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Fate/thanatology ―逆行冥奥領域― 第3層

17名無しさん:2025/06/14(土) 03:47:48 ID:Mho1mqIg0
投下お疲れ様です!

> 呪縁、玉石混交
伏黒父が本当にいいキャラしてる……暴力性と渾然一体のクレバーさと軽口(「これでも協力してたぜ? 笑い噛み殺して必死によ」とか酷いけどあんまりにもらしすぎて笑う)でしっかり立ち回ってるのが「普段の仕事してる時の姿」感があってすごく楽しいです。
先生の高専についての問いに対する伏黒父の答えと、解析がてらの呪術世界に対する血流と血栓の喩え・見立ても実に鮮やか。思考の組み立て方の面白さ、の点で、先生はことさら感心させられる一人ですね…!!
「猿は嫌い」後の夏油と伏黒父の対面・呪術キャラならではのキレキレの口の悪い掛け合いが見られるのもうれしい。何気に「変な向きにへし折れたタイプ」が名表現だと思います。
しかしそれ以上にやはり夏油 対 先生。「神風仏陀斬」での応酬と言い、クロスオーバーの醍醐味の一つは、異なる世界観と価値観同士のぶつかり合いとそこから生じる火花だと思うのですが、本回の彼らの、張りつめた読みあいと機知に富んだ(それでいて彼ら自身も述べていたように、どうしようもない本音も滲んだ)言葉のやり取りも、とんでもなく濃厚で読み応えたっぷりでした。
夏油と聖杯機能との最悪の噛み合い方、「捨てる」ことと「選択肢」、先生視点でのプロファイリングに自己言及を絡めながらのモノローグがずっと面白く、何より「先生」というワードが夏油の過去とIFにもかかってくるのが、夏油の視線が「空」へ向けられる一瞬の表現(ここが特にいい…)と相まって突き刺さります…!!



>Black Prominence Overshoot
「消滅」の放った終結宣言、前回度肝を抜かれた冥奧全域全方位無差別砲火に対する、葬者たちの一幕目。それにまさしくふさわしい、筆先にも展開にも臆するところ手加減するところのない、がっぷり四つのオルフェ&セイバーオルタによる相対に滾りました。
オルフェの「馬鹿な」が本当にその通りすぎて……ルクノカ・メリュジーヌ戦でも感じたけれど、クリアとその術に対する各参加者たちの初見の反応や分析がいちいちわくわくしますね。ザレフェドーラの脅威描写、少年漫画終盤ならではの大味でとんでもない規模の技を現実に(色んな意味で本聖杯は『現実』とは程遠いとはいえ)現出させたらどう見えるか、の思考実験のようでもある。
そしてだからこそ、何かの冗談か悪夢のように絶え間のない白光の雨に対して、黒光で以て揺るがず向かい合うセイバーオルタの姿、その言葉に奮い立ち極黒の聖剣を解放するオルフェの姿が映える。端末として滅びそのものの狂気と不条理さの一角を体現したようなザレフェドーラのモノローグからの「――――――されど知るがいい、滅亡の子。」の流れでテンションが爆上がりでした。
セイバーの背とオルフェの垣間見た「王の夢」の下りも、逆襲劇(ヴェンデッタ)の語の絡め方と言い、この陣営の掘り下げとして素晴らしい。しかし、プラナ釈迦、プロスペラ、ホシノゼファーとのそれぞれの相対といい、他陣営接触による内面描写はオルフェが一番好きかもしれない…
そして「バーガーショップにグランド級(クラス)のメニュー」と吹きだしてしまうフレーズも忘れない細心さ。強烈なる砲撃展開のレシーブとして、双方を魅せ切りつつ「過程」の余白も残しつつ、きっちり話を先へと進める、リレー的な手腕でも唸らされる一話でした。



