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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13

1リリカル名無しA's:2010/03/29(月) 23:42:31 ID:lCNO3scI0
当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。

注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。

企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板」でどうぞ。

・前スレ
したらば避難所スレ(実質:リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ12)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1244815174/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12701/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/

詳しいルールなどは>>2-5

777Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:24:32 ID:tZb6wLm60
【2日目 早朝】
【現在地 D-9 雑木林】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】サイドバッシャー@魔法少女リリカルなのは マスカレード、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートのA、3〜10)、
    RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にし、主催を乗っ取る。
 1.地上本部へ向かい、魔法陣を調べる。
 2.地上本部に集まった参加者達で何か遊んでみる……?
 3.楽しむ事が出来たなら、最終的に金居に封印されても構わない。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※十分だけ放送の時間が遅れた事に気付き、疑問を抱いています。
※首輪が外れたので、制限からある程度解放されました。
※キングが邪魔だと判断した支給品は全て捨てました。


【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、デザートイーグル(4/7)@オリジナル
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK、ダイアKのブランク、スペードKのブランク、コモンブランク)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
    ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
    ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【思考】
 基本:ゲームからの脱出、もしくは主催の乗っ取り。
 1.地上本部へ向かい、魔法陣を調べる。
 2.地上本部に集まった参加者に利用価値がないなら容赦なく殺す。
 3.最終的にキングが自分にとって邪魔になるなら、自分の手で封印する。
【備考】
※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪が爆発しなかったことから、主催側が自分達を切り捨てようとしている可能性を考えています。
※最早プレシアのいいなりに戦う事は無意味だと判断しました。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※金居が邪魔だと判断した支給品は全て捨てました。

【全体の備考】
※以下の支給品をD-9 雑木林に放置しました。
 ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち
 おにぎり×10、菓子セット@L change the world after story、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎
 いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、顔写真一覧表@オリジナル、ガムテープ@オリジナル
 トランシーバー×2@オリジナル、トランプ@なの魂、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル
 首輪の考察に関するメモ、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(アグモン、アーカード、シグナム)
 かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デイバッグ×8

778Uを目指して/世界が終わる前に ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 20:37:24 ID:tZb6wLm60
投下終了です。
いやあ皆さん、2010年は色々とお世話になりました。
気付けば本スレで自作を更新するよりも、こちらの方がホームになっていたとうか。
というか正直ここで書いている時が一番自分らしさを出せている気がするんですよね、自分。
チャットやら何やらで色んな書き手さんと交流を持てたりとか、いい経験も沢山積めましたし。
そんなこんなで、最初はサブのつもりだったけど、気付けば他の何処よりも思い入れが強くなっちゃったんですよね、この企画。
そんな思い入れの強いロワ企画、もうすぐ終わりそうですが、今年も完結に向けて頑張って行きますので、よろしくお願いします。

さて、今回のサブタイトルの「U」は、ユートピア(理想郷)、アンデッドの二つです。
キングが望む理想郷へ向かって、二人のアンデッドは行動を共にするのですが、
今の今まで理想郷のくだりを本分に入れる事を完全に失念していたっていうね。
そんなこともあって、wiki収録時にはまた本文を多少弄る事になると思います。
そういう事にならない様に投下前によく考えて推敲すれば良かったと後悔してます。すみません。
それでは、また指摘やら何やらあればよろしくお願いいたします。

779リリカル名無しStrikerS:2011/01/05(水) 20:40:31 ID:PV5cpvPcO
投下乙です
ああ、キングと金居も地上本部に向かうか…………
果たして、どんな結末を迎えるだろう

780リリカル名無しStrikerS:2011/01/05(水) 21:11:17 ID:SgEI4in20
投下乙です
おお、これはもう「最終回」間近ですね
結局キングと金居は手を組んだ……って、前回の引きから考えられる対主催にとっては最悪のパターン!?
でも捨てた支給品大半が要らないものだけど、一部惜しい物がw
正宗は長いから使いづらいとして、用途不明だったとはいえレリックとかいふくのマテリアを捨てるなんて……
ん?キング、クロス作品読んだのならレリックやマテリアのこと分かりそうだが……流し読みじゃ無理か……?

781 ◆gFOqjEuBs6:2011/01/05(水) 21:19:21 ID:tZb6wLm60
あー……かいふくのマテリアについては最初は残すつもりだったんです。レリックも。
けど、よくよく考えたら金居視点ではあの球体を見ただけでマテリアだと判断するのは難しいかなー……と。
で、金居はそのまま他のと一緒にマテリアを捨て、キングもサイドバッシャーにかまけていた為に気付かなかった、と。
あと、この期に及んで唯一残ったマーダー組であるこいつらに回復品を残すのもどうかなー……と思いまして。

ちなみにレリックはもしかしたらヴィヴィオに使えるかもしれないので残したかったんですが、
花に偽装してるなら間違いなくいらないものとみなされるだろうと判断してそのまま捨てさせました。

782リリカル名無しStrikerS:2011/01/05(水) 21:22:55 ID:SgEI4in20
わざわざ返答してくださりありがとうございました

783リリカル名無しStrikerS:2011/01/06(木) 00:14:43 ID:ZrXvpXRk0
投下乙です、
キングとアンジールはここで組んでいよいよ地上本部最終決戦か……対主催がボロボロである事考えるとこれもう詰みかもしれんなぁ……
キングは遊ぶつもりで、金居も対主催側が脱出する事は阻止するだろうし……
……まぁ、キングと金居もある意味では対主催なわけですが(脱出目的的な意味で)
……ということはこれってある種スカ組、アンデッド組、天道組の三つ巴か?

784リリカル名無しStrikerS:2011/01/07(金) 02:00:06 ID:Z06J4xsQ0
投下乙です

このまま泥沼の可能性もあったが組んだか
対主催の面々にとってはまずいか
種スカ組もどう動くか…

785リリカル名無しStrikerS:2011/01/07(金) 03:28:43 ID:f/Ty.wQIO
種スカ組?

786リリカル名無しStrikerS:2011/01/07(金) 08:15:39 ID:8tFLBWBE0
スカはスカリエッティとして、種はなんだろう

787リリカル名無しStrikerS:2011/01/07(金) 09:58:04 ID:pRBAPN7w0
主催スカ組を略して主スカ組と書く所『主』を『種』と間違えて種スカと書いたんじゃ?

788 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:32:13 ID:gAI2iztE0
高町なのは(StS)、ユーノ・スクライア、ヴィヴィオ、スバル・ナカジマ、天道総司、キング、金居、ウーノ、ドゥーエ、オットーで投下します

789 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:33:22 ID:gAI2iztE0

「ちょっといいかしら、ウーノ」
「どうぞ」
「生き残りが魔法陣で脱出するとかどうとか言っているけど、放っておいていいの?」
「ああ、それね……ふふふ……」
「?」
「気にする必要はないわ、だって――」


     ▼     ▼     ▼

790 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:34:07 ID:gAI2iztE0


スバルが目を開くと、炎に蹂躙されるアスファルトとコンクリートの瓦礫が見えた。
それらは辺り一面に転がり、次いで焼け焦げた匂いが鼻の奥を刺激する。
目の前に広がるのは瓦礫と炎が作り出した光景。
こんな光景を以前にもどこかで見た覚えがある。

(あ、そうだ。あの時だ……)

4年前、大規模な火災が起きたミッドチルダ北部臨海第8空港。
あの時スバルはまだ幼かった。
火災の前から姉のギンガと逸れていた上に一人で燃え盛る空港を彷徨っていた。
そして徐々に周囲の炎の勢いが増す様子に怯えて、途方に暮れた末に立ち止まってしまった。

その瞬間、スバルの近くにあった天使像が倒れてきた。

あの時、自分はここで死んでしまうんだと本気で思った。

だがスバルは生きている――憧れの恩師である高町なのはの活躍で。

(あの時は助けられるだけだったな……)

あの時はただ見ているしかできなかった。
自分を助けに来た高町なのはという魔導師の雄姿は今もはっきりと覚えている。

それからだ、スバルが魔導師を目指したのは。

(そうだ、もうあたしは『誰かに助けられる』側じゃない! 今のあたしは『誰かを助ける』側だ!)

そのために今まで精一杯努力してきた。
この腕は立ち塞がる障害を突破するため。
この足は少しでも早く救助に向かうため。

(そう、こんなところであたしは寝ている場合じゃ……………………え?)

その時、スバルは自分の置かれた状態を理解した。
頭部と左腕以外は瓦礫の下敷き。
戦闘機人の身体でなかったら即死だったかもしれない。
この時ばかりは半分機械の身体がありがたく思えた。
その頭部と左腕にしても無事とは言い難く、特に頭部は額を切ったせいか出血で視界が若干赤く滲んでいる。

だがそのような怪我など、両足が瓦礫で跡形もなく潰されている事に比べたら些細な事だ。

「うそ……そ、そんな……ッ、アアアァァァアアアアア!!!!!」

両足が潰れた。
それは当然もう走る事はおろか歩く事さえ、いやそれ以前に大地に立つ事もできない事を意味する。
スバルは両足の痛みも忘れて、呆然としていた。
もうこれでは誰かを助ける事など出来ない。
これでまた自分は『誰かに助けてもらう』側に戻ってしまった。

(……こ、こんな事って)

そして、あの時と同じように何もできない。

(……こんな事って……あんまりだ)

その瞬間、火災で耐久度が落ちた瓦礫がスバルの頭上に落下してきた。
少し前までのスバルならこれくらいの危機など脱する事ができたはずだ。
だが両足を失い、夢が断たれた今のスバルには、抗う気力がなかった。
ボーナス支給品の蒼天の書も他の道具と一緒に瓦礫の下敷きでこの状況では使い道がなかった。

(みんな……ごめん……)

デスゲームで死んでいった者とまだ生きている仲間の事を思いながらスバルは死を覚悟した。
だがいつまで経っても予想していた衝撃は来なかった。
それは誰かが落下してくる瓦礫を破壊してくれたおかげだと気付いたのはすぐだった。

「え?」

それはまるであの時の再現。
赤く滲む視界の向こうに誰かが手に持った何かをこちらに向けて立っていた。
炎の中に立つその姿はまるで光のように輝いていた。

「なのはさ――」
「皮肉だな。姉妹揃って同じ相手に殺されるとは」


     ▼     ▼     ▼

791 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:35:37 ID:gAI2iztE0


昇りかけの太陽に照らされた荒廃した大地。
その地の名は“E-5”。
このデスゲームの会場の中心に位置するビル密集地であり、その中央には時空管理局地上本部がひときわ高く聳え立っていた。
遠くからでも見上げる事ができたその姿は本部の名に相応しく立派に威容を誇っていた。

だがそれは最早今となっては過去の話だ。

セフィロス、アーカード、キース・レッド、アレックス、天上院明日香、八神はやて。
人外の域に達する力を備えた者同士が幾度となく激戦を繰り広げたおかげで、E-5にあった建造物はことごとく崩壊してしまった。
その結果、現在この地は以前とは打って変わって殺風景な瓦礫の野原と化していた。
まだこの地が無事だった頃を知る者からすれば、あまりの変わり様に思わず目を疑った事だろう。

しかし残念ながらE-5の手前に降り立った5人の参加者はいずれも初めてこの地を訪れた者ばかり。
それゆえにそこまでの驚きが湧いてくる事はなかった。

高町なのは、ユーノ・スクライア、ヴィヴィオ、スバル・ナカジマ、天道総司。
さまざまな苦難を乗り越えて、5人の参加者は一堂に集い、今こうして一つの目的のために動き出していた。
この血塗られたデスゲームから抜け出し、元の世界へと帰還する事。
それこそが5人の目指すゴール。
そのためにはE-5にある転移魔法陣が重要な鍵である可能性が高い。
だから話し合いの末にE-5へ向かったのだが、目的地の上空に到着したところで厄介な問題が判明した。

その件の魔法陣がどこにあるのか見当が付かないのだ。

ユーノははやてとの情報をやり取りした際に『E-5には参加者を転移させる魔法陣がある』と聞いていた。
だがそれが具体的にどこにあるかは聞きそびれてしまっていた。
後から詳しく聞こうと思っていたのだが、その暇もないうちになのは達が合流して先程の騒動に巻き込まれた。
そして真相を知るはやては何も伝えないまま死んでしまい、情報源は消えてしまった。
なのは、天道、ヴィヴィオは魔法陣の存在を駅で合流した時に初めて知ったので詳しい場所など知っているはずなかった。
唯一スバルはデュエルアカデミアではやてが“月村すずかの友人”の名で送信したメールにて魔法陣の場所を知っているはずだった。
だが駅での話し合いで何も言わなかったように、かがみの襲撃に始まり衝撃的な事がありすぎたせいで忘却の彼方に追いやられてしまっていた。

つまり誰も魔法陣の正確な所在を知らない事になる。
しかし駅で集合した際にユーノ以外誰も魔法陣の存在を知らなかったのは不運としか言いようがなかった。
それでもE-5に向かったのは、E-5に行けば何かしらの手がかりがあると踏んだからだ。
まさかエリア1つ完膚なきまでに崩壊しているとは思っていなかった。

「とりあえず一旦小休止も兼ねて、今後の対策を練ろう」

フリードに乗って上空からE-5の惨状を目の当たりにしたユーノはそう提案せざるを得なかった。
残りの4人もその意見には賛成だった。
このまま捜索を開始してもいいが、やはり具体的にどうするか決めておいた方が無難だ。

「そうだ。なのは、今の内に回復魔法掛けるよ。5分ぐらいで終わらせるから」
「うん、ありがとうユーノ君。じゃあバリアジャケットは解除しておくね」

着地するや早々に開口一番ユーノはなのはに声をかけていた。
再び出立するまでの間に出来るだけコンディションを良くしておきたい。
そんな配慮を感じ取ったなのはも喜んでユーノの申し出を受け入れ、すぐに優しい緑の光の回復魔法がその身を包み始めた。
そして少しでも魔力消費を抑えようと思ってバリアジャケットの解除に入った。

だがなのははある事実を忘れていた。

792 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:36:07 ID:gAI2iztE0

『マスター! 待って下さい、今マスターの服装は――』

その事実に気付いたレイジングハートが制止の声を上げたが、既に遅かった。
淡い光と共にバリアジャケットが消えたなのはの姿は実に扇情的なものだった。
はやてとの激戦で着物風の服装は多大な被害を受けてボロボロの状態になっていた。
辛うじて下着こそ無事だが、逆にボロボロになった着物から覗く下着は独特の色気を醸し出していた。

「――きゃっ!?」

エースには可愛すぎる悲鳴と共になのははバリアジャケットを解除した事を激しく後悔した。
ハッと気づいて皆の方を見ると、スバルとヴィヴィオは困惑した表情を浮かべて立ち尽くしていた。
一方で天道とユーノの男性陣は紳士的にも明後日の方を向いていてくれた。
だが一瞬でも霰のない姿を見た事は疑う余地はないだろう。
さすがにこのままは不味いと思って何か変わりの服はないかとデイパックを漁ってみるが、そんな都合よく替えの衣服はなかった。
一応かがみが着ていたホテル従業員の制服があったが、血や土で盛大に汚れていたので使えそうもなかった。

「えっと、この際タオルでもいいから誰か身体隠す物持っていたりしない?」
「それならこれを着ろ」

ダメ元で聞いてみると、後ろを向いたまま天道がどこかの店のウェイトレスのような衣装を差し出してきた。
だがなのははそれに見覚えがあった。
いや見覚えがあるどころではない。
白いシャツに臙脂色のスカート、そして黒のエプロン。
間違いなくそれはなのはが幼い頃より見慣れている喫茶翠屋の制服だ。

「天道さん、その服どこで?」
「ああ、そこに転がっていたデイパックの中に入っていたんだ。たぶん誰かが落としていたんだろう」

余談だが、この天道が拾ったデイパックの元の持ち主の名はカレン・シュタットフェルト。
そして瀕死のカレンを助けようとしたのがこの会場に連れて来られたもう一人のなのは、つまり小学3年生の頃のなのはであった。
最終的にカレンを助ける事は出来ず、またその死にショックを受けて隙を見せたところで殺されてしまったが。

(そういえば最初に転送された場所が翠屋だったな。まだ1日ちょっと前なのに……もうだいぶ前みたいに思える……)

あの時、自分は深い怒りと悲しみですぐに動けなかった。
だがアリサの死に報いるためにという想いで立ち上がった。
それから様々な出会いと別れがあった。
柊かがみ、シェルビー・M・ペンウッド、武蔵坊弁慶、C.C.、アンジール・ヒューレー、八神はやて。
この地で出会い死んでいった者達の想いを無駄にしないためにも、あと一息だ。

「あともう一着子供用の制服もあったが、ヴィヴィオに着せてやれ」
「天道さん、ありがとうございます」

天道から渡されたもう一つの衣服。
それは半袖の白シャツにブラウンのスカート、そして薄緑色のベスト。
ミッドチルダにある聖王教会系列の魔法学校、St.ヒルデ魔法学院の制服だった。
それはなのはがヴィヴィオが進むべき未来として考えていた場所。
まさかその姿がこんな場所で見られるとは思わなかったので、正直ちょっと嬉しかった。


     ▼     ▼     ▼

793 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:36:54 ID:gAI2iztE0


なるほど、だいたい分かった。

中〜遠距離を得意とする砲撃魔導師/時空管理局が誇るエース魔導師/高町なのは。
防御と補助魔法を得意とする後方支援型/超巨大データベース無限書庫の司書長/ユーノ・スクライア。
格闘戦を得意とする陸戦魔導師/ギンガの双子の妹/スバル・ナカジマ。
聖王の器/レリックを埋め込めば聖王として覚醒/ヴィヴィオ。
天の道を往き総てを司ると豪語する男/仮面ライダーカブト/天道総司。
陵桜学園に通う女子高校生/仮面ライダーデルタ/柊かがみ。

高町なのはが無事であり八神はやての姿が見えない以上、この時点ではやてが生存している可能性は低い。
つまりこの6人が俺とキングを除いた生存者か。
もっともキングの言った事が正しければの話だが、いまさら嘘を付く理由もない。
それにいろんな奴から聞いた話とだいたい合っているから疑う必要はないな。

そうなると、ここから脱出するために俺が取るべき最善の方策は――。


     ▼     ▼     ▼

794 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:38:55 ID:gAI2iztE0


「やっぱり地道に探すしかないね」

なのはとヴィヴィオの着替え(着ていた衣服はホテル従業員の制服と一緒に放置)、及び各自食事などによる体力の回復に努めながら話し合った結果、そういう結論に至った。
はやての情報によるとE-5のどこかに魔法陣がある事は間違いない。
1km四方のエリアだが、5人もいれば決して探せない広さではない。
ちなみにはやての発言が嘘という可能性もあったが、あの時はまだ友好的な関係だったのでわざわざ偽の情報を混ぜる理由は低いと判断した。
それよりも問題はタイムリミットの方だが、こればかりはどうしようもない。
すでにユーノが予想したタイムリミットまで1時間を切っている。
正直なところ、これがラストチャンスと言っても過言ではない。

