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Fate/thanatology ―逆行冥奥領域― 第3層

1 ◆HOMU.DM5Ns:2025/05/18(日) 20:53:28 ID:7wwkIJL60

あまり待ち遠だつたので左の耳のあたりにつかねた髮に插していた清らかな櫛の太い齒を一本闕いて一本火を燭して入つて御覽になると蛆が湧いてごろごろと鳴つており、頭には大きな雷が居、胸には火の雷居り、腹には黒い雷が居、陰にはさかんな雷が居、左の手には若い雷が居、右の手には土の雷が居、左の足には鳴る雷が居、右の足にはねている雷が居て、合わせて十種の雷が出現していました。
そこでイザナギの命が驚いて逃げてお還りになる時にイザナミの命は「わたしに辱じをお見せになつた」と言つて黄泉の國の魔女を遣やつて追わせました。

                                                                   ───『古事記』


ttps://w.atwiki.jp/for_orpheus/

5 ◆k7RtnnRnf2:2025/06/09(月) 07:50:05 ID:wj/b5mnQ0
オルフェ・ラム・タオ&セイバー(アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕)
衛宮士郎&セイバー(おぞましきトロア)
予約します。

6 ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 19:52:45 ID:.8o0xE3s0
これより投下します。

7セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 19:54:27 ID:.8o0xE3s0

 衛宮士郎という男はとうに澱みきった。
 昏いドレスを纏った王を目にしても、心は微塵も疼かない。
 エメラルドの如く双眸に、端整な顔立ちをしたセイバーのサーヴァント。かつて日常を共有した彼女と瓜二つだ。
 けれど、彼女の真名は頭から排除する。宝具の名前も繋がない。
 それを遺憾に思わず、むしろ都合がよかった。
 下手なことを口にすれば即座に首を刎ねられる。漆黒の剣には一切の情を通わせていない、アレはそういうサーヴァントだ。
 今は不興を買わない程度に機嫌を取るのがベター。

『それで、わざわざ食べ物のために時間を取ったのか?』
『あのセイバーを見ただろう。彼女はどうもジャンクフードを好むようだ……なら、些細な行為で点数稼ぎをしてやるとも』

 人気のない通路で男二人は念話を行う。
 セイバーのマスターである青年ーーオルフェ・ラム・タオの拠点では複数の紙袋が散らばっていた。
 東京23区のみならず、恐らくは世界各国に店舗を構えるファーストフード店のロゴマークが書かれた袋を、衛宮士郎は両手で抱えるほどに用意している。
 あの時、セイバーは仏頂面でジャンクフードを頬張っていた。次に会うときまでに用意してやれば評価も多少は上がるだろう。
 ただ、士郎は強面だ。店員や客の視線を否応なく集めたが、そこは流すしかない。
 この程度、聖杯戦争の盤面に大した影響を与えるものではなかった。

『良ければ一つどうだ』
『いらない。葬者にとって必要なんだろう』
『そう言うだろうとは思った。だが、これはこれで、効率良くカロリー摂取できるぞ?』
『……この町には、栄養バランスとやらを気にする人間もいるけど、それはどうだ』
『さぁ? そこまでは保証できないな』

 軽口を叩き合うほどには、自身のセイバーと気心を許し合った。
 聖域のヤコン。
 否、サーヴァントとしての真名はおぞましきトロア。
 父よりその名を受け継ぎし山人(ドワーフ)にして、無数の魔剣を操る魔剣士(グリムリーパー)だ。
 一ヶ月という時間は短いようで長い。一つの町で、注意深く周囲を見聞しながら過ごしていれば、風習や文化は自然と体に馴染む。
 トロアも東京に生きる人々について、理解するようになった。

『葬者は料理をしないのか』
『…………生憎だが、その時間も惜しい。オレの両手では、細かい作業は無理だ』

 濁した言葉の真実と嘘は半々だ。
 理を計るにはどうしても時間を浪費する。一分一秒を争う戦場に飛び込むなら、余計な贅肉のスペースは捨てるべき。
 料理など遠い昔に切り捨てた。
 かつての十八番は錆びついて久しい。
 味覚すらも喪失しつつある。
 あるいは、調理器具を握れば違うかもしれないが、そんなifなど意味はない。

8セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 19:55:55 ID:.8o0xE3s0

『だから、オレに料理など期待しないでくれ。どうしても、というならーー』

 だが、男の言葉は途切れる。
 何の前触れもなく、夕焼けの空が”純白”に染め上げられ、男たちの表情は一変した。
 それはこの東京に幾度となく降り注ぎ、多くのイノチに恐怖を刻んだ滅亡の光。
 それは一欠片の情を持たず、ただ機械の如く葬者と英霊を抹消し続けた。
 それは魔界と人間界のみならず、冥界全土を破滅させる可能性を秘めた魔童による力。
 全ての滅びを意義とするクリア・ノートの宝具として再現された、ザレフェドーラが放つ消滅の弾丸である。

「跳ぶぞ!」

 真っ先に動いたのはトロアだ。
 彼は即座に霊体化を解き、士郎を抱えて高く跳躍する。人目を憚る余裕すらなく、たった今まで男たちが立っていた地面が消え去った。
 聖杯戦争の舞台となった東京には不穏な事例が幾つも確認されている。この破滅の光は最も危険度が高く、都市を無差別に破壊する厄災だ。

「……あれは、まさか……」
「この一ヶ月間、街の各所を破壊した例の光だ……次が来る」

 空を見上げては未来などない。
 すぐさまトロアは駛走し、通り越した道は二度目の極光で貫かれた。
 人間では為す術なく蹂躙される砲撃も、サーヴァントの脚力であれば漸く逃れられる。

「振り落とされるなよ……しっかり捕まれ!」

 だが、逃げているだけ。
 回避行動以外を選ぶ余裕はトロアになく、士郎も歯噛みする他ない。
 天からの災害は三度来る。抜群の輝度を誇る光が篠突く雨となり、ビル群が立て続けに消滅した。
 視界が点滅し、無音になる。
 それでも、トロアは生存を掴むために駆け抜けていた。

「……ぐっ!」
「セイバー!?」

 着地後、脇腹を押さえながら呻くトロア。
 トロアの敏捷でもマスターを庇うのがやっとで、完全な回避は不可能。
 重傷とまではいかなくとも、決して傷は軽くない。

「俺のことよりも、早く決めろ……すぐに四発目も来る!」

 トロアは叫ぶが士郎では打つ手がなかった。
 並の防御は無意味。
 辛うじて回避はできたが、その後が続かない。
 トロアの魔剣も、あの光を前にしては持ち主ごと蒸発する。対城或いは対都市レベルの火力に、対人宝具など焼け石に水。
 死の運命を覆すには令呪すら足りず、さりとて手をこまねくなど許されない。
 あるいは、一か八かに賭けて熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)で防ぐべきか? 仮に相殺できた場合、片手間で令呪を使えば逆転の可能性は1%程度でも上がる。
 火急の事態に博打を選ぼうとした、その時。

9セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 19:57:21 ID:.8o0xE3s0
「ーーーーあれは!」

 衛宮士郎が声を張り上げた。
 世界を滅ぼしかねない天の極光ではない。
 数キロメートル先、高層ビルの屋上から放出される暗黒色の聖剣を確かに見た。
 色彩こそ違えど、この衛宮士郎もよく知っている宝具。
 英霊■■■■■・■■■■■■が己の真名と共に解放する唯一無二の武器だ。
 遠い日の記憶を呼び起こす闇は空に向かって一直線に伸び、降り注ぐ災いを空間ごと食らい付くし、盛大な爆音を鳴らした。

「……終わった、のか?」

 流石のトロアも呆気にとられる。
 一方、炸裂の衝撃で怯える街に目もくれないまま、士郎はただ前を見ていた。

「セイバー、オルフェたちを探すぞ」

 立て続けの異常事態にサイレン音が鳴り響いた直後、己の従者に指示を出す。

「ひとまずの危機は去った。まずは彼らの生存確認を最優先させるが……動けるか」
「問題ない」
「では、移動する」

 トロアを連れ、士郎はオルフェたちとの合流を目指して歩き出す。
 その途中、厄災によって滅ぼされた街並みが嫌でも目についた。
 光に穿孔された大地は底無しの闇が広がり、足を踏み外せば地獄にまで堕ちる。

「……………………」

 1分にも満たない過去の賑わいは痕跡すらない。巻き込まれた人々は細胞一欠片も余らなかった。
 それに義憤など抱かず、ただ事実として受け止める。
 今の衛宮士郎は、役割以外の全てを捨てた正真正銘のロボットだ。
 日常の象徴を自ら壊してから、“公共の正義(パブリックヒーロー)”として稼働する機械になった。
 だから、これだけの犠牲だって悲しまない。
 いや、悲哀を捨てた。
 正義の味方ならぬ、悪の敵として生きるには余計な感情は不要。
 そうやって、より多くの人を守ったのだから。





 サーヴァントの魔力反応を頼りにして、トロアに居場所を捉えさせた。
 逆も然りで、トロアが霊体化を解けば他の英霊に感知される。
 磁石のS極とN極が引かれ合うように、二つの陣営が合流するまで十分とかからなかった。

10セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 19:59:31 ID:.8o0xE3s0
「……お互いの生存を喜ぶべきだろうか」

 壊滅的な打撃で外が喧噪する一方で、四人が集まった部屋は重苦しい空気に包まれている。
 オルフェ主従と合流した後、休息のために一同はホテルがある港区に徒歩で向かう。
 先の騒動で電車やバスなどの交通機関は悉く麻痺し、道行く誰も彼もがパニックに陥っているため、一同も特別目立たない。
 時間はかかったが、衛宮士郎が拠点とするビジネスホテルに辿り着いた。
 幸いにも破滅の範囲から外れており、一先ずは身を隠せる。
 だが、このホテルには避難民が押し寄せているので長居はできない。

「そして君には借りができた。令呪を切る判断を下したから、オレたちも命を繋いでいる」
「その埋め合わせは? まさか、あのような軽食程度で済ませられると思っているのか」
「それこそ、まさかだろう。同盟を組む以上、対等な立場であるべき。合意の元であれば、令呪一画分の働きはしよう」
「そうしてくれれば助かる」
 
 オルフェ・ラム・タオの顔は険しい。
 令呪とは、全てのマスターにたった3つだけ与えられた虎の子だ。その一画をオルフェに使わせてしまい、結果として士郎とトロアも命を繋いだ。
 彼の決断にただ乗りしては切り捨てられる。必要とあれば、今はオルフェの手足となることも厭わない。

「君はオレ達に何を望む。デスティニープランにとって障害となる敵がいれば、それを切り捨てる剣となろう」
「……暫くは休息を取る。件の”滅亡”は一先ず無力化させたが、私たちも消耗が激しい。回復するまで、護衛を頼む」
「了解した。必要とあれば、オレの方で食料も調達する」

 聞く限りでは、4月1日に突入してから現段階まで彼らは既に3組の敵と抗戦している。
 何れも強敵で、先の”滅亡”は最も危険性が高い。最優のセイバーすらも多大な消耗を避けられなかった。
 この状態で戦闘を継続すれば、如何に彼女だろうと足元を掬われる。王としての格と威圧感こそは健在だが、無理はさせられない。

「そして、今後は君以外にも協力者を増やすことも考えている。
 例の砲撃手……仮に、ランチャーのサーヴァントだとしよう。セイバーの宝具を以ってしても、仕留め損ねた」
「なるほど。再戦に備えて、こちらも数を増やす必要があるか。オルフェ、君の懸念はもっともだ。
 一応、オレの方でも協力者にアテがある」
「確か装甲車に乗って東京を巡る葬者、だったか」
「しかし、あれだけの災害の後だ……生存の可能性は低い。無論、後で連絡はしておくさ」

 午前0時の江東区にて士郎は装甲車を襲撃した。
 葬者の排除こそ未遂に終わったが、決して失敗ではない。装甲車の主及びサーヴァントと交渉し、情報交換と共に非戦協定も交わしている。
 だが、滅亡への対処とオルフェ主従の捜索を優先した都合から、士郎も放置せざるを得なかった。

11セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 20:02:01 ID:.8o0xE3s0
「それと、協力者を増やすと言ったな。君が敵対した葬者……特に小鳥遊ホシノにも話を持ちかけるのか?」
「必要とあれば、だ。こうも派手に出られては、奴らとて今の状況を理解する。
 簡単に事が運ぶとは私も思わない。その時まで、地盤を整えておく。此方の要求を飲まざるを得なくなるように。
 どうしても、折れないのであれば……君に処遇を任せよう」
「ではオレもある程度はサポートする」

 既にオルフェは小鳥遊ホシノ主従と決裂し、不倶戴天の敵同士になった。
 徹底的に否定し合った相手の手を取るなど、楽観主義を通り越して最早お花畑だ。恐らく、東京各地で噂となった<ヒーロー>でさえ考えないだろう。
 だが、これは和解や協定の話ではない。盤面を無差別に荒らす厄災への対抗策だ。
 例のサーヴァントが再起すれば、真っ先にオルフェ主従を標的にした崩壊を引き起こす。セイバーの消耗具合では、今度こそ為す術なく脱落する危険があった。
 都市を破壊し回っている龍やNPCを屠り続けた怪人、加えて〈双亡亭〉の攻略もある以上、ここにいる二人のセイバーだけでは事足りない。
 交錯する運命の歯車は今も廻ったまま。
 破滅の脅威から生き残った主従次第では、聖杯戦争の展開は大きく変わる。
 今後、これまで通りの小競り合いは維持できない可能性も充分にあった。
 それこそ、小鳥遊ホシノとの因縁を一時的に棚上げし、滅亡に立ち向かうケースも考えられる。

 ―――見えてるわよ、お兄ちゃん。

 不意に、士郎の脳裏に浮かび上がる少女の声。
 彼女はとてもよく似ていた。瞳と肌の色、更には髪型こそは違えど、遠い過去に出会った少女に相似した顔だ。

 ―――かわいそうな■■■。

 いつかの夜、士郎に哀れみを向けた■■■。
 彼女と、赤衣の少女が別人とはどうしても思えない。
 あの少女は何者なのか。
 何故、彼女から兄と呼ばれたのか。
 如何なる理由で衛宮士郎を知っているのか。
 そして、少女はこの聖杯戦争で何を望むのか。
 疑問は尽きない。

「オレの方も、気がかりな人物が一人いるからな」
「それは、君を妨害した例の少女か」
「ああ。オレにあんな知り合いがいた覚えはないが、向こうは違うようだ。だが、安心してくれ……君の障害になれば、オレは躊躇いなく排除する」

 再び相対すれば自ずと答えを得る。
 少女については一旦保留だ。
 次にまた相見えるなら良し。それまでに散る器など興味はない。
 対処すべき事態は数多くある以上、少女だけに意識を向けられなかった。

12セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 20:07:35 ID:.8o0xE3s0

「シロウ」

 今後の方針が纏まりつつある中、割り込む声が一つ。

「どうした、黒のセイバー」

 トロアと区別するため、便宜上は「黒」を付けて呼ぶ。
 その相手はセイバー。オルフェ・ラム・タオと契約したサーヴァントであり、光を塗り潰した黒き暴君だ。
 手土産に集中していたはずの黒のセイバーは、沈黙を破った。

「貴様は、何を企んでいる」
「どういう意味だ。袋の中身は無事だったはずだが?」

 全てを統べる百獣の王すらも怯みかねない眼光。
 銃口または剣先を向けられると同義だが、事もあろうに衛宮士郎は軽く流す。
 今、彼女から不信を買う謂われはない。
 用意した紙袋の中身は幸運にも無事だった。
 ハンバーガーとフライドポテトは形を保ち、潰れていない。ドリンク類も中身が溢れておらず、フードが濡れる惨状は避けられた。
 追加で、アメリカンサイズのバーガーすらも用意した。

