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バトル・ロワイアル 〜Paradisiacal Memories〜

302オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:15:42 ID:Tskv0zCs0
「……私に、何ができるかしら。」

「そうだね……。酷なお願いなのは分かってるけど……この殺し合いのジョーカーとして記憶存在たちの絶望を煽る結果に導いてほしい。」

 ――絶望を煽る。

 具体的には言わなかったが、必要とあらば記憶存在を殺すということだろう。逆に、生き残らせた方が絶望をもたらす相手であれば、見逃す可能性もある。とても勇者のやり方だなんて言えない所業だけれど。

 刀を握った手から、じわりと汗が滲み出る。これが、世界を救うために何かを犠牲にするということ。シノンが魔仙卿として乗り越えた覚悟が、今度は私に試されている。

「分かった、やるわ……。」

 偽りの存在を断ち切る。それは間違いなく、私が勇者として行なったことだ。
 偽りのレンダーシアを創世したマデサゴーラを倒すことは、その世界を消し去ることだと理解していた。実際は破魂の審判とやらを乗り越えて偽りのレンダーシアは存続しているらしいが、そうならない可能性も考えた上で剣を取ったのだから同じことだ。

「ありがとう、アンルシアさん。
 ……誰か来るかもしれないから、私はいったん会場を出るわ。また機会があれば、接触しましょう。」

 そう言ってシノンは、先ほどの古砂夢と同じようにルーラストーンを掲げ、飛び去っていく。

 そして、残された私は、改めて、この殺し合いに向き合うこととなる。


 ――ただ一人、この殺し合いの真実を知る者として。


 本当に、できるだろうか。

 記憶存在が偽物の生命だとしても、抱いている感情は本物で、しかも相手は自分をただの人間だと思っている。だとすれば、それは本物の人間と、何が違うと言うのだろう。

 ――まだ、答えは出そうにない。

 それでも、時はすでに動き始めた。

303オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:15:59 ID:Tskv0zCs0
【B-1/平野/一日目 深夜】
【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:健康
[装備]:ミカンのクロスボウ@まちカドまぞく
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いの裏側を突き止める。
1.どうして私、生きてるの?

※ED1、「時の向こうへ」終了後、本ロワオリジナルの経緯を辿り死亡した後の参戦です。


【D-6/市街地/一日目 深夜】
【フトゥーAI@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:健康 メフィスによる魂の改造後
[装備]:テラパワーアーム@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ミライドン)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:参加者ヲ殺害シ、絶望ヲモタラス。
1.世界再生ノ儀ヲ成功サセル。
2.……。
3.
4.フ■■ーA■は■れ■■■うつ■り■■い。

※参戦時期は「不明」です。ザ・ホームウェイクリア後に本ロワオリジナルの経緯を辿った本物のフトゥーAIは、フェレスによって死亡しました。ランダムな参戦時期の状態で記憶存在として生誕後、参戦時期が死亡後だった場合に世界再生の儀を邪魔されることを危惧したメフィスに魂の改造を受けました。


【世界の端っこ/一日目 深夜】
【アンルシア@ドラゴンクエストXオンライン】
[状態]:健康
[装備]:宰相のサーベル@ドラゴンクエストXオンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:参加者たちの絶望を深める。
1.世界再生の儀に協力する。
2.ハノンとは戦いたくない。
※参戦時期は、ver5エンディングの最中です。

【支給品紹介】
【ミカンのクロスボウ@まちカドまぞく】
ルッカに支給。
陽夏木ミカンが魔法少女になった際に用いるクロスボウ。片手で扱うことができる軽さに加え、矢には魔力を込めて撃つことができる便利さを併せ持っている。

【モンスターボール(ミライドン)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット】
フトゥーAIに支給されたミライドンとテラスタルオーブ。アオイがライドできる方の個体ではなく、楽園の守護竜として立ち塞がった方のミライドンである。
技は、イベント戦で扱っていた「はかいこうせん/じゅうでん/ちょうはつ/パワージェム」に加え、Lv.72以下のレベル修得技も全て覚えている。
テラスタルタイプはでんき。

【テラパワーアーム@クロノ・トリガー】
フトゥーAIに支給。
本来はロボが装備できる武器。
FF9の装備品のように、アビリティとして"ロケットパンチ"を飛ばすことができる。
フトゥーAI以外が扱う場合のアビリティ適正はお任せする。

【宰相のサーベル@ドラゴンクエストXオンライン】
アンルシアに支給。
ウルベア地下帝国の宰相グルヤンラシュが用いていた剣。原作では、見た目用の装備で性能はどうのつるぎ以下の武器であるが、本ロワでは見た目相応の殺傷力を有しており、オリジナルの効果を持つ可能性がある。

304オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:16:28 ID:Tskv0zCs0









 殺し合いの会場の地中深く。そこに配置された球体状のドームには人一人分の空間があり、複雑な回路を形成する無数の装置が並んでいる。

 その中には、ぶつぶつと不平を零しながらその装置を操作する一人の記憶存在の姿があった。

「はぁ……よう、やく……調べ終えた……。」

 そのドームの正体は、地球外惑星エラメアに遺産として伝わる情報収集機械、"ビシャホラ"。

 殺し合いの開催にあたり、参加者たちの名簿を作る必要があった。
 しかし、ほしのきおくの段階では、どの人物のかたち・記憶を以て顕現するかが不明であったため、事前に参加者名簿を作成することはできなかった。
 各世界で起こった出来事の中心人物は、ほしのきおくとして強く残っているため、顕現の可能性が高かった。そのためあらかじめ予測をつけ、名簿の大部分を作っておくことはできたが――そこから漏れていた14人の人物については、殺し合いが始まってから誰であるのかを特定するしかなかったのだ。

「この私にここまで働かせたんだから、ちゃんと成功させないと許さないわよ、ホント……。」

 殺し合いの開始から2時間後。
 記憶存在"アイラ・マシェフスキー"は収集した参加者たちの情報をビシャホラを介して送信する。

 それを受信し、参加者たちに配られた名簿に、じわじわとこれまでに無かった顔と名前が浮かび上がってきた。

305オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:16:44 ID:Tskv0zCs0
〇アウラ
〇アオイ
〇アンルシア
〇イルーシャ
〇大鳥希
〇ガーネット
〇カエル
〇クオード
〇クジャ
〇クロノ
〇黒のワルツ3号
〇ジタン
〇シュタルク
〇スグリ
〇ゼイユ
〇ソリテール
〇タロ
〇千代田桃
〇777
〇ナラジア
〇ネモ
〇幡田みらい
〇幡田零
〇ハノン
〇陽夏木ミカン
〇ビネガー
〇ビビ
〇姫浦瀬良
〇広瀬岬一
〇広瀬凪
〇フェルン
〇深瀬黒
〇藤波木陰
〇フトゥーAI
〇不動寺小衣
〇フリーレン
〇ベアトリクス
〇ペパー
〇ボタン
〇マーヤ
〇魔王
〇マハト
〇恵羽千
〇吉田優子
〇吉田良子
〇リーニエ
〇リコ
〇リコデムス=ハーリアトロ
〇リュグナー
〇ルッカ

306オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:17:14 ID:Tskv0zCs0
「本当にサイアク……。私が死んでるってのも、地球が既に滅んでるってのも、ウソじゃなかったし……。」

 シノンが異界アスタルジアと呼ばれる世界から手に入れた、ほしのきおくを実体化させる技術。その実験段階で顕現した記憶存在の中の一部は、世界再生の儀に協力の姿勢を示した。アイラもその一人、殺し合いの参加者ではない記憶存在である。

「大体あのジジイ、人が役目のためなら何でもするって思ってんのがムカつくっていうか……。」

 アイラの役目は、名簿の完成のみではない。
 ビシャホラを通じて殺し合いを監視することにある。

 50人分の動きをリアルタイムにモニタリングし、聞こえてくる音声まで聞き分ける。脳の処理がパンクしかねないマルチタスクの極みだ。

 ビシャホラを扱えるからと押し付けられたハードワーク。それだけでも、やりたくない要素だらけだというのに。

「……はぁ、仕方ないわね。やってやるっての、ええ。」

 友人を模した記憶存在を絶望に沈めるその過程を監視する。地中の奥深くに潜む監視者は、訪れるであろうその時に、憂鬱そうにため息をついた。

307オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:17:35 ID:Tskv0zCs0





 殺し合いの会場は、かつて滅んだ幾つもの世界の光景や施設が混ざり合って存在している。そこは、ほしのきおくの残滓が強く残っているパワースポットのような場所だった。

 かつて、この地はこう呼ばれたことがあった。



 ――"記憶の場所"、と。



「崩壊とは、病のようなものだ。」

 記憶の場所の管理者、ガーランドは崩壊した世界を見下ろしながら、誰に対してでもなく呟いた。 

「あらゆる命は、記憶で繋がっている。
 全く異なる言語体系の世界を生きた者たちが、ガイアの記憶に満ちるこの場所では同じ概念を言語コミュニケーションにより共有できるように。

 記憶を有する世界もまた、ひとつの崩壊に反応したかの如く、連鎖的に同じ道を辿ることとなったのだ。

 ……しからば、世界の再生もまた、連鎖的に発生させることの可能な事象であるはず。」

 世界再生の儀の成功は、すなわちテラの復興という悲願の達成される時。

 ――ああ、どうか我らがテラに、祝福を。

308オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:18:00 ID:Tskv0zCs0







 ――ラプラス。



 この殺し合いの先――未来を予測した。
 その刃が、その魔法が、その夢が、その願いが。
 一体、何処からやって来て、どこへ向かうのか。

 人の脳細胞の作用さえも予測した、一切の綻びの無い未来のシミュレート。それが古砂夢の魔法の真骨頂。たった今、未来は確定した。







 燦燦と降り注ぐ光の粒子が街を照らす。
 そんな眩しい光を遮るように、少年は手のひらを目の上に当て、街を一望する。どことなくそわそわとした様子で街路灯に背を預けた。

 街の人々は、そんな彼に興味などなく、見向きもせずに歩いていくのみだ。少年を置き去りにした街の喧騒。

「あっ……。」

 その中に掻き消えてしまうほどに、小さなか細い声だった。少年の耳にも、その声はきっと届いていないのだろう。しかし近付いてくるその少女の姿を見つけた少年は、街路灯から背中を離し、彼女の方へと向き直った。

「お待たせ、クロ。」

 と、待ち合わせの時間に遅れてやって来た少女。

「遅いぞ。」
「ごめんごめん……。」

 少年は声のトーンを落として気だるげに諌める。

 謝っている少女が身に纏っているのは、昨日の夜に時間を費やした選りすぐりのワンピース。また、それは今日の寝坊の原因の主犯格でもあった。申し訳なさの反面、心待ちにしていた時間の到来に嬉しさが隠しきれていない。「本当に反省してるのか」と皮肉を添えながら、少年は溜め息を漏らす。しかしそれは、吊り上がりそうになる口角を悟られないようにする必死の照れ隠しでもあった。

「それで……どこに行くんだ、夢。」
「ふふ……どこだと思う?」

 やり取りを交わす少年たちの間には、悪意も魔法も、介在する余地なんてありはしない。死というタイムリミットを意識するのも、きっと数十年は後の話だろう。少なくともこの瞬間は、この幸せな時間を悠久にすら感じられる。世間一般が言う幸せというものを確かに掴んだ少年少女が、時を重ねるにつれて次第に日常へと変わっていくその過程。一般的には青春と呼ばれる特別なひと時を、謳歌していた。

 それは、あまりにもありきたりな物語の1ページで。

 されど救いと呼ぶには、そして希望を謳うには、十分すぎる一幕だった。

309オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:18:29 ID:Tskv0zCs0







「そっか、世界は再生するんだね。」

 悪意の象徴、Ib(インスタントバレット)。そんなありきたりな幸せを掴めなかったが故に開花した力。
 古砂夢の幻視した光景は、必ずや生じる結末である。この殺し合い――世界再生の儀は成功する。そして新たに生まれた世界は、滅ぶ原因となった事象を排除した、ハッピーエンドに至るための選択肢を選び取ることができたのだろう。それは針の糸を通すような奇跡の果てなのかもしれない。大好きな人たちが、最初から悪意に呑み込まれることもなく、笑顔でいられるだけの理想的な世界。

 そんな、綺麗な世界に居られるなら、なんて幸せなんだろう、なんて。
 もはやどうしようもないほどの、反実仮想を吐き出した。

 その未来は、確定的に訪れるのに。
 その世界は、絶対的に約束されているのに。


「……羨ましい。」


 私には。私にだけは、その幸福は絶対に訪れない。

 何故なら。
 ラプラスが見せた光景の中にいる幸せな少女は――"古砂夢"は、私じゃないから。

 ――2008年3月31日、古砂夢の人生は幕を閉じた。

 アカシックレコードに刻まれた運命をなぞるように、当然のごとく与えられた死。彼女が産まれた時から、否、産まれる遠い昔から、その結末は決まっていた。

 そう、決まっていたのだ。死に様も――そして、生き様も。結末が変わらなかったように、その過程にも何も変化の起こる余地はなかった。魔女は、世界の終末のその先、世界再生の儀を知ることもなく、多幸感の中魔法を失って、弾丸に頭を貫かれ死んでいった。
 生前、確かに時間旅行<タイムトラベル>の力で異なる時代を訪れたことこそあれ、その時には異世界の住人などというイレギュラーとは誰とも出会うことなどなく。予定調和のまま、終わりまでの僅かな時を過ごしたのだった。

 つまり、だ。

 世界再生の儀の始まり。
 殺し合いの開催を宣言した、"古砂夢"を名乗った少女は当然に、異なる時代からやってきたタイムトラベラーなどではなく。



 ――私も、皆と同じ。世界に刻まれた古砂夢という人間の記憶をベースに、ほしのきおくによって造られた記憶存在だから。




 例え世界が蘇ろうとも、そこに生の再誕を受ける少女は、私<クローン>ではない。
 例えハッピーエンドが訪れようとも、その中に私<クローン>はいない。

 生まれたその瞬間から、私たち記憶存在は、最大多数の最大幸福のために切り捨てられる1%の側に置かれていた。いずれ世界は私を置き去りに、幸せな物語を紡ぎ始める。その幸福を享受できない私は、ただ暗く淀んだ深淵の底からその景色を眺め、羨望の目を向けるだけ。

310オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:18:53 ID:Tskv0zCs0

 ――私は、"古砂夢"が憎い。

 私と同じ姿かたちをしている、ただ、記憶存在として生まれたかどうかの違いだけ。それなのに、世界再生の儀の後に幸せを掴むことができるかどうか、私と決定的な隔たりがある。

 あれを"私"と同一の存在だと思い込めれば良かったのかもしれないけれど、悪意の魔法が見せた光景の中で幸せそうに笑う"彼女"は、"私"の外にある存在でしかなくて。



『――まずは自己紹介からさせてもらうよ。私は古砂夢。『時間』のib(インスタントバレット)……なんて言っても君たちのほとんどには通じないだろう。魔法使いとか青魔道士とか魔法少女とか、各々の近しい概念で定義してくれればそれでいい。そこはさして重要じゃないからね。』



 私は、彼女が大切にしていた"私"の名前を――恋人だけが知る秘密を――殺し合いの主催者の名として名乗った。きっと参加者たちは、"古砂夢"を憎むべき敵の名前と認識していることだろう。彼女の奥底に秘められた不可侵領域を、土足で踏み荒らすが如き所業。
 だけど、その現状にざまあみろと唾棄しながらも、そんな稚拙な八つ当たりで晴れるほど私の鬱憤は軽くない。むしろ虚しさすら湧き出てくるものだ。


 ――何故なら。


 古砂夢の記憶存在は、未来視の力によって、全て識っていた。分かった上で、力を貸していた。

 記憶存在という命未満の命が、ほしのきおくの残滓が強く宿る記憶の場所以外において、如何なる運命を辿るのか。



「……もう時間かあ。もう少しあると思ってたんだけどな。」



 と、達観したように笑ってみせれば、少しは満足気にその時を迎えられるような気分にもなってくるだろうか。そう思って作った表情は、少しでも気を緩めると、ぐしゃりと涙に潰れてしまいそうで。

311オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:19:19 ID:Tskv0zCs0



 ――記憶存在は、殺し合いの会場である記憶の場所以外でその存在を保つことはできない。



 そんな世界の理に導かれるまま、私は消えていくのだろう。殺し合いを開始して、記憶の場所を脱出してからは、次第に己の存在が希薄になっていくのを感じる。きっと数分もしない内に――

 ラプラスを使うまでもなく分かる、自身の終焉が目の前に迫っていた。

 私はこの感情を知っている。

 いつもの、ことなんだ。いつもこの想いが、私の人生には隣り合っていた。

 来たる死の訪れに怯えながらこの一瞬を生きる感覚なんて、私の中に宿った古砂夢だった頃の記憶が教えてくれるから。

 だから、なんてことないんだよ。



「……消えたくない。」



 ああ、紡ぎ出す気持ちはどうしようもなく、強がりでしかない。
 漏れ出た言葉と溢れ出す涙は、何よりも雄弁に本心を物語っている。



「……ねえ、記憶存在たち。みんなを死地に突き落とした私だけは、この言葉を吐く権利なんてないけれど。」



 どうか、せめて。

 私と同じ、消えゆく運命の記憶存在たちに対しては。

 湧き出てくる悪意の中に宿る、一欠片の愛を。



「どれだけ世界が、みんなを踏み台にしていても。どれだけ世界が、残酷なまま蘇ろうとしていても。
 それでも、私だけは……」



 これは、逃避なのだろう。
 彼らを自分と同じ、悲しい命だと思わなければ、孤独に押し潰されてしまうから。

312オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:19:40 ID:Tskv0zCs0



「……愛してる、から。」



 愛おしいと、思った。

 世界再生の立役者であるのに、新たな世界を生きることすら許されない。帰る場所のない、虚空に消えゆく命。

 私もせめて、彼らと一緒に苦しみを共有できたなら、幾分かは報われただろうか。いずれ等しく訪れる終末までのひと時を、最愛の恋人を模した記憶存在と共に過ごすこともできただろうか。

 私は、それすらも許されず、ただ皆を殺し合いに送り込んだ主催者として疎まれ、憎しみを向けられて、独り消えていくだけ。誰からも看取られることもなく、誰からも惜しまれることもなく。

 世界再生の儀を開催し、成功させる。そんな"役目"だけが私の生きる意味であり、死ぬ理由。
 そのために、私は殺し合いの主催者として憎しみを向けられながら消える。向かう先を失った記憶存在たちの憎悪の向かう先は、何処になるのだろう。

 或いは絶望へと変換されるのかもしれないし、隣人へとその矛先を向けるのかもしれない。
 どちらにせよ、私がここで消えるのは、記憶存在たちから真理念を抽出するのに都合が良いということだ。中空では、世界再生という大義名分を持った正義の味方たちが、私の死を待ち望んでいる。私にはいつか帰るところなんてないのだと、彼らの私を見る目が訴えている。

 幸せになりたかった。

 私がかつて、古砂夢だった頃からずっと。
 いつか幸せになれる――名前しか知らない男の子への恋に落ちる、その日を待ち望んでいた。

 胸いっぱいの幸せに包まれながら、やっとこの世界から抜け出せたのに。ほしのきおくとなって、安らかなる眠りについたはずだったのに。唐突に、脈絡もなく。"古砂夢"と同じ姿かたちをした記憶存在として無理やり呼び起こされたのだ。




 大好きな人の隣にいる未来を私から奪ったこんな世界なんて――



 私に幸せを与えてくれない、こんな世界なんて――



 私の愛する存在たちを、踏み台として消費し、使い捨てるこんな残酷な世界なんて――




「――もう一度、終わってしまえば、いいのに。」




 悪意が募れば募るほど、魔法が見せる目の前の景色は解像度を上げていく。どこかの誰かの幸せに、藻掻くように伸ばした手は次第に消え入り、景色の中に溶けていく。自らの手のひらは、いつの間にか空気と見分けがつかなくなっていた。

 そうして間もなく、参加者たちがこの殺し合いの主催者であると認識している少女、古砂夢の記憶存在はこの世界から完全に姿を消した。

 大気に溶けて消えたほしのきおくは、二度と元のかたちを取り戻すことはなく、少女の流した涙だけを置き去りに、世界再生の儀は続く。

 動き始めた時間は、もう止まることは無い。終末を拒んだ世界の躍動が、再び始まろうとしていた。




 ――これは、終わった世界の追想録。
 "あの日へ帰る"ための、望郷の物語。






【古砂夢@ib-インスタントバレット- 消滅】

313オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:20:19 ID:Tskv0zCs0















「ああ、かわいそう……かわいそうだよ……。」

 世界再生の儀を執り行う箱庭の外、崩壊した世界の何処かで、涙を流す存在がそこにあった。

「せっかく世界は、誰もかわいそうじゃない楽園に帰結したのに、記憶存在たちをわざと苦しめて、再生させる世界ではまた、悲しみが生まれる。」

 ――世界を壊す理由なんて、いつだって一つなんだ。

 かつて、悪意を挙げてそう告げた者がいた。
 しかし、この存在は、そうではなかった。

「異世界でたくさんの"魔族"を食べたから、ポイントは有り余ってる。今度こそ本当のしあわせを、みんなに届けてあげなくちゃ……。」

 その影の名は――那由多誰何(なゆたすいか)。

 ゲートの導きのまま、世界の終わりの日を観測した少女、ルッカを殺害した張本人であり――善意による世界の終わりを実現した魔法少女である。

314オープニング-あの日へ帰る ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:20:35 ID:Tskv0zCs0
【主催者側】
〇ガーランド@FINAL FANTASY IX
〇シノン(主人公の姉)@ドラゴンクエストXオンライン
〇メフィス@Crystar
〇フェレス@Crystar
〇アイラ・マシェフスキー(記憶存在)@ひとりぼっちの地球侵略
〇古砂夢(記憶存在)@ib-インスタントバレット-

【破壊者】
〇ジア・クト念晶体@ドラゴンクエストXオンライン
〇パラドックスポケモン@ポケットモンスター バイオレット
〇ラヴォス@クロノ・トリガー
〇那由多誰何@まちカドまぞく

【会場詳細】
〇記憶の場所@FINAL FANTASY IX

ガイアの記憶(ほしのきおく@ひとりぼっちの地球侵略 と同質のもの)が具現化するほど強く残っている空間。

本ロワの会場は、破壊者たちによって破壊されたFINAL FANTASY IXの世界におけるこの空間である。異世界と接続したことで、全参戦作品の様々な場所の景色が無造作に混ざり合っている。

参加者である記憶存在(読み:クローン)は、この会場内から出ると、2時間ほどで存在を保てなくなり、消滅する。

315 ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 07:25:21 ID:Tskv0zCs0
以上で投下を完了します。

また、この回を以て全登場話が出揃いました。
本企画に携わってくださってきた書き手の皆様、感想やコメントで盛り上げてくださってきた皆様、誠にありがとうございます。
全編リレーとなる段階が始まり、リレー小説としての醍醐味が始まっていくかと思いますので、これからも是非望郷ロワをよろしくお願い致します。

316 ◆Ok18QysZAk:2025/02/02(日) 19:48:52 ID:EOXcZv8c0
恵羽千、ゼイユ、ビネガー予約します。

317 ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 14:54:58 ID:B5BlURGQ0
皆様投下お疲れ様です。
そして全参加者一周おめでとうございます!
遅ればせながら、10話までの感想を投下させていただきます。

>> オープニング-A Place to Call Home
このオープニングが投下された時点ではFF9は未把握だったのですが、把握した今見てみるとスタイナーが犠牲になったのは悲しくもあり、らしさが滲み出ていて容易に想像出来ますね。
なぜ首輪が爆弾じゃないのか、HPリンクの説明などオープニングにしては要素が多くワクワクさせられました。
そしてなにより、最近投下された新たなオープニングを読んでから読み直してみれば散りばめられた伏線が回収されて……二度美味しい作品です。

>> 使役するものたち
書き手枠一人目はタロ!
ドラクエXは明るくないのですが、ルール上ハノンは戦力を発揮しづらそうですね。全力を出せれば最強クラスなのにもどかしい、という点をポケモントレーナーと組ませる事でカバーするのは見事だと思いました。

>> 平行な信号は特異点に因り交わった
> 「魔法は……物理で……越えられるっ!」
ほんとか?

