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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13
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当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。
注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。
企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板」でどうぞ。
・前スレ
したらば避難所スレ(実質:リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ12)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1244815174/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12701/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/
詳しいルールなどは>>2-5
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ご指摘ありがとうございます
この度は、行き過ぎた独断専行を行ってご迷惑をおかけして
誠に申し訳ありませんでした。
今回の作品は、主催側のパートを全てカットして
天道、キング、金居、アンジールのパートを修正して
それを仮投下スレにまた投下させて頂こうと思いますが
よろしいでしょうか
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ひとまず投下乙です
自分は氏が言っているように主催パート全カットでの修正でいいと思います
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>>565->>578の部分を全てカットして、それ以降の修正版を投下します
◆
三つ巴の戦いを物陰から眺める金居は、舌打ちをする。
その理由は、コーカサスビートルアンデッドの首輪が突然破壊されたため。
あれは自分の記憶が正しければ、爆発する仕組みになっているはずだ。
しかし、カブトの攻撃を受けても何も起こらない。
ここは禁止エリアになっている訳でもないのに、何故。
疑問が広がっていく中、カブトとアンジールも首輪を外す。
それでも爆発することはなかった。
「チッ、何がどうなっている…………?」
苛立ちながら呟く。
物事が自分の都合の良いように動いていると思ったら、むしろ逆だった。
だが、これは逆にチャンスかもしれない。
金居は自分を縛り付ける、首輪に手を掛ける。
そのままアンデッドの力で、勢いよく引きちぎった。
数秒の時間が経過するが、やはり何も起こらない。
「何だと……」
何故爆発しないのか。
これが意味することは、参加者の解放。
何かの罠を、プレシアは仕掛けているのか。
もしや主催者は、自分達をこの世界もろとも捨てようとしている。
だから、首輪を爆発させる必要が無くなったのか。
金居は考えるが、答えが見つからない。
そんな彼の前では、未だに戦いが続いていた。
【2日目 黎明】
【現在地 D-9 荒れ地】
【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(中)、全身にダメージ(中)、カブトに変身中、首輪が爆発しなかった事による疑問
【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
1.アンジールとキングを倒す。
2.なんとかして皆と合流して全員をまとめる。
【備考】
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限から解放されました。
※ハイパーフォームになれないので、通常形態でパーフェクトゼクターの必殺技を使うと反動が来ます。
【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、コーカサスビートルアンデッドに変身中
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートの1、3〜10)、ボーナス支給品(未確認)、ギルモンとアグモンと天道とクロノとアンジールのデイパック(道具①②③④⑤)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【道具⑤】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
1.アンジールと共に、カブトを叩き潰す。
2.先程の紅い旋風が何か調べる。
3.他の参加者にもゲームを持ちかけてみたり、騙して手駒にするのもいいかも?
4.『魔人ゼロ』を演じてみる(そろそろ飽きてきた)。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※十分だけ放送の時間が遅れた事に気付き、疑問を抱いています。
※首輪が外れたので、制限から解放されました。
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【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感、キングへの疑念、主催陣(キング含む)に対する怒り
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】なし
【思考】
基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
1.天道との決着を付ける。
2.参加者の殲滅。
3.ヴァッシュの事が微かに気掛かり(殺す事には変わりない)。
4.キングが主催者側の人間でなかった事が断定出来た場合は殺す。
5.主催者達を許すつもりはない。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※オットーが放送を読み上げた事から主催者側にナンバーズの命が握られている可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限から解放されました。
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒、首輪が爆発しなかった事による疑問、現状への危機感。
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、Lとザフィーラとエネルのデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【思考】
基本:プレシアの殺害。
1.何故、首輪が爆発しなかった?
2.プレシアの要件通りスカリエッティのアジトに集まった参加者を排除するor仲違いさせる(無理はしない方向で)。
3.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
4.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪が爆発しなかったことから、主催側が自分達を切り捨てようとしている可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限から解放されました。
【全体備考】
※フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerSがC−9地点に向かっています。
※戦いの余波によって、D−9地点が荒れ地となりました。
◆
以上、投下終了です
矛盾点・修正点・疑問点がありましたら、ご指摘をお願いします
タイトル名は「解ける謎!!」に修正します
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投下乙です。
今回は残念でしたが、また機会があれば主催側の投下も待ってます。
さて、今回はようやく首輪解除か……これで少なくとも変身制限とかからは解除される事に。
ん……待てよ、制限から解放されたという事は、アンデッドは本当の不死に戻ってしまった……?
ここで金居がキングを倒すのが無意味と分かってしまえば、もう金居は脱出の事しか考え無くなりそうだなぁ。
そしてキングに不信感を募らせるアンジール。着々と離反フラグを積み重ねているなぁ……。
一箇所だけ指摘が。
キングの支給品一覧の中にフリードが残って居るので、それだけ消した方がいいかも。
後は概ね問題無いかと思います。
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ご指摘、ありがとうございます
修正スレで、投下します
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投下乙です
カブトとアンジールの対決は何度目でも熱いな
そしてアンジールの中で不信感が……
キングよ、そんなに調子に乗って大丈夫か?
一つ気になった点
首輪を外したら制限が解除されたようですが、それはもう確定事項でしょうか
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いえ、制限に関しては
明日修正スレで一旦修正版を投下して
それに関して、皆様から意見を頂こうと思っています。
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投下乙です。
主催パートカットの為か戦いは首輪破壊で中断か……とはいえそれでもカブトは強くフリード救出成功だ……(でも、C-9行きってかえって危険な気も)
で、首輪解除か……制限が完全解除はないとしてもどちらにしても大きな転機になるのは確か。
この戦いがある種、命運を握っているのは確かだからなぁ……カブトなら……カブトならきっと何とかしてくれる……
あと、没になったけどプレシア大人しく死んでろよ……
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高町なのは(StS)、八神はやて(StS)で投下します
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「さあ、始めようか。最初で最後の本気の勝負をな!」
「…………ハッ、待ってはやてちゃん!」
「ああ、なんや。正直なのはちゃんの御託はもう聞き飽きたで」
「違うの、聞いて。ねえ、さっきの放送はやてちゃんも聞いていたよね?」
「さっきの放送……? もちろん聞いていたで。それがどうしたん?」
「それなら思い出してみて! さっきの放送、今までと違ってじ「10分遅れていた」――え!?」
「それが言いたいんやろ。そんなこと気付いたに決まっているやん。
今まで1秒の狂いもなく行われていた放送が10分も遅れていたら、そりゃあ余程の阿呆でない限り気づくわ」
「だったら、こんなことしている場合じゃないよ! だって、もしかしたらプ「プレシアはもう死んでいるかもしれない」――って、はやてちゃん……気づいていたの……?」
「当たり前や。10分遅れた時点でプレシア側に何か問題が起こったということは容易に想像が付く。
最悪、いや寧ろ逆か、ともかくその延長線上で『あの放送のプレシアが偽者で本物のプレシアは既に死んでいる』なんて予想も容易く立てられるわ」
「それじゃあ、なんでかがみを殺そうとするの!? それだけ分かっているなら今はお互いに争っている場合じゃないってことぐらい分からないの!!」
「なのはちゃんこそ分かってへんな。逆や、逆。こんな状況だからこそなおさらや」
「ど、どういうこと……!?」
「まず、今のは全部ただの推測の域を出えへん代物や。状況証拠だけで物的証拠はなーんもあらへん。
そんな確証もない憶測で私は自分の信じた行動を覆せへん。
それにや、よーく考えてみ。私達の最終目的はプレシア……いやもう死んでいたら黒幕になるんか? まあ、ようはそいつらを倒すことや」
「……………………」
「つまり最終的にそいつらと戦うわけや。
でも、そんな時にあんないつまた裏切るか分からへん危険人物をのさばらせておくなんて愚の骨頂もいいところ。
そんなん役に立たへん足手まといを連れて行くよりもよっぽど質が悪いわ」
「だから、かがみは今までの事を反省して――」
「なあ、さっきからあの阿保餓鬼が改心したって言うけど――それならあっちのあれはどういうことや?」
「え、あれって……まさかデルタ……!?」
「ああ、やっぱりあれがデルタで変身した姿やったんか。ユーザーズガイド読んではいたけど、実物見るんは初めてや」
「でも、いったい誰が――」
「それはひょっとしてギャグで言ってるんか、なのはちゃん?」
「え?」
「あの阿保餓鬼、柊かがみがデルタやで」
「そ、そんな!?」
「なんならレイジングハートに調べてもらったらどうや? いくら力が制限されていてもそれぐらいならサーチできるやろ」
『マスター、残念ですがMs.八神の言う通りです』
「そんな……かがみ……なんで……」
「まあ理由はいろいろ思いつくけど、これではっきりしたやろ。
あいつは危険や、これからも自分の都合で力を振るって周りに危害を加える。
そうなる前に殺すべきや――私、なにか間違ったこと言っているか?」
「……………………させない」
「ん?」
「殺させない、かがみは絶対に殺させない! 私はそう約束したんだ!」
「……ふぅ、どうあってもあの阿保餓鬼の言葉を信じて心中する気みたいやな」
「私はかがみを信じるよ。あの涙が、言葉が、嘘とは思えないから!!!」
「……やっぱり実力行使しかないみたいやな」
「レイジングハート!」「マハ!」
「「いくよ!!/いくで!!」」
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【2日目 黎明】
【現在地 C-9】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、はやてへの強い怒り、バリアジャケット展開中
【装備】とがめの着物(上着無し)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン(待機モード)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、グラーフアイゼン(0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ホテル従業員の制服
【思考】
基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
1.何があってもかがみを守るために全力全開ではやてを止める。
2.駅でユーノ達と合流する。
3.出来れば片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
4.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)に疑念を抱いています。きちんとお話して確認したいと考えています。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康、複雑な感情、スマートブレイン社への興味、胸に裂傷痕、かがみへの強い怒り、騎士甲冑展開中
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード(魔力残量0)@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、カートリッジ×3@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
1.なんとしてでもなのはを倒して、必ずかがみに引導を渡す。
2.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
3.キングの危険性を伝えて皆で排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
4.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
5.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
6.金居は警戒しておくものの、キング対策として利用したい。
【備考】
※この会場内の守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
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投下終了です
タイトルは「分かたれたインテルメッツォ」でお願いします
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投下乙です
まさかの全編台詞オンリーw
そしてもうこの二人引くに引けないところまで来ているなあ
でもって相変わらずはやてが良い性格している
そしてタイトル、やっぱりかwww
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投下乙
つか決着かと思いきやまだ戦っていなかった罠。というかカブトが大マジで戦っているのにはよ戦えよ。
それからはやて……流石に放送で気付いた所までは良いが……
今かがみがデルタで変身した原因は オ ノ レ ガ コ ナ タ ヲ コ ロ シ タ カ ラ ダ
それ棚に上げておいて偉そうな事言うなよ……なのはもそこツッコめや!
……まぁ、長々とツッコんだけど戦いになればどうかんがえてもなのは不利だよなぁ(遠い目)。
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これよりスバル、かがみ分を投下します
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少女は堕ちて行く。
暗い、暗い、闇の底へと。
それはまさしく、底なしの沼。
死ぬまで這い上がる事の叶わぬ地獄。
或いは、少女はもう既に堕ちていたのかも知れない。
救われた様な気がしただけで、実際には救われてなどいないのかも知れない。
だけど、それでも――救わなければならない。何としてでも、救い出さなければならないのだ。
もう一度あの底なしの地獄に脚を踏み込んでしまう前に。
「かがみさんの気持ちも、わかる……けど、それじゃダメなんだ!」
ああそうだ。彼女の気持ちが分からない訳じゃない。
大切な物を奪われた瞬間に感じる気持ち。痛い程に分かる。
だから、ここでかがみを止める事が絶対に正しいだなんて言い切る事は出来ない。
もしかしたら、今のままかがみを止めた所で、かえって逆効果かも知れない。
だけど、それ以上に強い気持ちが、スバルを突き動かすのだ。
――これ以上、目の前で救える命を奪われたくはないから!
――これ以上、かがみさんの手を血で染めさせたくはないから!
「だからあたしは、貴女と戦う――そして!」
スバルが憧れたヒーローは、誰より強くて、誰よりも優しくて、誰よりも格好良かった。
何度も諦めかけた、あの絶望の淵から――あの人は自分を救い出してくれたのだ。
その瞬間から、スバルの人生が変わった。目指すものも、未来も、何もかもが。
だからスバルは力を求めた。あの人の様に、誰かを救える人間になりたいと。
そうだ。出来るとか出来ないとかの問題では、最早ない。
あの日誓った夢の為にも――やるしかないのだ。
この手で、この力で!
「……救って見せる! あたしの力で……安全な場所まで、一直線に!」
その願いには、一切の迷いも無い。
今のかがみを止めるには、自分の全力全開をもって想いをぶつけるしかない。
例えこの身体が朽ち果てようとも、自分の全力を叩きつけるしかないのだ。
憧れたあの人が、どうしても想いを伝えられない相手にそうしたように。
そして、救い出す。あの闇の中から、安全な場所まで一直線に。
ずっと背中を追い続けた、“あたしの師匠”がそうしたように。
そして貫くのだ。この想いと誇りを、全力全開で、真っ直ぐに!
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「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
ジェットエッジによる噴射推進。
暴力的な加速が、スバルの身体を前方へと押し出す。
それを迎え撃たんと放たれる、紫色のエネルギービーム。
柊かがみが変身する「デルタ」の、唯一の武装だ。
デルタのフォトンブラッドのエネルギーは、常に最大値。
そこから繰り出されるエネルギーをまともに受ければ、例え戦闘機人と言えど一たまりも無い。
だが、それは“当たれば”の話だ。当たりさえしなければ、どうという事は無い。
当然の如く、そんな単調な射撃攻撃に今のスバルを止められる訳が無かった。
一撃、二撃と、鋭角的な動きで全ての光弾を回避して、前進を続ける。
「速い――!? でも!!」
眼前のデルタが、デルタムーバーの照準器を閉じた。
元々はビデオカメラのディスプレイ画面として使用されていたものだ。
次にその引き金を引いた時には、一度に発射されるビームの数が、増えていた。
紫の高出力ビームが、同時に三方向に向かって発射されたのだ。
(かわし切れない……!? それならっ!)
動かない左腕の所為で、動きは格段に鈍っていた。
加速を続ける自分の目の前から、同時に三方向へと照射されたエネルギー。
放たれたビームの速度は、通常の銃弾と遜色ない。止まらないジェットエッジの加速。
判断までの時間は、一瞬にも満たない刹那。当然、考える時間すらも与えられない。
されど、人間の比にもならない演算能力と、類まれなる戦闘力を持ったスバルには、それで十分。
ビームが己の身体へと着弾する前に、跳躍。
「ハッ!」
水色に煌めく魔力を纏わせ、その右脚を振り抜いた。
空中で振り抜かれた右の回し蹴りは、放たれたビームを叩き落し、掻き消した。
一瞬にも満たない攻防。瞬きの間に、スバルのローラーブレードは再び地面を駆ける。
スバルがデルタのレンジ内に突入するのに掛った時間は、加速開始からほんの数秒。
ジェットエッジで得た加速をそのまま活かして、再び繰り出される右のハイキック。
「つッ……!?」
「まだまだぁッ!」
ジェットエッジがデルタの仮面を強打した。
そのまま崩れ落ちるデルタに、追撃とばかりに左のキックを振り抜く。
ライダーのマスクに直接的な攻撃が効かない事は、先の王蛇戦で経験済み。
なればこそ、ライダーの耐久力という壁を越える為に必要となるのが、加速と連撃だ。
デルタが反応するよりも早く、左のハイキックはデルタの顔面を再び強打。
キックの勢いそのままに、デルタの身体を右方向へと軽く吹っ飛ばした。
だが、隙を与えはしない。バランスを取り直して着地したデルタに、再び肉薄。
振りかぶった右の拳を、真っ直ぐに突き出した。
「させないわよっ!」
――が。
拳がデルタの仮面を叩く前に、突き出されたのはデルタムーバー。
寸での所で拳を止める。デルタもまた、スバルの顔面に銃口を突き付けていた。
この柊かがみという少女、伊達にライダーの力を連続使用していただけの事はある。
それがデルタの能力でもあるのだろうが、根本的な戦闘能力が底上げされているのだ。
戦闘機人の、それもスバルの連撃に追随する等、ただの一般人にはあり得ない事なのだから。
「あんたは強い! ええ、そりゃあ、心も身体も、私なんかよりもずっと……!」
「あたしが強くなれたのは、守りたいものがあるから! 救いたい人が、そこに居るから!」
「でも、でもね! 私にだって譲れないものがあるのよ! あの子がそんな事を望まないとしても!」
「手が届くのに伸ばさなかったら、死ぬほど後悔するから……! それが嫌だから!」
言葉として吐き出される、それぞれの想い。
揺るがぬ決意と共に、想いを叩きつけようとするスバル。
涙を押し殺した声で、スバルに訴えかけるかがみ。
二人の想いは、どちらも単純で、真っ直ぐで――。
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「その為に私は――!」
「だからあたしは――!」
銃撃音と共に放たれる、デルタムーバーからの三連ビーム弾。
されど、それらが放たれたのは全て、遥か上空へ向けて、だ。
放たれた薄紫のビーム兵器は、何処にも命中する事無く、夜空の闇へと溶けて行った。
では何故スバルに突き付けられていた筈の銃口が、遥か天空へと撃ち放たれたのか。
その答えは、至極簡単――。
「……ウイングロードッ!」
デルタの身体を吹っ飛ばしたのは、突如宙に現れた光の道。
蒼く輝くそれは、近代ベルカの魔法陣で形成された、スバルの得意技。
空を飛べないスバルが、この大空を駆け抜ける為に作った、文字通り“翼の道”だ。
ウイングロードはスバルの翼となりて、スバルの身体を空へと誘う。
一方で、地べたを一回転し、起きあがったデルタが取った行動は。
「ファイアッ!」
掛け声と共に、放たれる三連ビーム。
それを二回、三回と立て続けに撃ち放つ。
ほんの数秒の後には、空を駆けるスバルを襲うビーム弾幕の出来上がりだ。
されど降り注ぐビームのシャワーと言えど、スバルに命中はしない。
寧ろ、地上戦と言う縛りから解放されたスバルは先程よりも身軽で――。
「当たらないっ……! 動きが、速過ぎる!?」
照準を狙い定めている内に、ウイングロードは上空で一回転。
まるでジェットコースターの様に、コースに沿って走り続ける。
もうスバルに対して銃は役に立たないと、そう判断したのだろう。
腰のハードポイントにデルタムーバーを装着し、両腕で構えを取る。
素人に毛が生えたような、形ばかりの構えであった。
「来なさい、スバル……! 私を倒してみせなさいよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
デルタの眼前で、ウイングロードは終わりを告げた。
スバルが自分の意思でウイングロードの具現を説き、その身を空中へと投げ出したのだ。
右の拳、その表面に、青白い魔力が生成される。重力による落下と、スバル自身の力。
そして、マッハキャリバーやリボルバーナックルの協力が無いのが心もとないが、繰り出される一撃。
対するデルタが取った行動は、両腕による前方へのガード。
だけど、そんな素人芸ではスバルの一撃は止められない。
「はぁっ!!」
「……きゃっ!?」
その拳をデルタの両腕の甲に叩きつけた。
白銀のブライトストリームが眩しい両腕に叩き込まれる一撃。
ライダーシステムの装甲が、内部へのダメージは遮断するものの、衝撃は殺し切れず。
デルタの身体は、地面をバウンドして、後方へと転がるように倒れ込んだ。
「やっぱり、強いわね、スバル……! 仮面ライダー相手に、ここまでやるなんて!」
「立って下さい、かがみさん! 貴女の全力を、貴女の想いをあたしに見せ付けて下さい!」
「言われなくてもやってやるわ! バクラでもデルタでもない、これが本当の私だから!」
「そうでないと、かがみさんは一生そこから救われない! 例えあたしに負けても、このままずっと……!」
「救われなくたっていい! 私はそれだけの罪を犯した……呪われて当然の人間だから!」
かがみの言う通りだ。
いくら罪を背負うと言った所で、かがみの罪は重すぎる。
人を三人も殺して、その上でさらにもう一人殺そうと言うのだ。
そんな人間が救われていい筈がないと思うのは、何もかがみだけではないだろう。
それこそ、この戦いを生き抜いたとしても、法によって処刑される可能性だってある。
だけど――!
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「「それでも!」」
「あいつだけは! 八神はやてだけは! この手で殺さなきゃ、私はもっと救われない!」
「もしも貴女をこの先へ進ませたら、あたしはきっと一生後悔する! そんなのは嫌だから!」
重なり合う二人の絶叫。
最早、お互いの耳に、お互いの頭に。
お互いの言葉の意味など届いては居ないのだろう。
ただ「負ける訳には行かない」という信念だけが通い合った。
そして、後に残った問題は、最後にどちらが立っていられるか。
今の二人には、その事実だけで十分だ。
「見せてみなさいよ、あんたの力を!」
両腕を軽く掲げ、戦闘の構えを取るデルタ。
先程までとは違う。より改善された、ファイターに近い構え。
これまでに培われたデルタの戦闘データが、デモンズイデアとなってかがみの脳波に干渉。
デルタのメインコンピュータが、最善の戦闘スタイルを直接かがみの頭に叩き込んでいるのだ。
されど、今のかがみにデモンズイデアによる精神汚染は見られない。
一度デルタに変身した事と、極限状態で戦い続けた事。
その二つの事実が、驚異的な速度で免疫を作らせたのだ。
「ハァッ!」
「くっ……!」
一瞬で間合いに入りこんできたスバルの蹴りを、左腕で受け止める。
ジェット加速をつけてのハイキック。だがそれは既に痛い程に味わった。
理想的な兵士を作る為のシステムであるデルタに、そう何度も通用する技ではない。
とは言うものの、スバルの一撃の威力は生半可な物では無い。
ここ24時間で実績を積んだだけの少女に、完全に耐えきれる訳がなかった。
多少なりともバランスを崩したデルタに、スバルは容赦なく追撃を叩き込む。
「耐えきったっ……!? でも……!」
「耐え切れるっ……!? これなら……!」
またしても二人の声が重なる。
矢継ぎ早に繰り出されたのは、左のハイキック。
短時間ではあるが、デルタはスバルの攻撃を何度も受けた。
デルタのシステムがその攻撃パターンを記憶し、かがみの脳に刻み込む。
一度目のハイキックで、ジェットの加速を殺した。
二度目のハイキックは、加速無しの左腕骨折状態というハンデ付き。
威力を十分に出し切れない現状ならば、未だ発展途上のかがみでも対応出来る。
「そこぉっ!」
「こんのぉっ!」
スバルの攻撃パターンと、デルタとしての記憶。それらのファクターから捻出された答え。
それは、スバルに負けるとも劣らない、理想的なハイキックのフォームであった。
腰を捻り、その脚を振り上げる。弧を描いたハイキックが、スバルのハイキックと激突した。
二つのキックによる衝撃は、お互いの身体を相対的に吹っ飛ばす。
だが、こんな事で終わりはしない。終れる筈がないのだ。
即座に体勢を立て直したデルタが、真っ直ぐに駆け出した。
「行けるっ……!」
やはりデルタの装甲の能力は素晴らしい。
スバルとの激突でお互いに蓄積されたダメージは、どうやらスバルの方が多かったらしい。
デルタが駆け出した時、ようやくスバルはその身を起こし、次の動作へ移ろうとしていた。
右腰にマウントしたデルタムーバーのグリップを握り、銃口をスバルへと向けた。
当たらなくたって構わない。動きさえ封じられればそれで良いのだ。
真っ直ぐにスバルに向かって走りながら、三連のビームを発砲。
「チッ……!」
スバルが舌を打つ音が、デルタのマスクを通して聞こえる。
回避か、退避か、突貫か。如何なる行動でこの攻撃をやり過ごすのであろうか。
あらゆる状況に応じて的確に行動を選ばなければ、この勝負に勝ち目は無い。
デルタのコンピュータとかがみの脳。それらをフル回転させて、考える。
対するスバルが取った行動は――跳躍。想像を絶する、驚異的な跳躍力で。
夜の闇へと跳び込む様に、スバルの身体は一気に真上へと跳び上がったのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
漆黒の夜空を仰ぎ見る。
デルタの視界に飛び込んだのは、蒼の魔法陣で構成された光の道。
跳び上がった地点からデルタの眼前まで、一直線に伸びるウイングロード。
スバルの咆哮と、甲高い車輪の音。その二つが威圧感を伴って、デルタに迫る。
最早間違いない。スバルの次の攻撃は、真上からの一撃。
何と真っ直ぐで、力強い攻撃であろうか。
-
(何て分かりやすい……!)
