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Fate/clockwork atheism 針音仮想都市〈東京〉Part3

10ノーフィクション ◆0pIloi6gg.:2025/02/20(木) 17:03:55 ID:AFJddyR20

/ヒサルキ


「――それ、城島さんにやられたの?」

 私の顔に貼られたガーゼを見て、水田さんは渋い顔でそう言った。
 私はそれに力なく頷く。浮かべる表情は苦笑だ。困ったように笑う私に、水田さんは肩を竦めた。

「今は何かとうるさい時代だからねえ……。
 昔はああいう暴れる人って、ベッドに縛り付けておしまいだったんだけど」

 水田さんはもう御年六十を超える、うちの施設でいちばんの古株だ。
 彼女の口から語られる昔の常識には、時々思わず眉を顰めたくなるものがある。
 価値観のアップデートという単語が囁かれるようになって久しい現代、倫理観もそれは同じ。
 ましてや人の命を取り扱う介護現場だ。時代の流れと無関係でいられるわけがない。
 入居者を拘束して自由を奪い、黙って天命を待つだけの身にするなど今の時代じゃ基本的にご法度だ。
 私自身、そうあるべきだと、今の在り方こそが正しいと思っている。
 そう思いながらも、右頬に今もひりひりと残る痛みが、現場は綺麗事だけで務まるほど甘い世界じゃないぞと嘲笑うように告げていた。

「……xx団地だったっけ、あの人が此処に来る前住んでたところ」

 介護現場で、入居者から暴力を振るわれるのはそう珍しいことじゃない。
 人間は加齢で壊れる。どんないい人も寄る年波には勝てないから。
 だけど今朝私の顔を殴った"あの人"のは、少しだけ違う気がした。

「独居老人の集団失踪事件があった場所、ですよね」

 現在、東京は〈蝗害〉のニュースで席巻されている。
 異常に凶暴化し、人を襲うようになったナントカってバッタの群れ。
 地図から街を削るように版図を広げるそれの影に隠れて、その事件は存在していた。

 東京都独居老人連続失踪事件。
 都心から離れた団地を中心にして、百人を超える数の老人が姿を消している。
 私を殴った城島さんという入居者は、その被害が多く出たとある団地の出身者だった。
 だから、なのだろうか。彼はいつも怯えている。目に見えない何かが自分を追ってくると、昼夜を問わずに叫び散らしているのだ。

 ――『猿が来る! 猿が来る! カーテンを閉めろ、換気扇を塞いでくれ!!』
 ――『聞こえないのか、この足音が! 私を追ってきたんだ、逃がさないぞとあの猿顔で笑っているんだ!!』
 ――『は、花びらを、両手に、抱いて……猿が来る、猿が来る……! 私を弔いにやって来る……!!』

 猿が来る、猿が来る。
 城島さんは必ずそう言う。


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