本来は一話目に投下するつもりだったという裏話を聞いた上で読ませて頂いたのですが、確かに軽いバトル描写に情報交換、クロスオーバーの旨味が活かされた話だと思います。
まちカドまぞく勢を苦しめたい民が多そうな気がしますが、桃には強く生きて欲しいですね。

>> 伸ばした手の先の深淵
ナラジアと幡田みらいとかいう序盤からクライマックス。
みらいもラスボスではあるけど、さすがにナラジア相手だと分が悪いような……。
下手をすれば快楽ノ園が崩壊してもおかしくないレベルの戦いになりそうな予感ですが、楽しみです。

>> 終点の先が在るとするならば。
姫浦瀬良を書くの、めっちゃむずくね?
と思っていたら即効で予約が入ったのでびっくりしました。
最終回後時点での参戦ということで落ち着いてるね、安心。今のセラが黒と出会ったらどういう反応を示すのか心底気になります。
そしてマハトもマハトでやはりスタンスは原作と変わらず。なにかきっかけがあればマーダーに転落するのも、対主催として目覚めるのも可能な美味しいキャラだとおもいます。

>> 今はまだ分からないことばかりだけど
シュタルク、その参戦時期なんだ……とびっくりしました。
しかも没収された斧がそのまま渡されるという。やっぱ返すか、ってなった主催側の気持ちが知りたい。
シャミ子は独特な語彙力の持ち主なので文字で表現するのは難しいと思っていましたが、セリフがそのまま脳内再生余裕だったので凄いことだと思います。
まちカドまぞく勢を苦しめたい民が多そうな気がしますが、シャミ子には強く生きて欲しいですね。

>> 次の私は、それほど変われないとしても
互いに家族に対する後悔を抱えた二人。
千からすればとんでもない状況から連れてこられたのだからそれどころじゃないよね。場面的にもそりゃ仲間達と出会ってもどんな顔すればいいのか分からなくて当然。
そんな彼女を見て理解を示し、スグリを止めることを決意するゼイユ。
世界観や問題の規模こそ違えど家族を想い合う者同士、相性が良くないわけないので今後いい方向に転んでくれることを願います。

>> 逆行するは生の証明
マーヤに関しては未把握なのですが、この話だけでただの悪人ではないというのが伝わってきました。
思惑はどうあれ、ビビに向かってかつてのスタイナーと同じ台詞を吐けるのだから。ただ利用するだけの関係に収まらないような気がします。
ひとりぼっちの地球侵略を把握してからまた読み直したい作品です。

>> 我が種族の未来のために
一番予想だにしなかった書き手枠の登場。
ビネガー、原作では一応魔王幹部の中で最後まで残っていたキャラですが……確かに魔王に怒りを抱くのもわかる。
アンデッド化の能力をそう活かすか、と発想力で負けました。天秤と首なし死体が没収されたアウラ、可哀想。

そして自己リレーも含みますが、ゲリラ投下させて頂きます。

318流星(前編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 14:55:42 ID:B5BlURGQ0

「────私たち、この殺し合いを終わらせたいの。君たちも協力してくれる?」

 聖母を思わせる笑顔でそう言われた。
 五指を胸の前で合わせたその女はこれ以上なく無力に──歴戦の戦士でさえ庇護欲を駆り立てるような穏和さを声に、表情に、仕草に乗せる。
 心地いい安心感に空気が和らぐのと同時に、鼻を擽る違和感をクロノの意識が掠めた。

 村娘風の衣服に身を包んだ彼女と出会ったのはまさに今、アリスドームの探索を行おうと建物に侵入しようとした瞬間だ。
 彼女ともう一人、貴族風の男はアリスドームの入れ違いで探索を終えたところなのだろう。となれば、彼女達ははじめからこの場所に呼ばれていた可能性が高い。
 探索の手間を省ける以上それだけで情報交換に応じる価値はあるし、なにより助けを乞う女性を放ってはおけなかった。

「もちろん! 私だってバトルは好きだけど殺し合いなんて絶っっ対反対だよ! ね、二人もそうだよね?」

 迷いなく躍り出たのはネモだった。
 大袈裟に腕を広げて力強く頷く彼女の勇姿はチャンピオンという冠を被るに相応しく、それに元気づけられたように女性の翠緑の髪が揺れる。

「ありがとう、そう言って貰えて嬉しいわ。私はソリテール、こちらはリュグナー。最初は名簿に名前が載っていなかったけど、さっき確認したら浮かび上がっていたから……もしまだ見ていないなら確かめてみて」

 その言葉に偽りはない。
 クロノたちは情報交換の最中に名簿を確認している。ルッカや小衣、タロたちといったそれぞれの知っている顔が後出しされていることも承知だ。

「大丈夫、疑ったりなんかしてないから! こう見えてもね、私たちとっても強いんだ。だから二人さえよければ一緒に来ない?」
「まぁ……とても心強いわ。私たちはこの通り、誰かに襲われたらひとたまりもなかったから。最初に出逢えたのが君達でよかった……」

 ネモの提案に快く頷く女性。
 人に出会えたことへよほど安堵しているのか、崩れることのない笑顔で歩み寄る。


「おーおー。下手な芝居はやめな、お嬢さん」


 ぴしゃり、と。
 水を打ったような静寂が辺りを支配した。
 
 声の主であるクロノは腕を組み、ニヒルな笑みを浮かべている。が、滲み出るプレッシャーが先の警告は聞き間違いではないと理解させる。
 え? と、疑問の声を上げるネモの視線はクロノを、そして彼の背に隠れる777の姿を捉えた。

「777、この人……なんか、怖いヨ…………」

 幽鬼の少女はお世辞にも洞察力に優れているとは言えない。
 だが彼女の直感、及びそれに基づく〝人を見る目〟は随一のものと言える。辺獄の中で渦巻く人の悔恨に触れてきたからこそだろう。
 777はこの女を見た瞬間、全身が総毛立つほどの悪寒を覚えた。怯える理由などそれだけで充分すぎる。

319流星(前編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 14:56:21 ID:B5BlURGQ0

「…………、」

 二人の様相を見て只事ではないと察したネモは無言でソリテールを、次いでリュグナーを警戒する。
 気が付けばボールに手をかけていた。なまじ二人のような〝違和感〟を抱けていないからこそ尚のこと未知数。
 ソリテールはもはや自分の望む〝お話〟が出来ないと悟る。刺すような緊迫した空気の中、ちらりと彼女の目線はリュグナーへと投げられた。
 紳士然とした彼はそれを受け、彼女の意図を汲み取ったのか双眸を細める。

「あら、穏やかじゃないわね。私たち嘘なんかついていないよ、本当に殺し合いなんか望んでないの」
「じゃあ聞くけどよ、おたくらはなんで反対すんの?」
「決まってるでしょう? こんなふざけた催しで人命が奪われるなんて許されることじゃないもの。殺される人があまりにも可哀想よ」

 今もなおネモは彼女の仕草、言動に至るまで全て違和感を覚えられない。777にとっても〝なぜか怖い〟程度の直感頼りの不審に留まっている。
 しかし、クロノは半ば確信した表情で鼻を鳴らした。


「やっぱりな」


 ソリテールの眉が僅かに曇る。
 なにが。と、続きを促すよりも先にクロノが答え合わせを始めた。
 
「おたくの今の言い分、まるで捕食者の目線だぜ。可哀想、なんて随分他人事じゃねぇか。自分が死ぬだなんて到底思ってねぇんだろ?」

 ネモは初めてハッとした顔を浮かべる。
 疑念が確信に変わり彼女の手は相棒へ。見惚れるほど綺麗なフォームと共に投げられたそれは赤い光を撒き散らす。

「ウェーニバル!」
「グワワッ!」
 
 己の出番を待ちわびたかのように派手な登場を終えたウェーニバル。
 空気の変化を読み取った777も意を決したかのようにクロノの背から飛び出し、ネモの隣に並び立った。

「あら、君は魔物使いなのね。トレーナー、と言ったかしら? あのお城で死んだ人はお知り合い?」
「っ、…………クロノ、この人普通じゃないみたいだね」
「ああ、それもとびきりな」

 臨戦態勢に入る三人をよそに、注目の的であるソリテールは涼しい顔で五指を合わせる。余裕を見せつけるかのような態度が余計に底知れなさを演出していて。
 光の差さない瞳孔の先はネモへと向けられており、まるで他など目に入らぬかのように演説を続けてゆく。

320流星(前編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 14:57:01 ID:B5BlURGQ0

「私の世界ではね、君のように魔物を使役する存在はいなかった。一体どうやって従えているの? 餌付けなのか痛みや恐怖による支配なのか、もしくは信頼というものなのか。とても興味があるわ」

 一歩。

 ソリテールがただ一歩踏み出しただけで、ネモと777の両名は凄まじい重圧に身体が軋むような錯覚を覚える。
 唯一対等に睨み合うクロノは得物の棒を両手に構え、もはや対話の余地を残してはいなかった。

 鉛のようにのしかかる空気の中、ソリテールの目線が再度横に。二度目のそれを受けたリュグナーの行動は早い。


「バルテ────」


 刹那、赤い風が吹く。

 ぐしゃりと折れ曲がる己の左腕を見て初めて攻撃を受けたと認識した。
 この人間、いつの間に肉薄したんだ。赤い髪を靡かせ追撃を仕掛ける英雄に対してリュグナーは三歩ほど距離を取る。

 ぶらりと垂れ下がる左腕はもはや使い物になりそうもない。
 努めて冷静にリュグナーは血液の棘をクロノへと見舞う。当然これは躱されるが距離を取ることには成功した。

「ウェーニバル、アクアステップ!」
「おりゃーーーっ!」

 いち早く行動に移したクロノに続いてネモと777が同時攻撃を仕掛けた。
 水を纏う舞踏と文房具状の魔法が無防備な──少なくとも二人にはそう映った翠髪の女へと仇する。
 目前に迫る挟撃になおも微笑みという仮面は崩れない。されどほんの少しだけ興味深そうに瞠目したかと思えば、

「あらあら、交渉は決裂かしら」

 結果を言えば、その柔肌にはかすり傷ひとつなかった。

321流星(前編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 14:57:32 ID:B5BlURGQ0

 種は至極簡単。左手に展開した防御魔法で777の弾丸を防ぎ、右方に生成された大剣がウェーニバルの邁進を阻害した。
 大地を抉る剣先に血が混じる。肩口を抑えるウェーニバルは苦悶の声を滲ませて後退し、己の反射神経を越えた攻撃にネモは歯噛みした。

「ネモ! 777! 二人はリュグナーの方を頼む!」
「わ、わかったっ!」
「おっけーだヨ!」

 悔しいが現状あのソリテールという女と渡り合えるのはクロノを除いて他にいない。敵を照準に入れたネモと777は力強く頷き、再度攻撃を展開する。
 血液を凝固させた盾でそれらをやり過ごしながら、貴族風の魔族は表情を変えぬまま淡々と現状を照らし合わせる。

「申し訳ありません、ソリテール様。私にはあの男の相手は少々荷が重いようです」
「いいわ、リュグナー。魔物使いの方は〝丁重に〟もてなしてあげてね」

 畏まりました、と紳士然とした一礼。
 奇しくも互いの戦況は似通っている。ネモたちにとってのソリテールがリュグナーにとってのクロノなのだ。
 先の一撃によってクロノという男の実力はおおよそ推し量れた。到底自分の及ぶ領域ではないが、問題はない。
 大魔族の中でも特筆すべき魔力を持つソリテールであれば遅れは取らないだろう。となれば、残る雑兵は己が相手すべきだ。

「さて、お相手願おうか」
「言われなくても!」

 大地を伝う血を鋭い刃に変え、777とネモに矛先を向ける。真っ直ぐに伸びるそれはウェーニバルの反撃により砕け散った。
 しかし血液を操る魔法(バルテーリエ)にクールタイムはない。絶え間ない斬撃は数の有利を感じさせないほど二人の余裕を奪ってゆく。

「んじゃ、こっちも始めようぜ」
「ふふ……血気盛んね」

 牽制として降り注がれる大剣の雨をやり過ごし、時に弾き。有利な距離を維持するソリテールの後を追うクロノ。
 ネモたちのことも気にかかるが振り返る余裕はない。一度任せると言った以上目の前の敵に集中するべきだ。
 激闘の音が遠ざかるのを耳で感じ取りつつ、残りの五感を研ぎ澄まして篠突く雨の中を猛進した。


◾︎

322流星(前編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 14:58:22 ID:B5BlURGQ0


「お疲れかい? お嬢さん」
「いいえ、景色がいいから立ち止まっただけよ」

 避けきれぬ斬撃に数多の掠り傷を負いつつ鬼ごっこを続けているうち、気が付けばネモたちとはだいぶ離れたところまで来たらしい。
 朽ちたビルの立ち並ぶ灰色の街並みはまさしく世紀末という言葉が当てはまる。アリスドームの近辺だからか、あの16号廃墟を思い出させた。

 ぴたりと足を止めクロノを見据えるソリテール。大剣の魔法による追撃も来る様子はない。
 罠かと訝しむクロノは下手に攻撃することよりも敵の手の内を探る選択に出た。

「聞き間違いかな、これがいい景色だって?」
「だってそうでしょう? 私にとっては全てが未知。発達した文明はそれだけで見惚れるほどの美しさをもっているの。……欲を言えば、人類がここでどんな生活をしているのかも見たかったけれど」
「ハッ、好奇心旺盛なこって」

 悠然とした笑みを崩さぬクロノだが、その実胸を焼くような怒りを抑えるので必死だった。
 こんな悲惨な世界崩壊後の景色が綺麗だ、と。例えどのような意図であってもその言葉を口にするのは許せなかった。
 いかに理不尽に滅んだ末の街並みなのか、そこに生きざるを得ない人々がどのような暮らしをしているのか、この女は知らない。知らせる気も起きない。

「君はこの景色に見覚えがあるの? なら是非とも教えて欲しいわ。滅びに向かってしまった悲しい歴史を」
「……さぁ、知らないね」

 本能がこの女を嫌っている。
 棒を握る腕が力み、筋肉が隆起する。
 顔には出していないつもりではあったが勘づかれたらしい。ひどく穏やかで、かつひどく不愉快な笑みが一層深みを帯びた。

「そう。なら、君の知り合いとお話しようかな」

 地面が爆ぜる。
 この瞬間、クロノの思考から様子見という選択が除外された。目前の敵を鎮めるべく振るわれた一撃は真っ直ぐに胴を狙い撃つ。

323流星(前編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 14:58:59 ID:B5BlURGQ0

 しかし、白い軌跡は空を裂く。
 踏み込みが甘かったか──そんな自戒を覚えるほどクロノは浅はかではない。確かにあの攻撃は当たるはずだった。常識の範疇であれば。

「確かに君は優れた戦士のようね。魔族の私から見ても恐ろしいほどに」

 女の声が上空から降りかかる。
 ──そう、上空から。

「だからこそ残念に思う。〝こうする〟だけでもう君に勝ち目はない」

 崩壊した地には不相応な月明かりを隠すように、夜空に留まるソリテール。
 翼を持たぬ女が空に浮かぶ姿はまるで天使のようで。一瞬、あまりの神々しさに目を奪われた。
 そこはもう、己の剣の届く場所ではない。

「私の世界ではね、戦士と魔法使いの勝敗は〝距離〟によって変わる。武器の届く間合いでは魔法使いは抵抗も出来ず殺されるけれど、逆も然り。……わかるでしょう?」
「わかんねぇな、考えんのは苦手なんだよ」
「なら、その身に教えこんであげましょう」

 大仰に両腕を広げたかと思えばその瞬間、夜空の星が瞬いた。
 いいや、輝いたのは星ではない。その光を反射した大剣の切っ先だ。
 星かと見紛うた理由はなにもその光加減ではない、夥しいまでの数にある。

 ソリテールの知識欲に偽りは無い。クロノという異界の人間と触れ合う時間は貴重だと、本気でそう考えていた。
 事実クロノは己の世界にいれば傑物の戦士として名を馳せていたであろう。
 しかし、それまでだ。如何に剣の腕が優れていようと己の知らない世界を見せてはくれない。つまるところ唆られないのだ。


 さようなら、と。
 一言声を聞いたような気がする。


 射出された大剣の風切り音がそれを掻き消した。一つや二つではない、数えるのも億劫なまでの数がクロノの肉体を塵に変えんと押し迫る。
 対するクロノは得物──およそ武器としては心許ないまぞく寝かせ棒を真向に構える。それだけで大気が震えるような感覚を抱くほどの力を溜め、解き放った。


「────ッらぁぁああっ!!」


 ぶおん、と。常識外の音が響く。
 同時にこれまた常識外の突風が吹き荒んだ。

 生じた風圧が剣の軌道を強制的に捻じ曲げて、一つ二つ、否全ての切っ先がクロノを避けるかのように地面へと突き刺さってゆく。
 ソリテールの思考と現実の間に数瞬のズレが生じた。当然だ、彼はただ力任せに棒を振るっただけで風を巻き起こし、死の運命を回避してみせたのだから。
 魔法の類ではない、文字通り全力で空を斬っただけ────しかしそれが、世界終焉をもたらすラヴォスをも叩き伏せた男の腕力から放たれたのであれば、もはや〝魔法〟にも匹敵する。

324流星(前編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 14:59:55 ID:B5BlURGQ0

(…………いえ、焦る必要はないわ。空にいる限り彼の攻撃は届かない。どんなに超然とした力を持っていても、所詮は戦士に過ぎないのだから)

 なるほど確かに、認めよう。
 このクロノという男は〝優れた戦士〟程度に収めていい相手ではない。自分の世界にいれば間違いなく勇者ヒンメルにも並ぶ存在となっていたであろう。
 しかし、問題はない。どんな攻撃であっても当たらなければ意味が無いのだから。

「どうしたんだい? おかわりといこうじゃねぇか」
「……そうね、お望み通りご馳走してあげましょうか」

 挑発に乗った訳ではなく、あくまで最善手。
 無数に生成された大剣をやり過ごすのはクロノとて無尽蔵にできるわけではあるまい。このままこれを続けていればいずれ体力に限界が来る。
 無限に近い魔力が尽きるよりも人間の体力が尽きる方が現実的だ。現にクロノの身体には幾らか切創が生まれ始めている。

「最初にリュグナーを狙ったのは悪手だったわね。私の首を狙っていれば結末は変わっていたのに」
「結末? 何言ってんだよ」
「……どういうことかな」
「まだ終わっちゃいねぇって言ってんだよ、この勝負はよッ!」

 怒号に近い宣言と同時、クロノの足が地から離れる。
 なにをする気だ──ソリテールの疑念は次の瞬間吃驚へと移った。
 飛んだ、いや跳んだのだ。飛行魔法も知らぬ人の身でありながら己と目線を合わせるその男に、ソリテールは過信を認めざるを得なかった。


 ソリテールの最大の過ちは、戦士は空を飛べないという自身の世界の常識を当てはめてしまったこと。そんな稚拙な思い込みはこの世界では命取りとなる。
 クロノは既に空を飛ぶ敵など幾度も相手して来ているのだ。そんな彼の前でたかが空中を制した勝ちを確信するなど愚の骨頂。
 重力の加速度を乗せて放たれんとする斬撃を前に、芯から凍てつくような感覚に見舞われた。

「全、力ッ────斬りぃッ!!」
「っ…………」

 咄嗟に身を引いて直撃は免れた。が、武器のリーチからは大幅に外れているはずなのに衣服の一部が破れる。
 もし回避が遅れていたら、と考えたらゾッとする。
 しかしこれで打ち止めだ、この一撃さえ凌いでしまえばあとは落下するだけ。


 そのはずなのに。
 なぜ、クロノは武器を構えているのだろう。

325流星(前編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:01:08 ID:B5BlURGQ0


 届くわけがない。間合いからは外れている。
 なのに本能に訴えかける危機感がソリテールに魔力を練り上げさせた。そして一秒と経たぬうちにそれが杞憂でないことを思い知らされる。

「──かまいたちッ!」

 防御魔法が間に合ったのは奇跡的と言える。
 見てから対処することは出来ない。というのも、目を凝らさなければ見えぬ一手なのだから当然だ。
 いわゆる風の刃の性質を持つそれはハニカム状の防御魔法とぶち当たり、火花を散らす。威力、速度共に相当ではあるが防御魔法を打ち崩すには至らない。

(武器から魔法が……? いや、これは剣技の類かしら。どちらにせよ、彼ほどの戦士が〝ついで〟で持っていい遠距離攻撃ではないね)

 辟易に似た感想ではあるがその実は興味が十割を占めている。いい加減ここまで来ればソリテールの中から油断は消え去った。
 手を打ち尽くして落下に身を委ねるクロノにソリテールは追撃を仕掛ける。大剣では仕留め損なう可能性がある、人を殺す魔法(ゾルトラーク)であれば空中での回避など不可能だろう。
 そうして練り上げた魔力は、クロノから放たれる膨大な〝それ〟に中断させられた。


(魔力が、急激に膨らんでいる……!?)


