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バトル・ロワイアル 〜Paradisiacal Memories〜
1
:
◆Ok18QysZAk
:2024/12/24(火) 22:19:00 ID:0.L2YDgY0
【参加者一覧】
【FINAL FANTASY IX】5
○ジタン ○ガーネット ○ビビ ○ベアトリクス ○クジャ
【ドラゴンクエストXオンライン】5
○主人公 ○アンルシア ○クオード ○イルーシャ ○ナラジア
【ポケットモンスター バイオレット】5
○主人公(マスカーニャ) ○ネモ(ウェーニバル) ○ペパー(マフィティフ)○ボタン(ニンフィア) ○AIフトゥー(ミライドン)
【葬送のフリーレン】4
○フリーレン ○フェルン ○シュタルク ○アウラ
【Crystar】4
○幡田零 ○幡田みらい ○恵羽千 ○777
【ひとりぼっちの地球侵略】4
○広瀬岬一 ○大鳥希 ○広瀬凪 ○リコデムス=ハーリアトロ
【まちカドまぞく】3
○吉田優子 ○千代田桃 ○陽夏木ミカン
【クロノ・トリガー】3
○クロノ ○カエル ○魔王
【ib-インスタントバレット-】3
○深瀬黒 ○姫浦瀬良 ○藤波木陰
【書き手枠】10
【企画主枠】4
合計48人
396
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:04:03 ID:yC3WvoJY0
「だけどもう、僕は別に君を取って食おうとしているわけじゃあない。強引にものにしようなんて思っちゃいないさ。
ただ……僕はキミと、”契約”がしたいんだ。」
「契約?」
答えを待たずして、ナラジアはそっと指をさす。
その先に佇むのは、みらいが手にした業物、グランドリオン。みらいの感情を吸って魔剣と化したその武器からは、絶えず闇の力が放出されている。
「キミの放つ闇は芳醇で素晴らしい。
大いなる闇の根源たる僕と手を組めば、世界の支配者になるのも容易いだろう。
殺したい奴がいたら、力を貸してあげる。お姉ちゃんを護りたいのだろう?」
そう言って、ナラジアはみらいへと手を伸ばす。
大いなる闇の根源として、歴代大魔王に冥王ネルゲル、さらにはルティアナの長兄ナドラガに至るまで、多くの存在と契約し、その力を貸し与えてきた。ナラジアの本分は、本来対立者を滅することではない。むしろ、肉体さえ復活すれば大魔瘴期の到来によって敵対する者など残りはしないため、そのような"小細工"は不要とすら言える。なればこそ、ナラジアの――侵略者ジア・クト念晶体の本分は、導きを受け入れた者を同胞として取り込むことにある。
「さあ、この手を取るんだ。
キミの悪いようにはしないからさ。」
この契約によりみらいを欺こうとする意図はほとんど無い。
双方の利害が一致しており、かつ役に立つ限りは、契約相手の目的も遂行するだけの義理も果たす腹積もりだ。忠誠を誓った者に対しては寵愛を以て受け入れる。それが"異界滅神ジャゴヌバ"としての神性である。
「ふぅん、悪くない話。」
幽鬼の姫としての暴力性を秘めておきながら、生前のみらいがあえて他人を傷付けずにいられた理由は、ただ一つ。法律を犯してしまえば、親愛なる姉と引き離されてしまうからだ。
みらいをギリギリで人の道を踏み外させなかった最後の砦は倫理観などではない。ひとたび現世の理を外れてしまえば、他者を傷付けることそれ自体に躊躇などない。その際に、幽鬼という超常的な力を用いることも何ら気にすることはなかった。
ナラジアの申し出は、決してみらいにとって都合の悪いものではなかった。これが罠ではなく、『契約する』と応えれば、ナラジアは己をあえて害さないであろうことは何となく感じ取れた。確かに、裏切ろうとすれば制裁をもって返されることは容易に想像がつく。ナラジアが足手まといを積極的に切り捨てるようなタチであるのも感じ取れる。だが、姉を攻撃しないという最低限の取り決めを守ってもらえるのならば、とりわけ裏切る必要もない。
その手を取るか否か――笑顔でナラジアへと歩み寄るみらいの次の選択肢は、決まっていた。
――攻撃
横凪ぎに走ったグランドリオンの一閃がナラジアに迫るも、予期していたかの如く大地から吹き出てその間に割って入った暗黒の手がそれを防ぐ。勢いの殺された斬撃の先には薄ら笑いを浮かべたナラジアの姿があった。
「――わたし、契約とかそういうの、嫌いなんだ。
お姉ちゃんをキズモノにした奴らを思い出して、走るんだよね、虫唾。」
「……悪いけど、キミに拒否権は与えていないよ。」
ナラジアの表情が不愉快そうに歪んだ。忠誠には寵愛で返すナラジアであるが、謀反に対しては相応の罰を以て返さなければ箔がつかない。
397
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:04:44 ID:yC3WvoJY0
求めるように、欲するように、目の前の少女へと翳された手。無数の暗黒の手がその動きに連動するかの如く、みらいへと伸びていく。つい先ほどまでみらいを追い縋っては捕えんとしていたその手の正体は、異界滅神の欲望の権化。みらいへの興味が増幅すると共に、その手もまた勢いを増していく。
「あはっ、悪いようにはしないとか言って。
結局、それが本性?」
力を溜める時間を稼ぐため、みらいは一歩下がり、解き放つ。
――Art.スピンスライス
四方から襲い来る暗黒の手に対し、その身をくるりと回転させて一斉に斬り伏せる。幡田零の戦闘スタイルを模した、言わば見よう見まねの剣技。されど、宝石の装飾が成された思装を身に纏い、SPを込めたその一撃には、代行者が放つ一撃と遜色ない破壊力が伴っていた。
「うーん、上手くターンがかからないなぁ。お姉ちゃん、あの運動音痴でどうやってたんだろ。」
「ふふっ……手を幾つか振り払っただけで随分と余裕だけれど……いいのかい?
キミが戦ってる相手は、そいつらじゃなくて僕なんだよ?」
霧散した暗黒の手のその先には、呪文の詠唱を始めていたナラジアの姿。ひとつひとつが高位の幽鬼に相当するほどの力を秘めた暗黒の手であるが、その全ては前菜に過ぎない。
――ドルモーア
その詠唱が終わるや否や、闇の閃光がみらいの立つ座標に浮かび上がる。
それを、手にした魔剣でひと振り。小さな水溜まりを濁流が飲み込むかのように、グランドリオンに込められた闇の魔力によって即座に霧散し消え去った。
「すごいね。僕のドルモーアを同じ闇の力で上回るなんて。」
闇の上位呪文。それは、賢者の座に就いた者でも、光の河の導きと共に人の限界を超えることなしには到達し得ない領域。そんな呪文の極地も、この強者たちの舞台では様子見のジャブでしかない。
「ただ、この呪文――」
だが、様子見の段階は既に終わっている。ナラジアのひと言を皮切りに――戦いは加速する。
「――こいつらそれぞれが使えるから、頑張って凌いでね。」
それは、絶望の到来の報せだった。空中に旋回する暗黒の手は、数にして6。ブラフなどではないと告げるかのように、その全てに魔力が練り上げられ始める。それぞれが僅かにタイミングをズラして力を高めているその光景に、まるでコーラスのようだ、なんてズレた感想がふと湧いてくる。それを現実と呼ぶにはあまりにも理不尽で実感が伴わない。
「……それはちょっと、聞いてないかな。」
みらいの顔つきに、初めて明確な焦りが生じた。軽いジャブも、連続で放つのであれば充分な"必殺技"だ。グランドリオン一本で対処できる数には限りがある。
ならばと天に向けて剣を掲げ、SPを練り上げる。その瞬間、魔剣と化していたグランドリオンが僅かに、本来の光を取り戻した。
――Spell.レイン・レイ
魔法陣が大地に広がる。円状に敷かれたそれを中心に、天より降り注ぐ光の雨。次々に撃ち込まれるドルモーアの連弾を叩き落としては浄化していく。
「へぇ……。」
闇の力であるドルモーアに対し、同じ闇を以てして掻き消すのであれば、それを上回る力を出さねばならないのは道理だ。だが、闇の対極に位置する光の力で祓うのであれば、僅かな力でも大きな効果を生み出すことができる。
「ドルモーアが押し負けた理屈は理解できる。
ひとつひとつは所詮、暗黒の手の一柱に込められた魔力に過ぎないわけだしね。」
それを認めた上で、ナラジアはみらいに怪訝な目を向けていた。
「とはいえ……なんてか細い光なのだろう。」
グランドリオンが闇を放っていた先程までに比べ、宿らせた光の力はあまりにも小さく、弱い。幡田みらいという実力者が扱っているとは思えないほどに微小な魔力だ。
398
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:05:08 ID:yC3WvoJY0
「ふふ……もしかしてそれが"協調"ってやつなのかい?」
かつて、"協調"を説いた男がいた。
曰く、本質の異なるもの――光と闇が手を取り合ってこそ、大きなチカラが生まれるのだと。
「だとしたら、あまりにも滑稽だよね。」
――馬鹿馬鹿しい、と。大いなる闇の根源は、一笑に付す。
光あるところに闇は必ず生まれるが、闇はそれだけで存在できる。光と闇が手を取り合うのではなく、闇が全ての光を喰らい尽くし、呑み込むことこそ真なる協調。
「闇と光をひとつの身に宿したことで、光は掻き消え、そんなにも弱々しく……」
幡田みらいは、まさにその思想を体現しているかの如き少女だった。本質を闇としながら、何かに焦がれるように扱っている光の力は、暗黒の手ごときと相殺する微弱な力しか生み出していない。
「何に納得してるのか知らないけど。
わたしをダシに勝手に何かわかった気にならないでくれる?」
「……へぇ、違うと?
