[
板情報
|
R18ランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
真贋バトルロワイヤル part5
1
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/08/23(土) 03:19:46 ID:jdwq8Ri20
その絆、本物?贋物?
※前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1744629175/
2
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/08/23(土) 03:20:11 ID:jdwq8Ri20
前スレがそろそろ970を超えたの立てさせていただきました
3
:
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:47:18 ID:.I21kXzM0
スレ立て&前スレでの投下皆様お疲れ様です
こちらに投下します
4
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:48:42 ID:.I21kXzM0
殺し合いで、参加者が入手可能なアイテムの種類は非常に豊富だ。
MSや類する巨大兵器の起動鍵、仮面ライダーへの変身ツール。
直接的な殺傷力は皆無だが、移動や傷の治療に役立てるもの。
使い道に悩みそうでも、意外な場面で活用の機会が巡る道具だって少なくない。
但し、必ずしも自身と相性の良い物を入手出来るとは限らない。
例えば、高性能なカスタマイズが施された銃火器。
キヴォトスの生徒なら難なく扱える、反対に刀使であればそうもいかない。
優秀な機能を秘めた得物だろうと、肝心の使い手に技量や知識が不足していれば宝の持ち腐れ。
死蔵されても何らおかしくない。
であれば現在、リュックサックの奥底から引っ張り出されたソレは運が良い。
最初こそ扱えない人物に支給されたが、所持者を変えようやっと日の目を見たのだから。
「すみません、何だか運転を押し付けてしまったみたいで……」
「構わない、移動時間の短縮は俺としても助かっている」
助手席で申し訳なさそうに言う小夜へ、事も無げに返す。
表情を一切変えず、視線は進行方向に固定されたまま。
一見すると愛想がない、突き放した態度と思われても無理はない。
しかしクールな外面と裏腹に、その実率先し仲間の負担を減らそうとする。
信頼の置ける男だとは、短い時間で小夜も理解出来ていた。
でなければお人好しな親友だとて、複数回の戦闘で背中を預けはしないだろう。
富良洲高校を出発したチェイス達が目指すは、ルルーシュが陣取るテレビ局。
皇帝一派よりも先に果穂の救出、及びゼイン打倒の方針を撤回する者はいない。
とはいえ先んじて出発したギラ達と違い、こちらは徒歩での移動。
必然的に時間を食うのは避けられない、といった問題は早々に解決された。
5
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:49:29 ID:.I21kXzM0
小夜の支給品の一つこそ、今正にチェイスが運転中の車。
学園都市キヴォトスが誇るマンモス校、ゲヘナ学園における部活動の一つ。
給食部保有の専用トラックが、現代都市エリアを駆けていた。
幾ら魔法少女といえども、車の運転など中学生故に経験がある筈もなく。
『当たり』の部類だが使えない為に仕舞いっ放しだったアイテムが、こうして運転手に巡り会えたのだ。
「免許を取得したのが俺だけなら、俺が運転するのが自然の流れだろう」
「…あなたは、免許を持っているのか?」
荷台から少しばかりの驚きを含んだ声が上がる。
知識として運転免許が何かくらい、ジークも知らない訳がない。
ただ取得したのが一般社会を生きる人間ならまだしも、機械生命体と言うのは意外だ。
ロイミュードについても説明は受け、別に差別意識を持ち出す気は微塵もない。
とはいえ生まれが純粋な人間でない者が、人間社会で免許・資格を手に入れるには。
相応の壁があったんじゃないかと、自身の出自が出自だけに思ってしまう。
「ああ。人間の仲間達が、手を貸してくれたおかげだ」
気を悪くした風もなく、やはり振り返らずに返す。
ロイミュード008による連続誘拐事件の際、本願寺課長の手回しで特例の運転免許試験が行えた。
人間と同じ証明書が手に入り、誇らしい気持ちになれたのは今も記憶に新しい。
紡がれた声色は淡々としているも、含まれた感情はジークにも察せられる。
“黒”のライダーを始め、自分を救ってくれた者達のように。
チェイスもまた、良き出会いがあったのだろう。
視線を運転席側から、正面に移す。
ジークの向かい側でははるかと千佳が、ピタリとくっついて座るのが見えた。
トラックに乗車中なのは5人、出発時と違い一人足りない。
だが残る一名の不在を疑問に思う者はおらず、答えとばかりにジークのすぐ傍でエンジン音が響く。
並走中のバイクを駆るのが誰かは言うまでもない。
6
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:50:17 ID:.I21kXzM0
「キリト、そっちは問題ないか」
「見ての通りだ。しっかしチェイス、お前よくこんなじゃじゃ馬乗りこなせるな……」
呆れと感心交じりの言葉を口に出しつつ、キリトも運転への集中は切らさなかった。
詰めれば全員が荷台に乗れるが、襲撃に見舞われた時を考えなるべく動きやすくして損はない。
いつ何時殺し合いの賛同者にぶつかっても、おかしくないのがこの場所だ。
故にある程度のスペースを荷台に確保し、バイクを運転可能なキリトがトラックとは別の『アシ』で移動を申し出たのだった。
貸し出されたチェイスの愛機は馬力も非常に高い。
アバターでなかったら、走らせるのに苦労したのが想像に難くない。
「元々俺専用に設計されたマシンだ。運転が厳しいなら、こっちに移るか?」
「いや、結構慣れて来たしこのまま貸してもらうよ」
言い終わらない内に片手で剣を引き抜き、進行方向上に顔を出したNPCを両断。
機械タイプだったらしく、部品を地面に散らして沈黙。
チェイスも同様に片手でハンドル操作をしつつ、もう片方の手にブレイクガンナーを取り出す。
頭上から付け狙うNPCが数体、但し然程手強くもない。
エネルギー弾が正確に急所を撃ち抜き、全て地面へ真っ逆さま。
わざわざ車を止めてまで、相手取る程の連中じゃない。
ドロップアイテムも出なかった以上、背後は気にせず目的地へと走らせる。
自分達より先にルルーシュや、放送を真に受けた者がゼイン討伐へ乗り出す。
戦いの果てに起こり得る最悪の事態を防ぐ為にも、のんびりはしてられない。
「……」
荷台で揺られ、千佳も幼いながらに緊張感を味わっていた。
幌が装着されておらず剥き出しなので、走行中は常に風が頬を叩く。
普段であれば顔を顰めた冷たさも、今だけは有難い。
逸る心を少しだけ冷やし、落ち着かせてくれる。
車に乗っての移動は、当たり前だが両手足の指じゃ足りなくらいに体験済。
家族との買い物、小学校での行事、アイドルとして現場への移動等々。
到着までの時間で期待を膨らませたことも多々あれど、今回ばかりは違う。
大事な友達を連れ去った者との戦闘は、ほぼ確実に避けられない。
自分達と一緒に戦ってくれた、二人の少女。
柊篝の命を奪い、聖園ミカの心身に深い傷を刻んだ白い救世主(かいぶつ)。
ゼインに囚われた果穂を、絶対に助けなければ。
7
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:50:48 ID:.I21kXzM0
(果穂ちゃん……)
富良洲高校での戦闘時、消耗の激しさであれ以上呪文を唱えられなかった。
マジアベーゼが託してくれた、空色の少女の魔法なら。
果穂を助けられて、篝だって死なずに済んだかもしれない。
思い返せば返す程後悔が湧き上がるも、唇を強く引き結びネガティブに沈むのを防ぐ。
己自身を責めていたチェイスを始め、ここにいる全員が必ずや果穂を助け出さんと意気込んでるのだ。
自分一人が延々と膝を抱えていては、本当に何も出来なくなる。
正面を見ると、向かい側にはジーク一人なのでスペースに幾らか余裕がある。
あの場所に果穂が座って、6人が7人になれるように。
(うーん……でも、果穂ちゃんはチェイスくんと一緒の方が嬉しいかな?)
最初に出会った時助けられたのもあってか、千佳から見ても果穂はチェイスに強い信頼を置いてるように思えた。
だったらチェイスの駆るバイクの、後ろに乗る方が喜ぶかもしれない。
ああでも、それだとトラックを運転出来る者がいなくて困る。
もし――レッドがいたら運転を引き受けたのだろうか。
任せろと力強く言う横で、大袈裟と言うようにイドラが呆れ笑いを浮かべる。
二人がいたら、そんな光景も現実になったのか。
アルカイザーと仮面ライダーで、ヒーロー同士どんな話をしたのだろう。
果穂はきっと、目を輝かせるに違いない。
あこがれの存在を前にした瞬間の感激は、千佳自身がイドラと出会った時に味わった。
思えば、ここに至るまでの道はイドラに会い始まったと言っても過言じゃない。
ステージの上で皆を笑顔にする、自分の魔法を褒めてくれて――
8
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:51:48 ID:.I21kXzM0
「千佳ちゃん?」
「え、あ……」
傍らのはるかの声に、つい自分の頬を撫でる。
白い肌は濡れており、汗でないのは千佳本人がよく分かっていた。
水の入ったコップ越しに、向こう側を見つめるみたいに。
視界が滲み出す理由が何かなんて、分からない筈はない。
「あ、だ、大丈夫!ちょっと、目に埃が入っちゃって……」
慌てて誤魔化し、ごしごしと強めに目元を擦る。
今は駄目だ。
これから果穂救出の為に、ゼインとの戦いが控えてる大事な時。
なのに皆を困らせたくない、邪魔になるようなことをしたくない。
「本当に、へーきだよっ…っ。も、もう!急に目が痒くなって…」
ああどうしよう、上手く笑顔を作れてるだろうか。
魔女っ娘(アイドル)が暗い顔だと、皆も不安になってしまう。
そう理解してるのに、引き攣った表情しか作れない。
「ほんとにっ、困っちゃうなー!」
「……千佳ちゃん」
頑張って誤魔化しの言葉を続けるのは、どうやらここまでらしい。
顔に柔らかい感触が押し当てられて、背中に手を回された体勢。
定時放送前の数時間で複数回、同じことをしてもらった。
はるかが自分を抱きしめてると、気付くのに時間は掛からない。
「千佳ちゃん…無理して平気な顔なんて、しなくていいんだよ……」
「は、はるかちゃん……」
「ごめんね……あたし自分のことばっかりだった。自分が悲しいってことだけ考えて……ごめんね……」
もぞもぞと顔を動かし見上げれば、自分と同じように頬を濡らすはるかがいる。
驚く千佳から視線を逸らさず、湧き上がるのは不甲斐ない自身への怒り。
イドラとレッドの死を知らされ、八つ当たりのようにキリトを責めた。
違うだろう、そうじゃなかっただろう。
悲しみに苛まれたのが、自分一人な訳ないと分かった筈だ。
殺し合いが始まって間もない頃に出会い、力を合わせて闇檻の魔女の脅威から生き延びた。
誰よりも勇気がある、小さな魔法少女(アイドル)が心に傷一つ負ってないなんて有り得ないのに。
9
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:52:29 ID:.I21kXzM0
「あ――」
ポタリと、頬へ落ちた熱い雫。
はるかの涙を前に、千佳の中でも現実が追い付く。
可奈美や篝と違い、最期を直接見なかったせいか。
単なる伝達事項で脱落を知らされた時は、実感が湧かなかった。
キリトから何があったかを教えられても、返せたのは無難な反応だけ。
「はるかちゃん……」
でもようやく、二人がもういないのだと実感が持てた。
この先果穂を助けて、ギラ達と無事に合流出来ても。
みんなで羂索達をやっつけても、その『みんな』の中にイドラとレッドは存在しない。
ハッキリと気付いてしまったから。
「あたし、こんなのやだよ……イドラちゃんも、レッドくんも死んじゃったなんて、そんなのやだよ……っ!」
「うん……」
「だって、だって……!二人とも、悪いことなんにもしてないのに……!」
最後まで諦めなかったと、キリトから聞いた。
二人がいたから、キリトともう一人の仲間は助かったのだと。
ノワル相手に抗った姿をこの目で見た故に、イドラ達ならそうするだろうなと納得はあった。
だからといって、死を歓迎するなど出来る訳がない。
「イドラちゃん……レッドくん……あたし、もっと……」
もっと二人と一緒にいたかった。
もっと色んな話を聞きたかった、してあげたかった。
アイドルとしての歌だって聞いて欲しかった、新しく出来た仲間達とも会って欲しかった。
そのどれもが絶対に叶わないと、誰よりも理解してる。
流れ続ける涙の止め方を、千佳自身も分からずにいた。
10
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:53:33 ID:.I21kXzM0
○
「はい、チェイスさんから幾つかもらって来たのだけれど……」
「ありがとう小夜ちゃん!チェイスさんにも後でお礼言わないと!千佳ちゃんは何が良い?」
「えっと、じゃあ桃のジュースが飲みたいかな」
複数本ある内の一本を受け取る。
ラベルには桃を模したキャラクターが描かれており、千佳も何度かCMで見た飲料だった。
キャップを開け口を突けると、口いっぱいに広がる甘みが心地良い。
千佳に倣ってかトレスマジアの二人も、各々好みのドリンクで喉を潤す。
四方を壁に囲まれた空間にて、椅子に腰を下ろす三人。
窓から見える広々と水を張った光景は、自然が作り出す池や湖とは別。
ランドマークの一つであり、定時放送前には戦闘が起こった場所。
浄水場の職員用休憩室に千佳達の姿はあった。
「小夜ちゃん、チェイスくん達怒ってなかった……?」
「心配しなくても、そんなこと誰もしてないわよ」
不安気に尋ねる千佳の頭を撫で、柔らかい笑みで言う。
実際嘘は言ってない。
別室を探索中の男三人から、苛立ちや辟易さは全くと言って良い程感じられなかった。
どちらかというと、気を回してやれなかった事を悔いていたか。
数十分前、千佳が幾分落ち着いたタイミングを見計らってトラックが停車。
一度どこかで休憩を挟もうと提案があり、慌てて反対したのは千佳だ。
自分が急に泣き出し、そのせいでこれ以上皆に迷惑を掛けられない。
だから大丈夫だと言うより早く、先手を打たれた。
「長時間の運転は控え、適度な休憩が必要と教わった。筆記試験にも出た問題だ」
「慣れないバイクを走らせたから、腰が痛くってさ。正直休憩には賛成」
「テレビ局へ向かう途中にランドマークがある。立ち寄って調べても損はないだろう」
相変わらずの無表情で言うチェイスへ、キリトとジークも同意するように言って来た。
ストレートに気を遣う事を言い、却って千佳が負担を感じる理由は避けてだ。
結局、はるかと小夜も賛成した為か一旦休むべく浄水場で降りたのである。
バイラルコアを放り、内部をざっと確認。
戦闘の痕跡こそ見付かったものの、人の気配は無し。
神の牙と柊の鬼子、殺し合いの賛同者同士の斬り合いも数時間前の出来事。
益子薫が警戒を促した件の二人は、とっくに移動済。
一先ずは安全と判断し、中へと足を踏み入れた。
11
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:54:18 ID:.I21kXzM0
「それにしても、まさかはるか達までドゴルドに襲われたなんて……」
「…うん、凄く強かったよあの……ライオンの人?」
富良洲高校にて、互いの経緯は話したがやはり少なからず衝撃を受けた。
冥黒の五道化が一人、激怒戦騎の名を与えられた剣士。
ドゴルドに襲われたのは小夜のみならず、はるかもだったとは。
最初の放送から間もなく激突し、強さを嫌と言う程思い知らされた。
仮に左虎達の介入が無ければ、シェフィだけは何が何でも守るつもりだったが自身が生き延びたかは非常に怪しい。
(それに話を聞く限り、私達と戦った時以上に強くなってるのは確実よね……)
左虎達と協力し追い詰めた時、倒せると確信を抱いた。
確かにドゴルドは強い、けれど攻略不可能の敵かと問われれば頷けない。
相応の力は持つが、倒せない程に非ず。
だが富良洲高校ではるか達を襲ったドゴルドは、明らかに数段階上の脅威へ変貌を遂げている。
原因が何かと言うなら、思い当たるのは一つ。
それまで優勢だった自分と左虎をダウンへ追いやった、逆転の黒い閃光。
アレの正体までは分からずとも、力を引き上げるスイッチであったのはほぼ間違いないだろう。
正直に言って、負ける気はないが現状は勝てるビジョンも見えない。
再戦の時が来るやもしれぬと考えると、どうしたって全身が強張るのを抑えられなかった。
加えて、共通で遭遇した強敵は他にも存在する。
「悪い方のギラくんとも、小夜ちゃん達は戦ったんだ…」
ぶるりと身を震わせる千佳の気持ちは、二人共十分理解出来た。
規格外、その三文字以外に言葉が見付からない怪物。
宇蟲王がアビドスを襲撃し、現在位置は不明。
確かなのは、現れる場所が何処だろうと待ち受けるのは地獄のみ。
おまけにチェイス達から聞くに、アビドスの時をも超える力を持つらしい。
エリア一つを崩壊へ追いやったのは、流石に二の句が継げなかった。
何より頭が痛くなる事実として、少なくともあと二人。
宇蟲王と同格の怪物が参加者にいるとのこと。
神と魔女、後者に至ってははるかと千佳が実際に被害に遭った。
揃って顔を赤や青に染めつつ説明し、凡そ何をされたか察しは付く。
トレスマジアの宿敵が、手を貸したという衝撃の情報も加えて。
(マジアベーゼも参加してるのね……)
エノルミータ所属の女幹部、マジアベーゼに小夜の胸中は複雑だ。
何せ殺し合いの直前、魔法少女の矜持を捨てる程に堕とされた。
仮にシェフィと出会わなかったら、或いはシェフィが自分に手を差し伸べてくれなかったら。
マジアベーゼが齎す快楽の為に、唾棄すべき所業へ手を染めた可能性とてゼロじゃない。
身勝手な欲望を満たそうと、悪逆の限りを尽くすノワルと何が違う。
改めて引き戻してくれたシェフィへの感謝と、彼女に手を上げた自分に怒りを抱く。
自分の心の弱さが原因と理解してはいるが、原因にマジアベーゼが全く含まれてないとも断言出来ず。
一方味方になった際も頼もしさは、幾度も辱められたからこそ分かる。
憂いを秘めたため息が口を突き掛け、
12
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:55:13 ID:.I21kXzM0
(ちょっと待って、マジアベーゼが参加者にいる……?)
