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Fate/clockwork atheism 針音仮想都市〈東京〉Part3

11ノーフィクション ◆0pIloi6gg.:2025/02/20(木) 17:04:34 ID:AFJddyR20
 認知症を患った高齢者が幻覚や幻聴を聞くのはありふれた事例だ。
 だから私は、怯える彼を諭そうとした。そしたら殴られた。
 なんで分からないんだと顔を林檎みたいに赤くして唾を飛ばすその顔は、それこそ動物園の猿みたいだった。

 ズキン、と腫れの引かない頬が痛む。
 咄嗟に傷を押さえた私を、水田さんは憐れむように見つめていた。
 はあ。ため息を溢しながら、彼女はコーヒーを一口啜って。

「何か見たのかしらね、あの人」
「……不謹慎ですよ。ただの幻覚ですって、きっと」

 溢れた台詞を、私はすぐに諌めた。
 不謹慎と窘めた形だけれど、普段は同僚の冗談にいちいち目くじらを立てるほど真面目じゃない。
 なのにそうした理由はひとつ。私もちょうど同じことを思っていたから、咄嗟に否定してしまったのだ。
 私までそれに同調してしまったら、まるでこの想像が本当になってしまうような気がして、怖かったのだ。
 
 猿が来る。
 独居老人ばかりが消えていく謎の事件。
 猿が追いかけてくる。
 本当に、人間が起こした事件なのだろうか。
 猿の足音が聞こえる。
 老人とはいえ大量の人間を、人目に付かずに消してしまうなんて。
 猿が、来る。
 それは、人間の手で出来ることなのだろうか。
 猿が。
 もし、そうでなかったら、城島さんは"その日"、何を。
 猿。
 何を、見たのだろう。
 猿。

「……あれ」

 自動ドアが開いて、ホームから誰かが出ていった。
 音を聞いて後ろ姿を見やる。少年らしき背格好が遠ざかっていくのが見えた。

「どうかした?」
「いや、面会希望の方って、今来てましたっけ」
「え? 来てないと思うわよ、今は。
 ほら、最近物騒だから。面会なんて一日に何人も来ないじゃない」
「ですよね……じゃあ、今出ていった子って」

 そこまで言って、私達は顔を見合わせた。


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