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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13

1リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:42:31 ID:lCNO3scI0
当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。

注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。

企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板」でどうぞ。

・前スレ
したらば避難所スレ(実質:リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ12)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1244815174/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12701/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/

詳しいルールなどは>>2-5

938 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:32:00 ID:D5cW9/Q.0
 
 ――ピンポーン、と。
 鳴り響いたのはチャイム音。
 来客が来た事を知らせるベルの音に、二人は顔を見合わせる。
 ヴィヴィオと目が合った瞬間のフェイトは、何処か嬉しそうな表情をしていて。
 如何にヴィヴィオが子供と言えど、それくらいの表情変化はすぐに見抜く事が出来た。

「来たみたいだね。ヴィヴィオ、出てくれる?」
「……? うん、わかったー」

 釈然としないものの、どうやら待ち望んでいた来客らしい。
 心中に若干の期待を抱きながら、ヴィヴィオは玄関に向かった。
 ドアノブをがちゃりと捻って、造りの良い玄関のドアを開く。
 同時。ドアの前に居た誰かが勢いよく跳び上がり――

「――んっ!?」

 次の瞬間には、ヴィヴィオの視界は闇に覆われていた。
 動きを完全に封じられ、次いで息苦しさを感じる。
 何者かの罠か、と考えるも、すぐにその線は薄いと判断。
 何故なら……肌に感じる“それ”は、柔らかかったからだ。
 顔面に触れる感触が、どういう訳か、僅かに柔らかいのだ。
 それがどういう事なのか大体理解した次の瞬間には、

「こら、いきなり飛び付く奴があるか」
「あいたっ!」

 ヴィヴィオの視界に光が戻っていた。
 目の前で頭を押さえ蹲るのは、一人の女だった。
 特徴的な水色の髪の毛に、修道騎士見習いのシスター服。
 人懐っこい表情でヴィヴィオを見る彼女の名は、セイン。
 かつて機動六課と死闘を繰り広げた、ナンバーズの一人だ。
 そして、セインの背後に控えていた二人の事も、ヴィヴィオは良く知っている。

「セイン! それにノーヴェとウェンディも!」
「おうよ。元気でやってっか、ヴィヴィオ?」
「今日からヴィヴィオが4年生だって聞いて飛んで来たんスよ!」

 セインの背後に控えていたのは、赤い髪の毛の女二人。
 ともすれば男前とも取れる様な爽やかな笑みを向けるのはノーヴェ。
 子供みたいに無邪気な笑みを浮かべるのは、ウェンディだ。

「三人とも、いらっしゃい! わざわざヴィヴィオの為にありがとー!」

 最初は誰かと思ったが、相手が彼女らならば話は別だ。
 ヴィヴィオとノーヴェは、同じストライクアーツを極めんとする者同士。
 格闘技の練習にはいつだって付き合ってくれるし、この三カ月で色んな事を教わった。
 今やノーヴェとヴィヴィオの練習試合は、周囲の注目を集める程のレベルへと昇華しているのだ。
 ウェンディはウェンディで、ノーヴェと会うついでに、ヴィヴィオと一緒に過ごす時間も少なくない。
 ナンバーズとヴィヴィオの間には、確かに色々あったが……だからこそ、彼女らもヴィヴィオの事は可愛がってくれる。
 ウェンディもセインもノーヴェも、まるで本当の妹を可愛がるようにヴィヴィオと遊んでくれるのだ。
 そんな彼女らを好きにならない訳が無かったし、会いに来てくれたとなれば尚の事嬉しくもなる。
 そんな中で、すっくと立ち上がったセインは、苦笑いを浮かべ、言った。

「いやー、悪かったよヴィヴィオ、久々だから思わず」
「もう、セインはいつ会っても子供みたいなんだから」

 そこがセインの良い所だが、と心中で付け足す。
 そんなヴィヴィオの心境を知ってか知らずか、セインは声を荒げて言った。

「自慢じゃねーが、あたしはこいつら程精神的に大人じゃないんだからな!」
「うわぁ、それは本当に自慢じゃないっスね」
「全く……こんなのがあたしらよりも年上かと思うと涙が出て来るわ」

 ウェンディとノーヴェが、口々に告げる。
 二人とも心底あきれ果てた様な表情で……だけど、何処か楽しげだった。
 それを見ているヴィヴィオも、何だか解らないけど、楽しくて。
 次の瞬間には、三人が三人とも、子供みたいに笑っていた。

 色々あったけど、今ならば――否、今だからこそ、思う。
 こうやって、他愛も無い雑談で笑い合ったり出来る事は、幸せなんだと。
 今みたいに下らない話題で盛り上がったり、格闘技の練習に励んだり。
 帰還してからの毎日は、ヴィヴィオにとって何もかもが輝いて見える日々だった。
 それもこれも、命あっての物種。
 生きているからこそ、実感出来る幸せなのだ。

 ……しかし、その代わりに払った“代償”は大きくて。
 その事を、一日たりとも忘れた事は無いというのも、また事実なのであった。

939 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:36:07 ID:D5cW9/Q.0
 




 暗い暗い洞窟の闇の中を、一人の少女が歩む。
 碧銀の髪を揺らして歩く姿に、一切の脅えは無い。
 その姿にこそ、威風堂々という言葉は相応しかった。
 今、この空間に於いて彼女は侵入者だ。
 この先に控える裏切り者を叩き潰す事だけを行動方針に動く兵器。
 当然、彼女の侵入に対して、裏切り者のスカリエッティが何の手を打たない訳がなかった。

「         !!」

 息一つ乱さずに、跳躍した。
 その下方、先程まで少女が居た場所を、眩い閃光が駆け抜ける。
 前方に視線を戻せば、無数の閃光が自分目掛けて飛んでくるのが見えた。
 侵入者を排除しようと放たれた、刺客による砲撃だろう。
 だが、何て事はない。
 魂の籠らぬ一撃など、この身体に当たりはしない。
 無駄一つない動きで、舞って見せる。
 ぎゅおおん! と轟音を轟かせ、何発のもレーザーが少女の脇を奔り抜けた。
 数瞬ののち、遥か後方で巻き起こる魔力爆発。
 狭い洞窟内を駆け抜ける爆風は、颶風となって少女の髪を嬲る。
 燃え上る炎に照らされ靡く碧銀の髪は、絹糸の様な美しさを秘めていて。
 美しい少女の容姿には、傷一つ見受けられない。
 それを確認するや、洞窟の奥から一人の少女が飛び出した。
 ボードに乗った少女は、凄まじい速度で狭い洞窟内を駆け巡る。
 少女もそれを視界に捉えて、頭の中で計算を立てる。
 今から数秒の後には、奴が自分と接触する頃だろう。
 ならば、ランデブーの瞬間に、真正面から迎え撃つまで。
 腰を軽く落とし、構えを取った――その刹那。 

「今だ!」

 第三者の声が、背後から少女の耳朶を打つ。
 振り向こうとしたその時には既に、この身体から自由が奪われていた。
 自分を羽交い締めにする水色の髪の女と、バイザー越しに目が合った。
 それは、勝利を確信した者の目付きで。
 何処かから飛び出して来たこの女が動きを封じ、その隙に戦いを終わらせる。
 そういう戦術を仕掛けて来るつもりなのだろうが……下らない。
 これで勝てると思っていたのなら、実に下らないと思う。
 彼女がそう思った、次の瞬間には既に、身体が動いていた。
 非力な女の腕を振り払い、

「なっ!?」

 上部へ向かって放り投げた。
 予想だにしない行動だっただろう。
 だが悲しいかな、その程度の腕力で覇王の進行を妨げるのは不可能だった。
 仰天した様子で空を舞う女は、そのまま真っ直ぐに落下。
 こうしている間にも、前方からは赤髪の女が拘束で迫り来る。
 赤髪と接触するまで、推定残り時間は5秒といった所か。
 ならば5秒で十分だ。それは彼女にとって、あまりにも簡単過ぎる問題だった。
 そう判断するや否や、その場で右脚を振り上げ――跳躍した。

「いいっ!?」

 素っ頓狂な声を上げたのは水色の髪の女。
 何がどうなったのかすら解らなかっただろう。
 次の瞬間には、真っ直ぐに振り上げた足が、女の腹を蹴り上げていた。
 凄まじい衝撃が、自分の脚からビリビリと伝わって来る。
 その感触が、相手を破壊したのだという感覚を確信へと変えてゆく。
 女の身体がくの字に折れ曲がって、蹴った箇所からは嫌な音が聞こえた。
 機械が軋み、壊れる様な――ともすれば、骨が折れた音にも聞こえるかも知れない。
 嫌な破壊音に次いで、声にならない嗚咽が聞こえた。
 女はそのまま天井に激突し、真っ逆さまに落下。
 その様を碌に確認もせずに、少女は一歩後方へと跳び退った。

「ちょっ……セイン!?」

 同時、突貫してきた赤髪が急停止した。
 真上から落下してきた女の身体が、ボードの動きを掣肘したからだ。
 どさりと音を立てて落下したこの女、名はセインというらしい。
 最も、敗者の名前に興味など持つ筈もなく、すぐに頭の隅へと追いやられたが。
 不自然に折れ曲がったセインの身体を見たボードの女が、一瞬身体を強張らせる。
 眼前に広がる狩る者と狩られる者の構図。
 本能的な恐怖が背筋を駆け抜けたのだろう。
 次はお前だと言わんばかりに、

940 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:39:36 ID:D5cW9/Q.0
 
「       ッ!!!」

 碧銀の少女は息を一つ吐き出して、大地を蹴った。
 赤髪の眼前まで飛び上がり、長い脚を振り上げる。
 反射的にボードでガードの姿勢を作るが、そんな物は問題にもならない。
 その程度の玩具でこの蹴りが防げると思ったら大間違いだ。
 振り抜いた脚は周囲の大気を寸断して、傲然たる勢いでボードを叩き折った。
 火花と共に強烈な破壊音が鳴り響き。
 次の瞬間には、

「――グフ、ァ……!?」

 赤髪の顔面を、少女の脚が蹴り飛ばしていた。
 真っ赤な血液を吐き出して、呻きと共に後方へと吹っ飛び。
 そのまま洞窟の壁に激突、地べたに転がるボードの破片の元へと崩れ落ちた。
 ……が、どうやらまだ完全には意識を刈り取れてはいない様子だった。
 咄嗟に掲げたボードによるガードが、存外ダメージを和らげてくれたらしい。
 だが、意識を失わなかったからと言って、助かった事には決してならない。
 寧ろ、今の一撃で気を失えなかった事は不運でしかないのだった。
 バイザー越しに赤髪を見下ろし、トドメを刺そうと一歩を踏み出した、その時だった。

「らぁぁぁああぁぁああぁぁああああああああッ!!!」

 耳を劈く様な怒号。
 反響するタービンの回転音。
 彼方から走り抜けて来たもう一人の女が、拳を振り上げ跳び上がる。
 型は良い。気迫も十分。格闘家としては、十分過ぎる程の逸材と見た。
 ならば、確かめてみたい。こいつがどれ程の力を持っているのかを。
 自分の拳とこいつの拳、どちらの方が上なのかを。

 何も思い出せない筈の心は、しかし目の前の女との決戦を望んで居た。
 ともすれば、それは心と言うよりも、彼女自身の本能なのかも知れない。
 嗚呼、結局、本当の所は自分にも解らないのだ。
 だけど、ただ一つだけ、本能が覚えている事があるとすれば。
 それは、戦えば戦う程に、この身体が強さを求めるという事。
 自分は、この身体は、一体何処まで行けるのか。
 眼前の相手よりも――誰よりも強く在れるのか、と。

「ぐ……っ!」

 女の拳を腕の甲で受け止める。
 ここへ来て初めて漏らした呻き声。
 ぎしっ、と。音を立てて、骨が軋む。
 だが、これで終わりはしない。
 拳を受け止めた腕を振り払い、同時に右脚を振り上げた。
 がきん! と金属音が鳴り響いて、蹴り脚は女の脚と激突。
 相手もまた、この蹴り脚を受け止める為に左足を掲げたのだ。
 所謂、カットという奴だ。格闘戦に於ける、初歩的な防御方。
 お互いがお互いの身体を弾いて、共に数メートルの距離を開いて対峙する。

「テメエ、よくもあたしの姉妹を!」

 金色の瞳からは確かな憎しみが感じられた。
 女は拳を引いて、次の一撃に備える。
 ならばとばかりに、こちらも再び構えを取った。
 この身体に眠る“彼”の記憶を再現するように。
 ベルカの天地に覇を成すとまで云われた構えを、この身体で再現する。
 刹那、少女の脳裏に疑念が過った。

 自分は今、何をしているのだろう、と。
 これは何のための戦いで、誰を守る為の戦いだったか、と。
 自分が今しようとしている事は、本当に“彼”が望む事なのか。
 彼と私が望んだ■■流は。
 ■■の悲願は、本当にこれで成し遂げられるのか。
 そんな疑念を振り払ってくれるのは、対峙する女の絶叫だった。