>セカンド・シーズン
前話の流れを受けての「点数稼ぎ」の冒頭、どこかコミカルな光景ながら、「料理」という行為を絡めたデミヤ氏(未把握の身ながらというべきか、ゆえにというか、登場話から一貫して合間合間できれぎれ描かれている彼の背景の凄まじさに圧倒されます)とトロア(ヤコン君)の冒頭での会話が何とも切ない。そういえば死神はワイテの日々では猪肉のスープを作っていたなあ、とも。
滅びの砲火が嘗め尽くした往来、街路と人々の痕を見つめながらの衛宮のモノローグがまた……悲しまない、捨てた、不要……と繰り返し繰り返し、徹し切った独白を重ねれば重ねるほど、陰画の如くそこに焼き付いた感情が浮かび上がるのが実に巧み(前々話での夏油の言動の纏っていた一種の惨烈さと一部通じつつベクトルの異なる悲壮さがあるような)。
オルフェ陣営との合流・会合も、展開の整理を交えつつの掘り下げでぐいぐい読まされました。譲れないものはありつつ、穴だらけにされた地図、狂った羅針、波濤で揺らぐこの盤面できっちり「数」の重要さを踏まえて柔軟に方策が立てられるのは、(両者の地頭を考えれば当然と言えば当然かもしれないですが)作劇的な安心感がありますね。
点数稼ぎたるハンバーガーをきっかけに、セイバーオルタとの会話で両者の間に隔たる世界線の残酷さを思わされるのも、感情と盤面と状況を見据えた(自身にも言い聞かせるような)オルフェの思考整理も、いずれも面白かったです。

18 ◆HOMU.DM5Ns:2025/06/15(日) 23:04:46 ID:/XLtEBUg0
投下&感想ありがとうございます。

フレイザード
ランサー(ヴィルヘルム・エーレンブルグ)
小鳥遊ホシノ&アサシン(ゼファー・コールレイン)
クロエ・フォン・アインツベルン&アーチャー(石田雨竜)

予約します

19 ◆HOMU.DM5Ns:2025/06/28(土) 21:33:54 ID:T7TyrRgo0
延長します

20 ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/01(火) 07:13:25 ID:NQnuPuKI0
申し訳ないですが一時予約を破棄します。

21 ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:32:09 ID:KaanaBBA0
上記の面子を再予約、そして前編投下します

22Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:34:54 ID:KaanaBBA0

 ◆
 
 
 人生のツケというやつは最も自分が苦しい時に回ってくる。
 どこかで聞いたような話を、ふとフレイザードは思い出した。
 誰が言ったかまでは憶えていない。敵と過度な馴れ合いは好かないし、配下のフレイムやブリザードにそんな含蓄深い言葉を出すだけの知恵はない。
 まして生まれて一年足らずの身の上では、同格の六大軍団団長とすら碌な交流もない。
 説教くささの混じった物言いからするに武人肌のクロコダインだろうか……そんな発想をするのが関の山だ。
 
 こういう時、己の中のコンプレックスを自覚せずにはいられない。
 自分には歴史がない。記憶と経験の層の積み重ねが透けて見えるほど薄い。 
 魔族の寿命は一般で数百年、人間ですら数十年だ。
 指一本で消し炭と化し粉雪と砕ける、経験値にもならない脆弱な雑魚が、自分の数十倍も生きているという事実を突きつけられる度、ありもしない腸が煮えくり返る気分になる。
 劣っていると、そう思わせられる。
 
 払拭には証が要る。禁呪法の生命体、虚無の魔物というレッテルを刷新するだけの証が。
 勝利と功績。それこそがフレイザードを世界に刻みつけるのに最も適した手段だ。
 次の敵を倒し、次の次の困難を超え、次の次の次の成果を呑み下す。
 誰にも届かない、見送り見上げるしかない天かける階段の果て。そこへと辿り着く栄誉のみが、永劫埋められないこの渇きを癒やす生命の水となる。
 ここで格言に話を戻すが───つまりは、まさに、今がその時なのか? と、他人事のように俯瞰したのだ。
 
 
「よお、邪魔するぜ。上じゃあ随分と派手に遊んでたみてえだな」

 
 開口は穏当だった。あくまで戦慄に緊張した空気にしては、という比較の話でだが。
 気安い口調には、これから始まる狂宴への喜悦が隠し切れてない。隠す気もないのかもしれない。
 殺気に当てられた常人は、暗窟の場の雰囲気も併せて気をやっていただろう。
 
