち上がり、倒れているビアンコの所へゆっくりと歩き出す。
「や・・・やめろォォォォォッ!!」
ヴェルデが叫んだ。
だがアランチョは歩みを止めない。
あっと言う間にビアンコの目の前にたどり着く。
そこは俺の目の前でもある。
『エイフェックス・ツイン』は、既に消えていた。
「お前にも・・・“裁きの時”が来た・・・死ね」
『キラー・スマイル』は、今度は刃を縦にして、ビアンコに突き刺そうとした。
俺はそれを・・・近くで見届けるしかなかった・・・
ザクッ
「あ゛ぐ・・・」
刺されたのは・・・
ヴェルデだった。
「何ィ!?」
スタンドの動きが封じられているヴェルデは、ビアンコを救うため、自ら刃に飛び込んだのだ。
「・・・この野郎・・・
まぁいいだろう、どちらが先でも」
『キラー・スマイル』はヴェルデから刃を引き抜いた。
ヴェルデは、もう動かない。
「こ・・・こんなこと・・・」
俺は信じられなかった。
今、目の前で起こっている光景が。
ヴェルデがやられた。
残るは、もはや虫の息のビアンコだけ。
他にいる人間は・・・俺だけだ。
43
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:28:10 ID:6AP6NM8.
逃げたかった。
しかし、俺は逃げられなかった。
俺は、とことん弱気な自分を責めた。
何故だろう?
一人で逃げるのが孤独に感じるからだろうか?
いや、そうではない。
きっと、「運命」に逆らうのが嫌だからなのだ。
俺が今ここにいるのは、それは実に奇妙ではあるが、紛れもない正しい「運命」。
逃げることは、それに反する行為なのだ。
ならば、俺はこれからどうしたらいい?
何をすればいいんだ?
自問自答した答えがまだ出ないうちに、アランチョはスタンドの刃をビアンコに向ける。
「想像以上に苦労してしまったが・・・
これで終わりだ!」
ビュン!
やるんだ。
俺がやるしかないんだ。
そう思ったとき、自然に俺は腕を伸ばしていた。
“その腕は、俺の腕ではなかった”。
ガシッ!
その腕は、刃がビアンコに当たるギリギリの所で、刃の背の部分を正確に掴んでいた。
「な・・・何ィ〜〜〜ッ!?
お前・・・お前もスタンド使いだったのかッ!?」
アランチョが驚愕した。
俺の肩のあたりから、深紅の腕が伸びていたのだ。
「スタンド・・・お、俺の・・・?」
44
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:28:38 ID:6AP6NM8.
「へっ・・・ロッソ・・・
俺の言った通りじゃねえか・・・」
ビアンコが微笑んだ。
「ウラァーーーッ!!」
バキン!
深紅の腕は勢いよく刃をへし折った。
「・・・新たなスタンド・・・だと?
一人殺ったと思ったらまた一人・・・なめるなよ・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
アランチョは凄まじい剣幕で俺に迫る。
今の俺の心には、逃げたいなどという迷いの心は消えていた。
『今ある運命を受け入れる』。それほど心強いことが、他に存在する訳がない。
こんなに弱気な俺でも、運命は俺を見捨てないのだ・・・
俺は、スタンドの全てを解き放つ。
ズオォッ!
そこに、俺の“守護神”が現れた。
全身は赤と深紅で構成され、激しさと温もりが共存しているかのようだ。
そして胸には、宝石のように輝く心臓がむき出している。
アランチョの『キラー・スマイル』は、自らの血を固めて、新たな刃を作り出していた。
「関係の無い人間だと思っていたが、スタンドを出し、敵を助けたのならば話は違う・・・
ここで死んで貰うぞ」
「来るなら来い・・・」
俺は、ごく自然にそんな言葉を口に出していた。
45
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:29:08 ID:6AP6NM8.
「『キラー・スマイル』ッ!」
「ウラァーーーーーーッ!!」
ガスッバゴォ!!
「グバッ!」
俺が認識できるかできないかの一瞬だった。
俺のスタンドは振り下ろされた敵の刃を拳で弾き返し、さらに顔へ一撃を与えたのだ。
「バカなッ・・・! こいつ・・・速いッ!!」
アランチョは顔を血だらけにして驚愕している。
「アランチョ! 私も手伝うわ!」
チレストロがそう言った。
だが・・・
「“いや、いいッ! お前は見ていろッ!”」
アランチョの返事は、チレストロにとってあまりに意外なものだった。
「・・・え? 何言ってるのアランチョ!?」
「俺はこいつと・・・“今はタイマンでケリをつけたいんだ”ッ!」
「そんな・・・明らかに力の差が見えてるわッ! 無茶しないでッ!」
「クアァァァァァァ!!」
チレストロの言葉を無視し、アランチョは俺に突っ込んでくる。
「ウラァーーーーーーーッ!!」
ドゴォ!
「グゥッ・・・」
俺は敵の刃を冷静にかわし、ボディにストレートを叩き込んだ。
アランチョはよろけるが、まだ立っていられるようだ。
「アランチョ! あなたどうしちゃったの?」
チレストロが尋ねた。
46
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:29:41 ID:6AP6NM8.