スバルらしい攻撃だ。
それはまるでその拳に意思を投影しているかのようで。
きっとそれは間違いじゃない。その心を真っ直ぐにぶつける。
素直じゃない自分には絶対に出来ない芸当。それ故に、恐ろしい。
真っ直ぐ正面からぶつかりあって、全力全開で打ち倒す。
そんな単純な戦い方なのに、今はこいつが誰よりも恐ろしい。
(けど……! こんなもんで、行く道退いてらんないのよ!)
こいつは壁だ。目の前に立ち塞がる壁だ。
ここで壁に阻まれたまま終わるのでは、結局自分は何も変わらない。
現実から逃げて、罪から逃げて……知らん顔をして、親友に背を向けるのか?
否。そんなものは違う。圧倒的に違う。これ以上、そんな醜態を晒したくはない。
故にかがみは反逆するのだ。己の全てを賭けて、何も抗って来なかった今までの自分に。
なればこそ、成すべき事は一つ。目の前の壁をぶち壊して、その先へ進むのだ。
そしてこの手で、罪のない親友の命を奪ったアイツを叩き潰す!
それを果たすまでは、一歩も退く訳には行かない!
「スゥゥゥバァァァァルゥウウウウウウウウウウウウウッ!!!」
腰を捻って、右の拳を真上の敵へ向かって突き出す。
奴のパンチは、デルタの装甲さえあれば防ぐ事が出来る。
されど奴は違う。何の装甲も無しにデルタの拳を受ければ一たまりも無いだろう。
チャンスは一瞬。この一瞬に持てる力をつぎ込んで、狙うは必殺のクロスカウンター。
されど、相対するスバルはやはり、かがみの想像を超える相手であった。
絶妙なタイミングで振り上げた筈の拳は、しかし目標への直撃ならず。
攻撃を予測したスバルが、僅かに首の角度を捻ったのだ。
結果、デルタの拳はスバルの左頬を掠めるだけに終わった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁッ!!!」
デルタは気付かない。否、気付こうとすらしなかっただろう。
真っ直ぐに目標を見据えるスバルの瞳の色が、変色していた事に。
数秒前までは、エメラルド色の瞳をしていた。されど今は、黄金色。
まるで得物を仕留めんと空を翔ける猛禽類の如き、鋭く煌めく黄金の瞳。
スバルの持つIS。その名は振動破砕。瞳の変化は、ISを解き放った証。
勿論、リボルバーナックルが無い今、必殺の振動拳を放つ事は不可能だ。
されど、振動破砕は“触れるだけ”でもダメージを与える事が出来る接触兵器。
例え振動拳が使えなくとも、拳にISの効果を乗せて振り抜けば威力は十分。
右の拳頭に、蒼く輝く魔力を込めて、振り抜く拳はストレートパンチ。
「ぐっ……ぁぁぁああっ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
スバルの拳は、デルタの左頬へ直撃。
盛大に体勢を崩したデルタの仮面が、拳ごと地面へと叩きつけられた。
仮面を中心に、浅くめり込む森の土。即座に拳を振り上げて、追撃へと移る。
頭から先に大地へ突き刺さったデルタの身体は、一拍遅れて頭を追いかける。
軽く跳躍したスバルは、右のハイキックで落下中のデルタの身体を蹴り上げた。
「――ぁぁぁぁあああッ!」
「はぁっ!」
意思に反して、漏れ出す絶叫。
デルタの装甲とスーツを貫通してのダメージに、気が遠くなる。
だが、スバルの追撃は止まらない。軽く吹っ飛んだデルタの身体に、もう一撃。
今度はジェット噴射で加速した、左のキックを胴体へと叩き込まれた。
最初のクロスカウンターを外してからの三連撃に、一秒と掛ってはいない。
それぞれの攻撃を、一つ一つ知覚する隙も余裕も有りはしなかった。
それこそ、三つ合わせて一つの攻撃ではないかと錯覚してしまいそうになる程だ。
もしもこの攻撃を生身で受けていたら、本当に死んでいたかもしれない。
スバルの攻撃は、デルタの装甲を抜いて内部まで振動を与える。
だが、デルタも伊達に“最強のライダーズギア”を名乗ってはいない。
その装甲とスーツが振動を極力抑え、かがみの生を繋いでくれた。
まだ戦える。痛くとも、辛くとも、まだ立ち上がる事が出来る。
-
「こんな事で終わりじゃないでしょう、仮面ライダーなら!」
「言われなくとも……こっちだって、まだまだ戦えるわよっ!」
デモンズスレートがかがみの闘争本能を刺激し、その身を起こさせる。
しかし、前回デルタに変身した時とは全く違う。感覚が、意識が、何もかもが違っている。
今回の戦いは、欲求に任せた無意味な戦いでは無い。目の前の敵を倒さねばならぬ理由があるのだから。
故にこそかがみは、たった一つの目的と、明確な自分の意思を持って、この戦いに挑む。
マイナス方向に傾けば精神に異常を来すデモンズイデアも、プラスに傾けば話は別。
上手く使いこなす事が出来れば、これ程心強いライダーズギアは存在しない。
攻撃を受ければ受ける程、デルタは学習する。かがみを勝利へと導いてくれる。
大容量のハードディスクに蓄積されたデータが、かがみの脳に直接戦い方を叩き込んでくれる。
この一日の戦いの記憶と、明確な戦闘の意思。それらと相俟って、かがみは驚異的な速度で成長していた。
故にかがみは思う。八神はやてとの決戦の前に、この戦いは必要な布石であったのだと。
「あの壁を乗り越えて、私は先へ進む……!」
「その先に未来は無いって言ってるのに……!」
「なら力づくで止めて見せなさいって言ってるでしょう、スバル!」
それ以上の言葉は必要ない。
スバルの返事を聞く前に、デルタは駆け出していた。
真っ直ぐに、加速をつけて。どうせこの身体はもう、止まらない。
自分の力では、どうやったって止める事なんて出来はしないのだ。
かといって後ろに退き下がるなんて論外だ。そんな事はかがみの心が許さない。
ならば残された道はたった一つ……ただ一直線に、突き進むのみ。
前に、前に……行ける所まで、ひたすら真っ直ぐに!
「はっ! ふんっ!」
スバルが吐き出す荒い息が、デルタの仮面から耳に入る。
ひゅんと風を切り裂いて、振り上げられた左の回し蹴りと、右のストレートパンチ。
片腕が骨折している人間に繰り出せるとは到底思えない、洗練されたフォーム。
だけれど、デルタにはその攻撃が見える。それも、先程までよりも鮮明にだ。
巧みに身を翻し、繰り出された連撃を全て回避したデルタは、一瞬でスバルへと肉薄。
「はぁぁっ!!」
「なっ……速っ――ガァ……ッ!?」
デルタが突き出した拳が、スバルの頬を確かに捉えた。
その拳に感じる、確かな直撃の手応え。相手が人間であれば、まず骨折は間違いない。
声にならない呻きと共に後方へと吹っ飛んだスバルを見て、次に自分の拳を見遣る。
初めて感じる手応え。初めて与えたダメージ。初めて一人で、戦う事が出来た。
この分ならば、自分の想いをぶつけられる。お互いの気持ちをぶつけ合える!
「もう、一発ッ!!」
「ぐっ……ストラーダ! カートリッジロード!」
地べたをバウンドして転がるスバルに向かって駆け出す。
同時に、スバルの左腕に添えられた槍が、一発の弾丸を装填した。
魔力の弾丸が排出される頃には、スバルは再びその身で構えを取っていた。
かがみの予想を越えた、規格外のタフさ。戦闘機人であるが故の耐久力。
そう。スバルの底力はこんなものではない。こんな程度で終わりはしない。
入れてしまったのだ。今の一撃で、スバルの中のスイッチを。
-
「今のパンチは効いたよ、かがみさん」
対するスバルの思考は、至って冷静。
口内の血液を吐き出して、唸るように呟いた。
スバルとしても、認識を改めざるを得ない。刻み込むしかない。
柊かがみの、その覚悟を。負けられないというひたむきなまでの意地を。
それら全てを真っ向から受け止めた上で、この拳で想いをぶつける。
今のかがみを止める事が出来る唯一の方法。そして、それを出来るのは自分だけだ。
歯を食い縛った。拳を引き、構えを取った。金の瞳に、デルタを見据えた。
高町なのは譲りのこの一撃……放つ準備は整った。
「うおおおおおおおおおおッ!」
「一撃、必倒ッ……!!」
これで何度目であろうか。かがみの咆哮とスバルの唸りが、重なった。
デルタがスバルの間合いに踏み込んで、一瞬と待たずにその拳を振りかぶった。
勢いの乗せた、飛び込み様のパンチ。フットワークの速さで、一気に畳み掛ける気だ。
驚異的な学習能力だと、スバルも思う。今のかがみは王蛇として戦った時とはまるで違う。
これがかがみの意地か。何としてでも自分を打倒し、その先へ進みたいという意地か。
ちっぽけだけれど、愚直なまでに真っ直ぐな意地が、かがみをここまで成長させたのか。
だというなら、こっちもそれに恥じない戦いをしなければならない!
全力の自分を見せつけなければ、この戦いは終われないから……!
「ディバインッ……! バスタァァァァァァァァァッ!!!」
「なっ――」
最早左腕の痛みなど忘れて、右の拳を振り抜いた。
デルタの拳が風を切って、スバルの顔面の真横を通り抜けて行く。
相手の攻撃を寸での所で回避してからの、この一撃。
次の瞬間には、右の拳頭に集束された魔力が、光の奔流となってデルタを飲み込んだ。
デルタの装甲に魔法攻撃がどれ程通用するかは分からないが、それでもタダでは済まない筈だ。
リボルバーナックルによる補助が受けられないのが口惜しいが、腐ってもこの技は一撃必倒。
確かな手応えと共に、重たいデルタの装甲が軽々と吹っ飛ばされるのを感じた。
「――ぁぁぁああああああああああああああああああああああああっ!!!」
吹っ飛んだデルタの身体が、激しい粉塵を巻き上げて、岩肌に激突。
一秒と待たずに激突した岩肌に亀裂が入り、次いで粉砕。
粉々に砕け散った岩と共に、デルタの身体がどさりと崩れ落ちた。
その奥に見えるは、つい先刻入口を封鎖されたスカリエッティのアジト。
入口を塞ぐように降り積もった岩が、今の攻撃でバランスを崩して崩れ去ったのだ。
砕かれ、崩れ去った岩石はさらに激しい粉塵を巻き上げ、デルタを完全に覆い隠した。
「はぁ……はぁ……ぐっ!?」
一部始終を眺めるや否や、左腕に感じる激痛。
へし折れた左腕からの警鐘だ。声にならない呻きを漏らし、患部を押える。
痛みは当然。例えストラーダを添え木として使おうと、これだけ派手に戦ったのだ。
骨折個所へと振動が響くのは当たり前。痛みを感じるのは至極当然。
だけれど、例えどんなに傷が痛もうと、スバルは倒れない。地に膝を付かせもしない。
当然だ。かがみの敗北を確認するまでこの戦いは終らないのだから。
故にこそ、ここで自分が先に倒れる事は、スバルのプライドが許さなかった。
「ああ、そうだ……まだ、終わってない!」
両の脚で大地を踏みしめて、痛みに堪える。
重たい頭を上げて、粉塵の中のデルタを見据える。
手応えは確かにあった。だが、まだだ。まだ足りない。
こんなもので終わるとは思えないし、終れる筈も無かった。
かがみには、まだ何かがある。奴はこの短期間でここまで進化し、歴戦のスバルを殴った。
あの重たい一撃を放った相手が、こんな事で簡単に負けてくれるとはどうしても思えなかった。
やがて徐々に粉塵は晴れてゆく。スバルは、クリアになっていく視界を凝視した。
-
「かがみ、さん……!?」
そこに居たのは、力無く横たわるデルタの姿であった。
黒のボディは砂色に汚れ、白銀のフォトンストリームはくすんで見えた。
白銀の翼をイメージさせるデルタの身体も、こうなってしまえば翼をもがれた鳥も同然。
だが、スバルの毛穴は未だ開いたまま。目の前の脅威に、本能が警鐘を鳴らしているかの様に。
「う……ぐっ……」
「……ッ!!」
何秒、何十秒。或いは何分間であろうか。
一瞬だった気もするし、果てしない時間が流れた様にも感じる。
無限にも思える緊迫した空気を引き裂いたのは、眼前のデルタであった。
横たわったまま、砕けた小さな岩石を握り潰して、その拳を握り締める。
大地を殴りつける様に、その拳を地面へと叩き付けた。
それを拠り所に、デルタがふらふらと立ち上がった。
「ぬるいわね…………甘くて、ぬるいっ!」
「そんなになっても、まだ戦うんですか……?」
消え入りそうな声。
涙を堪えて、押し殺したような声。
だけれど、それは何よりも強く、逞しく聞こえた。
彼女が今泣いていたとしても、それは甘えの涙ではないのだろう。
絶対に譲れないものがある。その信念を貫く為に、必要な涙。
嗚呼、そうだ。彼女は今、泣いても良い。いくらだって、泣いていいんだ。
涙に濡れたその運命を、あたしがこの手で救って見せるから……!
「ええ、そうよ……! そんなんじゃ、今の私は止められない……! この私は倒せない!」
「そう……ですか。まだ、やる気なんですね……!」
なればこそ、彼女を救い出すの為にも、この戦いは避けられない。
彼女に譲れない意思がある様に、自分にも譲れないものはある。
そればっかりは譲れないし、一歩も退く事は出来ない。
救える命を救って、安全な場所まで一直線に連れて行く――
たった一つのその夢を叶える為にも、こんなところで負けて居られないのだ。
だから……目の前で「助けて」と泣く少女が居るのなら、あたしは全力で守り抜く!
「当然でしょう……!? 何かさ……私はもう、負けらんないのよね……!
クズだの何だの罵られようと……あんたをブッ倒してでも、アイツだけはこの手で殺さなきゃあ!」
「なら、あたしももう容赦は出来ない!
貴女が部隊長を殺すというのなら、その前にあたしが貴女を倒して見せる!」
こうして、何度もぶつけあった想いを再びぶつけあった。
結局二人とも同じなんだ。負ける事も、退く事も許されはしない。
その決意は絶対に揺るがない。目の前に壁が立ち塞がるなら、叩き潰すだけだ。
それは何が起ころうと変わらない。変わりはしないのだ。
ここに居る二人は只の戦士。
何もかもを投げ捨てて戦う決意を固めた戦士と。
夢の為に、守る為に、全てをぶつけて戦う戦士と。
一対一の、想いを賭けた戦い。お互いのプライドを賭けた一騎打ち。
全ての決着を付ける為――二人の戦士は、再び駆け出した。
-
嗚呼、こなた。
私はあんたに、なんて謝ればいいんだろう。
あんたは最後の最後まで、こんな私を信じてくれてた。
人を殺めてのうのうと生きる、どうしようもないクズを救ってくれた。
そして最後は無常にも、あの女の刃に――。
混濁する意識の中で、柊かがみが思い出すのは最後に残った親友の事。
青い髪の毛を揺らして、いつだって能天気に笑っていた。
だけども、その笑顔は本当は誰よりも優しい笑顔で。
アニメやゲームが大好きな彼女は、得意分野の話となれば何時にも増して笑顔になった。
振り回されてばかりだったけど、あの子と一緒に居る時間は楽しかった。
いつも素直になれなくて、怒ってばかりだったけど、今なら言える。
私はあの子と、そして他の皆と過ごす時間が何よりも大好きだった。
(今更ズルいわよね、こんな事)
自分でも分かる。ああ、分かっている。
失った今となっては何を思おうと、何を言おうと、もう遅いのだ。
かがみが伝えようとした言葉は永遠に伝える事は出来ないし、二度と話をすることも叶わない。
だってそうだろう。いくら話したいと願った所で、いくら謝りたいと願った所で――。
泉こなたは、もう居ない。遠い遠い、最果ての地へ旅立ってしまったのだから。
(嗚呼、私って馬鹿よね……ええ、大馬鹿よ……本当に、本当に……!
あの子とは何度だって話すチャンスがあったのに……ええそうよ、あの時だって!)
スバル・ナカジマとの一度目の交戦。
あの時あの場所に泉こなたが居たのは間違いない。
スバルだって、全力で自分の暴挙を止めようとしてくれた。
だのに、馬鹿な自分は自分の心にまで嘘を吐いて、修羅の道を貫こうとした。
中途半端な覚悟で、自分だけでなく、周囲まで騙し続けて。
その結果が、泉こなたの哀れな死。
(あんなに簡単にっ……! あんなに呆気なくっ……! 圧倒的なまでに、容易くっ……!)
頭に焼き付いて離れない、泉こなたの最後。
死に損ないの自分を守る為に“生きる筈だった”彼女は死んだ。
何人もの命を奪って、それでも許されようとしている愚かな自分の為に。
あまりに無常。あまりに非情。あまりにも、哀れ過ぎる……!
――八神はやてを、この手でブチ殺すっ!!!――
同時に湧き上がる怒りと憎しみ。
それは泉こなたを奪われた虚無感と相俟って、壮絶なまでの愛憎へと変わっていく。
もう枯れ果てたとばかり思っていたこの瞳からは、止めどなく涙が溢れ続ける。
嗚呼、自分はまだこんなにも涙を流す事が出来るのだ。誰かの為に、泣く事が出来るのだ。
なれば……なればこそ。自分はやらねばならない。この手で、この力で――
家族も友も、何もかも失っても未だ消えぬ“友情”の為に。友への想いの為に。
最後に残ったこの感情は、友の仇を取らんと熱く燃え滾っているのだ。
ならば立ち止まってなどいられない。挫けてなどいられない。
起ち上がるのだ。あの子との友情を果たすまで、何度だって。
-
(ええ、そうよ……そうと決めたら迷わない! 私はもう立ち止まらない!)
涙は止まらない。
湧き出る想いと激情は、どうしたって止められない。
だけど、それでいい。これは柊かがみに残った、人としての最後の感情だから。
この感情を抱えたまま、最後まで走り抜くのだ。例え刺し違える事になったとしても。
そうだ。死ぬのが怖い訳じゃない。このまま何もせずに、黙って死ぬのが怖いのだ。
こなたの命を踏み躙ったアイツに一矢報いる事無く、何の証も立てられずに死ぬのが怖いのだ。
だからこそ――命を、魂を、自分を自分としている全てを賭けて、あの女だけはこの手で倒す!
(我儘かしら……?)
ああそうだ。これは只の我儘だ。
こなたがそんな事を望む筈がないなんて事は分かる。
嗚呼、自分でも分かっている! 嫌という程に、分かっている!
(我儘よね……!)
だけれど、もうこの身体は止まらない。
もう二度と自分の心に嘘を吐いて生きて行くのは御免だから。
罪を背負ってでも前に進みたい。その気持ちには一片の嘘も無い。
だけど、その為に八神はやてを許すなんて事は出来ない。だから――
だからもう一度だけ罪を犯す。あの女も罪も、全部背負って、それが今の自分だから。
歪んでいると言われようと、クズだと罵られようと構いはしない。
こればっかりは、誰でも無い自分自身で決めた意思だから!
(そうよねぇっ……!)
嗚呼、ようやく気付いた。
泉こなたの為だなんて言って、これは結局自分の為の戦いだ。
友情の為だなんて言って、結局自分はあの女を許せないだけなのだ。
だけど、それは意地だ。たった一つのちっぽけな意地(プライド)なのだ。
自分が自分で有り続ける為にも、意地と力の全てを賭けて、あの女を倒す!
その為に邪魔なら、目の前の壁もブッ潰す!
(さぁ、進むわよ……!)
前に。ただひたすら、前に!
最早涙を止める事すら考えずに、柊かがみは拳を握り締めた。
白銀と黒のデルタの拳。それを大地に打ち付けて、ボロボロの身体を起こした。
まだ戦える。戦える筈だ。自分はまだ、何一つ成し遂げてはいないのだから。
この殺し合いの中で見付けた、たった一つの目的。最初で最後の、願い。
復讐と言う名の自分勝手なエゴを押し貫く為に、もう一度立ち上る。
-
「ぬるいわね……甘くて、ぬるいっ!」
痛みが何だ。苦しみが何だ。
無惨な殺され方をしたこなたの痛みと比べれば。
自分が殺した三人が受けた苦しみに比べれば。
こんなものは致命傷でも何でもない。
甘くて温い、陳腐なダメージだ。
「そんなになっても、まだ戦うんですか……?」
「ええ、そうよ……! そんなんじゃ、今の私は止められない……! この私は倒せない!」
スバルの想いは伝わっている。
自分があの女を殺したいと思っているのと同じくらい、スバルは誰にも傷ついて欲しくないのだ。
だけど、それだけじゃない。あろうことか、目の前の女は救おうとしているのだ。
その手で……救いようも無い、バカでクズで、どうしようもないこんな自分を。
なのはと同じだ。優しくて、強くて、きっとこれからも沢山辛い経験をするだろう。
だが、それでもスバルは止まらないのだろうと……そんな事は容易に想像できる。
あいつはいい奴だ。どうしようもないくらい、真っ直ぐで、優しい御人好しだ。
嗚呼……こんな出会い方をしなければ。もっと、もっと違う出会い方をしていたなら。
きっと、これ以上無い程に良い友達になれた事だろう。
(でも、それは夢……儚い、夢)
一緒に笑いあって、一緒にふざけ合って。
一緒に他愛の無い日々を送って居られた事だろう。
いや、きっとそれは只のIFではない。実際にあり得た事だ。
何処かの世界で、きっと二人はもっと別な出会い方をしていた筈なのだ。
こなたと、つかさと、スバルと、皆と――きっと、毎日楽しく過ごせた事だろう。
こんな殺し合いにさえ放り込まれなければ、実現していたかもしれない夢。
きっといつまでも続いていたであろう、幸せな日々……そんな現実。
けど、それは今ここにいるかがみは永久に掴み取る事は出来ない、儚い夢。
もう戻る事は出来ない。引き返す事は出来ない。退路等何処にも無い。
だから戦うのだ。前に進む為に。最期まで自分を貫く為に。
「そう……ですか。まだ、やる気なんですね……!」
「当然でしょう……!? 何かさ……私はもう、負けらんないのよね……!
