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決闘バトルロイヤル part4

1 ◆QUsdteUiKY:2024/07/30(火) 04:00:15 ID:G/9ouSvI0
※前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1655738773/

771EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:50:45 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


人の皮を被った蛇、と。
初対面の相手に対し大変失礼であり、うっかり口に出そうものなら怒りを買うこと確実である。
何かと突飛な神浜の魔法少女の中で常識人の部類に入るいろはが、分からない筈がなく。
理解した上で、そう思わずにはいられなかった。

少女、である。
年の頃は十を過ぎてまだ一年程度。
妹達と同年代で、ランドセルを背に登下校を繰り返すのが当たり前の日常を送っている筈。
同性のいろはをして、綺麗と言う他ないくらいには整った顔立ち。
黒い薄手のドレスで隠し切れない、剥き出しの素肌は透き通るような白さ。
病的な青白さとは違う、少女が本来持ち得る女としての魅力が体に表れていた。
その手の趣味嗜好の持ち主が見れば、己が欲棒を鎮めるのにさぞや苦労するだろう。

「まさか、やちよより先に俺が会っちまうとはねぇ。折角お空のデート中だったってのに、邪魔したのは恨まないでくれよ?」

異性同性問わず惹き付ける魅力を自らぶち壊す、軽薄な口調。
外見と中身がまるで一致していない、酷くアンバランスな態度である。
密かに片思い中の男子生徒が目撃したら、百年の恋も一瞬で冷めるだろう。
こんな状況で何だが、ふと水波レナを思い出す。
変身の固有魔法を持ち、他者の姿をしばしば無断で借りていた。
元の言葉遣いと変身中の姿とのギャップに面食らったのは、神浜に来て間もない頃だったか。
ここにいるのはレナではない、しかし他人の姿を偽る力の持ち主に違いない。
いろはのみならず、全プレイヤーが断言出来る。
何せ眼前の少女、美遊・エーデルフェルトは主催者に囚われの身。
会場で呑気に軽口を叩くのは有り得ない。

何故、美遊の姿を真似ているのか。
何を目的に動いているのか等、抱いて当然の疑問が泡のようにプカプカ浮かぶ。
しかし最も聞かずにいられないのは、先程から度々口にする名前。
神浜で最初に会った魔法少女であり、チームの纏め役であり、尊敬と信頼を向ける先輩であり、
一人にさせないと約束したあの人。

772EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:51:19 ID:dyk1XPSI0
「教えてください、やちよさんと会ったんですか?」
「でなきゃ、わざわざお前に付いて来たりはしてねぇさ」

別段誤魔化す意味も無い為、あっさり肯定。
次に気になるのは、どういった状況でやちよと会ったのか。
定時放送の前、それともフェントホープを訪れる直前。
行動を共にしていない理由をいろはが問うのを待たず、薄く色付いた唇が動く。

「折角顔を合わせたんだ。コーヒーでも飲みながら、ゆっくりお喋りといきたいんだがねぇ。生憎豆も機械も手元にないと来た。檀黎斗も神様を気取るなら気を利かせて欲しいもんだ、だろ?」
「え?えっと……」
「何だよ、女同士のトークは苦手だったか?やちよにもっとお前さんの好みなりを、聞いとけば良かったかもな」

返答に詰まるもお構いなしで、軽口が飛んで来る。
少なくともいろはの知る魔法少女達に、こういったタイプはいなかったように思う。
気さくな口調で心を開かせる、というのとも異なる。
冗談交じりの態度の裏にどことなく、値踏みするかの不躾な視線を宿らせている気がしてならない。
ちょっとした遊び心で揶揄う八雲みたまと違い、距離を感じる冷たいナニカがあった。

「痴れ事を垂れ流し……煙に巻く……それが貴様の目的か……?」

気圧され会話の主導権を奪われつつある中、鬼が蛇の独擅場へ待ったを掛ける。
魔族の王の鎧を纏い、素顔は仮面で隠れ見えない。
なれど発する威圧感は健在、サファイアブルーのレンズが小さき体を射抜く。
いろはを庇おうと前に出たつもりはない。
だが毒にも薬にもならない茶飲み話に耳を傾けてやる程、我が身を戦から完全に遠ざけた覚えも無し。
戯れに付き合う気は無いと、刃の如き視線を黒死牟が叩き付ける。

「おいおいそう凄むなって。今のご時世、いい大人がか弱いガキを脅しちゃ通報確定だろ?」
「戯けたことを……童の皮を被った化生が……何をほざく……」

神に囚われた少女の姿を模してるだけではない。
執念で辿り着いた武の境地、透き通る世界を取り繕った外見だけで欺くのは不可能。
小娘の形は見た目だけ、中身は人間どころか如何なる生物とも一致せず。
真紅の騎士や軍服の男と同じ、鬼とは別に人の理から外れた者。
或いは生まれながらに、人ならざる存在として産声を上げたか。

いずれにせよ、天津達のように持ち得る情報を開示するならともかく。
軽口でこちらを煙に巻く気であれば、律儀に相手をしてやる理由は皆無。
怪物同士の視線が交差し、魔法少女が場を宥めようと口を開き掛け、

773EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:52:03 ID:dyk1XPSI0
「美遊っ!」

駆け寄って来る白い少女へ、言葉を引っ込めざるを得なかった。

「あの子は……」
「思ったよりお早い再会になったな」

見知らぬ少女の登場にいろはが目を瞬かせる一方で、彼女を知っているような言葉を吐く。
後方へ視線を移せば、慌てて追いかける二人の参加者。
テンプレートな海賊スタイルの男はともかく、特徴的な髪型のもう一人は知っている。
プレイヤー全員が最初の場で慟哭する少年を目にし、自分は数時間前に直接会った。
白い少女共々、こうも早くにまた会うとは思わなかったが。

その白い少女ことイリヤは、一心不乱に親友の元へ走る。
ダリウスの救済に巻き込まれ、かと思えば神を名乗る狂人に囚われた親友。
どうして会場にいるのだという疑問はあれど、深く考え込むより先に体が動いた。
今だけは同行者達の声も、初対面の顔ぶれもイリヤを止めるには至らない。
目尻に涙を浮かべ堪らず手を伸ばす。

「おっと、ハグがお望みってんなら頼みを聞いてやっても良いが……俺相手で良いのか?本物のこいつに知られりゃ、浮気と思われるかもなァ?」
「っ!?」

触れる寸前で腕を跳ね除け、足に急ブレーキが掛かった。
姿形は自分の記憶にある美遊と、何一つ変わらない。
同じなのはそれだけだ。
美遊はこのような、人を小馬鹿にした話し方なんてしない。
嘲りを隠そうともしない笑みなど、絶対に浮かべない。
何より近付いてようやく分かった。
全身を蛇に巻き付かれ、舌先で首を舐められる捕食寸前に似たおぞましさ。
こんなものを感じさせる存在が、美遊であるなど有り得ない。

一体何者なのかの答えは、傍らの相棒が呆れと軽蔑を籠めた声で教えてくれた。

774EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:52:50 ID:dyk1XPSI0
『趣味は人それぞれと言いますが、限度があるでしょうに。無駄に敵を作るのがお好きなんですか?エボルトさん』
「そいつは心外ってやつだ。こいつの見た目になったのはお遊びだが、お前らの友達だってのは今初めて知ったからな」
「なっ……」

ルビーが言った名前を知らない筈がない。
エーデルフェルト邸での戦闘に介入し、魔女の頸を落とした地球外生命体。
一応自分達の恩人という立場であれど、信用出来る要素が一つもない男。
仮面ライダーに関する情報を聞く為追いかけたが、美遊の姿になってるのを誰が思い付けるという。
宇宙服に似た装甲とも、コブラのような頭部の異形でもない。
他者の姿を真似られる能力でも持っているからか。
混乱は長く続かず、すぐに怒りへ変わりキッと鋭い目をぶつける。
当の相手は怯む所かヘラヘラ笑い、美遊を馬鹿にされているようで我慢ならない。

「揶揄ったにしても笑えねぇな。胸糞悪いもん見せてくれたからには、相応の礼が返って来るのを知ってるか?」
「人を見下す態度をやめないなら、痛い目見るって忠告した筈だぜ!」

美遊とイリヤの関係を聞いた二人の男も、瞳を吊り上げ口々に言う。
片や冷静ながら不快さを隠さず、片や明確な怒りを露わにと違いはある。
しかし抱く思いは同じ。
これ以上イリヤの心を弄ぶなら、タダで済ませる気はない。

「分かった分かった、一旦落ち着けって。ったく、このお嬢ちゃんに関しちゃ冤罪なんだがねぇ」

美遊は士郎だけでなくイリヤの関係者。
初耳でありイリヤを惑わせる意図は無いのだが、言った所で納得しないだろう。
尤も、エボルトにとっては嬉しい誤算でもあった。
つい先程立てた仮説が真実か否か、答えを知ってるかもしれない者が向こうからやって来たのだ。
追々聞くとして、取り敢えず美遊の擬態を解かねば拳が飛ぶに違いない。
仕方ねぇなと呟き自身の細胞を変化、小さな体躯が一瞬で赤い粘液状に崩れる。
秒と掛けずに再構築、聖杯の少女は影も形も見当たらない。

「こいつなら文句は――」

瞬間、言葉を切り右腕を跳ね上げた。
電光石火と言うに相応しい、必要な動作を数段階すっ飛ばしたとしか思えぬ速さ。
右手に握るは短銃型の変身ツール、トランスチームガン。
単体でも武器として扱え、放つは対象を溶かし貫く高熱硬化弾。
西部劇のガンマン顔負けのクイックドローだがしかし、肝心の引き金を引く締めの動作は行わない。
銃口が睨む先には、イリヤが現れてから沈黙を保った白い鎧。
ステンドグラスを填め込んだ額へ、何故得物を突き付けているのか。
エボルトの首に添えられた、煌めく刀身が何よりの答え。

775EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:53:49 ID:dyk1XPSI0
「幾ら何でも気が短過ぎだろ。カルシウムが足りないなら、ミルクでも探してやろうか?」

美遊の擬態を解いた直後、間近で殺意の爆発が起きた。
肌を焼く激痛にも似た痛みへ、エボルトも無反応ではいられない。
数多の星を狩り培われた戦闘技術により、人外の速度で銃を引き抜いたのだ。
だが一手早く、黒死牟もまた得物へ手を掛けエボルトの頸へと走らせた。
指先すら触れず垂らしていた手を、一体いつ柄に置いたのか。
スタンド使いや仮面ライダーが有する時間停止ではない。
視認不可能と言っても過言でない速さで、魔剣を抜き放ったのである。

ザンバットソードと首の間の隙間は、紙切れ一枚が挟まるかも怪しい。
指の腹で蟻を潰す程度の、ほんのそれだけの力が加われば終わり。
限界寸前で斬首を留め、仮面越しに殺気立った瞳で睨み付ける。
黒死牟をこうも怒りで逸らせた理由は、誰の目にも明らか。

現代日本では滅多に見ない着物姿。
後ろで結び馬の尾のように垂らした黒の長髪。
両耳に付けた、日の出が描かれた耳飾り。
天界の寵愛を受けた人間(ばけもの)、この世でただ一人鬼の始祖を恐怖させた日輪。
神が掌で転がす操り人形、憎たらしくも断ち切れぬ血で結ばれた弟。
継国縁壱に擬態したエボルトの頸を、魔剣が今すぐ斬らせろと訴えていた。

「貴様が……童遊びにもならぬ戯れを……止める気が起きないなら……」

妬んだ。
憎んだ。
常に目障りだった。
幾度となく、死を願った。
心底嫌った。
負の念を両手足の指の数並べても、尚足りない。

なれど、忘れた事はただの一度もなく。
常に己が内を焼き続けた、永き時を経ても変わらぬ羨望の対象だからこそ。
指先が触れることすら叶わなくとも、背を追うのを止められなかった故に。

たとえ一時の悪巫山戯に過ぎなかろうと、弟を騙るその愚行に殺意が滾るのを抑えられない。

776EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:54:40 ID:dyk1XPSI0
「頸を落とし……黙らせれば良い……」

弟に姿を変えた化生を殺すのに、躊躇を抱く余地はない。
むしろ縁壱の顔で腐り切った軽口がほざかれるのを待たず、早々に死で以て終わらせたって構わない。
生前ならば、恐らくその通りにしただろう。
一刀で即座に黙らせた筈が、この場においては必要かも分からない警告を先に発した。
相手の口を割る前に殺すのが如何に愚策かを、僅かな理性が訴えているからか。
迷い全てを断ち切れぬ身なれど、自死を選ぶ気が無い以上情報の必要性は理解してるつもりだ。

或いはもう一つ。
自身と化生の発する殺気へ、息を呑む気配が周囲で複数。
今しがた現れた白い小娘の一団だろうが、知ったことではない。
だがそれとは別に、己の後方に立つソレは。
視界に収めずとも脳裏を掠め続ける桜色が、振り返った先にいる事実が。
花を編んで作った鎖となって、魔剣を握る手に絡み付く。
振り払えば散る脆き拘束に過ぎない、なのに引き千切れず捕らえられるがまま。
化生へ向ける殺意とは別に、例えようのない煩わしさで歯が音を立てた。

「エボルト、さん」

充満する剣鬼の怒りへ、喉に猛烈な痛みを感じる中。
怪物同士の睨み合いに割って入り、殺伐とした空気を鎮めんとする声があった。
喉を震わせ叫んだのではない、ただ一言名を読んだ。
横目で見やる星狩りから、いろはは目を逸らさない。

ああと、こうして近くでその顔を見たから思うのだ。
外見だけ真似た所で、やはりここにいるのは縁壱ではない。
彼について全てを知ってはいない。
怒気交じりに、ほんの少し教えてもらっただけ。
それでも、弟の事で兄が心を掻き毟る姿を見たから。

「もうやめてください。縁壱さんも美遊ちゃんも、あなたが誰かを傷付ける為にいるんじゃありません」

どれだけ手を伸ばしても届かない痛みを、いろはは知っている。
再会を強く願っても決して叶わない現実に、頬を濡らして来たから。
たとえ意図したものでなくても、心へ唾を吐きかける行為に黙ってはいられない。

777EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:56:07 ID:dyk1XPSI0
「……ま、おふざけも程々にしなきゃ困るのは俺の方か」
『自覚してるんなら、今からでも真面目になるのをオススメしますよー』
「性分なんでな。死んでも治らないもんだと思って、諦めてくれ」

人間の小娘の言葉に揺り動かされるなら、地球に潜伏した10年の間に心を入れ替えている。
お説教が利いたのでないが、おちょくるのも大概にせねばなるまい。
分かっていても皮肉や軽口が飛ぶのは、ルビーに言ったのが全て。
ともかく、詳しい関係は不明だが自分は黒死牟の地雷を踏んだらしい。
警告は最初で最後、いつ戦闘になってもおかしくない。
銃を下ろし、最も馴染み深い石動惣一に擬態。
桜ノ館中学前に集まった面々には、初めて見せる姿だ。

「これなら文句ねぇだろ?俺なりに多少は反省してるんだ、お前らの前じゃこいつの見た目のままでいるさ」
「……」

姿が変わろうと、神経を逆撫でする態度は健在。
いらぬ遊びでこちらを掻き回し、頭を沸騰させた化生をこのまま斬りたい気持ちが無いとは言わない。
されど向こうは縁壱ではない男の皮を新たに被り、得物を懐に納めた。
無駄な遊びを繰り返した挙句、膨れ上がった殺意をぶつける空気も削ぐとは。
まっこと不愉快極まる相手に低く唸り声を漏らし、ザンバットソードを首から離す。

「おっかないったらねぇな、まったく」

刀身が触れた箇所を擦りつつ、改めて集まった面々を見回す。
友好的なものが一つも存在しないのは、別に良い。
仲良しこよしで友情を築く気はない、だがいい加減真面目に話を進める頃合いか。

「さて、と。ちょっとしたアクシデントもあったが、お互いちゃんと話した方が良いだろ」
『なんか纏め役っぽいこと言ってますけど、そもそもあなたが原因ですからね?』
「それを言うなって。トラブルメーカー同士、少しは肩を持ってくれよ」
『失礼な!あなた程悪趣味じゃありません!一緒にナレーションやったくらいで心を許す軽い女と思ってるなら、そりゃ大間違いですよ!』
「冷たいねぇ。声の仕事が得意な仲だろ?」

話が拗れた10割の原因だと自覚しつつ、何でも無いようにあっさり切り替えた。
さしものルビーも呆れを隠せないが、当のエボルトはどこ吹く風。
彼らだけにしか伝わらない内容を話す両者へ、解けないパズルにぶち当たったような顔を作る。

778EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:57:14 ID:dyk1XPSI0
「二人共何のことを言ってるの……?」
「ルビーが素っ頓狂な事を言い出すのは珍しくないから、深く考えなくて良いと思います……」
「そ、そうなんだ」

どこか遠い目で言うイリヤに軽く困惑し、自己紹介もしないままつい言葉を交わした相手に向き合う。
インキュベーターとカレイドステッキ、異なる契約を結んだ魔法少女達。
妹と姉、半身をそれぞれ喪った両者だが現時点では互いの名前も知らない。
まずは基本的なことからと名乗り合う。

「嬢ちゃん同士打ち解けんのが早ぇな。俺らも倣って自己紹介くらいやっとくか?」
「……」

いろは達の様子を横目に、蛇王院が話しかけたのは白い鎧の参加者。
未だ素顔を見せぬ男は言葉無く、青いレンズを二人に向ける。
襲って来る気配は見られないが、相応に緊張感を抱く相手だ。
因縁深いホーリーフレイムとの抗争を始め、各勢力とぶつかり合った蛇王院。
ブルーアイズを巡る海馬とのデュエルに始まり、数多の強敵に打ち勝った遊戯。
戦いの舞台は異なるも歴戦の強者である彼らをして、今しがたの強烈な殺気に自然と身構えたのも無理からぬ反応。
とはいえそこはスカルサーペント総長と、初代決闘王。
及び腰の姿勢にはならず、堂々とした態度で相手との対話を望む。

男達の顔を仮面越しに見つめ、ややあって黒死牟は思い出す。
片方は一番最初の空間、磯野なる人間が屠り合いの宣言を行った場で発言を許された少年である。
頭を吹き飛ばされた別の少年が名を口にしており、自分のみならず全ての参加者の知るところ。
ついでに言うなら、本田以外の者からも遊戯の名は聞いている。

「不動が信を置く札使いとは……お前か……」
「遊星くんと会ったのか!?」
「こいつは流石に予想してなかったな……」

まさかその名が出るとは思わず、驚きを露わに聞き返す。
驚愕は蛇王院も同じだ、合流前に遊星の動向を知る者と接触が叶った。
行動を共にしていないのが気になるが、そこも含めて詳しく聞かねばなるまい。
とっつき辛い相手であるも、仲間と会ってる以上はキッチリ話してもらう。

「丁度良い場所の前に全員集まったんだ、お喋りの続きは中でやったの方が良いだろ」
「胡散臭いエイリアン野郎に同意するのは癪だが、ここで話し込んでも悪目立ちするだけだな」

正論だが余計なトラブルの元でもあるエボルトへ、蛇王院から辛辣な声が飛ぶ。
言われた当人はわざとらしく肩を竦め、全く懲りた様子がない。
ただ提案に反対する者はおらず、直ぐ近くの施設へ入って行く。
数時間前に覇瞳皇帝一行が訪れた桜ノ館中学は、新たな来訪者達を招き入れた。

779EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:58:56 ID:dyk1XPSI0
馬鹿正直に内履きを探し履き替える者はおらず、土足を咎める者も皆無。
生徒用の玄関を通り、廊下を進み数分。
見付けた図書室を情報開示の場に決め、先頭のエボルトが引き戸を開ける。
学校に置いてある本特有の、何とも言えぬ匂いが漂う。
殺し合いには何の意味も無い、こういった細部の再現まで拘ったらしい。
その情熱の向かう先がゲームと称する悪辣な殺戮では、素直に褒める者もいないが。

(懐かしい、な……)

自分の通っていた穂群原学園ではないが、図書室の空気はイリヤにも覚えがある。
特別な思い出じゃない、取るに足らない日常の一幕。
とっくに覚悟は決まっており、過去へ飛んだ選択に後悔はない。
僅かに漏れ出た心の雫を拭い、今やらなきゃならない戦いへ意識を戻す。

本棚の並ぶ空間へ足を踏み入れる中、振り向き一点を睨む者がいた。

「新手、か……」
「え、黒死牟さん?」

校内に参加者が訪れたと、即座に分かった。
竈門炭治郎や我妻善逸のような、先天性の優れた五感に非ず。
人間時代より戦の渦中に身を置き、数百年かけて研ぎ澄まされた感覚。
始祖の血が齎す、人の限界を容易く見下ろす五感機能。
此度はそれらに加え、サガの情報収集器官装置が稼働している。
一人分の足音が何処から響き、闘争を終えた証の血の臭いまでもを正確に捉えた。
尤も、サガの鎧を纏わずとも侵入を察するのは難しくない。

『むむ?』
「っと、タイミングが悪いな」

図書室前に集まった6人以外の者の気配に、他の数人も気付く。
幾つかの制限を課せられたが、ルビーの優れた探知機能は誤魔化せない。
特体生として超常の能力を持ち、尚且つ魔界孔出現後の日本で否応なしに危機察知能力が磨き上げられた蛇王院も同様。
中途半端に気配を隠したとて、気付かれないと思ったら大間違い。

「ルビー、誰か来たの?」
『みたいですねー。何やら変わった反応をお持ちのようですけど』
「ま、その辺の家よりは目立つからな。立ち寄ってもおかしくねぇか」

参加者の誰かに馴染みのある学校なのか。
そうでなくとも、保健室なりで物資調達をしに来る者がいても不思議はない。
問題は来訪者のスタンスが、自分達と相容れるか否か。

780EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:59:42 ID:dyk1XPSI0
さてどうするかと話し合う前に、黒死牟は一人踵を返す。

ファンガイアの王の鎧は相応の力と、日除けの加護を鬼に授ける。
しかし必要に迫られなければ、積極的に活用する気は無し。
慣れぬ着心地は、却って黒死牟を縛る拘束具にもなり兼ねない。
であれば、日の当たらぬ屋内での解除は至極当然。
資格者の意志に従い、サガークが離れ霞のように鎧は消え去った。

「っ!」

露わとなる、古風な着物を纏った侍。
人の形を保ちながらも、人では有り得ぬ三対六つの眼。
複数人の強張る気配を察するが、感じ入るものは毛先程もない。
背に声が掛けられるのを呑気に待たず、姿の見えぬ侵入者の元へ足早に向かって行く。

「行っちゃった…」
『まあパーティに一匹狼系の殿方が混じってるのも、ある意味お約束ですよ』
「それってフォローのつもりなの…?」

相棒の惚けた発言は置いておき、有無を言わさぬ口調にイリヤも何か言うタイミングを失った。
冥王やうさぎなど、人でない参加者とは既に顔を合わせている。
ルビーと(合意なしに)契約を結ぶ前ならまだしも、今更大概の事で動じる少女でもない。
とはいえやはり、抜き身の妖刀染みた威圧感には相応の緊張があるわけで。

「アイツに任せても良いが、あの口下手っぷりで誰彼構わずバッサリ!なんてならなきゃいいんだがなァ」
「黒死牟さんはそんなこと……」

冗談めかして言うエボルトに、いろはは思わずムッとして反論。
そんなことしないと言い切る筈が、ふと思い出す。
定時放送の前、病院で自分が寝ている間に何があったかを。
あっけらかんとする結芽と反対に、疲れたような姿のキャルを。
エボルトの言うような、見境なしに剣を向ける男ではない。
けれど万が一、あらぬ誤解を受けてしまうんじゃないかと言われたら――

「あ、あの!わたしも黒死牟さんを追い掛けます!」

大丈夫と信じたい反面、前例があるだけに一度浮かんだ心配はなくならず。
皆にそう言い、いろはもまた背を向け走り出した。

『めんどくさい年上に尽くすタイプな気がしますね、いろはさんって』
「急に何の話!?」

781EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:00:23 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


一人だった。
民家内の気配も、微かに耳を震わせる呼吸の音も。
自分自身以外に存在しない。
ゲーム開始直後以来二度目となる、一人きりの時間で橘朔也は身を休ませていた。

ガラスに映った姿をじっと見つめる。
つい昨日まで当たり前にあった己の体は、どこにも見当たらない。
アメジストの瞳と二つに結んだ長髪。
不死の生物との戦いを通じ鍛えられた体はなく、細身ながら少女特有の柔らかさも備えた肢体。
窓を挟んだ向こう側に立っているんじゃあない、正真正銘これが今の橘だ。

この世を去った少女をハッキリ見れるのに、本人はここにいない。
不思議な感覚へ、寂しさが全く無いと言えば嘘になる。
別れはとうに済ませた。
一度目は届かぬ手に嘆くしかなく、二度目は言えなかった「さよなら」を確かに伝えて。
天々座理世は橘の元を去ったが、想いは形として残り続ける。

「仇を討ったとしても……」

殺された人間が生き返る訳ではない。
恐怖心に惑い迷走の末に、小夜子を伊坂の手から守れなかった時と同じだ。
カテゴリージャックを封印しても、最愛の恋人が戻って来ないように。
リゼがひょっこり顔を出し、自分の名前をもう一度呼ぶ奇跡は起きない。

復讐を果たした後に訪れる虚しさは皆無に非ず、なれど思考放棄へ逃げるつもりは微塵もない。
他ならぬリゼ自身が言ったじゃあないか。
橘達を生かす為に命を散らす選択を、後悔してはいないと。
誰かに強要されのではない、自暴自棄でどうでもよくなったんじゃない。
あれで良かった、最高の師匠を守れた自身の選択で落ち込まないで欲しい。
慰めや誤魔化しとは違う弟子の本心を告げられて尚、後ろ向きで腐っている責任感を忘れた男にはなれなかった。

782EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:01:06 ID:dyk1XPSI0
(放送でリゼが言っていた友達は呼ばれなかったか……)

精神的な消耗に加え、間髪入れずに起こった海神との死闘。
目まぐるしく変化する戦場へ考える暇も無かったが、ようやっと落ち着き意識を回す余裕も生まれる。
何故か二つ名前が記載されたココアを含め、リゼの友人達は無事。
専用武器があるとはいえ元々一般人のリゼ同様、本来は戦う術を持たない少女達。
仮面ライダーの自分でさえ苦戦を免れない環境で、運良く6時間危機から逃れたとは考え辛い。
信頼出来る参加者と出会えたのだろうと、今更ながらにホッと胸を撫で下ろす。
可能ならば二回目の定時放送まで発見ないし、せめて何らかの情報が得られるのを願いたい。
手遅れとなり、リゼに誓った決意を嘘にする気はないのだから。

「…っ!あれは……」

考え込むのに俯いていた顔を上げ、何となしに窓の外へ目をやる。
丁度そのタイミングだ、奇妙な飛行物体が一瞬見えたのは。

心意システムの影響で橘に起きた変化は、リゼの姿になっただけではない。
外見こそ学生生活を謳歌する少女でも、秘め得る力は常人の枠には収まらない。
仮面ライダーギャレンと同等のスペックを、生身で発揮可能。
パワーや走力のみならず、五感もまた超人の領域へ押し上げられた。
元々橘はバッティングセンターのボールに書かれた数字を正確に見れる程、優れた動体視力の持ち主。
そこへ加えて、オーガンスコープと呼ばれる高機能な視覚センサーと同等の力を得ている。
通常肉眼では捉えられない存在も、微かだが見る事が出来たのだ。

「ドラゴン、か?海馬やジャックのカードにあったのとは違うようだが」

長い胴体で空中を泳ぐ、未知の巨大生物。
やれUMAだ軍の秘密兵器だとメディアが騒ぎ、白井虎太郎が見たら新作のネタとはしゃぐだろう。
残念ながらここは殺し合いの場であり、巨大な怪物も然して珍しくない。
おまけにハッキリと姿を確認出来てはいないが、巨大生物の背に人らしき者が乗っているようにも見えたのだ。

「まさか、さっきの俺達のように逃げているのか?」

触手を操る怪物の追跡を振り払う為に、列車型のモンスターに乗り込んだのは記憶に新しい。
そういった目的でドラゴン(仮)を駆る可能性も、絶対ないとは言い切れない。
ひょっとすればリゼの友人達が乗っているかもしれないのを、どうして否定出来ようか。

783EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:01:46 ID:dyk1XPSI0
再び橘は考え込む姿勢を取る。
腕組し難しい顔を作る姿はリゼそのものだと、見てそう思う彼女の友人達は民家におらず。
どう動くかに頭を悩ませた。
リゼの仇相手に最悪の場合は、相討ちに持ち込む覚悟だったが無事生き延びた。
但し流石に無傷とはいかず、コンディションを考えればもう少し体力回復に充てるのが正しい。
何が待ち受けているか分からないのに、考え無しに飛び込んで良いものか。

(だがこんな時剣崎なら、迷わず向かう筈だ)

合理的な考えを優先した結果、助けられた筈の手を掴めない。
そんな後悔をしない為に、後輩であり尊敬する仲間がどう動くかは分かり切ったものだ。
馬鹿になれと、一人の男が言い遺した言葉を思い出す。
考え無しに動き回る無鉄砲になる気はないが、ほんの少し無茶をやる馬鹿にはなって良いのかもしれない。

行き先を決めた以上、動くのに躊躇は必要無い。
頷き立ち上がると、民家を出てドラゴン(仮)が見えた方へ走る。
出発し数分、橘はすぐに自分の体が如何なる状態かを悟った。
リゼ専用の槍を使ってないにも関わらず、足が異様に速い。
試しに速度を数段上げてみれば、どう考えても普通の人間が出せないだろう速さを叩き出す。

(バックルが突然消えたのはこういう事だったのか…!)