だが、アランチョはその質問をはねのける。
「うるさい! 俺は必ずこのガキをしとめるッ! この刃で!」
『キラー・スマイル』が再び刃を構えた。
次だ・・・次で終わらせよう・・・
俺はそう考えていた。
「このガキの首は・・・俺のモンだあぁぁぁッ!!」
再びアランチョが突っ込んできた。
今だ。
今こそ放とう。嵐のような連打(ラッシュ)を・・・!
「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラガーーーーーーーーーーーノ(暴風雨)!!!!」
ズドォーーーーーーーン!!
アランチョとそのスタンドは、道路の反対側に一直線に飛んでいき、建物の壁に穴を開けた。
「・・・・・・」
静寂が辺りを支配した。
「信じられない・・・」
その静寂を破ったのは、チレストロであった。
「アランチョがやられるなんて・・・
何故? 何故彼はあんなことを言ったの?」
「『独占心』を強めたんですよ」
「・・・え?」
チレストロに聞かれた訳ではないが、全ての理由を知っている俺が説明をした。
47
:
第2話 深紅の目覚め
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:30:17 ID:6AP6NM8.
「最初に殴った時に『独占心』を強くしたため、彼は標的である俺を意地でも一人で倒そうとしたんです。
そのおかげで、俺は安全に戦えた」
「一体・・・どういうことなの・・・?」
俺はチレストロのその問いにも答えた。
「スタンドが現れたときから、その能力がハッキリと自覚できたんです・・・
俺のスタンド能力は、『人間の全ての感情を操ること』だということに」
「・・・!」
ドォーーーーン
「なんて・・・なんて厄介な能力・・・
坊や、あなたは私たちの敵と認められたわ。
“いつ、やられるか分からない”わよ・・・覚悟してなさい」
ズシュッ! バッ! バッ!
チレストロは、目にも止まらぬ速さでその場から消えてしまった。
「ロッソ・・・」
「ビアンコさん・・・」
「おめぇのスタンド・・・随分格好いいじゃあねえか・・・ヘヘッ」
「ヴェルデさんは・・・」
「大丈夫だ。こいつはまだ生きてる」
「えっ、本当ですか!」
「あぁ、早く救急車を呼ぶんだな・・・多分サツも一緒に来るけどよ」
辺りは夕闇に包まれていた。
ロッソ・アマランティーノ → スタンドを習得。名は『ガーネット・クロウ』
ビアンコ/スタンド名『エイフェックス・ツイン』
ロベルト・ヴェルデ/スタンド名『ウェポンズ・ベッド』 → ともに重傷、入院。
アランチョ/スタンド名『キラー・スマイル』 → 再起不能。
チレストロ/スタンド名『アーケイディア』 → 逃走。
第2話 完
48
:
◆LglPwiPLEw
:2009/11/03(火) 18:31:15 ID:6AP6NM8.
第2話終了です。
スタンドがうまく使えるようになりたいなぁ……
というか設定無視な部分もちらほら……申し訳ない……
使用したスタンド
No.721『ガーネット・クロウ』
考案者:ID:8rEguwGhO (俺)
絵:ID:Y0ksuGPEO
絵:ID:Qt/9IV4aO
No.215『エイフェックス・ツイン』
考案者:ID:Licx5cnkO
絵:ID:iWCqjA8h0
絵:ID:836DgT2dO
No.285『ウェポンズ・ベッド』
考案者:ID:Wm62Va4F0
絵:ID:tX7yh2aBO
No.556『キラー・スマイル』
考案者:ID:fb1/r6580
絵:ID:ePphLEuTO
No.599『アーケイディア』
考案者:ID:3fHZczYAO
絵:ID:lAd32x7V0
ありがとうございました。
次回はおにゃのこが登場予定。
49
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/03(火) 18:37:07 ID:65UMngqI
なにこれおもしろい
ガーネットクロウの使い方がうめぇwwww
次も期待してる!
乙!
50
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/03(火) 19:13:55 ID:???
乙!
51
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/03(火) 20:16:43 ID:c/Bjdoos
乙!
|┃三 , -.―――--.、
|┃三 ,イ,,i、リ,,リ,,ノノ,,;;;;;;;;ヽ
|┃ .i;}' "ミ;;;;:}
|┃ |} ,,..、_、 , _,,,..、 |;;;:|
|┃ ≡ |} ,_tュ,〈 ヒ''tュ_ i;;;;|
|┃ | ー' | ` - ト'{
|┃ .「| イ_i _ >、 }〉} _________
|┃三 `{| _;;iill|||;|||llii;;,>、 .!-' /
|┃ | ='" | < 君いい掛け声をしているね
|┃ i゙ 、_ ゙,,, ,, ' { \ 赤軍に入らないか?
|┃ 丿\  ̄ ̄ _,,-"ヽ \
|┃ ≡'"~ヽ \、_;;,..-" _ ,i`ー-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|┃ ヽ、oヽ/ \ /o/ |
52
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/04(水) 01:13:31 ID:jMQZRSYg
乙!
53
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:25:31 ID:6AP6NM8.
