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オリロワ:Winter Apocalypse

100名無しさん:2025/06/05(木) 18:15:53 ID:3vdtmiF60
【名前】轍迦楼羅(わだち かるら)
【性別】男
【年齢】25
【性格】他人を見下すことに躊躇いがなく、それを恥じることもない傲慢な人物。唯我独尊にして傍若無人。悪癖を悪癖と解った上で臆面もなく振り翳す無頼漢。が意外と義理堅く、自分の信念を何よりも優先して行動する硬骨な一面も持つ。
【容姿】日本人離れした長身の持ち主で、黒髪を後頭部で結い合わせているのが特徴。黙っていれば色気のある顔をしているのだが、性格が性格なので浮かべる表情も与える印象も凶悪に尽きる。初対面の相手から好印象を懐かれることはまずない。

【神禍】
『独尊者の矜持(アンスロポセントリズム・ヤコブ)』
思想:弱く無様であってこそ人間である

轍迦楼羅は戦闘の天才であり、彼の徒手空拳はそれ単体で禍者の神禍に匹敵する脅威度を誇る。そんな彼が持つ神禍は、全ての『超人』の否定。
より正しくは、人間であるにも関わらず自らを怪物だと驕る者達へのアンチテーゼ。敵の精神の形が人間とかけ離れていればいるほど、驕っていればいるほどその耐久度を劣化させる。
我は人を超えた存在と信じる者に対してはただの拳でさえクレーターを生むほどの威力を持ち、対処不能の爆速拳となって襲い掛かる。この耐久劣化は神禍に対しても適用され、迦楼羅の鉄拳を前に、薄紙のように破られるレベルまで貶められてしまう。
人間とは自分含めて誰しも弱く無様なもの。そんな情けない生物だからこそ、そこには本気で付き合う価値がある。轍迦楼羅の信念はそういうもの。

【詳細設定】
超大手企業社長の長男。典型的なドラ息子で、物心ついた頃から親の権力と金に物を言わせて遊び歩いてきた放蕩人。酒も煙草も小学生の内に覚え、それどころか夜の町で女遊びまでこなしていた程の札付きのワル。
出る釘は打たれる、それが人間の社会の通例。悪人を気取る子供など、普通は大人の悪意に叩き潰され、型に嵌められて終いだが、迦楼羅の場合そうはならなかった。何故なら彼はあまりに悪く、そして自分のケツを拭ける『力』を持っていたからだ。
戯れに始めた格闘技ではあっという間にチャンピオンになり、闇討ちに遭った回数は数知れないが、掠り傷一つ負ったことはない。
全ての人間を馬鹿にしていると言われがちで、本人もそう認めているが、迦楼羅は人間の弱さを誰より愛している。

101名無しさん:2025/06/05(木) 20:57:08 ID:2nH7HNS20
【名前】小鳥遊 宗厳(たかなし そうげん)
【性別】男
【年齢】20
【性格】冷静沈着かつ厳格。傲慢とも取れる態度の裏に、徹底的な合理性と責任感を持ち、常に集団全体の最適解を追求する。理不尽と感情論を嫌悪する一方、他者の忠誠には誰よりも敏感で、信じた相手には絶大な信頼を寄せる。
【容姿】年齢よりも年上に見える威厳ある風貌。無駄のない立ち居振る舞いと整った顔立ちを持つ。黒髪は短く整えられ、常に紺灰の軍服めいたロングコートを纏っている。

【神禍】
『遠謀の王笏(ストラテジー)』
思想:王として命令することこそが、人を救える唯一の方法である。

広範囲にわたるテレパシー通信。相手の脳に直接語りかける形で宗厳は自身の命令を届けることができる。
テレパシーを送る対象は宗厳の会社の社章を持っている人間。
しかし、この際に社章を持つ人間が宗厳に対して畏怖や畏敬という感情をわずかでも抱いている場合、宗厳からのテレパシーを通じた命令に逆らうことができなくなる。
この場合、命令された対象は身体が勝手に動くだけで、意識は残されている。

支配のためのコミュニケーションこそが、人と人を繋ぐ絆の本質だと彼は考えている。少なくとも彼の中では。

【詳細設定】
全球凍結後の現在、小鳥遊宗厳は東京の一角を根城とする“株主総会”と呼ばれる組織の総統として、凍土を生き抜く人間たちを取りまとめている。
組織名は皮肉にも旧世界の比喩だが、その名に反して内部は鉄の軍律で統率されており、秩序と成果を重視する実力主義社会が築かれている。

全球凍結が起きる約2年前、宗厳はわずか13歳にして大企業の実質的な社長に就任した。これは形式上ではあったものの、病に倒れた父親に代わり企業の意思決定を担っていたため、実質的にはトップとして君臨していた。
だが、その頃の宗厳はまだ理想を信じていた。経営においても社員の幸福と成果を両立する倫理的経営を掲げ、老獪な重役たちと衝突し続けていた。彼は数度に渡って社内の改革を進めようとしたが、結果として起こったのは不正会計の露見と一斉辞任による経営破綻だった。
地位も仲間も失った宗厳は、そこで初めて理想では人は動かないという現実を突きつけられた。だが彼は折れなかった。むしろ、あの瞬間に思想が生まれた。
人間は、命令でしか統制できない。命令があるからこそ、人は安心し、恐怖を抑え、意味を得られる。
そして全球凍結が始まり、都市機能が停止したとき、宗厳は廃墟と化した建物に居座り、荒廃した地に落ち延びてきた流民たちを一人ひとり勧誘した。
無力な者は保護し、武装した者とは交渉し、時に命を賭けて説得し、次第に小集団が拡大。やがて“株主総会”と呼ばれる武装組織が誕生する。

宗厳の会社は、轍迦楼羅の父が運営していた超大手企業のライバル企業だった。面識があるかもしれない。

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103名無しさん:2025/06/06(金) 00:03:40 ID:5ysGijGU0
【名前】蘇 鳳梨(ソ フォンリー)
【性別】女
【年齢】24
【性格】美しい物や芸術品にのみ強い執着を示し、それ以外の全てに対しては驚くほど無関心。人との会話も必要最小限に留め、感情の起伏も乏しい。
【容姿】台湾系の整った顔立ちに腰まで届く艶やかな黒髪。常に高級な絹の着物を纏い、右手には古い翡翠の指甲套を身に着けている。
【神禍】『紅蓮真玉の永劫廟(ヴァーミリオン・サンクチュアリ)』
思想:この世で価値があるのは、永遠に朽ちることのない美しさだけ

彼女が「真に美しい」と認めた物体を、紅蓮の炎で包んで「美の結晶体」へと昇華させ、異空間に収集する能力。
昇華された物体は元の性質を保ちながら、あらゆる物理攻撃や経年劣化を無効化し、永遠の美を獲得する。
淡い紅炎を纏い続け、彼女の意思で異空間からの出し入れと遠隔操作が可能となったこれらを、彼女は「コレクション」と呼び、まるで生きているかのように愛でている。
ただし彼女の美意識は極めて厳格で偏執的なため、これまでに触れてきた膨大な数の美術品に対して昇華の対象となる物は極めて限定的。
現在の「コレクション」は二十六の宝玉、七着の着物、五本の指甲套、二振りの刀剣、一体の彫像。
着物と指甲套は普段から身に着けており、物理攻撃と経年劣化を無効化されたそれらは強力な武装であり防具となっている。
なお、能力の対象は人工物や自然物に限られ、仮に「コレクション」が纏う炎に触れた者はその身を焼かれることとなる。

【詳細設定】
台湾の富裕な芸術商の娘として生まれ、幼少期から世界各国の美術品に囲まれて育った。
両親は彼女に最高の教育を与えようと努めたが、彼女は人間関係よりも美術品への愛着の方が遥かに強く、同年代の子供たちとは全く馴染めなかった。
氷河期の到来で家族を失った後、廃墟となった美術館や骨董店を渡り歩き、価値ある美術品を探しまわるようになる。
そして神禍の覚醒により、彼女は「永遠に朽ちない美」を手に入れる術を得た。
今では異空間内に美術館のような空間を作り上げ、昇華した美術品たちと共に各地を放浪している。
人間同士の争いや生存競争には一切興味を示さず、ただひたすら美しい物を求め続ける。
時折、彼女のコレクションを狙う者が現れるが、昇華された美術品たちが自動的に侵入者を撃退する。
彼女にとって人間は「美を理解できない下等な存在」でしかなく、会話も「美術品の在り処を尋ねる」程度の実用的な内容に限られる。

104名無しさん:2025/06/06(金) 00:10:12 ID:g/Dmzzk60
【名前】ロイ・ハンセル
【性別】男
【年齢】36
【性格】生真面目な性格で、いわゆる軍規バカ。寡黙で忠義に厚く、命令には従順。しかしその実、内面は激情と孤独に蝕まれており、自身の忠義がどこにも向けられなくなって久しい。人語を発するよりも咆哮の方が多い異様な存在となりつつある。昔の彼は人付き合いが下手だったが、忠誠を誓った上官に対しては絶対的な信頼を置いていた。命令がある限り、上官が間違っていようがそれを肯定し、戦場では幾度となく無謀な突撃を成功させたという。
【容姿】全身に古傷のある屈強な体躯を持つ。軍服の残骸を纏い、毛皮のような肩掛けをしている。両腕は変異が進み、半獣のような爪が覗く。白髪に濁った金色の瞳がある。

【神禍】
『狂い忠義の人狼咆(ライカン)』
思想:忠義を尽くす相手が、ただ一人いればいい。

完全な狼型の怪物へと変身する。
肉体強化、再生、感覚器の超発達を得る代わりに、人間の理性は段階的に崩壊する。変身中は「自らが忠義を誓った存在の命令」のみに絶対服従するが、忠義の対象が存在しない場合、自動的に“最も強い存在”に従属しようとする。

【詳細設定】
元は国家軍の中尉だった。全球凍結発生直後、自国は分裂し、上官も戦友も散り散りになるなか、彼は「国家ではなく、人に忠義を尽くしたい」という思想を芽生えさせる。その矢先、彼の信頼し、誰よりも敬愛していた上官が、軍を捨てて逃亡した。
これが神禍を発現させる母胎となり、数ヶ月後、任務中に神禍が発現。
狼と化して味方をも喰らい、脱走。以降、命令をくれる者を求めて放浪を続ける。

極北の戦闘部族に雇われている。
雇われている、といっても形式的なもので、戦闘時のみ使役される獣として普段は檻に閉じ込められている。
戦が起きると解き放たれて敵部隊を屠殺する存在として利用され、生きる理由を持たず、ただ命令されることだけを望む忠犬として機能している。

105名無しさん:2025/06/06(金) 06:34:29 ID:EPxsmtDk0
【名前】赤也 紅蓮(あかや ぐれん)
【性別】男
【年齢】23
【性格】
常に明るくハイテンション。やたらおしゃべりで殺戮を生き甲斐としている。

【容姿】
細身だが筋肉質の細マッチョ、地毛は黒で完全には染めきれてないプリンのような髪色のツンツンヘアー。
上半身は黒いレザージャケットのみで、ボロボロのジーンズを履いている。
全身に無数の切り傷の痕があり、血を操る際に傷口から血が滲む。

【神禍】《朱の狂詩曲(ヴァーミリオン・ラプソディ)》
思想:俺の力で全てを鮮血に染めてやるよ!

自らの血液を操作し武器とする能力。
用途は様々で刃物にすることも、弾丸にすることも出来る。
吸血行為や、操作した血液を他者に注入することで
血が混ざり合い、操る血液の総量を増やすことが可能。

【真紅の強襲者(クリムゾン・レイダー)】
血を全身に纏い、赤き怪物と化する強化形態。
熊のような大きさで、猛禽類のような鋭い爪を持ち、鮫のような禍々しい口元、蝙蝠のような羽を持つ姿となり
身体能力が数倍に増幅する反面、大量の血液を消耗するデメリットを持つ。

【血の交響曲(ブラッド・シンフォニー)】
周囲にいる生物全てを自動で襲撃する惨殺空間を展開する。
また自動で死体から血を奪い、取り込んだ血液を用いて更に攻撃範囲を伸ばす。
この能力によってライブ会場の人間は一瞬にして皆殺しにされた。
クリムゾン・レイダーとの併用は不可能。

【詳細設定】
元ミュージシャンの殺人鬼。
中学を卒業するよりも早く上京し、バイトと両立させながら音楽活動に明け暮れ
15歳でデビューしてから三年間、多数のファンに囲まれた会場でのライブの最中に彼は禍者となり
発作的に発動した神禍による血液の刃によってライブ会場は瞬時にして殺戮劇場に変貌した。
禍者になった影響で精神が汚染されて殺人衝動に飲み込まれた。
そのせいで今の彼は人々の悲鳴と恐怖に愉悦を感じる狂乱の殺人鬼に変貌した。
寒そうな格好をしているが血液操作で体温を上昇させているため、常に快適な体温を維持している。

本人すら気付いていない事実だが、心の奥底では音楽を愛する心が僅かに残っており
歌や音楽を聴くとミュージシャン時代の楽しかった記憶が走馬灯のように脳裏に浮かび上がり
血液の操作が乱れる弱点を抱えている。

106名無しさん:2025/06/06(金) 15:19:53 ID:WptDN5Z.0
【名前】No.6『姫』 / 沈芙黎(Shen Fuli)
【性別】女性
【年齢】17
【性格】
 淑やかな天真爛漫。本性を知らなければ誰もに好印象を抱かれるだろう花のような娘。
 よく笑う。いつも笑っている。絶対に他人を否定せず、分かり合えないとしても儚く笑ってそれを肯定する。
 人間は誰もが自由に生きる権利があると説き、迷う者には優しく行動を促す。他者のすべてを赦し、背中を押す。責任は一切取らない。
【容姿】
 身長145cm、体重35kg。色素の薄い金髪を膝まで伸ばした、物語のお姫さまのように儚げな風貌と雰囲気の少女。
 淡黄色のチーパオを着用し、髪には大きな向日葵の花飾りを付けている。左の眼球にⅥの刻印。
【神禍】
『第六崩壊・衰弱庭園(ホワジー・ウェンユエン)』
思想:人間は、もっと自由に生きるべきだ。

 第六の災禍。
 神が地へ降ろした花園の姫。
 姫は肯定する。すべてを赦す、楽しく行こうと背中を押す。
 たとえその先が地獄に続く崖だとしてもお構いなしに。

 自分が肯定したもののリミッターを解放する、強制限定解除能力。
 誰でも本来以上の力が出せるようになるが、無茶をしているのだから当然身体は壊れていく。
 よしんば好きにやって成功できたとしても先に待っているのは衰弱による自滅。
 花はいつか枯れるもの。姫に愛された花は美しく咲くが、時が過ぎれば枯れてしまう。

 唯一の例外は芙黎自身。自分を肯定できない人間が人を許せるわけはないので、姫は当然自分自身のことも全肯定している。
 常にあらゆるリミッターが外れた状態でありながら、彼女だけは衰弱の影響を一切受けない。
 善も悪も全肯定する姫の教義は、言うまでもなく自分に牙を剥くことも容認している。
 なのに沈芙黎が他の十二崩壊のように滅ぼされていない理由はひとつ。

 ――――姫は、生物として圧倒的に強い。

【詳細設定】

 過重神禍・十二崩壊。
 人類を滅亡に導いた黎明の十二体が一にして、数少ない生き残りのひとり。

 沈芙黎(シェン・フーリー)。
 中国にて発生した六番目の災禍。史上最も間接的な手段で人類を滅ぼした"姫"として記録されている。
 欲望の全肯定。人はもっと自由に生きていいのだと説く、史上最悪の大悪女。

 人生は一度きり。なら我慢なんてしなくていい、善いことも悪いことも、なんだってやってみたらいい。
 所詮この世は姫(わたし)の花園。姫が許す、姫が認める。楽しく生きて楽しく死にましょう。
 
 全球凍結による混乱に揺れる中国で、彼女は堕落を教義とする宗教団体を興した。
 教団の名は〈紅罪楽府〉。寒さと死の恐怖に喘ぐ民衆にとって、いかなる行いも否定しないというその教義は甘露の如く魅力的だった。
 記録上で見ても異常な速度で楽府の信徒は大増殖し、一年足らずで広大な国土は姫の庭園に変わった。

 殺人、略奪、姦淫、あらゆる悪を赦しながら。
 それを許せないと憤って誅殺する善も決して罰さない。
 誰も彼もが好き放題。もちろん死人は山ほど出ているが、恐らく現在、姫の庭ほど幸福度の高い地域は地球上に存在しない。
 なお楽府の信徒は世界中に流出している。文明の崩壊後に生まれたカルト宗教のルーツを辿ると、かなりの割合で紅罪楽府に辿り着くらしい。

107名無しさん:2025/06/06(金) 20:57:09 ID:w1hFIl1k0
【名前】ルーシア・ライネス【性別】女性【年齢】28歳【性格】物静かで慈愛に満ちた穏やかな修道女。どんな鬼畜外道な相手にも丁寧に穏やかに接する。虚無的な終末主義者【容姿】183cm 86kg 均整の取れた身体付きの、腰まで届く金髪と紫水晶(アメジスト)wl思わせる色の瞳の美女。
左肘から先を包帯で完全に覆っている。包帯の下は左腕の形をした塩の塊。【神禍】
栄光の神の千年王国よ 来れ(キングダム・カム)
:思想
神の審判は下された。人類に存続する意義は無い。皆頭を垂れて、最後の審判を受けるが良い

自身の身体を塩に変える神禍
生み出された塩は、人と人のつくりしもの全てを否定する。
人に浴びせれば死に、人造物に浴びせれば塵となり、神禍に浴びせれば消滅する。
消す対象の大きさによって必要な塩の量は変わる。通常は爪や毛髪や汗や血や垢を用いる。
神禍に関しては、神禍の強大さに応じて必要量が変わる。かつて強大極まる禍者と戦った際に、左肘から先を塩に変える事になった

【詳細設定】
スペイン出身の敬虔な修道女。
氷河期に於いて人々が信仰を失う中でも、神に対する信仰と祈りを失わなかった。
しかし、いくら祈っても、いくら信じても、神は応えることはなく、その事がルーシアに一つの答えを導き出させる。
『神は既に人を見棄てた。神は最後の審判を行う為に、人に滅びる事を望まれている』
この思想のもとに、ルーシアは出逢う人々ことごとくを殺害する巡礼と伝道の旅に出る。
神の審判の時が来たのだという事を告げて周り、賛同する者も、否定する者も、悉くを殺し尽くすルーシアは、瞬く間に欧州で悪名を轟かせるに至った。
ある時、ルーシアは極東の地に救世主が誕生したという噂を知る。
救世主は神が遣わす存在。しかして神は人類に滅びを望んでいる。つまり救世主は偽者であり、神の王国の到来を阻む者。
ならば速やかに誅すべし。そんな思いを抱いて、出逢う者を殺し尽くしながら、東へと旅を続けていた。

108名無しさん:2025/06/06(金) 21:58:46 ID:w1hFIl1k0
【名前】エリザベス・マッキンタイア【性別】
女性【年齢】
19歳【性格】
傲岸で尊大で不遜で冷酷でサディスト。徹頭徹尾自己中心的な享楽主義者。性格に反して立ち居振る舞いは優雅と気品を併せ持ち、礼儀作法に適っている。【容姿】
170cm 58kgプラチナブロンドの長い髪と、色素の薄い青い瞳の大抵の人間は見惚れる美少女。やや痩せ型
【神禍】
支配者の軛(ドミネイター・ヨーク)

:思想
全ては私の思うがままに、全てが私隷属する


鎖を出現させる神禍。
鎖は異様に頑丈で、数千度の熱にも耐え、高熱と低温に交互に曝されても劣化しない
50mの長さにまで伸びる上に、エリザベスの意のままに動き、出せる鎖の本数に上限は無い。

この鎖の本質は『鎖が突き刺さったものを、エリザベスの命じるままに動かせる』というもの。
本来の機能を超えた動かし方は出来ないが、本来の機能に沿った動かし方なら、物理的に壊れるまで使用可能。
人間に使用して、歩けと言えば、脚が折れようが歩き続けるし、自動車に使用すれば、ガソリンが無くとも動き、ハンドルを操作せずとも操作出来る。
この神禍を用いて、エリザベスはこの世界に於いても電化製品の使用を可能とし、暖房の効いた部屋で生活している。
人間に使用する為には、エリザベスに屈服していなければならず、エリザベスは主に拷問を用いて心を折ってきた。
【詳細設定】
英国の名家の出身。血統、家の財産、容姿、全てに於いて優れた存在であるエリザベスは、誰からも一目置かれる存在だった。
当人もまた、優れた才能を発揮して周囲を圧倒し、傲岸尊大な性格も、実力と家の力とで捻じ伏せていた。
既存の社会秩序が全て崩壊した時代に於いても、それは全く変わらない。
発現した神禍を用いて襲撃者を打ち倒し、屈服させた襲撃者達を支配して、所属するコミュニティの為の労働力としていた。
他者を支配して、限界を越えるまで酷使できる神禍が、エリザベスの精神を歪め、狂わせるまでは。
自らの神禍に呑まれ、精神が歪み切ったエリザベスは、コミュニティの住人全員を神禍により支配し、住む者も居なくなったバッキンガム宮殿で女帝の如く振る舞う様になった。
人狩りを行っては、捕らえてきた人間を拷問して心を折って支配下に置き、冷酷非情に隷下に置いた人間を使い潰す。
ある時エリザベスは、極東の地の救世主の噂を知る。
そんな便利な禍者(道具)が有るなら、是非欲しい。
そんな事を思い、旅立つ為の準備をしてしている方最中だった。

109名無しさん:2025/06/07(土) 00:48:21 ID:XMle7bqk0
【名前】カノン・アルヴェール
【性別】女
【年齢】12
【性格】儚げで人見知りだが、思いやりのある優しい性格。
【容姿】長い銀髪の幼女。赤色の雪国用コートを着ている。コートの下は傷だらけ。

【神禍】
『水天宮の羽衣(ヴァルナ・アクシェーヤ)』
思想:傷つく姿を見たくない。自分も、他人も。

凍らない水でできた羽衣をまとい、これを伸ばして自由に操る。
水といっても形質はスライムに近く、巻き付ければ拘束、その気になれば溺死させることも可能。
衝撃吸収の効率も高いため、着用時のカノンはある程度の物理攻撃を無効化する。
羽衣を広げれば、誰かを守ることもできる。

【詳細設定】
某国の貧民街に生まれ、両親を助けるために自ら売られる。
しかし買われた相手は子供を拷問して楽しむ殺人鬼の富豪で、檻に入れられて生き地獄の日々を送った。
寒冷化の後に移されたシェルターが突如汚物の海と化した時、神禍の相性で偶然難を逃れて外に出る。
その後飢え死にしかけていたところを親切な老夫婦に拾われ、彼らのもとで孫のように育てられてきた。

拷問のトラウマで対人恐怖症を煩っている。
それでも自分を拾ってくれた二人のように、世界には優しい人もいるのだと信じるようにしている。

110名無しさん:2025/06/07(土) 02:19:50 ID:cJiflqsM0
【名前】ジャシーナ・ペイクォード
【性別】女
【年齢】56

【性格】
冒険心と挑戦心に溢れた、力強いリーダーシップを持つ"最後の船長"。仲間を鼓舞する際には「人類のため」と語るが、同時に自身の夢や野望を隠さない。仲間たる船員に対する思いやりはあるが、最後には自分の夢を優先する極まった夢想家。

【容姿】
痩せ型で長身、初老に差し掛かり年齢相応の外見だが、その内面は活力に満ち溢れている。常に不敵な笑みを浮かべ、自信に満ちた姿勢を崩さない。飾り気のある服装は好まず、軍服に似た実用性重視の服装を身にまとっている。

【神禍】
『最果てへと至る航海(ワールドエンド・アルゴナウタイ)』

思想:誰よりも遠くに辿り着きたい。
「宇宙ステーションは近すぎる。火星ですら地球から見える範囲だ。本当は、私たちはもっと遠くまで行けるはずだろう?」

所有物を"宇宙船"に変換する能力。
ゴミは宇宙船の保存食に、壁は宇宙船の頑丈な外壁に、建物は脱出ポッドに、酸素や燃料すらその場にあるものから生成可能。

さらに、この能力はジャシーナが"所有物"とみなした人間にも適用される。"宇宙船の乗組員"として相応しい高い身体能力を得て、宇宙空間での活動や戦闘に耐えられるよう強化される。また、負傷しても活動を続けられるように痛みや疲労を軽減する。ただし、治癒効果はなく、無理をし過ぎれば死に至るリスクがある。
あらゆる物資や人員、果ては自分自身の血の最後の一滴まで、最果てへの到達という目的に捧げるジャシーナ自身の意志の体現そのものたる能力。

ジャシーナは宇宙飛行士であるが、元軍人の経歴を持ち、戦闘技術にも秀でている。能力による身体強化と物質の即時転換を組み合わせ、戦闘においても高度な能力を発揮する。

【詳細設定】
ジャシーナは氷河期の到来時、地球にはおらず、国際宇宙ステーションのベテラン宇宙飛行士兼船長として任務に就いていた。全球凍結の様子を仲間と共に観測し記録することになった彼女は、動揺する仲間を率いて平静を保ったが、内心では激しい悔しさを感じていた。
──人類の歴史は後退し、宇宙開拓どころではなくなってしまうだろう。このままでは、私の生きている間に人類は火星にすら辿り着けない。

やがて地上の人類文明そのものの退潮が極まり、生還の望みも尽きた頃、ジャシーナはひとつの決意を固める。
──人類が滅ぶとしても、宇宙への夢まで死なせてたまるか。

その強い思いが、ジャシーナを神禍『最果てへと至る航海(ワールドエンド・アルゴナウタイ)』へと覚醒させた。能力の目覚めとともに、彼女は躊躇なく宇宙ステーションの全てを「自身の所有物」として宣言し、即座に宇宙船へと作り変える。
その日、彼女は自らを『最後の船長』と名乗り、絶望に沈んだ同僚たちを鼓舞しつつも、目的地は死地でしかない地球ではないとはっきり宣言する。

彼女は同僚たちに告げる。
「地球は凍てついた墓標に過ぎない。だが宇宙にはまだ無数の星が──未来が、希望がある。私は人類最後の一人になったとしても、この宇宙船で前に進み続けるつもりだ。人類の栄光のために──それ以上に、私の夢のために」
「共に最果てを見ようじゃないか、人類最後の航海士(アストロノート)たち」

ジャシーナの夢に触発され、ある者は熱狂的に従い、またある者は戸惑いを抱えつつも希望を見出し、最終的にクルーたちは一丸となって彼女の船員となり、宇宙船は星空の彼方を目指す旅を始める。

もはやジャシーナや船員にとって、地球の救済など本題ではない。仲間の犠牲すら、時には許容される。
すべてはただ、「最果て」に至るために。

111名無しさん:2025/06/07(土) 02:33:58 ID:FZEp8FAg0
【名前】猿田 玄九郎(さるた げんくろう)
【性別】男
【年齢】71
【性格】酒と煙草を愛する豪快な老人だが、それら趣向品の嗜み方は優雅で気品に満ちている。天狗への憧憬と修行への執着が強く、求道者としての誇りを持つが、若いころから世俗と距離を取っていたため自己中心的な言動が目立つ。
【容姿】白髪白髭の痩身な老人。黄色い袈裟を纏い、背中に大きな羽団扇を背負う。年齢に似合わぬ鍛え抜かれた肉体と鋭い眼光を持つ。

【神禍】『風神の軽業(パヴァナ・チャラナ)』
思想:重い肉体を脱し、風に乗りて歩きたい

触れた物体の重量を操作する能力。
特に重量を減らすことを得意としており、物体の重量を完全に無にすることが出来る。
一方重量を増やすことはさほど得意ではないが、それでも元の重量より数倍程度まで重くすることができる。
自身の体重を軽くして羽団扇で風を起こし、空中を自在に飛び回ることが可能。
敵対者に対しては体重を無にして吹き飛ばし、高所で能力を解除して墜落死させる戦法を得意とする。
ただし生物に対する重量操作は「相手の背中に右の手のひらで触れる」ことが発動条件となるため、彼は巧妙な立ち回りで相手の懐に潜り込む技術を磨いている。

【詳細設定】
幼少期に牛若丸と天狗の伝説が残る鞍馬山にて「黄色い袈裟を纏った人物」が空を飛ぶ瞬間を目撃。
それ以来半世紀以上にわたって山籠もりをしながら独自の修行を続けてきた武道家。
肉体的な研鑽の成果は感じつつも、あの日見た「天狗」に近づけないまま、老いによって肉体が重くなってゆくことに歯噛みする毎日を送っていた。
そして世界が凍りついた後、猿田はついに天狗の力の片鱗を得たと歓喜し、より一層の修行に励んでいる。
酒と煙草を愛するが、その嗜み方は茶道のような優雅さを持ち、一服一杯に深い精神性を込める。

タツミヤ(>>26)とは文明崩壊後、複数の生存者グループを巻き込む大規模な物資の奪い合いの中で出会った。
互いに単独で生き延びてきた両者は周囲の敵を蹴散らしながら戦い続け、ついに二人を残して物資を狙う者がいなくなったため、一時的に矛を収めた。
しかしそれ以来、二人は何かと顔を合わせては小競り合いを続けている。
氷河を這う若き蛸と、吹雪を飛ぶ老いた天狗、世代も生き様も合わない両者は致命的に相性が悪い。

112名無しさん:2025/06/07(土) 04:38:58 ID:fK9BV3rA0
【名前】奇怪 推理(きかい すいり)
【性別】男
【年齢】39
【性格】冷静沈着かつ論理至上主義の完璧主義者。誰かを救うために動くことはなく、真実のためなら何人たりとも犠牲にすることに一切のためらいがない。人間離れした交渉力を持ち、自身の要求を難なく通すことができる。
【容姿】一見するとどこにでもいる中年男性。黒縁眼鏡にヨレたスーツ、古びたトレンチコート。見る者に印象を残さない容姿だが、目だけは異様に鋭く、妙な威圧感がある。

【神禍】
『第十崩壊・真相究明(インビジブル・ロジック)』
思想:真実は、暴かれるべきだ。どんなものだとしても。

推理が”暴くべき”と思った出来事や現象、事件に対し、真実に至るための推理進捗を視覚化する能力。
本人が事件と認識した対象について、事件に対応するパーセンテージが彼の視界にのみが浮かび、調査・行動に応じて数値が上昇していく。
100%に至った瞬間、対象の真実そのものを知覚できる。
ただし、真実のない事象には進捗が停滞またはループする。

この推理進捗は、平行して無制限にストックが可能である。

真実を何があっても暴くことを至上とする推理がこの神禍を使うことで、それは時として大惨事を招くことになる。
かつて、彼はある真実を暴くため、自身の神禍で暴いた秘密や後ろ暗い情報を意図的にリークし、小国間の緊張を高めた。結果、武力衝突を起こし、大勢の死者を出し。果てには────。

【詳細設定】

過重神禍・十二崩壊。
人類を滅亡に導いた黎明の十二体が一にして、数少ない生き残りのひとり。

当初は認知されていなかったものの、かつての大戦において使われた多くの核兵器たちについて、それに纏わる記録を漁れば”ある人物”の名が浮かび上がったことから認定に至る。

現在は『グリゴリ』という私設探偵組織の首魁として活動している。
温度の保たれた巨大な地下鉄跡を改造し、飢えや暴力からグリゴリへ逃げ込んだ人々に持っている有益な情報や戦力、能力を担保に物質や居住区画を与えている。
世界が崩壊したのちに、地下都市ニューヨークを拠点に情報収集を開始。
各国語を操り、卓越した交渉力、圧倒的な情報の優位を用いたスカウトを行い同業者で居ある探偵をはじめ、危険人物や殺人鬼、傭兵に元諜報員やジャーナリスト、ハッカーらを抱えるグリゴリは、今や終末後の世界において一大勢力を築くに至る。
彼自身は情報を買うためならギャングやならず者たち、危険因子と目される相手とも手を組むこともある。

しかし、彼こそは災害。
ある疑念に思い至り、”試しに”あることを実行した。
それとはすなわち。
第二次世界大戦以降、様々な国に対して交渉を行い、あるいは重要な情報をリークし。どのような手段にせよ彼の手引きによって、1つや2つどころではない数の核兵器を”使わせている”。
問題は────そういった大量虐殺によって、彼の神禍のパーセンテージは上がったのだ。
”全球凍結がなぜ起こったのか”、”なぜ神禍が発現したのか”という謎の進捗状況が、上がったのだ。
つまり、人を殺せば、真相に近づく。
グリゴリとは。彼の言う”私設探偵組織”とは。探偵、諜報員、ジャーナリスト、ハッカーらを使って得た生存者の情報を用いて襲撃、殺害を行う組織であるのだ。
推理は、これすらも真相究明のために必要な、探偵業務だと割り切っている。ゆえに、本気で、グリゴリという殺人のために作られた組織を”私設探偵組織”と呼称している。

元は法医学医。政府非公認の諜報支援を”副業の探偵仕事”として請け負っていた。
温厚な研究者でありながら、裏の顔はどんな嘘も許さない冷酷な推理魔。
当時から真実を知るためなら法律も倫理も超えると公言しており、たびたび当局と衝突していた。
彼が真実を暴く理由は、彼自身も自覚していない。ただ、生まれ持った”暴くべき”という衝動、サガに従って行動をしている。

この終末における、彼の目的はただ一つ。
この世界がなぜ滅んだのかを解き明かすこと。
全球凍結は、なぜ起こった?神禍は、なぜ発現した?何の意図がある?どうやって?なんのために?
その答えを追い求めている。
衝動のままに、例えその真実を明かす過程で、第四次世界大戦を勃発させたとしても、たとえ神に矛を向けるとしても、彼の衝動は止まらない。

────彼は、確信している。殺し合いに招かれた彼は。彼が起こしたすべての破壊、彼が起こしたあらゆる暗躍、彼が抱いた大いなる疑念。
────その答えの道筋が、この”バトルロワイアル”に結実している。今までの彼の行動は、凍り付いた世界、神の呪いの真実は、間違いなくここにある。
────殺し合いに招かれたことで、進捗状況は急激な上昇を見せている。

あるいは。
彼がそこにたどり着くことすら、神(はんにん)の筋書きなのだろうか。
真実にたどり着くことすらも。

113名無しさん:2025/06/07(土) 04:57:24 ID:fK9BV3rA0
>>112
大変申し訳ございません、一部修正させてください。

【名前】奇怪 推理(きかい すいり)✖
【名前】No.10『探偵』/奇怪 推理(きかい すいり)○

【神禍】✖
『第十崩壊・真相究明(インビジブル・ロジック)』
思想:真実は、暴かれるべきだ。どんなものだとしても。

推理が”暴くべき”と思った出来事や現象、事件に対し、真実に至るための推理進捗を視覚化する能力。
本人が事件と認識した対象について、事件に対応するパーセンテージが彼の視界にのみが浮かび、調査・行動に応じて数値が上昇していく。
100%に至った瞬間、対象の真実そのものを知覚できる。
ただし、真実のない事象には進捗が停滞またはループする。

この推理進捗は、平行して無制限にストックが可能である。

真実を何があっても暴くことを至上とする推理がこの神禍を使うことで、それは時として大惨事を招くことになる。
かつて、彼はある真実を暴くため、自身の神禍で暴いた秘密や後ろ暗い情報を意図的にリークし、小国間の緊張を高めた。結果、武力衝突を起こし、大勢の死者を出し。果てには────。



【神禍】○
『第十崩壊・真相究明(インビジブル・ロジック)』
思想:真実は、暴かれるべきだ。どんなものだとしても。

第十の災禍。
神が地へ降らせた天啓。
探偵は探る。すべてを暴き、破滅を散らして突き進む。
たとえその先が地獄に続く崖だとしてもお構いなしに。

推理が”暴くべき”と思った出来事や現象、事件に対し、真実に至るための推理進捗を視覚化する能力。
本人が事件と認識した対象について、事件に対応するパーセンテージが彼の視界にのみが浮かび、調査・行動に応じて数値が上昇していく。
100%に至った瞬間、対象の真実そのものを知覚できる。
ただし、真実のない事象には進捗が停滞またはループする。

この推理進捗は、平行して無制限にストックが可能である。

この神禍は人を殺すものではない。
ただ、真実を何があっても暴くことを至上とする推理がこの神禍を使うことで、それは大惨事を招くことになる。
かつて、彼はある真実を暴くため、自身の神禍で暴いた秘密や後ろ暗い情報を意図的にリークし、小国間の緊張を高めた。結果、武力衝突を起こし、大勢の死者を出し。果てには────。

【詳細設定】✖

過重神禍・十二崩壊。
人類を滅亡に導いた黎明の十二体が一にして、数少ない生き残りのひとり。

当初は認知されていなかったものの、かつての大戦において使われた多くの核兵器たちについて、それに纏わる記録を漁れば”ある人物”の名が浮かび上がったことから認定に至る。

【詳細設定】○

過重神禍・十二崩壊。
人類を滅亡に導いた黎明の十二体が一にして、数少ない生き残りのひとり。

当初は認知されていなかったものの、かつての大戦において使われた多くの核兵器たちについて、それに纏わる記録を漁れば”ある人物”の名が浮かび上がったことから認定に至る。
発生地点すら、その姿かたちすら尻尾を掴ませなかった陰。生死すら知られぬ第十の災禍。

114名無しさん:2025/06/07(土) 13:09:02 ID:ekFgfFbA0
【名前】『雨』の勇者/ルーシー・グラディウス
【性別】女性
【年齢】20
【性格】
 心優しく、自己犠牲に走りがち。
 自身の痛みを他人事のように見ており、死に急ぐような危うさがある。
 誰に対しても丁寧な敬語を使うが、本当に心を許した者にのみ口調が崩れる。

【容姿】
 身長174cm、一見すると華奢な体躯。
 絹のような赤い髪を腰程の高さまで伸ばしており、普段は一つに結んでいる。
 常になにかを憂うように眉尻が下がっており、エメラルドのような翠色の双眸を持つ。

【神禍】
『恵みの雨:累乗付与(ドリズル・ドロップ)』
 
 思想:人の助けになるために。

 ──神禍(エスカトン)は、自他共に癒す事は出来ない。
 そんな理の離反に、最も近いと言われた異端の神禍。
 枯れた大地に恵みを齎す『雨』のような存在である事から、この名称が付けられた。
 
 自他問わず、対象の身に付けるもの『属性』を付与させる。同時に発動出来る属性は二つまで。
 上記の属性は炎、水、雷、氷、風、毒、麻痺の計七つ。
 これらの強弱はルーシーの意思によって調整が可能。体温に近い炎や、熱湯に近い水など融通が効く。

 属性を付与させると一口に言っても応用の幅は広く、戦闘は勿論日常においても重宝する。
 例えば衣服に柔らかな『炎』を付与することで極寒を凌いだり、持っているコップに『水』を付与して飲み水を生み出したり、刃物に『麻痺』を付与して痛覚を遮断させる医療用のメスにしたりと様々。

 これらから実質的に他者の生存へ貢献する事が出来る数少ない神禍として、人類から支持を受けている。

 また、ルーシーは卓越した戦闘センスを持ち合わせており、如何なる武器も達人のように扱う事が出来る。
 例えそれが初見の武器であろうと、或いは木の棒や鉄パイプといった、文明の残り香でしかない屑物も。
 ルーシーが勇者たる所以はなにもその優しい能力だけに留まらず、彼女自身の強さにあったのだ。

【詳細設定】
 かつての空を取り戻すべく結成された四人の『空の勇者』たち。その一人。
 『空の勇者』は晴、雲、雷、雨の四人で構成されていた。

 全球凍結から一年後、人類が未だ希望を失っていなかった頃に立ち上がった勇者。
 欧州の片田舎に住まう生娘であった彼女は、全球凍結の被害により両親を喪う。
 人に優しくあれと常々両親から説かれていたことで、強い信念が形となり今の神禍に目覚めた。

 当時17歳であったルーシーは、『空の勇者』の三人目として選定された。
 人類滅亡を僅かながらにも遅めた若き英雄として、国連機関からも評価されている。

 当時の勇者四人の内、ルーシーは一番の若輩であった。
 ゆえに護られる立場であることが多く、己の力不足を悔いる日々を送っていた。
 しかし救済活動に尽力する内、世界中に蔓延っている暴走した禍者と対峙し、成長を遂げる。

 彼女を含めた四人は希望の担い手として、いつしか機関公認の英雄となっていた。
 しかしそんな順風を逆風へと変えたのは、『十二崩壊』の誕生であった。

 十二崩壊との戦闘により、空の勇者はルーシーと『晴』の二人を遺して死亡した。
 この健闘により十二崩壊の凡そ半数の討滅に成功したが、彼らの齎した国家間紛争や内乱を止める余力などなく人類滅亡が決定的となる。
 これにより『空の勇者』は事実上の解散となり、今やルーシーも過去の英雄。滅亡の瞬間を待つ民の一人でしかない。

115名無しさん:2025/06/07(土) 17:15:18 ID:XMle7bqk0
【名前】ダンヴァール
【性別】男
【年齢】23
【性格】直情的で向こう見ず。理屈よりも感情を優先しがちな暑苦しい男。
【容姿】筋肉質な青年。赤髪を逆立てていて、騎士というより不良か何かに見える。

【神禍】
『いざ行かん紅炎の男道(バードストライク・ダンヴァール)』
思想:男には、やらなきゃならない時がある。

発動すると赤髪が燃え盛る炎に変わり、熱血の化身めいた姿になる。
ダンヴァールが熱くなっていなければ発動不能だが、発動中は手足や槍に炎を纏わせて戦うことができる。
戦っている間の疲労や痛みなどは無視することができるが、能力解除時に一斉に押し寄せてくる。

【詳細設定】
自警団『守護聖騎士団(シュヴァリエ・デュ・リオン・サクレ)』の自称・一番槍。
全球凍結前はストリートファイトに明け暮れ、凍結後も戦いの中に生きていた。
しかし守護聖騎士団の理念に共感し、また団長に惚れ込む形で聖騎士団に入団。
勝手に一番槍を自称して、時には団の方針に逆らってでも男道を走り続けている。

破落戸として生きてきた経験上、世の中にはどうしたって救いようのない人間がいるのは知っている。
だがそうでない人間は別だ。どんな高尚な目的があったとしても罪のない人間が誰かの勝手で犠牲になることは許せない。
聖騎士団が持つ冷酷な側面にフラストレーションを抱えており、理想と現実のギャップに悩む日々。
騎士として使う武器は槍だが、性に合わないのか熱くなるとすぐ放り捨ててしまう。
その後慣れ親しんだステゴロに切り替えて突撃するのがお決まり。

116名無しさん:2025/06/08(日) 00:13:08 ID:2Aa1YwYw0
【名前】火星の背骨
【性別】女
【年齢】5
【性格】単純
【容姿】タコ型のエイリアン風
【神禍】
『救星・赤の錆(カリ・マルス)』
思想:この星を支配して利益を得たい
自身を中心として毎秒1m広がるオーラサークル内の湿度と温度を自在にコントロールできる。
極寒環境下で使うことで人類を救いうる、あるいは根絶しうる強力無比な神禍だが使用者の知能が低いため肉弾戦のアシストにしか使われてこなかったようだ。
【詳細設定】
スノーボールアース当日に地球の環境激変を察知し、火星より飛来した外来生物。当然地球人の言語は通じず、意思疎通は難しい。
その目的は減少した生命を全滅させて地球を火星の植民地にする事であり、手段として強靭な触手を振り回して殴り殺す原始的な活動を5年間続けてきた。
海を泳ぐのが苦手で大陸間の移動に時間がかかり、方向音痴な一面もあるため殺戮は遅々として進まない。
初期は海を進みながら全滅寸前の鳥や魚を殺し諸島地帯に到達してからは神禍使いの人間との遭遇も増え格闘技術や勝負勘が培われた。
今回の儀式においては他参加者に対する圧力として招かれており、刻まれたスティグマから儀式のルールと実行者たちの思想を理解するに十分な情報を得た。
達成の見えない殺戮に固執するより儀式に勝ち残って地球の一画に居住区の整備、あるいは月への転移と支配権の認証を確約するという甘言に乗り、彼女は参加者にその力を奮うのであった。
なお、与えられた地球人の思考情報を分析した事でその行動指針は参加前の原始的狩猟から人類の行動を先読みして行う狩りに移行しつつあるようだ。

117名無しさん:2025/06/08(日) 00:17:32 ID:a1VwDrHs0
【名前】スルト/柳宝為人(りゅうほう・すると)
【性別】男
【年齢】23
【性格】中立・善。外交的。疲弊と絶望で多少顔と声を翳らせるが、根の善良さは失われていない。
【容姿】
 黒焦げたような茶髪、前髪の先など一部部位が金色に染まってる。滅多にないが笑うとまだ子供っぽい。
 服は氷河期初期国連から支給された戦闘用コート。サイバネ風の騎士といった見た目で戦闘生活両面に優れた機能を発揮する。
【神禍】
『夜明けを待て、黄金の竜よ(デイブレイク・ドラゴンスレイヤー)』
 思想:「奪った分の責任は果たせ」「竜の打倒によって、世界は蘇る」

 ───黄金色の西洋の大剣を出現させる。
 剣は精神が折れない限り決して刃毀れせず折れもしない不壊の材質だがあくまでそれだけのものでしかない。この神禍の真価は別にある。
 自身より強大な敵を「竜」と認定し、「竜」を討ち取る───殺害する事でそれに相応しい「財宝」を手にする事ができる。
 
 財宝には「金禍型」と「財禍型」に区分される。
 金禍型は武器・能力の具現。倒した禍者の神禍を模したものが多いが、その場を切り抜けるアイテムであったりもする(食料、回復など)。消費型で、かつ現在のスルト上回る禍者も少ないためストックは数少ない。
 財禍型はパッシブ効果。肉体強化系の禍者と張り合えるほどの身体能力を持ち、百に届く死線を潜り抜けた経験値で鍛え上げられた精神力、相手の神禍を見極める戦略眼も合わさり、スペック以上に粘り強い。 
 
 物語において竜を倒した者には報酬が与えられる。それは尽きぬ財産であったり、強力な武器であったり、美しい伴侶、豊かな国、平和な世界であったりもする。
 奪ったからには責任を果たせ。辛苦に見合う報酬を用意しろ。
 凍結地球での弱肉強食の理への適応と、悪を倒せば世界は平和になるという、過去に謳われた幻想の現実的な解釈。
 襲い来る怪物と絶望の未来に抗うと決めた信念を両方叶えた神禍である。
 ───悲しいかな、破壊の指向性に縛られる神禍ではどれほどの大悪を倒しても「万人を救うほどの財宝」は得られない。

【詳細設定】
「竜禍(エスカ・ドラコー)」「崩壊減数式(ナンバースレイヤー)」の異名で伝わる、最も多くの禍者を殺してきたとされる禍者殺し。
 国連が機能していた時期はエージェントとして各勢力を巡り連携を取る仲介の特使のような役目だった。
 法政が完全に崩壊した後もツテは機能しており、自警団、犯罪組織、暴走族、宗教団体と、組織の体を保った共同体と接触して時に協力し、時に敵対。
 より強い脅威、絶望的な戦地を聞きつけては積極的に介入するが、自殺志願とも殺人狂とも程遠い。

 戦場に臨む事になった切欠は、この時代ではごくありふれた悲劇と決意だ。
 後に伝説と語られる神禍も、初めはただ多少硬い剣というだけの脆い支えでしかなかったが、人との縁には恵まれていた。
 仲間に友に組織に支えられ、信頼に応えようと常に前線に立ち少しずつ強くなる日々。己の能力を把握したタイミングで、ふとスルトは思いついた。
 竜禍は倒した敵の強大さに応じた財宝を得る。ならば世界を滅ぼすだけの竜を討てば───世界を救うだけの財が手に入る。
 人類滅亡の尖兵、過重神禍・十二崩壊の打倒に熱意が向かうのは必然だった。分析と研鑽を重ね邪竜に心臓を穿つ瞬間を心待ちにするが、図らずも転機は訪れた。
 
 地球を覆う氷河期を覆す希望の計画の中核───人工太陽の創造。
 小さくも核融合に類する神禍だった被検体の少女の暴走により目覚めた第九の災禍、『第九崩壊・超神融星(ヘヴンズシャイン・ニュークリアワールド)』。
 仲間であり、友であり、想いを寄せていた人が竜と化した絶望に折れかかるが、少女から自身を止めるよう願いを受け奮起し剣を抜く。
 肉体は蒸発するがその間に剣は心臓に届く、そうすれば世界を救う財禍が作れる。希望を残せる。
 贖罪も込めた覚悟の一撃は確かに心臓を穿ち───だが結果は『スルトの完全再生』という結果のみ。
 結論は示された。
 竜禍は奇跡を起こす。だがそれは世界には還元されない。ただ自己を竜のように強くするのみだ。
 
 以降も続く十二崩壊討滅作戦に参加。死が触れ合う地獄の只中で戦果を残し、生還後も行き過ぎた禍者やゴグ狩り、残る十二崩壊の討滅を続け各地を転々としている。
 しかし絶望する事は許されない。まだ返さなければならないものがあるからだ。
 刻んだ神禍の名と思想に懸けて、邪竜と変じた自身に始末をつける。それに足る敵と戦場が何処かにあると信じて。

118名無しさん:2025/06/08(日) 00:29:30 ID:zHYwRPBM0
【名前】石光復(シー・カンフー)
【性別】男
【年齢】30
【性格】誰に対しても愛想が悪く無口。筋金入りの利己主義者で、他人を踏みつけにする事に躊躇がない。
【容姿】目の下に深い隈がある、常に鬱然とした顔をした短髪の男。茶髪。眼を見張るような美形だが付きまとう陰気な表情が台無しにしている。
【神禍】
『饕餮文・修格斯大神仙(ショゴス)』
思想:この世の誰よりも、一日でも長く生きたい
 玉虫のような光沢を放つ不定形の怪物を出現させ、命ある限り使役することが出来る。
 明確な形を持たないため自由自在に変形させることが可能。そのため攻防一体で隙がない。
 あくまでも神禍なので光復が生存しており、かつ生への渇望が健在である限り不死身の存在。
 この怪物は特に生物を捕食する事に特化していて、ショゴスが人間を捕食した時、食らった人間が持っていた生命力の一部を光復に供給してくれる。末期病人だった光復がジリ貧とはいえ五年間も延命出来ていた理由はこれ。
 これまでは光復の病状が酷すぎて明らかになっていなかったが、完全健常体で吸収を行うと超過分の生命力はショゴスの強化に使われる。
 つまり、食らえば食らうほど強くなるという分かりやすい性質。
【詳細設定】
 地球寒冷化が始まった時点で難治性の癌を患っており、世界の混乱そっちのけで延命のためだけに活動していた。
 祖国で爆発的な流行を見せていた堕落のカルト教団に所属し、その教えに乗る形で神禍での人食いを繰り返し寿命を稼ぐ。
 恐るべき人食い禍者、『饕餮』とは他でもない石光復のことである。
 だが中途半端に延命し続けたのが災いしてか、癌は全身のあらゆる場所に広がり、生きれば生きるほど苦痛が強まっていく状態だった。
 苦痛から逃れるため大量に使っていた麻薬が原因で重度の中毒者にもなったが、依存症で会話が不可能になっても生への執着は全く薄れなかった。
 それでもいよいよ限界を迎えかけていた所でバトルロワイアルに参加させられ、そこで奇跡を見る。
 全身の癌は消え、麻薬の中毒症状も消失して石光復は完全な健常体になった。

 石光復はルクシエルによって救われた“奇跡の生き証人”なのだ。
 光復はルクシエルに心酔し、救世主を娶るためになら何をしてもいいと確信している。
 自分以外を決して顧みなかった男の変心は初恋であり、同時に“長く生きたい”という思想の表れでもあるのは言うまでもない。
 救世主の隣こそが自分を最も長く生かしてくれる場所だと知った光復に迷いはない。救世主を手に入れるためにあらゆる手段を尽くすだろう。

119 ◆EuccXZjuIk:2025/06/08(日) 03:53:24 ID:nL1UvCGk0
皆様、沢山の投下ありがとうございます。
参加者公募の締め切りおよび投票日程についてお知らせさせていただきます。

期限について暫定一ヶ月としておりましたが、現在予想以上の速度で参加者が集まっている状況です。
こうまで早いペースで応募いただけるというのは正直なところ予想外で、企画主としてとても嬉しく思っています。
ただ現時点で90名ほどの候補キャラが集まっている都合、当初予定していた期限ですとキャラ数がかなり多くなってしまい投票先を選ぶ上で負担をかけてしまいそうですので、期限の方を正式発表すると共に予定より期限を早めさせていただこうと思います。

・参加者募集期限を「6月18日 AM0:00:00まで」に正式決定します。
・投票期間を「6月18日 AM1:00:00〜PM23:59:59まで」とします。
・投票で決定する参加者数については実際の投票数を見て>>1の方で決めさせていただきます。
・投票に用いる専用掲示板及び投票のシステム・ルールに関しては追って連絡いたします。

以上になります。
当初の予定より大幅に早める形になってしまい申し訳ありませんが、ご承知の程よろしくお願い致します。

120 ◆EuccXZjuIk:2025/06/08(日) 03:58:43 ID:LWICBES60
訂正
・参加者募集期限を「6月18日 AM0:00:00まで」に正式決定します。

・参加者募集期限を「6月18日 AM0:00:00まで」とします。

121名無しさん:2025/06/08(日) 04:47:22 ID:7ps9gtSA0
【名前】No.8『恐獣』 / ルールル・ルール
【性別】雌
【年齢】15(推定)
【性格】純真無垢。獣の温情と暴性を兼ね持つ。かなりの気分屋。
【容姿】燃えるような黄銅の体毛に包まれた四足歩行の獣。
    体長は諸説あり。5mを超える巨体として暴れまわった記録から、30cm程度の小動物だったとの報告まで。
    本人の意志で体積を変更できるというのが通説。腹部の毛並みにⅧの刻印。
    極少数、人間体の姿を見たとの報告もあるが、信憑性に乏しく公的には記録されていない。

【神禍】『第八崩壊・原獣再帰(リクレイオ・ビースト)』

 思想:自然に回帰し、思うがままに野原を駆け抜けたい。

 第八の災禍。
 神が地へ降ろした密林の恐獣。
 獣は疾駆する。本能のままに、立ちふさがる全てを引き裂き蹴散らして。

 自身を不滅の獣に変貌させるという単純明快な能力。されど恐るべき野生の暴威。
 膨大な膂力から放たれる爪牙の一撃は、鋼鉄すら容易く引き千切る。
 咆哮は空気振動だけで周囲を崩壊させる天然の音響兵器。
 無駄なき筋繊維の連携駆動により猛スピードで移動する巨体は、前進のみで建物を轢き潰す災害に等しい。
 黄銅色の毛並みは滑らかでありながら、鋼を編み込んだように硬質であり銃撃すら通さない。
 総じて凄まじい生命力。加えて周囲の緑化が進むという環境変異能力を備えたとされる。

 それは獣化の神禍に目覚めた蛮族達の長となり、増大した群れは〈暴進獣群〉と呼ばれた。
 人域に侵入した獣群と国家の衝突は苛烈を極め、最後には相打ちに終わったという。
〈暴進獣群〉は他の崩壊との衝突、勇者との交戦を繰り返した末に離散。長もまた重傷を負い消息を絶つ。
 その頃には既に多大な被害を受けていた南米の秩序は崩れきっており、収まらぬ寒気を前に立て直す希望は皆無であった。
 
 今や無意味な考察となるが、第八崩壊が明確に人類に害意を抱いていたかは疑問が残る。
 境界を踏み越えたのは群れであるが、攻撃を仕掛けたのは国家が先であった。
 以降、コミュニケーションも図れぬまま、報復合戦の様相を模したとされる。

 神禍である以上、人としての姿があったはずだが公式の目撃証言はない。
 発生の観測された密林近辺では、辿々しい発声による歌を聞いた、との報告もあるが関係性は不明である。
 

【詳細設定】

 203X/XX/XX

 過重神禍・十二崩壊。
 人類を滅亡に導いた黎明の十二体。

 南アメリカ大陸、ブラジルにて発生した八番目の災禍。
 史上最も原始的な手段で人類を滅ぼした"恐獣"として記録されている。

 なんて伝奇じみた話が伝わったのも今や昔のこと。
 すっかり人類の居なくなった南米にて、私は旅を続けている。

 世界は過酷になるばかりで、なかなか筆を取る時間もない。
 旅の途中で死にかけるのも日常茶飯事。
 たとえば、かつて7カ国にまたがる大自然であったアマゾン熱帯雨林を横断する道程。

 全球凍結以後、滅びた世界を見てきたけれど、これほど緑の残る地域は初めてだった。
 とはいえ、かの大自然すら今や僅かな緑地を残すのみ。着実に凍結に飲み込まれ、滅亡を待っている。
 
 なので数週間前、寒冷地域と同装備で十分、と油断した私は見事に遭難の憂き目にあった。
 獣の生息する湿地で磁場狂いに対応できず食料の大半を失い、足を捻挫した日には旅の終わりを覚悟した。
 偶然にも、あの少女と出会わなければ、間違いなく泥中に骨を埋めていただろう。
 
 彼女は日焼けした小柄な体躯に、獣皮で出来たマントを羽織っていた。
 鬣のように黄銅色の長髪を靡かせ、軽い身のこなしで樹から樹へ飛び移る。
 周辺部族は全滅したと聞いていたけど、知られていない生き残り集落があったのだろう。

 最初は酷く警戒され、引っ掻かれたり噛みつかれもした。
 けれど一週間も根気強く話し続け、菓子を与えたりしている間に、少し心を開いてくれたのだろうか。
 菓子のお礼なのか食料を分けてくれたり、最後には密林の出口へ案内までしてくれた。

 少女には感謝の念が尽きない。
 名を聞こうにも言葉は通じなかったが、一度だけ辿々しい口調で「るーるる、るーる」と応えてくれた。
 以降、彼女を「ルー」と呼称したが、意図が伝わったかは分からない。

 別れの日。出口を目の前にした私が、礼を言おうと振り返ったとき。
 丁度、少女が密林の奥に飛び退り、暗中に消えていくさなか。
 捲れ上がったマントの内側に一瞬見た、少女の腹部に刻まれた『Ⅷ』の印が、強く目に焼き付いている。

 明日、南米を発つ予定だが、暫く私の耳には残り続けるだろう。
 もうじき凍結に飲み込まれる密林の奥から僅かに届いた、「るー、るー」という、あどけない歌声が。


 ―――『とある旅人の日誌』より抜粋。

122名無しさん:2025/06/08(日) 05:13:01 ID:dDLzu8kw0
【名前】No.2『金獅子』 / ライラ・スリ・マハラニ
【性別】女性
【年齢】23
【性格】傲岸不遜にして尊大。自分こそが最強であり、この世界で唯一価値のある存在だと信じて疑わない。弱者を見下し、強者には興味を示すが、それも自分の力を証明するための踏み台程度にしか思っていない。
【容姿】マレー系の美しい顔立ちに、腰まで伸びた深い黒髪。琥珀色の瞳には常に獰猛な光が宿っている。額の中央にⅡの刻印が深く刻まれ、それを隠すように金色の髪飾りを着けている。伝統的なマレーの王族衣装を模した豪奢な金襴の衣を纏い、首には巨大なライオンの牙で作られたネックレスを下げている。右手には黄金に輝く三叉の短槍を携帯し、獅子の名に相応しい威圧的な佇まいを常に保っている。

【神禍】
『第二崩壊・獣狩猟法(ラジャ・シンガ・ペルブルアン)』
思想:強者だけが生き残る権利を持つ。弱者は強者の糧となれ。

 第二の災禍。
 神が地へ降ろした黄金の獅子。
 獅子は選別する。力による法を敷き、強き者を讃える。
 たとえその先が地獄に続く崖だとしてもお構いなしに。

 一定範囲内を「猟場」として支配し、その中では絶対的な力の序列が適用される神禍。
 猟場内の全存在は自動的に「王」「狩人」「獲物」の三階層に分類され、上位者は下位者に対して圧倒的な身体能力向上を獲得する。
 階層は流動的で、下位者が上位者を「狩る」ことで昇格可能だが、常に頂点に君臨する「王」の座はライラ固有のものである。
 猟場内で狩りが行われる度に、狩られた者の生命力と闘争本能がライラに還元され、彼女の肉体と精神を更に強化する。
 つまり猟場が活性化すればするほど王である彼女の力も増大し、やがて一国の軍隊をも単身で蹂躙する怪物へと成長していく。
 猟場は彼女の意思で自在に拡大縮小でき、最盛期には都市圏全体を包み込む規模にまで達していた。

【詳細設定】

 過重神禍・十二崩壊。
 寒冷化現象の黎明期、地球上に十二体発生したとされる特級の災禍。
 人類滅亡の引き金となった災禍の一体にして、東南アジア全域を血と恐怖で染め上げた「金獅子」。

 ライラ・スリ・マハラニ。
 マレーシアにて発生した二番目の災禍。
 絶対的な力による支配で文明社会を根底から破綻させた暴君として記録されている。
 弱肉強食の掟。生存競争こそが進化の原動力であり、淘汰されるべき弱者を温存することは種全体への冒涜だと説く独裁者。

 彼女は農家の娘として生まれ育ったが、持ち前の武芸の才覚で田舎町の自警団に参加していた。
 武術に長けた幼馴染のラタン・サリム(>>30)と共に、彼女たちは村人たちの頼れる守護者として慕われていた。

 しかし全球凍結の混乱で治安が急速に悪化する中、神禍覚醒と共に彼女の中で何かが決定的に壊れた。
 突如として「弱者を守る」のではなく「強者だけが生き残る世界」こそが真理だと確信し、180度転換した思想を実行に移した。

 神禍覚醒からわずか一夜で、彼女は故郷の田舎町全体を猟場に変えた。
 顔見知りである住民たちに生存を賭けた競争を強要し、勝者には豊富な物資を、敗者には死を与えた。
 この狂気的な統治は瞬く間に周辺地域に波及し、半年も経たないうちにマレーシア全土が彼女の猟場と化した。
 更に彼女の影響は国境を越えて拡散。タイ、インドネシア、ベトナムの各地で彼女の思想に感化された模倣者たちが現れ、東南アジア全域が無秩序な殺戮の場となる。
 各国政府は彼女の鎮圧を試みたが、猟場内では軍隊すら彼女の支配下に置かれ、組織的な抵抗は不可能だった。

 国際社会が彼女を「第二崩壊」として認定した頃には、既に東南アジアの文明インフラは完全に崩壊していた。
 生き残った人々は彼女の掟に従って生存競争を続けるか、危険を冒して他地域へ逃亡するかの二択を迫られた。

 竜禍(>>117)の支援を受けた幼馴染――ラタン・サリムとの最後の対峙は、故郷の町の中心部で行われた。
 かつて二人が平和を誓い合った場所で、今度は互いの思想を賭けた死闘を繰り広げたのである。
 結果的にサリムは重傷を負いながらも逃亡に成功したが、この戦いで彼女は「過去の弱い自分」を完全に葬り去ったと確信した。

 やがて人類滅亡が決定的となり、他の十二崩壊と同様に彼女も表舞台から姿を消した。
 しかし東南アジア各地に残された「猟場の痕跡」は今なお機能しており、彼女の生存を示唆している。
 現在も世界各地で散発的に確認される「生存競争型コミュニティ」の多くが、彼女の思想的影響下にあるとされる。

123名無しさん:2025/06/08(日) 07:29:50 ID:UgMzoijI0
【名前】
ラファエル・ゲレロ【性別】
男【年齢】
32歳【性格】
冷静かつ理知的で穏やかな人格……と見えて無感情無感動な虚無主義者【容姿】
193cm・117kg 精悍な風貌に短く刈り込んだ髪の黒人。戦闘の為に身体を鍛え込んでいる。【神禍】
人の終わりの刻(エクスティンシオン)

:思想
人類の歴史は終わった。もはや速やかに滅びるべし


自身を起点として人類の生存を許さないキリングフィールドを展開する。
国一つを覆う程の広範囲に展開され、ラファエルに近づく程に効力は強まる。
範囲内に入った者は、旧人類であれば即死。禍者であっても500m圏内に入れば呼吸、脈拍、新陳代謝、栄養の吸収といった肉体の生体活動が低下。100m圏内にはいれば絶命する
但し、これは並の禍者話であり、強大な禍者であれば、接近して触れる事さえも可能となる。
ラファエルに近づく程に効果が強くなるという性質上、ラファエルとの接触はラファエル神禍の効力を最大威力で味わうという事でもあるが

コノバトルロワイアルに招聘された者たちは、皆が皆破格の強者である為に、ラファエルの神禍に影響は受けても即座に死ぬ事は無い

神禍に対してもこの能力は効果が有り、遠距離攻撃の類はラファエルに到達する前に朽ち果てる。

戦闘時には、適度に距離を取って自身の神禍による弱体化を施し、弱り切るのを待つが、接近された場合は徒手格闘により神禍を直接の撃ち込んでくる。
【詳細設定】
南米の国エクアドル出身。氷河期の到来と禍者による混乱で中南米の諸国家は政府機能が停止、更にはエクアドル比較的寒さがマシな赤道直下の国であった為に、大国からの軍事信仰に晒される。
エクアドルは完全に国家が崩壊し、暴力が支配する無秩序の領域と化した。
ラファエルは破滅した祖国の惨状に絶望し、この惨状を齎した人類の未来に絶望し、人類鏖殺の神禍を発現させる。
発現したラファエルの神禍は、瞬時にエクアドルに存在した旧人類を全滅させ、生き残った禍者達も、ラファエルに接近し、或いは接近されて死に絶えた。
無人の地と変えた故国を後にしたラファエルは、赤道直下を徘徊。出逢った人間は旧人類であろうが禍者であろうが悉くを殺し尽くし、人類に赤道直下の土地を放棄させる事となった。
人類を絶滅させる為に、身体を鍛えたり独学で戦闘技術を習得してみたりもしたが、あまりにも強力な神禍の為に、戦闘経験は然程でも無い。

124名無しさん:2025/06/08(日) 08:02:20 ID:a1VwDrHs0
>>117一部文章を修正します。

>財禍型はパッシブ効果。肉体強化系の禍者と張り合えるほどの身体能力を持ち、百に届く死線を潜り抜けた経験値で鍛え上げられた精神力、相手の神禍を見極める戦略眼も合わさり、スペック以上に粘り強い。 
 ↓
>財禍型はパッシブ効果。ゲームのレベルアップのように少しずつ身体能力が強化されていく。今や肉体強化系の禍者と張り合え、百に届く死線を潜り抜けた精神力、神禍を見抜く眼力も合わさり、スペック以上に粘り強い。

125名無しさん:2025/06/08(日) 08:45:20 ID:mEBM2lOM0
【名前】
東方 春(ドンファン チュン)
【性別】

【年齢】
26歳
【性格】
凶暴で口の悪いチンピラ。獰猛で喧嘩っ早いのだが、妙に知性教養を感じさせる時がある。
口癖は『狗雑種』(お前のお袋は淫売のクソ女。くらいの意味合い)
【容姿】
185cm・92kg
伸びるに任せた黒髪に無精髭の男。分厚い木綿の服を重ね着している。
【神禍】
狂風(クァンフン)

:思想
常に追い風に吹かれていたい。行く手を遮るものは皆消し飛べば良い。


単純に風を吹かせる神禍。
氷河期の地球に於いては、風を吹かせる系統の能力は、体感温度を下げられるだけでも充分な殺傷能力を有する。
この神禍は出力が桁違いであり、極超音速(マッハ5以上)の速度まで風速を出せる。
最大出力下では建造物は粉砕され、並の禍者は血霧に変わる。
なお最大出力で風を吹かせる為には、結構な時間を掛けて力を貯める必要が有り、戦闘に使えるものでは無い。
それでも音速程度ならば容易に吹かせられる。
風に乗って飛行する。格闘時に攻撃の加速や威力の上乗せに使う事もできる。

この神禍は地表の上に有るものにしか影響を及ぼさず、春の後ろからしか吹かないという性質を持つ。更にはどれだけの風を吹かせても、周囲の大気には影響しない為に、吹き戻しのような現象は生じない。
この為、側背に回り込まれたり、地面に穴を開けて潜ったりすると、風の影響を全く受けない。


【詳細設定】
中国四川省出身の禍者。
そこそこの資産を持つ家に生まれ、それなりの教育を施されるが、生来の凶暴さの故に喧嘩を繰り返し、17の時には親の財力と自身の腕っ節とを合わせて、未成年の犯罪組織を形成するに至る。
この時に窃盗、強盗、暴行、恐喝、強姦、殺人と、凶悪犯罪を繰り返すが、2年後に警察による大規模な検挙と、対立組織との抗争により、率いていた犯罪組織が壊滅。
身一つで逃げ延びるものの、警察や対立組織に追われる日々により、心身をすり減らしていった。
かつての栄光を思い返し、逆風に吹かれ続ける現実に打ちのめされ、己の前を塞ぐものを排除できない事に憎悪を抱き続け……。
二年間に渡る惨めな逃亡と流浪の日々は、春の精神を完全に荒廃させるに至る。
そして氷河期が到来し、禍者となった春は、警察機構とかつての対立組織とを襲撃。
人も建物も全て吹き飛ばし、かつての惨めな己の過去を払拭し、報復を遂げる。
この時に感じた至高至上ともいうべき快感を忘れられず、春は中国各地の都市を襲撃、最大限に発揮した神禍で壊滅させる。
更には韓国、台湾、日本をも襲い、極東アジアを壊滅させてしまった。

126名無しさん:2025/06/08(日) 09:46:37 ID:e9Q0hq4g0
【名前】フランチェスカ・フランクリーニ
【性別】女
【年齢】41
【性格】厳格にして苛烈ながらも、誇りと勇ましさを備えた軍人だった。
【容姿】黒い短髪と屈強な体格。使い古された紺色の軍服とコート。体の各所に凍傷などの古傷が刻まれている。
【神禍】
『終演・刻越疾壊(クアルト・ディザストロ)』
思想:命を燃やし尽くしてでも、成すべきことを成したい。

自身の時間流を加速させる。
残像すら生じる程の超高速移動を可能とする。
加速による爆発的な猛襲を行使し、超速機動によって他の神禍を次々に振り切っていく。
世界の時間そのものを加速させる訳ではなく、基本的には本体の時間流を加速させるのみ。

ただし能力を発動し続けることで、周囲の物質にも時間流加速が“侵食”されていく。
本体以外は時間流の加速に着いていけず、本体のみが高速移動の恩恵を受けることが出来る。
よって“加速の侵食”は本体以外のあらゆる生命や物質にとって致命的な負荷として襲いかかり、時間経過と共に破滅的な損壊・腐敗を齎す。

この能力の致命的な欠点は、加速が本体の肉体にも徐々に悪影響を与えていくこと。
能力を発動する度に肉体の寿命を削られていき、既に彼女の余命は刻々と迫っている。
『癒やしの力』を得られない限り、彼女は遅かれ早かれ死を免れない。

【詳細設定】
神禍の出現以降、辛うじて機能を保っていた国連が急設した『秩序統制機構』。人類史において最初で最後の国際機関による常設軍。
彼女はその最高戦力とされたイタリア軍人であり、十二崩壊の一角『魔王』ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートに勝てなかった女。

戦力も支援も全てが不十分な国連ヨーロッパ支部でその実力とカリスマ性を発揮し、部隊を率いて各地の紛争を鎮圧し続ける。
半壊状態だった祖国イタリアでは『最後の獅子(レオネッサ)』として称えられ、生き延びた国民や政府機関の間で神格化されていた。
彼女自身はあくまで厳格に振る舞い、粛々と任務を遂行し続ける人物だったとされる。

しかし人類の自滅因子たる十二崩壊の出現により状況が一変――世界は瞬く間に混沌へと進む。
民間出身の英雄である『勇者』達とも連携しながら対抗したものの、ドイツにて出現した『魔王』ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートの前に敗北。
部隊全滅によって『魔王』掃討作戦は失敗に終わり、彼女自身も重傷を負った。 

以後フランチェスカは消息が絶たれ、行方不明となっている。
程なくして国連ヨーロッパ支部が消滅したことで、彼女の生死を知る者は最早何処にも居ない。

しかし『最後の獅子』は、今もどこかに身を潜めているのかもしれない。
例え帰るべき部隊が壊滅し、もはや世界の破滅は避けられないのだとしても。
自らの戦いを再び始める瞬間を、彼女は虎視眈々と待ち続けているのかもしれない。

127名無しさん:2025/06/08(日) 21:12:55 ID:a1VwDrHs0

【名前】ミレナリア・イオアンニス
【性別】女
【年齢】17
【性格】混沌・中庸。受動的。人よりも動植物と話すのを好み、概念にすらも話しかける不思議ちゃん。人が嫌いというわけでもないが、加害・殺傷行為には「自然の成り行き」として受け入れている。
【容姿】東欧系。銀に近い水色のセミロング。桔梗紫の瞳に健康的な肌。自然色の服を着ていることが多い。能力のため蝶よ花よと愛でられていたため、身なりは清潔で肉付きもよい。
【神禍】『少女庭園・揺籃の獣檻(グラスケージ・マゴグ・ミレニアム)』
 思想:「人ではない友達が欲しい」「言葉を持たない子達ともお話がしたい」

 ───ゴグにのみ反応する特殊な脳波を発して対象を支配する、対ゴグ特化能力。
 本質的にはテレパシーに近いが、自我が崩壊したゴグに作用する事で、実質的に操作能力に変化したと推測される。
 従える数に制限はない。ゴグの位置や数もある程度把握できる。効果範囲は半径2キロ。
 無意識化でゴグと感情をリンクさせており、常にゴグを引き寄せている節がある。
 ゴグと意思疎通をしてると主張しているが、どこまで本当かは定かではない。破壊衝動も共有してしまい心が壊れているとの説もあるが真相は不明。
 ゴグには元の神禍が暴走状態で機能しているため、事実上複数の神禍を保有す軍団を所持するにも等しい。世界の支配も可能な神禍だが、思想面でも頭脳面でも適性はなく、若干宝の持ち腐れ。
 
 完全なゴグ化でないと支配は不可能だが、神禍に飲まれかけた禍者との交信は可能。
 禍者が根幹とする思想を失う事で起こる自壊現象であるゴグと交信し、無力化できる彼女は、神禍の秘密……神禍そのものへの干渉……を解き明かす存在ではないかと目されている。
 
【詳細設定】
 昔から、人以外と話をするのが好きだった。
 動植物、道具や機械、空に雲に水に太陽───世界のあらゆるものに声をかけては、意思が通じ合ってるかのように笑う。
 幼子らしい空想の産物だったのか、地球凍結前から神禍の萌芽が発現していたかわからないが、後にそれは真実となる。
 地球凍結が始まり周囲の人間が次々と神禍に目覚める中、ミレナリアだけは何ら異能らしき片鱗を見せなかった。
 避難場所にゴグの群れが襲来した時、ミレナリアだけはゴグに襲われる事なく、むしろ守るように寄り添い、跪いたのだ。
 ───食料の備蓄が尽きかけていた施設では口減らしが予定されており、無能力のミレナリアもその対象に選ばれていた。極寒の外に連れ出される直前、彼女の「救難信号」を受け取ったゴグが一斉に攻め入ったのが事の真相と判明。一転して街の守護神と讃えられる。
 上等な衣食住が保証され、能力を独占しようとする輩も半ば自動的にゴグにより排除され、元の暖かな生活を取り戻す。
 金銭も食料も要求しない『労働力』であり『兵隊』を手に入れた街は全球凍結後類を見ない復興を遂げ、苛烈な生存競争にもカルト思想にも染まらない健全で平穏な楽園、千年王国(ミレニアム)を築いた。
 
 当然、神禍───それも魔獣に築かせた楽園が永遠の国なはずがない。
 自分達こそ最後の審判を超え神に選ばれた民と奢る住人。法政が崩壊したのをいいことに秩序復興のもと侵略を画策する上層民。
 一度目の当たりにした終末で崩れた倫理は、恐怖を塗り潰すように禁忌と悦楽に耽けり、千年王国は背徳のソドムとゴモラに堕ちた。
 政治には関わらずゴグ達と戯れるミレナリアは、動植物が生息圏を失い滅多に見なくなってしまった中でようやく出会えたたくさんの「寂しいお友達」が消費される事に心を痛めていた。
 よって「頑張ってください」と書き置きを残して獣だけ連れて外を出ることにした。都市の末路は言うまでもない。

 以降は数を減らしては増えるゴグと共にあてもなく旅をしている。
 端から見れば恐ろしい悪魔の軍団にしか見えないが、自衛以外に人間世界に危害を加えた事はなく、頼まれれば人助けすらしている。
 しかし終末思想が蔓延る凍土世界でその一団はあまりに刺激的で、恐怖を煽ってしまっていた。
 事実にそぐわぬ伝聞と妄想はやがて存在しない大悪を造る。『背徳都市(バビロン)』。地上の忌まわしい者たちの母、獣を支配せし大淫婦と。
 ミレナリアの名はゴグを遠ざける魔避けの呪文、護符として密かに伝わりつつある。
 
 ゴグと離れ離れにされ、会場にもゴグのいないバトルロワイアル。儀式では真っ先に犠牲者になるしかないと思われるが……?