「はぐらかすな。私はバーガーを趣向としているが、貴様には話していない。なのに何故、これだけの量を用意した」

 黒のセイバーが放つオーラは刺々しい。
 剣呑な気にトロアは構えを取るが、士郎は片手で制する。
 どうやら、逆効果だったようだ。
 点数稼ぎのつもりが、余りにも正確だったせいで却って疑念を抱かれる。
 しかし、それも考慮済み。

「シロウ。貴様は、私を知っているのか?」
「昔、君とよく似たサーヴァントと契約していた。そのサーヴァントも、食に強く拘っていた。遠い昔だから、もううろ覚えだがな」

 下手な誤魔化しは彼女の逆鱗を踏むだけ。
 この程度の荒事など珍しくもない。“公共の正義(パブリックヒーロー)”として生きた過程で、武力行使だけでなく交渉事も経験した。

13セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 20:09:57 ID:.8o0xE3s0
「ファーストフードを選んだのも、先の拠点で紙袋を見かけたから。他に意図はない。
 君がどんな英霊で、如何なる経緯があってそのような姿になったのかーーオレは何も知らないさ」

 媚びや愛想を振りまくつもりはない。
 何故、黒き衣を纏っているのか。
 何があって、こうも変わり果てたのか。
 士郎はこのセイバーについて本当に何も知らなかった。
 かつて契約した騎士王と、この暴君は最早別の存在。顔立ちは酷似しても、士郎が見た青のセイバーに在らず。
 仮に黒のセイバーが消滅しても心は微塵も傷まない。
 
「だが、疑わしきは罰せよ、と言うなら構わない。今すぐにでもオレを斬るといい」
「私を短慮と見くびるな。ここで貴様らを切り捨てる愚者ではない」
「それは知っている。だが、気を悪くしたなら謝罪しよう」

 巨龍の顎に男が喰らわれることはなく。
 王は再び口を閉ざし、置物の如く沈黙した。

「……君の都合について、今は聞かないでおく。このような些事に時間を浪費する場合ではない」

 オルフェの方も深く追求しなかった。
 合流の目的は内輪揉めではなく、今後の方針を定めること。
 地図は容赦なく穴だらけにされ、羅針盤の針も大きく狂わされた。大嵐と津波で今も盤面が荒らされ、いつ全てが飲み込まれるか。
 従来通りの戦いを続けるだけでは、得られたはずのリソースが潰される。

「話を戻すか。今後の方針を纏めると……休息後の最優先事項は協力者の獲得及び他葬者の動向把握。君の新たなる拠点の確保に関しては、後回しになるが……」
「そこは妥協しよう。私とて、優先順位を弁えている」

 道筋が定まった。
 オルフェ主従のみならず、トロアもダメージを負っている。
 この一ヶ月間で東京各地に戦火が広がり、今も激しく燃えたまま。しかし、如何なる強者だろうと戦場の真っ只中で立ち続けられない。
 どんな機械だろうと定期的なメンテナンスが必要だ。衛宮士郎とて四六時中稼働した訳ではない。
 理想を目指す男たちの命で、剣の英霊たちは己を研ぎ澄ませる。
 ホテルの一室は再び沈黙が広がった。

14セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 20:15:01 ID:.8o0xE3s0


 ◆


 先の破滅で敵対主従が都合良く一掃されることはない。
 アルトリア・ペンドラゴンの宝具で阻止された以上、良くて一組程度の排除が関の山だ。
 衛宮士郎の生存を根拠にオルフェ・ラム・タオは冷静に分析する。
 本音を言えば時間が惜しい。
 王として、体に鞭を打って動く気概は備えている。
 例え手足を捥がれようと倒れたりしない。
 だが、オルフェに限らず全ての葬者が運命力に縛られていた。
 ペース配分を見誤っては冥界を彷徨う死霊に堕ちるだけ。


 オルフェは思考する。
 あの紛い物の葬者と小鳥遊ホシノは灰燼にならず、今も舞台に立っているはず。
 奴らにも打診を行うのかと衛宮士郎から問われ、躊躇いなく肯定した。
 胸で燃える殺意を覆したつもりはない。
 このまま話を持ちかけても門前払いにされ、それ以前に鞍替えなどすれば黒きセイバーに見限られる。
 王たる者は無様に首を垂れたりしない。
 ファウンデーション宰相として外交を重ねたように交渉の場を用意する。それも、かつて黒きセイバーが束ねた円卓の如く大規模な席だ。
 応じなければその時こそ衛宮士郎に殺させる。
 承諾すれば戦力に加え、機を見計らって始末する。
 元よりこれは聖杯戦争。そこに卑怯という言葉は存在しない。
 国際法などいざ戦時になれば形骸化するのが常。先に相手を殺した側が勝つのが道理だ。
 

 オルフェにとってもう一つの疑問が黒きセイバーに対する士郎の言動。
 同盟を結んで以来、身の上について確認したこともある。
 彼が元よりいた世界でも聖杯戦争が行われていた。
 士郎はマスターとして参戦し、勝ち続けた。だが、当時のことはもうほとんど覚えていない、とのこと。
 真偽については関係ない。
 懸念はセイバーの真名と宝具が露見されている点。万が一、敵対すれば弱点を狙われる。
 だが、士郎が寝返るなら相応の処罰を下すだけ。
 諸々のリスクは承知で彼らを引き入れた。聖杯戦争より遙か前から、裏切りと陰謀など飽きるほど見て、勇往邁進し続けた。
 今後、生き残った全葬者とサーヴァントが聖杯戦争の激化を予想する。避けられない未来に備えて、次の一手を打つために王は考えを巡らせていた。

15セカンド・シーズン ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 20:16:07 ID:.8o0xE3s0

【港区・ホテルの一室/一日目・夕方】

【オルフェ・ラム・タオ@機動戦士ガンダムSEED FREEDOM】
[運命力]通常
[状態]釈迦及び彼の中に見たイメージに対する激しい不快感(小康状態)、ゼファー及び彼のイメージする“英雄”に対する恐れと拒絶
[令呪]残り二画
[装備]
[道具]
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を入手し本懐を遂げる
0.……それでも、勝つのは私だ。
1.休息および魔力回復が完了次第、早急に行動する。
2.衛宮士郎と共に、他のマスターたちと同盟を組めるよう地盤を固める。
3.他のマスターたちの動向を把握する。
4.仮称ランチャー(クリア)を最大限に警戒。場合によっては、他のマスターとも手を組む。
5.小鳥遊ホシノとアサシン、そしてバーサーカー(釈迦)とその葬者にも話は持ちかけるが、応じなければ今度こそ殺す。
6.小鳥遊ホシノを殺すために衛宮士郎を利用する。アサシンとの戦闘は避ける。
[備考]
※プロスペラから『聖杯戦争の参加者に関するデータ』を渡され、それを全て記憶しました。
 虚偽の情報が混ざってる可能性は低いですが、意図的に省いてある可能性はあります。
※プロスペラの出自が『モビルスーツを扱う時代』であると知りました。
 また『ガンダム』の名を認識しました。


【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消耗(大→中に回復中)
[装備]『約束された勝利の剣』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:蹂躙と勝利を。
1.今は食事をして、急ぎ魔力を回復させる。
2.仮称ランチャー(クリア)が再び砲撃を行おうとするのなら、次は砲撃前にこちらの宝具を叩き込む。
3.次にアサシンと戦うことがあれば、必ず殺す。……マスター次第、ではあるが。
4.バーサーカー(釈迦)は面倒な相手だった。次は逃さん
[備考]
※クリアの気配感知の感覚を覚えました。次に感知されていることを察知すれば、直感と併せることで、どこから見られているかの大凡の当たりを付けられます。



【衛宮士郎@Fate/Grand Order ‐Epic of Remnant‐ 亜種特異点EX 深海電脳楽土 SE.RA.PH】
[運命力]通常
[状態]健康、オルフェの能力の影響(微)
[令呪]残り三画
[装備]干将・莫耶
[道具]無し
[所持金]食うには困らない程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は破壊する。聖杯戦争に勝ち抜く気の主従に関しては容赦しない。
1.セイバー(アルトリア)の力を利用するため、オルフェたちに協力する。
2.自分達では対処困難な敵を倒すため、セイバー(アルトリア)を利用する。
3.令呪狩り、黒い魔獣と氷炎怪人、3/31の東京上空でぶつかっていた陣営の調査。優先的に排除したい
4.ヒーローに会ったらダ・ヴィンチの連絡先を教える
5.あの赤い外套の少女については一旦保留。
6.後でダ・ヴィンチの生存確認のために連絡する。
[備考]
※グラン・カヴァッロの陣営と非戦協定を結びました。連絡先は交換済です。
※黒い魔獣と炎氷怪人陣営(紅蓮&フレイザード)の見た目の情報を得ています。
※3/31に東京上空で戦闘をしていた3陣営(冬のルクノカ、プルートゥ、メリュジーヌ)の戦闘を目撃しています。メリュジーヌは遠方からの観測のため姿形までは認識していません。
※郊外の2つの市を消滅させた陣営を警戒しています。


【おぞましきトロア@異修羅】
[状態]脇腹にダメージ(小)
[装備]魔剣をたくさん
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:斬るべきものを斬る。
1.葬者に従う
[備考] なし

16 ◆k7RtnnRnf2:2025/06/12(木) 20:16:23 ID:.8o0xE3s0
投下終了です。

17名無しさん:2025/06/14(土) 03:47:48 ID:Mho1mqIg0
投下お疲れ様です!

> 呪縁、玉石混交
伏黒父が本当にいいキャラしてる……暴力性と渾然一体のクレバーさと軽口(「これでも協力してたぜ? 笑い噛み殺して必死によ」とか酷いけどあんまりにもらしすぎて笑う)でしっかり立ち回ってるのが「普段の仕事してる時の姿」感があってすごく楽しいです。
先生の高専についての問いに対する伏黒父の答えと、解析がてらの呪術世界に対する血流と血栓の喩え・見立ても実に鮮やか。思考の組み立て方の面白さ、の点で、先生はことさら感心させられる一人ですね…!!
「猿は嫌い」後の夏油と伏黒父の対面・呪術キャラならではのキレキレの口の悪い掛け合いが見られるのもうれしい。何気に「変な向きにへし折れたタイプ」が名表現だと思います。
しかしそれ以上にやはり夏油 対 先生。「神風仏陀斬」での応酬と言い、クロスオーバーの醍醐味の一つは、異なる世界観と価値観同士のぶつかり合いとそこから生じる火花だと思うのですが、本回の彼らの、張りつめた読みあいと機知に富んだ(それでいて彼ら自身も述べていたように、どうしようもない本音も滲んだ)言葉のやり取りも、とんでもなく濃厚で読み応えたっぷりでした。
夏油と聖杯機能との最悪の噛み合い方、「捨てる」ことと「選択肢」、先生視点でのプロファイリングに自己言及を絡めながらのモノローグがずっと面白く、何より「先生」というワードが夏油の過去とIFにもかかってくるのが、夏油の視線が「空」へ向けられる一瞬の表現(ここが特にいい…)と相まって突き刺さります…!!



>Black Prominence Overshoot
「消滅」の放った終結宣言、前回度肝を抜かれた冥奧全域全方位無差別砲火に対する、葬者たちの一幕目。それにまさしくふさわしい、筆先にも展開にも臆するところ手加減するところのない、がっぷり四つのオルフェ&セイバーオルタによる相対に滾りました。
オルフェの「馬鹿な」が本当にその通りすぎて……ルクノカ・メリュジーヌ戦でも感じたけれど、クリアとその術に対する各参加者たちの初見の反応や分析がいちいちわくわくしますね。ザレフェドーラの脅威描写、少年漫画終盤ならではの大味でとんでもない規模の技を現実に(色んな意味で本聖杯は『現実』とは程遠いとはいえ)現出させたらどう見えるか、の思考実験のようでもある。
そしてだからこそ、何かの冗談か悪夢のように絶え間のない白光の雨に対して、黒光で以て揺るがず向かい合うセイバーオルタの姿、その言葉に奮い立ち極黒の聖剣を解放するオルフェの姿が映える。端末として滅びそのものの狂気と不条理さの一角を体現したようなザレフェドーラのモノローグからの「――――――されど知るがいい、滅亡の子。」の流れでテンションが爆上がりでした。
セイバーの背とオルフェの垣間見た「王の夢」の下りも、逆襲劇(ヴェンデッタ)の語の絡め方と言い、この陣営の掘り下げとして素晴らしい。しかし、プラナ釈迦、プロスペラ、ホシノゼファーとのそれぞれの相対といい、他陣営接触による内面描写はオルフェが一番好きかもしれない…
そして「バーガーショップにグランド級(クラス)のメニュー」と吹きだしてしまうフレーズも忘れない細心さ。強烈なる砲撃展開のレシーブとして、双方を魅せ切りつつ「過程」の余白も残しつつ、きっちり話を先へと進める、リレー的な手腕でも唸らされる一話でした。



>セカンド・シーズン
前話の流れを受けての「点数稼ぎ」の冒頭、どこかコミカルな光景ながら、「料理」という行為を絡めたデミヤ氏(未把握の身ながらというべきか、ゆえにというか、登場話から一貫して合間合間できれぎれ描かれている彼の背景の凄まじさに圧倒されます)とトロア(ヤコン君)の冒頭での会話が何とも切ない。そういえば死神はワイテの日々では猪肉のスープを作っていたなあ、とも。
滅びの砲火が嘗め尽くした往来、街路と人々の痕を見つめながらの衛宮のモノローグがまた……悲しまない、捨てた、不要……と繰り返し繰り返し、徹し切った独白を重ねれば重ねるほど、陰画の如くそこに焼き付いた感情が浮かび上がるのが実に巧み(前々話での夏油の言動の纏っていた一種の惨烈さと一部通じつつベクトルの異なる悲壮さがあるような)。
オルフェ陣営との合流・会合も、展開の整理を交えつつの掘り下げでぐいぐい読まされました。譲れないものはありつつ、穴だらけにされた地図、狂った羅針、波濤で揺らぐこの盤面できっちり「数」の重要さを踏まえて柔軟に方策が立てられるのは、(両者の地頭を考えれば当然と言えば当然かもしれないですが)作劇的な安心感がありますね。
点数稼ぎたるハンバーガーをきっかけに、セイバーオルタとの会話で両者の間に隔たる世界線の残酷さを思わされるのも、感情と盤面と状況を見据えた(自身にも言い聞かせるような)オルフェの思考整理も、いずれも面白かったです。

18 ◆HOMU.DM5Ns:2025/06/15(日) 23:04:46 ID:/XLtEBUg0
投下&感想ありがとうございます。

フレイザード
ランサー(ヴィルヘルム・エーレンブルグ)
小鳥遊ホシノ&アサシン(ゼファー・コールレイン)
クロエ・フォン・アインツベルン&アーチャー(石田雨竜)

予約します

19 ◆HOMU.DM5Ns:2025/06/28(土) 21:33:54 ID:T7TyrRgo0
延長します

20 ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/01(火) 07:13:25 ID:NQnuPuKI0
申し訳ないですが一時予約を破棄します。

21 ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:32:09 ID:KaanaBBA0
上記の面子を再予約、そして前編投下します

22Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:34:54 ID:KaanaBBA0

 ◆
 
 
 人生のツケというやつは最も自分が苦しい時に回ってくる。
 どこかで聞いたような話を、ふとフレイザードは思い出した。
 誰が言ったかまでは憶えていない。敵と過度な馴れ合いは好かないし、配下のフレイムやブリザードにそんな含蓄深い言葉を出すだけの知恵はない。
 まして生まれて一年足らずの身の上では、同格の六大軍団団長とすら碌な交流もない。
 説教くささの混じった物言いからするに武人肌のクロコダインだろうか……そんな発想をするのが関の山だ。
 
 こういう時、己の中のコンプレックスを自覚せずにはいられない。
 自分には歴史がない。記憶と経験の層の積み重ねが透けて見えるほど薄い。 
 魔族の寿命は一般で数百年、人間ですら数十年だ。
 指一本で消し炭と化し粉雪と砕ける、経験値にもならない脆弱な雑魚が、自分の数十倍も生きているという事実を突きつけられる度、ありもしない腸が煮えくり返る気分になる。
 劣っていると、そう思わせられる。
 