「オォッォォォオオオオオォォォオオォオォォォオオォッ!!!」

 脚のタービンを唸らせて、拳を振り上げ大地を蹴り上げる。
 一足跳びに少女の眼前まで肉薄した女は、全力で拳を振り抜いた。
 だけど、その攻撃は何故か……曇っているように思えた。
 自分の拳と同じで、何処か迷いがあるような。
 だが、今は一先ず考える事をやめよう。
 今は只、目の前の戦いに集中すべきだ。
 腰を落として、ステップを踏み込み。
 ひゅん、と風が切れる音が聞こえた。
 凄まじいまでの速度で振り抜かれた拳は、しかし命中せず。
 風の音と共に、少女の周囲の風を断ち切った。
 技量としては見事の一言に尽きる。
 だが――届かない。
 これでは、こんな拳では、届かないのだ。
 赤髪の女の胴体まで上体を下げた少女は、相手の顔をちらと見遣る。
 背後で燃え盛る爆炎の所為か、燃える様な赤の髪は、余計に赤く染まって見えた。

941 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:41:56 ID:D5cW9/Q.0
 
「              ッ!!」

 足腰を踏ん張り、この身体に眠る力を練り上げる。
 白亜の騎士甲冑に身を包んだ少女が、拳を握り締めた。
 一合で決める。こいつに使ってやる時間は、勿体ないからだ。
 相手が上体を捻り、その一撃に対処をしようとするが――もう遅い。

「ぐっ――ぅ……!」

 どすん! と、心地の悪い、それでいて豪快な音が響き渡った。
 目にも止まらぬ速度で、少女の拳が相手の胴体を抉ったのだ。
 紺色のスーツ越しに、拳は相手の腹筋へと捻り込まれ、そのまま内臓を破壊せん勢いで減り込む。
 全ては一瞬だった。
 次の瞬間には、相手の身体は洞窟の壁に叩き付けられ、そのまま崩れ落ちる。
 口元から血液だとか胃液だとかを吐きだしながら、意識を失った少女の瞳からは光も失われる。
 白目を剥いて倒れる姿は、ナンバーズきっての攻撃手・ノーヴェにしては、あまりにもあっけない敗北であった。

「貴方がもし自我を保っていれば、もっと強かったのでしょうか」

 碧銀の髪を揺らし、少女は物言わぬノーヴェに吐き捨てる様に言った。
 ノーヴェの拳は、素人がそうおいそれと繰り出せる代物ではなかった。
 そのテクニック、速度、切れ味、どれをとっても格闘家としては一級品。
 なのに、何故こうも簡単に敗れたのか。
 それは、単に拳に「魂」が乗って居ないからだ。
 それが一体何故なのか、なんて事には全く興味を抱かない。
 向かってくるならば倒す。
 自我がないなら、楽に潰せる。
 その分、事がスムーズに進められる。
 少女にとっては、その程度の認識でしかなかった。

 不意に振り向けば、そこに横たわるは、三人の身体。
 水色の女はセイン。胴体を“壊した”のだ。修理を受けない限り、動く事は不可能。
 今し方倒した格闘家はノーヴェ。問題無く、完全なるKOだ。此方も同じ理由で動けまい。
 最後に残った女は、ウェンディ。意識こそ保ってはいるが、この程度の相手ならば問題無い。
 向かってくるなら他と同じ様に撃破するのみ。自分にとって取るに足らない弱者だった。
 故に踵を返し、洞窟の更に奥へと進もうとした――その時。

「待つっス……! ドクターの元へ行かせる訳には……!」

 女はそれでも声を荒げた。
 だけど、耳を傾けてやる気は無い。
 こんな所でこんな奴を相手にするのは、時間の無駄だ。
 第一、これ以上こんな場所で道草を食うのは、彼女の使命感が許さなかった。
 この心に刻み付けられたのは、「裏切り者を叩き潰せ」という揺るぎない使命。
 この身体が動くのは、それを果たさんとする使命感故。
 だからこそ、これは最後の警告だった。

「貴女は私の標的ではありません。それでも邪魔をするというのなら、次は徹底的に破壊しますが」

 バイザー越しにちらと一瞥する。
 ウェンディは、動かなくなったノーヴェとセインを眇め見て――。
 最早それ以上は、何も言おうとはしなかった。
 ただ何も言わず、反抗的な視線で自分を睨み付けるばかり。
 恐怖心に脅かされた心が、ウェンディにそれ以上の言葉を塞がせたのだろう。
 無理もない。ウェンディとて既にそれなりのダメージを負っている状態なのだ。
 その上で、姉妹二人の完全なる敗北を見せ付けられたのだ。
 いくら頑丈な心だって、折れてしまうのも仕方のない事だった。
 
「それでは」

 だが、それでいい。
 これこの手を以上煩わせないで欲しかったから。
 最早誰に刻まれたのかも解らぬ使命を果たす為。
 白亜と深緑の少女は洞窟の最深部へと進む。

942 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:44:52 ID:D5cW9/Q.0
 




 その日の晩、ヴィヴィオの進級祝いは無事執り行われた。
 テーブルの上に無数に並ぶのは、綺麗に料理を平らげられた痕跡。
 料理のソースやケーキのホイップが僅かに付着した大量の皿。
 それらを眺め、満腹感に浸りながらヴィヴィオが告げる。

「今日は皆、私の為にありがとう」
「本当は他の皆ももっと呼びたかったんだけどね」

 苦笑いしながらそう返すのは、フェイトだ。
 結局他に進級を祝ってくれたのは、ナンバーズの三人だけだった。
 だけど、ヴィヴィオはこれでも十分だと思っている。
 セインが作ってくれた料理はどれも美味しかった。
 ノーヴェと共に、格闘技について語り合った時間は、心が熱くなった。
 場の空気を盛り上げてくれたウェンディのお陰で、常に笑顔を絶やす事も無かった。
 自分の事を本当に思ってくれている彼女らだけでも、ヴィヴィオにとってはこれ以上ない幸せだったのだ。

「まあ、なんだ」

 ジュースの容器に突き刺したストローから口を離し、ノーヴェが口を開く。

「あたしらとヴィヴィオの間には確かに色々あったけどよ
 今ではあたしも、お前の事は妹みたいに思ってるから、さ」

 ぽん、と。
 ノーヴェの手がヴィヴィオの頭の上に置かれた。
 その手から伝わって来るぬくもりは、どこか懐かしくて。
 遠い昔、大切な人に頭を撫でて貰った時の事を思い出して。
 この小さな胸が、少しだけ締め付けらる様な気がした。

「あたしらに頼りたい時は、いつでも頼ってくれよ、ヴィヴィオ」

 何処か照れ臭そうにノーヴェは笑う。
 目線を逸らしているのは、やはり直接こんな事を言うのは柄ではないからだろうか。
 確かにヴィヴィオは多くのものを喪った。
 だけど、代わりに得たものも多い。
 血こそ繋がっていないものの、本当の姉の様に接してくれる人が居る。
 ノーヴェだけじゃない。セインやウェンディ、フェイトだってそうだ。
 彼女らもまた、ヴィヴィオと同じように大切な人を喪ったから。
 だから殊更、彼女らもヴィヴィオを他人とは思えないのだろう。

「ありがと、ノーヴェ」

 だけど、だからこそ。
 その事を考えれば素直には喜べなかった。
 忘れる事など出来ない出来事が、影をちらつかせる。
 結果、図らずも何処か虚ろな笑顔を浮かべてしまっていたようで。
 只でさえ赤面していたノーヴェも、それ以上何も言わなくなってしまって。
 この場の空気が一転、少しだけしんみりとしてしまう。

「あ、ごめん……皆、折角盛り上がってたのに」
「いいっスよ、ヴィヴィオ。あたし達だって、気持ちは解るっス」
「一応あたしらも、ヴィヴィオとは似た様な境遇にあった訳だしなー」

 ウェンディに、セインが続ける。
 ナンバーズもまた、被害者と言えば被害者なのであった。
 ヴィヴィオも事のあらましは全て聞いた。
 ナンバーズの身に何が起こったのかも、知っている。
 更生組である筈の彼女らが何故再び悪事に手を染めてしまったのかも。
 悪の科学者の尖兵として戦った彼女を、武力で以て止めてくれた人物が居る事も。
 ……結局の所、どうしてそうなったのか、とか。そういう裏手の事情は解らず終いだが。
 かろうじて、彼女らの身に起こった出来事だけは知っていたのだった。

「その、4年前にノーヴェ達を止めてくれた人はどんな人だったの?」

 不意に、疑問を口にした。
 詰まってしまった会話の流れを再び繋ぐべく。
 それは同時に、気になって居た事でもある問い。
 どんな人間が、どんな想いを持って、ノーヴェ達ナンバーズを止めたのか。
 それは正直な所、ヴィヴィオ自身も気になる話なのであった。

「さあ、結局あいつも保護された後すぐ出て行っちまったらしいからな」
「でも、聞いた話じゃ彼女も洗脳されてたらしいっスね」
「短期間だけど、洗脳解けるまでは管理局でリハビリしてたらしいけどなー」
「え、ちょっと待って、洗脳って……?」

 三人の言葉に、疑問で答える。
 ノーヴェ達を救ってくれた英雄だと思っていたその人は、洗脳されていた。
 そんな事実は初耳だし、どういう状況なのか、訳も解らなかった。
 そして、ヴィヴィオの疑問に答えたのは、

943 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:50:42 ID:D5cW9/Q.0
 
「調書だと、プレシア母さんによる洗脳の可能性が高いんだって」

 フェイトだった。
 食器を片づける手を止めて、悄然として俯く。 
 プレシアの起こした事件は、フェイトにとっても消えない傷だった。
 例え事件が終わっても、フェイトの中でそれが解決する事は無いからだ。
 そもそも元を正せば、十年前、自分がプレシアを救えなかったが故に起こった事件とも言えるのだから。
 フェイトはそれを背負って行くしかないし、だからこそ今こうして前向きに生きているのだろう。
 子供なりにそれが解って居るからこそ、ヴィヴィオもこれ以上プレシアを憎もうとはしない。
 あの戦いで散った最愛の母だって、ヴィヴィオが彼女を憎み続ける事は望まないだろう。
 フェイトが背負った過去と戦い続けている様に、自分も背負った命の分まで生きなければならない。
 憎む方が圧倒的に簡単なのだから、自分はそうではない未来を歩んで行かねばならない。
 本当に難しいのは、憎しみや過去と向かい合ってどう生きて行くか、だった。
 だからヴィヴィオも、フェイトに必要以上の同情はせずに話を続ける。

「プレシアママがどうしてナンバーズを?」
「多分、スカリエッティがプレシア母さんを裏切ったから、だと思う」
「……ま、そのお陰であたし達は今こうしてここに居られるんだけどな」

 ノーヴェの言う通りだった。
 事実として、この事件の解決に最も尽力したのは、その少女だ。
 プレシアに洗脳されていたとはいえ、彼女が行動を起こしたからこその結果。
 出来るなら、今はもう何処にいるのかも解らないその少女に会ってみたい、と。
 彼女も武人であるのなら、一度ヴィヴィオもお手合わせを願いたい、と。
 そんな事を考え、物思いに耽ったヴィヴィオは、つい黙り込んでしまう。
 各々思う事があったのか、数瞬の沈黙が流れた後、

「ま、まぁまぁ、折角の進級祝いなんだから、難しい話は置いといて」

 それを破ったのは、やはりこの場での最年長たるフェイトであった。
 最後の食器を片づけ終えたフェイトが、本来のこの場に似つかわしい明るい声色で以て告げる。

「ヴィヴィオももう4年生だよね?」
「そーですが?」
「この4年間、色々あったみたいで……魔法の基礎も大分出来てきた。
 だからそろそろ、自分の愛機(デバイス)を持ってもいいんじゃないかと思って」
「ほ、ほんとっっ!?」

 それは思いもよらぬ僥倖。
 ヴィヴィオが所持しているのは、マッハキャリバーのみだ。
 だけれどそれは、元々スバルの為に組まれたデバイスであって、ヴィヴィオの物では無い。
 帰還するまでの4年間を、ずっとゆりかごで共に過ごして来たとは言え、その事実は変わらない。
 だから、マッハキャリバーに魔法の練習に付き合って貰う事はあっても、それが自分の愛機だとは言えなかったのだ。
 だが、そんなヴィヴィオにも、ようやく愛機と呼べるデバイスが与えられる。
 ともすれば、ヴィヴィオの瞳が輝かない訳が無かった。

「実は私が今日、マリーさんから受け取って来ました」

 そう言って、フェイトが近くの戸棚から小箱を取り出した。
 ヴィヴィオの手と比較すれば、少し大きいくらいのサイズの箱。
 待機状態のバルディッシュやマッハキャリバーを入れるなら、大きすぎるくらいの箱だった。
 中には一体どんなデバイスが入って居るのか。
 そんな期待を胸に、箱を開ける。
 しかし。