 魔王軍という強力なバックを失った今のフレイザードは孤軍だ。兵隊を取り上げられて人間の本拠地に裸一貫で放り込まれたに等しい。
 葬者中最も人間離れした外見。雑踏に紛れる、という隠遁手段を初手から潰されている。
 一ヶ月間、セイバーと冥奥領域を荒らしに荒らし回っても他の陣営に討伐されなかったのは、単なる腕っ節の強さのみからではない。
 平時と同じ戦い方ではすぐ包囲され、袋叩きにされる。相棒が享楽という文字に手足を生やした性根の紅蓮であれば尚の事、知恵を回す必要がある。そうして見出したのが人間が開発した街中のインフラ……下水道や地下通路だ。
 潜り込めば地上の捜索の目を掻い潜り、抜ける時は何処からでも出てこれる。蜘蛛の巣のように東京中に張り巡らした経路は、魔術師といえど手を焼く迷宮だ。
 おまけに地下鉄の巡回やデパートの駐車場の利用者という"夜食"つきでセイバーの機嫌も取れる。攻めるにも守るにもうってつけの隠れ家といえた。
 
 セイバーが謎の音信不通に陥りヒーローから撤退を決め込んだ後も、その手並みは乱れなかった。
 黒炎に乗って目星をつけていた大型施設……地下鉄駅と直結しているデパートに乗り込む。先の殺戮を地下に逃げて難を逃れていた僅かな生き残りを燃やして線路を突っ切る。邪魔な目撃者を一掃していたのが効いてきた。
 首尾よく安全は確保できた。結果的には敗北した形であり、屈辱も感じている。何より事態の不明なままなのが苛立たしい。
 それでも、まだ機運は見過ごしてはいない。ほとぼりが冷めるまでにセイバーと再度連絡をつけようとする時に……この影は現れた。 
 照明が薄い闇の中でも、自身の左半身が巨大な光源だ。一歩進む度に姿を克明に映してくれる。

23Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:36:57 ID:KaanaBBA0
 
 一言で言えば、白い男だった。占有率でいえば上下の服の黒色が圧倒的なのだが、首から下の相貌と頭髪の色が、対象のイメージを白であると断固として主張していた。
 かかる濃密な死の気配は、血臭と殺気。フレイザードよりよほど人の形をしていながら、その男は人の殻を破っている。 
 地下に潜む白貌の屍食鬼(グール)という伝承も、歴史上で忌まれる鉤十字(ハーケンクロイツ)の黒軍服の所以もフレイザードは知らない。
 理解したのは己と同類だという点のみ。殺戮を好み、血を良しとし、それらを積み上げていく勝利を切望している闇の住人。
 ランサーのサーヴァント、ヴィルヘルム・エーレンブルグの性質を、氷炎将軍は一目で読み取っていた。
 
「おうよ。景気よく愉しませてもらったぜ。派手に喰ってたのは俺のサーヴァントだが、眺めて酒の肴にするのもたまにはオツなもんだ」
「酒がイケるクチには見えねえな。それとも口の中で自動で炙ってロックになるのか? ……便利そうだなオイ、後でちょいと試させてくれよ」
「比喩だよ察せよそこは。俺はこれでも勤勉なんだ。
 んで? どうやってここが分かった? 今までバレた事はなかったんだがな」

 酒席で隣り合った初対面の客同士が馴れ合うような構図から、さりげなく意図ある質問を滑り込ませる。
 仮に今この場を切り抜けても、追跡が撒けなければまた次が来る。ここを晴らさない限りどこへ行っても安全地帯になりえない。
 退路を断たれてサーヴァントと正面向かい合う危険より、この隠れ家が補足された経緯が目下の懸念だった。

「んな怪異の臭いプンプンさせてよく言うぜ。ここんとこうろついてる黒いのの臭いはもう鼻で憶えてんだ。
 その上食えもしねえ焼けた肉までブチ撒けやがって。犬のマーキングのつもりかよ。誘ってんのかと思ったじゃねえか」
 