なら、答えを教えてよ。キミのその光の正体を。」
だが――幡田みらいに、"協調"を良しとする思想などあろうはずがない。光がどうとか闇がどうとか、そんな話にも興味が無い。彼女の脳裏を占めるものは。彼女が敢えて戦う理由は。
そんなもの、初めからただ一つ。
「――"愛"、だよ。」
それを聞いたナラジアの表情は――新しい玩具を見つけたがごとく、醜く歪んでいった。
「……ふぅん、愛ねぇ。」
ナラジアの元に再び、闇の魔力が集結し始める。先ほどまでよりも、さらに大きな魔力の流れ。続く攻撃を受けてはならないと、本能が警鐘を鳴らす。
「僕はキミに興味が尽きないよ。
"協調"とも違う、力の秘訣。
どうかその可能性を示しておくれ!」
距離を取るか、或いは詠唱の隙に攻撃を加えるか。二者択一のどちらも、取り囲むように接近する暗黒の手が邪魔をする。
「……ああ、もうっ!」
発動速度に優れるArt.スピンスライスでそれらを一掃するも、接近・退却に使うべき時間をそれに費やしたみらいに、その呪文への対処手段は残っていない。
――ドルマドン。
発生した暗黒の塊は、小規模なブラックホールと化した。圧倒的な引力がみらいの身体を千切れんばかりに収縮させ――
「……ふぅん。まだ立ってるんだ。」
満身創痍になりながらも、みらいは戦場に両の足をつけて敵を見据えている。
「加減したつもりはないんだけど……
それが愛とやらの力なの?
それともキミに元々、闇の力への耐性が備わっているというだけなのかな?」
「ふ……ふふっ……計算通りにいかず、残念だった?」
「強がりを。
もう立っているのもやっとなんだろう?」
それは、ドルマドンのダメージによるものだけではなかった。みらいは何かに気付いたように周囲を見回す。
"えんじょいでえきさいてぃんぐ"をテーマに創られた快楽ノ園の景色は、元々目に優しくないポップカラーで彩られている。故に、気付くのに遅れてしまった。
辺り一面の空気が、薄い毒素のような力――魔瘴によって覆われているということに。
399
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:05:23 ID:yC3WvoJY0
「これ、は……」
「ふふ、ようやく気付いた?」
「……」
神話の時代。
アストルティアに彼方より飛来した侵略者は、女神ルティアナの生み出した大地に魔瘴を持ち込んだ。それはすぐに世界を侵食し始め、遂には侵食された大地がアストルティアから切り離されることとなった。
離され、捨てられた世界に残された者たちは、命を蝕む魔瘴の中で苦しみながら、女神を、そしてアストルティアを憎んだ。歪んでいく心は、その者の風体すらも、醜く変貌させていった。
魔瘴とは、あらゆる戦いの歴史の始まりにして諸悪の根源。魂の器であるナラジアの姿でさえ、ただの人間には近付くことすら適わぬ濃度の魔瘴を噴出できる。もし、肉体の完全覚醒までもを果たしたのなら――アストルティアといういち世界を魔界から魔瘴で包み滅ぼす――"大魔瘴期"の到来すら可能な滅びの神の力。
そして、そんな絶対的存在を前にして、みらいは思う。
――気に入らない、と。
人の形をした化け物がそこにいた。幽鬼の姫と評されるほどに強く備わった闇の力を軽く凌駕する規模の魔力を、容易く扱いこなす存在。まるで、闇という概念そのものの根源に位置するかの如きその力。打倒するどころか、目の前で呼吸する――ただそれだけのために"必死"にならなければならない。
幽鬼の姫として君臨してからは、自身を脅かす者などいなかった。他人とは吸魂の餌であり、天地がひっくり返っても警戒対象などではなかった。
だから、"遊び"の余地があった。餌として集めた人間を気まぐれに逃がす素振りを見せては、気が変わったと背中から撃ち抜いてみたり、家族というまやかしの愛情関係にある者たちを殺し合わせてみたり。多くの恐れと憎しみを向けられながら、幽鬼の姫は愉悦そうに嗤っていた。
だが、今はどうか。
まるで幽鬼の姫を前に、無力に逃げ回るしかなかった人間たちのように、"遊ばれ"ている。絶望的なまでの実力差がそこにあった。おそらく、"切り札"を使ったとしても――
過ぎった想像が、やはり気に入らない。
「……それに、こうして闘いを交わす中でイヤでも流れ込んでくるキミの記憶。
ふふ、キミという存在の本質が少し分かった気がするよ。」
そして、何よりも気に入らないのが――
「キミの言う"愛"ってさ……
結局は、居場所を失うことへの"恐怖"なんだろう?」
――わたしが嫌がる言葉を敢えて選んでいるかのような、その悪辣な性格。
優位に立つのは好きだけれど、上から目線でものを言われるのは何より嫌いだ。だが、戦う中で零れ出していく幽鬼の記憶の欠片――"思念"。きっと覗かれてしまったのだろう。わたしの最も思い出したくない記憶を。
400
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:05:37 ID:yC3WvoJY0
◆
やけに小うるさいエンジン音だけが、わたしの耳の奥で反響していた。アイツらは黙々と運転を続けていた。後部座席にひとりぽつんと座っているわたしを、極力視界に入れないようにしながら。
それはいつもの光景だ。ここが家の中だったとしても、わたしはアイツらの視界に入っていない。わたしはいつも部屋の端っこにいた。そんなわたしに手を差し伸べてくれるお姉ちゃんだけが、わたしの唯一の家族だった。
だからお姉ちゃんがついてきていないこの車内には、わたしの居場所なんてなくて。どうしてお姉ちゃんは連れていかなかったんだろう、なんて疑問も、当時のわたしには浮かんでいなかった。
わたしの"次"のお父さんとお母さんが決まったのだ、と。そう言ったのは、どちらからだったか。
『――お手伝いでも、お料理でもなんでもするから……。
お願い、わたしのこと捨てないで。』
家族という輪から、わたしだけが切り離されてしまう。お姉ちゃんとはなればなれになって――ひとりぼっちに、なっちゃう。
アイツらは――お父さんとお母さんは、わたしのことを愛してなんかいなかった。わたしが捨て子だったから。血が繋がっていないから。お姉ちゃんと同じように愛せなかったって、そう言ってた。
"必死"に愛そうとした、なんて言い訳を吐いていたけれど、そんなものは実際に捨てられようとしている身からすれば詭弁でしかなかった。だけどその詭弁は、決定権を持たない子供のわたしにとって、絶対的なルールだった。
『家族って、必死にならないと出来ないモノなの?』
それってさ。必死になるのを諦めただけなんでしょ?
わたしを愛していないから。
でも家族って、そういうものじゃないよね?
『……いいよ。
だったら、わたしも必死になるから。』
愛は、血の繋がりなんかじゃない。一緒にいるために、どれだけ"必死"になれるか、その感情こそが"愛"なんだ。
ねえ、お姉ちゃん。わたしはお姉ちゃんと一緒にいるために、こんなに"必死"になれたんだよ。
アイツらと一緒に死んで、辺獄に落ちて。
ただの幽者だったわたしは何度も何度も食べられかけて、死んでなお死にそうな目に遭い続けて、それはとっても大変だったけど。
それでも、お姉ちゃんに会いたかったから。
"愛"のチカラが、あったから。
――だから、お姉ちゃんもわたしのためにもっと"必死"になって。
血の繋がりなんてものよりずっと強いお姉ちゃんの愛を、わたしに証明して。
■
401
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:05:59 ID:yC3WvoJY0
「……キミ、つまらないね。」
みらいの記憶を垣間見た上で、ナラジアは一言、吐き捨てた。
「最初は支配者の器かと思ったが――とんだ俗人だ。」
姉に見せていた執着、その根源。
ベクトルが同じものであったとしても、大魔王バルメシュケやマデサゴーラのそれとは大きく異なっていた。
美学に沿わぬものを、理を捻じ曲げてでも己が審美に適うものへ造り変えようとする洗脳、或いは創世の欲求。それがみらいの記憶からは感じ取れなかった。
そこにいたのは、ただ己を承認してくれる姉を肯定し、迎合するだけのいち少女の姿でしかなかった。縋っていると評してもいいだろう。
「もうキミに用はないよ。」
もはや、ナラジアはみらいへの興味を喪失していた。
忠誠を誓うわけでもなく、あえて手を伸ばす価値も無い。そんなみらいに対する処置は、壊れた玩具を捨てるのと同じだ。項垂れた少女に向けて、魔力を練り上げる。
半端な呪文で殺せるほど、か弱い少女ではなかった。故に、相応の威力まで力を溜めて――
「――マヒャデドス。」
そして、解き放つ。
だが、その向かう先は、幡田みらいではなく、ナラジアの背後。虚空に向けて発された呪文は、迎撃するように放たれた魔力弾とぶつかり、弾ける。
402
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:06:23 ID:yC3WvoJY0
「……気付いてたか。隠密に特化していたつもりだったんだけどね。」
草陰から出てきたエルフの魔法使い――フリーレンは無表情のまま、戦場へと足を踏み入れた。周囲一帯に漂う薄く張り巡らされた魔瘴は、全身を覆う防御魔法によってその細身に到達することができていない。その点で、フリーレンはナラジアに挑むに足る資格を有する者であったと言えよう。
「僕が大きい力を使ったところを狙い撃ちするつもりだったんだろうけど、残念だったね。」
「……よく分かったよ。
この世界が粒揃いの化け物だらけだって。」
名前が増えていた名簿を見て、フリーレンの焦燥は加速した。断頭台のアウラに留まらず、その配下の首切り役人の2人。さらには、黄金郷のマハトと無名の大魔族ソリテール。死んだはずの魔族たちが、当初の認識よりもさらに4体もこの殺し合いに招かれている。
一緒に招かれている旅の仲間、フェルンとシュタルク。2人とも、少なくとも足手まといと呼べるほど弱くはない。けれど、大魔族を相手取るには半世紀早い。もし、彼らが大魔族たちと衝突する事態が起これば逃げるように伝えてある。どれだけ仲間を信頼していたとしても、実力差という現実的な壁がそこにはある。
それでも、もしも逃げられない理由がそこにあったら?不意打ち、負傷、人質……幾らでも思い付く。
巡る思考の中、人よりも長い時間感覚を生きるフリーレンの歩みは、心なしか早まって――故に、早期に魔瘴から発せられる魔力を感知し、この戦場へと赴くことができた。
「……仕方ない、ここは引くとしよう。」
――と、そう切り出したのはナラジアだった。
「逃げるの?」
「……奥底の知れないキミと戦うのはリスクでしかないからね。
もう一人の女の子ももう要らないし、あえて戦う理由も無いさ。」
(……魔力の制限に気付かれている。)
その言葉に、動揺が走る。
ソリテールをはじめとした一部の魔族には、自分が魔力制限による力関係の誤認で魔族を欺いている事実が伝わっている。だが、目の前の相手は魔族ではない。魔族と世間話がてら情報交換をするような人物でも無さそうだ。
つまり――この僅かなやり取りの間に、違和感を持たれ、気付かれた。それだけでも、ナラジアが只者ではないと分かる。むしろ、存在としての格は、かの"魔王"にも――
「逃がすと思ってるの?」
――ノイズでしかない思考を辞める。ポーカーフェイスを崩さないまま、話を続ける。
「逆に、逃げない方がいいかい?
