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決闘バトルロイヤル part4

602 ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:46:28 ID:/WtLLkwA0
予約に数人追加して投下します

603LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:48:06 ID:/WtLLkwA0
大半の参加者にとって今回の放送は悲しいものだし、檀黎斗の態度には苛立ちを覚える者も多いだろう。
 事実としてメグは友人のリゼが死んだことに悲しみ、涙を流していた。
 親しいと言えど、優勝するためにいずれ殺さなきゃならない相手。
 だがやはりそうわかっていても、リゼの死は無性に悲しい。
 優勝して生き返らせれば済む話なのに。
 そう思っているのに。
 何故だか、溢れ出す涙が止まらない。

 その姿は先ほどメグ達が襲った桃達が見ればギャップに驚くかもしれない。……本来のメグは優しいと知るココア以外は。

 あんなに外道な戦法をした。
 マサツグやクウカ、挙句の果てにココアまで殺そうとした。
 それなのに。
 殺さなきゃいけない対象だったのに。
 涙という名の雨は降って止まない。

 ……メグはまだ中学生だ。
 友達を殺す覚悟をしたつもりでも、根っこの部分は変わっていなかった。
 たとえ後で生き返ると思っていても、友人の死は悲しい。

604LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:50:01 ID:/WtLLkwA0
 (あれ?どうして私……ないてるんだろ……?)

 メグは涙を拭いながら、そんなことを考える。
 今まで友達を生き返らせるために、この場で仲良くなったマサツグやクウカに刃を向けてきた。その矛先は、友達であるココアにすら向かった。
 そして親しい者を全員生き返らせるために友達すらも襲うという矛盾染みた行為に疑問すら抱かなかった。
 ココアの仲間の見知らぬ男――小鳩を肉体派おじゃる丸が殺した時も。
 タラヲやパラダイスキングに酷いことをしてきた時も。
 なんとも思わなかった。
 後で生き返らせるからそれでいいと思っていた。
 良心など微塵も傷まない。その狂気染みた思想は、常人には理解出来ない――まるでサイコパスなもの。

 しかしメグとは元来、優しい少女なのだ。
 決して誰かを嬉々として襲わないような……木組みの街で愉快な日常を謳歌する中学生だったのだ。

 そんな少女が殺し合いに乗るようになったキッカケは、皮肉にもチマメ隊の一人――親しかった少女の死だった。
 大切な友達を失う原因を作ったのは檀黎斗。
 だがあろうことかメグは檀黎斗という憎むべき相手の甘言に縋ってしまった。どんな願いも叶うという言葉に……頼る道を選んでしまった。

 ゆえに彼女は修羅の道を邁進した。
 一歩、また一歩と歩く度に本来の彼女とはかけ離れた悪魔のような存在になっていった。
 最初はあった善意すらもどこへやら……マサツグやクウカ、ココアを襲う始末。
 それでも日常を取り戻すためなら、迷いなど生まれなかった。
 マヤが死んだのに優勝を狙わないココアに対して冷たいとすら思った。どうして彼女はマヤを殺されて、優勝を目指す自分に怒ってるのかわからなかった。

 自分達は正しいことをしているはずなのに、何故かココアが立ち塞がる。
 だからメグは『正しいことしてるよね?』なんて聞いてしまった。
 コッコロの言葉に少し安堵して、やっぱり自分達は正しいと考えた。

 だからこれからもどんどんゲームの参加者を殺していこう、と。
 それがみんなの幸せや日常に帰るための最善策だと意気込んでいた。

 だというのにその少し後に流れた放送でリゼの死を知り――それだけでメグの心を哀しみが支配した。

605LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:51:00 ID:/WtLLkwA0
 その理由は、メグ自身にもわからない。
 つい先程までココアを殺す気だったのに――。
 ココアの仲間の小鳩を殺す手伝いをしたのに――。

 (この反応、メスガキの仲間が死んだんスね。でもそれだけで取り乱すなんて、キチガイ染みた優勝目的の癖に中身はガキ丸出しで笑っちゃうんすよね。もしかして知り合いを殺さずに優勝出来ると思ってた可能性、濃いすか?)

 メグを狂人のキチガイだと思っていた肉体派おじゃる丸は彼女の年相応の態度。そして人間臭さが垣間見えて内心でほくそ笑む。
 優勝狙いだというのにこんな放送で泣くなど、たかが知れる。もしこのメスガキが最終盤まで生き残っても、この覚悟の無さなら余裕で殺せるだろう。

 (普通、優勝狙いなら40人も減ったことに喜ぶべきっすね)

 主催者の放送によれば、この短時間で40人も死んでいる。
 優勝とは当然、最後の一人になることを指すのでこれだけガッツリ死んだなら喜ぶべきだと肉体派おじゃる丸は考える。
 この時点で肉体派おじゃる丸のメグに対する評価はキチガイから覚悟が決まらないTDNメスガキに一気に落ちた。

「メグさま、涙が出てますが……何かあったのでしょうか?」

「うん。そうだよ、コッコロちゃん。私の友達のリゼさんが……死んじゃった……」

「?」

 コッコロはキョトンと首を傾げる。
 先程まで戦っていた集団の一人は明らかにメグを知っていた。それなのにメグは迷いなく戦っていた。殺そうとしていた。
 ゆえにメグは知人友人だろうが殺すのを厭わない覚悟を決めているとコッコロは判断していた。
 そもそもマサツグやクウカのことも殺そうとしていたし、その時点でコッコロがメグを信用するのは当然のことだ。
 それに今回の放送で40人の死が発覚した。優勝に近付いたのだ。なのに何故、泣く必要がある?

「メグさま。願いを思い出してください。わたくしはメグさまが優勝したら、参加者全員を生き返らせて、この殺し合いの記憶も消すと存じています」

 (こっちのメスガキは冷静にキチガイ染みたことを言うっすね……)

 あくまで冷静に、落ち着かせるようにメグに声を掛けるコッコロを肉体派おじゃる丸は内心、侮蔑する。そして同時にメグと違い厄介そうだとも考えた。

 (組む相手としては使えるっすけど、最終盤で優勝を争うために敵対関係になったらこんなサイコは相手にしたくないっすね)

 放送で泣くような甘ちゃんならば、余裕で屠る自信がある。肉体派おじゃる丸というあだ名を付けられてる通り、彼の肉体は非常に鍛え上げられたものだし怒りや憎しみに燃えるほど心意で強化もされる。だがコッコロは仮面ライダーに変身出来る上に放送を聞いても態度を一貫させてるキチガイのメスガキだ。
 なんというかこう、生理的な嫌悪感すらわいてくる。

 (正直、このメスガキより人生経験豊富なはずの俺でも淫夢キャラ以外を殺した時は多少、嫌な気分がしたっすからね。それでも優勝して憎き淫夢を消すために、それと戦場だから臆せば逆に殺られると思ってゴッド・ハンド・クラッシャーを発動したっすけど……淫夢キャラ以外の他人を殺したことは予想以上に精神的にキツいっす)

 淫夢キャラである虐待おじさんを殺した時は、憎い相手なので嬉しかった。
 だが何も憎んでない小鳩を殺したのは、あまり気分が良くない。肉体派おじゃる丸はサイコパスでもなんでもないので当たり前だ。
 小鳩の頭蓋骨を砕いた感触は、今でも鮮明に思い出せる。……これから先もあんなことを繰り返さなきゃならないと思うだけでウンザリだ。

 そしてコッコロもまた命こそ奪っていないが、見知らぬ少女の両足を欠損させている。
 普通ならそれに対して何か思うことがあったり、泣いてるメスガキみたいに放送を聞いて年相応の何らかのリアクションをするのが当たり前だが、コッコロは何ら悪びれることもなく感情が揺さぶられることもない。まだ幼いメスガキだというのに至って冷静。
 だから肉体派おじゃる丸は彼女をサイコなキチガイだと侮蔑したのだ。

606LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:52:09 ID:/WtLLkwA0

「たしかに私が優勝したらみんな生き返らせるけど……リゼさんが、リゼさんが……」

「……メグさま。優勝を目指すならどの道、そのリゼさまという人も死ぬ必要がありました」

「そんなのわかってるよ!でも、でも……」

 メグはコッコロの言葉を理解するが、心では納得出来なかった。
 マヤが死んだ時もすごく悲しかった。
 だから全員生き返らせると決めた。親友のマヤのためにも。
 だからココアだって殺そうとした。後で生き返らせれば良いと思って。

 でもいざ、友達のリゼが死んだと知ると――マヤの死を知った時のようにとめどなく哀しみが溢れ出す。
 こればかりは理屈じゃない。感情の問題だ。

 メグは狂っていたが、根底は普通に幸せな日常を送っていた幼い少女でしかないのだ。
 だから友達のココアを殺そうとしたのに、友達のリゼが死んだら悲しみ涙を流すという矛盾を引き起こした。


「メグさま。……優勝を狙うというのは、こういうことです」

 コッコロもキャルが巻き込まれてるので、メグの反応は他人事じゃない。
 だがコッコロは優勝を狙うという行為の意味をメグよりも深く理解している。
 無論、キャルと出会えば殺すつもりだ。そうしなければ優勝出来ないのだから。

「それはそうだけど……っ!リゼさんが死んじゃったんだよ!?」

607LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:52:44 ID:/WtLLkwA0

「メグさまはさっきの戦いで知り合いの人が居ても襲ってましたが……」

「――――」

 メグが目を見開く。
 そうだ。メグは、ココアを襲った。
 友達なのに、殺そうとした。

その事実を思い返して、顔が青褪める。

「……そのご様子では、メグさまは優勝を狙うのが難しそうですね」

 これ以上の会話は不要だ。
 メグは友人が死ぬだけで落ち込むとわかったのだから。
 良いコンビが組めたと思っていたコッコロだが……考えを改める。
 メグには彼女を止めようとする者が何人もいる。
 この精神的に摩耗した状態のメグが彼らに出会えば――最悪、裏切りかねない。

 幸い今はメグ以外にも筋骨隆々の男――肉体派おじゃる丸が居る。メグを始末しても単独にはならない。


 ならばコッコロがやるべきことはただ1つ。

「メグさまには悪いですが……」

「え?なに?」

「変身、でございます」

『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』

 コッコロがブラックバロンに変身した。

 (役立たずになったら容赦なく始末っすか。やっぱりこのメスガキ、キチガイっすね)

 コッコロがブラックバロンに変身した意味を察した肉体派おじゃる丸には、彼女が殺人鬼か何かに見えた。

608LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:53:33 ID:/WtLLkwA0

「コッコロちゃん?なにを――」

「わたくしは、優勝するしか道がないのです!」

 仲間だと思ってるコッコロがいきなり変身した。
 周りには誰も敵がいないのに。
 リゼが死亡してショックを受けてるメグにはその意味がわからなくて、困惑。

 しかしコッコロはそんなメグに向かって容赦なくバナスピアーを振り抜く!

 その行動が、メグにはスローモーションに見えていた。
 これが死を迎える寸前の――

『メグ。メグも来なよ!』
『マヤの言う通りだぞ、メグ。まさかお前だけ逃げられると思ったのか?』

 マヤとリゼの幻覚が見えて、囁いてきた。
 因果応報。そんな言葉がメグの脳裏を過る。
 今まで他者に危害を加えてきた。マサツグやクウカ、ココアすらも殺そうとしてきた

 だからこれは罪なのだ
 バナスピアーはさながら、罪人を裁くギロチンの如く。

「マサツグさん、クウカさん、ココアちゃん……。ごめんね……」

609LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:53:58 ID:/WtLLkwA0

 そしてバナスピアーの一閃が――

「……やれやれ。ようやく目が覚めたか、馬鹿者が」

 無愛想な表情をした少年の手にする日輪刀によって、弾かれた。

「……え?」

「いきなり乱入してくるとか笑っちゃうんすよね!」

「――さ、させません!」

 少年に目掛けて肉体派おじゃる丸が拳を振りかぶると、桃色髪の少女が走って少年と肉体派おじゃる丸の間に挟まり――代わりに攻撃を食らう。
 少女の腹へ剛腕が放たれるが――少女は無事だった。

 「マサツグさん!?メグさん!?」

目の前の光景が信じられず、メグが目を見開く。
 瞬間――マサツグの「守る」 スキルでメグに対するオレイカルコスの結界の効果が消え失せた。
 
「メグ。――今度こそお前を守りに来た」

 ガラにもなく、ハッキリとした言葉でマサツグはメグに声を掛けた。

「またあんたっすか。わざわざ殺されに来るとか、笑っちゃうんすよね」

 肉体派おじゃる丸は小鳩を殺して、淫夢キャラ以外を殺人することに対して多少なりとも感情は揺れたが、優勝するという確固たる覚悟は変わらない。全ては憎き淫夢を根絶するために。もう肉体派おじゃる丸なんて嘲笑されないために。
――負けるわけにはいかない
 
「ふん。またお前か、露出男」

 マサツグもまた、敗北するわけにはいかない。
 もう何も失いために。今度こそメグを守るために。
 日輪刀を構え、普段のひねくれた態度で肉体派おじゃる丸に皮肉を飛ばす。

「……それで、メグ。今のお前はどっちの味方なんだ」

「マサツグさん。私は……ずっと酷いことしてきたんだよ」

「知るか。俺が守りたいから守る、それだけだ。……お前の泣き言は後で聞いてやる」

「……ありがとう、マサツグ。それなら私は……マサツグさん達の味方をするよ!」

 ――瞬間、メグ専用ロッドが光り輝きメグが〝そうりょ〟に変身。そして魔法を使うとマサツグの傷が大きく回復する

「ふっ……。ルーナフリューゲル出撃だ」
「ルーナフリューゲル……?」
「メグちゃんがいない間に決めたチーム名ですぅ」
「そうなんだね……!じゃあルーナフリューゲル、いくよ〜!」

 ――マヤちゃん、リゼさん。……もう生き返らせれないけど、ごめんね。でもきっと二人もさっきのココアちゃんみたいに――この殺し合いに反対するよね。だから――天国で見ててね。
 ココアちゃん。ココアちゃんが私に怒ってくれた意味――やっとわかったよ。

 クウカさん。
 そして、マサツグさん――私を正気に戻してくれてありがとう。
 こんな私を。いっぱい酷いことしてきた私を見捨てずに救ってくれて――ありがとうね。

 コッコロちゃん。
 裏切る形になってごめんね。
 でも、やっぱり――私達がしようとしてたことは間違ってると思うんだ。

 だから私は――戦うよ

610LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:54:38 ID:/WtLLkwA0
【C-7/一日目/朝】
【直見真嗣@異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(漫画版)】
[状態]:ダメージ(小、包帯、ガーゼなどにより処置済み)、疲労(大)、左目失明(眼帯により処置済み)、メグとクウカを守りたいという想い
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:ラスボスを倒す。殺し合いを脱出するには、これしか手段がないようだな
1:クウカ、メグとその友人を守る。
2:やれやれ。ようやくメグを取り戻せたか
3:もう失うことは御免だな。
4:エリン……
5:露出野郎達に対処する。ルーナフリューゲル、出撃だ
[備考]
※「守る」スキルは想いの力で変動しますが、制限によりバランスブレイカーになるような化け物染みた力は発揮出来ません
※参戦時期はリュシア達が里親に行ってから。アルノンとも面識があります

【クウカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、魔力消費(中)
[装備]:ガーディアン・エルマの短剣@遊戯王OCG、フライングランチャー@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品、応急処置セット@現実
[思考・状況]基本方針:こ、困ってる人を助けます……
1:マサツグさんやメグちゃんと一緒に戦いますぅ!
2:モニカさん達と合流したいです
3:クウカ、マサツグさんのことが気になりますが……今はそれどころじゃないですね
4:マサツグさんの心の支えになりたいです
[備考]
※頑丈です。各種スキルも使えますが魔力を消費します。魔力は時間経過で回復していきます
※応急処置セットの包帯は使い切りました

【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、罪悪感、覚悟
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品×2、巨大化@遊戯王OCG、ランダム支給品0〜2(ボーちゃんの分)
[思考・状況]基本方針:マサツグさん達と一緒に抗うよ!
1:チマメ隊の絆は永遠……だけど優勝して生き返らせてもマヤちゃんが喜ばないよね
2:マサツグさん、クウカさん、ありがとうね。ルーナフリューゲル、いくよ〜!
3:今まで酷いことしたみんな……ごめんね
4:マヤちゃん、リゼさん……天国で見守っててね!
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。

611LAST TRAIN -新しい朝- ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:54:53 ID:/WtLLkwA0

【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、オレイカルコスの結界による心の闇の増幅 、キャルへの罪悪感(大)、ブラックバロンに変身中
[装備]:量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)+マンゴーロックシード@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式×2、オレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG(1時間使用不可)、スイカロックシード@仮面ライダー鎧武(2時間使用不可)、デスノート(複製品)@DEATH NOTE
[思考]
基本:主さまたちの所へ戻る、たとえどんな手段を使ってでも
1:メグさまと他の御二人を殺します
2:コッコロは、悪い子になってしまいました
3:キャルさま……それでもわたくしは…………
4:メグさまとはもう協力出来ないようですね……。代わりにこの男性(肉体派おじゃる丸)と協力します
5:タラオさまはお亡くなりになられましたか…
6:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後

【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、右胸から左脇腹までの切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、虐待おじさんを殺せた喜び、ダンデライナーにしがみ付いてる、右拳に槍の刺し傷
[装備]:
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG(発動不可)、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG(発動不可)、デス・メテオ@遊☆戯☆王(発動不可)、虐待おじさんのデイパック(基本支給品、ランダム支給品0〜1)、ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:またこいつらっすか。今度こそ殺してやるっすらね
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
5:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね。とりあえずこのメスガキとは組むっすね
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません

612 ◆QUsdteUiKY:2025/04/18(金) 05:55:18 ID:/WtLLkwA0
投下終了です

613 ◆ytUSxp038U:2025/04/25(金) 00:24:08 ID:pEU1ZHvU0
投下お疲れ様です

飛電或人、滅、天津垓、万丈龍我、里見灯花、キャスター・リンボ(式神)を予約します

614 ◆ytUSxp038U:2025/05/01(木) 23:05:03 ID:2IS8qDhc0
延長します

615 ◆QUsdteUiKY:2025/05/02(金) 14:09:49 ID:XGwHFAk60
コッコロ、肉体派おじゃる丸、直見真嗣、メグ、クウカで予約します
念のために延長もしておきます

616 ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:34:32 ID:zp3bKBv.0
投下します

617Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:37:12 ID:zp3bKBv.0
まっさらな世界
何を君は描く――?

 

 ◯
 


 「状況はあまりよろしくないですね。ですが私にはこれがあります!」

 仮面ライダーの声から聞こえたのは、意外にも女の声だった。それも冷静沈着で〝状況があまりよろしくない〟なんて言葉にもあまり焦りは感じられない。
 仮面ライダーが一度変身解除すると――そこにはメグと同い年くらいの少女がいた。

「――光のご加護を!オーロラ!」
 
 俺とクウカとメグは相手の行動に警戒するような体勢を取るが――そんなこと知らんとばかりに相手の傷が癒えていく。
 
「なんだかいきなり力が沸いてきて、笑っちゃうんすよね。どうして今まで使ってこなかったんすか?」

「このスキル――ユニオンバーストは魔力を消耗してしまうので、ここぞという時に使おうと思いまして……」

 露出男が、気軽に白髪の少女に話し掛けている。
 変身解除した瞬間に察していたが――やはりこの少女が仮面ライダーとやらの変身者か。

「ふん。戦闘中に雑談とは余裕の態度だな」

「今の俺にはあんたの攻撃すら――」

 ニヤリ、と口角をあげて俺の刀に拳を当てる露出男。気でも狂ったのか……?

「弱いんスよね!!」

 本来ならば裂けるはずの拳。
 その骨格部分が刀に命中して、鍔迫り合いのような状態になる。

 あの白髪はスキルとか言ってたが、まさかその効果か?
 さっきの一撃より、少しだが重い……!

「まだまだまだまだまだァ!」

 露出男が両手を使って何度も殴ろうとしてくる。
 俺は刀でそれを防ぐが、このままではどうしようもない。
 この中でまともな攻撃手段を持つのは俺一人。一応、メグも仮面ライダーに変身出来るが明らかに動きがスペックに追い付いていない。

「マサツグさん!私もいくよ〜!へんし――」

「来るな、メグ。お前にこの露出男は危険だ」

「メグさまにはそういう人がまだ居ていいですね」

「コッコロちゃんにも……きっと手を伸ばしてくれる人はいるよ。……ううん、私が手を伸ばす」

「その甘さが、メグさま達の命取りです。――変身、でございます」

 ――瞬間、白髮のエルフは仮面ライダーに変身した。
 戦況は最悪。だからといってメグに戦わせるわけにはいかない。

「大丈夫です、マサツグさん。仮面ライダーはクウカが引き受けますぅ」

 そう言って仮面ライダーと俺の間に割って入るクウカだが、仮面ライダーの槍を俺は刀で受け止めた。

「いや……生身であの槍を受けたら危険だ。クウカは露出男からメグを守ってくれ」

「わかりました!クウカ、がんばりますぅ」

 「――そういうことで選手交代だ、白髮エルフ」

「あなたはたしかに強そうですが……弱点はわかってます」

『バナナスパーキング』

 電子音と共に地面から複数突き出すバナナ。……これは触れたらダメなものだろうな。
 俺は刀を横に振るって、それらに対処した。どことなく「守る」スキルが少しずつ調子を取り戻してる気がする
 やれやれ……。それにしても今の方向……

「なるほど。メグが俺の弱点というわけか」

「はい。メグさまが弱点になると思いました。でもあなたにはこの仮面ライダーに変身してもあまり意味がないようですね」

 仮面ライダーが変身解除して、再び白髮エルフの姿になった。
 刀を握る手に僅かに冷や汗が流れる。
 目の前のエルフはこれだけ力の差を見せても余裕を崩さない態度で、冷静沈着だった。
 その瞳は濁りきっている。――メグやリュシア達と年齢が近そうなのに、あまりにも雰囲気が違う。

「物量が無意味なら、手数で勝負します。スピードアップでございます」

「――――ぁうッ!?」

 その声は俺の近距離――クウカの居たところから聞こえた。
 どうやら腹にかなり強烈な一撃を受けたのか、クウカにしては珍しく悲鳴を出している……。

「こんな便利なスキルの数々を使わなかったなんて、笑っちゃうんすよね。この女はこのまま嬲り殺していい可能性濃いすか?」

618Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:38:06 ID:zp3bKBv.0

「させ――」
「させないよ〜!変身!」

 ディープスペクターに変身したメグが露出男に突撃する。
 それの意味することは――

 (しまった……!クウカかメグが殺される……!)

 クウカを助けに行かなければクウカが。
 メグを止めなければメグが殺されると俺は直感した。
 それらを同時にこなすのは困難だ。
 いや……俺が二人を助けに行けば済む話だが、無防備になった背後を銀髪エルフに狙われかねない

 
『だから――クウカだって戦えます!マサツグさんだけで背負い込まないで、クウカのことも頼ってくださいっ!』

 ふっ……。やれやれ、俺も焼きが回ったのか。
 まだ出会って数時間の女を本気で〝守りたい〟と思うのは。
 クウカはとんでもないドMの変態だ。その異常性だけなら水の女神の癖に自称姉のシーにも近い。
 メグはまあ、色々とあったが根は悪人ではない。でなければ、俺達の方に戻ってこなかっただろう。……ある意味、このふざけた殺し合いの被害者か。なにやら色々と酷いことをしてきたようだが、その話はこの戦いが終わった後に聞こう。

 そして俺は――

「淫夢ファミリー以外を殺すのは気が進まないっすけど、これも優勝のためっすからね!」

 露出男が自慢の拳を振り被り――

「――淫夢ファミリーだかなんだか知らんが、家族を殺すことに躊躇がないのはその髪型のように頭がおかしいな、露出男」

 メグが辿り着くよりも速く、刀で拳を弾いた。
 どうやら俺の「守る」スキルは徐々に力を取り戻してるらしい。
 ルーナ孤児院ファミリーならともかく、まだ出会ってそれほど経ってない二人を本気で守りたいと思うのは我ながら謎なんだが……クウカがいなければ俺がへし折れていた可能性は否定出来ない。
 メグがいなければ、俺の身体の傷が治らなかったことも確かだ。

 ……やれやれ。俺はこの二人を守るつもりで、同時に心と身体を守られていたのか。

 それにしてもこの露出男は本当にわけのわからない存在だ。
 淫夢ファミリー以外を殺すのは気が進まないということは、淫夢ファミリーとやらを殺すことに躊躇がないということでもある。
 ……こんなことを言うのもなんだが、俺はルーナ孤児院ファミリーの奴らを殺したくない。あの喧しくも馬鹿げた孤児院の生活が嫌いじゃなかったといえば、嘘になる。

 もっとも――異世界に召喚される前の実際の肉親には色々と複雑な思いはあるが。……生憎と肉親には恵まれなかったのでな。
 だが流石に殺したいとまでは思わん。……それにしても親に見捨てられた俺が孤児院長をするなど、なかなか皮肉が効いてるな。

 まあもしかしたら俺もリュシア達ルーナ孤児院ファミリーの奴らと出会ってなければ、今頃どうなっていたかわからんが。

「よく事情も知らずにそんなこと言えるっすね。俺は淫夢ファミリーなんてコンテンツがなければこのお気に入りのヘアスタイルをおじゃる丸と馬鹿にされることなく、この自慢の筋肉を侮辱されて〝肉体派おじゃる丸〟なんてネットで侮辱されることはなかったのに……!そもそもあんたもこのヘアスタイルを馬鹿にしたっすね!?」

 「ふっ……。淫夢ファミリーとやらがよくわからんが、お前の見た目が面白可笑しいのは事実だと思うぞ。それに同じ〝ファミリー〟でも俺はルーナ孤児院ファミリーの奴らを殺さん」

 露出男――肉体派おじゃる丸の乱打を刀で弾きながら、互いの心境をぶつけ合う。
 それにしてもこいつ、奇妙な見た目をしてると思っていたがこれが名簿に載っていた〝肉体派おじゃる丸〟か。……本人の言葉から察するに周囲から〝肉体派おじゃる丸〟と呼ばれてるだけらしいが。しかしラスボスはなんでこんなあだ名を名簿に記載したんだ……?よくわからんやつだ。
 
 そして俺の元いた世界のネットには肉体派おじゃる丸なんて居なかった。俺が異世界召喚された後に流行ったのか、それとも異世界が他にも存在してそこで肉体派おじゃる丸というあだ名が流行ったのか……。
 名簿にはマサツグ様なんて名前もあった。それにこの世には無数の世界があるとラスボスの一人が言っていた。そういう世界もあると考えるのが妥当だな。

どうして本名じゃなくてあだ名で名簿に記載されたか謎だが〝マサツグ様〟も大概だし、あんなふざけた性格のラスボスだ。悪ふざけであだ名を名簿に記載しても納得はいくが……。

619Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:40:00 ID:zp3bKBv.0

 なによりこの露出男――肉体派おじゃる丸はその名で呼ばれるのを嫌ってるようだ。〝淫夢ファミリー〟とやらに対する憎悪がすごいことはこの短いやり取りでもわかる。
 こいつの憎悪を滾らせるためにこんなあだ名で参加させた可能性も――あのラスボスなら十分に有り得る。あいつは明らかに俺達プレイヤーを見下しているから、それくらいするだろう。

 だがそれとは別に一つ気になることがある

「そんなに肉体派おじゃる丸と呼ばれるのが嫌ならその奇抜な姿をどうにかしたらどうだ?そもそも服くらい着ろ、何を考えてるんだお前は」

「服を着ろっていうのは正論だと思うっすけど、殺し合いに巻き込まれた時点でこの服装にされてて笑っちゃうんすよね。普段はしっかりと服を着てるっすよ」

「ならばそのわけのわからんユニークな髪型をどうにかしろ。そんな髪型をしていたらネタの標的にされても仕方ないだろ……」

「は?このヘアスタイルは俺のお気に入りなんスよ。それを馬鹿にしてくるとか、死にたいんっすか?」

 乱打の威力が僅かに上がる――がまだ対処出来る範囲内だ。
 とりあえずこいつのヘイトは俺が集める。そして――

「はぁっ!」
 
「単調な動きだな。お前が背後を狙うことは読めていた」

 背後から迫るバナナのような槍を、上空にジャンプすることで避け、クウカとメグの近くに着地する。
 必然的にかち合う、肉体派おじゃる丸の拳と仮面ライダーの槍。
 だが白髮エルフが変身前に魔法を使っていた影響か、肉体派おじゃる丸の拳にはカスリ傷程度しか出来ない。

 別に相打ちを狙ったわけじゃないが、あの大きな槍でも大してダメージを受けない拳は厄介だ。

「はぁ、はぁ……。マサツグさんのおかげで助かりました」
 
「人並みより頑丈で良かったな、クウカ。あの拳の威力と硬度は明らかに異常だ」

「で、でもクウカも戦いますぅ」

「私も戦うよ、マサツグさん!」

「ふっ……。そうか。だがタンクと戦闘の素人に何が出来るというんだ?」

「クウカはマサツグさんの攻撃を代わりに受け止められますぅ」

「私も仮面ライダーになれるし、回復も出来るよ」

「……やれやれ、お人好しな奴らだな」

 ここは戦場だ。命を落とすリスクがある。
 それに俺の「守る」スキルは徐々に力を取り戻してるとはいえ、完全じゃない。
 どう考えても危険なのだが……こいつらに何を言っても無駄なのだろうな。
 それに孤児院を守る時はリュシア達――ルーナ孤児院ファミリーで守り抜いた。あいつらは大した力にならないのに、だ。
 そしてあいつらがいたから俺は随分とスキルの力を発揮出来たことは否定出来ん。

620Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:42:50 ID:zp3bKBv.0
 だからクウカやメグも決して無力なわけではないだろう。
 まさか出会って1日も経たない奴らにこんなことを考えるとは思わなかったが――。

「3人まとめて殺されたいんスか?」

 肉体派おじゃる丸はそんなことを言いながら、乱打を繰り出す。
 披露が溜まっているのか、明らかに大きな負傷をしているのが原因か知らないが――徐々に動きが鈍くなっている。

 そんな肉体派おじゃる丸に対応するのは――クウカだった。

「マサツグさんやメグちゃんには手出しさせません!狙うならクウカを!」

 そう言いながら、肉体派おじゃる丸の攻撃をクウカは一身に集める。
 クウカは短剣を逆手に持ち、拳を時には回避し、時には短剣で受け止める――が、腕力の差からクウカが吹っ飛ばされる

「クウカさん!」
「クウカ!」

「口ほどにもないっすね。死んだ可能性、濃いすか?」

「わ……私は大丈夫です。人一倍、頑丈なので……」

 意外にもクウカはそこまでダメージを受けてなかった。

「しつこいっすね。じゃあこれで死んで、どうぞ」

 肉体派おじゃる丸が凄まじい速度で走る。
 ふざけたあだ名をしているが、フィジカルはその名の通りということか……!

