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オリロワF 第二層

1 ◆vV5.jnbCYw:2024/09/02(月) 21:38:49 ID:UyhJuJDY0
【この企画について】
オリジナルのキャラクターによるバトル・ロワイアル企画です。
ただし、どのような設定の参加者も、首輪が爆発したら必ず死亡します。

参加者名簿 >>2
地図 >>3

・本企画はリレー形式になっており、初心者から経験者まで誰でも歓迎。【この企画について】
オリジナルのキャラクターによるバトル・ロワイアル企画です。
ただし、どのような設定の参加者も、首輪が爆発したら必ず死亡します。

・本企画はリレー形式になっており、初心者から経験者まで誰でも歓迎。

【ルール】
参加者は爆弾付きの首輪を装着され、殺し合いに強制参加させられています。
タイムリミットは三日間、生存者が男女一組(2人)だけになれば終了です。
一定時間死者が出なかった場合、全員の首輪が爆発して死亡します。首輪を無理に外そうとしても爆発します。
なお、優勝者2人には何でも願いを叶える権利が与えられます。

【スタート時の持ち物について】

・参加者があらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収されています(義手など体と一体化している武器、装置は許可)

・参加者は主催側から以下のアイテムを支給されます。
・「デイパック」「地図」「コンパス」「照明器具」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランダムアイテム(個数は1〜3)」

「デイパック」…支給品一式が入っているデイパック。容量を無視して収納が可能ですが、余りにも大きすぎる物体は入りません。
「地図」…大まかな地形の印刷された地図。
「コンパス」…普通のコンパス。東西南北が把握できます。
「照明器具」…懐中電灯。替えの電池は付属していません。
「筆記用具」…普通の鉛筆とノート一冊。
「水と食料」…通常の飲料と食料。量は通常の成人男性で2〜3日分です。
「名簿」…全参加者の名前が記載されている参加者名簿。
「時計」…普通の時計。時刻が解る。参加者側が指定する時刻はこの時計で確認します。
「ランダムアイテム」…何かのアイテムが入っています。内容はランダム。参加者に縁のあるアイテムが支給してもOK(ただし備考欄等で詳細を書く事)

・意思持ち支給品について

オリジナルの意思を持ったアイテムや、一部の生物を支給品として出せます(限度はあります)。
そこまで厳しく制限することはありませんが、出すには下記の条件があります。


・意思持ち支給品の数は5体まで
既に一体出てきているため残り4体です。


・書き手様一人につき、意思持ち支給品を登場させられるのは1体だけ。
現在(2024/2/21)では51話にて1体目が登場したため、残り4体です。

・プロローグ及び本編の投下数が4本以上の方

勿論、これから投下数が4本以上になれば、それ以外の方も意思持ち支給品が登場する話を書けます。
なお、デイパックに入っていない物は、意思持ち支給品には含まれません。

・とんでもなく巨大だったり、とんでもなく強い力を持っているなど、ロワを破綻させたり、今後の本編執筆に支障をきたすような支給品は禁止


【放送と禁止エリアについて】
全生存者が一定の時間帯まで達すると、放送ssが投下されます。
内容は死者の読み上げと禁止エリアの設定です。
禁止エリアの設定後にそのエリアに留まり続けると、首輪から警告音が鳴り、その後首輪が爆発します。

【予約について】
『○○、○○、予約します』のように書き込んで下さい。
ゲリラ投下もアリです。
予約期限は一週間です。また、本編(24話以降の話)を1本でも書いた書き手様は、もう1週間延長できます。

【時間表記について】
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6

【開始時刻について】

・開始時刻は朝の6時からです。

【まとめwiki】
オリロワFまとめWIKI

274どうか永遠に、その日が来ないように 不快 ◆vV5.jnbCYw:2025/05/03(土) 20:16:06 ID:vUvRxycg0

「はっきり言うよ。お断りだ。」

「……!?な……なぜだ!?」

「あんたは言うことを聞くに値する人間じゃない。僕はそう思ったからだ。」


それは言葉よりも表情が語っていた。
老人の生前の話を聞いた時は、幾分か驚愕や怒りを表情に孕んでいた。
だが、それから先は、不二は無表情を通していた。


「恐らくだけど、僕はそのデンクと言う人と敵対している。そんな相手と、今更仲良くなれと?」


その言葉で、老人の白髭に覆われた表情が引き攣る。
この男が、殺し合いに乗っていたとは、想像もしていなかった。表情がそう語っていた。


「僕が殺し合いに乗っていたかどうかも、知らなかったのか?」

「……いや、たとえ敵対していたとしても……」

「それに僕は、叶えたい願いがあるんだ。あんたはそれを叶えてくれるというのか?」


不二は最低限の倫理観は持ち合わせているが、それをこの老人に使うつもりは無い。
自分の出生を知っているのかと言われて、そこまでは知らないと言われた時点で、彼への機体は薄れていた。
老人が自分の出生を知っており、教えてくれると言うのなら、まだ考えてもよかったが、彼は知らないと言った。
極論を言ってしまえば、出生の秘密を教えてくれるなら老人であれトレイシーであれ、デスノであれ構わない。


「それに、あんたは僕が最初の質問をしたとき、『あの計画を始めたのも、元はと言えば奴から未来を守るためだ。』って言ったよな?
不死身の人間を作りたかった理由は妻を蘇らせたかったからじゃなかったのか?」


不二は老人が生前にやったことは、恐ろしいことだと思うが、それでも理解はできる。
長い年月を通して、いつの世でも不死者でない人間の中に、不老不死を望む者がいたからだ。
それはただの無い物ねだりであって全く共感はできないが、理解は出来る。
死した伴侶に再び会いたいと言う気持ちも分からなくはないし、妻子を捨てた不二としては、そこまで想える相手は羨ましくも思える。
だが、老人はその目的さえも忘れてしまっていた。


「せめてあの時、死んだ妻のためにも協力してくれ、と言ったら考えたかもしれないのにね。
話を聞く限り、あんたは場の状況に合わせて意見を変えているようにしか思えない。」

275どうか永遠に、その日が来ないように 不快 ◆vV5.jnbCYw:2025/05/03(土) 20:16:28 ID:vUvRxycg0
まあ、コインの裏表だけでやることを決めてる自分も、そこまで言えた義理じゃないけどね
心の中で、そんな言葉を付けたす。


「ま、待ってくれ……まだ教えたいことがある……」

「聞きたいことは、どうすればここから出られるのかと言うことだけだよ。
ここに隠れていれば殺し合いが勝手に進んで、戦う回数も減るからそれもそれで良さそうだけどね。」

「最後に一つだけ聞いてくれ……首輪にかけられている力は■■■■■■■■■■■!!」



言葉の後半は良く聞こえなかった。
だが、不二は踵を返し、出口を探すことにした。




【??? 】


【宮廻不二】
[状態]:疲労(中)
[装備]:アクマ兵装『グレー・ジャック』
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム×1 玲央が通り魔として使ったナイフ

[思考・行動]
基本方針:裏が出たので優勝を目指す。
1:誰だ?この人?というかここはどこだ?
2:僕が不老不死の理由…
3:あの人(神)のおかげで、少しこれ(グレー・ジャック)の使い方が分かってきたかな?
4:願い、叶うといいなぁ。
5:名簿は…まあ見なくてもいいや。
6:放送か…とは言っても、やることは変わらないけどな
7:首輪の正体は■■■■■■■■■■

【備考】
※精神や魂など肉体を殺さずとも殺せる支給品があると考えてます。
※グレー・ジャックによって攻撃や脚力が常人を越えてます。ただし、体力の消耗量も増えています。

※名簿はまだ見てないのでもしかしたら知り合いがいるかもしれません
※残念ですが、もうノーゴルド13世からの話を聞くことは出来ませんよ。



「!?」


いつの間にか、そこには新たな人物の姿があった。
所々に真っ赤な装飾の付いた、白塗りの仮面を着けている。
不二にとっては、二度目の対面だが、その姿ははっきりと印象に残っていた。



「あなたが断ってくれて、助かりましたよ。ワタクシとしても、首輪を爆破する手間が省けて何より。」

「御託は良いから、早く元の場所に戻してほしいな。」

「ええ、ええ。分かってますとも!ワタクシ、殺し合いに素直に乗ってくれる方には優しいんですよ!!」


「待ってくれ!まだ……話が………!!!」


有無を言わさずデスノが指を鳴らすと、老人の姿は消えた。
もう一つ指を鳴らすと、宮廻不二の姿も消えた。









「何だか、僕だけ色んな所に飛ばされてるような気がするなあ。」


長い時を生きる彼でさえ、空間移動と言うものは経験したことが無かった。
それなのにここへ来てから、3回も経験している。
最初は殺し合いの開幕と共に、次はトレイシーに、そしてまたしてもデスノに飛ばされた。

276どうか永遠に、その日が来ないように 不快 ◆vV5.jnbCYw:2025/05/03(土) 20:17:10 ID:vUvRxycg0

辺りは真っ暗で、先ほどと同じ場所のように見える。だが、空気が先ほどより澄んでいた。
そのため、すぐに違う場所だと言うことに気付いた。
ここはどこかの地下で、加えて夜も更けたので、周囲が見えにくかったらしい。
目を凝らしてみれば、穴の開いた天井から、月光がわずかに差し込んでいる。
どことなく幻想的な風景に見えた。


「ここが、あの老人が言っていた、魔法を届けやすかった場所…なのかな。」


デスノがここに飛ばした。老人もテレパシーと道具をここにいた誰かに伝えた。
さしずめ、ここは他の場所に比べて、主催陣営と関わりの深い場所だと言うことだろう。


「まあ、どうでもいいことか。」


彼の道筋は、参加者を全員殺して、優勝することだ。
この世界からの脱出方法など、人を殺さずに生き残ろうとする者が考えればよい。
トレイシーからは出生の秘密を聞いた上で殺せばいい。


(ただ、ハインリヒという奴は…おそらく手ごわい敵になるだろうな。)


老人が発明しようとした魔法が、どこまで自分に近づけたのかは不明だ。
だが、不死者に近づいた者すら殺すことが出来た人間ならば、自分でさえも殺せるかもしれない。
老人から聞いた情報はどれも大した話では無かった。せめて、首輪さえ教えてくれれば、デスノが掌を返した時に役に立ったかもしれない。
あえて言うなら、ハインリヒと言う人物が特に強いことが判明したぐらいだ。


「えーと…地上は何処なんだろうか……」


一歩踏み出すと、足が何かを蹴った感触を覚えた。
足元を調べてみると、着替えが一式置いてあった。
そういや自分は、水道管を潜ったせいで、ずぶ濡れになっていたと今更ながら気づく。


「グレー・ジャックは特に異常は無いみたいだな……。」


濡れた服を脱ぎ捨て、デスノが周到に用意してくれた服に着替える。
少々時間を取られたが、まあそこまで問題ないかと、歩き始めた。



幽霊列車の車掌と、不死の男。
あの世とこの世の壁を越えて走る列車と、魂を守ることの出来る血液を持つ男。
ともすれば何か変化を起こす可能性を秘めていた。
だが、惜しむらくはどちらも、相手を不必要だとしていたことだ。
何度状況が変わっても、絶望的にかみ合わないのは、どの世界でも同じことなのだろう。




【E-6 地下 夜中】

【宮廻不二】
[状態]:疲労(中)
[装備]:アクマ兵装『グレー・ジャック』
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム×1 玲央が通り魔として使ったナイフ

[思考・行動]
基本方針:裏が出たので優勝を目指す。
1:時間を無駄にしただけで、あの老人は大した奴でも無かったな。
2:僕が不老不死の理由…
3:あの人(神)のおかげで、少しこれ(グレー・ジャック)の使い方が分かってきたかな?
4:願い、叶うといいなぁ。
5:名簿は…まあ見なくてもいいや。
6:あの車掌の格好の人…そんな役割を持ってたんだ…
7:ハインリヒか…誰かは分からないけど、手ごわい敵になりそうだな。

【備考】
※精神や魂など肉体を殺さずとも殺せる支給品があると考えてます。
※グレー・ジャックによって攻撃や脚力が常人を越えてます。ただし、体力の消耗量も増えています。
※名簿はまだ見てないのでもしかしたら知り合いがいるかもしれません

277どうか永遠に、その日が来ないように 不快 ◆vV5.jnbCYw:2025/05/03(土) 20:17:20 ID:vUvRxycg0
投下終了です

278 ◆vV5.jnbCYw:2025/05/07(水) 23:09:24 ID:5XSxOzU20
キム・スヒョン予約します

279 ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:01:48 ID:LE9AjNRc0
投下します

280藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:02:15 ID:LE9AjNRc0

ショッピングモールでの戦いを終えたキム・スヒョンは、まっすぐ南西に向かっていた。
そのスピードは、つむじ風を思わせるほどに早かった。
常人の視点からだと、現れたと思いきや、その場には鉄臭さしか残らないほどだ。
彼女にとって、ただ単にサンドラ達から逃げる以外の問題があった。


「くそ……参加者……この際死体でもいい!!血…血……血!!鉄分!塩分!タンパク質!!」



彼女がただ事ではないのは、思考が読めなくても、姿から伝わってくる。
ボロボロの姿はどうにか戻った。
だが元のキム・スヒョンに比べて、身長がとても低いのだ。
元の彼女を知っているなら、一目で分かるほど縦も横も縮んでいる。
頭身は変わらないのに、身長そのものが変わっているのは、何とも奇妙に見えた。


フィクションで、ス〇ールライトもリ〇ルフィートも無しに、キャラがなぜか縮むのは、まれに良くある話だ。
例えば、初登場時はコマに収まらないぐらい巨大だったキャラクターが、主人公と戦う時は少し大きいぐらいになっていたり。
例えば、初登場時にはキング・コングもかくやと言うほど巨大なゴリラが、話の転換と共に普通サイズのゴリラになったり。
ああそうそう。背が低いことが特徴の人物にやられた敵キャラが、後日登場した際に理由もなく縮んでいたりしたこともあったな。


だがスヒョンが小さくなっていた理由は、作者の人理由とか考えてないと思うよ、と真顔で言うようなものではない。
ただ単に、激しい戦いの末に、血を大量に失ってしまったからだ。
液体にも固体にもなれる血液生命体である以上、刺されてもマシンガンで蜂の巣にされても、死ぬことは無い。
だが、血をすべて失えば、当然死に至る。


(サンドラちゃんの血のおかげで、身体は問題なく動かすことは出来る!!マヌケが抵抗してきても戦って殺せばいい!!けど、量が問題なんだ!!)