「ユーノ君、ヴィヴィオをお願いね」

既に出立の準備を終えた高町なのははユーノと視線を合わせながら約束を交わした。
はやてとの激戦で消耗した体力と魔力はユーノの回復魔法のおかげで、全快とまではいかないが、ある程度回復できた。
その手にケリュケイオンは装着されておらず、今は長年の相棒レイジングハート・エクセリオンのみ。
その身には気高き意志を示すかの如く純白のバリアジャケットを纏っている。
はやてとの戦いでカートリッジを使い切って魔力面で心配があったが、幸運にもその問題は解決できた。
天道が見つけたデイパックの近くに落ちていた別のデイパックの中にカートリッジが13発も入っていたのだ。
幸いレイジングハートにも使えるものだったので問題なく補充する事ができた。

「大丈夫、ヴィヴィオのことは任せておいて」

ヴィヴィオの後ろ姿を目に入れつつユーノはなのはの頼みを快く引き受けた。
元々司書長らしく落ち着いた感じの深緑のスーツは今となっては所々ボロボロになっている。
だが逆にそれが強い意志を秘めた瞳と合わさって一層頼もしく見える。
その手には本来の姿を得た白銀の飛竜フリードリヒの手綱が握られていた。

「なのはママも気を付けてね」

幼いヴィヴィオも状況の深刻さを感じ取り、手を振る事でなのはを安心させようとしていた
その首には捜索の手助けになるようにとユーノから渡された双眼鏡が掛かっていた。
さらにその身には遠い将来通う事になる真新しいSt.ヒルデ魔法学院の制服が映えていた。
そしてその小さな両手にはなのはから譲り受けたケリュケイオンが装着されていた。
ホテルでの戦闘の後遺症でヴィヴィオのリンカーコアは消失していたので、本来ならこの組み合わせは無理がある。
だが小休止中に改めて調べたところ、ヴィヴィオの体内にリンカーコアとは別の似たような働きをするものがある事が判明した。

実はこれはデスゲームを円滑に進めたためにプレシアが設けた仕掛けの一つであった。
本来ならデバイスは魔力源であるリンカーコアを持つ者しか扱えない。
だがそれでは参加者間で不公平が生じると考えたプレシアは事前に参加者に擬似的なリンカーコアを植え付ける事で解決しようとした。
支給品として大量のデバイスの類が配布される以上、その問題は見過ごせなかった。
そしてそれは擬似的なリンカーコアとしての働きの他にも魔力に類する力を魔力に相互変換する機能も備えていた。
そのため本物のリンカーコアに比べれば遥かに性能は劣る事になり、せいぜいデバイスの起動と張りぼてのバリアジャケットを展開する程度になった。
だがプレシアとしては最低限デバイスが起動するだけの力が備わればいいと考えていたので支障はなかった。
この仕掛けのおかげで別世界の魔力に類する力を持つ者や何の力を持たない一般人でもデバイスを起動する事ができたのだ。
もちろんなのは達はそこまで詳しい事情を知っていた訳ではなかったが、今は時間もないので深くは考えなかった。

795 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:40:14 ID:gAI2iztE0

重要なのはヴィヴィオが自ら皆の役に立ちたいと強く申し出た点だった。

当初なのはは今まで通り竜魂召喚を継続するつもりだったが、それはさすがに魔力の消費が大きすぎた。
なのはの身を案じたユーノとしてはこの後戦闘になるかもしれない状況でなのはの魔力消費は可能な限り抑えたいところだった。
そこで発言者であるユーノが自ら竜魂召喚を引き受けようとしたのだが、ここでヴィヴィオが自ら志願してきた。
みんなのために少しでもいいから頑張りたい。
それはただ純粋で幼いながらもヴィヴィオがずっと抱いてきた想いだった。
もちろん最初はなのはを筆頭に4人ともヴィヴィオの申し出を受け入れなかった。
だが実際フリードの様子を見ると、信を置いている順位は『新しく主になったなのは>お互いに向き合ったヴィヴィオ>キャロの同僚であるスバル・助けてくれた天道>ユーノ』が妥当に思えた。
なのはを避けるなら次点のヴィヴィオが受け継ぐのは自然な流れであり、最も上手くいく組み合わせであった。
結局最後はユーノが後ろで全面的に補佐するという事でなのはも納得した。
なによりヴィヴィオの真剣な願いを無碍にしたくなかったというのが真情だったのかもしれない。

「それじゃあ、また後で」

右手に嵌めたリボルバーナックルの調子を確認しつつスバルは皆を見渡しながら声をかけた。
その姿はストライカーの名に恥じぬ威風堂々としたものだった。
右手に尊敬する母の形見であるリボルバーナックル。
両足にはいつか仲良くなりたいと願う妹?が使っていたジェットエッジ。
そして身に纏うのは憧れの恩師のものを模した純白のバリアジャケット。
ちなみに左手用のリボルバーナックルはカートリッジだけを抜かせてもらって、天道が拾ったデイパックをもらって入れている。
最初は両手装備にしようかと思っていたが、やはりまだ『重い』ので慣れた右手だけにしておいた。
それからレヴァンティン、完全に破損したクロスミラージュ、ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)、そして目下使い道がない蒼天の書も一緒にデイパックの中に仕舞っておいた。

「よし、行くぞ」

ジェットスライガーに乗り込んだ天道の号令が聞こえる。
その服装はユーノ以上にボロボロだが、それが逆に天道の不敵さを際立たせていた。
『これ以上、誰一人として死なせない』という誓いを必ず果たすべく、気力は十分だった。

E-5のどこかにある転移魔法陣の捜索にあたって5人は4手に分かれる事にした。
飛行魔法を使えるなのはとフリードに乗ったユーノとヴィヴィオは上空から。
ジェットエッジを走らせるスバルとジェットスライガーに乗った天道は地上から。
4手に別れたのは捜査範囲を広げて、時間を短縮するために他ならない。
だがこれは時間短縮というメリットとは逆に戦力を分散させるというデメリットも同時に生じてくる。
もちろん5人ともその可能性は考えたが、最終的に問題ないと判断した。
まず今の時点で5人を襲う可能性があるのはキングと金居のどちらか。
今までの話を総合するとキングと金居はお互いに種の存続を賭けて戦う間柄なので手を組む可能性は低いが、その可能性が皆無というわけではない。
だが万が一組んだところでE-5は一面瓦礫の山なので動く物があれば上空からはすぐに分かる。
つまりもし襲いに来ても上空の3人が容易に発見するため、対応は遅れずに行える。
だからこそメリットを重視して4手に別れて捜索するという案を採用した。

不屈のエースは両足に光の羽を纏って空に舞い上がる。
優しき司書長と幼き聖王は白銀の巨竜の背に乗って空に舞い上がる。
蒼きストライカーは両足のモーターを振るわせながら駆け出す。
天の道を往き総てを司る男は銀と黒の化け物バイクにエンジンをかけて走り出す。

今この瞬間、5人は最後の希望を求めて、行動を開始した。


     ▼     ▼     ▼

796 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:41:38 ID:gAI2iztE0


「うーん、これはギリギリかな」

スマートブレイン社製のサイドカー“サイドバッシャー”のハンドルを巧みに操りながらキングはふと呟いていた。
おそらく現在位置は森林地帯から平野部に飛び出た辺りなのでE-8辺りだろうか。
背後から差し込む朝日でサイドバッシャーの漆黒のボディーは一層輝いていたが、キングの心中は裏腹に若干曇り気味だった。
ついさっき上空からE-5に降りていく残りの参加者の姿が確認できた。
これから荒廃したE-5エリアの中心で魔法陣探しに取りかかるはずだ。
正直今から向かって間に合うかどうかは微妙なラインだ。
もしも到着した時に全てが終わっていたら興醒めどころの話ではない。
それでは何のために必死になってバイクを走らせているのか分からなくなってしまう。

「大丈夫だ、問題ない」

不意に横合いから合いの手が入った。
サイドカーに身を委ねるギラファアンデッドの人間としての姿である金居だ。
先程まではキングから残りの参加者の情報を聞いていたが、聞き終わるとしばらく黙っていた。
ギラファが持っていた茶釜の中に入っていた和菓子と大量の角砂糖を二人で食べていたので静かになったのはある意味当然だったが。
それがいきなり装備の具合に返答するかの如く軽い調子で言葉を振ってきたのだ。
だがその返事に面白い気配を感じ取ったキングは興味津津といった具合にほくそ笑んでいた。

「どういうこと?」
「言葉通りだ。あいつらの足止めをしたから『俺達が到着した時には全て終わっていた』なんて最悪な展開にはならないという事だ」
「へー、さすがギラファ! 手回しがいいね!」

ギラファがどうやって離れた場所にいる参加者の足を止めたのかは分からない。
だがこの慎重なアンデッドが自信を以て言っているのだ。
現にE-5にいる参加者は足止めを食らって途方に暮れているのだろう。

「そうだ、一つ聞いていいか」
「ん、なに?」

説明になっていない説明を終えたギラファはついでといった風に問いかけてきた。

「さっき言ったよな――『楽しければそれでいい』と」
「ああ、言ったね」
「何か具体的なプランでもあるのか?」

確かにE-5に着いたら生き残った参加者で遊ぶつもりだった。
最初それは漠然としたもので具体的には特に考えていなかった。
だが今こうして問われてみると、徐々に何をしたいのか頭の中で整理されてきた。

「そうだなー。最初はカブトと戦おうとも思ったけど、もう十分戦ったから後は僕の手で始末できたらいいや。
 ……ああ、そうだ。最後にあいつらに僕の力を見せつけてやりたいな」
「もう十分見せつけているんじゃないのか?」
「なんて言うかね、あいつらいくら脅しても諦めないから、最期にガツンと見せつけてやりたんだ」

それはキングが『最強』であるが故に。

「ねえ、『最強』vs『最強』って燃えない? もちろん真の『最強』は僕だけどね」


     ▼     ▼     ▼

797 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:42:37 ID:gAI2iztE0


それは突然現れた。
いや現れた時にはもう彼らの仕事は終わっていた。
彼らに与えられた仕事は唯一つ。

『身を呈してE-5にいる参加者を足止めしろ』

それは命令。
機械の身では決して抗う事が出来ぬ絶対遵守の力。
そして彼らは自らを犠牲にして4つの花火を作りだし、その命令を全うした。

そのために魔導師が地に落ち、戦士が地を這う事になろうとも、彼らの知った事ではない。
もうその身は命令を遂行した際にバラバラになってしまっている。

あとにはただ自らが為した仕事の成果が転がるだけ。


     ▼     ▼     ▼

798 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:43:26 ID:gAI2iztE0


目の前に広がる光景にデジャブを感じた。
アスファルトとコンクリートの瓦礫が辺り一面に転がり、次いで焼け焦げた匂いが鼻の奥を刺激する。
7年前、巨大隕石の落下という災厄によって壊滅した渋谷。
今ではエリアXと呼ばれる地域の光景と天道が今この瞬間目にしている光景は似ていた。
そしてあの時も天道は同じように傷だらけで災厄の真っ只中にいた。

「……ッ、みんなは――!?」

あれは小休止を終えて魔法陣を探そうと散らばった、まさにその時だった。
徐々に加速し始めたジェットスライガーが突然爆発した。
爆発の直前に何かがぶつかったような衝撃を感じた気もするが、その直後に意識が飛んだので定かなところは分からない。
その感覚を信じるならジェットスライガーは謎の物体の衝突で大破した事になる。
周囲に散乱する焼け焦げた破片が何よりの証拠だ。
だがいくらなんでも爆破を引き起こすような物体の接近を見逃したとは思えない。
何か危険が迫れば上空の高町やスクライアが知らせる手筈になっていたにも関わらずにだ。

(やはり高町達もやられたのか……)

上空を見渡しても見えるのは青い空を汚す不吉な灰色の雲だけ。
本来なら上空にいるはずの高町やフリードの姿はどこにもなかった。
おそらくジェットスライガーを襲った物に襲われたと仮定するのが妥当だろう。

「…………ッ」

だがそこまで考えをまとめたところで天道の身体はグラっとふらついた。
ジェットスライガーが爆破した時に負った傷はさすがの天道も無視できるようなものではなかった。
ジャケットとジーンズはほぼ焼け焦げて、その下の生身の身体には擦り傷と火傷が隙間なく刻まれている。
さらにその傷跡からの出血は個々は微々たるものだが、全体では正直危険な状態だ。
普段通り平気な風を装いながら、その実かなり危ない状態にある事は天道自身も理解していた。

「……不味いな。早くみんなと合流して――」
「あ、カブト見っけ」
「ちっ、キング!?」

相手を馬鹿にしたような特徴的な聞き覚えのある声。
そこにいたのは思った通り、色とりどりのアクセサリーで身を飾り付けた赤いジャケットの青年。
間違いなく生き残りの中でも最も危険な人物、キングだった。
ここで見つかった以上当然戦う他に道はない。
これまでのキングの行動からして話し合いなど全くの無意味だ。
だからいつものように右手を天高く掲げ、飛来してきたカブトゼクターを掌でつかみ取り、腰のベルトに装着して――。

「変し――ガッ!?」
「いつまでも敵が悠長に変身終わるまで待っているとか思っていたのかい?」

――「変身」の掛け声が天道の口から発せられる事はなかった。

目の前にいるのは青年という仮の姿を脱ぎ捨てたキングの真の姿、黄金に輝くアンデッドの王コーカサスビートルアンデッド。
その右手に握られた破壊剣オールオーバーの剣身は紛う事なく天道の腹部をカブトゼクターとベルトごと刺し貫いていた。
先程の爆破による負傷で天道の動きにはいつものようなキレがなくなっていた。
それはキングがコーカサスビートルアンデッドの姿に戻り、カブトへ変身が終わる間を与えずに天道に止めを刺すには十分すぎる隙だった。

「もう飽きたから君で遊ぶのも終わりだよ」

それは文字通り“天の道を往く”男の最期であった。


     ▼     ▼     ▼

799 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:46:55 ID:gAI2iztE0


「フリード!? ねえ、フリード! お願い、目を開けてよ……あああぁぁぁ……」
「……ぅ、ここは……いったい何が――」
『Mr.ユーノ、気が付いたのですね』

目覚めたユーノの耳にまず飛び込んできたのはなのはから託されたヴィヴィオの悲しき叫び声。
さらに続いて聞こえてきたのは親友のデバイスであるバルディッシュ・アサルトの気遣いが感じられる電子音。
そうこうするうちに意識がはっきりするにつれて周囲の様子が徐々に見えてきた。

アスファルトとコンクリートが織り成す瓦礫の平野。
少し離れた場所では何かが燃えているのか黒い煙が立ち上っているが、少なくともここまでは火が広がってくる事はないように見える。
そんな場所にユーノとヴィヴィオはいて、ヴィヴィオの腕の中には物言わぬフリードの躯が抱きかかえられていた。
その真っ白な小さな体躯は見事なまでに血で真っ赤に染まっていた。

「バルディッシュ? これは――!? そうだ! あの時、いきなり何かに襲われて――」

全て思い出した。
フリードの手綱を引いてなのはと共に上空へ飛び立った、まさにその瞬間。
突然地上で爆発音がしたと思ったら、次の瞬間フリードに何かが突撃してきた。
おそらく何らかの方法で姿を消していたのだろう。
だから誰も襲撃者の接近を察知できなかったのだ。
突然の襲撃にフリードも、フリードの背に乗っていたユーノやヴィヴィオも、何一つ対処する暇はなかった。
ただ襲撃されて墜落するだけだった。
だがなんとかヴィヴィオだけは抱き寄せてスフィアプロテクションで落下の衝撃を和らげようとした。

そこでユーノの記憶は途切れていた。

『フリードはあんな傷だらけになっても二人を守るために落下の衝撃を和らげようと必死に翼を動かして制動を掛けて、それで力を使い果たして……』
「そうだったんだ……」

つまり今こうしてユーノもヴィヴィオも大した怪我もなく生きているのはフリードのおかげなのだ。
おそらくユーノだけではここまで無傷では済まなかったはずだ。
だがそのためにフリードが死んでしまうなんて、やりきれない気持ちでいっぱいだった。

「ユーノ君……ヴィヴィオ……」

ふと気づくと、一緒に飛んでいたはずのなのはがすぐ後ろにいた。
もう既に状況を把握したのか、その表情は沈痛な面持ちだった。

「なのは、無事だったんだね」
「うん、さすがに突撃は防げなくて墜落したんだけど、スバルからもらったカードのおかげでその時負った傷はなんとか治せた」
「そっか、確か出発する前に渡されていたっけ」

唯一の回復アイテムである“治療の神 ディアン・ケト”がなのはに渡されたのはつい先程の事だ。
元々スバルが持っていたのだが「自分には効果が薄いと思う」という事だったので、一番無茶をしそうななのはに渡されたのだ。
その理由を聞いた時にはなのはも苦笑いしていたが、教え子の気遣いに対してとても嬉しそうだった。

「ごめん、私があのカード使わずにいれば、フリードを……」
「気にする事ないよ。フリードは墜落した時にはもう手遅れだったんだ。
 でも、そのおかげで僕もヴィヴィオもこうして無事に助かったんだ」
「そう、だったんだ……フリード、ありがとう……」

白銀の巨竜は志半ばにしてその小さな命を散らした。
だがここで足を止めるわけにはいかない。
フリードのためにも必ずや魔法陣を探し出して、皆でここから脱出しなくては。

800 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:48:01 ID:gAI2iztE0

「なのは、スバルと天道さんは?」
「私も探してみたけど、ユーノ君とヴィヴィオしか見つけられていないの」
「それなら早く見つけないと! なのははヴィヴィオの傍にいてあげて。僕が二人を探して――」
「待ってユーノ君! 私が探しに行く、私なら単独行動でも問題ないから」
「いや、でも……」
「大丈夫だよ、スバルも天道も強いから、きっと――」


「あ、その二人なら探さなくていいよ、はいこれプレゼント」


「「え?」」

突然瓦礫の向こうから姿の現した黄金の怪人。
なのははその怪人が誰なのか知っていた。
それは何人もの参加者を弄んだ最悪な参加者、キングの真の姿。
そのキングが投げた二つの物体は地面をバウンドしてなのはとユーノの下に転がって来た。
一瞬何か爆弾のようなものかと思ったが、その二つの物体がはっきりと見える位置まで来ると二人は言葉を失った。

天道総司とスバル・ナカジマの生首――それがなのはとユーノの足元に転がってきた物体の正体だった。

「天道さん、スバル……そんな、二人とも……」

なのはもユーノも今自分達が見ている光景が信じられなかった。
天道総司と云う男はどんな状況も打開するような頼もしい男だった。
スバル・ナカジマはどんな苦境にも屈しない立派な魔導師だった。
そんな二人がこんな短時間で死んでしまうなど信じたくなかった。