 ラインハルトの麾下に入る以前、エイヴィヒカイトも得ず浮浪する無頼だったヴィルヘルムだ、路地裏の獲物を捕らえる嗅覚は先鋭化している。
 ……潜伏先に目星をつけてたのは、絶賛見下し中のマスターが、陣営を跨いだ足で調査した成果であるのは黙っていた。
 葬者の情報は伏せておくという戦術目的より、アレを身内判定に扱われる恥を避けたい気分だという比率の方が高い。
 ともあれ術師狩りは潜伏に適したポイントに逐一目をつけて、ヴィルヘルムに情報を渡していた事が今回の発見に繋がったわけだった。
 
「クククッそうかいありがとうよ。今後の参考にしとくぜ。ただそれにしちゃあ、まだひとつ解せねえところがある。
 テメェ、聖杯がどうこうより、戦いも殺しも好きなタイプだろ? 見りゃあわかるぜ。
 そんなお仲間が、地上にいる活きのいいガキ共を置いてわざわざ俺を追いかけるってのが、イマイチ腑に落ちなくてな」

 伊達に六大魔王軍の一角を任されてはいない。年若くとも闘争に関してならば目端が利く。
 ランサーが聖杯獲得を目的に最短のルートを組まず、過程の殺戮こそが本命であるのはすぐに察しがついていた。
 生粋のモンスターを凌ぐ血生臭さは、フレイザードの知る人間と同類なのかを疑いたくなる。英霊と謳われるまでの逸話がどういう色で染められているかが、実に想像に易い。
 戦地にはまだフレイザードと紅煉の暴虐に敢然と立ち向かい、退けた『ヒーロー』達が残っているはずだ。戦闘欲の権化のようなこの男がそれを無視してるとは思えない。
 そしてあわよくばそちらに食指を働かせて厄介払いをしたかったところだが……魂胆はお見通しとばかりにヴィルヘルムは鼻で笑う。

24Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:38:06 ID:KaanaBBA0
 
「何だよ、目溢ししろってか? 意外と小せえ奴だな。肝入ってんのかァ?」
「オイオイ誤解するなよ。俺は別に戦うのが好きじゃねえ、勝つのが好きなんだよ」 
「はッ負け戦の味も知らねえか。見た目よりガキだな。ただまあ……勝利こそ肝心ってとこは、素直に同意しとくぜ。
 数の差だ相性だともっともな理由をどれだけ並べようが、負けた奴が弱くて、勝った奴が強え、この事実は揺らがねえ。んな不利を尽く覆すのが常勝の王道ってもんだ。
 逆にいやあ? 手段が理念がとどうこう吠えたところで、負けて死ねばそこで塵屑だ。何事も勝って、生きてこそ目的は成し遂げられる。そういう価値観は俺も理解できるさ」

 何かを乗り越え、打ち倒したと、世界に、他人に、自分自身に消えない楔を打ち込む。
 地べたに這い蹲った体で信念を叫ぶ言葉には何の説得力も湧いてこない、それこそ負け犬の遠吠えだ。主張を通すにはどんな形であれ勝利という御旗が常に求められる。
 それに何より、勝つのは気持ちいい。相手を超え、強さを上回り、足元に跪かせる快感は人類共通の美味だ。
 まさに"我に勝利を(ジークハイル・ヴィクトーリア)"だ。第三帝国に在籍していた身としてもそこは大いに賛同する。
 するが……彼の流儀では、そこにもう少し条件が上乗せされる。
 
「だが俺はこれでもグルメでね。雑魚をバラすのも悪かねえが、いつまでもジャンクばっかじゃ舌が馬鹿になるだろ。
 飽きた作業を延々と続けるのは、精神衛生上よくねえからな。敗残兵を散らかす野犬の真似するより、より食いでのある奴を相手取る方が滾るってもんだ」

 首領ラインハルトの覇道に徒花を添える黒円卓の一員として、ヴィルヘルムは戦いの質には拘りがある。
 破壊の愛を標榜するかの王は虐殺も屠殺もよしとするが、そこで甘えて右へ倣うだけでは脳無しの骸骨の域を出ない。
 自らも血を流し、魂を賭け、死に臨する程の戦いを演じ、それを制してこそ、真なる騎士の忠というものだ。
 ……ただそれはそれで、禁欲的過ぎるのもまた正しいとはいえないのが、精神持つ人のままならなぬところだ。
 求道の模範たるマキナと違い、ヴィルヘルムは俗を好む。永遠を生きる不死鳥となるのを渇望とするにあたっては、常に気持ちを新鮮に保たなければならない。


