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【日常α】眠らない魔都・異能都市【その19】

709アリス=ベリー・ベリーストロベリー・ショートケーキ:2019/12/07(土) 02:46:15 ID:tsda7neQ0
>>708

アイリスが話し始める素振りを見て、目を輝かせて聞く準備。
向かい合わせに抱えた黒猫が鼻を舐めようとしているのに気づくと微笑み、顔を寄せる。
今は言葉を理解できないが、言わんとすることはなんとなくわかるのだ。
くりくりの真っ赤な目に低い鼻、丸みを帯びた輪郭。可愛らしい少女のそれだ。

「アイリス・フォン・ルズィフィール……とってもむずかしい名前をしているのね」
復唱して僅かに顔をしかめた。少女を現すのに必要なのはたったの三言。その差が気になった。
今度は心の中でもう一回。真っ赤なメリージェーンでタンタンタンと一音ごとにリズムを刻む。11回。
「今あなた、月の子って言わなかった!?
 お月さまに行ったことあるの? あそこはどんな場所なのかしら!?」
名前を確しっかりと覚えたところで興味はすぐに次へ移る。
「この子はキルリスっていうのね。使い魔ってことは……あなたとお友達ってことね!」
さらに次へ。
口元からは今日も甘ったるい匂いを残すアリスが黒猫と再び顔を見合わせる。
「っていうことは、ただの黒猫じゃないのかしら?
 なにかしら? ……あなたに聞いたら教えてくれる?」
見ている限りはただの黒猫。右目と左目のそれぞれが別々の色をしていることが特徴的な。
いまはわからない。だから、今度直接聞いてみよう。黒猫の秘密が気になって、また笑う。

「まあ、とっても素敵。
 小さいころからのお友達と結婚できるなんて素晴らしいことだわ」
アリスがよく読む本の中でも、幼馴染との結婚は物語のとてもハッピーなエンドの一つだ。
ぱちぱちぱち。と手を慣らし一足早く祝福する。

アリスにとって、女の子になるとうれしいこと。
その説明を求めると僅かにうつむいて、口ごもった。それから、たどたどしく語りだす。
「私って、女王さまよね。
 だから、男の子に好きって言っちゃダメなの。
 でも、女の子どうしなら、たくさんいい放題だって気づいたの」
黒猫のうなじに顔を埋めて顔を俯かせる。けれども、目線はアイリスへ一直線。
こういう想いを曝け出したことは無い。こんなにも恥ずかしいものだったんだと思いながら。
「あなた、いろんなことを知っていて、やさしいもの。私、あなたが大好きよ!」

湧きおこる気恥ずかしさから黒猫をぽいっと投げ飛ばしてアイリスの前から逃げていく。
残るルゥちゃんの元へ視線を映し、身体も向けて。膝を折って。
「そう、あなたはルゥっていうのね。私はアリス。よろしくね」
ルゥにしか見えないのか、或いは、ルゥにも見えていないのか。
どちらにしても、アリスには見えていない。けれども、見えないわんわんを追うことはアリスの得意分野でもある。
「ルゥのわんわんはどんな色をしているの? 私も触ってもいいかしら?」

710アイリス:2019/12/08(日) 01:40:53 ID:ORmT3UkU0
>>709
黒猫のざらりとした舌の感触はアリスの鼻先を撫でる。
“相変わらず”甘い香りがする。黒猫は短く、なぁ、と鳴いた。
味覚も長くも無い胴体が。手足がだらりと投げ出されているが、アリスが目敏ければ分かるはずだ。黒猫の尾には隠れた毒針が潜んでいることを。
だが、放り出された時点でそれが叶うのは難しいのかも知れない。
とうの投げ出された黒猫は、ひょいっと空中で姿勢を整えると、アイリスの足元で座り込んで丸くなった。そんな黒猫にアイリスは特に反応を示さない。
外側だけが黒猫であるキルリスが、アリスに放り投げられた程度では何も起きないのだと確信している。
只の猫ですら、木の枝から簡単に飛び降りてみせるのだ。他の猫より頑丈でしなやかな中身を持つキルリスについては心配などしていない。
キルリスの態度は、猫の様だった。
――聞きたければ聞きに来い。話してやらんでもない、にゃ。
どこか尊大で。高慢を多分も含んでいる態度だ。――訂正、猫とは思えないないほどにデカい態度だ。何様だコイツ。

「――キルリス。機嫌は悪くない様だね。君の機嫌にとやかく言うつもりは無いが、上に立つ者として含むところはある。」
<――うるさいにゃ。少しは静かにしておくのにゃ>

黒猫は簡単にアリスの前で人語を話して見せた。
実は黒猫、龍種や鳥獣の言葉を理解できる技能を持つ。それが使い魔としての特典で人語での他者との意思疎通を可能とする“中身”を示す一端となるだろう。

アイリスに三つ編みにしてもらい、先ほどよりほんの少しだけご機嫌なルゥは、アリスの顔をじーっと見つめて、ふにゃりとした笑みをもってアリスを迎えた。
ユルさを感じさせる笑みはどこかアーリルと似通っているのだが、童子の隠すこと無い感情は間違いなく喜びの感情を含ませており。

『アリスちゃーん?』

アイリスはルゥの肩に手を置き、頷いて見せてからルゥの耳元で何かを囁く。
それからルゥははーい、と声を挙げてからへにゃりと笑った。

『ルゥのわんわんねー、お顔がみっつなの!えーっとね、オレンジの色でー、良い子良い子するかきいてみてー?』

ルゥのいう“わんわん”とは、空想の生物で言うところのケルベロスに酷似している。
三つの首に巨大な躯。獰猛な性格と合わせて冥府の番犬と言われるモノで。
空想のケルベロスと違う点が幾つかあるがその中で簡単に分かる相違点というのが、外気に触れる外皮が炎で構成された巨躯だ。
幼くありながら大型犬よりも遥かに大きい躯はルゥを背に乗せて駆けることも出来るし、護衛と言わず、ルゥを攻撃から護ることも出来る。
獰猛な性格はそのままで、三つの首から垂れる涎から生まれるのはトリカブト。トリカブトが生えてもすぐさま炎で焼き尽くされる。
これはルゥが望んでいることで、トリカブトを生んでしまうのは仕方が無いことだ。
もしアリスがこの“わんわん”を見つけて触るというのなら、ルゥが撫でている間に触るのが得策だろう。
ルゥが撫でている間は、オルフェウスの竪琴を聞き眠りに落ちた、彼の伝説同様に大人しくなる。炎の温度は控えめで、触れれば暖かな躯はルゥにとってのコタツでもあるのだ。
さらにアリスが甘い匂いを発していることからも案外、大人しく撫でられるだろう。

711名も無き異能都市住民:2019/12/08(日) 01:41:29 ID:ORmT3UkU0
>>709
>>710の続き
一頻り、ルゥとキルリス、アリスの様子を見て、アイリスは微笑む。

「簡単だよ、アリス。ルズィフィールという家のアイリスと示しているだけだからね。多分、フォン、の部分がややこしく感じたのかも知れないね。
 普段聞くようなものでは無いからね。現代では廃れて長いとも聞くから耳にする機会が無いのも当然さ。」

アイリスは簡単に言ってのける。それもそうだろう。
この時代に貴族だとうだとか、聞いたことも無ければ、伝統と言えば聞こえは良いが、古いもの、前時代的という印象もある。
そんな身分制度は多くの国で廃止されているだろう。
その中で敢えて補足を加えるとするのならば、フォンを持つ名前は貴族の末裔だったりと、そういった事情もある。世襲で持つ場合もあるし、その辺りは曖昧だ。

大好きと言い、恥ずかしがる様は年頃の少女だと言える。少々マせている辺り、養殖のアイリスとは違い、“天然”の女の子と言えるだろう。
好きか。
そっと呟いたアイリスは、友愛を示す好きを想起した。
恋、恋情であるには早くは無いだろうか。アリスのような幼い子から性や肉欲が絡むそれを連想させるのもおかしい話であるし、アリスをそんな目で見たことも無いし、見ることもおかしいとアイリスは感じている。
ただ疑問であるのは、“男”の僕の頃から抱いた感情であるのか。男の子に言ってはいけない、この言葉から感じ取るのは、以前からアリスはアイリスが大好きだったということ。
今までは言えなかっただけで、アイリスが考えるアリスが自身に抱く感情は良い遊び相手だろうということだから意外であった。

「好きと言ってくれてありがとう、アリス。僕は君の中で、ほんの少しだけ特別になれたのかな。
 君は聡明だから分かるはずだ。僕にも分かるよ。心を持つ以上“特別な子”、いわゆるお気に入りの子だね。お気に入りの子が出来てしまうのは当然のことだ。
 “特別な子”を贔屓したい気持ちもあるし、近くにいて欲しい気持ちもある。かといって他の子を蔑ろにもできない。だからこの言葉だけにしておくね。
 “僕も君のことを可愛く思っているよ。”今はこれで我慢してくれるかな?」

こうしてアイリスが語るのは一般的なものであり、アリスが従うものでは当然無い。アイリスとアリスの考え方も違うのは当然で、上に立つ者としての考え方のほんの小さな違いでしか無い。
アリスは従者を従え、この城にやってきた。例え話せなくとも心があるなら、言葉から思うこともあるはずだ。その上で、例えその場にいなくとも従者の心を削がない、アリスの告白に応えるには、言葉を選ばなければいけなかった。
そしてアイリスの言葉をアリスがどのように捉えるかはアリスにとって大きく変わるが、アイリスにとってアリスはどのような存在かというのは朧気ながら伝わるかも知れない。
先のアイリスの言葉を取るならば、少なくとも悪くは思ってはいないし、会えば親しげに言葉を交わすだろう。可愛い子。それが何を意味するのかは、伝わり辛い。
アイリスがいう可愛い子とは、小さな頃から知っている幼い女の子に向ける感情と言えば分かり易いか。どんな様子であろうと、微笑ましく見守るべき対象。
喜んでいれば微笑んで。怒っていれば話を聞いて。哀しんでいれば抱きしめて。楽しんでいれば見守って。かといって子供だから、と話を聞かないでも無く。

「結婚出来るとはいっても、結婚は家同士の付き合いでもあるからね。簡単には結婚出来るわけでは無いからね。
 確か、僕が君くらいの年の頃かな。お互い行き遅れていたら結婚しよっか、程度の口約束だよ。ヴィル――アイツとなら結婚しても良いかな、と思っているけれど
 今は女の子なんだ。アイツからアプローチがあるまでは大人しく待っていようかな、なんてね。」

その方が、らしいかな、とアイリスは笑って見せる。あと三年ほどでアプローチが無ければヴィルに会いに行ってみよう。
アイリスとアイリスがアイツと呼ぶ男性、ヴィルの家同士の付き合い自体は数百年単位で長い。
それは幼い頃から交流があったことから察せられるだろうが、幼い頃の口約束を覚えているかまでは分からない。
その上でヴィルが思い出してアイリスにアプローチしてくるのなら、という高いハードルがある。
少なくとも一筋縄ではいかないのは想像に難しくないだろう。その時は慰めて欲しい……っ!

712???:2023/09/27(水) 22:43:20 ID:5v6Z28Cc0
【裏路地・某マフィアのアジト】

血と悲鳴。
広がっているのはそれだった。
脚を穿たれ腕を折られ脇を斬られ、皆往々にして戦傷を負い苦痛に呻きながら痛い痛いと泣き喚く──まだ“生きている”。

その中に勇気を持って踏み込んだ者がいれば、最奥で舞うように剣を振るう、陽光のような淡い金髪に宝石のような碧眼の小柄な少女の姿と、腕と脚の腱を絶たれ動けなくなったマフィア幹部兼賞金首、意識を失う寸前の“毒蛇”と呼ばれた男の姿を見るだろう。

「んー、降伏してくれませんかね?私、人が死ぬのってどうも受け入れ難くって、出来れば貴方方にも生きていてほしいんですよね」
『乗り込んで来てオレらを切り刻んで言う台詞がそれか……嘗めるなよクソガキ、グ!?』

ひゅん、という小気味良い音と同時に吹き飛ぶ男の耳、苦痛に呻くも止血も出来ない、痛みに震え芋虫のように転がる男に掛ける声は、温かいもの。

「確認して来ましたよ、異能の貴重性もあり更生するなら罪を償った後になら貴方達には生きる資格があるとの事です」
『だから、諦めて此処で捕まれと、成る程なぁ──ふざけろ三下がァ!!』

一瞬光が走ると同時に訪れるのは静寂。
ずしゃりと音を立てて男の右半身と左半身が別々の方向に倒れる。

「じゃあ貴方の死体を晒して部下に降伏を促してきましょうか、部下の無駄な闘志もそれで削げるでしょう、それでも抗ってくる人は……まあ、あの練度なら気絶させてしまえばいいですし、質が悪いのは間引きましょう」
「うん、死者一名(増える見込みアリ)に負傷者多数……完璧ではないにせよ“保護”としては中々の結果ですね!」

男の右手を掴み右半身を引き摺り出す、生き残りの前に放り出された彼等のボスだったそれは、原型こそ留めているが無惨な姿で。

「──さて皆さん、大人しく捕まるか命を賭して抗うか、選びましょう?」
「私のおすすめは前者です、誰もこれ以上痛い思いをしなくてすみますから、ね?」

713???:2023/09/29(金) 21:08:57 ID:5v6Z28Cc0
【ショッピングエリア】

治安維持局と冒険者ギルドに連絡を入れ、残ったマフィアの逮捕と賞金の受け取りを行ってから数時間後。
友人の喜ぶお土産でも用意して顔を出そうかとショッピングエリアに顔を出してみた。
出してみた、のだけれど。

「えーと、どうしてこうなったんでしょう?」
『人質を取ったらお前が「私が代わりになります」と立候補したからだが???』
「うん、そうなんですけれどね、どうしてこうこの街はこうもトラブルが絶えないのかなと若干憂鬱になりまして……」
『やってる俺が言うのもナンセンスだけれど、ナイフを首に突き付けられてる現状を憂いた方がいい気がするなあ』
「鉄火場は割と慣れてますし、別にこれくらい窮地には入らないかなーと思いまして、寧ろお兄さん自首しません?」
『あー、甘言に乗って失敗したなぁ、若い子だから人質にし易いかと思ったけれど人質ガチャ大外れだよなあこれ、ところで自首しないとどうなるの?』
「お兄さん根っからの悪党じゃないみたいですし殺めたり後遺症が残るようなのはしたくないんですよねー、取り敢えず股間を後ろ蹴りで蹴り上げようかなとか考えてました」
『そっかぁ命の危機に陥ってたのは俺かぁ、あと男の痛みを知ろうねお嬢ちゃん、それも下手すると死ぬから、ショックで……ああクソ!助け待ちのか弱い女の子が虚言で強く振る舞ってるだけであってくれるといいなあ!!』

偶々強盗の押し入った店で買い物をしていた為、なんやかんやあって人質に。
なったは良いのだけれどなんか犯人と人質が漫才している不思議な光景が其処には広がっていて。

714アーリルと"お兄様":2023/09/29(金) 22:32:13 ID:ghE7.UrM0
>>713
『あっ』
「えっ……お、お兄様?!」

ショッピングエリアの偶々強盗が押し入っただけのお店に少女が錐揉み回転しながら頭から突っ込んでいく。
こんなところでも乙女の秘密を晒すことなくドップラー効果で叫び声が響く中、"お兄様"と呼ばれた男はワリィワリィと誠意を感じさせない顔で笑っていた。

時を遡ればこうだ。
"お兄様"とショッピングに出掛けた少女、アーリル。
数年ぶりに会って、少女が幼い頃の話や近況報告を兼ねて話をしながら進んでいくと、"お兄様"の腕が少女の頭を雑に撫でる。

──ああ、本当に大きくなった。

犬のようにじゃれついてくる少女の頭を撫でるのは昔から変わらない。
もう!淑女の扱いがなっておりませんわ!
とお嬢様部のような戯言を垂れ流し、少女たちはウインドウショッピングをしていた。
"お兄様"は2mを超える筋骨隆々の男性に対し、少女は150cmにも満たない幼なげな見た目。
小さな体のままで目と顔つきは一丁前に立派である。
ドヤ顔を晒す少女の脇に両手を入れ、高い高いのつもりが手が滑り、冒頭に戻る。

本来なら"お兄様"の筋肉で少女は雲が近くに見えるほど空の旅を楽しむはずだったのだが、残念、少女はお店の中へ地面と水平に、見事に突き進んでいた。あーあ。知らない。

715???:2023/09/29(金) 23:01:47 ID:5v6Z28Cc0
>>714

「え、いや危ないですよ!?」
『それ今のお嬢さんが言う台詞じゃ……ごっふぁあ!?』

強盗の男の胴に肘打ちが突き刺さり、そのまま垂直に腕を上げた裏拳が顔にめり込み吹き飛ばされる。
少女は強盗が手に持っていたナイフを顎と首下で挟み込むように止めて、そのまま首を振り放り出す。
今肝心なのは何故か錐揉み回転しながら吹き飛んできた少女の救出だ、なんかそこまで害が無さそうな男に構っていられない。

「ちょっと手荒で、ごめんなさい!」

声と同時に背から現れる光の翼。
魔力とは似て非なる光のエネルギーを取り扱う異能、それを最大限に稼働させた結果少女の身体という器に異能が収まりきらなくなり漏れ出した力により発現した事象。
背からその力を放出し、比喩ではなく文字通りに吹き飛びながら、アーリルが地面と熱いキスを交わしてしまう前に、その間に割り込むようにして入り込み抱き抱えるようにして受け止めようとするだろう。

716アーリルと"お兄様":2023/09/30(土) 00:10:36 ID:ghE7.UrM0
>>715
どうして手が滑っただけなのに錐揉み回転しているのか。
我々はこの謎を解き明かすためにアマゾンの奥地に向かうはずもなく。

少女はアーリルを抱き止められたのは運が良かったのか動きが良かったのか。
光の少女は"⬛︎⬛︎神"の加護を得る少女、アーリルとはシナジーを起こすだろう。
少女の体には力が漲ると同時に体にかかる異常なまでの負荷。
アーリルの体から溢れ出る光は火のような高温を持ち、体温も同様に高温となっていく。
⬛︎⬛︎の光輝は天より遍く大地を照らす。
少女はアーリルに触れたことにより、"⬛︎⬛︎の象徴"を幻視するだろう。

「お兄様ぁ」

なんとアーリルは意識があったようで、恨めしげに"お兄様"と呟いた。
そして腰に吊るしたレイピアを床に向かって突き刺そうとしていた。

717???:2023/09/30(土) 00:27:24 ID:5v6Z28Cc0
>>716

(これ、は……一体?)

何とか滑り込む形で少女を抱き止める事には成功した、が、その瞬間に身体に起きる異変。
異能の出力が意図せず上がっていく、身体に異能を使い続けた時のような負荷が掛かりキリキリと脳が焼けるように痛み出す。

(この子、可愛いなぁ……じゃなくてこの子は一体何者なんでしょうか、まあそれは後ですね)

「はい、お兄様とやらへの恨み言は無事に帰った後にたっぷりと言ってやりましょうね!」

レイピアを床に刺し減速を図ろうとしているのだろうか、少女の様子を見て自分も真似をする。
右手を開けてそこに光球を作り出すとそれを変形させて剣のような形状へ、異能の出力が増しているせいか想定より幅広の物が出来たが頑丈そうなのでこれはこれで嬉しい誤算だ。

「せーのっ!!」

掛け声と共に大地に刃を突き立てる。
それと同時に漲る力を背中の光の翼から放出し、どうにかしての減速を図ろうとするだろう。

718アーリルと"お兄様":2023/09/30(土) 00:54:56 ID:ghE7.UrM0
>>717

「ファリニシュ!」

少女の懐にはには四芒星と3本の波型と、太陽から翼が生えたような、有翼日輪が浮かんでいた。
それらはアーリルに力添えしてくれている⬛︎⬛︎神の象徴で、かの  が善良である様を示すように温かった。

何かの名前だろうか。
それを呼べば、二人は何かの暖かいものにぶつかる。
ただ振り返る頃には、そこには何もなく。
十分に減速できた上に獣の軀に受け止められて二人はわずかに目を回すだけで怪我もないだろう。
またアーリルが異能を解除したことで少女の肉体の負荷と制御から外れた異能は普段通りに戻る。

「お体は大丈夫でしょうか? "お兄様"が大変失礼致しました。」

アーリルは先に立ち上がり、少女に小さな手を差し出した。

719名も無き異能都市住民:2023/09/30(土) 01:07:24 ID:5v6Z28Cc0
>>178

何か温かいモノに受け止められて無事に停止する。
先程まで過剰に活性化していた異能が今は嘘みたいに普段通りになっている事に戸惑いを覚えなくもない。
けれど、今は何よりも両者の無事を喜ぶべきだろう。

「……あはは、助けるつもりが助けられちゃいましたね、私は大丈夫です、ありがとうございますね」

手を取り立ち上がった少女の身長は155cm程だろうか、陽光のような淡い金の髪を腰まで伸ばした碧眼の少女。
白いブラウスに青いフレアスカートとシンプルかつ何処にでも行けるような格好をしている辺り育ちは悪くはないのだろう。

720アーリルと"お兄様":2023/09/30(土) 01:23:56 ID:ghE7.UrM0
>>719

少女を立たせるために差し出した手は細く小さくも力強かった。

「こちらこそありがとうございます。
 あのような形であろうとも、助けに来ていただけるだなんて埒外でした。」

アーリルは自分がギャグ漫画のように壁に突き刺さり震える未来を想像していたというのに。

「この場所にも自分を顧みず他者を助けようとする方がいるだなんて思いもしませんでしたわ。」

この都市は不幸に追い討ちをかける人は少なくないものだが、見て見ぬ振りも多い。
その点、少女の"助けよう"とする気持ちはアーリルにとって心がスッとするものだ。

アーリルは背が低い。青みがかった銀髪に花の髪飾り。
しっかりと見てるとわかるが、左右で瞳の色が違うオッドアイ。
身長は145cmほど、服装は別段特筆するものでもないデザインのものだが、縫製や細かい刺繍を見る限り相当良いものを身につけている。
その中で特異な点は腰からレイピアを吊るしてある程度だろう。

721???:2023/09/30(土) 01:45:34 ID:5v6Z28Cc0
>>720

「困ってるなら助ける、というのは私の信条ですから、もしかしたら助けた人がまた別の人を助けて正のスパイラルが生まれるかもしれませんし」
「そうでなくても、今を生きるって大切な事ですからね、出来れば多くの人間に幸せな生を送ってほしいと思っていますよ……例え今が悪でも改めれば良いんです、この街には救済が無さすぎますから」

