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決闘バトルロイヤル part4

334刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:40:02 ID:LPbpj4TY0
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
「もっとスタンドパワー使って!使ってホラ!ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラァッ!!!」

殴り合いと言うには苛烈極まる光景が繰り広げられる。
近接最強のスタンド、スタープラチナ同士の一歩も譲らぬ激戦。
宿す想いは正反対、黄金の精神と狂い落ちた歪愛。
相容れぬ両者共に勝利を奪い取る気概は十分、なれば勝負を決めるのはなにか。
スタンドの性能は全く同じ、幾度拳を叩き付けても砕けず、砕かれず、届かず、届かせない。
共通しているのは時間停止に課せられた制限もだ。
2秒を超える支配は現状不可能、凍てついた世界は熱を取り戻し一先ずの終わりが――

「ぐっ!?」
「がぁ…っ!?」

訪れた筈が、予期せぬ痛みに呻き声が上がる。
スタンドへ殴打を受け、本体のグリスにもフィードバックが襲う。
更には遊星も背後から斬られ、少なくない火花が散った。
唯一無傷のサウザーは困惑するも、仲間が攻撃されたのは瞬時に察知。
得物を振るいブレイドを引き離した。

「野郎……」

この程度の痛みなら押し殺せるが、問題なのはブレイドが何をやったか。
間違いない、間髪入れずに時間をもう一度止めた。

「気持ち良いか〜KMR〜?]

予選で人間の鑑っぷりを見せ脱落となった後輩の名を口にし、ここぞとばかりに煽る人間の屑。
グリスの考えた通り、今やったのは時間停止。
但しスタープラチナではなく、スカラベアンデットの力を使ってだ。
停止中は敵への攻撃も無効化されるが死角へ移動し、解除と同時に痛め付けた。
スタンドと同様に連続使用が不可能な制限こそあるも、時を止める手段を二つ持つのは大きな強みだろう。

「…っ、俺は手札から速攻魔法、ハイパーフレッシュを発動していた……!」

だが転んでもタダでは起きないのが決闘者。
ブレイドが自身に電撃を浴びせる予兆を見せた時、遊星は咄嗟に魔法カードを使用。
自分のライフポイントを予め倍にし、被害をなるべく最小限に抑えた。
何よりダメージを受けたからこそ、効果を発揮するカードが手札にがある。

「手札のBKベイルの効果発動!戦闘によるダメージを受けた時、このカードを特殊召喚しライフを回復する!」

あくまで今負った分のダメージのみ回復な為、放送前からの傷は変わらずとも幾分痛みが和らぐ。
大尉との戦闘時にも使ったモンスターを召喚、これで場ががら空きになるのは防げた。
ウィザードに変身中の恩恵もあるだろう、大尉に蹴り飛ばされ時と比べればスムーズな召喚だ。
そう簡単に倒されてはやらない、仲間と共に勝利を掴むべく戦意を滾らせる。

335刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:41:27 ID:LPbpj4TY0



対照的な剣を振るうは二体の化け物。
真紅の騎士、デェムシュが己が魔剣に宿すは憤怒。
1日にも満たない間に受けた数々の屈辱が、自身を闘争へ突き動かす燃料へ変える。
選ばれし種族、フェムシンムをコケにした猿を殺す。
自分達に跪き、慄き、ただ殺されるのを待つだけの弱者に過ぎないと教えてやらねばならない。

対するは十二鬼月・上弦の壱、黒死牟。
妖刀へ乗せる感情はデェムシュと正反対に、酷く冷め切ったもの。
強者との斬り合いへ高揚は抱かず、貪欲なまでに勝利を求めず、まして人間達のように他者を守りたいなど以ての外。
襲われた、だから殺す。
他に大きな理由を見付けられないまま、しかし大人しく死を受け入れる程殊勝にもなれない。

戦闘へ臨む心構えで言うなら、圧倒的にデェムシュが上。
人も鬼も、命を燃やさずして掴める勝利は存在しない。
と言い切るのは容易いが、黒死牟は精神の差を大きく埋められるだけの実力を持つ男。
顔面を叩き割らんと襲い来る大剣を見据え、言葉なく刀を振り上げる。
岩をも砕く刃を弾き、あっさりと死を跳ね除けた。

猿の分際で煩わしい抵抗に出た事実へ、デェムシュの苛立ちが上昇。
尤も、敵が全くの雑魚でないとは理解している。
一撃防ぐ事すら不可能なら、最初に会った時点でとっくにあの世行きだ。
大人しく死ぬ気がないのであれば、力尽きるまで得物を叩き付けるのみ。

336刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:42:08 ID:LPbpj4TY0
頭部目掛け大剣が振り下ろされる。
愛剣シュイムの強度と切れ味が如何程かは、長々と説明するまでもない。
アーマードライダーの装備と打ち合って尚も刃毀れ一つせず、装甲を削り取った。
そこへ劇的な強化が起きたパワーを乗せた以上、剣でありながら木っ端微塵に打ち砕く威力と化す。

されど黒死牟纏う空気に、僅かな乱れも生じない。
闘争への熱を抱けないだけが理由に非ず、身を震わせる程の脅威でないが故。
果実の如く脳漿と肉が散らばる光景は実現しない、両手で握った得物が大剣と激突。
刀身越しに伝わる力は、成程日の出前の戦闘時以上に重い。
嘗てこの身を滅ぼした岩柱をも超えていると、極めて冷静に判断を下す。

だが忘れるなかれ、膂力に優れるのは黒死牟も同様。
執念で研磨を重ねた肉体が、人の限界から解き放った鬼種の血が、火炎の如き痣の恩恵が、食らい続けた数多の鬼狩りの肉が。
オーバーロードとの斬り合いを可能にし、再び刃を弾き返す。
次に剣が迫るのを待ちはしない、こっちから仕掛け早々に終わらせる。
人も異形も頸を落とせば死ぬ、眼球の張り付いた刀身が頭部と胴を繋ぐ部位へ疾走。
死を運ぶ妖刀へ、デェムシュは首筋に冷たさを覚えた。
猿如きの剣で斬首されるなど断じて受け入れない、シュイムを翳し防御。
押し返し体勢を崩しに行くも、一手早く敵が得物を大剣から離し死角へ移動。
瞬間移動と見紛う速度と共に行う斬り付け、この動作だけで数十の隊士を纏めて葬れる。

「甘イわ!」

が、オーバーロードを仕留めるには至らない。
目で追わずとも、外皮を貫く殺気で居場所を察知。
巨体とは裏腹の俊敏な動きで迎撃、シュイムで薙ぎ払いを繰り出す。
互いの刃がかち合い重い金属音が響く中、次の手にはデェムシュの方が早く出た。
もう片方の得物をがら空きの脇腹へ突き立てる。

337刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:42:48 ID:LPbpj4TY0
「チッ!」

その寸前で狙いを急遽変更、背後からの斬撃を防ぐ。
瞳を動かせば案の定、憎たらしい笑みを浮かべた小娘が映り込む。
力任せに押し潰そうと力を籠めるも、膂力で叶わないとは向こうも理解してるのだろう。
打ち合いは避けパッと飛び退き、タイミングを同じくして桜色の矢が次々突き刺さった。

「小賢シいゾ脆弱なサルどモガァっ!!」

左手を豪快に振り回し、殺到する矢を吹き飛ばす。
一方で右腕は絶えず黒死牟との打ち合いを続け、切っ先が撫でるのも許さない。
とはいえ、僅かながら意識が外れたのを見逃さない。
呼吸により全身の血が煮え滾り、鬼の身体能力を更に引き上げる。

――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

振るう刀は一本、なれど放たれる斬撃は三つ。
前方へ巨大な三日月が現れ、同じく大量の刃がデェムシュを取り囲む。
不可視の刃で作り上げた檻は、迂闊に動こうものなら最後。
待ち受ける末路は生物の原型を留めぬ、肉片の山。

「コノ程度がどうシたッ!」

惨たらしい最期を覆すべく、デェムシュもまた得物を振り回す。
シュイムともう一本、新たに得た魔剣が竜巻の如き斬撃を発生。
回避などに出る必要はなし、小手先の技は力で打ち破るに限るのだから。
次は刃を放った本人の番と言わんばかりに、黒死牟を襲う二振りの剣。
左右から挟み込むように襲い来る刀身を、跳躍し躱した上で頭上からの一撃を見舞う。

338刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:43:33 ID:LPbpj4TY0
――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鞘

横薙ぎの刀から放つ三日月状の刃が、鋸を思わせる回転で飛来。
連続で放ち位置を変え、回避を更に困難なものへ変える。
尤も、デェムシュの対処法は同じく得物を用いた迎撃。
叩き付けるかのように振り下ろされ、刃は全て剣が食い潰す。

着地の瞬間を見極め襲い来る双剣を、黒死牟は刀一本で防ぐ。
癇癪を起こし暴れる童子さながらの動きに見えて、その実狙いは恐ろしいまでに正確。
自らを怒りに捕えながらも、編み上げた剣技の低下は引き起こさない。
むしろ怒れば怒る程、技のキレが増す気さえあった。
感情を剥き出しにし、尚且つ振り回されず糧にするとは実に厄介極まる。

「そっちから喧嘩売っといて、無視は酷くない?」

不満を垂れる口調は年相応の微笑ましさがあれど、我が身を矢に変えた速度は到底少女のソレではない。
頬を膨らませながら結芽が接近、迅移を使い加速の勢いを乗せた刺突を放つ。
加えて得物は破壊困難な御刀、鉄板を重ねても貫通は確実だろう。
尤も人間の常識を鼻で笑う耐久性のデェムシュには届かず、そもそも刃を体に当てさせてももらえない。
シュイムで黒死牟を相手取りつつ、二本目の得物を結芽へ突き出す。
切っ先同士の衝突が起こり、押し負け後方へとよろめく。

「かったい…!」

八幡力で筋力を強化したと言うのに、尚も力は敵が上。
既に分かり切ってるが、マトモな打ち合いでは自分が圧倒的に不利。
それならそれで戦い方はある、再度迅移を発動し疾走。
別方向から狙うも、オーバーロードは動体視力にも優れた存在。
のこのこ近付く姿をハッキリと捉え、反対に串刺しにせんと突きを放つ。

339刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:44:21 ID:LPbpj4TY0
そこへ動くのは三人目、桜色の矢を射る魔法少女。
装填の手間を必要とせず、意思一つで連射可能なクロスボウ。
固有装備でデェムシュを狙い撃ついろはが、仲間へ攻撃を当てさせない。
倒せるとは思っていない、少しでも気を逸らせれば良い。
現に背へ突き刺さり、鬱陶しい痛みにデェムシュがこちらを睨み付けた。

ナイスと言いながら剣を紙一重で躱し、真紅の胴体を斬り付ける。
これが人なら重症は確実、しかしデェムシュには痒いと感じたかも怪しい。
ただでさえ強固な体がロックシードの摂取の影響を受け、更に頑強な装甲と化したのだから。

厄介な敵がもっと厄介になって自分達の前に現れた。
直視せざるを得ない現実に、文句を付ける暇は存在しない。
上体を大きく反らし避け、結芽は次に斬るべき箇所を定める。

直後、傍らで膨れ上がった威圧感に幼い肢体が引き締まった。

「――っ!あはっ…やっば♪」

自身へ敵意を向けられたのではないが、急ぎ離れねば危険。
汗を垂らしつつも楽し気な笑みを浮かべ、黒死牟から距離を取る。
誤解から始まった戦闘時にも感じた技の予兆。
違うのは一点、本気で殺す為に放つ気だ。