「……うさぎ?」

 中に入って居たのは、うさぎのぬいぐるみだった。
 かつてヴィヴィオが大切にしていたうさぎのぬいぐるみに、良く似ている。
 だけど、似ている様で違う。あのぬいぐるみとは決定的に違う、何か。
 そう。言うなれば、それはまるで「生きているようなぬいぐるみ」と表現するに相応しい。
 まるで的を射ていない表現だが、これがただの布と綿の塊でない事だけは、感覚的に解る。
 そんな不思議なぬいぐるみが、次の瞬間には――

「えっ!?」

 ふわりと浮かび上がり。
 ヴィヴィオの眼前で、びしっ! と手を上げた。
 それはまるでヴィヴィオに挨拶をしているかのようで。
 愛らしいうさぎのぬいぐるみは、明確な意思を持っていたのだ。
 これがヴィヴィオにとっての初めての愛機との出会いとなるのであった。

944 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 13:56:29 ID:D5cW9/Q.0
 




「やれやれ、こちらの手駒も随分と削られてしまった様だねぇ」

 白衣を着たスカリエッティが、一人ごちる。
 憂いの籠った声色は、しかし笑顔で以て紡がれた。
 その表情をにやりと歪めて、金色の瞳でモニターを見る。
 そこに映るのは、悠然と歩を進める碧銀の少女。
 既に迎撃に向かったセインも、ノーヴェも、ウェンディも……最早使い物にならない。
 彼女らは、あろう事か三人掛かりで徒手空拳の女一人にすら勝つ事が出来なかった。
 圧倒的な力量差の前に、見事に三人揃って撃破せしめられたのだ。

「まさか彼女がこうまで粘るとは。いやはや、大魔道師と呼ばれるだけの事はある。
 これでナンバーズの残存兵力もたったの一人になってしまったよ」

 胸中でプレシアを思い描き、笑う。
 No.1、No.2、No.7、No.8、No.12は時の庭園へ出向中。
 最新の連絡で、現在こちらへ帰還する為に脱出艇を発進させたとの話は聞いている。
 されど、遠く離れた異世界からこのミッドチルダへ帰還するとなると、否応なしに時間も掛かる。
 故に現状では役立たずだ。今まさにここに乗り込まんとしている敵への対抗戦力にはなり得ない。

 では他のナンバーズはどうか。
 まず、No.4、No.5、No.10の三人はプレシアのデスゲームにて死亡。
 彼女らはプレシアの技術を使用し、それぞれこの世界の別々の時間軸から呼び出した。
 これは純粋に、タイムパラドックスを利用した技術に、スカリエッティ自身も興味があったからだ。
 実験の一環と参加者の確保を兼ねて、自らの戦力たるナンバーズをデスゲームに参加させた。

 次に、No.6、No.9、No.11の三人。
 彼女らは、今し方現れた侵入者によって叩き潰されたばかりだ。
 では、何故更生組に分類されていた筈の彼女ら三人が再びナンバーズの兵士に戻ったのか。
 簡単な話だ。コンシデレーション・コンソールを使用し、強制的に洗脳状態に置き、脱獄させただけの事。
 結果、かつて聖王ヴィヴィオを操った装置は、三人を従わせる分には十分過ぎる効果を発揮してくれた。
 ……といっても、倒されてしまった以上、所詮は役立たずなのだが。

 これらは全て、スカリエッティにとっては実験、というよりゲームでしかなかった。
 だけれど、如何にゲームと言えど流石に戦力をここまで潰されてしまった事に関しては予想外。
 時の庭園に向かわせた五人にはプレシアの戦力を完全に破壊しろと命じたし、それは確かに実行された筈。
 実質的に戦場となるのは時の庭園だし、戦闘能力だって申し分のないナンバーズを、五人も送ったのだ。
 確実に勝てるだけの戦力を寄越して、綿密に立てられたプレシアの殺害計画。
 それがよもやしくじるなどとは夢にも思うまい。
 全てはスカリエッティの思惑通りに進んでいたと、そう思っていたのだから。

 なのに、まさかプレシアがあんな隠し玉を持っていたなどと、誰が想像出来ようか。
 ナンバーズ三人を潰した侵入者は、スカリエッティの知るどの世界の住人とも合致しない。
 かといって、デスゲームの終了時点から突然現れた第三者とも考え難い。
 スカリエッティの裏切りから間髪入れず、これだけスムーズにこの場所まで辿り着いたのだ。
 恐らく最初からこの場所へ転送される事も、プレシアの計画の内に入って居たのだろう。
 言わば彼女はスカリエッティの一人勝ちを防ぐためだけに用意されたプレシアの最後の駒。
 その為だけに最初から用意され、その時が来るまで眠らされていた哀れな駒。
 それが今こうして、自分の命を狩り取ろうと迫っているのだ。

「もうウーノ達も帰っては来ないだろうなぁ」

 不敵な笑みと共に告げる。
 以上の事から考えるに、プレシアは相当自分を警戒していたのだろう。
 殺される事自体は防げなかったとは言え、その後の罠ならいくらでも仕掛けられる。
 プレシアはスカリエッティの裏切りまで考えてあの少女を送り込んだとするなら――
 脱出に使われるであろう脱出艇……或いは、時の庭園の周囲の空間にも、罠が仕掛けられている可能性が高い。
 ならばもう、成す術はないのだろう。あれだけ求めたアルハザードの技術も手に入らないかもしれない。
 どうしたものか、と考える。
 と、そんな時であった。

945 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:00:01 ID:D5cW9/Q.0
 
 どごんっ! と、響き渡る轟音。
 スカリエッティの後方のドアが、軋みを上げる。
 洞窟内に造られたラボが僅かに振動し、ぱらぱらと砂埃が落下する。
 もう一撃、ドアに打撃が加えられて、今度はドア全体が大きく振動した。
 大きく変形したドアを見れば、そう長くは持たないという事もわかる。

「どうやら来たようだね」

 不敵に笑ったスカリエッティは、手元のコンソールを叩く。
 細く長い指が軽快なステップを刻み、キーを打ち込んで行く。
 これは最後のゲームを盛り上げる為の、最期のスパイスだ。
 そうだ。これこそ、命を賭けたデスゲームの最後を飾るに相応しい。

「私はタダでは終わらんよ」

 まだだ。まだまだ、お楽しみはこれからだ。
 プレシアとの主催陣営ゲームは、ここからが最後の駆け引き。

「はてさて――」

 最後に勝つのはプレシア側か、スカリエッティ側か。
 ドアを完全にブチ抜かれた事による轟音がスカリエッティの耳朶を叩いた。 
 それはまるで、最後のゲームの始まりを告げるゴングのようで。





 場所は変わって、市民公園内の公共魔法練習場。
 その名の通り、魔法の練習をする為に用意された大きなグラウンドだ。
 高町なのはが暮らしていた世界の常識で言い表すならば、サッカーのスタジアムに近い。
 眩くライトアップされたスタジアムの周囲は緑豊かな公園に囲まれて居て、非常に開放的な印象を受ける。
 そんなスタジアムのど真ん中、ライトアップの中心地で、構えを取る少女が二人。
 一人は三角のベルカ式魔法陣を足場に描いた少女――高町ヴィヴィオ。
 もう一人は、濃紺のバリアジャケットに身を包んだ少女――ノーヴェ・ナカジマ。
 お互いがお互いを視界に捉えて、不敵な笑みを交わす。
 先程行われた進級祝いにて、ヴィヴィオは新たなデバイスを受け取った。
 自分専用のデバイス……それは、ヴィヴィオ自身もずっと待ち望んでいた事だ。
 それ故、やはり今すぐにでも使いたいと思ってしまうのも、仕方の無い事と言える。
 しかも、今日はヴィヴィオの師匠たるノーヴェも同席しているのだ。
 なればこそ、これを機会にやる事はたった一つだ。

「準備はいいか、ヴィヴィオ?」
「うんっ! お手柔らかにお願いします」

 ノーヴェの問いに、一礼で返す。
 最早難しい説明などは不要だろう。
 今から始まるのは、デバイスの起動テスト……という名目の、練習試合。
 ヴィヴィオが尊敬し、師と仰ぐノーヴェが初陣の相手であるならば、不足もない。
 たっ、たっ、と地面を蹴ってステップを刻みながら、ノーヴェが問う。

「そういや新しいデバイスの名前はもう決まってるのか?」
「えへへ、実は名前も愛称ももう決まってるんだ」

 問いに答え、目の前に浮かぶ“うさぎのぬいぐるみ”に微笑みかける。
 ただのぬいぐるみと侮る無かれ。このうさぎはただのぬいぐるみではない。
 その本体はうさぎの中身、ヴィヴィオに合わせて造られた宝石状のデバイス。
 それを、ヴィヴィオと馴染みの深い形である“うさぎのぬいぐるみ”で偽装したもの。
 早い話が、うさぎのぬいぐるみの姿をした、最新式の高性能デバイスなのだ。
 そして、そんな素晴らしいデバイスを貰ったからには、強くならない訳にも行かない。
 ヴィヴィオの想いを汲んでくれたフェイトや、マリーに応える為にも。
 そして何よりも――最愛の母の想いに応える為にも。

「見ててね、なのはママ。わたしは強くなるから……
 なのはママから貰ったもの、今度は全部守り通すから」

 誰にともなく呟いた言葉は、今でも胸の中で生き続ける最愛の母へ向けて。
 あの日の戦いで確かにヴィヴィオは一度リンカーコアを失った。
 だけど、今この身体には、確かに聖王の力を引き出す為の魔力が満ちている。
 その理由は誰にもわからないが――しかし、思い当たる節ならある。
 最後の戦いで――あの黄金の敵との戦いで、ヴィヴィオは再び力を求めた。
 始めて自分の意思で戦いたいと願い、そして自らその肉体にレリックを埋め込んだ。
 その結果ヴィヴィオが得たのは、カテゴリーキングを撃破するだけの膨大な魔力。
 しかしそれは、戦いが終わっても消える事は無く。
 レリックが消滅して、相当の年月が経過した今でも、健在であった。
 あの戦いから四年間、毎日を共に過ごして来たマッハキャリバーこう言った。
 あれから長い時間を掛けて、レリック自身がヴィヴィオの身体に溶け込んだのではないか、と。
 難しい話は良く解らないが、レリックが無くとも魔力を行使出来る以上、その可能性が高いのだと。

946 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:11:59 ID:D5cW9/Q.0
 
 ――だけど、ヴィヴィオはそれだけではないと思う。
 上手く説明が付けられない事実に、説明を付けるたった一つの心当たりがある。
 あの日“強くなりたい”と願ったヴィヴィオをここまで導いたのは、ジュエルシードの魔法の力だ。
 他ならぬヴィヴィオ自身が“強くなりたい”と願ったから……
 その強い想いに惹かれて、ジュエルシードは姿を現したのだ、と。
 愛する母達の姿を借りたジュエルシードは、確かにあの時ヴィヴィオにそう言った。
 そして、ヴィヴィオが彼女らに求めたのは“なのはママと暮らしたこの世界”への帰還。
 生きて帰って、60人の参加者達が生きた証を立てる為に。
 60人の命を背負って、今度は皆を守れる強い人間になる為に。
 そんな想いに、副次的にではあるが、ジュエルシードが応えてくれたのではないか。
 レリックがこの身体に溶け込み、もう一度ヴィヴィオに力を与えてくれたのは、そういう事なのではないか。
 根拠は何もないけれど、ヴィヴィオは心の何処かでそう信じていた。
 というよりも、そう信じていたかった……と言った方が正しいか。
 それはジュエルシードが、愛する母の姿をしていたからかもしれない。
 結局の所、本当の事は誰にも解らない。
 だけど、今は別に、それでも構わない。

 自分自身の願いに嘘を吐く事にならない様に。
 自分で決めた自分の道を、自分自身の力で進んで行ける様に。
 ヴィヴィオはこの四年間、一日たりとも休む事無く、修練を続けた。
 マッハキャリバーと共に、スバルが積んだというトレーニングを日々繰り返し。
 たった一人でも、孤独にも負けず、辛い訓練に耐え続けてきたのだ。
 鍛錬を積めば積む程、身体に魔力が戻って行くのを感じながら。
 そしてその成果を、自分の拳で以て確かめる事が出来る。
 そうだ。今からここで、見せつけるのだ!