128名無しさん:2025/06/08(日) 22:39:19 ID:XQN87ZRc0
【名前】
任 青(レン チン)【性別】
女【年齢】
37歳歳【性格】
正邪善悪定かならない人物。気分次第で善行も悪行も行う。普段の言動は悪人寄り。基本は陽気で豪放、どんな人物でも礼節を以って接する。
袖の大きい男物の漢服を着ている。【容姿】
外見は精気漲る二十前後の美女。黒瞳、腰まで伸びた黒髪【神禍】
無敵神功(ウーディーシンゴン)
:思想
あらゆるものから自由でありたい。我が意を貫き通したい


飛翔にも似た跳躍を行い、水面を走り抜け、掌打の一撃で地に巨大な手形を穿ち、拳風で家屋を倒壊させ、袖の一打ちで禍者を殴り殺す。身体を頑丈にして砲撃にすら耐える。
内臓機能の向上や、新陳代謝の活性化、負傷や病の回復を促進する、毒物を平気で摂取し、体外に外出する。老化を遅らせ、極寒の吹雪の中を平然と全裸で歩ける
武侠小説に登場する内功法と同じ事を可能とする神禍。故に自ら名付けて『無敵神功』。

これらを為す根源たる神禍は、単純に無尽蔵のエネルギーを自己の体内で生産するというもの。
疲労も感じず、食事も睡眠も必要とし無い。


なお、直接エネルギーを体外に照射する事や、他者に使用する事出来無い。


【詳細設定】
中国河北省出身。武侠小説好きで、好きが高じて嵩山少林寺の門を叩く。
真面目に修練に励んで少林拳を習得していく中、氷河期の到来を迎える。
秩序が崩壊していく中、青は弾けた
習得した少林拳を頼りに寺外へと飛び出して、無法者と戦ったり、気に入らない奴をシバき倒して見ぐるみ剥ぐといった事を繰り返す日々を繰り返す。そんなある日、禍者と対峙して一方的に打ちのめされ、命を奪われる直前に神禍が発現。
神禍による無尽蔵のエネルギーに依る超強化で、神禍を弾き、禍者を撃ち殺す。
この日以降、完全に時代に適応した青は各地を放浪し、気の向くままに人を助け、人から奪い、人を殺す日々を送っている。
一人で極寒の世界を横行し、自由奔放に振る舞う様から、人呼んで『独行狂姑』(狂は「何ものにも縛られずに自由に振る舞う」という意味)の称号を持つ。

129名無しさん:2025/06/08(日) 22:41:47 ID:uxIZbYw.0
>>128
再投下します

【名前】
任 青(レン チン)
【性別】

【年齢】
37歳
【性格】
正邪善悪定かならない人物。気分次第で善行も悪行も行う。普段の言動は悪人寄り。基本は陽気で豪放、どんな人物でも礼節を以って接する。
袖の大きい男物の漢服を着ている。
【容姿】
外見は精気漲る二十前後の美女。黒瞳、腰まで伸びた黒髪
【神禍】
無敵神功(ウーディーシンゴン)
:思想 あらゆるものから自由でありたい。我が意を貫き通したい


飛翔にも似た跳躍を行い、水面を走り抜け、掌打の一撃で地に巨大な手形を穿ち、拳風で家屋を倒壊させ、袖の一打ちで禍者を殴り殺す。身体を頑丈にして砲撃にすら耐える。
内臓機能の向上や、新陳代謝の活性化、負傷や病の回復を促進する、毒物を平気で摂取し、体外に外出する。老化を遅らせ、極寒の吹雪の中を平然と全裸で歩ける
武侠小説に登場する内功法と同じ事を可能とする神禍。故に自ら名付けて『無敵神功』。

これらを為す根源たる神禍は、単純に無尽蔵のエネルギーを自己の体内で生産するというもの。
疲労も感じず、食事も睡眠も必要とし無い。


なお、直接エネルギーを体外に照射する事や、他者に使用する事出来無い。


【詳細設定】
中国河北省出身。武侠小説好きで、好きが高じて嵩山少林寺の門を叩く。
真面目に修練に励んで少林拳を習得していく中、氷河期の到来を迎える。
秩序が崩壊していく中、青は弾けた
習得した少林拳を頼りに寺外へと飛び出して、無法者と戦ったり、気に入らない奴をシバき倒して見ぐるみ剥ぐといった事を繰り返す日々を繰り返す。そんなある日、禍者と対峙して一方的に打ちのめされ、命を奪われる直前に神禍が発現。
神禍による無尽蔵のエネルギーに依る超強化で、神禍を弾き、禍者を撃ち殺す。
この日以降、完全に時代に適応した青は各地を放浪し、気の向くままに人を助け、人から奪い、人を殺す日々を送っている。
一人で極寒の世界を横行し、自由奔放に振る舞う様から、人呼んで『独行狂姑』(狂は「何ものにも縛られずに自由に振る舞う」という意味)の称号を持つ。

130名無しさん:2025/06/09(月) 02:27:43 ID:rVM9oNSQ0
【名前】秋山 充明(あきやま じゅうめい)
【性別】男
【年齢】21歳
【性格】冷酷無比にして苛烈、容赦のない暴力で他者を従わせる悪のカリスマ。組の若衆には厳格な規律を課す反面、自らが前線に立ち、命を懸けて戦うことで絶対的な忠誠を得ている。意味のある殺しに拘る実利主義で、無駄死には嫌う。
【容姿】精悍で整った顔立ち。左眉に小さな切り傷。右腕にはびっしりと梵字の刺青。常に羽織っているのは、かつて父が着ていた血の染みた黒い特攻服。

【神禍】
『血盟廻咬(けつめいかいこう)』
思想:裏切り者がのうのうと生きてられると思うな。

自らが指定した契約者(しゃてい)に対し、心臓を握るかのように自由に致死干渉が可能。
対象が裏切り行為(反抗、逃走、命令違反など)を行った瞬間に能力が発動し、血液が逆流・破裂・凝固などの形で死を与える。
契約は充明と酒を酌み交わすことで発生する。最大契約数は13名。

かつて父を裏切った組員を、自らの手で一人ずつ処刑した経験から、忠義こそ正義で裏切りは絶対に許されないという思想が形成された。

【詳細設定】
現在は全球凍結で崩壊した都市・東京新宿にて、自警団の皮を被った暴力集団「秋山組」を束ねる。
地下鉄の駅を根城に、物資を奪い、構成員を力で支配し、他の勢力を吸収・殲滅して勢力を広げている。

15歳のとき、父・秋山重蔵が率いていた暴力団、秋山組は内通者により警察に壊滅された。
父は目の前で逮捕され、組員は次々と逃亡。充明は唯一逃げず、父の仇を裏切り者として追い詰め、たった一人で七人の元組員を惨殺した。この時に生まれた裏切り、すなわち死という絶対的価値観が彼の中核となる。

父の跡を継ぐべく、暴力の世界で生きることを決意。
少年院を出たあとすぐに、東京の裏社会で新しい秋山組を再建する。もとはカリスマ性と義理堅さで支持を集めたが、全球凍結以後は信じる者にしか与えぬ暴力という恐怖政治に転換。
極寒の中でも一切弱音を吐かず、忠義を貫く者にだけ生存の権利を与える暴君と化した。

131名無しさん:2025/06/09(月) 21:56:23 ID:AGPZ2hdk0
【名前】城崎 仁(しろさき じん)
【性別】男
【年齢】62
【性格】
 気さくであり、独特の訛りを持つ。
 表面上は人当たりのいい気さくな人物だが、その実自分以外の全てを信用しておらず、他者は全て駒だと認識している。
 人心を掌握する術に長けており、気が付けば蛇のように心へと這い寄っている。

【容姿】
 老体でありながらそれを感じさせないほど鍛えられた肉体をしており、身長は180を越える。
 左目を眼帯で覆っていて、雪景色に溶ける白いスーツと、同じ色の中折帽を被っている。髪は黒髪のオールバック。
 スーツで隠れているが、背中には天狗の刺青が彫られている。

【神禍】
『風読み(かぜよみ)』
 思想:この世の風向きは、己の意のままに。

 場の流れを読む、ただそれだけの能力。
 つまり、自身の都合のいい方向へことを運ぶことが出来る。いわば最適解を導き出せる異能。
 あくまで脅威的な直感のようなものであり、未来予知が出来るわけではない。
 しかし城崎自身のスペックが合わされば、それはもはや因果律操作にも匹敵する。

 そして城崎は、特筆すべき膂力を持ち合わせているわけではないが、我流の暗殺術を会得している。
 詳細は不明だが、この技が同じ対象に二度振るわれることは無いという。
 その理由は、彼が『風読み』によって一度振るう事を決断した時点で、その対象の死は確定しているから。
 
【詳細設定】
 日本最大規模の極道組織、『久藤会』五代目会長。
 元は直系団体の『城崎組』の組長で、同じ直系の『秋山組』組長、秋山重蔵と跡目争いをしていた。
 面子を重んじる正統派な極道である秋山組と違い、城崎組は名を売る為であれば手段を問わない武闘派として知られており、看板を背負うにあたってやや劣勢であった。
 それを疎ましく思った城崎は、無関係なカタギの人間を捕まえて得意の人心掌握術により、己へ忠誠を誓う『駒』を作り出した。
 そうして作り出した『駒』を秋山組へと送り込み、スパイとして秋山組内部の情報を取得。
 匿名で警察へと売り込み、組長逮捕のきっかけを作り上げた。

 その後、最大の敵対勢力がいなくなったことで城崎は順当に五代目会長へと成り上がる。
 しかしそのわずか一年後、全球凍結によって『久藤会』が壊滅。
 これにより組員の殆どは行き場を無くすが、事前に地球全土の混乱を予期していた城崎は、即座に周囲の信頼を得る道を選ぶ。

 城崎は当初、神禍を自覚していなかった。
 それも当然。彼は天性の勘の良さと先見の明を持ち合わせていたがゆえに、神禍の異能性に気づけなかったのだ。
 神禍を自覚した後は、それを使いこなしより自身の都合のいい世界を築き上げることに尽力する。

 人類史において最も生存、繁栄が絶望的とされた荒涼の大地。
 誰もが今を生きる事で必死で、一日後の自分など想像すら出来ない世界。
 この男は、全球凍結以前と大差ない不自由のない暮らしを続けている。
 それは彼が築き上げた周囲からの崇拝じみた信頼と、答えを導く神禍あってのものである。

132名無しさん:2025/06/10(火) 00:00:14 ID:nRVI.THw0
【名前】儀猟 運命(ぎりょう うんめい)
【性別】男
【年齢】17
【性格】静かで内向的。他人と深く関わることを避けるが、距離感さえ守れば冷静で礼儀正しい。感情をあまり表に出さず、言動も機械的だが、その裏には他人と関わると、いつか必ず傷つけてしまうという強い自己嫌悪と諦観がある。
【容姿】痩身で背が低く、目元に隈がある。乱れた黒髪と、防毒マスクを常に首から下げているのが特徴。実験用の薬品が詰まったポーチを身体中に装備しており、神禍の影響もあってか危険人物と誤解されがち。

【神禍】
『虚ろなる静謐(ハイリー・トキシックスペース)』
思想:傷つきたくない、傷つけたくない。だから遠ざける。

呼気・皮膚からあらゆる毒素を任意に生成し、気体・液体・固体の三態で散布・制御できる。
神経毒、窒息毒、接触毒、腐食毒など多岐にわたり、毒の性質・拡散範囲・持続時間を細かく調整できる。
ただし、自分の半径5メートル以内には常に毒が散布されない。

【詳細設定】
毒物の知識と調合スキルを活かして孤立した拠点で生き延びている少年。
かつて助けた小さな集落(>>42シャーリー・ヴェルナティアが滞在している集落)に毒の結界を張って外敵を寄せつけない代わり、村人との接触は一切持たず、幽霊のような存在として祀られている。
誰とも関わらずに済むその環境は、彼にとって呪いであり、救いでもある。

元は地方都市で育った薬学者の家系の末子。幼い頃から毒物に強い関心を持ち、父の研究を手伝っていた。
高校でも優秀な成績を収め、将来は薬剤師を目指していたが、実験で毒に関心を持ちすぎたことを父に叱責され、やや孤立していた。
それでも、唯一姉だけは彼を理解してくれていた。

全球凍結が起きた直後の混乱期、彼は家族とフィールドワークに出ていた。
家族とともに避難民キャンプで暮らしていた頃、人間関係の摩擦から小規模な暴動が起きる。
その混乱の最中、運命が誤って毒草を混入させてしまった、自作の保存食が原因で、実の姉と5人の避難民が死亡。
毒草の混入は偶然の産物だったが、作ったのが運命だったことで糾弾され、誰一人彼を庇わなかった。

このとき彼は、人と関わったから姉は死んだという強烈な負い目を抱くようになった。
その後、極寒の荒野を一人で放浪していた時、神禍が発現し、現在に至る。

133名無しさん:2025/06/10(火) 02:11:44 ID:nRVI.THw0
【名前】黒岩 猛(くろいわ たける)
【性別】男
【年齢】26
【性格】一言でいうと、うざい。挑発的で距離感がおかしく、誰とでも馴れ馴れしい。口が悪く、だが人を惹きつける陽性のカリスマ。命のやり取りの最中でも軽口をやめない。だが本人はそれが“愛”だと思っている節がある。
【容姿】ずっと笑顔を崩さない。黒いサングラスに前髪を跳ね上げた七三分け。ヒョロいが筋肉質、明るいスーツにマフラーを巻いている。吹雪の中でも着崩したまま歩いている異様な男。そこそこハンサム。

【神禍】
『愛ノ証明(パルス・アフェクティオ)』
思想:この世界の誰よりも、この世界の誰からも愛されたかった

 自分に敵意を向けた者に、強制的に「愛」を植えつける。
 感情感染型の強制同調能力。黒岩に敵意・憎悪・殺意などを明確に抱いた者ほど、その感情を“愛”へと強制転化させる。
 感染後は黒岩を守ろうとする、傍にいようとする、自死してでも想いを遂げようとする、など歪んだ行動が誘発される。
 感染が進行すると、他者からの干渉・理性すら通じなくなる。

 黒岩は幼い頃から人に執着されることはあっても、本心から愛された経験がなかった。
 ヤクザに拾われた少年時代、自分を見捨てなかった兄貴分に認められたくて暴れ回った。やがて彼は恐れられる存在になったが、同時に誰も本心を見せてくれなくなった。
 「愛してる」と言わせるために、人を殺し、脅し、仲間を支配した。
 それでも足りなかった。

 彼の「愛されたい」という願望はついに歪み切り、「恐怖でも、憎悪でも、いい。最終的に“愛”に変われば、それが真実である」という思想となった。
 その歪みこそが、感情を愛に変える強制的な神禍『愛ノ証明』を発現させた。

【詳細設定】
 凍り付いた世界で今も彼は、かつての仲間たちを率いて各地をうろついている。
 かつての拠点・池袋に全球凍結後もとどまり、付近の敵対する集落、集団を襲撃している。その際、集団の長を神禍で操り、戦力として取り込むか組織を瓦解させ、現時点で交戦した敵集団をすべて壊滅させている。(現時点で投下されているキャラシにおいて、『株主総会』、『秋山組』、『赫焔會』とは交戦経験がある)
 その姿は義理人情を装った破滅の伝道者として恐れられており、『黒い恋人』などという不名誉な渾名も持つ。

 神禍が発現する直前までは、『ゴエディア』の総長として、若くして抗争を統べる存在だった。
 凍結前の東京で、日本最大規模の極道組織、『久藤会』、単身無双の実力を持つ『轍迦楼羅』らとの抗争を繰り返し、池袋の王と称されていた。
 神禍の発現後はその能力によって部下の半数が“愛しすぎて”錯乱、忠誠心が狂気と化して粛清された。
 結果として組織は壊滅しかけたが、黒岩はその過程すら「美しい愛の形」と捉えて笑っていた。
 今も、彼は誰かの心に「愛」を刻み込むためだけに、終末の世界を笑いながら歩いている。
 
 黒岩が14歳の頃。
 ストリートで野垂れ死にしかけていたところを拾ってくれたのが、『ゴエディア』の幹部だった“兄貴分”の存在だった。
 
 その人は強く、優しく、そして無情だった。
 人を助けておきながら、後で売る。情を見せておいて、切る。
 そんな兄貴分が死ぬ間際に呟いたのが、「本当は、お前を愛してたかもな」という言葉だった。

 ――その瞬間が、黒岩にとっての思想の起点だった。

 「愛してる」が嘘か本当かなんてどうでもいい。言わせた時点で俺の勝ち。
 どうせ世界は嘘だらけなら、感情だけは奪ってみせる。

134名無しさん:2025/06/10(火) 02:14:30 ID:nRVI.THw0
>>133
神禍が発現する直前までは、『ゴエディア』の総長として、若くして抗争を統べる存在だった。→神禍が発現する直前までは、半グレ組織『ゴエディア』の総長として、若くして抗争を統べる存在だった。
こちらに修正させてください。お手数をおかけして申し訳ございません。

135名無しさん:2025/06/10(火) 06:29:41 ID:eFatEimA0
【名前】シアン・テオ・エヴァン
【性別】男
【年齢】105歳
【性格】
飄々とした振る舞いで愛らしい笑みを浮かべ、一見友好的だがその実、人間らしい情は一切持っていない。年寄り地味た口調

【容姿】
顔の右半分を白い仮面で覆った、外見年齢が12歳の中性的な美少年。
軽くウェーブがかかった白髪のショートボブ、青いシルクハット、金色の派手な装飾が施された中華風の青い民族衣装、下半身は白いショートパンツを履いている。
病的なまでに肌が青白く、顔は左の瞳が青く、仮面で隠した右の瞳は水色で失明している。
肉体が一部、腐敗化しており顔の右半分を隠しているのも腐敗化が進行しているため

【神禍】
【魂奪の口唇(ドレインキッス)】
思想:この肉体が滅びる前に新しい肉体を手に入れる。

口づけした生物から生命力を奪う能力。
奪った生命力で肉体を若返らせたり、自らの力を増幅させるための糧となる。
ただし肉体の腐敗化は禁術による悪影響が原因のため
神禍の力を持ってしても食い止めることが出来ない。

また神禍とは別に禁術によって会得した数々の古代呪文を使用する事ができる。

【詳細設定】
かつての古代文明に存在した小国の王。
強大な侵略国家から愛する民を守るために、禁術に手を染めた呪われた存在。
力の代償に魂は歪み、汚染され、侵略国家だけでなく愛する民でさえ喰らい尽くした。
魂が強大になっても肉体の劣化は免れず、何度も別の肉体に憑依しては生き長らえてきた。
シアンの肉体も当時12歳の少年を捕らえ、禁術によって憑依して奪った肉体である。
5年前、肉体の適合者との憑依を行う最中に偶然、暴徒化した禍者達の乱入により
適合者が殺害され、憑依は失敗に終わった。
更に全球凍結現象による人口の激減、劣悪な環境による肉体の劣化の急速進行。
猶予は残されておらず、この儀式の中に希少な適合者の存在を知った彼は
この儀式へと参加するのだった。

かつては民衆に愛される心優しい国王だったが、面影は既に無く。
ひたすら魂を喰らい続ける呪われた怪物でしかなく
過去の記憶など等に忘れている。

【名前】イーヴィルソウル
【性別】無し
【年齢】無し
【性格】
ただ本能のままに襲いかかり、生者の肉体を乗っ取ろうとする。

【容姿】
全長12・58m
巨大な骸骨の上半身に王族の冠とマントを羽織ったデザイン。
禍々しい黄緑の炎に包まれている

【神禍】
無し

【詳細設定】
幾度も肉体を入れ替え、永劫なる時の中を生き続けた怪物の正体。
シアンの肉体が死亡すると共に、出現する。
全長10mを超える巨大なアンデッドモンスターであり
人間ではないため神禍を使用出来ないが
数々の強力な古代呪文をリミッター無しで発動可能。
実態を持たないため、通常兵器は一切通用しないが
概念系の攻撃や、聖なる加護が施された武器によるダメージは受ける。
陸に上げられた魚同然の状態であり、10分以内に新たな肉体に憑依しなければ消滅してしまう。
彼を完全に滅ぼすには今が最大のチャンスである。

136名無しさん:2025/06/10(火) 18:09:43 ID:.qu2ZDxg0
【名前】白鹿優希(しらか ゆき)
【性別】女
【年齢】25
【性格】普遍的な正義感を掲げる善人。テンションやや低め。なぜか「誰かが誰かを非難しようとする雰囲気」をとにかく嫌う。
【容姿】さっぱりした顔つき。黒色の髪をポニーテールにしている。引き締まった体型で、全球凍結の前の日本では体育系の大学に通っていた。

【神禍】
『不滅の前編(プレパリング・ショータイム)』
思想:私は正義のヒーロー。やれるだけのことをやる。

いわゆる変身ヒーローの姿になる。
「チェンジ」の掛け声と共に、左手首の玩具めいた銀色の腕輪のスイッチを押すことで、トナカイを彷彿とさせる意匠の白い戦闘スーツを全身に装着する。
身体能力が強化される他、これまた玩具のような見た目の剣や銃を武器にして戦う。スーツは耐寒性に優れていて、変身している間は極寒の環境も身一つで乗り越えられる。
日本人が見ればかつてテレビ番組で有名だった「戦隊ヒーロー」を想起するような姿だが、特定の部隊には所属していないこともあってか、本人は単に「ホワイト」と名乗る。

罪のない人々を守るため、優希は数々の禍者と戦ってきたが、自分より強い敵にはいつも苦戦の末に敗北してばかりで、殆ど勝てた試しが無い。
それこそが真価であることを、優希は自覚していない。

この神禍は「ヒーローが強敵と相対した時、惜しくも敗れるが無事に生還する」という状況を実現するものである。変身ヒーローの力は、計測用の目安として与えられているに過ぎない。
優希を上回る戦闘能力の敵に対して、戦闘中に限り自動的に発動。「ヒーロー相手に痛み分けの勝利になってしまい、トドメも刺し損ねる」程度を大まかな上限として、戦闘能力の制限を課す。
なお、集団戦を行う場合、それぞれの総合的な戦力をもとにして敵側に調整を施す。

高層ビルを焼き潰す炎熱や雷電を放つはずの神禍は、ホワイトの戦闘スーツにダメージを与えられる程度の出力に。
音速を超える運動能力を獲得するはずの神禍は、ホワイトの動体視力でなんとか追いつける程度の速度に。
どれほどの覇者であろうと弱体化させ、それでも敗れた優希の戦いは「次回へ続く」ことになる。

【詳細設定】
「総統」と呼ばれる禍者の率いる一団によって、僕の故郷は滅ぼされようとしていた。
仲間を見捨てて逃げ出した僕に、今更戻る資格など無いとわかっていても。生まれ育った故郷への想いを振り切ることができず、僕は再び足を踏み入れていた。

憎き総統と配下の三人、見覚えのない「白い戦士」が戦っていた。
珍しく総統自ら参加していた戦いは、白い戦士の劣勢で、着実に追い詰められていく。
……総統は、格下相手に手加減をして甚振るような気質だったか?
そんな疑念など、些細なことだった。
手にした槍に、祈りを籠める。最も得意な戦法、一点突破の構え。狙うは総統ただ一人。
どうせ失い損ねたこの命だ。最期くらい、正しく誰かのために燃やしてやろう。

……結末は、予想もしない形で僕の覚悟を裏切るものだった。
重力の防壁で容易く阻まれるはずだった一撃は、勢いよく突破。首領の頭蓋を、呆然の表情ごと粉砕した。
数多の命を踏み躙った巨悪である総統の、あまりにも呆気ない死。
その場の誰もが立ち尽くす中、次に動いたのは白い戦士だった。僕の姿を一目見て、背を向けて逃げ去っていく。
僕を新たに現れた第三勢力だと勘違いし、これ以上は流石に戦えないと判断したのだろうかと、辛うじて納得した。

白い戦士の素性を知ったのは、町で生き残りの一人から話を聞いた時のことだ。
「白鹿優希」という日本人の女性で、人助けをしながら各地を巡っていたという。
かつてサンタクロースを名乗る運び屋と一緒に行動していた時期があり、その時に海を渡ってきたとのことだ。

一緒に戦うと名乗り出てくれたのは嬉しかったが、その後の関係が必ずしも良好ではなかった。
住民と共に総統の手先を迎え撃ち、結局負けて一人で逃げ帰ってくる。そんな顛末を何度か繰り返すうちに、住民の一人が彼女を非難した。恥知らず、と。
その直ぐ後で総統自ら出陣したという報が入り、彼女は一人で駆け出してしまった。結果的に総統の討伐こそ叶ったものの、彼女自身が成し遂げた功績ではなく。
ごめんなさい。でも、やれるだけのことはやったんです。
自らを宥めるようにそれだけ言い残して、既に町を去ってしまったという。

僕と彼女の二人がかりで総統を倒したのだから、せめて彼女を認めてやってくれないか。
ささやかな願いを伝えながら、ついに一つの言葉も交わせなかった白鹿優希に思いを馳せる。
貴方は今も何処かで、独りきりのヒーローとして戦っているのか。
世界を救えるほど強くあれず、己の弱さを補えるだけの「戦隊」を結成することもできずに。

137名無しさん:2025/06/10(火) 19:03:46 ID:pElhi/hg0
【名前】ノア・ゴフェルウッド

【性別】男

【年齢】16

【性格】強固な信念に裏打ちされた、謙虚ながら揺らがず堂々とした少年。年齢不相応なほどの落ち着きを見せるが、一方で自分の信念に盲目的な面もあり、やや自己犠牲的。

【容姿】白髪混じりの赤毛の、小柄な少年。左肩からは細い林檎の木の枝が生えており、周辺の皮膚は樹木質になっている。雪中迷彩の防寒装備付きの軍服を着て、持ち運びやすく改造した狙撃銃を担いでいる。肩口には枝が引っかからないよう手製の加工がある。また、服のあちこちに、断熱の袋に入れた樹木(主に林檎)の種子やそれを封じた銃弾を仕込んでいる。

【神禍】
『終末の日の植樹(ドゥームズデイアップル)』
思想:全てが徒労に終わる可能性がずっと高いこの凍土の世界だけど、それでも正しいことをしたい。
「樹は明日切り倒される時でも、それでも空に枝を伸ばすんだ。例え世界が滅ぶとしても、行いの価値は不滅だと僕は信じてる」
「だから、僕は今日も林檎の木を植えるよ」

樹木の種を育てる能力。
ノアの能力を受けた樹木の種は急速に発芽、成長し、周囲に栄養があるならそれを吸収する。
(別に栄養がなくても成長はする)
樹木の成長の速度や傾向は、ある程度ノアがコントロール可能。
また、発芽能力を失った種には効果がない。全球凍結下では地表の種子は冬を耐えられずほとんどは発芽能力を失っているため、基本的には希少な温度管理され保存された種子のみが対象。

戦闘では、種を単体で設置し生やした樹木を遮蔽やトラップとして用いることもできるが、ノアは主に林檎の種数粒を封じた非貫通性の弾丸を用いて使用する。この弾丸を受けるとノアの能力で種子が発芽、相手の肉体を栄養に樹木が急速に成長し、対処されなければ最終的に林檎の木に栄養を吸われるか、成長した根で致命的な部位を損傷し死亡する。

より一般的な用途として、果樹を育てることで果物を食料として生産することが可能。木材は希少な熱源にもなる。

また、ノアはかつての戦闘で左肩に負った重傷を治療するため、自分の体に林檎の苗木を植えている。
傷は塞がり、またやろうと思えば身体能力の強化にも使える媒体にもなったが、ゆっくりと苗は成長しており、身体能力の強化に使えばなお成長は促進される。
既に苗木を摘出することは出来ない程度に癒着しており、例え幸運にも生き延びた所でいずれはノアは一本の林檎の木になる。
それでも、ノアは最後まで正しいと信じた行動を取るつもりだ。

【詳細設定】
スヴァールバル世界種子貯蔵庫。
北極圏ノルウェー領・スヴァールバル諸島に位置する、あらゆる種類の破滅──気候変動、自然災害、あるいは核戦争など──から植物の絶滅を防ぐべく、100万種以上の植物の種子が温度管理され保存される現代の"方舟"である。
ノア・ゴフェルウッド少年は、今や最後の一人となったこの"方舟"の番人だ。

ノアの出自は、全球凍結の初期に、国連により保護された果樹農家の子である。
幼いノアの正しいことをしたいという子供らしい信念は、強力な神禍の発現と切迫した世界の状況によりあまりにも早く叶えられた。
幼いとはいえ善良かつ従順で、食料生産を可能にし戦闘にも貢献できる神禍の持ち主をただ後方に置き守るには、世界の状況はあまりにも過酷だった。

短期間の戦闘訓練を施されたのち、ノアが命じられたのは、スヴァールバル諸島の防衛であった。深刻な氷河期の到来で、世界中の植物が枯死し、種子すら発芽能力を失っている今、僅かな未来への希望を守るためには、世界中の種子が保存されている"方舟"を十二崩壊のような者の手に陥とす訳にはいかなかった。

非常に過酷な氷河期の極圏環境で、ノアは少数ながら精鋭の防衛隊と交流し、仲を深める。ベテランの軍人や傭兵揃いで年齢差は大きかったが、彼らはノアを息子のように可愛がった。
一方で軍人としての指導は厳しく行われ、特にノアは射撃に高い適性を示した。

世界が滅びの色彩を濃くする中、防護隊は最後まで"方舟"の守護という役目を果たす。
厳しい極圏の吹雪を越えてくる十二崩壊の走狗と、激しい戦いを繰り返しても。
ノアの家族の避難する街が戦いに巻き込まれ、音信不通になっても。
国連組織が崩壊し、孤立無援となっても。
──戦いの末に残った兵士が、ノアだけになっても。
それでも、まだ"方舟"は保たれている。
未来への希望の種は、保たれている。
今や、それにどれほどの意味があるのか分からなくとも。

林檎の樹の少年の信念は、なお折れていない。
たとえ"方舟"を守ったところで、もはや人類を救うことなどできなくとも、それでも善い行いの価値は損なわれることがないと信じている。
──そうでなければ、死んでいったみんなは何のために。

いずれ来たる最後の日まで、ノアはそれでも林檎の樹を植え続ける。

138名無しさん:2025/06/10(火) 21:53:02 ID:.qu2ZDxg0
>>136
× 重力の防壁で容易く阻まれるはずだった一撃は、勢いよく突破。首領の頭蓋を、呆然の表情ごと粉砕した。
○ 重力の防壁で容易く阻まれるはずだった一撃は、勢いよく突破。総統の頭蓋を、呆然の表情ごと粉砕した。
内容を一部修正します。失礼しました。

139名無しさん:2025/06/11(水) 00:36:39 ID:epUDU9AU0
【名前】『晴』の勇者/エラス・ランクランカ
【性別】女
【年齢】27
【性格】かつては理想に燃え、仲間思いで高潔だったが、今は冷徹で計算高い現実主義者。「空の勇者」の生き残りとしての重責に苛まれ、自らの理想を真実の解明に置き換えた。仲間の死を無意味にしないためなら、冷酷な決断もためらわないが、内心では深い孤独と葛藤を抱える。
【容姿】長い銀髪を風に靡かせる、切れ長の蒼い瞳。身長は高めで細身だが、鍛え上げられた筋肉の線が見える。薄手の軍服風の戦闘服に、空を思わせる青いマントを羽織る。かつての英雄の威厳を漂わせつつも、今はその輝きが少し翳っている。

【神禍】
『蒼天の断罪(アザーズ・ジャッジメント)』
思想:偽りの雲を払い、絶対的な晴天(真実)を掴みたい。

 ”晴れ”にまつわる事象を自在に操ることができる。
 光と熱を集中させて敵を焼き尽くす強力な太陽光線や、気圧を変化させて対象の身体を内側から押し潰す「断罪の圧縮」を放つ。
 また、自身を中心に一定空間の天候を「快晴」に固定することもできる。この領域内では、他の気象干渉や一部の神禍による空間的な影響を中和・無効化する。

 かつての理想的な「空の勇者」たちは、空を人類の未来の象徴として奪還し、平和を取り戻そうとしていた。だが、「十二崩壊」の出現によって世界は混乱し、その理想は砕け散った。
 その絶望と重責を経て、エラスは「自由は真の強さによってのみもたらされる」と考え、強力な「断罪」と「統制」の力を身につけた。
 彼女にとって空は「開放」の象徴であると同時に「支配」の象徴でもあり、空を支配し真の自由をもたらすことこそが、人類が救われる唯一の道と信じている。

【詳細設定】
 現在は、人類を滅亡に導いた一人である『第十崩壊』が組織した地下勢力『グリゴリ』に、彼の右腕として所属している。
 彼が提示する「世界の滅びの真相」こそが、仲間の死に意味を与える行為だと信じ、彼の指示で生存者の殺害といった非道な"探偵業務"に手を染めている。
 彼女は希望の象徴であった過去を捨て、冷徹な殺し屋として振る舞うが、内心では過去の仲間たちへの罪悪感と、自分の信念との葛藤に苦しんでいる。
 表向きは完全に冷徹だが、“空”の未来を強く願い、そのためならどんな手段も厭わない覚悟を持つ。

 かつては「空の勇者」として希望の象徴となり、国連機関に公認された英雄の一人だった。
 空の復権を掲げ、仲間たちと理想に燃えた日々を送っており、その中で彼女はリーダーとして仲間を守る責任を負い続けた。

 人里離れた高山にある、国際気象観測所の所長の娘として育った。
 父親は「気象を制御し、地球から争いをなくす」という壮大な夢を持つ理想主義的な科学者だった。エラスは常に父を尊敬し、幼い頃から空と雲の動きを読み解く英才教育を受け、自身も研究者の道を志していた。
 彼女にとって「空」は、科学で解き明かし、人類の未来を拓くための希望そのものだった。
 しかし、父親は全球凍結の兆候をいち早く察知したが、学会からは異端扱いされ、誰にも信じてもらえなかった。
 彼は失意のうちに観測所で凍死。父の理想と死が、エラスの中に「誰にも頼らず、自分の力で理想を実現する」という強靭な意志を刻み付けた。

140名無しさん:2025/06/11(水) 00:37:57 ID:epUDU9AU0
>>139
『蒼天の断罪(アザーズ・ジャッジメント)』→✖
『蒼天の光:絶空支配(アザーズ・ジャッジメント)』→○
とさせてください。失礼いたしました。

141◆DpgFZhamPE:2025/06/11(水) 02:12:53 ID:???0
【名前】零墨(れいぼく)
【性別】女
【年齢】28
【性格】
外向的かつ即断即決。敵ならば打つ。正しき人間ならば手を取る。
好きなものは山の上から見る人々の生活の光。
人々が生きるその世界を、悪意を持って奪い去り嘲り笑う。それが何よりも許せない。
鋭い目つきをしているため誤解されやすいが、性格は武人然としながら豪快かつ人々を安心させるためのジョークも言う。少し天然が入っている。
喋り方は古風だが、大いに笑い自由に生きる平穏を好む人。
【容姿】日本人。175cm。鋭い目つきにスラリと長い鍛えられた肉体。
黒のコートを纏ったフォーマルなその姿。長い黒髪がよく似合う。
【神禍】
『万物に潜む黒よ、従い倣え(セクイ・アンブラ)』
思想:不条理を許さない。生き抜く人々の光を奪うソレが、許せない。
液体のような影を使役する。『影』であればそれが自分のものでなくとも他者のものでも彼女の手中である。
影とは万物に存在し、モノある限りその背後に存在するもの。
彼女はこれを使役し、小さい使い魔から影に形を持たせ盾から槍、果ては翼を持った巨大な鳥から龍まで自在に作り変えられる。彼女は自らの拳や肘、身体に纏わせ、己の拳法や肉体強化をすることも可能。
翼を作れば空を飛び、影を集めれば巨人の肉体を作ることも可能。
万能かつ強力。彼女はこの力を元に荒れる一つの地域を統治したと言われている。

ここに来る前は影で城と領地を構築し、百人程度を住まわせ生き抜く術と拳法を教え生きるための力を与えたと言われる。
強く、清廉なヒト。

【詳細設定】
彼女、零墨は幼い頃にある一族に拾われた。『墨拳道場"痕琳省"』(ぼくけんどうじょう、こんりんしょう)。名もその時与えられた。
武術を鍛え、山の中で暮らし、自然と共に生きる者たちの集まり。血の繋がりはない、武術に生きる者たち。
そこで、親がおらず盗みで生きていた彼女は齢六歳にして、初めて温かい食事を噛み締めた。
山の頂上から眺める人の街が好きだった。あの光一つ一つが人の生きている証だと思うと、それはなんて───壮大な話なのだろう、と。
『強さを身につけるのではない。抗う時に抗える心を持ちなさい』。当時の痕琳省の当主の言葉であった。
抗う。不条理に押し付けられる悪意に反抗する。
彼女は、墨拳を覚え、成長を続け。
山の上から見た美しい街の光───それが奪われないように。不条理に消えないように。
己と同じ、行き道を失った者が生まれないように。
己を鍛え上げる。体内の気を巡らせ、肉体の機能を促進させる。衝撃を体内から体外へと流し、接触面を通じて相手の内部に流す『墨拳(ぼくけん)』。彼女はその免許皆伝者となった。
弱き者が居るなら呼べ。私が強くしよう。
強き者が居るなら呼べ。私が戦おう。
生まれた頃から身寄りがおらず、『墨拳』を扱う一族に引き取られた彼女は武人然とした性格と善悪を判断する人間性を手に入れた。

この星の変化にいち早く気付いたのは、その一族だった。山に住み、自らを鍛え上げ自然と生きるその一族は、現れた『変化』に対し、皆にこう告げた。
『弱き者が虐げられ、強き者が全てを奪う時代が来る。
 抗え。抗え。───それこそが、我らに与えられた天命である』。

そうして人里に降りた彼女の瞳には、惨憺たる光景が広がっていた。
国家という機能が崩壊し始めた光景。法律と平穏という盾が取り払われた女子供の行き先。
力のない男の末路。人々の安寧とした暮らしの光が失われた混沌。

───ああ、これは。
なんと、醜いことか。

国家という機能がないのなら、私が作ろう。女子供を守る盾がないのなら、私がなろう。
力が欲しいと嘆く男がいるならば、私が鍛えよう。
人々の生活が戻るまで。悪辣と極寒に支配された世界から、人々が自立できるまで。
それが、拾われ『墨拳』を継いだ私の、役割だ。

そして、ある噂が流れた。
極東のある地域、黒の城に生きる場所あり。
善なる者なら扉を叩け。罪ある者なら伏して逃げよ。
決して、奪おうとすること勿れ。
黒の城は、人類最後の砦である。

一部の地域ではあるが、武術と神禍で混沌の世から平穏を取り戻した武術の人。

142名無しさん:2025/06/11(水) 03:16:29 ID:PfJfT.mc0
【名前】『晴』の勇者/ミヤビ・センドウ
【性別】男
【年齢】42歳
【性格】
 無気力。何事にも本気に取り組まず、気だるげにも感じる。
 一見穏やかとも取れるが、裏を返せばかつての激情をどこかに置いてきてしまったように見える。

【容姿】
 黒いボサボサの短髪に、特徴的な無精髭。
 所々に金と白の装飾があしらわれた赤い着物を着用しており、常に右腕を懐に入れている。
 右腕は肘から先が無く、左の脇腹には大きな手術痕が目立つ。

【神禍】
『夜明けの炎(アマテラス)』
 思想:極寒の夜を終わらせ、この世界に太陽を。

 炎を生成し、操作する神禍。
 この炎は現実のそれとは違い、ミヤビ自身とミヤビが傷つけたくないと認識したものには人肌程度の熱しか感じない。
 形状、温度、火力はミヤビ自身の意思によって自在に調整できる。
 噴射の勢いを利用した高速移動や、擬似的な空中飛行なども可能。
 シンプルながら非常に使い勝手が良く、応用が利く。

【詳細設定】
 かつての空を取り戻すべく結成された四人の『空の勇者』たち。その一人。
 『空の勇者』は晴、雲、雷、雨の四人で構成されていた。

 全球凍結と神禍の発現により、秩序と希望を失いつつあった世界で逸早く『空の勇者』という組織を発足した張本人。
 祖国日本において、ミヤビは全球凍結以前から培ってきた人徳により、一個人が民の希望になるという与太話を現実へと変える。
 気休めであろうと、藁にも縋る気持ちであろうとも、未来を見出したい国民にとって彼の存在は確かな支えとなった。

 辛うじて生きている交通機関を利用して世界各地の旅を続ける中で、段々と彼に付き従う者が増えてゆく。
 そうして勢力を伸ばし、いつしか国際機関公認の英雄となった矢先。
 各地で出現した『十二崩壊』の魔の手が、希望の灯火を呑み込んでゆくのを境に、『空の勇者』は救済活動ではなく禍者の鎮圧に動くようになる。
 即座に国際機関と協力して十二崩壊掃討作戦に加わり、希望の象徴として死闘を繰り広げた。

 戦果は上場ではあったが、最後の災禍『第十二崩壊』の策略により民からの裏切りに遭う。
 その際に右腕を喪い、相討ち覚悟で『第十二崩壊』の討伐に成功するも左脇腹に重傷を負う。
 『雨の勇者』の適切な治療によって一命を取り留めるも、目が覚めた頃には紛争や内乱により世界滅亡は決定的となっていた。

 以降ミヤビは姿を消し、孤独のまま世界滅亡のその日を待つこととなる。

143名無しさん:2025/06/11(水) 22:17:53 ID:tPGfWyNI0
【名前】自称No.7『啓蒙』 / エックハルト・クレヴァー
【性別】男
【年齢】28歳
【性格】
敬虔であり、盲信的。
多弁症であり、ことある事に真実の愛とはなにかを説く。

【容姿】
眉目秀麗。透き通るように色素の薄い青髪を背中まで伸ばしていて、切れ長の瞳。左の眼球は常に閉じ、決して見せようとしない。
白い厚手のコートに身を包み、コートの内側には夥しい数のナイフが仕込まれている。

【神禍】
『絶対拒絶(アップレーネン)』
思想:自分を認めない者は認めない。

如何なる神禍の影響も受けない。
いや、〝受けられない〟呪いの異能。
神禍によって作り出された攻撃はエックハルトの身体をすり抜け、精神汚染の類は蚊ほどの動揺も与えられない。
神禍頼りの禍者に対しては圧倒的なアドバンテージとなり、エックハルト自身の殺人に対しての躊躇いの無さも相まって強力な初見殺しとなる。

例外として、『涜し否定する神拒の密域』は無効化できない。
その理由はエックハルト自身も知らないことだが、彼を本当に必要とする人物からの神禍は拒絶出来ないことにある。
エックハルト個人が〝生贄〟として必要とされているからこそ、この儀式に呼び寄せられたのだ。


【詳細設定】
〝自称〟過重神禍・十二崩壊。
あくまで自称であり、エックハルトが『第七崩壊』であるという情報はどの記録にも存在しない。

ドイツの著名な貴族の家系に生まれる。
文武両道、あらゆる才能においてエックハルトを上回る兄が一人居た。
幼少期から兄の下位互換として虐げられ、出来損ないと揶揄されてきたことから極度の人間不信となる。
名前に傷がつくことを恐れた両親からは死んだ事にされ、軟禁のような生活を強いられる。

幾度も自死を考えたが、身分違いの男が姫と恋をする絵本を何度も読み返し、生きる糧とした。
そうして迎えた全球凍結。家族はエックハルトを遺して全員死亡。
一人生き残ったエックハルトは放浪者となり、安寧の地を求めて彷徨う。

死人も同然の暮らしをする中、第六崩壊の『姫』沈芙黎と邂逅する。
生まれて初めて出会う、エックハルトを肯定する人物であった。

エックハルトは心優しい『姫』に瞬く間に魅力された。
彼女の興した『紅罪楽府』に入団し、特別信仰心が高い者が名乗ることを許される所謂幹部の座、『庭師』となる。
それもそのはず。エックハルトは死と寒さへの恐怖から目を背ける為ではなく、沈芙黎へ忠誠を誓うために入団したのだから。

『姫』が一言命じれば如何なる命令であろうと実行する、狂気的な妄信。
人類滅亡が確定となった後、『姫』を目障りに思った『第七崩壊』との戦いにおいても、その異常性は遺憾なく発揮された。
神禍殺しの異能を使い、『第七崩壊』の討伐に成功したすぐ後、第六崩壊の隣に居たいという願望から自らが『第七崩壊』を名乗る。

彼は信徒の中で、最も献身的であった。
けれど信徒の中で、ただ一人『姫』からの寵愛を受ける事ができなかった。
『姫』は男のことを、本当に必要としていなかったから

144名無しさん:2025/06/11(水) 22:29:57 ID:8ZwP/PNc0
【名前】No.13『紫雲』/『雲』の勇者/東雲 瞬(しののめ しゅん)
【性別】男性
【年齢】15
【性格】
 内向的。ただし反撃は躊躇わず、徹底的に。
【容姿】
 一般的な日本人男子高校生の平均よりやや小柄、あどけなさの残る顔立ち。
 左右の両目が金色/銀色のオッドアイ。
【神禍】
『死がふたりを分かつまで(ミスティック・ラウンド)』
思想:最大の理解者は内にある。ゆえに望むものなどなにもなし。

 自身の肉体を原子レベルにまで分解、『霧』『雲』となって広範囲に漂う能力。
 意思を持つ自然現象とも言い換えられ、原子を振動させ熱エネルギーに変換することで能動的に運動することも可能。
 個体でありながら群体であり、一部分を焼き払うなどしてダメージを負わせることはできるが、総量全てを傷つけられない限り致命傷を負うことはない。
 元となった神禍の特性により、『霧』『雲』そして『雲』から降り注ぐ『雨』『雹』は超高濃度の硫酸と同質の弾丸となり、人体のみならず無機物にとっても猛毒となる。
 触れるもの、立ち入るものを拒絶する万死の絶界。

【詳細設定】
 過重神禍・十二崩壊。
 寒冷化現象の黎明期、地球上に12体発生したとされる特級の災禍――の、知られざる十三体目。

 未だ人類に何の被害も与えておらず、誰にも存在を知られていない、最新にして異端である十二崩壊のイレギュラーナンバー。
 人によって人類の敵と見定められたのではなく、討ち果たした十二崩壊が一席・No.12『魔霧』により、崩壊の一翼として見出された『雲』の勇者その人。

 『魔霧』と『雲』の勇者の神禍は非常に近い性質を持ちながらも「攻撃的か」「防衛的か」の対極にあるものだったが、争う中でお互いがお互いの本質を理解していき、出力はほぼ拮抗した。
 二人の戦いは千日手となるはずだったが、他の勇者/あるいは十二崩壊の干渉をお互いが良しとせず、雲を突き抜けた遥か上空へ飛翔。
 言葉を介さぬ神禍を通じた一瞬とも無限とも思える相剋の果て、初めて「殺す」のではなく「共にいたい」という感情を得た『魔霧』は『雲』の内に己を拡散させた。
 肉体、精神、人格、魂、そして神禍。混ざり合い、形を成して聖邪の結実として生まれたのがNo.13『紫雲』である。

 二人の年齢の足し算ではなく引き算の結果、ボディである東雲 瞬の肉体年齢がやや若返っている。
 しかし肉体構成、血液型、遺伝子情報などは別人……どころか人類史上でも未知のものとなり、それがために元来の『雲』の勇者の生体反応は消失――死亡したと認識されている。
 『雲』の勇者が本来有していた神禍も変質し、思想が塗り替えられたこともあって完全に別物と化している。

 勇者として、あるいは十二崩壊として生きてきた時間などにもはや意味はない。
 自分以上に自分を理解してくれる存在が自分の内にいるのだから、他に何も求める必要はない。
 他人を害することも、守ることも、もうどうだっていい。
 おれ/わたし=きみ/あなたがいればそれだけでいい。
 世界が終わるその瞬間まで一人/二人でいよう。

145名無しさん:2025/06/11(水) 23:22:16 ID:r19M54Kw0
【名前】勇者候補『風』/弥塚 槍吉(やつか そうきち)
【性別】男
【年齢】29
【性格】頑固で一本気、自由を何より重んじる武人。古い武術の家系に生まれながらも、型にはまることを嫌い、常に既存の常識や慣習を疑問視する。「人はもっと自由でいい」という信念のもと、束縛や強制を極端に嫌う。
【容姿】ひどく痩せこけた長身の男。無精髭を生やし、黒髪は肩口まで伸ばして後ろで一つに結んでいる。名槍「虎落笛」を背負う。

【神禍】『追い風:桎梏祓除(テイルウィンド・ブレイクスルー)』
思想:人はもっと自由でいい。何物にも縛られることなく、あるがままに。

疲労、苦痛、後悔、絶望といった肉体的、精神的負担を解消する力場を生成する。
効果範囲は槍吉本人から半径10メートルほどで、その内側にいる者は傷は治らずとも痛みは消え、悩みの種に意識を取られることもなくなる。
苦境の中でも背中を押す『風』のような存在である事から、この名称が付けられた。

無論、これもまた人類を滅ぼすために神が与えた呪いであることに違いはない。
力場から脱した者には消えていた負担が再度圧し掛かることはもちろん、その負担を解消することに意識が集中してしまう。
怨敵が目の前にいようと負傷の治療に取り掛かろうとし、他の問題を放り出して最大の懸念を解決すべく行動しようとする。
意識誘導というよりもはや洗脳に近く、味方への使用には注意が必要。
一方でこのデメリットを利用して敵対者の行動を縛ることが出来、真価としてはやはり他者を害するに有用な能力であると言える。

【詳細設定】
かつての空を取り戻すべく結成された四人の『空の勇者』たち。
彼らに比肩する実力と信念を持ちながらも、様々な理由によって勇者と呼ばれなかった者――あるいは『風』の勇者と呼ばれたかもしれない者。

弥塚流槍術の後継者にして、稀代の武術家。
文明崩壊後は折り合いの悪かった実家から出奔し、ライバルであり親友の幼馴染と共に人助けをしながら世界を巡っていた。
国連機関によって勇者としての活動を打診された際、親友は快諾したが槍吉は拒否したことで、二人の道は分かたれることになる。

勇者としての活動は蹴ったものの、『雷』の名を冠した親友含む『空の勇者』たちへの助力は惜しまず、度々助太刀に現れていた。
雨の勇者からは「美味しいところだけ取っていこうとしてませんか?」と苦笑されたことも。
勇者たちが組織立って行動することで救える者がいる一方、その手からこぼれる者もいる。
そんな救い残しを拾う槍吉の姿は、勇者と呼ばれずとも勇者に相応しい姿として人々の目に映っていた。

『十二崩壊』によって親友を失って以降、弔い合戦として仇の討滅に尽力。
人類滅亡が確定的になった後も、独り世界を回りながら人助けを続けている。

146名無しさん:2025/06/11(水) 23:38:48 ID:epUDU9AU0
【名前】アーロン・J・ラッドフォード
【性別】男
【年齢】29
【性格】楽天的で人懐こく、場の空気を和ませるのが得意なムードメーカー。だが、勝負事には異様なまでの集中力と執着を見せるギャンブル狂の一面も。自分が負ける可能性すらも楽しめる“勝負の狂信者”。騎士団では珍しい「戦うこと自体を楽しむ者」であり、その姿勢が逆に団員たちの士気を高めている。
【容姿】ラフに刈った赤毛と青い瞳。陽焼けした肌に皮鎧と騎士団の紋章を刻んだマントをまとい、腰には二丁拳銃を下げている。ラフな笑顔と無頼の空気を纏った“西部のガンナイト”然とした出で立ち。

【神禍】
『豪運の凶星(ラッキー・ストライク)』
思想:運命は自分でねじ伏せられる。

 アーロンが勝負の最中に下す“賭け”が強制的に現実になる能力。
 たとえば「この一発で決める」と自らに言い聞かせて放った銃弾は、いかなる防御も無視して必中する。
 逆に、「この一撃を外したら死ぬ」と思って打った場合、失敗すれば自身に致命傷が返ってくる。
 強大な「自己暗示」を起点とした因果改変型の神禍であり、その成功・失敗は100%アーロン自身の信念と精神力に依存している。

 「勝負を賭けにできるなら、自分は絶対に勝つ」――彼の狂信的な自信が、この危険な神禍の原動力となっている。

【詳細設定】
 アーロンは『守護聖騎士団(シュヴァリエ・デュ・リオン・サクレ)』に所属しつつも、あくまで自由騎士(フリーランサー)としての立場を貫いている。
 団の正規戦力とは違い、遊撃部隊や暗殺任務など“何でも屋”として動く場面が多く、その卓越した勝負勘で幾度も窮地を覆してきた。仲間からの信頼は厚いが、本人はあくまで「賭けて勝つのが好きだからやってるだけ」と公言してはばからない。

 アメリカ西海岸出身。幼少期からスラム育ちで、親の借金返済のために早くからギャンブルの世界へ。天才的な勘の持ち主で、詐欺や八百長とは無縁に勝ち続けていた。
 自らの運命すら賭けの材料にするほどの勝負師気質が、今や殺しの世界で生き抜く神禍へと姿を変えている。

147名無しさん:2025/06/12(木) 01:33:42 ID:LWvtsQOk0
【名前】レンブラングリード・アレフ=イシュタル
【性別】女
【年齢】19
【性格】一見穏やかで礼儀正しいが、極度の合理主義者。「救える命」と「救えない命」を常に計算しながら選別しているタイプの冷徹な優しさを持つ。人の感情には敏感で、人間の悲しみや苦しみを否定しないが、それらを“設計変更可能なエラー”と見なしている節がある。性格が「良い」とされるが、あくまで“期待される人道的倫理”を理解し、それを演じているだけ。
【容姿】白銀の髪に透き通るような褐色の肌。工学的に設計されたスーツ(自己修復・熱吸収構造)を常に着用しており、各関節に細かくインターフェースポートを接続。背丈は小柄だが、歩くと静電気のようなパルスが周囲に散るのが印象的。瞳は人工虹彩で、発光する。

【神禍】
『無限保存の黙示録(エンドロール・アーカイブ)』
思想:思考の断絶だけは食い止めねばならない。どんな手を使ってでも。

 死に瀕した人間の脳内データを0.1秒単位でリアルタイム記録・解析し、意識情報を自身の脳に保管。
 保存された意識体は、肉体を失っても思考を続ける純粋なデータ資源として彼女の端末内に存在し続ける。
 レンブラングリードはこれらの“思考残留体”を分析し、自身の演算資源として用いることで、戦術予測・技術再構築・言語解析などの超知能領域を強化している。
 彼女にとって「殺人」とは、“情報保存”の手段であり、善行とさえ言える行為に他ならない。 
 レンブラングリードは、「命」ではなく「思考」をこそ人間の本質と捉えている。
 人が死ぬとは、肉体が失われることではなく、“思考が途絶えること”――それが真の死だと断定する。

 彼女の神禍は、その思想を極限まで押し進めた結果、「死の瞬間に最も純粋な思考が現れる」と見なし、“死”を記録の最終形とする異能として形成された。
 そのため、彼女は人を救うために殺すという矛盾した行動を平然と実行する。
 倫理を演算で理解する者が、倫理を破壊するというジレンマの象徴でもある。
 だから、彼女は人を殺す。
 記録するために。失われる前に、焼きつけるために。

【詳細設定】
 
 中東某国の天才エンジニア一家の出自。
 幼少より天才的な頭脳を発揮し、家族経営の研究所でナノテク、量子暗号、人工知能などを学ぶ。

 全球凍結から1年前。
 13歳のとき、中東の砂漠地帯で疫病に侵された、師であった科学者を看取った際、最期に残した「お前の知を世界に残せ」という言葉を記憶する。
 しかしその瞬間、自身の腕には介錯を命じられ、自らの手で師の生命を絶つことを強いられた。この無力感が、情報至上主義の思想を歪ませる引き金となる。
 結果として「思考の断絶だけは食い止めねば」という念が芽生え、死者を“データ化”する妄想を抱くようになった。

 現在レンブラングリードは、中東に根を張る技術者組織『ORANGE(オレンジ)』の首魁として行動している。
 『ORANGE(オレンジ)』は全球凍結後、中東にて急成長し、無秩序に他者の死、思考の断絶を振り撒く『ジャハンナム』の対抗勢力として地下技術ネットワークを結成したものである。レンブラングリードは自身の神禍にストックされた武器に関連するデータや『ギース・ヨルムンガンド』をはじめとする武器商人から様々な兵器を再現・購入しており、兵力だけでいえば、『ジャハンナム』とも引けを取らない。
 各地の「死にかけた天才」たちの思考を収録しながら、自身の頭脳にてネットワークを構築し続けており、それらを連携して演算することで彼女自身の思考は“一人の人間の限界”を遥かに超えている。
 その中には、かつて敵対した科学者や、凍死寸前の少年兵たち、撃破した『ジャハンナム』の高位幹部の記憶すら含まれる。

148名無しさん:2025/06/12(木) 20:32:25 ID:BPZCMk3c0
【名前】
易津 縁美(えきかみ えんみ)
【性別】
女性
【年齢】
26歳
【性格】
清楚で気品の有る立居振る舞いをする。誰に対しても礼儀正しく振る舞う穏やかで忍耐強い美少女。苛烈なまでの嗜虐癖を持つ拷問狂
【容姿】
腰まで伸ばした黒髪に処女雪の様な白い肌。均整の取れた身体つきをしている。鮮血色の瞳。
【神禍】
蒼褪めた馬に乗る騎士(フォーホースメン・オブ・ペイルライダー)

:思想
他者の苦しみと悲しみと絶望が見たい。絶望の中で苦しみ抜いて死ぬ姿が見たい。悲しみの慟哭が聴きたい。苦悶の果ての断末魔を聴きたい。


自身の肉を蛆虫に、血を蠅に変える神禍。
肉を蛆虫に変える際には発狂ものの苦痛を味わうが、縁美はこの苦痛に平然と耐えて神禍を行使する。
この神禍は行使すればする程、当人の肉体が削れていく。
蛆虫は鋼鉄すら食い破る牙と顎を備え、一匹一匹で全て異なる多種多様な毒素を含んでいる。更には土地や大気、貪った対象の持つ毒素を自身の中に取り入れる事も可能。
蛆虫同士を喰らい合わせる事で毒を掛け合わせて、新種の毒を創り出すこともできる。

蛆虫は縁美の意志で行動をコントロールできるが、縁美以外のものを余さず残らず喰い尽くす底無しの食欲を持つ。これだけは縁美にも制御でき無い。


蠅は縁美の身体から流れ出る血液からしか変化させられ無い。
この時縁美は、発狂ものの不快感を感じるが、意にも介さず神禍行使する。
蠅は鋼鉄すら溶かす消化液を口から吐き出し、溶けた血肉を啜る。一匹一匹が全て異なる病原体を保有している。
蠅同士を喰らい合わせて、新種の病原体を創り出すことが出来る。
蠅の行動を縁美は自分の意思でコントロール出来るが、蠅が媒介する伝染病は、水平伝播して、あらゆる生物に際限無く感染していく。
この観戦は縁美に制御出来無い。

病と毒は、禍者であれば早々に死ぬ事は無く、縁美を殺害する事で恢復する事が出来る。
これらの特性の為に、毒や病気や放射線に対する完全な耐性を有する。


生み出した蛆や蠅を、己の肉体に戻す事で、身体の傷を塞ぐ事が出来る。
あくまでも傷を塞いでいるだけなので、出血こそ止まり、動かすこともできるが、痛みは残るし、動きや感覚も鈍くなる。
流して失った血は、蝿や蛆が貪ったもので補う事は出来る。


【詳細設定】
日本の資産家の家に産まれ、何不自由無く育ち、運動能力も頭脳も人並みは以上に優れ、生まれ持った美貌も有って、知る者の誰もが認める『完璧な令嬢』として成長する。
しかし、縁美には一つの欠落が有った。
尊いと言われるものに価値を見出せず、美しいと言われるものを美しいと思え無いという事だった。
形が整っているという事は理解できるが、美しいとは思わない。良識も倫理も道徳も弁えているが、良心や情愛というものを感じた事は無い。知識と観察、それらの上に築かれた経験、更に論理的思考に依って、己が欠落を覆い隠していた。

21歳の時、長期旅行先のオーストラリアの都市メルボルンで全球凍結に遭遇。
寒さに凍え、流通が途絶した事による飢えの苦しみ、希望の見えない環境への悲嘆と絶望。自暴自棄になった人間たちによる破壊と略奪と暴行。
刃物で刺され、己の流した血の中に横たわりながら、それらを見て、縁美は初めて己がどういう人間かを知る事になる。
もっと見たい、もっと知りたい。他者の苦悩を、他者の苦しみを、他者の絶望を。
かつて感じた事の無い歓喜の中で、縁は神禍を行使する。
壮絶な不快感と、絶命しそうな程の苦痛の中、生み出された蛆虫は周囲の人間を始めとした生物を喰らって肥え太り、撃ち込んだ毒で苦しめる。
大量の蝿が空を覆い尽くし、あらゆる生物を血肉が混じった泥の様に溶かしながら、ありとあらゆる疫病を撒き散らす。
縁美が神禍により傷を塞ぎ、失った血を補って、立ち上がった時には、深刻なバイオハザードが発生していた。
メルボルンを疫病で死滅させた縁美は、そのままオーストラリアの各都市に、病と毒を撒いていく。
縁美の脅威から逃げ延びた者も、感染者として疫病を拡大。半年でオーストラリアの旧人類は生存圏を喪失。する事になる。
事此処に及んで、政府機能を維持していた全ての各核保有国は、オーストラリアの放棄と核攻撃を決定。
オーストラリアを死の大地と変えてでも、縁美を殺そうとする。
地下のシェルターで核爆発を凌いだ縁美は、生物が死に絶えたオーストラリア大陸を去り、海を渡って東南アジアに到達。
第二崩壊の残した猟場の痕跡を複数愉しみ尽くした。

両親に対しては情愛こそ無いが、敬意と恩義は感じている。

すぐに死ぬ旧人類よりも、早々死なない禍者の方が長く愉しめるので好き。

149名無しさん:2025/06/12(木) 22:23:18 ID:LWvtsQOk0
【名前】ジョン・ダグラス
【性別】男
【年齢】27
【性格】冷静沈着で責任感が強いリーダー。常に仲間とコミュニティの生存を最優先に考える合理主義者を装っている。しかし、その内面には助けたいという青臭いほどの情熱と、自らの力がもたらす悲劇への深い絶望を隠している。力の使用を極度に恐れており、戦闘や非常時でも一歩引いた指揮に徹することが多く、一部の仲間からは臆病者と誤解されている。
【容姿】元々は救命士として鍛えられていたため体格は良いが、心労からかやや痩せている。短く刈った癖のある茶髪に、無精髭。目の下には常に消えない隈がある。リーダーとしての威厳を保つため、ぼろぼろながらも清潔な衣服を心がけている。鋭く理知的ながら、どこか遠くを見つめるような憂いを帯びた瞳が特徴。

【神禍】
『救済の残響(サルベイション・エコー)』
思想:誰よりも早く、助けを求める声に応えたい。

 音速を超えるほどの超高速移動能力。
 ただし、これはジョン自身の身体を「弾丸」として撃ち出すに等しい現象を引き起こす。
 移動開始地点と経路上では、急激な気圧変化により衝撃波と真空状態が発生し、周囲の物体や人間を無差別に破壊・引き裂く。彼が通り過ぎた後には、まるで爆撃を受けたかのような爪痕が残る。
 移動中の彼は空気との断熱圧縮により超高温のプラズマを纏っており、接触したものは全て融解・蒸発する。彼自身はこの影響を受けないが、意図的に誰かに触れる(助ける)ことは不可能。力を使えば使うほど、彼は孤独な破壊者となる。

 「誰かを助けたい」という願いが、「誰よりも早く駆けつける」という一点のみに特化し、歪んで解釈された結果。 

【詳細設定】
 ロンドンの旧再開発地区ドックランズに、生存者コミュニティ『アークライト』を築き、そのリーダーを務めている。水路と堅牢な倉庫群を活かした防衛網を構築し、徹底した配給制度と規律で数十人の命を守っている。
 しかし、彼は自身の神禍の危険性を熟知しているため、決して自ら前線に立つことはない。襲撃者との戦闘では後方から的確な指揮を下すが、その慎重すぎる姿勢が仲間との軋轢を生むこともある。
 彼はその誤解を解こうとせず、全ての重圧と罪悪感を一人で抱え込み、コミュニティという「守るべきもの」を自らの手で壊さないよう、ギリギリの精神状態で日々を耐え忍んでいる。

 全球凍結が始まった直後のロンドン。
 インフラの崩壊により、テムズ川にかかる橋で大規模な玉突き事故と火災が発生した。当時、非番の救命士だったジョンは、助けを求める悲鳴を聞きつけ、真っ先に現場へ駆けつけた。しかし、現場は地獄絵図だった。燃え盛る車、氷点下の寒さで動けなくなる人々、物資を奪い合う暴徒――。
 彼は必死に救護活動を行うが、個人の力ではどうにもならなかった。目の前で助けられたはずの少女が暴徒に突き飛ばされ、燃え盛る車に巻き込まれていく。
 天を呪い、自らの無力さを嘆いたその絶望的な叫びが、彼の魂に「誰よりも速く」という決して揺るがない信念を刻み付けた。

 かつてはロンドンの救急救命士だった。
 正義感が強く、実直な性格で同僚からの信頼も厚かった。しかし、常に「あと数秒早ければ助けられた命があった」という後悔と強迫観念に苛まれており、非番の日にはマラソンで身体を鍛え、1秒でも早く現場に到着するためのシミュレーションを繰り返すのが日課だった。
 彼の人生は、常に「時間との戦い」であり、「救えなかった命」への贖罪意識に満ちている。

150名無しさん:2025/06/13(金) 22:27:22 ID:LcgcrbDo0
【名前】甘城 智樹(あまぎ ともき)
【性別】男
【年齢】33
【性格】極度の厭世家で、万事において無気力。他者との関わりを徹底して避け、必要最低限の会話しかしない。生きることに目的も執着もなく、ただ呼吸をしているだけの動く死体。
【容姿】元は整っていたであろう顔立ちは無精髭と手入れされていない黒髪で覆われ、目の下には深い隈が刻まれている。擦り切れた防寒コートを無造作に羽織り、消耗品のように自身を扱う。だが、そのコートの下に着ているワイシャツだけは、昔の癖で皺一つなく手入れされている。

【神禍】
『喝采は錆び、祭壇は砕け(フェイタル・カーテンコール)』
思想:輝かせたかった。俺の全てを懸けて、あいつを。

 接触した物体に込められた記憶をエネルギーに変換し、指向性のある爆発を引き起こす。
 記憶の印象が強いほど、対象となる物体が大切にされてきたものであるほど、爆発の威力と規模は増大する。例えば、恋人からもらったアクセサリーは対人地雷に、家族の思い出が詰まった家は一帯を吹き飛ばす大爆発の起点と化す。
 また、自身の強い感情(特に怒りや絶望)をトリガーに、手元のガラクタを即席の高性能爆弾として生成することも可能。

 彼の神禍は、かつて抱いた「創造」への願いが、最も残酷な形で「破壊」へと反転した姿である。
 マネージャーとして、アーティスト「赤也紅蓮」という才能に自らの人生、情熱、夢、その全てを注ぎ込み、最高の舞台で「輝かせよう」とした。しかし、間が悪いことに彼のその想いが最高潮に達した瞬間、全ては血と悲鳴の中で無に帰した。
 想いを注ぎ込む行為が、結果的に最大の「爆発(破滅)」を招いた原体験。
 それが歪み、「想いの込められた物を、物理的な爆発物に変える」という、皮肉で攻撃的な能力として発現した。誰かの大切なものを破壊することで、彼は無意識に自らの失われた夢を追体験している。

【詳細設定】
 東京の廃墟を転々としながら、日銭を稼ぐフリーの「始末屋」として生きている。その卓越した状況判断能力と、躊躇なく爆破という最終手段を用いる冷徹さから、腕利きの用心棒、あるいは厄介者として知られている。誰とも組まず、特定の組織にも属さない。
 稼いだ物資は生命維持の分だけ残し、残りは捨ててしまうことさえある。死に場所を探しているわけではない。ただ、生きる理由が見つからないまま、惰性で日々を消化している。

 全球凍結直前、>>105赤也紅蓮のアリーナライブでの惨劇に直面する。
 甘城は無名のバンドにいた赤也の才能に唯一人気づき、大手事務所を辞めて彼のマネジメントに全てを捧げた。泥水をすするような下積み時代を経て、赤也をスターダムに押し上げ、ついに掴んだ夢の舞台。それは甘城の人生の集大成だった。
 ライブが最高潮に達したその瞬間、赤也の神禍が発現。甘城が心血を注いで作り上げた「光の祭壇」は、一瞬にしてファンが絶叫し殺戮される血の海へと変貌した。目の前で自らの夢と未来が文字通り破裂し、消し飛んだ。この強烈すぎる喪失体験が、彼の輝かせたいという純粋な願いを汚染・反転させ、破壊の思想を心に刻みつけた。

 元々は音楽業界で名を馳せた、冷徹で有能なマネージャー。担当アーティストを成功させるためなら、メディア操作、スキャンダルの揉み消し、脅迫まがいの交渉など、どんな汚い手も厭わない仕事の鬼だった。
 音楽を純粋なビジネスと割り切っていたが、赤也の才能に初めて魂を見出し、採算度外視でのめり込んでいった。赤也は彼にとって、最後の夢であり、守るべき全てだった。