 俺は背を向けて走り出したいところだが――

    ガキンッ!

「ふっ……。やはりそう簡単に行かせてくれないか」

 背後から迫る仮面ライダーの槍を、刀で防いだ。

「あなた達は、わたくしが優勝するためにここで死んでくださいまし」

「お断りだ」

「そうですか。ですがわたくしは既に一人殺してます。メグさまみたいに、甘くありませんよ」

「ふん。子供の皮を被った殺人鬼エルフということか」

「どう思われてもかまいません。わたくしは、優勝しなければならないのです!」

    ブンッ!

       ガキン!

 ――殺人鬼エルフが槍を繰り出し、俺が刀で弾く。
 その度に金属音が鳴り響き、妙にやかましい。
 とにかく相手が殺人鬼なら問答無用だ。加減をしたら俺達が殺されるし、同情の余地もない。

「コッコロちゃん!こんなやり方、間違ってるよ〜!」

「……メグさまにはわたくしの苦しみがわからないでしょう。恵まれた環境のメグさまには」

 『バナナオーレ』

 仮面ライダーの槍になにやらオーラが纏わりついた。
 ベルトがわざわざ音声を発したということは、技か?
 とにかく生身のメグが受けたら危険なのは確実だ!

 たっ
    たっ
       たっ

         ――ガキィィィン!

 ――鳴り響く、激突音。

621Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:46:43 ID:zp3bKBv.0

「くっ……!」

 俺は仮面ライダーの技を刀で弾こうとするが、凄まじい威力だ。
 最初の技はそこまで苦労しなかったというのに……この一撃は重い。
 しかしここで死ぬわけにはいかない。
 俺には――

「ま、マサツグさん!」

 肉体派おじゃる丸を引き付けながも必死に叫ぶクウカかいる。

「マサツグさん、がんばって!」

 ようやく取り戻せたメグがいる。
 もしもここで俺が死ねば、きっと全滅だ。

 ――そんな腐り切ったバッドエンドは御免だな。
 だから俺は守る。俺自身と、こいつらを!

 ――瞬間、体の奥底から力がわいてくる。
 そうだ。これこそが「守る」スキルだ。


     ガシャァァアアン!


 ――仮面ライダーの武器に競り勝ち、その槍は弧を描くようにして宙を舞う。
 これで仮面ライダーは武器がなくなった。なにやらマンゴーのマークがある小物を咄嗟に取り出したが、ソレを容赦なく刀で切り裂き、破壊する。
 そして更に刀を振り回し、猛攻を加える。
 相手が武器を失った今が好機(チャンス)だ。今のうちに一気にケリをつける。

「ごめんね、コッコロちゃん……」

 メグの悲しそうな声が聞こえた。
 ……こんな危険人物とメグはどんな関係性だったんだ?

 ――だが、攻撃の手は緩めない。
 とりあえずこのベルトを破壊さえしたら、変身が解除されて完全に無力化に成功すると俺は考えてる。

 メグの反応から察するに何かワケアリなのか、それともメグがお人好し過ぎるだけか……。
 理由はわからんが、ひたすらにベルトを狙うことにした。

「あっ、ぐっ……!主さま……!」

 ベルトを狙うとはいえ、たまに外れて仮面ライダーの肉体を攻撃してしまう。
 その度にエルフが苦悶の声をあげ、それでもこいつは降参しようともしない。
 ……そもそも主様ってなんだ?もしかしてこいつもリュシアのように――。

 そう考える思わず攻撃の手を緩めてしまう。
 もしもこいつがリュシアのような境遇なら、などと考えてしまう自分の甘さに嫌気が差す。
 だがもしリュシアが参加していたら、俺を生き残らせるために他人を――……。

622Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:48:08 ID:zp3bKBv.0

 いや、それは有り得ん。リュシアはそんな奴じゃない。当然、このくだらない殺し合いに巻き込まれて死んだエリンもだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……。わたくし、は……」

 地を這ってでも槍を取りに行こうとする仮面ライダー。
 その姿は哀れにも見えるが、ここで気を抜けば死ぬのは俺達だ。

 俺は容赦なく槍を蹴飛ばして、右脚を刀で貫く。

「ぐ、ぅううっ――!あ、主さま――!」

エルフの叫び声が響くが、容赦するつもりはない。
 俺は仮面ライダーを背負投げして仰向けにさせると、再び何度もベルトを攻撃。
 やがてベルトは破壊され、仮面ライダーは涙でぐちゃぐちゃになったエルフの姿に戻った。

「こ、コッコロちゃん!大丈夫!?」

 コッコロと呼ばれたエルフに接近しようとするメグだが、俺はそれを左手で制する

「落ち着け、メグ。相手はこの殺し合いで犠牲者を出した殺人者だ」

「そ、それはそうだけど……私もマサツグさんとクウカさんが来なければ……」

「お前は涙を流していた。どうせ放送が原因だろう。だからメグは結局、根はお人好しな馬鹿だ。だがこいつはそんなお前を冷静に処分しようとした、危険人物だからな。迂闊に近付けばどうなるかわからん」

「主さま……。これは……わたくしが悪い子になった罰でしょうか……」

 コッコロが詳しそうに、悲しそうに涙を流しながらそんなことを口にする。
 きっとそれは本心だ。
 絶体絶命になってようやく化けの皮が剥がれたのか……?

「コッコロ。お前はどうしてこんな――」

「――また改心するような展開になったら、流石に笑えないっすね」


    ガキン!

 全速力で駆け抜けてきた肉体派おじゃる丸の拳と刀がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。

「俺にはまだ左拳(こっち)もあるんすよね!」

「しまっ――」

「マサツグさん、危ない!」


      ズザァァアアア

 気付けば俺の身体はメグに突き飛ばされていた。

623Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:49:05 ID:zp3bKBv.0

「間に合っで良かったぁ……」

 俺の身体の上に乗っているメグは嬉しそうに微笑むが、その背後には肉体派おじゃる丸。

「これで終わりっすね!」

「――言ったはずだぞ、肉体派おじゃる丸。メグは俺が守る」

 メグへ迫る肉体派おじゃる丸の右拳に、俺も右拳をぶつける。

 
     ぐしゃり!


 「ぐ、ぁあああ!」

「ぐ、ぅ……!俺にフィジカルで挑もうとするなんて、笑っちゃうんすよね。まあ少しは痛かったっすけど、あんたの右手はもっと深刻なダメージを受けてた可能性濃いすか?」

「ふっ……。だが俺は一人じゃない」

俺にはあって、肉体派おじゃる丸にはないもの。
 それは――――
 
「この期に及んで何を――がっ!?」

 肉体派おじゃる丸が、急に倒れる。
 その巨体に押し潰されないように、俺はメグを抱えながら真横に転がった。

「や、やりましたぁ……!」

 肉体派おじゃる丸を背後から短剣で刺したクウカが、歓声をあげる。
 クウカは他人を殺して喜ぶ人種じゃないだろうが、危険人物は殺さなければ止まらない輩もいると理解していたようだ。
 クウカの身体には幾つか痣があったが、意外にも平気そうだった。まったく、どれだけ頑丈なんだこいつは。

「肉体派おじゃる丸。お前はクウカを侮った。それが敗因だ」

 俺は近くに転がり落ちた刀を拾い上げる。

「ぐっ……!」

 肉体派おじゃる丸の与えた傷の影響か、握るだけで痛みが走る。

「マサツグさん。それくらいの傷なら、簡単に治せるよ」

 メグが魔法を使うと、右手の傷が癒えていく。またこいつに助けられてしまったな

「ぐ、おおおおお――!」

 ――絶叫が耳を劈くる

「これで俺を殺したと思ったら、笑っちゃうんすよね!」

 そこには鬼の形相で立ち上がる肉体派おじゃる丸がいた――。

「コッコロさん、あんたこんなところで優勝を諦めていいんスか?優勝はあんたの夢っすよね?まさかメグの二の舞になるんスか?」

「筋肉ムキムキのおじさん、余計なこと言わないで!」

「余計なことじゃないっすよ。少なくとも裏切り者のあんたよりはマシだと思うっすけどね」

「そ、それは……たしかに私は裏切り者だけど……でも!」

「何が〝でも〟っすか?あんたも散々、悪事に加担しといて虫が良くないっす――」

「お前は少し黙れ、肉体派おじゃる丸」


     ガキン!


 俺が肉体派おじゃる丸に斬りかかると、肉体派おじゃる丸は右拳でその攻撃を弾いた。

624Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:49:44 ID:zp3bKBv.0

「あんたみたいな事情も知らない正義のヒーローや英雄気取りこそ黙ってほしいっすね」

 正義のヒーロー?英雄?
 違うな――。

「俺は正義のヒーローや英雄などじゃない、ただの孤児院長だ。だから危険なお前らを殺すことにも躊躇はしない」

「ハッ!じゃあなんでそんな薄汚いメスガキを守ろうとしてるんスか?」

「クウカとメグは守る。俺自身がそう決めたから守るだけだ。そこに正義感は微塵もない」

「あんた、こんなメスガキまで守りたいとかキチガイっすね。斜に構えた態度でカッコつけて楽しいっすか?」

「……やれやれ。俺はこれが自然体で、カッコつけた覚えはないのだがな」

「他人を襲うのに加担したメスガキを守るのが自然体なんスか?」

「マサツグさん……」

 不安そうに眺めてくるメグの視線を感じる。
 どうやらこいつは相当、罪悪感があるようだな。
 ――だが逆に言えば、罪悪感があるということは自分が悪いことをしてきたと心の底から思ってるということだ。それに本当に闇堕ちでもしてたら、放送で悲しまない。涙を流さないはずだ。

「メグのしてきた〝罪〟については後で聞いてやる。だがその前にまずはお前を倒すことが最優先だ、肉体派おじゃる丸」

「あんた、俺が肉体派おじゃる丸って呼ばれてるのを知った途端に肉体派おじゃる丸、肉体派おじゃる丸って――性格悪過ぎて笑っちゃうんすよね。そのいけ好かない態度も、性格の悪さも、イライラするんすよ!」

「それなら力付くで止めることだな」

「言われなくても!」

    ブン!
 
      ガキン――!
 
 肉体派おじゃる丸の右ストレートを、刀で弾く。次いでやってくる左ストレートも、読めていた。当然、刀で弾く。
そしてがら空きになった胴体に袈裟斬りをお見舞いしてやる。
 だが肉体派おじゃる丸の無駄に鍛え上げた筋肉が鎧のような効果を齎したのか、殺し切ることは出来なかった。

625Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:51:05 ID:zp3bKBv.0

「はぁ、はぁ……。コッコロさん、あんた本当にこれでいいんスか?優勝出来なければ願いは叶わないっすよ!」

「優勝……。願い……。このまま主さま達の所帰れないなんて――そんなの嫌でございます!」

 瞬間――コッコロを中心に闇のようなオーラが集まる。なんなんだ、これは……。
 それは一瞬の出来事だが、この場にいる誰もが。肉体派おじゃる丸すらもがコッコロを見ていた。
 そして闇はコッコロの手に収束して――穂先が真っ黒なクリスタルのような槍に。
 白髮が黒髪に変化して、真紅の瞳を闇が漆黒に染め上げた――!

「優勝するのは、わたくしです!メグさま達のような偽善者はここで脱落してくださいまし。
 ――闇のご加護を……!ダーク・オーロラブルーミング!」

 ――瞬間、瞬く間にコッコロの傷が軽傷程度まで回復し、肉体派おじゃる丸の傷もコッコロ程じゃないが癒えていく。いきなり武器が出てきたり、見た目の色が変わったかと思えば……どうなってるんだ……!?

 ――『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
 本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
 不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
 たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』

 放送で自称神のラスボスが言っていたことが脳裏を過る。
 この現象こそがあいつの言ってたシステムというわけか――。

「おお、いいっすねコレ。傷が癒えた上に更に力が漲ってくるっす!」

   ブォォオオン!

         ガキィィィン!

「くっ……!この脳筋め。だからお前は肉体派おじゃる丸なんて言われるんだ」

626Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:51:47 ID:zp3bKBv.0
 肉体派おじゃる丸の右ストレートをなんとか刀で受け止めるが、なかなか弾け返せない……!さっきまでより明らかに重みが増している……!

「こ、これはまずいですぅ……!」

 肉体派おじゃる丸にはまだ左手が残ってる。
 こいつは憎たらしく笑い、左手を握り締めて振り被った!

「……っ!ク、クウカも一緒に戦いますぅ!」

 クウカが短剣でなんとか受け止めて、間一髪で助かった。
 だがこの場にはもう一人――

「まずはあなたに死んでもらいます。ダーク・トライスラッシュ」

瞬間、俺の胴体を目掛けてコッコロは槍を横に振るった
 
「わ、私も戦わなきゃ!」

『ギロットミロー!ギロットミロー!』
  
「へ、変身!」

『ゲンカイガン! ディープスペクター! ゲットゴー!覚悟!ギ・ザ・ギ・ザ!ゴースト!』

「これ以上、誰も殺させない!これが私の〝覚悟〟だよ!」

 槍が俺の胴体を真っ二つにする前に、仮面ライダーに変身したメグがコッコロの頬を殴った。
 予想外の一撃だったのか、見事に命中してコッコロが吹っ飛ぶ。

 ……やれやれ。こいつらを守ると決めたのに、守られてばかりだな。
 だがメグの覚悟を無駄にする気はない

「ン?んんん!?あんたなんで、また急に強くなってるんスか!?」

「さぁな。クウカとメグを守ると決めた、ただの偽善者だからじゃないか?」

 ようやく肉体派おじゃる丸の一撃を弾いて、思いっきり袈裟に斬りつける。
 肉体派おじゃる丸は激痛のあまり地面をのたうち始めた。

「クウカはここでこいつを見張ってくれ。お前のタフさなら何かあっても大丈夫だろう」

「マサツグさんは……」

「俺はメグに加勢する。あいつは素人だ。偶然の一発が決まっても勝ち目はかなり低い」

「……やっぱりそれがマサツグさんですよね。わかりました、ここはクウカにお任せを!」

 ◯

 メグが吹っ飛ばしたコッコロは、ケロリとした様子ですぐに立ち上がった

 (まさかあの状況でよりにもよって裏切り者のメグさまから攻撃を受けるとは……)

 メグから殴られた右頬が未だに痛む。
 生身の人間が仮面ライダーの、しかも強化フォームであるディープスペクターの一撃を受けたのだから当然だ。
 それでも頬が痛い程度で済んでるのは、コッコロが負の心意に到達して全体的に強化されたことが大きい。
 ユニオンバーストで味方に対するバフ効果は大きくなり、味方を中回復する効果も付随された。各種スキルも強化された。
 もしも先程のダーク・トライスラッシュを槍の棒の部分を押さえるという方法で止めようとしていたら、いくらディープスペクターに変身しているとはいえ素人のメグでは危うかったかもしれない。
 思いっきり頬を殴るという方法だからこそ、阻止出来たのだ。

 (メグさまは、どうして裏切ったのでしょうか?とてもではないですが、許せません)

 そんなことを考えながらコッコロはダーク・スピードアップですぐにメグのいる場所に辿り着く。

627Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:52:27 ID:zp3bKBv.0
「メグさまは、どうして裏切ったのですか?」

「それは、こんな方法でみんなを生き返らせるなんて――人を殺して日常を取り戻すなんて間違ってると思ったからだよ」

「ですがメグさまはご友人やあなたを助けようとした人たちすら襲ったはずです」

「それは……そうだけど。でもリゼさんが死んだら悲しくて……」

「それはあまりにも甘い考えでございます」

「うん。……私も色々と悪いことしてきたよ。でもマサツグさんとクウカさんが許してくれて――」

「そこです。そこが甘いのです。あなたは環境に恵まれてるのでそんな甘い考えになったようですが、わたくし達のしてきたことは到底許されないことです」

 コッコロは本来、優しい性格の持ち主だ。
 だからわかる。わかってしまう。自分達の犯した〝罪〟を。

「それ、は……」

「マサツグさまやメグさま、それにご友人。メグさまには手を差し伸べる方がたくさんいました。だからわたくしとは違って、引き返せたのです」

「こ、コッコロちゃんだってそういう人……」

「数時間前にも言ったように、以前は居ました。でも、この殺し合いにはキャルさま以外は居ません。……厳密には優勝しなければ居場所に戻れません。だから皆様の元に帰るために優勝すると決めたのです」

「そんなの悲しすぎるよ……。それにキャルさんっていう人がいるなら、一緒に協力しようよ!」

「優勝したら願いが叶うので、悲しさはもうありません。もちろんメグさまみたいに殺し合いに抗う方々と馴れ合う気もありません。わたくしは、優勝するのです」

 
     ヒュンッ!

 
 漆黒の槍がメグを襲う。
 しかしメグはディープスペクターに変身していることもあり、前倒しに転がってギリギリで回避する。

「そんなのダメだよ、コッコロちゃん!そんな方法で主さまっていう人の場所に戻っても悲しむよ……!?」

 コッコロへ気持ちを伝えるように再び頬を殴るが、今度は吹っ飛ばすらしない。
 相手が近寄ってくるのはわかってたから両足を踏ん張れたし――なにより心の闇がどんどん増幅することで身体能力も強化されていた。

「そうならないように、優勝するのです!」

 今度は容赦なく槍による刺突を繰り返す。
 生身なら即死していたであろう攻撃だが、ディープスペクターに変身していたおかげで致命傷にはなっていない。
 しかしそのダメージは大きく、強制的に変身解除されとしまう。

628Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:53:58 ID:zp3bKBv.0

「これで終わりでございます」

 そんなメグに、コッコロは刺突を繰り出した。
 結局、マサツグが助けたところで寿命が延びただけで死は回避出来なかった。

「――残念だったな。まだ終わらせるつもりはない」

 漆黒の槍を弾いたのは、太陽に照らされし銀に輝く日輪刀。
 
 ――ナオミ・マサツグここに見参。

「ま、マサツグさん!」
 
「またマサツグさまでございますか。しつこいですね」

「ふん。まあこいつらを守ると誓ったからな」

「誓った……?誰にですか?」
 
「俺の――心にだ」

「そうですか。ではその心臓ごと、突き刺してさしあげます」

「ふっ……。やれるものなら、やってみろ」

「――ダーク・ネレイドスピア」

    ひゅんっ!


 凄まじい勢いで漆黒の槍がマサツグの胸に迫る。

「ぐっ……!まだまだこの程度じゃ俺はくたばらんぞ」

 間一髪、槍の穂先以外の持ち手を受け止めてなんとか即死を免れる。
 だが僅かに穂先が当たり、マサツグの服に血が滲み出す。

「マサツグさん!」

「何を喚いてる、メグ。この程度、大したことない」

「で、でも……」

「ふむ。この程度の小技はマサツグさまには効きませんか」

コッコロはあくまで冷静に状況を判断する。
 メグはおそらく暫く戦えず、戦えたとしても弱い。
 クウカな肉体派おじゃる丸が相手をしているし、彼は殺人に躊躇がない男だとコッコロは思っている。クウカが死体になるのも、時間の問題だろう。

 やはり一番厄介なのはマサツグだ。
 三人組で最も強く、あんな線の細い肉体なのに時として底知れない力を持つ。
 その根源が〝守りたいと想う心〟や〝絆〟だと知らないコッコロにはあまりにも不気味な存在。
 
(マサツグさまを放置したら、わたくしのように新たな力に目覚める可能性があります。……それとも、既に目覚めてるのでしょうか)

 今のコッコロにはマサツグが理解出来ない。
 もしも理解出来たとしても、羨み、妬み、憎悪を爆発させて心の闇が加速度的に深くなるだけだろう。

629Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:54:26 ID:zp3bKBv.0

 昔の心優しきコッコロはもういないのだから。
 それはオレイカルコスが支給品だったことも要因だが、運悪く最悪の時期から連れて来られたことも関係しているし――なによりパラダイスキングというマーダーとはいえ、一方的に殺害している。
 もっともパラダイスキングを甚振ったのはメグも同じなのだが……彼女はそのことを深く反省している。
 一方、コッコロは反省するどころか手を組んだメグすら、使い物にならなくなったと判断した途端に冷静沈着に処分しようとした。
 あの悍ましい瞳を、メグか゚忘れることはないだろう。

 (それでも――)

 それでも――、と魔法の言葉を唱えてメグは口を開く。

「こんなことは間違ってるよ、コッコロちゃん!コッコロちゃんの悲しみは私にはわからないけど……みんなで協力して主さまっていう人のいる場所に行こうよ!」

「悲しみ?メグさまは何か誤解していらっしゃるようですね。私の心を支配するもの――それは闇でございます」

 漆黒の瞳をメグに向け、彼女の言葉を否定する。

「ふん。中二病か」

 そんな皮肉を飛ばしながらも、マサツグは冷や汗を流す。
 コッコロの心が闇に支配されているのは理解していた。
 マサツグもリュシア達ルーナ孤児院ファミリーのおかげで変われただけで、過去は心に闇があった。
 親に見捨てられたことは今でも鮮明に思い出せるが――そんな痛みを知るマサツグだから、今のマサツグが在る。

 しかしコッコロの闇は殺し合いという過酷な状況のせいか、もっとドス黒いものだ。
 それは彼女の雰囲気と――なにより見た目すら変わったことがよく表してる。

 ゆえに彼女は殺さなければ、止まらないだろう。
 いや――その気でいかなければマサツグ達が逆に殺される。

630Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:55:17 ID:zp3bKBv.0

「マサツグさま。あなたはここで死んでくださいまし。――闇疾風」

凄まじい勢いでコッコロが駆け抜け、マサツグへ槍を振り翳す。

「ぐっ……!残念だが心臓は狙えなかったようだな」

 コッコロの刺突は、脇腹に刺さった。
 日輪刀で弾くのが間に合わないと判断したマサツグはギリギリのタイミングで、体勢をズラしたのだ。

「減らず口を……!」


    ヒュンッ

        ヒュンッ

            ヒュンッ


 幾多もの風切り音と共に刺突による猛攻がマサツグを襲う!
 しかしマサツグは日輪刀で頭や心臓などへの攻撃を弾き、なんとか即死は免れたが負傷は酷く、激痛が走る――!

「――ッ!」
 
「これだけ突き刺せば、流石のマサツグさまでも時間の問題でしょう……」

「それはどうだろうな……」

「まだ減らず口を叩く気力はありましたか。それならこれで、終わりでございます」

 コッコロが槍を構える。
 穂先は当然、マサツグの心臓だ。
 そして必殺の一撃が――

「さ、させないよ……!」

「ふっ……」


        ガキィィィン!
 
 
 ――マサツグの日輪刀が、コッコロの槍を弾く。

「なっ……!?」

 想定外の展開に、コッコロが動揺して目を見開く。
 マサツグには日輪刀を振るう力などもう残されていなかったはず。
 それに負傷まで回復している。

631Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:58:14 ID:zp3bKBv.0
「よくやった、メグ」

「メグさまが――!私たちを裏切り、あまつさえ都合良く殺し合いに反対する派閥に加担して……本当に恥知らずですね!」

 コッコロが槍を構えると同時にメグは〝そうりょ〟に変身してマサツグを回復させたのだ。
 その事実に気付いた時、コッコロは普段の彼女らしくもない言葉で苛烈に罵倒した。

 この場で一番強い敵はマサツグだ。厄介なのもマサツグだと認識していたが、どうやら認識を改めなければならない。

 この中で最も厄介で憎いのは、メグだ――!

632Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 07:59:22 ID:zp3bKBv.0

「ハザードオーロラ――ダークネス!」

 槍を上空に向けて、技名を唱える。
 ――瞬間、天の一部が闇のオーラに覆われ、マサツグとメグに重量が襲い掛かる。

「くっ……!なんだこの重圧感は……!」

 唐突な重圧感に苦悶するマサツグだが「守る」スキルで軽減されてるだけまだマシだ。

「ぅぁ……っ!なにこれ、身体が重いよ……!」

 重圧感に押し潰され、メグは片膝をつく。片膝だけでも立ち上がろうとしているのは、半ば意地だ。

「優先順位が変わりました。メグさま、あなたから殺します」

「コッコロちゃん……。女の子が殺す、殺すなんて言っちゃ……ダメだよ」

「他人を殺そうとしていたのはメグさまも同じ。つまりこれは、因果応報でございます」

633Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:00:18 ID:zp3bKBv.0

「それはそうだけど……コッコロちゃんもやりなお――」

「そんなことは出来ません!わたくしは優勝しなければならないのです!」

「そんな……」

 自分の説得が微塵も通じず、思わずメグの気が沈む。
 そんなメグにコツ、コツ、と――一歩ずつコッコロが迫る。マサツグの血で染め上げた、赤黒い槍を片手に。

「コッコロちゃん――」

「さようなら、メグさま」

「私を救ってくれたマサツグさんやクウカさん、そしてコッコロちゃんのためにも――私は死なないよ!」

 メグが叫ぶと同時に、コッコロは容赦なく槍を突き出した。
 しかし妙に硬い感触。何故だか槍でメグを貫けないどころか、あまり深く突き刺せない

 (これは、なにが――)

「効かない、よ……」

 メグはコッコロから攻撃を受ける前にクラススキル〝体が勝手に〜!〟を使っていたのだ。
 これによりメグの魔法防御力と物理的な防御力が格段に上がったのだ。
 それでも僅かに突き刺さったのだが、コッコロが槍を引き抜くと徐々に傷が塞がっていく。〝体が勝手に〜!〟はリカバリー効果――つまり自動回復も付与するからだ。

「ぐっ……!メグ、今から行くから持ち堪えろ……!」

 マサツグがゆっくり、ゆっくりと歩き始める。
 いくら重圧感があろうとも、メグの逆境に「守る」スキルは強化されていた。

634Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:01:27 ID:zp3bKBv.0

「大丈夫だよ、マサツグさん。私はコッコロちゃんとお話がしたいから……マサツグさんはクウカさんを助けてあげてほしいな」

「こんな奴と話だと?本気で言ってるのか!?」

「うん。――私は本気だよ」

 メグの真っ直ぐな瞳に射抜かれて、マサツグは「やれやれ……」と観念した。

「……わかった。そいつはメグに任せるが、何かあったら躊躇せずそいつを斬るからな」

「ありがとうね、マサツグさん」

 メグの笑顔に背中を押され、マサツグは肉体派おじゃる丸とクウカの戦場へ向かう。

「……それで、お話とはなんでしょうか?メグさま。また組むというのなら――」

「ううん、違うよ。私はコッコロちゃんを止めたいだけなんだ〜」

「説得、ですか。今の私にはそんなもの、意味を成さないですよ」

「コッコロちゃんも日常を取り戻したいんだよね。その気持ちはわかるよ。私もマヤちゃんとリゼさんが死んで悲しかったから。
 きっとこの殺し合いが終わっても、マヤちゃんとリゼさんは居ないんだなって……」

「それなら、何故――」

「私はマヤちゃんとリゼさんを生き返らせたいけど、二人とも優しいから私が他の人を殺して優勝を狙っても止めると思うんだよ。……ココアちゃんみたいにね」

「それはメグさまのエゴです。本当は生き返りたいと思ってれかもしれませんよ」

 メグの言葉に、自然とコッコロの声音も強くなっていく。

「そうだね。でもコッコロちゃんが優勝を狙う理由もエゴだよ」

 その言葉に、コッコロは――

「……メグさまに、何がわかるんですか!色々な人の記憶から忘れ去られ、居場所である皆様にも危害を加えたくないから一人ぼっちになって……でも寂しくて……!」

 怒気が込められた口調で、槍を握る手に力を入れる。

635Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:02:20 ID:zp3bKBv.0

「ただの平和な日常を送ってたメグさまに、何がわかるのですか!」

 漆黒の槍が一閃する

「それは……わからない、よっ!」

 コッコロの槍をメグ専用ロッドでなんとか受け止める。
 凄まじい威力で、一瞬でも気を抜けば確実にメグは吹っ飛ぶだろう。

「言ったよね……私にコッコロちゃんの悲しみはわからないって。でも友達が二人も死んだ私の悲しさだって、コッコロちゃんにはわからないはずだよ!」

 ギリ、ギリ――。
 必死にロッドに力を込め、鍔迫り合いする。

「それなら……。そんなにも悲しいなら、優勝を狙えばいいじゃないですか!メグさまの、わからず屋……!」

「悲しいよ。すごく悲しいよ。でも私が優勝を狙って他の人達を殺し続けたら――二人を悲しませることになるかもしれない。それこそ死んだ二人への、侮辱だよっ!」

「そんなことは綺麗事でございます!私はキャルさまを殺してでも優勝します!」

「そんなことしてると、キャルさんが悲しむよ!」

「メグさまに……。あなたに何がわかるというのですか!!」

 ――激怒。
 怒りに任せて力を込めた槍は、ロッドを弾きメグを軽く突き刺した。

636Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:03:11 ID:zp3bKBv.0

「――ッ!コッコロちゃんの、わからず屋!」

「メグさまこそ、わからず屋です!」

 怒り任せに槍を構えたコッコロには――漆黒の翼が生えた。

 そして罪を背負い、それでも生き抜く決意をしたメグには右に白い翼が。左に黒い翼が生えた。

 それ即ち、心意の発露なり。

 コッコロは既に心意を発露していたが、更なる怒りでこの境地に至り。
 メグはここに来て初めて心意が発露した。
 
 コッコロの翼は、闇に呑まれた彼女らしく漆黒で。
 メグの翼はこれまでに犯した〝罪〟を象徴するかの如き黒と、彼女本来の優しさを秘めたる純白が混在している。メグの真実(トゥルース)を象徴するかのような翼。

 コッコロが槍を構えたように、メグもロッドを構える。

「メグさま、今度こそここで死んでくださいまし!」

「みんなの想いと私の生き様を乗せた翼で――コッコロちゃんを止めてみせるよ!」

 両者、空高く舞い上がり――ある程度距離のある場所から助走をつけて激突する――!