突然だが、実は俺はかなりの甘党だ。
ケーキなら同じ種類でも三個は余裕。
いや、調子が良ければホールケーキ一個まるごと食べられる自信がある。
そんな俺が最近特にハマっているのは・・・
ネアポリス市街にある菓子店「セータ」のティラミスである。
この店、何でも南イタリア最高と呼ばれるパティシエが店長らしく、
その名声はヨーロッパ全土に広まりつつあるというから驚きだ。
そこまで有名な店ならば、当然その人気は絶大である。
店は毎日客でごった返しているし、人気の品物はあっと言う間に品切れになる。
それは俺が愛するティラミスも例外ではない。
ティラミスが手に入らなかったために、俺は何度枕を涙で濡らしたことか・・・
そういうわけで、俺は今その店に来ているのだ。
狙いはもちろん、ティラミスである。
嗚呼、あのカスタードとマスカルポーネチーズのハーモニー!
そして底に眠る生地とエスプレッソの苦みとの調和ッ!
世の中にこれほど素晴らしい組み合わせがあっただろうかッ!
残り二つ!
買ったッ! 第三話完!
・・・ではなく、物語はここから始まる・・・
54
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:25:57 ID:6AP6NM8.
「イザベラ・・・」
「・・・はい」
「これ、お前のだな?」
「・・・そうです・・・」
店長は、私が作ったケーキを手で掴み、口に運んだ。
私にとって、その時間は異様に長く感じられる。
だが、実際は冷酷な程に一瞬の時間であった。
店長は、私のケーキをそのままゴミ袋に放り投げたのだ。
ブン! ガサッ!
「全然、駄目。成長の色なし・・・
やる気あんのか!!」
バン!!
店長は突然厨房の台を叩く。
私は縮こまっているしかなかった。
「俺は忙しいんだ。お前の面倒ばかり見ているわけにはいかないんだ。
・・・フゥー・・・今日はいい、もう帰れ」
店長からの冷たい一言。
私には痛い程辛い言葉だった。
私はイザベラ・ジャッロ。パティシエの見習いとして、この菓子店で修行している。
はじめ、この店で修行することが決まった時、私は有頂天であった。
何しろ南イタリア最高と言われるパティシエに弟子入りするのだから。
だが、現実はあまりにも厳しかった。
ここに来てから、店長は私の成長を認めてくれない。
きっと今までの彼の弟子達は、こんな程度の実力ではなかったのだろう。
55
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:26:18 ID:6AP6NM8.
でも・・・やっぱり辛い。
努力はしているつもりなのに・・・
私は服を着替え、店の裏の道路に出た。
いつも人通りがない道だ。
私はただゆっくりと歩いた。
どこに行くわけでもなかった。端から見ればただウロウロしているだけである。
だが今の私には“それしかできなかった”。
歩くのをやめて、私は壁に手をついた。
涙が頬を垂れる。
どうすればいいんだ・・・
これ以上の努力は無駄なのか?
才能が努力に圧倒的に勝る場合だってある。
菓子作りという道がこれに当てはまるのならば、今までの私は間違っていたと言って良いだろう。
どうすれば・・・
私は一人で悩んでいた。
・・・ここは誰も通らない道路。
もうしばらくここでこうしているつもりだった。
だが・・・
突然、誰かが私の肩に触れた。
普通ならば、驚いて振り向く所である。
しかし、私は振り向けなかった。
“突然肩を触られるよりも驚くべき事が、私の身に起きたからだ”。
“悲しみが消えた”。
嫌な事を忘れたというわけではない。
それまでの悲しみが、突然他愛もない事のように思えてきたのだ。
“何者かが肩に触れた瞬間から・・・”
56
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:26:44 ID:6AP6NM8.
私はゆっくりと振り向いた。
そこには・・・
一人の少年と、“彼の守護神のような存在”が立っていた。
私の肩に触れたのは、守護神のような存在の方。
赤を基調とした身体と、胸に付いた心臓のような宝石が特徴的であった。
私はそれを見ても恐怖することはなかった。
なぜならば、“私にも同じような守護神を持っているから”・・・
「あ、いや、急にごめん・・・」
少年はそう言った。
私は思ったことを口にした。
「あ・・・あなたも・・・“使えるんだ”・・・」
「・・・え?」
少年は驚いている様子である。
「もしかして、君もスタンドが使えるの?」
「そうよ、『スタンド』って名前なのね。初めて知った」
「へぇ〜・・・
いや、本当に急にごめん、買い物の帰りに、君がここで泣いてたからさ・・・」
「いや、気にしないで。・・・あっ、その袋、私のお店のだ」
「え! 君、ここの店で働いてるの?」
「働いてるっていうか、弟子入りしてるのよ。大変だけどね」
「そうなんだ。いや〜、ここのお店にはいっつもお世話になってるよ。
今日は自分で食べるやつと、あとお見舞い用にどうでもいいのを・・・」
57
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:27:07 ID:6AP6NM8.
「クスッ、お見舞いに行くのに、どうでもいいような物でいいの?」
「あぁ大丈夫、大して仲のいい知り合いでもないから」
「ウフフフッ!」
私は彼の言葉に笑った。
つい数分前の私だったら、絶対に笑うことなど出来なかったのに。
「私はイザベラ・ジャッロっていうの。あなたは?」
「俺? 俺はロッソ。ロッソ・アマランティーノだよ」
「ふ〜ん。ねえ、あなたの能力・・・スタンド・・・だっけ?