僕はそれでも構わないよ?
どちらかが死ぬまで殺し合おう。」
だが――実力差は明確だった。
ここに立っているだけでも、魔瘴を防ぐための防御魔法を常時展開している必要があり、魔力の消耗が激しい。そんな中、一度撃ち合った魔法力からの概算でも自分に匹敵する魔力を有しているばかりか、さらに力を隠しているであろうナラジアと継続的に戦闘をすることになればどうなるか。
今の自分では、勝てない。
自分の魔法で、勝利するイメージが湧かない。
それほどまでに、目の前の"神"の力は圧倒的だった。
追撃の意思がないことを示す。
「……懸命だね、フリーレン。
せいぜい、頑張って。」
ナラジアが最後に残したその言葉の意味するところを、私はまだ分かっていなかった。
403
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:06:49 ID:yC3WvoJY0
◆
「っ……。はぁ……はぁ……!」
そして、ナラジアが去って間もなく、みらいはその場に膝をつく。脅威が去って緊張感の糸が切れたことも大きく影響していることだろう。だが、精神的な要因よりももっと強く、肉体的な要因があった。
快楽ノ園を覆った魔瘴が、消えていない。むしろ、こっそりと景色に紛れ込ませる必要性が消えたからか、目に見えてその濃度を増してきている。
「さっきの"頑張って"はそういう意味か……。
厄介な置き土産だ。」
神話の時代、異界滅神ジャゴヌバの封印後。永劫の時が流れた後にも、魔瘴が消え去ることはなかった。
汚染された大地は終ぞ緑を取り戻すことはなく、液状化した魔瘴が毒の沼と化して人々を蝕み続けている。
大量の魔瘴を封印する術を編み出した賢者がいれば、極めて限定的な魔瘴を消し去る詩歌を開発した者もいた。
アストルティアの戦いの歴史の裏に、魔瘴は常にあり続けたのだ。
その持続性は、この殺し合いの会場でも牙を剥く。ナラジアが立ち去った後の快楽ノ園には、高濃度の魔瘴が侵蝕していた。
「ひとまずはこの魔瘴の範囲から出て……」
「わたし、ね……。」
「……?」
息も絶え絶えなみらいが口を開く。幡田みらいという少女の本性を知らないフリーレンにとって、彼女はナラジアという絶対的存在に襲われた"被害者"としての側面しか見えていない。信頼を寄せるだけの繋がりも、警戒を向けるまでの繋がりも形成されていない。
だが、次に紡がれた言葉は、フリーレンの目を見開かせた。
「……結構、根に持つタイプなんだよね。」
気が付けば、みらいの纏う魔力がどす黒く、禍々しいものへと変わっていく。弾かれたようにフリーレンは魔力を練り上げ、構える。
「ナラジア……その顔と名前、覚えたから。
たくさん魂を喰らっテ……モっと強くナッて……絶対に殺ス。だカら……」
――それは、生存本能のようなものだったのかもしれない。
魔瘴がアストルティアの人々にとって脅威となったのは、人に対する毒性のみではない。適量の接種であれば魔物を活性化させる、その"促進性"。
みらいが強まる魔瘴の中で生き残る手段は――ひとつしか、なかった。
ナラジアとの戦いの中で覚えた怒り、苦しみ、屈辱、そして――絶望。みらいの中に渦巻く多くの感情は、淀みとなって溜まり続けた。その全てを――解き放つ。
「――アリストテレス。」
その光の先にいたのは、先ほどまでの愛らしい少女の姿は何処にもない、"魔物"の姿だった。
消し飛んだ外皮の下に、龍を思わせる骨格。胸に佇むハート型の水晶体は空洞の眼の代わりに、瞳の如く妖しく煌めいて――
「……本当に、化け物ばっかりだ。」
――何よりも、魔瘴の中でも感じる、全身から溢れ出る死臭。
多くの命を喰らってきたのみならず、本人もまた死という垣根を越えてここに存在しているのだと、直感的に理解できた。
(……ねえ。ヒンメル、ハイター。
2人は、ここにいないけど――)
魔族たちに、目の前の化け物。
この世界には、多くの死者が参加者として存在している。そして、そのような人物は人間と敵対的な者ばかり。少なくとも、フリーレンの観測する限りでは。
(――それでいい。
きっと、"天国"の方が居心地いいよ。)
404
:
追想のラグナロク
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:07:15 ID:yC3WvoJY0
【B-4/快楽ノ園/一日目 黎明】
【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:古砂夢を倒す。
1.手がかりを見つけるため、アレクサンドリアを目指す。
2.クロノ、ね。
※少なくともマハトとの対談後からの参戦です。
【幡田みらい@Crystar】
[状態]:ダメージ(大)、幽鬼化(魔瘴による強化)
[装備]:グランドリオン@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、グランドリオン@クロノ・トリガー、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:お姉ちゃん(幡田零)とふたりで家に帰る。
1.ナラジアを殺す。
※再生の歯車到着前からの参戦です。
【B-3/草原/一日目 黎明】
【ナラジア@ドラゴンクエストXオンライン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:娯楽として殺し合いに優勝する。
1.古砂夢への怒り
※異界滅神ジャゴヌバの意識覚醒後、討伐される前からの参戦です。
405
:
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 02:07:44 ID:yC3WvoJY0
以上で投下を終了します。
406
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/27(木) 21:49:21 ID:???0
投下お疲れ様です。
ラスボスクラスの正面衝突で、読んでいる内は話がどう転ぶか全く読めませんでした。
だけど結果的にはグランドリオンを装備したみらい相手にほぼ完勝し、フリーレンでも勝ち筋が見えないナラジアがとにかく強い。
と思ってたら本人が離れても魔障が消えないとか、かなりやばくないか?
ただでさえ強い上に性格悪くて魔障まき散らして大迷惑とか、さすが本作最強格のマーダー、好き勝手し放題だ。
その所為でアリストテレス相手に一人で対峙する羽目になったフリーレンが心配。大丈夫なのだろうか。
407
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/27(木) 22:04:00 ID:???0
それとすみません。会場の地理について質問させていただきます。
C-3テーブルシティの周辺についてです。
wikiの会場全体図では特に何もない平地となっておりますが、
原作では北側に岩山がそびえ、街の東・南・西方向に橋が掛かっており、
通常の手順で街に入るには橋を渡る必要があります。
つきましては、会場全体図通り周囲を完全な平地とし、街の出入りの制限を無しとするか、
それとも原作通り、橋を渡らないと街中には入れない構造にしてもよいか
御意見を頂きたくお願いします。
特に決まっていないようでしたら、原作通り橋があるという内容で次作を予約させて頂きます。
お手数ですがよろしくお願いいたします。
408
:
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 22:15:27 ID:RLicMBqc0
>>407
ご感想ありがとうございます。
ひとまず質問への回答になりますが、地形としては特に決まっておりませんので、橋があるという解釈で問題ありません。
よろしくお願い致します。
409
:
◆Ok18QysZAk
:2025/03/27(木) 22:26:25 ID:RLicMBqc0
また、昨日書ききれなかった感想です。
>>魔族が起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている
ジャゴヌバ討伐後のハノンの頼もしさが半端じゃない。特にビーストモード発同時、力・守り・速さすべて兼ね備えていて、対主催最強クラスの風格がにじみ出るバトルでした。
その上で、その根源が「戦闘経験」というのも説得力が段違い。長年続いているゲームの貫禄だなと。
死への恐怖という独自の描かれ方をしているリーニエですが、マリアドラッグ含め色んな方向に行ける可能性を秘めていて、先が楽しみです。
410
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/27(木) 22:57:52 ID:???0
>>408-409
回答および感想ありがとうございました!