詳しい原理は不明だが、生身でギャレンと同じ力を発揮出来るらしい。
考えてみれば動体視力に自信があるからといって、遠く離れた位置のドラゴン(仮)を見れるのも普通は有り得ない。
リゼが聞いたら、「今気付くのか」と天然加減へ呆れ笑いを浮かべたろう。

橋を渡って北上、隣接したエリアに到着。
暫く進むと見えたのは、点在する民家よりも目を引く建造物。
独自の佇まいから学び舎と即座に分かり、ご丁寧に学校名の書かれた校門まである。
モンスターに乗った者が近辺へ降りたとすれば、最も目立つ施設を無視するだろうか。
仮に負傷していたら手当の為に、保健室へ向かう可能性は低くない。

(行って確かめなければ始まらないな)

銃と槍、二つの得物を意識しながら校舎内へ入る。
念の為に不意打ちを警戒し、可能な限り気配を殺して進む。
少年少女が青春を送る場の賑やかさはなく、まるでホラー映画さながらの不気味さが漂う。
場合によってはいつ襲われてもおかしくない状況に、自然と表情も険しさを増す。

784EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:02:24 ID:dyk1XPSI0
「――――っ!?」

静寂は前触れなく終わりを告げ、橘の警戒心が一気に引き上げられた。
音もなく、しかし無視出来ない存在感を伴い現れる異形。
光の差し込まない寒々とした廊下の奥より、凡そ学び舎には釣り合いな者が顔を見せる。
嫌悪と恐怖を共に植え付ける、剣鬼の眼が橘を射抜く。
愚かにも腹を空かせた怪物の素巣へ、自ら飛び込んだとの錯覚を抱いた。

「お前、は……」

喉奥から這い出るここ数時間で聞き慣れた、喪った二人目の弟子の声。
酷く乾いて聞こえるのは、それだけ自身の緊張が大きい証拠。
何も相手が人間でないからというだけで、ここまで極端に警戒を強めない。
アンデッドとの戦いを思えば、今になって人ならざる存在を強く恐れる弱者に非ず。
加えて先の冥王のように人間以外との共闘も経た以上、人じゃない参加者と必ずしも敵対するとは限らない。
理解して尚戦慄を隠せない理由はただ一つ、相手の纏う気配に近しい者を知っているから。

外見は全く違う。
記憶に根付くソレは色を無くした髪だった、瞳の数は人間同様に二つだけ。
文字と漢数字を浮かばせてもいなかった。
似ても似つかない、しかし無関係と言い切るには己の中で待ったが掛かる。
積み上げた文化を気まぐれで蹂躙し素知らぬ顔で去って行く、天災もかくやの化け物。
バッティングセンターでの平和な時間に、望まぬ形で幕を下ろした男。
リゼの仇であり、今さっき討った名も知らぬ怪物をどういう訳か想起させるのだ。

「……」

互いに無言で相手を見据える中、施設を訪れた時以上に得物を意識せざるを得ない。
研究職であった橘がギャレンの適正者に選ばれたのは、人選の適当な穴埋めなんかじゃあない。
上級アンデッドや仮面ライダーレンゲル相手に、スペックで差を開けられても勝利を奪える強さ。
類稀なバトルセンスの持ち主だからに他ならない。
変身後と同等のスペックを発揮可能な今、培った技術をフルに活かし先手を取れる筈。
相手が刀を引き抜く速さを追い越し、ギャレンラウザーで撃ち落とせる。

785EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:03:15 ID:dyk1XPSI0
(……いや、難しいか)

事がこちらの有利で進む光景を、橘自身が否定し打ち消す。
自分と相手には距離が開き、向こうの剣が届くには十数歩足りない。
だというのに多少の有利を一瞬で覆し、瞬きを終えた直後に喉元を切っ先が突き刺したとておかしくはない。
剣崎も認める一流の戦士だからこそ分かる、男の前に立った時点で間合いに閉じ込められたも同然だと。

恐怖心をとっくに克服し、アンデッドとの戦いを終えた橘なら会話での戦闘回避も冷静に考えられたろう。
だがリゼの命を奪った怪物の脅威を、身を以て味合わされたが為に。
相手の反応を待たずして警戒心が上がり続け、思考は剣呑な方向へと向かったまま。
気付かぬ内に、戦いが起きる前提に傾かせる橘をどう思ったか。
沈黙を保った異形の侍が初めて口を開き掛け、

「待ってください!」

後方より発せられた少女の声に、爆発寸前の空気が鎮静化の兆しを見せた。
橘が驚く一方で、侍は心なしか不機嫌そうに口を噤む。

黒死牟を追い掛けて来たいろはが見たのは、穏やかじゃない様子で睨み合う男と少女。
変身せずとも魔力を操作し、身体能力を上げたのが功を為し間に合った。
夜中に水名神社を調査した時、高く聳える正門を一跳びで追い越したのと同じ方法だ。
それはともかく、まず先に言わねばならない事がある。
背に向けられる視線に気付きつつも、少女へ向けて口を開く。

「わたし達に殺し合いをする気はないです。少しだけ驚かせちゃったかもしれないけど、でも、黒死牟さんも自分からあなたを傷付けることはしません」

警戒されてるとは承知の上でハッキリと告げた。
見境なしに剣を振るい、血の河を生み出す為にいるんじゃない。
憐れみで庇い立てするのでなく、そう信じて疑わない言葉に顔を顰める

またしても頼んだ覚えのない気遣いに出て、自身の不快感を煽る気か。
背後から感情の揺らぎを察したのか、振り返って視線を合わせる。
眉を八の字に下げた困り顔で、苛立ちを臆さずに受け止めた。

786EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:04:20 ID:dyk1XPSI0
「だって、黒死牟さんのことを誤解して欲しくなかったから……」
「……」

人ではない貌をして、安易に人を寄せ付けない態度を取っていて。
過去の行いを知らないけど、許されざる罪を繰り返したと察しは付く。
誰かにとっての悲しみを生み出す側だったのを察せない程、いろはは鈍くない。
けど今ここにいる彼は、それだけが全部じゃないから。
彼の抱える傷を見て、彼に幾度も命を救われた。
ほんの少しでも痛みを癒したいと思えた相手だから、彼に向かう敵意の前へ飛び出せる。

人を喰らう鬼に向けてとは思えない、されどとうに見慣れた態度。
他者からどれ程敵愾心を向けられても、今更知った事ではない。
しかしこの娘にとっては、黙っていられるものに非ず。
口走り掛けた吐き捨てる言も、喉をせり上がる前に消え失せる。
結局返すのは無言、向こうにとっても慣れた反応へ困ったような笑みを浮かべられた。

「女相手にだんまり貫くってのは、良いやり方とは言えねえな」

自身のとは異なる声に、発すべき内容を改めて練る必要が無くなる。
気安く肩に手を置かれ、僅かに振り向けばいろは程の付き合いは無いが見知った顔。
海賊帽の下で浮かべたシニカルな表情は、野性味溢れる顔立ちも相俟って異性を虜にするだろう。
色を好む軟派な男、そう軽蔑を籠めて断言は出来まい。
実戦を知らねば身に付かない屈強な体と、人の特徴から逸脱した異形の右腕。
いろはに少々遅れる形でやって来た蛇王院である。

「腕は立つようだが、堅物過ぎんのも考えもんだぜ?」

友人へ接するかのような軽口へ、鬱陶し気に手を振り払い応える。
必要以上に慣れ合う気が無いとの態度にも、激昂した様子はない。
気難しい奴だと呆れ笑いを一つ返された。
病院で会った小娘達といいこの男といい、馴れ馴れしくする者がいろは以外にもまだ現れるのか。

787EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:05:06 ID:dyk1XPSI0
「人じゃないって言ったら、俺の右手もどうこう言えるもんじゃないからな。殺り合う気がなけりゃ、理由も無いのに喧嘩は売らねぇよ」

蛇王院の住まう日本では人外の存在は珍しくもない。
第一蛇王院自身、学聖ボタンの影響でジャンヌに斬られた腕が異形と化した身だ。
人じゃないからといって排除を選ぶ、ホーリーフレイム同様の所業に走る気はゼロ。
異形の特徴を持つ元ホーリーフレイム聖歌隊のマリーシアを、差別意識を抱かず勢力へ迎え入れたように。
人間かそうでないかで態度を変える男じゃないからこそ、部下達からの厚い信頼を得て来た。

加えて意外に見えるかもしれないが、蛇王院はワイルドな外見と裏腹に他者へ積極的に戦闘を仕掛ける性質でもない。
スカルサーペントにとっての戦いは基本的に、自分達の身を守る為のもの。
全国統一を掲げ学生連合を襲撃したのも、神威との取引を受けたが故。
蛇王院を知る者に「らしくない」と疑問を持たれた好戦さは全て、自分を慕う部下を死なせない為の苦渋の決断があったから。

それは舞台が魔界孔出現後の日本ではなく、神が作り上げた遊戯盤に移っても同じ。
鬼の始祖に最も近い上弦の壱だろうと、他者を害する意図を見せなければこちらも手出しはしない。

「あんたといろはが仲良しだってのは分かったが、続きは一旦後回しにしとけ。初対面の女を放置は頂けないからよ」
「贋物の目玉でも填めているのか貴様……」
「あ、ご、ごめんなさい!」

辛辣に返す黒死牟を余所に、蛇王院に言われいろはは慌てて頭を下げる。
謝罪を受けた当の橘は、三人のやり取りに少々困惑気味。
ついさっきまで張り詰めていた空気は霧散し、気付けば思考も幾分かの冷静さを取り戻す。
相手の雰囲気につられたが、戦わずに済むならそれに越した事はない。

「済まない、少しばかり熱くなっていた。言うのが遅れたが、檀黎斗の言い成りになる気がないのはこちらも同じだ」
「なら話は早ぇ。ついて来な、女を立たせたままにはしないからよ」

敵意の無さを伝えれば向こうも頷き、顎で自分達が来た道をクイと示す。
ファーストコンタクトこそ殺伐としたが、殺し合いに乗っていない参加者との接触には無事成功。
蛇王院の提案を断る理由はない、ただ一つだけ訂正しておかねばなるまい。

「勘違いさせてしまったようだが…俺は元々男だぞ」
「は?」

サラリと言われた内容に思わず聞き返し、頬が引き攣るのが蛇王院自身にも分かった。

788EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:06:43 ID:dyk1XPSI0



「橘朔也だ。ここには来たばかりだが、宜しく頼む」

橘が姿を変えたリゼは、元々こういった話し方をしていたからか。
うら若き十代の少女にあるまじき男口調も、不思議と違和感がない。

先んじて桜ノ館中学にやって来た者達と、遅れて現れた一人。
計7人が図書室に集まり、それぞれ適当な位置に腰を下ろしていた。
方針に細かな違いは有れど、共通し黎斗のゲームには否定的。
であれば各々が持ち寄った情報を提供し、擦り合わせを行うのは自然な流れ。
その前に名前くらいは教えようと、橘が自身の状態を含め簡潔に話ておく。

「蛇王院達にはもう伝えたが、元々男だ。こうなった経緯については後で詳しく話す」
「言われてみると橘さん、見た目以上に年上って感じがするかも……」
『これはあれですか、蛇王院さん痛恨の勘違いをしちゃいましたか?』
「言うなよそれを…」

揶揄い口調のステッキへ、バツが悪そうに頬を掻く。
シャイラが聞いたら、酒の席での笑い話確定だろう。
勘違いされた橘本人は、大して気にした様子もないが。

雑談もそこそこに、早速本題に入る。
時間は有限、こうしてる間も他のエリアでは戦闘が勃発中に違いない。
座って体力の回復に努める間も、必要な情報をお互い頭に入れておくに限る。

「異論が無いなら俺が最初に話そうと思う。構わないか?」

鬼とブラッド族の人外二名を抜かせば最年長の橘が、一番手に名乗りを上げる。
特に反対も飛ばなかった為、遠慮の必要無しと口火を切った。

剣崎を始め元々の仲間が不参加の為、プロフィールは簡潔且つ説明不足にならないよう努めて話す。
仮面ライダーギャレン、不死の生物アンデッドとの戦い。
探していた仮面ライダーが早くも見つかり驚くイリヤ達と、自身の知るライダーとは異なる戦士へ僅かな関心を見せるエボルト。
反応は様々だが話は中断させず、続きを聞く態勢を取る。

789EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:07:31 ID:dyk1XPSI0
「海馬がそんなことを……」
「厳しい言い方だったが、彼なりに殺し合いを現実的に見ていた。俺はデュエルモンスターズを深い所まで知ってはいないが、もぐもにとって意味のある経験だったと思う」

意外な所でライバルの動向を知り、静かな呟きが遊戯の口から出た。
実戦に慣れる意味でも、デュエリストとしてもぐもこと百雲龍之介をみっちりしごいたとのこと。
下手な慰めやフォローは不要とし、海馬らしい喝の入れ方も含めて。
名簿に載っている内、どちらの海馬かは分からない。
だが自他共に厳しく我が道を往く好敵手なら、そうするだろうなと納得があった。
海馬とのデュエルが結果的に、一人の決闘者の成長へ繋がったのは遊戯としても喜ばしくある。

しかし橘達が平和な時間を過ごせたのは、そこが最後だった。
ある日突然、大災害により日常が崩壊するように。
鬼の始祖という、生きた天災が全てを壊していった。
歴戦の決闘者と二人の仮面ライダー達が揃って尚、結果は敗走。
それも本来な非戦闘要員である少女の犠牲を経て、だ。

「海馬がいても歯が立たなかったのか…!?」
「…なんて名前だ?そのふざけた野郎はよ」
「それは分からない。奴は一度も自分の名を口にしなかった」

海馬の実力を誰よりも知る遊戯だからこそ、橘の話には戦慄を覚える。
驚愕し思わず立ち上がる一方で、冷静な顔のまま尋ねるのは蛇王院だ。
理不尽な死を撒き散らす、ホーリーフレイムのような胸糞悪い男に怒りがない訳がない。
一方でここで怒鳴り散らしても無意味だと分かっており、激昂を面に出さず問う。
とはいえ蛇王院の望む答えは返せず、男の特徴だけを伝える。
触手を操り、異様な再生能力があったことを。

790EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:08:13 ID:dyk1XPSI0
「……」

ピクリと、僅かな反応を見せた男には気付かず橘の話は続く。

放送の直前に出会った、ジャック・アトラス達の一団。
列車型モンスターを使った移動の最中、突如起きた海神の襲来。
耳飾りの侍と同じく、全参加者に存在を知られたポセイドン相手に繰り広げた死闘。
全滅へ陥ってもおかしくない、絶望的な戦いの果てに勝利を掴んだ。
と、そこで話を区切ればハッピーエンドだが現実は違う。

「アトラス様達が……」

犠牲者の名前に、口元に手を当てイリヤは声を震わせる。
放送で呼ばれたうさぎに続き、二人の王もこの世を去った。
本選が始まり最初に出会った一団は、これで全滅が確定。
生きてもう一度彼らと顔を合わせる機会は、永遠にやって来ない。

「結局、ジャックとのデュエルは叶わなかったな……」

デッキを取り戻した遊戯と、全力でデュエルする事は不可能。
殺し合いなんかじゃなかったら、決闘者同士デュエルを通じてもっとお互いを知れたのだろうか。
せめてもの慰めなどと言うつもりはないが、ジャックも冥王も『キング』と呼ぶに相応しい最期だったらしい。
かといってそれを聞き喜べる筈がなく、しんのすけという青年共々死んで欲しくなかった。
ジャックの友である遊星が知る時を思うと、ただただ胸が痛い。

ポセイドンとの戦闘後、橘はリゼを殺した触手の化け物との一騎打ちに挑み、結果は今こうして生きてるのが答え。
楽に勝てた戦いとは口が裂けても言えず、何より自分一人で掴んだ勝利ではない。

「おいおい、よくお前一人で勝てたな。聞く限りじゃ、都合の良いパワーアップアイテムなんて物も無かったんだろ?」

呆れ交じりに言うエボルトへ、口には出さないが内心はそれぞれ同意見だ。
複数人掛かりで逃げるしかなかった強敵に、単独で挑むなど普通は自殺行為。

「だが勝算が全く無い訳じゃなかった。あの男は太陽に当たると消滅する体質らしくて、だからわざわざ大我のベルトを奪って行ったんだ」
「え……」

聞かされた男の特徴に、小さく零れた声が自分のものと気付けたかどうか。
太陽を浴びれば死ぬ、御伽噺の吸血鬼のような特徴。
それに当て嵌まる参加者を、いろはは知っている。
思わず隣を見れば、思い浮かんだ予感は正しかったと理解せざるを得なかった。
弟が関わらなければ滅多に表情を崩さない彼が、六眼を見開き凍り付いているのだから。

791EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:09:07 ID:dyk1XPSI0
「お前はその者を……どうした……」
「急になにを…?」
「答えろ……お前が仇として追った男は……どうなった……」

耳をつんざく怒声を発してはいない、胸倉を掴まれ恫喝されてもいない。
静かに、しかし臓腑にまで届くだろう低く重い声。
有無を言わせぬ問いに、橘のみならず他の者も困惑や訝しさを表情に宿す。
これまで然したる反応を見せなかったのが、今になってどうしたというのか。
ただ一人、事情を察したいろはが口を開くより先に橘が答えを返す。

「勿論、それについても隠すつもりはない。今の俺がリゼの姿になってるのも、あの男との戦いがあったからだ」

やましい内容は一つも無く、嘘を並べ立てる気も皆無。
怪物との戦いで何が起きたかは、最初から余さず言うつもりだった。

散々こちらを異常者呼ばわりした男に、相討ちすら覚悟して食らい付き。
師弟として結んだ絆がリゼと橘をもう一度巡り合わせ、二人で勝利を手にした。
無論、死者であるリゼがそれ以上の時間を共に過ごす事は不可能。
必然的に二度目の別れとなり、直後橘の体に異変が起き今の姿になっていた。

「………………、………………」

茫然自失という言葉は、正に今の黒死牟の為にこそある。
度が過ぎた驚愕を抱き二の句が継げず、案山子のように立ち尽くす以外何もできない。
傍目には何も考えず阿呆同然に一歩も動かない、指先を微かに曲げもしない。
よもや屠り合いで二度、上弦の鬼らしからぬ致命的な隙を晒すとは予想だにしていなかった。
一度目は弟が傀儡と化したのを知らされた時。
そして現在、二度目の衝撃が頭部を打ち砕く鉄塊となり黒死牟を襲う。
鬼の始祖、千年に渡り数多の悲劇を生んだ最初の悪鬼。
上弦以下全ての鬼の頂点に君臨する、絶対的存在。
鬼舞辻無惨が異界の地にて、人間の手で討たれた。
長きに渡る鬼狩りとの因縁は、彼奴ら鬼殺隊が一切関わらぬ内に幕を閉じた。

792EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:10:32 ID:dyk1XPSI0
妄言と言い切るのは容易い。
真実は橘が無惨を相手取ってなどおらず、全く無関係の要因で天々座理世の現身となった。
嘘八百を連ね、あたかも無惨討伐の結果と言い張っているに過ぎない。
忌まわしくも最強の二文字を永遠に我がものとする、日輪の刃が与えた滅びならともかく。
鬼狩りですらない人間一人の力が届くなら、鬼との争いの歴史は遥か過去に終わっている。

そも、何故鬼殺隊は幾百年の時を経ても無惨を滅ぼせなかったのか。
何故己を含めた配下の鬼は、只の一度も無惨へ反逆を企てなかったのか。
徹底して自身の痕跡を残さない慎重さ。
絶対の隷属を確約する呪い。
それらも含まれているが最たる理由はもっと単純、強さ故にだ。
十二鬼月全員を束ねても、痣者や透き通る世界に至った柱を集結させても。
踝すら拝めぬ高き壁となって、始祖は君臨する。
風の一吹きで屋敷が更地となるように、波一つで漁村が飲み込まれるように。
無惨という天災を滅ぼせる存在など、鬼以上に理不尽極まる日輪を置いて他にいない。

しかし俄かには信じ難い一方で、そうなるだろうと納得を抱く己も確かにいる。
無惨の持ち得る力は今更疑いようもない。
だが橘と無惨の間に起きた闘争は、鬼狩りとの争いとは前提が異なる。
慣れぬ鎧一枚で太陽を遮断し、肉体変化や血鬼術も使用不可能となり、常時日の当たる場所での戦闘を強いられた。
付け加えるなら相手は奇妙な腰巻き、「仮面らいだあ」の力を完璧に使いこなす戦士。
ここまでの悪条件が揃って尚、無惨の勝利が揺るがないと言うには流石に躊躇が生じる。
更に屠り合いには無惨ですら把握していない、未知の能力や技術が数多く存在。
予期せぬ反撃を受け敗北へ繋がったのを、強く否定は出来ない。

「そうか……あのお方が……滅びたと……」

零れ出た声色に憤怒がなければ、嘆きもない。
純然たる事実を受け止め、波立たせず淡々と言う。
自分の中にあって当然と背負い続けたモノが外れ、居心地の悪い身軽さだけが残った。

主の敗死を余所におめおめと生を拾い、またしても我が身へ恥を塗りたくる始末。
情けなし、不甲斐なしとは思うも自ら腹を掻っ捌く気は起きない。
仇を討ち蘇生に全力を尽くす、屠り合いに招かれた唯一の配下としての責務に身を捧ぐ気概もない。
無惨の参加を知り、死を聞かされた今に至るまで終ぞ忠節が己を突き動かす事はなかった。
地の底へ堕ちた主が知れば、閻魔ですら目を覆う程の怒りが吹き荒れたろう。
そう分かった所で、使命感に火が付く気配は一向に表れない。

793EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:11:23 ID:dyk1XPSI0
ついでに言うと、無惨が滅びたとて円満解決と決めつけるのは早計であった。

「あのお方…?まさかお前は、奴に従っていたのか?」
「だとしたら……如何とする……」

目に見えて表情の強張る橘に対し、やはり感情の揺らぎを出さずに問い返す。
直接手を下した仇に非ずとも、鬼である以上自分に敵意が向けられるのは自然な流れだ。
「その鬼はお前の親兄弟を殺した奴じゃない。だから見逃してやれ」、と。
論され素直に剣を納めるような鬼狩りは、少なくとも黒死牟の記憶に一人も存在しない。
同じ例が橘に当て嵌まったとて、十分納得出来る。
大人しく頸を差し出すかは全く別の話だが。

張り詰めた空気は、先程廊下で対面した際の焼き直し。
但し此度は数十分前と違い、黒死牟を明確にリゼの仇の関係者と認識している。
いつ銃弾が放たれ、或いは刀が振り抜かれてもおかしくない。
闘争の予感に周囲の緊張感も自然と高まりを見せ、

ポスリと、橘が再び座り直した事で衝突は回避された。

「どういうつもりだ……」
「お前が奴と同じく殺し合いに乗っているなら、容赦する気は無い。リゼの友達が覆われる前に、ここで倒すつもりだ」

リゼを殺した男に従っていた。
否定されなかった事実へ、思う所が一つもないと言えば嘘になる。

「だがこの学校で見た限り、お前が集まった皆を襲う様子はなかった。それに、いろはだって何の根拠もなく俺にああ言ったんじゃないだろう」

人じゃない怪物でも、敵対以外の関係になれた者を橘は知っている。
上城睦月を闇から引き上げる為に力を貸した、二体の上級アンデッド。
そして、世界を滅ぼす鬼札であるも、人間の親子を守ろうとした男。
栗原親子や剣崎一真が影響を与えた、相川始を知っているから。
剣崎が我が身を犠牲にしてでも救おうとした程の友情が、ジョーカーとの間に結ばれたのを近くで見たのが橘だ。
無論、始達と黒死牟では背景からして異なる。
それでも人を襲う気が無く、人から信頼されるナニカがあるというなら。

794EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:12:11 ID:dyk1XPSI0
「話を一つも聞かない内に、お前と事を構えるつもりはない。俺が復讐心だけに駆られるのを、リゼもきっと望まない筈だからな」
「私に情けを……掛けたつもりか……」
「そうじゃない。俺にもお前を信じさせてくれと言ってるんだ」

キッパリと言い切った橘へ渋面を向けるも、言いたい事を言い切って口を閉じる。
数時間前、病院の地下での時と嫌になる程似た状況だ。
誰も彼もが鬼を鬼として排除せず、歩み寄ろうとする。
言い知れぬ不可解さへ苛立ちが湧き、だが激昂し刀を抜く恥の上塗りへ出る気も到底起きず。
仏頂面で腰を下ろせば、理解出来ない最たる例の娘と目が合う。
安堵と嬉しさの両方が宿った、鬼に向ける類ではない笑み。
訳の分からぬ煩わしさでいろはから目を逸らすのも、腹立たしい事に今に始まったものじゃなかった。

「見てるこっちも冷や冷やしたぜ。荒事になったら、俺なんざ真っ先にお陀仏だろうからなァ」
『口から出る内容全部が嘘って逆に凄いですね』

悪い意味が9割を占めるエボルトの空気の読めなさも、今回ばかりは良い方へ作用。
図書室内に燻る剣呑さをリセットし、改めて話の続きに移る。
橘の話す内容も各々驚きを与えたがまだ一人目。
次は自分の番と名乗り出たのは、白い魔法少女と決闘王。

「チノさん…リゼさんの友達とわたし達は会ってるんです」
「それにもう聞いてるだろうが、ジャック達ともな」

ゲーム開始早々ジャンヌと一戦交え、司共々危機へ陥った所を遊戯に助けられた。
それから時間を置かずにジャック達と出会い、その時は情報交換だけして別行動を取ったのである。
彼らと話を出来たのも、あの時が最初で最後。
キングと、どこかヘタレ気味の冥王と、なんか小さくて修羅場を潜ってそうなやつ。
共有した時間が短くとも、もう会えないと思うと寂しさが胸をよぎった。

少々移動に時間を要した後、現在位置から東側のエリアでロゼ達と遭遇。
エーデルフェルト邸で治療を受けていたのが、橘も探すリゼの友人の一人だった。
丸眼鏡の巨漢との戦闘で負傷したらしく、特徴はジャック達が戦った男と一致する。
思わぬ所で繋がりが出て来たのに驚くも、件の男こと野比のび太は既に退場済。
深くは触れずに続きを促す。

795EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:13:05 ID:dyk1XPSI0
殺し合いに抗う者同士の平和な時間は、衛宮士郎と犬吠崎風の襲撃に端を発した混戦で終わりを告げた。
そこへ加え蛇王院と因縁を持つジャンヌ、イリヤ達の方には幼い魔女まで襲って来たのだ。
最終的に襲撃者達は退けたが、仲間の犠牲は避けられない苦い形で幕を閉じる。

「それで、殺されそうになった時に……」
「間一髪俺が来たって訳だ。戦兎を差し置いてヒーローの真似事に出ちまうたぁ、人生何が起こるか分からねぇな」
『正確には人生じゃなく、エイリアン生じゃないですかねー』
「おいおい、ネタバレならせめて自分の口から言わせてくれよ」

結果だけ見ればイリヤ達の危機を救ったエボルトだが、当然真っ当な感謝を向けられるような男ではない。
本人からしてもパンドラパネル回収のついでだったので、礼を言われたい訳でもなかった。
魔女と渡り合いトドメを刺し、首輪を手に入れ間もなく始まったのは定時放送。
エボルトとは一旦別れ、現在桜ノ館中学で数時間ぶりの再会を果たした。

「ってことは、次は俺が話した方がスムーズにいくだろ」

エーデルフェルト邸の出発時から。遊戯達と行動を共にする蛇王院が続く。
と言っても定時放送前の6時間は負傷による気絶もあった為、話せる内容も多くはないが。
プランドールシップヤードを結成及びジャンヌの襲撃は、既に聞いた内容だがその先は初耳の情報。
水属性のモンスターを操る決闘者、神代凌牙の参戦もあって危機を脱した。
移動先で応急手当てを受けた後、偶然にも凌牙の友の亡骸を見付けたのである。

「九十九遊馬……?確か、ジャック達が会った少年のことか?」
「知ってるのか?」

定時放送やポセイドンの襲撃が立て続けに起き、深く考え込む余裕も無かったが遊馬の名には橘も聞き覚えがあった。
丸眼鏡の巨漢との戦闘後に起きた、苦い結果となった一人の少年の死。
実際に立ち会ったジャック一行ではなく、橘からの又聞きという形で遊馬に何が起きたかを知ることになる。

「……胸糞悪ぃな」

開口一番に蛇王院が吐き捨てるのも、無理からぬ内容だ。
事故同然とはいえ仲間を手に掛け、ヤケクソ同然の立ち回りの末にジャック達から離れた場所で息絶えた。
冥王を助けたのが後にポセイドン相手に勝ったのに繋がった、そう考えるとまだ救いがある。
だとしても「良かった」などとは口が裂けても言えない。
凌牙と再会したら当然伝えるつもりだが、苦いものが残るのは避けられないだろう。
遊馬の死体を見付けた時の荒れようを思えば、どうにもやり切れない。

796EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:13:40 ID:dyk1XPSI0
「あの娘が凌牙さんの友達を……」

遊馬を手に掛けたのは特徴からして、エーデルフェルト邸を襲った魔女。
自分達と会う前の彼女が何をやったのか知り、イリヤは内心複雑だ。
憎悪に囚われ、コローソという名を苦し気に言った少女を救いたかったのは今も変わっていない。
けれど少女が凌牙の友を、自分にとっての美遊やクロのようなかけがえのない存在を奪ったのもまた事実。
もしもっと早くに彼女と会い、止めることが出来ていたらと。
意味が無いと分かっても、IFの可能性を考えてしまう。

「つまり俺は、意図せず遊馬って奴の仇を討ったって事になるのかねぇ」

イリヤの心境などなんのそので言うエボルトには、誰もがあえて何かを言いはしない。
咎めた所で苛立ちを引き出す皮肉や軽口が返って来るだけだ。
尤も本人は全く懲りていないが、話を中断させる気はないらしくそれ以上特に言葉は出なかった。
色んな意味で凌牙には会わせない方が良いと、密かに蛇王院は思う。

放送後については特別大きな戦いなどもなく、エーデルフェルト邸でイリヤ達と会い行動を共にするに至った。

「ならチノとは別行動中なのか…」
「ああ、だがロゼ達のことは信じて良いぜ。二人なら、チノにとっても心強い仲間だからな」

ありきたりな言葉で誤魔化したんじゃなく、遊戯なりに確信があっての発言だ。
決闘者同士感じ入るものがあったのか、実力と人格面両方で凌牙は信じられる少年。
ロゼについても共に戦い、彼女が仲間の死を悼む場面をすぐ傍で見た。
チノとは一番最初に出会ったらしく、お互いに向ける信頼の強さは疑うまでもない。

リゼが守りたがっていた友達の一人は、出会いに恵まれたらしい。
安堵と共に、チノの支えとなった剣士達へ内心で感謝を伝える。
叶うことなら零にも、彼が生きている内に会いたかったが。

「そんじゃあ次はお待ちかねの俺の番か。まあ、気楽に聞いてくれりゃ何よりだよ」
『色んな意味で気を抜ける要素ないですよ、あたなの場合』
「ルビーが珍しく正論言ってる……」
『酷いですよイリヤさん!わたしはいつでも大真面目じゃないですか!』

少女とステッキのやり取りもそこそこに、緩みかけた空気が再び引き締まる。
校内に入る前の騒動を知らない橘も、周りの様子で迂闊に気を許して良い相手でないのを察する他ない。
必然的に集まる警戒もどこ吹く風、一切の緊張を面に出さずエボルトが口を開いた。

797EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:15:10 ID:dyk1XPSI0



「最初は軽い自己紹介といきたいが…俺が話すより適任がいるか。だろ?いろは?」
「え、わ、わたしですか?」

唐突に話を振られ、分かり易いくらいに困惑の表情を作る。
どうして自分がという疑問へ、相も変わらぬ軽薄な笑みで答えを返す。

「さっき、そこのスッテキが俺の名前を言った時だ。随分驚いてただろ?一体誰から聞いた?どこぞのアイドルじゃあるまいし、有名になった覚えは……ああまあ、ありゃ前の世界での話か」
「それは……」
「縮こまるなって。別に責めようってんじゃないぜ?」

10年もの間地球に潜伏し、人間達を思うがままに掌で転がして来たのだ。
感情の微妙な変化を察するのは容易い。
ルビーが自分の名を言った時、いろはから感じたのは驚きと警戒の二つ。
まだ名乗っていないにも関わらずあの反応、理由を難しく考える必要はない。

「戦兎は違うとして、だ。一体誰から俺のことを聞いたのかねぇ。だんまり貫いても良いが、お前が聞きたがってるやちよの話も始められなくるかもな?」
「っ……」
「ま、何を聞かされたのか予想は付く。気にせずそのまま言えば良いさ。お隣の侍殿がおっかない目つきになってきたしなァ」

癪に障る軽口を延々と吐き出すのを、六眼の鬼は許さなかったらしい。
睨みを利かされた手前、エボルトは一旦黙り待ちの姿勢に入った。
口籠るも自分が言わねば話は進まず、皆にも迷惑が掛かってしまう。
ややあって緊張の面持ちで、病院で聞いた内容をいろはが言う。

「わたしが直接聞いたわけじゃないです。天津さん達…ここに来る前に会った人達が、一海さんっていう人から聞いた内容で…」
「成程ねぇ、グリスの奴が……そんで?」
「……一海さん達のいる地球を滅ぼそうとしたのが、エボルトさんだって。そう聞きました」
「予想通りの内容で、逆に安心しちまったよ」

間違ってないけどな、とあっけらかんとした態度で笑う。
平然とするエボルトと反対に、当たり前だが他の者は和やかな様子とは言い難い。
既に危険性を天津と承太郎経由で知ったいろは達はもとより、初めて聞いた面々も警戒を抱かざるを得ない。
地球を滅ぼすという悪役のテンプレな目的も、実際にしでかす者がいたとあれば笑い事じゃないかった。

798EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:15:50 ID:dyk1XPSI0
「滅ぼすって…どうしてそんなことしたの!?」
「何でって言われてもねぇ?俺が“そういう種族”だからとしか答えようがないな」

星一つの崩壊は、イリヤにとっても他人事ではない。
ダリウスに見限られた世界がどうなったかを、ハッキリと思い出せる。
泥に塗り潰され、生存競争に負けた光景をヴィマーナの上から見た。
一人の魔術師が犯した禁忌を目の当たりにしたからこそ、問わずにはいられない。
だが返って来たのは納得とは程遠い答え。
壮大な背景も野望もない、エボルト…ブラッド族とは星を狩る生命体だから。
根本的に人間とは在り方が相容れないのを理解せざるを得ず、イリヤの背を嫌な汗が滴り落ちる。

「ならお前は、殺し合いでも人間を滅ぼすつもりなのか?」
「落ち着けよ橘、今はリゼだったか?そんな恐い顔じゃあ、チノ達だって怯えて逃げちまうだろ?」

息をするように苛立たせる言葉を吐き、険しい視線も涼しい顔で受け流す。
過去に地球滅亡を目論んだのを偽る気はない、全て本当のこと。
しかし殺し合いでもそのように動くかと問われれば、首を振るのは縦じゃなく横だ。

「確かにこの星を滅ぼそうとしたが、生憎見事に失敗しちまったよ。ラブアンドピースなんてのを掲げる、仮面ライダーどもに随分痛い目遭わされたもんさ」
「仮面ライダーがお前を…?」
「憎たらしいことに、な。おかげであいつらの大勝利、俺は新しい世界の素材にされちまったって訳だ」

そう言って細めた目は、この場にいない誰かへ向けているかのようで。
忌々しさと呆れと、他にも複数が綯い交ぜとなった一言では言い表せない表情。
エボルトにしては珍しい複雑な内面が見え隠れし、

799EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:16:45 ID:dyk1XPSI0
「……えっ?あの、何の話をしてるんですか?」

数秒の沈黙を挟んだいろはが、疑問符を浮かべ思わず聞き返す。

「何のもかんのも、どうせグリスの奴が戦兎と万丈の活躍を教えたんだろ?あんまり他人様の傷口をほじくり返すのは、俺でもどうかと思うがね」
「えっと、天津さん達はあなたが負けたって話はしませんでしたよ…?」
「……グリスの奴、ちょいと説明不足じゃねぇのか?」

いろはの様子から察するに、その天津や承太郎なる者に新世界やキルバスとの戦いに関しては言ってないのか。
或いは言ったものの、単に天津達がその辺の説明を端折ったのか。
どこか違和感を抱かないでもないが、エボルトの情報で嘘は言っていない。
一海本人はとっくに脱落しており、直接会って確かめるのは不可能。
不自然さを感じながらも、脱線し掛けた話を戻す。

「グリスの事はともかくだ、心配しなくてもゲームマスター様の言い成りにはならねぇよ。勝手にゲームの駒扱いは、俺も納得してないんでな」

コツコツと首輪を叩きながら自身のスタンスを伝える。
案の定、誰一人として信用の眼差しを向けないが別に構わない。
友達作りをするつもりはなく、自分の生還に利用出来れば文句もない。
警戒と不信感は変わらずとも、話を打ち切り戦闘を行う気がなければ上等だ。
何せ本選が始まってからの動きを、まだ一つも口にしてないのだから。

開始早々危機に陥った因縁のヒーロー、桐生戦兎との共闘に始まる。
間もなくしてNPCに襲われている女を発見、その人物こそいろはが最も聞きたがってるだろう情報。
七海やちよなのだが、再度いろはから疑問が飛ぶ。

「本当に……やちよさんがそう言ったんですか?」

話を中断させて悪いとは思うが、幾ら何でも問い質さずにはいられない。
やちよがいろは以外の魔法少女を強く警戒しているのは、明らかにおかしい。
灯花とねむのみならず、フェリシアとみふゆまでもその括りに入れている。
確かに二人共マギウスの翼に所属した事もあったが、過去の話だ。
鶴乃からウワサを引き剥がす戦いを経て、みふゆとの蟠りも解消されただろうに。
それに、まどかの名前を一度も出さなかったのも不自然。
まるでチーム解散を告げた時のような焦りを、やちよが抱いてる気がしてならない。

「内心じゃお気に入りのお前以外どうでも良いと思って、適当に吹かしただけかもな?」
「っ!やちよさんはそんな人じゃありません!」
「冗談だよ。しっかしこいつは……」

やちよといろはの間で生じる矛盾。
どちらかの話が間違ってるのでないとすれば、さてどういうことか。

800EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:17:26 ID:dyk1XPSI0
「…まさか、そういうことなのか?」
『遊戯さんも気付きましたか。いやはやあの自称神様、やりたい放題にも程があるでしょうに』

堪えにいち早く気付けたのは遊戯とルビー。
当然自分達だけの秘密にはせず、一同にも伝えておく。
恐らくだが、檀黎斗は平行世界のみならず異なる時間を行き来する術も有している。
嘗て未来の時間軸の決闘者達と共闘した遊戯だからこそ、すぐその可能性に思い至った。
加えてルビーもまた、放送前から薄々考えてはいたのだ。

参加者の中にはそれぞれ違う時間から招かれた者もいる。
それならいろはとやちよの話が食い違うのも納得だ。
いろはから見てやちよは過去の時間、記憶ミュージアムの崩壊から間もない頃に殺し合いへ連れて来られた。

「成程ねぇ……」

エボルトもまた合点がいったとばかりに独り言ちる。
遊戯達の仮説通りだとするなら、一海は旧世界での時間から参加していたのだろう。
道理で新世界を創造するに至った経緯を、何一つ言わなかったわけだ。
そして一海に限らず、万丈や幻徳も旧世界の彼らが参加してるとも考えられる。
二人に関しての情報は未だ得られず、現状確かめられないが。

無事疑問が解消され、エボルトの話にまた戻る。
明石が警戒し探索を断念した寺が実は、首輪の解析作業に持って来いの設備が整っていた。
そう聞き考え込む仕草の橘を尻目に、オーエド町での闘争を説明。
仮面ライダースペクターこと深海マコトはともかく、猛威を振るった紺色の剣士には微妙な空気が流れる。
橘や戦兎、天津といった善側のライダーだけじゃない。
殺し合いに乗り気且つ、人間性についてもコメントへ窮する者もライダーの力を得ているとは。

「あの人がわたしに凄く怒ってたのは……」
「ま、作戦の内ってことで大目に見てくれよ?」

自分の姿を勝手に擬態された挙句、悪びれる様子が全くない。
可愛くもないウインクと両手を合わせ頼む仕草に、何とも言えない顔となる。
紺色の剣士が如何に手強いかは理解しており、勝つ為の作戦の一環と言うなら仕方ないのかもと自分を納得させた。
流石にこの先も、特にやちよ達の前で擬態するのは止めさせたいが。

801EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:18:26 ID:dyk1XPSI0
ニノンという犠牲こそ生まれたが、紺色の剣士の撃退には成功。
尤も話はそこで終わらず、これまた少なからず衝撃が走る内容が語られる。

「キャルちゃんが言ってたカイザーインサイトって、あの人だったんだ…」
「ちょっと待って…司さんの友達がその人の所にいるの!?」

複雑な背景はあれど、キャルにとっても強く警戒せざるを得ない覇瞳皇帝。
フェントホープで強大な力の一端を見せた女が、まさかその本人なのは驚きだ。
いろはが息を呑む一方で、イリヤは思わず椅子から立ち上がり声を荒げる。
自分を庇って命を落とした司が生前、複雑そうにしつつも大事な友達と言っていた少女。
琴岡みかげはよりにもよって危険人物に同行中。
一応殺し合いには乗ってないらしいが、紺色の剣士への仕打ちを聞くに善人とは言い難い。

「陛下殿がお前らと仲良くするのは難しいだろうが、みかげに関しちゃ当分は無事だろうよ」
「理由はなんだ?まさか、女を囲って愛でる趣味でも持ってるのか?」
「えっ」
『それだと別の意味でみかげさんが危ないですねー』
「えっ」

女の子は女の子同士で恋愛すべきとは、とある夏の日に友人が言ったものだったか。
思考が凍り付くイリヤだが、当然そんな理由じゃない。
エボルトが見るに、カイザーインサイトには人手が余り足りていない。
元々ただの一般人のみかげを殺し、首輪を手に入れるのは容易い。
にも関わらず、実際は自分の部下としての運用を選んだ。
ランドソルなる場所へいた頃と違い、自由に動かせる駒が大いに不足してる証拠だ。
だから本来特別な力もないみかげだろうと、ここでは貴重な部下の一人。
少なくとも、今すぐ殺す程後先考えない真似はしない筈。

「一応アイツも立場的には打倒神様なんだ。いきなり喧嘩売る真似はなしにしようぜ?」

難しい顔で黙り込むイリヤは、どう見ても納得したとは言い難い。
すぐにみかげをどうこうされる可能性は高くない、だが絶対そうならないとも言い切れない。
これから先捨て駒として扱われ、命を落とすのも有り得る。
純粋な善意で保護した訳でない以上、不安は尽きなかった。

802EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:19:06 ID:dyk1XPSI0
(こりゃ、もう一人の方は黙って正解だったかもなァ)

カイザーインサイト本人の話に嘘はないが、みかげ以外に引き連れている参加者は別。
「放送前にはおらず、多分放送後に仲間へ引き入れたろう参加者なので自分は知らない」、とイリヤ達には言った。
無論嘘だ、少女の名前が保登心愛だとはオーエド町での騒動後に聞いている。
かといって馬鹿正直に伝えるつもりはない。
都合良く利用されてるとはいえ、意識を明確に保っているみかげはまだ誤魔化しも効く。
が、みかげ以上に強く暗示の影響を受けたココアは無理だ。
まず間違いなく、リゼの友人を守ろうと張り切ってる橘の反感を強く買う。
下手すればココアを助けるべく、フェントホープへ殴り込んだって不思議はない。
悪辣な面を聞かされても顔色一つ変えない黒死牟はともかく、他の面々はココア奪還に賛成するだろう。

別に、カイザーインサイトの身を案じてはいない。
ただ利用価値がまだある相手を、切り捨てるにはまだ早い。
フォローに感謝してくれよと内心苦笑いし、表向きは何でもない風を装う。

カイザーインサイト達とは一旦別れた後、エーデルフェルト邸での件はイリヤ達の説明通り。
D-1が禁止エリアになった関係で、戦兎達との合流を先回しにして単独での探索を続行。
フェントホープでの騒動に繋がった。

「シロウさん……」
「お、やっぱりあの坊主を知ってたか。美遊の見た目になったら、今にも殺されそうなくらい睨まれちまってな」
『的確に地雷をぶち抜くのが上手過ぎて、ルビーちゃんも流石に引いてますよ…』

遊戯達だけでなくエボルトの話で、ゲームにおける士郎の方針は最早確定と言っていい。
改めて現実を突き付けられ、唇を強く噛み締める。
本音を言うなら勿論止めたいが、士郎達がど何処へ行ったのか分からないのがもどかしい。
カイザーインサイトが振るった聖剣の巻き添えを受け死亡、とはなっていないとのこと。
退避寸前の一瞬だけだが士郎が協力者らしき少女共々、天高くへ飛び上がるのを見た。
肝心のどこまで飛んで行ったかは、残念ながら不明。

「じゃあ最後はわたし達、ですね」

おずおずと片手を上げる少女へ視線が集まる。
最後に番が回って来たいろは達の話が、病院での情報開示の際と然して変わらない。
但し天津達から聞いた内容も含み、そこへ加えて放送後に起きた戦闘も伝えるのだ。
情報量は必然的に多くなった。

803EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:19:59 ID:dyk1XPSI0
(城之内くんらしいね……)
「(ああ……)」

千年パズルを通し、相棒と共に親友へ思いを馳せる。
少女を庇って命を落とす、自分の身を案じる前に迷わず動く。
知らされた城之内の最期は、どちらの遊戯にとっても驚く内容じゃあない。
自分達の知る彼なら、固く友情を結んだ城之内克也なら。
そうするだろうと納得があり、本田の死でショックを受けても変わらない城之内らしさに寂し気な笑みが零れる。
城之内の取った行動を間違いと言う気はない、ただ親友に生きて欲しかったのも本音だ。

良いか悪いかの判別は難しいが、遊戯にとって驚くべき話が他にある。

「いろは、それは本当のことなのか…?」
「は、はい。直接戦ったのはキャルちゃん達だけど、わたし達にも見えましたから」
(ねえもう一人の僕、まさか本当に……)
「間違いないぜ。その男が変身したのは、オシリスだ……!」

放送後に病院を襲った者の一人、曰くどことなく不潔そうな感じの男の人。
なるべくオブラートに包んだ言い方であり、淫夢動画で笑ってるホモガキもIRHちゃんを見習って、どうぞ。

それはさておき、その汚い男が姿を変えた巨大な竜を遊戯が知らない訳がない。
決闘都市でマリクが繰り出し、圧倒的な力に一度は勝利を諦めかけた神。
三幻神の一体、オシリスの天空竜以外に有り得なかった。

「単にそいつが支給品を使って、オシリスだかってのを呼び出したんじゃないのか?凌牙みたいなデッキを持ってなくても、カード一枚で呼べるんだろ?」
「いや、ただ召喚するだけじゃない。おかしいのは、男自身がオシリスに姿を変えたってことだぜ」

遊戯が持つエアトスや、遊馬に支給されたカガリ等。
デッキが無くとも召喚条件を無視し、呼び出せるカードは複数存在する。
だがロード・オブ・ザ・レッドのように身に纏うならまだしも、参加者自身がモンスターに変身するのは初耳だ。
マリクと同じくラーの翼神竜を使い、一体化を果たすなら分かる。
しかし何度思い返してもオシリスにそういった効果はなく、益々疑問は深まるばかり。

804EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:20:40 ID:dyk1XPSI0
正体不明の男が持つのは、オシリスへの変身能力だけではない。
遊戯以外にもう一人、引っ掛かりを覚える者がいた。

「その男が変身したライダーについて、もっと詳しく教えてくれ」
「ええっと…最初は確か銀色と青色で、頭に一本の角?みたいなのがあって…」
「…金色の武具を纏い……大剣と札を得物とした……そう記憶している……」

直接対峙した天津と承太郎ならまだしも、遠目に見ただけな上にデェムシュとの戦闘に意識を割いた為注視してはいない。
思い出すのに苦戦中のいろはを見兼ねたのか、埒が明かないと呆れたのか。
淡々と黒死牟から告げられた特徴で、橘も正体を察し愕然とする他ない。

「何てことだ……本当にブレイドなのか……!」
「その様子じゃ、お前の知ってるライダーシステムで間違いないみてぇだな?」
「ああ、認めたくはないが……」

剣崎が参加していなくとも、ブレイバックルは支給品で利用されている。
それだけでも許し難いが、変身者の話を聞き橘の怒りは一層の激しさを増す。
戦えない全ての人々の代わりに戦う、剣崎の覚悟の証をただの暴力にまで貶めた。
永遠の孤独という代償を支払い、友と世界の両方を救った仲間の戦いへ唾を吐くに等しい。

(剣崎、ブレイバックルは俺が必ず取り返す。ブレイドの力で、これ以上誰かを泣かせる真似はさせない)

ここにはいない仲間へ一つの誓いを立てる。
身勝手な願いを叶える為に、他者へ理不尽な犠牲を強いる男を。
剣崎の魂を汚す外道を、決して許す気はなかった。

「にしても話を聞いた感じ、遊星は集めたカードを使いこなしてるんじゃねぇか?」
「それだけ遊星くんの実力が高いってことだぜ」

現地捕獲のモンスターと他者のデッキ。
不利な状態で強敵達と渡り合えるのは、遊星が非常に優れたデュエルタクティクスの持ち主だからに他ならない。
一度は肩を並べて戦った戦友の話に、どこか誇らしさがあった。
同時に城之内のデッキを遊星が持っているのに安堵を抱く。
良からぬ目的を持った参加者ではなく、信頼出来る決闘者なら決して間違った使い方はしないだろう。