いつから使えるようになったの?」
私はロッソにこんな質問をした。
「あぁ、これはね、ごく最近なんだよ。
スタンド使いを見たのもつい最近で、いつの間にか俺も使えるようになってたんだ」
「そうなの? 私は生まれつき・・・
ちょっと気味が悪くて、あんまり使わないんだけどね」
「そうなんだ。俺なんかあんまり便利なもんで、手足としてこき使ってるよ」
「それじゃあ可哀想じゃない!」
私とロッソは笑った。
不思議だ・・・さっきまであんなに辛い気持ちだったのに、彼に出会った瞬間からそれが吹き飛んだ。
まるで、それが彼の“能力”であるかのように・・・
だが・・・私達の笑い声は、次の瞬間にかき消された。
58
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:27:40 ID:6AP6NM8.
バァーーーーーーーン!!
バァーーーーーーーン!!
二発の銃声である。
すぐ近くだった。
「・・・え?」
私は信じられなかった。
目の前で笑っているロッソの顔がひきつった。
そしてそのまま・・・
「う・・・ぐ・・・」
彼は、その場に倒れた。
ドサッ
「キャアァーーーーーーーーーーーッ!!」
私は思わず悲鳴を上げた。
何が起きたのか分からない。
私はすぐにしゃがみ込んでロッソの容態を見る。
まだ息をしていた。
腹の部分を横から二発、貫かれたらしい。
一体誰が・・・
「奇遇ね、ロッソ君って言ったかな?
こんなところで私と出会えるなんてね」
銃声がした方角に、一人の女性が佇んでいた。
・・・片手にピストルを持っている。
「あなたは・・・チレストロ・・・」
ロッソが苦しみながら言った。
「名前覚えててくれてありがと。でもね、もうひとつ覚えてて欲しかったことがあった・・・
“いつやられるか分からない”って・・・言ったでしょ・・・覚えてない・・・?」
私は恐怖した。
あのチレストロという女性から伝わってくる、並々ならぬ殺気に。
59
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:28:13 ID:6AP6NM8.
彼女の目は、明らかに普通の女性の目ではなかった。
今まで沢山の人間を殺してきた人の目だ・・・
私がこれまでにそんな目を見たことがあった訳ではないが、
彼女からは直感的に“それ”が伝わってくる。
しかし、私はここで何もしないわけにはいかなかった。
“治さなければ”・・・
“私の力で”、今ここに倒れているロッソを救わなければ・・・
そのときの私は、何らかの責任感のようなものでいっぱいだった。
私は何も考えず、ロッソを抱きかかえた。
必死だったからか、不思議と重さは感じなかった。
「・・・あら? 何処行くの?」
背後からのチレストロの声に再び私の背筋は凍ったが、私は夢中で走り出していた。
道を曲がって、目に付いた廃屋に飛び込んだ。
建物の奥へ奥へと進む。
悪魔のようなあの女性に見つからないように・・・
「イザベラ・・・」
ロッソが苦しそうな声で話しかけてきた。
「俺のことはいいんだ・・・俺は一人で戦える・・・
君は逃げてくれ・・・」
「いや、あなたをここで見過ごしてはおけないの。
あなたは私を元気付けてくれたんですもの・・・あなたを“治す”義務があるッ!」
60
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:28:43 ID:6AP6NM8.
「治す・・・だって・・・?」
私は部屋の隅にロッソを寝かせる。
・・・そしてすぐに私の「スタンド」を呼び出した。
「『シルキー・スムース』!」
ズオォォ!
“それ”は一見、巨大な蛾のようにも見える。
私がさっき「気味が悪い」と言った理由はそれだ。
だが、その能力はあまりにも「優しい」ものである。
こんな私には似つかわしくない程に・・・
シュルルルルルルル・・・
「・・・こっ、これは・・・?」
「この子の作る『繭』の中にしばらく居れば、怪我が回復するのよ」
「でも・・・チレストロが来る・・・危険だ!」
「大丈夫、私が何とかするわ」
「そんな・・・うわっ!」
『シルキー・スムース』の吐いた糸はあっという間にロッソを包み込み、「繭」を作り上げた。
怪我が完全に回復するまで、内側から繭を破壊することはできない。
それまでは・・・
「あなたも・・・スタンド使いだったのね。驚いちゃったわ。
その白いのの中にロッソ君がいるのね・・・」
それまではこの人から逃げきらなければならない・・・!
私は繭を抱え、すぐに走り出した。
61
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:29:13 ID:6AP6NM8.
「逃げても・・・無駄なのよ・・・?」
チレストロの声がする。
私は建物の二階へ逃げた。
正直私は、これから先どうすれば良いか全く考えていない。
だが、とにかく今の私はこの「繭」を守る気持ちでいっぱいだった。
二階に到着する。
そこには・・・
「あんまり抵抗しちゃ駄目よ、ガールフレンドさん」
「嘘・・・」
チレストロがいた・・・
「何で・・・? 私の方が早かったのに・・・
階段は他には無かったのに!」
「ウフフ・・・何ででしょうね・・・」
チレストロが不気味に微笑む。
また、背筋が凍った。
こんなことが出来るなんて、彼女は間違いなくスタンド使いだ。
「私はね・・・飛び道具で人を殺したくないの。
殺る時は必ずスタンドを使いたい・・・そう思ってるの。でもね・・・」
チレストロがゆっくりと迫ってくる。
私は「繭」を抱えたまま後ずさりした。
「ロッソ君の場合は、ちょっと厄介でね・・・触れられただけで私はもう戦えなくなる恐れがあるのよ。
だからまずは撃って動きを止めてから・・・っていうことにしたの」
後ろに壁が迫る。
こうなったら・・・
「『シルキー・スムース』ッ!」
シュルルルルルルルルルッ!