だがこれは紛れもなく事実――そう天道総司とスバル・ナカジマはもういない。

「ユーノ君。ヴィヴィオを連れて、少し離れていて」
「なのは……」
「ごめん、でもこんなところ、あの子にみられたくないの……だからお願い……!」
「分かった、でも危ないようだったら手は貸すよ」
「……ユーノ君にはいつも背中を守ってもらってぱなしだね」
「僕の方こそ……!? ぼ、僕達の事は気にしないで。全力全壊手加減なしで!!!」
「うん!」

なのはにエールを送るとユーノはすぐさま踵を返した。
今のなのはの顔には今まで見た事もないほど怒りで満ちていた。
これから始まるのはおそらく先程のはやて戦以上の激戦になるだろう。
だからこちらも相当の覚悟をしなくてはならない。
だが今回はただ避難するだけじゃない。
ギリギリ戦況が把握できる位置でヴィヴィオを守りながらサポートをするつもりだ。

「ヴィヴィオ、急いでここから離れよう」
「ぅ、ぅん、なのはママは?」
『ママなら大丈夫。この相手をやっつけたらすぐに行くから』
「わかった、なのはママ気を付けてね」

801 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:48:49 ID:gAI2iztE0

不幸中の幸いはヴィヴィオがフリードの死を悲しんでずっと泣いていた事。
そのためヴィヴィオは天道とスバルの生首を見ずに済んだ。
フリードの死に加えて天道とスバルの死まで知れば幼いヴィヴィオの受けるショックは計り知れない。
後々知る事になろうとも、今は知らずに済ませておく方がいい。

「さあ、こっちへ。バルディッシュ、どの辺りがギリギリ――」
「貴様がユーノ・スクライアだな?」
「え、グハァ!?」
「ユーノさ、きゃあ!!」

自分を呼ぶ声に振り向いたらいきなり見えない衝撃で吹き飛ばされた。
誰かに殴られたようだが、周囲にはヴィヴィオしかない。
いや、違う。
ヴィヴィオの様子がおかしい。
まるで誰かに捕まっているようにその場から動けないでいるのだ。

「まさか、ステルス能力!?」
「さすがに頭の回転が早いな」

その声と共に見えない襲撃者は不可視のマントを取り払って姿を現した。
黄色のハイネックに黒ジャケット、そして銀縁眼鏡を掛けた青年。
直接会うのは初めてで話にしか聞いていないが誰かは分かっている。

「君が金居か」
「ふっ、さすがに分かるか」

ユーノは先程の襲撃者は金居との勝負に勝ったキングだと思っていた。
だが事態はそれ以上に最悪だった。
おそらくキングと金居は何らかの条件で手を組んだのだろう。
その手始めの行動が先程の見えない襲撃。

「ヴィヴィオを離せ! 用があるのは僕の方なんだろ!」
「人質だ、悪く思うな。単刀直入に言おう、ここから脱出するための考えを聞かせろ」
「なんだって!?」
「早くしろ、さもないとこの娘の命が……」
「ひっ!?」

金居は有無を言わさぬ空気を前面に押し出して、ヴィヴィオの首筋に真紅のレイピアを当てていた。
急転直下追い詰められたユーノは悩んでいた。
正直に話すべきか話さざるべきか。
だがその悩む時間もあまりない事は肌で感じていた。
金居の様子からヴィヴィオの命を奪う事に躊躇いはないようだ。
少しでも対応を間違えればヴィヴィオの身に危険が及ぶのは誰の目にも明らかだった。

(くそっ、あと少しだったのに……)

ユーノの心中の焦りを嘲笑うかの如く、大地は静かに鳴動し始めていた。


     ▼     ▼     ▼

802 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:49:23 ID:gAI2iztE0


(ここまでは予定通りか、それにしてもキング随分と楽しそうだな)

金居とキングにとってここまでは順調な流れだった。
キングから残りの参加者の情報を聞いた段階で金居の目的はユーノ・スクライアとヴィヴィオの二人だった。
カテゴリーキングのアンデッドが二人。
6連装ミサイルや4連装バルカンの搭載が説明書で判明したサイドバッシャーのバトルモード。
茶道具一式と一緒にデイパックに入っていたC4爆弾。
スバル殺害時に手に入れたボーナス支給品であるステルス機能を備えたシルバーケープ。
そして途中で拾ったレリックなる赤い宝石。
これだけあれば武力面での問題は心配なかったが、やはり魔法などに関する知識面については不安があった。
だから残りの参加者の内で豊富な知識を持つユーノと次点でヴィヴィオはどうしても押さえておきたかった。
そういう事情もあって、先んじて会場に散らせていた完全ステルス機能を搭載したガジェットドローンⅣ型による足止めを決行した。
金居としてはただ足を止めてくれるだけで良かったのだが、命令に問題があったのか想定外に過激な方法を取っていたので内心驚かざるを得なかった。
正直なところユーノとヴィヴィオさえ手に入れば残りの参加者の生死はどうでもよかったので、結果的に問題なかったが。

(まあ、何も教える気がないならそれでもいい。それなら別の脱出方法に切り替えるまでだ)

金居はキングから残りの参加者の情報を得た際にある事に思い至っていた。
それはヴィヴィオと聖王のゆりかごを利用してここから脱出できないかというものだった。
ヴィヴィオにレリックを埋め込み、聖王のゆりかごを動かすように仕向ければ、ゆりかごの機能でここから脱出できるのではないか。
既に聖王状態のヴィヴィオは確認済みなので、この会場内でも条件さえ揃えばヴィヴィオを聖王として覚醒させる事は可能だ。
だがそのような抜け道をプレシアがわざわざ用意していたとは思えない。
十中八九ゆりかごの転移機能は封じられていると見ていいだろう。
だが一方でゆりかごがそれだけの航行に耐えうる構造である事は間違いない。
つまりあそこに避難すれば会場が消滅したとしても、無事でいられる可能性は十分にある。

(それにどちらも頓挫したとして、俺達が死ぬ事はない)

アンデッドはその名の通り不死の存在だ。
だがそれではゲームが成立しないので、制限を掛けられて今は不死でなくなっている。
それは首輪が外れた今でもそうだ。
だがもしもこの会場がなくなれば金居達を縛るものは名実共に皆無になる。
これがなのは達なら生存のために様々な心配があるが、アンデッドはそのような心配は要らない。
あとはどこかの世界の住人に拾われたところで移動手段を奪って元の世界に戻ればいい。
本当なら統制者に期待したいところだが、今のバトルファイトを見る限り一抹の不安がある。
だが今まで出会った参加者から聞いた話を総合すると、この世には時空管理局やそれに類する機関がいくつもある。
ここの参加者のうち、それらに属している者なら捜索の手は伸びているはずだ。
もっとも、皮肉なのはそいつらが助けたい奴らが既に全員死亡しているという点だが。

(だが俺達の力で成し遂げられるのならそれに越した事はない。さあ、ユーノ・スクライア、お前の答えを聞かせろ)

静かに鳴動する大地はさながら金居によるカウントダウンのようであった。

803 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:49:59 ID:gAI2iztE0


【2日目 早朝】
【現在地 E-5 瓦礫の山(なのはとキングから少し離れた場所)】

【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、疲労(中)、魔力消費(中)、強い決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム、4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2(どちらも食料無し)、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。フィールドを覆う結界の破壊。
 1.ここにいる全員を何としても支えて、脱出する。
 2.ヴィヴィオを助けたいが、どうしたらいいんだ……!?
 3.E-5地点の転送魔法陣を調べ、脱出方法を模索する。
 4.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】リンカーコア消失、疲労(小)、肉体内部にダメージ(小)、血塗れ、金居に捕まっている
【装備】St.ヒルデ魔法学院の制服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、フリードリヒの遺体(首輪無し)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。
 1,うぅ、ユーノさん……なのはママ……。
 2.みんなと一緒に、生きて帰る。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ・Q・K、クラブのK、ダイアKのブランク、スペードKのブランク、コモンブランク)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック、リンディの茶道具一式(お茶受けと角砂糖半分消費)@魔法少女リリカルなのは、C4爆弾@NANOSING、シルバーケープ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、サイドバッシャー@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:ゲームからの脱出、もしくは主催の乗っ取り。
 1.ユーノから魔法関係の知識を聞き出す。
 2.地上本部へ向かい、魔法陣を調べる。
 3.魔法陣での脱出が無理なら、聖王のゆりかごでの脱出を試みる。
 4.最終的にキングが自分にとって邪魔になるなら、自分の手で封印する。


     ▼     ▼     ▼

804 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:51:35 ID:gAI2iztE0


「……………………」
「いいよ、いいねえ、その表情! そうだよ、そんな表情が見たかったんだよ!
 あははは、ねえ、もっとそんな表情を見せて僕を楽しませてよ!! もっと僕を笑顔にしてよ!!!」

キングは今の状況に満足していた。
アンデッド最強のコーカサスビートルアンデッドvs魔導師最強の高町なのは。
いつの世も最強同士の対決は胸が躍るものだ。

だがそれ以上にキングは気に食わなかった。

「そういえば君さ、元の世界では最強のエース魔導師らしいじゃん」
「…………」
「それは困るなあ、僕が最強なんだから。この僕を差し置いて最強とか許せないんだよねえ」
「……レイジングハート、非殺傷設定解除……エクシード、ドライブ……!」
『Ignition.』

それは高町なのはが自分を差し置いて『最強』と呼ばれている点だ。
『最強』はたった一人だからこそ『最強』なのだ。
それはアンデッドでも魔導師でも関係ない。
だからキングは最後に気に食わない幻想をぶち殺しに来た。
さまざまな世界で最強の魔導師と謳われた高町なのはを負かして力の差を見せつける事によって。
そのために天道とスバルを殺して、焚きつけやすいようにわざわざ生首を用意したのだ。
厳密にはスバルを殺したのはギラファだが、そのような裏事情を敢えて話す気はない。

「だからさ、白黒はっきりさせようよ」
「……私は、あなたを――」
「君を倒して這い蹲らせて教えてあげるよ、“一番強い”のはこの僕だってね!!!」
「――許さない!!!」

だが相手の存在を許せないのはキングだけではない。
高町なのはもまたキングを、そしてこんな悲劇を止められなかった自分を許せなかった。
戦闘用に特化されたエクシードモードを起動したのも、そんな覚悟の表れだ。
エクシードモードに切り替わった新たなバリアジャケットは常よりも純白のものとなり、あたかもなのはの決意を表す白装束のようだった。

そんなこれから始まる二人のバトルファイトに呼応したのか、大地は静かに鳴動し始めるのだった。


【2日目 早朝】
【現在地 E-5 瓦礫の山】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身ダメージ(小)、キングへの強い怒り、バリアジャケット(エクシードモード)展開中
【装備】翠屋の制服@魔法少女リリカルなのは、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(エクシードモード、6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、カートリッジ(残り7発)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.キングを倒す。
 2.魔法陣を探し出してユーノとヴィヴィオと共に脱出する。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、コーカサスビートルアンデッド状態
【装備】キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートのA・3〜10)、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にし、主催を乗っ取る。
 1.なのはを完膚なきまでに叩きのめして、自分こそが最強だと思い知らせる。
 2.1が終わったら魔法陣を調べる。
 3.楽しむ事が出来たなら、最終的に金居に封印されても構わない。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。


     ▼     ▼     ▼

805 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:52:16 ID:gAI2iztE0


時の庭園に備え付けられた唯一の脱出艇。
元々ここを本拠地として定めていたプレシアはまさかこれを使う日が来るとは思っていなかった。
但しプレシア亡き今乗り込んでいるのはプレシアを殺害したナンバーズの面々であった。

「ただいま、到着しました」
「おつかれさま、オットー。それではそちらの調整をお願い」
「はい、了解しました」

最下層の動力フロアでの仕事を終えたオットーとセッテとディードが脱出艇に乗り込んできた。
これで時の庭園の残る者はいない。
既に冥王イクスヴェリアと屍兵器マリアージュは処分済みだ。
元の世界に持って帰れば有効に使える可能性もあったが「人語を解するくせに作戦行動能力は昆虫並の変な兵器」ゆえに処分の指示が出ていた。
その他の証拠隠滅のため順次施設破棄を兼ねて、各所で自爆シークエンスが作動している。
ここでの痕跡を調べられてドクターの計画に支障が出ては本末転倒だ。
またここから脱出する際に時空管理局などの組織に捕捉されても同じ事だ。
そのため周囲の警戒は厳にしているが、幸い最も早いもので24時間後にしか気づかれないという事だった。

「オットー、ごくろうさま」
「はい、ドゥーエ姉さまもごくろうさまでした」

最後の仕事である夜天の書の破壊とジュエルシードの回収が無事に済んだ事は先程報告を受けていた。
夜天の書を破壊したところですぐに会場が消滅するという事はないらしい。
ある程度は余力で保たれるが、それも長くは続かずに徐々に会場は消滅していき、あと1時間程度で完全に消滅するという事だ。

「ディードとセッテは万が一に備えて戦闘状態で待機。ドゥーエは――」
「分かっているわよ。最後まで監視はしておくわ」

だが会場の参加者も哀れなものだ。
本当に魔法陣などというプレシアが用意したもので脱出できると思っているのだろうか。
その対策をプレシアが何も講じていないと思っているのだろうか。
だがどの道パイプである夜天の書は破壊された。

――それに行き先が分からないのではどうしようもあるまい。

ドクターはそう言っていた。
どこかに転移するためには転移先の座標を把握しておかねばならない。
しかし参加者は誰も時の庭園の座標を知らない。
だから最初から魔法陣で脱出するなど無理でしかなかったのだ。
先程ウーノにも同じような事を言われた。
だがウーノはその後で一つ付け加えていた。

――ゆりかごに揺られていれば、もしかしたら助かったのかもしれないのにね。


【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード  死亡確認】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS  死亡確認】

【全体備考】
※ジェットスライガーは大破しました。
※E-5の手前にとがめの着物・ホテル従業員の制服・フェルの衣装(全て着られる状態ではない)が放置されています
※E-5のどこかに天道総司の首なし死体(パーフェクトゼクターとアンジールの羽根の状態は不明、カブトゼクターとベルトは破壊されました)、とスバル・ナカジマの首なし死体(ジェットエッジは両足ごと、またその他の所持品及び持ち物は瓦礫に潰されました)が放置されています。
※なのはの足元に天道とスバルの生首が転がっています。
※ザフィーラの不明支給品は【リンディの茶道具一式@魔法少女リリカルなのは】と【C4爆弾@NANOSING】でした。

806リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 14:53:15 ID:gAI2iztE0
投下終了で

807 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 14:57:23 ID:gAI2iztE0
失礼、投下終了です
タイトルは「Round ZERO〜REQUIEM SECRET」です
誤字脱字、矛盾、疑問点などありましたら指摘して下さい

と、金居の状態表で修正
バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜→道具欄へ
ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使→装備欄へ

808リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 15:50:03 ID:4l6XpFjo0
投下乙です。
わー、やはりフルボッコか(まぁ全滅ENDも予想していただけにそれよりはマシだが……)……天道にスバル……
なのはがキングに勝てるかどうかも微妙だけどまだ金居もいるからなぁ……
……が、一番の問題はもうスカ側の脱出準備は完了していてこっち側は思いっきり脱出の糸口が見えない点……
……アレ、これキング&金居側からみても詰んでね?

後、本当にどうでも良いけど……

『新しく主になったなのは>お互いに向き合ったヴィヴィオ>キャロの同僚であるスバル・助けてくれた天道>ユーノ』

……ユーノォォォォォ

……それにしてもここまできて未だにユーノが生存している事が一番の驚きだなぁ……。


ちょっと1点だけ気になったんですが、

>そして彼らは自らを犠牲にして4つの花火を作りだし、その命令を全うした。

これがガジェットⅣ型の自爆なのはわかるんですが、支給された総数は5つだと思うのですが1つだけ残したんですか? それとも誤記ですか?

809リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 17:11:04 ID:XSjsPJLgO
投下乙です
僅かな対主催の内即二人と一匹が死亡。そしてスカ側はほぼ脱出準備を済ませて会場も一時間持たず消えるとか無理ゲーすぎだろ
こうなってくるとキングVSなのはも勿論気になるがユーノがどうでるかによって今後の展開が決まってくるな

初期はラッキースケベでサービス担当だったユーノがまさかここに来てこの役回りとは…

810 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/15(土) 20:30:39 ID:gAI2iztE0
>>808
参加者一人につき一体が特攻したつもり(つまりフリードに二体特攻)で書いたのですが、その部分を書いていませんでした
wiki収録の際にそのように加筆修正しておきます



あと月報用にデータ(例によって合っているのか不安)
なのはR 197話(+11) 5/60 (- 5) 8.3 (- 8.4)

811リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 22:17:25 ID:QycZdi.g0
これ完結したら、第2次なのはロワとかあるのか?

812リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 23:05:12 ID:66wHgfkYO
乗る人がいれば始まるかもよ

813リリカル名無しStrikerS:2011/01/15(土) 23:25:38 ID:SLk5kWXoO
投下乙です
もう少しというところで天道とスバルは脱落か
ガジェットなんてすっかり忘れていたわ
あと金居の台詞に士やダグバがw

作中で金居がレリックを拾ったと言ってますが状態表にないのはミスでしょうか?