 払拭には証が要る。禁呪法の生命体、虚無の魔物というレッテルを刷新するだけの証が。
 勝利と功績。それこそがフレイザードを世界に刻みつけるのに最も適した手段だ。
 次の敵を倒し、次の次の困難を超え、次の次の次の成果を呑み下す。
 誰にも届かない、見送り見上げるしかない天かける階段の果て。そこへと辿り着く栄誉のみが、永劫埋められないこの渇きを癒やす生命の水となる。
 ここで格言に話を戻すが───つまりは、まさに、今がその時なのか? と、他人事のように俯瞰したのだ。
 
 
「よお、邪魔するぜ。上じゃあ随分と派手に遊んでたみてえだな」

 
 開口は穏当だった。あくまで戦慄に緊張した空気にしては、という比較の話でだが。
 気安い口調には、これから始まる狂宴への喜悦が隠し切れてない。隠す気もないのかもしれない。
 殺気に当てられた常人は、暗窟の場の雰囲気も併せて気をやっていただろう。
 
 魔王軍という強力なバックを失った今のフレイザードは孤軍だ。兵隊を取り上げられて人間の本拠地に裸一貫で放り込まれたに等しい。
 葬者中最も人間離れした外見。雑踏に紛れる、という隠遁手段を初手から潰されている。
 一ヶ月間、セイバーと冥奥領域を荒らしに荒らし回っても他の陣営に討伐されなかったのは、単なる腕っ節の強さのみからではない。
 平時と同じ戦い方ではすぐ包囲され、袋叩きにされる。相棒が享楽という文字に手足を生やした性根の紅蓮であれば尚の事、知恵を回す必要がある。そうして見出したのが人間が開発した街中のインフラ……下水道や地下通路だ。
 潜り込めば地上の捜索の目を掻い潜り、抜ける時は何処からでも出てこれる。蜘蛛の巣のように東京中に張り巡らした経路は、魔術師といえど手を焼く迷宮だ。
 おまけに地下鉄の巡回やデパートの駐車場の利用者という"夜食"つきでセイバーの機嫌も取れる。攻めるにも守るにもうってつけの隠れ家といえた。
 
 セイバーが謎の音信不通に陥りヒーローから撤退を決め込んだ後も、その手並みは乱れなかった。
 黒炎に乗って目星をつけていた大型施設……地下鉄駅と直結しているデパートに乗り込む。先の殺戮を地下に逃げて難を逃れていた僅かな生き残りを燃やして線路を突っ切る。邪魔な目撃者を一掃していたのが効いてきた。
 首尾よく安全は確保できた。結果的には敗北した形であり、屈辱も感じている。何より事態の不明なままなのが苛立たしい。
 それでも、まだ機運は見過ごしてはいない。ほとぼりが冷めるまでにセイバーと再度連絡をつけようとする時に……この影は現れた。 
 照明が薄い闇の中でも、自身の左半身が巨大な光源だ。一歩進む度に姿を克明に映してくれる。

23Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:36:57 ID:KaanaBBA0
 
 一言で言えば、白い男だった。占有率でいえば上下の服の黒色が圧倒的なのだが、首から下の相貌と頭髪の色が、対象のイメージを白であると断固として主張していた。
 かかる濃密な死の気配は、血臭と殺気。フレイザードよりよほど人の形をしていながら、その男は人の殻を破っている。 
 地下に潜む白貌の屍食鬼(グール)という伝承も、歴史上で忌まれる鉤十字(ハーケンクロイツ)の黒軍服の所以もフレイザードは知らない。
 理解したのは己と同類だという点のみ。殺戮を好み、血を良しとし、それらを積み上げていく勝利を切望している闇の住人。
 ランサーのサーヴァント、ヴィルヘルム・エーレンブルグの性質を、氷炎将軍は一目で読み取っていた。
 
「おうよ。景気よく愉しませてもらったぜ。派手に喰ってたのは俺のサーヴァントだが、眺めて酒の肴にするのもたまにはオツなもんだ」
「酒がイケるクチには見えねえな。それとも口の中で自動で炙ってロックになるのか? ……便利そうだなオイ、後でちょいと試させてくれよ」
「比喩だよ察せよそこは。俺はこれでも勤勉なんだ。
 んで? どうやってここが分かった? 今までバレた事はなかったんだがな」

 酒席で隣り合った初対面の客同士が馴れ合うような構図から、さりげなく意図ある質問を滑り込ませる。
 仮に今この場を切り抜けても、追跡が撒けなければまた次が来る。ここを晴らさない限りどこへ行っても安全地帯になりえない。
 退路を断たれてサーヴァントと正面向かい合う危険より、この隠れ家が補足された経緯が目下の懸念だった。

「んな怪異の臭いプンプンさせてよく言うぜ。ここんとこうろついてる黒いのの臭いはもう鼻で憶えてんだ。
 その上食えもしねえ焼けた肉までブチ撒けやがって。犬のマーキングのつもりかよ。誘ってんのかと思ったじゃねえか」
 
 ラインハルトの麾下に入る以前、エイヴィヒカイトも得ず浮浪する無頼だったヴィルヘルムだ、路地裏の獲物を捕らえる嗅覚は先鋭化している。
 ……潜伏先に目星をつけてたのは、絶賛見下し中のマスターが、陣営を跨いだ足で調査した成果であるのは黙っていた。
 葬者の情報は伏せておくという戦術目的より、アレを身内判定に扱われる恥を避けたい気分だという比率の方が高い。
 ともあれ術師狩りは潜伏に適したポイントに逐一目をつけて、ヴィルヘルムに情報を渡していた事が今回の発見に繋がったわけだった。
 
「クククッそうかいありがとうよ。今後の参考にしとくぜ。ただそれにしちゃあ、まだひとつ解せねえところがある。
 テメェ、聖杯がどうこうより、戦いも殺しも好きなタイプだろ? 見りゃあわかるぜ。
 そんなお仲間が、地上にいる活きのいいガキ共を置いてわざわざ俺を追いかけるってのが、イマイチ腑に落ちなくてな」

 伊達に六大魔王軍の一角を任されてはいない。年若くとも闘争に関してならば目端が利く。
 ランサーが聖杯獲得を目的に最短のルートを組まず、過程の殺戮こそが本命であるのはすぐに察しがついていた。
 生粋のモンスターを凌ぐ血生臭さは、フレイザードの知る人間と同類なのかを疑いたくなる。英霊と謳われるまでの逸話がどういう色で染められているかが、実に想像に易い。
 戦地にはまだフレイザードと紅煉の暴虐に敢然と立ち向かい、退けた『ヒーロー』達が残っているはずだ。戦闘欲の権化のようなこの男がそれを無視してるとは思えない。
 そしてあわよくばそちらに食指を働かせて厄介払いをしたかったところだが……魂胆はお見通しとばかりにヴィルヘルムは鼻で笑う。

24Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:38:06 ID:KaanaBBA0
 
「何だよ、目溢ししろってか? 意外と小せえ奴だな。肝入ってんのかァ?」
「オイオイ誤解するなよ。俺は別に戦うのが好きじゃねえ、勝つのが好きなんだよ」 
「はッ負け戦の味も知らねえか。見た目よりガキだな。ただまあ……勝利こそ肝心ってとこは、素直に同意しとくぜ。
 数の差だ相性だともっともな理由をどれだけ並べようが、負けた奴が弱くて、勝った奴が強え、この事実は揺らがねえ。んな不利を尽く覆すのが常勝の王道ってもんだ。
 逆にいやあ? 手段が理念がとどうこう吠えたところで、負けて死ねばそこで塵屑だ。何事も勝って、生きてこそ目的は成し遂げられる。そういう価値観は俺も理解できるさ」

 何かを乗り越え、打ち倒したと、世界に、他人に、自分自身に消えない楔を打ち込む。
 地べたに這い蹲った体で信念を叫ぶ言葉には何の説得力も湧いてこない、それこそ負け犬の遠吠えだ。主張を通すにはどんな形であれ勝利という御旗が常に求められる。
 それに何より、勝つのは気持ちいい。相手を超え、強さを上回り、足元に跪かせる快感は人類共通の美味だ。
 まさに"我に勝利を(ジークハイル・ヴィクトーリア)"だ。第三帝国に在籍していた身としてもそこは大いに賛同する。
 するが……彼の流儀では、そこにもう少し条件が上乗せされる。
 
「だが俺はこれでもグルメでね。雑魚をバラすのも悪かねえが、いつまでもジャンクばっかじゃ舌が馬鹿になるだろ。
 飽きた作業を延々と続けるのは、精神衛生上よくねえからな。敗残兵を散らかす野犬の真似するより、より食いでのある奴を相手取る方が滾るってもんだ」

 首領ラインハルトの覇道に徒花を添える黒円卓の一員として、ヴィルヘルムは戦いの質には拘りがある。
 破壊の愛を標榜するかの王は虐殺も屠殺もよしとするが、そこで甘えて右へ倣うだけでは脳無しの骸骨の域を出ない。
 自らも血を流し、魂を賭け、死に臨する程の戦いを演じ、それを制してこそ、真なる騎士の忠というものだ。
 ……ただそれはそれで、禁欲的過ぎるのもまた正しいとはいえないのが、精神持つ人のままならなぬところだ。
 求道の模範たるマキナと違い、ヴィルヘルムは俗を好む。永遠を生きる不死鳥となるのを渇望とするにあたっては、常に気持ちを新鮮に保たなければならない。


「どうせ全員串刺しにするのは変わりねえんだ、わざわざ見逃す道理もねえ。けど今朝からこっち、ストレス溜まる奴ばっかと会っててよ。
 無能の猿にポンコツのバカガキにネジが外れた根暗野郎……しかも全員おいそれと手出しできねえ事情があるときた。
 こういうイライラはさっさと解消するに限るんでな。こうしてわざわざ本命の前に出向いたってわけよ」

 秤を見比べて勝てる方を選ぶなど、強者の取る手段ではない。
 勝ち残った英雄は殺す。逃げ帰った敗残兵も殺す。優勝を謳うからには皆殺し。秤ごと壊して皿の中身を残らず総取りしてこその吸血鬼、化外の道理。
 冥界の英霊全員を相手取ってなお勝利する、この男は本気でそういう気概を抱いているのだ。
 それが不思議でもなんでもないと。黒円卓のエインフェリア、血の薔薇を咲かす不死身の吸血鬼たらんとするのならば、当然の在り方だから。
 
「……ようするにメインディッシュの前の前菜かよ俺は」
「そうだよ。不満か?」
「当たり前だろうが。弱え奴から殺してくのは殺し合いの常識だが、それが自分に回ってきたらハイそうですかと頷けるわけがねえ。
 何よりどこのどいつかも知らねえ相手にナメられっぱなしで、タダにしておいてたまるかってんだ」

 フレイザードの左半身の猛火が勢いを増す。炎は肉体そのものであり、今の感情を如実に語っている。
 自身が追い詰められてる理由がストレス解消のサンドバッグ扱いと知って鷹揚に笑える気性の持ち主ではない。
 ヴィルヘルムの言う通り、年齢でいえばまだ赤子なのだ。気の利いた返しも、感情を取り繕う術も知りはしない。
 何より、そんな手段は必要ない。気に食わない相手を黙らせる方法なら、よく熟知している。

25Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:39:19 ID:KaanaBBA0
 
「そりゃそうだわな。やっぱ気が合うじゃねえか。うちの猿と代わって欲しいぐらいだぜ」
「クハハハッそっちもパートナーに苦労してるみてえだな。なんならいっちょお互いに交換してみねえか? そうすりゃもう余計に気を煩わせずに戦えるようになるぜ?」
「そいつは悪かねえかもな、ハハハハハハッ!」

 堰を切ったように笑う二人。
 笑い、笑い、息を吐き切るまで思い切り笑って、次の呼気を殺気に作り変えた瞬間に。

 
「「───じゃあさっさと死ねやあッッ!」」


 地を弾き、砲弾の勢いを乗せた拳をぶつけ合った。

 
 燃え滾る溶岩の左の拳を出すフレイザードに対して、ヴィルヘルムは右の無手。
 火を見るよりも明らかな衝突の結果は、しかし両者にとっては意外な手応えとなって返ってきた。

「チッ……!」
「へえ」

 舌打ちと微笑。
 どちらかが押し負けはせず、さりとて圧しもせず、力が拮抗した状態で釣り合っている。
 人間の魔術師や神秘保持者がなる他の葬者とは、フレイザードは根本の出自からして違う。
 生態全てが戦闘用に適した作りをした魔王ハドラーの被造物。サーヴァントと遜色ない出力を持ちながらサーヴァントを使役できる魔力も備えた、掟破りのイレギュラーだ。
 それでもなお、ヴィルヘルムの拳は砕けない。
 血の歴史のない、後付けで魔導の薫陶を受けただけでしかない人工の魔人が、真なる魔獣に爪を突き立て、ねじ込ませている。
 手袋は破れ肌を焼いてはいるもののそれ以上ダメージが侵攻しない。活動より躍動した闇の賜物───血液そのものの聖遺物が内側より固まり、膨れ上がる。

  Yetzirah
「 形 成 」
 
 骨を破り突き出るは血色の杭。
 零距離の接触点から杭を打ち込む、パイルバンカーの要領で溶岩を砕き弾き飛ばす。
 腕を弾かれたたらを踏んだフレイザードだが、勢いを殺さず後方に跳躍して体勢を整える。
 人間のような繊細な痛覚は持ち合わせてない。この程度ならすぐに再生する。
 半身を翻し、右手を晒す。氷塊の彫像に相応しい極寒の冷気が渦を巻いて掌から放出される。
 極北地帯と同等の猛吹雪の氷(ヒャド)系呪文───マヒャドが地下空間に吹き荒れ、内部の気温を零点に引き下げていく。
 自然の猛威を再現する魔力。サーヴァントであろうと直撃すれば凍傷、耐えられなければ凍結は免れないが、ヴィルヘルムは避けなかった。防御の構えも取りはしない。
 杭が生えたままの腕を横に振る、舞う埃を鬱陶しげに払うような軽い動作だけで、前面に殺到した寒波は解けたように霧散してしまった。

「対魔力かよ……相変わらず厄介だぜ!」

 サーヴァント召喚時に自動的に与えられるクラススキル、その内最も汎用なもののひとつである。
 生前の魔力への親しみ、抵抗値に応じてランクが変動するが、ヴィルヘルムのランクは最高値のA。
 これは事実上、ほぼ全ての魔術に耐性を持つ事を意味する。二十一世紀で最高峰、神代のレベルの魔術であろうと無条件で無効化してしまう。
 魔術への抵抗値を上げるこのスキルにはこれまでも手を焼いてきた。 魔法生命体として生まれたフレイザードには正しく鬼門である。

26Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:40:26 ID:KaanaBBA0

「なら、こいつはどうよ!」

 再生が完了した左手を転身。元よりヒャダインは動きを縫う牽制が目的。叩き込む構えに乱れはない。
 開いた指の一本一本に込められる魔力の熾火。魔力の緻密なコントロール、肉体の負担を考慮する必要のない虚構の生命だからこそ可能な蛮行だ。
 
「五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)───!!!」

 炎(メラ)系最上級呪文。その五連発。
 どのような魔道士だろうと実現不可能、己の特権を最大限に活用した過剰火力こそは氷炎将軍の代名詞たる大呪文だ。
 戦果のほどは風に吹かれた英霊の灰の量が証明済み。夜の世界にしか生きられぬ半端者に、太陽の洗礼が落とされる。

 吸血鬼と字される者ならば誰であろうと実を竦ませる大火球にもヴィルヘルムは怯まない。
 既にこの身は焼かれている。黄金の光に、純白の光に。ならば何を恐れる必要があろうか。
 たかだか魔術で寝られた程度の火、魂はおろか骨肉を炙ることすら値しない。

