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【日常γ】異能都市ストライク!【その12】

1名も無き異能都市住民:2013/06/02(日) 15:23:50 ID:3Z2n9vI20
≪ルールとか≫
・基本age進行で
・コテもコテ無しもどんどん来い
・レスの最初に自分のいる場所を明記してくれるとやりやすいです
・イベントを起こしたい場合は空いているイベントスレをお使い下さい
・多人数へのレスは可能な限り纏めて行うようにしましょう
・無意味な連投・一行投稿はできるだけ控えるよう心がけてください
・戦闘可能ですが、長引く場合や大規模戦闘に発展した場合はイベントスレへ移動してください
・戦闘が起きた場合、戦闘に参加したくない人を無理に巻き込むことはやめましょう
・次スレは>>950を踏んだ人にお願いします

前スレ
【日常γ】ゆく梅雨来る夏【その11】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12841/1341056186/

878焔 リンネ:2015/09/26(土) 02:37:37 ID:l3ehZJ6I0

―――ガコン。

丁度隣の自動販売機が音を立てた。
メロンパンをごと持って頬張りながら、小銭を投入した後の財布をポケットに戻す。
取り出し口に手を伸ばそうと屈み込み、無事中のジュースを手に取って。
これから何処かへと向かおうというのか一歩踏み出した少女が、ビクリと飛び上がった。

>>877
「わふっ……すみません。どうも」
一歩踏み出すまでの至極スムーズな流れからの急停止。
クリスティナの目の前でエンストを起こしたかのようなストップの仕方を少女は、目を丸くしていた。
口端に付着したメロンパンの欠片が自然と落ちるほど大きく顎を動かして咀嚼し、飲み込むまで30秒弱。少女はずっと言葉を投げかけたまま止まったまま。
その30秒が過ぎるとやっと、大きく息を吸い込んでから再び口を開いた。
「目の前に居たみたいなのに気が付かなくて……ちょっとそこのベンチ、借りてもいいですか?」
灰髪朱目の少女はクリスティナと同じく学生服であった。
ただ、こちらのそれは常識的にスタンダードであり、都市的にもスタンダード……千夜学園。ここ異能都市における最大規模の教育機関のものだ。
都市に踏み入って余程間もないという訳でもなければ学生のほとんどはリンネと似たような制服をしているという知識は嫌でも身に付く。
もう少し詳細な情報を言えば、リンネは13歳、故に制服は中等部のそれだが、そこまでを見極めるのは酷か。

879クリスティナ・トラヴィス:2015/09/26(土) 02:57:42 ID:m8mk99YQ0
>>878

「む……」

少女に話しかけられたのが、ちょうどスマートフォンに目線を落とした時だったため、クリスティナも対応が遅れた。
少女を一瞥した後、ややベンチから離れた。
足鎧が足を踏み出すたびに金属音を立てる。重苦しくはないが、本物であることを主張する音。

「こちらも少々呆けていました。ベンチに関してはご随意に」

軽く一礼して、その場で再び、少女が来る前にしていた行動――すなわち、待ちぼうけであるが、それを再開する。
今度はスマートフォンをベストのポケットに収めて、左手に持っていた地図を、半分だけ広げて見ている。
異能都市の地図のようだが、ところどころ、赤ペンでマルやバツ、矢印が書き込まれていて、何かを確認したような、そんな地図になっている。
都市の住民でも地図を使うときは使うだろうが、クリスティナのそれはどちらかと言うと、初めて来た土地の確認のような雰囲気だ。
実際、クリスティナが初めてこの都市に訪れたのは昨日のことだった。

880焔 リンネ:2015/09/26(土) 03:13:11 ID:l3ehZJ6I0
>>879
「ありがとうございます」
少女、リンネは微かに微笑んでベンチへと腰を下ろす。
背負っていた黒いリュックを膝の上に下ろすと、お気に入りの品なのか猫のピンズを優しく撫でた後ふと思い返したように缶へと視線を向けた。
一息ついてタブを引き起こしたところで、真横の人物がまた視界に入り、ふと目を向けた。

彼女が手に持っていたものが地図だと知ると、立ち上がる。
「あの・…それ、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
傍から見ただけで眉をひそめたリンネであったが、了解を得て詳細に見ることができたなら首をひねる。
クリスティナと向かい合えば難しい顔をして言葉を返すのだった。
「都市には最近来られたんですか?」
都市の地図を広げているというだけで、大凡そうだと理解できてしまった。
ここに馴染みがあれば『歪み』の特性を知っているだろうし、であれば地図が役に立たないのもまた。
余程歪みに巻き込まれて困る物――リンネの通う学園もそう―――であれば歪み対策の魔術が施されているが、それ以外の地形は毎秒どこかが変化している。
それを知らないということは、まだ来たばかりなのだろうという結論に達し。

881クリスティナ・トラヴィス:2015/09/26(土) 03:29:32 ID:m8mk99YQ0
>>880

「?」

先ほど場所を譲った少女……リンネが、自分の持つ地図を見せて欲しいと言ってきたのを聞いて、クリスティナは内心首を傾げた。
地元の人間らしいリンネが地図を見て何をするのかがわからなかったためだが、特に断る理由もないので、
「ええ、どうぞ」と言って地図をリンネに見えるように持つ。
遠目では見えなかっただろうが、地図に書き込まれた記号には文字で付帯情報が記されており、
マルにはG1やG4などのGを頭文字とした数字、バツには「止」、矢印には大破、小破、などの破壊の度合いが寄り添っている。
比率としては2:7:1の割合で、バツが圧倒的に多い。バツの一つには「歪み」というワードが書きなぐられていた。
これを見て何を思ったか、リンネは自分が最近ここに来たかどうかを訊いてきた。
クリスティナは首肯し、

「はい。来たのは昨日のことです。わかってしまいますか?」

882焔 リンネ:2015/09/26(土) 03:40:18 ID:l3ehZJ6I0
>>881

「うーん、そうですね。
 住んでいるような人は、地図を持ちませんし」
先述の理由もあるのだが、言葉だけで見れば当たり前のことで、
それが面白くてリンネは小さく笑ってしまう。
しかし、地図はそれだけの意味ではなかったようで、裂き記されたサインを見るとまた眉をひそめた。
意味の全貌は理解できないが、クリスティナが何かしらの活動中であることを悟ったようで、
視線が下がり、脚の甲冑を見つめ……そして帰ってくると、微かに傾けられる。
「騎士様か……何か、ですか?」
赤いグローブを填めた右手に持った缶を思い出したように煽る。
記憶のあるうちからこの異能都市に住むリンネにも慣れない風貌なのが、気にかかっていた。

883クリスティナ・トラヴィス:2015/09/26(土) 04:00:26 ID:m8mk99YQ0
>>882

「そうでしたか、やはり」

クリスティナは先程まで漏らしていたものとは少し色の違う嘆息を吐いた。
昨日の昼前にここに到着し、少々の実地調査を行ったのだが、結果は地図のとおりにバツ……つまり、
「歪み」に邪魔されて思うように進まなかった場面が多かった。
リンネの言う「地元住民は地図を持たない」とはそういう意味なのだ、という理解にクリスティナは達する。
そんなことを考えていると、騎士かどうかを訊かれた。クリスティナは考えるような素振り。

「うーん、そうですねぇ……。名目の上ではそう、うん、そうなんですよ。私、騎士なんです。
でもですね、騎士と言っても私、乗れるのが自転車くらいなんですよ。馬とか乗ったことないし、原付の免許すら持ってないんです。
なので基本、徒歩……下馬聖騎士みたいな扱いなんですけど、それって騎士って言えるんでしょうか? どう思います?」

からの、真顔でのそんな問いをリンネに投げた。
確かにクリスティナは騎士だった。それも上級、という枕詞の付く、いわゆる「パラディン」という位についていたのだが、
それになる前から、彼女はこれについて考えていた。すなわち、騎乗しない騎士は果たして騎士と言えるのか、ということ。
無論、世間一般で通っている「騎士」のイメージが、必ずしも騎乗を求めるものではないということは理解していたが、
職位として騎士を使う場合、それで良いのかどうか。

884焔 リンネ:2015/09/26(土) 16:49:03 ID:l3ehZJ6I0
>>883

「んく、んく……。
 ……そうだったんですか、やっぱり」
林檎の描かれた缶に口をつけ中のジュースを喉に通すとリンネは言葉を返した。
もう一度、手足の甲冑に目を向けると小さくうなづいた。
異能都市のセキュリティの殆どは千夜の警備部門によって保たれている。
彼らの事実上のトップたる人間―――黒沢小百合――の得意分野が反映された結果なのか、現代兵器をメインに用いている。
リンネはそんな都市で過ごした人間であり、彼女自身も甲冑に馴染みはないため・……その視線は興味の色を示していた。

「うーん、どうでしょう……くすすっ」
そんなリンネの騎士像はあいまいで、クリスティナの抱くものとまた異なるのか首をひねった。
しかしながら、続く言葉で真面目な顔をして自転車に乗り現場に赴く騎士の姿を想像してしまい、思わず笑い出してしまった。
「でも、馬に乗れなくても騎士にはなれるということは……構わないのでは?」

885クリスティナ・トラヴィス:2015/10/10(土) 21:48:49 ID:3NfRlLOU0
>>884

「ふうむ、そんなもんですかね。うちの支部長も、馬乗りませんし……。
というか馬居ませんし……」

バイクを鉄馬と呼ぶ場合もあるが、速度が早すぎて騎乗戦闘など望めたものではない。
現代の騎士はかつての騎士とはノットイコール。手足の甲冑も古めかしいものに見えて、インナーの素材や装甲材は現代技術のものが使われている。
騎士という言葉は時代に寄って変節するもの。その認識をリンネの言葉で強めたクリスティナは無用の長物の地図を仕舞って、
ベストのポケットから手帳を取り出した。
様々な色の付箋がはみ出ているそれの背表紙に挟まっているボールペンを抜き、手帳を開いて、

「まあそんなことより、地元の方なら訊いておきたいことがあるのですが、
最近このあたりで、……えー、歩く焼死体のようなグールが出たりしなかったですか?
もしくはそれを見たとか」

そんなことを訊いた。

886焔 リンネ:2015/10/12(月) 01:58:57 ID:l3ehZJ6I0
>>885
「グール、ですか……?」
質問に対するリンネの反応を見る限りだと、多くの情報は得られなさそうな雰囲気だ。
首を傾げ、口元に手を当てて小さく唸った。
続いて口を開く前には、その手を離し小さく首を横に振る。
「すみません、私は見たことありませんね……。
 ただ、以前、そういったものが現れたという話を聞いたことがあります。
 詳しくは聞かなかったので、それ以上のことは言えませんが……」
口頭でも述べたが、謝罪の意を示して最後に一つ、頭を下げた。

887名も無き異能都市住民:2016/02/11(木) 21:59:10 ID:rBQ4y5NQ0
都市郊外の一角に、いつの間にか木造平屋の一戸建てが存在していた。
入口上部に掛けられた扁額には、柚諭庵<ゆずゆあん>と屋号が悪筆で記されている。

何の店か外装からは窺い知ることはできない。
蓋を開けなければ解からない。シュレディンガーの函が如く鎮座していた。

888欠け耳のボロッブ:2016/02/11(木) 22:11:49 ID:ZxYW2hTc0
>>887

「おんや……。」

いつもの帰り道、ふと上を見上げると
このあいだまで廃屋があった場所に新たに平屋が立っていた。
柚諭庵。東洋のなにかを扱う店であろうか。

「ほほお、何やら面白い商品がありそうですだなァ。」

赤褐色の肌をした子鬼の商人。ボロッブは、
好奇心につられ、店の引き戸を開ける。

889名も無き異能都市住民:2016/02/11(木) 22:29:25 ID:rBQ4y5NQ0
>>888

戸を開けば、六畳ほどのスペースに所狭しと物が溢れていた。
成る程。商人であるボロッブには一目で理解できる。これは骨董品を扱っているのだ。
更に奥の座敷には、店主だろう――まだ幼いであろう童女――が和綴じの本を読みふけっている。
座卓の上には古今東西あらゆる書物が山積みになっており、来客には気付いていないようだ。

890欠け耳のボロッブ:2016/02/11(木) 22:33:59 ID:ZxYW2hTc0
>>889

「こんにちはァ、今やっとりますかァ。」

背負った巨大なリュックを骨董品にぶつけぬよう、
体を横にしたり、斜めにしたりと不格好な歩き方で店内へ。

「ほへえ、これまたいい感じの店でないの。」

ボロッブは、店から漂う『雰囲気』に自分の店と同じものを覚え、
自然と親近感を沸かせていた。

891名も無き異能都市住民:2016/02/11(木) 23:01:27 ID:rBQ4y5NQ0
>>890

書物を追う目の動きがぴたりと止まり、軒先の方へ視軸を向ける。
本に栞を挟み、片手に持つと立ち上がって来訪者の元へ向かう。
凝乎とボロッブを舐め回すように見ると、陶器のような肌をした童は口を開く。

「ほう、客とは珍しきことよ。何もない店ではあるが飽くまで見ていくがよい」

仏頂面でそう言い切る。商いっ気がまるでない。
その証拠に再び腰かけて、活字を目で追い始めたではないか。

892欠け耳のボロッブ:2016/02/11(木) 23:14:34 ID:ZxYW2hTc0
>>891

「おんやあ、おめえさんまっこと商売っけがねえことだなあ。
 まあええさな!ちょいとあっしも骨董には興味があるでよォ。」

そういって、しばらくの間商品を眺めていたボロッブであったが、
同じ商いをするものとして、店の事に興味があるのか店主へと話しかけ。

「そういえば、おめえさん。
 こういうのの仕入れはどこからやっとるのかね。
 よけれりゃあ、うちが仕入れ先を紹介してやろうかい?」

恐らく、この感じからして商売慣れしていないのではないかと
ボロッブは気を利かせたのだが……。

893名も無き異能都市住民:2016/02/11(木) 23:30:17 ID:rBQ4y5NQ0
>>892

「古書骨董を専ら扱うのであるが、まず買うもんはおらんからな」

活字を追いながら、時折首を傾げながら、手元に紙を引き寄せては筆で何か記している。
その行動を傍目からは理解できないだろうが、答えはすぐ側に投げ出されていた分厚い書にあった。
それは字引だ。見知らぬ言葉を逐一確認しては語彙を反芻しているようだった。故に商売とは無関係だ。

「処分に困った者が、たまに売りにくるのじゃな。
 言い値でいうというから、収支も気にしたこともない。売る時も買い手の言い値で売っておる。
 物だけ溢れても場所が取れぬし、そもそも道楽のようなものじゃから、気持ちはありがたいのじゃが――」

そこまで云って、口元に指をあてる。割れそうな肌が艶めかしく歪む。

「――否、書物は別じゃな。善い取引先があるなら斡旋して貰えるかの」

売り物にする気はないのだろう。ボロッブは今までの店主の振る舞いからそう推測できるだろう。
生活が貧窮しているようにも窺えぬし、欲があるわけでもないのだ。

894欠け耳のボロッブ:2016/02/11(木) 23:52:01 ID:0ShJP3/w0
>>893

「ほう、これはまた高尚な道楽さねえ。
 うんうん、しかしまあ売れたほうがええのはきまっとるからなあ。
 書物はあっしは大得意でさあ。」

魔術品を扱うボロッブにとって、
書物とくに魔術書の類はもっともよく扱う品物の一つと言ってもいい。

「お前さんの名前を聞かせてくれるかね。
 今度の見本市でいろいろと融通するように、知人に伝えとくでよォ。」

895ゆずゆ:2016/02/11(木) 23:58:53 ID:rBQ4y5NQ0
>>894

「屋号"柚諭庵"店主の――ゆずゆじゃ」

仏頂面のまま、己の名を告げる。
常に不機嫌そうな顔をしているが、それが彼女の常態なのだろう。
初対面だろうが、視覚で観ずとも、口ぶりから童の穏やかな心を感じとることはできるだろうから。

896欠け耳のボロッブ:2016/02/12(金) 00:05:10 ID:ZxYW2hTc0
>>895

「ほいほい、『ゆずゆ』か。
 身なりといい、名前といい東洋のほうの出かね?
 東洋の魔術の品なんぞも――と、こりゃあもうどっちが商売しとるのか、わからんなぁ。」

たはは、と黄色い歯を見せてボロッブは笑う。

「しかしおまえさん、この辺じゃみない顔だが新顔かね?」

職業柄多少の骨董品も扱うボロッブだが、
ゆずゆという名はとんと聞き覚えが無い。おそらく商人ギルドの名簿にも名前はない
のではなかろうか……。

897ゆずゆ:2016/02/12(金) 00:13:31 ID:rBQ4y5NQ0
>>896

「その辺りの名称は善く解からぬのであるが――旅をしていたころは、東の国の出で立ちと、善く言われたものだな。
 ふむ――あまり外に出ないからかな。書に浸りきって出無精なのだ」

とはいえ、当然とその店は顕れたのだ。人が移動していないのであれば。
――土地ごと歪みに飲まれたか。
その概念をこの店主は知らぬが、異能都市ならば往往にしてあることだ。
然らば、組合に名が載っていないことに合点も行くだろう。

898欠け耳のボロッブ:2016/02/12(金) 00:34:56 ID:ZxYW2hTc0
>>897

「ふぅむ、まぁええさな。
 とりあえず、ここに出たんならたまには商人ギルドにも顔を出してみるとええさな。
 この辺じゃ、かなり力を持っとるから商売やるなら、めんどくさくても出てみて損は
 ねえやで。」

そういうとボロッブは、コートのポケットに手を突っ込みさぐるように
がさがさと手を動かした。その拍子に、紙くずなどゴミの類がポケットから溢れ。
最終的に取り出したのは、ギルドの事務所の地図がかかれた名刺であった。

