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【日常α】眠らない魔都・異能都市【その19】
708
:
アイリス
:2019/11/24(日) 23:53:55 ID:ORmT3UkU0
>>707
アイリスはむくれた童女の頭を撫でて、髪を結い始める。
三つ編みだろうか。三つ叉に分けた髪を摘まんで、髪を編み始める。
「僕のこと、ルゥのこと、キルリスのことか。
じゃあ、僕とキルリスのことは僕から説明しよう。ルゥのことは、君自身で知ってくれると嬉しいね。」
黒猫、キルリスはアリスに簡単に抱き上げられた。
以前にしたように、鼻先を舐めようとしていた。
「――では、改めて。僕はアイリス・フォン・ルズィフィール。月の子さ。
この仔はキルリス。僕の使い魔の黒猫さ。見た目は黒猫だけど、中身は……ふふっ、君が考えてみてごらん。」
ああ、それから、と一息ついて。
蘇生後は好きに生きると決めていた。この都市に来る以前は王族の子として。尊き者として。強大な権力と共に背負う“貴族としての義務”がある。
“貴族としての義務”は貴族としての格が高ければ高いほど相応に重いモノとなる。しかしてこの都市内では自身の貴族としての振る舞いをしていなかったが忘れてはいない。
王族として。貴族として。それはいつしかアイリスを強く縛る鎖となっていて。鎖は重く、強く。アイリスを雁字搦めに縛り続ける。
アイリスを縛る“鎖”は以前に比べ、格段に緩く、少なくなっていた。だからか、少し穏やかな顔つきになっていた。
アリスの視線にアイリスは合わせて。緩くウェーブが掛かった柔らかく艶やかな金髪が揺れた。
「そして、不本意ながら女性になってしまった愚かな子でもある。ああ、そうだ。少し変わった眼も持っているよ。
女の子になると嬉しいこと?真っ先に思い浮かんだのは、幼なじみのヴィルとなら結婚出来ることかな。」
アイリスの幼なじみのヴィル。
彼はアイリスの遠縁で、幼い頃からよく遊んだ相手だ。細かいことは気にするな、ガハハと宣う筋骨隆々の男だ。
なおアイリスより僅かに年上で今の今までアイリスを少女と勘違いし続ける男でもある。喧嘩の一言目はまな板から始まる。
そして、アイリスが結婚しても良いと思える相手でもある。
「僕はしばらくこの城で休んでいて殆ど外に出ていないんだけど、女の子になると嬉しいこととは例えばどういうことかな?」
アイリスはルゥを抱き寄せアリスの前に立たせると、肩に手を置いてルゥに自己紹介を促した。
童女の黒髪はわかった!と言わんばかりに力が抜けそうな、へにゃりとした笑みを浮かべて右手をしっかりと掲げた。
「ルゥ、君は自己紹介してごらん」
『ルゥはねぇ〜、ルゥちゃん!がるる〜』
「ルゥは何が好きなの?」
『ルゥわんわん好き。あ、わんわん!』
ルゥはわんわんを呼ぶように両手でおいでおいでをしてから、何も見えない所で手を動かしている。まるでそこに犬がいて、頭を撫でている様な、そんな光景を幻視させる絵だ。
アイリスにも見えていないし、おそらくアーリルにも気配は感じても見えていないわんわんは、常にルゥの傍にいる。
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