――月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面

背中へ回した刀を前方に振り、頭上より複数の斬撃波が降り注ぐ。
流星群の如き勢いと、床を砕き地下深くまで削り取る威力。
鬼殺隊を苦しめた悪夢同然の光景が、此度は黒死牟と同じ人外を屠る為に放たれた。

「オノレ…!」

広範囲尚且つ、不規則な軌道故に読み辛い。
よってこの戦闘で初めて双剣の防御を選択肢から外し、回避を選ぶ。
全身を赤い霧に変えロビー内を飛行、斬撃波が当たろうともダメージにはならない。
首輪に衝撃が与えられる可能性は無視出来ない為、気は張っているが。

340刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:45:41 ID:LPbpj4TY0
「当たって!」

気体化を解除した瞬間を狙い、いろはがクロスボウを連射。
デェムシュにとっては微々たる違いだろうが、以前の交戦に比べ矢の威力も上がっている。
装備者の攻撃の貫通力を強化するアクセサリー、ストライクマークもいろはの支給品の一つ。
大型の魔女にも効果的なダメージを与えるだろうけれど、今回は相手が悪い。

しかしデェムシュの肉体を貫けないのは百も承知。
狙うのは左手に握る得物の刀身部分。
一点集中で命中させ、剣を持つ力が弱まった所へ動くのは結芽だ。
彼女もデェムシュの能力は初戦時にある程度把握しており、実体化のタイミングを見逃さない。

「あんなキラキラした剣、おにーさんに似合ってないよっ!」
「減らず口ヲ叩クな猿ガ!」

小馬鹿にするようにけらけらと笑う結芽へ、何度目になるかも分からない苛立ちを覚える。
挑発こそしないが、この機を逃さぬと黒死牟も接近。
離れた位置ではいろはもクロスボウの狙いを付け、反撃に打って出る気なのは明らか。

「貴様ラの勝利なド万に一ツも有リ得エん!」

剣一本を手放した程度が何だと言う、愛剣は未だ手元に存在する。
加えて両手が塞がっていた先程と違い、左手が開いたから使用可能な力があるのだ。
猿の道具を使う抵抗感などとっくに消え失せており、何の躊躇もない。
数度の使用で使い慣れた力を、此度は更に上位の術として引き出す。

「……」

表面上の変化が確認出来ない程小さく眉を顰め、黒死牟が脚を速める。
いろはと結芽も足元で力の収束が発生し、慌てて飛び退く。
水の主霊石を使った攻撃は、対象の凍結や氷柱の射出だけじゃない。
地面から次々氷が噴出し、天井へ届き兼ねない程の高さとなった。
直撃すれば人体など鑢にかけられたように、骨まで削り取られるに違いない。
足を止めず回避しながら距離を詰めた黒死牟は、斬り殺し強制的に術を止めんと動く。

接近に気付かないデェムシュではない、自前の能力である火球を生成し連射。
強化の恩恵を受け弾幕を張るも、面攻撃は敵の得意分野。
刀が生み出す無数の三日月に掻き消され、直に頸を落とすべく踏み込む。

341刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:46:28 ID:LPbpj4TY0
「……っ!」

だが直前で真横へ跳び、結果デェムシュから遠ざかる。
そうせざるを得ない理由は、破壊され見るも無残な床を照らす光。
氷の柱か火球の連射か、どちらが原因かはこの際重要ではない。
不死に等しい生命力の鬼が唯一恐れる、太陽の光がロビーを照らしていた。

「…ハハハハハハッ!ソうか!やはリ貴様は我ラに遥カに劣ル、下ラン猿に過ぎン!!」

悪い事にデェムシュも弱点を察したらしく、嘲笑と共に火球を放つ。
狙いは天井や壁、日の光を遮る物体を破壊するつもりなのは明白。
当然阻止に動き刀を振るうも、不意に自分を包む影に頭上からの脅威を見た。
火球を放つ間も主霊石を操作し、巨大な氷塊を生成。
参ノ型『厭忌月・鞘』で砕くが狙いは別にあった。
天井と自身の間に氷塊で壁を作り、一時的に視界を塞ぐ為だ。

「がっ……!?」

氷塊の破壊へ意識を割いた一瞬の内に、黒死牟の真上部分の天井を破壊。
細かに散った氷の欠片をも溶かす、太陽の光が降り注ぐ。
人間達には祝福の光も、鬼にとっては地獄の責め苦に等しい。
網の上で炙られるように皮膚が焼け爛れ、力を急激に削ぎ落す。

「黒死牟さん…!」

鬼の死。
大正の世にて僅か数体の例外を除き、人々が望んだソレをこの場においては認めない者がいた。
火球や氷柱が群れを為し襲う中、歯を食い縛りいろはは駆ける。
時折掠め純白のフードに赤色が滲むも、構っている場合じゃない。
奇跡的に無事な箇所の床を蹴り、黒死牟の元へ身を投げ出す。
渾身の力で飛び掛かった甲斐もあり、自分諸共日陰まで放り出された。

「ヌウエエエエエエエエエエエエイッ!!!」

巨大な竜巻に身を変えたデェムシュが、二人を纏めて吹き飛ばしたのは直後のこと。
運が良いのか、病院内の壁を突き破り奥へ奥へと転がる。
落ちて来た瓦礫がロビーへの道を塞いだ。

342刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:48:40 ID:LPbpj4TY0



「……」

何をしているのだろうかと、改めて無様な自分へ辟易する。
稚雑な策に翻弄され、地に背を付け倒れ伏す有様。
これでもまだ屈辱感を戦意に変える気さえ起きず、ため息を吐くのも億劫だ。
極め付けは、そう、

「黒死牟さん!大丈夫、ですか…?」

間近で自分の顔を覗き込む娘の存在が、余計に己を惨めにする。

突き飛ばした状態から然程変わらず吹き飛び転がった為、傍から見れば相手を押し倒す体勢。
自身の現状を気にする余裕もなく、いろはは心配気に尋ねる。
鬼が太陽に嫌われてると、黒死牟から直接聞いた。
最初から疑う気は微塵も無かったが、先の光景が嘘ではないとの証明。
業火へ包まれたように全身が焼け爛れ、骨も残らない消滅は時間の問題だった。

「見て理解出来ない程の……愚鈍ではないだろう……」

苛立ちを籠め、投げやり気味に吐き捨てる。
日の光から逃れたなら、鬼の生命力も即座に機能し再生。
惨たらしい火傷は消え失せ、傷一つない肉体がいろはの視線の先にあった。
ホッとしたのも束の間、ようやく自分の体勢に気付き慌てて退く。

「ご、ごめんなさい…でも、黒死牟さんが助かって良かったです」
「……」

恥ずかし気に頬を赤らめ、かと思えば心からの安堵で笑みを見せる。
これが鬼狩りなら「大人しく死ねば良いものを」と、憎悪を滾らせ言うだろうに。
今に始まったものではなくとも、やはりこの娘はどうかしている。
理解の到底及ばない狂人だと言う他ない。

343刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:49:27 ID:LPbpj4TY0
だというのに、未だそう言い切らない自分もまたおかしくてならない。
思考を割く意味も価値も無しと断じれば、簡単に済む話だろうに。
何故、何故と馬鹿の一つ覚えで声に出さず問い続ける。
いろはも、自分自身も理解出来ないのは、二度目の生を受け間もない頃から変わらない。
ただ唯一、己を太陽から遠ざけたように。
この娘が「そういった行動へ躊躇せず出れる人間」とだけ、数時間の付き合いで分かった。
だから何だと言うものであり、本人へ伝える気は小指の先程もないが。

のっそりと体を起こし、ロビーと違って原型を保った床を踏みしめる。
と、自分達以外に転がる物へ気付き手を伸ばす。
暴風に巻き込まれ偶然ここまで飛ばされたのか、運が良いのか悪いのかよく分からない。
拾い上げたソレはただの人間には重く、だが鬼の膂力には軽い。

「それって……」

黒死牟が手にした物を、いろはも少々驚きつつ見つめる。
つい先程までデェムシュが振るい、結芽が弾き落とした剣だ。
前に戦った時には使ってなかったが、支給品で所持してたのか。
持ち主の手を離れ黒死牟の元へ渡った以上、わざわざ返す理由もあるまい。

眩い刀身と、黄金の蝙蝠の形の鍔。
特徴的な剣がただ豪奢な見た目だけではないと、二人共分かる。
魔法少女に変身中のいろはは、そこにあるだけで溢れる力をより深く感じ取った。

「もしかしたら……あの赤い人?に勝てるかもしれません」

剣を見つめたと思えば、考え込む仕草を取ること十数秒。
閃いたように顔を上げたいろはへ、訝し気な瞳を返す。
この剣が妖刀、否、魔剣の類だとは察しが付くも振り回せば勝てると言う気か。
疑問を視線に宿しぶつければ、逸らさず受け止め口を開いた。

344刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:50:55 ID:LPbpj4TY0



「弱い!弱過ギるぞ猿!所詮ハ滅び行クダケの脆き下等種族カ!」
「一々煽んないでよ!ほんっとに性格悪い!」

状況は悪化の一途を辿っている。
正面切って剣戟を展開可能な黒死牟、ベストタイミングでの援護を行ういろは。
両名が一時的に戦線離脱し、結芽単独でデェムシュを相手取る羽目になった。
どれ程分が悪いかを懇切丁寧に行うまでもなく、回避へ専念するので手一杯。
時折刀が胴を叩くも、ダメージらしいダメージは一切なし。
だったら胸部へ浮かぶ、恐らく自分や黒死牟が放送前に付けた傷痕を狙うも効果はイマイチ。
率直に言って、破壊力が大きく足りない。

「蒼炎の剣士の効果を発動!」

遊星の宣言通り、自身の攻撃力低下を代償に結目を強化。
600ポイントアップは少なくないが多くもない、しかし微量だろうと力を上げねば勝てない。
細い腰へ迫る大剣を防ぎ、歯を食い縛って押し返す。
体勢も崩せれば隙が生まれるのだが、巨体をグラつかせるには腕力が不足。
反対に太い足で蹴りが放たれ、全身を大きく反らしながら後退。

(マズいな……)

結芽一人でデェムシュと戦うのは無茶と、天津達もすぐに察したのだろう。
ブレイドを押さえ、遊星を援護に向かわせた。
なれど状況は芳しくない。
引いたカードによって戦況が左右されるとはいえ、今のままでは壁モンスターをチマチマ並べるのが精一杯だ。
少しでも結芽への脅威を肩代わりすべく、スケープゴートを発動したが気付けば既に一体のみの有様である。

345刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:52:15 ID:LPbpj4TY0
「猿ノ小細工ニモ期待できンか!ナらバ揃って死ヌがイイ!」
「勝手に終わりにしないで欲しいんだけど!」

城之内の時程のトリッキーな戦法は無く、デェムシュの中で決闘者への警戒度も多少低下。
見下し敗北を突き付けるが、そんなつまらない最期を共に戦う少女が否定する。

「こんな奴に好き勝手言われたままじゃ、おにーさんだってムカつくでしょ!」

刀身越しに走る痺れで得物を落としそうになるも、決して放すまいと握り締め背後へ叫ぶ。
最初はカードで戦うなんてピンと来なかったし、一緒に戦うのだって群れてるみたいで良い気分じゃなかった。
しかし一度はデェムシュへ食らい付かせてくれた城之内を、片腕が使い物にならなくなって尚大尉に勝利を収めた遊星を。
最後の最後まで降参(サレンダー)を跳ね除け、戦い抜いた決闘者(デュエリスト)達を見て来た結芽だから言える。
きっと此度も、強敵へ一泡吹かせられると。