947 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:14:42 ID:D5cW9/Q.0
 
「あの人に届かせよう。わたしの……わたし達の力を」

 初めて手にした自分の力に呼び掛ける様に。
 それは自分だけの為に造られた、自分だけの愛機(デバイス)。
 眼前で不敵に笑うノーヴェに微笑みで返し、ヴィヴィオは天高くその手を掲げた。
 まるでヴィヴィオに応えるように、うさぎの姿をした愛機がふわりと眼前へ浮かび上がる。

「マスター認証、高町ヴィヴィオ」

 ヴィヴィオの足元に光が灯った。
 三角系を主体とした魔法陣は、ヴィヴィオの術式を現したもの。
 ベルカ主体の、ミッド混合ハイブリッド。格闘流派はストライクアーツ。
 魔法陣の輝きに伴って、うさぎの愛機がヴィヴィオの眼前へと浮かび上がる。

「わたしの愛機(デバイス)に個体名称を登録――
 ――愛称(マスコットネーム)は、クリス」

 ヴィヴィオの為だけに造られたハイブリッドインテリジェントデバイス。
 幼い頃、大切にしていたうさぎのぬいぐるみを元に造られたデバイスの愛称は、クリス。
 しかし、それは所詮は愛称に過ぎない。
 ヴィヴィオがこの愛機に与えた本当の名前は、別にあるのだから。
 クリスと呼ばれたうさぎが、自分の本当の名を呼ばれる瞬間を、今か今かと待ち構える。

「正式名称は――」

 それは、ずっと前から決めていたたった一つの名前。
 母の想いを受け継ぎ、母の想いを守り抜く為に。
 今ここに、不屈の心(レイジング・ハート)を受け継いだ新たなデバイスが誕生する。
 ヴィヴィオの、清く神聖なる魂を体現する、その愛機の名前は。

「――セイクリッド・ハート!」

 呼ばれたうさぎが、びしっ!と片手を振り上げた。
 一生のパートナーとなるヴィヴィオに応える為に。
 これからヴィヴィオと共に、高みを目指して行く為に。
 期待の眼差しで見詰めるノーヴェをよそに、ヴィヴィオは眼前のうさぎを掴み――

「行くよ、クリス!
 セイクリッド・ハート! セーーーット・アーーーーップ!!!」

 刹那、眩い光がヴィヴィオの飲み込んだ。
 魔法陣の輝きによって、ヴィヴィオの衣服が弾け飛び。
 次いで、まだ幼いヴィヴィオの身体が急速に成長してゆく。
 身長が、手足が、幼なかった胸が――大人のそれと等しく変わる。
 プラチナブロンドの髪は青のリボンで纏め、母と同じサイドポニーに。
 かつての聖王の姿をそのまま模した様なそれは、まさしくカテゴリーキングとの戦いに挑んだ時の姿。
 これがヴィヴィオが望んだ、全てを守り抜く強さを体現する為に必要な力。
 光が収まった時、そこに居るのは“大人モード”として生まれ変わった、かつての聖王であった。

948 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:23:12 ID:D5cW9/Q.0
 




 歩き続けた少女は、決戦の場所へと辿りついた。
 ここに、自分が倒すべき敵が居る。
 ここで、自分は自分の存在意義を果たすのだ。
 その為に、最後の障壁となった眼前の扉を、破壊する。
 少女が繰り出したのは、力の限り打ち出されたキック。
 その速度、まさしく弾丸の如く。
 暴力的な威力で打ち出されたキックが、鉄のドアを大きく凹ませる。
 二撃目で凹みは更に大きくなって、ドアを支える基部が軋みを上げる。
 三撃目で目の前のドアは完全に破損。大きな音を立てて吹っ飛んだ。

「やあ、よく来たね」

 扉の先で待ち受けていたのは、白衣の男だった。
 紫色の髪の毛に、金色の瞳。厭らしく吊り上がった口元。
 不快感さえ伴うその不遜な態度。
 最早間違いない。こいつが標的のスカリエッティだ。
 標的を視界に捉えた少女は、一歩を踏み出し、周囲をぐるりと見渡す。
 本来ならば薄暗い筈の洞窟も、この部屋だけはその限りでは無かった。
 大量に設置されたモニター類と、無数のランプが少女を照らす。

 言うなればここは、純粋な研究室(ラボ)。
 そんな印象を抱かせるこの場所だが、しかしこれからここは戦場となる。
 戦う為に作られた筈では無いこの研究室で、これから自分は破壊の限りを尽くすのだ。
 今し方自分が破壊した扉を踏み躙って、歩を進める。
 そんな彼女を見たスカリエッティは、にやりと笑い、

「不躾な来客だ。名前くらい名乗ったらどうかね?」

 一歩も退かず、誰何した。
 両手を広げて問う姿には、余裕すら感じ取れる。
 これから自分はこいつを叩き潰すのだから、名前くらい名乗ってやってもいいだろう。
 それが彼女なりの礼儀だし、それくらいは構わない。
 寧ろ武人の情けだとも思えた。

「覇王流(カイザーアーツ)正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。覇王を名乗らせて頂いています」
「これはこれは、エンシェントベルカの覇王が態々こんな所まで何をしに来たのかなぁ」
「今更知れた事を。私は貴方を排除する為にここまで――」
「――それは本当に君自身が望む目的かね?」
「なに……?」

 言葉を遮り、問いを被される。
 どういう訳か、その質問に応える事は出来なかった。
 スカリエッティの打倒。これは本当に、自分が心の底から望んだ事なのか。
 もしかしたら、誰かに植え付けられた偽りの使命感なのではないか。
 そんな疑念が浮かんでは、定められた使命感がそれを押し潰す。

949 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:23:42 ID:D5cW9/Q.0
 
「私は」

 何故か……なんて、そんな事は関係ない。
 自分はただ、この男を潰せばいい。それだけだ。
 そうしなければ、自分はこの呪いからは解放されない。
 真の自由を得る為にも、自分は戦わなければならないのだ。
 だから、私は何としてもやらなければならない。
 嗚呼そうだ、惑わされてはいけない。
 その為に私はここに来たのだ。
 その為に私はここに居るのだ。
 ならば、やる事は一つ!

「これで、終わらせます!」

 これ以上の問答などは必要ない。
 これ以上、面倒事について考えるのも、煩わしい。
 標的の頭蓋を吹き飛ばさんと、ゆらりと構えを取った――その刹那。
 ひゅん、と。大気が振動して、風を切り裂く音が聞こえた。
 覇王がその本能で感じ取ったのは、急迫して来る圧倒的な殺気。
 条件反射で、覇王もまた腕を振り抜き、風を切り裂く事で応える。
 覇王の拳によって切り裂かれた大気が、風の刃となって襲撃者を迎撃した。

「――ッ!!」

 寸での所で覇王の一撃を回避し、その場に着地したのは一人の女戦士。
 紫紺の髪はショートカット。黄金の虹彩は、男勝りな鋭い目付きで以て覇王を睨む。
 両腕と両足から紫紺のエネルギー翼を生やしたそいつは、ナンバーズ最後の兵士。
 最高の指揮官であると同時に、最強の戦闘能力を有した戦士。
 その名は――

「最後に残ったナンバーズ、トーレだ。
 彼女は今まで君が戦って来たナンバーズとは違うよ」

 No.3、トーレ。
 スカリエッティの説明は、成程的を射ている。
 確かに目の前のトーレから感じる気迫は、今まで戦った三人とは段違いだ。
 今まで戦った三人は、対峙した所でそこに本物の魂などは感じなかった。
 だが、目の前のこいつは違う。
 自分の意思でこの場に立ち、自分の魂を賭けて覇王を討たんとしている。
 ジリジリと……大気を通して、まるで肌を焦がす様な殺気を感じるのだ。

「成程、確かに今までの三人とは違って、彼女の瞳には魂があります」
「嗚呼、やはり君には解るか。流石カイザーアーツの覇王を名乗るだけの事はある。
 君が見抜いた通り、トーレだけは最初から自分の意思で私に忠誠を誓ってくれているよ。
 だが、それを見抜いた所で、君がトーレに勝てるとは到底思えないのだがね」

 スカリエッティの言葉を引き継ぐように、トーレが言う。

「貴様もまた、ノーヴェ達と同じだ。魂の無い拳が私に届くと思うな」
「何を――ッ!」

 言葉を言い終える間もなく、その身に感じる強烈な衝撃。
 視界からトーレの姿が掻き消えた、とか、そういう事を感知する暇は無かった。
 油断した一瞬の隙に、気付けば強烈な膝打ちが覇王の叩いていた。
 反射的に腕でガードの姿勢を作れたのは、せめてもの幸いか。
 跳び膝蹴りを受けた覇王は――

950 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:29:41 ID:D5cW9/Q.0
 




 見上げれば、空の上には大きく輝く二つの月。
 その更に向こうで煌めくのは、儚い煌めきを放つ無数の惑星。
 肉眼でも確認出来る通り、ミッドチルダから見える星空は非常に美しい。
 この星自体が、宇宙に輝く他の惑星と距離的に近い位置にあるからだ。
 そんな事実を知ってか知らずか、ヴィヴィオは不意に呟いた。

「星空、綺麗だね」

 グラウンドに寝そべりながら、瞳を輝かせる。
 練習試合はもう終わって、今は二人揃って休憩中だ。
 ノーヴェとの組み手はそれなりにハードで、暫くは手足が動きそうな気がしない。
 一方で、ノーヴェの方も相当疲労したらしく、ヴィヴィオの横で寝そべっているのだが。
 二人揃って力が抜けた様に身体を大の字に広げ、満点の星空を瞳に映す。

「この辺は丘になってるからな。空に近いんだよ」
「そうなんだ……じゃあ、星空が見たいなら絶好の場所なんだね」
「まあ、もう少し田舎を探せば、もっと綺麗なトコもあるんだけどな」

 現実味を帯びたノーヴェの言葉に、思わず苦笑いする。
 確かに、この辺はミッドチルダでも割と都会な方だ。
 空気だって特別綺麗な訳ではないし、街自体が非常に明るい。
 それも手伝って、確かに星空は田舎よりは見えないかも知れない。

「だけど、なのはママはこの街で、この空を見てたんだよね」
「まぁ、そうなるな」
「この空を、なのはママは好きだったんだよね」
「娘のお前がそう言うからには、そうだったんだろうな」
「えへへ……この景色をなのはママも見てたんだって思うと、何だか嬉しくなっちゃうな」

 今見ている景色は、母が見ていたものと同じ景色。
 寝そべったまま、紅と翠の双眸にこの美しい星空を焼き付ける。
 そうしていると、うさぎのクリスもまた、ヴィヴィオに習ってじっと星空を見上げるのだ。
 生まれたばかりのクリスはまだ知らぬ事だが、ヴィヴィオが大好きなママは、この空を愛していた。
 自分の翼で、まるで自分の庭とでも言わんばかりにこの空を飛び回った。
 事実、空でのなのはは無敵と云われていたし、ヴィヴィオだってそう思う。
 この大空を飛び回るなのはママは誰よりも強くて、カッコ良かったのだ。
 あの純白の勇姿は、今でも変わらず、まるで昨日の事の様に思い出せる。

「こうして綺麗な星空を眺めてると、なのはママが空を好きだったっていうのも納得出来るな」
「そりゃあ、空のエースって呼ばれてたくらいだからな。やっぱ空には人一倍思い入れがあったんじゃねーかな」
「うん、わたしもそう思うよ」

 なのはがどんな想いで空を飛んでいたのかは、今となってはもう誰にも解らない。
 だけど、そこに並々ならぬ思い入れがあったのだと言う事は、容易に想像出来る。
 人間と言う生き物は、情熱がなければ生きてはいけない。
 何かを極めんとする人にとって、情熱とは絶対に欠かせない要素の一つだからだ。
 魔法に対して、空に対して。誰にも負けない情熱があったからこそ、なのはは強くあれた。
 そんな強く、気高い母を、ヴィヴィオは誰よりも何よりもカッコ良かったと、今でも断言出来る。
 だからこそ――ヴィヴィオもこの空に、一つの目標を掲げる事が出来るのだ。

951 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:30:15 ID:D5cW9/Q.0
 
「わたしもね、この空は好き。強くなろうって思えるから」

 空に向かって、右手を伸ばす。
 こうして掌を突き出せば、星空にも届きそうな気がして。
 そんなヴィヴィオを見たノーヴェが、ふっ、と微笑んだ。

「お前の母さんみたく、か?」
「うんっ!」

 満面の笑みで首肯する。
 今でも大好きな、固い絆で結ばれた母。
 きっと一生変わる事の無い、一番大好きな人。
 彼女の存在自体が。そして、彼女の娘で居られる事自体が、ヴィヴィオにとっての誇りなのだ。
 母の様に強くなると言う目標を持てる事も、いつかは母を越えるという野心を持てる事も。
 そのどれもが、今のヴィヴィオをヴィヴィオたらしめる誇りと自信たり得るのだ。
 だから、これだけは胸を張って言える。

「わたしは、なのはママの娘なんだ」

 例えもう二度と会う事叶わなくとも。
 例え幾星霜の月日が流れて、母の年齢を越えたとしても。

「わたしが大人になっても、それだけは絶対に変わらないから」

 だからこそ、ヴィヴィオの胸中には一つの決心がある。
 未来という時間は、これから自分の手でいくらでも変えてゆく事が出来る。
 だけど、記憶という時間は……掛け替えの無い想い出は、絶対に変わらない。
 なればこそ、大好きななのはママとの想い出を。
 心の中で響き続ける、誰よりも優しかったママの声を。
 覚えてるままずっと、未来の果てまで連れて行くのだ、と。