814 ◆HlLdWe.oBM:2011/01/16(日) 00:00:17 ID:L6Ng71Vo0
>>813
ミスです
wiki収録の際に書き加えておきます

815リリカル名無しStrikerS:2011/01/16(日) 00:32:27 ID:05m1g29s0
投下乙です

ここに来て天道とスバルが…これはきつい…
幾らなのはでもキングはきつい
そして博士らは既に脱出準備を済ませているのか…
詰みに近いな…

816リリカル名無しStrikerS:2011/01/16(日) 10:05:22 ID:u.WLhRmQ0
投下乙です
予想はしていたけど、まさかこんなに簡単に二人も脱落するとは……
というかなのは一人でキングに勝てるのかが不安だなあ
そうか、アンデッドは死ぬことないから、会場崩壊したら確実に助かるんだ
これは本格的にアンデッドの勝ち残りエンドもあり得るんじゃ……

817 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:35:31 ID:ycBlxCLg0
予約分の投下をします。

818 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:36:09 ID:ycBlxCLg0



   /01「決死の一手」



少し遠くで激しい戦闘音が聞こえる。
確認するまでもなく、なのはとキングが戦っているのだ。

それに引き摺られるように、仮初めの世界が鳴動する。
その振動でヴィヴィオの首筋に当てられた真紅のレイピアが僅かにぶれ、出来
た傷から血が一筋溢れる。
ユーノは思わず駆け寄りそうになるが、辛うじて自身を押し留める。

「どうした、応えられないのか?」
「………………ッ!」

そんなユーノの様子などお構いなしに、金居は答えを要求する。
ユーノは拳を握り、歯を食いしばる。
そして搾り出すように、ゆっくりと答えた。

819 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:36:40 ID:ycBlxCLg0

「…………僕たちはこの【E-5】にあると思われる、“参加者を望んだ場所に転
移させる魔法陣”を使って脱出を考えていた」

その話し方から、ユーノが時間を稼ごうとしている事を、金居には容易に推測
できた。
だが金居は、ユーノが喋っている間は待ってやってもいいと判断した。

「もちろん、その魔法陣がまだ残っているとは限らないし、あったとしても脱
出に使えるかどうかは判断がつかない。
 それにもし脱出できたとしても、僕たちは首輪から解放されてずいぶん経っ
ている。
 当然、危険な罠だって用意されているはずだ」

その理由は、絶対的優位から来る余裕。
もとよりヴィヴィオを捕らえている限り、脱出に関する利は金居にある。

820 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:38:19 ID:ycBlxCLg0

「それでも、僕達にはこれしか方法がなかった。
 たとえどんなに部の悪い賭けだろうと、どんなにリスクが大きかろうと関係
ない。
 僕たちは絶対に諦めない、最後まで足掻き続ける。そう誓ったからね」

それに自分はアンデット。何が起こったところで、容易に死ぬ存在ではない。
故に金居は、僅かでも情報があればいいと、ユーノを止めることをしなかった
のだ。

「だから僕たちはここに来たんだ。
 このエリアの何処かにある魔法陣を見付け出して脱出をするか、それが出来
なくても何かの助けになればいい、そう願って調査・解析するためにね」

そしてそこまで聴いて金居は、少しだけ襲撃を早まったか、と思った。
金居(ついでにキング)は一度、八神はやてと共に魔法陣による転移を経験し
ている。
つまりその場所も、その有用性も知っているという事だ。

821 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:39:11 ID:ycBlxCLg0

だが自分たちは魔導師ではない。
つまり魔法陣を起動させることは出来ないということだ。
だがあと少し襲撃を遅らせていれば、ユーノ達を誘導し、魔法陣を起動させた
ところで、シルバーケープを使って紛れ込むなり、無理矢理便乗する事も出来
たかもしれない。
そうすれば、たとえ転移に失敗しようが、転移した先に罠があろうが関係ない。
もし失敗しても、その時はその時。予定通りに行動すればいい。
それに自分たちはアンデッド。
たとえどんな罠があろうが、この会場から出てしまえば決して死なないからだ。

だが、それほど深く考えることでもない。
何故ならここには、二人も魔導師がいる。
なのはの方はキングが殺すだろうから使えないが、魔法陣を起動させるだけな
ら一人だけでも十分すぎる。
従わなかった時は、殺せばいいだけだ。

金居はユーノの話を、そう結論づけた。

822 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:39:44 ID:ycBlxCLg0


「それで話は終わりか?」
「残念ながらね……」
「そうか。
 ならばついて来い、お前たちには魔法陣を起動してもらう。魔法陣の場所も
知っている」
「――――――ッ!」
「もっとも、何かの隙に反旗を翻されても困るのでな。可能であるのならば、
いつでも起動可能なようにしてもらう。
 無論、拒否すれば殺す」
「わかった」

金居はそう言うと、ヴィヴィオに刃を当てたまま、魔法陣のある場所へと歩き
出した。
その時金居は、妙に物分かりの良いユーノに僅かな疑念を抱いたが、どうでも
いいことと捨ておいた。

それが、ユーノの決死の策の、微かな失敗と気づかずに。

823 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:40:26 ID:ycBlxCLg0



   /02「エースオブエース その手の魔法」



地面に膝を付き、肩で大きく息をする。
対する相手は、傷一つなく、息も乱れた様子がない。
自らを最強と自負する敵――キングは、その言葉通りに圧倒的な力を持ってい
た。

最強となるのに、複雑な技や入念な策などいらない。
すべてを砕く剣と、すべてを防ぐ盾があればいい。
キングの所有する最強とは、つまりそういう類のものだった。

その剣は、まともに受ければなのはのシールド魔法であっても容易に砕いた。
その盾は、なのはの砲撃魔法を防ぎきり、キングの死角からの攻撃にも対応し
た。
かと言って、より強力な砲撃を行おうと足を止めれば、念動力でレイジングハ
ートを奪おうとしてくる。

剣技自体はそれほどでもなく、遠距離攻撃にも乏しいのが救いといえば救いだ
が、それでもその攻撃は苛烈だ。
防御し続ければ、容易に魔力を削られるので、回避するしかない。

824 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:41:03 ID:ycBlxCLg0

それでも何度か攻撃は通っていた。
なのはが見つけた、キングの盾のただ一つの隙。キングが剣を振るって攻撃す
る瞬間の、その剣筋のライン。
いかなる理由からか、そこにだけは、盾によるオートガードが発生していなか
った。

なのははその僅かな隙に、幾度もシューターによる攻撃を行った。
だがその効果は薄く、ダメージを受けた端から再生していく。
今でこそ直接的な傷はないが、バリアジャケットはすでにボロボロだ。
このままでは、いつか決定的なダメージを受けてしまうだろう。

『大丈夫ですか、マスター』
「大丈夫、とは言いえないかな」

むしろ最悪と言ってもいい。
こちらの攻撃は殆ど効かず、あちらは一撃当てればそれだけで優位になる。
そうなる前に、どうにか効果的な一撃を当てなければならない。

「やっぱり、あれしかないかな」
『現状ではそれしかないでしょう』
「剣を交わしてその隙に砲撃を撃つか」
『盾の張れない零距離から、やはり砲撃を撃つ、ですね』

825 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:41:33 ID:ycBlxCLg0

だがそれは、どちらもキングの剣を避けきることが前提となる。
なのはのバスターはその性質上、どうしても撃つ時に足を止めなければならな
い。
もし砲撃を躱されたり、逃げる時間を稼げるだけの効果がなければ、その瞬間
にキングの剣がなのはを捉え、殺されるだろう。

だが、躊躇している余裕もない。
魔力には限りがあるし、倒すべき敵もまだいる。
さらには残された時間もあと僅かしかない。


なのはは少しでも可能性を上げるために、“最後の切札”の使用を決意する。
立ち上がってレイジングハートを構え、キングを睨みつける。

応じるように、キングも一歩ずつ踏み出してきた。
そしてここまで頑張ったなのはに、彼なりの賞賛を送った。

「さすが最強のエースって呼ばれるだけの事はあるね。まさかここまで粘るな
んて。
 けど、本当の最強は君じゃない、この僕だ。
 だからさあ、早く死んじゃってよ」

その言葉になのはは、キングが優勝するために戦っているのではないことを知
った。
キングは、ただなのはが最強と呼ばれているのが気に入らないだけなのだと悟
った。
そして感じたのは落胆と、激しい怒り。
そんな事のために二人を殺したのかという、憎悪にも似た感情だった。
だからその間違いを正すように、自らの考え、あるいは感情を口にした。

826 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:42:05 ID:ycBlxCLg0

「…………くだらないよ、そんな事」
「ん? なにか言った?」
「くだらないって言ったの。
 誰が強いとか弱いとか、どっちが最強だとか。
 私にはどうでもいい事でしかない」
「……なんだって?」

それは、キングにとっては信じられない言葉だった。
思わず自身の耳を疑い、なのはへと訊き返す。

「それは、一体どういう意味なのかな」
「言葉通りの意味だよ。
 私は別に、自分が最強だなんて思ってないし、最強になりたい訳でもない。
 私はただ、誰にも悲しい思いをしてほしくなかった。
 私の知りうる限りの世界では、みんなに笑顔でいて欲しかった。
 だからせめて、自分の手の届くところに居る人たちだけは助けようって、一
生懸命に頑張っていたの。
 そうしたらいつの間にか、最強のエースオブエースだなんて呼ばれてただけ」

もともと「高町なのは」という少女は、どこにでもいるような、人より少し優
しいだけの女の子でしかなかった。
彼女が魔法を手にした理由ですら、偶然彼女に魔法の素質があり、偶然ユーノと出会い、そして必然的に彼女は、自分に出来ることをしようとしたに過ぎな
い。

「私はね、みんなが笑顔でいてくれるのなら、強くなんかなくていい。
 みんなが幸せでいられるのなら、世界で一番弱くたってかまわない」
「……………………」

それはつまるところ、この戦いにおけるキングの理由の全否定。
もしキングが「僕が最強でいいよね」と言えば、なのはは「うん、いいよ」と
返すだけの、無意味な独り相撲でしかなかった。

827 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:42:36 ID:ycBlxCLg0

だが、なのはにとって、この戦いの理由は違った。

「この手の魔法は、悲しみと涙を撃ち抜く力。
 泣いている人たちが、笑顔になれる場所まで導く翼。
 だから、笑いながら平気で人を傷付けるあなたなんかには、
 絶対に負けないッ!!」

なのははただ、キングが許せないだけ。
キングかこれまでにしてきた非道に怒り、
これからもするであろう凶行を阻止しようとしているだけだった。


「…………もういい。君、つまらない」
「ッ…………!」

キングはその事実を理解すると同時、心の内に在った熱が冷めていくのを感じ
た。
後に残ったのは、怒りにも似た嫌悪感。
どうしてこんなヤツが、最強の称号を持っているのかという、拒絶にも似た感
情だった。

キングが気だるげに足を踏み出す。
そこには先ほどまでの、“遊び”に対する気の緩みはない。
普段キングは、その圧倒的優位な状況から、相手をなぶる様に戦う。
そのキングが、今度は自分から動く。そこに如何なる差異が生じるのか。
それを見極めるため、なのはは限界まで集中力を高めていく。

「こんなつまらない戦いなんか、早く終わらせよう」
「レイジングハート! ブラスターシステム、リミット1、リリース!!」
『Blaster set.』

“最後の切り札”の一枚目を切り、不屈のエースオブエースは、最後の死闘へ
と赴いた。

828 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:43:33 ID:ycBlxCLg0



   /03「反撃の時」



「ここだ」

周囲には粉砕されたコンクリや亀裂の走ったアスファルト。目の前には『魔力
を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』と書かれた看板。
金居が案内したそこに、目標とした転送用の魔法陣があった。

「さあ、とっとと起動可能にしろ」
「……わかりました」

だが、その感慨にふける間もなく、金居が魔法陣の起動を急かす。
ユーノは言われたとおりに魔法陣に魔力を流し込み、同時に“解析”を掛ける。
そして魔法陣の緑色の光がある程度強まった頃、ユーノが口を開いた。

「駄目ですね、この魔法陣はある程度魔力を注ぎ込めば自動で起動するタイプ
で、待機状態にする事は出来ません」
「そうか」

その事に金居は僅かに落胆するが、もともと魔法陣を待機状態にするのは保険
であり、出来なかったところで、さしたる問題は無かった。

「なら―――」
「ああそうだ、一つ言い忘れてた事がありました」

ないと思うが、そのまま魔法陣を使われて逃げられても面倒だと、ユーノに魔
法陣から離れるように言おうとして、その直前でユーノに口を挟まれる。
その事に僅かに苛つきながらも、その言い忘れた事とやらを聞く事にする。
その理由は先ほどと変わらない。
つまりは“余裕”からだ。

「何だ、言ってみろ」
「はい、わかりました。
 これは直接的には、脱出とあまり関係がありませんけど、それでも言ってお
きます」

だがその口ぶりから、金居はユーノへの警戒を僅かに強める。
ユーノは魔法陣へ手を当て、金居に背を向けたままだ。

「このデスゲームにおいて僕たちは、首輪と言う制限か掛けられていました。
 と言うより、首輪があったからこそ、このデスゲームが成立したと言っても
過言ではありません。
 ですがこの首輪は、ある時期を境に、容易に外せるようになってしまいまし
た」

829 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:44:05 ID:ycBlxCLg0

それは今この会場に生き残っている人間なら、誰でも知っている事だ。
それをなぜ今さら語るのか。

「その時期とはおそらく、第四回放送。
 向こうに何か事情があったのなら、前回と同様代理に任せればよかったはず
です。
 それなのに、何故か十分遅れでプレシアが放送したあの時からでしょう。
 僕たちは、あの時点でプレシアがこのデスゲームから去った可能性があると
考えました」
「そんな事は俺も気付いている。それがどうしたと言うんだ」
「それは即ち、このデスゲームの破綻を意味しています。
 その理由は、一度放送の代理を行った人物です。
 彼女たちはナンバーズと呼ばれ、様々な能力を有しています。
 おそらく十分遅れの放送を行ったのも、変身能力を持つ彼女の姉妹でしょう」
「だからそれが何だと言うんだ。
 無駄口を叩くだけならば今すぐにでも殺すぞ!」

ユーノの回りくどい言葉に、金居は段々と苛立ちを募らせていった。
だがそれさえも、ユーノの決死の策の一つだった。

「問題は彼女たちの背後、創造主とも言える人物です。
 名前はジェイル・スカリエッティ。
 研究者でもある彼の目的はおそらく、このデスゲームに使われた技術でしょ
う。
 そしてプレシアを退場させた時点でスカリエッティの目的の前提条件はク
リア。
 後は早々に離脱するだけ、長居をする必要なんて何処にもない。
 証拠となるモノを処分して、さっさと退散すれば良いだけです」

そこまで聞いて、金居にもユーノの言いたいことが予想できるようになった。
そしてそれと同時に、内心に僅かな疑念と不安、強い焦燥が湧きあがり始める。

「目的を達成した時点で、彼にとって僕たちの結末はどうでもいいでしょう。
 そして、ここが人工的に作られた世界であるのなら、その破棄は容易です。
 この世界を構成するにあたって核となるモノを、停止か破壊すればいい。
 そうすればこの世界は自動的に崩壊し、後には何も残らない」

830 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:45:02 ID:ycBlxCLg0

世界全体が鳴動している。
心なしかそれは、先ほどよりも大きく聞こえた。

「……お前は、何が言いたい」
「タイムリミットですよ、このデスゲームの。
 僕たちが考えたゲーム終了のリミットは約一時間。
 次の放送までです。そして―――」

否。それは気のせいではない。
確実に、そして着実に大きくなっていく。
そしてユーノは、己が策の成就を宣言した。

「そのリミットは、もうすぐだ」

瞬間。
一際大きな振動が、仮初の世界を揺らした。
その振動によって金居は、僅かに体勢を崩す。
それと同時、ユーノが光と共に消えた。

「転移か!」

そう判断した金居は、ようやくユーノの策に気付いた。
彼はずっとこの機会を待っていたのだ。
そして自分は、ユーノの策にまんまと乗せられたのだと気付いた。
次にどこに逃げたのか、何故ヴィヴィオを平気で見捨てたのか。
そう考え、再び訪れた振動に足を取られる。
その直後だった。

「ケリュケイオン!」
『Set up.』

背後から逃げたはずのユーノの声がした。
思わず振り返り、同時に抱え込んだヴィヴィオの体が光る。
その光に一瞬眼が眩んだ。
瞬間、警戒の薄かった真正面から身体を断ち切られた。

831 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:46:01 ID:ycBlxCLg0

「グウッ!?」
『Plasma Smasher.』
「――――――ッ!!」

痛みに耐えながら、即座にその方向へとレイピアを振るうが、ゼロ距離から放
たれた砲撃魔法によって吹き飛ばされる。
大したダメージはない。即座に体勢を立て直し、襲撃者を睨みつける。
そこには黒い戦斧を構え、自分のデイバックとシルバーケープを抱えたユーノ。
隣には何故か服装の変わったヴィヴィオがいた。

「ッ!! 逃がすか!!」

金居は即座に赤いレイピアで斬りかかる。
だがアンデッドに変身していない金居では、その行動は僅かに遅かった。
ユーノはシルバーケープを着こみ、ヴィヴィオを抱えると、

『Sonic Move.』

その音だけを残して消え去った。
遅れてレイピアが空を切る。
金居は振り抜いた姿勢のまま動かない。

この結末の理由。
それはこの事態を予想していた者と、そうでない者の、心構えの差だった。

「くそぉ!!! 次は殺すッ!!」

近くの瓦礫へと、力の限りレイピアを叩きつける。
行き先は簡単に予想が付く。
金居はアンデッドへと変身し、彼らが向かうであろう場所まで駆けだした。

832 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:46:32 ID:ycBlxCLg0





「ここまでくれば、とりあえずは大丈夫か」

バルディッシュによる高速移動を解除し、岩陰に隠れる。
その際、シルバーケープによる光学迷彩も一緒に解除する。

「ヴィヴィオ、怪我は大丈夫?」
「大丈夫。でも私よりユーノさんの方が」
「僕だって大丈夫だよ。こんな傷、スバルや天道さんの受けた痛みに比べれば、
どうって事ない」

そう言うユーノの肩口は、明らかに血で滲んでいた。
これは不意打ちを行った際に受けた傷だった。



先の不意打ちにおいて、重要な役割を担ったモノが三つあった。
それは「念話」と「バリアジャケット」、そして「会場の崩壊」だ。
本来リンカーコアを持たない者に、念話もバリアジャケットの装着は行えない。
だが、ヴィヴィオには疑似リンカーコアが残っていたおかげで、一応だがそれ
らの行使が可能だった。

更にユーノは、魔法陣を調べた際にそれを通じて会場の状態を“解析”し、崩
壊が起こり始めるおおよその残り時間を割り出したのだ。
結界魔導師であり、スクライアの一族として幾つもの遺跡を発掘した事のある
彼にとって、それは容易な事だった。

そして念話によって彼らは、金居に知られる事なく奇襲を計画する事に成功し
たのだ。
後は会話によって金居の注意をヴィヴィオから外し、
転移によってユーノが逃げたと金居が誤解したところを不意打ちし、
バリアジャケットを装着する際の一瞬の光を目くらましに利用したのだ。

833 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:47:14 ID:ycBlxCLg0



「ヴィヴィオ。僕はソニックムーブでの移動に専念するから、君は金居のデイ
バックから使える物がないが探してくれ。
 可能な限り揺らさないようにするけど、一応ヴィヴィオも気をつけて」
「うん、わかった。ヴィヴィオ、頑張る」
「ありがとう、ヴィヴィオ。
 バルディッシュ、頼んだ」
『Yes, sir. Sonic Move.』

目的地はなのはの元だ。
キングと金居が組んでた以上、なのはを一人にしておくのは危険だと判断した
からだ。
もし金居がなのはの元へ向かった場合、あの強敵相手に二対一となってしまう。
それでは流石のなのはでも勝ち目が薄い。
だから、たとえ戦力にはならなくても、足止めくらいにはなってみせる。
心の内で、ユーノはそう決意した。

ヴィヴィオを所謂お姫様抱っこで抱え、再びバルディッシュによる高速移動を
再開する。
その直前、ユーノは抑えきれない感情を呟いた。

「なのは、無事でいてくれ」

834 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:48:05 ID:ycBlxCLg0



   /04「オーバードライブ・ブラスター」



迫り来る一撃を寸でのところで回避し、即座にゼロ距離から砲撃を撃ちこむ。
ダメージの確認をする間もなく即座に離脱する。
直後、先ほどまでいた空間を剣が切り裂く。
そこに再び砲撃を撃ちこむが、今度は盾に防がれてしまう。

