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決闘バトルロイヤル part4
537
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:47:03 ID:EeVgOa2w0
「ゲームのクリア条件は優勝か檀黎斗の撃破。でも願いを叶える報酬は優勝の場合のみ。どうしてなのかしらね」
「どうしてって……」
どうしてだろう。
いきなり殺し合いに巻き込まれ、司まで参加してるのを知り深く考える余裕なんてなかった。
でも今になって自分よりも遥かに冷静な大人から問われれば、確かに疑問に感じる。
参加者を殺さず、あくまで主催者だけを倒す。
黎斗直々に提示されたのもあり、優勝以外のゲームクリア方法も禁止ではない。
けど願いを叶えるのは優勝者が出た時だけ。
漠然と「そういうもの」と思っていたが、言われてみると妙な話だ。
「…………殺し合うのをやめる人が大勢出るかもしれない、から?」
「極端に沢山って程じゃないにしろ、そうなるのを防ぎたいのはあるでしょうね」
最初から自分以外の命に一切の価値を見出していない者や、協調性皆無の者。
若しくは殺戮に喜びを感じる者、そういった連中は抜かすにしてもだ。
譲れない願いの為に血を吐く思いで殺し合いに乗った者がいるとして、別に優勝を目指さなくても願いは叶うと聞かされればどうなるか。
本当はやりたくもない殺人で手を汚さず、巨悪を倒す方法で良いのならそっちを選ぶ可能性は低くない。
自身との直接対決も望む所と豪語する黎斗だが、ゲームの根本的なルールは参加者同士の殺し合い。
故に一番の報酬である願いを叶える権利を、優勝以外で渡す気は無いのだろう。
しかしだ、その願いを叶えるナニカを黎斗が確保してるなら。
わざわざ言いなりになって皆殺しせずとも、奪い取るのが不可能とも限らない。
カイザーインサイトの言いたい内容を理解し、尚もみかげの顔色は曇ったまま。
願いを叶える力を奪うにしろ、本当にそんな力は黎斗は持っているのか。
「力の正体は分からないけど、これだけの規模の殺し合いを始めたんだもの。こっちの想像を超える力を持っている可能性は、低くないんじゃないかしら」
「そりゃ、そう………かもだけど……」
コミックの世界とかアニメの設定とか、非現実的な事が殺し合いでは起きている。
みかげとしてもそこは受け入れざるを得ない。
死者が生き返るのが有り得ないと言い切るには、己の常識を壊す存在に遭遇し過ぎた。
完全に信じてるとまでは言えずとも、若しかしたらという思いはみかげの中にも芽吹きつつある。
538
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:47:46 ID:EeVgOa2w0
「すぐに全部を信じろとは言わないわ。ただ、後悔させないって事だけは約束させて。……生きてる内に、あなたの友達を助けられなかった贖罪も籠めて、ね?」
「陛下……」
申し訳なさそうに告げられれば、みかげとしても何も言えない。
何とかすると言ったのにと責めたら、多少は心が楽になるのだろう。
けどみかげにとって、相手は初めて自身の苦悩に共感し味方してくれた大人。
傷付けたくないし、傷付けるような言葉をぶつけ失望されたくもない。
「取り敢えず、みかげは少し休んでなさい。ここの探索は私とココアでやるから、あなたには落ち着く時間が必要よ」
「うん……」
私なら大丈夫と返すには、精神的な疲れが大きい。
気を遣ってもらってるのへ素直に感謝し頷く。
一言も発さず様子を見守る少女を引き連れ、カイザーインサイトは部屋を後にした。
だだっ広い空間に残ったのは傷心中の少女と、念の為に護衛で置いていった少年。
放送前、移動した先のエリアで見付けたのが今いる場所。
白い外壁の巨大な施設は外見のみならず、内部も豪奢な装飾に彩られてあった。
だが真新しさはなく、所々年季の入った箇所から察するにさぞ歴史ある建造物らしい。
外から見た以上に広大に感じる施設を探索中に放送が流れ、今に至る。
古いけど座り心地は悪くない長ソファーに寝そべり、じっと天井を見つめる。
もう一人の少年は何も言わず、傍らであらぬ方を向くばかり。
正直、ニノンを殺した相手との二人きりで不安が無いと言うと嘘になる。
ただこちらへ敵意を剥く様子はなく、カイザーインサイトだってあくまでみかげの安全を考え置いて行った。
不満を口に出さずにいると、話し相手もいなくなったからか。
司がどこかで死んだ事実が毒のように内側を蝕み、目尻に涙が溜まる。
539
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:48:10 ID:EeVgOa2w0
「……っ」
制服が濡れるのも構わず、腕を強引に瞳へ押し付けた。
ストレートに喪失へ泣き叫んでしまったら、司の死を心から受け入れてしまってるような気がして。
直接この目で見た訳でもない、胡散臭い男の悪趣味な放送一つで伝えられ納得なんて出来ない。
『三人組』が喧嘩とかじゃなく、死に別れる形で完全に壊れてしまう。
現実として簡単に飲み込むには余りにも苦い。
「なんでよ……」
叶わぬ恋だと自覚はあったし、叶わなくて良いと思ってた。
小学校時代と同じ結末を迎えるくらいなら、友達のままで良い。
『普通』の関係のままで、三人ずっと一緒にいられればそれだけで十分だった。
でも、こんな風に永遠に会えなくなるのは望んでない。
陛下を信じていない訳ではない。
けどもし司の蘇生が不可能となって、自分だけが元いた場所に戻ったら。
撫子になんて言えば良い。
司の弟にだってどう伝えてやるのが正解なのか。
分からない、何も分からない。
『普通』を望んで、その結果が『普通』とはかけ離れた友達との別れだなんて。
とてもじゃないが現実とは思いたくない。
どうしてこうなっちゃうんだろう。
零れた嘆きに応えてくれる者は、誰もいなかった。
540
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:48:58 ID:EeVgOa2w0
◆◆◆
「どうなるかしらね、あの娘」
階段を降り地下深くを歩く最中、ポツリと呟く。
傍らに控えさせた少女から返答はないし、求めてもいない。
先程みかげを気遣ったのとは似ても似つかない、冷めた表情でカイザーインサイトは歩を進める。
自身が仕掛けた暗示解除の兆しはなかった。
もし素のみかげならもっと取り乱したろうけど、今は術中に囚われている。
だから司の死を知り動揺こそ抱いても、会話もままならない程の錯乱や八つ当たりには出ていない。
後は適当に彼女を落ち着かせる言葉を選び、尚且つこちらを頼らざるを得ないよう働きかける。
一般的な10代の悩みとは少々違う背景があろうと、所詮は平和な世界を生きて来た子供。
手玉に取るのは実に難しくない。
完全にへし折れて使い物にならなくなる前に、希望をチラ付かせてやった。
なので利用価値ゼロと断じるにはまだ早い。
最終的に使い潰す駒なのは変わらないが、生憎ランドソルにいた頃よりも諸々の制限を受けた身。
普段なら見向きもしない小娘だろうと、ここでは貴重な道具の一つ。
無意味に手札を失うのはなるべく避けたい。
その為に使えるカードは多く集めて損はない。
現在いる施設へ立ち寄ったのも、自分の役に立つ物があるかを確かめたかったから。
C-1エリア、桜ノ館中学校から北西に向かった先。
最も目を惹く白い建造物、名をホテル・フェントホープという。
元はマギウスの翼の本拠地である巨大な廃ホテルも、ゲームにおいては精巧に再現された施設に過ぎない。
羽の魔法少女とすれ違う、なんてこともなく主不在の寂れた城同然だ。
地上の音が届かない程の深い場所を臆さずに進む。
ただの廃ホテルにしては余りに妙な作りだ。
人目から隠しておきたい、簡単に手出しが出来ない所へ隠したい。
そういった理由で地下空間が作られたと仮定するならば、多少は期待して良いのかもしれなかった。
541
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:49:41 ID:EeVgOa2w0
「へぇ……当たりを引いたって所かしら?」
進み続け見付けたモノに、思わず薄く笑みが零れる。
里見灯花や柊ねむがこの場にいたら、わざわざ再現したのかと呆れただろう。
透明な球体へ閉じ込められた、何十体もの異形。
どれもが人の大きさを遥かに超え、身動ぎせずに捕らえられていた。
一つへ近付きそっと掌を当てる。
人間の生命とは別物、なれどまだ生きてるのが分かった。
動きを封じられてるだけで死んではいないらしい。
希望を抱き願いを叶えた少女達の成れの果て。
魔法少女がいずれ行き着く絶望の末路。
マギウスの翼によって飼育され、やがて大いなる救済の贄となる存在。
魔女を閉じ込めた檻が、カイザーインサイトの目の前にあった。
エンブリオ・イヴの成長を早める餌として飼われた魔女達だ。
秘めた力も相応に高められ、イヴの栄養源に相応しく育てられている。
発見したのがマトモな感性の持ち主だったら、触らぬ神に祟りなしと放置を選んだかもしれない。
カイザーインサイトにそういった弱腰の姿勢はなし。
警戒は払うも、利用せずに立ち去るのは馬鹿のやること。
唇に人差し指を当て、暫し考え込む仕草を取る。
(解放すれば勝手にこっちの言う事を聞く、なんて都合良くはいかないわよね……)
ケージ越しに魔力を感知し、魔女の気性をある程度察知。
解き放った者に従順な忠犬とは、残念ながらいかないだろうと分かる。
とはいえそこはカイザーインサイト、御するのが不可能かと言われれば否。
多少は「じゃれつく」だろうが、相手が未知の魔物であっても恐れる必要はない。
人間程融通は利かなくとも、手駒を纏めて増やすのは悪くない。
場合によってはプリンセスナイトの力を持つココアに、数体貸し出す手もある。
(ま、キャル程の働きが出来るかは微妙だけど)
魔物の使役能力の精度で言ったら、与えた力の量の差も影響しキャルの方が上。
今頃どこをほっつき歩いてるのかと、呆れたようにため息を吐く。
よもや自分が敗北した未来の時間軸からキャルが参加してるとは、夢にも思わず。
542
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:50:37 ID:EeVgOa2w0
◆◆◆
「ん……」
小さく身動ぎし、やけに重い瞼をこじ開ける。
精神的な疲れもあったのか、何時の間にか眠ってしまったらしい。
彼氏でもない男子がすぐ傍にいるのに、無防備を晒すとは自分らしくもない。
来る者拒まずと豪語するみかげといえども、流石に相応の警戒心は持つ。
陰湿な性根の見え隠れする相手であれば猶更だ。
自我を奪われ操り人形状態だからといって、気を抜き過ぎたか。
のっそりと上体を起こし、寝惚け眼を擦る。
「おはようさん。快適な睡眠が出来たようで何よりだよ」
「……うわっ!?」
友人のような気楽な口調で話しかけられ、思考が数秒フリーズ。
起きた筈だがまだ夢の中かと思い、徐々に精細さを取り戻す五感に現実と理解。
予想外の、ここにいる筈のない者がテーブルを挟んだソファーに腰掛けリラックスしていた。
四十は超えてるだろうに引き締まった体付きに加え、やけに脚の長いモデル体型。
整った顔立ちも相俟って、みかげの母くらいの年の女性達から黄色い歓声を浴びそうな男。
但し、間違っても心を許して良い相手ではない。
気さくな態度を取ってるが、男の持つ本当の『顔』をみかげは知っていた。
「な、何でいるのよ!?陛下との合流はまだ先の筈じゃ……」
「俺だってこんなに早く再会するとは思ってなかったんだぜ?それもこれも、どっかの神様が余計な事してくれちゃったせいでなァ」
肩を竦め、大袈裟に嘆くリアクションを取る。
放送前に協力を取り付け別行動となった参加者、エボルトが何故かフェントホープ内に現れた。
理由を説明するには少し前、エーデルフェルト邸を発った時まで遡らねばなるまい。
イリヤ達との情報交換を先延ばしにし、戦兎の元へ戻るのを優先。
となったまでは良かったが、オーエド町に近付いたタイミングでふと現在時刻を確認。
これは無理だと理解するのに時間は掛からなかった。
指定された禁止エリアにはオーエド町が設置済の、D-1も含まれている。
エーデルフェルト邸のあるD-3から戻るには、どうやったって1エリア分余計に移動しなくてはならない。
トランスチームガンのワープ機能は未だ使えず、来た時と同じ大幅ショートカットは不可能。
しかもこういう時に限ってNPCは影も形も見せない。
フライングスマッシュを作って移動時間短縮という手も、肝心のスマッシュの素材がなければ無理。
結局早足で移動したものの、戦兎達が呑気に待ってるとは言い難い時刻へなってしまった。
幾ら何でも、禁止エリアが機能するギリギリまで戦兎が待つとは考え辛い。
同行者には重症を負ったモニカもおり、いざ禁止エリアを離れるタイミングで移動に遅れが生じ揃って死亡。
といった展開を避ける為に、もうとっくに戦兎達はオーエド町を去ったと考える方が自然である。
543
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:51:28 ID:EeVgOa2w0
「で、どうせ大遅刻確定ならもうちょっと寄り道して、手土産を増やしてからでも良いかと思ったんだよ。丁度馬鹿デカい施設も目に付いたしな」
「いやそれ、あんたの自業自得じゃない……」
参ったもんだぜと頭を抱える仕草を見せ、説明を終えるエボルト。
事のあらましを聞いたみかげからすれば、呆れ交じりに返す以外ない。
自分達と別れた後、真っ直ぐオーエド町に戻っていれば良かっただけの話ではないか。
D-1が禁止エリアになるのが予想外だったのは分からんでもないが、帰還を遅らせなければ避けられた事態だろうに。
「耳が痛ぇが、俺がいなけりゃ殺されてた連中がいたんだ。人助けと思って大目に見て欲しいもんだね」
目的はパンドラパネルとボトルの回収であり、イリヤ達を助けたのはほとんどついでだが。
詳細を聞かされなくとも、純粋な人命救助目的で寄り道したんじゃないとはみかげにも察しが付く。
飄々とした言動の裏に隠された、地球外生命体の本性を見ただけに余計そう思う。
「そんで中を適当に見て回ってたら眠れるお姫様と、番犬坊主を見付けたって訳だ」
「この人、あんたを見ても何もしなかったの?」
「ああ、指一本触れられてねぇさ。お前さんに手出ししない限り、特別アクションも起こさないんだろうよ」
こうなると本当にただの人形と変わらない。
軽薄な笑みをエボルトに向けられて尚も、少年は無表情で佇むだけ。
ニノンを殺した相手だけにどう思えば良いのか分からず、何よりニノンへの感情も整理が付かない内に彼女は退場。
言葉に出せぬ複雑な思いがよぎる。
というか、何で自分はこんな得体の知れない怪物と雑談をしてるのだろうか。
カイザーインサイトと手を組んだ以上、自分へ危害を加えるつもりは無い筈。
だからといって仲良くしたい男でもなく、今更になって居心地の悪さを覚える。
544
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:51:59 ID:EeVgOa2w0
「そういや、お前の尊敬する陛下殿は――」
気安い態度で問い掛けた内容を中断、エボルトの顔が一瞬で引き締まった。
突然の変化の理由はみかげには何が何やら不明。
片腕にブラッド族のエネルギーを纏わせ、振り向きながら放射。
同じタイミングで壁を破壊し、光輪が猛加速し侵入。
放って置けば室内の全員を焼き殺すだろう熱量を、むざむざ受け入れ得る自殺志願者はいない。
「訪問のノックにしちゃ乱暴過ぎじゃねぇか?いつから地球の常識は変わっちまったんだ?」
皮肉を乗せながらエネルギー波の出力を上昇。
エボルドライバーが無くとも、石動の体に憑依していた頃より能力全般が上だ。
徐々に光輪の威力は低下し、鮮血の渦に飲み込まれ消滅。
唐突過ぎる事態に目を白黒させていたみかげだが、ようやっと自分達が襲われたと気付く。
途端に全身が強張る少女へ見向きもせず、もう一人の男も動きに出た。
番犬の役目を担わされた少年のやる事は一つ、己の命を度外視してでもカイザーインサイトの駒を守る。
『ヨモツヘグリ!』
エボルトを押し退けるように前へ出て、右手の錠前を起動。
鳴り響く音声が果実の名を告げる。
同時に肉体を激痛が走り、多大な負荷を掛けた。
正気であれば苦悶の声を上げたろう現象にも、一切の反応を示さない。
標的排除、そこに少年の意志が介入するのを覇瞳皇帝は望まなかったのだから。
『ロックオン!ハイーッ!ヨモツヘグリアームズ!』
『冥・界!ヨミ・ヨミ・黄泉…!』
頭上に出現した暗雲から果実が落下し、鎧状へと展開。
ライドウェアの上に纏う装甲は、通常のアーマードライダーであれば身を守る役目を持つ。
しかし、この戦士だけは違う。
腐り切った果実の如く紅黒いカラーリング、所々の特徴は殺し合いでフグ田タラオが変身したのと同じ。
なれど性能はおろか、変身者へのリスクも決定的に異なる。
禍々しいオーラを漂わせる姿に、安堵を覚える者は存在しない。
アーマードライダー龍玄・黄泉。
戦極凌馬の手で生み出された、文字通りの禁断の果実。
利用される形で呉島光実が変身を実行し、果てに自らの手で絆を砕いた苦い過去の証。
聖剣も己を守護するスキルも奪われ、唯一少年に与えられた力。
「代わりに戦ってくれるのか?なら、俺は安心して見物出来るみたいだな」
ヘラヘラと笑うエボルトは無視、襲撃者への対処に動く。
自我無き龍玄の右手にはアームズウェポン、ブドウ龍砲が出現。
名前通りブドウ状の銃口からエネルギー弾を吐き出し、壁に開いた穴から外を狙う。
闇雲に撃ってるのではない、龍玄の視覚センサーは標的の位置を正確に捉えた。
但し敵も簡単には当てさせてくれない。
得物を翳しながら飛び退く影を追い、龍玄は追跡を開始。
赤銅色の髪の少年と、バイザーで表情を隠す鎧の少女をレンズが映す。
敵を見付けた以上は容赦や加減が入る余地なし。
相手も迎撃を選んだのだろう、それぞれの刃が龍玄を襲った。
545
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:52:42 ID:EeVgOa2w0
◆
定時放送によって揺さぶられる者がいる一方で、何ら影響を受けない者も存在する。
目的の為に手を組んだ二人、士郎と風もそう。
勇者部の面々は勿論、最愛の妹である樹も不参加。
優勝の為に助けたい者達を殺す、という矛盾は立ち塞がらない。
故に風が今になって考えを変える展開は起きなかった。
士郎も同様に、元から参加者の中に知り合いは皆無。
唯一知っている美遊は今も主催者に囚われたまま。
仮にほんの少しだけ未来の士郎なら、妹の親友も参加者だと気付けただろう。
そんな事実を知る由もなく、引き続き協力相手に真意を隠し兄としての戦いを続ける。
檀黎斗の放送は神経を逆撫でされる内容ではあったが、二人の方針を揺るがす効果は無かった。
エーデルフェルト邸を離れ幾分かの休憩を挟んだ後、次の標的を探し移動を再開。
辿り着いたのがマギウスの翼の拠点、フェントホープだった。
そこからは放送前の襲撃と同じ、風が支給品を使って内部の参加者を確認。
流石にエーデルフェルト邸を超える大きさな為時間は掛かったが、広い一室に三人の姿を見付けた。
砲撃で先手を打った、までは良いが結果は失敗。
三人の内の一人と対峙し、直接戦闘を強いられている。
「ねえ、連続でミスってるし次はやり方変えない?」
「それを話し合うのは、切り抜けてからのが良さそうだぞ。向こうは逃がす気ゼロみたいだ」
敵が手練れなのを加味しても、またもや誰も仕留められてないのは思う所がある。
唇を尖らせ愚痴る風に苦笑いを返しつつ、士郎も意識を戦闘に集中。
放送前に戦った銀狼とは違うが、全身を鎧で覆い素顔は見えない。
説得を試みる手合いでないらしく、これが答えとばかりにトリガーを引いた。
546
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:53:28 ID:EeVgOa2w0
「あっぶな…!」
剣を用いた斬り合いは経験済だが、銃で撃たれるのは初めて。
火力は東郷に劣るからといって、軽くは見れなかった。
焦る口調と裏腹に、回避行動へ出るまでに時間は掛けない。
夢幻召喚の効果は依然変わらず風を強化し、常人を遥かに超える動きを可能とする。
飛び退きエネルギー弾を避け、地面に降り立つや即座に疾走。
棒立ちになって、的と化すつもりがないのは士郎も同様だ。
英霊への置換により得た身体能力を以てすれば、銃撃の対処も不可能に非ず。
地を駆けエネルギー弾を躱しながら、得物を手に距離を詰める。
日本刀と西洋剣の間合いへ閉じ込めるまで残り僅か。
しかしむざむざ接近を許す程、容易く打ち破れる相手ではない。
『ヨモツヘグリスカッシュ!』
ドライバーを操作しロックシードからエネルギーを更に引き出す。
通常形態の龍玄と違い、チャージという手間を挟まずに高威力の弾を発射。
連射性能を大幅に上げた弾幕を張られ、近付く足にもストップが掛かる。
再び回避へ動く士郎と反対に、風が選んだのは突進。
剣を風が覆い刀身が消失、間髪入れずに大きく振り被った。
「逃げてるだけじゃ埒が明かないでしょ!」
風王鉄槌(ストライク・エア)。
剣を不可視へ変えた風の鞘を解き放つ、サーヴァントカードを使用中だからこそ使える攻撃方法。
暴風の砲丸にも等しい威力で、エネルギー弾を纏めて薙ぎ払う。
装甲からも火花を散らし怯んだ今がチャンス、脳天から叩き割らんと振り下ろす。