「なのはママの娘だって事、えへんと胸を張れる様に……強くなるんだ、これからも」
「んー……その心掛けは立派だが、ちょーっと生意気だな?」
「にゃっ!?」

 こつん、と額に小さな痛みを感じた。
 犯人は言うまでもなく、いつの間にか起き上がって居たノーヴェだ。
 年下の妹をからかう様な笑みで、右の拳で作った拳骨を見せる。
 先程の練習試合では相当な力を感じた拳が、今はこんなにもか弱く見えるのが不思議だった。
 ようやく動く様になった―まだ痛む―身体を起こして、ノーヴェを見上げる。

「もう、いきなり何するのー!?」
「ったく、強くなりたいからって初めての練習試合でここまでやる奴があるかってんだ」
「それはそうだけどー……うぅ、せっかくいい事言ったと思ったのにぃ〜……!」
「まずは自分の体力やペース配分を把握しろ。いい事言うのはそれからだ」
「にゃぅぅ、ごめんなさーい……」

 確かにノーヴェの言う通りだった。
 強くなりたいのはいい事だが、だからと言って無理をしては本末転倒。
 本当の強者は、自分の体調や体力を常に把握して戦うものだ。
 しゅんとして俯くヴィヴィオの頭に、ぽふっ、とノーヴェの手が乗せられた。

「わかればよろしい。そんじゃ、帰るか」

 にかっと微笑むノーヴェ。
 ヴィヴィオもまた、柔らかな笑みを浮かべて大きく首肯する。
 そういえば、家を出る時にもフェイトママと約束したのだ。
 練習するのはいいが、あまり遅くならない様に、と。
 付き添いの保護者たるノーヴェの顔に泥を塗らない為にも、約束は守らねばならない。
 人との約束は守る。大好きななのはママの娘で居続けたいなら、それを無下にする訳にも行かない。
 そんな思いを胸に帰路に着いたヴィヴィオを、相棒たるうさぎはそっと見守るのだった。

952 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:38:12 ID:D5cW9/Q.0
 




 広いラボとは言え、彼女ら二人による戦場としては些か狭く感じられる。
 びゅおん、と風が唸る音は、しかし第三者にとっては耳を劈かれる程の高音であった。
 トーレが紫の閃光となって駆け抜ければ、覇王が床を蹴って、縦横無尽に跳び回る。
 二人が動く度に研究室に設置された備品が破壊されてゆき、戦闘の傷跡が刻まれてゆく。
 研究品は地べたへぶち撒けられ、ガラス類は音を立てて割れ、照明は破裂して無くなる。
 これで何度目の接触になるだろうか。
 大股で飛び跳ねた覇王と、音速を越えたトーレが接触した。
 どごんっ! という不吉な音と共に、覇王の腹部に強烈な一撃が叩き込まれる。
 それが蹴りか、拳か、はたまたそれ以外の何かか、なんて事は解りはしない。
 何の加速手段も持たない覇王では、トーレ相手にはハンデが大きすぎる。

「はっ……はぁっ……はぁ――」

 息も絶え絶えに、覇王がフラ付く脚で床を踏み締める。
 頭部に装着していた漆黒のバイザーはとうに破壊された。
 騎士甲冑は腹部から大きく裂け。
 スカートやソックスは切り傷だらけ。
 手甲はひび割れ、腕だって切り傷だらけだ。
 白い素肌をあちこち露出させるも、それは赤い血液によって汚れて見える。
 肩口から滴り落ちる血液を手で押えながら、覇王は揺れる視界で前を見据える。
 蒼と紺のオッドアイが、紫の閃光を捉えた――

「ハ――っ、ぐぅ!」

 紫の閃光に向けて、覇王の拳を叩き込んだ。
 同時に閃光は掻き消えて、拳に鋭い痛みが走る。
 今の一撃で、右腕に装着していた手甲がばらばらに砕けた。
 かつん、と音を立てて落下した手甲だったものなど意にも介さず、方向転換。
 180度身体を回転させ、両腕でガードの姿勢を作る。

「――ッ!」

 感じたのは衝撃。
 鋭いのか鈍いのか、今はもう解らない痛みを両腕に感じ。
 気付いた時には自分の身体は大きく後方へと吹き飛ばされていた。
 がしゃん! とけたたましい音を響かせて、覇王の身体が後方のデスクに叩き付けられた。
 何に使うのかも良く解らない研究資料が散らばって、覇王の眼前で舞う。
 眼前の紙切れを振り払い、覇王はそれでももう一度立ち上がった。

「どうやらそれなりの根性はあるようだねぇ、覇王」

 嘲笑う様なスカリエッティの声が聞こえた。
 蒼と紺の双眸(オッドアイ)に白衣の男を捉えて、しかし今はトーレの襲撃に備え、拳を握り締める。
 戦えば戦う程、攻撃を受ければ受ける程、戦いという行為そのものに没頭してゆくのが解る。
 しかし、これで良く解った。どうやら自分は、こういう人種らしい。
 戦いの中でしか自分を見出せない、どうしようもない戦闘狂。
 戦えば戦う程、使命感よりも自分自身の本能が暴れ出す。
 靄が掛かって居た感覚は、今では随分と敏感に感じる。
 そうだ。これが……これこそが、本当の覇王の戦い。
 忘れようもない、この感情こそが、本当の自分なのだ!

「――ツァッ!」

 左脚を軸に、振り上げたのは覇王によるハイキック。
 右足の甲が紫の閃光を捉えたかと思えば、覇王のブーツはボロボロに引き裂かれていた。
 右足のソックスは最早細切れとなって消え、白く細長い脚を守るものは何もない。
 血まみれになった右脚が床を踏み締めるよりも先に、覇王の身体に激痛が走る。
 腹部に酷く重たい一撃を受けて、それを痛みと捉える頃には自分の身体は床を転がって居た。
 くの字に折れ曲がった身体は、何度か床にたたき付けられて、止まる。

953 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:41:23 ID:D5cW9/Q.0
 
 左脚を軸に、振り上げたのは覇王によるハイキック。
 右足の甲が紫の閃光を捉えたかと思えば、覇王のブーツはボロボロに引き裂かれていた。
 右足のソックスは最早細切れとなって消え、白く細長い脚を守るものは何もない。
 血まみれになった右脚が床を踏み締めるよりも先に、覇王の身体に激痛が走る。
 腹部に酷く重たい一撃を受けて、それを痛みと捉える頃には自分の身体は床を転がって居た。
 くの字に折れ曲がった身体は、何度か床にたたき付けられて、止まる。
 
「これは面白いなぁ。少しずつトーレの動きに追い付いているようだが、もうボロボロじゃないか」

 スカリエッティの笑い声。
 耳障りな笑いを聞き流して、それでも覇王は立ち上がる。
 普通なら到底立ち上がれない程のダメージを受けて、それでも。
 やがて白衣の標的を守る様に、トーレがしゅたっと着地した。
 それも余裕の態度で、で。ナンバーズ最強と謳われた面目躍如であろう。
 しかし、それでも覇王は砕けない。覇王の意思は砕かれない。
 濃紺のナンバーズスーツをギラつく双眸で睨み付け、不敵に構えて見せる。

「……どうやら、まだ何か秘策でもあるようだね」
「いえ、そんなものはありません」
「ほう、ならば諦めでもしたのかね」
「御冗談を。覇王の悲願を成し遂げるまで、私は諦める訳には行きません」
「成程、覇王は単なる戦闘狂(バトルマニア)か」

 違いない。
 戦闘の中で、こんなにボロボロにされてすら、楽しいと思える自分が居る。
 これは誰に植え付けられた感情でも無い。自分自身の、自分だけの確固たる意志だ。
 目の前にこれだけ強い敵がいるのだから、自分には覇王の力を見せつける義務がある。
 この程度の相手に、覇王がただやられるだけであって良い訳がないのだ。
 そうだ。覇王は、ベルカ最強の王でなければならないのだから――!

「私は貴女を倒し、証明しなければならない」

 覇王が最強である事を。
 覇王に負けなどありえぬ事を。
 そうだ。自分はその為に生まれて来たのだから!

「それが、あの人と、私の悲願――!」

 嗚呼、今ようやく解った。
 これこそが、自分の望みなのだ。
 本能が求めて止まない、この身体に刻まれた記憶。
 この悲しい記憶は、覇王の悲願を成し遂げんと、燻っているのだ。
 なれば、どうしてこんな所で負けていられようか。
 そうだ。自分はここで立ち止まる訳にはいかないのだ。
 自分が自分である為に、見失った自分を取り戻すために!

「そうだ、だから、わたしは!」

 蒼と紺のオッドアイを、カッと見開いた。
 ゆらりと構えをとり、ボロボロになった拳をトーレへと向ける。
 ここからが本当の戦いだ。ここからが、本当の自分だ。
 そう言わんばかりに、大きく息を吸い込んで、

「アインハルト・ストラトス――参ります!」

 高らかにその真名を宣言した。
 アインハルト・ストラトスとは、覇王の記憶を受け継ぎし者。
 覇王の悲願をその拳に秘めて、揺るがぬ最強を追い求める少女。
 その拳を握り締め、紫の閃光となったトーレの襲撃に備える。
 強烈なまでの殺気が急迫して来るのが、加速能力の無い自分にも解る。
 そこに拳を突き入れて――だけどそれは、すぐに痛みへと変わった。

「――ぐぅっ!?」

 一瞬の出来事だ。
 拳が閃光を捉えたかと思った矢先、感じた衝撃は痛みとなって全身を駆け巡る。
 緑と白の胸部に強烈な打撃を叩き込まれて、見に纏っていた騎士甲冑が破れ裂ける。
 かろうじて見えてはいけない箇所は露出していないものの、それでも随分と露出の多い姿になってしまった。
 胸も、腹も、手も、脚も、そのあちこちから赤の血に彩られた生肌を晒して。
 だけど、今度は倒れる事無く、折れてしまいそうな華奢な脚で、床を踏み締め。

954 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:46:18 ID:D5cW9/Q.0
 
「…………?」

 流石にスカリエッティも不自然に感じたのだろう。
 眉根をぴくりとひそませて、えも言われぬ不快感に、焦慮の色を浮かばせる。
 そんなスカリエッティを見るや、アインハルトはまたも不敵に瞳をギラつかせ。
 スカリエッティの傍に着地したトーレを鋭く睨み付け、

「貴女の拳法、見切らせて頂きました――!」

 ぐっ、と拳を握り締め、そうのたまう。
 音速で動ける者と、常人の速度でしか動けぬ者。
 その二人がぶつかりあって、後者が勝てる訳などない。
 あの博士だってそう思ったからこそ、トーレを最後の切り札としたのだろう。
 実際、かつて一度だけ敗れたのも、同じく音速で動ける魔道師が相手であったからだ。
 何の加速力も持たないアインハルトに、勝利する道理などあり得ない。
 ――筈だった。

「貴様……言うに事欠いて“見切った”だと? その程度の速度で、私をナメているのか」

 トーレが、苛立ちの視線をぶつける。
 だれど、そんな苛立ちなどは意に介さず。
 意識を集中させて、構えを取る。
 再びトーレが音速を越えた時こそが、勝負だ。
 周囲の殺気全てに意識を尖らせて――トーレの姿が、掻き消えた。
 ――今だ!

「勝負ッ!」

 高らかに宣言し、拳を突き出す。
 最早何度目になるかも解らない両者の激突。
 音速を越えたトーレと、アインハルトの拳が接触した。
 めき、と……耳朶を打つのは、何かが壊れる際の破損音。
 アインハルトの表情に、僅かな余裕が浮かんだ。

「な……にぃッ!?」

 アインハルトの両手が、トーレの両の拳を握り締める。
 刹那、トーレの両腕に装着されていた手甲が粉々に砕けて、地へと落ちてゆく。
 エネルギー翼を展開する為に使用していた手甲が、今完全に破壊されたのだ。
 光の翼を失ったトーレに、これ以上の音速稼働は不可能――!

