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Fate/clockwork atheism 針音仮想都市〈東京〉Part3

12ノーフィクション ◆0pIloi6gg.:2025/02/20(木) 17:05:11 ID:AFJddyR20
 見落としはない、筈だ。なら不法侵入者の可能性もある。
 今はとにかく物騒な情勢だから、そういう事案には最大限注意しろと所長からも言われている。
 ややあって、ぽつり、と水田さんが言った。

「……ひと通り見回ってみましょうか、一応」
「そうですね。私も行きます」
「まあ、大丈夫だと思うけどね……。ほら、今日は城島さんの件でいろいろごたついてたし。
 私達がたまたま見てないだけで、誰か面会に入ってただけでしょ。きっとそんなとこよ」

 お互い、自分の心に言い聞かせるように。
 芽吹きかけの不安の種に、靴で土をかけるみたいに。
 なにもない、大丈夫、そう言い合いながら廊下へ続くドアを開けた。
 むわり。匂いがした。薬のにおい。包帯のにおい。排泄物のにおい。どれとも違う。

 噎せるような、けだもののにおいがした。

「――きゃあッ」

 水田さんが叫んだ。
 わたしも叫んでいた。
 廊下に点々と、足跡のように小さな欠片が落ちている。
 ヘンゼルとグレーテルは、どうやって魔女の住む森から帰ったんだっけ。
 そうだ。確かこうやって、目印を残しておいたんだ。

「こ、これ、って」

 指差して言う同僚に、私は何も言えなかった。
 錆びついた機械人形みたいに頷くしかできなかった。


 ――――花びらが、落ちていた。


『猿が来るんだ』
『猿が、花を抱いてやって来るんだ』
『私は、逃げてしまった。生き延びてしまった、から』
『私の弔いをやりに来るんだ。礼儀正しい猿が、葬列を作って此処に来るんだ』
『頼む。頼むよ。カーテンを閉めてくれ。隙間を塞いでくれ』
『じゃないと』
『奴らが』
『猿が』


 この日、私達は職を失った。
 もう誰も介護しなくてよくなった。
 だってみんな、逝ってしまったから。
 死にゆく彼らを弔う葬列が来たんだから。
 
 腫れたままの右頬が、寂しそうにズキリと疼いた気がした。



◇◇


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