最後の方は囁くように、けれどもしっかりと通る声で呟いた。
命を守るのが最優先、命を奪うのは最後の手段。
少女の倫理観は、酷く単純なもの。
人命を数で数えていると非難されるかもしれないが、助かる命が多いに越した事は無い。
その為になら、少女は残虐にも悪にもなる。

「そういえば、名前、名乗ってる場合じゃありませんでしたね……白月アカリっていいます、良かったらアカリと気軽に呼んで下さいね?」

722アーリルと"お兄様":2023/09/30(土) 21:12:24 ID:ghE7.UrM0
>>721

「アカリさん、ですね。私はアーリル・フォン・ルズィフィールですわ。
 アーリルとお呼びくださいまし。」

スカートの端をつまんでカーテシーをするとアカリに微笑んで見せた。
無辜の民草の剣であり盾であろうする少女にも思うところがあるのか、アカリの信条を聞いて、笑みを浮かべた。

「困っている人を助ける。簡単にできることではありませんわ。それでも貫こうとするのは大変では?」

翼の少女改めアカリの印象はアーリルにとって好ましいものだ。
今まで取りこぼした命もあるだろう、意識を変えなかったものもいるだろう。
だが、少女が意識を変えたものも必ず存在しているはずだ。
アーリルのように"悪いことをしている人"はとりあえず倒してから考える脳筋とは違う。

「私はこう見えて騎士ですの。取りこぼした命もありますし、救えた命もあります。
 その後も色々でした。更生した方も更生できなかった方も。」

アーリルが助けてきた人物たちは騎士見習いになったものや冒険者となったもの、真面目に働き始めたもの。
助けた末に再び悪さをして結果的に命を摘んだものも。自身の指揮の元、命を摘んだものも背負って。そう、色々。

「とても、いい在り方だと思いますわ。」

723アカリ:2023/09/30(土) 21:49:05 ID:5v6Z28Cc0
>>722

「アーリルさんですね、宜しくお願いします」

微笑みに釣られて自然と微笑みで返す。
アカリにとってもアーリルの存在は好ましいもの。
良い所の出身のようだが傲慢さがなく非常に接しやすいそれはこの街では珍しくて。

「大変ですけれどやりがいはありますよー、私の行動で一人考えを改めれば一人犠牲者が減るかもしれない、一人の怪我を防げば何人も泣かなくて済むかもしれない、そう考えれば幾らでも力が湧いてきます」
「と言っても個人規模での活動なので異能をガンガン使っても小さな組織を潰すのが精一杯、後始末も治安維持局やギルドに投げるとまだまだ理想には程遠いんですけれどね」

「アーリルさんのように最後まで面倒を見て改心させられればそれが一番良いんですけれど、その在り方に辿り着くにはまだ遠い感じです」

未熟を恥じながら、それでも今の自分の行動に誇りを持って現実に向き合っている。
それが今のアカリという少女の在り方だ、そしてそんな少女からはアーリルの在り方は輝かしく見える。

「ありがとうございます、アーリルさんの在り方も素敵だと思いますよ」

724アーリルと"お兄様":2023/09/30(土) 23:52:37 ID:ghE7.UrM0
>>723

これまでのアカリを見る限り、この都市内では非常に好感の持てる相手である。
また光に関する能力のようで、自分と似ていることも含まれているだろう。

「一般社会の規律や良識や常識に従うより、好き勝手に振る舞う方がこの都市では生きやすい、そのように思えますわ。」

もちろん大多数が健全な社会の人として生きているだろう。
だが、一部好き勝手に振る舞うものたちのせいで皺寄せがくるのは真面目に生きている人々。
そんな彼らを守るのもアカリの活動の一つなのだろう。

「そのような活動をするのなら、治安維持局や千夜がいいのではないでさょうか。
 彼らは通報がなければ動けない身ではありますけれども、力は強く、睨みもきかせているようですよ?」

ショッピングエリアにカラスが集まり始める。
アーリルがあるところにカラスが集まる。
集まって鳴いたり悪さをするわけでもなく、ただアーリルの近くにいるだけだ。

725アカリ:2023/10/01(日) 19:27:34 ID:5v6Z28Cc0
>>724

「実際そうなんでしょうね、無法も倫理を無視した行いも力が有れば許される……反対する意見だって黙らせられるのがこの街ですから」

アーリルの言う通りこの街は無法が罷り通る街だ、当然普通に生きている人も沢山いるが、異能という特別な力を持つ圧倒的な個人が存在するが故にか、街の闇は根強く深いものがある。

「それも考えはしたんですけれど、既に誰かが見てる場所をもっと深く見るよりも、誰も見ていない場所に目をやれる事が今の街には大切かな、と思ったんです」
「私の自己満足かもしれませんけれど、微力でもそういう事をする人間がいてもいいかなって、直接色々見て回ったらそう思ったんですよね」

言葉には出さないが、大きな力への不信もある。
自身の生まれもその一つ、幸い優しい人に引き取られ幸せな人生を歩む事が出来てはいたが、一歩間違えれば大きな力に翻弄されてそんな人生は送れなかった。
だからこそ、確実に一人でも救えるように、小さくてもそれらの為に力を尽くせる人間になろうとアカリは思っている。

726アーリルと"お兄様":2023/10/01(日) 21:47:08 ID:ghE7.UrM0
>>725

確かに無法が罷り通り、力あるものが嗤うのがこの都市だ。
その中でいつも虐げられるのは力を持たない無辜の民草
少女と言っても差し支えない年齢に見えるアカリだが、今まで出会わなかったのが不思議なくらいアーリルの活動とマッチしている。
アーリルも様々なところを出歩き、目で見て肌で感じてきた。
金品や体を要求してくるチンピラや無法者を叩きのめしたのも片手では収まらない。

「このような活動をするのは私達しかおりませんのね。」

この都市はあまりにも、残酷だ。
弱者は虐げられ、強者は一方的に毟り取るだけ。

「アカリさん、予定が合う時だけでいいのですが、私と一緒に色々なところにパトロールしてみませんか?
 これでも少しは腕に自信があるのです。」

アーリルとアカリに共通するのは幸せな家庭に生まれて、力に恵まれていること。
アーリルは騎士である。弱気を助け強気を挫く、そんな騎士を目指している。
アカリといれば、本当に目指す先が見えるのではないかと思い、緩い提案をした。

727アカリ:2023/10/01(日) 22:01:29 ID:5v6Z28Cc0
>>726

「自発的にパトロールをしているような人間は知る限りでは私達くらいのものですね……無論私達が知らないだけで似た活動を他所でやってる人がいるかもしれませんけれど」

力の波に抗うより乗る方が簡単だからか自分達のようにわざわざ好き好んで死地に飛び込むような真似をする人間はあまりにも少ない。
でも、出会えた、その小さな奇跡が今は嬉しくて。

「いいですね!是非ご一緒させて下さい!」

返す言葉は二つ返事。
けれどそれは決して悪い物や軽率な物ではなく、やっと出会えた仲間と同じ時間を共有したいという思い、二人ならもっと色々な所に手が届くのではないかという希望、色々なプラスの感情が入り混じっていた物で。

「……あ、強盗犯さん忘れてました」

くるり、振り返れば強盗犯はノックアウト中。
あの調子なら店からの通報で訪れた警察が逮捕して行ってくれるだろう。

728アーリルと"お兄様":2023/10/01(日) 22:32:45 ID:ghE7.UrM0
>>727
「そのような方がいたら是非巻き込んでいきましょう!
 アカリさん、よろしくお願い致します!」

アカリの快い返事にアーリルの頬は自然と緩む。
協力してくれそうな青年が一人思い浮かんだが、連絡先を知らないのはどうしようもない。
本当に小さな奇跡。近しい心を持ち、近しい想いで動ける人物。
弱きものに寄り添う剣として、弱きものを守る盾として、アーリルの騎士としてのあり方は清廉潔白と言えるだろう。
またアカリという少女も騎士ではなくともそのような心を持っているのが本当に嬉しかった。
それからアーリルは契約したてのスマートフォンを差し出した。とあるトークアプリを立ち上げ、自分の連絡先を示している。

『コイツどうする?』

"お兄様"と呼ばれた体格に恵まれた筋骨隆々の大男が、強盗犯を猫のように首根っこを摘んで持ってきた。
見せるための筋肉ではなく実戦で培った筋肉の鎧に包まれたそれは、異様な膨らみを示した。
上投げで放り投げるのは男にとって簡単だが、それをすれば少女たちに怒られるだろう。
アーリルの食事を奢るくらいは最低限しなければならない。

「……後ろ手に縛っておきましょうか?」

眉を下げて少し困った顔のアーリル。

729アカリ:2023/10/01(日) 22:54:01 ID:5v6Z28Cc0
>>728

「はい!お互いに頑張っていきましょうね!」

アーリルの緩んだ顔に釣られてか、花の咲いたような満面の笑顔で返事をする。
人が得られる筈の当たり前の幸せを守りたい、そこに強者や弱者なんて存在しない、否、何かを作る力で言うなら彼等こそが強者で自分達が弱者だ。
自分達は偶々剣や魔術や異能、人を傷付ける物理的な方法を会得するのに時間を割いただけ。
だとしたら私達が彼等を護るのは当たり前の事──アカリという人間はそう考えている。

アーリルの取り出したスマートフォンを見て、同様のトークアプリを立ち上げる。
少しの操作をして友達登録を済ませた辺りで突然現れた巨漢にびっくりするも、なんとか持ち直す。

「後ろ手と足首ですね、あと多分この人はそこまで準備してないでしょうけれど、万が一ですね、靴に刃物を仕込んでるかもしれないので靴は脱がせておきましょうか」

取り押さえるのには慣れていると証明するようにテキパキと、縛り上げながら危険物を持ってないか確認していく。

730アーリルと"お兄様":2023/10/01(日) 23:29:11 ID:ghE7.UrM0
>>729
「はい!色々と学ばせて頂きます!」

縛るものはあったかしら、とアーリルが思考するうちにアカリが手足を縛ってしまった。
確かに彼は根は善良な人間であるようだし、逃げられないと分かれば投降する素直さも持っているのだろう。

「それにしても随分と慣れていますのね。私も基本は分かりますが、ここまで早く的確にはできませんわ。」

この手の"技術"はこなした数が物を言う。体が覚えるまで叩き込まれたわけでもない。恥ずかしくない程度に練習しただけだ。
捕縛は下っ端の仕事として、アーリルは学びはしているものの、指揮官としてその場にいるためほとんど捕縛の経験がない。

アカリのことだ。
跡が残らないように、痛くないようにと気を揉んでいるのだろう。
危険物があったところで並の人間はアーリルの槍から逃れられない。
念の為アーリルは愛槍を取り出していつでも制圧できる準備をしていた。

「ごめんなさい。騒がせるつもりはありませんの。ですけれども抵抗をなさると言うのなら地面に熱烈な愛を囁く羽目になりますわ。」

聞いていない相手に送る言葉。意訳するなら抵抗は無駄だ、ということ。
アーリルの腕ならば、仮に万が一があった時、アカリの間に槍を差し込み穂先を首に添えることはできる。
些か過剰気味ではあるけれども、怪我には変えられない。"お兄様"が持ち上げるかアーリルが膝裏に石突を叩き込むか。

731アカリ:2023/10/02(月) 18:36:04 ID:5v6Z28Cc0
>>730

「お互いに学んでいきましょうね、ふふ、不謹慎かもしれませんが楽しみです」

学ぶ機会が無いくらい平和なのが一番だとは理解しているが、それはそれとしてアーリルとなら困難に出逢ってもそれを切り抜け学ぶ機会に変えられそうなのは事実。
彼女と一緒ならどちらに転んでも良い事があるだろう、そんな予感がする事が素直に嬉しい。

「相手が無抵抗でいてくれるからですね、抵抗されるとちょっと無理矢理に押さえ付けないといけないのでこうはいかないですから」
「あとはやっぱり、犯人が動ける状態だと周りの人が怖がってしまいますからね、こういうのは手早く済ませるに限ります」

これで良し、と手足を縛り終える。
犯人に不要な手傷を負わせる気はないが、一番に心配するのは周りの一般人の事だ、ナイフ一本だろうがそれを振り翳す人間が怖いのは当たり前。
だから少女はほんの誤差かもしれなくとも少しでも早く正確に取り押さえる事を意識している。

「ふふ、まだ失神しているみたいですから大丈夫ですよ、心配して下さってありがとうございますね」

アーリルが武装した意味を理解し微笑みが隠せない、初対面ながらこうも気遣って貰えるのはありがたいものだ。
無法の街だからこそ彼女の優しさというかけがえのないものが身に染みる。

732アーリルと"お兄様":2023/10/02(月) 22:40:46 ID:ghE7.UrM0
>>731

アカリが拘束し終えたのを確認して、アーリルは愛槍を手から離すと、波打つ何かに沈み込み、姿を消した。

「民草に何もないのが一番ですからね、いつ自分たちに暴力の矛先が向くかわからない以上、
 手早く抑え込めるに越したことはありませんね。民草も犯人も怪我を負えば簡単には治りませんものね。」

アーリルの場合は大抵気絶(物理)になり、このように捕縛する機会はほとんどない。

「……随分と長く気絶しておりますのね。あとは引き渡すだけですか?」

このまま眠っていてくれれば、あとは話しておくだけで割と呑気な彼を警察機関に引き渡して終わりだろう。
ーーお腹すいたなぁ

733アカリ:2023/10/02(月) 23:24:29 ID:5v6Z28Cc0
>>732

「ですね、民間人を人質に取ったりわざと巻き込む犯人には手加減も命の保証も出来ないのですけれど、単純に困窮から罪を犯しただけの相手なら出来るだけ気を付けて傷付けずにいたいものです」

あっさりと物騒な事を言うが、きっとこれも共感して貰えると思っての事だ。
悪人にも人権はある、あるがそれを尊んだ結果多くの民間人に害を成す事を見逃すのでは意味がない。

「そうですね、呼吸は正常でしたし慣れない強盗なんて無茶をして消耗仕切ってただけだと思いますよ?」
「と、噂をすれば店の警備員が今更ですが来ましたね、引き渡してその後は……良ければご飯でも一緒にどうですか?」

アーリルの様子を見て苦笑い。
食事を提案するが、彼女はまだアーリルの食欲を知らない。

734アーリルと"お兄様":2023/10/03(火) 20:20:04 ID:ghE7.UrM0
>>733

「彼らにも未来はあります。幼い子供なら尚のこと。
 ちゃんと罪を償い、汗水垂らして働くのなら、足枷となる可能性がある怪我を負わせるのは気が引けることです。」

その結果、きちんと矯正させられればいいが、手癖の悪い連中は職場で盗みを働いたりする。
そこまで深く調べられないのがもどかしい。

「是非行きましょう!実はずっと連れ回されていてお腹ペコペコなんです。
 "お兄様"、ご馳走してくれますよね?」

アーリルの目がキュピーンと輝いた。
あちこち連れ回してくれた挙句、子供のように高い高いをしようとして錐揉み回転しながら
アカリの元へと吹き飛ばしてくれた相手だ。
今まで影に徹してきた大男だが、明らかに年下の二人には財布を出させない甲斐性はあるようで。

『好きなところに行ってきな。俺はアイツを探してくる。
 リル、アイツに連絡を入れておいてくれ。』

アーリルに財布らしき物を放り投げて背中越しに手を挙げて歩き去る大男。

「護衛の皆様も大!変ですわね…」

なお支払いはアイリスに回る模様。

「あ、あの、大変お恥ずかしいのですけれど、私結構食べる方で、食べないと体が保たないので、その大変お見せづらい光景を作ってしまうのです…」

どんどん声は尻すぼみになっていく。
1日の女性の必要な2000kal程度と言われているが、アーリルはその桁違いのカロリーが必要になる。
食べるのも才能がいるというが、大食いタレントなんて目じゃないくらい食べる。
年頃の少女のちょこんとしたお弁当ではオヤツにもならないくらいに食べる。
そうでなければ体が維持できないという最もらしい理由があれども、年頃としては恥ずかしいところでもある。

735アカリ:2023/10/03(火) 22:14:10 ID:5v6Z28Cc0
>>734

「逆にそれが叶わぬ相手なら……いえ、やる前からマイナス思考になってても仕方ないですね」
「とりあえずは救える相手は救う、救えない根っからの悪は……人に害を為す相手は手加減せずに鎮圧する、それだけです!」

悪人を私刑にしていると言われても反論出来ないがそれでも何もせずにはいられなかった、それがアカリという人間だ。
冒険者ギルドに登録し、命を奪うのは生死を問わないで良いような危険な賞金首や害獣に今のところ限定して合法化してはいるが、その自分の中での線引きがいつの日か壊れてしまわないか恐れてもいる。

「えっ、アーリルさんとそのお兄さん?誘ったのは私ですし支払いは任せて頂けると……!!」

あわあわと露骨に困った様子を見せる。
奢って貰おうなんて考えは微塵も無かった所かその真逆、自分が支払うつもりだったようだ。

「別に気にしませんよ?私だってアイスが大好きでそればっかり食べたりしますけれどアーリルさんはそれを笑ったりしないでしょう?それと同じです!」

736アーリル:2023/10/04(水) 20:32:33 ID:ghE7.UrM0
>>735

叩き潰すのではなく鎮圧するあたりがアカリの良さなのだろう。
アーリルならば叩き潰す!というだろう。
もし、アカリの線引きが壊れてしまったらアーリルがアカリを叩き潰すだろう。

「その支払いが大問題なんです!
 自称"よく食べる方"のお食事の量も私には誤差の範疇ですの。」

とにかくよく食べる。
アイスをたくさん食べるのなら微笑ましいで済むが、アーリルの場合は本当に凄まじい食事量となる。

「"お兄様"も私が本当にたくさん食べることを知っています。
 食事量もそうですが、その、金銭面でご迷惑をおかけするわけにもいきませんので、お気持ちだけで結構なんです。」

例えば道中のドリンクをご馳走してくれるだとか、そんなささやかなものでいい。
アカリとしては納得はできないだろうが、アーリルにご馳走するということは実際にお財布に掛かる負荷は相当な金額となる。

「どれくらい食べるかと言うと、お店のメニュー全てを40人前は軽く食べられるんですよ。」

わずかに眉を顰めた顔はどこか虚しさと悲しさを帯びていて。
大食いメニュー数人分でようやくおやつ。
大食いメニューを出すお店など相手にならない、お店の食材を食べ尽くすイナゴ。
不思議なのが、どれだけ食事をとっても体型に変化は起きない。

737アカリ:2023/10/04(水) 21:06:03 ID:5v6Z28Cc0
>>736

「私もお金がない訳では……あー、ごめんなさい、そう考えると全くないですね」

賞金首を仕留め報酬を得た後だ、財布には余裕があると考えていたが言い分を素直に聞くとどうやらそんな次元じゃないらしい。
そうなると手持ちでは不安しか残らないし、食事という私利私欲の為に賞金首を狩りに行くのはあまりにも頭が蛮族過ぎるので控えたい。

「そういう事ならガッツリと食べれるお店が良いですよね、何かこの近くにありましたっけ……?」

サンドイッチなどの軽喫茶ではその飢えは満たせないだろう、そうなれば行く店は限られる。
あの定食屋はどうかな、銀ダラもトンカツもレバニラも美味しかったけれどアーリルのお嬢様然とした振る舞いを見るに口に合わない可能性もありそうだ。
あっちのステーキハウスなら満足して貰えるかな、確か結構良い肉を使ってた筈だしグルメ雑誌にも取り上げて貰えるくらいには良い店の筈だから……。

そんな事を考えている間にアーリルから聞かされた食事量、そうか全メニュー40人前は流石に奢れないなぁ……。
でも、それを知れたのは素直に嬉しくて。

「ふふ、でも良かったですよ、最初に知れて、つまりこれからアーリルさんは知っちゃった私の前では変に遠慮とかせず好きに食べれる訳ですよね?」

738アーリル:2023/10/04(水) 23:13:58 ID:ghE7.UrM0
>>737

アーリルはその食事量から外食をあまりしない。
チェーン店には入った経験がなく、つい先日露店でカードが使えなかった経験をした程度の世間知らずだ。
食事のほとんどを自宅で済ませてから活動し始めるため、アイリスにくっついていったお店。かなりお高いお店でいわゆるドレスコードが必要なお店である。

「すいません、連れて行ってお店しか分からないです。
 "お兄様"のお財布の中身がわからないんですけど、カードが使えるお店でしたら助かります。」

ツラツラとお店の名前を挙げていくが、どれも簡単に入れるお店ではなかった。
お金目当てで賞金首を刈りに行くのはもはや現代の蛮族では?
イタリアンやお寿司、フレンチ、中華など色々と料理のバラエティーは思い浮かぶものの、具体的なお店はそもそも記憶していない。
金銭面では"お兄様"が放り投げてきたお財布の中身とアーリルのお財布を使えば大丈夫だ。
アイリスがアーリルのお出かけ用のお財布に食事代込みの結構な額をいれているからだ。
過保護だと思われるかもしれないが、これも市井にお金を落とすためにアイリスは積極的な消費を促している。

「アカリさんの今の舌の気分はどれでしょう?
 これで探してみましょう!」

取り出したのは現代の便利ツールのスマホ。
最低条件は完全個室で広さもあるということ。

「あはは…大変お恥ずかしい限りです。身内以外で食事をする際は相当我慢しておりまして。
 アカリさんと一緒なら何も気にせずに食べれるのは幸せですね!」

ゆるふわスマイル。
食べるのが好きなのか、アカリの前では気にせずに食べられることが嬉しいのか、それとも今日気が合う初対面の人と食事に行けるのが嬉しいのか。それとも全てか。
とにかく、全身からワクワクしている様子が見て取れる。

739アカリ:2023/10/05(木) 00:19:42 ID:5v6Z28Cc0
>>738

(どのお店もドレスコードが必須ですねー、今からドレスを買いに行くのは……お腹を空かせたアーリルさんを待たせるのでダメですね)
(となるとやっぱりあそこでしょうか)

「ステーキハウスとか如何ですか?カードも使えますし確かドレスコードも最低限しか無かったから今の私の格好でも入れますし、何より美味しいんですよ!」
「お肉が良いのは当然なんですけれど、窯を使った独自の製法で焼く事で火を入れ過ぎずかと言ってレアに寄せすぎず、最高にジューシーな感じに焼いてくれるお店があるんです!」

ちょっとだけテンションアップ。
少なくとも自分が行った事のあるお店では最高のステーキハウスだ。
誕生日に両親に連れて行って貰った際にあまりの美味しさに感動したのを今でも覚えている。

問題は其処の店がアーリルの口に合うかどうかだが……これ以上を知らない以上それを憂いても仕方ない。

「食事は楽しく美味しく食べて満たされてこそ、ですもんね!私も今から楽しみで幸せです!」

スマートフォンを見ながら目当ての店へのルート検索、店はそう遠くない位置にある。
今から行けば十数分後には訪れられるだろう。

740アーリル:2023/10/05(木) 21:08:34 ID:ghE7.UrM0
>>739

アイリスはアーリルにとって従姉妹に当たる。
アイリスに連れて行ってもらって、さらにはお会計も支払ってもらって。行きも帰りもカルガモの親子のように着いていく。
その時にはおめかししていたような……???