「ああ、それと……これもな。うちの店。よかったらきてみてくだせえな。」

ついで、と渡すのはこれまたボロッブの店の地図入り名刺。

899ゆずゆ:2016/02/12(金) 21:09:10 ID:rBQ4y5NQ0
>>898

「その通り七面倒なのじゃが――そのぎるどとやらに出向かなければ、生計が立てられないと云うなら征くか」

くしゃくしゃの名刺を複数受け取り、訝しげに精査する。
眉根を寄せたゆずゆは草鞋を履き、店先に出る。
成る程、景色が変わっている。マレビトは自分の方であったか。

「暫く、厄介になるかもしれぬな」

顎を摩って、困ったような表情を浮かべた。

900欠け耳のボロッブ:2016/02/12(金) 21:26:45 ID:ZxYW2hTc0
>>899

「まぁ〜適当にやんなさいよ。
 人生は重き荷を背負うていくがごとしだっけね。
 いそいでもしかたないでな。面倒毎もゆっくり片付ければええさに。」

行と同様、荷物を商品にぶつけぬよう気を付けながら、
ゆずゆと共に表へと出たボロッブはあっちが商店街でこっちが、どうだこうだと、
簡単にこのあたりの地理を説明して。

「んじゃまあ、あっしはそろそろいくでさあ。
 お前さんの店の商売繁盛を願っとるでよ。」

そのまま、いずこかへと歩を進め消えていくのであった。

901焔 リンネ:2016/04/26(火) 22:33:12 ID:SrMYpqxs0

いつもこの瞬間は、怖い。
次が来なかったら、そう思うと恐ろしい。

豆粒以下にまで小さくなった彼らを見下ろしながら、少女は目を閉じた。
こんなところに立ちもしない、彼らは、こんなことで悩むことはしないのだろう。
特別であることを肯定的には捕えられなくて、たどり着いた一つの結論。

「……人じゃない、のかな」

この思いも、コレ限りで。

それを願う。故に、最後を感じようとしていた。
この夜風が、灯火を吹き消してくれることを、願って。

902???:2017/04/08(土) 21:57:25 ID:QmW2pzJE0
【AGカフェ】
店のベルがドアの揺れに反応し、小さな音を奏でた。
白く柔らかなもち肌にプラチナブロンドの髪に真っ赤な瞳。
そんな変わった客が一人で訪れた。
幼児特有の柔らかな髪は歩くだけで揺れ、店内の物珍しいもの一つ一つに大きな関心を示していく。
きょろきょろ。これは何かなー?
触ってみて、音がなればキャッキャと喜んで見せるのだ。
そして困ったことが出来た。
何かに惹かれるようにカウンター席に向かうのだが、童女の100cm程度の身長ではカウンター席に座れないのだ。
奇しくもカウンターの一隻は    がよく腰掛けていた場所で。

「どうしようっかなー?すわれなーい」

困ったとばかりにキョロキョロと周りを見回してみても座れそうにない。
だが、偶然テーブル席を見つけた幼児はわーっと大げさなほど嬉しそうにしながらテーブル席に向かう。
両腕をしっかりとシートに投げ出し、一生懸命よじ登る。
んしょ、んしょ。
数分を要し何とか座ったものの、何のために座ったかわからず途方にくれていた。

903レラ=ローレライ:2017/07/20(木) 02:58:16 ID:jMrRCTK60
―――深夜・封鎖区域

暗闇を一陣の光が駆けた。
遠方の夜景に紛れる程の小さな輝きは、闇夜を切り裂くようにして突き進む。
純白の枝のようなもの―――弓―――から打ち出されたそれは、少なくとも、標的に気付かれることはなく。
「次、だな」
感慨もなく呟けば、撃ち抜いた男の元へと歩み寄る。

その動作が警戒の無い緩慢極まりない行動なのは、この場所のせいだろう。
封鎖区域。本来ならば踏み入りが許されない場所であり、他者への配慮が必要ない場所で。
とうの昔に破棄された研究所の跡地。破棄された理由、封鎖された理由は曖昧でしかなく。
レラが理解できているのは封鎖区域という蓑を使った違法取引を取り抑えるということだけ。

904ルファス:2017/07/20(木) 22:23:43 ID:Bom2Io2.0
>>903

「仕事が被ったのか、我ながら運が無い……」

警戒心が薄らいでいるレラの耳に、何の前触れもなく男性の声が飛び込んでくるだろう。
声のした方向を見てみれば、そこには、まだ若さを残した銀髪の男の姿が有る。

「……ああ、警戒はしないでくれ、争う気は無いんだ、当然だが“今のところは”って補足が付くけれどな」

905レラ=ローレライ:2017/07/20(木) 23:52:05 ID:jMrRCTK60
>>904

他人を気に掛けない振る舞いに見えた背中に掛けた声への反応は、しかし落ち着いたものだった。

「何物だ、貴様」
この都市において年齢というものはステータスにはなりにくい。
年齢にそぐわぬ知識・技能・戦闘力を携えた少年少女が余りある場所だ。
目の前の少女もその一人なのだろうが、余りにも異質すぎると言えるだろう。
余りにも小さな体躯。ロケーションにそぐわないラフな格好。
その上、彼女が持つのは枝のような純白の細い棒きれただ一本。
先ほど、物陰から足元の男を射貫く様子も見ていたならば、それが弓のような使われ方をしていたことがわかるだろう。
だが、彼女の得物はそれ一つ。そこに揃ってある筈の矢の姿は見えない。

906ルファス:2017/07/21(金) 00:31:19 ID:wHyETsJE0
>>905

「便利屋だ、付け加えるならこれから此処で起きるだろう事が酷い結果で終わる事を望んでいる立場の者でもある」

外見がどうであれ、慢心はしない。
弓のような武器を持っているのを抜きにしても、この街でこういう場に足を運べる人間に油断なんて出来る訳がない。

「さて、そっちが何者なのか聞かせて貰ってもいいか?」

907レラ=ローレライ:2017/07/21(金) 01:35:49 ID:jMrRCTK60
>>906

「聞こえの良いドブネズミか」
挑発的な言葉に合わせられた鋭い視線。
愛くるしい容姿に対して敵意は剥き出しで。
「いいだろう」
仰仰しく、わざとらしい快諾。
笑みこそ浮かべたが決して清々しいものでなく。
「【機甲団サルガタナス】、『チーム・ゾレイ』、隊長のレラ=ローレライだ」
機甲団サルガタナス。
異能都市から海を跨いだ先にある機甲国家が有する軍部の話は耳にしたこともあるだろう。
人の数倍にも及ぶサイズの機体を主戦力にした組織で、その一部が異能都市の自治に駆り出されているとも。
目の前のレラこそが、身の丈に合わず組織を束ねる人間だという情報までは無かったが。
「ではもう一つ尋ねよう。
 ここが進入禁止なエリアだという自覚はあるな?
 ……野暮だな。知らんとしても構わんさ。邪魔はしてくれるなよ」
要はルファスらのような人間の天敵ともいえるようなものだ。

908ルファス:2017/07/21(金) 02:43:39 ID:vsS4Mk6E0
>>907

「ドブネズミか……暗く淀んだ場所、腐った世界じゃないと生きれないのが俺達みたいな人種だからな、妥当な評価だろうよ」

挑発に乗ったところで自分の価値を落とすだけだという事は解っているし、その評価は不当なものではない、故にその言葉に噛み付くような事はしなかった。

「成る程、場馴れしているのも余裕があるのも当然な訳だ」
「……それと、ああ、色々聞いた以上は此方も同じだけは言わないとフェアじゃないな、ルファス=エルシャードだ、覚えてくれとは言わない」

興味など無いだろうが、最低限のマナーとして名乗っておく、無秩序な世界に生きるからこそこういった情報の開示は意味があるというのが、この男の持論だ。

「その忠告こそ野暮ってものだ、俺は邪魔にならないようにわざわざ話し掛けたんだ」
「謎の第三者が居る、としか認識してないのと、小遣い稼ぎをしてる小者が居るとまで解っているのでは無駄な警戒をせずに済むだろう、とな」
「当然、俺も余計な心配が減るし、下らない勘違いから無益な潰し合いをせずに済む、互いに効率良く動けるだろう?」

909レラ=ローレライ:2017/07/23(日) 02:27:23 ID:jMrRCTK60
>>908

「ククッ、ドブネズミが相手とて褒められて悪い気はせんな」
腕を組み少し考える素振りの後に口端を挙げて微笑んだ。
一見弓のカタチをしたそれも弦は無く、端を掴んでまるで杖か棒切れのように手に収めて。

「では、より効率よく手を組まないか?」
手首を回しで謎の枝きれを一回転させ、建物を指す。
相変わらず笑みは向けられているが、やはり年頃の純真無垢なそれでなく。
「でなければ、不法侵入者の片付けからやなねばならん。僕としても無駄な仕事は避けたいのでな。」
余裕を持った仕草にも見えるが、その敵意が未だ薄れていないのも事実。
「貴様の名が今後、僕の中でどう響くかは貴様の行動次第だぞ?」
自己紹介の通り、レラは都市の秩序に加わる者だ。それに名を明かしてしまったことがどう響くだろうか。

910ルファス:2017/07/25(火) 23:08:22 ID:ey6AvOS.0
>>909

「内容を聞くまで『はい、やります』とは答えてやれないが、仕事が効率良く進むのは俺としても大歓迎だ、詳しく聞かせて貰いたい」
「……ああ、はっきりしない回答を、なんて思わないでくれよ、使い潰されて後ろから撃たれるきらいならば……ってだけだ、得がある話なら喜んで食い付く」
「便利屋の看板を掲げている以上、それなりに色々と出来る、後悔や失望をさせないだけの結果は出してやるさ」

そう言いながら、“手にした拳銃を”弄ぶ――今の今までそんな物は持っていなかった筈なのに。
もしもレラが青年の一挙一動を全てしっかりと凝視していたのならば、会話の終わり際、一瞬でそれを引き抜いたのを確認出来ているかもしれない。
そして、それは並大抵の人間、少し腕に覚えがある程度の人間では、対応する間すら与えられず眉間を撃ち抜かれるような速度だったのも認識出来るだろう。
不安が有るのなら実力でそれを捩じ伏せる、利用しようと思われるならば、どのような報復を出来るのかを予め示しておく事でそれを未然に防ぐ。
歩調は合わせるが自分の価値は下げない――“この程度”と思われた時点で、元々怪しい自分の命の保証が完全に消える事を理解しているからこそ、挑発一歩手前の行動でも平然と行える。

悪い結果になったとしても、此処で殺し合いになる“だけ”の話なのだから。
無価値に無意味に消えるよりも、幾分かマシだろう。

「―――手を組むっていうのは、互いに思惑がありながらも、根本的な部分が“対等”だから成り立つ行為だ、そうだろう?」

911レラ=ローレライ:2017/08/01(火) 01:48:17 ID:jMrRCTK60
>>910

「貴様と僕が対等だと?」
気に入らない部分には噛みつきつつも話を進めていく。
いつの間にか手にしたいた銃にも顔色が変わることは無く、手元を鋭く見つめるのみ。
やがて踵を返せば歩幅の割に早い速度で進んでいく。これも円滑な任務遂行のため。
「ならば、この僕の護衛を貴様に託してやろう。
 報酬は出来高だが、その口ぶりならば……期待しておけ」
傭兵崩れや用心棒もどきの殆どは金を要求する。およそもっともありふれた、しかし堅実な取引内容だ。
レラ自身を金庫の鍵とすることで、その間は身の間が保証される。そういう意味では対等と言えるだろう。
「便利屋、ルファス=エルシャード。今は、覚えておこう」

912ルファス:2017/08/14(月) 21:42:31 ID:/Wig5wZg0
>>911

「ああ、対等って言葉が気に入らないなら言い換えよう、一方的に喰われない程度の関係だ」
「互いが互いの能力や立場や金銭や人脈……要するに“力”を利用したいと思える関係でないと取引は難しい、強すぎるにしても弱すぎるにしても、何も得られない人物なんてただの障害にしか成り得ない……違うか?」

噛みつかれようとも物怖じせず淡々と会話を進める、これは雑談ではなく商談なのだから、自分という商品の価値を下げるような行為はしない。
これは経験則だが……この街の力を持った人間は自尊心が高過ぎたり短気だったりと絡みにくい人種では有るが、価値の有るものを誤って捨てるような真似はあまりしない。
少なくとも、この男はそう認識している。

「掛け持ちはしない主義、なんて贅沢は言わない、一番解りやすい交渉道具を出して貰えた以上、有り難く依頼を受けさせて貰う」
「少なくとも、受けた以上は今までの会話に割いた時間を無駄なものにはさせない、相応の結果は出す」

――異能、展開。

後を追うように歩きつつ聴覚と情報処理能力を強化、周囲の雑音から人の立てる呼吸音や鼓動、機械の立てる駆動音、術式が空間に干渉する際の異音……それらを抜き出し、障害の位置の把握を試みる

913レラ=ローレライ:2017/08/20(日) 21:49:42 ID:jMrRCTK60
>>912

「認めよう……。
 が、貴様、ただの無頼<ドブネズミ>の割に利巧だ。
 クククッ……。その性格ではエサ探しも苦労しそうなものだが、僕の機嫌を損なわなくていい。そういう利巧だ」
ルファスの身形を再度確かめるように見渡す少女は、鼻を鳴らすと背を向けて進みだした。
歩行ではなく、浮遊で。数十センチ程度の空白を下にフワリと浮き上がる。視るからにメカニカルな装いの足元からは音がしていない。

「相手もただの無頼だ。余り構えずとも、難は無いが。―――『研究所』、か」
小さな体躯に見合わず常に相手見下した瞳。噛みつかんとする態度。
利巧であると評したルファスに対して全くの逆。彼女もまた、生き辛い人間と言えるのだろう。
レラの態度はルファスの考える力ある人間のそれに当てはまってると言える。その口が、歯をかみ合わせた。

「場所は……入り口から程ない部屋だな。向かうぞ」
ルファスの異能が一つの反応を返すだろう。レラの右眼から術式反応だ。
柴色の瞳がカチ、カチと髪色と同じく鮮やかな海色に発光している。その中は一つの景色を凝縮したようになっていた、例えるなら雑多なボード。
大量の情報が右眼の目前に浮かんでは消え、点いては消えてをを繰り返す。さらにその奥には見覚えの無い、紋章。

914ルファス:2017/08/23(水) 22:44:59 ID:wDbYMl.U0
>>913

「愚かな鼠がどうなるのか知ってるからな、文字通り必死になって生き方を学んだ結果だ」

誉め言葉?を否定はしないが、それは生きる為に必要だったからそうなっただけの事。
順応できなければ死んでいく、だから努力し生き延びた――男にとってはそれだけだった。

「周囲の気配も罠も無さそうだな、油断も慢心もする気はないが、確かに難は少なそうだ」

ああ内心で評しはしたが、実際のところ、レラの対応に問題は感じていない、寧ろ妥当だとすら思っている。
実力が如何に高くとも、容姿だけで女子供と侮る人間はどの時代にも一定数いるものだ、加えて部隊を率いる身ならば相応の風格が求められる。
平時であれば何かと得をするだろう華奢な少女の容姿は、そういった場所では不利にしか働かない、そのハンデを補うためにも、その態度は必要なものだろう、そう、思うのだ。

(……目に術式か、感知系なのだろうが……この感覚は普通の術のものとは、少し違う気がするが)
「此方も音を拾った、了解だ」

915レラ=ローレライ:2017/08/31(木) 00:26:03 ID:hCYAXhNw0
>>914

「金だ、力だと騒ぎ立てる。
 僕の見てきた雇われはそればかりだった。
 その分だと長生きもできよう。その目が狂いさえしなければな」
蒼く瞳を輝かせながらも、その目は柔らかく曲がり笑みを表す。

煌めきが収まるころには研究所の内部にまで入っていた。
本来ならば人の入り得ない場所。窓から差し込む月明りだけが視界を色づける。
「既にここは放棄されて久しい、電源は既に落ちている。魔力の気配も……無いな。
 奴らがあの小部屋を選んだ理由は不透明だが、用意があるとも思えまい」
レラ口にした情報は、ルファスには感覚で理解できるのだろう。
部屋が近づけば、扉の向こうの人間がたったの数人だけであるということも仕入れられてくる。

「クク、僕が仕込んでやる。貴様は突入して散らせ……見ていろ」
近付くにつれ声が消えていく。最後に交わしたのは曖昧な指示。
部屋の前にたどり着く。ふわりと高度を上げると、既に電源が落ちている筈の入退室用コンソールに手を伸ばす。
触れもせずに手を翳す、無機質な電光板を見つめるだけが10秒ほど、その後に、淡い緑色の輝きが返って来た。
レラの口元が歪む。恐らく、本人が気づきもしない笑み。
その後もただ翳すのみ、魔力とも術式とも違うとルファスの感覚は告げるだろう。応えてくるのは、本当に微弱な、波うつ何か。
電気式の駆動音を勝てながら、スムーズに開きだしたドア。予め用意していたのだろう何かを、中に投げ込む。
ぽん。と開いた扉から小さな音と強い光が漏れだす。
それに照らされたレラは突入の指示を出している。中身は4人、事前に感知できている通り。

916ルファス:2017/09/08(金) 21:50:40 ID:pmnHtoMc0
>>915

「金も力も地位や権力も、所詮は目的まで進むための手段の一つでしかない、求める事は否定しないが……それが全てになってしまえば終わりだ」
「そう思って今まで過ごしてきたからこそ、その言葉はありがたいな」

笑みこそしないが、小さく口元を緩めて返答をする、社交辞令かもしれなくとも、利用する為のおべっかだとしても、自分のこれまでを肯定されて悪い気分にはならない。
もっとも、この依頼主はそもそも世辞など言わないような人間だろうが。