はた、と。
宿敵がトレスマジア同様、参加者として招かれた事実へ引っ掛かりを覚えた。
参加者名簿に、マジアベーゼとはどこにも記載されていなかった。
そこは問題じゃない。
仮面ライダーガッチャードを始め、ヒーロー名や類する名称はチラホラ見られる。
かといって本名記載の人物がいない訳ではなく、大騒ぎする程じゃない。
自分達トレスマジアが本名で載ってるのだから、マジアベーゼだってそうなのだろう。
気掛かりなのは、名簿の並びには意味があること。
キリトや薫、ホシノと互いの仲間の情報を交換し合い気付いた。
恐らく関係者同士である程度固めるよう、名簿は作成されている。
現に小夜とて、柊うてなを先頭にした中に含まれてあった。
そして、記載はされてないがマジアベーゼも殺し合い以前からの関係者。
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
ジークから説明を受けた、アルジュナ・オルタは違う。
薫子の下にある、邪樹右龍も可能性が高いとは言えない。
少女らしからぬ名前だからじゃあない、より明確な理由は更に一つ下。
覇世川左虎の五文字を見て、仮説が浮かんだ。
上下に位置する二つの名、右龍と操田孔富。
彼らは記憶を編集・削除される前の、左虎の本当の関係者じゃないか。
つまりこの場合、当然右龍もトレスマジアやエノルミータとは無関係になる。
となると、だ。
残る自分達に関係する人物で、マジアベーゼに該当するのは一人しかいない。
だが『彼女』は既に――
「小夜ちゃん?大丈夫?」
「っ、え、ええ。ごめんなさい、ちょっとぼんやりしちゃって……薫子がいたら呆れられちゃうわね」
急に黙り込んだ自分を心配してか、はるかに顔を覗き込まれる。
馬鹿正直に考えていた内容を言う訳にもいかず、誤魔化し笑いを返す。
幸い、不審な眼差しは向けられずに済んだらしい。
内心で安堵の声を漏らすも、一度浮かんだ疑念は簡単に消えない。
(まだ、本当にそうだとは限らないわ……)
例えば狂人と化したアスランは、一応ディアッカの知り合いに該当する。
しかし名簿上ではキラ・ヤマトから始まる関係者から、遠く離れた位置に一人寂しく記載されているのだ。
ジークだって藤丸立香と仲間だが、名簿では随分離れて載ってあった。
となればマジアベーゼにも、そういった例が当て嵌まらないとも言い切れない。
「……」
だけどもし、仮説が正しかったと言うのなら。
親友と、小さな魔法少女(アイドル)はまた一つ。
心に傷を負うのが避けられず、胸が酷く締め付けられる思いだった。
13
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:55:56 ID:.I21kXzM0
○
蛍光灯数本の頼りない明りが照らす倉庫の中。
他の部屋と比べやけに空気が冷え、薄着で訪れた者は堪らず寒さを訴えたろう。
あくまで人間に擬態しただけで、機械の体を持つチェイスには無関係。
倉庫内の段ボール箱へ、隙間なく押し込められた紙束。
一見何の変哲もないソレへ向けるのは、感情の読み取れない真顔。
だが特状課のメンバー、或いはハート率いる上級ロイミュードがここにいたら。
表情に険しさが増すのを察せられたに違いない。
「おっ、ここにいたのか」
背後から掛けられた声に、特別動揺も抱かず振り向く。
聴覚センサーが接近を早い段階で察知し、警戒をぶつける必要がないとは分かっていた。
判断は間違いでなく、倉庫へ入って来たのは仲間の二人。
施設内を手分けし調べて回ったが、収穫ありかは言葉で聞くまでも無い。
視線で問えばキリトは肩を竦め、ジークは首を横に振る。
元々期待があったとは言い難いが。
「お前達も飲んでおくといい。足りなければ言ってくれ」
取り出したスポーツドリンクを二人に渡すと、それぞれ礼を言い受け取る。
食事自体は発電所で済ませたが、携行可能な飲料があるのは有難い。
回収したリュックサックの本来の持ち主、浅倉威は購買部の商品を根こそぎ詰め込んだ。
なので数にはまだまだ余裕があり、尚且つロイミュードの自分に人間と同じ食事は特別必要としない。
仲間へ提供するに何の躊躇もなかった。
「……チェイス、あなたが言った『先生』について気になる事があるんだがいいか?」
「ああ。俺も少し、引っ掛かる事がある」
軽く喉を潤してすぐ、そう聞いたジークへ頷き返す。
見ればキリトも何を話すか察したようで、聞く態勢を取った。
「放送の内容を信じるなら、先生は先の6時間で命を落とした事になる」
「嘘は含まれてないだろうな。イドラ達が殺されたのは本当だし、わざわざ嘘を交えるメリットも見当たらない」
脱落者の情報が実は偽りだったと、その可能性に縋る気はない。
ディアッカ・エルスマンと柊うてなは、アビドスの地で力尽きた。
イドラ・アーヴォルンと小此木烈人は、ヒーローとして抗いヴィランに敗れた。
柊篝は魔女を滅ぼす救世主の刃を我が身に受け、癒えぬ傷だけを残し逝った。
先生もまた、彼らと同じく6時間を生き延びられなかったのだろう。
そこについては三人共疑っていない。
14
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:56:35 ID:.I21kXzM0
「俺が気になったのは脱落者が呼ばれた順番だ。浅倉威や秋山小兵衛が先頭でない以上、五十音順ではない」
「シノンとPhoが間を空けて発表されたんなら、関係者毎に纏めたのも違う」
「……脱落した順に、茅場晶彦は名を読んだのだろう」
可奈美とロロ、イドラとレッドがそれぞれ順に呼ばれた以上はまず間違いない。
最初に葉大平ツネキチなる者が死に、次いで渋井丸拓男といった順に殺されていった。
ここで気掛かりなのは、先生はどのタイミングで死んだか。
現代都市エリアで可奈美達が宇蟲王に殺されたのが大体8時。
アッシュフォード学園でチェイスと果穂が先生に襲われたのが、最初の放送が終わって間もない6時台。
難しく考えないなら、学園から逃げ去ってすぐ。
7時台に何者かに殺された、という可能性が非常に高い。
「だが茅場晶彦は最初の放送が始まるまでの2時間も含めた、計8時間の内に出た脱落者と言った。……これはあくまで可能性の一つと捉えて欲しいが、先生が殺されたのは最初の2時間だったとも考えられないか?」
「その説が正しいとすりゃ、チェイス達が会った先生は――」
「先生を騙る全くの別人、か」
突拍子もない、とはキリトもチェイスも言わない。
その仮説に至るだけの理由が、明確に存在する。
チェイスと果穂が出会った先生は表向き善人の仮面を被り、本性は殺し合いを楽しむ外道。
本人曰く、キヴォトス出身の生徒達も同じような性根らしい。
しかしチェイスから話を聞いた聖園ミカは、先生の悪評へ激しい怒りを露わにした。
小鳥遊ホシノは過激な部分こそあれど、羂索達へ反抗をする気に満ち溢れた少女。
梔子ユメについても、信頼できるとジークから断言された。
三人もの生徒が先生の語った人物像と大きく食い違っており、ここまで来ると偽りを口にしたと考える方が自然。
何よりユメはともかく、ミカとホシノの反応から先生は相当に慕われていたのだろう。
これもまた、チェイスが見た先生の本性と矛盾が生じる。
生徒達の前では猫を被り、バレないまま殺し合いに招かれた可能性もないとは言わないが。
だがもしも、アッシュフォード学園で戦ったのが先生を騙る別の参加者だとすれば。
15
:
正義Ⅰ:溢れ出す涙なら今は止めなくていい
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:57:29 ID:.I21kXzM0
「俺は奴の策に嵌り、ミカ達へ敵意が向くのに加担した事になる……」
「気休めにしか聞こえないかもしれないが、一概にあなたを責められないと俺は思う」
まんまと騙され、殺し合いに抗う者達の団結を阻む悪意に意図せず手を貸した。
もしそうならなんて馬鹿な真似をしたのだと、自責の念が強く浮かび上がる。
ミカが激怒するのも当然だ、他の生徒達にだってただただ申し訳ない。
迂闊な己を責めるチェイスに、ジークが掛けたのは下手な慰めじゃなく本心だ。
幾ら何でも先生の人となりやキヴォトス人の情報をロクに知らず、初見で偽物と暴くのは無理がある。
諸悪の根源が誰かと言えば、先生を騙る者や殺し合いを始めた羂索達だろう。
そう言った所で、簡単に切り替えられる話でもないが。
「そういやチェイス、やけに真剣に見てなかったか?それ」
重くなりかけた空気をリセットするべく、キリトが指差すのは段ボール箱。
一足先に倉庫へ訪れた仲間が、一点を見つめ動かなかったのだ。
余程気になるナニカがあるのかと思うも、見た限りでは単なる紙の束。
首を傾げつつ手を伸ばすと、紙束の正体を知るチェイスが口を開く。
「使用された成分から判断するに、これは麻薬(ドラッグ)の一種だろう」
「へぇ……は?」
「用心しておけ。恐らく強い幻覚作用がある」
何でもないように言われ反射的に頷いたが、サラリととんでもない内容を伝えられなかったか。
指先が触れる数ミリの距離で、思わず手を制止。
すると自分に代わり、やはり驚きつつもジークが一束を手に取る。
知識で知っていても、実際に使おうとは只の一度も思った事がない。
興味があると口にしようものなら、ルーラーと“黒の”ライダーから強く反対されたのは想像に難くない。
特に前者からは、それはそれは厳しいお叱りを受けただろう。
「だが何故こんなものが浄水場に?場所との繋がりが、どうもピンと来ない」
「特別深い理由はなく、設置しただけの可能性はないか?」
「うーん…茅場が殺し合いの運営側なら、何の関係性も無しに置くのは考え辛いけどなぁ……」
殺し合いを許容する気はないが、茅場のゲームに対する強い拘りはキリトも知る所。
オブジェクト一つ、隠しアイテム一つとっても無作為に配置するのはあの男らしくない。
浄水場とペーパードラッグ、結び付かない両者の答えを出せる者は残念ながら不在。
二人の忍者と、一人の極道。
東京都民を快楽(シャブ)で救済(すく)おうとした、怪獣医(ドクター・モンスター)一派との死闘(ガチバトル)。
阿鼻叫喚の地獄(パンデミック)を知る三人は、浄水場とは別エリアにいるのだから。
首を捻るも答えは出ず、何より考え込むだけの時間はない。
クラクションを鳴らし倉庫へ飛び込む、一台のミニカー。
見張りを頼んだバイラルコアが、勢い良くチェイスの掌へ着地。
グルグルと激しく回る姿へ、緊急事態だと即座に察し。
新たな来訪者、それもこの様子では穏やかな相手ではあるまい。
「…のんびりもしれられなくなったな」
表情を引き締め直すキリトに、二人も頷く。
戦いの時が目前まで迫ってるのを、実感せずにはいられなかった。
16
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:59:01 ID:.I21kXzM0
◆
正面入口へチェイス達が先行し、少し遅れてはるか達も合流。
案内を終えたバイラルコアが再び手元に戻り、足を速める。
対話で戦闘を回避し、穏便に事が済む。
理想的な展開が現実になると、楽観的に考える者は6人の中にいない。
既にそれぞれ死闘を経験し、殺し合いが如何に過酷な環境か身を以て味わった。
齢9歳の千佳でさえ、言葉に出さずとも直感的に分かるのだ。
入り口を出た先で、新たな闘争が待ち受けていると。
かくして一行は緊張の面持ちで、来訪者と対峙する。
双方にとって予期せぬ、だがいずれ必ずぶつかる筈の存在と。
「お前は……」
声色に驚愕と警戒を乗せ、チェイスが見据えるは純白の騎士。
黒で汚れることのない、いっそ神々しさおも感じさせる鎧を纏い。
スカイブルーの瞳に捉えれれば、どんな悪も逃げ場なしと思い知る。
善意を矛に悪意を貫き、善意の盾で悪意を寄せ付けない。
世界の救世主にして、人類を滅亡へ誘う者。
仮面ライダーゼインとの再会が、ここに果たされる。
「ゼイン……!」
「ほう、まさかこのような場所で会うとは思いませんでしたよ。チェイス」
機械音声のように淡々と、まるで驚いた風でなくゼインは言う。
脅威と危険性を知るチェイス達の視線が、一段と険しさを増す。
面識のないキリト達もまた、事前情報で警戒を抱くに十分な相手と理解。
漂う空気が自然と剣呑なものへ変わる中、チェイスの視線はもう一人に移る。
「果穂……」
「わあっ!チェイスさん達も無事だったんですね!安心しました!」
跳ねっ毛のある赤茶色の長髪。
小学生らしからぬ長身と、好奇心旺盛さを隠さない声色。
チェイスの記憶にある、小宮果穂と変わらない部分はあれど。
全てが同じではない。
17
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 19:59:51 ID:.I21kXzM0
腹部へ装着された、白くおぞましいドライバー。
衣服に隠れた胸元へ、幸福(破滅)を齎す羽が今もあるのだろう。
でなければ、ゼインの傍へいる筈がない。
貼り付けた仮面のように、空虚な笑みを果穂が浮かべる筈がない。
「あたしの知らない人達までいます!ありがとうございますチェイスさん!ゼインさんの為に戦ってくれる人を、こんなに集めてくれて!」
「……っ」
「気が早いですよ、果穂。まずは私に賛同する意思があるかどうか、確認するのが先です」
「あっ!そうでした!でもきっと、チェイスさんなら分かってくれます!」
気味が悪い程に満面の笑みで、ゼインと言葉を交わす。
絶対の信頼を置いてるようにも、無条件で正しいと言い張る思考停止状態にも思えた。
放送前に出会い、果穂の本当の顔を知る者達には悪夢同然の光景だろう。
チェイス達がゼインに従うと、疑う素振りも見せない。
幼い体に秘めた勇気が、無惨に繰り落ちた末に残った痛ましい傀儡。
それこそが今の果穂だという、受け入れ難い現実があった。
「改めて聞きましょう。チェイス、私の正義を理解し共に戦ってくれますか」
果穂の様子へ打ちのめされるに等しい衝撃を、向こうが受けたのを些事で片付け。
己へ手を貸す善意の使徒を、ゼインは求める。
提案にチェイスは暫し無言、無機質な仮面と視線が交差。
何故、自分のみならずブレンや蛮野も知っていたのか。
如何なる経緯でゼインが生み出されたかは、考え続けても推測の域を出ない。
素直に配下となれば、答えが齎されるのだろうか。
18
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:00:40 ID:.I21kXzM0
しかしその疑問も、チェイスには重要じゃない。
「先に聞きたい事がある。お前は俺を善側に所属するライダーと、そう言ったな」
「ええ、間違っていないでしょう?」
「ならば何故、パラドの排除を目論んだ?」
参加者の命を縛るバグスターウイルス、その完全体が別行動中の仲間。
パラドだとは、出発前に本人から聞いた。
成程確かに、ゼインが敵意を抱く理由が全く分からないとは言えない。
元々人類の脅威であり、此度も参加者を苦しめる存在。
危険視する者が現われるのは避けられないだろう。
だが覆しようのない事実を踏まえても、チェイスはパラドを倒すべき敵とは見ていない。
千佳から聞いた内容と、己の目で見た身を削る献身。
それらはあの青年を信じようと思える、確かな意味があった。
「奴は俺達と同じく、羂索達を倒し殺し合いを終わらせようとしている。お前の目的も違わない筈だ。
人間の脅威であるバグスターというのが理由なら、俺とて嘗ては人間の敵だった。なのに何故お前は、パラドを敵視する?」
「難しい話ではありませんよ。チェイス、あなたはパラドと違う、完璧な正義のマシンだからです」
完璧な正義のマシン。
富良洲高校で掛けた言葉であり、以前クリムにもそのように言われた。
己を仮面ライダーたらしめる象徴であり、そう作られたが故に人間を守る本能が根付いた。
けれど不思議なことに、発言者が違えば籠めたモノも違って来る。
自身の正義を信じてくれたクリムと、ゼインの言う理由が同様とは思えない。
「確かにあなたが一度、悪しきロイミュード達の手先と化したのは否定できません。ですがあなたは魔進チェイサーとなっても、仮面ライダー以外の人間には危害を加えませんでした。
それ程に強固な基底プログラムを持つあなただからこそ、私は善の仮面ライダーと認めているのです」
語った内容は間違っていない。
『人間を守る』という基底プログラムは、改造に長けたメディックですら消去出来なかった。
「一方でパラド、彼もまたゲームクリアと称し殺し合いの打破を目論んでいるでしょう。羂索達を裁く、という点では同じ方針と言えるのかもしれません。
しかし彼はあなたのプログラムと違い、感情に振り回されるバグスター。その都度善にも悪にも傾く不安定な彼は、枷でしかありません」
正史においてパラドがCRに協力し、宝生永夢達と共に仮面ライダークロニクルを終わらせた理由。
永夢の荒療治に近い方法で命を奪われる恐怖を知り、罪悪感を自覚したから。
罪の重さにに圧し潰され、泣き叫ぶしか出来ないパラドを永夢は放っては置かなかったから。
結果として、パラドの助力の甲斐もあり檀正宗の野望が潰えた。
が、ゼインからすれば罪悪感という理由は余りにも不確定。
感情の揺れで善に尻尾を振るなら、逆もまた然り。
バグスターウイルスであるだけで排除に迷いはなく、ましてチェイスのような確固たるプログラムがないのなら。
倒さない方がどうかしている。
19
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:01:36 ID:.I21kXzM0
「ゼインさんの言う通りですよ!」
きっぱりと断言したゼインを肯定し、響く明るい声。
元の彼女なら絶対に言わないだろう、一つの正義への絶対的な狂信。
集まる視線に籠められた想いをまるで気にせず、飛び出る内容は善意の怪物への完全同意。
「皆で一緒にパラドさんをやっつけましょう!ゼインさんが悪いって言うなら、なんにも間違ってないんですから!」
「――っ、違うよ!」
これ以上は我慢できないとばかりに、叩きつける否定の叫び。
自分でも驚くくらいに大きな声が出て、視線が一気に集中。
けれど怯んでなんかいられない。
他ならぬ果穂自身を傷付ける醜悪な言葉を、これ以上言わせたくなかった。
「ど、どうしたんですか千佳ちゃん。あたし、何か変なこと言いました?」
「言ったよ!さっきからずっと、果穂ちゃんの言ってることおかしいよ……!」
さも不思議そうに首を傾げ、本気で意味が分からないと伝えて来る。
変わり果てた友達の姿に、拳を握る力が強まった。
こんな風にしたゼインへの怒りが湧き、同時に今の己をおかしいと思うことすら出来ない果穂へ悲しみを抱く。
「あの時、パラドくんを助けようとしてた果穂ちゃんは…チェイスくんやレッドくんにも負けないくらい、かっこいいヒーローだった!今の果穂ちゃんは、胸を張って自分がヒーローだって言えるの!?」
「ヒーロー……?あたし、が……」
問い掛けの答えは、肯定以外に有り得ない。
ゼインの正義を信じ戦う自分は、誰が見てもヒーローだろうに。
なのにどうして、言葉に詰まるのか。
言葉を口に出そうとすると、喉に引っ掛かってしまうのか。
不可解な自身へ戸惑いを覚える中、果穂に代わって返答があった。
尤も、千佳の望む答えとは到底言えまい。
「私の協力者を惑わせるのは止めて頂きたい。案の定、幼い故に悪意へ影響を受けましたか。残念ながらあなたも消さざるを得ません」
怒りも苛立ちも、嘲笑すらなく。
ただ機械的に排除を決めた白の善意が、無機質に千佳を射抜く。
後退る千佳を庇う二人の魔法少女も、邪魔立てする気なら同罪と見なす他ない。
理不尽な殺意が緊張感を高める中、静かに否定が投げかけられた。
20
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:02:36 ID:.I21kXzM0
「ゼイン。千佳の言葉を聞いた上で悪と断じるなら、お前は間違っている」
「…なんですって?」
「家族や友、大切な者を守る為に立ち向かう勇気。俺が人間から教えられた大切なものを、千佳も持っている。悪意ではない、本当の善意をだ」
千佳にとって本来戦う場所は、悲鳴が飛び交う戦場ではない。
応援してくれる人々を笑顔にすべく、とびっきりの魔法を届ける煌びやかなステージ。
凄惨な争いと、本当なら一生関わらなかった少女だ。
怯えて隠れ、一言も発さず縮こまっても誰一人文句は言わない。
けれど恐怖を押し殺してでも、立ち向かう道を選んだ。
霧子や剛、進ノ介達と時間を共有し感じた時と同じ。
守りたいと、心からそう思わせる人間の強さをチェイスは見た。
「答えは変わらない。人間を守るのが俺の使命だ。篝を手に掛け、果穂を利用するお前と共に往く気はない」
百度同じ問いをぶつけられ、千度罵られようと答えは同じ。
決定的な否を示すかのように、腹部へ装着される青の機械。
バイクのマフラーを模した、自分に再起の機会を与えてくれた希望。
マッハドライバー炎へ、魂の欠片たるシグナルチェイサーを装填。
正義を盾に人間の命を奪おうと言うのなら、何度でも立ち塞がろう。
「変身!」
『SIGNAL BIKE!』
『RIDER!CHASER!』
ハイテンションな電子音声と共に、シルバーメタリックの装甲が全身を覆い隠す。
パープルのラインを走らせ、各部に高純度のエネルギーが供給。
左右非対称仮面が射抜くは、倒すべき善意と言う名の怪物。
「ふむ……」
仮面ライダーチェイサーの登場に、ゼインは動揺を一切見せない。
思案するかの仕草を取り、視線を移す。
半ば何と返って来るか予想しつつも、温度を感じない声で問う。
「あなた達もチェイスと答えは同じですか?」
「まあな。悪いが、アンタと馬が合うとは思えないからな」
冗談交じりの挑発とは裏腹に、キリトが纏う空気は刃の如く鋭い。
自分自身の目で、直接ゼインと果穂を見て確信が抱けた。
他者の感情を身勝手に操り、従順な奴隷に変える。
ALOのGMとして君臨し、非道な実験に手を染めた許し難き男。
須郷伸之と同じゲスの類にしか思えない。
アスナの心身を徹底的に汚そうとした記憶は、今でも腸が煮えくり返る。
動機は違えど、人間を都合の良い傀儡として扱うゼインはキリトにとっても見逃す気はない。
21
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:03:22 ID:.I21kXzM0
「掲げる正義がお前にとって絶対に譲れないのなら、そこに至った理由も知らない俺に否定する資格はない」
頭ごなしに否定せず、ジークも己の答えを返す。
ゼインの言う正義が最終的に、どこを目指しているのか。
何があってその結論に達したのかを、知りはしない。
仮に一から聞かされた所で、納得に足るとも限らない。
しかしその正義がゼインにとって、他の何より譲れぬ根底にあるのであれば。
安易な言葉で間違いだと言うつもりはない。
「だがお前が彼女から自分で選ぶことも、声を上げることも奪うならそれは止める」
消費された末に朽ち果てる終わりを、最初から決められ造り出された。
短き生で何も為せず死ぬのを、自分は受け入れられなかった。
生きたいと願い、聞き届けた英霊が助かる道を与え、果てに自分で自分を救った。
始まりの瞬間を決して忘れずにいるが故に、ジークは此度も剣を手に取る。
果穂が己の意思でゼインへの協力を決めたのなら、選んだ事自体は否定しない。
だが声なき声で、彼女が解放を望むのならば。
心臓(ほこり)に懸けて、聞かなかった振りは出来なかった。
「……」
小夜は僅かに沈黙を挟む。
都合良く、思いのままに操る。
数時間前の小夜自身が正にそうであり、シェフィと左虎は恐らく今もそのまま。
善か悪かで問えば、100人中100人が前者と答えるだろう。
されど純然たる憤怒を抱けないのもまた、小夜からすれば事実。
小学校時代の恩師とは偽りの記憶、一方で命を救われたのは揺るがぬ真であるが為に。
マイ=ラッセルハートは小夜から親友達の記憶を奪った敵にして、死を遠ざけた恩人。
シェフィ、左虎、そしてマイ。
誰か一人でも欠けていたら、激怒戦騎の雷刃は確実に己が命を焼き払ったに違いない。
だから話を聞きたい、抱えたものの正体を知りたい。
悪を倒すのみならず、困っている人を助けるのが魔法少女の在り方ならば。
「だけど大事な記憶を、心を思い通りに作り替えるのは認められないわ」
浮かべた顔は迷いを断ち切るかの如き、麗しくも凛々しい戦士の表情。
堕ちた心を、傷付いた手で包み込んでくれた少女がいた。
わたしがきたと、そう言った少女がいた。
彼女がくれた救いを裏切らない為にも、水神小夜は魔法少女を決して捨てない。
22
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:03:58 ID:.I21kXzM0
「それに、はるかはもうとっくにやる気満々みたいだもの」
「あったり前だよ!」
隣に立つ親友の変わらぬ姿に、自然と笑みが零れる。
今口にした通りだ。
改めて聞かれるまでもない、答えは最初から決まってる。
魔法少女になろうと決意した、己の原初(オリジン)は変わっていない。
「あたし達の友達を、返してもらうから!」
これ以上ない、ゼインを拒絶する宣言。
敵意を一身に浴び、かといって今更怯む者に非ず。
全く予想しなかったとは言わないが、実際こうなると少々落胆もするというもの。
尤も長々と引き摺る程の未練も持たず、シンプルな結論へ辿り着くのに時間は掛からない。
排除すべき悪意が増えた、それ以上でも以下でもなかった。
「どうやら理解は得られなかったようですね。ならばもう、生かしておく理由もありません。果穂」
「…あっ、はいっ!酷いです!チェイスさん達は分かってくれるって思ったのに……」
呆けていたが名を呼ばれ、すぐに元の調子を取り戻す。
宿す感情は心底の失望、唯一無二の正義へ背く者達への怒り。
疑問が挟まる余地はない。
最高の幸福を齎す羽をくれたゼインは、何も間違っていない。
この世でたった一つだけ信じられる正義の持ち主で、彼が敵と見なせば正しく敵なのだから。
だから前に仲間だった人達だって、殺されるのは仕方のない事。
(そうです!あたし、間違ってないですよね?)