「ハァッ!」

 アインハルトの掌が、トーレの両手を叩き落した。
 未だ瞠目したままのトーレの顔面を、覇王の拳が強打する。
 初めての反撃。初めての、確かなダメージを伴った反撃。
 鮮血を吐き出したトーレが、数歩後じさる。

955 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:51:38 ID:D5cW9/Q.0
 
「貴様ッ……最初からこれを!」
「ええ、砕かせて頂きました。貴女の加速の原動力――!」

 アインハルトは、最初からこれを狙っていたのだ。
 音速で動くトーレに打撃を叩き込まれるだけに見えて、実はそうではなかった。
 少しずつ、少しずつ、その動きはトーレに追い付く様になってゆき。
 加速の原動力が、全身に装着された光の翼なのだと気付いてからは、早かった。
 敵が攻撃の為に切迫する一瞬ごとに、少しずつ覇王の拳で打撃を与え。
 ついに今、この瞬間、トーレのインパルスブレードをこの拳で砕いたのだ。

「貴様ァッ……!!」

 しかし、それでもトーレの速度は常人を遥かに超えていた。
 尋常ならざる速度で飛び込んで来たトーレが、その拳を突き出す。
 それに対しアインハルトもまた拳で返し――拳と拳が激突した。
 トーレが次の行動を起こす前に、アインハルトがもう一方の手でトーレの拳を叩き落す。
 しかし、流石にそう上手くは行かぬもの。

「――ツッ!!」

 それは果たして、どちらが上げた声なのか。
 トーレの顔面をアインハルトの拳が殴りつけた。
 アインハルトの腹部にトーレのアッパーが叩き込まれた。
 二人の拳はほぼ同時。二人揃って後方へと跳び退り、それでも構えて立って見せる。

「「ハッ!」」

 二人が大地を蹴ったのもまた、ほぼ同時であった。
 再び急迫した二人は、凄まじい速度で拳の応酬を繰り返す。
 攻める為、守る為、受け流す為。目にも止まらぬ速度で二人の拳がぶつかり合う。
 しかし、お互いに少しずつ打撃がヒットしているのもまた、疑いようのない事実。
 先に力尽きた方が負ける。そんな消耗戦が延々と続いて――やはり変化は、唐突に訪れる。

「――っ!?」

 戦場に、ぱきっ、と響く破壊音。
 小さな音に始まった破壊音は、やがて大きな音へと変わってゆき。
 次の瞬間には、トーレの太腿に装着されて居たインパルスブレードが砕け落ちた。
 床に当たってかつん、と音を立てるインパルスブレードなど意に介さず、アインハルトは攻撃を続ける。
 二人の攻撃は最早並の人間では着いて行けぬレベルだ。
 故にアインハルト以外の誰もが気付かなかった。
 打撃の応酬の中で、少しずつ残ったインパルスブレードにもダメージが蓄積されていた事を。
 そして、それに気付いたアインハルトが、少しずつ打撃を突き入れ、これを破壊した事を。
 両の脚の機動力を大幅に奪われたトーレの動きが、一瞬とは言え鈍った。
 好機だ。アインハルトの裏拳が、拳の弾幕を掻い潜って、トーレの顔面を強打した。
 鼻孔から血を垂らして、トーレが大きく後ろに倒れ込む。
 アインハルトもまた、一歩引いて、ゆらりと構えを取り直した。
 むくりと起き上がったトーレが、恨めしげにアインハルトを睨み付ける。

「貴様、私のスピードに着いて来るとは――!」
「言った筈です、貴女の拳は既に見切ったと!」

 お互いに間合いを取り合い――同時に駆け出す。
 再び肉薄し、しかし今度は先程までとは違う。
 最早トーレがアインハルトの拳に完璧に対応し切る事は無く。
 動きの鈍ったトーレでは、繰り出した拳の半分近くを防ぎ切れない。
 打ち漏らしたアインハルトの拳はトーレの身体を打撃し、その度にダメージが蓄積されてゆく。
 寧ろ、ここまでやって立って居られるだけでも、相当な精神力を持っていると言える方だった。
 トーレの血とアインハルトの血が絡み合って、最早お互いの拳に着いた血はどちらのものなのかもわからない。
 血で血を洗うこんな戦いに終止符を打たんと動いたのはアインハルトだった。

「ハッ!」
「――!?」

 トーレが拳に気を取られ、全てのガードを一点に集中させた。
 好機再び。これを隙と見たアインハルトは、トーレの身長程まで跳躍し。
 空中から振り下ろす、強烈な回し蹴りが、トーレの頭部を抉らん勢いで叩き付けられた。
 今の一撃で、トーレの身体がぴくりと痙攣したかと思えば、そのまま宙へと浮かぶ。
 未だ奴に意識があるのかどうかは解らない。だけど、勝負を決めるなら今だ。

956 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 14:55:51 ID:D5cW9/Q.0
 
 最早ボロボロになったブーツで、床を踏み締める。
 ギャリギャリ、とブーツと床が擦れる音が響いて。
 拳を構え、一気に倒れ込もうとするトーレの懐に飛び込んだ。
 この戦いに終止符を打つに相応しい、現状における最大威力の必殺技。
 古代ベルカの覇王の影をこの身に重ねて、アインハルトは跳んだ。
 そして――!!

 ――断 空 覇 王 拳 !

 歯を食いしばり、心中で裂帛の絶叫を迸らせる。
 ここに輝く無敵の拳。目に物見せるは覇王流。
 これこそが、最強にして最大の最終奥義だ!

「カッ――ハァッ!」

 白目を剥いたトーレが、血液やら胃液やらを含んだ体液を吐き出した。
 どごぉんっ!! と言う壮絶な音と共に、アインハルトの拳がトーレの腹部を抉ったのだ。
 空気を寸断し、相手を確実に仕留めるだけの威力を持った覇王の最終必殺技。
 それをまともに受けたトーレは、これ以上ぴくりとも動かず地面へと落下していった。

「はぁ……はっ……はぁっ……はぁ……!」

 瞬間、どっと疲労が押し寄せる。
 今まで蓄積されて居たダメージが、大挙して押し寄せて来る。
 状況を一言で言うなら、立って居るのもやっと、と言った所か。
 全身ボロボロに敗れ壊れた騎士甲冑を、赤黒い血で汚して、がくりと膝を下ろす。
 血に膝をついて、全身に感じる寒気を振り払う様に、蒼と紺の双眸で前を見据える。
 そんなアインハルトの耳朶を打ったのは。

「いやぁ、強い強い。まさかここまでやるとは思わなかったよ」

 ぱち、ぱち、ぱち、と。
 手を叩きながら、歩を進めるのは当初の標的、スカリエッティだ。
 最後の切り札たるトーレが敗れたというのに、その表情には一切の陰りがない。
 まるでまだまだ隠し玉はありますよ、とでも言いたげに――悠然と歩を進める。
 アインハルトは憮然とした態度で、それでも再び立ち上がった。

「しかし、残念ながら君のファイナルゲームはまだまだこれからだ」
「何……を――」
「そう驚くこともあるまい。私が何もせずに終わる男に見えるのかね?
 いやしかし、君がここまで強かったのは私にとってもある意味僥倖だよ。
 もしもトーレが勝って居たら、折角用意した最後のゲームが無駄になってしまう所だったからね」

 負け惜しみ、という訳でもなさそうだった。
 最早立つ事すらもままならぬアインハルトに対してゲームとは、如何なる了見か。
 とはいえ、まだスカリエッティを叩き潰すだけの力くらいは残っている筈だ。
 体中から力を振り絞れば、目の前の博士を血祭りに上げるくらいは出来よう。
 ずん、と脚を踏み出し、下手を起こされる前にとスカリエッティへと歩み寄る。

「おっと、安心してくれたまえよ。私にこれ以上戦うつもりはないさ
 デスゲームの主催陣営対決においては、どうやら私の負けのようだ。それは認めよう」

 極めて愉快そうに笑いながら、

「しかし、私一人で終わる訳じゃあない。君に最後のゲームに参加する資格を与えようと思う」

 手元のコンソールを叩いた。
 既にセッティングは完了していたらしい。
 ボタンひとつで、異変は起こった。

957 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:03:54 ID:D5cW9/Q.0
 
『自爆装置作動。10分以内に退去して下さい。繰り返します――』

 最初は、まるで意味が解らなかった。
 突如として鳴り響いた警報と、今も成り続ける警告音声。
 赤いアラートランプに照らされたアインハルトは、碧銀の髪を揺らして、白衣の男に視線を向ける。
 瞠目だ。何が起こったのか、何を考えているのか、さっぱり解らない、と。
 そんな思いを、未だ幼さの残った表情で訴えかける。

「おや、何を驚いているのかね。君はプレシアの最後の駒だろう?
 つまり、君が死んだ時点で私もプレシアもゲームオーバー……そういう事だ」
「理解、出来ません……」
「ならば些か解り易くしてみよう。私はここで君に殺される。
 だが、どうせ死ぬなら、君を道連れに逝く。どうだね、解りやすいだろう?」
「理解……出来ません……」

 ここで、自分は死ぬのか?
 そんな事、容認できる訳がない。
 自分にはまだ、覇王の悲願を成し遂げると言う大義名分が残っているのだ。
 それまで死ぬ訳には行かないし、戦いに勝ったのに死ぬとあらば尚更理解出来ない。

「だが、ゲームである以上はフェアでなければいけない。君にはまだ最後のチャンスがある」
「チャン、ス……?」
「ああそうだ。10分……いや、9分程度か、残された時間はまだあるのだよ?」

 次の瞬間には、アインハルトは踵を返していた。
 身体は重たい。動かせば激痛に肉が張り裂けてしまいそうになる。
 だけど、それでも、ここで死ぬのだけは、絶対に御免だ。
 どうせあの馬鹿男は、スカリエッティは放っておいても死ぬ。
 ならば、自分は生への道に向かって、最期まで足掻いてみせる。
 先程自分が蹴破ったドアを大股で跳び越して、アインハルトは真っ直ぐに走り始めた。

958 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:04:33 ID:D5cW9/Q.0
 




 赤のランプに照らされながら、狂気の科学者は嗤う。
 最後のゲームは、彼の興味をそそる最高のシチュエーションだ。
 戦いには勝ったと言うのに、敵と一緒に心中しなければならない。
 これ程までに覇王に屈辱を与えられる遊戯が、他にあるだろうか。
 それは性格の歪んだスカリエッティらしい、悪質な趣向だった。

「尤も、君は彼女の事などどうでも良いんだろうがね……プレシア」

 くつくつと笑い、スカリエッティが一人ごちる。
 最後のゲームとは即ち、残り時間でアインハルトが脱出出来るかどうか、だ。
 しかし、このアジトの構造を考えるなら、手負いの彼女が10分足らずで脱出する等不可能。
 仮に手負いでなかったにしろ、10分では外まで脱出出来るかどうかも解らない。
 先程自分はこう言った。「ゲームはフェアでなければいけない」と。
 しかし、実質的にこれは先の見えたワンサイドゲームだ。
 そこにフェアという言葉など皆無。
 所詮は建前に過ぎない。

 だが、それは所詮悪足掻きだ。
 自分にも嫌という程解って居る。
 しかし、結果だけで見れば、プレシア側もスカリエッティ側も残存兵力は0。
 最後の切り札として送り込んで来たアインハルトが死んだ時点で、プレシアの駒は無くなる。
 自分が死んだ時点でこちらの駒も無くなるが、なに、別に構う事は無い。
 最後のゲームで、最期のどんでん返しが出来たと思うだけ、良しとしようではないか。

 爆発の瞬間が、刻一刻と迫る。
 このラボを中心に、全ての証拠を隠滅する為に用意された起爆装置だ。
 爆発すれば、ここに至るまでの洞窟も完全に崩れ去り、アインハルトは生き埋め。
 晴れて証拠は完全消滅、残った兵力も一層出来て、デスゲームは完全なる終焉を迎える。

「思えば長かったなぁ……」

 一人感傷に浸る。
 デスゲームにこぎつけるまで、スカリエッティもプレシアも、かなりの苦労を要した。
 全ての参加者を集める為に干渉した次元・時空は実に20を越える。
 プレシアは余裕綽々の態度で貫いた様だが、実際はそうではない。
 いかにプレシアと言えども、それに掛かった時間と苦労は莫大なもの。
 彼女と手を組んだあの日、企画段階から数えれば今この瞬間は四年目となる。
 と言っても、この世界でスカリエッティが脱獄したのは数ヶ月前、という事になっているのだが。
 実際の所、スカリエッティは脱獄してから四年間の間、別の時空でプレシアと共に計画を練っていたのだ。
 このアジトは、デスゲームの開催に合わせて、兼ねてから想定していた「乗っ取り計画」の為に、この世界にこしらえたもの。
 どうやらこのアジトの存在も、最初からプレシア側には筒抜けであったようだが。
 何はともあれ、四年間虎視眈眈と目論み続け、ようやく開催出来たデスゲーム。
 それが今、こうして完全に終わるというのは、非常に感慨深い。
 それも一重に、アルハザードへの果てなき欲望があったらばこそだ。
 アルハザードの技術が欲しいと、ただその一点だけでスカリエッティはここまで粘り続けて来たのだから。
 だけど、ここまで来れば最早そんな事はどうでもいい。
 どうせ自分はここで死ぬのだ。
 ならばせめて、最後くらいは悪の科学者らしく。
 そう思って笑おうとするも。

「嗚呼、欲しかったなぁ……アルハザードの遺産」

 だけど、やはり欲望は消しきれるものではない。
 死を覚悟した所で、あれ程までに渇望した欲が消える訳も無く。
 最期の瞬間まで、乾いた笑みを漏らし――アジトの爆発が始まった。

