したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【日常α】眠らない魔都・異能都市【その19】

1名も無き異能都市住民:2013/08/24(土) 22:30:52 ID:IRZRROfE0
≪ルールとか≫
・基本age進行で
・コテもコテ無しもどんどん来い
・レスの最初に自分のいる場所を明記してくれるとやりやすいです
・イベントを起こしたい場合は空いているイベントスレをお使い下さい
・多人数へのレスは可能な限り纏めて行うようにしましょう
・無意味な連投・一行投稿はできるだけ控えるよう心がけてください
・戦闘可能ですが、長引く場合や大規模戦闘に発展した場合はイベントスレへ移動してください
・戦闘が起きた場合、戦闘に参加したくない人を無理に巻き込むことはやめましょう
・次スレは>>950を踏んだ人にお願いします

前スレ
【日常α】残暑蹴散らす異能都市【第十八話】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12841/1345869891/

609ロザリア・ロートシルト:2015/07/02(木) 00:42:21 ID:nV.8tvHI0
>>608

「この都市でそういうことを言うの?
 ニンゲンたちでさえ、全貌が把握できずにいるこの都市に、
 ただでさえ数の少ない吸血鬼がいくらいたところで足りないわよ。」

それに、と付け足すロザリアの瞳は
まっすぐにアイリスを見つめていた。深く赤い瞳。

「それに、吸血鬼かどうか疑わしい、なんて貴女からは聞きたくなかったし……。
 ま、例えそうだとしても『ニンゲン』かどうか疑わしいニンゲンの多いこの都市よ。
 吸血鬼か疑わしい吸血鬼が居ても別にいいんじゃないかしら。」

610アイリス:2015/07/02(木) 01:03:19 ID:VDf8YIz20
>>609
「君臨するのなら、その総てを背負わなければならない。
 それが本来の支配者の姿だが、現代ではそれもままならない。
 だから君は僕にとって、非常に好ましくもあるんだ。ロザリー。」

ロザリアの瞳とは違う青の双眸が赤い瞳を見つめ返す。
伝統を守るロザリアには一定の好感を示すアイリス。
だが、現代の吸血鬼のアイリスがロザリアのように伝統を守られるか、と言われれば出来ないと答えるだろう。
アイリスは『この都市』は守らない。本来守るべき場所は『ここでは無い』からだ。

「では、最初の話に戻ろう。吸血鬼とはどのような存在か。
 人の目線で見るならば、生き血を啜る怪物といったところが一般的だろうね。
 銀に弱い、にんにくに弱い、陽のもとを歩けない等、君がいう『制約』を代償に強くいられる夜の王。
 吸血鬼とはその名の通り、生き血を啜らないといけないと思うかな?」

611ロザリア・ロートシルト:2015/07/02(木) 19:49:40 ID:nV.8tvHI0
>>610

「生き血を啜らない吸血鬼は、食事をしないニンゲンも同じよ。
 いえ、ありとあらゆる動物は食事をしなければならない。精霊の類だって、
 空気中のマナだとか……魔素だとか……そういうものを喰らって生きているのだから。」

ありとあらゆる生命は活動するためにエネルギーが必要。
中には植物のように自分で作り出すものもいるが……それですら陽光や水が必要なのだ。

「あなただってそうでしょう?アイリス。
 いままでに幾人の地をその身に取り込んできたのかしら。」

612名も無き異能都市住民:2015/07/02(木) 20:04:43 ID:VDf8YIz20
>>611
「我々の一族は自身の力の一部を衝動を封じるように使用しているからね。
 飲み干したのは一人だけ。それも親族の特別に濃いものだけだ。
 以降は月に一度程度しか吸血していないものさ。」

アイリスは幼少期に親族の一人を吸い殺したことがあった。
衝動に飲まれた。その衝動から逃れる先で我慢が出来なかった。

「そういえば、君が飲んでいるところを見たことがないね。」

613ロザリア・ロートシルト:2015/07/02(木) 20:24:36 ID:nV.8tvHI0
>>612

「へぇ、変わっているわねぇ……。
 ヒトではなく、同族から吸うなんて。初めて聞いたわ。
 まぁ、できないことではないでしょうけれど。」

事実、ロザリアもアイリスの血を一度吸おうとした。
その後の結果は周知のとおりのモノであるが。

「そうだったかしら?私は、普通に食事をしているけれどねぇ。
 この店にも吸血鬼用に輸血パックが冷蔵庫の中に入っているはずよ。
 たまに、それをいただいたりはしているわ。」

都市では吸血鬼用の食事輸血パックが普通に流通している。

614名も無き異能都市住民:2015/07/02(木) 20:33:28 ID:VDf8YIz20
>>613
「詳細は省くが、量より質をとっているだけだからね、大したことではないさ。」

本来は血統の希少性を保つため、正当な血統を必要以上に排出しない手段でもあり
総数を超えつつある場合は順次に処理されていくという昔からの方法であった。
その中で不要になった存在から血と力を奪い去るための体の良い『人減らし』の手段であった。

「それに、どうも輸血パックの味が口にあわないんだ。
 人にも同じことが言えるが、体への馴染みが違うからね。」

615ロザリア・ロートシルト:2015/07/02(木) 20:44:17 ID:nV.8tvHI0
>>614

「まぁ、あまり上等な味でない事は確かねぇ。
 とはいえ、最近は人を襲うのもいろいろと煩いから。
 私も丸くなってしまったものだわ。」

以前は、殺さない程度に痛めつけてから人の血を吸っていた時期もあったが、
最近のロザリアはそういう行為を控えていた。

「さぁて、私はそろそろお暇するわぁ。
 あなたに会いに来たのも久々に話したかったからだしねぇ。
 それではまた、ごきげんよう。」

芯だけになったリンゴをペール缶にひょいと投げ入れると、
席を立ち、現れた時と同じく空間の裂け目に消えていくロザリアであった。

616名も無き異能都市住民:2015/07/02(木) 20:51:27 ID:VDf8YIz20
>>615
「僕が次代の礎になることが確定しているんだ。
 凡そ二年。それだけの命だ。」

ロザリアが消え去った後に放った言葉は自身の余命のことであった。
本来はロザリアに伝える気ではあったが、伝えないのが正解なのか、伝えるのが正解なのか。
アイリスはまだ答えが出せなかった。

「では。ロザリー。次に何時会えるか分からないが、死ぬまでに会えると嬉しいね。」

アイリスの姿は既になかった。残されたのは、居た痕跡だけ。

617ゼオラ&ウルスラグナ:2015/08/19(水) 00:20:12 ID:l3ehZJ6I0
―――――街:大通り

異能都市はこの時間でも賑わっていた。
夜を主とする種族をはじめ、今からが活動の始まりである者もいるのだ。
日が落ちる前後のニーズの違いか、様相は微かに変わっているようだが違わない盛況を見せていた。

人ごみに混ざる少女二人。
漆黒を纏うゼオラと純白に包まれたウルスラグナも、こちらをメインとする人物であった。
闇そのものと化し光を嫌うゼオラと、特殊な症状から陽を嫌うウルス。
そんな理由からか、両者ともに夜の賑わいには慣れているようだった。

『しかし、余りにも無謀すぎるな』
「……」
黒衣のゼオラは幼く、ウルスに合わせる歩幅のサイクルも早い。
そんな彼女を見て微笑む純白のウルスの姿は仲の良い姉妹にも見えるだろう。
『人探し、か……。
 キミも知っていると思うが、こっちには頼れる伝手が無くてね。
 むしろ、そういうのはキミの領分じゃないのかい? ヒントならばあるじゃないか』
一方的に口を開くウルスは一呼吸紛れに目を瞑り溜息を吐く。
大通りに出てみたところ、特に当てもなくさまようだけなのだった。

618ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/01(火) 22:50:39 ID:l3ehZJ6I0
――――異能都市:大通り

本日は別行動。
一人になっても人探しがはかどるような訳もなくフラフラと夜道を歩いているだけ。
程なくしてマーケットで林檎を購入。
拳よりも大きなそれを両手で掬うように持ち、溜息。

周囲を見渡してから裏路地への分かれ道を見つけると迷いなく歩み始めた。

――――夜、裏路地

数分後。さびれたドラム缶の上に腰を下ろす少女の姿。
大切そうに抱えた林檎を顔の間近で見つめていたが、不意に口づけ。
歯を建ててほんの少しだけかじり取ればそのまま口へ運んで行った。

この様子だけを切り取れば荒廃的な世界と少女。
一枚の買いがであるかのようなビジュアルだった。
しかし、視界を広げればその様子は一変する。
血みどろの物言わぬ塊と化した物が数個、それらは数分前までは人間だったものだ。
路地の微かに広がった、このスペースを見れば目に映るのは、凄惨な現実。

619狐鳴 要:2015/09/01(火) 23:16:08 ID:qxLtkUKw0
――とんだドジを踏んだものだ。

嘴の奥で小さく舌を打ち、男は夜の裏路地を走る。
追い詰めた標的、自棄になって逃走を図られたが逃がす筈も無いと高をくくっていたのが間違いだったか。
忽然と気配を絶った相手に泡を食って走り出し、今に至る。

「そんなとんでもない野郎には見えなかったが」

これはしくじったか、賢しらに道を塞ぐ一斗缶の山を、腹立ち紛れに蹴り飛ばす。
空だったらしい、数個の缶が宙を舞う下を走り抜け、彼は足を止めた。
息を呑む。
長い事この稼業を続けているが、中々お目にかかれない光景がそこにあった。
死体ではない。
それすらも自身の調度品と化すかの様な、月明かりの差す路地の奥で唇を濡らす少女。
――進むな、この場を壊すな。
本能が警告している。だが無情にも、そして当然の帰結として落下する缶が派手な音を立てる。

「…やべえ」

620ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/01(火) 23:40:59 ID:l3ehZJ6I0
>>619
逃した男が再び姿を見せることは無いだろう。
欠けた林檎が再び紅一色になることも無いだろう。
それと同じように、一斗缶が静寂を崩す。
一枚の絵であったのは先ほどまでの事。
音の出所、男の方へと向いた視線が外れることは、無いのだろう。

黒衣の少女はさびれたドラム缶を蹴るとその上を跳び立った。
ふわり。揺らめいた柴色の髪は重力に沿って垂れれば膝裏まで届く。
とすり、べしゃり。重力を感じさせないような軽やかなステップで降り立った。
漆黒のメリージェーンが地面を浸していた血液を跳ね上げさせた。まだ、温かい。

足を止める男を見つめる金の双眸。
視線は確かに向けられていた。しかし視線という者が感じられない。
彼女がもしもショーケースの中に居るのであれば、そっちの方が納得できるだろう。
表情は愚か、瞳の輝きや頬の筋肉までが無機質。
彼女が『彼女』であると認識させたのは、その唇が微かに開き、
「……なに?」
とだけを伝えたこと。

621狐鳴 要:2015/09/02(水) 00:09:09 ID:qxLtkUKw0
>>620
揺らぐ事のない金色の瞳を、鳥面の黒い眼孔で受ける。手が震えていなければいいが、と男は思った。
死に頓着せず、まるで澄ました子供がダンスを恙無く終えたように、しかし何の意図も情操も読み取らせず。
間違いなく格上だ。格上の、殺し屋だ。

「…ちょろい仕事の筈だったんだが」

マネキン、いや、その精巧さは職人の手を経たドールと言うべきか。
もっともその職人は、人間らしく見せるなどといった点には微塵も興味を抱かなかったのかもしれないが。
呟きとともに余計な思考を埋没させる。

――馬鹿をするな。馬鹿をするな。馬鹿を――

その一点に集中し、まずはローブの内側から逆手に持ったライフルを見せる。
敵意は無い。男は問いかけに答えた。

「Shadow Run…ああ、便利屋ギルドの依頼を受けて、始末を付けていた者だ」

しくじったがな、と続け、男は少女の向こう、未だに、血の一滴に至るまで彼女を彩り続ける死体を向き示す。

「彼らを調べたい。構わないか」

622ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/02(水) 00:36:40 ID:l3ehZJ6I0
>>621
見たままで言えば間違いなく子ども。
視野を広げて一体までもを見てしまえば、そうは言えなくなってしまう。
狐鳴の目が死体は新しい物だと告げる。浸すほどの血液が、ここから出て行った人影がないことも示している。
この景色を作り上げたのは、他ならぬ目の前の少女。そう決めてしまうのが一番柔軟で、安全な結論。

それがドールであったなら、誰しもが欲するほどの風貌。
ただの少女でもそれは変わらないのかもしれない。ただの少女であったなら。
無機質で、無感情で、無口な少女の本質を垣間見てしまえば、そうは言えなくなってしまう。

一歩、二歩。
壁へと寄っていき、狐鳴の道を作る。
「べつに」
抑揚すら無の呟きにも等しい声で、そう告げられる。

623狐鳴 要:2015/09/02(水) 01:04:29 ID:qxLtkUKw0
>>622
「…ああ」
この少女は、多くの言葉を必要としないのだろう。そう踏んだ狐鳴もまた、抑えた声で返す。僅かに掠れてはいたが。
開けられた道を歩み、その隣を過ぎざまに一歩立ち止まる。
揺れるドレス。その主を間近で見たい誘惑に駆られたが、辛うじて足を勧めた。
――馬鹿はするもんじゃあない。

屍の傍に膝を付く。不思議と、彼らに見られている方が気が楽だと思った。クリーニング代も馬鹿にならんとロクでもない事を考える余裕が生まれた。
そして彼らの中に、ほんの数時間前に見知った顔も見つけて笑い出しそうにすらなった。自分が追っていた相手だった。
笑いはこらえたが、その代わりに小さく噴出してから狐鳴は少女に向き直った。
「この馬鹿共は、何故死んだ?」

624ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/02(水) 01:36:09 ID:l3ehZJ6I0
>>623
横を通り過ぎ、真新しい屍の元へ。
膝をつき、視線をそっちに写したときには、少女が立ち消えてしまったかのような錯覚を覚えるだろう。
全員を確認し終え、居なくなったはずの少女に目を向ければ、変わらずそこに居た。

年齢は狐鳴の半分をさらに下回ってしまうだろう。
本来ならば陽の昇る時間を無垢に駆け回り、今の時間には既に目を閉じてしまっているくらいの。
季節や時刻に似つかわしくなく、少女の衣はフリルをはじめとした装飾が過剰な厚手のもの。
ほぼ黒一色のゴシックロリータドレスは、彼女がドールであったなら、適切な服装なのだろう。
しかし、裾から覗く華奢な足、カフスから覗くか細い手、顔色一つ変わらない白い肌はもしや適切なのではと錯覚させるには十分至る物で。