それではクオードを予約します
411
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:29:01 ID:0Mh6PETA0
投下します。
412
:
断頭台のマハト
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:29:40 ID:0Mh6PETA0
城塞都市ヴァイゼ。
淡い月光を跳ね返し、ありありと己を主張する街並み。
真夜中だというのにそれを思わせない荘厳な輝きを放つそれは、最早美しいというよりも不気味。
馴染みのない者が訪れれば、止まった時の中を歩むような、そんな奇妙な感覚を抱くであろう。
「…………精巧だな」
しかし、この者は違う。
鮮やかな赤髪を靡かせて、怪訝そうに街を歩む魔族。
名を黄金郷のマハト。
彼こそが、この黄金都市を生み出した存在その人である。
固い金属に靴を踏み締め、ひたすら歩く。
数刻前に殺し合えと言われた者のそれとは思えぬほど優雅な、まるで庭を散歩するような足取り。
けれどその目は、見慣れた景色に辟易するものではなく。
むしろ見慣れたはずの光景を前に、黄金を反射する瞳は好奇に塗れていた。
今、自分が歩んでいるヴァイゼは〝創られたもの〟だ。
他ならぬ、これの創造主である大魔族だからこその確信。
80年間という、人間からすれば途方もない年月を過ごしてきた彼だからこそ、微細な違和感に気がついた。
なるほど、確かに。
これを再現した者はよく理解している。
床や建造物の罅割れから、宙に浮く飛沫の一滴に至るまで全てがマハトの知るものと同じ。
けれど言い表せない違和感が、彼の胸を占めていた。
歩いている内、大通りへ出た。
やはり、あった。
静かに鎮座する黄金像を前にし、マハトの足はついに止まる。
「グリュック様」
黄金像は応えない。
グリュックと呼ばれたそれは、壮年の男性を形どっていた。
悪趣味な金色の肉体に色彩をかければ、今にも動き出しそうなほどの精緻さ。
413
:
断頭台のマハト
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:30:21 ID:0Mh6PETA0
「やはり、な」
けれど。
マハトは内心、それを〝不出来〟と称する。
「これはグリュック様ではない」
渦巻く違和感の正体が晴れる。
このヴァイゼには、〝命〟がない。
魂の宿らぬ都市は、姿形こそ瓜二つであろうとも全くの別物であった。
であれば、興味は尽きた。
元よりこの都市を訪れたのは寄り道に過ぎない。
ヴァイゼの名を冠する土地が果たして自分の記憶するものと同じなのか、確かめようと思っただけだ。
そしてその目的を果たした以上、ここに留まる理由はない。
街を出ようと身を翻す。
背後から黄金像の視線を浴びながら、二歩踏み出して────静止。
建物と建物の間の細い路地裏、マハトから見て右方に位置するそこへ視線を投げた。
「やっぱりここにいたのね、マハト」
「…………アウラか」
────断頭台のアウラ。
マハトと同じく、魔王軍の幹部。
特筆して秀でた実力を持つ七名の大魔族、〝七崩賢〟の一人。
「こうして話すのは南の勇者討伐の時以来かしら」
特徴的な桃色の髪は黄金の反射光を浴びて、銅のような色に変色していた。
ふわりと空気を含むそれを揺らしながら、アウラはマハトの目の前へと歩み出る。
彼女の浮かべる笑みはどこか悠然としていて、余裕を含んでいるように見えた。
「かもな」
「ああ、その時の記憶は消されたのよね」
「お前は覚えているのか?」
「まさか。あのグラオザームがそんないい加減な仕事をするわけないじゃない」
他愛もない世間話、のように見えて探り合い。
おそらくアウラは先に自分の存在を探知していた。魔力探知の練度は彼女の方が上なのだから当然だ。
闇討ちを狙うのであれば好機であったはず。
それとも、仕留め損なった際のリスクを考慮したのか。
少なくとも現状は敵対の意思は無い、とマハトは判断する。
414
:
断頭台のマハト
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:31:01 ID:0Mh6PETA0
「名簿は見た?」
「ああ。フリーレンやソリテールの他にも、お前の部下が二人いたな」
「ええ、それに魔王という名前も」
「俺たちの知る魔王様とは違うようだが、な」
アウラもまた、マハトを探る。
彼が積極的に命を奪うことは〝まだ〟ないとは思っていたが、予想は的中した。
早いうちに彼と合流できたのは幸いと言える。
もしも彼が自分と出会う前に、何者かに知的好奇心を擽られていたら。
かつてヴァイゼを襲撃したことで、マハトの手によって討伐された〝電閃のシュレーク〟の二の舞になっていたであろう。
「そうね、魔王様は討たれたのだから当然よ」
「それもそうだな」
そうして、この瞬間。
探り合いを制したアウラは、笑みを深める。
「やっぱりね」
形ばかりの会話は途切れる。
凍てつくような雰囲気の変貌を感じ取ったマハトは、細めた双眸でアウラを睨む。
しかし当の大魔族はそれを涼しげに受け流し、煌びやかな髪をかきあげた。
「あなたはなにも〝知らない〟わ、マハト」
なに? と、無意味な疑問を洩らす。
怒髪天を衝くような激情でもなく、今マハトが抱くのは好奇心。
単純な実力では圧倒的に自身が有利であるというのに、なぜアウラは挑発したのか。
それを知りたくて、無言で続きを促した。
「あれからずっとヴァイゼに封印されていたというのは本当だったのね」
「なにが言いたい」
「私はあなたより物知りということよ」
細い指先を艶やかな唇に当て、嗤う。
魅惑的にも見えるアウラの仕草にも、マハトの興味は注がれない。
彼の注意は、アウラの紡ぐ言葉だけに向けられていた。
415
:
断頭台のマハト
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:32:16 ID:0Mh6PETA0
「私はね、一度死んでからここに連れてこられたの」
「…………なに?」
耳を疑った。
聞き間違いはありえない。そうならないように耳を澄ましていたのだから。
そして聡明なアウラが、この場で言葉を間違えるはずがなかった。
「魔王様が討たれたからこの場に呼ばれるがない、って言ったでしょう? その時あなたはなんの疑いもなく頷いた」
「……なるほど。まんまとカマをかけられたわけか」
「ええ。あの古砂夢という魔女が言っていた〝死者蘇生〟は、私が身を持って体験しているということ」
確かに、古砂夢は言っていた。
この場所には死者も連れてこられている、と。
言葉の意味をそのまま捉えれば、意思を持たぬ死体が魔物と化して参加させられているとも取れる。
少なくとも死者蘇生の魔法など知らぬマハトからすれば、そちらの解釈の方がよほど納得出来た。
「…………」
「そんなに疑わなくても、見ての通り健康体よ」
しかし、このアウラはどうだろうか。
どこからどう見ても生前の姿。
アンデッドやゾンビとは違う、思考を伴って会話をしている。
「本当なのか」
「証拠を出せ、って? そうね、これならどう?」
マハトの言葉を先読みするかのようにアウラは髪をかきあげて、己の魔力を極限まで落としてみせる。
それはマハトの知る大魔族の魔力には程遠い、一般的な魔族以下の魔力量だ。
力こそが権限である魔族には到底必要のない技術。
ゆえにこの光景は、彼の知る〝アウラ〟であれば有り得ないことであった。
「私の死因はフリーレンの魔力を見誤り、アゼリューゼを使用したこと。ここまで言えばわかるかしら」
「……なるほどな」
魔力の制限────己を弱く見せる技術。
これこそが魔族に油断と驕りをもたらすため、人類が生み出した姑息な手段。
アウラもまたこれによってフリーレンの餌食となったのだろう、と。今の会話で察することが出来た。
そして、恐らくは。
一度の死を経て〝生存〟へと目的を切り替えたアウラは、この技術をモノにしてみせた。
だからこそマハトは彼女の存在に気がつけず、あまつさえ先に声をかけられるという失態を犯したのだ。
プライドによって辛酸を舐めた彼女はもう、油断や驕りなどというつまらない死を迎えることはないだろう。
416
:
断頭台のマハト
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:33:07 ID:0Mh6PETA0
「あなたは死後にここから連れてこられたわけでないようだけど、どのみち〝気づかないまま〟拉致されたという事実は変わらない。……そうでしょう?」
「…………俺が不覚を取る、と?」
「話が早くて助かるわ」
かのマハトを前にしてそれを発言することなど、本来であれば愚行でしかないだろう。
しかし状況が状況、魔族と人類との冷戦が続いている元の世界とは全く異なる。
マハトが先程出会った姫浦瀬良という少女も、魔力とは異なる〝異質さ〟が感じられた。
魔力量はこの場において判断材料にならない、と。
言葉の裏に隠された忠告が、マハトの眉を僅かばかり吊り上げた。
「これは助言だけれど、己の力を過信しない方がいいわ。古砂夢が〝殺し合い〟を望んでいる以上、『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』も満足に機能するか不確定なのだから」
続くアウラの言葉。
それはきっと、普段であれば聞き流していたものだ。
けれど今のアウラの言葉は不思議と、マハトを惹き付けるなにかがある。
死を経験した者にしか出せぬ雰囲気か、マハトはその助言の意味に思考を割いた。
「俺の魔法は命を奪うものではないからか」
「かといって生きているとも言えない。こんな大掛かりな計画で、そんな中途半端な状態が許されると思う?」
「…………一理あるな」
たしかに、そうだ。
ディーアゴルゼは強制的に対象を黄金に変える最強の魔法。
しかし、無敵ではない。
問答無用で死に導くわけではなく、あくまで対象を物言わぬ像に変え、時間を止めるだけ。
黄金化した右腕を解呪したフリーレンや、『呪い返しの魔法(ミステイルジーラ)』による反射をしたゼーリエなど、対抗策を持つ者はいる。
大魔族を三人、そして葬送のフリーレンをも拉致してみせた主催側がそれを把握していないはずがあるか?