予期せぬ形で仲間達と引き離され、辿り着いたのがフェントホープ。
紺色の剣士との戦闘以外は、エボルトの話と相違ない内容だった。
話はこれで終わり、と言うにはまだ早い。

805EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:21:20 ID:dyk1XPSI0
「敵キャラクターだかって侍を、前々から知ってるんだろ?でなきゃ、俺にあそこまでキレた理由が思い付かねぇな」
「……」

予想通りの問い掛けに睨み返すも、向こうが引き下がる様子はない。
言葉に出さないだけで、いろは以外の全員が同様に聞きたがっている様子。
縁壱に擬態したエボルトへ見せた反応に、無関係だと考える方がどうかしてる。

「あ、あの!そのことは…」
「やめろ……」

咄嗟に割って入ったいろはを制し、重々しく口を開く。
人間との関係を断つ機会を悉く、自ら潰して来たツケと言うのか。
参加者達と不要に関わり続けていれば、いずれは縁壱が見ず知らずの他人でないのに気付かれるのが自然。
自分で蒔いた種と理解しており、尚の事己への苛立ちが湧き上がる。
とはいえ、既に病院で会った者達にはいろはを含めて知られた。
各地へ散らばった連中が触れ回ったとて、何らおかしくない。
今知るか後で知るか、結局その程度の違いでしかないのなら。
幼き頃より燻らせた内面は決して明かさず、簡潔に告げる。
弟だ、と。

案の定、大なり小なり驚きが広まった。
主催者直々に用意した鬼札と、血縁関係を持つ。
詳しく話を聞きたいのが各々本音だろうが、生憎と当人が発する威圧感が安易な質問を拒む。
そんな空気の中、一つ思い出したように六眼が橘へ向けられた。

「日が昇らぬ内に……あのお方の襲撃を受けたと言ったな……」
「あ、ああ。それがどうかしたのか?」
「…あのお方を……敗死寸前に追い詰めたのが……奴だ……」
「なっ……!?」

無惨を殺した男へ、何か思う所がまだあったのか。
情報開示の場にいる最低限の義理のつもりか。
深い理由はない気まぐれか。
黒死牟にも理由は釈然としないまま、釘を刺すとも恐れを煽るとも取れる言を吐き出す。
昏い衝動に突き動かされ、いろはに苛立ちを吐露したのと同じ轍を踏む気はなく。
話はそれで終わりとばかりに、今度こそ黙り込む。

一歩間違えればリゼ一人の犠牲では済まなかった強さの無惨すら、縁壱には及ばない。
そのような男が自分達の敵として立ち塞がるだろう光景に、図書室内は自然と重苦しい雰囲気となる。

806EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:22:22 ID:dyk1XPSI0
「ま、そこそこ強い程度で敵キャラクターは務まらないからなァ。手に負えない力があるのはむしろ当然だろうよ」

元気付ける意図はないが、黙り込んで話が進まないのは望んでいない。
エボルトにしては非常に珍しく、余計な軽口抜きでやや強引に話を纏めた。
兄弟関係で頭を抱える羽目になったのは、全く持って不愉快ながらエボルトも経験者だ。
うんざりする程の異常者(キルバス)を思い出す、それは精神衛生上宜しくない。
全員が桜ノ館中学に来る経緯は話し終えたのもあり、ここいらで別の話題を切り出す。

「決闘者の遊戯くんに是非意見を伺いたくてな、取り敢えずは聞いてくれ」

殺し合いでデュエルを推したのは黎斗以外の者ではないか。
戦兎と移動中に立てた仮説を否定せず、神妙な顔つきで遊戯は頷く。

「その可能性は俺も低くないと思うぜ。デッキ以外の支給品を後から没収して、奴自身に関係が深い仮面ライダーじゃなくあえてデュエルを主軸に据えている。
 ゲームマスターを名乗る割には、どうもちぐはぐだ」
「だろ?単に殺し合わせたいだけなら、ライダーに変身する道具でもばら撒いた方が手っ取り早い。
 なのに自称神様は、自分でも扱い切れてない節があるデュエルを取り入れた。あいつ自身はそもそもデュエルとは無縁だってのに、だぜ?」

橘が会った花家大我や、いろは達が会ったポッピーピポパポ。
殺し合い以前から黎斗を知る者達の話で、デュエルに関しては一度も触れられていない。
元々デュエルモンスターズを一切知らない黎斗が、調整の甘さが目立つ結果となって尚ゲームに取り入れたのは何故か。
主催側にいる別の何者かに吹き込まれ、急遽デュエルの導入を決めたからでは。
仮説が正しいとする場合、それは一体誰なのかという疑問が新たに浮かび上がる。

「磯野かハ・デスって線は?」
「いや、磯野はあくまで海馬コーポレーションの一社員だ。デュエルの知識があるだけで、檀黎斗に強く意見できる思えないぜ」
「冥王は自分がカードのモンスターになってる事を知らなかった。ハ・デスも同じだとしたら、デュエルに深い知識を持つとは限らないんじゃないか?」
『ふーむ、ということは……遊戯さん達と同じ決闘者が檀黎斗に協力してるんでしょうかね?』
「殺し合いを起こすような奴か…」

パッと思い付くのはマリクや乃亜、ダーツと言った過去に戦った強敵達。
黎斗が時間を操れると分かった以上、遊戯に敗れる前の彼らが主催側にいる可能性は否定できない。
或いは遊星や遊馬に因縁を持つ決闘者が、黎斗の協力者とも考えられる。

「ま、デュエリスト以外にも参加者と関係ある奴が、檀黎斗に協力してるってのも有り得ない話じゃないかもな」
『或いは、檀黎斗ですら黒幕的な存在に操られてるってことも、なくはないですねぇ』
「まさか神威の野郎が……いや、魔界孔をもう一度開くのと関係があるのか?」
「天王寺なら関わっていてもおかしくはないが…」
「もし本当にいるならアリナさん、かな……?」

磯野、ハ・デス、黎斗、黒い鎧の男。
判明している面々以外にもまだ、運営側に参加者と関係する者がいるのかもしれない。
そういった「主催に協力してそうな人物」には、それぞれ心当たりがない訳でもなかった。
現状は可能性止まりに過ぎないが。

807EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:23:13 ID:dyk1XPSI0
「餅は餅屋って地球の言葉に倣って、決闘者の相手は遊戯くんに任せるとしてだ。美遊ってお嬢ちゃんの話をしても良いか?」
「っ、美遊がなに……?」

親友の名を出され表情が強張るのは無理からぬこと。
エーデルフェルト邸で仲間達に話したのと同じ内容を、エボルトに伝える気はない。
いろは達だけならともかく、この男に美遊の正体を知られるのは危険だ。
遊戯と蛇王院も分かってるようで、厳しい顔付きになる。
露骨な警戒もエボルトを怯ませるには至らない、何より『答え』はとっくに自分で出してる。

「まどろっこしいの抜きで聞くが、優勝した奴の願いを叶える方法ってのがズバリ美遊なんだろ?」
「っ!?」
「おっとォ?その反応は大正解って訳だな。教えてくれてありがとよ」

絶対に話すまいと決めた真実を、向こうは何故か知っていた。
自分は教えていない、士郎だって言う筈がない。
予想外の言葉に全身が跳ね、喉がヒュッと音を立てこれ以上ないくらいの反応を見せてしまった。

「な、なんで……」
「小難しく考えた訳じゃねぇさ。ただ人質って前提を外した時、こう思ったんだよ。
 元々殺し合いに必要不可欠だから確保したんであって、囚われのお姫様扱いは後から思い付いたなんじゃないかってな」
『くっ、いらんところで脳細胞をトップギアにしやがりましたね!』
「…で、それを知ってお前はどうする気だ?」

最悪の相手に美遊の情報を知られ青褪めるイリヤに代わり、蛇王院が問い掛ける。
瞳に宿すは仲間に見せた豪気さとは違う、因縁深い聖女相手にぶつけるのに劣らない殺気。
魔界孔を再び開く為に自分を利用した神威同様、ロクでもない目的を果たすつもりでイリヤの親友を狙うなら。
返答次第ではタダで済ましてはやらない。

「別にィ?俺はただ黎斗を始末して、生きて帰れりゃ文句はねぇよ。お前さんらといきなり事を構える程、余裕があるとも言えないんでな」
「それを信じろってか?」
「イリヤ達の命の恩人の言葉を、信じてもらえないのは悲しいね」

殺意を向けられるのなど、数多の星を滅ぼして来て飽きる程経験した。
今になって動じる素振りも見せず、涼しい顔で受け流す。

「……いいよ。わたしとチノさんがあなたに助けられたのは本当だから、今は何もしない」
「そいつは有難いこって」
「だけど!美遊には指一本触れさせない」

幼いながらに修羅場を潜り、年齢とは不釣り合いな気迫で以て応える。
人類最古の英雄王へ、身一つで立ち向かったように。
親友を犠牲に大望を掲げる魔術師へ、己が我儘(願い)を返したように。
一歩も退かず睨み付けるイリヤに、重なるのは自身へ敗北を刻んだヒーロー。
誰にも気付かせない一瞬、愛憎入り交じった顔を浮かべ。
すぐに元の飄々とした態度を取り戻す。

「了解だお姫様。肝に銘じといてやるよ。人間じゃない俺に肝なんてないがなァ。あ、今のは笑うとこだぜ?」
『笑ってるのあなたしかいなんですがそれは……』

808誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:25:17 ID:dyk1XPSI0



一通りの話が終わり、張り詰めた空気からも解放。
ある程度の休憩を挟み頃合いを見計らい、最初に桜ノ館中学を出たのは蛇王院。
橘からの情報で、明石達とはD-2で別れたと聞いた。
であれば当初の予定通りD-4へ向かうだろうし、自分も元々そちらへ行くつもりだったのだ。
本当なら遊星もそこで合流する手筈だが、残念ながら現在位置は不明。
いろは達と同じく、会場の何処かへランダムに転移させられたのだろう。
運良くD-4に近いエリアにいる、とは流石に期待し過ぎか。

「一旦お別れだな。海馬ってのにも俺から言っとく、お前らも気を付けろよ」

首尾よく遊星と合流出来た時の為にと、橘から首輪を一つ譲渡された。
リゼを殺した男のとは別に、デイパックに入っていたらしい。
誰のかは知らないが、打倒ゲームマスターの為にも使わせてもらう。

明石は凄腕のデュエリストである海馬が同行中。
遊星の方にも結芽という、ちびっ子ながらに優れた剣術の使い手が付いている。
どちらかというと、単独行動を取った蛇王院自身の方が危険だろう。
大抵の相手に後れを取る程軟じゃないが、大抵以上の怪物がゴロゴロ参加してるのが殺し合いなのだから。

(あいつらも絶対に大丈夫って保障はないけどな……)

ジャンヌを始め、脅威と呼べる参加者は未だ複数健在。
明石達を信じていない訳ではないが、万が一が起きないとは言い切れない。

記憶に焼き付く、苦い喪失の光景がリピートされる。
キュウシュウの裏切りに遭って、ホーリーフレイムに作戦が筒抜けとなったあの時。
自分の右腕だけならまだ良い、だが仲間を失うのだけは耐えられない。
恐いのはいつだって己の死ではなく、スカルサーペントの者達が殺されることだ。
だから望まぬ全国統一にも身を投じ、狼牙との一騎打ちでは人質を取るという卑劣な真似にすら出た。
自分の在り方を曲げてでも、守りたい連中がいたから。

「死ぬんじゃねえぞ、お前ら……」

無事を祈る言葉を仲間に届けてくれる、お優しい神様はいない。
間に合わせるには自力でどうにかする他なく、気付けば早足になっていた。


【D-2/一日目/午前】

【蛇王院空也@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:胸に真一文字の傷(治療済み)、疲労(中)
[装備]:ティアドロップ@Caligula2、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(薄緑ほど使えないかつ回復系ではない)、ボーちゃんの首輪
[思考・状況]基本方針:普段どれだけキレても殺しはしないが、てめえらは別だ。
1:うちの傘下や同じ考えの奴がいるならなるべく優先する。
2:九時間後に指定されたエリアの一つに向かい、再度作戦会議。
3:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
4:明石、いい女なんだが残念だな。
5:ジャンヌとは必ず決着をつけてやる。
6:明石の無事は分かったし合流に行く。
7:村雨を持った奴を警戒
8:遊馬に何が起こったかを、凌牙に言わない訳にはいかないよな…。
[備考]
※参戦時期は扇奈ルート、狼牙に敗北後。
※異形の腕はそのままです。そのためゲーム上の攻撃で使ってる砲撃も可能です。
 細い触手を切られてもダメージはありません。
※遊星、明石と情報交換しました。

809誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:26:21 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


『#&%$+#』
『何やら頭が高いですねぇ。登場話から出てるルビーちゃんが先輩だってのを、お忘れですか?』
『%$#&@@+#&』
『ひぎええええええ!?噛みやがりましたよこの円盤!』
「あっ、駄目だよそんなことしたら…!」

一人が抜けた後に起こったのは、正規参加者ではない支給品同士の小競り合い。
骨に齧りつく犬のように、サガークに牙を突き立てられルビーが悲鳴を上げる。
すかさずいろはが引き離し、両腕に閉じ込め事なきを得た。

「落ち着いて、ね?ルビーさんもごめんなさい、大丈夫ですか…?」
『どっかの元マスターのお陰で、バイオレンスには耐性がありますので』
「自慢気に言うことじゃないでしょ……」
「す、凄い人の所にいたんですね…」

人間であれば胸を張ってるだろう程に、堂々とした物言いである。
一体全体元マスターとやらは、どんな人だったんだろうか。
想像しか出来ないいろはの腕から、サガークが抜け出し現在の主の元へ飛ぶ。
旧ファンガイア語で語り掛ける人工生命体が、何を伝えたいのか黒死牟には分からない。
興味も抱かず、掴んでデイパックに放った。

「いろはさん達は、ここから南東の街に行くんだよね?」
「うん。やちよさんと、そこで会えるかもしれないから…」

思わぬ所で聞いた仲間の情報を、無視はできない。
恐らく、自分が記憶ミュージアムの崩壊に巻き込まれて間もない頃。
一人でマギウスの翼を追っていた時のやちよが、殺し合いに参加している。
そんな状態でフェリシア達の死を知ったら、更に心が追い詰められてしまう。
やちよを放って置く選択肢など、最初から存在しない。

「だから、黒死牟さん。わたしの我儘だけど、その、一緒に来て欲しいってお願いしても良いですか……?」
「……」

一刻も早く、やちよの元へ行きたいのに嘘はない。
しかし黒死牟を助けたい決意も、微塵も揺らいでいない。
彼を一人にしたくなくて、結果いろは自身の都合に付き合わせる形となり申し訳なさそうに頭を下げた。

言葉無く見下ろし、呆れと苛立ちのため息を小さく零す。
縁壱が何処へ転移させられたかは見当も付かず、無惨も既に永き生を終えた。
積極的に赴きたい場所は自分になく、いろはから離れ一人動き回ったとて何の問題もなし。
故に、お前だけで行けと返す事だって出来る。

810誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:27:00 ID:dyk1XPSI0
だけどこの娘はきっと、今別れても生きていれば自分を探し出してまた付いて回る。
一時別行動を取っただけで、鬼を助けるとの戯言を撤回しはしないと。
煩わしくも、そうだと分かってしまうから。
突き放し別れる選択ではなく、ソレを口にする己への不可解さで眉間に皺が寄った。

「勝手にしろと……言った筈だ……一々私の顔色を窺うな……」

吐き捨てた言葉へ、気遣いの類は欠片も宿っていない。
だというのに目の前の娘は、驚いた顔をした後すぐに表情を崩し。
微笑み礼を伝えて来る。

『めんどくさいですねー!めんどくさいが着物着て刀ぶら下げてるようなもんじゃないで――あっ冗談!ルビーちゃん流の小粋なジョークですので!』
「ちょっと!?言うだけ言って隠れないで…ひぃっ!?あ、あのウチのステッキがとんだ失礼を…!」
『現役JCのヒモみたいになってるとか、恥ずかしくないんですか♪(CV.エセ門○舞以)』
「ぎゃーっ!?違います!言ってません!言ったのわたしじゃありませんから!」
「お、落ち着いて二人とも。それにヒ……もう、黒死牟さんはそんなことしませんよ?わたしの方がずっと助けてもらって…」
「『えっ、自覚なし?』」

やいのやいの姦しく、絶妙に怒気を削ぐ連中に辟易し視線を外す。
硝子窓に映った自分の顔、人を捨てた日からとうに見慣れた異形の証。
瞳へ刻まれた十二鬼月の頂点も、主亡き今や何の意味があるという。

無惨の死とは即ち、人間達の完全勝利を意味する。
始祖が息絶えた瞬間に、血を与えられた配下も引き摺られ地獄へ落ちる。
最後の十二鬼月であった琵琶の弾き手は勿論、各地へ散らばった全員が消滅を免れない。
唯一の例外は自分だけ。
神の気まぐれで蘇生を受け、始祖の呪いを断たれた上弦の壱だけが生存を許された。

無惨が死んだとて、何かが大きく変わりはしない。
恥ずべき醜態と理解しつつ、黒死牟が終ぞ忠節の誓いを取り戻せなかったように。
縁壱もまた、操り人形の滅殺者として剣を振るうのだろう。
結局のところ、屠り合いの幕が開いた時とほとんど同じ。

それでも、他者へ命をくれてやることは。
生きながらに恥を晒す我が身を、弟に及ばぬ輩の手で滅ぼされるのは。
たとえ相手が神であっても、受け入れる気はなかった。


【D-2 桜ノ館中学校/一日目/午前】

【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、魔力消費(大)、悲しみと怒り
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達と病院で会った皆を探す。E-4へ行きやちよさんと合流する。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。

【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、エボルトへの不快感(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ、闇(1時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜1
【思考・状況】
基本方針:分からない。……が、少なくとも縁壱以外の者に殺される気は失せた。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様が……そう、か…………。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。ククルカンの召喚も可能なようです。

811誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:27:59 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


「良かったのか?蛇王院と一緒に行けば海馬と会える筈だが」
「デッキを持ってる海馬なら、そう簡単に倒れやしないさ。それに今は、他に気になることがあってな…」

明確に目的地を決めた者とは反対に、未だ決めあぐねる者もいた。
橘の言う通り、蛇王院に同行し明石達の元へ行くのも間違ってはいない。
海馬なら「デッキを持たない今の貴様など、凡骨にも劣るわ!」、と言いそうだが。
但し遊戯が海馬の元へすぐに行かなかったのは、怒声を浴びせられるのを嫌ったなんて理由じゃない。
好敵手(ライバル)へ一種の信頼を向けているが故、それも理由の一つ。
だが何より、先の情報交換で気にかかるものがあったから。

「司の友達を連れているカイザーインサイトを、放って置いて良いとは思えないぜ」

殺し合いに乗っていないとはいえ、真っ当な倫理観や善性を持ち合わせているとは言い難い。
エボルト同様、何の切っ掛けで牙を剥くか分からない危険人物。
そんなカイザーインサイトの所へ、このままみかげを預けて本当に大丈夫なのか。
遊戯とイリヤ共通の危惧であり、自分達の目で確かめに行くべきではと思い始めている。

しかし、カイザーインサイトが現在根城にしている場所はフェントホープ。
いろはの話では、魔法少女の巨大組織が拠点に使った廃ホテル。
オリジナルのフェントホープに近い形で機能を再現した場合、魔女やウワサ等が多数配置されてる可能性が高い。
こちらから出向くというのはつまり、敵の有利なフィールドへ飛び込むのに他ならない。
更にカイザーインサイト自身、相当な強さを発揮可能なライダーに変身出来る。
キャルから聞いた内容だけでも、強力な魔法の使い手らしい。
必ずしも戦闘に発展するとは言えないが、二人だけで行くにはリスクが低くない。

ただエボルト曰く、カイザーインサイトとは二回目の放送後に桜ノ館中学で合流を約束してるとのこと。
それならフェントホープには行かず、付近の探索を行った後時間を見計らいここへ戻って来るのも有りではないか。
運が良ければ近くのエリアで遊星達が見付かるかもしれない。
加えてもう一人、出来れば優先的に探したいのは天津垓だ。
仮面ライダーで尚且つ、檀黎斗を前々から知る参加者。
今現在天津と共にいるだろうポッピー共々、黎斗との因縁を持つ彼らとは接触を図っておきたい。
無論仮面ライダーの括りで言えば、万丈や戒斗達も捜索の対象だ。

「遊星くん達のようにどこかへ飛ばされたのか、それともいろは達がいた病院に残っているのか…」
「もし病院に残っていたとしても、仲間を探して出発した後じゃないか?」

天津達がどうなったかを知る前に、いろはも黒死牟もブラックホールに吸い込まれたのだ。
スタンド使いが命を落とし、日輪がまたしても罪を重ねたのを知る由もない。

812誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:28:40 ID:dyk1XPSI0
「橘さんこそどうするんだ?向こうにトラブルが起きてないなら、チノ達に追い付けるかもしれないぜ?」
「そうだな……」

どこへ行くかで悩むのは橘も同様である。
明石に待っていると言われた手前、直接会いに行って無事を知らせるのが正しい。
だというのに蛇王院へ同行しなかった訳は、選択肢が複数存在するが故。
単独でもぐも救出に向かった大我の加勢に行き、取り戻したガシャットを渡すのも手。
大我の実力を信じていない訳じゃないが、不安が全くないとも言い切れない。

もう一つ、遊戯達からチノの情報を得たのも橘を悩ませる。
今は亡き弟子へ誓ったように、リゼの友人達を守りたい。
リゼと交流し、彼女から託された者として、チノやココア達にもそれを伝えたい。
なので現在別行動中のチノを追う選択も、無視は出来なかった。

(さぁて、俺はどう動きますかねぇ)

人間達を眺めながらエボルトもまた考える。
イリヤ達がフェントホープに向かう気なら、同行の必要が出て来るかもしれない。
ココアの件も含めてある程度はフォローを入れ、利用出来る駒同士ぶつかり共倒れとなるのは回避したいところだ。
一方いい加減戦兎と合流すべく、いろは達と共にE-4へ行くべきではなかろうか。
流石にこれ以上の寄り道を繰り返せば、戦兎とて堪忍袋の緒が切れるに違いない。
一応いろはに伝言を頼み、今更過ぎるがモニカの回復用に手に入れた道具と、解析用の首輪を渡して自分はイリヤ達の方へ。
といった方法も取れないとは言わないが。

(美遊に関しても、面白いことになってきたからなァ)

推測は正しく、囚われのお姫様は生きた願望器。
自身の生還が最優先だとはいえ、あわよくば未知の力を手に入れたい方針も変わらない。
そこへ齎された美遊の真実に、一切手出ししませんと素直に引き下がるようなら地球滅亡など目論見はしなかった。
首輪解除も済んでいない状態では、当然何も出来ないが。

(それに、美遊の話で目の色を変える奴は必ず出て来るだろうよ)

人質の少女の正体に、驚きはあるだろう。
だが同じく願いを叶える力が本物と知れば、方針をガラリと変える者が現れても不思議じゃあない。
脱落になった者達を取り戻したがってるプレイヤーなど、正しくそれに該当する。

三都の戦争で幾度も見た人間の愚かさがきっと、神のゲームでも互いを蝕む。
そんな中でも、折れず曲がらず正しさを貫ける奴など――

「なんて、な」

嘗て自分が創造(ビルド)した人間(ヒーロー)くらいだろうと、そう余計なことまで考えてしまう前に。
皮肉気な、或いは自嘲するように誤魔化しを呟いた。

813誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:30:05 ID:dyk1XPSI0


【武藤遊戯@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(小)、無力感、主催者への怒り
[装備]:千年パズル@遊戯王デュエルモンスターズ、ガーディアン・エアトス@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品一式、結束 UNITY@遊戯王OCG
[思考]
基本:ハ・デスを倒し、殺し合いを止める
0:ここからどう動くか…
1:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、凌牙の仲間を探す
2:仲間達との合流と、デッキも取り戻したい。
3:衛宮士郎は殺し合いに乗っているのか…?
4:ロゼはデュエルモンスターズが存在しない平行世界の人間なのかもしれない。
5:相棒の言うように、神(ゲームマスター)も完璧じゃない。そこに攻略法があるかもしれないぜ。
6:このカード…何で相棒や城之内くん達が描かれてるんだ?
[備考]
※参戦時期は最低でもドーマ編終了後。

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中・治療促進により回復中)、悲しみと悔しさ、エボルトへの警戒心(大)
[装備]:マジカルルビー@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『セイバー』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『バーサーカー(マグニ)』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、光の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。元の世界に帰ってやることがある
1:みかげさんのことが気掛かり。こっちから行くか、それともここで待つかどうしよう…。
2:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
3:美遊を必ず助けに行く。
4:エボルトを警戒。美遊に手を出す気なら許さない。
5:シロウさん殺し合いに…?
6:ジャンヌを警戒。
[備考]
※参戦時期はドライ!!66話、6千年前に向かった直後
※心意システムによりバーサーカー(マグニ)のクラスカードを創造しました。

814誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:31:02 ID:dyk1XPSI0
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:ダメージ(大、包帯やガーゼにより止血済み)、疲労(中)、心意によりリゼの姿・声に変化
[装備]:ギャレンラウザー&ラウズカード@仮面ライダー剣、リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品×2、バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ハイパームテキガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ランダム支給品×1、無惨の首輪、包帯やガーゼなどの治療道具@現地調達
[思考・状況]基本方針:剣崎とリゼの分まで人々やリゼの友達を助ける。ゲームマスターも倒す
0:チノを追い掛けるか、それとも……
1:ありがとう、リゼ。君は睦月と並んで最高の弟子だ
2:まさか俺自身がリゼになるとはな……
3:リゼの友達を探す。リゼの分まで俺が守る
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については少なくとも完治してます
※心意により見た目と声がリゼと同じになりました。生身でギャレンのスペックで、融合係数の変動で強さが変わるシステムを常に発揮しています。ギャレンラウザーを用いることでラウズカードやコンボ技も使えます
※リゼの姿になったことでリゼ専用スピアーで変身可能になりました

【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、石動惣一に擬態中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能3時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品一式×3、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果3時間使用不可能)、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ルナの首輪、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
0:どうすっかなぁ俺もなァ。
1:戦兎達の元へ戻る。流石にそろそろ我慢の限界かねぇ。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
5:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
6:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
7:やちよの声はどうにも苦手。手土産でいろはを連れてきゃ機嫌も良くなるだろ。
8:猿渡死んじまったか。戦兎の奴どうなるかな。
9:美遊、ねぇ…………。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。