誰に向けてか分からない確認を、声に出さず投げ掛ける。
不可解な己への疑問は、幸か不幸か闘争の予感が消し去ってくれた。
ゼインは変身状態を解かずにいる為、準備が必要なのは自分の方。
名刀を引き抜く勢いで、プログライズキーを起動状態へ。
23
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:04:45 ID:.I21kXzM0
「変身っ!」
<ZEIN RISE>
<JUSTICE!JUDGEMENT!JAIL!ZEIN!>
善意の使徒の鎧を纏うように。
或いは、自ら拘束具を身に着けるように。
マントを靡かせた白き騎士、二体目のゼインが降臨。
直接の戦闘経験があるのは千佳のみであり、どちらかといえばミカと篝のサポートが主だった。
なれど発せられる、悪を認めぬ刺し貫く威圧感を受ければ。
油断を一切持ち込めぬ強敵と、誰もが理解。
緊張すらも戦意へ注ぐ燃料に変え、場は一触即発の四文字へ染まる。
「はっ、ぞろぞろきったねェネズミみたいに群れやがって」
だからこそ、聞き覚えのない9人目の声に誰もが意識を割かれた。
ゼインが動くか、チェイス達が動くか。
先手を切る時を互いに見極め、集中を高めたタイミングでの乱入。
張り詰めた感覚を削がれ、弾かれたように視線を動かす。
女、否、少女と言うべきか。
腰まで届く長髪を揺らし、浄水場前に集った者達を見据える。
本来なら意志の強さが見え隠れするだろう瞳は今や、蔑みと憎悪で彩られた。
豊満な肢体を覆うのは、大胆にも腹部を露出させたセーラー服。
改造制服の類にも見え、不思議と少女にマッチしている。
「あなたは……」
思わず疑問が口を突いて出たはるかを、ギロリと睨む。
顔立ちは整っているが、如何せん負の念が滲み出ている。
隠す気も無い嘲笑を浮かべ、自身が何者かを吐き捨てた。
24
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:05:55 ID:.I21kXzM0
「浅垣灯悟。名簿に載ってる方ならキズナレッドって言えば良いか?」
「はぁっ!?」
告げられた名に、異なる反応を見せたのは一名。
堪らず大声を上げるキリトに直接の面識はないが、知っている。
何せキズナレッドに強い信頼を置く者と、定時放送前に一緒だったのだから。
しかしおかしい、彼女の口振りではキズナレッドは男。
というか、本名もどう聞いても男だが。
「いやちょっと待て。お前、何でキズナレッドの本名を知ってる……?」
「あ?俺がそのキズナレッド本人だからに決まってんだろ。つーかよ、テメェこそその反応はなんだ?まさか……イドラから俺の話でも聞いたか?」
「えっ、イドラさん?」
出された名前に今度ははるかも反応を見せる。
確か最初に会った時、アルカイザーを見て彼女の知るレッドにも触れていたか。
名簿上でもイドラのすぐ上に、キズナレッドと載っていた。
だとすれば彼女こそ、イドラの仲間だというレッドなのか。
「まぁ……もうどうだっていいわな。イドラは殺されちまったんだからよ」
心強い味方が来てくれたと、そう言うにはキズナレッド改め灯悟の態度がおかしい。
キリトが聞いた灯悟の人物像は、正にテレビの中のヒーローが飛び出たかのよう。
なのに自分達の前に姿を見せた少女から、ヒーローらしい熱を全く感じない。
目に見える全てを見下し、呪うかの獰猛な顔。
これではヒーローではなく、
「あいつが死んだ世界に、何の価値もありゃしねぇ!!」
ドス黒く、粘り付く憎悪を乗せ叫ぶ。
いつの間にやら、片手にはマゼンタ色の奇妙な機械。
十五を超えるクレストが刻まれ、一つ一つが異なる形で存在を示す。
腹部へ当てた瞬間、自動でベルトが装着。
独自の形状のバックル、ネオディケイドライバーを殺し合いで見たのはこの場に二人。
25
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:06:44 ID:.I21kXzM0
「貴様…どこでそれを手に入れた!?」
「んだよ、こいつの持ち主のお仲間か?殺して奪ったんだよ!生徒がどうのとうるっせぇボケカスだったけどなぁ!」
問い質すチェイスへの返答は、少女らしからぬ口汚さ。
仮面の下で驚いてるだろう相手を鼻で笑い、取り出すは一枚のカード。
マゼンタ色のバックルが初見の者達も、次に何が起こるかは察しが付く。
腹部の機械で装甲を纏う戦士は、既に殺し合いで珍しくない。
「変身」
『KAMEN RIDE WIZARD!』
『ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!』
複数のプレートが突き刺さった、バーコード模様の仮面。
ではなく、顔面に宝石を填め込んだ奇怪な造形。
黒いローブを靡かせる姿は、仮面ライダーディケイドと全くの別物。
指輪の魔法使い、仮面ライダーウィザードへの変身を完了。
各々反応を見せる一同を小馬鹿にするように笑い、続けてカードを手に取る。
何をする気か分からないが、良い事が起きるとは誰も思えない。
得物を手に駆け出すも、一手遅い。
澱みのない動作でカードを装填、ドライバーがデータを読み取り解放。
『ATTACK RIDE SMELL!』
電子音声を合図に、ウィザードから汚らしい色のガスが広範囲へ放射。
警戒し足を止め、或いは構わず突き進もうとするも無駄だ。
「ゲホッゲホッ!なん、だ、この臭い……!」
「す、凄く臭いよぉ……!」
ここまで不快な臭いがこの世にあるなど、到底信じられない。
鼻どころか五感が狂いそうな悪臭に、堪らずむせ返る。
身体への痛みはないが、無視するには大きい攻撃だ。
そしてウィザードは自らが作った隙で、何もしないような馬鹿じゃない。
26
:
正義Ⅱ:彼らを戦いへ駆り立てるのはなにか
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:08:00 ID:.I21kXzM0
「おらとっとと仕事しろよボロキレ!そのガキ連れて行くぞ!」
「えっ、きゃあっ!?」
怒声が響くや千佳の体が宙へ浮き、がっしりと固定。
何が起きたと確認させる暇は与えられず、足を地面から離したまま移動開始。
正確に言うと、正体不明のナニカへ捕らえられ連れ攫われた。
「千佳ちゃん!」
「精々必死こいて追い掛けて来いよ!」
『ATTACK RIDE LIGHT!』
咄嗟に手を伸ばすが、はるかが掴むのは叶わない。
悪臭から一変、強烈な光をウィザードが放つ。
殺傷能力は皆無に等しいが、目晦ましとしては上出来だ。
怯んだ者達を嘲笑い、リュックサックからバイクを取り出し跨る。
エンジンを吹かし、千佳を捕えたナニカと共に去って行った。
「っ!千佳ちゃんが……!」
「ゼイン達は俺達で引き受ける、お前は千佳の元へ行け!」
「う、うん!」
「悪い、俺もあっちを追い掛ける!」
灯悟の乱入に場は未だ混乱から覚めないが、モタつけばその分千佳が危険だ。
はるかとキリトが急いで追い掛け、これで残ったのは5人。
数では未だチェイス達が有利なれど、勝った気にはなれない。
こちらの緊張を知ってか知らずか、ゼインが開戦を告げる。
「少々予定が狂いましたが、何も問題ありません。チェイス、どうやら欠陥が含まれるらしいプログラム諸共破壊して差し上げましょう」
無機質ながら、傲慢さの宿る破壊宣言。
絶対の善意へ歯向かう愚者共へ、救世主が裁きを下す時だ。
上等だ、簡単に折れる牙しか持たないと思うなら大間違い。
仲間を取り戻し、歪んだ正義を打ち砕くまで。
誇り高き追跡者と、全ての悪意の駆逐者。
両名の激突を以て、今ここに新たな闘争が幕を開ける。
27
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:09:48 ID:.I21kXzM0
◆
睨み合いを永遠に続けた所で、戦況に変化は訪れない。
先手を打ったのはチェイサー。
此度の戦闘は足止め目的のように、時間を掛ける類に非ず。
慎重さは捨てず、なれど臆さず仕掛ける。
シルバーのボディスーツが身体能力を限界以上に引き上げ、魔進チェイサー以上の走力を発揮。
『BREAK』
愛用武器、ブレイクガンナーも機能に一切の不調無し。
駆ける速度を緩めないまま、銃口を押し込み形態変化。
外見は変わらずとも、近接戦闘へ適した状態へ。
弾丸もかくやの勢いで突き出した拳が、真っ直ぐに突き進む。
標的は勿論ゼイン、同じ仮面ライダーだろうと倒すのに躊躇は不要。
軍服を思わせる形状の装甲は、既存の兵器では破壊困難な強度。
広く知られるメリケンサックで叩こうと、10発目の到達前に装備した拳共々砕けるのがオチだ。
当然チェイサーが放つ打撃に、そういった並の例は当て嵌まらない。
腕部アーマーは強固な盾としてだけでなく、攻撃性能を強化可能な機能が搭載済。
圧縮エネルギーが腕力を高めた上で、更にそのエネルギーがブレイクガンナーのスパイク部分へ収束し増幅。
打撃一つ取っても、基本スペックを優に超える威力を叩き出す。
分厚い鉄板を重ねようと、障子紙同然に貫くだろう。
とはいえ敵もまた並の枠に収まる機能のライダーではなく、まして素直に拳を受け入れる理由もない。
速度と威力の両面で油断ならない一撃を見据え、ゼインも動きに出る。
張り巡らされた動力ケーブルが、無駄を削いだ動作を実現。
振るわれた剣の刀身へ、己の得物を添えるように。
前腕部装甲をスパイク部分へ走らせ受け流す。
砕き割る勢いの攻撃は虚しく宙を殴るに終わるも、この程度はチェイサーの予測出来た範囲。
右腕を引き戻すと同時に、ゼインも攻めに移った。
チェイサーと違い無手なれど、秘めた破壊力は決して低く見れない。
胸部目掛けて突き出された拳に対し、左腕を防御に回す。
装甲越しへ伝わる衝撃に、左頭部の複合モジュールが威力を測定し結果を知らせる。
ダメージ無し、装甲の破損個所もゼロ。
だが自身のスペックを超えていると、即座に判明。
28
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:10:41 ID:.I21kXzM0
次いで放たれる膝蹴りを、半歩の後退で回避。
三撃目に出るより早く、チェイサーが放つのもまた蹴り。
長い足をうならせ、鞭の如き勢いで脚部が空気を切り裂く。
電磁式の強化機能を備えたアーマーにより、その気になれば樹木だろうと真っ二つが可能。
脇腹へ走らせた脚からの、攻撃命中の感触はない。
そこいらのNPC程度なら回避が間に合わず、みっともなく悲鳴を上げただろう。
ゼインを有象無象の雑魚と一緒くたに括るのは間違いだ。
見えない手に引き上げられるかのように跳躍し、チェイサーから距離を取る。
プログライズキーシステムで変身する仕様上、同種のライダーと同じ機能をゼインは幾つか持つ。
内の一つが脛部装甲に内蔵された、バリア発生による引力操作装置。
本来の世界では滅亡迅雷.netのヒューマギアや、飛電インテリジェンス社長の飛電或人が。
殺し合いにおいては皇帝にして魔王、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが得た力。
アークと同様の機能を使い回避、マントを靡かせ優雅に着地。
『GUN』
再度距離を詰めるのに、指五本で数えるまでもない。
かといって接近されるまでの僅かな猶予で、棒立ちになる気も皆無。
ブレイクガンナーを遠距離形態へ変化、射撃アシスト機能が最大効率で稼働。
視覚センサーと、変身者自身が幾多の戦闘で培った能力も加わり精密な銃撃を行う。
引き金を引くやエネルギー弾を連続発射、急所を的確に狙う。
「優秀な機能と言えますね。相手が私でなければ、ですが」
嘲るでもなく、覆らない事実を無情に告げ疾走。
右手には先程まで無かった剣、メダジャリバーを装備。
元々は別のライダーの得物だろうと、ゼインが握れば前々から愛用していたように使いこなせる。
エネルギー弾を斬り落とし、時には最小の動作で躱しながら急接近。
先程は跳躍力の強化に使った機能で、今度は移動速度を急激に高めた。
到達はあっという間だ、既にメダジャリバーの間合いへ標的は閉じ込められている。
取り回しの点ではブレイクガンナーが勝り、至近距離での迎撃も不可能じゃあない。
尤も、ゼインが余計な抵抗をむざむざ許すかは別。
己が正義へ背いた罰を下すべく、首を狙い刃が迫る。
ヤミーやグリードの強固な皮膚を切り裂いた、鴻上ファウンデーション製の剣だ。
ゼインの膂力と相俟って、まともに受ければチェイサーでも無傷とはいくまい。
29
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:11:32 ID:.I21kXzM0
「はああああああっ!!」
気合一閃の剣斬撃が華麗に、それでいて獲物を刈り取る苛烈さを伴い振るわれた。
メダジャリバーが弾き返され、チェイサーへの直撃を遠ざける。
青い衣装を纏った少女の視線と、冷え切ったアイスブルーのレンズが交差。
仲間を傷付けさせはしない意思、悪意を決して認めないが故の判決。
相容れない両者が用いるは言葉に非ず、敵意を籠めた刃以外に有り得ない。
トレスマジアが魔法少女の一人、マジアアズールが得物を握る手に力を強める。
切れ味が一層高まるように、魔力の剣が輝きを増した。
上段からの振り下ろしは、生半可な抵抗へ無駄の二文字を突き付ける勢いだ。
仮面を叩き割り、強制的に素顔を晒す末路を歓迎するか。
ゼインの答えは当然否、最適解の動作を即座に弾き出し実行。
どの位置へ動けば避けられるか、既に予測は完了している。
大振りな動作には出ず、あくまで必要最小限で躱す。
攻撃が空振った直後というのは、大なり小なり隙が生じる。
そこを見逃すゼインではなく、メダジャリバーが標的を変え襲来。
自ら首を差し出しに来たと、後悔させる刃へマジアアズールは取り乱さない。
この程度の展開十分予測出来た、戦術の構築ならこっちだって完了済なのだから。
片足を軸に回転、更に構えた剣から魔力を放出。
刃状へ変化しゼイン目掛け射出、美しさと裏腹に先端は震えが走る程の切断力。
目障りな羽虫を掃い落とすかの動作で、一本残らず砕く。
生身の相手ならまだしも、仮に当たったとて装甲を切り裂く程ではない。
「無意味な抵抗を……」
「本当に無意味かどうか、あなた自身で確かめなさい!」
ダメージなど最初から期待していない。
剣の到達を僅かにでも遅らせた、その一点で上出来。
突きの構えを取り踏み込み、胸部目掛けて切っ先が吸い込まれる。
装甲を砕く威力とは思えずとも、いらぬダメージを負うのは論外。
メダジャリバーで弾き返し、空いた左手で手刀を放つ。
五指が魔法少女の衣服を引き裂き、柔らかな素肌をも引き裂くだろう。
急速に引き戻した剣で以て受け流し、刀身へ掛かる重さに眉を顰めた。
30
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:12:20 ID:.I21kXzM0
『TUNE CHASER SPIDER』
ゼインの敵はマジアアズール一人じゃない。
バイラルコアを装填し、武装展開。
蜘蛛を思わせる形状の得物、ファングスパイディーを装備しチェイサーが参戦。
魔進チェイサー時代に度々使い、殺し合いでも複数回活用されて来た。
斬撃の威力に翳りなく、一度クロー部分が走れば火花の雨を降らす事間違い無し。
無論、敵に当たればという大前提の上でだが。
メダジャリバーを翳し防御、刃同士が擦れ不快な音を聴覚機能が拾う。
剣をチェイサー相手に使ったチャンスを、もう一人は見逃さない。
紙一重で拳をすり抜け、マジアアズールが更に踏み込む。
懐へ潜り込み魔力を操作、剣の刀身を縮め近接戦により適したリーチへ。
放つ突きは杭の射出同然の勢いで、純白の装甲を食い破らんとする。
しかし甘い、ゼインの予測を上回るには至らない。
振り上げた足が刃を弾き飛ばし、マジアアズールも下方からの衝撃で腕が跳ねた。
マズいと思った時には既に、敵は拳を強く握り締めた後。
肌が粟立つ感覚は、マジアベーゼの折檻に背徳的な期待を抱いた時とまるで違う。
遊びも何もない、殺意以外が入り込む余地のない鉄拳が襲う。
『EXECUTION SPIDER』
仲間が危機に陥った状況で、知らぬ振りを決め込むチェイサーではない。
銃口を押し込み、バイラルコアのエネルギーを最大出力へ移行。
タイヤ型の背部ユニットを通じ、銀色の蜘蛛へ流し込む。
迸る赤い光へ、大技が来るとゼインも察知。
地を蹴り後方へ跳んだ瞬間、ファングスパイディーに集まった力を解放。
先端に収束された光球が弾け、ゼインの視界を真紅が覆い隠す。
仮面ライダードライブへ痛手を負わせた高威力の技を前に、装填済のプログライズキーを押し込んだ。
<ジャスティスパニッシュメント!>
エネルギーを纏わせ、平時以上に威力を上げた拳を叩き込む。
不意打ちとはいえ、ガンダムバルバトスの起動鍵を装着解除へ追いやった一撃だ。
光球を打ち消し霧散、儚く消え去る赤い輝きには目もくれない。
技を呆気なく無効化されたチェイサーだが、悔しさは抱かず改めて斬り掛かる。
何より、もう一人の方も立て直しは済んだ。
チェイサーが作った隙に急ぎステッキを回収、再度魔力の光剣を生成。
短く礼を告げたマジアアズールも加わり、刃同士の衝突が再び起こった。
31
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:13:11 ID:.I21kXzM0
○
「せっりゃああああああっ!!」
気合を十二分に籠めた声を乗せて放つ、正義の鉄拳。
本来の果穂であれば、秘めた決意は何物にも消せない炎の如き熱さだったろう。
恐怖に苛まれて尚も、羂索達へ立ち向かう勇気を見せた。
悲しくも譲れない正義を抱く、人造の戦士を支えたいと強く願った。
残念ながら今の彼女に宿るのは、植え付けられた偽りの決意。
善意の化身の言うがままに動き、一切の疑問を持つ事を許されない傀儡。
詳細な背景を知らずとも、酷く空虚な拳だとジークも感じずにいられない。
(だが操られているにしろ、普通の少女が出せる威力ではないな)
痛ましさを覚えつつも、戦闘への油断には繋げない。
齢12歳の、ランドセルを背負う少女が放つには異常なまでの脅威。
並以上に打たれ強いジークの体とて、無傷で凌げる頑強さはない。
竜殺しの英雄を我が身に憑依させたならともかく、二画目の令呪を切る気は現状ない。
(素早く力強いが、躱せない程じゃない!)
油断なく見据えながら、軽快に地を蹴って横へ跳ぶ。
直後、立っていた場所を突っ切る果穂に接近。
両手に構えた得物は既に、解号を済ませてある。
オリジナルに劣るとはいえ、宇蟲王の斬撃を抑え込んだ実績を持つ大剣だ。
仮面ライダー相手にも有用な武器なのは、間違いない。
狙うは腹部の機械、破壊ないし強制解除へ追い込む。
「ひゃっ!?危ないですよっ!」
風を切り裂き疾走する刃を、活性化した感覚が察知。
元々運動神経に秀でた果穂だが、今現在は超人の域にまで押し上げられている。
可愛らしい抗議とは裏腹の動きで躱し、反対に蹴りを叩き込む。
脚部の動力ケーブルが補強を働きかけ、やや不安定な体勢からも十全の威力と速度を発揮。
人体を蹴り砕く靴底へ、ジークも身を捩っての回避を行う。
直撃はせずとも、頬を叩く風に鋭い痛みが走った。
避けられたからといって、当然諦める理由にはならない。
斬られる前に果穂は距離を詰め、拳を連続して放った。
一発当たるだけでも、枷となるだろう負傷が付き纏う。
理解しているが為に神経を張り巡らせ、標的の対処へ動き出す。
先程と同じだ、速いが回避不可能とまではいかない。
空気の震えや僅かな動きも情報として取り入れ、己が身へ当てさせなかった。
32
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:13:52 ID:.I21kXzM0
竜告令呪を切らずとも、ジークの身体能力は常人を遥かに超える。
与えられた英雄の心臓は死の淵から引き戻すのみならず、戦って抗えるだけの力を授けた。
聖杯大戦を経て練り上がった胆力も含め、猛攻を前にしても怯む様子は見られない。
変身していようと、果穂は本来争いと無縁の一般人。
ゼインの機能で補強されようと、どうしたって動きには粗が生じるのが避けられなかった。
一つ一つ、確実に捌きドライバーを斬る瞬間を見極める。
「だったら……!」
自身の不利は果穂も悟ったのだろう。
脛部装甲の機能を使い、跳躍力の大幅な強化を実行。
大きく跳んで仕切り直し、ジークが接近する前に新たな手に出る。
<X!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
取り出したカードを装填し裁断。
ライダーの力を読み砕き、己が技として使い捨てる。
ゼインドライバーの真価であり、同時に歴代の英雄達へ唾を吐くに等しい。
GOD機関と激闘を繰り広げた、神敬介の変身する戦士。
カイゾーグこと仮面ライダーXの装備、ライドルが出現。
基本形態であるサーベルを装備し、ジーク相手に斬り合いへ持ち込む。
「なに……?」
魔矢の射出を思わせる突きを弾き、間髪入れずに斬り返す。
だがドライバーを切り裂く筈の刃は、細い刀身に阻まれた。
得物の分厚さで言ったらジークのが上、されど果穂の持つライドルも切れ味のみならず耐久性も高い。
逆に弾かれ、次いで急所を狙われるも得物を引き戻し防ぐ。
竜告令呪を使った時程でなくとも、ジークとて剣の扱いは心得ている。
聖杯大戦中は“黒の”ライダーことアストルフォから譲渡された剣を手に、戦場を駆けて来た。
33
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:14:28 ID:.I21kXzM0
だからこそ、猛烈な違和感を感じたのだ。
身体機能に任せたごり押しだった果穂の動きが、明らかに精細さを増している。
構え一つ取っても、戦闘に覚えのある者のソレ同然ではないか。
「今度はこっちです!」
ジークの困惑を余所に、果穂がライドルを操作。
切っ先でアルファベットの『X』を描き実体化、高出力のエネルギーとなり襲い掛かる。
同じ形に斬られるか、消し炭と化すまで焼かれるか。
どっちだろうと御免だ、地面を転がってやり過ごす。
背後で浄水場の壁が消し飛ぶ音は聞き流し、立ち上がるとすぐ傍まで果穂が迫っていた。
ライドルもサーベルから、両端に柄の付いたスティックへ変形。
剣術から一転、棒術を巧みに操る。
武芸百般と言える器用さは果穂自身の技能に非ず、ゼインドライバーが齎す恩恵。
仮面ライダーXと謙遜ない力を、発揮可能になったのだ。
(しかし彼女が得たのが強さ“だけ”なら、やりようはある)
驚きこそしたが、激しい動揺を引き出すには至らない。
自身の手札を冷静に思い浮かべ、切るべきタイミングを見極める。
顔面狙いで突き出されたスティックを躱し、片手を自由に。
掌を装甲へ近付けると、敵も何かをされると察したのだろう。
腕をへし折るべく掴みかかるが、既にジークの攻撃は発動段階へ入っていた。
「きゃっ…!?」
装甲越しに痺れが襲い、思わず悲鳴を上げ後退る。
目立った傷こそないものの、突然の事で怯み隙を見せた。
“黒の”バーサーカーから受け継いだ、第二種永久機関を用いた力。
本来よりも殊更に威力を落とし果穂の虚を突くのに成功。
振るった大剣は抵抗に出るよりも早く、ライドルを遠くへ弾き飛ばす。
武器が手元を離れた影響で、果穂の武術も神敬介とは程遠い。
ただの小学生のものへ落ちるも、安堵を抱くには気が早過ぎる。
ゼインカードが読み砕いたXライダーの力は、まだ消えていない。
34
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:15:07 ID:.I21kXzM0
「とうっ!」
大剣で斬り付けられるより早く、空中へ跳び上がる。
両手両足を広げ『X』の一文字を作り、急降下。
GOD機関の改造人間を幾度も屠った蹴り技が、生身のジークを相手に繰り出された。
「くっ……!」
勢いの強さに回避は間に合わないと判断。
大剣へ緑色の電撃を流し込み、強化を行ったうえで防御に回す。
刀身を靴底が叩き、両腕に痺れが走った。
構えたままの体勢で後方に蹴り飛ばされるが、どうにか受け身を取る。
どっと息を吐きながら立ち上がると、敵もまた多少ふらつきつつこちらを睨んだ。
「ゼインさんがくれたヒーローの必殺技で倒れないなんて……そんなのおかしいです!早くやっつけられてください」
「その提案を受け入れる者は普通いないと思うが……」
仮面の下で頬を膨らませてるだろう果穂へ、冷静に拒否を返す。
不機嫌な子供そのものの声色だが、秘められてるのは確か狂気。
ゼインの傀儡と化す前の果穂を、ジークは話でしか知らない。
なので本来の彼女とのギャップへ驚きはせず、だが思う所がないとも言えなかった。
「君が言うやっつける対象には、俺以外の全員が入っているのか?」
「……?そうですよ?ゼインさんが悪い人って言ったんですから、間違いありません!」
何を当然の事をとでも言うような態度は、ゼインへ全面の信頼を向けてる証拠だろう。
いっそ痛ましさを覚える姿へ顔を歪めるでもなく、ハッキリと見据え更に問う。
35
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:16:52 ID:.I21kXzM0
「君は、チェイス達を手に掛けるとしても構わないと言う気か?」
富良洲高校を出発し、ゼイン達と再会するまでに。
ただの一度も、チェイス達は『万が一の時は果穂を倒さなければならない』等の話は一度もしなかった。
チェイス、はるか、千佳。
必ずや果穂を助け出すとの決意に、三人の想いは共通していたのだ。