クズだの何だの罵られようと……あんたをブッ倒してでも、アイツだけはこの手で殺さなきゃあ!」
何度も立ち止まって、何度も負けた。
自分の意思で戦おうとすらせずに、何度も地べたを舐めた。
だけど、今回ばかりは違う。こればっかりは譲れない。誰が何と言おうと譲れない。
柊かがみはクズだ。柊かがみはバカだ。どうしようもない、人殺しの狂人だ。
嗚呼、何とでも言えばいい。バカだのクズだの人殺しだの、何だって受け入れてやる。
それであの女を殺せるのならば、最早何だっていい。それが今の自分なのだ。
「なら、私ももう容赦は出来ない! 貴女が部隊長を殺すというのなら、その前に私が貴女を倒して見せる!」
ああそうだ。それでいい。
ここで引き下がろうものなら、拍子抜けだ。
きっとこれで、柊かがみが誰かと気持ちをぶつけ合えるのは最後になるだろう。
だから最後に戦うスバルにだけは、その真っ直ぐな気持ちを偽って欲しくはない。
妥協も何も許さずに、ただひたすらに素直な気持ちをぶつけてくれる。
八神はやてとの最後の戦いに赴く前に、スバルと戦えて良かったと思う。
自分の意思で人を殺して、悪鬼へと堕ちてしまう前に――
人として、最後に拳を交える相手がスバルで、本当に良かったと思う。
(……なんて、自分勝手よね。そんな事は分かってるのよ)
嫌になる程、つくづく思う。
本当に自分は自分の事しか考えていないのだな、と。
スバルなら良かった。そんな物は逃げだ。ただの逃避だ。
勝手に自分の最後の相手をスバルに押し付けて、勝手に一人で満足している。
あんなになってまで戦うスバルの気持ちを理解していながら、自分はそれをスバルに押し付けるのだ。
なんて醜い事だろうか。なんて卑怯な事だろうか。なんて自分勝手な事だろうか。
だけど、それが今の自分。目の前のあいつとは、絶対に相容れる事の無い自分。
相容れる事があり得ないのであれば、もう戦いしか残されてはいない。
-
「さあ、来なさいよスバル! あんたの魔法なんて、ぜんっぜん効いてないのよ!」
嘘だ。効いていない訳がない。
痛い程に、スバルの魔法はこの身に響いている。
その言葉、言うならばメッセージとも言えるだ。
もっと全力で来い。もっと力を見せ付けろ。あんたの全てを私にぶつけてくれ。
今の言葉には、そんな柊かがみの想いが痛いくらいに詰め込まれていた。
その行動に恥じぬ様に、今にも倒れそうな身体に鞭打って、デルタは大地を蹴った。
デルタが駆け出すと同時、スバルのジェットが轟音を掻き立てて噴射を開始。
お互いがお互いの間合いに踏み込むのに掛る時間は、加速から一合まで数えてもほんの一瞬。
何度目になるか分からないこの“一瞬”で、二人はお互いの力をぶつけ合うのだ。
「はあああああああああっ!!」
「うおおおおおおおおおっ!!」
右の拳を振り上げ、真っ直ぐに突き出すデルタ。
ジェットの加速をそのままに、魔力を込めた拳を真っ直ぐに突き出すスバル。
歴戦の勇士に遜色無い見事なまでのパンチングスタイルで、二人の拳が激突した。
黒いグローブを振り抜いたデルタと、蒼の魔力光を宿したスバルの拳。
二つが激突した刹那、巻き起こるのは蒼の魔力による激しい爆発。
拳に込めた魔力が、デルタと接触するや否や炸裂したのだ。
「なっ……!?」
眩い魔力の光に、一瞬視界を奪われる。
次いで、容易く吹っ飛ばされてしまう身体。
宙を舞う速度は、錯覚であろうか、酷くスローに感じられた。
夜空に煌めく無数の星。自分達を照らす、淡い月の輝き。
それらに心奪われる余裕など与えられる訳も無く、デルタの視界を覆ったのは蒼の光。
宙を舞うデルタの周囲360度。全方位、縦横無尽に駆け巡る、蒼の魔法陣。
もう何度も目にした、ウイングロードだ。
「がっ……ぐっ……あぁっ――!!」
次いで、身体中のあちこちが悲鳴を上げる。
身動きの取れぬデルタでは対処しきれぬ、あらゆる角度からの攻撃。
右斜め下から蹴り上げられたかと思えば、左斜め上から叩き落される。
凄まじいまでの加速。知覚すら追い付かない、強烈なヒットアンドアウェイ。
ウイングロードを縦横無尽に駆け巡り、何度も何度も、デルタの身体が宙を舞う。
やがて攻撃が止まる。スバルも手負いの身だ。攻撃する側とは言え、体力にも限界があるのだろう。
気付けば自分の身体は、空を翔けるウイングロードの内の一本に、力無く横たわっていた。
「ぐっ……スバ、ルぅ……」
軽く寝返りを打てば、その身体は真っ逆さま。
重力に引かれるままに、固い地面へと打ち付けられた。
だけれど、それで終わりはしない。這う様に身体を引きずって、その身を起こす。
拳で大地を殴りつけて、その反動でもう一度立ち上がったのだ。
「全く……何処まで強いのよ、あんたは……
八神はやてなんかより、あんたの方が100倍は怖いわよ……!」
「あたしなんかに勝てないなら、八神部隊長と戦おうなんて止めた方がいいですよ」
「ええ、分かってるわよ! アイツがあんたと違うって事は!」
きっと八神はやては、最初から自分を殺すつもりで来るだろう。
どんな状況にあろうと絶対に人を殺めはしないであろうスバルとは、決定的に違う。
あの非情さ。冷徹さ。冷たさ。何を取っても、スバルのそれとは比べ物にならない。
想いを乗せてぶつけるスバルの攻撃は、どれも温かいのだ。それこそ、ぬるいくらいに。
だけど、あの女は違う。こなたを殺したあの攻撃は、凍て付く様に冷たかった。
だが、それだけの話だ。そんな事で立ち止まるつもりはない。
スバルに勝てないのならあの女にも勝てない? ならばスバルを倒すまでの話。
嗚呼そうだ。もう、この想いに迷いは無いのだ。一片たりとも……!
-
「だからさぁ……こんなんじゃ終われない……! 終われないのよっ!!」
デルタの大容量コンピュータが、かがみの脳に絶えず情報を送ってくれる。
戦う為の技術。理想的な反射。勝つ為の法則。そしてデルタのシステム概要。
この状況に於いての、最良の判断。それらが、システムと同調したかがみの脳へと直接流し込まれる。
「――おおおおおおおおっ!」
かがみの頭に煩いくらいに響き渡る、スバルの絶叫。
ウイングロードから飛び降りたスバルが、右の回し蹴りでデルタを蹴り飛ばそうと迫る。
デルタのシステムが教えてくれる、理想的な回避の手段。攻撃を受ければ受ける程、デルタは学習するのだ。
対してスバルは、骨折と戦闘によって体力を消耗し、技を繰り出す度にその鋭さを鈍らせている。
落ち着いて対応すれば、回避できない攻撃では無い。
上体を屈めて、スバルの蹴りを回避した。
「……かわされた!?」
心の中で呟いたのであろう言葉が、早口に口から紡ぎ出される。
当然だ。誰も今のデルタにスバルの攻撃を回避出来る等とは思わない。
それを成したのは、スバルの想像を超えたライダーズギアの装甲。
そして、理想的な兵士を生み出す為のシステム……デモンズスレート。
対するデルタは、バネの様に状態を伸ばした。
空中で蹴りを空振ったスバルへと繰り出す、右のアッパー。
「あぐ……っ!?」
腹部から突き上げられたスバルの身体が、宙を舞った。
刹那、がら空きになった守り。連撃を叩き込むなら、これ以上のチャンスは無い。
そして今のデルタになら、それが出来る。格闘における連続攻撃のやり方は、最高の相手から教わった。
何度も何度も繰り出されたスバルの連撃を、かがみとデルタはその身体で、痛みと共に覚えたのだ。
スバルの動きを、そのままコピーする様に……繰り出す攻撃は、右の回し蹴り。
「はっ!」
「ぐっ……ぁ――!」
重力に引かれて落下するスバルの胴体に、重たい回し蹴りが炸裂した。
生身とは言え、スバルの身体はデルタの攻撃を耐え切れる。だから、手加減もしない。
どごんっ! と、不吉な音を立てて、デルタの右脚装甲が、スバルの身体を吹っ飛ばした。
近くの岩場に激突したスバルの身体は、軽く痙攣して、すぐに立ち上がる。
「やっぱり、今のあんたは万全じゃない! これなら!」
「今のあたし達の戦力は……互角!」
憎々しげに、スバルが告げた。
スバルの判断は正しい。事実として、発展途上のデルタにもそれ程の技量がある訳ではないのだから。
その上、見ればスバルの左腕は骨折している様に見える。そんな状態でであれだけ動いていたのだ。
何という体力か。何という精神力か。やはりスバルは只者では無いと認めざるを得ない。
だけども、それでも骨折による体力の消耗は半端な物ではない。
ここまでデルタと互角以上に戦って、体力がろくに残っている訳がないのだ。
ならば、自分にも勝機はある。デルタが教えてくれるデータによれば、自分にはまだ奥の手がある。
それをスバルは知らない。デルタが持てる最大の必殺技を、奴はまだ知らないのだ。
-
「終わりにしよう、スバル……これ以上戦ったら、あんたは壊れてしまう!」
「そんな事、構うもんか! あたしは死なない……あたしはまだ、夢を叶えて居ないから!」
その夢の為に、スバルは死さえ厭わずに自分に向き合ってくれているというのか。
何て真っ直ぐな少女なんだろう。何でそんな事が出来るんだろう。
考えれば考える程に、スバルの優しさに触れそうになる度に、涙が止まらなくなる。
嗚呼、もう終わりにしよう。こんな苦痛は、終わらせてやろう。
それがスバルに出来る、唯一の恩返しだ。
「行くわよ……スバルッ!!」
かがみの絶叫を皮切りに、最後の戦いが始まった。
この夜空を縦横無尽に駆け巡る蒼き光の魔法陣。先程までに展開を続けて来たウイングロードだ。
天にだって届くのではないか。この大空を、何処までだって走って行けるのではないか。
そんな錯覚さえも覚えるウイングロードに、デルタとスバルは飛び乗った。
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
重なる絶叫。
相反する想いを賭けた、壮絶な激突。
縦横無尽の翼の道を、跳び移り、駆け廻り、何度も何度も拳を交える。
スバルが拳を振るえばデルタの腕に阻まれる。デルタが蹴りを放てばスバルが回避する。
スバルが魔力を解き放てば、腰にマウントされた銃から放たれる光弾がそれを相殺させる。
何度も何度もぶつかり合って、それでも二人の攻撃は一向にお互いの身体へ命中しない。
一進一退。攻めては守られ、守れば攻められの攻防が続いた。
そうしている間に、果てしない程の時間が流れてゆく。
それでも白黒ハッキリ付けるまで、二人の身体は止まらない。
この手に勝利の二文字を掴み取るまで、二人の殴り合いは終わらない。
だが。
「おおおおおおおおおおおッ!!」
「えっ――」
戦いの終幕は、唐突に訪れる。
何度も何度もウイングロードの上で戦いを繰り返した。
魔力を、フォトンを爆発させて、何度も何度も殴り合った。
その果てに、劣化したウイングロードはデルタの体重に耐えられなくなっていたのだ。
スバルのパンチを防ぐと同時。パンチの衝撃を受けたデルタの足場が、崩れ去ったのだ。
天高く、まるで蜘蛛の巣の様に張り巡らされたウイングロードから、落下するデルタ。
-
「――まだよっ! まだ、終わらないっ!!!」
嗚呼、だけどもこの死に損ないの身体は、そんな事では挫けてくれない。
立ち止まってもくれないし、スバルの想いに負けてくれるなんて、もっとあり得ない。
嗚呼そうだ。こんな下らない事で、何も成し遂げられぬままに負ける事など出来る訳がないのだ。
空中で姿勢を制御したデルタが、すぐ下方に展開されていたウイングロードに着地した。
だけど、これで隙は出来た。スバルがデルタに一撃を撃ち込むには十分過ぎる隙が。
ならばもう回避をする必要も無い。もうこれ以上、こんな戦いを続ける必要も無い。
終わらせよう。この泥沼のような戦いを。
「チェック、メイトよっ! スゥゥゥバァァァァルッ!!」
――Exceed Charge――
「うおおおおおおおおおおおおりゃぁああああああああああああああああッ!!」
デルタムーバーの銃身が、ガチャンと音を立てて伸びた。
スバルの左腕に装着されたストラーダが、ガシャンと音を立てて弾丸を排出した。
真上へと跳び上がったデルタと、真っ直ぐに走り続けるスバル。
スバルの右腕には、今までと同じ要領で、蒼の光が集束していく。
一方で、空に舞い上がったデルタの身体を駆け巡るのは、白銀のフォトンブラッド。
ベルトから駆け廻った光は、ブライトストリームを通して、右腕のデルタムーバーへと送られてゆく。
やがて、変形したデルタムーバーの銃口から発射されたのは、一発の光弾であった。
螺旋を描きながらスバルへと迫る光弾に対して、スバルはその右腕を一気に振り抜いた。
あの光弾ごと、その先のデルタを吹き飛ばすつもりなのだろう。だけれど、それはミスだ。
されど、そのミスを笑う気にはならない。本当に、最後まで真っ直ぐな戦い方をする奴だと、かがみは思う。
「なっ……なに、コレ……!?」
スバルが驚くのも、無理は無い。
身体を動かそうにも、その身体が動かないのだ。
魔力を撃ち放とうにも、それ以前に右腕が自由に動かないのだ。
それこそが、デルタの持てる最大の必殺技。何体ものオルフェノクを葬って来た、最強の必殺技。
それを放つ為の第一段階。スバルの眼前に、光り輝く逆三角錐が形成された。
まるで頂点はスバルに突き刺さるかの様に。底辺はデルタの身体を待ち受けるかの様に。
ドリルの如き高速回転を始めた逆三角錐に向かって、デルタは真っ直ぐに両足を突き出し――
「やぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
逆三角錐の底辺へと、跳び込んだ。
-
◆
空に輝くウイングロードは、もうない。
何処までも真っ直ぐだった少女は、もういない。
思えば、さっきまでは随分と騒々しかったなと思う。
空は一面、何処を見渡しても蒼く輝く光の道。
耳に入って来るのは、口煩い女の叫び声。
少女の絶叫を聞く度に、その言葉がかがみの胸へと突き刺さる様だった。
もううんざりだ。あんな御託をいつまでも聞き続けていては、ノイローゼになってしまう。
だけれども、かがみはスバルに対して、一片たりとも怨みの感情を抱いては居なかった。
「ありがとう、スバル」
右腕に掴んだ少女に、一言礼を告げた。
この子が居てくれて、本当に良かったと思う。
まさかこの殺し合いに放り込まれてから、自分がこんな気持ちで戦える等とは夢にも思って居なかった。
最後に触れ合えた人間らしい相手。彼女が居たから、彼女の名前をこの胸に刻み付けたから。
かがみはもう、何の迷いも無く前へ進む事が出来る。
「スリー、エイト、トゥー、ワン」
左腕に携えたデルタムーバーへと、何事かを告げた。
それは、来るべき最後の戦いに於いて、必要となるであろう戦力。
殺す事に何の躊躇いも持たない、あの悪魔の様な女に何処まで通用するかは分からない。
だけれども、それでも無いよりは幾分かマシだった。
そうだ。これはかがみが自分自身の因縁に決着を付ける為に必要な、空への翼。
この大空を自由に跳び回るあの女に届く為に、必要な翼なのだ。
「私はもう行くから……さよなら」
スバル・ナカジマの身体を、大穴が空いた洞穴へと投げ込んだ。
八神はやての攻撃でその入り口を閉ざし、スバルの攻撃で再び道を開いた洞穴へと。
否……それは只の洞穴ではない。スカリエッティのアジトと言う、立派な名前を与えられた施設だ。
きっとこのアジトの中なら、どんなに激しい戦いが起こっても飛び火する事はないだろう。
この中に隠れて居れば、きっとこれ以上スバルの身体が傷つく事はないだろう。
最後に眠る様に横たわるスバルへと一瞥し、デルタは歩き出した。
柊かがみはもう居ない。
何もかもを捨てて、彼女は魔人となったのだ。
己の信念を貫いて戦った戦士達の戦いの果てに、勝者は居なかった。
事実上戦いに敗北したスバルは勿論の事、柊かがみという一人の少女も、居なくなったのだから。
「ええ、そうよ。私はもう柊かがみなんかじゃない。
復讐の為だけに戦う一人の仮面ライダー、デルタ」
それだけで、十分だ。
-
【2日目 早朝】
【現在地 C-9】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(大)、全身ダメージ(大)、つかさとこなたの死への悲しみ、はやてへの強い怒り、デルタに変身中
【装備】とがめの着物(上着のみ)@小話メドレー、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
基本:はやてを殺す。
1.はやてを殺す。
2.1が叶えば、みんなに身を委ねる。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※第4回放送を聞き逃しました。その為、放送の異変に気付いていません。
※デルタのシステムと完全に同調しました。
◆
月夜が照らす市街地に、その建造物はあった。
未だかつて誰も踏み居る事無く、奇跡的にも傷を負う事の無かった施設。
周囲の高層ビルがちっぽけに見えてしまう程、巨大なビル。
かつてとある世界において、最先端の技術を世に送り出し続けていた企業。
その本社ともなれば、豪華絢爛の限りを尽くした造りになるのは当然の事。
そんなビルに――スマートブレイン本社ビルに今、異変が起ころうとしていた。
ゴゴゴゴゴ、と鳴り響く地響き。それは周囲のビルにまで響き渡り、小規模な地震と勘違いしてしまう程だった。
スマートブレインのビルの側面……一面に張り巡らされた窓ガラスが、音を立てて割れて行く。
耐震性、テロ行動。あらゆる状況に備えて造られたビルが、遂に耐える事敵わなくなったのだ。
そもそも、何故このデスゲームにこの施設が設置されたのか。
全てのライダーベルトは参加者に支給され、それ以上の道具はこの会場には存在しない。
それならば、ライダーズギアシステムを開発したこの企業がここに存在する理由など、何処にも無い。
せめて本社内部に未だ参加者の知り得ぬライダーズギアが有るのならば話は別だが。
そしてその答えが今、明かされる。
それは空で戦う術を持たぬ戦士の為に開発された翼。
圧倒的なスピードと、圧倒的なパワーを持って、敵を殲滅する為に開発された兵器。
スマートブレインモータースが誇る、最高の技術の粋を凝らして造られたスーパーマシン。
今この瞬間、スマートブレイン本社の壁をぶち壊して、“それ”が姿を現した。
コンクリもガラスも、全てを粉々に粉砕して、この地上に解き放たれた。
“それ”を持つべき者が、“それ”の力を必要としているから。
だから“それ”行く。
戦場と化した北東へと、その轟音を響かせながら。
空中をホバリングしながら旋回。次の瞬間には、大出力のジェットを燃やしていた。
時速1300kmを誇る“それ”ならば、すぐに主人の元へと駆け付ける事が出来るだろう。
マシンの名はジェットスライガー。
最後の戦場へ赴くデルタの為に。
飛び立てないデルタの翼となる為に――。
【全体の備考】
※F-5からC-9へとジェットスライガーが向かっています。
※アジトの入口に再び穴が空きました。
-
◆
「う……ぐっ……」
目を覚ませば、そこは薄暗い闇の中であった。
こんな洞穴の中だ。夜である事も手伝って、内部まで光は届かない。
どうやらこの洞穴の中に元々あった筈の光源も、八神はやての攻撃で破壊されてしまったらしい。
だけれど、破壊されたのはアジトの入口付近だけなのだろう。
奥を見れば、少しずつ明るくなっているのが見える。
「そう、だ……かがみさんは……!」
そうだ。自分は、スバル・ナカジマは、先程までかがみと戦っていた筈だ。
それがこんなアジトの中に放り出されているとは、一体どういう事なのであろうか。
その答えを見付ける為にも、重たい身体を持ち上げて、立ち上がろうとするが――
「――つっ……!」
身を裂く様な激痛。
左腕の骨折個所だけでなく、体中のあちこちが悲鳴を上げていた。
身体を起こそうとすれば、上半身が……恐らく内部フレームが痛む。
立ち上がろうとすれば、二本の脚が軋みを上げて、がくがくと震え出す。
無理に戦闘を続けようとすれば、全身が砕けてしまうのではないかと。
そんな錯覚すら覚えてしまう程に、スバルのコンディションは絶望的だった。
当然のように、こんなコンディションでは戦闘どころでは無い。
かがみ達を止めるどころか、足手まといも良い所だ。
(こんな時に……! なんて、不甲斐ない……!)
右腕で、地べたを殴りつけた。
悔しい。自分の力が必要とされるこの局面で、自分は何も出来ないのだ。
かがみを止める為に戦うつもりが、逆にかがみに破れてしまったのだ。
こんなに不甲斐ない事があろうか。こんなに情けない事があろうか。
自分を責め立てて、自己嫌悪に陥る。
(でも……どうしてあたしは生きているんだろう)
今のかがみに、人の言う事を聞く余裕など存在しない。
目の前の敵を叩き潰して、その先へと進む。最早それしか頭に無かった筈だ。
きっとあの状況のかがみならば、相手を殺す事も厭わないと思っていた。
それ故に、かがみとの戦いに負ける事は即ち死を意味するのだと思っていた。
だけれども、自分は生きている。今こうして、この場所に存在している。
それは何故かと考えて……そして、思い出す。
(そうだ……かがみさんは、あの時わざと……!)
最後の瞬間、柊かがみは――
-
「やぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
デルタが、逆三角錐へと跳び込んだ。
逆三角錐の頂点は、スバルの身を抉るドリルの如く回転を続ける。
身を削らんと迫る蒼紫の光のドリル。だのに、スバルの身体は身動き一つ取れはしない。
このままでは、自分は死ぬ。圧倒的な力の前に、このまま成す術もなく殺されてしまう。
だけど、そんなスバルの運命を変えたのは、一人の少女の意思だった。
「ぐっ……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
聞こえる絶叫。
それはスバルのものではない。もう一人の少女が発する声。
まるで何かに抗う様に。何かの力に立ち向かう様に。
低く、唸るような声の発生源へと、スバルは視線を向けた。
(かがみさん……まさか……!)
少しずつ、頂点の座標がズレてゆく。
スバルに突き刺さらんばかりの軌道で迫っていた逆三角錐が、ブレていく。
何故だ。このままその光のドリルを突き出せば、スバルの命は散ると言うのに。
柊かがみの勝利は揺るがぬものになるというのに。
それなのに……それなのに、何故!
(かがみさん……貴女は、あたしを……)
それ以上の出来事を考える事は敵わなかった。
蒼紫の光のドリルが、スバルから見て左側を通過したのだ。
だけども、通過と言ってもただ攻撃が外れた訳ではない。それでは意味がないからだ。
スバルへと迫る蒼紫は、スバルの身体に触れか否かのギリギリを走り抜けて行った。
犠牲になったのは、左腕に装着していたストラーダ。
巨大なドリルとなって迫るデルタが、ストラーダを砕いて粉々にしてゆく。
ここまで共に闘ってくれたストラーダの最期。されど、衝撃はそれだけにあらず。
外れたとは言え、絶大な威力を誇る必殺技がスバルの身体へ与えた衝撃と振動は半端な物では無かった。
それこそスバルの持つIS――振動破砕をまともに食らうのと、遜色無い程の威力。
そんな衝撃を……身体がバラバラになりそうな程の振動を、スバルは身体に叩き込まれたのだ。
だけど、結果としては――。
――柊かがみはスバルの命を奪わなかった。
それが事の真相。それがこの戦いの決着。
だけど、スバルの身体にもう戦う力などは残されていない。
骨折した左腕。蓄積された疲労。デルタから受けた攻撃の数々。
それらはスバルの身体を蝕み、今では最早動くだけでもフレームが軋みを上げる。
このままでは、戦い以前に、その場にいるだけでも足手まといだ。
だけど――。
-
「まだ、方法はある……!!」
ここは、スカリエッティのアジト。
壊れた戦闘機人を修理し、メンテナンスまでもこなせる施設。
13体ものナンバーズを修理するだけの技術と設備が整っているのだ。
この左腕を直して、もう一度戦えるレベルまで修復する事だって、不可能ではない筈。
いいや、この際贅沢は言わない。完全回復でなくたって構わない。
足手まといにならない様に、最低限戦う事が出来ればそれで良いのだ。
そうと決めれば迷いはしない。
「早く、しないと……!」
自分がどれ程寝ていたのかは分からない。
だけど、デルタとの戦いは相当な時間を掛けた覚えだけはある。
その間に戦っていたのは、高町なのはと八神はやて。ストライカー魔道師二人。
Sランク魔道師二人が全力で激突したとあれば、一体どんな結末が訪れるのかなどスバルにも分からない。
だけれども、デルタがスバルを倒した時点で、二人の決着も付いていた可能性もある。
そこに加えて、自分はこんな大切な時に眠っていたのだ。
何分、何時間寝ていたのかは分からないが、最悪の事態に陥っている可能性もある。
――既に全ての戦いが終結し、誰一人生き残ってはいないという可能性。
「そんなのは、嫌だ!」
だから、スバルは今の自分に出来る事をする。
今は一刻も早くこの身体を修理して、すぐに戦場に戻らなければならない。
せめて足手まといにならないだけの力を、もう一度手に入れる為に。
自分の夢を果たす為にも、こんな所で立ち止まってはいられないから。
その想いを胸に、スバルは壁へと寄りかかり、少しずつ奥へと歩を進めて行くのであった。
【2日目 早朝】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト内部】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(大)、魔力消費(大)、全身ダメージ(大)、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(待機フォルム、0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、治療の神 ディアン・ケト@リリカル遊戯王GX
【道具】なし
【思考】
基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
1.一刻も早く身体を修理し、戦場に戻る。
2.ヴァッシュと天道を探して、駅でユーノ達と合流する。
【備考】
※金居を警戒しています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※ストラーダはルシファーズハンマーによって破壊されました。
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投下終了です。
タイトル元ネタはいつも通り仮面ライダーW風。
戻らないDays(日々)。例えどんなに願おうと、あの頃にはもう戻れません。
戻らないDELTA(デルタ)。例え何があろうと、デルタはもう引き返しません。
だいたいそんな感じです。
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投下乙です
正直、スバル相手によく頑張ったよかがみは…………
どっちか死ぬかと思ったけど、そうじゃなくて一安心?