151名無しさん:2025/06/14(土) 20:02:54 ID:ZWnWV4ks0
【名前】
赤城 貴志(あかぎ たかし)
【性別】

【年齢】
25歳歳
【性格】
脳筋の熱血感。努力と根性の人。自身の生命を輝かせる闘争を何よりも愛する
【容姿】
194cm・120kg
愛嬌のある顔立ちの、日焼けした短い黒髪の男。鍛え抜かれた無駄な肉の無い、均整の取れた体つきは、一見すると細身に見える。
黒いズボンとタンクトップ姿。見ているだけで凍死しそうとか言われる。
【神禍】
吼え駆ける戦禍の騎士(レッドライダー・ウォー・クライ)
:思想
過酷な環境なればこそ、人は生きる為に苛烈に争わなくてならない。


全心全力全霊で人を殺し合わせる神禍。

貴志の放つ雄叫びを聞いたものは、旧人類ならば瞬時に発狂状態となり、沸き起こる殺傷本能により、目に映る生命全て、例えそれが産まれたばかりの新生児であろうとも、象や羆の様な大型動物であっても殺そうとする。
この時、肉体と精神のリミッターが外れ、肉体と神禍の双方を、限界を超えて使用する事が可能となる。
当然肉体は壊れてゆくが、発狂状態なので気にすることが無い。生命活動が停止するまで、戦い殺し続ける。
全力で殺し合わせる神禍である為に、狂っていても思考は可能であり、頭脳戦が可能。

禍者に対しては、戦意の高揚と、神禍の強化を行う。

雄叫びは発狂させるだけでは無く、衝撃波や極低周波として撃つ事も出来る。


【詳細設定】
日本の北陸地方に産まれ、幼少時から喧嘩を繰り返していた男。
何よりも戦うことを好み、格闘技や武道を学んでは幾つもの大会で優勝する様になっていった。
複数の格闘技団体からスカウトが来る様になった20歳の時に、全球凍結が起きる。
過酷な環境の中で、貴志は自警団に参加する。
北陸地方は、元が豪雪地帯であり、原発も近い事から、全球凍結に対し比較的適応できた土地であり、日本政府も臨時に政府機能を北陸に移転させていた。
日本の他の地域と比較して、余裕があった為に、日本各地から難民が流入。
治安が悪化する中で、貴志は自警活動に勤しむ事となる。
終わらぬ闘争に明け暮れる日々の中で、自分の戦いの結果による安穏に浸り、戦う事をしない者達への苛立ちを募らせ続けた貴志は、遂に神禍を発現させる。
貴志の放つ雄叫びは、忽ちのうちに周囲を闘争状態にし、更には移動しながら雄叫びを放ち続けた為に、北陸一帯の全てが貴志の神禍に晒される。
北陸の人が住む場所全てで、狂乱した旧人類と、強化された神禍を振るう禍者とが戦い続ける地獄絵図が展開され、貴志がは闘争を愉しみ尽くし、人間は貴志をのぞいて全て死に絶えた。
この結果、日本の政府機能は完全に崩壊。日本は国家としての終焉を迎える事になった。

152名無しさん:2025/06/14(土) 21:04:21 ID:s5DFvB9.0
【名前】
羽鳥 恵理
【性別】

【年齢】
19歳 
【性格】
穏やかで人当たりが良い様に見せているが、実際は何もかもが自分の思い通りにならないと気が済まない性格。傲慢で癇癪持ちな嗜虐趣味の殺人狂
【容姿】
薄赤いボブカットヘア。黒髪。冬用の見るからに高そうなコートを着ている。
アイドルと言われればそう見える程度には、整っていて愛嬌のある顔立ち。
【神禍】

『私の素敵な玩具箱』

:思想

他者を思い通りにしたい。


自身を中心として、直径500mの球体状の空間を形成する神禍。
この中は濃密な血霧に満たされ、視覚と嗅覚が阻害され、纏わりつく血霧で行動が鈍化する。


この空間の中は、恵理の知覚領域であり、内部のことを全て知る事が出来る。
恵理は血霧を操り凝結させて、攻防に用いたり、道具を作成したり、足場を形成して空中を歩行するといった様々な事が可能となる。
血霧により傷口を塞ぐ事で、擬似的な治療が可能。あくまでも塞いでいるだけで、治っているわけではないが、出血は止まる。
他者の身体に大量に付着させる事で、行動を阻害するところか、体の動きを操る事さえ可能となる。




【詳細設定】
九州出身。幼い時からなんでも自分の思い通りにならないと癇癪を起こしていた女。
成長するにつれて、癇癖を抑え、上辺を取り繕える様にはなった。
それでも、自己中心的な性格は全く変わらず、苛立ちは募るばかりだった。
全球凍結後、恵理の歪みを形にした様な神禍が発現し、恵理は同じ高校の気に入らない生徒達を、神禍で惨殺。
そのまま行方を晦まして、放浪の身となる。
以降は、神禍を鍛えながら放浪し、行く先々で、人を惨殺し、物資を奪い、集落を支配して遊び尽くす日々を送っている。

153名無しさん:2025/06/14(土) 21:08:15 ID:s5DFvB9.0
>>152
訂正します

【容姿】
薄赤いボブカットヘア。黒瞳。冬用の見るからに高そうなコートを着ている。
アイドルと言われればそう見える程度には、整っていて愛嬌のある顔立ち。

154名無しさん:2025/06/14(土) 23:23:29 ID:NM9M/lVs0

【名前】イヤハテ ハルシ (弥終──)
【性別】男(外見上)
【年齢】0歳3ヶ月(外見年齢19歳)
【性格】中立・悪。能動的。目覚めた3ヶ月前以前の記憶がなくやや無機質的で、ぼんやりしてる(ように見える)。死に対して人一倍強い忌避と恐怖があるが、死の要因の排除(殺害、逃走)には積極的に動く。そうでない限りは割と他人と関わりたがる。自分の実存を確かめたいからだ。
【容姿】艶のあるウェーブの緋色の髪。寒暖差に疎く、一応冬服を着込んではいるが明らかに現在の環境と釣り合ってない。瞳孔が「Ω」の形状をしてる。
【神禍】
 『輝く星よ、黎明の地より昇れ(インカルナティオ・イデアルクス)』
 思想:「生きる」「死なない」

 ───自律型神禍。意思持つ呪い。禍者出現以来前例のない、受肉したエスカトン。
 
 黄白色がかったオーラが全身に展開。これは肉体の構成要素、つまり神禍の一部を剥離させたもので、励起状態では複数の翼を広げたように見える。
 肉体というフィルターを通さない純粋な神禍はリミッターがないに等しく、凄まじい出力を誇る。本能に任せた戦い方は無駄のない狩猟動物というより、機械の精密作業に近い。
 同類といえる神禍とは互いに相殺する形となり、神禍自体に接触・干渉できる代わりに、自身もダメージを受ける。
 実体を持つとはいえ元来生命ですらない神禍。失血、病理程度では止まらず、欠損が起きても身体構造を組み換え元の形に戻してしまう。
 とはいえ感覚はあるし痛いのは嫌。死ににくいだけで限界点はあり完全な不滅というわけでもない。
 
 ハルシが自身の死を認識し、抗うほどにこれらの効果は強まっていく。死を厭い死を与える、無敵不滅を喰らう禍つ明星。
 だが力を解放する間、ハルシには全身に激痛が走り、肌には黒い罅が入り、体が徐々に崩壊していく。
 人類絶滅を本能に持ちながら生存を第一にする、存在自体が矛盾した反発作用が出力の所以であり、自死に至る弱所となっている。
 
 神禍の詳細、自身が神禍であること、既に元になった人間は死んでいる真実を、ハルシはまだ知らない。
  
【詳細設定】
 ローマに旅行で来ていた夜涯晴司(やはて せいじ)は、禍者出現黎明期に多発した無数の暴動の犠牲者の一人でしかない。
 家族や友人、現地の見知らぬ人を助けようと震える足で賢明に走り、あっけなく死んだ。それだけの男だった。
 だが未発現だった神禍の影響か、死んだ後になって奇跡的に意識を保つ───死体のまま、それ以外には何の現象も起こさずに。
 暴動で破壊され尽くして動かない骸。救援の来ない凍土。体温も鼓動も感じられない躰、変化のない静止した世界。
 発狂し、死んだ方がマシな環境に野晒にされても、晴司は意識を手放す事はしなかった。
 生きたい。
 死にたくない。
 どうやって、何を犠牲にしてもといった余分な考えは持たない。 ただ生きるのだという、誰であれ持つ原初の衝動。明日の光を求める希望。
 ……決定的に他人を害する意思に欠けていた晴司は、神禍の発現に適性を持たず、後年を生き地獄に費やすばかりの月日を送った。
 そして3ヶ月前。とうとう意識が途絶えたと同時に初めて神禍が噴き出し、「晴司の願いを代行する」という形で顕在化。
 姿を模しても記憶を持たないソレは、落ちていた文字の掠れたパスポートから自分を「イヤハテハルシ」と定義。
 使命も目的もない、ただ胸の内に宿る「生きる」という願いに衝き動かされて歩き出し、必要な常識をどうにか身につけ、飢えとも寒さとも無縁の身で凍る世界を歩き回っている。
 なぜ自分は、人は、こんなにも「生きる」ことを諦めないのか。自覚なく呪いの存在意義を問いながら。

 ソレは救世主による世界再生を阻む自滅因子の最終機構(アポカリプス)か。聖女の傲慢に神罰を下すべく氷獄から這い出た堕天使(ルシファー)か。呪いの淘汰を乗り越え、次代の霊長となる新人種の再臨(パルーシア)か。
 あるいは、だいそれた天命となんら関係のない、機械が誰かの夢を引き継いだだけの、ただの誤作動(ハルシネーション)に過ぎないのか。
 生贄に選ばれた以上、ルクシエルはともかく主催者のソピア、少なくとも蒐集に携わったエヴァンは存在を認知しているはずである。
 
 夜涯晴司と弥終ハルシは既に別個の存在である。
 晴司の死を契機に発現した神禍のハルシは、それが覆れば当然の理屈として実体を維持できない。
 ルクシエルによる全死者の蘇生が叶えられた場合───即ち晴司が生き返った時、ハルシは消滅する。

155名無しさん:2025/06/15(日) 01:00:35 ID:65EjtV6E0
【名前】勇者候補『凪』/シティ・草薙(くさなぎ)
【性別】女
【年齢】20
【性格】負けん気が強く、常に他者と自分を比較してしまう競争心の塊。プライドが高く、特に同世代の実力者には対抗意識を燃やす。
【容姿】小麦色の肌に金髪のショートカット。防音用のイヤーマフを付けている他、在庫を大量にストックしている母校のセーラー服を常用。武器として携帯している鉄パイプを「固定」し、強度を保っている。

【神禍】『夜凪:静謐固着(ナイトカーム・クワイエットホールド)』
思想:変化しないということは凄いこと。

触れた物の物理現象を「現状維持」で固定化する能力。
動いている物体を空中で静止させたり、崩れかけた建物の倒壊を防いだり、燃え盛る炎を消すことなく拡大も阻止できる。
僅かな波もない穏やかな『凪』のような存在である事から、この名称が付けられた。

固定を解除した場合、物体は固定前の動きを再開する。
一度に固定できるのは一つまでであり、能力発動中は別の物を固定できない。
動いている物体の運動エネルギーを完全に無視して「その場で固定」出来るため、彼女は戦闘において実質的にあらゆる初撃を無効化できる。

なお、生物に対して使用した場合、当然心臓の動きも停止する。
そして固定を解除すると、なぜか心臓が再び動き出すことはない。
即ち、触れれば即死である。

【詳細設定】
かつての空を取り戻すべく結成された四人の『空の勇者』たち。
彼らに比肩する実力と信念を持ちながらも、様々な理由によって勇者と呼ばれなかった者――あるいは『凪』の勇者と呼ばれたかもしれない者。

マレーシア人の母と日本人の父を持つハーフで、ラタン・サリム(>>30)と同じ武術道場で棒術を学んだ同門の妹弟子。
幼い頃から「変化に取り残される恐怖」を抱いており、現状維持こそが最高の価値だと信じている。
勇者選考では実力は申し分なかったが、協調性の欠如と他者への過度な競争意識が問題視され、候補止まりとなった。
同い年で正式勇者のルーシー・グラディウス(>>114)と、実質的に勇者扱いされる弥塚槍吉(>>145)への嫉妬は激しく、二人を超えることに執念を燃やしている。
サリムには複雑な感情を抱いており、兄弟子として尊敬する一方で、自分が勇者になれなかった原因の一部だと逆恨みもしている。

全球凍結の混乱期、彼女は道場の仲間たちと共に避難民の護衛任務に就いていた。
しかし『第二崩壊』(>>122)の猟場拡大により故郷が戦場と化し、多くの同門が命を落とした。
この時、変わりゆく状況に翻弄される無力感から神禍が覚醒。
唯一の生存者として脱出したものの、自分だけが生き残った罪悪感と、変化への恐怖が彼女の心を支配した。

日本に逃れた後は父方の親戚を頼り、廃校となった高校で一人暮らしを始める。
制服への固執は「学生時代の自分」を維持したい願望の表れで、変化を拒む彼女の象徴となっている。
勇者候補として認定されながらも正式勇者になれなかったことで、更に競争意識と劣等感が激化。
現在は単独で救助活動を行いながら、いつか二人のライバルを超える機会を狙っている。

156名無しさん:2025/06/15(日) 04:59:05 ID:roSwMIhw0
【名前】北奈杉 意秋(きたなすぎ いしゅう)
【性別】男
【年齢】39歳
【性格】
非常に傲慢で全てが自分の思い通りにならないと気が済まないワガママおじさん。
禍者になる前はずっと引きこもりだったのでよくネットの口調で語る。一人称はオイラ。
極度の風呂嫌いで今まで風呂に入った回数も片手で数えるほどしか無い。

【容姿】
358cm・513kg
見る者全てに不快感を与えるようなブサイクで醜悪な顔つき。
くりくり坊主で無精髭が生えている。常に不気味な薄笑いを浮かべている。
黄土色のタンクトップに黒い短パンを履いている。
元のタンクトップの色は白だったが汚れてこの色になった。
全身から脂汗を発しており、皮膚は分厚い垢に覆われている。
体臭が酷く、遠くからでも鼻に突き刺さるような異臭を漂わせている。

【神禍】
【拒絶への反抗(リジェクション・オブ・リベリオン)】
思想:オイラを否定する奴は誰だろうと許さないんだな!

拒絶の意志に合わせて、身体を変化させ増強する能力。
他者から拒絶の意志を向けられたり、本人が強く拒絶する意志を見せることで肉体にバフがかかる。
この異常なサイズの巨漢も、全球凍結現象が意秋の生存への拒絶と判定され
身体が変化していった結果である。
拒絶が強くなればなるほど、身体がどんどん増強されていき
最大値まで身体強化された場合、ホラーゲームのボス地味た巨大クリーチャーと化する。

【詳細設定】
デブでブサイクで不潔で挙動不審でオタクでバカで気持ち悪い意秋は学生時代から虐められ
中学生から30過ぎになるまでずっと引きこもりニートとして生きてきた。
昔は「お兄ちゃん」と呼んで懐いてた妹でさえ汚物のように扱われる毎日だった。
だが禍者になって彼は弾けた。
他者に拒絶されるほど強くなる彼に勝てる人間は周囲に存在せず
自分を馬鹿にしてきた人間を片っ端から皆殺しにしてきた。
そんな荒れた彼の心に癒やしを与えるマイエンジェルが現れた。
彼女の名はルクシエル、彼女だけは自分を拒絶せず優しく微笑んでくれた。
それ以来、彼はルクシエルの悪質なストーカーとなり何度も付きまとうようになった。
この儀式に参加したのもラブリーマイエンジェルルクシエルたんを自分の嫁にするためだった。
あんなババア(ソピア)の側にいたらルクシエルたんは不幸になる。
ルクシエルたんを幸せに出来るのは自分しかいない、と考えている。
本人曰く、ルクシエルへの想いは純愛である。

157名無しさん:2025/06/15(日) 08:45:06 ID:YiWXhIkk0
えっこいつら妖精フォームもまだあるの!?

158名無しさん:2025/06/15(日) 20:41:02 ID:QA4mOzSU0
企画主様に質問ですが、投票結果から純粋な得票数とは別の理由で足切りする場合もあり得るでしょうか。
具体的には、これまで数多く投稿されている十二崩壊や空の勇者など、投票結果次第では肩書きの重複や人数の過多でキャラ設定に矛盾が発生する可能性があるので、
その辺りをあらかじめ調整することは考えられるかという話でした。
もし現時点で回答可能でしたら、お答えいただけますでしょうか。

159 ◆EuccXZjuIk:2025/06/15(日) 21:15:50 ID:Il00BaNQ0
>>158
投票ルールに明記する予定ですが、その方向で考えております。
基本的に同じ肩書きや矛盾する設定を持ったキャラが複数当選ラインまで上がってきた場合は上位の方を優先して採用していきます。
あまり得票数以外で不採用にすることはしたくないので、ある程度理由付けを用意すればどうにかなりそうなキャラに関してはこちらで少し考えてみて、そのまま採用させていただく場合もあるかと思います。
詳しくは投票ルール告知の際に改めてご連絡いたします。

160名無しさん:2025/06/15(日) 21:39:09 ID:QA4mOzSU0
>>159
ありがとうございます。

161◆DpgFZhamPE:2025/06/15(日) 22:10:40 ID:???0
投下します。

【名前】 賀月 京姫(がげつ きょうき)
【性別】女
【年齢】18
【性格】
快活で人の言うことを理解し、頭の回転も速い(理解したからと言って従うかは別)。のほほんと
人間大好き。害意や敵意にはとても敏感。
外交的かつ活発。好きなものは好き、きっぱりとしている性格。
下述の出来事から「逃亡・気配を消すこと、人の視界の外に紛れること」を得意としており、その素早い動きで凍結が起きる数年もの間、警察から逃げ仰せていた。
【容姿】日本人。159cm。戦闘時は体勢を低く構え、武器を逆手に持つ。肩まで伸びた黒髪に、ところどころ赤いメッシュが入っている。
トレンチコートに学校指定のオレンジ色の制服と黒のスカート。実際に通っている制服ではなく、独自のルートから頂戴したもの。
【神禍】
『皆に宿る、命の水(ヴィータ・サングィス)』
思想:血をください。暖かい、あなたの血を。

血液に愛された少女。
災厄の中に生まれた地獄の花。
あなたも同じだよ。私も同じだよ。
あなたの血も、私と同じものだから。

無尽蔵の血液を持ち、その血液を操作する。
体外・体内問わず血液を操作し、武器のみならず構造を知っているものならば精製可能。お気に入りはナイフと、血液を操ったワイヤーアクション。
全力を出せば文字通り『血の海』を作ることも可能。全ての足場が彼女の掌の上となる。
他者の血液を摂取すれば、「己の血となった」と解釈され他者の血液も操作でき、血液感染なども防ぐことができる。しかし、自己の血液と比べると操作精度は落ちる。

誰にでも流れる赤い血。
彼女は、全てを均等に愛す。
だって、血が流れているから。
それならば、私と同じだから。

───笑顔で他者を害す、愛の女。

【詳細設定】
人類を滅亡に導いた黎明の十二体。
かつての空を取り戻すべく結成された四人の『空の勇者』たち。

───とは全く関係がない、自然に生まれた"異常"。
ごく普通の家庭に生まれた、"災禍"。
世界の命運とは関係がない、"人間"。

生まれた家庭は、普通だった。
父は優しく時に厳しく、母は強く優しかった。
そこで生まれた少女は、ただの普通の少女だった。
齢六歳となり、蝶よ花よと愛でられて育った彼女は傷ひとつなく。その日初めて、走った末に転倒し傷を作った。
膝に出来た傷。垂れる血液。鮮やかなで、不気味なほど美しいそれを、少女は指で撫で取った。
ああ。これは、なんて───綺麗なんだろう。
その時から、彼女は赤色を好むようになった。
ランドセルの赤。クレヨンの赤。赤い靴。彼女は赤に囚われた。
しかしいずれ傷は塞がる。血は固まり黒く変色し、瘡蓋となり皮膚が形成される。
彼女はそれが残念だった。あんなに美しいのに、綺麗なのに、肌の下に隠れてしまう。それが不思議だった。
彼女は、とある日母に聞いた。

『ねえ、なんで赤は綺麗なのに隠れるの?』
───大事なものだからかなあ。大事なものほど、隠しとくものよ。
『なんで大事なの?』
───みんな、同じものが流れているからよ。だから、溢さないように、分け与えられるように大切に隠しているの。

少女は、十二の夏。初めて出来た恋人を、刺殺した。六年の内に溜め込んだ『赤』への羨望が、ついに溢れてしまった。
発見時には、致死量の血がばら撒かれた凄惨な教室が広がっていたという。血染めの彼女と共に。

未成年故に実名報道されなかったその事件。あまりにも猟奇的故に捜査の開始が遅れ、彼女は捜査の手を逃れ街を彷徨っていた。
赤が好きなの。血が綺麗なの。あなたにも血が流れているなら、あなたの綺麗を見せて欲しいの。
ある時は無害な少女を装い。ある時は家出少女を装い。ある時は無害な成人を装い。ある時は同性の友達を装い。
人気のない場所に連れ込んで、血を浴びる。

地表が凍結に包まれると、彼女の行動は更に悪化した。
寒くて、寒くて、寒くて。
少女一人というのは、あまりにも環境に適していた。庇護してくれる。襲ってくれる。理由は何であれ、関わってくれる。
その悉くを、血の雨にした。
首筋から溢れ出る、命の雨。
───あったかいねえ。
笑顔で。彼女は、命の温もりを噛み締める。

162◆DpgFZhamPE:2025/06/15(日) 22:12:21 ID:???0
訂正します
> 【性格】
快活で人の言うことを理解し、頭の回転も速い(理解したからと言って従うかは別)。のほほんと

> 【性格】
快活で人の言うことを理解し、頭の回転も速い(理解したからと言って従うかは別)。好きなものの前ではのほほんとする一面も。

163名無しさん:2025/06/15(日) 22:42:18 ID:NLDZ0Xjw0
【名前】シルヴァリオ・ロックウェル
【性別】男
【年齢】27
【性格】極めて冷静沈着で、感情を表に出さないプロフェッショナル。必要最低限の言葉しか発さず、その思考を他者へ自発的に発信することは極めて稀である。常に効率と結果を最優先する合理主義者だが、心の底では深い人間不信と、すべてを諦めたような虚無感が巣食っている。自称大統領エンブリオの常軌を逸した言動にも一切動じず、淡々と任務をこなすが、内心ではその馬鹿げたエネルギーに、この終わった世界で唯一の面白みを感じている。
【容姿】無駄なく鍛え上げられた、しなやかな体躯。短く刈り込んだ黒髪に、灰色の瞳と表情筋の死んだ端正な顔立ちが特徴。色褪せたタクティカルベストに黒を基調とした機能的な防寒着を隙なく着込んでいる。

【神禍】
『偽りの兵装庫(フェイカーズ・アーマリー)』
思想:信じられるのは、裏切らない完璧な道具だけだ。

 一度でも物理的に触れたことのある「武器」の構造を完全に理解し、それを寸分違わぬ形で複製・生成する能力。ナイフや銃器はもちろん、手榴弾のような複雑な構造を持つ兵器すら再現可能。
 ただし、生成された武器は極めて脆い。数回使用するか、強い衝撃を受けると、まるでガラスのように砕け散ってしまう。銃であれば数マガジン、ナイフであれば数度の斬り合いが限界。まさに「使い捨て」の兵器である。
 
 「完璧な道具」への絶対的な信頼と執着が、あらゆる武器を“完璧に”複製する能力として発現した。
 「完璧な道具だけを信じる」という思想は、裏を返せば「不完璧な人間は信用できなず、すなわち排除すべき異物である」という結論に行き着く。神禍はこの歪んだ二元論を悪意的に肯定した。
 一つの殺しが終われば、その道具は役目を終えて消える。彼が信じる「完璧な道具」に囲まれて生きるためには、絶えず新たな敵を見つけ、殺し続けるしかない。これは、彼を永続的な殺戮者へと仕立て上げるための呪いに他ならない。

【詳細設定】
 現在は“自称”第49代大統領>>89エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミスの専属SPとして、占拠されたホワイトハウスを拠点にしている。エンブリオの単純極まりない欲望と行動原理を「予測可能で扱いやすい道具」と見なし、互いに利用し合うドライな関係を築いている。
 彼の元にいれば、様々な武器に触れる機会があり、自身の神禍の「兵装庫」を拡充できるという実利もある。エンブリオの掲げる「国家再建」など微塵も信じておらず、ただ静かに、より強力な「道具」に触れる機会を窺っている。

 全球凍結が始まる数年前、彼は政府系の秘密兵器開発機関に所属する天才的なエンジニアだった。心血を注いで開発した新型ライフル――彼が唯一「相棒」と呼んだ完璧な作品――の実戦テスト中、彼の才能に嫉妬した上官がライフルに細工を施した。
 テスト中にライフルは暴発し、シルヴァリオは左手首に消えない傷を負い、流れ弾を受けて同僚の一人が命を落とした。この一件で、彼は「人間は嘘をつき、嫉妬し、平気で裏切る。自分が正しく作り、正しく整備した道具だけが決して裏切らない」という妄執を抱くに至った。

 その後、上官によって濡れ衣を着せられ、同僚の死の責任を被せられた彼は所属していた組織から姿を消した。表社会に彼の居場所も、信じられる人間も、もはや存在しなかったからだ。
 彼はその天才的なエンジニアリング技術を活かし、裏社会で生きる道を選ぶ。最初は兵器の密造や闇市場向けのカスタマイズで生計を立てていた。彼の作る「道具」は常に完璧で、その腕は闇市場で高く評価された。
 しかし、彼の目的は金儲けではなかった。彼の行動はすべて、あの事件で芽生えた「人間は不完全で、道具こそが完璧である」という主張を証明するためのものだった。やがて彼は、自らの手で完璧に調整した最高の武器を手に、デモンストレーターとしてその性能を実証するために標的を「処理」するようになる。
 銃は分解・再調整し、ナイフは自ら研ぎ澄まし、弾丸一発に至るまで最適なものを選び抜く。
 たった一つ残った、道具という信仰のために。

164名無しさん:2025/06/16(月) 00:48:24 ID:l1drLKgE0
【名前】カマカ・レイ・ホクレア
【性別】男
【年齢】48
【性格】表向きは人当たりが良く穏やかだが、内心は狂気に支配されている。タツミヤへの盲信的な崇拝と、神の敵への激しい憎悪が共存する二面性を持つ。情報収集と人心掌握に長け、組織運営能力も高い。
【容姿】ハワイ系の浅黒い肌に白髪交じりの短髪。海水に晒された影響で左目が白濁している。ボロボロのアロハシャツの上から防寒用のジャケットを羽織っている。人懐っこい笑顔を浮かべているが、時折見せる眼光は狂気を秘めている。

【神禍】『係留の縁(モーリング・ボンド)』
思想:因果応報。大切なものが流されたのは、繋いでおかなかったから。

人と人の繋がりを「縄」として可視化し、その縄を操作する能力。
愛情、憎悪、恐怖、忠誠心など、感情の強さに応じて縄の太さや色が変わる。
切断すれば関係性を断ち、逆に結べば新たな関係を強制的に作り出すことも出来るが、この操作は一時間程度で元の状態に戻る。
なお、縄はカマカの握力、腕力が万全であれば素手で引き千切ることが出来る。

自分を対象とした悪意ある行為(攻撃、呪い、裏切り等)を受けた時、その行為者とカマカを結ぶ「因果の縄」が発生。
この縄を切断することで行き場を失った悪意が行為者本人へ跳ね返る「呪詛返し」を発動できる。
発生したばかりの綱は非常に細く、その時点で切断しても大した悪意は跳ね返らない。
カマカが実際に何らかの損害を受けることで縄は太く禍々しい形状へ変化していき、発動する「呪詛返し」の精度も上がってゆく。

【詳細設定】
アメリカ合衆国の各州を一つずつ滅ぼしていた『十二崩壊』の一人によって最後の標的となったハワイは、三日間に七十五回の沈没と再浮上を繰り返し、壊滅した。
カマカはその沈没の最中、海底で途方もない巨大な「何か」を目撃。
それは人知を超えた存在であり、己に降りかかる超常の出来事は全て因果応報なのだと悟った彼の精神は決定的に破綻した。
奇跡的にアジア方面へと逃げ延びた彼は、そこで生存者コミュニティから暴漢の始末を依頼されたタツミヤ(>>26)と遭遇。
彼が蛸の神禍を使用し悪を討つ場面を目撃したカマカは、海底で見た「神」の依り代だと解釈し、以来タツミヤに狂信的な信仰を抱くなるようになる。

タツミヤ本人が他者との関わりを拒絶しているにも関わらず、カマカは物資や情報などを対価に危険人物の排除を依頼、という名目で裁かれるべき悪人を神の御前へと差し出すようになった。
持ち前の人当たりの良さと神禍による情報収集能力を駆使して各地に協力者を配置し、小規模ながら影響力のある秘密結社「深海の瞳」を組織している。
現在はバトルロワイアルに参加者として巻き込まれているが、主催者ソピアを特に憎悪している。
神は悪を討つ存在ではあれど、人を救う存在ではないと、カマカは知っているため。
ソピアは身勝手に神に期待し、身勝手に神に失望し、身勝手に神を冒涜する大罪人を目の当たりにしたカマカは自らの使命を理解する。
それは、黒い聖母気取りの穢れた白百合の花を、タツミヤの孤独を慰める供物、最高の贄とすること。

「呪詛返し」の能力を用いてソピアをバトルロワイアルの一参加者に引きずり落とすことを画策。
儀式の贄となる神禍を跳ね返すことでソピア自身を参加者として巻き込み、タツミヤの手による「神罰」を実現させようとしている。

165名無しさん:2025/06/16(月) 20:13:43 ID:mZqbUulc0
【名前】
安田 錦(やすだ きん) 

【性別】


【年齢】
107歳

【性格】
穏やかで慈悲深い老婆。家族や周囲の人間を愛し、周囲からも愛された女性
性格が現れた穏やかで心優しい言葉使いをする


【容姿】
153cm・60kg 車椅子に乗っている小太りの白髪の老婆。分厚い木綿のどてらを着ている


【神禍】
救いを運ぶ神禍の車輪(ジャガーノート)


思想、信念
皆んなを苦しみから救いたい

自身の身体を『殺戮の為に特化した姿』に変える神禍
車椅子を取り込んで変身して、下半身が車椅子、上半身は巨大な人型という鋼の異形の姿に変貌する。
車椅子の下半身は、時速四百キロで未舗装の地面を走り抜け、障害物を走破し、壁や天井すら走行する。
鋼の身体は対物ライフルすら弾き、腕の一振りで鋼板に穴を開ける。
十指の先は銃口となっていて、禍者の体ですら簡単に貫く弾丸を乱れ撃ってくる。



【詳細設定】
三世代家族で、孫を溺愛しながら穏やかな老後を送っていた老婆。
孫の成長を見守る事を何よりも幸福としていた日々は、全球凍結により呆気なく終焉を迎える。
寒波と治安の悪化により、金は娘夫婦を喪い、孫と二人だけで困窮する事となる。
救いの無い絶望の中で、絶望した金は、孫をこれ以上苦しめない為に、己の手に掛けてしまう。
心身共にはりさける慟哭と悲痛の最中、金の神禍が発現する。
殺戮の神禍を発現させ、異形の姿へと変貌した事を、金は己に対する罪と捉え、寒さと飢えに苦しむ人たちに死という救いを齎す事こそが、己に課さられた贖罪と思い込む。
かくして金は、異形の姿で日本各地を巡り、出逢ったもの全てを殺し尽くす、殺戮の遍路へと出発した。

バトルロワイアルに於けるスタンスは、世界が元通りになり、死者が蘇るのならば、おのれが殺した人達も、娘夫婦も、孫も蘇って、穏やかな世界では過ごせると肯定的。
但し、罪深い己は救いを受ける資格は無いと考えている。
救いを託すに足る人物が居れば、その人物の為に死ぬ事も厭わない。

166名無しさん:2025/06/16(月) 21:03:00 ID:cUdP6LEo0
【名前】ダイダラ
【性別】男性
【年齢】10歳
【性格】子供の無垢さと残酷さを体現したようなクソガキ。割と素直。
【容姿】小柄で、あどけなさの残る顔立ちの少年。ボロボロの怪獣パーカーを着ている。
【神禍】
『怪獣降臨(プレイタイム)』
思想:ボクは強いんだ!ガオー
自身の身長を500倍にする。
本来の身長が110cm前後なので、約55000cmの巨人になる。
更に巨大化した状態で踏み潰した生命の持つエネルギーを自己に還元する事で、より強く、より際限なくデカくなる。
頑張れば口から破壊光線も出せる。威力は小規模の核弾頭に匹敵する。

【詳細設定】
黎明期の世界に大きな傷痕を残した準特級の災禍の一人。
『白い家』と呼ばれる謎の施設で外界との接触を絶たれ、道徳はおろか一般的な善悪の区別を一切身につけず育った孤児。
『白い家』を脱走後、太平洋を泳いで渡り、世界中の国々を踏み潰して蹂躙した。
この行いに悪気は一切なく、文字通り子供が蟻を踏み潰す感覚で殺戮を行っていたらしい。
欧州連合軍との湾岸戦を最後に長らく行方不明になっていたが、その期間何をしていたかは不明。

167名無しさん:2025/06/16(月) 21:33:48 ID:UAYStSMw0
【名前】昨日峰 未架(きのうほう みか)
【性別】女
【年齢】18
【性格】自信に溢れた"驚異の発明家"を自称する少女。自分が発明の天才であることを信じて疑わない思い込みの強さと、自分の才能でみんなのためになろうと努力する善良さを持つ。
【容姿】
防寒具の上に使い込んだ白衣と隅にヒビの入った保護ゴーグルを付けて、常に見た目から発明家アピールをしている。
かつての発明品の影響で七色のマーベル模様になった長髪を後ろでくくり、勝ち気で自信に溢れた表情をしている。
【神禍】
『仮想未来の架空融合(ニューエスト・ニュークリア・ニュートロン)』 
思想:アタシは偉大なる"驚異の発明家"。みんなを照らす、希望の光!

偉大な発明品を次々と作り出す天才的な頭脳そのもの。
──と思ってるのは本人だけ。

実際の能力は彼女の作るガラクタ──"発明品"を、彼女が想像する性能で使用できる能力。
どう考えても工学的合理性のないガラクタの銃から強力なレーザーを放ち、謎の五角柱がストーブのように熱を放つ。
なお、あくまで使用できるのは本人だけ。

勿論、想像さえすれば何でも出来る訳では無い。
彼女が"この"発明品"なら出来る"と確信できるに足る説得力が"発明品"を使用するためには必要。
一例としては以下のような条件やその組み合わせが求められ、また"発明品"が高性能になればなるほど条件は厳しくなる。

・大きさ
無意味なほど大きく、迫力があることが望ましい。
・貴重な材料
実際に有用な材料であるかは必ずしも関係ない。特別な謂れがあったり高価、希少な物を用いるべし。
・複雑さ
彼女の美意識に沿った、付属部品やパーツが多いゴチャゴチャした外見であるべし。
・物語性
彼女が喜ぶような物語性──たとえば、対◯◯用決戦兵器など──があるとベター。単なる便利なアイテムでは、特別感が足りない。

また、結局は神禍であり、兵器や武装のような戦闘に使える"発明品"は難易度が低く、そうでない生活用などの"発明品"は難易度が高くなる。
彼女は何度も治療や蘇生の発明をしようとしたが、その全ては失敗に終わっている。

【詳細設定】
"驚異の発明家"を自称する、自作の"発明品"──その実態は、本人以外には完全に見栄えだけのガラクタ──で武装した少女。
現在は、外敵の目から離れた日本の山間部の集落の外れに"研究所"を構え、集落の番兵のように周囲からは認識されている。

全球凍結前はありふれた、"発明家"に憧れる中学生に過ぎなかったが、神禍を発現すると共に"発明品を作る"ことに情熱の全てを傾けるようになる。
自分の理論の通りに、作った物が機能するようになった喜び。そして、その作った武器で友人を救うことが出来た喜び。彼女は独自の理論を先鋭化させ、発明理論については中学生レベルの知識の上に独自解釈した聞きかじりの知識を乗せた、本人の頭の中でだけ完結した理論体系を作り出す。
何しろ彼女にとって、その理論で作り出した"発明品"は確かにその通り機能するのだから、疑う余地もない。
「アタシのこの銃はね、内部の窒素合金の表面を二次元から四次元に拡張して、積分ベクトルの形で射出するんだ。だから火薬もいらないし、究極的には銃弾すら要らない。まあ、空気中の窒素を銃弾にする手間を考えたら、普通に銃弾を入れたほうがマシだけどね!」

彼女は自作の人間大の自走式トランクケース──自立駆動型トランクケース『トラちゃん三号』に"発明品"を詰め、度々凍土の世界に"発明品"の材料を集めに旅に出ている。
彼女の最高傑作は"第九崩壊が溶かした核融合炉の外壁の残骸"を回収し材料とした、対十二崩壊兵器・融星灼砲『ユウちゃん一号』。

なお、"発明品"を作るために磨いた技術者としての腕──溶接、整形、鋳造、研磨、その他諸々の加工技術──は正しい意味で天才的な腕前。
普段は"発明品"を作ることにしか使われないが、友人が頼むと文句を言いながらもだいたい何でも修理してしまう。
彼女の世界観を矯正することを諦めた友人たちも、思わずにはいられない。
彼女が本当に発明の天才だったなら、と。

168名無しさん:2025/06/16(月) 23:03:47 ID:cUdP6LEo0
【名前】無敵のシュラーフ
【性別】女性
【年齢】28
【性格】仁義を尊ぶ義賊、女傑
【容姿】身長210cm、凄みのある白人女性、顔に一文字の傷痕がある。
【神禍】
『夜明けの私へ(シュラーフェン)』
思想:明けない夜はない、止まない雨はない。
快眠を約束する力であり、眠っている間、外部からのあらゆる干渉や攻撃を無効化する。
また、眠ることで直前に負っていたダメージを治癒する事ができる(能力発動により蓄積した疲労感は時間経過以外で回復しない)。
生物が生存できない環境だろうが眠りさえすれば無敵となり、氷点下だろうが宇宙空間だろうが、問題なく熟睡できる。
一見戦いには役立ちそうにもないが、戦闘の合間に一瞬の居眠りと覚醒を切り替える事で攻撃を受け流す等、戦闘手段としても昇華されている。
【詳細設定】
無法と化した地を旅し、卓越した剣技で人々を悪から救う酔狂な女剣士。
皆が安心して熟睡できる世を取り戻す事を願い、しかし、心のどこかで諦めている根無し草の流離人。
どこの組織にも属していないが、欧州の『万病王』、中央アジアの『狂い血』討伐の実績により、その実力は各地に轟き、無敵のシュラーフと称され畏れられている。
世界各地を旅しているので言語に堪能だが、訛りが酷く日本語で言う広島弁っぽく聞こえる。

169名無しさん:2025/06/16(月) 23:42:47 ID:1GKxdlpI0
【名前】牙野 弐弧(きばの にこ)
【性別】女
【年齢】17
【性格】常に何かに怯えるように周囲を窺う、自己肯定感の極端に低い少女。口癖は「ふええええ……」。誰かに強く出られるとすぐに萎縮し、涙目になってしまう。しかし、その気弱さは敬愛する『姫』に身の危険が迫った時、あるいは自身の”居場所”が脅かされると判断した瞬間に霧散する。感情の箍が外れ、姫の脅威となる対象を排除するためだけの、冷徹で無慈悲な戦闘マシーンへと変貌する。その忠誠は信仰に近く、姫からの理不尽な仕打ちさえも「自分が必要とされている証」と歪んで解釈し、至上の喜びと感じる。
【容姿】小柄で華奢な体躯。手入れの行き届いた長い黒髪をサイドテールにしている。服装は、動きやすさを重視した暗色のメイド服風チャイナドレス。最大の特徴は、痛々しい身体の欠損。えぐられた左眼は眼帯で隠され、失われた左腕の袖に至ってはだらりと垂れ下がったまま。これらの傷は彼女にとって姫への忠誠を証明する勲章であり、隠す必要のないものだと考えている。気弱な表情とは裏腹に、残された右手は武器を握り続けたことで硬く、節くれ立っている。

【神禍】
『寵愛者牙狼(プリンセス・フェイバリット)』
思想:私の“居場所”を、誰にも渡したくない。

 姫への忠誠心、すなわち「姫の隣という居場所を失うことへの恐怖」をトリガーとする領域型自動報復能力。
 弐弧が『姫』の半径1キロメートル以内、かつ自身の視界内にいる時、神禍は常時発動状態となる。この領域内に『姫』または弐弧自身に対して明確な敵意・殺意を抱いた者が侵入した場合、弐弧の意思を介さず、残された右腕が狼の顎のような黒いオーラを纏い、最短最速で対象の喉笛を噛み千切りにいく。
 普段の気弱な人格とは完全に切り離された、純粋な「脅威排除システム」。彼女が負傷で動けなくなっていても、腕だけが勝手に動き、敵を屠る。

 「居場所を渡したくない」という切実な願いは「物理的な縄張りを侵す者を殺してでも排除したい」と解釈され。
 その結果、他者を救う余地の一切ない、姫の側という聖域(サンクチュアリ)を侵犯する“害虫”を自動で“掃除”するためだけの殺戮能力として発現した。
 彼女自身の意思さえ介在させないことで、躊躇いや油断といった人間的な弱さを排し、より確実な殺害性能を担保している。

【詳細設定】
 『姫』が率いるカルト教団〈紅罪楽府〉において、彼女の身の回りの世話と護衛を担う側近(自称)として暮らしている。姫の気まぐれな暴力や理不尽な要求を甘んじて受け、そのたびに身体の一部を失ってきた。
 しかし、彼女にとってそれは姫の関心を引けている証であり、自身の存在価値そのもの。教団の他の信者が姫に近づくことすら、自らの“居場所”を脅かす行為と捉え、強い警戒心と嫉妬を抱いている。
 >>143自称No.7『啓蒙』 / エックハルト・クレヴァーに対しては「鬱陶しいので死んでください〜〜><」と思っている。

 全球凍結が始まる少し前、弐弧は日本有数の武道宗家の家に生まれた。しかし、天才的な才能を持つ兄とは対照的に、彼女には一切の才能がなく、稽古では常に兄からの苛烈なしごきと嘲笑の対象だった。
 両親からも「出来損ない」「牙野家の恥」とネグレクトされ、屋敷の中で“いない者”として扱われた。誰からも愛されず、必要とされず、「自分には価値がない」「ここに自分の居場所はない」という絶望が彼女の心を支配していた。
 食事や衣服に不自由はなかったが、家族との会話はなく、誕生日を祝われた記憶もない。学校にも通わせてもらえず、ただひたすら道場で、才能ある兄の「サンドバッグ」として無意味な稽古を強いられる日々。
 この頃に受けた暴力と、それから身を守るために無意識に覚えた体捌きが、皮肉にも現在の戦闘能力の礎となっている。彼女にとって、凍結前の世界は「自分がいなかった世界」であり、何の未練もない。
 全球凍結による混乱の中、家は崩壊。生きる術もなく彷徨っていた時、偶然『姫』と出会う。ボロボロの姿で怯える弐弧を見た姫は、面白い玩具を見つけたように笑い、気まぐれのままに手を差し伸べた。
 生まれて初めて誰かに「必要とされた」その経験が、弐弧にとって世界の全てとなった。姫の隣こそが、人生で初めて得た自分の“居場所”。この場所を失うくらいなら、何度でも死んだ方がましだ――その強烈な執着が、彼女の思想の根源となった。
 それが、人類滅亡をもたらす”災禍の尖兵”となる事を意味するとしても。

 『第二崩壊』が産んだ”青ざめた馬の騎士”、 『第十崩壊』が従えた”『晴』の勇者”、『第六崩壊』が引き寄せた”第七崩壊更新者”に続く、災禍に惹かれた外れ値の禍人たちの一人。
 四人目として確認された、”災禍の尖兵”である。

170名無しさん:2025/06/16(月) 23:48:46 ID:l1drLKgE0
【名前】花園 すもも
【性別】女
【年齢】16
【性格】他人との距離感を掴むのが苦手で、基本的に一人でいることを好む。感情の起伏は乏しいが、時折見せる純粋な好奇心が年相応の少女らしさを感じさせる。
【容姿】桃色がかった薄い茶髪をショートボブにカットし、丸い瞳をした小柄な少女。古びたピンク色のダウンジャケットと厚手のタイツを愛用している。

【神禍】『三匹の家来(トライアド・リテイナー)』
思想: 一人でも生きていけるけれど、誰かがいてくれたらもっと楽になるのに

最大三名まで他者に以下の能力を付与できる。
対象者が元々神禍を有していた場合、すももの能力が付与されている間は使用不能となる。

「犬も歩けば棒に当たる(グッドラック・ガーディアン)」
付与された者の運気を大幅に向上させ、偶然の幸運に恵まれやすくなる。
食料や武器の発見、敵の見落とし、致命的な攻撃の回避など、生存に有利な偶然が頻発する。
ただし同時に予期せぬトラブルにも巻き込まれやすくなり、幸運と災難が表裏一体となって現れる。

「猿も木から落ちる(アクロバット・ガーディアン)」
付与された者の身体能力と反射神経が飛躍的に向上し、常人では不可能な身軽さを獲得する。
高所からの落下や危険な地形での移動が可能になるが、過信による判断ミスや無謀な行動を取りやすくなる副作用がある。

「雉も鳴かずば撃たれまい(サイレント・ガーディアン)」
付与された者の存在感を希薄化し、敵に発見されにくくする隠密能力。
気配を完全に消し、視覚的にも認識されにくくなる。
しかし能力使用中は発声や積極的な行動が制限され、緊急時のコミュニケーションが困難になる。

これらは「頼れる仲間がいれば」という潜在的な願望から生まれた能力。
しかし「一人でも構わない」という沁みついた思考によって純粋な恩恵とはならず、すもも自身もそのことを薄々理解している。

【詳細設定】
両親からの愛情を受けることなく育った少女。
父親は仕事を理由に家を空けがちで、母親は育児放棄同然の状態だった。
そのため幼い頃から一人で過ごすことに慣れており、文明崩壊後も特に動揺することなく淡々と生活している。
当時11歳の少女が一人で生きていくには過酷すぎる世界だったが、ひょんなことから食料を分け与えたことで一人の青年、桐谷隼人と行動を共にするようになる。
すももは隼人に「雉」の能力を与え、その能力に守られることで二人は生き延びてきた。

隼人との関係は保護者と被保護者というより、互いに利用し合う共生関係に近いとすももは考えている。
表面上は感情を表に出さないすももだが、内心では青年への依存と距離を置きたい気持ちの間で揺れ動いている。
神禍の覚醒後、自分が他者に力を与える立場になったことで、初めて「必要とされる」感覚を味わった。
しかし同時に、相手が自分ではなく能力を求めているのではないかという疑念も抱えている。
彼女の能力が持つ副作用は、無意識に他者との完全な信頼関係を拒んでいる表れでもある。
一人でいることの寂しさと、誰かと一緒にいることの煩わしさの狭間で、すももは今日も静かに生き続けている。

171名無しさん:2025/06/16(月) 23:49:37 ID:l1drLKgE0
【名前】桐谷 隼人(きりたに はやと)
【性別】男
【年齢】19
【性格】口数は少ないが面倒見が良く、責任感が強い。感情を表に出すのが苦手で、すももとの距離感に悩んでいる。
【容姿】黒髪を無造作に伸ばした痩身の青年。擦り切れた茶色のコートを羽織り、常に警戒するような鋭い目つきをしている。

【神禍】「雉も鳴かずば撃たれまい(サイレント・ガーディアン)」
思想: 花園すももを守る

花園すももによって付与された神禍。
自身の存在感を希薄化し、敵に発見されにくくする隠密能力。
気配を完全に消し、視覚的にも認識されにくくなる。
しかし能力使用中は発声や積極的な行動が制限され、緊急時のコミュニケーションが困難になる。

隼人は本来、神禍を有していない無能力者だった。
そのため隼人が扱う神禍と彼の思想には因果関係が存在しない。

【詳細設定】
元は都内の工業高校に通う平凡な学生だったが、全球凍結の際に家族を失い、生き延びるために盗みに手を染めるようになった青年。
ある日、廃墟で一人缶詰を食べていた幼いすももに出会い、彼女の無防備さに危機感を覚えて保護することを決めた。
当初は一時的なつもりだったが、すももから能力を付与されたことで二人の関係は固定化されることとなる。

文明崩壊後の終末世界とはいえ、隼人は自分が犯罪に手を染めたという負い目を抱えている。
すももに対しても「守ってやっている」という意識と「利用している」という罪悪感の間で揺れ動いている。
能力使用中は発言できないため、すももとの意思疎通が困難になることを密かに苦痛に感じているが、彼女の安全のためには必要だと割り切っている。
表面上は淡々とした関係を維持しているものの、すももが本当に自分を必要としているのか、それとも単に便利だから一緒にいるのか、答えの出ない問いを抱え続けている。

172名無しさん:2025/06/17(火) 06:46:51 ID:aI5kOb4Y0
【名前】スピカ・コスモナウト
【性別】女
【年齢】19
【性格】純情そうに見えて強か。打たれ強く、ちゃっかりしている。毒のある冗句は心を許し初めた兆候。
【容姿】お下がりの古びた軍服。雪のような白髮のポニーテール。頬と額に絆創膏。歪な形の機関銃を抱えている。

【神禍】『宣告せよ暗天の宙(プラグラーマ・クドリャフカ)』

 思想:生き延びるための希望を見つけたい。

 数少ない予知能力者。
 スピカは自らの力をあまり自由に扱うことが出来ない。

 自らの危機に際して突発的に発生する小規模な予知が殆どをしめている。
 虫の知らせのような頭痛と共に、死のヴィジョンが思考に降りてくる。
 この未来は行動次第で回避することが可能であり、彼女が今日まで生き延びた大きな要因になっている。 

 そして稀にではあるが、周囲環境あるいは世界全体に訪れる変化、"大予言"を受信する事がある。
 いずれにせよ、スピカの予知は例外なくネガティヴな情報の羅列であり、それを見聞きする者達を絶望に追い込んでいく。
 まるで悪意の拡声器のようでもあり、彼女の予知、存在を巡って発生した争いは過去に多くの死者を出してきた。
 一時期は人類の希望を探るに足ると期待された力でありながら、実際は絶望を振りまく凶兆にしかなりえず。
 結果的に自身を含めた多くの人々を傷つけ、死に追いやったとされる。
 
 強く、希い、祈ることによって能動的に予知を行った前例もあるが、非常に成功率が低い上に負担も大きい。
 なお、"大予言"が示した未来を変えることが出来た前例は、現在のところ存在しない。


【詳細設定】

 一時期、『国連の宣告者』と呼ばれた預言の少女。
 出自は市民であるが、全球凍結現象の直後、偶然にも国連軍に保護された。
 混沌極まる社会情勢のなか、神禍が判明したことにより、超法規的措置によって半ば強制的に軍属となる。

 軍隊式の格闘術、火器の扱いを修めている。
 常に抱えている歪な銃器は、身体を武器に変身させる禍者のゴク、その成れの果て。
 国連が機能を失った現在、予知目当ての追手から逃亡する日々を送っている。

 当初、スピカの能力は国連軍の切り札とされ、最優先保護対象に指定されていた。
 地上に出現した十二の災禍を初め、寒冷化初期の脅威認定の多くは彼女の予言に基づくものである。

 その後も、勇者の死、各地で発生する悲劇的な事件、収まらぬ寒冷化の進行など。
 様々な厄災を予知するものの、国連は尽く改変に失敗。
 どれほど希っても、少女は人類の希望に繋がるような未来を見ることは出来なかった。

 凶兆しか口に出来ない預言者をやがて人々は疎み、その悪性を利用しようとする者も増え始め。
 やがて、迎えた国連本部の内部崩壊に差し当たって、遂に血みどろの奪い合いに発展する。

 予知を巡り、多くの人々が死に、少女自身も深く傷ついた。
 それでも生き延びることが出来たのは、国連軍の中で最後まで正義と良心を保ち続けた『秩序統制機構』の献身によるもの。
 ただの市民に過ぎなかったスピカを軍属として数年間鍛え上げ、家族のように共に過ごした、最後の獅子が残した精鋭たち。
 
 諦めない。希望を探し続ける。

 身を挺して少女を守り、思いを託して死んでいった彼らとの約束を果たすため。
 その一心で、スピカは今も折れず、俯かず、空を見上げている。
 天を塞ぐ闇を超えた先、一筋の光を掴むために。

173名無しさん:2025/06/17(火) 14:20:30 ID:qY8C/sis0
【名前】アザゼル=ヨアキム=ダランベール
【性別】男性
【年齢】外見年齢は30代前半(実年齢不明/神禍発現より年齢停止)
【性格】
理知的かつ冷静。だがその奥に、果てしない孤独と諦念を秘めている。
神を信じ、人を愛し、文明の行く末を案じていた者が、すべてに裏切られた末に沈黙したような静かな絶望を纏う。
人類全体に対して慈悲と軽蔑を同時に抱いており、傍観者でありながら選別者でもあるような矛盾を孕んでいる。

【容姿】
銀灰の髪と濁りのない琥珀色の瞳。
神官服と軍装を混ぜたような、整然とした装いを好む。
背は高く、威圧感ではなく威厳を感じさせる体躯。
表情は常に静かで、怒りも悲しみも滅多に表には出ない。

【神禍】
『失楽園回帰(パラディゾ・リダクション)』
信念:人類が楽園に達するために試練が必要である

世界を改変する神禍。
世界法則は自由に変えられる訳ではなく、改変の方向性は対象に対してより厳しい試練を与える方向に限られる。
現在、『人類全体』を対象として発動しているが、個人に対しても行使可能であり、その場合その個に対する乗り越えるべき宿命的な試練が与えられる。

【詳細設定】
唯一、氷河期の訪れがよりも以前に神禍の覚醒を確認されてている始まりの禍者。
アザゼルはある宗教国家の高位祭司であり、同時に科学技術によって世界を変えようとする改革派の頭目でもあった。
彼は宗教と科学の両立を掲げて世界の再設計を目指していたが、それは神と人類、両方からの断罪を受ける愚行とされ、異端者として処刑されることとなっていた。
だがその処刑が執り行われようというその瞬間、初めてこの世に『神禍』が発現した。

彼の神禍は世界に氷河期と言う大いなる試練を人類に齎した。
彼が願わなければ、世界はまだ温かかったかもしれない。
しかし彼がいなければ、人類は自らの傲慢さに気づかぬまま、別のかたちで滅びたことだろう。

174名無しさん:2025/06/17(火) 18:55:22 ID:0I7tKyPI0
【名前】セレスティアーネ・セラフィーニ
【性別】女
【年齢】18
【性格】自信家な元気っ子、感情豊かで正しいと思ったことに突き進む。傷ついた人を放っておけない。
【容姿】ぼろぼろのシスター服だが、みすぼらしさは感じない。自信に満ち溢れた表情をしている。
【神禍】
『堕胎吸命』
思想:今を生き残らなきゃ始まらないっ!

他の命を吸い取り、肉体を補填する。
自分にも他人にも使用可能。
若者を対象とした場合、他人を犠牲にせずに使うこともできるが……?

【詳細設定】
世界を旅し、傷ついた人々を癒して回る若きシスター。
持ち前の前向きさと明るさで、絶望に沈む人々を元気づけている。
人を傷つけるはずの神禍で人々を癒す彼女は聖女として讃えられている。

彼女は自分の神禍が回復ではなく、生命の吸収であることは知っている。
目に見えない何かを犠牲にしているのだとは薄々感づいているが、必要なことと割り切って神禍を使用している。


その実態は、当人の命を作る機能から命を吸い取って肉体の補填にあてている。
つまり将来生まれるはずだった子供を犠牲にしている。
彼女が人々を救うほど、人類種は滅びに向かう。
それを知らず、彼女は人々を救い続ける。
いつしか、自らの行いが人類の希望につながると信じて。

175名無しさん:2025/06/17(火) 18:58:48 ID:2E6mkbRk0
【名前】カラメグリーン/葉山光四郎
【性別】男
【年齢】26
【性格】正義を示す機会を待ち望んでいる、超人的な力を振り回すのも結構好き
【容姿】変身後:緑色の鎧に身を包む超英雄戦士 変身前:気苦労から実年齢より老けて見えるおじさん
【神禍】
『禍重変身体・残緑(きょうかへんしん・カラメグリーン)』
思想∶生き残ったからには正義を示したい
変身した姿を更に強化する。敵もいないというのに…。
【詳細設定】
葉山光四郎は『促進戦隊・カラメンジャー』というヒーローチームの一員だった。
ある日突然『劣等生物絶滅認定小可愛動物』というマスコット・キャラに声をかけられた彼はかつて地球から姿を消した生物たちが怨念となって幾万年の雌伏を経て実体を得、地上に厄災をもたらそうとしていると告げられる。
世界の平和と正義の証明という大志を抱き、他四人の若者と手を重ねる光四郎であったが、敵組織・絶滅災害根絶集団『リバイバーズ』が全容を表すのと前後して全球凍結が起きてしまう。
リバイバーズは環境の変化に耐えられず全滅し、環境災害という見えない敵を前にカラメンジャーもまた手も足も出ず、マスコット・キャラとも連絡がつかなくなりチームは自然に解散。
煮え切らない思いを凍えきった地球でくすぶらせながら各地で姿を現す強力な悪意の持ち主の情報に歯噛みする光四郎。人を超えた力を役立てようにも今の地球には長距離を移動する手段がないのだ。
近所の人を地道に助けながら基地に放置された巨大ロボ・カラメセイヴァーの起動を可能とする手段を探す光四郎だが起動キーも整備士も仲間たちも既に失われ世界を救うチャンスすら得られない。
ヒーロー戦士として生きるのを諦めかけていた彼のもとに、今回のバトル・ロワイヤルの知らせが届く。
戦える上に世界を救えるなら好都合……正義かはちょっと怪しい思想ではあるが再びヒーローは立ち上がるのであった。
【関連人物】
血潮源四郎∶カラメレッド。環境の変化に耐えられず死亡
腐海小四郎∶カラメブルー。環境の変化に耐えられず死亡
黄金山泰四郎∶カラメイエロー。環境の変化に耐えられず死亡
リリー・アダムス∶カラメピンク。環境の変化に耐えられず死亡
腹黒創二・腹白仁一∶カラメブラック・カラメホワイトを名乗り光四郎に接触した詐欺師。光四郎を利用しようと企んでいたが撲殺される。

176名無しさん:2025/06/17(火) 21:04:47 ID:0I7tKyPI0
【名前】ブランケッタ・グランプライス
【性別】女
【年齢】22
【性格】夢見がちで天然。非常に惚れっぽく、なおかつ気に入った相手にはぐいぐい距離を詰めてくる。怖い人は大嫌い。
【容姿】ぽやぽやっとした童顔の美女。ふわふわでおしゃれな毛皮に身を包んでいる。
【神禍】
『キミこそが運命の人』
思想:いつか王子様が私を迎えに来てくれる

好意を抱いた人間一人に対して絶大な強化を施す。
その強化幅はブランケッタの好意に依存するが、嫌われると一転、凄まじいマイナス補正がかかる。

【詳細設定】
童話のような恋愛に憧れる箱入り娘。
争いで真っ先に犠牲になるような人間であったが、
いち早く禍者となったブランケッタの神禍はこの世界を生きるに有用であった。
彼女に気に入られることは集落でのし上がるプラチナチケットと見なされ、熾烈な争いが水面下では繰り広げられた。
一方で卑怯だったり暴力的な側面をブランケッタに目撃され、嫌われたことで最下層まで堕ちた元カレも多い。
これまで彼氏はたくさんいたが、いずれもプラトニックな関係を出ていない。
今日はイケメンの彼氏とらぶらぶしていたが、急にテレポートで連れてこられてとても寂しく不安に思っている。

177 ◆EuccXZjuIk:2025/06/18(水) 00:04:17 ID:qmixPhxc0
キャラ募集を終了します。
沢山のご応募ありがとうございました。
このあと【1時】からキャラ投票に移りますので、リンク先のルールを必ず一読した上でご参加ください。

ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/18644/1750147324/l50

178 ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:45:12 ID:FyscxTpQ0
OP2を投下します。

179Where is my god? ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:47:22 ID:FyscxTpQ0
俄に雪が降り始める中で、壮年の男が億劫そうに欠伸をしながら一歩を踏み出した。白髪の男だった。長いが艶のないそれは彼という人間を表すように華々しさとは無縁で、気怠げな足取りも手伝ってその姿は老人のように見える。
右手に抜き身の刀をぶら下げて歩く男の名前は、エヴァンといった。
本名は別にあるが、今となっては未練もないごくつまらないものでしかない。
全ては無価値、無味乾燥。世界が死んでいるのだからあれこれと起伏を用意して煩わしい自慰に浸るのも馬鹿げた話だろうと自己完結している。
その彼の首にもまた、邪聖のスティグマが刻まれていた。

「言っても詮無いことと解っちゃいるが、てめえの狗にまで爆弾を結ぶかね。何度やってもこの感覚だけは慣れねえもんだ」

ソピアは邪悪な女である。聖女ぶっちゃいるがあれの本質は底なしの自己愛だ。
なのであの女は、自分の目的を果たすためならば恥も外聞もない。どれだけの非道にだって手を染めるし、糾弾されたところで真の聖道は余人には理解されないものだと白々しく笑ってみせるだけだろう。
にも関わらずエヴァンにまでスティグマが刻まれている点は、神禍という力がいかに人の思い通りに動かないものかを物語っている。

エヴァンは、そんな女が用意した舞台装置――ジョーカーという役目の手駒だった。
殺し合いの促進剤としてあえて自分の息のかかった人間を参加させ、ルクシエルに捧げる贄を狩ってこいという訳だ。
当然、理屈で考えればエヴァンにはスティグマを刻まず、他の参加者をルールを無視して一方的に斬殺出来る仕組みにした方が合理的である。
なのにそれが出来ない。ソピアに宿った神禍、『涜し否定する神拒の密域』はあくまでも平等な殺し合いを求めている。
なんとも面倒で、難儀な話だった。どうやら自分は本当に、"もう一度"バトルロワイアルを戦い抜かなければならないらしい。

儀式による殺し合いは莫大な想念を生み出し、主催者である自分は儀式の完遂後にそれを抽出することが出来るのだと、ソピアは言った。
これが何とも妙な話であることに気付いた者は、一体どれほどいるだろう。儀式を完遂することが抽出の条件であるというのなら、どのようにしてソピアはそれを知ったのか。神禍に使い方を教えてくれる説明書など存在しない。
つまりだ。実際に実行して確かめでもしない限り、それを知る術はない筈なのだ。そしてその事実が、このバトルロワイアルの影にある悍ましい真実を浮き彫りにさせていた。

そう、バトルロワイアルは既に一度行われている。

敬虔の皮を着た邪聖は、一切の犠牲というものを気に留めない。
自らの得た力の試運転として、ソピアは極東で細々存続していたある共同体に目を付けた。後は今回と全く同じだ。強いて言うならあの時は島ではなく町が舞台だったが、三十余の命が救済の題目の下に立ち消えたことは変わらない。

その生き残りこそが、エヴァンという男であった。
彼は殺した。視界に入った全ての命を、昨日までは同じ共同体の仲間として顔を合わせたら軽口を叩き合うような間柄だった隣人達を悉く殺し、最終的に生贄の八割方を一人で屠って儀式を終結させている。

想念の抽出は恙なく行われ、ソピアは力をエヴァンに注ぎ……完成したのは全能にも等しい能力を持つ転送能力者(テレポーター)。
彼の神禍はあくまでも視界に存在する物体を転送するものであったが、結論から言うと、此処の部分の縛りが取り払われた。たとえ書類越しにでも視認さえ果たせば、地球の裏側からでも任意の人物を転送して連れて来られる前人未到の超能力。
『十二崩壊』や『空の勇者』、その他この争い溢れる氷河時代を五年も耐え凌いだ悪鬼羅刹達をかき集め、一つの儀式の生贄として型に嵌める事が出来たのは言うまでもなくエヴァンあっての功績だ。
エヴァンがいれば事実上、地球上で出来ない事など存在しない。無限射程の転送能力は言わずもがな殺し合いにも非常に有用であり、彼ならば名だたる十二崩壊が相手だろうと互角以上の戦いを成立させられただろう。
いやそれどころか、この瞬間にだって参加者の大多数を目の前に呼び出して殺戮出来る。なのに彼がそれをしていないのは、『涜し否定する神拒の密域』が抱えるある種の拘りめいた制約が原因だった。

180Where is my god? ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:48:37 ID:FyscxTpQ0

「神禍が正しく使えねえな……あの糞女から力を受け取る前の規格に戻ってやがる。二周目(ズル)は許しません、報酬が欲しかったらもう一回ちゃんと儀式を勝ち抜いて下さいねーってか? チッ、聞かされてねえぞこんなの」

"儀式の報酬として得た力は、次の儀式には持ち越せない"。

つまり、雑多な生贄を集めて儀式を乱発し、周回ランカーを使ったゴリ押しで突破して報酬を荒稼ぎするのは不可能ということだ。
ソピアの人格は糞の煮凝りだが、彼女に宿った神禍は歪んでいるなりに公正な秩序という奴を重んじているらしい。
地球の再生に加えて死者の全蘇生ともなれば、確かに生贄にもそれなり以上の質が必要なのは肯ける話だった。

「しかしこうなると、ちったあ考えて殺し回らねえと俺も我が身が危ねえな」

心底面倒臭そうに溜息を吐きながら、エヴァンはデイパックから一枚の紙を取り出した。
そこには都合五十名ほどの人名が五十音順で記載されている。これが今回の生贄のリストという訳だ。勿論、中にはエヴァンの名前も含まれている。


【アーロン・J・ラッドフォード】
【エトランゼ・ティリシア・ミルダリス】
【エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミス】
【賀月京姫】
【カノン・アルヴェール】
【北奈杉 意秋】
【昨日峰未架】
【牙野弐弧】
【猿田玄九郎】
【白鹿優希】
【ジャシーナ・ペイクォード】
【ジョン・ダグラス】
【シルヴァリオ・ロックウェル】
【シンシア・ハイドレンジア】
【石光復】
【スピカ・コスモナウト】
【小鳥遊宗厳】
【タツミヤ】
【ダンヴァール】
【ドクター・サーティーン】
【ハード・ボイルダー】
【『ブラックサンタクロース』】
【ブランケッタ・グランプライス】
【フランチェスカ・フランクリーニ】
【保谷州都】
【星野眞末】
【マハティール・ナジュムラフ】
【ミア・ナハティガル】
【メリィ・クーリッシュ】
【ラタン・サリム】
【ラルフ・ローガン】
【リズ】
【霖雨】
【零墨】
【レンブラングリード・アレフ=イシュタル】
【轍迦楼羅】
【『雨』の勇者 / ルーシー・グラディウス】
【『晴』の勇者 / ミヤビ・センドウ】
【勇者候補『風』 / 弥塚槍吉】
【勇者候補『凪』/シティ・草薙】
【No.2『金獅子』 / ライラ・スリ・マハラニ】
【No.4『魔王』 / ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリート】
【No.6『姫』 / 沈芙黎】
【自称No.7『啓蒙』 / エックハルト・クレヴァー】
【No.8『恐獣』 / ルールル・ルール】
【………】
【……】
【…】

181Where is my god? ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:49:35 ID:FyscxTpQ0
「……改めて見るととんでもねえ面子だなオイ。関わりたくねえ名前が一人二人どころじゃなくあるんだが?」

集めるの自体はソピアが寄越した書面を見て流れ作業で力を使うだけで良かったのだが、いざこうして見ると壮観だし血の気も引く。
こんな面子を一つの島に押し込めて殺し合わせるなど、どう考えても正気の沙汰ではない。この連中に混ざって殺し合いをし、あまつさえそれを促進しろなどと無理難題にも程があった。

「十二崩壊共に気ィ取られてたが、ジャハンナムのジジイも面倒臭ぇなぁ……。まあ取り敢えず、先ずは適当に雑魚から減らしてくか……」

極寒の氷河時代には凡そ全く相応しくない甚兵衛姿で、しかし身震い一つせずにエヴァンは歩き始める。
何のかんのと文句を言ってはいるが、結局彼はやるのだ。信仰狂いの自己愛者の高尚な理想などには誓って微塵も興味はないが、あれの傍にはルクシエルがいる。地球の再生という身の丈に合わない重荷を背負って、それでも進むのだと光を唱える少女がいて、自分の働きを待っている。
であればエヴァンはどんな難題だろうが断れない。ソピアもそれを見越して自分に無茶苦茶を言ってくるのだろうなと頭では分かっていたが、だからと言ってやっぱり断れないのがエヴァンという男だった。

そう、あの娘にだけは逆らえない。何を言われようと押し付けられようと、あのあどけない顔でお願いしますと乞われると自分は何も言えなくなるのだ。
かつて戦場で何百人という兵士や民衆を殺し、ソピアの儀式に巻き込まれるなり昨日まで友人だった連中をすぐさま殺し、今からも会った事も話した事もない無数の人間を抹殺せんとしている人でなしが、ルクシエルにだけは頭が上がらない。

――片足を引きずって歩き、この世の誰より不自由を抱えているのに、いつでも気丈に振る舞う姿がどうしても重なってしまうからだ。

世捨て人の延長で戦場に出るよりも前、まだ自分が人間と呼べる生活をしていた頃、こんな男にも娘がいた。
病弱な娘。生きている間、何も病んでいない姿を見た時間の方が圧倒的に少なかった。いつも片足を引きずっていて、それでも明るく清らかに十年ほど生きて、それだけの間も持ち堪えてくれた、自分には過ぎた子供だった。
つまらない感傷だ。結局の所自分は、いつまでも下らない、掃いて捨てるほどありふれた過去に縛られたままの凡夫なのだろう。
その癖力と、生きたいという渇望だけは人一倍にあったから死体を増やすのだけは抜群に上手い、そんな救いようのない人でなし。
既に取り零した人間に、この世の全てを手に入れる力だなんて代物を遅蒔きに授けたカミサマとやらは、やはり底なしに腐った性根をしているに違いない。そこに関しては、エヴァンもソピアと同感である。

『世界を救いたいんです。こんなわたしでも、誰かの役に立てるなら……それはとても素敵な事だと思うから』

そう言って笑う顔を覚えている。そうだ、その顔だ。その顔をされると、俺はおまえに逆らえない。

『――エヴァン。あなたもいつか、わたしの前で笑ってみせてください。そんな誤魔化すみたいな顔でじゃなくて、心から』

下らない事を言う女だ。世界は無限に広がっていて、きっと苦痛の果てには優しさがあるのだと信じている筋金入りの大阿呆。
あれを救世主だなどと呼ぶ人間の正気が知れない。誰がどう見ても只の子供だろうに、何故どいつもこいつもこぞってあの双肩に大層な肩書きを背負わせたがるのか理解に苦しむ。
と、其処まで分かっていながら、異を唱えるでもなく彼女を真の救世主として完成させるための企てに加担している自分に気付いて苦笑した。

「世界なんて、そうまでして救う価値があるのかね」

呟いて、白髪の殺人鬼は新雪の大地を踏み締める。
ジョーカーである彼の起動を合図として――密域で繰り広げられる神拒の儀式は、世界を救うために開幕する。


本当に?