「どうせ全員串刺しにするのは変わりねえんだ、わざわざ見逃す道理もねえ。けど今朝からこっち、ストレス溜まる奴ばっかと会っててよ。
 無能の猿にポンコツのバカガキにネジが外れた根暗野郎……しかも全員おいそれと手出しできねえ事情があるときた。
 こういうイライラはさっさと解消するに限るんでな。こうしてわざわざ本命の前に出向いたってわけよ」

 秤を見比べて勝てる方を選ぶなど、強者の取る手段ではない。
 勝ち残った英雄は殺す。逃げ帰った敗残兵も殺す。優勝を謳うからには皆殺し。秤ごと壊して皿の中身を残らず総取りしてこその吸血鬼、化外の道理。
 冥界の英霊全員を相手取ってなお勝利する、この男は本気でそういう気概を抱いているのだ。
 それが不思議でもなんでもないと。黒円卓のエインフェリア、血の薔薇を咲かす不死身の吸血鬼たらんとするのならば、当然の在り方だから。
 
「……ようするにメインディッシュの前の前菜かよ俺は」
「そうだよ。不満か?」
「当たり前だろうが。弱え奴から殺してくのは殺し合いの常識だが、それが自分に回ってきたらハイそうですかと頷けるわけがねえ。
 何よりどこのどいつかも知らねえ相手にナメられっぱなしで、タダにしておいてたまるかってんだ」

 フレイザードの左半身の猛火が勢いを増す。炎は肉体そのものであり、今の感情を如実に語っている。
 自身が追い詰められてる理由がストレス解消のサンドバッグ扱いと知って鷹揚に笑える気性の持ち主ではない。
 ヴィルヘルムの言う通り、年齢でいえばまだ赤子なのだ。気の利いた返しも、感情を取り繕う術も知りはしない。
 何より、そんな手段は必要ない。気に食わない相手を黙らせる方法なら、よく熟知している。

25Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:39:19 ID:KaanaBBA0
 
「そりゃそうだわな。やっぱ気が合うじゃねえか。うちの猿と代わって欲しいぐらいだぜ」
「クハハハッそっちもパートナーに苦労してるみてえだな。なんならいっちょお互いに交換してみねえか? そうすりゃもう余計に気を煩わせずに戦えるようになるぜ?」
「そいつは悪かねえかもな、ハハハハハハッ!」

 堰を切ったように笑う二人。
 笑い、笑い、息を吐き切るまで思い切り笑って、次の呼気を殺気に作り変えた瞬間に。

 
「「───じゃあさっさと死ねやあッッ!」」


 地を弾き、砲弾の勢いを乗せた拳をぶつけ合った。

 
 燃え滾る溶岩の左の拳を出すフレイザードに対して、ヴィルヘルムは右の無手。
 火を見るよりも明らかな衝突の結果は、しかし両者にとっては意外な手応えとなって返ってきた。

「チッ……!」
「へえ」

 舌打ちと微笑。
 どちらかが押し負けはせず、さりとて圧しもせず、力が拮抗した状態で釣り合っている。
 人間の魔術師や神秘保持者がなる他の葬者とは、フレイザードは根本の出自からして違う。
 生態全てが戦闘用に適した作りをした魔王ハドラーの被造物。サーヴァントと遜色ない出力を持ちながらサーヴァントを使役できる魔力も備えた、掟破りのイレギュラーだ。
 それでもなお、ヴィルヘルムの拳は砕けない。
 血の歴史のない、後付けで魔導の薫陶を受けただけでしかない人工の魔人が、真なる魔獣に爪を突き立て、ねじ込ませている。
 手袋は破れ肌を焼いてはいるもののそれ以上ダメージが侵攻しない。活動より躍動した闇の賜物───血液そのものの聖遺物が内側より固まり、膨れ上がる。