「ッッッらあァ!」
 
 対魔力など知らぬ。与えられた特権に背を預けたりはしない。最初(ハナ)から、正面から押し潰す所存でいる。
 手法は今しがた行った杭打ちと同様。ただし燃料は倍増しだ。
 杭に血を追加で注ぎ肥大化したそれは、腕に装着された破城の大槌か、あるいは悪魔の爪か。
 血気と殺気を渾然させた『射出』の一撃は迫る火球の列を尽く芯から居抜き、爆裂。
 火薬庫に火が点いたが如くに、闇の中を閃光と破壊音で彩った。
 
「そおぉぉぉらあぁぁぁぁぁ──────!」

 迎撃を済ませただけで満足するヴィルヘルムではない。
 人器融合型のエイヴィヒカイトは能力を行使するたび精神の高揚を促進させる。昂りに逆らう事なく攻勢に出る。
 爆風の粉塵で視界が塞がれた隙を逃さず、自らは冴え渡る感覚で位置を違わず。再び距離を詰められて瞠目するフレイザードの胴に、茨が巻かれた拳を打ち込んだ。

「ゲボォ───ッ!」

 吐く胃液も内容物もなく、よって叫びのみが吐き出される。
 直接突かれたわけでもないのに、内側の核(コア)が痺れるような感触。
 創造主の死以外では実質不死身のフレイザードの唯一の急所が刺激を与えられた事による悲鳴だ。
 魂の破壊、概念干渉を本領とするエイヴィヒカイトの特性は、サーヴァントになっても引き継がれている。
 核を狙われない限り負傷を気にせずともよいという慢心は、一撃の元に挫かれた。
 
 それを知ってか知らずか、猛攻を続行するヴィルヘルム。
 近接戦ではフィジカルに大きな開きがない限り、経験値の層の深さがものをいう。この点フレイザードは致命的だ。同格の敵との経験の不足がモロに響く。
 路地裏のゴロツキから始まり、最新式の軍隊、魔導の産物、格上の大隊長にも臆せず挑みかかってきたヴィルヘルムとは、身のこなしの練度が歴然だ。

27Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:41:47 ID:KaanaBBA0
 
「痛ぇか? 痛ぇよな───嬉し涙流せやオラァッ! 流せるもんならよォッ!」
 
 茨のメリケンサックが顔面を打ち据え、膝蹴りを受けて曲げる背中を掴んで押し倒し、地面に横たわる全身に杭の散弾でばら撒く。
 滅多打ちの乱杭叩き。血肉の代わりに、氷と岩石の欠片があたりに散らばり落ちる。
 骨も内臓も持たない禁呪生命体は痛みや負傷で行動が阻害されない。なまじ頑健な体のおかげで、いつまで経っても倒れ伏さない。負のループが続いてしまっている。

「ガ───痛くねえし、流す涙腺(モン)もねえよッ!」
 
 そんな身を削られる螺旋に飲み込まれていても、フレイザードの意気は潰えていない。
 経験不足。その通りだ。魔王軍にて勇者の使徒と対決した過去まではそうだった。
 現在(イマ)は違う。
 冥界の奥では常に戦い続けた。未知の武器と能力が幾つもあった。呪文が効かない敵とも戦った。
 覚醒(レベルアップ)の条件は既に揃っている。ここに来て格上との挑戦が起きたとなれば───。

「───あ?」

 都合百発を超えてからも続けた拳打に生じた違和感に、怪訝な顔つきになる。
 覚束ない回避の動作を読んで、的確にカウンターを合わせたはずの拳が外れ、氷の顔面を削ぐに留まった。
 極限の状況に反応速度が研磨され、こちらの予測を超えてきたか。いやそうではない。なすがままにはされまいという逆襲の気配は感じてはいるが、これといって動きが早まったわけではない。
 ならば目測を見誤った自分の落ち度か。それこそあり得ない。長年抱えた餓狼の野生が疑念を一蹴する。
 違和感の出どころは、そう、折り畳み伸ばし切る寸前の腕の軌道の進路上に、予期せぬ障害物が置いてあったような───。
 疑問を拭えぬままでも挙手は一切綻ばせず、次激を叩き込もうと踏み込んだ足が、そこで完全に意図しない向きに跳ね上げられた。
 
「はぁ!?」

 今度こそ驚愕する。
 たまさか足場の砂利や礫を踏み潰した程度の落差ですっ転ぶ───そんな間抜けであるわけがない。間違いなく人為的な操作で足を引かれたのだ。
 真っ先に連想するのは同胞の魔女。ルサルカ・シュヴェーゲリンが創造する、影を操り触れた者の動きを阻む停止の理。
 だがナハツェーラーのような呼吸すら奪う束縛感はない。あれよりも単調で原始的に、足の裏にあった欠片が爆ぜたような熱がある。
 無論、そこらの火薬がサーヴァントを持ち上げる力は生まれない。そもそも発破現場でもないのにそんなものが落ちてもいない。
 あるのは土にアスファルトに電線、炎と氷───。

 
 弾岩爆花散、という技がある。
 氷炎の肉体を無数の塊に分裂させて自在に操り、礫の嵐を食らわせる能力だ。
 岩石は砕けても能力の範疇、肉体の一部であるのは変わりなく、攻撃は無効化されるばかりか手数を増やす羽目となる。
 フレイザードの奥の手である技であるが、生命力を著しく消耗するため多用はできない泣き所があった。それ故の最終闘法だ。
 フレイザードはこれを、まだ肉体操作の経験が浅く全霊を注がなければ全ての岩石を操れないからと捉えていた。
 ならば考える。より集中し、少ない力で細かなコントロールが可能になるまで成長すれば、リスクは消滅する。
 攻撃で砕かれた肉体に生命力を残し、微力で操作して相手の虚を突く。破壊力には欠け地味であるものの、実戦を経た鍛錬の成果のひとつがこれだ。

28Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:43:24 ID:KaanaBBA0
 
「オラァ!!」

 千載一遇の好機を逃さず反撃に動く。勝利への渇望ならフレイザードもさるものだった。
 左腕を大きく振りかぶり二の腕をぶつける、ラリアットの動作。格闘戦の不利を悟りながらも後退を選ばなかった博打には狙いがある。
 炎の魔法力───メラゾーマのエネルギーが二の腕部分で留まり、内部で炸裂。丁度肘の先から吹く火花により、腕はロケットエンジンの仕組みで爆発的な加速を得る。
 ばくだんいわ、という、接触を起点に自爆する配下のモンスターの特性を応用した闘法だ。
 触れた魔術は消せても、魔術で発生した推力で動く物体は無効化できない。対魔力の穴を穿つ、呪文を弾くサーヴァントへの対抗策、そのふたつ目である。
 
 破片操作の足場崩し、呪文内熱の腕力強化。
 二点の爆発させた交差法は見事、ヴィルヘルムの顎を捉える"痛恨の一撃"となった。
 途中で止まる事なく壁に激突する吸血鬼。この聖杯戦争における、初めてのまともな負傷を飾ったのは、よもやサーヴァントの枠外にいた葬者だとは。
 持ち前の暴力を衝動で振るう魔物ではない、炎の闘争心と氷の計算高さを兼ね備えた、氷炎将軍の真骨頂だ。
 
 ヴィルヘルムは倒れない。
 傷は、深手とはいえない。顎を強打し口に一筋血流を垂らしているが、特に効いた様子もない。血を燃やした瞳は未だ戦意で盛っている。
 
「面白え……! サーヴァントは一山いくらばっかの癖に、俺とやり合えるマスターはよく出てきやがる」

 緒戦で槍衾に変えてきた骸を思えば、この葬者は初めてヴィルヘルムと"戦い"を演じられる相手だ。
 単純な力量、暴力の域でいえば、いけ好かないマスターが頂点だと思っていたが、ここにきて別方面での怪物が現れた。

「ハッ! どうだ! 魔王軍をナメるから痛い目を食らうんだよォ!」
「魔王軍……はっ、過去どころかマジのファンタジーから来てんのかよ! やっとアガってきやがったな聖杯戦争!」
 
 返しも上等だ。前菜と虚仮にはしたものの、中々どうして歯ごたえのある。上昇志向のある気骨も嫌いじゃない。
 背負った呪いを解くほどとは言わないが、十分に食らうに値する敵だ。己の嗅覚は正解を引いていたと確信する。
 ようやっとエンジンが回ってきた。アクセルを踏む足に力が籠もる。もう止まらない。この敵を撥ね飛ばすまで狂騒の熱が引くことはないと断言できる。
 魔人同士の邂逅とはそういうもの。道を譲るなぞ、存在意義をかけてあり得ない。


「──────」


 その熱が掻き消されるほどの悪寒に、気温程度で揺れない肌が粟立った。
 外の見えない地下。雑音から隔離された空間。
 だが魔人は感じている。"落ちてくる"。
 岩盤と地層、あらゆる障害を貫通(ショートカット)しながらこの地点めがけて、まっすぐに落ちて来ている。
 数瞬後。夜に生きる吸血鬼を糺すように、汚濁を浄化するように、白光が世界を埋め尽くした。
 
 
 ◆

29 ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:44:07 ID:KaanaBBA0
前編投下終了です。後編もお待ち下さい

30 ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/11(月) 21:58:48 ID:HVhRuJnY0
延長します。もう少しお待ち下さい

31 ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:45:23 ID:w6YUILfk0
投下します

32Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:46:08 ID:w6YUILfk0



 
 ぼくたちは ひかれあう

 水滴のように 惑星のように

 ぼくたちは 反発しあう

 磁石のように 肌の色のように

 

       ───BLEACH.

 ◆

33Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:46:48 ID:w6YUILfk0


 
 極北から降り注ぐ破滅の流星群。世界の終わりとしか言えない光景を見て、小鳥遊ホシノは絶句していた。
 この衝撃、この絶望を、どう表現したものか分からない。
 先のホシノの脚を負傷させた爆撃を超える破壊と射程の長さ。それを冷静に算出できてしまう視点が、対抗策のない「詰み」を弾き出してしまっていた。
 
 「嘘でしょ……!」

 狼狽しながらもクロエが荒げた声を出せたのは、彼女に偏に予備知識があった差でしかない。
 "消滅"にインターバルは無い、気分次第で幾らでも連射が可能───。
 現地で跡地を検分してアーチャーが推察した、悪意的に逸脱した目論見への予見を。

「まさか本当に無制限で撃てるっていうの、あの大砲!? 無法にも程があるでしょ!?」
「ああ、しかもこの距離……完全に冥奥領域の外周部から発射されている。射程距離すら無限に等しいらしい。最悪の予想が当たってしまったね」
  
 千里眼を持つ雨竜が、隣から最悪の更新を告げる。口調こそ平静を保ってるが、眼鏡の奥の目線は既に矢の鏃の如く鋭い。
 方角は北方。地図に照らせば埼玉県の放水路。灰色の飲み込まれた廃墟には、白亜の居城が建設され、ひっきりなしに光を撃ち出し続けている。
  
「どんだけ魔力を溜め込んで……いえ、それ以前の問題よこれ。こんな宝具を持ったサーヴァントなんてのがまずあり得ないわ」
「あり得ない……それは街中に狙いをつけられて連射ができる宝具なんて存在しないという意味かい?」
「いいえ。理屈の上では、聖杯級の魔力さえ備えれば宝具の限界突破は可能なのよ。机上の空論だけどね。ようは車を動かすガソリンさえあればいいんだから。
 けどこいつは違う。車の設計思想からして狂ってる」
 
 弓の英霊の能力を模倣し、願望器の機能を持って造られた聖杯の分身といえるクロエには、ビルの屋上から見える光景の出鱈目さが正確に把握できた。
  
「サーヴァントだってもとは人間。過去があり、培ってきた信念がある。怪物が成った反英雄であってもそれは同じ。善であれ悪であれ、彼らが使う宝具には確かな方向性と理がある。
 そういう理念が『コレ』には一切ない。邪悪ですらない、ひたすら破壊と消滅だけが目的の、純粋無垢な"力"だけ。
 そんな宝具を使えるサーヴァントなんて、もう英霊でも何でもないわよ!」

 魔術師らしさなど普段は見せたりしないクロエが、畏怖と怒りを顕にしている。それほどまでにこの砲手は、魔術と英霊を侮辱していた。
 宝具とは英霊の象徴。貴き幻想(ノウブル,ファンタズム)と称される、英霊の逸話と誇り、人々から向けられる信仰によって形作られる。
 道具、機械すらも、その頂に立つに足る信仰さえあれば英霊に昇華される。
 それの構成要素に何の誇りも信仰も含まれてないとすれば……存在を認められていない、異端中の異端を意味している。
 
「つまり……この英霊は兵器としての性質が強いということだね。ボタンを押せば動く、ロボットのようなものだと」
「そういうこと! つまりマスターが最悪も超えた最悪ってワケね! あーもー最悪!!」

 頭をガシガシと掻くクロエ。冷徹たれという魔術師の姿勢なぞ取り繕っていられるはずもなかった。
 現世の滅却師として英霊の座に登録された雨竜には遠い視点だが、事の重大さを図るには十分すぎた。
 いわば耄碌した老人に核兵器のスイッチを握らせてるようなものだろう。戦いの何たるか、勝利の何たるかさえもこの行為には欠落している。
 そこまでの凶行に至らせているのはやはり、こうしてる今も感じる、途方もない総量の悪意。

34Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:47:26 ID:w6YUILfk0

「あのエセ神父、上手くやれてんでしょうね……」

 初めに消滅の脅威を触れて回っていた神父、天堂弓彦の不遜顔が思い起こされる。
 鼻持ちならず、姿勢も理解が困難な変人であったが、不可視の敵を優先して警戒していた男の認識はここにきて正しかった。

「彼のサーヴァントは空を飛べるし、実力自体も相当なものだ。この事態にも対応は可能だろうが、問題は……」
「その間に俺達が持ち堪えられてるか、だろ」

 背後から、動けないホシノを抱えるゼファーが雨竜の先を引き継いだ。
 半身になり軸は後方。既に、いつでも離脱して雲隠れする準備に入っている。

「試練を超えてもさらなる試練……か。ああやだやだ、なんで死後になってもこんなんに追われる羽目になるんだか」
「ちょっと、なに弱気になってんの。さっきのセイバー圧倒した時の威勢はどこいったのよ」
「そうはいってもよ、実際今回役立たずだぜ、俺」

 接触時にゼファーが対決していたセイバーの真名を、クロエは把握している。なにせ一度真剣を交わしあった仲だ。
 騎士王アーサー・ペンドラゴン。最強の聖剣エクスカリバーの所有者。
 自我を保持した本物の英霊、クラスカードの時とは比較にならない性能相手に一方的に攻め立てていた異質の強さには、正直戦慄の気すら持っていた。
 それだけに味方に回せばさぞ頼もしいと期待も寄せていたが、当のゼファーはこの逃げ腰だ。
 超一級の英霊を追い詰めた自分の性能に誇りを持てていない。強さに謎の引け目がある。

「手段は砲撃。位置は盤外。逃げ場はなし。こっちの刃は届かない。下々民には届かせようのない高層から、抵抗の余地を与えず一方的にいたぶる。元の世界じゃさぞ好き放題してたな。
 これ仕掛けてる奴、相当圧制し慣れてるぜ。逆襲の潰し方を分かってやがる」
 
 極晃に至っても自己評価の低さは改まらなかったゼファーだが、正鵠だろうと判じている。
 再びヴェンデッタと同調し励起させた星辰光であれば、落ちてくる砲弾を切り裂き、被害を消滅させる事も可能だろう。
 だが、その後は? 
 砲撃が止むまでひたすら、十重二十重に振るい続けて耐え忍ぶ? それではホシノの魔力が保たない。理論しかない砂上の楼閣だ。
 滅奏は守護の盾に非ず。滅ぼし殺す死神の鎌。その力は敵に回った一切合切の抹消に全霊が傾いてる。
 故に最善にして最短の手段はここ砲撃手の元に急行し即刻首を断つに限るが……そこにもマスターという枷が足に嵌められてしまっている。
 脚を負傷したホシノでは追尾する砲弾は避けきれない。かといってホシノを抱えたまま進軍すれば、今度は冥界の空気に晒され運命力を削られてしまう。
 