「…ああ!ここからが、本当の勝負だ!」

仲間からこう言われ、彼女なりの信頼を向けられたなら応えない訳にはいかない。
戦意が燃え上がる、絆を信じる心が新たな可能性を引き寄せる。
覚えのある感覚に逆らわず、勝利への鍵(ピース)を掴み取るべく手を翳す。
これは自分一人の戦いではない。
結芽と、力を貸してくれるカード達と、デッキを遺していった戦友。
たとえ城之内自身はもうこの世にいなくても、決闘者にとって最大の相棒とも言えるデッキがあるならば。
己が魂の叫びに、必ずや応えてくれる。

346刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:54:22 ID:LPbpj4TY0
「――っ!?これは……」

そうして心意は、再び遊星へ微笑む。
無から生み出した、或いは引き寄せた可能性を実体に変えた。
現れたカードはホカクカードでもなければ、城之内のデッキにも存在しなかった一枚。
戦況を変えられるかもしれないが、デュエルモンスターズの宿命と言うべきか。
サテライト・ウォリアー同様、手札から出して即発動とはいかない。
必要なキーカードを揃える必要があり、現状ではただの紙同然。

「俺のターン!ドロー!」

だったら引き当てるまで。
絶体絶命の状況で、一度のドローに全てが懸かった場面は初めてじゃない。
これまでと同じ、デッキを信じるだけ。

「よし…!手札から運命の宝札を発動する!」

サイコロを振り出た目の数ドローを行い、その後同じ枚数をデッキから墓地へ送る。
運次第だが手札補充と墓地の環境調整を同時に行う、起死回生の一手。
出目は3、新たに手札を増やし――勝機を掴んだ。
黒き竜が遊星の元へ渡ったのだ。

「儀式魔法、レッドアイズ・トランスマイグレーションを発動!蒼炎の剣士と手札の真紅眼の黒竜をリリースして、ロード・オブ・ザ・レッドを召喚!結芽!受け取ってくれ!」
「うん!って、なにこれ!?」

先んじて結芽を強化したモンスターと、手札の黒竜を捧げ降臨させる。
但しフィールドにそのまま出すのではなく、仲間への装備としてだ。
結芽が驚くのも当然の反応だろう、てっきり剣を寄越すのかと思ったらまるで違う。
幼い肢体を覆い隠す、黒く輝く竜の装甲。
背には剣のように鋭利な翼を生やし、臀部からは太くうねる尾が出現。
加えて頭部は黒竜を模した兜を装着、両手と顔面以外は全て鋼鉄を纏った。
S装備とも大きく異なる鎧姿の結芽は、困惑を露わに全身を見回す。

別の世界線の城之内が、ドーマの三銃士の一人ヴァロンとのデュエルで召喚した儀式モンスター。
城之内自身がパワードスーツのように装備し、相手プレイヤーとの壮絶な死闘を繰り広げた。
デュエルでありながら、リアルファイトでもある特異性は殺し合いでも健在。
結芽に装備させる形で召喚を果たしたのだった。

347刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:55:09 ID:LPbpj4TY0
「もう!着させるなら先に言ってよね!でも、何かいけそうかも!」
「ガラクタを纏っタ所デ何だトイうのダ!」

予想してなかった為少々抗議を入れるも、切り替えデェムシュへ斬り掛かる。
黒い手袋と違い、仲間との協力があって齎された力だ。
なら抵抗感なしで戦える。
見た目が多少変わった程度で動じないデェムシュの大剣と、御刀が真っ向から激突。

先程までなら力負けし吹き飛んだろうが、もうそうはいなかない。
2400の攻撃力を結芽の元々の強さに上乗せし、大幅な強化が叶ったのだ。
押し負けず拮抗、刀身がギリギリと擦れ火花が散る。
互いに弾かれ、秒と掛けずに再度激突。
デェムシュの薙ぎ払いを劣らぬ膂力で叩き落とし、床を踏み砕きながら突きを繰り出す。

「猿ノ小娘がァッ!!」

切っ先が僅かに触れるのすら許さない、打ち払い反対に首目掛け大剣が駆ける。
甲冑を纏っていようと無関係、隠れた細い首共々粉砕するまで。
2000を超える守備力があっても、デェムシュ相手に慢心は抱けまい。

「猿猿猿って、同じことしか言えないおにーさんの方がお猿さんだと思うなっ♪」

ロード・オブ・ザ・レッドを装備しても、迫り来る死には背に冷たいモノが落ちる。
だが馬鹿正直に緊張を面に出し相手を調子付かせるのは、癪なのでお断り。
小生意気に笑い飛ばし跳躍、シュイムの刀身へと着地。
写シを使用中なのもあるが、鎧を纏っているのに身軽に動ける。
耐久性を犠牲に機動力が低下、といったデメリットは皆無らしい。
生身の時と謙遜ない戦闘が可能ならこっちのもの、刀身から更に跳び上がり頭上を確保。
落下の勢いを利用し刀を振り下ろせば、向こうも咄嗟に得物を翳して防ぐ。

348刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:56:03 ID:LPbpj4TY0
「ヌグ……!」

しかし容易く受け止めた数分前と同じと思ったら大間違い。
斬られはしないが衝撃が伝わり、堪らず後方へよろける。
チャンス到来に畳みかけるべく懐へ潜り込むが、後方へデェムシュが大きく跳び距離を離す。
逃げる為でないのは、周囲に発生した熱と冷気からも明白。
火球と氷柱を同時に連射、ドラゴンフルーツエナジーロックシードの強化を経て数も倍増。
火達磨か串刺しか、どちらであっても惨たらしい最期なのは同じ。

「今更そんなので止まらないよ!」

初戦の時なら厄介と感じたろう光景も、結芽を怯ませる効果は期待できない。
耐久性を過信する気はないけれど、仲間の支援に背中を押されれば後退は選ばない。
火炎と氷結の渦を突っ切れるだけの力がある。
それでも足りない分は結芽自身の技量で補えば良い話だ。

縦横無尽に戦場を駆け、二つの弾幕を斬り落とす。
時折多少の着弾を許すも、ダメージとしては致命傷に程遠く写シも剥がれない。
恐れるに足りないと距離を詰め、自らの刃の間合いへ到達。
いい加減強烈な一刀をお見舞いしてやりたいと、不満が高まっていた所なのだから。

「猿がドれだけ力を付けよウト無駄だ!己が身デ愚カサを知ルガイい!」

氷柱の射出だけが主霊石の全てでない事を、再び体へ教えてやる。
憤怒と共に念じ力を引き出す、先の氷の柱をも超える術が発動。
冷気が彼らの頭上高くへ収束し、絶望の具現化を果たす。
ただひたすらに巨大で無骨な、触れる全ての命を凍てつかせる大剣が出現。

「あそこまでの大きさを…!?」
「ちょっとやり過ぎじゃないのアレ!?」

これまで見せた主霊石の力を遥かに上回る秘奥義。
広範囲の地面凍結も面倒だったが、厄介度で言えば落ちて来る大剣が勝った。
軽く引きつつ文句を言う結芽を尻目に、遊星も目を見開き焦燥感を抱く。

余裕が剥がれ落ちる人間達をオーバーロードが嘲笑い、

349刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:57:15 ID:LPbpj4TY0
「あれって…!」
「ふむ……規模だけなら……童磨にも匹敵か……超えるやもしれん……」
「感心してる場合じゃないですよ!?」

魔法少女と鬼が、敗北の幕引きを打ち砕く。

瓦礫の山を細切れにした黒死牟に並び、いろはもまた一刻の猶予も無いと分かった。
ほんの少し戦場から離れた間に、何やらとんでもない事態になった様子。
単体でここまでの力を引き出す強敵へ身震いするも、慄く為に戻って来たんじゃあない。
気を引き締め、勝負に出るべく手を伸ばす。
自分と彼、凍てつく世界を共に消し去れる筈。

やる気に満ち溢れるいろはと反対に、黒死牟は喧騒をどこか遠くに感じつつ考える。
横に立つ娘からの提案を馬鹿正直に受け入れるのが、本当に己の在り方なのか。
人間と協力するなど、それが確実な勝利に繋がると本気で思っているのか。
もっと自分らしいやり方があるだろう。

食えば良い、肉を喰らって糧にし強くなれば良い。
始祖の血を受け入れ、激痛に悶え苦しんだ末に順応し早数百年。
鬼狩りを斬っては食らい、斬っては食らいの繰り返しで力を付けた。
今までと同じ方法で、人間共を己が勝利の為の礎にする事こそが正しい。
そう嘯く声は自分自身のにも、或いは主の声にも聞こえる。
逆らう理由はない、鬼とはそのような存在だと――

「お願いします!黒死牟さん!」
「……………」

沈んだ思考は、煩わしくも無視出来ない声で引き上げられた。
浮かべた鬼としての在り方は、視界へ映り込む桜色に取り払われた。
六眼を射抜く瞳は出会って間もない時と、自分を助けるとのたまった瞬間から何一つ変わっていない。
こちらが今正に食らおうかと考えていたなんて、微塵も思い付かないだろう。
打算も疑いもなく共に戦えば必ず勝てる、そう一切の澱みが宿らぬ顔で伝えて来る娘に。
己が内で傾き掛けた天秤の重しは崩れ、砂の城ように消える。
本当にこいつは一体何なのだろうか、数えるのも馬鹿らしくなったため息を零し、

350刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:58:17 ID:LPbpj4TY0
翳したいろはの掌に、自分のを重ねた。

コネクト、本来はソウルジェムが核となる魔法少女同士の術技。
一方の魔力をもう片方へ付与し、異なる属性を合わせ高位の力に変える。
インキュベーターとの契約を行った魔法少女、という条件がコネクトの大前提。
しかし檀黎斗のゲームでは、神浜市での前提が大きく覆る。
例を上げれば七海やちよと千代田桃。
冴島邸前で起きた戦闘で、彼女達は魔法体系が全く異なるにも関わらずコネクトを発動させた。
魔力か類する力があるなら、インキュベーターと契約した魔法少女でなくともコネクトは可能。
黎斗がそのように調整を行った証拠である。

いろはが黒死牟とのコネクトが可能となった要因は、主に二つ。
黒死牟に限らず無惨配下の鬼は、血鬼術と呼ばれる異能力を使う。
体内を流れる鬼の血、若しくは目に見えぬ形で溜め込まれたエネルギープールか。
いずれにしろ術の発動に必要不可欠な力の源が、魔力の代用となった。

もう一つはデェムシュの手から離れ、先程回収した武器。
ザンバットソード、ファンガイアの王の為に作られた『キバの世界』にただ一つの魔皇剣。
その刀身は魔皇石の結晶から削り出された為、剣自体が強大な魔皇力が宿っている。
異なる魔力を組み合わせれば暴走の危険性も無視出来ないが、鍔のように噛み付く巨大蝙蝠が問題をクリア。
幻影怪物ザンバットバットは元々、魔力のコントロールを目的に生まれた存在。
所持者が紅渡でなくとも役目を果たし、コネクトを成功させたのだった。

熱を帯びた魔力が流れ込む。
全集中の呼吸による、血液が沸騰する感覚とはまた違う。
自身を狂わせた弟の、魂までもを焼き尽くす日輪の熱さでもない。
暖かさと言った方が正しい熱は、人間ならばきっと心地よさを覚えるのだろう。
鬼である黒死牟にとっては相容れぬ、纏わり付くようで鬱陶しさがあった。

351刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:59:03 ID:LPbpj4TY0
されど、力を齎したのも事実。
地上の猿に終焉の刻を与える大剣を見上げ、魔皇剣が半月を描く。

桜が舞った。
死を運ぶ三日月は現れず、無数の花弁が氷の剣を覆う。
永遠に凍り付く世界を否定し、暖かき季節の到来を思わせる光景。
幻想的なれど、真紅の騎士には猿の三文芝居以外のなにものでもない。
そんなもので何が出来る、自分を笑わせるのが目的かと嘲る。