「伊達や酔狂じゃなく、君を助ける事を彼らは絶対に諦めない。2時間程度一緒にいただけの俺でも分かるなら、君だって気付いてる筈だ。
君を助けようとするチェイス達を殺すのは、君自身が本当に納得して出した答えなのか」
「あたしの、答え……?」
迷わず首を縦に振れば良い。
ゼインは幸せの羽をくれた、自分に死んでもいいと思える程の幸福を齎した。
そのゼインが死ぬべきだと言った、ゼインの正義に逆らったのだから。
他に正しいものなんて何一つないだろうに。
――『本当に……あなたの心がそう言ってるの?』
内側で、軋む音が聞こえた。
銀毛の少女が、斬り結んだ刀使が再度胸中で問い掛ける。
ふと、これは良くない気がしてならない。
耳を傾けるのは、自分にとって苦痛だと明確な理由もないのに思った。
「あたし、の……答えは変わりませんっ!」
張り上げた声は自分を惑わす戯言を、一笑に伏す為か。
或いは、必死になって誤魔化す為か。
どちらが正しいかを深く考えないで、拳を振り被る。
これ以上の会話は難しいと判断し、ジークも大剣を構え直す。
果穂を見据える双眸に、ある確信を宿して。
36
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:17:26 ID:.I21kXzM0
○
「くっ……!」
苦悶の声が自分の口から出たと、マジアアズールに気付く余裕はない。
チェイサーとの二人掛かりで攻撃を続け、致命的な一撃は未だ受けていない。
傍目にも自分達相手に、ゼインは防戦一方と映るだろう。
実際、チェイサーとマジアアズールの連携は悪くなく、むしろ見事と言って良い。
両名共に殺し合いの前から戦闘経験を積み、闘争へ挑む気概も戦士のものに相違ない。
加えて前者は泊進ノ介や詩島剛と、後者はトレスマジアのメンバーと肩を並べ戦って来た。
共闘の際の立ち回りにも慣れており、互いの足を引っ張る展開は回避している。
だが現実には未だゼインへ、有効打を与えられずにいる。
豪快に得物を振り回したドゴルドとは打って変わって、ゼインの動きは精密な機械のよう。
どの位置からどのタイミングで攻撃が来るかを全て見極め、的確に捌く。
人間味というものを感じさせない対処へ、薄ら寒いものが背を滴り落ちた。
数十度目の刃を防がれ、次の剣を振るおうとした時。
冷え切った青いレンズがマジアアズールを射抜き、喉がヒュッと音を立てた。
言葉にされてはいない、けど何を伝えたいかが分かる。
「もう覚えた」と、非情に告げられた瞬間。
自分達の攻撃をすり抜け、遂にゼインの魔の手に触れられた。
「ぐっ……!」
「うぁっ!?」
咄嗟の判断で、共に後方へ跳んだのは正解だった。
メダジャリバーの刀身が装甲を切り裂き、出血代わりの火花を散らす。
ガントレットで覆われた拳が腹部を叩き、内臓まで響く痛みが駆け巡る。
しかしどちらも直撃には至っていない、ある定地ダメーの軽減に成功。
再起不能には程遠い、戦闘続行が十分可能な範囲。
とはいえ怯んで隙が出来たのも事実、ゼインは既に次の手を打った後。
37
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:18:52 ID:.I21kXzM0
<V3!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
ゼインカードを裁断し、空中目掛けて跳躍。
先の引力操作時をも超える位置まで跳び上がり、地上の罪人達を見下ろす。
標的へ蹴りを叩き込むべく右脚を伸ばすが、敵もまた的になる殊勝さは持ち合わせていない。
『ヒッサツ!』
『FULL THROTTLE!CHASER!』
ドライバーを操作に手を伸ばし操作、噴き出す火炎がコンディションの最高潮を知らせる。
放出したエネルギーを右脚に収束、地を蹴ってチェイサーがゼインを迎え撃つ。
デストロンの機械怪人を倒して来た、仮面ライダーV3の蹴り技。
それがよりにもよって、人間を守る為に戦う戦士へ放たれた。
風見志郎や、彼に力を与えたダブルライダーが知れば憤慨は確実。
仮にそうなった所で、ゼインの思考に何ら影響は与えられない。
罪人を裁くギロチンの刃として、ライダーの力を使い潰すまでのこと。
改造人間やロイミュードを一撃で下す、高威力の技だ。
激突と同時に双方弾かれ、揃って地面へ転がる。
といった予想に反し、アスファルトへ叩きつけられたのはチェイサーのみ。
蹴り同士の衝突の反動を利用し、ゼインは宙で更に一回転。
ここからが技の真骨頂、V3反転キックで逃れられない終焉を与える。
「小癪な真似を……!」
二段構えの攻撃で優位を奪った筈のゼインだが、漏れ出た声は勝利への歓喜に非ず。
ライダー二人の激突を前に、魔法少女も見物に徹してはいない。
魔力を操作し複数枚の刃を生成、標的をゼインに一斉飛来。
倒せないのは百も承知だ、仲間の支援に少しでも役立てたなら問題ない。
「チェイスさん!」
「助かった!」
短く礼を返すチェイサーの手には、リュックサックから飛び出たトレーラー砲。
マジアアズールが作った猶予を無駄にせず、素早くシフトカーを装填。
バイラルコアとシフトデッドヒートが弾丸となり、膨大なエネルギーで銃身が熱を帯びる。
38
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:20:01 ID:.I21kXzM0
『フルフルデッドヒート大砲!』
電子音声を合図に、ゼインを撃ち落とすべくトリガーを引く。
鮮烈な真紅の光線を前に、蹴りで突き進むもややあって弾き飛ばされた。
焼き払われて当然の威力なれど、ゼインカードを使った技は原典のライダーよりも強化されている。
故に致命傷となるダメージはなく、トレーラー砲の砲撃も威力を大幅に削がれた。
まるでチェイサー達の足掻きを嗤うように降り立つ。
再度ゼインカードを手に取り、
「ッ、フンッ!」
裁断を急遽中断、メダジャリバーで後方を薙ぎ払う。
背後から放たれた電撃が霧散し、儚い光を最後に消え失せた。
この程度の不意打ちで倒そうなど、浅はかと言う他ない。
無論、放った本人も期待して電撃を浴びせたつもりはなかった。
ゼインの頭上を跳び越え、仲間の元へ着地。
今しがた攻撃を防いだ救世主と、自分を追って来たもう一人を視界に納める。
「卑怯ですよ!いきなり逃げるなんて!」
「逃げたつもりはない。ただ、俺のやるべき事が分かっただけだ」
怒り心頭の果穂へ律儀に返しつつ、視線はゼインへ固定。
ここから自分が相手取るのは少女じゃなく、操った張本人だ。
「交代だチェイス。あなたは果穂を頼む」
「なに……?」
「彼女の心は完全に侵食されていない。助けを願う声を、上げたくても許されず口に出すのはゼインへの肯定だけだ。彼女を救えるのも、彼女が自分で自分を救えるようになるのも、必要なのはあなただと俺は思う」
果穂の心に僅かなりとも、波紋を広げはしただろう。
だがそこより先、救う為の言葉を掛けられるのはチェイスだけだとジークは言う。
本当の願いを雁字搦めにされ、偽りの善意と幸福が何重にも覆い被さっている。
救われたいとの声を出せず、救われるための一歩を踏み出すのすら許されない。
彼女の味方でいたいと思うも、果穂を捕えた檻を壊せるのは自分じゃない。
39
:
正義Ⅲ:Nothing Helps
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:20:44 ID:.I21kXzM0
「行ってあげてください、チェイスさん。私達が絶対に邪魔させませんから」
マジアアズール…小夜もまた力強い言葉でチェイスを送り出そうとした。
自分の道を、こうなりたいと願った己を見失い取り返しのつかない所まで堕ちる。
殺し合いに巻き込まれた当初の自分と、今の果穂が重なるなら。
あの時、手を差し伸べてくれた少女のように。
自分にとっての小さなヒーローが、きっと果穂にも必要だから。
「……分かった、任せるぞ」
迷う素振りを見せるのは一瞬、仲間達の選択を無駄にはしない。
果穂の元へ駆け出すチェイサーを、ゼインが妨害に動く。
「邪魔はさせないって言ったでしょう!」
余計な手出しは断じて認めない。
氷の長剣と竜殺しの大剣が咆え、ゼインを仲間の元へは行かせない。
背後から聞こえる戦闘音に背を押され、遂に辿り着いた。
「果穂」
「……っ、チェイス、さん」
ヒーローと守られる者として出会い、ヒーローとヒーローを支える者になり、
そして今、相容れぬ正義を掲げる敵として、彼らは対峙する。
40
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:22:26 ID:.I21kXzM0
◆
追い付くのはそう難しく無かった。
はるかを後部に乗せ、ライドチェイサーを猛スピードで発進。
最高時速470km/hを誇るモンスターマシンを、所有者であるチェイス以外が乗りこなすのは困難。
しかし現実の桐ヶ谷和人ではなく、ALOのキリトのアバターなら無茶も利く。
これまでの移動で、独自のクセも掴んでいたのも幸いした。
何より、本気で逃げおおせる気が敵にはない。
頃合いを見て追い付けるよう、わざと痕跡を残していったのだ。
「やっと来やがったか。良かったなぁ?お優しい奴らでさ」
徐々に近付く気配を察知し、灯悟は口元に弧を描く。
怯える子供を安心させる為の、頼もしい笑みとは違う。
他者の努力を嗤い、徹底的に精神を甚振る。
悪意を煮詰めた顔で、囚われの身となった少女を見つめた。
返答には最初から期待していない。
マトモに言葉を話せる状態じゃないのが、誰の目にも明らかだった。
「んむおおおおおおお……!!??!」
くぐもった悲鳴が千佳から飛び出る。
灯悟への怒りや、仲間達へ心配を掛けさせない為の言葉など。
言いたい事は多くあるのに、言葉らしい言葉を紡げない。
何も知らない者が見れば、悪趣味なホラー映画の撮影と思ったかもしれない。
成人した男性を優に超す長身の、巨大なクマのぬいぐるみ。
所々に継ぎ接ぎが見られるが、これだけなら不気味であれど然して驚く程じゃない。
異様なのは全開された腹部のチャック。
綿が詰め込まれた筈の箇所には、無数の触手が蠢いていた。
まるでぬいぐるみ自体が一つの巣のような、非常にグロテスクな光景。
当然精巧な模造品などに非ず。
粘液を纏わせ、一本一本が違った動きを見せる。
腹の中に触手を飼う巨大なぬいぐるみという、おぞましい存在が現実にいる。
41
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:23:07 ID:.I21kXzM0
「んごっ、んぐぐ…おごおおおお……!」
適当な場所で降ろされた直後、抵抗の間もなく千佳に触手が絡み付いた。
四肢の動きを封じたのみならず、衣服の隙間から侵入。
幼い肢体を楽しむかのように這いずり回り、たっぷりと粘液を塗りたくる。
まるで、この少女は自分の玩具だとでも言うように。
体中へマーキングをされた。
(やだっ…気持ち悪い……!)
目尻に涙を浮かべながら、いやいやと首を振るもお構いなし。
ノワルや使い魔の天使に弄ばれた異常に、酷く気持ちが悪かった。
人の形を保った手で弄られるのと違い、触手という生理的嫌悪の強いモノが体を這うのだ。
一刻も早く抜け出したいが、状況は千佳に甘い顔を見せてくれない。
千佳を嬲る触手の一本は口内にも入り込み、言葉を発させない。
偶然か意図してかは不明だが、魔法使いを封じる最適な方法だった。
おまけに触手が素肌を撫でる度、ノワルに調教された際の快楽が呼び起こされる。
精神的なトラウマだというのに、一度開発された肢体は9歳の少女では有り得ない程に敏感。
(やめてぇ……やめてよぉ……!)
凹凸のない幼子の体を、絶えず攻め立てる。
平らな胸を撫でまわされ、桃色の突起が痛いくらいに硬くなった。
触手の先端が小さなへそをこじ開け、舌先で突くように弄ぶ。
下半身を汚すのが触手の粘液なのか、自分が漏らした液体なのかすらもう判断が付かない。
やめてという懇願は、口内で暴れる肉槍に虚しく吸い込まれた。
「うっわ、御大層な趣味してるよアイツら。まあ、女の死体に自分の脳みそ移す変態だしなぁ」
憐憫を誘う千佳を、解放してやろいうという気にはならず。
気色の悪いNPCを用意した運営側へ、辛辣な評価を下す。
自分を棚に上げてと自覚があっての発現であり、余計手に負えない。
そうこうしてる内、バイクが目視可能な位置まで現われた。
42
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:24:50 ID:.I21kXzM0
「千佳ちゃ……っ!?」
ライドチェイサーを飛び降りたはるかの目に、真っ先に飛び込む惨状。
肉の檻に囚われた千佳の姿に、顔は青褪め言葉を失う。
予想通りの反応へヘラヘラ笑う灯悟へ叩きつけられる、猛烈な敵意。
射殺さんばかりに睨むキリトへ、臆した風もなく視線を合わせた。
「ああなんだ、ガキは趣味じゃなかったか?そっちのピンク頭にしとけば、お前も喜んだか?」
「ふざけるなよ変態野郎……!」
怒りのままに起動鍵を使い、デュエルガンダムを装着。
シンプルな基本形態だが、キリトの戦闘スタイルに照らし合わせると最も使い勝手が良い。
ビームサーベルを引き抜く横では、はるかもキッと睨みつける。
高まる闘争の空気は灯悟の望む所だ。
開戦の合図とでも言うように、カードをドライバーに叩き込む。
『FINAL ATTACK RIDE WI・WI・WI WIZARD!』
「そらそら!馬鹿面晒して避けろよ!」
ウィザード専用可変型武器、ウィザーソードガンの引き金を引く。
火炎を纏った銃弾が大量にばら撒かれ、キリト達に殺到。
互いに地を蹴り回避へ動き、狙いの外れた銃弾は付近の建造物に傷を付けるだけで終わる。
その筈が、再度迫り来る脅威に思わず振り返った。
「なっ、追尾式か!?」
歯嚙みするキリトへYESと答えるように、銃弾が軌道を変え襲来。
弾自身に意思が宿ったかの現象は、覚えがない訳じゃない。
ALOの魔法にも、追尾(ホーミング)式の魔法が複数存在した。
逃げ回ればやり過ごせる、と単純な攻撃じゃない。
43
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:25:36 ID:.I21kXzM0
しかしデュエルガンダムの機動力を乗せた今の剣なら、突破は不可能に非ず。
MSの武装とは別にもう一本の剣を引き抜き加速。
自ら銃弾の雨に飛び込むや、双剣を豪快且つ的確に振るう。
撃ち殺されに顔を出したんじゃあない、無謀にも飛び込んで来た火の玉の群れを掻き消すのだ。
弾幕を二本の剣で斬り落とし、もう一人の仲間に叫ぶ。
「はるか!」
「うんっ!」
何をやれとは最後まで言われずとも分かる。
この状況で最も優先すべきは、囚われ心身共に消耗の著しい少女の救出。
片方が攫った張本人の相手を引き受け、もう片方が助け出す。
方法としては何も間違っておらず、灯悟をキリトに任せ駆け出した。
既に魔法少女への変身は済ませており、片手には槍を生成。
触手を切り裂き千佳を助けるのに、何の迷いもない。
灯悟が許すかは別の話だが。
「勝手な真似すんじゃねぇよ!」
『KAMEN RIDE FAIZ!』
バックステップで距離を取り、新たなカードを装填。
スマートブレイン製のベルトを使い、人類の進化系と戦った戦士。
仮面ライダーファイズに姿を変え、すかさず次のカードを装填。
はるかの妨害に丁度良い、手駒を一体用意してやろう。
『ATTACK RIDE AUTO VAJIN!』
カードに内蔵されたデータを読み取り、能力を解放。
傍らのディケイド専用バイク、マシンディケイダーがファイズ専用ビークルへ変化。
これもまたファイズのベルト同様、スマートブレイン社の製造品だ。
新たなバイク、オートバジンのスイッチを押すと一瞬で変形。
二足歩行の戦闘形態となり、はるかへ攻撃を仕掛けた。
「きゃあああああっ!?」
空中を飛行しながら、右手に前輪を装備。
高速回転し、計16個のマズルから弾丸が撃ち出された。
オルフェノクの外皮を削り、灰の山へ帰る強力無比な銃撃だ。
打たれ強い魔法少女の肉体とて、何発も浴びればタダでは済まない。
咄嗟に飛び退いて回避するも、執拗に狙い撃ち続ける。
乾巧の心強い味方だが、ファイズの変身者に逆らえない都合上今や灯悟の手先だ。
44
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:26:43 ID:.I21kXzM0
『ATTACK RIDE FAIZ EDGE!』
「お前とは俺が遊んでやるぜ!カッコ付けの騎士様よぉっ!」
「くっ、お前……!」
ファイズ専用の光剣を左手に持ち、右手にはソードモードのライドブッカー。
奇しくもキリト同様、二刀流のスタイルで斬り掛かる。
振り下ろされた一撃を双剣の交差で防御、弾き返される前に灯悟自ら腕を引く。
体勢が崩れるのを嫌った動きへ、ならばと懐へ潜り込む。
汎用性重視故の軽量さは、剣術を主体にするキリトと相性は悪くない。
尖った性能が無い分、己の技量で補うまで。
ビームサーベルとファイズエッジ、マクアフィティルとライドブッカー。
四本の刃が奏でる戦の音色へ、聞き入る者はここにおらず。
両名共に互いを斬る事へ意識を裂いて、得物を操る。
(何だこいつ、見た目以上に一撃が重い……!)
斬り合う中で即座に気付く、灯悟の振るう剣の異様な重みを。
少女の見た目に反し腕力に優れてるのか、変身中のライダーの恩恵か。
外見と不釣り合いな重量を持つとしか思えない、一撃に籠められた高さ。
改めて不可解過ぎる眼前の敵へ、得物を挟んで問い質す。
「お前は本当に、イドラの仲間のキズナレッドなのか!?」
「あぁ!?何度も同じ事言わせんなよ!ウザってぇ真似されて女になったが、俺以外にキズナレッドはいねぇっての!」
真紅の光剣を受け流し、反対の手で突きを見舞う。
姿勢を低くし下半身狙いで振るった剣を、数歩下がって回避。
逃がしはせぬと斬り掛かった灯悟へ、応じるように双剣を叩き付けた。
「イドラはお前を信頼出来る奴だって、そう教えてくれた!なのに何で、殺し合いに乗った!?」
「……んなもん、イドラがもう死んじまったからだよ!」
「なっ……」
押し込もうと両腕に力を籠めるが、灯悟の防御を崩せない。
至近距離での問い掛けへ、吐き捨てるように答えが返って来た。
思わず息を呑むキリトをどう思ったのか、仮面越しに負の念を籠めた言葉をぶつける。
45
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:27:26 ID:.I21kXzM0
「イドラは俺の全てだった…イドラとの絆が、俺にとって一番大事だった!アイツのいない世界じゃ、どんな絆にだって価値はねぇ!だから取り戻すんだよ!どんな手を使ってでもなぁ!」
「最後の一人に勝ち残って、羂索に頭を下げて蘇生を頼み込む気か!?」
「アイツらも最後には殺すさ!けど他に方法がないなら、媚び諂うしかねぇんだよぉっ!」
「……っ」
知らず知らずの内に、キリトは表情を歪ませていた。
気持ちが全く理解出来ない、とは言い切れない。
キリトとて、最愛のアスナが命を落としたら到底平静など保っていられまい。
間違った道へ微塵も靡かないと、断言出来る自信はない。
「優勝が目的なら、何で千佳にあんな真似をした!?あの子を弄ぶのが必要だって言うのか!?」
「はっ!必要だね。イドラが死んだのに他の奴らがのうのうと生きてるなんて、不公平だろ?徹底的に甚振って、お前らのくっだらねぇ絆を壊してやらなきゃ気が済まないんだよ!」
「お前って奴は……!どこまでイドラを馬鹿にする気だ…!!」
「黙れ!イドラを死なせやがった無能が!」
余りにも身勝手な動機へ、キリトの怒りが激しさを増す。
自信満々に灯悟への信頼を口にし、最後まで自分達を守ろうと戦った魔法使い。
共有した時間は短いが、仲間だった彼女の心はよりにもよって浅垣灯悟が最も踏み躙っている。
憤怒を乗せた得物が激しさを増すも、これ以上の剣戟へ望む気は向こうにない。
ファイズエッジを投げ付け、更にライドブッカーを素早く変形。
光弾を乱射し牽制、ダメージを与えられずとも構わない。
僅かにでも足止めが叶えばこっちのものだ。
余分な動作の一切を削ぎ、流れるようにカードを装填。
スペックの低さを拡張性で補う、ファイズの本領を発揮。
『FORM RIDE FAIZ ACCEL!』
胸部の装甲が展開し、肩部を覆うアーマーに。
剥き出しの箇所には前進を流れるエネルギー、フォトンブラッドの核。
両の瞳は黄色から、鮮血の如き色へ変化。
高速戦闘特化の形態、ファイズアクセルへの変身を完了。
弱点を露出したリスクを補って有り余る、脅威的な能力を見せ付ける時だ。
46
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:28:11 ID:.I21kXzM0
「10秒間、必死に抵抗してみろよ!」
『FINAL ATTACK RIDE FA・FA・FA FAIZ!』
電子音声が鳴り響くと同時に、灯悟の姿が消える。
逃げたのではない、猛烈な悪寒がキリトを激しく苛む。
何をする気かは難しく考えるまでもなく、すぐに分かった。
咄嗟の判断で、アサルトシュラウドに切り替えたキリト。
オートバジンの銃撃をどうにか掻い潜り、千佳の元へ駆け寄ろうとするはるか。
狙いを二人に絞って、頭上から赤い雨が降り注ぐ。
「これは……!?」
驚愕を声に出すも、既に遅い。
オルフェノク達を灰の山に変えた、ファイズの蹴り技。
通常形態では一つのみ放つマーカーを、10秒間の高速移動中に複数発射。
逃げ場を塞がれた二人に出来るのは二つに一つ。
諦めてフォトンブラッドの毒素に蝕まれるか、持てる技を駆使して抗うか。
どちらを選んだかは、説明するまでもない。
「く、おおおおおおおおおっ!!!」
マーカーを突き抜け、ファイズの蹴りが次から次へと叩き込まれた。
両肩の武装をひたすらに撃ち、追加装甲で可能な限りダメージを減らし。
磨き上げたスキルを以て双剣を振るい、死へ引き摺り込む手を払い除ける。
たった10秒がこれ程に長く感じたのは、初めてかもしれなかった。
『TIME OUT』
10秒ピッタリ経過し、ファイズも通常形態へ戻る。
振り返り視界が捉えた光景へ、つまらなそうに鼻を鳴らした。
47
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:28:58 ID:.I21kXzM0
「ハッ……言われた通り、抵抗してやったぞ……?」
素顔は見せずとも、不敵な笑みを浮かべてるのが察せられる。
五体満足のキリトだが、決して無事とは言えまい。
増加装甲は使い物にならなくなり、最早単なる枷。
キリト本人へのダメージもゼロとはいかず、消耗が見て取れた。
「ま、間に合った……」
黒の長槍を杖代わりにし、はるかもどうにか立ち上がる。
ポインダーに囲まれた瞬間、ウォーパイクを取り出したまでは良いが半端な技では対処が追い付かない。
であればはるかの切ったカードは、最善と言えるだろう。
月光と言う名の技は、標的の頭上へ瞬間移動を行う。
本来であれば真下の敵へ一撃を見舞うのだが、此度は緊急脱出の手段に使用。
複数の蹴りに貫かれるのこそ回避出来たものの、ファイズアクセルはまだ時間切れ前。
殴り飛ばされたと気付いた時には、既に地面へ叩き付けられた後。
魔法少女故の打たれ強さで死んではいないが、無傷とはいかない。
「死んでないなら、別にそれでも良いけどな。もっと苦しんで、惨めな最期になるだけだろ!」
『KAMEN RIDE OOO!』
『タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!』
生き延びたのを運が良いと思ってるなら、大間違いと教えてやらねばなるまい。
科学技術で生み出されたファイズとは反対に、神秘のメダルで誕生したライダーへ新たに変身。
仮面ライダーオーズの登場へ最も反応を見せる、真紅の強欲はこの場に不在。
異常な程に手数が豊富な敵に、キリト達の表情には苦々しさが漂う。
「お前らの首をあのガキの目の前に並べてやるよ!助けに来たのに弱くてごめんなさいって、精々今の内に謝っとけよなぁっ!」
どこまでも見下し、絆に唾を吐く醜悪な言動。
灯悟が吐き散らす全ては、千佳の耳にも届いていた。
身動きを封じられ、呪文を唱えるのが叶わなくとも。
両目と両耳は解放されたままであり、戦場の様子は確認出来る。
だから余計に、心が苦しい。
48
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:29:46 ID:.I21kXzM0
「んぐうううう!むぐっ、んんんんん……!」
まただ、また自分は何も出来ない。
ノワルに捕らえられ、泣き叫ぶ皆の前で殺されそうになった。
ゼインが篝を殺し、果穂を傀儡として連れ去った。
無力感を噛み締めたあの時と同じ。
今は助けられる魔法があるのに、この有様。
それに、はるか達が傷付けられているのに。
触手が体中を愛撫し、その度に跳ね上がって声を漏らす。
意志とは裏腹の反応を見せる体が、今は酷く恨めしい。
悔しさの余り、涙が零れて止まらない。
(このまま……あたしは見てるしかできないの……?)
マジアベーゼが自分のあこがれを優しく包んでくれて、魔法を託してくれたのに。
空色の魔法少女に誓った、皆を助ける為に魔法を使えず。
無力でちっぽけなまま、弄ばれて終わりなのか。
胸の真ん中に置いた、絶対に曲げたくない気持ちを自分自身が裏切るのか。
(…………いや。あたしはそんなの…絶対にいやっ!!)