ドール。やはりそう思ってしまいそうになるほどに、少女は希薄だった。
狐鳴が目を背けている間にも、変わらずずっと、そこに居たのだ。
見えているのに気を緩めれば消えてしまいそうなほどに希薄だっただけのこと。
新に林檎に牙を立てて、ゆっくりと小さな口を動かしながら、ずっと狐鳴の動きを眺めていたのだ。

故に、問いかけには口を開いた。
「……邪魔、だったから?」
別段、悪びれもしない口調。
今まで通りに何一つ、文字以上の情報の得られない返答。
しかし、その情報を受け入れれば正しく少女が作り上げた屍の山だとわかる。
数人ほどの男たちは何れも何か大きな、杭のようなもので胸を貫かれて死んでいた。
しかしながら、少女の手持ちには何一つそれらしきものが見当たらない。
普段から持ち歩いているのだとしたら、あの体躯では隠しようもないはずの武器。あるいは、魔法。

625狐鳴 要:2015/09/02(水) 02:15:55 ID:qxLtkUKw0
>>624.
「そうか」
――邪魔だった、か。
再び、少女に背が向けられた。その肩は小さく震えている。
多分、こいつらは自分が思うより馬鹿だったのだろう。屍を見る狐鳴の口元は、恐れと笑いがない交ぜになっていた。
やってはいけない場面で、度を越して馬鹿な事を仕出かしてしまったのだ。
「…興味の無い話かもしれんが。どうやら俺は、あんたに世話になったらしい」
仕事用の端末を取り出し、件の死体にかざす。小さな電子音。もう肩は震えていなかった。

不意にそこには誰もいなかった様に思えて、狐鳴は振り向いた。
だが少女はそこにいた。恐らく変わらず、狐鳴を観察していた。林檎の傷は小さく、されど深くなっている。
途端に、こうして声を掛ける事が場違いな気分に囚われ、押し黙った狐鳴はそれでもじっと見返した。
――まったく、変わらず、何も読み取らせようとしない。その上――
その上、本当に恐れるべきであるのは、彼女自身にそんな心積もりが微塵も無いという事だ。
少女が持つであろう異能。屍を築いたであろうそれを振りかざされるより、狐鳴は少女の深淵を恐れた。

――ちょろい、仕事だったな。ここまでは。
そして、小さく息を吐き、唇を歪めて、そこに踏み込もうと前へ歩いた。
端末を少女へ向ける。モニターには小さく入金の報せが映る。
「おかげで楽して稼がせて貰った。だがどうにも自分のヘマが気に入らない」
音を立てて、端末を閉じた。
「一杯奢らせてくれ」

626ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/02(水) 23:28:28 ID:l3ehZJ6I0
>>625
向けられた画面に少女の足が動く。
そこに記されていた入金の知らせを眺めると、顔はそのまま上を向き狐鳴の目へと。
ガラス玉の瞳には何も映らないようで、仮面の奥までも見つめていたり。
ぱち、と瞼が一瞬だけ閉じると「そう」とだけ口にする。

無感情が司る視線の先には狐鳴がうつる。
うつろな瞳は、何を見ているのだろうか。それを察することができない故に、瞳はうつろ。

胸の前で抱えるようにしていた林檎を下ろせば、そのまま掌を転がってしまう。
小さな右手から転がり落ちた林檎はべしゃりと音を立てて赤黒い浮かぶ。
果物の赤と血液の赤が混ざり合う。まるでこの一帯がこの林檎から溶けだして、流れ出たかのようにも見えてしまうだろう。
「いく」

627狐鳴 要:2015/09/03(木) 23:30:31 ID:qxLtkUKw0
>>626
うお、と声に出せない呻きを噛む。狐鳴は歩み寄る少女に身の竦む思いがした。待て待て、ちと近すぎる、と。
月明かりが翳る。その所為だろうか、見上げてくる瞳には何も認められず、金色であった筈の瞳は暗く夜闇が広がっている様に思えた。
そこに映らないのであれば、誰もいない。
うつろな瞳に誘われる様に、僅かな息苦しさと共に狐鳴は錯覚した。
そう、錯覚だ。瞬きが去り、硝子細工の様な声が向けられた。それが他ならぬ自分にだと気付いて、ならば自分はここにいるのだろうと狐鳴は思い直した。
いていいんだろう。そして、それは本来自分が決めるべき事であると思い出し、ようやく少女の瞳に映るのが鳥面の眼孔だと認めた。
思わず面に手を当てる。
――ああ、くそ、畜生。仕事は殆ど終わったんだ。もう取っちまっていい筈なんだ。
結局、外さぬまま手を下ろす。尤も、彼女が今もそれを見ているのかは分からなかった。瞳は今も、うつろで、無感情だ。
ただ呼吸は、もう苦しくなかった。

べしゃり

止める暇もない。林檎は始めからそこにあった様に身を降ろした。
彼らの死もそこから生じたものであるかの様に。人の世がそこから始まったものであるかの様に。
「…そりゃ良かった。ついてきてくれ」
どこかにそういう教えがある事を狐鳴も知ってはいたが、信じた事はなかった。それより少女の答えの方が重要だった。
先に立って彼女が歩むのを待ちながら、鳥面を取って自らが破った絵画の残り香を最後に眺める。自分が請けた仕事の標的と、そして一緒に死んだ名も知らぬ者達。
――後を引くか。
二人が去った後、ひとりでに燃え出した林檎の香りが漂い、やがて血と肉の臭いにそれも消え去った。

【とある酒場】

狐鳴が選んだのはそう離れていない、よくある造りの、安酒だけは豊富に取り揃えていそうなバーだ。
だが服を血で汚した白髪の男が、明らかにそぐわない外見を持つ幼い少女を連れて入って来たとしても通報されないだけの度量はあるようだった。
狐鳴が奥のテーブルで待つよう伝えた少女に様々な意の篭った眼を向けても、絡みに行く者もいない。今のところは。

「…リンゴジュースでいいか?」

酒もあるけどな、と両手に幾つか瓶を提げた狐鳴が尋ねる。鳥面を付けていた時より、その声は幾分か緩んでいた。

628ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/05(土) 23:27:53 ID:l3ehZJ6I0
>>627
向けられた瞳に対して交わすように投げかければ、そこには闇が広がっていた。
月を背にする狐鳴の影で黒く染められた瞳は、無のようで、闇のようで。
本能的に感じて避けた少女の深淵というものが、虚でないものだと信じさせるようなもの。
だがそれはしかし、錯覚。
狐鳴の感じた真実は、今のところはただの思い込みで、虚だけでしかなく、少女の瞳は愛変わらずのガラス玉。

少女は狐鳴についてくる。
背丈、歩幅の差。歩行のサイクルは細かくちょこまかと着いてくる。
それだけ見れば愛らしい光景に見えていた……が、少し経てばある違和感に気付くだろう。
無音すぎる。
そこは裏路地であり、ほかに人はいない。ともすればこれが普通にも感じてしまう。
しかし、無音すぎる。まるで、傍らに少女など居らずただ一人であるかのように。
間違いなく、着いてきている。二人分の大小それぞれが一対の血に濡れた足跡が振り返れば見える。
足りない。聞こえないのだ。希薄すぎる少女の存在は、振り返らなければ確認できなかった。


――――とある酒場

言いつけられた通りに、奥のテーブルで待っていた。
赤いリボンの飾り付けられた小さなシルクハットを震わせることなく、佇む姿はまさに人形。
狐鳴が迎えに来てもそれは同じで、金の瞳だけが捉えて動いた。
「ん……」
示されたいくつかの瓶から差し出された一本を素直に受け取る。
手元のグラスに注ぎ込めば、ゆっくりと口をつけて喉に通していく……。

629狐鳴 要:2015/09/08(火) 00:37:08 ID:r8nhCXfY0
>>628
その人形めいた美しさと生の希薄さを別とすれば、こくこくとグラスを傾ける姿はまごう事無き少女のそれだ。
瓶からビールを流し込みながら、狐鳴は向き合う相手の仕草に気を引かれた。
改めて灯りの下で見れば、その装飾品もまた少女の無機質さを表すのに一役買っているように感じられる。
「似合っちゃいるがなあ」
ぼんやりとした呟きが漏れる。ゴシック・ロリータで調えられた黒の装い。幼さを包んで冷然とした雰囲気を醸すそれを纏い、紫の髪を揺らす少女は確かに人間の姿をしていた。
にも拘らず、そこへの不自然さや違和感を消す事ができない。この店への道中でもそうだ。その希薄に過ぎる気配に惑い、決して長くは無い道程で、狐鳴は何度少女を見失ったか知れない。
よく見知った店で今こうしている時にも、やはり自分が分不相応な、何やら大それた事をしているような気分になるのを抑えかねて狐鳴は瓶を置く。テーブルの上に並ぶ同じラベルの瓶が微かに揺れるのを見てから、それで、と口を開いた。
「あんたは仕事じゃなかったのか」
思い出したかのような問いだ。しかし、ずっと気になってはいたのだ。
「いやそっちの名前は知らんし、多分稼ぎは比べようも無いけどな。同業者ではあるだろ?」
だがその答えを得るには、もう少し狐鳴は自分の事を伝えるべきではないか、と踏む。早くも乾きだした喉へともう一度炭酸を流し込んでから、彼は名乗った。
「狐鳴だ。狐鳴要」

630ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/08(火) 02:27:26 ID:l3ehZJ6I0
>>629
狐鳴の独り言が漏れて初めて、視線に気が付いたようで。
瞬き一つの後に金色のガラス玉がわずかに揺れて狐鳴を見つめた。
いわゆるゴスロリと呼ばれる黒の様相。
ゼオラ自身の肌の白と髪の紫、そして瞳の金という色を除けばそれだけに見えた。
が、狐鳴の発言に合わせるように動いた首元に、銀と碧が見えた。
彼女の首、手足同様に細い首を隙間なく覆う銀の首輪。
その正面に大き目の碧の宝玉がはめ込まれているのであった。

今までも特に隠す素振りもなく。それはこれからも同様。
相変わらず必要最低限のアクション、口だけを開いて言葉を返す。
「……別に」
邪魔だったから。と、前には答えたが多くを語る気はないのかそれっきり。
喋るためだけに話したグラスを再び口に近づける。続く質問には答えないと言わんばかりに。
しかしながら、グラスのジュースが空になれば口を離れ、そのついでとばかりに。
「……ゼオラ=アドヴァルド」
今度は首ごと空のグラスに落ちて、会話の終わりを促した。

631狐鳴 要:2015/09/09(水) 00:44:16 ID:r8nhCXfY0
>>630
金色の瞳が揺れ、銀の首輪が一瞬煌く。少女の装いというには些か異彩を放つものだ。しかし、狐鳴にはそれもまた彼女に欠けてはならないものに見えた。
そういった事を、少女から読み取る事はできないし、最早狐鳴もその必要を覚えなかったが、そう感じるのだからそういうものなのだと思う事にした。必要でなければ、あの林檎のように落ちてゆくだけであろうから。
素気無いその仕草にも、何とは無しに慣れてきていた。もとより、興味を惹かれるに任せて半ば無理に時間を延ばしているのだ。
目の前の少女が知らぬ間に消えてしまったとしても、狐鳴にはどうしようもない。精々次に会ったらちょっかいを出す程度だ。次があればだが。
だから、彼女がそうしていない今は、静かに酒を舐めていればいいのだろう。
掴んだ瓶を傾ける。少女…ゼオラと名乗ったその声が、小さく確かに耳を打つ。

「!? っ、がっは…っ、はっ…」
狐鳴が盛大にむせた。炭酸の飛沫が喉を焼く。ガハガハと咳き込みながら、終いには笑いまで混ざってきた。自身の馬鹿さ加減にだ。喧しい事この上ない。
…曰く、銀輪のゼオラ、碧玉のゼオラ、彩る災…本人には与り知らぬ事だろうが、この都市に蔓延る二流、三流の殺し屋の間には、その名はある種の畏怖を伴って
詰まる所、大物だ。少なくとも、狐鳴のいう同業者というだけでは接点の持ちようが無い類の。
そして、そういった存在の常として、噂のみが独り歩きもしていた。幼い少女だとは、聞いた事がなかった。
「っはは…いや悪い。トシでな」
狐鳴は何故、自分がこうもゼオラに気を取られたか理解した。幼女趣味ではない。その余りに近い死の気配に惹かれたのだ。
瓶をとり、今度こそ無言のまま空のグラスに向ける。ジュースか酒かは見ていなかったが、ゼオラが飲めるならばどちらでも良いだろう。

632ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/09(水) 01:41:31 ID:l3ehZJ6I0
>>631
「……?」
目を離した途端に噎せ返る男に、流石の少女も無反応ではいられなかったらしく、首を上げた。
一人慌ただしく表情を変え終いには笑う狐鳴を、少女はじっと見つめていたことに気付くだろう。
再び視線が通い合えば、こてんと首が横に倒れ不可思議を示すジェスチャーを見せる。

傭兵やレンジャーをはじめとする、広義で言えば同業者の間には、確かにそんな噂話もあった。
ただそれは噂話でしかなく、その噂も根拠や出所にかける途方も無い、所謂伝説のようなもの。
それは曰く『死神』だの、『死そのもの』だのと言われ嘘半分に囁かれてきた暗殺者の存在だ。
多くの依頼を受けはせず、片手の指以下の数のコネクションからしか仕事を受けないゼオラの露出の少なさがこの原因だったりする。
黒塗れの姿で、闇を手足のように扱い、まるで闇そのものとも語られたそれは、有態に言えば途方も無い話。
ただの少女がいくら衣装が黒いからと言ってもそう簡単に信じられるものではないのだろう。
だがしかし、『場面』に立ち会ってしまった狐鳴は少女の名を信じてしまった。
見返してみればその瞳は、影に覆われて光を失ったときだけでなく、今ですら深い闇に覆われているようにも感じられてくる……。