 
      ガキィィィン!


 ぶつかり合う、槍とロッド。

 
     ガキッ――

          ガキィッ!

            ガキィィィン
 
 互いに譲れないものを胸に振り回し、熾烈な攻防を繰り返す。

637Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:04:10 ID:zp3bKBv.0

 コッコロが槍を振るえばメグがロッドでそれを弾き、お返しとばかりにロッドを横に薙ぐ。
 しかしそこは手練のコッコロ。自分に向けられたロッドを槍の持ち手でスッと伝わせるように躱し、がら空きになったメグの腹に回し蹴りを見舞う。

 だがメグは意地とその高い耐久力を利用して左手で足を受け止め――

「やぁあああ――!」

 ロッドを手にしている右手で、その棒でコッコロの腹を突いた

「ごふっ……。まだ、まだです!」

 腹部にダメージを負ったコッコロだが、彼女とて譲れないものがある。

 漆黒の翼で体勢を立て直し――

「これならどうでしょうか!」

 凄まじい速度で刺突を繰り返す。

「や、ぁああああ――!!」

 メグは必死に弾こうと対応するが、全てを対処するなんて無理だ。
 ゆえに急所だけを防ぎ、徐々に近付く。スキルで耐久力が高まっているからこそ出来る荒業だ。


「これなら、どうだぁあああ――!」


 メグは頭を思いっ切り振り被り――コッコロのデコに激突させた。

 その衝撃で脳が揺さぶられ、メグとコッコロは緩やかに落下していく。翼がなければ、共に即死だっただろう

 落下する中、コッコロは口を開いた

「……メグさまは、どうしてそこまでしてわたくしを止めようとしたのですか?」

「コッコロちゃんは、仲間だったからだよ。目的やしてきたことは酷いけど……私はコッコロちゃんを仲間だと思ってたんだ〜」

「……仲間、ですか。わたくしに処分されそうになったのに、よくそんなことが言えますね」

「うん。……マサツグさんやクウカさんも、私を許してくれたから」

 メグはニッコリと満面な笑みを浮かべた

「ふむ……。やっぱりメグさま達のことは、よくわかりませんね……」

「コッコロちゃんがもう罪を重ねないなら――みんなでコッコロちゃんを守るから大丈夫だよ。だから行こうよ、ハッピーエンドでこのゲームをおわらせて――その先へ」

 コッコロをそっと抱き締める。
 その暖かさに、ペコリーヌの温もりを連想して思わずコッコロは涙を流してしまい――。

「ハッピーエンドのその先でございますか……」

638Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:06:02 ID:zp3bKBv.0

  ◯

 俺はクウカと肉体派おじゃる丸が居る場所まで、走っていた。
 メグやコッコロと距離が開いたら、重圧感もなくなってきた。範囲限定、ということか……。

 そして俺の視界に、肉体派おじゃる丸に嬲られてるクウカが入る。
 肉体派おじゃる丸にはかなりのダメージが入ったはずなのに、何故だ!?

「ふへへ。ま、マサツグさ――ゴハァッ!」

 俺を見てだらしなく笑うクウカの腹を肉体派おじゃる丸は容赦なく殴った。
 だが痣が出来る程度で、大した傷にはなっていない。頑丈だからこそ、ということか……。

「マサツグが来た瞬間にニヤけて笑っちゃうんすよね。あんたは無駄に耐久性があるから、ストレス解消に丁度良いっすね」

「肉体派おじゃる丸。――お前、何をしている?」

「見ての通り、あんたの女を嬲ってるんスよ」

俺の女?
 こいつ、何か勘違いしてないか?

「やれやれ……。そこの変態ドM女は俺の彼女じゃないぞ」

「そんなこと、どうでもいいんスよね。あんたはこいつを守ると言った。その態度が、いけ好かないんスよ」

「そうか――」

 俺は刀を構え――肉体派おじゃる丸へ走り出す。
 対する肉体派おじゃる丸は右拳で対抗。
 凄まじい金属音が鳴り響くが――お互い大したダメージはなし。

639Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:07:12 ID:zp3bKBv.0

「……俺はお前にダメージを与えたはずだが、随分と元気だな」

「地面に蹲ってたらイライラして――気が付けば痛みなんて消えたっす」

「ふん。この脳筋が」

 とりあえず俺に注意を向けさせて、クウカを守ることには成功した。
 それにしてもイライラで痛みが消えただと?アドレナリンか?

「本当は男を嬲る趣味なんてないっすけど、これも優勝のためっすね。死んで、どうぞ」

「死ぬのはお前だろう」

 肉体派おじゃる丸はクウカを蹴り飛ばすと、乱打を仕掛けてきた。
 さっきより速さが増している――が、対応出来ないわけじゃない。
 俺は刀で乱打を弾き、肉体派おじゃる丸に袈裟斬りする――が妙に硬い。

「……貴様、また筋トレでもしたのか?」

「さあ?ムカついてたら、こうなってたんスよ」

 肉体派おじゃる丸へ僅かに傷痕を付けることには成功したが、どういうわけか傷が塞がっていく。なんだ、この現象は……!

「こんなもんじゃ誰も守れないっすよ」

 瞬間――凄まじい速度で飛び掛かってくる肉体派おじゃる丸。
 俺は躱すことが出来ず、顔を何度も嬲られる。

「はははは――!やっぱり雑魚を甚振るのって楽しいっすね」

「……随分と悪趣味だな。この脳筋、肉体派おじゃる丸が」

「うるさいっすね!」

 皮肉を飛ばして――右の拳を固める。
 そして肉体派おじゃる丸の顔面を殴るが――まるで効いてない。

「リュシア、シー、クウカ、メグ。俺はお前達を――」


「違うよ、おじさん!マサツグさんだから、私達を守れる。救ってくれたんだよ!」

 白と黒の翼を背に生やしたメグが、ロッドを肉体派おじゃる丸の顔面に炸裂させる。

「わたくしにはマサツグさま達のことがよくわかりませんが……メグさまを信じてみます。ハッピーエンドのその先へ羽ばたくために!」

 メグと同じく、白と黒の翼を背に生やし、見た目も戻ったコッコロが――穂先が透き通った色になった槍で、肉体派おじゃる丸の胴体を突き刺す。

 ほぼ同時にダメージを受けた肉体派おじゃる丸の身体がバランスを崩して僅かに隙が出来た。

「ふっ……。よくわからんが――勝機は俺にあるらしい」

 咄嗟に刀を握り――力を込めて肉体派おじゃる丸へ横に薙ぐ。

 肉体派おじゃる丸の肉体から出血し――苦悶の表情を浮かべる。

「クキキキキ……。この人数差はまずいっすね」

 そして肉体派おじゃる丸が地面を殴ると、砂埃が舞い――そのうたに肉体派おじゃる丸は逃げた

「マサツグ……!次こそは必ず殺してやるっすからね」

「……追わなくて良いのですか?」

「俺の目的は殺すより、守ることだ。その過程で危険人物を殺すことはあるかもしれんが――」

 まずは、だ。

「とりあえずクウカの治療をしたいし、コッコロ……お前がどうして心変わりしたのか教えろ」
 
「わかりました」

640Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:07:40 ID:zp3bKBv.0

 ◯
  メグが頭突きをした瞬間――心意によりコッコロのオレイカルコスの結界は破れた。
 それは二人の心が繋がった瞬間だった。

 君と出逢い、君と往く。
 ハッピーエンドのその先で。
 ありきたりで、けれど愛しい――日々を過ごしたいよ

641Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:08:28 ID:zp3bKBv.0
【C-7/一日目/午前】
【直見真嗣@異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(漫画版)】
[状態]:ダメージ(小、包帯、ガーゼなどにより処置済み)、疲労(大)、左目失明(眼帯により処置済み)、メグとクウカを守りたいという想い
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:ラスボスを倒す。殺し合いを脱出するには、これしか手段がないようだな
1:クウカ、メグとその友人を守る。
2:やれやれ。ようやくメグを取り戻せたか
3:もう失うことは御免だな。
4:エリン……
5:コッコロがどうして心変わりしたのか、事情を聞くか
[備考]
※「守る」スキルは想いの力で変動しますが、制限によりバランスブレイカーになるような化け物染みた力は発揮出来ません
※参戦時期はリュシア達が里親に行ってから。アルノンとも面識があります

【クウカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(中)
[装備]:ガーディアン・エルマの短剣@遊戯王OCG、フライングランチャー@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品、応急処置セット@現実
[思考・状況]基本方針:こ、困ってる人を助けます……
1:マサツグさんやメグちゃんと一緒に戦いますぅ!
2:モニカさん達と合流したいです
3:クウカ、マサツグさんのことが気になりますが……今はそれどころじゃないですね
4:マサツグさんの心の支えになりたいです
[備考]
※頑丈です。各種スキルも使えますが魔力を消費します。魔力は時間経過で回復していきます
※応急処置セットの包帯は使い切りました

【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、魔力消費(中)
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品×2、巨大化@遊戯王OCG、ランダム支給品0〜2(ボーちゃんの分)
[思考・状況]基本方針:マサツグさん達と一緒に抗うよ!
1:チマメ隊の絆は永遠……だけど優勝して生き返らせてもマヤちゃんが喜ばないよね
2:マサツグさん、クウカさん、ありがとうね。ルーナフリューゲル、いくよ〜!
3:今まで酷いことしたみんな……ごめんね
4:マヤちゃん、リゼさん……天国で見守っててね!
5:またよろしくね、コッコロちゃん
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。
※魔力は時間経過で回復します
※心意により右が白、左が黒い翼が生やせます。この際、身体能力が一気に上昇します

【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、
[装備]:量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)+マンゴーロックシード(全て破損)@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式×2、破れて効果を失ったオレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG、スイカロックシード@仮面ライダー鎧武(2時間使用不可)、デスノート(複製品)@DEATH NOTE
[思考]
基本:メグさまとこの殺し合いを終わらせて、ハッピーエンドのその先を目指します
1:メグさま、ありがとうございます……
2:マサツグさまに、事情を説明しなくては……
3:今まで襲った方々……ごめんなさい……
4:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後
※心意により右が黒、左が白い翼が生やせます。この際、身体能力が一気に上昇します

642Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース― ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:08:39 ID:zp3bKBv.0
【C-7(マサツグ達から距離は離れてる)/一日目/午前】
【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胴体に刺し傷、右胸から左脇腹までの切創、胴体に真横の浅い切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、虐待おじさんを殺せた喜び、ダンデライナーにしがみ付いてる、右拳に槍の刺し傷
[装備]:
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG(発動不可)、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG(発動不可)、デス・メテオ@遊☆戯☆王(発動不可)、虐待おじさんのデイパック(基本支給品、ランダム支給品0〜1)、ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:とりあえず今は逃げるっすね
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
5:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね
6:かなり疲れたから休憩もしたいっすね
7:マサツグも、あのメスガキ共(メグ、コッコロ)も許さないっすからね
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません
※心意により憎しみなどの負の感情で身体能力と肉体硬度が上がり、その間は自動的に徐々に回復します

643 ◆QUsdteUiKY:2025/05/04(日) 08:09:07 ID:zp3bKBv.0
投下終了です

644激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:42:13 ID:TY0Xnnho0
投下します

645激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:44:12 ID:TY0Xnnho0
 身を翻しながらジャックは明石へとデュエルディスクを構える。
 先ほどルナが結局説得できなかったのもあり、。初対面の敵に身構えてしまう。

「貴様、何者だ! 俺の名を知るに、
 遊星か牛尾の仲間と判断したいが……遊星達から情報を抜き取った可能性もある!」

 相手はマイク一本。こんな場所でただのマイクなどあるはずもないのは分かってる。
 間違いなく武器であることなのは確かであり、警戒心は最大限に強めていく。
 しんのすけが変身したまま前に出て、後方でジャックと冥王がカードを引いて臨戦態勢に入る。

「……答えは前者になります。私は工作艦明石、
 此処では知人が誰もいないので伝わりませんが、
 艦娘と言う、人類を深海棲艦から制海権から奪還するために戦う存在です。
 遊星さんには助けられて、今プランドロールと言うチームを作って、
 仲間を募ってるところです。それでも疑うと言うのであれば、武器も捨てましょう。」

 自分が何をするべきかは変わらない。
 蛇王院には生きろと命じられた。死ぬことは許されない。
 いかようなことがあろうとも轟沈だけは許されないので、
 だから武器を捨てるとは言ってるがまだ不安は拭いきれず、
 不安も相まってガイアプレッシャーを逆にゆっくりと握りしめる。

「あのお姉さんは嘘はついてないと思う。」

「根拠はあるんだろうな? あの小娘みたいなのと同じなら地獄を見るぞ。」

「あんなに震えてる敵はいないと思う。」

 しんのすけが指摘するように、明石の足は小刻みに震えている。
 ルナのような凶悪な人間ならそうはならないだろうし、
 深淵の冥王の見解としてはそれでも最初の頃の自分の立ち回りのように、
 誰かを隠れ蓑に従ってる奴もいるだろうにと思っていたのだが、

「あ、それは足をジャンヌって人に斬られたからで別に……」

「ジャンヌだと!?」

「え、ええ。まさか、戦ったんですか!?」

 別にそんな深読みをする必要はなかった。
 ただ単に怪我が原因でこうなってるだけであり、
 ジャンヌの名前が出てくれば、話は変わってくる。
 もっとも、ジャックは別に彼女をさほど疑ってなかったのだが。
 遊星や牛尾に出会い、ルールの調整もされたデュエリスト相手に声をかける。
 もし敵ならばデッキが二つもある参加者を不意打ちできる好機を捨てる理由はない。
 確かに仮面ライダーであるしんのすけがいる以上、不意打ちに成功しても奪えるかは賭けだ。
 しかし、明石の背後は道がない水辺だ。道らしいものがないのにどこからやってきたのか。
 恐らくだが空を飛ぶと言った、逃げの手段を持ち合わせているのだろう(正確には水上を走れるのだが)。
 逃げの手段もあり不意打ちもしない。ならば、敵である可能性は限りなく低いのだと。

「なるほど……蛇王院と言ったか。随分豪快な男だな。」

 気質的にはジャックと似ているようだ。
 色を好むところは大分別ではあるようだが、
 豪胆な性格で他者を振り回す側に近しいものの、
 仲間想いであり、敵でなければ決して見捨てない熱い男だと。
 (ジャックの場合は、どちらかと言えば女は寄ってくるものなのだが)

「でもその後ジャックさん達が戦ってるのを見るに、蛇王院さんは逃げ切ったか、或いは……」

「悲観的だな、小娘よ。」

「……そういう世界で生きてましたから。
 勿論、生きてると願いたいところですが。」

 深海棲艦との戦いによる轟沈と言う名の艦娘における死。
 工作艦と言う立場は主戦場は鎮守府、或いは連合艦隊旗艦であることの多い彼女には、
 他者の死と言うものは戦場にいるがゆえに、人以上に身近に存在しているものになる。
 だからどうしてもプラス思考ではいられない。生きてることを願うことはすれども。
 今まで沈んでいった艦娘だってそうだ。沈んだと言っても、ひょっこり帰ってくるのでは。
 そんな風に毎日思いながらも、日々武器の開発に改修、艦娘の修理に務めている。

「信じる者は救われる、とまでは言わんが仲間ならせめて信じておけ。
 俺の仲間はどんな逆境でも諦めなかったぞ。こんな小さな子供でもな。」

 そういいながらジャックは手を下の方へ下ろし、件の人物の身長を示す。
 龍亞も龍可も、アポリアとの戦いで必死に戦っていた。一度は諦めかけた龍亞も、
 再起して勝利の道筋を見出すことができた勇気のある少年だったことは間違いない。

「……そうですね。ジャックさんの言う通りです。」

646激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:47:21 ID:TY0Xnnho0
 艦娘にも駆逐艦や潜水艦を筆頭に小学生ぐらいの艦娘は沢山いる。
 電(いなづま)のような優しい子もいれば、潮のような臆病な子だっているが、
 だからと言って深海棲艦を前に諦めたり、心が折れたりせず抗い続けていた。
 特に直すことが工作艦の仕事だ。仲間の生還を信じて治療を続けるのも役割の一つ。
 ジャックに言われたからだけというわけではないが、改めて前を見据えることができた。

「それにしても、ジャンヌって人はそこまで日本人が嫌いなんですね……」

 日本人嫌いな理由は蛇王院から聞かされてはいたが、
 よもや戦闘を終えて程なくしてジャック達と戦って、
 乱入者を倒した後も殺しに来るという、徹底とした差別主義者。
 いくらなんでも過激すぎる行動力に、ジャンヌにつけられた足のケガが僅かに疼く。

「俺も差別されてた側だから理解はできるな。共感はせんが。」

「此処に未だに復讐を理解できぬ愚か者もいるがな。」

「それは個人の見解も含まれてるだろうが。」

「復讐したことがない貴様にも分かるまい。」

「恨まれることは慣れてたがな。」

「キングだからか?」

「キングだから……と言いたいが、鬼柳の件もあるからな。俺個人にもある。」

 じろりとしんのすけの方を、
 ジャックと小言を交わしつつも冥王が見やる。
 復讐と言うものは言うなれば己が先に進むためのもの。
 だからハ・デスと戦い続けた。死闘を繰り広げ続けてきた。
 故にルナの言うことは理解するし共感もする。受け入れはしないが。
 けれどやはり、しんのすけにはジャンヌのような差別もルナのような復讐も受け入れられない。
 格差社会についてはよく知っている。金有電気と春日部市の貧富の格差は分かりやすいものだ。
 でも殺すまではしなかった。復讐も同じだ。相手を殺してまで止めなければならないものなのかと。
 だが、その甘さがルナによって齎された結果が、遊馬の死と言うのは覆りようのない事実でもある。
 いつまでもうじうじと悩むのは自分らしくない。それでも。彼女を殺せるのかと問われると言い淀む。

「! この音は……Dホイールか?」

 キィーン、と言う余りに聞きなれた駆動音。
 忘れるわけがない。忘れていいはずがない。
 唯一Dホイールを知るジャックだけがその音が何か反応できる。
 まさか自分のと思ったが、あれだけ乗ってきたDホイールの音だ。
 今更別の乗り物だと聞き間違えることは決してない。

 岩陰から出てくるように正体を現すDホイール。
 出てきたのは緑を基調としたDホイールだが、普段使いのものとは違う。
 サイドカー付きだ。基本的にライディングデュエルはシングルデュエルだが、
 中にはタッグデュエルのもあり、恐らく本来の持ち主はタッグデュエルをしてたのだろう。
 そしてそれに乗る男と、背後から迫るように白き龍が追走してきており、
 一見敵に追われてるのかとカードに手を付けるジャックではあったが、
 Dホイールが四人を発見すると一時停止し、龍の方もすぐに消滅して横並びに立つ。
 いや、半数は肩を借りている状態で並んでるので、並ぶと呼ぶには少々違うだろうか。

 敗走。四人の様子を見ればそれは明らかなことだった。
 疲弊しきった男性陣、絶望とした表情をする少女(厳密には違うが)、
 足を痛めてるが気絶してる相方が肩を借りて動いていると言う、今しがた敗北したと言える姿だ。

「海馬瀬人か。こんな形で出会うとは思わなかったな。」

「俺を知っている……遊戯にでもあったか?」

「会ったのは事実だ。しかし俺の世界にも海馬コーポレーションは存在している。
 今のお前の姿を察するに、俺は貴様にとっての未来人と言ったところになるだろうな。」

「過去の男を追い求める俺が、未来人と邂逅とはな。
 だが悠長に話している暇はないぞ。貴様らに忠告だ。逃げる準備をしておけ。」

 バッティングセンターでの出来事を、まだ話せる状況にある海馬と橘が説明していく。
 名の知らぬ怪物である無惨の乱入、仮面ライダー二名とデュエリスト一名でも倒しきれず、
 一人の少女が犠牲となってこうして逃げおおせることができたと言う、敗北の顛末を。
 語れば語るほど海馬の眉間には皴が寄っていく。腹立たしいと言う感情は無惨とある意味同じだ。
 だが腹が立つのは自身についてた。ネオブルーアイズの攻撃力はオベリスクを超えた4500。
 それを蹴散らされてしまい、あまつさえ彼からすれば保護対象に近いリゼを死なせたと言う事実。
 自分の不甲斐なさに腹が立っており、その怒気は明石やしんのすけすらも感じるほどだ。

「事情は分かったが、俺様達は八人だ。この人数で迎え撃つ、というのは無謀なのか?」

647激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:49:18 ID:TY0Xnnho0
「何だこの雑魚モンスターは……そういえば参加者にいたな。」

「な、なんだとぉ!?」

 一人異形の姿ともあって気になった海馬だが、
 一瞥すると同時に侮蔑の眼差しを向けられて憤る冥王。
 初対面の相手にいきなり雑魚モンスターと呼ばれる筋合いはないと思っていると、
 アプリを操作し、深淵の冥王のカードステータスを見せられてあんぐりとした顔になる。

「え、俺様の攻撃力低すぎ……ハ・デスが二倍以上差があるんだが。」

 わなわなと自分が降格処分で落ちぶれたステータスを見て震える冥王。
 別に海馬は役に立たないやつとは思ってない。デュエルディスクと此処まで生きている。
 それらを鑑みるに、デュエリストの腕は多少なりともあるようではあることは伺える。
 ただ彼は今苛ついており、話の邪魔になりそうな奴を黙らせるようにしただけに過ぎない。

「そうはいかねえ事情があんだよ……ハイパームテキガシャットがやべえ。」

 一番まずい状況だと知っている大我が意識を取り戻し、説明に入る。
 ハイパームテキガシャット。名前の通り、時間制限つきではあるのは分かったが、
 あらゆる攻撃を受け付けない、まさに無敵の防御力を誇る仮面ライダーになれてしまう。

「攻撃、効果を受け付けない上に仮面ライダーエグゼイドの最上位形態だと!?」

 カードの効果をほぼ受け付けない三極神を超える、正真正銘の無敵の存在。
 ただでさえジャンヌ、のび太、ルナと三連戦でレッド・デーモンズはやられている。
 生身の時点でネオブルーアイズを叩き伏せたならば、レッド・デーモンズではまるで歯が立たない。
 (因みにネオブルーアイズについてジャックは知らなかったのでアプリで確認した)
 その上で無敵状態。無茶苦茶にもほどがある。ゲームバランスの調整だと言っていたが、
 そんな支給品もではあるが、生身で4500の攻撃力すら超える怪物を用意など、
 虐殺されろと言われてるようなものではないかとジャックは驚嘆と共に憤りを隠せない。
 仮面ライダーについてはまだしんのすけが変身できる程度しか知らないので詳しくないが、
 最上位形態、要するにスカーレッド・ノヴァのような存在と思えばいいのだと判断している。
 そんなものが今追跡してきてる可能性があると言う事実。現状では対処のしようがないではないか。
 いつからバトルロワイアルは捕まったら死ぬ鬼ごっこが始まったのかと、疑念を持たざるを得ない。
 なんの偶然か、鬼の首魁なので言い得て妙であるが、そんなこと誰も思うものはいないのだが。

「このまま東か北に向かって逃げる。今は逃げて橘の足……つーか精神的にもやべえからな。」

「グッ……」

 リゼを守れず、ただ敗走するしかなかった。
 相手の力量が今までのアンデットをはるかに上回っていただとか、
 仕方なかった理由などいくらでも挙げられるが、理由など関係ない。
 また守れなかった。小夜子の時と同じように、またしても誰かを喪ってしまった。
 何よりもきついとするならば、誰もそれを責めてこないこの状況にあるだろうか。
 罵り言葉の一つや二つ浴びせられれば、返す言葉もないと言うことができるだろう。
 けれどあの場では戦えなかった百雲を除いて、リゼ含めて全力で戦った結果のものだ。
 彼を責める言葉などあるはずがなく、あるとするなら全員自分の不甲斐なさ、弱さに憤る。
 百雲は自分の無力さを、海馬や大我は自分の不甲斐なさについて責めるか憤っていく。
 それがよりきつく感じた。リゼを一番見ていた人間が、一番無力だったと言うこの事実が。

「あ、あの橘さん! 私の支給品で良ければ使ってください!」

 右足を痛めている橘の様子を見て、明石は支給品の中から赤い瓶を取り出す。
 エリクシールハーフと呼ばれるもので、ハーフである以上完全なエリクシールほどではないが、
 足の傷ぐらいならば十分に治せるはずだ。自分の傷も決して甘く見れるものではないものの、
 元より擬装なしの艦娘。戦闘力など頑丈さやら砲撃の反動に耐えるだけのパワーはあると言っても、
 余り期待できるものではない以上、戦闘に大きな支障が出るほどでもないので残して置いていたものだ。
 というより、ジャンヌやら遠巻きでもルナとかの戦闘を見た手前、自分の役割は戦闘ではなく、
 工作艦らしくこういった補助でサポートする、いつも通りの役割の方が自分らしくもある。

648激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:50:34 ID:TY0Xnnho0
「だが君も足を怪我して……」

「私のは致命的ではありません。それに、仮面ライダーは身体が資本なのは、
 最初に葛葉ってあの仮面ライダーが教えてくれましたから。だから、これが必要なのは貴方です。」

 明石自身が仮面ライダーになる。そういう手段もあるだろうが、
 あくまで艦娘は耐久やパワーが常人より強いだけであり、戦いの基本は砲雷撃戦。
 徒手空拳に特別強いわけではない彼女がなっても、宝の持ち腐れになりかねない。
 だからそういう意味でも、彼に使わせる方が有意義なのだと判断している。
 これでも提督の資源確保のための店を開いてた身だ。その辺の判断は十分に培っている。

「……すまない。」

 明石からエリクシールハーフを受け取り、それを即座に飲み干す。
 無惨にやられた右足はみるみる痛みが引いていき、一人でも問題なく立つことができる。
 少なくとも、戦うと言う観点において支障を持つことがない程度には回復できた。
 精神的に立ち直れたとはいいがたいが、肉体的に回復したおかげで少しはましになっただろう。

「……」

 しかし一番の問題は百雲だろう。
 生きてはいる。呼吸もちゃんとしている。
 しかしその瞳からは光と言うものを喪っており、
 リゼの死がどれだけ彼にとっての絶望に繋がってるかは伺える。
 せめて戦えていればこうはならなかった。けれど海馬と違い何一つできなかった。
 足手まといにならなかっただけましだが、そんなもの何の慰めにもならないことだ。
 ウィッチクラフトの戦い方次第なら、ヴェールで怪物の妨害をできたかもしれないし、
 バイストリートとモンスターを並べることで、壁モンスターを用意することで時間を稼げた。
 海馬からも言われた。見るのは信頼したデッキの手札ではなく、戦うべき相手なのだと。
 しかし相手は速すぎた。柱が複数相手してようやく倒せる上限の壱、それを更に超えた鬼の首魁。
 海馬も責めはしない。自身ですらドローすることすら危険だったりしたあの状況下において、
 まだデュエル初心者の百雲に最適解な行動を求めろ、なんてことを言えるような立場でもない。
 行く手を遮る神をもなぎ倒していけ、そんな風に遊戯にいつか発破をかけたことはあるものの、
 神でもない化け物を薙ぎ払えなかった海馬はより自分自身に憤りが隠せないでいた。
 ジャックの言った、遊戯と会ったことを後回しに考えてしまうぐらいに。

「奴が迫ってる可能性が高い。情報交換は移動しながら行おう。」

 ハイパームテキは仮面ライダーのスペックでも異常なものだ。
 無論単純なスペックだけで物差しは測れないが、変身する相手が相手だ。
 とても悠長に立ち止まって会話などできないので、大我がDホイールをしまって、
 冥王が召喚した、騎士が列車を牽引するように駆けるモンスター、
 爆走軌道フライング・ペガサスを召喚し、全員が列車内に乗り込んで移動する。
 大人数で移動するのが容易で、道すらすべて無視できる。列車カードの特性の強みだろう。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう。』

 車内で情報を交換していると、
 嘲笑も混ざったような賞賛の声とともに、
 空に巨大なモニターが映り、参加者にとっては打倒すべき男が映る。
 多くのものは睨むように、そのモニターを見届けていた。

 禁止エリアについては移動のルートにはさして影響はない。
 あの怪物が跋扈していた寺については調べておきたくもあったが。
 禁止エリアとなっては最早行くことも叶わないものの、とりああえずは語っておく。
 ひょっとしたら、その禁止エリアには何か都合の悪いものでもあった可能性はある。
 もし首輪が解除できるようであるならば、目指す場所としての価値はあるだろう。

『ボーちゃん』
『桜田ネネ』

 檀黎斗よる放送が始まり、真っ先に反応をするのはしんのすけだ。
 過去のボーちゃんとネネちゃんだったのか、自分における現代の二人だったのか。
 どちらかは分からない。別にネネのことを軽視したりするつもりは一切ないのだが、
 発明家である未来のボーちゃんの助力は欲しかったものの、それは叶わなくなった。
 どちらの時代の彼/彼女かは定かではないにせよ、死亡してしまったのは心苦しいことだ。
 もし生還しても二人はいないか、タイムパラドックスで最初から存在しなかったことになるのか。
 昔からの繋がりのあった友人だが、悲しんでる暇はなく、今だけは泣くことはしないでおく。

 御伽龍児の名前は海馬にとっては遊戯にとっての友人程度であり、大した反応はしない。
 もっとも、その後も無力な参加者である人もいただろうに雑魚と嘲る彼に、
 精神的疲労を起こしてる百雲以外の全員が睨むようにモニターを見つめた。

649激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:51:12 ID:TY0Xnnho0
『牛尾哲』

「……そうか。」

 ジャックが静かに呟く。
 セキュリティに務めていた男だ。
 最初こそ遊星、というよりサテライトの差別意識はあったようだが、
 いつしか差別意識をなくして、まっとうなセキュリティを務めていた男だ。
 此処でも推測でしかないが、誰かのために戦って死んでいったのだろう。
 思うところはあるにはあるが、死亡してしまったことには残念に思う。