「しつこいなあ、さっさと死んでよ」
「ッ――――!」

土煙の中から振るわれた一撃を上体を逸らして躱し、
そこに撃ちこんだ砲撃の慣性で距離を取る。

息が上がる。
背中は冷や汗でぐっしょりだ。
体力よりも精神の消耗が激しい。
レイジングハートを持つ力が覚束なくなる。
対するキングは、まだ疲れた様子も見せていなかった。

間違いなくダメージはある。
だが、それ以上に相手の回復力が高いのだ。

「レイジングハート、まだ行ける?」
『もちろんです。ですが切りがありません』
「そうだね。生物である以上、頭か心臓を潰せば倒せるはずだけど。
 相手もそれは理解しているからね。そこだけは絶対に守ってる」

状況は非常に厳しい。
何度か直撃させた砲撃は、確かにキングにダメージを与えている。
だがそれ以上にキングの再生が速い。
再生にもいつか限界が来るはずだが、このままではこちらの限界が先に来る。

「どうにかして盾を破壊するしか、無いかな」
『ですが、それは容易ではありません。
 あの盾の破壊には、おそらくスターライトブレイカー級の威力が必要でしょ
う。ですが』
「そんな余裕。簡単には与えてくれないよね」

先ほどの交戦でもそうだった。
あの盾は複数同時に出現する事も可能らしく、シューターによる同時攻撃も防
がれていた。
それではブラスターユニットによる支援は期待できない。

835 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:48:35 ID:ycBlxCLg0

さらにどれ程強固にバインドを掛けても、キングはそれをすぐに破ってしまう。
制限から解放されたカテゴリーキングが相手では、せいぜい数秒程度の拘束し
か出来ない。
通常のバスターでもぎりぎりなのだ。
その程度の時間では、キングを相手にスターライトブレイカーを使う暇はない。

「けど、このままじゃどうしようも―――」
「考え事は終わった?」
「――ッ! しまった!!」

突如飛来したエネルギー弾を回避する。
少し考えに没頭しすぎた。
そしてその隙は致命的だった。

こちらの行動を先読みしたのだろう。
回避した先にキングが現れる。

(回避……だめ! 間に合わな―――!!)
「バイバイ、最強の魔導師さん」

振り下ろされた剣が地面を砕き、その衝撃で土煙が舞う。
この一撃には、どんな相手だって耐えられないだろう。
ましてやなのはは防御すら出来なかったのだ。
生きている筈がない。
だというのに。

「………………。
 つまんないなあ、また邪魔が入ったよ」

土煙が晴れる。
そこには、ある筈の高町なのはの死体は無かった。

「なのはは僕が守る。絶対に死なせない!」
「ユーノくん?」

声のした方向を向けば、そこに高町なのははいた。
ユーノ・スクライアに抱かれるような形で。

「ユーノさん……なのはママ、苦しい」
「あ、ごめんねヴィヴィオ」
「ごめんヴィヴィオ。もう少しだけ我慢して」

間にヴィヴィオを挟んでいたが。

836 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:49:42 ID:ycBlxCLg0


「邪魔しないでくれるかなあ」
「そんな訳にはいかないよ。
 なのはは絶対に殺させない」

そんなことはお構いなしに、キングは苛立ちを見せ始める。
対するユーノも、堂々とキングに言い返す。

「もうウザいんだってば!」

その事に更なる苛立ちを募らせたキングが、ユーノに向かってエネルギー弾を
放つ。
だが、それがユーノに届くころには、ユーノ達は姿を消していた。

「ああもう! イライラする!!」

その事に切れたキングは、なのは達を探すついでに周囲に当たり散らし始めた。





そこから僅かに離れた位置で、ユーノはなのは達を下ろすと座り込んだ。

「大丈夫? ユーノ君」
「少し、無茶をし過ぎたかな」
『ご苦労様です』

その手にはバルディッシュが握られ、ヴィヴィオが見つけた足にはマッハキャ
リバーが装備されていた。
あの一瞬ユーノは、マッハキャリバーによる加速と、バルディッシュのソニッ
クムーブを併用する事によって、辛うじてなのはを助ける事に成功したのだ。
だが、元より戦闘向きでないユーノが人二人を抱えて行うには、大きな負担と
なったのだ。

837 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:50:12 ID:ycBlxCLg0

「でも、ありがとうユーノ君。おかげで助かったよ」
「どういたしまして。
 でもそれよりなのは、伝えなきゃならない事がある」

感謝もそこそこに、なのははユーノの真剣な表情に気を引き締める。

「キングと金居が手を組んだ」
「……ッ! ユーノ君たちは大丈夫だったの?」
「なんとかね。でも、おかげで魔法陣の場所がわかった」

なのははその事に、僅かに安堵する。
会場の振動はどんどん強まっている。
この分では、いつ崩壊が始まるか判った物ではない。

「それでなのは。君はこれからどうする。
 敵はキングと金居だけじゃない。まだスカリエッティ達が残っている筈だ。
 それに残り時間も少ない。
 生き残る事を優先するなら、今すぐ魔法陣へ向かった方がいい。
 それだけは言っておくよ」

その言葉に、なのはは少し思案する。
強大な敵。見つかった脱出への糸口。
自分のするべき事。護りたいモノ。
そして。

「ここで……。ここでキング達を倒す」

それがなのはの出した答えだった。

「今ここで脱出しても、キング達は会場の崩落と一緒に死ぬかもしれない。
 けど、もし何らかの形で助かったとしたら、きっとまた同じことを繰り返す。
 そんな事、私は絶対許せないから」
「……わかった。それなら、出来る限り僕もなのはを手伝うよ。
 まず、今わかってるキングの情報を、出来るだけ詳しく教えて」

838 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:50:47 ID:ycBlxCLg0

それを聞いたユーノは頷き、キングの情報を求めた。
それに応じてなのはも、自分が知る限りの情報を伝える。

「ユーノ君、何か思いついた?」
「……二つ、思いついたよ。
 でも、一つはほとんど確証がなくて、もう一つはとても危険な手段だ。
 ハッキリ言って、命にかかわる」

そう言うとユーノはなのはの顔を見つめる。
そしてふうと、諦めたように溜息をついた。

「でも、なのははやるんだろ?」
「さすがユーノ君。私の事、良く知ってるね。」
「そうだね。だからこれだけは言っておくよ。
 やるなら全力全開、手加減なしで。
 そして、絶対に生きて戻ってきて」

その言葉に、なのはは笑顔で頷いて言った。

「当然!」
『まったくです』





その頃キングは八つ当たりにも飽き、そろそろ本格的になのは達を探そうとし
始めていた。
その時だった。
突如として足元に出現した魔法陣から、緑色に光る鎖が無数に出現し、次々と
キングを拘束したのだ。

「鬱陶しいなあ」

だがそんなモノ、彼にはさしたる意味はなく、キングは鎖を次々と引き千切ら
れていく。
だが全ての鎖が千切れる寸前、再び何重にも鎖が絡みついてきた。

839 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:51:20 ID:ycBlxCLg0

「このっ!」

キングは全身に力をいれ、鎖と引き千切っていくが、その度に新たな鎖が絡み
つく。
その鎖はユーノが作りだしたモノだった。
彼はシルバーケープで姿を隠し、物陰からチェーンバインドを行使しているの
だ。

「絶対に、離さない!」

どれだけ引き千切ろうとも出現し、何度も彼を拘束しようとする鎖に、流石の
キングも身動きが取れなかった。

そこにはユーノの決意があった。
決してキングを逃がすまいとする意志が。



そのころ、キングからは百メートル程離れた場所になのははいた。
彼女は現在、レイジングハートとマッハキャリバーの二機を装備している。
更には近くにヴィヴィオが控え、彼女もケリュケイオンを装備している。


ユーノの考えた二つの策。
その内の一つ目は、キングの剣を奪い、それを使って攻撃するという事。
キングの剣による攻撃の時に盾のオートガードがないのは、攻撃の邪魔になる
からか、自分の攻撃によって盾を壊しかねないからではないか、という考えか
らだ。
この策の欠点は三つ。

一つ。
ガードがない理由が前者だった場合、剣では盾を破壊できない可能性がある。

二つ。
たとえ後者が理由だったとしても、キングが剣をいくつでも作り出せるのなら、
なのはは慣れない剣での戦いを強いられてしまう。

三つ。
キングの破壊力が剣ではなく、キング自身の力によるものだった場合、そもそ
もこの策は成立しないという事だ。

これらの不安材料から、なのははもう一つの策を選択した。
即ち、限界まで強化・加速させた、直接攻撃による盾の破壊だ。

840 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:51:55 ID:ycBlxCLg0

なのはの攻撃でキングの盾を破壊できない最大の理由は、砲撃魔法は基本、面
での攻撃であり、威力が拡散しやすい事にある。
故にその逆。力を一点に集束させた、ストライクフレームによる攻撃ならば、
もしかしたら通るのではと考えたのだ。
かつてなのはが、闇の書の意志の障壁を貫いた時の様に。


「みんな、準備はいい?」
『いつでもいけます』
『どうぞご命令を』
「お仕事がんばりまーす」

返ってきた返答にくすりと笑い、すぐに顔を引き締める。
ここから先は決死行。僅かなミスで、即死に繋がる。
だがその顔に、躊躇いはない。

「レイジングハート、マッハキャリバー」
『All right, Strike Flame.』
『Gear Exelion, Drive ignition.』
「ヴィヴィオ、お願い」
「りょーかい!」

カートリッジウィリードし、レイジングハートとマッハキャリバーが、魔力翼
を展開する。
そこにヴィヴィオが、それぞれの手に握られたカートリッジ二つを燃料に、ケ
リュケイオンによるブーストを掛ける。

「我が乞うは、疾風の翼。星光の砲撃主に、駆け抜ける力を」
『Boost Up. Acceleration.』
「猛きその身に、力を与える祈りの光を」
『Boost Up. Strike Power.』

ブーストによって強化され、ストライクフレームがまるで大剣の様な刃になる。
それを確認すると、なのはの瞳は彼方の標的を捉える。

841 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:52:53 ID:ycBlxCLg0

「ウィング、ロード!」
『Wing Road.』

マッハキャリバーで走るのに、もっとも最適な道を作りだす。
これでいつでも引き金を引ける。
撃ち出される弾丸はなのは自身。その威力は想定不能。
なのははそこに、最後の強化を行おうとする。

「…………なのはママ」

その時、後ろから心配そうな声が聞こえた。
振り返れば、ヴィヴィオが心配そうな表情をしている。
なのははそんなヴィヴィオを安心させるように言葉を紡ぐ。

「大丈夫だよ、ヴィヴィオ。ちゃんと帰ってくるから」
「…………うん。
 ママ、行ってらっしゃい」

その一言に、どんなに思いが込められているか。
それは想像に難くない。
だからなのはも、一言だけ返した。

「行ってきます、ヴィヴィオ」

“ただいま”と言うために。
“お帰りなさい”を聞くために。
この道の先にいる敵を、打ち倒す!

「いくよ、レイジングハート、マッハキャリバー。
 ブラスター2、リリース!」
『『A.C.S. Standby!』』

“最後の切り札”の二枚目を切り、更に限界を超えた強化を行う。

マッハキャリバーのホイールが唸りを上げる。
キングはユーノ君が足止めしてくれてる。
彼我の距離は百メートルほど。
阻む物は、何も無い!!

「A.C.S.ドライバー、オーバーブースト! フルドライブ!!」
『『Charge!!』』

瞬間、衝撃をともなって桜色の閃光が解き放たれた。

842 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:53:29 ID:ycBlxCLg0



通る端から崩壊していく翼の道。
二つのA.C.Sによる超加速は、周囲に圧倒的な破壊力をまき散らし、なお加速
していく。
速度は音速にまで達し、ともすれば音の壁を突き破りかねないほど。
その事実は、それだけで高町なのはの肉体に、異常なまでの負担を強いる。

だがそれさえも一瞬。
辛くも間にあったキングの盾が、高町なのはに更なる急制動を強要する。
最大150tもの衝撃にも耐えられるソリッドシールドは、亀裂が入りはしても
容易には砕けず、激突と音速からの急停止による衝撃が大地を粉砕する。
それによりなのはには、常人ならば耐えられぬ程の負荷がかかる。

全身の骨は軋み、内臓は重圧に潰され、毛細血管が破裂する。
レイジングハートを握る手は、今にも指が千切れ飛びそう。
視界は激しく明滅し、まともに前を見る事さえ叶わない。

だがその全てを、高町なのはは歯を噛み砕く程食いしばって耐えきった。
唇からは大量の血が零れ、全身いたる所に裂傷が奔り、その手は真っ赤に染ま
っている。
されどその瞳は、真っ直ぐにキングを捉えていた。

「まさかここまでやるとはね。
 僕の盾に亀裂が入るなんて、そうそうある事じゃないよ。
 もしかしてさっきまでの鬱陶しい鎖は、この為の足止めかい?」

流石のキングにも、声に余裕がない。
しかしその複眼に、自らの勝利に対する確信は残ったままだ。
されど、なのはの瞳にもまだ、勝利への決意が宿っていた。

「けどここまでだよ。
 君の攻撃は、絶対に通らない!」
「通す!!
 レイジングハートが! マッハキャリバーが!
 みんなが私に力をくれてる! 命と心を賭けて、答えてくれてる!
 あなたみたいな人を、絶対に倒すんだって!!」

843 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:54:39 ID:ycBlxCLg0

両者の力は拮抗し、お互いに譲り合う事を良しとしない。
なのはのレイジングハートにも、キングの盾と同様亀裂が入っている。
それは即ち、レイジングハートが砕けた時点でなのはの敗北を意味する。

されど、ここでそれを案じて躊躇うのならば、そもそもこんな作戦は行わない。
故に――――

「ブラスター3!!!」
「なっ! まだ先があるって言うのか!」

“最後の切り札”の最後の一枚を切る。
跳ね上がる魔力出力。次々とロードされるカートリッジ。
ソリッドシールド、レイジングハートの双方に、さらなる亀裂が奔る。
それに構う事なく、限界以上に魔力を流し込む。

「嘘だ。 こんな事、認めない!
最強は、この僕なんだ―――ッッッ!」
「ブチ抜けええぇぇぇッッッッ!!!!!!!!」

砕け散る最強の盾。
桜色の穂先は、違う事なくキングの胸元へと吸い込まれ、その心臓を貫いた。



視界が白く染まっていく。
全身から力が抜け、穏やかな感覚に包まれていく。

どうしてかな。
帰る場所があるのに。
まだやるべき事があるのに。
どうしようもなく、眠い――――――

844 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:55:32 ID:ycBlxCLg0



   /05「覚悟の証明」



その光景を、ユーノ・スクライアは確かに見た。

辺り一面を照らす桜色の光。大地さえ打ち砕く神速の衝撃。
死をも恐れぬ限界を超えた一撃を以って、高町なのははキングを倒したのだ。

だが――――その代償は計り知れない。

確かにこの策を提案したのはユーノ自身だ。
しかし、この決戦は想像の範疇を遥かに超えていた。

なのはが通った道は深く抉られている。
キングと激突した場所は深く陥没し、まるでクレーターの様。
そこから何十メートルか離れた場所になのははいた。

「なのは!」
「なのはママ!」

駆けつけたヴィヴィオと共に、倒れ伏すなのはに駆け寄る。
なのはの状態は、一目見て判るほど凄惨だ。
全身傷のない所など無く。出血のせいか、顔色も酷く悪い。
更に両手は真っ赤に染まり、レイジングハートの柄も、その大半が血に濡れて
いる。
五体満足でいること自体が奇跡のようだった。

「なのは! 起きて、なのは!!」
「なのはママ! 目を覚まして、なのはママ!!」

二人の声に反応してか、なのはは小さくせき込み、薄く眼を開けた。
そして二人の顔を見つめると、小さく微笑みを浮かべた。

「ただいま、ヴィヴィオ」
「お帰りなさい、なのはママ!」

なのはとヴィヴィオは、お互いを抱きしめ合う。
こうして二人の親子は、小さな約束を果たしたのだった。

845 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:56:14 ID:ycBlxCLg0


「でもよく無事だったね」
「レイジングハートとマッハキャリバーが、護ってくれたんだ」

それはキングの盾を砕き、その身体を貫いた直後の事だった。
レイジングハートとマッハキャリバーはA.C.Sを停止させ、
同時にプロテクションを張ったのだ。
その二重の障壁により、なのはは慣性による瓦礫への激突と、それによる致命
傷を免れたのだ。


「何はともあれ、本当に良かった」

大きく息を吐き、胸を撫で下ろす。
その時ふと視界の隅に影が映り込む。
直後、背筋に激しい悪寒が奔った。
即座にバルディッシュを背後へと振り上げる。

響く金属音。
背後からの襲撃者が持っていた、赤いレイピアが弾き飛ばされる。
そして襲撃者――アンデッドへと変身した金居は、悔しそうに舌打ちをした。

「やはりヘルターとスケルターを使うべきだったか」
「…………ッ! 何もこのタイミングで……、いや、このタイミングだから
か!」

金居が襲撃してきたタイミングの悪さを嘆こうとして、
それが意図的なものであると悟った。
金居はいつの間にか自分たちの近くへと接近していたのだ。
元より、あれだけ派手な戦闘をしていて、気付かない方がおかしい。
今まで襲撃しなかったのは、確実に自分達を殺せるタイミングを待っていたの
だろう。

「まあさしたる問題ではないな。
 キングがやられた事は予想外だが、そこの女は瀕死、残る二人も戦力外とな
れば、結末は自ずと見える」
「――――ッ!」

846 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:57:07 ID:ycBlxCLg0

なのはがレイジングハートを支えに立ち上がろうとするが、すぐに膝をついて
しまう。無理だ。そんな状態で戦える訳がない。
ヴィヴィオにしたって、魔力はカートリッジで代用しても、戦闘経験がほとん
どない。金居相手にそれでは無謀でしかない。
つまり、現状戦えるのは僕一人だけという事だ。

だからと言って逃げる事も難しい。
僕一人では金居を相手にしながら、二人を抱えて逃げ切る事は出来ない。
キングの時は不意を突いたから上手くいったのだ。
今の金居には前回のような油断はない。半端な奇襲は、もう通じないだろう。
それでも何もしない訳にはいかない。

金居の両手に黒と金の二色の双剣が現れる。

「さあ、さっさと死ね。
 すぐに後ろの女も後を追わせてやる」
「そんな事は絶対にさせない!!
 バルディッシュ!!」
『Sonic Move.』

バルディッシュの支援とシルバーケープによるステルスで金居の背後に回り
込み、力の限りバルディッシュを振り被り、一撃する。
だが。

「無駄だ」
「なっ!」

その一撃は、あまりにも容易く避けられた。
返す一刀を辛うじてバルディッシュで受ける。
だがその威力に勢いよく飛ばされ、なのは達のところへと転がり落ちる。

「確かに姿が見えず、高速で動く敵は厄介だ。
 だが、所詮は素人。行動は読みやすく、一撃も軽い。
 以前の様に完全な不意を突いたのならともかく、正面から相対している以上、
お前に勝てる要素は皆無だ」

847 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:57:53 ID:ycBlxCLg0

そんな事はとっくに理解している。
だが、それでもなのは達を殺させる訳にはいかない!