『全体備考』
※遊戯、イリヤ、橘、エボルトがそれぞれどこへ行くかは後続の書き手に任せます。

815 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:31:30 ID:dyk1XPSI0
投下終了です

816 ◆ytUSxp038U:2025/05/26(月) 00:30:26 ID:0BfwVKfc0
冴島鋼牙、柊ねむ、氷室幻徳を予約します

817 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/26(月) 12:11:45 ID:oNudDAtg0
拙作「激瀧神 『王者の調和』」において凡ミスによる修正があったので報告しておきます
ポセイドンの遺体が幸いなことに後の作品で特に何も描写されてなかったので、
明石の乗るフライング・ペガサスに一緒に乗せたという感じで修正しています
(この描写には修正箇所が余りに少ないので修正内容は省いてます)
この件で問題がありましたら、再修正します

また、海馬の支給品に冥王の首輪が追加されてます
これは表記ミスなので前述の修正内容とは関係ありません

818 ◆QUsdteUiKY:2025/06/01(日) 16:38:34 ID:gMzOif3A0
>>761の予約から2週間が経ちましたので、破棄とさせていただきます
また破棄後にすぐ再予約を防ぐために◆2fTKbH9/12 氏の当該キャラの予約…つまりキリト、空、宮川尊徳、ユキ、直見真嗣、クウカ、奈津恵、コッコロ、継国縁壱、肉体派おじゃる丸の予約を1週間禁じさせていただきます

819◆2fTKbH9/12:2025/06/01(日) 16:51:32 ID:???0
♦QUsdteUiKY氏リアルが忙しくて自己申告が遅れてしまい、申し訳ありません。
もう少しで完成しますが、間に合わないので一旦、予約を破棄します。

820 ◆QUsdteUiKY:2025/06/01(日) 16:59:13 ID:gMzOif3A0
キャル、継国縁壱で予約します

821 ◆ytUSxp038U:2025/06/01(日) 19:25:53 ID:Z.O0shPU0
延長します

822コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:28:32 ID:PsOMhbvg0
投下します

823コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:28:49 ID:PsOMhbvg0
キャルが空中を飛行でき、破壊力もある怪獣ではなくE・HERO  Core(エレメンタルヒーロー コア)に変身したのには理由がある。
 単純に仲間を探すだけならば怪獣や飛行できるモンスターの方が簡単だが、この殺し合いの参加者はかなりの強豪がいることも熟知した。
 怪獣ならばその大きさも相俟って散り散りになった仲間たちが見つけてくれる可能性も高いが、あえてここは慎重に動くことに決めて守備向けの能力を持つCoreでひとまず活動することに決めた。

 この姿は散り散りになった仲間も知らない姿だから向こうから発見されて気付いてもらえる可能性は低いが、それでもやはりここは慎重にいきたい。正直、疲労も溜まってるし単独で誰かと戦うというのはかなりしんどいだろう。怪獣は大きいからこそ目に付きやすく、仲間からも発見されやすいが残念ながら危険人物に遭遇するリスクもある。
 新しい力を得たし、万全の状態ならば強敵が相手でもやり合えるとは思っているが今は妙に疲れている。身体が重い。
 ゆえにキャルは慎重な行動を取らざるを得ないのだ。

 (バンジョウに同行した方が良かったかしら……)

 当然のことながら、一人よりも二人で行動した方が良いに決まってる。
 万丈に同行しなかったことを若干惜しく思うが――

 (でもあの急ぎっぷりだと同行してもきっと足を引っ張るだけよね)

 万丈は飛電或人を探していた。
 もしも遭遇したら、止めるようにも言われている。
 ということは、相当焦っているだろうことは想像するに難しくない。

 (アルトに会ったら止めると言ったけど、この疲労なんとかならないかしら)

 誰かと戦い、止めるには体力は重要だ。
 この疲弊しきった肉体、それも単独で止めるというのは難しい可能性もある。
 万丈には〝分かったわ〟と言ったが正直、止められる自信があるかといえば微妙なところだ。

 しかし本当に身体が重い。
 Coreに変身して身体能力が上がってる。普通に走るよりは速く走れているが、万全の状態ならもっと速く走れるような気がする。

 そして当然、走るのを止めない限り疲労は減らない。本当は一休みしたいところだが、誰かと合流しなければ安心して休むことも出来ない。

 ゆえにキャルは止まらない。
 止まれない。

 本当は飛ぶ方が速いのだが、慎重に行動しなければいけないのはわかりきっている。

 だがその慎重に行動した結果が、裏目に出た。

 ――空気がズシリと、一変する。

 キャルが前方を眺めると、そこには見覚えがある剣士の姿。
 キャルは野獣先輩と戦っていたことで、彼とは戦っていないが――その威圧感は今でも忘れられない。

 キャルの足が恐怖で竦む。

 (どうしてよりによってあいつがいるのよ……!)

 手足が震え、あまりもの存在感に気圧されそうになる。
 しかし相手は大地に立っている。流石に飛ぶことは出来ないはずだ。
 ならばここは怪獣か他のモンスターに変身して――。
 キャルは咄嗟にメダルを取り出す。

――壱の型 円舞

 キャルが怪獣に変身するよりも速く、円を描くように振り下ろされた日輪刀がキャルを攻撃していた。

824コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:29:27 ID:PsOMhbvg0
 「かかったわね!この瞬間、E・HERO  Coreの効果を発動するわ!」

E・HERO  Coreの (1)の効果。1ターンに1度、このカードが攻撃対象になった時に発動できる。
このカードの攻撃力はそのダメージステップ終了時まで倍になる。

 キャルはこの効果に期待して、あえて攻撃を誘っていたのだ。
 もっとも手足の震えはブラフではなく、本当に恐怖心に駆られていたのだが――。

「これで私の攻撃力は5400!これで――決めるわよ!エレクトロマグネティックインダクション!」

 Coreの拳と日輪刀がぶつかり合い――勢い良く縁壱がふっ飛ばされる。
 この攻撃力でも破壊されないのは、主催者の用意した駒であるゆえか。それとも只々、業物なのか。

 凄まじい勢いでぶっ飛ばされ、大地を二転三転した縁壱だが――勢いは止まらない。
眼前に居るのは鬼。それも途轍もない破壊力を持っている。
 それを逃すなど継国縁壱にとって有り得ないことで、どれだけ負傷しようとも狩らなければならない。

 しかしキャルとて相手がヤバいことは知っている。
 ゆえにキャルは咄嗟に変身解除。

<Momochi Access Granted!> 
 
 念のために用意していた3枚のメダルをセット。
 Coreの効果は強いが1ターンに一度というのがネック。ならばこれで倒せないならば、逃げるしか今は道がない。

 
<Golza. Melba. Super C.O.V!>

「チェンジ・テリブルモンスタ――がっ!?」

――壱の型 円舞
 
 ――刹那、キャルの首が跳ね飛ばされそうになる。
 咄嗟に重心を左にズラしたことで致命傷に留まったが、もしも直撃していたらあの世へ逝っていただろう。

 (危ないわね……っ!でも私はまだ死ぬわけにはいかないわ!そうよね、コロ助――!)

 瞬間――キャルの右手に何かの書物が現れる。それはケイオスグリモワール。
 キャルの力を万全に引き出すための専用装備だ。

「アーマーダウン!」

 ――次なる型を繰り出そうとする縁壱の動きが、僅かに止まる。
 専用装備を持てばアーマーダウンに麻痺効果が3秒間のみ、付与されるからだ。

「まだまだよ!サンダーボール!」

 縁壱は魔法というものを知らない。ゆえにこれを血鬼術だと認識するが、そう考えたところで策は思い浮かばない。
 ちなみにキャルの必殺技――ユニオンバーストは全体攻撃だが威力がサンダーボールより劣る。ゆえにキャルはサンダーボールを選んだ

(どうしていきなり出てきたのかわからないけど――このチャンスは逃さないわ!)

 サンダーボールを被弾して縁壱がダメージを受けてる今こそが好機。

「今度こそ――チェンジ・テリブルモンスターフォーム!」

 <Tri-King!>

 そしてトライキングに変身したキャルは翼をはためかせて――

 ――壱の型 円舞

 その翼の片方が縁壱の日輪刀によって豪快に切り裂かれ、バランスを失ったトライキングはその場に倒れてしまう。当然だが、片翼では飛べない。

 (ど……どうなってるのよ、この化け物!)

 化け物。
 今まで人々のために剣を振り続けた侍にはあまりにも似つかわしくない言葉だがキャルにとって縁壱は正真正銘の化け物だった。

 檀黎斗によって在り方を捻じ曲げられ、人を守るための日輪刀は殺戮を繰り返す剣に。
 なんとも皮肉なことだが、きっと檀黎斗はこの状況を楽しんでいることだろう。

 縁壱はもう何人もの善良な者を斬ってきた。
 その剣は純血に染まり、鬼から人間を救ってきた者の面影などない。

 されども縁壱は殺戮を続けるだろう。
 それが人々を鬼から守るためのものだと思い込んで。

「それなら……これはどう!?」

 トライキングが思い切り大地に拳を叩き付け、粉塵が舞う。
 この間、流石の縁壱でも相手の姿を視認出来ない。怪獣の身体の構造なんて透き通る世界でも理解出来ず、先読みも不可能。

 そしてキャルは変身を解除する。

825コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:29:50 ID:PsOMhbvg0
『モモチ・アクセスグラッテド!』

「グリムフュージョン!」

『ギアソルジャー! ワイバーン! ギアボックス!』

「チェンジ・モンスターフォーム!」

『アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム!!』

 キャルは幾多もの腕を持つ巨大な機械族のモンスター――古代の機械超巨人(アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム)に変身した。

「あんたがどれだけ凄腕の剣士でも、これだけ腕があればなんとかなるはずよ!」

 古代の機械超巨人が幾多もの腕で縁壱を殴ろうとする。
 どれも変則的な動きで、軌道が読めない。モンスターゆえに透き通る世界も無意味。
 されども経験とその才能は素晴らしく、眼前に迫る剛腕を、難なく日輪刀で弾こうとする。
 しかし完全には弾き切れず、攻撃の余波で無様に吹っ飛び、ダメージも受ける。
 だが、この一撃で縁壱は完全に見切った。

 再び迫る剛腕に

 ――壱の型 円舞

 円を描くように日輪刀を振り下ろし、斬り裂く

「いぎゃああああ!」

 あまりもの激痛にキャルは絶叫するが、鬼がのたうち回ろうと縁壱からしたら自業自得。

 ――弐の型 碧羅の天

 そして縁壱は連撃で絡繰と化した鬼の頸にあたる部位を狙うが、古代の機械超巨人は全ての腕でその一撃を防ぐ――が大半の腕が千切れる

「きゃああああ――!」

 激痛に再び絶叫するキャルだが、まだ死ぬわけにはいかない。
 咄嗟に強靭な脚で縁壱を蹴ろうとするが、日輪刀で防がれた。だがその余波で縁壱が吹っ飛び、多少は距離を開けられた

 (――ッ!こんなやつ、どうしろっていうのよ!)

 相手はあまりにも強く、自分だけでは倒せそうにない。
 ならばキャルが取るべき行動は――。
 
 (アレを使うしかないっていうの……?)

 キャルは自分に支給されたカード――地縛神CcapacApuを脳裏に浮かべる。
 アレはどう見ても危険なカードだから使わないでいた。だがこの剣士を殺すためなら、大切なコッコロたち仲間を救うためなら――。

 (――ッ!なにをウジウジしてるのよ、私は!これ以上仲間の死体が増えるなら、悪魔に魂を売ったって構わないって決めたはずじゃない!)

 そうだ。
 この殺し合いには大切な仲間が――コロ助がいる。
 絶対に殺されたくない。こんな目にも遭わせたくない。だからコロ助を守るために――私がこいつを倒す!

 キャルが変身を解除して地縛神CcapacApuのカードを天に掲げる。
 どくん、どくん、どくん――。
 心臓のような歪な物体が現れるとこの地で散っていった者達の魂の一部を吸収して――地縛神CcapacApuが顕現した

「――ヒャハハハハ」

 ――瞬間、キャルの様子に変化が起こる。
 大切な仲間を守ろうとした少女は、巨人の地縛神の肩に乗って笑い狂っていた。
 この高さでは、流石の縁壱でも届かない。いや、それ以前に魂を吸い取られた者の悲痛の声が縁壱の心を大きく揺さぶる。

 この鬼だけは、必ず倒さねばならない――

 縁壱がそう決めると同時にCcapacApuはキャルを乗せてひとっ飛び。どこかへ姿を消した

「キャハハハ!私は強くなったわよ!さっきの男も、もっと強くなって殺してみせるわ!」

 今のままでは勝てない。そんなことはわかっている。
 だから更に強くなって、縁壱を殺すために逃げた。縁壱だけじゃない。野獣先輩も殺さなきよダメだ。

「――待ってなさい、コロ助。コロ助を危険な目に遭わせるような奴は全員、私が殺すわ!キャハハハ!」

 ――このゲームにおける地縛神の効果。
 それは召喚した者の負の感情と悪しき感情を増大させることだ。
 もしもキャルを危険人物だと思い込んで、対処しようとする者が現れたらキャルは容赦なく相手を殺そうとするだろう。それが不動遊星たち、散り散りになった仲間だとしてもだ。
 そして当然、コッコロに害を与えるような危険人物も殺す。

 地縛神の力に頼ったキャルは、もはや暴走状態に近かった。
 縁壱から受けた傷も大きいのに、彼女は止まるのをやめない

 キャルも、縁壱も。
 それはまるで血を吐きながら続ける悲しいマラソンのようで……彼らの道は、未だ続く。

826コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:30:27 ID:PsOMhbvg0
【F-5/一日目/午前】

【キャル@プリンセスコネクト!Re:DIVE】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(絶大)、首の左側に切り傷、地縛神CcapacApuの肩に乗っている、負の感情増幅中、悪しき感情増幅中、好戦的
[装備]:ウルトラゼットライザー+ウルトラアクセスカード@ウルトラマンZ、怪獣メダル(ゴルザ、メルバ、超コッヴ、ガンQ、レイキュバス)@ウルトラマンZ」、地縛神CcapacApu@遊戯王5D's、ケイオスグリモワール@プリンセスコネクト!Re:DIVE
[道具]:基本支給品、詳細地図アプリ@ロワオリジナル、ウルトラマンベリアルメダル@ウルトラマンZ、メダル(古代の機械兵士、古代の機械飛竜、古代の機械箱、月光???、月光???、月光???、E・HERO??? E・HERO??? E・HERO??? ???×6)
[思考・状況]
基本方針:クロトや覇瞳皇帝や縁壱からコッコロたちを守るために更なる力を求める。
0:キャハハハ!もっと強い力がほしいわ!
1:メダルは手に入った。あとはやるだけよ。でももっと強いメダルもあるかしら?
2:途中誰かに出会ったら、覇瞳皇帝に関して警告し、コロ助への伝言を頼む。
3:エボルト、里見灯花、柊ねむ、カイザーインサイトを警戒。場合によってはコロ助のためにぶっ殺すわよ
4:この力こそ強さよ!もっともっと強くなりたいわ!
5:あの茶色野郎(野獣先輩)ふざけんじゃないわよ、次会ったらぶっ殺すわ
6:強くなるために首輪を集める?
[備考]
※ウルトラゼットライザーは、アクセスカード、
 ファイブキングを構成する怪獣のメダル5枚で一個の支給品扱いです。
※ウルトラアクセスカードは、一番最初に支給された参加者の物のみ支給されています。
※ウルトラゼットライザーは変身の際に、
 インナースペース(安全圏)にいる時間が短くなる様に、
 怪獣の力が本来のスケールで出せない調整されています。
 恐らく、ウルトラマンに変身する際も、同様であると考えられます。
※回収したNPCの残骸の詳細は、後の書き手様にお任せします。
※万丈と情報交換しました。
※キャルの他の変身できるモンスター、怪人が何かは後続の書き手にお任せします
※地縛神を使ったことで負の感情や悪しき感情が増幅しています。地縛神を召喚してる時間が長いほど、更に増幅します
※心意で専用装備を獲得しました
※地縛神CcapacApuの大きさは原作より小さいです。詳細は後続の書き手さんにお任せします

【F-6/一日目/午前】

【継国縁壱@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)、胸部に裂傷(中)、肩に切り傷(微小)、頬に傷(微小)、ダメージ(小)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)紅渡(名前未把握)が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
2:兄上、あなたは鬼となって尚も……
3:死者すら苦しめる巨人を従える鬼(キャル)は絶対に許せない
[備考]
※首輪による制限が行われていません
※思考が矛盾を感じた場合、それを疑問に思わなくなるようプログラムを受けています。

『支給品紹介』
【地縛神CcapacApu@遊戯王5D's】
デュエルモンスターズのカード。

効果モンスター
星10/闇属性/悪魔族/攻3000/守2500
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
「地縛神」と名のつくカードを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。
フィールド上にフィールド魔法が表側表示で存在しない場合、
このカードの以下の効果は無効となり、このカードはエンドフェイズ時に破壊される。
●このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。
●このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
●このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

主催により細工を施され、フィールド魔法がなければ破壊される効果は無効になっている。
また召喚者は召喚してる限り負の感情や悪しき感情が増幅され、好戦的になる
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。効果は決闘者以外があまりにも不利になるので無効化されている
また元の世界(原作)のままだと巨大過ぎるのでサイズダウンしている

827 ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:31:03 ID:PsOMhbvg0
投下終了です

828インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:52:31 ID:CDerigb60
投下します

829インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:54:25 ID:CDerigb60
 空を駆け抜ける列車、フライング・ペガサス。
 それはまるで御伽噺や物語のような光景なのでしょう。
 海で戦う艦娘が、空を駆ける。駆逐艦の多くには羨ましがられるんだろうなぁ。
 なんて、此処が殺し合いである以上、そんな話をしても楽しくないのは間違いないけども。

 艦娘が海神を倒してしまうという、ある意味とんでもない罰当たりなことをした後、
 私こと、工作艦明石は海馬さんと共にフライング・ペガサスに乗車して現在移動中です。
 列車と言っても快速と言うわけではなく、速度が緩やかなのは、逃げを防ぐための速度制限なのでしょう。
 もっとも、それでも追いかけてくる少女(ルナ)やポセイドンがいたことを考えると、
 もうちょっと速度があってもいいんじゃあないかな、なんて思ってたりもしてます。
 ゆっくりな動きは殺し合いなんてものを忘れさせてくれる感じがしてしまい、
 安心感と同時に、殺し合いなんてないんじゃないかと思わせてくる不安感もあります。
 だから私はあえて見る。野原さんと、ジャックさん、そしてポセイドンの遺体を。
 これが殺し合いの中にいると、再認識するために。

「あの、差し支えなければでよろしいのですが。」

「何か用か。」

 相席ではなく向かいの席で周囲を見渡しながら哨戒する海馬さん。
 もし海馬さん達が戦った怪物(無惨)がこちらに来てる可能性もある以上、
 警戒するのは当然なことでしょうけど、視線を向けることがなかったり、
 どこか冷たい眼差し……なのは多分、彼だからなのでちょっと思い込みかも。
 そうは思いつつも、尋ねずにはいられませんでした。

「もしかして、私のこと避けられてます?」

 一瞬の沈黙。
 地雷を踏んでしまったのか、
 少しばかり不安になったものの、

「ただの偏見だ。俺は軍需産業には手を出さん主義だ。
 俺にとっての敵であった男の、忌まわしき遺物。それだけに過ぎん。」

 そういえば遊星さんが海馬コーポレーションは軍需産業には手を出してないとか、
 そういう話は先に聞いていたから納得はできた。人類を守る艦娘とは言え、
 軍事兵器と言われてしまえばそれを否定ができないから間違ってはないのかも。
 勿論、偏見だってことぐらいは分かっているようですし海馬さんは見たところ、
 随分棘と言うか癖のある人物のようなので、私も特に思うところはありませんでした。

「ジャックに冥王か……遊戯のことを、
 アテムのことを聞く機会を逃したのは痛いな。」

 リゼさんに対しての自責か、或いは敵に対して相当腹が立っていたのか、
 ポセイドンの戦いが終わって、ようやく知り合いの名を口にしました。
 一応最初の情報交換で話はある程度のことは伺ってこそいたものの、
 冥界に帰ってしまったアテムさんなる人を海馬さんは追いかけてるようです。
 死んだ人……と言うのとはちょっと違う複雑な事情を抱えてるみたいでして。

「遊戯さんのもう一人の人格、アテムさんに会ってどうするんですか?」

「決まっている。決着をつける。それだけだ。
 奴が帰還する前に俺とデュエルをさせればいいだけのことだ。
 たとえもう一つの世界の俺が認めたとしても、この俺は認めたわけではない。」

 複雑な事情を抱えているようですね。
 海馬さんは、どうしても再戦したいのでしょう。
 その為に元の世界では色々やっていたとのことですし。

「……さて、確認だけでもしておきましょうか。」

 此処は殺し合いの舞台。
 いつまでもこうやって雑談に興じているつもりはありません。
 一度目を閉じ、深呼吸をしてから私は席を立ち、死体と向き合います。
 今まで観察すらもできなかった首輪。偶然や、別れこそ色々あったものの、
 ついにこれを調べることができる状況にはなったのは紛れもない事実でしょう。

830インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:55:49 ID:CDerigb60
 常に進化と言う前を向き続けたジャックさん、
 自分の死すら厭わず勝利のために貢献した冥王さん、
 死ぬと分かっていても全力で戦い抜いていった野原さん。
 誰よりも一般人でありながら一歩を踏み出した百雲さん、
 彼を助けようと一人で謎の存在を追いかけていった大我さん。
 神を降臨させるという偉業を成し遂げて勝利に導いた海馬さん。
 そして、一人怪物に立ち向かうのを決意して残った橘さん。
 あの場にいた皆は散り散りに、別れたり亡くなったりしましたが、
 誰もが絶望的な状況の中でも抗い続けた、鎮守府の皆と同じような存在。
 私も立ち止まってはいられない。制海権を奪還すると決めたあの時のように、
 前に進まないと、今まで亡くなってしまった方達にも示しがつかない。
 冥王さん曰く凄まじい妖刀(村雨)があるので、首を絶つことは大丈夫だと思い、
 支給品から取り出そうとすると、柄を握ると同時に、ぞわりと来る悪寒が全身に駆け巡る。

(これ、何? こういうのに詳しくない私でもこれはダメだって思える……!)

 妖刀から『握るな』とでも言わんばかりの不穏な感じに背筋が凍る。
 これが帝具と知らない以上、帝具による相性問題と私は気づくことはなかった。
 斬られるだけで死を確定させるとされるとんでもない妖刀だと言うことがよく分かる。
 これは……こういう時には使えるとしても、あんまり使いたくはないとなるものだ。
 なんて言えばいいのかな。握ってるだけで蝕まれてるとでも言うべきなのかな。
 とにかく、早急にこの刀から手を放したい。そんな気分に襲われていた。

「海馬さん。別室で待機をお願いできますか?
 血が飛び散るでしょうし、その、余り見られたくないので。」

 殺した相手ではあるし、神なのはあの戦いで確定している。
 それでも、やはり参加者の首を絶つ行為には抵抗はあるし、覚悟も必要だ。
 人に見られるというのも気分がいいものではないので席を立つように促し、

「俺は哨戒でもしておく。早急に終わらせろと急かすことはせん。」

 冷たいものの気遣ってるのかどうかわからない発言と共に、
 海馬さんは席を立って後ろの車両へと移動してくれました。
 うーん、難しい。あの人との接し方は何が最適解なのでしょうか。
 アテムさん、基遊戯さんならわかるのかもしれないことですけども。

「……よし。」

 覚悟はできた。後は実行に移すだけである。
 自分を斬らないように、ゆっくりと狙いを定め、首を絶つ。
 人の首ってうまくやらないと中々切断できないって言うけれど、
 この妖刀が凄まじい業物だからなのか、私でも簡単に断つことができた。
 軍刀を持つ木曾とかが此処にいたのなら、もっと驚いていたのかもしれませんね。
 ゴロン、とポセイドンの何も見ていないその冷たい瞳がこちらを見るように転がっていく。
 凄く嫌な気分だ。敵だとしてこの気持ちなら、仲間だった人達ならどんな気分なんだろう。
 死体だからか、それとも大量に血液を流し終えてしまった後だったからか、血はそれほど出なかった。
 元々片足を喪って腕もあり得ない方向にぐちゃぐちゃの、あの状態で動けてたのが奇跡な程の状態だ。
 多分、その辺が理由なんじゃあないかなと考えるものの、それは今考える必要のないことなので隅に置きましょうか。
 敵ではあったのは間違いないし、人間なんかの私に触られるのも許されないとは思いつつも、
 そのままというのも忍びないので、私は目を閉じさせてから、首輪を回収することに成功しました。
 これで冥王さんと合わせて自由になってる首輪は二つ。首を遺体のところへと置いた後、
 海馬さんがいる別室の方へと向かうことに。

「明石、確か貴様の支給品に余っていたのがあったな。
 それが工具か何か……があれば、直ぐに使っているか。」

831インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:56:32 ID:CDerigb60
「はい。残念ながら工具とかそういう類ではありませんでした。」

 海馬さんもデュエルディスクを開発したりと、
 相当にメカニックとしての腕が立つようではあります。
 しかし、私達には肝心の解体して中身を確かめる手段がありません。
 最悪村雨とかで斬って中身を見てしまえばいいのかもしれませんが、
 サンプルがいくらジャックさんや野原さんのが余ってるとは言え貴重でしょう。
 放送では首輪をトレードできるNPCもいるとのことなので、無暗な破壊は厳禁だ。
 檀黎斗って人はゲームを、殺し合いをクリアすることも視野に入れてる発言が多かった。
 だから首輪の数は、この戦いで敵となる侍(縁壱)や倒したとはいえポセイドンのような、
 強力な敵と対抗できる武器になるかもしれない。だったら首輪の状態は間違いなく大事だ。

「んー……ん?」

 外れた首輪の内側とかを試しに調べてみる。
 裏側を凝視してみるけれど、出た答えは……普通の一言でした。
 サイズ的に考えて、爆薬が本田って人のを想定すれば人は殺せるでしょう。
 ……でも。これ───人しか殺せるだけの爆発が発生するとは思えなかった。
 これはただの爆弾付きの首輪。そうとしか言えないぐらい普通の出来でしかない。
 こんなもの作るつもりはないけど、作ろうと思えば私でも作れてしまうような代物だ。
 これで本当にポセイドンとか、それに比肩する参加者が殺せるのかと言う疑問は尽きなかった。