 なまじすぐれたソリテールの魔力感知が警鐘を鳴らす。
 落下中にも関わらずクロノの身体は湧き上がる魔力によって浮遊しているように見えた。人が有するには余りあるそれは片鱗でさえ異常を訴える。
 バチバチと彼の肉体に走る稲妻めいたものが目に入るや否や、闇を生きる魔族にはあまりにも眩し過ぎる輝きが網膜を焼いた。






「────シャイニング」








◾︎

326流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:02:13 ID:B5BlURGQ0



 歪な金属を木槌で打つような音が耳に残る。
 固められた血液の盾は生半可な攻撃ではびくともせず、777の魔法を容易く弾き返す。
 しかしさしものバルテーリエといえど無敵ではない。ウェーニバルの強烈な蹴りが炸裂するたびにパキリとへし折れる。

「懲りないな」
「それはこっちの台詞だヨっ!」

 しかしすぐさま再生する盾はリュグナーを護るため的確な位置へ枝を伸ばす。
 隙間を狙おうと777が狙撃したところで臨機応変に変形するそれの防御は崩せない。返される血の刃がウェーニバルに襲いかかるも、ネモの声に合わせた回避が実を結んだ。

「ねぇ、あなた! 防御ばっかでつまらないよ、もっと攻めてきて!」
「なにを馬鹿な。片腕を負傷して数の利はそちらにあるんだ、馬鹿正直に付き合ってやるつもりはない」
「……たしかニ! ネモ、ちょっとカワイソウだヨ!」
「言われてみれば……! ごめん、今のナシ!」

 調子が狂う。
 この戦いを一言で表すのならばこれだ。
 既に述べたようにリュグナーは条件で見れば不利に立たされている。クロノに受けた片腕の傷は自然治癒では治りそうもないし、予想よりもこの二人の実力は高い。
 特にネモの使役するウェーニバルの攻撃は直撃すればタダでは済まないだろう。なのになぜリュグナーが毅然とした余裕を見せているのか。

(さて、どのくらい時間を稼げばいいか。五分もあれば終わるとは思うが……)

 それこそがソリテールの存在。
 リュグナーはソリテールの力を信じている。そう言えば聞こえはいいが、その実態は盲信に近い。

 彼女ほどの大魔族が勇者一行でもない人間程度に遅れを取るはずがない。すぐに片付けてこちらの加勢に赴いてくれることだろう。
 それまでの時間稼ぎに徹すればいいのだから、この戦いでの勝利は重要ではない。むしろ下手に殺してしまうとソリテールの機嫌を損ねかねない。

「君たちはなぜ戦う? 我々は考え方こそ違えど志は同じだと思っているのだが」

 ゆえにリュグナーは〝会話〟という手段を選んだ。

327流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:03:29 ID:B5BlURGQ0

「どーいうこと?」
「我々はあの古砂夢という女に巻き込まれた被害者だ。そしてこの催しを破壊しようと考えている、そこに相違はないはずだ」
「ソーイ?」
「……この殺し合いに反対する気持ちは一緒だと、そう言いたいんだよ」

 元を辿ればこの戦い、意味などないのだ。
 リュグナーもソリテールも主催側への怒りをいの一番とし反逆の道を辿らんと歩を進めたのだから、ここは互いに手を取るのが道理。
 そうなっていない理由は魔族と人間の考え方の違いにある。777という少女はリュグナーからしても人間ではないように見えたが、人に靡く時点で同類だ。

「君たちの理想はわかる。誰も死なないのならばそれに越したことはない、が……ここまで大規模な殺し合いである以上血が流れるのは必然だろう。我々は多少手を汚してでも脱出の手掛かりを掴み、大多数を救いたい。その気持ちに偽りはないんだ」
「……じゃあ、殺し合いに反対するのは一緒なの?」
「ああ、私にも守りたいものがある。それを守るためなら心を鬼にするさ」

 そう、こう言えば人は攻撃できない。
 現に777もネモも戦う手をやめている。

「でも…………」
「我々には言葉がある。こうして戦いに身を投じるなど、それこそあの古砂夢の思惑通りじゃないか?」

 手応えはある。
 口淀む777はどうすればいいのかわからないといった様子だ。ネモを言いくるめるのもそう時間はかからないだろう。
 実際のところこの二人の命などどうでもいい。主催打倒の手がかりとして利用出来るかもしれないという、ただそれだけの理由だ。

(言葉とは便利なものだ)

 心からそう思う。
 幾らでも取り繕えば都合のいいように受け取ってくれる。それが殺し合いという状況下でならば尚更、不安という心理を突いてしまえばどうとでもなるだろう。
 考え込む777はもう篭絡したも同然。ならばネモの方は──と、視線を移した途端燃え上がる瞳に射抜かれた。

「悪いけど、そういう大人な考え方はあんまりできないんだ。私さ、自分が正しい! って思った道を歩くのが正解だと思ってるからね」
「なに…………?」

 耳を疑う。

 この女、正気か?
 そんなつまらない理想論で乗り越えられるほどこの殺し合いは甘くはない。あの会場で二人の死者が出ている以上理解しているはずだ。
 なのになぜ、この女の瞳はこんなにも強く輝いているんだ。

328流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:04:35 ID:B5BlURGQ0

「クラベル校長ならきっとこう言うと思う。後悔のないように生きてください、ってね! 私は貴方の言う賢い生き方をするより、どんなに無謀でも理想を掲げたまま生きたい! じゃないときっと後悔することになるから!」
「な、777もっ! もし誰かをギセイにしたラ、零たちが悲しむヨ!」

 拳を握るネモに釣られて777も声を高らかに宣言する。その顔にもう迷いはない。
 面倒だと心中辟易する。言葉で時間を稼ぐ手は悪手だったらしい、結果を見ればより二人の行動から迷いを取り去っただけに終わった。

「それに────」

 もはやロクな答えが返ってくるとは思っていないが、やはり二人の表情を見るに自分が望む返答ではないらしい。
 血の盾を展開しながら様子を伺うが、予想以上の衝撃がそれを打ち破った。


「バトルするの、楽しいから!」
「戦うの、楽しいかラ!」


 ──イカれている。

 砕け散る盾を再展開し、反撃の赤刃をネモの元へと飛来させる。
 ポケモンの方を攻撃するのは難しいが本体であるトレーナーを狙えば話は別だ。隻腕といえど、放たれたそれはただの人間が容易に回避できるような甘い斬撃ではない。
 が、ネモは回避する素振りすら見せていない。彼女の頭部が串刺しになる数刻先の未来を確信するが、二つの意味でその的は外れることとなった。
 
「エピクロスッ!」

 突如、777という少女の姿が白い異形へと変貌を遂げた。
 白銀を思わせる甲殻に黒い蛇を模した下半身。なによりも目立つのは身の丈程もある巨大な鎌。
 月光裂く勢いで振り下ろされた大鎌はバルテーリエの薄刃とかち合い、それを粉砕する。舞い落ちる赤い結晶がキラキラと乱反射する中で、ネモの視線はリュグナーだけに注がれていた。

(まずい、)

 よもや姿が変わるとは予想外だった。次の一手に僅かばかり影響が出る。
 ウェーニバルを相手しながらあの大鎌を突破するのは至難の業だ。司令塔を叩くのは一度後回しにした方がいいだろう。
 いや、よく考えればなにも反撃をする必要はない。もうじきソリテールたちの戦いも決着がつく頃だろう。守りに徹していればいい話だ。

「ウェーニバル、アクアステップ!」

 馬鹿の一つ覚えとはよく言ったものだ。
 その技はもう見切っている。盾の展開は十分に間に合うだろう。
 リュグナーは冷静にバルテーリエを守護に回し──常識外の衝撃が脳を揺さぶった。

329流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:05:22 ID:B5BlURGQ0

(────は?)

 持ち前の悠揚迫らぬ態度は音を立てて崩れ去る。
 気持ちの悪い浮遊感がより頭を疑問符で埋めつくしてゆく。頬を蹴り抜かれたのだと、その時初めて気がついた。
 バルテーリエは確かに展開したはず。まさか、それを上回る速度で攻撃されたのか。
 フェルンという熟練の魔法使いが放つ最速のゾルトラークにも対応したこの魔法が、速度で上回られたというのか。

「よし、決まった! ウェーニバル、もう一発!」
「777も援護するよ! どり〜み〜っ!」

 転がる身体を血のクッションで受け止め体勢を立て直す。側面から襲いかかる777の波状攻撃を防ぎつつ、ウェーニバルの舞踏に備える。
 魔力消費が激しい分全面展開は難しい。さきほど視界に捉えた時には前方向にいたはずだ、前の守りさえ固めていれば────

 瞬間、視界が反転する。
 今度は背後から脇腹に突き刺さった。メキリという嫌な音が聞こえたかと思えば二度、三度と地面をバウンドしようやく止まる。
 顔を見上げた先には既にあの魔物の姿はない。ここにきてリュグナーは先に抱いた危惧が事実であったことを思い知らされた。

(間違いない……こいつ、加速している……!)

 ウェーニバルのアクアステップは直接攻撃に加え、自身のすばやさを一段階上昇させる効果を持つ。
 ネモはなにも無策でこの技を連発していたわけではない。バルテーリエの鉄壁を突破するため、その展開が追いつかないほど速度を上げる必要があると判断したのだ。
 現状ウェーニバルは三段階の恩恵を受けている。もはやリュグナーの魔法が追いつけるような土俵ではない。

「バルテーリエ」
「うわわっ!?」
 
 この際魔力消費など気にしていられない。
 盾を全方位に展開し、針の穴ほどの攻め入る隙も与えない作戦。加えて全体に生えた棘が攻撃を躊躇わせる。
 777の魔法が懸命にそれを壊さんとするも、守りに徹したバルテーリエを破壊するには威力不足だ。
 どうしよう、と777が嘆く。しかしネモは既に活路を見出しているようで、持ち前の自信満々な笑顔で応えた。

330流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:06:02 ID:B5BlURGQ0

「ウェーニバル、アクロバット!」
「…………な、……」

 確かに、地上での戦いであれば攻める手立てはないかもしれない。
 しかし生憎、ウェーニバルの翼は伊達ではない。白鳥の如く飛び立った彼は無敵の盾の唯一の穴──上方からリュグナーへと襲いかかる。
 見上げた頃にはもう遅い。邪魔な道具を持ち合わせていない分身軽さを前面に出したその技は、驚異的な威力を発揮する。

「…………随分、見下ろしてくれるじゃないか」

 強烈な踵落としがリュグナーの脳に炸裂。
 必殺の威力を持つそれをモロに喰らったせいで急激に意識が遠のいていく。
 少女たちの歓声を聞き届ける間もなく、魔族の知覚は深い闇へと沈んでいった。





◾︎

331流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:07:09 ID:B5BlURGQ0




 
 着地を決めるクロノが見据える先。
 巻き上がる塵煙が行く末を隠す暖簾の如く、彼の警戒を未だ解こうとしてくれない。
 完全に仕留めるつもりで放った最上級魔法だ。むしろこれで倒れてくれていなかったら困る。




「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」




 瞬間、黒い閃光が煙を晴らした。
 速い──! 気を弛めたつもりのないクロノから見てもそう言わしめるそれは完全な回避を許さず、その右脇腹を灼く。
 苦悶の声を上げるまもなくクロノは体勢を立て直し、徐々に浮かび上がる影へと睥睨を注いだ。

「ふふ、うふふふ……! 今の魔法、一体なあに? 私でも知らない魔法があるなんて、本当におもしろい……!」

 ようやく煙が晴れ、全貌が明らかとなる。
 両の頬に自身の手を添え恍惚とした笑顔を浮かべる女の姿は誰が見ても〝異常〟と捉えるだろう。
 その表情とは不釣り合いなまでに、その左半身の皮膚は大きく焼け爛れていたのだから。

332流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:07:44 ID:B5BlURGQ0

「参ったね、倒れてくれりゃ楽だったんだが」
「ええ…………ふふ、私も死ぬかと思ったわ。……命の危機を覚えるなんて、いつぶりかしら?」

 あの瞬間、ソリテールは防御魔法を捨てた。
 理由は単純、防御魔法如きで防げる威力ではなかったからだ。ならばソリテールはなんの抵抗もなく受け入れたのかと問われれば、それは違う。
 彼女はフリーレンにも匹敵するほどの膨大な魔力がある。その魔力を凝縮して放出すれば、高圧縮のゾルトラークさえ無傷で防ぎ切るほどの盾となる。
 無論それは人類の歴史と共に進化を遂げた防御魔法と比べれば不安定で、かつ局所的。掌からしか生成できない分どうしても防げる範囲には限界がある。
 それでもあのシャイニングをこれだけの被害でやり過ごせたのだから御の字と言えよう。


 ──それに、戦果はそれだけではない。


「けれどもう終わり。〝それ〟じゃもう戦えないでしょう?」


 妖艶な瞳が射抜くのはクロノが持つまぞく寝かせ棒。
 その先端は大きく欠け、バラバラと破片を撒き散らしていく。如何に頑丈といえど所詮は木の棒、この規模の戦いについてこれるほどの業物ではない。
 武器をなくした戦士に出来ることなど限られている。無論クロノに限ってはさきほどの魔法という手段もあるが、ソリテール相手に魔法の撃ち合いなど分が悪いだろう。

「はやんなよ、こっちはまだ戦えるぜ?」
「さっきの光の魔法を見る限り、君の詠唱よりもこちらの方が早い。……一度見せた魔法が私に通用すると思う?」

 クロノは舌打ちを鳴らす。
 シャイニングはその威力こそ絶大ではあるものの発動までの隙が大きい。本来それをカバー出来る味方あってこそのものだ。あの場で撃てたのは意表を突けたからに他ならない。
 すなわち、もう二度とソリテールには通用しない。

333流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:08:35 ID:B5BlURGQ0

「ねぇ、今からでも遅くないわ。手を組まない? 私と君の力があればこの殺し合いを打破することも可能だと思うけれど」
「レディのお誘いは断りたくないんだけどな、あいにく先約があるんでね。……それに、おたくのお仲間が嫉妬しちまうぜ?」
「何言ってるの? 私に仲間なんていないわ」
「…………なんだって?」

 勝利を確信しているからこそソリテールは饒舌になる。
 体力を回復するためそれに付き合ってやるクロノだったが、予想外のひとことに思わず聞き返すこととなった。
 首を傾げ、純真とも言える仕草で考え込むソリテールは暫しあとに合点がいったように頷いた。
 
「ああ、リュグナーのことかしら。〝アレ〟はそういうのじゃないよ。……そうね、よく働いてくれるとは思っているけど」
「…………、やっぱりあんたとは反りが合わねぇみたいだ」
「あら、なにが気に障ったのかしら。……けれど、いいの? ここで手を組めばこの悪趣味な遊戯を終わらせる大きな一歩になるのに」

 たしかに、彼女たちと同盟を組む事は主催側への大きな反逆になるかもしれない。
 単純に頭数が増えるのもそうだが、ソリテールは上澄みの戦力を有していると言っていいだろう。アリスドームの情報を持っている可能性もある。

 けれど、
 それでも、

 クロノには譲れないものがあった。



「この殺し合いが終わるまでに、一体何人殺すんだ?」



 きっとこの女は躊躇いなく人を殺す。
 悪人は勿論、善人であろうとそれが情報のためならばと喜んで殺すだろう。
 リュグナーを捨て駒として見ているのがその証拠だ。この女にとって自分以外のものは利用価値のあるか否かの判断基準で存在している。
 そんな道を共に歩むくらいなら、ここで相討ちになった方がマシだ。


「だれも殺さないよ、安心して」


 ────嘘だ。
 漂う死臭が答えを裏付ける。

「これは会話じゃねぇな」

 もはや問答は不要。
 無手であるにも関わらず闘志を燃やすクロノに対し、ソリテールは心底残念そうに眉尻を下げれば「そう」と一言。
 次いで魔力を練り上げて、次の算段を打つ。


 もうクロノは戦えない。
 彼の武力は武器ありきのものだ。先程の魔法も十分対処出来る。
 さっきのように空中に避難して一方的に大剣を降らせ、ゾルトラークを連発しているだけで問題なく勝てるだろう。
 回避しようにもあの脇腹の傷ではそう機敏には動けまい。これ以上ない消化試合だ。
 口惜しく思いながらもクロノの処刑のため飛行魔法を行おうとして────踏みとどまった。

334流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:09:16 ID:B5BlURGQ0


(────……ダメね。まだ私は心のどこかで彼を侮っている)


 魔族の死因の九割が油断と驕りによるもの。
 今まさにソリテールが抱いたものがそれだ。クロノが手の内を見せたという前提で皮算用を進めてしまっていた。
 もしもクロノがまだ奥の手を隠し持っていたら。もしもクロノの支給品に別の武器が渡されていたら。
 それに、ネモたちが駆け付けてくるのも時間の問題だ。彼女らの実力から推察するにリュグナーが敗北する可能性は高いだろう。

 出し惜しみをしていい相手ではない。
 リスクを冒してでもこの戦いには勝たなければならない。下手を打てば狩られるのは自分なのかもしれないのだから。

 長期戦は不利。短期決戦で仕留める。
 ソリテールの取るべき行動は決まっていた。

「…………な、っ……!?」

 飛行魔法を駆使してクロノの元へ急接近するソリテール。
 距離を取られることを想定していたクロノは僅か一瞬動揺する。
 無防備となった彼の胸元へ翳される掌。力を込めれば手折れてしまいそうなほど華奢なそれはしかし、この瞬間においては砲弾にも勝る凶器となる。


「──────か゛、……っ……!!」

 
 衝撃、次いで激痛。
 堅牢な筋肉を貫通し、骨を軋ませ、内蔵が千切れるような地獄を見た。自分の身体がどうなったのかなんて考える間もなく意識が白飛びする。
 突如重力の向きが変わったかのように肉体が水平に吹き飛ぶ。急速に移り変わる景色に目が追いつかず、廃墟の壁に半円状のクレーターを残してようやく止まった。
 ガラガラと崩れ落ちる瓦礫とそれが起こす砂埃。惨状の前に降り立つソリテールの口元は歪な三日月を描いていた。

335流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:09:52 ID:B5BlURGQ0

(なに、が…………おきた、……んだ…………?)

 血混じりの咳を吐き、辛うじて繋ぎ止められていた意識を気合いで取り戻す。
 状況確認のために辺りを見渡すが色彩感覚が麻痺してよく見えない。数秒か、数十秒か。曖昧な時間を経てようやく視界が回復した。
 揺れ動く瞳孔が捉えたのは、意外そうな顔でこちらを見やる大魔族の姿。

「あら、すごく丈夫なのね。殺す気で撃ったのに」

 ────魔力をぶつける魔法。

 いや、それはもう魔法と呼べるものではない。
 気が遠くなるほどの年月を掛けて研究され、解析され、今に至るまで語り継がれてきた魔法の歴史を嘲笑うかのような原始的な攻撃。
 言うなれば、武術が磨き上げられた世界においての噛みつきとなんら変わりない。
 しかし悲しいかな、ソリテールほどの膨大な魔力を持ち、それを自在にコントロールできる者が行なえばどんな魔法にも勝る破壊力を発揮〝してしまう〟。
 それは、魔法の探求に生涯を捧げてきたソリテールにとってはひどく皮肉な話だった。

「どう? 痛いでしょう? ふふ、あははは! その顔、とっても素敵っ! 私たち殺し合いをしているのだもの、それくらい必死にならないと!」

 感覚のない四肢に無理やり力を込めて立ち上がる。壁に叩きつけられた際に頭を打ったのか、頭部から垂れる血液が右目を覆った。
 直撃を受けてもなお立っていられるのは一重にクロノの頑丈さあってのもの。逆を言えばクロノでさえこんな状態になるのだから、モロに喰らって耐えられる者など一握りに限られる。

「ふふ、大丈夫。大丈夫よ。苦しいでしょう? 今解放してあげるから、安心して眠ってね」

 武器を失い、ふらふらと覚束無い足取りで立っていられるのもやっとの青年。そこに先程まで見せた英雄の面影は見えない。
 次は仕留め損なわないように慎重に。逃げ場を無くすため彼の左右、後方の空中に大剣を出現させる。
 魔力をぶつける魔法の欠点は著しい距離減衰。少しでも距離を取られてしまえば威力は大幅に落ちるが、大剣を生成する魔法と組み合わせれば相手の自由を奪えるためそれも無いに等しい。


「さようなら、クロノ」


 再度接近し、彼の胸元へ手を伸ばす。

 その瞬間。
 ソリテールの身体から朱い華が咲いた。

336流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:10:47 ID:B5BlURGQ0



「──────え?」


 遅れて右肩から左脇にかけて感じる熱、そして痛み。
 噴き出す血飛沫に疑問の声を洩らす。何が起きた、と。奇しくもさきほどクロノが抱いたそれと全く同じ感情に囚われることとなった。
 視線を僅かにずらせば、そこには見惚れるほど洗練された袈裟斬りの構えを取るクロノの姿。しかしおかしい、彼に武器はないはず。
 その疑問はさらに視線を落とすことで晴れることとなった。

(まさか、こいつ…………! 私の大剣をっ!?)

 そう、そのまさか。
 クロノはあの一瞬で自身の傍に落ちる大剣を〝空中で〟掴み取り、あろうことかそれで反撃して見せた。
 驚愕に値するのはその機転も勿論ある。が、最もソリテールの動揺を誘うのはその並外れた胆力だ。

 魔力をぶつける魔法の脅威は間違いなくその身で味わったはず。あの想像を絶する苦痛を前にすれば、どんな屈強な者であろうと逃れようとするはずなのに。
 なのにこの男は──クロノという英雄はそれを覚悟の上で反撃の刃を振るってみせたのだ。
 それが如何に凄まじく、規格外のことなのか。この世で最もそれを理解しているソリテールは痛みも忘れて震え上がる。

「ぐ、…………が、……っ!」

 クロノが第二の斬撃を振るわんとするのが見えて、ソリテールは無理やり体勢を戻して魔力を放出する。
 一撃目と比べて浅い。が、だとしても威力は十分。意志に関係なく吹き飛ぶクロノの肉体はもう限界に近いだろう。
 しかし、それはソリテールも同様。焼け爛れた左半身、そして今しがた受けた撫で斬りのダメージに片膝をつく。

337流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:11:26 ID:B5BlURGQ0

「その、力……一朝一夕で、身につくものじゃない…………きっと、……私では考えもつかないほどの経験を、糧にしてきたのね」
「…………はっ、お褒めに預かり……光栄だぜ」

 辛うじて立ち上がるクロノを支えているのはもはや意地でしかない。武器である大剣はソリテールの意思によって消失し、今度こそ無手となる。
 対するソリテールも疲労と肉体的な損傷によって魔力の練り上げが上手くいかない。互いに戦える状態ではないが、それを感じさせない風格が二人にはあった。

「私もそう。この領域に至るまで、数百年以上の時を要した……。ねぇ、ゾクゾクしない? そうして積み重ねてきた努力が、功績が、名誉が! たった数分後には全て終わっているのかもしれないのだからッ!!」

 両腕を広げ、さぞ愉快とばかりに口角を釣り上げるソリテール。狂った者は幾度と見てきたが、ここまでのものはいなかったとクロノは汗を滲ませる。
 睨み合いが続く。魔力と体力どちらが先に回復するかの勝負────かと思われたが、それは思わぬ声によって中断させられた。

「クロノーーーっ! 加勢に来たよ!!」
「うわっ!? な、なんかすごいことになってるヨ……!」

 リュグナーとの戦闘を終え駆けつけるネモと777。ここに来る最中にも激戦の様子が伺えたのだろうか、相当焦っているように見えた。
 ソリテールは残念そうに息を吐く。不気味な薄ら笑いを浮かべ、右手をひらひらと踊らせた。

「あら残念、邪魔が入ったわね。……今回はここで退かせてもらおうかな」
「あっ! おい、待──ぐっ!」

 拙い動きの飛行魔法でその場を去らんとするソリテール。追いかけようと踏み出すも、体力の限界を迎えたクロノは遂に片膝を地におろす。
 慌てて彼の元へ近寄る二人の姿を横目に、ソリテールは好奇の欲求を抑え込んでアリスドームの方角へと引き返してゆく。

338流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:12:06 ID:B5BlURGQ0

「くそ、……! あいつを、あのままにしたら…………」
「ダメだよクロノ! その傷じゃ無茶だって! ほら、今は安静にして。えーっと、なにか手当出来るものあったかな……」
「な、777も探してみるヨ! クロノ、死んじゃヤダーっ!」
「はは、……縁起でもねぇこと、言うなって……」

 血を流しすぎたらしく、朦朧とする意識の中でクロノはどこか安心感に包まれる。
 ぼやける視界の中で懸命に自分を気遣ってくれる少女たちの顔が見れたからだろうか。やはり仲間というのは心強い。
 これを守れただけでも無茶をした甲斐はあった。勝利の味とも言えぬ奇妙な達成感を噛み締めながら、クロノは意識を手放した。

 


【全体備考】
※まぞく寝かせ棒は粉々に砕け散りました。
※F-5廃墟街の一部がクロノとソリテールの戦闘の影響で所々崩壊しました。

【F-5(西側)/廃墟街/一日目 黎明】
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:気絶中、ダメージ(大)、全身に切り傷、右脇腹に火傷、疲労(大)、MP消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:英雄として殺し合いをぶっ壊す。
0.────。
1.アリスドームを探索後、テーブルシティへ向かう。
2.ソリテールを野放しにするわけにはいかない。
3.ネモ、777の知り合いを探さないとな。

※ED1、「時の向こうへ」終了後からの参戦です。

【ネモ@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ウェーニバル)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:打倒古砂夢! でもバトルはしたい。
1.クロノを手当てする。なにか手当出来るものあったっけ……。
2.アリスドームに向かった後、テーブルシティへ向かう。
3.機会があれば777と決着をつけたい。
4.アオイ、ペパー、ボタン……強いからきっと大丈夫だよね。
5.クラベル先生……。

※少なくとも本編終了後からの参戦です。DLCキャラと面識があるかどうかは後の書き手さんにお任せします。

【777@Crystar】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、水を操る魔法(リームシュトロア)の魔導書@葬送のフリーレン、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いなんてえんじょいじゃないヨ!
1.クロノを助けないト!!
2.零に会いたいナー、あと千にも。
3.みらいに会ったら保護してあげるヨ!