「周囲を警戒しているようにも感じられないな、巡回の警備なども居ないようだ」

声を落とし、レラに対して返答する、無論相手もそんな事は理解しているだろうが、索敵方法が違うなら情報を伝えることにも意味は有る。

「……了解だ」

レラの異能か魔術か、感じ慣れない気配と共に実行したなにかによって道は拓かれた。
ならば後は踏み込み散らすのみ、懐から非殺傷用の麻酔銃を抜き――ぴしり、と、床に亀裂を入れる勢いで大地を蹴る。
弾丸のような速度で一足にして飛び込むと、その場にいる敵の首筋を狙い、無造作にして正確無比な射撃で麻酔針を見舞うだろう。
特別な手練れでもいなければ、この急襲には解っていたとしても対応は難しい筈だ。

917レラ=ローレライ:2017/09/24(日) 02:31:07 ID:hCYAXhNw0
>>916

人間は丁度、取引の真っ最中だったようだ。
扉が開かれたことに驚きを示していたが、彼らが取れる対策は何一つとして無かった。
余程この開かずの扉を信頼していたのだろう。

「ご苦労。仕事にはやりがいを求める口か? だとしたら残念だったな」
鎮圧の気配を感じ悠々と歩いてきたレラ。
満足気に頷くと奴らの所持品であるケースひったくる。
中身を確認しようと手を伸ばす―――そこで、とある異変に気付いた。
その可笑しさはルファスにも解るだろうか、隣の部屋に何かが居るのだ。
「構えろッ!!」
さっきまで感じもしなかった存在は急激に距離を詰めてきていた。
レラが声を上げるのと同時、四匹の狼が扉を突き破り飛びかかってくる。

918ルファス:2017/09/30(土) 10:14:35 ID:lG7BeJEs0
>>917

「まさか、警備も監視もせず、この扉……金属板一枚だけで安全が保証されたとでも思っていたのか、この連中は?」

レラが警備を一人始末したのは事実だが、逆に言えばそれ以外警備は目にしていない。
幾らなんでも杜撰過ぎる防御体勢、罠を疑いたくなるレベルだが……襲撃に成功している以上、それはない、依頼そのものが罠なら、此処で目的を同じくするレラと出会う事もない。

「やりがいは別に構わないが、広告の機会を失ったのは残念だな、公の機関の人間の前だ、良い働きをして印象を残しておきたかったが――」

レラが感付くのとほぼ同時に異変を察知する、人ならざる獣の気配が“涌いて出た”としか表現出来ないこの感覚。
麻酔銃は左手に、右手に実銃を握り、依頼人であるレラよりも扉に僅かでも近い位置に行こうと、駆け出す。
襲われるならまずは自分から、依頼人の無事は自分の無事より優先するべきだ。

扉が破られるのと同時に、無造作かつ精確に、弾丸の雨を獣の群れに見舞うが……どこまで倒せるのかは、獣の動き次第だ。

919レラ=ローレライ:2017/10/08(日) 04:04:36 ID:hCYAXhNw0
>>918

ルファスの意識の外から正に産まれ出たような感覚……その異質さにはレラも不信感を示していた。
獣達に怖気づく素振りは全くない。ルファスの影に隠れ守られながらも、本来ならば居る筈のない者達の正体を勘ぐっていた。
唐突に湧いてきた狼共はルファスのs理化組む日な射撃によって牙を突き立てるまでの間に勢いを削がれていく。
飛び出した身体が打ち落とされ、地面に落ちていく者が殆ど。最後の一匹が制御を失って飛び込んできたのみだった。

「少々質素だが、こいつら相手だと十分か。
 まともな取引をするつもりは無かったということだ。
 まあ、こんな場所、何も無い方が可笑しいということだな」
研究所。様々な悪意の暗喩として用いられ、あらゆる非道に紐づいていると言われる組織。
その跡地にすら蔓延る仕組みにレラは気付いたようで、何処か満足気に鼻を鳴らした。
「見てみろ」
まだ息の合った一匹に、白い枝の中腹を翳すようにして白い光を放った。
破壊された狼の腕からは見慣れない、青い色の血液が流れ、関節からは鋼鉄の骨が露出していた。
「この擬人をどこで手に入れた? さて……調べてみるか」
彼らが取引の材料にしていたケースに目を向けることもなく、狼共が流れてきた奥へと興味を示す。

920ルファス:2017/11/05(日) 23:46:07 ID:G3vy8cJc0
>>919

「あの連中の様子なら間違いなく、この犬共の相手は出来なかっただろうな……悪趣味ではあるが、これを仕掛けた奴の見立ては間違っていなかった訳だ」

面倒な事に関わってしまったかもしれない、と小さく溜め息を吐き、レラが興味を示した奥に異能を再起動させつつ向かう。
気配を感じ取れず急に現れた獣、単体の戦闘能力はそこまで高いものではなかったが、僅かにでも危険がある以上、依頼人を先行させる理由は無い。

「……無いとは思うが念の為、だ、僅かに先行させて貰うが構わないな?」

レラからの許可が有るならば、ルファスはその場で、奥から気配や物音がするのかどうか、その有無を確認するだろう。
物音や気配が感じられないのならば、中にゆっくりと踏み込み、更に詳しい情報を得るべく様子を伺うが――。

921レラ=ローレライ:2017/11/13(月) 00:18:36 ID:hCYAXhNw0
>>920

「そういうことだ。
 どちらが仕掛け、嗾けたかは解らんが。大した違いはあるまい」
現れた犬共を退ける間に、気が付けばジャケットの袖に青い彼らの血液が付着していた。
反対側の指でそれをすくい、目の前に晒す。べったりと張り付いた末に落ちていく燃油のような感触に顔をしかめた。

「ああ、構わない。
 悪魔と仲良くやれるのであれば、いい用心棒になる。
 奴らがそんな酔狂を好むタチかもしれん、探す価値もあるだろう」
今こそ破棄されて久しくなった建物だが、嘗てはあの悪名高き【研究所】の物だったのだ。
何が出てきてもおかしくは無い。さっきの獣のように手軽く済めばいいが。

ルファスの背に続くことを選ぶと手にした弓を手放した。
独りでに宙に浮いたそれは分かい、変形。一本の輪を形度って彼女の僅か後ろに張り付いた。

やはり研究所の中は寂れたまま。
電気も通っていない以上、動く物はほとんど何もなく、道筋も只管に暗黒。
レラが持ってきていた携帯用のライトで辛うじて行く先は見える程度だった。
周りの気配もない。この完全な暗黒では生活はおろか、何かの研究も不可能だろう。

程なくしてたどり着いた先。一つの大きな扉が目にかかる。
「む」とレラの口から小さな声が漏れる。相変わらず彼女の右目はチカチカと輝いていた。
「この扉、渡されている地図に記載がない……?」

922ルファス:2017/11/24(金) 23:09:10 ID:Yqsa3vrk0
>>921

「第三者の可能性も有るが……どのみち同じだな、今此処で想像を膨らませても何も得られない」
「悪魔と仲良くやる手段を模索する方が、まだ幾分か有意義だろうさ」

携帯用のライトが僅かに照らす通路を、警戒しつつ、それでも迷いなく進んでいく。
罠が無いか周囲の確認をしつつ、障害物は的確に避けていくその様子から、この男には周囲の光景が問題なく見えている事が、レラには難なく伝わるだろう。

「……地図に示されていない扉、か、また随分と解りやすい形で胡散臭いものが用意されているな」
「何らかの手掛かりが有るのなら此処だろうが、罠を仕掛けるなら同じく此処だ、どうする?」

――質問の後、開けるなら俺がやるから下がっていてくれ、と、付け加える。
こういった部屋は細工で凶器に変わる事をこの男は理解している、同時に、それの回避がとてつもなく難しい事も。
それでも、依頼を受けた以上は自身が先行する、死の危険だろうと甘んじて受け入れる。

それが、この裏社会で“仕事”を続ける為に何よりも必要な事だと理解しているからだ。

923レラ=ローレライ:2017/12/04(月) 02:26:08 ID:hCYAXhNw0
>>922

ずっと正面に向けられていたライトが横へそれてしまう。
その次は上……レラが視たい方向に対してライトが向けられるようになっていた。
これはルファスが「闇の中でも確かな視界を持つ」ことへの気づきの印だった。
そのライトが、二人の目の前に現れた意味ありげな扉をくまなく照らして回る。
破棄された研究所の中で、この扉だけが新しい。赴きや様相から、明らかに後付けであることが伺える代物だった。

「ああ、妙だな、妙だ……」
レラは利己的で、よく考える方の人間だ。少なくとも、仕事に於いては。
けれども、今だけは、この扉の放つ異彩さに惹かれて奥へ踏み入る事を選んだ。
「開くことが出来るのは……この、僕の力だけだ」
ルファスの進言を押し切って小さな身体で大きな扉と相対する。
3mを越えるだろうそれが、扉だということは姿かたちから理解できるが、機能的な側面で言えば成り立ってはいない。
鍵穴や、取手が不足した開くはずの無い板が立ちはだかるだけ。上層階のような電子的なセキュリティの類も見当たらない。
ぶち破るか、抉じ開けるかしかない筈の扉に手を翳す。
これの原理についてはレラ自身も理解はできていない。全ての鍵の代替となる力を持つことに気付いたのも最近だ。
そこに鍵が有らずとも、扉という体を為しているのなら、手をかざすだけで、開くことが出来る――――


堅苦しさを誇っていた扉も開いてしまえば最早それまで。
口を開いて、露わになっていく奥から雪崩れ込んでくるのは多量の光と……寒風。
そのどちらもが、自然的な物でなく、機械的な物であることは目が慣れてくれば自然と理解できることだろう。
「―――サーバルーム? こんなところに、何故……」

途方もない広さの部屋。その最奥に鎮座する2体のサーバ。
うっとうしいほどに輝く証明と、けたたましいファンの音、肌を刺すような冷風。これらを見るに、まだ、稼働中のようだ。

924ルファス:2017/12/07(木) 23:51:27 ID:Yqsa3vrk0
>>923

「ああ、了解だ、鍵穴も電子ロックも無い、専門外だが、どうも魔術や呪術の類でも無いらしい、となると俺には力技しか残されていないからな」
「だが、護衛を買って出た以上、何らかの異変があれば相応の対応はする、扉を開いた瞬間依頼人が蜂の巣に、なんてのは嫌だからな」

依頼人であるレラの意向を最優先にするが、最低限の護衛までやめるつもりはない。
異能を切らさないように神経を張り詰めながら、ゆっくりと扉が開くのを待ち――

「……なんだ、これは?」

――口をついて出るのは、自分でも解る間の抜けた、拍子抜けした声。
目の前に有るものが何か解らない訳ではない、寧ろ解るから混乱している。
廃墟同然の研究所に付け加えられた謎の部屋、その中身は、此処に存在している事が逆に不自然な、一般的な科学の産物。

「……サーバーなんて何処に置こうが問題ないものだろう、何故、わざわざこんな場所に……」

925レラ=ローレライ:2017/12/18(月) 03:10:30 ID:hCYAXhNw0
>>924

二台のサーバ。
それしかない割には余りにも余り過ぎた空間。
中央に僅かな空間を開けて背中合わせに配備された二台。
明滅する緑色のランプに目を付けたレラが歩み寄り……弾き返された。

「むぐっ。
 ……なんだ、壁、か?」
何もない筈の空間に衝突し思わずして尻もちをつくレラ。
触れた箇所が波打ち『そこ』にある『何か』の存在を主張していた。
再び近寄り、手のひらをくっつける。やはり波打つのみで何も起こらない。
「ダメだ。
 扉の類であれば開けられるのだが……入り口、ましてや出口も無いようだ」
レラがある程度まで近づいたことで、それらの大きさが見えてくる。
頂点を見上げるレラの首はほぼ真上を向いていた。彼女の背丈が物足りないことを除いても、非常に大きい。
幅も2m近くあるだろうか、一般的な規格の物を大きく越した、筐体が並んでいた。
「これだけ大きければ、中身も余程重要なのだろう」
くるりと踵を返したレラがすれ違いざまに口にして、そのまま部屋を後にしようとする。
最後に振り返り、右のこめかみに指を充てる。
右の瞳に怪しげな紋章が再度浮かび上がり、数秒後、光を放った。
「ご苦労。今はいったん引き揚げよう。
 場所が分かったで十分。準備をして臨む方が賢明だ。
 そのための材料だけは……抜き取っておいた」

926ルファス:2018/01/04(木) 00:12:43 ID:N0/lNFhw0
>>925

「完全に外界と遮断して保管している訳だからな、中身に宝が詰まっているのか、或いは災いが詰まっているのかは兎も角、大層な物には違いないだろう、撤退は賛成だ」

レラの言葉から眼前の物体にどう対処するべきか検討し、同様の結論に辿り着き、同意をする。
尤も、雇われる立場である以上、最終的に違う結論に辿り着いても雇用主の意向を尊重する気ではあったのだが。

「……さて、これで漸く折り返し、護衛の依頼が半分終わりだ」
「だが、本番は此処から……お客様を無事に帰すまでが護衛のお仕事だからな、何処か希望する場所があれば言ってくれ、外国から自宅前まで、何処にでもお送りするよ」

927レラ=ローレライ:2018/01/25(木) 01:27:13 ID:mYM.TWJI0
>>926

「何れにせよ、抉じ開けるがな」
彼女は公に、規律の下に立つはずの人間だ。
にも拘らず、主要目的が終わった後も施設の奥に踏み入って勝手に探索を続けていた。
今の発言も、使命感というよりかは己の興味、意地が籠ったものだった。

「ふむ……その必要も無いだろう」
こめかみに手を当て右目を煌めかせると小さく唸った。
ルファスから見た、彼女の蒼かったはずの瞳は複数の色が混ざり合って入り乱れていた。
「時間を掛けたからな。迎えが来る」
一方で、レラの視界には今回の任務概要、現在の時刻等がオーバレイされている。
予定時刻を大幅に上回った場合には、後続隊が乗り込む手筈になっていることを確認していた。
「だが、この廃墟を出るまでは同伴だな。当初の目的物は回収しておかなくては」
そう言って踵を返したと思えばふわりと浮き上がった。
真っ暗闇の廊下を引き返していくレラの独り言が、静けさの中で響いた。
「しかし、あの場所は……」

928ルファス:2018/02/21(水) 23:16:16 ID:ld1nLjIU0
>>927

今この場で開けるわけでないなら、それはもはや自分とは関わりの無い話だ。
どう選択をしようが自分が口を出す必要も理由もないだろう。

「成る程、確かにそれならこの護衛の仕事が終わるのもそう遠くはなさそうだ」

仲間に合流させられるなら、言うまでもなくそれが一番良いだろう、仮にその後何があっても、此方としても自分がやるべき仕事は果たしたと胸を張って言うことが出来る。

「それと、あまり自分から切り出したくはなかったが、最初に軽く話した報酬の件についてだ」
「単刀直入に言うが……俺は公的な機関が介入してくれた時点で十分得をしているんだ、仕事の過程で楽を出来たのもそうだが、事件の隠蔽に掃除屋を依頼する手間も金も省けてる訳だからな」
「だから、適当に済ませてくれ、無報酬でもこの仕事に関しては何の文句も無いくらいだ」

929レラ=ローレライ:2018/03/13(火) 02:11:19 ID:hc0tQ.R.0
>>928

「他から金が貰えるとしても、だ。
 僕の評価と言う者をくれてやる……アテならある」
暗闇の中を先行していくレラ。
懐中電灯の明かりはやはり乏しかったが、ルートが頭に入っている以上、難は無く。
やがて地上までたどり着けば、寂れた建物のあちこちから入り込む月明りが周囲を照らす。
当初の目的であった、男たちの取引現場への扉を前にすれば、意を決するように息巻いてから扉を押した。

「うぐ……想定はできていたが酷い匂いだ」
腐敗臭。
ここを離れるまでは無縁だったはずの匂いが周囲には立ち込めていた。
見渡す限りが無機物で囲まれた旧研究室。腐臭の元になっていたのは打倒してきた人間と狼達だと断定するのは難しくないはず。
しかし、たった数十分にも満たない間で、これだけの変化が訪れる筈がない。普通であれば。
「これが駄賃だ」
男の取引品であったケースの鍵をものともせずその中身に満足気な笑みを浮かべればその内の一つを手渡しに来た。
見たところ、白色の液体が詰まった輸血パックのようだ。触感では少々弾力に勝る。その程度の情報しか得られない。
「スノーホワイト。『擬人』(コイツら)の疑似血液……その高級品だ」
機械仕掛けの分厚い靴のつま先で、狼の青い血液を掻き分けて腐肉を弄りながら口にした。
鋼鉄の骨格を剥き出しにされた横たわる狼。その肉は目に見える速さで腐敗を始めている……。

930ルファス:2018/03/30(金) 23:08:00 ID:.mS0JUVo0
>>929

「成る程、その理由なら受け取らないという選択肢は無い、ありがたく頂く事にさせて貰おう」

仮に報酬が無かろうと問題は無かったが、そう言われて拒む理由はない、報酬を無理に拒否して出来立ての関係を悪化させる事になれば損しか自分にはない。
そしてそんな打算的な理由よりも遥かに重要な理由――彼女が“常識”を持ち合わせている事が理解出来たからだ。
言動こそ高圧的だったが、実際はその真逆、自分のような雇われが相手だろうと、成す事を成せばしっかりとその報酬は支払う。
自分に価値を見出だしたのか、厄介払いに適当な報酬を見繕ったのかは解らないしどうでもいい、ただ、人としての基本的な場所が狂っていない事だけはしっかりと理解出来た。