そしてついにジェットスライガーキタ―――(゜∀゜)―――!!!
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投下乙です
なんというガチバトル、かがみはこれまでの戦闘の結晶とも言えるなあ
なんだろう、ここにきてかがみがすごいかっこよくなっている
熱い、熱いね、体も、心も!
BGMで555の曲流して読んでいたら、いろいろ合っていて楽しかった
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投下乙です。
デルタかがみ完全勝利! ってジェットスライガーなんてチートなもん召喚すんじゃねぇ!!
まぁでもそれぐらいしないと今のはやて倒せそうにないしなぁ……
けど、スバルは生き残っているけどボロボロでヤバイなぁ……まぁ治療のアテがあるのはある種の救いだけど……
……って地味に早朝って……おーいタイムリミットタイムリミット!!
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>>620
現時点で参加者がそれを知る術ないからねえ>タイムリミット
それはそれで緊張感あっていいな
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ユーノ・スクライア、ヴィヴィオ分投下します。
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Claymore
唐突だがここで読者諸兄にクレイモア地雷について簡単に説明しよう。
地雷という名前から地面に埋められた踏めば爆発する爆弾というものだとイメージする者も多いだろう。
しかし、クレイモア地雷は他の地雷とは少々趣が異なる。
M18クレイモアの場合、中身は直径1.2mmの鉄球が約700個入っており爆発させたい方向にのみ鉄球が散弾されるというものだ。散弾銃の爆弾版と解釈してもこの際大きな問題はないだろう。
その性格上、地中に埋めるのではなく、地雷に付いている4本の足を地面に突き刺す事で仕掛けるものだ。地雷という名前ではあるが地面に埋められないのがある意味では滑稽ではある。
重要なのはその威力だ。殺傷範囲は扇状に約60度、距離にして50m以内であればほぼ確実に殺傷でき、100m以内ならばダメージを与える事が出来、鉄球の最大射程は250mだ。
つまり――至近距離で不意に炸裂された場合常人であればまず死亡するという事だ。
そのクレイモア地雷がある参加者の手によりE-7駅にある車庫の扉の内側に2つ仕掛けられた。扉を開ければ地雷が爆発する様にセットした上でだ。
扉を開けたらどうなるか? そんな事、これまでの説明を踏まえれば容易に想像が付くだろう。
超至近距離からの無数の鉄球が不意に飛んでくるのだ。対人兵器に類されるに相応しく、直撃を受ければ絶命する事はほぼ確実だろう。
勿論、結界を展開出来れば防げるだろうが、完全な不意打ちに対処する事は不可能だ。完全自動で発生する防御能力があるならば話は別だが――
少々脱線するが、手に持って扱う銃器と違い、仕掛けた後は別段気にする必要のない地雷というものは兵器としては悪質なものだ。ある種無情なる兵器と言っても良いだろう。
紛争地域での地雷撤去が話題になるのはある意味そういう背景もあると言える。
そして――その無情なる悪魔が牙を――クレイモア地雷が爆発する瞬間が訪れた――
-
Guided
悪逆な漆黒の魔王により拘束された白き竜――
天の道を往き総てを司る太陽の戦士によって解き放たれ――
仲間達の待つ所へその翼を広げ向かって――
いや、向かえなかった――
太陽の戦士が示した方向は確かに仲間達のいる方向だ。
しかし同時にその仲間同士で激しい戦いが繰り広げられている場所でもある。
生命の危機に及ぶ場所に不用意に近付く生物などまずいない。
下手にのこのこ近付いていけば戦いに巻き込まれ死ぬだけだ。
いや、それだけならばまだ良い、最悪の事態は自身の存在が仲間達の足を引っ張る状態に陥る事だ。
そもそも、自身が漆黒の魔王に拘束されたお陰で仲間達は彼の者への攻撃を躊躇せざるを得なくなった。
彼の者の増長を許したのは自身が原因、それを踏まえるならば二度と同じ失敗を犯すわけにはいかない。
出会えずに死に別れた主人や仲間達の為にも激闘が繰り広げられている場所には向かえない――
故に、白き竜は向かえなかった。そんな中――
『キュルゥゥゥ……!?』
懐かしき匂いを感じた。ああ、その匂いは自身が一番理解している。
我が主人■■■・■・■■■の匂いだ――
だが、本当にそんな匂いを感じる事が出来るのか?
都合良く主人の匂いを感じるなんて話があるのか?
それ以前に既に死亡している筈の主人の匂いを何故今というタイミングで感じるのだ?
もしかするとこの匂いは白き竜が願った都合の良い幻想なのかも知れない。道を見失った自分が存在し得ない主人を求め生み出した――
だが、今はそれでも良かった――それが幻想であれ現実であれ、感じた事は事実なのだから――
故に白き竜は舞う――起こりえない主人との再会を信じて――
-
Explosion
車庫の扉は完膚無きまでに破壊された。クレイモア地雷2個分の威力――対人兵器とはいえ、至近距離ならば扉程度簡単に破壊出来る。
そして、その真正面に誰かがいたならばその者はほぼ確実に物言わぬ骸となっているだろう――
だが――
車庫のすぐ前に骸は無かった――何故なら――
「予想が当たったよ――出来れば当たって欲しくなかったけどね」
車庫のすぐ前に人などいなかったのだから――
車庫より10数メートル離れた地点にヴィヴィオを背負ったユーノ・スクライアがいた。その手にはフェイトの相棒ともいうべきバルディッシュが握られている――
-
Truth
高町なのは達と別れたユーノはヴィヴィオを背負ったまま駅へと向かっていた。そこですべき事は『ヴィヴィオの治療』、『首輪の解除』、『車庫の中身の確保』だ。
だが、現状では首輪の解除に関してはリスクが大きい。気になる所が無いではないが断定出来ないため優先順位は低い。
となると残りはヴィヴィオの治療と車庫の中身の確保という事になる。
「バルディッシュ、ヴィヴィオの容態はどう?」
『先程までの治療のお陰で生命の危機だけは回避できました。ですが、それとは別に大きな問題が――』
それは、ヴィヴィオの体内のリンカーコアが消失しているという問題だ。
『恐らく先の戦いでリンカーコアが失われる程の現象が起こったということでしょう』
「つまりもうヴィヴィオは魔法が使えないって事か……複雑だなぁ……」
魔法が使えなければ戦う事が無くなるためある意味では危険に巻き込まないで済ませられる。しかし、魔法が二度と使えないという事が大きなハンディになる事に変わりはない。
「とりあえず、リンカーコアについてはこのデスゲームが終わってから考えるしかないね。それよりも――」
前方に駅が見える。ユーノはすぐさま近くの車庫へと向かった。
「先に車庫の中身を確認してからで良いね」
『そうですね、治療を行うとしても建物の中の方が都合が良いですしね』
「よし……」
と、車庫の扉に手を掛けようとしたが――その直前で手が止まる。
『Mr.ユーノ?』
「……バルディッシュ、周辺と車庫の中をサーチするよ」
『え?』
「いいから」
そして、サーチを行ったが周囲に自分達以外の存在は察知出来ない。
『異常は何もありません……Mr.ユーノ……?』
が、バルディッシュの言葉にも構わず、ユーノは車庫の扉から少し距離を取る。
「バルディッシュ……フォトンランサー」
『何を言っているんですか?』
「ランサーで無くても良いから、あの扉をこの距離から撃ち破れるならね」
『Yes...Photon Bullet』
一筋の魔力弾が扉へと飛んでいき直撃――同時にその瞬間、扉の内側にある何かが炸裂し――
扉は破壊され無数の鉄球と扉の破片がユーノ達目掛けて飛んできた――だが、
ユーノが発動した結界魔法――それらによって飛んできた鉄球と破片は全て防がれユーノ達に直撃する事は無かった――
「予想が当たったよ――出来れば当たって欲しくなかったけどね」
-
Reason
車庫の中を調べた所、扉の近くに2つ分の爆弾の残骸が遺されていた。
「どうやら扉を開けたら爆発する仕掛になっていた様だね。もし不用意に開けていたら……」
『中には殆ど何も残っていません』
「デイパックだけが残っていた所を見ると既に誰かが手に入れた事になるね」
ちなみに残されていたデイパックの中身は基本的な支給品しか無かった。
「ま、予想していなかったわけじゃないから。それよりヴィヴィオの治療を再開しないと」
そう言いながらユーノはヴィヴィオに治療魔法をかけていく。そんな中、
『Mr.ユーノ、治療しながらで良いので聞いて良いでしょうか? どうして車庫に攻撃を――いえ、何故車庫に爆弾が仕掛けられていた事がわかったのですか?』
「どういう事?」
『Mr.ユーノの先程の行動が不可解でした。しかし、今にして思えば貴方は手を掛ける直前にその事に気付いたのは確実。だからこそ、直撃を回避する為に遠距離から扉を破ったのでしょう。
ですが、根本的な理由が不明瞭です。外から見る限り変わった様子は無かった。故に、誰かが入ったかどうかすら分からないはず。
では、何故――』
「多分、僕以外の人間だったら恐らく気付かなかったと思うよ」
『と言いますと?』
「バルディッシュ、本当に変わった所は無かった? 僕とバルディッシュだけは気付ける筈だよ」
『Mr.ユーノと自分だけ……まさか!』
「そう、扉の前にはあるべき筈のものが無かったんだ。だからこそ、僕は違和感を覚えたんだ」
ここで1つ思い出して欲しい事がある。
車庫の前には説明が書かれた立て札があったがそれは悪用回避のためスバル・ナカジマによって破壊され消失した。
だが、ユーノは危険である事まで隠してしまうという問題を回避するため、『危険。触るな』と書かれた紙をセロテープで扉に貼り付けた。
ちなみに、紙を貼り付けた事に関しては話す余力が無かった等の為、他の参加者には一切話していない。故にこのことはユーノとバルディッシュだげが知り得る話である。
ところが、今扉を見るとその紙が無くなっていた。つまり、何者かが車庫に辿り着き張り紙を外したという事である。
同時にその人物が車庫の中身を確保した可能性もあり、最悪の場合は次にやって来た者を抹殺するために罠を仕掛けた可能性もあるだろう。
勿論、これは推測レベルの話だ。だが、可能性に気付いた以上最悪の事態は避けなければならない。故にユーノは安全の為、前述の行動を取ったのだ。
勿論、何も仕掛けられていない、もしくは中身まで破壊する可能性もある。だがそれでも構わない、重要なのはヴィヴィオの身を守る事だ。その為ならば選択肢としては間違っていないだろう。
-
では、実際の所はどうだったのだろうか?
実は仕掛けた者は扉から入ったのではなく、ある転移魔法で直接車庫内に入った。そして中身を確保した後クレイモア地雷を仕掛け扉から出た。
出る時及び仕掛けた拍子に仕掛けた者が気付かぬ所で張り紙が外れた可能性がある。
もともとセロテープ程度の粘着力程度であったし、貼り付けた直後に放送が始まったが為、確実に貼り付けてあったかを確認し切れていなかった可能性もあり有り得ない話ではない。
また、仕掛ける際に邪魔になって一端剥がし、もう一度そのまま張った可能性もあるが、粘着力の落ちたが為に風で剥がれた可能性もあるだろう。
もしくは張り紙があるが故に、避けられては困ると考え敢えて外したという可能性もある。
結局の所、真相はわからない。だが、先に訪れた者が細工を行った事で結果として張り紙が外れたという事実だけは確かである。
『――なるほど、だからこそ既に中身を確保され逆に罠を仕掛けられた可能性を考えたと』
「僕1人だったら無理に開けても良かったんだけど、ヴィヴィオを守る事を優先するなら……ね」
『しかし一体誰が……』
「『誰が開けたか』というより『誰が中身を持っているか』の方が重要だよ、あんまり意味は変わらないけど」
今となっては中に何があったのかはわからない。だが、中身を持つ者がいる事は確かだ。
「といっても、その可能性のある人物は3人に絞られるよ」
『金居、キング、アンジールですね』
放送時点で生き残っている参加者は12人、その内9人がアジトに集結していた。
だが、車庫の中身についての話題ははやて達からもなのは達からも聞かれなかった。故に、アジトに集結していた9人は除外される。
故にそれ以外の3人、金居、キング、アンジール・ヒューレーの内の誰かが確保したという事になる。
「スバルが立て札を破壊する前に確認すれば問題なく確保出来るよ。放送から2時間経っていることを踏まえると先行されていても不思議は無いわけだし」
『Mr.ユーノ達の策が無駄に終わりましたね』
「……これは僕の想像なんだけど、もしかしたらプレシアが何か仕掛けた可能性があるよ」
プレシア・テスタロッサは十中八九自分達の行動を監視している。当然、自分達が車庫の中身を確保するために色々策を巡らせている事も把握されているだろう。
車庫の中身が殺し合いを望まない者に確保されれば一番困るのはプレシアだ。故にプレシアは車庫の中身を殺し合いを望む者に渡す事を策謀する可能性が高い。
「ルーテシアに参加者の殺害をさせようとした可能性がある事を踏まえれば有り得なくはないよ。それに口を出すといっても、
『良い情報を教えて上げるわ。駅の車庫の中身を確かめてみなさい』
という風に
それだけ伝えれば済む話だよ」
『なるほど……確かにプレシアの性格上行う可能性はありますね』
「とはいえ、これは何の確証もない想像。だからこれ以上考えても仕方がないよ。確実なのは車庫の中身が殺し合いを望む者に渡ったという事実」
『車庫に近付いた者を爆弾で一掃する辺り凶悪なのは確かですね』
「3人の情報が不足しているのが辛いなぁ……」
-
『しかし最悪な状況ですね』
「そうだね、皆が集まった時点ではこんな事になるとは思わなかったよ」
起こった事をユーノとバルディッシュが把握している範囲で整理してみよう。
まず、なのはとはやてがかがみを巡って言い争いをしている隙を突いて千年リングに宿るバクラがヴァッシュ・ザ・スタンピードを操り何らかの方法でリインフォースⅡを惨殺。
次にそれに逆上したはやてが広範囲攻撃を展開し仲間達を散り散りにさせる。
なお、千年リングはスバルが確保し振動破砕で千年リングを粉砕しバクラもそれにより消失。
なのは、ユーノ、ヴィヴィオ、スバルは無事に合流出来たがはやてがかがみの目の前でこなたを殺害。
なおもかがみを殺害しようとするはやてに対しなのはが対峙、
こなたの仇を討とうとするかがみを止める為スバルが対峙、
そしてユーノとヴィヴィオは駅へと先行した――
なお、ヴァッシュ、天道総司、アギトは消息不明だ。
「纏めるとこんな感じだね」
『Mr.ヴァッシュ、Mr.天道、アギトは無事でしょうか?』
その問いかけに対し――
「天道さんについてはわからないけど……後の2人は……」
ユーノは重い口を開きそう答えた。それはイコール2人の生存は絶望的だという事を意味している。
『貴方がそう語るという事は断定出来る理由があるという事ですね』
「今のはやてが、大事な家族であるリインを殺した奴を許すと思う?」
『――No.』
「フェイトを殺した事をずっと悔やみ苦しんでいたヴァッシュさんだよ、操られていたとしてもリインを殺してしまった事にショックを受けないわけがない。その隙を突けば簡単に殺せるよ」
ユーノははやてが広範囲行為を仕掛けた後、すぐさまリインを殺して唖然としているであろうヴァッシュを殺害し仇を討ったと推測した。
勿論、ユーノ達が知るはやてならばその可能性は低いが、シグナムの仇討ちと称しかがみを殺そうとする今のはやてならばほぼ確実に仇討ちに出るのは明白。
「とはいえ、ヴァッシュさんを殺した件に関しては責めるつもりはないよ。千年リングとバクラを甘く見ていたという意味では僕もスバルもヴァッシュさんも同罪だからね」
『――に関して『は』』――その言い方に何か別の意味があるのかとバルディッシュは一瞬考えたものの一端それを脇に置き、
『アギトに関しては?』
「1つ確認したいんだけど、アギトはああいう人を惨殺したりする行為を好むかい?」
『いえ、それは無いです。彼女は騎士ゼストを慕っていましたしJS事件でもスカリエッティ一味のやり方に関しては反感を持っていました。その彼女が人殺しを肯定するとは考えられません――が、それが何か関係あるんですか?』
「大ありだよ、ヴァッシュを殺した事に関してはさっきも言った通り当然の結末だと思うしそれに関してはアギト自身も肯定してもおかしくはないよ」
『でしょうね。よく喧嘩していましたがあの2人仲が良かったですし』
「とはいえ、その前に僕達を巻き込んで広範囲行為をしたのは頂けないよ。そんな暴走をアギトが許すと思う?」
『――No, 恐らく彼女はMs.はやてを諫めようとするはずです』
「だけど今のはやてがそんな彼女の言葉を聞くと思う?」
『つまり……Ms.はやてが邪魔なアギトを殺したという事ですか? しかし幾らなんでもそう簡単にアギトを……』
「僕は見たよ――彼女の手に『アレ』があったのをね……それを使えば簡単だよ」
『『アレ』……まさか!?』
「そう、夜天の書……はやてはそれを使ってアギトを蒐集したと思う……」
あの時、一瞬だがはやての手に夜天の書が握られているのが見えた。恐らくそれを使い邪魔なアギトを蒐集したのだろう。
あの状況でいきなり蒐集をするとはアギトも考えない。完全な不意打ちならば回避は出来ないだろう。
『何て事を……』
「蒐集さえしてしまえばその力も使える、はやてにしてみれば好都合この上ないよ」
-
『やはりあのままMs.かがみをMs.はやてに殺させるべきだったでしょうか――そうすれば溝が出来るとはいえ今回の様な最悪の事態は避けられたのでは――』
あまりにも最悪な事態にバルディッシュ自身はIFの可能性を考える。覆水盆に返らずとはいえ、別の可能性があったのではと考えずにはいられない。勿論、こんな事をユーノが肯定する筈など――
「――そうだね、かがみがシグナムを殺した以上、はやてが彼女を殺す事に関しては認めざるを得ないよ。こなた達には悪いけど彼女は殺し合いに乗っていたみたいだし危険因子を排除するならばそれもまた仕方がないと僕も少しは思っていたよ」
意外にもユーノはバルディッシュの言葉を肯て――
「でもそれは間違いだよ。はやてにかがみを断罪する資格なんてない――
今の彼女は機動六課の部隊長でも八神家の主でもない――
只の愚かな殺人鬼だよ――」
『――どういう意味です?』
「はやてはプレシアを打ち破るために、仲間達を集めて障害を排除しようとしている――それが外見上の彼女の行動方針なのは見てわかるよね」
『その通りですね。だからこそ不穏因子であるMs.かがみを排除しようと……』
「でも、そんなことフェイトやなのはが認めると思う? なのはについては見ての通りだけど――」
『マスターも恐らくMs.なのはと同じ事をしていたでしょうね』
「そう、はやての行動方針は成立しえないんだ。絶対になのは達と対立を起こす筈、
少し考えればはやてだってそれに気付く筈なんだ。だからこそ最大限の譲歩としてあの場ではかがみの厳重拘束が最善だった。それならなのはも良い顔はしないとはいえ了承してくれた筈だ
つまり――はやては自分の行動を正当化し、自身の意に添わない人物を排除している只の駄々っ子でしかないって事、自分の欲望を満たしたいだけの只の子供だよ――」
『お言葉ですが、リインの仇討ちとしてMr.ヴァッシュを、シグナムの仇討ちとしてMs.かがみを殺す事に関して彼女が根本的に間違っているとは思えませんが?
マスターも同じ事をしていた可能性は否定出来ませんし――』
「アギトとこなたは何故殺されなきゃならなかったの? 彼女達がはやての家族を殺したのかい?」
『それは……』
「はやてには悪いけど、こなたを殺した時点でかがみを断罪する資格は失われたよ。それ以上は只気に入らないから殺す程度の我が儘でしかないよ。むしろ、かがみからの断罪を甘んじて受け入れなければならないかも知れないね」
その声は何時ものユーノからは考えられない位冷たかった――そう、はやての行動にユーノ自身強い怒りを感じていたのだ。
-
「それに夜天の書を持っていた事から明日香を殺した事もほぼ確実。彼女が殺し合いに乗ったのはある種の暴走でしかない、彼女を殺す必要なんてなかったはずなんだ……」
ユーノの知る限り、夜天の書はジュエルシードと共にユーノが一時期行動を共にしていた天上院明日香が所持していた。
その時の彼女はその2つの力に呑まれ参加者を皆殺しにしようとしていた。だが、本来ならば彼女は善良な何の力もない一般人、彼女を殺す必要は皆無だ。
『危険人物だから排じ――』
「そんな事は僕だってわかっているしある意味では仕方なかったのかも知れない。でも、それならそれでちゃんとその罪と向き合わなければいけないよ! 人を殺した事に違いは無いんだから……
でもはやてはその事を全く話さなかった……
ヴァッシュさんがフェイトを殺した事に関しては上から目線で諫め、シグナムを殺したかがみに関しては彼女が反省の色を見せたにも拘わらず一切許さず、僕達が言い争いしている場合じゃないと言っても有耶無耶にするのかと聞く意味持たなかった……
自分の行動は棚に上げて相手の人殺しだけ一方的に非難する……只の子供の駄々でしかないよ……」
ユーノは激しい感情ではやてを非難する。だが、
『Mr.ユーノ……自分を責めないでください』
バルディッシュはユーノが明日香の死亡の原因が自分にあると考えている事を察し、ユーノを慰めようとする。
「ごめんバルディッシュ……ちょっと熱くなりすぎたよ……明日香の件に関しては僕にも責任があったからつい……」
『今の姿をMs.ブレンやMr.Lが見たら何て言うか……』
「本当だよ……」
『ともかく今はヴィヴィオの治療に専念してください』
「ただ、どちらにしてもはやてを許す事は出来ないよ。彼女が人殺しをした事を意に介さない事は事実だからね。
今の彼女は強い力を持って正義という言葉で自分を正当化している只の殺人鬼、彼女は絶対に止めるよ」
さながらそれは死神のノートを手にし新世界の神となろうとした『ヤガミ』に挑んだ最高の探偵の姿に似ていた――
『――と言った所で、Mr.ユーノの力ではMs.はやてを止める事など不可能だと思いますがね』
「図星だけど言われると傷付くなぁ。まぁ、実際不可能に近いけどね……正直なのはでも難しいと思うよ」
夜天の書とジュエルシード、それに強力な小刀型デバイスを持つはやての力は参加者中でも最強クラス。幾ら本来のデバイスであるレイジングハートが戻ったとはいえなのはでも厳しいのが実情だ。
また、なのはが不利な要素が他にも存在する。
忘れがちだがはやてはこなた(場合によってはヴァッシュも)を殺した事でボーナスを確保している。一方のなのはは先の広範囲攻撃等で消耗が激しい。
故に、そもそもの戦力差が付いているという事だ。
また、それぞれの心構えも問題点だ。なのはは恐らくどのような状態になってもはやてを殺す事はしないだろう。だが一方のはやては邪魔となるならば殺人も厭わない事は確実。
つまり、はやては生きている限り他の参加者を殺す事でボーナスを得て幾らでも戦えるという事だ。そういう面でもなのはが不利である事がよくわかるだろう。
『最悪――Mr.ユーノとヴィヴィオ以外は誰も生き残れないかもしれませんね』
自分達以外の8人中、なのはははやてと対峙、スバルはかがみと対峙、天道は行方不明、そして残り3人の参加者は敵の可能性がある。
断定こそ出来ないししたくはないが自分達以外の仲間は全滅という可能性も否定出来ない。
「うん……それでも彼女、ヴィヴィオは何としてでも助けるよ。その為ならば僕は――」
-
Alive
それは果ての見えない悪夢だった――
「うっ……うっ……」
ヴィヴィオは1人耳を塞ぎ蹲っていた。助けを求めようとも助ける者は誰も現れず、現れた者は皆ヴィヴィオを拒絶した――
――どうしてこんな事になってしまったのか?