◇     ◇     ◇

182Where is my god? ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:50:26 ID:FyscxTpQ0



「神なるものは実在する。いや、したというべきか」

人の心を救うべき者の装束に身を包みながら、穢れたる聖女が一人邪悪に微笑んでいる。
時は午前0時。この時をもって生贄の儀式は開幕し、数十の命を捧げた末に救世主が来臨する事が決定された。
その悪行を裁く神は、もはや天にも地上にも居らず。神は人を見捨て、かつて愛し子と呼んだ人類に滅びという名の糞便を垂れて何処かへと消えてしまった。全くもって腹立たしく憎らしいことだったが、邪聖はこれを一つの好機と見ていた。

「蒙昧な父よ、さらば。貴方の投げ捨てた仕事は、選ばれたこの私が引き継ぎましょう」

父なる御神が去ったなら、今この世界を統べる偉大な御方の肩書きは空であるということ。
このままでは人類は跡形もなく滅び去る、それは誰もが同意する所であろうし、その避けられない破滅をそれでも回避しようと足掻くならば、どうしたって次代の神が立ち上がるのは必要不可欠になってくる。
世界には柱が必要なのだ。人の行く末を照らし、無為に広がる人生に方向性を与える神祇なくして人間の星は立ち行かない。
生贄を集め、火を焚べて、聖戦を繰り返し彼らの想念を濃縮して抽出する。ソピアは己の神禍が、愚かな先代神が差し向けた滅亡に抗う為の福音のようなものであると理解していた。

「ふふ、くふふ、あははははは――!」

バトルロワイアル。これは――次の神を産む儀式である。



◇     ◇     ◇

183Where is my god? ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:53:44 ID:FyscxTpQ0
投下終了です。

企画主採用枠が決まりましたのでお伝えします。
【ラタン・サリム】【カノン・アルヴェール】【猿田玄九郎】【No.2『金獅子』 / ライラ・スリ・マハラニ】
【小鳥遊宗厳】【レンブラングリード・アレフ=イシュタル】【ドクター・サーティーン】【シルヴァリオ・ロックウェル】
【零墨】【保谷州都】【ブランケッタ・グランプライス】
以上11名を追加採用します。また、この選考は票数に関係なく行いました。

当選組34名、企画主採用枠11名、書き手枠(※後述)3名の計48名で進めて参ります。

ルール

・絶海の孤島で参加者(生贄)達が殺し合いを行う企画です。
・勝利条件は最後の一人まで生き残ること。
・初期位置はランダムです。

・六時間ごとに定時放送が行われます。
・死亡者の発表、禁止エリアの告知、その他主催者からの伝達が行われます。

・島は結界で覆われており、この結界は時間経過で縮小します。結界の外に出た参加者は例外なくスティグマにより焼死しますが、スティグマ起動までには十秒程度の猶予があります。
・結界の縮小は放送によって事前告知されます。
・死体のスティグマに触れることで、自分のスティグマに死者の名前を記録することができます(見た目は特に変化しません)。既に誰かに触れられた死者のスティグマは消失します。

・全ての参加者には支給品を詰めたデイパックが配布されます。
・デイパックの中には『地図、参加者名簿、一日分の水と携帯食料、武器(ランダムに一つ。特殊なものではなく、一般的な剣や槍、銃など)、コンパス、時計』が入っています。

184Where is my god? ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:55:24 ID:FyscxTpQ0
地図

ttps://w.atwiki.jp/winterapocalypse/?page=%E5%9C%B0%E5%9B%B3

聖域……D-3、E-3、D-4、E-4
宗教めいた都市の景観が広がっており、これらのエリアには降雪も積雪もない。
建物は最近建てたばかりのように真新しく清潔。

○救世主の聖堂
・聖域内D-3エリアに存在する建造物。聖堂内では他人に危害を加える行動が一切行えず、神禍の発動も出来ない。
・中にはルクシエルが常時在中しており、スティグマに記録された死者の記録を参照。記録二人分につき一度、癒しの神禍による治療を受けることが可能。重傷から部位の欠損まであらゆる傷を回復出来る。
・自分で殺害した者の記録でなくても可。一度使用した記録は再利用出来ない。
・治療の対象は自分以外でも構わないが、聖堂内まで連れてくることが必要。
・治療を受けられる条件を満たす者がいないと扉は開かない。ただ、該当者がいれば条件を満たしていない人間も中へ連れ込める。
・実質の安全地帯であるものの、三分経過で自動的に聖堂の外に出される。
・どんな形であれ、一度聖堂を利用した場合は三時間の間再入室が不可になる。

・聖域内のものを除き、島に存在する建物は全て廃墟。食糧の現地調達は望めない。


書き手用ルール

予約スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/18644/1750263828/l50

・予約は上記のスレで必ずトリップを付けて行ってください。期限は延長なしの一週間になります。
・自己リレーは投下から三日間を空けてください。
・予約破棄(期限超過による破棄を含む)の場合、その予約に含まれたキャラの再予約は三日間を空けてください。こちらのみ予約なしでのゲリラ投下であれば可とします

・3名の書き手枠を設けます。書き手枠で登場させられるキャラクターは以下。
【サーニャ・スケイル】【城崎仁】【蘇 鳳梨】【易津 縁美】【シアン・テオ・エヴァン】
【秋山充明】【焔宗】【セレスティアーネ・セラフィーニ】

・「○○、○○、○○@書き手枠 で予約します」のような文面で予約してください。ゲリラ投下での書き手枠使用は出来ません。
・書き手枠は一度の予約で一つのみ使用可能とします。

185Where is my god? ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:56:02 ID:FyscxTpQ0
【時間表記】
※開始は0時(深夜)とします
※放送を迎える毎に天候が悪化します。詳細は放送で都度告知します。開幕時点では粉雪程度です。
深夜(0〜2時)
未明(2〜4時)
早朝(4〜6時)
朝(6〜8時)
午前(8〜10時)
昼(10〜12時)
正午(12〜14時)
午後(14〜16時)
夕方(16〜18時)
夜(18〜20時)
夜間(20〜22時)
夜中(22〜24時)


状態表
・こちらのテンプレートを利用してください。

【(エリア)・(詳細地点)/(日数)・(時間帯)】
【(キャラ名)】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本:
1:
[備考]

186Where is my god? ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 01:56:28 ID:FyscxTpQ0
以上になります。
また、現時刻をもって予約開始とします。

予約スレ(念の為再掲)
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/18644/1750263828/l50

それでは、引き続きよろしくお願いいたします。

187 ◆EuccXZjuIk:2025/06/19(木) 02:18:59 ID:FyscxTpQ0
【修正】
48名ではなくエヴァンを足して49名になります。wikiで各所修正しておきます

188 ◆A3H952TnBk:2025/06/21(土) 08:15:27 ID:RR9lwhFg0
ゲリラ投下します。

189It Was a Good Day ◆A3H952TnBk:2025/06/21(土) 08:16:48 ID:RR9lwhFg0



 F-4ブロックの“学園”、校長室。
 そこは、大統領の執務場だった。

「ヘイ、メェーン……」

 校長専用の座席にて、屈強な黒人男性が踏ん反り返っている。
 男は厚手のストリートファッションを纏い、ジャラジャラしたアクセサリーを身に着けていた。
 彼は大層ふてぶてしく、椅子の背にもたれかかるように鎮座する。
 
「聴こえるか、親愛なるブラザーとシスター。
 聴こえるか、偉大なる主(ビッグ・ダディ)よ」

 気怠げな伏せ目でリリックを口ずさみ、男は“聖書”を机の上に置いている。
 要点のみを纏めた簡易版聖書である。彼の私物だ。
 些細な代物に過ぎないためか、没収を免れていた。

「So help me God(俺は此処に誓う)……」

 男は厳つい右手を聖書の上に乗せる。
 ――――聖書への宣誓である。
 彼はこれより、神に誓って宣言をする。
 つい先程、修道女ルピアが神への憎悪を滲ませたことなどお構いなしに。
 
「この島をアメリカ合衆国・第185番目の州とする」

 今ここに、大統領令が発令された。
 この儀式場は合衆国の州となったのだ。

「この学園は――――臨時大統領府だ」

 全球凍結現象に端を発する危機的状況を経て、アメリカ合衆国は大いなる変革を迎えた。
 非常事態における“合衆国の主権”を守るための超法規的措置により、あらゆる土地を大統領の一存で州に組み込むことが可能になった。

 この措置が功を成し、現在アメリカ合衆国の領土は建国史上最大規模にまで拡張されている。
 かつて旧大陸でアレキサンダー大王やチンギス・ハーンが覇権を築き上げたのと同じように。
 混迷の世の中で、合衆国は常軌を逸した超巨大国家と化していた。

190It Was a Good Day ◆A3H952TnBk:2025/06/21(土) 08:17:30 ID:RR9lwhFg0

「Yeah……」
 
 これもまた第49代合衆国大統領――エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミスの辣腕による賜物である。
 彼はこの混沌の時代においてタトゥーまみれの官僚達を率いて、政権の困難な舵取りを乗りこなす政治家だ。
 なんたる行動力。なんたる実行力。昨今の政治家に足りない資質の持ち主と言えよう。

 星条旗よ永遠なれ。合衆国よ永遠なれ。ヒップホップよ永遠なれ。
 大統領は流麗に両手を動かし、己のヴァイブスを指先で表現する。
 その所作が、そのリズムが、クールなグルーヴを体現する。

 ――――尤も、全ては“自称”に過ぎない。

 彼は自称大統領。超法規的措置も、憲法改正も、彼が勝手に主張しているだけの嘘っぱちである。
 合衆国の領土拡大も彼の妄想に等しい一方的な宣言である。
 議会の承認もへったくれもない。まず議会が消滅しているのだから。
 アメリカに限らず、全世界で国家は崩壊しているのだ。

 そもそも元を辿ればこの男、社会崩壊のどさくさに紛れてホワイトハウスを占拠しただけのギャングでしかない。
 政府の閣僚たちも全員自称、というかエンブリオが勝手に任命している。
 閣僚の大半は西海岸の混乱を生き延びたゴロツキ達である。
 つまるところ彼は廃墟の官邸に居座り、仲間を率いて勝手に大統領を名乗り、恥も外聞もなく政権の真似事をしているのだ。
 そして彼は、さも当たり前のように国家の復権を約束している。

 もしやラリっているのか。
 頭は大丈夫なのだろうか。
 正常な思考力は保てているだろうか。
 十分な睡眠時間は取れているだろうか?

「Keep it real(本物であれ)……」

 されど、ここは一旦落ち着いて考えてみよう。
 彼もこう言っているのだ。嘘だからといって、安易に偽物と断じてはならない。

 現在、アメリカの政治機構は崩壊して久しい。
 よって他に合衆国大統領に当たる人物は存在しないし、見方によっては彼を臨時政府と見なせるかもしれない。
 彼は機能不全に陥った合衆国政府の自主的な補完を行っている――そのように好意的な解釈をすることも出来なくはない。
 なれば現時点では彼こそが法であり、秩序と呼べるのではないだろうか?

 合衆国の独立宣言曰く、現政府の不備や腐敗が発生した場合に人々は新たな政府を樹立することが出来るのだ。
 彼はひょっとすると、新たな政府を樹立していると言えなくもないのかもしれない。

 それを踏まえるとこのエンブリオという男、現時点ではまだ弾劾されていないのである。
 たとえ彼が自称大統領に過ぎないとしても、彼から大統領としての権限を奪うための法的な手続きは執行されていないのだ。
 そして――――彼が体現する“自立の精神”を、果たしてアメリカという国家は否定できるだろうか。

「I'm the great president……」

 よって現時点では、ひとまず彼を合衆国大統領として扱わせて頂くことにする。
 彼もこう言っているのだ。その意志を無下にしてはならないだろう。




191It Was a Good Day ◆A3H952TnBk:2025/06/21(土) 08:18:15 ID:RR9lwhFg0



 窓の外では、いつものように白雪(スノーフォール)が絶え間なく降り注いでいる。
 世界が寒冷化を迎えて以来、もはや太陽と青空を拝める日は喪われた。
 年中を通して、外を眺めれば白と灰の光景が広がり続ける。

 それは終焉の世界か。あるいは停滞の世界か。
 少なくとも、今の人類は希望を取り零している。
 彼らは未来を夢見ることも出来ず、細々と命を繋いでいる。

 見下すように眠たげな眼差しが、寒々しい情景を一瞥した。
 黒肌の仏頂面が、185番目の州となった島の景色を見つめている。
 彼は国家元首なのだ。自らの統治する国を慈しむのは当然である。

 校長用の座席の後方には窓がある――椅子を回転させれば、外界の雪景色を眺めることが出来た。
 冷ややかな空気が窓越しに伝わってくる。今の時代、防寒具を手放して生き抜くことなど不可能である。
 氷結(アイスキューブ)に覆われた世界。震える凍土は、その目に焼き付けるだけでも寒気を抱きかねない。

 果たして神はこの世界を見放したのか、否か。
 大統領は考える――今は審判の時なのだ、と。

 大統領は既に名簿へと目を通していた。
 自らが知る名を一通り確認し、窓の外を眺めながらそれらを咀嚼する。

「アーロン・J・ラッドフォード。
 西海岸(ウエストサイド)の同胞がいやがる。
 これは何の因果か?何の宿命か?神よ聴こえるか。
 俺たちを引き合わせたのは運命か――――」

 西海岸の情熱的な景色も、遠い記憶になってしまった。
 今やアメリカ全土も白銀の世界と化しているのだから。
 そんな中で政府官僚を除き、数少ない貴重な“同郷の男”がこの場にいた。
 彼もまた西海岸出身。彼もまたスラム出身。共に野良犬上がりだ。
 違いがあるとすれば、大統領はカルチャーに生き、あの男はギャンブルに生きたということだ。

「そしてシルヴィ!お前もいたか。
 俺の専属SP、偉大なる守護神!
 利害一致の美しき剣(ツルギ)。
 しかし、この地ではどうだ?
 果たして敵か味方か――――?」

 名簿には大統領の専属SPであるシルヴァリオ・ロックウェルの名もあった。
 かつて闇市場で出会い、自らの護衛としてスカウトした人物である。
 極めて冷静沈着で口数が少なく、グルーヴに欠けた男だが――。
 彼の思惑を理解した上で、互いの利害一致によって傍に置いていた。
 言わばビジネスライク。大統領は彼の能力を信頼している。
 されどこの場においても共闘するか否かは、まだ考慮の余地がある。
 
 魔王だの、姫だの、噂に聞く十二崩壊とやらに連なる名も見かけた。
 しかし――そんなモンはクソだ、マザファッカ。
 大統領は大胆にも、傲岸不遜にもそう断言する。

 例え奴らが12人いようとも、合衆国は185もの州が連なる巨大連邦国家だ。
 数が違う。規模が違う。歴史が違う。威光が違う。
 よって本質的には雑魚に過ぎないと言える。

「如何なる災厄だろうと、“自由と開拓の精神”は決して覆せないのさ」

 イェア、と指輪だらけの両手を突き出してポーズを決める大統領。
 正義は負けない。人の勇気をナメるなよ。
 大統領は揺るぎない意志(厚顔無恥と呼ぶべきか)を胸に、虚空へ向けて言い放つ。

192It Was a Good Day ◆A3H952TnBk:2025/06/21(土) 08:18:57 ID:RR9lwhFg0

 その他にも幾つか知っている名は見かけたが、どの道やることは決まっている。
 大統領は、この儀式を生き残る――つまり殺し合いに乗るのだ。
 全ては国家存続、国家繁栄の為に。合衆国を復活させる為にも、この場で勝ち残る。

「そう、俺のスピリッツは決して負けない。
 俺は国を背負う男。俺こそが政府なのだ。
 故に、俺は生き残らねばならない――――」

 因みに西暦2035年の氷河時代において、アメリカの国歌がギャングスタ・ラップに改正されたことを読者諸君らはご存知だろうか?

 “国家の偉大なる復権のためには、偉大なるビートとリリックが必要である”。
 彼は保守・リベラルを超越した政治信条に基づき、建国史上初となる国歌改正を決定したのだ。
 
 偉大なり西海岸。偉大なり先駆者達。
 ビガップ、ブラザー(ありがとう悪童の兄弟達よ)。
 大統領はヒップホップを継承してきた先人達の熱きソウルに深く感謝する。
 
 世界寒冷化を経て社会は崩壊したが、偉大な指導者の出現によってアメリカは再起へと進んでいる(少なくとも大統領的にはそう)。
 軽妙に紡がれるフレーズとメロディが、この氷河期に西海岸の旋風を巻き起こす――彼はそう信じていた。
 大統領はホットに滾る己のソウルに酔いしれる。クールガイ、プレジデント。

 しかし復権へと向かっているとはいえ、アメリカは未だに深刻な非常事態の渦中に置かれているのもまた事実。
 異常な寒冷化現象は今なお全世界を覆い尽くしている――つい先日にも教育省長官“マッドドッグ・ジェイク”が凍死した。

 子ども達の未来のために尽くした狂犬、マッドドッグ教育省長官は国葬によって盛大に弔われた。
 大統領専属SPであるシルヴィの“一度でも触れた武器を複製する神禍”で作り上げた弔砲を天へと放ち、閣僚一同と共にその死を悼んだ。

 レストインピース、ブラザー(あばよ、ダチ公)。
 リリックに包まれてあれ。子ども達の未来に幸あれ。
 教育省長官の後任にはヤクの帝王“ダーティ・スモーキンボーイ”を任命した。

 ――――さて、話を戻そう。
 過酷な世界で合衆国復興を目指す大統領閣下にとって、この儀式は思っても見ない僥倖だったと言える。

 修道女ルピア曰く、この殺し合いの果てに“世界は救われる”。
 儀式によって得られた糧が聖女ルクシエルに注ぎ込まれ、世界でも類を見ぬ“癒やしの力”によって極寒の大地を浄化するのだという。
 そして救済の果てに、人の手による“永年王国”が築かれるそうだ。

 事実か否か。トゥルー・オア・フォルス。
 それはまだ定かでさないが――どちらにせよ、この殺し合いに勝ち残らねばならないことには変わらない。
 よって一先ずルピアの言葉を真として扱った上で、生還を見越した方針を立てることにした。

 大統領はこんなところでは死ねない。
 彼には国家を背負う大義(?)がある。
 故にエンブリオは、己の道筋を見据える。

「アイ・ハブ・ア・ドリーム――――」

 儀式で生き残った暁には、“永年王国”の暫定元首になるであろう聖女ルピアとの首脳会談を行う。
 “永年王国”との国交を樹立させ、合衆国との友好の証にルクシエルをファースト・レディとして迎え入れる。
 そして救済を経た世界で、真に終わらない無敵の連邦国家を築き上げる。
 ――――“永年合衆国(エターナル・ユナイテッド・ステーツ)”を作るのだ。

 そもそもルピアは別に国家元首とかではないのだが、大統領的にはそういうことになっている。
 政治の駆け引きとは常に不条理の塊である。

193It Was a Good Day ◆A3H952TnBk:2025/06/21(土) 08:20:09 ID:RR9lwhFg0

 大統領は座席に踏ん反り返ったまま、リズムに乗って軽妙なリリックを口ずさむ。
 既に神禍は展開している――自らの“結界”を展開し、その内部で空気の震動を自在に操る能力。
 震動を多彩な攻防に用いる他、音を操りビートを増幅させることも出来るのだ。
 この大統領府(学園)は、文字通りエンブリオの領域と化している。

 彼はひとまず、大統領府で他の参加者を待ち受けることにした。
 極寒の世界において、寒さを凌ぐための“施設”の重要度は紛れもなく高い。
 故に他の参加者達の中にも、施設の確保や調査を行おうとする者は現れるだろう。

 そうして誘き寄せられた参加者達を、自らのフィールドで排除する。
 シルヴィのように利害一致で組めそうな相手ならば、臨時閣僚として登用する。
 大統領は当面の方針をそのように規定する――ここはオフィスにして狩場だ。

 仮に施設の維持が限界になれば、此処を放棄することも視野に入れる。
 その場合には会場の視察を行えばいい。近場の聖域とやらを見てみたい。
 なお会場は既に合衆国領なので、彼が探索をすることは“視察”にあたる。
 勝手に決めておいて何が領土だと思うかもしれないが、超法規的措置なので仕方がないのだ。

「聴こえるか、お前ら。父なる神よ。
 バイブスが上がってきたぜ――――」

 大統領は、再びコンパクト版聖書へと手を当てる。
 神への誓いを行いながら、軽妙なビートボックスを奏でる。
 合衆国大統領は、聖女の儀式場で執務を執り行う。
 自らの勝利を掴み取るべく、マスター・オブ・セレモニーズと化す。

「俺こそがBIG BOSSなのだ……」

 アメリカン・スピリットを讃えよ。
 クールなビートは不滅である。
 大統領は自らのソウルを高揚させる。
 ありがとうブラザー。ありがとうシスター。
 全ての愛しき同胞達(ニガー)に感謝を。

 ヒップホップでは黒人同士の親しみを示す呼びかけとして使われるが、大変な差別用語なので使用には気をつけよう。


【F-4/学園(合衆国・臨時大統領府)/一日目・深夜】
【エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミス】
[状態]:ビートにあふれている
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品、コンパクト版聖書(エンブリオの私物)
[方針]
基本:殺し合いに勝ち残り、永年王国との国交を樹立。ルクシエルをファースト・レディとして迎え入れて“永年合衆国”を築く。
1.暫く学園で参加者を待ち受ける。使える者は官僚として迎え入れ、排除すべき者には武力行使。
2.気が向いたら聖域への視察にも赴きたい(この島は合衆国なので会場探索は視察に当たる)。
※会場の孤島を合衆国185番目の州に認定しました。
※F-4 学園を合衆国の臨時大統領府に定めました。神禍の“結界”を展開しています。
※結界の範囲は後のリレーにお任せします。

194名無しさん:2025/06/21(土) 08:21:15 ID:RR9lwhFg0
エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミス
ゲリラ投下終了です。

195 ◆EuccXZjuIk:2025/06/21(土) 18:54:46 ID:yEORNC5Y0
ゲリラ投下お疲れ様です。

エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミス、投稿いただいた時からその異様な経歴とパンクな人格で密かに注目していたのですが、実際に書かれてみるとその想像を凌駕する奇人ぶりで思わず笑ってしまうと同時に、この荒廃した世界で奇妙奇天烈な振る舞いと言動を繰り返しながら『第49代アメリカ合衆国大統領』という肩書きを維持している異常さを再認しました。
間違いなく奇人変人の部類でありながら、それもこうまで貫き通せば何処か格好良さのようなものさえ滲んで見える。彼のそういう部分が人を惹き付け、このバトルロワイアルに招かれる程のSPまで生むに至ったのだろうと初登場にして既に納得。
第一話にして学園を占拠し臨時大統領府に指定するという行動も一見すると狂人の戯言めいているのに、神禍という力が彼にあることでその暴挙が一つの戦略と化している事がとても面白い。
また巧いなと思ったのが、このお話、終始地の文のテンションが不安定な事。エンブリオの言動にツッコミを入れたかと思えば彼を持て囃し、どこかやかましい。そんなウィットに富んだ、ある種コミカルでさえある文章がエンブリオ・ゴールドスミスという男の存在感を際立たせており、彼一人での登場話だというのにボリュームと満足感を担保している印象で、非常に読後満足感のある作品となっているのを感じました。
ゴールドスミス大統領のキャラ立てと戦略を示しながら、際物揃いの今回の儀式を語る上で素晴らしいスタートダッシュを切ってくれた一作かと思います。改めて投下お疲れ様でした!

また一点指摘(お願い)なのですが、主催者のキャラ名を『ルピア』に誤記されているようです。差し支えなければこちらの方だけwikiで修正させていただいても構わないでしょうか……!
力作を投下いただいた端から恐縮ではございますが、どうぞよろしくお願いします。

196 ◆A3H952TnBk:2025/06/21(土) 19:10:57 ID:i76pdrcs0
>>195
感想ありがとうございます!!
そしてwikiにて修正させていただきました!!
ごめんなさいソピアさん!!

197 ◆EuccXZjuIk:2025/06/21(土) 20:15:11 ID:yEORNC5Y0
>>196
確認しました。
迅速なご対応ありがとうございました……!

198 ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 00:59:43 ID:rShKcUHQ0
予約分を投下します

199永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:01:36 ID:rShKcUHQ0



20■■年、ベルリン。ドイツ陸軍と中国軍の本土決戦勃発。
第三次世界大戦下において神禍を武器とした大規模戦闘など珍しくもないが、この交戦だけはいずれの記録とも一線を画する。

既に両国の軍は指導者を失っていた。いや正確には、乗っ取られたというのが正しいだろうか。
ドイツ連邦共和国と中華人民共和国。これら両国は真っ先に忌むべき十二崩壊の傀儡に堕ちた国家として知られている。

右は第四崩壊、ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリート。この美しき時間よ止まれと呪う凍土の魔王が率いる虐殺部隊『Arktis-Jager』。
左は第六崩壊、沈芙黎。皆好きに生きて死ぬべきだと祝う花園の姫が率いる無秩序のカルト教団『紅罪楽府』。

知っての通り十二崩壊は同じ滅びを齎す者でありながら、互いの存在すらもを己が崩壊の要素に含める。
よっていずれ、これに類する事態が起こるのは必然だった。第四と第六のベルリン決戦は我々国連、及び後に連なる全人類にとって有益なモデルケースとなった事は言うに及ばない。
終末思想に取り憑かれ狂乱したドイツ軍はカミカゼ戦術で紅罪の信徒を削り、最初から好きにやる事しか考えていない紅罪は予測不可能の無軌道な暴虐でベルリンの地を蹂躙した。

この世の地獄の全てが其処にはあった。
殺戮。拷問。略奪。搾取と裏切り。
命を燃料代わりに使い果たしながら繰り広げる消耗戦の顛末はやはりと言うべきか将同士の決戦、魔王と姫の殺し合いに帰結。結果的にゲルトハルトは手持ちの軍勢の大半を失い、沈も庭園の花を同じだけ枯らして、決着が着く事なく勝負は預けられたと伝えられている。

全球凍結から■年が経った今、世界大戦は終結し、残存人類の数は数千万規模にまで減少した。
ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートは姿を消したが、沈芙黎は今も変わらず紅罪の女王として恥知らずの法を広め続けている。
十二崩壊も記録されているだけで半分が散った。しかし『空の勇者』を始めとする抵抗勢力は殆どが破綻し、今や無謬のものと信じられた我々国連さえ風前の灯火に追い詰められている。
いつ灯火が消えるかも分からない状況だ。遺言など縁起でもないが、命ある内に記しておくべきだろうと私は信じた。よって此処に一つ、長きに渡り国連の中枢で務めた私の所見を残す。願わくばこの文章が、勇気ある誰かの目に留まる事を祈って。

結論から述べよう。人類はこれ以上、十二崩壊に関わるべきではない。
あれは我々の手には余るものだ。ベルリンの戦跡を目の当たりにした日に疑念を抱き、空の勇者が敗れたあの日、私は世界を救うという理想が夢想の類であったと確信した。

世界は、神は、我々に死ねと仰せだ。
只見捨て、それこそあの姫のように後は好きにやれと投げ出すのではなく、呪いと災厄を生み出した上で消え去った。

人類は確かに進歩したといえるだろう。まだ世界に季節の概念があった頃、国際宇宙ステーションの船長をやっている女と話した事を思い出す。
彼女の語る宇宙の世界はまるで寝物語に聞かされたお伽噺のようで、年甲斐もなく心が踊るのを禁じ得なかったものだ。
だが、だからどうした? 初めて神禍という力に触れた時も心底思ったが、どれだけ頭が良くなろうと、画期的な産業を開発しようと、それを動かす我々一人一人は所詮吹けば飛ぶような軽くてつまらない命でしかない。

十二崩壊(あれら)は、我々とは根本からして違う生物だ。
二千年かけて練磨した理性も、倫理も、目を覆いたくなるような残酷な軍事技術ですらも、奴らには何一つ通じない。

私は明日、国連を発つつもりだ。思い入れも恩義もあるが、我が身には代えられない。
空の勇者さえ諦めたのだ。ならば私が諦める事の何が罪だというのか。

情けない敗北者の手記を読んで戴き感謝する。願わくば、君の未来に幸福な死があらん事を。



◇     ◇     ◇

200永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:04:12 ID:rShKcUHQ0



C-6、雪山の山頂にその男の姿はあった。

全球凍結に伴う極寒冷化によって地上の気温が氷点下に固定されてかれこれ五年になるが、そんな死の大地での生活に慣れた残存人類であっても、この雪山に足を踏み入れるのは命懸けの覚悟が必要となるだろう。
地上とは比較にならない積雪が重なった上に、高度も手伝って気温が一際下がっているからだ。雪崩の危険は言わずもがなで、そうでなくても何処でクレバスが口を開けているか分からない。
血で血を洗う殺し合いが行われている中、わざわざ進んで山に向かおうとする者はまずいない。その前提があるからこそ、死に囲まれた銀世界の中で佇む彼の姿は一層卓絶して見えた。

冬の化身めいた、見ているだけで寒々しくなってくるような怜悧な美貌の男だった。
氷水の青髪、氷点下の碧眼。彫像めいた鉄面皮の軍人だが、これはついぞ眉一つ動かさず世界を絶望の底に叩き落とした十二崩壊の一体である。乱心したかのような蜂起を始めるや否や、諸外国との交戦に苦慮する祖国を一夜にして掌握。
何が起きたのかを理解する間もなく、周辺国も、彼を生んだドイツの国土も永劫停止の凍土に呑まれていった。無論対抗を試みた者はいるものの、現状、凍土の魔王に立ち向かった者達の末路はほぼほぼ共通している。

過重神禍・十二崩壊。
寒冷化現象の黎明期、地球上に12体発生したとされる特級の災禍。
当時まだかろうじて機能していた国連機関が認定した、やがて人類を滅ぼし得ると目されし、恐るべき禍人たち。

『魔王』。ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートという名の、擬人化された絶対零度が此処にいた。

一定の保存行動を終えた後、忽然と姿を消したと伝えられる彼だが、命知らずにもこの魔王を舞台に引きずり出した者がいる。
ゲルトハルトの首筋には、生贄の証であるスティグマがはっきりと刻まれていた。今の彼は十二崩壊でもドイツの軍事指導者でもなく、救世主を生む殺し合いの走狗に過ぎない。

その事実に憤るでもなく、魔王(エルケーニヒ)は何も言わず佇むばかりだ。
彼自身が一つの氷像になってしまったのかと思うほど、徹底した不動。色のないその顔で、彼なりに何か考え事でもしているのか。それとも神の玩具の模範生として、相変わらず機械じみたあり方を貫いているのか……。
ゲルトハルトが語らない以上答えを探るのは困難だったが、しかし静寂は、予期せぬ形で破られた。

「あら?」

ゲルトハルトのものとは違う、幼さを残した少女の声。
それが響いた瞬間、命を拒絶する雪山の空気が華やいだ気がした。

「まあ。まあまあまあまあ――生きてらしたのですか、ゲルトハルトお兄様」

声の主は、白と金の中間のような髪色をした薄着の中国人だった。
目を瞠るほど可憐だが、しかし彼女もゲルトハルトと同様、通常の人間ではありえない。

彼女が足を進める度に、積もった雪が気を利かせたように左右へ除けていくのだ。
枯木は葉もないのに色とりどりの花を咲かせ、目に見える速さで痩せ細りながら彼女の為の花道を拵えていく。
僅か数秒にして、美しい物などある筈のない冬の山頂が、小鳥が鳴き出しそうなのどかで心安らぐ光景に早変わりした。

心なしか気温さえ和らいでいるように感じられる。
理屈を知らない者からすれば、彼女の為に世界が忖度しているとしか思えないような光景だった。

201永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:05:34 ID:rShKcUHQ0

しかしその声を聞き、僅かに視線を動かして少女の姿を認めた途端、ゲルトハルトの眦が小さく細められた。

「芙黎か」
「もう、嫌そうな顔しないでくださいな。この世に十二人だけの兄妹でしょう?」

余人からすれば誤差程度の違いでも、神が腹を痛めて生んだ呪いの同胞(はらから)にすれば表情と受け取れるらしい。
氷の魔王が嫌気らしいものを見せたという事実は卒倒ものだが、芙黎と呼ばれた少女の肩書と経歴を思えば納得のいく話である。

少女の名前は沈芙黎。第六崩壊の『姫』として知られる――ゲルトハルトと肩を並べる破滅の申し子なのだから。

「皆でベルリンにお邪魔した時以来でしょうか。あれは楽しかったですよねぇ、三日三晩互いに神禍を尽くして殴(かた)り合う。ふふ、今思い出しても胸のこの辺が熱くなるのを禁じ得ません」
「そうだな。できればお前の顔は二度と見たくなかったが」

ゲルトハルトと芙黎は、同じ崩壊でも全く対称的な存在といって相違ない。
魔王は鏖殺の軍勢を伴いながら積極的に欧州を氷像の博覧会に変えていったが、対する姫は中国に閉じこもって呵責を持たない信者達を増やしているだけだ。言うなれば動の滅亡と静の滅亡。そういう意味でも、この二人が相容れないのは自明と呼べたかもしれない。尤もこの通り、芙黎はゲルトハルトに隠す事なく親愛を表明しているのだったが。

「名簿は見ました? わたしもびっくりしたのですけど、わたし達以外の兄妹も呼ばれているみたいですよ。今生き残っている分はほとんど呼ばれてるんじゃないかしら。面白い事考えますよね、あのシスターさん」
「名簿……?」
「……あの、お兄様? その鞄はもしかして飾りだと思っているのですか?」

そういうところは変わりませんね、と溜息をつきながら、芙黎は名簿をひらひら揺らしてみせる。

「ライラお姉様にルールル。何だか対等みたいに書かれてるうちの庭師は除くとして、それでもわたしとお兄様を含め四体です。他にも面白い名前がちらほらありましたから、後で見てみるといいですよ」
「そうか。それで、芙黎よ」
「はい。なんですか?」

瞬間、空気が鳴った。雪を噛むように空気が軋む。乾いた音を立てて、その場の熱が剥ぎ取られていく。
何の予備動作もなく、指先さえ動かす事ないまま“それ”は始まった。

ぶわりと、氷霜が咲いた。雪ではない。もっと単純な冷気を理由に凍てついた世界が、男を中心にして放射状に拡がる。そのあまりに苛烈な低温は、視覚すらも凍らせるようだった。積雪が凍り、空気すら凍り、姫の為に用意された花道をも例外でなく凍結させながら、少女の全身を覆い尽くさんと奔流のように押し寄せる。

言葉のいらぬ殺意だった。始まりこそ同じなれど、決して相容れる事のない十二の滅び。彼らが存在を以って体現する滅亡の法は、当然ながら自分以外の崩壊(きょうだい)をも枯死の対象に含めている。
浴びせられた暴力的な冷気に芙黎は目を丸くした。だが、悲鳴も、叫びも、恐怖の素振りすらない。

直ちに凍え死ぬはずのその身体は、局所的な冰期の波に呑まれてもなお微動だにしなかった。
旗袍の薄布すら揺らす事なく、ドライフラワーの花道の真ん中に、芙黎は泰然と佇んでいた。

「本当に酷い人。せっかく会いに来た妹にする仕打ちとは思えません」
「俺はお前を殿上に上げた覚えはない。よってこれが望みと判断したが、違ったか?」

楽しそうに、でもどこかしら嬉しそうでもあるように、芙黎は口元に手を当てて笑った。
その眼差しには嘲弄も哀れみもない。あるのはただ、純粋な喜びだけだ。これは他に機能を持たない。

「わたしの望みなど気にしなくて結構ですよ。お兄様がしたいようになさいませ? 人生は一度きり、それはわたし達も同じでしょう。あの時だって、お兄様がわたしを滅ぼしたがっていると聞いたからはるばる会いに行ったのです。
貴方が続きをご所望なら、もちろんわたしは大歓迎。今すぐ決着をつけるのも吝かではありませんが……」

氷霜はなおも止まらぬ。周囲の木々は根元から氷結し、雪原に咲いていた色とりどりの花々は凍りつき、次の瞬間には遂に儚く砕けていった。
空は曇天に沈み、冬の地獄を濃縮したような寒気が、山頂を塗り潰していく。

202永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:07:06 ID:rShKcUHQ0

だが、芙黎だけは凍らなかった。
やはり雪が除け、氷が逃げる。まるで世界が彼女を傷つける事を拒絶しているかのようだった。

「お前こそ変わらんな、花姫(トイフェル)よ」

この男らしからぬ呆れを含んで、ゲルトハルトの唇が開いた。
声の温度もまた、絶対零度のように冷え切っている。

「お前は存在そのものが矛盾している。辺り全てを衰弱死させながら自分だけは美しく咲き誇り、それで救いの女神のような顔をしている害獣だ。貴様に比べれば金獅子や巨獣の方がまだ清貧だろう」
「あらまあ。そんな風に言われると、ちょっと照れてしまいます」

涼しい顔のまま、芙黎はそっと裾をつまんで一礼した。

「でも、うーん。仕方のない事ではありません? お父様はわたし達に滅べと仰せのようですし、どうせ死ぬなら楽しく終わるに越した事はないでしょう。わたしに言わせればお兄様達の方こそ少々無粋に思えますが……」
「それでいい」

即答だった。人間が生存する事が困難な冰期の中で向かい合って立ちながら、凍死と衰弱死がそれぞれの主義を交わす。

「人間の最盛期は常に現在だ。だから腐る前に、壊れる前に、理想の姿のまま保存する」
「それが横暴だと言っているのですよ、お兄様。人は芸術品などではありません。みんな誰しも心があって、想いがあって、理想の未来を思い描いている。氷像になりたくて生まれてきた者などいるわけがないでしょう」
「だからお前とは相容れない。まず俺は、十二崩壊などという呼び名で一括りにされる事自体心外なのだ。俺に人類を滅ぼしているつもりなどない――ただ時間よ止まれと祈っているだけ。自賛にはなるが、それこそ救世主のような事をしているつもりなのだが」

どこまでも澄んだ声だった。そこに後悔も、罪悪感も、狂気すらも存在しない。
ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートという男は、本気でそう信じているのだ。

その絶対的な冷たさに、芙黎はしばし黙した。
やがて、小さく苦笑してみせる。

「やっぱりわかり合えませんね、わたし達」
「わかり切っていた事だろう。では」
「ええ、はい。では」

その瞬間、氷霜が破れ、再び花が咲いた。彼女の足元から地面を割るようにして草花が芽吹き、極寒の雪原に鮮やかな彩りを与えていく。
ルクシエルがやったのと同じ芸当に見えるが、タネの部分は全く別だ。救世主の緑化は純粋に命を蘇らせる所業だが、芙黎のそれはむしろ使い潰す所業である。

積み重なった氷河の下に残っていた星の活力を強制的に励起させ、最後の輝きを引き出しているのだ。余力を使い果たすのだからその先に待っている結末は衰弱死以外にありえないが、今を全力で生きる事を美徳とする芙黎は無論それを惜しみなどしない。
ゲルトハルトの冰期に対抗して広がる姫の花園。最強の十二崩壊と拮抗し、花姫の全肯定は彼が否定した命をも取りこぼす事なく赦している。

ゲルトハルトも今更この程度に驚きはしない。それに、魔王にとって今放っている低温は威嚇程度でしかなかった。
証拠に、芙黎が神禍を使い出したのを見るなり徐々に温度低下が凶悪化している。命を認める理と、命を認めない理が、異なる星の環境を隣接させたように鬩ぎ合いを開始していた。

「あの日のように語り合いましょうか。ただし今度は、どちらかが果てるまで」
「臨むところだ」

凍死せよ。万物万象凍てつき、美しいまま永遠となれ。
衰弱死せよ。満足いくまで駆け抜けて、楽しかったと笑いながら枯れ落ちろ。

ゲルトハルトが冰期を編む為に指を動かし、芙黎が語り合う為に拳を握った。
初段から始まろうとした魔王と姫の決戦を止めたのは、彼らをして異様と呼ぶしかない、一つの気配の出現だった。

203永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:08:30 ID:rShKcUHQ0


「……あら?」

最初にそれに気付いたのは芙黎だった。
既に山頂は生物が存在できない臨界状態に陥っていたが、そんな空間に何やら自分達以外の生物が存在している。

「お兄様。あれは……」
「…………」

示されて、ゲルトハルトもその存在を認識する。
頭を垂れて俯きながら、襤褸布同然の薄着をはためかせる、浮浪児のような風体の童女がいた。

十二崩壊の二体に視認されるという最悪の死に直面しながら、娘は幽鬼のように薄い存在感で揺れている。
実際、彼女は幽霊のように見えた。注視しなければ存在に気付くのも難しく、背景として流してしまいそうな希薄すぎる生命力。
影法師じみた薄さであるのに、凍てつく死の世界と自壊する死の世界のその両方に晒されていながら、凍傷一つ生む事なく命を誇示している。
二人の視線を受けても少女は何ら反応を見せはしなかったが、先に彼女という存在を理解したのはゲルトハルトの方だった。

「来るぞ」

魔王が声色を変えぬままそう言った瞬間、第三の滅亡が臆面もなくその憎悪をさらけ出した。



『 おん かかか びさんまえい そわか 』



希有なる者に帰命し奉ると誓う言葉が、呪言となって世界を犯す。
俯いた童顔が起き上がり、その両眼球が、ゲルトハルトと芙黎の姿を視界に含めた。

童女の背後に出現したのは身の丈以上もある巨大な曼荼羅。
蓮の根茎に絡め取られて絞殺された仏の死体で構成された不浄の宇宙が、ごぼりと痰咳のような音を鳴らす。
次の瞬間心臓の鼓動に似た音が小さく、しかし魂まで揺らすような深度で響き、滅びを滅ぼす発狂死の理を呼んだ。

「まあ……!」

姫は心から、自分達を襲う“それ”に感嘆して声をあげる。
一言で言うなら、それは地獄の土石流だった。糞尿に精液、虫から哺乳類まであらゆる生物の腐乱死体と内臓……ありとあらゆる不浄なもので構成された、生きとし生けるものの跋扈を許さない極強酸性の泥水だ。

嗅いだだけで意識が飛びかける悪臭を放ちながら、童女の背にした曼荼羅から止めどなく濁流が溢れてくる。
もちろん使い手である彼女自身にも液体は降りかかっている筈なのだが、不思議な力にでも守られているかのように肌は濡れず、悪臭に汚染される事もない。
自分だけは例外という沈芙黎の歪みにも似た不条理のもと振るわれる水害に、ゲルトハルトは表情を動かす事なく手を翳した。

凍結崩壊の神禍が、魔王を飲み込まんとする不浄の水流を触れる前に凍らせて穢れた河に変える。彼らしい迅速な対応だったが、対する姫はというと、逃げるどころか面白いものを見つけたとばかりに不浄の方へとむしろ駆け出していく。

204永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:09:58 ID:rShKcUHQ0

「可愛いお嬢さん。怖がらないで、わたしは貴方の味方よ」

水害の中を春風のように駆ける姿は、自然の生んだ妖精のような可憐さを帯びていた。
だがその身体能力に限って言えば、言うまでもなく異常の一言に尽きる。

触れれば溶ける、よくて爛れる酸の水面を足場のように踏み、蹴り、加速しながら迫っていくのだ。
沈む前に足を上げれば水上を歩行できるという馬鹿げた原理を臆面なく実行して、迫る先は不浄曼荼羅の主。

「ねえ、どうしてそんな寂しそうな顔をしているの? せっかく可愛いのに勿体ないわ。つれないお兄様は放っておいて、わたしと二人でお話しましょう。きっと力になってあげられるから、ねえっ」
「ッ――」

眼と眼が合う。
夢遊病者のように朧な雰囲気をしていた童女の顔に、青ざめるような恐怖が浮かんだ。

沈芙黎は他人を理解するという事にかけて、底なしの意欲を持っている。どんな感情も打ち明けてみてほしいのだと、無邪気に求める姿はメンタルカウンセラーにも似た寛容さだった。
そんな無責任な受容の末に出来上がったのが彼女の教団、笑顔に溢れる紅罪楽府である。
結末はどうあれ、姫の優しさに触れた人間は誰しも必ず幸福になれる。その事は彼女の実績が証明しているのだったが、しかし。

「いや……! 嫌、いやいやいやいやいやいやっ! 来ないで寄らないで、消えて消えて消えて消えてっ!」

差し伸べられた手を拒むように、静寂をかなぐり捨てて童女は絶叫した。纏わりつく羽虫を振り払う動きで痩せ細った両手を振り回し、それに合わせて不浄の神禍が真の姿を表す。

曼荼羅から溢れ続ける汚水、それを内から引き裂いて現れたのは膨大な数の腕だった。
それがぞわぞわと指を蠢かせながら、来ないで消えてという懇願とは裏腹に、芙黎を引きずり込もうと小柄な体に殺到していく。

破滅を象徴するような不吉さだったが、芙黎の判断はやはり常軌を逸していた。

「あら、わたしに触れたいの? いいわよ、存分に触れ合いましょう」

逃げるどころか自ら進んで腕に体をさらし、導かれるままに不浄へ身を浸そうとしたのだ。それは毛氈苔の中に飛び込むようなものであり、瞬時に姫の体は手の波に絡め取られ沈められていく。
この期に及んで薄皮一枚すら破けていない辺りは、彼女が十二崩壊の中でも最上位に数えられる生物強度を有している事の証明だ。
それに加えて人間の域を越えた、花そのものの精神性を併せ持っているのだから、一対一の状況に限れば芙黎は最強の生命体の一つと呼んでよい。

彼女の体はずぶずぶと不浄の内側に潜行していき、とうとう不浄曼荼羅の底、童女――ミア・ナハティガルという禍者の憎悪の源泉に触れようとし、そして。


「あ。ダメね、これはちょっとよくないわ」


いざそこに身を投じようとしたところで、手のひらを返すように周りの腕々を引き千切り、一足で水上まで浮上した。

「珍しい事もあるものだ。お前が理解を放棄するとは」
「わたしなら大丈夫だと思うのですけどね。ただ、ちょっと腰を据えて向き合う事になりそうだったから。もう半分くらい人間をやめちゃってますよ、この子。どっちかっていうとわたし達側の存在なのかも」

芙黎の判断は正しい。真の強者とは驕りこそすれ、越えてはならない一線というのは見誤らないものだ。
ミア・ナハティガルの神禍は触れる全てを抹殺する絶滅の災いであるが、その憎悪の根底にはもっとタチの悪い法則が潜んでいる。

発狂界(プララーパタ)、触れた者をミアと同じ人類憎悪の化身に変えてしまう不浄菩薩(ナハティガル)の神域だ。
耐えられる耐えられないの問題ではなく、触れるという事がまず宜しくない。沈芙黎という“崩壊”の先達をしてお墨付きを与える程だ、それこそ本物の聖人でもない限りは挑むべきではない領域と呼べるだろう。

205永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:11:39 ID:rShKcUHQ0

「ふむ……」

芙黎が逃げ帰るような真似をしてきた事は、氷の魔王としても多少驚きだったらしい。
小さく声を漏らすと、Ⅳの刻印がされた片目を僅かに揺らした。

「止めるか――此処で」

それを合図として、ありえない光景が現出する。不浄の悪臭を文字通り吹き飛ばしながら、山頂を満たし始めたのは全てを凍らせる冷気。範囲も侵食の速度も、先程姫と小競り合いをしていた時とは比較にもならない。
ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートが本腰を入れて命の保全作業を開始する。

止まれ、停まれ、万物万象美しいままに永劫停止せよ。魔王の死刑宣告が、ミア・ナハティガルという禍者を死の同義語として止めるべく、彼だけに許された地獄の責め苦を開陳する。

「いいですね。楽しくなってきました……一度大人しくさせてから、ゆっくりお話といこうかしら。ついでにお兄様にご退場いただけたら、ルールル達へのいい土産話になりそうだし?」

花園の主は、先程不浄の水底に飲まれかけたというにも関わらず、ミアと同様に汚れ一つない体と服で笑っていた。
ゲルトハルトのそれに応えるべく、彼女も自身の神禍を胎動させる。死ではなく生、いずれ亡びる事を前提として救いを与える慈悲が、冰期の中で咲き誇る花畑という奇蹟を起こす。

その中に立つのは花姫(トイフェル)、紅罪楽府の生き仏だ。姫は生物として何処までも解り易く強い。その一点において、彼女はゲルトハルトをすら越えている。

「怖い、嫌、見たくない、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……!」

そしてこの場における異端、ミア・ナハティガルは二人を見ているのかいないのか、只そこに人間らしきものがいるという事実だけに恐慌して頭を抱えていた。
癇癪にしか見えない金切り声をあげる姿は薄汚れた捨て猫に似ているが、彼女が生み出すものは地獄草紙以外の何物でもない。

疾疫不臨、離水火災、神鬼助持、業道永除……功徳利益を盡く反転させた法則の名は『発狂界・不浄曼荼羅』。十二崩壊にさえ危険視をさせる、皆殺しの地蔵菩薩が泣き喚いている。
三者三様、三種の人類滅亡は、幸いにも人里から離れた雪山の山頂で解き放たれた。

最初に版図を握ったのはゲルトハルト。永劫停止の冰期は自分を中心として死の世界を作り出しながら、二体の美しい氷像を作り出さんとする。下水より尚汚らわしい発狂界の濁流を瞬時に凍結させるのは勿論、姫もミアも例外とはいかない。
超人的肉体を持つ二人は彼の冷気にある程度生身で抗えるものの、それも魔王が本腰を入れていない場合の話だ。
そこの安全装置が取り払われた以上は、滅亡の娘達もまた彼が停止させてきた数多の犠牲者達と大差なかった。

寄せては返す凍結の波を、卓絶した自己肯定による強化で蹴破っていくのは芙黎。
形のない寒波を蹴飛ばしながら、三次元の定石を無視した軌道で飛び跳ねる向日葵の少女は場違いに美しい。
流石に無茶が祟ってか髪の毛や睫毛に霜が降り始めているが、姫の衰弱庭園の影響もまた他二者を蝕んでいるのでお相子だろう。

だが、そんな十二崩壊の無法図に引けを取らない勢いで、ミア・ナハティガルの神禍も彼女なりの滅亡を発現させる。

「消えて……」

山自体が激震し、首吊り仏の展覧会めいた曼荼羅が冰気と春風を圧潰させながらミアの存在圏を強引に抉じ開けた。
そして、身じろぎのような挙措に合わせ、滅尽の瀧が降り注ぐ。

「――私以外、いなくなれ」

聴覚が消し飛ぶような轟音が響き、この瞬間、雪山の一角が抉れ飛んでその形状を大きく変えた。震駭して破壊される銀世界。汚汁を涙のように垂らしながら、少女の怨念の炸裂を前にして戦いは強制的に打ち切られる。
吹雪が晴れ、雪崩と崩落が一段落した時、そこに残っている人影は一つもなかった。



◇     ◇     ◇

206永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:13:12 ID:rShKcUHQ0



「あ痛たた……。頭をぶつけちゃいました」

雪崩で押し流された先で、土竜のように雪から顔を出して、沈芙黎はずれた花飾りを直しながら言う。ずるずると這い出たら旗袍に付いた雪を払い落とし、デイパックが無事に残っているのを見て胸を撫で下ろした。
食糧や水は別に要らないが、名簿ばかりは替えが利かない。普段から物覚えが要る事は庭師や被虐趣味な部下に一任している為、今更自分でやる気にはどうしてもなれない。戦いの最中もこれを失くさない事に気を配り続けねばならなかったから、荷物持ちが欲しいわねと芙黎は思った。

「それにしてもびっくり。探せばまだまだいるものね、わたし達と戦える人間も――あ」

慌てて周囲を見渡すが、やはりゲルトハルトの姿は何処にもなかった。
芙黎としては魔王と決着をつけるのも臨むところだったのだが、彼にとってはそれ程優先度の高い事柄ではなかったのだろう。

「相変わらずお兄様は隠れんぼがお上手だこと。さっきの子も見失ってしまったし、ううん、何だか袖にされた気分……」

こうして姫はまた、一人になってしまった。追いかけてもいいが、実を言うとそれも気が進まない。
というのもだ。偶々ゲルトハルトに会ったからああなっただけで、芙黎には積極的に殺し回ろうという気が余りなかった。

「漫遊する上で、付き人が欲しいわね。お散歩がてらに弐弧でも連れ歩きたいところだけれど……よし、迎えに行っちゃいましょう。わたしが迎えに来たと知ったらあの子、涙を流して喜ぶわよきっと」

沈芙黎とゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートでは、滅ぼしに向けるスタンスが違う。
ゲルトハルトのように徹底した滅殺をやる事には、芙黎は然程興味がない。作業じみた殺戮をして一体何が楽しいのか。そんな事に尽力するくらいなら、趣味の一つも見つけて極めた方が絶対に有意義だろうと思えてならない。

そんな芙黎の掲げた方針は諸国ならぬ、諸所漫遊だった。島の中を気ままに歩き回り、同じ生贄の烙印を押された者達に会っていきたい。
仲良く燥げる相手ができたら楽しいし、紅罪の教えで誰かを救えるのならそれもいいだろう。もしわかり合えない相手が出てきたら、その時は受けて立って殺せばいい。姫には何の問題にもならない、いつも通りの日常だ。

芙黎とはこういう滅亡だ。芙黎は汗など流さない。好き勝手生きていたらいつの間にか周りが皆死んでいる、ソレだけなのだ。



【C-6・雪山/1日目・深夜】
【No.6『姫』 / 沈芙黎】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:やりたい事をして会いたい人に会う。
1:弐弧を探す。とにかく付き人が欲しい。
2:ライラお姉様やルールルにも会いたい。
3:エックハルトは後でいいでしょう。
[備考]
※以前、ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートと戦った事があります。


【場所不明(C-6近辺)/1日目・深夜】
【No.4『魔王』 / ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリート】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:…………。
1:必要とあらば“保存”する。優先は十二崩壊、空の勇者、ミア・ナハティガルのような特別質の高い禍者。
[備考]
※以前、沈芙黎と戦った事があります。
※名簿を見ていません。



◇     ◇     ◇

207永久凍土のメメント・モリ ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:15:14 ID:rShKcUHQ0



全球凍結前。2030年の当時においても、人身売買や奴隷といった悪しき営みは社会の裏側で生き残っていた。
公にはクリーンを謳いながら、一生かけても使い切れない金の使途に“人間を買う”事を選ぶ好事家は山のように存在したのだ。
セス・キャロウェインという男もその一人。彼は表向きは世界的企業の若手CEOとして知られ、爽やかながらも有能な人柄で敬愛されていたが、その甘いマスクの裏には救いようのない邪悪さを隠していた。

付いた異名は『笛吹き男』。身寄りがなかったり、何らかの事情で裏社会に流された子供を頻繁に買い付けるが、買われた子供は二度と日の目を見る事はない。
キャロウェインは疑いようなく優秀な男だったのだが、彼には法下では決して許されない性癖があった。

少女が苦しむ姿でしか興奮できない。あの手この手で欲望を誤魔化す手段を模索したものの、どれだけ過激なコンテンツに頼っても、生の刺激に勝る美味はやはりなかった。父親が死んで会社の実権と、巨額という言葉では収まらない額の遺産を相続し、この世の上位1%に入れた日から彼は弾けた。
広大な豪邸の下に拵えた秘密の地下空間へ少女を放り込んでは、日夜あらゆるやり方で拷問し、その涙を啜って現代のジル・ド・レ伯をやった。

その栄華は全球凍結が起きた後も、潤沢な蓄えの下に続いていくかに思われた。
しかし今やキャロウェインの魂は汚泥の底にある。彼は最後の最後まで、決して気付く事ないまま死んでいった。
自分は独りよがりに楽しんでいるように見えて、完成させてはならない何かの育成を続けてしまっていた事。

彼がありったけの苛虐を注いで肥え太らせたもの。それは天然ではなく、人工で神の玩具達に比肩する力を得た、発狂界不浄菩薩。

「さむい……」

小綺麗な浮浪児、というのが第一印象だった。何処となく育ちのよさすら覗わせるし、この儚げな姿を見て哀れに思わない者は人でなしだろう。
彼女がつい今し方、凍土の魔王と花園の姫という災厄と一戦交え、彼らと同じように傷一つなく生還した事実にさえ目を瞑れば、実際これは哀れな少女そのものだった。

「こわい……」

セス・キャロウェインの最高傑作こそが彼女だ。
笛吹き男の後に何も残さない非生産的な箱庭が工場となって製造した、人類憎悪の化身。

「気持ち悪い」

ミア・ナハティガルは怯えている。だがそれ以上に、魂が震えるほど憤激している。
この世に汚れていない人間は自分一人。なのにまだ自分以外の、薄汚れた汚物が残っている事が途轍もなく許せない。

殺してやる、滅ぼしてやる、なんて仰々しい気持ちは彼女にはない。ミアの中にある怒りの形は、いつだって生理的な嫌悪感だ。
気持ち悪い。人間、いや、その皮を被った生き物らしい汚物が、今も少数ながら生き残っている事実が気持ち悪くて堪らない。汚れているなら、掃除が必要だ。ブラシでこそげ落として下水に流し、そこに汚れがあった事を抹消しなければこの寒気は引かない。
よって奇しくも、彼女の目的はゲルトハルトや芙黎達『十二崩壊』の存在意義と共通していた。

人類の滅亡。この死んだ星を完全に殺す。
救世主など不要だ。なぜその他大勢と同じ汚れた生き物が、腐臭を放ちながら救うだ何だと謳っているのか、ミアにはとんと理解出来なかった。

我こそは唯一の人間で、他は溝にこびり付いて流れ残った汚物に過ぎない――滅びの子は被害者のように旅をする。



【C-6・雪山/1日目・深夜】
【ミア・ナハティガル】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:人類抹殺
1:私以外、いなくなれ。
[備考]



※エリアC-6で、山の一角が吹き飛びました。大規模な雪崩が発生しています。

208 ◆EuccXZjuIk:2025/06/24(火) 01:15:54 ID:rShKcUHQ0
投下を終了します

209 ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:26:26 ID:r6JX0vCs0
投下します

210平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:28:16 ID:r6JX0vCs0
◯◯◯


幾つかの骸と、骸に数倍する数の半死人が、地面に転がっていた。
顔筋の限界を超えて歪み、涙と涎と鼻水に塗れた死相は、死者達が凄まじい恐怖と苦痛の中で死んでいったと、見る者全てに悟らせる。
彼等がどの様な苦痛と恐怖の中で息絶えていったかは、地べたで激しく痙攣し、叫び過ぎて潰れた喉から、血と掠れた声を未だに吐き続ける、半死人達に訊けば良い。
己が今現在どの様に苦しみ、どの様に死んでいっているのかを、語って聞かせてくれるだろう。死という絶対の安寧を交換条件に。

痙攣し続ける半死人の一人が、ひときわ大きく身を震わせた。
潰れた喉から、断末魔の声を振り絞りながら、激しく身体中を掻き毟る。
爪が剥がれ、肉が削げ落ちても、掻き毟る指は止まらない。骨だけになるまで指は止まる事は無いだろう。いや、骨だけになっても、止まらないのかも知れなかった。
凄絶なまでの自傷行為、その原因は、半死人が削ぎ落とした肉の中に有った。
血塗れの赤黒い肉片の中に在って蠢く白いもの。
蛆虫だ。無数の蛆虫が、削ぎ落とされた肉に群がり、蠢いている。
肉片は三つ呼吸をする内に、蛆虫に貪り付くされて消滅した。
肉片が消える僅かな間にも、自傷行為は止まらない。
身体を掻き毟る指は、込め過ぎた力の為に、全てへし折れているというのに、それでも尚、掻き毟る事を止めはしない。
遂には蛆に塗れた臓物を書き出し、口と肛門から蛆と肉汁を盛大にぶちまけて、悍ましき“死の舞踏(ダンス・マカブル)”は終わりを告げた。

「此処も…至極アッサリと陥ちましたね」

血と臓物と排泄物の臭いが混じる空間に、玲瓏透徹な女声がした。
声を聴いただけで、美女だと確信させる。そんな声だった。
死者と生者を問わず、だれもが地に横たわる中で、その美女はただ一人、二本の足で凍土を踏みしめ、周囲を見回していた。
ファーの付いた黒いコートと黒いスラックスを着た、180cmを僅かに超える均整の取れた長身の美女は、微笑を浮かべて左右を見回す。

右を見る。九穴から、血肉と蛆虫が溢れ出た少女が絶命する。
左を向く。黒蠅に集られた青年の身体が、溶けて血泥となる。

満足気に美女は口元を綻ばせる。
地獄絵図を堪能し、全てを記憶に焼き付けようとするかの様に、視線を忙しなく周囲に向ける。
美女の視線の先で、無惨な半死人が無惨な死人と変わっていく。
最後の一人が石で自身の頭を叩き割り、蛆虫塗れの脳漿を、凍結した地面にぶち撒けて死んだのを見届けると、瞼を閉じた。

「強者だけが生き残る権利を持つ。弱者は強者の糧となれ……。第二崩壊の思想だそうですが…随分と酷いものだと思いませんか?」

眼が有る、鼻が有る、耳が有る、唇が有る。美神が権能の限りを尽くした美を持つそれらは、芸術神が才智の全てを振り絞った配置の精妙さを誇っていた。
美神と芸術神の寵愛を一身に受けて産まれ落ちた。そう形容しても、誰も意を唱える事は無い、比類無い美貌を持つ女の名を、易津縁美といった。
オーストラリアの人類を業病と業毒で死に絶えさせ、人類にオーストラリア大陸を放棄させた破格の禍者。
十二崩壊に迫る業と実力を備えた怪物である。

「生きたまま喰べられる。それはとてもとても、痛くて、辛くて、恐ろしくて、悔しい事なのですよ?」

瞼を開く。此処で流された全ての血よりも、濃く鮮やかな血の色が現れる。

「そうは思いませんか?貴方方」

答える者は存在しない。この地に居た生物は、全て白と栗の虫の群れに喰われて消えてしまっていた。

「私が知る限りでは、此処が最後の猟場の痕跡。弱肉強食を掲げ、生き続けてきたにしては…どれも脆い。崩壊に隷属する者では仕方がありませんか」

戦いを楽しむ習性は持ち合わせてい無いが、こうも脆いのでは面白くも無い。飽きる程に殺した旧人類に比べれば、禍者の耐久性は破格と言えるが、それでも未だ物足りない。
希望を抱き、理想を掲げ、大義を奉じ、慈愛を施し、忠義に殉じる。
その様な烈士を苦痛にのたうち廻らせ、その様な聖女を屈辱の果てに心を折り、自尊心どころか、生存の意欲すら失わせて果てに、嬲り殺すのが縁美の本懐。
オーストラリアからベトナムに至る殺戮行で、その様な者には終ぞ出逢えなかった為に、殺戮殺戮を重ねてなお、縁美は満たされていなかった。

「東南アジアで遊べる場所は…もう有りませんね。中国にでも行きましょうか」

“紅罪楽府”放埒に生きる者たちの巣窟。混沌の坩堝たる“姫”の庭ならば、此処よりは愉しめるだろうか?
ベトナムの地で、幾つ目かの猟場の痕跡を鏖殺し、易津縁美は北上を開始したのだった



◯◯◯

211平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:28:58 ID:r6JX0vCs0
◯◯◯


「それで…此処ですか」

東南アジアから中国へと歩みを進めていた縁美は、何故だか殺し合いの場に放り込まれていた。

「殺し合いは好きませんが…。救世主は…愉しい道具ですね。このまま氷河期が続けば、人類が絶滅してしまいますし、人に増えて貰わないと、私が殺す人間が居なくなります。
それに………。
おそらく落命しているだろう両親に、第二の生と、穏やかな地球を贈れますしね」

両親に対する情愛は無いが、人として敬服できる人達だった。育てられた恩義と併せれば、彼等を甦らせる為に戦うのは、至極当然と言えた。

「その為には殺さなければなりませんが…。十二崩壊に空の勇者。中々に粒の揃った相手を用意して下さりましたね」

縁美の神禍は、集団相手の大規模な殺戮に特化した性質を持つが、傑出した個を仕留めるには不向きと言える。
この様な殺し合いに選ばれる者が、有象無象の弱者なわけは無いだろう。
正面からぶつかれば、縁美の苦戦は免れ得無い。
それでも殺せない訳では無い。それならば何とかなるだろうと、そう結論付けて縁美は神禍を行使した。
肉を削り、血を流して、蛆と蝿を無数に産み出す。
瞼を閉じて優美に立つ縁美の姿は、縁美の肉体を蝕む苦痛と不快感が、禍者ですら耐え難い、言語を絶するものだという事を微塵も窺わせなかった。

「はぁ…。いつもの事ですが疲れますね」

地を覆う蛆の群を従え、空を覆う蠅の群れを四方に放つ。
周囲に誰かが居れば、蠅の群れが襲い、誰かが縁美を害しにやって来れば、蛆の群れに貪り食われる。
単体でありながら、禍者の集団をも圧殺する数的優位。悍ましき貪蟲軍勢(レギオン)。易津縁美がオーストラリアと東南アジアで殺戮を恣に出来た所以である。
虫を四方に放つと、縁美は地図を眺めて、現在位置を把握しようとした。

「何処でしょうか?周囲の人が状況からして廃村でしょうか?……大体の位置は把握できましたが…。さて…何処へと向かいましょうか」

出来れば人の多い所が良い。十二崩壊や空の勇者が居れば尚良い。彼等ならば、愉しく愉しく遊べるだろうから。
大雑把に現在位置を推測すると、取り敢えず聖域を目指す事にする。
彼処なら、人がそのうち集まってくる。その中には遊べる相手もいる事だろう。
雪を踏みしめて歩き出す。十歩も行か無い内に、縁美は地面が揺れるのを感じた。

212平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:29:45 ID:r6JX0vCs0
「地震……。現代の地球では有り得ませんが」

人類を滅ぼす為の神罰と称される全球凍結(スノーボールアース)。神罰と称されるのは伊達では無く、分厚い雲が空を覆い、陽光が地表に届かぬのみならず。
地下深くで活動するマグマもプレートの動きも止まっていた。
この為に、人類誕生以前に有った全球凍結に於いて、生物が何とか生き延びる事を可能とした環境を齎した活火山も、全てが活動を停止。
現在の地球には、地熱に依る温暖な環境すら、存在していない。
地球の星としての活動が動きが停止している為に、地震も発生する事はない。現在の地球で大地を震わすものが有るとすれば、それは強大な禍者が振るう神禍に他ならない。
一定の間隔を置いて大きくなる震動に、縁美の口元が笑みの形に釣り上がる。
そこいらを歩けば骸を見る時代だが、寒さの故に屍肉に群がる蠅は存在していない。
つまりは空を覆う黒蠅は、禍者に依るものに他なrない。
開戦の狼煙を見て、早速誰かがやって来た。
空の勇者や十二崩壊の様な、殺し甲斐のある相手なら望ましい。
態々殺しに行った“金獅子”や、殺しに行こうと思っていた“姫”ならば尚の事。
そんな事を思い、震動の元へと視線を向けると。

「随分と…酷すぎる臭いですね」

鼻をつく────どころか、突き刺さる異臭。人によっては痛みすら覚えるだろう悪臭が、縁美の鼻腔に強烈な不快感を与えて来た。

「十二崩壊には巨獣が居たと聞きますが、その方でしょうか?」

八位が聞いたら怒りで発狂するかもしれなかった。

「まぁ、私の神禍を思えば相応わしい相手かもしれませんね」

更に蛆と蝿を生み出しつつ、待つ事暫し。

「随分と…寒そうな格好ですね」

垢で変色したと一見で理解できる黄土色のタンクトップ。垢に塗れてごわつく黒い短パン。
不気味な薄笑いを浮かべた醜悪な顔立ちに、分厚い垢と脂汚れに覆われたグロテスクな肥満体。
美の極致というべき縁美と同じ空間にいるだけに、更に際立つグロテスクな醜悪さ。
汚と穢を寄せ集めて、人の形に捏ね上げたかのような、巨大な肉塊を前に、縁美は的外れな感想を漏らす。
自身の神禍もそうだが、そもそもが人間など一皮剥けばグロテスクで悪臭を放つ肉塊だと知っている縁美は、嫌悪や忌避といったものを抱く事は無い。

「ンンンン〜〜。最初に出逢ったのがこの様な美女であるとは、オイラの日頃の賜物ですか〜〜」

破顔すると、醜悪な顔が更に醜悪に崩れた。見るもの全てが二度と見たく無いと思う程に嫌悪の情を湧かせる笑顔。
外見に相応しく、声もまた醜悪。不快感を抱かせる音と形容すべきダミ声だった。
醜悪の極致というべく怪人の名は、北奈杉意秋。
長年引き篭り続けた意秋を、何だかんだ言いながらも養い続けた両親や妹を、自分をバカにしたという理由で皆殺しにし、次いで近隣の住民全てを殺し尽くし、その後も出逢った者が少しでも嫌悪や忌避を抱けば悉く殺して来た暴虐の禍者。

「お褒め頂き、ありがとうございます」

縁美もまた、笑顔を浮かべて会釈する。眼にしたもの全てが永遠に独占したいと願う美麗な笑顔。
美と醜の極みともいうべき男女が、凍てついた天地の間で対峙している。

「ムフフ…オイラはこれでも審美眼には自身が有るのですぞ」

「はぁ…そうですか」

誰もが嫌悪を抱く醜悪な怪人を前に、拒絶やそれに類する感情を一切見せることも無く、笑顔を浮かべたままで、縁美は神禍の行使を止めない。
反吐を吐きそうな悪臭の中、内臓を吐き出しそうになる不快感を表に僅かも出す事なく、黒蝿群れを産み続ける。
鉛色の分厚い雲に覆われて、星も月も陽届かぬ、常に薄暗い世界が、更に闇に染まっていく。

「私は易津縁美と申します。貴方のお名前をお聞かせください」

「むむッ!オイラともあろうものが、マイsweetheartラブリーエンジェルであるルクシエルたんには遠く及ばないとしても、絶世の美女に出会って舞い上がっていた次第。
オイラの名前は北奈杉意秋。意秋と読んでくれても問題無い」

本来、意秋は見ず知らずの相手に、こうまで明朗かつ流暢に話仕掛ける事などできる男では無かった。蚊の鳴く様な声で、途切れ途切れに話す男だった。
禍者となり、圧倒的な“暴”を身につけた事が、意秋に過剰なまでの自負を与え、他人との円滑な会話をするに至ったのだ。
微妙に早口なのは、絶世の美女に有効的に接せられて舞い上がっているからだ。

213平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:30:17 ID:r6JX0vCs0
「意秋さんですね…一つお伺いしますが、意秋さんは私に何か用がお有りなのでしょうか?」

縁美の問いに、意秋はハッと何かに気付いた様なリアクションを示す。
意秋には崇高な使命がある。
愛しいルクシエルたんの為に、あのババア(ソピア)が集めた奴等を皆殺しにするという使命が。
最後にババア(ソピア)も殺して、北奈杉意秋大勝利!希望の未来へレディーゴー!!して、ルクシエルたんを幸福にするという使命が。
初っ端から絶世の美女に出逢って舞い上がってしまい、僅かな間とはいえ、ルクシエルたんと使命を忘れていた事を、意秋は認識したのだった。

「戦え、とルクシエルたんが言っている」

「つまり私を殺すと」

「ルクシエルたんが望んでいるんだ。だから縁美たんはオイラに一方的に殺されるんだ」

意秋の全身に力を込もる。それだけで、体が更に膨れ上がったかの様に見える。

「悔しいだろうが仕方無いんだ」

「ルクシエルさんとは、どういう御関係ですか?」

羽音が増す。白い凍土が、異なる白で覆われていく。
病を齎す黒と、毒を撒く白とが、縁美を起点に広がっていく。

「オイラと赤い糸で結ばれたお嫁さんだよ」

振われる拳。質量もさることながら、拳の速度もまた尋常のものでは無かった。
戦いに長けた禍者であっても避ける事が困難な速度で、巨拳が縁美目掛けて殺到する。
普通乗用車程度であれば、砕けながら宙を舞う事になる拳打は、何も打つ事は叶わず、虚しく空を裂くだけに終わった。
高まる羽音。意秋の視界が、無数の黒蠅に覆われる。

「ブギッ!?」

視界が塞がれ、意秋が無防備を晒した瞬間。意秋の股間に凄まじい衝撃が生じた。
縁美は、互いの身長差を活かして、しゃがみ込む事で意秋の拳を回避。
次いで、幼少時から続けていたバレエにより獲得した、高い柔軟性と、鍛えられた体幹を以って、足を振り上げ、意秋の睾丸を蹴り抜いたのだ。
弧を描くように跳ね上がった足は、足の甲と意秋の太腿の間に、意秋の睾丸を挟み撃ち、確実に潰す事を意図している。
深窓の令嬢といった風情と真っ向から反する、暴の所作。
縁美が過去に行った殺戮が、決して神禍のみに依るものでは無いと、言葉にせずとも理解らせる。

「ブギョオオオオオオオオオオオ!!!」

耳をつんざく不協和音。
至近で生じた巨大な不快極まりない音に、縁美は思わず距離を取った。

214平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:31:04 ID:r6JX0vCs0
「あれで潰れなかったとは…丈夫な方ですね」

悪臭と不快な音を撒き散らしながら、のたうち回る意秋を前に、縁美は愉悦の笑みを浮かべる。
簡単に死んでくれるなと。少しでも生きて愉しませろと。
穏やかな風情の裏に、苛烈なまでの嗜虐心を覆い隠し、縁美は神禍を行使する。

無数の蛆が、意秋に群がり、鋼鉄すら噛み裂く牙と顎門を以って、意秋の身体を貪り出す。
無数の蝿が、消化液で意秋の身体を溶かして啜る。
鋼鉄すら噛み裂く牙と、鋼鉄すら溶かす消化液。
何方ともが、群れなす禍者を鏖殺し得るに足る代物だが、この神禍の本質はそこには無い。
蛆虫は牙と共に毒を打ち込み、蠅は消化液と共に病を噴きつける。
河豚、カエンタケ、アンボイナ、ヤドクガエル、鉛、水銀、プルトニウム、鳥兜、青梅。
地球上の生物どころか、非生物の持つ毒すらもが、惜しみなく意秋の身体へと投入され。
エボラ出血熱、狂犬病、コレラ、黒死病、マールブルグ病、エイズ、ラッサ熱、赤痢、チフス。
文明が健在で有った頃ならば、どれか一つでも医療関係者が聞けば、顔色無からしめた病を意秋の体内へと送り込む。
一個人に対して行う殺人行為としては、明らかに度が過ぎている。一つの国家を滅ぼせるだけの毒と病の大量投入は、もはやオーバーキルという言葉ですら生温い。
意秋の巨体は、鮮血を全身から噴き出し、白と黒の群れに覆われ、体内を無数の毒と病が破壊している惨状を呈している。
十二崩壊。空の勇者。凍てついた世界に於ける極峰であっても、十度は殺せるだけの“死”を叩き込み、縁美の笑みは更に深く、朗らかなものへとなっていく。