633狐鳴 要:2015/09/10(木) 22:01:05 ID:r8nhCXfY0
>>632
小首を傾げた瞳を映しながら、空のグラスが満たされてゆく。
瓶を置くと、狐鳴は新たに別の瓶を握った。
「あー…いや何、見ると聞くとじゃ違うって話だな」
未だ少し掠れる声で視線に答える。知ってか知らずか、目の前の少女はその噂の広まりにまるで頓着していない様だった。
「あんたは有名なんだよ。俺みたいな連中には、ゼオラ、って名前は特別だ。わかるか。…命が惜しけりゃ関わるな、ってこった」
噂が独り歩きした結果だろうか、彼女が手に掛けたものではない殺しがそうだと看做される事もある。大抵は、狐鳴には手に負えない様な所謂、やばい仕事だ。
ある夜、厳重に警備されたマフィアのドンだの何だのが忽然と殺されている。誰が言い出すのか知らないが、ゼオラがやった、と言えばそれで済んでしまう。そんな具合だ。
彼女がそれによって不利益を被った事もままあるのかもしれない。
大体、報復は適当な相手が見繕われる。捜査は行き詰まる。だが、中には馬鹿もいるものだ。

ぞくりと狐鳴の背が冷える。酒が足りないらしい。
見返す瞳は金色のままでありながら、何人も呑み込んでしまうような暗さを湛える淵にも似ていた。
「ところで。…腹減らないか。俺は減った。多分焼きソーセージ位しかないがな」
狐鳴はどうしてこの場から逃げ出そうと思わないのか、自分では分からなかった。

634ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/22(火) 19:59:36 ID:l3ehZJ6I0
>>633
「なに」
狐鳴の第一声のみでは要領を得なかったのか視線が外れることは無く。
空のグラスが満たされていく間もずっと、金の瞳は逸れることなく向けられていた。
そして、ようやく語られた次の言葉で、理解を得たものの、やはり反応は薄く。
「そう」
予想通りの小さな返事。
噂の広まりを知らないどころか、広まりすら興味がないらしくやはり淡泊だった。

「んー……」
それでなお、視界が離れなかったのは狐鳴の提案によるものだろう。
思案するような数秒の間を置いて、コクリと縦に首が落ちた。
「食べる」
絶えず向けられていた瞳がパチリと音を立てた。
そういえば、ゼオラの噂で一つ。この瞳にまつわるものがあった。
目を合わせたが最後。闇より深い瞳に魂を吸い込まれて眷属にされてしまう。という突拍子もないものだが。

635赤井 竜也:2015/09/23(水) 17:15:29 ID:BybH1e.M0
老若男女問わず利用される大公園。
そこの石畳の噴水広場でクレープの移動販売車がやっていた。
ご丁寧に車の前に座って食べるための
白いプラスチック製のガーデンテーブルと椅子がある。
近くの看板には"相席自由であることをご了承ください"と書いている。

「おっ美味しそうだな……すいません!クレープ一つください」

たまたま近くを通りかかった赤井はクレープを頼み、出てきたクレープを
用意されていた椅子に座って食べ始めた。

/絡んでくださる方は申し訳ないですが置きレスでお願いします

636赤井 竜也:2015/09/23(水) 19:26:24 ID:BybH1e.M0
>>635

/他の方が使っていらっしゃったので取り消します

637狐鳴 要:2015/09/26(土) 18:38:09 ID:r8nhCXfY0
>>634
「ま、構わんさ。もしかしたら俺が知ってる情報なんぞ、全部嘘出鱈目の事なのかも知れねえ。あんた以外の口から聞いた、その名前も含めてな」
虚実綯い交ぜ、信じ難いが、否定もし難い。だがそれがあった事すらもまた疑わしい。噂とはそういうものだ。
そして狐鳴が仕事の上で触れられる情報は、大概がそういった類のものだ。
その程度のものを拠り所に銃を担ぎ、命の安売りに精を出している。今も、昔も。
「惜しむもへったくれもあるかい」
ゼオラの小さな返事に頷いてから、ぐいと瓶の中身を喉へと流し込む。
予想通り、だからこそ耳に通るその声が心地良い。

「よしきた、付き合い良くて嬉しいねえ」
提案を受けるゼオラの仕草に、声を上げて喜ぶ狐鳴。随分馴れ馴れしくなったものだ。
ようやく酔いが回ってきたのか、畏れはそのままにこの機会を愉しんでいるらしい。
程なく、店内に香ばしく腸詰の焼ける匂いが立ち込めた。
――おう。あ? いやなに、ロリコン拗らせてな。
カウンターまで足を伸ばした狐鳴が、品の無い冗談を交わしながらフォークと皿に山と盛られたソーセージ、そして新たに瓶を数本、両手に持って帰ってくる。

ゼオラは未だその様子を観察していたろうか?
座った狐鳴が、更に瓶を一本空ける。ふと、テーブルを挟んで輝く金色の瞳が数多はらむ内の噂を一つ、思い出した。
よくあるとんでも話な噂だ。だが真実であれば俺はあれか、彼女の家来か従僕か。と目の前の少女に傅く自分を想像する。
まあ悪くは無い。ゼオラは嵌り役だ。しかし自分が絡むその絵面の余りの微妙さに、くつくつと狐鳴は笑って椅子の背にもたれた。
その不審な挙動に当の金瞳が向いたなら、ぐっと身を乗り出すだろう。
「…おいマスター。ご主人、姫様。どうしたよ、もっと食わんのか。それとも食わせてやろうか、ん?」
いよいよもって本当に、酔いが回ってきた様だ。

638ゼオラ=アドヴァルド:2015/09/27(日) 01:54:12 ID:l3ehZJ6I0
>>637

「……」
酒の回った男はより口が回るようになる。
以前からあった口数の差が、酒によってさらに広がっていく。
酔いの回った男はついには独り言まで口にするようになり、席を立つ狐鳴に合わせてそっと目線を外した。

こうなった人間の扱いまでを知っているとは言わないが、アルコールがどう作用させるかくらいの知識はある。
何も、酒が絡む場に誘われることは初めてでないからだ。
ゼオラにも、仕事を請け負う前の顔合わせで避けを進めてくるような輩は居た。
しかしながら、ゼオラにはアルコールという物が理解できないでいた。
それもそうだ。少女は自分の成り立ちを思い出した日には少々残念がった。

ガタ。という椅子の音で目を戻せば、帰ってきた男の手にあったソーセージにつられる。
実は、少女は無類の肉好きであった。
最も好みなのは血の滴る程度にしか焼かれていない牛肉のステーキであるが、これも十分なほどに好みだ。
香ばしい匂いに鼻をくすぐられると、テーブルに置かれた酒の瓶が目に入った。
「……」
ほんの気まぐれで一つの瓶に手を伸ばし、自分のグラスへと注いでいく。
泡を立てながらグラスを満たす黒ビールに、満足げな笑みを浮かべた。
ふと見れば、狐鳴のグラスも空いていたので同じように注いでやる……気づけば、男は身を乗り出していた。
そして、眼前まで差し出された一本のソーセージに気付けば、自然と視線が集中する。
湯気を立ち上らせる熱気と匂いに、ゼオラの喉が鳴った。
次の瞬間には慎ましく閉じられていた口を今日一番に大きく開けて、差し出されたそれを口に含んだ。

639狐鳴 要:2015/09/28(月) 02:01:08 ID:r8nhCXfY0
>>638

不意打ちと言って良い。
ゼオラが二つのグラスに注いだ酒も、見た目の齢相応の笑顔も、自分が差し出した料理にあっさりとかぶりつくその姿も。
その全てを、狐鳴はぽかんと見つめていた。
華麗にスルーされて終わりだろうと踏んでいたソーセージが、いっぱいに開いてなお小さな口に消えてゆく様を見ても、飲み過ぎたのかもしれない、としか思えなかった。
彼女が一本食べ終わる頃にやっとそれを理解できたのか、狐鳴は腹の底から笑い出した。
「…は、はははははっ。あんた面白いなあ! よし食え、よし飲め!」

こうなると酔っ払いの面倒くさいこと、五月蝿いことといったらない。
肉のおかげでどうにかこうにか、少女の許容範囲に収まっているのかもしれない。
そのゼオラの口の中では、柔らかな羊の肉が腸詰から溢れて舌に絡むだろう。血の代わりといっては何だが、汁気も多い。
羊肉を使ったものはまた別の名前にもなるのだが、そういった拘りは持たないのかこの店では全部ひっくるめてソーセージらしい。
つまりこのソーセージの山、豚牛羊の何肉が当たるか分からない仕様である。安肉である事に違いは無いが、狐鳴はそれも含めて嫌いではなかった。
それは店にたむろする他の客も同じらしく、酔い潰れて寝ていた者も匂いにつられたか起き出し注文を重ね、ひそやかな会話が主だった店内は俄かに賑わいを見せ始めた。

その喧騒の中で、何だか勿体無くて手を付けかねていたグラスをそっと持ち上げ狐鳴が口を開く。
「サーバントぐらい、その瞳が金色じゃなかろうがなってやるってもんさ。仕事の後にこんな楽しい酒は久しぶりだ」
噂と現実が渾然となる程度には酩酊しているらしい。
差し出されたグラスが、もう一つのグラスを待つかの様にテーブルの向こう側を映している。

640ゼオラ=アドヴァルド:2015/10/12(月) 02:15:13 ID:l3ehZJ6I0
>>639
「んー?」
顔を引き差し出されたフォークからソーセージを引き抜く。
小さな口に一本は当然のように収まりきらず、多くが飛び出てしまっているが、もぐもぐと咀嚼しながらゆっくりと小さな頬に収納していく。
暫くそれに必死になっていて、向かう男の表情には気づけずにいたが、ふと目を合わせると、尚のこと楽しそうに笑っている。
相変わらずの無機質でアクションを起こさないまま数秒見つめていたが、同時に向けられた言葉に頷く変わりにグラスに口をつけた。

「そう、たのしい……?」
言ってみれば、テーブル外の喧噪は全て雑音。
酒で潤った口で告げられた声は乏しい声量で、ギリギリで届けられる。
安酒を煽って騒ぐような酒場が露程も似合わない少女ではあるが、雰囲気に乗せられたのかグラスが進む。
注いだビールをすぐに飲み干してしまうとグラスを差し出し、小さく揺すって催促するのであった。

641狐鳴 要:2015/10/25(日) 23:32:48 ID:OvaJCA2g0
>>640
「楽しいねえ。特にあんたを見てると尚更だ」
喧騒の中で軽やかに舞う微かな声を捕まえて、狐鳴は酔いに締まりの無くなった顔を向ける。
どちらかといえば、趣のある洋館でワインを傾けている方が絵になるゼオラだ。
だがそんな彼女だからこそ、今こうしてミスマッチの極みとも言えるような安っぽいバーの騒々しさを纏う姿が際立つ。
魅力的ですらあった。

「…おっと。はいよただいま」
なればこそ、見ているのが楽しいのだ。催促されるがままにグラスを満たし、瓶を置いた手で再びフォークに刺した腸詰を差し出す。
「っはは! あんたやっぱり、結構いい性格してるよなははは」
酒臭さを撒き散らしながら、対照的に世俗を齧りながらもその臭いに染まる事がないゼオラに注ぎ続ける。
彼女が望む限り、それを繰り返すだろう。

とはいえ、皿の腸詰と共にどうやら酒も尽きてきた様だ。
空いた片手で、見もせずに掴んだ瓶を直接口にする。
「…あ、ジュースだぜこれ! っははは!」

642ゼオラ=アドヴァルド:2015/10/31(土) 23:28:23 ID:l3ehZJ6I0
>>641
注がれれば飲み干すし、差し出されれば頬張る。
表情の変化の無さこそだが、与えられたものは喉に通す。
その従順さはある種外見通り、子どもらしくあった。

場末の雰囲気にのまれた結果だろうか、
いつの間にか少女の頬は赤く染まっていた。
狐鳴の笑い声に対して不満げな呻きが漏れる少女。
そこには確りと感情がある物だと感じさせた。
「うぅ〜……っ、もう、ない?」
ただ、それは感情の出し方としては間違っている。というのが正解である。
グラスに注がれた最後の分を飲み干して、空になった皿を突きまた悲しげに呻く。どう見ても酒に酔っていた。

643狐鳴 要:2015/11/01(日) 00:11:31 ID:OvaJCA2g0
>>642
「わはははっぐぅ!?」
狐鳴の馬鹿笑いが呻きと共に止まった。
なるほど目の前の少女は随分と出来上がってきたようだ。
と言うか酔えたのかと、ともすれば見入ってしまう自分の足を踏みながら、狐鳴はカウンターに眼を向ける。

問、この死神が可愛いんでもっと飲み食いさせてやりたいんだが構いませんね。
答、駄目。お前らだけで在庫潰す気ですかもうマジ無理。

――畜生、二度と来るかこんな店。
一週間後には忘れられているであろう誓いを立てながら、狐鳴は他に知った店の算段を立てる。
あの店はもう閉まる、この店は幼女連れて入ったら通報される…等々。
酔いが回っても、いや、むしろだからこそか仕事の時よりも考えが回っている様だった。
ゼオラが悲しげに強請る声からそう間を置く事無く、狐鳴の喧しい声が答える。
「無い! …ここにはだが!」
危なかった。もう一度あの切なげな声を聞いていたら、銃をぶっ放してこの店を占拠に及んでいたかもしれなかった。
やはり酷く酔っているのだろう狐鳴は、店の扉を指差し捲くし立てる。迷惑極まりない。

「だァがっ! 俺達にはまだ開かれた扉が、次の店がある!」

詰まる所、ハシゴである。

644ゼオラ=アドヴァルド:2015/11/17(火) 00:37:30 ID:l3ehZJ6I0
>>643

ふらふらとおぼつかない足取りで狐鳴に連れられ店を後にする。
今となっては当初の雰囲気はどこへやら、火照った顔、その口からは静かに締まらない笑い声が漏れるばかり。
ただ、表情筋の硬さは生粋らしく、一切も笑いを表現できてないだけに不気味さは元以上。

「うぅ……おぉ〜……っ」
狐鳴の宣言に釣られて、拳を突き上げて気迫を込める少女。
……無垢の死神すら狂わすアルコールの力。恐るべし。

645狐鳴 要:2015/12/02(水) 23:39:31 ID:OvaJCA2g0
>>644

「よしよし笑え笑え! ぜーおーらーがわらうかーらさけがのめるぞーわっはっはっは!」
こちらも当初のビビり具合は何処へいったのか、駄目な大人丸出しで道を行く。
道連れにした少女の酔いっぷりも、余人には不気味さを感じさせるのかもしれないが、狐鳴には実に魅力的な飲み仲間に映っているらしい。