「ナん…だト……!?」

凍り付いたのは憎たらしい猿達ではなく、醜悪なデェムシュの笑い。
地上への到達を待たずして氷の大剣が砕け散る。
降り注ぐ凶器にすらなれず、破片も残さず切り刻まれた。
何が起きた、あれは何だと混乱が湧き上がるも長続きしない。

「ぬグオ!?」

桜吹雪はデェムシュにも殺到し、真紅の肉体を余す事無く隠す。
胴を、四肢を、首を、頭部を、得物を撫でられ嫌でも気付かされる。
花弁一枚一枚が、全て凶器なのだ。
三日月状の極小の刃を桜色の魔力が多い、舞い散る花弁を模った。
全身を絶えず斬撃が襲い、無数の細かな剣が外殻を削り取る。
シュイムを振るい叩き落としても終わりが見えない、氷の大剣と同じになるまで続くと言うのか。

「舐めルナ猿メェッ!!!」

気体化し回転、全身を赤い竜巻に変え花弁を吹き飛ばす。
範囲に優れる力が使えるのはこちらも同じ、対処出来ない道理はない。
桜吹雪が儚く消え去り、残ったのは無数の細かな傷こそ負ったが五体満足のデェムシュ。

352刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:59:43 ID:LPbpj4TY0
「下ラん!猿ノ茶番で俺を――っ!?」

言葉が途切れ膝を付く。
プライドの高いデェムシュらしからぬ醜態へ出る程の異変が、体内で起きている。
数百枚に及ぶ花弁を消し去ったが全てじゃない。
ロックシードを食らい進化しても消えなかった傷痕から入り込み、十数枚の刃が内側で暴れ狂っていた。

「う、ゴ、オぉオオオオオオオオオオオッ!?」

如何に進化体のデェムシュと言えども、体内の強度は変えられない。
鬼の刃が刻み、魔皇力が蝕み、魔法少女の魔力が焼く。
それぞれ異なる世界の力が合わさり、オーバーロードを勝利から引き摺り落とす。
胸部の傷痕は範囲を広げ続け、内側から深い裂け目を生み出した。

「こ…ノ……程度がどウした……!!」

人の体でなくとも重傷なのは、誰の目にも明らか。
だがデェムシュは激痛をも怒りで塗り替え、戦闘続行を選択。
フェムシンムである自分がこの島に来てから、未だ只の一人も殺せていない。
放送を超えても猿へ屈辱を味合わされ、沢芽市を襲った時以上の激情が湧き上がる。

だから撤退は選ばない、選べない。
戦士としての合理的判断を捻じ伏せ、殺意の二文字が脳内を支配。
殺す、今度こそ憎き猿共を一人残らず殺す。

「死ヌのハ貴様ラだ猿!!」

怒声を放ち向かって来る異形を前に、黒死牟は構えない。
妖刀と魔剣、己が手にある得物はどちらも下げたまま。
直に殺意を浴びせられたなら、同様に殺意で以て応えねば不作法。
だというのに刀を抜かない理由は、無限城の最期が後を引き未だ戦意を取り戻せないから。
或いは、自分以外の者が決着を付けると理解した為か。

353刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:00:31 ID:LPbpj4TY0
「だーかーらー、二回も言わせないでよ」

異形の前に躍り出たのは、黒竜の甲冑を纏いし刀使。
頬を膨らませ不満を露わにしつつも、発する空気は抜き身の刃の如き鋭さ。
細めた瞳は赤い強敵をしかと捉え、一挙一動を決して見逃さない。

「そっちから喧嘩売っといて、無視するのはマナー違反だよね?」
「知ルか猿がァっ!!!」

元より猿との会話は求めない。
多少順番が入れ替わっただけで、黒死牟も結芽も殺したい相手なのに変わりはない。
主霊石を砕けん程に握り締め、氷柱の剣山を足元に生成。

「さっきも言ったでしょ!今更この程度じゃ止まらないって!」

翼を広げ猛加速、立ち塞がる剣山を豪快に斬り砕く。
チマチマ小細工で勝って嬉しいのかと、そう言わんばかりに不敵な笑みを見せる。
舐められたと、デェムシュの怒りを引き摺り出す効果は抜群。
猿の驕り共々打ち砕く刃を振り下ろし幕引きだ。

(思い出せ――)

病ではなく怪物の手による死が迫るも、焦燥は抱かずじっと見据える。
脳裏へ浮かぶのは数時間前の、上弦の壱との斬り合い。
ほんの一瞬だけ到達した世界へ、今再び踏み込まんと臨む。
闘争への歓喜が灼熱となる心はそのままで、脳は波立たぬ水面のように。
五感全てを、目で見える以外の情報を余さずに受け入れる。

354刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:01:06 ID:LPbpj4TY0
剣が迫る、動かない。
剣が迫る、恐怖や焦りを排除。
剣が迫る、だけど心の火は絶対に絶やさない。
剣が迫る、

(――――――見えた)

1秒にも満たない、瞬きしたら終わってしまうくらいに短い。
六眼の侍の領域にはまだまだ遠く及ばないけど、でも。

「――――――ッ!!!!!!!???!!」

シュイムが食い破る筈の娘は、僅か数歩で位置を変え回避。
霞を払ったとしか思えぬ手応えの無さに、空振りの理解すら叶わない。
魔法少女と鬼が作り上げた裂け目へ、深く深く刃が捻じ込まれ。
逃れられない終わりを、確かに届けた。

「オ……オ…ォ…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

死ぬ。
底抜けの器から水が溢れるように、デェムシュを生かす力が抜け落ちる。
ヘルヘイムの侵食に適応出来なかった弱き種族と同じ、死という結末が足音を立てやって来る。
認めない、何度突き付けられても認めはしない。
朽ち果てるのを待つ身のどこにまだ、抗えるだけの力が残っていたのか。
狂ったように火球をばら撒く。

壁や天井を片っ端から壊し、日の光で照らし尽くす気か。
許し難い鬼だけでも殺すつもりだろうが、望んだ展開にはさせない。
幾度も斬り合い、散々暴れ回ったのが原因でデェムシュのデイパックに切れ目があった。
そこから落ちて床に転がった支給品を、遊星が駆け出し掴む。
ウィザードに変身中なのもあって、生身以上の走力を発揮。
火球の巻き添えになる前に確保に成功、どんなアイテムかもシーブロックと呼ばれる視覚機能で遠目に確認済だ。

355刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:02:18 ID:LPbpj4TY0
「フィールド魔法、闇を発動!」

宣言と同時に病院を含めた付近一帯が闇に覆い尽くされる。
名前の通り、フィールドに闇を展開するデュエルモンスターズのカード。
特定種族へ微々たるものだが強化を行う、という効果以上の恩恵がこの状況。
ドームのように広まった闇は太陽光を遮断し、鬼の天敵を寄せ付けない。

「アンタが持ってた方が良い筈だ」

投げ渡されたカードを咄嗟に掴み、目を細め手元に視線を落とす。
こういった道具を主は強く欲するだろうに、よもや自分の方が先に手に入れるとは。
何とも言えぬ思いがよぎるのも束の間、黒死牟の意識を騎士の声が引き戻す。
消滅の時へ必死の抵抗を続け、未だ生へしがみ続けている。
頸を落とされ抗った末の崩壊を想起させ、苦々しさに頭蓋が軋んだ。

「死なン…!猿如キに俺が殺さレルもノか……!」

火球を放ち牽制しつつ、全身へ伸びる冥府からの手を振り解く。
人間達の足を止めた隙に、赤い霧へ変化し天高く飛び上がる。
今しがた開けたばかりの穴から脱出、脇目も振らずに遠ざかって行った。
眼下で起こる喧騒には最早、気を割く余裕がない。

「ふざけんな!(迫真) 一人だけ勝手に逃げるとか頭に来ますよ!」

協力相手の逃走は野獣先輩にも見え、勝手な行動へ憤りを隠せない。
しかも一人も殺せておらず、とんだ役立たずだと届かぬと分かっていながらも罵声を放った。
その間、戦闘の手は休めず二人のライダーと鎬を削る。
キングフォームの能力とスタープラチナを駆使し渡り合う、だが結芽達が加勢に来れば流石にこちらが不利。
自身も撤退を視野に入れつつ、ただせめて一人くらいは仕留めておきたい。

356刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:03:05 ID:LPbpj4TY0
「「スタープラチナ・ザ・ワールド」」

重なる声が合図となり、時は二人の男以外の侵入を阻む。
スタンド同士がラッシュを繰り広げる一方で、本体も得物を用いて激突。
打撃の嵐を黄金の大剣が捌き、至近距離で放った電撃をツインブレイカーが強引に薙ぎ払う。
2秒を超える時の支配は共に不可能、再び動き出した世界で野獣先輩が一手早く動き出し、

「ロード・オブ・ザ・レッドの効果発動!」
「りょーかいっ!」

決闘者の宣言が好き勝手に歯止めを掛けた。

自分以外のモンスター効果・魔法・罠の発動があった時、そのカードかフィールド上のモンスター一体を破壊する。
1ターンに一度という制約こそあれど、シンプルながら強力な効果だ。
スタープラチナの時間停止を遊星は正確に把握してないとはいえ、度々奇怪な現象を見れば凡その察しは付く。
今回は野獣先輩を対象に発動、ロード・オブ・ザ・レッドを纏った結芽が飛翔。
全身に火炎を纏い急降下、汚らしい身を包んだ黄金を叩っ斬る。

「アツゥイ!」

どこぞの日本ペイント社員のように、ゲスく汚い悲鳴を上げる。
重厚な鎧を着込んで尚も殺せぬダメージに悶えるも、ホモ特有のしぶとさで反撃に出る。
ただでさえ放送前からメスガキに余計な邪魔をされ、今もまた別のメスガキの妨害を受けた。
怒り向けるすメスガキの片方が、いろはの探す柊ねむだとは知る由もなく。
仮面の下で修羅の形相を作り、キングラウザーにラウズカードを装填。

357刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:04:15 ID:LPbpj4TY0
『SPADE 10』

『JACK』

『QUEEN』

『KING』

連続でスロットに読み込まれ、封印されたアンデットの力が刃に宿る。
トライアルシリーズを一刀の元に下した、必殺の剣を放つ時だ。
剣崎と同様の適合率を得た野獣先輩が振るえば、本来のブレイドにも並ぶ威力を叩き出す。
小賢しいメスガキを骨まで焼き尽くす光景を想像し、あくどいしたり顔が浮かんだ。
残り一枚の装填で以て、ロイヤルストレートフラッシュは完成。

『JACK RISE』

「ファッ!?」

しかし最後のエースを読み込む寸前、槍がカードに突き刺さり阻止。
決めの一手を装填出来なければ、必殺の光刃も生まれない。

「やられっ放しは性に合わないものでしてね。一泡吹かさせてあげましょう」

してやったりの笑みを仮面越しに浮かべ、ラウズカードのデータを抽出。
変身時にもカードを使った事から、プログライズキーのような力の核となる物だと天津は察知。
半分以上は賭けに近い形であれども、結果は成功だろう。
単なる紙ではなく、BOARD製のシステムに読み込ませる為のデータが組み込まれている。
であれば、データ抽出の機能を持つサウザンドジャッカーの出番という訳だ。

『JACKING BREAK』

奪ったデータを早速使い、青いエネルギーを武器に付与。
ヘラクレスオオカブトの顎を思わせる光剣に変え、ブレイドへ振り下ろす。
自身の力の源を利用した攻撃に怯み、機を逃さず承太郎が仕掛ける。
追撃はさせじとスタープラチナを出現、反対に殴り飛ばしてやろうと拳を放った。

358刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:05:11 ID:LPbpj4TY0
「オラァッ!」

が、ダメージに怯んだ為一手遅く相手の打撃を許してしまった。
スタンドの頬へ当たる、同じスタンドの拳。
本体へダメージが走り小さく呻くも、たった一発で勘弁してやるつもりはない。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
「ンアッー!」

同性能のスタンドだろうと反撃もままならないなら、ほんのちょっぴり頑丈なサンドバッグに過ぎない。
敵スタンド使いを再起不能へ追いやったラッシュが打ち抜き、偽りの星を砕く。
派手に吹き飛び柱へ激突、バックルが外れ元のうんこの擬人化のような身を晒した。

「アーイキソキソ……」

ホモセックスの絶頂を訴えるように、痛みへ喘ぐ。
漏れ出す声は汚いが、暫くは動けまい。
これで残るは病院の外で戦闘中のライダーのみ。
全員でキャルの加勢に行けば、数の差で一気に終わらせられると考え、





空気が一変した。





傷一つ付けられていない、触れられてすらいない。
だというのにこれは何だ、何が起きている。
全身の皮を剥ぎ、健を断ち、骨を刻まれたに等しい痛みが。
ただそこにいるだけで死を予感させる怪物が、姿を現した。

「は…………?」

呆けた声を誰が発したのかを、探る様子は見られない。
脳の処理が追い付かない光景を受け入れるまで、待つ余裕すら与えない。

命を繋ぐ医師の戦場へ足を踏み入れ、継国縁壱は静かに見やる。
血を分けた、嘗ては己と同じ顔の兄を、その瞳は鮮明に映し出した。

359刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:07:06 ID:LPbpj4TY0



想定外の事態に陥れば凍り付くのは、人間も化け物も同じらしい。
思考の片隅へ浮かんだ雑念を、自分の考えながら他人事のように感じる。
闇が覆う空間でただ一人、生命を等しく焼き焦がす熱を放つ男。
ただ現れただけで戦場を支配下に置いたその者を、黒死牟が見間違える筈がない。

「縁壱……」

喉を震わせ、絞り出した声に宿るモノの正体が分からない。
自分が今、どんな顔を浮かべているのかも気付けない。
人を捨てた証である六つの眼が、瞬きを忘れたように男を捉える。
額と顎の、火炎の如き痣。
日の出を模した耳飾りも、己を真っ直ぐに射抜く瞳の色も。
何もかも全てが、記憶に焼き付く姿と変わっていない。
両親、妻子、仕えた部下や嘗ての同胞、糧に変えた鬼狩り達。
顔を削ぎ落とされた亡者が蠢く中で唯一、百年を超えても鮮明に映し出される弟が。
目の前に、いる。

四百年前、赤い月の下で果たした再会とは違う。
突けばへし折れる枯木のような老爺は、影も形も存在しない。
ただの人間だった頃、妻子との穏やかな生活で心を誤魔化した己を再び狂わせた時と同じ。
若く生命力に満ち溢れた肉体で、縁壱は現れた。
現実を生きるならば有り得ぬ再会、獄卒共が仕組んだ幻影の類。
そう断じる事が可能であればまだ慰めになったろう。
自分も弟も生きている、生きて神の作りし遊戯盤に招かれた。
荒唐無稽な夢現ではないと、どうしようもない程に理解している。
しているからこそ、受け入れるには多大な苦痛が伴った。

僅かに視線を逸らせば、血の滲んだ着物が映る。
ドクリと、心臓が鬱陶しい程に大きく跳ねた。
縁壱自身の血というなら、俄かには信じ難い。
たとえ異界の地に鬼とも違う魑魅魍魎が跋扈するとて、縁壱へ並ぶ存在など有り得ないだろう。
他者の血であれば、それもまた容易く受け入れられる類に非ず。

360刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:07:48 ID:LPbpj4TY0
「兄上」

たった二文字を口にし、その声もまた記憶の中の弟と変わらないと分かり。
やはり今、自分の前に立つのは縁壱なのだと突き付けられた気分だった。
周囲から息を呑む気配が複数感じるも、気を割くのは不可能。
同じ女に産み落とされた男以外に、何一つとして見れない。

自身を呼ぶ声と僅かに揺れる瞳に宿す、憐れみと嘆き。
嘗ての再会時にも味わったソレが、もう一度黒死牟へ届けられる。
弟からの憐憫など、本当なら憎悪を燃やす薪に等しい。
けれど、怒りを抱けないのもまたあの夜と同じだった。
涙こそ流れていないが、薄気味悪く思っていた弟が人間らしい感情を面に出す。
赤き月が見下ろす夜の再現とも言える光景へ、訳の分からない動揺に心が波打つ。

だが忘れるなかれ、再会を仕組んだのは慈悲深き神仏に非ず。
兄弟を中心に戦場は徐々に熱を取り戻し、周囲の者達も我に返る。
病院へ顔を出した男と黒死牟の関係は今の今まで知らずとも、明確な情報が一つ。
縁壱と呼ばれた剣士は間違っても手を取り合う為に来たのではない、神の傀儡に他ならない。

「――――――」

意識が切り替わった時にはもう遅い。
音もなく眼前へ立つ男へ、いろはが何かを思う暇も与えない。
フッと、体が軽くなった感覚を覚える。
同時に複数の物体が赤を撒き散らし宙へ舞い上がり、それが自分の両腕の成れの果てと気付き、

「あ……」

痛みすらも置き去りに、細く白い首へ刃が食い込む――

361刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:08:33 ID:LPbpj4TY0
「っ!!!」

正にその寸前、日輪刀が弾かれた。
余りにも馬鹿げた、鬼殺隊の者が見たら愕然とする他ない光景だろう。
鬼を滅ぼす刀が少女の命を刈り取らんとし、人を殺す鬼の刀が少女の命を繋いだ。
人間と鬼の在り方を根底から入れ替えた兄弟は、先程よりも距離を詰め互いを見やる。
僅かに目を見開くも、錯覚と抱き兼ねない速さで縁壱は元の表情を取り戻す。
生前幾度となく見た、鬼狩りに臨むのと寸分違わぬ殺意。
これぞ弟が檀黎斗の手に堕ちた確たる証であり、黒死牟の魂へ亀裂を生む。

「…っ!いろは!」

ウィザードの動体視力があっても、状況把握に遅れが生じた。
自分への叱咤も後回しにし、遊星は仲間の元へ急ぎ駆け寄る。
結芽もまた倒れたいろはへ急行し、彼女には珍しく焦った表情で覗き込む
肩から先を失い、流れ続ける血が純白のフードを赤く染める。
断たれてこそいないが首からも出血し、容赦なく体力を奪う。
誰がどう見ても、失血死は免れない有様だった。

「結芽、俺を治した道具は……」
「もう無いよ!あれ一個しか入ってなかったし……」

右腕を再び使えるようにしたアイテムは、生憎遊星に使った分のみ。
治療手段が手元にない、このまま仲間が力尽きるの見る以外に何も出来ない。
喪った戦友たちの顔が次々浮かび、彼らと同じ場所へ旅立つのは時間の問題。
かといって、はいそうですかと諦めるのはお断り。
ドローすると狙ったように、体力増強剤スーパーZを引き当てた。
本来の使用方法とは大きく異なり焼け石に水だが、使わない選択肢はない。
何より、無意味でもなかった。

362刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:09:08 ID:LPbpj4TY0
「ありがとう……ございます……」
「おねーさん大丈夫なの…!?」

驚く結芽へ弱々しく微笑みむも、嘘を告げてはいない。
意識が急激に薄れたが遊星のお陰で、どうにか持ち直せた。
後はいろは自身が死を跳ね除ける為に、己の持つ力を行使。
固有魔法で負傷箇所を治療し、元の形を取り戻さんとする。
本来は手を翳し発動していたが、両腕共に欠損中の為相応に集中力が要求された。
決して楽ではないが腕を取り戻さなくては、出来る事も大きく減る。

固有魔法の恩恵もあり、どうにか死は免れた。
尤も、ソウルジェムさえ無事なら魔法少女は死に至らないが。

但し状況は好転せず、むしろ更に悪化し始める。
縁壱の参戦やいろはの負傷へ天津達の気が逸れた瞬間、野獣先輩が痛みを押し殺し立ち上がったのだ。
如何なる時もホモセックスのタイミングを冷静に見極める、淫夢の住人らしい観察力と言えるだろう。

「待て貴様…!」
「おう、やだよ」

ブレイバックルを回収するも再変身はしない。
キングフォームは時間制限を設けられており、連続使用は不可能。
ではもう一度スタープラチナを使うのかと言うと違う。

野獣先輩新説シリーズの恐ろしさは、スタンド使いになれるだけではない。

363刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:09:50 ID:LPbpj4TY0
「いきますよー、いきますよーイクイク…ヌッ!(覚醒)」

自らに眠るより巨大な力を引き出し、ホモのクッソ汚い肉体をより高位の存在へ変える時だ。
放つ光はさながらGOを思わせ、まるで神にでもなるかのよう。
否、野獣先輩は本当に神になろうとしている。

「なっ…!?全員逃げろ…!」

急激に増すプレッシャーと膨れ上がる体躯へ、マズい事が起きると嫌でも分かった。
お互いのみへ意識を割き斬り合う継国兄弟は、とっくに場を屋外へ移している。
残る者達へ退避を促せば、全員天津同様に悪い予感を感じ取ったのか言う通りに行動。
自身の回復で動けないいろはを結芽が運び、急ぎ屋外へ出る。

「お ま た せ」

直後、ロビーを破壊しながら現れた影が天高くへ上昇。
最早そこに人らしい形は微塵も存在しなかった。
赤い胴体は大木よりも太く、神話の蛇の如き長大。
しかし人類史に刻まれた姿と違い、前脚と巨大な翼を兼ね備えた竜にも見える特徴。
頭部もまた西洋の竜や東洋の龍のどちらとも違う、上下二つの顎を持つ。
伝説上の凶悪なモンスター、と呼ぶには些か語弊がある。
モンスターではなく、神と言うのが相応しい。

野獣先輩オシリスの天空竜説。
その名の通り、野獣先輩の正体は三幻神の一体オシリスではないかと提唱する説。
ウルヴァリン説やメタモン説、情報生命体説と並ぶ最有力説だ。

決闘都市(バトルシティ)で遊戯の手に渡った神が、戦慄を抱き見上げる者達を嗤う。
一人残らず願いの為の生贄と見定め、咆哮が響き渡った。

364刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:10:50 ID:LPbpj4TY0
「いったいわねぇ…!あーもう!何かまたヤバいのが出て来てるし!」
「キャルおねーさん?もしかして苦戦中?」
「もしかしなくてもそうよ!あいつがちょこまかウザったいせいでね!」

オシリスの出現へ呆気に取られる最中、結芽達の傍へ少女が痛がる素振りを見せつつ後退。
どうにか滅を病院から引き離し戦っていたキャルだ。
巨体と頑強な皮膚で持ち堪えたものの、ラビットフォームのエボル相手に翻弄。
おまけに自分とは違う巨大生物が出て来た為、何事かと振り返った所へキツい一撃を貰った。
等身大サイズなら重症か死は確実だったろうが、トライキングの打たれ強さもあり致命傷にはなっていない。
変身解除で済んだとはいえ、痛いのは本当なのでこれっきりにしたい。