『宝生…永夢ゥ!』

「……何だと?」

 席を立つことはなかったが、強く反応する大我。
 あいつが死ぬことになる。流石に想定していなかった。
 あの男をぶっ倒すのであれば、やはり彼と言うイメージがあったからだ。
 リゼがまだ呼ばれてないのを見るに、先に死んだ者が挙げられてるのだろう。
 ということは、相当早い段階で死んでいる。仮面ライダーに変身できなかったのか、
 自分達のように変身しても叶わなかったように、相手が強すぎたのか。
 どちらにせよ、あの男に対して因縁があるのは自分だけになってしまっている。
 自分の存在が別の意味でより重要になっており、慎重に立ち回らなければならなかった。
 (天津垓と言う存在を知らないので、そういうことになるのは仕方ないのだが)

『城之内克也』

「凡骨め、逝ったか。」

 此方も御伽同様さして……とは言うものの、
 一応闇マリクとの戦いでデュエリストとしては認めてはいた男だ。
 故に少しぐらいは悼んでおいてやろう、そんな風に彼は思う。
 自分の死が間近であったこと以外は奇しくも、もう一人の海馬と同じ反応でもある。

『うさぎ』

「グヌヌ……」

 のび太との戦いで、庇って散っていった謎のうさぎ。
 ジャックは何かを分かっていたようだが、冥王には終始奴が何を言っていたか分からなかった。
 だが圧倒的な力量差を前に勝利のためにのび太へと立ち向かい続けて、
 最終的に彼’(彼女?)の存在がジャックの逆転の一手を担ったのは事実。
 冥王としての威厳を、尊厳を取り戻した矢先に王が庇われて死なれては、
 何も文句が言えなくなってしまう。これは後に呼ばれるだろう遊馬も同じこと。
 王だと言うのに次々と勝手に味方が庇っていっては死んでいく。王として考えれば。
 臣下や部下と思えば分からなくはないが、彼らはただ此処でつるんでいるだけの間柄。
 そんな奴らに助けられ続けてる自分は、果たして冥王と呼べるのかと唸り続ける。
 特に、先ほど海馬に見せられた冥王のステータスの低さのショックも大きい。

『野比のび太』
『尾形百之助』

 尾形との間にあったことから、恐らくあの少年の名前なのだろうと察する。
 二人の王者は、今でもあの少年は最強の一角だと思えてならなかった。
 あれだけの策や強化が起きても、最終的には尾形と言う運があってこそだ。
 実に恐ろしい存在だった。早めに出会えて、倒せたのは行幸だったと思える。
 ただ一つの後悔があるとするならば、うさぎや尾形と言った犠牲者がでたことだが。
 ……尾形が単なる犠牲者ではないことに、欠片も気づくことはなく。

『天々座理世』

 四人の身体がピクリと反応する。
 最後まで無惨に抗い続け、皆が逃げる時間を残してくれた少女。
 海馬や大我にとっては守るべき対象に近しい少女であり、
 百雲にとっては同じく強くなろうとしていた友達であり、
 橘にとっては最初に出会って、一番短くない時間を過ごした弟子だ。
 そしてまたしても喪失したこの胸の痛み。忘れることはないだろう。
 放送の中にはしんのすけが気にかけたルナもいたものの、
 彼らは名前を知らないのでそれに気づくことはなかった。

 放送が終わり、どんよりとした空気が列車内に流れる。
 明石としては蛇王院も遊星も生きていることは喜ばしいが、
 此処にいるのは何人も仲間を喪って、今を生き延びてきた者達だ。
 言うなれば葬式、ないし通夜みたいな会場で『よかった』の一言でも呟いてしまえば、
 人ではない冥王ですら『空気が読めんのかこいつは』となっていたのは間違いない。
 だから表情には出さずに『よかった』と思うだけにとどめておく。

「四十人か……あの野郎。」

 大我が露骨に舌打ちしながら窓の景色を見やる。
 彼は曲がりなりにも医者だ。人の死の重さを人並み以上の理解はある。
 人同士(人かどうか怪しい化け物もそこにいるが)の争いで死んでいくのを、
 ただのゲームのように、娯楽のように愉しんでいるあの男はいくら殴ろうと許せないだろう。
 ……なお、すぐそばにDEATHーTと言う命懸けのゲームを実行した海馬がいたりするのだが、
 それを知ることはよほどのことがない限りないはず。あった場合はろくなことにならないだろう。

「あの、これ行先ってどこなんですか……?」

650激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:51:40 ID:TY0Xnnho0
 気持ちの整理は未だついていないし、自責の念も酷いままだ。
 それでも、何かしなきゃと言う強迫観念が百雲を何とか行動に移してくれる。
 医者である大我からすれば、無理をしていていい傾向ではないと言うのは分かっているが、
 今は少しでも一人で身動き取れるように見守るのが、一番だと判断して何も言わないでおく。

「遊星さんと蛇王院さんが待ってる北東のD-4ですよ。
 九時ごろに湖に置かれた船で合流する予定で、その方角が良いかと。」

「……なるほど。明石の言う二人は名前を呼ばれなかった。
 となれば彼らの状態にもよるがかなりの参加者が集うはず。
 そうなれば首輪についても、目的についても話し合えると言うことか。」

 情報交換で得た内容から橘がその意図を口にする。
 ジャンヌが徘徊する可能性が高い移動ルートになるが、
 橘達が立ち向かった相手が陸路での移動となるなら、
 D-4にはD-2の橋を使わなければ大幅に距離が取れる。
 遊星達と合流できれば、倒せる算段も付く可能性は十分にあった。

「はい、そうなります。ジャックさんもご存じですが、
 遊星さんもメカに強いです。もう一人いれば……あ。」

「どうした小娘。」

「……首輪、持ってませんでした。」

 肝心なことを忘れてがくりと項垂れる明石。
 ジャックも尾形を埋葬、遊馬は行方不明の状態。
 のび太の首輪は残っていたのかどうかも分からない。
 リゼのは当然回収する暇なし。此処には誰も持ち合わせいない。
 遊星や蛇王院が持っていればいいのだがと願っているのだが、
 悲しいことに現時点で首輪を持っている参加者は全参加者含めほとんどいなかった。
 遊星は首輪を得る機会こそあったものの、共に戦ってきた仲間の首を刈り取る行為は、
 流石に抵抗はあるし、同行者となる結芽も城之内の首を、同じ親衛隊の御刀で斬るなんて行為、
 したいとは思わないし、だからといって達也の方だけを切り落とすのは贔屓が過ぎることだ。
 仲間と言うものが何かを知った彼女だからこそできないのもあり、首輪は未回収のままである。
 尾形も、遊馬の前で首を切り落とすなんてことできたものではないのだから仕方がないことだ。
 せっかく集まると言うのに、感情によって首輪なしとはどうかと思う明石ではあるものの、
 皆状況が状況だったのもある。ジャンヌ達の襲撃、ルナの襲撃、無惨の襲撃、
 いずれも首輪なんて回収する余力のないことばかりであったのだから。

「今は合流し、作戦を立てる。それが一番だろう。
 首輪は最悪、敵が放送により死体漁りで集めたのが狙い時だ。
 焦って自分の首輪が材料にされないよう気を付けるんだな。」

「あ、はい……その辺は分かってるつもりです。」

 冷酷ながらも至極まっとうな意見に明石は苦笑を浮かべつつ、
 それを即答で言ってのける海馬の言動に対して大我は目くじらを立てる。
 言ってることは正しい。どのみち首を切り落とさなければ首輪は手に入らない。
 ゲーム病みたいに肉体が消滅するとかでもなければ、首切りなしではまず不可能だ。
 それはそれとして、死者の冒涜ともいえる行為をにべもなく言ってのけたこの男に、
 少しばかりではあるが不快感や不信感と言ったものを感じてしまう。

「百雲。慰めるつもりなどないが、あれはどうしようもなかったと言っておこう。
 俺ですらてこずる相手だ。何もできなかったとしても、貴様を責めるものなどおるまい。」

 それって慰めなのでは……明石はそう思うも黙っておく。
 確かに事実だ。腕が圧倒的に上の海馬でもまるで役に立たなかった。
 殆ど仮面ライダーの二人やリゼが尽力を尽くしていたと言ってもいい。
 だからこそ海馬は怒りの形相が未だ崩れないのだが。

「……分かってはいます。でも……」

 人の命が喪われた状況において、はいそうです、そう言えるわけがなかった。
 気分転換と言えるほどでもないが、席を立って後方の列車へと向かいとぼとぼと歩き出す。
 他のメンバーも席を立っては窓を眺めたり黄昏たり、自身の体調を確認するなどで時間を過ごす。
 このままいけば少し早いが、何ら問題なく到着できるだろうが、冥王やジャックは油断しない。
 既に死亡したことを知らないが、ルナと言う空を飛べて、平然とモンスターを殴り倒す子供がいた。
 だから空中から来るであろう存在には特に警戒をしていたところ、

「み、皆さん!!」

651激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:52:22 ID:TY0Xnnho0
 血相を変えて後方の列車から百雲が戻ってくる。
 今まで反応が薄かった相手がいきなり声を荒げており、
 全員が敵襲だと判断するのに時間がかからなかった。
 奴(無惨)が来たのかと全員戦闘の準備に入るが、

「あ、あの、最初に映った槍の人が、凄い速度で追ってきてます!!」

 それを聞いた瞬間、全員が戦慄した。
 縁壱と並んで、最初の放送で存在を知らしめた槍の男、ポセイドン。
 無惨と違って放送されたのは、さながら注意喚起のように呼ばれた存在だ。
 それが追ってきている。全員が落ち着いた状態で反応できるわけがなかった。
 まだ無惨が追ってきてると言ってくれた方がましだったと言いたくなるぐらいだ。

「全員聞け! 俺達は奴を此処で迎え撃つぞ!」

 ジャックが音頭を取るように立ち上がりながら叫ぶ。
 本来ならば海馬も此処で迎え撃つと言うつもりではあったが、
 自分の不甲斐なさに苛立ちを隠せないでいたため、一瞬ではあるが遅れて立ち上がる。

「何を言っているのだおぬしは! 相手は主催の刺客の一人、
 それに匹敵する扱いの奴だぞ! 逃げるのが常套手段ではないのか!!」

 いくら威厳を取り戻した冥王と言えども、あれは別だと思っている。
 あれに挑むにはまだ足りない。この人数、この戦力ですら挑むのは無謀だと。
 あと数人は確実に必須、特にデュエリストではなく仮面ライダーなど近接タイプが。
 いや、近接タイプがいたところでどうにかなるのか? という疑問すら湧いている。

「このまま逃げても追いつかれるだけだ。
 更に此処には首輪を何とかできる可能性のある明石、海馬がいる!
 ついでに向かう先には遊星も待っている! これだけのメンバーがいて、
 全滅すれば最悪俺達は仮に奴に勝てたとしても、檀黎斗に辿り着くなど不可能だ!」

 ただでさえ首輪解除に貢献できるメンバーが揃っているのだ。
 此処、或いは合流先で一網打尽にされれば最悪首輪が外せず詰みに入る。
 それだけは避けなければならない。此処で食い止める、いや倒さなければならない。
 あの男を放置すれば殺戮が広がる。そういう意味でも阻止しなければならないのは、
 仮面ライダーの力を持つ者達も、艦娘も、海馬も、冥王も仕方ないが理解していることだ。
 一瞬だけ躊躇いがあったのはしんのすけだが、彼はもう止めようがない存在である。
 できることなら殺したくないのが信条ではあるが、その結果が遊馬の死を招いた。
 きっと彼もまた止まらない。開始早々人を平然と無機質に殺しているあの冷たい顔。
 今まで出会ってきたどんな巨悪よりも強大だ。殺す以外の選択肢は出てこない。
 しんのすけも覚悟を決めるように両手で頬を叩き、二人は一斉に声を上げる。

≪変身!!≫

 変身の負担が大きい大我だけは変身するタイミングを考えて一時待機し、
 橘としんのすけは共に揃って違った変身方法でギャレンとオルタナティブ・ゼロに変身。
 天井を突き破り(冥王はこの列車が破壊されるか冷や冷やしたが)、そこから海馬、ジャックも出る。

「ええいこうなれば腹をくくるしかあるまい……!!」

 こんな場所で終わってたまるか。
 のび太の時は決め損ねたがジャガーノートとリミッター解除。
 あれが合わされば本来ならば最強の一角にすら手が届きうる存在だ。
 今の手札ではできないだろうが、それができれば十分逆転はあり得ると願いたい。

「貴様らも出るか着地に備えろ! フライング・ペガサスは、
 最悪俺様がエクシーズ素材に使うから逃げるなら明石に頼れ!」

 近くには水辺がある。
 最悪、百雲を抱えることで明石だけ離脱は可能だ。
 水辺であれば移動ルートのかく乱もしやすいので、
 最悪追跡を免れることは可能になるだろう。
 冥王は別に二人を気遣ってはいない。邪魔になる可能性の高い百雲と、
 ハ・デスに到達するためには首輪の解除要員は欲しい人材だからだ。
 冥王も出ていき、明石も席を立って百雲へと手を差し伸べる。

「百雲さん。どうしますか?」

「どうします、って……? ま、まさか戦えって……?」

「別に、無理強いはしません。
 冥王さんの言う通り、私と逃げる選択肢もあります。
 逃げたい、というのであれば私はそれを尊重し、百雲さんを連れて逃げます。
 私は逃げることについて否定しません。百雲さんはデュエリストみたいですが、
 だからと言って必ず戦わなければならない、責任を背負う必要はないんですよ。」

652激瀧神 『ポセイドン・スプラッシュ』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:52:41 ID:TY0Xnnho0
 明石はこの殺し合いにおいて生きなければならない。
 ジャックの言うように、首輪を何とかできる可能性のある一人だ。
 同じくメカに強い遊星が生きてるとしても、それが五体満足かは別になる。
 辛うじて一命をとりとめているが、腕が欠損してしまっている可能性もある。
 或いは乗った人物に捕虜や人質として捕えられている可能性も否定しきれない。
 冥王の言う通り悲観的だが、彼女は鎮守府に唯一無二となる工作艦の艦娘だ。
 悪い言い方だと自覚はしているが、元の世界に自分の替わりを務められるものがいない。
 装備改修、ショップの店員……ブラック労働めいてるが、彼女なくして成り立たないことが多い。
 だから自分は五体満足で生きなくてはならない。それだけは何よりも優先することになる。
 噂では轟沈してもいつかまた会えるみたいな話も聞くが、眉唾物で命を軽視できるわけもなく。
 此処でジャック達が負けるとは思いたくないが、最悪一人でも逃げる考えはあるつもりだ。
 だからと言って冷酷や冷徹と言うわけではない。明るく、フレンドリーなのが明石である。
 百雲が逃げたいと言うなら、世界は違えど人類を守るため、戦う彼女は手を差し伸べる。

『この程度で折れるような奴が本番で戦えると励ますつもりか貴様はッ!!』

 海馬はそう言っていた。そしてほんの少し前にそれを経験し、
 本番となる戦いにおいて召喚の一つすらこなすことができなかった。
 相手は無惨、鬼の首魁だ。海馬ならまだしも殺伐な世界にいない百雲では、
 何もできなかったとしても仕方ないことだ。だから海馬も何も言ってこなかった。
 もっとも、海馬の場合は自分の不甲斐なさの方が重要であったと言われてしまうと、
 否定できないのが彼と言う男ではあるのだが。

「僕は……」

653激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:56:20 ID:TY0Xnnho0
「遊星は武藤遊戯と肩を並べて戦ったようだが、
 まさか、俺はあの海馬瀬人と並んで戦うことになるとはな。
 此処が殺し合いの舞台でなければ遊戯同様、デュエルを申し込んでいたところだ。」

「貴様が何者かは知らんが、並のデュエリストではないのは理解できる。
 俺のブルーアイズに匹敵するモンスターを、そうも容易く並べるとはな。」

 双方のフィールドに存在するのはレッド・デーモンズ・ドラゴンと青眼の亜白龍。
 互いにエース級となるモンスターを並べて人間離れした速度で追走するポセイドンを見やる。
 彼にとって人間は等しく雑魚だ。だからどうでもいいものだと思っており、今も変わらない。
 しかし地縛神と戦ったシグナ―のドラゴン、三千年前のエジプトの神官の龍の亜種となれば話は別。
 特にレッド・デーモンズは冥界の王にまつわる存在。冥界(ヘルヘイム)の王であるハデスとは、
 世界は異なれど何かを感じ取ったのもあり、警戒などはしないが僅かばかりの関心はあった。
 なお、もう一人の世界線の海馬もまた光のピラミッドによって冥界の王に会ってたりするが、
 もう一方の彼は既に亡くなった身であり、この海馬ではないので栓なきことである。

「行けレッド・デーモンズ! 灼熱のクリムゾン・ヘル・フレア!!」

「行けブルーアイズ! 滅びのバーンストリーム!!」

 二体のドラゴンがブレスを放つ。
 ともに攻撃力3000だが、ジャックも海馬も油断は当然として慢心もしない。
 聖騎士や少女がレッド・デーモンズと渡り合い、鬼の首魁がネオブルーアイズを葬った。
 そしてその考えは現実のものとなり、双方の龍が螺旋の如く互いの攻撃を混ざり合い、
 襲い掛かるそれを、ポセイドンは三叉槍を構え突撃するだけで、モーゼが海を割ったように、
 或いは兄の掠るだけで即死と謳われる刺突を模したかのように二対の龍の一撃を両断しながら迫る。
 狙うはレッド・デーモンズの使用者のジャック。先も述べたがシグナーのドラゴンだからという、
 そんな理由で警戒に値するなど欠片もない。神とは原初の時点で完璧な存在と言う考えがある彼に、
 惑うことなど一切ない。ただ道が右か左かに分かれている道を、気まぐれで左を選んだだけだ。
 彼が連続して遊星、牛尾のデュエルディスクで類似したものを見かけてきたから……という、
 もしもなんとかして理由付けをするのなら、本当にそんな程度のものでしかない。
 食らえばまず即死。ジャックのデッキはライディングデュエルが主流なせいもあり、
 魔法カードの採用は乏しく、スタンティングデュエルも罠による駆け引きの方が多い傾向がある。
 海馬のデッキもパワータイプのデッキであり、この場で彼を守るカードを引けてはいない。
 冥王も後方で何やら準備をしているようだが、この状況での支援は望めないだろう。
 仮面ライダーの二人でもわかる。あんなの防御に回った時点で装甲ごと貫かれる。
 また、攻撃を割いて突き進んでいるせいで横槍を入れる行為ができないのも痛い。
 今ジャックにできることがあるならば、超過ダメージでどれだけ意識を保てるか、
 あるいは神がかったタイミングでライダーである二人が攻撃を決めるぐらいだ。
 そんなシビアなものに頼れるほど、ポセイドンと言う存在は甘いものではない。

「ヴェール、守って!!」

 此処に、もう一人のデュエリストが参戦しなければの話である。
 結晶をバリアのように展開し、ポセイドンの一撃をその場で留める青髪の少女。
 このモンスターと声はまさかと、海馬が先に振り返って後方を見やる。
 そこにはデュエルディスクを構え続ける百雲の姿があった。





「僕は……」

 逃げるべきか、戦うべきか。
 逃げたい。殺し合いからも、何もかも逃げ出してしまいたい。

「戦い、たいです。」

654激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:57:20 ID:TY0Xnnho0
 彼自身何を言ってるか分かってるのかと問いたくなる言葉だ。
 あの時何もできなかった自分に、今度はボロボロの姿ではあるけれど、
 だからと言って全員が警戒を最大限に引き上げるレベルの存在を相手にする。
 それがどれだけの無謀か、蛮勇か、無茶か。それは百雲は百も承知のことだ。
 でも、逃げて、逃げて、逃げて。その果ては何処に行き着くのか分からない。
 仮に生還したとしよう。逃げ続けた自分の下には一体いくつの死体が置かれている?
 リゼ、橘、大我、海馬、ジャック、冥王、明石、他にももっと多くの存在の上に成り立つ。
 逃げ続けて得た平和に、まっとうな生き方なんてできるわけがない。きっと一生後悔し続ける。
 一生見捨てたことを、逃げ続けたことを後悔する。自分が男であることから逃げ続けた時以上に。

『フン! 戦う理由や信念ならどんな弱小な奴にも存在する!
 此処であればそこの二人にも、当然貴様ら二人にもある話だ。
 重要なのはあるかどうかではない。それに押し潰されるか、守り抜けるかだけだ。
 貴様らにはそれがあるのか、今一度、貴様ら自身に問いかけてみることだな。』

 海馬からの激励を思い出す。
 戦う理由や信念を守り抜いて戦うか、ただ押し潰されて逃げるのか。
 あの時決めたことだ。デッキを信じて必死に海馬に食らいつこうとした。
 後悔したくない。もう、リゼのような犠牲者を出したくない。その心に嘘はつきたくはなかった。

「……分かりました。百雲さんは私が守ります! だから思いっきり───皆を守りましょう!」

 それが、百雲が選んだ答えである。
 同時に、明石が選んだ答えでもあった。
 明石が壁モンスターのようにガイアプレッシャーを構え、
 その後方には百雲がデュエルディスクを構えた状態で立つ。
 足は震えている。もし海馬が経験するはずだった次元領域デュエルであれば、
 精神力で攻撃力が下がるためあっという間にモンスターの攻撃力が下がるだろう。
 それでも立ち向かう。知らないが神と言う途方もない存在に、彼も戦う覚悟を決めた。
 デュエルファンタジーで培った素早い立ち回りは、デュエルモンスターズでも発揮される。
 海馬たちがモンスターを召喚している中、バイストリート、ヴェールの布陣を即座に用意。
 これでヴェールは戦闘で破壊されないし、ダメージも受けることなく済む───

「百雲! ヴェールの効果で守備力を……」

「え───グッ、アアアアアッ!?」

 海馬からの指示を受けるも間に合わない。
 最初は一体何が? 百雲が思った瞬間、全身に激痛が走りだし悲鳴を上げる。
 何故こんな激痛を受けてるか。百雲は理解することができず困惑していた。

「そうか! 槍ならば……貫通ダメージを受けたのか!」

 海馬が先に気づいたことに、ジャックも行き着く。
 ジャックとの情報交換の際、ジャンヌは風霊石の力でスカーレッド・コクーンを破壊した。
 それを見てから『特定の攻撃方法や手段は特定のカード効果を反映される』可能性があると。
 だから海馬は先に気づいた。M&Wにおいてかなりオーソドックスな効果『貫通効果』に。
 デュエルモンスターズ及びM&Wは守備表示なら、基本戦闘でダメージを受けないが、貫通効果は別。
 そしてそれらのカードの多くは、角、槍、隕石のモンスターや魔法カードに関係することが多い。
 デュアル・ランサー、ランサー・ドラゴニュート、スピア・ドラゴン……槍だけでもキリがない。
 特に海馬の場合、スピア・ドラゴンを使用していたのもあり、ジャック以上に気づくのが早かった。

「おい大丈夫か!!」

 唯一戦闘への参加するタイミングを見極める都合、
 後方で様子を伺っていた大我と側にいた明石が様子を見る。
 肉体的な損傷は見受けられないものの、ジャックが口にしたダメージを受けたことは明白だ。
 息はしてるし、意識もまだ保っている。ポセイドンがダメージを蓄積し、対照的に百雲は無傷。
 それとヴェールの守備力は2800と高水準な方と言ったりと、様々な要因があったおかげで、
 一般人であるはずの百雲は意識を辛うじて保てているが、次またダメージを受ければ、
 確実に意識が飛ぶか、最悪激痛によってショック死しかねない。

655激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:58:13 ID:TY0Xnnho0
(檀黎斗め、デュエルモンスターズをこうまで戦いに再現するとは。
 その手腕だけは認めざるを得ないのが忌々しい……!)

 風の力は罠を破壊する
 銃の力は手札を撃ち落とす。
 槍の力は貫通効果を付与する。
 その者が使う異能や特殊能力はモンスター効果扱い。
 故に無効にされれば消滅するか、使用不可能になる。
 海馬も知らぬところでも起きている、カード効果の再現。
 よくカードのことを理解してるか、カードのことを理解する誰かが主催にいるのか。
 何方にせよそれを現実に持ち込んでいる。ゲームを現実世界に落とし込んだりと、
 大我から聞いた通りその手腕は認めざるを得ないと言うところが、
 一ゲームクリエイターとしてはより腹が立つ要素でもあったりする。
 ヴェールによって防がれた即死の一撃、デュエリストも仮面ライダーも無駄にはしない。
 ジャック達デュエリストは各々のカードの発動の為罠のセットを、

『FINAL VENT』

 我先にと攻撃を仕掛けるのはオルタナティブ・ゼロに変身したしんのすけの攻撃。
 ジャンヌやルナとの戦いはついぞカードを使って戦うことはほぼしなかったので、
 今回が事実上の仮面ライダー(厳密には疑似ライダーだが)としての初戦闘になる。
 サイコローグが変形しバイクになり、それに搭乗しながらフライング・ペガサスの上を駆け抜け、
 道中で旋回し、独楽のように高速回転しながら攻撃するデッドエンドを以ってポセイドンへと迫る。
 ファイナルベント、つまるところ大技を使うことで一気に勝負を決めに行く。
 というより、アレを相手に生半可な攻撃は一切通じないのは分かっている。
 金有増三が作った家電ロボXも、ボーちゃんが作ったボーちゃん28号も、
 彼からすればまず五十歩百歩のようなガラクタにすぎないのだろうと思える。
 事実、ポセイドンは一瞥することすらなくその三叉槍を薙ぎ払うように振るえば、
 荒波にでも飲み込まれたかのように速度が一気に落ちて格好の的になってしまう。
 隙を埋めるように橘がジャンプと同時にポセイドンへ醒銃ギャレンラウザーからエネルギー弾を放つ。
 此方も一瞥することすらせずに全てを槍で弾かれる。

「全員着地に備えろ!」

 冥王からの宣告。
 つまりフライング・ペガサスが消えると言うこと。
 生身の人間とその状態のままである二人は明石が抱え、
 後のメンバーは各々が一足先に列車から飛び降りて地面に着地していく。
 それとほぼ同時に、上空に渦が巻き起こりそこにフライング・ペガサスと、
 別のモンスターが光の珠となって吸い込まれていく。

「自身の効果でレベル10となった爆走軌道フライング・ペガサスと、
 弾丸特急バレット・ライナーでオーバーレイ! エクシーズ召喚!
 これが貴様を屠る一撃よ! 超弩級砲塔列車グスタフ・マックスの降臨だ!!」

 冥王が使用していたモンスター同様に、
 自動的にレールをその場に生成しながら彼方より現れる機械と言う名のモンスター。
 変形を重ね、文字通り超弩級の砲塔を伸ばしていき、ブルーアイズとレッドデーモンズ、
 十分に巨大であるドラゴンが二体並んでいても、その存在感は失われてない程の壮観な姿だ。

           ・・
「さあ食らうがいいこの冥王の一撃を!! グスタフ・マックスの効果発動!
 オーバーレイ・ユニットを一つ使い、貴様に2000のダメージを与えてくれるわぁ!!」

 砲塔に光が収束しビームとも言える砲撃、ビッグ・キャノンが放たれる。
 仲間と違いポセイドンは着地に備えておらず、空中から不意の着地をさせられた。
 直撃はあの強さから難しい。しかし爆風だけでも十分なダメージが期待できるはずだ。
 ポセイドンは永夢により多大な体力の消耗をしている。いくら牛尾達、鋼牙達、月と、
 彼からすれば雑魚に過ぎない存在でもほぼぶっ続けで戦い続けている以上は疲労はしていく。

656激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:58:54 ID:TY0Xnnho0
 それを冥王たちが知ることはないものの、受ければまず無事では済まされないだろう一撃。




















 そんな単純な戦術、通用していれば誰も苦労はしないのだ。
 三叉槍を高速で連続突きを放つ、怒れる波濤(アムピトリテ)を放ちながらの前進。
 ただの前進ではない。文字通りの波濤の勢いでビッグキャノンを蹴散らしながらの前進だ。
 先の刺突の比にならない速度で突っ切り、グスタフ・マックスの効果を一切その身に受けることなく、
 そのままグスタフ・マックスへと到達。無数の刺突によ5い砲塔に亀裂が一気に広がっていき、
 爆発する。

「グオオオオオオオオオオッ!!」

 超過ダメージと爆風。双方合わせたダメージを受け、
 吹き飛びながら激痛を味わっていたところを即座に止められた。
 ポセイドンにその腹を潰さんと言わんばかりの凄まじい足踏みにより、
 冥王は地面に釘付けにされた状態と共に骨がベキベキとへし折れる嫌な音が耳に届く。

「ガ、ハッ……!!」

 超過ダメージも合わされば、生身の人間だったらまず意識を失っていただろう。
 それに耐えれたのはモンスターであり、冥王としての威厳があったからこそのガッツかもしれない。

「貴様も兄上を騙るか……雑魚(ボウフラ)が。」

 本来あるべき戦いにおいても、ポセイドンは佐々木小次郎と戦いが始まっても動かなかった。
 警戒や後の先を狙ったものではない。『何故神自ら人間如きに歩まねばならぬのか』だからだ。
 そんな彼が何故雑魚相手に此処まで執拗な攻撃をしているのか。アレス達神々が観戦していれば、
 さぞ驚くであろうその行動の理由は一つだけ。冥界(ヘルヘイム)の王はただ一人、兄のハデスのみ。
 断じて主催の一人のハ・デスでもなく、ましてやこのような醜悪なものを冥王など名乗らせるなど。
 最恐神と神々にも恐れられるほど他者に無関心な彼が、数少ない敬愛を抱いているのがハデスである。
 どれ程の敬愛かと言えば、愚劣な兄であるアダマスを殺そうと思えば塵も残さず完全に殺せたのを、
 あんな奴でも兄上が哀しむからという理由一つで、ベルゼブブの手で復活できる程度には手加減した。
 彼にとってハデスとは、ある意味神のあるべき姿を、嘗てのギガントマキアで体現したと言ってもいい。
 神は群れず、神は謀らず、神は頼らず。冥界から脱獄したティターン達を一人で食い止めたのだから。
 こんな醜悪な、神々どころかそれらの配下や従者はおろか、ティターンにも劣るような存在を、
 冥界の王などと騙らせることは、ハ・デスが主催だった時と同様で、ヘイトが凄まじく高かった。