「……生体活動が終わった瞬間にこれか、この劣化の速度なら、元よりそう長く生命活動は維持出来なかったのかもしれないな」
「そんな連中の血液の上位品……相応の価値は有るんだろう、金銭ではないから最初の口契約と少し違う形になってしまったが問題無い、寧ろ稀少価値が上がったようだし、十分すぎる報酬だ」

立ち込める腐敗臭に僅かに眉間にしわを寄せながら、しっかりと報酬を受け取った件を口にして宣言しておく。
彼女の事は嫌いではないが、初対面である以上誤解の芽が生えてくる余地はどこにでもある、不満が無いことを明言しておく必要はあるだろう。

そこまで言って、ふと、男は何かを思い出す。

「ああ、そうだ、一応こいつを……領収書という訳ではないし、必要になる機会も多くはないだろうが“便利屋”の連絡先だ」
「十分な実力を持ち合わせているのは先の動きで理解出来た、けれど、日の当たる道を歩けない、街の暗がりに潜む鼠だからこそ知る“抜け穴”も世の中にはあるだろう?」

自分とレラの立場は違いすぎる、だからこそ、互いにしか得られないものがあり“使う”価値がある。
故に、敢えて自らの素性の一部を、公式の人間に晒す賭けを行う価値がある。

931レラ=ローレライ:2018/04/19(木) 02:23:11 ID:hc0tQ.R.0
>>930

彼女に規律への関心がないことは理解しているだろう。
進入禁止区域で出会った部外者を雇い始めた背景もあれば、今は押収品を横流しの最中だ。
ルファスの念押しの宣言にも微塵も興味を持たず、足元の腐臭を放つ狼の金属の骨格を踏みつけて軋ませていた。
「……物を扱うなら、知っておくべき事はある、な。
 この疑似血液を形成しているのは大まかに言えばナノマシンと保存液だ。物の違いはナノマシンの密度と保存状態の質だな。
 皮さえ被っていれば生物と全く見分けは付かんが、その実は全て機械制御。この狼どもは突っ込むことしかできん能無しだが、高度な物になればある程度の自我もコントロールできる。
 電気信号でナノマシンの流動を制御して、予め設計されたルーチンによって行動する。概念自体は貴様にも理解できるだろう? 因みに、肉も人工物だ。成分だけを似せた粗悪な形成肉だから機能が停止してしまえばすぐに腐り始める」
一息に喋った反動か胸を上下させる程深い息を吐く。腐臭まで取り込んでしまい顔をしかめる。

「ただ、こいつらも結局は機械に過ぎん。
 飽くまでもあらかじめ実装された機能しか持たなければ、金属の骨格や意志の無い肉塊が成長することは無い」
青色の保存液に塗れてしまった鋼鉄のブーツで狼共を横切りながらケースを回収する。
似つかわしくない重量感を放つケースに手を翳せば、重力を忘れたかのように浮かび上がり、手招き一つで手繰り寄せられた。

連絡先を目にしたレラは、居変わらず攻撃的なものの上機嫌そうに口角を上げた。
「貴様の理解の良さはは……」
言葉を独りでに打ち切ったと思えば、見た目に不釣合いな鋭い視線が向けられていた。それが品定めであることを、標的であるルファス自身にも隠さずに堂々と値踏みする。
しかしながら、その目的、結果の何れもは明かされずに、またも一方的に切り上げられてしまうのだった。
「まあ、良い……帰るぞ。
 ……といっても、正面から顔を出すのは僕だけだがな」

932ルファス:2018/05/06(日) 16:23:38 ID:sezo1hHk0
>>931

「肉人形の人工肉を動かす血液であり、指令を伝達する神経である、と思えば良さそうだな……一般人には無縁のものだろうが、需要が有るところには有りそうだ」

敢えて深くは踏み込まず、大雑把な解釈で済ませておくのは安易な思考停止ではなく、職業柄身に付いた処世術の一種。
用途と大まかな知識は必要だが、それ以上は敢えて知ろうとしない――少なくとも表面上は。
出所などに興味を持つのは簡単だが、それはいつか自分の敵を増やす行為になると解っているから。

「そうだな……正面までは護衛して、そちらの仲間の気配が近付いてきたら哨戒しつつ他所から出るとしよう」

値踏みをするような視線に対しては特に何も思うことはない、強いていうなら“使うか検討する価だけの価値は示せたか?”と僅かに思うだけだ。
商品を買う前にその品質を気に掛けるのは当然の話、それに不快感など覚える訳もない。

933レラ=ローレライ:2018/05/30(水) 03:00:32 ID:Xm.bkk160
>>932

「それだけあれば十分だ」
概要だけ知っていれば『この男が扱うには』十分だと会話を切り上げた。
ルファスの言う通り、一般人にはまるで無用のものだ。
扱える人間は限られているが故に、流す場所にさえ気を付ければその他の問題は存在しない。

「ご苦労。
 とはいっても、こんな表層で何かと出くわすとは考えづらいがな。
 可能性があるとすれば、取引の始末に来た奴……或は、紛れ込んだドブネズミぐらいか」
ルファスから離れた視線は手の中の連絡先を一瞥して途切れた。
軍用ズボンのポケットにねじ込むと、踵を返し奥へと進んでいく。
当初入り込んだ入り口が見えてきた当たりで足を緩め、窓の外を顎で指す。
「ここまで来れば問題あるまい。
 まだここから裏側は包囲されていないはずだ。ここで捕まるような真似は止してくれよ?」
「」

934小鳥遊薫:2019/02/09(土) 00:11:28 ID:ORmT3UkU0
【大通り】
路地裏と大通りの境界線。その大通り側。
黒髪に綺麗に切り揃えられた前髪。観測局所属、小鳥遊薫。
仕事帰りなのかパンツスーツに分厚いコート。手袋に覆われた手にはランチバッグ。
右手にはランチバックには水筒が引っ掛けられており、揺れる。左手には花束をしたためて。
花束を供え、水筒に手を掛け蓋を開け、中身をコップに注げば香るのは紅茶の香り。

――夜、貴方が逝ってどれくらい経ったのでしょうか。私は今でも信じられませんし、信じたくありません。
――ほら、振り向けば夜が『かーおーっる!』と言いながら抱きついてきても可笑しくありませんもの。

手作りのクッキーと一緒にコップを置いた。
胸ポケットから擦り切れ、塗装が剥げたスマイルのバッジを取り出し、優しく撫でた。
その場にしゃがみ込み、手を合わせる。

薫の時間は、あの日より止まったままだった。笑顔で別れを告げられたはず、だった。
当時はただの少女だった薫には出来なかった。せめて最期の見送りだけでも、笑顔で。
夜も言っていたではないか。スマイル、と。
それからは抜け殻のように過ごし、数日飲まず食わずで泣き続けた。
なぜ夜なのか。どうして夜だったのか。なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ……
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
考えれば考えるだけ、分からなかった。
どうして夜だったのか。夜じゃないといけなかった?どうして…… 

――どうして夜なのよ!夜じゃなければ………

そんな考えを持ってしまった自分に嫌気が差した。
誰かが言った。『夜は忌み子だから離れろ』
あんな良い子が……どうして…どうして…なんで?……夜……会いたいよぉ……よるぅ……
ふと、ため息をはいた。悪い感情はすぐに吐き出さなければ。いつしか決めた、自分のルール。そんな夜を幾つも過ごした。特にお盆や、どこか寂しいとき。

935小鳥遊薫:2019/02/09(土) 00:12:08 ID:ORmT3UkU0
>>934


就職活動。
千夜には落ちた。分かっていた。戦う力がほしかった。当時の自分は千夜に入れば力に酔えたと思ったのだろう。喩えそれが仮初めであっても。
自分の親友を守れるくらいのささやかな力。それから力を使う勇気が欲しかっただけなのに。
誰かが言った。力は人を傷つける剣にもなる。が、友を守る盾にもなる。
そんなもので良かった。
こんなささやかなことすら出来ない、この体を恨んだこともあった。
だから、少しでも私のような人を減らすために今の職に就いた。
私のように考える人も、同じ境遇の人も決して少なくは無く、今の職場は居心地が良かった。
皆、少しずつ頭を上げ、前を向いている。
それでも、私の頭はまだ重かった。この重い頭に脳がいっぱい詰まっていれば良いのだけれど。


「…………夜中ですが、少しくらいは良いでしょう?これでも共同墓地や教会にも行っているんです。貴方って落ち着きが無い子だから…
 どこにいるかも分かりませんし、彼方此方に挨拶しているんです。だから、偶には話に来ても良いでしょう、夜。」


立ち上がり、きっちりと、腰を折って一礼。夜中に失礼しました、と。夜をお願いします、と。
夜のことを思い出すときは、必ずバッジと一緒。
それだけでは無い。いつも一緒。できるだけ心臓の近くに意識してつけるようにしている。
夜が遺してくれたたった一つのもの。それが缶バッジ。スマイルマーク。
示し合わせたわけでも無いのに、自然と出た、笑顔でお別れ。
そうやって決めたのに。私は……。
会って早々、自然と仲良くなった。親友って、こういうものなんだって自然と思えた。

「ねえ、夜。貴方は今、どこで何をしていますか?病気などしていませんか?私は心配しているんですよ。
 だって貴方は私の……親友<心友>なんですから、ね。」

自分が職場で使っているカップに水筒の紅茶を入れて、手作りのクッキーを口に入れた。
それからしばらくして、紅茶で体を暖めれば。

「――どうして此処の人たちは、人の生き死にに無感情なのでしょう……」

夜、もう少し待っていてください。私ももうすぐ其方に向かいます。

936アーリル:2019/02/17(日) 00:05:28 ID:ORmT3UkU0
【一夜城】
ドレスからスカートとシャツに着替えて。
兄、アイリスが遺したものの中では、この場所が好きであった。
大広間はとにかく広く作られていた。
その使い道は様々で談話室として、或いはダンススペースとして。楽団を置いても良いかもしれない。
それでもいくらでもスペースに余裕があるほどに広い。
そして、すべての調度品は一流の品である。
アーリル…暫定的にこの城の主人に収まった少女は、自身に命をくれたもう一人の『恩人』の部屋に出向き、
遺品であるカーディガンを身につけた。サイズは大きく、袖も余る。
あの方に暖めてもらっているようで嬉しいと、アーリルは感じる。
袖はめくり、ワイングラスに注がれたそれ――アイリスの血液――を飲み、一息ついた。

「ここでは…我慢しなくて良いんだ…。」

嬉しいときには笑い、悲しいときには泣く。
そんなことが出来ないのは少女の立場のせいだが、今は枷がが無い。
だからだろうか。この街では少女の感情は昂ぶる。
思わず自身の力を発露してしまいそうなほどだ。

外と中を隔てる窓は自身の身長より遥かに高く、それでいて指紋一つ無いほどに美しい。
外には石畳と噴水、そして自然溢れる芝生と季節の花々。

そんな、兄が遺したものの中で少女は思い出に浸る。
次は誰に会うべきか。そして兄の死を伝えるべきか。
少女の足は自然、都市へと向いていくことになった

937アーリル ◆VAMP/.Z92.:2019/03/23(土) 23:38:24 ID:ORmT3UkU0
【箱庭 平原エリア】
アーリル・フォン・ルズィフィール様がログインしました。
無機質な機械の音声が、利用者の存在を知らせた。
これも“識っている”。この施設の使い方を記憶<記録>が教えてくれるのだ。
だが、俄には信じられなかった。ここではどれだけ重傷を負っても外には一切影響をもたらさない。
土の匂い。草の匂い。靴が草を食む音。それらが外と何ら変わりない。
柔軟体操を十分に行った時に、思ったことだった。

――故に全力で戦闘をしても、問題は無い。

記憶<記録>は、そう言っている。

『あの出来事』から幾らか時間が経った。
結果的に良かったとしても、一度槍を握った以上はもう少し戦いたかったと言うのが本音だった。
どうにも、物足りない。そんな心がアーリルの心中を支配していた。だから、満足するまで戦いたい。
何も無い空間が波打ち、現れたのは一本の真紅の魔槍。
アーリルの身長の約二倍は在ろうかと思われる槍。かの伝説の魔槍にデザインを意図して似せたそれを手に持ち。
アーリルの首から下が、炎に包まれる。
一見する限り、ふくらはぎまで届きそうな軍服に見えるだろうか。軍服とはいっても、ファッション性も有しているようにも見られる。
白を基調に、黒、或いは金といった色彩に彩られたそれはシンプルな形状。首には赤いリボンタイ。首から肩にかけて様々な文様が刻まれたマント。
前身頃は左バスト部分まであり、縁は黒、黒の上から金の装飾が。
ウエストには革のベルト。軍服の間から見える足には縁に金で彩りが添えられた黒いスカート。そして黒のストッキング。
足の動きを阻害しないよう、かつ美しさも強調するためか、腰から下の軍服はヒラヒラと柔らかな動きを見せる。
腰から上が軍服のようで、腰から下はマーメイドドレスといった具合だ。そして、白い紐が通る黒いブーツ。
装着した者に美しさを添えるもの。そして多くの貴重な品を使用し強化されたそれは礼装ともバトルドレスともいえるものだ。
炎が静まれば、戦闘用の装いに姿を変えたアーリルの姿。
槍を携えたその姿は、どのように見えるのだろうか。
そして仮想の敵はお母様。打倒お母様目指し、槍を振るう。

「――っ!…はぁ、だめですね、私は。」

10秒持たなかった。
初手をギリギリで躱され、そのまま刺された。

「……だめ、ですね。どうも。」

少女の声は力無く。すべて、足りない。
だから――少女は基礎の基礎、槍を振るい続ける。
そして、地面には小さな割れ目が刻まれていく。

938クレイグ:2019/03/25(月) 20:40:37 ID:SkfemWbw0
>>937

《あー!ねえねえ、人いたよー!》

地道に鍛練を続ける少女の頭上から、能天気な声が落ちてくる、それはきっと、特別な素養がない人間には唐突な出来事だろう。
声の持ち主の気配は確かに存在している、だが、それを関知するのは困難を極める。
理由は単純明快なもの、それの気配があまりにも“ありふれて”いるからだ。

「エール、珍しいのは解るけれどちょっと落ち着けっての……っと、申し訳有りません、うちのが失礼しました」

その気配を追うように、苦言を呈しながら現れたのは一人の青年。
軽そうな金属鎧を身に付け、ひらりひらりと舞う朱、蒼、橙の三色……天から舞い戻ってきた碧色の光を合わせ四つの光を従えている。

「ええと、ごめんなさい、失礼を承知で確認したいのだけれど……邪魔を、してしまったかな?」

身の丈を越える大槍を振り回す鍛練、仮想空間でのものとはいえ、楽なものでは断じてないだろう。
それに挑むのには相応の集中力を必要としたはずだ、それを邪魔してしまったのなら、これは相当に迷惑を掛けてしまったと考えられる。

だからこそ、明らかに年下に見える少女に、一人の戦いに重きをおく立場の人間として申し訳がたたなかった。

939アーリル:2019/03/25(月) 22:26:04 ID:ORmT3UkU0
>>938
今度は自分の認識できる速度以上の速度で正中線を突かれた後、首を落とされた。
ふぅ、と何度目か分からない溜息をつけば、頭上より声が聞こえた。
歳だけでいうなれば、小学生か中学生程度。
青みがかった髪に、白いアイリスの花の髪飾り。
ふわりと柔らかそうな髪が、揺れた。

「邪魔だなんてしておりませんわ。少し、夢中になりすぎたのかしら。止め時を見失っていたものですから。」

槍をくるりと回し、石突きを軽く地面とキスさせる。
クレイグを一目見てみれば、軽装の騎士、なのだろうか。
――もう、五度目です。満足に斬り合えず、この様なのです。
と苦笑を浮かべて見せた。
彼女の中では、もうこれ以上は無駄、と思ったのかもしれない。
想定した相手と斬り合えないのだ。ならば、それ以上の意味は無い。
基礎も大事だが、実践も大事。
基礎訓練を幾ら積もうにも、実戦で生かせなければ意味が無い。

「それにしても…、私<わたくし>の親族以外に精霊と寄り添っている方をお見かけするだなんて思いもしませんでしたわ。
 確実に火の精霊はいらっしゃいますね?でしたらこの感じ…おそらく他の四元素もいらっしゃるのでしょう。」

優秀な方なのですね、とクレイグに笑みを浮かべて見せた。
その表情には、どうです?当たっていますか?という色も含まれていた。
ではなぜ、アーリルは精霊を認識できたか。
親族に精霊―あちらでは聖霊と呼んでいるが―の契約を済ませた者がいるからだ。
アーリルの母は風の適性が高いため、風の精霊、ジンと。
また叔母も八の精霊と契約済み。
アーリルは気配の差異は、土地のマナの量や、質。精霊自身の意思といった様々な要因により左右されるが、この土地では精霊は辛いだろうと認識している。
土地の違いでここまで存在感が違うのだろう、と。

「“世界の欠片”をここまで……。素養があるのですね。素晴らしいです。せっかくこちらにいらっしゃったのです。一本、如何です?」

世界の欠片。
世界を構成するいくつかの要素の中でも大きな比率を占める四大精霊の力は強大無比である。
それらと寄り添うこの青年の力は如何に。
少女は笑みを浮かべて、石突きでトン、と軽く地面を叩いた。自分の腕前がこの都市で通じるか。
それも精霊と共に行動する青年に胸を借りようと

940クレイグ:2019/03/28(木) 20:20:29 ID:SkfemWbw0
>>939

「そうか、邪魔でなかったなら良かったよ」
「しかし、満足に斬り合えず、とは……あまり踏み込んだ事を聞く気はないけれど、凄い使い手を知っているんだな……」

精霊術が主な戦闘方法とはいえ、騎士の端くれとして一通りの武具の扱いは学んだつもりだ。
少女の動きは大槍の使い手として、年齢等の要素を抜いて考えても十分過ぎるほど。
そんな彼女が、勝てる光景が思い浮かばない、ではなく、満足に斬り合えない、とはどんな相手なのか、全く気にならないと言えば嘘になってしまう。