いくら栄養満点の食事でも、小さじ一杯では栄養補給には至らない。
今のスヒョンを苛んでいるのはそれだ。
血液生命体がエンジンなら、血液はガソリン。生命活動を維持できる時間は、その量に比例する。
サンドラの血液は、車体を強化することが出来ても、満足な量が残って無い以上はガソリンにはなれないのだ。


「クソ…クソ……!!こんな所で誰にも知られないまま、死んでたまるかよボケッ!!」


誰も聞いてくれない悪態をつく。
彼女は、400年以上無傷で生きていたワケではない。
魔法使い、怪物ハンター、渡りの民の戦士、最近ならば異常殲滅機関の隊員。
人間を面白おかしく殺していく傍らで、そう言った奴らに追い詰められて、幾度となく死に瀕した。
そうなっても悪知恵を利かして、全力で逃げてきた。


(なんだアレ…森なのか?あんなものは無かったはずだが…地図ぐらいちゃんと書いとけよスッタコッ!!)

281藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:02:32 ID:LE9AjNRc0
スヒョンの遠目に映ったのは、ハインリヒと笑止千万が戦った場所の跡地だった。
その場所は蕗田芽映が放った力で、巨大なフキの森林と化していた。


スヒョンにとって、あのような場所は近寄りたくなかった。
400年以上を生きて、様々な世界を回った彼女は知っている。自然の猛威と言うのは、人間の敵より恐ろしくなると。
ゴールド・ラッシュ期のアメリカで、馬鹿どもが際限なく掘ったせいで落盤に飲み込まれて、九死に一生を得たことは覚えている。腹いせに逃げ延びた採掘者を食い散らかしたことまで。
大雨からの大洪水で体を流され、水死体を食らって生きのびたこともあった。
ドイツの森林地帯で迷った時なんて最悪だった。動物さえ見つからず、延々と同じ場所を歩き回って、餓死する一歩手前まで行ったことがある。
ノコノコ近づいてきたマヌケな木こりを食い殺せたため、事なきを得たのだが。
何にせよ、彼女は自然が猛威を振るう場所は、あまり好きではないのだ。
迂闊に入り込めば、あの時のように迷って、今度こそ餓死しかねない。そんな恐れがあった。


もし入る選択肢を取れば、参加者を3人も見つけることが出来たのだが、それは結果論でしかない。
人間から漂ってくる血の匂いも、巨大蕗の青臭さにかき消されてしまっていた。


「ここ(警察署)にも誰もいない……なめてんじゃねえぞド畜生!!
こういう建物には人が集まって、カレーとか作って食べてるんじゃねえのかよ!!」


市街地の中で一際大きく佇んでいた建物の中にも、誰もおらずに落胆した。
中をくまなく見て回れば、参加者がどこにいるのか分かったのだが、人の匂いがしないと分かると、すぐに出てしまった。


再び、夜道を凄まじい速さで疾走する。しかしその表情は、言いようのない焦りが浮かんでいた。
折角吸血鬼の魔の手から逃れられたと言うのに、こんなバカの世界チャンピオンみたいな死に方で死ぬのは真っ平御免だった。


(そもそも、この手の話で餓死した奴っているのか?死因 餓死 殺害者 不明って書かれるのは嫌だぞ?
いや、大体そんな物に名前を載せられるのは勘弁してほしいことだが……)

282藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:03:08 ID:LE9AjNRc0


またしても、スヒョンの背は縮んだ。視線の高さの違いから、それは彼女自身も分かった。
何だかキャ〇テン翼の登場人物から、星の〇―ビィの登場人物ぐらいの変わりようだ。
頭身こそは成人女性の者とは変わらないから、実際に見ると縮尺が狂っていると錯覚してしまいそうだ。





遊園地は、沈みかけの船を誘う港のように、煌々と光を放っていた。
雪見儀一と“テンシ”、そして桝谷朱李が戦いを繰り広げてから大分置き去りになっていた場所だが、その時と大分雰囲気は違っていた。
誰が灯りを付けたのか分からないが、朝とは違う顔をした遊園地が、彼女を迎え入れた。


(まさか…ここにもいない訳じゃないよな?それはシャレにならないぞ……。)


ジェットコースター、観覧車、コーヒーカップ、絶叫マシーン、びっくりハウス、イベントホール。
色とりどりのライトを纏ったアトラクションが、スヒョンを迎え入れる。
いくつかは朱李と儀一、そして“テンシ”の三つ巴の戦いで崩壊していたが、それでもアミューズメント施設特有の眩さを保っていた。
だが、客ですらないスヒョンは、そのどれにも目が行かなかった。
彼女はただひたすらに、血のみを求めているのだ。


(うあああああ!!!血だ!!人の血だ!!)


入ってしばらくすると、彼女の嗅覚が目当てのものをとらえた。
砂漠でオアシスを見つけた旅人のように、目を血走らせ、大口を開けてその場所へ走って行く。
背丈は大分縮んでしまったが、その勢いは、高速道路を疾走する高級車にも匹敵する。
あまりのスピードに、道中で【対アクマ用殲滅兵器のプロトタイプ展示中!!!】の掲示板が壊れたが、そんなことは彼女にとってはどうでもいい。


「ここかぁ!!」


イベントホールの扉を突き破る。扉を開ける動作も、一刻を争う彼女にとっては煩わしい行為だ。
だだっ広いエントランスが、スヒョンを迎え入れた。
だが、そこにはホールの大きさに似合ったものは既に無かった。
ここにあったはずの“テンシ”は既に持ち去られている。
残っていたのは身体を真っ二つにされた、人間の死体が一つ。ホールの真ん中で、血だまりに沈んでいた。


「助かった!いつ死んだバカなのかは知らないが……」


それが罠なのかどうか、そんなことを考える余裕はなかった。
右手を鋭利な触手に変え、フォークのような形にして、哀れな遺体を一突き。
血液生命体の食事の仕方は独特だ。ぱくんと口腔接種するのではなく、接触した右手から血液をポンプのようにギュッコンギュッコン吸い取る。
本来なら人の食事もマネ出来るし、病院で四苦八苦の血を摂った時のように様々な食べ方を実践してみたが、今はそんな余裕は無かった。

283藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:03:22 ID:LE9AjNRc0
やがて、スヒョンの背丈は、本物の彼女と同じぐらいに戻って行く。
どこぞの赤帽子の配管工が、キノコを食べた時のような変わり具合だ。


「………足りねえんだよクソッタレ!!」


しかし、彼女の口から出たのは悪態。血が滾って、最高にハイって奴にはなれなかった。
スヒョンが食らった死体の名前は、碓井盛命。
人体の血液の量は、体重の8%に当たると言う。
盛命の体重は正確には不明だが、厚生労働省の調査によると、14歳の男子の平均体重が51キロだという。
盛命は同年代の男子に比べ、随分華奢な見た目なので、それより40キロ前後と見て良いだろう。
従って彼の血液の総量は3リットルはあり、スヒョンとしては多すぎるぐらいだ。


「全身真っ二つって、どんなバカみてえな死に方してんだよ!!
死ぬのはいい!!ゆっくり嬲り殺し、略してゆ嬲に出来ないのは残念だけど!!もっと血を残して死ね!!」


ただし、それは盛命が生きていた場合。
彼は“テンシ”のレーザーで両断された際に、多くの血を失っていた。
加えて、時間の経過も、血を少なくさせた要因になっていた。
彼が死んだのは、第一放送前。彼の死から半日近く経っている現在、出血した血の多くが、乾いてしまっている。


(ダメだ…もっと血をよこせ……)


当面の餓死は免れたが、会場の広さからして、殺し合いが終わるまではまだまだかかりそうだ。
二度目の放送の時点で、残りの参加者は20人。それから何人か死んだかもしれないが、それまでに新たな補給が無ければ、とても終わりまで持たない。


激しい怒りを露わにし、地団太を踏むスヒョン。
盛命の血は、鮮度が落ちていたとはいえ、まずいものではなかった。
だが、量が少ないのが問題だった。オードブルのみを食わされて、メインを出してもらえなかった怒りは、推して知るべしである。


「………!?」


突然、スヒョンの身体を、えも言われぬ違和感が襲った。
どのような感覚か説明しろと言われれば、どう説明するか困るような感覚だ。
全く感じたことの無いはずの気分なのに、どこか懐かしさを覚える。
相反する2つの感情が、スヒョンの中で渦巻いているような気持になった。

284藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:03:38 ID:LE9AjNRc0

(おい…記憶が映るほど血を飲んだつもりは無いぞ…?むしろもう少し欲しいぐらいだが…)


半日前この場にいたエイドリアンを除いて、誰も知らない。
もちろん、スヒョンが知る由もない。
この場にいた“テンシ”が、碓井盛命から“アクマ”と関わる何かを感知し、彼に攻撃したことを。


――異質なエネルギーを感知。解析……解析不能。暫定的に“アクマ”と繋がるものと判断。排除


元々碓井盛命と言う少年は、戦いはおろか、外を出歩くことさえ難しい少年だった。
しかし何の技術かは不明だが、殺し合いに参加する際に、ナイフで斬りかかることが出来るぐらいにはなった。
当の彼は、その天啓を生かすどころか、それが原因となって死んでしまった。
だが、もしその不可解な“力”が残っていれば?不可解な“力”を承った彼を、何者かが捕食すれば?
“テンシ”が“アクマ”の力だと判別した力の正体は、未だ何かは不明だ。



(………何だ?これは……!?)


突如、スヒョンの脳内に溢れ出した。存在しないはずの記憶。


スヒョンの視界に、靄がかかったような何かが映る。
そこに映っていたのは、洋風の造りの家の中と、その中心にある巨大な大釜だった。
誰か、その窯の隣で、杖を持っていた。
視界が霞んでおり、その“誰か”が誰なのかは分からない。
辛うじて分かるのが、
杖が光ると、大釜の中の真っ赤な液体が、ボコボコと波打った。


そこまで見ると、視界は元の、盛命の死体しかないホールに戻った。


「今のは何だったんだ?もしかして、オレが、いや、僕が、間違えた。私が生まれた場所と言うことなのか?」


焦点の合わない瞳で、うわ言のように呟く。
キム・スヒョンは、否、彼が名前を持ってすらいない血液生命体は、生まれを知らない。
自分が428年前、禁術で血液から作られたことだけは知っているが、誰に作られたのか、なぜ作られたのかは全く知らない。
気が付けば彼女はそこにいて、好きなように殺し、気づけば他者がストイックに金と時間と労力をかけて積み上げてきたものをグッチャグチャに潰すのが好きなことに気付いた。

285藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:03:58 ID:LE9AjNRc0
「なめるなっっ!!!汚らしいビチクソがっっっっ!!!!!」


恐ろしい何かを振り払うかのように、けたたましい怒声を発する。
元の長さに戻った腕をハンマーのようにして、地面に叩きつける。
ビシビシと音を立てて、蜘蛛の巣のような亀裂が、ホールの床に走った。


「え?こ……これは……まさか……」


サンドラから奪った力を、こんなしょうもないことで使うべきじゃなかった、と思うのもつかの間。
ガラガラガラと、ホールの床が崩れていく。
スヒョンがホールから脱出する前に、崩壊の方が早かった。


「ふざけるなよボケがああああああああああああ!!!!」


盛命の血を食らったことで見た幻覚のせいで、逃げるのに遅れてしまった。
そのまま真っ逆さまに、ホールの地下に落ちていく。







べちゃりと、人間が落下した時とは違う音が響いた。
ショッピングモールでも見せたことだが、血液生命体ならば、高所から落下しても死ぬことは無い。
精々身体を再構成するのにひと手間かかるぐらいだ。
ただ、上に登るのがこの上なく面倒くさい。空腹に憂いている今は猶更だ。