  Yetzirah
「 形 成 」
 
 骨を破り突き出るは血色の杭。
 零距離の接触点から杭を打ち込む、パイルバンカーの要領で溶岩を砕き弾き飛ばす。
 腕を弾かれたたらを踏んだフレイザードだが、勢いを殺さず後方に跳躍して体勢を整える。
 人間のような繊細な痛覚は持ち合わせてない。この程度ならすぐに再生する。
 半身を翻し、右手を晒す。氷塊の彫像に相応しい極寒の冷気が渦を巻いて掌から放出される。
 極北地帯と同等の猛吹雪の氷(ヒャド)系呪文───マヒャドが地下空間に吹き荒れ、内部の気温を零点に引き下げていく。
 自然の猛威を再現する魔力。サーヴァントであろうと直撃すれば凍傷、耐えられなければ凍結は免れないが、ヴィルヘルムは避けなかった。防御の構えも取りはしない。
 杭が生えたままの腕を横に振る、舞う埃を鬱陶しげに払うような軽い動作だけで、前面に殺到した寒波は解けたように霧散してしまった。

「対魔力かよ……相変わらず厄介だぜ!」

 サーヴァント召喚時に自動的に与えられるクラススキル、その内最も汎用なもののひとつである。
 生前の魔力への親しみ、抵抗値に応じてランクが変動するが、ヴィルヘルムのランクは最高値のA。
 これは事実上、ほぼ全ての魔術に耐性を持つ事を意味する。二十一世紀で最高峰、神代のレベルの魔術であろうと無条件で無効化してしまう。
 魔術への抵抗値を上げるこのスキルにはこれまでも手を焼いてきた。 魔法生命体として生まれたフレイザードには正しく鬼門である。

26Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:40:26 ID:KaanaBBA0

「なら、こいつはどうよ!」

 再生が完了した左手を転身。元よりヒャダインは動きを縫う牽制が目的。叩き込む構えに乱れはない。
 開いた指の一本一本に込められる魔力の熾火。魔力の緻密なコントロール、肉体の負担を考慮する必要のない虚構の生命だからこそ可能な蛮行だ。
 
「五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)───!!!」

 炎(メラ)系最上級呪文。その五連発。
 どのような魔道士だろうと実現不可能、己の特権を最大限に活用した過剰火力こそは氷炎将軍の代名詞たる大呪文だ。
 戦果のほどは風に吹かれた英霊の灰の量が証明済み。夜の世界にしか生きられぬ半端者に、太陽の洗礼が落とされる。

 吸血鬼と字される者ならば誰であろうと実を竦ませる大火球にもヴィルヘルムは怯まない。
 既にこの身は焼かれている。黄金の光に、純白の光に。ならば何を恐れる必要があろうか。
 たかだか魔術で寝られた程度の火、魂はおろか骨肉を炙ることすら値しない。

「ッッッらあァ!」
 
 対魔力など知らぬ。与えられた特権に背を預けたりはしない。最初(ハナ)から、正面から押し潰す所存でいる。
 手法は今しがた行った杭打ちと同様。ただし燃料は倍増しだ。
 杭に血を追加で注ぎ肥大化したそれは、腕に装着された破城の大槌か、あるいは悪魔の爪か。
 血気と殺気を渾然させた『射出』の一撃は迫る火球の列を尽く芯から居抜き、爆裂。
 火薬庫に火が点いたが如くに、闇の中を閃光と破壊音で彩った。
 
「そおぉぉぉらあぁぁぁぁぁ──────!」

 迎撃を済ませただけで満足するヴィルヘルムではない。
 人器融合型のエイヴィヒカイトは能力を行使するたび精神の高揚を促進させる。昂りに逆らう事なく攻勢に出る。
 爆風の粉塵で視界が塞がれた隙を逃さず、自らは冴え渡る感覚で位置を違わず。再び距離を詰められて瞠目するフレイザードの胴に、茨が巻かれた拳を打ち込んだ。