「兄上、だと? 貴様何の話をして……」

『SLASH VENT』

『FIRE UPPER』

 背後からギャレンの炎を纏った拳のファイアーアッパーと、
 オルタナティブ・ゼロのサイコローグの腕を模した剣、スラッシュダガーの斬撃。
 どちらであっても深海の神には到達しない。冥王を睨んだまま三叉槍でどちらも容易に防ぐ。

「罠発動、デモンズ・ゴーレム!!」

 このままでは十中八九、三人が一瞬で殺される。
 即座に判断したジャックはのび太の戦いのとき同様に、
 一時しのぎとしてポセイドンを一旦除外する形で難を逃れる。
 そしてのび太の時同様に時間に猶予ができたので冥王と百雲を明石が運びつつ、
 一度ポセイドンがいた場所から距離を取るようにして状況をリセットしておく。

「あの、知ったところで多分意味ないと思いますが!
 あの人、多分ポセイドンって名前なんじゃないかなって思います!」

 明石はそこまで歴史、
 とりわけ神話に詳しくはないし、なんとなく文献で齧った程度だ。
 ただ艦隊の勝利を願って神頼みとして海の神に祈ったことは何度もある。
 日本の艦娘ならばまず海神(わたつみ)ではと思われるところもあるが、
 艦娘のいる世界では嘗ての戦争とは違い一つの鎮守府に各国の艦娘が集っている
 ドイツのビスマルク、ロシアのガングート、アメリカのアイオワ等様々だ。
 だから色んな国における海の神でもなんでもいいので神頼みすることだってあった。
 まあ、と言ってもせめて神に頼むなら名前ぐらいは知っておいてもいいんじゃないか、
 言うなればその程度であり、ギリシャの神に冥界の王を兄を持つ者がいたとふと思い出した。

「ポセイドン、か……納得ができてしまうな。」

657激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 14:59:28 ID:TY0Xnnho0
「本物の神を参加者にして自分を神と名乗るあいつに箔がつくってことかよ……あの野郎!」

 名簿で見た時は野獣先輩等のような名前じゃない参加者を筆頭に、
 ハンドルネームやコードネームのような類が多く、ポセイドンもそうだと思った。
 しかし、波濤のような勢いの攻撃やトライデント、強さが本物の神ならば合点がいくとも感じ取れた。
 名前を借りた存在ではない。槍一本でも人数差やモンスターを気にせず放送されたり扱いが違うのは、
 あれが神だと言われてしまえば納得してしまう。神のカードを持っていた海馬は特に深く理解する。
 たかだか300ポイントしか強化しない装備魔法のポセイドンの力とは次元が違いすぎる存在だ。

「と、とりあえず私が百雲さんのデッキを借りて……」

 百雲はがんばった方ではある。
 しかし今の状態で下手にヘイトを買えば、
 最悪死ぬ可能性だってありうる状況でもある。
 怪我が軽傷である明石がデッキを引き継ごうとするが、海馬がその手を掴む。

「ウィッチクラフトはデュエル初心者の貴様に扱える代物ではない。
 別のカードゲームで手慣れた百雲ですらテキストを勘違いするほどだ。
 それに明石、貴様はジャックが言ったように首輪解除に必要な人材になる。
 貴様は最悪逃げることを想定して動くのが定石だ。」

「それを言うならテメエもだろうが。
 デュエルディスクの開発者なら機械も大概強いだろうが。」

「俺は死ぬつもりなど毛頭ないからな。」

「どこから来るんですか、その余裕……」

「神など何度も目撃している。今更本物の神に怖気づく程でもない。」

 オベリスク、ラー、オシリス。
 これでもかと言うぐらい神の力を知っている。
 コピーカードを使った場合もろくなことにならないし、
 バトルシティの中継である液晶が破壊されるほど外部への影響力を持つ。
 映像越しですらその影響力だ。神の力の強さを一時は所持者であった海馬にとって、
 別に今更神だからあーだーこーだと喚くような事柄でもなかった。

「そんなことはどうでもいい。百雲と冥王、そして大我は戦える状況か?」

「どっちもきついだろうな。
 百雲は貫通ダメージだったか。死にはしてないが立つこともままならねえ。
 腕も折れてるわけじゃあないが、カードを握ってるだけで限界に近いみたいだ。
 冥王の方は確実に骨は数本は折れてるな……あんまり期待はしない方がいいぜこれは。
 俺は変身できるが、リスクが大きい。タイミングを見誤ったら無駄死にになりかねねえ。」

「喋ることができれば、
 カーリーのように二人三脚の形でデュエルできるが……仕方がない。
 百雲はデュエルも戦争も何もない平和な世界の住人だ。無理強いはできまい。」

「槍をなんとか破壊できないんですか?」

「破壊、と言っても仮面ライダー二人であの結果だったぞ。」

 神の用いる武器なのだろう。
 並の仮面ライダーとは言え攻撃を同時に受けても、
 傷跡一つすらつかないのであれば尋常じゃない業物なのだろう。
 神の加護とか、そういうので守られてると言ってもいいかもしれない。

「カード効果で。破壊できるか試すか……エクシーズ・リボーン発動……」

「冥王、貴様動けるのか!?」

 ヨロヨロと、覚束ない状態で立ち上がる冥王を全員が見やる。
 口の端からは血が流れ、息も荒く、冥王と呼ぶには不格好な状態だ。
 それでもなんとか手を動かし、墓地のエクシーズモンスターを復活させ、
 そのままエクシーズ・リボーンをオーバーレイ・ユニットにするカードを使う。

658激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:00:12 ID:TY0Xnnho0
「俺様の罠には……永続罠である掃射特攻、
 オーバーレイ・ユニットを使って、その数だけカードを破壊できる罠がある。」

 グスタフ・マックスのダメージは今のままでは期待できない。
 となれば別の使い道を見出すのが定石ではあるのだが。

「その程度で活路が見いだせるならば誰も苦労はせんぞ。所詮は下級モンスターの浅知恵か。」

「浅知恵か……所詮は俺様のは囮よ。派手にぶっぱなして、
 その隙を狙って何かしらをすればいい。ジャックよ……まだ、あるのだろう?
 たかだか二枚のカードを生み出した程度で、王者の進化はその程度で満足か?」

 百雲は戦闘不能に近く、まともにカードが引ける状態ではない。
 海馬の手札は正直あるカードが引けなければほぼ事故に等しい状態。
 冥王の手札もほぼ使い切っていて後は防衛ぐらいの状態だ。
 デモンズ・チェーンはあれどあくまでモンスター効果を無効にするだけだ。
 のび太同様ただのフィジカルで突破される可能性の高いものであるし、
 何より槍の耐性そのものには影響がない。他の伏せている罠もロストスター・ディセント。
 現状では突破はまず不可能だろう。だったらどうするべきか。

「まだみぬ可能性を見つけろということだな……やってやろうではないか。
 『満足』できないなどと言うのは久しいものだな……俺のターン!!」

 ジャックが高らかに叫びながらカードを引く。
 百雲以外の者達もカードを引き、このエンドフェイズ時に、
 デモンズ・ゴーレムの効果で戻ってくるポセイドンへと備えに入る。

「見せてやろう冥王。貴様が不屈の闘志を見せているように、
 このジャック・アトラスも、さらなる可能性を見出してくれるわ!」





 刻限が過ぎ、ポセイドンは再び舞台へと戻る。
 敵の盤面はさほど変わっているものではなかった。
 立ちはだかるのは仮面ライダー二名、デュエリスト三名。
 基本構成は変わってないが、唯一変わってるものがあった。
 レッド・デーモンズ・ドラゴンは禍々しい赤黒い姿へと変わり、
 両腕には斧のような刃が露出しており、断頭の処刑人を髣髴とさせる。
 琰魔竜レッド・デーモン・アビス。ジャックがレッド・デーモンズを媒介とし、
 心意システムのお陰でさらなるレッド・デーモンズの系譜を呼び寄せることに成功した。
 しかし攻撃力は3200。/バスターよりも低いモンスターではポセイドン相手には役者不足。
 ポセイドンからすれば五十歩百歩、雑魚以外の何者でもなく、迷うことなく冥王へと向かう。
 これ以上兄と同じ肩書きを騙る雑魚を野放しにすることなど、感化できるわけがなかった。

「永続罠、発動……掃射特攻!
 機械族エクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットを使い、
 その数だけカードを破壊する……貴様の槍を粉々に粉砕してくれるわぁ!!」

 先のビームとは違う、グスタフ・マックスによる文字通りの砲撃。
 轟音を轟かせ、放たれた一撃はポセイドン、と言うよりは三叉槍にめがけて飛来する。
 それを避けることも逃げることもせず、刺突一本で立ち向かう姿は無謀だろうが、
 相手が神であれば、この程度で驚かされることはなく、槍と砲撃が直撃し爆発を超す。
 あんなものを食らえば普通にミンチになってそうなものではあるが、再び怒れる波濤を繰り出し、
 爆風をも弾くような波の如き攻撃を、槍一本で成し遂げてしまう。

「やはりカード効果で言えば破壊耐性があるとみていいな……ならばジャック!」

「分かっている! 俺はレッド・デーモン・アビスの効果発動!
 ポセイドン! 貴様の槍を対象にして発動する!」

 レッド・デーモン・アビスから放たれる黒炎のブレス。
 続けざまの波状攻撃、なんてことを彼は考えることはない。
 所詮は人間の浅知恵だ。考える必要性などなく、ただ防ぐのみ。
 しかし、その違和感に気づいたのは、その攻撃を槍で受け止めた時だ。
 此処で初めて、この場においてポセイドンの表情が変わったように見えた。
 黒ずんでいる。深海のように青と黒で構成された色合いは、真っ黒に染まっている。
 今までの戦いでこのような事態はなかった。ギガントマキアでも、この舞台においても。
 そう。彼は人間に興味がなさすぎる。最初から完璧な存在である神と言う存在を疑わない故に、
 人間を侮っているがゆえに知る興味すらない、当然、デュエルモンスターズの理解など皆無だ。

「速攻魔法究極融合発動!
 手札のブルーアイズ、そしてフィールドのブルーアイズ扱いのオルタナティブを融合!
 融合召喚! ブルーアイズよ! 未知なる壁を突き進め! 降臨するがいい、融合召喚!
 青眼の究極亜竜 (ブルーアイズ・オルタナティブ・アルティメット・ドラゴン)!!」

659激瀧神 『デュアル・ランサー』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:00:43 ID:TY0Xnnho0
 究極の名の通り、ブルーアイズにとっての一つの到達点となるモンスター。
 三つ首のブルーアイズだが、百雲の時と違い鱗や刺々しさが目立ち、ドラゴンではあるものの、
 怪獣や怪物と言っても差し支えないようなおどろおどろしさを感じさせるモンスターが降臨する。
 だが海馬がこのモンスターを出すことにはさほど意味はない。重要なのは別の部分にある。

「究極融合のさらなる効果! この効果でフィールドの青眼の白龍を素材にした数だけ、
 相手フィールドのカードを破壊する! 亜白龍はフィールド・墓地において青眼の白龍として扱う!
 当然この効果は適用される! よって、この対象は貴様の持つ槍を粉砕してくれる!」

 三つ首となったブルーアイズの一体の口から放たれる光線。
 馬鹿の一つ覚え。人間の浅知恵程度で神など倒せるはずもない。
 トールやゼウスに立ち向かった呂布も、アダムも等しく同じだ。
 奮闘したとか侮れないとか、そんな感情は一切出てくることはない。





 その油断が。
 その慢心が。
 それこそがポセイドンの最大の弱点である。

 パキリ、と耳障りな音が響いた。
 珍しく、ポセイドンの表情が再び変わった。
 ありえない。神器や神器錬成であるならばまだしも、
 たかだか龍程度の攻撃で損壊するような得物ではないはず。
 その考えとは裏腹に、三叉槍は折れた。先端が今宙を舞っている。
 神器がたかだか雑魚に従っている魔物や生物程度に破壊されるわけがない。
 だというのに破壊されている。ろくに感情も表情も波紋なき水面の如く揺れない神が、
 一番揺れ動いたのはこの瞬間だろうか。

 何故、三叉槍を破壊することができたのか。
 レッド・デーモン・アビスの効果はカードを一枚対象にし、
 そのカードの効果をエンドフェイズまで無効にすることができる。
 ポセイドンの槍をまっとうに破壊することができないことは全員予想済みだ。
 その確認のために冥王の掃射特攻で破壊を試みたが、全くの無傷に終わった。
 融合武器ムラサメブレードを遥かに超える強固な耐性を保持していることが伺える。
 行動がカード効果のように影響するのであれば、その逆、物理現象に対してカードも影響を起こす。
 その考えに行き着いたジャック達はアビスで槍にあると感じた耐性を無力化させることで、
 槍が折れるかどうかの賭けに出たが、その効果は現実のものとなり、ついに神の得物を破壊する。

 無論、この程度で終わるようならばポセイドンは最恐神と恐れられることはないだろう。
 折れて宙を舞う槍の穂先をまだ辛うじて持てる部分を掴もうと柄を捨て手を伸ばす。
 だがそれも橘が走りながらギャレンラウザーの光弾がポセイドンの次の一手を妨害し、
 得物となる槍の穂先を弾いて、ポセイドンからかなり離れた後方へと穂先が地面へと突き刺さった。
 取りに行くことができる距離と言えば距離であるものの、その間完全に無防備な状態となる。
 既に動いていたしんのすけが再びファイナルベントで肉薄しながら攻勢に出て一気に決めに行く。



 此処までの連携を短時間で組み立てるのは苦労を要した。
 何せ心意システムで突然生み出したカードの効果を使うことで、
 ようやく作戦が成立する状況へと持ち込んだのだから当然である。
 最初の計画では掃射特攻や究極融合の追加効果で槍を手放すように仕向ける、
 そんな程度の計画だったのを破壊するに至らせたのはカード効果の無効。
 現実に対してカード効果の適用と言う、遊星が大尉の支給品を破壊したように、
 カード効果で現実のものに対して、影響を与える形での突破口を見出すことができた。

 しかし。
 相手はポセイドンであった。

「……」

 折れた槍を見て、ポセイドンは憤る。
 雑魚如きに自分の槍が破壊されてしまったこと。
 ポセイドンからすればドラゴンやら魔法やらなど関係ないことだ。
 ただの人間如きに、自分の槍が破壊され『アレ』を使うことになると言うこと。
 すべての憤りはそこだ。あの男は、檀黎斗とハ・デスは何処までも神を侮辱するのだろうか。
 神である自分だけでなく、ギリシャ兄弟の長兄である、ハデスの尊厳すらも侮辱してくる。
 いや、誰かの手に渡っていればそれ以上の怒りだっただけに、あるだけまだましと言えるか。
 などと思う精神の余裕はない。焦りとか不安ではなく、純粋な怒りだけがそこにあった。
 ポセイドンは槍が折れたと同時に取り出す。支給された最後の支給品である『一叉の槍』を。

660激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:02:29 ID:TY0Xnnho0
 そしてその槍が、しんのすけの腹部を高速で貫いた。
 まさに神の御業。デッドエンドで回転するしんのすけの攻撃を、
 ピンポイントに避けながら的確に攻撃を決めるなど普通は不可能だ。
 だから海馬もカードの発動が間に合わない程の動きとなっている。
 サイコローグが変形したバイクは運転手を失いあらぬ方向へと転がっていき、
 槍に腹部を突き刺され宙ぶらりんになったしんのすけが全員の絶望を誘う。
 仮面越しに吐血するしんのすけ。決して無傷ではいられないダメージだ。

「小童!?」

「もう一本槍を持っていやがったのか……!
 しかも、さっきと同格の業物と見た方がいい!」

 それは、神が最も信頼する神。
 同時に、冥界の王として畏怖される神。
 ポセイドンに支給されたのは───ハデスの一又槍(バイデント)。
 ギリシャ神界のゼウス、ポセイドン、アダマスの兄であり、長兄として敬愛したハデスの槍を、
 殺し合いの一道具として、自分に支給してくるその所業は最早アダマスを殺すレベルでは済まさない。
 復活すらできぬように塵一つとして残さず殺す。神を騙る連中も、兄を騙る雑魚も、何もかもだ。
 本来ならば、この槍を使おうとは思わなかった。神である自分が兄の槍を頼る行為は、
 神は頼らぬという彼の信条に反するがゆえに、使おうとは欠片すら考えなかった。
 しかし得物は失った。それで人間に負けることこそ神にはあってはならないことだと。
 此処で雑魚に負け、兄上の槍を人間の手に渡す? それこそポセイドンが許さないだろう。

『PAUSE』

 咄嗟に駆けだしながらクロノスに変身し、
 時を止めてこのまま脇腹がえぐり取られるであろうしんのすけを救助。
 申し訳程度の蹴りを叩き込んで、その反動を利用して距離を取る。
 時間停止が解除され、鈍痛と共に距離を取らされるポセイドンだったが、
 秒速で状況を理解して最も近くにいる大我としんのすけへと迫る。

「させんぞ! 強制脱出装置を発動!」

 冥王の伏せていた罠カードを起動させ、空へと舞う。
 その隙に変身が解除される前にと距離を取る大我だったが、
 上空から雷雨の如く降り注ぐ連続突きが二人へと襲い掛かろうとしていた。
 荒海に振る神雷(キオネ・テュロ・デーメテール)。海の神であるポセイドンだが、
 空中であろうともその荒まく海を揺らす雷雨の如き突きを繰り出すことは不可能ではない。

「速攻魔法ガードオブガード発動!」

 上空から降り注ぐは一撃必殺の雷雨。
 それをドームのように防ぐ、光のような壁。
 手札を一枚をコストに、モンスターの破壊とダメージを0にするカード。
 槍の得物である以上貫通ダメージもありえたので、ダメージも防ぐこのカードは窮地を救うものとなる。

「グッ、まさか強制脱出装置が裏目に出たか……ゴホッ!」

 胸を掴みながら蹲ると同時に、血反吐をまき散らす冥王。
 元々ライフを大幅に削られ、その上で骨を数本へし折られてる状態だ。
 万全とは程遠い状態で立ってデュエルできてるだけでも相当なものである。

「冥王! 貴様は負傷している以上無茶をするな! 俺のターン!
 意味は薄いとは思うが、レッド・デーモン・アビスの効果を発動! あの槍を対象に発動する!」

 再び放たれるアビスのブレスだが、
 槍が黒ずんで脆くなった元凶があれだと言うことは分かっている。
 即座に右へ飛びながら回避し、今度はジャックの方へとめがけて走り出す。
 神の武器を破壊された要因の筆頭だ。今更死にかけのしんのすけになど興味などない。

「やはり当たるわけがない、か……!
 かなり部の悪い賭けだが、俺の使うしかないな。
 罠発動! プライドの咆哮! このカードは……グッ、ウオオオオオオオオオオッ!!」

 アビスの腕の刃とポセイドンの槍がぶつかり合い、
 火花を散らす中、ダメージを受けたかのように叫ぶジャック。
 プライドの咆哮。このカードはモンスター同士がバトルする際に、
 その差分のライフを払うことで必ず攻撃力を300上回る。つまり必ずバトルに勝てるカード。
 攻撃力の差は不明だが、少なくとも1000や2000の差分ではないだろう。
 そしてこのライフを払う量は任意で決められない。つまり勝てる数値までライフが削られる。
 自分の体力が、命が燃え尽きそうな程に襲いかかる疲労感、激痛が全身に駆け巡ってくる。
 普段使い慣れた三叉槍ではなく兄上の一叉槍、此処までの連戦と永夢のダメージの疲労。
 それらを差し引いたとしても攻撃力は歴然の差であり、瞬く間にライフが削れていく。

661激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:03:57 ID:TY0Xnnho0
「ジャックさん!?」

「心配するな……これはコストにすぎん……!!
 アビスよ! 咆哮を糧とし、海の神を薙ぎ払えッ!!
 深淵の怒却拳(アビス・レイジ・バスター)!!」

 攻撃力を上回ったのか、拮抗勝負に持ち込んでいた攻撃が打ち勝つ。
 しかし差分は300ポイント。ポセイドンの腹部に裂傷を刻み血が噴き出るも掠り傷にすぎない。
 それでも今のままでは押し切れないと判断し、ポセイドンが距離を取るように下がる。

「アビスのもう一つの効果! 相手に戦闘ダメージを与えた時、
 墓地からチューナーを復活させる! 甦れ、ダーク・リゾネーター!」

 最初のレッド・デーモンズのシンクロ素材とした、
 音叉を持った黒い悪魔が墓地より復活し、更にジャックの反撃は続く。

「罠発動ロストスター・ディセント!
 レッド・デーモンズをレベルを1つ下げ、効果を無効、攻守を0にして復活させる!
 まだだ、俺の可能性はこの程度で終わらん!! さらなる俺の道を突き進み続けて見せる!!
 レベル7となったレッド・デーモンズに、レベル3のダーク・リゾネーターをチューニング!!
 泰山鳴動! 山を裂き地の炎と共にその身を曝せ! シンクロ召喚!
 現れよ、琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル!」

 赤黒いアビスの隣に現出するのは、
 レッド・デーモン・アビスに近い姿を持ちながらも、
 黒紫色を基調とし、龍と呼ぶにはどちらかと言えば人型に近い姿となる。
 心意システムで連続して得たカード、レッド・デーモンベリアルだ。

(二連続で無からカードを作り出した!?
 確かそういうルールがあるって言ってたけど、
 この短時間で二連続でできるものなの!?)

 心意システムはイマジネーションが影響を及ぼす。
 レッド・デーモンズ・ドラゴンを必ず経由する必要がある故に、
 多少緩くなってるとは言え、ジャックはその想像力は限界を知らない。
 だから明石は彼の意志の強さに、ただただ圧倒されるばかりだった。

「俺はレッド・デーモン・ベリアルの効果を発動!
 アビスをリリースすることで、レッド・デーモンズを蘇らせる!」

「何を、している小童!?」

 レッド・デーモンズの効果はこの状況では最早不要の効果。
 しかもアビスよりも攻撃力は200とは言え低い。無意味な行動にしか見えず、
 痛みを堪えながら立ち上がると、冥王はその愚鈍としか見えない行動に異を唱える。
 新手のモンスターが出てこようと関係なく、攻撃を仕掛けようとするも、

「貴様のその槍、どれほど頑強か試しくれる!
 ブルーアイズの効果! このカードの攻撃宣言を放棄する代わりに、
 相手のカードを一枚破壊する……だが! このカードの融合素材に亜白龍を使用した場合、
 三枚まで指定することができる! 神よ、貴様はこのブルーアイズの効果に耐えきれるか!」

 三つ首の龍のそれぞれから放たれる光の光線。
 どれもが並の参加者なら受けるだけで必殺の一撃。
 それを怒れる波濤で防ぐか躱すも、辛うじて時間を稼ぐことができた。

「俺は手札からチェーン・リゾネーターを召喚!
 このカードはシンクロモンスターが存在するときに通常召喚に成功した場合、
 デッキからリゾネーターモンスター、クリエイト・リゾネーターを特殊召喚する!」

 鎖を持ったダーク・リゾネーターに類似したモンスターが呼び寄せるのは、
 これまたダーク・リゾネーターに酷似した、扇風機を頭部につけたモンスターだ。

「俺には赤き龍の痣はもうない! だが、だがしかし!
 俺は可能性を、道を切り開いてくれるッ!!! レベル8、
 レッド・デーモンズにレベル3のクリエイトとレベル1のチェーンを、ダブル・チューニング!!」

《ダブル・チューニング!?》

 その場でまともに意識のあったものは全員驚嘆する。
 シンクロ召喚にはチューナーが必要。それはルールで理解した。
 最低限の常識であるためこのことは情報交換時に説明はしておいたが、
 二体を使ったチューニングなんてものは、一切の説明を受けてない。

「孤高の絶対破壊神よ!! 神域より舞い降り、終焉をもたらせ!!
 シンクロ召喚! これが、俺の見出した可能性! 未来への極致だ!!
 現れろ、琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティッ!!!」

 それは、災厄と呼ぶべきだろう。
 それは、魔王と呼ぶべきだろう。
 それは、琰魔竜王と呼ぶにふさわしい。
 これが異なる世界でジャックが至った境地。
 決闘竜のさらなる先へと突き進んだ、琰魔竜の先へ。
 黒銀と赤き姿へと至った四腕の絶対破壊神は、今ジャックの頭上に顕現する。

662激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:06:20 ID:TY0Xnnho0
「三連続で、出しちゃった……これが、ジャックさんの実力……!!」

「レッド・デーモン・カラミティの効果発動!
 シンクロ召喚成功時、相手は全ての効果をエンドフェイズまで発動できない!
 どの程度の効果を齎すかは知らんが、貴様の荒波の如き槍は使えぬと思え!
 行け! レッド・デーモン・カラミティ! 海の神を破壊神が滅ぼしてくれるわ!!
 真紅の絶対破壊(クリムゾン・アブソリュート・ブレイク)!!」

 上腕の両手が組まれ、プロレスのダブル・スレッジ・ハンマーの如くポセイドンへ襲い掛かる。
 あの雑魚(牛尾)の時のように思い上がった雑魚もいい加減目触りだと感じていた彼だったが、
 何故か怒れる波濤が使えない。カラミティの効果が使えないは、技にまで影響を及ぼしていた。
 ただの刺突しかできず、それだけでハンマーの如く振り下ろされた両手を受け止める。
 ズウウウン、と大きな地鳴りと共に大きなクレーターが広がるほどの凄まじい威力だ。

「まだ、届かんと言うのか……!!」

 カラミティの攻撃力は4000。
 十分すぎるほどの攻撃力でもなお届かない。
 いや、届いてるのかもしれない。今は拮抗状態だ。
 その拮抗さえ破れれば、確実な勝利となりえるだろう。

「使えるか怪しいが……デモンズ・チェーン発動!!」

 ポセイドンの周囲から鎖が飛び出し、彼を縛り上げる。
 しかし状況は好転しない。確かにデモンズ・チェーンは効果を無効にし、
 攻撃を封じる。しかし、バトルそのものを行うことができることは変わらない。
 だから守勢に入ってるポセイドンにはなんら意味もないことは分かっていた。

「……え?」

 最初にソレに気づいたのは、間抜けな声が出た明石だった。
 巨大な影。カラミティも相当に巨大で首が痛くなるほどのサイズなのに、
 それを上回る影の存在に気づき、とんでもないものを見てしまったような顔になる。
 他の全員もそれに気づいた。巨大で、荘厳な、青い巨大なるモンスターを。
 いや───神を、彼らは目の当たりにした。

 海馬はジャックの三連続の心意を見て思った。
 何故奴にできてこの俺にできないのかと。
 いや、できる。檀黎斗は誰にでもその権利はあるのだと。
 ならばイメージできるはずだ。自分が最も引くべきカードを。
 神を倒すそのイメージ。ならば、あのカード以外には存在しないと。

「強欲な壺を発動! 二枚を───ドロォー!!」

 そのドローの瞬間、一枚のカードが輝いたような気がした。
 いや、輝いた。間違いなく自分が求めていたカードであると確信を持つほどに。
 このままジャックだけの独壇場など、プライドの高い海馬が認めるはずもなし。

「貴様らのモンスターを借りるぞ! 俺は百雲のウィッチクラフト・ヴェール!
 冥王のグスタフ・マックス、そして俺のブルーアイズ『三体』を生贄に捧げる!!」

 懐かしい召喚方法だと思った。
 アンティルールで遊戯に渡して以来使うことのなかった召喚方法。
 そう、これは。





 神の降臨だ。

 鉱石を工芸せし少女。超弩級の列車。
 そして、愛用するブルーアイズの一つの究極進化形態。
 三体の貢ぎ物を捧ぐことで、このモンスターは初めて降臨する。

「いでよ! オベリスクの巨神兵ッ!!」

 大地を裂き、裂けた地面から出てくるのは青い腕。
 腕が上半身を起こし、今までのどんなモンスターよりも巨大で、
 壮大で、荘厳で、神々しいとも言うべき姿を前に、ポセイドンも表情を変えざるを得ない。
 あれは、神だ。今までの雑魚などではない。見知らぬが、間違いなく神の存在なのだと。
 神を降臨させることは成功した。しかし、海馬には二つの懸念点のせいで攻撃ができなかった。
 一つはポセイドンがカラミティのせいで小さすぎる。互いに攻撃力は4000。
 下手をすれば互いのモンスターが相打ちになってポセイドンだけが得をする展開。
 だから攻撃はできない。となれば残された手は一つ。ソウルエナジーMAXだ。
 二体のモンスターを生贄に。攻撃力を∞にして殴り倒す。これ以外に存在しない。

663激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:07:57 ID:TY0Xnnho0
「オベリスクの効果を使えば奴を倒せるかもしれん。
 だがその為にはオベリスク以外の生贄が二体必要……どうする。」

 一体はジャックがいま手持無沙汰であるアビスを使えばいい。
 だが足りない。海馬のデッキはユニオンモンスターで生贄を揃える、
 そういうデッキだったが今はどちらかと言えばブルーアイズに寄せた構築。
 オベリスクを出すだけでも多大な消耗を強いられていたので海馬には今すぐ生贄が用意できない。
 強欲な壺で引いたカードは攻撃の無力化。ジャックに使えば∞の攻撃の巻き添えは回避できる。
 (原作、アニメともに攻撃の無力化は魔法カードであるのでそのまま発動することができる)
 残り一体。後生贄がいなければならない。カラミティを生贄にすればきっと発動できるだろうが、
 ソウルエナジー・MAXは少々タメが存在する。その間に誰が死ぬか分かったものではない。
 今の海馬はリゼを喪った後悔もあり、躊躇なく誰かを斬り捨てるという選択肢はすぐには取れなかった。