「ステーキですか!良いですね!それにここからも近いですね。楽しみです!」

アカリの話を聞き、俄然テンションが上がっていく。
自分の食事を認めてもらえた気が合う人との食事!
アーリルにとってドレスコードがあるお店より好きな話題を好きなだけ話せるお店ならどこでもよかった。
行きましょう!と先陣を切りお店へと進んでいく。独自の製法と聞いて鼻歌が聞こえそうなほどにゴキゲンだ。

「では、アカリさん。一つだけお伺いします。
 "オススメ"メニューを教えて頂けますか?」

お店の前にたどり着いた。
お肉が焼ける香りを楽しみながら、軒先に出ているメニューを見る。
お肉ヨシ、お野菜ヨシ、スープ類もある。甘味もある。
色々なメニューがバランスよく取り揃えられている。
つまり、これは食べても良いと言うこと。
アーリルの頭の中で歯車が噛み合ったような、不思議な感覚。

「美味しく楽しみましょうね、アカリさん。
 初めてのお店ですので楽しみです!」

一流のお店を知るアーリルだが、店内には楽しそうに過ごす先客たちがおり、自然と笑みが漏れた。
彼ら彼女らの顔を曇らせないため。時には活動のモチベーションを上げることも大切だ。

741アカリ:2023/10/05(木) 21:38:25 ID:5v6Z28Cc0
>>740

「意見が合いましたね、じゃあ向かいましょうか!」

意見を言えば通る立場だろう彼女からすれば、気が合う友人と話し合って店を決めるなんて経験も少ないのだろうか。
そんな事が頭を過ぎるがだったら自分が一緒にその経験をすれば良いだけだと思い口にするまでもなく解決する。

「さっき言った窯焼きステーキがイチオシです、部位や牛の銘柄は色々取り揃えているみたいなので好みの物を選べば良いと思いますよ!選ぶのが手間なら取り寄せた名産牛の食べ比べコースがあったのでそれがオススメです!」

「あと、ちょっと待って下さいね!!」

説明を終わると何かを思い出したように、とと、と一見すると寂れた店に駆けて行きお金を支払いメロンパンを二つ持って帰ってくる。

「おひとつどうですか?店は地味ですけれど実は彼処、中々の老舗でして、ホイップとかに頼ってない単純に美味しいメロンパンを売ってるんですよね」

分け合いながらステーキハウスに到着。
肉の焼ける匂いが鼻腔を擽り嫌でも食欲が掻き立てられる。

「ですね、さて、善は急げです、個室二名で部屋を取ってしまいますね?」

742アーリル:2023/10/06(金) 00:16:50 ID:ghE7.UrM0
>>741

メロンパン、アーリルは初めて見るものだ。
受け取ったメロンパンをいろんな角度から見て、指先で触れて感触を確かめてみたり。

「メロンパン!?これが噂のメロンパンというものですか!?」

不思議な触り心地。分かりづらいがスンスンと鼻でわずかに漏れる匂いも確かめる。

「ありがとうございます!アカリさん、これが、メロンパン……あっ、お代金どうしましよう。」

手に持ったメロンパンを天に掲げてみせた。
大袈裟だろうが、それだけ初めてのものに触れる時が楽しくて仕方ないのだ。
動き始めると休憩することなく動き続けるため、買い食いなどするはずもなく。

「個室2名でお願いします。アカリさんのオススメと名産牛の食べ比べをシェアしましょう!」

シェアという単語に浮かれているのがよくわかる。今にもえへへと言い出しそうなほどのゆるい顔つき。
近い歳のお友達は義務でのお付き合い、腰巾着のみ。
アーリルは年上に囲まれているため、とにかく譲られる。
可愛がられているので好きそうなものは先に選ばせてもらえるし、ケーキも最初に選ばせてもらえる。食べている顔を見せたら周りが微笑ましい顔をするくらい甘やかされている。
食に甘やかされている反面、その他は厳しく躾けられている。
テーブルマナーが最たるものだが、それはこの先わかるだろう。

「この繁盛を見る限り、少し時間がかかるかもしれないですね。」

食事のために待つのもまた経験がないこと。
くだらないことでも気が合う人と一緒なら、楽しい時間に変わる。

743アカリ:2023/10/06(金) 20:23:20 ID:5v6Z28Cc0
>>742

「お代金は気にしないで下さい、たかが知れてる額ですし、その楽しそうな様子が見れただけで十分過ぎるくらいお釣りがきましたから」

これだけ喜んでくれるならもっと買っても良かったかな、でも気遣わせてしまったら本末転倒だしこれが妥当かな。
そんな風に考えながら一緒に歩みを進める、初対面ながら親しさしか感じないアーリルとの歩みは楽しくて、あっという間に目的地に辿り着く。

「あ、じゃあ私は名産牛のハンバーグを頼みますね、あとデザート類も頼みますのでそれらも是非シェアして食べましょう!!」

アーリルが食べ比べを頼むのなら自分は何が良いかな、と考えた結果そちらのメニューには入っていない物を頼む事にした。
無論これも美味しいのは確認済み、アーリルの舌にも合ってくれると嬉しいと思いながら注文を決める。

「そうですね、予約出来なかったのでこればかりは仕方がないですが……でもこの時間ならディナーには少し早いですしそう長くは待たずに済むと思いますよ?」

あれ、もしかしなくてもアーリルさんって普段は予約しなくても行列を愚直に待たないでするっと店に入れるタイプの人間ですよね?
と言った後で思ってしまった、がわざわざ口にするのも無遠慮だし本人が楽しそうなので良しとする。

「そういえば、アーリルさんってご家族で外食とかよく行かれるんですか?」

744アーリル:2023/10/07(土) 00:02:44 ID:ghE7.UrM0
>>743

ありがとうございます、とお礼の軽い会釈と笑顔。
アカリがアーリルに対して親近感を感じているのと同じように、アーリルはアカリに対して親近感を覚えている。
何故か分からないが、今まで出会ってきた人々と違う、そんなもの。
"友達"だとか、そのような親しみ。

「むむむ…ハンバーグですか!素材の味とシェフの腕が試される逸品ですね。素晴らしいチョイスだと思います!」

食べ比べがもしアーリルの舌に合えば、もう少し(?)他のメニューを頼んでみて確かめるだろう。
それにほとんど待たなくても良さそうであるし、待っている間もこうやってアカリと話をしているだけで時間なんてすぐに吹き飛ぶだろう。

「私の家族は皆忙しくしておりまして、家族揃っての外食は記憶では5年ほど前だったかしら…。
 この時の食事が何度目の家族でテーブルを囲った機会かまでは分かりかねます。」

一般的なご家庭とは少し違った家族の形。
家族が一つのテーブルに揃うこと自体が年に数度ある程度の家族の距離感。
さらにはアーリルの食べる量もあるから簡単に外食しようとはならない。

「外食自体は"お姉様"に連れて行ってもらいますよ!
 有名な高級店とのことで確かに美味しかったのですが、量が……。
アカリさんはご家族と外食はなさるのですか?」

アイリスチョイスのお店を指折り数えながら店名を挙げていく。
中には覚えていないお店もあるが、挙がったお店自体が高級で簡単には予約が取れないお店だ。
その中でも海鮮料理が有名な洋食のお店の名前が挙がっていく。
そのようなお店は予約なし、顔パスで入れるのがルズィフィールだった。
家族との距離感と釣り合うメリットかと言われると、当人の感性によるだろう。

745アカリ:2023/10/08(日) 20:09:06 ID:5v6Z28Cc0
>>744

アーリルの笑顔を見て“ああ良かったな”と改めて思う、メロンパンの金額が仮に後100倍高かったとしても後悔なんてしなかっただろう。
この街でこれだけ意気投合出来る相手は珍しくて、しかも年代の近い同性なのだからというのもあるが、これはアーリルの純粋さ故だろう。
他の誰でも同じような気持ちにはならなかった筈だ。

二人で話をして少し待てば前菜の後にお待ちかねのステーキがやってくる、フィレ、ランプ、イチボなどを中心に様々な部位を取り揃えた逸品だ。
アーリルの受けてきた教育なら問題無く解るだろう、肉は窯で炭火を使って焼くことで余計な脂が落とされ肉本来の旨みをじっくりと味わえるものになっている。
また、目でも食事が楽しめるように使われている食器なども一流の物だ、例えばナイフには流麗な刃紋が僅かに浮かび元々柔らかく仕上がった肉を更に簡単に切り裂く仕上がりだ。

「家族と外食するのは私の誕生日くらいですかね、両親は忙しいですし兄妹は……うーん、複雑なんですが居るような居ないような何とも言えないものですし」
「でも、アーリルさんはお姉さんと仲が良いんですね、それは素直に羨ましいです、もっとも姉妹がいるが故の苦労とかもあるのかもしれないですけれど」

自分が注文したハンバーグを半分に切り分けてアーリルに渡しながらそう返事をするだろう。
ハンバーグも切った瞬間に肉汁が溢れるように漏れ出す逸品、掛けられたソースも肉の旨みに負けない物だ。

746アーリル:2023/10/08(日) 22:11:44 ID:ghE7.UrM0
>>745
アーリルの姉であるアイリスも、アーリルを子犬と評している。
純粋で、温室育ちで、疑うことをあまり知らない世間知らず。
それは良くも悪くもまだこの都市に”染まっていない”ということでもある。だからこその感性というべきか
持ち合わせた善性と育まれてきた善性故の純粋さ。

「家族のことも私達は似ているのですね!”姉様”とは仲がいいとは思いますが、たくさん迷惑をおかけしていますよ。
 ”お姉様”は気にしなくてもいいとは言ってくれているんのですが、やはり生活の面倒の一切合切を見てもらっておりますので何かのお役に立ちたいのですけれど
 そういうことって実は無くって、困っちゃいますよね。」

だから頭が上がらないんです、と苦笑した。
アイリスが生活基盤を整えてくれていなければ、アーリル一人ではこの都市では生きていけないだろう。
帰る家があり、帰ると”おかえり”と言ってくれる家族がいる。それが自身の育ての親のような存在であればアーリルの顔は破顔しっぱなしだろう。
それでも”もっと本を読むべきだ”だとか”学校に行ってみるのはどうかな?”との声は耳を塞ぎたくなるものだが。

「まあ!いいお肉ですのね!さあ、シェアの時間ですね!」

ハンバーグをシェアしてくれたアカリにありがとうございます、と笑みを向けて、フォークとナイフを手に、お肉に挑む。
姿勢を整え、フォークとナイフを手繰るさまは流麗で、一切の音を立てることなくお肉の部位を丁寧に切り分けて取皿に移していく。
バランスよくお肉の盛り合わせを作り上げてからアカリに差し出した。
また別の皿にはサラダ類やスープが並んでおり、用途別に並べられたカトラリーを器用に操りそれらをそれぞれに適したお皿に盛り付けていく。

「さあ、たくさん食べて力を蓄えましょう!」

747アカリ:2023/10/09(月) 20:47:02 ID:5v6Z28Cc0
>>746

「お姉さんの事は存じていないですけれど、多分迷惑を掛けられているとは感じていないんじゃないですかね?」
「でも、それでも恩返しをしたいという気持ちは分かります、私も両親にはありがとうの言葉を返すだけじゃ足りなくて、何かしたいという気持ちがありますから」

アーリルの気持ちは痛いほど良くわかる、自分も両親に返しきれない借りがあるからだ。
本来なら廃棄される筈だった自分を引き取り育ててくれた両親には恩しかない、恐らく両親は健やかに伸びやかに育ってくれればそれでいいとしか考えていないだろうが、それでも何かしてあげたくて仕方ないのだ。

「そうですね!今は美味しい食事を堪能しましょうか!」

両親にテーブルマナーは教わったつもりだがアーリルのそれを見ていると自分のそれが児戯のように感じてしまう、それくらい丁寧で品格のある動作に思わず目を奪われてしまう。

(っと、焦っても仕方ないですね、私は私の最善を尽くして楽しい時間を一緒に過ごせるようにしましょう)

けれど、自分がやる事は変わらない。
料理を食べる時には半口にも満たない量にカットする事でいつでも飲み込み会話に転じて談笑出来るようにする。
黙って外食をするのが礼儀だなんて貧乏人の妄想で外食の機会が多いほど、また会食のような重要な場ほど良く喋る必要があるとは両親に習った事だ。

「うん、どれも美味しいです!アーリルさんはどれか気に入ったのはありましたか?」

748アーリル:2023/10/09(月) 22:18:37 ID:ghE7.UrM0
>>747

アイリスに何か返したいという思いはあるものの、アーリルができることはほとんどない。

「どうなのでしょう?自分の気持ちを素直に話す人ではありませんし、いつもはぐらかされます。
 元気でいてくれるだけで良いなんて言われたら、どうしようもないんですよね。」

あはは、どうしましょうかとアーリルは苦笑した。
アカリの両親がアカリを無条件に愛するように、アイリスはアーリルに愛を持って接してくれる。
帰るところ、住む場所、清潔な衣類、豪勢な食事、たくさんの本、愛らしい動植物。
アーリルが心を揉むことなく過ごせるように作られた環境。

「幼い頃にカトラリーを持つでしょう?カトラリーを持つ手に豆を一粒置きますの。
 毎食豆を落とさないように食事ができるようになればこれくらいは簡単ですよ。」

自分でカトラリーを持てるようになる頃からこの訓練は始まり、
二年間毎日豆を落とさないように食事を済ませられるようになれば一応合格となる。
それだけ積み重ねられた手の動きだ。
アカリと同じく一口は小さく、咀嚼音は無く。

「どれも美味しいのですが、今のところランプ肉とハンバーグが特に美味しいと思いましたわ。
 どのお肉も適度に油が落ちておりましたが、ソースと最も相性が合っていると感じましたわ。」

お肉の脂を適度に落として食べやすくしたものは美味だ。
このクオリティで出されるのならば、多くのお肉がアーリルのお腹の中に消えるだろう。

「アカリさんのオススメですからでしょうか、とても美味しく頂いております。」

ゆるい顔でふにゃりとした笑み。
意外と表情豊かなのか、アカリがこのような笑顔を引き出せたのか。

749アカリ:2023/10/10(火) 20:26:00 ID:5v6Z28Cc0
>>748

「あはは、やっぱり保護者って皆そうやって言うものなんですね、私の両親に聞いてもそうでした、付け加えるなら悪人や害獣退治のような冒険者稼業は危ないから控えてほしいとは言われましたけれど……」
「こればかりは私のライフワークというか見過ごせないというか病的な何かというか、とにかくそうしたくて仕方ないので応えられずにいますね」

お互いに愛されて育った身だからだろうか。
共感出来る事が多く話せば話す程に親近感が湧いてくる。
出来ればもっと話したい、そう思えば思うほど時間が早く進んでいく気すらする。

「やっぱり品格を身に付けるのは天賦の才なんかじゃなくて地道な鍛練なんですね、自分の努力不足が窺えてしまって恥ずかしい限りですが……うん、今からでも遅くはないですね」

改めて自分の所作を見直そうと思う良い機会だった、そういう意味でもこの出逢いはありがたいものだと改めて感じる。

「お口に合ったようで何よりです、ふふ、やっぱりこの“美味しい”という気持ちをシェア出来るのが一緒に食事をする一番の醍醐味ですよね」

つられるように柔らかな笑顔を浮かべる。
このままならお互いに追加で注文をしたりまたシェアをして談笑したり、アカリがアイスをシェアしたがったりして纏めて注文したり、平和な時間が流れる事だろう。

「そういえばアーリルさん、単刀直入に言いますけれど、良かったらこのあと模擬戦といきませんか?一緒にパトロールするなら互いの手の内や実力は知っておいた方が色々と安全かと思うんです!」

750アーリル:2023/10/11(水) 17:59:23 ID:ghE7.UrM0
>>749
アカリの話にニコニコ。
心の中で同意しつつ

「やっぱりそうですよね。姉様も同じことをおっしゃられておりました。
 無事に帰ってくるんだよ、って良く言われます。
 この都市って……"少し危ないところ"と"入るのが憚れるところ"の境界が曖昧じゃないですか。そういう知識も必要なので心配りはありがたいのですが、ね?」

心配はありがたいけれどまだまだ冒険したいお年頃。
ライフワークとまで言われれば日課のランニングや体操レベルということ。
いろいろと"危険地帯"に踏み込む時もあるだろう。
もしアカリがアーリルの実力と拮抗するならば問題はないだろうが、そうでなければあまりにも危険だ。
でも二人なら大丈夫だろう。

「初めは濡れた豆で始めて、慣れてきたら乾いた豆でやってみてください。想像以上に難しいですよ!」

楽しい時間というものは体感以上に早く過ぎる。まだ1時間程度しか経っていないと思っていたらもう3時間以上経っていた、なんてザラだ。
アーリルにとってこの時はとても楽しいもので、食が進み舌も良く回る。あとはデザートというところまできている。
これまで食べたお肉は大凡30kgにのぼる。お店のメインを全て食べ切った。
野菜類は約10kgほど。
あとはデザートをお腹を壊さない程度に食べるだけだ。

「食後の運動ですか!いいですね。異能ありでもなしでもどちらでも大丈夫ですので、思いっきりやりましょう!」

751アカリ:2023/10/12(木) 20:51:08 ID:5v6Z28Cc0
>>750

「そうですね、前者は異能があればどうにか凌げますが後者の中のタチの悪いのは本当に関わったらいけませんもんね」
「幸いな事にギルドから討伐依頼が出るようなのは目を付けられてしまうような迂闊な事をしている人達で、限りなく前者に近い後者だからどうにかなるんですけれど……」
「本当に触れたらいけない人達に触れると家族にも危険が及びますから、慎重になっちゃいますよね、ヒットマンに狙われるとか私は嫌ですから」

アカリの家は割と高級な住宅街に存在している。
治安も良いところでチンピラの類が彷徨いていたら悪目立ちしまくる為、前者なら報復は恐れないで良いだろう。
しかし後者なら、それこそしっかりと場に溶け込めるような常識と非凡な腕を併せ持つヒットマンを送り込むくらいは普通にやってくるだろう。
アーリルの生家にそんな真似をする勇気がある人間がいるかは別として、だが。

「ええ、一人で食事する際にはそうやって練習してみます、目指すは一人前のレディですね!」

アーリルの食べっぷりを見ていると此方も幸せな気分になってくる、これだけ幸せに食べて貰えるならシェフも腕を奮った甲斐がきっとあるだろう。

「異能ありでお願いします、全力が解った方が良いでしょうし、アーリルさんの事をもっと知りたいですから!」

752アーリル:2023/10/12(木) 23:15:38 ID:ghE7.UrM0
>>751

アカリがいう"触れてはいけない人"にはアイリスも含まれる。
アーリルが知らないだけ。知られないようにしている。
不要になった人物、知り過ぎた人物はカネの力を使って子飼いのギルドから腕が立つ傭兵たちを送り込み続け、狩る。
この点は高級住宅街に住もうがスラムに住もうが変わらない。
踏み込まない、知ろうとしない。余計なことを話さない。
命とカネの勘定が得意な傭兵だけが生き残る。
機械のように依頼をこなす傭兵だけが生きていける薄汚い世界は少女にとって毒だ。

「怖いですよね、その手の人達ってどんな手を使ってでも目的を遂げるために手段を選びませんから。
 私も以前、腕の立つ便利屋に出会いました。
 結果は痛み分けになりましたが、非常に手強い相手でした。」

理由は分かりませんが狙われたようですの。と笑って見せて滔々とアーリルは語る。
"ルファス=エルシャード"という名の便利屋。
常識と非常識を持ち合わせるジョーカー。
守るべき無辜の民草を巻き込んだ異能全開の怪獣バトルとなっていれば、あの場所は今ごろ更地となっていただろう。
そして大きな傷を負った筈だ。

「本当に際どい状況になったら我が家に駆け込んできてください。
 森に囲まれた少し辺鄙な場所ですが、守りは万全ですからね。」

森そのものを吸血鬼化し、木々の中には"影絵の魔物"を放っている。育成中の自然の要塞。
空には第百二十八階層術式"星の目"、山には高射砲1500機。
一部妙に現代チックだが、これを抜けてこられるのは一部の精鋭だが、その一部精鋭相手には位相をずらして"あるのにない"という矛盾を押し付ける。
森がやや不安要素ではあるが、アーリルの家の庭には人喰いの怪物、アーリルにとっては愛犬が鎮座している。

「アカリさんならすぐにできるようになります!
 努力あるのみです!」

微笑みをアカリに向けて、とうとうデザートになる。
店員を呼べば恐る恐るやってきてオーダーを聞きにくるのだが、アイスやケーキなど甘味を山のように頼んだ。
これはアイリスに言われている"腹七分目"を守ってのことだ。

「分かりました!是非よろしくお願い致します!
 箱庭で良いのですよね?ポータルを持っていますので一緒に行きましょう。」

アーリルの力では必ず街に損害を与えてしまう。
アカリも模擬戦のためだとはいえ街を破壊するのは不本意だろう。

753アカリ:2023/10/13(金) 18:37:22 ID:5v6Z28Cc0
>>752

アーリル本人すら知らない事をアカリが理解する事は少なくともこの時点では有り得なくて、ただ“良いお姉さんなんだなぁ”とざっくりとした感想とイメージを抱くのみ。
まだ18にも満たない少女が触れて良いか悪いかの線引きをするのはまだ難しいという事なのだろう。
少なくともアーリルの名前からアイリスに辿り着く事も、その名が示す意味もまだ正確には理解出来ていない。
彼女らの事をお城に住んでる凄い人、と思う以上の知識は持ち合わせていないのだ。
もっとも、仮に知っていてもアーリルに変に気を遣ったりする事は無く純粋に見たままの人間として理解して今と同じような行動に出ていただろうが。

「えっ、今こうしていられるという事はなんやかんやで大丈夫だったんでしょうけれど、そんな経験が……本当にこの街の治安はどうなっているんでしょうね……」
「というか、当たり前のように痛み分けと言ってますけれど迎撃に成功してるんですね、それだけの腕を持っているアーリルさんとの模擬戦、ふふ、腕が鳴ります!」