ゼオラの気迫にまた馬鹿笑いを重ねながら、馴染んだ道を次の店へと。
やがて煌く灯火と雑踏に紛れ、奇異の眼差しが二人の姿を捉えることも叶わなくなるだろう。異能都市の夜は長い。

眠らない魔都を不夜たらしめる要因が、ここにもまたひとつあるようだ。

646ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/09(火) 01:37:11 ID:VOn/yaUY0
【箱庭―――闇夜のホール】

果てが闇に隠された舞踏場。
明りと言えば壁に掛けられた燭台の灯火と空から落ちるシャンデリア。
何れも明りとしては不十分で、ホールには常に闇が満ちていた。

箱庭の機能で自動生成された魔物の群れを縫い交わす少女。
闇に踊るのは少女。
ステップを刻めば胴を裂き、高くまえば首を跳ねる。
柴色の雷。一瞬のスポットライトが煌めいたと思えば魔物の群れは殲滅されて消えていく。

「……足りない」
後に残るのは不満足げな呟きのみ。

647ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/10(水) 23:32:57 ID:QMVSAyRQ0
>>646
「わー!あうっ!」
箱庭の上の方から、少女の声が聞こえてくる。

「……んん?」
そこに居たのは、全身に包帯を巻いた少女。
キョトンとした顔である。

「あー『ぜおら』なの!
 こんばんはー、なのー!」
のんきな表情で彼女は答える。
見ると、彼女は刀を抜き身で持っていたようだ。

…彼女も似たような訓練をやっていたようである。

648ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/11(木) 00:00:53 ID:VOn/yaUY0
>>647

一瞬の閃光の果てに立ち尽くす少女。
不満足さを訴えた呟きは静けさに吸い込まれて本人以外の耳に届くことなく。
微かな隙間を作っていた口は閉ざされ、言葉は完全に闇の中へ立ち消えた。

「ん……」
たまたま同じ場に居合わせていた二人。
対照的に活気にあふれた声はホールの中でよく響いた。
聞き覚えのある声に目をやれば、ちょうどお互いの視線が交わる。
「こんばんは」
その直後、空間中にあふれる闇に紛れるようにして漆黒が立ち消えれば。
一瞬の間もなくディスの前方に広がる暗黒から歩み進んでくる少女。

久しく顔を合せなかった少女は衣装が様変わりしていた。
全体のシルエットが漆黒に包まれているのは相変わらずだが、
彼女の一挙手一投足に連なる金属の音―――黄金の鎖が脚に、腰に、胸に這い右腕にまで絡まっていた。
そして左半分だけを覆う仮面は純白。瞳に填められた緋のガラス越しの目が瞬いた。

649ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/11(木) 00:04:48 ID:QMVSAyRQ0
>>648
「…あう?なんなのー、そのかっこー」
彼女の格好は随分と違っている。
ディスはさほど変わりないのだが、
まるで、この二人の格好は白と黒である。


「やっぱり、ここでとっくんしてたのー?
 それとも…ゆっくりしてたの?」
不思議そうな顔をしながら…
彼女の格好を見回した。

彼女は時折草原などといった地形に入って
のんびりすることもある。

「『でぃす』はねー、
 とっくんしてたの!
 このあたりって、ちょっとつよーいのがでてくるからなの!」
どうやら彼女は訓練目的であるらしい。
たしかにここの魔物は強さのレベルは高いのだが、
今まで戦ってきた二人からすれば、大した相手ではないだろう

650ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/11(木) 00:35:18 ID:Itwww9Dc0
>>649

「なんとなく……」
その言葉と共に仮面を取り外す。
下には傷や、穢れがあるわけではなく、いつも通りの少女の顔。
けれども気に入っているのか、表情のない顔を少し見せるだけでまた取り付けてしまう。

「どっちかな……」
ディスの言葉に首をほんの数度、傾ける。
羽を伸ばしていたのか。
ほんの数刻前まではディスと同じように魔物を相手にしていた。
ゼオラにとっては手間取るような敵でもなく、踊るように跳ねるように、切り裂いてきた。
ならばなぜ。他ならないただの気まぐれは、羽を伸ばすということだったのだろうか。

或は、待ち望んでいたのかもしれない。
「……わからない、ね」
傾いた首はさらに横へ。

651ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/11(木) 00:40:14 ID:QMVSAyRQ0
>>650
「なーんとなくなんだーなの…
 『でぃす』もしてみよっかなーなの」
自分のラフな格好を見ながら首を傾げた。
ちょっとかっこいい…なんて思ったかもしれない。

「うーん…わからないかーなの…」
そう言ってあたりを確認する。

「『でぃす』とゆっくりしたりとか…
 それともいっしょにとっくんしたりとか…するー?
 『でぃす』はちょーっとおひまなの!」
と、嬉しそうに、唐突に答えた。
彼女は暇を持て余していたのだろう。
そして一緒にのんびりするか…
或いは特訓をする貸したいということのようだ。

652ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/11(木) 00:54:36 ID:VOn/yaUY0
>>651

「……」
ディスの振れる視線の先を瞳だけで追っていた。
ここは箱庭。魔物や的の出現の有無は自由に設定できる。
丁度全てを倒し終わったところらしく、辺りには気配一つすらない。

「じゃあ……」
ゼオラの動作は緩急が激しいと言える。
時折見せる素早さには目を見張るものこそあるが、基本はマイペースかつスローペースだ。
現に今も、ディス以上に動きはなく、ゆったりとした動きで倒れた首が戻っていくのみ。
その果てに二度瞬けば、口が開く。
「……遊んであげる」

653ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/11(木) 00:59:34 ID:QMVSAyRQ0
>>652
「だーれもいないし…」
そう言ってから彼女の様子を見た。

「…わかったのー。
 じゃああそぼっかなの!」
そう言って軽く刀を構える。


「…あ、このあそぶっていうのは
 とっくんってことでいいんだよねなの?」
…ちょっと不安になったのか構えを解いて
首を傾げた。

彼女も彼女でマイペースなのである。

654ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/11(木) 01:24:21 ID:VOn/yaUY0
>>653

ディスの了承を聞いた瞬間、ゼオラの身体が闇に消える。
歩んできた数メートルを後退してディスに相対していた。

ゼオラの緩急の差。
黄金を軋ませて伸ばした手には曲刀。続けて天高く伸ばされた手には細剣。
曲刀<闇夜を切り裂く月に似た湾曲を見せるシミター>と細剣<愛しき者への手向けの十字架にも見えるエスパダ>。
黄金の輝きを放つ双振りの刃を構えた瞳は、純白の仮面に埋め込まれた真紅でディスを見つめていた。

655ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/11(木) 01:28:53 ID:QMVSAyRQ0
>>654
「…やるきまんまん。」
ディスは嬉しそうな顔をして…

しゅる
しゅるしゅるしゅるしゅる!

「『でぃす』、うれしいよなの!」
全身の包帯が激しく蠢き始める。

「…こっちもいくからねなの!」
そう、彼女の一打はその全身の包帯から

「いっけぇ!!」
鋭利な刃物の形状に変えて、猛スピードで二本ほど伸ばしてゼオラを攻撃するのだ。
ムチのような長さの包帯は、ある程度離れた相手にも十二分に届くのである。

656ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/11(木) 01:53:19 ID:VOn/yaUY0
>>655

相変わらず瞳に映る物は空白。
まるで人形であるかのように気配の存在しない少女。
漆黒の衣装が相まって、暗闇の充ちるホールでは気を抜けばそのまま見失いそうな程。
しかし、今までと違うのは彼女の身に着けた純白・黄金。そして双振りの双剣が闇の中でも存在をはっきりとさせていた。

差し向けられた包帯をその場から一歩も動くことなく、両手の刃を駆使して迎え撃つ。
特別な力はまだ発揮されていない。黄金の刃が本来持ち得る研ぎ澄まされた切れ味によるものだ。

以前としてゼオラは脚を進めない。紅と金の瞳はじっとディスを見つめている……。

657ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/11(木) 02:04:24 ID:QMVSAyRQ0
>>656
「むむむう…
 みうしなっちゃいそうなの…」
耳もよく、鼻も目もいいディスでさえも、
彼女の気配の薄れ具合は、見失いかねないほどに思える。


「でも、めでおったら…!」
黄金の刃はたやすくディスの包帯を受け止める。
これだけではどうやらダメ、だろうとディスは思う…

「でもまだまだ…!
 あるからなの!」
続けて無数の包帯を四方八方から伸ばして攻撃を仕掛ける。
流石にこれだけの量では刃だけでは防ぎきれない…はずである。

658ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/11(木) 18:37:54 ID:VOn/yaUY0
>>657

両の手を崩さずに、双振りの輝きを残したままのゼオラ。
数倍にも数を増し再び迫る包帯を前に、やっと、脚を進めた。
それは向かってくる包帯に対してではなく、ディス自身にへと。

ホールに満ち足りた闇が振動する。
ありとあらゆるホールの闇から暗黒の腕が伸びてきて包帯を掴む。掴む。掴む。
自由に動かせると言えど捕まれ、自由を奪われれば逃げ出すことも叶わなくなるのだろうか。
良く利くディスの鼻でも、ゼオラの臭いを感じ取ることはできずに。目でも、耳でも、少女を捉えることはできずに。
仮面と刃と、黄金の鎖だけが迫ってくるように見えて、聞こえる。

659ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/11(木) 18:46:40 ID:dNdpqnXA0
>>658
「…んんん!?」
あちこちから飛びかかってきた暗黒の腕が包帯を掴まれてしまう。
包帯を引っ込めようとしても、もし強い力で引っ張られれば戻せないかもしれない。

「うー…まだまだなの…!」
今度は包帯のあちこちから無数の棘を伸ばし、その腕を刺し貫こうとする。
こういう相手へはこういうのが一番!と考えてのことだろうが


「……うー…みえなくなったの…」
しかし、ゼオラの姿がはっきり見えない。
匂いもしなければ音も感じられない。

「でも…そこにいるみたい…だねなの!」
幸い、仮面と刃の動きは捉えられる。
ならば、刀で迎え撃つ。とばかりに刀を構えて様子をうかがっている。

660ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/11(木) 19:06:25 ID:VOn/yaUY0
>>659

包帯から伸びる棘が暗黒の腕を貫く。
棘の深々と刺さった腕は話すのではなく消えていく。
けれども、全てがそうなっているのではなく、貫かれながらも離さない物も居る。
闇に心や意志はない。破壊しない限りはずっと、離さないままだろう。

双方少女の構える刃ではディスの刀にリーチの分があった。
接近戦を挑みに来る少女にしてはその動きは緩慢とししていて。
普段ゼオラが得意にするような素早い動きは欠片ほど見られずにいた。

ディスの刀の間合いに踏み込む寸前で、包帯を掴んだ闇の腕が引っ張った。
包帯を掴んだままにすることで、動きを阻害してやろうと目論んでいたのだ。

661ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/11(木) 19:17:02 ID:dNdpqnXA0
>>660
「むー…おじゃまなの!」
ディスはそれでも話そうとしない腕に包帯を向けて突き刺しにかかる。
これでどうにかならないのだろうか…と思うが…

「んー…ゆっくり…してるの……」
ゼオラの動きは遅かった。
まるでのんびりしてるかのようだ。

「…どうなって…?!」
と、間合いに踏み込もうとした瞬間に、
包帯にぐっと引っ張られる。

「あうー!あぶない…!」
彼女の構えが引っ張られたせいで崩れてしまい、即座の対応が難しい!

「ふんっ…!」
ディスはそのままの態勢で刀をゼオラに振るう。
仕方ないので掴まれた包帯もついでにいくつか切り落とすことにしたようだ。

662ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/11(木) 22:40:12 ID:VOn/yaUY0
>>661

ディスを始点に伸びる包帯が張ることでバランスを崩され。
無理な体勢のまま刀を振るうことを強いられた上にゼオラの接近を許してしまう。

金と赤の視線が微かに揺れえう。ここに来て動きの機敏さを見せる。
既にこの距離では、刀よりもゼオラの方が振りの差で有利になってしまう。
その上、リーチを持つということは速度が乗り切らない限りパワーを発揮し辛いということにもつながる。
姿勢と速度の不利を抱えたディスの刀に、左手に構えた曲刀が振り下ろされ歪みが絡めとりホールドする。
それと同時に黄金に巻かれた右手が伸びて、細剣を以ってディスの左肩を貫こうとしてくる!

663ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/11(木) 22:57:31 ID:dNdpqnXA0
>>662
「あうっ…!」
無理な姿勢で振ってしまえば、確実に
ちゃんとした構えを取った側が有利になる。

彼女が振るった刀は、歪みに拘束されてしまった。
そして、右手は細い剣が狙っている。

左肩に細剣が突き刺さる!…その瞬間を見て
「まだ…まだ!」
ディスは右手を前に出して、その手に巻かれていた包帯を勢い良く伸ばして攻撃する!
先程まで捉えられなかった…しかし、
こうして攻撃に転じた時ならば、こっちも攻撃できる!…と思っての行動である。

664ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/13(土) 18:56:57 ID:VOn/yaUY0
>>663

ディスのカウンター気味に放たれた攻撃はゼオラの左顔半分を掠める。
純白のマスクに傷がつく。その下の瞳はただそれだけ、と言わんばかりに怯みもしない。

自由にな右手を攻撃に転じてしまえば、刀を握るのは左手のみになってしまう。
突き刺した細剣を強く押し込むと同時に曲刀を持ち替えて振り上げる。
再び叩き落とす時には曲刀の歪みが刀を強く叩く。
もし刀を落としてしまえば待ち構えていたように曲刀によって手の届かない距離まで弾かれてしまうだろう。

665ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/13(土) 19:19:39 ID:vz/R3oeo0
>>664
「…うーぜんぜんへいきそうなの…」
驚いた様子でゼオラを見る。
かくいう彼女も肩を突き刺されているにもかかわらず、表情を買えない。

「んー…!」
肩に刃を押しこまれて、片腕の力が鈍る。
これでは刀を持っていられるかもわからない。
そこへ

ガキィン!!
「あっ…!」
刀を強く叩き落とされ、力を失ったては思わず刀を取り落とす。

更に刀を弾かれてしまい、手の届かないところへ…
「ううー…!
 まだまだなの!」
ディスは刀に向けて包帯を伸ばし、捕まえようとする。
ただ、これだと隙も生じてしまう可能性が高い!

666ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/13(土) 20:28:37 ID:VOn/yaUY0
>>665

「……痛くないの?」
仮面の有無に関わらず、少女の表情はうかがえない。
顔の右半分でさえも、まるで覆われているかのように、無が示す。
文面だけでは気遣うような言葉も、行動と相反していれば不気味さを増す。

刀を取りに行く動きを阻害しようとはしない。
ただし手薄になったディス自身に刃が向く。
刀を弾いた曲刀は容赦なく、ディスに向かって内から外へと斜めに切り上げ、
肩から引き抜かれた細剣は無慈悲にも、左足の付け根を串刺しにしようと延びていく。

667ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/13(土) 20:45:44 ID:vz/R3oeo0
>>666
「んー…ぜんぜんへーき…
 けがは…いたくないのー」
深く細剣を突き通されてるにもかかわらず、その表情はいつもどおりのディスだ。
これが彼女が得てしまった力なのだろう。

「うにっ…!!」
吹き飛んだ刀は包帯で獲得することが出来たが、
その分足元がお留守になってしまう。
その隙は

ドスッ!!
左足の付け根に突き刺さってしまい、一瞬足がぐらついてしまう。

「んん…こんなことじゃだめだからねなの!!」
ディスの足は包帯が巻かれているせいなのか、崩れること無く立ち続ける。
その間に後方に飛んだ刀に包帯が巻きつけられ、

ビュオッ!!
かなりの速さでディスの後ろから刃が飛んで来る!

668ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/13(土) 21:28:02 ID:VOn/yaUY0
>>667

「っ、あぶっ……!」
ディスの能力の大凡は理解できていたための油断だった。
包帯を操り奥から飛んでくる刀に、虚ろな目を見開いて。
咄嗟に右手を離し左手の曲刀に添えて刀を迎え撃った。

刀を弾く。ゼオラも弾かれて後方に逸れる。
しかし、攻め手を緩めたくなかったゼオラは脚を伸ばして。
「たぁっ……!」
足に突き刺さったままの細剣を深くまで蹴り入れた!

669ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/13(土) 21:54:26 ID:vz/R3oeo0
>>668
ガキィン!
刀は弾かれていくが、包帯がとどめているために吹き飛ぶことはなかった。
「うーん!」
ディスは歩き出そうとしたところで、
細剣を足に深く蹴り入れられた!

「ぬうう…
 これくらいで…!」
ディスは、突き刺さった剣を包帯で引き抜いて見ようと試みる。
このままだと武器を渡すことになりかねないが…

「それと…まだこーげきするからなの!」
後方に飛んだとしても、包帯に巻かれた刀を伸ばして、ゼオラに対して刃を振り下ろす。
彼女の能力はよくわかっているだろうが、組み伏せるのは至難といえるかもしれない。

670ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/13(土) 22:34:38 ID:VOn/yaUY0
>>669

「チッ……」
戦闘の物音以外何一つないホールにしたうちが響く。
手に握った曲刀を投げ捨て体勢を立て直すと視線は刀では無く、既に奥のディスを見つめていて。

振り下ろされた刀を見ることなくディスへと向かって走り出してくる。
機敏さを取り戻した動きには迷いなどなく、表情は伺えずとも攻撃的な意志が見え。

振り下ろされる刀には目もくれない。
なぜならば、地面に落ちた曲刀を闇の腕が拾い迎撃に向かうからだった。
ただし、狙うのは刀でなく包帯。切り裂かれてしまえばまた手放してしまうことになるだろう。

671ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/13(土) 22:49:46 ID:vz/R3oeo0
>>670
「む…いっきにくるの!?」
ディスは彼女の突撃に対し、すぐに刃を向けて迎撃に向かわせようとするが

「んぁ…!?」
包帯が闇の腕によって切り落とされ、またしても包帯が離れてしまう。
離れた包帯はほんの僅かならば動かせるが、それでもせいぜい刃の先を向ける程度だろう。

「うう…こーなったら…」
ディスの行動は、彼女の接近を見計らって…

全身の包帯をハリセンボンのごとく伸ばし!
刺し貫くという行動を取ろうとしている!

672ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/13(土) 23:22:27 ID:VOn/yaUY0
>>671

切り離された刀は高く掲げられていたこともあってか遠くへ投げ出されてしまう。
用を終えた闇の腕は曲刀ごとホールの闇へと戻っていく。

防御壁代わりに包帯を突き出したディスを見て接近をあきらめる。
強く踏み込んでブレーキを掛け、横に飛び出して迫る包帯から串刺しを裂ける。
空中でターンする間際に手に闇の炎を灯し、回転の勢いで振りまいていく。
衣服を切り裂き肉を掠めながらも飛びのくゼオラ。接近は阻止できたが包帯に火が回ってしまえば避けられない攻撃になるだろう。
さらには、突き刺さったままの細剣は動くたびにダメージを与え、それは動作の大きさに比例してくる。

673ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/13(土) 23:32:44 ID:vz/R3oeo0
>>672

「ん…はやい…はやいの!」
ゼオラの動きは実に素早い。
防御壁を的確に避けて、こちらの攻撃をことごとく躱す。

「こっちだって…!」
と、動き出そうとするが、足の付根にささった細剣がどうにもじゃまになる。

「むう…!」
包帯を操り、どうにか細剣を引き抜こうとするが…
周囲に何かが振りまかれるのを見る。

「う〜!もしかして、ひはにがてなの!」
包帯は燃えやすい。このままでは大変なことになる!

「…それならまだこれ…あるの!」
ポーチの中にあるものをゴソゴソと探る。
邪魔になる細剣はどうにか包帯を操り引き抜こうとしているようだ。

674ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/14(日) 01:13:53 ID:VOn/yaUY0
>>673

突き刺された左腕。さらに押し込まれた左足。
常人なら気絶しているであろう痛みであるが、戦闘を続けることができるのは痛みが感じない故だろうか。
しかしながら、深い傷を負えば痛みの如何にかかわらず身体の機能は衰えてくるはずである。
ゼオラの狙いはそこにあった。体力面では衰えを知らぬディスの機動力を削ぐ。その為だ。

漆黒の炎が振りまかれる。
突き出された包帯へと向けられた火の粉はじきに火をつけるだろう。
ゼオラ本体は飛びのいた後、ゆっくりと体勢を整えながら様子を伺っている……。

675ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/14(日) 01:22:04 ID:vz/R3oeo0
>>674
「むむう…」
火の粉が飛び散っていることは彼女にとっては危ないことだ。
全て燃え尽きてしまう!

そして火の粉が燃え移りそうな場所は急いで切り落とし、燃焼を防ごうとするが…
流石に全ては間に合うまい。
その場から逃げようにも、左足と左腕を傷つけられたせいで
痛みを感じずとも、動きを鈍らせてしまう。
「…これだ!なの!」
ポーチの中から取り出したのは…またしても包帯。
だが…

「ええい―!!」
包帯は先程のものよりも激しく素早い動きをしながらゼオラへと、ぐるりと槍の形状を取りながら近寄ってくる!
ディスの周りを一周りしてから攻撃をしに来たわけだが…
どうやら炎が燃え移る気配がないのだ。耐火性のある特別製の包帯を彼女は持っていたようだ!
更に、ディスの能力に馴染みやすいのか、動きは普通の包帯より良いようだ。

676ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/14(日) 22:46:50 ID:Itwww9Dc0
>>675

「ふーん。痛くなくても……苦しい?」
やはり動きの鈍るディスに少しだけ反応を示すゼオラ。
苦しみ動きの鈍る様子を見つめていたが、ディスの差し向けた包帯の槍に身構えて。

飛び上がる。
いくら高速の槍ともいえど、ただ一つだけでは機敏な影を捉えることは叶わずに。
それも、槍という攻撃の特性上、面攻撃に向かず致命傷を避けるだけなら簡単な部類。
逃げ遅れたスカートの裾が貫かれるが、ゼオラ自体は無傷だった。

空に浮かぶゼオラに闇の腕から何かが投げ渡される。
それは包帯から切り離され再びコントロールを失っていたディスの刀。
槍と化して伸びる包帯の分断を狙いに、空中で振るわれる。

677ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/14(日) 22:51:49 ID:vz/R3oeo0
>>676
「ううーん…くるしいっていうのかな…
 うごきが…へんなの…」
痛みを感じずとも、体に掛かる負担は強いようだ。
それでも…どうにか攻撃を行っているのだが…

「うー…『でぃす』はとべないの…
 まだ…こうなの!」
そう言って、燃え移りそうな包帯を切り離しつつ、攻撃を続けるが…

バシュッ…!
「あっ…!」
包帯が途中で切り落とされてしまう。
強度は高い方なのだが、刃物での攻撃にはとても弱いディスの包帯。
ましてや鋭い切れ味のディスの刀。切れないはずもない。

「…でもまだあるからなの!」
切り落とされた包帯がまた、勢い良く直角に伸び上がってくる。
包帯は自在に伸びるのだろうか。
…そのうちあちこちの包帯も一斉に攻撃を仕掛けてきそうな気配がする。

678ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/14(日) 23:16:46 ID:VOn/yaUY0
>>677

振るう刀に抵抗なく伐れる鋭さに満足げなゼオラ。
その余裕の笑みもつかの間、切り口が再度特攻を仕掛けてくると、宙のゼオラは身動きが取れず。
即座にフリーの右腕を顔の前に移動させ防御を図るが右腕が切り裂かれてしまう。

「切り取っちゃったら……流石に、苦しい?」
初めに飛び上がったままの勢いを維持して身を翻す。
上空から叩き付けるように刀を振り下ろしてくる。狙いは既に散々に傷つけられた左腕。
振りかざす刀の鋭さはディスのほうがよく知るだろう。並の包帯では防げそうにないことも。

679ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/14(日) 23:29:21 ID:vz/R3oeo0
>>678
「…そんなことで、やられたりしないからねなの!」
ディスも中々しぶとい。
一撃食らわせて、そのまま追撃をしようと、右腕に重点的に包帯攻撃を仕掛ける。

…しかし、さらなる攻撃
…自分の刀が振り下ろされてくるのだ!

「うう…!でもそれはいやだからなの!」
ディスはとっさに、足の包帯で自分を弾き飛ばし、
右側へと飛びに行くが

バシュッ!!
彼女の手は、切り取られるまでは行かないまでも
半分ほど肉を裂いてしまう。

「…うー…
 これはたいへんなの…」
血液がかなり溢れ出している。
動脈まで傷つけたのかもしれない。

「…う…まだまだ…」
彼女は少し汗が出始めている。
疲れ始めているようだ。動きもだんだん鈍ってきている。
ディスは彼女の右腕を切り落とすくらいの勢いで包帯を操る。

680ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/15(月) 00:40:58 ID:VOn/yaUY0
>>679

渾身の振り下ろしは切り落とすまではいかなかったが細剣の比ではないダメージを与えた。
夥しいほどの血が溢れ、流れ、落ちていく。痛みこそ知覚できないディスであってもその危険さは理解できるだろう。
程なくして血が足りなくなれば、身体の機能がさらに鈍っていく。体力を使えば使うほど、後は衰えていくばかり。
ディスが痛みを知らない故に、死ぬことに気付かずして死んでいく。その様子を、ゼオラは楽しんでいた。
「もう、手遅れ……面白いね?」

それでもなお果敢に責めたててくる包帯。
初め相対した二人のように、素早いものを前にすれば振りの大きさが仇となってしまう刀。
居合やそれに準ずる技術があれば話は変わるかもしれないが、刀の技術は持ち合わせていなかった。
故に、不要。
地面に突き刺し刀を手放し身軽になると、包帯を避け。
踊るような動きの中で、足を振り上げたと思えば、刀に真横から蹴り入れ刀身を叩き折ってしまった。

肉体に傷をつけた後は心までディスを蝕ませ。
絶望に浸るのを待ち望んで、その姿を想像して楽しんでいた。

681ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/15(月) 01:03:02 ID:vz/R3oeo0
>>680
「ま、まだまだ…ておくれじゃないの…!」
そう言って、また攻撃を仕掛ける…包帯しか頼りにするものがないのだ。

しかし…
なんとか包帯で刀を回収しようともしたのだが…
強烈な蹴りの一撃が…

「ああっ!!」
彼女の刀をへし折る。
大事な人からもらった刀、ヴァーチャル空間とはいえ、
それをへし折られるのはショックが大きい。

「うう…!
 そんなことしたら…だめなの!!」
最も、絶望するか、或いは激怒するか。
そのパターンが人には存在する。
ディスはどうやら後者だったらしい。

「そっちだって!
 もっと!おてあげにさせてあげるの!!」
包帯の動きが激しさを増す。
下に降りれば針山地獄のごとく襲ってくるだろう。
上空からも無数の刃となって降り注がんとしている…

だが、血液の消耗を気にしないその攻撃は
ディス自身の疲労も高めていく。
このままでは体力が持たない…

682ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/15(月) 01:41:23 ID:VOn/yaUY0
>>681

ディスの刀は大切な物だと聞いたことがある。
だからこそ、へし折ってやった。
不要だからではなく、大切な物だからこそ折ったのだとディスにも解るようにわざとらしく、折れた刀を踏み潰した。

激昂が興奮を呼び血液を活性化させる。それだけ寿命が短くなる。
ここまで来ればあとはどう転んでもゼオラの思い通りだった。
動きの鈍った身体で無理を強いればより蝕まれることになる。
そうしていつかは無力を噛みしめ絶望に浸る。
怒りに身を任せ暴れれば暴れるほど、終焉に感じる無力は積み重なっていく。
傷の具合からすれば、放っておいても決着がつくのは明らかに思えた。後は傍観者に徹するだけで、勝手に喚き、勝手に滅ぶ。
手を出さないでいれば居るほどに、無力を感じさせ絶望も色濃くなる……その時が楽しみで仕方がなかった。

決死の一撃にも見える包帯の雨あられ。
直ぐに尽きる命と交換ならば、右腕の一つくらい差し出してもいいと思っていた。
回避の代償として右腕を明け渡す。包帯に囚われ、千切れ、離れていく右腕。
痛みは尋常ではない。けれども後に得られるものの為に喜んで差し出した。

この右手はただの演出。
ゼオラにとって腕の一本など『たかが』に過ぎないというアピール。
切り落とされた腕が闇に溶ける……すると切り口から闇が溢れ同じ物が生えてきた。
差異出した右腕は、痛みこそあれ、流血こそあれ、一本の重みの違いを解らせるための、ただの演出。

683ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/15(月) 15:21:04 ID:vz/R3oeo0
>>682
「ううう…はこにわだからって…
 そんなことして…ぜったい…ゆるさない…んだから…なの……」
ハァハァと汗を書きながら、ディスは必死で攻撃を仕掛ける。

無数の包帯は次々と、彼女の身体を拘束しようと迫り、
更に無数の包帯は彼女を切り裂こうと突き進んでいく。

だが彼女には腕一本を失っても平気な能力がある。
彼女とディスとでは、腕を持っていかれることの重みは天と地。

「…はぁ…はぁ…はぁ…」
血だまりが出来上がるほどに血液が滴り落ちた頃には、
ディスの意識は混濁し、目が虚ろになり始める。

「うっ…まだ…」
それでも構わず包帯で攻撃を仕掛けていく…

684ゼオラ=アドヴァルド:2016/02/19(金) 16:37:13 ID:VOn/yaUY0
>>683

衣服ごと切り取られた腕は再生したものの、紅い血に塗れている。
肉体こそ再生できるが、腕を流れる、床に滴る血液は、失われた物に他ならない。
纏わりつくような感覚があまりにも不快で、強く腕を振り抜く。
振り落とされた血液が、空中で棘へと形を変えて放たれていく。
無数に迫る包帯を迎え撃つ血液の刃が包帯を切り裂き落としていく。
しかしその切り口が新たな先端となって伸び進み、終いにはゼオラの目前へと。

闇を周囲に従わせ迫る多数の包帯を焼き払い、打ち落とし、汚していく。
あとは自動的に命が尽きるのを待つだけ。そう思っていたゼオラの余裕が闇の防壁にも穴をあけた。
僅かな隙間を潜り抜けた包帯が、ゼオラの顔に迫り新たな傷を作りマスクを打ち落とした。

その瞬間に、ゼオラを中心に黒く邪悪な憎悪が湧き上がっていく。
怒りを中心に生まれ得たそれは炎のように渦巻く闇となり周囲にも怒りをまき散らす。
「うっ、ざ……!」
零れ落ちた白磁のマスクを漆黒のメリージェーンが捉えて、はじき出す。
苛立ち抱え込んだマスクが紅い瞳を輝かせながらディスの元へと飛んでいく。

685ディス ◆My6NsjkSfM:2016/02/19(金) 17:46:27 ID:vz/R3oeo0
>>684
「……まだ…なにか…
 …いけるかな…の…」
無数の包帯を伸ばしながら、彼女は少し目を落としそうになる…が。

「…とんでくるのは……
 あぶないよ…なの…」
ディスは、激高したかのように自分へ飛んでくる彼女へ向けて、
下に伸ばした包帯を勢い良く跳ね上げた。

だがそれは、包帯そのものの攻撃ではなく

散らばっていた自分の銀色の刀の破片をゼオラの突撃する箇所へと跳ね飛ばすためだ。

特に大きな破片は刀の先の部分…刺さる可能性は…あるか?

686ゼオラ=アドヴァルド:2016/03/11(金) 00:40:43 ID:VOn/yaUY0
>>685

漆黒が溢れるホールでディスが捉えた純白のマスク。
ゼオラを中心に発生して激怒の大渦を飛び出して一直線に迫ってきた。
縦半分のみの仮面がみせる真紅の左目は尚も無でありながら殺意を宿す。

躱されたのではなく、外したのでもなく。初めから、そこには居なかったのだろう。
ディスに向かっていたのはマスクだけ、少女はそこに初めから居たりはしなかったのだ。
闇にあふれたホールでは、視界よりも包帯の感覚でそれを悟るのだろう。
丁度その時、背後からジャラリという重く冷たい金の音が一つ、迫る。
マスクの放つ強すぎる負のオーラに、本体である少女は紛れ、近づいていた。
その手には大鎌。既に左腕一杯に振り上げられていて、上体を捻って振るわれる。

687ディス ◆My6NsjkSfM:2016/03/11(金) 17:36:35 ID:1URaUeW.0
>>686
「あう……?そこには……いないの…?」
まるで手応えがない、どうやらそこにはゼオラがいなかったようだ。
気配などを匂いなどで感じることが出来ても
圧倒的な存在感の前では無力である。

そして…背後から聞こえてきたのは何かの音

ドズッ

「……ん……う?」
痛みを感じない彼女には何があったのかわからない。

ごぷっ……

口いっぱいから溢れ出す鉄の味と、赤黒い液体。
自分の身体に大鎌が突き刺さったのだと感じた。

「…うし……ろ……に……」
ディスは意識が消え去りそうになる直前

ざっ     しゅっ

背中から、無数の包帯を突き出させ、後方の何かへと伸ばした。

688ゼオラ=アドヴァルド:2016/03/15(火) 23:50:50 ID:VOn/yaUY0
>>687

痛みでなく身体が動かなくなる感覚で死を与えた。
意識は落ち箱庭のシステムにより排除される間際の攻撃が背後から迫る影を捉えた。
無数の包帯に身体を貫かれ穴をあけるが少女は息絶えておらずその場に立ち尽くしていた。
破れた衣服の穴を埋めるように闇が噴き出し、身体を覆い再生させていく。
暫くすれば肉体は元通りになるだろうが、突き刺された痛みを忘れ去ることはできなかった。

ディスの脚に刺さっていた細剣が床に落ちて響く。
痛みに息を荒げながら歩み寄ると、身を屈め拾い上げた。
未だ血の滴る細剣を眺め、見つめた末に、ディスの倒れて消えた箇所へと突き刺した。
「……大っ嫌い」
闇に一人、怨嗟に塗れた呟きを残しながら、少女もまた消えていく。

689名も無き異能都市住民:2016/06/11(土) 22:02:15 ID:q1sCISaY0
【一夜城】
物静かな城内。
自ら主張し過ぎない調度品に囲まれ、今ひとつの命が途切れようとしていた。
かの人物は髪の艶が抜け、肌はボロボロだった。
体に合わせて作ったはずのかつての服は痩せらさらばえた肉体に合いはしない。
もう既にかつての姿を失い、あとは花火のように散るだけの小さな命だ。
立ち上がり、歩く力も話す力もほとんど残っていない。
有り体にいえば、精気が失われた体だった。
それでも考える力はわずかに残っていた。

「………アル…………ェ…………」

君の生に幸あらんことを
僕が培ったものが君のこれからに僅かでも役に立てばいい
たとえ君の側に立てなくとも、僕は君の心のなかにいる
優しい君はきっと泣いてしまうだろう
君には分からないが僕には分かる
だから、どうか、泣かないで
君が泣くと僕も悲しくなる
君が笑えば僕も嬉しくなる
君の成長を見守れらないことが心残りだが
僕は君の知になる
僕は君の血になる
だから僕は君の側にいる
これからもずっとだ
だからどうか泣かないで
もう抱きしめることはできないけど
いつでも抱きしめられる
だからどうか泣かないで
可愛いアルシェ

「………………―――――」

幼子を想う深い親愛の祈りは彼の余命を燃やし尽くす。
そして、命は燃え尽きた。
手先から、足先から灰へと変わっていき、彼はゆっくりと瞳を閉じる。
既に何も映さなくなった蒼い瞳はもう二度と開くことはない。
肉体はもう二度と動くことはなく、唇はもう二度と開かない。
彼にとって幸運な点は一つ。
“誰にも無様な姿を見られていない”点に尽きる。
誰にも看取られることなく彼は逝けるのだ。
もう肘を越え、二の腕まで灰になった。下半身は既に灰へと変わっている。

―――――さ よ う な ら

言葉にならない言葉は誰にも聞かれず、音にすらならず、紡がれることなく。
そして誰も彼の死因を知ることなく、逝った。
灰は開かれた窓より吹き込んだ風で、城外に舞っていく。

690名も無き異能都市住民:2016/09/20(火) 01:36:50 ID:z0ZT1qWA0
【一夜城】
メイドに肩を揺らされ、ふわぁと、風船から空気が抜けるような声とともに、一人の童女が目を覚ます。
小さな右手で目をゴシゴシと擦り、左手にはお気に入りのテディ・ベアが抱かれていた。
童女の顔には涙の跡。
それを見たメイドは、童女にシャワーに連れていく。

「にぃに……」

呼んだらすぐに抱きしめてくれる人物は既にいない。
にぃに――アイリスはこの童女の為に自身の命を薪に焚べた。
種としての強さなら、近代でも類を見ないほどのこの童女は、甘えん坊で泣き虫だった。
この時代の先祖返りは二名。その内の一人がこの童女だ。
そんな種としての強さは幼少期から強力であったが、保護者を失った童女は、一人寂しく毎日枕を濡らす。
その中でも童女を可愛がった“兄”の姿はよく見るのだ。夢では逢えるが言葉は交わせない。
いくら強くとも、童女は童女。未だ兄離れ出来ない子供。

プラチナブロンドの髪に、真っ赤な目と色白の肌。
泣かないで、と言いたいのか、メイドはお許し下さいませ、と童女を抱きしめ、頭を撫でた。
メイドの仕事は、童女の世話が終われば、彼女の家族を定住させるよう本国に打診するものだった。

童女が持つ力は、本国では炎の加護と呼ばれる力と継承した力。
まずは安定した発現と維持を身につけるため、練習が必要だが、メイドには能力の教養がなかった。
童女の身を守る手段の確保と、後ろ盾。
この童女に今、一番必要なものはこれだった。

691名も無き異能都市住民:2019/02/01(金) 23:45:50 ID:ORmT3UkU0
【AGカフェ】
青みがかったプラチナブロンドの髪、アイリスの花の髪飾りの少女はようやく此処にたどり着いた。
亡き兄が過ごした地。

「兄様(あにさま)…アルは此処に来ました。
 兄様の遺言を今、果たします。」

二本の交差する白百合がシールされた封蝋。中身は手紙と記録メディアだった。
それがこの少女の荷物だった。
これらの手紙はアイリスと付き合いがあった面々全員に用意されていた。
クロス、小百合、リンネ、ロザリア、巴、アリスといった面々。
それぞれにすべて違ったメッセージが残されているが、それらすべてに共通しているのは
アイリスの死についてとその後についてだった。
クロス宛てのものにのみ、こっそりと挑戦を忍ばせていた。
辿々しい字の為、挑戦状と認識されるか分からないが……

「とにかく、今は少し休みましょう。」

眼を瞑れば、蘇る兄の記憶<記録>
このカフェでの喧噪、話をする人々。自分より背の高い目線を脳裏に浮かべながら

692アリス=テンス・バースデイ:2019/02/03(日) 21:45:32 ID:ciGK1LWQ0
カランカランとドアベルが軽快に音を立てる。
先頭を切って飛び込んできたのは真っ赤なドレスに大きな王冠。
後に続いてきた、同じく赤の、燕尾服が特徴的な少年達の列は全部で9つ。
その列を3と4に区切るように、紛れようにも紛れ様もない、成人手前の少女が一人。
一つ一つがこじんまりとしているが、合わせて9にもなる集団だ。

予めそう決めていたかのように、隊列は大きく3つへ別れていく。
王冠を被ったプリンセスが適当な席へ着く間に、少年達の前半の3と一人だけの大人びた少女が厨房へと抜けていく。
後方の4人は女王の決めたテーブルを囲うようにして席に着く。要は何もしないらしい。
厨房の方では早速取り掛かり始めた。彼女達はこの店のルールを知っているようだ。

「あの子は今日も元気に眠っているのでしょうね」
猫の手のような手袋を取り、微かに赤くなった鼻ごと口元を手で覆って息を吐く。
語りかける少女の表情は無邪気そのもので、言葉に出てきたあの子に会うことを楽しんでいるのだろう。

>>691

「……あら、先客が居たのね。ごきげんよう」
と、やっと自分たち以外の存在に気がついたようで、目を向けるなり微笑んだ。
特徴的なその外見は、間違えることも無い、手紙の宛先の一つでもある。

693:2019/02/03(日) 22:20:07 ID:ORmT3UkU0
>>692
髪が揺れ、声の主に振り返る。
――あの方は……
自分のものでは無い記憶<記録>が問いかけてくる。
『彼女は……いや……』
デジャブ。そんなものがこの少女を襲っていた。

「こんばんわ。いい夜ですね、……突然すみません。貴方はアリスさん、でよろしいでしょうか。」

■■■■の記憶から読み取るのは幼いアリスだった。
姿通りの子供で甘い物が大好きな女の子だったはずだ。そして、もっと賑やかな少女だったはず。
しかしそれでも従者を従えていることから相応の立場を持っているというのは、どことなく分かる。

もし彼女がアリスでなければ、それでいい。
今回はタイミングが悪かったというだけで出直すだけだ。
しかしどうしたものか。兄の死を切り出すのも、死の原因が自分にあることも。
少女は素直に心の中で困っていた。

694アリス=テンス・バースデイ:2019/02/03(日) 22:35:25 ID:ciGK1LWQ0
>>693

「こんばんは。
 そうね。今日はお月さまがとっても綺麗で明るいわ」
相手がほんのわずかに揺れた。
その違和感が何なのか、気にする素振りもなく、無邪気な顔のまま。

「そうだけど……あなた、すごいのね!
 どうして私の名前がわかるのかしら? もしかして、私たちはどこかで会ったことがあるの?」
今度は王冠を被った少女の方が揺れる。
すると、目を輝かせて目の前の不思議に対して純粋に答えを求めようとする。子どもらしい振る舞いだ。

695?→アーリル:2019/02/03(日) 22:59:17 ID:ORmT3UkU0
>>694
「ええ、月はとてもいいものですもの。
 ――手を伸ばせば、届きそうなのに、届かない。月には何かいるのでしょうか。」

この少女、アーリルは僅かに顎を上げ、物思いに耽るように一度眼をつむれば、僅かに色の違う赤い眼が
アリスを見つめた。

「アリスさん、初めまして。私(わたくし)はアーリル。アーリル・フォン・ルズィフィールと申します。
 私たちは初対面ですが、私は一方的に貴方を知っています。」

立ち上がり、見る限り上等な仕立てのシルクのドレスが揺れた。
一歩、アリスに近づく。
その足取りは音も無く、柔らかな髪を揺れ、ジャーマンアイリスの青い髪飾りも僅かに揺れた。
アリスの近くに立てば、アーリルは虚空に手を伸ばした。
そこから取り出したのは手紙だった。