「たとえ……たとえどんなに可能性がなくても、そんな事は関係ない。
 どんなに無茶でも。どんなに危険でも。僕たちはみんなで脱出すると誓った。
 だから! お前には負けない! なのは達は、僕が守ってみせる!!」
「そうか。ならば証明して見せろ!!」

金居が双剣を構える。
あちらから攻めないのは余裕の表れか、それとも後の先を狙うタイプだからな
のか。
どちらにせよ、今は助かる。

「妙なる響き、光となれ、癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ。
 ラウンドガーダー・エクステンド」

なのはを中心に防御と肉体・魔力の回復を同時に行う結界を形成する。
これで僕が死なない限りは、なのはの治癒が行われる。

「ヴィヴィオ、なのはをお願い。
 僕はあいつを倒す」
「ユ−ノさん」
「行くよ、バルディッシュ」
『Yes, sir.』

金居を正面に見据え、バルディッシュを構える。
あいつを倒す、なんて大それたことを言ったけど、
僕自身に有効な手立てがある訳ではない。
だからと言って、死ぬつもりはない。

僕に出来るのは時間稼ぎくらいだけど、それだけでも状況が好転する事もある。
バルディッシュのサポート。シルバーケープによるステルス。
そして、僕が考えうる限りの機略を以って、金居に決死の一撃を叩きこむ!

848 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:58:30 ID:ycBlxCLg0



   /06「なのはとヴィヴィオ 約束」



そうして、ユーノ・スクライアは無謀な死闘へと挑んでいった。
ステルスによって姿を消したユーノと、それに対応できる金居は、徐々に戦闘
領域を移し、ついには今いる場所からは見えなくなってしまった。


その光景を、私は見ている事しか出来なかった。
ユーノさん達が消えさった方向を、ただ見つめている。
それを見て何を思ったのか、なのはママが問いかけてきた。

「ねえ、ヴィヴィオ。
 悔しい? それとも、怖い?」
「――――――ッ!!」

そしてそれは、私の心を的確に捉えていた。

悔しいという思いも。怖いという感情も。きっと両方正しい。
何が悔しくて、何が怖いのかも、なのはママはきっと気付いてる。

「どうして、分かったの?」
「だって私は、ヴィヴィオのママだから。
 まだほんの少ししか一緒に過ごしてないけど、それでも本当のママになれる
ように努力してきたんだよ」

わかってる。
あの戦いの中でなのはママはそう言った。
だからきっと、私が思う以上に頑張ってるんだ。

「ヴィヴィオは、ヴィヴィオの思った通りにして良いよ。
 失敗したって大丈夫。私達がついてるから。
 言ったよね? 助けるって。いつだって、どんな時だって」

覚えてる。
もう自分の意志では止まれなかった私を、なのはママは傷だらけになりながら
も助けてくれた。

「だから、ちゃんと自分の心を信じてあげて。
 何のためにその力があるのか。
 その手の力で何ができるのか。
 それはきっと、自分の心で決める事だから」
「うん……!」

涙声で頷く。
それはきっとなのはママが通って来た道。
その先で見つけた確かな答えなのだろう。

849 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:59:11 ID:ycBlxCLg0


悔しかったのは、何も出来ない自分。
自分に力がなかったから、大切な人たちが目の前で死んでしまった。

怖かったのは、制御できない自分。
哀しみや憎しみを抑える事ができなくて、力を手に入れても壊す事しか出来な
かった。

けど、今は違う。
私を信じてくれる人がいる。
私を助けてくれる人がいる。
だから、もう大丈夫。


「ありがとう、ママ。
 私はもう大丈夫だよ。
 ちゃんと一人で立てるよ。
 強くなるって、約束したから」

抱えていたデイバックから、赤い宝石を取り出す。
私にとって罪の象徴ともいえる、レリック。

これを受け入れる事は、今までの自分を全部受け入れる事なんだと思う。
きっと、とても辛くて、とても悲しくて、とても怖い。
それでも私は、みんなを守りたい。

「だからなるよ。
 なのはママみたいに強く。フェイトママみたいに優しくなってみせるよ」
「……うん、きっとなれるよ。
 ヴィヴィオがそうなりたいって思って、そうなろうって頑張れば、
 なれないものなんて、きっとないから」

だから大丈夫。
なのはママが、私を信じてくれるから。
私が、誰かを守りたいって願っているから。
―――だからきっと大丈夫。私はもう、自分には負けない。

850 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 17:59:45 ID:ycBlxCLg0


『――――わたしを、ヴィヴィオの元に』
「マッハキャリバー?」
『わたしはこのデスゲームにおいてヴィヴィオが聖王となった際に、彼女とレ
リック、そして“ゆりかご”とのバイパスとして使用されました。
 その為、わたしはヴィヴィオの個体情報を獲得しています。レリックと融合
する際の助けになれるでしょう』

マッハキャリバーが自分から待機形態へと移行する。
それは私に受け取ってくれ、という意思表示なのだろう。

『お願いします。
 わたしはまだ動けます。まだ戦う事が出来ます。
 わたしはまだ、あなた達の助けになりたいのです』
「……わかった。手伝って、マッハキャリバー」
『ありがとうございます』

なのはママからマッハキャリバーを受け取る。
するとなのはママが、私の手を強く握った。

「今度は私の番だね。
 ヴィヴィオ、行ってらっしゃい」
「――――!」

その言葉に驚き、それ以上にうれしくなる。
握られた手を、強く握り返す。

「うん。行ってきます、なのはママ」

名残惜しげに手を離す。
けど、今は惜しむ暇はない。
ユーノさんが今も戦っている。

マッハキャリバーを片手に、レリックを胸に抱く。
赤い魔力の結晶が体内に溶け込み、体に再び魔力が満ちていく。
それと同時に、私は虹色の光に包まれた。



虹色の光が治まる。
そこには金色の髪をサイトアップに結い纏め、黒と白の騎士甲冑を纏う、17歳
前後の少女――聖王ヴィヴィオの姿があった。

聖王となったヴィヴィオは、僅かに振り向いてなのはを見つめる。
その緑と赤の双眸に宿すのは、かつての様な怒りや憎しみではなく、
母と同じ優しい光。

「本当にもう、大丈夫だね」

小さく頷き、視線を前へと戻す。
約束を胸に、清らかなる戦士はこのデスゲームを終わらせる為の戦いへと赴く。


「頑張ってね、ヴィヴィオ」
『御武運を』

その後ろ姿を見つめ、なのは達はそう言った。
そこには絶対の信頼と、母親特有の優しさがあった。

851 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:00:19 ID:ycBlxCLg0



   /07「死闘」



黒い戦斧を振り上げ、迫り来る黒い短剣を弾く。
それだけでバルディッシュを持つ手が痺れ、取り落としそうになる。
それをどうにか堪え、続く二撃目をシールドで防ぐ。
そのまま一旦距離をとり、再び斬りかかる。


ハッキリ言って、僕は戦いには向いてない。
僕が得意とする魔法は、防御や結界などの支援魔法ばかり。逆に、攻撃魔法全
般には全く適正がなかった。
そんな僕が金居を相手にして、今なお接近戦を挑んでいる理由は一つだけ。

金居には遠距離攻撃が効かない。
それは射撃魔法であろうが、砲撃魔法であろうが変わりない。そのどちらもが
金居のバリアに弾かれてしまう。
おそらく、ゼロ距離からならバリアも発生しないだろう。だが、それでは接近
戦を行うのと変わりがない。

つまり僕の目論見は、前提から崩れていたのだ。
どんなになのはが強くても、金居に遠距離攻撃が効かない以上、“砲撃魔導師”
であるなのはの攻撃は、そのほとんどが無意味。必然的に接近戦をしなければ
ならなくなる。
そして今のなのはに、そんな危険を冒させる訳にはいかない。
倒すのなら、金居を先に倒すべきだったのだ。
だけど後悔している暇はない。

今僕に出来る事は一つ。
限界まで時間を稼ぎ、崩落によって出来るだろう空間の穴に、金居を叩き落と
す事だ。
そうすれば金居は、少なくともこの会場には戻ってこれなくなる。
問題は、それまで僕が生きていられるかだ。


現在僕の有利な点は一つ。相手に姿が見えないという事だけだ。
けど金居は、その見えない僕に容易に対応している。

おそらく地面を踏んだ時の足跡とか、バルディッシュを振るった時の風斬り音
とか、あるいは僕自身の気配だとか。
そういった些細な物から判断しているんだろう。

もしこれで僕の姿が見えていたのなら、きっと僕は既に死んでいる。
つまり一瞬でも油断すれば、その場で死ぬ。
けど、他に手段はない。

852 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:01:14 ID:ycBlxCLg0


緊張で呼吸が乱れる。
疲労から足が縺れそうになる。
あまりの実力差に心が挫けそうになる。
その全てを堪えて、眼前の敵へと挑む。

その時だった。

「もう貴様の時間稼ぎにつき合う気は無い!」
「ッ! バルディッシュ!」
『Sonic Move.』

金居が地面を攻撃し、土煙が舞う。
すぐにその意図を察し、離脱する。
だが僅かに遅く、左腕に熱が奔る。

『大丈夫ですか?』
「大丈夫。深くはない。
 それよりも、問題は」

金居を中心に土煙が舞っている。
そこには、僕が移動した跡がはっきり残されていた。
これではステルスの意味がない。

「これで終りだ。無駄な抵抗は止めて、大人しく死ね」
「っ…………!」

そこに僕が攻め入れば、土煙がまた僕の軌跡を残すだろう。
そして僕の居場所を完全に把握できる金居は、容易に僕を殺せる。
かと言って逃げだせば、あいつはなのは達を殺しに行くだろう。
それだけはさせる訳にはいかない。
だから逃げる事は絶対に出来ない。

故にこれで詰み。
戦う事も、逃げる事も封じられた僕は、ただ死を待つしかない。

…………だからと言って、諦める事だけは出来ない!

「ッ! オォォォォオオオオオオッッッッ!!!!!」

せめて一矢報いようと、渾身の力を籠めてバルディッシュを振りかぶる。
ステルスに使っていた魔力さえ攻撃に回す。
金居はそれを当然の様に受け止める。

ブリッツアクションで四肢の動きを加速し、怒涛の連続攻撃を叩きこむ。
だがその全てを、金居は防ぎ続けている。

853 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:01:54 ID:ycBlxCLg0

一度でも守勢に回ればそこで負ける。
息つく間も惜しんで攻め続ける。
その中に僅かな隙を見つけた。
残された体力も少ない。
その僅かな隙に、渾身の力でバルディッシュを叩きこむ。


だがそれを、金居は深くしゃがみ込んで躱した。


それが作られた隙であると理解する間もない。
金居はしゃがんだまま、まま背中が見える程に体を捻じり、黒い短剣を斬り上
げるように降り抜ぬく。
咄嗟に回避しながらシールドを張る。
だが――――

「ジェェアァァァアアアアッッッッ!!!!!」
「――――ッ!!」

敵の渾身の一撃の前に、僕のシールドは容易く切裂かれた。
そのまま上下からの挟み込む様な一撃。
それを見て僕は、ここで死ぬんだと理解した。

「――――ごめん、なのは」

そう諦めの言葉を残す――――直前。

「セイクリッド、クラスター!」

僕と金居の周囲に、複数の小さな魔力弾が穿たれ、爆散した。
金居はその攻撃に驚き動きを止め、土煙が相手の姿を隠せそうなほどに舞い上
がる。
その隙にどうにか距離を取り、安全圏まで離脱する。

854 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:02:51 ID:ycBlxCLg0


目の前に、今の攻撃を行った人物であろう、どこか見覚えのある少女が降り立
った。
この少女は一体誰なのかと考えて、そもそもこの会場には、残り四人の人物し
かあり得ない事に思い至る。

「君は……一体……?」
「大丈夫? ユーノさん」

そのどこか聞き覚えのある声を聞いて、少女の格好にも見覚えがある事に気づ
く。
なのはと同じ結い方の金色の髪。似通った形状のバリアジャケット。
そして、緑と赤のオッドアイ。

「まさか、ヴィヴィオ!?」
「うん。そうだよ、ユーノさん」

改めてその顔を確かめれば、確かに面影が色濃く残っている。
それに今更ながらに気付いた事だが、彼女はその手足にマッハキャリバーとケ
リュケイオンを装備している。
これで気づかない方がおかしい。

「でもその姿は、一体……」
「それは後で。今はあの人の相手をしなきゃ」
「――――ッ! そうだね、話はあいつを倒してからだ」

ヴィヴィオの視線の先では、晴れていく土煙の中に金居の姿が見えている。
あいつの表情は判らないが、その気配が険呑としている事は感じ取れる。

「ヴィヴィオ。君は前衛と後衛、どっち?」
「前衛だよ」
「それならバルディッシュを渡す。代わりにケリュケイオンを渡して。
 後方支援は僕の領分だ」
「うん、わかった。
 バルディッシュ、力を貸してくれる?」
『Of course.』

バルディッシュと交換したケリュケイオンを装着する。
ヴィヴィオも慣れたような手付きでバルディッシュを構える。
金居との距離は十メートルもない。

「気をつけて。あいつに遠距離攻撃は効かない。
 射撃にしろ、砲撃にしろ。撃つならゼロ距離からだ」
「わかった。行くよ、バルディッシュ!」
『Yes sir. Haken Form.』

855 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:03:26 ID:ycBlxCLg0

先制はヴィヴィオ。
バルディッシュがその姿を光刃の大鎌へと変化させ、僕とは比べ物にならない
威力の力で、金居に向けて一撃する。
僕は攻撃対象にならないよう、再びステルスで姿を隠す。

対する金居は、ヴィヴィオの一撃を金色の短剣で防ぎ、もう一つの短剣でヴィヴィオへと攻撃する。
だがそれは、突如出現した虹色の障壁に阻まれた。

「今だ! ケリュケイオン!」
『Boost Up. Acceleration.』
「もう一つ!」
『Boost Up. Strike Power.』

その隙にヴィヴィオにブーストを掛ける。
それによりバルディッシュの光刃は、通常よりもさらに大きな刃となっていた。


大鎌による攻撃の特徴に、防御の難しさがある。
生半可な防ぎ方では、肝心の刃が回り込むように届いてしまうのだ。
ましてや、ブーストにより巨大化した今の光刃なら尚更だ。

金居とてそれは百も承知している。
大鎌を防ぐうえで最適な、面での防御手段を持たない金居は、ヴィヴィオの攻撃を全て回避するか、受け流している。


「ハアッ!」
「チィッ!」

ヴィヴィオが金居へと攻撃すれば、金居はそれを躱す。
その隙にもう一つの短剣で斬りかかれば、障壁に阻まれ距離を取られる。
攻撃の速さはヴィヴィオが。手数の多さは金居が強く。一撃の威力はほぼ同等。
双剣と大鎌がぶつかり合う度に、激しい衝撃が大気を揺るがす。

―――それはもはや、僕では届かない領域の戦いだった。

856 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:04:18 ID:ycBlxCLg0



   /08「受け継がれるもの」



光刃の大鎌を振り抜く。
金居はそれをうまく躱し、隙だらけとなっている私の懐に斬りこんでくる。
だがそれは、私の体から発生する虹色の障壁――聖王の鎧によって防がれる。

その隙にバルディッシュを振り抜き、僅かに距離を取らせる。
そこにもう一閃。今度は刃を引っ掛けるように旋回させる。
金居はそれを双剣で受ける。
だがそのまま堪えるのではなく、体と双剣を逸らして受け流す。

マッハキャリバーで急速後退。
反撃を受ける前に距離を取る。


金居の攻撃は、その大半が魔力の障壁――聖王の鎧によって防がれている。
だが、それに安心する事は出来ない。
ゆりかごに直結していない今、聖王の鎧の防御力は以前に比べて数段劣る。
ある程度力を籠められた攻撃ならば、その筋力と相まってバリアを抜いてくる
事もあるだろう。
だから、それを可能とする程の隙を与える訳にはいかない。
故に取りうる戦法はヒット&ウェイ。
ソニックムーブとマッハキャリバーによる一撃離脱―――ではない。

その姿から、金居とキングはおそらく同じ存在だろう。
つまり、なのはママから伝え聞いたその回復力も同じである可能性がある。
現に、私達が金居から逃げ出した時に、金居はユーノさんによる砲撃の直撃を
受けたはずなのに、大してダメージを受けた様子がなかった。

ならば金居を倒すには、その回復力を超えた一撃が必要と言う事。
つまりこの戦いは、先に必殺の一撃を決めた者が勝者となるのだ。


バルディッシュの柄を短く持ち、小さく半回転する様に刻む。
ブーストによって強化された魔力刃は、もはやそれだけで脅威だ。
その巨大な刃は、双剣を交差して受け止めた金居を僅かに後方へと弾く。

そこにバルディッシュを槍の如く突き出す。
金居は状態を逸らして躱し、そのままバク転で距離を取る。
金居の視線が私から外れた僅かな隙に、その背後へと高速移動する。
そのままバルディッシュを一際大きく振りかぶり、

『Haken Slash.』
「ッ――――!?」

力の限りバルディッシュを振り抜く。
強化された大鎌の光刃は、受け止めた所でその守りごと切り裂くだろう。
金居はそれを深くしゃがみ込むことで躱す。
私の体は慣性に従い、金居に背を向ける事となる。
それを好機と見た金居が双剣を振り上げ、力を籠める。
聖王の鎧を破るには十分な威力が籠められた双剣が、私へと襲いかかる。

857 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:04:59 ID:ycBlxCLg0

直前、下方からの奇襲があった。
私に必殺の一撃を叩き込まんとした金居に、巨大な刃が襲いかかる。
慣性によって金居に背を向けた私は、魔力刃にマッハキャリバーで更なる遠心
力を与え、その回転方向を制御したのだ。

地面から刃が生えたと錯覚しそうな振り抜き。
金居は辛うじて半身になって避ける。
そこに左手を突き付ける。

「プラズマスマッシャー!」

ゼロ距離から砲撃を叩きこむ。
それにより金居は大きく撃ち飛ばされる。

「バルディッシュ!」
『Zamber Form.』

バルディッシュを大剣へと変化させる。
金居の強さはもう理解している。
故に、敵が体勢を立て直す前に、強大な一撃で打ち倒す。

「撃ち抜け、雷神!」
『Jet Zamber.』

長大化した魔力刃による一閃。
武器の延長と判定されたのか、遠距離攻撃を無効化するバリアは発生せず、その身体を魔力刃が切裂いた。

だが、金居はまだ倒れてはいない。
マッハキャリバーで金居へと接近する。
あれで倒せないのなら、直接その首か心臓を断ち切る。

流石にダメージがあったのか、金居は片膝を突いたまま動かない。
バルディッシュを金居に向けて振り下ろす。

「……俺を……」
「――――っ!」

ガキィン、と音を立てて防がれた。
バルディッシュは交叉された双剣によって受け止められている。

858 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:05:45 ID:ycBlxCLg0

金居が立ち上がる。
双剣はバルディッシュを受け止めたままだ。
その両腕は、見て判る程に力が込められている。

「俺を、舐めるなァァアアアッッッ!!!!」
「なッ――――!!!」

そのあまりの斥力に、バルディッシュを持つ手が跳ね上げられる。
その瞬間バルディッシュが蹴り飛ばされ、さらに足払いを掛けられる。
私の体が崩れた体制のまま宙に浮いた。