しかし龍玄、ここで得物を即座にチェンジ。
銃を投げ捨て両手に出現させたのは、円盤状の刃。
アームズウェポンの一種、キウイ撃輪で聖剣を防ぐ。
だったら武器共々粉砕すればいいと、篭手で覆った両手に力が籠る。
バーテックスとの戦いを通じ、剣の扱いにも慣れた。
勇者に変身時にも引けを取らない、ともすれば超えるやもしれぬ身体機能も味方し苛烈極まる猛攻を実現。
されど龍玄という壁は、呆気なく突破可能な紙切れではない。
変身者の生命力を代償に膂力を強化、キウイ撃輪を振るう速度が急激に上昇。
聖剣を寄せ付けず防ぎ切る。
547
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:54:18 ID:EeVgOa2w0
どちらかが痺れを切らすのを待たずに動くは、勇者の協力者たる少年。
シンケンマルのディスクを交換し回転、日本刀から全く異なる形状へ変える。
聖女相手にも使ったシンケンブルーの固有武器、ウォーターアローを新たに装備。
投影により出現させた弓と若干使い勝手は違うも、精度を低下させる程じゃあない。
弦を引き絞り狙いを定め、水の矢を解き放つ。
この一発で敵の装甲を破れるとは思ってない、貫く対象は別の所だ。
キウイ撃輪の刃と中央の安定板を繋ぐ接続部が破壊。
得物の片方が使い物にならなくなり、更に射抜かれた衝撃で体勢が崩れた。
「衛宮さんナイス!」
的確な援護へ感謝を返すも、視線は真正面の標的へ固定。
振り上げた剣がもう片方の円盤を叩き落とし、すかさず胸部へ突きを繰り出す。
少女の細腕ながら弾丸もかくやの勢いだ、呻き声一つ出さずに後退。
追撃へ一歩踏み込む風を近付けさせまいと、次なる武器を出現。
先端に果実をぶら下げた長槍、ダウを豪快に振り回し接近を阻む。
元々はフェムシンムののレデュエが使う得物なのを、この場の誰も知る筈はなく。
ロングレンジを活かし突き出された穂先が、的確に急所を狙う。
素の状態に比べ打たれ強さも上がったとはいえ、あえて受ける理由はない。
聖剣の強度はそのまま防御にも利用出来る、ダウを弾き一撃たりとも食らってはやらない。
ならば確実に力尽きるまで繰り返すだけ、喉元目掛け殺意を籠めた槍が迫り、
「ああ、やっぱりそう来るんだ」
予想通りの攻撃にするりと回避、懐へ潜り込み剣を叩き付けた。
キウイ撃輪を振り回した時も、今のダウの猛攻の時も。
防御を繰り返す内に風が抱いたのは違和感。
敵の力は侮れない、かといって放送前の戦闘時程の脅威を感じ取れない。
疑問への答えはすぐに見付かった。
龍玄の動きは激しくはあるも、ワンパターンなのだ。
意識を奪われ支給品の効果で操られるだけの変身者では、閃刀姫やホーリーフレイム総長のような戦闘技術は発揮不可能。
龍玄・黄泉のスペックでカバーしたものの、やはり限界は訪れる。
戦闘の不得意な相手ならともかく、勇者としての戦闘経験を積んだ風にとっては十分突ける隙。
血飛沫代わりの火花を散らす龍玄の手から得物が落ち、ダメージに堪らず怯む。
意識は無くとも命令には逆らえない、再びドライバーに手を伸ばす。
得物を細かく変えるより、高威力の技で一気に仕留めるつもりか。
548
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:55:01 ID:EeVgOa2w0
尤も、むざむざ敵が許すかは別。
腹部の機械を操作し、特殊な技を繰り出す。
既に一度見せた工程故に、生まれる僅かな隙を見逃さない。
鍔状のディスクを回転させ、士郎はシンケンマルを再度変化。
シンケンレッド専用の大剣、烈火大斬刀を両手で振り被り急接近。
士郎もまた龍玄の動きを見て察したのだ。
戦闘技術の面において、黒衣の魔戒騎士程の手強さはない。
手数と速さを捨て威力重視の武器に変え、決着を早めても問題ないと。
「悪い、こっちも容赦なんかしてやれないんだ」
無意味と分かった上で謝罪を入れ、火炎を纏った大剣を振るう。
血も涙もない外道衆を幾度も葬った刃が、黄泉の遣いを切り裂く。
咄嗟の防御すら間に合わせず、斬り飛ばされた龍玄からは悲鳴も上がらない。
意図したつもりはないが砲撃で開いた穴へ見事に吸い込まれ、屋内へ逆戻り。
所々に亀裂の走った床へ、盛大に叩き付けられた。
「な、なに…!?」
「どうやら、こいつにゃ番犬の仕事は重荷だったみてぇだな」
出て行ったと思ったら時間を掛けずダイナミックな帰還。
ビクリと震えるみかげの横で、エボルトは大袈裟にため息を吐く。
これを見て襲撃者を華麗に撃退、などと口が裂けても言えまい。
十中八九返り討ちに遭ったのだろう、ボディーガードとしては合格点を与えてやれない。
別に期待はしてなかったがとの呟きに反応してか、勢い良く龍玄が立ち上がる。
ライダーに変身中なのもあってか中々にタフらしい。
だが次の行動はエボルトの予想と大きく異なった。
「え、なんでこっち来て……!?」
もう一度襲撃者を相手取ると思いきや、龍玄はみかげの元へ突き進む。
困惑し距離を取ろうとするも、突然の動きへ頭は半ばパニック状態。
呆気なく接近を許し、次に何か言うより早くデイパックを引っ手繰られた。
「……あ!それ私の……!」
何をされたのか理解が追い付き、至極当然の抗議を口に出すも効果なし。
デイパックを奪うと背を向け、あっという間に走り去って行く。
声は届いてるだろうに、振り向く気配すらなかった。
549
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:55:47 ID:EeVgOa2w0
◆◆◆
取り出した菓子パンに無我夢中で齧りつく。
食べる、というよりは貪ると言った表現が当て嵌まるだろう。
数日は食料に有り付けなかった乞食もかくやの、鬼気迫る食べっぷりだった。
但し食事中の当人は空腹を満たすのが目的じゃあない。
もっと別の、自身を苛む苦痛を和らげる為だ。
「ハァ…ハァ……クソッ!あの蛆虫どもが……!」
デイパックに入っていたコロッケパン三つを平らげるが、そこに満足の二文字は無い。
食べれば体力を回復させるとの、説明書の記載内容に偽りはない。
全快には至らずとも、痛みが遥かにマシになった。
しかし傷の癒えた喜び以上に、胸中を占めるのは圧倒的な憎悪。
自分を散々痛め付け、あまつさえ道具のように使った連中への耐え難い怒り。
悪鬼同然に歪んだ顔は自我無き人形ではない、マサツグ様が正気を取り戻した証拠だろう。
マサツグ様が支配を解かれた原因は、つい先程の襲撃者達との戦闘にあった。
まず第一にマサツグ様は士郎達を迎え撃つ際、アーマードライダーへの変身を実行。
元は並行世界のココアに支給され、カイザーインサイト経由で装備させられたヨモツヘグリロックシード。
使用者の生命力を代償に能力を強化する危険な代物だ。
嘗ての呉島光実同様、マサツグ様の肉体もロックシードの影響で負担が圧し掛かった。
ただ此度は度重なるダメージの蓄積が、封じ込められた意識の強引な覚醒を促したのである。
加えて士郎と風の攻撃はマサツグ様のみならず、彼を操った不可視の支給品にも衝撃を与えた。
意図したつもりはなくとも、結果的に人間あやつり機の機能に障害が発生。
正気に戻ったマサツグ様はみかげの支給品を奪い逃走、フェントホープ内の別室に身を隠し今に至る。
「なにが『私の』だ。ハイエナのように他人の物を盗むゴミめ…お前のような猿以下の奴に物を与えても、無意味なだけだろうが。俺の手に渡った事を感謝しろ」
みかげのデイパックを奪ったのに罪悪感は微塵もない。
姑息にも支給品を取り上げた女の仲間だ、傷の回復を優先していなければ道具のみならず命も奪ってやった。
何よりマサツグ様にとって自分以外の参加者は、優勝を阻む屑の集まり。
仮に支給品を取られていなくても、一切躊躇せず殺したのは想像に難くない。
550
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:56:21 ID:EeVgOa2w0
ともかく回復が済んだなら次は武器だ。
一番良いのは自分の支給品の聖剣だが、忌々しい事にみかげとは別の女の手元にある。
あのような物の価値も分からず、我こそに相応しいと抜かす勘違い女に奪われたままなのは非常に腹立たしい。
直ぐにでも殺して取り返したい衝動に駆られつつ、指先がナニカに触れた。
引っ張り出すも聖剣どころか武器ですらない。
顰めっ面で一応説明書に目を通し、顔色を変え即座に使用を決めた。
「やれやれ、代用品とはいえ戻って来たか。全く、ゴミは人様の手を煩わせるのだけは天才的だな」
満足気に見つめる手元には、紺色に輝く一振りの聖剣。
腰にはバックル型の鞘と、神獣の物語を記した本。
クロスセイバーの変身に必要な装備一式が、一つも欠けずマサツグ様の元へ返って来た。
カイザーインサイトから取り返し、再び装備したのではない。
みかげの支給品にあった、タイムコピーというひみつ道具の効果だ。
名前の通り、過去の映像に映った物を立体コピーする機能を持つ。
時間をずらしながら細かく操作を続け、目当ての人物を発見。
地下へ降りる前のカイザーインサイトの持つ、聖剣一式を対象にコピー開始。
複製品と侮るなかれ、性能はオリジナルと変わらない。
念の為に変身してみれば、問題無くクロスセイバーになれた。
いずれカイザーインサイトを殺し本物を取り戻すのは確定事項だが、まずは試運転がてら奴の腰巾着を軽く仕留める。
ついでに自分を痛め付けた少年と少女、奴らも生かす気はない。
己の油断がオーエド町での敗北に繋がったと、反省の二文字がある筈もなく。
鬱屈とした本性を傲慢さで隠し、来た道を戻って行った。
551
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:57:29 ID:EeVgOa2w0
◆◆◆
支給品を勝手に持っていかれたみかげは、怒りと困惑で頭がどうにかなりそうだ。
陛下はあのような命令を下してないだろうに。
「結局俺が働くしかないってか。短い休憩時間で涙が出そうだよ」
苛立ちを声に出し掛けるも、うんざりしたエボルトの言葉で中断。
面倒そうに見つめる先に誰がいるのか、みかげだって分からない筈はない。
嫌な予感で背筋が寒くなるがお構いなしだ、状況は待ってくれない。
黒い鎧の少女と赤毛の少年。
龍玄を追って襲撃者達も屋内へ現れ、視界に映る二人を見据える。
紅黒い装甲の者が変身を解いた、にしてはダメージを受けた様子がない。
何処へ行ったという疑問は、軽い足取りで前に出た地球外生命体から答えがあった。
「お前達とはしゃいでた奴なら、こっちのお嬢ちゃんの支給品を奪って逃げて行ったよ。今頃は一人反省会でもしてるかもな?」
「……女子の持ち物取って一人だけ逃げるとか、普通にドン引きなんだけど」
「そう思うんだったらこっちは無視して、アイツを追い掛けちゃあくれないかねぇ?」
「悪いけど無理な相談だ」
冗談交じりの提案はバッサリ切り捨てられた。
別に本気で言った訳じゃない、予想通りの答えである。
真っ先に自分達へ向かって来た相手が、まさか我先に逃げ出すのは士郎達にも驚きだ。
しかも仲間の支給品まで奪うとは、少々思っていた人間性と違う。
かといって残された二人を見逃す気はない。
向こうもそれが分かってるのだろう、怯えを露わに少女が後退る。
「ちょっと…!どうすんのよ…!?」
「まぁそう慌てなさんな。俺じゃ愛しの陛下程の安心感は無いってか?泣かせてくれるよ」
この期に及んで緊張感の欠片もないエボルトへ、敵対中の士郎達も思わず呆気に取られた。
青褪めながらも他に頼れる相手のいないみかげは、苛立ちと恐怖でいっぱいいっぱい。
流石に同情を抱かないでもないが、優勝の為に蹴落とさねばならない相手。
切り替えた風が殺意を発し、
552
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:58:09 ID:EeVgOa2w0
「ま、協力者のよしみで一働きしてやるよ」
口調は軽いままで、エボルトが長ソファーを蹴り飛ばす。
幾ら成人男性とはいえ、容易く片足で動かせる重量じゃない。
驚きつつ聖剣を振るって両断、綿や部品が床へ散らばる。
拙い目晦ましだがこれで十分だ。
みかげの腕を掴んで大きく後退、傍らで悲鳴が上がるのも無視。
降り立った先で懐から得物を取り出し、反対の手でボトルを活性化。
ファウストを隠れ蓑に使っていた時からの慣れた動作で、スロット部分へ叩き込む。
「蒸血」
――MIST MATCH――
――COBRA…C・COBRA…FIRE――
有毒色のスモッグが全身を覆い、擬態中の肉体を血濡れの装甲で隠す。
各部から蒸気が噴出、背後で盛大に花火が散る。
「ほらよ」
「熱っ……え、ちょっ…!?」
ブラッドスタークに変身すると、デイパックから引き上げた道具をみかげに放った。
火花が手に当たり熱がっていた所へ渡され、慌ててキャッチ。
突然の譲渡へ意図を掴めずにいるのも気に留めず、ブラッドスタークは自身の得物を操作。
――RIFLE MODE――
『特別にくれてやるよ。こっちでカバーが追い付かない分は自力で何とかしとけ』
「はぁ!?」
気安く告げられ堪らず聞き返すも、会話を続ける気はないらしい。
薙ぎ払うようにトランスチームライフルを撃ち牽制、床一面に火花が散る。
先手を切り相手の動きを止めるやすかさず接近、ブレード部分で斬り掛かった。
553
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/15(火) 23:59:10 ID:EeVgOa2w0
武器内部のスチームヒーターで加熱された刃は、敵を溶かしながら切断する。
仮面ライダー相手にも有効な斬撃を、生身で受ければ結果は言うまでもない。
大剣を元の形状に戻し、士郎は双剣を重ね防御。
ただの刀では溶解は免れないが、対外道衆を想定した侍戦隊の装備なら別。
高熱ブレードを防ぎ、押し返さんと両腕の筋肉が盛り上がる。
士郎の望み通りにむざむざ怯んでやる理由はない、自ら得物を引き蹴りを放った。
靴底が胴体を叩くより先に、床を転がり回避。
英霊との置換により打たれ強さも常人以上であるも、余計なダメージは負わないに限る。
入れ替わりで攻撃に出たのは風だ、跳躍しブラッドスタークの頭上を確保。
落下の勢いを乗せ聖剣の威力を引き上げ、フルフェイスの頭部を砕き斬るべく迫る。
『おっかないねぇ。最近のお嬢ちゃんはお淑やかって言葉を知らないのか?』
高度な視覚センサーと変身者自身の戦闘経験が、頭上からの奇襲にも焦りを生じさせない。
軽やかにステップを踏み回避、聖剣の餌食となった床は憐れ木っ端微塵。
力を籠めた強力な攻撃程、空振りが発生時の隙は大きい。
シューズに搭載済の機能が足音を消し、一瞬で死角へ移動。
猛烈な悪寒が風を襲った時にはもう遅い、後頭部へ銃口が突き付けられた。
三点バーストの高熱硬化弾が頭蓋骨を食い破り、脳漿で部屋を汚すまで残り僅か。
名前も知らない少女の命を終わらせたとて、ブラッドスタークに一切の罪悪感はなし。
故に風の死を阻むは仮初の協力者。
生まれた隙に我が身を躍らせるのは、何もブラッドスタークのみに限った話ではない。
獣の牙の如く双剣が長銃を弾き、得物を操る本人をも仕留めんと走る。
『おっとォ、優秀な騎士様の参戦か』
軽口を叩きつつも双剣を捌き、時には間を縫って打撃を放つ。
首を狙った手刀を躱し、反対に士郎が切っ先で腹部を突く。
喉元はパイプが巻かれ胸部には分厚い装甲がある以上、脆いだろう箇所はそこだ。
ブラッドスタークが纏う鮮血色のスーツは変身者の強化のみならず、耐衝撃の盾としても機能する。
しかし既存の生物を超える生命力の外道衆を幾度も斬り、地獄へ送り返したのがシンケンマル。
士郎自身の身体能力と相俟って、直撃を受ければ相応のダメージが襲うのは確実。
トランスチームシステムを過信せず、迫る刀身を蹴り上げ退ける。
爪先で得物を叩かれ、士郎の意志とは無関係に腕が跳ね上がればがら空きの胴体が完成だ。
554
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:00:08 ID:Kv0u2Bhg0
が、そう何度もブラッドスタークの読み通りにはしてやらない。
ただ闇雲に得物を振るうだけでは聖杯戦争に勝ち残れなかった、油断を持ち込まず一挙一動へ常に気を払う。
脚部の僅かな動きを捉えた瞬間、自らシンケンマルを手放していた。
宙を回転し舞う刀には目もくれず、装填済のディスクを回転。
新たにシンケンマルを複製し懐へ潜り込み、今度こそ両の刃が赤い蛇を切り裂く。
なれど標的の動作を冷静に見極められるのは、ブラッドスタークもまた同じ。
斬られる寸前で全身を影状に変化、地面を這い士郎の背後を取る。
うなじがヒリヒリと痛む感覚へ逆らわず、振り返り様に双剣を振るって対処。
『悪くねぇ反応だな。どっかのお坊ちゃんよりも、よっぽど腕が良い』
「誰と比べてるか知らないが、俺だってあんた相手に余裕がある訳じゃないぞ」
『そう腐りなさんな。年長者からの誉め言葉には素直に喜んどくもんだぜ?』
どこまで本気か分からない称賛への反応もそこそこに、武器を動かす手は互いに止めない。
双剣の乱舞を銃剣一本で捌き、時に至近距離で高熱硬化弾を放つ。
顔面スレスレを横切る銃弾に冷汗を掻く暇すら惜しい。
全身装甲姿はついさっきの果実を被った者と同じでも、強さは明らかに目の前の男が上。
剣のみに限って言えば黒衣の剣士に及ばないが、培っただろう戦闘技術は引けを取っていなかった。
「おじさんの癖に動き良すぎでしょ……」
士郎と鎬を削るブラッドスタークに、風も呆れ交じりで呟く。
あの赤い装甲がそこまで高性能なのか、男自身が相応に場数を踏んで来たのか。
いずれにしろ面倒な手合いということは分かった、士郎との二人掛かりで片付けようとし、
「あっ」
視界の端に後退る少女を捉えた。
突如始まった戦闘へ慄き動けずにいたみかげだが、我に返って真っ先に思い付いたのは逃走。
エボルトから道具を渡されたからといって、はい分かりましたと即座に戦える訳がない。
真っ赤な装甲姿よりも更にヤバい、怪物の力を発揮すれば2対1でも問題ないだろう。
むしろ自分は足手纏い、早く陛下を呼びに行った方が良い。
己を納得させる言葉を繰り返し逃走を試みたタイミングで、運悪く見付かった。
バイザーがこちらへ向けられてると気付き、ぶわっと冷や汗が流れ出す。
弱者には興味の無い武人肌、なんて都合の良い展開は当然やって来ない。
555
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:00:43 ID:Kv0u2Bhg0
風が目指すのは優勝による願いを叶える権利の獲得。
一時的に手を組んだ士郎を含め、全参加者が殺すべき対象。
戦えるかどうかは関係無く、殺し合いのプレイヤーに選ばれた時点で例外はない。
ここでみかげを見逃す理由は欠片も存在しなかった。
「……ごめん」
それでも、何一つ感じないと言えば嘘になる。
様子を見れば元々争いとは無縁の、巻き込まれただけの一般人だと察しは付く。
勇者とバーテックスの戦いを知らず、日常を謳歌して来た者達と変わらない。
人の為になることをする、勇者部の部長にあるまじき暴挙。
自分の行いが誰にとっても許されない自覚はあり、風本人にしか聞こえない声量でその三文字が零れた。
だけど今更後戻りするつもりもなく、聖剣の柄を痛いくらいに握り締める。
せめて余計に苦しませないよう一撃で、相手にとっては何の嬉しさもない心持で突進。
斬られたと理解させずに首を落とし、今度こそ本当に手を汚す。
「――――っ!」
風と目が合った瞬間から、みかげは己の死を強く予感した。
蛇に睨まれた蛙という諺がここまで合う状況は、平凡な学生生活でまず訪れない。
『普通』を求めた末に、『普通』じゃない相手の手で『普通』からかけ離れた終わりを迎える。
納得なんて出来ない、大人しく受け入れる気が起きるなど有り得ない。
(いや……私まだ……だって……)
自分が何をやれば良いのか答えは見付からない、でも死にたいとだけは思えない。
死にたくない、声には出さずとも心からの叫びを聖剣が終わらせる。
556
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:01:23 ID:Kv0u2Bhg0
『黄雷抜刀!』
「なっ…!?」
逃れられない結末へ否と答え、雷がみかげを守る盾と化す。
聖剣によって引き起こされる死を阻むのは、同じ聖剣以外にない。
光がみかげを包み込み、現れるは甲冑を着込んだ新たな剣士。
左肩には黄金のランプを思わせる装甲。
垂らしたローブも同色で高貴さが漂う一方で、頭部からは鋭利な刃が突き出る。
稲妻を象ったエンブレムを填め、聖剣の使い手がここに降臨。
仮面ライダーエスパーダ。
予選では破滅の未来に囚われた青年が、本来振るった力の名。
「た、助かった……」
手にした雷鳴剣黄雷を見つめ、震える声が喉を引き絞り溢れる。
元々黄雷を含めたエスパーダに変身する為の装備一式は、ルナの支給品だった。
ライダーにならずとも十分な強さを持つ魔女には無用の代物として、生きてる間は使われず死蔵。
だが放送前に脱落し、残った黄雷はデイパック諸共エボルトがちゃっかり回収。
ついでに司の支給品もドレイクグリップを含め、自分の手元に確保。
エーデルフェルト邸に集まった面々が定時放送で大なり小なり動揺があった為、エボルトの抜け目ない行動に口を挟む余裕も無かったのである。
とはいえ自前の戦闘手段を有するエボルトも聖剣は必要としていない。
未知のライダーシステムへ多少の興味こそ抱くも、譲渡は問題無しとみかげへくれてやった。
(ってかこれ、陛下が使ったのと同じっぽい?)