「……小童。自軍のモンスターであれば生贄に捧げればいい。そういったな。」

「喚くな低級モンスター。今その手段を……! 貴様、まさか。」

 策を講じてるから黙ってろ。
 そう言おうとしたが、自分で言った言葉で察する。
 こいつは参加者であり『モンスター』なのだと。

「俺様は『自軍のモンスター』扱いなんだな?」

「おい待て! テメエその意味が分かってんのか!!」

 しんのすけを背負いながら、変身を解除した大我が冥王の胸ぐらをつかむ。
 生贄、もといリリースのルール程度は把握している。だから何を言ってるのか。
 その意味はまともに喋れない状態である百雲も、しんのすけも理解していることだ。

「……悔しいが、俺様は、もうドローもできん
 足手まといのまま死にゆくことこそ冥王の恥だ。
 ついでに言えば、俺様は死ぬことに手慣れている。」

「死に慣れてる……君は何なんだ?」

「知ってるだろう? 冥王様だ。」

 一度どこぞの魔人から爆弾を借りてヘイト・バスターで死に、
 強化蘇生で復活して、ハ・デスも復活して、何度もやり合い続けた。
 今更死を恐れるなど、この殺し合いの時の初期のヘタレを演じてた時ぐらいのものだろう。

「俺様は神をも超えてやる!! 最後のカードだ、受け取れぇ!
 ダメ押しに装備魔法メテオ・ストライクをオベリスクにくれてやる!」

 痛みの中やっと引けたカードは装備魔法。
 ポセイドンの槍同様貫通効果を付与することができるが、
 装備できるモンスターが生贄にされた今いない現状では意味のなさないものだ。
 神への魔法効果は1ターン受け付けるが、攻撃力∞の貫通など誰が見ても即死級だろう。

「……いいだろう。」

「おい海馬! テメエ……」

「カラミティの効果はエンドフェイズまでだ。
 ポセイドンは技を使わずして拮抗している。
 使えるようになれば最悪形勢逆転すらありうる。
 カラミティとアビスを生贄にする手段もあるが、
 効果の発動までに時間がかかる間誰が奴を足止めできる?
 貴様もあの男に届くために必要な人材だ。血反吐を吐かれては叶わん。」

「グッ……」

「それとも瀕死の野原を生贄に───」

「それ以上言うな。テメエをぶん殴るぞ。」

 大我もそれ以上は返す言葉がなかった。
 あれを足止めできる存在などこの八人の誰にもいない。
 しんのすけは瀕死、冥王も瀕死、百雲は意識を保っているが負傷が酷い、
 明石はほぼ戦力外、ジャックは既にライフが限界、大我も少なくないダメージがある。
 たとえモンスターであっても命を消費するなど、檀黎斗とやってることは変わらない。
 しかし、どうにもならないのも事実。此処で生贄を確保しなければ壊滅は確実だ。
 苦虫を嚙み潰したような顔になりながら、海馬の掴んでいた胸ぐらから手を放す。

664激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:08:54 ID:TY0Xnnho0
「ジャック! 受け取れぇ!」

 引いた攻撃の無力化を、ジャックへと投げ渡す。
 拮抗してる状態で見届けるしかなかったジャックはそれ受け取る。
 何故か魔法カードである攻撃の無力化に違和感はあったものの、
 これを使わなければならない状況が来ることだけはオベリスクを一瞥し察した。

「冥王よ、覚悟はいいな?」

「最初から決まっておるわ!」

「ならばオベリスクの効果発動!
 ジャックのレッド・デーモン・アビスと、
 深淵の冥王自身を生贄に捧げ、神の力を行使する! ソウルエナジーMAX!!」

 オベリスクがアビスと冥王をその巨腕で掴み、エネルギーを吸収するように腕に稲光が集約していく。

「見るがいいハ・デス! 俺様の最後のあがきを!
 神の供物? 否! 神の生贄? 否! 神の力? 否!
 否! 否! 否! この俺様によって神は真の力を発揮することができる!
 貴様に見せてくれよう!! 魔王や自称神などの貴様らではない、本物の神を殺すその力を!!」

 誰もが見届けるしかなかった。
 冥王が薄れて消えてゆくその姿を。
 完全に消滅するまでの間、重傷だというのに虚空へ語り続ける。
 すべては檀黎斗と言う神を名乗る人間と、ハ・デスと言う因縁のライバルへと向けた言葉だ。

「ハ・デス! 貴様とはいずれまた冥界にて再び死合おうぞ!
 だが! 俺様は神を殺す存在だ! 貴様と最早格が違うぞッ! フハハハハハ───!!」

「充填完了!! オベリスクよ! その無限の力を解き放つがいい!! ゴッドハンド・クラッシャー!!」

 メテオ・ストライクを装備した影響なのだろうか。
 オベリスクの拳がポセイドンへと隕石の如く炎を纏いながら迫る。

「速攻魔法攻撃の無力化! バトルフェイズを終了させる……が、
 三幻神に通用したところで時間稼ぎにしかならん、戻れカラミティ!!」

 攻撃の無力化は海馬がオシリスの妨害に使ったコマンドサイレンサーと違って、
 モンスターを対象にして使うものだ。オベリスクにそんなものは通用するわけもなく、
 次元の渦を一秒と絶たず突き破るが、その一瞬でカラミティは攻撃の射程外へと出る。
 一瞬。その一瞬がポセイドンの逃げる瞬間。ポセイドンと言えど避けねばまずいと悟る。
 デモンズ・チェーンを紐のようにちぎれば、後は後方なり跳躍なりで逃げるだけでいい。
 ───だが。その隙を埋めるように、バイクが突っ込んで一瞬だけ怯まされた。

「ホイール、ベント……使い道、あったんだな。」

 しんのすけの攻撃だった。
 ファイナルベントでサイコローグをバイクにする都合上、
 ほぼ使う機会がないであろうホイールベントのカード。
 ポセイドンにとってはほぼ無傷に等しい衝突事故。だが、
 その余りにも短い一瞬は大きな隙となって、ついにオベリスクの攻撃が到達。
 攻撃力∞の威力は、周囲どころかそのエリア全域を揺るがしかねない程の威力を放つ。
 暴風が吹きすさび、湖は大波を立て、木々は大地を離れ、建物は菓子細工の如く崩れていく。
 このままでは全員が吹き飛びかねなかったのだが、カラミティが防御するように庇い難を逃れる。
 神の一撃は暫く続き、全員が状況を確認することができないほどだった。










 オベリスクの攻撃の余波がようやく収まってみれば、
 周囲は荒れ放題。まさに神の一撃を受けた痕だけが残されていた。
 此処が同じエリアなのか、そう疑えてしまうほどの光景であり、
 これが神のカードの力かと、ジャックだけが関心を持つと同時に目を閉じ悼む。

(最後まで王者の格を貫いたか……奴らしいな。)

 冥王は逝った。
 最初はなんてことのないヘタレだったのが、
 王者の風格を取り戻し、自分へと発破をかけ、
 ジャンヌや少女(ルナ)にも怯えることなく立ち向かった。
 間違いなく王者としての格はあった。願わくば共に同じキングとして、
 高め合いたかったところではあるが、状況が状況だったのだ。仕方がないだろう。

「……む。これは?」

 岩陰に落ちていたおかげか、
 オベリスクの攻撃の余波でも吹き飛んでなかったカードを拾い上げる。
 何かの落とし物かと思ったが、それはのび太との戦いで使った冥王の技、
 冥王結界波の魔法カードが落ちており、そのイラストも相まってジャックは目を見開く。
 それは生贄になり際の際、偶然発現した冥王の心意で誕生したカード。
 まだ共に戦えるのか。そう思いながら、ジャックはそれをデッキの中に入れる。

「あの、ポセイドンはどうなったんですか……?」

「知るか! それより誰か治療できる支給品はねえか!」

665激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:10:04 ID:TY0Xnnho0
 大我が診ているのは仰向けに倒れるしんのすけだ。
 元々神の槍で貫かれて重傷だったのを仕方なかったとはいえ放置しすぎた。
 このままでは本当に死にかねない状況であり、周囲へと状況を確認するも、
 周りにはデッキやデッキを持っていた参加者が合計で四人。明石の支給品も、
 橘に使ったエリクシールハーフで使い切ってもう何もない。橘のは回復できないもなのは確認済み。
 しんのすけの支給品も確認はした。しかし、治療に繋がるものはなく、大我は歯を食いしばる。
 四人のデッキは全てが回復に不得手だ。目の前に患者がいるというのに、どうすることもできない。
 野原しんのすけは、此処で死ぬ。それだけは確定事項と化していた。

「最期に、何かできただけ、よしってことにするさ……悪い、タミコ……帰れそうにないや……」

 もし、海馬がしんのすけを優先的に生贄にしていたのなら。
 もしかしたらポセイドンへの攻撃は避けられていた可能性はあった。
 だから、足を引っ張ってばかりだった自分が何かできたことは喜ばしくもあった。
 やはり、リーダーシップを取れてたあの頃のようにはうまく行かないなぁ。
 帰りを待ってるであろう嫁と、過去の自分のことを思いながらしんのすけは目を閉じる。
 明石は涙を流し、大我や橘は自分達の無力さに苛立ちや精神的ダメージを受けていた最中。










 ザシュッ

 そんな中、肉を裂く音が聞こえた。

「……!?」

 何が起きたか分からなかった。
 ジャックが真っ先に気づいた。
 彼の身体に、一叉の槍の穂先が腹部から見えていたから。
 貫かれた。誰に? 言うまでもない───ポセイドンに、だ。

「雑魚(カス)共が……」

 ポセイドンは確かに攻撃を受けていたのは事実だ。
 左腕は肩までちぎれ飛び、右腕はぐちゃぐちゃに骨折し、
 右足もあり得ない方向へと曲がっており、全身が血だらけだ。
 誰が見たって死んだっていい状態だ。生きていられたのは、
 咄嗟に一叉槍を盾代わりに構えて必殺を本当にぎりぎりのレベルの瀕死にまで抑えたからだ。
 一叉槍も半分に折れており、残った半分を口に咥えて、残ってる体力でジャックへ突き刺し、今に至る。
 片足だけであろうとも、十分に動くことができる。彼は人でもモンスターでもない。神なのだから。
 はっきり言おう。ポセイドンは時期に死ぬ。それでも彼はその歩みを止めようとはしなかった。
 全ては兄上を、神を騙る愚物共に神の天誅を下すがためだ。それ以外に理由など必要ない。


「───ああああああああああッ!!」

 もっともジャックのそばにいた明石が真っ先に行動できた。
 ガイアプレッシャーを鼓膜を突き抜けるように、悲鳴のような叫び声を放つ。
 普段ならば大して届かないであろう一撃も、今の状態では十分すぎるダメージを持つ。
 骨が軋み、頭蓋の骨にもパキリと入った音がすると、ついにポセイドンは倒れる。
 倒れたふりかとも最初は疑った。しかし一向に起き上がる気配がなく、ついに倒せたと分かった。
 安堵などできない。ジャックの傷も無視できるものではない。早急に治療できる場所か、
 参加者を探さなければならない。海馬たちも休んでる暇はないと立ち上がるものの、

「いや……俺のライフは、尽きている……」

 プライドの咆哮で余りにもライフを払いすぎた。
 そのうえでこれほどの一撃だ。もう立ってることすらままならない。
 それでも。ジャックは、キングは立ち続けた。その威厳を損なわないように。

「遊星とも、武藤遊戯とも戦えないのは惜しいが……仕方があるまい。」

「何言ってるんですかジャックだん!
 遊星さんと再会できるんですよ! デュエルだったらその時にいくらでも……!!」

 気をしっかり持つよう励ます明石。
 しかし、ジャックの目には光はもうなかった。
 最後まで立ったまま、王者のように威風堂々と、そのまま立ち往生のまま死んでいた。

「ジャック、さん……」

 遊星から参加してそうな人物の話を聞いたこともあり、
 出会ってからと言うものずっと気にかけていた。だから近くにいた。
 だからこそ、遊星と再会できることをさせられなかったことを彼女は悔やむ。
 先ほど以上に涙を流す。轟沈なんて、死なんて見慣れたものだが未だ慣れない。
 泣きじゃくる彼女の肩を、優しくというよりは、気をしっかり持つよう強く掴む橘。

「全員、逃げる準備だ……あれだけ派手な音を出したんだ。
 このまま此処にいたらいずれさっきの男(無惨)が来るかもしれない。」

「確かにな。おい百雲。立て……」

 大我の背後にて倒れていたはずの百雲の姿がない。
 まさかもう奴が追い付いたのかと周囲を見渡してみると、

666激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:11:28 ID:TY0Xnnho0
「ハッハッハ! リベンジマッチだ! 彼女は人質として預からせてもらうよ!」

 遠くには、百雲を抱えたラヴリカが全速力で逃走していた。
 明石がガイアプレッシャーを使った瞬間を狙って彼は事を起こした。
 まだ意識がもうろうとしている百雲は抵抗することも声も上げられず、
 ただなすがままにラヴリカに連れていかれてしまっていた。

「あのバグスター、復活していやがったのか!!」

 しかもあの反応、百雲を女だと思っている。
 男だと気づいてないまま保護しようとしてると気づけば、
 十中八九ろくでもないことになるのが目に見えており、
 橘達のことを置いて彼はDホイールで走り出す。彼とは短くない付き合いの間柄だ。
 たとえバンバンシューティングでなくても、リスクある今の奴でも放っては置けない。

「此処で別行動はまずいが仕方がない……!!
 大我は百雲を追う。君達は冥王の列車のカードを使って逃げるんだ!」

「橘、貴様はどうするつもりだ?」

「……あの男(無惨)と戦う。」

「正気で言っているのか、貴様。」

 四対一で敗走だったあの有様だ。
 この状況で彼一人で戦えるわけがない。
 しかも無敵状態となればますます勝ち目がないだろう。

「攻略法はある。奴は大我が攻撃を決めた時、
 一瞬だが陽に当たりそうになるのを極端に避けていた。」

「……そんなところを見ていたのか。」

 こればかりは仕事が仮面ライダーである橘と、
 ゲームを筆頭としたクリエイターである海馬との差だろう。
 本当に一瞬だ。吹き飛んだ無惨は僅かだが陽に手が当たりかけた際、
 露骨に手を引っ込めたのを橘は見逃さなかった。

「恐らくだがあいつは太陽光が苦手の可能性が高い。
 或いは太陽光を避けなければならない何かがあるとみていい。
 ならば、最初からハイパームテキで追ってきてる可能性は高い。」

「ふぅん、なるほどな……仮面ライダーになっていれば、
 太陽をの光を浴びることはないというわけか。
 となれば当然、ハイパームテキの時間が切れてる可能性がある、か。
 だが大我のガシャットも奪われてる。そっちの可能性も否定はできないだろう。」

「だが言い換えれば奴は触手を出すことや装甲を破壊されることを嫌うはずだ。
 その立ち回りを利用して必ず倒す……いや、倒さなければならない。だから彼女を頼む。
 それと、百雲が置いていかざるを得なかった槍だが貰ってもいいか?」

「俺らには不要だからな、好きにしろ。明石と言ったな。
 冥王のデッキを使え。遺体も首輪を回収のためにやるぞ。」

「……はい、わかりました。」

 涙を流すのはこれで最後だ。
 そう言い聞かせながら涙を拭い、
 海馬に言われた通り冥王が残したデッキを腕にセットする。
 カードを五枚引いて、その中にあった同じフライング・ペガサスを召喚。
 ジャックとしんのすけの遺体を抱えながら入り込み、冥王が残した首輪を持って乗車。
 海馬も続けて乗ると、フライング・ペガサスは橘を置いて発進する。

「橘さん! 待ってますからね!」

「ああ。」

 明石の言葉に、静かに一言返しながら列車を一瞥し、再度ギャレンに変身する。
 遠からず来るであろう、鬼の首魁を前に、一人の男はリベンジを果たそうとしていた。

【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:心身の疲労(大)、脚を負傷、リゼを護れなかった後悔
[装備]:ギャレンバックル@仮面ライダー剣
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1、リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[思考・状況]基本方針:剣崎の分まで人々を助ける。ゲームマスターも倒す
1:リゼ……。
2:あの男に立ち向かう
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については少なくとも完治してます

「橘さん、大丈夫でしょうか……」

「最悪、相打ちの覚悟だろうな。」

「海馬さん、遠慮がないですよね……野原さんの時といい。」

「俺は別に善良な人間ではないからな。」

667激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:12:41 ID:TY0Xnnho0
 マインドクラッシュされる前とは言え、
 DEATHーTやブルーアイズの奪取の件など、
 様々な悪事に手を染めていた過去のある海馬はドライだ。
 だからと言って橘に期待してないとか、見捨てるとか思うつもりもない。
 静かに、しかし目的地に向かう中、明石はジャックからデュエルディスクを外す。
 これは遊星に渡すべきものだ。彼のデッキはモンスターカードしかないと辛いのは、
 多彩な戦術を見せたジャックや海馬を見れば明らかなことであり、亡き友の忘れ形見。
 自分が使うわけにはいかず、合流できたら彼に渡そうと決意を固めた。

「明石。首輪だが、どうする? サンプルがいるなら首を切り落とす必要があるが……」

 首を切り落とすには幸いなことに村雨がある。
 村雨は冥王曰く呪いの刀らしいが、死者には意味をなさないとみてもいい。
 だからやろうと思えば切り落とせる。必要であるならば海馬はそうするつもりだ。
 あくまで彼の目的はアテム、並びにこの殺し合いを打破することだ。
 死者を悼んで首輪を放置などできるものではないだろう。

「……贔屓になってしまいますが、
 ジャックさんだけは待ってもらえますか。
 遊星さんに会ってから、確認だけは取っておきたいので……」

「フゥン、好きにしろ。」

【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:心身の疲労(中)、リゼを見捨てた後悔、ギャレンに変身中
[装備]:海馬瀬人のデッキ(オベリスク入り)&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS、
[道具]:基本支給品×2(自分、無惨)
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と、あの異形(無惨)と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい。
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。だが今は遊星とやらと合流だ。
  そうそう死ぬとも思えないが、凡骨共が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
  器の遊戯の実力にも興味がある
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:ジャック、冥王、貴様らを認めてやろう。貴様達も王だとな。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。
※心意でオベリスクの巨☆神☆兵@遊☆戯☆王を手に入れました

【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに少し苦労する程度に負傷)、疲労(大)、精神疲労(大)
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品×5(自分・ジャック・しんのすけ・ポセイドン・うさぎ)、一斬必殺村雨@アカメが斬る!、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING、オルタナティブ・ゼロのデッキ(サイコローグは消滅のためブランク状態)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)、神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊戯王ZEXAL、ジャックのデュエルディスクとデッキ(心意カード+冥王結界波入り)@遊戯王5D’s
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1:蛇王院さん……無事でしたけど、素直に喜んでいいのかなぁ。
2:九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3:帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4:首輪を解除できるだけの装備を整えないと。首輪は確保できましたが。
5:特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6:ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
7:あの寺何怖いんだけど!?
8:ジャックさん、冥王さん、野原さん……

668激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:13:12 ID:TY0Xnnho0
[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
 時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※ジャックのデッキで心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
 かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ発生しません。
 必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
 現在生成されたのは以下の通り
 レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
 琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG
 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
 スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
※サイコローグはオベリスクの攻撃で消滅したため、
 ブランク状態になっています





「いいぜ……絶版だけで足りないってんなら、また倒すだけだ!」

 ラヴリカが走った方角へと走りながら、ガシャットを握り締める大我。
 まさかあいつまで復活しているとは思っていなかったが。ある意味納得だった。
 だが女(だとおもってる)だから襲わずにいるのはどういうことなのかと疑問に持ちながらも、
 百雲を攫ったことに対して、怒りの形相でラヴリカをDホイールで追いかける大我。

【花家大我@仮面ライダーエグゼイド】
[状態]:ダメージ(中)、バグスターウイルスの後遺症、心身の疲労(大)
[装備]:バグルドライバーⅡ&仮面ライダークロニクルガシャット(市販品)@仮面ライダーエグゼイド、雑賀のDホイール@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:このゲームは俺がクリアする
1:あのバグスター(ラヴリカ)を追う。百雲は俺が助ける。
2:他の連中、無事に済めばいいんだがな。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング終了後
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました

【百雲龍之介@不可解なぼくのすべてを】
[状態]:心身の疲労(極大)、ダメージ(特大)、ストレス(極大)、意識が朦朧としてる、ラヴリカに抱えられてる
[装備]:デュエルディスクとデッキ(ウィッチクラフト)@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品、リゼの支給品
[思考・状況]基本方針:……。
1:…何か、できたかな……?
2:リゼ、さん………
3:大我さん……

[備考]
※参戦時期は少なくとも十四話以降かつ二十三話までのどこか
※遊戯王OCGのルールとウィッチクラフトの回し方をだいたい把握しました。
 海馬とのデュエルで、さらに成長しているかもしれません





※ラヴリカはトリロジーアナザー・エンディングで消滅後までの記憶を持っています。
※エリンの死体はD-2の橋の前に置かれています。
※野獣先輩の時のルール改定に合わせて今後先行ドローは廃止、ということになってます
※トライデント@終末のワルキューレは穂先が折れた状態で放置されてます
※バイデント@終末のワルキューレは二つに折れた状態で放置されてます





 神は死んだ。
 されどその神はどんな神よりも気高く。
 誰よりも真っすぐで───そして誰よりも、
 『王』の称号にふさわしい神であった。

【深淵の冥王@遊戯王OCG 生贄】
【野原しんのすけ(大人)@クレヨンしんちゃん 死亡】
【ジャック・アトラス@遊戯王5D’s 死亡】
【ポセイドン@終末のワルキューレ 死亡】

669激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:14:30 ID:TY0Xnnho0
【雑賀のDホイール@遊戯王5D’s】
橘の支給品。雑賀が使用していたDホイールだが、
相棒のユージとタッグデュエルで乗りこなしていた方のDホイール。
つまるところサイドカーつきのDホイール、と言ったところである。
特別な性能はないがサイドカーがあるため二人乗りが可能となっている。

【エリクシールハーフ@グランブルーファンタジー】
明石に支給。ゲーム上においてはAP(ゲームをプレイするのに必要な体力)を回復するアイテム。
本ロワでは上位アイテムのエリクシール(全回復)に倣い、傷を治す効力を持つものとして扱う。

【ハデスの一又槍(バイデント)@終末のワルキューレ】
ポセイドンに支給。ハデスの所持する槍ではあるが、
原作ではポセイドンのトライデントと融合させているので、
この槍自体の具体的な性能については殆ど不明となっている。
ハデスが使用した場合の性能解説になる為使用感は異なる……はず。

血が導きし曙光(イーコール・エーオース)などはハデスの血、
プルートイーコールが必要なためこのままでは使用不可能。

【冥王結界波@遊戯王OCG】
生贄になり際に発現した深淵の冥王の心意によって誕生したカード。
テキストは以下の通りで、このカードの発動に対してモンスターの効果は発動できない。
①:相手フィールドの全ての表側表示モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
このカードの発動後、ターン終了時まで相手が受ける全てのダメージは0になる。

現在はジャックのデッキに入っています。

【オベリスクの巨神兵@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ】
海馬の心意により生み出されたカード
OCG出典ではなくデュエルモンスターズ出典のため神のカード
テキストはOCGではないため以下の通りになっている
The Player shall sacrifice two bodies to God of Obelisk.
The opponent shall be damaged.
And the monsters on the field shall be destroyed.
攻撃力が∞になったり、4000ダメージを与えたり、結構テキストが曖昧


【琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG】
ジャックの心意システムで誕生したカード
テキストはOCG版になっておりテキストは以下の通り
シンクロ・効果モンスター
星9/闇属性/ドラゴン族/攻3200/守2500
チューナー+チューナー以外のドラゴン族・闇属性Sモンスター1体
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分・相手ターンに、相手フィールドの表側表示カード1枚を対象として発動できる。
そのカードの効果をターン終了時まで無効にする。
②:このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、
自分の墓地のチューナー1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

【琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG】
ジャックの心意システムで誕生したカード
テキストはOCG版になっておりテキストは以下の通り
シンクロ・効果モンスター
星10/闇属性/ドラゴン族/攻3500/守3000
チューナー+チューナー以外のドラゴン族・闇属性Sモンスター1体
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドのモンスター1体をリリースし、
自分の墓地の「レッド・デーモン」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。
自分のデッキ及び墓地から1体ずつ、レベルが同じチューナーを守備表示で特殊召喚する。

【琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG】
ジャックの心意システムで誕生したカード。出すぎである
テキストはOCG版になっておりテキストは以下の通り
シンクロ・効果モンスター
星12/闇属性/ドラゴン族/攻4000/守3500
チューナー2体+チューナー以外のドラゴン族・闇属性Sモンスター1体
①:このカードがS召喚した時に発動できる
(この効果の発動に対して、相手はカードの効果を発動できない)。
このターン、相手はフィールドで発動する効果を発動できない。
②:このカードが戦闘でモンスターを破壊した場合に発動する。
そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
③:このカードが相手によって破壊された場合、
自分の墓地のレベル8以下のドラゴン族・闇属性Sモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。

670激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:15:08 ID:TY0Xnnho0
以上で投下終了です
かなりやりたい放題にやったので問題ありましたらどうぞ

671激瀧神 『王者の調和』 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 15:52:51 ID:TY0Xnnho0
状態表に思いっきりミスがあったので修正です

【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:心身の疲労(中)、リゼを見捨てた後悔、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:海馬瀬人のデッキ(オベリスク入り)&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS、
[道具]:基本支給品×2(自分、無惨)
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と、あの異形(無惨)と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい。遊星とやらはどれほどのものか。
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。だが今は遊星とやらと合流だ。
  そうそう死ぬとも思えないが、凡骨共が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
  器の遊戯の実力にも興味がある
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:ジャック、冥王、貴様らを認めてやろう。貴様達も王だとな。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。
※心意でオベリスクの巨☆神☆兵@遊☆戯☆王を手に入れました

【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに少し苦労する程度に負傷)、疲労(大)、精神疲労(大)、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!、神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×5(自分・ジャック・しんのすけ・ポセイドン・うさぎ)、一斬必殺村雨@アカメが斬る!、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING、オルタナティブ・ゼロのデッキ(サイコローグは消滅のためブランク状態)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)、ジャックのデュエルディスクとデッキ(心意カード+冥王結界波入り)@遊☆戯☆王5D’s
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1:蛇王院さん……無事でしたけど、素直に喜んでいいのかなぁ。
2:九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3:帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4:首輪を解除できるだけの装備を整えないと。首輪は確保できましたが。
5:特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6:ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
7:あの寺何怖いんだけど!?
8:ジャックさん、冥王さん、野原さん……
9:フライング・ペガサスで真っすぐ向かいましょう

[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
 時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※ジャックのデッキで心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
 かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ発生しません。
 必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
 現在生成されたのは以下の通り
 レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
 琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG
 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
 スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
※サイコローグはオベリスクの攻撃で消滅したため、
 ブランク状態になっています

672 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/04(日) 17:35:35 ID:TY0Xnnho0
場所のこと忘れてました
【E-2/朝/一日目】

673 ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 00:59:59 ID:VQtoL8aQ0
皆様投下お疲れ様です。自分も投下します

674リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:01:54 ID:VQtoL8aQ0
決闘と称した殺し合いで、会場に解き放たれたのは参加者だけではない。
ソリッドビジョンとも異なるシステムで実体化した、デュエルモンスターズのクリーチャー。
あらゆるライダー世界の記憶を元に再現された、仮面ライダーの敵である怪人。
主にプレイヤーの妨害へ動く、自我無きNPC達の種類は千差万別。
人型もいれば獣や虫に近い個体や、果ては機械タイプのものまで様々。
当然の如く飛行能力を有するモンスターもおり、空中から参加者を付け狙うようプログラムを受けている。

内の一体であるハーピィ・レディが首を断たれ、呆気なく役目を終えた。
10体近く配置されたものの、5分と掛らず全滅。
生物としての体液は一滴も流れず、最初から存在しなかったように死体は消失。
遮る者のいなくなったルートを進むは、蛍光イエローのボディを持った異形の参加者。
歪められた歴史を己が身に宿し、悪の帝王を追跡中の飛電或人だった。

「何処に行った……?」

万丈の制止を振り切り飛び立ち、正確に数えていないがそれなりの時間は経ったように思える。
だというのに一向にDIOの姿は見えず、現れるのと言えばNPCのみ。
アナザーゼロワンの飛行能力を駆使しても、追い付く様子が見られない。
難しく考えるまでもなく、DIOが逃げたのとは別の方へ来てしまった可能性が非常に高い。
或人を含め先の場にいた全員、目晦ましの妨害に遭い具体的にどの方角へ向かったか分かっていないのだ。
追い掛けるつもりがその実、無意味に空を飛び回っていただけ。
何とも間の抜けた事態も起こり得ないとは言い切れず、実際にそうなってしまっている。

いや、本当にそれが真実か?
DIOを追い掛けビルドドライバーを取り戻すのは口実に過ぎず、実は一人になる事が目的だったんじゃあないのか。
煩わしく善意を説く者達から離れ、復讐相手の捜索に時間を掛けられる。
悪意へ吹っ切れ、復讐を為す力を手に入れる。
その為に万丈達が共にいるのは都合が悪く、だからそれらしい理由を付けて離れて――

「……っ」

問い掛ける自分自身の声は、耳を塞いでも遮断出来ない。
そんなことはない、あってはならないと言い返すように速度を上げる。
全身を撫でる風は変化中の肉体越しにも冷たく、動揺で火照った頭を幾分冷やす。
善意か利己的な復讐心か、どちらが己の本心かも分からないまま飛ぶ。

675リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:02:31 ID:VQtoL8aQ0
『ご機嫌ようプレイヤー諸君』

やがて収穫の得られない空の旅は、神の声が響き渡り中断を余儀なくされた。
突然映し出された姿に驚くものの、6時間前と同じ光景故困惑は長続きしない。
流石に定時放送は無視出来ず耳を傾ける。

「そんなに大勢が……」

非常に喧しく腹立たしい内容だったが、怒り以上に衝撃が大きい。
1日にも満たない時間で、40人もの参加者が命を落とした。
自分が迷いを抱えたままあっちこっちへ動き回ってる間に、これだけの人数が殺されたのだ。
驚きと、次いで後悔にも似た苦々しさが湧き上がる。
ゼロワンに変身出来ずとも、戦う為の力はあった。
助けられる力があったのに、一体自分はこの6時間で何をやっていたのか。