「本当に丈夫な方ですね。単なる身体強化というわけでは無いでしょうが」

意秋は未だに死んではいない。とうの昔に皮膚も肉も血も骨も、全てが腐りきり爛れきって死んでいなければならない筈が、未だに巨体が蠢いている。

「これで死なないというのは…中々に愉しめますが、どう殺せば良いものか……」

縁美の言葉に呼応するかの様に、意秋の巨体が活動を開始した。
地面に手をつき、立ち上がる。それだけで、大地と大気が震える程の、力が込められた動きだった。

「グフフフフ…いきなりキンタマを蹴られたのは痛かったけど、何だか随分と調子が良くなったでござる」

無数の蛆と蝿に集られたまま、意秋は平然と動き出す。再度右腕を引き、渾身の右ストレート。
風切る音も、迫る速度も、初撃とは比較にならない程に向上した一拳を、縁美は後ろに跳躍する事で、間合いの外へと逃れ出る。
巨大は拳に押し出された空気が、暴風となって縁美身体を叩き、縁美の体は空中で大きくよろめいた。

「ぶひゃああああああ!!!」

そこへ繰り出される意秋の前蹴り。
比喩でもなんでも無く、丸太の様な太さの脚が、縁美の胴へと伸びる、
縁美は周囲の蝿を操作。己の身体を後方へと押させる事で、意秋から離れる速度を上昇させた。
結果、当たれば決着。内臓が破裂するどころか、胴が爆散する蹴撃は、縁美の身体に僅か数センチの差で届かない。
それでも、押し出された空気に身体を激しく打たれて、縁美の体は三十mも後方へと飛ばされた。
地面への激突を、蝿を操り空中で固めて足場と為し、蹴り抜いて再度跳躍。優美な弧を描いて宙を舞う。
僅かな間を置いて、縁美の居た位置に意秋拳の拳が直撃し、直径5m程の陥没が生じ、周囲に全長20m程の亀裂が蜘蛛の巣状に発生した。

「先程よりも明らかに身体能力が上がっていますね」

「ムウン!!!」

意秋が全身を激しく震わせ、纏わりつく白と黒の汚穢を振り落とす。
飛散した黒白は、半数が地に落ちて蠢き、半数は四散した。

215平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:31:49 ID:r6JX0vCs0
「ああ…。垢と脂が分厚過ぎましたか?」

現れた意秋の身体が、明らかに血色が良くなっている。
具に見れば、身体が僅かだが細くなっているのが見て取れるだろう。
縁美の放った虫は、意秋の分厚い垢と脂汚れに阻まれて、身体まで届く事が無かったのだ。
『調子が良くなった』というのは、気の所為でも何でも無く、意秋の全身を覆っていた汚れが落ち、適度に皮膚が刺激されて、身体中の血行が良くなった為だろう。

「グフフフフ…我が人生最大の絶・好・調!!ハッ…こ、これは、オイラの優勝を願うルクシエルたんの加護ッ…!」

ルクシエルが意秋の勝利を願っているのかといえば、そんな事は当然の事ながら、無い。
なお意秋が生贄に選ばれたのは、この機に鬱陶しいストーカーを始末しておこうというソピアの意図であるが、意秋がそんな事を知る由は当然無い。

「見ていてねルクシエルたん!オイラの雄姿を!!」

凍土が爆ぜる程の踏み込み。瞬間移動じみた動きで、縁美を間合いに捉えた意秋は、十二崩壊ですらが無視出来ない豪打を繰り出す。
対する縁美は、初撃と同様、地に伏せて回避。蠅を意秋の九穴へと殺到させ、内部からの破壊を試みるが。

「お“ッお“ッお“ッお“ッ」

肛門を絶え間なく刺激され、意秋が気色の悪い鳴き声を上げる。

「お“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“〜〜〜〜〜!!!」

肛門から侵入し、腸を溶かし破って身体中へと広がり、やがて皮だけを残して肉も骨も血も啜り尽くす蠅の大群は、意遊の鳴き声と共に悉く放り出され。目耳口鼻から突入させた蝿は────。

「ブエッックショッッ!!!」

盛大なくしゃみ一つで、纏めて外に排出される。

「……………はぁ」

くしゃみにより吐き出された意秋の呼気。圧縮空気砲と呼ぶべきそれが凍土を粉砕し、派手に上がった土煙の中を舞い飛びながら、縁美は短く溜息を吐く。
意秋の神禍は、単純に自己強化。それだけならば珍しくも無いが、強化率が異常に過ぎる。
だがしかし、所詮は自己強化。それだけでしか無いが、それでも残る疑問が有る。何故に意秋に毒と病が通じないかだ。
蠅や蛆による物理攻撃が通じないのは、意秋の肉体強度によるものだが、毒も病も効果が無いのは、縁美の理解の域を超えている。

縁美は知らぬ。意秋の神禍の本質を。
拒絶への反抗(リジェクション・オブ・リベリオン)。自身に対する拒絶の意志に、若しくは意秋の他者への拒絶の意志に応じて、肉体が強化されるというもの。
全球凍結に依る寒波ですらが、意秋への拒絶と判定され、肉体に超強化が掛かる神禍。
縁美は意秋に対し、全くと言って良い程に拒絶の意思を見せてはいないが、意秋に対して行った攻撃が、拒絶の意思と判定される。
身体中を覆う垢と脂が落ち、全身を刺激されて血行が良くなった事のみならず、意秋の神禍に依る肉体強化も合わさって、縁美と出逢った時よりも、肉体は更なる強化を遂げている。
打ち込んだ毒も、齎した病も、全てが拒絶と判定され、強化された肉体が速やかに免疫抗体を生成。毒と病の悉くを無力化してしまったのだった。
これでもまだ、縁美自身が拒絶の意思を見せていない為に、本領を発揮してはいないのだ。

「最初に当たるにしては…流石にキツいものが有りますね」

内臓が掻き回される様な不快感と、全身の神経にヤスリをかけられているかの様な激痛。
常人ならば狂死する苦痛を意にも介さず、舞う様な動きで意秋の猛撃を躱し続け、蛆と蝿を意秋目掛けて差し向ける。
この敵は早々に死ぬ事は決して無い。それが愉しい。限り無く愛しい。

北奈杉意秋という禍者は、存在そのものが他者からの拒絶を呼び起こす。
容貌、体躯、声、体臭。それら全てが他者にとっての不快感と嫌悪感に満ち溢れ、至極当然の様に、意秋の神禍を発動する。
そうして強大になる意秋の前に、誰もが等しく血泥となった。

だが、易津縁美には、意秋に対する殺意は有っても、嫌悪は無い。
易津縁美にとっての殺意は、他者へと向ける親愛の情と等しい。嫌いだから、憎いから、理由が有るから殺すのでは無く、只々愉しいから殺す。殺したいから殺す。
其処には嫌悪もなければ拒絶も無い。有るのは受容と親愛だ。
故に縁美に対して意秋の神禍は、万全の威力を発揮できてはいなかった。
それでも尚、脅威の一言に尽きる意秋の神禍は、十二の崩壊に迫るものと言えるかも知れなかった。

◯◯◯

216平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:32:39 ID:r6JX0vCs0
◯◯◯


北奈杉意秋と易津縁美。共に暴力の極致と言うべき神禍を振るう両者だが、その性質は全く異なる。

意秋が用いるのは全球凍結以前から人類が用いてきた、己が五体を駆使した暴力だ。
拳を振るい、脚を振るい、肉体を駆使して、対象を破壊する。
過去から現在に渡って用いられ続け、神禍を得ても尚、廃れる事なく使われ続ける、誰しもが持つ原初の加害の手段。
そこに込められた力が、兵器のそれに匹敵し、一拳一蹴毎に、凄絶な破壊を引き起こすという一点を除けば、北奈杉意秋のそれは、旧時代のそれと全く以って変わらない。
一撃を振るう毎に、引き裂かれた大気が衝撃波となって荒れ狂い、蛆と蝿を消し飛ばし、周囲の家屋を薙ぎ倒す。
一歩を踏み出す、或いは足による踏み付けを行うだけで、地面が砕けて岩盤が舞い上がり、大地が震え、複数方向に無数の深い亀裂が伸びて行く。
意秋の神禍は、単純に個の極致。幼稚な人格に相応しい傍若無人な我儘をそのまま神禍としたかの如く、行使される絶大な暴力は、凡ゆる全てを撃砕する。

対する易津縁美の神禍は、北奈杉意秋の対極。圧倒的と言う言葉ですらが追い付かない、絶望的な数の暴力だ。
百人どころか、万相手であっても、短期間で骨どころか血すらすら残さず殺し尽くせる絶大な数の暴威を行使し、意秋の前後上下左右全てを、己が神禍の及ぶ部位と為している。
頭部、顔面、首筋、胸板、双肩、両腕、諸手。全てを黒蠅が覆い尽くし、意秋の巨躯を溶け崩れさせんと、消化液を噴き付ける。
地面を覆い、意秋の足から這い上った蛆虫は、意秋の下肢の全てを覆い、蠢きながら癒えぬ飢えに任せて、牙を突き立て続ける。
並の禍者であれば────第八崩壊の率いた巨獣の群れであったとしても、存在した痕跡を残さずに喰い尽くす暴食の群。
当に意秋の衣服は全て消失し、強化された意秋の肉体にも、無数の傷が生じて、意秋の巨体をくまなく鮮血で染め上げている。

「ブギイイイイイイイイイイ!!!!」

衝動の赴くままに拳脚を振り回し続けた意秋が、動きを停めて吼える。
苦痛では無く、群がる虫の不快感に耐え切れなくなったのだろう。
地面に倒れ込むと、地響きを伴いながらローリングを行い、群がる虫を潰していく。
粗方潰して立ち上がった意秋の眼は、限り無い親愛の笑みを向ける縁美を映した。

「愉しませてくれますね。ではもう一度」

再度押し寄せる虫の津波。これこそが易津縁美の真の脅威。
千を潰せば万を繰り出し、万を殺し尽くせば間髪入れずにその百倍が押し寄せる。
絶やし尽くせぬ毒と病の波濤は、正しく蒼白き騎士(ペイルライダー)の名に相応しい。
第二崩壊“金獅子”の理を掲げる者達を、歯牙にもかけずに嬲り殺した、縁美の持つ無尽蔵の悪意の具現化。

「うぎゃあああああ!!!」

意秋が絶叫する。殺しても殺しても尽きない虫の前に、さしもの意秋も戦意を挫かれたのだ。
だが、戦意を挫いたところで、何の意味も持たぬのが北奈杉意秋という禍者。
押し寄せる虫の波濤に、膨れ上がる拒絶の意志が牙を剥く。
意秋の身体に群がった虫達が、群がる端から消えて行く。
更に複数の触手が意秋の身体から伸び、空を飛ぶ蠅の群れを粉砕する。

「はぁ…これはまた……愉しませて下さいますが。殺せるのでしょうか?」

群がった虫達は、全て意秋の身体へと吸収されて行き、意秋の全身の傷を塞ぐ皮膚や肉となっている。
縁美の繰り出す虫を吸収した為か、意秋の身体が更に膨れ上がった。

217平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:33:44 ID:r6JX0vCs0
「グフ…グフフフフ。これがオイラの神禍。虫を吸収するのはキモいけど、縁美たんから生まれたということは、縁美たんの一部ッ!?
つまりコレは……二人は一つになった!!?」

「…………そうとも言えますね」

「ななな何と!しかしですよ縁美たん。オイラには“スウィートエンジェル”ルクシエルたんという運命の相手がッ!
アアッ!縁美たんを不幸にするオイラの魅力が憎いッ!」

「………はぁ」

一人悦に入る意秋を無視して、意秋の神禍を考察する。
単なる肉体強化の枠には収まらないこの現象。一体如何なる神禍なのだろうか。

「与えられた刺激に応じて、肉体が適応変化する?」

面白い。愉しい。ならば高熱で焼けばどうなるのか?電熱は?巨大質量による圧潰は?真空状態での窒息は?
どれもを試したい。全てを試して結果を見たい。
100℃に耐えれば次1000。
1万ボルトに耐えれば次は百万ボルト
再現無く与える苦痛を上げていき、上限を超えて苦しむ姿を、その果てに死ぬ姿を見たい。

「まぁ、どれも試せませんが」

折角のオモチャであるが、此処では満足するまで愉しめない。
今あるもので、殺すより無い。
黒蠅を操り、空中で二本の巨大な槍を形作らせる。
猛速で意秋へと飛翔した蝿槍は、意秋の左右の胸を直撃。
蠅の速度と、鋼鉄すら溶かす消化液。其処に群れ成すことで得た質量が加われば、並の禍者など容易く貫く妖槍となるが、並どころか異常という言葉でも足り無いのが北奈杉意秋。
堤にぶつかった波濤の如きに、蠅槍が砕け散る。

「触手プレイッ!」

蠅の群れを払い落とす為に獲得された触手が六本、縁美を拘束するべく飛来する。

「良く分かりませんが、お断りします」

対する縁美は、黒蠅で意秋の視界を塞ぎ、バレエで培った平衡感覚と跳躍力を活かして全てを回避。
再度蠅槍を形成し、意秋の顔面目掛けて撃ち込んだ。

「ブハッ!?」

流石に顔への直撃は答えたのか、僅かに意秋が蹌踉めく。
当然、その隙を見逃す縁美では無い。
一気呵成に駆け寄ると、地面を蹴って跳躍。意秋の右膝へ全身のバネを活かし、体重を余す事無く乗せたドロップキック。
見事に縁美の両足は、意秋の膝へと吸い込まれ、骨がひしゃげる音がした。

此処までの両者の闘争は、絵に描いたような千日手。
個の極致である意秋には、縁美の数を突破する事が叶わず。
数の暴威を行使する縁美は、個の極峰である意秋にまともにダメージを与えられない。
アプローチをする方法を、今までと変えなければならばかった。
だからこその、肉体を用いた直接打撃。鍛え用の無い急所である膝関節への猛撃。これで脚を潰して動きを封じる。
目論見は見事に成功し、意秋の右膝に痛撃を見舞う事に成功したものの。

直後に生じた爆発により、縁美の身体は遥か遠くへと飛んで行った。


◯◯◯

218平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:35:00 ID:r6JX0vCs0
◯◯◯


「此処は一体何処でしょうか」

足元には海が広がり、北には塔が見え、目を凝らせば、西の方角に病院が見える。

「南には聖堂が有りますね。という事は……結構飛ばされましたね」

あの時、意秋の膝に痛打を見舞った直後に、激痛で意秋が絶叫。
爆発と形容した方が相応しい叫び声は、空中に在って不意を突かれた縁美の身体を、風に舞う木っ葉の如くに吹き飛ばしたのだった。
危うく氷点下の水温の海に落ちる所だったが、咄嗟に黒蠅を大量に出して足場とする事で、滞空して、命を拾ったのだった。

「まぁ、あのまま戦っていても、決着を見たかどうかは……まぁ良いでしょう。少し休まないといけません」

一人を相手に、あそこまで神禍を行使した事など無く、あそこまで神禍を行使して、殺せなかった事も無い。
初めて出逢う相手だった。そして恐るべき強敵で、殺し甲斐の有る相手だった。

暫し戦闘の余韻に浸り、何処に行こうかを暫し考える。何分神禍での飛行は大変疲れる。力を使い果たしかねない。鋭い眼差しで考え込み、即座に答えを出す。
さっき戦った廃村は、戦いの余波で相当な被害を受けた筈。訪れた者も、得るもの無しとして、即座に踵を返すだろう。
意秋にした所で、ルクシエルの為に優勝を目指すというのならば、何時迄も彼処に留まっているとは思えない。
彼処に戻れば誰とも会うこと無く、休めるだろう。
足場の蝿を操作して、陸地へと移動を開始しながら、縁美は考えを巡らせる。
十二崩壊や空の勇者。彼等は一体どの様な夢や希望を抱いているのか。それらはどれだけ強固で、壊した時にどんな顔をするのか。
邪悪な物思いに耽りながら、縁美は海の上を飛んで行った。


 

【D -2・海上/1日目・深夜】
【易津縁美】
[状態]:疲労(中)
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:優勝して、両親を蘇らせてもらう。
1:愉しめそうですね
2:十二崩壊や空の勇者…彼等は何を抱いて戦うのでしょうか?
[備考]


◯◯◯


間断無く続いていた、骨が形を変え、肉が膨れ上がる音が止まり、蹲っていた北奈杉意秋が立ち上がる。
膝に激痛を感じ、思わず絶叫して、気づいたら意秋一人だけだった。
縁美たんは何処へ行ったのか。当たりを見回しても、倒壊した家屋しか存在し無い。
キョロキョロと周囲を見回す意秋の姿は、どう見ても不審者そのものである。全裸だし。
暫くの間、不審な挙動を見せていた意秋は、聖堂の方に決意に満ちた眼差しを向けた。

「待っていてくれ、ルクシエルたん。オイラ、きっと勝ってみせるから」

【待っています。我が愛しの勇者意秋】

ソピアとエヴァンに聞かれれば、ガチ殺し必至の妄言を吐いて、意秋は聖堂から離れて行く。
ルクシエルの為に勝利を重ね、縁美たんを始めとした全員を殺し尽くす為に。
なおルクシエルの声は、意秋の脳内にしか響いていない。
縁美との死闘を経て、更なる巨大化と異形化を果たした怪人は、力強い足取りで南下を開始した。



【B -4廃村/1日目・深夜】
【北奈杉意秋】
[状態]:健康 380cm・550kg 触手が背中から六本生えている
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:優勝してルクシエルたんと結婚する
1:戦えと、ルクシエルたんが言っている
2:縁美たんは何処へ?
[備考]



B -4の廃村で起きた戦闘で、家屋の大部分が倒壊しました。

219平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから ◆VdpxUlvu4E:2025/06/25(水) 21:35:15 ID:r6JX0vCs0
投下を終了します

220 ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:44:11 ID:wMcxZIQ.0
投下します

221 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 22:44:46 ID:PTQKBYAo0
投下します。

222 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 22:45:09 ID:PTQKBYAo0
宣言が被ったので後ほど投下します。

223アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:45:14 ID:wMcxZIQ.0


 灰色の空。吐息すらも凍りつきそうな氷点下。
 しかし氷結の大地に佇むその男の体は、じっとりと汗ばんでいた。
 タツミヤはフードの奥で息を吐いた。空気は重い。先ほど聞かされた話と今ここにある状況がそう感じさせていることは言うまでもなかった。
 
 慣れている。殺し合うのも、死体を見るのも。
 けれどこんなことに巻き込むなら、せめて"あの頃"にしてくれよと頭を抱えたい気分だった。

「死にたくは……ないな。流石にまだ」

 ぼそりと呟くように言葉が落ちる。
 誰に聞かせるでもない独白だ。死は馴染み深いが、拒絶の念はそれ以上に深く根を張っていた。
 こんなふざけた茶番のような儀式の中で命を落とすなど、冗談ではない。
 振り返れば空虚な人生だった。生誕を祝福する名前もなく、感情を持つこともなく、ただ命じられた標的をいるかも分からない神のために屠る日々。 そんな自分が今ただの生存のために牙を剥こうとしているのは、見方によっては進歩と呼べたのかもしれないが。

 ――生きていたいという思いは、本物だった。

 もはや、人形のように役目をこなすだけだったタツミヤはいないのだ。
 いつかの、ひどい吹雪の日。雨宿りならぬ雪宿りのつもりで入った図書館で見つけた一冊の画集。
 虫食いで見るも無残な有様だったが、それでもそこに描かれていた艷やかな美は空洞の魂に灯を点してくれた。
 悟りと呼ぶには不純すぎる動機だと自分でも思うが、それは確かにタツミヤにとっての幼年期の終わりだったのだ。

 生きていて楽しいことよりも、目を覆いたくなるような苦難の方が圧倒的に多い世界。
 だとしても、やはり死にたいとは思えない。
 ましてや耳通りのいい"誰か"の大義の轍になるなんてまっぴらごめんだった。
 だからこそ、タツミヤの心には既に決意が浮かんでいた。

 そして。
 ちょうどそんなタイミングで――ざり、と雪の上に足音がした。視線を動かす。そこにいたのは、幼い少女だ。

 小柄。風景に溶け込みそうな銀白の髪。
 民族調の防寒衣は、どこかシャーマニックな印象を抱かせる。
 普段なら背伸びした子どものようで愛らしい姿も、この状況では与える印象を変える。
 寒さをものともしない身のこなしでとてとてと足を進めている姿はあまりに無防備で、芽生えたばかりの決意を実行に移させるには十分すぎた。

(仕方ない。恨みはないが、今更聖人君子をやるのもおかしな話だ)

 一瞬の、おそらくは人間的と呼ぶべき逡巡。
 タツミヤはフードの奥で目を細め、神禍を起動させた。

「"深愛なる抱擁(ディープ・アフェクション)"――来たれ我が欲、我が憧憬」

 小さく呟いた降臨のコマンドワード。
 それに合わせて両腕の袖が破れ、ぬるりと赤紫色の触手が伸び出る。

224アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:45:52 ID:wMcxZIQ.0
 全部で八本。粘液状の塩水を滴らせるそれらには無数の吸盤が犇めいており、まさしく蛸の触腕そのものだった。
 こんな状況だというのに下腹に熱を覚えてしまう自分に辟易するが、妄想に酔っている時間はない。
 体温が一気に上がる。心拍数が跳ねる。禍者との戦闘は、いつも肝が冷えるものだから。

「……行け」

 呟いた直後、触手が獲物に向けて一斉に躍った。
 地を抉るほどの勢いで地面を滑り、少女へと殺到していく。
 自然界の蛸がそうするように、縦横無尽に包囲を形成しながら迫る――だが。

 ひゅ、と風が鳴いたかと思った次の瞬間、一閃。
 銀白の残像が弾けた。触手の一本が斬られ、ぼとりと地面に落ちてのたくっている。

(――速い)

 タツミヤの目が見開かれる。
 既に少女の姿は消えていた。
 刹那、小動物めいた痩身はタツミヤの懐にあった。
 風圧と共にナイフが迫る。反射的に残る触手で防御を試みた結果、今度は三本が纏めて斬られる。

「ちッ……」

 皮膚が裂ける鋭い痛みに、小さく呻きが漏れた。
 タツミヤの神禍は異界の神を召喚するだとか、そんな大それたものではない。
 肉体を媒介にした、蛸の特性の再現。それが彼の力の正体である。
 よって斬られればちゃんと痛いし、蛸足の末路次第では気絶ものの地獄を味わう羽目にもなってしまう。

 たまに現れる狂信者などはこの神禍を様々な美辞麗句で褒めそやすが、本人に言わせればまったくもって取り回しの悪い力だった。
 いっそ本当に邪神なり何なりと"繋げて"くれる力だったらどれほど良かったかと、こうして痛みのフィードバックを受ける度に思っている。
 
 少女の手にあったのはサバイバルナイフだった。
 恐らくは支給された武器なのだろうが、問題はそこではない。
 本人の身のこなしだ。まるで踊るように触手を躱し、無駄のない身のこなしで凶刃を振るってくる。

(手練れだな……あの教団にも、ここまでやれる奴はそういなかったぞ)

 厚着をしているとはいえ寒さの影響を感じさせず、呼吸も乱れていない。
 神禍の影響というよりかは、身体機能として効率のよい体力の使い方を体得しているのだろう。
 気を抜けば喉笛を掻っ捌かれそうな、その攻撃精度の異常さに心底ゾッとする。

 自分の触手は見た目こそ蛸そのものだが、実際は高密度な筋肉で形成された殺傷器官だ。
 軌道は変幻自在で、そんな得物がまったく不規則な軌道で襲ってくるのだから対処するのは決して容易ではない筈。
 なのにそれに、初見でこうもあっさり適応してくるとは。
 直感が告げている。あれは――"生き延びてきた者"の眼だ。
 白紙化され、そこかしこに凶暴な禍者が彷徨く地獄と化した地球を、身ひとつで生き抜いてきた手練れの眼。

225アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:46:45 ID:wMcxZIQ.0

 タツミヤは後退しながら片膝を突き、姿勢を低くした。
 防御に使った二本が新たに損傷し、もはや残る触手の数は二本にまで減少している。
 呼吸を整えながらフードの奥で目を細めるタツミヤに、少女は何も喋らなかった。ただ静かに、次の攻撃のための構えを取っている。

 確信する――手加減はできない。
 そんな無駄を抱えて挑めば、返り討ちに遭うのは必然だと理解した。

「……いいさ。なら、見せてやる」

 呟くと同時、腹の底から呻くような息が漏れた。
 背中が膨らみ、ダウンジャケットが裂ける。それなりに気に入っていたので惜しいが、四の五の言ってはいられない。
 更に肩からも、新たな触手がうねるように生えてくる。
 水音が響き、墨の匂いが空気に混じる。圧縮された神経と筋肉の塊――それは彼の"想い"の顕現だ。

「出力(ギア)を上げるぞ……!」

 新たに生やした触手の数は、蛸の限界を超越した驚異の三十本。
 生物学的にはあり得ない数字だったが、端からタツミヤはそんな常識になど興味がない。
 彼にとってこれはあの日出会った憧憬であり、魂の芯に刻まれた癖(へき)なのだ。
 最果てのない憧れは理論上、タツミヤをどこまでも怪物に変えることができる。
 神話のクラーケン宛らの姿を晒すや否や、無数の触手が水飛沫のように四方へ展開されていく。

「っ――――」

 濃密な水音と触手の擦れ合うおぞましい音が、戦場の空気を塗り替えた。
 少女がここで初めて息を呑んだが、それは詮無きことだったと言えよう。
 タツミヤの全身、その随所から伸びた触手は地を這い、空を裂き、彼女の視界を埋め尽くす勢いで広がっていた。
 墨混じりの霧が広がる。吐き出される体液は、この氷点下の世界では比喩でなく熱を奪う致死の猛毒に等しい。

 とはいえやはり、対峙する少女も只者ではなかった。
 その姿は、再び掻き消える。
 刃を片手に駆け回る少女の機動力は、タツミヤをして超人的と言う他ないものだ。
 しかし、そうであろうと――。

「何のこともない。数で圧すれば、罷り通るだけだろう」

 低く呟き、タツミヤは躊躇なくそれを実行に移した。
 触手の一本が地を叩く。跳ね上がる雪煙。続いて残りすべてが娘の周囲を囲い込み、空間そのものを閉ざしにかかる。
 それはもはや障壁だった。個の攻撃ではなく、空間そのものを支配する圧殺の波状攻撃。

 触手はタツミヤの意思を忠実に反映してそれぞれ絡み合い、蛇の巣のように動線を遮断し、隙間という隙間を潰していく。
 遂に、跳ね回る少女の足が止まった。反応の遅れか、それとも臆病風にでも吹かれたか。
 いずれにせよ、好機である。

「……終わりだ」

 それでも少女は健気な抵抗を続けていたが、この本数と軌道にナイフ一本で対処しきるのはどうあがいても不可能だ。
 少女の足首を触手が絡め取ったのを皮切りに、触手が一気に巻き付く。

226アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:47:26 ID:wMcxZIQ.0
 足首から胴、肩へと順に拘束が広がり、少女の小柄な身体は、宙に持ち上げられるようにして浮かんだ。
 艶やかに揺れる銀白の髪が粘液で濡れる光景はどこか官能的だったが、こうなってはもう誰であろうと抜け出せない。

 後はもう、一瞬で終わる。
 それでいい。たとえ相手が幼い少女でも、ここは生きるか死ぬかの戦場だ。
 こちらから仕掛けたとはいえ、彼女には明確に自分を討とうとする意思もあった。であれば何も迷う必要はない。

 だが、その時。

「――マッサージにしては微妙。ぬるぬるしてあんまし気持ちよくない」

 少女が、やや不満げに口を開いた。
 意表を突く一言だった。そこには殺気も怒気も、焦りの一片さえ窺えない。
 痛みを訴えるでもなく、哀訴でもなかった。ただの、率直な感想だ。

「……なに?」

 思わず零れた、タツミヤの言葉。
 だが結論から言えば、その一瞬が彼にとっての命取りだった。

「あとちょっと臭い。ぬめりはちゃんと取ってほしい」

 触手の檻が――内側から破裂した。
 巻き付いていた触手のすべてが、内部から鋭く裂けたのだ。
 血のような体液が飛び散り、遅れて、タツミヤの身体に神経を引き毟られるような激痛が走る。

「がッ、ぐ……!!」

 それでも、暗殺者として鍛えられてきた肉体は忘我の隙を晒さない。
 気をやらないだけでも大したものだったが、触手を一瞬で全滅させられたのは言うまでもなく致命的だった。
 当然次を出そうとするものの、身体機能の延長として生じさせる都合、どうしてもそこには遅延が発生してしまう。
 
 その一瞬を見逃さず、解き放たれた少女は地を蹴った。
 音もなく、獣じみた身体運動。
 空気を貫いて踏み込み、最接近。慌てて腕を構えようとした時には、既に遅かった。

 少女の細足から繰り出される、鋭利な瞬速のハイキック。
 狙い通りそれはタツミヤの顎に直撃し――衝撃と共に、視界が回転する。
 思考が止まった。脳が揺れる。内耳が焼けついたような感覚に神経が一瞬で麻痺し、重力の感覚が消える。
 最後に見えたのは、無表情で佇む少女の瞳。それは飽きるほど見てきた、あの凍てついた空の色とまったく同じだった。

「――――くそ」

 そのまま、タツミヤの身体は崩れ落ちた。
 生えかけていた触手は消失し、溶けるように霧散していく。
 昏倒した襲撃者の姿を、少女は顔色ひとつ変えずに、見下ろしているのであった。



◇◇

227アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:49:09 ID:wMcxZIQ.0



 温もりが、頬を撫でている。
 乾いた熱。焦げた匂い。
 パチパチと薪が弾ける音。
 氷に閉ざされたこの世界には不釣り合いなぬくもりに、タツミヤの意識が引き戻された。
 瞼が重い。全身が倦怠感に包まれている。偏頭痛のように頭が痛む中、記憶が徐々にかたちを成していく。

 触手の裂ける痛み。
 スローモーションになった視界で見つめる、恐ろしく鋭いハイキック。

 ――そうだ、俺は負けたのだ。

 瞬間、タツミヤはハッと目を見開く。
 跳ね起きようとしたが、身体が上手く動かない。
 筋肉がだるく、まともに力が入らなかった。無理やり意識を断ち切られた分、思いの外ダメージが残っているらしい。
 辺りは仄暗い。暗いのではなく、仄暗い。
 見れば焚き火が設けられており、それが周囲を微かに赤く染めていた。

 火の前に、あの少女がいた。
 名も知らない、幼い娘。自分を打ち倒した張本人。
 しかし当の本人は、相変わらず何を考えているのかよくわからない顔で焚き火を見つめている。
 が、よく見ると、手に木の枝を持っていた。先端には焦げ目の付いた何かが刺さっている。
 炙られているものの正体を理解してタツミヤ、思わず絶句。
 串焼きにされているのは、さっきの戦闘で切断された蛸(じぶん)の触手だった。

「……おい。何してる」

 低く呻くように声を出すと、少女はこちらを振り返った。

「あ。起きた?」

 あっさりとした声。敵意もなければ、緊張もない。
 まるで、戦いなどなかったかのように。
 彼女はそのまま触手の串焼きを火から外すと、躊躇なく口へ運んだ。

「んぐ。もにゅもにゅ」
「いや待て。二、三ほど聞きたいんだが……それは俺の神禍だぞ。何故食ってる……?」
「珍しいものはとりあえず食べてみる主義。
 だけど……うん、微妙。タコっていうよりイカ……ダイオウイカに近いかな」

 咀嚼しながら、少女は淡々と述べる。
 無表情のまま、口の中で味を探るように舌を動かしていた。

228アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:50:17 ID:wMcxZIQ.0

「新鮮だからか臭みはそこまでないけど、飲み込んだ後にえぐみが残る。
 熱を通したから筋が固まって歯ごたえも微妙。コリコリっていうかゴリゴリって感じ。安い回転寿司の生貝みたい。がっかり」
「人の神禍を食レポするなよ……」

 タツミヤは思わず呟いた。
 本当に、いろんな意味で目の前の状況に頭が追いつかない。
 ついさっきまで戦っていた相手が、かつて自分だった残骸(もの)を焼いて食レポしている。悪夢のような光景だった。
 なんだか真面目に向き合うのも馬鹿らしい気がしてならず、タツミヤが苦し紛れに口にした台詞は。

「……ダイオウイカは深海の生き物だろ」
「うん。前に獲りに行ったことがある。あれはかなりの死闘だった」
「水圧って知ってるか?」

 さすがに呆れ顔を禁じ得ない、タツミヤ。
 だが少女は、当然のようにこくりと頷いた。

「私の神禍はいろんな環境に適応できる。まあ、深海は流石にちょっとしんどかったけど」

 言葉が詰まる。
 タツミヤは唖然としながら、再び焚き火に目をやった。
 頭の中でパズルのピースが噛み合う感覚を覚えていると、彼女の方から答え合わせをしてくれた。

「あなたの神禍に対応できたのもそのおかげ。
 圧迫感とかぬめり気とか、そういう諸々を無視した」

 少女はそう続ける。
 微かな炎の揺らぎが、彼女の銀白の髪を照らす。
 あの瞬間の出来事はまったく不明な事態だったが、そう聞くと納得だった。
 要するに、力技で押し潰そうとしたのが間違いだったというわけだ。
 もっと根気強く戦いを演じていればよかったものを、勝負を急いだせいで逆に彼女の土俵に上がらされてしまったらしい。

 禍者同士の戦いはこれだから嫌なのだ。
 平然と後出しジャンケンのような真似をされるから、暗殺者として築いた積み重ねが状況によってはまったく活きない。
 内心でぼやきながら、タツミヤは身体を起こす。
 ようやく手足に力が戻ってきていた。怪我は軽微。だが――なぜ生きているのか。その一点だけが、あまりに不可解だった。

 自分は明確に殺意を持って彼女に襲いかかった。
 神禍も惜しみなく使ったし、殺されてもおかしくない狼藉を働いた自覚はある。
 なのに目覚めてみれば、待っていたのは温かい焚き火と触手の串焼きだ。
 おかしい。どう考えても、おかしい。タツミヤがそう感じるのも当然だろう。

「……なんで殺さない。あのソピアとかいう女の話を聞いてなかったのか?」

 焚き火の炎が、薪をゆっくりと食らっていた。
 風は冷たいが、火の回りだけは眠気がしてくるほど温かい。
 問われた少女は、ちらと横目でタツミヤの様子を見やり。

229アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:51:16 ID:wMcxZIQ.0

「……確かに、殺すこともちょっとは考えた。
 でも私の神禍じゃ、この殺し合いを一人で生き抜くのは難しそうだったから」

 焚き火を見つめたまま、彼女はタツミヤに淡々と告げる。
 表情には変わらず起伏がない。
 だがその声には、幼い少女らしからぬ聡明さが滲んでいた。

「あらゆる状況に適応できるって言えば聞こえはいいけど、適応しようのない攻撃には無力なの。
 例えば銃でいきなり後ろから撃たれるとか、剣の達人に間合いでずんばらりんとやられるとか。
 そういうのに私はとても弱い。で、名簿をちらっと見た感じ、ここにはそれをしてきそうな奴がそこそこいる」

 そこで、言葉を区切る。
 灰の中に落ちた炭がはぜる音が、ぽん、と空気を弾いた。

「だから、殺すのは組めるかどうか見てからでも遅くないと思った。理由はこれでいい?」

 それはあまりにも、同じ状況に置かれた身として見習いたくなるほど合理的な判断。
 けれどその合理の裏に少しだけ人間らしい感情が混じっているように、タツミヤには思えた。

「……それに、私だってあんまり殺しはしたくない。避けられる殺人は避けて通るよ」

 ぽつりと呟きながら、リズは手元の串をくるりと回す。
 焦げ目のついた触手の肉片がくすぶるように煙を上げていた。

「ん」

 無言で、リズはそれを差し出してくる。
 タツミヤは眉を顰めたまま、しばらく見つめていた
 いや、正気か。この幼女は正気で言っているのか。
 自分の身体を食えと言っているようなものだぞ、これは。

「食べれる時に食べておかないと後悔する。食べた方がいい」
「……食料なら支給品に入ってる筈だが」
「あんな暖かみのないものは食べ物のうちに入らない。あれに手を付けるのは本当の最終手段」

 渋い顔で呟きながらも、気付けばタツミヤは触手の串焼きを受け取っていた。
 焚き火のぬくもりが、串の先端を通して手に伝わる。
 確かに腹は減っていた。だがこれを食べるのは、本当に何か人間として大切な尊厳を失ってしまう気がする。
 あの日、自分に電流にも似た感動を与えてくれた蛸の触手が串焼きになっている。しかも、なんか不味いらしい。北斎に土下座してほしかった。

「ほら。騙されたと思って、早く」
「……、……」

 意を決して、かじる。
 顔の渋さが増す。本当においしくなかった。
 北斎のアレは不味いらしい。知りたくなかった。知りたくなかったな。
 歯応えはあるが、いかにも粗悪な海産物って感じだ。焼いてるのに妙にぬめりがあって、筋繊維なのか筋ばってるようにも感じる。
 旨味のようなものはあるものの微かで、後味にはわずかにえぐみが残る。吐き出すほどではないが、繰り返して食べたいとは思えない。

230アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:52:08 ID:wMcxZIQ.0

「……確かに、これは蛸じゃないな」
「でしょ」

 リズの評価が妙に的を射ていたので、タツミヤは嘆息する。
 しかし、よもやこんな機会がやってくるとは微塵も思っちゃいなかった。
 どこの誰が自分の神禍を食する展開など予想できるのだ。ていうかこういう使い道もあったのか。素直に盲点だった。

 また、薪の割れる音。
 火が、静かに燃えている。
 それはこの氷の世界に似つかわしくない、あまりに人間的な営みに思えた。
 殺し合いの場でこうして人と人が膝を突き合わせて語らっているという状況自体、まあ傍から見ると正気ではないのだろうとも思う。

 そこでふと、リズが呟く。

「私はリズ。趣味で旅人をやってる」
「旅人……。その歳でか?」
「うん。世界がこうなる前からあちこち歩いてたよ。ところであなた、タツミヤでしょ」
「…………まあ、知ってても不思議じゃないか。俺もそれなりに悪名を轟かせてる自覚はあるし。不本意ながら」
「そうじゃない。あなたのことはある人から聞いた」
「なに……?」

 タツミヤは、訝しむようにリズを見た。
 まず、自分は名乗っていない。とはいえそこは正直些細だ。
 思い返すまでもなく、自分にはあまりに多くの過去がある。教団時代の仕事、都市圏での潜伏、全球凍結後に仕方なくやった殺し……なまじ目立つ神禍をしてるものだから、何かと悪名を撒き散らしてきたのは確かだ。
 しかし人から聞いたとなると、少し話が変わってくる。
 戸惑いを隠せないタツミヤに、リズは何気ない口調で続けた。

「玄じいが口開く度にタツミヤの話ばっかりするから、嫌でも覚えちゃった」

 玄じい。
 そのワードを聞いた瞬間、タツミヤの顔が分かりやすく引き攣った。

「は? いや待て。待て、待て待て待て待て……」

 声が裏返る。空気が一瞬で凍ったような気がした。
 反射的にデイパックから参加者名簿を取り出し、切羽詰まった顔で視線を這わせる。
 嘘であってくれ。まさかそんな偶然は無いでくれ――そんな彼の懇願を嘲笑うように、その名はあった。
 〈猿田玄九郎〉。名前を認めた瞬間、タツミヤはその場に崩れ落ちそうになった。

「最悪だ……。よりにもよって、あの天狗ジジイまでいるのか……」

 火に照らされた額から脂汗が滲む。
 頭を抱えたまま、長く深い溜息を吐く。
 氷より冷たい世界の中で、蛸の住む海よりも深い呼気が静かに漏れた。

231アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:53:32 ID:wMcxZIQ.0

 ――猿田玄九郎。
 焚き火の前で、タツミヤは苦虫を噛み潰したような顔で、その忌まわしい名の禍者について思い出していた。
 黄色い袈裟を着た天狗もどき。求道者を気取りながら、口を開けば脳の溶けたみたいなことしか言わないクソジジイである。

 火を見つめているはずの視線は、既に遠い過去を彷徨っていた。
 痩せた体に不釣り合いな豪腕。羽団扇を背負い、吹雪をものともせず飛び回る奇怪な老人。
 ひょんなことから目をつけられてしまったのが運の尽き。
 それからというもの会うたびに妙な挑発をされ、わけも分からず喧嘩を売られた回数は数知れず。
 本気で殺してやろうと思ったことも一度や二度じゃないが、なまじ腕が立つので排除も叶わず、玄九郎はタツミヤの胃痛の種として存分に君臨を続けていた。

「……まずい。本格的に吐き気がしてきた」
「玄じいがあんまりボロクソ言うからどんな人だろうと思ってたけど、正直、予想よりまともな感じでびっくりした」
「だろうな……。あのジジイの言うことは、全部話半分で聞くのが賢明だぞ……」

 心底うんざりした顔でタツミヤは天を仰ぐ。
 玄九郎の口ぶりからして、他人を褒める言葉など期待できない。
 どうせ「根性が足りん」「欲が薄い」「何々をしていないのは人生の無駄遣い」などろくでもない論評ばかりなのが容易に察せられる。

「第一、どこであの天狗もどきと繋がったんだ……? あのジジイ、基本話が通じないだろう……」
「どうしても登ってみたい山があって。入ろうとしたら玄じいが飛んできて、『そこは儂の修行地じゃ。無断で入るな』って。こんな顔で」

 ぎゅうっと顔のパーツを真ん中に寄せて皺を作り、声真似してみせるリズ。
 あの老人の言いそうなことだった。なまじ求道者ぶっているのがあの年頃特有の老害ムーブに拍車をかけていることもよく知っている。

「だから何度も挑戦した。
 断られて、また行って、話して、また断られて、話して……そんな感じ」
「そこまで食い下がるなよ。一回話したら分かるだろ、アレが関わっちゃいけない人種なことくらい」
「でも、最終的には許してくれたよ。仲良くなったら結構気のいい人だった」

 あっさりと言ってのけるリズに、タツミヤは思わず絶句する。
 気のいい人。あの老害天狗とはおよそいちばん結びつかない形容だ。
 ヒトの悪癖を鍋で煮詰めて腐らせたみたいな人間だろうアレは。

「……あの玄九郎に、孫みたいな歳のガキを慈しむ感性があったとは。にわかには信じられないな」
「そう? 玄じいって確かに頑固な変人だけど、あの人なりに一本芯が通ってるから。私は最初からそういうタイプだと思って接してたよ」

 言いながら、リズは串を手に取ってかじった。
 小さな歯が、焼け焦げた触手に沈む。
 そうしつつ、彼女は「それに」と続けた。

「玄じいがタツミヤにムキになるのも分かった。タツミヤ、相当強い」
「倒した相手にお世辞はやめろ……。嬉しくないぞ、別に……」
「お世辞じゃない」

 タツミヤが苦々しげに吐き捨てるように言うと、リズは即座に否定する。
 口元に焼けた触手の先を運びながら、彼の瞳を覗き込む。

232アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:54:26 ID:wMcxZIQ.0

「倒したって言うけど、タツミヤ、私を殺す気なかった」
「そんなことはない。……ちゃんと、殺すつもりで攻撃したよ」

 タツミヤは焚き火の炎越しにリズを見ながら、曖昧にそう呟いた。

「俺は自分のために他人を犠牲にできる人間だ。
 この意味の分からない儀式に参加させられて、真っ先に考えたのは"こんなところで死ねるか"だ。
 その矢先にお前がのこのこ出てきたから、格好の獲物だと思ったよ。結果はこのザマだが」

 嘘は言っていないし、今更取り繕って媚びるつもりもない。
 第一そういうものは、この少女には通じないという確信があった。
 リズは火の明かりを受けて、相変わらず表情に起伏のない瞳で、静かにタツミヤを見返していた。
 その口がゆっくりと動き、「そうなんだ」と興味があるのかないのか分からない声音で言う。

「けど、話してみて分かった。少なくとも玄じいが言ってたほど、タツミヤは悪いやつじゃない」
「……参考までに聞きたいんだが、あのジジイ俺のことなんて言ってたんだ……?」
「『一匹蛸の臆病者』『墨しか出せぬ薄味人生』『大助平』『絵に描いた餅』『たこわさにして食うたろかい』……」
「聞いた俺が馬鹿だった。後お前も、そんな罵詈雑言を真に受けるな」

 聞いているだけでげっそりする。
 別に馬鹿にされて怒るようなプライドなんて持ち合わせちゃいないが、あのジジイはこんな小さな娘を捕まえてそんなこと吹き込んでいたのか。
 やはり殺そう。いやそうじゃない、会いたくもないので最初の放送とかであっさり名前が呼ばれてくれることを切に祈ろう。

「捕まった時なんか特にそう。ノータイムで握り潰されてたら、正直為す術もなかった」
「……だったらそれは俺が優しいんじゃなくて、衰えてるんだろうな」

 答えながら、タツミヤの思考はあの画集と巡り合った"運命の日"を追憶していた。
 あの日、廃墟の図書館。煤けた棚の奥で偶然見つけた、葛飾北斎の画集。
 育ちが育ちなので、名前は知っていたが実際に何を書いているのかは知らなかった。
 自分に芸術を介せる情緒があるとも思えなかったので、吹雪が止むまでの暇潰しにでもなればと思って手に取っただけだった。

 ぱらぱらと頁をめくった瞬間、目に飛び込んできたあの作品を見た時の衝撃は今も忘れられない。
 『蛸と海女』。海女のしなやかな肢体に絡みつく蛸の触腕。触れ合いながら、言葉では語れぬ情が流れる構図。
 官能、崇敬、依存、渇望――それらが一枚の紙に凝縮されていた。
 衝撃だった。自分の中にあった何かが、音を立てて崩れた。多分それは、固定観念とかそういう名で呼ぶべき概念なのだろうと思う。
 それまでタツミヤという人間を構成したのは、物心ついた時から定められていた"役目"だけ。
 感情など介在する余地はなく、むしろ親代わりの教官達からはそういうものは排除して仕事に徹する生き方を散々教え込まれてきた。

 だがあの絵を見た瞬間、凡そ三十年をかけて培われたすべてが音を立てて崩壊するのを感じた。
 欲望というものがこうまで人間を変えるのだと初めて知った。
 生まれた情動は一過性ではなく、永遠に脳内にのさばって自分を突き動かし続けている。今だってそうだ。
 自分の存在意義として繰り返してきた殺しのウェイトが、いつの間にか二番手以下の価値にまで成り下がっていた。
 リズに負けたのは、ひとえにひとつの結実なのだろう。だからタツミヤはそれを、"衰え"と評したのだ。

233アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:55:20 ID:wMcxZIQ.0
 そんな彼にリズは、少しだけ目を伏せた後、言った。

「タツミヤが本気だったら、勝負はわからなかったと思う」
「お前みたいなガキに褒められても、な……」
「もしそうだったなら、私は迷わずタツミヤを殺してた」

 淡々と告げるその声に、無駄な感傷はなかった。
 再び、静寂。焚き火の音が穏やかな雪夜を染める。
 世辞や慰めではあり得ない、喉元に突きつけられる切っ先のような冷たさを含んだ言葉だった。

「これもなにかの縁。私と協力しない? タツミヤ」
「……酔狂だな。俺が衰えてると分かった上で、わざわざ足手まといを抱え込むのか……?」
「さっきも言ったけど私の神禍は"適応"が前提。だから情報が多ければ多いほど強くなるし、死ににくくなる。
 そうでなくても私の経験上、別視点の知識や視点を持ってる人が側にいると、旅はぐっと安全になるから」

 触手の筋を噛み切りながら、リズはさらに言う。

「……それに。
 やっぱりタツミヤは私と違って、"躊躇できる"人間なんだと思う。そういう人が側にいると、私も助かる」
「まるで自分は躊躇しないみたいな言い方だな」
「そう。私はたぶん、そういう感性を持ってない」

 タツミヤの眉が、わずかに動いた。
 何の逡巡もない返事。その簡潔さが、むしろ重たかった。
 リズは黙ったまま、焚き火に新しい薪をくべる。
 ぱちぱちと木の裂ける音が耳に残る。

「人を殺しちゃいけない、それは分かってる。ただし感情じゃなく、理屈として」

 火の粉が宙に舞う。彼女はそれを追いながら言葉を続けた。

「でも、私は生きるためなら誰でも殺せてしまう。
 神禍を手に入れる前からできたんだから、今は尚更そう。たぶんここでも、必要ならすぐにやると思う」
「……、……」
「生きるために誰かを殺す。それが悪いとは思わない。選べないなら仕方ない。他人のために命を投げ出すほど、私はお人好しじゃない」

 言葉を切る。
 ややあって、けど、と旅人は目を伏せた。

「私だって、殺さず済むに越したことはないと思う。だから傍に、自分とは別の判断基準がほしい」
「買いかぶり過ぎだ。俺だって今まで散々殺してる……俺が善人に見えるならお前の眼は濁ってるぞ、リズ」
「根っからの悪人は、そんな風に人を諭したりしない」

 そう言われるとタツミヤも黙るしかない。
 口調はあいも変わらず、淡々としたものだ。
 だがその内容はこんな小さな少女が語るにはあまりに冷たく、異常だった。

234アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:56:22 ID:wMcxZIQ.0

 ――この少女は、何者なのだ?
 タツミヤの脳裏に、今更ながらそんな問いが浮かんだ。
 全球凍結時点なら一桁の齢だろうに、その頃から旅をしていたという経歴。
 禍者との戦闘に慣れている自分でさえ、目で追えない速度の体術。
 戦闘では一切の迷いなく攻め落とし、即座に最善手を導き出す弩級の観察眼。
 歳相応の無邪気さをまったく持ち合わせない、悪く言えばあまりに得体の知れない娘。

 常軌を逸している。が、事実、目の前に存在している。
 まるで氷の世界そのものが形を取ったような、そういう存在。
 本来なら慎重になるべきなのだろう。この手の"異質"に深入りしすぎると、軋むのは自分の精神だ。

 だが――。
 タツミヤは深く息を吐いた。氷の空気を吸い込みながら、ゆっくりと焚き火の向こうの少女を見つめる。

「……分かった。俺は正直、救世主を嫁にするとかそういう話はどうでもいいクチだ。
 生きてこの妙な儀式から抜け出せるなら、そこにこだわりを持ち込むつもりはない」
「そ。じゃあ、契約成立だね」

 リズは顔を上げた。
 その目には驚きも喜びもないが、だからこそ奸計の気配は窺えなかった。
 雪の降る音すら吸い込む氷原の中で、赤い光だけがどこまでも穏やかに揺れている。
 リズは手元のデイパックに手を伸ばすと、中から支給品の水入りペットボトルを引き抜く。
 透明なプラスチックの容器。少女は蓋をくるくると外すと、そのキャップに並々水を注ぎ入れた。

 そして何の前触れもなく、それを口元に運び、ごくりと半分ほど呑んでみせる。
 残りを静かに手で持ち、タツミヤの前に差し出すから彼としては狐につままれたような顔をする他ない。

「これは……何の真似だ?」
「盃」
「は?」

 呆れ顔のタツミヤが声を上げる。
 キャップの水を盃に見立てて手渡してくるという理外の行動。
 しかも相手はどう見積もっても自分より二周りは年下だろう幼女だ。
 そんな相手に思いっきり口をつけたキャップを差し出されたものだから、さしものタツミヤも困惑と躊躇を禁じ得ない。

「……いや、まずいだろう。流石に。いろいろ」
「なんで」
「なんでって言われても……条例的に……?」
「こんな雪玉の星で、タツミヤは法律を気にするの? ヘンだね」
「ヘンなのはお前だ。間違いなく」

 リズは小首を傾げる。
 まるで意味が分からないという顔だった。

235アイデンティティ ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:57:11 ID:wMcxZIQ.0

「ほら、早く。冷えちゃう」
「水だから冷えてもいいだろ」
「でも早く。私が気分的になんか嫌」
「はああぁあぁああ……。分かったよ、付き合えばいいんだろ……」

 タツミヤは深く息を吐いた。
 渋々キャップを受け取り、唇をつけて一気に飲み干す。
 当たり前だが何の味もしない。なんだかすごく意味のないことをさせられた気分だったが、一方でリズはちょっと満足げに胸を張っていた。

「確かに見届けた。これで私とタツミヤは一蓮托生」
「……どこでこんな真似覚えたんだ?」

 げっそりした顔でタツミヤが呟くと、リズはあっさりと答える。

「玄じいに教わった。ジャパニーズヤクザのお作法。殺し合いをする私達にはぴったり」
「……待て。じゃあお前、あの天狗ジジイとも……」
「もち。盃交わし済み。ぶい」

 リズは手でVサインを作って見せた。
 やっぱりあのクソジジイはマジで最悪の生命体らしい。
 タツミヤは柄にもなく頭を抱えたい気分のまま、風変わりな同盟相手と共にしばし炎を囲んだのだった。


【F-5・民家前/一日目・深夜】
【リズ】
[状態]:健康、やや満腹(少食だから)
[装備]:触手の串焼き、サバイバルナイフ
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:生きる。あんまり人は殺したくないが、必要なら仕方ない。
1:タツミヤと行動する。慎重に会場を探っていきたい。
[備考]
※猿田玄九郎と面識があります。打ち解け、盃を交わした仲であるようです。

【タツミヤ】
[状態]:軽い頭痛、そして胃痛(主に玄九郎が原因)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:生存優先。
1:リズと組む。ストッパー役としては期待しないでほしいが……。
2:クソジジイ(猿田玄九郎)がいることにたいへん憂鬱。マジで会う前に死んでてほしい。
[備考]
※触手はあんまりおいしくないようです。

236 ◆Z.GnlllvXU:2025/06/25(水) 22:57:42 ID:wMcxZIQ.0
投下終了です。
タイミング被りごめんなさい!

237 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 22:58:37 ID:PTQKBYAo0
皆様投下乙です!
改めて投下させていただきます。

238濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 22:59:52 ID:PTQKBYAo0
◾︎


 ────〝無敵〟の能力とは?


 馬鹿げた質問だと思うだろう。
 しかし今一度、その答えを真剣に考えてみてほしい。

 誰にも負けない圧倒的な武力?
 如何なる攻撃も寄せ付けない防御力?
 はたまた思考力を奪う脅威的な精神干渉?

 どれも間違いなく強力。
 けれど、あくまでそれ止まり。
 ならば真なる〝無敵〟とはなにか。

 答え合わせは、すぐそこに。
 実体となって、顕現する。


◾︎

239濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:00:46 ID:PTQKBYAo0


 粉雪の降り積もる山岳。
 なだらかな山道を踏み締める靴が、ぎゅうぎゅうと音を鳴らす。
 かつて『風』の勇者候補として名を馳せた長身の男は、つい先刻の記憶を反芻させていた。

「ふっ、ざけやがって……! 人の命をなんだと思ってんだ!?」

 男──弥塚槍吉は超がつくお人好しだった。
 
 目の前で人が困っていれば迷いなく助け、見返りなど求めない。
 自分が生き抜くのに必死なこの世界において、それがどんなに異様な存在であるか。
 民間の出でありながら、英雄に匹敵する肩書きを持つことがなによりの証明となろう。

 かのソピアが言うには、世界再生の為には殺し合うしかないらしい。
 確かに理屈はわかる。少数の犠牲によって世界が救われるのであれば、それが正しいのかもしれない。
 あの救世主(ルクシエル)が見せた〝奇跡〟も、それが嘘偽りではないということを知らしめた。

 ならばそれに従うべきなのか。
 槍吉の答えは────断じて否。

「こんなの、世界再生なんかじゃねぇ……!」

 槍吉が手に握るのは、数々の名が連ねられた参加者名簿。
 ご丁寧なことに日本人向きの五十音順で示されたそれは、槍吉に憤慨を覚えさせるには十分であった。

 『晴』の勇者、ミヤビ・センドウ。
 『雨』の勇者、ルーシー・グラディウス。
 『凪』の勇者候補、シティ・草薙。

 共に戦場を駆け抜け、民を救った掛け替えのない友の名前。
 自分一人が犠牲になるのであれば話はまだわかる。
 けれど、彼らまで犠牲にするのは話が違う。
 空を取り戻すべく尽力した彼らに、この場で死ねと断ずるのであれば、槍吉はこんな儀式認めない。
 誰よりも世界の為に戦った彼らをこれ以上苦しめるのであれば、ソピアやルクシエルは救世主などではない。


 そして、なによりも────


「────十二崩壊……!」

 名簿の下に記載されている名前。
 金獅子、魔王、姫、恐獣。
 文字通り世界崩壊を進めた十二体の特級災禍。
 人類史においても類を見ない脅威と定められた禍者。
 それの生き残り全てが小さな孤島に集められ、世界再生の儀に参加させられているというふざけた事実。

240濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:01:20 ID:PTQKBYAo0

「こいつらが生き残ったら……世界なんて救われねぇに決まってる!」

 槍吉が懸念するのは、なによりもその一点。
 ルクシエルの意思は掴めないが、世界再生を可能とするほどの力を持った彼女を伴侶にするということは即ち、願いを叶えるも同然のこと。
 全球凍結により衰退した世界に、終焉の加速をもたらした十二崩壊の願いとは。
 十中八九、自分たちが命をかけて守ろうとした〝空〟を穢す我欲であろう。

 最初から世界再生が目的なら、こんな奴らを儀式に呼ぶことなど有り得ない。
 本当に世界を救いたいのであれば、すぐにでもこの首の烙印によって奴らを潰すべきなのだ。
 それをしないということは、やはりソピア達は間違っている。

 だからこそ、槍吉は足早に歩を進める。
 十二崩壊やソピア達への憤りを原動力に変えて、無理やり儀式に巻き込まれた者たちを救うために。

「…………ん?」

 そうして進んで十数分。
 槍吉の耳が拾い上げたのは、微かな男の声であった。

「──……ーい、」

 やはり、誰かを呼んでいる。
 槍吉は声の方向へと駆け出した。

「────おーい!」

 段々と声の輪郭が掴めてきた。
 壮年の男の声だ、少なくとも敵意は感じられない。
 枯れ枝を踏み潰し、雪に足跡を残しながら、槍吉は一本の大木の元へと辿り着いた。

「この辺から声が……」
「おーーーーい!! ここや、ここ!! 助けてくれやぁ!!」

 辺りを見渡す槍吉の頭上から、絞り出すような声がかかる。
 慌てて見上げた槍吉は、思わず目を丸くした。

「あ、あんた……なにしてんだ?」
「そりゃこっちが聞きたいわ! 俺、なんでこんな目に遭ってんねん!!」

 地上から五メートル辺り、降雪に負けず天へと伸びた太く頑丈な枝先。
 恵まれた体躯を持つ帽子の男が、それにがっしりとしがみついて震えていた。

241濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:02:39 ID:PTQKBYAo0

「…………あー、もしかしてあんた……降りれないのか?」
「そ、そや! 俺、高いところ駄目やねん! だから兄ちゃん、はよたすけてーや!」

 まさか、と苦笑する槍吉。
 想定していた危機とかなり乖離した状況は、なんとも緊張感に欠けるというか。
 ともあれ命に関わる事ではなくてよかったと心中で胸を撫で下ろし、勢いよく腕を広げる。

「飛び降りろ! 俺が受け止めてやるから、はやく!」
「は、はぁ!? 兄ちゃん正気かいな!? 俺に死ねっちゅうんか! この薄情者!!」
「違うって! いいから早く飛び込め! もし失敗しても、俺の神禍で痛み〝だけ〟は消してやるからさ」
「おい、縁起でもないこと言うなや!」

 時間だけが浪費されていく。
 痺れを切らした勇者候補の喝が響かなければ、この無駄な時間はさらに続いたことだろう。


◾︎


 あれやこれやと言い合い、やがて意を決した男が飛び降りる。
 勇者候補の二つ名は伊達ではなく、自分以上の巨体を問題なく受け止めた。
 安堵と恐怖が綯い交ぜになったような引き攣った笑みを浮かべながら、男が片手を上げる。

「いやぁ〜〜助かったわ兄ちゃん! 見たところ日本人やろ、奇遇やなぁ」
「あ、たしかに言われてみれば。めちゃくちゃ関西弁だしな、あんた」

 二メートル近い眼帯の巨漢が木から降りられなくなっているというシュール極まりない光景に気を取られていたが、確かに言動からして生粋の日本人にしか見えない。
 ただでさえ状況が状況。些細な共通点であろうとも互いの心を軽くするには十分だった。

「俺は城崎仁っちゅうもんや。兄ちゃんは?」
「弥塚槍吉だ。ほら、名簿のここにある」
「ほー、……勇者候補『風』? なんやこれ?」
「ま、肩書きみたいなもんだよ。ほら、同じようなの書かれてるのが他にもいるだろ」

 言いながら、槍吉は名簿の下部を指す。
 雨の勇者、晴の勇者、勇者候補『凪』──城崎は訝しげに首を傾げつつも、一応は納得した様子を見せた。

「なんでこいつらと崩壊? のやつらは肩書きつきなんや?」
「そんなの俺が知りたいよ……ま、とにかくこの勇者ってついてる奴らは俺の仲間で信頼できる」
「んじゃこの崩壊っちゅうんは?」
「こいつらは要注意だ。あんたは何があっても近づかない方がいい」

 目元に真剣味を帯びさせた槍吉に、城崎はなんとも言えぬ顔で頷く。
 今どき日本人で『空の勇者』と『十二崩壊』を知らぬ者などそういないと思っていたが、情報収集手段のインフラがまともに機能していない以上不思議ではない。
 ならば尚更、城崎のようなただ巻き込まれただけの人物を危険に晒すわけにはいかない。

242濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:04:17 ID:PTQKBYAo0

「城崎さん、一応聞くけど……乗る気はないんだよな?」
「はぁ? そんなん聞かんでもわかるやろ。第一こんな老いぼれが勝ち残れるわけあるかい」
「だよな、安心した」

 もしも、万が一にも乗っていたら。
 こんな質問を投げておいてなんだが、それでも武力で抑えるようなことはしなかっただろう。
 自分が勇者を断った理由である〝甘さ〟に辟易しながら、決意を固める。

「よし、決まり!」

 この瞬間、槍吉の方針は定まった。
 なにが、という城崎の疑問を遮るように親指を立てて突きつける。

「俺があんたを守る! 弥塚槍吉に出会えた幸運に感謝しろよ!」
「お、おう……えらい自信満々やんけ。ま、そういう事ならお言葉に甘えさせてもらうわ。よろしゅうな、槍吉くん!」

 城崎が幸運である、というのもあながち間違いではないだろう。
 この儀式、全員が全員反対の意志を持つなど現実的ではない。
 その中で弥塚槍吉という根っからの善人に出会えたことは、紛れもない順風と言える。
 そして槍吉にとっても、彼との出会いは道を定めるという点で不可欠であった。

「そういや城崎さん、武器は持ってんのか?」

 と、槍吉はふと疑問を抱く。
 先程のごたごたで聞きそびれていたが、城崎は無手の状態だった。

「あー、それなんやけど……笑わんでくれるか? や、むしろわろて欲しいわ」
「なんだよ、その前フリ」
「焦らんでも今に分かるわ」

 そうして勿体ぶる城崎が取り出したのは、一本の木の枝。
 先端が尖っていて危ないという点以外、なんの変哲もない。
 槍吉は最初、城崎の意図を理解できず数秒の沈黙の後、まさか──と口を開いた。

「それ、武器!?」
「せやねん! あの女、舐め腐っとると思わんか!? これでどう勝ち残れっちゅうねん!」

 確かにこれは笑うしかない。
 ソピアは何を思って木の枝を支給したのだろうか。
 もしも城崎の反応を期待していたのなら、確かに気持ちはわからなくはない。
 洗練されたツッコミを見せる眼帯男は流石の関西人というべきか、一瞬この殺し合いという状況が盛大なドッキリなのではないかとさえ思ってしまった。

「飛ばされたと思ったら木の上で、おまけに武器もこんなんで……城崎さん、本当に不運だったな……」
「あのな槍吉くん、こういう時は同情するんやなくて笑ってあげるのが本当の優しさってもんやで」

 とはいえ、非常に残念ながら笑いごとではない。
 これまでの言動から、城崎が身を守る術を持っていないであろうということは明確。
 並の相手に遅れを取る気はないが、自分と同等以上の相手が襲いかかってきた場合、彼を守り切れるかはわからない。
 少し悩んでから、槍吉はデイパックを漁り始めた。

「ほらよ、城崎さん」
「ん? ……はっ? これ、ええんか?」

 そして、手渡したのは自身のランダム武器。
 城崎の手にずっしりとした質量を伝えるそれは、夜闇にも目立つ光沢を帯びた拳銃だった。

「いいよ。俺には〝これ〟があるからさ」

 と、槍吉は慣れた手付きで背負っていた槍を回す。
 波を描くような穂先の動きは曲芸のようでありながら、空を割く音が響き渡る。
 鮮やかな一回転の後、地に向けられた槍身と柄を繋ぐ口金を軽く蹴りあげ、肩に担いだ。
 その一連の所作だけで、彼が鍛錬に注いできた並々ならぬ時間を読み取れる。

 ひゅう、と口笛を鳴らす城崎。
 自前の槍と拳銃。自分との扱いの差に不服を噛み殺したような面持ちが、槍吉を見据える。

「かっこええやないか、槍吉くん」
「へへ、どーも」

 かくして二人の男の出会いは、広げた帆を押し進む。
 不運と幸運の織り成す『風』は、果たしてどこへ向かうのか。

 風来坊宜しく、天運に任せてみようか。

243濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:05:02 ID:PTQKBYAo0


【B-5 雪山/一日目・深夜】
【勇者候補『風』 / 弥塚槍吉】
[状態]:健康
[装備]:名槍『虎落笛』
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本:この殺し合いを止める。
1:城崎と共に行動する。
2:ミヤビ・センドウ、ルーシー・グラディウス、シティ・草薙を探す。
[備考]
※ランダム武器(ベレッタ92FS)を城崎仁に譲渡しました。

【城崎仁】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタ92FS(装弾数15/15)
[道具]:基本支給品、尖った枝
[思考・行動]
基本:生き残る、儀式には乗らない。
1:槍吉についていく。
2:槍吉の仲間を探す。
[備考]





◾︎

244濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:05:34 ID:PTQKBYAo0





 ああ、きっと。
 槍吉から見た世界は、こうなのだろう。

 結論から言おう。
 二人の出会いは、決して〝幸運〟などという不確かなものではない。
 全てが計算され、仕組まれ、予定通りの出来レースである。

 そして、それを仕組んだ人物とは。
 他ならぬ城崎仁その人である。

245濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:06:04 ID:PTQKBYAo0


 ────槍吉から見た城崎仁とは?

 不運にも木の上に転移され、不運にも外れの武器を渡された可哀想な老人。
 いや、仮に槍吉でなくとも彼の言動を見ればそう思うのがごく自然のことである。

 けれどそれが、嘘なのだとしたら。
 不運など、最初からなかったのだとしたら。

 これは、根拠のない〝たられば〟ではない。
 城崎仁が転移した先は、木の上などじゃなかった。

 不可解に思うだろう。
 ならば城崎は、わざわざ巨木のあるところまで移動して登ったことになる。
 殺し合いという誰もが状況を呑み込むのに時間を費やす初手で、この男は木を登るという選択を取ったのだ。

 ────なんのために?

 決まっている。
 その方が都合が良くなると、〝直感〟が訴えかけたからだ。

 それこそが、城崎仁の神禍(のろい)。
 他者を殺す為に賜った、超常の力。
 莫大な火力を持つ異能でも、圧倒的な膂力でもなく。
 ただ場の流れを読む〝だけ〟の、つまらない能力である。

 城崎仁は、全て計算尽くだった。
 支給品の確認の後、〝本当の〟ランダム武器を懐へ忍ばせる。
 そして木の上へ登り、大声で助けを求める。
 まるで槍吉というお人好しが傍を通ることを確信したかのような、一切迷いのない行動。
 城崎はこれを、儀式開始から僅か数分の間に行ってみせた。

 もしも通ったのが槍吉ではなく、危険人物だとしたら。
 ああたしかに、そんなことが起きていれば城崎は命を落としていたかもしれない。

 しかし断言出来る。
 そんな〝もしも〟は存在しない。
 城崎は賭けに出たのではなく、確定された未来に沿って進んだだけなのだから。

246濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:07:26 ID:PTQKBYAo0

 そうして得たのは、槍吉という勇者候補からの信頼と拳銃。
 この殺し合いを生き残るに当たって、最適解とも取れる都合のいい展開。
 初手で命を落とす者もいる中で、幸運と呼ぶ他ないが──再三言う通り、1%とて運は絡んでいない。

 槍吉から見た城崎は、無知な人物であった。
 空の勇者も、十二崩壊も知らぬ場所で生き延びてきた稀有な男。
 しかし奇しくも、城崎が槍吉へ内心下した評価も全く同じだった。

 もっとも、それは槍吉に限った話ではない。
 自分の正体を知らぬ者は総じて、城崎から見て〝無知〟である。


 ──日本最大の極道組織『久藤会』。
 その五代目会長に躍り出た実力者、城崎仁。
 逸早く全球凍結に備え、大した苦労もなく適応してみせるほどの先見の明を持った男。
 彼の順風満帆な人生は、決して運任せの道のりではなかった。

 武力、権力、頭脳、話術、直感。
 自身の持つ全ての力を適切に使い、都合のいい方向へ舵を取り続けて今がある。
 競合相手である秋山組を蹴落とした時もそうだった。人道を外れた真似を恐れる者は、極道組織において成り上がるなど夢物語。
 そしてそれは、この粒揃いの儀式においても同様に。
 
 

 ────〝無敵〟の能力とは?

 回答は決まっただろうか。
 ならば答え合わせといこう。

 単純明快、言葉通り。
 〝敵を作らない〟能力である。

247濡れた風来坊 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:07:46 ID:PTQKBYAo0
 

 

【B-5 雪山/一日目・深夜】
【勇者候補『風』 / 弥塚槍吉】
[状態]:健康
[装備]:名槍『虎落笛』
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本:この殺し合いを止める。
1:城崎と共に行動する。
2:ミヤビ・センドウ、ルーシー・グラディウス、シティ・草薙を探す。
[備考]
※ランダム武器(ベレッタ92FS)を城崎仁に譲渡しました。

【城崎仁】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタ92FS(装弾数15/15)
[道具]:基本支給品、尖った枝
[思考・行動]
基本:勝ち残る。
1:ひとまずは槍吉を利用する。
2:利用価値のあるものは傍に置く。
[備考]
※本当のランダム武器(???)を服の中に隠しています。

248 ◆NYzTZnBoCI:2025/06/25(水) 23:08:22 ID:PTQKBYAo0
投下終了です。
タイミング被り申し訳ありませんでした!