「!」
62
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:29:50 ID:6AP6NM8.
『シルキー・スムース』の吐く繭糸を、チレストロに巻き付けたのだ。
「これは・・・!」
ダッ!
私はすぐに走り出した。
さらに上の階へ・・・
「くっ!」
バチン!!
後ろでチレストロが糸を引きちぎる音がした。
単に糸を巻き付けるだけでは、全く無駄であることは分かっていた。
しかし今の私の使命は、とにかく「逃げる」こと。
「繭」の中のロッソが回復するまで、チレストロの攻撃を防がなければならない。
三階に着いた。
だが・・・
「何で・・・」
やはり、チレストロがいる。
「あなたからその『繭』を奪うのは簡単なのよ。
でもね、あなたからそれを渡してもらわないと・・・
あなたは私達の“敵”と認められてしまう・・・それはどういうことか分かる?」
私は『シルキー・スムース』を出したまま、ただチレストロを睨んでいた。
「“私は、あなたを殺さなければならないの”・・・
そこにいるロッソ君と同じようにね・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
彼女の言葉を信用するならば・・・
ロッソはかつてチレストロの属する組織に反抗し、それ以来彼女たちに狙われていたということか・・・
63
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:30:32 ID:6AP6NM8.
つまり、チレストロにこれ以上抵抗すれば、私もずっと命の危険にさらされ続けるということ・・・
それどころか、今日ここで彼女に殺されるかもしれないのだ。
「そんなの嫌よね。だったら、私にロッソ君をよこしなさい」
でもロッソは・・・
私の苦しみを、まるごと取り除いてくれた。
そんな彼を見放すわけにはいかないのだ。
私は逃げきってみせる!
ロッソと共にッ!
ダッ!
私は再び駆けだした。
だが・・・
「・・・交渉成立・・・ね」
シュバッ! バシッ!
「あぁッ!」
チレストロは猛スピードで滑るように私に近づき、ローキックを食らわせたのだ。
足に凄まじい衝撃が走り、私はよろけた。
「この際、力づくでロッソ君を頂くわ。
・・・彼を始末したら、あなたも死んでもらうけどね」
「そうは・・・そうはさせないわッ!
『シルキー・スムース』ッ!」
「それはもう効かないの・・・なッ!?」
シュルルルルルルルル・・・
『シルキー・スムース』の糸を再びチレストロに巻き付けた。
しかし先程とは違って、まずは目を狙って怯ませる。
続いて腕、足を拘束して動きを奪い・・・
さらに糸を巻き続け、「繭」を完成させた。
64
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:31:34 ID:6AP6NM8.
「繭」の中にいる者は、治癒が完了するまで絶対に出られない。
これを利用して、チレストロを繭の中に閉じこめたのだ。
無論、彼女はどこも怪我をしていないので、閉じこめられる時間はごく僅かだ。
だが今の私にとっては、ほんの一瞬でも時間を稼ぎたかった。
しかし、人一人分の重さがある繭を抱えて何度も階段を登っていた私には、体力の限界が近づいていた。
「ハァ・・・ハァ・・・」
さらに、今しがたチレストロの蹴りを受けた足がズキズキと痛む。
骨にヒビが入ったかもしれない。
疲労と痛みに耐えつつ、私はさらに上の階に向かった。
・・・なぜ私は上に登っているのだろう・・・?
そのまま下の階に逃げれば良いものを、上に逃げてしまえばいつか逃げ道が無くなってしまう。
後になってから考えた結果なのだが、これはもしかしたら私の「深層心理」が呼び起こした行動なのかもしれない。
つまり、この時の私はただひたすら「上」を目指していたということ。
何の根拠もない話だが、私にとっては何故か納得のいく理由だった。
65
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:32:08 ID:6AP6NM8.
今の私は、叱られただけで落ち込むようなさっきまでの私とは違う。
例えるなら、私は今「羽化」しているのだ。
私は繭玉のように閉じこもっていた心を打ち破り、羽を広げようとしている最中なのである。
あの場所でロッソという少年に出会わなかったら・・・
そして彼がチレストロという女性に撃たれなかったら・・・
私の心がかくも成長することはなかった。
人の出会いは運命で決まる。
私は今、この言葉を強く信じていた。
悲鳴を上げる身体に鞭打ち、ようやく上の階に到着する。
そこは屋上だった。
「・・・もう逃がさないわ。覚悟しなさい・・・」
真後ろで、チレストロの声がした。
追いつめられた・・・
いや、違うッ!
「ハァ・・・ハァ・・・ッ!」
私は全力で走り出した。
そしてそのまま・・・
「・・・! と・・・飛び降りる気!?」
私は・・・
バッ!
屋上から飛び降りた。
「『シルキー・スムース』!」
飛ぶ直前にスタンドの糸を柵に巻き付けて・・・
ガシッ!
私はその糸を掴み、降りようとする。
・・・しかし・・・
私の体力は、既に限界であった。
「きゃあぁッ!」
ドシャアァッ!
66
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:33:07 ID:6AP6NM8.