「オォオオラァアアッッッッッッ!!!!!!!」
「ッ――――――ガハッ!!!」

顔を掴まれ、一回転。そのまま地面に叩き付けられた。
あまりの衝撃に呼吸が止まり、心臓が不整脈を起こす。
地面からのバウンドでありながら、かなりの高さまで跳ね上げられる。
そこへさらに金居の追撃が入る。

「ジェアァァァアアアアアアッッッッッ―――――!!!!!」
「ッッッ―――――!!!!」

振り上げられた双剣。
そこに膨大な量のエネルギーが集束し、二色の光に輝きだす。
そこから想定される威力に背筋が凍りつく。

「ラウンドシールド!」
『Enchant. Defence Gain.』

反撃も回避も間にあわない。
全魔力を防御に集中させ、少しでもダメージを減らそうと試みる。
そこへさらに、ユーノさんとケリュケイオンによる防御支援も加えられる。
だが―――

「ハアァァァァァ――――――ッッッッッ!!!!!」
「ッガァァアアアッッッ――――――!!!!!」

極限まで高められたその一撃は、それの守りを全て粉砕した。


勢い良く地面に叩きつけられる。
体は何十メートルも転がり、一つの大きな瓦礫に激突した。
その衝撃で瓦礫は崩れ、私の体はそこでようやく止まってくれた。

瓦礫で体を支え、ふらつく頭を手で押さえながら立ち上がる。
その時だった。

パシャリと、水溜りでも踏んだかのような音がした。
周囲からは、どこか鉄のような臭いがする。
それを不思議に思い、足元を見れば、

そこには夥しい量の血溜まりがあった。

僅かに混乱していた頭が漂白され、一気に冷静さを取り戻す。
まるで冷水を頭から被ったかの様に青ざめる。
それ程までに、この光景は衝撃的だった。

859 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:06:26 ID:ycBlxCLg0


この血溜まりは自分の物ではない。
防御が功を奏したのか、私には大出血をするような傷はない。
それに、これがただ一人の人物からの出血だとすれば、
これは既に致死量を超えている。

私は思わず周囲を見渡してしまい、一目で “ソレ”を見つけてしまった。


“ソレ”は両足を潰され、首を切断された、私の知ってる誰かの死体だった。


ホントは、何となく予想していた。
あれほど激しく戦っても、いっこうに姿を現さない二人。
最初に金居から逃げた時の、ユーノさんの言葉。
きっと二人はもう、死んだのだと分かってた。

…………出来れば、知らないままでいたかった。
それが現実逃避だという事も。いつかは絶対に知る事になるのも理解している。
けど、だからと言って、せめてこんな風に死んだなんて知りたくなかった。

心の底から、怒りが沸々と湧き上がるのがわかる。
あいつを許せないという感情が強くなる。
けど―――

『ヴィヴィオ』
「……大丈夫。ちゃんと、頑張れるから」

怒りも悲しみも、憎しみも受け入れる。
どれも大切な私の感情の一つだから。
けど二度と、それに飲まれたりはしない。

なのはママに、強くなるって約束したから。
だから負けない。他の誰かに負けるのはいい。
けど、自分にだけは負けられない―――!

私の戦う理由は、怒りや憎しみじゃなくて、大切な人たちを守るため。
こんな、悲しみしか生まない争いを終わらせるために、戦うんだ。
だからこんな所で、立ち止まってなんかいられない。


スバルの亡骸から、リボルバーナックルとデイバックを受け取る。
彼女がそれらを装備したままだったのは、瓦礫に潰され隠れていたからだろう。
それが、私がぶつかった際に瓦礫が砕け、露出したのだ。

デイバックからもう一つのリボルバーナックルを取り出し、装備する。
サイズは私に最適化されたが、色彩は白系統のまま。
多分、マッハキャリバーがそうしたのだろう。

リボルバーナックルが装備された両拳を打ち鳴らす。
両手首のナックルスピナーが唸りを上げる。
瓦礫に潰されたせいで多少傷が入ってはいたが、使用に問題はないようだ。

「―――行こう、マッハキャリバー。
 こんな事を、全部終わらせる為に」
『ええ、行きましょう』

ガチャリと、両手のリボルバーナックルが音を鳴らす。
その音はまるで、反撃を告げる狼煙の様だ。

860 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:08:58 ID:ycBlxCLg0



金居はユーノさんの支援だろう、緑光の鎖に囚われている。
ウィングロードで金居の頭上まで跳び上がる。
スバルのリボルバーナックルのスピナーが高速回転する。

「リボルバー、キャノン!」
「また不意打ちか!」

その渾身の一撃を金居に向けて叩き込む。
それに気付いた金居は渾身の力で鎖を引き千切り、大きく飛び退いて躱す。
交わされた一撃が地面を砕き、大量の粉塵を巻き上げる。

「てやぁぁあ―――!」
『Storm Tooth.』
「チィッ!」

それを煙幕に金居へと追撃し、ギンガのリボルバーナックルで打ち下ろす。
金居はそれを、双剣を交差して受け止めるが、その威力に防御を崩す。
そこへ再び、スバルのリボルバーナックルを打ち上げるように叩き込む。
胴体に直撃を受けた金居は大きく殴り飛ばされるが、空中で体勢を立て直し着
地する。

「貴様。その武器は……」
『そうです。あなたが殺した、スバル・ナカジマとギンガ・ナカジマの武具で
す』
「そうか。そう言えばあの女を殺したのは、この辺りだったな」

そのどうでもいいような言い方に、頭に血が上るのがわかる。
それはマッハキャリバーも同じなようだ。

『今なら解る気がします。これが、「怒る」という感情』
「マッハキャリバー……」

その言葉が、酷く尊く、そして悲しいモノの様に感じた。
けど、今は感傷に浸る暇は無い。
金居がスバルやギンガの敵だというのなら、なおの事ここで倒す必要がある。
マッハキャリバーに戦闘準備を告げ、カートリッジをロードする。

「最初から全開で行くよ、マッハキャリバー」
『All right.』
「フルドライブ!」
『Ignition.』
「ギア・エクセリオン!!」
『A.C.S. Standby.』

マッハキャリバーに魔力翼が発生する。
両腕を上げ、前方へと構える。
応じるように、金居も双剣を構える。

『金居。あなたに、最後に一つだけ言っておきます』
「ほう。何だ?」
『―――わたしは、あなたを決して許さない』

861 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:09:46 ID:ycBlxCLg0

その言葉を合図に、金居へと向けて突撃する。
攻撃方法は単純な正面突破。
だが単純であるが故に強力な一撃は、金居の防御を容易く崩す。

続く一撃は回避されるが反撃はない、否、反撃を当てる隙など与えない。
A.C.Sによって強化されたマッハキャリバーの加速は、反撃された所で当たる
前にその射程から逃れる事が出来る。
今の私達に攻撃を当てるには拘束して動きを止めるか、同等かそれ以上の速度
で迫るか、防御か迎撃によるカウンターが条件となる。

だが金居には私達を拘束する術はなく、またそれ程の移動速度もない。
故に金居が取れる手段はカウンターの一つしかない。


「たあッ―――!」
「グウッ―――!」

ナックルダスターにより強化された一撃を、金居は双剣を交差して受け止める。
そこに残ったもう一つの拳を叩き込む。

「リボルバーキャノン―――ッ!?」
「セヤアッ!!」

瞬間、金居がわざと上体の力を抜き、私を加速させる。
A.C.Sによる加速と、リボルバーキャノンの撃ち抜きに合わせて前蹴りを打ち
込まれる。
聖王の鎧による自動防御が発動するが、金居の人外の筋力に私自身の加速も相
まって、その防御は容易く破られた。


その衝撃のよってお互いに弾き合う。
どうにか着地するも、大きくせき込む。

『大丈夫ですか?』
「……どうにか…ね」

インパクトの瞬間なら威力はこちらが上。
だが、金居は基礎能力で勝る。力比べになれば、こちらが不利だ。

「なら、プラズマアーム!」

両腕に稲妻を纏わせる。
それは両腕のリボルバーナックルと相まって、より強力な効力を得る事となる。
おそらく、単純な一撃の威力はこれで互角。

金居へと突撃し、雷撃を纏った拳を打ち抜く。
それに合わせるように、金居が双剣を振りかぶる。

一撃目。ぶつかり合った右拳と黒い短剣が、周囲に衝撃波を起こす。

二撃目。速度で勝る私の左拳が、筋力で勝る金居の金色の短剣に防がれる。

三撃目。お互いの上段蹴りが激突し、一時的に距離が出来る。

四撃目。私のリボルバーキャノンと、金居の双剣による一撃が激突する。

五撃目。ノックバックで距離の開いた金居に突撃し、追撃の一撃を入れる。

六撃目。プラズマアームの電気エネルギーを圧縮し、直接金居へと撃ち込む。

七撃目。先の一撃で体の浮いた金居に、再びリボルバーキャノンを叩き込む。

大きく金居が吹き飛ばされ、瓦礫の山へと突き刺さる。

862 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:10:24 ID:ycBlxCLg0


乱れた息を急いで立て直す。
十秒に満たない攻防で、もう息が上がっている。
魔力の限界はまだ遠い。だが体力の限界が近づいている。

瓦礫の中から金居が姿を現す。
その姿に目に見えるダメージはない。
やはり金居を倒すには必殺の一撃を決める必要がある。
腰を深く落とし、必殺の一撃に神経を集中させる。
こちらの覚悟を見てとってか、金居が双剣に力を籠め始める。

即座に金居に向けて突撃する。
金居の全力での一撃は驚異的だ。
完全に力を溜めきる前に、必殺の一撃を叩き込む。

「おおおおオオオオオ――――!!!!!」
「ハァアアアアッッッ――――!!!!!」

それを認識した金居が、合わせるように双剣を振り抜く。
魔力を可能な限り聖王の鎧へと注ぎ込む。
金居の双剣はやはり聖王を切り裂き、その先の私を切り裂かんと迫り来る。
それを、ナックルバンカーで強化したギンガのリボルバーナックルで防御する。

リボルバーナックルに阻まれた双剣が妖光を放ち、全てを断ち切らんと軋みを
上げる。
双剣を受け止めたナックルスピナーが高速回転し、二つの刃を弾き飛ばさんと
火花を散らす。


それは十秒か、一分か、それ以上か。
筋力で劣る私が、金居に圧され始めた時だった。

ビシリと音を立て、リボルバーナックルと金居の双剣に亀裂が入る。
ギンガのリボルバーナックルが、金居の双剣と共に破砕する。
残るカートリッジを全てロードする。

「一撃……、必倒―――!!!」
「ッッッッ――――――!!!!!!」

そのまま武器破壊により体勢の崩れた金居に左拳を打ち込み、その先端に魔力
スフィアを形成して押し当てる。

「ディバイン―――!!!」

押し当てられたスフィアは膨張し、金居の体勢をさらに崩す。
そこに渾身の力で、スバルのリボルバーナックルを叩きこんだ。

「―――バスター―――ッッッ!!!!!」

撃ち出された閃光は金居を飲み込み、必殺の威力を以って吹き飛ばした。

863 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:11:15 ID:ycBlxCLg0



「はぁ……はぁ……、っはあ……」

肩で大きく息をする。
どうにか敵は倒した。
だがマッハキャリバーはフルドライブを維持している。

金居はバスターの直撃を受けた。
ならばその生死はともかく、少なくとも戦う事は出来ないはずだ。
だが、聖王としての闘争本能が、まだ気を緩めることを良しとしないのだ。

そしてその直感が正しかった事を、私はすぐに知る事になる。


「ヴィヴィオ!」

ユーノさんが近づいてくる。
その手にはバルディッシュを持っている。
弾き飛ばされた時に回収してくれたのだろう。
その表情には金居を倒した事による安堵が浮かんでいる。
だがそれは、今この場においてはあまりにも致命的だった。

「ダメ! ユーノさん、逃げて!!」
「――――ッ!? しまった!!」

瓦礫の中から、金居が飛び出してくる。
その手には機械仕掛けの剣――パーフェクトゼクターが握られている。
金居はそれを大上段に構え、ユーノさんに向けて振り下ろす。

「ハアァァアアアッッッ!!!」
「このおッ―――!!」

マッハキャリバーがまだフルドライブであったことが幸いした。
辛うじて二人の間に割り込み、聖王の鎧とスバルのリボルバーナックルで防ぐ。

だが、パーフェクトゼクターによる攻撃は強力過ぎた。
聖王の鎧は容易に斬り裂かれ、攻撃を受け止めたスバルのリボルバーナックルに亀裂が奔る。
そしてそのままの勢いで、ユーノさん諸共に弾き飛ばされた。
すぐさま体勢を立て直し、ユーノさんを抱えて距離を取る。

「……やっぱり、無事たった」
「気付いていたのか」
「何となくだけどね」

相対する金居には目立った傷がない。
否。僅かに見える傷もあっという間に再生していく。
不死身、という言葉が脳裏を過ぎる。
それは奇しくも、確たる事実でもあった。

864 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:11:48 ID:ycBlxCLg0

「ユーノさん、バルディッシュを」
「わかってる」
「もう少し頑張らないとね、バルディッシュ」
『Yes, sir. Riot Blade.』
「レヴァンティンも、手伝って」
『Jawohl.』

バルディッシュを受け取り、ライオットブレードへと変形させる。
更にデイバックからレヴァンティンを取り出し、左手に装備する。

「バルディッシュ」
『Thunder Arm.』
「ケリュケイオン」
『Boost Up Acceleration. Enchant Defence Gain.』

バルディッシュの詠唱により電撃が左手に集中発生し、握られたレヴァンティ
ンが帯電する。
そこにユーノさんの支援が行われ、移動と防御が強化される。

「行くよ、みんな!」

紫電を纏う双剣を構え、金居へと突撃する。
これが金居との、最後の戦いになるようにと願いながら。

865 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:12:21 ID:ycBlxCLg0



   /09「星の輝き-ViVid-」



金居へと飛び掛かり、双剣を同時に振り下ろす。
掲げる様に持ち上げられたパーフェクトゼクターが、双剣の攻撃を阻む。
バク転するように跳びのき、突撃と同時にレヴァンティンを振り抜く。
金居は応じるようにパーフェクトゼクターで迎撃する。
それによりレヴァンティンとパーフェクトゼクターが鍔競り合う。
レヴァンティンからパーフェクトゼクターを通して、金居に稲妻が伝播する。手元の剣から伝わる雷撃に、金居の動きは鈍らざるを得ない。
そこへバルディッシュを槍のように突き出す。
金居は辛うじてそれを躱し、距離を取る。

パーフェクトゼクターを構える金居は、明らかに困惑の表情を見せていた。
なぜならヴィヴィオの剣筋は、金居にとって酷く見覚えがあるモノだったのだ。

「貴様、まさか……」
「あなたの戦い方、“覚えさせて”いただきました」

それもそのはず。
今のヴィヴィオの剣技は、双剣を使った自分の剣技そのものだったのだから。

それが常ならば、分は金居にあっただろう。
ヴィヴィオが使うのは自らの剣技であり、所詮は借り物。
その利点も欠点も、金居は熟知している。
その対処は容易に過ぎる。

だが、ヴィヴィオの持つデバイスがそれを覆していた。
ライオットブレードとなったバルディッシュ。
サンダーアームを受けたレヴァンティン。
この二機はその刀身に高圧電流を伴い、接触する度に金居に雷撃によるダメー
ジを与えてくる。

ダメージ自体はたいした事はない。
だが、これにより金居は、ヴィヴィオの攻撃にまともな対処ができないでいた。

866 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:12:52 ID:ycBlxCLg0



金居が剣を振り下ろす。
それを僅かに下がることで躱し、返すようにバルディッシュを振り下ろす。
返しからの切り上げで防がれる。
そこにレヴァンティンを突き出す。
回避と同時に右回転し、遠心力を加えた一撃が迫り来る。
マッハキャリバーで急加速し、前進することで回避する。


パーフェクトゼクターの一撃を受け止める事はしない。
金居のパーフェクトゼクターを使った攻撃は強力だ。
速度こそ双剣の時ほどはないものの、その威力はスバルのリボルバーナックル
を、ただの一撃で大破寸前にまで追い込んだ事からも窺える。

故に、攻撃は常に私から。
もし受け手に回ってしまえば、戦いの形勢は逆転しかねない。
今の私の攻撃はライオットブレードとサンダーアームの効果により、接触する
度に相手に電撃を流し込む。
それにより、パーフェクトゼクターに力が乗る前にその攻撃をキャンセルする。


痺れを切らした金居が、バルディッシュによる一撃を左腕で直接受け止める。
高い切断力を誇るライオットブレードに、腕を半ばまで切り裂かれるが、それでも刃の侵攻は止まった。
バルディッシュから流れる高圧電流を耐え抜き、パーフェクトゼクターを大き
く振り被る。

「バルディッシュ! レヴァンティン!」
『Load cartridge.』
『Schlange Form.』

バルディッシュがカートリッジをロードし、その魔力を受けたレヴァンティン
がシュランゲフォルムへと変化して、パーフェクトゼクターを絡め取る。
サンダーアームの効果はまだ続いている。
パーフェクトゼクターを握る腕ごと拘束された金居は剣を手放す事が叶わず、
結果、両腕から高圧電流が流れ込む。

「ガア――――ッ!!」

金居は二重の雷撃によるダメージで動けない。
その絶対の隙にバルディッシュを引き抜き、金居の心臓へと突き出す。
だが―――

「言った筈だ! 俺を舐めるなとッ!!!」
「ッ―――! しまった!」

金居は雷撃に耐え、自らの腕に絡まったレヴァンティンを力の限り引っ張る。
私は堪らず体勢を崩し、レヴァンティンを手放してしまう。
そこへパーフェクトゼクターが降り抜かれる。

867 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:13:29 ID:ycBlxCLg0

どうにかバルディッシュで防ぐも、バルディッシュがまたも弾き飛ばされる。
金居はレヴァンティンを振り解き、パーフェクトゼクターへとエネルギーを籠
め、今まさに止めの一撃を放たんとする。

そのパーフェクトゼクターの一撃は、壊れかけのリボルバーナックルでは、た
とえ聖王の鎧越しでも防ぎきる事は出来ないだろう。
可能な限りの速さで体勢を立て直し、その一撃を回避する。

しかし、私が体勢を立て直すよりも早く、必殺の一撃が放たれた。

「死ねェッ!!!」
「ッ―――!!!」

稲妻の如く突き出された一撃。
体勢を崩した私では防ぐ事も避ける事も敵わない。
それでも諦めず、聖王の鎧に魔力を集中させようとした、
その時だった。

ふわりと、風に飛ばされてきたものがあった。
どこか見覚えのある、一枚の白い羽根が、一瞬だが金居の視界を遮った。

『Wing Road!』

その隙を見逃さず、マッハキャリバーが金居の一撃を迎撃した。
すぐにマッハキャリバーの狙いを看破し、その指示に従う。

『Calibur shot, left turn!』

ウィングロードで体を無理やりに回転させ体勢を立て直し、金居を蹴り飛ばす。
それによって、今度は金居が僅かに体勢を崩す。

『Shoot it!』

そこに渾身の力を籠め、スバルのリボルバーナックルを叩き込む。
金居はパーフェクトゼクターを盾に防ぐが、それでも十数メートルの距離を弾
き飛ばされる。


――――それと同時に、右手からリボルバーナックルが壊れる音が聞こえた。
もともと壊れかけていたスバルのリボルバーナックルは、今の一撃で限界を超
え、ギンガの物と同じように大破してしまったのだ。

『……Thank you, and good bye. My best buddy.』

マッハキャリバーが別れを告げる。
それがどちらに対してのものか、などと考える意味はない。
だって彼女たちは、いつもずっと一緒だったのだから。

868 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:14:06 ID:ycBlxCLg0


金居はまだ防御姿勢を崩していない。
おそらくこれが最後のチャンス。
金居に自分が知る限りでもっとも強力な拘束魔法を掛け、その体を固定する。

「レストリクトロック!」
「――――――ッ!?」

それでも金居を相手に拘束していられる時間は、僅か数秒。
ならその数秒の内に、私の最高の魔法を以って決着をつける!