みかげが咄嗟の変身を実行に移せたのは、事前にクロスセイバーの存在を知れたから。
スペックこそ大きく差が開くが、バックルから聖剣を引き抜く工程は同じ。
死への恐怖から無我夢中で黄雷を抜き、こうして死なずに済んだ。
「あんまり余計な抵抗しないで欲しいんだけど!」
「っ、するに決まってんでしょ…!何なのよいきなり襲って来て!頭おかしいんじゃないの!?」
安堵するにはまだ早い、一撃防いでも襲った相手が健在では根本的な解決にはならない。
理不尽な要望へ苛立ちを露わに返し、次いで起こるは聖剣同士の激突。
黒を纏いし刃が変わらず死を望み、稲妻を帯びたが死を否と叫ぶ。
557
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:02:07 ID:Kv0u2Bhg0
「ぜやああああああっ!!!」
「痛っ……!」
気合の入った構えからの豪快な振り下ろし。
得物は勇者だった時の大剣よりサイズダウンしてるが、強度も切れ味も上。
得意の戦法で敵の剣共々破壊に出る。
しかし世界は違えど聖剣は容易く砕けはしない、翳した黄雷がみかげへの被害を防ぐ。
尤も夢幻召喚を経た斬撃だ、両腕を襲う重圧に短く悲鳴が漏れた。
「この……離れなさいよ…!」
みかげの意志に聖剣が応え、刀身から稲妻が更に迸る。
鍔迫り合いの体勢を崩さず電撃を流し、全身の痺れに風の力が幾分弱まった。
戦闘の素人と言えども今がチャンスだとは分かる。
引き上げられた膂力で力任せに振り払い、敵を押し返すのに成功。
また斬り掛かられるのは御免だ、刀身から電撃を放射。
マトモに食らえば危険な黄雷の能力も、一度我が身で味わえば二度目は許さない。
夢幻召喚で風が得たのは、少女にあるまじき怪力のみに非ず。
床を踏み砕き疾走、泳ぐように電撃を避け再び接近。
横薙ぎに振るわれた聖剣をみかげが防ぎ、続けて二撃三撃と刀身が叩き付けられた。
「そらそらどうしたっ!敵わないって分かったら大人しくしてな!一撃で終わらせてあげるからさ!」
「勝手な事ばっかり言うな!くぅ…っ!ゴリラみたいな力して……!」
「はぁ〜〜〜!?こんな美人相手に何言ってくれちゃってんのかしら…!女子力の高さが剣の強さにも出ただけでしょ!」
「剣振るうのに女子力は関係ないでしょうが…!」
向こうが言えばすかさず言い返してを繰り返し、口と腕が休まる所を知らない。
相手に勝ちを譲るつもりは互いに無くとも、押されているのはみかげの方。
エスパーダの機能でどうにか動けてるだけで、元々ただの女子中学生では勇者として戦って来た風には届かない。
細腕に圧し掛かる重みへ戦慄を抱き、防御を崩さずに口を開く。
558
:
どうにもならないからよ
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:03:17 ID:Kv0u2Bhg0
「ほんっとに…なんなのよ……!あんな自分を神様とか言う痛い奴の言い成りになって、何がしたいの――」
「あんな奴に縋り付くしか、どうにもならないからよ」
己の抗議を遮って紡がれた言葉に、思わず息を呑んだ。
バイザーの奥に隠した瞳が、見えないのに悲痛な色を浮かべた気がしてならない。
冥界の王はもとより、神を名乗るゲームマスターに悪感情が湧かない訳ない。
よりにもよって、『神様』なんかに頼らざるを得ない自分に嫌気が差す。
けど他に方法があるのか。
供物と称して奪った妹の声を、何も悪いことなんてしてない勇者部の皆の体を返してくれる、奇跡が起きると言うのか。
起きないから、蜘蛛の糸に等しい可能性に縋り付いている。
結局どの世界でも変わらない、捻くれて意地の悪い『神様』の言い成りになった。
「うぁ…っ!?」
詳しい事情が語られずとも理解出来る、言葉の重みへみかげが何も言えずにいる中。
話はこれで終わりとばかりに、風の剣が一層激しさを増す。
防いだ体勢のままに吹き飛ばされ、床を転がるも敵の手加減には期待するだけ無駄。
心なしかプレッシャーまで上がった風に恐怖しつつ、バックルへ手を伸ばす。
『ランブドアランジーナ!』
ワンダーライドブックの力を引き出し、聖剣から三日月状の斬撃を放つ。
メギドを怯ませる威力も風を止めるには頼りない、苦し紛れの抵抗に過ぎない。
一振りで霧散した刃には目もくれず、優勝へ一歩近付く為に斬り殺さんと踏み込む。
「ごがあああああっ!?」
だというのに、またしても手を止めるしかなかった。
聞こえた声は風もみかげでも、同じ空間で戦闘中の男二人とも違う。
今度は何事かと視線を彷徨わせる必要もなく、声の主が壁を突き破って彼の前に転がる。
全員暫し戦いを中断し乱入者へ意識を向ける中、
「いた…!こっちの部屋まで飛ん、で…?」
「……」
続けて現れる新たな顔ぶれへの、高まった混乱故の視線を浴びせられ。
桜色の髪を靡かせた少女も、異形の貌を貼り付ける侍も、発するべき言葉を直ぐには見付けられなかった。
559
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:04:53 ID:Kv0u2Bhg0
◆
正直に言って驚いた。
病院が設置されたエリアとは正反対の西側へ転移したのも。
移動を始めた矢先、見覚えのあり過ぎる建造物を見付けたのも。
「ここってマギウスの翼の……」
聳え立つ廃ホテルは物言わずいろはを見下ろす。
本物のフェントホープではなく、精巧な再現に過ぎないとは察せられる。
しかし見知った施設が実際に目の前にあれば、一切驚くなというのは難しい。
イヴの孵化と共に崩壊し、二度と訪れる機会はない筈だった。
本物でないとはいえ、よもやこういった形で再び目にするとは。
呆然と見上げるのも束の間、直ぐに顔を引き締める。
傍らに立つ黒死牟もいろはの変化に気付き、短く問う。
「行くのか……」
「はい、やちよさん達がいるかもしれないですし。それにもし結芽ちゃん達が近くに飛ばされてたら、ここに来ててもおかしくないです」
やちよもマギウスの二人も、フェントホープを見付けたらまず間違いなく調べるだろう。
加えてこれだけ目立つ施設だ、転移した仲間や他の参加者だって無視は出来ない。
いろはと違って特別行きたい場所も無い黒死牟には、強く反対する理由もない。
好きにしろと無愛想に告げると、承諾を得られた礼が返って来た。
黒江の手引きで潜入した時と違い、備え付けの扉を開く一般的な方法で内部へ足を踏み入れる。
拠点として使っていた魔法少女達は当然おらず、人の気配の薄さが自然と肌寒さに変化。
思わず制服越しに二の腕を擦るいろはを尻目に、黒死牟はサガの鎧を解除。
日に炙られないなら窮屈な思いをしてまで、装着を続ける意味も無し。
引き剥がした腹部の絡繰を支給品袋に放ろうとし、勝手に掌を離れた。
『&&&%$&%+##』
解読不能の言語らしきものを発し飛び回る、円盤状の生命体。
サガークと呼ばれる存在が何を言ってるのか、黒死牟にもいろはにも不明。
旧ファンガイア語しか話せない都合上キバットバット三世同様の制限は免れた。
ファンガイアの言葉を理解出来る者が限られている為、必然的にコミュニケーションは困難。
新しい資格者へ伝えたい事でもあるのか、だとしても黒死牟からすれば然して興味もない。
鬱陶し気に目を細める横では、いろはがそっと手を伸ばす。
560
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:06:17 ID:Kv0u2Bhg0
「あなたが、黒死牟さんを太陽に当たらないようにしてくれたんだね。ありがとう」
『&#$%+#@@&』
「わっ、ご、ごめんね?撫でられるの嫌だった?」
純粋な感謝で撫でたつもりだったが、怒ったように全身を震わせ跳ね除けられた。
紅渡以上にファンガイアの血が濃い、登大我に仕えていたからか。
プライドは高く、愛玩動物のように扱われるのは不服だったらしい。
傍目には微笑ましいやり取りも、黒死牟の興味は一切引かない。
サガークを掴んで今度こそデイパックに放り、何も無かったように移動を再開。
慌てて追いかけて来る気配を感じつつ、病院での弟との斬り合いに思考は沈む。
姿形、声、技の冴え、己を見つめる瞳。
何もかも全てが、百年以上が経とうと色褪せぬ記憶のまま。
悪劣な幻覚でなければ、日輪を騙る愚物にも非ず。
正真正銘、本物の継国縁壱だった。
縁壱本人が自分と同じ屠り合いの場にいるのを、今更疑う余地はない。
主への忠義すら削ぎ落とされ、人間の小娘一人に雑念を募らせる有様に堕ちた身なれど。
長きに渡り己を憎悪と嫉妬で掻き毟った男を、見間違える程耄碌してはいない。
だからこそ、受け入れざるを得ないと理解しても脳が現実を拒む。
縁壱が振るう剣の先へ、人に仇為す悪鬼はおらず。
本来ならば人格者たる弟が率先し守らんとするだろう、善良な人々が鬼滅の刃の餌食と化す。
そんな馬鹿なと、有り得ぬ妄想と吐き捨てられるのならそうしたい。
しかし他ならぬ自身の六眼が捉えてしまった。
滅ぼすべき鬼へ向ける筈の殺意を、よりにもよって人間にぶつけた姿を。
己へ付いて回る理解の及ばぬ、だが善性の強さは間違いのない少女の腕を斬り刻んだ暴挙を。
561
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:07:20 ID:Kv0u2Bhg0
悪夢同然の光景に訳も分からず脳が軋む痛みを覚え、気付けば無我夢中で得物を振るった。
いろはの命を再度拾い、小生意気な娘と共に弟と斬り合い、新たな力を得て。
結果、何か大きく変わったのかと言うなら首を横に振る他ない。
縁壱は自身から離れ、今もどこかで血の河を生み出しているのだろう。
一方自分は未だ何がしたいのか、縁壱をどうしたいのかの答えを出せずにいる。
仮に、最早何の意味も無い仮定の話ではあるが。
他者の介入がない、紛れもない縁壱自身の意志で以て眼前に立ったのなら。
枯れ細った老爺ではなく、生命力に満ち溢れた全盛期の姿で。
憎らしくも認めざるを得ない、最強の剣士として刃を向けるのであれば。
四百年前から続く屈辱にやり直しの機会が訪れたと、そう考える自分がともすればいたのかもしれない。
なれど、今の縁壱は神が戯れに二度目の命を吹き込んだ玩具。
鬼狩りとは名ばかりの殺戮に身を委ね、あまつさえ本人は己の在り方に一切の疑問を持たない。
そのような弟と対面し、やれ再戦だ何だのと思える筈がない。
ギチリと口内から発する音にも気付かず、奥歯を忌々し気に噛み締める。
改めて胸を焦がす、神への猛烈な怒り。
私が、俺が憎み焦がれた男はあんな――
「縁壱さんのことを、考えてるんですか……?」
茹で上がる頭を冷やし、意識を現実に引き戻す声。
いつの間にやら表情へ考えが出ていた鬼を覗き込む、少女と視線が合う。
途端に沸き立つ怒りは沈静、打って変わって不機嫌そうに口元が歪む。
余計な事へ思考を割き過ぎたせいで、見せたいとも思わない隙を晒した。
己自身に苛立つ黒死牟をどう思ったか、僅かな間を開けていろはがもう一度口を開く。
「大事な家族だから…っ」
最後まで言い切らず、中途半端な所で途切れた。
口を噤んだ理由は、自分を見る男の視線が険しさを増したから。
562
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:08:06 ID:Kv0u2Bhg0
「お前が……奴と私との……何を知る……」
よくもまあ、そんな戯言をほざけるものだ。
血の繋がった弟ではある、同じ女がこの世に産み落とした兄弟ではある、人間だった頃は瓜二つの容姿を持った双生児であった。
だがしかし、縁壱を家族として愛したことなど只の一度もない。
何度、目障りと思ったか。
何度、死んでくれと願ったか。
何度、何故お前だけがと妬んだか。
何度、どうして私はお前のようになれないと憎んだか。
何度、届かぬ背を焼き付かせた弟へ心を引き裂かれたか。
「言うに事欠き……奴が……大事など……」
負の衝動に背を押され吐き捨てた言葉に、いろはは無言。
揺れ動く瞳が、歪めた鬼の顔を映し出す。
制服の袖を強く握り、失敗の自分を責める。
彼が安易に触れて欲しくはない、心の一番柔らかい部分。
悪意はなくとも、無遠慮に指先で突いてしまった。
「ごめんなさい…また、最初の時と同じことをして……」
頭を下げ、素直に謝罪を口にする。
言い訳はしない、だけどまだ言わねばならい、伝えねばならない事があった。
でも、と続け顔を上げ、もう一度ちゃんと彼の視線を受け止める。
563
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:09:25 ID:Kv0u2Bhg0
「ありがとうございます。黒死牟さんが縁壱さんをどう思ってるのかを、教えてくれて」
多くは語らなくても、声に籠められた感情から察するのは不可能じゃない。
黒死牟が弟へ向ける想いを、悲しく思わなかったかと言えば嘘になる。
家族であっても、自分と妹とは異なる関係も珍しくはない。
理解は出来るがあっさり割り切れもしない。けど、
「縁壱さんのことを良く思ってなくても、でもどうでもいい人なんかじゃないから…」
嫌うということは、それだけ弟の存在が大きいこと。
負の感情を抱くのは、決して弟に無感情じゃない事実に他ならない。
もし弟をどうでもいい存在としか思ってないのなら、あれ程に動揺は見せなかった。
いろはが縁壱の名を口にした時、あんな風に怒りをぶつけなかった。
本当に嫌いなだけだったら、こんなにも強く迷ってはいない。
世に溢れる真っ当な兄弟の在り方とは断じて言えない。
それでも黒死牟…継国巌勝は縁壱の兄だった。
兄に生まれ、弟を見て来た。
憎悪と嫉妬に苛まれる責め苦の如き生であったのは否定せずとも、縁壱への関心を失った時間だけは無かった。
「だから黒死牟さんが縁壱さんのことで、どうすればいいか迷ってるなら――」
今でも思い出す。
助けられなかったあの娘達を。
助ける筈の手で絶望に堕としてしまった、ヨダカの魔法少女を。
どうしてこうなってしまったんだろうと、深く後悔を抱いたのは本当だ。
今になって過去を無かったことには出来ない。
「心から『こうしたい』って答えが出せるように、支えたいって思うんです」
だけど、最初から後悔する為に行動したんじゃない。
助けたくて動いた自分の選択を、間違いとは思っていない。
後悔したくないから手を伸ばし続けるのは、魔法少女になった時から変わらない。
564
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:10:09 ID:Kv0u2Bhg0
「………………」
黒死牟は沈黙以外に何も返せない。
理解の及ばぬ奇人の言動を繰り返すのは、これが初に非ず。
出会って間もない頃から一切変わらぬ、鬼を鬼と思わず手を差し伸べる姿。
口先だけの救済を嘯き己に酔う、善と無知を履き違えた愚か者。
そう断言出来たなら、どれ程楽だったろうか。
紡ぐ言葉は微塵の偽りも宿らず、いざ現実に我が身を動かす行動力を持つ。
一日にも満たない付き合いを経て、疑いの悉く削ぎ落とされた。
環いろはという少女は、本気で自分を助けるとのたまっている。
幾度目になるか数える気にもならないが、改めて突き付けられた。
ああ本当に、この娘は何なのだと愕然とする一方で。
そう言うだろうなと納得を抱く己も片隅に存在し、それがまた黒死牟の混乱を深めるのだ。
加えて、ほとんど衝動的にだが縁壱への嫌悪を口にした。
余計なものを口走らず一睨みで黙らせれば済んだだろうに、一体何をやっているのか。
釈然としない自分への不快感と、未だこちらを見つめる桜色の少女。
両方から瞳を逸らし、広い廊下の奥を睨み付ける。
「談話で無駄に時間を貪るのが……望みではないだろう……」
「は、はい!」
愛想の欠片もない、移動を促す言葉。
共にいるのを拒絶されなかった、その一つだけでいろはには十分だ。
横並びで歩き、ふと目に付いた部屋に入る。
フェントホープへ潜入の経験があるとはいえ、隅から隅まで詳しく調べてはいない。
当然いろはにとっては初めて訪れる場所も、一つや二つではなかった。
室内をざっと見回すと、家具の類はほとんど置かれていない。
積み上がったダンボールの上に、埃の被った布が掛けられている。
羽の魔法少女達の私室ではなく物置に使っていたのだろう。
薄暗い中を進んで行き、何と無しに見やった半開きの箱に驚き近付く。
蓋を全開にすれば案の定、見覚えのある物を手に取った。
565
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:10:47 ID:Kv0u2Bhg0
「こんな場所にあるなんて……」
掌に収まったのは魔法少女なら、誰しも欲するだろう物。
グリーフシード、魔女を倒した証であり魔法少女の生命線。
命の核の穢れを取り除き、やがて訪れる末路を先延ばしにするソレが、無造作に箱詰めされてるとは予想外。
少なくとも本物のフェントホープだったら、もっと保管場所を考えただろうに。
どういった経緯で生まれるかを知ってるだけに、グリーフシードが見付かっても上機嫌とはならない。
自分達魔法少女への救済措置のつもりで、幾つかは会場にばら撒いたのだろうか。
内心複雑だがドッペルを使った時の違和感を思い出せば、グリーフシードが手元にあって損はない。
あったのは大量とは言えず、片手で数えられる分のみ。
後からやちよ達が見付ける可能性も考え、全部は持って行かず一つだけ手に取る。
ごめんなさい、持って行きますと生来の真面目さから断りを入れて。
轟音がいろは達の鼓膜へ届いたのは、正にそのタイミングだった。
「今のって……」
「……」
弾かれたように振り向くいろはより早く、黒死牟は音の発生源だろう方向を見やる。
物理的な広さ故先客がいたとしても、互いに気付かないのは不思議じゃない。
自分達と会わぬ内に相反する目的の者同士がかち合い、戦闘が始まったか。
いずれにしろこちらへ気付いての行動でないのなら、存在を気取られる前に退散も可能。
尤も、実際にその選択を取るかどうかは別である。
行くのかと声に出し問う必要も無い。
娘が何を考え、どう動くのを望んでるかは安易に察しが付く。
であれば、いらぬ会話に時間を割くのは無駄の一言に尽きる。
腰に差した二振りの得物をカチリと鳴らせば、すかさずいろはは魔法少女の衣装を纏う。
何が起きているにしろ、聞かなかった事にする気は皆無。
始まる闘争の予感に気を引き締め直し、急ぎ現場へと身を走らせ――
566
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:11:47 ID:Kv0u2Bhg0
「っ!?」
到着を待たず、頸を断ち切る煌めきが襲い掛かった。
いきなり何事かと、目を白黒させる余裕は皆無。
青く、星々の照らす夜空が剣に形を変え疾走。
目を奪われる輝きなれど、生憎いろはが抱くのは感動とは程遠い戦慄。
切断一歩手前まで追い込まれた痛みが、治った筈なのに首元で疼く。
鬼を滅ぼす灼熱の刀ではない、しかし自分の命を刈り取るのは同じ。
咄嗟の判断で左腕を翳すも、無意味の三文字以外にない儚い抵抗で終わる。
「……」
「チッ…!」
訪れるのを覚悟した痛みは来ない。
代わりに聞こえる小さな吐息と、知らない誰かが舌を打つ音。
瞳が映すは彼が纏った着物の背中。
またしても守られたと理解し、口を突いて出る礼の言葉。
ありがとうございます、そう背に告げ意識は戦闘へ切り替わる。
困惑から脱せず足手纏いになるつもりはない、自分に出来る戦いをするまで。
「ふん、相変わらず無駄に生き汚い害虫だな。あの偽善者どもから寄生先を変えたのか?」
「え?あの、何を言ってるんですか……?」
「口調まで変えるとは、お前の気持ち悪さは底なしか?今度は男に媚びるアバズレでも演じてるらしいな」
「アバズ…!?」
初対面の相手にいきなり殺されかけたのもだが、長々と罵声を浴びせられ困惑を隠せない。
襲って来た人物を見れば、紺色の鎧で全身が覆われている。
天津や承太郎達のような仮面ライダーとは分かるが、声に聞き覚えは全くない。
相手の様子から察するに、自分に何らかの悪感情を抱いてるようだ。
かといって心当たりが無いいろはには、何のことやらさっぱり。
理由を聞きたいが肝心の相手が会話に応じる気配はゼロ。
まさか自分の姿を勝手に擬態され、知らぬ内に恨みを買ったとは露知らず。
一方マサツグ様もまた、目の前にいるのは正真正銘初めて会う少女と気付けない。
みかげ達の所へ戻る最中、放送前に散々舐め腐った真似に出た小娘を偶然発見。
黒々と燃え盛る負の衝動に急かされるまま、標的を急遽変更。
全くの冤罪だと知る由もなく、いろはに襲い掛かったのだ。
567
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:12:43 ID:Kv0u2Bhg0
いろはを恨む理由も黒死牟の知った事ではなく、問い質す気も起きない。
現われた剣士は敵である、その一点さえ確かなら十分。
虚哭神去を抜刀し聖剣を防いだ体勢を、長々と維持しても戦況に変化は無し。
襲って来た、故に返り討ちにし斬り捨てるまで。
人外の肺活量にて行われる呼吸が大気に悲鳴を上げさせ、瞬く間に血液が沸騰。
己が技を繰り出すのに躊躇は不要。
――月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦
「チッ…!」
聖剣を防ぐ構えを崩さず、目の前の剣士を渦に閉じ込める。
刀を振るうという必要不可欠な動作を無視し放つ予想外の技に、クロスセイバーも反応が追い付かない。
甲冑の恩恵でダメージは抑えられるが、不快な痛みはゼロじゃない。
刃が胴を引き裂き、数歩の後退で距離を離す。
むざむざ逃がしはせぬとすかさず踏み込み、鬼は追撃に牙を剥く。
「気安く俺に近付くな!醜い生ゴミが!」
耐久性の高さもあって致命傷には至らずとも、ストレスは増加。
怒声で尻込みする黒死牟ではないが、予期せぬ方向からの飛来物を視界の端に捉えたなら別。
クロスセイバーから対象を変え刀を振るい、斬り落とした物の正体は燭台。
まるで意志を得たように、高級ホテルを過去に彩った調度品の一つが黒死牟を狙ったのだ。
不可思議な現象に首を傾げる場合ではない。
燭台を斬るのとタイミングをほぼ同じくし、いろはがクロスボウを連射。
いろは自身も一度は仮面ライダーになったから分かるが、易々と貫ける強度の装甲じゃあない。
一発二発をチマチマ撃っても無意味、よってこれまで通り連射。
煌びやかな桜色とは裏腹に、魔女やウワサを葬って来た魔法少女の射撃だ。
生半可な防御では的同然だがクロスセイバーには無問題。
青い残像を生みながら急接近、小癪な抵抗を一刀の元に終わらせる。
「くっ…!」
敵が自分の矢を突破するくらい、十分予想の範囲内。
全身の筋肉をしならせて跳躍、後方へと一気に飛び退く。
魔法少女に変身し純粋な力も、十代の少女が出せる限界を優に超える。
背後の扉を蹴破りダイナミックに入室、妙にだだっ広い部屋へ転がり込む。
568
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:14:09 ID:Kv0u2Bhg0
自暴自棄になった梓みふゆが飲酒に逃げた場所、とは勿論知らない。
視界が映す夜空色の装甲へ矢を射る。
装填やトリガーを引く手間は不要、意思一つで発射可能。
しかし寸前で背後の空気を切り裂く音を拾い、嫌な予感に再び回避。
「きゃっ…!」
直撃は凌ぐも完全に回避とはならず、背に衝撃が走る。
魔法少女の打たれ強さなら、床へ叩き付けられても死にはしない。
かといって痛みを受け入れる趣味はなく、どうにか受け身を取った。
何かが壁にぶつかり、視線をやればソファーが落下しバネが突き出るのが見える。
「立ち上がろうとするなよゴキブリめ。害虫は害虫らしく這い蹲ってろ!」
「っ!」
罵声と共に頭上から靴底が振り下ろされた。
憎たらしい少女の顔諸共踏み潰し、靴の汚れに変えるのへ罪悪感はない。
むしろ殺したいと思っていた相手の無様な最期が拝めるのであれば、やらない方が不自然。
忘れるなかれ、此度の闘争もまた魔法少女一人の足掻きに非ず。
悪しき剣士の望む光景を阻む刃が、喉元へ食らい付かんと疾走。
クロスセイバーへ仇為す存在を察知し、色褪せた絵画が回転刃の如く迫る。
まるで剣士を「守る」かの現象も、黒死牟を止めるには至らなかった。
――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
人の限界しか知らぬ者には悪夢同然の速度で放つ、魔の領域へ座する居合斬り。
両断された挙句、半月状の力場に食い荒らされた絵画には見向きもしない。
己が刃を輝く剣で防ぎ、得物を挟んで睨み合う敵以外へ何を見ろと言う。
腕に力を漲らせ、聖剣共々薙ぎ払う。
鬼の膂力へ呼吸による身体強化を加えたのだ、100kgに近い重量の装甲とて真っ直ぐに立ってはいられない。
後方に足を縺れさせたクロスセイバーへ、立て直しを許さず刀が駆ける。
刀身が胴を撫でる瞬間に、紺色の剣士への守護が発動。
不可視の力により引き剥がされた扉が飛来、人間が直撃を許せば骨の数本はへし折れるだろう勢いだ。
視線を剣士から離さず得物を背後へ振るい、扉の残骸が足元へ散らばる。
改めて標的を切り刻まんとするが狙いが逸れたのは事実、反対に振り下ろされた聖剣を最小限の動作で躱す。
569
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:15:09 ID:Kv0u2Bhg0
次の剣の到達を待たず斬り掛かり、鬼の斬撃が受け流された。
あらぬ方へと伸びる得物を引き戻すも、間髪入れずに聖剣が突きを見舞う。
刀身を弾き返し、逆に斬り込むがあっさりと回避。
躱した体勢から宙へと身を躍らせ回転、円を描いた刃が襲い来る。
防御に出た所で得物共々砕き兼ねない威力に対し、黒死牟が選ぶは迎撃。
そちらから近付いた事を後悔させるべく、得物を振り上げる。
――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月
切っ先で床を引っ掻きながら斬り上げ、三つの月を生み出す。
自ら鬼の狩場へ首を突っ込む哀れな獲物、なんて末路は訪れない。
足場のない不安定な宙にいながら繰り出す、澱みのない剣捌き。
刃を打ち消し華麗に着地、一呼吸終える間もなく剣士は鬼と刃を叩きつけ合う。
膂力、速度、技の完成度。
それら全てで柱や弐以下の上弦を寄せ付けぬ強さの鬼を相手に、クロスセイバーは難なく渡り合っていた。
時に防ぎ、時に受け流し、時に猛攻を与える。
黒死牟がどこから攻めに出ようと、一太刀も浴びず五体満足を保つ。
「おい化け物、そんな醜い顔で一丁前に侍気取りなんて人間様に申し訳ないと思わないのか?俺なら恥ずかしくて自殺してるぞ」
神々しい甲冑姿からは想像も付かない、下衆な内容が飛び出す。
鬼狩りから挑発や憤怒をぶつけられた経験は多々あれど、こうも性根の悪さを漂わすのは滅多にない。
顔を顰めつつ胸部目掛け真一文字を描く。
骨まで断たれ肉塊二つが地に転がるだろう一撃も、クロスセイバーは焦らずに対処。
「やれやれ、必死こいて振るった剣がこの程度とは。ゴミに同情を抱く気なんて無かったが、流石に憐れに思えて来るな」
口を動かしつつ攻撃の手も決して止めない。
流水の如く軽やかであり、激流の如き苛烈な威力で怒涛の攻めを繰り出す。
腕一本で行う動きとは思えない刃の群れが殺到、下手に防ごうものならたちまち肉片の山と化す。
なれど黒死牟に対処不可能と言った覚えはなし。
一つ一つを正確に捉え、無駄を完全に削ぎ落とした剣技で以て捌く。
力と技の両方を兼ね備えた鬼をどう思ったか、声色に少しばかりの苛立ちを含ませ剣士がまたもや挑発を並べる。
570
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:15:59 ID:Kv0u2Bhg0