今の話の黒幕としてアイリスが絡んでいる、というよりか一から十までほぼ全てアイリスの掌の上で皆が踊っていたとは夢にも思わないまま治安の悪さを憂う。
敢えて知るのを拒むのではなく素でこういう風に思ってしまうところが未熟さの現れなのだが、本人がそれを知れるのはまだ先の話なのだろう。

「ありがとうございます、危なくなったらお邪魔させて貰いますね」

自分より年下だろうに優しくて立派だなぁ。
これが教育の賜物というならそれだけの努力を重ねてきたんだろうな。
年齢なんてやっぱり何も当てになるものじゃない、そんな事を思考の片隅に過らせながら改めてそんな相手と出逢えた幸運に感謝する。

「はい、頑張ります!」

ふんわりと自然に微笑んでしまうのはアーリルの持つ雰囲気のお陰だろう。
他の誰でもこう早く打ち解ける事はなかった、それは絶対だと確信出来る。

「個人用のポータルまで持ってるのは想定外でした、喜んで一緒に行かせて貰いますね」

バトルマニアになった訳ではないがアーリルと一戦交えてもう少し互いの事を理解出来ると思うとうずうずした気持ちになる。
流石にその程度の焦燥は何でもないように隠せるが、これから先が楽しみで仕方なかった。

754アーリル:2023/10/14(土) 13:30:35 ID:ghE7.UrM0
>>753

アーリルに変な気を遣ったりしないアカリはアーリルにとって好ましい。

「お互い初見でしたし、切りたくない手札まで晒してようやく痛み分けです。
 次に出会えば結果はわかりません。まだまだ修練が足りませんわ。
 ですが、大変参考になりました。」

アーリルの身長は145cm程度だが相手は背が高い大人の男性。
まさに大人と子供、体格差がそのまま有利を取られる形が続いた。
だが、楽しい戦いであったと振り返る。
その顔は僅かに遠い目で口元が僅かに綻んでいた。
彼とは別に、どのような人物がわからない者が一人、ライバルの騎士が一人。

「だからこそ、便利屋やギルドが成り立っているのでしょうね。腕が立つのであれば本当に生きやすい場所ですもの。」

だからこそ私たちも腕を磨かなければなりませんね、と微笑んだ。
悪しきものを砕く剣として、弱きものを守る盾として。そして弱きものに寄り添える強さを。
アーリルが目指す強さはその先にある、と感じている。

「何も気にせず、いつでも好きに体を動かせる場所は殆どありません。ですので"こちら"には大変お世話になっております。
 ですが相手がいません。ですのでアカリさんからたくさん吸収したいと思っております!」

アーリルは人間換算で13歳程度に相当する。
つまり、この間までランドセルを背負っていた。
アカリの年齢はわからないが極端に離れているわけではないだろう。
アカリとの関係を問われれば、あっさりとお友達です、と答えるくらいアーリルはアカリに心を許していた。
だからお友達が困ったら"困ったらお家においで"と言う。それも家を知っても変な気を遣わないだろうという確信に似た
知らぬ間にケーキというケーキがホールでテーブルを占拠し始める。
箱庭で相互理解を深める前にケーキが待っている。

755アカリ:2023/10/14(土) 18:36:50 ID:5v6Z28Cc0
>>754

「壮絶な戦いだったんですね、模擬戦だったら私もそういうのは大歓迎なんですけれど、現実にその経験はしたくはないものです……と言っても自分から修羅場に首を突っ込む以上そうなる覚悟はしないといけないですね」
「しかし、現実の極限状態の中でこそ学びを得れるというのは確かにあるのかもしれませんね……」

ちょっとだけアーリルが遠い目をする理由が分かってしまった、模擬戦のような死んでも次がある戦いではなく命と命を賭けた一回きりかもしれない場でしか得られない感覚。
それを無事に切り抜けられたなら精神的な高揚はあるだろうなと思ってしまうのだ。

「そうですね、平和になれば商売が成り立たない、そうなれば拠点を別の治安の悪い場所に移す方が遥かに生きやすいし合理的ですもんね」

もっともそうはならないのが現実だ。
この街が抱える闇はあまりにも深く大きすぎる。
ならせめて手の届く人だけでもまずは助けられるように腕を磨く事は大切だろう。
アーリルの微笑みに微笑みと同意の言葉を返しながら強くそう思う。

「では遠慮なく、私もアーリルさんの戦いから色々学ばせて貰いますよ!」

アカリの肉体年齢は17歳程だ。
リイスと同時期に造られた身ではあるが先に成功体が出来てしまった為に機械による肉体の成熟を中断した為、肉体の年齢に差が出来ている。
もっとも、彼方も童顔で高校生程度の小柄な外見の為に外見の差異は少ないのだが。

初対面ながらアカリもアーリルには心を開ききっていた、同じく彼女の事を大切な友人だと既に思っている。
だからこそ、この時間が楽しくて仕方がない。

ケーキの山に隠れているがアカリの注文したアイスの量もそれなりのものだ。
本人が氷菓子が大好物な事もあるがシェアしたさについつい多めに頼んでしまった。
きっとこの後も、二人でデザートを分け合いながら模擬戦まで至福の時間を過ごすだろう。

756アーリル:2023/10/14(土) 21:09:23 ID:ghE7.UrM0
>>755
命をかけた戦い。
あの便利屋のやり方からすると怪我をさせればよかったのかもしれないが、アーリルにとっては命をベットした戦い。自分が倒れる時は民草に危害が加わると思えば立たざるを得なかった戦い。

「いつかはアカリさんも"その時"がくると思います。
 例えば恨みを買ったり、営利目的の誘拐でしたり、理由は過去から追いかけてくるでしょう。」

無法者を捕縛していたらいつかは訪れるはずだ。
命を賭けた戦い、死線を反復横跳びし生を掴み取るための戦い。
その時アカリはその手を赤く染めることができるのだろうか。
アーリルの手は既に赤い血で真っ赤に染まっている。

「治安の悪いところに流れていくところを叩くのは政で大量に人を動かさなければ不可能ですわ。
 だからこそ一箇所にまとまっていてもらう方がありがたいものです。」

さあ、頂きましょう?
と目についた甘味を切り分けていき、多くの種類を少量ずつ取り、取り皿に移していく。
アカリの好みのものがあればいいけれど…。
好物のアイスと一緒に食べるのは嫌かもしれないが。
アーリルもケーキに着手していき、同じく多くの種類を少量ずつ取り、あっという間に食べていく。
甘いものに緩んだ顔でニッコニコ。
それでも食べ進む速度はそれこそ瞬きの間にホールケーキの三分の一がなくなっていく。
それでも食事の姿も美しいのが違和感を与える。

「ふふっ…甘くてとっても美味しいです!」

ふわふわのクリーム、良い果物が贅沢に使われたタルトなどを友人と好きな話をしながら食べる。
それがどれだけ贅沢なことか。
食には味だけではなく、誰と一緒に食事をするのか、それだけで大きく味が変わるものなのだとアーリルはよく知っていたはずなのだが、この瞬間の味はこの時しかない。

757アカリ:2023/10/14(土) 22:24:45 ID:5v6Z28Cc0
>>756

「覚悟はしていますし恨みもまず間違いなく買っているでしょう、先日も賞金首……小粒ですが悪質なマフィア幹部をギルドへ死体にして引き渡したところです」
「配下は降伏しましたが、それが上部だけの可能性も大いにありますし、今後も何もない、とは思えないんですよね」

既にこの手は赤く染まっている。
善良な市民に悪意の牙を向ける相手は鎮圧するし、鎮圧が叶わない相手なら最後の手段を取る事も辞さない。

「そうですね、頭となる存在が生きていてくれるならそれに小虫のように貼り付く小物も拡散させずに済む……本当は一網打尽にするのが理想なんでしょうけれどね」

アーリルがケーキを分けてくれたようにアイスを切り分けアーリルに返す。
一人で食べても美味しい料理ではあるが親しい人と一緒だと尚美味しくなる。
改めて自分がアーリルという存在をどれだけ気に入ってしまったのか実感し、少し笑んでしまった。

758アーリル:2023/10/14(土) 23:10:32 ID:ghE7.UrM0
>>757
死体を作ったことに対して何も思うことはない。
遅かれ早かれ起こることで特に気にする内容ではない。

「本来ならば後顧の憂いも併せて立つべきでしょうが、一人では心許ないのも事実です。
 ですが、私たちならば可能でしょう?」

探偵などを使って家族構成や生活リズムを抑えられるとお礼参りがあるだろう。
蛇の道は蛇というが、そのような輩には同じ界隈のものをぶつける方法もある。
が、そんなことよりもより簡単で手軽な手は、アカリとアーリルで対処すること。
たあ
「一網打尽にするには、大きな課題になるでしょう。となると、"子供"の私たちの手から離れますわ。
 以前、"お姉様"に相談したことがあります。
 その時の答えは、『あの手の輩は一定数必ず発生する。ならば"生かさず殺さず"を保って隔離する方が社会全体にとってメリットが大きいし、明確な線引きがある方がお互いに棲み分けできる。』と仰っていました。私には難しいことは分かりません。"お姉様"のお話が正しいのか間違っているのか分からないです。」

ですが、悪には悪なりの受け皿は必要であるべきなのか、そもそもあるべきなのか、とも思った。

「ありがとうございます。味あわせて頂きます。」

と、アーリルはもらったアイスを味わいつつ、先ほどとは別のケーキを取り分けていく。

759アカリ:2023/10/15(日) 20:05:45 ID:5v6Z28Cc0
>>758

「ええ、そうですね、一人では難しくとも二人なら出来る筈です!」

実際一人と二人では出来る事に天地の差があるだろう、仮に何処かに鎮圧に押し入ったとして、正面と裏を同時に抑える事が出来れば逃げる人間を大きく減らす事が出来る。
それ以外にも色々と取れる作戦の幅が増えるだろう、それは一般人が悪に脅かされるのを防ぎたいという自分達の理想にとって間違いなく有益な事だ。

「そうですか……確かにお姉さんの言う事も事実ではありますよね、悪と言っても多種多様な悪があります、単に邪悪を成すのが好きな外道から、表の世界で生きれない行き場のない人間が集まっただけの集団まで、それこそ一言で語れない程に」
「前者の外道は撲滅一択で良いでしょう、けれど後者の頭を迂闊に叩いて裏社会で居場所を得ていた人間の生活を壊してしまったら、生きる場のない人間を大量に出してしまったら、それこそ追い詰められて凶行に走る人間を私達が作ってしまう事になる」
「悪事を見逃すのは本意ではないですが、逆に間接的とはいえ一般人の被害を増やすというのは私達の目的とは反してしまうんですよね……」

アイスを溶けないうちに口に運ぶ。
悪を見逃すのは先程口にした通り本意ではない。
けれど悪を叩いた結果悪を拡散させたり、より過激な悪を誕生させてしまっては意味がないのも事実だ。
そう考えればアーリルのお姉さんが言う事の方が筋が通っている。

でも、だからといって何もしないでいる事に耐えられるほど大人にはなれなくて。

「どうにか、出来ないものですかね……」

760アーリル:2023/10/15(日) 22:14:44 ID:ghE7.UrM0
>>759

「"お姉様"が仰られるように、一定数悪が発生するのであれば、根底から覆す必要がありますわ。」

アカリがいうようにアーリルも悪は見逃せない。
だが、一定数悪を発生させるのが世のシステムであるのならばシステムそのものを変えなければならない。
それこそ具体的な方法の立案から実行まで議論を重ねなければならない。
たった二人で世を変えるというのは非常に困難で茨の道だろう。

「(もし悪が居なければ、私たちはーー)」

どのように生きればいいのか。と言う言葉は口に出さなかった。
悪が栄えないというより、悪をさかえさせないという方法なら思いついたことがある。
"私たちの名前を売る"ことだ。
悪いことをすると、アカリとアーリルが叩きに来る。このことを悪に教え込む。
そのためには悪には踏み台として犠牲になってもらうが必要な犠牲、コラテラルダメージとあうものだ。
だがこの方法はアカリの家族に、肉体的・精神的な負荷を強いることになる。
この方法をアーリルは提案できそうにない。

「無辜の民草が悪に晒されず、平和に生きて欲しい。ただそれだけなのに、難しいですわね。」

アイスを口に運び僅かに表情を綻ばせ、ケーキを口に運ぶ。
時にはトッピングとしてケーキにアイスを足して別の味にして確かめたりしていた。

761アカリ:2023/10/15(日) 22:46:33 ID:5v6Z28Cc0
>>760

「方法が何もない訳でも全て無意味な訳でもないとは思うんですよ、使いたくない手段ですが知人に……関わりが薄いですが姉と言える人に連絡を入れて雇用の場を用意して貰うとか」
「ただ、それで雇用したとはいえ真面目にやるとは限らない、仮に真面目にやったとしても雇用出来る範囲には限度があるし、乗ってくれるだけの良識がある相手がどれだけいるかも解りません」

ため息を吐き、またアイスを口に運ぶ。
アーリルが口にしなかった事は正解だろう。
アカリは恐らくそれに乗ってしまう。
それは家族に地獄を見せる事に間接的に繋がる。
報復として家が焼かれ家族を失い、そして何もかも失った復讐者が一人生まれていた筈だ。

「そうですね……やりたい事はシンプルな事なのにそこまでの道が全く見えません」
「アーリルさんのお姉さんのように裏社会に詳しい人に話を聞ければ少しは変わるんですかね……」

762アーリル:2023/10/16(月) 00:10:43 ID:ghE7.UrM0
>>761

「更生した者の社会復帰もまた課題の一つですよね。
 真っ先に思い浮かぶのは雇用ですが、彼らにとって汗水垂らして働しても思っていた稼ぎにはならないでしょう。
 そしてまた元いた世界に戻る。」

悪事ほど稼げる。雇用の範囲で稼げる金額は彼らの稼ぎよりあまりにも少ないだろう。
その人物の能力によるだろうが、大半の人物は以前の稼ぎより少なくなるだろう。
稼ぎに満足できず、また悪の世界に戻ると予測するのは簡単だ。
翻ってアーリルはそのような者には一切容赦はしなかった。
罪人として捕まった彼らはあらゆる実験に使われる。或いは武器の試し切りとして。或いは治験の実験台として。
思いつく限りの人体実験の材料として彼らは消耗される。

「私たちの国では犯罪者に人権はありません。犯罪者の家族も同様です。ですが、それまでやっても悪は減らないのです。
 理由は様々ではあります。中には情が湧きそうなお話もありました。ですが理由はどうであれ犯罪に手を染めた事実は消えません。」

アーリルの国は犯罪者に厳しい。だがそれでも犯罪者は消えないのだ。
だから犯罪者は一定数湧くと考えるようになるし、定期的に沸き、消しきれないのなら有効利用する手段を確立する方が建設的である。
というのがアーリルの国の判断。

「"お姉様"と裏社会は繋がっていないと思いますよ。想像の範囲の中と実体験の中から見出した考えなのだと思います。」

アーリルはこういうが、本来はどっぷりと浸かっている。
邪魔な勢力を暗殺や見せしめで遺体を晒すなど割と過激な活動をしている。
アイリスとしてはそれくらいしないと舐められると思っているのか過激な活動によりがちである。

「そろそろ支払いを済ませて箱庭に行きましょうか?」

空気を変えたいのか、それとも話題を逸らすためか。
模擬戦へと移行しようとしていた。

763アカリ:2023/10/16(月) 11:56:39 ID:5v6Z28Cc0
>>762

「そうですね、かと言って物理的なスペース上の問題で全員を刑務所に送り込める訳でもないですし、仮に出来ても一時凌ぎにしかならない、難しいですね……」

アーリルの国の事情は知らないが悩む所は一緒だ、いくら捕まえても再犯を繰り返すのでは意味がない。
そうなれば自分達のやっている事は命懸けで徒労に終わる事をやっているだけ、利益が欲しい訳ではないがそれではあまりにも報われない。

「かといって厳しさの真逆で敢えて犯罪に寛容になっても意味がない訳ですし……其方の国のように社会の基盤を変えるくらい厳しくやっても意味がないとなると正直お手上げな所はありますね……」

個人の力と社会の力、どちらが上かくらいは未熟な自分でも解る、後者ですら上手く御し切れない悪を個人の力でどう減らすかとなると全く思い付かないのが現状だ。
それこそギルドにマークされるくらい露骨にやらかした連中を間引くのが関の山だが、それでは今までと大差ない。
アーリルと二人なら効率と安全性は上がるだろうという確信はあるが、革命的な何かには至らないというのが率直な感想だ。

「お姉さんが裏社会と繋がってないとは私も思いますよ?ただ私達より俯瞰して全体図を見れているのかな、と、お話を伺っていてそう思ったんです」

残念ながら推理は大外れしている。
ただ二人では詰まっているので誰か別の視点が欲しいと思ったのは間違っていないと思っているのは間違いではないだろう。

「そうですね、悩みに悩んだ訳ですし、思いっきり身体を動かして気分転換といきましょうか!」

764アーリル:2023/10/16(月) 21:02:27 ID:ghE7.UrM0
>>763

この話はこれ以上進展はないと感じたアーリルはお財布を持って支払いを済ませた。
あれだけ食べても体型に一切変化がないアーリルを見て、店員さんがドン引きしただけだ。
お店の在庫をおおかた食べ尽くし、お腹に収めたアーリルは一旦個室に戻り、アカリに話しかけた。

「一旦お店から出ましょう。ここから少し離れた広場でポータルを開きましょう。
 ポータルを使えばこのお部屋に戻って来てしまいます。」

お店の外に出て、人混みから離れた広場でポータルを展開すると、箱庭に繋がる向こう側の光景はすりガラス越しにみる曖昧な景色。

「悩んでも私たちに出来ることしか出来ません。
 ならば出来ることを増やすか、今出来ることをより出来るようにするか、ですわ。」

広場に辿り着けば僅かに俯いた末、アーリルはアカリに笑顔を向けるだろう。

765アカリ:2023/10/16(月) 21:42:23 ID:5v6Z28Cc0
>>764

(自分の分は自分で払おうと思ったのにタイミングを逃しました……!!)

支払うアーリルの隣で少し動揺中。
最低限自分の分は自分がどうにかするつもりだったのだが予定が狂った。

「あの、アーリルさん、自分の分は自分で支払いますよ、それだけのお金はありますし、何よりもアーリルさんとは可能な限り対等なお友達で居たいんです……ダメ、ですか?」

一緒に広場に向かいながらそう話しかける。
別にお金に強い拘りはない、きっとアーリルもそうだろう。
だからこそお金を支払う事ではなく、もっと大切な関係性を見ていたかった。

「そうですね、これに関してはおっしゃる通りとしか言えません」
「うじうじしている暇があるなら腕を磨いてより確実により多くの事を為せるようにする、それが今の最善ですね!」

笑顔に笑顔で返すと、アーリルと共に箱庭へと足を踏み入れるだろう。
後は楽しくもあり緊張もする時間、友人に自分の実力を見せ付ける互いに価値を高め合う時だ。
その為には最悪でもアーリルが本気を出せる程度には善戦しなければならない。

(良し、私も全力で頑張ります、アーリルさんの全力を引き出して、その上で勝って驚かせてやりますよー!)

ただし、それに恐れはない。
今は闘志を漲らせ、ただこの一戦に全てを賭けるのみだ。

766アーリル:2023/10/17(火) 00:17:26 ID:ghE7.UrM0
>>765

お肉30kg超、サラダ類やスープ類、デザートを食べ尽くしたアーリルに対してアカリの一般女性一人分の食事代は誤差だ。

「あはは……大変お恥ずかしいのですが、私がたくさん食べたせいで、アカリさんが食べた金額が分からないんです。
 次お逢いする時はご馳走してください。
 これきりの出逢いにはしたくありません。よろしくお願いしますね?」

アーリルの"お兄様"の財布から支払ったのだから、アーリルが払ったわけではない。
年上が年下相手に奢っただけだが、そうじゃない。
これは大きなやらかしだ。
ならフォローも含めて次に逢うための手段に使わせてもらう方がいい。
これを機に交互に奢り合うならそれでいいし、次で一旦リセットしてもいい。
その時に決めれば良い。
アカリとなら美味しそうなお店を見つけたから行こうだとか会うための方便はなんでも良いし、方便すらもいらない。
でも、会えないのは、寂しい。

箱庭に辿り着いた。
曇りガラスの向こう側の景色が変わる。
ステージ設定は特に決めていない。
次に目を開けた先がステージだ。
だが今回は模擬戦だ。しっかりと柔軟体操をしてから愛槍を取り出すだろう。
ちなみにアーリルの体は異様に柔らかい。
180°の開脚の状態で胸や両肩が地面にピッタリと着く。
体を解すための柔軟は体操選手やバレリーナを思わせるほどだ。
身長を優に越える長槍を携え、アーリルは笑った。

「そういうことです。宣言通り、いろいろ吸収させていただきますよ、アカリさん!」

真紅の愛槍を細い指が撫でる。
その時、アーリルの口元が僅かに吊り上がっていくのが分かるはずだ。
令嬢の仮面が外れ、戦闘狂の顔が覗かせていた。

767アカリ:2023/10/17(火) 00:44:18 ID:5v6Z28Cc0
>>766

「むぅ、そう言われてしまえば仕方ないと言わざるを得ませんね、今度は此方もお金を貯めてから来ますのでその時にでも奢らせて下さい」
「私もこれが最初で最後の邂逅だったなんて嫌ですから、ね、まだまだ話し足りないし過ごし足りないんです」

箱庭の曇りガラスのような景色が晴れると其処は街中の大通りを──丁度アーリルが便利屋と一戦交えた区画のような──イメージしたフィールドだった。
アーリルが柔軟している間に少し距離を離し、戦いの支度を整える。
掌が発光するとそこから次々と光の玉が生まれ浮かび上がる。
そのうちの一つはアカリの手中に収まり光の長剣へと姿を変え、残りの三つは衛星のようにアカリの周りをくるくると周回する。
これにて準備完了、アーリルと向き合うアカリには隠し切れない喜色が浮かんでいて。

「こちらこそです!では!いざ尋常に──勝負!」

言葉と同時に周回していた光球の一つがアカリとアーリルの中心点近くの地面に飛翔し大地を砕く、これが開幕の号砲だ。
当たった箇所はまるで鉄球を叩き付けられたようになっている、直撃すれば意識を刈り取るのに十二分な威力があるだろう。

768アーリル:2023/10/17(火) 20:33:55 ID:ghE7.UrM0
>>767

目を開ければ街中の大通り、あの便利屋と会った場所に似ていた。
開戦の号砲にも似た光の球の威力は見て取れた。
当たれば意識を刈り取られそうなそれの速度は目で追えている。ならあとは体が反応してくれるだろう。
アカリを守る衛星は残り二つ。
おそらく意思に反応して動くのだろう。
攻防一体の技、どのように攻略するか。

「では、始めましょうか。」

アーリル自身が成功していない光の物質化を尻目に愛槍の半ばを持ち頭の上でまわし、腰を落とした。
穂先は地面に向いていて、石突は空へと向いていた。
その姿は肉食獣を思わせて、油断すれば喉元に真紅の槍が突き刺さるだろう。そんな捕食者としての圧。

「(まずは小手調べといきましょうか。)」

衛生の反応速度とアカリの反応を見るための一撃。
足音が出ない歩法から繰り出されるのは間合いを一気に詰める瞬動と言われる技術だ。
アカリにはアーリルが瞬間移動したように見えるかもしれない。
槍の間合いも込みで狙うのは心臓破壊の一点のみ。
瞬動で動いた力を的確に槍まで伝え、心臓破壊の一撃をアカリの心臓へ向け放とうとしていた。
この程度を何とかできないようであればアーリルの足を引っ張るだけだ。

769アカリ:2023/10/17(火) 21:39:43 ID:5v6Z28Cc0
>>768

(凄い圧ですね、流石はアーリルさんと言ったところでしょうか、ですがそれだけで臆する程に未熟ではないですよー?)