はるかとキリトが、若しかしたら殺されてしまうかもしれない。
チェイス達だって、ゼインに敗れ死んでしまうかもしれない。
助けられなかった果穂は、この先ずっとゼインに利用されてしまうかもしれない。
もうこれ以上、大事な友達を失いたくない。
「ん……ぐ……んぐぐぐ……!」
粘液塗れの体は火照り、身動ぎするだけでも思考がおかしくなる。
だから何だ、苦しいのが自分だけだと思うのか。
皆頑張って戦ってる、諦めないでいるのに。
自分一人がこんな、気持ちの悪いぬいぐるみなんかに、
49
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:30:53 ID:.I21kXzM0
(負けない……ラブリーチカは……負けないんだからっ!!!)
呪文は唱えられない、手も足もマトモに動かせない。
ではもう、自分には何一つ残っていなのか。
いいやある、チェイスが言ってくれただろう。
大事な人を守る為に、立ち向かう勇気。
その一つがあれば――
「んんんんんぐぐぐぐっ!!」
『――ッ!!??!』
そうしてやれたのは、大掛かりなものじゃない。
無我夢中で顎を動かし、関節が痛むのもお構いなしで。
口内を貪る触手に、出せる精一杯の力で歯を突き立てた。
それだけだ、それだけの単純な行動が変化を齎す。
予期せぬ痛みへ触手も驚き、反射的に口から引き抜いた。
ほんの僅かな間のみ、自由に声を出せる。
数秒後には即座に陵辱が再開し、痛みを与えた報いとして一層苛烈となるに違いない。
そんな未来は、永劫訪れないが。
「あたしから……離れてよ……っ!」
反撃の狼煙を上げる声に呼応し、千佳の魔法が発動。
固有魔法イノセンスは、あらゆる束縛を認めない。
纏わり付く触手が一斉に千切れ、ぬいぐるみが苦痛に悶える。
自由を取り戻すのも束の間、地面に放り出された千佳は息も絶え絶えだ。
弄ばれた体には、快楽の残滓が付いて回った。
「あのガキ何しやがった!?」
その様子は戦闘中の三人にも見えた。
正体不明の力で拘束を脱した千佳に、案の定灯悟は困惑。
驚きはキリト達にもある、だがそんな些事に一々反応していられない。
千佳が作り出したチャンスを、無駄になどするものか。
50
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:31:48 ID:.I21kXzM0
「行け!はるか!」
「うん…!」
「なっ、テメ――」
灯悟が妨害に出るも、キリトが手出しはさせない。
傷の痛みも切り捨てて、繰り出す双剣が余計な真似を封じ込める。
心強い助けを背に、はるかは今度こそ手を届かせるべく走った。
獲物が奪われると気付いたのだろう、ぬいぐるみが巨体を震わせ再度捕えんとする。
しかしもう、二度も目の前で掻っ攫われるのは御免だ。
黒槍片手に跳躍、友を辱めた魔物への怒りを籠め投げ付けた。
「月光・烏!」
月が零した涙の如く、頭上よりの殺意を見舞う。
黒槍に腹部を貫かれた途端、宿した魔力が炸裂。
スタズタに斬り刻まれ、僅かに残った触手も細かな肉片へ早変わり。
悲鳴すら上げられず土へ還る魔物へ、最早はるかは見向きもせず千佳を抱き起す。
「チッ!変態趣味だけのデカブツが!役に立たねぇな!」
『FORM RIDE SAGOZO COMBO!』
『FINAL ATTACK RIDE O・O・O OOO!』
奪還を許したNPCをこき下ろし、苛立ち任せにカードを装填。
基本形態のタトバコンボから一転、白のコアメダルを使ったコンボへチェンジ。
サイの角を象った頭部パーツに、ゴリラもかくやの剛腕。
足にはゾウ型の装甲を履いたサゴーゾコンボは、見た目に違わずパワーに優れた形態。
機動性ではキリト達に後れを取るが、何の問題にもならない。
重力操作能力を用いて急浮上、次いで一直線に落下。
粉砕された足元を起点にエネルギーを放出し、キリト達を捕捉。
有無を言わせず地面にめり込ませ、身動きを封じ仕留める算段だ。
51
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:32:55 ID:.I21kXzM0
「させない……もうみんなに酷いことは許さないんだから……!」
「なにぃっ!?
万全とは言い難くも、瞳に宿す千佳の決意に微塵の亀裂も無し。
放出された光が灯悟以外の全員を覆い、即座に効果が表れた。
不可視の壁が阻むように、オーズのエネルギーが消失。
サゴーゾコンボの技は、発動直後に破られる憂き終わりを迎える。
イノセンスシールド。
予め発動しておく事で、拘束を無効化する防御魔法。
隕石を破壊し、富良洲高校では浅倉へ手痛い一撃を与えたイノセンスドライブ同様。
此度もまた一つ、固有魔法の可能性を千佳は掴み取ったのだ。
「クソタッレのガキがぁ……!余計な真似しやがって!」
「ガキはお前だろ!八つ当たりでヘマして当たり散らす、どうしようもないクソガキだ!」
悉く目論見を潰す千佳への苛立ちを切り捨て、キリトが距離を一気に詰める。
敵自ら機動力を捨てたなら好都合、遠慮なしに技を叩き込む。
片手剣が切れ味を増し、放つは垂直の4連続攻撃。
分厚い装甲相手に手数で押し切り、短い悲鳴を上げ大きく後退。
仮面の下で顔を悪鬼の如く歪め、元のタトバコンボへ戻った。
「はぁ…はぁ…上手くいった……」
「今のも千佳ちゃんの魔法……」
「えへへ……マゼンタ達が戦ってるんだもん……あたしだって、まだまだ頑張れるよ……!」
額に汗を浮かべ、陵辱を受け心身の疲労は少なくない筈なのに。
千佳の笑みは不安や恐れを吹き飛ばす、人々に笑顔を届ける魔っ娘のもの。
無理しちゃ駄目だよと、口を突き掛けた言葉を咄嗟に飲み込む。
傷付いて欲しくない、守ってあげたい心に嘘は無い。
しかし諦めずに戦おうとする、小さな体に秘めた大きな勇気を。
はるかは絶対に否定したくないから。
52
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:34:07 ID:.I21kXzM0
「……うん!あたしが絶対に守るから、だから一緒に戦おう!」
皆の力になりたい、友の願いに呼応しはるかも心火を一層激しく燃やす。
見せかけの決意でない事は、湧き上がる膨大な魔力が証拠。
秘めたる想いが、魔法少女を新たなステージへと導く。
トレスマジアの宿敵が、そこへ至ったのであれば。
花菱はるかが到達出来ない道理はない。
「マゼンタ!?凄くきれい……」
目を奪われる千佳へ微笑み返し、輝きは最高潮へ。
激怒戦騎との戦いで、反撃の兆しとなった力。
真化(ラ・ヴェリタ)が今再び、絆の破壊者を撃破すべく発動された。
彼女の真化がどういったものかを知る参加者がここにいないのは、果たして運が良いのか悪いのか。
「あっはぁぁぁん♡あたし♡本日二度目のさんじょー♡」
「え゛っ?」
アイドルらしからぬ声が漏れたのは、仕方ないと千佳は自分でも思う。
誰だってこの光景を見たら、困惑する他ない筈。
千佳の知るマジアマゼンタは、褐色の肌ではなかった。
着てるのは可愛らしい魔法少女の衣装で、扇情的なナース服じゃなかった。
谷間を見せ付けていないし、臀部を丸出しにしてもいない。
数秒前までとは余りにも違う、両の瞳へハートマークを浮かべ妖しく微笑む。
マジアマゼンタ・フォールンメディックへ、千佳は言葉が出て来ない。
53
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:35:34 ID:.I21kXzM0
「さてと♡じゃあ早速千佳ちゃんを元気にしてあげるねぇ♡」
「え、あ、マゼンタ?」
混乱から覚めぬ千佳を抱き寄せ、その場にぺたんと座り込む。
元気とは言うが、一体何をする気なのか。
皆目見当も付かない千佳の頬を愛おしそうに撫で、
「こ・こ♡た〜んと飲ませてア・ゲ・ル♡」
躊躇なく自身の胸元をズラした。
「えぇっ!?な、何してるのマゼンタ!?」
当然千佳からすれば意味が分からない。
回復魔法を使うならともかく、何故胸を見せ付けるのか。
そこが人前で見せ付けるべき部位でないことは、小学生の千佳でも知っている常識だ。
「おいはるか!?お前何を……」
「キリトくんはこっち見ないで!女の子以外見るの禁止!」
「は、はいっ!」
異様な雰囲気に制止を試みたキリトだが、ピシャリと一喝された。
有無を言わせぬ迫力へ、つい素直に応じてしまう。
目を白黒させる千佳にお構いなしで、顔に手を添える、
「ほぉら♡おっぱいでちゅよぉ♡」
「んむぅっ!?」
中学生ながら発育の良い乳房を、誘惑するように揺らす。
元の彼女とは違う褐色の肌と、鮮やかな桃色の突起。
同性の体なのにどうしてか、頬が熱くなる千佳の姿にペロリと舌なめずり。
目を離せないでいる千佳の口元へ、乳房を押し付けた。
54
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:36:12 ID:.I21kXzM0
「あっ♡そう♡千佳ちゃん上手♡アイドルはお口も使うもんね♡(歌う的な意味で)」
マジアマゼンタの嬌声が鼓膜を震わせ、千佳の思考をドロドロに溶かす。
吸ったつもりはないのに、口の中へ流れ込む感触。
赤ん坊はとっくに卒業しているのに、気付けばちゅうちゅうと音を立てていた。
(なに、これ……マゼンタのあったかさが伝わって来る……)
恥ずかしい事の筈なのに、ノワル達に弄ばれた時の嫌悪感はまるでない。
乳房から流れ込む魔力を通じ、分かってしまった。
見た目は変わっても、マジアマゼンタが自分を想う気持ちは変わらない。
守ってあげたい大切な友達で、一緒に戦う魔女っ娘。
言葉にするよりもハッキリ自分の中へ染み渡り、体が熱を帯び出す。
「もっと♡もっといっぱい吸ってぇ♡あんっ♡ユフィリアちゃんとまふゆちゃんも上手だったけど♡千佳ちゃんもいいよぉ♡」
「っ!?」
さり気にとんでもない内容を口走った。
別行動中の二人の仲間。
千佳と近しい年頃の可愛い女の子と、お姫様のように綺麗な年上の少女。
知らない内に彼女達とも、同じような事をしていたのか。
蕩けた顔の二人がマジアマゼンタの乳房に吸い付く様を想像し、余計に頬へ熱が集まる。
詳しく知りたいけど、知るのが恐い気もした。
「何だってんだよあの女!?変態しかいないのかよ!」
「あの気色悪いNPCを利用した、お前が言うな!」
理解不能の光景を余所に、キリトと灯悟が斬り合いを続ける。
正直に言って、敵の困惑自体はキリトも分からんでもない。
アスナという恋人がいるとはいえ、思春期の少年。
聞こえて来る嬌声に動揺があったが、無理やりに押さえ付け戦闘に集中。
55
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:37:17 ID:.I21kXzM0
(こいつは馬鹿力だが、剣の腕は大したことない!)
幾度も得物をぶつけ分かったが、灯悟の剣術は決して高くない。
仮面ライダーの固有能力を多数操るのは厄介だが、逆に言うとそれだけだ。
SAOのラスボスとして一騎打ちに挑んだヒースクリフ、この地で二人の仲間を奪ったやみのせんし。
そして、マクアフィティルの元々の使い手とは比べるまでもない。
「チィッ!」
苛立ちが剣にも表れ、徐々に精細さを欠いていく。
反対にキリトの思考は研ぎ澄まされ、技の出し所を冷静に見極める。
次にどう動くか、どの位置で斬ればこちらの狙い通りになるか。
アインクラッドの単独(ソロ)攻略に始まり、命懸けの戦いで磨き上げた感覚が勝機を掴む。
ビームサーベルを持つ左手を翳し、本命の右手は肩の上に置く。
独自の構えで大きく引いたマクアフィティルが、灯悟目掛け突きを放った。
最早それを、剣を用いた攻撃と言って良いのか。
伝説上の魔物を撃ち抜く、必殺の魔弾にも等しい威力。
SAO時代から愛用するソードスキルの一つ、ヴォーパル・ストライクが炸裂。
ライドブッカーの防御を間に合わせない、爆発的な速度。
トラメダルの装甲を突き、大量の火花を散らしながら地面を転がる。
「がっ、あぁ……!お前……っ!?」
キリトへの恨み節は、吐き出す前に喉奥で消失。
起き上がった先で見た、膨大な魔力が一点に収束するのを。
「凄い…普段よりも体がずっと軽い!」
「いえーい♡大成功♡」
驚き自身の体を見回す千佳の横で、そうなった理由の魔法少女がピースサインを作る。
特殊なプレイで千佳に授乳を行った訳ではない。
消耗した体力を回復し、NPCによる悪しき快楽の残滓を消し去ったのだ。
56
:
正義Ⅳ:Mystic Liquid
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:39:31 ID:.I21kXzM0
「さあ千佳ちゃん♡準備は良い?」
「う、うんっ!」
背後から抱き着き囁くマジアマゼンタへ、少々困惑しつつも肯定を返す。
自分の中に、信頼する魔法少女の力が宿ったと分かる。
ならば何をするかは言うまでもない。
後頭部へ押し付けられる乳房の感触に、赤面しながらも標的から目は逸らさない。
「クッソ…またこうなるのかよ……!」
うんざりするように吐き捨て、灯悟がカードを取り出す。
だが一手遅い、今度ばかりは後れを取らない。
千佳が伸ばした右手へ、マジアマゼンタも自身の手を添えた。
頼もしい仲間が、大好きな友達が傍にいてくれる。
その事実が千佳に強く思わせるのだ、「負ける気がしない」と。
「いっけぇええええええっ!!!」
纏わり付く悪意を消し飛ばす、勇気の輝きが一帯を照らす。
カード装填は間に合わないと悟り、灯悟が防ぐの構えを取るも無意味だ。
イノセンスドライブはあらゆる防御を無視し、確実に届かせる矛。
加えて放たれた規模と威力たるや、放送前の使用時を上回る程。
オーズの装甲でも殺し切れないダメージが、鎧で隠した外道の肉体を焼く。
「がああああああああっ!!!??!」
絶叫を上げる灯悟は瞬く間に地から足を離し、彼方へと吹き飛ぶ。
日が落ちる前の空を彩る、汚れた流れ星は何処まで行くのか。
「って、チェイス達がいる方じゃないかあれ!」
「えぇ!?」
ウィザードが使った悪臭の魔法で悶えてる間に、ここまで連れて来られたのだ。
当然来た道など分かる筈もない。
よもや仲間達の元へ吹き飛ばしてしまったとは思わず、途端に千佳は慌て出す。
「あれ?あたし確か…えっ?あの人は?」
タイミングを同じくし、マジアマゼンタの真化が解除。
記憶が飛ぶのは富良洲高校での戦闘時から、もっと言えば正史にて真化した時と同じ。
いつの間にやら灯悟が姿を消しており、状況への理解が追い付かない。
「はるかお前、元に戻ったのか?というかもしかして、覚えてない……?」
「へっ?何が?えっと、あたし確か――」
「そっ、それよりも今は!チェイスくん達の方に行かないと!」
「お、おう」
記憶の糸を手繰ろうするが、寸前で千佳が阻止。
顔の赤い理由を知るのはキリトだけであり、本人も詳細な説明は憚れる。
何より千佳の言った通りだ、自分達も急ぎ行動に出なければ。
首を傾げていたはるかも、詳しく聞いてる場合じゃないと切り替えた。
元来た道を駆ける一同は、仲間の元へと急ぐ。
絆の破壊を目論んだ外道の、正体は未だ知らずに。
57
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:40:57 ID:.I21kXzM0
◆
自分が動揺している理由が、果穂には理解出来なかった。
ゼインの正義に歯向かった時点で、誰であろうと敵。
たとえそれが、殺し合いで自分を何度も助けた男でも関係無し。
残念には思うも、倒すのに何の躊躇もいらない。
正しい事なのだと自信を持って言えるのに。
(あたしが……チェイスさんを倒す……)
言葉に出さず、胸中で自身が今から何をするかを繰り返す。
何も間違っていない、先に間違えたのはチェイスの方だ。
ゼインに聞けば、その通りだと言ってくれるだろう。
幸せの羽をくれた善意の使者の言葉は、一から十まで正しい。
じゃあやっぱり自分の行いは、正義の行いである。
「……あっ、あの!本当にチェイスさんは、ゼインさんと協力してくれないんですか?」
だから、こんな問いが口から出た自分が俄かに信じ難い。
余計な話を続けず、早急に倒せば良いだけの話じゃないか。
まるでチェイスを手に掛けるのを、少しでも先延ばしにしてるようだと。
自覚してるかどうかすら、果穂には曖昧だ。
「何度聞かれようと、俺の答えは変わらない」
内心の困惑を余所に、簡潔に返答を得られた。
但し望んだ形とは異なる。
咄嗟に言い縋ろうとし、ハッと我に返った。
そうじゃない、ゼインの為に戦うのならこれは正しくない。
手を跳ね除けた以上、誰が相手でもゼインの敵だ。
「じゃ、じゃあ!やっぱりチェイスさんはあたしとゼインさんの敵です!」
雑念を振り払おうと声に出した内容が、不思議と自分の胸に刺さる。
どうしてと疑問に思えば、余計泥沼に嵌る気がしてならない。
58
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:42:38 ID:.I21kXzM0
<鎧武!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
ならばこれ以上、思考を割き続けるのは無駄に他ならない。
やや乱暴にゼインカードを引き抜き、ドライバーへ喰らわせる。
シビト化で再現された複製品とはいえ、また一つ英雄の力が使い捨てられた。
銃剣一体の無双セイバーと、スライスした果実モチーフの大橙丸。
アーマードライダー鎧武の得物を両手に装備し、動揺を断ち切る勢いで突撃。
ガントレットに搭載の、武器管制補助エンジンが即座に起動。
初めて手にする装備だろうと問題無し。
インベスゲームに始まり、黄金の果実を巡る戦いに身を投じた青年。
葛葉絋汰と謙遜ない戦闘力を発揮。
豪快ながら簡単に隙を見せない動きで、両の刃を叩き付ける。
感じた手応えは無防備な胴体を切り裂き、痛みを与えたのとは別物。
二本の刀身はチェイスを軽く撫でてもおらず、押し留められていた。
こちらが剣を使うのに合わせてか、向こうが持つのもまた剣。
無双セイバー以上に刀と呼ぶに相応しい得物は、チェイスの手にある。
「っ、てやああああああっ!!」
一度防がれた程度で、勝負は簡単に決まらない。
倒れるまで何回だろうと、斬り付ければ良いだけだ。
嘗てメガヘクスによる侵略の際、一度だけチェイスが共闘した戦士の剣だと知る由もなく。
世界を守ってみせた始まりの男の剣で、人を守る戦士を斬り付けた。
内心の動揺とは裏腹に、襲い来る刃に容赦はない。
素人が出鱈目に振り回すだけなら、対処は非常に安易。
現実には以前からの得物と思わせる程に、双剣を巧みに操る。
怒涛の勢いで敵意を振り撒く斬撃へ、チェイスもむざむざ我が身で受け止めはしない。
刀を用いて防ぐ度に、刀身同士が甲高い音を奏でる。
鼓膜を痛める音の中に、どこか澄んだモノが混じっていると。
思考の片隅で果穂が思うのも一瞬、すぐさま眼前の敵へ意識を引き戻す。
59
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:43:16 ID:.I21kXzM0
「……っ」
防御をすり抜け、無双セイバーの切っ先が胸部を走った。
僅かに漏れ出た呻き声を、果穂は聞き逃さない。
流れに乗るべく、間髪入れずに大橙丸を振り下ろす。
防がれればすかさずもう片方を、位置を変えて斬る。
派手な乱舞のようであり、見方によっては苛立ち交じりに剣を振るっているようにも見えた。
(いけます!このまま……!)