────断じて、否。
なんらかの仕掛けがあって黄金化を封じているか、もしくはゼーリエ達のように対抗策を持つ者が多数いるか。
どちらにせよ、マハトはアウラに言われるまで己の魔法に〝過信〟を抱いていたのは事実。
知識とは力。
無知とは罪。
この場を生き抜くことという一点においては、断頭台に立たされているのはマハトの方であった。
417
:
断頭台のマハト
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:34:03 ID:0Mh6PETA0
「要件を言え」
「あら、いきなりどうしたの?」
「無償で俺に助言をくれるほど、お前は無能じゃないだろう」
ならば、と。
この場において力を持つアウラは、何を望んでいるのか。
顎に指を添え、暫し考えるような仕草の後にアウラが唇を開く。
「死体が欲しいの。強い肉体を持った者がいいわ」
「死体、か。予想はしていたよ」
マハトの中で第一の候補となっていた狙いだ。
というのも、現状マハトが用意出来る〝対価〟の中で最も価値のあるものだからだ。
「第二回放送時にここで集合、ということにしましょう。それだけの時間があれば用意出来るでしょう?」
「ああ、いいだろう」
第二回放送まで残された時間は十時間ほど。
マハトの実力であれば死体の一つ程度用意することなど造作もないだろう。
これは驕りでも慢心でもなく揺るぎようのない事実。
ああは言ったものの、彼ほどの実力者がそう簡単に命を落とすとは思えなかった。
「それと、服従の天秤を持っているかしら」
「いいや」
「そっちも並行して探してもらえる?」
「高くつくぞ」
アウラにとってもこの条件の提示はリスキーだった。
服従の天秤を持ち合わせていないという手の内を晒すことになる以上、弱みを握らせているも同義。
しかし、それを踏まえても服従の天秤は喉から手が出るほど欲しかった。
全参加者にランダムに配布される支給品の中から一つ、目的のものを探すという行為。
それが如何に無謀であるか、アウラが心得ていないはずがない。
「それ相応の情報は与えるつもりよ」
だからこそこれは賭けだ。
マハトがもしも不服の意志を示した場合、この交渉は不成立となる。
そうなれば単に弱みを見せた挙句、先の〝助言〟によってマハトの生存確率を上げてしまった結果だけが残る。
誰か一人だけが生き残るというルールの都合上、これはかなりの痛手となるだろう。
「本当だろうな」
「満足出来なかったらその場で殺してもらっても構わないわ」
アウラが言う。
大魔族から発せられるその言葉がどんな意味を持つのか、マハトは十二分に理解している。
その上相手は一度死んだ身だ、己の命を差し出すことの重大さにおいて信頼していいと言える。
「いいだろう」
その一言は見事に風向きを変え、交渉は成立。
気が付けば白みを帯び始めた星空を見上げ、アウラは満足気な笑みを浮かべた。
「それじゃあ決まりね。お互い生きていたらまた会いましょう」
「ああ、武運を祈る」
言いながら、互いにすれ違うようにその場を後にする。
二人の大魔族が去った大通りにて、かつてマハトを従えた者の像が静かに佇む。
命を持たぬそれはしかし、行く末を見守るかのようにマハトの背中を見送った。
◾︎
418
:
断頭台のマハト
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:35:58 ID:0Mh6PETA0
──死後の世界。
マハトは一人結界の中に取り残されている間、何度かそれについて考えたことがあった。
アウラも述べた通り、黄金となった者は死とも生とも異なる状態だ。
その間、一体何を考えているのか。
夢を見ているのか、意識すらない無なのか。
皮肉なことに、使い手であるマハトはそれすら分からなかった。
命が分からなかった。
人間の構造は理解していても、心までは理解できなかった。
だからマハトは、黄金となった人間を戻すことが出来ない。
マハト自身がそれを成せぬということは。
即ち、この世に黄金化を治せる人物はいないということだ。
前例がない以上、黄金化している間の精神状況を説明できる者はいない。
──それこそまさに、〝死〟と同義ではないか。
死から蘇った者がいないように。
黄金から還った者がいないのだ。
マハトは知りたかった。
死とはどういうものなのか。
魔族と人類の死は果たして同じなのか。
死後の世界というものは存在するのか。
きっとそれを知るのは、自分が死ぬ時だと思っていた。
だからこそ、死から蘇ったアウラは己の知的欲求を満たしてくれると確信した。
というよりも、半ば縋る形に近かったのかもしれない。
三十年間生きた人間たちに囲まれ生きて、それでも尚〝悪意〟を理解出来なかったから。
ならば真逆の、死んだ魔族からならば何かを掴めるのではないか。
亡霊は、答えを探し求めて彷徨う。
まるで何かに駆られるように、ひたすらに。
【C–7 城塞都市ヴァイゼ/一日目 黎明】
【アウラ@葬送のフリーレン】
[状態]:健康
[装備]:魔導士のつえ@FINAL FANTASY IX
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済み、服従の天秤はなし)
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残る。
0.どこかで身を潜めるか、天秤を探すか。
1.マハトから死体を得るため第二回放送時、ヴァイゼで集まる。
2.リュグナー、リーニエと合流する。
3.他の参加者を利用し、フリーレンを消耗させる。
4.服従の天秤を探す。
※死亡後の参戦です。
※フリーレンとの戦闘により魔力の制限を会得しました。
【黄金郷のマハト@葬送のフリーレン】
[状態]:健康、好奇心、姫浦瀬良及び「わるもの(深瀬黒)」への興味
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜3(確認済み、服従の天秤はなし)
[思考・状況]
基本行動方針:「答え」を探す。
1.アウラから情報を得るため死体を用意し、第二回放送までにヴァイゼで集まる。
2.敵になる相手は殺しても仕方がない。
3.あの少女(セラ)と、彼女の言及したわるもの(クロ)からは、まだ学ぶことがありそうだ。
4.君はどうするかね、フリーレン。
※参戦時期は86話、フリーレンたちとの会談の後。
※万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)に制限が掛けられているかは後のリレーにお任せします。
419
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/03/31(月) 12:36:18 ID:0Mh6PETA0
投下終了です。
420
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/31(月) 20:15:50 ID:???0
投下乙です
ここ最近、ソリテールリュグナーリーニエと魔族勢がボコられ気味だったので
残る2人には魔族ならではの恐ろしさを見せてもらいたいですね
一度死んだことで驕りを無くしマハトとの腹の探り合いにも勝つアウラがかっこいい
複製された城塞都市への違和感を「魂の宿らぬもの」として形容するマハトもいい
>特徴的な桃色の髪は黄金の反射光を浴びて、銅のような色に変色していた。
>二人の大魔族が去った大通りにて、かつてマハトを従えた者の像が静かに佇む。
>命を持たぬそれはしかし、行く末を見守るかのようにマハトの背中を見送った。
こういう臨場感のある描写、個人的に大好きです。
それでは私も投下します。
421
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/31(月) 20:18:06 ID:???0
グレープアカデミー。
元の世界では平和な学園であったその建物は今、軍事施設のような張りつめた空気に包まれていた。
校長室の椅子に座すはエテーネ王国の王子にしてウルベア地下帝国の宰相・クオード。
彼は机の上に広げた2枚の地図を冷徹な眼で見つめていた。
1枚は会場全体図、もう1枚は店や通りの名まで細かく記されたテーブルシティの地図。
その上に置かれた駒代わりのカラーマグネットが、想定される侵入パターンとそれに対応する際のクオード自身の経路を示している。
クオードは時に駒を動かし、時に机を指で叩きながら黙考していたが、
暫くの後、静かに腰を上げるとこう呟いた。
「やはり、迎え撃つべきだな」
クオードが選択したのは待ちの戦略だった。
このテーブルシティは、設計者が意図したのかは不明だが、護りに適した地形となっている。
街の周りは東・南・西の3方向をぐるりと水堀が囲み、それの無い北側は岩山が囲っている。
街に入るには堀に掛けられた3ヶ所の橋を渡るしかなく、
しかもこのグレープアカデミーに辿り着くためには長い階段を登り切らねばならない。
そして、それらの動きは高所にいるこちらからは筒抜けである。
空を飛ぶか姿を消してでもいない限り、こちらが先に相手の動きを察知できる。
この地の利を利用しない手は無かった。
その上、幸運にもここを訪れる可能性の高い参加者の目星を付けることもできた。
クオードは学園の資料から、ポケモンという魔物とポケモントレーナーと呼ばれる魔物使いについて知ることができたが、
それのみならず、その中には幾名かの参加者の情報も記されていたのだ。
アオイ、そしてネモ。
この2人の少女は、この地方で行われていたモンスターバトルのチャンピオンであるらしい。
実戦ではなくあくまで競技ではあるが、仮にも頂点を極めた者であれば高レベルの魔物使いだと認識すべきだ。
しかもこの学園に通う学生だという。ならば仲間との合流を目指しここを目指す可能性が高い。
故に、まずここに集まるであろうポケモントレーナー達を殺して支給品を奪い、戦力を整えた後打って出る。
それがクオードが立てた目下の戦略であった。
無論、全く予期せぬ人物がここを訪れることも考えられるが、
先に相手の姿を確認できるのはこちらであることに変わりはない。外見から相手の能力を推測することもできるだろう。
422
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/31(月) 20:19:15 ID:???0
では、ポケモントレーナーという仮想敵に対し、どう戦うか。
学園の資料に軍事に関する記載がほぼ無かったことから、実戦慣れしている可能性は薄く、肉体的にはさほど強くないと予想できる。
厄介なのは、この殺し合いにおけるルール・HPリンクだ。
トレーナー本人が脆弱であろうと、使役するモンスターが強力であるならば、殺し切るには手間が掛かることになる。
ポケモントレーナーは、モンスターボールという道具に入れてポケモンを持ち歩いているという。
ならば、そもそもポケモンを出させず殺すのが最善だ。
ボールに収納された状態でもHPリンクが働くかは不明だが、ポケモンが出ていないならどうとでもなる。
クオードはもう一つの策を講じるべく、校長室を出てエントランスホールへ向かうと、