この雰囲気があるからこその模擬戦だ。
何の緊迫感もなく淡々と終わるような力量差なら話にならない、自分が役立たずだと証明してそれで終わりだ。

「でも、それは嫌ですので、全力で力を尽くします、懐にある勝利を奪い取ってでも勝ち!価値を認めて貰いますからね!!」

アーリルなら気付くだろう、瞬動をアカリは“目で追えている”、成功作の彼女には劣るが最終段階まで処分されなかった個体であるが故、アカリのスペックは一般人のそれを凌駕している。
アーリルの放つ神速の刺突、それを剣の側面で押さえ込むようにし軌道を逸らしながら刃をアーリルに向けて滑らせるように動かす。
このままではアカリは槍の側面で打たれる事になるだろう、けれどアーリルは槍を握る為の指を失う事になる筈だ。
致命傷を負わせず、戦力を致命的に奪っていく。
それがアカリという少女のやり方だった。

770アーリル:2023/10/17(火) 23:27:12 ID:ghE7.UrM0
>>769

指を落とした程度ではアーリルは止まらない。
再生するにしても、確かに痛みはある。
だが痛みに耐えるための基本的な訓練は積んでいるし実戦でも経験済みだ。
アカリの目を見て足捌きが見切られているのを悟ったアーリル。
アカリの剣がアーリルの指を3本落とす。
血が垂れ地面に落ちた指はあっという間に炭化し土へと還る。
だがその瞬間、切ったはずの指が生え揃っていた。

「…っ(私もまだまだ未熟ですわ。鍛え直さないといけませんわね。)」

見切られたのは悔しい。それと同時に見切る相手がいたことが嬉しかった。
そのような相手がいなければアーリルの成長は止まらないにしても鈍化するだろう。
アカリと同様で、人から外れてはいるものの、まだ肉体が完成しておらず、調整も済んでいない状態でも圧倒できる"はず"のカタログスペックをアーリルも保有しているが、今はまだ互角程度に収まっていた。

「クレバーな戦い方ですわ。怪我を負わないように、カウンター狙いの守る戦い方。実戦で培われた戦闘スタイルですわね。」

アカリがアーリルの動きを予測しているのならば、外す。
槍の武器としての強さである間合いの使い方。

例えそれが槍使いの常套手段であり、間合いの使い方であり、剣士と戦うための定石であろうと。
アーリルはアカリの足を踏みつけようとするだろう。
踏まれてしまえば槍の石突は脇腹からアカリの腹を食い破ろうとして、肺にまで届きうるだろう。
足は簡単には治らないだろうし、おそらく側面から打たれると予想しているアカリの予測を外せれば良いが。

771アカリ:2023/10/18(水) 20:42:46 ID:5v6Z28Cc0
>>770

一手目からアーリルを失望させるようにならなくて一安心、それと同時に強く思う。

(確かに逸らした筈なのに……手に痺れが、それに確かに落とした指が生えて、再生系の能力持ちですか!)

放たれた神速の槍撃は軌道を変えギリギリの所でアカリから離れる方向へ逸れていく、確かに直撃は凌いだ。
なのに手に稲妻が走ったような痛みと感覚が襲ってきた、明らかに力で自分が劣っている証拠だ。

「ふふ、褒められると嬉しいですね」
「でも私の本領はここからですよ、共に戦えるだけの力量が有るか否か、互いを高め合える戦友と成り得るかどうか、その目で確りと確かめて下さい──!!」

褒められたのは素直に嬉しい。
だがこんなものじゃ互いにない筈だ。
だからこそこうして刃を交えそれを確かめている。

戦局を改めて考えれば短い得物を武器としている自分の方が有利な状況、だからこそ油断をする訳にはいかない。
そんな事を考えた刹那、視界の端に映るのはアーリルの脚が動く所作、マズいと理解出来たのとベキという枯枝を踏み折るような音が足先から鳴ったのは同時。
神速の刺突を見た事で槍の動きばかり気にしてしまった、痛みと同時に失策を思い知り、異能の出力を最大限に引き上げる。

(困った時に停止したら命を落とす、思考も身体も異能も動かし続ける、それが生きる為の最善の手段、だから)

背から顕現するのは錐揉み回転していたアーリルを受け止めた際の光の翼。
爆発的な推進力を生み出すそれを斜め下に向けて用いて行うのは、踏まれていない脚を利用した無理矢理極まる跳び膝蹴り。
皮肉か奇遇か、アーリルの力が強くとも体重が軽いなら力で吹き飛ばしてしまえばいいというのは以前戦った便利屋が使ったのと同じ手段。
しかし馬鹿力で投げられた前回とは違い今回は小柄とはいえ人間一人を自由に飛ばせるだけの推力を攻撃力に転化した膝蹴りという受け身の取れない一点集中の攻撃。
狙うは腹部の中央、再生するにしても一旦内臓を叩き潰せば少しの時間は考えての行動だ。

772アーリル:2023/10/21(土) 20:43:00 ID:ghE7.UrM0
>>771

間合いをとられる時、長槍が輝く時だ。
アーリルが宙に浮かされるのは仕方がない。
推進力を得た膝蹴りに小さな体は浮かされるのは必然。
確かに体は浮き、内臓にダメージを負い、肋にも僅かな被害を負うが、アーリルは笑う。

「(いい膝をもらってしまいましたね。ですがまだまだこれから。)」

アーリルは内臓を潰された程度では止まらない。止まれない。一瞬苦しい表情を見せただけ。
痛みに耐える訓練は修了している。
痛みよりも戦いへの執着が大きく優っているあたり自身の体のダメージに頓着はしないのだろう。
一度槍を握れば内に秘めた戦いへの執着が顔を覗かせて、この執着を収めるには勝利か敗北かどちらかの結果を得るしかない。

だから。

アーリルは無意識に口を釣り上げていた。
楽しくて楽しくて仕方がない。
自分の武威がどこまで通じるか、通じなくてもいい、さらに鍛えるまでだ。

「アカリさんこそ、この槍で命を落とされないようにしてくださいね?」

浮かされながらも、無理やり叩き込もうとされている一撃。
アーリルもただお腹に膝を入れられだけでは癪だとばかりに攻撃へと意識を転換する。
両手で握りしめた愛槍をしっかりと握りしめ、アカリへ真上から愛槍を振り下ろそうとしていた。

773アカリ:2023/10/21(土) 22:30:24 ID:5v6Z28Cc0
>>772

(膝を入れたのに怯む様子がない、一緒なら頼もしいですが敵にすると厄介この上ないですね)

僅かにも時間を稼げないのは想定外。
立て直す為の時間くらいは欲しかったというのが本音だ、しかし叶わなかった事を嘆き続けても仕方がない。

(《障壁》、数は1、上方に左45°の傾斜を付け展開)

アカリの周囲を漂っていた衛星の一つが攻撃からアカリを守る障壁となる。
ただ壁となるのではなく斜めに傾斜を付ける事で受け流す事を目的とした守りと回避の壁だ。

(障壁が持てばそれで良し、けれど持たないでしょうから左腕はこの際捨てる覚悟でいきましょう)
(過剰付与を光剣に、光翼を『四枚』展開で一気に流れを持っていきます!)

アーリルの最上段からの振り下ろしで障壁は砕け散る、しかし、傾斜により僅かに軌道は逸れる。
それがそのまま左肩に直撃し片腕を使用不能に追い込むが……それでもアカリは、アカリの眼は死んでいない、寧ろ今がチャンスだとばかりに強く輝いている。
障壁が砕けた先に見えた光景は、今までの倍近く強く輝く光剣と四枚の光翼。

「アーリルさんこそ、これで死なないで下さいよ!」

推力全開、横方向に全出力を放出する事により玩具の駒のようにアカリは回転する。
光輝く剣を手にしたまま、だ、抵抗が無いならその剣撃は胴体を真っ二つに断ち割った後、数回転して漸く動きを止めるだろう。

774アーリル:2023/10/22(日) 19:11:45 ID:ghE7.UrM0
>>773

さきほど指が切られた際、確かにアカリの光の剣と槍は鍔迫り合いが"できた"。
さきほどもそうだ。
展開された障壁も打ち砕くことができた。
ならばアカリが持つ光の剣ごと打ち砕くことも不可能ではないだろう。

「私は体が分かれた程度では……」

アカリの左肩を砕いた感触が手に伝わる。
確かに砕いたが、まだ剣を使う腕は生きている。

アーリルの背中に怖気に似た予感が走る。
冷たい手で背骨をなぞられたような感触だ。
それにはいくつかの理由がある。
砕かれた障壁の先、その中からいくつか挙げるならば、胴体から泣き別れする可能性、そうすると死にはしないが少し隙ができる。
それから長槍故の取回しの悪さが邪魔をして槍を挟み込む余裕がないこと。

「死ねませんよ!!」

つま先と左肩を潰したが、翼の推進力のおかげで駒のように回っても支障がない様子。
さて、どうするか。
もちろん甘んじて胴体を二等分されるつもりなどないし、簡単に負けてやることもない。

ならば。
アーリルは長槍を引き戻し、地面に石突を叩きつける。
その反動で飛ぼうとしていた。
その姿は助走をしない棒高跳びのようで、槍を手放しながら自身の筋力で無理に飛ぼうとする。
もし何も追撃がなければ空に身を投げた先で槍を"呼び"、上半身のみの力を使って薙ぎ払おうとするだろう。

775アカリ:2023/10/24(火) 18:52:08 ID:5v6Z28Cc0
>>774

「あの再生速度からしてそうでしょうね!でも!」

此方の消耗が圧倒的に激しいが負けと決まった訳ではない、そう簡単に負けられない。
なにせアーリルと一緒にいたのは僅かな時間だが楽しかったのだ、彼女がとんでもなく良い所のお姫様な事くらいは自分でも解る、そんな彼女と一緒に行動したいと思うのなら力の一つや二つ示す事が出来なければならないだろう。

アーリルが飛翔したのを見て旋回しながら上体を倒し回転軸を縦方向に変え、そのまま遠心力を使用して光剣を投擲する。
狙いは多少甘いがそれは問題ではない、何故ならこの攻撃は──

「ドカン、です」

──言葉と同時に剣が砕け散り、炸裂する閃光。
これは負傷をさせる事を目的としたものではない、本来は相手を無傷で鎮圧する為の技。異能を用いた閃光弾だ。
一瞬だけだが圧倒的な光量を放つそれは例え夜であろうと刹那の間を昼に塗り替えるだけの力がある。
例え再生能力を持つアーリルであっても目を一時的に眩ませる事くらいは出来るのではないかと判断しての行動だ。

776アーリル:2023/10/29(日) 19:24:42 ID:ghE7.UrM0
>>775
飛来する剣、目を、視界を光で灼かれたアーリルは宙のまま視界を潰されることとなる。
わずか数秒、だが数秒。
この数秒はアーリルにとってあまりにも大きな隙となる。
アーリルは、”彼女”のように気配だけでアカリを探知することも、気配で得た情報を風で補完することもできない。
空にあったアーリルの身はバランスを崩し、わずかに姿勢が崩れながらだが、辛うじて足から地に着地できた。

「これは……光で目を潰されましたか。ですが、もう問題ありませんわ。」

アーリルの国では、この手の閃光弾は翼龍を落とすときに使う。
しかし自らが食らう立場になるとは思いもしてなかった。

アカリの周囲を回る衛星は”見た目通り”ならあとひとつ。
衛生一つで一本の剣を作成できた以上、今はまだ油断できない。
剣を作れるという想定の上で行動しなければならない。否、取り回しなどで使いやすい剣にしているだけで、盾や鎧を創造できるのかもしれない。
もしかすると槍も作れる可能性がある。あるいは弓か。

「では、改めまして。行きますわ。」

音がしない歩法から繰り出されるのは強烈な踏み込みからの横薙ぎ。
怪力に晒された槍がしなりながらアカリに迫ろうとしていた。

777アカリ:2023/10/30(月) 22:37:36 ID:5v6Z28Cc0
>>776

(最低限の立て直す時間は出来た、けれど長期戦に入ったら再生持ちのアーリルさんが圧倒的に有利、間違いなく負けますね)
(最初からそのつもりでしたが改めて覚悟を決めましょう、何を賭けてでも勝ちに行く、と)

数秒の沈黙の後、アーリルの視界が戻った時にはアカリの背から光の翼は消滅していた、どころか周囲を漂う光の球までも消えていた。
負傷した身では勝機は薄いと勝ちを諦めた──という訳ではない、寧ろ少女の眼光には覚悟を決めた人間特有の冷たさに似た強さが宿っている。

「一回限りのフェイントですがアーリルさん相手に数秒の時間を稼げたんです、これは十分過ぎる戦果ですよ」

小さく笑み、アーリルが攻撃を繰り出して来るのをただ待つ、脚と片腕を負傷した今、自分から積極的に攻撃を仕掛けても効果は薄いと判断しての事だ。
そして、その時がやってくる。
アーリルが無音の踏み込みから持ち前の膂力による渾身の一撃を放った瞬間、腰を深く落とし一瞬で姿勢を低くする。
体勢の急激な変化に追い付けなかった長い髪が槍の一撃で宙に散らばるが、そんな事はどうでもいい。

「アーリルさん!受け止めて下さいねー!!」

そして唐突に、全身を使ってぴょんとアーリルに飛び付き抱き締めようとするだろう。
脚を負傷した状態でそんな事をすればどうなるかなど一目瞭然だ。
前者の場合、アーリルが回避したならば無様に地面に倒れ込むだけ、絶大な隙を晒しそのまま呆気なく追撃を受けるだろう。
そしてそれは致命傷で、箱庭からの退場に即繋がる筈だ。
だが、アーリルが回避しないか出来ないのならばアカリがアーリルを押し倒す形になる。

そして後者の場合。
アーリルは光の球の行方を知るだろう。
天に昇るのは二つの太陽、否、一つは打ち上げられた光の球、それが剣に形を変えてアカリ諸共アーリルを貫こうと急降下してくる光景が視界の端に嫌でも入るだろう。

(ふふ、凄い再生能力のアーリルさんでも、心臓が止まれば脳に血液が行かなくなり嫌でも一瞬意識を手放しますよね?)
(すぐに再生するでしょうから実戦では無意味かもしれませんが……『此処』では意識を手放した者の負けになる)

778アーリル:2023/11/03(金) 23:42:48 ID:ghE7.UrM0
>>777

横薙ぎを躱されても少女の顔は一点の曇りすらなかった。
アカリと交わされる視線。
アカリの覚悟の決まったソレを見てもアーリルは変わらないどころか口の端を釣り上げた。
自傷を折り込んで振り切った腕を戻すのは叶わない。

「(来ますかーーーー)」

アカリは勝とうとしている。
システムを利用した勝利だが、アーリルはシステムを利用しない勝利を望んでいる。
システムでの勝利は"この場"でしか得られないもの、今はいい。
だがこれが箱庭外ではどうだろうか。
アカリの"本当の"実力を引き出すまではできていないし、アーリル自身の実力も明かしていない。
思った以上に負傷が尾を引いているようで動きに精細を欠ける様子かと思えば飛び込んできたぁ?!

槍の穂先で斬られた髪を一瞥し、自らに飛び込んでこようとするアカリを無意識に抱き止めようとしたのは一瞬だった。
両手で握った槍の片方の手を離し、アカリに押し倒されたところで急降下してくる剣を眼にする

「これは、当たりますか。」

無意識に受け身を取るが、全てを受け流せず。
動けないわけではないが、致命傷を避けるために何とか片手で槍を操り、切先を逸らそうとしようにも間に合いそうにもない。

「高祖母様、お力の一端、お借りしますわ。」

どこからか現れた一枚のカーディガンがアカリに乗る。
見た目は特に変わったところの無いカーディガンだが、
対魔・対刃が施されている礼装だ。
低ランクの魔術や量産品の刃など通さないものだが、異能でできた剣だとどこまで対応できるか不明だ。

779アカリ:2023/11/04(土) 00:02:51 ID:5v6Z28Cc0
>>778

(悔しいですが今の負傷した私では最大の力を叩き付ける戦術は叶わない、いえ、やろうと思えば出来ますがアーリルさんを越えれる一撃を放つ事は叶わない)
(システム上の勝利というのは少し気に入りませんが、今の私ではあれも出来ないこれも出来ない、なんて嘆くよりはルールの穴を突いてでも勝利を目指す方が余程良い)

「でも、まだこの状況を変えれる手持ちがありましたか……これは判断を誤りましたね」

急降下する刃は落下の加速を得たからだろう、カーディガンとその下にいる二名を串刺しにするだろう。
だが、これではアカリの目標は叶わない、カーディガンで護られた事により剣先がブレてしまった。
アカリの背から肺を貫きアーリルを狙い飛び出す刃、しかしそれは心臓を狙うものではない。
心臓の近くの何処かの部位を穿つに留まるだろう。

780アーリル:2023/11/04(土) 11:01:49 ID:ghE7.UrM0
>>779

心臓を掠った"だけ"
常人では致命傷だが、アーリルにとっては軽い傷。
放っておいたら治る、その程度の傷だ。

「まだまだ状況を変える手札はありますよ。ですが、このような形で披露するとは思いもしませんでした。」

カーディガンはまだしも、もう一つの"遺品"は少女では未だ持つことすらままならない代物だ。
アーリルの体にまで突き刺さっている剣は完全にアカリの体を貫いている。
致命傷であれど、即死ではない。
なまじ生き残ってしまっているからだろう、だがこれ以上アカリは動きはできないだろう。

アカリとアーリルの間に差し込もうとする。
アーリル自身の体に切創ができるがどうでもいい。
アカリの体を持ち上げれば自然と剣も抜けるはずだ。
テコの原理でアカリの体を持ち上げ、アカリの懐から抜け出そうとして。

「アカリさん。あなたの傷は深いです。それでも立ち上がりますか?」

"立ち上がれない"可能性もあるだろう。
これだけの深い傷だ。もはや話すことすらも覚束ないだろう。
だが、この場に限っては決着をつけなければならない。

781アカリ:2023/11/04(土) 20:26:53 ID:5v6Z28Cc0
>>780

落下してきた光剣は丁度アカリの右胸を貫いている、素人目に見てもそれが肺を大きく損壊させているのは明らかだ。
気道に溢れかえってくる血で呼吸すらままならない、アーリルが退かそうと思ったのなら小柄な少女の身体は簡単に動く事だろう。

ごほ、と濁った咳をすると同時に血を吐いて。
それでも手から光球を、光球から光剣を作り出しそれを杖代わりに言う事を聞かない身体を無理矢理起こす。
もう声を出す事すらままならないが、それでも立ち上がり、アーリルに向けて光剣を構え直す。

(めのまえがくらい、むねがいたい、こえがでない)
(でも、失血死なんてごめんです)
(付き合ってくれたアーリルさんの為にも、私自身の為にも、最後まで──)

背から再度現れる二対の光の翼。
それは今にも消えてしまいそうに儚く瞬いている。
だが、今はまだその機能までもを失った訳ではない。
剣を正面に構え、震えながらも力強く、無事な脚で一歩を踏み込んで、その瞬間に異能を最大限の出力で起動する。

(もう身体が持たない、でも諦めたくない、ならダメで元々、一撃逆転の心臓狙い)
(アーリルさん、私の最後の一撃です、受け取ってください)

放たれるのは全身を使った単純な突き。
異能を用いて放たれるそれは満身創痍ながらも速度は閃光の如き速さ、並みの人間では目に止める事すら出来ないだろう。
ただし、限界の身体ではそれ以上の事を意識する事は出来ていない、速度を目で追う事が出来るアーリルならば、突きに対してカウンターや回避を狙う事は難しくはないだろう。

782アーリル:2023/11/05(日) 00:32:46 ID:ghE7.UrM0
>>781

アーリル・フォン・ルズィフィールは戦士であろうとしている。
感情が乗っていない光がない眼。
躊躇なく目の前のアカリを殺すための眼を宿していた。

故に目の前のアカリが文字通り血反吐を吐きながら自分へ相対しようとしている姿を見て、止めはしない。
そして構えるまで待つ。ここから先は命をかけた一撃を放つしかないと分かっているからだ。
儚く瞬く光の翼が線香花火を思わせる、散る前に輝く光。

アーリルも相手が変われば立場も変わる。
アーリルは怪物たちに揉まれて育てられてきた。
だからこそ"わかる"
勝ちたい、通したい意地を通すため気力で立っているアカリの状況。

「命を焚べ、心臓を燃やし尽くしてください。」

ーーでも、私には届くかしら?