「兄、アイリス・フォン・ルズィフィールが貴方宛に遺した手紙です。どうぞ。」

差し出されたのは白く、滑らかな触り心地の不思議な、赤い蝋で白百合がシールされた手紙だった。
これはアイリスがアリス宛に遺したもの。
寂しがってはいないか、甘い物ばっかりを食べていないか、夜中に出歩いていないかなど、アリスを心配するものが綴られている。
そして、記録メディアには、音声のみが記録されている。
アリス向けのメッセージには『お小言』を少々とまた遊びに行こう、という話だった。少なくとも、この小さな少女にとって死というワードは重いだろうと考えてのことだった。
そして、アーリルの膝は床につき、アリスの頭に手を伸ばそうとしていたが、止まった。

「えっ…あれ…?どうして?……ごめんなさい、突然!」

アーリルの眼は潤んでいた。元気なアリスの姿を見られたからだろうか。
■■■■の記憶<記録>がそうさせるのか。アーリルにも理由は分からなかった。

696アリス=テンス・バースデイ:2019/02/05(火) 01:47:50 ID:ciGK1LWQ0
>>695

「夜のなのに明るいのってとっても不思議なキブンになれるから、真ん丸お月さまは好きよ。
 大砲に乗って月に行ってみるのがいいかしら。きっとステキな冒険になるわ」
少女の真っ赤な瞳を見つめるのもまた、爛々と輝いた赤色。
頭上に鎮座した大きな王冠の、金色のアーチに守られた大きな大きな宝玉のように、純粋に赤い。

「はじめまして。アーリル。
 そうよ、私はアリス。今はアリス=テンス・バースデイ」
アーリルに合わせるように、椅子から飛び降りて歩いて寄っていく。
それに続いて従者たちもアリスの後ろにぞろぞろと集まってくる。
金髪にくりっとした碧色の瞳で統一された彼らは、やはり揃って視線を虚空に、そして取り出された手紙に向ける。
言葉を発するような場面は無いが、代わりにボディランゲージを主とした感情表現をメインにしているらしく。
驚いたまま目を丸くするもの、虚空の方に興味をしめし手を伸ばしてみるものなど、幾分かの個性はあるようだった。

「だから、同じ匂いがしたのね。
 優しくて、私に面白いことをいーっぱい教えてくれそうな匂い」
同じ雰囲気の答えを知れて、上機嫌そうに頬を緩めて。
「いい? 大事に運ぶのよ?」
手紙を従者の一人、肩にバッグを下げた少年に念押ししてから手渡す。
こくり。と一度大きく頷いてから後ろの方にまわって、バッグの口を開き始めた。

「どうして、わざわざ手紙なんかを届けさせたのかしら?
 ……きっと、何か大事なことに違いないわ。帰って読むのを楽しみにしておくわ」
久々に聞いたアイリスという名前も、心が躍るような言葉だった。それが上機嫌の原因なのもある。
ふふ。無意識に小さな吐息が漏れだすくらいには、外から見ても嬉しそうな様子を見せる。
振り返って、急に涙をあふれさせるアーリルに驚きながら、慌てて寄って。
「ど、どうしたのかしら? 撫でてもいいわよ!?」
かつてアイリスにそうしたように、王冠をおさえて、真っ白で小さな額を差し出して。

697アーリル:2019/02/06(水) 18:39:22 ID:ORmT3UkU0
>>696
アリスの名乗りを聞き、アーリルの脳裏には疑問が浮かんだ。テンス=バースデイ?つまり、10歳ということだろうか?

「大砲でいくのは淑女として如何かと思います。魔法のほうきで行くというのは…寒いでしょうか。」

笑みを湛えた顔は色白だが強い精気が感じられる。
そんな笑みを絶やさないところは貴族ゆえか、アイリスに強く影響を受けたか、或いは。
そして兄を褒められて嬉しいのか、笑顔は少し柔らかくなった。それでも涙目のままではある。
しかし、アーリルはアイリスでは無い。やはり違うのだ。

「実は兄の件で参ったのです。兄は忙しくしており、暫くは自由に動けないとのこと。
 ですので、名代として私が参りました。」

ーー優しい嘘。
これだけアイリスを慕っているように見えるアリスには、アイリスの死と引き換えに自分が生きて目の前にいることなど伝えられるはずが無かった。
アーリルも、このような小さな女の子の顔を曇らせる事実を伝えられるはずが無かった。
伝えたら糾弾されるだろうか。落胆されるだろうか。もしかしたら泣かれるかもしれない。
こんな小さく、可愛らしい少女の笑みを汚したくは無かった。
そんな、優しさともいえないものを過多に含んだ我儘だったからだろうか、自然に口から嘘が出た。
それに一縷の可能性は、ある。

アリスの従者がなにもないところで手を動かしても何も起きない。
手紙を取り出してすぐに閉じたからだ。
というのも、整理されていない倉庫は人前に晒せるものではなかったが、
アリスが目敏ければ気付くかもしれない。
円柱状の白い箱、十時に赤いリボンが結ばれた何かに。

「ごめんなさい、アリスさん。どうしてこうなったのか、私にもわからないのです。でも…どうしてでしょうか。涙が出たのです。」

■■■■にとってアリスとは、なかなか会えない子という認識であった。
住んでいるところを知っているわけではなく、かと言って城で会うこともなかった。
こちらから出向こうにもアリスは神出鬼没。だから、会えて嬉しかったのか。
しかし、幼い子というだけで■■■■は気に掛けるだろうか。
だからどこか。■■■■が気に掛ける要因があるのかもしれない。
――赤いナニカ。
赤いナニカが脳裏をよぎる。でも、それは分からない。
アーリルはやはり潤んだ瞳をハンカチで抑えれた。そのハンカチは護民団の証が刻まれたハンカチだった。
アリスが抵抗しなければアーリルは両膝をつき、アリスを強く抱きしめ、優しく頭を撫でるだろう。

「(嗚呼、そっか。兄様は…この子に…)」

アーリルの手は僅かに冷たくなっていたが、今は既に暖かくなっていた。

698アリス=テンス・バースデイ:2019/02/09(土) 03:50:31 ID:ciGK1LWQ0
>>697

「それもそうね。でも、ホウキになんか乗れないわ。
 ……宇宙飛行士になるのはタイヘンだって聞いたし」
首をひねって口を閉ざして「ふむむ」と小さく唸ってしまう。
どうやって月へ行くのがいいのか、本気で考えている内にだんだんと傾いていった頭から王冠が落ちそうになったので慌てて戻す。

「そうだったのね。
 せっかく久しぶりなら直接挨拶したかったのに、忙しいなら仕方ないわ。
 それに、お便りだって楽しいもの。届けてくれただけで嬉しいわ。ありがとう、アーリル」
久々に聞いたアイリスという名前ににんまりと、純粋な笑みで応えた。
アーリルの言葉を鵜呑みにして、多忙の中でわざわざ手紙を書いてくれたことを喜んでいる。
そう書いてある。誰が見ても疑いようがない位の、屈託のない笑顔。

従者のほうは目指していた虚空が消えると、それがまた興味を擽ったのか複数人で笑いあっていた。
幾人かが厨房で従事しているようだが、アリスの周りに残っている彼らは特に従者らしいことはしていない。
見た目から主従関係があるらしいことは察せられるだろうが、当の彼らにその自覚があるかどうかまでは伺えない。
少年の見た目はしているが、純真無垢の塊と言ってもいいような者達の集まり。

泣き顔のアーリルを気にするような素振りすら見せて、抱きっ閉めたいのだと察すれば黙って受け入れる。
真っ白い肌の中で一際映える真っ赤な瞳は爛々とした、優しい笑みを浮かべていて。
「涙が出てくるときは、感動したときと、悲しいときと、嬉しいときと……他にもいっぱいあるから、わからなくたって仕方がないわ。
 でもダメよ? 床に膝なんて付けちゃえば、立派なスカートが汚れちゃうもの。満足したら戻るのよ?」
アリスのことはハッキリとしないばかりだったが、お召し物のドレスはふわふわで上質な物。
髪も綺麗に梳かされていて、王冠の赤に負けないくらいにちゃんと磨き上げられている。
それでいて、腕の中ではただの一少女のように、抱きしめられる暖かさに心地よさを感じていた。

699アーリル:2019/02/09(土) 11:05:54 ID:ORmT3UkU0
>>698
「こちらこそ、ありがとうございます。突然このような形で押しかけるようになってしまって。」

アーリルに抱きしめられているアリスは暖かかった。不思議な花の香りがしただろう。
どこか、落ち着くような香り。
不思議なことに暖かくなったり、少し寒くなったり。かといえば少し熱くなってみたり。
それでも、アリスの体を暖めるには十分で、手櫛を入れるのも戸惑われる丁寧に梳かされた髪をゆっくり、丁寧に撫で上げた。
声色で分かった。アリス、この幼い少女は自分の『優しい嘘』を信じ切っていると確信できるものだった。
しかし、アーリルは手紙の内容を知らない。ただそれだけが心配であった。

「なぜ、泣いたか。今、分かった気がします。」

――嬉しかった。思い出の中の兄が気にかけていた子を見つけたから
――嬉しかった。思い出の中の兄が慕われていると思えたから
――悲しかった。思い出の中の兄の死を伝えられなかったから
――悲しかった。兄の死を正直に伝えられなかったから。
――悲しかった。こんな純粋な女の子を騙してしまったから。
―――辛かった。嘘を突き通さなければなければならない、自分が。

湧き上がった感情はアリスのことを見ていなかった。自分のことだけ。
アーリルにとって記憶<記録>の中でしかなかったアリスは『物語の中の一人物』としか捉えられなかった。

―――胸が締め付けられる。

そして、満足したのかアリスを離し、アーリルは立ち上がった。
もうhshsは十分したのか、アリスと同じ赤の瞳には爛々とした輝きが。

「ありがとうございます、アリスさん。服が汚れてしまったので、戻るとしましょう。
 重ねて御礼申し上げます。」

アリスにしっかりと頭を下げて。アーリルが頭を上げるころ、赤い光へと変わり消えているだろう。

700アリス=テンス・バースデイ:2019/02/13(水) 03:30:33 ID:ciGK1LWQ0
>>699

「こんなお知らせなら、突然の方が大歓迎。だからいいのよ」
アーリルの腕の中、やはり感じられるのは同じ匂い。
同じようなやさしさと、感じたことのある暖かさに包まれて目を閉じる。
不思議と安らぎを覚える中で、どうして、これほどまでに同じなのか疑問に思う。

「それはよかったわ。泣くのは大事だけれども、泣いてばかりはダメだもの」
離れるのに合わせてアーリルの真っ赤な瞳を見上げる。
その赤に籠った輝きを見て、表情を張れさせて見送った。


入れ替わりで厨房の音が止み、シェフ帽を被った従者がアリスの元に特大のパフェを差し出して。
イチゴのソースがふんだんに使われた真っ赤な様相に満面の笑みを浮かべて、渡されたばかりのおっきなスプーンを待ちきれない様子で刺しこんだ。
「あの子に会いにいったら、あとでゼオラのところにも行きましょ!」
自分と同じ、顔を見合わせたくなってみたから。

701アリス=ベリー・ベリーストロベリー・ショートケーキ:2019/04/22(月) 00:21:28 ID:ciGK1LWQ0
―――――― 一夜城:中庭

「すっごく久しぶりだけど、とっても面白そうな匂いがするわ!」
すんすんすん、と鼻を鳴らす素振りを見せた。
大振りで、あからさまで、わかりやすい。お芝居のような身振りで。
彼女の指す『匂い』は実際に鼻孔を通ってはいない。
なんとなく、予感で、そう思っている。アリスにはそれだけで十分だった。

「お前たち、探してきなさい!」
広い中庭を囲い込む一面の真白い壁を見つめる目は輝いていて。
新しいオモチャ、未知との出会い、暇つぶしになる何か。何が見つかるのだろうか。
号令を響かせてホールへと戻る扉を指せば、周囲に並んでいた赤の少年達が一目散に駆けていく。
その背を一つ、二つ、と数えて……五つまで進んだ時、小さく「あっ」と声を上げた。
「ひとりになっちゃったわ。あの子のところに置いてきたばかりだったものね」
緑色が殆どの木々草花を見渡しぺたんと座り込む。
大きく伸びをして息を吸い込むと、確かに感じられる心地よい草花の香りに微笑みを浮かべた。

702アイリスと元気っ子:2019/04/22(月) 12:24:24 ID:vCDL2C6s0
>>701
草原と季節の草花が咲き誇る庭に座り込んだアリスの視界は唐突に暗黒へと落ちる。
薫るのは白や黄色といった淡い色の花を連想させるような、ほのかな花の香り。
そして氷を連想させるような、寒空の元に晒された水に触れたときのような冷たさが細く白い指がアリスの目を覆い隠したからだ。
しかし、その手付きはアリスを傷つけないように、壊れ物を扱うかのごとく優しかった。

「だーれだ。」
『だーっ!』

アリスを背後から抱き締めるように抱えこんだ人物のバストがアリスの王冠を押し退けるように寄りかかった。とはいつまでも王冠を落とすまでには至っていないが。
アリスはこの声の人物の片割れに聞き覚えがあるはずだ。以前より若干高くはなってはいるものの、確かにアイリスの声であった。
長く伸ばされた金髪に赤い瞳。爬虫類を連想させるような黒い虹彩。以前より、少し変わったらアイリスだが、変わったのは姿だけではない。
以前より柔らかく、穏やかな雰囲気。姿と合わせてみれば、深窓の令嬢といったところか。
アイリスも膝を折り、しゃがんでおり、もう一つの幼い声はアイリスに抱きついた。

都市中央部にあるマンションでアーリル用の部屋を用意してきたところで戻ってきたらアリスがいた。そんなところだ。
それから、この元気なちびっ子の散歩を兼ねて。

「やあ、久し振りだね。アリス。元気そうで何よりだ。」
『お姉ちゃん、だぁれ〜?』

アイリスに抱きついた黒髪の童女は、このお姉ちゃんだれだろー?っと、アリスの正面に回り込み、しゃがみこんでアリスの顔を見つめた。
銀のインナーカラーが混じっている黒髪に、真っ赤なおめめ。幼児特有のすべすべモチモチの柔らかそうな肌。肩からたすき掛けにされたポシェット。
そんな顔つきはアーリルに似通っていた。