入口の大扉に向けて手をかざし、こう唱えた。
「クモノ」
その呪文と共に、扉の足元に蜘蛛の巣を模した魔法陣が現れた。
魔法陣に触れた者を魔力の糸で拘束する妨害魔法である。
アストルティアでは低位の呪文だが、一瞬の隙が生死を分けるこの場においては単純ながら強力な武器になるだろう。
この仕掛けによって、学園に入ろうと不用意に扉を開けた者は、その瞬間に拘束されることになる。
かつてハノンが、ドミネウス邸の入り口に仕掛けられたそれに間抜けにも引っかかったことを思い出す。
相手がポケモントレーナーならボールを投げることも不可能になるし、そうでなくても致命的になり得る罠だ。
手は打ち終えた。
あとは訪問者の到来を待つだけだ。
東の空がわずかに明るくなってきた。まもなく夜が明ける。
様子を見ていた者や、宵闇を避けて動かぬ者も居ただろうが、これから参加者の動きは活発化するだろう。
迫る戦いに思いを馳せる中、ふと手元の名簿に目が移り、アオイとネモ、2人の少女の写真が視界に入った。
途端、これから自分は彼女らのような年端もいかぬ子供も殺すのだと、そんな陳腐な言葉が胸に浮かんだ。
(この期に及んでまだ情を捨てきれぬのか、俺は)
彼は無言で、支給品の一つである剣を抜いた。
ブラッドソードというその剣の、名は体を表すかのように紅い刀身を彼はまじまじと見つめると、
「―――くだらんっ!!!」
迷いを断ち切るかの如く振り下ろした。
423
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/31(月) 20:20:08 ID:???0
「今更何を迷う……」
そう独り言ちながら、剣を鞘に納める。
だが、クオードの心の奥底では、かつて自分を信じてくれていた"彼ら"の影がいまだちらついていた。
ハノン、ディアンジ、ザグルフ、そして最愛の姉。
もしこの場に彼らがいれば、全力で自分を止めるだろうことを、クオードは知っている。知ってしまっている。
「これではいかん、これでは……」
己の弱さに苛立ちと焦燥を覚えた、その瞬間。
心臓が、跳ね上がった。
「ぐっ……!」
クオードは苦悶の表情を浮かべながら動悸する心臓を抑えた。
先ほど魔神器から取り込んだエネルギーが突然体の中で暴れ出した。
全身が熱い。肥大化した魔力が激しく波打ちながら血管や神経の末端にまで循環し、細胞の一つ一つが破裂するかの如くエネルギーが充満していく。
クオードは思わず膝をついていた。全身が震え、汗がとめどなく流れる。心臓があまりにも激しく脈打つせいで息もできない。
だが、大丈夫だ、と彼は自分自身に言い聞かせていた。
この力は自分の味方だ。これは力が己の体に馴染む為の必要プロセスなのだ、と。
予期した通り、数分後には症状が落ち着き始めた。
脂汗が引き、呼吸が落ち着いたのを確認した彼は、ゆっくりと立ち上がった。
身体の調子は良い。先ほどの苦痛などまるで無かったかのように、全身の細胞から力が漲り出している。
彼は、自分の肉体とラヴォスエネルギーとの適合が進んだことを直感的に理解した。
心なしか、思考もクリアになっている気がする。
先ほど抱いた感傷は頭の中から消え去っていた。
それは歓迎すべきことだ。
良心や情けなど、自分の夢を叶える上でただの障害でしかないのだから。
「大丈夫だ。俺に迷いはない。迷いなど許されるものか。
この力で、誰であろうが、女子供だろうが殺してみせる。エテーネ王国の為なら、誰であろうと」
紅い瞳をぎらつかせながら、彼は口中でそう呟いた。
その言葉は、クオード本人の意志なのだろうか。
それとも。
424
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/31(月) 20:21:38 ID:???0
【C-3/グレープアカデミー/一日目 黎明】
【クオード@ドラゴンクエストXオンライン】
[状態]:健康、精神消耗(中)、ラヴォスエネルギー吸収によるステータス上昇、赤眼化、殺人への忌避感低下
[装備]:ブラッドソード@FINAL FANTASY IX
[道具]:基本支給品、魔神器@クロノ・トリガー、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、エテーネ王国を救う
1.勝ち残る。どんな犠牲を払ってでも
2.ハノンには今度こそ邪魔はさせない
3.(姉さん……)
4.テーブルシティを訪れた者を殺し、支給品を奪う
5.ポケモントレーナーとの戦いでは、出来る限りポケモンを出させない立ち回りを狙う
6.アオイとネモを強敵として認識
※バージョン4.3「砂上の魔神帝国」でウルタ皇女に撃たれた直後からの参戦です
※ラヴォスエネルギーを吸収したことにより『ジゴデイン』『覇王の征戦』(※悪鬼なる王の使用特技)が使用可能になりました
※ラヴォスエネルギーによる精神への影響は後の書き手に一任します
※ブラッドソードを装備したことにより暗黒剣のアビリティを習得しました
※グレープアカデミー内の資料を読んだことにより、ポケモンとポケモントレーナーについての知識を得ました。
また、アオイとネモがパルデア地方のチャンピオンであることを知りました
※グレープアカデミーの入り口にクモノの魔法陣が設置されました。
【支給品紹介】
【ブラッドソード@FINAL FANTASY IX】
クオードに支給された剣。ダメージを与えた相手のHPを吸収する。
適性がある場合、暗黒剣のアビリティを習得可能。
425
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/03/31(月) 20:22:33 ID:???0
投下終了します。
タイトルは【策謀の学園】です
426
:
名無しさん
:2025/04/07(月) 01:23:35 ID:1UT2wyGs0
すみません、少し遡って「鎮魂の城にて」についての指摘なのですが
ガーネットたちは名簿でクラベルの名を知った描写がありましたが
「オープニング-あの日へ帰る」でのアイラの名簿完成描写からすると、見せしめの二人は名簿に載っていないのではないでしょうか
427
:
◆Ok18QysZAk
:2025/04/07(月) 20:17:13 ID:.Omv5GyY0
>>426
(拙作宛てではありませんが)ご指摘ありがとうございます。
本件考えてみましたが、オープニング三部作のアイラパートを修正する形で整合を取ろうと思います。
元々参加者として造られている以上、名簿にある方がむしろ自然なので、当時載せていなかった私のミスです。失礼いたしました。
428
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/04/07(月) 21:25:30 ID:???0
>>426
様 ご指摘ありがとうございます。
今回はオープニングを修正頂くこととなりましたが、
該当作の作者である私の見落としでもありますので、今後は充分注意して参ります。
◆Ok18QysZAk様にも重ねてお詫び申し上げます。
申し訳ございませんでした。
429
:
◆Ok18QysZAk
:2025/04/07(月) 23:51:05 ID:.Omv5GyY0
>>断頭台のマハト
大魔族二人の会話、すごくいい。
アウラがカマをかけるところもいいのですが、「死亡後参戦」を心理戦に勝つ要素として扱ってる発想が好きです。
それと、企画主の視点としては企画の進行的にも助かる話だなと。
マハトの【黄金化】の塩梅に緩める余地を持たせてくれていたり、死体を用意するという目的のために黄金化抜きに戦う口実が生まれたり。
「流星」のリュグナーなんかもそうですが、魔族の思考を書くのが巧くて唸らされています。
>>策謀の学園
クオードの、前線に出るより軍師として暗躍する方が光る感じ、本当に解釈一致だなと。
ラヴォスエネルギーを取り込んでフィジカル的な強さを手に入れてなお、あくまで本分はそっちなので末恐ろしい。
読みの通りポケモントレーナーがたくさんテーブルシティを目指しているので、それに特化したメタを貼っているのがどこかに刺さりそうで。
そういえばクモノ使ってましたね、出会った頃のクオード。
実戦では微妙な呪文ですが、イベントシーンでのクモノは度々拘束手段として用いられているイメージなので、どう機能するのか楽しみです。
430
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/04/20(日) 18:42:17 ID:???0
ジタン、ボタン、ベアトリクス予約します
431
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/04/26(土) 19:01:58 ID:???0
予約延長します
432
:
◆Ok18QysZAk
:2025/05/03(土) 23:38:45 ID:mLrVZjdw0
リコ、イルーシャ、リコデムス・ハーリアトロ、不動寺小衣、スグリで予約します。
433
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/05/05(月) 20:14:59 ID:???0
すみません、ちょっと執筆できない状況になってしまいましたので
>>430
の予約を破棄します
報告が遅くなってしまい申し訳ございませんでした
434
:
◆Ok18QysZAk
:2025/05/11(日) 16:51:27 ID:O7Ao2kVc0
>>432
の予約を延長します。
435
:
◆Ok18QysZAk
:2025/05/19(月) 00:19:24 ID:MbptELAE0
申し訳ありません。
プロットが甘かったので、いったん破棄します。
436
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:16:12 ID:???0
今更ではありますが
>>430
の予約分が書き上がりましたので投下します
437
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:16:59 ID:???0
静まり返った闇の中を、ベアトリクスは歩き続けていた。
一片の隙も無い警戒体勢と、速足ながら足音を立てぬ軍式歩行法を維持しながら。
この状態を、おおよそ2時間は継続しているだろうか。新兵ならば既に苦痛が顔に出ていてもおかしくない。
だが、鍛錬によってそれらを身体の底にまで染みつかせた彼女にとっては、ただ息をしているにも等しい。
この間、何が起こることも無く、誰と出会うことも無く、彼女が休息を取ることもなかった。
この殺し合いの場における静穏は、客観的には幸運であるかもしれない。
だが、その静寂こそが、彼女の心を時折かき乱す。
本当に自分は将に徹しようとしているのか。
スタイナーの死によって胸に空いた穴を、姫を護るという義務感だけでごまかしているのではないか。
何も起こらない、何も考える必要が無い状況だからか、そんな下らない考えが突発的に浮かんでは消える。
「馬鹿なことを……」
邪念を振り払うように頭を振り、脚を速めようとした、その時。
(…………!!)