「ああクソ…もうこんな話飛ばせ!次の95話でも読んでろ!!」


お前は読者になんちゅうことを言ってるんだ、そもそもこれが今の所最新話だよという話はさておき、スヒョンは自分が今どこにいるかキョロキョロと見渡す。
このイベントホールには地下があり、何の目的で使われるか知らないが、ここはその地下通路だということは分かった。


(上には登れるか。もしこのまま出られずに餓死したら、何だよこのクソ展開って言葉でスレを埋めてやろうと思ったが、それはせずに済みそうだ…。)


ひとまず餓死は先送りに出来た。
しかし、空腹以上にどことなく煮え切らない気持ちが、スヒョンの心を占めていた。
ストレス発散に、ついでにおかわりは無いのかと、ホールの地下を探す。


「ん?何か光ってるな……。」

286藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:04:23 ID:LE9AjNRc0

その光は、イベントホールの蛍光灯とは明らかに違う。
ルビーを彷彿とさせる真っ赤な光が、誘蛾灯のようにスヒョンを誘う。
まさかこれも、1つの幻覚か?と思いながら、光の方向に歩いて行く。


その先にあったのは、イベントホールの舞台だった。
誰もいないが、着ぐるみダンスを始めとするショーに適しているだろう。
しかし、そこには役者もダンサーも、誰一人いない。
代わりに子供の頭ぐらいある宝玉が、舞台に乗せられた展示台の上で、輝きを放っていた。
展示台には、その宝珠について説明がされていた。


  『レガリア・宝珠』
   魔獣を封じ込めた召喚石。
   鉱石・レガリアは極めて魔法の飽和度が高い。
   これを炎魔術や水魔術だけでなく、召喚魔法にも応用できないかという発想のもとに作られた
   掲げると封印した魔獣を、1度だけ呼び出すことが出来る。


舞台の上に飛び乗り、宝珠を手に取る。
不思議と、スヒョンはそれが本物だということが分かった。
盛命の血液を食らった影響なのか分からないが、それが確かに使うことが出来ると分かった。
その上で、宝珠をまじまじと見つめる。よく見れば、中に黒い鱗と牙を持った、怪獣の姿があった。


「うーん、これを使ったとしても、ロリババアやガラクタやバカに敵うかなあ……真央ちゃんや眼鏡(新田目)、黒スーツ(神)なら普通になぶり殺しに出来るし……」


この殺し合いは、強カードの1つや2つで制することが出来るほど容易ではない。
それはスヒョン自身が良く知っていることだ。
自分は参加者をゆっくり嬲って殺すことが目的であって、皆殺しが目的ではない。
そのことを加味しても、未だ一人も殺せていない時点で、それはよく分かっている。


加えて1回しか使えない以上、意外と使える場所が限られていることは伝わってきた。



(いや、待てよ?誰も攻撃のために使えとは言って無いだろう?
この怪物を、巨大な血液サーバーとして取っておくのはどうだ?)


400年以上生きていると、どの血を飲んでも中々美味いと感じることは出来ない。
本物スヒョンの血は中々の良い味だったが、それまで理想の血を味わうのに10年ほどかかっていた。
だが、あの時飲んだサンドラの血は、そのスヒョンの血以上の至高のご馳走だった。
この怪物の血を飲めばどうなるか、量も質も、素晴らしいものだろう。

287藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:04:38 ID:LE9AjNRc0
(けれど、飲み過ぎて優勝した時にこの怪物になっていたら、ちょっと嫌だな…なぶり殺しにしようとしたら、うっかり心臓を潰したりしてしまいそうだし……
彼女の血は自宅に家に保存しているけど、それを飲んでしまったら残ってないしなあ。
とりあえずコイツは保険にしておいて、別の獲物を探しに行くか。)


とりあえず、補給の面でも、戦いの面でも貴重な武器を手に入れた。
この怪物の血がクソマズの可能性もあるし、迂闊に飲み過ぎて本物スヒョンの血が薄まってしまっても困る。
確かに彼女と縁を切ることが出来れば、頭の中に流れる変なセリフや知識も捨てられるはずだ。
だが、そのメリットを考慮しても、彼女の姿は美女である以上、獲物を誘うのに適している。
この姿に拘りを持っているスヒョンは、ひとまず支給品袋に宝珠を入れた。


(ああくそ腹減った。実家の血液サーバーが恋しくなってきたね。
コイツ(本物スヒョン)の作品と違って、私は結構グルメなんだ。デスノの奴や他の参加者も、それをきちんと理解してほしいね。)


どうでもいい話だが、本物スヒョンはあまり食事に興味が無く、それは彼女の作品にも現れていた。
キャラクターの造形は特に定評のある彼女だったが、食事シーンは異様にマズそうだったり、そもそも食事描写が全くなかったりする。
彼女の同人作品では、マッチョな王様が銅板のような見た目のステーキを食っていたりするのだ。


帰りは落ちた穴を使うのではなく、通路の先にある非常階段を使う。
遊園地には死者すらいないのだと分かった以上、もうここには用は無い。
ホールを出ると、疾風の如き速さで走り出した。




【A-7 遊園地 夜中】


【キム・スヒョン】
[状態]:困惑(大) ミーム・汚染(手遅れ) 血液損失(中) 空腹
[装備]:無し
[道具]:フレデリックの支給品の地図 宝珠・レガリア
[思考・行動]
基本方針:優勝して気に入った子達を“持って帰る”
1:なるべく愉しんで殺す
2:面倒な奴は避ける、と言いたかったが、この面倒さは予想してたのと違う!!
3: 魔子ちゃんを嬲り殺して血を貰いたかったなぁ
4: 汀子ちゃんは死んでるだろうなぁ
5: コイツ(グレイシー・ラ・プラット)や汀子ちゃんを利用してサンドラちゃんを殺す……この計画(プラン)は破綻したよ
6: “ミカ”ちゃん(ノエル)は今は殺せそうにないなぁ
7:あのガキ(碓井盛命)の血、不味くはなかったけど量が少ないんだよ!!
8:此奴(本物スヒョン)とは早く縁切りしたい
9: 取り敢えずこの人を不幸にすることにおいては天才的っぽい
10:あのガキ(碓井盛命)……、何を仕込まれてたんだ?薬中の血とは全く違うぞ?
11:宝珠レガリアの怪物を召喚して、その血を食ったらどうなるんだ?怪獣の姿で生還するのは嫌だな……。


※主催者陣営から何らかの措置を施された碓井盛命の血を捕食したことで、何等かの影響が現れました。

288藁にも縋る ◆vV5.jnbCYw:2025/05/10(土) 00:04:49 ID:LE9AjNRc0
投下終了です

289 ◆/dxfYHmcSQ:2025/05/24(土) 21:50:12 ID:pQXHHIDE0
投下します

290ヒトリノ夜 ◆/dxfYHmcSQ:2025/05/24(土) 21:51:38 ID:pQXHHIDE0
博物館で時間を潰した二人は、博物館の側にあった民家を、仮の宿とする事にし、夜明けまで休む事としたのだった。
博物館の側で仮宿を求めたのは、誰かがやってきても、目立つ博物館の方へと注意が向いて、二人のいる民家に気づく可能性が少なくなると踏んだ為だ。
玲央もノエルも、殺し合いに乗っている身ではあるが、同じ家で眠る事に不安は無い。
ノエルは玲央の語ったハインリヒを警戒し、玲央はノエルの語ったキム・スヒョンに備えなければならないからだ。

玲央がレガリアの脳力を駆使して繰り出した多彩な攻撃を、初見で悉く凌ぎ切り、あまつさえ玲央を追い払ったという雷の剣士。
特異体質を駆使したノエルの動きにも対応し、雷による的確な反撃を行うだろうハインリヒは、ノエル単独では勝ち得ない。
玲央は玲央で、身体能力が人間の域を遥かに超え、変幻自在に身体を変化させてくる血の怪物は、レガリアが有っても対抗するのは難しい。

玲央もノエルも、己の実力を正しく理解しているからこそ、互いを切る事は“現在のところ”は、冷徹な思考に基づいて、出来ないのだった。
二人が決裂するとすれば、自分達以外の全員の戦力を把握して、尚且つ生き残りの中に己を単独で下す者が居ないと確信した時。
未だに生き残りが多く残り、未知の者もいる以上、両者が決裂する事は有り得ない。
勝利を目指す者にも、脱出を模索するものにも、脅威となる同盟は、未だに固く結ばれている。

「それではお休みなさい」

「お休み」

支給品は温存する事とし、家の中で調達したトンカツとごはんと千切りキャベツと豚汁の食事を終え、短い挨拶を交わし、ノエルドゥ・ジュベールと双葉玲央は、それぞれ別々の部屋へと向かう。
なおトンカツと豚汁に使われていた豚は“メス”であるが、そんな事はどうでも良い。重要なことじゃ無い。


〜〜〜〜

291ヒトリノ夜 ◆/dxfYHmcSQ:2025/05/24(土) 21:52:14 ID:pQXHHIDE0
ベッドの上に寝転がり、双葉玲央は思索に耽る。
玲央くらいの年頃の少年ならば、そこいらのモデルやアイドルが泣いて詫びを入れる程の美少女が、同じ屋根の下にいるとなれば、心は猿の様に、意は馬の如くと化し。
品行方正とはまるで無縁な態でノエルの部屋へと突撃して、ふぁ…ふぁいとオ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ。
としようとして、ノエルに惨殺されるだろうが。双葉玲央にはそんな情動も性欲も存在し無い。
『普通なら、アイツ(ノエル)に夜這いでも掛けるんだろうな』。などと思うだけである。
ノエルの事はどうでも良いので置いといて、博物館で見たものについて考える事にする。

────槍と珠。

王国レガリアで製作されたという器物。
レガリアについては確認する術が無いので放置するとして、問題なのは槍と珠だ。
ショッピングモールで見た地図に有った、召喚石とカイジンの力が宿った槍の事だろうか?
だとすれば、王笏に匹敵するものが、此処には後二つ有るという事になる。
誰かの手に渡れば、厄介というより他に無い。
城で交戦したハインリヒを思い出す。

────アイツが手に入れたら脅威だな。

ノエルと二人懸りでも、ハインリヒはそう簡単には倒せ無い。そこに王笏に匹敵する道具が有れば、玲央単独では勝利は覚束ない。
ノエルと手を切るとしても、その時は未だもう少し先になりそうだった。

────それにしても、此処は一体何なんだ?

フレデリック達を殺した時から、ずっと抱いていた疑問。
玲央の記憶にあるのと寸分変わらぬ公園。ノエルが産まれた場所だという病院。加崎魔子の過去について記録された映像。
集められた者達の、過去に纏わるものが、此処には無造作に転がっていた。
得体が知れない場所で有り、此処を作り出したデスノもまた、得体が知れない相手である。
解明したいとは思うものの、殺し合いという現実の打開には、当面役に立たなさそうなので、今の所は放っておく事にする。
重要なのは、『集められた者達の過去に纏わるものが有る』という事。
つまりは『幽霊列車の乗車券』などという代物にも、誰かしら関わる者が居るのだろう。
ひょっとしたら、幽霊列車そのものが、此処には有るのかも知れなかった。

────両親が乗っていたりしてな。

そんな事を思ったが、変わらず感情というものは生じない。
幽霊列車とやらが此処に有って、両親が乗っていたとして、自分は果たしてなにかを思うのだろうか。
そんな事を考えている内にも、夜は更けていく。

292ヒトリノ夜 ◆/dxfYHmcSQ:2025/05/24(土) 21:53:16 ID:pQXHHIDE0
ベッドに腰掛け、ノエルは取り出したミカの頭部を解体していた。
くるるが死んでしまった以上、このオモチャ(ミカの頭部)に用は無い。
くるるで愉しむ為の道具である以上、くるるが死ねば只のガラクタ。
精々が、ノエルの好奇心を満たす為に役立って貰うくらいしか、使い道が無いのだった。
頬を削ぎ、歯を引き抜き、眼を取り出し、頭部を切り開いて中身を取り出す。
アクマの膂力や、特異な性質を利用した攻撃に耐えられるように、外見不相応の強度を誇り、大口径拳銃弾ですら弾くテンシの外皮も、ノエルの特異体質は熱したバターの様に斬り裂いた。
ノエルが指を動かす度に損壊されていくミカの頭部は、一切血を流すこと無く、内部の機械を露にしていく。

「本当に機械仕掛けの方でしたか」

掌に乗せたミカの右眼を見ながら、しみじみと呟く。
ノエルが掌の上で弄んでいるミカの右眼は、眼球を精巧に模してはいるが、明らかに機械仕掛けの眼だった。
切り開いた頭蓋の内には脳が無く、代わりに電脳が収まっている。
壊れる前のミカの言動や感情、戦闘時の動きを考えるに、ノエルの知るロボット工学で、ミカの製造は不可能だ。
一体何処で製造され、此処に捉われたのか。

「頭部の重さからすると、同じ背格好の人体よりも遥かに重いんですよね。
 こんな重量の物体が、翼程度で飛行できるのでしょうか?得体の知れない推力のようなものは、発生していましたが」