「海馬さん!」

 流石に気になったので、海馬さんにも伺います。
 冥王さんの首輪は彼が持ってるのでそれと比較したいと。
 止める理由もなかったのですぐに渡され、それを見比べてみます。
 首の大きさによるサイズ差はあれど、やはり構造はどちらでも同じに近い。
 同じく海馬さんに意見を伺おうと、逆にポセイドンの首輪を渡しておきます。

「……確かに、異様に簡素なつくりになっているな。何が入ってるか次第、だが。」

「そうですよね……神を殺すなら爆薬ではなく、もっと違う何かを使うと思いますし。」

「ヒュドラの毒でケイローンやヘラクレスが死ぬ神話もあるからな。
 仕込まれてるのが爆発だけでなく、毒とかであれば話は別なのだろう。」

「毒やウイルスですか……」

 少なくとも艦娘の世界、デュエルモンスターズの世界、仮面ライダーの世界。
 様々なものが混ざり合ったこの世界において未知の毒があるかどうかで言えば、あるはずだ。
 跡形も残らず消えてしまうような、特殊な毒素とかがあるとしても別におかしくはないはず。
 ……下手に壊そう、なんて発想に至らなくてよかったかも。私の世界だと毒とかあんまり縁がないから、
 海馬さんからの助言は中々に助かりました。

「となると、毒への耐性か毒に詳しい方……これだと、大我さんと別れたのは勿体ないですね。」

「同じ医者である宝生永夢が死んだ今、奴が現状把握できる唯一の医者だ。
 そういうのに詳しい奴が他にいない現状、奴の生存に賭けるしかあるまい。」

 百雲さんと大我さん、無事だといいんだけどなぁ。
 でもあのNPC、今まで見たのと雰囲気が違うっぽいし、
 なんだか大丈夫かなと不安にさせられてしまうところがある。

『悲観的だな、小娘よ。』

 ……もっと前向きにならないといけない。
 なんだか冥王さんにそういうつもりはなかったとしても、
 あの言葉は私にはそれなりに意味のある言葉だったと思ってます。
 後ろ向きでいるだけじゃだめだ。復讐とちょっと危ない目的だったけど、
 あの人(モンスター?)のようにもっと邁進するようにいかなくちゃ。

「当面必要なのは工具、それと中身が何かを知る手段ですね。
 参加者ごとに爆弾とも限りませんから、その辺も警戒しておかないと。」

「機械弄りができるモンスターがいれば安全策だろうが、
 そう簡単にいるわけもない、か。解析できる場所を探すのも視野に入れよう。」

 電車の中で二人きり。目的は次々と増えていきます。
 遊星さん達との合流、首輪の中身の解析、そして首輪の解除の手段。
 或いは、生きてる人にしか機能しないとかの可能性も視野に入れておきたいところかも。
 やることは本当に山積み……でも、慣れたものだ。鎮守府のショップに装備の改修に修理に、
 更に出撃も兼ねていたのがこの私、工作艦明石ですから。これぐらいのことは大丈夫ですよ。
 ですから、必ず戻りますので待っていてください───提督。

832インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:59:14 ID:CDerigb60
【D-3/午前手前 爆走軌道フライング・ペガサス内/1日目】

【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:心身の疲労(中)、リゼを見捨てた後悔、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:海馬瀬人のデッキ(オベリスク入り)&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS
[道具]:基本支給品×2(自分、無惨)、深淵の冥王の首輪
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と、あの異形(無惨)と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい。遊星とやらはどれほどのものか。
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。だが今は遊星とやらと合流だ。
  そうそう死ぬとも思えないが、凡骨共が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
  器の遊戯の実力にも興味がある
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:ジャック、冥王、貴様らを認めてやろう。貴様達も王だとな。
6:首輪の解析ができそうな場所を探しておきたい
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。
※心意でオベリスクの巨神兵@遊☆戯☆王を手に入れました
※首輪に毒素か何かが参加者次第であると思っています

【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに少し苦労する程度に負傷)、疲労(大)、精神疲労(大)、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!、神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×5(自分・ジャック・しんのすけ・ポセイドン・うさぎ)、一斬必殺村雨@アカメが斬る!、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING、オルタナティブ・ゼロのデッキ(サイコローグは消滅のためブランク状態)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)、ジャックのデュエルディスクとデッキ(心意カード+冥王結界波入り)@遊☆戯☆王5D’s
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1 :蛇王院さん……無事でしたけど、素直に喜んでいいのかなぁ。
2 :九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3 :帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4 :首輪を解除できるだけの装備や環境を整えないと。首輪は確保できましたが。
5 :特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6 :ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
7 :あの寺何怖いんだけど!?
8 :ジャックさん、冥王さん、野原さん……
9 :フライング・ペガサスで真っすぐ向かいましょう

[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
 時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※ジャックのデッキで心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
 かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ発生しません。
 必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
 現在生成されたのは以下の通り
 レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
 琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG
 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
 スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
※サイコローグはオベリスクの攻撃で消滅したため、
 ブランク状態になっています
※首輪に毒素か何かが参加者次第であると思っています

833インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:59:29 ID:CDerigb60
投下終了です

834 ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:00:50 ID:zKXIPIHA0
皆様投下お疲れ様です。自分も投下します

835それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:01:57 ID:zKXIPIHA0
敵に背を向け逃走に徹するのは、冴島鋼牙にとってあるまじき行動だった。
深追いを諫められたことはあれど、剣の届く距離に敵がいて尚戦闘の中断を選択。
しかも本来なら率先し盾となるべき己が、他者へその役目を押し付けたのだ。
魔戒騎士として恥ずべき失態と罵られても、当然である。
自らの不甲斐なさへ多大な怒りを燃やし、威圧感が狭い車内をたちまち満たす。

尤も、同乗者もまた鋼牙と似たり寄ったりの状態であった。
運転に集中する間、無力感と力への渇望に苛まれ気を抜けば爆発し兼ねない。
安易に話しかけるのを憚れる幻徳も鋼牙同様、無言を貫き早数十分。
重苦しい空気が一向に消えない中、静寂を木っ端微塵へ変える声が響き渡った。

「っ、あれは……!」

突如天空へ映し出された男へ、流石に猛スピードの運転を続けてはいられない。
定時放送を聞き逃せば後々困り果てるのは自分達だ。
急停車し聞く態勢を取らざるを得なかった。
相も変わらぬハイテンションぶりで参加者を苛立たせる神を、三者三様に見上げる。
怒りを籠めた瞳は前の席の二人から、眠た気で感情を読み取れないのは後部座席から。
必要不可欠な情報へ頼んでもいない挑発染みた言動をプラスし、傲慢さをこれでもかと表す高笑いで放送は終了。
今後も6時間毎にストレスを味合わされると思うと、非常に頭が痛むがともかく。

「そう、か…みふゆはやっぱり……」

明るい色の混じらない声が、意識しないままねむから零れ出る。
何もおかしくはない、むしろ呼ばれなければ不自然な名前だ。
異常と言う他ない金髪の偉丈夫の強さを考えれば、みふゆが助かる確率は1%あるかも怪しい。
最期を見ずとも、こうなると車内の全員が理解出来た。
運良く生き延び何食わぬ顔で合流、などと都合の良い展開が起きる筈もない。

836それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:02:43 ID:zKXIPIHA0
そう分かっていて、みふゆが足止め役を引き受けたのに反対もしなかった。
自分の選択に後悔はない。
なのに改めて死を告げられ、「そうだろうな」と簡単に流せないでいる。
痛みと呼ぶには小さく、けれど無視するには何故か躊躇が生じる感覚。
ドッペルの暴走を止める為に命を賭した時とは違う。
自分に後を託し逝った彼女へ、何一つ感じられない程心を冷たくは出来ず。
みふゆの最後の頼みを受け入れらないと、あっさり切り捨てるのに後ろめたさを隠せない。
いろはと灯花以外の参加者は皆、利用可排除の二択と既に覚悟を決めた。
だから一番初めに会った御伽龍児だって、魔力温存を理由に助けなかったのに。
今更になって罪悪感でも感じたのかと、自身へ内心吐き捨てる。

(後は、彼女も生き延びられなかったようだね)

少なからず波打った胸中を誤魔化すように、知っているもう一人の脱落者へ意識を傾けた。
フェリシアの死亡に強く動揺は抱かない。
自分とは接点が薄く、まして元々敵対関係にあった魔法少女。
他参加者にマギウスの警戒を触れて回る者が、一人減った事実は歓迎すべき。
灯花も同じように思うに違いない。
ただ前々からフェリシアと仲間だったいろはは、きっと深く悲しむ
ういと自分達を失い、また新たに喪失の痛みを刻み付けられ頬を濡らしているだろう。
よりにもよって自分と灯花が、いろはが最も望まない形で魔法少女の救済に動いてると。
傍にいて欲しいという願いを裏切り、悲しませる側になったのにはあえて深く考えずにおく。

「あいつが……」

脱落者の発表で、ねむ以上に動揺を引き出されたのは幻徳だ。
猿渡一海。パンドラタワーでの決戦で消滅した仲間は、殺し合いで二度目の死を迎えた。
既に喪失を味わった相手だからと、軽々しくは扱えない。
再会し、他愛のない軽口を叩き合い、肩を並べてもう一度戦う。
思い描いた光景が実現する、そう心のどこかで根拠もなく信じていたのだろう。
自身の知らぬ所で一海が死んだ事実へ、涙こそ流れずとも殴られたような衝撃が走る。

自分も一海も本来なら死んだ身。
新世界創造は戦兎達に託しており、この地で力尽きても構わない。
ただそれでも、叶うのであれば仲間達には生きて欲しかった。
野心に憑りつかれ、引き返せない程の罪に手を汚した自分とは違う。
本当だったら戦争とは無縁の、仲間に慕われる農場の気さくな兄貴分の一海は。
戦いの中で死んで良い人間じゃあなかった。

837それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:03:29 ID:zKXIPIHA0
「零……」

そして最後の一人、鋼牙にも喪失感は容赦なく襲い掛かる。
自身を仇として付け狙い、時に幾度も斬り結んだ銀牙騎士。
衝突の果てに無二の友情を結んだ涼邑零もまた、6時間を生き延びれられなかったらしい。
有り得ないと、親友の実力を知るが故の激しい否定は出来ない。
牙狼の鎧を纏って尚、勝ち目がまるで見えなかった存在と一戦交えているのだ。
魔戒騎士の命を奪う程の参加者が他に複数人いても、何らおかしくはない。

かといって、はいそうですかで簡単に割り切れはしない。
心からの信頼を置く友が、もうこの世にはいないと告げられた。
それも神を自称する狂人の口から、嘲笑うも同然にだ。
バラゴに父を侮蔑された時にも劣らない、猛烈な怒りが渦巻く。
同時に自身を形作る大切なものが一つ、零れ落ちて二度と戻らない喪失感が苛む。
広く大きな背を見続けた父、同じ釜の飯を食い強くなると誓い合った同胞(はらから)。
彼らと同じ場所へ零も旅立った。
決して慣れない痛みは、暗黒騎士や海神に斬られた以上に深く傷を残す。

檀黎斗に命じられるまま優勝を目指し、死者の蘇生に縋り付く気はない。
最期をこの目で見ずとも、共に戦った男達には分かる。
一海も零も、誰かを守る為に足掻き命を散らしたのだと。
守るべき者を理不尽に奪われた彼らが、自分達の蘇生の為に罪なき命が犠牲となるのを喜ぶ訳がない。
屍を積み上げた先の奇跡を望まないことを、幻徳と鋼牙は理解している。
なれば方針を変えるつもりもなし、必ずやゲームマスターを討つ。

尤も、それはそれとしてやはり仲間の死は精神的も堪える。
加えて十分予想が付いた事とはいえ、みふゆの死も放送で確定となった。
生き返った理由を見出せず悩み、もう少し頑張ろうと告げた彼女の顔を思い出す。
殺し合いから生きて帰り、失った筈の未来へやり直す機会があった筈。
彼女の犠牲により生かされた幻徳はただ、己の弱さを何度恨んでも恨み足りない。
もっと力さえあれば、強ければこうはならなかったんじゃないか。
そう悔やんだ所で後の祭り、失われた命が帰って来る奇跡は起きない。

838それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:04:56 ID:zKXIPIHA0
「……取り敢えず、どこか休める場所に行った方が良い。僕はともかく、お兄さん達は座ってるだけでもつらいだろう?」

重々しい沈黙が長続きする前に、抑揚のない声で休息を提案された。
言われた途端、思い出したように体中が痛みを訴える。
逃走に集中し意識が外れていたが、自分達は重症の身だ。
特に鋼牙の傷は深い、魔戒騎士の並外れた体力と気力で持ち堪えているが放置すれば死は時間の問題。
これ程の傷、医療機関で処置を行う以外どうにもならないのではないか。

「僕の、いや、正確に言うとみふゆの支給品に治せる道具があった。それを使うといいよ」
「それは……」
「まあ、僕の言葉が信じられない気持ちは分かるけどね」

ねむ自身、信頼を容易く勝ち取れるなど微塵も思っていない。
みふゆから自分と灯花の悪評を聞かされ、警戒心を抱くのは当たり前のこと。
助ける振りをして、実は弱り切った所へトドメを刺す気じゃあるまいか。
なんて疑念を幻徳が抱いたとしても、当然だろうなとしか思わない。
尚も信じようとする人間は、それこそいろはくらいだろう。

「いや……俺は信じる……」

助手席からの苦し気な声に、眠た気な瞳が僅かに揺らぐ。
額に汗を浮かばせ、迫りつつある死へ必死に抗う表情は最初に会った時以上に険しい。
けれどねむを見つめる瞳に、怒りや責める意志は宿っていない。
治療に必要な道具欲しさで、機嫌を取るのとも異なる。

「身を隠せる場所に向かってくれ……ねむなら大丈夫だ……」
「……分かった。どの道ここで議論を続けても、時間を無駄にするだけだな」

鋼牙の言葉を受け、多少の戸惑いを残し車を再発進。
今言った通りだ、行動に移さねば何も変わらない。
みふゆに生かされた命が無意味に尽きるのは、幻徳だって望んでないのだから

839それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:05:43 ID:zKXIPIHA0
雪がそこら中に積もった道を走らせ、やがて錆び付いたゲートの前に到着。
白井農場、塗装の剥がれた柵に貼り付けられた名前を三人は知らない。
耕作や牧畜目的の施設なれど、本来の用途で使われた痕跡は見当たらなかった。
一本道を進んだ先に一軒家がポツンと建ち、一先ずそこを休憩場所に決定。
玄関扉に手をかけ、開けた途端に冷えた空気が来訪者達を迎え入れる。

鋼牙に比べれば幾分消耗もマシな幻徳が先頭を行き、室内をざっと確認。
自分達以外の気配は感じられず、取り敢えずは多少警戒を緩めても問題無し。
一先ずの安全を確保し終えたなら、次にやるのは傷の治療。
ねむの言葉に嘘は無く、デイパックから件の道具を取り出した。

巨大な花の蕾、そうとしか表現できない奇妙な物体。
床に置くと花開き、上に乗るよう二人の男へ指示。
困惑を挟み言われた通りにしてみれば、すぐに効果が表れた。
一瞬で、とまではいかずとも傷が徐々に塞がり出す。
思考を鈍らせる痛みが引いていき、ふと疑問が声に出た。

「さっきの戦いでもしこれを使っていれば……」
「それは難しいと思うよ。この道具の上でじっとしてないと、傷も治らないからね」

回復が済むのを大人しく待ってくれる敵でなかったのは、三人全員理解している。
だからみふゆも、あの場で道具を呑気に使う選択を真っ先に外したのだろう。

やがて効果時間も切れ、展開した道具は跡形も無く消失。
完治まではいかずとも、重症からは復帰出来た。
後は残る負傷箇所へ処置を施し、休憩も兼ねて各々の持つ情報を改めて開示。
体力の回復を見計らって再度出発。

となる前に、ハッキリさせねばならない事がある。

840それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:06:26 ID:zKXIPIHA0
「さてと、そのままでいいから聞いて欲しい。いや、どちらかと言うとお兄さんの方が僕に聞きたいことがあるのかな」

切り出した声色はこれまでと同じ、緊張の類が宿らぬもの。
しかし他愛のない雑談でないとは鋼牙にも分かる。
聞きたいことがあるか否か、答えは勿論前者。
先の戦闘でねむが見せた奇妙な力一体何なのか、何故自分に力を隠していたのか。
至極当然の問い掛けを口に出すより早く、ねむの瞳がもう一人へ向けられる。

「みふゆから聞いた話を、お兄さんにも伝えてあげてくれないかい?」
「……良いのか?」
「構わないよ。何を言われたかは想像が付くし、間違ってもいないだろうからね」

自身の立場が危うくなるだろうに、問題ないと言う。
これには幻徳の方が却って戸惑いを覚えるも、ややあって口を開く。
みふゆから聞いたマギウスの二人について、危険性と元居た世界で何をやったのかを。

「俺が梓から聞いたのはこれが全部だ。それで、お前は本当に……」
「そうだね、みふゆの話に嘘はないよ」

あっけらかんと肯定すれば案の定、黙って聞いていた鋼牙の顔も険しさが増す。
争いを知らない少女なら怯えるだろう表情にも怯まず、眼鏡越しに視線を合わせる。
分かり切っていた反応だ、警戒するなと言う方がおかしい。
殺すまではしなくても、拘束と無力化くらいはされても不思議はない。
傍から見れば自分の方が良からぬ真似をされてそうだと、どこか能天気に思う。

「二つ程聞いておきたい。檀黎斗に従って殺し合いに乗る気はないんだな?」
「無いよ。彼の持つ願いを叶える力に興味はあるけどね」

嘘は言ってない。
魔法少女…最優先でいろはの救済を目的にしてはいるが、優勝を目指す気は皆無。
黎斗が素直に願いを叶える保障はどこにも無く。
何より、いろはと灯花が参加している以上プレイヤーの皆殺しを選ぶ筈もない。
主催者の持つ力を奪い取って、自分達の望みを叶える。
その過程で犠牲が必要なら、躊躇なく切り捨てるが。

841それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:08:00 ID:zKXIPIHA0
「それで、もう一つは何を聞きたいのかな?」
「環いろはを守って欲しいと言った事は、打算のない本心か?」
「…………」

今度はねむの方が言葉に詰まる番だった。
神に選ばれた駒の中で、最も心を掻き乱す存在。
己の幸福全てを投げ打ってでも、助けたいと心から望む魔法少女。
最愛の二文字が最も当て嵌まるいろはの話に、偽りを混ぜたのか。
尋問されている訳でなく、怒声を放たれてもいない。
だけど、この問いにだけは下手な誤魔化しを言う気になれなくて。

「……本当のことだよ。少なくともいろはお姉さんは、お兄さんに警戒されるような人じゃない。
 僕を敵と見なしても構わないけど、お姉さんだけは守ってあげて欲しい」

放送で名前が呼ばれなかった以上、先の6時間はいろはもどうにか生き延びたのだろう。
なれどこの先もずっと無事が保障される訳じゃない。
自分達や七海やちよよりも付き合いの浅い者を助けようと、無茶ばかりを繰り返してやいないか。
下手をすれば、自分と灯花が魔法少女の救済を果たす前に命を落とす可能性とてゼロに非ず。
鋼牙からすればムシの良い話と取られても、反論は出来ない。
それでも、いろはを守ってくれと伝えたのは嘘偽りない本心からだ。

「分かった。なら約束を違えるつもりはない。お前も、お前が大切に想う者も必ず守る」

だから迷わず返って来た言葉へ、訳も分からず動揺が走った。

「いろはお姉さんのことは感謝するけど、僕も、かい?」
「真実を隠していたとしても、それでお前を守らない理由にはならないだろう」
「都合良く利用されて、用が済んだら切り捨てられるかもしれないのに?」
「なら余計に、お前の手を汚させない為にも離れるつもりはない」

ねむが隠していた魔法少女の情報を知り、気を張っておくべきとは考えた。
だが彼女を見捨てる、或いは今後敵として扱うなど。
謂わばねむが予想したような行動に出るつもりはない。
たとえ打算込みの選択であっても、自分や幻徳達を助ける為に魔法少女の力を使ったのなら。
いろはを守って欲しいという願いに、偽りが宿らないなら。
それだけで鋼牙が戦う理由になる。
守りし者の使命を果たす事へ、一切の躊躇を必要としない。

842それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:08:50 ID:zKXIPIHA0
「……、……そうか。じゃあ、好意として有難く受け取らせてもらうよ」

本気で言ってるのかとか、どうしてそうまで自分を信じられるのかとか。
寸での所で疑問を飲み込み、動揺を隠し淡々と返す。
監視の目が厳しくなるとはいえ、今後も戦力として期待出来るのだ。
なら別に問題ないだろう。
一体全体何をムキになって、言い返そうとしたのか。
睨み付けてはいなくとも、力強い眼差しの鋼牙から瞳を逸らす。
話さなくても良い事まで言ってしまいそうな、自分の間違いと真正面から向き合わされるような。
後ろめたさにも似た居心地の悪さがあった。

「君も、お兄さんと同じ考えなのかな」
「お前が誰かを傷付けないよう、近くで見張っておくなら俺も賛成だ」

問われた幻徳の答えは、鋼牙同様ねむへ危害を齎す気はないというもの。
この目で力の一端や、小学生らしからぬ落ち着きようを見ても。
エボルト並に危険な少女とは、未だ実感が湧かない。
かといってみふゆが嘘を吐いたとも思えず、警戒は払うつもりだ。
ただそれとは別に、言っておきたい事があった。

「もし過去にやって来た事や、梓の死に少しでも思う所があるなら……それから目を逸らすな。
 罪の意識すら感じなくなった時は、本当の意味で手遅れになる」

パンドラボックスのエネルギーを浴びたせいと、言い訳する気はない。
禁断の箱が齎す悪影響で野心に憑りつかれ、どれだけの罪に手を汚して来たのか。
何人を実験で使い潰した、幾つの悲劇を生み出した。
今更になって過去の行いを悔いても、失った命は戻って来ない。
「お前の罪は消えない」、元凶である星狩りの言葉は何も間違いじゃあないのだ。

罪の意識に苦しまない自分であったら。
腕の中で息絶えた父に、涙を流さない己であったら。
戦兎達と共に、ヒーローとして戦う光景は実現しなかった。
最後の最後まで救いようのない悪党(ローグ)として終わる、有り得たかもしれない末路を。
ねむが辿るのを、幻徳も望んではいない。

843それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:09:47 ID:zKXIPIHA0
「……忠告は受け取っておくよ」

痛い所を突かれた自覚があるのか、僅かに言い淀んだ後。
結局返せたのは、そんな無難な一言だけだった。

鋼牙との決裂も覚悟していたが、そうならずに済んだ。
放送前よりも監視の目が強くなるとはいえ、荒事を押し付けられる人材としては今後も期待出来るだろう。

(悪くはない、筈なんだけどね……)

最悪の事態と悲観するにはまだ早過ぎる。
自分も灯花も、いろはも未だ生存中。
金髪の偉丈夫のような桁外れた参加者こそ存在すれど、立て直しは十分利く範疇内。
やることは変わらない、何を犠牲にしてでもいろはを救う。

だというのにどうしてか、心の何処が微かに軋むような錯覚を覚えた。


【B-2 白井農場/一日目/朝】

【冴島鋼牙@牙狼-GARO-シリーズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、自分への強い怒り
[装備]:冴島鋼牙の魔戒剣@牙狼-GARO-、魔導火のライター@牙狼-GARO-、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜4、首輪(星合翔李)
[思考・状況]
基本方針:守りし者として人々を守る。この決闘も終わらせる。
1:ねむを守り、彼女の友人を探す。約束を違える気はない。
2:逃げた男(野獣先輩)から必ず仮面ライダーの力を取り戻す。
3:首輪の解析が出来そうな参加者を探し、この首輪を託す。
4:零……
5:葛葉紘汰、あの男の事は忘れない。
6:あの黒い騎士(葉霧)は何者だ…?
[備考]
※参戦時期は牙狼-GARO- 〜MAKAISENKI〜終了後

【柊ねむ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:健康、魔力消費(中)、いろはの存在へ動揺、黄金騎士への複雑な感情
[装備]:フリーザの小型ポッド@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品一式×2、ガシャットギアデュアル@仮面ライダーエグゼイド、ランダム支給品×0〜3(みふゆの分含む)
[思考・状況]
基本方針:手段を問わずに主催者の力を奪って魔法少女を救済する。
1:これで良い、筈……。
2:鋼牙お兄さん達と行動。荒事に関しては彼らに任せよう。
3:魔法少女への変身はなるべく控える。つもりだったけど…。
4:灯花とも合流しておきたい。
5:七海やちよは邪魔になるなら排除。
6:もしいろはお姉さんと会ったら僕は……。
7:希望…馬鹿馬鹿しいよ……。
8:ドッペルが使えたのは何故だろう?
[備考]
※参戦時期は死亡後。

844それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:10:38 ID:zKXIPIHA0
【氷室幻徳@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、無力感と力への渇望(大)
[装備]:ロストドライバー+スカルメモリ@仮面ライダーW、軍刀@ゴールデンカムイ
[道具]:黒塗りの高級車@真夏の夜の淫夢
[思考・状況]
基本方針:黎斗達を倒して殺し合いを止める。
1:冴島達と行動。柊に警戒しておくが、間違いを犯す気なら止めたい。
2:梓…すまない……。
3:エルフの少女(コッコロ)とユウキを知る者にキャルの伝言を伝える。
4:エボルト、里見灯花、カイザーインサイトを警戒。
5:俺にもっと力があればこうならなかったのか…?
[備考]
※参戦時期はTV版で死亡後。


『支給品解説』

【回復フィールド@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ】
『スマブラSP』に登場する回復アイテム。
最初はつぼみのような形をした投擲アイテムで、投げて地形に付けるとフィールドが展開され中に入っている間だけ回復できる。
自分(味方)だけでなく相手も回復させるが、相手の回復量は自分よりも少ない。
相手にぶつけた時は然程威力はないものの、低い角度でふっとばせる。


『施設解説』

【白井農場@仮面ライダー剣】
B-2に設置。
白井虎太郎の親代わりの叔父が、虎太郎に遺した物件である農場。
広い敷地内に虎太郎の自宅である古い2階建ての一軒家があり、玄関先には『白鳥号』と呼ばれるクラシックカーが駐車されている。
第1話でアパートを追い出された剣崎が、第2話からBOARDを失った栞がそれぞれ居候を始めアンデッド対策の拠点となった。

845それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:11:20 ID:zKXIPIHA0
投下終了です

846 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 16:35:12 ID:CDerigb60
拙作「Successor Soul」ですが、
MNRの首輪を回収した描写が抜けていたので修正しました
同時に、Lの支給品にMNRの首輪があります

847 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:33:22 ID:JcD8bctM0
ゲリラ投下します

848百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:35:46 ID:JcD8bctM0
日常を謳歌していた二人の少女は、己が刃に想いを乗せる――
 
永遠の刹那。そんなありもしない幻想を懐くのは罪なのだろうか――?