「お察しの通り、今の自分には四元素の精霊が力を貸してくれているんだ、正直まだまだ未熟な身だから本当に助かっているよ」
『……相手が何となく察しているとはいえ、自分の手を易々と明かしてしまうのは如何なものかと思います』
《まあまあ、いーんじゃないかな?どうせ全部解っちゃうよ!》

強く輝く蒼い光からは呆れと警戒心の混じった声、碧の光からは相変わらずの能天気な声。

《君がこんな場所で強そうな人と会ったんだもん、どうせやり合うんでしょ?》

「素養に恵まれた自覚は有るよ、先祖から受け継いだ体質や魔術、契約の知識その他色々……語りきれないくらいだ」
「だからこそ、受け継いだものをより活かしたい、今まで先代や先々代が見てきたもの以上のものを見てみたい……そんな欲望が、自分は昔から人より強くって」

苦笑いしながら、腰の剣に手を掛ける。
それは、彼女の誘いに乗るという何よりの意思表明、それを見てとったから、何か言いたげな水精も、自由気ままな風精も、様子を窺っていた二精も、契約者の剣に吸い込まれるように潜り込み。

「手合わせを願えるならば、是非こちらこそ」
「そして、当たり前な事ではあるけれど……死の危険が無いこの場所でやる以上、俺なりの全力全霊で挑ませて貰います」

941アーリル:2019/03/28(木) 21:20:33 ID:ORmT3UkU0
>>940
「仮想の相手はお母様です。大変お恥ずかしい話なのですが、槍を出す頃には『既に遅い』ようでして。
 全く叶いませんでした。とても、遠い使い手です。」

クレイグの目の前にいる少女、名はアーリルというが彼女の仮想敵は特筆するべき能力こそ存在しないが、異常な人物であった。
武器にこれといった拘りは見せず、多種多様な武器を器用に操りながらも、繰り出される攻撃は全て無拍子。すなわち、一切の予備動作が見られない。
かといって攻撃は軽いわけでは無く、全てが致命傷。呼吸するかの如く、アーリルに致命傷を残していく。気付く頃には既に遅い。そんな使い手だ。

「貴方は私と似ているのですね。私にも受け継いだ力と知識があります。
 そのお陰でこの動きが出来る訳なのですが、これは私自身の力ではありません。ですので、今の私の全力で参ります。」

アーリルの口の端が釣り上がる。
熱波がクレイグを通り過ぎるがクレイグはもちろん、精霊達も何も感じないだろう。これは只の、力を発露する時の合図だからだ。

空気が、変わる。

クレイグは何も感じなくても、精霊達は『懐かしさ』に包まれるかも知れない。
これは、旧い時代――今はめっきり少なくなってしまったが――神が地上を闊歩した時代のそれ。
知らないのに懐かしい。
そんな力を少女は持っていた。そして、この力は精霊達、特に火の精霊に大きな恩恵を齎す。
――太陽神の加護――
太陽の神が齎す炎は同じく火の精霊にも同じく恩恵を与えるだろうが、剣に潜ったままでは分からない。
この恩恵は少女が意識を保ち、立っている間は続くだろう。

「私と同じ騎士とお見受けいたします。ここは我々の流儀で始めましょうか。
 アーリル・フォン・ルズィフィールです。小細工は嫌いですので、真っ正面から行かせていただきます。」

少女は左腕で槍を僅かに傾けつつ掲げる。槍を掲げるアーリルの顔は笑みを浮かべていた。
小さな体から見ると、まるで、翌日に遠足を控えた子供の様なそれ。更に少女の心の高ぶりを示すかの様に、アーリルを中心に炎が巻き起こり始める。
互いの武器が音を奏でる頃、アーリルはクレイグの真っ正面から槍を振りかぶるだろう。

942クレイグ:2019/04/01(月) 22:45:41 ID:SkfemWbw0
>>941

「成る程なあ、そんな母親を持ったならその年齢でその腕なのも頷ける気がする」
「……とは言わない、先代が偉大だろうと、天性の素質が有ろうと、それを活かすも腐らせるも自分自身なのだから」

そう、そんな相手だからこそ怖い。
高みを知っている以上、躓いた回数は多いだろう、絶望的な能力の差に涙したことも有るだろう。
自らが先代からの重みを背負っているからこそ解る彼女の強さ、それ故に、強く思ってしまう。

その“歴史”を見てみたい、と。

「クレイグ=シュメント、騎士の誇りに掛けて正々堂々――参ります」
『一手目から全力で、流れを渡したら終わりだと思って下さい、多分あの子は……』

言葉から自然と軽い口調が消える。
宣戦の言葉と同時に虹の極光を放つ刃を鞘から引き抜きつつ、真正面から降り下ろされる刃に合わせ防ぐように横一閃、その一撃を凌ぎつつ、更に体を正面に押し込み前進を試みる。
接近すれば槍は小回りが効かず立ち回れない、なんて事は素人の話。
手練れの槍使いにはそんな事は有り得ないのは解っている、だが、武器の間合いを活かし一方的に突かれるような位置を維持してしまえば、そのまま敗北は目の前に来てしまう。

「……フラム!」

それを防ぐ為の、第一手。
踏み込みながら、地の精霊の名を呼び次撃の為の動作に移行する。

[……ん、承知 ]

問題は、それを眼前の彼女が許してくれるか、だが。

943アーリル:2019/04/02(火) 00:02:08 ID:ORmT3UkU0
「私は、お母様とは違います。そして、憧れる大英雄<人>がいます。その大英雄<人>に一歩でも近付けるようになるのが、目標です。」

幼い頃、初めて槍を握った時からの目標。槍を握ったキッカケをくれた、少女のヒーロー。
母だけではない。父も魔法剣士として一流。彼女の周りは強力な力を持つ人物が集まっていた。
少女の親や先祖が作り上げた歴史は、遺体で道を作り血で塗り固めた屍山血河の道。即ちクレイグが見たいと望んだ歴史。
血と死に彩られた、血塗られた道。

「…そう、ですよね。私の一撃くらい簡単に対処して貰わなければ困ります!」

アーリルの顔は更に笑みが深くなる。
虹の花と深紅の花。刃同士が散らす華こそが、この場を彩る最上の刃華<花>
アーリルの心中を示すかのように、火は炎へと変わり、少女の体に絡みつきはじめる。

「そういうことですか!でしたら私も…っ!」

クレイグが前進してくる。即ち槍の間合いではなくなる。そして、声。
『何か仕掛けてくる』そんなことはズブの素人でも分かることだ。名前で呼ばれればわからないが、精霊の力を行使するのは予測できる。
とはいっても少女とて、はい、そうですか。と指を咥えてさせるはずがない。だが、真正面からぶつかるのが少女の信条。
未だ宙ぶらりんの左腕の槍に右手を添え、槍を廻す。深紅の槍の石突が、クレイグのアゴ目掛けて疾走<はし>る。
145cmのちいさな体には、幾ら長槍を持とうにもこれだけ接近されれば青年を狙う箇所は限られる。

「(できるっ!キッチリと私の手を潰しにきていますかっ!)」

ああ、愉しい。少女の心に火が付いた。

944クレイグ:2019/04/02(火) 01:21:37 ID:SkfemWbw0
>>943

憧れの人に追い付きたい、その気持ちが彼女の原動力なのか――そう思いはしたが声に出す余裕は無い。
ここから先は一瞬たりとも気を抜くことが許されない領域、思い出については後で終わった時にでも語れば良い。

[……ん、《岩槍》]

剣が纏う虹色の均衡が崩れ、名を呼ばれた精霊の色、橙色が一際強くなり地の精霊術が起動する。
《岩槍》……文字通り岩で出来た槍を大地から突き出させる単純な攻撃術、精霊の力を借りずともこの位の術なら扱える人間は珍しくないだろう。

だが――精霊に術を行使して貰うクレイグには詠唱の隙、発動の隙が無い、故に近距離に距離を詰めるべく突撃をする最中でも術を平然と行使出来る。
そして、術により大地から岩が隆起するのはアーリルの足下……ではなくクレイグの両横。
そこから天に向け勢いよく突き出される岩槍は攻撃手段としては機能しなくとも、槍による薙ぎ払いを阻むのには丁度良いものだろう。

「く、流石に、甘くないか……!」

だが、アーリルが実際に取った行動は槍を廻し反転させての打突。
自らの両脇に石槍を隆起させた事もあり、完全に勢いを殺し咄嗟に飛び退く事しか回避の選択肢がなくなってしまう、仕方無く飛び退く事で辛うじて顎先を石突が掠める程度に被害を抑えられた。

(だが、結局此方の距離には持ち込めず、か)
(飛び退きながらの振り回し……なんて安全策を取るようなら、ここで決着のつもりだったけれど)

これは――面白い。

イメージトレーニングとは違う、何をやってくるのか解らず、思い通りになんていかない、本当の実力者との戦闘。
今まで互いが培ってきたものを真っ向からぶつけ合うこの行為は、その言葉でしか表現出来なかった。

945アーリル:2019/04/02(火) 12:36:22 ID:O/CcPwHg0
>>944
飛び退きながらの振り回し、クレイグの足を潰す算段もあったが、これらはこの場において、少女の趣味嗜好には合わない。
『正々堂々と全力で』
名誉を重んじる騎士は約束を違えない。そして、背を向けてはならない。
同じ騎士として嬉しく思う。
そしてクレイグが『真っ向勝負』という少女の意気込みに応えてくれているのも騎士としての心意気。
ならば、少女も応えなければならない。

「うーん、あれを躱されますか。ああ、楽しくなってきました!」

無詠唱、寸でのクレイグの回避が少女の心から安全マージンという衣を剥ぎ取っていく。
これでお互いの武器でのご挨拶は終了だ。
これで互いの練度はある程度知れたはず。
クレイグの一連の動きを見て、心は歓喜に包まれる。問題はクレイグの精霊術だが、これは勝つ戦いではない。手合わせという経験を積む戦いだ。知るのも勉強である。

「(真正面から叩きます。それしか能がありませんし。)」

例えば、並列詠唱で岩槍から更に発展させ『遅延』で棘を生やすことも不可能ではないだろう。
例え、誘導であっても少女は真正面から行く。それが少女にとっての王道だからだ。

少女の足元から爆ぜたような音。
そして、ざくり、と、地面に槍を突き刺す音、だろうか。
少女は足で少し加速し、槍は竹のような靭やかな『しなり』を見せる。
するとどうだろうか。少女の高い身体能力を見せつけるように少女は槍を携えたまま飛翔してみせた。その様はまるで棒高跳びだった。
後は落下するだけだが、ここで一工夫。
岩槍を掠めるように落ちながらも空中で3回転し、自身の軽量級の体に勢いをつける。

「……はぁーっ!」

気合を込めたような声とともに両手で剣のように持って、思いっ切り振り下ろす!
軽装とはいえ鎧と年齢、性別を加味するならこれくらいは許してくれるだろう。
先の焼き増しのような光景になるが今度は両腕だ。
練度は見せた。だが、身体能力はまだ見せていない。

「(とっても、とっても愉しいっ!)」

少女の力である炎が更に唸りを上げ始める。
灼熱の炎がこの場を灼き尽くすまでもう少し。

946あーりる:2019/04/02(火) 21:46:54 ID:ORmT3UkU0
>>945
訂正


947あーりる:2019/04/02(火) 21:47:40 ID:ORmT3UkU0


948クレイグ:2019/04/04(木) 01:13:35 ID:SkfemWbw0
>>945

「危ないところではあったけれど、此方も騎士を名乗り戦いに挑んだ以上、易々と討たれる訳にはいかないので……!」

口元に小さく笑みを浮かべながら、手にした剣を構え直す。
練習風景を見た時点で解ってはいたが、槍を自分の身体の一部のように扱ってくる彼女は相当な手練れ……一瞬の隙を見せることも出来ないが、固まっていては隙を作らされる。

どう攻め込むか、そんな事を思考する間に行動を起こしたのはアーリルだった。
地面に槍を差した時は何かの魔術の発動を危惧したが、槍のしなる反動を利用して宙に舞った時点でその思考の過ちに気が付く。

(……成る程、落下の勢いが加われば体格差なんて何の問題にもならない)
(けれど、此方も伊達や酔狂で精霊使いをやっている訳ではない……!)

手にした剣の先端を地に触れさせ、風と地の精霊に囁くように指示を出し……それだけ。
一見した限りでは、それ以上の動作を行う様子はない、ただ呆けるように回転の力を得て落下するアーリルに視線を送るだけ。



――アーリルが何処まで気が付けたのか、それにどう対応するのか、それによってこの後の流れは大きく左右されるだろう。

青年と精霊が僅かな動作で行った行ったのは、指定の物体に磁気を帯びさせる魔術である事。
それを地面そのものと剣に使用した事で、手にした剣の先端は地面に吸い寄せられ、持ち上げようにも簡単には持ち上がらない状態になっている事。
そして、その状態で斜め上に持ち上げようと、この青年が現在進行形で全身に力を込めている事。

狙いは只一つ、アーリルの持つ槍が此方に食らい付く間際に剣に纏わせた力を反転させ反発させ――大地の力を借りた渾身の一閃を放つ事。
大地そのものを鞘として、魔術による磁力を留め金兼推進力に変え、擬似的な“居合い”を実現したこの一撃。
何を狙っているのかを読むことが出来るなら回避は問題なく行えるだろう、しかし、足場がなく踏ん張りが効かない空中で、武器が初撃のようにぶつかれば――有利なのは此方となる。

949アーリル:2019/04/04(木) 21:00:15 ID:ORmT3UkU0
>>948
クレイグの構えに、似た構えを少女は見たことがあった。

「(…あれは確か…イア…)」

居合斬りといっただろうか。切る直前に刃を出す、だったか。
少女の叔母が遊び半分で居合斬りをして、50mほど先まで斬撃を飛ばし、通過点は深く抉られていた時があった。
その時斬撃は何故か3つあり、斬撃の通り道はグチャグチャになり周囲をドン引きさせた時の構えに似ていた。

だが、脳裏に浮かんだ時にはすでに遅く。既に少女は槍を振り下ろしていた。
クレイグが放つ一閃は少女の首を断つには十二分の威力を持つものだ。
クレイグには、確かに少女の肉を斬った感触の後、何か硬いものに当たる感触が伝わるはずだ。
硬いものの感触の正体は初撃と似た深紅の槍だった。槍を離さないように、勢い良く手の中で槍を回し、穂先をクレイグへ、石突を自身の顔近くまで引き寄せて。
鉄パイプを地面に叩きつけたような小気味よい音が響いた。

「ひと…つ…?」

首を掻っ切られた少女は上手く言葉が繋がらない。首が半ば斬られているためだ。
少女は居合の勢いと自身の軽さが合わさってゆっくりと回転しながら大きく上空に打ち上げられる。
早くも斬られた首筋からは一頻り血が吹き出した後、焔が噴き出す。吸血鬼の能力である再生が始まった証だ。
この回復力の高さが高位の吸血鬼の証拠でもある。

血液の変わりに噴き出した焔と少女の心が抱く『楽しい』という感情がマーブル模様に溶けあった焔が宙<そら>を紅蓮に染上げる。
少女は噴き出した血に顔を染め、自慢の青みがかったプラチナブロンドをも真っ赤に染めた。片目は血濡れになっており。それでも少女は笑う。この瞬間<時>すらも楽しい。この瞬間<時>が愛おしく感じる。

この少女は致命傷を負ったことすら楽しんでいた。

クレイグは恐らく宙からの攻撃の警戒度は薄いだろう。
足場が無く踏ん張りが効かないのは、誰しもが不利だと思う。
だが少女は違う。『こっち<そら>用もある』のだ。
彼女のヒーローの使い方に則るならば、宙<そら>からでも『投げられない』道理などない!

「刺し穿て!フラッシュ……っ!!」

少女はずっと離さなかった槍を手放した。
高さも勢いもある。やるなら今しか…ない!
少女は手放した槍を蹴り飛ばそうとするだろう。
腕より筋肉量に優れる脚での『投擲』は、足場が無い不利を一時的に無くす。
だが、これは賭けだ。これが決まればいいが、これを外せば大きな隙となる。
少女は片目で見ている。だから当然精度は落ちる。だが、威力は鎧を着た人など簡単に刺し貫くことができるだろう。だからこその少女の必殺技。
ただ、『既に』創られた岩槍が素直に決めさせてくれるか。少女の視界の端には岩槍の鋭い穂先が映っていた。

「クリム…ゾン…っ!」

赤き閃光を意味する『脚での投擲』が放たれようとしていた。

950アーリル:2019/04/04(木) 21:39:16 ID:ORmT3UkU0
>>949
追記
風精霊のそよ風など、そんな些細なことですら少女を地へ落とし、必殺技たる『脚での投擲』の失敗へと導く一因となりえる。

//950ならスレ立て行ってきます

951クレイグ:2019/04/04(木) 23:42:59 ID:SkfemWbw0
>>949

小気味良さすら感じさせる甲高い音が響く直前、確かに剣に手応えを感じた。
決して浅くはない切り込み、普通なら命を奪うには十分な傷を負わせた筈だ。

(なのに、何故、消えないんだ……!)