「ふう、ゴミに時間を割かれるこっちの身にもなって欲しいもんだ。こんなショボい剣で何を為す気でいるのやら。雑魚は雑魚らしく、やる事全てが無駄と理解し――」
「無駄なんかじゃありません!」
スラスラと飛び出す罵倒は、少女の声に掻き消された。
不機嫌を露わに睨み付けると、自身へクロスボウを向ける姿が見える。
ゴミがと吐き捨て己を守る力が発動、長テーブルが少女目掛け飛びこちらへの攻撃を阻む。
とはいえ少女にとっても既に見知った現象だ、予めそうなると分かっていれば二度も同じ手は受けない。
魔力の矢を連射し長テーブルを破壊、連射を止めずに続けてクロスセイバーを狙う。
頭部から突き出たブレード部分に命中。
ストライクマークの効果で貫通力の上がった矢だ、砕けずとも振動で視界を大きく揺さぶられる。
絶叫マシンを降りた直後に似た眩暈を覚え、生まれた隙へ鬼が刃を差し込む。
「生ゴミが…!」
『闇月・宵の宮』が至近距離で放たれ、剣を翳しながらクロスセイバーは後退。
安定しない視界でありながら、咄嗟の対処は見事の言葉以外に見当たらない。
本人に称賛を投げ掛けた所で喜びはなく、不愉快になるだけだろう。
頭を振って射殺さんばかりの視線を叩き付けるが、敵は共に動じた様子なし。
無駄な足掻きを続ける鬼も、自身を悉く不快にさせる少女もだ。
「黒死牟さんが戦って来たことは、絶対に無駄なんかじゃない。否定なんてさせません」
殺意を籠めた瞳に貫かれて尚、いろはは怯まず毅然と反論をぶつける。
殺し合いに参加する前の彼を知らずとも、殺し合いでの彼を近くで見て来たから言えるのだ。
彼が剣を振るったから、失われなかった命がある。
彼が戦ったから助かった者がいて、繋がった命がある。
他ならぬいろは自身が黒死牟に助けられたから、彼を否定する嘲りには黙っていられない。
571
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:17:15 ID:Kv0u2Bhg0
「……本当に気色悪いなお前。こんな蛆虫、いや最早蛆虫にすら失礼か。お前のようなカスをさっさと片付けなかった自分が恨めしくなってきたぞ」
心底の侮蔑を籠めて、いろはを徹底的にこき下ろす。
そもそもマサツグ様にとっていろはは偽善者のヒーロー(笑)連中と一緒にいた、煽り気質の小娘という認識。
放送前とは口調も変えて、化け物の男に媚びを売っている。
全くの人違いとは未だ気付かず、ころころ都合の良い女を演じては自分に楯突く様が非常に気に入らない。
十聖刃は手元に戻った、「守る」スキルも時間経過で罠カードの効果が切れ問題無く機能。
だけど心を蝕む感情は未だに燻り続け、奥底の恨みを激しく燃え上がらせる。
何より苛立つのは、敵が『二人』で自分と戦っていること。
群れなければ何も出来ない、力が無い故の雑魚らしい無様さ。
そう己へ何度言い聞かせても、内心は酷くささくれ立つばかり。
あのような醜悪な容姿の化け物さえ、形はどうあれ共に戦う存在がいる。
口では仲間や友情を見下す一方で、自分では手に入らなかったソレを羨む。
そんなナオミ・マサツグの負の側面を肥大化させた存在にとっては、見ているだけで許し難い光景。
劣等感の刺激で感情が揺れ動き、ニノン達を相手取った時同様に「聖剣の担い手」スキルが効果を発した。
黒死牟とも渡り合ったスキルの恩恵は、感情が高まれば高まる程にマサツグ様へ力を齎す。
自分に余計な痛みを与え、化け物と屑の分際で協力し、痛々しいお仲間ごっこを見せ付ける。
今しがたのいろはの言葉で不快感を煽られたのも影響を受け、マサツグ様の剣技は更に上昇。
放って置けばいずれ黒死牟を完全に凌駕するだろう
全身に力が漲る感覚を覚え、やはり自分にこそ天は微笑むのだと口の端を吊り上げた。
「お前らのような低能に、言葉で懇切丁寧に教えてやっても時間が勿体ない。力が無ければ何も出来ない現実を、体に叩き込んで――」
「貴様は……」
歌うように口から飛び出る挑発はまたもや中断されて、多少マシになった機嫌が急下降。
人の話を最後まで聞けないのかと軽蔑を視線に乗せ、
「一体何を……そこまで妬む……?」
閉ざした心の奥深くを、容赦なく抉られた。
572
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:18:38 ID:Kv0u2Bhg0
○
歪な少年だと、一目見た時から思った。
口を開けば罵詈雑言しか飛び出さず、褒めらられた人間性でないだけではない。
真っ先に疑問を感じたのは、少年の持つ強さの理由。
月の呼吸を以てしても斬り刻めないのは、今に始まったものでなく。
頑強極まる外殻のデェムシュの例がある以上、耐久性が異様に優れた存在は最早珍しくない。
不可視の斬撃波を飛ばし、軌道へ複数の力場を発生。
数や位置、出現のタイミングが常に変化する悪辣な刃の檻。
鬼狩りを屠った己が血鬼術も、異界の屠り合いにおいては殺傷力を大きく削がれる憂き目に多々あっている。
此度の剣士もそういった装備を手に入れたと分かる以上、一々愕然とする必要は皆無。
分からないのは相手の急激な技の精度の上昇について。
鎧に隠れた生身の更に奥を、透き通る世界は確かに見た。
痣者に非ず、自身と同じ世界を視てもおらず、何より剣士のソレとは程遠い肉体。
男女問わず剣を振るう為に鍛えた者は、筋肉の付き方にも特有のクセが生まれる。
だが紺色の鎧を纏った少年の体に、剣士として鍛えた痕跡はまるで存在しない。
幼い結芽でさえ刀を得物とする以上、肉体に証拠が刻まれたというのに。
既に歴代の柱の何人かを超えた剣術を持ちながら、強さに説明が付かない矛盾。
あえて喩えるならば、後付けで絶技だけを手に入れたと言うべきか。
もう一つ、強さとは別に不可解なのが少年の言葉や態度の端々に見え隠れする感情。
並べ立てられた挑発の数々は、生前なら青筋の一つや二つは浮かべたと思えるくらいには痛い所を突く内容。
こちらの事情を知らぬ者であるというのに、腹立たしい所を的確に掻き回してくれる。
醜悪さを突き付ける末路を自らの手で引き寄せ、挑発で心を軋ませるのはデェムシュとの戦闘で味わった。
加えて現在は劣等感以上に、傀儡と化した弟への形容し難いナニカの方が強い。
それらが重なり不快だとは思えど激昂には至らず、故に少年が挑発の裏に何を隠してるかに気付けた。
ソレは黒死牟にも酷く覚えのある感情であり、なればこそ余計に分からない。
何を考えてソレを自分や、いろはに抱くのかが。
解答には届かず余りに不可解な為か、気付けばポツリと問いが零れ出たのだった。
仮に少年が縁壱と遭遇し強運によってどうにか逃げ延びた後、自分達に会ったと言うのであれば。
嫉妬の向かう先が神々の寵愛を受けた、縁壱の才と言うのだったら十分理解出来る。
縁壱への嫉妬に身を焦がし八つ当たり気味に襲ったとしても、傍迷惑だがまだ納得の範囲内。
しかし小年はどういう訳か、自分といろはに妬みを抱いている。
分からない、分かる筈もない。
黒死牟の内心がどうであれ、共に戦う存在を得ているからなど。
そんなものが嫉妬の理由だなんて思いつく訳がなく、直接ぶつけた問いはどんな剣よりも深く少年を刺し貫く。
煽りや挑発の意図は皆無、ただ本当に意味が分からないから思わず声に出た。
たったそれだけに過ぎずとも、少年の嫉妬心を更に掻き乱すには十分な効果を持ち、
573
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:19:20 ID:Kv0u2Bhg0
「―――――――――あ゛?」
膨れ上がった怒気が肌を引っ掻き、相手の琴線に触れたと理解せざるを得なかった。
「空気を読む能力もないゴミクズが…!余計なことをほざいてないで、とっとと死んでいろ…!!」
人間ですらない化け物の分際で、自分の内心へズケズケと入り込んだ。
隠した部分を強引に引っ張り出し、挙句本人はすっとぼけたように意味不明と表情で伝える。
これで怒りを覚えるなとは流石に無理な話。
最初から殺す気だったがもう容赦はしない、誰を怒らせたかを徹底的に後悔させて消し去ってやる。
『刃王必殺リード!既読六聖剣!』
『刃王剣必殺読破!星烈斬!』
鍔部分のエンブレムを押しながら、刀身部分をスライド。
十本の聖剣の力を一つに束ね生まれたのが十聖刃だ。
元となった他の聖剣の力も自在に引き出し、全知全能の書を巡る戦いで活用されて来た。
但し今回は世界を守る意志など介入の余地がない、私的な怒りで能力を行使。
烈火、流水、黄雷、激土、翠風、錫音。
固く結ばれた剣士達の絆を踏み躙る、六本の力を付与した斬撃の嵐を見舞う。
炎竜の餌食と化すか、激流に骨まで洗い流されるか、神罰の如き雷に焼かれるか。
岩石の群れに叩き潰されるか、暴風の刃で細切れか、音撃に肉片すら残さず消し飛ぶか。
――月の呼吸 陸ノ型 常世弧月・無間
どれも御免被る。
斬撃の嵐を巻き起こすなら、こちらも相応の技で掻き消すだけのこと。
虚哭神去の一振りが奏でるは、無数の半月による乱れ撃ち。
さながら地獄へ引き摺り込む亡者の大群の如く、死への誘うべく手を伸ばす。
間合い外への離脱は決して認めぬ斬撃同士が喰らい合い、余波が空間へ破壊を生む。
『烈火!既読!』
阻止された時にはもう、クロスセイバーは再びエンブレムをスライド操作。
火炎剣烈火を複数本生み出し回転。
渦を巻く炎が敵の視界を一時的に塞ぎ、すかさず十聖刃をバックルに納刀。
勝負を諦めたのではない、最大威力の技の発動に必要不可欠な工程だ。
トリガーを引き抜刀、必殺と呼ぶに相応しい力を纏わせる。
574
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:20:12 ID:Kv0u2Bhg0
『刃王!必殺読破!』
『聖刃抜刀!刃王一冊斬り!』
エンブレムの刻まれた刀身が真紅に輝き、部屋中を眩く照らす。
星雲に覆われた聖剣は創造ではない、純粋な破壊を齎す凶器。
悪しき物語を書き換える善の使い手はここにおらず、どこまでも身勝手な殺意によって幕を引く。
「喜べ生ゴミども。お前ら如きの為にもう一度この技を使ってやるんだ、精々感謝してあの偽善者と同じ地獄へ落ちろ!」
憎たらしい忍者の少女のように、満足気な最期など誰が与えてやるものか。
聖剣の輝きとは裏腹の、ドス黒く淀んだ殺意を剥き出し構える。
化け物の脆弱な剣やカスの脆い矢で、止められると思ったら大間違いだ。
「……」
六眼を焼き、異形の貌を照らす星雲を黒死牟は言葉無く見据える。
異界の剣士が放たんとする一撃の脅威が如何程か、分からぬ訳がない。
未だ振るわれずとも、骨の髄まで軋ませる威圧感。
一度放たれれば小手先の剣など綿毛の壁に等しい、二度目の滅びを迎えるのは確実。
それでも、警戒こそあっても戦慄は抱かない。
アレは危険、そこへ異論を挟む余地はなく。
なれど自身を掻き乱す、幾年の時が過ぎようと忘れられない熱は皆無。
己が脳を焼いた日輪の熱さを、眼前の剣士からは全く感じ取れなかった。
ああそうだ。
無様と言う言葉ですら足りない終焉で、一度は現世を去っても。
神を騙る人間の傀儡と化した弟に、正体の掴めない動揺を抱いても。
未だ己がここにいる意味を、見出せなくても。
憎み、妬み、狂おしいまでの羨望があったあの太陽は色褪せることなく、我が身の奥底へ根付いているのだ。
魔剣を引き抜き、黄金の蝙蝠で刀身を研ぐ。
妖刀を構え直し、鮮血色に染め上げる。
鬼とは異なる魔導に属する力が、意思一つで活性化。
寿命の前借りで限界を超えさせた痣とは違う、奇怪な模様が頬に発現。
自分が現世に舞い戻った意味は、何一つ分からない。
この地で何を為すべきかなど、こっちが知りたい。
主への忠義を果たす気力すら、未だ微塵も湧かず。
弟をどうしたいかの答えも、結局出せないまま。
575
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:21:28 ID:Kv0u2Bhg0
だけど
――『兄上』
――『心から『こうしたい』って答えが出せるように、支えたいって思うんです』
もう一度縁壱の前に立つ事が叶わず、力尽きるのは。
縁壱に劣る者に自身の命をくれてやるのは。
方針など到底呼べない、下らない意地に過ぎなくとも。
紛れもない本心で、無性に気に食わなかった。
いずれまた、自分は今度こそ地獄へ落ちるのだろう。
屠り合いの果ての結末が避けられないのだとしても、
「貴様の手にかかるなど……笑止……」
錆びた刃が輝きを取り戻すように。
飛ぶことを諦めた鳥が、再び空を目指すように。
凍てつき朽ち果てるだけの魂へ火が灯る。
戦場の空気が塗り替えられていく。
粘ついた嫉妬心と憎悪が燃えて溶け落ち、濁った星雲が解れて崩れる。
「……っ」
鬼の放つ闘気を直に中てられ、クロスセイバーの喉が引き攣った音を立てた。
数百年の時を闘争の渦中に置いた剣鬼が、明確な意思で以て応える戦意。
気弱な者は忽ち心臓の鼓動を止め、戦い慣れた者であっても冷や汗を抑えられないプレッシャー。
もしここにいるのが直見真嗣や、神山飛羽真だったら。
絆や物語という、守るべきものを背負った彼らなら。
戦慄し恐怖に蝕まれようと、退くことだけはしなかっただろう。
しかし己を動かす原動力があくまで妬みと恨みであり、守るべきは自分以外に持てない彼は違う。
戦友の生き様に恥じぬ戦いを見せた、忌々しいヒーロー。
雷鳴の剣士と、青鬼と、天才物理学者と、どれだけ憎んでも憎み足りない忍者。
連中から痛みと共に植え付けられた、忘れ得ぬ死の予感がまたもや顔を出す。
絶対守護の力を得てからは無縁だった感覚が、クロスセイバーを怯ませた。
576
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:22:38 ID:Kv0u2Bhg0
たった数歩の後退が針の穴より小さく、されど確実な隙を生み勝敗を決定付けた。
意識全てを紺色の剣士に割き、内より膨大な熱が湧き出る。
尋常ならざる肺活量の呼吸が空気に絶叫を上げさせ、人外の身体機能を極限まで上昇。
生命の核を起点に、活性化した魔皇力が全身へ行き渡った。
火炎に似た痣とステンドグラスを思わせる模様、二つを浮かび上がらせた鬼が打ち倒すべき存在を捉え逃さない。
「――――――ッ!!!」
そして疾走。
研がれた二振りの牙が、獲物を食らうべく迫る。
纏わり付く剣士の妬みを引き裂き、鬱屈とした魂をも叩き潰さんと駆け出す。
「だから何だゴミめ!雑魚がイキってカッコ付けた所で、寒いだけなんだよ…!」
僅かでも怯んだ事実を誤魔化すように、仮面の下で相手をこき下ろす。
武器を一つ増やしたからどうだというのか。
馬鹿正直に突っ込んで来たのが大間違いと、思い知らせてやらねば。
自身の害となる虫けらを近付けさせない為に、「守る」スキルが発動。
複製された三本の烈火が浮遊し、鬼を狙い射出。
僅かなりとも妨害出来ればこっちのもの、己が振るった剣の餌食となるのは確実。
だがクロスセイバーの予想に反し、黒死牟は足を止めずに突き進む。
回避はおろか、得物で烈火を弾き落とす素振りさえ確認できない。
そんな必要がないと、分かっているからだ。
「ストラーダ・フトゥーロ!」
鬼の後方より放たれる、束ねられた無数の矢。
桜色の輝きが黒死牟を照らすのも一瞬、烈火を狙い撃ち爆散。
魔力を高めた魔法少女の大技(マギア)が、勝利を阻む壁を薙ぎ払う。
鬼狩りや病院で会った人間達のように、絆だの信頼だのと抜かす気はない。
なれど曲がりなりにも、この数時間で共に闘争へ身を委ねた身。
いろはが奮戦する様を傍らで見て来たのは、否定出来ない。
暑苦しい仲間意識などに非ず、ただ一つの事実として受け入れただけ。
今更になって、肝心な場面で下手を踏む真似はしないだろう。
敵の小賢しい妨害に、打つ手を見出せぬ非力な娘ではないと。
577
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:23:44 ID:Kv0u2Bhg0
「なんで……お前も…お前らも……!」
黒死牟の内心が実際の所どうあれ、その光景は受け入れ難く許せない。
群れる以外に能の無い虫けらと嘲笑っても、心を誤魔化せない。
どこまで行っても孤独を拭えない自分にはないものを、間近で見せ付けられた。
力なら手に入れた。
虐げて来た連中を逆に虐げ、見下せるだけの力を。
常に自分を肯定し続け、逆らうものを徹底的に否定する者達を。
だけど本当に欲しかったモノは零れ落ち、自分よりずっと弱い連中ばかりが当たり前のように手に入れる。
どうして、どうして、
「どうしてお前らだけが――」
自分が今どんな顔を浮かべてるのかも気付けない。
「どうして」の四文字だけが壊れたラジオのように繰り返され、こんなに近くにあるのに自分では手に入れられないモノへ手を伸ばす。
恨みか焦燥か自分でも分からず、聖剣を振るうが最早遅い。
一度揺らぎの生じた精神など最早、黒死牟を相手取った剣術の上昇に自ら枷を付けたも同然。
嘗て己を切り裂いた暴風よりも苛烈で。
嘗て己を打ち砕いた鉄球よりも重く。
黒竜の衣を纏った麒麟児の爪よりも鋭い。
下らないと執拗に吐き捨てながら、その実妬み羨む以外に残されていない執着諸共。
鮮血の如く紅き鬼の牙が、噛み砕いた。
「がぁっ…っ……!?」
胴に刀身が触れたと認識し、即座に襲い来る衝撃。
回転し安定しない視界なぞ意識を割く余裕もない。
叩き付けられた床に亀裂が生まれるのを、果たして気付いたかも怪しい。
突き立てた牙が猛烈な痛みを発生させ、クロスセイバーから冷静さを削り落とす。
変身は解除されておらず、紺色の鎧にも破損は見られない。
本来の変身者でなく制限の対象下なれど、仮面ライダーセイバーの最終形態は非常に高性能だ。
魔皇力やザンバットソードを重ねた黒死牟の剣技であっても、容易く壊せる装甲じゃあない。
578
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:24:41 ID:Kv0u2Bhg0
逆に言うと、クロスセイバーに変身して尚もこれ程のダメージに襲われた。
ハオウソードローブと呼ばれる選ばれし者の甲冑でさえ、完全には殺し切れない。
被害を最小限に抑えつつも、捨て置けない痛みが蝕む。
研ぎ澄まされた双剣の斬撃のみではない、斬られた以外の激痛が甲冑の下で荒れ狂う。
弟の邂逅を切っ掛けに得た力、魔皇力が原因だと知るのは黒死牟ただ一人。
発想の元となったのは、病院での真紅の騎士との再戦。
いろはとのコネクトで発動した、桜吹雪を思わせる斬撃の嵐。
頑強なデェムシュの外骨格を砕くには至らずとも、肉体の内側からの破壊で膝を付かせた。
外から斬れぬなら、脆いままの中を斬る。
単純極まるも効果的な戦法を可能にしたのが魔皇力。
黒死牟は知らぬ事だが、仮面ライダーキバこと紅渡も同じ方法で敵を葬って来た。
蹴りを叩き込み、足底から流し込んだ魔皇力でファンガイアの肉体に多大なダメージを与えたのである。
(改良の余地は……まだあるか……)
クロスセイバーへ剣を届かせても、当の本人は完成に程遠いと冷静に評価を下す。
紺色の甲冑が破壊困難な強度であるのを加味し、しかし粉砕する気で振るっただけに満足など出来よう筈もなく。
そもそも二刀で技を繰り出すこと自体が初なのに加え、形状が全く異なる得物同士では剣筋にも差異が生じる。
今のまま振るい続けたとて、未完成ではそう遠くない内に限界がやって来る。
呑気に鍛錬を重ねる時間がない以上、実戦の中で改善していく以外にない。
と、我が事ながら思考の変化に気付き暫し硬直。
数刻前まで伽藍洞の人形同然だった筈が、戦闘へ幾分かの気概を取り戻している。
生前から焦がれ狂わせた弟の再会に、火を付けるものがあったのか。
或いは、理解が及ばぬながらも自分へ付いて回った――
「無能で醜い……気持ちの悪いカスがァァ……!!」
余計なものを考える前に、怨嗟の籠った苦悶の声が意識を引き戻す。
痛みは大きいがクロスセイバーの耐久力と、ミームの集合体という特異な出自故の生命力。
何よりどうやったって消えない昏い想いを原動力に変え、紺色の剣士は戦闘続行を選ぶ。
激痛を噛み殺し、聖剣の柄を砕けんばかりに掴む。
「黒死牟さん!」
剣士の反撃による敗北を跳ね除けるべく、魔法少女が手を伸ばした。
何を意図した行動か、真紅の騎士との戦闘を思い返せば察するのは容易い。
尤も、今回は少しばかり予想と違ったが。
579
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:26:04 ID:Kv0u2Bhg0
「わたしにお願いします!」
「……」
迷いの入り込む余地が無い瞳で告げて来る。
人に仇為す鬼へ、己に力を貸してくれとほざく。
言っている意味を本気で理解してるのかと、呆れとも苛立ちとも区別の付かないナニかを感じ、
「…………」
だが、こいつはそういう娘だと。
納得か諦めかすら分からないモノも同じように浮かび、最早ため息すら億劫となるも。
この局面でしくじる程に、脆弱でないとも分かるから。
主に許可を得て血を与えるのとは異なる、勝利の為に力の一端を与える慣れぬ感覚へ眉間に皺を寄せ。
いろはの掌に、自分のを重ねた。
斬り刻み、蝕む為ではない。
害する意図を宿らせぬ力が流れ込み、いろは自身の魔力と共に編み上げる。
『刃王必殺読破!』
『刃王一冊撃!セイバー!』
一方のクロスセイバーも必要な工程を終え、技を繰り出す。
バックルへ十聖刃を納め、トリガーを二回引く。
星雲を纏った斬撃ではない、エネルギーを付与する対象は右脚の装甲部分。
仮面ライダーの代名詞とも言える蹴り技で、怒りを直接体に叩き込む。
足蹴にし殺されると言う屈辱的な最期を味合わせねば、到底気は晴れそうもない。
「踏み潰されて死ねゴキブリども!」
跳躍し足を突き出すクロスセイバーへ、いろはも照準を合わせる。
コネクトの影響を受け固有武器は巨大化。
クロスボウから固定台座突きのバリスタに変わり、魔力で生成した矢を装填。
発射の直前に四方八方から、調度品が獲物を見付けた鷹の勢いで襲来。
「守る」スキルの妨害は如何なる場面でも起き、名前通りスキル保持者を危機から遠ざける。
580
:
ルーツ・オブ・ザ・ファングcresc.鋼の牙を起て
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:26:49 ID:Kv0u2Bhg0
が、脅威を退けるのは「守る」スキルだけの特権に非ず。
飛来する調度品の群れは餌に食らい付く害鳥ではない、自ら狩り場へ突っ込んだ獲物に過ぎない。
攻めに動くのが魔法少女の仕事なら、守りに動くのは鬼の役目。
人間の娘の支援という釈然としない立ち回りだが、敵を調子付かせたいかと言えばそれも否。
虚哭神去とザンバットソード、怪物の手で生み出された双剣が斬撃の結界を生成。
襲って来た悉くを細切れにし、矢の発射に支障を生じさせない。
手を貸してくれた鬼へ内心で感謝しつつ、直接言葉で伝えるのは終わった後。
煌めく青を発し剣士が蹴りを放つのと、タイミングを同じくして桜色の魔矢を発射。
メギドと魔女、本来は人間へ仇為す異形を葬る為の光が激突。
拮抗するも時間を置かずに砕けたのは、いろはの放った矢。
何とも呆気ない終わりへ、クロスセイバーは勝利を確信し嘲笑う。
「結局雑魚は雑魚なんっ!?」
勝ち誇った笑みが凍り付き、仮面越しの視界を桜色が覆い隠す。
蹴りで砕いたんじゃあない、矢が勝手に砕け散ったのだ。
コネクトの失敗による結果でない事は、クロスセイバーを包むモノを見れば明らか。
砕けた矢の破片一つ一つが極小の半月であり、紺色の甲冑に纏わり付き離れない。
もしもマサツグ様が万全の状態だったら、突破も不可能ではなかったろう。
しかしオーエド町での傷も完治しないまま、黒死牟に新たな傷を刻まれた状態では。
クロスセイバーの力を行使しようと、敗北を遠ざけるには足りない。
「――――っ!!!??!!」
魔力で構成された三日月が斬り刻んだ末、一斉に弾ける。
スモールサイズと言えども大量数が纏めて爆発すれば、クロスセイバーを襲う衝撃は軽くない。
悲鳴すら出せずに吹き飛び、幾枚もの壁を突き破って尚も止まらなかった。
581
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:28:44 ID:Kv0u2Bhg0
◆
何だか良く分からないが面倒な事になって来た。
士郎、風、みかげ三人共通の認識である。
予期せぬ乱入者達が原因で戦闘は一時中断、仕切り直しを余儀なくなれた。
誰が来ようと獲物が増えただけ、構わず殺す。
脳筋気味に勇むのは簡単でも、警戒を強めねばならない存在が二人程いる。
「ひっ……」
怯えを声に出し後退るみかげを、やれ軟弱だとは言えまい。
偶然にも視線が合ったのは二人組の片割れ、六眼を浮かべた人ならざる男。
超常的な存在と縁のない日常を送って来た少女からすれば、おぞましき容貌の侍は恐怖の対象だ。
相手はみかげの様子に気付いても、欠片の興味も向けないが。
「……もしかして、また日本人だけ殺したがるタイプ?なら私はイギリス人ですって言ってみようかしら」
「あの女みたいなのが他にもいるのは、流石に勘弁して欲しいんだけどな……」
「私だって嫌よ、一人いるだけでもうんざりだし」
軽口を叩く士郎と風も声色は硬い。
漂う血の臭いと纏う死の気配が、異様なまでに男は濃密。
バーテックスと違い等身大にも関わらず、対峙した際に抱く戦慄は圧倒的に上だった。
未だ剣を振るわれずとも分かる、これは相当骨の折れる相手だと。
『まさか、こんなタイミングで会えるとはなァ。また一つ戦兎達への手土産が出来て喜ぶべきかね?』
士郎達が侍へ警戒を抱く一方で、エボルトの意識は桜色の髪の少女に向かう。
直接会うのは今が初めてだが、名前も顔も放送前から知っている。
今頃血眼になって探し回ってるだろう、苦手な声の女はどう思うやら。
気さくに話しかけても良いがまずは邪魔な連中の対処が先決。
戦闘中の士郎達はもとより、憤怒のオーラを撒き散らす紺色の剣士も同様だ。
床に背を付け、痛い目に遭ったとは誰の目にも明らか。
こんな状態でも油断ならない存在感を発しており、侍同様の強敵に士郎達は身を強張らせる。
582
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:29:38 ID:Kv0u2Bhg0
「な、なんであんたが陛下の剣を持ってるのよ!?陛下はどこに……」
「寝言を吐き散らすなアホ女…!やはり品性の無いコソ泥の仲間だな、恥という言葉すら知らないらしい。大体お前みたいな頭空っぽの能無しに説明してやった所で、理解出来る筈がないだろう」
「んなっ……!?」
見覚えのある姿と聞き覚えのある呻き声に、みかげも仮面越しに目を見開き問い質す。
すると予め台本を渡されたようにスラスラと罵詈雑言を捲し立てられ、怒りで顔に朱が宿る。
だがみかげ以上に怒りを覚えているのが紺色の剣士、クロスセイバーに変身中のマサツグ様だ。
雑魚と見下す二人組、いろはと黒死牟に反撃を受け無様に転がる羽目となった。
おまけに吹き飛ばされた先では、自分を苛立たせた連中が勢揃い。
中でも特に許し難い真紅の装甲へ歯を剥き、あらん限りの恨みをぶつける。
「ふざけた小細工で騙すとは、やる事がセコいんだよ害虫。そこのピンク頭共々、雑魚の分際で誰に歯向かったかを理解させなきゃならないようだな」
いろはとは別にブラッドスタークがいて、しかも仕草や態度はオーエド町で自分をコケにした時と同じ。
こうなればマサツグ様と言えど、流石に察しは付く。
大方いろはの姿だけを模倣し、自身の正体発覚を防いだといったところか。
何とも浅い三流以下の猿知恵だと内心でこき下ろす。
『おいおい、初対面で随分な口の利き方するじゃねぇか。どこかで恨みでも買っちまったか?生憎覚えが無くてなァ』
「害虫の中でも特に不快だなお前は…!」
『怒るなって。本当に俺はお前さんと会うのは初めてなんだぜ?』
小馬鹿にするようにわざとらしく惚け、マサツグ様の額に青筋が浮かんでもお構いなし。
のらりくらりと怒気を躱し、しょうがねぇなとボヤきトランスチームガンを操作。