一撃、また一撃とチェイスを傷付ける刃が増えていく。
レンズ越しに見る火花が飛び散る様は、勝利の予感を抱かせる。
ゼインがくれた力はやっぱり凄い、チェイスですら手も足も出ない。
正義が勝ち悪が滅ぶ、理想的な決着は時間の問題だ。
(そうです!チェイスさんは悪者だから、本当の正義のゼインさんには――)
勝てない、その四文字が出て来ない。
何か、何か違和感があった。
言いようのない奇妙な感覚の正体へ、辿り着くのはすぐのこと。
「どうして……」
ポツリと、呟かれた声は蚊の鳴くように小さい。
しかしチェイスにはハッキリと聞こえた。
「どうして……あたしを斬ろうとしないんですか……?」
違和感の正体は至って単純。
チェイスはずっと剣を防いでばかりで、一度も反撃に出ない。
それだけ自分が強く、どうにか凌ぐので精一杯だから。
なんて楽観的に思えれば、どれだけマシだったろう。
60
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:44:52 ID:.I21kXzM0
「俺はお前を倒す為じゃなく、助ける為にここにいるからだ」
「っ!なんですかそれ…言ってる意味が分かりません!」
得られた答えは納得に程遠く、却って心が掻き乱される。
戯言で惑わせ、隙を見せた瞬間に斬り付ける気か。
だとしたら卑怯極まりない、絶対的正義のゼインとはまるで違う。
そんな真似をする男じゃないと、よく知る己の記憶に目を逸らし憤る。
「あたしはっ!助けて欲しいなんて思ってません!誰の助けもいらないんです!ゼインさんがくれた幸せの羽があれば、あたし一人で何だってやれます……!」
「それが本当に、お前が心からの言葉か?」
戯言を一蹴すべく、ささくれ立つ感情を刃に乗せる。
苛立ちは怒りに、敵意は殺意へ変わりただ一人へ向け殺到。
持った得物の数は二本にも関わらず、数十に増えたと錯覚を抱き兼ねない。
斬撃の嵐を前にチェイスは不動、たった一本の刀を頼りに防ぎ続ける。
各部に備わったアーマーがダメージを最小限に押し留めるも、蓄積は免れない。
だが傷などどうでもいいと言わんばかりに、言葉を紡ぐ。
「どんなヒーローにも支えてくれる者が必要、お前が言った言葉じゃないのか」
「……っ。だからどうだって言うんですか!?あたしはチェイスさんと違うんです!助けてもらわなくても平気で……っ!」
「そうだ。俺はこれまで多くの仲間に助けられて来た」
怒るでもなく、ぶつけられた言葉に肯定を返す。
共に戦う仲間達がいて、時には命を賭し自分達を生かした者がいて。
彼らの助けを得た事を恥には思わず、むしろ自分も彼らの力に少しでもなれればと思う。
そして今は、一番初めに自分を支えてくれた少女を助けたい。
たとえ人間から拒絶されようと、彼らを守れるのなら愛されなくて構わない。
仮面ライダーとしての再起を、霧子が信じ続けてくれた。
仲間として受け入れ、共に戦った進ノ介ら特状課のメンバーがいた。
ダチにはなれなかったが、剛を守った自身の最期に後悔はない。
短くとも宝物のようなあの日々で、十分過ぎる程だ。
だというのに自分はまた一つ、信頼と言う名の宝を人間からもらった。
傍で支えると、恐怖を乗り越え約束してくれた少女。
ヒーローとして、アイドルとしての覚悟を見せた仲間。
61
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:45:47 ID:.I21kXzM0
「お前の言葉に、決意に俺は助けられた。お前自身にも、それは否定させない」
「――――っ!!し、知りません!そんなの…分かりませんっ!」
怒声を放たれてはいない。
なのに驚く程深々と突き刺さり、心を揺さぶる言葉。
受け入れてしまったらどうなるか、まるで分からない。
恐怖にも似たモノを覚え、駄々をこねる幼子のように拒絶する。
これ以上何も言わせない為に双剣の柄を組み合わせ、エネルギーを纏わせた。
インベス同様、爆散の末路をくれてやれば全てが片付く。
防御へ翳した刀をへし折る勢いで、両刃を叩き付けた。
「果穂……!お前にとっての正義を、お前の目指すヒーローの在り方を……お前自身が裏切るな……!」
「うるさいっ!嫌いです……あたしをおかしくさせることばっかり言うチェイスさんは、大嫌いですっ……!」
どうしてだろうか。
ゼインの敵となったチェイスへ、好感を抱く筈がないのに。
明確な拒絶を口に出した時、胸に見えない傷が刻まれた感覚があったのは。
「ぐっ……!」
ゼインカードを使った技は、原典のライダーよりも上。
刀の脅威的な強度故か、破壊は免れたが刀身の発するエネルギーが容赦なく痛め付ける。
ボディスーツを火花が散り、僅かにでも怯めばあっという間。
防御を崩され、橙色の刃が胴体を疾走。
「がっ!?」
短い苦悶の声と共に斬り飛ばされ、後方へと転がった。
地面へ落ちた刀が、一際甲高い金属音を発する。
互いの聴覚センサーが拾う中、先に動きを見せたのは果穂。
カード効果が切れ、無双セイバーと大橙丸も消え去るが問題無い。
持ち得る手札は豊富、新たな一枚を抜き取る。
「倒さないと…あたしが絶対に……」
自分へ言い聞かせながら、確実に倒す為の下準備を行う。
ガントレットに隠れた生身の手の甲、刻まれた令呪が一画消失。
影響は即座に表れ、右手のカードが数段階上の力を発揮可能に。
本来であれば最終フォームの力を自由に行使可能だが、殺し合いではそうもいかない。
令呪を切らねば使用不能という、ゼイン本人に言わせれば邪魔な制限。
悪意を裁くのに不要極まりない枷を、数分のみ取り外す。
「いなくなって、ください……ゼインさんの為に……!」
チェイスが消えれば、異様にざわめく心も落ち着きを取り戻す筈。
幸せの羽が齎す喜びを感じながら、ゼインに協力し正しさを貫ける。
であれば躊躇を抱く余地はない、カードを読み砕こうとし、
62
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:46:30 ID:.I21kXzM0
――『君を助けようとするチェイス達を殺すのは、君自身が本当に納得して出した答えなのか』
手が止まる。
決着を付けるのに必要な動作は、たった一つだけなのに。
それ以上動かない、動かそうと思っても無駄。
問い掛けが透明な鎖となって、右腕に絡み付く。
――『あなたの心は、本当は何て言ってるの?』
結局答えを返せなかった問いかけが、今になって聞こえて来た。
どうしてそんな、分かり切った事を聞くのか。
最初からずっと自分の口で言ってるだろうに。
幸せの羽をくれたゼイン、彼の正義の為だけに戦うのが本心。
――『俺が人を愛し、守れれば、それでいい』
だけどふと、己自身への疑問が浮かび上がる。
ゼインの正義のみが正しくて、他の正義は悪。
百人が間違いと言っても、ゼインが悪と断じればその百人を殺す。
――『果穂はみんなを笑顔にする、本当のヒーローになったんだ』
そんな自分で、みんなを笑顔になんて出来るのか。
他人の持つ正義を、たった一つの正義で否定し。
ただ言われるがままに間違いだと決めつけ、命まで奪う。
こんなものが、自分のなりたかったヒーローか。
自分が目指したアイドルの姿と、胸を張って言えるのか。
63
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:47:30 ID:.I21kXzM0
ガシャリと、硬い物が地面に落ちる音が聞こえた。
他でもない、果穂自身がゼインドライバーを外し変身解除。
生身を晒して、俯き立ち尽くすのも一瞬。
下着が丸見えになるのもお構いなしに、上着を捲り上げた。
「果穂――」
「来ないでくださいっ……!」
ダメージを伝える内部機能の音声を無視し、チェイスが立ち上がる。
だが近付こうとするのを、一際大きな声で拒絶。
動きを止めた、仮面越しにチェイスは見た。
小学生とは思えない程、憔悴し切った顔の果穂が胸へ手を伸ばすのを。
「いっ、ぎっ…!……っ」
自身の胸元、人体の肌色とは異なる金色。
植え付けられた幸せの羽、フェザーサーキットを両手で掴み。
まるで異物を取り除くように、渾身の力を籠めた。
チェイスが果穂相手に振るった刀、それこそが今の状況を作り出したと言って良い。
ゼインカードを元にパラドが生成を行った得物の名は、鳴刀・音叉剣。
音角と呼ばれる音叉型のアイテムへ呪力を流し、刀に変えた仮面ライダー響鬼の装備の一つ。
元々音叉とは特殊な音波を発生させ、所持者を鬼に変身させる道具。
響鬼の用いる装備である以上、鬼の力が音叉へ宿っていても何らおかしくはない。
そして鬼の最も特徴的な能力と言えば、魔化魍の弱点たる清めの音だ。
魔化魍が体内に蓄えた邪気を祓い、爆散へ追い込み大自然の一部へ還すように。
鎧武の双剣と打ち合う度に音叉剣が清めの音を奏で、邪気に囚われた心へ揺さぶりを掛けた。
この場合の邪気とは無論、フェザーサーキットが齎す偽りの幸せ。
音撃棒烈火に比べると効果で劣るものの、影響が如実に表れたのは言うまでもない。
幸せを齎したゼインへの絶対的信頼へ、僅かな綻びを生み出し。
畳み掛けるように投げかけたチェイスの言葉が、フェザーサーキットの支配を妨害。
膨らみ続けた自分自身への疑問は、やがて無視できない大きさとなり爆発。
それらを経た結果が、今繰り広げられる光景だった。
64
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:48:10 ID:.I21kXzM0
「ぎっ、あぐ……っああああああああああっ!!!」
声を枯らして尚も足りない絶叫。
へばり付いたフェザーサーキットは今や、肉体の一部も同然。
無理やり引き剥がそうとすれば、相応の激痛が襲う。
痛ましい姿へ駆け寄るチェイスを、しかし果穂が近付けさせない。
「だめです……っ!!」
喉を震わせた叫びは、チェイスに向けてだけではない。
自分の中から聞こえる、果穂自身の声に対してもだ。
もうやめよう、痛い思いをする必要なんてどこにもないよ。
幸せを捨てる理由が、一体どこにあるの。
「あた、し、は……」
迷わず頷けば、きっと楽になれるだろう。
泣きたい程の痛みは消えて、幸せな気持ちに戻れる。
生きてきた中で間違いなく一番の、この先絶対に手に入らない。
唯一無二の幸せを捨てる方が、どうかしている。
「あたしは……っ」
だけど、気付いてしまったのだ。
ゼインがくれたのは、大勢を傷付ける幸せだと。
自分が今までに沢山の人からもらった幸せを、否定するものだと。
あの日、公園でプロデューサーと初めて会った時。
アイドルの世界に足を踏み入れ、送って来た刺激的な日々。
明るいだけじゃない、表舞台からは見えない悔しさと涙が溢れていて。
それでも、自分が選んだ道は間違いじゃないと。
胸を張って言える、ヒーローのようなアイドルの在り方を見付けられたから。
65
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:48:57 ID:.I21kXzM0
「あたしは……っ!みんなを傷付けて……幸せになんかなりたくないです……!!」
血を吐くように、羽蛾齎す幸せを断固受け入れまいとする。
心を満たそうと侵す絶頂感と、フェザーサーキットを引き剥がすのに生じる激痛。
両者がいっぺんに襲い掛かって、頭がどうにかなりそうだけど。
これ以上大切な人達を傷付けたくない一心で、狂おしい程の苦難に抗う。
「果穂……っ」
苦しむ少女へ駆け寄らんとするチェイスだが、また別の声が意識を奪う。
どうにか受け身を取る少年と、膝を付き荒い呼吸を繰り返す魔法少女。
ゼインを引き受けた彼らは体中に傷を作り、消耗が顔にも表れている。
一方で仲間達を傷付けたライダーは、未だ存在感を保ち続けていた。
「無意味な抵抗はよしなさい。あなた方に一欠片でも善意が残っているなら、大人しく命を差し出すべきとは思いませんか?」
「悪いが……聞けない提案だ……」
「自分を正義の味方だなんて、言える資格はないけど……あなたに殺されてあげる程、落ちぶれてないわ……!」
疲労を押し殺し、立ち上がって得物を構え直す。
敵の強さが本物だろうと、戦意を吹き消すにはまるで足りない。
心をへし折るには程遠く、何度だって挑む気概は健在。
心強いくとも劣勢は否定できない状況へ、チェイスの焦りもじわじわと肥大化。
どうにかしなければならないと分かるのに、最適解は姿を見せない。
「俺は……」
余裕が剥がれ落ちるのを見計らい、憎たらしく顔を出す無力感。
人間を守る仮面ライダーでありながら、零れ落ちてばかり。
腕を失い腹を掻っ捌かれた者が、崩壊が進む体で自分を送り出した者が、善意の名の元に命を奪われた者が。
失われた命が重しとなって圧し掛かり――ソレを見付けた。
66
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:50:08 ID:.I21kXzM0
「っ!」
思わず手に取り見やるのは、記憶に保存されたのと違わぬ姿の戦士。
果穂が落としたゼインカードは偶然にも、チェイスが深く知るライダーの力が封じられていた。
令呪の効果が継続中故か、描かれたのは戦士にとっての最終形態。
忘れ得ぬ戦友のカードを目にし、弾き出される一つの打開策。
頭部の各種センサーがカードのデータを読み取り、自身が扱う為の機能として再構築。
正直に言って、成功する確率はゼロに等しい。
自分はパラドと違ってバグスターではなく、ゼインカードから装備の生成は不可能。
奇跡頼りも同然の、悪足掻きですらない奇行と見なされても当然。
だというのに、強くカードを握り締めた理由は。
それ程に余裕を失っているからか。
或いは、己の声に必ずや応えてくれる確信があったのか。
もしもここいるのが、チェイスと名付けられる前の彼だったら。
プロトドライブ時代の、ロイミュード000なら。
若しくは番人にして死神、魔進チェイサーとしてのチェイスであれば。
不可能で終わり、無常な現実が訪れただろう。
再起を願う詩島霧子の想いに応え、仮面ライダーチェイサーに変身を果たし。
人間の仲間達から、愛の力を教えられ。
守りたい者を守る為に、自爆を試み消滅し。
殺し合いにて、一人の少女と出会った。
上記全てを経て、仮面ライダーの使命感を燃え上がらせたチェイスだからこそ。
人のように感情を見せるのが不得意であれど、無機質な機械にはない心を持つが故に。
想いの強さは最大限に高まり、有り得ぬ現象を実現させる。
人間かどうかは関係無い、心意システムはロイミュードにも微笑んだ。
そう示すかのように、ゼインカードは全く異なる形状へ生まれ変わる。
「これは……」
掌に乗るソレが何かを、知らない訳がない。
考えが上手くいった驚きは一瞬に留め、強く握り締める。
ここにはいない、二度と会えない筈の仲間達の存在を感じ取り。
背を押してくれるように、『シフトトライドロン』がエンジン音を響かせた。
67
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:51:00 ID:.I21kXzM0
「進ノ介……クリム……。俺に、力を貸してくれ……!」
『ADVANCE SYSTEM』
『CHASER TRIDORON』
ブレイクガンナーへ装填し、発する電子音声は全く聞き覚えがないもの。
だが信頼する男達の力なれば、不安や危惧は皆無。
タイヤ状のエネルギーが複数重なり、チェイサーの装甲と一体化。
収束する虹色の光は攻撃に非ず、心強い戦友達が力を貸してくれる証拠。
シルバーのボディスーツに覆い被さる、真紅の装甲。
車のパーツを分解し、全身各部へ搭載させたかのよう。
『本来』は左肩部分にあるタイヤは、右肩部分に装着。
元のスマートさは損なわず、より性能を高めた形態をここに実現。
名付けるならば、仮面ライダートライドロンチェイサー。
チェイサーバイラルコアの後発品であるシフトカーのデータロードが可能な、ブレイクガンナーの拡張性。
元々プロトドライブに変身していたのもあり、仮面ライダードライブの固有形態へ変身出来るチェイス自身のボディ。
それらに加え、正義の心へ応えたシフトカーの意思。
正史では存在しなかった仮面ライダーチェイサーの新たな可能性を、この瞬間に掴み取った。
「っ!?馬鹿な……チェイサーにあのような形態があるなど……!」
未知の姿へ変身を遂げたチェイサーに気付いたのだろう、ゼインからは驚愕の声が飛ぶ。
しかし律儀に説明を行う程、親しくなった覚えはない。
優先すべきは、苦境に立たされた仲間達。
新たな姿で何が出来るかは己が目で見て来たから、戸惑いという枷を生み出さない。
シフトトライドロン右の起動スイッチを押し、固有能力を発動。
68
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:52:02 ID:.I21kXzM0
『COME ON!HUNTER!DOCTOR!BRAVER!』
『タイヤ!カキマゼール!ピーポーセーバー!』
ドライブドライバーではなく、ブレイクガンナーに装填した為か。
重低音の電子音声に呼応し、三つのタイヤが出現。
左肩部分へ装着後、一つへと合成。
これぞタイプトライドロン最大にして唯一無二の能力。
相性の良い三つのタイヤを組み合わせ、シフトカーの機能を最大以上に引き出す。
緊急車両タイプのシフトカー三台の力を、早速使わせてもらう。
円形の柵をゼインの頭上目掛け投擲、巨大化し檻へと変形。
パトカー型シフトカー、ジャスティスハンターでゼインの動きを封じる間に残る二台も行動開始。
「きゃっ!?」
「む……」
伸縮自在の梯子アームを伸ばし、二人の仲間を確保。
素っ頓狂な声を出す小夜とジークを、ゼインから引き離し自分の傍へ。
消防車型シフトカー、ファイヤーブレイバーが救助を行う間にも最後の一台が自身の役目を果たす。
即ち、果穂を苦しめるフェザーサーキットからの解放だ。
「うああああっ!?」
胸部へ複数本の光線が放たれ、果穂も声を上げずにはいられない。
痛みが走ったと思えば、また違った感覚が体を駆け巡る。
両目がチカチカする感覚へ、堪らず膝から崩れ落ち、
69
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:52:45 ID:.I21kXzM0
「果穂……!」
地面へのダイブ寸前で、抱き止められた。
「チェイスさん……え……?あたし……」
朧げな視界が徐々に鮮明さを取り戻し、見えたのは赤い瞳の仮面。
初めて見る姿だけど、自分を何度も助けてくれたヒーローだと分かり。
ふと、視線を移せば今の今まであった物が見当たらない。
幸せを齎す金の羽は無く、瞳に映るのは元の肌色。
まるで最初から存在しなかったように、果穂を苦しめた原因は綺麗さっぱり消失。
救急車型シフトカー、マッドドクターによるフェザーサーキット切除が無事完了。
聴診器モチーフの装備を複数使い、果穂を蝕む羽を取り除いた。
更に麻酔や治療も並行し行い、痛みを長続きさせない。
タイプトライドロンになり通常時以上に機能を発揮出来た為、患者への負担も大幅に非常に少ない。
「あ……」
またしても彼に助けられたと理解し、自分が何をやったかが重く圧し掛かる。
殺し合いをさせる羂索達を、ヒーローとして必ず止める。
一番最初に抱いた決意は何処へやら、ゼインに言われるがまま出会う者達を攻撃して来た。
自分を止めようとした人達に、殺すつもりで襲った。
「ごめん、なさ……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
双眸から流れ落ちた涙が頬を濡らす。
快活な笑みの似合う表情は今や、後悔と罪悪感の泣き顔だった。
70
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:53:49 ID:.I21kXzM0
「ごめんなさい……!あたし…!みんなに、ひどいことして……!」
「果穂……」
「約束…っしたのに……!チェイスさんのことも、う、裏切っ、て…!ごめんなさい……!」
チェイスはただの一度も、自分を攻撃しなかった。
傷付けようとはせず、助ける為に手を伸ばし続けた。
忘れてしまったヒーローの在り方を、思い出せようとしてくれた。
なのに一体、自分は何をやっていたのか。
傍で支えるという約束を破り、何度も傷付けた。
心から信じられて、カッコいいと思える彼を拒絶し殺そうとまでした。
助けてもらった嬉しさ以上に、罪の意識で胸を苛む。
「果穂、俺はお前が裏切ったなどと一度も思っていない」
だというのに、自分を腕の中に抱きしめながら。
怒りや失望なんてまるで宿らない、自分の知るままの声で。
チェイスは強く言い切った。
「ゼインに囚われ苦しみながらも、自分自身と戦ってヒーローの在り方を取り戻したお前は俺達の仲間だ。それは変わらない」
「チェイスさん……」
ゆっくりと手が伸び、頭へ置かれる。
少しぎこちないけれど、そこに籠められた想いが分からない筈がなく。
「よく、頑張ったな」
「……っ!」
散々傷付けた自分は、受け取ったら駄目なのに。
掛けられた言葉はどんな攻撃や罵倒よりも、深く心に響き。
何処も痛くない、温かさを齎してくれたけど。
もっと沢山の涙が溢れ、後はもう声にならない。
頬を濡らす雫に籠められたのが、罪悪感以外だと自分でも分かった。
71
:
正義Ⅴ:雨のち、マイヒーロー
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:54:21 ID:.I21kXzM0
「そうか…あなたと彼女自身で、救ったんだな」
「ああ。果穂の強さと、お前達が共に戦ってくれたからだ。感謝する」
マッドドクターの能力で回復剤を散布し、二人の仲間も傷を癒す最中だ。
安堵の笑みを浮かべたジークの隣では、小夜も同様に頬を緩める。
だがふと、頬を赤くしコホンとわざとらしく咳き込む。
「と、ところで。女の子がずっと肌を見せるのは、良くないんじゃないかしら」
「ふぇ?……ひゃあっ!?」
涙の痕が残る顔で首を傾げるも、何を指してるのか察し。
フェザーサーキット切除の際に上着を捲り上げ、今もそのまま。
お気に入りの私服の下には、スポーツブラ以外何もない。
小学生とはいえ少女、年上の異性の前で下着を見せるのには羞恥が勝る。
慌てて隠す果穂に、チェイスとジークは何となく気まずさを覚えた。
「フンッ!」
ほのぼのとした空気は、檻を砕く音と共に崩れ去る。
己を閉じ込める牢など認めない、強化エネルギーを籠めた拳で粉砕。
破片を踏みながら、ゼインが排除すべき悪意を睨む。
「ふむ……念の為に聞いておきましょうか。果穂、引き続き私に協力する意思がありますか?」
問われた果穂は緊張に身を震わせるも、ゼインから目は逸らさない。
彼の正義によって、傷付けられた人は少なくない。
悪と思う者も当然いるだろうと、理解した上で答えを返す。
「……ごめんなさい。ゼインさんの言う正義が、譲れないものなんだってあたしにも分かります。ゼインさんにとって大切な正義を、駄目だってあたしには言えません。
でも!ゼインが自分の正義で、色んな人を傷付けるなら……」
「分かりました、もう結構ですよ。あなたも私の資格者として不十分でしたね」
フェザーサーキットが外れた時点で予想出来た展開だ。
特に惜しいといった素振りも見せず、排除対象を一人追加。
対話の余地を一切見せない物言いへ目を伏せる果穂を、背に庇うは真紅の戦士。
「複製品とはいえ私のカードを利用した罪、あなた自身の命で償ってもらいますよ。チェイス」
「俺にとっての償いは、命を賭して人間達を守ることだ。お前の正義の為に、死ぬ気はない」
再び対峙したチェイスを前に、ゼインは無機質な雰囲気のまま殺意を触れ上がらせた。
相容れない両者の言葉が、導火線に火を点ける。
72
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:55:54 ID:.I21kXzM0
◆
拳を握りファイティングポーズを取るゼインは、静かに相手に出方を窺う。
タイプトライドロンのスペックは、仮面ライダードライブのデータとして把握済。
多少は手を焼くだろうが、自身の能力を上回るには至らない。
まして此度はチェイサーによる、不格好な再現態。
一歩踏み出す体勢を取った相手へ、カウンターを取るべく予測を組み立て、
「ぬぐっ!?」
胸部へ叩き込まれた一撃に、呆気なく崩された。
リミッター解除機能も備えた装甲越しに、生身まで伝わる衝撃。
ダメージを計算し、戦闘続行可能と瞬時に下す。
なれば二撃目までは許さぬと、真正面の敵を視界に閉じ込める。
が、真紅のライダーは影も形も見当たらない。
(後ろか!)