 何かを考え込むように、チノの視線の様子がおかしい。
そう気付いた私だけど、なんて声を掛ければいいのかわからない。
 もしもここに零が居たら気さくに振る舞ったり、チノのメンタルケアをしてくれたかもしれないけど――零は死んだから。

 チノが何を考えてるのか、だいたい察しはついている。
 それはきっと檀黎斗が話していた〝願いを叶える権利〟について。
 マヤという友人に続いて、リゼという友人もチノは失っている。ここで僅かな時間とはいえ交流して、仲間になった零や司も殺されている。

『なんで私達がこんな目に遭わなきゃいけないんですか……!
 マヤさんが、リゼさんが、零さんが、司さんが……何か悪いことをしたんですか……!!
 私達が一体、あの檀黎斗って人に何をしたっていうんですか……!!』

 チノがあの時に叫んだ言葉は全くその通りで――だから私は何も答えられなかった。

 私は閃刀姫として戦い抜く過程で、たくさん殺したし喪った。それこそが、戦争だから。
 もしもレイに会う前にチノの問いを聞いていたら〝それが戦争〟なんてあまりにも残酷な真実を突き付けていたかもしれない。
 ……そう、これは戦争とほとんど変わらない。殺し合いだとか、デスゲームと言ってるけど――その残酷さや醜さは戦争と同じ。

 それはいつかチノにも自覚してもらう必要があるけど……二の足を踏んでしまうのは私がレイに出会って我ながら甘くなったから。レイはそんな私を〝好き〟と言ってくれるけど、この甘さはこういう時に困る……。本音を言えば、チノにこのデスゲームの過酷さを伝えたいけど――伝え切れない。

 それでもチノの薄暗くなった瞳はあまりにも哀しくて――私はチノを抱き寄せて、ぎこちなく彼女の頭を撫でる。

「ロゼ、さん……?急にどうしたんですか?」

 チノの少しダウナーな声。
 けれどもその声はいつもより暗くて、か細いように聞こえた。

「チノ。私はチノと――刃を交えたくない」

 だから私は単刀直入に言葉をハッキリと伝える。
 だってここでチノを手放したら、彼女は永遠に暗い道を歩むことになりそうで――それはまるで、過去の私みたいに。
 ……事情は違う。過去の私は列強国に騙されてた、ただの殺戮者で――チノはおそらく尊い願いのために闇が連なる道を歩もうとしている。

「……ロゼさんには、わかってたんですね」

 チノが申し訳なさそうな声音と表情で私を見る。
 そう。私はチノの迷いを、理解していた。出会ってまだ短いけど……チノとその友人。特にココアとの関係性はよく知っている。……チノがココアを特別、好きということも。
 そのココアの名前が放送で呼ばれなかったのは幸いだけど、チノはリゼを含めて多く取り零した。……司や零のことも考えられる優しい少女だから、余計にそう思う。
 
 「……お前が自称神の言葉で心が揺れてることくらい、俺にもわかるぜ」

 凌牙も私と同じで、チノの変化に気づいていたらしい。まだ子供なのに――随分と洞察力に長けてる。というか異常なくらい場数を踏んでるように見える。
 零みたいな明るい雰囲気じゃないけど、彼もまた頼りになる戦士。……あまり子供を戦場に巻き込むのは気が引けるけど、このデスゲームでは戦わなければ生き残れない。だから戦う手段を持つ凌牙は、そういう意味では有利。

 だけどその雰囲気は今、険しくて――チノを警戒してるのがわかる。
 ……きっと私と違って接近戦が得意じゃないから、余計に警戒してる。チノが剣を振るって、それが凌牙に当たれば凌牙が命を落とすか、致命傷を負うことになるから。

「私は……正直、わからないんです」

 必死に絞り出すような、チノの声。
 そこに込められた彼女の苦悶が、よく伝わる。

「それは優勝を狙うべきか、私達と抗うべきか?」

「はい。……優勝をしたら、死んだ人を生き返らせれると放送で言っていました。そしてきっと――そのために必要なのは、人質の美遊さんです」

「なるほど……。たしかにイリヤの話を聞く限り、そういうことになる」

「認めるのかよ。まあ俺も否定はしねぇけど――ロゼ、お前は敵か味方かどっちだ?」

「私は殺し合いに抗って、レイと再び日常を送る。……そこにはチノやここで出会った仲間も居ていいと思ってる」

「ロゼさんは……」

「?」

 チノが僅かに怒気を含んだ声で口を開く。

「ロゼさんはいいですよね!まだ帰るべき日常があって!レイさんが居て――!」

849百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:39:27 ID:JcD8bctM0

「チ、ノッ!」

 ダッ!

 チノが剣を片手に私に斬りかかる。

「私の日常はもうグチャグチャです!マヤさんもいなくて、リゼさんもいなくて――喪ってばかりです!」

「それはそう……。チノはあまりにも失い過ぎた……」

 私はチノの言葉を否定出来ない。

「だから私が優勝して、みんなを生き返らせます!変身!」

 ――瞬間、チノの服装が変わった。
 軽い力で受け止めていた刀が、金属音を鳴り響かせて鍔迫り合いする!

「ッチ!こうなったら――」

「凌牙はそこで見ていて。これは私とチノの問題……!」

「随分と余裕ですね、ロゼさん。その余裕はまだレイさんが生きてるからですか!?」

「……たしかにレイが死んだらどうなるかわからないけど――それは違う。冷静に戦わないと、今のチノは止められない」

「止める?このグチャグチャになった私をですか!?」

 ――たしかにチノの表情(かお)はグチャグチャだった。
 色々な感情が混ざって、すごくグチャグチャ。

 そしてチノが鍔迫り合いの状態から剣を弾いて、再び斬りかかる。
 私もまた剣で受け止める。
 そんなことを、何回も繰り返した。

「チノは私が止める。誰も、殺させない」

「ごちゃごちゃ綺麗事をうるさいですね……!」

「たしかに綺麗事かもしれない。でも、チノにだってまだココアが居る!」

「ココアさんが居ても、マヤさんやリゼさんはいないです!」

「それはそうかもしれない!だけど優勝を目指すには、ココアを殺す必要がある!」

 お互い剣戟に交えて言葉を語り合う。
 そして私の言葉に――チノは大きく目を開いた。

「え?私がココアさんを――」

「ロゼの言う通りだぜ、チノ。優勝を狙うなら皆殺しにする必要がある。――その覚悟がお前にはあんのか?」

「……そう。だからチノが優勝するには、ココアも殺さなければいけない。もちろん、他の友も」

「そんな……それだと私が日常を壊してるみたいじゃないですか……」

「……優勝を目指すなら、そうなる」

 その可能性を考慮してなかったのか、チノが一瞬だけ膠着する。

「それなら……!それならどうしたら私の日常は取り戻せるんですか!」

 ――ヒュンッ!
 チノが勢い良く剣を振るう

 ――ガキィィン!
 凄まじい金属音が鳴り響き、私が剣で受け止める。

「残念だけど、一度喪ったものは取り戻せない……」

「取り戻せます!優勝してみんなを生き返らせるのはどうですか!?」

 チノが激情に駆られたように激しく剣を振るい、私は剣でそれらを弾く。
 エンゲージするまでもない。技術の差で身体能力の差は埋められるし――今はこのチノの激情を受け止めてあげたい。荒波のように押し寄せる、チノの怒りを。そして哀しみを。
 そしてチノと対話して、分かり合いたい。
   
「……その過程でココアを殺すとしても?」

「ココアさんはたしかに一度、死ぬかもしれません。でもまた生き返らせれば、ココアさんはきっとまた笑ってくれるはずです!」

「……本気でそう思ってる?」

「当たり前です。ココアさんなら、ココアさんならきっとわかってくれるはずです!」

 ……嘘だ。
 チノは嘘をついて、自分の本心を誤魔化そうとしてる。
 そして私はそんな嘘偽りで覆い隠した心を放置したくない。チノはそんな子じゃないと思うから――助けたい。

「チノ。もう一度言う。喪ったものを――命を軽んじるのは良くない」

850百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:40:30 ID:JcD8bctM0
 チノの瞳を真っ直ぐと見て、そう言った。
 そう。命は軽いものじゃない。その重さは――皮肉にも、閃刀姫だからよく理解している。
 ――だから灰色(グリザイユ)の迷宮を彷徨うチノに容赦のない言葉を浴びせる。
 それは彼女を止めたいからでもあるし、しっかり本心と向き合ってほしいから。

 ――チノを殺すのも、制圧するのも。力で止めるのは難しくない。私には凌牙もいる。
 でもそれじゃダメ。そんなやり方は間違っている。
 力で勝つだけじゃ、何かが足りないから。
 時にはこうして剣を交えることも大事かもしれない。そうすることでチノの気持ちを受け止められるなら……。
 でもこれは殺し合いじゃない。私はチノを死なせる気がない。

『時には拳を、時には花を――ですよ、ロゼ』
 
 ――過去にレイが口にしていた言葉が脳裏に蘇る。

 『……よく、わからない』

 当時の私はそんなふうに返事をしていた。もしかしたら困惑気味の表情になっていたかもしれない。

 『いいですか?ロゼ。――闘いの場所は心の中なんですよ』

 ――レイは微笑みながらそう言っていた。
 そしてその言葉は――本当にその通りだと思う。私たちは――閃刀姫は殺戮兵器じゃないから。人間だから。
 殺して、制圧して、身動きを取れなくして――そうやって力で勝つだけだと、殺戮兵器と変わらない。
 だから自分にだけは決して負けない。それが私の誓い。

「……命を軽んじてなんて、ないですよ。むしろ重いです。マヤさんの分も、リゼさんの分も。すごく……重たいです。
 だから――」

「――それなら!」

 私が珍しく発する大きな声に、チノがビクリと怯える。
 でも私の目的はそれじゃない。
 私が言いたいのは――

「それなら、気軽に全員生き返らせるなんて言わない方がいい。それは死者への冒涜」

「……気軽に言ってなんか、ないですよ。ただ私はどうしたらいいのかわからなくて、またみんなで他愛もない話をして日常を過ごしたいだけです。そのために、覚悟を決めたんです!」

「それがココアやチノの友達や、私達ここで出来た仲間を殺すことになっても?」

851百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:41:15 ID:JcD8bctM0

「はい。だからみんな生き返らせるんです……!」

「……チノ。自分の言ってる意味がわかってる?」

「わかってますよ!もう私は奇跡に縋るしかないんです……!」

「何もわかってない。マヤやリゼを〝奇跡〟で生き返らせても、きっと彼女達は良く思わない」

「……!」

 チノが一瞬だけ大きく目を見開き――首を左右に振る。

「それはわからないじゃないですか!どうしてマヤさんやリゼさんを大して知らないロゼさんがそんなことを断言出来るんですか!」

 必死に現実を否定するように、チノは怒号と共に剣を何度も振るう。
 私はそれらを自分の剣で弾きながら、口を開いた。

「――それは、チノを信じてるから」

「そんなことマヤさんやリゼさんには無関係じゃないですか!」

「そんなことない。チノを信じてるから――チノの友も優しい心の持ち主だと信じられる」

 それは嘘偽りない私の本音だった。
 レイと深く関わるようになってから本当に考え方が変わった――と我ながら思う。
 以前の私なら、危険要素を秘めたチノは迅速に殺していた。説得なんてしなかった。
 でも今の私は、違う。
 チノを殺戮者にしたくない。チノを殺したくない。私と同じ気持ち――と言っても恋愛感情まではないけど。
 ココアのことをまるで家族のように話すチノを同志と思ってるから……余計にどうしても、肩入れしてしまう。
 
「……っ!」

 チノが言葉を詰まらせる。
 それでも剣は振り続けていた。まるで現実を否定するような、ヤケクソ気味に我武者羅な太刀筋で。
 そんなチノの気持ちを剣で受け止めながら、私は続ける。

「今のチノをココアが見たら、きっと悲しむ。ココアすら一度殺して元通りなんて――世界はそんなにも甘くない。チノに殺されたココアの心は変わり果てるかもしれない」
 
「それ、は……!」

「チノがやろうとしてることは、みんなの命を奪うと同時に魂の殺人。――それはわかってる?」

「それは……たしかにそうかもしれません。でも、じゃあどうしたらいいんですか!」

「悔いが残らねぇ選択をすることだな。ただしチノ、テメェが皆殺しにする覚悟を決めたなら俺やロゼが全力で止める」

 凌牙がそんなことを言う。
 その口調は重くて、彼も何かを背負ってるように見えた。

「俺はダチの遊馬を殺された。だが他人を殺し回ってあいつを生き返らせるつもりもねぇ。そんなことしても――あいつは喜ばねぇし、悲しむって信じてるからだ。――チノ、お前のダチは違うのか?」

 レイがまだ生きてる私と違って友を失った――チノと同じ境遇の凌牙の言葉。
 それはもしかしたら私の言葉よりもチノの心に届いてるかもしれない。

「マヤさんやリゼさんも同じですよ!でも私は日常を取り戻したくて――だから、そのために!」

「――チノ。元通りの日常には戻れないかもしれない。でもココアやメグの名前はまだ放送で呼ばれてない。つまりまだ生きてる可能性が高い」

「……そうですね。ココアさんやメグさんはまだ生きてます。でもリゼさんのいないラビットハウスやマヤさんのいないチマメ隊なんて、そんなの嫌です……!」

「……気持ちはわかる。私もレイを失いたくないから。でもココアやメグまで殺したら、チノは本当に日常に帰れなくなる。たとえ死者蘇生させたとしても……きっとチノの心は壊れて、戻らない」

「じゃあ、私はどうしたら……!」

「まだ生き残っているココアとメグを大切にしたら良い。マヤとリゼは失ったかもしれないけど――この二人とならまだ日常に戻れる可能性がある」

852百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:41:54 ID:JcD8bctM0
「……言ったじゃないですか。リゼさんがいないラビットハウス。マヤさんがいないチマメ隊なんて……嫌なんです。もうこうなったら自殺でもした方が――」

 ――パシンッ!
 私がチノをビンタした音が、鳴り響いた。

「な――何をするんですか!」

 チノが動揺気味になりながらも、声を荒げる。

「……チノ。言っていいことと、悪いことがある。チノが自殺なんてしたら、みんなが――私も、悲しむ。だから、やめてほしい」

「こんな地獄みたいな状況でまだ足掻けと、ロゼさんはそう言うんですか!?」

「そう。その代わり――チノやココアやメグは私が守る。約束する」

 そう言って、小指を差し出す。

 『いいですか?ロゼ。何かを約束する時はこうするんですよ。指切りげんまん……って!』

 過去にレイに教わった〝約束〟の方法。
 それを実行するために私は小指を差し出した。

「……わかりました」

 チノも剣を仕舞い、互いの小指と小指を組ませて――

「指切りげんまん。嘘をついたら針千本飲む」
「ありがとうございます。ロゼさん……」

 そうするとチノが瞳からまた雫を垂れ流したから――私は彼女を抱き締めて、ぎこちない手付きで撫でる。

「本当はココアにしてもらいたいだろうけど、今は私で我慢してほしい……」

「我慢なんて……そんなことありません。ロゼさんが優しい人で良かったです……」

 涙声になり、私に抱き締めながらチノはそんな言葉を口にした。

「私も……チノが強くて優しい子で良かった……」

 私や凌牙の言葉で誰かを殺す前に止まったチノは、強くて優しい子だと思った。
 もしもチノが止まらなかったら――本当にどうなっていたかわからない。
 平静を装ってたけど、本当は緊張していたし、不安だった。
 緊張から解放された身体が――思わずよろめきかけて。

「わわっ!大丈夫ですか!?ロゼさん」

「大丈夫。緊張感が抜けて、よろけただけ」

 よろけた私をチノが受け止めて、心配そうに声を掛けてくる。

「それなら良かったですが……ロゼさんも緊張してたんですね……」

「そう。少しだけ……」

「そうですか。本当にありがとうございます、ロゼさん」

 そんな私をチノは不器用な手付きで撫でてきた。
 よろけた態勢を受け止められた状態だったから私の頭はチノの手が届く範囲にもあって……チノのそのぎこちない撫でが、どことなく心地好い。

「でも……ロゼさん。私は、強くないですよ」

「いや……チノは強い。私と凌牙の言葉で止まったチノの心は……強い」

「……それは二人のおかげです。私一人では弱いです。……だからまた私に力を貸してくれないですか?私一人だと、ココアさんやメグさんを守ったりこの殺し合いから抜け出すのは難しいですから」

 チノの言葉に、私は微笑む。
 ……あまりこういう表情にはまだ自信がないから、上手く微笑めてるかはわからないけど。

「言われるまでもない。――さっき言った通り、チノとココアとメグは私が守る。そしてこの殺し合いは私が終わらせる」

「ッたく、しょうがねぇ奴らだな。俺もお前らに手を貸してやるよ。……遊馬でもそうするだろうからな」

 そう口にする凌牙は、言葉とは裏腹にそんなに嫌そうな表情や顰めっ面はしてない。

「ロゼさん、凌牙さん……ありがとうございます!」

 チノは涙を拭うと、私達に微笑んできた。
 そんな彼女を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
 本当に強くて、優しい子だと思った。――だから私はチノの笑顔を守れたいと、改めて誓う。

 ◯

 やがて真上に太陽昇り、全てに影を作るように。
 君が不安を感じたとしても――1人きりじゃない。
 君の周りには想いが溢れ……。
 雨上がり虹、大空に青。
 君に自由な翼……。
 迷った時でも、常に前を見て。心届く声、こだまする木々。
 足音は響き……。――さぁ、始まりの君へ

853百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:42:36 ID:JcD8bctM0
【D-3 エーデルフェルト邸/一日目/午前】
【閃刀姫-ロゼ@遊戯王OCG】
[状態]:疲労(大)、左肩に斬傷(治癒済み)
[装備]:閃刀姫-ロゼの剣@遊戯王OCG、
[道具]:基本支給品×2、涼邑零の魔戒剣@牙狼-GARO-、チームみかづき荘のロケット@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)
     モウヤンのカレー@遊戯王OCG、閃刀姫-カガリ(現在召喚不可能)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜2(零の分含む。)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗やハ・デスを斬り、大切な人(レイ)の待つ平和な日常に帰る
1:零……司……。
2:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
3:レイを見つけて守る。
4:私やレイがカードに?どういうこと? それに彼女(カガリ)ってレイの……
5:チノとその友(ココア、メグ)は私が守る
[備考]
※遊戯王カードについての知識はありません。
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)
[装備]: チノ(せんし)の剣@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、ご隠居の猛毒薬@遊戯王OCG(4時間発動不可)
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスや檀黎斗達を倒して平和な日常に――ココアさんのいる場所に帰りたいです
1:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)と遊戯さん、凌牙さんの友人を探したいです
2:ロゼさんや凌牙さんに協力します。
3:ココアさんやみんなを探したいです
4:ティッピーはここにはいないんでしょうか……?
5:マヤさん……リゼさん……
6:平行世界のココアさん…私の知ってるココアさんとは違うんですか?
7:エボルトを警戒。何なんですかこの人……。
8:私はもう迷いません。ロゼさんや凌牙さんと一緒にこの殺し合いに抗います
[備考]
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

【神代凌牙@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(神代凌牙)@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×2(自分、遊馬)
[思考・状況]基本方針:遊馬の導いた希望の未来のために主催者を倒す
1:カイトは協力を頼んでおく。ベクターは……会ってから判断
2:不動遊星、仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)と遊戯、チノの友人を探す。
3:魔法を破壊出来る上にあの攻撃力……あの女(ジャンヌ)厄介だな。
4:こいつ(蛇王院)の怪我はもう大丈夫か
5:遊馬を殺した奴は気になるが、復讐心にはかられるな
6:村雨を持った奴を警戒
7:どうやらチノの迷いは晴れたようだな
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

854 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:42:59 ID:JcD8bctM0
投下終了です

855 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 07:36:34 ID:JcD8bctM0
拙作「切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え」以降の肉体派おじゃる丸ですが所持品から異次元からの埋葬@遊戯王OCGが抜けていたので修正しました
また異次元からの埋葬@遊戯王OCGの説明文を追記しました

856 ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:53:37 ID:RGAcntrk0
投下お疲れ様です。自分もゲリラ投下します

857SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:54:46 ID:RGAcntrk0
桜ノ館中学に思う所があるかと聞かれ、首を縦に振る者はここにいない。
白鳥司は施設の存在を知る事なく、定時放送前に脱落。
琴岡みかげは覇瞳皇帝に心を委ね、今は廃ホテルへ身を潜ませている。
鷲尾撫子に至っては、本選出場の権利自体を与えられなかった。

数時間前に集まった面々からすると、神が戯れに再現した学び舎の一つに過ぎない。
出発準備を終え、正面出入り口へ向かう二人にとってもそう。
もし再びエリアへ来る機会があったら、目印になるかといった程度。
名残惜しさは抱かず、いろはの意識はこれより向かう場所へ。
正確に言うと、そこで待ってるだろう者に大きく割かれる。

少しだけ過去の時間から来たやちよは、今どうなっているのだろうか。
6時間を生き延びたがしかし、安堵を長続きさせられる環境ではない。
他の魔法少女の追随を許さぬ強さとはいえ、殺し合いのプレイヤーは油断ならない強者ばかり。
まして放送で親しい存在が二人も呼ばれたのだ。
打ちのめされ、澄んだ心に澱みが生まれてもおかしくない。

悲しみのぶつけ先に迷い、自分自身を傷付けてしまうようなら。
会いに行き、受け止めてあげたい。
生きている自分の姿を見せ、交わした約束が偽りじゃないと伝えたい。
たった一人でも強くあろうとし、その実孤独を嫌う不器用な優しい人。
時間軸が違えどいろはにとっては、大切で時に憧れ以上の想いを向ける相手で――

「そんじゃあ宜しく頼むぜお二人さん。暫くは三人旅になるんだ、これを機にお互い友情を深るのも良いかもなァ?」

海の色をした、青く輝く三日月へ馳せる時間は強引に幕を下ろされる。
慈悲や配慮の真逆に位置するモノを籠めた、赤い蛇の軽口がいろはの意識を引き戻す。
自分達を追い越し前に出た男が、ヘラリと笑うのが見えた。
男性モデルと言われても通用する長身は、あくまで仮の姿でしかなく。
顔を変え、体を変え、性別を変え。
どれだけ変えても背筋が寒くなる本性だけは、常に付き纏う。

858SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:55:31 ID:RGAcntrk0
「は、はい。よろしくお願いします」
「……」

緊張感を隠せずとも、生来のお人好しさ故かいろはは律儀に頭を下げる。
反対に言葉を発さぬまま、貼り付けた貌から殊更に気色を削ぎ落とすのが黒死牟だった。
人の皮を被り、隙あらば癪に障る戯言を垂れ流す男へ何を思うか。
説明するまでもなく、それでもあえて言うのならば。
屠り合いの参加者に向けた中で、最も冷え切った視線が答えだろう。

「おっかない顔すんなって。いろはとの二人きりを邪魔されて、不機嫌になる気持ちは分かるけどよ。
 俺もいい加減道草食うのは終わりにしなきゃ、戦兎から雷落とされちまうんでな」

何が原因で怒りを買ったか、理由を分からない筈はなく。
分かった上で見当違いも甚だしい、妄言を嫌悪の理由に当て嵌める。
まっこと不快極まる物言いに、しかし殺意を刃へ宿す真似には出ない。
首に剣を添えられたとて、黙る男でないとは情報開示の場でうんざりする程理解出来た。
戯言へ馬鹿正直に付き合って得るものといえば、無駄に蓄積される不快感のみ。
まともに相手をする方が損だと、結論へ辿り着くのに時間は掛からなかった。

思い浮かべるは嘗ての同胞、始祖に仕えた上弦の弐。
滅多な事が起きねば百年以上顔を合わせないが、招集が掛かればその空白を埋めるが如く馴れ馴れしく接する。
序列が一つ下であった上弦の参には特に、傍目にもうんざりする程纏わり付いていたか。
今更になって憐憫だ何だのを抱く気はない。
ただ似たような事が降り掛かり、これは確かに鬱陶しいとの納得はあった。

「ま、お喋りはこれくらいにしてだ。のんびりし過ぎて待たせちゃ悪いんで、そろそろ行きますかね」

自分から余計な会話を始めたと自覚しつつ、エボルトは出発を促す。
いろは達かイリヤ達、どちらに付くか悩むこと数分と十数秒。
選んだのは前者、当初の予定通りやちよとの合流場所へ向かう。
D-1が禁止エリアに指定される予想外の自体を含めても、流石に戦兎と別行動を取り過ぎた。
元々信頼関係など皆無に等しい間柄とはいえ、エボルトからすれば万丈と並んで利用価値の高い人間。
道草食ったせいで決裂となっては、こちらとしても少々頭が痛い。
イリヤ達がカイザーインサイトの元へ行き、衝突が起きやしないかとの懸念はある。
だが天秤に掛けた時、前々から能力の高さを知る戦兎が勝った。

859SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:56:30 ID:RGAcntrk0
戦兎に顔を見せに戻るついでに、いろはをやちよの元へ送り届ける。
そう決めた以上、長々と桜ノ館中学に居座っていられない。

「で、遠足気分で歩いて行くのか?あの馬鹿デカい鰻を使えば、楽出来そうなんだけどな」
「うな……えっ、蛇じゃないんですか…?」
「貴様が的を一手に引き受けるならば……呼び出すのも吝かではない……」
「ナイスアイディアだが、今回は却下にしといてくれ」

フェントホープから三人をここまで運んだ大蛇、ククルカンの再召喚は可能。
優秀な飛行速度を誇るサガの眷属だったら、移動時間の大幅な短縮になる。
巨体故に目立ち過ぎる欠点へ、目を瞑ればという前提が付くが。
地上から狙い撃たれたとしても、対処不可能と断じるつもりはない。
しかし身動きの制限された宙で、鎧を剥がされるもしもの可能性を黒死牟は低く見れなかった。