249◆DpgFZhamPE:2025/06/26(木) 17:52:46 ID:???0
投下します

250◆DpgFZhamPE:2025/06/26(木) 17:54:50 ID:???0
 ─── 黄銅色の長髪を靡かせた少女は、呆然としていた。
 足を投げ出し。テディベアを床に座らせたような姿勢で、呆然と空を見上げていた。
 ルクシエルと名乗る存在が高らかに宣言した殺し合い。蘇る命。犠牲を強いるその言動。その殆どを、少女は理解していなかった。
 ただ知らない場所へ連れてこられたと思いきや、知らない場所へと飛ばされた。少女の認識としては、この程度だった。
 右を見ても木。左を見ても木。少女が地図を開き、現在地の特徴と照らし合わせる知識さえ持ち合わせていれば、C-Ⅵと記載された地だと判断できるのだが、少女はそれも持ち合わせていなかった。
 知らない匂い。知らない光景。すんすんと鼻を動かしても、少女の慣れ親しんだ匂いは感じられなかった。
 己の慣れ親しんだ匂いのしない新天地に、少女は眉を顰めた。成人した人間が、住んでいた家と同じ間取りの家に押し込まれたとしても『自分の家だ』と判断しないように。
 少女にとっても、木々に囲まれたその場所は知らない場所だった。
 ルールル・ルール。人類が定めた名は、No.8『恐獣』。
 人類を滅亡に導いたとされる十二の一つ。腹に刻まれたⅧの字がその証。獣の暴虐をその身に宿し、禍いとして進行したソレは、今はただ空を見上げ。
 何をすべきか、どうすべきかも理解できぬまま時間が過ぎ。

 その鼻が、血の香りを嗅ぎ取った。
 がさり、と背後から音がする。草むらの奥、何かの存在を嗅ぎ取る。小柄な体躯を翻し、四足歩行へと移行する。頭を低くし、腰を上げる。いつでも己の肉体を駆動できるよう、万全の構えで待ち受ける。
 ルールルは現れたものが何者であれ、引き裂く準備はできていた。その数秒後、再び揺れた草むらから。

「あっ…えっ、と、その───寒く、ない…?」

 最大限の勇気を振り絞ったのだろうか。引き攣った笑顔でルールに語りかけた、銀髪の少女が、ひょっこりと顔を出した。



◯ ◯ ◯

251◆DpgFZhamPE:2025/06/26(木) 17:58:46 ID:???0


「なるほど、なるほど。ううむ」

 所々を銀であしらった、フォーマルな黒い儀礼服。その上にコートを纏った女性。長い手足を伸ばし、長い黒髪を揺らしながら、こめかみを指先で叩く。
 こんこん、と。こんこん、と。こんこん、と。
 繰り返す都度三回。ふむ、と思案する様子を見せながら、女性は木々に囲まれた山の中でこめかみを小突く。
 空は黒く。緩い傾斜の大地にて、思案を続け。
 そうして、ようやく二度目の口を開く。

「つまり、この私に悪虐の限りを尽くし、女を娶る権利を得ろと。箱に閉じ込め『見返りをやるから殺し合え』と。ほう」

 くつくつと笑う。こめかみを小突いていた指先を口の先へ。
 一頻りの間、溢れる笑い声を抑えたあと。女性はふう、と息を整え、天を見上げ。

「───下衆めが。灸を据えるでは済まさぬぞ」

 瞬間。空気が凍った。
 そう錯覚させるほどの殺気。常人ならば普段行っている呼吸の方法すら忘れさせるほどの圧迫感。
 不条理が嗤う。殺し、奪い、嘲り嗤う。罪なき者どもを"当然"と虐げ嗤う。
 女性───零墨の名を持つ彼女が最も嫌う、悪虐そのもの。ソレを強いられたとなれば、怒髪衝天すら生温い。
 
 しかし。それはそれとして。

「さてはて。何時迄も義憤に囚われても仕方なし。数人程度でも覚えがある名があれば良いが」

 適当な小石に腰掛け、支給された名簿を広げる。しかし、如何ともし難い暗さが彼女の視界を妨げる。
 空は曇り、日は差し込まぬとは言え、未だ日が昇る時間ではなく。木に囲まれた中、月明かりで字を読むには少しほど光が足らず、はらはらと舞う白雪が鬱陶しい。

「…辞めだ。名を探すのは日が昇るか光源を探してからでも良かろう。
 急いたとして解決する問題でも無く」

 早々に名簿を閉じて、デイパックの中に投げ込む。知った名があったとして、今すぐ何かが起こる訳でもない。
 このような儀式に巻き込まれた時点で、既に何かを急ぐには遅すぎる。救うにしろ戦うにしろ、相手の名だけ脳に刻んでも意味がない。
 まずは暖を取れる場所でも、零墨は思案する。

「考えるのは暖を取ってからでも遅くはあるまい。この寒さには私は慣れたが…常人が慣れるには辛かろう」

 ならば、山頂から見下ろした方が探すのは早いか、と顎に指を運び。己一人暖を取るならば、その身に宿る"神禍"で軽い家でも作れば良い。
 しかし、この状況下ならば、何者かと合流する為にも動いた方が良い。零墨はそう判断し。

「人は毛皮を持たぬからな。暖かい場所に寄るのは道理。
 ───のう、獣よ?」

 ゆっくりと顔を上げ、背後へと語り掛ける。零墨の背後、その奥。木陰に人ならざる影一つ。
 積もった雪の上を四足歩行で音すら鳴らさず。ただ、ゆっくりと零墨を見ている。その瞳に、敵意を携えて。

「…このような状況とは言え、怒りに駆られすぎたか。
 殺気を撒き散らしたのは此方に責があろうが…獣とは言え、敵う相手かどうかは見てわかろう?」
「───」
「ほら、今ならば私も追いはせん。山の奥にでも帰るといい」
「───ゥ」
「……ごめんて」

252◆DpgFZhamPE:2025/06/26(木) 18:03:12 ID:???0
 一応謝罪の意を返すが、獣には通じず。帰ってくるのは低い唸り声のみ。当たり前だ、野生の獣に言葉が通じるはずもなく。
 殺気に寄せられたのであれば、獣としては"零墨が先に手を出した"という認識になる。
 一息。溜息を吐き、立ち上がり獣と向き合う。四足歩行の獣の体長は百六十ほど。立った耳に鋭い牙。イヌ科…狼の類いか、と零墨は推測を立てる。
 しかしその体色は灰色に染まったソレではなく───まるで、燃えるような黄銅の体毛に覆われている。
 もはや失われた夕日のような、美しい毛並。

「わかった。私が悪い。この辺りに住処でもあるのかは知らんが…大人しく帰ってもらえぬのであれば」
 
 右拳を前に構え。左拳を腰沿いに。呼吸を整え、獣を見る。

「…相手になろう。獣と言えど、拳を交わせば力の差は理解できよう?」
「◾️◾️◾️ゥーッ!!」

 構えた瞬間、獣が走り出す。右、左。右、左。撹乱するようにステップを織り交ぜた軌道で、零墨へと距離を詰める。
 一呼吸の間もないうちに、両者の距離は文字通り目前へと迫り。獣の爪は零墨の首を狙う。音すら置き去りにするその速度と爪に、人間は反応できず。
 
「…速い。が、歴戦の猛者に比べると動きが直線的で読み易い」

 ───常人を超えた武人は、その上を行く。
 爪が喉笛を捕らえるその瞬間。背を後ろに逸らし、直前で爪を交わす。
 流れるように右拳を獣の横腹へ。流れるような静。
 脇腹へと当てた拳へと力を流す。力が跳ねるかのような動。
 零墨の身体から生み出された力は踏み込みから拳へと流され、獣の身体へと叩き込まれる。外皮ではなく臓器へ。衝撃を通す拳法。
 墨を得、文字を書く流れる筆のような。力の流れを通す"墨拳"。その第一の技、"通貫掌"(つうかんしょう)。

 狼の身体は内側から跳ね、前方へと飛び込んだ身体は脇腹に当てられた横からの力により、真横に跳ね飛ぶ。
 二、三回ほど地を転がり、静止するその身体。零墨は拳を払い、獣へと視線を流す。

「何、二日三日ほど療養に徹すれば治る程度には…む?」

 相手は獣。敵わぬと察すれば逃げるだろうと算段をつけた零墨の眼に、信じられない光景が映る。
 転がった獣は何食わぬ顔で立ち上がり。少量の血液を吐き捨て。
 
 ───今度こそ、武人の喉笛を掻き切らんと跳ねた。

「なるほどッ!?」

 神禍が宿るのが、何も人間だけということはあるまい。国家すら機能を停止した今、"獣"という新たなる主が人間を超える力を手に入れたとしても違和感はない。
 何らかの力で。この獣は、武人の拳を耐え切った。

 そう思案し、飛び込んだ獣の爪を再び同じように躱そうとした零墨の眼前で。
 狼ほどだった獣は、その体長を熊ほどに巨大化させた。

(此奴、直前でリーチを…!?)

 喉笛に届く爪。零墨が躱すよりも早く、その手脚は巨大化し伸びる。単なる質量の増加。然しながら、獣の筋肉は何倍にも増大し。
 ただの体格の変化。その"体格"が武道、こと近接戦においてどれだけの力の差を生むか零墨は理解しているからこそ、判断した。
 不意を突いた巨大化。そのリーチ、筋力の突然の変化。

 ───この狂爪は、避けられない。

「『万物に潜む黒よ、従い倣え』」

 ───故に、神の呪いを影に宿す。

 遥か上空。厚い雲から差す月光が、山の木々を照らす。その木々の影が、一つに纏まり、形を為す。
 降るは大蛇。影の蛇が群れを成し、凄まじき速さにて獣を締め上げる。熊ほどの大きさへと変わった獣の爪が、少し鈍った。

(前言撤回、この獣は此処で頭を潰す! 初手にて葬る、後に残せば私をも狩る"何か"へと変わるやもしれんッ!)

 動きが鈍ったその頭部へと狙いを定め、零墨は右腕を掲げ振り下ろす。頭蓋を砕く、容赦はしない。
 不意への対処、神禍の緊急発動。全力を出すには急拵え、程遠いものではあったが、それでも脳は潰すことができると判断し。
 振り下ろした拳が、獣へと到達するその瞬間。

 ゾクリ、と。
 全身の毛が怖気立つような、腕ごと食い千切られる、その未来を予感し。

「その、ま、まま、待ってください!」

 戦場に似合わぬ幼き声が、響き渡った。



◯ ◯ ◯

253◆DpgFZhamPE:2025/06/26(木) 18:06:48 ID:???0


 時は少し巻き戻り。
 銀髪の少女、カノン・アルヴェールはその小さな手足で山の中を歩いていた。
 赤い雪国用コートを枝に引っ掛けぬよう注意を払いながら、草むらを進む。

 怖い。
 ───何が怖い?
 何もかもが、怖い。
 暗闇も、視界を遮る木々も、知らない人たちも、自分の知らない土地も、儀式と名乗り見せられた"何か"も、殺し合いも、何もかも。
 不安が恐怖を呼び、未知が恐怖を招く。人と出会うことすら恐ろしく、しかし己一人で歩くことすら恐ろしい。
 出会った人が悪い人だったらどうしよう。殺されるのが怖い。
 出会った人が良い人だったらどうしよう。信じるのが怖い。
 裏切られたら。手を上げられたら。傷つけられたら。お荷物になったら。何もかもが、恐ろしく。

 そう考えて、無我夢中で歩いている内に。カノンは、少女を見つけた。

 まるでテディベアを座らせたように、手足を投げ出して尻もちをついている少女。日焼けした体に、獣の皮のマント。ただ何をするでもなく、空を見上げている。
 その手足はカノンより逞しくはあったが、小さな傷も大きな傷も刻まれていた。それは、まるで───たった一人で生きてきた、獣のような。
 それは、嘗ての自分の境遇と、己の体に刻まれた傷跡と似ているような気がして。
 カノンの気配を察知したのか、四足で警戒する犬のように跳ねた少女を見て。

「あっ…えっ、と、その───寒く、ない…?」

 思わず、カノンは声をかけていた。
 見て見ぬふりをすることもできた。逃げることもできた。

 でも、それは。
 …かつて、カノンを拾い育ててくれた老夫婦に、胸を張れないような行為な気がして。
 カノンは、思わず体を前に乗り出した。

「…ルゥゥッ…ウ…?」

 少しの間、警戒するように唸っていた少女は、鼻をスンスンと鳴らし。
 ゆっくりとカノンに近づいて。カノンは身体を動かさず、かと言って何と言葉を発して良いのか分からず立ち尽くし。
 少女はカノンの周りをスンスンと嗅ぎ回り。

 何をするでもなく、座った。

「…へ…?」
「……」

 ───カノンは知る由もないが。
 No.8『恐獣』…ルールル・ルールは、純粋無垢な獣である。故に知能は年齢ほど高くは無く、人間社会とは掛け離れた常識の下で生きている。
 弱肉強食。食物連鎖。果物や肉を食らうこともあり、また屋根の下で眠ることはなく、日の光や枯葉で暖を取る。
 人間とは程遠い獣の生活。だが、それでも人間も生物であり、ルールルも生き物であった。
 知能を持つ生き物共通の行動。野生においても珍しくはなく、人間社会でも見られるその行動。
 ───即ち、弱個体の保護である。

 服の下は数多の傷で覆われ、古傷と血の匂いの滲む少女。己よりも小さく、歳も若く、それでいて声も小さい。
 ルールルは判断した。この少女…カノンは、敵意もなく害意も感じられない。過酷な地域にて生き延びた傷を負った個体であろう、と。
 ならば、群れの長として守らねばならない。野生に生きたルールルは、人一倍"弱さ"には敏感であった。

 カノンの頭を、ルールルが撫でる。
 それは、守るべきものを得た獣の側面。獣の温情であった。

「えっと…あり、がとう…?」

 カノンが返答に困っている間。ルールルが何かを察知する。
 それこそが後に出会う女性───零墨が放った殺気だったが、カノンはソレを察知できるほど場数を踏んでいない。

 外敵を排除するべく、獣へと変わり走り出したルールル。それを困惑しながらも追うカノン。
 獣へと変わる能力。それがきっと、あの子の神禍なんだ、とカノンは思う。
 後を追うも走力の差でぐんぐんと差は開き。

 カノンが追いついた頃には、コートの女性と獣が拳と爪を交え。
 決着がつきそうなその瞬間。
 
「その、ま、まま、待ってください!」

 その場に転がりそうになりながらも、全力で張り上げた小さな声に。

 獣と女性の、戦が止まった。



◯ ◯ ◯


「済まぬ。いや、これは…まさか人の子だったとは…」
「ルゥ…ッ!」
「い…いえ、こちらこそいきなり出てきて申し訳ありません…っ!」

「いや、こればかりは年長の私の理解が及ばなかった。まさかまだ幼さの残る子どもとは…うむ…」
「ゥゥ…!」
「こちらこそ…止まってくれて…良かったです…」

「……。この言葉も通じているのかどうか…」
「ゥ…」
「それは…私も先ほど会ったばかりなので…あんまり話ができてなくて…」

 立ち尽くす零墨の前に、ルールルがカノンを守るように立ちはだかる。謝罪する零墨に、警戒の色が消えない。
 零墨は額に手を当てる。己の至らなさに頭を抱えるばかりだが、かと言っていつまでも止まっている訳にもいかず。

254◆DpgFZhamPE:2025/06/26(木) 18:09:14 ID:???0
「カノン、と言ったか。この少女の名は聞いたのか?」
「いえ、その…名前を聞きたいんですけど、あんまり言葉が伝わらなくて…」
「其方から名乗ってくれるのを待つ、しかないか…」

 二人の拳が止まった後。カノンから大体の説明と自己紹介を受けた零墨は、己の不甲斐なさを恥じ入った。
 獣と断じていたのは人間で、その上まだ幼さの残る少女だった。いくら想像以上の力だったとはいえ、罪もない己の力を年端も行かない娘に振るったとなれば情け無いことこの上ない。
 …しかし。その上で、零墨には疑問が残った。
 腕が捥ぎ取られるような錯覚。明確な殺意、一瞬感じた命の危機。己も全力を出せない状況だったとは言え、その辺りの小娘の指がこの命に届くほど生半可な鍛え方はしていない。零墨にはその自負があった。
 故に残る疑問。この命に届き得る脅威。もしや、この娘が幼きを守る少女ではなく、力を持った殺戮者であったならば───その時は。

「…る?」

 その時は、始末すべきなのだろうが。
 零墨には、カノンを守るべく立ちはだかる少女が根からの邪悪とは、とてもではないが見えなかった。


【C-6・山/1日目・深夜】
【零墨】
[状態]:通常
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:儀式の存在自体を許さない。
1:ごめんて…。まさか人の子だったとは…。
2:とりあえず戦えない子どもを保護し、暖の取れる場所へ。
[備考]
・カノン・アルヴェールの名を知りました。
 どこまで情報共有を行なったかは、後述に任せます。
・名簿をまだ確認していません。知り合いがいるかはまだ不明です。

【No.8『恐獣』 / ルールル・ルール】
[状態]:通常。ダメージ完治済み
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:血の匂いのする少女(カノン)を守る。
1:弱った個体(カノン)を守る。
2:零墨を警戒。今のところ、爪は収めている。
[備考]






 心臓が高鳴っている。バクバクと跳ねている。
 思わず声を上げてしまった。目の前で命の取り合いをしている現実に、ただ反射的に声を上げてしまった。
 喉から音が発せられた時点で後悔した。相手が良い人だったからよかったものの、悪い人だったら───今頃。
 自分の命はここはもうなかったと思うと、恐ろしくて目眩がする。
 信じたかった。この世は残酷なだけではなく、心の奥底には優しき人間の心を秘めた人がいるのだと。
 もし。この先、笑顔で近づいて来た悪人がいたとしたら。

 ───自分は、人を信じたせいで、死ぬのだろうか。



【C-6・山/1日目・深夜】
【カノン・アルヴェール】
[状態]:対人恐怖による不信、動揺。
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:怖い。生き残りたい。
1:(何故か)守ってくれている少女(ルールル)と共に行動する。
2:零墨さんは…話してみると良い人だった。多分。
[備考]
・零墨の名を知りました。
 どこまで情報共有を行なったかは、後述に任せます。
・名簿をまだ確認していません。知り合いがいるかはまだ不明です。

255◆DpgFZhamPE:2025/06/26(木) 18:12:03 ID:???0
投下終了です。
タイトルは「ジェヴォーダンの少女」でお願いします。

256 ◆EuccXZjuIk:2025/06/26(木) 23:07:36 ID:0BQMAOqk0
皆さん投下お疲れ様です。僭越ながら感想を書かせていただきましたので、ご査収ください。

>>平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
これぞまさしく凶人同士の異様な戦いと呼ぶ他ない壮絶で、それ以上に常軌を逸した戦闘回。
易津縁美という女の神禍が強力なのもさることながら、言ってしまえば只の肉体強化という力でそれに正面から比肩していく意秋の凶悪さも際立つ。どこか淡々とした文体で繰り広げられるこの世の地獄じみた光景が実に恐ろしくも面白い。
真価を発揮出来ていない状態でこれだけの無法を押し通せる意秋の暴力の化身めいた強さに、相手が彼でなければ容易く抹殺していたのではないかと感じさせる縁美の強さ、どちらも手落ちする事なく十全に描き尽くされていて素晴らしいバトル回でございました。
我道を邁進する意秋は勿論のこと、初戦からこれだけの戦いをした上で十二崩壊や空の勇者といった名簿で特筆されている枠の参加者に対して想いを馳せる余裕のある縁美も破綻の極みと呼べる風情。つくづく信じられないほどの強者、曲者が集った儀式なのだと実感させてくれる一作、お見事でした。

>>アイデンティティ
あらゆる環境に適応するという文面だけでは想像出来ないほどソリッドでクレバーなリズの戦闘が印象的。タツミヤも敗れてはしまったものの、蛸化に限界がない事が示され、文字通り異形の怪物になる事も可能であるという互いの掘り下げがワクワクさせてくれました。
しかしこの話で一番印象的だったのはやはりその後の、リズとタツミヤが交わすやり取りでしょう。
神禍製の触腕を串焼きにして食べながらというシチュエーション自体は酔狂ですが、それに振り回されているタツミヤが面白くも愛嬌があって魅力的。
世界を旅しているリズはタツミヤの宿敵・猿田玄九郎とも面識があるという設定を出し、彼とのやり取りにこうやって幅と深みを出してくるのかと膝を打ちました。無口で厭人的な男が二回りも年下の少女に翻弄される光景に思わず笑みが溢れた。
主催者の打倒や優勝を掲げるでもなく、あくまで生存を優先するのが前提で構築された同盟。行く末に関心を禁じ得ません。

>>濡れた風来坊
読んでいる間は槍吉の真っ直ぐな熱血さに好感を抱き、しかし読み終わった後は城崎の巧みなまでの狡猾さに驚かされる、そんな衝撃的な読後感の残る作品でした。読み返すと城崎の行動・言動がとことん抜け目ないものなのがよく分かり、再読して二度美味しい。
槍吉はまさしく勇者候補として挙げられるに相応しい熱血漢で、実際読んでいて好感を抱かされるのですが、作中で触れられている通り利用しようとしている側からすれば実に好都合なお人好しでしかないのが痛ましい。
城崎のキャラシートの記述を思うと『今までこうやって世渡りをしてきたのか』と心底納得させられる一作で、更に嵌められた側である槍吉の人物像や魅力も確と絞り出しているためとても面白い。
種明かしの後に満を持して出される“答え”も抜群に決まった演出で素晴らしく感じた。

>>ジェヴォーダンの少女
獣にさえ温情を示す零墨の情け深さ。それがルールルの十二崩壊としての強さが顔を出した瞬間、一気に危機感と本気に染まるシーンが堪らない。牙を剥くまで零墨をして脅威と悟らせなかったのも、ルールル・ルールという存在が他の崩壊達とは趣を異にする禍者であると踏まえた上で読むと何処となく示唆的に感じる。そしてルールルが守ろうとした少女が出てきて戦闘が終わるわけですが、カノンに対して向ける優しさが獣特有の弱った個体への保護行動とするロジックも面白いなと感じました。
経緯が経緯とはいえ事情を聞くと素直に謝罪する零墨のシーンはこのキャラクターが明確に善の中にいる事を信じさせてくれるもので、こういう精神が成熟した手練の武人が対主催側にいるというのは実に頼もしい。
カノンは間違いなくいい子なのですが、だからこそ彼女の過去とこの過酷な現実が痛々しさを際立たせている印象。心痛を抱え切って表に出さない姿は健気で胸に迫るものがあります。

また感想の直後で恐縮ですが、拙作『永久凍土のメメント・モリ』で同エリアでの戦闘が行われており、雪崩も発生している為零墨達の地点にも何らかの形で余波、そうでなくても地響きなどが伝わっているかと思いましたので、そこについてのみ◆DpgFZhamPE氏のご意見を伺わせて戴いても宜しいでしょうか(もし拙作以前の時系列でのお話を想定していたなどあれば申し訳ございません)。お手間をお掛けしますが、宜しくお願いします。

257◆DpgFZhamPE:2025/06/26(木) 23:44:42 ID:???0
>>256
ありがとうございます
すみません、投下前に現在地を修正しようと思っていたのを忘れていました
現在地をB-5に変更しようと思います
また、同時刻に起きた戦闘につきましてはリレー小説という構成上「付近で大規模な何かが起きると前後に矛盾が出てしまう」という問題が浮上してしまうので、基本的に『永久凍土のメメント・モリ』前の話と考えています
どうでしょうか

258 ◆EuccXZjuIk:2025/06/27(金) 00:31:13 ID:IsSoE69Q0
>>257
御回答ありがとうございます。
かしこまりました。それでは収録の折、そのように反映しておきます。お手数おかけしました。

259◆DpgFZhamPE:2025/06/27(金) 09:58:24 ID:???0
>>258
こちらこそお手数おかけします
ありがとうございます

260 ◆SrxCX.Oges:2025/06/27(金) 11:50:30 ID:I/O1B6JM0
投下します。

261Special Color ◆SrxCX.Oges:2025/06/27(金) 11:52:16 ID:I/O1B6JM0
【0】



――次回! 大幹部ジュータインの猛攻に敗れ、撤退した二人のレッド。囚われた仲間達の公開処刑の時が迫る。 「背負った荷物、もう全部投げ出してぇよ」「わかる。私も怖いや。でも」「待ってくれている人が、こんなに沢山いる……!」 第24話『正義のプレゼントを君に』。来週日曜のお届け予定!



「……お姉ちゃん、本当に勝てるのこれ?」
「大丈夫、ちゃんとマジで勝ったから。あ、もちろんネタバレ厳禁ね。震えて待て〜」

 日曜日。窓から差し込むうららかな日光を浴びながら迎える、午前9時58分。
 テレビ画面の中で生傷だらけの顔面に恐怖を堪えた力ない笑みを浮かべていた女性と、ソファの隣でふふんと得意げに笑う女性のつやつやの顔を見比べながら。同じ顔の人間なのに、表情の作り方一つでまるで別人に変わるものだと、もう何十度目になるかもわからない感想を優希は抱く。
 役者の仕事とは、十人十色を一人で表現する芝居の技術。レンズ越しに映るのは、その肉体に魂を宿した、台本上の架空の別人の姿。
 いよいよ女優としての名前が売れ始めた今になっても、新鮮な感覚はしばしば抱くものである。
 大学進学を機に上京し、部屋に転がり込んで共同生活を始めてから、かれこれ一年以上が経ち。実家から場所を変えて、日常の中で素のままに振舞う『お姉ちゃん』をまた見慣れるようになったのだから、その感情は尚更だ。

「私、あと半年はこの調子で反応を面白がられるのかあ……」
「出演者の特権だもん。視聴者代表としてしっかり見せておくれ、頼れる妹よ?」

 毎年代替わりしながら数十年間に渡って放映され続け、子供達に愛されてきた『戦隊ヒーロー』の番組シリーズ。
 第何弾だったかは忘れたが、2030年の新作は、メンバー内に男女二人の「レッド」を配置したダブル主演の制作体制が注目を浴びていた。シリーズの存在感を世間にアピールしつつ、本命である玩具の販促も成立させるための施策を毎年苦心して編み出していて、その一環としてのかなり挑戦的な試み、らしい。
 前に『お姉ちゃん』の晩酌に付き合いながら聞いたそんな話を、なんだかいろいろ大変なんだなあ、と優希はぼんやりと受け止めていた。
 小学校に入る前くらいまでは見ていた女児向けアニメの後で偶に見た、または第一線で活躍する有名俳優の出世作として紹介されるのを偶に見かける男児向け番組という印象しか無かったのだから、仕方が無い。
 優希自身はあいにく、『戦隊ヒーロー』に対しての造詣など持ち合わせていないのだ。

「そういうの、ネットの感想漁った方がわかると思うけど」
「生の感情が見たいのー。あたしの目の前で、いっぱい一喜一憂してほしいのー!」

 半年後に放送予定の最終回分まで撮影が済み、オールアップの報告もSNSに投稿したばかりの『お姉ちゃん』は、腰を据えて自分の目で世間の反応を確かめてほしいと制作スタッフから言われているそうだ。
 各種メディアからのインタビュー対応。クイズバラエティ番組への出演。青年週刊誌向けのグラビア撮影。守秘義務の関係で教えてくれないが、その言い方の時点で起用が決まっているらしいとわかる新しいテレビドラマか何か。等々。
 少しずつ多忙になり、番組のリアルタイム視聴も今後難しくなっていくかもしれない『お姉ちゃん』の貴重な楽しみが、優希と一緒の時間だった。
 高校卒業を機に役者の道を志してから五年以上、下積み期間を経て掴んだ主演のチャンス。新進気鋭の若手俳優を一年間かけて育成する場は、次代のスターを求める芸能界でも注目の的。厳しい視線を物ともせず、時に演技を磨き、時に現場の空気を和ませ、『お姉ちゃん』は業界内での評価を獲得していった。
 これから数年間は、特需という形で露出の機会に恵まれる。その先を生き残れるかは貴方次第だ。マネージャーからの忠告をしかと肝に銘じ、どんな仕事も着実な成長の機会にしていくつもりだという。
 驕りでも侮りでもなく、『お姉ちゃん』なら出世コースを駆け上がっていけるんじゃないかと、特に疑いもなく優希は信じていた。
 人生で一番身近だからこその、一番の偉人への評価だった。

「インタビューのネタの提供ってことで一つさ。てか、優希もいつかあたしと一緒になんか出てみない? 密着取材の流れで自宅訪問とか、そのうちやるかもじゃん?」
「え、普通にやだ……私カメラとか苦手だし……」
「人の視線にも慣れときなー? 未来のトレーナー」

262Special Color ◆SrxCX.Oges:2025/06/27(金) 11:53:13 ID:I/O1B6JM0

 身体を動かすのは好きだが、自分自身が活躍して脚光を浴びようというポジションはどうにも馴染まない。どちらかというと、主役に相応しい人達を陰ながらサポートする方が性に合っている。
 そういうわけなので、優希はアスリートやアイドル、または青少年を指導するトレーナーの仕事を志して進学したわけなのだが。数年後の就職先次第では、『お姉ちゃん』の撮影にも携わる機会が巡ってきたりするのだろうか。
 同業の人達の前で「うちの可愛い妹ですよ〜!」なんて調子で溺愛されそうだな? 想像したら口がへの字に曲がり、内心を察せられたのか頭を小突かれた。

「ほら、もしかしたら子供相手の仕事もやるかもしれないじゃん? そういう時に備えて、元気出していかなきゃ」
「それもそうだけど……お姉ちゃんはどうなの? ショーとかで子供達の前に出た時、どうだった?」
「私? 当然、」

 どんと胸を張る。その逞しい姿こそ、『お姉ちゃん』が自分とは違うと思える何よりのポイントだ。

「みんなの憧れるオトナやれて、最高。誇らしい。オーディション勝ち抜いた甲斐あり過ぎ。みたいな気分? あ、これもインタビューで擦ると思う」
「超自慢げだー」
「そりゃあね。別に、私の将来のためだけに獲ったわけじゃないし。清く正しいヒーローでありたい、ってのは真面目な本音よ?」

 いつかの未来、『お姉ちゃん』の積み重ねた女優のキャリアの中で、『戦隊ヒーロー』の存在感は自然と小さくなっていくのだろう。今の優希が、芸能界の名優達に向ける視線がそうであるように。
 そうだとしても、優希は、子供達はきっと忘れないのだ。「レッド」に選ばれるに相応しい、自由奔放で明朗快活な『お姉ちゃん』の雄姿を。

「優希もさ。どんな形でもいいけど、これから見つけなよ」
「見つける?」
「優希なりの、好きな色。私はこれをやれるんだって胸張れる、優希なりの夢ってやつ!」










「…………………………………………夢だ」

 2035年、某月某日、たぶん朝。
 勝手に間借りしている廃屋の中、軋む床の上で優希は目を覚ます。
 擦りながら目を凝らした先には、今時珍しく液晶テレビが鎮座していた。今や懐かしい、日本の大手メーカーの製品だ。米国でまたお目にかかれるとは思わなかった。
 尤も、画面は割れているし、電源が入ることも二度とないが。本来の役目を果たせなくなった、ただの廃棄され損なった置物だ。
 真っ黒の画面に映るのは、優希の暗い表情。25歳になった優希の顔つきには、相変わらず貫禄など無い。もう『お姉ちゃん』の歳も追い越したのにな、と思うと嫌になる。

 地球全土が凍結してから程なくして、『お姉ちゃん』は命を落とした。
 変身ヒーローの力が現実になることも、代替となり得る神禍に目覚めることも無いままに。
 大勢に悼んでもらえることの無い、無名の人間としての寂しい死だった。

 『お姉ちゃん』の死は、同時に『戦隊ヒーロー』の死でもあった。
 電力を失った社会で、テレビ番組は制作されず、放映されず、視聴されない。
 価値を失った番組は、もはや人々に記憶されず、共有されず、伝承されない。
 子供達を楽しませる娯楽は、作り手である大人達の死によって、その歴史に終止符を打った。虚構の正義は、圧倒的な現実の前に無力だった。

「……つめた」

 肌身離さず着けている、左手首の鈍い輝きに目を落とす。
 今の地球上できっと唯一、『戦隊ヒーロー』が未だに健在であることを示すブレスレットだ。
 『お姉ちゃん』の出演した番組のそれとは異なる、誰も知らない変身アイテム。他の誰も持っていない、独りきりのチームの象徴。
 五分の一にも満たない力のヒーローが、負け戦を続けている証だった。

263Special Color ◆SrxCX.Oges:2025/06/27(金) 11:54:07 ID:I/O1B6JM0



【1】



 白鹿優希がメリィ・クーリッシュと行動を共にしていた期間は、およそ半年程度である。
 単身での事業に限界を感じ始め、故郷の米国へ戻る途中で日本に立ち寄ったというメリィと出会い、彼女と一緒に渡米したのが、今から一年半ほど前。
 その後、「ある事情」により優希がメリィと別れることになったのが約一年前。メリィのことは時折噂で聞く程度で、もう再会することは無いのだろうと受け止めていた。
 渡米の際に覚悟していたことではあったが、世界各地で資源が失われていく情勢の中で、日本に帰国するための数少ない交通経路もいよいよ断たれた。いつか米国のどこかを死地とするのだろうと思いながら、単独で放浪していたのがこの一年間のことだ。
 だから、禍者達による殺し合いは、優希にとっては奇しくもメリィとの再会が実現するかもしれない機会であった。

「他の地域でメリィさんに会った人って、初めて会うかもかもしれません。日本とアメリカ以外、自分で行ったことないので」

 優希達がこの孤島から無事に脱出するためには、まず何よりも協力者の確保が不可欠である。
 そんな方針のもと、最初に出会った人物と共に家屋の中で名簿の内容を確認し、共通の知人として挙がったのがメリィであり、ちょっとした思い出話をしているところだった。

「私だって同じよ? 世界各地の有名人だってことは噂で聞いていたけれどね。ほら、あの格好だから目立つでしょ? 彼女」
「それは、まあ……」

 互いに敵意が無いことの確認もスムーズに済んだ、礼儀正しい大人の女性。そんな第一印象を持つ、黒いコートに身を包んだまま椅子に腰かける佇まいの綺麗な女性の名は、シンシア・ハイドレンジアといった。
 命のやり取りを一方的に強いておきながら、それらしい甘言は立派なソピアへの不信感を拭えない以上、この殺し合いに乗ることには賛同できない。思いもよらない罠が仕込まれていないとも限らないのだ。
 そう語るシンシアの理性的な判断は、優希と思考の過程こそ異なるが、少なくとも方針が一致するものであった。

「周りの子供達にも人気だったわよ? 強くて頼もしいサンタさん、憧れちゃうわ」

 シンシアがメリィと出会ったのは数年前、欧州の某国内の集落に身を寄せていた頃。当時は先代のサンタクロースが存命で、メリィは先代との二人組で活動していたそうだ。
 尤も、シンシア自身はメリィと特に親しかったわけでもない。言葉を交わしたことがあるだけの、一応面識はある程度の関係だった。
 知っているのは名前と人柄と、そして「何か道具などを取り出す」神禍のことくらいだ。集落を襲撃してきた暴徒の集団を迎え撃つためにメリィが前線に立ち、その時に彼女の神禍を目の当たりにしたという。彼女が単独の兵力としては申し分ない人材である、ということも。
 メリィの過去については彼女自身の語る思い出話でしか知らなかったため、こうして第三者からメリィの活躍を聞くと、やっぱり凄い人だなあ、と感嘆するものである。

「ああいうポジティブな人がいてくれるだけで、いくらか希望的観測はできるものね」
「わかります。真似したくても、なかなかできないですよ」
「それに、あの神禍も当てにさせてもらいたいわね。私、今丸腰だもの」
「あー……」
「ねえ。もし会えたら、メリィに融通してくれる? 銃一丁でいいから私に頂戴って」

 何も持たない両手をふるふると振ったシンシアからすれば、切実な話なのだろう。
 この殺し合いにも乗らないだろうという、人柄への信用だけでなく。メリィの神渦を使えば武器の確保も容易であるという利点でも、メリィとの速やかな再会は望ましいところだった。
 ……殺傷を決して好まないメリィを、このような形で頼るのは申し訳ない気もするが。
 付け加えると、「ある事情」故に優希がメリィと別れた経緯は、少なくとも優希にとっては円満とは言い難いものであった。メリィがどう思っているかは知らないが、優希の方はメリィとの再会を気まずく感じている節も否めないだけに、尚更だ。

「……言ってみますね」
「ありがとう。助かるわ」

 それでも、優希一人だけではない他人の命も関わっている以上、背に腹は代えられない。
 不躾なお願いをしたことで、万が一メリィに嫌な気分をさせてしまったとしても……その時は、優希が不快感の混じった視線を受け止めて我慢すれば済む話だ。

264Special Color ◆SrxCX.Oges:2025/06/27(金) 11:54:51 ID:I/O1B6JM0

「ごめんなさいね。でも優希だって、一人で戦うのは不安でしょう?」
「いえ。これでも慣れてますから」

 シンシアの神禍について、本人から「条件さえ満たせば戦闘行為は可能だが、その達成がやや面倒である」という旨の説明を受けていた。
 優希の方の神禍にはそのような制約も無いため、襲撃者と相対した時にはまず優希が前面に出るということで合意していた。
 歯痒さを感じているのが見て取れる、悩ましげなシンシアの表情に、自信を示して返答とする。柄にもない空元気であることを、自分でもわかっていながら。
 優希は、決して強い禍者ではない。強敵相手に奇跡の逆転劇、なんてものとはほぼ無縁の五年間だった。

「勝てなくても、なんとか生き残ってきました。だから……シンシアさんのことも、頑張って守ります」
「立派ね。ヒーローなんて柄じゃない私には、言えそうもない台詞よ」
「まあ、その……はい」

 本当は、自分より優れた実力とリーダーシップを持つ誰かが先頭に立ってくれるのが一番望ましい。それが叶わない以上、優希は単独で戦うのだ。

「私達の味方、見つかってくれるといいわね」
「そう信じます」
「信じなきゃ、やってらんないわ」

 ソピアの望む通りに殺し合いが促進する図が形成されるだろうことは、今の優希にも想像がついた。
 自らの命の保証。際限の無いという褒賞。世界滅亡の危機からの救済。
 意義も大義も十分で、それを是とする面々に対して今更唱える正義感など、安いものとして扱われても不思議ではない。
 協力者など、どれほど見つけられるかわからない。勝ち目など絶望的な、少数派による虚しい抵抗なのかもしれない。

「……きっと、大丈夫です」

 それでも。
 かつて世界に未来への展望があった頃、誰もが信じた普遍的な正義を、優希は信じ続けることにした。

「正義って、簡単に消えるものじゃないですから」

 平和な世界で『戦隊ヒーロー』の活躍を毎週見守ってしていたのは、『お姉ちゃん』の姿がそこに映っていたからだけではない。
 『お姉ちゃん』が誇りを持ってみんなに伝えていたメッセージの尊さを、優希も知っていたから。
 怖くても、辛くても、この胸に宿り続ける信条を、決して絶やしたくないのだ。

「……ねえ。必要だと思うから、今のうちに聞いておきたいことなんだけど」
「はい?」
「日本だと、捕らぬ狸の……って言うんだったかしら。そういう話になるという前置きの上でね」

 そう。優希は、この殺し合いの中でも正義を全うする。
 ソピア達の計画を達成させず、可能な限り多くの生存者と共に、この島を脱出する。

「優希。世界は、救わなくていいの?」

 その選択の責任を背負って、滅びゆく世界で生きていく。

265Special Color ◆SrxCX.Oges:2025/06/27(金) 11:55:30 ID:I/O1B6JM0



【2】



――"指示書"「次に出会う人物と協力関係を築く」を達成。シンシア・ハイドレンジアの身体能力を一段階強化。



 聖女ソピアは、数十名の禍者を集めて殺し合いをさせたいらしい。
 結構。秩序などとっくに壊れた世界で、正気の沙汰ではない催しを開く者がいても、今更不思議ではない。
 殺し合いが完遂した後、奇跡が起きて世界は元通りになるらしい。
 大いに結構。それが真実ならば、再び平和を享受できることはとても喜ばしい。嘘だったとしても、それはそれでただの悲劇でしかない。善良な市民の一人として、哀悼の意を表明させていただく。

 そして、世界平和のために捧げられる犠牲者達の中にはシンシア・ハイドレンジアの名前も含まれる予定であり、その未来を拒むためにはシンシア自身が殺し合いに勝ち残り、最後の一人にならなければならないらしい。
 ……実に不条理な話である。
 シンシアを救ってくれるというなら、預かり知らぬ間に勝手に救ってほしかった。命を喪うのも、他人の命を奪うのも、決してシンシアの望むところではないのに、なんと身勝手な救世主か。
 『誰かの指示書』などという己の神渦に何度となく振り回されながら、必死に五年間を生き抜いた末の仕打ちが、これか。
 シンシアはまたも、凶行に手を染めなければならなくなったのだ。抗う術など持たないシンシアに、ソピアの脅迫に従う以外の選択肢など与えられていないのである。
 寒空の下で溜息と弱音を沢山吐いて。その後で仕方なく、まずは生存に向けた手段の確保のためにやむを得ず、忌まわしき"指示書"の発令を待った。
 しばらく経って新たに幾つか現れたそれは、幸いにも殺し合いに勝ち抜くための導線として相応しいものだった。

 すぐに達成できそうな"指示書"の内容に従い、最初に出会った東洋人に、ひとまず話を合わせることにした。白のダウンジャケットを着ていても尚細身に見える、大人しそうな印象の彼女は白鹿優希という。
 幸運は重なる。優希は穏健な人物であり、友好の意思を示すだけで協力関係を築くことができた。殺し合いに反対する妥当な理屈を適当にでっち上げつつ、人当たりの良い態度を取っておけば、とりあえず疑われることもない。
 自分の神禍について詳しく説明しない代わりに、優希の持つ神渦について探りを入れるのはまだ控えた。次に「銃器を入手する」の"指示書"の達成を考えているため、メリィ・クーリッシュに頼らずともその手助けになるか判断したいところだが、戦闘の機会が来るまで待つとしよう。
 我ながら狡い真似をしていると気が滅入るものだが、こんな状況では致し方ないではないと己に言い聞かせる。いつものことだ。

 白鹿優希は、都合の良い手駒であり、シンシアの本心の対外的な隠れ蓑であり、万が一の時に使える肉の盾。
 然るべきタイミングが訪れるまでの間、優希とは協力関係を続け、共に過ごすのが適切だろう。
 だから、その一環で。
 安易な認識で方針を決めたわけではないことの再確認として。或いは、形容しがたい違和感をそのままぶつけた疑問として。シンシアは、優希に尋ねたのだ。

 シンシアの説いた理屈とは異なり、優希にとってソピアの言葉の真偽は重要ではない。
 ならば、ソピアに従えば世界の再生が本当に叶うと仮定して。
 それでもソピアの"指示"に背き、人類の救済という可能性を挫くことが叶ったとしたら。
 後の人生を、優希はどのような心境で生きるつもりなのか。

266Special Color ◆SrxCX.Oges:2025/06/27(金) 11:59:01 ID:I/O1B6JM0

――恨まれるんでしょうね、沢山の人に。でも、良いんです。受け止めます。

 今も死に脅かされる数千万人と、既に死を迎えた数十億人の尊厳よりも。己の掲げるありふれた正義感を重んじて、目の前の数十名の命を保護する。天秤に乗せれば到底釣り合わないだろうことを、理解しながら。
 いや、亡くした家族や友人との再会というささやかな願望くらい、優希自身だって持っているに違いなくて。
 願いを叶える代わりに言うことを聞け、という指示に従ったところで、誰に責められる謂れも無い。強いて言えば、そんなことを命じたソピア達の責任だ。
 世界中の万人が、そしていつか優希自身ですら優希を憎むだろう選択をすることに、果たして説得力はあるのか。

――……なんで。平気なの?
―-はい。

 シンシアからすればごく自然な問い掛けに対して。
 優希はまるで、まだ大人の世界の入り口に立ったばかりの子供のような、泣き出しそうな感情を覗かせて。
 そんな一瞬など無かったかのように、強いようにも脆いようにも見える笑顔が、取り繕われていた。

――『お姉ちゃん』と一緒にテレビ見てた頃の思い出が、ちゃんとありますから。

 シンシア・ハイドレンジアは、正当性が無い判断を下し続けることで生き延びてきた人間である。
 当たり前の良識や倫理観は持ち合わせた上で、他者からの強制という理由さえあればそれらを軽んじる。その上で他者に責任を押し付けることで、罪悪感に苛まれることを回避してきた。
 災禍にも勇者にもなれない只人が、せめて常識人としてのアイデンティティを保持し続けるための、一つの処世術であった。

 そんなシンシアの両目には、優希が自分とは別種の生き物のように映った。
 たとえ優希自身の肉体が無事でも、その内側の精神がいずれ磨り潰されるのは目に見えているのに。
 ヒーローとしての役目を自らに課しながら、きっと根底にあるのはどうしようもない諦念。現状の追認によって、何度となく躓いては己の無力さを痛感する生き方。
 もしかしたらそれは、遠からず訪れるだろう死を受け入れながら延命を続けることに、この五年間で慣れてしまった故の選択なのだろうか。
 色とりどりの未来を夢見ることを、やめてしまった人間の。

「――気色悪い」

 白い景色の中に溶けてしまいそうな、雪の上を連れ立って歩くその姿を、シンシアは横目に見ながら。
 ふと口から零れた、優希の耳には拾われないような小さな声。蔑みや嘲りも通り越した、忌々しげな色だった。
 黒いジャケットに包まれたシンシアの身体が、寒さの中でぶるりと震えた。


【G-3・平原/一日目・深夜】

【白鹿優希】
[状態]:健康
[装備]:変身ブレスレット
[道具]:支給品一式、不明支給品
[方針]
基本:殺し合いからの脱出を目指す。
1.シンシアさんと行動する。
2.メリィさんに会えるなら会いたい。

【シンシア・ハイドレンジア】
[状態]:健康、"指示書"達成による身体強化(α+1)
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品、名刺入れ
[方針]
基本:指示に従い、優勝する。
1."指示書"の内容を順次達成していく。
2.当面の間、優希と行動する。
※現在、下記の"指示書"が出現しています。他にもありますが、詳しくは後続の方にお任せします。
 「黒一色で身を飾る」「銃器を入手する」
※本編開始時点での身体強化の有無及び程度は、後続の方にお任せします(便宜上「α」と記載)。

267Special Color ◆SrxCX.Oges:2025/06/27(金) 11:59:32 ID:I/O1B6JM0





【3】





※現在出現している"指示書"の中に、「殺し合いに優勝する」という趣旨のものはありません。





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268名無しさん:2025/06/27(金) 12:00:02 ID:I/O1B6JM0
投下終了します。

269 ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:34:02 ID:bAisqQgM0
投下お疲れ様です。

開陳される『白い戦士』、白鹿優希の原点。彼女にとっての憧れだった姉にヒーローをやれる力は宿らず、無名の人間として寂しく死んだという無情さが彼女達の生きる世界の虚しさを物語っているよう。
キャラシート段階でも提示されていたメリィ・クーリッシュとの関係性も深堀りされ、世界観にますます深みが出た感覚がして嬉しいですね。
シンシアが優希に投げた問いに対する彼女の答えは紛れもなく英雄的、ヒーローのようなそれでありながら、しかし目の前のシンシアが嫌悪感を抱くのも解ってしまうのが何とも哀しい。只人として生きているからこそシンシアはちゃんと人並みの良識や倫理観は持っていて、その彼女がこう思ったという事実が役割に取り憑かれた優希の悲哀をこの上なく引き立たせている気がしました。
そんな遣り取りを交わしながらも早速指示書の要求をクリアしているシンシアの強かさには身震いする物がありますが、何と言っても最後の一文が凄まじい切れ味で臓腑を抉ってくる。『指示に従い、優勝する』という指針を掲げている事を踏まえた所で投げ込まれる補足情報で一気に作品としての魅力と破壊力をグンと上げてくる手腕に圧倒されてしまった。


改めて素敵な作品の投下、誠にありがとうございました。
私も投下させていただきます。

270Dirty Harry ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:36:55 ID:bAisqQgM0
この離島がまだ人の住む場所として生きていた頃、此処は知る人ぞ知る通人の隠れ家的な店として親しまれていたのかもしれない。

いまや時は凍りつき、島は死の静寂に包まれた。氷河期の到来によって全ては終わってしまった。潮の香りも、海鳥の声も、灯りの点る夜の営みさえも過去のものとなり、ただ冷気が万物を支配している時代。
島の一隅――おそらくかつては飲み屋街であったと思しき、瓦礫と雪の積もった通りの傍らに佇む一軒の雑居ビル。地下へと続いて口を開けた階段を下り、凍りついた鉄の扉を押し開けば、永眠した憩いの場が現れる。

そこは、この離島に場違いなほど洒脱な空間であった。天井の梁は黒檀色に塗られ、壁面には今は色褪せた高級クロスが張られている。バーカウンターは重厚な一枚板が深い栗色の光沢を未だに残し、しかしその表面には薄氷が張り詰めていた。
棚にはもはや色とりどりのボトルが列を成して並び、冷気と霜と埃が、全ての隙間を埋め尽くしている。

壁の一隅には古いジュークボックスが朽ちたまま据え置かれ、その横には装飾の施された小さなランプ――ひび割れたガラスシェードが、凍てついた時間の名残を語っていた。
かつて此処には、造詣深いバーテンダーと、豊潤な酒を目当てに通う常連たちがいたのだろう。氷の浮かんだグラスが静かに置かれ、淡い照明のもと、誰かが物憂げに葉巻などくゆらせていた日々があったはずだ。それも今となってははただ遠い記憶の彼方に霞んでいる。沈黙こそが支配者となったこの空間で、過去の喧騒はあまりにも脆く、哀しいまでに遠かった。

冷たく息を潜めるように、氷の底で眠り続けている筈の小洒落た廃墟に、今日は珍客があった。

氷と静寂に支配されたその地下の空間にあって、ただ一人、なおも人の体温を持つ者がいる。山のような巨躯の白人で、髭は無造作に茂り、それがまるで猛獣の鬣のごとく顔を覆っていた。
頭には毛皮の縁取りが厚く縫い込まれたフライトキャップを被り、その奥からぎらつく青い眼が心地よい酩酊に揺れている。上半身を覆うのはかつて名を馳せた旧時代の高級ダウン。色褪せぬ威光の残り香を纏いながら、巨人は朽ちたスツールに難なく腰を据えていた。

彼の前にはただひとつ、澄んだ琥珀色の液体が満たされた厚底のグラスがあった。それは氷河を削って得たような冷たさと、逆説的なまでの火の力を宿し、彼の太い指に包まれながらじわりと傾けられる。
口元に運ばれるたび、髭の奥で唇がにやりと歪み、荒ぶる魂が悦楽に呻く。喉を焼くその滴を、一切の肴もなしに胃へと流し込む。

空間を満たすのは、霜に閉ざされた静寂と、中で浮き彫りになる獣のような呼気。彼の振る舞いは粗雑で、下品で、暴力的で、だがどこか不気味なまでに自信に満ちていた。琥珀の炎がその巨体を内側から燃やし、滅びの中に残された最後の火柱のように、彼はそこにある。

珍しい事というのは重なるもので、王が憩う場所に二人目の珍客が訪れた。
扉が掻き毟るような擦過音を立てながら開かれ、男達は互いに全く予期せず対面を果たす。白人の眼光が静かに向けられたが、対し今入ってきた日本人の青年は動じた風でもなく、へえ、と興味深げな声を漏らすのみだった。

「気持ちよく飲んでる所悪いな。まさか同じ魂胆の奴がいるとは思わなかったもんでよ」
「構わねえよ、日本人(ジャップ)の坊や。酒は人間を寛大にしてくれるもんさ」

二つ隣の座席に腰を下ろしたのは、確かに日本人の青年である。
だが彼は、一瞥しただけで尋常ならざる気配を漂わせていた。アジア人にしては異様に長身で、氷に閉ざされたこの地下にあっても身一つ震わせず、堂々とした佇まいをしている。
その黒髪は艶やかに長く、無造作に後頭部で結い上げられた一本の束が、まるで峻厳な刃のように空間に線を引く。首元から覗く皮膚は冷気に晒されても血色を失わず、まるで灼けた鉄の芯を秘めているかのようだ。

眉目秀麗という言葉の範疇にありながら、それを表面で感じさせぬのは、その眼差しに籠められた毒のせいだろう。細く切れ長な双眸は笑っても笑わず、他者の内奥を抉るように冷たく、鋭い。
口元に浮かぶ笑みは隠す事もなく歪んでおり、他人の柔らかい部分に付け入る事を目的とした悪辣な戯れに満ちている。礼節も、柔和さも、日本人に期待されるいかなる美徳も、彼が纏う空気には一切含まれていない。

「お……悪くねえ品揃えだな。酒にありつけるのはありがたいねぇ、カラダ火照らせとかねえとおちおち探索もできやしねえからな」

カウンターの奥にずかずか踏み込むと、青年は多少吟味してから、一本のアイリッシュウイスキーを手に取った。
スツールに腰を下ろせば並々注ぎ入れて喉へ流し込み、靴底を卓上に乗せて品性とは無縁の姿で寛ぎ出す。

271Dirty Harry ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:39:08 ID:bAisqQgM0
「下品な飲み方しやがって。俺のシマならこの場で袋叩きだぜ」
「カハッ、お説教出来る身分かよテメー」

一杯目を瞬く間に飲み終えると、青年の視線は白人へ向く。

「――アンタ、“ハード・ボイルダー”だろ」

その名は、荒廃した世界に響く渾名に過ぎない。
荒涼とした旧ラスベガス、かつて煌びやかなギャンブルの都として知られた廃墟のカジノ群を自らの城とし、略奪と暴力によって勢力を築いてきた凍土の支配者。

王の権威として横暴を働き、暴力による服従を世界の理と叫ぶ。
暴力と支配欲を解き放ち、この混乱した世界でならず者の王となった男の異名は、氷の世界にも毒々しい震えのように広がっていた。
尤も青年が彼を知っていた理由は、少しばかりそれとは違っていたのだが。

「ラスベガスの王、荒れ狂う馬、凍土の支配者……いつかお目にかかりたいと思っちゃいたが、まさかこんな場末の酒場でしっぽり呑ってるとはな。人生何があるか分からねえもんだ」

ならず者の王に負けず劣らず下品に笑って言う日本人に、ハード・ボイルダーも同じ顔で応えた。
先の彼の言葉をわざと真似て、今度は王がその名を言い当てる。

「そういう坊やは、“カルラ・ワダチ”だな」

全球凍結後に名を轟かせたのがハード・ボイルダーなら、星の崩壊に先立って俗人に己の存在を知らしめたのが轍迦楼羅だ。年齢も国籍も違う二人の間にある第一の共通点。彼らはどちらも粗暴で、下品で、そしてそれ故に悪名高い。

「『ボクシングを終わらせた男』。俺はファンボーイじゃないから詳しくねえが、随分酷え荒らし方をしてたと聞くぜ」
「世界にでも出りゃちったあマシな喧嘩が出来ると期待したんだけどな。あれなら其処らの破落戸の方がよっぽど腹の足しになったよ」

轍迦楼羅。まだ世界に興行という概念が残っていた時代、彼はプロボクサーとして世界中を敵にした。
それまで伝説と呼ばれていた先人達を次々と一撃で蹴散らし、自分は一発も被弾する事なく、史上最速でチャンピオンベルトを勝ち取り……次の日にオークションへ投げ捨てて、ボクシングを愛する全ての人間に怒りと絶望を刻み込んだ“戦闘の天才”だ。

「その点、今のアメリカは退屈しなくてよかったぜ。ただほっつき歩いてるだけで禍者がノコノコ出てきてくれるんだ、これ以上の暇潰しはねえ」

挑発の意思を明け透けに、迦楼羅はそこに拠点を持つ王へ言ってのけた。
全球凍結後、轍迦楼羅はアメリカに根を下ろしていた。堂々と家を持ち、付き人も付けずに歩き回っては、獲物を見つけたと勘違いして飛び出してくる禍者達を殴り倒して金品を奪う。王は王でもハード・ボイルダーとは違う、百獣の王の暮らしだ。無論神をも恐れぬ迦楼羅には、虎の尾を踏まないよう慎ましく生きるという感性が備わっていない。

「ただまあ、迎え撃つだけってのも退屈でな。ボクサー時代の話じゃねえが、今度は乗り込んでみるのもアリかと思ってた矢先にこの出会いだ。神の思し召しってやつかもな、かははは」
「ジャップに微笑む神なぞいねえよ。おたくの国のシンボルは無神論者と“おたく”だろう」
「違いない。わが祖国ながら陰湿な国さ」

よって当然、彼は何度となくハード・ボイルダーの支配するラスベガスでも武勇を轟かせていた。王者の靡下を殴り飛ばし、裏の市場を荒らし、シノギを奪うような真似も数知れず。

272Dirty Harry ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:39:48 ID:bAisqQgM0
命知らずの蛮行の理由は、言うまでもなくこのギャングスターを殿上に引き摺り出す事にあった。
何故? その答えは彼自身さえ持っていない。轍迦楼羅にとって人生とは刹那の快楽であり、彼の中で『面白そう』という欲望以上に優先されるものはないのだ。迦楼羅がそうまでして誘っていた男が目の前にいて、一緒のカウンターで酒を飲んでいる。

「名簿は見たか、ワダチ」
「ああ、見た」
「錚々たるメンバーだったろう。俺でさえ迂闊に関わりたかねえ奴らが揃い踏みだ、久々に天を仰ぐって事をしたくなった」
「大統領閣下が重役出勤させられてて笑ったわ。あのラッパー、此処でもいつも宜しく公務に勤しんでんのかね」

ハード・ボイルダーにとっても、迦楼羅は目障りな糞餓鬼以外の何物でもなかった。
もしソピアが殺し合いを催していなかったら、彼は今頃轍迦楼羅討伐の為に本腰を入れ始めていたかもしれない。
王とは天で、天とは王。それに唾吐く者を見過ごしては、自分の権威を損ねる事になる。念願叶ったのは迦楼羅だけでなく、ハード・ボイルダーの方もそうだった。にも関わらず髭面の王者は牙を剥く事もなく、付き合いの長い友人に世間話をするような調子でグラス片手に話している。

それはある意味、拍子抜けする程牧歌的な光景で。そして同時に、起爆寸前の核爆弾を前にしたような異様な緊張感を孕んでもいた。

「あんなジャンキーなんざどうでもいいだろ。それより先に見るべき名前があった筈だぜ」
「かっはっはっ! オイ、何だよハード・ボイルダー。テメーまさかあんな“もどき”共にビビってんのか」

滅ぼしの魁を担った十二の崩壊、その四体。中東圏に巨大な地獄を築いて、砂漠の王を謳っている鋼の魔王。
無軌道に氷の星を彷徨って汚染の神禍を振り撒いている少女。アジアで無双の限りを尽くすという皆殺しの観音菩薩。

気を重くする名前なら山程ある。だが迦楼羅は、それら全てをまともに視界へ入れてすらいないようだった。

「そんな奴らは怖かねぇ、それこそゴールドスミス顔負けのジャンキーだろうよ。地に足付けて生まれた分際で自分はこんなにすごい化物なんだって勝ち誇ってるような連中、本気で向き合うだけ無駄ってもんだ。
幻滅させんなよ、ラスベガスの王様。俺達が生きてるのはこんな有様でも人間の世界だぜ」
「そうかい」

まさに神をも恐れぬ物言いだったが、奇妙な事に、彼の大言を皮切りとしてバーの室温が上がり始めた。
言わずもがな外は極寒であり、室内とはいえ暖房なんて気の利いた設備がこの時代に存在する筈もない。まして此処は地下階だ。壁はある、天井もある、だが実際の体感温度は外気とほぼほぼ変わらない。
だというのに寒さが淘汰されていく。エアコンで暖気を流し込んでいるかのように暑くなり、気付けば吐く息さえ色を帯びないようになっていた。

「実はな、俺はお前を買ってた。ジャップは好きじゃねえが、てめえの西部開拓時代から抜け出してきたみたいなアウトローぶりは嫌いじゃなかったよ。だから適度に鼻っ柱をへし折って、首輪を付けて飼ってやろうと思ってたんだ」

温度変化はそれだけに終わらず、汗さえ滲み出す程になる。地上から消えた過去の概念に夏というものがあるが、今このバーの室温は伝聞に残る真夏日のそれにまで上げられている。
明らかに異常な現象だったが、轍迦楼羅も、そしてハード・ボイルダーも、そこに疑問を持つ事はない。

「だが俺の方こそ幻滅だぜ、カルラ・ワダチ。俺はな、そういう“色”を嫌悪してる」

迦楼羅は現象の正体を理解していたし、ハード・ボイルダーに至っては引き起こした当人だった。
この熱は凍土の王者の神禍によるものだ。スツールに座り、酒が半分程残ったグラスを握ったままの巨漢。彼が指一本動かす事なく到来させている暖気――冬の拒絶に他ならない。

琥珀の液体がゆるやかに揺れる。巨漢の手がグラスを傾けるたび、陽炎のように立ち上る熱気が、この場を異様な仮想現実へと変貌させていく。汗ばむ額を気にもせずハード・ボイルダーはじっと中空を見据えている。

273Dirty Harry ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:40:37 ID:bAisqQgM0
「組織ってのはな、火薬庫みてえなもんなのさ。湿気った思想や軟弱な絆でくくっちゃあ、いざってときに火がつかねえ。かと言って余計な爆ぜ方をすれば俺の手が焼ける。だからこそ、俺はてめえの組織に火種は入れねえ。そいつは俺の玉座を脅かすからな」

その声は度が過ぎた傲慢を含みながら、しかし何処かで乾いていた。凍土の王として生きてきた男の理路は真っ直ぐそのもの。迦楼羅の祖国の比でない程に荒れ果て、力が価値を持つ廃したアメリカ・ラスベガス。
それを如何に律してきたかという、彼の理の開陳のようでもあった。

「俺の組織に“色”はいらねえ。尖った感性も、信仰心も、誇りもだ。俺が飼う犬は、迂愚でいい」

熱はなおも高まっていた。壁に張りついた霜が音を立てて弾け、凍りついたカウンターの木目が、じりじりと歪みさえ見せている。だが彼は構わない。この熱こそが彼に力を与える燃料であり、彼が築く秩序であり、この混沌の時代に君臨出来た理由だ。
ハード・ボイルダーが轍迦楼羅を買っていたのは誓って本当である。人種など秩序の廃された社会にあっては些細。力が何より雄弁に物を語る時代において、迦楼羅のような解りやすく強い兵力は値千金の価値を持つ。

だがそれはあくまでも、従順に自分へ従うのならばの話だ。
反骨心は力で折ってやればいいとして、胸に一本通った芯まではどうにもならない。

「人間の誇り、世界がどうなろうと変わらない魂……全く大したもんさ。是非その志を使って、街角で葉巻が買える世の中に戻してほしいもんだ」

真の男とは俺一人。それだけいれば十分であって、同じ視点で語り合える誰かなど全くもって不要だ。
そう信じるハード・ボイルダーにとって、轍迦楼羅は見事なまでに問題外だった。
恐れを知らず、超人の存在を信じない精神の形を示した事で晴れて彼はラスベガスの王に失望された。王は従順を愛するが、恭順しない跳ねっ返りを忌み嫌っている。

採用試験は不合格。そうと分かれば、礼儀を知らない狂犬に王が示す采配は決まっている。

「身の程を知りやがれ、クソガキ」

空を満たす熱の気配が、害意となって王の裁定を象徴した。
ハード・ボイルダーが放った蹴りは、股関節にロケットエンジンを搭載したかのような絶速で轍迦楼羅の横面を打ち砕かんとする。

常人であれば間違いなく防御はおろか、反応する事すら不可能であろう速度であったが、しかしそれは空を切る事になった。
軽々と首を横に傾けて、薄皮一枚裂かれる事もなく凌いでみせたのは無頼漢。彼は突如行われた攻撃に反撃を返すでもなく、ただ口を開いた。

「嫌われたもんだな、悲しいぜクソ野郎。短い間とはいえ一緒に酒飲んだ仲なのによ……ハードボイルドの名が泣くぞ」

ハード・ボイルダーもこの崩壊した世界を今日まで生き延びてきた猛者である。禍者同士の戦闘など数え切れない程こなしているし、打ち破った中には自分と同じだけの権勢を誇示した強者もいた。
だからこそ彼は、今の一瞬のやり取りだけで轍迦楼羅の二つ名が事実である事を理解した。
圧倒的な反応速度と、目の前の敵を僅か程も恐れず、而してつぶさに観察し見抜く洞察力。そしてそれら度の外れた能力値に破綻なく付いていける、冗談のような身体能力。

「戦闘の天才、だったか。看板に偽りはねえようだ」

初撃で潰す算段をへし折られた形になったにも関わらず、ハード・ボイルダーは胆気を崩さず目の前の無頼漢を見つめていた。
重ねて言うが、ラスベガスの王の名は伊達ではないのだ。たかが戦闘の巧者に臆して芋を引くようでは、凍土の支配者は務まらない。

巨漢の口元が歪む。ようやく思い通りに熱が上がりはじめた機関車のような、愉悦にも似た軋みであった。

「――なあワダチよ。いい時代になったと思わねえか?」

巨漢の口から洩れた呟きは、熱気に滲む空間に染み込むように低く、重かった。真夏日を超えた室温の中で、フライトキャップの毛皮はうっすらと汗に濡れている。だが彼は拭おうともしなかった。額から垂れるその一滴にすら、彼は生の実感を感じている。

274Dirty Harry ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:41:20 ID:bAisqQgM0
「くだらねえ倫理も法も建前も……今となっちゃ全部氷の下だ。どこで誰が殺されようが、誰が何を奪おうが、咎める奴はいねえ。声を上げる奴がいたとしても、それを守る仕組みがもうない。誰もが黙って、自分の番が来ないように祈ってる。
美味い汁を吸えるのはいつだって俺やお前のような強い人間だけさ。こんな素晴らしい時代が、かつてあったか?」

正義と呼ばれていた幻影が、季節とともに葬られた今。ハード・ボイルダーはその喪失を惜しむどころか、讃えてさえいた。
彼は堕ちた秩序の使徒。よって他の誰よりも、それのある世界の生き辛さを知っている。

「奪って、殺して、勝ち取った者だけが生き残る。異論を唱えたかったらねじ伏せてみせればいいってんだから実にシンプルだ。どんなバカでも分かる簡単な理屈で、今この世界は回ってる」

彼の声に、酔いの熱が混じる。だが、それは決して酩酊による脆弱な揺らぎではなかった。酒という燃料によって、普段は鉄鎖の奥に沈めている本音の歯車が、軋みを立てて回転し始めたに過ぎない。

「上も下も、右も左もねえ。真に優れた人間が頂点に立って、弱え奴は咀嚼されるか恭順するかを選ぶ。理想郷(ユートピア)だ」

琥珀のグラスをもう一度煽る。喉がごくりと動き、次いで獣のような息を吐いた。
テーブルに置かれたグラスの縁には指の脂が白く残っている。

「だからこそ、俺はお前が惜しいよカルラ・ワダチ。お前が俺の下で働いたら、そりゃあもう最高に使える部下だっただろうに。なあ、今からでもそう遅くはねえだろう。無駄な色なんて捨てちまえ。そしたらお前はもっと高く飛べる。俺の下でな」

そこまで言って、彼は一つ、ひび割れた笑みを浮かべた。燃え尽きた世界の中で、尚燃え続ける火柱のような男。
その炎は周囲を焼くだけでなく、自らをも焼いて歓喜する。男として生まれたからには燃え盛っていなきゃ寂しいぜと、恥知らずな傲慢を隠さない。
熱し恭順を迫る王者に、迦楼羅はどこか肩の力を抜いたように、緩やかに笑った。

「俺は誰の下にもつかねえよ。どうしてもって言うんなら、力で叩き伏せてみな」

言葉は平坦だったが、そこには一切の躊躇がなかった。信念というには粗野すぎる。だが、その分揺らぎがない。獣がただ獣として生きるように、彼はただ“轍迦楼羅”としてこの世界を闊歩している。それ以上でも以下でもない、迦楼羅というゼロ地点の中庸だ。

「えらく買って貰えてるようで光栄だが……俺は正直安心したぜ。なにせラスベガスの王様だ、権威が過ぎて痛ぇ親父にでもなってんじゃねえかと思ったが――」

迦楼羅とハード・ボイルダーは、生まれた国は違えども本質的に似た者同士だ。
真の男を恥ずかしげもなく自称し、恥も悔いも知らずに生きる。彼らにとって他人とは強いか弱いか、自分に従うか否かで区別されるものでしかなく、だからこそ言動に配慮なんてある訳もない。
が、一つだけ決定的に違う所があるとすればそれは、迦楼羅は周り全てを見下している一方で、彼なりの愛を持って傍若無人を働いている事だ。

「――杞憂だった。ハード・ボイルダー、テメーはちゃんと人間だ」

その言葉が空気を裂いた刹那、巨漢はまるで雷撃の如く動いた。

躊躇いも、警告もない。椅子を蹴り飛ばして瞬間的に放たれたのは、怒号を纏った灼熱の蹴撃だった。脚部より噴き上がる神禍の推進が空気を灼き焦がし、爆発にも等しい衝撃を生み出す。
もはや蹴りというより、熱と質量の塊を用いた砲の一撃だ。だが。

「かはッ。気に障ったかい、王様」

それを、轍迦楼羅は真っ向から迎え撃った。

脚を引かず、腰も退かず。ただ右拳を捻り上げ、真っ直ぐにぶつけた。対の拳同士が衝突する音ではなく、熱を粉砕するような、鈍くも甲高い金属音めいた音響が鈍い低音で響き渡る。
瞬間、空間全体が逆流した。熱が引き、気圧が巻き戻る。熱波に包まれていた空間が、本来の温度を思い出したように白んだ。

275Dirty Harry ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:42:03 ID:bAisqQgM0
「てめえ……」

巨漢の口元がわずかに歪む。その場に踏みとどまりながらも、彼の目は此処で初めての苦渋を浮かべていた。
神禍という超常が生み出す熱量は、徒手空拳で戦う迦楼羅との間に計り知れない程のアドバンテージを生み出している。だというのに拳一つで本気の一撃を止めてみせたというだけでも驚愕に値するのは言わずもがな。だが――問題は他にあった。

(熱が消えてやがる。“神禍殺し”か、このガキ――)

自らが放った火が、神禍によって搭載した《燃焼》そのものが、轍迦楼羅の拳によって奪われたのだ。吹き飛ばされたのではない。削られたわけでもない。
まるでその存在を否定されたかのように、拳のぶつかった一点から、周囲へ向かって熱が拡散せず霧散していくのをハード・ボイルダーは感じていた。

小さく、だが確かに舌打ちをする。実際お目にかかるのは初めてだったが、極稀に神禍を殺す神禍というものを宿す禍者がいると聞いた事はあった。
迦楼羅程の技量を持った人間が無効化、ないしそれに似た性質の力を宿しているとは余りに面倒だ。
しかしそれ以上に、ハード・ボイルダーの胸奥に湧き上がるのは別の感情――怒り、苛立ち、その両方。身に滾るどの熱よりも根深く、感情の芯を灼くような感覚が、王者の内面を煮え立たせている。

そんな彼の様子を見透かしたように、いや事実見透かしながら、迦楼羅は薄笑いを浮かべる。

「テメーは色と呼んだが、実際間違っちゃいねえ。嫌いなんだよ、自分が弱く儚い人間であるって事から逃げて、化物だの超人だの気取ってる連中が。
昨日まで定時出社で上司にぺこぺこ媚び売ってた野郎が、力を持った途端さも別物にでもなったように振る舞いやがる。情けねえ、みっともなすぎて笑えねえし反吐が出る」

ハード・ボイルダーの顔が、皮肉にもありし日の、秩序の番人を勤め上げていた頃のように歪む。
追い詰められた者の罵詈雑言など彼は聞き飽きているし、今更眉一つ動かす事はない。だが今の彼は、ジャケットの下に隠した逆鱗をおちょくるように撫でられ、張り裂けんばかりの怒気を香らせている。

度を越えた怒りを覚えれば酩酊も引く。その証拠に彼は憤激する内心とは裏腹に、顔の赤みを失せさせていた。

「道徳の授業じゃ落第生でも、人間としちゃテメーのスタイルは実に正しい。好きに食う、好きに殺す、好きに犯して猿山の王様を気取る……煽ってる訳じゃねえぜ、本当に感心してんだ。
俺はアンタが好きだぜ、ハード・ボイルダー。アンタはまさしく人間の強者、人間の大悪党だ。男の中の男って触れ込みもあながち嘘じゃねえかもな」

褒めるような口調だったが、迦楼羅の笑みは明らかな嘲笑だった。自分が今相手の地雷の上で踊っているという確信に満ちた戯れ。
生まれ育って自我を持ち、他者との関わりを覚えたその日から、轍迦楼羅の内面は何一つとして変わっていない。
彼にとって世界の全ては己の足元。嘲り、馬鹿にし、高笑いしながら愛し奉る付属品。
されど迦楼羅は、そんな弱くて情けない人間達を心の底から愛している。

「ところでよ。そんなに着込んで……アンタ随分寒がりなんだな」

決定的な地雷を踏み抜かれた瞬間、ハード・ボイルダーは今度こそ何の思案もなく、眼前の悪童を必ず此処で殺すと決定した。
それは、嗤ってはならぬ男の琴線だった。

276Dirty Harry ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:42:48 ID:bAisqQgM0
刹那、空間が爆ぜる。
何の前触れもなく、バーの天井が軋み、壁が膨張した。まるで熱に膨れ上がった世界そのものが悲鳴を上げているかのように。次の瞬間、ハード・ボイルダーの全身から噴き上がった神禍(ねつ)の奔流が、空間そのものを焼き潰した。

逃げ場など無論存在しない。
『荒れ狂う馬』の本領は、火炎放射や自己強化のような単発的な熱量ではない。漲る熱を無制限に放出して空間そのものを焼き、息する事すら許さぬ灼熱の時代を作り出す事にある。
鉄骨が溶ける。床が波打ち、カウンターは音もなく崩れ落ちる。高熱に晒された棚のガラス瓶が一斉に破裂し、中の液体が音もなく蒸発した。木材の芯にまで炎が喰らいつき、梁という梁が軋みの絶叫を上げながら崩落を始める。

それでも、ハード・ボイルダーは止まらない。巨躯の全身から、呼気までもが燃え盛る大熱波となって放出される。その姿は、もはや人間の形を留めた熱源でしかなかった。
地獄めいた放熱の只中にあって、ただ一つ、男の両眼だけが冷え切った怒りを湛えていた。

やがて全てが鎮まり、空間が静けさを取り戻した時――そこに、轍迦楼羅の姿はなかった。
骨も残らず焼滅したかと思う程、ハード・ボイルダーは愚鈍ではない。
残響のように漂う熱風の中、天井が抜け、しかし落ちてくる天井さえ焼き尽くした事で大穴が見下ろす形になった廃墟のバー。足元の黒炭に、蒸気を纏ったブーツの先がぶつかる。

肩で息をしていた。呼吸というより、怒りの熱を吐き出すような、音のない荒れた息だった。
轍迦楼羅を殺す事は感情を除いても有意な行動だったと自信を持って言えるが、流石に熱を吐きすぎたらしい。
煩わしい疲労感と共に胡座をかき、王はデイパックから予め拝借しておいた酒瓶を取り出した。封も切らずに、歯でキャップをねじ切る。

そして迷いなく煽る。
焼けるような琥珀が喉を伝う音だけが、崩壊の静寂の中に響いていた。怒りの芯に流し込まれる冷却剤のように、それは彼の内側を通り抜けた。
ある程度飲むとボトルを投げ捨て、男は袖で口元を乱暴に拭う。

「……クソッタレが」

悪態をつくその姿は、迦楼羅の言葉を証明するかのように、酷く人間らしいものだった。

277Dirty Harry ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:43:14 ID:bAisqQgM0
【G-1・雑居ビルB1F/1日目・深夜】
【ハード・ボイルダー】
[状態]:疲労(中)、酩酊、不快感
[装備]:
[道具]:支給品一式、くすねた酒類
[思考・行動]
基本:優勝する
1:その為に部下を集め、効率よく参加者を減らす
2:轍迦楼羅はいずれ必ず殺す。
[備考]