後方の気配を察知し、すかさず迎撃へ。
動力ケーブルの補強により、あらゆる方向からの襲撃にも対処は容易い。
ガントレットが打撃の破壊力を引き上げ、裏拳を放つ。
小賢しい真似に出た相手を、殴り潰す感触はない。
宙へ無数に漂う空気を切り裂き、ヒュオンと音を立てたに過ぎず。
何処へ行ったと慌てるまでもなく、別方向からの敵意で位置を特定。
拳を打ち込まんとし、だが今度はチェイサーが一手早い。
獲物を仕留める狩人の如き、脚部が音を置き去りに振るわれた。
「ヌゥ……!」
片腕を翳しゼインは防御、腕部装甲へ走る電気のような衝撃。
腕と脚で互いに押し込まんとし、不意にゼインへ掛かる力が消えた。
自ら引いたチェイサー目掛け、突き進む悪意を砕く鉄拳。
馬鹿正直に胴体で受け止める趣味は持ち合わせず、腕部を添えて受け流す。
強化合金を用いた多重構造装甲だ、ゼインと言えども破壊は簡単ではない。
今度は自分の番とばかりに、チェイサーが拳を連続し放った。
圧縮エネルギーを利用し、命中と同時に打撃力を高める。
一発二発と防ぎ、或いは躱す傍から次の拳が次々飛来。
手数と威力に優れていようと、ゼインならば完璧な対処を行える。
73
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:56:46 ID:.I21kXzM0
「ぐ、ぉ……!」
では一体、何が起きているのか。
ゼインの防御をすり抜け、仮面越しの頬を捉える。
元々肉弾戦に優れたチェイサーが、新たな形態へ進化し放ったのだ。
頭部を揺らし、視界の安定性を奪う。
これはマズいと察するのも束の間、回し蹴りが炸裂し堪らず体勢が崩された。
(何が起きている!?何故ここまでの力を……)
咄嗟に防御の構えを取りながらも、ゼインの中では疑問が尽きない。
シフトトライドロンを使い、強化変身を行ったのだとしても。
ここまで能力が引き上げられるのは、流石に予想外。
ドライブドライバーを用いず、変身者は泊進ノ介でもないロイミュード。
ならば何故だと、保存済データから正解を模索し。
「そういうことですか……ロイミュードであるが故に……!」
確かにトライドロンチェイサーは、本来のタイプトライドロンとは違う。
進ノ介とクリム、死の淵から蘇った相棒の絆が齎す奇跡の形態。
人機一体による強さを、持ち合わせていない。
しかし仮面ライダーチェイサーの強化形態だからこそ、進ノ介にはない強みも存在する。
進ノ介は唯一無二と言っても過言ではない、ドライブの資格者。
ドライブドライバーの性能を最大限に引き出せるが、肉体はあくまで人間。
強化の度合いが激し過ぎれば、当然負担も大きい。
例を上げればタイプフォーミュラだろう。
超重加速を物ともしないスピードにより、進ノ介自身もダメージを受けた。
つまりドライブに変身中、進ノ介への肉体的負担を考慮し一定の制限を必要となる。
一方でチェイスは機械生命体ロイミュード。
身体機能や耐久力も、人間の限界を優に超える。
ゼインの計算が狂った原因が、そこにあった。
進ノ介では負担の大きかったろう機能も、ロイミュード故にクリア。
制限を掛けることなく、能力を発揮。
基本スペックを含めた出力全般が、ドライブのタイプトライドロンを上回ったのだ。
74
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:57:41 ID:.I21kXzM0
かといって、ゼインに打つ手なしと断じるのは気が早過ぎる。
ライダーの戦闘はスペック差も影響するが、それだけが全てに非ず。
数値上の強さをでかでかと張り出し、どっちが上でどっちが下か。
などと表面上のデータだけで測るのは、ナンセンスの極み。
自らの強みを活かすべく、抜刀を思わせる勢いでカードを引き抜く。
描かれたライダーは、ゼインに最初から支給されたカードと別物。
アウトサイダーズとの戦いでも存在こそしたが、結局使わず終いだった。
何の因果か、浄水場を訪れるまでの間にドロップアイテムとして入手。
チェイサー相手に力を振るう機会が訪れた。
<カイザ!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
裁断と引き換えに、ライダーの専用装備が出現。
χ(カイ)の形状をし、銃身やグリップを黄色のガードパーツで覆った武器。
スマートブレイン製のベルトで変身する戦士、仮面ライダーカイザのカイザブレイガンを右手に持つ。
搭載済のスキャン装置とマーカーが、精密射撃能力を向上。
トリガーを引き、濃縮フォトンブラッドを発射。
オルフェノクを灰に変える高熱を弾に変え、悪意へ銃殺刑を言い渡す。
『GUN』
対するチェイサーも対抗すべく、ブレイクガンナーを遠距離形態にチェンジ。
シフトトライドロンを装填中なのも影響し、より高純度のエネルギー弾を生成。
無慈悲な判決へ、銃口が異を唱える。
襲い来る光弾を時に躱し、時に腕部装甲で叩き落とす。
更には敵が放った弾を、自身のエネルギー弾で貫き相殺。
如何な凄腕ガンマンでも不可能に等しい芸当を、やってのけるのが仮面ライダー。
まして高性能の各装置に加え、本人の技量も高いとくれば当然だ。
カイザブレイガンの銃撃へ対処しつつ、攻めに転じるはチェイサー。
装甲ブーツへ装着済のタイヤが高速回転。
走力を急激に引き上げ、ゼイン目掛け突進。
光弾がここぞとばかりに連射されるも、抜群の旋回力に掠めもしない。
と、カイザブレイガンの弾倉が空になり乾いた音を立てた。
再装填を終える数秒は、チェイサー相手にあってはならない隙と化す。
75
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:58:22 ID:.I21kXzM0
「……っ!」
爆発的な加速で以て、ゼインの懐へ潜り込む。
添えた銃口から吐き出されたエネルギー弾が、純白の装甲を噛み削る。
火花を散らし後退するゼインを、このまま逃がす気はない。
タイヤの回転数を再度速め、寸前で視界へ飛び込む黄色い光。
機械の体に感じる悪寒を気の迷いと切り捨てず、上体を知らし回避。
判断は正しい、突っ込んで入れば逆に一撃もらっていた。
カイザブレイガンのグリップ下より突き出た、フォトンブラッドの刀身。
切断力は皆無だが、常時放射する熱は対象を焼き斬る。
リーチの差で優位に立ったゼインが反撃に移行。
ガントレットの補助エンジンに不調無し、逆手持ちの得物を振るうのに支障は生じない。
カイザの変身者たる、草加雅人に引けを取らないばかりか凌駕し兼ねない。
近付けさせまいと振るわれるブレードを躱し、チェイサーが三度装甲ブーツのタイヤを回転。
距離を取った標的を、あえて見逃すつもりはない。
レバー部分を引き照準を合わせ、先程とは別種の効果の光弾を撃つ。
網目状の光波で相手を拘束し、瞬間的な加速を乗せた刃で切り裂く技だ。
トリガーに指を掛け、撃ち込めば片が付く。
『COME ON!FLARE!SPIKE!SHADOW!』
『タイヤ!カキマゼール!アタック1.2.3!』
されどチェイサーもまた、距離を離しつつ次なる攻撃の準備は完了していた。
カイザブレイガンの光弾が命中し、捕えられたのは分身。
複数体の分身を生み出しゼインを包囲、棘状の弾丸を一斉に撃ち出す。
ブレードを巧みに操り斬り落とすも、装甲越しに襲う熱が対処を阻む。
棘に含まれた火炎はあっという間にゼインを包み込み、やがて爆発。
我が身をマントで守りながら、煙を払い除ける間にチェイサーは眼前へ到達。
76
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 20:59:05 ID:.I21kXzM0
「目晦ましとは小賢しい!」
<ジャスティスパニッシュメント!>
カイザブレイガンを投げ捨て、プログライズキーからエネルギーを引き出す。
自ら近付いた事を後悔させんと拳を放つが、仕留めた感触はない。
手裏剣型のタイヤと火炎を纏った拳、両方と激突し弾かれ合う。
ゼインカードを使わせるまで待たない。
右肩部で合成したタイヤが三つに分かれ、踊り狂うようにゼインへ突撃。
マックスフレア、ファンキースパイク、ミッドナイトシャドー。
チェイサーの意志で操り、一つ弾けば別方向から残る二つを叩き付ける。
やがて打ち漏らした打撃がゼインの装甲を削り、たたらを踏ませた。
「この程度……!」
再び合成させたタイヤを投擲。
進化態に至ったロイミュードでも爆散は免れない威力だが、敵も一筋縄ではいかない。
両腕の交差で即席の盾を作り、勢いに押し負けるもダメージは最小限に。
<ZO!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
ゼインカードの裁断によって、記録されたライダーの能力を自身に付与。
外見に変化は見られず、武器の類も現れないが効果は発揮された。
「トォッ!」
バッタの遺伝子に由来する跳躍力で、遥か頭上に移動。
ネオ生命体と互角の戦闘力を持つ、仮面ライダーZOが秘めた大自然のエネルギーを右脚に収束。
急降下の勢いも味方に付け、神罰さながらに地上の罪人へ裁きを下す。
77
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:00:23 ID:.I21kXzM0
「お前達の力を借りるぞ」
『EXACTLY!』
傲慢な救世主の判決は、力で以て否定するまでのこと。
戦友の声に、トレーラー砲が軽快な電子音声で応える。
更にもう一台、シフトデッドヒートもまたエンジン音を激しく鳴らす。
進ノ介の仲間が自分達を頼りにしたとあらば、聞き入れない理由はない。
『デッドヒート砲!』
『Fire!All Engines!』
『ヒッサツ!FULL THROTTLE!』
コンテナ部分へ装填するは、二台のシフトカー。
シフトデッドヒートとシフトトライドロンを収納し、エネルギー充填率がこれまでの最大値をも超える。
『フルフルデッドヒートビッグ大砲!』
天より迫り来る標的を撃ち落とす魔弾が放たれた。
爆熱を纏ったその姿は、ドライブ専用のスーパービークル。
トライドロンを象ったエネルギー弾と、ゼインの蹴り技が宙で激突。
片やネオ生命体と死闘を繰り広げた、超自然の申し子の力。
片や超進化態となった、フリーズロイミュードをも下す弾。
勝利を譲る気はどちらにも存在せず、いらぬ油断を持ち込み隙を見せもしない。
互いに引けを取らぬ威力、しかし天秤が傾きを見せるはゼインか。
ZOの技でありながらも、原典の戦士を超える力を授けるのがゼインカード。
エネルギー弾が徐々に押し返され、真紅の車体が崩壊の兆しを見せる。
「くっ……!」
「今度こそ終わらせてあげましょう!」
驕りや慢心ではなく、自身の勝利へ確信を抱く。
トライドロンを蹴散らし、撃った本人を貫くのは時間の問題。
唯一無二の善意が悪意を倒す、望みの展開を引き寄せるまで残り数秒。
78
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:00:54 ID:.I21kXzM0
爆速で宙を泳ぎ、突っ込んで来るモノさえなければ実現しただろう。
「――あああああああああああああっ!?」
「なにっ!?」
決着まであと後僅かのタイミングで、予想外の妨害が発生。
激突必至の相手が何者かは、高機能な視覚センサーで即座に判明。
マゼンタ色のバックルを見れば一目瞭然。
何故今、自分の元へやって来たかの理由は捨て置く。
「ごえっ!?」
顔面を殴り付け叩き落とし、自身へ余計な傷は負わせない。
衝突には至らない、だが犯した失敗へ珍しく苛立ちが湧き出す。
ほんの一瞬とはいえ、よりにもよって今。
鎬を削る敵から意識を外してしまい、何を意味するかは嫌でも分かる。
「ぐおおおおおおおっ!?」
天秤の重しは外され、置く先は相手の方へ移った。
拮抗は完全に崩れ去り、貫く筈が押し返される。
自身の勢いが削がれるのと反対に、エネルギー弾は輝きを増していく。
放出される余波だけでも相当な熱を浴びせられ、ダメージが蓄積。
最早、勝利の女神が誰に微笑んだかはいうまでもない。
真紅の光に撃ち抜かれ落ちる姿は、裁きを下す執行人と正反対。
天罰を与えられた、傲慢な罪人のようだった。
79
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:01:41 ID:.I21kXzM0
○
「何が起きた?」
ゼインへ打ち勝ったチェイスが真っ先に感じたのは達成感。
ではなく、不可解な形で乱入した存在への疑問。
自身の勝利をアシストする形となったが、望んでやった訳ではあるまい。
地面へ転がる者を見やる寸前で、別方向から複数の気配を察知。
そちらへ警戒の必要はない、仲間の姿を見間違えはしなかった。
「おーい!みんなー!」
「マゼンタ!?…良かった、そっちも無事だったのね」
千佳を抱きかかえ、飛行し戻って来たはるか。
起動鍵を解除し、ライドチェイサーを駆るキリト。
乱入者の元へ向かった三人に、小夜も安堵で胸を撫で下ろす。
見れば向こうも自分達が全員生きてると分かり、笑みが零れていた。
「えっ、果穂ちゃん?」
はるかに降ろしてもらった千佳が、気付くや驚き駆け寄る。
自分が攫われた時、果穂はゼインの側に付いてた筈。
だけど今目の前で小夜に介抱される彼女は、最後に見た時と雰囲気がまるで違う。
仲間達を襲う様子もまるでなく、涙の痕が見て取れた。
戻って来るまでの間に、何が起きたを凡そ察するのは難しくない。
「千佳ちゃん……あの、あたしは……」
再会の喜びを素直に表すには、果穂の中で罪悪感が強い。
直接手を出してないとはい言っても、敵だったのは事実。
説得を試みてくれた千佳想いを踏み躙り、排除を選んだのだ。
やった過去は消せず、誤魔化すつもりもない。
謝らなければと口を開き掛けた時、柔らかい感触があった。
「ち、千佳ちゃん?」
戸惑いの理由は、突然千佳が自分に抱き付いたから。
目を白黒させる果穂にお構いなしで、両腕の力を強める。
胸元へ埋めた顔を上げると、瞳からボロボロ涙が零れ頬が濡れていた。
80
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:03:06 ID:.I21kXzM0
「よかったぁ……果穂ちゃんが元に戻って、よかったよぉ……!」
「っ!」
「もし果穂ちゃんに何かあったらって、そう思うと恐く、て……!あたし、もう…友達が、し、死んじゃうなんてやだから……!」
絶対に助けようと誓ったのは嘘じゃない。
仲間達と、果穂自身を信じてなかったつもりじゃない。
でも、もしかしたらの可能性を捨て切れなかった。
最悪の展開も頭の片隅で燻ってただけに、友が戻って来てくれて涙が止まらない。
「あたし……ごめん、なさい……!みんなを沢山傷付けてて……!」
「果穂ちゃんはなんにも悪くないよ……!本当に、本当に助かって良かった……!」
涙ぐむ謝罪を途中で遮り、はるかも果穂を抱きしめる。
頬を濡らし無事を喜ぶ二人の姿へ、こんなに心配させてしまった申し訳なさと。
今でも変わらず自分を受け入れてくれる感謝で、瞳がまたもや潤んでしまう。
「ふざけやがって……クソッ……!」
仲間同士で向け合う信頼を噛み締める一方で、孤独に怨嗟を吐き出す者が一人。
露出過多のセーラー服を纏った灯悟は、見て分かるように無事と言い難い。
肉体の負傷『は』放っておいても問題ないが、蓄積されたストレスで無意識に顔が歪み出す。
千佳達が放った魔法で吹き飛んだ挙句、白い仮面ライダーに殴られ地面へ落下。
激突の衝撃でネオディケイドライバーも外れ、近くには見当たらない。
だが頭の中に浮かぶのは玩具の行方ではなく、自分に舐め腐った真似をした連中への報復。
弄び、絶望と憎悪に掻き乱される様を笑ってやる予定が台無し。
ああ本当に、人間という奴はとことんこの■■■■■を苛立たせてくれる。
アスファルトへ指がめり込む、常人では有り得ぬ力で立ち上がり、
81
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:03:47 ID:.I21kXzM0
その腹部へ白いドライバーが装着。
何を言うよりも早く、急激に体の自由を失った。
「やれやれ、またしても悪意に満ちた者を資格者に選ばざるを得ないとは」
沸点の低い嘲りとは似ても似つかない、落ち着いた口調で嘆きを零す。
青く染まった瞳は、肉体の主導権を灯悟が失った証。
ダメージで変身を強制解除されたのは灯悟がだけじゃない。
トレーラー砲に撃ち抜かれたゼインも同様、地面へ激突の衝撃でドライバーが外れたのだ。
尤も、高密度焼結体を用いた外装材の衝撃吸収力で破壊は回避成功。
となれば最優先は資格者の確保であり、灯悟が新たに選ばれた。
シビトの桜井侑斗を引き続き使う選択が、なかったとは言わない。
生憎ゼインドライバーが外れた時点で、侑斗の支配も解除。
自身を蘇らせた大道克己がとっくに脱落したと、理解する自我もなく。
『KAMEN RIDE DECADE!』
偶然すぐ傍へ転がっていた変身ツールを使い、ディケイドに変身。
こうなっては別の資格者を探す方が早く、灯悟が目を付けられたのだった。
「変身」
<ZEIN RISE>
<JUSTICE!JUDGEMENT!JAIL!ZEIN!>
<"Salvation of humankind.">
プログライズキーを起動し装填、必要な工程を踏み再び仮面ライダーゼインに変身。
纏った純白の装甲も、羽織るマントもこれまでと変わりない。
額の特殊センサーが正常に機能し、この場に集まった全員の収集データを分析。
弾き出す結論は、一人残らず己が裁くべき悪。
82
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:04:42 ID:.I21kXzM0
「こ、今度はあの人が変身しちゃった……」
引き攣った声の千佳に反応してか、二体のライダーの殺気が増幅。
手を組んではいない、お互いも排除対象に含まれる。
しかし自分以外の者を殺す目的だけは一致。
ゼインからすれば、シビトの侑斗はまだ利用価値がある器。
侑斗も先に目の付いたチェイス達を、仕留めるつもりらしい。
「ありがとう、だいぶ楽になった。これでもう一度戦える」
「マゼンタやチェイスさん達だけに、押し付けてられないものね」
回復の済んだジークと小夜が立ち上がり、戦線へ復帰。
二人に遅れは取らないように、キリト達も得物を構え直す。
唯一、チェイスを筆頭に庇われていたのは果穂。
仲間達の頼もしい背を見つめ、ややあって勢い良く顔を上げた。
「あたしも……一緒に戦わせてください!」
驚く一同の視線が集まるも、怯まず見つめ返す。
フェザーサーキットの支配を解かれたばかりの自分に、気を遣ってくれてるのは分かる。
仲間達の想いを感じ、嬉しくないとは言わない。
「チェイスさん達があたしを助けてくれたみたいに、今度はあたしも力になりたいんです!だから……」
「果穂」
最後まで言う前に、一言彼女の名前を呼ぶ。
視線を合わせた果穂の瞳に迷いはなく、ただほんの少しの不安が宿ると気付いた。
戦いへ挑む事へのではない、拒否されないかという思いがある。
自分達に任せて、休んでいたって責めはしない。
守らせてくれ、無茶はするな。
言わねばならないものが複数浮かび、そのどれもが間違いではない。
(だが違う)
自分はもう知っている。
彼女が抱く覚悟が、どれ程に強固で砕けないかを。
小宮果穂という人間の強さを、一番近くで見た。
果穂の決意に、他ならぬ救われた自分だからこそ。
掛ける言葉は一つしかない。
83
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:05:31 ID:.I21kXzM0
「一緒に戦ってくれ」
「――はいっ!」
込み上げる熱さは、彼が自分を認めてくれたから。
共に戦う仲間として、信じてくれる。
偽りの幸福へ堕ち、迷走を重ねた魂へ。
今再び、ヒーローであらんとする火が灯った。
『SET』
デザイアドライバーが告げる、装着音。
悪しき龍から自分を守ってくれたヒーローを、助けたいと強く願い。
一番初めに手にした決意の証。
誰に命令されたのでなく、今度は自分自身の意思で言う。
ヒーローとして、闘争へ飛び込む為の合言葉を。
「変身っ!」
『DUAL ON』
『BEAT&BOOST』
音楽を武器にする、ビートフォーム。
燃え上がる戦意に相応しい、爆発的な強化を齎すブーストフォーム。
異なるレイズバックルを反発させず、一つの力へと構築。
己のアイデンティティーを激しく揺さぶられた、本来の変身者。
鞍馬祢音が、手紙の中の王子様と共にもう一度立ち上がった姿。
仮面ライダーナーゴ・ビートブーストフォームに、変身を果たした。
『ATTACK RIDE ILUUTION』
「あなた方の悪意を、ここで断たせてもらいましょう」
複数体の分身を生み出す破壊者と、冷徹に処刑を告げる救世主。
敵は強い、数で勝っていても容易く勝てるとは思えない。
だが自分は一人じゃなく、仲間が傍にいてくれる。
その事実がある限り、果穂は負ける気がしなかった。
『READY FIGHT』
正義の敵は悪に非ず、異なる正義故。
二つの正義は同じ道を往かない、ならば戦う以外に選択肢はなく。
今宵最後のステージが始まる。
84
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:06:14 ID:.I21kXzM0
○
<G3-X!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
シビトではなく、生存中の参加者を資格者に選ぶ最大の利点。
令呪を切り、ゼインカードをランクアップ。
対アンノウン用に開発された特殊強化装甲服、G3-Xの装備を生成。
携行型のガトリング銃が轟音を鳴らし、無数の弾を吐き散らす。
未確認生命体の強固な皮膚も貫く威力は、ライダーの耐久性をも削り取る。
対するチェイサー達も、棒立ちになってはいられない。
装甲ブーツのタイヤを急回転し、傍らのナーゴも脚部のマフラーが火を噴く。
加速能力を得た両者が縦横無尽に駆け、我が身へ弾を当てさせない。
秒間30発の連射性能を走って避ける。
普通ならば有り得ない方法を実現に至らせるのが、今の二人だ。
時折弾を叩き落とし、凌ぎ続けるチェイサー相手に新たな武器を取り出す。
銃口の先端にグレネード弾を装填し、銃身には突撃銃を装着。
G3-Xが持つ装備の中で、最も威力に優れた必殺の形態。
原典の戦士以上に威力が強化されるのもあり、ちまちま避けた程度では無駄。
広範囲を爆撃に巻き込み、二人纏めて消し飛ばす。
だがトリガーに力を籠める寸前で、ゼインの元へ急接近。
自ら飛び込む愚かな獲物と、そう嘲笑うなら間違いだ。
「シッ!」
「なに……っ!?」
グレネードの発射より一手早く、銃身を蹴り上げる。
加速力を乗せた影響で、重火器だろうと小枝のように軽い。
ゼインの意思とは無関係に、銃口が睨む先は真上へ強制変更。
午後の青空目掛け撃たれた弾は、誰一人焼かず宙で爆発し終わった。
85
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:07:07 ID:.I21kXzM0
「いつまで無駄に足掻き、死を遠ざける気ですか?」
「お前を倒す、その時までだ……!」
破壊力に優れていても、こうまで近付かれては取り回しに不便。
ガトリング銃を投げ捨て、片手タイプの突撃銃を代わりに持つ。
左手には近接戦闘用のコンバットナイフを装備。
風のエルと呼ばれるアンノウンとも渡り合った刃を突き出せば、チェイサーが腕部で防御。
片方を防がれたとて、もう一つの手は開いたまま。
至近距離で顔面に狙いを付けるが、弾は発射されない。
銃身をブレイクガンナーで弾き、力任せに照準を外す。
再び狙いを付ける前に、逆にエネルギー弾を浴びせるべく撃つ。
しかしこちらも、ナイフで弾かれ銃口はゼインから数ミリズレる。
互いに同じタイミングで蹴りを放ち、胸部を叩かれ揃って後退。
距離を離されるも攻撃は躊躇せず、ゼインの右腕が跳ね上がった。
「せやあああああああっ!」
銃声は威勢の良い声に掻き消され、弾もチェイサーへの到達を阻まれた。
ジェット噴射もかくやの勢いで、急加速したナーゴがビートアックスを振るう。
音を掻き鳴らす以外に、斬撃用の武器としても機能する拡張装備だ。
銃弾を斬り落とし、勢いを殺さずに回転。
腰の捻りを加えた一撃をゼインは両手の武器で防ぐも、衝撃は殺し切れない。
火花を散らし後方へよろけ、追撃を受ける前に次の手を切る。
<ライジングイクサ!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
素晴らしき青空の会が誇る最大戦力、仮面ライダーライジングイクサのカードを選択。
銃剣一体型のマルチウェポン、イクサカリバーで突っ込んで来たナーゴを斬り付けた。
「させるか!」
仲間への攻撃をむざむざ許容する、薄情者になった覚えはない。
装甲ブーツの回転数を上げ、チェイサーが前に飛び出る。
振るわれた脚と、鮮血色の刀身がぶつかり合う。
特殊合金製の高耐久同士な為に破壊は起きず、弾かれたように退がる。
尤も、ゼインが大人しく逃がしはしない。
イクサカリバーを銃撃形態に変え、折り畳んだ刀身は弾倉へ早変わり。
加えてもう片方の手には別の銃、イクサライザーが出現。
ファンガイアの殺傷能力を高めた、銀弾と光弾を二丁同時に吐き出す。
今度はブレイクガンナーを撃つ隙を与えず、全身の装甲を喰い破る弾が襲い掛かった。
86
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:08:02 ID:.I21kXzM0
「あたしも!チェイスさんを傷付けさせませんっ!」
『TACTICAL THUNDER』
助けられた、だから今度は自分が助ける番だとナーゴがビートアックスを掻き鳴らす。
弦が奏でる音楽が雷に変わり、ゼインの頭上から降り注ぐ。