※三週目七章【想起ノ森 不和】からの参戦です。

【ポケモン状態表】
【ウェーニバル@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:ダメージ(小)、左肩に切創
[特性]:じしんかじょう
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ネモについていくグワ。
1.グワッ、グワワッ!








◾︎

339流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:12:46 ID:B5BlURGQ0





「申し訳ありません、ソリテール様」
「いいわリュグナー。辛い役目を任せてしまったかな」

 アリスドーム近辺、倒れているリュグナーを見かけたソリテールは彼を無理やり起こして人目に付かぬ家屋を探し歩いていた。
 ソリテールとしてはリュグナーの生死などどちらでも構わなかったが、生き延びたならば駒として働いてもらう。そういう誓約だ。

「それよりリュグナー、休める場所が見つかったら君の魔法で止血してほしいわ。それに、あのネモっていう魔物使いの情報も貰えると嬉しいな」
「はい、かしこまりました」

 ぽたぽたと血痕を残しながらも嬉々とした声色で語りかけるソリテール。後方を歩くリュグナーからは見えないが、その顔は笑みに満ちているだろう。
 事実ソリテールの胸はまだ見ぬ力への探究心で溢れていた。当初の目的である〝情報〟は満足に得られたとは言い難いが、貴重な体験が出来た。
 クロノという高度な魔法を扱う剣士。777という魔族とも人類とも異なる種族。ネモという優れた魔物使い。そのどれもが自分の世界には居なかった存在。
 始まって間もなくして少し傷を負いすぎたが、その価値は十分あるといえる戦いだった。あのシャイニングという魔法も、見よう見まねであれば形にできるかもしれない。

「ふふ、あははは! 楽しい、こんなに楽しいのは生まれて初めてっ! ……まだまだ足りないわ、もっともっと知りたい。ここでは私の知らないことを沢山教えてくれる……!」

 ああ、想像するだけで目眩がする。
 あれほどの激動もこれから起きることに比べれば始まりに過ぎない。こんな経験をしてしまったら、今まで生きてきた数百年がひどく退屈に思えてしまう。


 この首輪はどうやって作られたのか。
 異世界での常識とはどういうものなのか。
 願いを叶えるというのは本当なのか。


 痛みも忘れて浮き足立つ。
 ゆくゆくは古砂夢が持つ〝時間跳躍〟の力も手にしたい。仕えるべき魔王を蘇らせれば、きっと今とは違う歴史を見ることが出来る。
 いや、もしも時間を操るなどという芸当が出来るのならば自分が魔王となることも可能かもしれない。甘く心地いい希望が胸に膨らむのを感じて、ソリテールは笑みを絶やせなかった。

340流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:13:32 ID:B5BlURGQ0

「ソリテール様」

 と、背後からリュグナーの声がかかる。
 折角の夢心地を邪魔された気分に少し不機嫌が差さる。が、仮にも同族。邪険に扱うような真似はせず穏やかな笑みを返した。

「なあに? リュグ────」

 ザンッ。

 心地いい音が喉元を通り過ぎる。
 上下反転する地面。それが無名の大魔族の最期に見た光景だった。



【ソリテール@葬送のフリーレン 死亡】
【残り 47人】






◾︎

341流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:14:13 ID:B5BlURGQ0



「ソリテール様、私はこの殺し合いに対する考えを改めました。どうやら単純な武力での解決は難しいようです」

 パラパラと音を立てて消滅する生首を見下ろし、表情ひとつ変えずにリュグナーは淡々と語る。その相手はもう居ないというのに、言葉が溢れて止まらなかった。

「私は最初、マハト様やソリテール様……それにアウラ様がいる以上この殺し合いは大魔族による蹂躙で片がつくと思っていました。しかし現実を見れば、たった一人の人間相手にソリテール様は重傷の身。私が思うほど大魔族とは絶対の存在ではなかったのです」

 そう、リュグナーはこの殺し合いの全貌が見えていなかった。自分の世界での価値観を基準にして考えを進めてしまっていたのだ。
 最初に出会ったのがソリテールという己の世界の住人で、かつその世界でも上位の力の持ち主であったからこそ視野が狭まっていたと言えよう。

 未知なる異世界の力を思考から外していたため、ソリテールという既知なる絶大な力に過剰な信頼を置いてしまっていた。
 だからこそ満身創痍の大魔族の姿を見て、まるで夢から醒めたような感覚に陥った。
 本来であれば彼女の身に纏う鉄壁の魔力によってバルテーリエなど弾かれていたはずなのに。呆気なく散る様がその消耗を物語り、余計に虚しく思う。

「確率的に見て、先の戦いがこの殺し合いでの最大規模の戦闘と考えるのは無理がある。私が思うに、あのクロノやフリーレンを筆頭に大魔族に匹敵する力を持った者は何人か存在するでしょう。……ならばそんな者たちを拉致できる存在など、歯向かうだけ馬鹿馬鹿しい」

 大魔族に比肩する力の持ち主を多数集め、首輪を嵌め、その命を握ることができる存在など自分の知る限り魔王でも出来るかわからない芸当だ。
 仮にソリテールとマハト、アウラが徒党を組んだところで解決出来るとは思えない。首輪の電流を流されてしまえばそれだけで大魔族も子供も等しく命が潰えるのだから。

「それに、だ。仮に反旗を翻すとしても、あなたの存在は邪魔になる。血の臭いを隠し切れず、探究心に満ち溢れたあなたは……あまりにも危険すぎる」

 ソリテールの力が絶対ではないとわかった以上、リュグナーにとって彼女の存在は枷でしかなかった。
 彼女が無名である理由は出会ってきた人類全てを皆殺しにしてきたことにある。それ相応の猛者や魔法使いであれば彼女の死臭に気が付き、話し合いどころではなくなるだろう。
 さらに厄介なことに、ソリテールは自ら率先して人と関わろうとする。放っておけばまたクロノ達のような対主催の集団と衝突するのが目に見えていた。
 そうなれば、所詮捨て駒である自分の命など幾つあっても足りないだろう。

342流星(後編) ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:15:05 ID:B5BlURGQ0

「どうせ私のことも切り捨てるつもりだったのでしょう? お互い様、というものです」

 これは合理的思考に基づく選択。
 この場でソリテールを始末することは自分の身を守ることに繋がり、そして勝利にも繋がる。
 仮にもしも、万が一にでも主催に反逆出来る可能性が見い出せたのならばそれに乗じることも自分一人だけならば出来る。その為にソリテールの首輪も回収した。

 実力で勝ち進めるなど不可能。
 二人かがりとはいえ大敗を喫したばかりなのだ。参加者の大半は自分と同等以上の力を持っているとみていいだろう。
 ならば知恵を、言葉を活かそう。まずはクロノたちのような殺し合いに乗っていない者たちの集団に紛れ込む。
 幸いにもこの負傷は人間の同情を買うにはうってつけだ。

(中央ならば恐らく人が集まるだろう。ここからであればアレクサンドリアに向かうのが無難か)

 ぶらりと垂れ下がる左腕を摩り、北を目指す。
 揺るぎない精悍な顔付きは、つい今しがた大魔族を殺したばかりだというのにまるでなんの感慨もない。
 胸が空くような晴れやかな気持ちも、同族を殺めた罪悪感も、何も湧かない。

 魔族とはそういう生き物なのだ。
 

【F-5/アリスドーム近辺/一日目 黎明】
【リュグナー@葬送のフリーレン】
[状態]:ダメージ(中)、左腕骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ソリテールの首輪、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残る。その為には乗っていないフリをした方が賢明か。
1.アレクサンドリアを中心に探索し、対主催のグループに潜り込む。
2.フリーレンの弟子(フェルン)に限らず、自分を知る者は早めに始末したい。
3.自分に不都合でなければアウラ様やリーニエと合流したい。マハト様は保留。
4.ネモのような『魔物使い』の情報を探す。魔物を使い、此方の戦力増強を図る。
5.名簿の『魔王』様は別人、グラオザーム様が主催陣にいるのか?

※参戦時期は身体に大穴を開けられ、フェルンにトドメを刺される前です。(魔力の欺きの話をした後。)
※会場は全て幻覚で、主催陣に【七崩賢】の一人、《奇跡》のグラオザームがいると予想しています。
※アリスドームを探索しました。どのような情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。

343 ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:15:29 ID:B5BlURGQ0
投下終了です。

344 ◆NYzTZnBoCI:2025/02/04(火) 15:24:13 ID:B5BlURGQ0
すいません、リュグナーの状態表なのですが抜けがあったため以下に修正致します。

【F-5/アリスドーム近辺/一日目 黎明】
【リュグナー@葬送のフリーレン】
[状態]:ダメージ(中)、左腕骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ソリテールの首輪、不明支給品1〜3、ソリテールの不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残る。その為には乗っていないフリをした方が賢明か。
1.アレクサンドリアを中心に探索し、対主催のグループに潜り込む。
2.フリーレンの弟子(フェルン)に限らず、自分を知る者は早めに始末したい。
3.自分に不都合でなければアウラ様やリーニエと合流したい。マハト様は保留。
4.ネモのような『魔物使い』の情報を探す。魔物を使い、此方の戦力増強を図る。
5.名簿の『魔王』様は別人、グラオザーム様が主催陣にいるのか?

※参戦時期は身体に大穴を開けられ、フェルンにトドメを刺される前です。(魔力の欺きの話をした後。)
※会場は全て幻覚で、主催陣に【七崩賢】の一人、《奇跡》のグラオザームがいると予想しています。
※アリスドームを探索しました。どのような情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。

345 ◆RTn9vPakQY:2025/02/05(水) 22:52:20 ID:uogqzE.s0
皆様投下乙です。
拙作「tan1°は有理数か」において、状態表に不備を発見したので、以下の通り修正します。
修正箇所は“ボタンの基本行動方針”及び“ニンフィアの説明”です。

【ボタン@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:健康、不安(小)
[装備]:イーブイのバッグ@ポケットモンスター バイオレット
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ニンフィア)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品(確認済み、0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いから脱出する。
1.ジタンとテーブルシティへ向かう。
2.アオイをはじめとする知り合いとの合流を目指す。

※参戦時期は少なくとも「スターダスト★ストリート」終了後です。


【支給品紹介】
【モンスターボール(ニンフィア)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット】
ボタンに支給されたニンフィアとテラスタルオーブ。
テラスタルタイプはフェアリー。特性はメロメロボディ。

wikiも上記の内容で修正させてもらいます。

346 ◆Ok18QysZAk:2025/02/09(日) 21:05:00 ID:STrz0gp.0
申し訳ありません。
予約を延長します。

347 ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:53:14 ID:MG5/ylOs0
>>最後に愛は勝つ
Ibのモノローグ風に装飾した黒の語りが巧すぎる。
古砂夢を愛していた。そんな事象ひとつを描くのに、世界への嫌悪感を自然に添えているのがすごく綺麗だなと。
古砂夢主催の狙いのひとつが彼をマーダー(そして対となる姫浦世良を対主催)にすることだったんですが、それを十二分に叶えてくれた作品でもありました。純粋な戦力としては、支給品を失ったのも相まって劣りそうな現状ですが、演出込みで登り詰めていく予感。
次の時間帯に進む頃には夢はすでに消滅しているという事実。この話が投下された当時はどこにも吐き出せない感情でいっぱいでした。


>>黒の夢
傍から見ればスタイナーという前例があったにもかかわらず無謀な抵抗をして死んだクラベルですが、その意図を汲んで敬意を表するところ、何気ない描写ですがすごくクオードらしくて好きです。他人の良いところを探すのが上手いところ、部下たちからも慕われていたポイントだなあと。
テーブルシティ周りは第一回放送前後くらいの時間帯で大きな戦いが起こりそうな予感があるので、そこでどう立ち回るか(または先に離脱できるか)で今後の活躍が大きく左右されそうですね。

>>tan1°は有理数か
オープニングのクラベルの補完が綺麗。
それで罪悪感を抱いているのが、クラベルの本意ではないかもしれませんが、ボタンらしいところですね。
ボタンを一度突き放し、やりたいことを考えさせる下りが好きです。こと命がかかっている案件では、本人の意思よりもまず生き残れるかどうかを厳しく測っていて、ブルメシア編のダガーへの言葉を思い出しました。
(名前の語呂的にも)いいコンビになりそうで、向かう先が楽しみです。

>>優しくしたいから、僕らは繋がれない。それでも
岬一についてゾキが言及していた「優しさ」という属性を藤波木陰と結び付ける発想が、なんといっても目からウロコでした。
すごいキズぐすりへの反応など、シリアスの中でもちょっとシュールギャグに寄るIbっぽさだったり、他人と関わることに一定の敷居を設けているひとりぼっちの地球侵略らしさの滲む描写だったり、それぞれの世界観が調和していて、その会話が小刻みな相槌などを挟みながら進んでいくので、読み進めていて心地良い話でした。

>>流星
魔族の領域である空の話や、戦士と魔法使いと距離の話。とにかく葬送のフリーレンの味が至るところに詰まった戦闘、めちゃくちゃ好きです。
リュグナーの「イカれている。」がまさにその通り過ぎて。
会話という形の文字列を出力しながらも何だかんだ見破られていて窮地に陥るの、「まあ魔族ってこういう生き物だよな……」と何度も思わされながら、最終的にクソみたいな奢りと油断で格下相手に殺されるの、「魔族ってこういう生き物だよなぁ〜!」とスタンディングオベーションでした。確かに原作でも、フェルンにひと目で暴かれているソリテールより、戦いになってもなお説得を続けたリュグナーの方がステルスマーダーとしての立ち回りが上手かったなあと。




遅くなってしまい申し訳ございません。
投下致します。

348わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:54:00 ID:MG5/ylOs0
「……ま、分かってたわ。」

 と、全貌が開示された名簿を、ゼイユはつまらなさそうにザックの中にしまい込んだ。

 そこに弟の――スグリの名前が刻まれていたことなど、先の予測――否、確信の範疇。ブライア先生のフィールドワークの手伝いに専念しており、学園での実績は大して大きくない。そんな自分が、ブルベリーグチャンピオンのスグリの存在無しにこんな催しに呼ばれる理由なんてない。
だから、今起こった事象としては、在るべくして在った名前を名簿の上に認めたというのみ。今さら、乱される心なんてない。

 そう、思っていたのに。

 ふとした瞬間に頭の片隅に過ぎるのは、弟の影。名簿が公開される時が近付いてきてから、その頻度が明らかに上がっている。理屈の上では納得していても、家族を心配する気持ちは理屈ではないのだろう。

「……アンタは? アナムネシスの方はいなかったみたいだけど。」

「……ああ。だが、小衣さんがいたようだ。」

 不動寺小衣。辺獄の代行者として千と共に戦ってきた仲間だ。その一方で、アナムネシスへ復讐を誓っている、千の家族から見たら宿敵でもある。

 家族という括りで招かれている自分たちと、仲間という括りで招かれている千たち。ある程度の知り合い関係を基に参加者が選出されているのだろう。

「やっぱ趣味悪いわよ、このゲーム。」

「それは……そうなのだが……。」

 千の反応に、どことなく感じる歯切れの悪さ。どうしたのか問えば、答えは伏し目がちに返ってきた。

「いや、大したことじゃない。ただ、あたしに……それをどうこう言う資格なんてないと思ったんだ。」

「どういうこと?」

「幽鬼であるアナムネシスがこの場に巻き込まれておらず、小衣さんが巻き込まれていて、辺獄の管理人の代行者は全員連れ去られていることが分かった。代行者のいない辺獄ではもしかしたら、アナムネシスに限らず、幽鬼が暴れているかもしれない。」

 代行者とやらの重要性はイマイチピンと来ないが、千の切羽詰まった様子を見るに、一大事なのだろう。

 だが、千の動揺はそこではなく。

349わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:54:16 ID:MG5/ylOs0
「だというのに……あたしは、喜んでしまった。元の世界で幽鬼が放置されている現状だとか、それ以前に仲間が巻き込まれていることへの心配とか……そんな一切合切よりも先に、アナムネシスが……母さんがここに招かれていないことを、安心してしまったんだ。」

 それは、千にとっては許せない裏切りのようなものだった。秩序を――正義を、優先順位として二の次に置くなんて、許されていいはずがない。

「自分が情けなくなるよ。あたしが掲げてきた正義とは、こんなに容易く揺らぎ、崩れてしまうものだったのかと。」

 確かに、小衣さんに剣を向けた地点で、すでに手遅れだったのだろう。それでも些か時間を置いて、ゼイユという客観的な立場の第三者を交えた討論の上で抱いた気持ちが、"これ"なのだ。まるでそれがあたしの本性だと突きつけられたような心持ちにさせられる。

「……あたしさ、ここに来てる地点で、元の世界では行方不明になってるわけでしょ?」

 そんな千に対し、ゼイユは話し始めた。

「友達とか先生とか、色んな人に心配かけてるし、騒ぎにもなってると思う。
 ……辺獄ってとこの騒ぎとは規模とかそーゆーの? が違うかもだけどさ。」

 特にスグまで呼ばれているとなれば、キタカミの方にも連絡が入っているかもしれない。きっと、じーちゃんもばーちゃんも、今ごろ心配していることだろう。

「だけど、あたしがここに来て最初に考えたこと、何だったと思う?」

「……例の弟の心配、とか。」

「まさか。あたしは何よりもまず、自分の身が心配だったわよ。」

「……それは。」

 目の前で、2人もの人が死んだ。
 そんな光景を前にして、家族の心配を真っ先に思い浮かべるなんてことは、できなかった。
 あたしはそんな聖人君子なんかじゃない。

「それを悪いなんて言わせないわよ。今でも、あの城での出来事を思い出すだけで手が震える。
 でも、だからこそ……自分の心配よりも先に、家族とか正義とか、そーゆーエクストラに気が回ってるアンタがウジウジするの、あたしは認めないから。」

「……そうか。そうかも、しれないな。
 少し、楽になったよ。ありがとう。」

 互いの強いところも、弱いところも。
 普段は見えない側面を曝け出しながら、会話がてら困難に立ち向かう現状に、どこか懐かしさを覚える千。

 だけど、その憂愁の影にチラつくのは――それを裏切り、自ら捨て去った過去でもあった。

350わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:54:37 ID:MG5/ylOs0



「ギエッヘッヘ……ビネガー・チャ〜ンス!」

 千とゼイユは、考え事により周囲への警戒が一時的に弱まっていた。また、会話をしていて、音が周囲に漏れていた。

 その両要素が重なったことにより、ビネガーは二人より先に、相手を発見することができていたのだ。

(さて。あの二人はどうやら魔族ではないようだが……もしかしたら魔王を倒す戦力になるやもしれん。見極めたいところだが……)

 ビネガーの傍らに控えるは、2体のスケルトン。
 それは支給された死体を魔物に加工したものであり、まだその実力も未知数だ。

 死体の鍛え上げられた肉体を見るに、相応の手練であったことは間違いないだろうが、力だけならばガルディア軍にも中々の手練はいた。

 スケルトンの試運転と、相手を見定める必要性。
 その二つの目的を果たすためにも、まずは自分は姿をくらませたまま、襲撃してみるのが最善か。

(よし、行け、スケルトン共よ!)