「……ごめんね、アサシン」
「謝るなよ。マスターは何もしてないじゃねえか。ここでジリ貧しかできねえ俺が、一番悪い」
 
 どの手を取っても、葬者の命を危険に冒す博打。  
 奪われてこその逆襲譚。未だ手の内に守るべきものを抱えるゼファーでは、この敵と同じ地平には立てない。

35Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:48:13 ID:w6YUILfk0


 詰め手は塞がれた。この戦線にゼファーが介入する余地はない。
 出来る事といえば、どこぞの英雄が魔王を討ち取るまで手の内のマスターを庇い続けるくらいものか。
 そんな他力本願な解決を本気で考え始めた時、 ゼファーの方を見ないまま、雨竜は意図の見えぬ質問をした。

「アサシン、気配遮断スキルは使えるかい?」
 
 手元には弓を出現させ、弦に矢を番えている。
 
「……使えるよ。けどそれで外れてくれるかは微妙だぞ。仮に隠れられてても逃げられるのは俺だけだ」
「十分だ。向こうはかなり精密な探知系のスキルを持ってるんだろうが、二十以上の反応があれば、他のサーヴァントよりは優先度は下がる」

 そう言うや唐突に連射で三発放つ。あらぬ方向へ飛んだ矢は誰を狙い撃ったでもなく街中に消える。
 謎の行動に固まるしかない三者に構わず雨竜は言葉を続ける。
 
「皆、聞いてくれ。今から向かってくる攻撃が着弾するタイミングに合わせて、君達と僕のマスターを飛ばす。それに合わせてアサシンは気配遮断スキルを使用して隠れてくれ」  
「ちょっとアーチャー!? いきなり何言ってんの!? 飛ばすってなにを!?」 
「マスター、この場で最も危険なのは集団で固まっている事だ。サーヴァントが数騎固まっていればそれだけ激しさを増してしまう。
 まずこの状態を崩さなければ反撃も避難もままならず全滅だ。単騎であれば僕もアサシンも動きようがある」

 前置きを飛ばした突飛な内容に対するクロエの抗議にも耳を貸さずまくしたてる。 
 顔に出してないだけで、雨竜も逼迫してるのは一目瞭然だ。
 既に狙いをつけられ猶予のない中、全員を生かすべく思考を高速で回して選出するのに神経を注いでいる。
 
「その後の合流にも君にはそちらにいてもらわなければ困るからね。じゃあアサシン、マスターを頼んだよ」
「おいおい待て待て、なに勝手───」
「宝具───『反立、現実を此処に(アンチサーシス)』」

 ゼファーがなおも反論を挟むより先に雨竜が真名(な)を紡ぐ。
 数瞬、消滅の光弾が四人の立つビルを直上から飲み込んだ。
 都合四発。粉塵、破片、魔力を微塵も残さぬ光の波濤は、ビルとその下の地面を根こそぎ消滅させる。
 クロエ達の姿はない。あらゆる痕跡もなく有無を言わさずこの場から消失し───着弾地点の隣のビルに立っていた雨竜は、全員の退避が間に合ったのを確認した。

 『反立、現実を此処に(アンチサーシス)』。対象に選んだ二点の過去の事象の入れ替え───位置、負傷、概念の置換を行う事象改変宝具。
 対人規模ではあるものの一度使用すれば抵抗の余地はなく、なおかつ消費も微量で予備動作すら必要としない、神霊が持つ権能に等しいレベルの能力だ。
 今回はシンプルに、『先に飛ばした三本の矢』と『クロエ達三人の位置』とを置換した。
 消滅波が着弾するギリギリのタイミングで発動し、雨竜自身も適当なオブジェクトを対象に回避。際どいタイミングだったが上手くいったようだ。
 探知していた相手からすれば、砲撃で首尾よく敵が消滅したと誤認してもおかしくはない。三人をターゲットから外す確率は半々といったところ。
 砲撃が続行されれば再び捕捉される危険は高まるし、葬者の反応すら探知しているとしたら事前の隠蔽自体が意味がない。

36Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:48:41 ID:w6YUILfk0


「これで誤魔化されてくれればいいが……結局は、大本を断つしかないか」

 連続使用に支障のない完全反立だが、矢継ぎ早に撃たれる攻撃からクロエやホシノ達を守り切るには如何せん手数が足りない。よしんば足りても防戦一方になるだろう。
 だからこそ雨竜は単騎でここに残った。聖杯戦争の基軸を崩壊させる破滅の嵐を食い止める為に。
 遊撃役に天堂のランサーを挙げたが、雨竜にも自在に空を翔ぶ術がある。更に言うならより高位な飛翔を可能にする切り札もある。
 神を自称し、殺害に躊躇がない危険で異常な精神構造。過去会った際は組むのは論外と突きつけてはいるが、剛直な目的意識については疑いようがない男だ。
 あれほど目の敵にしている"消滅"の使い手を前に、こちらに爪を立てる真似はしないはずだ。

「……何だ?」

 不意の感知が、雨竜の意識を眼下に向かわせる。
 底の見えない奈落の闇。虫食い穴と呼ぶには巨大すぎる陥穽。
 危急の時で気づく暇もなかったが、雨竜達以外を狙った砲撃の跡だろう。だとすれば必然、狙われた被害者がそこにはいたという事である。
 視認できないのは対応が間に合わずあえなく運命を大地と共にしたか、そうでなければ……。
 
 冥界の奥に傾けていた意識を周囲に引き戻す。
 霊子の乱れ、魔力の撹拌をつぶさに精査し、何よりこちらを狙い放つ、飽和するほどの殺意の出所を察知する。

「下か……!」
 
 身を翻し飛び退くと同時に反転、雨竜がいた位置の地面を突き破って伸びた凶器を矢で撃ち落とす。
 赤黒の棘は蒼白の神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)と衝突、白滅して共に砕け散るが、直後、地の底から昇る殺気の凝縮がヒトのカタチを持ってデパート屋上を割る。

「おおォォォらァァァァッ!」

 岩盤を裂いて現れるは薔薇の化身が如き茨棘の鎧姿。およそ地上の闊歩を許されない凶相は光なき暗窟で屍を喰らう鬼か。
 先んじて放っていた牽制の二射目を素手で掴んでへし折り肉薄をかける。
 単発の矢では止まらない───雨竜の判断は早く、腰から合口程の柄をノールックで引き抜く。相手の予想される質量と速度からすればあまりに頼りないと思えた得物の先端から青白い刃が伸長して、鬼の拳から生えた棘を受け止めた。
 再びの激突音。突起の鋒に腹でなく刃を立てて当てる超絶の技量。神秘と霊子と魂とが鎬を削る火花を上げる。
 突っ込んだ勢いがある分、付き合うのは分が悪い。固めた霊子を足で蹴って空中で一回転し間合いから離脱した。

 
「────」
「────」

 侵略に晒される空の下、対極の色を持つ二人が対峙する。

 黒の隊服。白の相貌。血色の杭。
 雨竜はいま初めて、ヴィルヘルム・エーレンブルグの姿を直に捉えた。
 
 白の隊服。黒の髪。蒼白の弓。
 ヴィルヘルムは初めて、石田雨竜の姿を直に捉えた。

 引き合う所以は無く、道理は示されず、同じ世界に招かれた稀人が、戦争の名の下で邂逅する。

37Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:49:14 ID:w6YUILfk0

 
 
「……ああ? 何だよ。アレ、テメエがやってんじゃねえのか」

 弾幕が止まない辺りを見回しながらヴィルヘルムがぼやく。
 地下通路でフレイザードと戦いに興じていたヴィルヘルムが地上に出てきたのは、彼もまたクリア・ノートの無差別爆撃に巻き込まれた身であるが故だ。
 地層を易々と貫通して落ちた光弾の不意打ちを間一髪でかわせたのは、飽かさず鍛えた生来の戦闘本能の賜物だ。
 最大級の警戒を鳴らした第六感に全身を委ねた無手勝流が、確定と思われた消滅を回避させたのだ。
 清廉潔白で堂々なるを徹底する決闘主義でもない。殺し合いの最中では手緩い戯言を吐いた輩から死ぬ。
 奇襲も騙し討ちも上等だ。己はそんな細工に拘泥しない真の強者だからと自負しているに過ぎない。
 ───だがそれで横合いから獲物をかっ攫われたとすれば話は別だ。椅子に並べられた皿を蹴飛ばして地べたにブチ撒ける不埒者には、相応しい礼を返さないことには気が済まない。
 そんなお礼参りの念を胸に地上に上がり、付近の反応を探して見つけた雨竜を狙撃手と見なして襲撃をかけ、見当違いであったという次第である。

「氷炎野郎は……駄目だな、あちこちブチ込まれてるせいで気配が感じ辛え。あのまま消えたか? 折角アガってきたってのに名前聞きそびれたじゃねえか」
「……事情は知らないが、誤解が解けたようで何よりだ」

 雨竜も大まかに経緯を把握する。どうやら自分が狙撃手と勘違いされての逆襲だったらしい。
 無理もないだろう。たった一騎で会場の外から一方的に砲撃を撃ち続けているなどと、誰が想像しようか。
 とんだとばっちりだが、不幸な行き違いだったと、まだ納得できる範疇だ。

「僕は行かせてもらう。状況は見ての通りだ。あと十秒もしないうちにまた撃ってくる。君も退避を急いだ方がいい」
「そういうわけじゃねえよオイ。どこ行こうってんだ」
「は……?」

 なのでこのままお互い蟠りなく別れるものと疑わなかった雨竜なのだから、尖る殺意が萎える事なくこちらに向けているヴィルヘルムを、信じられない目で見返すのだった。

「……まさかとは思うが、続けるのか? ここで?」 
「俺から言わせれば、ここでケツまくって帰れると思ってるのが信じられねえな。ヴァルハラに集う英雄(エインフェリア)が死を恐れてどうするってんだ」

 血走る両眼が、視界に収めた獲物を逃がす道理がないと睨めつける。 

「戦い好きなら、なおさらこの状況は拙いんじゃないか。とてもじゃないが全力を出し切れる環境ではないだろう。
 どれだけ力に自信があるか知らないが、君の葬者はそんなものとは関係なく消されてしまう。それこそ不本意な結果になると思うけど」
「要らねえ配慮かけてんじゃねえよ殺すぞ。頭脳派気取ってる連中ってのはどいつもこいつも、言葉を尽くせば考えが変えられると疑ってねえのばっかだな。
 あと十秒で砲撃が来るから逃げろ? そういう台詞はな、十秒保たせてから言ってみろや」 
 
 こういう手合いか───内心で毒づいた。
 聖杯戦争で好戦的な英雄の比率が圧倒的なのは、むしろ自然ではあるが。
 だとしてもここまでの拘り方は異常だ。榴弾がいつ頭に落ちるか知れない爆撃地帯を、ステージに設えられた面白みのある趣向としか捉えていない。
 息を吸うが如く当たり前に紛争地に身を置いた、生粋の中毒者。
 肩や拳から生えた血染めの茨。艶めかしい臭気の中でも薄れない戦争狂(ウォーモンガー)の香りが、大輪の薔薇のように撒き散らされている。
 死後も喰らい、喰われるか喰うことを辞めた瞬間退化を決定づけられる、呪われた輪廻を回る悪霊(HOLLOW)のように。

38Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:49:37 ID:w6YUILfk0

 
 
「……ああ? 何だよ。アレ、テメエがやってんじゃねえのか」

 弾幕が止まない辺りを見回しながらヴィルヘルムがぼやく。
 地下通路でフレイザードと戦いに興じていたヴィルヘルムが地上に出てきたのは、彼もまたクリア・ノートの無差別爆撃に巻き込まれた身であるが故だ。
 地層を易々と貫通して落ちた光弾の不意打ちを間一髪でかわせたのは、飽かさず鍛えた生来の戦闘本能の賜物だ。
 最大級の警戒を鳴らした第六感に全身を委ねた無手勝流が、確定と思われた消滅を回避させたのだ。
 清廉潔白で堂々なるを徹底する決闘主義でもない。殺し合いの最中では手緩い戯言を吐いた輩から死ぬ。
 奇襲も騙し討ちも上等だ。己はそんな細工に拘泥しない真の強者だからと自負しているに過ぎない。
 ───だがそれで横合いから獲物をかっ攫われたとすれば話は別だ。椅子に並べられた皿を蹴飛ばして地べたにブチ撒ける不埒者には、相応しい礼を返さないことには気が済まない。
 そんなお礼参りの念を胸に地上に上がり、付近の反応を探して見つけた雨竜を狙撃手と見なして襲撃をかけ、見当違いであったという次第である。

「氷炎野郎は……駄目だな、あちこちブチ込まれてるせいで気配が感じ辛え。あのまま消えたか? 折角アガってきたってのに名前聞きそびれたじゃねえか」
「……事情は知らないが、誤解が解けたようで何よりだ」

 雨竜も大まかに経緯を把握する。どうやら自分が狙撃手と勘違いされての逆襲だったらしい。
 無理もないだろう。たった一騎で会場の外から一方的に砲撃を撃ち続けているなどと、誰が想像しようか。
 とんだとばっちりだが、不幸な行き違いだったと、まだ納得できる範疇だ。

「僕は行かせてもらう。状況は見ての通りだ。あと十秒もしないうちにまた撃ってくる。君も退避を急いだ方がいい」
「そういうわけじゃねえよオイ。どこ行こうってんだ」
「は……?」

 なのでこのままお互い蟠りなく別れるものと疑わなかった雨竜なのだから、尖る殺意が萎える事なくこちらに向けているヴィルヘルムを、信じられない目で見返すのだった。

「……まさかとは思うが、続けるのか? ここで?」 
「俺から言わせれば、ここでケツまくって帰れると思ってるのが信じられねえな。ヴァルハラに集う英雄(エインフェリア)が死を恐れてどうするってんだ」

 血走る両眼が、視界に収めた獲物を逃がす道理がないと睨めつける。 

「戦い好きなら、なおさらこの状況は拙いんじゃないか。とてもじゃないが全力を出し切れる環境ではないだろう。
 どれだけ力に自信があるか知らないが、君の葬者はそんなものとは関係なく消されてしまう。それこそ不本意な結果になると思うけど」
「要らねえ配慮かけてんじゃねえよ殺すぞ。頭脳派気取ってる連中ってのはどいつもこいつも、言葉を尽くせば考えが変えられると疑ってねえのばっかだな。
 あと十秒で砲撃が来るから逃げろ? そういう台詞はな、十秒保たせてから言ってみろや」 
 
 こういう手合いか───内心で毒づいた。
 聖杯戦争で好戦的な英雄の比率が圧倒的なのは、むしろ自然ではあるが。
 だとしてもここまでの拘り方は異常だ。榴弾がいつ頭に落ちるか知れない爆撃地帯を、ステージに設えられた面白みのある趣向としか捉えていない。
 息を吸うが如く当たり前に紛争地に身を置いた、生粋の中毒者。
 肩や拳から生えた血染めの茨。艶めかしい臭気の中でも薄れない戦争狂(ウォーモンガー)の香りが、大輪の薔薇のように撒き散らされている。
 死後も喰らい、喰われるか喰うことを辞めた瞬間退化を決定づけられる、呪われた輪廻を回る悪霊(HOLLOW)のように。

39Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:50:04 ID:w6YUILfk0

「……まったく。頼んでもないのに数珠つなぎで厄介事がやってくる……なるほど、彼の言う通りだ」
 
 砲弾は接近中。既に光が接近しつつある。
 戦闘は不可避。対面で一級のサーヴァントに狙われている。
 厭戦気分だったアサシンの気持ちを少し理解する。こうも困難が続くとうんざりしたくもなる。
 
 逡巡なく指を動かす。焦りも恐れも弓に伝わらない。鬱屈そうな口調と裏腹に全てが統一された意思の元稼働する。
 この身は戦いのための器。杯に注がれる金貨の一枚。
 指令が下れば予め施された機能は滞りなく動き、道具の役目を全うする。それが英霊、サーヴァントというもの。
 だが元より───この器に満ちる魂は、鏃となってあらゆる危難を撃ち抜くもの。
 少女の運命を背負うと誓ったあの日から、敗北は許されない。心に刻んだ願いを全うするのみだ。