それはヴィヴィオ自身が一番理解している。なのはママやフェイトママ達の願いや想いを踏みにじり裏切り他の人達を皆殺しにしようとしたからだ。
そんな事誰も求めないのはわかりきった事なのに――
身体の痛みは何時しか消えていた――だが、染みこんだ血肉の匂いは決して消えない――ヴィヴィオが咎人である事に何ら代わりは無いのだ――
「もうやだよぉ……」
口から零れる嘆き――それでも頭の中には延々と声が響き続ける――
「どうしてスバルを殺そうとしたの……」
「お前がなのはやスバルを裏切ったんだ!!」
「えriおくnを……かeせ……」
「少し……頭冷やそうか……」
「お前なんか……嫌いだ……!」
「イライラするぜ……」
「やめてよぉ……」
聞きたくない罵声は止まらない――何時しかヴィヴィオの心は壊れそうになっていた――
いっそ死ねば楽になれる――こんな悪い子がここにいるなんて許されない――
そう考えヴィヴィオは顔を上げ瞳を閉じて舌を噛み切ろうと――
-
「待つですよー!」
次の瞬間、自分の額を誰かが叩いていた。
「あれ……リイ……ン?」
自分の目の前にリインフォースⅡが浮いていた。しかしヴィヴィオは、
「ああああぁぁぁ……いやだよぉ……」
リインにまで蔑まされると思い脅えきっていた。自分は自ら死ぬ事すら許されないのかと――
「ヴィヴィオ、いつまでこんな所にいるつもり?」
と、後ろから声が聞こえてきた。振り向くと
「……こなた……お姉さん?」
こなたが変わらぬ表情で立っていた。
「全く……なのはちゃん達を裏切って皆殺しにしようとしていた事はリイン達だってよーく知ってますよ!」
リインは怒った様な表情でそう口にする。
「う……」
「で、スバル達も殺そうとしたんだよね?」
何時もの表情でこなたはそう口にする。
「はっきりと言うですよ。ヴィヴィオのした事は決して許されないですよ! みんなの想いを踏みにじったわけですからね」
そんな事は今更言われなくてもわかっている。もうやめて欲しいと思っている。
「それでもう死ぬしかないと思ったの?」
そう問われてヴィヴィオは頷く。
「……それじゃあ、ヴィヴィオを助けようとした人達の努力は何だったんですか?」
「え……?」
こんな自分を助けたいと思う人がいる? 信じがたい話にヴィヴィオは耳を疑った。
「忘れたのかな? スバルはヴィヴィオをどうしようとしていた?」
ヴィヴィオはあの時の戦いを思い出す。確かスバルは自分を妨害――いや止めようとして体内に埋め込まれた何かを破壊しようとしていた。
今にして思えば殺し合いに乗っていた自分を止めようとしていたのは十分に理解出来る。
「ここで死んじゃったらそれこそスバル達に対する裏切りだよ」
そうだ、ここで死んでしまえば今まで自分を助けてくれた人達の想いや願いを裏切る事になる。だが――
-
「でも……」
今更、皆を殺そうとした自分が許されるとは思えない。また拒絶されると思うとどうにも踏み切れない。そんなヴィヴィオに対し――
「そんな事……やってみなきゃわからないよ――だって、まだヴィヴィオは生きているんだよ。
きっとこの先ヴィヴィオは辛い事を沢山経験するんだと思う――だけど、楽しい事にだって出会える筈だよ、友達を作ったりしてさ――
死んだらそんな事も出来なくなるよ――そんなの誰も望まないよ――」
勿論、ヴィヴィオの先には罵倒等の困難が待っている可能性が高い。だが、同時に更にその先には幸せな暮らしが待っている可能性もある。
なのは達がヴィヴィオを助けようとしたのはヴィヴィオを幸せにするためでは無かったのだろうか?
「いいの……?」
「当たり前ですよ、ほら聞こえて来ないですか?」
『それでも彼女、ヴィヴィオは何としてでも助けるよ。その為ならば僕は――』
何処からか自分を助けたいと願う少年の声が聞こえてきた。
「ユーノ……?」
「早く戻ったらどうです? きっとヴィヴィオが目を覚ますのを待っているですよ」
「……うん」
また拒絶されるのではという不安がある。それでも自分を助けたいと願う人がいるのならば――その願いに応えたいとヴィヴィオは思った。
そして、いつしか自分の身体が浮き上がっていくのを感じる――終焉の時が来たのだと――
「リイン……? こなたお姉さん……?」
だが、2人は浮上するヴィヴィオを只見送るだけだ。
「言った筈だよ、辛い事も楽しい事も経験出来るのは生きている人だけだって――」
ああ、そうか。そうだった――2人とももう――
「ううっ……」
ヴィヴィオの目から涙がこぼれ落ちる。
「さよなら……」
その最中少し離れた所にルルーシュ・ランペルージとフェイト・T・ハラオウンの姿が見えた。声こそは聞こえなかったがその口の動きから何を言おうとしているのかは理解出来た。
『なのはを』
『スバルを』
『『頼んだよ(ぞ)』』
そして、最後にヴィヴィオのぬいぐるみを持った浅倉威が一瞬だけヴィヴィオの方を見た。言葉にはしていなかったが何を言いたいのかをヴィヴィオは理解した――
『イライラさせるなよ――』
「みんな……」
そして、ヴィヴィオの記憶はここで途切れた――
-
「行っちゃったか……」
「行っちゃったですね……」
「ヴィヴィオ、大丈夫かなぁ……」
「心配なのはわかるですけど、リイン達に出来る事なんて何も無いですよ」
「そうだね……」
「本当にごめんなさいです。はやてちゃんのせいで……」
「あーいいよ、最後に■■■んを助ける事が一応出来たから満足か……な……」
「こなた……?」
「ごめん……やっぱりこんなんじゃ満足出来ないや……」
少女の瞳には涙が溢れていた――
-
Awaken
「みんな……」
『Mr.ユーノ、ヴィヴィオが目を覚ましました』
「良かった……」
ヴィヴィオが意識を取り戻した事にユーノとバルディッシュは安堵した
「あれ……こなたお姉さんやリインは……それに……」
「ああ、みんなは……」
「そっか……」
見たところヴィヴィオはこなた達の死を理解している様だった。何故理解していたのか気にならないではないがそれについてはひとまず触れなくても良いだろう。
その時、
『キュルゥゥゥゥ……』
車庫に出来た穴の前にフリードリヒが立っていた。
「あれは!?」
『Ms.キャロが使役しているフリードリヒです、しかし何故ここに……』
予期せぬ来客者に動揺するユーノ。しかし一方、
「あぁぁぁぁ……」
ヴィヴィオが何かに脅えた様な表情をしている。それに呼応するかの様にフリードはヴィヴィオの方へと向かっていく。
『何故彼女の方に……?』
「まさか、ヴィヴィオが浴びた血の匂いに惹かれたんじゃ……そうだ、バルディッシュ、周辺の様子を探って」
警戒を強めるユーノとバルディッシュに構わう事無くフリードはヴィヴィオの前に立つ。その眼は何処か鋭かった。
「ううっ……」
ヴィヴィオにはフリードが何故やって来たのかわかっていた。ヴィヴィオ自身に染み着いている血肉の匂いはキャロ・ル・ルシエのもの――
慣れ親しんだ匂いに惹かれてやって来たという事だ。そこまで強い嗅覚があるのか? そんな事は大きな問題ではない、主人を想う強い意志がフリードをここへと導いたという事だ。
わかっている、彼女の死体を完膚無きまでに破壊しその尊厳まで壊したのは自分だ、フリード側から見れば恨んでも何ら不思議はない。
わかっている、自分が許されざる罪を起こした事は――だが、
自分を送り届けてくれたこなた達の為にも――
ヴィヴィオはフリードを抱き留め――
『キュルゥゥ……』
その瞳に涙を溜めながら――
「ごめんね……」
『キュル……』
零れ落ちた涙を受け、フリードはヴィヴィオへの警戒を解いた。ヴィヴィオを謝罪を受け入れたのだろうか――
犯した罪は決して許されない――だが重要な事はそこから逃げる事ではない。その罪と向き合いこれからどうするかである。
死や思考停止は只の逃避だ。犯した罪の重さを深く受け止め、そこから何かを学び取り前へと進む事が重要なのだ。
それは、生きている者にしか出来ない事だ――
-
Dismantle
『マスター……』
ヴィヴィオから大まかな話を聞いたバルディッシュは亡き主人であるフェイトの事を考えていた。
ヴィヴィオの証言にあったフェイトはヴィヴィオの事を知らない9歳ぐらいではあったがそれでもヴィヴィオを助けようとした。バルディッシュは機械らしくはなかったものの不思議と嬉しく感じていた。
「昔のフェイトがヴィヴィオを助ける為にキャロを殺し、こなた達を殺しフェイトにも致命傷を負わせキャロの死体をヴィヴィオが破壊したか――」
どうやら、ヴィヴィオはアニメイト襲撃の際にこなたとリインが殺されたと思っている様だ。事実は違うわけだが状況が大きく変わる訳ではないため、特別修正することもなく話を進める。
ちなみになのはが今も生きている事を聞いてヴィヴィオは驚いていたもののまだママに会えると思い少し嬉しそうな表情を見せていた。少しというのは、暴走し皆殺しにしようとした事を悔やんでいるからだろう。
(頼むよなのは……これ以上ヴィヴィオを悲しませないでくれ……)
そう願うユーノであった。
『ゆりかごを利用出来ればまだ……』
何とかなのは達と再合流した後はゆりかごへ向かうべきだと進言するバルディッシュであったが、ユーノは何かを考えている様だった。
『Mr.ユーノ?』
「バルディッシュ……周囲に人の反応は?」
『全く反応ありません』
「どうする……僕の仮説が正しければ……だけどもしこれ自体が罠だったら……失敗は許されない……」
ある瞬間から感じていた違和感等からユーノの脳裏にある仮説が浮かんでいた。それはこの状況を打開する可能性のある重要な仮説である。
しかしそれはあくまでも状況証拠でしかなく、一歩間違えれば全滅の可能性をも秘めた危険な仮説だ。
「だけど何れはやらなきゃいけない事なんだ……でも……」
「ユーノ……?」
『キュルル……?』
『お願いですからヴィヴィオ達を心配させる事しないでください』
「なのは達が戻るのを待つか……だけど、こんなリスクが高い事なのは達だってさせるわけないしなぁ……」
3者が気にするにも構わずユーノは思考を広げる。
『勝手に自己完結しないでください。Mr.ユーノはそうやって全部自分で背負い込む悪い所があるんですからね』
そう言い放つバルディッシュに対し、
「わかったよ、バルディッシュ……これからする事は成功するか解らない賭けだ……だから細かい質問は後で聞くから僕の指示に従ってくれる?」
『Yes.』
そしてユーノは駅の詰め所から幾つかの工具を持ち出し再び車庫に戻り、
「じゃあヴィヴィオ、フリードを貸してくれるかい?」
「うん……」
と、フリードを受け取ったユーノは――
バルディッシュと幾つかの工具でフリードの首輪を解体し始めた。バルディッシュは何か言いたそうだったが口を出さず、ユーノは黙々と慎重に素早く解体を行う。そして、
「出来た……だけど……そんな事って……」
フリードの首を拘束していた首輪が外れた。続いて、
「ヴィヴィオ、来て貰える?」
「え……うん」
その後間髪入れずにヴィヴィオの首輪の解体を始めた。今度は先程よりもハイペースで進みやはり首輪が外される。
「やっぱりそうか……でもこれって……もしかしたら……バルディッシュ、ヴィヴィオに僕の首輪を斬らせて」
「え?」
『正気ですか?』
「最悪僕が死ぬだけで済むよ。時間がない、すぐにでも始めて」
『ですが……』
と、構わずユーノはフェレット状態に変身する。ヴィヴィオの背では自分の首まで手が届かないと考えての配慮である。なお、急いでいたため、しゃがめば良いという発想には至らなかった。
「急いで!」
「う……うん、お願い、バルディッシュ……」
『Yes,ヴィヴィオ……』
そして、ヴィヴィオとバルディッシュの理解が追いつかないままユーノの首輪にバルディッシュの刃が入り、首を傷付けない様にして首輪の切断に成功した。そしてユーノは切断された首輪を引っ張りそれを外し元の人間状態に戻った。
かくしてユーノ、ヴィヴィオ、フリードは忌まわしき首輪の呪縛より解放されたのだった。
-
「はぁ……はぁ……よかった……僕の予想が当たった……」
と、ユーノは再びバルディッシュを受け取る
『予想とはどういう事ですか?』
「ああ、結論だけ先に言うよ。首輪が解除……正確には起爆装置が解除されていたんだ」
ユーノが気付いた事実。それは首輪の起爆装置がOFFになっていた事である。
『確かに前に調べた時と比べ何かが違うと思いましたが……ですが何故それに気づいたのですか?』
「フリードのお陰だよ」
ユニゾンデバイスやフリードの様に自律行動可能な支給品にも首輪が装着されている。同時にそれらには参加者とは違うある制限も課せられていた。
それは参加者の首輪から一定距離以上離れれば行動不能になるという制限だ。余談だがこの事を知ったのはアジトでリインと首輪解体を行った時である。実は首輪解体の際に首輪に関して色々話していたのだ。
ここまで書けば何故ユーノが首輪に異変が起こっている可能性に気付けたのかわかるだろう。
フリードは単身でいきなりユーノとヴィヴィオの前に現れたからだ。フリードにもリイン達同様の制限が掛けられていると考えるならばそれは起こりえない事だ。
所有権が移らない限りは50メートル以内に他の参加者がいる筈だ。だが、ユーノがバルディッシュにサーチさせた限り周囲に人の反応は全く無い。
つまり、制限の範囲を超えてフリードは普通に動いていたという事だ。勿論、制限がユニゾンデバイスと同様とは限らないが参加者ではない支給品を自由自在にさせる事など有り得ない。
故にユーノは首輪に異変が起こった可能性を考えた。同時に上手く行けば解除出来る可能性だ。ある違和感を踏まえれば可能性は低いものではない。
だが、それはあくまでも可能性レベル、それ自体がプレシアの仕掛た巧妙な罠であるかも知れない。
本当ならばもう少し慎重に行くべきだったかも知れない。だが、首輪の解除は何時かは行わなければならない事、決して避けては通れない。
更に違和感から導き出される推測が確かならば急がなければならない。クリアしなければならない問題は首輪だけでは無いのだから。
なによりこんなリスクの高い事をなのは達の前で話しても彼女達が躊躇するのは明白。ならばいっそここで勝負するべきだろう。
Lならばきっと同じように自分の命を懸けてでも勝負に出るだろう、
ブレンヒルトならば毒突きならばもユーノの賭けに乗るかもしれない、
この地で散った2人の為にもユーノはここで勝負に出たのだ。
かくしてユーノは勝負に勝った。
調べた所フリードの首輪の起爆装置はOFFになっていた。爆発しないとわかれば解体は容易、迅速に行う事ができた。
その後、なのはに託されている手前少し躊躇したものの敢えてユーノは予測が当たっている事を信じヴィヴィオの首輪の解体に乗り出した。
その結果、予想通りヴィヴィオの首輪の起爆装置もOFFになっていた。やはりそこからの解体は容易だ。
そして他に解体出来る人がいないため後回しになっていた自分の首輪に関しては単純に首輪を切断するという手法で済ませた。真面目な話起爆装置がOFFになっているならばそれでも問題ないはずだ。実際、その推測通り解体は成功した。
-
『……理由はよくわかりました。ですが、もう少し詳しい説明してください』
「僕自身絶対大丈夫っていう確証が無かったから……ともかくこれで問題の1つはクリアしたね」
だが、身体の調子を見る限り首輪を付けていた時と比べて目に見える程の変化は感じない。予め調べていた時からわかっていた事だが制限は首輪主導ではなくフィールド主導なのだろう。
勿論、ある程度制限が解除されている可能性は否定出来ないが過度な期待はしない方が良いだろう。
『Ms.なのはが聞いたら怒りますよ、ヴィヴィオを危険な目に遭わせて……死んだらどうするんですか?』
「いや、それはわかってはいるんだけど……でも首輪解除の時で絶対について回る問題でもあったし……」
『それにしても何故首輪の起爆装置がOFFに?』
「これは僕の想像だけど……プレシアはこのデスゲームの表舞台から去った可能性があるよ。
断定出来るわけじゃないし変に皆に希望を持たせたくなかったら言わなかったけど……放送が10分遅れていたんだよね」
何人かの参加者が気付いているのと同様にユーノもまた先の放送が定時より10分遅れていた事に気付いていた。
プレシアに何かあった可能性もあったがそれならそれで3回目の放送同様オットーに代理を頼むなり、放送の際に適当に遅れた理由を言えば済む話だ。だが、実際は10分遅れたにもかかわらず普通に放送をしていた。
何も起こっていないかの様に――
さもこれは不自然なまでにプレシアが健在である事をアピールするかのように感じたのだ。
『スカリエッティの戦闘機人の中に変身能力を持った者がいます。先の放送のプレシアは実は彼女だったという可能性は否定出来ません』
「あ、そういう事出来る人いるんだ。それなら仮説が正しい可能性が高まったよ」
『JS事件のやり口を考えてもスカリエッティ達がプレシアを出し抜く可能性が高いです』
JS事件の事は知らなかったが、バルディッシュからの証言でユーノは更に仮説を進めていく。
それは放送前にスカリエッティ達がプレシアを裏切り彼女を退場させ、このデスゲームを乗っ取ったという事だ。
完遂させる事を一番に望んでいたプレシアが退場したならばデスゲームの監視は緩くなるのは当然の事だ、首輪解除の隙も出来やすくなる。
『しかしそれだけでは首輪の起爆装置がOFFになる理由の説明にはなりません』
「そう、そこなんだ。激しい戦いが繰り広げられる以上、何かの拍子でOFFになる可能性は0ではないとはいえ限りなく低い……だとしたらやっぱりこれは主催側でOFFにしたとしか思えないんだ。
正直、そんな事するメリットがわからないんだけど……」
『いえ、相手がスカリエッティなら有り得ない話では無いですよ。あの人はJS事件もある種のゲームの様に楽しんでいましたからね』
「嫌な犯罪者だね……それはともかく、OFFにしたって事はOFFにしても問題ない事を意味するね。OFFにしても大丈夫という算段があるって事かな?」
首輪を解除した所で今いるフィールドから脱出して主催陣のいる場所に辿り着かなければ意味はない。故に脱出への障害は十分に残っている事になるのだ。
-
Limit
『何にせよ、首輪が解除出来るならば後はMs.なのは達と再合流して脱出に向けて動くだけですね。絶望的だった状況に光が――』
「むしろ逆、首輪解除しても問題ないって事は首輪解除だけでは何の進展もないって事だよ。大体、スカリエッティがそんな都合良く脱出させると本気で考えているの?」
『それはないですね。ゲームを仕掛けているとしてもスカリエッティ側がある程度有利な様に設定して――そういうことですか?』
「そう、首輪の問題がクリアされた時点で僕達の目的はフィールドからの脱出に変わる。だったらスカリエッティ側の目的は僕達の脱出を阻止しつつロワに使われた技術を確保したまま離脱するという事になるね」
『――タイムリミット』
「その通りだよ。プレシアを退場させた時点でスカリエッティの目的の前提条件はクリア。後は早々に離脱するだけ、長居をする必要なんて何処にもない。」
纏めるとこういう事だ。ユーノは放送の遅れからプレシアが退場しスカリエッティ達が主催になったと推測した。
だが、プレシアにとってはアリシア・テスタロッサ復活という目的があるデスゲームであってもスカリエッティ達にとって同じではない。
少なくてもスカリエッティ達が律儀にデスゲームを執り行う理由は少ない。
むしろ、早々に切り上げ離脱する可能性の方が高いだろう。当然離脱された時点でデスゲームは瓦解、残された参加者の生死は考えるまでもない。
故に、主催が変わった事により、タイムリミットの設定が変更されたという事になるのだ。
「それがどれくらいかはわからない。とはいえ脱出だけならばそんなに手間はかからないだろうからそう時間は残っていないと思うよ。
待って――もしスカリエッティが意図的に放送遅れや首輪の爆弾を解除したのなら……次の放送前後がタイムリミットになると思う」
首輪の爆弾解除や放送の遅れは異変のヒントとなる。確かにそれだけでは確定的なものではない。
だが、時間の経過と共にそれを切欠として異変に気付く者は多くなる。ユーノが気付いた事実を他の参加者が気付かない道理は無い。
情報交換等を考えるならば恐らく6時間もあれば大半の参加者に伝わるだろう。
が、スカリエッティ側からみればこちらが幾らその情報を得たとしても踏み込まれる前に脱出すれば問題はない。つまりこちら側がその情報を得るまでの時間も計算に入っているという事だ。
故に、タイムリミットは前述の通り、異常の起こった放送から6時間後、次の放送が行われる予定だった6時前後がタイムリミットと考えて良い。
「それに……プレシアが退場したとはいえ、このまま黙っているとも思えないんだ……」
プレシアが退場したとしても、前に推測した通り、その対策が施されている可能性は否定出来ない。それこそスカリエッティ達も自分達も全滅させる様な凶悪な罠を仕掛けている可能性がある。
どちらにしても自分達にはもう時間がないという事だけは確かだ。
-
『後数時間……あまりにも少なすぎます……』
タイムリミットを踏まえるならば最早ゆりかごに向かう時間もない。
「残念だけど現状ではこのまま駅で待つ事しかできないよ」
ユーノ達は車庫を出て仲間達の到着を待つ。状況は最悪と言って良い。それでも――
(大丈夫だよ、なのはなら――出会った頃と変わらず、強い不屈の心を持った彼女なら――僕の知る彼女よりもずっと成長した彼女なら――)
この場にいるなのはは自分の知る彼女よりも4歳年上の大人の女性だった。少し大人になった彼女と彼女から見て少し幼い自分が顔を会わせるのに気恥ずかしさを感じないと言えば嘘になる。
それでも、別れ際に見た彼女の顔を思い出す度に心の奥から力が湧き上がってくるのを感じた。
(なのは――君が守りたがっていたヴィヴィオは何としてでも僕が守るよ――だから――
負けないで――)
【2日目 黎明】
【現在地 E-7 駅・車庫の前】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、疲労(中)、魔力消費(大)、強い決意、はやてに対する怒り
【装備】バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム、4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2(内1つ食料無し)、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類
【思考】
基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。
1.駅でなのは達の到着を待つ。
2.ヴィヴィオを守る。
3.ジュエルシード、レリックの探索。
4.仲間達の首輪を解除し、脱出方法を模索する。
5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※プレシアが退場した可能性に気付きました。同時にこのデスゲームのタイムリミットが2日目6時前後だと考えています。
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】リンカーコア消失、疲労(中)、肉体内部にダメージ(中)、血塗れ
【装備】フェルの衣装、フリードリヒ(首輪無し)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。
1.なのはママ達の到着を待つ。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
【全体備考】
※2個のクレイモア地雷が爆発し車庫の扉が破壊されました。
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投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>623-635が前編『S少年の事件簿/殺人犯、八神はやて』(約24KB)で、
>>636-641が後編『S少年の事件簿/フリードの来訪にヴィヴィオの涙』(約16KB)です。
サブタイトルの元ネタは何時もの様に仮面ライダーW風、
『S少年の事件簿』……『金田一少年の事件簿』(Sはユーノ・スクライアのS)
『殺人犯、八神はやて』……『名探偵コナン』第521話『殺人犯、工藤新一』
『フリードの来訪にヴィヴィオの涙』……『名探偵コナン』第522話『新一の正体に蘭の涙』
以上の様になっています。ちなみに冒頭数レスサブタイトルを入れなかったのはタイトルの時点で内容がバレる為です。
……後半タイトルがコナンにしたから前半タイトルもコナンにしようかと投下直前考えたけど、Yはもう使用済なので当初の予定通り金田一になりましたとさ。
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乙でした〜
一時期は完全に迷走していたのに、今は対主催頭脳派、かっこいいぞ、ユーノ
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投下乙です
ついに首輪解除か胸アツだな
フリードという運要素はあったとはいえ首輪解除にタイムリミットにまで気づけたのは流石頭脳派と言わざるをえない
一時はサービスシーン担当だったけど
しかしタイムリミットは刻々と迫っているのに今だ参加者同士の戦闘は続いているとか現状かなりヤバイんじゃないか?