「ゲボォ───ッ!」

 吐く胃液も内容物もなく、よって叫びのみが吐き出される。
 直接突かれたわけでもないのに、内側の核(コア)が痺れるような感触。
 創造主の死以外では実質不死身のフレイザードの唯一の急所が刺激を与えられた事による悲鳴だ。
 魂の破壊、概念干渉を本領とするエイヴィヒカイトの特性は、サーヴァントになっても引き継がれている。
 核を狙われない限り負傷を気にせずともよいという慢心は、一撃の元に挫かれた。
 
 それを知ってか知らずか、猛攻を続行するヴィルヘルム。
 近接戦ではフィジカルに大きな開きがない限り、経験値の層の深さがものをいう。この点フレイザードは致命的だ。同格の敵との経験の不足がモロに響く。
 路地裏のゴロツキから始まり、最新式の軍隊、魔導の産物、格上の大隊長にも臆せず挑みかかってきたヴィルヘルムとは、身のこなしの練度が歴然だ。

27Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:41:47 ID:KaanaBBA0
 
「痛ぇか? 痛ぇよな───嬉し涙流せやオラァッ! 流せるもんならよォッ!」
 
 茨のメリケンサックが顔面を打ち据え、膝蹴りを受けて曲げる背中を掴んで押し倒し、地面に横たわる全身に杭の散弾でばら撒く。
 滅多打ちの乱杭叩き。血肉の代わりに、氷と岩石の欠片があたりに散らばり落ちる。
 骨も内臓も持たない禁呪生命体は痛みや負傷で行動が阻害されない。なまじ頑健な体のおかげで、いつまで経っても倒れ伏さない。負のループが続いてしまっている。

「ガ───痛くねえし、流す涙腺(モン)もねえよッ!」
 
 そんな身を削られる螺旋に飲み込まれていても、フレイザードの意気は潰えていない。
 経験不足。その通りだ。魔王軍にて勇者の使徒と対決した過去まではそうだった。
 現在(イマ)は違う。
 冥界の奥では常に戦い続けた。未知の武器と能力が幾つもあった。呪文が効かない敵とも戦った。
 覚醒(レベルアップ)の条件は既に揃っている。ここに来て格上との挑戦が起きたとなれば───。

「───あ?」

 都合百発を超えてからも続けた拳打に生じた違和感に、怪訝な顔つきになる。
 覚束ない回避の動作を読んで、的確にカウンターを合わせたはずの拳が外れ、氷の顔面を削ぐに留まった。
 極限の状況に反応速度が研磨され、こちらの予測を超えてきたか。いやそうではない。なすがままにはされまいという逆襲の気配は感じてはいるが、これといって動きが早まったわけではない。
 ならば目測を見誤った自分の落ち度か。それこそあり得ない。長年抱えた餓狼の野生が疑念を一蹴する。
 違和感の出どころは、そう、折り畳み伸ばし切る寸前の腕の軌道の進路上に、予期せぬ障害物が置いてあったような───。
 疑問を拭えぬままでも挙手は一切綻ばせず、次激を叩き込もうと踏み込んだ足が、そこで完全に意図しない向きに跳ね上げられた。
 
「はぁ!?」

 今度こそ驚愕する。
 たまさか足場の砂利や礫を踏み潰した程度の落差ですっ転ぶ───そんな間抜けであるわけがない。間違いなく人為的な操作で足を引かれたのだ。
 真っ先に連想するのは同胞の魔女。ルサルカ・シュヴェーゲリンが創造する、影を操り触れた者の動きを阻む停止の理。
 だがナハツェーラーのような呼吸すら奪う束縛感はない。あれよりも単調で原始的に、足の裏にあった欠片が爆ぜたような熱がある。
 無論、そこらの火薬がサーヴァントを持ち上げる力は生まれない。そもそも発破現場でもないのにそんなものが落ちてもいない。
 あるのは土にアスファルトに電線、炎と氷───。