「誤射した詫びだ。先手は譲ってやるよ。射つなり逃げるなり好きにしな」
「……妙な律義さだな。気の配る部分を明らかに間違ってるよ」
「テメエの流儀ってやつだよ。永く楽しむからには、飽きさせねえよう相応の拘りは欠かせねえのさ」
「そうかい。なら遠慮なく、突かせてもらったよ」
「あん?」
 
 余談だが。
 他者から指摘されにくく、かつ本人はあまり認めたがらないことだが。
 元来石田雨竜は、火の激情を秘めた、熱のある性格である。
 
 「───っ!」

 頭上で弾けた蒼い火花。
 矢を放とうが逃走しようが、どちらでも構わないと余裕のヴィルヘルムに打たれた光の線。
 反射で受け止めたソレは確かに矢の形状。知覚を上回るほどの速射だったわけではない。
 先刻の交錯の時点で宙に放たれ、放置されていたものが、ヴィルヘルムの立つ場所に自由落下しただけのこと。
 
 軽微な傷は目眩まし。となれば次撃が飛んでくる。
 出鼻を挫かれたものの速攻で持ち直して前方に腕を構えるも、そこに雨竜の姿はなく。

「なるほど。確かに十秒も要らなかったね。
 ───五秒で済みだ」
 
 背後からの光矢が、言葉となって刺しにきた。

 水平に落ちる稲妻。重力に任せたきりとは速度も角度も桁が違う超速の雷弾。
 先の小競り合いで見せたものとまるで比較にならないのは、最高速の見積もりを見誤らせるための布石だから。
 話術で足を固め、慮外の不意打ちで目を逸らさせ、飛廉脚で背中に回り込んでからの、一度も見せていない本気の一射。
 最速と必殺を心がけた、計算し尽くされた一撃を、魔人は反応してみせた。
 心臓を穿ち行く魔弾が雷鳴ならば、黒衣の速度は光そのものか。
 否。その領分は彼にない。光の域に達する疾さを得たエイヴィヒカイトは黒円卓内でも、身体を雷光へと変じる戦乙女(ヴァルキュリア)か、絶対に相手を上回る速度を得る白騎士(フェンリスヴォルフ)のみだ。
 この回避動作に異能の類は用いられてない。
 持ち前の動体視力。死線を掻い潜り培われた戦闘勘。肉体に迫る脅威への反応速度。
 人が持ち得る能力を魔的に引き上げた感覚で、先んじて攻撃に対し回避動作を行ったが故の賜物だ。
 胸板に先端が触れかけた矢を掴み、握り潰す。四散した魔力の欠片が吸収される。
 そこまで終えて振り返ってみれば、奇襲が失敗するや否やフェンスを乗り越えてビルから飛び降りて、白衣の外套の裾を視界にちらつかせる雨竜の姿。
 
「カハハッ、なんだよテメエ──────ハナからやる気だったんじゃねえか!!」
 
 爆裂する叫びは、怒気と歓喜の混合だ。
 自分が現れた時点で不意打ちの策を仕込んで、会話に乗る振りをしてまんまと嵌める強かさ、小賢しさ。
 何よりも、最後の一矢に込められた、背筋を凍らすような魔力の鋭さと速さが闘争心の撃針を叩く。
 運が上向いてきたのを感じる。長い退屈から解放され、漸くここからが宴の本番なのだと神経が疼く。
 骨のある氷炎の魔物から、一杯食わせたやり合える弓兵。これを逃す愚は冒せない。決して、逃がしはしない。

 墜ちる光星には目もくれず、雨竜を追ってヴィルヘルムも一足飛びで空中に躍り出た。

40Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:50:49 ID:w6YUILfk0


 
 ■

 
 期待通り、予測の範疇、雨竜は空中で待ち構えていた。

「追って来いと言ったか?」
「つれねえこと言うなよ、あんだけ誘っといて」

 ただ一点測り損ねたのは、距離が思ったより開いている。ビルから足を離したヴィルヘルムとは、おおよそ三十メートル差。
 重力に任せて墜ちてるだけではここまでの差にはならない。壁を蹴ったか、それとも空を駆ける術を持っているのか。
 最新最強の万魔殿の鬼兵たる黒円卓も、陸海空を十全に活動できる者を選ぶとなると、意外にもその数は多くはない。
 ───死神であれ虚であれ滅却師であれ、霊子を操り戦う者には必修の技術。
 彼らは簡易な足場を作り、空を地と変わらず駆けられる。上下の地の理は霊子使いにとって意味を成さない。
 
「どうせあと数秒の命なんだ、もうちょい付き合えやァ!」
 
 構うものか。壁を踏みしめて墜ちながらにして疾走を開始する。
 理は則るのでなく屈服させるのがエイヴィヒカイトの流儀。世界を思うままに変えられると信じて違わぬ専心が、真実術の効能をより高みに導く。
 加速にかける動作の無駄のなさ。草原を往く四足獣と見疑う、洗練された野性の体現で詰めかかる。
 当然、近づくまで矢から無抵抗のままではいない。体内から血の杭を増産し、一斉に放出。
 ランサーのクラスに設えられていても、遠近を選ばない手段を揃えている汎用性。
 最新鋭のガトリング砲を凌ぐ、アーチャークラスの株を奪う連射速度。貫通力。吸血鬼殺しの白木が、ヴァンパイアの残忍な凶器となりて降りかかる。

「光の雨(リヒト・レーゲン)」

 昼を覆う赤黒の爪牙に対するは、夜を晴らす蒼白の大翼。天駆ける鶴翼を思わせる、雄大な矢の乱舞。
 文字通り、本来は上空からの一斉射で敵を釣瓶打ちにする技だが、今では逆に対空迎撃の弾幕として用いられた。
 何もかもをヴィルヘルムを対極とする技の衝突が、互いの存在を認めぬと拮抗し合う。
 
 同じ射撃でも、両者の一発にはそれぞれ差異があった。
 単発の威力はヴィルヘルムの杭が上回るが、連射力に関しては雨竜が先を行っている。
 一本の杭で矢を数本蹴散すもそこが限度。途中で力尽き、後ろから新たな矢に押し負けて飲まれる。その応酬が数限りなく繰り返される。
 攻防の総量の、釣り合いが取れていた。それ故の拮抗。突破も防衛もされず膜の壁を築くのみ。

「洒落臭え……!」 
 
 崩すには、さらなる火力。さらなる果断なき攻めあるのみ。先を取るのは殺気に勝るヴィルヘルムが早かった。
 見て取れた矢の威力は、量に重点を置いているからか威力に乏しい。であれば幾ら貰おうが軽傷、被弾を顧みぬ再加速をかける。
 その軌道はもう獣どころの話ではない。カタパルトから最高速で発射されるミサイルの次元だ。
 重力の枷なぞ知らぬ。闇に翔ぶ不死鳥が、星の法則如きに縛られるものかよと、魔常の理を遺憾なく発露する。
 頬を掠り、肩を抉ろうが、勝利という成果が得られればすべて栄誉にすり替わる。着弾し溜め込んだ炸薬を点火させるまで止まらない、爆焔の化身。 
 動きを制限をつけられる部位……脳、心臓、脚のみ守っての吶喊が、遂に弾幕を突き抜け、雨竜を拳の圏内に収める。
 
 雨竜に焦りはない。戦闘自体に愉しみを見出すタイプと知った時点で、向こう傷を進んで受けて来るのは予め想定済み。
 相殺され周囲に散乱する弾丸の欠片は、そのまま滅却師の操る魔力になる。推力に回し同じように加速すれば、再び距離を空けられる。
 じき、地面に着く。更に上からは二発の消滅波。自身を狙う狙撃すら利用した挟撃の形に追い込んでいる。
 ここで仕留めるにせよ、足を奪って逃走を優先するにせよ、主導権は手放してない。
 熱を保とうと戦術思考はどこまでも狩人の冷静さでいる計算が───空を切った踵を前に一斉に崩れ出した。

41Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:52:42 ID:w6YUILfk0


「ッ!?」

 足を踏んでいた場が消えていく。
 流した霊子の流れに乗って、ホバー走行の要領で移動する滅却師の高等歩法『飛廉脚』。
 それがここで唐突に、雨竜の自重に耐えられないほど脆くしている。
 ……数限りなく傍を通過していった敵の杭。そのうち一本が足場に掠って、場の構成を水に綿を漬けるが如く構成する魔力を吸収し、解れさせたのだ。
 
 "接触した魔力の吸収能力……! 見誤った、こいつは僕と……いや、滅却師(ぼくたち)と同じか!"
 
 『闇の賜物』が産む形成の杭が、接触したエネルギー・熱量を有形無形を問わず奪う性質を持つのを、雨竜はこの時まで知らなかった。
 ヴィルヘルムも、滅却師が周辺魔力・霊子を蒐集して戦闘に用いる、自分と近い性質を基にしているのを知るはずもない。
 全ては誰もが予測してない偶然。だがその運命を生んだのには、勝利を掴まんとする渇望で突き進んだ動きがあればこそ。
 あるいはその執念が、攻略の糸口になる突破法を無自覚に編み出したのか。
 そして慮外の偶然であれ、見えた勝機を不覚にも取り零すヴィルヘルムではない。

 「獲ったぜ、アーチャーァアアア!」

 最後のダメ押しが爆裂する。
 足裏から高速で伸びた杭で脚力を増大。筋肉と骨格の流れを損なわず完璧な姿勢制御で膂力に転換させる。
 衝撃の余波だけで矢が吹き飛び、白い胸を無防備にする。杭とはとても呼べない、超音速の破城槌が雨竜に迫る。

 回避も、防御も、すでに手遅れ。
 今のヴィルヘルムは矢を撃った後からでも矢より速く動ける。与える破壊もそれに比し、軽く見積もって三倍以上。
 弓で受け止めようが、小刀で弾こうが無意味。小技で凌げる範囲をとうに超えている。心臓破り(ハートブレイク)は免れない。
 黒円卓でも指折りの戦人に恥じぬ奮迅。血袋となった骸から、魂の一滴に至るまで略奪するのになんら不足ない渾身の滅槍。

 
「時間がないと言っているのに……これだから力馬鹿は始末に終えない」

 
「─────────────!」
 
 だからこそ、突き入れた腕の、あまりの手応えのなさに瞠目した。
 背中を突き破るどころか、薄皮にも届かず、太い静脈のような筋に阻まれてる。
 聖遺物との融合で凶悪化した理性が無理やりに揺り戻される。
 血潮も、勝利も、手元にあったはずのものが遥か遠くに置かれてしまったような、冷えた感覚に。

「十秒は過ぎた。これ以上、馬鹿に付き合える時間はない。
 終わらせよう。速やかに」

 色彩が反転する。
 樹立する滅却十字。硝煙烟る円卓の黒を呑む、清毒なる塩の柱。
 神聖なるものの降臨を有り示す、断罪光輝の冠が眩く。
 
 奪い取ったのは黒のみだけではない。弾き出され地面に危なげなく着地するヴィルヘルムは見た。
 直上から自分達を追って墜ちてきていた消滅波。
 無色の破滅が柱に刺されたと同時、針の通った風船かのように輪郭を萎ませ、光ごと融かしていったのを。
 
「天使かよ……。色々被るんでまさかと思っちゃいたが、テメエ、アイツのご同輩か?」
「雑談に花を咲かす気はないが……特定の宗教にはついていないとだけ言っておこう」
 
 砲撃を退けた柱が晴れた中に、雨竜はいた。
 外套を脱ぎ捨て、手足には装具、両肩に翼。 
 辺りで煌めくのは散り散りになった星屑。魚群を思わせる矢羽の端末。
 光輪(ハイロー)こそないものの、見る者に与える言葉はただひとつ。神の御使いの代名詞。神罰の地上代行者。
 『滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)』───。
 死神への復讐と世界の復権に二百年の研鑽と進化を重ねた滅却師の集団……『見えざる帝国(ヴァンデライヒ)』の結実。始祖ユーハバッハより賜りし『聖文字(シュリフト)』の昇華形態。

42Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:54:09 ID:w6YUILfk0

 
「気に食わねえな……」 
 
 ヴィルヘルムは理解する。
 アレは自分と同質の力だ。力を奪い、形さえ残さず、おのが血肉に変える。まさにヴィルヘルムが所有する聖遺物と相通ずる能力だ。
 だが同類同種とは断じて違う。どころか不倶戴天の仲とさえいえるだろう。
 光あれ(イェヒ・オール)と言う前からあった、原初の闇(メトシェラ)。
 伝承ではアレの大敵として……吸血鬼(おれ)は創作されたらしいのだから。

 もうひとつ気付いたことがある。
 相手が想像しない札を切ってきた。それはいい。結構だ。素晴らしい。
 敵が強ければ強いほど戦いの喜びが増すのも騎士の倣い。それを制し、正面から押し潰すのが覇道の轍。
 己こそ誰よりもラインハルトの騎士であると満天に誇る絶好の機会だというのに。
 何故だか、どうにも目の前の男は……ひどく癪に障るのだ。
 
「……ボケが。だからどうだっていうんだ。殺せばいい話だろうが」
 
 益体のない考えを切り捨てる。殺し合いの最中に雑念なぞ騎士の風上にも置けない。目障りだというなら尚の事。
 体の内の血の滾りを昂らせることのみに集中すればいい。

「いいぜ、魅せてみろよアーチャー! どこまで翔ぼうが俺はその羽を掴んで───」
「何か長口上を述べるようなら悪いが」
 
 発奮を打ち切る冷淡な声。
 
「もう終わりだと、僕は言ったぞ」
 
 空気が凍結する殺気。贈られる宣告に絞られる精神。
 細胞の警告にもヴィルヘルムは怯みもなく布告を受け取るように腕を掲げる。
 その腕から、赤の一欠片がこぼれ落ちた。
 腕から一本の槍で現出させたままでいた杭が、中程からバキリと音を立てて折れたのだ。

「なん……だと……!?」

 驚愕は杭が折られた為ではない。
 断面は滑らかで凹凸のない。これは切断の跡だ。
 最たる原因は、泣き別れにされた欠片が塵になって、雨竜の元へと吸い取られる様を見せつけられたから。
 
「最初に『魂を切り裂くもの(ゼーレーシュナイダー)』でその槍の結合を緩めていたのに気づいていなかったのかい?
 もうその腕の武装は、僕の武装に等しい」
「テメエ──────」

 完聖体の真骨頂は、滅却師の持つ霊子収束能力を極限域に高めた『聖隷(スクラヴェライ)』にある。
 大気に偏在する霊子のみならず、既に構造物として物質化している霊子すら強制的に分解して自身に還元させる、いわば『霊子の隷属化』だ。
 サーヴァントの状態でもこの能力は依然機能する。ザレフェドーラの砲撃を霧散させたカラクリがその証明。
 魔力の多寡が勝負を決定づけるといっても過言ではない聖杯戦争において、戦場を支配するのにこれ以上のワイルドカードは存在しない。
 
 無数に展開されている光子の矢羽が幾条かの形状に固まり、複数本の矢を成す。
 弦にかからず飛来する矢の一本はヴィルヘルムを狙わず、その背面に刺さる。
 仕損じではない。明確な狙いあっての設置。
 残る五本が自身の周囲を挟んで円を結んだ編隊であるのを見て、ヴィルヘルムは柵を連想した。
 罪人を引っ立て、枷をはめて入れる牢獄(ケージ)を。

43Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:54:47 ID:w6YUILfk0

 
「"フェーダーツヴィンガー"」

 産毛を逆立たせる危険探知に飛び退くが、遅かった。
 跳び越えようとした矢の節から伸びた光条が鎖となって体に縛り付き、永遠の戦士を虜囚へと辱める。
 
「ギッが、があああああああああああああああああああああああ!?」

 痙攣する手足。電流火花が身体中を蹂躙する。
 痛みはない。この攻撃は肉体の痛打を目的にしていない。
 叫び喚くのはより深刻な喪失、肉体そのものへの重大な侵犯が実行されているがためだ。
 
「君の能力が僕らと似通った吸奪なのは理解できた。戦えば戦うほど、敵の力を自分の力に変えられる。同族同士の戦いの厄介さは身に沁みてる。
 よって根こそぎ空にする。フェーダーツヴィンガーの結界内では全ての魔力は奪掠される。元出がゼロになれば、吸収能力自体も使えなくなるだろう?」

 限定空間内での無限脱臭・脱水・脱力。
 中身を吐き出せるものを吐き出しきって、戦う力も生きる力も奪い抜く。
 サーヴァント自体が魔力の構成体であるのを差し引いても、最も容赦のない脱落方だ。
 外からの解除は不可能。
 そも第一に「抗う力」を無くすのがこの技なのだ。
 かつてこの技を受け敗北した死神は膝を折りながらも歯を食いしばり戦闘を続行したが、それも術者の雨竜が知己に手心を加えたがゆえ。
 縁もゆかりも無い襲撃者、マスターの生存を脅かす敵に与える慈悲を、果たして与えるものか。
 行き過ぎれば霊基の完全消滅。最低でも暫くの間、継戦能力は剥奪される。
 全てはさじ加減ひとつ。いまややヴィルヘルムの命運は雨竜の指先に委ねられた。
 
 
 「オ───お、あああぁぁぁぁぁ……っ!」
 
 檻の中で悶えのたうつ。
 肌は焼け、骨は溶け、内臓は腐って、すぐにでも消えてしまいそうな臨終の際。
 一度でも日を浴びれば、抵抗の余地もなく滅び去るしかない闇の一族。まさしく吸血鬼伝説そのものの末路。
   
 他ならぬヴィルヘルムがそう定義したのだ。吸血鬼は弱点を抱えるものと。
 火に弱く、銀に弱く、流水に弱く。清水も聖餅も弱点で、十字架を心臓に受ければ死ぬ。
 そんな一日のうち半分の世界にしか生きられない、人間よりも遥かに多く死にやすい生物の在り方をヴィルヘルムは愛した。何故か? 
 