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投下乙です
おお、やっぱりユーノ君死亡フラグ回避ktkr
最初の頃はサービズシーンばかりでユーノ爆発しろ状態だったのに……
あと夢の中だけど浅倉がなんか良い人みたいに……って、そういや未だにヴィヴィオ視点だと浅倉は正義のヒーローなんだっけ
とりあえずヴィヴィオもがんばれ!
ちょっと気になった点
>>629でユーノがヴァッシュとアギトの生存を絶望視していますが、ちょっと極論すぎるように思えました
ヴァッシュは理由が理由なので納得できましたが、アギトは今の段階でそう思うのは少し違和感がありました
「八神はやてと会ったなら」みたいな一文挟んで、その前提条件で話すのなら違和感もないですけど
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>>645
……確かに、極論過ぎる様な部分は確かにありますね。では、
「蒐集さえしてしまえばその力も使える、はやてにしてみれば好都合この上ないよ」
ここの部分を
「蒐集さえしてしまえばその力も使える、はやてにしてみれば好都合この上ないよ。勿論、アギトが都合良くはぐれてはやての所に戻らなければそれも無いんだろうけど……」
『すぐ近くにいましたし彼女の性格上、Ms.はやての暴走を止めようと戻る可能性は否定出来ません……ですが、流石に悲観視し過ぎでは? 仮説に仮説を上塗りした極論にも感じますし』
「……自分でも少し思うけど、今のはやてを見ていると有り得ないとは言い切れないんだよね。これが杞憂であれば良いけど……」
以上の様に修正(実質追記)してみます。これならば前提条件も入りましたし、あくまでも『悲観的な極論』である事も示せるので違和感も拭えると思いますがどうでしょうか?
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はい、それで大丈夫だと思います
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高町なのは(StS)、八神はやて(StS)分投下します。
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誰もが自分は正しいと信じて行動している。
だが、果たしてその行動は本当に正しかったのか?
その行動の結果はもしかしたら誤りだったのかも知れない。
また、誤りだと判断した選択がもしかしたら正しい選択だったのかも知れない。
『世界は何時だってこんなハズじゃないことばっかりだよ!』
ある事件である執務官が語った言葉ではあったがそれはまさしく真理だ。
自分が信じた行動をとった所で突き付けられる結果は裏腹な現実だ。
最善と信じた行動の結果が、最悪な結果をもたらす事もある――
また、最悪だと考えられた方法が後に最善の選択だったのかもしれないと言われる事もある――
世界は矛盾に満ちている――
デスゲームが開始してから27時間以上が経過――
60人いた参加者は6分の1の10人にまで減少、
C-9にあるジェイル・スカリエッティのアジトに集結しようとしていた参加者は散り散りになりそれぞれの戦いを繰り広げている。
仮面ライダーカブト天道総司はD-9にてアンジール・ヒューレーとキングと激闘を繰り広げ、金居は彼等を出し抜く為に機を伺っていた。
スバル・ナカジマはC-9にて泉こなたの仇討ちをせんとする柊かがみを止めんと対峙していた。
ユーノ・スクライアはヴィヴィオを背負い、再び仲間達が合流出来ると信じE-7の駅へと向かっていた。
そして、残る2人は――
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「はぁ……はぁ……」
森の中を少女が駆ける――彼女の名は高町なのは、機動六課スターズ分隊長の彼女は左手にレイジングハートを構えひたすらに対峙した相手と適度に距離を取りつつ森を駆ける――
「……!」
振り向きざまに魔力弾を瞬時に生成し打ち出し背後に迫っていたビット型のニードルガンを撃ち落とす。しかしすぐ後ろに別のビットが迫る。
「甘いよ」
だが、僅かに視線を向けそのまま魔力弾を発射し迫っていたビットを撃ち落とした。
「レイジングハート、周囲の様子はどう?」
『ビットがまだ数個周辺を飛び回っています』
「向こうとの距離は?」
『距離を取りすぎた為、詳しい状況は不明。ですが、この様子では未だ戦闘を繰り広げているでしょう』
「周囲に他に誰かいる?」
『No...今現在一番近くにいるのは『彼女』だけです』
「そっか……まだ天道さんとアギトの行方は掴めないか……」
攻撃をかわしながら移動する最中、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの死体を見つけた。本来ならば弔いたかった所ではあったが状況が状況、手を出す事が出来ず移動を余儀なくされたのだ。
『状況から考えて彼を殺したのは……』
「言われなくてもわかっているよ……」
そう言いながら連続で魔力弾を発射し次々とビットを撃ち落としていくが、
『左横、来ます』
「くっ」
左腕を狙い一筋の聖杭が迫る。しかし、レイジングハートの察知が一手早かったためそれは命中する事無く回避出来た。
「ありがとう、レイジングハート」
『お気になさらず。ですが、このままでは……』
-
「やっぱりそう簡単にはいかんか」
森の中で少女がそう零す――彼女の名は八神はやて、右手に巫器(アバター)の第六相<誘惑の恋人>憑神刀を、左手に夜天の書を持ち目標を仕留めんと鋭い目を向ける。
憑神刀の持つスキルである薔薇型のニードルガンを生成する愛の紅雷を複数放ちその対処に追われた隙を突き鋼の軛で利き腕である左腕を破壊する。
それを目論んで仕掛けた攻撃ではあったが今の所失敗に終わっている。
「レイジングハートとなのはちゃんのコンビはそう簡単には崩せんか……」
その最中少し離れた場所で戦いの音が聞こえてくる。
「少し離れすぎたか……チッ」
舌打ちの音が響く。なのはの作戦に乗せられていると感じたのだ。
2人の置かれている状況を今一度整理してみよう。
そもそもの話、2人が戦っている原因はシグナムを殺し他の参加者も殺そうとしていた柊かがみの処遇を巡っての対立だった。
誤解の無い様に書いておくが、かがみが殺し合いに乗っていたのは過去の話で、合流の段階では殺し合いに乗った事を反省しはやて達に謝罪しようとしていた。
だが、はやてはかがみを許すことなく断罪しようとし銃口を向けた。だが、なのはがそれを許すことなく彼女に立ち塞がったのだ。
その後、ヴァッシュが持っていた千年リングに宿るバクラの陰謀でリインフォースⅡが惨殺され、それに逆上したはやてが広域攻撃で周囲を吹き飛ばしたのだ。
そして、ヴァッシュを殺害した後はやてはかがみを見つけ愛の紅雷を放ったがこなたが庇う形でその攻撃を受け死亡。
なおもかがみに迫ろうとした所で駆けつけたなのはが立ち塞がっているというわけだ。
なのはははやての牙がかがみに向けられるのを防ぐ為、戦いながら少しずつ場所を移していた。
攻撃を仕掛けては防がれ、攻撃を仕掛けられてはかわし続け繰り返す事何十回、時間にして数十分、何時しか2人の戦場はC-9を離れC-8まで移動していた。
前述の通りかがみ達はC-9にいる為、かがみから距離を取るという意味ではなのはの作戦は上手く行っていたのだ。
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「本音やったら今すぐにでもあの餓鬼んトコに向かいたいんやけど……けど、その前になのはちゃんに撃たれるわなぁ……」
今ここでなのはを放置しかがみの所へ向かおうとしたら長距離からの砲撃魔法の餌食になるのはほぼ確実。故に、現状でなのはを放置するわけにはいかなかったのだ。
「出来るだけ早く決着を着けたいけど……」
そう言いながら手元にあるカートリッジを使い消耗した魔力を補充した。
憑神刀と夜天の書という2つのデバイスを使い次々と攻撃を繰り出す事による消耗は決して小さくない。特に憑神刀は絶大な力を与える反面通常のデバイスとは比較にならない程の負担を強いる。
それ故に、はやては合間をみてはこうしてカートリッジの魔力を回復に使っていたのだ。そして、今使ったカートリッジが最後のカートリッジである。
「魔力の補充手段はもう無い……けどまだ私の方が優勢や……」
なのはと違い、その声に答える者はいない。
一見すると2人の戦いは互角に見える。
実際の所両者の能力だけを見た場合は殆ど互角と言って良い。魔力の総量ははやての方が上だか、戦闘経験という分野ではなのはの方が秀でている。
それらを考えれば両者が互角に見えるのはある種当然とも言える。
また、戦闘開始時点では万全なはやてに対しなのははそこそこに消耗していた。しかし前述の通りはやての魔力消耗はなのはとは段違いに大きい。
故に総合的な部分を見ても互角、もしくははやてがやや有利程度と見る事が出来るだろう。
だが果たして本当にそうだろうか?
本当に互角に近い状況と言えるのだろうか?
2者の戦いは森林の中で繰り広げられている。両者共に空戦スキルを有しているにも拘わらず、殆ど空中に出ての戦闘は行っていない。
その理由は2つ。1つは飛行魔法を使用しての消耗を抑える為、もう1つは空中に出る事により攻撃の的になる可能性が高い為だ。
一方、地上では森林という地形という事もあり木々が適度に視界を遮ってくれる。同時に今はまだ視界の悪い夜中、その点を踏まえても下手に空中戦を仕掛けるよりは地上で戦った方が都合がよい。
その判断により互いの策敵が遅れ戦闘の早期決着を阻み膠着したともいえるが、それは逆に双方に度々思考する時間を与えてくれているのだ。
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「レイジングハート、はやてちゃんまでの距離は?」
『北西20から30位の所です』
周辺及びはやての次の行動を警戒しつつなのはは木の影で息を整える。数十メートル離れた先でははやてがビットを展開しつつ周囲を探っているのがわかる。
『妙ですね……あれだけの魔法を繰り出していながらマスター程疲れている様には見えません』
「うん、私もそう思った」
思えば、最初に仲間達を散り散りにした広範囲攻撃の時点ではやては著しく消耗している筈だ。
しかし、対峙した段階では何故か消耗は見受けられなかった。
むしろ、合流した時点よりも元気になっているとすら思える。
更に、長々と戦いを繰り広げている割に消耗の度合いも少ない。あれだけ魔法を繰り出せばなのはと同じとまではいかなくてもある程度は疲労していなければおかしい。
「回復道具があった……でも、あったんだったら先に合流していた筈のユーノ君が知らないのも妙だし……」
『Mr.ユーノ達に隠していたか……もしくは……』
それはなのは自身認めがたい推測だ。だが、状況を考えれば有り得ない話ではない。
「もし、それが本当だったら許せないよ……」
同時に脳裏にある人物が口にしていた話を思い出す。その話は信じがたい内容であったし、口にした人物自体も信用に値しない人物であった為、なのは自身その話を殆ど信用していなかった。
だが、火のない所に煙は立たないとはよく言ったものだ。今のはやての様子を見る限り、彼が此方を攪乱する目的で口にしたとしてもその話を持ち出した事に無理は感じない。
そう考えていると、
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『なのはちゃん、もうやめにしないか?』
はやてからの念話が頭に響く。近付かれたか近付きすぎたかどうかは不明瞭だが念話可能な距離まで来ていたらしい。すぐさまなのはは距離をある程度取ろうとする。とはいえ、一抹の可能性を信じなのはは何とかそれに答えようとする。
『やめにするって事は、考え直してくれたって事?』
『何を言っているんや、なして私の方が折れなあかんの? 折れるのはなのはちゃんの方や』
はやてはなのはに降伏し自分の言う通りにしろと言ってきたのだ。
『それでかがみを殺すのを見逃せっていうの?』
『せや、そもそも私等が戦っている場合じゃ無いっていったのはなのはちゃんやで、あの餓鬼がおらんかったら全て上手くいくんや』
『同じ事を繰り返すけどかがみは殺させないよ』
何時念話が途切れ戦闘が再開するかはわからない。故になのはは警戒を一切解かず森の中を走り回る。同じ様になのはとの一定の距離を保つ為にはやてもまた森の中を動く。
『もう殺し合いに乗っていない……けど、実際はどうや? デルタに変身してスバルと戦っているやん。すぐにでもスバルに加勢してかがみを仕留めた方が賢い選択やで?』
『私はスバルを信じているよ。スバルだったらそう簡単に負けたりなんかしないし、かがみだってもうスバルを殺したりなんかしないよ』
そうは口にするもののスバルに加勢した方が良いというのはなのは自身も考えている。
なのはの手元には先程ヴァッシュの遺体を見つけた際に拾ったスバルのリボルバーナックルがある。それを考えるなら早々にスバルと合流してそれを渡したい所だ。
だが、はやてにかがみを殺させるのを阻止する為にはここで引くわけにはいかない。
『はやてちゃんがかがみを殺さないって言うんだったら何時でも引いてあげるよ。でも殺すって言うなら……』
『言う事聞かないならぶっ飛ばしてでも言う事聞かせる……相変わらずなのはちゃんらしいやり方やな』
『褒め言葉? それとも皮肉?』
『只の感想や、けどそれはぶっ飛ばせるって前提が無いと成り立たないやろ?』
-
はやてがなのはに降伏を呼びかけた理由、それは――
『私じゃはやてちゃんに勝てないって事?』
『そういう事や』
『はやてちゃんの実力は知っているけど、私とそこまで差があるとは思っていないよ』
『それは私も理解している。けど、実力の問題やない。ちゃんとした理由がある』
なのはでははやてに勝てない。その確信があるからこそはやては降伏を呼びかけたのだ。
そもそも2人が争う必然性は少ない。むしろ状況を考えるならば力を合わせて残る敵の打倒に回る方が建設的だ。
だからこそこれ以上無駄な消耗を避けるために降伏を呼びかけたのだ。
『ちなみにその理由って何?』
『その前に1つ確認させてもらうで……聞くまでもない話やけど、誰も殺すつもりは無いんやろ』
『本当に聞くまでもない話だね……勿論、出来るだけ殺すつもりはないよ』
キング辺りは流石に殺す事も辞さないが、それ以外は極力話し合いで何とかするつもりである事に変わりはない。それ故の返答だ。
『つまり、私を黙らせるつもりであっても私を殺すつもりはないっちゅう事やな』
『当然だよ、でもそれがどうかしたの?』
『それがなのはちゃんが勝てない最大の理由や、私は障害となる奴はみんな殺すつもりや』
本心を伏せるべきという考えもあったが、今更隠す事に意味はないと判断しあえて本心を口にする。勿論、なのは自身はやての返答自体はある程度予測出来ていた。故になのはは冷静に応える。
『それがどうして勝てない理由に繋がるの?』
『わからんか? 例えなのはちゃんが私を運良く無力化出来ても生きている限り幾らでも復帰出来るっちゅうわけや』
はやての言いたい事はこういう事だ。
3度目の放送以降、参加者を殺害した参加者はボーナス支給品を1つ得られる。
これにより例え疲弊した状態であっても運次第ではあるが状況の立て直しが可能となる。
勿論、殺害した相手が持っていた支給品をそのまま自身の次の装備にする事も出来る。
だが、参加者を殺害する意志を持たない者はそのボーナスを得る事は殆ど無い。
戦いを繰り返して激しく消耗しても回復する手段は基本的にはない。
つまり、殺害する意志を有す参加者と殺害する意志を有しない参加者が戦った場合、
殺害する参加者は何度敗北しようが生きている限りボーナス支給品を得る事で何度でも戦線に復帰出来るが、
殺害しない参加者は1度の敗北がそのまま退場に繋がる。
前述の通り両者の戦力差そのものは致命的なまでに開いてはいない。
それ故に両者の戦いが膠着すればする程戦闘が終わった時の互いの疲弊は激しくなる。
だが、ここで前述の問題が大きな意味を成す。
殺害する意志を持たない者は回復する術を持たず今後も戦いも強いられる、
その一方、殺害する意志を持つ者は誰でも良いから誰か殺せばボーナス支給品を得る事で立て直しを行える。
立て直しが済めばすぐに先程戦った相手と戦い仕留める事が可能。同時に更なるボーナスも得る事が出来る。
故に、殺害の意志を持たざるなのはは殺害の意志を持つなのはに勝てないという事だ。
敵を殺せない以上、何時かは限界が来る。その問題があるからこその指摘なのだ。
以上の意味合いの説明を行い更にはやては言葉を続ける。
『更に言えば残り参加者は私ら入れて10人、あの場にいた7人を除いた残り参加者の中にまだ敵はおる。そいつ等と戦う事を踏まえればここで私等が戦う事にメリットは何処にもない』
はやての言葉はある意味正しい、なのは視点で見ても参加者の中でキングとアンジール・ヒューレーは倒さなければならない敵だ。
金居に関しても判断しかねるが敵の可能性は否定しきれない。
後々この3人との戦いが控えている事を考えるならば無駄な疲弊は確かに避けたい所だ。
『10人……やっぱりあの人を殺したのははやてちゃんだったんだ』
『ああ、リインを殺した奴を許すわけにはいかんからな』
真の元凶はバクラ……そう言おうとも思ったがそれについては言わない事にした。今更それを言った所でリインもヴァッシュも戻ってこないからだ。
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『それで、私に比べて妙に元気なのはあの人を殺して得たボーナスのお陰なんだね』
『大した収穫は無かったけどな』
『……その夜天の書や武器も誰かを殺して手に入れたの?』
『そう思いたかったらそれでも構わん。けど夜天の書はそもそも私の物や、私の物を取り返して何が悪い? 大体、なのはちゃんかてレイジングハートどうやって取り戻したん?』
『天道さんが上手くやってくれたからだよ。私は何も出来なかったよ』
何時しかなのはの声のトーンが落ち込んでいた。それに構う事無く森の中を駆け回りながらの両者の念話は続く。
『ずっと聞きたかった事があるんだけど……はやてちゃん、殺し合いに乗ったって聞いたんだけどそれって本当?』
『誰から聞いたんや? いや、敢えて聞く必要もないな』
はやての知る限り、それを話しそうな人物はキングとクアットロ、それにかがみぐらいだ。予想出来ていたが故に衝撃は少ない。
『そんな事は問題じゃないよ、でも聞いた限りじゃ赤い恐竜みたいなのを殺したって話だよ』
『その件はキングが私とヴィータを仲違いさせる為に仕掛けたん罠や、ヴィータが赤い恐竜に襲われているって話でな』
キングの悪行はなのは自身も理解している。故にはやての言動は恐らく真実だろう。だが、あの写真のはやての表情もまた恐らく真実だろう。
『で、キングの思惑通りヴィータちゃんと仲違いしたんだね』
『まぁそういう事やな』
素直に自分の話を信用してくれた事に一応は安堵するはやてであったが、
『……はやてちゃんらしくないね』
次になのはが口にしたのは否定である。
『どういう意味や?』
『キングに何を言われたのかはわからないけど、私の知るはやてちゃんだったらどんな理由があっても殺害を肯定なんてしないよ。
そんなはやてちゃん見てヴィータちゃんが拒絶するのも当然の話だよ』
『私はヴィータを助ける為にやったんや、否定される謂われは何処にもない』
冷静に応えている様に感じるが内心では少しずつ苛立ちを感じている。
『今のはやてちゃんの姿、ヴィータちゃんやシグナムさん、それにザフィーラさんにシャマルさんが見たらどう思うのかな?』
『何や……』
『はやてちゃん……闇の書事件でヴィータちゃん達がはやてちゃん達を助ける為とはいえ、どうして殺人を犯さなかったかわからないの?
はやてちゃんを助ける事を優先するんだったらその方が確実だよ?』
『黙れ……』
なのはが言おうとしている事を察するにつれはやての苛立ちはより募ってくる。
『はやてちゃんがそれを望まなかったからじゃないの?
自分の幸せよりも他人の幸せを優先していたはやてちゃんの想いに応える為にみんな誰も殺そうとしなかったんじゃないの?』
『黙れと言っているやろ……』
はやての苛立ちに構うことなくなのはの言葉は続く。
『今のはやてちゃんはどうなの?
幾らヴィータちゃんを守るためとはいえ誰かを殺すなんて考えられない話だよ。
それにシグナムさんの仇討ちの為にかがみを殺すのだってそう、シグナムさんがはやてちゃんが誰かに手をかける事なんて望まないよ?
それってヴィータちゃん達に対する裏切りなんじゃ……』
『家族の為にやっているんや! 何も知らないなのはちゃんが口を挟むなや!!』
-
はやての怒号が響く。それでも構わずなのはは言葉を続ける。
『家族の為……本当にみんながそれを望むと思う? リインだって幾ら仇討ちでもはやてちゃんがあの人を殺す事を望んだりしないよ』
『もうおらんみんながどう思っているかなんて勝手に決めつけるなや!』
『でも、まだアギトがいるよ。アギトが今のはやてちゃん見て……』
なのはの知る限りJS事件後アギトはシグナムの融合騎となり同時に八神家の一員となった。残された家族であるアギトがはやての凶行を良く思うわけもない
『……アギトももうおらんわ』
本当ならば言うつもりはなかった。だが、恐らく苛立ちが頂点にまで達していたのだろう。
故に売り言葉に買い言葉の如くつい答えてしまったのだ。
なのはは一瞬だけ驚いたがすぐに落ち着きを取り戻し、
『どういう事?』
『あまりにも胸糞悪い事言うから蒐集させてもらったわ。言っておくけど、ここにいるアギトはJS事件終わる前から連れて来られたらしいんや。つまりまだ私達の敵やったって事や』
今更なのはに対し取り繕う必要など無かった。故に、真実を殆どそのまま伝えた。
『つまり、アギトも障害になるから殺……蒐集したんだ』
『そうや、今後を考えればその方が好都合やろ』
沈黙が続く……その間も両者の距離の取り合いは続き、はやての繰り出すビットをなのはが撃ち落とすという小競り合いが続く。
そしてその沈黙を破り、
-
『もう一度だけ聞かせて、どうしてかがみを殺そうとするの?』
『何度も言わせるなや、シグナムを殺したあの餓鬼は私らの目的の障害になる、だから殺そうとした。それを妨害し……』
『はやてちゃんがそれを言うの?』
『は?』
『確かにかがみが殺し合いの乗っていたのは事実だし、何人も殺して来たことは間違いないよ。
でもそれを言うなら私達だって何かしらの罪は犯して来たよ。フェイトちゃんやヴィータちゃん達もPT事件や闇の書事件で何かしらの罪は犯してきたよ。
私だって自分のミスで色々な人に迷惑をかけてきたし、ユーノ君だってジュエルシードを見つけた事について責任を感じていた…… でも、みんなその罪を背負ってこれからの為に生きて来たんだよ。それがわからないはやてちゃんじゃないでしょ?』
勿論、この場での罪とこの場に連れて来られてからの罪を同一視する事はある意味筋違いではある。
だが、犯した罪を反省しその罪と向き合い今後を生きていくという意味では間違ってはいない。
『矛盾していると思わない? どうして自分達は良くてかがみはダメなの?』
『けど現実にあの餓鬼は私等をまた裏切ったやろ! それがわかっていたからや! 大体、あの餓鬼を殺すんはシグナムを殺したからやって何度も言っているやろ……その罪を有耶無耶にするいう……』
『有耶無耶にしているのははやてちゃんの方だよ』
『なん……やと……』
一体自分が何時罪を有耶無耶にしたというのだ? はやてにはそれがわからない。
『納得したわけじゃないけど、かがみを殺そうとするのもあの人を殺したのも仇討ちなんだと思う』
『そうや、有耶無耶になんてしてへんやん』
『でも、はやてちゃんに仇討ちする資格なんてないよ』
『何でや! 私以外の誰が無念を晴らせるんや!?』
『こなたを殺したのは誰の仇討ち? アギトを蒐集したのは誰の為? 夜天の書を持っていた人ははやてちゃんの家族を殺したの?』
『それは……』
『それにあの赤い恐竜を殺したのは? ヴィータちゃんを襲っていたからだとしてもあの時点ではまだヴィータちゃん殺されていなかったよね?』
『なんやねん、私が何か間違った事した言うんか? みんなを助ける為に障害を取り除いた、それの何処に問題がある?』
『言いたい事はわかるし、やった事を今更言っても仕方ないよ。でも、はやてちゃんその事について少しでも悪いと思った?』
『思うわけなんてあるかい』
一々、良心を痛めていては目的を達成する事は出来ない。実際、今更自分が悪いとは思っていない為はやてはそう答えた。
『自分で何言っているかわかっている? それかがみがはやてちゃんに言ったのと同じだよ』
『違う、私が殺したのは本当に障害になった奴等だけや。何もやってへん奴を殺してなんかいない』
少なくても夜天の書を持った餓鬼は夜天の書やリインフォースを冒涜していたし、アギトやセフィロスは自分の家族に対する想いを侮辱していた。
ヴァッシュに関しては何度も触れている通り今更語るまでもない。
こなたに関してもかがみに自分の怒りを思い知らせるという意味で良心の呵責は全く感じていない。
赤い恐竜はそもそもゴジラみたいな怪物だ、そんな奴に配慮する心なんてない。
『何がはやてちゃんにそこまでさせたのかはわからないし、全部見てきたわけじゃないからもしかしたら本当にはやてちゃんの言う通りだったのかも知れないと思う……
だけど、やっぱりアギトとこなたを殺した事に関してはどうしても理解出来ないよ』
『なしてわからないんや!』
『だって、アギトははやてちゃんの行動を諫めようとしただけだよ、確かにあの時は敵だったのかもしれないけどアギトは騎士ゼストに恥じる生き方なんて絶対しない!