「あん馬鹿デカいのと戦える奴って言ったら、一人しかいないじゃないのよぉ……」

病院に集まった者達が弱いとは思わないけど、オシリスと戦うのに誰が適してるかは考えるまでもなかった。
うんざりしつつも、他の連中に押し付けて逃げる気にはなれない。
昔の自分ならそうしたろうけど、美食殿の仲間達に何だかんだ影響を受けた今は別。
見ればいろはは徐々に回復中であるも、両腕を失っていた。
結芽達も大なり小なり疲弊が確認でき、残る六眼の侍は斬り合いの真っ最中。
というか放送で紹介された敵キャラクターまでおり、何故こうなったのかを問い質したい。

「ま、生きてりゃ後で幾らでも文句言えるか」

ウルトラゼットライザーにメダル三枚をセット。
トライキングへの変身ならこれで問題ないが、今回は更に二枚を追加。

365刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:11:22 ID:LPbpj4TY0
『Gan-Q.』

『Reicubas.』

「全員あたしに力を貸してもらうわよ!」

『Five king.』

光が包み、獣人の少女は見上げる程の巨体へ変化。
トライキングの時と同じ特徴を持ち、尚且つ新たな力が発現。
右腕には巨大なハサミを、左腕には血走った眼球をそれぞれ融合。

三体の怪獣の融合体へ加わるは、嘗てウルトラ戦士を苦しめた力。
戦国時代の呪術師の成れの果て、ガンQ。
南極の海水温度上昇による地球水没工作を行った、レイキュバス。
上気二体を取り込んだ超合体怪獣、ファイブキングが天を睨み上げる。
ウルトラマンZを追い詰めた時とは変身者が違う、故に仲間を守る為の死闘に臨むのだ。

「悪いけど、そっちはお願いね!」

瞳は神に向けたまま言い放ち、被膜を広げ飛翔。
本来よりサイズダンしていても、巨体同士の激突に地上へ衝撃が走る。
と言っても揺れる大地へ慌てる場合じゃあない。
キャルが言った通り、天津達が戦うべき敵はまだ健在。
両刃の斧を振り被ったライダーが狙うはサウザー。
仮面諸共叩き割る勢いの斬撃へ、サウザンドジャッカーを翳し防ぐ。

366刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:12:12 ID:LPbpj4TY0
「やはり貴様か、天津垓。丁度良い。新たなアークを生み出し兼ねない人間は、優先的に消すに限る」
「……滅。悪意の監視者である君は一体いつから、こうも乱暴なやり方になった?」
「何の話をしている?そもそも、貴様が俺のやり方をどうこう言えたクチじゃないだろう」

得物を挟んでの問い掛けに、返答は実ににべもない。
惚けてる様子も見られず、どうやら本当に天津の質問の意図を理解し兼ねている。
この滅は天津が知るよりも過去、まだ或人と和解する前の時間軸から連れて来られたと察しが付く。
当たって欲しくなかった予想が現実になり、原因を作った神の高笑いがありありと浮かぶ。
怒りをぶつけるのは直接対峙した時にだ、まずは現状をどうにかしなくては。

天津の言葉に疑問を抱くも、些事と切り捨て蹴りを叩き込む。
脇腹への衝撃に怯んだ所へ斬り込むが、させじともう一体の黄金のライダーが妨害。
回転数を速めた杭の一撃が斧を押し返し、互いに距離を取って仕切り直しだ。

「アンタの話じゃ、滅ってのは信用できる奴じゃあなかったか?」
「少なくとも、彼が死後に参加させられたならそう言えたよ。残念ながら、過去に色々あった時の彼らしい」
「ならブチのめして、動けなくするしかねぇんだな?」
「…もし私の知る限り最悪の時期の彼なら、言葉では止まらないだろうからね」

声色に含まれた敵意の鋭さには覚えがあった。
仮に最も憎悪に満ち溢れた、迅を或人に破壊された時の滅だとしたら。
迅の復活が可能だと伝えても、止まるかどうか自信は正直ない。
説得が不可能である時は、力づくで大人しくさせる野蛮な方法に出る他なかった。

憂鬱気ながらも構える天津に並び、承太郎もスタンドを傍らに出現。
自分の場合で言うなら、肉の芽を植え付けられた頃の花京院やポルナレフと再び戦うようなものか。
いずれにしろ、殺し合いに乗ってるなら天津の仲間だろうと容赦は出来ない。
人類滅亡を掲げる憎悪を、砕けぬ精神で迎え撃つ。

367Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:14:10 ID:LPbpj4TY0



男達が斬り合っていると視認できる者が、果たして何人いるのやら。
得物を握って振るう、単純な動作なれど極めれば只人が捉える事は不可能。
肘から先が消え、金属をぶつけたのに似た音が繰り返される。
与えられた時間全てを鍛錬に費やした達人でさえ、そう言うのが精一杯。
人でいられなかった鬼と、生まれながらに鬼を超えた人が刃を交わす。
兄弟共に、剣以外に語らう術を知らぬとばかりに。

得物を抜いた瞬間より、黒死牟は攻勢を保っていた。
一呼吸の間すら腕を休めず、ただひたすら何もさせじと振るい続ける。
斬撃一つの度に細かく狙いを調整し、一定方向からは刀を走らせない。
常に軌道が変化し四方八方から迫る刃は、複数人を相手取っているかのよう。
正面を凌げば既に次の剣が三つ四つ纏めて襲い来る。
躱す、防ぐ、受け流す以外に何一つ許しはしない猛攻であった。

縁壱は防戦一方で手も足も出ない。
と、楽観的に言う者がいれば黒死牟は心底の侮蔑を籠め、「節穴」と返す。
これだけの剣を振るっても届かない、未だ着物の端すら裂けない。
並の隊士であればとうに千を超え殺された刃の嵐も、吹けば消える霧雨に等しい。
その証拠に見るがいい、受けに徹した縁壱が動きに出る瞬間を。

するりと、僅かな裂け目を抜け一歩踏み込む。
眼球の浮かぶ鬼の刀は、熱に浮かされた宙を空しく斬って終わる。
手元へ引き寄せるまでの数秒にも満たなない中、六眼が捉えるは輝く刃。
灼熱を纏いし日輪刀が、死を運び己が頸へと疾走。

368Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:14:49 ID:LPbpj4TY0
――壱ノ型 円舞

両手持ちに変えた日輪刀で円を描き振り下ろす。
文字にすれば単純な技なれど、恐るべきは速さ。
たった一振りで爆発的な加速が発生、描いた円が太陽同然の高熱を帯び襲い来る。
頸を刀身が撫でたが最後、積み上げられた鬼の屍に実の兄も加わるだろう。

――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮

瞬き一つ終えた直後に訪れる末路を、狂月が噛み砕き否と唱える。
月の呼吸の基本となる型にして、瞬間的な速度では随一。
居合斬りを異次元の速度で放つ事で、技の完成度を脅威となるまでに昇華した。
霞柱の片腕をも奪った剣を此度は弟へ放つ。

日と月が互いへ牙を突き立て、示し合わせたように揃って得物が弾かれた。
瞬き一つを終えるよりも早く、縁壱が片腕を引き戻す。
瞳に映らずとも周囲へ生み出された、三日月の大群。
鬼殺隊の呼吸法とは違う、血鬼術と組み合わせ発生させる刃の檻。
初見での回避は柱でさえ難関であるが、日輪にとっては宙を舞う葉も同然。
兄から視線を逸らさず、得物一振りで難なく打ち払う。

――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鞘

技を打ち破られたとて、身を強張らせる無駄な動きには出ない。
大量の三日月を引き連れた半月が二つ、回転しながら襲う。
片方への対処に意識を割けば、もう片方が臓物の雨を降らす。
名も顔も忘れた鬼狩り達同様の決着は、当然の如く訪れない。

369Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:15:46 ID:LPbpj4TY0
――弐の型 碧羅の天

どちらか一方のみへ意識を割くのが危険であるなら、両方纏めて消し去るだけ。
見えているかのように浮かぶ刃群を避け、刀が再び日を生み出した。
空へ描いた円は、月を飲み込む冥府への入り口と化す。
夜を終わらせる為の剣は勢いを落とさず、鬼の頸元へ死を運ぶ。

――肆ノ型 灼骨炎陽

渦を巻き走る火炎と見紛う斬撃が、前方広範囲へ放たれた。
退けば即座に追い付かれ、無謀にも挑めば自ら身を焼き焦がす自害行為に他ならない。
どちらにせよ待つのは地獄、しかし鬼に後ろへ下がる選択肢はない。

――月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月

半月が複数重なり合い、参の型を超える巨大な刃を造る。
アスファルトで舗装された地面が、豆腐を崩すのにも等しく粉砕。
眼前より迫り肥大化する太陽を削り取らんとし、相手もまた叩き砕くべく前進。
打ち勝ち我が道を突き進むは日輪、阻む全てを薙ぎ払う勢いで黒死牟に接近。

飛び退き背を向けるか?いいや、しかと見えた。
こちらの技を捻じ伏せた太陽の勢いが、僅かであるも衰えたのを。

管が裂けんばかりに得物を握り、針の穴にも満たない一転狙いで振り被る。
鬼の膂力を十全に乗せ、尚且つ音を置き去りにする速さ。
太陽を真っ向から崩し、猶予は与えられず幾度目かの剣戟が再開。

自身の頸へ刃が添えられ、いつ骨まで断たれてもおかしくない緊張感。
付き纏う死の気配に蝕まれながらも、黒死牟の剣には揺らぎが一度も生じない。
意識全てを弟との闘争に割き、五感と直感から得られる情報を余さず拾い戦術を構築。
鬼殺隊指折りの柱ですら、無茶と言わざるを得ない動きで実行に移し続けた。

370Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:16:30 ID:LPbpj4TY0
縁壱相手に食らい付き、戦闘を展開出来ている。
産み落とされた瞬間から神の領域へ座す男相手に、未だ無傷で持ち堪える。
仮に数時間前の黒死牟が聞けば、戯言と一蹴するだろう。
幼き頃より日と月の差は絶望的なまでに開き、永遠の時を経たとて埋まらない。

しかし黒死牟が一太刀で全てに決着が付く程の塵芥かと言うと、それも否である。
四百年間、屈辱に身悶えしながら胡坐を掻き続けたのではない。
死に物狂いで鍛え抜いた、技を更に高位へと磨いた、多くの鬼狩りを斬った、柱を捻じ伏せ肉を喰らった。
勝利への執着が強さの獲得を一度たりとも忘れさせず、殺した何もかもを己の糧に変えた。
枯れ細った弟の剣を浴びた頃以上の強さを、今の黒死牟は確かに手に入れている。

だが最も大きな理由は肉体的な強さや技の手数ではなく、精神に由来するもの。
理由の分からぬままいろはを助けた一件を除き、常に受け身の姿勢だった。
襲われたから戦う、例えるなら決まった反応以外不可能な人形。
戦意を大きく欠いたままでは、勝てる戦闘も本来なら敗北以外ない。
上弦の壱として並の枠に収まらない力があったから、どうにか生き残って来ただけだ。

6時間が経っても暫くは変わらない状態が続いたが、弟の再会が遂に戦意へ火をつけた。
敵へ踏み込み、剣を振るい、時には最小限の動きで躱す。
動作全てが油を差し込んだようにキレを増し、これまでとは別人と疑い兼ねない力を発揮。
練り上げた呼吸の精度は、生前最後の無限城での決戦すら超える勢い。

では黒死牟をそうまで動かすモノとは、一体何なのか。
勝ち逃げ同然に先立たれた弟との、再戦の機会が巡った事への歓喜?
嫉妬に狂わせた元凶へ必ずや剣を届かせる、醜く膨れ上がった憎悪?
それとも、魔法少女に手を掛けられた怒りという、遥か過去へ捨てた人間らしい使命感?

どれも違う。
黒死牟を突き動かし、生前を超える力を齎す正体とは――

371Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:17:46 ID:LPbpj4TY0
(何故私は……こうも焦りを覚えている……?)