モールでの一戦を思い出す。
高速で自在に宙を飛翔し、空を舞う、テンシの呼び名に相応しい姿を。

────こんな高度な技術は、存在し無い筈ですが。

ノエルの知る機械工学では、到底有りえない超技術。
感情や思考を司どるAIも、ノエルの知識からかけ離れたい性能だ。
持って帰って調べてみれば、世の中の為に役立てられるかも知れ無い。
これでまた、父母を喜ばせることが出来る。そう考えて、ミカの頭部をデイバッグに仕舞い込む。
 次いで、胴体も持ってくれば良かった、などと思いながら、抉り出した眼球諸々も、室内で見つけたぬのに包んで仕舞い込んだ。

ベッドに横たわり、今日の出来事について思いを馳せる。
モールの内外で交戦した二体の怪物の内、外で交戦した怪物の名を訊かなかったのは失敗だった。
あれでは、死んだのかどうか判らない。放送で名を呼ばれても、名を識らないのでは、死亡の確認が出来ない。
あの化け物は、生きていると考えて行動するべきだろう。
血の怪物(キム・スヒョン)は、形を保てなくなる程に脂を浴びせ、残った血も、穴の底に廃棄してやったが、元より血の塊だ。
アレで死んだかと訊かれれば、ノエルは首を横に振る。
此方は名前が判っている。放送で生死が確認出来るだけ、外の化け物よりはマシだろう。

差し当たって、生き残りで警戒しなければならないのは、玲央、ハインリヒ、化け物、汀子,スヒョン。

293ヒトリノ夜 ◆/dxfYHmcSQ:2025/05/24(土) 21:56:13 ID:pQXHHIDE0
第二回放送で呼ばれた20人が、全員生き残っているとして、少なくとも四分の一が警戒を要する相手だ。
この分では、他の生き残りの中にも、脅威となる存在が居るかも知れなかった。
3回目の放送で、何人の名が呼ばれる事になるのか、ハインリヒの様な強者が、死者の列に加わっていてくれれば良いのだが。
とは言え、汀子とスヒョン、ついでに新田目には、生きていて貰わなければならない。
この三人には、産まれてきた事を、今まで生きてきた事を、後悔するほどに苦しめて苦しめて苦しみ抜かせてから殺さなければならないのだから。
自分の関わらない所で死ぬことなどは、到底許される訳が無い。
死ぬにしても、せめて自分が与える苦しみの、無量大数分の一でも味わってから、死んで欲しかった。
 
スヒョンを、汀子を、新田目を、どう痛めつけ、どう辱め、心身共に苦しめ抜いて殺すか。
血と臓物に塗れた思考に耽る内に、嬲り殺したいと思っていた三人の事を思い出した。

────オリヴィアさんと、ミカさんと、くるるさんは、苦しみ無く亡くなられたのでしょうか?

くるるや新田目が知れば、驚愕する事は必至だが、ノエルにとっては別段おかしな事では無い。
『苦しめて殺さねばならない』と『嬲り殺しにしたい』の違いは明白だ。
新田目達を殺すのは義務であり責務だが、くるる達は権利であり遊びだ。
遊んで、愉しんで、嬲り殺したかったのに、誰かの手で殺されてしまった。
ただでさえ業腹なのに、苦しめられていたとなると、許す事など出来はしない。
あの三人を苦しめるのは、他の誰にも許されない、自分だけの権利なのだから。

「くるるさんは、新田目さん達と共に居たはず、殺す前にどの様に亡くなられたのか、訊いておきましょう」

答えないのならば、答えさせる。
陰惨な決定を下したノエルは更なる邪悪な思考に耽る。

────残る愉しみはあと二人。

双葉真央と、加崎魔子。

────真央さんは、未だに存命。玲央さんの目的は叶いそうですね。

玲央の目的である真央の殺害は、ノエルの愉しみである。
己が片葉が、己に対して何の感情も抱いておらず、無情のままに殺しに来る。
その時に真央がどの様な感情を抱くのか?どの様な表情を浮かべるのか?
考えただけで気が昂って眠れなくなる。

加崎魔子に対しては、薬物蝕まれて生きていくのは辛いだろうと、心から同情している。
デスノに蘇らせて貰う際に、魔子の身体を蝕む薬物は除去して貰おう。
殺し合いから救うだけでなく、薬物からも救わなければならばい。
つまりは加崎魔子の生命は、ノエルの手で確実に絶たれねばならない。
その上で、薬物を除去して蘇らせて貰う。
二つの苦しみから救うのだ。自分を愉しませてくれても良いだろう。
どうせ此処での出来事は記憶から消される事になるのだ。梓真がどの様に死んだのか、詳しく教えても、魔子の心に傷が残る事は無い。

「ああ…、そういえば」

愉しい愉しい映像が有る事を思い出して、タブレットを取り出す。
熱い息を吐きながら、タブレットを操作。ライブ映像を飛ばして、加崎魔子の破滅する瞬間を食い入る様に鑑賞する。

ノエルが邪悪な悦楽に浸る間にも、夜は更けていく。

294ヒトリノ夜 ◆/dxfYHmcSQ:2025/05/24(土) 21:56:39 ID:pQXHHIDE0
F-3 博物館の近くの民家


【双葉玲央】
[状態]:全身の複数箇所に浅い傷 下腹部に打撲(小)疲労(小)精神的疲労(中) 服が焦げている。
[装備]:王杓レガリア テンシ兵装“イダテン”
[道具]:基本支給品一式、宝の地図 ランダムアイテム×0〜1(確認済み)首輪×2 軍用兵器の箱 金属バット フレデリック・ファルマンの支給品×0〜1(武器ではない) グルカナイフ 魔鳥の骨で造られた槍 幽霊列車の乗車券何枚か
[思考・行動]
基本方針:知り尽くし、壊し尽くし、優勝する
1:誰を殺しそびれた…?いや、まずは妹だ。
2:妹を探して殺し、その死に顔を拝む
3:灰色の鎧の男(不二)が言っていた神社方面へ向かう。
4:やはりガス管や水道管もあったのか。しかし何処へつながっているんだ?
5:一応脱出ルートも可能であれば探しておく
6:あの映像に映っていた病院。この地図に載っているのと同じかも知れない
7:取り敢えず三人殺して、特典を貰う
8:どうにかして、彼女から箱のカギを奪えないものか
9:20550630?何かが起こった年代か?
10.あまりテンシ兵装は使いたくない。
11.不死者…か……。いったい今までどんなことを思って来たんだろうな。
12:自分の正体は一体…?

【備考】
※加崎魔子のライブ映像を観ました
※彼が殺し合いに呼ばれた時期は、2025年6月30日だと確定しました。
どの暦なのかは不明です。



【ノエル・ドゥ・ジュベール】
[状態]:疲労(中) 怒り(中)『病院で出逢った男(新田目)に対しては極大』
[装備]:グルカナイフ “ブラック・プリンス”
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3(四苦八苦の分を含む) ノエルの制服(血塗れ) No.13の頭部 軍用兵器のカギ 滝脇祥真とスヒョンの支給品×0〜2 元々着ていた服(血まみれ) 幽霊列車の乗車券何枚か タブレット 
[思考・行動]
基本方針:『遊んで』殺す
1:三人殺して特典を貰う
2:自分は…人間なのか?
3:双葉真央を探してショッピングモールに連れてくる
4:双葉玲央が双葉真央を殺すのを観る
5:自分の服や靴を汚した新田目、汀子は絶対に許さない
6:両親への愛を侮辱した男(新田目)は念入りに念入りに苦しめて殺す
7:ミカさんとオリヴィアやくるるさんで遊びたかった……。くるるの死がどの様なものか新田目達に訊いておきたい
8:加崎魔子はいずれ『救ってあげる』その前に愉しんでも良いでしょう
9:軍用兵器を使って、苦しむ者達を見たい
10:本当に不死者がいるとは驚き。

295ヒトリノ夜 ◆/dxfYHmcSQ:2025/05/24(土) 21:57:21 ID:pQXHHIDE0
投下を終了します

296 ◆vV5.jnbCYw:2025/06/30(月) 18:58:51 ID:/oy0EeRs0
投下お疲れ様です。
滅茶苦茶感想遅くなって申し訳ありません。

何かこの2人、性格が人間とはかけ離れているのに、やっていることが妙に人間臭く感じるのが面白いですね。
日常生活でも殺し合いでも、きちんとした食事と睡眠は大事と言うことか。
それとノエル、そのタブレットまだ持っていたのか。もう少しやることがあるような気がするが、それが彼女のヤバい所なのでしょう。


ハインリヒ、エイドリアン、アンゴルモア、トレイシー予約します

297 ◆vV5.jnbCYw:2025/06/30(月) 23:58:47 ID:/oy0EeRs0
投下します

298 ◆vV5.jnbCYw:2025/06/30(月) 23:59:11 ID:/oy0EeRs0

トレイシーは、静かにその場に立っていた。
朽ちた鉄の門の前で、背筋を伸ばし、じっと目を凝らしている。夜の闇の中、月は半ば雲に隠れ、鈍く濁った光だけが彼の顔を照らしていた。
目の前にあるのは、都内の学校だった。綺麗な校舎やお洒落な制服などから、地元ではそれなりに人気だった高校である。
だが、ある事件をきっかけに、瞬く間に廃れてしまった。
白いコンクリートはコケや鳥の糞で斑に染まり、かつての栄光を隠すかのようになっている。
その高校が、なぜこの場にあるのか分からない。元々あった世界では、取り壊されていたはずだった。


錆びた蝶番が、今もなお侵入者から建物を守っている。
だが、そんな物はトレイシーの前では、無いも同然だ。
真夏のアスファルトで見られるように、空間が歪んだと思ったら、彼はガラス張りの扉の内側にいた。


そのまま下駄箱を横切り、静かに進む。
殺し合いの会場で無くとも、廊下は不気味な雰囲気を醸し出していた。
ホラーの舞台に多々挙げられることも頷ける空気だ。しかしトレイシーは動じることなく、その廊下を静かに歩く。
まるで彼自身が、その学校の七不思議の一人とでも言うかのように。


しばらく廊下を徘徊していたが、何かを思い出したかのように、その足を止める。
1年2組、と書いた番号がある教室の前だ。
その教室の中心では、本来の学校施設にはあり得ないようなものが、渦巻いていた。
薄紫と水色が混ざったような光だ。光源は何なのかは不明だが、学校に関わっているものではないことは伝わって来る。
トレイシーは、一瞬それを見つめていたが、すぐにつまらなさそうに目を逸らす。


代わって視線を送ったのは、教室の一番戸口側にある机。
マジックペンで机に書かれた『うんこ太郎』という文字を、彼は珍しそうに見つめていた。


「あの“彼”がここまで凄い人物になるとは。“雷霆の英雄”だったか?」


トレイシーは、しばらく教室の中を巡回する。
教科書が置いてある机の中、体操服が雑に畳んで置かれているロッカー、教壇、その近くのチョーク入れ。
教室の真ん中の光よりも、彼にとっては珍しいものだった。そんな表情で、一つ一つを見つめている。
その表情は、まるで深夜の学校に侵入した不審者。だが、不審者だったらどれほど良かっただろうか。
不審者だったら学校の中以外に被害を与えることは無いが、彼が与えた被害は学校どころではないからだ。


教室内を一通り見て回ると、最後に渦を巻く光の中心に、足を踏み入れる。
トレイシーの姿が、突如消えた。
これが、デスノが二度目の放送で言っていた転送装置だ。

299終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/06/30(月) 23:59:51 ID:/oy0EeRs0
「さあ、次は何処へ行くかね。誰に出会うかね。」


その言葉を残し、彼は姿を消していく。そのまま永遠にこの世から消えろよと、誰かに思われながら。





「起きたか…全然寝ねえと思ったら、ガッツリ寝やがって。」

「えーと、あれから何時間経った?」

「今は10時半だ。放送まで1時間と少しって所だな…。そうだ。あのドラゴンと、笑止千万の支給品、回収してきたぞ。」


エイドリアンが乱暴に、2つの支給品袋を投げる。
場所は変わり、瓦礫で作られた家の中。
ハインリヒたちは1時間と少しほど休み、笑止千万との戦いの傷を癒していた。
幸いなことに、その間は誰からも襲撃を受けず、休息を取ることが出来た。


「……もうちょっと、寝かせてくれないか……。」


長旅をしていると、短期間の睡眠でも起きられるようになる。
正確に言うと、熟睡できなくなり、眠りが浅くなってしまう。
ハインリヒが異世界に来てから知ったことであり、組織の研修で高山や島でのサバイバルを行っていたエイドリアンも知っていることだ。
しかし、そういったことを経験していないアンゴルモアにとっては、あまり慣れないことである。


「ダメだ。いい加減起きるぞ。」

「お前は俺達より長いこと寝てたからいいじゃねーか!」

「寝てたんじゃない…気絶だ……」


普段のアンゴルモアなら、『今からが夜の帝王が、丑三つ時まで死神の宴を開く時だ!!』なんて言っているはずだ。
しかし、引きこもり歴2年、昼夜逆転生活がすっかり板についてきたアンゴルモアも、今日という日は色んなことが多すぎた。
10時間はぐっすり眠りたいと思っていたのに、いきなり起こされて、しばらく不機嫌な様子を見せていた。
掴もうとするハインリヒの手を払いのけて、また寝ようとする。