 小声で命令を下し、自身はサッと近くの木陰に隠れて様子を伺う。命令を受けたスケルトンは、二人の参加者に向けて悠々と進軍を開始した。

351わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:55:02 ID:MG5/ylOs0



「な、なんだこいつは……!」

「ちょっと、ヤバイんじゃない!?」

 突如として目の前ににじり寄ってきた2匹の骸を前に、恐怖と困惑を露わにする2人。
 死後の世界である辺獄で幽者も幽鬼も幾度となく目にしてきた千だが、それらと比べてなまじ人の形をしている分、生々しさという生理的嫌悪感を掻き立てる。
 ゼイユの側も、言わずもがな。ポケモンの辞書にゴーストはあれどアンデッドは無い。

(ゲヒヒヒ……ビビっておるビビっておる……。)

 物陰に隠れたビネガーが、聴こえてくる悲鳴にニヤリと下卑た笑いを零す。憎き人間どもの恐れおののく姿を見ることの、何と心地よいことか。
 スケルトンのみで倒せるような相手なら、殺して支給品を奪えばいい。
 一方で、もしスケルトンでは勝てないくらいの相手なら、魔王を倒すために味方につけたいところだ。

(さあ、どう凌ぐ人間どもよ。スケルトンの実力を測りがてら、キサマらの実力も測らせてもらおう。)

 手を口元に当てて漏れ出しそうになった笑い声を抑えるビネガー。彼は今、とても機嫌が良かった。開示された名簿には、マヨネーもソイソーも載っていなかった。かつての魔王軍の三幹部の内、呼ばれていたのは自分だけだったのだ。

 つまりその二人よりも、自分には呼ぶだけの価値がある、と。ヤツらよりは魔族を率いる大魔王の座に相応しいと、見なされたということ。

 その結果が殺し合いを強制させられている現状なことに不服はあるが、それはそれとして同期の2匹を出し抜いてこの場に呼ばれていることに対し、ある種の優越感も沸いてこようというものだ。

「来るぞ!」

「しかたないわね……ヤバソチャ!」

 スケルトンの背後に潜む人影に気付かないまま、2人は応戦体制へと移行する。

 最前線に躍り出たのはヤバソチャ。
 出てきた瞬間、目の前に現れた人間ともポケモンとも言い難い存在に驚いた様子を見せるが、それが意思を持ってゼイユへと襲いかかっている現状を認識するや否や、彼女や千を庇うように前へと立ち塞がった。

「シャカシャカほう!」

 体内で生成された超高温のお茶を2体のスケルトン、両方に向けて放つ。濁流の如き水圧で呑み込み、勢いを失った骸の前に立つのは、両手に業物を携えた代行者。不意をつかれた襲撃であったが、迎撃の準備はすでに整った。

「千、後ろの敵を任せてもいいかしら?」

「ああ。確かにできるが……。」

「じゃ、ヨロシク。」

「わかった。任せてくれ。」

 敵の内1体は後方に位置していたため、シャカシャカほうで与えたダメージが小さい。弱っている方を先に潰し、敵の手数を減らす方が効率的なのではないか。そんな疑問が湧きつつも、味方の予想外の動きをして連携を乱してしまう方が戦闘においてはリスクだ。大地を蹴って、一瞬の内に後続の敵に肉薄する千。

 その両の手に握るのは、彼女の黒を基調とした思装と色合いがマッチした、黒々しく煌めく鎌。使い慣れた双剣とは異なる戦闘スタイルにやりづらさを感じつつも、軽く手に馴染むその業物は、まるで元から彼女の手に納まっていたかの如く滑らかに、スケルトンに大きな裂傷を刻んだ。

352わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:55:22 ID:MG5/ylOs0
(さすがに一撃では厳しいか。)

 反撃に繰り出された鉤爪を鎌でガードして防ぎつつ、横目でもう一体のスケルトンを警戒。先のシャカシャカほうで「やけど」を負っているらしく、心なしか動きが鈍く、攻撃力も落ちているように見える。それでも、その鉤爪の鋭さは健在である。それは、紛れもなく千にとっての脅威だった。自身に向かうその鋭利な業物の、その先――ヤバソチャが目に映るその瞬間までは。

「ヤバソチャ。還るべき土の味……思い出させてやりなさい!」


 ――たたりめ


 手負いのスケルトンを禍々しい霊力が包み込む。次の瞬間には、全身に回っていたやけどによる熱量が再びその勢いを増して、骸の全身を蝕んでいく。

 それはまさに一瞬の妙技と言うべきだろう。生命力という肉体の限界を超え、耐久力に優れるスケルトンという種族が、その一撃に呑まれた瞬間に活動を停止し、その場に物言わぬ骸となって崩れ落ちた。ポケモンのタイプに当て嵌めると「ゴースト」に位置するスケルトンなればこそ、霊的な力の効果は抜群に大きい。

(たった一撃で……だからあたしに後続の敵を狙わせたのか。)

 2対2――"ダブルバトル"におけるゼイユの判断力に舌を巻きながら、改めて自身が請け負った目の前の敵に向き合う。

(あたしも、負けていられないな。)

 踏み締めた左脚を軸に、右回りに回転しつつ、遠心力を利用して踏み込む。

「この一撃で……断ち切るッ!」

 斬撃が風の刃の塊となって飛んでいくほどに勢いよく振り抜かれた鎌。周囲に風切り音が木霊した次の瞬間、残ったスケルトンの身体は上下に両断されていた。

「……っ!」

 その瞬間に、何かに驚愕したかのように見開かれた千の目に気付かないまま、ゼイユは駆け寄る。

「ふう、やったわね、千。」

「……いや、まだだ。」

「え?」

 千はまだ、緊張感ある面持ちを維持している。困惑半分に、ゼイユは事情を問いただす。

353わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:55:48 ID:MG5/ylOs0
「まだこのゾンビたちを操っている者がどこかにいる。」

「操ってるって……ポケモンみたいに?」

 情報交換の中で、ポケモンとは何かについては説明済み。千とゼイユでその概念の共有はできている。だが、千は首を横に振った。

「……ポケモン、ではないだろう。どちらかと言えば、あたし達の知るところの魔物――幽者や幽鬼に近いだろうな。」

「……どういうこと? 頭の輪っかみたいなの、なかったけど。」

 同様にゼイユも、千が辺獄という世界で戦ってきた幽者や幽鬼について、情報交換を受けている。見分け方として、頭に天使のリングのような輪っかがあるという特徴も聞いている。だが、今しがた襲ってきたスケルトンは、そのような特徴は有していない。

「あたしがコイツを斬ったその瞬間、思念が流れ込んできたんだ。
 ……と、すまない。思念のことまでは説明していなかったか。」

 千は手始めに、思念とは何かの説明に移る。
 それが本題では無いため、簡易的な説明だ。

 要約すると、思念とは、かつては人間であった幽者・幽鬼の魂を浄化する際に代行者の頭の中に滲み出る、彼らの生前の記憶のようなもの。ヨミガエリを求める幽鬼たちの生きたい理由を、代行者は思念を通じて知ることができる。

「つまり、あのゾンビたちは元は人間だったということだろう。つまり……元からそういう生物であったポケモンよりは、幽者や幽鬼に近い存在だと思う。」

「……だとしても、ゾンビたちを操ってるヤツがいるって話にはならないでしょ。
 その思念とやらの中身に関係があるわけ?」

「……ああ。強く、強く流れ込んできたよ。
 怒り、憎しみ……。
 それも、洗脳され、支配されることへの強い抵抗として、だ。」

 負の感情が、様々に入り交じっていた。
 強い意志を胸に宿し、狂いゆく己の感情に必死に抵抗しながら、闘志を、尊厳を、そして命を奪われる無念に苛まれていた。

「あのゾンビを操っている者は或いは、あたしたちの様子を今も伺っているかもしれんな。」

354わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:56:08 ID:MG5/ylOs0
 千の予測は半分当たり、しかし半分外れていた。

 千が見たスケルトンの記憶は魔王直属の幹部、七崩賢が一人、断頭台のアウラによって殺された北側諸国の勇士たちのものだ。洗脳に抗う思念も、彼女の魔法「服従させる魔法(アゼリューゼ)」に由来する記憶である。その点で、千は思い違いをしている。

 だが、実際に彼らを傀儡化し操っている魔族は存在しており、また、現在進行形で千たちの様子を伺っているのも確か。そんな監視者にとって、千が口頭で発した指摘は、正しいものでしかない。

 ゆえに、その会話を聞いていたビネガーは思うこととなる。

「なぜバレた!?」

 小手調べとばかりに差し向けたスケルトンが、予想の10倍早く処理されてしまい、さらには己の存在にまで気付かれてしまう始末。何もかもが想定外だ。

 しかも、驚きのあまり言葉が口をついて出てきてしまった。なれば当然、注意深く周囲を警戒していた千たちの次の言葉も決まっている。

「……そこに誰かいるのか!」

「し、しまった! ビネガー・ピ〜ンチ!」

「あっ、逃げたわ! 捕まえてシメあげるわよ!」

 事態は大きく反転していた。
 物陰から付け狙う側だったビネガーは、今や2人に追われる羽目に。また、スケルトンの襲撃に翻弄されてきた2人は、その襲撃者を突き止め、追跡している。

(グフフフ……だが、逃げに転じてからがビネガー様の本領よ。)

 ここに呼ばれる前、魔王たちを相手取った時もそうだった。

 次々に移動する戦場に、魔王一行はなかなかワシの下に辿り着けなかった。挙句、宝箱とギロチンの罠に嵌めては大きく消耗を促した。
 マヨネーとソイソーが、(ワシほどとは言わずとも)あと僅かにでも強ければ、ヤツらを討ち取れていたに違いないだろう。

 そんなビネガー様が、逃げながらもじわじわと追跡者の2人をなぶり殺しにするための、知略と暴力のぶつかり合い……とくと見るがよいわ!

355わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:58:09 ID:MG5/ylOs0
 【D-3/森/一日目 黎明】

【大魔王ビネガー様@クロノ・トリガー】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、アウラに操られた首無し死体@葬送のフリーレン×8、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:魔族の未来のために優勝して生還する。
1.魔王を孤立させるべく悪評を振りまく
2.協力者になり得そうな参加者を探す
3.最期は己の手で魔王を始末したい

※参戦時期はビネガーの館でネコにトラップのスイッチを押された直後からです。
※現在進行形で転んでいます。





 


「――ぬわっ!?」






 足元に、僅かな段差。
 それに躓いた大魔王ビネガー様は重力に任せるまま呆気なく倒れた。

356わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:58:53 ID:MG5/ylOs0
「今だっ!」

 その致命的なタイムラグは、元より足の速い千が追い付くには十分な時間だった。むしろ、仮に転んでなくても追いついていただろう。

 かつて主と仰いだ魔王の扱っていた業物と同じ形をした、恐怖の象徴が目の前でギラリと妖しく光る。魔王に捨てられてからは、大魔王を名乗り始めたビネガー。しかし禍々しい鎌を両の手に備えた眼前の少女の方が、より大魔王らしき風格を持っていた。

「よくやったわ、千。コイツがさっきのゾンビたちを操っていたのね?」

 そして後から追いついてきた少女は、拳をわなわなと震わせながら鬼のような形相でビネガーを睨み付けていた。目を逸らそうものなら即座に鉄拳制裁が飛んでくる。その確信が、ビネガーを震え上がらせた。

「……ま、待つのだ!」

 生存本能が喉から出てきたかのように、必死に叫んだ。

「ワ、ワシは……ワシは……」

 次の言葉なんて、考えてなどいない。
 思いつきのままに、ここから助かるための言葉を必死に手繰り寄せる。

「……そう、ワシは……殺し合いに乗る気などないのだ!」

 なまじ殺し合いに乗っていないフリをする計略も立てていたからこそ、その言葉が引き出しの最も手前側に落ちていた。とはいえ、スケルトンを用いて先制攻撃した手前、どう取り繕っても無理がある。事実として、自分を見る2人の目は訝しげなものでしかなかった。

「じゃあ何故あのゾンビたちを差し向けた。」

「あんまり変なウソつくと舌引っこ抜くわよ?」

「ぐっ……そ、それは……」

 ここで、言葉に詰まるビネガー。

 元々殺し合いに乗っているのだから、言葉と行動に矛盾が生じている。そこに整合性など、あるはずもなく。

(何故殺し合いに乗ったのか、か……。)

 中途半端な嘘は通用しないだろう。
 何を言おうとも真っ先に疑いの目が向くだけの前提が整っている。

 ああ、ワシはここで終わるのか。大魔王として大成する野望も果たせず、魔族を裏切った魔王への復讐もままならず。

 マヨネーやソイソーとも再会できぬまま、ただ1人ここで朽ちていく。

 ああ、そうか。ワシは――

357わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:59:25 ID:MG5/ylOs0



「――こわかったのだ。」



 魔王がいなくなってから、人間と魔族の戦いは一気に劣勢に傾いた。このまま戦いが続けば、いずれ魔族は負けるのだろう。そうなれば……魔族の子供たちはどうなる?

「魔王に与した魔族が、人間と過ごしていくことなどできぬ。迫害され、討伐され……」

 そんな未来を、子供たちに残したくなかった。

「……生き残るためには、戦うしかなかったのだ。」

 それは、飾ったウソなどではなく、心からの言葉だった。夢中で何を言ったかもあやふやなまま、ビネガーはそっと2人の顔色を伺う。

「よく分からないけど……まぞくとやらのアンタは人間に嫌われてるから、殺される前に先制攻撃したってわけ?」

「……あくまで緊急避難を主張するというのだな?」

 2人の口調が、低く、冷たいものへと変わっていく。厳かに立つその姿は、まるで審問官を前にしているが如き威圧感を放っていた。

 ビネガーの頬に、つうと一滴冷や汗が流れる。次に2人がいかなる言葉を発するのか――


「――そんな言い訳が通ると思ったか! 因果応報ジャッジメント!」

 黒装束の女が、なんかすごい斬撃を繰り出した!


「――しばきにしばき倒してお茶の肴にしてやるわ!」

 青い女の連れた魔物が、なんかヤバい粗茶を吹き出した!


「ギ、ギエエエエェッ!」



【ビネガー@クロノ・トリガー フルボッコ】

358わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 01:59:55 ID:MG5/ylOs0
(となるに違いない……!)


「アワワワ……」

 数秒後に来たるおしおきを前に、ブルブルと震えながら執行者の答えを待つことしかできなかった。


「……一理あるな。」

「結果的に怪我人もいなかったしね。もう攻撃してこないって約束するなら、さっきの狼藉は許してやらんでもないけど。」

 返ってきたのは、意外にも寛大な答え。

 千の手を止めたのは、アナムネシスの一件だった。
 本来、幽者や幽鬼――理に反するものを断ち切るのは、千の抱く正義であり、信念である。ビネガーの属する魔族というものも、人の理の外にあるもの。千にとっては、打破すべき対象だと見なせるのだ。

 だが、その正義を貫くことを、千は辞めてしまった。家族を護りたい――その衝動が、かつて小衣の前に千を立ちはだからせた。

(こんなあたしに、他者を裁く権利なんてない。そうだろう、ソクラテス。)

 一方のゼイユ。
 彼女にとっても、自身の常識の外の存在――よそ者は、排斥して然るべきものだった。

 そんな彼女の価値観を変えたのは、アオイとの出会い。疾風怒濤の勢いでやって来ては、変化のなかったキタカミでの生活に大きな変革をもたらした少女だった。

 人間と魔族にどのような事情があって一触即発の状態にあるのかなんて、ゼイユには分からない。だけど、行いの表側だけを見て善悪を判断しようとすれば――或いは、間違いだって起こり得る。スグの憧れるオーガポンを、村単位で悪として扱っていた、伝承の歪み。

(変わってしまったスグに、孤独感を与えていた最初のきっかけはきっと……自分の常識の外にあるものを悪として扱っていたところにあるのかもしれないから。)

 両者ともに、想起するのは家族の姿。
 そのような経緯を辿ってきた2人に、ビネガーを罰しようという者はいなかった。

 人間の、優しさというものに、初めて触れたビネガー。人間と魔族の致命的な断絶を解消する、何かが生まれたのかもしれない。

(ゲッヘッヘ……よく分からんがコイツらがバカで助かったぞ……。ビネガー・ラッキィ〜!)

 でも別に本人は反省とかしてないのでそうでもないかもしれない。

359わるまぞくめ、そこになおれ ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 02:00:18 ID:MG5/ylOs0
【D-3/森/一日目 黎明】

【恵羽千@Crystar】
[状態]:迷い(大)
[装備]:大魔王の鎌@ドラゴンクエストXオンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:分からない。
1.私の正義は……なんだ?
2.小衣さんや母さんがいたら、どうする?
3.零達に会うべきなのだろうか。
4.ビネガーに警戒。

※一週目、アナムネシスを庇った後からの参戦です。
※ゼイユと情報交換しましたが、アオイ以外は殆ど把握できていません

【ゼイユ@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:夢への怒り(特大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ヤバソチャ)&テラスタルオーブ(草)@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品×1〜3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:夢をぶっ飛ばす。
1.この子(千)のこと、どうしよう。
2.アオイやアオイの知り合いを探しておきたい
3.スグ……やらかすんじゃないわよ。やらかしてたら姉の意地を見せてやるわ。
4.ビネガーに警戒。

※参戦時期はゼロの秘宝で少なくともアオイと再会してます。
※名簿になくてもスグリがいると確信してます。
※千と情報交換しました。

【モンスターボール(ヤバソチャ)&テラスタルオーブ(草)@ポケットモンスター バイオレット】
ゼイユに支給されたヤバソチャとテラスタルオーブ。
ゼイユの所持しているヤバソチャと同じ個体。

【ビネガー@クロノ・トリガー】
[状態]:健康 足に擦り傷
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、アウラに操られた首無し死体@葬送のフリーレン×8、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:魔族の未来のために優勝して生還する。
1.魔王を孤立させるべく悪評を振りまく
2.協力者になり得そうな参加者を探す
3.最期は己の手で魔王を始末したい

※参戦時期はビネガーの館でネコにトラップのスイッチを押された直後からです。

【支給品紹介】
【大魔王の鎌@ドラゴンクエストXオンライン】
恵羽千に支給された武器。
本編で手に入る同名の武器は、攻撃力+1の効果しかないおしゃれ装備であるが、本ロワにおいては、ver5.3のムービー内における勇者姫アンルシアとの戦闘で破損した、オリジナルの武器である。そのため、見た目に違わぬ攻撃力を有している。

360 ◆Ok18QysZAk:2025/02/18(火) 02:00:41 ID:MG5/ylOs0
以上で投下を終了します。

361◆qYC2c3Cg8o:2025/02/19(水) 21:03:04 ID:???0
ガーネット、黒のワルツ3号(サラマ)、フトゥーAIで予約します

362◆qYC2c3Cg8o:2025/02/26(水) 20:30:43 ID:???0
>>361の予約延長します

363◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 00:52:31 ID:???0
投下します

364◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 00:55:00 ID:???0
主の帰還にも関わらず、その城は静まり返っていた。
会場のほぼ中央にそびえるアレクサンドリア城、その廊下には2人の足音だけが寂しく響いている。

仲間との合流を目指しこの城を訪れたガーネットと黒魔導士サマラ。
2人はこの殺し合いの始まりの場所である大広間に向かっていた。
そこには、最初の犠牲者となった2人――護衛隊長スタイナーと、名簿によればクラベルという名の老人――の死体があるはずである。
この両名をそのままにしておくには忍びない、せめてその遺体を安置したいとダガーが希望した為だ。

廊下が途切れ、大広間へ。
ここに、殺害された2人の無残な死体が転がっている。そう予想していた2人の目に飛び込んできたのは、意外な光景であった。

「ムッ」 「これは……!」

部屋の中央に痛々しく焼け焦げた体が横たわっている。だが、その姿はダガーやサマラが想像していたものとは違っていた。
腕は胸の前で組まれ、瞼は閉じられている。簡素ながら弔いを受けた彼らは、遠目には眠っているかのようにも見えた。
恐らくは、彼らを悼んだ他の誰かの手によるものだろう。
それが誰なのかは2人に知る由はない。だが……

「サマラ! どなたか分かりませんが、探しましょう! まだ城の中にいるかもしれないわ!!」

死者を悼むことができる人間ならば、殺し合いに反抗する意志を持っている可能性が高い。
そう判断したダガーは、サマラと共に城内を駆け回り、死者を弔った者の探索を開始した。

だが、結論から言えばこれは空振りに終わった。
それを行ったのはダガーと最も縁深き仲間であるジタンであったが、同行者となったボタンと共に一足違いでこの場を去ってしまっている。
暫くの後、城内には誰も居ない、と知ったダガーとサマラは、やむなく大広間に戻った。

365◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 00:55:48 ID:???0

「残念ですが…… もういないようですね」
「だが、無駄足ではなかったぞ、ダガー。城内に味方は確かにおらなかったが、敵もおらぬことが分かった。
 襲撃の恐れが無いと分かっただけでも良しとしようではないか」
「……気を使って頂いたのですか?」

サマラの返答に、ダガーは驚きを覚えた。
はっきり言ってしまえば、彼はもう少し冷淡・冷徹な性格だと思っていたが。

「?? 我は事実を言っただけだが」

だが、当のサマラにもその自覚が無いらしい。
人間と黒魔導士兵という異なる者同士の、どこか噛み合わない会話。
だが、その中にもダガーはどこか心地よさを感じ、

「それでも、ありがとうございます」

そう言って頭を下げた。
何故礼を言われたのか分からぬ、という顔をしているサマラに、ダガーは続けて言った。

「じゃあサマラ、もう一仕事お願いしてもいいかしら。
 スタイナー達を、どこか別の場所で休ませてあげたいの。冷たい床の上に寝かせておくのも忍びないので」



366◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 00:57:13 ID:???0
ダガーの希望に従い、2人の遺体を警護室に運ぶことにした。
特に鎧を着こんだスタイナーを運ぶのは2人掛かりでも骨ではあったが、幸い時間はあった。

警護室のソファーに2人の死体を横たえさせると、ダガーの胸に改めて悲しみの感情が湧き上がってきた。

「スタイナー……」

時に彼の堅苦しさ、頑固さに煩わしさを感じたこともあった。
だが、それは心の底から自分を案じていたからこそであることは、今の自分には分かる。

「お二人の死は決して無駄にはしません。どうか安らかに」

鎮魂の祈りを捧げるダガー。一方、彼女の傍らに立つサマラの眼には感傷の色は無かった。
黒魔導士兵であるサマラにとって、死者を悼むという行為に共感はできないが、人間にはそれが必要であることは理解している。
敢えて何かを言うつもりはない。
だが、ダガーの護衛という任務の為、黒魔導士兵ゆえの冷徹さを以て、いまだ正体の分からぬ老人―― クラベルの死体を見つめている。

そして、ダガーが祈りを終えたと見計らうや、彼は口を開いた。

「ダガーよ、この老人を検分しても構わぬか。この者が何者なのか知りたい」
「検分、ですか?」

その言葉にどこか冷たい響きを感じたダガーは、眉をひそめて聞き返す。

「それは、この方を観察するだけで済みますか。傷つけることはありませんか」
「必要ならば、それも止むを得ぬ」
「なら、認められません」

険しい表情のダガーを前にサマラは考える。
これが姫としての"命令"ならば、いかなる非合理なものであろうと従わなければならぬ。
しかし、今の彼女は"姫"ではなく"ダガー"と己を呼べ、と言った。
自分を仲間として対等に扱え、と。
……では、こんな時、仲間ならどう言うべきなのか。

しばらくの沈黙の後、サマラは再度語り始めた。

「ダガーよ。先ほど我は、お前を姫としては扱わぬと言ったな」
「……ええ、そう言いました」
「ならば、遠慮なく言わせてもらおう」

サマラは改めてダガーに向き直ると、

「お前の考えは、生温いぞ!
 この老人の同郷の者が、我々の敵として現れる可能性は否定できぬ。
 我らの身を守るために、手段は選んでなどおられぬ!
 だから、我は主張する。未知の相手は徹底的に調べ尽くし、脅威への備えとすべきと!」

彼の声は決して大きいものではなかったが、
狭い警護室の中で、さも威圧するように強く響いた。

ダガーは、ただ目を見開き、息を呑んでいる。

367◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 00:57:55 ID:???0
(――――無礼であったか?)