【轍迦楼羅】
[状態]:右腕に火傷
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:救世主だ何だに興味はない。思うままにこの状況を楽しむ。
1:化物はお呼びじゃねえ。欲しいのは弱く無様に足掻く人間さ。
[備考]
※儀式に呼ばれる前は渡米していたようです。

278 ◆EuccXZjuIk:2025/06/28(土) 01:44:08 ID:bAisqQgM0
投下を終了します。

279 ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 12:40:16 ID:rbPwUqF.0
投下します

280The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 12:41:33 ID:rbPwUqF.0




 今も、その背中を追い続けている。


「――――フランチェスカ。おいて行かないでよ、フランチェスカ」


 紺色の軍服、傷だらけのロングコートが、正面から襲い来る吹雪によって翻る。
 振り返ることなく、凍土を踏み砕く力強い歩み。
 もう動けない私をおいて、次の戦場へと向かって行く、気高き女の後ろ姿。

 満身創痍の身体で、空前の灯火となった命を、それでも加熱させて駆け抜ける。
 同じ軍人ならば誰もが憧れた、イタリアが誇る最後の獅子。


「――――なあ、スピカ。懐かしいな」


 最後に一度だけ、彼女は私に言葉をくれた。
 目線を前に向けたまま、僅かに首を傾けて、口元を僅かに綻ばせて告げたのだ。


「――――憶えているか、私達が出会った日のことを」


 絶望的な戦いに赴く彼女は、それでも最後に笑ったのだ。
 彼女は戦った。軍人だから、職務だから、それがきっと、正しいことだから。
 正義のために、誰かのために、自分の信念ために、命ある限り戦い続ける。
 フランチェスカ・フランクリーニは、それが出来る人だった。

 きっと今も、戦っている。
 彼女はまだ、負けてない。
 私は、そう信じてるから。


「――――忘れられるわけないよ、ずっと」


 だからずっと、私は今も、その背中を追い続けている。






281The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 12:42:52 ID:rbPwUqF.0

 203X年、九月下旬。人類滅亡の黎明期。
 地上に出現した十二の災厄は、未だ国際社会にその存在を認定されていなかった。
 しかしこの時点で、種子は既に発芽を果たし、逃れられない崩壊の波濤が世界各国に広がっていく。

 よって、その戦いは人類が崩壊の脅威を認識できぬまま始まった、最初の衝突だったとされる。
 後に第三崩壊と呼ばれた、ロシアで発生した"残械皇國"。
 後に第四崩壊と呼ばれた、ドイツで発生した"最終冰期"。
 どちらも自国を制圧した上で開始された明確な国家間殲滅戦争であり、二国に挟まれた緩衝地域を踏み潰すようにして進軍した果てに激突を見る。
 第三次世界大戦の幕開け。それは人類の長い歴史を振り返っても、過去に例を見ないほどに苛烈を極めていた。

 ドイツ軍、虐殺部隊『Arktis-Jäger』。
 ロシア軍、鏖殺戦機『железная』。

 保存と整地。
 基盤となる思想に違いこそあれ、両者の方向性は人類を皆殺しにするという点で一致していて。
 激突までの間、彼らが通過した都市は、ヨーロッパ領もロシア領も、全て等しく戦火に飲まれていく。
 勿論、両軍の衝突地点となった場所がどれほど悲惨な損害を受けたのかは言うまでもない。

 つまり私――スピカ・コスモナウトが14歳の頃まで住んでいた街は、あの日、北と南から波のように押し寄せた崩壊によって完膚なきまでに押し潰され。
 そこにあった命は冷徹に刈り取れられていった。

 街において死に方は二種類あって、人々にはどちらかを選ぶことすら許されてはいなかった。
 単純に、北側は鉄騎による鏖殺、南側は魔王による凍結、という分類がなされ。
 私はその日、南側の家屋にいた。だから本当なら、両親や兄弟と一緒に氷の像になっていた筈で。

 なのに、ふと頭の中に浮かんだ死の未来。
 そのときはまだ、神禍とも認識出来ていなかった予知から、無我夢中で逃げ出した先に。

 絶対零度の化身、恐ろしい魔王に出会った。
 崩壊した街の中央、鉄片の飛散する瓦礫の山の頂上にて、凍りついたまま砕け散った巨大な多脚機械が沈黙している。
 機械の皇帝を単身で撃破したその災害が足元の鉄を踏み砕き、底冷えするような目線が、恐怖に震える私を貫いた、その刹那。

「――目標、補足。全軍、攻撃を開始せよ」

 獅子は、私の目の前に現れた。
 まるでお伽噺の英雄のように。
 颯爽と、堂々と、魔王に立ちふさがったのだ。

「奴の異能は度外れている。決して正面からぶつかるな。散開して注意を分散させろ」

 紺色の軍服、ロングコートが、正面から襲い来る吹雪によって翻る。
 振り返ることなく、凍土を踏み砕く力強い歩み。
 動けない私を背に守り、正面の敵へと向かって行く、気高き女の後ろ姿。

「キミ、よく頑張ったな。辛かったろう……だが、もう大丈夫だ」

 命(とき)を火にくべて駆け抜ける。
 同じ軍人ならば誰もが憧れた、国連軍の希望、イタリアが誇る最後の獅子。
 
「……大佐、その子は?」
「唯一の生存者だ。必ず守り切れよ、レオナルディ少佐」
「了解」
「全軍、牽制を終え次第、直ちに少女を保護して撤退を開始しろ」

 駆け寄ってきた側近の部下へ告げた指示とは正反対に、彼女は更に一歩前に出た。

「しかし、では……大佐は?」
「決まっているだろう。私は、いつも通り動くさ」

 口元を軽く綻ばせ、彼女は往く。
 振り返ることなく、たった一人で、目前の崩壊へと挑もうとしている。
 
「まったく大佐は、それでは部下として立つ瀬がない。走り出した大佐は、誰にも追いつけないのですから」
「いつも言っているだろう、少佐。誰も、私に追いつく必要などない。先頭を往くのも、傷つくのも、私だけでいいのだ」
「……分かりました。では…………必ず、戻ってこいよ、フランチェスカ」
「当然だ。帰ったら上官への口の聞き方を矯正してやろう、レオナルディ少佐」

 彼女は、誰もをおいて先に往く。
 初めて出会ったときから、あの人はずっと先を走っていた。

「では、挑むとしよう―――"終演・刻越疾壊(クアルト・ディザストロ)"」

 きっと、その日からだ。
 私が獅子の背を追い始めたのは。




282The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 12:46:23 ID:rbPwUqF.0

 エリアE-6、デパート屋上。
 それが私のスタート地点のようだった。

 目の前にはちらちらと舞い落ちる雪と曇天。
 いつもどおりの終末景色の手前に、見慣れない風景が広がっている。
 遺棄された子供用カートや、こじんまりした体験型アトラクション、雪の積もった床を転がるキグルミのガワ。
 布のカビてホラーチックになったコアラのようなアライグマのような生物は、かつてこの施設のマスコットキャラクターだったのか。

 デパート屋上遊園地。
 ひょっとしてそれは、寒冷化よりも以前に閉鎖された、文明の遺跡じみた場所だったのかもしれない。
 広範囲の戦闘が発生した場合、遮蔽物は多いが脱出口に乏しい場所だ。早期の移動を検討すべきだろう。
 
 ふと身体を動かした拍子に、肩からずり落ちた黒鉄の塊が膝に当たって、ちょっと痛い。
 ひりひりする足をさすりながら、私の体型には全く不釣り合いな、歪な形に捻じくれた大型機関銃を持ち上げる。
 それはやはり、銃と言うにはあまりに異質な物体だった。
 捻りあげたような形の銃身には腕や目のような有機的なパーツが付いていて、相変わらずグロテスクというよりアートチック。
 どうやら、自前の武器は没収されずにすんだらしい。

 整備状態を見直し、問題ないと判断できた。
 まず周囲の把握を終え、次に装備の確認に移る。
 それはこの数年間で叩き込まれた、軍人としての習性のようなものだった。

 異常事態でこそ、身体に染み付いた規律が支えになる。
 かつてそう教えてくれた上官。
 私の前から姿を消した彼女の名は、配られた名簿の中にあった。

「……フランチェスカ、ほんとにいるのかな」

 自然、声になった呟きは冷たい空気の中に、白い息と一緒に溶けて消える。

「また、会えるのかな」

 肩からぶら下げた機関銃を軽く撫でながら、どこにも届かない言葉を紡ぐ。
 
「会えたとして、どんな顔で会えばいいんだろうね」

 本当に生きていたのか。いま、どんな状態なのか。
 彼女は死んだと聞かされていた。だけど、私はそれを一度だって信じたことはなかった。

「追いつけるのかな、私は……今度こそ……」

 どこからも答えはない。
 抱えた銃は、何も答えない。
 代わりにぴくりと、僅かな熱が伝わって。

「……ラザロ?」

 私は気づく。
 廃墟だと思っていた屋上遊園地の最奥部。
 朽ちたアトラクションの隙間から、たった一つだけ、明かりの灯る施設が見えた。

 莫迦なと、直感的に思う。
 何かの間違いじゃないだろうかと。
 屋上遊園地どころか、デパート施設そのものに、ろくに電気なんて通っていない筈なのに。

 神禍だ。他にありえない。
 はっきりしている事実は一つ。
 誰かが、あの場所にいる。
 私と同じ、参加者の誰かが。

 銃を構え、警戒体勢に移行する。
 退くか、接近するか。どうするべきか。
 数秒の逡巡の後、私は施設へと足を向けた。

 心を決めたなら、まず動け。
 それもまた、いつか叩き込まれた教訓の一つだった。




283The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 12:48:42 ID:rbPwUqF.0

「スピカ……いや、コスモナウト二等兵」

 出会った日以来の、厳しい軍人としての声が叩きつけられる。

「今日をもって貴様は保護された一般市民ではない。
 国連常設軍所属、『秩序統制機構』の一員となる。
 貴様が若輩者であることも、入隊にいたる特殊な経緯も理解している。
 だが、私の部下になるからには、一切特別扱いはせん」

 フランチェスカの訓練は、本当に一切の容赦が無かった。
 地獄のような、しごきの日々。
 猛烈なスパルタ教育は筆舌に尽くし難いもので、初日から泣いて吐いて気絶しての七転八倒。

「理解したらさっさと敬礼と返事をせんか、二等兵ッ!」

 正直、先日まで運動音痴の学生だった14歳にとっては、あまりにも過酷で。
 一時期は本気でサディストなんだと思ってたし、普通にめちゃくちゃ嫌いになった。

「迅速に判断しろ! そして決めたならまず動け! 敵(とき)は一秒も待ってくれんぞ!」

 だけど、今なら分かる。
 彼女には時間が無かったのだ。
 そして世界にも、時間は残されていなかった。
 それに気づいていたのはおそらく、誰よりも先を走っていた彼女一人だった。

 寒気が本格的に世界を覆った後も、彼女が去ってしまった後も、人類の滅亡が避け得ぬ未来として確定した今も。
 私が生きてこられたのは、彼女と彼女の仲間達が遺してくれた、修練と教訓のお陰だから。




284The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 12:50:00 ID:rbPwUqF.0

 円形に縁取られた施設の最奥に、初老の女が立っていた。
 汚れた壁が一面を覆う閉鎖空間。
 カビとガラクタに塗れていて、どう見ても廃材にしか見えない塵を拾い集める、襤褸を纏ったような姿は東洋の妖怪めいている。

「ふむ、最初に遭うのがキミとはな。スピカ・コスモナウト。
 人類の死刑宣告を垂れ流すだけの機械が、随分人間らしい面構えになったじゃないか」

 私の名前どころか、素性すら知っている。
 その時点である程度正体は限られる上に、そもそも私は彼女のことを知っていた。

「……"最後の船長(キャプテン・ペイク)"」
「ああ、直接話すのは初めてだね。"国連の宣告者(デクレアラ)"」

 宇宙飛行士、ジャシーナ・ペイクォード。
 確かに彼女の名も名簿にはあった。
 というか国連に所属していて、その名を知らぬ者はいない程の有名人。
 
 ジャシーナには数多くの美名と悪名が混在する。
 曰く、浪漫の使徒、絶対的エゴイスト、母星を見捨てた裏切り者。

「ま、お互い、国連じゃあ有名人さね。その国連すら、今やどこにもありゃしないが」

 国連軍創設構想の最初期にも関わったとされる、元軍人上がりの宇宙飛行士、兼宇宙ステーションの船長。
 彼女は氷河期の到来から間もなく、宇宙ステーションを独断で占拠し、国際社会からの独立と、地球圏からの離脱を宣言。
 宇宙からのアプローチを地球救済の希望の一つと期待していた国連にとって、これは多大な衝撃となって伝わった。
 
 結果、ジャシーナの行動は明確な反逆行為と見なされ。
 一時期、彼女のステーションと国連軍は完全な敵対状態に移行する。

 当初は彼女の部下たちが冷静な判断によって解決するだろう、と目されていたのだけど。
 ジャシーナ・ペイクォードは圧倒的なカリスマにより、クルーの人心を掌握していた。
 事実、全ては彼女の描いた基図の通りに進む寸前だったのだ。
 ジャシーナにとっても、国連にとっても想定外の事態さえ起こらなければ、彼女の船は本当に宇宙の果てへ飛び立っていたのかもしれない。
 
 出港直前、一発の隕石の直撃。冗談のような悲劇だった。
 ただ一匹の人類も逃がしはしないという、神の意思の如き不運によって、最後の船団は崩壊したのだ。
 クルー全員を見捨てて宇宙船を離脱した、たった一人の船長を除いて。

「……あなたは……どうするつもりですか?」
「ん……? ああ、アタシがこの下らん催しを、どう捉えているかって話かい?」

 ガラクタの絨毯から身を起こし、廃材を手放して、すっくと立ったその姿は細身でありながら驚く程の長身だった。
 不敵な笑みを湛え、燃えるような情熱を込めた視線で見下ろしてくる。
 
 その瞬間、私は理解した。
 この人は、まだ何も諦めていないのだと。

 夢を叶える寸前で打ち砕かれて、クルーの全てを失って、何もかも奪われて尚、可能性を追い続けている。強い、女性。
 私の知る限り一番のそれであるフランチェスカとは全く違う痩躯でありながら、瞳に燃える輝きだけは彼女と同等の光を放っている。
 たった一人になっても、船長は夢を追い続ける。
 ならばきっと、この場所で、彼女の至る答えは―――

「そうさね、ちょいとばかし、試してみるか」

 ゆら、と。持ち上がった細い腕の先。
 老女の握る骨董品、クイーン・アン・ピストルが、私の額に向けられていた。




285The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 12:53:29 ID:rbPwUqF.0

「よ、よぉ、スピカ。最近は元気してるか?」 

「……まあまあです。レオナルディ少佐」

「そうか、あー、あれだ。前にも言ったが、非番の時はもっと気楽に呼んでも良いんだぜ?」

「検討しておきます。レオナルディ少佐」

「そ……っか、えーっと、それでだな今日はほら、確かあれだろ……?」

「フランチェスカに用事ですか?」

「まあ、そうだ。呼んできてくれるかい?」

「残念ながら、まだ部屋で寝てます」

「ええ……もう昼回ってるぞ」

「任務外だと案外ズボラな人ですから。自分の誕生日だろうと、それは変わらないようです」

「そっか、だったら、しょうがねえ、フランのやつが起きたらさ、これ渡しといてくれよ」

「綺麗な指輪ですね…………私が渡してよいのですか?」

「んだよ、別に良いに決まってるだろ」

「分かりました。では、また」

「ああ」

「しかし、ひとつだけ」

「んだよ」

「あのひと朴念仁なんですから。さっさと告白しないと逃げられちゃいますよ、少佐」

「ちょっとこら、どういう意味だ、スピカてめ―――」

「―――おい、うるさいぞ馬鹿ども! 休みの日くらいゆっくり寝かせろッ!」




286The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 12:57:57 ID:rbPwUqF.0

 ジャシーナは至極あっさりと引き金を引いた。
 古めかしいフリントロック式の拳銃から鉛玉が吐き出され、私の頭蓋を捉える。
 額を貫いた弾丸が後頭部から吐き出され、背後の壁を穿つ頃には既に意識は殆どなく。
 ただ、一発の銃撃によって、私は死んだ。

 。だん死は私、てっよに撃銃の発一、だた 
 。くなど殆は識意に既はに頃つ穿を壁の後背、れさ出き吐らか部頭後が丸弾たい貫を額 
 。るえ捉を蓋頭の私、れさ出き吐が玉鉛らか銃拳の式クッロトンリフいしかめ古 
 。たい引を金き引とりさっあ極至はナーシャジ

 ジャシーナは至極あっさりと引き金を引いた。
 咄嗟に左側の遮蔽に飛び込んでいなければ、今頃私の額には穴が空いていただろう。
 身体が地面に叩きつけられても構わず、転がっていた廃材を蹴飛ばして身を隠す。

 虫のように床を這いずりながら、遮蔽物――並べられた座席の間を移動する。
 継続して移動し続けなければ、動きを読まれて当てられる。
 その判断を裏付けるように、先程まで潜んでいた座席の裏を銃弾が貫通した。

「ほぉ、いい動きだ。悪くない。だがそれだけでは足りないな」
 
 とんでもない当て勘。恐ろしいほどの射撃精度だった。
 元軍属といえども、一線を退いたはずの老女に殺されかけた。
 私がいま生きているのは、やはりここ数年の訓練と、そしてもう一つ。

「キミのことはステーションで伝え聞いていた。
 その時点での評価としては、興味と不信が半々といったところだ。
 能力は買うが、キミ自身がそれを忌避しているようじゃ宝の持ち腐れだろう」

 予知能力。私の神禍。あの場所で、私の価値とされたもの。
 自らの死を予感し、避け得る力は確かに、私を永らえさせた大きな要因だったけど。
 この力は同時に、呪いだった。

 稀に受信する、自分以外の予知。俗に、大予言なんて言われたモノ。
 世界が滅びる節目を予告するチカラ。
 偶然にも能力を知った国連は、私を軍に組み込み重用した。

「当時の国連はキミの神禍に希望を見た。
 キミが予言した負の未来を、一つでも改変することが出来れば、世界の滅亡は避けられると信じたのだ」

 だけど、その尽くは失敗した。
 十二の災厄は私が国連に伝えた時点で半分以上が行動を開始しており、覚醒を止めることは出来なかった。
 続く勇者の死は、何をどうしても避けることが出来なかった。
 まるで悪辣な運命が襲いかかってくるかのように、ありえない不運と錯誤の果て、二人の勇者を失った。

287The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 13:00:05 ID:rbPwUqF.0

 大予言は変えられない。
 スピカ・コスモナウトの予言とは、神が世界にかける呪いである。
 改変二失敗する度に、いつしかそれが、言外の共通認識に変わっていった。

「結局、国連はキミを活かすことが出来なかった。現実に耐えきれず、誰も彼も諦めてしまったわけだ。
 キミの異名が"預言者(プロフェット)"ではなく、"宣告者(デクレアラ)"なのはその為だろう。
 言葉は予言からただの事実に成り下がり、やがて彼らはキミを恐れるようになった」

 そうして遂に、私は決定的な瞬間を見てしまった。獅子の敗北、その未来を。

「最後には、キミの声は死刑を宣告する神の代弁にしか聞こえなくなっていたのだろうね。
 故にその口を閉ざそうとして、結果、最後の喇叭が吹かれたわけだ」

 遮蔽から飛び出し、一気に距離を詰める。
 大丈夫、死の予感はまだない。
 だけど、それで安心することはできない。

「キミを守ろうとした統制機構の精鋭連中と、殺そうとした、それ以外の大多数。
 世界最後の国連組織の末路が内ゲバによる崩壊とはお笑い草だ。
 そもそも、キミに守るほどの価値があるのか、私には疑問だったが」

 背後に回り込んで不意の一撃を叩き込む寸前、痩せて節くれた手が私の腕を掴んでいた。

「…………!」
「ふむ、やはり悪くはない」

 柔術、強烈な痛みと脱力によって体勢を崩される。

「その目、私の知る国連の腑抜け共とは違う。
 キミは諦めた者の眼をしていない。
 正しく『秩序統制機構』の意思を継いでいるのかもしれない」

 再び至近距離で、私の額に銃口が突きつけられた。

「それだけに惜しかったな。
 あと一つでも見るところがあれば―――」

「―――ラザロ」

「なに?」

 私は跪いた格好のままで、向けられた銃口の奥、その深淵を見つめている。
 死ぬわけにはいかなかった。

 まだ、追いついていないから。
 また、追いかけていたいから。

「―――ラザロ、起きて」

 あの、獅子の背中を。

「―――どうか私に、力を貸して」

 私の腕の中、歪に捻じくれた機関銃。
 その中心にて、ゆっくりと瞼が開かれる。

「まさか―――その銃、ゴクなのか―――!?」




288The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 13:01:59 ID:rbPwUqF.0

 あの日、あの背中に追いつけなかった。


「――――フランチェスカ。おいて行かないでよ、フランチェスカ」


 紺色の軍服、傷だらけのロングコートが、正面から襲い来る吹雪によって翻る。
 振り返ることなく、凍土を踏み砕く力強い歩み。
 もう動けない私をおいて、次の戦場へと向かって行く、気高き女の後ろ姿。

 満身創痍の身体で、空前の灯火となった命を、それでも加熱させて駆け抜ける。
 同じ軍人ならば誰もが憧れた、イタリアが誇る最後の獅子。

 14歳で軍人になってから数年間、死にものぐるいでついて行った。
 振り返らず進む彼女の背中を、ひたすらに追いかけ続けた。

 血を吐くような訓練の日々。
 痛くて、辛くて、それでも進み続けたのは今日のため。
 この日、彼女の隣に立ち続けるため。

 なのに―――

 幾度も激突を経て遂に迎えた、獅子と魔王の最終決戦。
 その目前に、私は彼女の傍に立つことが出来ない。
 魔王の凄まじい冷気によって吹き飛ばされた私は、全身数カ所を骨折し、既に行動不能に陥っていた。
 意識はこんなにも鮮明なのに、死地へ赴く英雄を見ていることしか出来ない。

 死地、そう、ここは死地だ。
 だって、私は見てしまった。見せられてしまった。
 大予言、国連最後の英雄、最後の獅子が敗れる。その結末を。
 それだけは許しちゃいけないと、そのために今日まで全員で備えてきたのに。

「一人で行っちゃだめ……行かないでよ……フランチェスカ……!」

 運命は無常にも、予知通りの未来に進んでいく。
 まるでそうなる以外の展開など用意されていないかのように、全ての努力が水泡に帰していく。
 ここで彼女を行かせてしまったら、何もかも無駄になってしまう。
 そう、分かっていたのに。

「なあ、スピカ」

 軍属になってから、任務中にその呼び方をされたのは初めてだった。
 だから私は驚いて、何も言えなくなってしまう。

「私は、奴に、勝てると思うか?」
「え……?」
「キミはどう思う?」

 私は声を震わせながら、なんとか言葉を紡ごうとして。

「でも……予言だと……」
「そんなことは聞いてない」

 彼女の言葉の意味に気づいて、今度こそ声を失った。

「キミはどう思う? と、聞いているんだ」

 こんなの、ずるい。
 絶対に間違っている。全部が無駄になってしまう。

 そんなこと、分かっていたのに。
 だけど、私は、ここで嘘を付くことだけは、どうしても出来なかったから。

「かて……る。勝てるよ。負けない!
 あんな奴に、フランチェスカが負けるわけないんだ!」

「……ありがとう。
 その言葉だけが、ほしかったんだ」

 噛みしめるように頷いて、獅子は襲い来る冰期へと、一歩を踏み出す。
 ああ、行ってしまう。最後の獅子が、私の英雄が。
 フランチェスカ・フランクリーニが去ってしまう。
 待ってよ、行かないでよ、と喉を震わせようとしたけれど、もう声を出すことも出来ない。

「レオナルディ少佐、この子を頼む」
「……了解。命に代えても、守り抜きます」
「最後まで、世話をかけるな……ラザロ」
「当然のことだ。気にするなよ、フラン」

 遠のく背中に手を伸ばす。
 フランチェスカ。おいて行かないでよ、フランチェスカ。


「では、挑むとしよう―――"終演・刻越疾壊(クアルト・ディザストロ)"」


 加速する時間が私達を隔てていく。
 伸ばす手は、声は、もう届かない。





289The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 13:07:46 ID:rbPwUqF.0

「形勢逆転、ですね」

 戦闘、終了。
 変形解除したラザロを構えたまま、私はガラクタの散らばった部屋で、老いた女を見下ろしている。

「両手を頭の上で組んだまま、あちらを向いて跪いてください」
「ああ……素晴らしいじゃないか」

 ジャシーナ・ペイクォードは両手を上げた姿勢のまま、あっさりと銃を手放した。
 正直、かなり手強かった。ラザロの機能を使わなければ勝てなかっただろう。
 私一人の勝利とは言えないけど、まあ一応勝ちは勝ち。

 殺すつもりはないけれど、とりあえず身体を拘束しよう。
 そう思って、一歩近づくために、足をあげたときだった。

「では、おめでとう、と言っておこうか」
「……?」
「いやなに、キミは自身の有用性を証明したということさ」
「どういう意―――」
「起動せよ、"最果てへと至る航海(ワールドエンド・アルゴナウタイ)"」

 頭に浮かんだ僅かな疑問は、瞬く間に混乱に変わった。

「―――な、な!」

 踏み込もうとした足が空を切る。
 突如として宙に浮かび上がった機関銃(ラザロ)が視界を遮り、敵の姿を覆い隠す。
 それがどれだけの隙であるかは分かっていたけど、あまりに急な変化に思考がついていかない。

 ふわりと空中に浮かび上がった私が状況の把握に思考を回している間。
 同じく一斉に浮かび上がったガラクタのカーテンを潜るようにして、床を蹴ったジャシーナが飛翔する。
 その手にはプラスチックの破片で作った即席のナイフが握られていた。
 先程までの動きとはまるで違う。重さを剥奪された世界の中で、老女は泳ぐように自由に動き回っている。
 突如発生した立体機動に、反射で私は銃の照準を合わせようとして――

「ああ、その対処はお勧めしないな」

 射撃と同時、暴れまわるような凄まじい反動によって、地面に叩きつけられていた。

「―――なっ―――が―――はッ」
「そらみたことか。ではNBL訓練モードを解除する」 

 肺から空気が絞り出される。
 銃を取り落とし、地面に大の字で寝そべったその瞬間、再び突如として身体の重さが戻って来る。
 空中に浮かんでいたガラクタと一緒に、老女の身体が降ってくる。

「無重力下での戦闘は初めてかね。踏ん張りの聞かぬ場で射撃なんぞ行えば、後方に吹っ飛ぶに決まっているだろう。
 ふむ、まあ、多少のパニックは仕方のないことかもしれんが、ここは厳しくいこう。訓練が足りんな」

 無力化した私を組み敷いた老女は、ニヤリと笑ってナイフを突きつけた。
 ボロボロだったはずの服装は、いつの間にか軍服に似た宇宙礼服に変化している。

「さて、形勢逆転、だな?」

 いったいこの細身のどこに、こんな力が隠されていたのか。
 首筋の神経を抑えられ、指一本動かせない。

「い……ったい、なに……が」
「ん? ああ、アタシの神禍は聞いているだろう。
 自分の所有物と認識したものを『宇宙船』とする。
 故にここはもう既に、アタシの船ってことになるさね」
「ば……かな。言ってること……メチャクチャだ。
 車や潜水艦を脱出ポッド変える程度ならまだ納得できます。 
 だけどここは、デパートのいち施設だ。用途が全く違うものをどうして、船に変換できるんですか?」
「用途が違う? まあそうでもないさ、モノは考えようって言うしね」

 そもそもおかしいのは彼女の自認。
 普通、始めて訪れた施設を、所有物だなんて思えない。

「加えて訂正しとくよ。アタシの所有物はこの施設だけじゃない、このデパート全体さ」

 それは恐ろしいまでの独善思想。
 浪漫の使徒、絶対的エゴイスト、母星を見捨てた裏切り者。
 老いて尚、女は弾けんばかりの活力を秘めた瞳で語っていう。

「地球全ての無機物はアタシの資材さ。
 そうとでも思えなきゃあ、星の果てなんざ目指してられないってね」

 ジャシーナ・ペイクォード。
 それが最後の船長。最果てのロマンチストの矜持だった。

「それで……あなたは"最後の一人"を目指す、と?」
「ああ、まあそれでも良いかと、最初は思ったんだがね」

 しかし私の問いかけに対し、以外にも彼女は逡巡を見せていた。
 ロマンチストでありエゴイストでも彼女は、この殺し合いを制し、治癒の奇跡と共に宇宙を目指すだろう。

290The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 13:13:13 ID:rbPwUqF.0

 彼女はなんとしても生き残ろうとする筈だと。
 自らを信じたクルー全員を見捨ててまで、夢を追い続ける女は、そう結論すると思っていた。

「にっちもさっちも行かなくなっちまったら、まあそういう方針で行くもいいさ。
 だがね、案外と、勿体ないと思ってね?」
「どういう意味ですか?」
「つまりさ、キミ、アタシの物になりたまえ」

 しかし彼女の浪漫は、私達が思っていたよりも、ずっと狂気に近かったらしい。

「……は、はい?」
「いいかい? 我が船団(アルゴナウタイ)はいま、優秀なクルーを募集している」

 言わんとする事を理解して、私は率直に警戒を強めた。
 ジャシーナの悪名は、国連所属期に散々聞かされていたから。

「参加者がつまらない奴ばかりなら、全員切り捨てても構わんと思っていたが。
 しかし名簿を見て、キミに会って、気が変わった。
 "ここまで優秀な人的資源を、地球に捨てていくにはあまりに勿体ないじゃないか"」

 傲慢な老女。
 どれほどのカリスマを発揮しようとも。
 どれほど部下からの信頼が厚かろうとも。
 結局はその全てを見捨て、たった一人、自らの浪漫のために生き延びた女。

「アタシはここで、最高の船団を作り上げる。知っての通り強欲なもんでね。
 治癒の奇跡も有用な資源だ。できれば欲しいが、それだけじゃあ船は飛ばない。
 救世主なんて、冷え切った地球を延命させる名誉に興味もない」

「今更……倫理感でも語るつもりですか?
 地球人類を見捨てて、部下を見捨てて、一人で天上に逃げようとした貴女が……!」

 こいつは危険だ。信頼できない。それだけは確かだ。
 なのに、なぜ、

「キミは一つ勘違いしているようだが。
 アタシは確かに地球を見捨てた女だ。
 しかし、『人類』を見捨てたことは一度だってないよ」

 彼女の声はこんなにも、よく通るのだろう。

「地球の資源は可能な限り、アタシの旅に連れて行くさ。
 アタシにとってはアタシの浪漫が絶対優先だが、モノも、ヒトも、アタシがある限り続いていく。
 アタシがここに生きる限り、人類の夢は潰えない。かつてのクルー達(あいつら)も、それを分かって着いてきた筈さ」

 独善的な振る舞いを崩さぬまま、女の瞳は夢を見ている。
 燃える、太陽のような夢を。

「汎ゆる資材をかき集め、最高の船を完成させてやる。
 優秀なエンジニア、パイロット、戦闘員、コックなんかも欲しいところだね。
 馬鹿みたいだって笑うかい? だが不可能じゃないさ、名簿をみたろう? これほどのメンツが揃っている」

 そうして、船長は高らかに宣言した。

「我々の進路は『脱出』だ。だがそれは、殺し合いの舞台からじゃあない。
 ―――この、死にゆく惑星からの脱出だ」

 人類を終わらせないための、出航。

「……だとしても、なんで、私なんですか?」

 演説に対し、絞り出した声。
 結局のところ、私が納得できなかったのは、そういうことだった。

 ジャシーナ・ペイクォード、彼女の浪漫、あるいは狂気は分かった。
 それでも、その一点が解せない。
 彼女がいま、私にまで手を差し伸べる理由が。

291The Stars My Destination ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 13:18:09 ID:rbPwUqF.0

 自分を卑下するわけじゃないけど、私の神禍は呪いだ。
 その力は人を害する。人類にとって有害なものだ。
 かつて私の予言がどれほどの人間を傷つけ、不信を煽り、混乱を齎したか、彼女だって知っている筈なのに。 

「確かに、キミは自分の力を使いこなせていない。国連にも統制機構にも、キミを御することはできなかった。
 だが……アタシなら、キミという人的資源を有効に使える」
「なんですか、それ。自分なら予言を変えられるとでも―――」
「変えられるさ。アタシなら」
「――――」

 そう、即答で言い切った人は、これが二人目だった。

「アタシがキミの予言を越えよう。そして、キミの力が呪いではないと証明してみせよう」

 そして、私の中の、かつての記憶をなぞるように、彼女は私に告げたのだ。

 ―――スピカ、私が魔王に勝って、証明してみせる。その力は呪いではないと。

「変えられぬ未来など、アタシは絶対に認めない。
 故にこう推論する。キミの予言は人類に襲い来る荒波だ。いまの人類では太刀打ちできない高波だ。
 しかし私ならば超えられる。キミの力はきっと宇宙に上がった先でもきっと有用だ」

 女の足が、さっきまでガラクタだった物を踏みつける。
 それは瞬く間にアルミで出来た通信装置に変わっており、靴底で押し込まれたスイッチが、息を吹き替えした施設内に絶えたはずの電気信号を送り届ける。
 一瞬にして明かりが落とされ、闇に落ちた次の瞬間。

「投射せよ」

 古びたデパートの屋上遊園地、その隅に遺棄された施設が、老女の力によって甦る。
 円形に縁取られた天上が輝き、もはや地表に届くことのない、人類から失われた光。
 宝石箱を開いたかのような瞬きが溢れ出て、何光年も遠い最果てから届く閃光の再現が、私達の世界を覆い尽くす。

 プラネタリウム。
 それは、遥かな天上に描かれた、そらの海図。

「―――スピカ・コスモナウト。キミを我が船団の航海士に任命する」 

 これが策略なら大したものだ。
 だけどきっと、彼女は素でやってみせたのだろう。

 きっとこの人は、そういう人だ。
 天然の人誑し。エゴイストのロマンチスト。
 宇宙を人類の夢と定義して、振り返らずに進み続ける女。
 そして誰しもの中に、それがあると、独りよがりにも信じている。
 
「"わが往くは星の大海"。……キミ、銀英伝は読んだかね?」

 だけど、まあ私に関していえば、少し当たっているのだから。
 業腹ながら頷くしかなかった。

「ふむ、優秀じゃないか」

 あれはそう、12歳の頃。
 フランチェスカと出会う前の、ただの学生だった私。
 地球が凍りつく前、世界は平和なまま、大人になれると信じていた日々。

 天文学を専攻したがっていた、幼い少女がいた。
 そんなことを思い出したのは、随分と久しぶりのことだった。

「貴女は、届くと思いますか?」

 私は彼女の差し出した手を取りながら、最後に一つ、問いかけた。

「追いつけると思いますか、流れていく星の輝きに」

「愚問だな。追いつくのではない」

 それに、最後の船長は自信に満ちた、不敵な笑みを浮かべて答えた。


「超えるのだ。我々には、それができる」



【E-6・デパート/1日目・深夜】

【ジャシーナ・ペイクォード】
[状態]:健康
[装備]:クイーン・アン・ピストル
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:目指すは星の最果て、出航準備を執り行う。
1:宇宙船の資材、燃料、優秀なクルーを集める。
[備考]

【スピカ・コスモナウト】
[状態]:健康
[装備]:『災禍武装:ラザロ』
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:ひとまずジャシーナと行動する。
1:フランチェスカ・フランクリーニに会いたい。
[備考]

292 ◆ai4R9hOOrc:2025/07/01(火) 13:20:46 ID:rbPwUqF.0
投下終了です

293 ◆EuccXZjuIk:2025/07/02(水) 22:31:57 ID:XlCXfSYk0
投下お疲れ様です。

スピカとフランチェスカの関係性。命の恩人、上官と部下、そして今は……とそれを探す関係性は変われども、先を歩く側と背中を追いかける側というのは変わっていない。そこに悲壮感故の健気さと、物語としての美しさを強く感じてしまう。
前日譚として語られた彼女達の過去の話は言ってしまえばすでに終わってしまった物語でありながら、スピカの原風景とフランチェスカへの憧れが深堀りされた事によってその後のジャシーナとの対決の読み応えに一役も二役も寄与していて技量の高さを感じました。
最果てを目指す宇宙飛行士ジャシーナ・ペイクォード。冷徹な反逆者という評価も、夢に向けて疾走する最後の船長という評価も、どちらも正しい彼女の姿なのだと伝わってくる強烈なキャラ性が読んでいてとても楽しい。
そんなジャシーナが自分の眼鏡に適う働きを見せたスピカをクルーとして勧誘する展開も実に面白く、彼女達の第一話としてこの上ない強烈な引きを作っていただいた。何より最後のスピカとジャシーナのやり取りが個人的にとても秀逸でした。追いつけないまま歩み続けていたスピカにジャシーナの示す答えとして完璧過ぎる。
素敵な作品の投下ありがとうございました。

294 ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:45:09 ID:3gCuKGLs0
予約分を投下します

295ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:46:44 ID:3gCuKGLs0



生きるために最善を尽くすのは、決して悪い事じゃない。少なくとも、俺こと保谷州都はそう信じてる。
だが世界がこの様じゃ、そう信じるしかなかったという方が近いかもしれない。

凍てついた窓には、もう外の景色は映らなかった。白い。只白いだけだった。壁も、床も、空も、息までも。
音は消え、空気は止まり、心臓の鼓動さえも自分のものじゃないように遠く響いた。

その家の名前は、もう思い出せない。発音もうまくできなかったし、綴りも知らなかった。
けれどそこに住んでいた人たちの顔だけは、今も脳裏に焼きついて離れない。

家長の男は、俺を“シュウ”と呼んだ。言葉は通じなかったが、笑って飯を出してくれた。
奥さんは英語の覚束ない俺を連れ出しては買い物に付き合わせ、ボディランゲージで奮闘する姿を見るのが好きないい根性したおばさんだった。
長女はアジア人の俺をどこか怖がっていた気もするが、それでも不器用に交流しようと頑張っているのは伝わった。
三人とも、もういない。世界が終わってから一年もしない内に、櫛の歯が欠けるように一人また一人と死んでいった。

最期に残ったのは、長男だった。たぶん、俺より五つか六つは下だったと思う。
最後の方はやせ細って、質の悪い病気にでも罹ったのか咳をするたびに血を吐いて、それでも気丈に笑う姿が記憶に残ってる。

まともな医療なんてものが期待出来る環境じゃ勿論なかったし、俺も自分が生きる事で精一杯だったから、自分を実の兄みたいに慕ってくれる彼が日に日に弱っていくのを黙って見ているしか出来なかった。
よく笑う奴だった。こいつだけは、最期の夜まで笑っていた。他の三人は皆泣きながら死んだのに、こいつは怖くないんだろうかと思った。

誰も居なくなった家を背にしながら、俺は自分の生き方って物を定義した。
この家に留まっていたって何も変わらないし、俺までこの人達と同じ末路を辿るだけだ。
生きるために最善を尽くす事は間違いじゃない。もっと安定した生活が送れる環境が必要だ。この際善悪に拘るつもりはない、贅沢も言うつもりはない。今日を生きる最低限の食い扶持と雪風を凌げる屋根と壁があれば、靴でも何でも舐めてやる。

せめてもの餞別に死体を家族の墓の隣に埋めてやり、別れを告げて、白い町を歩いた。崩れた看板と潰れた車の横を通り過ぎ、燃え残った建物の影で、無言の遺体たちを見送った。
知った顔が死ぬのなんて珍しくもない。そんな事でいちいち泣いたり喚いたりしていたら、この時代を生きていくなんて夢のまた夢だ。

だから俺は恥知らずに生きた。ラスベガスに拠点を構えた破落戸の王様に頭を下げて仲間にして貰い、地道に実績を積み上げてそれなりの信頼も勝ち取った。今じゃ明日の食い物に困る事はないし、その気になれば酒も煙草も人伝に仕入れられる。働きで有用性を示していたら、喧嘩を売ってくる奴もいつの間にかいなくなっていた。
あの家で糊口を凌ぐような暮らしをしていた頃とは雲泥の差だ。衣食住の保証が利いている時点で、俺は今を生きている人類の中でも一握りの幸せ者なんだろう。

それでも俺の前で凍え死んでいった四人の顔が、今も胸に残って離れない。
守れなかった命。朽ちていくのを只見つめるしか出来なかった喪失の記憶。なんでも、神禍はその人間の思想を反映して芽生える力なのだという。
なら俺はやっぱりあの人達に感謝するべきなんだろう。彼らが俺に遺してくれた“守れなかった”という心痛(トラウマ)が、今の俺の暮らしを支えてるんだから。

目を合わせれば、相手の神禍を模倣できる力。それが自分に宿っていると理解したのは、家を出て程なくしての事だった。
誰かの眼を見つめて20秒。その力で、この雪玉の星を生きる隣人を殴り倒す。時には殺す。
全人類が化物になった世界でも、他人の神禍にアプローチ出来る力は希少なのだそうだ。うちのボスの受け売りだが、実際、組織は俺をそれなりに大事にしてくれた。俺が加入した日から組織の版図が目に見えて拡大したそうなので、あながちお世辞でもないんだと思う。

いい暮らしだ。少なくとも此処にいれば、俺は明日に怯えなくて済む。
そう思っているのに、今も時々胸が痛む。死んでいった家族の顔と、最後に見たあの硝子細工みたいな笑顔が俺の心をどんな刃物よりも鋭く突き刺すのだ。

296ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:47:40 ID:3gCuKGLs0
守れなかった、救えなかった。俺は余りに弱くてつまらない存在だから、目の前にある失い難い命を守る事も出来ない。
俺はトラウマで飯を食っている。情けないとは思うが、じゃあ他にどうするんだよと問われたら返す言葉などある筈もなく、だらだらぐだぐだと現状維持のような暮らしを続けてきた。
だから、これはその因果に対する応報なのかもしれない。そう思いながら俺は、遂に目の前に迫ってきた死の姿を見上げていた。

「ッ……げほ、ごほ……ッ!」

みっともなく地面を転がって、泥と雪とに塗れた姿を晒す俺とは対照的に、死神は傷一つない光沢で闇夜の下に佇んでいる。

それは、まるで夜が立ち上がったかのようだった。
漆黒の甲冑に包まれた巨躯は、雪の中にあってもなお一点の白すら纏わず、全長三メートルを優に超える体躯が周囲の木々さえ矮小に見せる。
風が吹いて揺れる裾もなく、繋ぎ目すら存在しない鋼の殻が、あらゆる生物的な輪郭を殺していた。只立っているだけで空間が圧される。人の形を模してはいるが、そこに人間性の気配は微塵たりとも覗えない。

両脇を覆う肩当ては鬼面を思わせる曲面構造で、降り積もる雪すら表面で跳ね返す。
こいつには只、死の静謐だけがあった。左腰に佩かれた一振りの長刀――人間では振るえない程巨大なそれが、俺はこれから死ぬのだと無言の内に宣告している。
艶消しの黒が深く沈む機体の頭部には双眼の代役なのだろう、一対のレンズが覗いている。五感では捉えきれない、存在の根に刺さる感覚が、俺が今この化物に見られているのだという認識を御丁寧に与えてくれてた。

命の価値を秤にかけるでも、情を図るでもなく、死は只そこに立っていた。一端に積み上げてきた自負や意地が霜柱のように内側から崩れていくのを、結局俺はどうする事もできなかった。

『恐れる事はない。速やかに首を晒せ、さすれば安息は忽ちに訪れよう』

化物なら何人か知ってる。例えばうちのボス、『ハード・ボイルダー』。
ホワイトハウスを占拠した自称大統領の一派。絶対に関わるなと厳命されていた十二体の崩壊。

今俺の目の前にいるこいつは、確実にそいつらと同じ分類をされるべき生き物だ。

『一切如來攝受、臨命終時得見如來。この死は貴公への慈悲である』

ほら見ろ、何を言ってるのかさっぱり分からねえだろ。化物どもの共通項だ、どいつもこいつも話がまるで通じねえ。何やら訳の分からん理屈を独りよがりに語っては陶酔してるジャンキーに関わると碌な事がない、凍った地球を生きる上で必須の“マニュアル”だ。
全球凍結前なら見ちゃいけませんの一言で片付けられた狂人共が、今じゃ実際に百軍を蹴散らせる力を持ってるというのだから全く笑えない。

俺の神禍は、ボスが言う所の“神禍殺し”だ。厳密には違うそうだが、強力な異能を持った相手に対するジョーカーとして出られるという点じゃそう間違ってもいないだろう。
言うなれば相手の神禍を相殺出来る力で、実際条件さえ満たせればとても便利だ。何度となくこの力で命を拾ったし、信頼を勝ち取ってもきた。
けれどどんな力にも必ず弱点はある。ハード・ボイルダーの隠し札、神禍相殺の用心棒……そんな俺の力だって決して万能じゃない。寧ろ人一倍取り回しが悪いから、機能しない時は本当に全く機能しない。

今がその最たる例だ。20秒の視認を条件にする以上、当然だが相手が大人しく見られてくれる状況を整えられなければ俺は無能力者も同然なのだ。
俺だって自殺志願者じゃない。雑魚なりに抵抗は試みたし、何とか模倣するチャンスがないかと頑張ってはみたが無駄だった。
まず基本性能が違いすぎる。俺に支給された銃は一発たりとも奴の鎧を抜けず、そもそも二発目を放つ前にぶった切られてゴミになった。
普段は俺が落ち着いて相手を見れるように前線で戦う役の禍者が付いてくれてるのが殆どなのだが、勿論この状況でそんな援護など望めるべくもない。

297ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:49:25 ID:3gCuKGLs0
よって当然の結果として、俺は詰んだ。謙遜でも何でもなく、本当に何も出来なかった。
多分俺はこれから死ぬんだろう。神禍がまともに活かせない上、頼みの綱だった支給武器もあっさりぶっ壊されてしまったのだから、本当に打つ手は一つたりとも残っちゃいない。

『もはや常世に慈悲は非ず。苦界の出口をいざ与えん。首を出せ、小僧』

大体何だよこいつ。なんでこんな武士みたいな口調でロボなんだよおかしいだろう、鏡見た事ねえのかお前。
世界がこの状況じゃなかったらお前なんて只のイロモノ芸人以外の何物でもねえよ馬鹿。
などと毒づいてみても何も状況は変わらないし、そもそも口に出す勇気さえ俺にはなかった。

結局これが、俺の限界という事なんだろう。どんなに大仰な後ろ盾があっても、そこを削がれたら何も出来ない。
意地もない、根性もない。御大層なサーガの傍らで処理される轍の一個、過ぎた後で漸く振り返って貰えるかどうかの村人A。

死ぬのは怖くない。そんな風に思える時点で俺に言わせれば強者だ。だって世界がこの有様なのに、今まで一度だってそんな事は思えなかったから。
死ぬのは怖い。泥を噛んででも生き延びたい。死が間近に迫った今でもそう思えるしそう思う、俺には笑って死ぬなんて事ぁ出来やしない。
大切な何かを守る力もない癖に、自分が死にかけたら心からそんな祈りを捧げられてしまう俺の浅ましさが際立って思えた。

刀が振り上げられる。これが俺の首を落として、それで終わりだ。そしたら俺を殺したこいつは、もう保谷州都という人間がいた事を振り返りもしないだろう。
後悔は死ぬ程ある。今からジタバタ足掻いてどうにかなるなら何だってする。
でも、いいやだからこそ、終わりは文字通り死ぬ程静かに訪れて。救いを謳う破綻者の刃が、ギロチンの如くに俺へ落ちてくるその瞬間に――


「やれやれ。こちとらもう隠居した身なんだがね」

その終焉を食い止める、眩い陽光のような刃が、俺と死神の間に立ちはだかっていた。



◇     ◇     ◇



『――何者だ』

声が響く。旧時代のテレビ番組で用いられた加工音声のような、酷く低く響く声音だ。
鎧武者の名は霖雨。心痛を抱えながら、感情を麻痺させつつ、崩壊した世界を生きてきた青年の元にやってきた鋼の死神。
彼か彼女かも定かでない皆殺観音の剣技はすでに“技”を越えて“業”の域にある。よって保谷州都では0.1%の勝算も見込めはしなかったのだが、そんな剣鬼の一刀を、正面から剣一本で凌いでみせる男の姿があった。

「面倒に巻き込むのは止めてくれよ、ミスター。男のロマンは解る質だが、この状況じゃ唆るものも唆らないんでね」

雪煙と火花が散る中、そこに立っていたのは、まるで場違いな男だった。
無精髭を伸ばした、全体的に無造作な顔立ち。黒髪は寝癖のように跳ね、まるで鏡を見ずに適当に切られたかのようだ。何もかもを見限った人間だけが纏える奇妙な静けさが、全身から染み出ていた。

着ているのは赤い着物。ところどころに金と白の意匠が浮かんでいるが、それすらも着古されて皺が刻まれている。戦場に似つかわしくないその衣の下で、彼は右腕を懐に入れたまま動かさない。
いや、洞察力があれば動かせないのだとすぐに気づくだろう。実際、男のそれには肘から先が存在しなかった。着流しの袖が空虚に揺れ、風に煽られるたびに、その欠落が否応なく際立つ。

それでも彼は、そんな所在のない雰囲気のままに悠然としていた。凶機を前にしても眉一つ動かさず、己の左手だけで目の前の青年へ迫った死を受け止めている。

298ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:50:46 ID:3gCuKGLs0
「あんたは……」
「通りすがりの風来坊さ。取り敢えず今はこれで勘弁してくんな、ブランクのある体じゃ存外に骨の折れそうな相手なんでね」

男が州都の声にへらりと笑ってそう答えた瞬間、皆殺観音の躯体が跳ねた。

『さぞ名のある剣士と見受ける。手合わせ願おう』

瞬間繰り出されたのは、極限の研鑽に裏打ちされた斬撃の霖雨であった。
重力を無視した超速度の初動、質量と鍛錬を極め慣性を打開する一点突破。
観る者の視神経が追いつく前に、長剣《安居兼光》は巨体を裂く閃光となって空を裂き、寸分の狂いもなくミヤビの眉間へ収束していった。

「やれやれ、血の気の多い御仁だ。こちとら隠居人なんでね、それなりに手加減はしてくれると嬉しいんだが」

対して男は、構えてすらいなかった。
左手ひとつ、遊びのように空を撫でた軌跡から、炎が立った。瞬間、空気が音を立てずに震え、赤金の輝きが形を成す。

それは“炎の剣”だった。凍てつく大地、人を温める事すら忘れたこの星において、彼が生み出す火は唯一愛する人を焼かず、優しさの熱だけを帯びて煌めく。
しかしその火は、敵に対しては天地を焦がす殺戮の英雄剣へと変貌する。技術の粋で造られた鋼より硬く、意志によって振るわれた刃よりも速く。金色の光が、黒鉄の刃と正面から衝突した。

雪面が爆ぜた。衝撃波に土と氷が巻き上がり、押し返された空気の濁流が後方の森までも薙ぎ倒す。
火花ではない、熱そのものが散っていく。

それでも霖雨の剣は止まらなかった。観音機体と完全に同化した脳から、刃を割られぬようわずか数ミリの間隔で軌道を切り替える指令が瞬時に伝達される。
斬撃が雷撃へ、そして旋回へ。刹那に数十の変化を見せながら、霖雨の剣は最短での死へと道筋を立て、刻み、突き刺す。

『笑止。武人が互いに生死を賭して相見え、何故加減の生ずる余地があろうか』
「言うと思ったよ。本当迷惑なんだよな、おたくみたいなバトルジャンキーってさぁ……!」

男は退かなかった。右腕のないその身体で、彼は只歩を進める。
隻腕ゆえ、常人のそれとは異なる足運び、間合いの崩し。呼吸すら計算に含めた柔の所作――。

左の踵を起点に旋回。炎が蛇のようにしなり、宙を這い、霖雨の左腕をかすめた。
通常兵器では一切通らぬ黒鋼が、一瞬だけ軋む。硬度ではない。内部構造を踏まえた温度圧力制御による超臨界操作の賜物だ。
男の火は焼くのではなく通すのだ。熱伝達の極み、如何に扱えば守るべき者を守りつつ敵だけを滅ぼせるのか、という領域に到達している。

さらに間を置かず、火が弾ける。足元に奔ったのは、噴射の流れを逆手に取った推進だ。
男の身体が瞬間、空へと浮く。魔剣の補足範囲外、死角の上方へと。

霖雨が視線を追うより早く、紅の軌跡が背後に回り込んだ。
風を断つ音。斬撃ではない、触れるだけの手刀である。
けれどそれは、機体表面温度を瞬時に危険域まで上昇させる爆熱の“打撃”だった。

『――ッ』

霖雨が体勢を崩す。僅か数センチの誤差、しかしそれが不覚の産物である事は自明。
その証拠に次の瞬間、男の握る炎剣が全長数メートルもの大剣と化して皆殺観音の躯体を痛打した。

熱に焼き焦がされる程やわな作りはしていないが、それでも蹈鞴を踏んでの後退は避けられない。
微かに白煙を上げながら、地面に無様な跡を残して下がった霖雨のメインカメラが、静かに眼前の敵手を睥睨する。

その視線に対し、炎の男は言った。彼は精々中年程度の年嵩に見えたが、しかし老人のそれを思わすような、重たく緩慢な声色。

「どうだい、僕もなかなかの物だろ。これに免じて退いてくれちゃしないかい」

放たれた言葉に、霖雨はわずかに沈黙する。
分析と思案の時間。だがこの鎧武者が皆殺しを教義とする弑天の観音菩薩である以上、それに対する答えは決まっていた。

299ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:52:23 ID:3gCuKGLs0
『……聞いた事がある。この滅びたる常世にありて、滅亡の元凶を討たんと立ち上がった益荒男が居ると。誰もが悲嘆に染まり、明日の食い扶持にすら困窮する中で、天を伐とうと最初に唱えたのは――太陽の化身が如く、炎を相棒に立つ剣士であったと』

刀剣を構え直しながら、霖雨は隻腕の男を見据えて言った。すでに保谷州都の存在など、これは眼中に置いていなかった。
無力な者と侮蔑しているのではなく、単にその余裕がないからだ。自分の前に立ち塞がったこの剣士は、他の事に意識を割きながら相対するには余る相手だとそう踏んだ。

『非礼を詫びよう、『晴』の勇者。此処からは我も本気で之かせて貰う』

自身の正体を看破された隻腕……ミヤビ・センドウという男は一瞬苦笑し、しかし次の瞬間には眼光を鋭く尖らせた。
自嘲に浸っている暇はない。それだけの事態が、目の前の鎧武者を起点として彼を襲ったからだ。

『対人引力発生装置起動――オン・マカ・キャロニキャ・ソワカ』
「へえ、こりゃあ……!」

まず地鳴りにも似た重い脈動が、鎧武者の躯体の底から湧き上がった。機体胸部に埋め込まれた機構基盤を震わせながら、静かに詠ずる皆殺観音。
呪が発されるや、周囲の空気が逆巻く。見えざる磁力線が編まれ、空間の秩序がねじ曲がった。ミヤビ・センドウの身体に、重力とは異なる吸引の力が働く。まるで己が骨芯に巨大な鉤が掛けられたかのような感覚だ。
抗う間もなく、彼の体は前へ、霖雨の方へと凄まじい勢いで引き寄せられていく。逃れる手段はない。四肢の関節が引き裂かれそうな凄絶な重圧に軋みながら、ミヤビは苦々しく息を吐いた。

「僕も思い出したよ。君、あれか。“黒い観音”か」

だが彼は、只では引き寄せられない。
烈火。瞬時に生み出された火輪が、彼の周囲にいくつもの円環を成す。風を切り、熱を纏って彼を取り巻くそれらは、無数の盾となって迫る斬撃をいなす為の布陣だった。
次の刹那、霖雨の巨剣が閃く。人間が振るうには過剰なまでの質量を有する魔剣が、空気を圧して殺到する。

その剣雨はまず、真正面から始まった。
左、右、下段、上段、斜め、半円、反転、跳躍。ミヤビが布いたあらゆる火の仕掛けを、霖雨は一切の詭計と見なす事なく、圧倒的な斬術で屠っていく。

これが業の剣。死により覚醒(めざ)め、死を愛するに到った求道者の到達した、機械武術の極致。業とは積まれた行いそのもの。霖雨の剣技は、もはや人智の技術ではなく――遍く生命に向けられた絶死の狩獄であった。

火の奔流が、踏みつけられる。炎の壁が、易々と断ち割られる。舞う火蓮華が、只の火花に帰される。

ミヤビの眼に、僅かな焦燥が浮かぶ。
長らく戦場から離れていた身だ。自分でも言ったようにブランクがあるのは承知の上だったが、此処まで衰えているとは思わなかった。両腕を揃えたかつての自分であれば、更に多重の火術を複雑怪奇に展開できたろうに。

「つくづく、あんな所でくれてやるんじゃなかったな」

歯牙を食いしばる。神禍の火が尾を引き、巨大な斬撃の軌跡を寸前で逸らせつつ、両足に火力を集中させる事で足元の氷雪を焼き溶かして、引力に抗う為の杭にする。

老獪さすら感じさせる的確な対応だったが、それでも防戦一方なのは変わらない。
守りに徹さねばならないという時点で、皆殺観音の殺陣と向き合うには役者が足らないと言わざるを得なかった。他の誰よりも、空の勇者の発起人として第一線で戦ってきたミヤビ自身がそう自覚している。

辺りの雪が過熱した空気の奔流に融解し、気化し、咽ぶほどの湿熱として立ちのぼった。
その中心にあるのは、紅蓮の奔流を纏った隻腕の剣士。太陽の化身のように輝きながら、在りし日のように剣を握って立つかつての“勇者”がそこにいる。
彼の周囲に展開された五輪の火輪の主用途は確かに守りの結界だったが、同時にこれは外からの侵入を防ぐのではなく、内からの爆発を制御するための枷の役目も秘めていた。

『ほう』

生み出した熱を漏らす事なく結界の内側で循環させ、洗練させて研ぎ澄ます。あらゆる方向への広がりを拒絶され、質量としての輝きを持ち始めたそれは、もはや火というよりも爆発そのものに近かった。
自然界にあってはならぬ均衡を持ち、爆ぜれば遍く闇を照らし奉るだろう臨界の閾。

300ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:53:20 ID:3gCuKGLs0

崩れかけた足並みを刹那で立て直し、膝を曲げ、旋回しながら全身を傾けて、遂にミヤビ・センドウは守る事をやめる。

『この間合いでさえ、我が装甲の内に届く熱を用立てるか。晴の勇者、ミヤビ・センドウ』
「十二崩壊でもない野良の殺人鬼に舐められてたら、流石に勇者の面目立たんでしょうよ」

ミヤビが最後に前線に立ったのはもう一年以上も前の事だ。
ブランクは彼の腕を鈍らせていたが、それでも培ってきた経験は裏切らない。

「売ったのは君だ。せめてウォームアップに付き合って貰うよ、機械人形君」

よってこの瞬間、戦況は煌めく炎に彩られながら変転した。太陽の紅蓮が氷原を引き裂きながら、悪なる暗黒を切り払わんと流動する。
霖雨が自分で言った通り、ミヤビの炎は武者の装甲をさえ越えて届く熱を宿している。黒観音の神禍は『即死即空皆殺観音(ヴァルシャイシューヴァラ)』。生体組織とその五感と同化して成り立つ鎧は言うまでもなく非常に堅牢であり、現に霖雨は世を覆う寒気の波にも何ら影響を受けていない。
そんな剣機にさえ熱さを教える、天照の輝き。直撃すれば如何にこの死神でも只では済まないと揺蕩う熱気が告げていた。

『貴公らの逸話は聞き及んでいる。敬意を評して、その生き様に慈悲を与えよう』

対する皆殺観音・霖雨は、不退転の字を体現するように進撃する。
そこに戦略も策謀もない。雪と炎を踏みしめ、装甲越しに危険信号(アラート)をかき鳴らす熱にも一切臆する事がない。

古今あらゆる戦場において、言葉とは交渉であり、時として威圧の手段である。だが霖雨の放つそれには、そのどれもが存在しない。只一つ、殺意の宣言としてのみ使われる。語彙も文法も彼にとっては単なる死の御告げに過ぎず、その内に込められる意味は只“殺す”の一点に集約される。

『秋津弑天流――火不能燒』

刃が閃く。焼死を免れるという功徳を殺人剣に変換した弑天の奥義が、炎の幕を縫って疾走する。
文字通り、炎をすら斬る技だ。ミヤビが展開しては放つ火炎の波を、信じ難い事に霖雨は薄膜のように引き裂いていた。

踏み込む事すら困難な火災の渦中に、無骨な機械音を奏でながら割り込んでいく皆殺観音。
瞠目して然るべき光景だったが、晴の勇者はすでに十二崩壊を知っている。永久の凍結を展開する魔王や、腕の一振りで百の兵を粉々に粉砕する金獅子、生物としての常識が一切通用しない我儘姫。そうした鬼神達と身を挺して鎬を削ってきたミヤビが、今更これしきの不条理を前に怯む道理はなかった。

左足を軸に翻り、右足の踵を削るように踏み込む。隻腕の身体が流れるように軸をずらし、炎の軌道を転回させる。
赤金の剣閃が、迫る黒金と対になるように軌道を描く。軌跡の先で螺旋が形成され、生まれた炎が重力を帯び、螺旋状に敵を締め付ける束縛と化す。

『ぬ……』

霖雨が一瞬、動きを止める。これを好機と見、ミヤビは剣を水平に突き出した。これを受けて皆殺観音は初めて、その無機質な機体から驚愕らしいものを覗かせる。
恐ろしいまでの速度で放たれた剣は、これもまた、無策に受ければ『即死即空皆殺観音』の外装すら砕かれる次元の攻撃だ。
空の勇者が十二崩壊に敗走してから数年。それだけの時間と、隻腕というハンデが横たわっている筈なのにも関わらず、ミヤビ・センドウという男の力量はそれでも隔絶した域にあった。

「もう一度提案なんだが、この辺にしとかないかい」
『異な事を言う。我はその思想を解せないが、勇者というからには世界を救える手立てとやらに喜んで飛びつくべきではないのか? 貴公程の腕があれば、我など決して敵わぬ相手ではなかろうに』
「それはそうなんだがね。僕はもう勇者を辞めた身だ。救済がどうとか、そういう話にはもうそれほど興味がないんだよ。かと言って目の前で殺されかけてる若者を見過ごすほど腐りも出来ないもんだから、適当なトコで手打ちにしようって話さ」

片腕で放たれるとは思えない威力に舌を巻きながら、それをおくびにも出さず霖雨は剣を振るい、火花を散らす。
その光景を蚊帳の外で見つめるしかない保谷州都は、只固まっていた。

301ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:54:30 ID:3gCuKGLs0

なんだこれは。これが本当に、人間同士の殺し合いなのか?