同時にこうも考えた。
滅はまだ生きており、自分の手で破壊する機会は失われていない。
復讐を果たすのが不可能になっていない事実へ、安堵を抱いてしまった。
我が事ながら身勝手で嫌悪が襲い、しかし滅の生存に「良かった」と内心呟いたのも否定出来ない。

自分以外の者の手で滅が破壊されるという、到底納得のいかない事態は防がれた。
かといってストレートに暗い喜びを口にするには、善意を捨て切れていない。
泥がへばり付くように重い心で、一旦地上へ降り立つ。
良くも悪くも、放送は一度頭を整理する機会を与えた。
脱落者の発表に意識が向かいがちだが、禁止エリアも軽くは見れない。
機能するまで猶予があるとはいえ、確認もせず動き回った結果手遅れは御免だ。

「……ってか今俺がいるとこじゃん!?」

地図アプリを起動したところ、現在位置はF-3と判明。
つい今しがた指定を受けた三つの内の一つ。
脇目も振らず飛んで来たが、まさかピンポイントで禁止エリアに入り込んだのは予想外。
機能するまでの2時間をのんびり使う気はない。
支給品の放置されているらしいエリアでもなく、好んで訪れる者はまずいないだろう。
早急に離れようと羽を広げ、

676リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:03:20 ID:VQtoL8aQ0
「え……」

視界の端へ映るソレに気付いた。

地面へ横たわり、ピクリとも動かない。
路上に放置された自転車だとか、風で飛ばされて来たゴミだとか。
そういった日常で目にするものとは違う、明らかな異物。
心臓が掴まれるような、嫌な予感を覚え近付く。
早朝の寒風に吹かれ、艶を失った金の長髪が寂し気に靡いている。
元々白かったろう肌は今や、血の気を完全に失って青白く変貌。
光が宿らない瞳が最後に何を見たのか、或人は知らない。

「この子は……」

殺し合いが始まり間もない頃に会った、名も知らぬ少女。
ロクな自己紹介もせずに別れ、それから何が起きたのか。
目の前のソレが答えだとばかりに、骸と化し或人と再会を果たした。

ここでようやく気付いたが、F-3は自分と少女が別れた場所からそこまで離れていない。
つまり彼女は檀黎斗による最初の放送が行われた後、早い段階で殺された可能性が高い。

「じゃあ俺が、この子と一緒にいたら……」

殺されずに済んだんじゃないか。
口に出したのは所詮たらればだ、もし本当に少女に同行しても死を防げたかは実際の所不明。
第一あの時は、滅への復讐以外に思考を割く余裕なんてなかった。
仮に少女の方から同行を申し出たとしても、首を縦には振らなかったろう。
だが己の行動が彼女の死に影響を及ぼしたかもしれないのを、むざむざと見せつけられては。
一切の動揺を抱かず、過ぎた事だと割り切るのは困難を極める。

と、瞳が一点を捉える。
細い首に填められた、年頃の少女のアクセサリーにしては倒錯的なリング。
参加者共通で檀黎斗が送った、命を支配下に置かれている証。
支給品こそ周囲に見当たらないが、首輪は手付かずのまま。
いずれ主催者と直接対決に臨む為にも、解除の為のサンプルを手に入れる。
そういった目的以外にもう一つ、首輪の持つ価値を放送前に知った。

「首輪があれば、滅がどこにるかも……」

自分の声ながらいやに遠くに感じ、意識せぬまま手が伸びる。
掴んだ首は細く、僅かに力を籠めれば魚の小骨よりも呆気なくへし折れそうだった。
体温を失ったが故の冷たさが、異形の指越しにも伝わり、

「――っ!」

ようやっと自分が何をしてるのか理解し、慌てて腕を引っ込める。
首輪の必要性を承知の上だとて、躊躇なく死体を破壊しようとするなんて。
自分自身が俄かに信じられず後退るも、首を放した際の衝撃が原因だろう。
ガクンと少女の頭部が動き、光の宿らぬ瞳と視線が合った。
死体は何も語らない、少女を少女たらしめる魂はこの世の何処にも存在しない。
なのに或人には、まるで自分を責めているようにしか見えなかった。

「…………ごめん」

そよ風にすら掻き消され兼ねない、か細い声の謝罪と共に背を向ける。
ただの一度も振り返らず、逃げるように飛び立って行く。
そうして残ったのは数時間前と同じ、語る術を奪われた魂無き器。
少女を殺したのが憎きヒューマギアだと、知る由もなかった。

677リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:04:05 ID:VQtoL8aQ0
◆◆◆


デュエルモンスターズの利点、と言っても一言に纏めるのは難しい。
ルールを理解し相応のデュエルタクティクスこそ要求されるが、使いこなした際に得られるメリットは大きい。
主催者直々にデッキ以外の支給品を没収したのも、納得のいく応用性。
戦う力を持たない者であろうと、戦闘をモンスターに肩代わりさせられる。
魔法カードを使えば傷の治療が行え、装備カードで武器の実体化も可能。
中には海馬瀬人や天城カイトのように、移動手段としてモンスターを召喚する手もある。

「ンンン!足柄の鬼子は熊を乗りこなしたとの逸話がありますが、よもや拙僧にもその機会が巡って来るとは!いやはや、この世は何が起きるかとんと分かりませぬなぁ」
「乗り心地は微妙だけどねー。こーんなボロい見た目だし、しょーがないかもだけどー」
「ではでは、不満を忘れる程に拙僧との二人旅に身を委ねなされ!子女一人喜ばせずして、男子(おのこ)は名乗れますまい」
「乗り心地以上に最悪なのは、あなたが同乗者ってことなんだけどにゃー」

軽口、というには些か毒の強い返答だった。
ピカピカのランドセルが似合う少女と、日本人離れした長身の男。
灯花とリンボが跨るのは巨体を誇る狼、と言うには余りに異様な見た目の存在。
青い体のそこかしこに縫い目が走り、四肢から飛び出す生物にあるまじき綿。
大半が目を剥くだろう、胴と前足を繋ぐハサミ。
当然ながら自然界にこのような狼がいた記録は、歴史上のどこにもない。

それもその筈。
この狼はデストーイ・シザー・ウルフと言い、灯花が支給品のデッキを使って召喚したモンスターの一体。
継ぎ接ぎだらけの不安定な外見と裏腹に、発揮される走力はそこらの自動車顔負けの速さだ。
徒歩でチマチマ参加者を探すよりも、よっぽど効率が良い。
加えて、今の灯花には少しでも早く辿り着きたい場所があった。

「おや、あれは……」

逸る心を嘲笑うかの如く、移動へストップを掛けるモノが出現。
リンボの声に反応するまでもない、突如天空へ巨大なモニターが浮かび上がったのだから。
映し出された尊大な口調の男へ、定時放送だと即座に察した。
急いでる最中とはいえ、聞き逃すのはそれこそ馬鹿のやること。
不満気に頬を膨らませつつもシーザー・ウルフを止め、聞く体勢を取る。
喧しさで言ったらリンボと良い勝負の自称神を冷めた目で見ながら、必要な情報を頭に入れていく。

678リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:04:44 ID:VQtoL8aQ0
「へぇー…みふゆと傭兵さん、死んじゃったんだ」

モニターが消え数秒の沈黙を挟んだ後、ポツリと呟く。
死者への嘆きも憤りも宿らせず、ほんの少し意外そうに。

壊滅した今となっては過去の話なれど、マギウスの翼の構成員は非常に多い。
中でも能力に秀でた魔法少女は白羽として、黒羽達を纏め上げる地位を与えられた。
みふゆもまた白羽の一人。
マギウスを抜かせば、教育係の神楽燦と並ぶ屈指の実力者だ。
魔力減退が起きようと踏んだ場数は随一、やちよ同様にベテランの魔法少女。

そんなみふゆでさえ、たった6時間を生き延びられなかった。
ドッペルの暴走を命懸けで阻止した、生前の死とは違う。
実力勝負でみふゆを上回る者が、殺し合いには参加している。
多少の驚きこそ抱くも、当然かとすぐに納得へ早変わり。
協力者の陰陽師や、映像越しに見た異形の剣士達。
そういった存在を思えば、何も不可思議ではない。

生きてる内に会えれば色々問い詰めたかったけど、死んでしまったならまあ良いかであっさり切り替える。
フェリシアに関しても同様だ、脱落を知っても深く考える事は無し。
或人と別れた後で殺されたのかもしれないが、特別興味も抱かない。
それよりも、いろはとねむの無事を知れた方が大きい。
姉と呼び慕うあの人は自分を余り大事にする少女じゃなく、親友だって万が一下手を踏まないとも限らない。
最悪の事態にはならず安堵の想いが込み上げる、とはいえ同行者の手前面には出さない。

(あーでも、ベテランさんもまだ生きてるんだっけ)

死んでた方が都合の良い、面倒な魔法少女の生存という嬉しくないおまけ付きだが。
実力の高さ故に納得はあり、一方でフェリシア共々脱落になってないのへ不満を感じざるを得ない。
ドッペルに関しての実験に使う対象が失われてない、と考えれば悪い話でもないが。
僅かに眉を顰めれば、目敏く気付いた同行者がここぞとばかりに顔を覗き込んで来た。

679リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:05:30 ID:VQtoL8aQ0
「おやぁ?如何いたしましたかな?今の放送で何か気に食わぬものでも?」
「自称神様の無駄が多い放送を見たら、誰だってウザいって思うでしょ」
「いえいえ、拙僧はむしろ感心しました。遊戯盤の主…かの者の言葉を借りれば『げえむますたあ』ですか。ああも焚き付け煽る演出を呼吸の如く容易く行えるのも、一種の才能かと」

参加者を嘲笑い死者を冒涜し、たった数分で尋常ならざるヘイトを自らに集める。
大半のプレイヤーからすれば怒りを引き出される内容も、リンボには却って歓迎すべきもの。
殺戮遊戯を謳う以上、こうでなくてはと笑みを浮かべた。

「はいはい、趣味が合う相手が見付かって良かったねー」

リンボが“こういう男”だと既に知っている為、灯花は雑に返し話を打ち切る。
今の放送に自身の方針を揺るがす程の情報は無かった。
未回収の支給品や特殊なNPC等、有益な内容も一旦片隅に留めておく。
シザー・ウルフに指示を出し移動を再開、定時放送の前から目的地と定めた場所へ急ぐ。

結論から言うと、妨害を受ける等のアクシデントに見舞われることなく到着はした。
が、灯花の望んだ光景はそこに無い。

「ほぅ、これはまた派手に楽しまれたようで」
「……」

声色にも楽しさを籠めるリンボと反対に、険しい表情で一帯を視界に収める。
畳を無理やりに剥がしたような有様の地面。
白亜の宮殿へ入る為の場所は破壊の限りを尽くされ、そこかしこに瓦礫が散乱。
負傷や病の治療目的で訪れた者も、これでは揃ってUターン確定だろう。
聖都大学附属病院は今や、暴動が起きたかの惨状でプレイヤー達を待ち構えていた。

目の前の施設付近で戦闘があったのは、灯花も知っている。
ただこれ程では無かった筈だ。
自分達が到着するまでの間に何が起きたのか。
答えを教える者は見当たらず、目に映るのは破壊の痕跡ともう一つ。
地に二本足を着け息絶えた、学ラン姿の少年。
見覚えの無い顔であり、どういった経緯で死んだかも不明。
魂の抜け落ちた死体にも関わらず、威風堂々の四文字がピッタリ当て嵌まる。
最後まで戦い抜いた戦士だと、称賛を投げかける気質とは来訪者のどちらも程遠い。
物言わぬ少年を見つめるのも束の間、リンボへ振り返り口を開く。

680リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:06:26 ID:VQtoL8aQ0
「タイムテレビ、だっけ。それ貸して」
「宜しいのですか?過去の鑑賞を楽しめるのは残りあと四回。使い所に熟考を重ねた上での決定と、そう捉えても?」
「同じこと言わせないで欲しいんだけど」

回数制限の決められた支給品なだけに、念の為確認を取った。
などと合理的な理由は一割あるかどうかも怪しく、単に灯花を揶揄っただけ。
向こうもそれが分かっているので、有無を言わさぬ口調をぶつける。
幼さとは不釣り合いの威圧感が籠められており、黒羽達がいれば震え上がったに違いない。
生憎リンボには子猫が精一杯の怒気を放ってる程度に過ぎず、脅しの効果はゼロ。
とはいえおちょくるのも程々にし、「これは失礼」の一言を添え支給品を貸し出す。

一度使っている為、操作方法を今更確認する必要もない。
ダイヤルの調整と同時にボタンを押すと、画面の砂嵐が徐々に消える。
自分達が来る少し前の光景が映し出された。
放送からそう間を置かずに起きた、襲撃者達と病院内に留まった参加者達との乱戦。
全てを滅する刃と化した日輪の参戦を経て、黄金の精神が葬られるまでの一部始終。

(成程成程……そうなりましたか)

長い指で顎を擦り、リンボは映像から得られた情報を己が頭に浸み込ませる。
上質な砂糖菓子をゆっくりと舐るように、今後の楽しみへの期待を寄せて。

薄々察しは付いていたが案の定、火炎の痣を浮かべた男達は兄弟らしい。
様子を見るに大方の予想通り、弟の方は認識を弄られているのだろう。
英霊剣豪にも並ぶか或いはと、映像越しにも肝を冷やす絶技の使い手。
本来であれば弱き子羊どもの盾となるだろう筈が、今や等しく滅びを与える天災も同然。
あろうことか、悪鬼へ堕ちた兄の方がまだ守護者と呼べる動きに出ていた。
当人達にとっては悲劇であり、リンボには喜劇である。

継国縁壱以外に興味を引かれたのは、変幻自在の肉体を持つ奇妙な男。
泥や土に仮初の命を吹き込む術は珍しくもないが、あの者は排泄物から生み出されたのではと思わざるを得ない。
映像越しであっても、見ているだけで異臭が漂う錯覚を覚えた。
しかし持ち得る力は油断ならない、無法の極み。
単純な他者の異能の模倣や変身能力の類、とは言い切れない異様さだ。

681リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:07:07 ID:VQtoL8aQ0
他にも或人が探す絡繰人形、『でゅえるもんすたあず』なる札遊びを使いこなす青年、我が身を巨大獣へ変えた少女等々。
混沌(カオス)と言う他ない面子が繰り広げた祭りは、スタンド使いの死で幕を閉じた。
労せずして情報を大量にに得られたのは良い。
一方で自分が一枚噛む前に騒ぎが終息を迎えたのは、少々惜しいと思わなくもない。

(まあそれは次に取っておくとしましょう。拙僧が手を加えるまでもなく、孵化は早まりつつあるようですからなぁ)

笑い声が漏れぬよう努め、傍らの少女を童女を見やる。
映像の切れた黒い画面に視線を固定し、リンボには見向きもしない。
だがどんな顔をしてるかなど、背後からでも分かった。

「…………」

人間、不快感も度が過ぎれば分かり易く表情には出ないらしい。
鏡代わりの画面に映る、目の据わった自分の顔と見つめ合いながらどうでもいい事をふと思う。
冷静になれと言い聞かせるも、黒々とした火炎が渦巻き鎮火の兆しは一向に見せない。
神経を逆撫でする笑みの術師が横にいなければ、タイムテレビを蹴飛ばすくらいはやったかもしれない。

放送直後の戦闘で、いろはがどうなったかは全部知った。
この地で出会った浅い関係の連中の為に、己が身を削って戦う。
あの人ならそうするだろうなと、納得があって。
無茶ばかりする人だから、自分もねむも気が気でなくて。
四人で過ごした病室の頃から優しさは変わっておらず、他の魔法少女なんかよりも強く救いたいと願う姿に改めて決意が固まって。

682リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:08:05 ID:VQtoL8aQ0
そんないろはの隣に、さも当然のように立つ異形の剣士が無性に苛立たしかった。

たかだか数時間程度の付き合いでしかないくせに、何故あんな男がいろはの信頼を得ているのか。
ベテランの魔法少女すら超えるやもしれぬ力を持ちながら、いろはをロクに守れていないではないか。
いろはが両腕を細切れにされ斬首の手前までいった時、悲鳴が漏れたのは自分でも分かった。
ソウルジェムさえ無事なら死にはしないと分かっていても、惨たらしく傷付く様に平静を保ってなどいられない。
だというのにあの男は、いろはが斬られてからようやく動く始末。

(役立たずのくせに、お姉さまに触れないでよ……)

忌々しく吐き捨てるも、現状は灯花の手の届かない所へ行ってしまった。
目が腐りそうなくらいに汚い男が余計な真似をしたせいで、いろはは異形の剣士共々消息不明。
映像を見る限り、今どこにいるかの手掛かりは残されていない。
学ランの少年を斬った侍も映像の最後で去って行き、病院に集まった者は散り散りだ。
運良く近くのエリアにいろはが飛ばされた、と都合の良い展開に期待し留まるか。
論外だ、それで現れなければ結局時間をゴミ箱に捨てるのと同じ。
まだ動き回って虱潰しに探すか、情報の売買を行う特殊NPCでも見付ける方がマシ。
病院での顛末を知った以上、もうこの場所に用は無い。
待機させていたシザー・ウルフに再び乗るその前に、一つ用を済ませておく。

「ねえ、そいつの首輪」
「承知しております」

長ったらしく指示を出さずとも、即座に望み通りの行動に出る。
毎回こうなら良いのにと内心で愚痴る間に、リンボは一作業を終えた。
呪符が首を綺麗に断ち、頭部は地面を転がる。
死して尚不動の耐性を保っていたのもここまでだ、時間を置いて全身がアスファルトへダイブ。
戦士の生き様を穢す所業、そう憤る者は残念ながら不在。
死体には目もくれず灯花は首輪を拾い、自身のデイパックへ放る。

これでもう病院へ留まる理由は無くなった。
シザー・ウルフに跨り、戦場跡から見る見る内に遠ざかって行く。
無人の半壊した病院など眼中にない、それよりいろはを探す方が優先だ。
あの侍と二人きりと考えただけで、頭を掻き毟りたい衝動が湧き出る。

あんな奴より、自分の方がずっといろはの事を知っている。
あんな奴より、自分の方がずっといろはの救済を考えている。
いろはの隣は、自分の以外誰にも――

683リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:09:08 ID:VQtoL8aQ0
(…………あれ?)

冷風に顔を撫でられる最中、はてと首を傾げる。
今何か、妙な事を考えなかっただろうか。
魔法少女でもない男がいろはと共にいる不快感だけじゃない。
もっと別の、殺し合いでの方針に相反するものが頭に浮かばなかったか。

主催者の持つ力を奪って魔法少女の運命から、環いろはを救う。
たとえいろは本人に説得されようと、変えるつもりはない。
目的を果たした先で、自分の居場所がなくなるとしても構わない。
きっとねむも同じ想いで動いてる、だったら灯花だって必ずやいろはの救済を実現する。

(そうだよ、わたくしがお姉さまのお傍にいられなくなっても――)

いろはが救われてくれさえすれば問題無いと、そう決断した。
自分からいろはの隣という居場所を、捨てる覚悟だった。
なのにどうしてだろうか、胸が軋むような感覚を覚えるのは。
救われた未来のいろはの傍に、自分は存在しない。
それで良いと思っていた光景を思い浮かべると、揺るがぬ筈の決意へ途端に亀裂が生まれるのは。
いろはの隣に収まっている、自分ではない『誰か』が酷くに目障りなのは。

「灯花殿」

自分自身への言い知れぬ違和感が膨らむが、思考を沈ませるのは叶わない。
名前を呼ばれハッと振り向けば、リンボが進行方向とは異なる箇所を瞳で射抜く。
何か見付けたのか、ありきたりな質問をぶつける前に答えが返された。

「敵襲です」

四文字の内容を最後まで聞くまでもなく、灯花の動きは迅速だ。
「敵」と言われた時点で即、シザー・ウルフへ指示を飛ばし方向転換。
リンボもまた口以外に手も動かし、宙へ五芒星を描き結界を展開。
襲撃への備えを完了、タイミングをほぼ同じくして光弾が二人を狙い撃つ。

684リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:09:48 ID:VQtoL8aQ0
シザー・ウルフを回避へ動かした甲斐もあり直撃は避け、飛散する熱も結界が阻む。
無傷でやり過ごし、だが当然これだけで終わりじゃあない。
銃撃を行った張本人が、シザー・ウルフの前に飛び出て進路を妨害。
光弾の乱射を受け強制的に移動は中止、襲撃者と睨み合う構図が生まれた。

「これはこれは……最初に我らと会うのが貴殿ですか」
「どーせなら、社長さんのとこに飛ばされてれば良かったのにねー」

さも面白そうに言うリンボと正反対に、灯花は煩わしさを顔に出す。
真紅と黄金で彩られた装甲、星座盤を填め込んだ特徴的な頭部。
タイムテレビに映っていた者の一人であり、誰が変身者なのかも知っている。
或人が探し求める復讐相手、ヒューマギアの滅。
聖都大学附属病院からそう遠くないエリアに転移し、自分達を見付けたらしい。
何で会うのがこいつなのかと苛立ちながら、殺意に溢れる滅へ続けて言う。

「こんなところで油売ってないで、早く社長さんのとこに行ってあげたら?」
「なに…?お前達は飛電或人と会ったのか?」

自分を知っている口調に加え、「社長さん」の言い方で察しが付いたのだろう。
ただでさえ剣呑な声色を、更に鋭くし問い質す。
普通の子どもなら恐怖を感じるだろうプレッシャーを軽く受け流し、南東方面のエリアで会ったと伝える。
4時間以上も前の情報だが、急げば道中で見つかる可能性もゼロじゃない。
仮に或人を発見出来ず終いになっても、別にどうでもいいが。

「あなたたちのいざこざに興味なんてこれっぽちもないけどー、急がないと社長さんとは会えないんじゃないかにゃー?わたくしだって暇人じゃないんだから、早くそこ――」

どいて、そう言い切るのを遮り再度銃口が向けられた。
対マギアやライダーを想定した大口径は、小学生の体を焼き払うのに過剰な威力を持つ。
照準を合わせられ、いつ殺されても不思議は無い状況。
なれど灯花に慄く様子は見られず、睨み合う瞳が徐々に冷えていく。

685リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:10:37 ID:VQtoL8aQ0
「……わたくしのお話が理解出来なかったのかにゃー?もしかしてヒューマギアって、頭脳回路にじゅーだいな欠陥持ちなの?」
「飛電或人はお前に言われるまでもなく殺す。だが人類…特にお前達のような悪意を振り撒く者も排除対象だ」
「ンンンン!これは手厳しい。親切心で或人殿の情報を提供しましたのに、よもや恩を仇で返されるとは」

嘆く言葉と裏腹に、リンボは余裕の笑みを崩さない。
その態度に加え、機械生命体であっても強く警戒を抱かざるを得ない邪悪な気配。
強い悪意を持つ人間は多々あれど、こうも強烈に煮詰めた存在は滅多に見れない。
そんな男に平然と付き合う灯花共々、生かすべきでないと結論を下すのに時間は掛からなかった。

「あーもー、お馬鹿さんの相手ってほんといや!…ふーんだ、モタモタしてる社長さんが悪いんだもん。廃棄処分を手伝ってあげる」

手を煩わせる滅へうんざりしつつ、排除に動き出す。
瞳へ苛立ちのみならず、明確な敵意を宿しカードを引き抜く。
マギウスの翼を率いていた頃から、邪魔者を消すのに躊躇は抱かなかった少女だ。
何より、この男もいろはを殺そうとした参加者。
真紅の騎士や継国縁壱程の重傷を負わせたのでないにしろ、いろはを傷付けた一点で怒りを抱くのに十分な相手。

戦闘態勢に移った灯花が手札を切るのを、悠長に待ってはやらない。
ほんの少し引き金に力を籠めれば、少女の焼死体が完成。

「ンンンンン!いけませぬ!か弱い子女を付け狙う蛮行、このリンボの目が黒い内は許しませぬぞ!」

これ程に説得力を感じない言葉をペラペラ口走れるのも、一種の才能ではなかろうか。
呆れる灯花を尻目にリンボは呪符を投擲、光弾の矛先を自分へと変える。
紙切れを投げ付けられたとて、鎧越しでは痛くもかゆくもない。
だがリンボが放ったのは、生物を呪い殺すのに過剰な念を籠めた呪物。
一枚だけでも脅威のソレが、計四枚飛来。
心身の両方を侵し、苦悶に満ちた最期を与える凶器はヒューマギアにとっても油断ならない。

とはいえ、敵に届くかどうかはまた別の話。
滅が変身中のライダー、エボルが如何にハイスペックかは今更説明するまでもない。
真紅のオーラを片腕に纏わせ薙ぎ払い、呪符を四枚全て焼き潰す。
殺す順番が灯花からリンボへ変更、すかさず照準をセットしトリガーを引き絞る。
オーソライズバスターの銃撃が襲うも、ひらりと木の葉を思わせる軽やかさで回避。
次いで新たに呪符を数枚取り出し、再びエボルへと投げ放つ。

686リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:11:26 ID:VQtoL8aQ0
「踊れ踊れ、踊り狂いなされ」

先程と同じように、呪符を直接当てるだけでは芸がない。
自身の元から離れようと、一度リンボの手が加わった以上は遠隔で術式の発動も可。
符より墨汁めいた黒が溢れ出し、無数の毒虫へ変化。
蛇、蝦蟇、蜥蜴、蛞蝓、百足。
呪物生成において広く使われる、おぞましき群れが牙を剥く。
真っ当な感性の持ち主であれば鳥肌を抑えられぬ光景は、視覚的なダメージが全てじゃない。
一度噛み付かれれば最後、群がる毒虫らが腹を満たすまで食い潰されるだろう。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

怖気の走る光景にも一切の動揺を抱かず、流れる手付きでプログライズキーを装填。
毒針状のエネルギー弾を連射し、毒虫の大群を蹴散らす。
呪符の効果で生み出されたモノをどれだけ殺しても、術を放った本人はノーダメージ。
直接攻撃を当てるべく、得物を近距離形態に変え距離を詰める。

接近戦に身を興じるには、式神の身では力不足が否めない。
地を蹴り刃を躱しつつ、三度目となる呪符の投擲を実行。
エボルを痛め付けるより早く、腕の一振りで霧散するとは承知の上。
だからもう一手打つ。

「ン急急――如律令」

符に籠められた呪力が効果を増し、火炎が剛腕となって伸びる。
頭部を、四肢を、胴を掴み焼き殺す拘束具。
一度捕まれば最後、炭と化すまで決して逃しはしない。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

ならば五指が触れるよりも早く、掻き消せば良いだけのこと。
プログライズキーのデータがアビリティを付与、巨大な蠍の尾を生み出す。
更に反対の腕にはエボルの機能を使い、真紅のオーラを纏わせた。
両腕の動きに合わせて振るわれ、火炎の剛腕は呪符共々消滅。
当然これだけで終わりにはしない、勢いを殺さず術師を消し去らんと迫る。
間近で待ち構える死の気配を笑い飛ばし、人差し指が描くは五芒星。
毒針も鮮血色の光も結界の突破は叶わず弾け、なれど結界もまた相討ちの如く砕けた。

687リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:12:25 ID:VQtoL8aQ0
「目を見張る性能の腰巻きですなぁ。拙僧のような脆弱な者は、寸での所で死を躱すのが精一杯」

危機感を全く感じさせない口調だが、リンボとて相応に力の差は理解している。
本体ならまだしも式神、それも制限により大幅な弱体化を余儀なくされた身。
術の出力が削がれた状態でエボルを相手取るのは、流石に無謀と言う他ない。
それでも瞬殺を防ぎある程度食らい付けるのは偏に、支給品の恩恵があってこそ。
タイムテレビ以外に小倉しおんへ与えられた、複数本セットのアンプル。
ここに燕結芽がいたら、正体を察し露骨に顔を顰めただろう。

アンプルに入ったモノの名はノロ。
珠鋼の精製時に生み出される不純物であり、荒魂の正体。
折神家親衛隊がそうしたように、3本を自身へ投与し能力を引き上げた。
ノロの過剰投与は歴戦の刀使にとっても毒だが、リンボには無問題。
式神であるのに加え、負の神聖を母体にする呪術との相性も抜群だ。
尤も本体に匹敵する出力へは流石に届かず、数に限りがある以上無制限に打ち込めないが。
しかし足止めを行うには十分だ、本命は自分ではなくもう一人なのだから。

「灯花殿、そろそろ準備は整いましたかな?」
「今やってるんだから急かさないでよー!」

言い返しながらもカードを場に出す手は休めない。
エボルの力が如何程かは映像で確認済、率直に言ってデストーイ・シザー・ウルフで勝てる見込みは薄い。
灯花自身が魔法少女の力を振るい、大火力で一気に消し飛ばすのも一つの手。
但しドッペルに関して不可解な部分があり、グリーフシードも手持ちはゼロ。
そういった現状を考えれば魔力はなるべく温存し、代用可能なカードで切り抜けられるのに越したことはない。

「これ使ってー…はい、ちゃっちゃと出て来てねー」

デストーイ・シザー・ウルフ以上のモンスターを出すには、幾つかの工程が必要不可欠。
フィールドを整えねばならず、真っ先に使ったのは永続効果の魔法カード。
エッジ・ナイトメアは1ターンに一度、墓地のエッジインプモンスターを特殊召喚出来る。
滅との遭遇以前にシザー・ウルフを融合召喚した際、墓地へ素材となったカードが置かれたままなのが幸いした。

複数のハサミが連なったモンスター、エッジインプ・シザーが墓から蘇る。
自前で再生効果を持つが、手札をデッキトップに置かねばならずドローに制限が掛かるデメリットを持つ。
だから今回は永続魔法を使い召喚を行った。
無論この一枚に攻撃を任せる気はなく、素材の一つに過ぎない。

688リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:13:24 ID:VQtoL8aQ0
「それからこれと…あっ、効果も使っちゃおっと」