そんな彼女の様子を見て、サマラは己の誤りを疑った。
ダガーを姫としては扱わない、それは彼女自身の希望であった。
だが、そうであってもダガーがアレクサンドリアの女王であるという事実は変わらない。
出過ぎた真似で、仕えるべき主君の機嫌を害したかもしれぬ。

もし、彼女がこれから"命令"を下し、己を叱責すると言うならば、
その時、己も"仲間"ではなく、忠実なる女王の僕、"黒魔導士兵"に戻らねばならぬ――
彼がそう思案していると、

「それが貴方の本音なのですね、サマラ」

ダガーの穏やかな声が耳に届いた。
彼女の表情は、サマラが予想していたものでは全くなかった。
ダガーは微笑んでいた。怒るでもなく、怯えるでもなく。

「……なぜ笑う? 我はお前の意に背いたのだぞ」

「嬉しいからです。
 貴方が遠慮なく、心から必要だと感じたことを話してくれて」

そう言ってダガーは、眠るスタイナーに目を向けた。

「私は、城の外に出て、仲間であるからこそ、時には本音でぶつかることも必要だと学びました」

例えば、ジタンとスタイナーは、主に自分の処遇を巡って何度も何度も衝突した。
だが、その衝突を乗り越えたからこそ、本当の絆で結ばれることができた。

「貴方の先ほどの言葉は、非情なものではありました。
 でも、それは私と貴方が生き延びる為に言ってくれたものだと、私は信じます。
 だから私はこう答えます」

そう言って、ダガーはサマラの瞳を見つめた。

「サマラ。貴方が必要だと思うことをしていいわ。でも、この人の尊厳を傷つけることだけはしないで」

強い瞳だった。それがダガーにとって譲れないものなのだろう。

「…………カカ、カカカカカ!」

本当に強くなったものだ、と思う。
ならば、我もそれに応えねばなるまい。

「ダガーよ、それは"命令"ではなく……」
「ええ、"お願い"よ」
「承知した」

サマラは、心からの敬意を以て一礼した。



368◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 00:58:43 ID:???0
そしてサマラは、クラベルの死体の観察を開始した。
衣服や装飾品は、ダガーやサマラの知るそれとは材質や構造が全く違っている。
文化や技術の違いなどでは説明できない。そもそもの文明レベルから大幅に異なるのだろう。

身体に強く鍛えられた様子はなく、戦士のようにはまるで思えない
ならば、と魔力による探知を試みるが。

「ムウ、魔力も全く感じられぬ。召喚士ならば魔力の残滓くらいはあるはずだが。
 召喚術ではなくモンスターを使役していたということか?
 だが、あのワニのようなモンスターは突然その場に現れたようであったが」

「この方は、あの時、ボールのようなものからモンスターを出していたように見えました。
 あっという間の出来事でしたので、私の見間違いかもしれませんけど」

「この者の近くにあった、これか?」

サマラは、クラベルの傍らに置かれていたモンスターボールを手に取った。

「これにもやはり、魔力の類は感じられぬ。どのようなカラクリなのかもまるで分らぬな」

「私達の常識で考えない方がいい、ということでしょうね。気を付けなくては」


サマラはこの後も調査を続けたが、詳しい情報は得ることはできなかった。
作業を終え、クラベルの死体を整え直すと、ダガーに習って死者に一礼した。

369◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 00:59:26 ID:???0
「では、これからどうする、ダガーよ」
「しばらくは様子を見ましょう。ジタンにビビ、それにベアトリクス将軍はここを目指すと思いますし。
 少なくとも朝まではここにいて、何もなければ高所から周囲の様子を探ってみる、ということでどうでしょうか」
「……ウム、それが最善であろうな」

サラマは同意を示す。戦力となる人物との合流が見込めるうえ、自分達に地の利があるこの城を離れる道理はない。

(あのコソ泥やビビという小僧まで戦力と考えねばならぬのは癪だが、
不確定要素が多すぎる。姫を守るという任務を確実に果たすためには、止むを得ぬ)

サマラは自信家ではあるが、戦力計算もできないほど愚かではない。
不安要素は幾らでもあった。
クラベルのような未知の力の持ち主が襲ってくるかもしれない。
敵が一人であるとも限らない。
ジタンやビビ達も、この城に辿り着くことなく斃れるかもしれない。

……だが、それでも。
そうであったとしても。


「何もなければいいんですが……」

そう不安げに呟くダガーを横目に、サマラは決意を固めていた。

(たとえ我一人であったとしても、いかなる敵が相手だろうと勝利してみせる。
勝ち続けることが我の存在理由。それは、この場においても変わらぬのだから)


【D-5/アレクサンドリア城/一日目 黎明】

【ガーネット(ダガー)@FINAL FANTASY IX 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ダガ―@ FINAL FANTASY IX
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを止め、国へ帰る
1.サラマと行動を共にする
2.ジタンたちと合流したい
3.しばらくはアレクサンドリア城で待機
4.スタイナーとクラベルの死は無駄にはしない
※参戦時期は断髪後〜クリスタルワールドでトランスクジャと戦う間
※召喚獣は、制限により召喚されたら12時間使用不可能
使用可能な召喚獣
シヴァ
イフリート
ラムウ
アトモス
オーディン
リヴァイアサン
バハムート
アーク

【黒のワルツ3号(サラマ)@FINAL FANTASY IX 】
[状態]:疲労(極小)、消費MP(極小)
[装備]: 八角棒@ FINAL FANTASY IX
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:ダガ―を国へ戻すという任務を達成させる
1.ダガ―と行動を共にする
2.ビビ……ふん、小僧よ。次は我が勝つ
3.ジタン……あのコソ泥め。再会したときは、我のエスカッションを返してもらうぞ
※参戦時期は2回目の戦闘を行い死亡後

【支給品紹介】
【八角棒@FINAL FANTASY IX 】
黒のワルツ3号に支給された杖。
一見、変わった形の杖だが、上位魔法のアビリティを取得することができ、また、水・風攻撃を吸収することも出来る。
黒のワルツ3号は上位魔法である(ファイガ、ブリザガ、サンダガ)を使用可能となった。




370◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 01:00:08 ID:???0
アレクサンドリアの城下町に、一人の足音が響いていた。
時計の針が進むかのように正確な間隔を刻むその音は、聞く者がいれば機械の駆動音かと受け取ったかもしれない。
それもそのはず、その音の主は人間ではない。
殺し合いを加速すべく放たれたジョーカーにして、紫色の機械竜を従えし機械人形・フトゥーAI。

主催者の一人、メフィスによる魂の改造により、彼本来の自我は破壊された。
今の彼を形成するは、再生された世界という"楽園"の防衛を至上目的とする、"楽園防衛プログラム"。
殺し合いの舞台で踊る、生き人形達に絶望を。
全ては世界再生の為に。

「座標D-6ノ調査完了。参加者ノ形跡無シト判断」

彼の青緑色に輝く眼が、目の前にそびえる城を見据えた。

「座標D-5ニ到着。コレヨリ、アレクサンドリア城ノ調査ヲ開始スル」

【D-5/アレクサンドリア城前/一日目 黎明】
【フトゥーAI@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:健康 メフィスによる魂の改造後
[装備]:テラパワーアーム@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ミライドン)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:参加者ヲ殺害シ、絶望ヲモタラス。
1.世界再生ノ儀ヲ成功サセル。
2.アレクサンドリア城ノ調査ヲ行ウ。
3.……。
4.フ■■ーA■は■れ■■■うつ■り■■い。

※参戦時期は「不明」です。ザ・ホームウェイクリア後に本ロワオリジナルの経緯を辿った本物のフトゥーAIは、フェレスによって死亡しました。ランダムな参戦時期の状態で記憶存在として生誕後、参戦時期が死亡後だった場合に世界再生の儀を邪魔されることを危惧したメフィスに魂の改造を受けました。

371◆qYC2c3Cg8o:2025/03/05(水) 01:00:52 ID:???0
投下終了します。
タイトルは【鎮魂の城にて】です

372◆qYC2c3Cg8o:2025/03/08(土) 15:59:35 ID:???0
ハノン、タロ、リーニエ予約します

373 ◆Ok18QysZAk:2025/03/09(日) 20:39:32 ID:qeWWdmSM0
ナラジア、幡田みらい、フリーレンで予約します。

>>鎮魂の城にて
戦いに対する認識の甘さと、決意に対する芯の強さの両面が出ていて、すごくダガーらしいやり取りでした。
また、サラマの側は本編に存在しないスタンスなのですが、いったん言葉も選ばずハッキリ言った後、その反応に呆気に取られている様子が、うまく言語化しにくいのですがFF9っぽくて好きです。FF9のグラフィックとUIで脳内再生しやすいみたいな感覚で。
フトゥーAIとサラマ、どう想像しても美味しい対戦カード。どう続いていくのか楽しみですね。

一点、内容の指摘なのですが
本文中においてサラマが「サマラ」と表記されているため、修正してもよろしいでしょうか。

374◆qYC2c3Cg8o:2025/03/09(日) 21:00:35 ID:???0
>>373
感想ありがとうございます!
サラマの人名はミスですので修正をお願いします。

375◆qYC2c3Cg8o:2025/03/15(土) 20:17:43 ID:???0
>>372の予約延長します

376 ◆Ok18QysZAk:2025/03/16(日) 21:05:58 ID:oZ8zyOxQ0
>>373の予約を延長します。

377 ◆NYzTZnBoCI:2025/03/18(火) 21:07:06 ID:GbHaAe6M0
断頭台のアウラ、黄金郷のマハトで予約します。

378 ◆NYzTZnBoCI:2025/03/20(木) 11:45:02 ID:NJk7fVfE0
予約を延長します。

379◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:07:52 ID:???0
投下します

380◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:09:02 ID:???0
「マハト様に、ソリテール様……?」
名簿に新たに浮かび上がってきた名前を目の当たりにして、魔族の少女・リーニエは動揺していた。

直属の上司であるアウラと、彼女を更に上回る力を持つ大魔族が2人。
彼らほどの力の持ち主ではないとはいえ、首切り役人筆頭のリュグナー。
更には、先ほど交戦した大魔族にも匹敵する危険人物・クジャもいる。

自分を遥かに上回る実力者がこれほど多くいるという事実に戦慄する。
策略の一つや二つ練ったところでどうにかなるとは思えない。
その上、自分は先ほどのクジャとの戦いで、決して浅くは無い傷を負ってしまっている。

(いやだ。死にたくない。どうすれば生き残れる……?)


焦燥感に駆られるまま当てもなく歩き続け、D-7エリアに足を踏み入れた時、

(誰かいる……?)

感知したのは誰かの魔力。幸い、先ほどのクジャという男よりは大きく劣る。
単純な魔力総量で比較すれば勝てない相手ではない。
だが、消耗した今の状態ではどうなるか分からない。
念の為ザックから"薬"を取り出し、いつでも使えるようにした上で、様子を見るべく近付いていった。



381◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:10:27 ID:???0

「誰か来たみたいだな」

ハノンがそう言って立ち上がったのは、ダブルバトルを応用した連携を行う為に、同行者のタロと互いの戦い方の共有を終えた直後のことだった。
気配を感じた東の方角に目を凝らす。

「あれは…… 女の子か?」
「えっ! もしかしてアオイさん!? それともネモさんかスグリさんって人じゃ!?」
「いや、違うみたいだ」

女の子と聞いて、新チャンピオンのアオイかその友人かもしれないと一瞬抱いた期待は即座に外れたが、
来訪者の姿を確認した瞬間、そんな落胆はタロの頭の中から吹き飛んでしまうことになる。
何故なら。

「いけない! あの子、怪我してます!!」

"彼女"の姿が目に入った瞬間、タロはそう叫んで駆け出していた。

来訪者は、自分よりもう少し年下のように見える少女だった。
しかし、身に纏う衣服はところどころ焼け焦げ、決して浅くはないであろう火傷や打撲の跡が見え隠れしている。
何者かにより攻撃を受けたのは明白であった。

タロは平和な世界で育った、良識を持った少女だ。
そんな彼女が、"負傷した少女"を目の当たりにして、"巻き込まれた被害者"だと判断するのはある意味必然であろう。
まして、少女が"人食いの化け物"であることなど到底予期すべくもなかった。


他方、来訪者リーニエも近づいてくる者の姿を見てわずかに安堵していた。
あの少女には魔力は感じられず、肉体を鍛えた様子も無い。
恐らくはただの村娘の類。捕食して回復の足しにすればいいかな、と判断。
シュタルクに敗北を喫する前、人間を侮っていた頃のリーニエだったなら、
ここでタロに襲い掛かっていたかもしれなかった。
だが―――

(我慢しないと。もう一人いるはず)

先ほど誰かの魔力を感知していたことをリーニエは忘れてはいない。
目の前の少女が魔力を持たないということは、それとは別に魔力を持つ者がいるということだ。
果たしてその通り、少女の後方からもう一人、小柄な亜人が駆けてきているのを認めた。

大丈夫ですか、と心配げにリーニエに声を掛けるタロとは対照的に、
ハノンはリーニエを見るや表情を緊迫したものに変え、タロの手を取った。

「待つんだ、タロ」

その深刻な声色に、タロは思わず振り返る。
そこにはふわふわと愛らしいプクリポの姿は無かった。
ハノンの瞳は既に戦士のそれに変じ、じっとリーニエを見据えていた。

「離れていてくれ。彼女とは僕が話す」

ハノンとリーニエ、2人の視線がぶつかり合う。
緊迫した空気を感じ取り、タロは戸惑いながらも後ずさりする。

ハノンの警戒心に明確な根拠は無かった。頭に生えた角以外、リーニエの外見は人間の少女と大差ない。
だが、彼女がタロを見る眼には、まるで獲物を見定める肉食獣のような光が宿っていた。
彼女のその眼と異質な気配に対し、数多くの魔物と戦ってきた冒険者としての勘が警告を発していた。


一方、リーニエも初めて見るプクリポという種族に対し、戸惑いながらも分析を行っていた。

(人間の子供、じゃない。ドワーフ……でもない。強そうには見えない。魔力も…… そんなに強くはない)

プクリポという種族の外見は、どう贔屓目に見ても直接戦闘に長けるとはとても思えない可愛らしいものだ。
そして、ハノンの就いている魔物使いという職業は、魔力は有しているもののあくまでも補助の域を出ず、
僧侶や魔法使いといった専門職には及ばない。
単純な魔力量は、アウラ達大魔族や先ほどリーニエが交戦したクジャには全く及ばない。
以上の要素よりリーニエは、ハノンの実力はそれほど高くはない、と判断した。

(警戒されてる。騙し討ちは無理)

そして、ハノンが自分に対し警戒心を持っているには明白だった。
もし魔族(自分たち)がどういった種族か知っている者だとしたら、
あのフリーレン一行のように魔族必殺を旨としている可能性がある。

―――なら、取る選択肢は一つしかない。

そう判断したリーニエの行動は早かった。
魔力で斧を造り出すや否や、ハノンの頭に向けて振り下ろした。

382◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:11:12 ID:???0
「問答無用か!!」

だが、ハノンの反応も早い。
斧を悪魔の爪で打ち払いながら、ハノンは一瞬で戦況を読み取り、同行者のタロに指示を叫んだ。

「タロ、僕は大丈夫だ! 自分の身を守れ! あと、周りに他の敵がいないか警戒するんだ!!」
「は、はいっ!!」

タロは先ほど自分も戦うと言ってくれてはいたが、こんな外見の敵では戦いづらいだろう。
それに、目の前の敵ばかりに気を取られたところを、乱入してきた第三者に襲われるという危険性もあった為、
彼女を後方に下げることを選択した。

では、この敵を自分一人で制圧できるか?
見た目は少女だが、振るう斧の鋭さは熟練の戦士のそれだ。油断のできる相手ではない。
だが、負った怪我を庇う様子を隠しきれていないし、先ほどの奇襲にもどこか拙速な印象を受けた。
その完成度の高い斧技と比べて、妙なチグハグさを感じる。
プクリポという種族が油断を誘いやすい外見であることと、自分が手傷を負っていることから勝負を焦ったのか。

(なんにせよ、怪我が偽装でないならそこを突かせてもらう。速攻で決めるまでだ)

リーニエの振り回す斧をバックステップで躱し、間合いを外す。
距離を取ると同時に、気(テンション)を瞬時に高めた。

「はあっっっ!!!」

その雄叫びと共に、ハノンの肉体から気が爆ぜた。
黄色い輝きがハノンの体を包む。解放された気が衝撃となって周囲に広がり、砂塵が舞い上がった。
爆発でも起きたかと錯覚するほどの凄まじい圧に、対峙するリーニエは一瞬怯む。

(魔力、じゃない。闘気!?)


瞬間、闘気を纏ったハノンが地面を蹴り、リーニエに向かって突進した。それを見たリーニエも反射的に斧を振るう。
反撃に転じたハノンと、迎え撃つリーニエ。
両者の獲物が交錯し、重い金属音が空気を引き裂くかの如く響き渡った。

爪はスピードと切れ味を、斧は重さと破壊力を重点に置いた武器だ。両者が正面から激突した場合、単純に重さで勝る斧が有利だ。
だが、押されたのはリーニエの方だった。斧が軋み音を上げ、腕に痺れが走る。
即座にリーニエは気付いた。ハノンの纏う闘気が、爪の破壊力を大幅に増しているのだ。
しかし、それよりも恐るべきは。

(――――重い、いやそれよりも、速いっ!?)

崩れた体勢を整える間もなく、有り得ぬ速さで放たれた二撃目が既にリーニエの眼前に迫っていた。
寸前で反応が間に合い、斧の柄で迫りくる刃を受け止めるも、息吐く間もなく三撃目が自分の肩を掠めるや、目の前には放たれた四撃目が迫る。

(嘘、いくら何でも速すぎる。魔法か何かで加速してるの?)

リーニエは困惑していた。接近戦ならこちらが有利だと予想していた。
"模倣"する戦士アイゼンを上回る技量の持ち主がそういるとは思わなかったし、
手足が長いこちらの方がリーチの面で優位に立っており、
かつての敗死の原因となった攻撃の軽さも、支給品のパワーベルトでカバーできている。

だが、ハノンの振るう闘気を纏った爪の重さ鋭さは、リーニエの斧と同じかそれ以上。
そして何より、攻撃の回転の速さが尋常ではない。
拳で突くにせよ、剣を振るにせよ、攻撃の後には"戻す"という動作が必要不可欠であり、
いかなる達人であろうとそれによって生じる隙を完全に無くすことは不可能だ。
だが、ハノンはその隙が限りなくゼロに近いのだ。

これこそがハノンの必殺技、ビーストモード。
プクリポ族特有の短い手足という短所を、逆に攻撃の回転の速さに昇華。
更に魔族使いの短所である中途半端な攻撃力と防御力を纏った闘気で底上げし、圧倒的な手数の多さで敵を制圧する。
幾多の敵を打倒してきた、ハノンの得意戦法である。

リーニエは完全に防戦一方に追い込まれていた。
まるで濁流のようにとどまることなく攻撃の波が押し寄せる。
ギリギリで捌ききっているのは戦士アイゼンの防御術を"模倣"しているからこそだ。これがなければ既にやられていただろう。
だが、ただでさえ消耗している身体、いずれ押し切られて敗北するのは目に見えている。


――――今までの自分のままだったなら。

383◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:12:34 ID:???0
そう、今のリーニエには、たった一つだけこの状況を打開できるかもしれない策があった。

(このままじゃやられる。ぶっつけ本番だけど、試すしかない)

装備した支給品に一瞬目を向けると。リーニエは受けの構えをわずかに変化させた。
その直後に襲い掛かった何度目かの爪撃を斧で受けた瞬間、習得した特技(アビリティ)が発動した。
ビーストモードの十八番を奪う、相手の攻撃を受けたその一瞬に発動する反射攻撃。
装備したパワーベルトの機能と、模倣する戦士アイゼンの技量がそれを可能にする。

放たれるは、起死回生の――――カウンター。

ハノンの表情が変わる。まるで吸い込まれるように斧の一撃がハノンの胴体に迫ってゆく。

「ハノンさんっ!!!!」

タロが思わず叫びを上げたのと、リーニエの斧がハノンの脇腹に炸裂したのは同時だった。
血飛沫が弾け、獣人の毛が舞い散る。


(やった……!?)

パワーベルトによって向上した腕力に、更に"MP消費攻撃"を上乗せした渾身の一撃。
これで勝負を決めるつもりだった。斧が亜人の脇腹を捉えるのを見て、魔族の少女は勝利の期待を抱いた。

だが、それも束の間のことだった。手応えが浅い。肉は間違いなく割いたが、骨や内臓を断った感触が無い。
相手の纏う闘気によって斧の勢いが殺されたのが、まず一つ。
だがそれ以上に恐るべきは、完全に不意を突いたカウンターであったにも関わらず、目の前の相手があの一瞬で急所を外させていたこと。
頭で判断してからでは到底不可能な反応速度。どれだけ戦い慣れていればそんなことが可能なのか。

そして、この瞳だ。想定外の反撃だったはずだ。一歩間違えれば致命傷だったのは間違いない。
受けたダメージも、決して少なくはないはずだ。未だに血は流れ続けている。
そうであるのに、相手の目には、恐れも動揺もなかった。
その瞳はこう語っていた。"このくらい、いつものことだ"、と。


(なら、もう一度――――)

気圧されている場合ではない。相手の攻撃の波が止まらない以上、自分に打てる手はこれしかないのだ。
そう何度も防げはしまい、とリーニエは再度のカウンターを試みた。
だが、この期に及んでもまだ、リーニエはハノンという男を見誤っていた。


ハノンという男の強さの根源は何か。
それは力でも、魔法でも、速さでも、特技でもない。

戦闘経験である。


彼は時に時間を、時に空間を超えて幾つもの世界を渡り歩き、戦い続けてきた。
冥王ネルゲル、大魔王マデサゴーラ、邪竜神ナドラガ、時元神キュロノス、そして異界滅神ジャゴヌバ。
数々の恐るべき強敵に立ち向かい、その全てを打倒してきた、勇者の盟友。
こと踏んだ場数に関しては、全参加者の中でも間違いなく屈指であろう。
その彼が、同じ罠を二度食うことはない。既に反撃の手は打たれていた。

「――――スキルクラッシュッ!!!」
「!!!?」

その爪の一撃が、パワーベルトの機能不全を誘発し、カウンターが不発に終わる。
リーニエに一瞬の動揺が走る。それを見逃すハノンではない。

「はあっ!!」

ハノンの爪がリーニエの手を捉え、手にした斧を弾き飛ばす。
続けざまに放たれた蹴りが無防備となったリーニエの腹に突き刺さり、彼女は受け身も取れず地面に転がった。

―――負ける、負けるの? 死にたくないっ!!

敗北の影が迫り、リーニエの脳裏に死への恐怖が蘇る。
死にたくない、その一念で最後の力を振り絞って立ち上がろうとするも。

「――――うぁっ」

腕が痙攣し、地面に突っ伏す。
ただでさえクジャとの戦いで大きなダメージを負っていた上に、
ビーストモードの連続攻撃を受け続けた結果、限界を迎えた肉体が遂に悲鳴を上げたのだ。

その直後、彼女の眼前に爪が突き付けられた。

「諦めろ。そんな身体じゃこれ以上は無理だ」

ハノンの決着を告げる言葉が響き、平原に静寂が戻った。



384◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:13:56 ID:???0

「ハノンさん! 大丈夫ですか!?」」
「大丈夫だ」

駆けよるタロと倒れ伏したリーニエに交互に目を向けて、ハノンはリーニエの処遇を思案していた。
リーニエは、自分が殺されると思い込んでいるようだ。
小刻みに震え、その眼からは生気が失われている。

タロは、恐らく自分が彼女を殺す可能性を予期しているのであろう、緊張した面持ちでこちらを見ていた。

(……仕方ないな)

ハノンは、もう一度タロの顔を見た後、リーニエに突き付けた爪を下ろした。

「一度だけだ。一度だけ見逃す。この期に及んで他の参加者を襲ったりするのなら、その時は分かっているな」


それは慈悲というよりも、同行者であるタロを気に掛けた判断だった。
彼女は平和な世界に暮らしてきた少女だ。日常的にポケモンを使役した戦いはしていても、それはあくまで競技に過ぎない。
クラベル校長の死を目の当たりにし、彼の死を無駄にしないという覚悟を持っているのは確かだろう。
だが、本当に殺し、殺される覚悟が出来ているかと言えば、ハノンから見て不安が残った。
今の彼女が、見た目は人間の少女ほぼそのままであるリーニエの死を目の当たりにすれば、強い精神的ショックを受ける恐れがあった。

そして、リーニエの心はほぼ折れている。
それに、万が一再度襲撃を受けたとしても返り討ちにできる自信があった。実力差があるからこその温情。

ハノンは、敗北した少女の返事を待った。



"一度だけ見逃す"

それはリーニエにとって予想外の言葉だった。
殺されると思い込んでいた矢先に掛けられた思いもよらぬ救いの言葉に、喜ぶよりも困惑を覚える。
その直後、湧き上がってきたのは、敗北感だった。

シュタルク、クジャ、そして目の前の亜人と、立て続けに喫した3度の敗北。
完全に思い知らされた。
自分は、弱者だと。

だが、それでも。
どうしようなく自分が弱いとしても、死にたくない。
どんな手を使ってでも生きたい。リーニエの望みはただそれだけだった。


生き延びる策を必死になって考える。
理由は分からないが、この亜人は自分を見逃すと言っている。
殺すつもりなら今殺せばいいだけの話だし、多分、嘘ではないと思う。


だが、その後はどうする?