ブーストレイズバックルの影響も合わさり、威力・範囲共に強烈だ。
地面が弾け飛び、立ち込めた煙に白い救世主が覆われる。
「フンッ!」
視界を塞ぐ煙幕を、光刃の一閃が斬り払う。
再度イクサカリバーを剣に戻し跳躍、宙での一回転を加えた振り下ろしを見舞う。
上級のファンガイアの命を神の元へ送った、斬首刑への対抗策はあるか否か。
『COME ON!DUMP!MIXER!GRAVITY!』
『タイヤ!カキマゼール!コウジゲンバー!』
無論前者だ、ナーゴが雷を落とした時既にシフトトライドロンを操作。
安全第一の文字と安全ヘルメット型センサーが特徴の、合成タイヤがチェイサーの右肩に装着。
10tマークの重りを投擲するが、しゃらくさいと両断の憂き目に遭う。
といった予想を裏切り、異変が起きたのはゼインの方だ。
「ぬぅっ!?」
重りは単なる鈍器じゃあない、重力操作を行うローリングラビティ専用の武器だ。
追い打ちを掛けるように、大量のコンクリート弾を発射。
動きに制限を掛けられたゼインは命中を許し、急激に固まり始める。
しかし二重の拘束を受けて尚、右手を動かせるのは流石の高性能と言うべきか。
イクサライザーへエネルギーを急速充填、特大の光弾をチェイサーへ撃つ。
「おおおおおおおっ!!」
対するチェイサーは真正面からの迎撃を選択。
右手のドリルを構え突進、光弾を貫かんと一点集中の構えを取った。
87
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:08:37 ID:.I21kXzM0
『REVOLVE ON』
拮抗を崩すのは両者ではなく、チェイサーの仲間。
ドライバーを回転し、ナーゴの装甲が上下入れ替わる。
稼働フィギュアを思わせる、人体では有り得ない動きはさておき。
『TACTICAL FIRE』
「でえええええいっ!!」
腕部へ装着した噴射口から火炎が吐き出され、技の勢いを加速。
先程までは走力や蹴りの強化なら、今は腕力や武器を振るった際の威力を引き上げる。
掻き鳴らす音は瞬く間に火炎となって、ビートアックスが纏う。
振り抜かれた炎刃がドリルに加勢し、光弾をより削ぎ落とす。
「がぁっ!?」
光弾を掻き消し威力が半減しようと、二人で放てば無問題。
回転刃と炎刃、双方に押し負けたゼインが地へ転がる。
鬱陶しく忍び寄る敗北の二文字を否定するべく、カードへ手を伸ばす。
対峙するチェイサー達に怯む気配は見られず、望む所とばかりに戦意を昂らせた。
88
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:09:28 ID:.I21kXzM0
○
『FORM RIDE FOURZE FIRE STATES!』
ロケット状の頭部を持つ戦士、仮面ライダーフォーゼの持つ力をもう一段階解放。
スーツの色は灼熱の赤へ変わり、専用装備の銃も出現。
消化ホースモチーフだが撃ち出すのは水じゃなく、対象を焼き尽くす炎だ。
「意地の悪いことするわね……!」
火炎弾の連射を躱しながら、マジアアズールは思わず悪態を零す。
応戦で氷の刃を飛ばすが案の定、フォーゼへ触れさせてももらえず消失。
弾をすり抜け向かったとしても、高熱を帯びた右拳で粉砕の末路を辿った。
氷と炎、率直に言ってマジアアズールとは最悪の相性だ。
ならばと距離を詰め、直接胴体へ斬り掛かるも簡単には突破不可能。
銃を近距離に適したモードにし、火炎放射が近付けさせてくれない。
コスチューム諸共炙られる前に後退、その瞬間にフォーゼは一気に仕留めに掛かった。
『FINAL ATTACK RIDE FO・FO・FO FOURZE!』
身体に蓄積された火炎エネルギー全てを、銃内部の転換装置へ流し込む。
天ノ川学園高校で、騒動を引き起こしたゾディアーツを焼き払った砲撃だ。
魔法少女の肉体であっても、直撃を許せば火傷程度じゃ済まない。
「……」
発射までの猶予は僅かだというのに、マジアアズールへ焦りは見られない。
脳裏へ浮かび上がるは、自分の命を救った一人の男(にんじゃ)。
芸術品めいた美男(イケメン)ながら、顔の良さだけが全てに非ず。
己が長髪を名刀(メス)に変え繰り出す斬撃たるや、余りの速さに敵は文字通り凍り付く程。
魔力(インチキ)を用いぬ、磨き上げた技であるならば。
89
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:10:03 ID:.I21kXzM0
「ふぅ……っ!」
ステッキに刃を形成し直し、意識を研ぎ澄ます。
彼の領域へ簡単に手が届くと、自惚れる気は毛頭ない。
であるがこの先、数え切れぬほどの死闘を潜り抜けねばならぬと言うのなら。
もう一度会わねばならない、戦わねばならない者が待つのなら。
自我なき影法師一体に梃子摺ってなど、いられるものか。
未だ至らぬ身だとは自覚の上。
覇世川左虎に及ばないのは、当然の事実。
しかし忘れるなかれ。
呪術や聖文字をロクに使えぬ頃なれど、激怒戦騎相手に持ち堪えたように。
「――ハァッ!」
マジアアズールは、決して脆き少女ではない。
ただ前に突き進み剣を振るう。
複雑な動作を挟まないからこそ、集中力を切らさずに済んだ。
刃の形成以外に魔力は用いない、だがフォーゼに刻まれた刀傷は。
僅か一瞬のみ、刀身の震えが零度を遥かに下回る空気を生み出し凍り付かせた。
火炎を撒き散らす銃が、右腕共々凍結し動かせない。
反撃には絶好の機会と誰の目にも明らか。
しかしマジアアズールもまた、今の一撃を放った直後に疲労感が圧し掛かる。
復帰を待たずにフォーゼが改めて砲撃を行い、結局無駄に終わるのか。
「いや、これで終わらせる」
無慈悲な展開に否を唱えるは、竜殺しの心臓を宿す少年。
掌をフォーゼに置き、ジークの魔術回路が起動。
自身の手は銃口となり、放つ魔力は銀の弾丸。
零距離でなければ当てられない、ピーキーな性能。
フォーゼ、否、ディケイドの分身体の組成を解析完了。
本体ならばまだしも、耐久性が劣化した複製故に問題無し。
構成する魔力…ライダーカードへ秘められた、次元エネルギーの一端を変質・同調。
装填は済んだ、フォーゼが動きを見せるも既に遅い。
「理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)!」
炎は肌を焼けず、拳は心臓を貫けない。
ガラスが割れるのに似た音を立て、片は付いた。
90
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:11:14 ID:.I21kXzM0
○
『FORM RIDE WIZARD WATER STYLE!』
青い宝石を填め込んだ戦士、ウォータースタイルのウィザードが剣を片手に斬り掛かる。
自我の宿らない分身に手加減は期待出来ず、完全に力尽きるまで斬り刻まれるだろう。
変身者がそもそもシビトなので、襲ったのが本体でも変わらないが。
「やああああっ!」
殺意のみを宿す刃の到達を阻む、ハートマークをあしらった槍。
最も使い慣れた得物を手に、マジアマゼンタが剣を弾いた。
間髪入れずに踏み込み突きを繰り出し、一撃決着へ持っていく。
残念ながら、そう容易く打ち破れる相手じゃない。
踏み込む勢いをあえて押し返さず、槍に刀身を軽く添える。
自らへ向かう力の矛先を、ほんの少しだけズラし受け流す。
よろけて生じた隙へ切っ先を差し込むが、簡単に倒されないのはマジアマゼンタも同じだ。
槍を引き戻し、身を捩りながら防御へ翳し事無きを得た。
防がれたウィザードはバックステップで距離を取り、カードを取り出す。
操真晴人が変身した指輪の魔法使いと違い、魔法の使用にはライダーカードを用いるのだ。
何らかの技を使われる前に、阻止せんとマジアマゼンタが槍を投擲。
だが相手は軽やかな動きで蹴りを放ち、難なく叩き落とす。
カードの装填も終え、バックル両サイドのレバーが押し込まれた。
『ATTACK RIDE LIQUID!』
槍を蹴られた時点でマジアマゼンタも疾走し、片手には黒槍ウォーパイク。
駆け抜け様に得物を振るい、斬った感触が穂先から伝わる。
「えっ!?な、なにこれ!?」
分身を切り裂き砕く、富良洲高校で浅倉と戦った時のとは違う。
まるで水を斬ったような手応えの無さは、正に感じた通り。
ウィザードの全身が液体に変化し、マジアマゼンタの攻撃を物ともしない。
斬っても貫いても傷一つ与えられず、液体は宙をスイスイと移動。
自身に絡み付くや実体化し、一瞬で捕らえられた。
91
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:11:42 ID:.I21kXzM0
「や…!この……!」
背後から両腕と両足を絡ませ、ガッチリと拘束。
異性に抱きしめられてる、と言うには羞恥など微塵もなく。
肌に添えられた刀身への、警戒と戦慄が大半を占める。
「マゼンタから離れてよっ!」
とはいえ此度は相手が悪かった。
友を援護すべく、すかさず千佳が魔法を発動。
『拘束』という形であれば、イノセンスは効果を最大限に発揮。
不可視の魔力に弾き飛ばされ、ウィザードが地面へ転がる。
マジアマゼンタへの不埒な行為へ、怒り心頭の千佳へ何ら思うものはなく。
『FINAL ATTACK RIDE WI・WI・WI WIZARD!』
水流を斬撃に変え、一撃で屠らんと技を発動。
四つの形態の中で特に魔力が豊富な、ウォータースタイルだ。
幼い少女の薄い皮など、中の骨や臓器共々まともに残らない。
「させないよ!」
友達に危機が迫ると理解し、マジアマゼンタが動かない筈がない。
両手に構える二本の得物。
桃色と黒色、形状の異なる槍を手に跳躍。
敵意の矛先がこちらへ向かうも好都合、二槍を思い切り振り下ろす。
「翔舞槍月閃!!」
元々は黒槍一本で放つ技を、此度はマジアマゼンタ本来の得物も加えた二本で行使。
籠められた魔力が生み出す衝撃波が、頭上より叩き付けられた。
水の刃も放つ前に潰され、分身共々木っ端微塵。
後には地面へ破壊の痕だけが残った。
92
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:13:17 ID:.I21kXzM0
○
『FORM RIDE KIVA GARURU FORM!』
左半身の上部と、コウモリを象った瞳。
双方を青色に染めた仮面ライダーキバ・ガルルフォームが睨むは、MSを纏った剣士。
異名通りの黒い装束は見えずとも、培った剣術が如何程かすぐに思い知るだろう。
と言っても、近接戦闘を得意とするのはキバも同じ。
ウルフェン族がメタモルフォーゼを果たした剣、ガルルセイバーが妖しく光る。
獲物を見付けた狼さながらの俊敏性を発揮し、キリトへ飛び掛かった。
振り下ろす剣をビームサーベルで防ぐ。
やはりと言うべきか、物理攻撃にも関わらず焼き切れない。
科学の域では測定不能の、魔族の力が宿る故か考える余裕は無し。
「っと……!」
押し返す前に敵自ら剣を引き、位置を変え襲来。
こちらも片手剣で弾くが、反撃に出るより早く三撃目が迫る。
ビームサーベルを操り防御、装甲の耐久性を不要に削らせない。
「滅茶苦茶な振り方の割には……!」
随分剣筋が鋭いと、装甲の下で引き攣り笑いを浮かべる。
型も何もない荒々しさへ全振りしてるように思わせ、急所を的確に狙う。
暴風雨の如き斬撃を時折すり抜け、斬り付けた剣は反対に防がれた。
面倒な手合いと実感を抱く間に、キバは攻撃の手段を変更。
自身の顔の前に剣を翳し、狼の頭部を模した鍔がキリトを射抜く。
「なん……っ!?」
湧き上がった嫌な予感は、決して気のせいじゃなかった。
狼の瞳が輝いたと思った次の瞬間、発せられるは猛々しい咆哮。
口内部の音波砲が衝撃を放ち、ダメージこそ薄いがその場に留まっていられない。
平均的な人間の重量を超える、ファンガイアだろうと吹き飛ばすのだ。
汎用機とはいえデュエルガンダムの装甲ですら、両足が地から浮き掛ける。
力を籠めどうにか踏み留まるも、キバは手早くドライバーにカードを読み込む。
高威力の技の出し所は、キリトに隙が生じた今を置いて他にない。
93
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:13:47 ID:.I21kXzM0
『FINAL ATTACK RIDE KI・KI・KI KIVA!』
ファンガイアを始め、魔族のみに許された力。
魔皇力が刀身に付与、柄を仮面の口部分に咥える。
奇怪な構え方と侮るなかれ、キリトを襲う勢いたるや先の何倍も苛烈。
「っ!流石に、口に咥えて斬り掛かる奴は初めてだな……!」
苦笑いも知った事かと斬り続ける。
得物の差で一本負けているにも関わらず、双剣を寄せ付けない。
上半身を捻り繰り出す斬り上げが、ビームサーベルを弾き飛ばした。
取りに行かせる猶予は当然ながら、与えられない。
片方の得物を失った隙を突く、戦法は何も間違ってない。
自分だって仮に相手が同じ状態へ陥ったら、迷わずそこを利用する。
だからキバがどう出たかに驚きはなく、納得さえあった。
「本当に――狙った通りだ」
こっちの剣が一本弾かれれば、間違いなくその隙を突いて来る。
あえて作らせた敵の有利な展開は、逆に自身が決着へ持って行く為の誘導。
無手と思振るわれたガルルセイバーを、隠し持っていたシャドーセイバーで受け流す。
敵にとっては予想外の反撃で、逆に隙を晒した。
となれば、一気に攻める以外に選択はあるまい。
ガルルセイバーを防御へ回させはしない。
空一面に輝く流星の勢いで、斬撃が襲い掛かった。
94
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:14:47 ID:.I21kXzM0
○
<キバ!エンペラーフォーム!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
刀身へ巨大蝙蝠が噛み付いた大剣、ザンバットソードがゼインの手に現れる。
ファンガイアの王以外に持つ事は許されず、関係者が知れば極刑は免れないだろう。
固い掟はゼインからすればどうでもよく、王の証も単なる道具に過ぎない。
刀身が血よりも濃い赤に染まり、魔皇力が最大まで高まった。
振り下ろし放つ斬撃もまた真紅、マザーサガークを一刀で斬り伏せた時以上の威力で飛来。
『COME ON!VEGAS!CAB!CIRCUS!』
『タイヤ!カキマゼール!アメリカンドリーム!』
高威力の技を使うのは、ゼインの専売特許ではない。
シフトトライドロンのパネルに表示された三台のタイヤを、合成し装着。
豪奢な装飾のタイヤで何をする気か、自分の目で確かめるまでゼインは待たない。
迫り来る真紅の刃へ恐れは見せず、チェイサーが片手を翳す。
能力の詳細は確認済だ、これならばいける。
出現するは、異次元と繋がったワームホール。
ディメンションキャブの能力で作ったものだが、生成した目的は攻撃吸収に非ず。
穴の向こう側から放出される、大量のカジノ用チップ。
更には賑やかな歓声と共に、ピエロ達が出現。
派手に踊れば踊る程、紙吹雪や風船が視界を覆い尽くさんばかりに溢れ出す。
「これは……!?ぐおおおおっ!?」
ロイミュードへダメージを与えるそれらが、ゼイン一人を対象に殺到。
ザンバットソードを振るい斬り刻んだ、しかし全部じゃない。
機関銃の掃射が生易しく思える程の、圧倒的物量で圧し潰す。
粉砕される末路はお断りだ、引力操作機能で走力を強化。
射程圏内へ逃れ、新たなゼインカードへ手を伸ばす。
95
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:16:11 ID:.I21kXzM0
<アルティメットバイス!>
<執行!ジャスティスオーダー!>
読み砕き効果が表れるも、これまでのカードとは違う。
武器や技ではない、ゼインの隣へ別のライダーが姿を見せた。
恐竜モチーフの装甲を纏った戦士、仮面ライダーバイス。
五十嵐一輝と契約した悪魔が、真に相棒でありライダーとしての進化を遂げた形態。
無論、ここにいるのは本物のバイスではない。
再現体(コビー)に過ぎないが、スペックはオリジナルと変わりない。
絆が入り込む余地のない、単なる暴力装置として顕現。
仮面ライダーゲンムを相手取った時同様、抵抗を許さぬ連携で仕留めるまで。
一輝とバイスの絆を踏み躙る行為だと、五十嵐家の者を始め二人を知る者は憤るだろう。
生憎ゼインに、そういった情を汲む気は微塵もない。
だからこそ、仲間という存在をゼインは甘く見過ぎた。
「果穂ちゃん!チェイスくん!」
分身の破壊者が消え、千佳が真っ先にやろうと思ったのは一つ。
元凶であるゼインと戦う仲間達へ、少しでも力になりたい。
それを可能に出来る方法を、自分は既に持っている。
他でもない、千佳にしか出来ないたった一つの戦い方。
「負けないでーっ!」
声援と共に放つ、青空のように自由奔放な少女の魔法。
痛みを与える力じゃない、けれどこれでいい。
何せゼインが最も望まない展開を、イノセンスは引き起こす。
『っ!!!??!!これはまたしても……!!』
「お、前ぇぇ……!勝手なことばっかりしやがって……!クソがっ!令呪まで使ったな……っ!」
『――っ!黙れ!今はそれどころでは……っ!』
パラドを助けようとした時とは、状況がまるで違う。
しかし、“最も自由を封じられた者の解放”は此度も発生。
有無を言わさず資格者になった、灯悟の意識が支配を逃れようと藻掻く。
必死に抑え付けるゼインの隣では、命令を受け損ねたアルティメットバイスが立ち尽くす。
追い打ちを掛けるように、攻撃のタイミングを見失った無防備な背へ激突するマゼンタ色のライダー。
キリトから連撃を受け、元の破壊者へ戻ったディケイドだ。
偶然か意図してか、倒すべき者達が一纏めに。
96
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:18:11 ID:.I21kXzM0
「チェイスさん!行きましょう!」
「ああ!」
『UNLIMITED EXECUTION TRIDORON』
『BOOST TIME』
ならば今しかない、終わらせるにはここ以外に有り得ない。
頷き合い、それぞれの変身ツールを操作。
ブレイクガンナーを押し込み、生成するのは赤いスーパービークル。
エネルギー体のトライドロンがエンジンを唸らせる。
隣に並ぶは、同じく赤い体の巨大な獣。
拡張装備、ブーストライカーをナーゴモチーフの形態で召喚した。
チェイサーとナーゴの意志に従い、一台と一頭が疾走。
ゼイン達の周囲を縦横無尽に駆け回り、真紅の檻を作り出す。
標的を閉じ込めるだけが目的じゃない。
二人揃って跳躍し、車体を蹴り反動を付けての蹴りを幾度も叩き込む。
ゼインに当たれば、蹴り貫いた先で車体に弾かれ。
ディケイドに当たれば、同様に弾かれの連続。
十を超えた時にはとっくにカード効果は切れて、アルティメットバイスは影も形も見当たらない。
「ぐ、が、あぁ……!」
ダメージに呻く声は、果たしてどちらのだったか。
カードを取り出す余裕はどちらも与えられず、装甲で殺し切れない傷が蓄積。
お互いの背が激突したタイミングで、真紅の戦士達も遥か上空へ跳躍。
決着(フィナーレ)の瞬間が、今正に訪れた。
97
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:18:59 ID:.I21kXzM0
『ヒッサツ!』
『FULL THROTTLE!CHASER!』
『BEAT BOOST GRAND VICTORY』
それは、欺瞞に満ちた善意を砕く鉄槌。
それは、太陽を背に闇を照らす希望。
それは、断ち切れぬ絆が紡ぐ英雄譚。
悪しきを貫く必殺の技(ダブルライダーキック)が。
善意の怪物と、シビトが纏いし破壊の鎧に敗北を下す。
「ごあがああああああああああああああああっ!!!??!!」
声を出せないシビトと正反対に、善意の装甲からは絶叫が上がる。
意識を急浮上させられた影響だと、灯悟に言っても何の慰めにもならないに違いない。
複数回のバウンドを経てようやく停止、衝撃でドライバーがいつ外れたかなど気付けなかった。
『マズい……!』
ゼインもまた、些事に構ってられない。
今の自分は無防備、器を早急に手に入れなくては。
想定外の敗北により、無機質な人格データへらしくもない焦燥感が生まれたのか。
人であれば血眼になったろう有様で、新たな資格者を求める。
誰でもいい。
黒の剣士、ホムンクルス、魔法少女、アイドル、ロイミュード。
目に付く者へ装着出来れば、全て片が簡単に済む。
『体を私に……!』
「いや、もう誰もお前の道具にはさせない」
聞こえた声に、人格データが覚えた感情は何だったのか。
分からない、分かる余裕なんて有る筈がない。
悉く自身の邪魔をしたロイミュードが、仮面越しに見つめていて。
その手に握る刀がギラリと光り、全てを察する。
『チェイス……!お前の体を寄越せ――』
悪足掻きは長続きしない。
器を求めた声も、最後まで言わせない。
邪悪を断ち切る鬼の刀が切り裂くは、魔化魍とは異なる悪。
大自然ではない、行き過ぎた善意は科学技術による忌子。
98
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:19:45 ID:.I21kXzM0
両断されたゼインドライバーは、一度だけ微かな光を灯し。
すぐにそれも消え失せ、完全に沈黙。
部品コードを晒すただのガラクタと化し落下。
散らばった複数枚のゼインカードが、虚しさを告げていた。
「……あっ」
「っ、果穂……!」
暫し見下ろしていたチェイスの意識は、傍らで膝から崩れ落ちた少女へ移る。
デザイアドライバーが外れ、生身に戻った果穂を抱き支えた。
目立った外傷はなく、フェザーサーキットの後遺症だってそう。
視線を合わせれば呼吸を若干荒くしつつ、見慣れた笑みを作った。
「えへへ……ちょっとだけ、疲れちゃいました……あっ、でも!羽があった所チェイスさんが助けてくれたおかげで、もう大丈夫ですっ!」
決着が付き、安堵からか気が抜けたのか。
元々の消耗も相俟って、傷はほとんどなくとも体力的には限界。
それでも、出会った時から変わらない表情を見せ。
果穂が戻って来た事を、改めて実感した。
「ゼインさんも、もう……」
「ああ……。そういえば、もう一つ奴と同じベルトがあったが……」
「えっと。あっちのベルトは変身出来ますけど、でもゼインさんはいないみたいでした」
精巧なコピー品ということか。
だとしても、よりにもよってゼインドライバーとは。
ふと顔を上げれば、仲間達が駆け寄るのが見えた。
全員消耗は見て取れるが、重症を負った者は皆無。
更に視線を移すと、捉えた先にはうつ伏せの状態からどうにか立ち上がろうと試みる侑斗。
但し傷の大きさが軽く見れるレベルを明らかに超えてるのもあり、動きは非常に緩慢だ。
99
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:20:16 ID:.I21kXzM0
「っ!?」
もう一人を見て、最初に驚いたのは誰だったか。
恐らくは全員が同じような反応だったろう。
表情を憤怒に歪ませ、二本足で立ち上がったセーラー服の少女に明確な異変が起きた。
腹部や太腿といった素肌の傷が、全て独りでに塞がっていく。
「えっ!?あ、あの人も傷を治す魔法を使ってるの……?」
「いえ、魔力を使った形跡はどこにも……」
目を白黒させる千佳の疑問へ、小夜も困惑を隠さず返す。
トレスマジアの魔法体系と違っても、魔法が行使されれば必ず分かる。
なのにあの少女、浅垣灯悟は魔法を使わず傷を塞いだ。
というよりは、勝手に再生したとの表現が当て嵌まる気がしないでもない。
「お前は一体……いやそもそも、お前は本当にキズナレッドの浅垣灯悟なのか……?」
イドラから聞いた話で、灯悟にこんな力があるとはなかった筈。
ヒーローに変身し続けた影響で、体に変化が表れた。
といった可能性もゼロでないとはいえ、頷くには躊躇が生じる。
自分達を襲った事といい、悪辣な言動の数々といい。
余りにもイドラの話と違い過ぎるのもあってか、本当に少女の正体が灯悟なのかも疑わしくなった。
「お前は、先生を殺してベルトを奪ったと言ったな。それも本当なのか?」
「……さあねぇ」
ネオディケイドライバーを持っていたのも、こうなると異なる理由じゃないか。
もしやと思って聞いてみたが、納得のいく答えとは程遠い。
本当に灯悟かどうかも怪しい異様なナニカへ、必然的に場の空気は引き締まり、
100
:
正義Ⅵ:UNLIMITED DRIVE type CHASER
◆ytUSxp038U
:2025/08/24(日) 21:21:10 ID:.I21kXzM0
視界の端で、白い機械が浮かぶのが見えた。
「なにっ!?」
見間違えでないのを全員が思い知る。。
真っ二つになった方とは別、もう一つのゼインドライバーが浮遊。
誰一人触れていないにも関わらず、意思を持ったかの動きで飛来。
ようやく立ち上がり掛けた侑斗の腰へ装着、途端に動きは機敏性を取り戻す。
精巧な操り人形の動作でプログライズキーを差し込み、あっという間に変身完了。
「そんな……!?だってあのベルトにゼインさんは……」
愕然と震えた声を紡ぐ果穂だが、起きた事は変えられない。
再び現れたゼインが何をするにしろ、ロクなものとは思えなかった。
動きを封じようと、ブレイクガンナーを突き付けるチェイスを誰も止めない。
誰もが各々得物を構え、或いは技や術の発動を試みて、
気付いた時にはもう、事は起きてしまった。
「……っ?」
違和感がチェイスを襲う。
見ている景色が今の今でと違っている。
ついさっき、という表現すら当て嵌まらない。
瞬きを終えもしない内に、見ているものが変わった。
何故、ゼインがこうも近くにいるのか。
持っていなかった筈の支給品袋を、握り締めてるのか。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板