苺色のタコ焼きのような頭部のモンスターを通常召喚。
ファーニマル・オクトが場に出た事で、手札のカードの効果が発動可能となる。
綿あめに似てモコモコとした毛皮のモンスター、ファーニマル・シープを続けて場に出す。
場に自分以外のファーニマルモンスターがいる時、手札から特殊召喚が出来るのだ。

「この二枚を使ってしょーかんっ!出してあげたんだから、しっかり働いてよねー」

エッジインプ・シザーとファーニマル・シープ、そして手札の融合を使い融合召喚。
綿の飛び出た巨体に、鋭利な刃と化した背びれと尾びれ。
自然界に生息する個体とも、子供の喜ぶぬいぐるみとも違う不気味な鯱のモンスター。
デストーイ・クルーエル・ホエールの出現に、エボルも注意を引き付けられる。
カードを使ってモンスターを使役する参加者は、病院でも遠回しに見た。
それぞれ強さに差は有れど、放って置けば面倒になるに違いない。
光弾を撃ちリンボを牽制、動きが止まったのを見逃さずプログライズキーを叩き込む。
余計な真似に出る前に消し去るまで。

「だーめっ!おっきいシャチさんの効果をはっつどー!」
「なっ…!?」

引き金を引く寸前、オーソライズバスターが不可視の力で弾き飛ばされた。
手にあったグリップを握る感触が無くなり、エボルは困惑を隠せない。
異変はオーソライズバスターのみならず、灯花の近くにいたモンスターも一体消えたとは気付けなかった。

デストーイ・クルーエル・ホエールは召喚に成功した時、自分と相手の場のカードを一枚ずつ破壊する効果がある。
対象はファーニマル・オクトとオーソライズバスター。
放送前、遊星がサテライト・ウォリアーの効果で大尉のデイパックを破壊した時と同じだ。
カード効果の影響を与えられるのは、デュエルモンスターズのみではない。
衛星ゼア製が作り出す強化合金による耐久性故か、手から弾かれるに留まったが。

クルーエル・ホエールの効果を続けて発動。
エクストラデッキからデストーイモンスター一体を墓地へ送る。
単に墓地のカードを増やしただけで終わらない、先んじて召喚したシザー・ウルフの攻撃力を1000Pアップ。

攻撃力3000、かの青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)と同等の数値へ到達。
近年の環境では珍しくもないが、パワー勝負に出るならこれくらいは必須。
ハサミをカチカチと鳴らし疾走、エボルを噛み砕かんと大口を開ける。

689リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:14:11 ID:VQtoL8aQ0
『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

だが獣一匹に討ち取られるようなら、殺し合いで多くの参加者を苦戦などさせていない。
レバーの回転数を速め、ボトル内部の成分を変身時以上に活性化。
地面に広がった星座盤が右脚へ収束し、必殺のエネルギーを纏う。
牙と回し蹴り、打ち勝ったのは後者だ。
布切れすら残らずに爆散、熱風が灯花の頬を撫で顔を顰める。
モンスターが破壊され、突然全身に鬱陶しい倦怠感が圧し掛かった。
ライフポイントを削られるとは、こういうことか。
念の為指輪状態のソウルジェムを見やるが、そっちは無傷なので問題無し。

「もー!使えないんだから!」

それはそれとして文句を言う間にも、エボルの攻撃は続く。
再びレバーを回し、エボルボトルのエネルギーを今度は腕に付与。
この地で魔法少女を屠った鉄拳で、フェリシアのみならず灯花にも滅びを齎す。

「なりませぬ!そのような非道はなりませぬぞ!」

微塵も心の籠っていない言葉を吐き、しかし灯花から死を遠ざける気でいるのは確か。
遊び甲斐のある玩具を、勝手に壊されては堪ったものじゃない。
善意が欠片も宿らない動機で呪符を複数枚展開、結界を生み出しエボルの一撃を防ぐ。

本体のリンボなら防御に成功しただろうが、悲しいかな式神故に結界の強度も低下。
突破され拳が突き進むも、ノロの強化を乗せた防御だけあって勢いは落ちた。
生じる僅かな隙で、クルーエル・ホエールに指示を飛ばし迎撃。
鎌のような尾びれと鉄拳が激突し、弾かれエボルが数歩後退。
勝った、と言い切れる結果でないのは悲鳴と共に爆散するクルーエル・ホエールを見れば明らかだ。
サイズ差があろうとエボルは並の枠に収まらないライダー、高レベルのモンスターと言えども打ち勝つのは難しい。
リンボの結界で勢いを落とされていなければ、クルーエル・ホエール共々灯花を拳が貫いた可能性とて低くはない。

「別に良いけどね、必要な手はもう打ってあるもーん」

年相応の普通の少女であったら、自身のモンスターが悉く破壊された事実に恐れ慄いただろう。
生憎と灯花はその普通の枠組みに属さない少女、けろりとした顔でドロー。
引いたカードのテキストをざっと確認、発動に何の躊躇も必要ない。

690リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:15:26 ID:VQtoL8aQ0
「ほーら、もう一回出番だよー」

ファーニマル・オクトの召喚時に効果を使って、墓地から回収済のモンスターを召喚。
天使の翼が生えたクマのぬいぐるみ、パッチワーク・ファーニマルがふよふよと浮かぶ。
モンスターゾーンに存在する限りデストーイとして扱われ、尚且つデストーイモンスターの融合素材の代用に使用可能。
場に他のモンスターがおらずとも問題なし、準備はとっくに終わっている。

「手札から魔法カード、魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)を発動するにゃー」

フィールドと墓地に必要な素材が揃っている場合、それらを除外しデストーイモンスターの融合召喚を行う。
墓地の二体に加え場のパッチワーク・ファーニマルを代償に、より強大な僕を呼び出した。

「デストーイ・マッド・キマイラをしょうっかーん!」

歪と、それ以外にどう表すべきか。
綿やスプリングが飛び出し、最早ガラクタ同然の巨大なぬいぐるみ。
それら三つをアンバランスに繋ぎ合わせた姿は、名前通りのキマイラ(合成怪獣)。
可愛らしい肉球が付いただろう足先には、棘付きの土台。
トドメとばかりにミサイルまで搭載し、子供達の小さな友からは程遠い怪物に成り果てた。
本来のデッキ所持者、紫雲院素良が操る非情の玩具。
アカデミア所属の決闘者の本性を表し、黒咲隼相手に繰り出した切り札が降臨。

「これはこれは…ンン!悪くはありませぬが、ちと物足りない。このリンボめが戦化粧を施して差し上げまする」

上空に呪符を展開、エボルの頭上から雷を落とす。
容易く避けられたが目的はほんのちょっぴりの時間稼ぎ、少ない猶予でリンボの仕事は完了。
後方へ大きく跳び灯花の隣に降り立つや、マッド・キマイラの核たるカードへ祝福(呪い)を送り届けてやる。

やった事を説明するなら何も難しくない、自身の魔力を流し込んでの強化(バフ)。
但し強化を行ったのはリンボという大前提が付く。
本体のリンボが、吉田優子が持つまおうのぶきに施したのと同じだ。
足りない分の出力はノロで補い、マッド・キマイラをより禍々しい姿へと堕とす。

ぬいぐるの内側を突き破り、部品を散らして肉の突起物が複数生える。
蠢く眼球が張り付き、ギョロギョロと生ける者達を視界に閉じ込めた。
放たれるプレッシャーも膨れ上がり、外見のみならず持ち得る力も上昇。
テキストに記された攻守では計れない脅威へと生まれ変わった。

691リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:16:53 ID:VQtoL8aQ0
「そういえば、いろは殿のお傍におられる六眼の御仁。かの者の得物もこのような特徴をお持ちでしたな。何たる偶然!いえ偶然で片付けてよいものか!もしやいろは殿だけでなく、灯花殿ともあの御方は縁をお持ちで――」
「餌にされたいの?」
「ちょっとした拙僧の悪戯心ということで、どうかお見逃しを」

殺気立った瞳に睨まれ、にこやかに軽口を返す。
主にリンボのせいで微妙に緊張感が削がれるも、感じるプレッシャーは本物だ。
サイズこそ病院で戦った怪獣に劣るが、かといって油断を持ち込むのは大間違い。

『RABIT!RYDER SYSTEM!EVOLUTION!』

『Are You Ready?』

「変身」

『RABIT…RABIT…EVOL RABIT!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

スピード特化のフェーズ3、ラビットフォームへ変身。
速攻で片付けるべく両脚にオーラを纏わせ疾走。
脚部装甲に備わった機能が走力を引き上げ、抵抗を許さず地獄へ叩き落とす。
マッド・キマイラを迎撃に動かすも遅い、巨体を引き裂く蹴りが飛び――

「な、に……?」

両脚のオーラが煙のように消え、急に走力が元へ戻った。
エボルドライバーに不調が出たんじゃあない、もしそうなら真っ先に気付く。
では何故という困惑から脱するまでに生まれた隙を、見逃してやる程敵は甘くない。

「灯花殿に倣い、拙僧もここに宣言しましょう。手札から魔法札を発動いたしまする!」

リンボが掲げた手には呪符ではなく、灯花が使うのと同じカードが一枚。
異変はすぐに起きた。
エボルドライバーが勝手に外れ、滅のデイパックへ突っ込んだのだ。
望まぬ変身解除に身が硬直するも、失態を悟った時には既に手遅れ。

692リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:17:42 ID:VQtoL8aQ0
「がぁっ!?」

巨体からは想像もつかない速さで、ぬいぐるみの一体が頭部を伸ばす。
スプリングの勢いを利用した強烈な打撃を受け、滅は地面から引き離される。
単なる頭突きならともかく、リンボの術の支配下にある一撃だ。
破壊こそ辛うじて免れたものの、掠り傷とは口が裂けても言えまい。

マッド・キマイラがバトルを行う時、相手は魔法・罠・効果をダメージステップ終了時まで使えない。
今回の場合、走力を上昇させたラビットエボルボトルの成分が効果と解釈されたのだろう。
更に付け加えるならリンボが使ったのは、小倉しおんの3つ目の支給品。
相手フィールドの魔法・罠を手札に戻すカード、ポルターガイスト。
エボルドライバーも謂わば装備魔法の一種と解釈を受けたらしく、デイパックへ自動で戻る形で効果が発揮された。

正規のデュエルでなく、灯花自身そういったデュエル時の流れに興味がない為効果の説明は行わない。
ついでに言うと、ベルトを再び使わせるのを許可だってしてやらない。
見逃したせいでいろはに何らかの害が及ぶ可能性を思えば、生かす理由がどこにあるという。
マッド・キマイラに破壊命令を下そうとし、協力者からストップが掛かった。

「お待ちくだされ灯花殿。始末はもっと相応しい者に任せるべきかと」
「もしかして、社長さんが見付かるまで放って置くって言いたいのー?」
「ご不満であられますかな?ですが、すぐにご納得頂ける筈です」

なにせ、その三文字で言葉を区切り一点を見つめる。
同じ方を見やり、確かに納得だと目を細めた。
魔法少女と式神、二人の視線が向かう先は滅の後方。
一体何を見ていると、問い質すまでもなく答えが向こうからやって来た。

693リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:18:23 ID:VQtoL8aQ0
「滅ィイイイイイイイイッ!!!」
「っ!?貴様は…!」

刺し貫くに等しい殺気と、忘れるなど有り得ない声。
目を見開き振り向けば、視界いっぱいに映り込むバッタを模した人型のナニカ。
人とヒューマギアを巡る死闘を生き延びて来た戦士に、近いようで明確に違う異形。
何故そんな姿になっているのか、疑問を声に出す余裕は消え失せる。
伸ばされた手が首を掴み、人工皮膚越しに内部パーツを軋ませたのだから。

「がはっ!?」

衝撃が走り、殴られたと分かった時には地面へ叩き付けられた後。
人間以上の頑強さを誇るヒューマギアとて、ライダーに匹敵する怪人の殴打をモロに受ければタダじゃ済まない。
文字通り火花を散らし、青い液体が地面を汚す。
完全破壊を免れたとはいえ、捨て置けるダメージではない。
立ち上がろうと腕に力を籠めるも、再び首を掴まれ無駄に終わる。

「飛電…或人……!」

憎々し気に名を呼べば、首に掛かる力が強まった。

少女の死体から逃げるように去り彷徨った末に、復讐の対象を見付けたのは何という偶然か。
記憶に焼き付くのと変わらない、許し難き姿を見た瞬間に頭の中は怒りで埋め尽くされた。
直前までに渦巻いていた、鬱屈とした迷いも最早些事。
自身を揺さぶった二人組の存在すら、まるで眼中にない。

「イズの仇だ…!お前だけはここで……!」
「仇、だと……」

ゼロワンになった時からずっと傍で支えてくれた、秘書型ヒューマギア。
彼女の名を出し憎悪をストレートに叩き付けると、向こうも眉を顰める。
表情が徐々に険しさを増し、或人に負けず劣らずの憤怒を浮かび上がらせた。
感情に振り回される人間そのものだと、思う余裕も無い或人を睨み返す。

694リローデッド ─禁じられた遊び─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:19:32 ID:VQtoL8aQ0
「俺から迅を奪ったお前が…迅を破壊した貴様がそれをほざくか……!」
「は……?」

そっくりそのまま憎しみを突き返され、間の抜けた一言が零れ出た。
首をへし折り兼ねない程の力が、意識せずとも弱まる。
何を言われたのか、まるで意味が分からない。

「迅……?何言って……」

確かに以前、滅亡迅雷.netとの大規模な戦闘の際に迅を一度破壊したことはあった。
だがそれは過去の話、迅は復元されただろうに。
時にはイズの救出に手を貸し、人類滅亡以外の方法でヒューマギアを救おうとしている戦友のような男だ。
復讐心に囚われた今の或人でも、二度目の破壊に走る気は一切無い。

「惚ける気か貴様……!」

至極当然の困惑も滅から見れば、火に油を注ぐ行為に等しい。
答えらしい答えを返されず、何がどうなってるのか分からなかった。

埒が明かない空気は、意外な所からの助け舟で変化を齎す。

「その疑問には私から答えよう」

聞こえたのは或人でも滅でもないが、両者共に聞き覚えのある声。
いつの間にやら、自分達の方へ一人の参加者が歩み寄って来るのが見えた。
少なくない金を掛けたろうスーツの男を、今更見間違えはしない。

「天津さん……」
「また貴様か。迅の件といい、一体何を言っている?」

或人とは別ベクトルで因縁深い男の登場に、滅もまた訝しく問う。
聖都大学附属病院での戦闘時から、天津の言動には違和感が漂っていた。
もしや戯言で翻弄する気かと疑いを抱くのも、滅からすれば無理からぬこと。
口には出さないが或人もまた、天津が何を言う気なのか視線で問い掛ける。

復讐に燃える男達からの視線を一身に集め、なれど天津に怯む様子はない。
緊張感が張り詰めるのを感じながら、静かに口を開く。
悪意に打ち勝った先の未来を唯一知る人間として、伝えない選択肢は初めから無かった。

695リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:21:03 ID:VQtoL8aQ0



『この音って……』

画面の向こうの彼女が言うまでもなく、天津も何者かの接近には気付いた。

心身共に軽くない傷を負い、仲間の犠牲を経ての逃走。
立ち止まり無力感に身を委ねたい衝動が、微塵もないとは言えない。
基本的に自信家の天津と言えど、信頼の置ける仲間を二度も失えば精神的に大きく響く。
一海も承太郎も、戻るべき居場所と帰りを待つ人々がいた筈。
もし自分がもっと上手く立ち回っていれば、力があれば彼らの死を防げたんじゃないか。
リオン・アークランドの策略を阻止できず、滅亡迅雷.netの全滅と不破諫の死という結末を招いた時と同じだ。
何故生きるべき者達が未来へ向けて歩めない、どうして大罪を犯した自分だけが死を免れる。
自死願望がある訳でなくとも、一度自責の念が浮かべば毒のように後悔が広まっていく。

残念ながらここは社長専用の私室ではなく、悪辣な殺し合いの会場。
天津が立ち直るまで、気を遣ってくれる程の優しさには期待出来ない。
こっちの事情を一切知らず、襲い掛かって来る輩も一人二人では済まないだろう。
病院から十分な距離を取り、何らかの支給品でも使われない限り耳飾りの侍と即座の再会は起こらない筈。

「全く……延々と自分を責める時間も寄越してはくれないか」

苦い表情でドライバーを装着し、慎重に近付く。
コンディションが良いとは言えず、場合によっては戦闘回避も視野に入れねばなるまい。

そう考えていたが、集まった面々を見た途端に隠れてやり過ごす選択は消滅。
モンスターを従える少女と、異様な風体の怪人物。
彼らも気になるが、それ以上に見知った二人の男を放っては置けない。
片方は異形の見た目と化しているものの、声から飛電或人と分かった。
おまけに言動から察するに、滅同様の悪い予感が当たったらしい。
放って置けば憎しみのままに争い合い、最後はどちらも命を落とす。
自分の知る過去とは異なる展開も、絶対に起こらないとは言い切れない。

ゲームを仕組んだ神ならば、これもまた一つの結末としたり顔で言うだろう。
生憎そのような三流以下の悲劇を、天津は断じて認めない。

696リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:21:49 ID:VQtoL8aQ0
「俄かには信じ難い部分もあるかもしれないが、1000%真実だと誓おう。今から話すのは正真正銘、君達二人が本来辿る筈だった未来だ」

前置きもそこそこに、己の知る全てを話す。
イズと迅の破壊、その先に一体何が起きたのかを。

「何だよ、それ……」

聞き終えた或人はわなわなと震え、乾いた声をどうにか絞り出す。
信じられないし、信じたくない。
意図した事でないとはいえ、自分が迅を手に掛けた。
滅の憎悪は勘違いでも何でもなく、恨んで当然の動機に根付いたものだったなど。

何よりも、天津の語る未来において自分は滅を赦している。
復讐の連鎖を断ち切り、もう一度ゼロワンとして高く跳んだ。
実感が全く湧かず、馬鹿げた夢物語と言っても過言ではない。
けれどデタラメと切り捨てるには、語る最中の天津はこれまで見たどんな顔よりもずっと真剣味を帯びていた。
ヒューマギアに敵愾心をぶつけた頃とは正反対の、言動一つ一つに重みがあったと認めざるを得ない。

「……」

天津が話し終え沈黙を貫く滅にも、表情からは動揺が見て取れた。
皮肉にも或人と同じ想いだ、自分が悪意を振り切る未来がまるで予想できない。
おまけに話を聞くに、滅亡迅雷.netは自分を含め悪意の監視者としてのスタートを切った。
人類滅亡の結論を覆し、ヒューマギアのみならず人類をもある意味守る立場になったのだという。
雷や亡、そして迅ならともかく自分までそうなるなど予想できる筈がない。
いやそもそも、これだけ憎悪を向け合う或人と手を取り合うのが――

「君達二人なら悪意を乗り越えられる。迅の言葉だ」
「迅が……?」
「ああ。自分自身でさえ止められない悪意に苦しめられる君達を見て、それでも彼は信じ続けた」

或人にとっては戦友であり、滅にとっては息子同然のヒューマギア。
破壊された恨みでも、自分の仇を取るよう促すでもない。
復讐に駆られ、殺し合いでも変わらなかった二人は二の句が継げない。
互いに紡ぐべき言葉を見付けられない中、天津は畳み掛けるように続ける。
彼らが引き返せない程の悪意に堕ちる前に、何としてでも連れ戻す為だ。

697リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:22:31 ID:VQtoL8aQ0
「滅、迅を破壊され君が抱いたのは本当に彼への憎しみだけなのか?」
「何が言いたい……?」

呻くような問い掛けは自覚がないからか、若しくは気付かない振りをしているのか。
どちらにせよ、天津が言葉を引っ込める気は無かった。

「迅を破壊され君は彼を恨んだ。同時に理解出来た筈だ、大切な存在を理不尽に奪われる痛みを」
「……っ」
「…私自身、偉そうに言える立場でないのは自覚している。だが今はあえて言わせてもらおう」

数多の悲劇の元凶となり、己が罪の重さを理解したからこそ伝えねばならない。

「イズを破壊した事が彼にとってどれ程の絶望か、本当は分かってるんじゃないのか?他ならぬ君自身が、許されざるアークになったと誰よりも理解してるんだろう?」
「馬鹿な……!何を言って……」
「いいや!こればかりは1000%の自信を持って言おう!君が彼に恨みを抱くのは、君にもイズや迅と同じ心が芽生えた証拠だ。
 どれだけ否定しても、他ならぬ君自身が証明している!未来を知る者としてここに断言しよう。
 君の心が生んだのは未知の感情への恐怖や、迅を奪われた憎しみだけじゃない。イズを破壊した事への罪悪感も、間違いなく存在している」

違う、そのたった二文字が喉の奥でつっかえ出て来ない。
否定したいのに考える、考えてしまう。
この地で一人の少女を殺してから、聞こえない筈の迅の声が度々聞こえたのは。
若しかすれば、己に宿る罪悪感がああいった形になったからなのではと。

「俺、は……」
「滅……」

目に見えて動揺する滅へ、或人も言葉に詰まりどうすべきか迷いが生まれた。
憎しみは消えていない、天津の言う未来を素直には受け取れない。
けれど、知ったことかと切り捨てられもしない。

自分の語った内容に各々思う所があるのは明らかと、少なくない手応えを天津は感じる。
すぐには納得出来なくとも、まずは互いに矛を収める展開へ持って行こうとし、

698リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:23:54 ID:VQtoL8aQ0
「不公平、と言う以外に語る内容が見つかりませぬなぁ」

何もかもを台無しにする、悪意を煮詰めた声が場の支配権を奪い取った。

「……私の話はまだ終わっていないのですがね。会話を遮るのがビジネスの世界でどれ程の無礼に当たるか、理解していないのでは?」
「これは失敬。拙僧としてもこのまま見物に徹しても良かったのですが、何分細かいことが気になる性分でしてな。口を挟まずにはいられなかったと、こういう次第故に」

ジロリと睨み付けるが、のらりくらりと受け流しまるで堪えた様子がない。
警戒を払いながらも、今は或人達を優先し視線を外していた。
だが今になって急に会話へ強引に参加し始め、一体何を言うつもりなのか。

仮定の話に過ぎないが。
もしこの場にカルデアのマスターや、 二天一流の女剣士。
或いはインド異聞帯の担当だったクリプター、そして機械人形の女忍。
辺獄を名乗る術師の、アルターエゴ・リンボの悪辣さを知る彼らがいれば揃って言うだろう。

それでは駄目だ、この男に喋らせる前に攻撃すべきだったと。

「貴殿が真実を、ええ、虚偽の宿らぬ真を口にしたとその前提を踏まえて言わせてもらいましょう。――――蘇生の恩恵に与れたのは迅なる絡繰人形のみ。或人殿の言ういず殿は、違うのでしょう?」
「え……」

ドクリと、心臓が強く跳ねたのが自分でも分かった。
或人の様子に気付いてか、猫のように目を細める。

「そこな滅殿は愛しき息子を取り返し、民衆の守り人たる地位を得て、気の知れた仲間達に囲まれた未来が待っている。
 しかし、しかししかしィ……非常に残念でなりませぬがァ……ンンン、或人殿がいず殿を取り戻すことは叶わず終いと、そういう訳でありますか」
「待て、それは……!」

違うと言おうとするも、実際に言葉は出て来ない。
リンボが口にした内容に偽りがないのを、他ならぬ天津自身が分かっているからだ。
破壊される以前のデータを修復出来たのは迅だけ。
技術に秀でた刃唯阿をして、イズの復元はどうやっても不可能と断言せざるを得なかった。

699リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:24:41 ID:VQtoL8aQ0
「先に己からいず殿を奪った滅殿は取り戻し、なのに自分は失ったまま。実に不公平且つ理不尽極まると、そうは思いませぬかな?或人殿?」
「え、あ……」

問い掛けられた或人は言葉らしい言葉を出せず、パクパクと口を動かすだけ。
リンボの語る内容へ耳を貸すのは危険だ。
一度毒を植え付けられ、激しく揺さぶられただけに同じ目に遭うのは避けるべき。

そう分かって尚、考えるのを止められない。
迅は戻って来る、でもイズは戻って来ない。
皮肉にも天津の話が嘘とは思えなかっただけに、残酷な事実を否定出来ない。

「何で、イズだけ……」

喪った絶望はどちらも味わった、だというのに何故片方だけしか戻って来ないのだろうか。
迅の修復を間違っていると言う気は無い。
でもイズだって、あんな風に破壊されて良い筈が無かった。
なのにイズを奪った滅は取り戻せて、自分だけがイズを奪われたまま。
それは、それは、

「妬ましくて堪らないのありましょう?ンンンンン!その衝動を拙僧は歓迎いたします!」

悪意を乗り越えるよりも前、迅を手に掛けていない、復讐に燃えていた時間軸の或人だから抱いてしまった嫉妬心。
微かに鎮静しかけた憎悪が再び顔を出し、後はリンボの望むがまま。
負の感情を煽りぶくぶくと肥やすのは、呪術に精通した陰陽師にはお手の物。
ノロによる強化の後押しを受け、渦巻く怒りが或人の自我すらも飲み込んでいく。

「俺は…オレは…!アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
「なんだと…!?」

天津や滅の驚愕を余所に、或人…アナザーゼロワンから放たれるプレッシャーが爆発的に上昇。
外見に変化は見られずとも、先程までとは段違いの脅威へ生まれ変わった。

700リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:25:51 ID:VQtoL8aQ0
本来のアナザーゼロワンウォッチには存在しない特徴が、檀黎斗主催のゲームでは仕組まれている。
内の一つ、悪意に満ち溢れた者が使えば高位の力を得たアナザーライダーに変身が可能。
他者の介入が含まれるとはいえ、急激に憎悪を肥大化させた或人はこの条件を満たしてしまった。
加えて言うなら、現在の或人はリンボの術を受けほとんど暴走状態。
滅への憎しみは変わらずとも、見境なしで破壊を撒き散らす悪意の化身。
アナザーゼロワン・リアライジングホッパーが、最悪の形で誕生を果たしたのだ。

「ンンンンン!!!それで良い、良いのですよ或人殿。自らを解き放たなければ掴める者などありはしませぬ」
「貴様は…!何ということを……!!」

手を叩き復讐鬼の再誕を祝福するリンボを、射殺さんばかりに天津は睨む。
悪意に振り回されるまま、どちらかが力尽きるまで殺し合う。
そうならないよう説得を試みて、解決の兆しが見えて来た所が台無しだ。
ほんの数秒でも時間を戻せるなら、力づくでこの男の口を塞いでやりたい。

「そう憤りなさるな。拙僧はただ、復讐を望む或人殿の願いを叶えただけです。それに、貴殿は殺戮遊戯に否定的な立場。なれば滅殿がここで討たれた方が都合が宜しいと、そうではありませぬかな?」
「いきなりわたくしに振らないでよー」

男達のやり取りを黙って見ていた灯花だが、リンボの凶行を非難する様子は見られない。
むしろ、そうするだろうなという納得さえあった。
そして灯花自身、或人が滅を殺す事への反対は一切無い。
もし何らかの技能や知識、異能の類等々。
灯花が目的を果たすのに有益な力を持つと言うのであれば、怒りを一時的に引っ込めるくらいはした。
だが利用価値を全く見出せず、しかも一応敵対の意志は見せなかったリンボと違って誰彼構わず殺す方針の男を、
天津の説得を支援してまで生かそうと思える程、酔狂になった覚えはない。

何よりも、滅は既に一度いろはを殺そうとしたのだ。
元々抱く強い尊愛の情に加え、リンボから受けた『いろはを自分だけのものにしたい』という暗示の効果。
上気二つの影響もあり、滅を進んで生かしたいとは全く思えなかった。

「時にはリスクを背負うのも大事だけどー。背負い過ぎるのはお馬鹿さんのやることだし、スクラップが妥当ってとこじゃないかにゃー」
「ンンン!何やら拙僧が、そのリスクの内に入ってると言わんばかりの視線が気になりますが!まあそういう事ですので、或人殿が本懐を遂げる様を共に見守りましょうぞ」
「生憎だが、君達の悪趣味に付き合うつもりは1%もない!」

三流以下のバッドエンドに或人達を巻き込んだ怒りを露わにし、プログライズキーを装填。
黄金の装甲にブレード状の角を持つライダー、サウザーの変身を瞬時に終える。

701リローデッド ─Are you ready to burst─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:27:09 ID:VQtoL8aQ0
或人達の元へ駆け出そうとし、聴覚装置が頭上から迫り来る脅威を察知。
飛び退き躱した直後、巨大なぬいぐるみの頭部が地面を粉砕。
BIG5とのデュエル時のクリボー同様、モンスターが勝手になどとそんな訳がない。

「余計なことしないで大人しくしててよー、千パーセントのおじさん」
「子供とはいえ、悪戯の度が過ぎる。環くんの礼儀正しさを少しは見習って欲しいものだ」

おじさん呼ばわりされ、若干の苛立ちを含めながらサウザンドジャッカーを構える。
一刻を争う事態故、いきなり手札を切らせてもらう。
大尉との戦闘で使ったライダモデルの一斉開放、これにより複数体のライダーを味方に付けた。

「キザで痛いおじさんのくせに、お姉さまを語らないでよ!」
「なに…?君は……っ」

いろはの名へ予期せぬ反応があり、驚くのも束の間。
召喚者の苛立ちへ呼応し襲い来るマッド・キマイラへ、聞き返す暇は消え失せた。

「壊シテヤル…!滅……!!!」
「くっ……」

傍らの喧騒に一切意識を割かず、或人は憎きヒューマギアへ剥き出しの憎悪をぶつける。
夢をひたむきに追い掛けた面影は砕け散り、復讐こそが全てと言わんばかりの殺意を発す。
滅とて大人しく破壊を受け入れる気は無いが、意志に反して動きは緩慢だ。
マッド・キマイラとアナザーゼロワンの一撃を、生身で受けたダメージは大きい。
正史では起こり得なかった、復讐の達成が現実と化すのも時間の問題。

しかし偶然か、或いは天が意図して引き寄せたのか。
数秒後に描かれる筈の未来が、新たな乱入者によって破り捨てられる。
大地を引き裂き現れる、赤いボディのスーパーマシン。
ネオ富実野シティの英雄の愛機を駆るは、或人が見失った善意で戦う仮面の戦士。


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