アウラ達大魔族を頼って、この亜人とぶつけてみるか?
いや、身体が万全ならともかく、深手を負った今では、情報だけ聞き出された後に
足手まといとしてその場で処分されることすら考えられる。

では、どこか他の集団に紛れ込むか?
それでも、目の前の2人は行く先々でリーニエという魔族は危険だ、と触れ回るだろう。
時間が経てば経つ程、潜り込むことが難しくなっていく。
最悪、そのまま詰みの状態に追い込まれる。


考えても考えても、逃げたところで先は無かった。
であれば、いっそ――――

リーニエは腹を括った。

385◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:14:28 ID:???0




「…………ごめんなさい」

リーニエは頭を下げながら、ぽつりと呟いた。

「さっき、クジャという男に殺されかけて、怖かったんです。
 あなた達が敵で、襲われたら殺されるかもしれない、殺されるくらいなら殺すしかないって考えてしまって。
 謝ってすまないことは知ってるけど、許してください」

その"謝罪"の言葉に、ハノンとタロは思わず目を合わせた。
少しの思案の後、ハノンは答える。

「本当に悪いと思っているのなら、どこかに隠れているといい。
 僕達は何とかこの殺し合い自体を終わらせたいと思っている。
 具体的な策を聞かれたら、これから探すところだ、としか言えないけど」

「でも、私は弱いから。あなたみたいに強い人に襲われたら今度こそ死ぬ。だから、助けて。死にたくないんです」

「……僕らと一緒に来たいってことか?」

「はい。どうか、お願いします」

リーニエのその"同行"の申し入れに、ハノンとタロは互いに困惑の表情を浮かべ、再び目を見合わせた。

ハノンは当然、相手の意図はおおよそ看破している。
生き延びるために自分達を利用する気であり、チャンスが有れば後ろから刺してくることもあり得た。

ハノンは幾多の世界を股に掛けた冒険者であり、魔物使いだ。
他人に害を成そうとする者の恐ろしさは知り尽くしている。
自分一人だけならともかく、今は同行者のタロもいるのだ。彼女の安全も考えると、簡単に首を縦には振れない。

警戒しているのはタロも同じだ。
彼女は人並み以上の優しさの持ち主ではあるが、
先ほどの戦いを見たうえ、リーニエのこの命乞いの言葉の中にもどこか薄ら寒さのようなものを感じており、
同行の申し入れに対し即座に返答することは出来なかった。


だが。
ハノンには少し思うところがあり、リーニエに対しこう尋ねた。


「聞きたいんだけど、もしかして君は魔族か?」
「はい」
「君の同族もこの場に呼ばれてるのか?」
「はい。私より、ずっと強い人達が何人も」


―――やはり、魔族か。
ハノンは心中で独りごちた。

ハノンという男には、魔族とは数奇な縁があった。
彼は潜り抜けてきた冒険の中で多くの称号を手に入れているが、
この殺し合いの場に招かれる直前の冒険、大魔瘴期を巡る争いの中で、とある重大な肩書きを手に入れている。
故に、この少女が魔族だとするなら、彼女について何も知らぬままではいられぬ理由があった。
ハノンは決断を下した。


「余計なことをしないよう手は縛らせてもらうし、支給品も僕達で預かる。それでもいいか」

ハノンのその言葉に、隣にいるタロの瞳が驚きに見開かれる。
一方、同行の許可を受けたリーニエはこくり、と頷いた。
これも敗者の務めとばかりに装備していたパワーベルトとザックをハノンに渡し、
自分の両手が縛られるのを大人しく受け入れた。


「ハノンさん、いいんですか?」

タロにとってハノンの返答は意外なものだった。
ハノンは自分よりももっとシビアに物事を判断すると思っていた。
逃がすだけならともかく、同行させるリスクの高さはタロにも分かる。
そんな彼女に、ハノンは真剣な顔つきで応えた。

「詳しいことは後で話すよ。だけど、今は少し彼女と話をさせてほしいんだ」

そこまで言って、ハノンは痛てて、と脇腹に受けた傷を抑え、腰を下ろした。

「それよりタロ、傷の手当をするから手伝ってくれ。いい加減痛いや。彼女にも応急処置くらいはしてあげよう」




386◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:15:10 ID:???0

タロから傷の手当てを受けながら、ハノンはリーニエに声を掛けていた。

「君の名前は?」
「リーニエ」

「そうか。僕はハノンで、彼女はタロだ」
「ハノンにタロ…… 分かった」

「確認になるけど、君は魔族で、同族も何人かいるってことで間違いないかな?」
「うん」

2人の口調は穏やかだった。
だがその実、弱者であることを受け入れたリーニエが、
良くも悪くも聞かれたことをそのまま答えているだけだ。
それを確認したハノンは、一息つくと、その眼差しを真剣なものに変えてこう言った。

「じゃあリーニエ。答えてほしい。
 もし僕が"大魔王"だとしたら、君や、君の仲間は僕に従ってくれるのか?」


その言葉に、リーニエは思わず顔を上げていた。
聞き違いかと耳を疑った。だが確かに目の前の男は言った。
自分は、魔王だと。

「……それは、"冗談"という言葉?」
「冗談じゃない。僕は魔族の住む魔界という世界で大魔王に選ばれたんだ」
「信じられない。そもそもあなたは魔族じゃないし」
「まあ、信じられないのも無理は無いな。長くなるけど聞いてくれ」

ハノンは、大魔王の座に就くまでの経緯を語り出した。
魔族によるアストルティアへの侵攻と、血の盟約による自身の魔族化。
魔界とアストルティア、2つの世界を滅ぼすと云われた大魔障期という名の災害。
大魔王の座を争う三人の魔王の間で勃発した魔界大戦。
そして行われた大魔王の戴冠式。


リーニエも、傍らで話を聞いていたタロも、全く言葉が出なかった。
リーニエにとって信じ難いのは、むしろハノンが大魔王に就任した後の話だった。
魔界とアストルティア双方の共通の敵・異界滅神ジャゴヌバを倒す為、勇者と魔王が手を取り合い、
遂には打倒せしめたという。有り得ない。夢物語にも程がある。

ハノンの話を嘘と断じるのは簡単だ。だが話の内容が真に迫りすぎていた。
明らかに混乱し始めたリーニエを見てハノンは苦笑する。

「まあ、その辺りは今の僕達にはあまり関係の無い話だし、信じられないなら信じないで構わないよ。
 じゃ、話を戻すけど、僕が仮に大魔王だとしたら、君や他の魔族はどうするのか教えてほしい」

ハノンの問いに、リーニエは少し考えた後、こう応えた。

「あなたが本当に魔王なら…… 他の魔族の誰よりも強いなら、誰であろうと従うしかない」
「強いから従う、か。なるほど。もし、王なのに強くなかったら?」
「そんなのは王じゃない」
「……そうか。参考になったよ、ありがとう」

複雑な表情を浮かべながら、ハノンはもう一つ言葉を付け加えた。

「一つだけ言っておくよ、リーニエ。
 僕は、無駄な殺しをするつもりはない。
 だから、他の参加者に危害を加えないなら、敢えて君を殺すつもりはない」

逆に言うなら、危害を加えるなら容赦はしないぞ、と言外に含ませる。

「死にたくないなら、どうすればいいか分かるだろう。
 よく考えておいてくれ。早まった真似をしないことを祈るよ」

そこまで言って、話は終わりとばかりにハノンは腰を上げた。
その時だった。

387◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:15:55 ID:???0
「待って」

徹底して受け身だったリーニエが、初めて自分から口を開いた。

「ハノン、タロ。私の知ってる危険人物を教える。その代わり、彼らから私を守って」
「……分かった。教えてくれ」

まるで予期していたかのようにハノンは答えた。彼の瞳には、どこか悲しげな光が映っていた。


ハノンとタロは、リーニエの語る危険人物を名簿を見ながら確認した。
魔王直属の大魔族・七崩賢の一角、アウラとマハト。特にマハトは七崩賢最強と言われた実力者だという。
そのマハトにも匹敵する無銘の大魔族・ソリテール。
リーニエと同じ"首切り役人"の魔族・リュグナー。
先刻、リーニエと交戦し彼女を追い詰めた謎の男、クジャ。
そして、最後に。

「フリーレン、フェルン、シュタルク。この3人は、魔族なら容赦なく殺そうとしてくる。
 "魔王"のあなたも殺そうとするかもしれない。気を付けて」

それを以て、リーニエの話は終わった。
話を聞き終えたハノンは、神妙な面持ちでこう呟いた。

「少しタロと話してくる。置いて行ったりはしないから、我慢して待っててくれ」

そう言ってハノンはリーニエを木に縛り付けると、傍らのタロに顔を向けた。

「タロ、来てくれ。これからのことについて話しておきたい」



「同行を許した僕が言うのもなんだけど、彼女には気を許さないでほしい。
 彼女は、僕の世界の魔族より数段危険なように思える。力よりも、精神的な方向でだ」

話を聞かれないようリーニエから距離を取ると、ハノンは深刻な表情でタロに話しかけた。

知性の有る魔族なら、利害による契約や力による均衡で休戦協定を取ることもできるだろう。
獣性の強い魔物なら、力の差を示し、立場の上下を知らしめて従わせたり、
餌や寝床を用意して、"こいつに付いていけば楽だし安全だ"と思わせ飼いならす、という手もある。
しかしリーニエという魔族は、いわば知性の狡猾さと獣性の話の通じなさという、双方の厄介な部分を兼ね備えているように感じられた。

だが、タロには、ハノンが先ほどその性質を逆に利用していたように思えた。

「ハノンさん、聞きたいんですけど、さっきのリーニエさんの話って」
「……ああ、そうだ。そう話すように誘導した。でも、あそこまでペラペラ喋られると、逆にこっちが悲しくなるよな」

ハノンはリーニエの言動から、同族に対する仲間意識や情の欠如を読み取っていた。
そこで、"自分のところで大人しくしていなければ殺さない"というエサを目の前にぶら下げたのだ。
その結果、魔族に関する情報を手に入れることはできたが、
それは取りも直さずリーニエやその同族が情を持たないという証明でもあった。

「……最後に言ってた、フリーレンさん? って人達についてはどう思いますか?
 魔族をみんな殺すつもりだって言ってましたよね。
 写真を見る限り、普通の人達に見えますけど」

「会ってみないと、何とも言えないな。
 魔族や魔物の中には、人に害を与えるものもいる。
 例えば身内が殺されたりして、そういう考えに至る人がいるのも不思議じゃない。
 僕だって、出会った魔族や魔物全員と分かり合えたわけじゃない。他人に害を成した者は何人も倒してきた」

その理屈は、タロにも分かる。だが。

「……それでもやっぱり、魔族はみんな死んでしまえばいいってのは、受け入れにくいです」

それでもタロは、そう答えた。
タロは良識的な少女であるが、
同じ人間の中にもどうしようもない悪人がいるくらいは分かっている。
だが、そうであるからといって人間全てを悪と断じるのは別の話だ、と思う。

"ポケモンは怖い生き物です"
今よりずっと昔に、ポケモンがそう言われていた時代があったと、タロは歴史の授業で学んだ。
実際、ポケモンの中にはギャラドスやサザンドラといった町一つ滅ぼしかねない凶暴な種もいる。
ゴーストポケモンの中には、人を苦しめ、死に至らしめるものすらいるという。

だが、ポケモントレーナーの中には、そういったポケモンとすら心を通わせ、
己のパートナーとする者もいるということを、タロという少女は知っている。
種族全体を一切の和解の余地なしとして断じることは、
ポケモントレーナーとして簡単に受け入れられるものではなかった。

388◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:17:37 ID:???0
「すみません、何もやってないのに勝手なこと言って」

頭を下げるタロ。先ほどの戦いでも安全圏にいた自分が言えたことではないという自覚はあった。
そんな彼女に対し、ハノンは穏やかな微笑みを向けた。
タロの姿に、この場にいない"相棒"達を重ねながら。

「僕も魔物使いだ。その気持ちは分かるよ。
 彼女に対しても、全く諦めてるわけじゃない。僕なりにやれることはやってみるつもりだ」


"大魔王"として。"魔物使い"として。それは紛れもなくハノンの本心の一つであった。
だが、魔族や魔物と戦い続けてきた一人の戦士として、どうしても彼はもう一つ付け加えざるを得なかった。

「だけど、最優先なのは君と僕の命だ。もしもの時は覚悟してほしい」

そう告げるハノンの真剣な瞳を、タロは真っ直ぐに見つめ返した。

ハノンは先ほどの戦いで傷を受けた。自分を気遣って、一人で戦った為に。
一つ間違えれば重症だったことはタロ自身にもわかる。
もし、あの時自分も共に戦っていれば、ハノンは傷を負わずに済んだだろうか。
そして、この殺し合いの場で最初に目にした、鎧のおじさんとクラベル校長の死を改めて思い出す。

これ以上、ハノンに頼るわけにはいかない。タロは決意した。


「ハノンさん。次からは私も戦います。女の子じゃなくて、仲間として扱ってください。お願いします!」

タロの真剣な瞳がハノンを貫く。ハノンもそれに正面から応えた。

「敢えて聞かせてもらうよ。
 君も、君のパートナーも死ぬかもしれない。あるいは、自分の手を血で汚すことになるかもしれない。
 それがどういうことか、本当に分かっているのか? いざという時、足を踏み出せないということはないか?」

「正直言って、怖いです。本当の殺し合いがどんなことかも、理解できてないかもしれません。
 でも、私が戦わないことで、ハノンさんや他のみんなが傷つくのはもっと、」

お馴染みの×ポーズ。

「ブブーッ! ですから!!」

ハノンはその姿を見て、強くうなずいた。
出会って以降、戦い方の共有を行ったりはしたが、ハノンは彼女をまだ保護対象として見ていた。

だが、今の彼女なら大丈夫だろう。
彼女は、自分と共に戦う仲間だ。
この先に待ち受けるどんな困難にも共に立ち向かおう。対等な運命共同体として。

「分かった。よろしく頼むよ、タロ」
「よろしくお願いします、ハノンさん!」

この殺し合いに抗う仲間として。あらためて2人は手を握った。




389◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:18:42 ID:???0

その頃。
一人残されたリーニエは、今後の己の立ち回りと、大魔王と称する男・ハノンについて考えていた。
彼は大魔族やあのクジャという男のように、相対しただけで相手を戦慄させるような威圧感は無いし、
魔力も際立って高いというほどでもないが、どこか底の知れないところがある。
仮にも魔王を名乗るなら、クジャやアウラ様達大魔族をも倒してくれるかもしれない。
自分を殺さないというのも嘘ではない、と思う。少なくとも、状況が大きく変わらない限りは。

だから、アウラ様達の情報を渡した。
ハノンが自分を"役に立つ同行者"として認識することと、あわよくば彼が大魔族を排除してくれることを期待して。
それは紛れもなく大魔族への反逆行為だ。だが、それがどうしたというのか。
"最後には間違いなく自分を殺す相手"と"万が一殺さないで貰えるかもしれない相手"なら、後者に付くのが当然。そう考えるのが"魔族"なのだから。

それに、先ほどの戦いで得られたものもあった。
"模倣する魔法(エアファーゼン)"。
力よりも技や速さを重視した彼の戦い方は、戦士アイゼンのそれよりも自分と相性がいいはずだ。
先ほど一戦交えたことで、表面的な動きなら模倣できるようになったと思う。


だが、あの闘気を利用した技まで使えるか、というと微妙なところだ。
彼の技を自分のものにしないといけない。だからもっと彼の戦いを観察する。
今は無理でも、戦いを2度3度と見続けていれば、あるいは。


最後に、もう一つ。
ハノンとタロは自分の支給品を全部奪ったつもりだろうけど、一つだけ隠し通すことができていた。
リーニエの握りしめた手の中にある一錠の薬剤――マリアドラッグ。
効果も分からない薬だけど、今の自分に残された数少ない手札だ。

自分の治療に使うか。あるいはハノンかタロが負傷したときに渡して恩を売るか。
何にせよ、使いどきを誤らないようにしないと。
そう考えていた魔族の少女の耳に、不意打ちのようにこんな会話が届いた。


「―――そう言えばハノンさん。あの薬、マリアドラッグでしたっけ?
 あれを飲めば傷が早く治ったりとかしませんか?」
「効果が分からないから辞めとくよ。使うなら、本当にどうしようもなくなった時だな」


心臓が跳ね上がるかと思った。

まさか気付かないうちに取られていたのか、と青ざめて己の手の平を探る。
だが薬は間違いなく自分の手の中にあった。
よく見れば、ハノンもタロもこちらに全く注意を払っていない。
ハノンのザックを開けて何やら話し込んでいる。
そこでようやく、冷静になって気付いた。

(同じのが支給されていただけか。びっくりした……)

魔族の少女は安堵しながら、自分の運命を左右するかもしれない薬の感触を確かめた。

390◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:23:50 ID:???0


大魔王、ポケモントレーナー、そして魔族の少女の話は、ここで一つの区切りを迎える。
以下はマリアドラッグという支給品についての蛇足である。

藤波木陰という少女によって創造されたその薬は、"普通の優しい人間"には何の効果も無いが、
服用した者が"優しくなれない人間"だったなら、その者を"優しい人間"に変えるという効果を持つ。
だが、この薬は飽くまでも化学薬品であり、その薬効は脳に対する化学的・物理的な作用に起因する。
よって、人間とは精神構造が異なる魔族や宇宙人といった異種族に対しては、本来効果を発揮しないと推測される。

だが、今この場にあるマリアドラッグは、この世界再生の儀における支給品として
種族を問わず確実に効果を発揮するよう、主催者によって調整が施されていた。
すなわち、人間であろうと、黒魔導士兵であろうと、魔族であろうと、宇宙人であろうと、
その者が"優しくない"のであれば、"優しくなれて"しまうのだ。

では、根本的に"優しさを知らない"魔族が、本来持ち得ぬ"優しさ”という感情を知ってしまった時、一体、何が起こるのか。

聖母の名を冠する2つの薬は何も語ることなく、"魔族の少女"と"大魔王"の手の中に眠っていた。

【D-7/一日目 黎明】
【ハノン(男主人公)@ドラゴンクエストXオンライン】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、左脇腹に裂傷(処置済み)
[装備]:あくまのツメ@ドラゴンクエストXオンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2、パワーベルト@FINAL FANTASY IX、リーニエの不明支給品1(確認済)、リーニエの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この事件を解決する、いつものように
1.事態解決の方法を探る
2.リーニエへの警戒
3."大魔王"として、リーニエ達がどんな魔族なのか知る必要がある
4.アウラ、マハト、ソリテール、リュグナー、クジャへの警戒
5.フリーレン、フェルン、シュタルクについては本当に彼らが危険人物なのかまず見極める

※少なくともバージョン5終了以降、種族はプクリポです。
※職業はまもの使いで、少なくとも「まものマスター」「ツメスキル」を200まで覚えています。
※タロと戦い方を共有しました
※支給品のマリアドラッグの説明書に具体的な効果は書かれていません
※リーニエから、魔族の参加者およびフリーレン、フェルン、シュタルクについて情報を得ました。
※リーニエがマリアドラッグを隠し持っていることには気づいていません

【タロ@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ドリュウズ)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに抗う、クラベル校長のように
1.ハノンと共に殺し合いの打破を目指す
2.リーニエには警戒しているが、殺すことには抵抗がある
3.アウラ、マハト、ソリテール、リュグナー、クジャへの警戒

※藍の円盤終了後からの参戦です。
※ハノンと戦い方を共有しました
※リーニエから、魔族の参加者およびフリーレン、フェルン、シュタルクについて情報を得ました。
※リーニエがマリアドラッグを隠し持っていることには気づいていません

【リーニエ@葬送のフリーレン】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、死やクジャへの恐怖(中〜大)、クジャやフリーレン、フェルンやシュタルクへの警戒(中)、生きるという気持ち(大)、両手を拘束
[装備]:なし
[道具]:マリアドラッグ@ib-インスタントバレット-
基本行動方針:生きる為に、死にたくない為に優勝を狙う。
1.しばらくは大人しくするしかない
2.このハノンって人、本当に魔王なのかな? そうなら、クジャ達も倒してほしい
3.ハノンの技も"模倣"できるようにしないと。
4.このドラッグをどうするか。説明文くらい書いて欲しい。
5.…名簿のクジャと出会ったクジャが結びつかない。
6.格上も首輪を狙えば或いは…??
※参戦時期は死亡後から。
※制限により魔力探知は一エリア内分のみ有効となっています。
※パワーベルトを装備した場合、サポートアビリティである「MP消費攻撃」「カウンター」を修得しています。「ファイラ」を使用・修得可能かは後続にお任せします。
※首輪の破損が参加者の脱落に繋がるのでは?と考えています。正しいかどうかは後続にお任せします。
※ドラゴンクエストXの世界における魔界と魔族についてハノンから話を聞きました。
※ハノンが、自分に支給されたのと別のマリアドラッグを所有していることを認識しました。
※"模倣する魔法"でハノンの動きを模倣できるようになりましたが、特技はまだ使用できません。

391◆qYC2c3Cg8o:2025/03/24(月) 22:24:50 ID:???0
投下終了します。
予約期間をオーバーしてしまい申し訳ございませんでした。

タイトルは【魔族が起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている】です

392名無しさん:2025/03/25(火) 00:02:57 ID:Wfl8MzlQ0
投下乙です
ハノンが戦闘といいその後のやり取りといいむっちゃ頼もしい
確かにバージョン5まで通過してるとなれば経験で言えばかなりのもんだもんなあ
同行することになったリーニエ、案外素直に従ってくれそうな感じではあるけどこれからどうなるか

それと、指摘と質問なのですが
ハノンorタロのマリアドラッグが支給品の表記にないです
そして、本文中でハノンのザックを開けている様子からはマリアドラッグは彼の所持品っぽいですが
ハノンの不明支給品は減っておらず、代わりにタロの不明支給品が減っているということは、元々の支給先はタロだったということでしょうか