アーリルの胸に光の剣が吸い込まれる。
と同時にアーリルの貫手がアカリの胸目掛け伸びる。
冷たい眼がアカリを捉えていた。
キッチリと殺すという意志を貫こうとする眼だ。

783アカリ:2023/11/05(日) 22:28:01 ID:5v6Z28Cc0
>>782

アーリルが迎え撃とうとしているのは霞む視界でもなんとなく理解出来る、理解出来るがフェイントに回せる余力はどちらにせよない。
もう今出来る事は呼吸が完全に止まる前に、血が流れ切る前に、最期の一撃を叩き込む事だけ。

故に迎撃されるのは承知で真っ向から突っ込んで、アーリルの左胸に光剣を突き立て、同時にアカリの胸にアーリルの貫手が突き刺さる。
ごほ、と大きく血の塊を吐き出した後その身体は姿勢を崩し、アーリルにもたれかかるように倒れるだろう。
それから10秒もせずにびくりと痙攣した後に身体が無数のデータの分解され消失する、この世界での死を迎える筈だ。

(ああ、勝てなかった、悔しいなぁ……)

784アーリル:2023/11/10(金) 21:39:37 ID:ghE7.UrM0
>>783

「お疲れ様でした、アカリさん。」

アーリルにもたれかかったアカリの頭を撫でた後、データの海に消えていく姿を最後の最後まで見ていた。

「……修練をさらに厳しいものにしましょう。」

深呼吸を数度し、頭を切り替える。
このルーティンを行うことにより少女は戦闘用の思考から抜け出せる。
槍を手放し、カーディガンをしまう。

それからアーリルも自然と箱庭から光の粒に消えた。
広場に戻ってきたアーリルは目を細めて空を眺めていた。
基礎のレベルを上げてから足りないもの、伸ばしていきたいこと、そんな課題が浮き出た戦いだった。

785アカリ:2023/11/11(土) 20:17:31 ID:5v6Z28Cc0
>>784

「お疲れ様でした、アーリルさん、悔しいですが今回は私の完敗ですね……でも次は同じようにはいきませんよー!」

虚構の世界を抜けて現実の広場に戻れば、そこにはほんの一瞬先に戻ってきていたアカリの姿がある。
負けた事は悔しいがその場の機転なども含めて最善は尽くしたからだからだろう、彼女はさっぱりとした笑顔をアーリルに向けていて。

「しかし、いくら力が有っても大きな得物を扱うには体格が大きく影響するのにああも槍を操れるなんて……相当な訓練を積んできたんですね」

アーリルの戦いぶりを目の当たりにして一番に思った事はそれだ、再生能力なども脅威的ではあったがそれよりも特筆したいのは彼女の武技の練度の高さ。
自分も色々な武器を作り出す事が出来るからこそ、試してみたからこそ解る、大きな武器というものは扱う人間にも相応のものを要求してくる。
体格もその一つ、だからこそその常識を捩じ伏せて槍を自身の身体の延長線上のものの様に扱うアーリルへの素直な敬意が湧いてくる。

786アーリル:2023/11/12(日) 01:01:26 ID:ghE7.UrM0
>>785
「アカリさん、お疲れ様でした!次も私が頂いて行きますわ。」

機動力を削ぐのも武器を振るうための肩を壊そうとするのも戦士としての戦い。
騎士として正々堂々剣や槍の腕を競うのではなく、相手に勝つために壊す戦い。
どうして”勝ちたい”と思ったのだろう、アーリルは思いに耽るが、意外と簡単に結論が出た。
アカリはアーリルを”認めてくれているから”だ。
アーリルは生まれてこの方武力で認められなかった。でもアカリは認めてくれる。

「普通のものよりも長いものですからね、まず自身の体にぶつけないように取り回しができるようになるまで相当時間が掛かりました。」

アーリルの戦い方は一般的な槍よりも長いものだが、フィジカルに任せているところもあるし、特別な槍でもあるが、それに助けられているところも多々ある。
体格に関しては将来に期待といったところ。
アーリルの槍の取り回しの秘密は長槍をどの位置で握るか、だ。間合いを徹底しているといってもいい。
槍に限らず剣や他の武器を握ってもある程度の強さを発揮できるだろう。

「一日数時間地面を転がされ続けた結果ですので、技能について自信がありませんの。ですが腕を褒めていただいて嬉しいです。ありがとうございます。
 アカリさんが回転を始めたときはどのように切り抜けようか一番必死に考えましたよ。攻防一体の恐ろしい攻撃でした。」

あのときはたまたまどうにかなっただけで、別の方法からあの攻撃に繋げられたら槍一本で切り抜けるには難しいだろう。
あとは推力を生かす高速戦闘になれば、アーリルは恐らく防戦に寄る戦いになるだろう。

787アカリ:2023/11/15(水) 00:05:35 ID:5v6Z28Cc0
>>786

「今回は勝つ為とはいえ奇策に頼って失敗しましたが、次は異能も武技も鍛えて根本的なスペックを上げてから出直して来ますね!その時まで勝利の台詞は預けておきますから!」

好戦的な台詞を言いながらも、こんな軽口が叩ける事が楽しくて仕方ないのだろう、顔に浮かぶのは満面の笑み。
アーリルとは境遇が違うが賞金首を狩るとなれば一人前の働きが出来て当たり前と見做される、当然実力を褒められる事もないし腕と頭の足りていない奴から“辞めていく”だけの世界だ。
互いに実力を認め合い高め合うこの瞬間は何よりも尊く感じられるもので。

「やっぱり修行の賜物ですよね、でもその武は誇って良いと思います」
「何時間も転がされて血と汗と泥塗れになりながらアーリルさん自身の手で掴んだなにか、それは絶対にアーリルさんのものですから」

「と、そんな感じで自分を少し認めてあげても良いんじゃないでしょうか、無論慢心はダメですが、先週の自分に出来なかった事を今週の自分は出来る、それって凄く偉大なる事じゃないですか?」

788アーリル:2023/11/18(土) 00:40:15 ID:ghE7.UrM0
>>787

アーリルの実践相手は強さの物差しが違う。
アーリルがセンチ刻みの定規で強さを測るのならば、アーリルの相手はメートル単位の定規でしか強さを測れない。圧倒的な格上だけを相手に、上澄の中の上澄には相手にされず。
そんな環境の中で変わるがわる数人に1日の半分程度の時間を転がされ続けて10年と少し。
初陣を終え、何とか半人前に漕ぎ着けた。
基礎はつけた。あとは自分で考えて実戦で強さを練り上げていく。その過程の中だ。
かつての記憶を辿れば、血に塗れた自分がいた。
だから、アカリに承認されて、励まされて。
無駄ではなかったのだと、無理だからと諦めなくてよかったと。
そんな感情が溢れて、右目から涙が一筋流れた。

「いいえ、次も私がいただきますよ。
 今回は槍の出番が少なかったですから、次回は槍もレイピアも使って勝たせていただきます。」

アカリを見つめる顔は穏やかなもので。
アーリルとは戦いに身を投じる理由が違う。
それでも行く先は人並みの生では満足できない、ある種歪な生き方か死か。
生か死の中で磨かれる技術こそ、身を立てるのに必要なもの。

「……そうかもしれませんね。もう少し自分に優しくしてあげてもいいのかもしれません。」

自分に優しくできるかどうかといえばどうだろうか。
自分の目標となる人物の武勇に近づき追い越したい。
その先に何があるのかわからない。でも、それまでは止まれない。

789アカリ:2023/11/18(土) 21:50:26 ID:5v6Z28Cc0
>>788

アーリルの目から流れた涙には気付いてもそれに敢えて触れる事はしない。
それだけのものを彼女が抱えていた事は初対面でも容易に想像が付くし、だからこそそれを本人が開示しまいと強く振る舞う間はその意思を尊重したい。
ただ、彼女がそれに耐えかねて潰れてしまいそうな時には、その前に一人の友人として支えたいと思っている。

「では次も全力を尽くした死闘になるでしょうね、それまでに腕を磨いてより良い時間を過ごせるようにしますから、お互いに頑張りましょうね」

穏やかな微笑みを浮かべながら、アーリルの顔をしっかりと見る。
その視線は境遇も年齢も何もかも違うが一人の対等な人間を見るもの、アーリルをアーリル以外の何者とも認識していない、そういう眼だ。
奇遇か皮肉かそれとも因果か、それは彼女の成功体であるリイスがアイリスに向けたものと同質の物。
恵まれた境遇にある人間だからこそ持ち得る、金でも立場でも得られない『人間』の掛け替えのなさを知るが故の視線。
それを彼女はアーリルに向けていて。

790アーリル:2023/11/19(日) 02:06:39 ID:ghE7.UrM0
>>789

アーリルは才能がないと言われ続けた。
とにかく弱いと叩かれ続ける日々。
叩かれるのはまだしも支えられるのはほとんど無かった。

「そうですね、アカリさんの底はまだ見えませんし、見せておられないでしょう?」

アーリルもまた、同様だ。
当然、次も勝ちを頂いていくつもりでいる。
実力を出しきれていないし、まだ槍の腕を見せきっていない。

「…、アカリさん、ありがとう、ございます。」

アカリの視線は決して侮蔑の類の視線ではないとわかる。
落胆の視線でもなければ哀れみの視線でもない。
ただのアーリルとして見てくれて、ありがとうございます。
今更流れた涙に気づき、穏やかな笑顔を浮かべた。

791アカリ:2023/11/23(木) 03:03:26 ID:5v6Z28Cc0
>>790

「私が未熟なばかりに出し損ねた、というのが正確ですけれど、そうですね……使えなかった技はまだ沢山有ります」

これはアカリが猛省しなければならない部分だ。
浮遊する事で平然と戦えているように見せかけてはいたが序盤で足を潰されたのはかなりの痛手だった。

「何もしてませんよ、だってアーリルさんも同じように思ってくれているでしょう?」

微笑みに釣られるように微笑んで。
彼女にとってこれは“当たり前”の事。
礼など言われる事ではないし、そうでなくとも成り立つ関係を目指したい。
初対面でそう思ってしまうのは強欲なのかもしれないが、それだけアーリルという人間に好感を抱いているのだ。

792アーリル:2023/11/27(月) 12:43:37 ID:4GaSeYbI0
>>791
「私こそ出せなかったものはたくさんあります。
 槍の長所を引き出せているわけではありませんので。」

つまりはまだまだあるということ。
槍の長所もそうだが、握る場所を変えることによる間合いの調整もほとんどできていない。
今回は槍を使えていないという結論に達する。

「こういう時は、何と言えば良いのでしょう?」

可笑しいのか、口元は僅かに釣り上がり、目には見てわかるくらいの喜色。
この場にふさわしい言葉は幾つか察するも、この場において最も適切な言葉が見つからない。

793アカリ:2023/11/28(火) 23:28:47 ID:5v6Z28Cc0
>>792

「ならやはり次は激戦待ったなしですね、私も持てる手を使い切るつもりでぶつかりますから、アーリルさんも是非そうして下さい!」

どこまでも明るく陽光のような微笑みを零す。
彼女のとってアーリルは最も身近に出来た超えるべき目標であり切磋琢磨すべきライバルだ。
それと競い合い高め合える機会が今後もある事が嬉しくて仕方ないのだろう。

「無理に言葉にしなくてもいいんじゃないですかね、この気持ちが私達の間で通じ合えばそれで十分じゃないでしょうか?」

何も言葉にする事が全てとは限らない。
お互いに同じ気持ちを持っているのなら、無言の間に同意が成立するのならそれもある種の“会話”だ。

794アーリル:2023/12/02(土) 23:59:32 ID:ghE7.UrM0
>>793

おそらく次も異能は使えない。
もし使用できるのなら、使える手札が大きく増える。
純粋なフィジカルと自身が積み上げてきた戦闘技術から異能を織り交ぜた天地を焦がす戦い。
そんな戦いになるだろう。

「そう、ですね。アカリさんはこれからどうします?
 私は幾つか行くところがございまして。」

"兄様"を満足させるために兄様と合流して回って。
少しお腹が空いたので甘いものでも食べてから動き出すだろう。

795アカリ:2023/12/06(水) 22:58:46 ID:5v6Z28Cc0
>>794

「私の用事は特には……正直に言えばもう少しアーリルさんやそのお兄さんと親交を深めたい所なんですけれど、流石にこれ以上は迷惑ですよね?」

相変わらずの素直な返答。
アーリルともそのアーリルが兄と慕う人物とも関わってみたいのが本音だが、それで迷惑をかけては元も子もない。
アーリルとはこの短時間で親交を深められた気がするが、お兄さんとはほぼ面識無し、空気を台無しにしてしまうのは本意ではない。

796名も無き異能都市住民:2023/12/09(土) 21:52:38 ID:ghE7.UrM0
>>795
アカリに一言断りをいれて、アーリルはスマートフォンを取り出して操作を始める。
通話だろうか。コール音が二度、三度なる頃には相手が電話に出たようで、一言二言話し始めてから数分。

「ええ、わかりましたわ。”兄様”の周囲から察する限り、私達が行けば良いですね。」

ノイズキャンセリングされても貫いてくる怒声や罵声が聞こえても通話相手は健在のようで、笑い声まで聞こえてくる。
ドゴォ、バキィといった殴打する音や何かが固いものに突き刺さるような音の中、通話は滞りなく進んでいく。

「なるべく急ぎますわ。少し眩しくなると思いますけれど、お気になさらずに。」

アーリルは空を眺めた。
瞬く空ではあるが、アーリルが知る空に比べると濁って見えるそれを見て、目をつむり、祈った。

「”天の穹窿を横切り黄金の逆月を携え■■■■■を航行する君よ。御身の祝福を我が身に”。」

それは祈りの歌。
かの■■の力を借りるための聖句。

「アカリさん、”兄様”が不遜の者に襲われているようです。ご助力願えますか?」

常に空にあり、地上のすべてを見つめる■■■の力のほんの一部を借受け、軽く手足を動かす。
早く動くためには、街中はあまりにも機動性が落ちる。
近くに無いはずの乳香の香りと居ないはずの雄鶏の鳴き声が感覚を刺激する。

797アカリ:2023/12/10(日) 22:58:43 ID:5v6Z28Cc0
>>796

「喜んで、面倒なので単刀直入に聞きますが私の異能を使って“飛んで”いきますか?急ぎなら多少荒くはなりますが……速さは保証しますよ?」

賞金首狩りなどをしている以上場数は最低限踏んでいるのだろう、先程までののほほんとした空気は吹き飛び仕事をする人間のそれに変わる。
兄様が不審者を勢い余って木っ端微塵にしてしまうリスクがあるのか、兄様を苦戦させる猛者がいるのかはわからない。
後者なら助力は必須だし前者でも敵に対して加減を効かせられる自分達が向かった方が状況は良くなるだろう、なら、その為に異能を活用するのは惜しくない。

意識を集中して異能を起動、背には四枚の光翼を展開しアーリルの返事を待つ。

798アーリル:2023/12/11(月) 22:23:23 ID:ghE7.UrM0
>>797

「お願いします、アカリさん。
 私はどのような体勢でいればいいのでしょう?」

アーリルの心配はどちらかというと襲撃者側。
"兄様"は長身で筋肉ムキムキの体だが、動きが遅いわけではない。
怪物のようなフィジカルで襲撃者側がすり潰されていないかの方が心配である。

「"兄様"はここから北東の方角にいます。距離は分かりませんが、空から見るとおそらく見逃す可能性があります。
 加減はお願い致しますね?」

先の模擬戦で機動力の高さは分かっている。
とはいってもアーリルが今分かるのは薄ぼんやりとした方角だけ。
更に空から一人の人物を探し出すという困難な課題。

「ルーンが刻めたら早いのですが、あいにくと刻めるものがありません。アカリさんが頼りです。」

槍やレイピアはあるが、人々が歩く街中で使えるようなものはない。
石畳やアスファルトを壊せば調達できるが、この手段は使えそうにない。
だからアカリの異能が頼りだ。
だからだろうか。"乙女の秘密を守る魔法"をこっそりと2人分かけた。

799アカリ:2023/12/13(水) 20:54:52 ID:5v6Z28Cc0
>>798

「……お姫様抱っこと猫みたいに抱えられるの、どちらが好みです?」

どうやら具体的な運び方まで考えが到っていなかった様子。
異能の推力に任せて飛翔する以上アーリルの体重くらいなら問題なく運べる、気にするのは周囲から見てどう映るかだ。

「承知しました、北東ですね、地上の様子が確認出来るように高度は少し控えめで行きます!」

あの高い高いの方向を誤ってアーリルを砲弾のように吹き飛ばしていたお兄さんが戦っているなら上空からでも何かしら確認出来る戦闘の痕跡や余波があるだろう。
後は裏路地の奥など視認し難い場所にいない事を祈るばかりだ。

800アーリル:2023/12/13(水) 23:13:19 ID:ghE7.UrM0
>>799

お姫様抱っこか抱えられるのかどちらが好みか。
想像してみる。
猫のように首根っこを掴まれて空を飛ぶ…?
横抱きにされて幼い子供のようにアカリにヨシヨシされながら空を飛ぶ…?
それとも両脇に腕を通して手足を脱力し、タケ◯プターを使っている時のような姿勢で…?
お姫様抱っこなら私はアカリさんの首に手を回して…周囲の祝福のコンフェッティシャワーの中笑顔で見つめあって…?
アーリルの脳を駆け巡る存在しない記憶。
幾度となくした喧嘩、仲直りの模擬戦。他愛のないおしゃべりをしながらテーブルを囲い、お茶と菓子を楽しんだ。
多くの時間を共に過ごし、たくさん喧嘩をしてその分仲直りをして。
思った以上に自分は甘えん坊だったのを知り、今日この日を迎えた。
ハッとした顔のアーリルは頭を小さく振った。

「ええと、お姫様抱っこでお願いします。
 あまり脂肪はつけていないつもりですが、その、重いかもしれません……が、よろしくお願い致します。」

苦渋の決断を終えたような顔でありながら、顔は赤い。
子供扱いされたくないし、純粋に恥ずかしい思いと。
でも空の移動を選んだのは自分で。
両腕を広げて、半身をアカリに向けるように立った。
真正面から抱き付かなかったのがせめてもの抵抗だ。

「飛び跳ねるのは慣れているのですが、文字通り飛翔は慣れておりません。だから抱きつかせてください。」

少し恥ずかしそうに伏し目がちに答えた。

アーリルをお姫様抱っこしてみると、密度が高い筋肉に覆われた体ではなく、腰のくびれに対し、足はしっかりとしていたりと女性の体に近づきつつある様子がわかる。
どこがとは言わないが意外とあり、長物を振り回す体には到底思えない印象を与えるだろう。

801アカリ:2023/12/15(金) 23:26:30 ID:5v6Z28Cc0
>>800

アーリルの頭を過った存在しない記憶に気付ける筈なんてなく、何故赤面しているのだろうと頭の上にはてなマークを浮かべながら承諾する。

「じゃあお姫様抱っこで……アーリルさんの体格なら多分大丈夫ですよ!」

そういって手を伸ばしアーリルを抱え上げる。
想像通りその身体は軽い、というか間違いなくさっきのステーキハウスで食べていた総重量より軽い気がするのは気のせいではないだろう。

(あ、柔らかい、私より遥かに女の子してますね……ちょっと羨ましいです)

アカリの身体は良く言えばスリム、悪く言えば凹凸の少ない貧相な体型だ。
少なくとも胸部に関しては完敗している事を実感しながらも、今はそんな場合ではないと思考を切り替える。

「それじゃあ乗員はお一人様で!テイクオフです!」

言葉と同時に煌めく背の四枚の翼。
それから異能の力が推力に変換され吐き出され、アーリルを抱えたまま宙に少女の身体は舞う。
目指すは北東、ある程度の高度に達し次第、進路を其方に向けて前進を始めるだろう。

802アーリル:2023/12/16(土) 13:23:40 ID:ghE7.UrM0
>>801

まだ成長しきっていない体のために適度に脂肪を残した体は、ステーキハウスで食べた肉をすでにエネルギーに変換していた。
それで満腹感を与えているのは不可思議な体だ。
食べられる時にしっかりと食べる戦士だからか。

「本日は搭乗ありがとうございます。機長はアーリル・フォン・ルズィフィールです。」

ある程度の高さまでは余裕があるようで、その高さは普段から飛んで落ちている高さだからだ。
お姫様抱っこされながら意外な余裕を見せる。

「ただいま進路は北東に進んでおります。建物などから大きな音がしたら恐らく"兄様"がいらっしゃいます。」

眼下には都市のビル群をはじめとした建物ばかり。
しっかりとアカリの首に両手を回し、ベッタリとくっつきながら、あれこれと話し始める。

「この周辺でしたら、建物や重たい何かの動きがあるところに行ってください。」

アーリルのナビは"兄様"の戦い方は怪物じみたフィジカルに任せた野生的な戦い方に由来する。
並の怪物を縊り殺せるフィジカルモンスターである"兄様"が動く時は、"地上から車が飛んできた""人が建物の高さより高く飛んでいる"
など常識を捨てなければならない。
お姫様抱っこをされてみて分かるが、思いの外視界が狭い。首が回る限界を思い知らされる。

アカリたちが動き出して十数分が経った時だろうか。
地上では裏通りと呼ばれる場所で揺れているビルが目に入るだろう。
近づいてみれば、建物に大きなヒビが入っているのがわかる。

803アカリ:2023/12/17(日) 04:36:40 ID:5v6Z28Cc0
>>802

(うーん、不思議です、でもこの燃費を考えたらあの膂力も何となく納得出来るような……いや、あの力を振るって自壊しないあたりやはり素のスペックでは圧倒的なものがありますよね)

まあこれについて深く考えても仕方ないだろうと思考を打ち切る、どんな仕組みであれアーリルはアーリルだ。
いっぱい食べる娘とだけ記憶して、何か一緒に行動する時にはそれにだけ気を付ければ良いだけ。
難しい話でもなんでもない。

「なるほど機長、建物から大きな音がしたり動いたら……建物が動いたら?」

なにそれこわい、恐竜レベルの生き物が暴れても建物が動くってそうはないと思うのですけれど?
そんな発言をしたくなったが砲弾式高い高いを思い起こし考えを改める、愛情込めた高い高いでアーリルを地面に突き刺すかもみじおろしにするかの二択をうっかり迫ったあの人ならやりかねない。



「あ、機長……なんかビルが揺れてます、近くに緊急着陸してみますね?」

そう言いながら高度を下ろしてみれば見えるのはビルに走った大きなひび割れ、間違いなくこの周囲にお兄さんはいるだろう。
というかいないとなるとお兄さんレベルのゴリラがもう一体街で暴れている事になるので是非此処に居てほしい。

804アーリル:2023/12/17(日) 16:39:58 ID:ghE7.UrM0
>>803

アーリルは確かにカタログスペックでは非常に優れている。
フィジカルに優れ、回復力も優れている。
シンプルな肉体の強さとそれを使用する武器の使用。
また異能もキチンと認識させ、経験を積ませれば優れた戦士になるだろう。
そのために作られた。千年を超える超長期政権のための歯車。
そんな宿命は本人の預かり知らぬところであるのが救いか。