彼自身にすら理解不可能な、焦燥感。
戦闘の為に無駄を一切合切削ぎ落とした思考とは裏腹に、心は指でかき混ぜられたように荒れ狂う。
余裕の二文字など、縁壱の姿を見た瞬間に崩れ去った。

あの時、いろはが両腕を細切れに変えられたあの瞬間。
六眼が捉えた現実の光景に、猛烈なまでの拒否感を覚えた。
言動も行動もまるで理解出来ない娘だが、善性の強い人間だとは自分でも分かる。
本来なら、縁壱が剣を向けるなど天地がひっくり返っても有り得ない。
むしろ率先し守るような人間であり、鬼の自分と行動を共にする方が不自然。
そのいろはを斬り、殺す寸前までいった時の目が忘れられない。
人を喰らう鬼に向けた、存在してはならない者へ向ける目。

神の傀儡へ堕ちた以上、十分予想出来た展開だ。
自分や主のみならず、屠り合いの参加者全員が縁壱にとっては滅ぼすべき鬼。
分かっていても、受け入れられるかは全く別の話。
縁壱がいろはを、病院に集まった同じ善側の人間を殺す。
すぐにでも訪れるだろう未来に、己の内が軋み絶叫を上げた。
気付けば思考は焦燥に駆られ命令を下した、それだけは認めらないと。

(何故……)

答えに辿り着けないまま、頸へ駆ける刃を弾く。
縁壱の変わらぬ強さへの、五臓六腑が捩じ切れる憎悪は不思議と薄い。
縁壱が人間を殺す事への、激しい動揺が黒死牟を闘争へ駆り立てる。

372Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:18:21 ID:LPbpj4TY0
「……っ」

内心のざわめきを無視し、戦況に変化が現れた。
無論、黒死牟にとって悪い方のだ。
縁壱の剣捌きが目に見えて数段階速度を上げ、こちらの刃を悉く受け流す。
何が起きたかを察せられない訳がない。
振るう刀の一つ一つを正確に見極め、慣れた動きとして対処を更に安易に変えた。
数百年の足掻きをものの数分で埋められ、忌々しく歯を噛み絞めたい怒りも捨て置く。

刃から伝わる感触は、まるで幽体を斬ったかの薄さ。
速度を落とした覚えはない、単に縁壱が自分以上の速さで避けただけ。
次なる手を出させはせぬと日輪刀が走り、頸へ食らい付く。

「結芽もいーれーてっ!」

横から伸びた剣が無ければ、そうなっただろう。

黒死牟から日輪刀が離れ、別方向からの襲撃に対処。
刀を弾くや即座の二撃目を放ち、抵抗の隙を与えない。
黒い甲冑を着込んだ少女の「鬼」を討つ刃を、もう一体の鬼が阻む。
汗を流しつつも笑って少女は後退、黒死牟も一度距離を取って仕切り直す。

「あっぶな…写シがあるって分かってもヒヤヒヤしちゃった」
「退け……自分の手に負える者だけを……相手取るがいい……」
「うわっ、今のカッチーンって来ちゃうなー。あ、いろはおねーさんなら無事だよ。腕も治ってたし、大丈夫って本人も言ってたもん。おにーさんも一安心でしょ?」
「……」

聞いてもいない事をベラベラ喋る結芽を横目で睨むも、視線はすぐ弟へ戻す。
下らない雑談に興じる気もなければ、一々お守りをする余裕だって皆無。
縁壱を相手にしながら、他へ意識を回すなど頸を差し出すのも同義。
死んでも自業自得だと切り捨てたい。
なのに縁壱がこの小生意気な人間の娘を殺す光景を思い描くと、喉奥を掻き出されるような吐き気に襲われるのだ。

373Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:19:03 ID:LPbpj4TY0
(あははー…正面から見ると本当にヤバいなぁ……)

黒死牟へ軽口を叩く裏で、結芽も内心動揺を抑えられない。
強そうだとかじゃなく、心の底から恐いと思ったのは滅多にない経験だ。
放送でわざわざ紹介されたのだし、相応の力があると分かってはいた。
けれど実物をこの目で見てしまえば、全身の震えが止まらない。
天才的な剣の腕の刀使だからこそ理解出来る。
縁壱は人の身では有り得ない程に完成されている、いや完成され過ぎてると言った方が正しい。
殺し合いで戦った者達と違い、人を止めずにここまでの強さを持つのは乾いた笑いしか出なかった。

(でも、やっぱりじっとしてなんかいられないや)

恐怖を感じたのは誤魔化せないけど、戦ってみたいと思ったのも本当。
向こうが圧倒的に格上なのは疑いようもないが、見てるだけではこの衝動を止められない。
きっとここに可奈美がいても、同じことを思う筈。
生きて帰れたらこんなに凄い剣士と戦ったと、自慢してみるのも良いかもしれない。

(それに、黒死牟おにーさんにもちょっとムカついてるし!)

縁壱との斬り合いを見れば分からない筈がない。
放送前に自分と戦った時とは動きが全然違う、明らかに手を抜かれていた。
殺し合いに抗う者を手に掛けない為だとはいえ、ここまで露骨では流石に不満を抱く。
鬱憤晴らしと純粋に楽しみたいから、そんな理由二つも気分屋な結芽が戦うには十分である。

「ほらほら、あのおにーさんがもう来そうだよ?ってか弟なんだね、あの人」

黙っていろと今一度睨む暇もなく、迫り来る濃密な死の予感へ得物を振り被った。

374Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:19:59 ID:LPbpj4TY0



「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

パワーとスピード、両方が数あるスタンドの中でもトップクラス。
一度その身に拳を受けたら最後、再起不能は間違いなし。
だがしかし、DIOに匹敵する脅威が少なくない数揃えられてるのが神の遊戯盤。
最強のスタンドは異界の地において最強に非ず。
現在相対中の敵も、スタープラチナを真っ向から相手取る怪物也。

センサーモジュールが拳の来る位置を完璧に把握、合わせて蹴りを放つ。
高速戦闘特化のラビットエボルボトルが成分を多大に付与、文字通りの目にも止まらぬ連撃。
ラッシュにはラッシュを、数百本の手足が生えたとしか思えぬ勢いで互いを攻め立てる。
手数も威力も双方引けを取らないが、グリスはスタンドを操作しながら本体も攻撃可能な利点を活かす。

『おばけ!』『パーカー!』

『ツインフィニッシュ!』

ゲル状に構成されたパーカーゴーストを射出。
スタープラチナ相手に割かれた意識が弾かれたように反応を見せ、片手の得物で振り払った。
両刃の斧が二体のゴースト切り裂き、すかさずガンモードへ変形。
脚を止めないまま銃口を向けるも、攻撃に打って出たのはグリスだけじゃない。

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

タイヤが装着されたと思わせる勢いで回転し、サウザーが斬り付ける。
引き金を引く間に刃が装甲を撫でるだろう速さへ、銃撃は中断。
銃身を盾に防ぎ、武器を挟んで言葉を交わす。

375Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:20:46 ID:LPbpj4TY0
「聞け滅!君の怒りの理由が迅を破壊された事なら、手遅れではない!以前の記憶を保持したまま修復が可能だ!」
「何を……!?」
「私が口にすべきでないのは承知で言わせてもらおう!憎しみに囚われれば、人間のみならずヒューマギアを滅ぼすアークになるのは君の方じゃないのか!?」
「…っ!黙れ…!貴様の言葉が仮に真実でも、人類滅亡の結論は変わらん!」

一瞬口籠るも直ぐに憎悪を吐き捨て、力任せに銃身で薙ぎ払う。
よろけたサウザーへ至近距離で追撃のエネルギー弾を撃ち、盛大な火花を咲かせた。
今の衝撃でホルダーから落ちたプログライズキーを奪い、得物へ装填。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

「これは返してもらう」

自身のプログライズキー、スティングスコーピオンのデータを付与。
蠍の尾をエネルギー刃に変え振り回し、装甲越しにサウザーを痛め付け吹き飛ばす。
力尽きるまで叩き付けるのを、グリスが殴り掛かって妨害に動いた。

『ピプペポパニック〜〜〜〜〜〜〜!?』

エボルに斬られた時の衝撃で、サウザーのデイパックから支給品が飛び出た。
バグルドライバーⅡに収納されたポッピーは、突然の衝撃に目を回す。
直接的なダメージはなくとも振動が襲うらしく、地震に見舞われた気分だ。
頭部を鐘のように揺らされた感覚からどうにか復帰。
画面越しに様子を見ると、驚きドライバーを拾い上げる少女が一名。
固有魔法での回復を終えて、両腕を取り戻したいろはであった。

376Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:21:38 ID:LPbpj4TY0
『あれ?イロハちゃん?ガイは…っていうか何か凄いことになってない!?』
「は、はい。その、色々あって……」

CRから地上へ戻る際にデイパックへ入れられ、ようやっと出てみれば戦闘の真っ最中。
しかも敵らしき者達は全員、非常に手強いのが見て取れた。
どういった経緯で混戦に発展したかを説明する時間はない。
腕が治り再び戦えるようになった以上、仲間の加勢に向かわなくては。

『あ、でももしかすると今のドライバーなら……』
「どうかしたんですか?」

表示ディスプレイに映るポッピーが何やら呟いており、問い掛けると僅かに迷う素振りを見せ口を開く。
聞かされたのは現状に打って付けの、仲間への支えになる内容。
いろはからすれば迷う必要はなく、即座に実行に移すべきと答えた。

『良いの?いや何度も確認したから大丈夫だけど!でも、ホントはCRの関係者じゃない女の子にやらせちゃNGだし……』
「けど皆を助けられるなら、わたしはやります。だから……」

一度区切って画面の向こうのバグスターと視線を合わせる。
こんなに近くにいるのに、外には干渉できない彼女。
共に戦えない歯痒さを汲み取り、触れられない手を包むように告げた。

「わたしと一緒に戦ってください!お願いします!」
『うぅ〜〜〜……ちょっとでも変だと思ったら、すぐに中止してね!』

そんな言い方で真摯に頼まれては、やっぱり無しとも言えない。
後は黎斗が本当に確認した通りの仕様に細工を施してるのを、実際に試す他ない。
もし異変を感じればいろはに被害が及ぶ前に、自分がドライバー内部で阻止するまで。

『じゃあまず、私の言う手順通りにやってみて!』
「はい!」

ドライバーを装着し、傍らに転がるもう一つのアイテムを回収。
イラストの描かれた持ち手部分のトリガーを引き、開始の合図となる。

377Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:22:33 ID:LPbpj4TY0
『ときめきクライシス!』

ガシャットが己のゲームタイトルを響かせ起動。
いろはの背後に巨大なグラフィックが出現。
ピンクの髪の攻略キャラが目を惹くスタート画面が映り、複数の物体が飛び出す。
CRのメンバーやバグスターには珍しくもない、エナジーアイテムが配置完了。

『こっからが大事だよ!可愛らしいポーズで決めてね!』
「え?…わ、分かりました!変身!」

『ガシャット♪』

『BUGL UP!』

ポーズが本当に必要なのかと一瞬思うも、指示には素直に従う。
フードを靡かせターンを決めて、ガシャットを挿入。
電子音声が装填確認を伝え、続けてボタンを操作。
変身プログラムが作動し、いろはを魔法少女から新たな姿へ変える。

『ドリーミングガール♪恋のシュミレーション♪乙女はいつもときめきクライシス♪』

純白のフードは黒のボディスーツと、黄色のミニスカートへ早変わり。
編み上げ状のサイハイブーツから、ガードパーツを組み込んだニーソックスへ。
素顔を覆う仮面にはパッチリとした青の複眼。
ピンクの頭髪モチーフの色は濃い目であり、いろはではなく本来の変身者に近い。
仮面ライダーポッピー、名前が示す通りポッピーピポパポのライダーとしての姿である。