959 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:16:45 ID:D5cW9/Q.0
 




 自分は誰だ。
 名前は、アインハルト・ストラトス。
 覇王の身体に、碧銀の髪、蒼と紺のオッドアイ。
 聖王と対となる、古代ベルカに覇を成した列強の王。

 自分は、何の為に戦っていた。
 スカリエッティの抹殺? 否、違う。
 そんな事は本当は、どうだって良かった筈だ。
 自分はただ、届かなかった覇王の拳を、その悲願を。
 今度こそ、現代で叶える為に生れて来た。
 覇王の悲願は、今だってこの胸で息づいているのだ。
 自問自答の末に、ようやく一つの答えが見つかった気がする。

 嗚呼、これで、自分は少しだけ楽になれるのではなかろうか。
 身体はまるで鉛になったみたいに重くて、まるで人形になったみたいに力が入らない。
 だけど、生きている。自分はまだ、この世界で生きているのだ。
 風の音を感じる事も出来るし、五感だって生きている。
 自分の血の匂いを嗅覚で捉え、生を実感する。
 アインハルトは、まだ重たい瞼を薄らと開いた。

 見渡す限り、緑の大地だった。
 木々は鬱蒼と生い茂り、野生動物達は野を駆け回る。
 トーレとの激戦など嘘の様に。それはあまりに自然豊かで、平和な光景だった。
 気付けば自分の「武装形態」も解除され、身体は元の子供の姿に戻って居る。
 身体の至るところから血を流し、白いブラウスも赤く汚れてしまっていた。
 だけど、生を実感する今、この瞬間だけは、先程の戦闘を忘れられる。
 先程までの戦闘など、最早完全に過去の出来事の様に感じられた。

「ここは……私は一体」
「あら、気がついた?」

 見知らぬ人の声だった。
 振り向けば、そこに居るのは管理局員らしき人物。
 管理局に知り合いなど居ないし、それが誰かなど知る筈もない。
 だけど、その人は自分に優しく微笑みかけてくれた。
 風に靡くオレンジの髪を押えながら、周囲の武装局員達に指示を出す。
 未だに何が起こったのかも解らず瞠目するばかりの自分に、管理局員の女が告げる。

「どうやらここが脱獄したスカリエッティのアジトの様ね」
「スカリ、エッティ……そうだ、スカリエッティはどうなって……」
「この爆発じゃ、もう助からないでしょうね……残念だけど」

 瞬間、肩の荷が降りた気がした。
 何はともあれ、これで自分は任務を果たした。
 誰に植え付けられた任務なのかも、今はまだ解らないが。
 少なくとも、これでスカリエッティ討伐の任務に縛られる事はなくなるだろう。
 だが、ここで一つ、小さな疑問が残る。

「私は、どうして助かったのでしょうか……?」
「アジトに向かう途中の洞窟で貴女を保護したのよ。
 最初は目を疑ったわ……こんなにボロボロになって……」
「……貴女が、助けてくれたんですか?」
「まあ、そうなるわね。もう間に合わないかもって思ったけど、何とか助けられた様で、安心したわ」
「何故、見ず知らずの私の為に……」

 理解出来ない、とばかりに告げた。
 あの状況、既に爆発寸前だった筈だ。
 きっと無理をして助けてくれたのだろう。
 どんな手段を使ったのかは知らないが、それでも、見ず知らずの自分の為にそこまでする人が居る。
 その事実自体がまだ幼いアインハルトにはまだ理解出来なかったし、腑に落ちない点でもあった。
 アインハルトの問いに、女は一瞬躊躇う様な素振りを見せて、

「今頃何処行ってんのかは知らないけど、あいつなら倒れてる人を見捨てはしないと思って、ね」
「あいつ……?」
「あぁ、いいの。こっちの話」
「そう、ですか」

 余計に訳が解らなかった。
 だけど、それ以上訊くのは野暮な気がして、口を閉ざす。
 誰かは知らないが、この女局員にも、何か訳があるらしかった。
 そうこうしていると、女局員は別の局員に呼ばれ、アインハルトの視界から居なくなった。
 ようやく一人になって、考える。

 自分は今まで、ずっと何をしていたのだろうか、と。
 長い間、何か悪い夢でも見せられていたような気がする。
 だけど、今はどういう訳か、その夢からも解放されて――
 これからは自由に、自分の力で未来を歩んで行ける。
 そんな気がする。

「覇王の悲願を、成し遂げる為に――」

 未だ痛む拳を掲げ、グッ、と握り締めた。
 これが自分の進む道だと、宣言する様に。

960 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:23:14 ID:D5cW9/Q.0
 




 ヴィヴィオとノーヴェは、夜の街を闊歩する。
 他愛もない雑談を繰り広げながら、ヴィヴィオの家に帰る為に。
 ヴィヴィオは思う。ノーヴェは本当はとても優しいお姉さんなのだ、と。
 男勝りな口調で、時には厳しい時もあるけれど、正しく自分を導いてくれる。
 そんな彼女が、今日一日ヴィヴィオの為に付き合ってくれた事。
 それから、こんなに疲れるまで練習に付き合ってくれた事。
 それら全てに感謝の気持ちを込めて、ヴィヴィオは一礼した。

「今日は色々ありがとうね、ノーヴェ」
「ああ、まあ気にすんな。練習試合ならまたいつでも相手になってやるぜ」

 外灯に照らされた遊歩道を歩きながら、二人は笑みを交わす。

「うんっ、わたしはもっともっと強くなるから――これからもよろしくね」
「そんな事は改まって言われるまでもねーよ」

 両手を後頭部で組んで、へっ、と笑いながら言う。
 聞けばノーヴェもまた、遥か高みを目指す為の、修行の途中なのだとか。
 ヴィヴィオの師匠代わりを勤めてはいるが、彼女自身もまだまだ強くなりたいとの事。
 そんな相手だからこそ、共に上を目指す気持ちが解り合えるからこそ。
 この人となら、一緒に高みを目指していきたい、と思えたのかもしれない。
 ともあれ、ヴィヴィオは決めたのだ。
 強くなる。もっともっと、何処までも強くなる、と。
 それがなのはママの言った、ヴィヴィオが自分で決めた“やりたい事”。
 それを貫かんとする限り、なのはママはきっと天国でも笑ってくれる筈だ。
 それは非常に嬉しい事である。
 なのはママが喜んでくれると思えば、頑張ろうと思えて来る。
 だけど、それは他人から見れば些か不自然にも見えるかもしれない。
 何故なら――

「なあヴィヴィオ、一つ訊いていいか」
「うん、なあに?」
「あのさ、無理は、してないよな?」
「え?」

 小首を傾げるヴィヴィオに、ノーヴェは一瞬躊躇う素振りを見せた。
 その瞬間に、何となくではあるが、ノーヴェの言わんとする事が解った気がした。

「その……こんな事言うのは何だが、大好きなママが死んだってのに、全く泣かないしさ」
「…………」
「あっ、いやっ……その、悪いとかって言ってんじゃないんだ! ただ、寂しくないのかなって思ってさ……」

 慌てて両手を振って否定を表明する。
 解って居る。ノーヴェが言いたい事は、解って居るのだ。
 彼女はヴィヴィオを責めようとしている訳ではない。
 ただ単に、本当に心配してくれているのだ。
 出来るだけ平静を保って答える。

「んー、寂しくないって言ったら嘘になるけど」

 だけど、

「もう、決めたんだ。わたしは泣かないって」
「何でだよ……泣きたい時は、泣いたっていいじゃんか」
「わたしはもう、ゆりかごの中で、沢山泣いて来たから」

 実際、この四年間、寂しさに涙する事もあった。
 それは事実だし、今だってなのはママに会いたいと思う時はある。
 ヴィヴィオはこんな子に育ったんだよって、笑顔で報告したいと思う時もある。
 だけど、それは出来ないし、それをすれば、なのはママは果たして笑顔で迎えてくれるだろうか。
 きっと誰よりも強かったあの人は、ヴィヴィオが後ろを振り返る事など望まないのではないだろうか。
 だからこそ、こうしてたまに心の中で大好きなママの事を思い浮かべ、ヴィヴィオはひたすらに前へ進んで行く。
 それだけで十分だ。それだけで、なのはママは喜んでくれる。
 何よりも、そうする事が一番の親孝行の様に思えたから。

961 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:27:42 ID:D5cW9/Q.0
 
「けど、よ……それじゃ寂しいじゃねーかよ」
「うーん、確かに寂しい事かもしれないけど」

 ノーヴェの表情を見れば、何処か辛そうであった。
 かぶりを振って、ヴィヴィオの代わりに歯噛みする。
 この瞬間、この人は本当に心から優しい人なのだな、と思った。
 ヴィヴィオの為にここまで心配してくれて、ここまで辛そうな表情をしてくれる。
 そんな表情を見ていると、不謹慎だろうか、何処か心が温まる気がして。

「けどね、わたしはなのはママに約束したんだ。
 もう泣かないって、強くなって、自分で決めた自分の道を進むんだって」

 それが何度も誓った、母との約束。
 そして、何よりも、ヴィヴィオ自身が決めた事。

「それにね、もしもわたしがいつまでも泣いていたら、なのはママは安心して眠れなくなっちゃうから」

 ……これは、ヴィヴィオがまだ幼かった頃の話だ。
 母の愛に飢えていたヴィヴィオは、夜泣きばかりしていた。
 皆が寝静まった時間になっても、ヴィヴィオだけは寂しさのあまり泣いていた。
 そんな時、優しいなのはママは、いつだってヴィヴィオに付き添ってくれた。
 ヴィヴィオが安心して眠るまで、ずっと抱きしめて頭を撫でてくれた。
 本当は朝早くから仕事だってあったのに。寝不足で辛かった筈なのに。
 あの人は、自分の睡眠時間を削ってでも、ヴィヴィオの為に尽くしてくれたのだ。
 だから、ヴィヴィオが夜泣きをしていたら、なのはママは眠れなくなる。
 だけど、もうこれ以上、ヴィヴィオがあの人の眠りを妨げる事は無い。
 きっと今頃は、なのはママは安心して眠ってくれている筈だと、思う。
 と、そこまで沈思した所で、気付く。
 隣から聞こえる、啜り泣く声に。

「――って!! なんでノーヴェが泣いてるの!?」
「ば、馬鹿野郎、泣いてなんか……ねぇよ!」
「もう、涙拭いてから言いなよー……」

 可愛らしい小さな鞄からハンカチを取り出して、差し出す。
 ノーヴェはそれをひったくる様にして、自分の涙を拭った。
 そんな姿を見て、ヴィヴィオはつい微笑んでしまうのだった。






 なのはママ、わたしの周りには、こんなにいい人が沢山います。
 みんなみんな、わたしの事を心配してくれて、良くしてくれます。
 だからヴィヴィオは今、とっても幸せです。
 なのはママに貰ったものは、今も全部この胸で生き続けているから。
 それを受け継いで、ヴィヴィオはこれから、自分の力で歩いて行くから。
 だからなのはママは、安心して眠っていていいんだよ。

962 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:32:48 ID:D5cW9/Q.0
 




 こうして、一つの物語は幕を閉じる。
 運命の悪戯から、殺し合わされた60の命。
 そんな中で、生き残ったのは、たった一つの幼い命。
 だけど、たった一人でも生き残りが居る以上、物語は終わらない。
 あの戦いを経て生還したヴィヴィオには、無限の未来が待ち受けているのだから。
 

 そう。
 高町なのはに“これから”を託された少女の物語は。
 彼女の人生に大きな影響を与える、本当の物語は。
 これから始まるのだ。


 高町ヴィヴィオが進む、未来へと続く道のり。
 その先に待ち受けているのは、絶対に出会う事の裂けられぬ運命。
 ヴィヴィオが、更なる高みを目指さんとする切欠と成り得る人物は、唐突に訪れる。

 ノーヴェと共に帰路についていたヴィヴィオの前に現れたのは、一人の少女。
 白と翠の騎士甲冑を纏った少女が、目の前の外灯の上に、ぽつんと佇んでいたのだ。
 絹糸の様に美しい―まるでヴィヴィオの金髪と対を成す様な―碧銀の髪は、夜の風に吹かれて靡く。
 蒼と紺の瞳は、ヴィヴィオと同じ……されど、虹彩の違うオッドアイ。
 その視線は、まるで彼女の背後で輝く二つの月の様に美しく。
 二色の月の如く煌めく瞳は、じっとヴィヴィオを見据えていた。
 春の風に吹かれて散った新緑の葉が、二人の間を駆け抜ける。
 あまりにも静寂で、静謐過ぎる時間が流れて――ヴィヴィオは、彼女の姿に心を奪われた。
 それが何故なのかは、結局の所、誰にも解りはしない。
 カッコいいとか、美しいとか、筆舌に尽くし難い様々な感情が駆け廻って。
 紅と翠のオッドアイと、蒼と紺のオッドアイ。
 二人の視線が交差する。

「聖王オリヴィエ……いえ、高町ヴィヴィオさんとお見受けします」
「は、はいっ!」

 思わず敬語が口を突いて出てしまう。
 彼女との出会いは、それ程までに刺激的で。
 右隣に居たノーヴェが、今どんな表情をしているかとか――
 そんな事は簡単に頭の片隅からも消し飛んでしまう程であった。