彼女の脚が止まった。
装備したアイアンソードによって普段以上に研ぎ澄まされた知覚が、自分の向かう先、東の方角からこちらに接近する人物を感知した。
それも1人ではない。2人。
ベアトリクスは瞬間的に考えを巡らせた。
勝ち残れるのは1人のみというルール上、複数で行動しているならゲームに反抗している人間である可能性が高い。
だが、まだゲームは始まったばかり。ひとまず他の参加者を減らすといった名目で、危険人物同士が同盟を組んでいる可能性もゼロとは言えない。
いずれにせよ、まずは様子を伺わねば。
そう判断した彼女は音もなく物陰に身を潜めると、剣の柄に手を掛けながら気配の方向をじっと見据えた。
朝が近づき始めていた。
先刻まで黒一色だった空は、徐々に瑠璃色に変わりつつあり、星の光は次第に薄れ始めている。
数分後、薄明かりの中に、2つの人影がぼんやりと浮かびあがった。
その一人が誰なのか認めた瞬間、ベアトリクスは思わず立ち上がっていた。
それは、彼女自身が心から生存を願う人物の一人。
かつて籠の中の鳥であったガーネット姫を広き世界に導いた、姫と最も縁深き少年。
「……ジタン」
◆
438
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:18:21 ID:???0
「ベアトリクス!」
ベアトリクスの姿を認めたジタンも手を振りながら駆け寄ってきた。
彼の傍らにいる少女・ボタンも、戸惑いながらもジタンの後を追っている。
ベアトリクスから見ればボタンは全く素性の知れない相手ではあるが、
彼女に敵意が無いのはその挙動から明白であった為、最低限の警戒に留めた。
「無事で何よりです、ジタン」
「ああ、ベアトリクスも……」
ベアトリクスはかつて、前女王プラネに従う将軍としてジタンらと敵対し、幾度か剣を交えたこともある。
だが、ガーネットの女王即位の後は、ジタンらに同行こそしなかったとはいえ、明らかに彼らの"仲間"であった。
信じられる仲間との再会。
にも拘わらず、ジタンの返事は重かった。
笑顔でありながらも、どこかバツが悪げな複雑な表情を浮かべている。
その理由は、恐らく"彼"のことだろうと、ベアトリクスは察する。
更にもう一つ、気になることがあった。
「しかしジタン。なぜこちらの方向に? 城に向かうのではないのですか?」
「あー、それなんだけど……」
「すいません。うちの我儘に付き合ってもらったんです」
頭を掻いて言い淀むジタンに代わり、傍らのボタンがおずおずと口を開いた。
◆
439
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:19:08 ID:???0
「…………そういうことでしたら仕方ありませんね」
ジタン達がアレクサンドリア城を離れるまでの顛末を聞いたベアトリクスは、ひとまず納得をした。
ガーネット姫はアレクサンドリア城に向かうという己の推測も、結局は可能性に過ぎない。
姫が置かれている状況が分からない以上、彼女と合流できるかはどうしても賭けになる。
そういう意味では、人格も実力も信頼できるジタンがテーブルシティへ向かうことは都合が良いとも考えられた。
自分かジタンのどちらかと合流できれば、姫の生存確率は大幅に上がるだろう。
「それとジタン、スタイナーを弔って頂きありがとうございます」
ジタンに対し穏やかな笑顔で礼を言う。
だが、当の彼は快活な彼らしくもない、極めて深刻な表情を浮かべていた。
「礼なんか言わないでくれ。
むしろ、オレの方から謝らないといけねえ。
あの時、オレはスタイナーのすぐ傍にいたんだ。オレがもっと強く止めてれば……」
ジタンは奥歯を噛みしめながら悔恨の言葉を吐いていた。
ベアトリクスがこんな様子の彼を目にするのは初めてだろうか。
彼女は無言でその言葉を受け止めていた。
その様子から彼女の心情を伺うことは出来ない。
「…………すまねえ、ベアトリクス」
ジタンはそう言って、頭を下げた。
客観的に見れば、あの時首輪の仕掛けなど知る由もなかったジタンにスタイナーの死の責を問うなど、誤りであろう。
彼の命を奪ったのは紛れもなくあの魔女、古砂夢だ。
そしてジタン自身、アレクサンドリア城でスタイナーの死体を弔った時に、彼の死を受け入れ、この殺し合いに抗う覚悟は決めていた。
そのつもりだった。
だが、ジタンは目の前のベアトリクスとスタイナーが深い仲にあることを知っている。
だからこそ、この場でベアトリクスと再会したことで、スタイナーの死に対する責任と後悔を改めて覚えずには得られなかった。
理屈ではないのだ。
「…………顔を上げてください、ジタン」
そんな彼に向けて掛けられた、ベアトリクスの言葉は穏やかだった。
ベアトリクスに、スタイナーの死についてジタンを責めるつもりは元よりなかった。
何故なら、スタイナーを止める機会は、彼女にも有ったのだから。
このゲームの始まりの時。あの大広間で目を覚ました直後。
スタイナーは、良くも悪くも彼らしい大声と大げさな挙動によって一際注目を集めていた。
当然、ベアトリクスも早々に彼の存在は認識しており、
その後ジタンとスタイナーが何か言い争っていたことまで把握できていた。
彼女がその気になっていたなら、2人の元に向かうことも充分に可能だったろう。
しかし、ベアトリクスは将であった。
最優先の守護対象であるガーネット姫の所在と状況の確認を優先し、冷静に周囲の様子を窺おうと努めていた。
それは将軍としては全く正しい行動であっただろう。
だが、それ故に彼女は後れを取り、目の前でスタイナーを失う結果となった。
かつて、霧の根源にスタイナー達が向かったと聞いた時、
慌てふためいてレッドローズ号を発進させた自分は何処へ行ったのかと、
そう自問しても、もう意味はない。
スタイナーの死という現実を前に、ベアトリクスという人間が心の奥底で何を望んでいるのか、もう自分でも分からない。
…………だから。
「…………彼の死を受け入れた、と言えば嘘になります」
そう。ベアトリクスという個人を捨てて、
「ですが、かつて彼は、自分と共に姫様をお守りして欲しいと、そう言ってくれました。
ならば、私はその遺志を継いで姫様を護る、それだけです。
……それはジタン、貴方も同じではないですか?」
今は、正論を語ろう。
胸に抱く感情を、将という名の仮面に隠して。
その言葉を聞いたジタンは、思わず天を仰いでいた。
"落ち込んでいる暇があるなら、姫様や他の者を助ける為に動くのである!!!"
ベアトリクスの言葉に、そう自分を怒鳴りつけるスタイナーの姿が重なった。
「………すまねえ、おっさん」
ただ、そう呟くしかできなかった。
◆
440
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:19:47 ID:???0
ジタンとベアトリクスの会話を少し離れて見守っていたボタンは、
胸に針が指すような痛みを感じていた。
ここに来るまでの途中に、ジタンの口から彼の仲間について簡単な紹介を受けてはいたが、そこまで深い話は聞いていない。
それでも、最初に殺されたスタイナーという人と、目の前のベアトリクスが何か特別な関係にあったらしいことは、
そういう機微には疎い自分でも何となく分かる。
スタイナーの死を巡る2人の会話は、ボタンにクラベル校長の最期の姿を思い起こさせた。
校長に望みがあるとすれば、生徒である自分やアオイ達が無事に生きて帰ることなのは間違いない。
でも、ただ守られるだけでいいのか。
クラベルの、そしてスタイナーの死を無駄にしない為に。
自分だけでなく、自分に付き合ってくれたジタンや、彼の仲間のベアトリクスの為に、
何か自分もできることはあるんじゃないのか。
そういったことを考えているうちに、自然と握られた手に力が込められていく。
「じゃあ、ベアトリクスはこのまま城に行くんだな?
さっきも言ったけど、俺達が出発するまでは誰もいなかったぜ?」
「ええ。私のように到着が遅れているだけかもしれませんし」
いつの間にかジタンとベアトリクスの会話が再開されていたが、
お互いにまだ落ち着いてはいないのであろう、当たり障りのない事務的な内容に終始している。
その時だった。
ボタンの眼に、ふと2人に付けられた首輪が映った。
瞬間、彼女は悟った。自分にできるかもしれないことを。
反射的に体が動き、ジタンとベアトリクスの間に割り込んでいた。
「ちょ、ちょっといいですか」
「おっ!? ど、どうしたんだよ、ボタン」
「うん、聞いてほしいことが」
「落ち着いて下さい。何か話したいことでも?」
ベアトリクスに促され、深呼吸をして一旦心を落ち着けた後、
ボタンは語り出した。自分の決意を。
「テーブルシティに、うちの住んでた部屋があるの。
もしうちが使ってたのそのままで、パソコンとかがあったなら、この首輪を解析してみようと思う」
「解析……? そんなことできんのか?」
「ん。うち、そういうことは得意なんよ」
ボタンは強い瞳で言い切った。
事実、ハッキング能力には自信があった。
ポケモンリーグのリーグペイシステムにハッキングを行ったことがあり、
現在ではオモダカらの依頼を受け、システムの脆弱性改善の仕事も任されているのだ。
「ですが、そのパソコンという道具が、あらかじめ撤去されている可能性もありますが……」
「いや、オレの見た限り、この世界のアレクサンドリア城はオレ達の世界とほとんど変わりなかったぜ。
それならテーブルシティの方も、元の世界そのままかもしれない」
懸念を示すベアトリクスに対し、可能性を示したのはジタンだ。
ジタンは盗賊だ。故に周囲の観察力に長けている。
最初の出発地であるアレクサンドリア城の様子も抜け目なく確認しており、
自分の記憶にある城とほぼ同じであるという結論を出していた。
ベアトリクスも、彼が言うなら信憑性は高いと判断し、なるほどと呟いた。
「可能性は決して低くはない、ということですか。
それなら、確かめる価値は充分にありますね」
無論、ジタンもベアトリクスも楽観的には受け止めていない。
こんな殺し合いを開くことのできるほどの主催者が、
学生一人で解析できるような代物で自分達を縛ろうとしているとは思えないし、
ボタン自身もそれは承知の上だろう。
だがそれでも、この殺し合いの打破に繋がるかもしれない第一歩だ。
441
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:20:38 ID:???0
「ではホタンさん。もし設備が残っていれば解析をお願いします。我々にはそういうことはまるで分かりませんから。
ジタン、彼女のことをお願いします」
「ああ、任せとけ」
「それとボタンさん、お聞きしたいのですが、貴女の他にそういうことのできそうな、機械に強い人物に心当たりはありませんか?」
「うちの他に……?」
言われて、そっか、とボタンはその問いの意図を察した。
別に自分一人だけで全てを解決する必要はないのだ。
最終的に目的を達成出来れば、それでいい。
そして、識者が多いほど可能性が高まるのは道理だ。
では、その機械に強い人物とは?