「ざ……けんっなよ……っ。俺から……奪うだとぉ?」

 ───夜の世界でなら無敵だからだ。
 夜の吸血鬼は死なない。負けない。血も傷も死も、どんな負債も帳消しにして新生する。
 半分だけの世界であろうと、無限に生きられる不死身のヴァンパイア。
 
「違うだろうが……っ。奪うのは俺、で、テメエらは奪われる側だ───」
 
 光に拒絶されたのではなく自ら光を否定したのだと誇る。虚勢ではなく魂の底からそう信じる。願う。
 未来永遠戦い続ける戦鬼に生まれ変わることこそが、欠けを埋め合わせて余りある渇望(じんせい)だ。
 
 愛すべからざる光(メフィストフェレス)に焼かれた日を境にして、願いは肉身ある力の形となった。
 畜生の子の血と入れ替えた水銀は名実共に人を超越した。エイヴィヒカイト。黒円卓の一員。
 もはや憚ることのない吸血鬼。ならば立つ場所はいつ何時も夜でなければならない。
 だからこそ。

44Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:55:54 ID:w6YUILfk0

 
 
「奪わせねえ。
 もう二度と……もうこれ以上……っ。
 俺を奪われて────たまるかァァァァアアアァァァッ!!」

 
 彼の傍には、常に夜が在る。
 
  
 痺れる手が激憤で握り拳になる。
 動かないはずの体を、埒外の意志力で叩き起こす。
 寝ている暇はない。そこには敵がいる。吸血鬼の敵、神の御使い。
 この血を滅するべく光を引っ提げて降りて来たのなら、この血の脈動にかけて己の世界に逆に引きずり込め。
 その為にこの血はあるのだから───。

「何だ……宝具か? 馬鹿な、どこにそんな魔力が……?」

 死に体のヴィルヘルムから発される、濃密な圧力。
 逆転の目を出させないべくフェーダーツヴィンガーを使用した。発動できるだけの魔力がなければ、どんな強力な宝具でも無用の長物。
 にも関わらず、明らかに宝具の解放態勢に入っている。不条理としか思えない復活劇だが……胸元で光る赤い燐光で雨竜は悟る。
 
「令呪……! 他の葬者から奪い取っていたのか……!」

 仕掛けなど、いたって単純。
 即座には奪い尽くせない貯蔵(プール)を腹に蓄えていただけ。
 浮いた余剰分でも宝具起動にはまるで足りていないが、魂に油を注ぐ程度の量は残っている。
 
   
  Briah
「創造ァァァ────」
 
 
 詠唱省略。黙れ。余計な手間も省いて謳え。
 魔力不足。知ったことか。魂でも何でも焚べてさっさと動かせ。
 今はこの、鬱陶しく狭苦しい檻をブチ壊して、目も眩むばかりの月を拝ませろ。

 
 いざ臨め英霊らよ。
 仰ぎ見よ冥界の死魂。
 これぞ覇道の行進。世界を裏返す卵。万物を脅かす永劫破壊。
 時空を隔てようと普遍に伝わる、魂の臨界が見せる咆哮の景色、その称号を───。
 
 
 
  Der Rosenkavalier Schwarzwald 
「『 死 森 の 薔 薇 騎 士 』ォォォォォォォ!!!」


 
 夜が来る。
 闇に食われ光が枯れ絶えた、根絶一掃の夜が来る。

45Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:56:33 ID:w6YUILfk0


 明瞭にして決定的な変化は、景観の逆転。
 昼から夜へ。中天に座していた日輪は臓物めいた艶めかしい紅(いろ)の真円の月輪に。
 時間の操作ではない。現実にある風景を持ってきたものではない。
 これは心象だ。ヴィルヘルム・エーレンブルグの願う夜。吸血鬼の棲まう闇の月夜。
 分かち合うもののいない個我のみで築き上げた一夜城の具現化。

 エイヴィヒカイトの三段目の深奥、創造階位。
 さる魔術世界では固有結界と呼び、さる呪術世界では領域展開とも称される。テクスチャの張り替え、物語の筋書き(ジャンル)の変更。
 世界に数多偏在する形式は、宝具に登録される事でより同一性を帯びた。
 Aランク対軍宝具。効果は術者の吸血鬼化。及び結界内で自在な『闇の賜物』の能力適用。
 空間の隔離はされてないものの、範囲に飛び込んだ瞬間その効果は瞬時に現れる。
 
 主の命を受けるまで浮遊し待機していた矢羽の子機が、何もない虚空から伸びた杭に残らず串刺しにされた。
 一瞬で軍勢を槍衾の磔刑にかけるのは、まさにヴラド三世の逸話の再現。
 砕かれた矢羽は先刻の意趣返しに融解され、杭に流れ込んでいく。
 血が辿る先は当然源泉のヴィルヘルム。枯れた水路を命の水が一気に駆け上がる。

「オラァァアアアア!!」

 緊縛を課したフェーダーツヴィンガーが上腕の動きのみで大きくしなり、軋みを上げる。
 単純に強化された膂力で牢獄の柱をへし折り、掠奪の罰から解放された薔薇騎士が本領を発現させる。
 
「テメエも……邪魔だァァァァァァァ!!」

 凶眼が睨むのは、空から侵入したザレフェドーラの三発目の砲撃だ。
 全参加者へ連続使用しても衰えない威力と射程距離。赤騎士ザミエルの形成……列車砲の絨毯爆撃にも匹敵する殲滅性能。
 だがまるで問題にならない。死森に足を入れたものは須らく生贄だ。顔も見せず一方的に屠るだけの臆病者、いつまでもいい顔ではいさせない。
 混沌の黙示録さながらの隕石が、上と下を乱杭歯で噛み挟まれる。
 こうなれば後はお決まりの結末(オチ)だ。際限なく体液を絞り出された犠牲者はみるみる体積を減らし、咬合で砂に還る。
 血染めの薔薇───他種の養分を吸い付くし、荒れ野にただ一輪のみの紅蓮を咲かす。
  
 ───こうまで似通ってくるとは。
 光と闇。収束と吸収。発現の形態は正反対でありながら、もたらされる効果は驚くほどに近い。
 矢羽を落とされ乱入した砲撃も消えた。二個の事象を観測し、雨竜は彼我の能力の相似性を計算する。 
 唯一残る生者に全ての牙の矛先が向けられても、滅却師は思考と選択を手放さない。

「聖隷(スクラヴェライ)───」

 有効策は明白。同様の力で相殺するのみ。
 首筋と手首と脇下に突き立てんと生えた杭が、起動した聖隷に触れた途端に分解される。
 ヴィルヘルムの支配する空間から雨竜は魔力を剥離させ、還元される前にヴィルヘルムに再び戻される。
 プラスとマイナスが無限に回転する。同じ出目を出し続ける賽子。どちらも収支は差し引きゼロ。
 薔薇と十字は完全な相互関係に置かれた。
 
 夜の薔薇はヴィルヘルムの体内も同然。領域内での戦闘は世界そのものを相手取るといっていい。
 今さらだ。世界に弓引き、あまつさえ従えさせんとす蛮行。そんなのは慣れている。
 自分も、そして友も。そんな愚かな振る舞いを後悔なく行えてしまう馬鹿だと、とうに知っている。

 
『ハアアアアアアアアアアアアアア!』
 

 張り上げる声は二人から。
 負けられないという思いと、勝つという渇望。
 能力と性質がどれほど近似であっても、戦う理由が違えば、交わりはしても溶け合いはせず、反発するしかない。
 そして、最後の激突の音が止んだ。

46Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:57:38 ID:w6YUILfk0



 ■

 
 一時の夜は明けた。
『死森の薔薇騎士』が解除されても、闇が消えただけで戦いの惨憺たる有り様が元通りになるわけではない。
 建造物や街路樹は軒並み養分となって灰化して、外の冥界と大差なく枯れ果てている。
 空気も凍土並に冷え込んだ廃都で、二者は対峙していた。

「……」
「フ───ッ、フ───ッ……」

 疲労の色は出てるものの未だに完聖体を保持した雨竜に対し、ヴィルヘルムの消耗の方が一回り以上大きい。宝具が解かれてる以上、これは自明の理。
 
 宝具維持の魔力効率と上昇率が大幅に増す夜間でなく昼間の使用。開帳に必要な手順となる詠唱を飛ばした強制発動。
 急激に魔力を削られる中、保管令呪で水増ししてもなお十全には届かない、不利な条件を多く抱えていた。
 さらには創造下における弱点の付与。
 肉体の吸血鬼化は恩恵だけでなく、民間に伝わる吸血鬼の弱点さえも内包してしまう。
 この強制力は致命的で、突かれれば何の神秘も持たない人間であっても倒される可能性すらあるもの。「光」「十字架」はその代表格といえるだろう。
 その上吸収能力の実質的な無効化。回復のコストを相手に押し付けられる薔薇騎士の売りを、全て踏み倒されてしまった。
 石田雨竜という英霊こそは、ヴィルヘルム・エーレンブルグの天敵であったというわけだ。

 むしろこれだけ悪条件が揃ってもせめぎ合いにまで持ち込んだヴィルヘルムこそが本当の異常性だ。
 それが分かってるから、雨竜も迂闊に手を出せない。
 消耗を強いられたのは同じだが、余力の残量はこちらが上。追うも引くも今なら自由。当初の予定は達成している。

「……ったく。本人が出張ってこねえ癖して、似たりよったりの奴は寄越しやがって……」

 悪辣さの抜けた、見た目の年齢相応のぞんざいな声がした。
 遠くにいる誰かに、届かないとわかってて呆れた愚痴を投げつけてるような、穏やかな語り口。
 
「アイツのいう主ってのは嫌がらせの達人なのか? なぁにが愛溢るる教えだよまったく。
 ああクソが、マキナと同じどツボにはまりそうだぜ。本当に不在なんだよなメルクリウス……?」

 戦いが日常の生きる場所とするヴィルヘルムには、仇敵との果たし合いも気心しれた同胞との戯れの延長線上にある。
 意識して切り替えるような境界は存在しない。懐しむ記憶に対しても、今ではこの手で殺せなかった残念が大半を占めている。
 
「ああ、だがいいぜ。それを乗り越えてこそ呪いの超克……ってな」

 白昼夢から覚めるように元の殺気を放つ。質の方向性のみが変化して。
 思い起こされるのは、かつて刻まれた呪い。
 『望んだ相手を必ず取り逃がす』。
 本当に欲しいと願った者、心の底から倒したいと思う程に、それを横から奪われるという宿命。
 言葉は魔術の師となる男から贈られたものだが、あくまで自覚を促されただけ。
 呪いの本質は、自分自身の生き方の根幹に永く根差して蝕んでいる。
 払拭する試みが成功した例はない。今度はそうなるまい、必ず手に入れると構えていても、常に改善しようのない間の悪さに見舞われてきた。
 
 冥界の戦争に招聘され、率先すべきは黄金の獣へ勝利と聖杯の献上と決め手はいたが、その考えは頭の片隅に置かれていた。
 もしこの儀式が真に詐欺師の介入のない、未知の新世界というならば。
 あるいはここでなら、絡みついた因果を切り落とす、絶好の機会となるのではないかと。

47Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 22:59:05 ID:w6YUILfk0

 そしてヴィルヘルムは出会った。
 創造を切ってさえ遂に殺せなかった、またとない極上の敵。
 その白(いろ)も。
 その翼(すがた)も。
 その光(ちから)も。
 事もあろうにあの時の、白夜に散った初めての女を思い起こさせる器。
 
 何もクラウディアを殺す再現をしたいなんていう、女々しい真似をしたいわけじゃない。
 いわばゲン担ぎのようなもの。見知らぬ土地で会った初対面の相手に既視感を覚えた事に、何かしらの意味づけをしてみただけ。
 強いて挙げれば、自分とクラウディアを混ぜ合わせた能力なのが、非常に腹立たしいというぐらいのもの。
 つまりはそういう話だ。
 
 
「……砲撃が止んだな。結界が張られていた間にデカいのをブッ放したな。あっちの大気の路が焼けてやがる」
「そのようだ。僕も肩の荷が下りた。これでやっとここからお暇できる」
「腑抜けも大概にしとけや。どこまで逃げ腰でいるつもりだぁ?」
「震える脚で吠えても説得力に欠けるね。僕が退いて助かるのは君の方だろう。
 もっとも、一戦でこの分じゃ永くは保たない。僕の知らないところで好きに野たれ死んでいてくれ」
 
 挑発も相手にせず立ち去る素振りをしてる雨竜だが、これだけの難敵、放置してしまっていいものかと思案もしている。
 別に名も知れぬ葬者と英霊に配慮してるわけではない。聖杯戦争は勝ち抜き戦。馬鹿正直に見敵必殺の構えでいてはすぐ息切れする。
 ここでランサーを捨て置いても、再び雨竜がぶつかる確率は低い。
 一方で、実際に手合わせした感触から、そう安々と楽観もできない
 雨竜が優位に立てているのは、たまたま能力の相性が噛み合ってくれたおかげだ。完聖体もなしに戦うとしたらぞっとしない。
 そうした相性や圧倒的な実力もなしで、この男が戦争の終盤までに脱落してくれるかは正味怪しい。
 であれば優位と取れているここで討つ方が後々の負担にならずに済むのでは……。
 答えの出ない思惑に歯噛みしていると、ヴィルヘルムが予想外なことを切り出した。
 
「どうあってもケツまくる腹か。なら見逃す代わりに名乗りな、ガキ」
「……今度はどういうつもりだい?」
「戦の作法ってヤツだよ。ここんところ、名乗る間もなくブッ殺される雑魚ばっかりだったからな」
「それは、アレかい。『殺し合いなら自分を殺す相手の名前ぐらい知っておきたい』ってやつかい?」
「へえ、誰かは知らねえいいコト言うじゃねえか。俺にとっちゃ騎士の流儀だが、ああ、そういう気構えは持ってるつもりだぜ」