300終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:00:25 ID:kc6oCnL.0

「とにかく、ボクは眠いんだ…起こさないで……」

「お前コードネームとかよく分からないこと言って中々寝なかったクセに、今度は起こすなだと!!?」

「うわああ!待て待て待て!同志よ!!そんな物を使うな!!弾が勿体ない!!」


痺れを切らしたエイドリアンが、トリスタンをアンゴルモアに向ける。
流石の彼も眠気が吹き飛び、ようやく起きることにした。


「さて、僕もそれなりに歩けるようになったし、改めてフキの捜索を……。」

「………」


未だに行方不明となっている、蕗田芽映を探そうとしたが、そんな中でアンゴルモアが手を挙げた。
普段なら彼は学校の授業での発言さえしていなかったはずだが、これもこの世界を通した変化と言うことだろうか。


「同志、話すタイミングを失っていたが、図書館で一つ見つけた物があるんだ。」


アンゴルモアが出したのは、宝の地図だった。
図書館で彼の思い出の本に挟まっていた、あの宝の地図。


「もしかして、この殺し合いから出られる方法があるかもしれない。」


空気がどよめく。
この場にいるのは3人だけだが、それでも空気が揺れたのを感じた。
四つ折りになっていた紙を、ハインリヒとエイドリアンに見せる。
この殺し合いの会場の地図が書かれており、その下に文字が見えた。
1つだけ、焦げたような色をした文字で書かれている。
2人の視線が、その文字にだけ集まる。


    E-2 大聖堂地下 世界からの脱出のカギ


「これは…どこにあったんだ?」


2人の表情には、驚愕のみならず、疑念も浮かんでいた。
いきなり脱出の手がかりが目の前に飛び込んできたのだから、当然と言えば当然だ。


「いや、だから図書館にあったんだ。」

「そうじゃない。図書館のどこで見つけたんだと聞いてるんだ。」

「僕が好きだった本に挟まってあった。」

「おま…俺たちが熊に追いかけられていた時に、のんびり好きな本読んでたのか……。」


アンゴルモアはそのまま、自分がしたことを話した。
恐らくこれは宝の地図で、それぞれの場所にそれぞれのお宝があるのだろうと。


「第一、そいつは偽物じゃねえのか?救いがあると見せかけておいて、残念でしたって話もあるだろ?」

301終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:00:44 ID:kc6oCnL.0
なるほど、デスノならばやりかねない。
もしも自分がエイドリアンならば、同じことを言っていただろうと、ハインリヒは考えた。
だが、彼とアンゴルモアは、少なくとも全てが嘘ではないとこの目で見ている。


「僕は違うと思う。この地図に書いてある4つの内、既に本物を2つ見つけている。
1つは城にあった杖。もう1つはフキが持っていた槍だ。」

「それに本物じゃないなら、わざわざ文字を隠す必要は無い……と思う。
ここの文字だけ、雪見さんが炎で炙り出してくれたし……」

「……何でンなもんがあるのか分からねえが、とりあえず大聖堂とやらに向かって見るしかねえか。」


エイドリアンはそうは言ったが、実はまだ罠なのでは無いかと考えていた。
この世界で自分らを殺しに来る相手は、同じ参加者ばかりではない。
今となっては過去の出来事となってしまったが、最初に同行した少年、碓井盛命の最期は今でも覚えている。
不用意にテンシ・プロトタイプを起動させてしまった結果、その強大すぎる力の犠牲になった。
そんなエイドリアンでさえも、この世界からの脱出のカギという言葉は、魅力的に聞こえた。


「うむ。大聖堂とはこれまた良き場所。崇めるも良し。汚すも良し。向かう他無かろう!!」

「お前、何か勘違いしてねえか?」

「ちょっと待て。フキを助けなきゃいけないだろ?」


だが、ハインリヒはそうではない。
この世界から脱出できるに越したことは無いのは確かだ。
しかし、仲間を見捨てることなど、許せない性格の持ち主だ。


「……お前、それ本気で言ってんのか?ヤク中のケダモノだぞ?」

「本気さ。僕たちの仲間だろ?」

「そう思ってるのはお前だけだよ。俺からすれば、ヒトなのか動物なのかも分からないバケモノにしか見えない。」


エイドリアンとしては、フキが憎くてそう言っているのではない。
だが、疑わしきは罰せよが金科玉条の異常殲滅機関に属している人間だ。
機関の教えを全てにおいて優先するつもりはないが、フキに対してそこまでする意志は持たない。
おまけに、一度は熊の姿で追いかけられたこともあるのだから猶更だ。
殺すつもりは無くても、それが一緒に助けたいと言う意思に直結することはない。


「フキをバケモノ呼ばわりするな。人であれ熊であれ、僕たちの仲間だ。」

302終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:01:09 ID:kc6oCnL.0
一方でハインリヒは、この世界で仲間を失うことを、何よりも恐れている。
異世界で共に冒険した朱李の死も、この世界で初めて出会ったナオビ獣、雪見儀一の死も目の当たりにしたからだ。
たとえほんの僅か一緒にいたフキでさえ、死んでほしくはないと思っている。


「……とにかく、俺は反対だ。それに逃げたのはアイツの方じゃないか。運よく見つけたとしても、また逃げられるんじゃないか?」

「だからと言って、見捨てて僕たちだけで脱出するのは嫌だ。」


エイドリアンは言い方こそ強くなったが、ハインリヒと喧嘩したいわけではない。
むしろ、彼が恐れているのは、この場での孤立だ。
既に自分一人では到底生きられる世界で無いのは、遊園地で雪見儀一と桝谷朱李の戦いを見た時点で、十分すぎるほど理解している。
ハインリヒと別れると言うことは、自殺行為に等しいぐらいに思っている。


「同志たち……」


アンゴルモアが、おっかなびっくり口を開く。
その目は、ひどく泳いでいた。ハインリヒとエイドリアンの顔を、繰り返し見つめる。


「あ?同志じゃねえっつってんだろ。」

「ボクは、ハインリヒと一緒に、フキを探したい。」


こいつ、ぶん殴られたいのか。


アンゴルモアのそんな発言を聞いて、エイドリアンの脳裏に、そんな言葉が浮かんだ。
まず第一に、アンゴルモアはフキとの面識はほとんどない。だから、自分以上に見捨てて当然の存在だ。
百歩譲ってハインリヒみたく自らの意志で助けたい、最悪クマが好きだからとか、そんな自分ならではの理由ならまだいい。
だが、ハインリヒが言うから、ハインリヒがしようとしているから、考えなしにフキを助けに行きたい。
そんな彼の言葉が、どうにも腹立たしかった。


「そ、そうだ!お前ならともかく、コイツは戦える力なんて無いだろ?フキを探すと言うのは勝手だが、コイツを危険に晒すリスクを考えてるのか?」


繰り返すが、エイドリアンはハインリヒと争いたいわけではない。
彼としては、せっかく見つけた脱出の手がかりがある場所へ、すぐにでも向かいたいだけだ。
だから、今でこそ刺々しい雰囲気が場を包んでいたが、その空気はじきに晴れるはずだった。
そう、この3人だけなら晴れるはずだった。

303終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:01:35 ID:kc6oCnL.0

ふと、エイドリアンは気づいた。ハインリヒが眺めているのは、自分でもアンゴルモアでも無く、ずっと遠くだと。
突然ハインリヒが、何かに憑りつかれたかのように、遠くに走って行く。
何の前置きも無くそんなことをしたため、他の2人は、黙って彼が走った場所を眺める他なかった。


「うおおおおおおおお!!!!」


気付けば、遠くにもう一人、中年男の人影が見えた。
ハインリヒの知り合いなのか?敵か?味方か?そんなことを2人は考える。


「おらぁ!!!」


唐突に、ハインリヒは中年男を殴った。
お前、そんなキャラだったの?と、置いて行かれた2人は呆気に取られるばかりだった。
他にも考えるべきことは山のようにあるはずだが、今この瞬間だけは、そんな疑問が2人の頭を支配していた。


「あの時僕たちを置いておいて、どこで何をしていたんだ!!先生!!!」

「先生ぇ!?」


エイドリアンの口からは、先ほどまで言い争いをしていたとは思えないほど、素っ頓狂な言葉が出た。
そりゃ、ハインリヒだって自分より長く生きているのだから、先生ぐらいはいてもおかしくはないが、そんな話をここでは一度も聞かされてなかった。
話はフキのこと、脱出の手がかりがあるという、大聖堂のことについて話していたはずなのに、その2つがどこかへ飛んで行ってしまった。


「やあ太郎君。元気してたかい?」

「殴り倒されながら言うセリフですか。昔の名前を呼ばないでください。あと長い間何処に行ってたんですか。」

「色々言いたいことがあるんだねえ。」


地面に転がっていながらも、先生と言われた男は、飄々とした態度を崩さなかった。
アンゴルモアは一体何なんだこの人と思っていたが、エイドリアンは相当に食えない古だぬきだと思っていた。


「ハインリヒ、誰なんだよその人は?」

「ああ、この人は異世界で出会った、僕の先生なんだ。雷の術なんかは、この人との修行で使いこなせるようになったんだよ。」

「元々は彼が居候していたハッペ家の、家庭教師だったんだけどね。ほらほら、こうやってマジックとか見せてたんだ。」


先生と呼ばれた男は、指をパチンと鳴らす。
地面に転がっていた石が、いくつか浮かび上がり、グルグルと回り始めた。
まるでそれは、サーカスで披露されるジャグリングのようだった。


「でも、少し気になることがあるんだ。僕が名簿を見た限りは、先生の名前は無かったぞ。」

「久々に見せてやったマジックに関しては無視ぃ!?まあいいさ。私の本名のことだが、何故か載っていない。
どういう訳か知らないが、かつての芸名が載っているんだよ。」

「芸名?」

304終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:02:00 ID:kc6oCnL.0
「名簿にトレイシー・J・コンウェイという名前があるはずだ。君たちと別れてから、東の大陸で芸人をやっていた時の名前だ。
別に本名ではなく芸名が載っていることは、おかしい話ではないだろう?太郎君。」


後ろにいた機関のコードネームを持つエイドリアンと、ネトゲのユーザー名であるアンゴルモアがお互いの顔を見る。


「その名前言わないでくださいよ。今の僕はハインリヒ・フォン・ハッペと言う名前があるんです。」

「なるほどなるほど!と言うことは、あのコチコチ頭のハッペ家の当主から、跡継ぎとして認められたというのかい?実にめでたいねえ!!」


この時、ハインリヒは実感した。
予想外のタイミングで、予想外の理由で祝われても、あまり嬉しいことは無いと。
いや、嬉しくないのは、跡継ぎと認められたことを、思わぬ場所で祝われたことでは無い。


じゃあフキを助けに行ったり、大聖堂に向かったりせずに、こんな風に駄弁っている自分にか?と考えてみた。
だが、そういう自己嫌悪とも違った気分だ。


何と言うか、今の状況に、言いようもない違和感と不快感がある。
そうでなければ、折角再会した師と、もっと喜びを共有できるはずだ。
幼少期に食べて、とてつもなく美味しかった食べ物を、今食べてみると、思ったほどの美味しさも感動もない。
むしろ味が強すぎると感じたり、有害な着色料のことが頭に入り、違和感の方が強かったりする。
例えていうなら、そんな感情を、ハインリヒの胸の内が支配していた。


「ところで、そっちの二人は誰だい?この世界のお仲間さん?」

「ああ、そうだよ。」


そのままトレイシーは、2人をまじまじと批評するかのように見つめた後、口を開いた。


「少しだけでいい。私と太郎……ハインリヒ君で少しばかり話したいことがある。そっちの瓦礫の家?に戻っておいてくれないか?」

「俺が高1の時の担任もそうだが、少しだけって強調する奴、大体話が長いんだよな……」

「何かあれば、大声を出して呼んで欲しい。」


それ以上の良い回答は無いと考えたエイドリアンは、すごすごと小屋に戻る。
言葉にできない嫌な予感と同伴しながら。





305終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:02:53 ID:kc6oCnL.0
「話したいことがあるとのことですが、僕の質問にも答えてください。なぜあの時、姿を消したんですか。」

「あの時とは、いつのことだい?」

「ノーゴルド王国が攻めてきた時ですよ。先生も来て欲しかった。なのに戦いに参加してくれなかったのはなぜですか?」

「でも君は私無しでノーゴルドを倒し、めでたく救世主となった。不満かい?」

「当たり前ですよ!何度死にかけたと思っているんですか!!
先生がいてくれたら、もっと旅は楽なはずだった!!」


ハインリヒの怒りは尤もだ。
雷の能力の使い方を教えてくれたトレイシーに、少なくとも当時は、全幅の信頼を寄せていた。
それが、ノーゴルドの話を聞く1月前から、姿を消してしまったのだ。
こんな所で再会したのは嬉しいが、そのことだけは許せないとも少なからず思っている。