それをはやてちゃんは……』
『五月蠅い……』
『こなたにしたってそう。かがみの友達ってだけで殺したんだったらそんなの絶対に許せないよ。そんな自分勝手な理屈で人を殺すはやてちゃんに仇討ちをどうこういう資格なんて無い!』
『五月蠅いって言っているやろ!』
苛立ちは既に怒りに変わっていた。何故ここまで自分の行動を否定されなければならないのだろうか?
-
『かがみがデルタに変身した本当の理由……はやてちゃんにはわからないの?』
『だから何度も言わせるなや、あの餓鬼は私らを騙……』
『かがみ……言っていたんだ、自分が殺されるのは仕方がないけどこなたは助けてって……』
『何……?』
あの後意識を取り戻したかがみは真っ先にこなたの身を案じた。そしてなのは達に自分の事よりもこなたを助けて欲しいと頼んだのだ。
恐らくかがみははやてが復讐のために自身の目の前でこなたを殺害する可能性を考えていたのだろう。
自分よりも友達の事を心配する、それがかがみの本来の姿なのだろう。
『はっ、そんなんなのはちゃん達を騙す為の方便に決まっているやろ』
『そう思いたいんだったらそれでも良いよ……でも現実にかがみが恐れていた事は起こったんだ……』
『それで?』
『かがみはこなたを殺したはやてちゃんを殺す為に変身したんだと思う。シグナムが殺された仇討ちをしようとしたはやてちゃんと同じなんだよ……』
『あんな餓鬼と私の想いを一緒にするなや!』
かがみのこなたに対する想いと自分の家族に対する想いが一緒? 考えただけで腑が煮えくりかえる、故にはやてはそれを否定する。
だが、その言葉こそがなのは自身引けなかった最後の引き金を引かせた。
『はやてちゃんにかがみを侮辱する資格なんてない! ううん、誰の想いや願いを否定する権利も資格もない……
はやてちゃんは機動六課の部隊長でも……
八神家の主でも……
私やフェイトちゃんの友達でもない……
只の……只の人殺しだよ……』
-
なのはとて10年来の友情を否定したくはない。だが、自分の考えに凝り固まり、他者の言動を否定するだけの彼女の姿に遂になのは自身怒りが頂点に達したのだ。
だが、それははやてにとっても同じ事、自分の考えについて一向に理解を示さないなのはにはほとほと愛想が尽きかけている。
正直、命までは取るつもりはなかったがもはやそんな考えは捨てた。なのはも最早障害以外の何物でもない。
消耗を抑える為、何とか説得で場を収めようとしたが最早そんなつもりはない。絶対にここで排除するつもりだ。
『最後に1つだけ聞いておくわ……ゴジラって知っているか?』
『ゴジラ? 何それ?』
『そうか、知らへんのやったらそれでもええわ』
元々ある程度予測していたがこの返答で確信した。ここのなのはは自分の世界のなのはではない。故にここで排除する事に何の問題もない。
『言っておくが、私の優勢に代わりはないで。
そもそもの話、なのはちゃんの狙いに気付かないとでも思ったんか?
自分に注意を引きつけたまま最小限の魔力で私の攻撃を防ぎ続ける戦法……私の魔力切れを狙っているのはバレバレや。
それで魔力が切れた所を全力全開の砲撃魔法で撃ち落とす……悪い戦法やないけどわかっていれば幾らでも対処できるで』
『……』
『その見立てに間違いはない。けど、なのはちゃんの調子を見る限り、私の魔力が切れる頃にはなのはちゃんの魔力も殆ど残らないと違うん?
それに、そんな戦法で来るとわかっていて素直にやらせるアホもいないやろ? 私の魔力が切れる前になのはちゃんの方を仕留めれば何の問題もない』
『……その割にはずっと防がれている気がするけど?』
『なのはちゃんが魔力を温存していた様に……私の方もある程度温存していたっちゅうわけや、何しろなのはちゃんの後にはかがみやキングを倒さなきゃならないからな』
『言っておくけど、今のはやてちゃんだったらユーノ君やスバルも邪魔するよ。それに天道さんだって……』
ユーノとスバルが今のはやての暴挙を許すわけがない。きっと2人も自分と同じ様にはやてを止めようとするだろう。
天の道を往き総てを司る彼が今のはやてを見たら何て言うだろうか? きっと天の道を外れたと言ってはやてを止めようとする。不思議とそんな気がした。
『私の邪魔をするなら倒すだけや。天道さんがどれぐらい戦えるかは知らんがユーノ君やスバル程度が今の私に勝てるとは思えないけどな』
『……スバルもユーノ君ははやてちゃんが考えているよりもずっと強いよ……でも天道さんもユーノ君もスバルもはやてちゃんとは戦わせない……
はやてちゃんはここで私が止める! それが友達としての私の責任だから!』
その言葉を最後に念話は途切れた。次の瞬間、なのはが全力で駆けだしはやてとの距離を開こうとしたからだ。
「友達……か、けど例え友達でも私の目的を邪魔させへん……」
そう言って、薔薇のニードルガンを次から次へと射出する。その量はこれまでの数倍だ。
後々の戦いを踏まえていた為ある程度温存していたが最早なりふり構ってはいられない。
物量戦に持ち込みなのはを先に疲弊させ仕留めるという事だ。
なのはがしびれを切らし砲撃魔法を撃って来たならばそれを防ぐ手段は幾らでもある。
普通に防御魔法を使って防ぐ事も出来るし、憑神刀には今まで使わなかった最大の切り札もある。
消耗の問題がある為出来るだけ避けたかったが、なのはを仕留めた際のボーナスを使うなり、なのはが持っている支給品を使えばある程度回復出来るだろう。
よしんば回復しきれなかったとしてもその後で互いに戦い疲弊したスバルとかがみを仕留めれば更なるボーナスを得られるので何の問題もない。
どうせどっちも障害にしかならないのだ、殺した所で何の問題もないだろう。
「そうや、私は何も間違った事はしていない。家族を……家族を取り戻すんや! その為やったら何を犠牲にしても構わん!」
-
その攻撃は先程までの非ではない。1つ撃ち落とせば今度は2つ、2つ撃ち落とせば今度は3つという風に攻撃ペースは格段に上がっていた。
なのはは自分を襲うビットを次から次へと撃ち落としていくが目に見えて疲労の色が濃くなっていく。
『マスター、プロテクションは何時でもいけますよ』
「まだ使わないで……言った筈だよ、出来るだけ消耗は抑えるって……」
この戦いの際、なのはは殆ど防御魔法を使っていない。長年の鍛錬で培った経験だけで撃ち落としと回避を続けている。
直線的なものではなく三次元の攻撃を可能にしその自由自在な軌道で攻撃対象になった者を苦しめるビットによる攻撃ではあるが、所詮は1人の手によって繰り出されているものだ。
どれだけ繰り出す人物が優れていても、扱う者が1人である以上、結局の所腕の数を増やしての攻撃と殆ど違いはない。
集中力を途切れさせなければ対応出来ないものではない。
高町なのはは管理局のエース・オブ・エースなど呼ばれている。それは彼女の持つ魔法の才能が開花したからだとよく言われている。
確かにその見立てそのものはある程度は正しい。才能無くして彼女がエース・オブ・エースになる事はなかった。
だが、魔法に出会う前の彼女はそれこそ普通の少女だった。彼女の家は武術家であったが、なのは自身は体育は苦手だったのだ。恐らく、スバル達がその話を聞けば驚くだろう。
その彼女がここまで戦える様になったのはひとえに長年の訓練のたまものだ。特に8年程前に再起不能になる程の負傷してからはより一層基礎を重視する様になった。
更に言えば彼女自身、指揮に回るよりも前線で戦ったり実戦による訓練を繰り返したりする事が多く戦闘経験は非常に豊富だ。
長年培われた経験、それが彼女を管理局のエース・オブ・エースと呼ばれるまでに成長させたという事だ。
その経験はこの場において最大限に発揮されている。
そもそも闇の書事件の辺り、なのはは誘導弾で空き缶を落とさずに当て続けるという訓練を繰り返してきた。
10年もの前からそういう訓練を積んできた彼女にとって、迫るビットを撃ち落とす事などそこまで難しい話ではない。
だが、攻撃はビットだけではない。ビットの合間を縫うが如く鋼の軛による波状攻撃が飛んでくる。先程までの腕狙いの攻撃ではなく今度はその命を刈り取る為に牙を向けている。
幸いなのは及びレイジングハートがギリギリの所で察知出来ているため未だに直撃は喰らっていないのが不幸中の幸いだ。
また、消耗を抑える為ではあってもむやみにバリアジャケットを解除する事は出来ない。バリアジャケットを解除すれば恐らく旅の扉で直接リンカーコアを掴み取ろうとする可能性が高い。
別に実際にリンカーコアを直接攻撃する必要はない。一時的に動きを封じる事が出来ればそのまま連続で攻撃を叩き込めばその時点で終わりだ。
バリアジャケットを展開している限り旅の扉による直接攻撃の危険は少ないが、闇の所事件で一度その攻撃を受けている以上警戒を怠るつもりは全く無い。
だが、状況は明らかに悪化している。確かにはやての攻撃は何れも回避出来ているがなのはの消耗も決して小さくはない。
このまま戦い続け疲弊が続けば何れは限界を迎える事になる。
プロテクションを使おうにもあれだけの攻撃を防ぐとなると無駄に消耗が激しくなる。完全にジリ貧状態に陥ってしまったと言えよう。
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『マスターの作戦は完全に読まれています。今のままでは勝てる可能性は低いでしょう』
なのはがはやてを無力化させる為の作戦は先程はやてが語った通りで大体正解だ。
かがみに矛先が向かない様に自分に注意を向けたまま戦場を移し、必要最小限の魔力の消費ではやての魔力を使い切らせ疲弊した所を全力全開の砲撃で仕留めるという至極単純なものだ。
確かに後先考えない全力全開ならば短時間で無力化出来る可能性もあろう。だが、キング等他の敵もおり、更にヴィヴィオ達を守るという事を考えるならばこの戦いで全てを使い切るわけにはいかない。
それ以前に、可能性があるとはいえそこそこに疲弊した状態でほぼ万全のはやてを短時間で止めるのは難しい。故に時間をかけてでもはやてを消耗させるという作戦を選んだのだ。
上手く時間を稼げればかがみを無力化したスバルや、はぐれていた天道が援護に来てくれる可能性もあった。
本音を言えば自分1人で決着を着けたいという想いも無いではない。だが、前述の通りこれで終わりではない以上、それに拘りすぎて足元をすくわれる可能性もある為、そこに拘るつもりはなかった。
だが、実際はなのはの思う通りにはいかなかった。
はやての魔力総量を甘く見すぎていたのに加え彼女は魔力の回復手段を所持していたのだ。これでははやての魔力が尽きた所で、最後の一撃を加える程の魔力が残るかどうかは不明瞭。
さらにあれだけあからさまな事をしていたが故、当然といえば当然だが作戦も読まれていた。こちらの作戦がわかっている以上はやてがその対策をとるのは考えるまでもない。
おまけにスバルや天道の援護も期待出来ない状況だ。信じたくはないが、2人とも倒されている可能性も否定出来ない。
なんにせよ、作戦の見直しが必要だろう。
-
はやての猛攻を避ける為、なのはは距離を取ろうと森の中を駆ける。
『距離が開き過ぎています、逃げたと判断されればMs.かがみの方に矛先が向けられますよ』
「今のはやてちゃんなら私を逃がしたりはしないよ!」
そう言いながらビットによる猛攻を避けつつ移動を続けた。ビットによる猛攻も目に見えて減少し周辺に静寂が訪れる。それはさながら嵐の前の静けさの様な――
なのはは息を整えつつ自身の持つ道具を改めて確認する事にした。
まずは自身の相棒ともいうべきレイジングハート、搭載されているカートリッジは未だ未使用だがあくまでもこれははやてに一撃を入れる為の切り札、使い所を誤るわけにはいかない。
『ですが、使わないで仕留められては意味がありません。そうなればMs.はやては私のカートリッジを使うことでしょう』
「それをさせるつもりはないよ」
次にブーストデバイスであるケリュケイオン、自身にブーストをかければ一時的に対応はしやすくはなる。
『しかし……』
「その分魔力の消費は激しくなる……か」
そして先程拾ったリボルバーナックル。だが、重量も重くなのはの戦い方には合わない為使用には適さない。おまけにカートリッジは既に抜き取られている。
「これは後で何とかスバルに渡すしかないね」
『この場を切り抜けてという前提になりますが』
真面目な話、これだけでどうやって対処しろというのだろうか? バリアジャケットの下の和服の持ち主の様な奇策を考えそれを実行する事などなのは1人では困難だ。
「ティアナやスバルもこんな気持ちだったのかなぁ……」
『あの時の模擬戦ですね』
それはホテルアグスタの一件の後に行われた模擬戦での事だった。アグスタでの誤射の失敗を挽回せんとティアナ・ランスターはスバルを巻き込み無茶な特訓を重ね、模擬戦でも無茶な戦法でなのはに挑んだ。
なのははその無茶を諫める等の理由でティアナを一蹴した後、更にもう一撃加えたわけだがその事はこの場ではあまり問題にはしない。
重要なのは、あの2人が絶対的に格上の相手に勝つ為に色々思案や努力を繰り返していた事だ。
2人が模擬戦までに、どれだけの作戦を考え試行錯誤していたのだろうか? 生半可な作戦は通じないと何度絶望したのだろうか?
完全に同一とはいかないまでも、似た様な境遇に立つ事で今更ながらにティアナの心境を真の意味で理解出来たような気がした。
「……でも、今は感傷に浸っている場合じゃないね」
そう言いながらリボルバーナックルをデイパックに戻し、更に中を探りあるものを見つけた。
「これは……」
-
『にゃのは……アイツを止めてくれ……』
不意にヴィータの声が聞こえた気がした。
「ヴィータちゃん?」
『何も聞こえませんでしたよ』
レイジングハートが知覚できないという事は恐らく只の幻聴だろう。だが、なのはにはそうは思えなかった。
「そうだね、ヴィータちゃんも今のはやてちゃんを止めて欲しいんだね……」
きっとヴィータもはやての暴挙を悲しみなのはに止めて欲しいと願っているのだろう。
「なんかちゃんと名前呼べていなかった様な気がするけど……」
『だから何も聞こえませんでしたよ』
恐らくそれはヴィータだけではない。シグナム、シャマル、ザフィーラ、それにリインやアギトも止めて欲しいと願っている。
彼等の家族にして主のはやてが家族の為とは言えその手を血で汚す事など望むわけがないのだから――
更に、リインフォースも呪われし存在だった自身に名前を与えて救ってくれた者が他者を傷付ける事など願っていないだろう――
「それにフェイトちゃんだって願っている――」
それだけではない。はやてを止めるだけではなく、この哀しいデスゲームを打破する事を皆は願っている筈なのだ。
フェイト・T・ハラオウンやクロノ・ハラオウン等多くの者達は願い半ばにして散っていった。
だが、彼等の願いは決して消えやしない。彼等の願いは今もなのは達生き残った者達の中に生き続けている。
いや、散っていった者達だけではない――
「スバルに天道さんだって戦っている――」
今も仲間達を信じ自分の戦いを続けている者達も願う事は同じ――
「ヴィヴィオだって私の事を待っている――」
ようやく会えた娘も望む事は同じ――
そして――
「何より、ユーノ君が私を信じてくれている――」
全ての切欠となった少年が求める事は同じ――
「だから――レイジングハート、付き合ってくれるね」
『Yes. master』
彼等の願いに応える為にも力の限り戦い、はやてを止め、デスゲームを破壊するのだ――
-
「どこや……」
無数のニードルガンを展開しつつはやてはなのはの探索を続けていた。
「なのはちゃんの性格上、ここで逃げるなんて事はあり得へん……こうなったら空から探すか?」
そう考えた矢先、遠方のニードルガンが撃ち落とされる音が聞こえた。
「そこか?」
はやては振り向きニードルガンを差し向ける。しかし今度は全くの逆方向に展開していた筈のニードルガンが撃ち落とされる音が聞こえた。
「なんやと?」
更に木の枝が次々と落下する音が聞こえる。どうやら魔力弾で枝を撃ち落としているのだろう。
「ちょっと待てや、今までと違い速すぎる、どういう事なんや?」
十中八九、撃ち落としているのはなのはだ。しかし気になるのはそのスピードだ。先程までと比較して格段にその動きは速くなっている。
「こんなやり方まるでフェイトちゃんやん……」
その姿に一瞬だけフェイトの存在を連想した。まさかフェイトまでも自分の前に立ち塞がると言うのか?
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。広範囲に展開したニードルガンを戻してなのはの攻撃に備えなければならない。
だが、引っかかる謎がある。今まで高速戦をしかけて来なかったのは力を温存していたからという解釈でよい。
しかし本当にそれだけなのか? 何か重要なカラクリがあるのではないか?
「何処や? 何処からくるんや?」
この場合一番避けなければならないのは意図せぬ方向からの奇襲、いかに強者であっても不意打ちであれば簡単に倒されるのが現実だ。
故にはやてはサーチを駆使しなのはの姿を探す。反応こそすぐに見つけられたが夜の森という環境故に肉眼で姿を確認する事は出来ないでいた。
何とかはやてはニードルガンを自分の死角に展開しなのはの襲撃に備える。仮に死角から仕掛けようとも先にニードルガンが立ち塞がる事になり、攻撃が一手遅れるからだ。
程なくその目論見通り後方に展開していたニードルガンが落とされる音が聞こえすぐさま振り向く。すると、
「いた、なのはちゃんや!」
ほんの一瞬だったが左手でレイジングハートを構えたなのはの姿を確認出来た。だが、なのはは高速で枝を落としつつ木の陰に隠れていくためすぐさま見失う事となった。
-
「……成る程、そういう事か」
だが、その一瞬だけで高速移動のカラクリを見破る事が出来た。
そう、なのはの両手にケリュケイオンが装着されていたのだ。
合流していた段階で身に着けていたような気もするが、かがみに気を取られていた為、はやてはその存在を失念していた。
更に言えば戦闘開始時点ではケリュケイオンは待機状態であったが為、やはり存在を見落としていた。
ともかく、なのははケリュケイオンを駆使し自己ブーストを施す事で高速戦を実現させたという事だ。
「けど、なのはちゃん。そんな状態で戦えば消耗は激しくなる事理解しているんか?」
自己ブーストを行えば確かに能力強化を行う事が出来る。だが反面、その状態での魔法の発動による消費は格段に増大し同時に負荷も大きくかかる事になる。
さらに過剰なブーストをかけた場合、圧力に耐えきれずデバイスの破損や魔力の暴発を引き起こす危険性もある。
以上の事から、はやては落ち着きを取り戻す。
消耗などのデメリットを覚悟しての自己ブーストという事はなのはにとって勝負所という事だ。逆を言えばこの局面を切り抜けた時点ではやての勝利が確定する事を意味する。
「カラクリがわかってしまえば何て事はない。予想外の方向からの奇襲にさえ気を付ければ幾らでも対処が出来る」
なのはがはやてを仕留める方法は2つ、完全な不意打ちで仕留めるか、圧倒的な力で押し切るかの2つだ。
だが、なのはの姿を確認出来た時点で不意打ちへの対処は概ね可能。後は力押しによる方法という事になるが基本的には難しいとはやては判断した。
一応接近戦も可能ではあるがなのはとレイジングハートの得意分野は中遠距離戦だ。接近戦においては基本的に憑神刀を持つはやての方が圧倒的に有利だ。
後は砲撃を仕掛ける事になるわけだが、距離が離れすぎた場合は十分に防御や回避など対処は可能だ。
では至近距離からの砲撃という事になるがそれならそれで対処は可能だ。
幾ら至近距離といえどはやてを確実に仕留める程の火力で攻撃を仕掛けるまでにはワンテンポのタイムラグが発生する。
その一瞬があればはやてにとっては十分、先に攻撃を仕掛ける自信がある。
さらに、はやてには未だ使っていない切り札がある。それさえ決まれば確実に勝てる。
斜め後ろから魔力弾が飛んでくる。その反応を察知しはやては振り向き障壁を展開しそれを防ぐ。
その直後すぐ背後から別の魔力弾が飛ぶ、今度はニードルガンを差し向けそれを相殺する。
攻撃のペースが上がっている事からすぐそこまで迫っているのだろう。
「……そこや! 行け、愛の紅雷!」
その言葉と共に振り向き薔薇型のニードルガンを一気に展開する。その方向の先に――
なのははいた――
「やはりな! さぁ、どないするつもりや?」
なのはは迫り来る愛の紅雷を次々と撃ち落としつつはやてに迫る。
「来るなら来い、憑神刀の錆にしてやるわ!」
-
そしてはやてまで後数メートルまで迫った所で大きく飛び上がった――
「血迷ったん……!?」
真っ正面から仕掛ける馬鹿正直さに呆れつつはやてがなのはを見上げる――そして言葉を失った。
「ちぇりおぉー!!」
なのはの右手には巨大なハンマーが握られていたのだ。
そう、グラーフアイゼンのギガントフォルムだ。
『ギルモンを殺して……はやての名を語って……
お前だけは……お前だけは……絶対に許さねぇッ!!!』
はやての脳内にヴィータの声が響き渡る。
偽物のヴィータが死しても尚自分に立ち塞がるというのか?
確かあのヴィータは闇の書事件の最中から連れて来られている。故になのはの味方をするなど無いはずだ。
それなのに自分を倒すためになのはに力を貸すというのか?
何にせよこれは完全にはやてにとって想定外だった。自己ブーストで強化された状態でギガントフォルムの攻撃を受けきれるかどうかは不明瞭。
何より完全に予想外の行動であったが為に防御が間に合わない。これがなのはの奇策だというのか?