「あら、ビルが揺れちゃっているなら"兄様"がいるかもしれません。
 少し離れたところに降りて、それからは自分たちの足を使いましょう。」

グラグラと揺れるビル。燃え盛る乗用車や空を飛ぶ軽自動車。
ひっくり返っている乗用車、引きちぎられた街灯や道路標識。歪に凹む舗装路。
根元から引き抜かれた形跡がある電柱。
この光景だけ見れば災害に遭ったような光景だが、たった1人の生き物のパワーに引き起こされた。
この周囲に事務所を置く反社会組織がたった1人のために傘下の壁を越えてコラボレーションしていた。

アカリとアーリルの耳には人と車がぶつかったような衝撃音や舗装路を踏み砕く音と地面に伝わる揺れ。
アーリルは少し困った顔をしていた。

「あははは……兄様、少し気が立っているようですね
 兄様であって欲しいのですが。」

805アカリ:2023/12/17(日) 20:23:49 ID:5v6Z28Cc0
>>804

「そうですね、あまり近くだと思わぬ流れ弾に当たりかねないですし、そうしましょう」

ビルを揺らすくらいの力を持っている人間の側に不用意に近付いたら、悪意は無くとも瓦礫の破片などが飛んできそうで怖い。
この惨状を見る限りではかなりの人数と戦っていそうだし集中砲火を浴びている可能性もある、近くに突然現れるのはそちらの方面でも危険だろう。
アーリルの言葉に異議はなく、素直に少し離れた場所に着陸しお姫様抱っこをやめて地面にゆっくりと降ろす。

「そうですか、気が立ってるんですね……」

ちょっと遠い目。
この暴れっぷりの時点で何となく分かっていたが身内が言うなら確定だろう。
問題はこれからどうするか、お兄さんが止まらなかった場合には敵対している人達をお兄さんがあの世まで吹き飛ばしてしまう前に無力化、鎮圧する必要がある。
止まってくれた場合はそれはそれで問題だ、多分争っている相手は反社会的な人達、ここまで暴れて面子を潰してくれた相手を簡単に帰してくれるとは思えない。
となれば結局戦闘は続行、相手の無力化はどちらにせよ必須になる。

「あれ、アーリルさん、もしかしなくともこれって戦いが避けられないのでは?」

806アーリル:2023/12/18(月) 00:04:56 ID:ghE7.UrM0
>>805

「おそらく、すこーし気が立っているだけです。」

少し歩いた先にアカリとアーリルが目にしたものは。
長身の筋肉ムキムキのマッチョマンが軽自動車の助手席側のフレームを掴んで持ち上げ、尻餅をついた男に振り下ろそうとしていたところだった。
尻餅をついた男の顔の横に叩きつけられる自動車。
建物に突き刺さった軽自動車は大きな音を立て、部品を散らかしながら落ちた。

周囲には如何にもといった男たちが寝転がっており、血の海に沈んでいた。
死なない程度にはしている。
血の海に沈んでいたと言っても大男からすると少し小突いた程度なのだが。
車や電柱で軽く小突いてやり返したくらい。

『つまんねーな。あれだけ見栄張ってこのザマかよ。気合い足りてないんじゃねーの?』

大男はヴィルヘルムという名だ。
ヴィルヘルムはアイリスを探しながら散歩がてらに歩いていたが、反社会組織の輩に絡まれた。
だからボコボコにしただけなのだが。
股間を濡らした男の胸ぐらを掴んで鼻先がくっつきそうなくらい顔を近づけて。

『喧嘩売る相手くらい選べよ、お前ら。
 今日の俺の機嫌は良いからな、今日はこれくらいにしておいてやる。』

邪魔だ、と言い、漏らした男の顎先に人差し指を当て、そのまま路地裏に放り投げた。

『俺はヴィルヘルム。まだ喧嘩したいなら全員で来い。今度は後悔させてやるよ。』

そんな様子のヴィルヘルムこと"兄様"を見て、アーリルはほっと一息。

「アカリさん、大丈夫です。思っていた以上に被害は少ないです。」

何が大丈夫なのか分からないが、近隣の環境が激変しているのは変わらない。
スマホを操り、通話音。
一言二言話すと、スピーカーに切り替えて。
"ヴィル"
この一言で大男の首はギギギと油が切れたブリキ人形が首を回してアカリとアーリルを見た。

807アカリ:2023/12/19(火) 23:29:32 ID:5v6Z28Cc0
>>806

「うわぁ」

軽々と片手で自動車を持ち上げ男の側に叩き付ける光景に思わず驚いた声を出した後絶句、間違っても軽自動車は片手で持てるくらい軽い自動車という意味ではない。
詳しくはないが普通ではなく軽とはいえ600kg〜1t位の重量はある筈だ、持てて良い訳がない。

周囲を見渡せば死んではいないが正しくはないが屍山血河の大惨事、人を除いて周囲の建物の損壊具合だけで考えても数十億の金が飛ぶのではないだろうかと思われる、やっぱり大惨事。

「ああそれは良かった……って、これで被害が少ない方なんですか!?」

命を落とすレベルでの人的損害は出ていないが建物に対するダメージが特に酷い、動かされた建物なんて基礎からダメになっている可能性すらある。
そんな事を考えながらアーリルの様子を見ていると何やら何処かに電話をして、多分お兄さんの名前が呼ばれる。

そして、壊れかけの玩具のような動きを見て声の相手との上下関係が何となく理解出来てしまった。

808アーリルとヴィルヘルム:2023/12/20(水) 21:29:51 ID:ghE7.UrM0
>>807

"あとで話がある。逃げないように。"
この一言で通話は切れてしまった。
声の主はアイリスであり、アイリスとヴィルヘルムの力関係は明白だった。
この力関係はアカリが想像するものと同じだろう。
ヴィルヘルムの腕っぷしがどれだけ強くてもアイリスには敵わない。
もしこの二人が家庭を築く時でもこの関係性は続くと予想するのは簡単だ。

アーリルの手にはスマホが握られたままでアカリに話しかける。

「ビックリしますよね。本気で暴れたらこの辺り一帯はクレーターがいくつも出来て、災害の跡地のようになると思います。」

ね?被害は少ないでしょう?とアーリルは笑った。
建物が原型を留めてあるあたり有情といったところか。
アイリスの声を聞いて、ヴィルヘルムは冷静になったようで、どのようにアイリスの口撃を躱せるか思考に浸りそうになるが、アカリとアーリルの姿を認めると声を掛けてきた。

『ん?さっきのお嬢ちゃんとリルじゃないか。こんなところでどうした?
 リルは構わないが、お嬢ちゃんにとっては目の毒だ。何をするにしてももっと明るいところで話をしよう。』

ココは危ないから離れようか、と言いこの場から離れようとする。
この場の写真を撮られることで証拠を押さえられるのを嫌ったのだろう。
ヴィルヘルムの姿を見ると、砂埃で薄く汚れているくらいで体に出血を伴う負傷を負っているように見えない。
道徳的に見れば子供達を反社の人間が居着く場所に置いておくのは問題であるし、また風景も悪い。
後の話だが、自身が破壊した場所の修復費はアイリスが負担して後にヴィルヘルムの借金となる。
契約書なしの金利0%、ちょーやさしー。

809アカリ:2023/12/20(水) 23:47:54 ID:5v6Z28Cc0
>>808

アカリは声の主もヴィルヘルムの事も詳しく知らないが何となく関係性を察する事は出来る。
きっと恐らくだけれど、腕っぷしが幾ら良かろうが絶対に逆転出来ない弱点を電話の相手に対してヴィルヘルムは持っている。

(これは……お説教コースでは済まないタイプのやつですね、しっかりと時間を取って淡々と理詰めで追い込まれていくキツいやつになると見ました)

「流石にびっくりしました、でもクレーターまで出来ていたら復興には時間が掛かるでしょうし、そう考えるとかなり加減されていたんですね……」

でもこれ建物を結局一旦解体して立て直す必要ありそうだけど、いっそ完全に粉砕した方が手間が省けて逆に良かったのでは?
物騒な事を考えたが流石にそれはないかと苦笑い、そんなタイミングでヴィルヘルムから声を掛けられる。

「あ、お気遣いありがとうございます!こういう場も一応経験してはいますが好き好んで滞在するのはごめんですので、是非そうしましょう!」

パワー系に見えるけれどアーリルが兄様と呼ぶだけあり根は紳士なんだな、と改めて理解する。
だとしたらわざわざそんな人に喧嘩を売ったのだから此処で倒れている人間達は文字通り因果応報、己のやった事の報いを受けたのだから同情の予知は無さそうだ。

「……それにしても、これだけ長い間ビルが動くレベルで大暴れして治安維持局が動かないなんてあるんですかね、案外誰かが裏で止めていたり……なんて、考え過ぎですかね」

810アーリルとヴィルヘルム:2023/12/21(木) 20:38:12 ID:ghE7.UrM0
>>809

「(あっ、これは長いお説教です。淡々と話をしていき徐々に逃げ道を塞いでいって姉様が納得する落とし所に誘導されるやつです。)」

奇しくもアカリと同じ感想を抱いた。一定の具体性がある限りアーリルもお説教をされたのは一度や二度ではないのだろう。
だからアーリルは……

「アカリさん、たくさん証拠写真を撮りましょうね!私たちも慣れていますし、これくらいでは何とも思いませんし!」

とてつもなく綺麗な笑みだが悪魔のような顔をして笑っていた。
だからスマホを仕舞わずに握りしめていたのだ。

「流石に本気で暴れると姉様が来ますからね。
 そうなると只事では済まなくなります。怒ったら、怖いですから。誰だって怒られたくはないでしょう?」

普段怒らないタイプが怒ると怖いと言うが、アイリスの場合は怒りに蔑んだ目がついてくる。
ヒステリックに叫んだりはしない。だが、露骨に呆れられるのだ。

『リル、行こう。治安維持組織のことは聞いているが、好き好んでこんなところには来ようとは思わないだろう?ほら、寝転がってる奴らを見てみろよ。揃いも揃って"関わり合いになりたい奴の顔"をしてねぇ。そういうこったな。』

だからその薄いものをしまうんだ。俺たちは悪戯仲間、そうだろう?とアーリルが撮影しようとしているところにインターセプト。
ここからだと来た道を戻る方がいいのか、大男は繁華街に向けて歩き始めた。
と思えば繁華街にはガラの悪いお兄さんがワラワラといらっしゃるではありませんか。

『俺はヴィルヘルムってんだ。お嬢ちゃんは?』
「兄様、お迎えですよ。助けは必要ですか?」
『いらねえ。お兄さんに任せておきな。』

2mを超える長身に筋肉ムキムキのマッチョマン。
見た目だけなら金髪碧眼の短髪のスポーツマンに見えるがその中身は凶暴で。

811アカリ:2023/12/21(木) 23:17:52 ID:5v6Z28Cc0
>>810

「え、証拠写真を撮ってもお兄さんが後に不利になる、というかお叱りが増えるだけでは!?」

いや、ここまで暴れた以上もう情報が伝わるのが早いか遅いかの違いでしかない気がするのだが、それはそれとして既にお叱りを受けるのが確定済みのお兄さんにわざわざ追い討ちをするのは気が引ける。

「アーリルさんのお姉さんですか、先の電話口の人ですかね、だとしたら確かに怒らせたら怖いタイプの人の気がしますね……」

しかも激情に任せて吼えて満足してくれそうなタイプには声を聞く限り思えない。
具体的には分からないがとりあえず冷静なままに何か恐ろしい事が起こるのだろう。

ヴィルヘルムがアーリルを必死に懐柔しようとする様子を横目に周囲を見渡す。
確かに言う通り表の社会の住人では無さそうな人間しか周囲には倒れていない。
問題は倒れている人間の善悪ではなく周囲の建物等にも甚大な被害が出ている事な気がしてならないが……。

「ヴィルヘルムさんですね、私は白月アカリ、気軽にアカリと呼んで貰えると嬉しいです!」

そんな事を考えながら二人と一緒に歩いているとガラの悪い人達の熱烈なお出迎え。

「お兄さんに任せたら電話先の人からお叱りを受ける要素が増えてしまいますよ、繁華街だと被害額もより甚大になりますし……良かったら私にお任せ下さいな」

手の平に一つ、二つ、三つと光球を生み、それを束ねて一本の光輝く槍を創り出す。
その際にさり気無くアーリルに視線をやりウィンクを一つ、アカリは彼女を撃墜した“あれ”をより高出力で放つつもりなのだろう。

「光槍投擲──いきますよー!!」

わざと目立つように声を張り上げ、光の槍を投擲する、それは周囲の人間の目を嫌でも引く威圧感を備えていて。

「ヴィルヘルムさん!アーリルさん!目を閉じて!」

叫びと同時に槍が炸裂し周囲を光一色に染め上げる、これで目を焼かれたガラの悪いお兄さん方が悶え苦しんでいる間に突破するつもりのようだ。
上手くいかなかったなら……お兄さんに諦めて任せよう。

812アーリルとヴィルヘルム:2023/12/23(土) 01:24:46 ID:ghE7.UrM0
>>811

「今回、私には関係ありませんからね!」

ニシシ、と笑いながら、わかっていませんね、と笑うアーリル。
お説教されているヴィルヘルムを尻目に甘ーいチョコを楽しむのも乙なものだ。
とはいっても悪意は無い。
あとで怒られちゃったねーと話すのだ。

「このような時の姉様は怖いと言うより冷たいんですよね。
 淡々と書類仕事をするかのように問い詰められます。
 だから言い訳せずにちゃんと説明するのが一番いいんですよ。わからないところは全部追求されますからね。」

冷めた目で書類と向き合い、ついでとばかりに追求される。
話が分からないところはどんどん追求されていき、嘘を挟むとそこをつけ込まれる。
だからアーリルは冷たいと表現した。
本人は温情のつもりなどないだろうが、内容次第では尻拭いまでしてくれる時もあったりもする。

『アカリちゃんね。よろしく。
 ありゃ、アイツらのお友達か?バカだねぇ』

いくら数を集まったところでアカリ一人にも勝てない。
彼女らを相手にするのならば量より質を追求するべきで。
ヴィルヘルムがアイリスから怒られるのは確定している。
が、これから少し暴れるとさらに怒られる。

『じゃあ今回はアカリちゃんに甘えようかな?
 お手並み拝見っと。』

アーリルが笑みを浮かべてアカリの言う通り腕で目を瞑り、更に腕で抑えた。
ヴィルヘルムは目を瞑り、走り出す。
長身で筋骨隆々で走れるか不安な体つきをしているが、オリンピアン顔負けの俊敏さであった。
ガラの悪い男たちを掴んで放り投げ、他の男たちにぶつけるなど加減はしているようで。
アーリルは少し遅れてスタート。アーリルは体捌きで易々とガラの悪いお兄さんの間を抜けていく。
大きな体と小さな体を生かした通過方法だった。
ほとぼりが覚めるまでは近寄るのやめとこ、なんて呟きながら気軽に走り抜けていった。
ところ変わって繁華街。

『アカリちゃんもリルもお疲れ様。少し休んでいく?』

ふと目についたのは繁華街の中にひっそりと潜む純喫茶が目についた。

813アカリ:2023/12/23(土) 23:34:24 ID:5v6Z28Cc0
>>821

「“今回”は関係ないってそういう事ですか……」

話を聞いて苦笑い。
以前は一緒に怒られたような口ぶりからして歳の差こそあれ悪戯仲間のような関係なのだろう。
ならその関係に口を突っ込むのも野暮というもの。

(今までもあった事ならきっと問題なく上手くいくでしょう、多分、きっと……)

「本当に冷たいなら何も言ってきませんよ、多分多少呆れはしてるけれどちゃんと愛情を持って接してくれてる感じじゃないですか?」

初めて冒険者ギルドで賞金稼ぎとして働いた時の自分の親の怒りっぷりを思い出す。
冷たく怒ってはいたがその根底は自分への心配と愛情だった、家が違えど保護者の持つ考えというのは変わらないのではないか、そう思う。


光槍炸裂、周囲を閃光が染め上げる中。
目を塞いでいた自分達だけは自由に行動が出来る、アカリはヴィルヘルムとアーリルが無事に抜けられそうなのを確認すると光の翼を一対広げ大きく跳躍し飛翔、男達の頭上を飛び越えていく。

『私は大賛成ですけれどヴィルヘルムさんは大丈夫です?早く帰らないとお叱りを受ける量が増えたりしませんか?』

誠意って大事。
例え早く帰っても直接面会出来なかろうが、自分の非を認めて行動を改めた事に意味を見出してくれる人もいる。
電話口の人がどんな傾向の考え方をするのかは知らないが、早く帰った方がヴィルヘルムにとって良くないかと心配で。
彼を見る眼にもその心配は隠し切れず浮かんでいるだろう。

814アーリルとヴィルヘルム:2023/12/24(日) 01:40:27 ID:ghE7.UrM0
>>813

「(そういうものなのですか?)」

アーリルやヴィルヘルムに失望しているのなら何も言ってこない?
いつもアイリスは時に優しく、時に厳しく声をかけてくれる。
物理的な距離は離れていても、心の距離は離れていない?

「私は姉様より愛されているのですか?」

確かに愛情を感じる時はある。それでも確信が持てない。
誉められている時だけは愛されていると思う。
どこまでもアイリスは離れたところから見つめている人。そんな印象だった。
だが、アカリがいう、"愛情を持って接してくれている"という言葉。
ありきたりな言葉だろう。それでも今までを思い返せば、アカリの言う通り"愛されている"のだろう。

「私は姉様に怒られてばっかりなんです。
 もちろん誉められる時もあるんですけど…これでも愛されているのですか?」

お嬢様育ちのアカリ。
家なんて関係なく、やはり心配なのだろうか。

「姉様は一日外にいる予定です!ですので今日は何時に帰っても怒られませんよ!それに、兄様の用事があるので連絡さえ入れておけば問題ありません!」
『この後ひと休みした後衣類用意しねーといけねーから時間が掛かるんだわ。俺、この体だろ?全部オーダーになるからな。サイズ全部計り直して納得いく服を用意したいからな。大分遅くなるぜ。遅くなるのがマズイなら先に送るがどうする?』

コイツは俺が守るから大丈夫、と言い、ガハハと笑う。
改めると2mを超える長身に、アカリの太ももを優に超えるであろう上腕二頭筋と上腕三頭筋、アーリルが抱きついても腕が届かない腹筋。
サイズはお察し。上半身でこれならば、下半身は更にエグい筋肉になっている。
首なんてエグいサイズになる。
脱げばアニメキャラのようなバキバキの筋肉の鎧に覆われた体だ。
収める服も自ずと選ばなければならない。

「というわけです。実質保護者の兄様がいるので少し遅くなっても問題ありません!姉様には連絡を入れておきました!
 もしも問題があるならアカリさんのご家族に私から連絡入れておきましょうか?」

アーリルが連絡するとすぐに高級セダンがアカリを迎えに来るし、空という未開の通路があるアカリには無用な心配だろう。
それでもご家族という最後まで信じてくれる最後の砦に対して可能な限りの誠意を示すつもりだ。

815アカリ:2023/12/24(日) 21:10:06 ID:5v6Z28Cc0
>>814

「話を聞く限りでは間違いなく愛されてると思いますよ、そうですね……もしも私が悪い事をしたらアーリルさんは時間も労力も費やしてでも私を止めてくれるでしょう?」
「でも悪事を働くのが私ではなく先ほどのチンピラにすらなり損なったような連中だったなら、そこまで時間や労力を使いますか?適当に鎮圧するか無視するかで済ませてしまうのでは?」

その差が相手に対する愛情や友情というものなのではないか、そう言ってアーリルをぎゅっと抱き締めようとするだろう。

「怒るのだって叱るのだって、全部良くなって欲しいという気持ちの裏返しです、どうでもいいならそれこそそんな面倒臭い事はせず作り笑顔で流して終わりにしますよ」

そこまで話せば抱き締めた腕を離し、ヴィルヘルムの方に向け返事をするだろう。

「いえ、そういう事なら是非ご一緒させて頂きたいです!」

どうやら自分が心配していたような事はないようだ、なら折角のお誘いだ、そんな楽しそうな事を断るなんて勿体無い。
ヴィルヘルムの筋肉質な身体を見上げながら、そう返事をする。

816アーリルとヴィルヘルム:2023/12/24(日) 23:51:00 ID:ghE7.UrM0
>>815

アーリルは大人しくアカリに抱きしめられる。
それからゆっくりとアカリの体に腕を回した。
そんなアカリの耳元で囁くような声でアーリルは話し始める。

「アカリさんが悪事を働こうとした時は、動けなくなるまで戦って、もう悪いことなんてしようとは思わないくらいに叩きのめします。
 でも、先ほどのような方々は……どうしようもできません。」

騎士としてのアーリルならば、例えチンピラであろうとも無辜の民草である限り守らなければならない。
でも騎士ではないアーリルならば、守る必要はないのではないだろうか。
楽だからだとかではなく、悪さをしていないのならば、お互いすれ違うだけ。
だが悪さをしているのなら?
火の粉が自分に降りかかるのならば振り払うだけだ。
でも火の粉が自分に降り注がないのであれば?
例えばアカリに無用な火の粉が降りかかるなら共に振り払うし、ヴィルヘルムに火の粉が降りかかれば巻き添えにならないよう逃げる。
でも、それ以外の人に火の粉が降り注いでいれば。
若くして騎士に任命されたせいか、その手のことが目に入れば首を突っ込んでしまう。
だからだろう。無意識に異能/神格に判定を委ねているのは。

「良くなって欲しいから、注意をする。だからこの瞬間も私はアカリさんから愛されている、のでしょうか。」

一部しか知らないが、アーリルは生みの親と育ての親が違う。
育ての親からは愛を受け取っているが、生みの親から受け継いだものが受け取った愛を無為にしていく。
それがアーリルが戦闘狂の顔を覗かせる原因だ。
それらがごちゃ混ぜになり、時に心を引き裂き、心が混乱する。
情緒が育ちきっていない証左でもある。
アカリが腕を離したタイミングから少しズレて、アーリルもアカリの体から腕を離した。

『ならよかった。少し休んでから行動を開始しよう。最低でも今日は注文だけでもしておきたいんだ。』

了解を得ずに純喫茶の扉を開けて入っていく。
でも扉に頭をぶつけそうになり、屈みながら入っていくあたりこの都市での生活は少ししんどくなりそうだ。

817アカリ:2023/12/25(月) 22:13:47 ID:5v6Z28Cc0
>>816

「今日初めて出逢った私達ですが、もう私は貴女を得難い友人だと思ってますし大切に思っていますよ、だから良くなって欲しいと願う……」
「それを愛情や友情と呼ぶのは間違っていないと私は思っています、だから、そうですね、私はアーリルさんの事を一人の人間として愛してますよ」
「でも、私より長い間アーリルさんの事を見てきた人のそれと比べてしまえばこの気持ち……敢えて愛と呼びましょうか、それもまだまだ浅いものだと思います、例えばお姉さんのそれと、家族の絆と比べれば」