自分と繭の重さを支えられるだけの腕力は、もう残っていなかった。
私は二階あたりの高さから落下したのだ。
「うっ・・・く・・・」
自分の身体を受け止めた腕に激痛が走る。
頭から落ちなかったのが不幸中の幸いだったが。
とはいえ、地面に叩きつけられた私の身体は、もはや動かすことができない状態である。
「に・・・逃げないと・・・」
一緒に落ちた繭を探すため、私は仰向けになる。
その時・・・
「そんな・・・」
私は、あのチレストロの能力の正体を見たのだ。
・・・チレストロは、壁を歩いていた。
「そこまでしてロッソ君守ろうとする意志・・・流石だわ。
ガールフレンドはそうでなくちゃあね」
一体何なの・・・「壁を歩く」・・・?
そして私を攻撃したときの、あの滑るような動き・・・
そうか・・・
彼女の能力は「摩擦」を操る能力なんだ・・・
足の裏の「摩擦」を極端に弱めたり強めたりできるおかげで、あんな動きが可能になるというわけだ・・・
上の階へ一瞬で移動したのも、窓の外からああやって上がっていたからだろう。
67
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:33:34 ID:6AP6NM8.
しかし、敵の能力が分かったからといって私の勝ちではない。
「ごめんね・・・これは“掟”なの。
二人で仲良く逝って頂戴ね・・・」
ズシュッ!
チレストロは、私から少し離れた所に転がっていた繭に向かって突進した。
「やめて・・・」
あぁ!
ロッソが殺されてしまうッ・・・!
ドゴォ!
「ぐふぅッ!」
だが、凄い勢いで飛ばされたのは・・・
チレストロの方であった。
「!」
私は動かない身体を無理矢理起こして、「繭」のある場所を見る。
そこには・・・
ロッソの「守護神」が、堂々とその姿を現していた。
「完了・・・したんだ・・・
『繭』による回復が完了したッ!」
繭には一文字に裂け目が走っており、スタンドに続き、ロッソがそこから姿を現した。
「チレストロ・・・あなたはもう俺達を襲うことはできない。
俺達に対する『敵意』を取り除きましたからね」
「ハァ・・・ハァ・・・」
ボディーに一撃を食らったチレストロは、口から血を流しながらも立ち上がる。
そして突然・・・
「殺してッ!!」
不意にチレストロが叫んだ。
「私を殺しなさいッ! どうせ私はいつか消されるんだから!」
68
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:34:01 ID:6AP6NM8.
「・・・・・・」
ロッソは黙っていた。
「早く・・・殺しなさいよ・・・
こうなったら私から・・・」
チレストロは、手刀を自らの首の後ろに回した。
自殺する気だ!
「待って・・・!」
私が声をかけようとしたとき、チレストロの動きが止まった。
「“死ねない”わ・・・死ぬ気になれない・・・
こんなこと・・・」
「自殺もできませんよ。
あなたに“自愛”の心も埋め込んでおきましたから」
「!」
チレストロは驚愕した。
そしてその場にゆっくりとへたり込んだ。
「ロッソ君・・・あなた、女性に優しいのね・・・
イタリア男児の鏡だわ・・・ウフフ」
チレストロは力なく笑う。
その表情は、今にも泣きそうな赤ちゃんのそれにも似ていた。
「あなたの優しさを受け入れるわ。
私は『教団』から追われる身になるけど、頑張って生き延びてみせる・・・
あなた達も無事でいてね・・・」
彼女は空を見上げた。
そして・・・
バッ! バッ!
立ち上がる隙も見せずに、どこかへ去ってしまった・・・
空は、透き通った水色をしていた。
チレストロ/スタンド名『アーケイディア』 → 逃走・・・行方不明。
69
:
第3話 繭玉の心
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:34:48 ID:6AP6NM8.
しばらく経ってから、ロッソが私に駆け寄ってきた。
タッタッタッ・・・
「イザベラ、大丈夫か!」
「うん、大丈夫よ、気にしないで!」
私はゆっくり起き上がる。
「ひどい怪我だぞ・・・」
「大丈夫、私のスタンドですぐに治せるから!」
「そうなんだ・・・便利なもんだな・・・
あっ・・・あと、一言言っておきたいんだけど・・・」
「ん? 何?」
「助けてくれて、本当に有り難う。
正直言って、撃たれた状態で戦うのは無理だった。
君が命がけで守ってくれたおかげなんだ」
「・・・・・・」
私は何も言えなかったが、内心とても嬉しかった。
私の心は今、晴れて「羽化」できたのだ・・・
もう、今までの繭玉のように籠もりがちだった性格の私ではない。
こんなに私が成長できたのは、ロッソのおかげなのだ。
私も彼に感謝したい・・・
だが、私は何故か何も言うことができなかった。
ロッソもしばらく黙っていた。
そして急に・・・
「あっそうだ、『繭』の中に忘れ物が・・・」
ロッソは繭の所まで走っていく。
そして中から取り出したのは・・・
「いや〜、無事でよかった、“ティラミス”」
最初に出会ったときから大事に持っていた、私の店の袋だった。
「ティラミス・・・?」
私は呟く。
「俺大好きなんだよね〜、ここのティラミス。
何個食べても飽きないッ!」
「なんだか・・・」
「ん? 何?」
「なんだかティラミスなんて、私とあなたにピッタリなお菓子かもね!」
「ピッタリ? どういうこと?」
「フフッ、知らないの?