だが――
「(今更、偽物がノコノコしゃしゃり出てくんなや……)」
今更偽物に出しゃばられた所ではやては足を止めるわけにはいかない。本物の家族を取り戻す為には何としてでもその怨念を消し去らねばならない。
「誘惑スル……薔薇ノ雫……」
-
ミッド式ともベルカ式とも違う魔法陣が展開され憑神刀から一筋の弾丸が飛ぶ――
弾丸は吸い込まれる様にグラーフアイゼンへと着弾。その瞬間、グラーフアイゼンは急速に元のミニチュアのハンマーに戻り地へと落ちていった。
「流石はデータドレイン……くっ……力が……」
データドレイン……それは憑神刀を代表する巫器が共通して保有している最強のスキルだ。
それそのものには攻撃力はない。だが魔力結合の術式に干渉・改竄する事が出来、人間に命中すればリンカーコアにまで干渉を及ぼす事が可能だ。
当然、魔力によって起動していたデバイスに着弾すればデバイスの力は失われる。
故に対魔術師においては最強最悪のスキルと言えよう。
だが、反面消費する魔力もまた膨大、実用レベルで考えれば1回の戦闘で1発しか撃てない代物だ。故にはやての身体から一気に力が抜けていったのだ。
それがはやての言う最大の切り札だったのだ。これが決まればなのはも――
「ちょっと待てや、なのはちゃんは何処に?」
そう、グラーフアイゼンが落ちた時には既になのはの姿はなかった。まさかと思い周囲を見渡すと――
レイジングハートを構えはやてを狙い撃とうとするなのはの姿を見つけた。
「(やられた……アイゼンは囮やったというわけか……)」
データドレイン着弾直前、なのははアイゼンを捨てすぐさま後方か横へ離脱したのだろう。
そしてレイジングハートに持ち替え、データドレイン発動で疲弊したはやてに狙いを定めていたのだろう。
-
「もうデータドレインは撃てへん……けど、私の全力はまだ終わってへん!」
そう言って憑神刀を構え、
「憑神刀よ……なのはちゃんを……立ち塞がる者全てを薙ぎ払え……妖艶なる紅旋風!!」
残る魔力をこの一撃に懸ける――
主の叫びに呼応するが如く憑神刀を中心に烈風と薔薇の破片が森林を破壊していく――
世界は紅に染まり、木々は倒され大地は荒れ果てていく――
それはまさしくはやての願い通りに――
「まだや……まだ終わりやない……愛の……紅雷……」
と、僅かに残った魔力を振り絞り愛の紅雷を放った――
恐らくなのはは妖艶なる紅旋風を受けても再び立ち塞がってくる。だが二度と刃向かわせない為に愛の紅雷で確実にトドメを刺すのだ――
そして、愛の紅雷は程なく紅に染まった空へと消えて行った――
-
「はぁ……はぁ……」
紅の蹂躙が終わり、C-8の森林は完全に消失し荒れ地だけが広がっていた。そしてその中心にはやて1人だけが立っていた。
『■■■――』
「流石はなのはちゃんって所か……もう殆ど魔力なんて残ってへん……」
度重なる攻撃に誘惑スル薔薇ノ雫、妖艶なる紅旋風、そして愛の紅雷を立て続けに連発した事ではやての残り魔力は僅かとなっていた。
真面目な話、騎士甲冑を展開するのもやっとの位だ。
『■■■――』
-
「けど、私の想いまでは撃ち落とせへんかった様やな……」
だが、はやては未だ立っている。故にはやては勝利を信じて疑わなかった。
「ボーナスの転送がない……ちゅう事は何とか耐えきられたか……けど、妖艶なる紅旋風の直撃は確かに決まった筈や。もう私に刃向かう事も無いやろ……」
『■■■■■――』
「とはいえ、こっちも消耗が激しいからな……かがみ殺す前に先になのはちゃんにトドメを刺してボーナスを……」
故に気付けなかった――
「手に入れ……」
既に眼前まで桃色の魔力光が迫っていた事に――
そして、気付いた時にははやての身体は桃色の光に包まれていた――
-
「はぁ……はぁ……」
恐らく今の自分の姿は他の誰にも見せられないだろう。
とある世界の奇策師の着物の損傷は激しく素肌と下着をひたすらに露出してる。
年頃の男性が見ようによっては劣情を催す可能性だって否定出来ない。
もっとも、それ以前に全身に渡り切り傷が刻まれているわけではあるが。
『目標への直撃を確認しました。しかしどうなったかは不明です』
「うん……引き続き警戒を続けて……」
そしてすぐさまバリアジャケットを再展開する。残り魔力は少なかったがまだ戦いが終わったわけではない。ここで防御を解く事など愚の骨頂でしかないのだ。
それ以前に、下着や素肌を露出した状態で人前に出たくないという年頃の少女の心理というのもある。
「ごめんね、アイゼン……」
足元にはグラーフアイゼンだったものの欠片が転がっている。恐らく先の攻撃で上手くなのは達の所まで飛んで来たのだろう。
だが、攻撃に耐える事が出来ず遂に砕けたという事だ。
「でも、アイゼンがいたからここまでやれたんだ……本当にありがとう」
そう、なのはの立てた作戦はグラーフアイゼン無くして成り立たなかった。
まずケリュケイオンの力を駆使し自己ブーストを施し高速で立ち塞がるビットを撃ち落としつつ接近しながらはやてを翻弄する。
そしてタイミングを見計らって急接近し――グラーフアイゼンを起動しそのまま叩き付けようとしたのだ。
はやてはグラーフアイゼンの存在を知らない。故に接近戦を仕掛ける所までは予測出来てもグラーフアイゼンが来る所までは読み切れない筈だと読んだのだ。
グラーフアイゼンで仕留めるつもりだったのか? 答えはNoだ。そもそもなのはは最初からグラーフアイゼンで仕留めるつもりはなかった。
それははやてに妖艶なる紅旋風を使わせる為の布石だったのだ。防げない攻撃が来るとなれば全てをなぎ払う攻撃が来ると読んだのだ。
だが、予想外にもはやては今まで見せた事のない攻撃を仕掛けた。長年の経験からそれが危険なものという事まではわかったが正直対処仕切れる自信はなかった。
が、ここで幸か不幸か偶然にもグラーフアイゼンがなのはの手を抜けていったのだ。
何故グラーフアイゼンが手を抜けていったのか? それは使い慣れない武器故に掴む力が甘かったのだろう。
いや、もしかするとグラーフアイゼン自身がなのはを助ける為に自ら抜けて出て行ったのかもしれない。
だが、真実はどうあれグラーフアイゼンがなのはの手を離れた事でデータドレインの直撃を回避出来た事には変わりはない。
さて、予想外の攻撃ではあったがなのはは怯む事無くすかさずレイジングハートに持ち替え至近距離から砲撃を仕掛ける『様に見せた』。
そしてなのはの目論見とは少々遅れて妖艶なる紅旋風が発動された。それこそがなのはの狙いだったのだ。
なのはは防御魔法を最大限に駆使し更にはリアクターパージを使いそれを耐えきった。それでも完全に防ぎきる事が出来ず全身にダメージを負ってはしまったが。
だが、C-7まで吹き飛ばされながらも体勢を整えつつ砲撃体勢に入った。
そして、最大級の攻撃魔法を連発し疲弊し同時に勝ち誇った所をなのはとレイジングハートにとっての最大の攻撃魔法であるスターライトブレイカーを叩き込んだのだ。
はやてを無力化するために手加減は出来ない。故にレイジングハートに搭載されているカートリッジは全てこの一撃で使い切った。
つまり、自己ブーストによる突撃も、グラーフアイゼンによる奇襲も、至近距離からの砲撃も全てはやてに妖艶なる紅旋風を使わせ魔力を消耗させる為の布石だったのだ。
最初からなのはは遠距離からの砲撃で仕留めるつもりだったというわけだ。
なのはにとってこの一撃は自分1人だけのものではない。ヴィータやフェイト達、数多くの仲間達の想いを込めた一撃だったのだ。
彼等の想いは決して外させない。皆の持てる全てを賭けてなのははその一撃を撃ち込んだという事だ。
-
「レイジングハート……周辺の様子は……それにはやてちゃんは?」
『今の所反応はありません、Ms.はやての姿も確認出来ません』
だが、前述の通り戦いが終わったわけではない。
確かにはやてに一撃撃ち込んだとはいえ、命までは奪っていない筈だ。はやてを拘束しない限り彼女を本当の意味で止める事は出来ないだろう。
また、かがみを抑えているスバルの方も心配だ。信じていないわけではないが、一歩間違えればどちらかが死亡の危機に瀕する可能性もある。出来るだけ早く合流したい所だ。
更に、未だ行方の掴めない天道の事も気になる。もしかしたら金居、アンジール、キングと遭遇し交戦している可能性もあるだろう。
無論、その3者がいつ牙を剥くかもわからない。警戒を解くわけにはいかないというわけだ。
そして何より、駅で待っているであろうユーノとヴィヴィオも気がかりだ。出来るだけ早く彼等と合流したいのが本音だ。
何にせよ、選択肢は数多いが誤ったものを選ぶわけにはいかない。迅速に慎重に次の行動を決めなければならな――
『待ってくださいマスター』
「どうしたの? レイジングハート……?」
『首輪が無くなっています』
「え? ……本当だ」
レイジングハートの言う通り、首に着けられた筈の首輪が無くなっていた。その代わりに首に何かのかすり傷が付けられている。命に関わる程のものではないのが不幸中の幸いだ。
『恐らく先程の攻撃が上手く首輪に命中したのだと思いますが……』
「爆発しなかった……もしかして……」
真相はわからない。だがデスゲームの根底を支えていた首輪が外れた以上確実な事がある。
デスゲーム終焉を告げる夜明けの鐘が鳴り響く瞬間が刻一刻と近付いているという事だ――
【2日目 早朝】
【現在地 C-7】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(大)、首筋に擦り傷、はやてへの強い怒り、バリアジャケット展開中
【装備】とがめの着物(上着無し、ボロボロ)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ホテル従業員の制服、リボルバーナックル(右手用、0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
1.どうして首輪が……?
2.はやてを拘束する? スバルとかがみの所に向かう? 天道を探す? それとも……
3.駅でユーノ達と合流する。
4.出来れば片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)の暴走を許すつもりはありません。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
-
「はぁ……はぁ……スターライトブレイカーとは……ぬかったわぁ……」
殆ど魔力を失った状態でのスターライトブレイカーの直撃を受けてもなおはやては立ち上がろうとする。
その一撃で完全に魔力は枯渇、騎士甲冑すら解除された状態だ。
すぐ近くにはヘルメスドライブの核鉄の残骸と夜天の書が転がっている。どうやら今の一撃で吹き飛ばされた際に破損状態だったヘルメスドライブは完全に砕けたのだろう。
なお、一方の夜天の書には別段異常はない。
「けど、まだ私を倒すには足りなかった様やな……せや、勝つのは私や……」
そう言いながら立ち上がろうとするが――
「ん……あれ?」
何かがおかしい、立ち上がろうと憑神刀を杖代わりにしようとしてもどうにも上手く行かない。その上、何だが頭が重く眩暈がする。
「どういう事……なん……?」
と、右手の方を見ようとしたが――
「な……なんでなん……?」
憑神刀毎はやての右手が消え失せており、右手首からは大量の血液が流れ出していた。剥き出しになった手首の先からは肉や骨が痛々しく見える。
「ま……まさか……さっきの砲撃は……」
-
この瞬間、はやてはなのはの真の狙いが憑神刀である事に気が付いたのだ。
考えてもみれば当然だろう。あれだけ憑神刀の力を存分に放ち続けたのだ、警戒されてもおかしくはない。
だが、憑神刀ははやてにとって家族を象徴する何よりもかけがえのないものだ。そんなものが砕ける事など信じがたい話だ。
確かに憑神刀等巫器は超古代文明が作り上げたロストロギアの1つでありその能力は計り知れないものがある。
更に吸血鬼の真祖の放った数百キロクラスの攻撃を受けても白夜の龍の一閃を受けても砕かれる事はなかった。
だがそれは巫器が決して砕かれる事の無いという証明にはなり得ない。
事実としてこの場に支給されたもう1つの巫器はある出来事により消失した。それを見ても巫器を粉砕する事は可能だという事だ。
前述の通り、憑神刀は度重なる激闘をくぐり抜けてきた。最初に起動させた者はそれを振るって戦う事など殆ど無かったが次に手にした片翼の剣士が起動して以降は激闘の連続であった。
時間にして約20時間に渡り憑神刀は持ち主の心の空虚に応えるが如くあらゆる敵との激闘をくぐり抜けた。
だが、激闘を繰り返す度に疲弊していくのは当然の理、前述の通り吸血鬼の攻撃を受けてもひび一つ入る事は無かったが受けた負担は非常に大きく内部にダメージを受けた可能性は否定出来ない。
その後も白夜龍の一閃を防いだ際に更にダメージが蓄積されていくのは容易に理解出来るだろう。
そして何度と無く繰り出される妖艶なる紅旋風……その殆どはSランククラスの魔力を持つ最大級の攻撃だ。幾ら頑強な憑神刀とはいえ負担がかからないわけがない。
とはいえ、そうそう簡単に砕ける事はない。普通に戦う分には殆ど問題は無いと考えて良いだろう。
だが、最初から憑神刀を砕くつもりで仕掛けていたのならばどうだろうか?
通常、武器を砕くつもりで攻撃する事はあまりない。武器で防がれない様に隙を突いて本体に仕掛けるのが普通だ。
しかし、なのはは最初から憑神刀を砕くつもりで全力全開のスターライトブレイカーを撃ち込んだ。
はやての力の源が憑神刀ならばそれを砕く事でほぼ無力化出来ると考えたのだ。
何? 確かに理屈としてはわからなくはないが、そんな都合良く砕けるだろうか? そう言いたい気持ちはわかる。
だが実は憑神刀が砕けたのにはもう1つ理由が存在する。
今一度先程の戦闘を思い出して欲しい。
はやては妖艶なる紅旋風を放った後、確実になのはにトドメを刺すために愛の紅雷を放った。
勿論、魔力が殆ど残っていない状態で放った攻撃でなおかつ破壊の暴風の中を進ませる以上威力は格段に落ちる。
だが格段に威力が落ちても高確率で死に至らしめられる部位が存在する、それが首輪だ。
デスゲームのルール上、首輪を強引に破壊しようとすれば爆破される。はやては知らないが実際にその方法で死に至った参加者もいるため有効な方法だ。
はやてはそれを目論見首輪狙いの攻撃を仕掛けたのだ。
だが、なのはが全力で防御に回っていた、破壊の暴風で狙いが逸れた等の理由で狙いが若干それたが為、首輪の表面をなぞる様な形で攻撃は命中した。それ故になのはの首そのものにはさほどダメージを与える事は出来なかった。
それでも首輪そのものを破壊する程のダメージは与えた。はやての目論見通りならばこれで爆発する筈『だった』。
-
ここではやての知らない事実が重要になる。
先の放送で主催者であったプレシア・テスタロッサが退場しスカリエッティが実質的な仕切を行う事となった。
その際にスカリエッティは首輪の爆破装置を解除したのだ。
なお、はやてもプレシアの退場の可能性自体は予想していたものの、まさか爆破装置が解除される所までは考えていなかったし、そもそも不確定な情報をアテにしていなかったためそれに気が付かなかったのもある意味仕方がない。
何にせよ、はやての攻撃によりなのはの首輪が破壊され更に妖艶なる紅旋風によって首輪が外されてしまったという事だ。
そして、首輪を外した事によりある影響が現れる。それは制限からの解放だ。
制限を与えているのはフィールドそのものなので首輪を外した所で完全に解放されるという事はない。
しかし全く無関係というわけでもない。事実として先に首輪が外れた参加者がその影響で本来の力をある程度取り戻したという現実がある。
ここまで言えばどういう事か理解出来るだろう。なのはの放ったスターライトブレイカーは制限がある程度解放された事でその威力をある程度増していた。勿論、なのは本人の知らぬ所でだ。
一方の憑神刀はロストロギアとはいえ持ち主のはやての制限下に置かれている事に変わりはない。
故に、カートリッジを全て注ぎ込んだスターライトブレイカーの力に耐えきる事が出来ず遂に粉砕されたという事だ。
では何故、はやての右手までが潰されてしまったのだろうか?
これは至極単純な理由だ、憑神刀の破壊に巻き込まれてしまったという事だ。
憑神刀が破壊される際のエネルギーに巻き込まれ右手が消し飛んだ可能性もあろう。
憑神刀が破壊され吹っ飛ばされる際にはやて自身も吹っ飛びそのまま右手が地面や木々の残骸にぶつかり千切れ飛んだ可能性もあろう。
少しとはいえ制限が解放されたスターライトブレイカーを受けたのだ。例え非殺傷設定にしていてもはやて本人が受ける衝撃は相当なもの、吹っ飛ばされてそのまま右手を潰してしまったという事も有り得なくはない。
真相はわからない。だが、何にせよはやての右手が消し飛んだという事実だけは確かである。
余談ではあるが、元々破損状態だったヘルメスドライブが完全に破壊されたのもほぼ同様の理由である。
ちなみに言えば、直撃を受ける際に憑神刀を手放していれば右手を失う事を避ける事が出来た。
だがはやてにはそれが出来なかった。憑神刀は家族を失ったという空虚によって起動した。いうなれば家族の代替であったのだ。
それを手放すという事は家族を手放す事、はやてにそれが出来るわけなどないだろう。
しかし、その傲慢さが憑神刀と共に右手を失わせる結果になり、夥しく流れる血液により死へと近付かせる結果となったのだ。
-
「な……なしてこんな事になったんや……?」
意識はどれぐらい飛んでいたのだろうか? 一体どれだけの血液を失ったのだろうか? どうやら貧血も起こしている様だ。
ダメージとショックから最早はやてに強気な心は消え失せていた。
なのはが自分を殺すわけがないとタカをくくっていたし、先の砲撃も命を奪うつもりがなかったのは理解している。
だが、実際は家族の象徴を破壊され更には命までも奪われようとしている。
「どうしてなんや……私何か悪い事したんか……家族を取り戻したいっていうのがそんなにいけない事なんか……?」
自問自答を繰り返す。自分の判断が間違っているとは思えない。だが迎えた結果は最悪な結果だ。どうしてこんな事になったのだろうか?
いや、はやて自身は基本的にその時点において最善の行動を取っていた。だが、それが必ずしも望む結果を与えるとは限らないという事だ。
そもそも、はやてはずっと同じ事を繰り返してきた。
ヴィータを助けようとギルモンを殺した結果、彼女と敵対する羽目となり、
セフィロスの攻撃から身を守る為シャマルを盾にした結果、彼に自身を否定されクアットロからも斬り捨てられる事となり、
不穏分子だからとかがみを殺そうとした結果、その隙を突かれリインを殺される体たらく、
更にかがみを殺そうと庇ったこなたを殺した結果、かがみに再び殺意を抱かせた。
そしてそれらを最善の行動と断じた結果、なのはと決定的な対立を引き起こし今に至った。
そう、結局は繰り返しだったのだ。彼女は知らず知らず最悪な結果を引き起こす選択を選び続けてきたのだ。
もしかすると、最初にゴジラを封印する時に家族を犠牲にした事自体が最悪の結果を引き起こす選択だったのかも知れない――
だが、はやての願いまでは潰えてはいない。右手で家族を掴む事は出来なくなったがその意志は消えない。
しかし、状況は最悪だ。魔力は完全に枯渇し、右腕からは現在進行形で血が流れて貧血状態に陥り生命の危機は迫っている。だが、散々あれだけの事をしておいて今更仲間をアテにする事など出来やしない。
そして、今にも自分を殺そうとかがみが迫ろうとしているのだ。なのはの話が真実にしろそうでないにしろ自分を襲う事だけは確実だ。
全て彼女自身最善と判断した選択が招いた最悪な結果だ。
「いやや……ぜったいに……ぜったいにとりもどすんや……」
周囲を見回し使える物を探す。しかし自分の攻撃で吹き飛ばしたせいか使える物は見当たらない。
アジトまで戻れば何かあるかも知れないがそれまで身体が保つとは思えないし、かがみと鉢合わせすればそれで終わりだ。
いや、1つ……正確には2つだけあった。この状況をひっくり返せる可能性を秘めた物が。
「そうや……夜天の書にジュエルシード……まだ使えれば……」
それはまさしく悪魔の選択、ジュエルシードの力で夜天の書をかつての闇の書の様に改変を行う。
そうする事でまだ逆転の可能性はある。あの餓鬼が少しでも改変していたのであれば今からでもまだ間に合う筈だ。
だが、ジュエルシードの残り魔力が無いのは確認済み。最早不可能なのか――
-
それでもはやては涙を零しながら最後の可能性を信じジュエルシードと夜天の書に懇願する――
「魔力が足りないなら私の命をやる……命でも足りないんやったらこの世界をやる……
だから……だから……もう1度だけ……もう1度だけ家族を取り戻すチャンスをくれや……
闇の書は主に絶大な力を与えてくれるんやろ?
ジュエルシードは願いを叶える石なんやろ?
だったらその力で私の願いを叶えてや……
その為やったら私の命も、この世界もなんもいらん……
ヴィータを……シグナムを……シャマルを……ザフィーラを……そしてリインを取り戻したいんや……!
応えてや……頼む……!」
【現在地 C-8】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】全身にダメージ(小)、疲労(極大)、魔力消費(極大)、右手欠損(出血中)、貧血
【装備】夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード(魔力残量0)@魔法少女リリカルなのは
【道具】なし
【思考】
基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
1.ジュエルシードで夜天の書を改変し力を取り戻す。
2.自分を含めた全てを捨ててでも家族を取り戻す。
【備考】
※この会場内の守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※出血が激しい為、すぐにでも手当てをしなければ命に関わります。
ジュエルシードで改変の可能性が無い事は今は亡きプレシア自身が断定していた。
それを踏まえるならばはやての願いは決して叶う事はない。
もっとも、願いが叶わなければこのまま死を迎える可能性が非情に高いだけでしかないが。
しかしはやての願いが叶い、夜天の書がかつての闇の書の様になった場合、以前説明した通り世界崩壊を引き起こす引き金となりうる。
ジュエルシードもまたロストロギア、可能性が絶対に無いとは言い切れない。
仮に最悪の事態を起こしてしまった場合の話だが、それを引き起こしたのはある意味なのはの行動が原因と言えよう。
無論、なのは本人は最善の行動をとったつもりだ。だが、その結果最悪の事態が起ころうとしていたのだ。
よしんば起こらなかったとしてもはやての右手を失った事自体がなのはの望む結果ではない。
ああ、明らかに矛盾している――
はやての願いがどのような結末にを導くかはわからない。
だが、終焉の鐘が鳴り響くまで――
夜明けまではまだ時間がある――
矛盾を抱えた物語はまだ――終わらない――
【全体の備考】
※グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、ヘルメスドライブ@なのは×錬金が破壊されました。
※C-8が妖艶なる紅旋風により荒れ地となりました。
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投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>649-662が前編『抱えしP/makemagic』(約29KB)で、
>>663-678が後編『抱えしP/DAYBREAK'S BELL』(約30KB)です。
サブタイトルの元ネタは何時もの様に仮面ライダーW風、
『makemagic』……『劇場版 遊☆戯☆王 超融合!時空を越えた絆』主題歌
『DAYBREAK'S BELL』……『機動戦士ガンダム00』OP
『抱えしP』のPはPower(力)もしくはParadox(矛盾)を意味しています。
で、『DAYBREAK'S BELL』をタイトルに採用した理由は『夜明けのタイミングにこのタイトルを使おう』とずっと考えていたから。
じゃあ、『makemagic』を採用した理由はというと……前述の遊戯王の劇場版の敵が今回の話のテーマに近かったからです。そんなわけで来年再上映が決まった遊戯王劇場版、そしてストーリーも佳境に入った5D'sをみんなで見よう。
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投下乙です
いやあ、二転三転してどうなるかと思ったがなのは・レイハ組に軍配が上がったか…
はやては…確かにこれまでの選択は最善に見えて最悪だったわw
そして更に最悪な事をしそうだ…どうなる?
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