ボタンの頭に、すぐ一人の人物が思い当たった。
恐らく、自分より遥かに優れた技術力の持ち主が、この会場のどこかにいる筈だった。
「……フトゥー博士って人がいる」
「名簿の、このフトゥーAIって人か? 変わった名前だな」
「ん。この人は科学者で…… タイムマシンを作った人なんよ」
「タイム……マシン?」
「そう。信じられないかもしれないけど、"現在"と"未来"を繋げる機械」
それからボタンは自分の知るタイムマシンについて説明したが、
それはジタンとベアトリクスにとっても驚くべき内容だった。
ジタン達はかつて、インビンシブル号を初めとしたテラの超科学を目にしており、
ヘイストやストップといった局所的に時間の流れを操作する魔法も知っている。
だが、純粋な科学技術によって時間を超越する機械を製作し、
実際に現在と未来の世界を繋げてみせたという話には驚愕を禁じ得なかった。
「とても信じられませんが…… それ程の科学者なら、何としても保護して協力を仰がねばなりません」
驚嘆しながらベアトリクスはそう呟いていた。
この場でタイムマシンを作ることなど流石に出来はしないだろうが、
その技術力が脱出の大きな力となるのは間違いないだろう。
だが、当のボタンはどこか不安げな表情を浮かべていた。
「うん。確かに味方なら、めっちゃ頼りになる人だとは思うんよ。
知識も技術もうちとは比べものにならんだろうし。
ただ……」
「ただ?」
「……あの人、一回操られたんよ」
操られた。
ボタンの口から出たその不穏な単語に、2人は眉を顰める。
「それは、悪人に上手く利用されたという意味ですか? それとも、何か洗脳の類を受けたと?」
「ん、2人には分かりづらいかもしれんけど……」
ボタンは、自分の知るフトゥー博士……… 否、フトゥーAIについて語った。
彼は人間ではなく、オリジナルのフトゥー博士の人格をコピーしたAIである。
パルデアの大穴の冒険において、彼は暴走するタイムマシンを止める為に、ボタン達の手助けを行ってくれた。
だが彼には、オリジナルの博士の手によって、タイムマシンを護る為の戦闘プログラムと、
AI自身すら知らなかった最終防衛プログラム『楽園防衛プログラム』が与えられていた。
そして、冒険の最終局面において、彼は楽園防衛プログラムによってその人格を塗り替えられ、最後の障害としてボタン達の前に立ち塞がった。
プログラムによる影響の無い、彼本来の人格なら、味方として考えていい。だが。
「なんとなく気になんのよ。
下手すっとこのゲームも壊せるかもしれない人を、そのまま連れてくるかなって。
機械なら、中身いじることもできるし」
アオイやネモ、ペパーなら、彼に対してここまでの警戒は抱かなかったかもしれない。
ボタンがその発想に至ったのは、元から多少ひねた性格をしていることもあるが、
何よりも機械とプログラムの関係性について深く理解していることが大きい。
「…………」
ジタンは神妙な面持ちで、ボタンの話を反芻していた。
AIやプログラムといった単語についてはさっぱり分からないが、
機械という"肉体"に、プログラムという"魂"が移るものだろうか、と理解した。
そして、自分の遺志ではそのプログラムには逆らうことはできない。
そういった要素は、"魂の器"ジェノムの持つ負の面を思い起こさせる。
「―――好きじゃねえな、そういうの」
ジタンのその呟きを聞いて我に返ったボタンは、慌てて両手を振ってフォローする。
「ああ、もしかしたらそういうことがあるかもってだけよ。
普通に味方で、うちが気にしすぎてただけってオチかもしれんし!」
話し方が悪かったかと胸中で悔やむ。
味方の可能性も充分にある人物なのだから、ジタンやベアトリクスに過度に警戒されても困る。
442
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:21:26 ID:???0
「とにかく、優秀な科学者であることは間違いないが、万一があるということですね。
ボタンさん。極めて有意義なお話しをありがとうございました。心より御礼申し上げます」
「…………お、おうっす」
ベアトリクスは完璧な敬礼姿勢を取り謝意を表した。
その威風堂々たる姿に気圧されてたじろぐボタンの姿に穏やかな微笑みを向けた後、
ベアトリクスはあらためてジタンに顔を向けた。
「おかげで我々の戦略も見えてきました。
ジタン。ボタンさんの話を踏まえて、我々はこう動くべきだと思いますが、でしょうか」
ベアトリクスの語った戦略はこうだった。
テーブルシティとアレクサンドリア城を拠点にそれぞれの仲間と合流して戦力を整えると共に、
フトゥー博士のように首輪解除の力となり得る参加者を可能な限り集める。
最終的には設備のあるグレープアカデミーで首輪の分析を行い、解除方法を見つけ出す。
それを聞いたジタンもボタンも、現状で考えられる方策としては妥当と判断した。
情報が足りず、計画の詳細を詰めることはできない以上、
いわば叩き台のレベルに過ぎず、粗は幾らでもあることはその場の全員が理解している。
だがそれでも、事態解決への道筋が立てられたことは大きい。
先の見通しが全く立たないのと、わずかでも脱出の希望があるのでは、心理的な負担が違う。
更に、検討に値する脱出計画があるという事実は、他の参加者に協力を求める上で大きな武器となるだろう。
そしてベアトリクスの戦略に従い、3人はそれぞれの目的地へ向かうことに決まった。
ジタンとボタンは北のテーブルシティへ。ベアトリクスは東のアレクサンドリア城へ。
その別れ際。
「じゃあ、この中の誰かと会ったら、うちがテーブルシティに行ったと伝えてください」
「了解しました。しかし、こんな子供達まで巻き込むとは許せませんね。外道め……」
「ベアトリクス。余計なお世話かもしんないけど、一つだけいいか?」
ボタンがベアトリクスに仲間達の紹介を終えたのを見計らって、ジタンが声を掛けた。
真剣な表情だった。
「簡単に命を捨てないでくれ。そんなことしても、ダガーもスタイナーも喜ばねえよ」
ベアトリクスは、まるでそう言われるのを予期していたかのように、
動揺を見せることなく、こう応えた。
「ご忠告感謝します。貴方も生き延びてください。姫様を悲しませることなきよう」
その言葉を残して、ベアトリクスはアレクサンドリア城に向かい、足早に去っていった。
感謝するとは言ったが、命を捨てない、とは言わなかった。
それに何の意味が込められているのかは、ジタンには分からなかった。
◆
443
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:21:48 ID:???0
(ボタンさん。今の私に目的を与えて頂きありがとうございます)
独り歩き出したベアトリクスは、改めて心の中でボタンに感謝の意を示した。
目下の目的が出来たことは、今のベアトリクスにとって大きな救いであった。
成すべき事があれば、己の胸に空いた穴に目を向けなくて済む。
続いて脳裏をかすめたのはジタンの別れ際の一言。
―――簡単に命を捨てないでくれよ。
(見透かされていたか。だが、無理もないか)
迷いを隠し切れなかった己の未熟さと、それを見逃さず声を掛けたジタンの優しさに、思わず苦笑する。
今の自分はアレクサンドリアの将軍として、ガーネット姫を護るために全てを尽くす覚悟だ。
己の命も駒の一つとして、姫の剣に徹するのみ。
それはいい。だが。
その実、無意識の内に死に急いでいるのではないか、
姫への献身やスタイナーの死を言い訳にして自己犠牲に身を任せているのではないかと問われれば、否定できる自信がなかった。
ジタンは、そんな自分の迷いを感じ取っていたのだろう。
かつての己は、騎士として生き、そして死ぬものと決めていた。
だが、スタイナーらとの出会いで、自分は変わった。
あるいはこの先、かつて思いもしなかった、ただ一人の人間としての生き方を知ることが出来たかもしれなかった。
しかし、その機会は永遠に失われた。
彼の死と共に。
(だがジタン。多分、それには答えられない。
今の私には、もう、この生き方しか残っていないのだから)
そう心中で詫びると、アレクサンドリアの女将軍は、主君がいるかもしれない城に向けて脚を速めた。
◆
444
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:22:58 ID:???0
「えっと、ジタン。ベアトリクスさん、一人で行かせて良かったの?」
「ああ。いろいろ考えたけど、あの人強いし、ダガーとビビのことも考えると仕方ねえかなって」
再びテーブルシティに向けて歩きながらジタン達は、一人城に向かったベアトリクスについて話をしていた。
ジタンが彼女に対し、どこか生き急ぐような危うさを感じたのは事実だ。
だが、他の仲間達が生き延びるために彼女の力に頼りたいのもまた事実だった。
もしベアトリクスが首尾よくダガーやビビと合流できたなら、
彼らの生存率が大きく上がることは間違いないのだ。
「でも、最後に決めたのは、お前が首輪調べるって言ってくれたから、かな」
「え? そうなん?」
「そのこと言ったらさ、ベアトリクスはちゃちゃっと作戦立ててくれたじゃないか。
それをいい加減に放り出したりはしないと思ってさ」
彼女にまだ迷いが残っていることは感じ取れていたが、
スタイナーの遺志を継ぐという彼女の言葉に嘘はない、と信じたかった。
ジタンに最終的な決断を下させたのはそれだった。
「……でも、うまく行くかは分からんよ? ヒントの一つでも見つかれば、ってレベルだと思う」
「考えすぎんなって。どうなろうが責めたりなんかしねえから。少なくともオレはな」
そう言ってジタンはボタンに対し、にかりと屈託のない笑顔を向けた。
どこか気恥ずかしくなり少し顔をそむけるボタンの眼に、目的地のテーブルシティが映る。
同時に、東の地平線から太陽の光が差し込み、街を照らし始めた。
その光は希望なのか。
それとも自分達を火の中に呼び込もうとする誘蛾灯なのか。
2人にはまだ分からなかった。
【D-3/一日目 黎明】
【ジタン@FINAL FANTASY IX】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み、1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。ダガーを守る。
1.ボタンとテーブルシティへ向かう。
2.ダガーやビビと合流したい。
3.クジャのことは気にかかる。
※参戦時期は少なくともクジャと対面して以降です。
【ボタン@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:健康
[装備]:イーブイのバッグ@ポケットモンスター バイオレット
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ニンフィア)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品(確認済み、0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
1.ジタンとテーブルシティへ向かう。
2.グレープアカデミーの自室で首輪の解析を試みる。
3.アオイをはじめとする知り合いとの合流を目指す。
4.フトゥーAIのプログラムが改変されている可能性を気に掛けている。
※参戦時期は本編終了以降です。
【D-4/一日目 黎明】
【ベアトリクス@FINAL FANTASY Ⅸ】
[状態]:健康、失意、冷静
[装備]:アイアンソード@FF9、サポートアビリティ「警戒」「マンイーター」
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み、0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:ガーネット様をお守りする。そのためなら手段は問わない。
1.まずはアレクサンドリア城を目指す。
2.スタイナー……。
3.フトゥーAIが味方なら事態解決への協力を仰ぐ。
4.首輪解除の力になりそうな人物を探す。
※参戦時期はエンディング後です。
※自分はトランスができないと認識しています。
※原作ではベアトリクスはサポートアビリティを習得できませんが、本ロワにおいては習得しているものとします。
今話で登場したもの以外の習得状況については、今後の書き手さんにお任せします。
※ボタンが首輪の解析を試みようとしていることを知りました。
※ボタンからアオイ、ネモ、ペパー、フトゥーAIについての情報を得ました。
445
:
◆qYC2c3Cg8o
:2025/07/31(木) 19:24:11 ID:???0
投下終了します。
タイトルは「その遺志を継いで」です
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