「アラタメの一族って、知ってるかい?」


トレイシーはしばらく黙っていたが、ハインリヒが痺れを切らして追加の言葉を吐こうとした瞬間、声を出した。
いきなり聞いたことの無い言葉を聞き、眉根を顰めた。








「それで、あのオッサンとハインリヒの話が終わったら、どうするつもりなんだ?」


しばらくエイドリアンとアンゴルモアは黙っていたが、どうも黙っている時間というのは耐えがたく、話を始めてしまった。
トレイシーの登場によって、よく分からないことになった空気を、少しでもわかりやすいものに変えたかったからだ。
先程まで言い争いをしていたことも、アンゴルモアに無性に苛立つことも忘れていた。


「……さ、さっき言った通りだ……ボクはフキを助けに行きたい。」


アンゴルモアの返答はひどく小さく、彼の眼は伏し目がちだった。
その態度が、エイドリアンにいら立ちを思い出させた。


「それはどうしてだ?俺はケダモノなんざ見捨てて、一刻も早く大聖堂に向かった方がいいと思うぞ。」

「………ハインリヒが仲間を見捨てたくないと言っているからだ。」

「俺はハインリヒの理由なんざ聞こうと思ってねえんだよ。お前の理由は何だって聞いてるんだ。」

「………ハインリヒの理由が、ボクの理由だ!」

306終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:03:34 ID:kc6oCnL.0

勇気を振り絞って、アンゴルモアはそんなことを話した。
だがその勇気は、エイドリアンには届かなかった。彼に届けられたのは、火に注ぐ油だけだ。
アンゴルモアの主張を聞くと、エイドリアンそのままそっぽを向いて、ドッカリとその床に座った。
彼らしくもない所作だと、彼自身でも思った。それぐらいしなければ、トリスタンの引き金を引いてしまいかねないと思った。


「なあ、いや、あの……ちょっと待ってください。」


ただ事ではないとようやく気付き、アンゴルモアは震えた声を出した。
コイツ絶対いじめられていただろと、彼の過去を知らないエイドリアンでさえ思うぐらい、情けない声だった。


「な、なんかボク、悪いことを言いました?そうでしたら、謝ります。」


アンゴルモアにとって、ハインリヒも、雪見儀一も対等な相手ではなかった。
だからこそ、きちんと話をしてくれたし、話を聞いてくれた。
だが、エイドリアンは『ある意味で』対等な存在だった。


「だ、だから、返事してくれませ………」

「うるせえよ。変に高い声で喚くな。」


冷たく言われて、アンゴルモアは唖然とする。
この世界に来るまで、学校でよくこんな言い方で話をされた。
だが、長い引きこもり生活と、この世界でのハインリヒや雪見儀一との出会いで、そんなことは忘れていた。


「じゃあ聞くが、お前はどうして自ら危険な方に行こうとするんだ?
お前がフキってバケモノに思い入れがあるならまだしも、無いならハインリヒを説得して、俺達3人で大聖堂に向かえば済んだ話だろう。違うか?」


エイドリアンだけならともかく、アンゴルモアもフキの捜索に反対してくれたら、ハインリヒも諦めてくれた。
そんな期待が、たらればの話が、エイドリアンの心の中にあった。


「それは…ハインリヒがフキを見捨てたくないと言ったから……」

「論点をすり替えるなよ。俺はお前が何をしたいかって話をしているんだ。
お前はさっきからハインリヒハインリヒって言って、その実何も言ってないだろうが。
言い方を変えるぞ。お前はフキを危険な場所に行っても助けたいぐらい、大事な存在なのか?」


英雄でも怪物でもない対等の相手、すなわち同じ凡庸な人間から、容赦なく本音を叩きつけられる。

307終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:03:53 ID:kc6oCnL.0

「勘違いするなよ。俺はお前のことも、フキのことも死ねって言ってる訳じゃない。
お前のその、この期に及んで自分で何もしない、あまつさえ帰還できる可能性がある場所にさえ自分で行こうとしない、他人任せな所が、気に食わないだけだ。」


結論から言えば、エイドリアンの言うことは間違っている。
アンゴルモアは笑止千万との戦いで、自ら進んで走り、ハインリヒの命を助けられる薬を渡した。
加えて、ハインリヒの意見に反対することと、自分の主張を通すことが、イコールでつながる訳ではない。
それでも、その言葉は、アンゴルモアにひどく刺さった。言い返すことが出来ないほどに。
彼自身が、自分で行動しなかったツケが、この世界で回ってきたのだと、嫌と言うほど実感しているからだ。


「大体な、お前はどうして、先に地図を出さなかった?」

「……何を言ってるんですか?」

「簡単なことだよ。殺し合いの会場から脱出できる手がかりみたいな物を持ってるなら、ロボット野郎を倒した後、どうしてすぐに俺達に見せなかったって言ってるんだよ。
お前は俺やハインリヒに地図を見せる前に、幸せそうな顔して眠りこけてやがったよな?」


これは、エイドリアンとアンゴルモアの、ほんの少しの違いなのかもしれない。
生まれや育ち、年齢、身体能力、そう言った物に比べると、大分小さな違い。
エイドリアンは遊園地で盛命と出会ってから、さらに言うと、ゲームスタートからずっと帰還優先を第一に置いていた。
一方でアンゴルモアは、ハインリヒと言う同志との行動を楽しんでいた。
極めて小さな違いだが、その小さな違いが、ここへ来て面倒ごとを起こしてしまった。


「いや、それはみんな疲れていましたし…ハインリヒだって、フキを追いかけることも出来なかったから……」

「お前は口で何だかんだ言っておきながら、ハインリヒとか誰かがどうにかしてくれると思ってるんだろ?
危険な場所に行くことになってしまっても、大丈夫だから黙ってついて行くつもりなんだろ?」

「同志と同じ場所に行きたがることの何が……何が悪い……。」

308終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:09:02 ID:kc6oCnL.0
せめて言い切れば、エイドリアンも考えを変えたかもしれない。
だが、ボソボソとした喋り方が、どうしても彼はアンゴルモアを好きになれなかった。


「何が同志だ。お前に考えや志なんかねえよ。ただ考えも無しに後ろに付いてる奴隷だ。」


そこまで言われると、いよいよアンゴルモアも我慢が出来なかった。
だが、今更反撃に出ても、もう遅かった。


「どうして…何の権利があって、ボクにそんなことを言うんだ。
アンタだって、ハインリヒや雪見さんがいなけりゃ、あの時ロボットに殺されていたじゃないか。」

「そんなことはお前なんざに言われなくても、とうの昔に分かってんだよ。
俺に出来ることは、強い奴の後ろにいて、ヤバい奴がいる場所には行かない。
安全な場所の確保を最優先する。分からない話じゃないだろ?
だから俺は同類の分際でそんな当たり前のことすら出来ないし、しようともしないお前が気に食わないんだ。」


エイドリアンの長い言葉が終わると、アンゴルモアは黙って立ち尽くしていた。
それは自分が石像のようになり、意外な形で突きつけられた現実をやり過ごそうとしているように思えた。
彼にもう少し口が回れば、エイドリアンの穴だらけの理論を論破することが出来ただろう。
だが、彼にそんな力は無かった。言われたくないことを刺され、棒杭のようになっていた。


【C-5 市街地跡 真夜中】

【アンゴルモア・デズデモン】
[状態]:健康(片足はまだ痛む) 後頭部にコブ 精神ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム×0〜1(確認済み)笑止千万の支給品(0〜1) 宝の地図
[思考・行動]
基本方針:ハインリヒについて行く
1:………。
2:宝の地図の示す場所に従って、起きたら図書館で見た物を話し、E-2へ向かう
3:エイドリアン?どうしてそんなことを言うんだ?



【エイドリアン・ブランドン】
[状態]:疲労(小)、 精神的疲労(中)、休憩中 苛立ち
[装備]:テンシ兵装トリスタン 暗殺用ナイフ 
[道具]:基本支給品一式×2 ペンキ(白)の缶、ランダムアイテム×0〜1(盛命の分) “テンシ”との連絡用インカム
[思考・行動]
基本方針:とりあえず生き残ってデスノを始末する。脱出が優先
1:未来が滅ぶ?何を言っているんだ?
2:笑止千万を首輪解除に使う作戦は失敗か…
3:テンシとハインリヒのいた世界にはどういう関係があるんだ?
4:ハインリヒも大人しそうな顔して、大概ヤバい奴かよ。
5:ノエルのような類とは戦闘を避ける。
6:盛命……珠李……成仏しろよ
7:テンシ…壊れちまったか……まあ壊れたほうがマシかもしれないが……。

【備考】
※名前だけなら噂で笑止千万、ノエル、四苦八苦(の本名)、双葉玲央を知ってます。
 他にも知ってる人はいるかもしれません。
 暦は書類上のデータで細かく知ってます。

309終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:11:42 ID:kc6oCnL.0

「それって、僕と一緒に冒険したアラタメのことですか?」


少しの間の後、ハインリヒはトレイシーに聞き返した。


「恐らくそうだろうね。その人のことは良く知らないが、一族のことかもしれない」

「それが、何だって言うんですか?」

「その一族は、異なる世界を行き来する力を持っているんだ。君の高校のクラスだけが、異世界に飛ばされたのも、彼がいたからなんだよ。」


ハインリヒは最初の内は気になっていた。
どうして、自分のクラスだけが異世界に転移したのかと。
だが、そこで生活するにつれ、あまり疑問に思うことは無くなっていた。


「……だとしても、今更言うことじゃないのではと思いますよ。」

「本題はこれからだ。“アラタメの一族”が行き来できるのは空間だけじゃない。
異なる時間も行き来できるんだ。死んでも意味が無い。別の世界に生まれ変わり、目的をなそうとする。
しかもそれが、今から未来の世界で生き返るわけじゃないの。未来から過去へ生き返る力を持つ可能性もある。」

「……先生は、何を言いたいんですか?」

「簡単な話だ。君もこの世界で、色々と辻褄が合わない所を見ただろう?原因と結果、過去と未来がごちゃまぜになっている所を。」


――思い出した!!最近話題になった未成年連続殺人犯の顔だ!!
――……、!?違う。それなら僕が見覚えが有る訳が無い!!!

――それは儂がまだ産まれてから数年程しか経ってない頃だ。300年の時が経った今、なぜ貴様はその若さを保っている。


それは、ハインリヒにも思い当たることだった。


「そのアラタメの一族、が殺し合いに関わっていると?」

「ああ。その力を使えば、辻褄が合わないこの世界も、納得が行く。
そしてもう一つ私が手に入れた説だがね。その一族は時代を通して、医者になっていることが多い。」

310終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:16:39 ID:kc6oCnL.0
ハインリヒも思い出した。
高校の時からアラタメ、新田目武志は医者を志しており、休み時間も分厚い専門書や参考書を読んでいた。
参加者名簿を見た時、新田目修武の名前を見た時も、彼のことかと思ってしまったぐらいだ。


「僕が異世界に転移したのも、この殺し合いが始まったのも、その一族が原因と?」


「さらに言おう。私はその白衣の男に、銃で撃たれたんだ。得意の魔法で事なきを得たのだがね。」

「あの、先生、それなら帰りましょう。僕たち、脱出への手がかりを見つけたんです。」


なぜかここで、まずいことを言った、と彼は思ってしまった。
理由は分からないが、彼の第六感が、それを失言だと判断した。
それでも、誰なのか分からない存在を、敵だと考えるのは難しい。


「ダメダメ。さっき言っただろ?アラタメの一族の前では、そんなものなど意味が無い。
時間を巻き戻されて終わりだ。
奴らを倒して、その後ろにいる元凶を突き止めねばいけないよ。」


フキを助けることも、大聖堂への道も、どうでもよくなってしまった。
先生の言葉を鵜呑みにすれば、だが。


手がかりは見つかり、パズルは徐々に組み合わさり、終焉への道は見えていく。
だが、その終焉とは。
殺し合いの終わりか?彼らの破滅か?


【C-5 市街地跡 真夜中】

【ハインリヒ・フォン・ハッペ】
[状態]:ダメージ(中) 疲労(中) 悲しみ(大) 魔力(小)
[装備]:ドンナー・ゲヴェーア ドンナー・シュヴェルト
[道具]:基本支給品一式×2(自分、珠李) 桝谷珠李の首輪 折れた豪炎剣“爆炎” 
[思考・行動]
基本方針:珠李の想いを継いで生きる
1:どうするべきだ?フキの捜索?大聖堂へ向かう?それとも?
2:失うのが怖い。それでも生きて戦う。
3:城で見たあの映像は何を伝えたかったんだ?フキが見たビジョンとも関係あるのか?
3:どうにかして首輪解除の手がかりを見つけたい
4:アイツ(双葉玲央)の顔、何処かで見た覚えが
5:僕がいなくなった後の異世界…どうなっているんだ?リックはどうしてこんな物(テンシ・プロトタイプ)を作った?
6:雪見儀一の言った言葉とは!?
7:彼女が首輪を解除した方法を、どうにかして応用できないだろうか。
8:アラタメの一族とは?