 計略の類は見受けられない。
 戦いの中でのやり取りからいっても、名前に呪詛をかけるだとか迂遠な戦法を取るタイプとはかけ離れている。
 答える義理はない。断ってもいいが……それで難癖をつけられ、追い回されてはたまったものじゃない。
 
「石田雨竜。滅却師(クインシー)だ」

 幾つか予防線を張って、名を明かす。
 吹聴して回られる心配は、実はあまりしていない。誇りを重んじる性格は、些かながらも理解がある。
 
「ウリュウ、ね。憶えたぜ。やっぱしヤーパンだったか。だがちょい欧州(こっち)の匂いがするな。混じりもんか?」
「自己紹介以上は教える義理はないね。お見合いじゃないんだ。
 それで、君は名乗らないのかい。それとも口八丁で真名を聞き出して自分は反故にするのが、君の言う騎士様の流儀なのかな。なるほど見上げた忠誠心だ。主の器が知れるよ」
「焦んなって。厭味ったらしく焚きつけなくても今さら隠し立てなんざしねえよ」
 
 毅然なる名乗りに、ヴィルヘルムはある種の敬意さえ込めて律儀に礼を返す。
 未だ虚脱が抜けきれていない腕に、満身の力を溜めた拳を突き上げ。
 
 
「聖槍十三騎士団黒円卓第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ。
 お前の魂は予約済みだ。ヴァンパイアの名に懸けて誓おう。この戦争で最高のタイミングで、最悪の晩餐に招待してやる。
 肉の端から血の一滴に至るまで俺が喰らう。呪いを超え新生した俺の翼の一部となれ。
 だから───くれぐれもくたばるなよ?」


 恋人を抱き締めるような、愛の告白(コトバ)を送った。

「………………」

 雨竜は壮絶な寒気に酷く顰めた顔で、踵を返してマスターの元へ飛び立った。
 やはり受けるべきじゃなかった───自分の誤った選択をつくづく後悔しながら。

48Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 23:07:03 ID:w6YUILfk0

 ◇


 時は遡る。
 これはまったくの余談であり、しかし未来に関わるかもしれない。
 猫の尾が何本あったのかを見逃してしまうような、些細な分岐点だ。

 
「グハッ……ウオオオオ!?」

 衝撃。壊音。閃光。
 地下通路の洞穴で起きた兇変にフレイザードは身体を回してもんどり打った。
 爆風はない。巨大な何かが通り過ぎ、着弾地はおろか通過した空気をも消滅して生まれた真空が生んだ突風だ。
 
 認識が追いつかない。何が起きたか把握できない。
 白貌のランサーとの戦いに集中して、頭の上から墜ちてくる白滅がフレイザードの目には入らなかった。
 それだけ意識を注がなければならない強敵だった。そうしなければ光が来るより先にたちまち物言わぬ土塊に分解されていたろう。
 そして傾けていたから、直上の砲撃への対応が一手分遅れてしまった。
 もう一手、ランサーの退避を怪訝に思い周囲の警戒を高めていなければ、上半身が消し飛ばされていた。即死しなかっただけでもまだ運がいい方だ。

「ぐ……くそ、何だってんだ───」

 禁呪法生命の頭部に脳は詰まってはない。重要な機関は胸の核(コア)のみ。脳震盪は概念からしてない。
 すぐに混乱から復帰し、状況を把握をしようと立ち上がる。
 立ち上がろうと、した。

「……あ?」

 視座が持ち上がらない。
 待てども体は地面に横たわったまま、フレイザードの意に反して沈黙を貫いている。
 腰から上は自由に動くのだ。胴も指も、そこは肉眼でしっかりと確認できている。
 
「なんだオイ、なんなんだこりゃあ」

 では、土埃が晴れた下半身は。
 
「脚が……俺の両脚がぁあああああ!?」

 我が目を疑う惨状に怪物の大口が裂けんばかりに開く。
 炎と氷の岩石で出来たフレイザードの両脚は、消失している。
 脚の付け根、腿から下をごっそりと抉られ、赤子より短い下肢が晒された。
 
 ……禁呪法生命は痛覚が鈍い。
 外法で造られた贋作の生命の弊害か、戦闘用の兵器として割り切った運用か。
 痛みで判断を間違えない能力は、確かに兵には有用であるように思える。
 しかし感覚の鈍さとは、異常を検知する機能も失わせていることと抱き合わせだ。
 体の不調、状態の故障を把握できないまま行動する。それは生命どころか道具としてすら完全に壊れている。
 そして異常の気づきの遅れとは、得てしてこうした未曾有の事態が起きた際に、続けざまに二次被害を引き起こす。
 
「は、待て、待て待て」
 
 消滅の爆撃は下層の岩盤を穿って大穴を作った。なので外の様子を地下からでも容易に窺える。
 倒れたままのフレイザードでも、それははっきりと目に映った。
 世界の終わりを見せられているような光景。空を切り裂いて走る流星の一条が、この穴の位置に向けて方向転換したのを。
 
「待てよオイィィ!?」
 
 死にかけの魔物に止めを指すべく再び振るわれる銀の鉄槌。
 脚は再生を始めてる。核させあれば魔力で肉体は幾らでも復元できる。
 ───無理だ。間に合わない。損壊箇所は切断や粉砕でなく消滅だ。相当する部位を新しく生産しなければならない。秒単位で終える範囲を超えている。
 唯一取り得る策、全身を分解させて移動できる弾岩爆花散は、広大な面攻撃の前では用をなさない。核も巻き込まれて諸共に抹消だ。

49Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 23:20:32 ID:w6YUILfk0

 
 
 ───終わるのか、俺は? 
 
 
 回避も、防御も、生存の道が何一つ見えない闇の中で、フレイザードの記憶が逆流する。
 
 
 ───あの時と同じで、惨めに消されて死ぬってのか?

 
 再生されるのは、最期に味わった、固い踵の感触。
 バルジ島の決戦。覚醒した勇者の一閃で借り受けた鎧ごと斬り伏せられた敗北。
 代償に目玉一個分だけの矮小な種火に貶められ、それで用済みだと揉み消される。
 魔影参謀ミストバーンの、何の関心も憐憫も抱いてない、無味乾燥とした宣告がこびりついて離れない。
 
 敗死したフレイザードを思い起こす者は、勇者の使徒にも魔王軍にもいないのだろう。
 冥界でも同じこと。誰にも見られず、何の功績も残せず、存在ごと忘れ去られる。
 名も無い敗者となって地獄を彷徨う、無意味な亡霊。
 
「そんなことで───」

 生を受けて約一年。
 様々な感情を学んできたフレイザードだが、この感情を形容する名を持たなかった。
 怒っているのか。憎んでいるのか。恐れているのか、判然としてこない。
 乱雑で混沌とした、胸が焦げるほど熱いことだけが分かる炎が、萎えかけた核(こころ)に猛火を容れた。
 
「いいわけが、あるかよォオオオ!」
 
 眼前に墜ちる寸前の光を、両の腕で受け止める。
 瞬時に溶ける右手。燃える左手。魔法力を全開で放出していても焼け石に水でしかない。
 あまりに頼りない短いもがきの最中で、最後の思考が異様に伸ばされる。
 無理ではない。本来なら止めることすら叶わず消されているはず。なのに『手で触れて』止められてる。
 そこには理由がある。他の者には無理でも、己ならば出来る、その根拠が。
   
「ァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア───────!」
 
 両方だ。
 天啓にも等しい直感に見捨てられた命運を擲つ。
 炎も氷も、同時に、体にある力を全て出し尽くす。
 光は押し留められ、反発し、手の中で炸裂と相殺とで消えて滅ぶ循環を連続し───。
 

 ……。

 …………。

 ………………。

 
 巻き戻した時が追いつく。
 滅却師と黒円卓の闘争が区切りがついた現在。
 同じ場所でフレイザードは寝転がっていた。

 状態は、以前よりも酷くなっていた。
 再生し切れてない両脚に加えて、両の腕も綺麗に消失した。
 核は無事であるが魔力も出し切って、復元は遅々として進まない。元の姿に戻るには今しばらく時間がかかる。
 今襲われれば何も抵抗できず殺されるしかない、風前の灯。
 だが。
  
「ハア、ハア、ハア───────」
 
 痛む肺がないのに息を切らす。
 酸素を必要としないにも関わらず喘ぐ。
 自分自身でも信じられない事を成し遂げてしまって、動揺しているのだ。
 人間と変わらぬ動作で呼吸を整え、ややあって落ち着きを取り戻したフレイザードは。
 
「ハア、ハ、ハハハハ、クククッ───クヒャハハハハハハハハハハ!」
 
 胸の奥からざわざわと湧き上がってくる快感に堪えきれないと大笑した。
 
「そうだ、何で思いつかなかった? 俺の体は炎と氷じゃねえか、両方同時に使えるのが当たり前だろうが!
 いや当たり前だから特別意識もしなかったのか? どっちにしろ気付いた今となっちゃとんだバカな話だぜコイツはよォ! ク〜クックック!」

 極大呪文は両腕での魔法力の出力が必須とする。
 膨大な魔力の持ち主であれば、溜めなしで呪文を連発もできる。
 性質の異なる呪文を左右の手で同時に使用する。これは特有のセンスの持ち主でなければ一生かけても実現不可能とされる。
 右手と左手で、それぞれ別の薬品を取り扱い、個別に実験を行うのと変わりない。魔力量とは切り離された独自の技術だ。
 可能とするのは術の練達と技量を極めた稀有な魔道士。
 それか、始めから別種の熱量を身に宿してる、尋常の外にある生命体。

 禁呪法生命は歪な存在だ。
 発生した瞬間から完成された肉体と、特定の人格を持って活動できる。
 製造者の気質の影響を直に受け、アイデンティティーも曖昧なまま、与えられた役目を生きる理由にする。
 詰め込まれた機能と、がらんどうの記憶容量。噛み合わない歯車の齟齬の軋轢が益々存在を歪めていく、欠陥前提の戦闘生命。
 その隙間を埋め合わす何かを得た時に───怪物は目覚める。
 
「とうとう掴んだぜ! 俺の力の真髄を!」
 
 腕も脚もない、どんな葬者よりも死に瀕した姿でありながら、フレイザードは喝采した。
 世界中の死が蒐められた領域で、それは赤子の産声にも聞こえる、誕生の瑞々しさで溢れていた。

 
 ◇

50Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 23:21:40 ID:w6YUILfk0


【新宿区・路地裏/1日目・夕方】

【アーチャー(石田雨竜)@BLEACH】
[状態]ダメージ(小)、魔力消費(中)、いずれも回復中、怖気
[装備]弧雀
[道具]なし
[所持金]数万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:クロエを現世に送り届ける。
0.マスターと合流。ヴィルヘルムについては……今はあまり考えたくない。
1.〈消滅〉を討つという点で天堂と合意。ただし、完全に信用はしていない。
2.〈ヒーロー〉ともコンタクトを取りたい。
[備考]
※天堂が持つ〈ヒーロー〉の情報を聞きました。詳細は後の話に準拠します。
※ヴィルヘルムの真名を知りました。

【ランサー(ヴィルヘルム・エーレンブルグ)@Dies irae】
[状態]ダメージ(大)、魔力消費(大)、昂揚
[装備]なし
[道具]予備令呪(残り三画)
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し
1.ここでの運命を見つけた。必ず殺す。
[備考]
※ヴィルヘルムとライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)の参戦時間軸は違います。
 ヴィルヘルムは死者の城を経由して召喚されています。よってDies本編時空の事は知りません。 
※手元にある予備令呪は二人分(三画)のみです。残りは甚爾が持ってるか別の場所に保存してるかは不明です。
※雨竜の真名を知りました。


【???(新宿区より四方数キロ以内のどこか)/1日目・夕方】

【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 3rei!!】
[運命力]通常
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]不明
[所持金]雨竜に預けているので、あんまり持ってない
[思考・状況]
基本行動方針:生きたい、もう一度。
1.ホシノたちに同行し、狙撃手の正体を確かめる。
2.〈消滅〉のことは頭が痛い。まあ、放ってはおけないわよね……。
3.〈ヒーロー〉は今どこにいるのかしら。
[備考]
※天堂が持つ〈ヒーロー〉の情報を聞きました。詳細は後の話に準拠します。
※狙撃手を、自分の知る人物なのでは? と考えています。

【小鳥遊ホシノ@ブルーアーカイブ】
[運命力]減少(小)
[状態]全身に裂傷、片足に裂挫創(いずれも応急手当済み)
[令呪]残り3画
[装備]「Eye of Horus」(バッグに偽装)、盾(バッグに偽装)
[道具]
[所持金]学生相応
[思考・状況]
基本行動方針:生還優先。物騒なのはほどほどに。
1.ある程度回復したら、セイバーのマスター(オルフェ)を追跡する。
2.ユメ先輩……。
3.同盟は……もう少し待ってほしい。
4.殺し合わず生還する方法を探す。
[備考]
※夜宵と連絡先を交換しました。

【アサシン(ゼファー・コールレイン)@シルヴァリオヴェンデッタ】
[状態]通常
[装備]ナイフ
[道具]投擲用ナイフ×?
[所持金]諜報活動に支障ない程度(放蕩で散財気味)
[思考・状況]
基本行動方針:ホシノの方針に従う。
1.セイバーのマスター(オルフェ)は必ず殺す。
2.こいつら(クロエとアーチャー)大丈夫か?
3.なにあのロリっ子怖い。あの英雄ほどイカれてないようなのは安心。
[備考]
※情報屋の葬者(脱落済み)と情報のやり取りをしていました。夜宵が交流してたのと同じ相手です。
※ヴェンデッタの半実体化にはマスターの魔力を必要とし、その能力の使用にはさらなる魔力の消費が必要です。
 またゼファーの本来の宝具の使用にはヴェンデッタとの完全同調が必要であり、より膨大な魔力を消費します。

51Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 23:22:44 ID:w6YUILfk0


【新宿区・地下鉄跡/一日目・夕方】

【フレイザード@ドラゴンクエスト ダイの大冒険】
[運命力]通常
[状態]魔力消費(大)、四肢喪失(再生中)、消滅呪文習得、紅煉への念話不通
[令呪]残り三画
[装備]無し
[道具]無し
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺しにして聖杯を得る
0.掴んだぜ、俺の本質を!
1.あの野郎(紅煉)、一体どうなりやがったんだ?
[備考]
※新型黒炎の殆どはレイ達と戦っていた地点へ放ったままです。
※紅煉が十叶詠子と接触しました。その影響で彼への感知と念話が通じていません。どの程度永続するかは不明です
※指揮していた分の黒炎は全滅しました。
※消滅呪文の感覚を覚えました。副産物で呪文の同時使用も可能になりました。

52 ◆HOMU.DM5Ns:2025/08/15(金) 23:23:31 ID:w6YUILfk0
投下終了です。ページの区切りはwiki編集時に登録します

53 ◆.OsowbNKc6:2025/09/01(月) 19:31:51 ID:Rw/jbHxQ0
パロロワ(でよいのでしょうか)についてはあまり詳しくないのですが、こちらの企画を読ませていただいているものです。
感想や応援のコメントをどこに書き込めばよいのか分からなかったので、不躾ながらこの場に直接書き込ませていただいております。
このような大規模かつクオリティの高い聖杯戦争二次創作クロスオーバー企画は他に見たことがなく、大変楽しく読ませていただいております。
自分の見識が狭く原作を把握できていない部分も多々あるのですが、個人的にはグラン・カヴァッロ&メステルエクシルが好きです。
今後の展開も大変楽しみに待っています。
応援の気持ちを伝えたく、この場に書き込ませていただきました。

54 ◆HOMU.DM5Ns:2025/09/02(火) 14:59:36 ID:MNx9toQE0
>>53
企画主の1です。応援ありがとうございます。
現在体調の不良により投稿ペースが落ちておりますが、このような場において応援のお言葉は大変励みになります。感想に飢えておりますので。
今後とも暖かく、気長に、当企画をお見守り下さい。そしてもし意欲が湧いた時には、どんなに小さな話でも創る側として参加してくだされば、これ以上の歓びはございません。


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