 
 弾岩爆花散、という技がある。
 氷炎の肉体を無数の塊に分裂させて自在に操り、礫の嵐を食らわせる能力だ。
 岩石は砕けても能力の範疇、肉体の一部であるのは変わりなく、攻撃は無効化されるばかりか手数を増やす羽目となる。
 フレイザードの奥の手である技であるが、生命力を著しく消耗するため多用はできない泣き所があった。それ故の最終闘法だ。
 フレイザードはこれを、まだ肉体操作の経験が浅く全霊を注がなければ全ての岩石を操れないからと捉えていた。
 ならば考える。より集中し、少ない力で細かなコントロールが可能になるまで成長すれば、リスクは消滅する。
 攻撃で砕かれた肉体に生命力を残し、微力で操作して相手の虚を突く。破壊力には欠け地味であるものの、実戦を経た鍛錬の成果のひとつがこれだ。

28Dragon&Dracula ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:43:24 ID:KaanaBBA0
 
「オラァ!!」

 千載一遇の好機を逃さず反撃に動く。勝利への渇望ならフレイザードもさるものだった。
 左腕を大きく振りかぶり二の腕をぶつける、ラリアットの動作。格闘戦の不利を悟りながらも後退を選ばなかった博打には狙いがある。
 炎の魔法力───メラゾーマのエネルギーが二の腕部分で留まり、内部で炸裂。丁度肘の先から吹く火花により、腕はロケットエンジンの仕組みで爆発的な加速を得る。
 ばくだんいわ、という、接触を起点に自爆する配下のモンスターの特性を応用した闘法だ。
 触れた魔術は消せても、魔術で発生した推力で動く物体は無効化できない。対魔力の穴を穿つ、呪文を弾くサーヴァントへの対抗策、そのふたつ目である。
 
 破片操作の足場崩し、呪文内熱の腕力強化。
 二点の爆発させた交差法は見事、ヴィルヘルムの顎を捉える"痛恨の一撃"となった。
 途中で止まる事なく壁に激突する吸血鬼。この聖杯戦争における、初めてのまともな負傷を飾ったのは、よもやサーヴァントの枠外にいた葬者だとは。
 持ち前の暴力を衝動で振るう魔物ではない、炎の闘争心と氷の計算高さを兼ね備えた、氷炎将軍の真骨頂だ。
 
 ヴィルヘルムは倒れない。
 傷は、深手とはいえない。顎を強打し口に一筋血流を垂らしているが、特に効いた様子もない。血を燃やした瞳は未だ戦意で盛っている。
 
「面白え……! サーヴァントは一山いくらばっかの癖に、俺とやり合えるマスターはよく出てきやがる」

 緒戦で槍衾に変えてきた骸を思えば、この葬者は初めてヴィルヘルムと"戦い"を演じられる相手だ。
 単純な力量、暴力の域でいえば、いけ好かないマスターが頂点だと思っていたが、ここにきて別方面での怪物が現れた。

「ハッ! どうだ! 魔王軍をナメるから痛い目を食らうんだよォ!」
「魔王軍……はっ、過去どころかマジのファンタジーから来てんのかよ! やっとアガってきやがったな聖杯戦争!」
 
 返しも上等だ。前菜と虚仮にはしたものの、中々どうして歯ごたえのある。上昇志向のある気骨も嫌いじゃない。
 背負った呪いを解くほどとは言わないが、十分に食らうに値する敵だ。己の嗅覚は正解を引いていたと確信する。
 ようやっとエンジンが回ってきた。アクセルを踏む足に力が籠もる。もう止まらない。この敵を撥ね飛ばすまで狂騒の熱が引くことはないと断言できる。
 魔人同士の邂逅とはそういうもの。道を譲るなぞ、存在意義をかけてあり得ない。


「──────」


 その熱が掻き消されるほどの悪寒に、気温程度で揺れない肌が粟立った。
 外の見えない地下。雑音から隔離された空間。
 だが魔人は感じている。"落ちてくる"。
 岩盤と地層、あらゆる障害を貫通(ショートカット)しながらこの地点めがけて、まっすぐに落ちて来ている。
 数瞬後。夜に生きる吸血鬼を糺すように、汚濁を浄化するように、白光が世界を埋め尽くした。
 
 
 ◆

29 ◆HOMU.DM5Ns:2025/07/28(月) 22:44:07 ID:KaanaBBA0
前編投下終了です。後編もお待ち下さい


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