自然の断片である精霊と共に生きる青年は、普段から強く“気配”や“呼吸”といったものに意識を向けていた、そして、その感覚が告げている。

まだ、終わっていないのだ、と。

その感覚に従い、今すぐに相手の攻撃に備えたい、動く前に追撃を行いたい、気持ちはそう思うも身体が動かせない。
大地の抜刀術は想像通りの威力を発揮してくれた、だが、この技はそもそも“無理”が有る技なのだ。
力を溜め込み一気に解放する全力の一閃に磁力による反発も加えた斬撃は、使用者の身体にも相応の負荷を掛ける、故に上手く勢いを逃がす必要が有る。
見た目こそ剣の一撃だが、慣れぬ人間が真似をしたら、隙を作るどころか勢いに負け、肩を壊し剣を振れなくなる可能性すら考えられる“大技”なのだ。
だからこそ、相手の武器による渾身の一撃と衝突させ勢いを相殺するか、空中での無理矢理な回避を行わせ相手の攻撃の機会を奪える、今この瞬間ならばと使った。

(……今は、咄嗟に、動けない!)

そんな状態で赤い閃光と化した槍の投擲を避けれる訳がなく――ざくり、とも、ぐしゃり、とも聞こえる嫌な音と同時に槍が着弾、青年を貫き大地を穿ち、巨大な土煙をあげる。

「……ぐ、さ、流石に、痛いなんて、ものじゃ、ないな……!」

それでも――その中から響くのは、未だに闘志を失わぬ声。
片腕を文字通り吹き飛ばされながらも、声の持ち主は、クレイグと名乗った青年はまだ生きている。


眼前に槍が迫る際、精霊達が防ぐ為に努力をしてくれた。
エールとフラムは風と熱による気流を起こし、槍を吹き飛ばそうとした。
ソルムは既に発動していた岩槍から、更なる槍を延ばす事で盾を作ろうとし、アクアはその更に伸びる岩槍の先端から氷柱を延ばした。

結果的にはどれも力不足ではあったが、伸びる氷柱が飛来する槍を“横から叩く”形になった事で僅かに軌道が逸れ、胴体の中心を穿つ筈の一撃は、肩口から腕を“吹き飛ばす”だけに留まった。

「……アクア……傷を、凍らせてくれ、決着の前に、失血死……なんてのは、ごめんだ……!」

戦闘狂になった覚えはないが、今は別。
死の危険が無く、安全に“競い合える”場所があり、“全力を出せる”相手と巡り会えた。
この機会を逃せるほど無欲にはなれない。

『……凍結完了、ですが、やり過ぎです、此処以外でこんな無茶をしたら怒ります』

再度、刃を交える準備は出来た。
片側だけ軽い体に違和感は消えないが、剣を握れているなら問題はない。

952アーリル:2019/04/05(金) 20:32:56 ID:zwhfkolM0
>>951
クレイグは気配を気取るのならば、分かるはずだ。
少女は未だ闘志を漲らせている。
少女が披露していない力は今、零れ落ちんとしている。
クレイグが呼吸を気取るのならば、分かるはずだ。
滾る闘志に体が付いていかない。
時折荒い呼吸が混ざることから、今までのような余裕は無い。
少女は投擲後、バランスを崩し地を転がる。
首筋から漏れ出た焔が平原の草を焦がす。

「戻って、来て…アル!」

砂煙の中。少女が携え、たった今、足での投擲が終わり着弾後、愛槍の名を呼ぶ。
当たりはしたが、確りと心の臓を捉えたのではないと想像するのは難しくない。
精霊故の術の完成速度・精度・判断能力・経験、そして、機転。
それらが噛み合って赤き閃光は然るべきところを穿つことができなかったのだろう。

「ははっ…笑いが止まりません。あれまで出したのに…っ!」

少女は笑い声を上げようとしたが、変わりに出てきたのは血だった。赤い血液が口の端から垂れた。
『投擲方法を問わず』愛槍を投げる時は殺(と)るときだ。即ち勝負の趨勢を決める時。
不可思議な軌道を描き少女は自身の愛槍を手にする。

まだ、終わりじゃない。まだまだ、まだまだ…!

斬られた首筋には未だ焔が燻っており。
宙にも地にも少女の焔が残っている。
未だ血塗れのまま、槍を頼りに少女は立つ。
何故ならば、少女のヒーローは膝を屈しなかったからだ。
内蔵をぶち撒けても自身を岩に縛り付け、立ち続けた逸話。少女の意地もそれに準じている。

「行きますよ。お覚悟を。精霊さん達の加護を忘れないで下さい。」

精霊達の加護がなければ、どうなるというのか。
答は

「(火の精霊さんは本気で頑張ってください。貴方に掛かっています。
水の精霊さんは出来うる限り耐えて下さい。)」
「(風の精霊さんは兎に角焔を逃してください。
土の精霊さんは角度が付いた土壁で出来るだけ熱を逃してください。)」

少女の焔は渦巻くように槍に集まる。
穂先を天に向ければ、灼熱の玉が出来上がっていた。
大きさは直径5m程だが、数多の赤筋が走り。表面を意志を持つかのように焔が蠢いていた。
小さな太陽。この火球を少女はこのように呼ぶ。少女の背を照らす、光。遍く、平等に灼く。
指向性を持たせなければ、自身を中心に広がる。これを指向性を持たせれば……灰燼に帰す炎と化する。

「グリアン・ビーグ……」

『小さな太陽』を意味する言葉から、少女は槍の穂先をクルクル回す。
するとどうだろうか。
小さな太陽は更に圧縮されていく。密度が上がり、火球は焔を纏い始める。
少女の膝は笑っていた。
今は、意地だけで立っているのだ。この素晴らしい騎士<好敵手>に少しでも自分が練り上げてきた技術、そして力<能力>をみせるため。
それを加減なしにぶつけられる相手、そして場所。だからこそ、力<能力>の出力を今まで以上に上昇させていた。

この状況に燃えなければ騎士ではありません!相手にとって不足なし!

これから先、クレイグの対応によって勝負の趨勢は大きく変わるだろう。
少女は隙だらけだ。ただ、一歩を踏み出そうとしている。
下手に防御しようなら確実に火球の餌食になるだろう。
この少女が力を込めている時に一撃でも決めれば、青年の勝ちは揺るがない。

953クレイグ:2019/04/09(火) 01:22:25 ID:SkfemWbw0
>>952

「覚悟、覚悟か、生憎だけれど、そんなのとっくに出来てるんだ……フラム!ソルムッ!」

〔任せろ!〕[……承知!]

言葉を紡ぎながら、手にした剣を天に突き出すように腕ごと伸ばす。
それと同時に先に生成した岩槍が、戦いの余波で砕けた大地が、周囲に存在する“地”が宙に舞い剣と青年の腕を覆い円筒状の物体を形成する。
大地が形作るのは、全長が人の身の丈程の巨大な大筒――否、それよりも相応しい表現は“細くなった火山”とでも言うべきだろうか。
大地が作る円筒の奥には、炎の魔力が噴火を待ちきれず今も唸りを上げている事を、アーリルなら察知できるだろう。

「上手く防いだところで、お互い力尽きて倒れるか、天の焔に焼かれて負けるか……引き分けと敗北の二択しか残らない」
「なら、俺は、僅かでも“勝利”の目がある道を選びたい、真っ向から挑んできてくれた貴女への敬意として、最期まで全力で正面から“勝ち”に行きたい」

「だから、アクア、俺を最期まで持たせてくれ!エール、頼む、この焔を――彼女に届かせてくれッ!」

『無論です』《頼まれたなら、仕方ないね!》

言葉と同時に、ごう、と風がクレイグに向けて吹く――そう、“ありとあらゆる方向から”風がクレイグに、天に掲げる火山へ吸い込まれていく。
そして、吸い込まれた風は火口の奥底で唸る劫火に注がれて、焔を更に強く燃え上がらせる。

あまりの熱気に空気そのものが焦げ付くような音を立て、ぶすぶすと周囲の地形が煙を上げ始めても、尚も風は火口に注がれ続け、周囲の熱気は際限無く増し続ける。
当然、火山を掲げるクレイグも無事で済む訳がなく、その肌は熱気で赤く染め上がるのを通り越し、一瞬で乾燥し裂け、裂けた皮膚から血が蒸発したような僅かな赤色を含む煙が上がる。
水の精霊による補助があってのこの有り様、常人ならばとっくに自らの熱で焼け死んでいるのは想像に難くない。

「……地水火風、どれが欠けていても成り立たない、正真正銘の俺達の全力……」

天に掲げた腕をゆっくりと降ろし正面に向け直す、その腕は重度の火傷を負うも、それでも力強く大筒を保持し続ける。
大地の大筒は増し続ける熱にやられたのか彼方此方に亀裂が走り、内からの紅の光を漏らすも未だに健在、寧ろその亀裂すら空気を取り込む為の入り口として、更なる熱を生み続ける。

「これをもって、貴女の全力を、真正面から、打ち崩す――!」

青年と精霊の力の結晶、四精が育てた劫火の巨砲は、アーリルの太陽が限界まで圧縮され撃ち出されるのと同時に放たれるだろう。
片方は生きとし生けるもの全てに恵みを与える“天”に輝く灼熱の巨星、片方は人類が日常的に踏み締める“地”が宿す力を秘めた攻撃。
どちらが勝つか等見当も付かないが――少なくとも、この全身全霊の一撃を放った以上、クレイグに闘える力は残らない。

954アーリル:2019/04/09(火) 19:30:25 ID:q3uBeBDM0
>>953
「(燃えカスすら残りそうにないです、か……)」

少女の斬られた傷口から漏れる焔。漏れ出た焔は火球に伸び、力を注いでいた。その力の源は血液だ。
少女が『この様な』行動をしてでも勝ちたい相手。それがこの青年騎士だ。
力が注がれ続ける火球はその内部でもオレンジ色の焔の対流が巻き起こる。
火球は圧縮されていく。火球は4メートル、3メートルとどんどん小さくなってゆく。
赤の火球に蠢く濃赤の数多の筋。表面には泡のようなものが沸き立ち始めた。
今はまだ辛うじて少女のコントロール下にあるものの、これがコントロールを失えば、視界にあるものすべてを灼き尽くす焔と化する。

四大精霊と青年で作り上げた劫火の巨砲は打ち放たれ、少女の体に大孔を開ける。

「あっ………」
「(私のバカッ……驕った、かな……?)」

一瞬だった。
少女は自身の胸部から腹部に手をやっても感触が無いことに気付く。
直後、血が焦げる匂いと、噎せ返るような身体を灼く匂い。鼻につく臭いを漂わせて少女は胡乱な目でクレイグを見つめる。
火に対する耐性が無ければ即死だっただろうと思わせる一撃は少女を確かに穿った。
槍を地面に突き刺し、両手で槍を握りしめて。決して膝を屈しないように。
少女に躱す余裕があったのなら躱せたかもしれない。
躱す余裕があるのなら受け止めるのが少女の趣味嗜好。だから躱す道理はない。
しかし、すでに遅い。

「お見事です……ありが…………い……た。」

ああ、楽しかった……ありがとうございました。

槍から手が離れ、少女の小さな体は右肩から崩れ落ちる。
ゆっくりと閉じられてゆく目にはクレイグが映っており。
少女を構成する情報はゆっくりと金色の粒子に変わってゆく。
そして、感情を感じさせない音声が響く。

アーリル・フォン・ルズィフィール様がログアウトしました。

だが、火球は残っている。
誰にもコントロールされなくなった火球はゆっくりと萎んでいき爆発。
クレイグを襲うのは耳を劈く爆音、そして遅れてくる視界すべてを焼き払う焔。
着弾後、スプーンでくり抜いたように大地は抉れ、罅割れる。
罅割れた大地から漏れるのは真紅の焔。抉れた大地から上るのは地上のものを燃やし尽くす灼熱の地獄と化するだろう。

955クレイグ:2019/04/12(金) 22:40:23 ID:SkfemWbw0
>>954

渾身の一射が少女を穿つのを、水分が飛びかけぼやける視界で認識する。

「……引き分けか、いや、あの子は、先に倒れた自分の負けと言いそうな気がするな」

掠れる声で独り言を呟く、仮想空間とはいえ騎士を名乗り戦いに挑んだ以上、勝ちも命も諦める気など毛頭無い。
だがそれでも、努力でどうにかなる範囲を越えている事が有る事くらいは理解している。
眼前に存在するのは制御を失った小型の太陽、万全の状態でも決死の覚悟で受けきるべきそれを、自分も精霊も満身創痍の状態で受けれるとは思わない。
他ならぬ彼女が放った技だからこそ、間違いなく全力を尽くし挑んでくれた彼女だからこそ、確信出来る。

「……うん、楽しかったな」

だからこそ、青年も小さく笑んで――そのまま焔に消えるだろう。

【現実】

仮想空間からログアウト、彼方で喪った左腕をくるくる回して、自分が五体満足な事を確認し、ほっと安堵の息を吐く。
その後に身体の芯から沸き上がってくるのは、落ち着いていられないような高揚感と焦燥感。
良い相手と廻り合い、死闘を行えた、自信の未熟さも具体的に見えてきた。

故に、少し身体を動かしたくて堪らない。
きっと次にあの世界で会えたなら、彼女は間違いなく強くなっているだろうから。

「……悪い、みんな、ちょっと鍛練したい気分なんだ、付き合って貰えるか?」

だから、呆れたような苦笑いを浮かべる精霊達を引き連れて、ある程度の広さの場所を探し街を歩く。
そして、青年は手頃な広さの公園に辿り着くだろう。

956アーリル:2019/04/13(土) 00:30:05 ID:ORmT3UkU0
>>955
【公園】
公園には先客がいた。
先の模擬戦で何度も聞いた声。声の主が先の模擬戦の相手だと分かるのは、簡単で。
しかし、言葉とは裏腹に声色には負の感情が一切乗っていないということは明らかだった。負けたのに、楽しそうでもあるのだ。
服装はバトルドレスから、黒のフレアスカートに、黒いストッキング。それから黒いブーツ。
白いシャツに黒いカーディガンと、全体的に黒い格好ではある。ほとんどが姉のお下がりだ。

「負けちゃいましたかー。結構いい線までいけたんだと思うんですけどねー。」

先ほどの槍を携えた姿とは違い、年相応とは言えない服装だが、足をぷらぷらとさせて、どこか落ち着かない様子ではある。
ベンチに座り込み、愛槍を抱きしめる様に肌に添え。手にはレイピアを持ち、赤黒い刃をじっと見つめて。

「んー。やっぱり実力不足ですね。もっと鍛えないと…」

少女の青みがかったプラチナブロンドが揺れた。
能力で気温を上昇させて寒さを凌ぐのは、年相応の少女の姿であった。

957クレイグ:2019/04/23(火) 19:48:37 ID:SkfemWbw0
>>956

「……あれ、アーリルさん……ですよね?」

仮想空間での短い時間ではあったが、今先程まで死闘を繰り広げていた相手の容姿を忘れる程残念な記憶力ではない。
だが、この広大極まる異能都市で名前と外見以外何も知らない相手と時間を置かずにまた遭遇出来るとは思っていなくて、思わず少し間の抜けた声で呼び掛けてしまう。

《あ、本当だ、丁度良いや!》
「……丁度良い?何が……って、待てって!」

そして、それとほぼ同時に緑の光が青年の元を離れアーリルに近寄り、興味深そうに周囲をゆっくりと飛び回るだろう。

958アーリル:2019/04/23(火) 22:14:21 ID:ORmT3UkU0
>>957
愛槍を自身の倉庫に仕舞い込み、レイピアを腰にさすと、少女はクレイグの声と風精霊の姿を確かめる。
少女は立ち上がり、小さく一礼をする。

「シュメントさん!精霊の皆さん、先程はありがとうございましたー!」

少女にとって、今回の模擬戦は非常に有意義なもので。
まずは地力の底上げと技術の研磨いう課題も見つけられた。だが、そんなことよりも『何よりも楽しかった』のだ。
連綿と受け継がれ当代により鍛え上げられた確かな剣技と精霊達とのコンビネーション。そんな貴重なものを見れたという興奮。

「とにかく楽しかったです!また…ご迷惑じゃなければ、模擬戦をお願いしてもよろしいです…か?
…っと、精霊さんは如何なさいましたか?聞きたいことと…ですか?私に、ですか?」

少女は興奮入り交じる楽しそうな顔をしていた。思い出したのか、更にクスリと笑みを浮かべて。
それから風精霊の言葉に応えて。
何とも、忙しない様子は幼さを感じさせるもので。

959クレイグ:2019/04/28(日) 22:29:22 ID:SkfemWbw0
>>958

「礼を言いたいのはこちらの方もです、お陰で有意義な時間が過ごせて……本当に楽しかったです、再戦は此方からお願いしたいくらいで」

今回は彼女の一歩先を行くことが出来たが次にどうなるかは解らない、寧ろ、自分の見立てでは次はより厳しい戦いになると思っている。
自分の長所は従えた四体の精霊というその系統の術のプロフェッショナルの支援を持つこと、戦闘において常に多くの選択肢を持ち、更にそれらを己の武術と組み合わせて多彩かつ強力な攻撃を繰り出せる事。
自意識過剰だと言われるのかもしれないが、それが戦闘において有効なのは自分が何よりも知っている。

だが、今回の戦いで彼女は自分の出来る事を知った、礼をあげるなら“大地の抜刀術”が良い例だろう、きっと次からは同じ手には乗らない――否、真っ向から捩じ伏せる手段を用意してくるだろう。
そして、それ以外にも想定出来る能力へは対抗策を用意してくるのだろう、次からは「応用すればこんな事も出来るんだぜ」というような初見殺しは通用しない。

だからこそ、もう一度戦い競い合ってみたくもなるのだが。

《うん、そうそう、さっきの時に君から“懐かしい”気配を感じたんだ!》
《ずっと、ずーっと昔に“まだ地上にいた”ものの気配をね?》

960アーリル:2019/04/28(日) 23:31:13 ID:ORmT3UkU0
>>959
「次こそは勝たせてもらいますよ!」

少女――アーリルは朗らかに笑う。
少女が『クレイグ』に勝つための手段。それは叔母様との訓練を増やせば、勝利の為の一歩を先に踏み出せる。
つまりは、戦いの舞台に上がる前に先に勝利の一歩を踏み出すこと。
先の戦いで感じたのは、精霊に術で勝とうとは思わない方が良い。
人やそれに準ずる存在に出来ることは当然精霊にも出来る。だが逆はどうだ。人やそれに準ずる存在に出来て、精霊に出来ないこと。
術はもちろん、四大元素に通じるものは制御すら奪われる可能性がある。
そして、今回は出来なかったが、精霊を斬るという手段も、少女には存在する。
彼ら精霊達が剣の中から引き摺り出すことが出来れば、だが。

――――だが、卑怯な真似<そんなこと>までして勝ちたくない。真っ正面から正々堂々と力でねじ伏せて勝つ……っ!