攻撃の為ではない、纏った装甲が真紅の光を発し消失。
変身解除しマサツグ様のみならず全員に姿を晒すが、みかが達の知る長身の男はそこにいない。
583
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:30:26 ID:Kv0u2Bhg0
ブラッドスタークの腰まであるかも微妙な、子供特有の低身長。
肉付きの薄い肢体を覆う黒のドレスは、真っ白い肌と相俟って幼いながらに妖艶さを醸し出す。
艶のある黒髪を揺らし、可愛らしさと美しさの両方を兼ね備えた容姿が笑みを浮かべた。
人を人とも思わない、滑稽な玩具のピエロを見つめる嫌な笑みを。
「な?直接会うのは初めてだろ?お前の記憶力がイカレてなけりゃ、俺の冤罪も晴れると思うがね」
散々翻弄した少年にいけしゃあしゃあと言ってのけ、美遊・エーデルフェルトの姿でエボルトはけらけらと笑った。
写真で見ただけのいろはへ擬態可能だったように、映像で見た人質の少女の擬態も容易い。
この姿を選んだ深い理由はなく、何と無しに思い出しただけ。
戦兎や万丈達ならともかく、フェントホープに集まった参加者がブラッド族の擬態能力を見るのはこれが初。
思いもよらない姿に目を見開く者、驚きはあれど変身能力自体は知っている為あっさりと受け入れる者。
そして、
「うん?」
自身に集まる視線の中で、意外な感情を察知しそちらを見やる。
ついさきまでは警戒くらいだった筈が、この姿になった途端に膨れ上がる新たな気配。
その理由を考えようとするも、別の機会へ回す他ないらしい。
これまで蚊帳の外だった役者二名の参戦を、ブラッド族の鋭敏な感覚がしかと捉えた。
「揃いも揃って随分はしゃいでるわね。ここはいつから動物園になったのかしら」
大声でない、だというのにその冷笑はいやにハッキリと鼓膜へ届いた。
次から次へ現れる参加者へ意識を払うより早く、風は自身へ迫る気配を察知。
飛び退き、一手遅れて立っていた場所に巨大な爪が突き立てられる。
獰猛な魔物を従えた少女が、みかげを庇うように一歩前へ出た。
「あ、ありがと……」
「礼は不要です。私は陛下の命令通りに動いただけなので」
「……あっそ」
愛想の欠片もないココアに眉を顰めるも、心には安堵が広まりつつある。
参加者の中で唯一、自分が信頼を置ける大人。
ホテル内の探索に出ていた『彼女』が戻って来たのだから。
584
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:31:10 ID:Kv0u2Bhg0
「ちょっと目を離した間にどんちゃん騒ぎだなんて、マナーの三文字が頭から抜け落ちてるの?」
「再会早々酷ぇ言い草だな。先に仕掛けて来たのはこいつらで、俺はむしろ巻き込まれた被害者なんだがねぇ」
おどけた仕草で答えたエボルトを、彼の協力者のカイザーインサイトは冷めた目で見つめる。
地下の探索を一旦打ち切り、みかげの待つ部屋に戻って来た。
ところがみかげ以外に複数人見ない顔がおり、しかも一人は2回目の放送後に合流を決めた地球外生命体。
何故か人質として紹介を受けた少女の見た目になっているも、手にした銃は真紅の装甲服姿の時と同じ装備。
加えて一度は刃と殺意をぶつけ合った関係だ、独自の気配とでも言うべき部分でエボルトだと気付けた。
既に相手が人間じゃないのを知った為、他者の外見を偽るくらいでは驚かない。
何故、放送を待たずエボルトが顔を見せたのか気になるが後回し。
番犬の役目一つ果たせない、糸を断ち切った元操り人形の対処が先。
どういう訳か自分が奪った筈の聖剣を持ち、夜空色の甲冑を纏ってるではないか。
「ふん、ノコノコ顔を出して来たかコソ泥め。親玉を気取ろうとゴミはゴミなんだよ。人の物を盗むなと幼稚園で教わらなかったのか?おっと、お前みたいなのを受け入れる施設なんてある訳なかったか」
「頭の悪い男程、無駄に話を長引かせるのよねぇ」
聖剣を奪った憎い相手をここぞとばかりに罵り煽るも、返って来たのは欠伸交じりの退屈さを隠そうともしない態度。
相も変らぬ舐め腐ったカイザーインサイトへ、マサツグ様の不快感が一気に上昇。
ストレスの元を痛め付け消し去るべく、十聖刃のエンブレムをスライド操作。
三本の聖剣の力を引き出す工程を終えるのを見届けず、カイザーインサイトもバックルから十聖刃を引き抜く。
オリジナルと複製品の違いはあれど、スペックに差はないクロスセイバー二人が睨み合う。
「嘆かわしいな、お前のようなコソ泥に使われては剣も泣いてるだろ。ふう、力の差を直々に叩き込んでやらねばならんとは」
変身してももう遅い、聖剣の力はとっくに発動された。
火炎剣烈火のエネルギー体がマサツグ様の意志に応じ振るわれ、炎を纏った斬撃を放つ。
自分から奪った十聖刃で調子に乗るゴミが、焼かれて悶える様を想像し口の端を吊り上げる。
しかし陰惨な光景は現実にならず、火炎の刃はカイザーインサイトの一閃で霧散。
585
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:31:45 ID:Kv0u2Bhg0
「なっ!?」
驚くのはここからだ、儚く消える筈だった火の粉が再び集まり竜を形作った。
牙を剥き威圧する対象はマサツグ様、飲み込み骨まで溶かそうと大口を開け突進。
自分が放った烈火の斬撃以上に脅威を感じ、「守る」スキルが発動。
突如暴風が吹き、炎の竜を掻き消す。
なればと続けて流水を出現、炎とは打って変わって激流がカイザーインサイトを襲う。
だが届かない、水滴一つカイザーインサイトは浴びない。
激流が凍結し騎士を思わせる氷像三体に変化、槍を構えマサツグ様に突き刺す。
予想だにしない光景が二度続き、訳が分からぬままに十聖刃を振り回し迎撃。
砕け散った氷の破片が散らばるも、三本目の聖剣が発す音に掻き消された。
天上高くから雷が降り注ぎ、神罰と見紛う地獄を創り出す。
「学習能力がないの?」
オーエド町での戦闘で、戦士達を慄かせた光景も覇瞳皇帝には茶番以下。
頭上からの輝きは複数の頭部を持つ大蛇に生まれ変わり、標的をカイザーインサイトから変更。
意味が分からないという内心を隠さず、頭上を見上げるマサツグ様に食らい付く。
「守る」スキルの恩恵を受け不可視の結界が出現、雷の牙は掠りもしない。
と僅かに気を抜いた瞬間、大蛇は己が身を矢に変え射出。
「ぐうううう…!?」
脅威の度合いを下げ油断した為か、「守る」スキルは発動せず。
ただでさえ軽くないダメージの残る体を、猛烈な痺れが走った。
生身であったら、元の容姿が判別不可能な黒焦げ死体へ早変わりだ。
「何だこれは…どんなインチキを使った…!?腐り切った性根の虫けらが……っ!」
「はぁ?急に何を言って……ああ、そういうこと」
同じクロスセイバーであるのに、カイザーインサイトが使ったのはマサツグ様にとって未知の能力。
自分から奪った後で勝手に細工でも加えたのか。
卑劣な手を疑い憤る少年へ、相手は訝し気に見やるもすぐに納得。
呆れと侮蔑、ついでにほんの少しの憐憫を視線に宿す。
同じ仮面を被ってはいても片や激怒が吹き荒れ、片や至って冷静と正反対だった。
586
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:32:23 ID:Kv0u2Bhg0
前提の話として、マサツグ様と十聖刃の相性は良いとは言えない。
「聖剣の担い手」スキルによる剣術の上昇と、クロスセイバーの高機能は確かに脅威だ。
されどクロスセイバーの本質とも言える、創造力の強さを活かした力はロクに使えていない。
反対にカイザーインサイト…千里真那がどうかと言うなら、今しがたマサツグ様を痛め付けた光景が答え。
VRゲーム「レジェンド・オブ・アストルム」を開発した天才達、七冠(セブンクラウンズ)の一人。
神山飛羽真とは相容れぬ在り方なれど、物語を紡ぐ創造力では引けを取らない。
世界規模の能力こそ厳重な制限を受けたが、参加者同士の戦闘における小規模な改変や再創造なら問題無しと主催者も設定。
相手の放った攻撃を、自らの望む形に変える。
創造力の高さがそういった戦法を可能にするなら、飛羽真以外にカイザーインサイトが使えたとて不思議は無かった。
「だから言ったじゃないの。豚に真珠だって」
「お、前ぇぇ……!!」
わざとらしいくらいに大きくため息を吐かれ、マサツグ様の怒りに更なる油を注ぐ。
自身の精神性が原因でクロスセイバーの本領発揮が不可能とは気付けず、敵が卑怯な手を使ったと決めつけ激昂。
叩き込む勢いで十聖刃を納刀、トリガーを操作し引き抜く。
マサツグ様の動きに何をするのか分かり、カイザーインサイトも同様に剣を納め抜刀。
『刃王!必殺読破!』
『聖刃抜刀!刃王一冊斬り!』
真紅に染め上げた刀身へ星雲を纏わせ斬る大技。
上弦の壱相手には不発に終わり、忌々しい傷を受ける羽目になったが今回は違う。
メーターを振り切れて尚も止まらない憎悪の上昇が、剣術の冴えを一層の脅威へ変える。
度重なる屈辱をここで断ち切るべく、獣の如き絶叫を上げ刃を放つ。
許し難い虫けらを完全に消し去る斬撃波が、常人はおろか名のある剣士ですら視認不可能な速さで振るわれ、
「は?」
十聖刃に纏わせた星雲が、引き千切った綿あめのように飛び散る。
必殺の剣が急激に威力を削がれ、マサツグ様は間の抜けた声を一つ漏らす。
星雲は眩い星空から一転、妖しく輝く紅い空となり十聖刃を覆う。
但し、マサツグ様のではなくカイザーインサイトが持つ本物の、だ。
模造品の十聖刃のエネルギーを、自分が操る力として再創造。
星雲と紅雲を纏め上げ、本来の斬撃技を凌駕する威力を叩き出す。
「わざわざ私を有利にしてくれてありがとう、お馬鹿さん」
自分が最後まで踊らされたと、理解出来たのかどうか。
カイザーインサイトは興味を抱かず、己へ逆らった愚者へ裁きを下す。
フェントホープの一室は、この世の終わりに等しい絶望的な輝きに包まれた。
587
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:33:13 ID:Kv0u2Bhg0
◆
「あれ…?」
何が起こったかを理解するのに、少しの時間を要した。
いろはの記憶が正しければ、フェントホープ内で紺色の剣士同士の戦闘が勃発。
二人の内の一人、獣の耳を生やした女性が剣を振るった直後の記憶が曖昧だ。
コネクトでも滅多に見ない、膨大な魔力を秘めた技の予兆へ肌が粟立ち。
このまま放たれては非常にマズいと思った瞬間、衝撃と轟音に襲われ軽く意識が飛び。
気が付けば何故か、地上を離れ空にいたのである。
「わたしどうして…。っ!黒死牟さんは……!」
「一々狼狽えるな……」
「ひゃうっ!?」
間近で聞こえた低い声に驚き顔を動かし、見知った顔があった。
と言っても六眼ではなく、青いレンズに王冠状の頭部パーツ。
更に視線を移すとステンドグラスに似た胸部や、白い装甲が映り込む。
ファンガイアの王を守る鎧、といった事情には興味を持たず使用目的は日除けの道具。
サガの鎧を纏った黒死牟がそこにおり、無事が分かりホッと胸を撫で下ろす。
幾分落ち着き今どうなってるかを目で確認し、間を置かずに二度目の驚愕。
鳥でもないのにどうして空を移動出来るか、長大な胴をうねらせ自分達を運ぶ存在がその答え。
コブラに似た外見を持ちながらも、自然界に生息する蛇では有り得ない巨体。
六枚の翼を揺らし飛行を繰り返す様は、アステカ神話の神ケツアルカトルを彷彿とさせる。
この大蛇、名をククルカンと言い仮面ライダーサガの眷属として召喚可能なモンスターだ。
キャッスルドラゴン程の大きさは無いが、参加者数人を運ぶくらいは造作もない。
カイザーインサイトの光剣が齎した破壊により、日を遮る壁や天井も消し飛んだ。
余波だけで焼失し兼ねない中、いろはを引っ掴んで退避に急いだ時。
デイパックを飛び出しサガークが自ら装着、即座に意図を読み取り黒死牟は鎧を装着。
日の光を遮断し、すかさず現れたククルカンに飛び乗りフェントホープを離脱。
資格者の脱落を防ぐようインプットされたのか、或いは紛れもない自分の意志か。
サガークがククルカンを呼び出した理由が何であれ、鬼も魔法少女も生きて今に至る。
本来ククルカンが仕えるのはサガーク同様、登大我以外にいない。
だがゲームにおいてはサガの変身者に従うよう細工を受け、ファンガイアと無関係の者にも反抗的な様子は見られなかった。
588
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:34:09 ID:Kv0u2Bhg0
「おーいお二人さん、そろそろ俺を無視するのは終わりにしてくれねぇか?」
「えっ?あ、あなたは……」
振り落とされないよう、黒死牟に掴まれたままなのへいろはが気付いた直後。
後方から聞こえた声にギョッと振り向くと、予想してなかった者が手をヒラヒラ振るのが見えた。
だらしなく胡坐をかきククルカンの背に腰を下ろす、黒いドレスに黒髪という黒尽くしの少女。
今現在も檀黎斗に囚われている筈であり、会場で呑気に参加者と話すのは有り得ない。
それもその筈、ここにいるのは美遊本人に非ず。
聖杯の少女の姿を真似た星狩り、エボルトも黒死牟達の脱出に相乗りしていた。
「仲が良いのは結構だが、俺を除け者にするなんざ寂しいじゃねぇかよ。心は硝子みたいに繊細なんだ、もうちっと優しく頼むぜ?」
「えっと……ごめんなさい…?」
「……」
何を言ってるんだろうかと思いつつ、つい素直に謝ってしまうのはお人好しな性格故か。
少々ズレた反応のいろはを尻目に、黒死牟は無言を貫く。
鎧越しの背中が「鬱陶しい」と告げ、エボルトの無駄口を完全に拒否。
図々しく乗り込んだ挙句馴れ馴れしいこの者を、突き落としてやろうかと思わないでもない。
いろはに反対され余計面倒になるのは目に見えてるが。
神経を逆撫でる以外に効果の無い軽口を無視し、淡々と同乗者達へ告げる。
「降りるぞ……的になり兼ねん……」
ククルカンは移動速度にも優れており、地上から狙い撃たれても回避は難しくない。
とはいえ火球や氷柱を大量に連射するデェムシュの例を考えると、絶対大丈夫とも言い難い。
万が一身動きの取れない宙で鎧を剥ぎ取られては、黒死牟はほぼ確実に詰みだ。
仮に日が沈んだ時間帯であれば十全の対処が可能だったが、現在時刻は昼にも到達していない。
サガでどこまでの戦闘が可能か未だ把握できてないのもあって、頃合いを見て飛行の中断を決めた。
いろは達からも反対は飛ばず、ククルカンへ指示を出す。
降りろと簡潔な三文字にも逆らう意思はなく、言われた通り行き先を変更。
大正時代ではお目に掛かれない、だが現代ではありふれた学び舎の前で大蛇のタクシーは終了。
地へ足を着けるのを見届け、何処かへ去って行った。
589
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:34:48 ID:Kv0u2Bhg0
結局フェントホープでやちよ達とは会えなかった。
複数人の参加者はいたけど、大半が言葉を交わす事無く離れ離れ。
自分達はこうして助かったが、あの場に集まった他の者達はどうなったのだろうか。
「あそこにいた人達は……」
「少なくとも、陛下殿に従ってる二人は無事だろうよ。あれでも、お嬢ちゃん達には当たらないようしてたしなァ」
顔色を曇らせ呟くいろはと対照的に、エボルトはあっけらかんと答える。
加減の「か」の字も知らないカイザーインサイトだったが、流石にまだ利用価値のある駒を巻き込む真似はしなかった。
その割に一応協力者の自分へは気遣いが見当たらず、高火力の斬撃に巻き込まれた可能性もあったが。
エボルトの力の一端を知り、あれくらいなら凌げると確信を持っていた故かもしれない。
(ま、実際その通りだから良いけどな)
ブラッド族としての本来の姿やパンドラパネルを使えば、ノーダメージで生き延びるのも容易い。
ただ今回はいろは達を見付けたから、ククルカンを使った脱出へ便乗。
やちよの探し人の情報を得たとあっては、戦兎も大遅刻への怒りを多少は引っ込めるだろう。
(にしてもあの赤毛の坊主、人質のお姫様を前から知ってるのか?)
白く細い、折れてしまいそうな自身の腕を見つめ思い出す。
美遊に擬態した時、部屋に集まった連中の中で士郎だけは他と違う感情を自分に向けた。
驚きは分かるとして、明確な怒りまでもを視線に宿し矢のように射抜いたのだ。
マサツグ様の昏い恨みとは違う純粋且つ苛烈な怒りは、エボルトにも覚えがないとは言わない。
旧世界で戦争を引き起こし、三都を翻弄し、人間どもの命を駄菓子のように噛み砕いてやった時。
地球の仮面ライダー達がぶつけて来たのと似ているが、士郎の怒りはもっと限定される。
大層大事に想う個人に手を出された時の憤怒に近い。
一度気付けば答えに辿り着くのは難しくない。
恐らく美遊と士郎は前々からの関係者、それも相当に親しい。
そのような相手の姿をおふざけで擬態されては、怒りを覚えて当然だ。
590
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:35:16 ID:Kv0u2Bhg0
(あの坊主をゲームに乗らせる為の人質、って言われてもな……)
自分で考えて何だが、どうもしっくり来ない。
士郎を実際に相手取った感触としては、弱いと言う気は無い。
だが人質をチラ付かせてまで、殺し合いのやる気を引き出す価値のある強さかと言うと首を捻るのが正直なところ。
手の内全てを見せてはいないだろうとはいえ、わざわざ美遊を捕えてまで優勝を促す程なのだろうか。
(それか人質扱いはあくまでおまけで、お姫様には別の役割があるってか?)
美遊の明確な立ち位置は、プレイヤーを焚き付ける囚われの姫。
と言うにはやはり疑問を抱かざるを得ない。
人質などいなくても、戦兎達なら必ずや黎斗を倒そうとする。
優勝狙いの参加者を増やしたいなら、最初から乗り気な奴を大勢集めれば良い。
人質というフィルターを外し、主催者が美遊を何故確保したのか考えてみる。
自分達の元へ捕えているのは何故か、殺し合いの運営に必要不可欠だから。
ではどういった理由で必要にしてるのか、殺し合いに無くてはならないものとはなにか。
会場、支給品、首輪、強過ぎる力の制限。
確かに必要だが違う、もっと大きな役割があるだろう。
仮説だが、美遊・エーデルフェルトとはつまり――
「ま、それは追々考えるとしてだ」
思考の沼に沈んだ意識を引き上げ、あっさりと切り替える。
美遊については一旦置いて、まずは目先の問題から話を進めよう。
急に黙りこくって髪を弄り始めた自分を、訝しく見やる二人組。
魔法少女と鬼を相手に、楽しいお喋りといこうじゃないか。
「呑気に男とデートなんざ、思ったよりも余裕そうだなァ?環いろは。やちよに知られた時の言い訳を、今から一緒に考えてみるか?」
591
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:36:05 ID:Kv0u2Bhg0
【D-2 桜ノ館中学校前/一日目/午前】
【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、魔力消費(大)、悲しみと怒り
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
0:何でやちよさんのことを…!?
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達と病院で会った皆を探す。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。
【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?、サガに変身中
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、闇(2時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜1
【思考・状況】
基本方針:分からない。……が、少なくとも縁壱以外の者に殺される気は失せた。
0:小娘の皮を被った者(エボルト)へ対応。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様もおられるようだが……。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。ククルカンの召喚も可能なようです。
【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)、美遊に擬態中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能4時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品一式×3、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果4時間使用不可能)、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ルナの首輪、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
0:取り敢えず、こいつらとのお喋りと洒落込みますかね。
1:戦兎達の元へ戻る。遅刻確定ならもうちょい寄り道して手土産を増やすか。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
5:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
6:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
7:やちよの声はどうにも苦手。まぁ次に会えたら仲良くしてやるさ。
8:猿渡死んじまったか。戦兎の奴どうなるかな。
9:美遊、ねぇ。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。
592
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:36:54 ID:Kv0u2Bhg0
◆◆◆
(優勝賞品、願いを叶える生きた装置ってことかしらね……)
破壊の痕跡が真新しいフェントホープにて、カイザーインサイトは星狩りと同じ答えに辿り着いた。
ラスボスに囚われた少女を救う演出目的で手元に置くのも、理由に入ってはあるのだろう。
しかし人質という前提を取り外した場合、美遊が黎斗の元にいるのは違った形に見えて来る。
(でも今のままじゃ単なる仮説でしかないのよねぇ)
優勝者の願いを叶えるナニカの正体は黎斗自身の異能や特殊な道具ではなく、少女の形をした願望器。
とはいえ確証を得られたのではない。
あくまで仮説に過ぎず、まるっきり違う可能性も有り得る。
念の為に美遊を前々から知る参加者と、接触を図るのも思考の片隅に留めておくか。
わざわざ名前と姿を大々的に知らせたのだ、関係者に向けた情報発信と考えた方が自然である。
「……」
今後の方針に頭を働かせるカイザーインサイトの後ろで、口を噤み佇む少女が二人。
余計な会話を行わないココアはともかく、みかげもまた声に出さず悩み続ける。
襲撃やら何やらが重なり自分も危機に陥ったが、無事生き延びられた。
それ自体は良い、ただこの先どうするべきかまるで分からない。
本当に司を生き返らせるなんて可能なのか、完全には信じられていない。
かといって司が死んだ事実を受け入れ自分だけ生きて帰るのも、簡単には頷けない。
仮に司の蘇生に成功したって、向こうは一体どう思うんだろうか。
生き返って喜ぶ?みかげに苦労を強いて悲しむ?檀黎斗の持つ力なんかを使った事に怒る?
頭の中でころころ司が表情を変えて、そのどれもが虚しい妄想の産物として消え失せ、
593
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:37:22 ID:Kv0u2Bhg0
(…………ちょっと待って)
ふと、ある可能性に思い至った。
願いを叶える力が本当だという、大前提を踏まえての話だが。
死んだ人間の蘇生すら夢物語じゃないと言うのであれば、他にもみかげの望み通りになるんじゃあないか。
例えば、最悪の展開を迎えた雨の日の出来事。
自分達三人の間に決定的な亀裂が生まれた、公園での大喧嘩。
殺し合いに巻き込まれても薄れない傷となったあの瞬間を、無かった事にだって出来るのでは。
(それ、は……)
1年の時に付き合った男子が、まだ自分を好きなんて事実は消える。
結果、他校の生徒から公園で相談を持ち掛けられることも無くなる。
お泊り会での司の寝相や寝言に愚痴を言いながら、ドーナツ屋へ寄り道して他愛のないお喋りで笑い合う。
起こり得なかった普段通りの、自分と司と撫子の日常が本当になるかもしれない。
叶って欲しいか否かと問われたら当然前者。
三人仲良く『普通』のまま、楽しい時間が続いてくれる。
みかげの望みが叶わぬ妄想なんかじゃない、現実のものとなるのだ。
なのにどうしてか、他ならぬ自分自身が完全に納得し切れない。
本当に良いのかと問い掛けてしまう。
襲って来た少女のように、願いを叶える覚悟を決めた言葉は到底言えそうもなかった。
【C-1 ホテルフェントホープ/一日目/午前】
【カイザーインサイト@プリンセスコネクトRe:Dive!】
[状態]:疲労(小)
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品一式×2、シュークリームケーキ(少量消費)@ななしのアステリズム、キノコカンセット(キノコカン、スーパー、ウルトラ)@スーパーペーパーマリオ、ランダム支給品×0〜3
[思考]
基本:あの神を名乗る男は気に入らない、出し抜く手段を考える
1:壊れたこの子(保登心愛)は使い物にならなくなるまで利用する。
2:みかげも駒として利用。どこまで使い物になるかしらね。
3:なるべく使える駒を集める。
4:あの子(キャル)も連れ戻すべきか。
5:この忌々しい首輪もなんとかしたい。エボルトの同行者には期待し過ぎず、こっちでも解除方法を調べる。
6:エボルトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。
7:美遊・エーデルフェルトを知る参加者を探してみるか否か。
8:フェントホープの地下にあったモノの使い道も考えておく。
[備考]
※参戦時期は第一部第13章第三話以降
※覇瞳天星に関する制限は後続の書き手にお任せします
594
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:37:58 ID:Kv0u2Bhg0
【保登心愛@きららファンタジア】
[状態]:操り人形、忠誠(カイザーインサイト)、プリンセスナイト(カイザーインサイト)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1、ラーの翼神竜@遊戯王デュエルモンスターズ
[思考]
基本:陛下に従う
1:―――
[備考]
※参戦時期は第二部五章第20節から
※カイザーインサイトによりプリンセスナイトとなりました。魔物の操作能力も使用可能です。
【琴岡みかげ@ななしのアステリズム】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大・暗示の効果である程度緩和)、焦燥、暗示の効果継続中、ニノンの死へ動揺
[装備]:聖剣ソードライバー&雷鳴剣黄雷&ランブドアランジーナワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:
[思考]
基本:早く帰りたかったけど、でも……
1:司を生き返らせる……?。
2:陛下を手伝う。陛下に付いて行けば大丈夫、だよね…?