州都はラスベガスの王、ハード・ボイルダーに仕える用心棒だ。荒事など数え切れない程経験させられたし、どちらかが死ななければ収まらない戦いというのもそれなりに覚えがある。
しかしそんな経験など、この島では何の役にも立たないだろう。ボスのように戦闘向けの神禍を持っていて、何事にも恐れを抱かない強い心があって初めて土俵に上がれる。少なくとも自分のような凡人は、此処では只死を待つ弱者以外の何物でもないのだと理解した。
彼に出来たのは腰の抜けた格好のまま、押し寄せる暴風にも負けず二人の戦いを見つめ続ける事だけ。

「悪い話じゃないだろう? 正直、今更命を懸けた戦いなんてしたくないんだ。だから君が物分かりよく矛を収めてくれるなら、それが一番助かるんだが……」
『断る』

へらりと笑って言うミヤビに返されたのは、重々しい拒絶と、此処に来てまた一段と加速した巨剣の閃きだった。

『貴公の信念の在処がどうあれ、我のすべき事は一つ。神も仏も見棄てた星に残された唯一の菩薩として、まだ永らえている命の全てを鏖殺す。
貴公のとは異なる動機だが、我もまた救世主の降臨を必要としていない。死とは尊い結末(おわり)であり、抗おうという発想自体がずれている』

全く狂っているとしか言い様のない理屈だったが、それこそが皆殺観音の掲げる救済論だ。
先細り、未来のない星において、死とは唯一まだ万人に許されている救いの形である。

『よって我は貴公も、そこの青年も此処で葬ろう。こうしている今も誰かが苦界の中で喘ぎ続けているのだから、そう時間をかけてはいられない。この島で呼吸を続けている全員を救った後にでもゆっくりと、星の行く末に思いを馳せる事とする』
「そうかい。そいつは残念だ」

州都は、心臓が跳ねる感覚を覚えた。自分の非力を改めて嫌という程思い知らされている形だが、ウジウジやっている暇はない。
自分に背を向けて立つ隻腕の剣士が、炎を操作して送ってきたサイン――決行の合図を認めるなり、彼は皆殺観音を写す鏡になった。

「なら望み通り、君は此処で僕達が討とう」
『……ッ、これは……』

再びの驚きに、霖雨の声が乱れる。両足が勝手に動く、機体そのものがミヤビの方へと、正確には彼が守っている青年の方へ引き寄せられていく。
驚くのも当然だった。霖雨はこの現象の正体を知っている。これは引力、それも特定の標的だけを狙って引き寄せる対人用の現象だ。
皆殺観音の特権である筈の引力操作の神禍が、まるで鏡に写したように、他でもない自分自身を襲っている。

「それと。言い忘れてたんだが、僕は勝てるならやり方には固執しないタイプでね。特に、人に頼って勝つ事には全く躊躇がないんだよ」

保谷州都の神禍『模倣(ミラーコード)』。20秒目を合わせる事を条件に、睨んだ相手の力を模倣する。
霖雨は機械だ。眼球などという部位はすでにメインカメラに置き換えられているから、州都は例外的に“目を合わせる”という条件を無視する事が出来た。それでもこの黒武者相手に20秒も視認を続けるなど生半可な難易度ではないが、そこを助けたのがミヤビ・センドウ。

彼は戦いが始まるなりすぐに、敵に気取られないようにして州都へサインを送っていたのだ。
どうやって州都の神禍を把握したのかは謎だったが、彼の正体があの『空の勇者』の一員だと知って納得がいった。
州都は今日まで彼らと会う事も、彼らが戦っていた十二崩壊の生き残りと出会う事もなく生きて来られたが、それでもその奮戦については聞き及んでいる。希望のない世界で、勇者達の物語は人々にとっての数少ない娯楽だった。

302ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:55:24 ID:3gCuKGLs0
空の勇者。禍者の最上位といっていい崩壊達と最前線で戦い続けてきた戦士達。
積んだ経験も持っているノウハウも、州都のような少し戦いを知っているだけの禍者とは段違い。
仕草や様子など、彼らだけが持つ幾つもの判断基準があるのだろう。だからミヤビは州都が“一対一の戦闘では事実上発動出来ない”神禍を持っていると見抜き、同意を得る事もなく勝手に作戦の一つに組み込んでしまえたに違いない。

「手を払ったのは君だ。悪いが、このまま勝たせて貰うよ」

州都が模倣した引力で歩法を崩された霖雨の動きは、目に見えて歪んでいた。数多くの戦闘経験を持つ皆殺観音も、流石に自分の神禍に苦しめられるのは初めての事だったのだろう。
その好機へ、ミヤビは炎を纏いながら踏み込んでいく。

「天照――」

腕の数は減ったが、それでも『晴』の勇者は強い。これまで彼がその活躍で示してきた事実の総決算として、握った炎(つるぎ)が巨大に膨張し、雪夜の暗黒をも吹き飛ばす光の一刀と化す。
晴の勇者が持つ最大の炎。誰も倒せないと思われた十二崩壊の魔徒を、この世で最初に消し飛ばした東照大権現だ。

苦し紛れのように霖雨が飛ばしてくる斬撃を火輪による防御でいなしながら、かつての勇者は死を夷す一刀を放たんとした。

『重ね重ね、貴公にはとんだ非礼を働いてしまったらしい』

だが――

『我が身で味わい初めて解った。侮られるというのはこうも不快な物か』

重低音の声が響いた途端に、決まりかけていた趨勢が再び逆転する。

「っ……!」

州都が模倣し、放っていた対人引力のお陰で崩れていた霖雨の剣陣が、夢から醒めたように本来の冴えを取り戻した。
引力の鎖から解き放たれた皆殺観音の魔剣が閃き、走るミヤビの左足を膝の部分で切断する。歩みを止められ、凋む炎。

ミヤビは瞬時に何が起こったのかを理解したが、州都がそれを理解するのは彼に一瞬遅れての事だった。
だがその分、彼を襲った失意は大きい。

「……くそ! なんで、こんなに、俺は……!」

保谷州都の神禍は、決して強力なものではない。ハード・ボイルダーが頼りにするのも肯ける稀少な力ではあるものの、カラクリ自体はとてもじゃないが、ワイルドカードと呼ぶには能わない程度の代物だ。

厳しい発動条件も然る事ながら、真に拙いのは、仮に模倣を成功したとしてもオリジナルには決して及べない事だ。
言うなれば劣化コピー。コピーした神禍はあくまで借り物であり、その精度も出力も、決して本人が扱うそれには届かない。

それでも、今まではこれが原因でしくじる状況に遭遇する事はなかった。
神禍とは禍者にとって、自分の思想や人生を反映した存在証明だ。決して侵されない筈の唯一無二を素知らぬ顔で真似されて、動揺もなく打ち破りにかかれる人間はそうそういない。
つまるところ州都は、知らなかったのだ。異能を持っただけに留まらず、心まで人間の範疇の外へ踏み出した化物と遭遇した経験がなかった。王に阿り手に入れた仮初の平穏が、因果へ対する応報のように彼の首を絞める。

霖雨がやったのはそう特別な事ではなかった。只単に神禍の出力を全開まで引き上げ、州都が自分に放ってくる引力を無力化しただけだ。
如何に州都のが劣化コピーといえども、真正面から打ち破るのは決して容易ではないのだが、そこは皆殺観音が強かったという結論になる。

弱さを嘆く州都には目もくれず、黒い鎧武者の巨躯は重さをまるで感じさせない速度で奔り、魔剣の刀身を振り抜いた。隻腕の上に隻足にされたミヤビに、態勢を立て直す余暇などあろう筈もない。よって無情に、勝負の結果は顕れる。



◇     ◇     ◇

303ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:56:33 ID:3gCuKGLs0



晴の勇者が、一つだけになった膝を突いていた。
口元は笑みを浮かべていたが、空元気である事は明白だ。彼の胸に刻まれた一筋の刀傷と、そこから止めどなく溢れ出す血糊がその事を証明している。

「……悪いね、格好悪い所見せちまったな」

州都はその言葉に対し、何も言えない。言える筈がない。この状況を招いたのが自分の非力である事は、彼が一番解っているから。

「気に病む事はないよ、これは僕のミスだ。やっぱり前線を離れてると勘も鈍るね」
「……ッ!」

空の勇者――それは人類の希望。彼らが敗れた話は知っていたが、その噂が耳に入るまでの間、どこかで勇者達が世界を救ってくれる可能性を夢に見ていた事は否定しようもない。
保谷州都はそんな淡い希望に思いを馳せる、脆弱な民衆の一人だった。だからこそ、自分の視界で膝を突くミヤビの姿を直視出来ない。
自分の体たらくのせいで片足を失い。切り刻まれ、素人目にも致命と分かる出血を垂れ流しているその姿を素知らぬ顔で受け流せるほど、州都は異常な神経の持ち主ではなかった。

「時間稼ぎは請け負うから、出来るだけ遠くまで逃げなさい。流石に此処から先は、君を守りながら戦えるステージじゃなさそうだ」
「……けど、あんたは」
「いいよいいよ、どうせ死にながら生きてるようなもんだったからな。夢を壊すようで申し訳ないけど、空の勇者(ぼくら)はもうとっくに終わってるんだ。見ての通り僕はもう、あの頃みたいには戦えない。体も心も折れちまったんだよ。たとえ今こうならなくても、遅かれ早かれ無様に死んでただろうさ」

事の当人にそう言われてしまえば、州都としてもこれ以上何も言えなくなってしまう。
この状況を招いたのは間違いなく自分の弱さが原因であり、それさえなければかつて希望と密かに仰いだ男が死に体に陥る事はなかった。
なのにミヤビは州都を責めるでも、恨み言を言うでもなく、さっぱりとした様子で、引き続き彼と霖雨を隔てる防衛線として仕事し続けていた。

「只、逃げる前に少し聞いてくれ。この島には、雨の勇者――ルーシー・グラディウスという女がいる。ちょうど君くらいの年の若いコだ」

その名前は、勿論州都も知っている。空の勇者の生き残りは、今やミヤビと彼女だけ。勇者パーティーの中では最年少ながら、発起人であるミヤビに何ら劣らない武功を重ねた若き英雄。

「もし君があのいかがわしい修道女の言う事に従いたくないと思ってるなら、彼女を頼るといい。未熟なところこそあるが、僕なんかよりよっぽど信頼できる『勇者』だ。きっと力になってくれるだろう」

『雨』について語る『晴』の声色には、彼自身把握しているのかいないのか、感傷とも郷愁ともつかないものが乗っていた。
それもその筈。『雲』も『雷』も死に絶えた今、残っているのは彼ら二人だけだ。
娘のように可愛がっていた少女が、人類の勝利の光景を見る事もなく失意に沈む。そういう結末しか用意してやれなかった事実に、ミヤビ・センドウが何を思っているかは彼以外知る由もないものの、少なくとも無感情でない事は州都に彼女の名を語る声へ宿る色が物語っている。

「そして伝言を一つ。背負わせてしまってすまないと、余裕があったら伝えておくれ」

腐っても勇者は勇者。膝から先を失った左足を宙に遊ばせながら、ミヤビ・センドウは立ち上がる。
片腕がなく、片足もないその姿は全盛期を知る者なら嗤ってしまう程に不格好。なのに寧ろ、足を失う前の先程以上に冴え渡って見えるのは何故だろう。これまで心の深淵に沈んでいたかの日の闘志が、煮え立つ炎と共に浮き上がってきていた。

獣は手負いが最も恐ろしいとはよく言ったもの。それが獣でなく、意思をもって立ち上がったかつての勇者ならば脅威度は無論比にならない。

「――行きなさい」

そう言われた瞬間、州都は弾かれたように走り出していた。ひぃ、はぁ、と情けない息遣いを漏らしながら遠ざかっていく気配を背に、ミヤビは小さく息を漏らす。

304ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:57:54 ID:3gCuKGLs0

「ありがとよ。意外と義理堅いんだね、まさか待ってくれるとは」
『詭道は好まぬ。それに、そんな目で見据えられては逃げる鼠を追う気など失せるというものだ』
「はは、買いかぶり過ぎさ。……もしそう見えるんだったら、やっぱり僕はとんだ馬鹿野郎だよ。火が点くのが遅すぎる」

ミヤビの言動は軽々しいものだったが、霖雨は彼に対する警戒をより一層深めねばならなかった。
強くはあってもどこか覇気に欠けた、言うなれば老人のように萎びた闘志しか放っていなかった晴の勇者の眼球に、今は立ち塞ぐ者を皆食い殺さんとする獅子の威圧が宿っている。いや、戻ってきているというべきか。
片足まで失って立つ姿は出来損ないの案山子を彷彿とさせる惨めなものであるというのに、その欠けた佇まいが最も恐ろしく見えるのは何の冗談だろう。

「じゃあ……やろうか」

日輪の刀身が高熱で形を失い、刃の代わりに柄から伸びるのは巨大な炎の竜だった。
州都を巻き込む可能性に配慮する必要がなくなった以上、ミヤビ・センドウはその神禍を全霊で扱う事が出来る。

ミヤビの熱により、彼らが戦っている周囲一帯は氷河期だなどとは信じられない程の有様に変わっていた。雪も氷も溶け切って、水分さえ蒸発して残らないから、辺りに広がるのは只の荒野だ。
空の勇者が壊滅して数年。もう二度と見られる事もないと思われた、晴の勇者の全力がこれから炸裂する。

これでも全盛期には遠く及ばない程度の熱量というから恐ろしかったが、皆殺観音は恐れという感情を知らない。

『之くぞ、晴の勇者。我が剣の真髄、確と味わって眠るがいい』
「勝った気になるのはまだ早いよ、若いの。あの四人の中じゃ僕が一番強かったんだぞ」

構えられる晴の剣。それを迎え撃つのは、救いと称して死を振り撒く黒鉄の剣。

『オン・マカ・キャロニキャ・ソワカ――』
「日の出の刻だ。来たれ大神――」

引力がミヤビの体を最高出力で引き寄せる。抗おうとすれば全身の骨が砕け散る程の威力だったが、今更見苦しく藻掻いてやるつもりはなかった。寧ろ相手の方から招き入れてくれるのだから好都合だとばかりに、勇者は熱を高め上げながら疾走する。
対して霖雨は、静謐のままに構えを取っていた。秋津の剣は天をも弑する殺人剣。時代の流れと共に本来の意味は失われ、今ではその名が残るのみだが、死に通じ悟りを開いた求道者は自然の流れとしてその真骨を解している。

日輪の竜が焼き尽くすか、観音の剣が切り伏せるか――決着は一瞬の内に訪れる。

『――秋津弑天流・不生於惡趣』
「――天照・大日光貴ッ!」

水蒸気爆発すら引き起こしながら二人の禍者は激突し、世界は光と衝撃に包まれた。



◇     ◇     ◇

305ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:58:34 ID:3gCuKGLs0



『……恐ろしい男だ。生涯一の難敵だった』

切り伏せた男の躯を見つめ、皆殺観音はノイズのかかった声で評した。
倒れているのはミヤビ・センドウ。あれ程の激突であったというのに死体は綺麗な物だったが、それでもその胴に刻まれた傷は、彼の体にもはや命が宿っていない事を示すには十分過ぎる。
勝ったのは霖雨。晴の勇者は皆殺観音の凶刃に倒れ、此処に一つの伝説が沈んだ。

『惜しい物だ。貴公にもしも二本の腕があったなら、結末は違ったろうに』

だが勝者である霖雨の躯体にも、戦いの壮絶さを物語る破壊が刻まれている。
機体の右半分が消し飛び、残った箇所も装甲が所々融解し、内部の配線や基盤が露出している状態だ。『即死即空皆殺観音』に自己修復の機能が内蔵されていなかったなら、ミヤビはこの殺人者を見事討ち取れていた事になる。

全ては巡り合わせ。ミヤビが隻腕でなかったなら、もっと早くあの頃の志を取り戻せていたなら、きっと結果は違った筈。
或いはそれは、彼ら勇者の冒険がすでに終わっている事の証明なのかもしれなかった。十二崩壊を倒しきれず、世界も救えなかった敗残者達に、もはや天は微笑まないのか。

『今追えばまだ間に合うだろうが……危険が勝つか』

それでも、ミヤビ・センドウは保谷州都の事だけは守り通した。霖雨は生きているがこの通り健在とは言い難く、機体の修復が完了するまでにはまだ多少の時間がかかる。
よって皆殺観音は、州都に追い付けない。ミヤビが剣を握った理由が彼を生かす為だったとすれば、命こそ失えど、晴の勇者は最後に懐かしい勝利の味を覚えながら逝けたのだろう。

空の勇者を組織し、誰も果たせなかった人の手による十二崩壊打倒を成し遂げた稀代の英雄――『晴』の勇者、ミヤビ・センドウ此処に死す。残る勇者はあと一人。人類の希望はもう彼女だけと嘆くべきか、それとも。



【C-2・平原/1日目・深夜】
【霖雨】
[状態]:機体半壊(修復中)
[装備]:『安居兼光』
[道具]:
[思考・行動]
基本:皆殺し
1:機体を修復し、殺戮を再開する。
[備考]



◇     ◇     ◇

306ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 21:59:37 ID:3gCuKGLs0



――第十二崩壊。それが司った滅亡の形は、『終末』だった。『姫』とは違い、恐怖で人を破滅へ走らせる最終番号(ラストナンバー)。

人間離れした敵ならゴロゴロいたが、奴は真の意味で人間じゃなかった。第十二崩壊はゴグだったのだ。牛の頭を持つカソック姿の怪人に意思らしいものはなく、今となってもあれにどんなバックボーンがあったのかはまるで解らない。
更に言うなら神禍もそうだった。一応の推測は立てて臨んでいたものの、全員どこか釈然としない物を感じながら戦っていたように思う。

『第十二崩壊に囁かれた者は必ず発狂する』。誰も彼もが強固な終末思想に取り憑かれ、自他問わずあらゆる命を奪おうとし始める。そんな有様なのに何を言われたのかは口が裂けても言おうとしないし、実際どんな尋問も全く意味をなさなかったらしい。
いわば他者を発狂させる何事かを理性なく囁いて回る、悪魔のような存在だ。神禍は精神汚染だと推測されたのも仕方のない話だった。

実際あの牛頭が暴れていた地域は酷いもので、終末論と集団自殺のメッカと化していた。こうなるともうどっちが悪なのか分かったもんじゃない。自分達を死に至らしめようとする第十二崩壊を守るために民が僕らに向けて武装蜂起し、正気のフリをして寝首をかこうとしてくる地獄絵図だ。僕は右腕を失くす程度で済んだが、『雲』は勇者として致命的な“守るべき者達への不信感”を植え付けられた。


誰もが、崩壊の予兆を感じ取っていた。それでも第十二崩壊との決戦を引き伸ばすわけにはいかなかった。
今でも後悔してるし、夢にも見るよ。要するに僕らに足りなかったものは、少数の犠牲を許容する利口さだったのだろう。


まず、『雲』が発狂した。守るべき民に殺意を向けられる状況に心をすり減らしていたあいつは、第十二崩壊から何かを聞かされたらしい。
制止も聞かず、血涙を流して絶叫しながら突貫したパーティーいちの知恵者は、次の瞬間には肉片同然に引き裂かれていた。『雷』に続いて二度目になる、しかし一度目とは比にならない程あっさりと訪れた離別を嘆く暇もなく、今度は『雨』に矛先が向いた。

鼓膜を潰せと、僕は叫んでいた。『雨』は即断してくれたし、そのおかげで最悪の事態だけは免れたが、戦闘の最中に自ら聴覚を手放した代償は大きく、彼女もやがて魔獣の猛攻の前に沈んだ。

そうなれば後は単純で、全身を血まみれにしてか細く呼吸する『雨』にとどめを刺そうとする第十二崩壊と僕の一騎打ちになった。
幸い、『雨』と二人で与えたダメージはちゃんと蓄積していた。そうでなかったなら隻腕の僕では、相討ち覚悟で挑んだとてあの戦いに勝利する事は出来なかっただろう。
重傷を負いながらも最大火力の太陽剣を叩き込み、牛頭の心臓を貫いた。確実に殺った手応えがあったし、そうでなかったら僕はこの場にいない。仲間の犠牲と多くの痛みを背負いながら、辛くも終末の崩壊を討ち果たした――裏を返せば、油断していた。


『 ■■■■■■■■ 』


心臓を貫かれながら、牛頭のゴグが囁いた。僕は、それを聞いてしまった。『雨』に耳を潰させておいてよかったと、撹拌される自我と去来する絶望の中でそう思った。
『雲』のように発狂せず済んだ理由は解らないが、死に行く第十二崩壊が最後に遺した悪意だったのかもしれない。もしかすると逆に、あれなりに何かを思っての事だったのかもしれないが、今となっちゃ知るすべもない。
負った手傷の出血で意識を失い、目が覚めた時には全てが終わっていた。空の勇者も、人類の未来も、僕の心も。

僕は膝を折った。今まで何があろうと見失う事のなかった戦う意思というものが、情けない程ぽっきりと折れてしまっていた。
『雨』は何度も理由を問い質してきたし、僕も何度か打ち明けようとしたものの、口にしようとすると声が出なくなる。その度に僕は、この右腕を奪った市民達が何故ああも狂っていたのかを思い知らされた。
絶望を抱えていながら、この世の誰ともそれを語り合って共有できない。それがどれ程孤独で苦しいものか――あの頃の僕は知らなかったんだ。

307ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 22:01:35 ID:3gCuKGLs0
第十二崩壊の神禍は多分“予言”だ。僕の知る『宣告者』のとは違って、奴はやがて世界に訪れるたった一つの未来だけを、壊れたラジオのように吐いて回っていたのだ。
僕はそれを聞いてしまった。聞いて、折れた。剣を握る意欲も、世界を救いたいという願いも、綺麗さっぱり萎えてしまった。
空の勇者崩壊の真相はそんな所だ。発起人のミヤビ・センドウが勝手に折れて、もう戦えないよと投げ出して、僕らのサーガは打ち切りに終わった。

二度と表舞台に立つつもりはなかった。心が折れていたのもそうだが、全てを投げ出した男がいけしゃあしゃあともう一度勇者をやるなんて身勝手は許されないと思うだけの常識は、砕けた心にも残っていたから。
だから耳を塞いだ。自分を探している人間がいるという話を聞いても、へらへら笑って聞こえないふりをした。

そんな男の最期としては、これでもきっと上出来な方だろう。格好良く再起こそ出来なかったが、それでも最後に“らしい”事はしてやれた。
正直、戦ってて泣きたくなる程懐かしかったよ。無鉄砲な旅をして、お偉いさん方の胃を痛めに痛めて、戦果を誇りながら皆で勝利の宴をやった、もう戻らないあの頃の事が懐かしくてしょうがなかった。


悪いね、『雨(ルーシー)』。君には散々迷惑かけたのに、また君を置いていっちまう。

君が僕を探してる話、何度も耳にしたよ。君は知らないだろうけど、一回だけ僕が滞在してる村を当ててた事もあったんだぜ。
居留守を決め込んだのは本当にすまないと思ってる。合わせる顔がなかったんだ。何もかもへし折れてグズグズになった身でも、せめて妹分の頭の中でだけは格好いい自分のままでいたかったんだよ。お調子者は相変わらずですねって笑う声が聞こえてきそうだけどさ。

僕は多分、勇者の器なんかじゃなかったのだと思う。あの時、牛頭の言葉を聞かされたのが僕でなくて君だったなら、案外死ぬ程凹んだ後に顔を上げて、全て知った上で勇者をやり通していたのかもな。

僕らの中じゃ、多分君が一番英雄だった。悪を倒して善を助け、何度挫けても立ち上がり続ける不屈の信念ってやつを持っていた。
死んだ『雲』と『雷』にどの口で言ってやがるってシバキ回されそうだけど、お調子者の放言って事で話半分に聞いてくれ。

空の勇者は崩壊した。言い出しっぺの『晴』はこの通り腑抜けになって、残ってるのはもう君だけだ。
それでも君なら、僕らが辿り着けなかった何かを成し遂げられる。そう信じて、僕は此処で死のう。
僕の事なんて記憶に残さなくてもいい。もうわんわん声をあげて泣く程子供でもないだろうし、あの屑カスの役にも立たねえなって中指でも立ててくれれば餞としちゃ十分さ。君は只君のままで、君に成せる事を成して欲しい。きっとそれが、このどん詰まりの世界を前に進める何かになる筈だ。

つくづく無責任な発言と承知で言うけど、実のところ、そんなに悔いはないんだ。負け犬に出来る仕事は果たした。そして此処には君がいる。ならこれ以上、何を不安に思う事があろうか。
唯一悔やんでるのは、最後の最後まで君に報いてやれなかった事だ。これだって所詮は只の独り言で、君の耳に届く事はない訳だし。

その上で言おう。何の意味もない遺言と百も承知で、恥も外聞もなく君へ遺そう。
真の勇者は君だ、ルーシー・グラディウス。自分で始めた虚勢も最後まで張り通せなかった情けない男だけど、『空』の名は君に託す。そうだな、だから――



(勝てよ、ルーシー)



【『晴』の勇者/ミヤビ・センドウ 死亡】



◇     ◇     ◇

308ブレイブ・ストーリー ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 22:02:27 ID:3gCuKGLs0



息を切らして、この寒い中で汗まで垂らして、俺は走っていた。
あの化物が追ってきている気配はない。それに安堵を覚える自分の情けなさにすら腹が立って、胃の中身を全部吐き出してしまいたかった。

『晴』の勇者が、俺を守るために死んだ。最後まで見届けた訳じゃないが、俺だって禍者達の命のやり取りは相当な数見てきている。
だから解るのだ。勝つにしても負けるにしても、ミヤビ・センドウは絶対に死んだ筈だ。あの傷では生き延びる事など不可能だし、手当ての出来る人間を逃がしてしまったら万に一つの奇跡も起こる余地はない。

空の勇者の生き残りが、何を思ってその後の世界を生きてきたのかなんて解りやしない。確かなのは、あの人が生きていたならきっと大勢の命を救えただろう事だ。
誇張でなく、儀式の元締め達を打倒して、この殺し合いを終わらせていた可能性だってあるだろう。
その可能性を、あの人は俺ごときの為に投げ捨てたのだ。俺が、『晴』の勇者の再起という誰もが望む未来を断絶させたのだと遅れて実感が込み上げてくる。

この時代を生きていく上で最も不要な物は、つまらないプライドだ。
矜持、沽券。誇りや自負。そういう物に固執する余り雁字搦めになった人間は、俺の知る限りほぼ間違いなく早死にしている。例外はボスのような、自分の力で迫る現実をどうとでも出来るごくごく一部の人種だけ。
それなのに俺は、殺し合いたくないと考えてしまった。ハード・ボイルダーの飼い犬らしく、変な色気など出さずに小狡く目の前の勝ちを狙っていればよかったものを、事を荒立てずに世界を救って貰える可能性はないかと都合いい夢を見てしまってた。

だからこんなに心が痛いのだと思うと、自分の馬鹿さ加減に頭が痛くなってくる。何も考えず、チンピラ崩れの小物らしい無鉄砲を選び取れていたのなら、きっとこの最悪な気分を味わわずに済んだのだ。 ミヤビ・センドウに託されたあの言葉もさっさと胸の外に追いやって、綺麗に切り替えられていたに違いない。

奴が俺に言い残した名は、『雨』の勇者、ルーシー・グラディウス。三つの天候が滅んだ今、生き残っている唯一の空色。

「俺は……」

俺は、どうすればいいのだろう。忘れるのか? それとも雑魚のハンパ者なりに勇者の系譜を追って、今度こそ何かになろうとやってみるのか。
答えを出せないまま、俺は走り続けていた。足がもつれて転び、ガキみたいに膝を擦り剥きながら、口内に溜まった唾液を吐き捨てる。

自分がどんな顔をしているのかは、考えたくもなかった。



【保谷州都】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)
[装備]:
[道具]:支給品一式(武器なし)
[思考・行動]
基本:生き延びる。だが、殺し合いは……
1:今は逃げる。その後は……?
[備考]
※支給された銃は破壊されました。

309 ◆EuccXZjuIk:2025/07/04(金) 22:02:50 ID:3gCuKGLs0
投下を終了します。

310名無しさん:2025/07/06(日) 00:07:16 ID:BndcXqqo0
投下乙です。
約50人の中で初の死者として、残り二人となった勇者の片方を選んだことの重みを感じさせる一作。
世界を救えたかもしれない英雄で、そうなれずに挫折した敗北者だからこそ、若者に未来を託す先達としての役目を担ったミヤビの最後の武勇伝、読み応えは抜群。
喋る破壊兵器のようで武人としての礼節も見せて株を上げる霖雨、取るに足らない命と自覚しながら救われてしまい葛藤する州都の配役も見事です。

311 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:30:42 ID:XNYc9pMQ0
投下乙です!
ミヤビの作成者です、このような素敵な作品を書いて頂いて本当に光栄です。
自分の中でのキャラクター像と一致していて、空の勇者の顛末や第十二崩壊のことについても詳しく掘り下げていただいて作成者冥利に尽きます。
かつての英雄が生きていれば儀式の打破も可能だったかもしれない。ブランクが無ければ勝てていたかもしれない。もっと早く火がついていれば霖雨を倒せていたかもしれない。
なまじそんな「可能性」があったからこそ、ミヤビが諦めてしまった事の重大性が突きつけられているような気がして切なくなりますね。
しかし、ミヤビ自身が述べているように最後に「らしいこと」が出来たことはきっと恵まれているのだと思います。
全てを投げ出してしまった人間が残されたたった一人の勇者にあとを託す。一見勝手と思われても仕方ない行為も、彼なりの勇者らしさなのでしょうね。

>「勝った気になるのはまだ早いよ、若いの。あの四人の中じゃ僕が一番強かったんだぞ」

この台詞めちゃくちゃ好きです。
年季の感じる佇まい、言動がとても刺さりました。

そして霖雨の無機質に見えて武士然とした言動も好き。殺戮マシーンではなく、強者に敬意を払い州都を見逃すところとか無感情とは思えない。
その州都も、自分が勇者の可能性を潰してしまったと自責しながらも生き残ったことに安堵する人間臭さがとても共感できて、読んでいて惹き込まれる。
この後州都がどう転ぶのか、とても楽しみとなる重厚な作品でした。
改めて、自キャラをとても魅力的に仕上げて頂いてありがとうございました。

遅ればせながら、こちらも投下させて頂きます。

312持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:31:39 ID:XNYc9pMQ0



 エトランゼは名家の生まれであった。
 中世の時代に於いて、騎士として武勲を挙げたミルダリス家は、フランスにおいても指折りの家系として名を轟かせた。

 ミルダリス家の長女として生まれたエトランゼ。
 才色兼備という言葉が何よりも似合う完璧超人で、幼い頃から両親にいたく可愛がられた。
 剣を振らせれば僅か二年で師範から一太刀を奪い、ペンを握らせれば数週間で学年を飛び越える。
 すれ違う召使いはみな頭を垂れ、最大の語彙を持ってエトランゼを持て囃した。

 輝かしい未来が約束された令嬢。
 ミルダリス家自慢の長女。
 それがエトランゼ・ティリシア・ミルダリスであった。

 しかし、彼女が18の頃。
 世界を知るよりも先に、世界が凍りついた。
 一切の前兆を見せずに訪れた全球凍結の牙は、ミルダリス家の栄華もろとも噛み砕く。
 ただ一人生き延びたエトランゼは、居場所を失った。

 困窮する民を見て、エトランゼは立ち上がる。
 しかし世間知らずな若輩者が出来ることなどたかが知れていて、幾度も挫けかけた。

 そんなある日のこと。
 エトランゼの街に、〝獅子〟がやってきた。

 国連最後の希望。
 空の勇者よりも先に、民を救うべく立ち上がった『秩序統制機構』の最高戦力。
 フランチェスカ・フランクリーニの姿は、エトランゼの網膜を焼いた。


 ────〝私と共に来ないか。〟


 そう言って、差し伸べられた手。
 その手の感触は、今でもよく覚えている。

313持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:32:18 ID:XNYc9pMQ0


 エトランゼは一年間、彼女の下で鍛錬を積んだ。
 神禍の扱い方に留まらず、絶望する民を勇気づける生き様を学んだ。
 間近でフランチェスカの姿を見ているうち、エトランゼは彼女へ恋情に近い憧れを抱くようになった。

 この人のようになりたい、と。
 向けられるばかりであったエトランゼが、初めて向けた感情。
 
 長いブロンドの髪を短く切り揃え、〝獅子〟の鬣のように仕立てあげた。
 自らを第二の獅子として名乗り、凍てついた故郷にてその名を轟かせた。
 崩壊した秩序を取り戻すため、国連での経験を活かし、〝守護聖騎士団〟を立ち上げた。

 それらの行動は全て民のために。
 幼い頃より培った正義感を存分に活かし、故郷の為に命を燃やした。

 ────なんていうのは建前で。
 エトランゼはひたすらに、フランチェスカの影を追い続けたのだ。
 あの日見た勇姿は、あの日見せた優しさは。
 エトランゼという無垢な少女へ、狂気的な愛を叩き付けた。

 まるで白い絵の具に他の色が混ぜられたような衝撃だった。
 純真なエトランゼが突如抱いた憧れと恋慕には、制御装置など存在せず。
 暴走した禍者を殲滅することに、悦びを見出していた。

 一人、また一人と命を奪うごとに。
 憧れの獅子に近付けているような、麻薬めいた快感が迸って。
 正義を免罪符に行われる殺戮は、エトランゼの存在を確立させた。

 私利私欲で悪人を殺めるなど、世が世であれば絞首刑確実の大罪人。
 しかしそんな常識的な世は終わった。

 絶望に打ちひしがれ、神禍という呪いに人生を掻き乱された弱者から見て、粛々と悪鬼を薙ぎ払うエトランゼはどのように映ったのか。
 彼女の心情など知ったこっちゃなく、自らの描く英雄像をこれでもかと当てはめたはずだ。
 どんな形であれそれが心の泥濘を払う〝希望〟となるのならば、エトランゼもまた紛れもない英雄であった。

 惜しみない喝采と感嘆の眼差しが向けられる中で、エトランゼの視線は常に一点に注がれていた。
 吹雪の中をひらりと舞う紺色のロングコート。その残滓をセピア色に変換して、目で追い続けている。

 エトランゼの神禍は、他の追随を許さない圧倒的な火力を伴う雷撃。
 彼女はこの力を何よりも誇っていた。
 気高き獅子が何気なく放った一言が、メトロノームのように鳴り響いて止まらないのだ。

「────お前の力は、私の欠点を補ってくれる」

 嗚呼、神様。
 感謝します、神様。
 この神禍を恵んで下さって、ありがとう。

314持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:32:46 ID:XNYc9pMQ0

 フランチェスカの神禍は、一対一で真価を発揮する究極の対人特化。
 対してエトランゼの神禍は、多数相手に真価を発揮する究極の範囲攻撃。
 白兵戦と殲滅戦、たった二人の人員で分野の違う戦術を担える事実は、鉄火場において揺るぎない優位性を持つ。

 だから最後の獅子が『魔王』に敗れたと聞いたあの瞬間。
 自分がその場に居ればと、全身が総毛立つほどの悔恨を覚えた。
 エトランゼ本人は気付かなかったが、その悔いの先にあるのは『魔王』を討伐出来なかったことではない。
 フランチェスカを勝利させられなかったこと────この一点であった。

 もしも自分が居れば。
 あまつさえ、死を振り撒いていた『魔王』を討てていたのであれば。
 フランチェスカは間違いなく、自分を褒めてくれていたはずだ。

 エトランゼは、この儀式を好機と捉えた。
 世界再生の為に行われた大掛かりな殺し合い。
 衰退の世を惰性で生きる者たちへ垂らされた蜘蛛の糸。
 十二崩壊、空の勇者、その他一度は耳にした事のある粒揃いの面子の中に、やはりあった最後の獅子。

 彼女はこの儀式で何を成すか。
 エトランゼの中で都合よく曲解された獅子(フランチェスカ)は、まるで漫画本の偶像のようで。
 勇猛果敢な活躍を経て勝ち残り、〝多少の犠牲〟の末に世界再生を成し遂げる。
 それこそが、エトランゼが確信した未来であった。

 ならば自分は、その手助けをしよう。
 彼女が勝ち残れるように、他の有象無象を殲滅しよう。


 ──ああ、お姉様。
 ──愛しきフランチェスカお姉様。
 ──この命は、あなたの為に。


 硝子細工のような純粋な瞳に、狂気を伝播させて。
 雷電心王は、その身を捧げる。




315持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:33:27 ID:XNYc9pMQ0

 
 エックハルトは名家の生まれであった。
 近世の時代に於いて、商業の功績で名を馳せたクレヴァー家は、ドイツにおいても指折りの家系として名を轟かせた。

 クレヴァー家の次男として生まれたエックハルト。
 無為無能という言葉が何よりも似合う凡人で、幼い頃から両親に酷く虐げられた。
 剣を振らせれば一日で見限られ、ペンを握らせれば綴りすら書けない。
 すれ違う召使いはみな陰口を叩き、侮蔑の視線をエックハルトへと向けた。

 遂には存在すら隠匿された恥晒し。
 クレヴァー家最大の汚点。
 それがエックハルト・クレヴァーであった。

 しかし、彼が23の頃。
 世界を知る前に、世界が凍りついた。
 一切の前兆を見せずに訪れた全球凍結の牙は、クレヴァー家の栄華もろとも噛み砕く。
 ただ一人生き延びたエックハルトは、居場所を得た。

 部屋に篭もりきりであった彼は、外へ出た。
 凍えるような極寒も、心を削るような孤独も、エックハルトは苦ではなかった。
 自分を嘲笑する者がいないということが、何よりもの救済であったからだ。

 けれど、生きる意味を見い出せない。
 廃人寸前の放浪者は、ただ居場所を求めて彷徨い歩いた。

 そんなある日のこと。
 エックハルトは、〝姫〟と邂逅した。

 廃墟の街と化したカザフスタンの都市。
 中国にて観測された第六の災禍の手は、僅か数ヶ月で隣国を侵食していた。
 彼女の興した『紅罪楽府』の信徒が蔓延し、心擦り減らす人間がねずみ算式に亡者となる地獄絵図。
 当の本人達からすれば本気で救われているのだから、ある意味では本当の楽園と呼べるその地にて。
 第六崩壊・沈芙黎の笑顔は、エックハルトの網膜を焼いた。


 ────〝私のところへ来なさい。〟


 そう言って、差し伸べられた手。
 その手の感触は、今でもよく覚えている。

316持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:34:04 ID:XNYc9pMQ0
 

 エックハルトは迷わず信徒と化した。
 暴力、強奪、強姦、殺戮、自殺、その全てが〝楽しければいい〟と赦された至上の極楽にて、彼は只管に献身的だった。
 他の信徒のような己の欲を満たすためではなく、芙黎へ信仰心を見せることに心血を注いだ。

 世界で唯一、自分を認めてくれた姫に応えるために。
 第六崩壊討滅の為に群れを成す国連組織や、他の崩壊との戦いで最前線を担った。
 狂気的なまでの盲信により、リミッターの外れた彼は猛獣のようで、神禍殺しの異能も相まって戦果を挙げ続けた。

 ただの一度も褒められたことはない。
 ただの一度も認められたことはない。

 エックハルトを狂わせたのは、姫ではない。
 誇りを重んじるあまりに彼を否定し続けてきたクレヴァー家の在り方が、彼を狂わせたのだ。

 認めて貰えることが、許容して貰えることが、こんなにも嬉しいことだなんて初めて知った。
 姫は常に欲しい言葉をくれる。いや、言葉を掛けてくれるだけで心躍る。
 存在しない物として誰とも言葉を交わさず生きてきたのだから、その反動だろうか。
 今はもう、自分を討とうとする敵が浴びせてくる罵詈雑言すらも心地いい。

  一人、また一人と命を奪うごとに。
 尊ぶ姫へ貢献出来ているような、麻薬めいた快感が迸って。
 自由を免罪符に行われる殺戮は、エックハルトの存在を確立させた。
 
 花園の信徒はいつしか、エックハルトをも崇めるようになった。
 楽園を護る為に尽力する守護騎士と、焦点の合わぬ瞳で持て囃すようになった。
 正気を失った亡者たちからの賛美の言葉など、常人であれば戦々恐々の鳥肌ものだろう。
 しかしエックハルトからすれば、この崩壊した世界においての唯一の居場所であった。

 惜しみない喝采と感嘆の眼差しが向けられる中で、エックハルトの視線は常に一点に注がれていた。
 雪景の中で映える淡黄色のチーパオ。携える笑顔が自分に向けられていると改変し、目で追い続けている。

 エックハルトの神禍は、あらゆる神禍を受け付けない絶対的な防御。
 彼はこの力を何よりも嫌っていた。
 崇拝する姫が何気なく放った一言が、山彦のように反響して止まらないのだ。

「────貴方の力のせいで、愛でられないわ」

 嗚呼、神様。
 恨みます、神様。
 この神禍を与えたことを、絶対に許さない。

317持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:34:39 ID:XNYc9pMQ0
 
 第六崩壊・沈芙黎の神禍は、他者を強化する支援型。
 筋組織や骨の負担を度外視して強制的にリミッターを外すという、刹那に咲く花のような力。
 当然、姫からの寵愛を受けた信徒は次々と壊れていった。
 エックハルトは、それが羨ましくて堪らなかった。

 なぜ自分だけが愛されない。
 クレヴァー家で過ごした23年間を思い出し、何度も涙し、嘔吐した。

 自己嫌悪に心臓が張り裂けそうになりながら、それでも耐え続けた。
 そんなある日のこと、エックハルトに転機が訪れた。
 姫の事を目障りに思った第七崩壊が、紅罪楽府の信徒を洗脳して内乱を起こさせたのだ。

 インドネシアで観測された七番目の災禍。
 それが齎す滅亡の形は、『啓蒙』だった。

 第七崩壊の神禍は洗脳。
 彼が放つ霧を浴びた者は、意思に関わらず第七崩壊を『神』と崇めるようになる。
 神禍に頼らず、己の振る舞いだけで神の領域まで上り詰めた芙黎の存在を、第七崩壊は許さなかった。

 次々と乗っ取られる信徒。
 勢力を伸ばす第七崩壊はしかし、楽園崩壊を目にすることなく沈む事になる。
 それに一役を買った者こそ、エックハルトであった。

 回避不可の理不尽な神禍であろうと、須らく彼の前では意味を成さない。
 エックハルトは第七崩壊に操られたフリをして、見事討ち取ってみせたのだ。
 芙黎はその時、初めてエックハルトの神禍に感謝してみせた。
 凄いわね、その神禍──そんな言葉を拡大解釈して、自身こそが第七崩壊に相応しいと思い込み。
 我こそ彼女の隣に並び立つ資格があると、第七崩壊を名乗るようになる。

 この儀式は、試練だ。
 全ては舞台装置。我が忠誠心を証明するため、掻き集められた役者達。
 主役は無論『姫』を置いて他におらず、彼女の勝利を邪魔立てする者は悪役。
 そして自分は、そんな悪役を蹴散らす白馬の騎士である。
 エックハルト・クレヴァーは一切の疑いもなくそう確信した。
 

 ──ああ、姫よ。
 ──愛しき芙黎姫よ。
 ──この命は、あなたの為に。


 開いた右の眼球に、譫妄を宿らせて。
 自称第七崩壊は、その身を捧げる。




318持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:35:18 ID:XNYc9pMQ0


 その場所は、異質の一言に尽きた。
 全球凍結以降、当たり前となっていた降雪。
 粉雪から吹雪まで異なる顔を持つが、決して姿を見ない日は無かった空からの殺意。

 この場所は、それがなかった。

 暗闇の中でも目立つ宗教じみた都市。
 青とも緑とも取れる色の壁を持つ建造物が並び立ち、アスファルトは最近手入れされたかのように平坦。
 五年前の日常を切り取ったかのようであるが、異様な出で立ちの建造物がそれを否定する。
 現実と夢が入り交じったような、奇妙な空間だった。

「…………」
「おや、おやおや?」

 その地にて、二つの影が邂逅する。
 片や騎士のような装甲を身に纏う金髪の女。
 片や厚手のコートに身を包む薄い青髪の男。
 
 一見すれば接点などないように映る男女。
 性別も出生も、文化も思想も、なにもかも異なる二つの影。
 しかし彼らがこの儀式に呼ばれ、こうして巡り会ったことにはなにか理由があるような。
 得も言われぬ感覚が、二人の神経を貫いた。

「あなたは?」
「これはこれは申し遅れました。私、第七崩壊のエックハルト・クレヴァーと申します。愛すべき『姫』の為、この儀式に馳せ参じました」

 女、エトランゼの問い。
 対して男、エックハルトは胸に手を添えて一礼と共に名を告げる。
 左眼を強く閉じているからか、端麗な顔立ちが台無しなぎこちない笑み。
 カラクリ人形のような不自然さに目もくれず、エトランゼの頭を無視できない疑問が掠めた。

「馬鹿な、第七崩壊は死んだはずです」
「ええ、ええ。そう語る者も居るでしょう。けれどそれは大きな間違い、行き違い。第七崩壊は滅んだ、と。そう思う事で救われるのであれば、それも良し。否定は致しません、『姫』は全てを肯定するのですから」

 早口で捲し立てる男へ、エトランゼは瞬時に判断する。
 この男との問答は成立しない、と。
 自ら崩壊を名乗る者はそう珍しくないし、言葉の通じない者は更に蔓延っているのがこの新世界。
 ならば切り捨てようと、神禍を発動しようとしたところで──ふと、男の述べた一つの単語が引っかかった。

「……『姫』、と仰いましたか」
「おや、ご存知ですか。よい事です」

 聞いたことがある。
 中国の広大な土地は今や、『姫』と呼ばれる第六崩壊を盲信する信者に溢れていると。
 当初は第七崩壊と同様の精神汚染系の神禍だと疑われていたが、どうやら信徒は自ら彼女に付き従っているらしい。
 対面したことはないが、エトランゼはその話を聞いた時に戦慄した。

319持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:35:51 ID:XNYc9pMQ0

 この救いのない世界にて、莫大な数の信徒を増やす事が出来る人間。
 それはたとえ崩壊という名を持たずとも、エトランゼからすれば忌まわしい事この上ない。
 人を惹きつける力を持つ者、人の上に立つ者──エトランゼにとってそれは、フランチェスカただ一人なのだから。

「姫は大変慈悲深く、寛大です。世界再生の儀においても、あの方は変わらない。あの方が勝ち残るべきだ。あの方以外が上に立つことなど有り得ない! あってはならないのです!」

 右眼を血走らせ、唾を飛ばして男が喚く。
 エトランゼはその言葉を聞き流すよう努めるが、どうしてもそれが出来ない。
 彼女の左眉が不快そうに歪められているのが、なによりもの証拠。

 ────こいつは、何を言っているんだ?

 第六崩壊〝ごとき〟が勝ち残るべき?
 第六崩壊以外が上に立つことなど有り得ない?

 普段のエトランゼであれば禍者の、ましてや正気でない信徒の言葉など毛ほども動揺もしなかったはずだ。
 けれど今この孤島にいるのは、エトランゼや『姫』だけではない。
 彼女の敬愛する獅子が、ここにはいる。
 それを含めて有象無象のような扱いを受けたとあれば、エトランゼが激情を抱くのは当然だった。

「わかりました、では────」

 掲げられた雷電心王の右手に、稲妻が迸る。
 漂う電気の粒子は黄金に瞬いて、段々と長剣のような形へ集結する。
 聖騎士の鎧に相応しい構図。宵闇を切り払う雷剣を手にする様は、紛れもない希望の象徴。

 この背中を追い続けた者もいるだろう。
 神話から飛び出したような勇ましい姿に、友軍はどれほど勇気付けられただろう。
 そんな騎士の手本のような聖戦剣姫は今、怒りで悪を殺そうとしている。

 エックハルトは「ほう」と短く唸り、コートの内側から銀色のナイフを取り出す。
 雷電心王の持つ稲妻の剣と比べればあまりにも非力で、小振りで、頼りない得物。
 傍から見ればその戦力差は明らかで、エトランゼの伝説を知らずとも彼女の勝利を確信するだろう。


「────死になさい」


 エトランゼが剣を振るう。
 間合いから大きく外れた素振りはしかし、開戦にして終戦の合図。

 戦いは、ものの数秒で終わった。
 降り注ぐ雷撃は自然のものと比べても、明らかに異常な大きさ。
 それはもう落雷などという生易しいものではなく、空から波動砲が打ち出されているかのよう。
 百や千の軍勢であろうと殲滅せしめる威力の雷霆は、出力だけならば『雷』の勇者にも勝ると言われた代物。
 一個人に向けるにはあまりにも過剰な攻撃は、瞬く間にエックハルトの姿を包み込んだ。


◾︎

320持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:36:26 ID:XNYc9pMQ0


 全球凍結した地球において、落雷を目にする機会など神禍を除いて存在しない。
 太陽光による上昇気流が存在せず、そもそもとして積乱雲が発生しないからだ。
 轟く雷鳴と闇を切り裂く稲光は、この孤島においてもさぞ目立ち、〝異変〟を伝えたであろう。
 儀式開始から間もなく。この瞬間に放たれたエトランゼの雷撃は、間違いなく最大規模のものだった。

 ならば、それを浴びたエックハルトは。
 回避も防御も許さない撃滅の光を前に、塵と化すのが道理である。

 エトランゼは神禍の応酬を殆ど味わったことがなかった。
 理由は至極単純、相手の神禍を知る前に戦いが終わっているのだから。
 そういう意味ではエトランゼの『雷電心王・聖戦剣姫』はまさしく、理不尽の極みと言って差し支えない。


 ──ああ、だからこそ。
 ──勝敗を分けたのは、その差なのだろう。


 コンクリートを捲り上げ、建造物を倒壊させる極光の中。
 エトランゼの瞳孔は確かに、一筋の影を捉えた。
 獣の如く不規則で、素早く肉薄するそれは人型であったように思える。
 触れるもの全てを灰燼と変える落雷に呑まれながら、〝それ〟は身怯み一つ見せず邁進している。
 誇り高き騎士の思考を、夥しい数の疑問符が覆い尽くした。

「足りませんねェ、〝愛〟が」

 ぽつりと、そんな言葉を聞いた気がする。
 培われた反射神経が刃を振るうよりも早く、疾風のような影がエトランゼの横を通り過ぎた。
 彼女の細首に刻まれたスティグマの跡。それをなぞるかのように、一筋の赤い線が走る。
 雪とは違う冷たい感触が通り抜けたような感触の後、じわりと熱を帯び始める。
 喉元から右横にかけて伸びる線からぽたりと雫が垂れて、まるで噴水の如く咲いた。

321持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:37:05 ID:XNYc9pMQ0

 ぐらりと、エトランゼの身体が崩れ落ちる。
 久方振りの降雪がない星空を眺めて、あまりの眩しさに目を細めた。

 万華鏡のように揺れ動き、幾重にもブレて見える星々。
 急速に身体から力が抜けていき、意識が微睡みの中へと落ちてゆく。
 嫌だ、眠りたくない、ここで寝たらあの人に会えない。
 そんなエトランゼの思考を嘲笑うかのように、視界の端から黒色が侵食し始める。

「お、……ねえ、さ…………ま…………」

 黒に染まりゆく視界の中心、燦然と輝く星。
 藻掻くように伸ばされた手は、光を掴もうと空を切る。
 その手を掴む者は遂に現れず、やがてぱたりと地に落ちた。


◾︎

322持つ者、持たざる者 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:38:09 ID:XNYc9pMQ0


「ああ、やはり、やはり。神は私に、姫に微笑んだ。それも当然、真に世界の救世主たるは姫ただ一人なのですから」

 物言わぬエトランゼの遺体。
 深い切創が刻まれた首元へ手を当てがい、支給品を回収する。
 その手際には一切の迷いも躊躇いもなく、自身の行いが正しいと心の底から信じている証拠であった。

「姫、姫。私は今悪鬼を一匹仕留めました。どうか、どうかお褒め下さい。微笑みを下さい。愛を、愛を下さい!」

 ゆらり、ゆらりと。
 幽鬼を思わせる足取りで、狂信者は歩く。
 真実の愛を求めて。気分はさながら詩を運ぶ吟遊詩人。

 エトランゼの神禍は確かに理不尽。
 ひとたび何も知らぬ者が対峙すれば、わけもわからずに塵となるだろう。
 しかしエックハルトは、理不尽を殺す理不尽。

 神禍殺しなる神禍が存在することは、エトランゼも話に聞いていた。
 しかしその可能性はないと、無意識に頭の中から除外してしまっていた。
 その理由こそが、彼女が血で上書きされたスティグマだ。
 神禍を無効化する者はそもそもとしてこの場に呼ばれるはずがないと、そう思い込んでしまったのだ。
 
 確かにその推察は正しい。
 エトランゼが真っ先に可能性を排除するのは無理もない、当然の判断と言える。
 事実、エトランゼの即断はエックハルトを除いた殆どの参加者に致命傷を負わせられただろう。
 しかし、ただ一人の〝天敵〟と巡り会ったことは──果たして運命の悪戯だろうか。
 
 エックハルト・クレヴァーは何も持っていなかった。
 対してエトランゼは、全てを持っていた。
 勇気も力も知恵も、努力などというものでは到底埋まらないほどの差があった。


 けれど、ただ一つだけ。
 エックハルトが上回るものがある。


 それこそが、狂気的とも言える〝愛〟であった。


【エトランゼ・ティリシア・ミルダリス 死亡】


【E-3・聖域/1日目・深夜】
【自称No.7『啓蒙』 / エックハルト・クレヴァー】
[状態]:健康
[装備]:ナイフ
[道具]:支給品一式×2、無数のナイフ、ランダム武器(???)×2
[思考・行動]
基本:『姫』を優勝させる。
1:邪魔者を排除し、白馬の騎士になる。
[備考]
※エトランゼの名前をスティグマに刻みました。

323 ◆NYzTZnBoCI:2025/07/08(火) 00:38:29 ID:XNYc9pMQ0
投下終了です。

324 ◆EuccXZjuIk:2025/07/08(火) 20:25:28 ID:bu2QEhEk0
投下お疲れ様です。そして感想もありがとうございます。とても励みになります。

>>持つ者、持たざる者
立て続けの死亡回、然しながら殺す側も殺される側も鮮明なバックボーンが明かされて結末を迎えるまでにどちらに対しての思い入れも深まっていく構成がとても魅力的。両者の背景を理解させられた上で読まされる、呆気なくさえある無情な結末の重さが倍にも際立って感じられる。
エトランゼもエックハルトも、どちらも憧れた事で狂い始めた者であるという共通点があり、そんな二人の命運を分けたのはまさにタイトルにもあるように“持っている”か“持っていない”かだったのだと感じ入らされます。
ともすればトップマーダーを張れても不思議ではない強力な神禍を持つエトランゼがこうして初段で落ちる展開は、このバトルロワイアルという儀式が如何に無情な魔境であるかを突き付けるようなもの。
拙作で保谷州都に“神禍殺し”という概念について触れさせましたが、エックハルトのはまさにその究極形と言って過言ではないでしょう。彼が第七崩壊を名乗っている事は酔狂の類でこそあれ、決して身の程知らずの戯れ言ではないのだという説得力がある。そして彼の強さ異常さが激しいものであればある程、これの生産者である本物の十二崩壊の恐ろしさも跳ね上がる。底のない絶望感を思わせてくれる一話でした。
素敵な作品の投下、誠にありがとうございました。

325 ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:40:25 ID:lfPMS5/Y0
投下します

326 ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:40:43 ID:lfPMS5/Y0
鋼の塊が、鎮座していた。
島の中央、とうの昔に人の絶えた、しかして過去に凄惨と苛烈の双方を極めた戦争が有ったと、訪れた誰もが悟る場所に、巨大な鋼塊が存在している。
辺り一面に、破壊され、とっくの昔に動く事が出来なくなり、辛うじてかつての姿を留める無数の兵器達…重砲、戦車、装甲車、重機関銃、対空砲…その他諸々が凍てついた大気に身を晒していた。
その中にあって、その鋼の塊は、周囲の残骸達を圧倒する“圧”を発している。
まるで鋼の鱗を持つ巨竜が踞っているかの様な、存在するだけで、大気を歪め地軸を傾ける、そんな重い圧を周囲に発していた。
無数に転がる、かつて兵器だった残骸達の全てが、往時の姿と力を取り戻しても、鎮座する鋼の塊の存在は、彼等を圧倒するだろう。
鋼塊が動き出せば、動くまでも無く、僅かでも触れれば、それだけで全身の肉が潰れて骨が砕けて死ぬ。
見るもの全てにそう思わせるに足る鋼の威容は、この骸しか無い土地に在って、異常を極めていると断言出来るだろう。
人も兵器も、かつてここで戦ったもの全てが死に絶え、永い時間が経ったこの場所で、この様な“圧”、言うならば生命力を放つという事が有り得ないのだ。

「久しく求めていたモノが、向こうからやって来るとはなぁ……」

死の静寂に満ちた大気が揺らぐ。
決して動かない筈の、死の戦場跡に動きが生じる。
鋼の塊が、周囲に放つ“圧”をそのままに、動く。

鋼塊と見えたものは、人間。
巨躯と肉体の質感の為に、鋼塊と見えていただけに過ぎない。
鋼の名は、マハティール・ナジュムラフ 。
全球凍結後の大戦に於いて、前にも立ち塞がった者も、後ろに従った者も、悉くを殺し尽くし、遂には祖国も部下も消え果てて、ただ一人凍結した大地に佇立した男。
全てを滅ぼし尽くした所業に相応しく、全球凍結以前から、厳しく生命を拒み続けた砂漠に居を定めて、その地に君臨する『魔王』。
神を信じず、只々己のみを信じ、この神無き世にあって、己が神足らんと不滅を欲する禍者である。
だが、砂漠の魔王とても、今現在は救世主を産む為の生贄の群れの一人。
過去にマハティールが、不滅を獲得する研究の為に殺してきた者達と、立場を等しくしているのだった。

327The Great War ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:41:57 ID:lfPMS5/Y0
「救世に興味は無いが、救世主には興味も用も有る」

獰猛な戦意の籠った声。魔王がこの戦いに臨み、勝つ事を決めていると、万人に知らしめる声。
風が吹いた。雲に覆われた空が哭き喚いているかの様に、狂風が吹き荒ぶ。
唐突に吹き出した風は、マハティールに怯えた世界の恐怖の叫びの様に見えた。
無理もない。マハティール・ナジュムラフ とは、十二の崩壊に迫る程の血を流し、屍を積み上げた魔王の名なのだから。
意志のこもった言葉一つで世界を狂乱させる。その程度ならば造作も無い。

「十二崩壊に、空の勇者に、汚濁を撒くガキ。何奴も此奴も大した奴等だが、殺せるし死ぬ連中だ。
殺す数は精々四十人程度。それだけで救世主が頂けるんなら安い安い」

神の定めた滅びの先兵たる十二崩壊。
人類の希望“だった“空の勇者。
通過した土地全てを完全に死滅させる汚濁の少女。

これらを敵に回して殺し合う。
マトモな精神の者なら、誰で在っても気を重くする名の数々を、マハティールは一笑の元に切り捨てた。
大言壮語、夜郎自大、増上慢。如何なる言葉を尽くしても、到底足りぬ身の程知らず。
だが、マハティールは決して敵の力も己の力量も、把握できぬ阿呆では無い。
総身に満ち満ちている傲岸なまでの自信は、冷徹な理知に支えられているものだ。
驕り、高ぶり、油断無く。勝つのは俺だと宣言する。
不死身の肉体と、十二の崩壊の中で最大の巨躯を誇る八位でさえもが、遠く及ばぬ質量を以って、全ての敵を殺し尽くすと宣言する。
更に激しさを増す風の中で、魔王の全身に戦意が漲っていく。

「ORANGEのガキだけは、殺すのが勿体ねぇが…。アイツはレアだ。使い用は幾らでもある。
……蘇らせられねぇものか」

マハティールと同じく、中東に存在する組織を率いる少女もまた、殺し合いに招聘されている。
己の脳に、人の脳内情報を蓄積するレンブラングリード・アレフ=イシュタルは、己が肉体に質量を蓄えるマハティールと相似にして対極。
組織を率いて己に抗するという点を抜きにしても、何れは捕らえて不滅の探求の実験に使おうと思っていた相手だ。
今ここで相見え、殺すことは何でも無いが、希少な神禍が消え去るのは勿体無い。
ソピアの説明からすれば、この殺し合いで死んだ者は、ルクシエルでも蘇生出来ないらしい。

「殺す前に“使う”しかねぇな」

魔王は即断を下す。レンブラングリード・アレフ=イシュタルを、己が探求の為に使い潰しながら殺害すると。

「まあ会う前に、他の奴に殺されてるかも知れねえが……あ?」

不意に風が止んだ。
何の前触れも無く、不意に停止した様は、まるで何かに怯えたかの様だった。

328The Great War ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:42:28 ID:I0LI97Po0
「何だ…?」

大気が重さを増している。
重さを増しながら、激しく神童している様な感覚。
何かが近づいて来る。
砂漠の魔王マハティールをして、重圧を感じさせる怪物が。
其処に在るだけで、大気を震わせる威風を放つ何者かが。

小さな音が連続して響く。
近づきつつある何者かに応じ、マハティールの身体が膨れ上がっていく。
マハティールの神禍、不滅なりし地獄の王(マリク・ジャハンナム)。
無機物を細胞レベルにまで圧縮して取り込み、任意で元のサイズへと戻す神禍。
神禍を用いたマハティールの戦闘形態は、金属の甲殻で全身を覆った異形の姿への変身である。
今や、3mを超える大きさとなったマハティールの身体を覆う、光沢を帯びた黒い甲殻は、戦車の装甲を用いたもの。
歩兵の────要は個人の携行出来る火力では、対戦車兵器以上の火力でも持ち出さねば、マハティールを殺す事は叶わない。
第三次世界大戦に於いて、マハティールを無敵の魔王足らしめた、恐るべき神の禍。
救世主を生み出す儀式に於いても、その脅威は変わらず健在。
鋼の魔王の前に立った者は、己が何に挑んだかを知った時、既に生命活動を停止している事だろう。
更に膨れ上がった“圧”は、もはや物理的な現象すら生じ、マハティールの周囲の石が転がって行く。まるで石塊ですらが、魔王の威に怯えて逃げ出すかの様だった。

マハティールの右腕が変わる。
巨大な鋼の巨人の腕が、長大な砲身へと。
125mm滑腔砲。イランの主力戦車、ゾルファガールの主砲である。
重く低い砲声は、鼓膜では無く腹へと響く轟きだった。
音を超える速度で放たれた砲弾がは、人体程度には過剰極まるオーバーキル。
当たるどころか、至近を掠めただけで絶命に至る。

マハティールの耳に、最初に聞こえたのは、音。
硬い物が、硬い物を砕く音。
僅かに遅れて聞こえた甲高い音は、飛来した物体に引き裂かれた大気の絶叫だろう。

「クハッ」

マハティールが笑声を漏らす。
マハティールが放った砲弾を撃砕して飛来した“何か”が、マハティールの鋼の身体を抉り砕いた事を、マハティールだけが知っていた。

否、もう一人。

マハティールへと近づいて来る、マハティールが攻撃し、マハティールの身体を砕いた者が居る。

「金属に変化する神禍かと思ったが、どうやら異なる様だ。砲撃など久方振りの事でな、つい力が篭ってしまった。許せよ」

耳に残る美声は、女のもの。
だからといって、マハティールは僅かも油断はし無い。
神禍という、誰しもが人を傷つけ殺す力を有する現在の地球に於いて、性別や年齢など、戦力を量る物差しになど成りはしない。
そんなものに惑わされた愚者から死んでいく。
それがこの凍てついた星の常識である。

「いきなり、噛み応えの有る奴が来たもんだ」

マハティールは、近づいてきたものを、人語を話しているにも関わらず、最初は人間と認識できなかった。
マハティールが視たものは、巨大な獅子。
真夏の陽光を思わせる、輝く黄金の毛並みを持つ、巨象ですら─────恐竜であっても単独で屠り喰らう、黄金の獅子。
咆哮一つで、万の軍勢を薙ぎ倒し、爪の一振りは戦車の正面装甲ですら引き裂き穿つ。力の化身。
現に近づいて来るだけで、全身の骨が軋む程の重圧を、砂漠の魔王は感じている。
意識を向けていないままに、近づいて来るだけで、これだ。
意識を向けられてしまったが最後、只人ならばそれだけで心の臓が破裂してしまうだろう。
マハティールの口元が獰猛に吊り上がる。
これから起きる事が、愉しみで仕方ないという風に。

「気にすんなって、戦場じゃ良くある事さ」

マハティールが笑う。魔王が笑う。
常人ならば、思考も呼吸も脈拍も止まる重圧に晒されて、傲然と笑い飛ばす。

329The Great War ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:42:55 ID:lfPMS5/Y0
「どの道、やる気なんだろう?なら、これくらいやる方が、殺し甲斐が有るってもんさ」

身体を貫いて背後の地面に刺さったモノを引き抜いた。
黄金に輝く三叉槍を一振り。軽く降ったとしか見えないのに、どれ程の力が篭っていたのか。轟を伴って暴風が吹いた。

「良い槍だが、それだけでしか無ぇ。こんな物で俺の身体を貫くとは…。ひょっとして十二崩壊か?」

「第二崩壊。そう呼ばれている」

「ハハッ!ハリマオ!!まさかお目に掛かれるとはな」

マハティールの前に立つは、全身から飢えた虎でも避けそうな獰猛な戦意を放つ、豪奢な金襴の衣を纏い、首には巨大なライオンの牙で作られたネックレスを下げた、長く深い黒髪の美女。
漲る精気と、滾る闘志とが、琥珀色の両瞳から、猛々しい眼光となって放たれている。

────射竦められたものが、忽ちの内に砕け散る。

”砂漠の魔王”マハティール・ナジュムラフ ともあろう者が、そんな事を思ってしまう程の眼差し。

「返すぜ、素手じゃキツイだろう?」
 
手首の僅かな動きで、槍を投げ返す。
真正の殺意が籠められていた。そう思わせる勢いと速度で飛んだ槍は、あっさりと女の手中に収まった。
十二崩壊と呼ばれる存在が、折角手放した武器を返す。愚行そのものの行為だが、為した者はマハティール・ナジュムラフ 。砂漠の魔王。
ならば武器を返すという行為は、愚行では無く傲岸とも言える自負の現れ。

「さあ、やろうぜ。殺し合いだ」

鋼の巨躯が、更に巨(おお)きくなっていく。
同時に膨れ上がり、周囲に放たれる、暴力的なまでの"圧”。
只人ならば押し潰されそうな魔王の威を浴びて、女は獰悪な笑みを浮かべた。

「応とも」

槍を引っ提げたまま、“第二崩壊”ライラ・スリ・マハラニ は、無造作にマハティールへと歩み寄る。
二本の脚を交互に動かして歩くという、人類普遍の行為を行いながら、動きそのものの質と、何より動きに込められた力とが、この女が常人とは隔絶した存在だと知らしめる。
歩く姿に一切の隙が無く。一歩を踏むたびに、巨山が動くかの様な錯覚を覚えさせる力感。
これこそが十二崩壊。
人類社会を終わらせた、十と二個の怪物達。

両者の距離が接近するに連れて、世界が軋み、歪んで行く。
再度吹き荒び出した狂風は、世界が上げる恐慌の叫びの様だった。
やめろ。やめろ。やめてくれ。お前達の相剋に、俺(世界)はとても耐えられない。
そんな絶叫を世界そのものが発している。
耳元で発砲しても、聞こえぬかも知れない風の轟の中で、二つの声は明瞭に聞こえた。

330The Great War ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:43:25 ID:lfPMS5/Y0
「行くぜ」

「来い」

初手は魔王。
黒鋼で出来た巨大な拳を、金獅子の顔目掛けて撃ち込む。
凄まじい剛力を込められた巨大質量は、積み重ねた訓練と、作った骸の数に裏打ちされた経験により、練達の技となって繰り出された。
剛速で奔る巨拳は、大気を震わせ押し出しながら、真っ直ぐ金獅子の頭部へと迫り、前触れ無く軌道上に出現した黄金の三叉槍と激突した。
黄金と黒鋼とが接触した瞬間、雷が百纏めて落ちたかの様な轟音が生じ、次いで起きたのは比喩でも何でも無く爆発だった。
凄まじい紅炎を伴う爆発を至近で受けて、金獅子の身体が後方へと飛んで行く。
鋼拳と黄金槍交わった瞬間、拳に仕込まれた指向性爆薬が起爆され、金獅子に一撃を見舞ったのだ。
秒を数えるよりも速く、芥子粒よりも小さくなった金獅子へと、魔王は更なる追撃を開始する。
左右の肩と肘と膝、合わせて計六門の重砲が出現し、黒々とした砲口を金獅子へと向ける。
個人相手に使うとなれば、過剰という言葉すら及ばない。この様な挙を行う者は、生涯に渡って怯懦の謗りを免れ得ないが、相手が十二崩壊の一人と有れば話は別。
空の勇者、全人類、果ては同輩たる十二崩壊ですらが、妥当な行為と認めるだろう。

六門の重砲から放たれた六発の榴弾は、狙い過たずに金獅子へと吸い込まれ────黄金の光が閃いた。
マハティールの左腕が、巨大な鋼塊へと変じ、マハティールの巨躯を覆い隠す。
直後に左腕に感じる六つの鈍い衝撃。
金獅子が、槍の一振りで砲弾を送り返したのだと、マハティールは知っている。
右腕を巨大な剣へと変貌させ、思い切り右から左へと薙ぎ払う。
剣身は空を切ったが、マハティールは確かに金獅子の存在を感じていた。
両膝の位置でクレイモア地雷を起爆する。
千を超えるのベアリング弾が、金獅子を捉える事なく、虚空の彼方へと飛んで行く。

「一つ訂正しておく」

背後から聞こえた声に即応し、魔王の背面から飛び出す無数の銃剣、軍用ナイフ、スコップに手斧。
それら全てが、同時としか感知できない程の時間で砕かれたのを、知覚したのと殆ど同じくして。

「ハリマオは虎だ」

背から腹へと抜ける黄金の輝き。

戦車の装甲と同じ強度の身体を、金獅子の槍は薄紙の如くに貫いていた。
狙った場所は腰。
腰椎を破壊して、魔王の動きを止めるべく放たれた、精妙にして冷酷無比な刺撃。

「そいつは済まなかったな」

槍の切先が、鋼の皮膚を貫いたと同時に動き、マハティールは辛うじて槍の軌道から腰椎と脊椎を外す事に成功。
行動の自由を守り抜いたマハティールは、金獅子が槍を引き抜くよりも早く、背面からクレイモア地雷を射出。同時起爆された十基のクレイモア地雷から7000の鉄球が金獅子へと飛翔する。
殺到する鉄球は、全て金獅子の身体を捉え、濛々たる煙の中に包み込んだ。

「随分と頑丈なこった」

右腕の肘から先を、黒光りする鋼の巨剣と変え。左腕の肘から先を、銃剣付きのグレネードランチャーへ変形させ。振り返ったマハティールは笑う。
マハティールから3mの位置に、金獅子は傲然と佇立していた。
鉄球の猛打により豪奢な衣服はボロ切れと化し、機能美と女性美の完璧な結合と断言できる裸体を、惜し気も無くマハティールの視線に晒しているが、羞恥も怒りも微塵も無い。

「普通なら、服と一緒にボロ切れになってる筈なんだがなぁ」

数が多いだけの鉄球で、十二崩壊を殺せるとは思ってはいなかったが、こうまで無傷だと流石に不安が過ぎる。
斃せるのか?下せるのか?殺せるのか?
脳裏を掠めた不安を、鋼の魔王は笑傲して、剣と変じた右腕を振るい抜く。
相撃つ鋼の凄絶な響きが、戦場跡の大気を震わせ、両者の身体を通じて地面へと伝播したエネルギーが、岩盤を砕き宙へと巻き上げる。

331The Great War ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:43:54 ID:lfPMS5/Y0
「可愛げの無い雌(オンナ)だ、折角抱いてやろうと思ったのによ」

金獅子の身体を、左の首筋から右腰へと断割する巨剣は、唐突に軌道上に出現した黄金の三叉槍により停止させられていた。

「……好きにすれば良い」

「あ?良いのかよ」

「弱肉強食が我が理にして法。犯すなり喰らうなり好きにすれば良い」

鋼の魔王と金獅子。両者の武器の接触する箇所が、加えられる力の異常な強さにより、灼熱の溶岩を思わせる色を帯びていく。
凍結した世界では決して感じ取れぬ焦熱を、槍と剣の接合点は発していた。

「私に勝てればな」

金獅子の内側で高まる力。両者の均衡は刹那にも満たぬ間に崩壊した。
巨大な波濤を思わせる膨大な力が生じ、魔王の巨剣を跳ね上げる。
無様に隙を晒したマハティールへと、金獅子の槍が螺旋を描いて奔る。狙いは心臓。
薄紙の様にマハティールの鋼の身体を貫く黄金の槍は、回転運動を加えられて、突き穿つ威力を乗算的に増している。
直撃すれば、刺し貫かれるだけで無く、山を穿つトンネル掘削用削岩機の如くに回転する三叉槍に身体を抉り削られ、マハティールの身体に大穴を開ける一撃。
鋼が引き裂かれる壮絶な響きと同じくして、地軸を揺らがす爆発が生じた。
金獅子の一撃を避け得ないと知ったマハティールが、取り込んでいた1トン爆弾を起爆させ、自分諸共金獅子にカウンターを浴びせたのだ。

「化け物が」

マハティールがこの様な事を言うとは、生者と死者とを問わず、マハティールを知る者ならば驚愕する事だろう。
だが、相手は十二崩壊。人類文明を終焉に導いた条理を超越した存在。
魔王から化け物と呼ばれる事に、何らの違和も生じない。
鋼の軋む音とともに、傷を修復するマハティールの視界を、黄金の閃光が横切った。
立ち込めていた爆煙が綺麗に消し飛び、無傷の金獅子が現れる。
硬い音が、マハティールの腹の辺りで聞こえた。槍の一振りで周囲を覆う黒煙を吹き飛ばし、マハティールの腹へと真空刃を撃ち込んだとは、当の金獅子とマハティールにしか分からない。

全裸で立つ金獅子は、一糸纏わぬ姿なだけに、無傷が却って強調されて、凄まじい圧迫感を、マハティールへと与えてくる。
久方振りに意識する“死”を、マハティールは笑って受け入れた。

「面白い。殺し甲斐がある」

マハティールの姿が更に変わる。鋼の魔王が、取り込んだ戦力全てを、一人の女へと開放する。
受けて立つは、十二崩壊が第二位、“金獅子”ライラ・スリ・マハラニ。


◯◯◯

332The Great War ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:44:19 ID:I0LI97Po0
◯◯◯

閃光が夜闇を裂き、轟音が大地を震わせる。
銃撃、砲撃、爆撃、斬撃、刺撃、射撃、突撃。
砲火と銃火が絶えず閃光で周囲を照らし、ばら撒かれる爆弾と爆薬が、周囲の地形を変えていく。
内燃機関を唸らせ走る装甲車が戦場を駆け、放置された残骸に激突して爆発炎上する。
其処に有りしは戦争。文明が崩壊し、とうに戦火の絶えた星で、単独で戦争を再現するは、“砂漠の魔王”マハティール。
乱れ撃つ砲爆撃が、地面に次々と大穴を穿ち、転がる残骸を粉砕する。
個人に対して用いられるには、明らかに過剰という域を超え、異常の域へと到達している。
これ程の兵器を用いれば、都市とて瓦礫となるだろう。
ならば、未だに、マハティールが攻撃を止めないのは何故なのか?
答えは単純。殲滅対象たる金獅子が未だに健在であるからだ。
飛来する砲弾の軌道を槍先で逸らし、殺到する無数の小銃弾を槍を振るって剛風を起こして払い落とし、投げつけられる爆弾は地を駆けて直撃を回避する。
槍を振るう動き、体捌き、歩法、目付き、重心移動、それら全てが武技の極限。
個人が発揮する極限域の絶技を呼吸をするかの様に行い続け、マハティールの砲火を悉く防ぎ躱し凌いで行く。
だが、それだけでは、この異常の説明がつかない。
乱れ飛ぶ破片や瓦礫に爆風、更には至近を掠める砲弾による衝撃波。
マハティールの放つ攻撃は、どれ一つとっても人体を破壊するには充分過ぎる。
何故、金獅子の身体が砕けていないのか。
薄布一つ纏う事無く晒された裸身の何処にも、微小な傷すら存在しないのか。

『第二崩壊・獣狩猟法(ラジャ・シンガ・ペルブルアン)』
十二崩壊第二位。“金獅子”ライラ・スリ・マハラニ の有する神禍。
一定範囲内を猟場として、狩られた者の生命力と闘争本能を喰らい、自身を強化する神禍。
猟場の王は、猟場で狩られる全てを己が獲物とし、その生命を喰らい尽くす。
今は猟場を持たぬ身ではあるが、かつて君臨した猟場で喰らった生命は、今なお金獅子の中で渦巻いている。
マレーシア全土を支配した金獅子の力は、一国の軍隊にも匹敵する。
それは単独で戦争を成し得る鋼の魔王とて、簡単に打倒し得るものではない。
これこそが、異常なまでの強度の原因。
単独の生命としては第六位に劣るものの、喰らって喰らって強大と成った金獅子は、魔王や姫をして瞠目せしむる脅威となる。

一人で一国に匹敵する金獅子に慄くべきか。それとも十二崩壊第二位相手に戦争を成立させる鋼の魔王を恐怖すべきか。

戦況は五分と五分。
鋼の魔王の猛攻は、金獅子を傷つけられず。
金獅子の絶技は、鋼の魔王の身体を砕くに至らない。
だが、此処に一つの十代な要素が有る。
この戦闘の結果を定める要素が。

「認めよう。貴様は我等(十二崩壊)にも比肩し得ると」

砲声と爆音止まぬ戦場に、玲瓏と響く女の美声。
此処に於いて金獅子は、鋼の魔王が十二の崩壊に匹敵し得ると認めたのだ。

「本気で殺す。全力で喰らうに足る相手と認めよう」

今まで全力を出していなかった金獅子が、此処に至り遂に前力を解き放つ。
金獅子の総身から、黄金の闘気が放たれた。
分厚い雲に覆われ、星も月も光を地上に届かせる事能わず。辛うじて太陽のみが薄光りを届かせるこの世界で、夜闇を照らして眩く激しく輝く様は、正しく陽光と呼ぶに相応しい。
これこそが、金獅子の名の由来。

鋼すら溶かす熱量と、戦場跡のみならず、周辺のエリアすらも照らす光。
太陽そのものの黄金光は、魔王の動きはおろか、思考すらも止めるに充分だった。

「洗脳するだけの者では無く、貴様が第七であったならば、とうの昔に喰らいに行ったのにな」

動きを止めて隙を晒した鋼の魔王へと、奔る黄金の極大光。
凡そ森羅万象悉くを、貫き穿ち砕き散らす破滅の輝きは、真っ直ぐに魔王へと伸び。

魔王の眼が、凄絶な殺意を宿して金獅子へと向けられた。

「初戦でコイツを使うとは思わなかったよ。金獅子」

金獅子の極光に比する閃光が奔り、次いで爆音と共に捲れ上がった岩盤が、何処までも広がり、戦場跡を呑み込んだ。


◯◯◯

333The Great War ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:44:41 ID:lfPMS5/Y0
◯◯◯


「燃料気化爆弾まで使った甲斐が有ったのか無かったのか」

戦場跡に聳え立つ巨大な人影。
所々が欠けた姿は、永い永い時を経た鋼鉄製の神像とも見紛う威容。砂漠の魔王マハティール・ナジュムラフ 。
全力を出した金獅子に抗すべく、大型爆弾複数と、燃料気化爆弾まで使い、金獅子を退ける事に成功したものの、表情は勝者のものとは到底言えなかった。

「あそこまでやったんだ。死んどいて貰わないと、次は少し手を焼くぞ」

殺される寸前にまで追い込まれて、それでもなお、この言い様。
金獅子が死んでいれば、それで良し。生きていても、次に逢えば必ず殺す。
十二崩壊の脅威を直接受けて、なおも揺らがぬ自負。
魔王と呼ばれるに至るには、これ程の自我が無ければならぬのだろう。
何もかもが消し飛んだ戦場跡で、魔王は傷の修復を開始した。


【D–5・戦跡/1日目・深夜】
【マハティール・ナジュムラフ】
[状態]:身体半壊(修復中)
[装備]:無し
[道具]:支給品一式×2、ランダム武器(???)
[思考・行動]
基本:優勝し、救世主を頂く
1:レンブラングリード・アレフ=イシュタルは、実験に使いながら殺す
2:名簿に有った十二崩壊を警戒
[備考]

D–5・戦跡で大規模な爆発が発生し、存在していたものの大半が消し飛びました。



◯◯◯


宙を飛びながら、金獅子は思考する。
魔王が最後に放ったのは、おそらくは戦術核。
アレこそが鋼の魔王の切り札というのならば、次に出逢えば必ず殺せる。

「とはいうものの、少し以上に削られたな」

この地に於いて、金獅子は猟場を展開する事は出来ない。
此処はソピアの作成した猟場であり、金獅子は此処では猟場の王では無く、狩り狩られる獣の一匹に過ぎ無い。
新たに生命を喰らうことは出来ず、その為に過去に喰らった分で戦うしか無いが、初戦でかなり削られてしまった。

「まあ良い。最後に勝つのはこの私だ」

十二崩壊以外にも、強敵が犇く事を知って、この傲岸。勝利を信じてやまぬその精神は、人類文明を終わらせた十と二に相応しいものといえた。

「……何処へ飛ばされているんだろうな」

何処へとも知れぬ場所へと、金獅子の身体は飛翔する。


【場所不明(D–5周辺の空中)/1日目・深夜】
【No.2『金獅子』 / ライラ・スリ・マハラニ】
[状態]:健康 生命力消費(中)
[装備]: 黄金の三叉槍
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:勝利。ただそれのみ
1:出逢った全てを殺す
2:出来るならば十二崩壊や我等(十二崩壊)に迫るものと殺し合いたい
[備考]
D–5・戦跡から何処かへと飛ばされています。

334The Great War ◆VdpxUlvu4E:2025/07/08(火) 21:44:57 ID:lfPMS5/Y0
投下を終了します

335 ◆EuccXZjuIk:2025/07/09(水) 21:53:20 ID:odQ15lcc0
投下お疲れ様です。

>>The Great War
砂漠の魔王マハティールと、十二崩壊の金獅子ライラのド迫力で繰り広げられる殺し合い。設定的にもこの二人が殺し合ったらこうなるだろうなという納得感があり、然し予想は超えてくる息つく間もない強者同士の激闘が手に汗握る。
戦闘描写の巧さは勿論の事、個人的にはマハティールとライラが戦いながら交わすやり取りがまさに強者と呼ぶべき余裕と箔に満ちていて嬉しかったです。激しい戦闘も無論良い物ですが、やはり舌戦もまたバトル物の花だなと改めてそう感じました。
中でも好きなシーンが、マハティールがライラに対して『化け物が』と漏らす所。傍若無人な殺戮者であり、神とは何ぞの定義を胸に一本据えたマハティールにこれを言わせるという一点で、金獅子という十二崩壊の恐ろしい強さをガツンと示している。
取り込んできた兵器を相手が沈黙するまで只管放つマハティールと、一方でひたすら個の強さを体現し続けるライラという対称性も読み応えに一役買っていた印象。拙作でもそうでしたが、当然のようにエリアに大規模な損害を刻みながら戦う辺りにもこの世界の図抜けた強者とは何ぞや、という点が一つ示されている気がします。凄まじく上質な戦闘話でした。
素敵な作品の投下、誠にありがとうございました。


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