騎士は弱き者を守るべきだ。守るべき者は常に自分の背にいる。だからこそ、卑怯な真似など出来やしない。
倒せぬなら、せめて時間を稼ぐことが出来れば。

「しかし、最後の一撃には驚かされました。剣の腕はある程度分かったのですが、まさか自身の腕を砲塔とするとは思いもしませんでした。
 あんなことも、簡単にできるのですか?」

そして、あの威力だ。
強力な礼装であるバトルドレスと、自身の火耐性を容易くぶち抜く一撃はまさしく戦艦の砲撃と例えても良いだろう。
それを生身の体で撃ってくるとは想像もしていなかった。
少女はクレイグに負けたのでは無い。クレイグと精霊達に負けたのだ。

「……ずーっと昔に地上にいた懐かしい気配、ですか。申し訳ありません。シュメントさんになければ、私なのでしょうけれど
 思い当たる節は無いのです。私の力は属性ではオーソドックな『火』です。昔から存在するものではあるのですが……」

少女は正しく自身の能力をはっきりと認識していない。
戦闘中、一瞬後光を背負っていたことも。自身の能力の発露の際、現れる、不思議な気配も。
そして、どの神格が少女に祝福を与えているのか。単一か。或いは複数か。それすらも分からない。

961クレイグ:2019/04/29(月) 02:23:35 ID:SkfemWbw0
>>960

「こちらも簡単に勝ちを譲る気はないので、全力で阻ませて貰う事にしますよ!」
「……ちょっとでも気を緩めたらあっさり負けてしまいそうなので、ね」

実質引き分けだった、と言いたかったがわざわざ勝利の譲り合いを行って互いに不愉快な思いをする必要もないだろう。
その気持ちは自分の中に留めておいて、鍛練の為、向上の為の踏み台にすればいい。

「簡単に、ではないけれど出来ますよ」
「……うん、どうせもう知られた技なら出し惜しむ必要も無いかな、みんなちょっと力を貸してくれないか?」

腰を落とし地面に手を触れ、地精の力を借りて内側が空洞になった、掌より僅かに大きな三角錐の形の岩を――先の戦いでの火山砲の小型版を造り出す。
その内側に火精が紅蓮の炎を灯し、風精が周囲の大気を取り込み火口に注ぎ込む事で炎を更に強く燃やし、地精が大地から力を吸い上げ火山の自壊を防ぐ為に岩に注ぎ込み、水精は主の負傷を防ぐべく冷気の守護を行う。
限定された小さな空間の中で――その中だからこそ、始めは小さかった炎が大気を取り込む度に大きく強く燃え上がっていくのが、余裕をもって観察出来る今なら解るだろう。

「……昔読んだ本で、東方には“たたら製鉄”っていうのが有ると聞いたんだ、多くの人間が送風機を踏みつけて炎に風を送り込んで、小さな空間の炎を鉄を融かすような凄い温度まで上げるらしい」
「それを真似るのは難しいことではあるけれど、みんなの力を借りれば出来るんじゃないかと、そう思って……何度も失敗して火傷したけれど、色々試して形に出来たのが、これなんだ」

炎を強くする為の炉のイメージを精霊達と共有できず、そもそも形すら出来ないこともあった。
力の加減を誤り砲身が自壊したり、強くなりすぎた炎により火傷したり、風が火を掻き消したりしてしまう事や、保護の冷気により十分な加熱が行えない事もあった。
それでも、精霊達と話し合い様々な形を試し、完成までどうにか辿り着いた。

「……あ、申し訳ない、柄にもなく思い出に浸ってしまって、言葉遣いが崩れてしまいました」

《んー、解らないならいいかな、私もよく解らないし!》
《でも、何かが君を祝ってくれてるのは覚えておいてもいいかもね?》

そこまで言って満足したのか、誤魔化している訳ではなく本当に知らないのを悟ったのか、気ままにひらひらと、文字通り風に乗るようにしてアーリルから風精は離れていく。

962アーリル:2019/04/29(月) 03:32:51 ID:ORmT3UkU0
>>961
「そうこなくては、張り合いが無いというものです!次こそは、貰っていきますよ!」

相変わらずの朗らかな笑み。
少女の心の中では、負けたのだ。
だが、戦えるのは一度だけでは無い。次があるからこそ、辛い訓練も頑張れる。
少女は先の戦いの砲塔が作られていく砲塔を見つめた。
時折、ほえーやら、おおっ!といった少しおバカなリアクションも見せつつ。
鉄をも融かす炎。手段として魔法も覚えた方が良いのだろうか。そのようなことも頭にちらついており。

「……綺麗。それに…暖かい……。ああ、お言葉は気にしないで下さいませ。
 私の方が子供ですので。」

そういうのって、やりにくくないですか?と少女は肩を竦める。
騎士としての先輩、人生の先輩としても先輩である年上の部下にヘーコラされている経験もある。
クレイグの言葉が崩れたことには少女は何も気にしていない。むしろ歓迎しているところもある。
そして、思わず、砲塔の傍まで指先を伸ばした。少女ならば、多少の熱にも耐えられる。
熱を発する砲塔から感じる炎は暖かなもの。器用で羨ましい。少女は軽い羨望を覚える。
それに、本は……なんとなく苦手だ。文字を体が拒否すると言うほどでもないが、すぐに眠たくなってしまうのだ。
少女はクレイグに対抗してなのか、五指全てに炎を同時に灯し、鳥を作成して見せた。
鳥は次第に大きくなり、その大きさは30センチを超えてきたところで、鳥は火の粉を撒き散らしながら空に飛び立つと少女の肩に乗る。

「それで、シュメントさん。貴方の様な方ならば聞き飽きているでしょうけれど、私たちの騎士団に来ませんか?
 私の権限である程度の希望も通せますよ?」

優秀な騎士、そして気質もある程度知れた。
このような騎士ならば、是非ウチに来てほしいものだ。
騎士団の希望者は多いが、導き手が足りないのだ。だからこそクレイグのような即戦力になる人材が欲しい。

「ですが、良く夢を見るんです。不思議な方々が現れる夢なんです。後光が差した方だとか。頭が鳥の方だとか。カラスだとか、そんな方々と良く夢で会いました。
 抱っこされたり、頭を撫でられたりして、肩車されたりしたんです。もう私も、子供じゃ無いんですからと言うと、笑うんですよ!?酷いですよね!」

赤銅色の肌の人だとか、色々な方がいるんです。ですが、皆様、優しい目をしていますから、不思議と嫌悪感は感じないんです。
と少女はカラカラと笑って見せた。

963クレイグ:2019/04/30(火) 23:17:16 ID:SkfemWbw0
>>962

「此方こそ、今回みたいな半ば相討ちの形じゃなく、今度はもっと上手く勝ってみせるよ」

互いの戦意は十分。
自分も彼女も次の機会に備えて基礎的な練習から新技術の会得まで、様々な方法で力を得るべく今まで以上に鍛練に励むだろう。
勿論、何もなくとも鍛練をするつもりは有るが、身近に明確な目標が有ると気持ちの入り方が違う、それだけでも試合の意味は有っただろう。

「ありがとう……正直に言うと必要以上に堅苦しい会話はあまり得意じゃなかったんだ、当然時と場合によってはそれが必要なのも理解しているけれどね」

礼節の重要さは知っている、けれど、それはあくまでどの位の常識を持ち合わせているのかを解りやすく示す一つの方法に過ぎない。
相手と打ち解ける際には、それが邪魔になる可能性も大いに有る事を、旅や出会いを通して知っている。

「申し訳ないけれど、今はどんな誘いも断る事にしているんだ、まだ自分には見識が足りていない、もっと世界を見て多くを学んで――自分がこの世界を良くする為に出来る事、必要な事を見極めたいからね」
「けれど、クレイグという個人として、刃を交えた好敵手の力になりたいのもまた事実、もし微力ながら力を貸せる事が有るのなら、声を掛けてくれれば戦友として力になるよ」

そう言って、街の一角の住所をアーリルに伝えるだろう。
アーリルがもし住所を詳しく調べたなら、或いは街の知識が豊富なら、そこがある程度安定した収入を持つ冒険者向けの借家だという事もすぐに解る筈だ。

「そうだね、実際一戦した身からすれば子供なんて侮れる相手じゃないのはよく解る」
「でも、そんな夢なら別に良いんじゃないか、と同時に思うかな、どうせ子供で居られるのは後十年も無い、それから先はずーっと大人として扱われる」
「だったら――今のうちに“子供”を一生分満喫しておくのも、中々悪くないんじゃないかな?」

964アーリル:2019/05/01(水) 00:24:52 ID:ORmT3UkU0
>>963
「なんとなくですが、断られると思っていたのです。ですが……先行チケットを配布するくらいは良いでしょう。」

こんな騎士ならば引く手数多なのだろう。そしてクレイグの話しっぷりから修行の一環だということも想像がついた。
でしたら、と少女が切り出し、差し出したのは金色が縁取られた封筒。赤い蝋で封がされており。
その刻印は薔薇。この封を使えるのはアーリル・フォン・ルズィフィールという名の少女のみ。
正当な王家に連なる者だけが使える封印。然るべき時に然るべき相手に差し出せば、騎士団入りが約束されるものだ。
そんなものを少女は青年に差し出した。
今度こそ、私の炎で消し炭に変えて差し上げますよ。
そんな挑戦的な笑みを浮かべた少女は、青年騎士の住所を聞く。アイリスの記憶<記録>に聞けば、冒険者向けの借家だというのは簡単に分かった。

「……これは私からの評価、ということです。困ったら私か姉様にお渡し下さい。それが私の目に再度留まった時、貴方の意思表示だと解釈させていただきます。」
 お互い立場はあるでしょうが、こんな風に、話せるのはいいものですね。
 それから、一応お伝えしたいことが一つございます。私が交戦した婦女子を襲った者なのですが…」

そう。この世界をよくするために出来ることを考える青年に少女は非常に好意的なのだ。
そんな考えは少女の考えにも繋がるものであるのが最大の理由だからだ。そして、それだけ少女が青年を評価している、ということも証明している。
それから、少女は口を開く。とある少女を襲った白い布を被った人物のことを。
この都市の中では力を持たない一介の少女を襲う人物など多いが、その中でも異質であった人物のことだ。
最大の特徴は鳥脚を持つこと。埠頭の一部を砂に変えるほどの能力者であることから土系統の能力者だということ。
少女は肩に乗った鳥に指先を添えると、鳥は指先に乗り移り、クレイグの肩に乗る。
カー、とカラスのように鳴く鳥は、太陽の加護が込められており、ヴァンパイア除けにはなるはずだ。

「もし、貴方がログハウスに住みたいと思うのならば、一夜城を目指して下さい。比較的大きな地脈を抑えているので精霊さん達にとっても悪い影響はもたらさないでしょう。
 私の家の近くですから、いつでも軽い打ち合いは出来ますからねっ!
 ……私だって大人ではありませんが、子供扱いされたくも無いんです。今でも騎士として、ある程度の大人扱いはされているんですよ。そんな環境下で今更子供扱いされても……困るんですよね。」

少女の態度から『大人ぶりたい』けれど、体躯と年齢からまだ子供扱いされるのは好ましく無いと思えるのは簡単だ。
しかし青年のいうように、『子供をエンジョイ』出来るのも今だけ。大人扱いされれば子供時代に戻りたいと思うのだろうが、
少女にはそんな実感は無く。子供扱いに不満を露わにするのも、子供っぽくて嫌で。そんな思春期特有の何かが、色々と邪魔をする年頃だった。

965クレイグ:2019/05/06(月) 00:02:11 ID:SkfemWbw0
>>964

「評価される事が目的ではなかったけれど……うん、やっぱり実際に評価されてみると嬉しいものだね」
「ありがとう、もしもその気になった時には君か君の姉様にこれを見せる事にするよ」

と言ってもまだ見聞を広げる修行中の身だ、そう簡単にこれを示し、騎士団の一員としてアーリルの元に世話になり……という気は毛頭無い。
自分がこれを彼女にもう一度見せる事が有るとするならば、それは彼女の騎士団に属する意義を感じ取った時だろう。
もっとも、そんな思考をする事は彼女は読んでいるだろうし、だからこそ、この封筒を簡単に渡してくれたのだと思うが。

「鳥足の地系統の能力者、か、ありがとう、相手にも事情は有るのかもしれないが、襲撃という手段は感心出来ないし、警戒させて貰うよ」
「……この子は、使い魔のようなものなのかな?」

肩に止まった鳥からは暖かな力を感じる。

《太陽の気配だね、うん、あの時感じた力と同じかな?》

そして、それを感じ取ったのか、風精はひらひらと鳥の回りを興味津々といった様子で飛び回る。
ただ、風精の性格故か、それ以上観察しても気付く事がなければ興味を失うだろう。

「模擬戦をしたかったら、借家に果たし状の一つでも放り込んでくれれば喜んで何時でも対応するよ、此方としても望む所だからね」
「……ああ、大人扱いと子供扱いが同時に有るのは嫌になってしまうかもね、子供扱いするなら徹底的に甘くいてほしい、大人扱いするならどんな時でも大人と認めてほしい……自分ならそう思ってしまいそうだ」

966アーリル:2019/05/06(月) 01:15:18 ID:ORmT3UkU0
>>965
「この子は……そうですね。使い捨ての使い魔と言えば良いでしょうか。
 日光があれば消えることは無いので、餌は不要です。あと、枕元を照らすには良い灯りになると思いますよ。」

カラスというのは古来より神の仕いであるとも言われる。
八咫烏は神の使いであり太陽の化身という話や、太陽神アポロンに仕える鳥だとか。太陽神ラーに仕えるだとか。カラスと太陽神を結びつけるものはある。
ただ、アーリルの話を聞く限り、天井に設置する照明にするには少し力不足ではあるが、日光があれば存在が消えることは無いという点を鑑みれば
中々良い照明器具にはなるのでは無いのだろうか。ずっと照明器具でいられたら良いのだが。

「悪霊<レイス>といった悪性の存在からシュメントさんを遠ざけることができるでしょう。
 鳥足の能力者に出会った際や、私の力が必要な時に空に放して下さい。そうすれば、私が行けます。」

カラスは日が暮れると太陽の位置を頼りに帰巣する。即ち、太陽<アーリル>に向かって帰るということだ。
良い子にするんですよ、シュメントさんのいうこともちゃんと聞くんですよ、とカラスに笑みを浮かべて話しかける少女。
知性派であるカラスは、カーと鳴き、応えた。
火精霊ならば確実に分かるはずだが、風精霊は感じるだろうか。
火特有の破壊の力とは、正反対の力。僅かながら癒やしの効果も織り込まれており。
傷口にカラスを近づければ、傷口を嘗めるように火が燻り、癒えの速度が僅かに上がるといった程度のものだが。

「槍を使い、足をつけた箇所が砂漠と化する手強い相手です。助太刀が必要な際は、お教え下さい。
 ……因縁というほどではありませんが、少し気になる相手なんです。」

クレイグならば、簡単とは言わないが、退けられるだろう。アーリルの様に単属性に偏っていないのだから、戦いは有利に運べるだろう。
ふっふーん。私ったら割と大人でしょう、と言いたげに胸を張った。

967クレイグ:2019/05/08(水) 22:13:59 ID:SkfemWbw0
>>966

「光源、魔除け、伝書鳩ならぬ伝書鴉にもなるのか……確かに居てくれると凄く助かりそうだ、有り難く預からせて貰うよ」
「……という訳で、宜しくね?」

肩に乗る鴉の、喉の辺りを優しく撫でるように手を伸ばしてみる。
警戒されないか気になった、というのも有るのだが……その暖かさについ手を伸ばしたくなってしまった、というのが今の本音であった。

「……そうだね、未知の脅威にわざわざ一人で立ち向かう理由は無いか、一人の戦士として真っ向勝負……なんて拘りのせいで逃げられて被害が広がりでもしたら、悔やんでも悔やみきれない」
「了解したよ、それらしい人物と交戦したら、この子を放って君にも必ず連絡を入れる事にする」

騎士として人を護るために最善を尽くす。
そうありたいと思うからこそ、騎士らしく一対一で……といった手法に拘らない。
最低限の礼節は必要かもしれないが、それに拘りすぎて本来の意義を見失っては意味がない。
砕けた口調に関する事柄と全く同じ考え方、これがこの青年の在り方なのだと、アーリルにも伝わっただろうか。

968アーリル:2019/05/09(木) 19:43:30 ID:h5WxV30w0
>>967
青年の肩に乗るカラスは素直に手を受け入れ、力が抜けそうな鳴き声をあげた。
問いかけにもキチンと反応を返すところを見ると鳥類の中でも知性派であるカラスであると思われる。

「よろしくお願いします。私の力を使えば恐らく周囲の建物等にも影響を与えかねません。
ですがシュメントさんなら大丈夫でしょう。ですので頼りにしています。」

笑みを浮かべながらも少女は先の模擬戦から術の精密性を思い出していた。
少女に僅かな羨望を抱かせたそれは、精霊に任せているからこその精密性ではあるが、市街地戦では拘束などの手段もあるため有利に働くだろう。
そして、少女がこれからすることといえば…
アイリスの記憶<記録>を頼りに実際の地理を確かめる事。