3:ニノン、本当に死んじゃったんだ……
[備考]
※参戦時期は第五巻、鷲尾と喧嘩別れした後
595
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:39:26 ID:Kv0u2Bhg0
◆◆◆
「衛宮さん無事……?」
「ああ…生きた心地がしなかったけどな……」
心底疲れ切った顔で力無く返すも、文句を口に出せるなら無事の範囲内だろう。
苦笑いする士郎をジト目で見やりつつ、かく言う風自身も中々にスリルを味わった。
カイザーインサイトが十聖刃を振り下ろす寸前、士郎達も巻き添えを食らう前に撤退を選択。
死に物狂いで突っ走っても到底間に合わないのは確実な状況で、風がやったのは風王結界の応用。
聖剣を不可視に変え真名発覚を防ぐ以外にも、この宝具の使い道は多い。
可能な限り大量の風を自身に纏わせ、士郎の腕を掴みながら一気に解放。
ジェット噴射もかくやの急加速で、自身を天高くへ打ち上げフェントホープから遠く離れた。
「文句言わないでよ、次はもっと上手く運んであげるから」
「二回目は無い方が良いと思うんだが…」
撤退に成功したは良いものの、永遠に空中へ留まれはしない。
遠く吹き飛ばされた先のエリアで、重力に従い落下。
パラシュートも何も無い状態の人間が、地面に赤い花を咲かせるには十分過ぎる高さだ。
尤も助かる望み無しと諦める二人じゃあない。
激突までの猶予で士郎が共通ディスクを回転、シンケンマルを桃色の鉄扇にチェンジ。
シンケンピンク専用武器を振るい風を巻き起こし、落下の勢いを弱め着地。
スプラッターな死体にはならず、こうして軽口を叩き合っていた。
(上手くいかないわね……)
生き延びた安堵もそこそこに、これまでの戦績へ不満気な顔を浮かべる。
放送を聞くに脱落者は順調に出ていて、優勝を目指す自分にとって悪い状況ではない。
かといってエーデルフェルト邸の時から、風自身は誰一人殺せていない。
好き好んで他者を殺したいと言うつもりは無くとも、こんな様で願いを叶える権利へ手が届くのかとつい考えてしまう。
モヤモヤとしたものを抱え、デイパックへ手を突っ込む。
左手で掴んだ金属の輪は、参加者全員の命を縛る枷。
フェントホープを見付ける少し前、地面へ転がる少女だったモノに装着された首輪だ。
屍の名前がエリンだとは二人共知らず、知る気も皆無。
衣服を汚す血はとっくに乾き赤黒く変色、支給品も持ち去られていた。
だが首輪は手付かずで填められており、回収しない手はない。
放送で伝えられた特殊個体のNPCに渡せば、使える道具や情報と交換出来る。
596
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:40:07 ID:Kv0u2Bhg0
(人を斬る感触、か……)
物言わぬ少女の細い首に刃を振り下ろし、一撃で終わらせた。
妹と二人で暮らすようになってから勉強した、料理で食材を切るのとは違う。
まして、バーテックスの巨体を滅多切りにする感覚とも異なる。
数時間前まで生きていた、風と同じように歩き、言葉を話す者の体を壊した。
そしてこれから先は死体だけではない、生きてる者を斬るのだ。
もしも、フェントホープで斬り合った少女を手に掛けていたら。
さっきまで命だったモノじゃない、今も存在する命をこの手で消し去ったら。
本当の意味で後戻りできなくなれば、罪悪感や躊躇も全部消えてなくなるのだろうか。
「衛宮さんは……」
人を殺したことってある?
そう続けようとして、結局肝心の質問は出ず宙ぶらりんになった。
「やっぱなんでもない」
「急にどうした?答えられる範囲でなら答えるぞ?」
「だから何でもないって。乙女にしつこく食い下がるの、男子としてはマイナスよそれ。はい減点ね、残りポイントはあと僅か!」
「何のポイントで、そもそも何点からスタートなんだ……」
【?????/一日目/午前】
【衛宮士郎@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!】
[状態]:疲労(中)、背中にダメージ(中)、英霊エミヤが侵食
[装備]:シンケンマル+双ディスク+共通ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:基本支給品、モウギュウバズーカ+最終奥義ディスク@侍戦隊シンケンジャー
[思考・状況]基本方針:妹を救う。その為に優勝を狙う奴は皆殺しにする。
1:どう動くか、まずは現在位置を確認。
2:強そうな参加者をある程度排除するまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:もし可能なら、風の妹も救いたかった。
4:美遊の姿を偽ったあの男(エボルト)は……
[備考]
※参戦時期はイリヤたちがエインズワースの工房に潜入した後です。
【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(中)、胸部にダメージ(中)、左眼の視力が散華、夢幻召喚による変身中
[装備]:サーヴァントカード セイバー@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ3rei!!
[道具]:基本支給品、コンセントレイト@遊戯王OCG(1時間使用不可)、スケスケ望遠鏡@ドラえもん、エリンの首輪
[思考・状況]基本方針:妹や仲間の未来を取り戻す為に優勝する。
1:吹っ飛んで来たけど、ここどこよ?
2:強そうな参加者をある程度倒すまで、しばらくは二人で一緒に行動する。
3:私は絶対に……
[備考]
※参戦時期は諸々の真相を知って自棄になっていた時期です。
※英霊召喚やカードそのものの制限に関しては、後の書き手様にお任せします。
※二人がどこまで移動したかは後続の書き手に任せます。
597
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:40:48 ID:Kv0u2Bhg0
◆◆◆
吹雪く冷たさが負った傷や節々の痛みに響き、容赦なく体力を削り取る。
折角支給品でダメージが癒えたというのに、逆戻りしてしまった。
森林地帯やオーエド町と違い、雪で覆われたエリアは当然気温も低い。
多大な消耗が圧し掛かる身には毒も同然、吐く息の白さで寒さの程が嫌でも分かる。
尤もマサツグ様には体より、精神のダメージの方がある意味深刻だろう。
「ク…ソ……!ふざけるな……あのゴミ虫ども…!ゴキブリども…!!このっ…ゴミクズがァァ……!!」
息も絶え絶えに罵るが、聞き届ける者は周囲に誰一人いない。
本物の十聖刃に焼き潰される正にその時、襲い来る死の気配へマサツグ様も我を取り戻した。
自分自身の危機を認識した瞬間、「守る」スキルが発動。
マサツグ様の身体機能に僅かな間ながら、爆発的な強化が起こったのである。
本来「守る」スキルは名前の通り、スキル保持者をあらゆる方法で守る力。
で害を為す物へ、周囲の物体をオートでぶつけるだけではない。
マサツグ様本人の反射神経や肉体の強度を引き上げる効果も、転移後の異世界では度々起こった。
此度もそういった過去の現象と同じような力を齎したのだ。
思考速度や剣を振るう動きが引き上げられたのを感じ取り、すかさず十聖刃のエンブレムを操作。
後出しにも関わらず「守る」スキルの恩恵で、この場を切り抜ける術を繰り出せた。
刀身をリードし解放された聖剣の力は、煙叡剣狼煙。
自分の体を煙に変え脇目も振らずに逃走、壁をもすり抜けカイザーインサイトから急ぎ離れて行った。
一度も振り返らず、狼煙の力で得た高速移動能力が活きどうにか逃げ延るのに成功。
「気持ちの悪い連中め…卑劣な恥知らずども……よくも俺を……」
だがマサツグ様に生き延びられた喜びはない。
使い捨ての駒として無理やり戦わされた。
十聖刃や「守る」スキルを取り戻したというのに、見下した連中へ返り討ちに遭った。
極めつけはカイザーインサイトへ弄ばれた挙句、よりにもよって逃走を選んだ自分自身。
「守る」スキルの強化を受けたなら、反撃に移り逆に一太刀浴びせる事も可能だったろうに。
現実には必死こいて逃げ続ける、天が微笑むどころか指を差して馬鹿笑いしそうな有様だ。
598
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:41:22 ID:Kv0u2Bhg0
「ふざけるな…!あいつが、あのコソ泥女が卑怯な手を使ったからだ…!そうまでして勝ちたいのか?つくづく見下げ果てた、蛆虫以下のカスだな……!」
度重なる傷の痛みと、カイザーインサイトが見せた神々しくも禍々しい輝き。
それらはマサツグ様にも「死」を予感させ、恐怖心を炙り出す効果をこの上なく発揮。
とにかく逃げなければと恐怖に突き動かされたのが、逃走の理由である。
しかしマサツグ様は断じて認めない、認められない。
ミヤモト達から執拗ないじめを受けていた弱者は最早過去、今や虐げ見下す絶対的な強者になった。
なのに怯えて背を向けるなど、それこそ散々他者を煽る際に言った「雑魚」同然ではないか。
到底受け入れられる現実ではなく、故に自分を納得させる為の言い訳を重ねる。
全てはカイザーインサイトが卑怯な手に出たからだと。
「何で…何でこうなった……」
敗北を認めず言い訳に逃げる今の自分が、よりにもよってミヤモトと同じだと自覚せず怒りを募らせる。
どこから上手くいかなくなったのか、根本的な原因は主催者達だが他にもある筈。
フェントホープでの騒動よりも前、オーエド町で偽善者どもに反撃を受ける前。
「そうだ…あの気色悪い、ツンデレ気取りのエリンもどきと会った時の……」
マサツグ様の知るエリンは敬語で接し常に自分を肯定し称賛する、謂わば都合の良いハーレム要因。
間違っても呼び捨てで馴れ馴れしくはしない。
真嗣なら捻くれた態度を見せつつも、家族と言っただろうがマサツグ様には違う。
以前トリタが連れていた自称娼館No.1の女のように、不快感しか抱けない。
気持ちの悪いエリンを殺してすぐ、更に嫌悪を抱く存在に思い当たった。
直見真嗣、名簿にはそう記載された並行世界のマサツグ様自身。
思い返せば並行世界の自分がいるかもしれないと考え、実際に参加してるのを知ったあの時からだ。
心にずっと気持ち悪さを抱え続けた。
激しい怒りを感じさせたのはオーエド町で戦った偽善者達や、フェントホープにいた虫けらども。
しかし最初に自分の心へ影を生ませたのは、並行世界のエリンと直見真嗣。
マサツグ様はパラレルワールドの自分が、具体的にどんな人物かを知らない。
ただもしも、殺し合いで出会った憎たらしい連中のように。
平和だ友だと綺麗ごと口にする、虫唾の走るような奴なら。
気持ちの悪いエリンとも気安い態度で接し合う、心を許し合ったような仲なら
自分が手に入らなかった、ウザったいと見下しながらも羨む心を捨て切れない、絆を手に入れてるとしたら――
599
:
確かにそこに存在して何もかもを歪ませる
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:42:13 ID:Kv0u2Bhg0
「…………反吐が出るんだよ」
吐き捨てた理由が生理的嫌悪か、或いは別のナニカが宿っているのか。
一つ確かなことがあるとするなら。
自分の心に素直になれないだけで、孤児院の少女達を大事に想った直見真嗣とも。
邪神端末体と化したミヤモトとの戦いで、リシュア達を家族と言い切ったナオミ・マサツグとも。
この少年は違うのだと、一人ぼっちの背中が虚しい現実を告げていた。
【C-2/一日目/午前】
【マサツグ様@コピペ】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、全身に痺れと火傷(ある程度回復)、憎悪と嫉妬(極大)、死への恐怖(中・意識しないよう努めてる)
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック(全て複製)@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品一式、タイムコピー(残り使用回数1)@ドラえもん、量産型戦極ドライバー+ヨモツヘグリロックシード@仮面ライダー鎧武、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:他の参加者を殺して優勝する
1:並行世界の自分は必ず殺す。もし、お仲間だ絆だと抜かす奴なら…
2:何で俺がこんな目に遭わなきゃならない…どいつもこいつも許せない……
[備考]
※ミヤモトやトリタ戦など主にコピペになっている部分が元となって生み出された歪な存在です。
※「守る」スキルは制限により弱体化しています
※聖剣を手にしている時、感情次第では剣の技術が強化されます。
※タイムコピーを使いクロスセイバーの変身ツール一式を複製しました。機能はオリジナルと変わりありません。
『支給品解説』
【コロッケパン@Caligura2】
コッペパンにコロッケを挟んだ昔ながらのパン。
対象のHPを500回復する。三個セットで支給。
【雷鳴剣黄雷@仮面ライダーセイバー】
聖なる雷を生み出して、生命に活力を与え、闇に潜む悪を射抜く雷属性の聖剣。
攻撃力を稲妻の力で増幅させ、激しい高圧電流を瞬間的に発することが可能で、刀身に纏わせることで強力な突きとともに大ダメージを敵に与える。
聖剣ソードライバー、ランブドアランジーナワンダーライドブックとのセットで支給。
上記二つと組み合わせる事で、仮面ラウダーエスパーダに変身する。
【タイムコピー@ドラえもん】
タイムテレビと立体コピーを組み合わせた機械。指定した時間や位置にあった物をコピーできる。
本ロワでは使用回数の上限が2回に細工されている。
『施設紹介』
【ホテルフェントホープ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
マギウスの翼の本拠地である巨大な廃ホテル。
アニメ版では常に移動する拠点であり、マギウスの翼の案内無しでは入れなかった。
内部には少なくとも魔女の飼育槽は再現され、複数体の魔女が保管されている模様。
またグリーフシードも少量ながら置かれてある。
600
:
◆ytUSxp038U
:2025/04/16(水) 00:42:53 ID:Kv0u2Bhg0
投下終了です
601
:
◆QUsdteUiKY
:2025/04/17(木) 08:17:31 ID:JWN.iqcw0
メグ、コッコロ、肉体派おじゃる丸で予約します
602
:
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:46:28 ID:/WtLLkwA0
予約に数人追加して投下します
603
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:48:06 ID:/WtLLkwA0
大半の参加者にとって今回の放送は悲しいものだし、檀黎斗の態度には苛立ちを覚える者も多いだろう。
事実としてメグは友人のリゼが死んだことに悲しみ、涙を流していた。
親しいと言えど、優勝するためにいずれ殺さなきゃならない相手。
だがやはりそうわかっていても、リゼの死は無性に悲しい。
優勝して生き返らせれば済む話なのに。
そう思っているのに。
何故だか、溢れ出す涙が止まらない。
その姿は先ほどメグ達が襲った桃達が見ればギャップに驚くかもしれない。……本来のメグは優しいと知るココア以外は。
あんなに外道な戦法をした。
マサツグやクウカ、挙句の果てにココアまで殺そうとした。
それなのに。
殺さなきゃいけない対象だったのに。
涙という名の雨は降って止まない。
……メグはまだ中学生だ。
友達を殺す覚悟をしたつもりでも、根っこの部分は変わっていなかった。
たとえ後で生き返ると思っていても、友人の死は悲しい。
604
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:50:01 ID:/WtLLkwA0
(あれ?どうして私……ないてるんだろ……?)
メグは涙を拭いながら、そんなことを考える。
今まで友達を生き返らせるために、この場で仲良くなったマサツグやクウカに刃を向けてきた。その矛先は、友達であるココアにすら向かった。
そして親しい者を全員生き返らせるために友達すらも襲うという矛盾染みた行為に疑問すら抱かなかった。
ココアの仲間の見知らぬ男――小鳩を肉体派おじゃる丸が殺した時も。
タラヲやパラダイスキングに酷いことをしてきた時も。
なんとも思わなかった。
後で生き返らせるからそれでいいと思っていた。
良心など微塵も傷まない。その狂気染みた思想は、常人には理解出来ない――まるでサイコパスなもの。
しかしメグとは元来、優しい少女なのだ。
決して誰かを嬉々として襲わないような……木組みの街で愉快な日常を謳歌する中学生だったのだ。
そんな少女が殺し合いに乗るようになったキッカケは、皮肉にもチマメ隊の一人――親しかった少女の死だった。
大切な友達を失う原因を作ったのは檀黎斗。
だがあろうことかメグは檀黎斗という憎むべき相手の甘言に縋ってしまった。どんな願いも叶うという言葉に……頼る道を選んでしまった。
ゆえに彼女は修羅の道を邁進した。
一歩、また一歩と歩く度に本来の彼女とはかけ離れた悪魔のような存在になっていった。
最初はあった善意すらもどこへやら……マサツグやクウカ、ココアを襲う始末。
それでも日常を取り戻すためなら、迷いなど生まれなかった。
マヤが死んだのに優勝を狙わないココアに対して冷たいとすら思った。どうして彼女はマヤを殺されて、優勝を目指す自分に怒ってるのかわからなかった。
自分達は正しいことをしているはずなのに、何故かココアが立ち塞がる。
だからメグは『正しいことしてるよね?』なんて聞いてしまった。
コッコロの言葉に少し安堵して、やっぱり自分達は正しいと考えた。
だからこれからもどんどんゲームの参加者を殺していこう、と。
それがみんなの幸せや日常に帰るための最善策だと意気込んでいた。
だというのにその少し後に流れた放送でリゼの死を知り――それだけでメグの心を哀しみが支配した。
605
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:51:00 ID:/WtLLkwA0
その理由は、メグ自身にもわからない。
つい先程までココアを殺す気だったのに――。
ココアの仲間の小鳩を殺す手伝いをしたのに――。
(この反応、メスガキの仲間が死んだんスね。でもそれだけで取り乱すなんて、キチガイ染みた優勝目的の癖に中身はガキ丸出しで笑っちゃうんすよね。もしかして知り合いを殺さずに優勝出来ると思ってた可能性、濃いすか?)
メグを狂人のキチガイだと思っていた肉体派おじゃる丸は彼女の年相応の態度。そして人間臭さが垣間見えて内心でほくそ笑む。
優勝狙いだというのにこんな放送で泣くなど、たかが知れる。もしこのメスガキが最終盤まで生き残っても、この覚悟の無さなら余裕で殺せるだろう。
(普通、優勝狙いなら40人も減ったことに喜ぶべきっすね)
主催者の放送によれば、この短時間で40人も死んでいる。
優勝とは当然、最後の一人になることを指すのでこれだけガッツリ死んだなら喜ぶべきだと肉体派おじゃる丸は考える。
この時点で肉体派おじゃる丸のメグに対する評価はキチガイから覚悟が決まらないTDNメスガキに一気に落ちた。
「メグさま、涙が出てますが……何かあったのでしょうか?」
「うん。そうだよ、コッコロちゃん。私の友達のリゼさんが……死んじゃった……」
「?」
コッコロはキョトンと首を傾げる。
先程まで戦っていた集団の一人は明らかにメグを知っていた。それなのにメグは迷いなく戦っていた。殺そうとしていた。
ゆえにメグは知人友人だろうが殺すのを厭わない覚悟を決めているとコッコロは判断していた。
そもそもマサツグやクウカのことも殺そうとしていたし、その時点でコッコロがメグを信用するのは当然のことだ。
それに今回の放送で40人の死が発覚した。優勝に近付いたのだ。なのに何故、泣く必要がある?
「メグさま。願いを思い出してください。わたくしはメグさまが優勝したら、参加者全員を生き返らせて、この殺し合いの記憶も消すと存じています」
(こっちのメスガキは冷静にキチガイ染みたことを言うっすね……)
あくまで冷静に、落ち着かせるようにメグに声を掛けるコッコロを肉体派おじゃる丸は内心、侮蔑する。そして同時にメグと違い厄介そうだとも考えた。
(組む相手としては使えるっすけど、最終盤で優勝を争うために敵対関係になったらこんなサイコは相手にしたくないっすね)
放送で泣くような甘ちゃんならば、余裕で屠る自信がある。肉体派おじゃる丸というあだ名を付けられてる通り、彼の肉体は非常に鍛え上げられたものだし怒りや憎しみに燃えるほど心意で強化もされる。だがコッコロは仮面ライダーに変身出来る上に放送を聞いても態度を一貫させてるキチガイのメスガキだ。
なんというかこう、生理的な嫌悪感すらわいてくる。
(正直、このメスガキより人生経験豊富なはずの俺でも淫夢キャラ以外を殺した時は多少、嫌な気分がしたっすからね。それでも優勝して憎き淫夢を消すために、それと戦場だから臆せば逆に殺られると思ってゴッド・ハンド・クラッシャーを発動したっすけど……淫夢キャラ以外の他人を殺したことは予想以上に精神的にキツいっす)
淫夢キャラである虐待おじさんを殺した時は、憎い相手なので嬉しかった。
だが何も憎んでない小鳩を殺したのは、あまり気分が良くない。肉体派おじゃる丸はサイコパスでもなんでもないので当たり前だ。
小鳩の頭蓋骨を砕いた感触は、今でも鮮明に思い出せる。……これから先もあんなことを繰り返さなきゃならないと思うだけでウンザリだ。
そしてコッコロもまた命こそ奪っていないが、見知らぬ少女の両足を欠損させている。
普通ならそれに対して何か思うことがあったり、泣いてるメスガキみたいに放送を聞いて年相応の何らかのリアクションをするのが当たり前だが、コッコロは何ら悪びれることもなく感情が揺さぶられることもない。まだ幼いメスガキだというのに至って冷静。
だから肉体派おじゃる丸は彼女をサイコなキチガイだと侮蔑したのだ。
606
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:52:09 ID:/WtLLkwA0
「たしかに私が優勝したらみんな生き返らせるけど……リゼさんが、リゼさんが……」
「……メグさま。優勝を目指すならどの道、そのリゼさまという人も死ぬ必要がありました」
「そんなのわかってるよ!でも、でも……」
メグはコッコロの言葉を理解するが、心では納得出来なかった。
マヤが死んだ時もすごく悲しかった。
だから全員生き返らせると決めた。親友のマヤのためにも。
だからココアだって殺そうとした。後で生き返らせれば良いと思って。
でもいざ、友達のリゼが死んだと知ると――マヤの死を知った時のようにとめどなく哀しみが溢れ出す。
こればかりは理屈じゃない。感情の問題だ。
メグは狂っていたが、根底は普通に幸せな日常を送っていた幼い少女でしかないのだ。
だから友達のココアを殺そうとしたのに、友達のリゼが死んだら悲しみ涙を流すという矛盾を引き起こした。
「メグさま。……優勝を狙うというのは、こういうことです」
コッコロもキャルが巻き込まれてるので、メグの反応は他人事じゃない。
だがコッコロは優勝を狙うという行為の意味をメグよりも深く理解している。
無論、キャルと出会えば殺すつもりだ。そうしなければ優勝出来ないのだから。
「それはそうだけど……っ!リゼさんが死んじゃったんだよ!?」
607
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:52:44 ID:/WtLLkwA0
「メグさまはさっきの戦いで知り合いの人が居ても襲ってましたが……」
「――――」
メグが目を見開く。
そうだ。メグは、ココアを襲った。
友達なのに、殺そうとした。
その事実を思い返して、顔が青褪める。
「……そのご様子では、メグさまは優勝を狙うのが難しそうですね」
これ以上の会話は不要だ。
メグは友人が死ぬだけで落ち込むとわかったのだから。
良いコンビが組めたと思っていたコッコロだが……考えを改める。
メグには彼女を止めようとする者が何人もいる。
この精神的に摩耗した状態のメグが彼らに出会えば――最悪、裏切りかねない。
幸い今はメグ以外にも筋骨隆々の男――肉体派おじゃる丸が居る。メグを始末しても単独にはならない。
ならばコッコロがやるべきことはただ1つ。
「メグさまには悪いですが……」
「え?なに?」
「変身、でございます」
『バナナアームズ!ナイト・オブ・スピアー!』
コッコロがブラックバロンに変身した。
(役立たずになったら容赦なく始末っすか。やっぱりこのメスガキ、キチガイっすね)
コッコロがブラックバロンに変身した意味を察した肉体派おじゃる丸には、彼女が殺人鬼か何かに見えた。
608
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:53:33 ID:/WtLLkwA0
「コッコロちゃん?なにを――」
「わたくしは、優勝するしか道がないのです!」
仲間だと思ってるコッコロがいきなり変身した。
周りには誰も敵がいないのに。
リゼが死亡してショックを受けてるメグにはその意味がわからなくて、困惑。
しかしコッコロはそんなメグに向かって容赦なくバナスピアーを振り抜く!