「鰻のタクシーは別の機会に持ち越しってか。そりゃ残念だ」

何故この男はさも当たり前のように、こちらが使役する大蛇へ次も乗れると思えるのか。
ロクな答えが返って来ないのは確実な為、あえて聞きはしない。

「バイクはこの人数じゃ無理か。どっかに都合良く車でも転がってりゃ、軽く飛ばして行けるってのになァ」
「運転、出来るんですか?」
「これでも地球暮らしが長かったんでね。家族サービスのドライブは、残念ながら一度もやれなかったが」

旧世界を懐かしむエボルトが本心から言ってるかはともかく。
車を走らせるのが可能というのは大きい。
何せ運転技術を発揮するのにお誂え向きな足が、どこにあるのか知っている。
遠慮がちに横を向くと、彼の六眼と目が合う。
言いたい内容を察したのだろう、どことなく機嫌の悪さが見て取れた。

「……」

別に、黒死牟とていろはの考えが間違いだとは思わない。
使い道の生まれた道具を死蔵する方が、遥かに愚行。
散々不快感を煽った化生へ譲渡しなければならない、その一点が気に食わないだけだ。

とはいえ童さながらの駄々を捏ねてまで、拒否を示す程の恥知らずに非ず。
仏頂面で支給品袋に手を突っ込み、望みの物を引き上げる。
外へ飛び出たソレへ向けた蛇の笑いは、当然のように黙殺した。

860SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:57:05 ID:RGAcntrk0



振背後で桜ノ館中学が見えなくなり早数分。
舗装も何もされていない砂利道を抜け、灰色のアスファルトを発見。
信号や標識のない一本道を、エボルトが運転する車が駆けていた。

軽自動車と言うにはサイズが違う。
トラックと言うには形が異なる。
現代社会で見かける瞬間はあれど、一般人が乗り回す機会は普通なら永遠にない。
犯罪者の移送目的に使われる大型車両。
囚人護送車が、上弦の壱に宛がわれた最後の支給品であった。

車がなにかを、黒死牟が知識で知らない訳ではない。
大正時代の日本でも、自動車は徐々に普及が始まった。
人力車や馬車に大きく取って代わる程ではなく、本格的な生産はまだ先の話。
けれどそういった乗り物があるとは、黒死牟が生きた日本においても事実として存在する。
人とは異なる世界、異なる時間を生きる身なれど。
時代と共に変化していく社会と文化を知らぬまま、年号を跨いで来たつもりも無し。
元々は武家の長男に生まれ、教養があり、文字の読み書きを正しく学んだ男なのだ。
そういった生来の生真面目さが少なからず影響したか、定かでなくとも。
人間の世は知識となり蓄えられた。

尤も、知っているのと実際に運転可能かは別の話。
檀黎斗が蘇生させる際、都合良く現代の自動車を操れる技術も授けた。
などと都合の良い展開は起きず、折角の移動手段も宝の持ち腐れ。
仮に聖都大学附属病院に留まっていれば、天津あたりに譲渡したかもしれない。
襲撃で散り散りになった以上、起こらなかったIFの話だ。

「しっかし、運転出来ない奴に渡してどうしたかったのかねぇ?神様と馬鹿は何とやらってか?」

ゲームマスターへの嘲りを独り言ちるも、不敬と咎める者は付近に不在。
単なる面白半分かどうかは不明だが、正解が何であれ然して興味はない。
丁度良い足が手に入ったなら、エボルトには十分だ。
護送車の運転は初めてといっても、少し走らせれば慣れたも同然。
鼻歌交じりにハンドル操作し、チラと金網越しの後部を見やる。

861SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:58:06 ID:RGAcntrk0
被疑者用の座席に、向かい合って座る少女と男。
あくまで支給品だと分かってはいるが、いろはは妙な緊張感を覚えた。
真っ当に生きていれば、一生乗る機会の無い空間なら無理もない。

正面に腰を下ろす黒死牟は動揺もなく、黙したままルーフを見上げる。
透明度が最も低いスモークフィルムに加え、全ての窓部分にカーテンが常備。
外から被疑者の顔を隠す為の措置は都合良く、鬼の天敵を遮断する役目を果たす。
日を避けたまま最短での移動が可能なら、付ける文句も見当たらない。
確固たる方針は見付けられぬ身、だが闘争に臨む牙を腐らせる気も無し。
鉄の箱に座り込みながらも気を張り、襲撃への警戒は怠らなかった。

「……」

ふと、視線を屋根から正面に移す。
視界に閉じ込められた娘は気付いておらず、閉じた膝に目を落としている。
これより向かう先で待つのは、いろはが信頼を置く仲間。
しかもエボルトの話を聞く限り、並々ならぬ重さの感情をいろはに抱く者。
知己の友と再会するなら、願ったり叶ったりだろう。
但しそこに鬼という異物が混ざれば、果たして何が起こるやら。

「にしてもやちよの奴、お気に入りのいろはが男同伴で来て荒れなきゃ良いけどな」
「…やちよさんは、そんなことしません」

心を読んだかのタイミングで、運転席から戯言が飛び出す。
偶然に過ぎなくとも良い気分にはならず、僅かに目を細める。
ムッと反論したいろはも黒死牟の様子に気付き、困ったような表情を作った。

「ちょっとだけ驚くかもしれないけど、でも、話も聞かないで黒死牟さんを傷付ける人じゃありませんよ?厳しい所もあるけど、優しくて…繊細な人だから」
「……」

何を勘違いしてか、やちよのことを伝えて来るいろはへ返すのは沈黙。
恐怖や嫌悪が己に集まったとて、何一つ感じ入るものはない。
鬼とはそういう存在と分かり切った上で、始祖に魂を売り渡したのだ。
今更掌を返し、受け入れてくれと願う訳がないだろうに。
仮にエボルトの言った通りになっても、当たり前だとしか思わない。

ただ、いろはの表情が和らぐのを見て。
宿るのが紛れもない、七海やちよという女へ向けた信頼の証明と察し。
そのような者と自分を引き合わせるのに、何の抵抗もないのかと。
一抹の疑念が浮かぶも、問いが口を突いて出はしなかった。
聞いた所で、返される言葉は安易に予想が付く。

862SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:59:06 ID:RGAcntrk0
予想が付くくらいには、環いろはへ思考を割き続けて今に至る。
という雑念に顔を顰めるより早く、意識が闘争へ飛び込むソレへ切り替わった。

鼻を衝く戦のにおい、複数の敵意が肌を裂く痛みとなって駆け巡る。
獣の唸りに近いようで異なる、腸まで揺さぶる低い音。

「おっと?呼んでもいないお客さんが来ちまったか?」

同じ感覚を味わったエボルトも、サイドミラーで後部を確認。
先程から響いて止まない重低音の正体は、現代に生きるが故に即座に分かった。
排気ガスを吐き散らすバイクのマフラー音、それも一台ではなく複数。
護送車を追って現れた一団をしかと目に入れ、浮かべたのは呆れ笑い。
見覚えは無い、しかしどういった存在かエボルトも良く知っている。

「冗談にしちゃ、気が利き過ぎだぜ?ゲームマスター様」

呟きを掻き消すように、一段とエンジンを吹かしソレらが迫り来る。
黄金色(こがねいろ)のグローブにブーツ、胸部装甲は日を浴び一層輝く。
ライダースジャケットに似た強化服が全身を覆い、微かに地肌が見え隠れするのは首部分のみ。
スピードを上げる度に黄色のマフラーが靡くが、ダークグリーンの瞳は獲物を捉えて離さない。
どこか飛蝗に似た仮面のデザインと、風車を思わせるベルトに知る者は口を揃え言うだろう。
仮面ライダーと。

尤も、正確に言うとコレらは仮面ライダーの括りに入らない。
名をショッカーライダー。
秘密結社SHOCKERが、裏切り者の改造人間をベースに開発した上級戦闘員。
仮面ライダー1号、否、ホッパー1号と酷似した外見なのはそれが理由だ。
更に付け加えるなら、ショッカーライダー達は参加者ですらなかった。

「どいつもこいつも首輪は無し、と。解除方法を知ってるなら是非教えて欲しいね」
「戯けるな……自我無き人形の群れが……仕掛けて来たのだろう……」
「ルールにあったNPCが襲って来た、ってことですか…?」

参加者同士の戦闘だけを経験し、NPCに襲われたのは今が初。
しかしそういった存在が会場に解き放たれてると、いろはと黒死牟も把握済。
起こり得ない事態ではなく、動揺で慌てふためく醜態は晒さない。

863SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:00:30 ID:RGAcntrk0
「うおっ…とォ!」

単にバイクで追走するだけなら、振り切るのは困難じゃない。
生憎煽り運転程度で済ます程、お優しい行動はプログラムされていないらしかった。
ショッカーライダーの一体が護送車目掛けて、ダーツを投擲。
当たった所で大きな破損は起きないが、爆弾付きなら話は別だ。
ハンドルを操作しどうにか回避、爆風が車体を撫でるも走行不可能には至らない。

最初の放送で既に言われたが、NPCは積極的に参加者を殺さない。
あくまで参加者同士の殺し合いこそがメインであって、主軸は外れていない。
最強の敵キャラクターと謳う縁壱はともかく、有象無象のNPCがプレイヤーを殺すのは黎斗が望むゲームに非ず。

但し、積極的に『殺さない』だけで『襲わない』とは一言も言っていない。
つまり対処せずに放って置けば、いらぬ傷ばかりを増やされる。
最悪の場合、護送車の爆発に巻き込まれたっておかしくはない。
戦わない選択肢は真っ先に外し、

立ち上がり掛けたいろはを、黒死牟が片手で制した。

「えっ、黒死牟さん?」
「無意味に体力を削る暇があれば……脆い肉体を万全に近付けるよう努め……次に備えておけ……」

魔法少女は常人を遥かに超えた能力を持つ。
最大の特徴として、ソウルジェムが破壊されない限りは死なない。
とはいえ、何もかも全てが人の枠組みを超えたかと言うなら違う。
動けば動いた分消耗し、汗を掻き、腹は減り、喉が乾き、眠気に襲われる。
傷付けられれば痛みを感じて、当然の如く出血だって起こる。

一方鬼は太陽を浴びるか日輪刀で頸を断たれなければ、あらゆる負傷も無意味。
再生の度合いによっては体力の消費が起きるが、その点も現在の黒死牟には問題無し。
屠り合いで受けた傷は、縁壱に頸を薄く斬られた一つのみ。
既に完治しており、この程度で疲労など感じよう筈もなかった。

いろはが不要に体力と魔力を奪われるよりは、黒死牟が蹴散らす方が手っ取り早い。
合理的に考えた末の結論を、ニコリともせずに告げる。

「要は面倒事は自分に任せて、いろはには休んでろって言いたいんだろ?お侍殿はお優しいこって」
「貴様の頭は……言葉一つすら歪曲する程に……腐り切っているのか……?」
「お堅い言い方をソフト表現にしてやった、俺なりの優しさと思って欲しいね。とにかく相手すんなら任せるぜ!こっちは手が放せないんでな!」

一体全体自分の話のどこを聞いていたのかと、睨み付けるも効果無し。
運転を放り投げてまで戯言を叩く程、現状を見れていないのではない。
であれば一々青筋を浮かべ、食って掛かるのは無駄の二文字に他ならなかった。
背を向け、意志に応じて人工生命体がデイパックから飛び出す。
必要に駆られなければ頼る気も起きないが、日を防ぐ鎧無くして屋外での戦闘は不可能。
慣れぬ力でどこまで戦えるか、試運転の良い機会でもある。

『HEN-SHIN』

縦笛に似た得物をサガークへ装填し、白い鎧で我が身を覆い隠す。
後は生身を晒す無様を避けつつ、人形達を斬るのみ。
戦場を移すべくドアに手を掛け、

「あの!ありがとうございます!」

飛び出す寸前で、そんな声を拾った。

864SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:01:34 ID:RGAcntrk0



機動性強化を施したバイクが4台、内2台には二体ずつが乗車。
計6体のショッカーライダーが護送車を襲撃。
屋根へ軽やかに飛び乗った黒死牟を、前後から挟むように敵も跳躍。
走行中の狭いスペースが、今宵の闘争の舞台となる。

運転手を失い道路を転がるマシンには目もくれず、ショッカーライダーが仕掛ける。
得物の類は握られておらずとも、拳一発蹴り一撃が過剰なまでの凶器と化す。
ホッパー1号をベースに開発されただけあって、徒手空拳特化の性能だ。
無駄のない、鋭く重い鉄拳が放たれた。

顔面狙いの拳は仮面を砕き、顔面すら突き破り兼ねない勢い。
わざと攻撃を受け入れる被虐趣味を持ち合わせない以上、対処は至極当然。
銀の鎖を巻き付けた腕を添え、力の向かう先を逸らす。
立て直しまでの数秒を、むざむざ許さない。
逆に一撃食らわせんとするが、もう一体が妨害に動く。
背後からの蹴りが脇腹を叩こうと走り、感じた手応えは苦痛を与えたのとは別物。
ザンバットソードの眩い刀身を翳し、己が身へは掠らせもしない。
続けて黒死牟が斬り掛かるのを待たず、前方から再度拳が振るわれた。

時に躱し、時に受け流し、時に防ぎながら敵の力を冷静に見極める。
十数の殴打から分かったのは、敵が連携に慣れているということ。
互いに隙を埋め合い、且つ足を引っ張り合わない猛攻を実現していた。

(絡繰り仕掛けの人形故に……乱れぬ動きを物とするか……)

サガの仮面越しに、透き通る世界で人形兵達を奥まで捉える。
臓器や筋肉、骨以外に複数の異物を確認。
人体に無機物が組み合わさり、運動能力を大きく引き上げている。
改造人間、ふいにその四文字が浮かんだ。

ショッカーライダーはホッパー1号をベースに開発されたが、性能はオリジナルに劣る。
数年に渡って組織の追手と戦い続けた本郷猛と、スペックだけ同じ量産型の兵士。
大きく開けた経験値の差を埋めるのが、計6体の集団戦法。
原典の世界でのナノマシンロボ散布計画時には、数回に渡ってホッパー1号と渡り合った
あくまで精巧なコピーに過ぎないNPCであっても、連携の巧さは健在。
標的が動けなくなるまで、拳と蹴りが浴びせられるだろう。

865SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:02:11 ID:RGAcntrk0
敵の力の程を租借し、同時に黒死牟が思考を割くのは自身の状態。
仮面ライダーサガ。
時に運命の鎧とも称された姿が、果たして如何程使い物になるか。
何が出来て出来ないかを、この機会に把握せねばなるまい。

鎧を纏い、単なる移動ではなく実戦に身を投じるのはこれが初めて。
率直な感想としては、違和感を拭えない。

甲冑を身に着けた最も新しい記憶と言えば、鬼の存在を知った夜。
弟との再会で己が魂が再び狂い始めた、あの時が最後。
頑強な鎧も鬼の膂力や牙の前には、書道紙と何ら変わりない。
却って機動力を削がれる枷を、無意味と知りつつ着込む気にはならなかった。

数百年越しに鎧を纏っての戦闘だが、予想していた動きにくさはほとんどない。
まるで、前々から装着を続けたような着心地がある。

不可思議な感覚の正体は、サガの四肢へ絡み付く鎖によって齎される恩恵。
この装飾はデュミナスカテナと呼ばれ、拘束目的で備わったのではない。
変身者の意志を先読みし伸縮、挙動に合わせた最適な運動能力強化を行う。
黒死牟が動き一つに出る毎に、サポート装置が効果を発揮しているのだ。

だから全く思い通りの動きが出来ない、といった事態は防げる。
その事実を加味した上で、使い心地の悪さを拭い切れない。
慣れぬ筈の力が、最初から慣れた感覚として使用可能。
違和感が無い事こそ、逆に大きな違和感になっていた。

サガの機能とは別に、現状は黒死牟本来の戦法も取れなかった。
愛刀たる虚哭神去は自身の血肉から生み出しており、鬼の体と同等の性質を持つ。
即ち、陽光を浴びれば瞬く間に燃え盛り消失。
血鬼術と組み合わせた月の呼吸も、必須となる刀無くして発動出来ず。
屠り合いで手に入れた、鎧と魔剣を要に変え戦う他ない。

敵の力と自身の戦力。
双方を驕り抜きにしかと見極め、間髪入れず襲い来るは鉄拳の嵐。
人形兵が繰り出す怒涛の連撃を前に、枷を付けられた鬼は――

866SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:02:59 ID:RGAcntrk0
「もう十分だ……児戯に付き合う理由も失せた……」

拳の間をすり抜けた魔剣が、両腕を斬り落とした。

標的を砕く得物を両方失い、ショッカーライダーの動きが硬直。
自ら死を受け入れるに等しい隙と、理解出来たかどうか。
一刀両断、頭部から股まで二つに断たれ終わりだ。
地面へ落下し数回のバウンドを経て爆散、悲鳴一つ聞こえて来ない。

そもそもの話、黒死牟はショッカーライダーを最初から脅威とは思っていない。
牙を剥く拳の何たる脆いことか。
同じ主に仕えた拳鬼の、足元にも及ばぬ弱さではないか。
連携に慣れているから何だと言う。
この身を滅ぼした柱達と鬼食いの小僧、彼奴等のが遥かに上等だった。
本来の戦法が封じられたとはいえ、この程度の輩に後れを取る程我が刃を錆び付かせた覚えも無し。

破壊された分の穴を埋めるように、二人乗りのバイクから一体が屋根へ飛び乗る。
更にはマシンを駆る者達がダーツを投擲し援護。
拙雑な狙いに非ずとも、鬼を射抜くにはまるで足りない。
魔剣の一振りで斬り落とし、爆発が起きるもそれすら無駄。
膂力を十全に乗せ薙ぎ払えば、途端に暴風か発生。
たちまち熱風が掻き消され、すかさず背後の標的へと駆け出す。

迎撃で蹴りを繰り出す、そんな指令を脳が与える暇もやらない。
強化服諸共、袈裟斬りの餌食に遭い機能停止。
先んじて道路を転がる上半身を追って、下半身も地面へダイブ。
木っ端微塵の末路を見届けずに、残る一体の元へ跳躍。

走行中の屋根で足を離せば、普通は落下確実なれど黒死牟には関係無い。
標的から目を離さぬまま、投擲されたダーツを叩き落とす。
援護一つ取っても、所詮は自我無き人形の児戯。
己へ付き纏う、あの娘の光矢の方が余程――

867SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:03:50 ID:RGAcntrk0
「……」

余計な事へ思考を沈ませ掛けた、己への苛立ちも籠め魔剣を突き刺す。
喉を貫かれ、流れる夥しい血がマフラーを濁った赤に染める。
貫通したままの剣を持ち上げ、振り回せばショッカーライダーは枯れ葉のように舞い飛んで行った。
空中に焼け付く花を咲かせ、これで三体目も撃破。

血鬼術が封じられ、日中の屋外故に鬼の生命力も無に等しい。
しかし培った剣技と、数百年に渡り得た経験。
これら二つが失われなかった事こそ、無惨との最大の違いなのだろう。

鬼殺が完遂された今となっては、何を言っても空しいだけだが。
上弦全てを束ねても、到底敵わぬ高みへ無惨は君臨した。
あらゆる武の極致、あらゆる洗練された術。
そのどれもが無惨にとって、吹けば消える塵芥に等しい。
ただの一度も時を鍛錬へ費やさず、絶対的な力を我が物とする。
故にこそ始祖はいつの時代も、鬼舞辻無惨という完成された一個体として在り続けた。

ならば全く持って、皮肉と言う以外にない。
強さに裏打ちされた始祖の在り方こそが、屠り合いの末路の原因の一つになったのだから。
日の遮断と引き換えに、己の持つ生物としての強さを悉く削がれ。
武を知らぬ為、後れを取る結果へ繋がった。

一方で黒死牟もまた血鬼術こそ封じられたが、培った剣技と経験は健在。
無慈悲で理不尽な半月の檻を生み出す、月の呼吸を抜きにしても。
剣士としての腕だけ見た場合、黒死牟は非常に高い実力の持ち主だ。
仮に無惨と同じく、血鬼術や身体機能のみへ頼る鬼であったら。
遠くない内に主の後を追う最期が訪れたとて、不思議はない。
鬼に成り果てても侍である事は捨て切れず、修練を重ねて来た。
物心ついた時に学んだ剣術の基礎を、人を捨てた後も絶えず伸ばし続けた。
根付いた執着がよもや、こういった形で意味を為すとは――

868SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:05:16 ID:RGAcntrk0



――『兄上の夢はこの国で一番強い侍になることですか?』



「…………」

浮かんだ言葉を払うように頭を振る。
何の意味がある、今更思い出した所で何も変わらない。
侍とは程遠い末路を引き寄せたのが誰かなど、吐き気がする程に理解している。
軋む痛みが内より湧き出るも、続く雑音に似た声が苦痛を薄れさせた。

発生源は鎧を纏わせた、円盤状の生命体。
相も変らぬ理解不能の言語なれど、この時ばかりは過去から目を逸らすのに一役買った。
ついでに鎧を装着中だからか、伝えたい内容も何となく察せる。
元よりこの状態でどこまで戦えるかを、試す意図もあったのだ。
指図されてるようで良い気分とは言い難いが、無視を決め込む選択もない。
装着時以外で使わなかった縦笛から、真紅の刀身が生えたちまち剣へ早変わり。
すかさず腹部の機械へ、笛に似た道具を差し込む。

『Wake Up』

不安を掻き立てる、不気味な音楽が鳴り響く。
仮面ライダーキバがそうしたように、フエッスルを吹き魔皇力を上昇。
鮮血色の刃が輝きを増し、必殺の準備が整ったと理解。
道路を疾走中のショッカーライダーへ向け、得物を振り被る。

獲物へ飛び掛かる蛇のように、刀身が鞭へ変化。
巻き付くや大量の魔皇力を流し込み、内部機器と生身の肉体の両方を蹂躙。
火花を散らし痙攣、やがて動かなくなると同時に爆発が起きた。

4体目も難なく撃破し、手元へ戻した鞭を見つめる。
こういった使い道があると知れたが、やはり慣れない得物だ。
これならばまだ、真紅の光剣のままで振るう方が手に馴染む。

と、技を終えたにも関わらず輝きが発せられているのに気付く。
不審に思うも、すぐ自身の勘違いと分かった。
紅い輝きは握り締めた得物、ジャコーダーとは別の所。
現在走行中の護送車が、血よりも濃い色へ包まれていた。

869SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:05:58 ID:RGAcntrk0
「こ、これどうなってるんですか!?」
「そんな驚くようなもんじゃねぇさ。ちょいとばかし、俺好みにペイントしてやっただけだ」

明らかな異常事態へ、いろはも聞かずにはいられない。
混乱を多大に含んだ声もなんのその。
軽い調子で返された内容は、答えてるようで微妙に答えになってなかった。

エボルトが何をしたか、種明かしすれば実に単純極まる。
自身が持つブラッド族のエネルギーを、護送車に流し込んだ。
旧世界で戦兎達を相手取った時にも、度々やった戦法だ。
合体状態のガーディアンを支配下に置いた事もあり、トランスチームガンを強化しスクラッシュドライバーを破壊した事だってある。
時にはエボルト自身にエネルギーを流し、能力の上昇を図ったのも一度や二度じゃない。

だが現在のエボルトは、嘗て石動惣一の体を乗っ取った時よりも力が上。
未完成とはいえ取り込んだパンドラパネルの影響し、当然並の強化じゃ収まらない。

「しっかり捕まっとけ!少しだけ荒れるぞ!」

警告もそこそこにハンドルを操作。
車体が大回転し、タイヤが擦れる音がいろはの悲鳴と重なる。
鮮血のエネルギー波を放射しながら、装甲車がショッカーライダーへ激突。
バイク共々一瞬でスクラップに変わり、原型を留めぬ部品となって道路に散らばった。

進路を戻しつつ、運転席の窓を開ける。
すると間を置かず、強引に侵入しようとする者が出現。
辛うじて破壊を免れた、最後の一体のショッカーライダーだ。
下半身はひしゃげ使い物にならなくなったが、死に物狂いでしがみ付いたらしい。

「大した根性だねぇ。それを見込んでとびっきりのプレゼントだ。遠慮しなくていいぜ?」

尤も、儚い悪足掻きで終わるが。

片手でハンドルを動かし、もう片方の手を頭部へ向ける。
握り締めた得物、トランスチームガンが吐き出す高熱硬化弾が全弾命中。
マスクを突き抜け脳まで破壊、意識の接続も瞬く間に途切れた。

「CIA〜O♪」

力無く道路へ横たわった個体に、その声は届かない。
背後で起こる爆発を、クラシック音楽のような気分で聞きながら護送車を走らせる。
ちょっとした退屈凌ぎが済み、やがて車体を覆う真紅も消え失せた。

870SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:06:42 ID:RGAcntrk0



エボルトの運転のせいで振り落とされ、空き缶のように道路を転がる羽目になった。
なんて事態にはならず、扉を開け黒死牟は屋根から悠々と帰還。
鎧を解除し、先程と同じ座席に腰を下ろす。
数だけ揃えた所で、所詮は参加者ですらないNPC。
殲滅へ追いやるのは、赤子の手を捻るより容易い。

戦闘に勝利したからといって、戦利品は手に入らない。
支給品や首輪など、プレイヤーならあって然るべき物もNPCには無関係。
残ったのは爆発の被害で焦げた地面と、ブラッド族のエネルギー波で薙ぎ払われた周囲の地面のみ。
だが全く意味のない戦いだったと言い切るのは違う。

(凡そは把握した……やはり必要が無ければ……使う気が起きるものでもない……)

サガの鎧に思う所はこれまで同様、必要に迫られない限り積極的に纏う気はなかった。
しかし日が沈む前に、屋外での戦闘がこの先いつ起こるか分からないのだ。
遊星から譲渡された闇を発生させる札とて、制限が課せられた為使い所は考える必要がある。
となれば、サガの力を把握して正解だったと言えるだろう。
慣れぬ力と慌てふためき、右往左往する事態は避けられた筈。
縁壱相手に通用するとは到底思えないが。

見方を変えれば、無惨の最期を反面教師にしたとも捉えられる。
始祖が地獄で知ったら、大災害の如き憤怒が巻き起こるに違いない。
気付いているのかいないのか、最後の鬼は黙して目的地への到着を待つ。

正面の黒死牟の様子に、ホッと安堵がいろはの中に広まる。
彼の強さは知っているし、信じてなかった訳じゃない。
それでも一度は太陽に炙られ、苦悶の声を上げる場面を見たのもあってか。
惨たらしく肉の焼けた痕は無く、無傷で戻って来た姿に心から良かったと思えた。

今回は彼の言葉に頷いたけど、毎回自分だけ休んではいられない。
来るべき時に備え、言われた通り少しでも万全に近付けておく。
何だか前に、やちよから無茶を諫められた時のようだと思い、


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