【トレイシー・J・コンウェイ】
[状態]:愉悦(大) 何か疲れた
[装備]:魔物の杖 双眼鏡
[道具]:基本支給品 同人誌『空の巨人より愛を込めて』 、宝の地図 
[思考・行動]
基本方針:遊ぶ、楽しむ
1.自分の力のいくつかは制限されてるが…これはこれでいい。
2.サイコーのショーだった。
3.とりあえず宝の地図に従い、レガリアの名を冠する道具を取りに行こうと思ったが、もう少しこのままでいようか。
4.殺すつもりはないよ。それは可能性を溝に捨てる行為じゃないか。
5,双葉真央は何処まで変わるか、愉しみだ。
6.まさかまさか、こんな所で愛弟子に再会するとは。長生きしてみるもんだねえ。

【備考】
※レガリウムの件、および宮廻不二が不老不死である理由、アラタメの一族の真偽は不明です。

311終末へ向かう ◆vV5.jnbCYw:2025/07/01(火) 00:16:51 ID:kc6oCnL.0
投下終了です。

312 ◆vV5.jnbCYw:2025/09/05(金) 00:05:24 ID:o.MVhJSc0
蕗田芽映 キム・スヒョン 宮廻不二予約します

313 ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:39:52 ID:DNd55mwg0
投下します

314Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:40:25 ID:DNd55mwg0
蕗田芽映は、ただただ走り続けていた。
その姿は、少女の姿に変わっていたが、そんなことも気にせず走り続けた。
目を瞑っても、耳を塞いでも、落雷と爆音と光線は彼女の世界から消えない。
山で人の世界に片足を踏み入れたクマは、別の世界で人の理を逸した世界に入りすぎた。
もう逃げても遅く、その世界で見聞きした者は際限なく彼女の記憶に入って来る。
それでも、逃げる以外の選択肢は頭に無い。聖槍レガリアを持って、走り続ける。
今どこにいるのか、何処に逃げればいいのかも分からずに。


「おい、大丈夫か?」


そんなことを言われても、彼女は急には止まれない。
いくら人間の姿とは言っても、走る、歩くと言った行動には、クマの時の筋肉の使い方が顕れている。
今のように、切羽詰まった状況なら猶更だ。
目の前の男を、そのままはね飛ばそうとするか、はたまた手にした槍で串刺しにする勢いで、彼女は真っ暗な街を疾走する。


「仕方ないな……。」


男が着けていた腕輪が急に光る。その瞬間、急にフキの足が鈍った。
人間の姿でも、強い光や音を怖がるのは、動物共通の出来事だ。
しかし、男の目的は光を出し、熊の目を眩ませることでは無かった。


「え!?」


目の前の男の姿が、急に黒い何かに包まれた。
槍を持っている右手に、強い力がかかる。


「とりあえずこの武器、没収な。」


人間の姿だから非力だという訳ではない。
たとえ熊の姿だったとしても、力で敵わない。そう感じた。


「なあ、あんた大丈夫か?」


男の声は温和なものだった。
それでも、フキは槍を取られてしまったこともあり、怯えた表情を浮かべている。
1時間ほど前まで一緒にいたハインリヒも、そんな口調で自分に話しかけてきた。
だけど、穏やかに話しかけてくれる相手が、怖くない相手だと言う保証はないことも、彼女は知っている。


「俺の言うことが理解できるか?話がしたいんだ。」

315Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:40:46 ID:DNd55mwg0



(何があったんだ?この女の人から話を聞き出せないものだろうか……)


蕗田芽映にとっては知らぬことだが、男、宮廻不二は殺し合いに乗っている。
ただ、相手が人畜無害に見える少女だったこと、そんな少女をすぐに殺す気にはならなかっこと。
そして何より、彼女から情報が欲しかったことから、話し合いの手段を選んだ。


(この人が女の格好をしたバケモノだったとしても、まあ問題ないか。)


一応グレー・ジャックを作動させているが、自分の身の危険はあまり感じていなかった。
むしろ彼としては、情報を集められる相手を見つける方が重要だった。
殺し合いが始まって16時間近く経過している中、ずっと単独行動していたこともあり、情報不足が手痛く感じられるようになった。
ノーゴルド13世の情報から、幽霊列車の車掌とハインリヒの話を聞くことは出来たが、精々それぐらいだ。
トレイシーの奴も、あんな同人誌渡すぐらいなら、参加者の情報の1つでも流してくれよと思った。結局同人誌も渡してくれなかったし。


「何を慌てて逃げていたんだ。教えてくれないか?僕の言うことが分かるか?」


小さい子供に聞くかのように、なるべく丁寧に、優しい口調で話す。
そんな不二の言葉を聞いても、フキは地面に尻を付けて怯えていただけだが、次第に目の焦点が合い始める。
呼吸も正常に戻り始め、じっと不二の顔を見つめていた。


「あ…あの………」

「少しは落ち着いた?水飲む?」


不二は彼女から奪った槍をカバンにしまい、代わりに水筒を取り出し、彼女に渡した。
彼女が水を飲み干したのか、それともまだ持っていないのかは知らないが、コミュニケーション代わりになると思っていた。
彼女は不二の顔と、持っている水筒を繰り返し見つめていたが、それを受け取り、ガブガブ飲み始めた。
余程喉が渇いていたのか、零しながらも、貪るように飲んでいる。
その所作は、ペットボトルに慣れた人と言うより、獣のように見えた。


「何から逃げていたのか教えて欲しい。」


そう言われた彼女は、キョロキョロと辺りを見回す。
何だか間抜けなしぐさに見えたが、逆に自分に危害を加える相手ではないと判断できた。
そのため、グレー・ジャックの装甲を解除する。
着けているだけで体力を消費するため、無害な相手の前では着けたくはない。


「カミナリ……ばくはつ………。」


その言葉は、酷くぎごちなかったが、恐らくその辺りから逃げてきたのだろうと不二には伝わった。
だが、伝わっただけだ。別に怖い思いをした彼女を労わろうと言う気持ちはない。


(いや、あれは魔法の槍なのか?そもそも、槍って一本だけしかないってわけじゃないよな……)


彼は別のことを考えていた。たった今彼女から奪った物を見て、思い出したことがあった。
地下で出会ったあの老人が、魔法の槍をハインリヒに渡したと話していたことだ。
目の前の女性がハインリヒとは思えないが、何かしら彼と関わっていると考えてもいいはずだ。

316Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:41:40 ID:DNd55mwg0

「なるほど。怖かったね。」


右手を伸ばして、彼女の手を掴む。
最初はその手を握るのに抵抗感を見せていたが、すぐに不二の手を掴み、立ち上がった。
だがその目は、警戒の視線を、絶えず不二に送っていた。


「人探しをしているんだ。ハインリヒ・フォン・ハッペという黒髪の男を見なかったか?」


その話を聞くと、女は両目を見開いた。
反応からして、口で話さずとも知っていることが伝わった。
彼女の恐怖には、例のハインリヒが大きく関わっていると。


「怖い…その人、カミナリ……人、殺した………。」

「大丈夫かい。教えてくれてありがとね。」


不二は笑顔を見せつつ、おいおいこれはどういうことだと思っていた。
今の話だけを聞けば、ハインリヒが悪人だとしか考えられない。
女が間違った情報を話している。はたまた女が悪人で、ハインリヒを嵌めようとしているのか。
彼女の焦燥ぶりから、そのようには見えなかった。


「返して。」

「え?」

「フキから取ったもの、返して!!」


言われてみれば、フキから取った槍を返していなかった。
だが、迂闊に返すべきか?と不二は逡巡する。
この槍が特別な道具ならば、下手に返すと面倒なことになる。
もしかすれば、自分でさえも刺殺されてしまうかもしれない。
命を持て余していた自分だが、さすがにこんな間抜けな理由で死にたくはない。


「フキから“れがりあ”を取ったでしょ!返してよ!!」

「うわ!ちょ……やめろ!!」


さっきまでの怯えた様子は何処に行ったのか。
その目をぎらつかせ、不二の支給品袋に手を突っ込もうとする。


「待て待て待て待て!!これはその…危険なものなんだ!君が持ったたら、他の人も……君もあぶな……」

「返してっっ!!!」


そこまで太い腕でもないのに、妙に力が強い。その腕を押さえようとしたところ、不二は腕を噛まれた。
山猫と喧嘩しているような気分を覚えた。その実は彼女は熊なのだが。
グレー・ジャックを使うほどの相手でもないが、使わずに御するのは骨が折れる。


「だから、やめろ!それは危険な武器なんだ!」

「うそ!おじいさんが言ってたの!これは強い“ぶき”だったって!!フキのあんぜんを守ってくれるって!!」

「え?君、おじいさんって言わ……」

「しらない!“ぶき”返して!!」

(…やはりあの槍が、爺さんが送ったものなのか。いやちょっと待て。ハインリヒに送ってねーじゃん。)

317Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:41:59 ID:DNd55mwg0
もみ合いになりながら不二は考え続ける。
渡す相手間違えてんじゃねーよ。アイツお隣さんにブツを届けちまった宅配業者かと。
そんなことを考えながら、フキとよく分からない諍いを続けた。
腕には、歯形が出来てはすぐに消えていく。
しかし、突然フキは掴みかかるのをやめ、力を緩めた。


ようやく諦めたと思って安堵した不二は、手を放す。
しかし、そう簡単に諦めていたわけではなかった。


「わかった。おじさん、したいんでしょ。」

「おじ……」


不二はその辺りの老人よりも長い時を生きたが、若い男性の見た目をしている。
そのため、おじさん呼ばわりは長い時を生きる間でも、あまり無かった。
しかし、彼が驚いたのは、フキのその後の行動だった。


「気持ちいいこと、してあげるから、“ぶき”返して。」


フキはすぐに、服を脱ぎ始める。
それが何を意味するのか、不二にも分かっていた。
彼自身も命惜しさに、自分からその身を売ろうとする女性を見たことがあるからだ。
見なくなって久しかったが、戦争や飢饉の最中には、幾度となく目の当たりにした光景だ。


「待て……僕はそう言うつもりじゃないんだ……。」


不二は慌てて、彼女の腕を掴む。
その気になれば殺すのは容易なはずなのに、不思議と殺す気にはなれなかった。
この世界に来る前にも人殺しの経験はあったが、それらはすべて然るべき事情があったからだ。
殺し合いに乗ったとは言っても、殺したい相手とそうでない相手の区別ぐらいはつくものだ。


「良いじゃないか。最後ぐらいカマトトぶらずに、女との一夜を楽しんでおけよ。」

「そんな話しているんじゃない!いきなり誰だよお前は!!あとカマトトって言葉結構久々に聞いたな!!」

「いっぺんに言われても分からないぞ。」


ふいに空気が、血生臭さを帯びた。
それは目の前の相手がタンパク質ではなく、血液の生物だからか。
振り返ると、美しい女性がこちらの方に向かって歩いてくる。


「おーい、もう少し話しないかー?もっとこう、お前は何者だ、とか死ぬ前に聞いてもいいんだぞー?」

(面倒な奴が来たな……)


ふざけているような雰囲気だったが、今が鼻持ちならない状況だと分かっていた。
美しいが小柄な女性は、明らかに人間離れした殺意を秘めている。
フキもそれを察しているのか、後ろに隠れて、服の裾を握っている。
長年生きていると、殺意という物にも敏感になって来る。
勿論、妖魔のような人ならざる者にも出会ったことはある。
彼らは不死の人間を自分らの同胞と勘違いするのか、敵対したことはほとんど無かったが。


「ま、安心しなよ。すぐには殺さない。」

318Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:42:15 ID:DNd55mwg0
その瞬間、何かが動いたと思ったら、声の主の両手が変形した。
両腕以外は全く変わらないからこそ、余計不気味だ。
両腕だった怪物のそれは、瞬く間に5m以上の槍となった。左腕は途中で枝分かれし、効率よく獲物を刺し殺せるようになる。
すぐにグレー・ジャックを起動させ、全身を鎧で包んだ。
全身を串刺しにされたくらいじゃ死に至るどころか、痛みすら感じないが、触れれば面倒なことになるかもしれない。
スヒョン本体から離れるほどに、触手は脆くなるのだろうか。
全て鎧に触れると、全て折れてしまった。破片は地面に触れると血だまりになった。


「いやあ、それは『アムド』って言わなきゃダメだろ。ヨロイにバケルと漢字で書いて、アムドと読む奴な」

「そんなルールはトリセツに書いてなかったよ。」


すぐに不二は地面を掘りだし、力いっぱい投擲する。
それは人間の子供でもできるような投石。ぶつければ怪物どころか人間さえ殺すのは難しい。
だが、技術の発展と共に、投石という攻撃も進化してきた。
古代の時代では既に、レンガ造りの城壁を砕く力を持っていたそれは、未知の世界の兵器の力によって、破壊の嵐を起こせる。
空気を切り裂いて突き進むそれは、スヒョンの身体を貫いても足らず、背後の建物の壁に大穴を開ける。