703アリス=ベリー・ベリーストロベリー・ショートケーキ:2019/05/05(日) 16:09:18 ID:ciGK1LWQ0
>>702

「あの子立ちが戻ってくるまで。こうして休憩していようかしら」
緑麗しい庭園を眺めているだけなのに、全く飽きを覚えない。
アリス達の居城にもある緑映える庭とお違いに興味は移り、やがて気づいた。
花だ。緑が大部分を占める庭におけるそれ以外の指し色。
淡い色使いのものが殆どなのは、城主の趣味に因るのだろうとは、すぐに理解できた。特に、白色。
ただ、この景色は少女にとっては真新しいものだった。この緑一面のキャンバスに似合うのは……そう、やっぱり、赤色。

珍しく従者を連れておらず一人きりで、白いタイツや赤く爛々と輝くドレスを惜しげもなく地面に付けて座り込む。
花々の一つ一つに指をさして、考えを巡らせていたアリスの姿は、とても無防備に映る。
「きゃっ!? 何かしら?」
視界が唐突に黒く染まり、目には冷たい感触、しかし後頭部は暖かく包み込まれる。
アリスからイタズラを仕掛けることはあっても、その逆は殆ど経験が無い。
驚きながら手を掴むのが先で、投げかけられた言葉にそれがゲームであることを理解すると騒ぐような声色は潜んでいった。

結局のところ、投げ出した。
手に触れてみても、その感触に覚えはない。声も、絶対確実というほど合致しない。
ゆっくりと外して、振り返って二人の姿を眺めてみても……やっぱり同じ。

「ごきげんよう、お久しぶりね!
 ずっと遠い所へ旅に出たって聞いていたのだけれど、もう帰っていたのね」
アーリルの言葉を疑ってなんかいない。
戦って、強い人だったし、それを抜きにしても大抵のことで死ぬことなんかないと思っている。
要は、純粋に、どこか遠くへ、旅に出ているものだと思ってた。とても先かもしれないけれど、また会えるとも思っていた。
寂しさこそあったけれど、悲しんでなんかはいない。ただ、友達との再会が久々になっただけ。アイリスにとって、驚きや喜びが物足りなく見えてしまうかもしれない。

「あなたたちこそ、誰なのかしら?」
目隠しをゲームだとアリスは捉えているが、だとしたら非常に分の悪い物だった。
アリスが知っているような『彼ら』では無かったからだ。その点に関しては、納得がいかなかった。
そんなもやもやの行先を埋められるような、触り心地のよさそうな頬を見つけて摘まみながら。

704アイリスと元気っ子のルゥちゃん:2019/05/05(日) 21:40:02 ID:ORmT3UkU0
>>703
――ああ、そうか。僕を僕と証明するもの……か。

アイリスは過去の自分と今の自分を同一人物と証明できるものを持ってはいなかったし、残してはいなかった。
在るのは記憶のみ。
過去のアイリスと今のアイリスを同一人物と証明する手段はアイリスとアリスしか知らないものでしか証明できない。
ぷにぷにモチモチのほっぺたを摘ままれた幼女は両腕をバタバタと動かし、キャアキャアと笑うのみ。
両手を顔の横に持ってきて、ガオー!とライオンの真似をする幼女。ルゥちゃんは強いんだぞー!
挨拶代わりの『がおー!』だが、今はほっぺたを摘ままれていてモゴモゴと口を動かすだけだった。
目隠しを外されたアイリスの手は宙ぶらりんで。アイリスの瞳は虹色に変わっていた。

「…ああ、再びこの地に足を付けるとは思ってもいなかった。で、その先で少しあってね。こんな風になってしまったんだ。今は療養でこっちにいるんだよ。
 君も元気そうで何よりだ。」

旅とは言い得て妙だと言える。タナトス神に導かれハデス神の懐で眠って一度も振り返らずに現世に戻って来て。その間に伸びた髪。今は整えられているが。
女性の肉体に変わったことによる肉体の変化。そして抜け落ちて未だ戻りきらない力。
しかし変わらないのは中身<精神>と眼<断絶の魔眼>こそが、過去と今の自身を確実に繋ぐもので。
だが、幼女が図らずとも教えてくれたのは……

「オッドアイの黒猫は木の麓で眠っているよ。大丈夫。病気では無かったよ。あの仔の両目はきっちりと見えている。」

アイリスの眼とオッドアイの黒猫の話。
ヒントは二つ、出た。
僅かな間だが開かれた魔眼は閉じられて。アイリスにとっては、やはり、もっと驚いて欲しかったのは事実で。
表情にも声色にも変化は見られないが、内心少し残念ではあった。

705アリス=ベリー・ベリーストロベリー・ショートケーキ:2019/11/01(金) 17:35:45 ID:BMiGthcI0
>>704

アリスもまた少女だが、もっと小さな女の子の頬の感触で遊ぶ。
純粋で無垢な彼女自身を現すかのような、汚れの無い滑らかな頬。
幾ら触っていても心地の良いもの。彼女の反応を含めて。

「あら? 帰ってこないつもりだったの?
 まだ、たくさんのことを教わってなかったのに」
立ちあがるとルゥちゃんの頭をぽんぽんと撫でて微笑みを向けてから、お尻を付けていたスカートを叩く。
一連の動作の最中に発せられた言葉は非難するような、つまるところ、わがまま女王の声色だった。
ただ、振り返った時に向けていた顔は不満げではなくむしろ再開の喜びを前面に押し出したにんまり笑顔。
要は、今ここに居るのだからこれから教わればいいという、これも、わがまま女王の顔だった。

記憶の彼と声もカタチも変わってしまった彼女を結びつけるには、声もカタチも関係ないものが必要だった。
例えば、思い出。あの日の公園で語り合った二人の傍らにすり寄ってきた黒猫とか。
「まあ! それはよかったわ。
 猫には目がとっても大切なの。だから、なくならなくてほんとによかったわ」
アリスには殆どの決まりが存在しない。決まったカタチがないのもその一つだった。
けれども、アリスは決まって女の子であり、男の子であることは決してない。
「つまり……女の子になっちゃったってことかしら?」
目の前の彼女は間違いなく彼である。それは記憶で証明してくれた。
アリスの持つごくわずかな決まりの一つを超えた、アイリスの変貌については素直に驚いていた。

706アイリス:2019/11/02(土) 01:47:38 ID:ORmT3UkU0
>>705
『ねえたま、ねえたま、抱っこして〜』

ぷにぷにでモチモチの肌はアリスの指から離れて、アイリスの懐に入り込んでいく。
豊満なバストをペチペチと叩く童女の頭をそっと撫でて、アリスと目の高さを合わせて時折姿勢を直し。抱っこは少し難しい体勢だ。
舌っ足らずでありながら口内であめ玉を転がしている様な甘い声が響くと、オッドアイの黒猫が気怠そうにアイリス達の方へと歩いてくる。
足音はしないし、見た目は殆ど“只の猫”だ。唯一の特徴がオッドアイというところか。
自身を中心に常時展開する“力の隠蔽”の術式を更に効果的にする“猫の足音”が只の猫に見せている秘密の一端でもある。

「帰ってこない、じゃないさ。帰って来られそうにない可能性がとても高かった、かな。
 これでも一応忙しい身でね。君の腰の高さまで書類が積み上がっていて、漸く片付いたところなんだ。これで少しは時間が作れたよ。」

“教えて欲しい”
アリスの言を見るに、ルゥ共々“子ども向け”の施設等に色々と連れ出してやりたいがアイリスにはアリスが喜ぶジャンルが分からない。
少なくとも遊園地では喜ばないだろう。嘗ての出会いから遊びのようなスポーツは良いとは思うが。
アイリスの得意分野としては神話や魔術の知識といったところだが、これは小さな子には難しいというより眠くなる類いのジャンルだろう。
そもそもがだ、個人的資質も大いに関係するがアーリルという子は本を枕かアイマスク程度にしか思っていない節がある、程度の差違はある。
流石わかまま女王様だ。まずは知識の下地としての読書を勧めるようなクイズを出すか、或いは経験を以て知識とする。
道筋すらも見せない辺り、突発的なことから多くのことを知りたいのだろうか。アイリスの頭の中に幾つかの案は浮かぶ。

「教えて欲しい、か。君は何が知りたいのかな?…ごめんね、抽象的すぎるね。
 “今、一番興味があること”って何だろうね?」

ルゥの頭を撫で、頬を突いて。笑みを浮かべてアリスの目を見た。
ルゥはというと、未だに抱っこしてくれないためにムスーっとした顔で、如何にも不機嫌です!と言いたげだった。

「本当に良かったよ。光を失ってしまっていては、何も出来ないからね。これだけは幸運だった。」

そもそも黒猫――キルリスというが、キルリスはアイリスによって使い魔にされた猫だ。
車で轢かれたのち、降霊儀式により中身を入れることで使い魔としての意思を持つ様になった経緯がある。
何かの拍子に失明していても何ら可笑しくは無いのだ。見えるということは、黒猫にとっても幸運だったと言えるだろう。

「……残念ながら、ね。何処からどう見ても僕は女の子だ。僕は間違いなくアイリス・フォン・ルズィフィール。
 こんな重い胸は要らないんだけどね。」

そしてアイリスはごく自然に自身の豊満な胸へと目線を映す。スタイルは悪くは無い。
細いウエストに大きな胸と尻。スラリと長い足。モデルでも通用しそうな体型ではあるものの、自らの意思と関係無く男性の視線を惹くこの胸は、アイリスは好きでは無い。
諸事情は省くが、アイリスの遺髪が全ての原因で、昔に投げたブーメランが今更額にクリティカルヒットしたのだった。

707アリス=ベリー・ベリーストロベリー・ショートケーキ:2019/11/24(日) 05:22:35 ID:tsda7neQ0
>>706

「なんだっていいわ。帰って来てくれたんだもの」
アーリルから伝えられた言葉を素直に飲み込んで呑気にも待つ気でいた。
帰ってこないなら待ち続けるだけだし、意外と気が長いのか首は伸び始めてないようだった。
ハッキリとわかるのは、会えてうれしいという純粋な気持ち。
「『今、一番興味がある事』?」
それはいったい、なんだろうか。視線をぐるりと回して考える。
城の中に放った兵士の一人が廊下の窓からこっちを見ていたので手招きで呼び戻す。
むくれたちっこい子と話にしたばかりの黒猫が視線を横切り、最後にアイリスに向き合う形で戻る。
「そうだわ! 一番知りたいのはアナタのこと!」
そういうなり黒猫の元へ走り寄って前脚の下に手を通して抱えあげる。
「アナタともお話ししたい!
 アナタは知らないでしょうけど、私は猫にもなれるの。そうすればお話しできるわ」
抱えたまま戻ってくると、膝を折って自分よりも小さな少女に目線を合わせ。
「もちろん、あなたとも!
 ここにいるみんなのこと。よく知らないんですもの」
胸の前で抱えた猫の、頭のてっぺんに頬ずりすると優しく降ろす。
三度目。アイリスと目を合わせると首を横に振りながら。
「そうかしら? 女の子になると嬉しいこともあるわよ?」
少なくとも、アリスはそう思っているようだ。

708アイリス:2019/11/24(日) 23:53:55 ID:ORmT3UkU0
>>707
アイリスはむくれた童女の頭を撫でて、髪を結い始める。
三つ編みだろうか。三つ叉に分けた髪を摘まんで、髪を編み始める。

「僕のこと、ルゥのこと、キルリスのことか。
 じゃあ、僕とキルリスのことは僕から説明しよう。ルゥのことは、君自身で知ってくれると嬉しいね。」

黒猫、キルリスはアリスに簡単に抱き上げられた。
以前にしたように、鼻先を舐めようとしていた。

「――では、改めて。僕はアイリス・フォン・ルズィフィール。月の子さ。
 この仔はキルリス。僕の使い魔の黒猫さ。見た目は黒猫だけど、中身は……ふふっ、君が考えてみてごらん。」

ああ、それから、と一息ついて。
蘇生後は好きに生きると決めていた。この都市に来る以前は王族の子として。尊き者として。強大な権力と共に背負う“貴族としての義務”がある。
“貴族としての義務”は貴族としての格が高ければ高いほど相応に重いモノとなる。しかしてこの都市内では自身の貴族としての振る舞いをしていなかったが忘れてはいない。
王族として。貴族として。それはいつしかアイリスを強く縛る鎖となっていて。鎖は重く、強く。アイリスを雁字搦めに縛り続ける。
アイリスを縛る“鎖”は以前に比べ、格段に緩く、少なくなっていた。だからか、少し穏やかな顔つきになっていた。
アリスの視線にアイリスは合わせて。緩くウェーブが掛かった柔らかく艶やかな金髪が揺れた。

「そして、不本意ながら女性になってしまった愚かな子でもある。ああ、そうだ。少し変わった眼も持っているよ。
 女の子になると嬉しいこと?真っ先に思い浮かんだのは、幼なじみのヴィルとなら結婚出来ることかな。」

アイリスの幼なじみのヴィル。
彼はアイリスの遠縁で、幼い頃からよく遊んだ相手だ。細かいことは気にするな、ガハハと宣う筋骨隆々の男だ。
なおアイリスより僅かに年上で今の今までアイリスを少女と勘違いし続ける男でもある。喧嘩の一言目はまな板から始まる。
そして、アイリスが結婚しても良いと思える相手でもある。

「僕はしばらくこの城で休んでいて殆ど外に出ていないんだけど、女の子になると嬉しいこととは例えばどういうことかな?」

アイリスはルゥを抱き寄せアリスの前に立たせると、肩に手を置いてルゥに自己紹介を促した。
童女の黒髪はわかった!と言わんばかりに力が抜けそうな、へにゃりとした笑みを浮かべて右手をしっかりと掲げた。

「ルゥ、君は自己紹介してごらん」
『ルゥはねぇ〜、ルゥちゃん!がるる〜』
「ルゥは何が好きなの?」
『ルゥわんわん好き。あ、わんわん!』

ルゥはわんわんを呼ぶように両手でおいでおいでをしてから、何も見えない所で手を動かしている。まるでそこに犬がいて、頭を撫でている様な、そんな光景を幻視させる絵だ。
アイリスにも見えていないし、おそらくアーリルにも気配は感じても見えていないわんわんは、常にルゥの傍にいる。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板