だって『ティラミス』って・・・
『私を元気付けて』って意味なのよ!」
第3話 完
70
:
◆LglPwiPLEw
:2009/11/09(月) 18:35:25 ID:6AP6NM8.
第3話終了です。
ロッソのキャラが分かんねえ……一応ジョルノみたいな敬語キャラのつもりなんだけど……
ていうかおい! シルキースムースの設定を勝手に付け足すな!
これは由々しき問題ですよね……ホントすみません……
使用したスタンド
No.721 「ガーネット・クロウ」
考案者:ID:8rEguwGhO
絵:ID:Y0ksuGPEO
絵:ID:Qt/9IV4aO
絵:ID:jn.D2.SO
No.366 「シルキー・スムース」
考案者:ID:7DJZ5hm40
絵:ID:lT+Ux0GN0
No.599 「アーケイディア」
考案者:ID:3fHZczYAO
絵:ID:lAd32x7V0
ありがとうございました。
71
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/09(月) 18:43:26 ID:65UMngqI
乙!
仲間はイザベラとビアンコとヴェルデの三人かな?
次も期待してる
72
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/09(月) 20:40:32 ID:ATodJSp6
うおおおおッ!俺もイザベルたんを元気付けてやりたいッ!
73
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/09(月) 21:09:18 ID:???
乙!
>買ったッ! 第三話完!
でフイタwww
74
:
名無しのスタンド使い
:2009/11/09(月) 22:22:00 ID:Svv9j.oo
乙!面白かったw
アーケイディアって便利な能力だな〜
ビアンコの扱いがちょっと酷くて可哀想ですw
75
:
◆LglPwiPLEw
:2009/11/17(火) 11:25:03 ID:???
まずい…
俺は今週の忙しさよりもSSが書き終わらない事を気にするタイプ!
第四話はもう少し先になります……ごめんなさい
76
:
第4話 友情と壁
◆LglPwiPLEw
:2009/11/20(金) 19:52:42 ID:6AP6NM8.
ネアポリス市街 PM 12:30頃
「だからよォ〜、『ヴェネツィアに死す』って呼び方のが絶対正しいと思うんだ。
だろ? おかしいよな?」
「そうそう、なんで英語で『ベニス』って呼ぶのがメジャーなのか分からん」
さっきから意味のない話題で盛り上がっているのは・・・
退院し、すっかり元気になったビアンコとヴェルデである。
俺達は今、市街にあるレストランに集まっている。
何やらヴェルデから話があるらしい。
今は三人で、残りの一人であるイザベラを待っている。
それにしても・・・うるさい。
ただでさえ日曜の昼時で沢山の客がいるのに、俺達が座っている席は外のテラスだ。
通行人までもが、この二人の男の下らない会話を聞かされている。
二人は共に入院しているうちに仲良くなったらしいが・・・
医者が驚愕するほどの早さで怪我が回復したという二人・・・
なるほどな・・・と思う。
「おいロッソ、おめえも思うよな」
ビアンコが突然話を振ってくる。
「はい? 何が?」
俺はこう返す他に無かった。
「だぁ〜〜ッ!! また上の空かよ!!
年上の話はちゃんと聞けって言っただろうが!」
ビアンコはついに地団駄まで踏み出した。
77
:
第4話 友情と壁
◆LglPwiPLEw
:2009/11/20(金) 19:53:13 ID:6AP6NM8.
「そういえばさ、ローマは違うんじゃあねえか?
英語の発音は『ローム』らしいぜ」
ビアンコとウェルデの話はまだ続く。
「何ィ〜ッ!? 馬鹿げてるぜ!
何でヴェネツィアだけ仲間外れなんだ!」
「フィレンツェとかトリノもそうだぞ!
英語の発音は『フローレンス』と『トゥーリン』だからな!」
「基準が分かんねェ〜!!」
・・・周りの目線が痛い・・・
俺はそろそろ、我慢できなくなってきた。
「『ガーネット・クロウ』・・・」
俺はスタンドを解き放つ。
ズオォォ!
ドス! ドス!
「ウッ!」 「ウッ!」
「ちょっと黙っててもらえませんか・・・?
今あなた方を『鬱』にしておきましたんで・・・」
「はい・・・」
「すみませんでした・・・」
ようやく大人しくなった・・・
俺は呆れと安堵、両方の意味の溜め息をつく。
「・・・おいヴェルデ・・・」
ビアンコがか細い声で話し始めた。
「・・・何だよ」
「『ネアポリス』って、確かラテン語だよな・・・
イタリア語の『ナポリ』とどう違うわけ・・・?」
「!?」
俺は驚愕した。
まだその話題を続けるのか!?
「・・・知るかよ」
ヴェルデにはもう答える気力が無いらしい。
78
:
第4話 友情と壁
◆LglPwiPLEw
:2009/11/20(金) 19:53:34 ID:6AP6NM8.
「・・・なんだよそれ・・・意地悪」
ビアンコにはまだ会話する余裕があるというのだろうか?
俺は確かに『ガーネット・クロウ』の能力で、話す気力も無くす程の「鬱」にしたはずなのに・・・
なんだか疲れてきた・・・
その時・・・
「あっ、どうもこんにちは・・・」
イザベラがやってきた。
その瞬間、ビアンコの目が見開かれる。
「うおォ〜ッ!! 来たぜロッソの彼女!