「ふうん、見たことない兵器だ。ただ身を固めるだけの鎧ってワケじゃなさそうだ。」

「ちっ…」


だが、人間相手なら十分すぎる威力の攻撃も、血液生命体には通じない。
すぐにその身体を復元させ、再び触手を伸ばす。
液体と固体を使い分けられる血液生命体特有の能力は、攻守両面で発揮される。
今度はアクマ兵装が守り切れない部分。即ち、両目や膝の裏。
不二も鎧に頼り切る訳ではない。街灯に身を隠し、その刺突から身を守る。
いや、身を守るだけではない。攻防一体の戦術を取るのは、彼もまた同じ。
街灯をサッカーボールのように蹴飛ばすと、激しく回転しながら怪物に襲い掛かる。


「やはり知らない技術だ。いい。少し無骨だが、新しい拷問のインスピレーションになる。実に良い。」


余裕をかましている怪物を他所に、不二は怯えている少女の手を引いて逃げ出した。
一瞬、彼女の手を握り潰してしまったかと思ったが、そのようなことは無くて安堵する。
あの怪物の底が読めない以上、相手をしてやる必要はない。殺し合いに乗る気持ちは揺るがない。だが、生存者全員を殺すつもりでも無い。
蹴とばした街灯をぶつけたぐらいで死ぬ相手ではないのは、承知済みだ。


「おいおいおいおい。そんな立派な鎧を着こんでおいて、逃げるのかい?
私は逃げるのも、逃げられるのも好きじゃないんだよ。分かってくれたまえ。」


背後から、そんな間の抜けたセリフが聞こえたと思いきや。
走ってる2人の少し前に、赤い氷柱のような何かが落ちてきた。
反射的に足を止める。急に止まることは出来ないが、何とか2人とも串刺しにされずに済んだ。


「きゃあっ……」

「槍!?」


辛くも外れたそれは、地面に落ちると形が崩れる。
血だまりになったことから、怪物の身体のパーツだとすぐに判明する。
だが、それは外れただけで終わりではない。
ボコボコと波打ったと思ったら、すぐに人の形を形成し、新たな敵となった。

319Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:42:57 ID:DNd55mwg0

「さあ、挟み撃ちだぞ?どうする?」


スヒョンの分身もまた、歪に笑う。
不二は咄嗟に地面を蹴る。これまた子供でもできるシンプルな砂かけだが、凄まじい蹴りが放った砂塵の波が、分身を飲み込む。
血液生命体と言えど、液体。吸収される物質が苦手なのは変わりはない。
踵を返し、本体も分身もいない方向に逃げた。


「「あんまり手間をかけさせないで欲しいなあ。」」

「サラウンドで喋るなよ!」


逃げた先の血だまりから、さらに2体の分身が現れる。
攻撃が効かないことを見せつけ、逃げ道を少しずつ削ぎ、疲弊させる。
なるほど、これがこいつのやり方かと思った所。
彼にとっての問題は、目の前の怪物だけでは無かったことも判明した。


「ねえ、“ぶき”返して!!」

「言ってる場合か!!」

「「何だ。仲間割れか?」」


フキが突然、聖槍レガリアの入ったザックに手を突っ込む。
危うくグレー・ジャックの剛力も相まって、フキを殴り殺してしまいそうになった。


「いいから!貸して!!」


フキはザックから聖槍を引っ張り出した。
そんなものでは奴は倒せないぞと思った瞬間。
槍が輝き、地面から緑の蔓のようなものが幾重にも出て来る。
それはスヒョンの分身のみならず、石造りの建物さえ侵食する。
少し遅れて、丸太とも見まがうほど太い茎が、石畳の地面を割って出て来る。



「なんだそれは……」
「聞いてないぞ………」


巻きつく蔓を斬り裂こうとするが、湧き出る植物の圧力に飲まれたのか。
抵抗を見せるも、分身は血だまりに帰して、人型を成すことは無くなった。


「おい、フキ。今のは何だったんだ……」


不二が呆気に取られているのも束の間。
長い時を生きた青年ですら知らぬ、特別な力を秘めた槍は、さらなる力を見せる。
ドボドボドボと、壊れた水道管のように、地面から水があふれ出る。
分身の残り滓は、簡単に流されてしまった。


「な、何やってるんだ!?その槍が原因なの……がっ!!」


迂闊だった、と不二は思った時は、もう手遅れだった。
聖槍レガリアは、グレー・ジャックの装甲ごと、不二の下腹部を貫いていた。
忘れるなかれ。不意の血液生命体の登場から、有耶無耶になっていたが、二人の関係はお世辞にも良いとは言えない。
むしろ、フキに至っては彼を危険人物と認識している。
ぼちゃんと、彼の死体は水に沈む。彼が一般人なら、もう立ってくることはないはずだ。


「ゲヒャヒャヒャヒャ!!仲間割れ!殺した?殺しちゃった!?ざまあないねえ!可憐な女を助けようとした正義のヒーロー気どりが、殺されちゃった!?
ヒャーッヒャッヒャッヒャ!!!」


いつの間にか、スヒョンが立っていた。
しかも洪水の弊害を受けないように、建物の上から見下ろしている。

320Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:43:16 ID:DNd55mwg0
彼女の本気の速さは、テンシ兵装ゲオルギウスを追跡できるほどだ。別におかしい話ではない。
これには、さしもの怪物も笑いを押さえられなかった。
一人分なぶり殺しにする楽しみが無くなってしまったが、これはこれでいいと言わんばかりの様子だ。


「ヒャ……」


だが、その笑みは急に途切れる。
地面に転がっていた石、正確には沈んでいた石が、スヒョンの顔面を貫く。
べちゃりという音を立て、屋根の上に倒れた。
それが倒したと言うサインにならないのが、この怪物の厄介な所だが。


「特別な槍って聞いたから一瞬焦ったけど、まあ死ぬことは無いか。いや、マシンガンの時に比べて、ちょっとだけ傷の治りが遅かったりする?」


立ち上がった後に、自分の傷跡を確認する。
特に異常は見られない。最初の放送前、神社で戦った時もそうだったが、グレー・ジャックは自動で修復される力を持つ。
ナイフや槍で刺されようと、マシンガンで蜂の巣にされようと、時間経過で立ちどころに戻る。
不二の肉体そのもののように。


「もしや、不死者か?面白い。普通の人間にやったらショック死する痛みを与えたり、普通は身体に入りきらないほどの小さな檻で飼い続けることも可能という訳か。」


スヒョンもすぐに立ち上がり、2人を追いかけようとする。
猫がネズミを嬲るように、着かず離れずで鬼ごっこを愉しんでいるのが分かった。


不二はまずは、少女と同じ方向に逃げる。見方を変えれば、フキを追いかけ始める。
別に刺された報復はするつもりは無い。今すぐそんなことをしなくてもいつでも殺せる。
だが、あの老人が渡したと言われた聖槍。一体何なのか分からないが、確かな力を持っている。
今の所武器が無い今、是非とも槍は確保しておきたい。
石を投げて彼女を殺し、そのまま奪うと言うやり方は避けたい。
彼女にしか使えない槍なのかもしれないし、迂闊にこの力で固い物を投げれば、へし折ってしまう可能性もある。


「私は狙わないのか?誰だって弱そうなやつと戦いたいもんなあ。ロリコン野郎。」

「何かおじさんだのロリコンだの、好き放題言われてないか?」


ならば先に血液の怪物の方を殺すか?これもあまり良い考えではない。
彼女を攻撃するのは、水を殴ったり斬ったりするようなものだ。
ショッピングモールで戦った殺し屋がやったように、首輪を狙えばいいのかもしれないが、相手がそれを無警戒だとは思えない。


(まあ、そりゃ殺したと思った相手が起き上がったら逃げるよな。)


さらに逃げ、追い続ける。
不二の背後から、建物や植物が倒れる音が聞こえるが、振り返ることは無い。
脅威が来るのは後ろからだけではない。
またしても地面から生える蔓が、彼の走行を阻害する。
グレー・ジャックがもたらす剛力を振るいながら、疾走する。


「おい、待てよ!槍で刺したことを怒ってるわけじゃないからさ…とにかく、刺す奴があるか!!」


やがて向こう側に、森が見えて来る。
それは先ほどフキが生やした植物と、同じ見た目だった。

321Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:43:54 ID:DNd55mwg0



(うーん、愉しく無くはないが、どうしたものか)


実を言うと、悩んでいたのはスヒョンもそうだった。
普段なら肉片、いや、血片を飛ばす攻撃を、躊躇なく行える。
分身を作って多勢に無勢で一方的に殺すことも可能だ。
人気漫画の真似でもしようと、右腕を大斧に変えて、熊の血の匂いがする女を斬り殺してやろうとも考えた。
そこに悔しさも仕方なさも存在しない。


だが、自身を構成する血の総量が、現在は著しく少ない。
碓井盛命の血を頂いたが、それもあくまで一時しのぎだ。
サンドラたちと戦った時のように、湯水のごとく使う訳にはいかない。


(血がなければ人を襲えないし、人を襲えなければ血がもらえないんだよ。私の辛さも分かってくれたまえ。)


おまけに追いかけている相手の両方が、未知の力を持っている。
迂闊に近づきすぎれば、自分でさえも、予想外の力で殺されるかもしれない。
さすがに2人殺そうとしたぐらいで殺されるのは、割に合わないと考える。


(狙うなら男の方だが、病院メスブタの件を考えると、不死者(アイツ)の血って腐ったジジイみたいな味なんだろ?
人間基準で例えると、小学校の時の帰り道に生えてあった木の実みたいな、やたらすっぱ苦くて、口の中がシワシワする味なんだよ。)


やがて、獲物2匹が森へと入っていく。
遊園地へ行く時も見た森だったが、一体何なのかと疑問に思いながら、彼女も入っていく。
ここへ来て今更、別の獲物に切り替えるのも面倒な話だ。
邪魔する巨大な蕗をなぎ倒し、2人を追い続ける


(いざとなれば、召喚石でバケモノを呼び出して、更地にしてもらえば良いか。)

322Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:44:05 ID:DNd55mwg0
逃げる熊、逃げ追いかける不死者、そして追いかける血液生命体。
状況は違えど、自身の目的のために槍を狙いつつ、同時に場のspearhead(主導権)を握ろうとする。
しかし誤って、鋭利な槍の先端を握ってしまえば、己を傷つけることになる。


そしてもう一つ。この場にいる3人の内誰も知らぬことだが。
この森の、先頭を走っているフキが逃げる先には、別の参加者の集まりがある。
そのうち一人に、邪悪な魔術師と、その弟子たる世界を救いし英雄が混ざっている。
主導権を握るのは、実はこの場にいない者かもしれない。



【C-5→B-5 市街地→森 真夜中】

【蕗田芽映】

[状態]:薬物依存症(中) 恐怖(特大)
[装備]:レガリア・聖槍
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3(パッと見で武器になるものは入っていない)  
[思考・行動]
基本方針:生きて帰り、同胞がいるはずの山へ行く
1, 怖い



【宮廻不二】
[状態]:疲労(大)
[装備]:アクマ兵装『グレー・ジャック』
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム×1 玲央が通り魔として使ったナイフ

[思考・行動]
基本方針:裏が出たので優勝を目指す。
1:時間を無駄にしただけで、あの老人は大した奴でも無かったな。
2:僕が不老不死の理由…
3:あの人(神)のおかげで、少しこれ(グレー・ジャック)の使い方が分かってきたかな?
4:願い、叶うといいなぁ。
5:勝ち残るためにも、フキから槍を奪いたいけど…ああいう道具って迂闊な使い方すれば壊れるんだよな……。
6:あの車掌の格好の人…そんな役割を持ってたんだ…
7:ハインリヒか…誰かは分からないけど、手ごわい敵になりそうだな。
8:トレイシーは、僕の無くなった手を、異世界に持って行ったのか?

【備考】
※精神や魂など肉体を殺さずとも殺せる支給品があると考えてます。
※グレー・ジャックによって攻撃や脚力が常人を越えてます。ただし、体力の消耗量も増えています。
※名簿はまだ見てないのでもしかしたら知り合いがいるかもしれません


【キム・スヒョン】
[状態]:ミーム・汚染(手遅れ) 血液損失(中) 空腹
[装備]:無し
[道具]:フレデリックの支給品の地図 宝珠・レガリア
[思考・行動]
基本方針:優勝して気に入った子達を“持って帰る”
1:なるべく愉しんで殺す
2:面倒な奴は避ける、と言いたかったが、この面倒さは予想してたのと違う!!
3: ぜひあの鎧と槍を奪って、使いたいものだ。
4: あの女(蕗田芽映)からは熊の血の匂いがするが、どういうことやら。
5: 汀子ちゃんは死んでるだろうなぁ
6: 不死者の血は飲みたくないな…最悪飲むけど。
7: “ミカ”ちゃん(ノエル)は今は殺せそうにないなぁ
8:此奴(本物スヒョン)とは早く縁切りしたい
9: この木々の正体は?
10:あのガキ(碓井盛命)……、何を仕込まれてたんだ?薬中の血とは全く違うぞ?
11:宝珠レガリアの怪物を召喚して、その血を食ったらどうなるんだ?怪獣の姿で生還するのは嫌だな……。


※主催者陣営から何らかの措置を施された碓井盛命の血を捕食したことで、何等かの影響が現れました。

323Spearheads ◆vV5.jnbCYw:2025/09/06(土) 23:44:18 ID:DNd55mwg0
投下終了です


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