アカリはアーリルを軽視している訳ではない。
けれど共に過ごした時間だけが創り上げる深みというものも存在するものだ、家族の絆などまさにそれだろう。

アーリルの生い立ち等をアカリは知らない。
けれど掛けられる言葉がない訳ではない。
自分の考えを誠実に話す事、相手の言葉を真摯に受け止め考える事。
それを尽くすのが友人としての礼儀だとアカリは思っている。

「あ、はーい!!」

アーリルの腕が離れれば、一緒にヴィルヘルムを追い純喫茶の中に入るだろう。

818アーリルとヴィルヘルム:2023/12/26(火) 23:20:40 ID:ghE7.UrM0
>>817

同じく出会ったばかりの私達ですが、私もアカリさんが大好きになりました!」

肯定してくれるからじゃない。
温かい言葉を投げかけてくれるからじゃない。
共にあって、お互いを高め合える存在、アーリルを騎士団長として、姫としてではなく。
対等の友人として見てくれる。
ただそれだけが、たったそれだけのことがアーリルにとって心に響くことだ。
同年代の子女ですら恐る恐る話しかけてくるという日常。
同世代はもちろん、少女くらいの子を持つ親世代の大人ですら少女にヘコヘコする日常。
常人には理解されないであろうそれこそがアーリルの日常であった。
今まで壊れなかった友人という壁をあっさり壊したのはアカリだった。 

「友達、友達…えへへ。」

アーリルは人間換算で13歳ほどだ。
アカリと出会ってから年頃で不安定な思春期の少女になっていっている。
大きな手が不器用にアーリルの頭を撫でた。

『俺コーヒー…じゃなくてアールグレイ。二人とも好きなもの頼みな。』

四人掛けのテーブルで堂々と二席を独占。
大きい体だからか、それなりに広いテーブルが小さく見えてくる。
椅子に体が収まっていない。
せっかく純喫茶に来たのに紅茶とは勿体無い。コーヒー党なのだろうが、紅茶に切り替えて二人が落ち着くのを待つつもりだろうか。

819アカリ:2023/12/26(火) 23:49:39 ID:5v6Z28Cc0
>>818

「お互いに大好きだと思えるって幸せな事ですよね、すれ違ってしまうのって悲しいですから」

アーリル個人に対する敬意はある。
槍の技量や己の体質を生かした戦闘方法など自分では及ばない事が沢山有った、良い生まれだからか品も驚くくらい良い。
だが、それだけだ。
長所で語るなら自分も異能のコントロールには自信があるし高機動戦に限れば自分に有利が付くとすら思えている、色々自由にしていた経験から世間については自分の方がアーリルより詳しいだろう。
競う訳ではない、結局の所“みんな違ってみんないい”というだけの簡単な話、彼女に、アーリルに人としての敬意こそ持てど壁を作る理由になどならなかった。

「ええ、掛け替えのない大切な友達です!」

ヴィルヘルムに撫でられるアーリルを見て微笑みながら改めて思いを口にする。
アカリは人間換算で17歳くらい、赤子の成長を異能の有無が解るまで成長させて失敗作だと解り、それから今の親に引き取られたので実の年齢はそれより下になり自分でも把握出来ていない。
ただ、本人の明るいながらも冷静に物を見れる気性と性格、親からの無償の愛で健全に育った結果がこれだ。

「ではモカマタリで!ミルクもお願いしたいです!」
「アーリルさんは何にします?」

820アーリルとヴィルヘルム:2023/12/29(金) 01:00:45 ID:ghE7.UrM0
>>819

言葉が足りないだけで人はすれ違う。
たった一つ足りないだけですれ違う。
だからこそ足りないものは、他のことで補えることができる。

「もしすれ違うことがあるなら、これで語りましょう。
 私達には言葉以外に語り合う方法があります。」

ヴィルヘルをムとアカリが飲み物を決めた中、アーリルは何にしようかと思案する。
メニューを開いてケーキに目移りしていた。

「アカリさん、コーヒーは苦手なんですけど、何か飲みやすいものはありますか?」

まずはデザートをここからここまで、とヴィルヘルムの財布に甘える気満々で甘いものを頼む。
せっかく純喫茶に来たのだからコーヒーを楽しんでみたい。

『カフェオレにでもしておきな。』

ヴィルヘルム感覚ではカフェオレでも甘い。ケーキが並ぶのを想像して胃がもたれそうな気がしてきている。

821アカリ:2023/12/29(金) 07:44:42 ID:5v6Z28Cc0
>>821

「じゃあ私も真っ向からぶつかり合った時に対話が成立する前に潰れてしまわないように腕を磨いておかないといけませんね、ますます鍛える理由が出来てしまいました」

ふふ、と微笑んでアーリルがメニューを選ぶのを一緒に眺める。

「一般的に甘くて飲みやすいと言われるのはエチオピアやモカですね、癖が無いのは前者です」

822アカリ:2023/12/29(金) 07:51:59 ID:5v6Z28Cc0
【途中送信した上にレス番間違えました】

「もし良ければカフェオレを注文して私が頼んだコーヒーを味見してみませんか?口に合わなくてもそれなら問題ないですし、何よりシェア出来るのって楽しいですから」

微笑んだままヴィルヘルムの意見も取り入れてそう提案する。
せっかくの意見を無駄にしたくなくて言ったが便乗したみたいに思われていないか、ヴィルヘルムの方にも視線を送り確認。
もっともそんな事で気を害するような器の小さい人間には見えないし問題ないとは思っているが。

「ヴィルヘルムさん、ちょっと便乗させて貰っちゃいました、いいですよね?」

823:2023/12/30(土) 01:59:14 ID:ghE7.UrM0
>>822

「今は兄様もいますし、徒手空拳も鍛えられます。
 足捌きも含めて槍使いの腕ですからね。」

車を掴んで持ち上げる力を持つヴィルヘルムとの組み手はもちろん命懸けだ。
漫画や創作物である筋肉キャラとは体の作りから違う生き物であるヴィルヘルムに挑むのはそれこそ手足が千切れる覚悟で相対しなければならない。
だが命懸けでなければ鍛えられない。
この点に限ればアイリスは頼りにならない。
自身のためにアーリルは更に上のステージへと登ることを望んでいる。
アカリの言を受けてヴィルヘルムは静かに頷いた。

「でしたらカフェオレにしましょう!
 アカリさんもケーキ食べますよね?色々頼んでみますので、こちらもシェアしましょう!」

ヴィルヘルムはメニューを眺める二人を眺めて思案に暮れる。

『(俺にはアイツがいたが、リルには誰もいなかった。結果的に連れてきてよかったものかと疑ったが、良かったな。俺ではリルの友達にはなれない。)』

同世代とは決して相慣れないアーリルだが、ここでは足枷になる立場がない。
良い出会いをしたと思うヴィルヘルムだが、本人はアーリルが錐揉み回転しながらアカリに突っ込んだことはすっかりと頭から抜けているようだった。

824アカリ:2023/12/31(日) 01:45:54 ID:5v6Z28Cc0
>>823

「あ、それ良いですね、図々しいですけれどもしも箱庭で出逢えたら一戦交えて指南を受けてみたいものです」

屈託のない笑顔でアーリルとヴィルヘルムを見つめる、恐らくヴィルヘルムの心中など察せていないだろう“普通”の少女は朗らかな表情のままでいて。
アーリルと一緒にこのケーキが美味しそうだ、これが気になる、とはしゃぐ姿はただの友人であってそれ以上でも以下でもないだろう、今の所は。

「良いですね、でも今回は半分お代を出させて貰いますよー、毎回肩代わりして貰っていては私の面子が無いってものです!」

純喫茶、決して安くはないがステーキハウスの時と違い払えない額ではない。
もっともアカリが無理にお金を出そうとするとヴィルヘルムの男としての面子に傷が付くという可能性にまで至れていない辺り、根っこはアーリルと同じくまだまだ背伸びしたいだけの子供なのが見て取れるが。

「でもこの出逢いもヴィルヘルムさんがアーリルさんを失投してくれたからですね、何かと驚きましたが素敵な出逢いをありがとうございます!」

悪意なくあの時の事をぶり返してきました。

825名も無き異能都市住民:2024/01/06(土) 03:43:26 ID:ghE7.UrM0
>>824
「もしランダムでお会いでできるかもしれませんね。
 その時、近接戦闘時はお気をつけください。」

ふふっと笑みをこぼす。
捕まればそれは酷いことになる。実際に行動に移すかどうかは別だが、相対するとなれば
近接に限れば軽自動車を持ち上げる力がアカリという少女に向くのだから。

アーリルは好きなだけケーキを頼もうとしたが、ヴィルヘルムの様子を見てあっとなにかを察したようで。
ヴィルヘルムは甘いものが得意ではない。

「(甘い匂いだけで結構胃にダメージを負いそうな顔をしていますね)」

ヴィルヘルムは一切顔色を変化させていない。
キャッキャとはしゃぐ二人を眺めてヴィルヘルム薄く笑う。その笑みは親戚のおじさんと食事をしたときのようで、
穏やかな瞳と胃へのスリップダメージで内心がグチャグチャになっていた。

「うーん、どうしましょう兄様。」

ここはアカリの顔を立てるか、この場で最も年上で男性の兄様の顔を立てるか。
ケーキをアレだこれだと良いながら選びながらアーリルは思考していた。

「アカリさん、ここは兄様に出していただきませんか?こんな人でも一応一番年上で成人していますので。
 わざわざ幼い私達が財布を痛める必要も無いでしょう。あとで代金はお預かりいたしますから。」

アーリルは男性で一番年上であるヴィルヘルムが出して貰えばいいと思っていたが、こうなったアカリは意外と強情なのは承知している。
どうせ少額といってもアカリは気にするだろうから、ヴィルヘルムを立て、アカリも立てる方法はこれくらいしか思い浮かばなかった。
アーリルはアイリスやヴィルヘルムといった身近な人物と食事に行った際“ごちそうさまでした”というだけで財布を出したこともないのだから。

『気を遣ってもらってわりぃなアカリちゃん。だが気にするな。
 こんな時は年上が出すって相場は決まってるんだ。で、女性は笑顔を見せてくれるだけで良い。男にとってそれが最大のご褒美だ。』


『「――――」』

アーリルとヴィルヘルムは顔を見あせてあははと曖昧な笑みを漏らすことしかできなかった。
ヴィルヘルムは大きな声で笑い始めたが、アーリルはヴィルヘルムが大笑いするからか、恥ずかしくて小さく縮こまってしまった。

826アカリ:2024/01/21(日) 21:04:53 ID:5v6Z28Cc0
>>825

「それはあの裏路地の様子を見ればなんとなく解りますね……何であろうと直撃を貰ったら木っ端微塵になる自信があります」

アカリの耐久力は人並みだ。
アーリルに足を踏み抜かれた時にあっさりと骨が枯枝のように折れたり、槍の一撃を障壁で軽減して受けて尚左腕を砕かれたり、攻撃を受けてしまえばあっさりと倒れる程度の耐久力しかない。
そんな人間がヴィルヘルムの一撃をまともに受ければどう足掻いても即死は免れないだろう。

そして、残念な事に戦闘における洞察力は鍛えていても平常時の洞察力に関してアカリはごく普通のものしか備えていなかった。
穏やかな目をしているヴィルヘルムが色々堪えている事など気付く事はなく、あれだけの力があるのに紳士的な人だなと思うばかり。
故に甘い香りという名の地獄に救いの船は来ない。

「……そうですね、ではアーリルさん後でお願いしても良いですか?」

アーリルの予想通り。
借りを作りっぱなしだと思っているのか少女はここに来て初めて表情からでも解るような少し困った様子を見せる。
アカリの家は富裕層ではあるがアーリルのような超富裕層ではない。
経済感覚は一般的なものであるが故にこういった喫茶店での支払いにも気を遣ってしまう面がある。

「女性の笑顔がご褒美……むぅ、参りました、そこまで言わせてしまってまだ私が支払うと言い張るのも悪いですもんね」

だから素直になるのは少し後。
アーリルの言葉とヴィルヘルムの言葉、二人分の言葉を貰って尚個人的な意地を貫くのはただ頑迷なだけだと思い、漸く諦めた。

「ふふ、アーリルさんの治癒力を知った今となれば笑い話に……なっていいんですかね?本人は再生して無事でも衣服は擦り切れて大惨事になりませんでしたかね?」

苦笑い。
あの瞬間は女の子が錐揉み回転しながら吹き飛んできたので大慌てだったが、そう焦る事ではなかったのかと思い、別の事を考えて思い直す。
アーリル本人は無事でも果たして衣服はあの勢いで地面とキスをして無事なのだろうか、彼女の衣服とあれば魔力や加護で保護されており多少の事では傷など付かないのだろうが、ヴィルヘルムの腕力による大失投は多少の事ではない気がする。

827a-riru:2024/01/28(日) 01:31:39 ID:ghE7.UrM0
>>826
「あはは、あのレベルになると人も鉄も変わらないような気がしますね。」

当たれば一発で駄目なのはアーリルも同様だ。
形に残るか残らないかの話でしかないし、電車に轢かれたようなものだろう。

「はい、わかりました。あとでお預かりしますね。」

アイリスはアーリルに経済感覚を養う目的からある程度まとまったお金をお小遣いとして預けている。
いるが、アーリル自身外出も少なく家に帰れば生活するには問題ないことからお金を使う機会は少ない。
欲しい物があっても言えば用意してもらえる環境だから毎月余らせているため返そうとしても受け取って貰えず。
余らせているから浪費するわけでもなく、余るばかりのお金をどうするかといえば、大方を寄付に回した。
だから少しくらいだから気にしなくても良いとはいったものの、アカリの態度でそれは一般的に“あまり良くないこと”だと認識できた。
このように世間の常識を徐々に覚えていかせるのも教育だ。

『話はまとまったな。じゃあリル、後で頼む。さあ、頼んだものが来ている。
 アカリちゃんも遠慮すんな。』

ウェイターが注文したものを運んできた。
テーブルに並ぶ甘いものにうへぇという声が出そうになるが、一切内心は晒さないし表情も変わらない。
ヴィルヘルムはアカリとアーリルが甘い匂いを発するものを速やかに食べていくのを望んでいる。

『あれは手が滑っただけなんだ。決してリルを放り投げたわけじゃない。』
「本当ですか?」
『本当だ。本来ならリルは空の上に飛んでいるはずだったんだ。飛んで落ちてきたリルを俺が受け止める。
 たったそれだけの話だ。』
「おそらくアカリさんの予想通りになったのでは無いでしょうか。体は大丈夫でしょうけれど、衣類はだめだったでしょうね。
 仮にそうなっていても、アカリさんなら助けてくれたでしょう?」

あの時のように自身で人質の交換を望んでいたのだ。
同性で、更にアカリより幼い女の子の衣類が傷ついたのならば、アカリなら上着くらいは貸してくれたはずだ。

828アカリ:2024/02/13(火) 23:11:53 ID:5v6Z28Cc0
>>827

「確かにあの力の前では耐久力なんてあまり意味を成さない気はしますね、そう考えれば私はまだ影響が少ないのかも?」

どちらにせよ当たったら終わりという話ならば回避に重きを置いている自分の方が受けを中心として立ち回る人よりはまだ戦いになるだろう。
と言ってもただ避けているだけの相手を捕まえる事が出来ないような相手だとは思えない、まだ多少は攻防が成立するというだけの話であって不利な勝負なのは間違いない。

「はい、お願いしますね、ヴィルヘルムさんのご好意もありますし今は注文した物を頂いてしまいましょうか」

アーリルの家庭の事情は知らないがあの城のお嬢様というなら相応に大切に育てられてきたのは何となく見当が付く。
もっとも、重要なのはそんな事でなく本人の人格だ、友人関係を作るのにはそれだけあれば十分だしそれ以外は必要ないと思っているのでそれをわざわざ口にはしないが。

「はい、ありがとうございます、頂きますね!」

ヴィルヘルムに礼を言うとアーリルと話しながら、これが美味しいそれはどうだった等話を膨らませていくだろう。

「あはは、ヴィルヘルムさんがわざとアーリルさんを傷付けようとするのは想像出来ませんから事実でしょうね、ちょっと豪快だっただけで……」
「それはそうすると思いますよ、ただ突然あの勢いで人が飛び込んで来たら無残な事になってると思ってちょっと一瞬目を覆うとも思いますけれど」

常識的に考えれば挽肉になっておかしくない光景だ、アーリルがそれを耐えられるとは初見では思わず目を閉じてしまう可能性は極めて高いと自分では思う。

829アーリルとヴィルヘルム:2024/02/24(土) 03:31:43 ID:ghE7.UrM0
>>828
「頂きますね、兄様。」

頼んだケーキを小さく切り分け、一口食べる。甘くて美味しい。
甘いものは別腹というが、これくらいならばいくらでも食べられそうだ。

「私も回避を想定しましたけれど、例えばですよ?
 地面にめり込んだ手をそのまま振りかざせばそれだけで面攻撃になりますからね。」

そういえば、以前引っこ抜いた木をぶん投げてきたこともあったなぁ、なんて思い出しながら。
太陽神だとか、魔眼だとか。
そんなものを一蹴し、最終的に決まるのはフィジカルが強いやつが勝つとでも言いたげな、
面倒くさいものを一切合切無視するような文字通りの剛腕だ。
その気になれば、地面ごと持ち上げるような意味不明なこともできるのではないだろうか。
このような思い込みもあるのか、アーリルにはヴィルヘルムに対する勝ち筋が見えない。

『手が滑っただけだが、リルなら問題ないさ。あれくらいの飛び方ならいつもしていただろう?』
「……そういえば、そうでしたね。戦闘訓練の余波でよく飛んでいました。どうして忘れていたのでしょう?」

ここで良い時間を過ごせただからだろうな、と一言。
それからアーリルの頭をグシャリと大雑把に撫でた。

「普段は住宅等の建物がない広い場所で訓練しておりましたから建物に突っ込んだのは初めてですわ。
 私としてもまさか建物に突っ込むとも思っていませんでしたし、ましてやその中に人がいらっしゃるとは思いもしませんでしたわ。
 お互い、よく生きていましたね。」

思わず苦笑が漏れてしまうのは当然のこと。
町中で、ましてや子供扱いなのだ。もう済んだことでプリプリ怒っても仕方がないのだが、それでも子供扱いされていることを嫌がった。
ヴィルヘルムとしては、まだまだ子供だ。
背伸びして大人扱いしてもらいたいと思うのは、これくらいの年頃では当然なのだろうが、まだアーリルは素直な方だった。
アイリスとは片手で収まる程度の年齢差はあるが、やはりアーリルくらいの頃は素直ではなかったし、力に訴えることがない代わりに
口撃が強かった覚えがある。
アカリとアーリルの会話に混ざることなく黒子に徹するヴィルヘルムは甘い匂いの猛烈な匂いに鼻の機能を失いそうになりつつも、
穏やかな顔で二人のやり取りを見守るだけであった。

830アカリ:2024/03/17(日) 12:38:03 ID:5v6Z28Cc0
>>829

「うーん、本当に規格外のパワーですね、そういう広範囲な面での攻撃には弱いんですよね……銃弾程度なら障壁で弾いても良いんですけれど岩塊が飛んで来たらそうはいきませんし」

自画自賛するようであまり気が進まないが、スピードには自信があるし光を用いた搦手も何種類も用意しており半端な力技相手なら幾らでも相手に出来ると自負している。
ただヴィルヘルムほどのパワーになってしまえば話は別だ、攻撃の余波の一つ一つが致命傷となるなら此方も迂闊には動けない、目眩しをしたところで闇雲に振り回した腕が掠めただけでお空の星になってしまう。

「昔から戦闘訓練を一緒にしていたんですね、練習相手をしてくれるお兄さんがいるのはちょっと羨ましいです」

遺伝的な姉に当たる人間はいても実際の関わりは薄いアカリにとって血の繋がりが無くても本物の兄のように接してくれる相手がいるのは素直に言って羨ましい。

「アーリルさんも結構パワーがありますし、住宅地では十分に能力を発揮するのは難しい……というか危ないですもんね」
「多分誰にも想定出来ていなかった事故ですからね、まあ結果として誰にも被害が出なかったので良しと思っておきましょう、寧ろお陰で素敵な出逢いに恵まれた訳ですから」

流石にこれ以上この話を引っ張るのはヴィルヘルムに悪いかなと思い話題を変更。
と言っても嘘を吐く気は全くない、事故のお陰で素敵な出逢いに恵まれたと思うのは本心からだ。

831:2024/03/24(日) 00:03:58 ID:ghE7.UrM0
>>830

「力加減だとかの問題はありますから、日常生活を送る上で少し苦労もされているようです。
 私も面攻撃は捌ききれませんね。槍と体捌きではどうにもならないことです。
 大規模魔術でも使えれば良いんですけれども、魔術はからっきりですし。」

地面が文字通り迫ってくるなら長槍でもどうしようもない。
魔術が使えたら、という仮定であっても地面に対応できるかといえばまた別の話で。
だから"させない"ことそれ自体が対策になるのだが、至近距離で体を掠めただけで負傷する相手だからやりにくい。

「ある程度歳が離れているので色々やっても大らかでいてもらえますよ。」

男性に金的だとかのライン越えはしないが。
アカリならはっきりとした物言いをするだろうが、言い淀んでいた。
アカリの兄妹関係は複雑そうでいきなりは踏み込みにくい。
だからか兄、ヴィルヘルムについての話を打ち切るように切り上げた。

「そうですよね!まさかこうやって初日で打ち解けるような方と出会えるとは思いもしませんですもの!
 ところでアカリさん、良い仕立てをするお洋服のお店を知っていますか?」

話題の変更の流れを察して、アーリルもそれに乗っかった。
これからはお洋服の話。
アーリルはお店のスタッフを呼んで採寸させて、デザインだけはアーリルに選ばせた。
ほぼアイリス任せでお店なんて知るはずもなく、ここに来たのもごく最近の話で良いお店なんて知る由もない。
だからアカリからおすすめのお店があれば教えてもらいたいな、なんて考えて。
ヴィルヘルムのオーダーに紛れて自分の分もこっそり入れてしまおうかなんて考えていた。

『メンズもやってるところだとさらに良いな。』

ヴィルヘルムは体格から当然オーダーメイドになる。
肌が弱いだとかそんなことはないが、とにかく最大のネックが体格だからか既製品では体が収まらない。少し体を動かせば服が負ける。


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