ほらヴェルデ、俺達で噂してた女の子だぞ!」
「・・・・・・」
ヴェルデは返事をしない。
「え!? ちょ・・・」
イザベラは顔を赤くする。
俺はその場で身を縮めるしかなかった。
おかしい・・・確かに「鬱」にしたはずなのに・・・
同所 数分後
「さて、それじゃあ簡単な自己紹介から・・・」
ビアンコが改まった様子で取り仕切っている。
二人の「鬱」は既に解除している。
「え〜、まず、俺はビアンコ。今はバイトしながらギターをやってる。
スタンドは『エイフェックス・ツイン』、好きなアーティストはアークティック・モンキーズだ。よろしくっと」
ビアンコは手短に自己紹介を済ませた。
イザベラは、先程ビアンコにあんなことを叫ばれてから苦笑いしかしていない。
内心では相当彼のことを憎んでいるだろう。
俺も同じだ。あんな勘違いをされていれば・・・
79
:
第4話 友情と壁
◆LglPwiPLEw
:2009/11/20(金) 19:54:09 ID:6AP6NM8.
「え〜っと、じゃあ次はイザベラちゃんだな、よろしく頼むぜ」
「あ、はい・・・」
そんな調子で自己紹介が進んだ。
イザベラと、その次の俺が終わった。
「ほら、最後はヴェルデだぜ」
ヴェルデはビアンコにそう言われると、一息ついてから話し始めた。
何やら落ち着かない様子だ・・・
「あ〜、じゃあ・・・この際俺の自己紹介を“正直に”やらせてもらうぞ・・・
ビアンコには黙ってて悪かったと思ってるんだが・・・
“俺はギャングだ”。下っ端の構成員だがよ」
「えっ!?」
「ギャ・・・ギャング?」
俺とイザベラは思わず言葉を漏らした。
ガラッ!
ビアンコは突然立ち上がる。
「これまでのあなたに対する数々の御無礼をお許しくだsぐふッ!」
俺はスタンドでビアンコを突いた。
「人の話を最後まで聴いて下さい、ビアンコさん」
「はい・・・」
ビアンコは静かに席に着く。
「今回みんなを集めたのは、“あいつら”について話しておきたかったんだ」
ヴェルデは至極真面目な口調で語った。
「あいつらって・・・」
俺がヴェルデに尋ねる。
「あぁ、あの『アランチョ』と『チレストロ』。二人が属する組織のことだよ」
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第4話 友情と壁
◆LglPwiPLEw
:2009/11/20(金) 19:54:36 ID:6AP6NM8.
「!」
空気が一気に張りつめた。
「チレストロ・・・」
イザベラが呟いた。
彼女がチレストロから受けた恐怖は相当なものだろう。
俺はもう一度尋ねた。
「一体何なんですか? 奴らが属する組織って・・・」
「・・・『教団』だよ」
ヴェルデはそう答えた。
「教団?」
俺達は一斉に同じ言葉を口にする。
教団・・・
あのジョルノという少年が言っていた・・・
「それって具体的には・・・」
イザベラが尋ねた。
「『スペランツァ・ディ・イッディーオ(神の望み)』という名だ。
表向きにはプロテスタント系の新興宗教なんだが、裏の目的は・・・」
「・・・・・・」
俺達はヴェルデの言葉にじっと耳を傾けている。
「『ギャングの残滅』を掲げている・・・」
「!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
ビアンコが口を開いた。
「アホにも程があるだろ!
ギャングなんてイタリアには有り余る程組織されてるぜ!
一体何のために・・・」
「ビアンコ、静かに頼む。今は人が多いからな・・・」
ヴェルデは真剣な面持ちで話を続けた。
「今はこれ以上のことは分かっていない。
だが、これまでに俺達の仲間が何十人も殺されている・・・
“しかも、そのほとんどがスタンド使いなんだ”」
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:
第4話 友情と壁
◆LglPwiPLEw
:2009/11/20(金) 19:54:58 ID:6AP6NM8.
「そ、それって・・・」
俺は反射的に口を挟んだ。
できるだけ声を小さくして・・・
「スタンド使いを優先して殺しているということですか・・・?」
「そういうことだ。スタンド使いは厄介な存在だろうからな。
しかも、『スタンドはスタンドでしか倒せない』という規則がある。
『教団』はスタンド使いを殺すために、『応報部隊』というものを組んでいるらしい」
「『応報部隊』・・・なんだよそれ・・・」
流石のビアンコも声を小さくしている。
「教団の中で結成された、スタンド使いの集まりだよ。チレストロやアランチョもそこに属していたんだろう。
奴らは特殊な『矢』を使ってスタンド能力を引き出され、後で教団に引っ張られて来た奴らなんだ・・・」
「特殊な『矢』・・・?」
俺達には分からないことが多すぎて、少し混乱していた。
一人を除いて・・・
「『矢』・・・だと・・・」
ビアンコである。
冷や汗を流し、さっきまでの剽軽な態度が嘘のようだ。
「ビアンコ、何か心当たりがあるのか?」
ヴェルデが尋ねる。
「俺も『矢』みてえな物で傷つけられた・・・
そのときからスタンドが使えるようになったんだ・・・
それに・・・」
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