「私の目的は只一つ。貴女に、確かめさせて頂きたい事があります」

 淡々と語るその口調。
 一語一句聞き逃さずに、耳を傾ける。
 透き通る様な美しい声が、ヴィヴィオの耳に吸い込まれてゆき。
 何を言われて居るのかを理解するよりも早く、彼女がヴィヴィオの眼前へと飛び降りた。
 まるでその、尋常ならざるスタイルの良さを見せつけるかの様に。
 長く美しい脚で、すたっ、とコンクリートを踏み締めて。
 胸の前に拳を当てて、彼女は言った。

「私の名前はハイディ・E・S・イングヴァルト……いえ、アインハルト・ストラトス。
 覇王の拳と聖王の拳、果たしてどちらの方が強いのか……です」

 覇王の名前は、アインハルト・ストラトス。
 碧銀の髪を揺らし、何処か憂いを帯びた口調でそう告げた。
 それは果たして、運命か、必然か。
 ここに出会ってしまった二人の少女。
 それは、古代の王の運命を背負いし少女達。

 二人がこれから、どんな物語を刻んで行くのか。
 それは誰にも解らない。未来は誰にも見えはしないのだから。
 だけど、こうして新たな物語は紡がれて行く。
 それだけは疑いようの無い確固たる事実。

 終わらない明日は、これからも続いていく。
 これはそんな物語の、ほんの序章に過ぎないのだ。

963 ◆gFOqjEuBs6:2011/04/09(土) 15:42:05 ID:D5cW9/Q.0
長い間本当にありがとうございました。
エピローグはこれにて投下終了です。

私自身、様々な思いが混濁しておりまして、もう何と言えばいいのか……という感じです。
何はともあれ、企画段階から数えて4年間続いたこのロワ企画も、これにて終了。
物語のラストを飾るに相応しい「第200話・エピローグ」を任された事は、自分にとっても誇りです。
今でもあれだけ盛り上がった最終話の後を引き継ぐのが自分なんかで良かったのか、
あれだけ盛り上がったロワ企画の最後を飾るのが自分でいいのか、
若干の不安はありますけれど、それでもここまで作品を書かせて下さった皆様には感謝してもしきれないくらいでございます。
これにて生還者のエピローグ、主催陣営の物語にも決着がついて、この企画は一旦終了?という形になるかと思います。
まだ各世界のエピローグが残されているのかどうかは自分にも解りませんが、
まだ続くようなら、自分も最後まで付き合いたいと思っておりますので、皆さまあと少しですが宜しくお願いします。

それから、覇王断空拳はこちらのミスです。推敲した筈が、しょうもないミスを……
3カ月近く待たせてしまったのは非常に申し訳ありませんが、実は何度も書いては消して、
という作業を繰り返して来た為に、もしもカット部分を全部入れたらこれの二倍くらいの長さになっていたかと思います。
ヴィヴィオの進級パーティの描写や、ヴィヴィオVSノーヴェの描写など……まあ、蛇足かと思い省いた訳ですが。

それでは、あとがきもこの辺にしておいて。
皆さま、長い間お付き合い頂き本当にありがとうございました。
書き手の皆さま、読み手の皆さま、これを読んで下さっている全員の力が合わさって、
この企画は完結できたのだと思っております。それでは、また機会があれば宜しくお願いします。

964StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 15:47:24 ID:B.BCZI7kO
投下乙です!
長い間、本当にお疲れ様でした!
最後に相応しい、最高のエピローグです!
本当にありがとうございました!

965StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 15:51:07 ID:NHOSq.i.0
投下お疲れ様です。
今まで本当にご苦労様でした。

966StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 16:35:05 ID:tuIeZVhw0
投下乙です。
なのロワ完全決着!!
でも、ヴィヴィオの物語はVivid的な方向に進むと……

その中でもスカ達の準備期間の4年間が企画期間の4年間と合致させた言葉が感慨深いなぁ……。

あと、個人的にトーレ戦で服がボロボロになるあの人(ネタバレ回避の為伏せる)の姿を考えると劣情催す人がいそうな……(←誰か吹っ飛ばせ)
しかし全200話、更に50話刻みの回は全て単独話(今回も参加者からの登場者はヴィヴィオだけ)、偶然にしては奇跡的な感じがする。
まだ補完出来そうな部分はある気もするけど、何となく蛇足な感じもするしやりだしたらキリがなさそうなのでこれで終わりでもOKだなぁ。

なにはともあれ、エピローグ担当の◆gFOqjEuBs6氏、◆Vj6e1anjAc氏等々多くの書き手、企画を支えてくれた読み手の皆様お疲れ様でした、そして本当にありがとうございました。

967StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 16:38:02 ID:QR21lJpI0
投下乙です!
今まで4年間、本当にお疲れ様です!
そしてありがとうございました!

968StrikerS名無しX:2011/04/09(土) 23:44:31 ID:0I6dQF5Y0
投下乙です
さまざまな思い出を胸に秘めて未来に向かって行くか
ロワでの出来事を糧にしてvividよりも少しヴィヴィオたくましくなった気がする
あとこの話限定でアインハルトマジ裏主人公状態w

そして皆さん今までありがとう&お疲れ様でした!

>>966
>まだ補完出来そうな部分はある気もするけど、何となく蛇足な感じもするしやりだしたらキリがなさそうなのでこれで終わりでもOKだなぁ。
俺も同意見だな
だけどもしも書きたければ外伝扱いにした方がいいと思う
『なのはロワ』の物語はこれで〆にした方が綺麗だし、それにもしも他の世界のその後を書きたい場合そのクロス書き手に一言言うべきだし、
それでもし連絡が付かなくても外伝にすればある程度体裁も整うかと

969 ◆jiPkKgmerY:2011/05/14(土) 23:57:08 ID:9tz52Wzc0
久し振りに見たら完結してたー!
合計200話にも至る作品を書き上げた書き手の皆さま方、そして四年間なのロワを読み続けてくれた読み手の皆さま方、本当にお疲れ様でした。

中盤から全くロワに参加できず申し訳ないの一言です。もっと力添えできたらと悔しさが残るのも、正直なところです。
なのロワは書いていてとても楽しいロワの一つでした。SSの書き手として、学ばせて貰えたことも非常に多かったロワです。
今更ながら本当に完結おめでとうございます!そして、ありがとうございました!

……ああ、リリカルTRIGUNも完結させたいなあ。

970StrikerS名無しX:2011/06/08(水) 21:06:53 ID:drRSzQvAC
よんだけどあまりにもはキャラ崩壊しすぎだな、特にはやてが
今までヴォルケンが廻り合って来た最後の主なのに
stsで自分はグレアムとか様々な人の犠牲などの上に建っているという事に負い目を感じているなど基本的なことがなさすぎて

971StrikerS名無しX:2011/06/08(水) 21:16:04 ID:7Au3vuFw0
ここのはやてはStrikerS終わってからのSS出典だからな
そのヴォルケンがあんな状態じゃなあ
基本的に切羽詰まって手段選んでいられないって感じだから

972StrikerS名無しX:2011/06/08(水) 22:43:04 ID:naSvjkEYC
それにしても…んーやっぱり最早別人としか感じなかった、全部
だからなんか熱い展開があってもなんだかな・・・って思う
茶番劇に

公式じゃない、所詮SSになにいってんだ?って感じだけど・・・

973StrikerS名無しX:2011/06/08(水) 22:53:14 ID:7Au3vuFw0
『魔法少女リリカルなのはFINAL WARS』は読んだんだよな?
それでそう感じたのなら肌が合わなかったのかな

974StrikerS名無しX:2011/06/11(土) 03:12:09 ID:gqaQDMDE0
結構改心するフラグはあった気がするけどな
見事にへし折り続けて暴走したもんだ

しかし個人的には、はやての足掻き続ける様な生き方は
このクロスの見所の一つだったと思ってる

975StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 01:41:58 ID:HRuNvtGE0
あのはやてを原作はやてが見てたら…と考えるだけでも興奮する俺はドSw

976StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 09:18:01 ID:y6s0U52o0
軽くショック受けそうだな
いや、寧ろ少し思うところあるのかな

977StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 11:58:41 ID:9ozd7FHA0
WARSはやては原作はやてと大きく違うが変化の原因である家族への愛とか思い当たる部分があるからな
もっとも、はやて本人よりその周りの知人友人の方がショックデカそうw

978StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 13:48:01 ID:y6s0U52o0
ヴォルケンリッターとかすごい責任感じそう

979StrikerS名無しX:2011/06/20(月) 17:11:37 ID:gVwnH5Dc0
それを想像するだけでワクワクする俺はドSw
セフィロスとかは自分の神聖な存在を穢された感じかな?

980StrikerS名無しX:2011/06/21(火) 20:26:20 ID:3y42jEsU0
そりゃあ満足した状態から参戦させられたからなw

981StrikerS名無しX:2011/06/24(金) 10:59:32 ID:kCUGNouU0
ここも残りレス数20切ったか
雑談は「雑談スレ」でいいとして、残りのエピローグ(あるのかどうか知らないけど)は「仮投下・修正用スレ」でいいか

982StrikerS名無しX:2011/06/24(金) 12:41:51 ID:.yyagUkYO
それで良さそうだな

983StrikerS名無しX:2011/06/28(火) 03:18:23 ID:H4vg29fI0
>978
劇中の夢に出てきたヴォルケンズの表情は、概ねそんな意味だったんだろーな・・・

984StrikerS名無しX:2011/08/05(金) 18:27:56 ID:wdu7lTuQ0
久々に覗いてみて思ったけど
ViVidで「なのはとの戦いで聖王の鎧は無くなった」っていう台詞があったな…二次創作の弊害がまた一つw
まあでも今のヴィヴィオの魔力ってStSの聖王の時のまんまだから別に設定変えなくてもいいかも知れない

985StrikerS名無しX:2011/08/08(月) 21:34:29 ID:BjgOHI2g0
うん、それが判明した時マジで焦ったw

986StrikerS名無しX:2011/09/13(火) 21:32:54 ID:pruAto6E0
連載ものの怖いところだね

987StrikerS名無しX:2011/09/29(木) 09:11:49 ID:N63UKaFc0
あと実は「ヴィヴィオは格闘には向いていない」とかもな

988StrikerS名無しX:2011/10/05(水) 18:35:40 ID:vhyGa4BM0
やっばい、79話〜82話の鬱展開で心が折れそうだ。
一気に3人もマーダー化して、こっからどうなるんだ。

989StrikerS名無しX:2011/10/05(水) 22:08:40 ID:UMuQTKng0
079 月蝕 ◆9L.gxDzakI セフィロス、八神はやて(A's)、アンジール・ヒューレー
080 阿修羅姫 ◆HlLdWe.oBM フェイト・T・ハラオウン(A's)、新庄・運切
081 Amazing Grace(The Chains are Gone)(前編)(後編) ◆Qpd0JbP8YI L、ザフィーラ、アレックス、柊かがみ
082 Deathscythe ◆9L.gxDzakI キング、天道総司、キャロ・ル・ルシエ

この辺か
確かにセフィロス、フェイト、キャロと立て続けに覚醒しちゃったんだなあ

でも鬱展開的観点からすればここよりも後半に……

990StrikerS名無しX:2011/11/02(水) 15:56:12 ID:lYa..Qqk0
ですよね

991StrikerS名無しX:2011/12/01(木) 11:02:07 ID:tenpVYmY0
やっぱり放送越えるとマーダーって増えるんだな

992StrikerS名無しX:2011/12/31(土) 09:35:37 ID:7AX.oOPk0
死亡者と関係ある奴は特にな

993少し頭冷やそうか:少し頭冷やそうか
少し頭冷やそうか

994StrikerS名無しX:2011/12/31(土) 23:34:20 ID:oNcCUbFUO
なのはロワ完結の記念すべき年もあと少しか

995StrikerS名無しX:2012/01/03(火) 17:23:19 ID:zrkZR8NQ0
あけおめ

996StrikerS名無しX:2012/01/13(金) 02:02:24 ID:3ekYBKwQ0
次スレはよ

997StrikerS名無しX:2012/01/16(月) 10:46:23 ID:TNKH0el20
次スレは>>981にあるように雑談は「雑談スレ」で、残りのエピローグ(あるのかどうか知らないけど)は「仮投下・修正用スレ」でいいだろう
もう完結しているんだから

998StrikerS名無しX:2012/01/17(火) 09:34:50 ID:1O4vRLg60
去年の今頃は最終決戦一歩手前か

999StrikerS名無しX:2012/01/18(水) 08:54:42 ID:XyWptDvA0
雑談→雑談スレ ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1241963749/

残りのエピローグ→仮投下・修正用スレ ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1241966311/

1000StrikerS名無しX:2012/01/18(水) 08:55:32 ID:XyWptDvA0
>>1000ならリリカルなのはシリーズをこれからもよろしく




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