その行動が、メグにはスローモーションに見えていた。
これが死を迎える寸前の――
『メグ。メグも来なよ!』
『マヤの言う通りだぞ、メグ。まさかお前だけ逃げられると思ったのか?』
マヤとリゼの幻覚が見えて、囁いてきた。
因果応報。そんな言葉がメグの脳裏を過る。
今まで他者に危害を加えてきた。マサツグやクウカ、ココアすらも殺そうとしてきた
だからこれは罪なのだ
バナスピアーはさながら、罪人を裁くギロチンの如く。
「マサツグさん、クウカさん、ココアちゃん……。ごめんね……」
609
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:53:58 ID:/WtLLkwA0
そしてバナスピアーの一閃が――
「……やれやれ。ようやく目が覚めたか、馬鹿者が」
無愛想な表情をした少年の手にする日輪刀によって、弾かれた。
「……え?」
「いきなり乱入してくるとか笑っちゃうんすよね!」
「――さ、させません!」
少年に目掛けて肉体派おじゃる丸が拳を振りかぶると、桃色髪の少女が走って少年と肉体派おじゃる丸の間に挟まり――代わりに攻撃を食らう。
少女の腹へ剛腕が放たれるが――少女は無事だった。
「マサツグさん!?メグさん!?」
目の前の光景が信じられず、メグが目を見開く。
瞬間――マサツグの「守る」 スキルでメグに対するオレイカルコスの結界の効果が消え失せた。
「メグ。――今度こそお前を守りに来た」
ガラにもなく、ハッキリとした言葉でマサツグはメグに声を掛けた。
「またあんたっすか。わざわざ殺されに来るとか、笑っちゃうんすよね」
肉体派おじゃる丸は小鳩を殺して、淫夢キャラ以外を殺人することに対して多少なりとも感情は揺れたが、優勝するという確固たる覚悟は変わらない。全ては憎き淫夢を根絶するために。もう肉体派おじゃる丸なんて嘲笑されないために。
――負けるわけにはいかない
「ふん。またお前か、露出男」
マサツグもまた、敗北するわけにはいかない。
もう何も失いために。今度こそメグを守るために。
日輪刀を構え、普段のひねくれた態度で肉体派おじゃる丸に皮肉を飛ばす。
「……それで、メグ。今のお前はどっちの味方なんだ」
「マサツグさん。私は……ずっと酷いことしてきたんだよ」
「知るか。俺が守りたいから守る、それだけだ。……お前の泣き言は後で聞いてやる」
「……ありがとう、マサツグ。それなら私は……マサツグさん達の味方をするよ!」
――瞬間、メグ専用ロッドが光り輝きメグが〝そうりょ〟に変身。そして魔法を使うとマサツグの傷が大きく回復する
「ふっ……。ルーナフリューゲル出撃だ」
「ルーナフリューゲル……?」
「メグちゃんがいない間に決めたチーム名ですぅ」
「そうなんだね……!じゃあルーナフリューゲル、いくよ〜!」
――マヤちゃん、リゼさん。……もう生き返らせれないけど、ごめんね。でもきっと二人もさっきのココアちゃんみたいに――この殺し合いに反対するよね。だから――天国で見ててね。
ココアちゃん。ココアちゃんが私に怒ってくれた意味――やっとわかったよ。
クウカさん。
そして、マサツグさん――私を正気に戻してくれてありがとう。
こんな私を。いっぱい酷いことしてきた私を見捨てずに救ってくれて――ありがとうね。
コッコロちゃん。
裏切る形になってごめんね。
でも、やっぱり――私達がしようとしてたことは間違ってると思うんだ。
だから私は――戦うよ
610
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:54:38 ID:/WtLLkwA0
【C-7/一日目/朝】
【直見真嗣@異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(漫画版)】
[状態]:ダメージ(小、包帯、ガーゼなどにより処置済み)、疲労(大)、左目失明(眼帯により処置済み)、メグとクウカを守りたいという想い
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:ラスボスを倒す。殺し合いを脱出するには、これしか手段がないようだな
1:クウカ、メグとその友人を守る。
2:やれやれ。ようやくメグを取り戻せたか
3:もう失うことは御免だな。
4:エリン……
5:露出野郎達に対処する。ルーナフリューゲル、出撃だ
[備考]
※「守る」スキルは想いの力で変動しますが、制限によりバランスブレイカーになるような化け物染みた力は発揮出来ません
※参戦時期はリュシア達が里親に行ってから。アルノンとも面識があります
【クウカ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、魔力消費(中)
[装備]:ガーディアン・エルマの短剣@遊戯王OCG、フライングランチャー@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品、応急処置セット@現実
[思考・状況]基本方針:こ、困ってる人を助けます……
1:マサツグさんやメグちゃんと一緒に戦いますぅ!
2:モニカさん達と合流したいです
3:クウカ、マサツグさんのことが気になりますが……今はそれどころじゃないですね
4:マサツグさんの心の支えになりたいです
[備考]
※頑丈です。各種スキルも使えますが魔力を消費します。魔力は時間経過で回復していきます
※応急処置セットの包帯は使い切りました
【奈津恵@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、罪悪感、覚悟
[装備]:メグ専用ロッド@きららファンタジア、ゴーストドライバー&ディープスペクターゴースト眼魂@仮面ライダーゴースト
[道具]:基本支給品×2、巨大化@遊戯王OCG、ランダム支給品0〜2(ボーちゃんの分)
[思考・状況]基本方針:マサツグさん達と一緒に抗うよ!
1:チマメ隊の絆は永遠……だけど優勝して生き返らせてもマヤちゃんが喜ばないよね
2:マサツグさん、クウカさん、ありがとうね。ルーナフリューゲル、いくよ〜!
3:今まで酷いことしたみんな……ごめんね
4:マヤちゃん、リゼさん……天国で見守っててね!
[備考]
※ディープスペクターの武器であるディープスラッシャーについては、変身しても出現しません。他の参加者に武器として支給されている可能性があります。
※ディープスペクターへの変身は他の仮面ライダーと同じく魔力を消耗しません。
611
:
LAST TRAIN -新しい朝-
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:54:53 ID:/WtLLkwA0
【コッコロ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、オレイカルコスの結界による心の闇の増幅 、キャルへの罪悪感(大)、ブラックバロンに変身中
[装備]:量産型戦極ドライバー+バナナロックシード(ナンバー無し)+マンゴーロックシード@仮面ライダー鎧武、タンポポロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品一式×2、オレイカルコスの結界@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、盗人の煙玉@遊戯王OCG(1時間使用不可)、スイカロックシード@仮面ライダー鎧武(2時間使用不可)、デスノート(複製品)@DEATH NOTE
[思考]
基本:主さまたちの所へ戻る、たとえどんな手段を使ってでも
1:メグさまと他の御二人を殺します
2:コッコロは、悪い子になってしまいました
3:キャルさま……それでもわたくしは…………
4:メグさまとはもう協力出来ないようですね……。代わりにこの男性(肉体派おじゃる丸)と協力します
5:タラオさまはお亡くなりになられましたか…
6:カイザーインサイトを要警戒
[備考]
※参戦時期は『絆、つないで。こころ、結んで』前編3話、騎士くんに別れを告げて出ていった後
【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、右胸から左脇腹までの切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、虐待おじさんを殺せた喜び、ダンデライナーにしがみ付いてる、右拳に槍の刺し傷
[装備]:
[道具]:基本支給品(タブレット破壊)、ゴッド・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG(発動不可)、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG(発動不可)、デス・メテオ@遊☆戯☆王(発動不可)、虐待おじさんのデイパック(基本支給品、ランダム支給品0〜1)、ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:またこいつらっすか。今度こそ殺してやるっすらね
2:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
3:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
4:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
5:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね。とりあえずこのメスガキとは組むっすね
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなどは詳しくありません
※本来の名前を思い出せません
612
:
◆QUsdteUiKY
:2025/04/18(金) 05:55:18 ID:/WtLLkwA0
投下終了です
613
:
◆ytUSxp038U
:2025/04/25(金) 00:24:08 ID:pEU1ZHvU0
投下お疲れ様です
飛電或人、滅、天津垓、万丈龍我、里見灯花、キャスター・リンボ(式神)を予約します
614
:
◆ytUSxp038U
:2025/05/01(木) 23:05:03 ID:2IS8qDhc0
延長します
615
:
◆QUsdteUiKY
:2025/05/02(金) 14:09:49 ID:XGwHFAk60
コッコロ、肉体派おじゃる丸、直見真嗣、メグ、クウカで予約します
念のために延長もしておきます
616
:
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:34:32 ID:zp3bKBv.0
投下します
617
:
Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:37:12 ID:zp3bKBv.0
まっさらな世界
何を君は描く――?
◯
「状況はあまりよろしくないですね。ですが私にはこれがあります!」
仮面ライダーの声から聞こえたのは、意外にも女の声だった。それも冷静沈着で〝状況があまりよろしくない〟なんて言葉にもあまり焦りは感じられない。
仮面ライダーが一度変身解除すると――そこにはメグと同い年くらいの少女がいた。
「――光のご加護を!オーロラ!」
俺とクウカとメグは相手の行動に警戒するような体勢を取るが――そんなこと知らんとばかりに相手の傷が癒えていく。
「なんだかいきなり力が沸いてきて、笑っちゃうんすよね。どうして今まで使ってこなかったんすか?」
「このスキル――ユニオンバーストは魔力を消耗してしまうので、ここぞという時に使おうと思いまして……」
露出男が、気軽に白髪の少女に話し掛けている。
変身解除した瞬間に察していたが――やはりこの少女が仮面ライダーとやらの変身者か。
「ふん。戦闘中に雑談とは余裕の態度だな」
「今の俺にはあんたの攻撃すら――」
ニヤリ、と口角をあげて俺の刀に拳を当てる露出男。気でも狂ったのか……?
「弱いんスよね!!」
本来ならば裂けるはずの拳。
その骨格部分が刀に命中して、鍔迫り合いのような状態になる。
あの白髪はスキルとか言ってたが、まさかその効果か?
さっきの一撃より、少しだが重い……!
「まだまだまだまだまだァ!」
露出男が両手を使って何度も殴ろうとしてくる。
俺は刀でそれを防ぐが、このままではどうしようもない。
この中でまともな攻撃手段を持つのは俺一人。一応、メグも仮面ライダーに変身出来るが明らかに動きがスペックに追い付いていない。
「マサツグさん!私もいくよ〜!へんし――」
「来るな、メグ。お前にこの露出男は危険だ」
「メグさまにはそういう人がまだ居ていいですね」
「コッコロちゃんにも……きっと手を伸ばしてくれる人はいるよ。……ううん、私が手を伸ばす」
「その甘さが、メグさま達の命取りです。――変身、でございます」
――瞬間、白髮のエルフは仮面ライダーに変身した。
戦況は最悪。だからといってメグに戦わせるわけにはいかない。
「大丈夫です、マサツグさん。仮面ライダーはクウカが引き受けますぅ」
そう言って仮面ライダーと俺の間に割って入るクウカだが、仮面ライダーの槍を俺は刀で受け止めた。
「いや……生身であの槍を受けたら危険だ。クウカは露出男からメグを守ってくれ」
「わかりました!クウカ、がんばりますぅ」
「――そういうことで選手交代だ、白髮エルフ」
「あなたはたしかに強そうですが……弱点はわかってます」
『バナナスパーキング』
電子音と共に地面から複数突き出すバナナ。……これは触れたらダメなものだろうな。
俺は刀を横に振るって、それらに対処した。どことなく「守る」スキルが少しずつ調子を取り戻してる気がする
やれやれ……。それにしても今の方向……
「なるほど。メグが俺の弱点というわけか」
「はい。メグさまが弱点になると思いました。でもあなたにはこの仮面ライダーに変身してもあまり意味がないようですね」
仮面ライダーが変身解除して、再び白髮エルフの姿になった。
刀を握る手に僅かに冷や汗が流れる。
目の前のエルフはこれだけ力の差を見せても余裕を崩さない態度で、冷静沈着だった。
その瞳は濁りきっている。――メグやリュシア達と年齢が近そうなのに、あまりにも雰囲気が違う。
「物量が無意味なら、手数で勝負します。スピードアップでございます」
「――――ぁうッ!?」
その声は俺の近距離――クウカの居たところから聞こえた。
どうやら腹にかなり強烈な一撃を受けたのか、クウカにしては珍しく悲鳴を出している……。
「こんな便利なスキルの数々を使わなかったなんて、笑っちゃうんすよね。この女はこのまま嬲り殺していい可能性濃いすか?」
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:
Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:38:06 ID:zp3bKBv.0
「させ――」
「させないよ〜!変身!」
ディープスペクターに変身したメグが露出男に突撃する。
それの意味することは――
(しまった……!クウカかメグが殺される……!)
クウカを助けに行かなければクウカが。
メグを止めなければメグが殺されると俺は直感した。
それらを同時にこなすのは困難だ。
いや……俺が二人を助けに行けば済む話だが、無防備になった背後を銀髪エルフに狙われかねない
『だから――クウカだって戦えます!マサツグさんだけで背負い込まないで、クウカのことも頼ってくださいっ!』
ふっ……。やれやれ、俺も焼きが回ったのか。
まだ出会って数時間の女を本気で〝守りたい〟と思うのは。
クウカはとんでもないドMの変態だ。その異常性だけなら水の女神の癖に自称姉のシーにも近い。
メグはまあ、色々とあったが根は悪人ではない。でなければ、俺達の方に戻ってこなかっただろう。……ある意味、このふざけた殺し合いの被害者か。なにやら色々と酷いことをしてきたようだが、その話はこの戦いが終わった後に聞こう。
そして俺は――
「淫夢ファミリー以外を殺すのは気が進まないっすけど、これも優勝のためっすからね!」
露出男が自慢の拳を振り被り――
「――淫夢ファミリーだかなんだか知らんが、家族を殺すことに躊躇がないのはその髪型のように頭がおかしいな、露出男」
メグが辿り着くよりも速く、刀で拳を弾いた。
どうやら俺の「守る」スキルは徐々に力を取り戻してるらしい。
ルーナ孤児院ファミリーならともかく、まだ出会ってそれほど経ってない二人を本気で守りたいと思うのは我ながら謎なんだが……クウカがいなければ俺がへし折れていた可能性は否定出来ない。
メグがいなければ、俺の身体の傷が治らなかったことも確かだ。
……やれやれ。俺はこの二人を守るつもりで、同時に心と身体を守られていたのか。
それにしてもこの露出男は本当にわけのわからない存在だ。
淫夢ファミリー以外を殺すのは気が進まないということは、淫夢ファミリーとやらを殺すことに躊躇がないということでもある。
……こんなことを言うのもなんだが、俺はルーナ孤児院ファミリーの奴らを殺したくない。あの喧しくも馬鹿げた孤児院の生活が嫌いじゃなかったといえば、嘘になる。
もっとも――異世界に召喚される前の実際の肉親には色々と複雑な思いはあるが。……生憎と肉親には恵まれなかったのでな。
だが流石に殺したいとまでは思わん。……それにしても親に見捨てられた俺が孤児院長をするなど、なかなか皮肉が効いてるな。
まあもしかしたら俺もリュシア達ルーナ孤児院ファミリーの奴らと出会ってなければ、今頃どうなっていたかわからんが。
「よく事情も知らずにそんなこと言えるっすね。俺は淫夢ファミリーなんてコンテンツがなければこのお気に入りのヘアスタイルをおじゃる丸と馬鹿にされることなく、この自慢の筋肉を侮辱されて〝肉体派おじゃる丸〟なんてネットで侮辱されることはなかったのに……!そもそもあんたもこのヘアスタイルを馬鹿にしたっすね!?」
「ふっ……。淫夢ファミリーとやらがよくわからんが、お前の見た目が面白可笑しいのは事実だと思うぞ。それに同じ〝ファミリー〟でも俺はルーナ孤児院ファミリーの奴らを殺さん」
露出男――肉体派おじゃる丸の乱打を刀で弾きながら、互いの心境をぶつけ合う。
それにしてもこいつ、奇妙な見た目をしてると思っていたがこれが名簿に載っていた〝肉体派おじゃる丸〟か。……本人の言葉から察するに周囲から〝肉体派おじゃる丸〟と呼ばれてるだけらしいが。しかしラスボスはなんでこんなあだ名を名簿に記載したんだ……?よくわからんやつだ。
そして俺の元いた世界のネットには肉体派おじゃる丸なんて居なかった。俺が異世界召喚された後に流行ったのか、それとも異世界が他にも存在してそこで肉体派おじゃる丸というあだ名が流行ったのか……。
名簿にはマサツグ様なんて名前もあった。それにこの世には無数の世界があるとラスボスの一人が言っていた。そういう世界もあると考えるのが妥当だな。
どうして本名じゃなくてあだ名で名簿に記載されたか謎だが〝マサツグ様〟も大概だし、あんなふざけた性格のラスボスだ。悪ふざけであだ名を名簿に記載しても納得はいくが……。
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:
Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:40:00 ID:zp3bKBv.0
なによりこの露出男――肉体派おじゃる丸はその名で呼ばれるのを嫌ってるようだ。〝淫夢ファミリー〟とやらに対する憎悪がすごいことはこの短いやり取りでもわかる。
こいつの憎悪を滾らせるためにこんなあだ名で参加させた可能性も――あのラスボスなら十分に有り得る。あいつは明らかに俺達プレイヤーを見下しているから、それくらいするだろう。
だがそれとは別に一つ気になることがある
「そんなに肉体派おじゃる丸と呼ばれるのが嫌ならその奇抜な姿をどうにかしたらどうだ?そもそも服くらい着ろ、何を考えてるんだお前は」
「服を着ろっていうのは正論だと思うっすけど、殺し合いに巻き込まれた時点でこの服装にされてて笑っちゃうんすよね。普段はしっかりと服を着てるっすよ」
「ならばそのわけのわからんユニークな髪型をどうにかしろ。そんな髪型をしていたらネタの標的にされても仕方ないだろ……」
「は?このヘアスタイルは俺のお気に入りなんスよ。それを馬鹿にしてくるとか、死にたいんっすか?」
乱打の威力が僅かに上がる――がまだ対処出来る範囲内だ。
とりあえずこいつのヘイトは俺が集める。そして――
「はぁっ!」
「単調な動きだな。お前が背後を狙うことは読めていた」
背後から迫るバナナのような槍を、上空にジャンプすることで避け、クウカとメグの近くに着地する。
必然的にかち合う、肉体派おじゃる丸の拳と仮面ライダーの槍。
だが白髮エルフが変身前に魔法を使っていた影響か、肉体派おじゃる丸の拳にはカスリ傷程度しか出来ない。
別に相打ちを狙ったわけじゃないが、あの大きな槍でも大してダメージを受けない拳は厄介だ。
「はぁ、はぁ……。マサツグさんのおかげで助かりました」
「人並みより頑丈で良かったな、クウカ。あの拳の威力と硬度は明らかに異常だ」
「で、でもクウカも戦いますぅ」
「私も戦うよ、マサツグさん!」
「ふっ……。そうか。だがタンクと戦闘の素人に何が出来るというんだ?」
「クウカはマサツグさんの攻撃を代わりに受け止められますぅ」
「私も仮面ライダーになれるし、回復も出来るよ」
「……やれやれ、お人好しな奴らだな」
ここは戦場だ。命を落とすリスクがある。
それに俺の「守る」スキルは徐々に力を取り戻してるとはいえ、完全じゃない。
どう考えても危険なのだが……こいつらに何を言っても無駄なのだろうな。
それに孤児院を守る時はリュシア達――ルーナ孤児院ファミリーで守り抜いた。あいつらは大した力にならないのに、だ。
そしてあいつらがいたから俺は随分とスキルの力を発揮出来たことは否定出来ん。
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:
Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:42:50 ID:zp3bKBv.0
だからクウカやメグも決して無力なわけではないだろう。
まさか出会って1日も経たない奴らにこんなことを考えるとは思わなかったが――。
「3人まとめて殺されたいんスか?」
肉体派おじゃる丸はそんなことを言いながら、乱打を繰り出す。
披露が溜まっているのか、明らかに大きな負傷をしているのが原因か知らないが――徐々に動きが鈍くなっている。
そんな肉体派おじゃる丸に対応するのは――クウカだった。
「マサツグさんやメグちゃんには手出しさせません!狙うならクウカを!」
そう言いながら、肉体派おじゃる丸の攻撃をクウカは一身に集める。
クウカは短剣を逆手に持ち、拳を時には回避し、時には短剣で受け止める――が、腕力の差からクウカが吹っ飛ばされる
「クウカさん!」
「クウカ!」
「口ほどにもないっすね。死んだ可能性、濃いすか?」
「わ……私は大丈夫です。人一倍、頑丈なので……」
意外にもクウカはそこまでダメージを受けてなかった。
「しつこいっすね。じゃあこれで死んで、どうぞ」
肉体派おじゃる丸が凄まじい速度で走る。
ふざけたあだ名をしているが、フィジカルはその名の通りということか……!
俺は背を向けて走り出したいところだが――
ガキンッ!
「ふっ……。やはりそう簡単に行かせてくれないか」
背後から迫る仮面ライダーの槍を、刀で防いだ。
「あなた達は、わたくしが優勝するためにここで死んでくださいまし」
「お断りだ」
「そうですか。ですがわたくしは既に一人殺してます。メグさまみたいに、甘くありませんよ」
「ふん。子供の皮を被った殺人鬼エルフということか」
「どう思われてもかまいません。わたくしは、優勝しなければならないのです!」
ブンッ!
ガキン!
――殺人鬼エルフが槍を繰り出し、俺が刀で弾く。
その度に金属音が鳴り響き、妙にやかましい。
とにかく相手が殺人鬼なら問答無用だ。加減をしたら俺達が殺されるし、同情の余地もない。
「コッコロちゃん!こんなやり方、間違ってるよ〜!」
「……メグさまにはわたくしの苦しみがわからないでしょう。恵まれた環境のメグさまには」
『バナナオーレ』
仮面ライダーの槍になにやらオーラが纏わりついた。
ベルトがわざわざ音声を発したということは、技か?
とにかく生身のメグが受けたら危険なのは確実だ!
たっ
たっ
たっ
――ガキィィィン!
――鳴り響く、激突音。
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:
Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:46:43 ID:zp3bKBv.0
「くっ……!」
俺は仮面ライダーの技を刀で弾こうとするが、凄まじい威力だ。
最初の技はそこまで苦労しなかったというのに……この一撃は重い。
しかしここで死ぬわけにはいかない。
俺には――
「ま、マサツグさん!」
肉体派おじゃる丸を引き付けながも必死に叫ぶクウカかいる。
「マサツグさん、がんばって!」
ようやく取り戻せたメグがいる。
もしもここで俺が死ねば、きっと全滅だ。
――そんな腐り切ったバッドエンドは御免だな。
だから俺は守る。俺自身と、こいつらを!
――瞬間、体の奥底から力がわいてくる。
そうだ。これこそが「守る」スキルだ。
ガシャァァアアン!
――仮面ライダーの武器に競り勝ち、その槍は弧を描くようにして宙を舞う。
これで仮面ライダーは武器がなくなった。なにやらマンゴーのマークがある小物を咄嗟に取り出したが、ソレを容赦なく刀で切り裂き、破壊する。
そして更に刀を振り回し、猛攻を加える。
相手が武器を失った今が好機(チャンス)だ。今のうちに一気にケリをつける。
「ごめんね、コッコロちゃん……」
メグの悲しそうな声が聞こえた。
……こんな危険人物とメグはどんな関係性だったんだ?
――だが、攻撃の手は緩めない。
とりあえずこのベルトを破壊さえしたら、変身が解除されて完全に無力化に成功すると俺は考えてる。
メグの反応から察するに何かワケアリなのか、それともメグがお人好し過ぎるだけか……。
理由はわからんが、ひたすらにベルトを狙うことにした。
「あっ、ぐっ……!主さま……!」
ベルトを狙うとはいえ、たまに外れて仮面ライダーの肉体を攻撃してしまう。
その度にエルフが苦悶の声をあげ、それでもこいつは降参しようともしない。
……そもそも主様ってなんだ?もしかしてこいつもリュシアのように――。
そう考える思わず攻撃の手を緩めてしまう。
もしもこいつがリュシアのような境遇なら、などと考えてしまう自分の甘さに嫌気が差す。
だがもしリュシアが参加していたら、俺を生き残らせるために他人を――……。
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:
Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:48:08 ID:zp3bKBv.0
いや、それは有り得ん。リュシアはそんな奴じゃない。当然、このくだらない殺し合いに巻き込まれて死んだエリンもだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。わたくし、は……」
地を這ってでも槍を取りに行こうとする仮面ライダー。
その姿は哀れにも見えるが、ここで気を抜けば死ぬのは俺達だ。
俺は容赦なく槍を蹴飛ばして、右脚を刀で貫く。
「ぐ、ぅううっ――!あ、主さま――!」
エルフの叫び声が響くが、容赦するつもりはない。
俺は仮面ライダーを背負投げして仰向けにさせると、再び何度もベルトを攻撃。
やがてベルトは破壊され、仮面ライダーは涙でぐちゃぐちゃになったエルフの姿に戻った。
「こ、コッコロちゃん!大丈夫!?」
コッコロと呼ばれたエルフに接近しようとするメグだが、俺はそれを左手で制する
「落ち着け、メグ。相手はこの殺し合いで犠牲者を出した殺人者だ」
「そ、それはそうだけど……私もマサツグさんとクウカさんが来なければ……」
「お前は涙を流していた。どうせ放送が原因だろう。だからメグは結局、根はお人好しな馬鹿だ。だがこいつはそんなお前を冷静に処分しようとした、危険人物だからな。迂闊に近付けばどうなるかわからん」
「主さま……。これは……わたくしが悪い子になった罰でしょうか……」
コッコロが詳しそうに、悲しそうに涙を流しながらそんなことを口にする。
きっとそれは本心だ。
絶体絶命になってようやく化けの皮が剥がれたのか……?