393◆qYC2c3Cg8o:2025/03/25(火) 00:15:12 ID:???0
>>392

感想および内容へのご指摘ありがとうございます!
ご指摘の通り、ハノンとタロの支給品の記載が誤っておりました。
状態表を以下のように修正します。

【D-7/一日目 黎明】
【ハノン(男主人公)@ドラゴンクエストXオンライン】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、左脇腹に裂傷(処置済み)
[装備]:あくまのツメ@ドラゴンクエストXオンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1、マリアドラッグ@ib-インスタントバレット-、パワーベルト@FINAL FANTASY IX、リーニエの不明支給品1(確認済)、リーニエの基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この事件を解決する、いつものように
1.事態解決の方法を探る
2.リーニエへの警戒
3."大魔王"として、リーニエ達がどんな魔族なのか知る必要がある
4.アウラ、マハト、ソリテール、リュグナー、クジャへの警戒
5.フリーレン、フェルン、シュタルクについては本当に彼らが危険人物なのかまず見極める

※少なくともバージョン5終了以降、種族はプクリポです。
※職業はまもの使いで、少なくとも「まものマスター」「ツメスキル」を200まで覚えています。
※タロと戦い方を共有しました
※支給品のマリアドラッグの説明書に具体的な効果は書かれていません
※リーニエから、魔族の参加者およびフリーレン、フェルン、シュタルクについて情報を得ました。
※リーニエがマリアドラッグを隠し持っていることには気づいていません

【タロ@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ドリュウズ)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに抗う、クラベル校長のように
1.ハノンと共に殺し合いの打破を目指す
2.リーニエには警戒しているが、殺すことには抵抗がある
3.アウラ、マハト、ソリテール、リュグナー、クジャへの警戒

※藍の円盤終了後からの参戦です。
※ハノンと戦い方を共有しました
※リーニエから、魔族の参加者およびフリーレン、フェルン、シュタルクについて情報を得ました。
※リーニエがマリアドラッグを隠し持っていることには気づいていません

394 ◆Ok18QysZAk:2025/03/27(木) 02:02:12 ID:yC3WvoJY0
投下します。

395追想のラグナロク ◆Ok18QysZAk:2025/03/27(木) 02:03:40 ID:yC3WvoJY0
 幡田みらいはかつて、"幽鬼の姫"と呼称されていた。その名の裏にあるのは、彼女に対する恐れ、そしてそれ以上の畏れの感情であった。辺獄に無数に存在する幽者はおろか、その中でもひと握りの幽鬼ですらも、彼女に食らいつくことは許されない。彼女の歩む道に立ち塞がってなお立っていられたのは、彼女に敬服することを選んだ者のみ。

 辺獄の管理者からも一目置かれた危険人物。それが、この殺し合いでも有数の実力者、幡田みらいの本性である。災厄が意思を持ったが如く、自身のヨミガエリのために手当たり次第に他者から奪い、そして屠る。

 彼女の前では、誰もが被害者であった。そして、稀に現れた実力のある幽鬼すらも、彼女にとってはいち挑戦者に過ぎなかった。

 そんなみらいは今や――挑戦者の立場に置かれていた。姫という絶対性を象徴する称号すらも、その存在の前ではあくまで人、もといその成れの果てである幽鬼たちの規格に過ぎない。

 数多の"暗黒の手"を周囲に旋回させながらその中央に佇むそれは、千手観音が如き様相を呈している。大いなる闇の根源、その器の名はナラジア。幽鬼の姫の抱く狂気を目の当たりにした上で、"神"は不敵な笑みを浮かべ、発する。

「……僕はキミが欲しい。」

 姉を想う気持ちが目の前の少女を突き動かしている感情であるのに疑いはない。だが――その心の有り方が、かつて魔仙卿として配下に選出したシノンとは大きく異なっている。自分を助けに来る兄を慮り遠ざけようとする彼女とは対照的に、最愛の姉を巻き込み、助けられることを積極的に望んでいる。それも、彼女がこれまでに発した言葉を文字通り紐解くならば、その姉とやらは彼女よりも弱いようだ。そんな者に、何を期待し求めているというのか。

 幡田みらいは、壊れている。精神の有り方が歪んでいる。それは、人として生きる上では支障にしかならない特性なのだろう。されど、彼女が王として君臨するのであれば、その歪みは一転して世界を動かす原動力となる。

 大魔王バルメシュケは操心術への執着が人並み外れていた。ゆえに、アストルティアへの憎しみを植え付ける僕の操心術すらも振り切って、大魔王の地位と権限を操心術の研究のために利用した。それ自体は忌々しいことであるが、その研究は操心術への知見、すなわち高いレベルの教養を糧とするゼクレス魔導国の階級社会を形成した。

 大魔王マデサゴーラは芸術に強く執着していた。アストルティア侵攻すらも偽りのレンダーシアという一大芸術の披露の場へと昇華させた。そして、その過程で多くの戦禍を巻き起こし、ナドラガンドの解放すら成し遂げた。

 幡田みらいの見せる姉への執着。それをうまく扱いこなすことができたならばどんな化学反応が起こるのか。突き動かすは、邪悪にして純粋な好奇心。

「キミが欲しい、かぁ。」

 薄く笑みを貼り付けて、みらいは告げる。

「悪いけど、口説き文句としては0点かな。お姉ちゃんになってから出直してきて?」

 そんなみらいにも態度を崩さないまま、ナラジアは続ける。

「……どうやら、誤解されているみたいだね。
 まあ無理もないか。さっきまでキミを殺そうとしていたのは事実だからね。」

 そう言うと、ナラジアは周囲に浮かんだ暗黒の手を消失させる。
 殺し合いの中途、突如として為された武力解除。その意味は、間もなく本人の口から説明される。

396追想のラグナロク ◆Ok18QysZAk:2025/03/27(木) 02:04:03 ID:yC3WvoJY0
「だけどもう、僕は別に君を取って食おうとしているわけじゃあない。強引にものにしようなんて思っちゃいないさ。
 ただ……僕はキミと、”契約”がしたいんだ。」

「契約?」

 答えを待たずして、ナラジアはそっと指をさす。
 その先に佇むのは、みらいが手にした業物、グランドリオン。みらいの感情を吸って魔剣と化したその武器からは、絶えず闇の力が放出されている。

「キミの放つ闇は芳醇で素晴らしい。
 大いなる闇の根源たる僕と手を組めば、世界の支配者になるのも容易いだろう。
 殺したい奴がいたら、力を貸してあげる。お姉ちゃんを護りたいのだろう?」

 そう言って、ナラジアはみらいへと手を伸ばす。
 大いなる闇の根源として、歴代大魔王に冥王ネルゲル、さらにはルティアナの長兄ナドラガに至るまで、多くの存在と契約し、その力を貸し与えてきた。ナラジアの本分は、本来対立者を滅することではない。むしろ、肉体さえ復活すれば大魔瘴期の到来によって敵対する者など残りはしないため、そのような"小細工"は不要とすら言える。なればこそ、ナラジアの――侵略者ジア・クト念晶体の本分は、導きを受け入れた者を同胞として取り込むことにある。

「さあ、この手を取るんだ。
 キミの悪いようにはしないからさ。」

 この契約によりみらいを欺こうとする意図はほとんど無い。
 双方の利害が一致しており、かつ役に立つ限りは、契約相手の目的も遂行するだけの義理も果たす腹積もりだ。忠誠を誓った者に対しては寵愛を以て受け入れる。それが"異界滅神ジャゴヌバ"としての神性である。

「ふぅん、悪くない話。」

 幽鬼の姫としての暴力性を秘めておきながら、生前のみらいがあえて他人を傷付けずにいられた理由は、ただ一つ。法律を犯してしまえば、親愛なる姉と引き離されてしまうからだ。

 みらいをギリギリで人の道を踏み外させなかった最後の砦は倫理観などではない。ひとたび現世の理を外れてしまえば、他者を傷付けることそれ自体に躊躇などない。その際に、幽鬼という超常的な力を用いることも何ら気にすることはなかった。

 ナラジアの申し出は、決してみらいにとって都合の悪いものではなかった。これが罠ではなく、『契約する』と応えれば、ナラジアは己をあえて害さないであろうことは何となく感じ取れた。確かに、裏切ろうとすれば制裁をもって返されることは容易に想像がつく。ナラジアが足手まといを積極的に切り捨てるようなタチであるのも感じ取れる。だが、姉を攻撃しないという最低限の取り決めを守ってもらえるのならば、とりわけ裏切る必要もない。
 
 その手を取るか否か――笑顔でナラジアへと歩み寄るみらいの次の選択肢は、決まっていた。






 ――攻撃






 横凪ぎに走ったグランドリオンの一閃がナラジアに迫るも、予期していたかの如く大地から吹き出てその間に割って入った暗黒の手がそれを防ぐ。勢いの殺された斬撃の先には薄ら笑いを浮かべたナラジアの姿があった。

「――わたし、契約とかそういうの、嫌いなんだ。
 お姉ちゃんをキズモノにした奴らを思い出して、走るんだよね、虫唾。」

「……悪いけど、キミに拒否権は与えていないよ。」

 ナラジアの表情が不愉快そうに歪んだ。忠誠には寵愛で返すナラジアであるが、謀反に対しては相応の罰を以て返さなければ箔がつかない。

397追想のラグナロク ◆Ok18QysZAk:2025/03/27(木) 02:04:44 ID:yC3WvoJY0
 求めるように、欲するように、目の前の少女へと翳された手。無数の暗黒の手がその動きに連動するかの如く、みらいへと伸びていく。つい先ほどまでみらいを追い縋っては捕えんとしていたその手の正体は、異界滅神の欲望の権化。みらいへの興味が増幅すると共に、その手もまた勢いを増していく。

「あはっ、悪いようにはしないとか言って。
 結局、それが本性?」

 力を溜める時間を稼ぐため、みらいは一歩下がり、解き放つ。

 

 ――Art.スピンスライス



 四方から襲い来る暗黒の手に対し、その身をくるりと回転させて一斉に斬り伏せる。幡田零の戦闘スタイルを模した、言わば見よう見まねの剣技。されど、宝石の装飾が成された思装を身に纏い、SPを込めたその一撃には、代行者が放つ一撃と遜色ない破壊力が伴っていた。

「うーん、上手くターンがかからないなぁ。お姉ちゃん、あの運動音痴でどうやってたんだろ。」

「ふふっ……手を幾つか振り払っただけで随分と余裕だけれど……いいのかい?
 キミが戦ってる相手は、そいつらじゃなくて僕なんだよ?」

 霧散した暗黒の手のその先には、呪文の詠唱を始めていたナラジアの姿。ひとつひとつが高位の幽鬼に相当するほどの力を秘めた暗黒の手であるが、その全ては前菜に過ぎない。

 ――ドルモーア

 その詠唱が終わるや否や、闇の閃光がみらいの立つ座標に浮かび上がる。

 それを、手にした魔剣でひと振り。小さな水溜まりを濁流が飲み込むかのように、グランドリオンに込められた闇の魔力によって即座に霧散し消え去った。

「すごいね。僕のドルモーアを同じ闇の力で上回るなんて。」

 闇の上位呪文。それは、賢者の座に就いた者でも、光の河の導きと共に人の限界を超えることなしには到達し得ない領域。そんな呪文の極地も、この強者たちの舞台では様子見のジャブでしかない。

「ただ、この呪文――」

 だが、様子見の段階は既に終わっている。ナラジアのひと言を皮切りに――戦いは加速する。




「――こいつらそれぞれが使えるから、頑張って凌いでね。」




 それは、絶望の到来の報せだった。空中に旋回する暗黒の手は、数にして6。ブラフなどではないと告げるかのように、その全てに魔力が練り上げられ始める。それぞれが僅かにタイミングをズラして力を高めているその光景に、まるでコーラスのようだ、なんてズレた感想がふと湧いてくる。それを現実と呼ぶにはあまりにも理不尽で実感が伴わない。

「……それはちょっと、聞いてないかな。」
 
 みらいの顔つきに、初めて明確な焦りが生じた。軽いジャブも、連続で放つのであれば充分な"必殺技"だ。グランドリオン一本で対処できる数には限りがある。

 ならばと天に向けて剣を掲げ、SPを練り上げる。その瞬間、魔剣と化していたグランドリオンが僅かに、本来の光を取り戻した。

 ――Spell.レイン・レイ

 魔法陣が大地に広がる。円状に敷かれたそれを中心に、天より降り注ぐ光の雨。次々に撃ち込まれるドルモーアの連弾を叩き落としては浄化していく。

「へぇ……。」

 闇の力であるドルモーアに対し、同じ闇を以てして掻き消すのであれば、それを上回る力を出さねばならないのは道理だ。だが、闇の対極に位置する光の力で祓うのであれば、僅かな力でも大きな効果を生み出すことができる。
 
「ドルモーアが押し負けた理屈は理解できる。
 ひとつひとつは所詮、暗黒の手の一柱に込められた魔力に過ぎないわけだしね。」

 それを認めた上で、ナラジアはみらいに怪訝な目を向けていた。

「とはいえ……なんてか細い光なのだろう。」

 グランドリオンが闇を放っていた先程までに比べ、宿らせた光の力はあまりにも小さく、弱い。幡田みらいという実力者が扱っているとは思えないほどに微小な魔力だ。

398追想のラグナロク ◆Ok18QysZAk:2025/03/27(木) 02:05:08 ID:yC3WvoJY0
「ふふ……もしかしてそれが"協調"ってやつなのかい?」

 かつて、"協調"を説いた男がいた。
 曰く、本質の異なるもの――光と闇が手を取り合ってこそ、大きなチカラが生まれるのだと。

「だとしたら、あまりにも滑稽だよね。」

 ――馬鹿馬鹿しい、と。大いなる闇の根源は、一笑に付す。

 光あるところに闇は必ず生まれるが、闇はそれだけで存在できる。光と闇が手を取り合うのではなく、闇が全ての光を喰らい尽くし、呑み込むことこそ真なる協調。

「闇と光をひとつの身に宿したことで、光は掻き消え、そんなにも弱々しく……」

 幡田みらいは、まさにその思想を体現しているかの如き少女だった。本質を闇としながら、何かに焦がれるように扱っている光の力は、暗黒の手ごときと相殺する微弱な力しか生み出していない。

「何に納得してるのか知らないけど。
 わたしをダシに勝手に何かわかった気にならないでくれる?」

「……へぇ、違うと?
 なら、答えを教えてよ。キミのその光の正体を。」

 だが――幡田みらいに、"協調"を良しとする思想などあろうはずがない。光がどうとか闇がどうとか、そんな話にも興味が無い。彼女の脳裏を占めるものは。彼女が敢えて戦う理由は。

 そんなもの、初めからただ一つ。




「――"愛"、だよ。」




 それを聞いたナラジアの表情は――新しい玩具を見つけたがごとく、醜く歪んでいった。

「……ふぅん、愛ねぇ。」 

 ナラジアの元に再び、闇の魔力が集結し始める。先ほどまでよりも、さらに大きな魔力の流れ。続く攻撃を受けてはならないと、本能が警鐘を鳴らす。

「僕はキミに興味が尽きないよ。
 "協調"とも違う、力の秘訣。
 どうかその可能性を示しておくれ!」

 距離を取るか、或いは詠唱の隙に攻撃を加えるか。二者択一のどちらも、取り囲むように接近する暗黒の手が邪魔をする。

「……ああ、もうっ!」

 発動速度に優れるArt.スピンスライスでそれらを一掃するも、接近・退却に使うべき時間をそれに費やしたみらいに、その呪文への対処手段は残っていない。



 ――ドルマドン。



 発生した暗黒の塊は、小規模なブラックホールと化した。圧倒的な引力がみらいの身体を千切れんばかりに収縮させ――


「……ふぅん。まだ立ってるんだ。」


 満身創痍になりながらも、みらいは戦場に両の足をつけて敵を見据えている。

「加減したつもりはないんだけど……
 それが愛とやらの力なの?
 それともキミに元々、闇の力への耐性が備わっているというだけなのかな?」

「ふ……ふふっ……計算通りにいかず、残念だった?」

「強がりを。
 もう立っているのもやっとなんだろう?」

 それは、ドルマドンのダメージによるものだけではなかった。みらいは何かに気付いたように周囲を見回す。
 "えんじょいでえきさいてぃんぐ"をテーマに創られた快楽ノ園の景色は、元々目に優しくないポップカラーで彩られている。故に、気付くのに遅れてしまった。


 辺り一面の空気が、薄い毒素のような力――魔瘴によって覆われているということに。

399追想のラグナロク ◆Ok18QysZAk:2025/03/27(木) 02:05:23 ID:yC3WvoJY0
「これ、は……」

「ふふ、ようやく気付いた?」

「……」

 神話の時代。

 アストルティアに彼方より飛来した侵略者は、女神ルティアナの生み出した大地に魔瘴を持ち込んだ。それはすぐに世界を侵食し始め、遂には侵食された大地がアストルティアから切り離されることとなった。

 離され、捨てられた世界に残された者たちは、命を蝕む魔瘴の中で苦しみながら、女神を、そしてアストルティアを憎んだ。歪んでいく心は、その者の風体すらも、醜く変貌させていった。

 魔瘴とは、あらゆる戦いの歴史の始まりにして諸悪の根源。魂の器であるナラジアの姿でさえ、ただの人間には近付くことすら適わぬ濃度の魔瘴を噴出できる。もし、肉体の完全覚醒までもを果たしたのなら――アストルティアといういち世界を魔界から魔瘴で包み滅ぼす――"大魔瘴期"の到来すら可能な滅びの神の力。

 そして、そんな絶対的存在を前にして、みらいは思う。

 ――気に入らない、と。

 人の形をした化け物がそこにいた。幽鬼の姫と評されるほどに強く備わった闇の力を軽く凌駕する規模の魔力を、容易く扱いこなす存在。まるで、闇という概念そのものの根源に位置するかの如きその力。打倒するどころか、目の前で呼吸する――ただそれだけのために"必死"にならなければならない。

 幽鬼の姫として君臨してからは、自身を脅かす者などいなかった。他人とは吸魂の餌であり、天地がひっくり返っても警戒対象などではなかった。

 だから、"遊び"の余地があった。餌として集めた人間を気まぐれに逃がす素振りを見せては、気が変わったと背中から撃ち抜いてみたり、家族というまやかしの愛情関係にある者たちを殺し合わせてみたり。多くの恐れと憎しみを向けられながら、幽鬼の姫は愉悦そうに嗤っていた。

 だが、今はどうか。

 まるで幽鬼の姫を前に、無力に逃げ回るしかなかった人間たちのように、"遊ばれ"ている。絶望的なまでの実力差がそこにあった。おそらく、"切り札"を使ったとしても――

 過ぎった想像が、やはり気に入らない。

「……それに、こうして闘いを交わす中でイヤでも流れ込んでくるキミの記憶。
 ふふ、キミという存在の本質が少し分かった気がするよ。」

 そして、何よりも気に入らないのが――



「キミの言う"愛"ってさ……
 結局は、居場所を失うことへの"恐怖"なんだろう?」
 


 ――わたしが嫌がる言葉を敢えて選んでいるかのような、その悪辣な性格。

 優位に立つのは好きだけれど、上から目線でものを言われるのは何より嫌いだ。だが、戦う中で零れ出していく幽鬼の記憶の欠片――"思念"。きっと覗かれてしまったのだろう。わたしの最も思い出したくない記憶を。

400追想のラグナロク ◆Ok18QysZAk:2025/03/27(木) 02:05:37 ID:yC3WvoJY0



 やけに小うるさいエンジン音だけが、わたしの耳の奥で反響していた。アイツらは黙々と運転を続けていた。後部座席にひとりぽつんと座っているわたしを、極力視界に入れないようにしながら。

 それはいつもの光景だ。ここが家の中だったとしても、わたしはアイツらの視界に入っていない。わたしはいつも部屋の端っこにいた。そんなわたしに手を差し伸べてくれるお姉ちゃんだけが、わたしの唯一の家族だった。

 だからお姉ちゃんがついてきていないこの車内には、わたしの居場所なんてなくて。どうしてお姉ちゃんは連れていかなかったんだろう、なんて疑問も、当時のわたしには浮かんでいなかった。

 わたしの"次"のお父さんとお母さんが決まったのだ、と。そう言ったのは、どちらからだったか。


『――お手伝いでも、お料理でもなんでもするから……。
 お願い、わたしのこと捨てないで。』


 家族という輪から、わたしだけが切り離されてしまう。お姉ちゃんとはなればなれになって――ひとりぼっちに、なっちゃう。

 アイツらは――お父さんとお母さんは、わたしのことを愛してなんかいなかった。わたしが捨て子だったから。血が繋がっていないから。お姉ちゃんと同じように愛せなかったって、そう言ってた。

 "必死"に愛そうとした、なんて言い訳を吐いていたけれど、そんなものは実際に捨てられようとしている身からすれば詭弁でしかなかった。だけどその詭弁は、決定権を持たない子供のわたしにとって、絶対的なルールだった。


『家族って、必死にならないと出来ないモノなの?』


 それってさ。必死になるのを諦めただけなんでしょ?

 わたしを愛していないから。

 でも家族って、そういうものじゃないよね?


『……いいよ。
 だったら、わたしも必死になるから。』


 愛は、血の繋がりなんかじゃない。一緒にいるために、どれだけ"必死"になれるか、その感情こそが"愛"なんだ。

 ねえ、お姉ちゃん。わたしはお姉ちゃんと一緒にいるために、こんなに"必死"になれたんだよ。

 アイツらと一緒に死んで、辺獄に落ちて。
 ただの幽者だったわたしは何度も何度も食べられかけて、死んでなお死にそうな目に遭い続けて、それはとっても大変だったけど。

 それでも、お姉ちゃんに会いたかったから。

 "愛"のチカラが、あったから。



 ――だから、お姉ちゃんもわたしのためにもっと"必死"になって。



 血の繋がりなんてものよりずっと強いお姉ちゃんの愛を、わたしに証明して。




401追想のラグナロク ◆Ok18QysZAk:2025/03/27(木) 02:05:59 ID:yC3WvoJY0
「……キミ、つまらないね。」

 みらいの記憶を垣間見た上で、ナラジアは一言、吐き捨てた。

「最初は支配者の器かと思ったが――とんだ俗人だ。」

 姉に見せていた執着、その根源。
 ベクトルが同じものであったとしても、大魔王バルメシュケやマデサゴーラのそれとは大きく異なっていた。

 美学に沿わぬものを、理を捻じ曲げてでも己が審美に適うものへ造り変えようとする洗脳、或いは創世の欲求。それがみらいの記憶からは感じ取れなかった。
 そこにいたのは、ただ己を承認してくれる姉を肯定し、迎合するだけのいち少女の姿でしかなかった。縋っていると評してもいいだろう。

「もうキミに用はないよ。」

 もはや、ナラジアはみらいへの興味を喪失していた。
 忠誠を誓うわけでもなく、あえて手を伸ばす価値も無い。そんなみらいに対する処置は、壊れた玩具を捨てるのと同じだ。項垂れた少女に向けて、魔力を練り上げる。

 半端な呪文で殺せるほど、か弱い少女ではなかった。故に、相応の威力まで力を溜めて――



「――マヒャデドス。」



 そして、解き放つ。

 だが、その向かう先は、幡田みらいではなく、ナラジアの背後。虚空に向けて発された呪文は、迎撃するように放たれた魔力弾とぶつかり、弾ける。


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