「バルディッシュ!」
『Riot Zamber.』

すぐさまバルディッシュを回収し、カートリッジをロード。
バルディッシュをライオットザンバー・カラミティに変化させ、正眼に構える。

それと同時に、周囲の空間に虹色の輝きが次々に現れ、バルディッシュの刀身
へと集束してゆく。
星空から流星が落ちるように、それは集い、輝きを増していく。

その流星雨はまるで『星の光(スターライト)』
彼女の母と同じ、集束魔法特有の輝きだった。


金居に遠距離攻撃は効かない。
それはどれ程の威力のものであろうと変わりがない。
金居への攻撃は直接的なものか、ゼロ距離からのものに限定される。
故に攻撃の通用するゼロ距離へと肉薄し、
直接剣を叩き込む―――


「ッ――――!!」

だが金居は、もうすぐ全てのバインドを破ろうとしてた。

間にあわない。
このままでは振り抜く前に抜け出され、直撃を避けられてしまう。
かと言って、追加拘束は出来ない。
この魔法は制御が難しい。今は私自身の詠唱を必要とする魔法は使えない。
――――ならばイチかバチか、金居の次撃に合わせて叩き込む!

そう決意した直後だった。
緑色に輝く鎖が、金居を再び拘束したのだ。

「ヴィヴィオ! 今の内に!」

ユーノの言葉に頷き、大きく構えを落とす。
傍から見ればその体勢は、力を溜める肉食獣そのものだ。


刀身に集められた魔力が、臨界点へと達する。
ベースとなった魔法の名残か、虹色に輝く刀身に金色の雷光が迸る。

金居は必死で抜け出そうともがいている。
刀身に圧縮された魔力は、もはや暴発直前の様相だ。
マッハキャリバーのホイールが地面と摩擦し咆をあげる。

「行くよ、これが私の全力全開―――!」

―――駆ける。
A.C.Sによる加速を得たマッハキャリバーが、彼我の距離を一瞬で零にする。
数秒と経たずに、金居の目前へと跳び上がる。

「スターライトザンバー―――!!」

その魔法(キセキ)の真名と共に、星の剣を振り上げる。
刀身が一際眩く輝き、昇り始めた太陽よりも強く、崩壊する世界を照らし出す。


交錯する視線。
ここに決まる勝者と敗者。
その差は、他者を利用し、自分だけを信じた者と。
他者を信じ、仲間との絆を紡いだ者との差だった。


「――――ブレイカー――――!!!!」

炸裂する虹の極光。
その輝きは、周囲の全てを飲み込み、長き戦いの終わりを告げる旭光となった。

869 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:14:45 ID:ycBlxCLg0



体力は完全に底をついた。
マッハキャリバーは稼働限界を超えてスタンバイモードへと戻り、バルディッシュもアサルトフォームへと戻っている。
そして極光が炸裂した爆心地では、


金居が半壊したパーフェクトゼクターを支えに、再び立ち上がっていた。

「そんな……嘘だろう!? まだ立つのか!?」

ユーノさんが驚愕の声を上げる。
それも当然だろう。
あの一撃の直撃を受けて立ち上がれる者など、普通はいない。
しかも金居の胸にある大きな傷跡が、見る間に再生されていく。
ユーノさんはその事実に絶望感を顕わにする。
けど不思議と私は、危機感を感じなかった。

スバルのデイバックから、一枚のカードを取り出す。
それはジョーカーと書かれた一枚のトランプ。
このカードを取り出した理由は、自分でもよく解らない。
ただ、このカードが自分を使えと言っているように感じるのだ。

そしてそれは正しかったようで、金居は腹部のバンクルに手を当てた後、目に
見えて狼狽する。
それにどんな意味があったのか、私には分からないが、金居にとっては致命的
なことであるらしい。
ジョーカーのカードを片手に金居へと歩みよる。

「ア、アァアアアア――――!!!!」

追い詰められた金居が、パーフェクトゼクターを振り上げ斬りかかってくる。
だがパーフェクトゼクターは、聖王の鎧に阻まれるまでもなく、金居を拒絶す
るかのように自壊した。

「………………ふん。
 今回は、ここまでか」

それを目の当たりにした金居は、そう小さく呟いた。

ジョーカーのカードを押し当てる。
最後の武器を失った金居は、もう抵抗をしなかった。
ジョーカーは、彼の世界でケルベロスと呼ばれるカードと同じく、
金居――ギラファアンデッドを封印した。

870 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:15:39 ID:ycBlxCLg0



   /10「安らぎの場所に向かって」



クレーターの中央付近で、スペードのKと書かれたカードを拾う。
近くにはデイバックがあり、当然それも拾い、中身を確認する。

中にはハンドグレネードとRPG-7、天道さんの持っていた爆砕牙、それと先ほ
ど拾ったトランプと同種の、ハートのAと3から10の9枚が入っていた。

ユーノ君の結界を出て行動しているのは、身体の調子を見る為と、私にも何か
できる事がないかと、周囲を捜索していたのだ。
結果見つかったのは、金居が使っていた赤いレイピアと、仄かに魔力を感じる
青白く輝く鉱石。それとキングの物と思われるデイバックとカードだけだった。

今一ぱっとしない結果に、もう一度捜し回ってみようかとも考えたが、今はま
だ無茶は出来ない。
もし探すのであれば、ユーノ君達と合流してからにする。


クレーターの外へと飛翔し、大きく息を吐く。
体の調子は悪くない。
まだあちこちが痛み、戦闘行動を執るのは難しいだろうけど、普通に移動する
分には問題ない。
問題があるとすれば―――

「レイジングハートは大丈夫?」
『自動修復可能範囲内ではありますが、時間がかかります。
 現状、戦闘行動を行うのは厳しいでしょう』
「そっか。やっぱり……」

今戦闘を行えば、レイジングハートが壊れる危険があるという事だ。

この後にナンバーズが控えている今、レイジングハートと一緒に戦えないのは
非常に厳しい。
実家が古流武術の道場であるため、多少なら刀の心得もあるが、やはり自分は
魔導師なのだ。
自分の相棒が戦えないというのは、酷く心許ない。

871 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:16:11 ID:ycBlxCLg0


その時だった。
何処からか、誰かの走る足音が聞こえた。
序で聞こえたのは、自分の名前を呼ぶ声だった。

「なのはママ!」
「なのは!」
「ヴィヴィオ! ユーノ君!」

声の方向へと振り返ってみれば、ヴィヴィオとユーノが走ってくる。
思わず体の痛みを忘れて駆けだした。
そしてある程度の距離まで近づくと、ヴィヴィオが跳び付いて来た。
それをしっかりと抱き止める。

「ただいま、なのはママ」
「お帰りなさい、ヴィヴィオ。
 よく頑張ったね、えらいぞ」
「うん!」

お互いに抱きしめ合い、約束の言葉を交わす。
聖王になっても感情に飲まれる事なく、自分の意思で戦えたヴィヴィオを目一
杯褒める。
無事帰る事が出来たら、何かご褒美を上げなきゃいけないと思う。

「なのは、もう動いて大丈夫なの?」
「なんとかね。ユーノ君の方こそ、怪我してない?」
「ヴィヴィオのおかげで、なんとかね。
 なのはが動けるんなら話が速い。
 時間がないから手短に言うよ」

そう言うとユーノ君は座り込んで、自分のデイバックを目の前の地面に置いた。
私もユーノ君にならって座り込み、抱えていた三つのデイバックを地面に置く。
ヴィヴィオも同様に座り込んで、デイバックを地面に置いた。
それと同時にユーノ君が、ラウンドガーダー・エクステンドを発動する。

872 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:16:54 ID:ycBlxCLg0

「ユーノ君、これは?」
「説明や作業の間、少しでも回復できるようにね。
 大丈夫。僕は後方支援が基本になるからね。
 戦闘ではなのは達ほどには魔力を消費しない。
 て言うか、むしろこういう時こそ後方支援の出番だろ」
「それもそうだね」

そう言って思わず苦笑する。
そしてユーノ君は咳を一つ、真顔になって喋りはじめた。

「じゃあ始めるよ。
 まず、全員の荷物を簡単に整理するんだ。
 自分が持っておいた方がいいモノ、持っておきたいもの。
 使える物や使えない物。全部だ」
「それはいいけど、一体なんで?」

そう聞くと、ユーノ君は一際真剣な声で言った。

「もうすぐ会場の大崩落が始まると思う」
「大崩落?」
「そう。この会場を維持していた核と言える部分が、既に機能していない。
 今は余剰魔力でなんとか持ってるけど、それももうすぐ尽きる。
 そうなったら、底の割れたバケツみたいに、一気に中の物が零れ出す。
 つまり、この会場があっという間に崩落するんだ。
 そうなる前に魔法陣で安全な場所まで転移する」

つまり、今は小康状態となっているが、会場に響いている振動や轟音は、この
世界の悲鳴の様なものなのか。

「よく分かったね、そんなこと」
「魔法陣を調べた時に、ついでにね」
「それで、安全な場所って? やっぱり、プレシア達のいた所?」
「いや、多分そっちには転移出来ない。
 言っただろう、核がないって」

873 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:17:43 ID:ycBlxCLg0


通常、転移魔法は使用者が目的の場所の座標を知らなければ、術者が望んだ場
所へは転移出来ない。
これは転移魔法を知る者なら誰でも知っている常識である。
当然、ユーノは勿論、なのはだって知っている。
そしてなのは達はプレシアのいた場所の座標を知らない。

ならば何故ここに来たのか。
それはここの転移魔法陣が“使用者の望んだ場所へと転移させる”機能を持っ
ていたからだ。
そしてそれは、八神はやてが二度実践し、確かであると証明している。
一度目はヴィータの所へ、二度目はスバルの所へと。
そして当然、はやては二人の居場所――つまり座標など知らなかった。
ならば何故はやては望んだ場所へと転移出来たのか。

それはその魔法陣とこの会場、そして参加者に関係があった。
まず魔法陣があるエリアは【E-5】。つまり会場の中央に存在する。
そして会場の端と端はループしている。
言い換えれば、端から端へ転移しているのだ。
この時点で魔法陣が会場のループに関係がある事は、容易に想像がつく。
そこから発展させれば、会場の構成そのものにもだ。
もし魔法陣が会場を構成する上で重要な機構となっているのなら、会場の中で
あるならばどこへ転移させるのも容易い事だろう。

次に、このデスゲームの参加者には、必ず共通している点が一つあった。
そう、首輪だ。
参加者たちは、ゲーム開始時点では全員が首輪をしていた。
この首輪は参加者への抑止力であると同時に、プレシアへの生死の報告や、禁
止エリアへ入った参加者への警告・粛清も兼ねていた。
つまり何らかの情報を送受信する事が出来るのだ。

ここまで言えば解るだろう。
そう、その魔法陣の効果の転移とは、参加者の首輪を目印にした物だったのだ。
つまりはやては、“望んだ場所に”ではなく“望んだ人物の近くに”転移した
のだ。

874 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:18:19 ID:ycBlxCLg0


ユーノは魔法陣と会場を解析した際に、それらの仕組みを大凡ではあるが把握
したのだ。
魔法陣を維持するエネルギー源たる核が、同時にこの会場の核である事も。
そして既にその核が存在していない事も、また同時に。

もし核が健在であれば、そのエネルギーの流れを逆算して核の座標を割り出し、
そこに転移する事も可能だったかもしれないが、エネルギーの供給が断たれた
以上、それは不可能だ。


「じゃあどこに転移するの?
 この会場から出られないんじゃあ、何処に至って危険だよ」

その説明を大雑把に聞いた私は、目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。

「あるだろ、一つだけ。
 衛星軌道上に上る事も可能で、次元跳躍も可能な空中戦艦が」

けどユーノ君は自身を持ってそう断言した。
それを聞いて私も、思い当たるモノが一つだけあった事に気づく。

「あ……そうか、“聖王のゆりかご”!」
「そう。ゆりかごなら、この会場の崩落にも耐えられるかもしれない。
 もしかすれば、元の次元に帰る事だってね。
 幸い、こっちには艦長役もいる事だし」
「へ……? それって、私のこと?」

いきなり話を振られたヴィヴィオが、困惑気味に聞き返してくる。
その様子を見て、私とユーノ君はクスクスと笑った。

「まあとにかく、そういう事だから」
「解った。でもなんで荷物の整理を?
 時間がないならい出来る限り急いだ方がいいじゃないのかな」
「時間がないと行っても、別に一分一秒を争う訳じゃない。
 時々、大きい振動が起こるから勘違いしやすいけどね。
 この振動は、結界の核がなくなって、維持できなくなった部分。
 つまり、ループ機能とかが壊れ始めているからだと思う」

それはつまり、先ほどまで繋がっていた空間が、いきなり断絶したという事。
いわば次元震に近いものなのだろう。

「それに転移が上手くいったとしても、“何が起こるか判らない”からね。
 すぐに対処できるように、出来る限りの準備はしておくべきだ」

その言葉に頷く。
私達はこのデスゲームの開幕を始め、突発的な出来事に翻弄され続けている。
なら、今度だって何が起こるか判らないのだ。

875 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:18:56 ID:ycBlxCLg0





「よし。これで多分大丈夫だと思う」

目の前には三つのまとめられたデイバック。
私達の手元にはそれぞれのデバイスや武器があった。

レイジングハートは現在、自動修復機能をフル稼働させてる。
当分は戦闘に出せない。

バルディッシュやレヴァンティン、マッハキャリバーはヴィヴィオが持ってる。
元々砲撃魔導師な上、まだダメージでまともに動けない私よりは、ヴィヴィオ
の方が接近戦には適任だからだ。

ケリュケイオンは私が持っている。
最初はユーノ君に渡そうとしたんだけど、ユーノ君いわく、

「ケリュケイオンで使える補助魔法はもう覚えた。
 アスクレピオスの補助があれば自力で使えるから、ケリュケイオンはなのは
が使ってあげて」

との事。
ユーノ君はよく私を天才だって言うけど、ユーノ君だって十分凄いと思う。
ちなみにアスクレピオスは、私と合流する前にスバル達の遺品と一緒に拾った
らしい。

蒼天の書はユーノ君が持っている。
ヴィヴィオは前衛だし、私では蒼天の書の魔法を使いこなせないからだ。

しかし、現在保有するデバイスの中で一番特異なのが、私の持つ紫紺色の宝玉
状態のデバイスだろう。
それはヴィヴィオに支給されたボーナス支給品で、十年前のレイジングハート
と殆ど全く同じ形状の、色彩とAIだけが違うデバイスだった。
いつ、どこで、どうやって作られたのか。持ち主はいったい誰なのか。
ルシフェリオンと名乗った彼女は、自己紹介を済ませると黙りこんでしまって、
何も聞く事が出来なかった。

けど、力は貸してくれるようなので、レイジングハートの力を借りれない今は、
それだけでも有り難かった。

876 ◆19OIuwPQTE:2011/02/03(木) 18:21:04 ID:ycBlxCLg0


非常時用の武器は、刀の心得がある私が爆砕牙とデザートイーグルを、ユーノ
君は赤いレイピアを持っている。
ヴィヴィオは、いざとなれば素手でも平気、との事だ。


その他の道具は、私はスバルが身に着けていた指輪と天道さんが持っていた羽。
二人の形見に、と思ったのだ。

ヴィヴィオは壊れたデバイスと、キング達が変化した謎のトランプ。
ボーナスが支給された以上、死亡した事にはなっているのだろう。

ユーノ君が一番数が多くて、余ったデイバック二つに、それぞれ重火器と完全
に使い道のない道具を入れている。


道具の確認を終えたところでユーノ君が立ち上がり、デイバックを肩に担ぐ。
同様に私達も立ち上がり、自分の荷物を背負う。

「さあ、行こう」

その言葉に頷き、私たちは魔法陣の元へと移動した。



足元には淡く光る魔法陣。
その光は小さく明滅し、今にも消えそうだった。
この魔法陣が会場の維持に関係しているのなら、この魔法陣が消えた時にこの
会場も完全に崩壊するのだろう。

「みんな、準備はいい?
 だいぶ荒い転送になると思うから、気をつけて」

ユーノ君がサイドバッシャーをデイバックに直しながら言った。
その言葉に私とヴィヴィオは頷く。

「僕が転送のサポートをするから、ヴィヴィオはゆりかごを強く思い浮かべて。
 一度行った事のある君の方が、座標の特定がしやすいんだ」

その言葉でヴィヴィオが思い浮かべるのは、まだ幼かったフェイト。
ヴィヴィオは自分に、嫌いにならないで、と彼女に言った少女を思い浮かべる。
首環で転移の位置を探知するなら、誰か人を思い浮かべた方がいいのだろうと
いう判断からだ。

魔法陣の淡い魔力光が次第に強く輝き出す。
それはまるで、消える寸前の蝋燭の輝きのようだった。

「行くよ、みんな! しっかり掴まってて!
 座標確認! 場所、聖王のゆりかご!
 転送、開始―――!!」

その声の直後、魔法陣が一際強く輝き、光が私達三人を飲み込んだ――――




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