「コッコロ。お前はどうしてこんな――」
「――また改心するような展開になったら、流石に笑えないっすね」
ガキン!
全速力で駆け抜けてきた肉体派おじゃる丸の拳と刀がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。
「俺にはまだ左拳(こっち)もあるんすよね!」
「しまっ――」
「マサツグさん、危ない!」
ズザァァアアア
気付けば俺の身体はメグに突き飛ばされていた。
623
:
Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:49:05 ID:zp3bKBv.0
「間に合っで良かったぁ……」
俺の身体の上に乗っているメグは嬉しそうに微笑むが、その背後には肉体派おじゃる丸。
「これで終わりっすね!」
「――言ったはずだぞ、肉体派おじゃる丸。メグは俺が守る」
メグへ迫る肉体派おじゃる丸の右拳に、俺も右拳をぶつける。
ぐしゃり!
「ぐ、ぁあああ!」
「ぐ、ぅ……!俺にフィジカルで挑もうとするなんて、笑っちゃうんすよね。まあ少しは痛かったっすけど、あんたの右手はもっと深刻なダメージを受けてた可能性濃いすか?」
「ふっ……。だが俺は一人じゃない」
俺にはあって、肉体派おじゃる丸にはないもの。
それは――――
「この期に及んで何を――がっ!?」
肉体派おじゃる丸が、急に倒れる。
その巨体に押し潰されないように、俺はメグを抱えながら真横に転がった。
「や、やりましたぁ……!」
肉体派おじゃる丸を背後から短剣で刺したクウカが、歓声をあげる。
クウカは他人を殺して喜ぶ人種じゃないだろうが、危険人物は殺さなければ止まらない輩もいると理解していたようだ。
クウカの身体には幾つか痣があったが、意外にも平気そうだった。まったく、どれだけ頑丈なんだこいつは。
「肉体派おじゃる丸。お前はクウカを侮った。それが敗因だ」
俺は近くに転がり落ちた刀を拾い上げる。
「ぐっ……!」
肉体派おじゃる丸の与えた傷の影響か、握るだけで痛みが走る。
「マサツグさん。それくらいの傷なら、簡単に治せるよ」
メグが魔法を使うと、右手の傷が癒えていく。またこいつに助けられてしまったな
「ぐ、おおおおお――!」
――絶叫が耳を劈くる
「これで俺を殺したと思ったら、笑っちゃうんすよね!」
そこには鬼の形相で立ち上がる肉体派おじゃる丸がいた――。
「コッコロさん、あんたこんなところで優勝を諦めていいんスか?優勝はあんたの夢っすよね?まさかメグの二の舞になるんスか?」
「筋肉ムキムキのおじさん、余計なこと言わないで!」
「余計なことじゃないっすよ。少なくとも裏切り者のあんたよりはマシだと思うっすけどね」
「そ、それは……たしかに私は裏切り者だけど……でも!」
「何が〝でも〟っすか?あんたも散々、悪事に加担しといて虫が良くないっす――」
「お前は少し黙れ、肉体派おじゃる丸」
ガキン!
俺が肉体派おじゃる丸に斬りかかると、肉体派おじゃる丸は右拳でその攻撃を弾いた。
624
:
Lost Princess ―絆と憎悪の果てしないバトル―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:49:44 ID:zp3bKBv.0
「あんたみたいな事情も知らない正義のヒーローや英雄気取りこそ黙ってほしいっすね」
正義のヒーロー?英雄?
違うな――。
「俺は正義のヒーローや英雄などじゃない、ただの孤児院長だ。だから危険なお前らを殺すことにも躊躇はしない」
「ハッ!じゃあなんでそんな薄汚いメスガキを守ろうとしてるんスか?」
「クウカとメグは守る。俺自身がそう決めたから守るだけだ。そこに正義感は微塵もない」
「あんた、こんなメスガキまで守りたいとかキチガイっすね。斜に構えた態度でカッコつけて楽しいっすか?」
「……やれやれ。俺はこれが自然体で、カッコつけた覚えはないのだがな」
「他人を襲うのに加担したメスガキを守るのが自然体なんスか?」
「マサツグさん……」
不安そうに眺めてくるメグの視線を感じる。
どうやらこいつは相当、罪悪感があるようだな。
――だが逆に言えば、罪悪感があるということは自分が悪いことをしてきたと心の底から思ってるということだ。それに本当に闇堕ちでもしてたら、放送で悲しまない。涙を流さないはずだ。
「メグのしてきた〝罪〟については後で聞いてやる。だがその前にまずはお前を倒すことが最優先だ、肉体派おじゃる丸」
「あんた、俺が肉体派おじゃる丸って呼ばれてるのを知った途端に肉体派おじゃる丸、肉体派おじゃる丸って――性格悪過ぎて笑っちゃうんすよね。そのいけ好かない態度も、性格の悪さも、イライラするんすよ!」
「それなら力付くで止めることだな」
「言われなくても!」
ブン!
ガキン――!
肉体派おじゃる丸の右ストレートを、刀で弾く。次いでやってくる左ストレートも、読めていた。当然、刀で弾く。
そしてがら空きになった胴体に袈裟斬りをお見舞いしてやる。
だが肉体派おじゃる丸の無駄に鍛え上げた筋肉が鎧のような効果を齎したのか、殺し切ることは出来なかった。
625
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:51:05 ID:zp3bKBv.0
「はぁ、はぁ……。コッコロさん、あんた本当にこれでいいんスか?優勝出来なければ願いは叶わないっすよ!」
「優勝……。願い……。このまま主さま達の所帰れないなんて――そんなの嫌でございます!」
瞬間――コッコロを中心に闇のようなオーラが集まる。なんなんだ、これは……。
それは一瞬の出来事だが、この場にいる誰もが。肉体派おじゃる丸すらもがコッコロを見ていた。
そして闇はコッコロの手に収束して――穂先が真っ黒なクリスタルのような槍に。
白髮が黒髪に変化して、真紅の瞳を闇が漆黒に染め上げた――!
「優勝するのは、わたくしです!メグさま達のような偽善者はここで脱落してくださいまし。
――闇のご加護を……!ダーク・オーロラブルーミング!」
――瞬間、瞬く間にコッコロの傷が軽傷程度まで回復し、肉体派おじゃる丸の傷もコッコロ程じゃないが癒えていく。いきなり武器が出てきたり、見た目の色が変わったかと思えば……どうなってるんだ……!?
――『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』
放送で自称神のラスボスが言っていたことが脳裏を過る。
この現象こそがあいつの言ってたシステムというわけか――。
「おお、いいっすねコレ。傷が癒えた上に更に力が漲ってくるっす!」
ブォォオオン!
ガキィィィン!
「くっ……!この脳筋め。だからお前は肉体派おじゃる丸なんて言われるんだ」
626
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:51:47 ID:zp3bKBv.0
肉体派おじゃる丸の右ストレートをなんとか刀で受け止めるが、なかなか弾け返せない……!さっきまでより明らかに重みが増している……!
「こ、これはまずいですぅ……!」
肉体派おじゃる丸にはまだ左手が残ってる。
こいつは憎たらしく笑い、左手を握り締めて振り被った!
「……っ!ク、クウカも一緒に戦いますぅ!」
クウカが短剣でなんとか受け止めて、間一髪で助かった。
だがこの場にはもう一人――
「まずはあなたに死んでもらいます。ダーク・トライスラッシュ」
瞬間、俺の胴体を目掛けてコッコロは槍を横に振るった
「わ、私も戦わなきゃ!」
『ギロットミロー!ギロットミロー!』
「へ、変身!」
『ゲンカイガン! ディープスペクター! ゲットゴー!覚悟!ギ・ザ・ギ・ザ!ゴースト!』
「これ以上、誰も殺させない!これが私の〝覚悟〟だよ!」
槍が俺の胴体を真っ二つにする前に、仮面ライダーに変身したメグがコッコロの頬を殴った。
予想外の一撃だったのか、見事に命中してコッコロが吹っ飛ぶ。
……やれやれ。こいつらを守ると決めたのに、守られてばかりだな。
だがメグの覚悟を無駄にする気はない
「ン?んんん!?あんたなんで、また急に強くなってるんスか!?」
「さぁな。クウカとメグを守ると決めた、ただの偽善者だからじゃないか?」
ようやく肉体派おじゃる丸の一撃を弾いて、思いっきり袈裟に斬りつける。
肉体派おじゃる丸は激痛のあまり地面をのたうち始めた。
「クウカはここでこいつを見張ってくれ。お前のタフさなら何かあっても大丈夫だろう」
「マサツグさんは……」
「俺はメグに加勢する。あいつは素人だ。偶然の一発が決まっても勝ち目はかなり低い」
「……やっぱりそれがマサツグさんですよね。わかりました、ここはクウカにお任せを!」
◯
メグが吹っ飛ばしたコッコロは、ケロリとした様子ですぐに立ち上がった
(まさかあの状況でよりにもよって裏切り者のメグさまから攻撃を受けるとは……)
メグから殴られた右頬が未だに痛む。
生身の人間が仮面ライダーの、しかも強化フォームであるディープスペクターの一撃を受けたのだから当然だ。
それでも頬が痛い程度で済んでるのは、コッコロが負の心意に到達して全体的に強化されたことが大きい。
ユニオンバーストで味方に対するバフ効果は大きくなり、味方を中回復する効果も付随された。各種スキルも強化された。
もしも先程のダーク・トライスラッシュを槍の棒の部分を押さえるという方法で止めようとしていたら、いくらディープスペクターに変身しているとはいえ素人のメグでは危うかったかもしれない。
思いっきり頬を殴るという方法だからこそ、阻止出来たのだ。
(メグさまは、どうして裏切ったのでしょうか?とてもではないですが、許せません)
そんなことを考えながらコッコロはダーク・スピードアップですぐにメグのいる場所に辿り着く。
627
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:52:27 ID:zp3bKBv.0
「メグさまは、どうして裏切ったのですか?」
「それは、こんな方法でみんなを生き返らせるなんて――人を殺して日常を取り戻すなんて間違ってると思ったからだよ」
「ですがメグさまはご友人やあなたを助けようとした人たちすら襲ったはずです」
「それは……そうだけど。でもリゼさんが死んだら悲しくて……」
「それはあまりにも甘い考えでございます」
「うん。……私も色々と悪いことしてきたよ。でもマサツグさんとクウカさんが許してくれて――」
「そこです。そこが甘いのです。あなたは環境に恵まれてるのでそんな甘い考えになったようですが、わたくし達のしてきたことは到底許されないことです」
コッコロは本来、優しい性格の持ち主だ。
だからわかる。わかってしまう。自分達の犯した〝罪〟を。
「それ、は……」
「マサツグさまやメグさま、それにご友人。メグさまには手を差し伸べる方がたくさんいました。だからわたくしとは違って、引き返せたのです」
「こ、コッコロちゃんだってそういう人……」
「数時間前にも言ったように、以前は居ました。でも、この殺し合いにはキャルさま以外は居ません。……厳密には優勝しなければ居場所に戻れません。だから皆様の元に帰るために優勝すると決めたのです」
「そんなの悲しすぎるよ……。それにキャルさんっていう人がいるなら、一緒に協力しようよ!」
「優勝したら願いが叶うので、悲しさはもうありません。もちろんメグさまみたいに殺し合いに抗う方々と馴れ合う気もありません。わたくしは、優勝するのです」
ヒュンッ!
漆黒の槍がメグを襲う。
しかしメグはディープスペクターに変身していることもあり、前倒しに転がってギリギリで回避する。
「そんなのダメだよ、コッコロちゃん!そんな方法で主さまっていう人の場所に戻っても悲しむよ……!?」
コッコロへ気持ちを伝えるように再び頬を殴るが、今度は吹っ飛ばすらしない。
相手が近寄ってくるのはわかってたから両足を踏ん張れたし――なにより心の闇がどんどん増幅することで身体能力も強化されていた。
「そうならないように、優勝するのです!」
今度は容赦なく槍による刺突を繰り返す。
生身なら即死していたであろう攻撃だが、ディープスペクターに変身していたおかげで致命傷にはなっていない。
しかしそのダメージは大きく、強制的に変身解除されとしまう。
628
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:53:58 ID:zp3bKBv.0
「これで終わりでございます」
そんなメグに、コッコロは刺突を繰り出した。
結局、マサツグが助けたところで寿命が延びただけで死は回避出来なかった。
「――残念だったな。まだ終わらせるつもりはない」
漆黒の槍を弾いたのは、太陽に照らされし銀に輝く日輪刀。
――ナオミ・マサツグここに見参。
「ま、マサツグさん!」
「またマサツグさまでございますか。しつこいですね」
「ふん。まあこいつらを守ると誓ったからな」
「誓った……?誰にですか?」
「俺の――心にだ」
「そうですか。ではその心臓ごと、突き刺してさしあげます」
「ふっ……。やれるものなら、やってみろ」
「――ダーク・ネレイドスピア」
ひゅんっ!
凄まじい勢いで漆黒の槍がマサツグの胸に迫る。
「ぐっ……!まだまだこの程度じゃ俺はくたばらんぞ」
間一髪、槍の穂先以外の持ち手を受け止めてなんとか即死を免れる。
だが僅かに穂先が当たり、マサツグの服に血が滲み出す。
「マサツグさん!」
「何を喚いてる、メグ。この程度、大したことない」
「で、でも……」
「ふむ。この程度の小技はマサツグさまには効きませんか」
コッコロはあくまで冷静に状況を判断する。
メグはおそらく暫く戦えず、戦えたとしても弱い。
クウカな肉体派おじゃる丸が相手をしているし、彼は殺人に躊躇がない男だとコッコロは思っている。クウカが死体になるのも、時間の問題だろう。
やはり一番厄介なのはマサツグだ。
三人組で最も強く、あんな線の細い肉体なのに時として底知れない力を持つ。
その根源が〝守りたいと想う心〟や〝絆〟だと知らないコッコロにはあまりにも不気味な存在。
(マサツグさまを放置したら、わたくしのように新たな力に目覚める可能性があります。……それとも、既に目覚めてるのでしょうか)
今のコッコロにはマサツグが理解出来ない。
もしも理解出来たとしても、羨み、妬み、憎悪を爆発させて心の闇が加速度的に深くなるだけだろう。
629
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:54:26 ID:zp3bKBv.0
昔の心優しきコッコロはもういないのだから。
それはオレイカルコスが支給品だったことも要因だが、運悪く最悪の時期から連れて来られたことも関係しているし――なによりパラダイスキングというマーダーとはいえ、一方的に殺害している。
もっともパラダイスキングを甚振ったのはメグも同じなのだが……彼女はそのことを深く反省している。
一方、コッコロは反省するどころか手を組んだメグすら、使い物にならなくなったと判断した途端に冷静沈着に処分しようとした。
あの悍ましい瞳を、メグか゚忘れることはないだろう。
(それでも――)
それでも――、と魔法の言葉を唱えてメグは口を開く。
「こんなことは間違ってるよ、コッコロちゃん!コッコロちゃんの悲しみは私にはわからないけど……みんなで協力して主さまっていう人のいる場所に行こうよ!」
「悲しみ?メグさまは何か誤解していらっしゃるようですね。私の心を支配するもの――それは闇でございます」
漆黒の瞳をメグに向け、彼女の言葉を否定する。
「ふん。中二病か」
そんな皮肉を飛ばしながらも、マサツグは冷や汗を流す。
コッコロの心が闇に支配されているのは理解していた。
マサツグもリュシア達ルーナ孤児院ファミリーのおかげで変われただけで、過去は心に闇があった。
親に見捨てられたことは今でも鮮明に思い出せるが――そんな痛みを知るマサツグだから、今のマサツグが在る。
しかしコッコロの闇は殺し合いという過酷な状況のせいか、もっとドス黒いものだ。
それは彼女の雰囲気と――なにより見た目すら変わったことがよく表してる。
ゆえに彼女は殺さなければ、止まらないだろう。
いや――その気でいかなければマサツグ達が逆に殺される。
630
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:55:17 ID:zp3bKBv.0
「マサツグさま。あなたはここで死んでくださいまし。――闇疾風」
凄まじい勢いでコッコロが駆け抜け、マサツグへ槍を振り翳す。
「ぐっ……!残念だが心臓は狙えなかったようだな」
コッコロの刺突は、脇腹に刺さった。
日輪刀で弾くのが間に合わないと判断したマサツグはギリギリのタイミングで、体勢をズラしたのだ。
「減らず口を……!」
ヒュンッ
ヒュンッ
ヒュンッ
幾多もの風切り音と共に刺突による猛攻がマサツグを襲う!
しかしマサツグは日輪刀で頭や心臓などへの攻撃を弾き、なんとか即死は免れたが負傷は酷く、激痛が走る――!
「――ッ!」
「これだけ突き刺せば、流石のマサツグさまでも時間の問題でしょう……」
「それはどうだろうな……」
「まだ減らず口を叩く気力はありましたか。それならこれで、終わりでございます」
コッコロが槍を構える。
穂先は当然、マサツグの心臓だ。
そして必殺の一撃が――
「さ、させないよ……!」
「ふっ……」
ガキィィィン!
――マサツグの日輪刀が、コッコロの槍を弾く。
「なっ……!?」
想定外の展開に、コッコロが動揺して目を見開く。
マサツグには日輪刀を振るう力などもう残されていなかったはず。
それに負傷まで回復している。
631
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:58:14 ID:zp3bKBv.0
「よくやった、メグ」
「メグさまが――!私たちを裏切り、あまつさえ都合良く殺し合いに反対する派閥に加担して……本当に恥知らずですね!」
コッコロが槍を構えると同時にメグは〝そうりょ〟に変身してマサツグを回復させたのだ。
その事実に気付いた時、コッコロは普段の彼女らしくもない言葉で苛烈に罵倒した。
この場で一番強い敵はマサツグだ。厄介なのもマサツグだと認識していたが、どうやら認識を改めなければならない。
この中で最も厄介で憎いのは、メグだ――!
632
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 07:59:22 ID:zp3bKBv.0
「ハザードオーロラ――ダークネス!」
槍を上空に向けて、技名を唱える。
――瞬間、天の一部が闇のオーラに覆われ、マサツグとメグに重量が襲い掛かる。
「くっ……!なんだこの重圧感は……!」
唐突な重圧感に苦悶するマサツグだが「守る」スキルで軽減されてるだけまだマシだ。
「ぅぁ……っ!なにこれ、身体が重いよ……!」
重圧感に押し潰され、メグは片膝をつく。片膝だけでも立ち上がろうとしているのは、半ば意地だ。
「優先順位が変わりました。メグさま、あなたから殺します」
「コッコロちゃん……。女の子が殺す、殺すなんて言っちゃ……ダメだよ」
「他人を殺そうとしていたのはメグさまも同じ。つまりこれは、因果応報でございます」
633
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 08:00:18 ID:zp3bKBv.0
「それはそうだけど……コッコロちゃんもやりなお――」
「そんなことは出来ません!わたくしは優勝しなければならないのです!」
「そんな……」
自分の説得が微塵も通じず、思わずメグの気が沈む。
そんなメグにコツ、コツ、と――一歩ずつコッコロが迫る。マサツグの血で染め上げた、赤黒い槍を片手に。
「コッコロちゃん――」
「さようなら、メグさま」
「私を救ってくれたマサツグさんやクウカさん、そしてコッコロちゃんのためにも――私は死なないよ!」
メグが叫ぶと同時に、コッコロは容赦なく槍を突き出した。
しかし妙に硬い感触。何故だか槍でメグを貫けないどころか、あまり深く突き刺せない
(これは、なにが――)
「効かない、よ……」
メグはコッコロから攻撃を受ける前にクラススキル〝体が勝手に〜!〟を使っていたのだ。
これによりメグの魔法防御力と物理的な防御力が格段に上がったのだ。
それでも僅かに突き刺さったのだが、コッコロが槍を引き抜くと徐々に傷が塞がっていく。〝体が勝手に〜!〟はリカバリー効果――つまり自動回復も付与するからだ。
「ぐっ……!メグ、今から行くから持ち堪えろ……!」
マサツグがゆっくり、ゆっくりと歩き始める。
いくら重圧感があろうとも、メグの逆境に「守る」スキルは強化されていた。
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Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 08:01:27 ID:zp3bKBv.0
「大丈夫だよ、マサツグさん。私はコッコロちゃんとお話がしたいから……マサツグさんはクウカさんを助けてあげてほしいな」
「こんな奴と話だと?本気で言ってるのか!?」
「うん。――私は本気だよ」
メグの真っ直ぐな瞳に射抜かれて、マサツグは「やれやれ……」と観念した。
「……わかった。そいつはメグに任せるが、何かあったら躊躇せずそいつを斬るからな」
「ありがとうね、マサツグさん」
メグの笑顔に背中を押され、マサツグは肉体派おじゃる丸とクウカの戦場へ向かう。
「……それで、お話とはなんでしょうか?メグさま。また組むというのなら――」
「ううん、違うよ。私はコッコロちゃんを止めたいだけなんだ〜」
「説得、ですか。今の私にはそんなもの、意味を成さないですよ」
「コッコロちゃんも日常を取り戻したいんだよね。その気持ちはわかるよ。私もマヤちゃんとリゼさんが死んで悲しかったから。
きっとこの殺し合いが終わっても、マヤちゃんとリゼさんは居ないんだなって……」
「それなら、何故――」
「私はマヤちゃんとリゼさんを生き返らせたいけど、二人とも優しいから私が他の人を殺して優勝を狙っても止めると思うんだよ。……ココアちゃんみたいにね」
「それはメグさまのエゴです。本当は生き返りたいと思ってれかもしれませんよ」
メグの言葉に、自然とコッコロの声音も強くなっていく。
「そうだね。でもコッコロちゃんが優勝を狙う理由もエゴだよ」
その言葉に、コッコロは――
「……メグさまに、何がわかるんですか!色々な人の記憶から忘れ去られ、居場所である皆様にも危害を加えたくないから一人ぼっちになって……でも寂しくて……!」
怒気が込められた口調で、槍を握る手に力を入れる。
635
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 08:02:20 ID:zp3bKBv.0
「ただの平和な日常を送ってたメグさまに、何がわかるのですか!」
漆黒の槍が一閃する
「それは……わからない、よっ!」
コッコロの槍をメグ専用ロッドでなんとか受け止める。
凄まじい威力で、一瞬でも気を抜けば確実にメグは吹っ飛ぶだろう。
「言ったよね……私にコッコロちゃんの悲しみはわからないって。でも友達が二人も死んだ私の悲しさだって、コッコロちゃんにはわからないはずだよ!」
ギリ、ギリ――。
必死にロッドに力を込め、鍔迫り合いする。
「それなら……。そんなにも悲しいなら、優勝を狙えばいいじゃないですか!メグさまの、わからず屋……!」
「悲しいよ。すごく悲しいよ。でも私が優勝を狙って他の人達を殺し続けたら――二人を悲しませることになるかもしれない。それこそ死んだ二人への、侮辱だよっ!」
「そんなことは綺麗事でございます!私はキャルさまを殺してでも優勝します!」
「そんなことしてると、キャルさんが悲しむよ!」
「メグさまに……。あなたに何がわかるというのですか!!」
――激怒。
怒りに任せて力を込めた槍は、ロッドを弾きメグを軽く突き刺した。
636
:
Lost Princess ―メグの覚悟とトリガートゥルース―
◆QUsdteUiKY
:2025/05/04(日) 08:03:11 ID:zp3bKBv.0
「――ッ!コッコロちゃんの、わからず屋!」
「メグさまこそ、わからず屋です!」
怒り任せに槍を構えたコッコロには――漆黒の翼が生えた。
そして罪を背負い、それでも生き抜く決意をしたメグには右に白い翼が。左に黒い翼が生えた。
それ即ち、心意の発露なり。
コッコロは既に心意を発露していたが、更なる怒りでこの境地に至り。
メグはここに来て初めて心意が発露した。
コッコロの翼は、闇に呑まれた彼女らしく漆黒で。
メグの翼はこれまでに犯した〝罪〟を象徴するかの如き黒と、彼女本来の優しさを秘めたる純白が混在している。メグの真実(トゥルース)を象徴するかのような翼。
コッコロが槍を構えたように、メグもロッドを構える。
「メグさま、今度こそここで死んでくださいまし!」
「みんなの想いと私の生き様を乗せた翼で――コッコロちゃんを止めてみせるよ!」
両者、空高く舞い上がり――ある程度距離のある場所から助走をつけて激突する――!
ガキィィィン!
ぶつかり合う、槍とロッド。
ガキッ――
ガキィッ!
ガキィィィン
互いに譲れないものを胸に振り回し、熾烈な攻防を繰り返す。
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