「私はこれからパトロールではありませんが、街を歩こうと思っております。シュメントさんは如何なさいますか?」

腰からぶら下げたレイピアの感触を手で確かめて。
人…無辜の民草を守るために槍を振るう少女は守るための力として、自身の槍と力を振るう。
少女が小さな体に抱える正義は青年の在り方とは似通っているところがある。
だからこそ、青年には背中を任せてもいいとは思わせた。

969クレイグ:2019/05/15(水) 23:26:26 ID:SkfemWbw0
>>968

意志疎通が出来ない子を寄越してくる訳がないと解ってはいたが、しっかりとそれが出来るのを直接確認するとやはり安心が出来る。

「確かに、自分か精霊のどちらかが魔力の制御を行えば良いから街中での乱戦でも被害は普通の人のやり方より抑えられる自信は有るよ」
「けれど、相手が配慮してくれる保証が無い以上、市街での戦闘はやっぱり避けるべきだとも思うけれどね」

精霊使いの強みはやはり魔術を用いた戦闘だ。
存在そのものが自然の一部である精霊は対応した属性の術を行使する適正が極めて高く、制御、出力ともに申し分無い性能を誇る。
更に、単純な話ではあるが、術の制御を精霊に任せる事で、一介の魔法戦士と違い武術と魔術を平行して自分自身で扱う必要がなく、格闘戦をしながらだとその制御が乱れる……という心配もない。
先の戦いでアーリルに放った火山砲のように、合同で制御や魔力の引き出しを行う事で大規模な術の制御を行う事も出来るが、それは市街戦では忘れても良いだろう。

「……先の戦いの高揚で一ヶ所に留まっていられず、訓練や術の媒介探し、何でもいいから次戦の準備をしようと勢い任せについ街に繰り出した、といった感じでね」
「うん、正直に言うと今後の予定なんて全く出来ていないんだ」

そう語りながら苦笑いをする。
周囲の精霊達の半ば呆れたような諦めたような雰囲気からして、それは紛れもない真実なのだろう。

970クレイグ:2019/05/15(水) 23:27:32 ID:SkfemWbw0
>>968

意志疎通が出来ない子を寄越してくる訳がないと解ってはいたが、しっかりとそれが出来るのを直接確認するとやはり安心が出来る。

「確かに、自分か精霊のどちらかが魔力の制御を行えば良いから街中での乱戦でも被害は普通の人のやり方より抑えられる自信は有るよ」
「けれど、相手が配慮してくれる保証が無い以上、市街での戦闘はやっぱり避けるべきだとも思うけれどね」

精霊使いの強みはやはり魔術を用いた戦闘だ。
存在そのものが自然の一部である精霊は対応した属性の術を行使する適正が極めて高く、制御、出力ともに申し分無い性能を誇る。
更に、単純な話ではあるが、術の制御を精霊に任せる事で、一介の魔法戦士と違い武術と魔術を平行して自分自身で扱う必要がなく、格闘戦をしながらだとその制御が乱れる……という心配もない。
先の戦いでアーリルに放った火山砲のように、合同で制御や魔力の引き出しを行う事で大規模な術の制御を行う事も出来るが、それは市街戦では忘れても良いだろう。

「……先の戦いの高揚で一ヶ所に留まっていられず、訓練や術の媒介探し、何でもいいから次戦の準備をしようと勢い任せについ街に繰り出した、といった感じでね」
「うん、正直に言うと今後の予定なんて全く出来ていないんだ」

そう語りながら苦笑いをする。
周囲の精霊達の半ば呆れたような諦めたような雰囲気からして、それは紛れもない真実なのだろう。

971アーリル:2019/05/18(土) 00:21:53 ID:ORmT3UkU0
>>970
予定が無いとのことに少女は苦笑を漏らしそうになるも、笑みで誤魔化した。

「なるほど、心が昂ぶられているのですね。触媒、ですか。」

魔術の触媒という言葉に少女は惹かれた。
魔術の触媒といえば、思い浮かぶのは魔法銀やユニコーンの角といった如何にもファンタジーといったもの。
少女自身も色々と与えられているが、自身の希望を伝えて作って貰ったりしたものばかりで自分の手で作ったことは無かった。
少女が先ほど腰に差したレイピアも術の触媒ともなり得る純粋な魔術銀で作成されたものを姉が購入し、少女の元へと来たという来歴がある。
少々『血の匂い』がするのはご愛敬だ。

「……非常に。非常に魔術の触媒探しに惹かれるのですが、正直持て余しそうでもあるんですよね…。手持ちの武器だけで三つもありますし礼装もありますから。
 ただ、魔術の触媒から何が出来るか、どのような過程を経て形になるのか。そういったことに興味がありまして。」

武器だけで三つあっても、一つは持ち上げられない模様。
魔術の触媒から何かを作り出そうにもそういった知識は少なく、加工の手段すらも分からない。だから青年が魔術の触媒探しに行くというのなら
少女はついて行きながら、知識を蓄えたいとも思っている。その間に街の様子を垣間見ることも不可能では無いだろう。
魔術の知識の少なさを誤魔化す様に、少女は失礼しますわ。と一言。
ベンチの背もたれの縁に立ち、目を瞑って歩き始めた。爪先が縁を滑り一歩、一歩進む。バランスを崩す様子は一切見られない。
ただ、少女は迷っていた。一人で街に繰り出しても寂しいわけでは無いが、何か嫌な予感がするからだ。
真っ先に頼るべきが姉になった兄だが、療養中の姉を引き摺り出すのも気が引ける。

972クレイグ:2019/05/22(水) 23:24:58 ID:SkfemWbw0
>>971

「我ながら勢い任せすぎたな、と思うよ……結果論で言えばこうしてさっき戦ったばかりの好敵手と出会えたのだから良かったけれどね」

危うく、一人で途方に暮れるところだったと付け加え、苦笑いをする。
彼女よりも自分の方がよっぽど子供っぽい事をやってしまっていると言わざるを得ない状態だ。

「武器や礼装に困っていないなら、使い捨ての道具とかはどうかな?」
「例えば……ええと、こんなのとか」

軽鎧の腰の辺りに付けた布袋から小粒な宝石――原石ではなく研磨や加工が済んだもの――を一つ取り出し、アーリルに向けて指先でそれを弾く。
空中でくるくると回転し曲線を描きながらアーリルの元に落ちていくそれは当然ただの宝石ではなく、何かしらの魔術を付与したもののようだ。

そして、アーリルは気付くだろうか。
魔術の触媒への興味が有るといえ、不自然に――その宝石に彼女自身が必要以上に“惹き付けられている”事に、他への警戒が疎かになりつつある事に。
その金貨に施された魔術は“意識の誘導”の魔術、人に掘り出され人に加工され――そして、その輝きで人を狂わせてきた“宝石”の特性を利用した魔術道具だ。

「……本当は真っ向勝負が好みなんだけれどね、それはこっちの好みの話だからさ」
「人質を捕ったりしてる相手だとか、どうにか不意打ちしないといけない場面ってのもある、けれど自分の技はどうしても精霊の力を借りる以上目立ちやすい……そんな欠点を埋める為の道具として重宝してるんだ」

一瞬あれば術は使える、が人質の命も潰える。
そんな場面で使う為に“自分に出来ない事をする”為の魔道具を幾つか用意、及び作り方を学んである。

「騎士らしくない、とは自分でも思うけれどね……それでもこういうのに興味が有るなら、簡単な物の作り方くらいは伝えられるよ」

973名も無き異能都市住民:2019/05/24(金) 19:47:44 ID:ORmT3UkU0
>>972
本来、アーリルは宝石程度など見慣れており、興味や関心を示すものでは無い。
だが、不自然なまでにそれに惹き付けられる。
惹き付けられた結果、ベンチの縁から落ちそうになるが爪先に力を入れ前方二回転をして着地。
そして、僅かに首を傾げた。

――おかしい。宝石『程度』に気を取られた?

「…なるほど、この様な効果があるのですね。人質や不意打ちが必要な時、ですか。
 私なら…炎の玉を作って爆発させて気を引いて足で何とか思います。」

青年騎士が示した手法は取り入れる価値がある。
この方法なら、自身のスペックを生かすには十分であるのだ。
人質がいる場合、携帯する武器は地面にあるだろう。ならば、一瞬でも気を引ければ『足でどうにか出来る』というものだ。
青年騎士は先の戦いで肩を抉り取られた攻撃を覚えているだろうか。空中で蹴って愛槍を投擲した攻撃だ。
その為に多く訓練を重ねた。足ででも手でも、ある程度正確な狙いをつけて投擲出来る様に多くの訓練を重ねたのだ。
もし、人質を取られた時に相対するのなら、この青年騎士はこの様な行動を取るのだろう。
だから、この手法を自身も『万が一』の時に備え、習得するべきだと思わせるには十分だった。
青年騎士の練度もあるのだろうが、『自分の気を一瞬でも引ける』のなら価値は十二分にある。

「…属性付与?いえ、属性ではなく付与のみ、でしょうか。しかし、それはノームの領分でしょうし…性質の付与なんて簡単にできることなのでしょうか?
 …っ。ごめんなさい、一人でブツブツと話してしまいましたね。えっと…、お教え願えますか?」

974クレイグ:2019/05/29(水) 21:14:56 ID:SkfemWbw0
>>973

「有無を言わせない圧倒的な実力で堂々と人質を奪い返せるのが一番なんだろうけれど……残念ながら事件は自分達の成長を待ってはくれないからね」
「その爆発を用いた方法でも気は引けるだろうし、正直、君なら他に幾らか有効な手はあるんだろうなと感じているけれど、命が懸かった大事な場面で使える手が多いのは悪くないと思ってね?」

彼女の実力は先程自分の身体で体験済みだ。
大きな槍を苦にせず扱う腕力、それを思い通りに操る技術、ここぞという場面で果敢に攻める胆力、どれも間違いなく一級品な上に成長の余地も十分に有った。
脚での投擲という、ケルト神話の英雄の技のような規格外の技術すら使いこなす彼女なら、一瞬の隙、思考の乱れから状況を変える事も出来るだろう。

そう、感じたからこそ、そして、彼女の理想に共感を抱けたからこそ、あまり褒められた記憶の無い自分の技術を伝えてみたいと思ってしまった。
騎士らしくない小細工と言われる事も故郷では幾度か言われ、それで人が救えるならと思いつつも人に積極的に見せる事は無くなった技術を、だ。

「いや、性質の付与なんて大袈裟な事は出来ないよ、けれど、加工された鉱石には少なからず人の念が籠っているんだ」
「込める念は研磨師次第だけれど、商品にせよ芸術にせよ基本的には『美しく輝く』事に……『人を魅せる』事に辿り着く、それを魔術や地霊の加護で少し歪に強めてやる事で『意識を引き寄せる』為の道具になるんだ」
「……ええと、その方法なのだけれど……」

青年騎士は手帳を取り出し何枚かの頁を千切ると、少女に渡すだろう。
強い精霊の加護を貰う方法、魔術工房で魔術的な細工を施し同様の効果を得る方法、効果は劣るが自我を持たない無名の地精から加護を得る方法……と、幾つかの方法がその頁には記載されている。
アーリルが大まかに目を通し終えれば、それらの方法について、要点は省かないが簡潔な説明で、アーリルにこの簡素な魔道具の作り方を伝えるだろう。

975アーリル:2019/05/30(木) 20:04:16 ID:ORmT3UkU0
>>974
「いつまでも状況は待ってくれませんですものね。今まで無かっただけでこれからの先にあるかも知れません。『不確定の未来』に備えて技術を高めるのも、我々騎士の勤めでしょう。」
「…しかし、いざそのような場面に立ち会った際、私は我慢出来そうにありません。手法はどうであれ、人質を無傷で助け出すのは当然です。が、犯人の命は保証しかねます。」

10分後。一時間後。明日。明後日。
いつの日か人質を取られたシーンに遭遇する可能性がある以上、このような技術に頼らざるを得ない。
青年騎士の郷里では好まれないであろう小細工が無ければ、どのような方法を取り人質を救出し犯人を無力化するのだろうか。
想像力に乏しい少女の頭の中には名案が浮かび上がらなかった。
青年が差し出した手帳の頁を受け取る。手元を照らすために、簡単な火の灯りを作ってみせて、紙を見つめればなるほど。
過程の説明を受け、もう一度、なるほどと頷いて。頭では分かっても、出来るかと言えば、どちらかといえばノーだ。
強い精霊の加護を貰う方法という項目も、妹の為にしっかりと聞いておかないと、と。

「輝き、魅せること……気を引く……すぐにはイメージが沸きません……。…そうだ。人形やぬいぐるみが良いでしょうか?
 どうやって指定した箇所に向かわせるか。離れた箇所に生成するか、といった問題は残っておりますが。」

アーリルのイメージでは、くるぶしサイズの人形が犯人の足に抱きつくといったもの。
それは、惹くのでは無く引くという。人によってはトラウマもののドン引き具合だろう。
ただ、どうやって動かすのかという問題があった。
火で作り出してしまうという方法もあるが、犯人に気付かれずに行うというのは難しいだろう。
なるほど、彼は賢い。少女にとってお人形遊びは少ないながらも経験があるが、宝石ならば別だろう。
宝石は性別、程度を問わず憧れるものでは無いだろうか。

976クレイグ:2019/06/06(木) 22:08:02 ID:SkfemWbw0
>>975

「無論、その場合人質の命を最優先にするべきだと思う、そして、その為に犯人の安全を確保する余裕が無い可能性も十分に有り得るとも思う」
「……ここから先は個人的な意見になるけれどね、それでも可能な限り犯人への被害を抑えて行動するべきだと思うんだ」

アーリルの言葉、気持ちは多いに理解できる。
けれど、だからこそ、伝えておきたい。

「犯人もね、人間なんだ、殺されると思えば怯えるし混乱する、生きたいが為にもっと多くの人質を取るかもしれない、人質に強く刃物を押し付け『俺は本当に人を殺すぞ』と主張するかもしれない」
「最悪、どうせ死ぬならこいつも一緒に巻き込んでやる、なんて考えに至る人も出るかもしれない……兎に角、どう転んでも苦しむのは僕らが護りたい“普通の人々”なんだ」

犯人にも護られる権利がある、なんて青臭い台詞を言う気はない。
けれど、恐怖を与えるというのは相手をそれだけ“狂わせる”という事でもある。
そして、その狂気の向かう先が自分でない事を理解しているからこそ、クレイグという青年騎士は極力平和的な解決を望んでいる。

「要は意識を引き寄せればいい訳だから宝石である必要は無いけれど、人形だとこの形の魔術とは少し相性が良くないかもね」
「けれど、勝手に動く人形は目を引くのは確かだと思う、相手は緊張しているだろうし、些細な動きでも気にしてしまうだろうからね」
「ゴーレムのような無機物を操る専門家なら、もう少し具体的なアドバイスが出せそうなのだけれど……こっちの分野では力不足だ、申し訳無い」

正直不気味さを感じなくもないが、悪くはない発想だと思う、犯人はどこから自分を逮捕する人間が突入するか疑心暗鬼な状態だ。
そんな気を張り詰めた状態で何かが動いているとあれば、意識を裂いてしまうのは必然でもあるだろう。
視線を無理に惹き付ける事は単体では無理だろうが、人形の目の術を施した宝石を使うなり少し工夫すれば幾らでも応用が効きそうでもある。

977アーリル:2019/06/06(木) 23:13:36 ID:ORmT3UkU0
>>976
「……犯人も極力助ける、ですか。本来はそのようにするべきなのでしょう。それが正道であるのでしょう。
ですが、……民草が脅かされたのなら…怖い思いをさせてしまうのなら……!」

少女は少女であるからこそ、感情を卸しきれない。感情を律する手段としての手綱が外れている様は、戦士としての顔を覗かせて。
戦士としては優秀でも、精神性はまだまだ幼いと言わざるを得ない。これは先の言葉から読み取ることは容易だ。
感情が少し露わになると、少女の力が発現する。
背には後光、体表を覆うのは赤い業火。

「『どう転んでも、困るのは護るべき普通の人』…………そう、ですよね。怖い思いをしているのです。だから、騎士がいますものね。
シュメントさん、ありがとうございます。騎士として見逃してはいけないものを、見逃してしまいそうになっていました。」

業火は収束し、少女の体から光が消える。
少女は快活そうな笑みを浮かべて、クレイグに頭を下げた。

「(そっか…私、普通じゃありませんでした…)」

真祖のヴァンパイア。自らを至高と謳う一族の直系の一人。刺されても即座に傷は修復されるし、それなりの訓練を積んで強さを持っている。
並の人間など歯牙にもかけない。そんな者が撫でたら死んでしまうような、普通の人の気持ちなんて分かるはずが無いのだから。
だからこそ、クレイグの言葉は、少女の心の根に大きな衝撃を与えたのだ。

「ううっ……やっぱりそうですよね。炎でなら色々と形作れるのです。」

先の収束した炎を利用し、パーティーで踊るカップルを作って、空中で踊らせて見せる。回転もしているし、時々パートが変わっているようでもある。
自身が出した炎ならば、この程度は朝飯前なのだが、こういった手先の技術の“出始め”から“生成”までが僅かな時間もある。
炎という性質上、民草にまで余計な危害を与えてしまう。そんな性質である以上、少女は炎以外の方法を取ろうとしていた。

「ですが、炎では余計な危害を生み出してしまいます。
…鏡です!鏡なら持っていても不思議ではないでしょう?鏡に付与してあげれば良いのです!」

フフーン、名案でしょう、と少女は胸を張った。




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