『やった!ちゃんと変身出来た!イロハちゃん体大丈夫!?痛い所ない!?』
「は、はい。何だか不思議な感じだけど、苦しくはないです」

まじまじと自身の体を見回し、やや戸惑い気味に言う。
仮面ライダーと言うからには天津達のと似たような外見と思ったが、色んな意味で違う。
所謂女の子らしさを前面に押し出しており、少々驚きだ。

378Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:23:44 ID:LPbpj4TY0
本来なら、バグルドライバーⅡをいろはに使わせる気は絶対になかった。
何せこれはゲーマドライバーと違い、バグスターの使用が大前提の変身ツール。
仮に人間が使用してしまったら、即座にバグスターウイルスに感染。
十年以上の時間を掛けて完全な抗体を得た檀正宗ならばともかく、そうでなければ即座に消滅は免れない。
たとえ肉体から魂を切り離した魔法少女であっても、非常に危険。

しかし神主催のゲームでは仕様も異なる。
ネビュラガスを投与される人体実験を受けておらずとも、承太郎がスクラッシュドライバーを使えたように。
仮面ライダーや類する存在への変身は、ある程度敷居を下げられている。
バグルドライバーⅡも同様であり、バグスターや抗体を持つ者以外でも変身可能に調整済。
CRで筐体から出た時ポッピーもそこへ気付き、だからこそいろはに許可を出した。

主催者に恩恵を受けたと思うと複雑だが、一々気にするのは後回し。
ドライバーを通じポッピーが変身後の機能を素早くチェック、頷きいろはへ指示を出す。

『いけるよイロハちゃん!後は皆のことを強く想って!』
「はい!やってみます!」

戦い続ける仲間達の力になりたい。
強く願い感情の力が、現実に皆の元へ届けられる。
恋愛ゲームのときめきクライシスガシャットで変身を行った為、好感度や感情の強弱が固有能力に深く関係するのが仮面ライダーポッピー。
ハートをあしらった肩部装甲の強化装置が起動。
ライダーを、スタンド使いを、決闘者を、獣人の少女を、刀使を。
そして鬼を、仲間達全員の能力を引き上げた。

この装置も元々は、ガシャットで変身したライダーにのみ作用する。
とはいえ仮面ライダークロニクルのように参加者全員がガシャットを持つゲームでない為、死蔵機能とならないよう調整。
細かい点にも神の手が伸びてると知らぬまま、仲間の助けになる。

379Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:24:38 ID:LPbpj4TY0
『へぇ、良い感じに動きやすくなったじゃない!そう言う訳だから、アンタはとっとと落っこちなさいっての!』
「黙れや猿ゥ!」

巨体を操る感覚が一段と精細さを増し、キャルは神へ殴打を叩き込む。
レイキュバスの顎はコンクリートも易々と切り裂くが、神に目立ったダメージは見られない。
尾を振り回し、時には自らの巨体をぶつけ相殺。
一歩も譲らぬ殴り合いは、強化を受けた事でキャルに天秤が傾く。
尾を挟んで引き寄せ、抜け出す前にガンQの頭部が顎へヒット。
視界がグラつく所へ二撃目が迫るも、神はその程度の児戯で倒れない。

「調子こいてんじゃねぇぞこの野郎(棒)!レズのくせによォオン!?(アニコネ限定)」

人間以外の姿になるなど、BB先輩シリーズでは最早お馴染み。
神の巨体だろうと呼吸と同じくらい簡単に動かせる。
回避と同時に全身を巻き付け、キャルの動きを封じた。
ファイブキングのパワーを駆使すれば拘束を脱するのは容易いが、オシリスは並の域に収まる存在に非ず。
体中の骨が砕けるまで決して放さないだろう。

「キャル…!」

地上からでもピンチがハッキリ見え、遊星はカードをドロー。
生半可な攻撃ではビクともしないと、言われるまでもなく分かってる。
それでも出来る事はある筈と手札を確認。

「このカードは……」

引いたのは城之内のデッキの中でも、特に強力な一枚。
通常のデュエルならば心強いと思えるが、果たして神にどれ程の効果が与えられるか。

(いや待て…)

険しい表情から一転、何かを思い付いたようにもう一度神を見上げる。
決闘者で知らぬ者はいない、デュエルモンスターズ界の伝説。
三幻神の一体、今自分の頭上に存在するアレはどういった存在か。
殺し合いという環境ではデュエルの解釈もある程度広がり、突ける隙も少なくない。
とにもかくにも試さない事には始まらない。

380Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:25:36 ID:LPbpj4TY0
「リバースカードオープン!クイズを発動!」

自分の墓地の一番下のモンスター名を相手に問い、正解か否かで異なる効果を齎す。
嘗てはマリク相手に使った、城之内らしいギャンブルカードの一種だ。
今回問い掛ける相手は一人しかいない。

「答えろ!俺の墓地の一番下にあるモンスターは何だ!?」
「え、何それは…(困惑)。多分変態だと思うんですけど(迷推理)」

いきなり問い掛けられ、案の定野獣先輩は困惑。
正規のデュエルならともかく、一々相手が何のモンスターを召喚したかなど覚えていない。
苦し紛れに淫夢語録で答えるも、これが正解な訳ないだろいい加減にしろ。

「不正解だ!シャドウ・ファイターを墓地から召喚!」

相手が外れた場合、対象のモンスターを特殊召喚する。
更に墓地からの召喚という条件を満たし、続けて効果を発動。

「墓地のモンスターが場に出た事で、手札からサテライト・シンクロンを特殊召喚する!」

人工衛星に手足が生えたようなモンスターが現れる。
既にフィールドに存在するスケープゴート一体と合わせ、計三体が場に揃った。

「フィールドのモンスター三体をリリースし、ギルフォード・ザ・ライトニングを召喚!」

筋骨隆々の肉体を白銀の鎧で覆い、大剣を背負った剣士。
城之内が操る中でも強力な戦士族モンスターだ。
だが場にモンスターが召喚された以上、オシリスの裁きからは逃れられない。
天から降り注ぐ雷が攻撃力を大きく削ぎ、余波が遊星にも襲い掛かる。

381Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:26:20 ID:LPbpj4TY0
「くっ…!だがギルフォード・ザ・ライトニングの効果発動!このカードがアドバンス召喚に成功した時、相手モンスターを全て破壊する!」

ウィザードに変身し、更にいろはの強化を受けたお陰で十分耐えられる。
遊星の宣言に従い、稲妻の剣士が得物を振り下ろす。
戦場へ迸る光刃は敵対者達を容赦なく狙った。
背後を見ぬまま縁壱が避けた一方で、エボルも高機能センサーを駆使しどうにか回避。
残る一体、野獣先輩は神の自分に雑魚モンスターの効果が効くはずないと嘲笑う。

「逝きすぎィ!?」

余裕の態度は即座に崩れ、神の長大な肉体を稲妻が焼く。
同時に拘束も弱まり、顔面をレイキュバスで思い切り叩き追い打ちを掛ける。
神とは思えないクッソ情けない悲鳴を上げ、野獣先輩は痛みに悶えるばかり。

もしこれがマリク・イシュタールの召喚した、正真正銘のオシリスであったら。
強力な除去効果とて、神のカードには無意味だったろう。
しかしここに存在するのは、ネットの玩具のホモビ男優が姿を変えた偽りの神。
見た目や能力が同じであっても、核となるのは神とは程遠い汚さの塊。
オシリスであり野獣先輩でもある二面性を孕むが故に、本物の神程の耐性は無かったのである。

「あ、そっか、あったま来た…(憤怒)」

自身に痛みを与えた決闘者への怒りを燃やし、口内へエネルギーを充填。
小癪な雑魚モンスター共々焼き払う、超電動波を発射。
稲妻の剣士はもとより、幾ら変身中の遊星であっても無事では済まない。

382Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:27:26 ID:LPbpj4TY0
命中すれば、という前提が付くが。

『あーあ、アンタ下手踏んじゃったわね?』
「ファッ!?ファッ!?ファッ!?(ビーストドライバー)」

不敵な笑みは強がりでないと、目の前の光景が証明する。
オシリスの放った光がファイブキングの左手に吸収され、遊星にはまるで届かない。
ウルトラ戦士達の光線技を悉く破ったガンQの能力は、神相手にも通用。
そっちが最大威力を放ったのは好都合、倍にして返してやろう。

「逝キスギィ!逝く逝く…ンアーッ! (≧Д≦)」

反射された超電動波だけじゃない、各怪獣パーツから一斉に光線や火炎を放射。
いろはが強化したのもあって、通常時のファイブキング以上の威力を叩き出す。
ラーのゴッドフェニックスがマシに思える程の大火力へ、野獣先輩は為す術なく集中砲火の的と化す。

やがて熱線が消えた時、そこに赤い巨体はなく地で悶える汚い男がいるのみだった。
神特有の耐久力とホモ特有の生命力で死は避けたが、ダメージは軽くない。
今の内に捕えておこうと、遊星はバインドのウィザードリングを使用。
水魔法により拘束され、一先ずこの男との戦闘は終わった筈。

なれど野獣先輩の目は未だ死んでいない。
日焼けに誘った後輩の体へ狙いを定めるが如く、野獣の眼光を浮かべていた。

383Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:28:03 ID:LPbpj4TY0



『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

火炎を纏った突きと、青い拳闘士の拳。
両方が絶え間なく襲い掛かり、エボルは持ち前の速さを活かし対処。
これまでと何ら変わりない戦況に見え、その実徐々に追い詰められている。
速さが、一撃一撃の重さが、明らかに数段階引き上げられた。
数発が自身の防御をすり抜け、胴を叩き四肢を切り裂く。
地球外の未知の物質製の装甲とて、連続でダメージを受ければ徐々に蓄積し捨て置けない。

とうとうサウザーの渾身の一突きでたたらを踏み、間髪入れずにグリスが鉄拳を放つ。
オーソライズバスターで防ぐも、柔な一撃なんかじゃあない。
更によろけ隙が生まれれば、ロケット二つがエボル目掛け射出。
斬り落とし防ぎ、原因を作った人間を視覚センサーが捉える。
自分の知るライダーらしからぬ見た目でも油断は出来ない、先に潰すべきだ。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

プログライズキーを装填し、毒針状の巨大針を連射。
弾幕を張りサウザー達が足を止めた所を見逃さず、ピンク頭のライダーの元へ急接近。
元々高い走力を持つが、ラビットフォームの恩恵でフェーズ1以上の速さを得た。
ハート型の装飾諸共叩き壊す勢いで、頭部目掛け斧を振り下ろす。

『腕に付けてイロハちゃん!武器になるから!』

魔法少女とバグスター共に死を望む気持ちは微塵もない。
指示を受け即座に実行、バグルドライバーⅡからバックル部分を分離し装着。
左サイドのパーツが高速回転し、チェーンソータイプの武器として機能。
バグルドライバーⅡ改めガシャコンバグヴァイザーⅡで、重厚な斧を防いだ。
刀身が伸び、回転刃が敵の得物を削り取るべく火花を散らす。

384Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:28:57 ID:LPbpj4TY0
「いろは……そうか、お前がか」

レンズ越しに火花を浴びつつ、対峙中の少女をじっと見やる。
まさかこうも立て続けに、聞き覚えのある名の者に遭遇するとは。

「わたしがどうかしたんですか…?」

少しばかりの驚きを含んだ呟きは、いろはにも聞き取れた。
当然ながらこのような男と知り合った覚えは、記憶の何処を探しても見付からない。
得物を挟んだ殺伐とした状況ながら、戸惑いを隠さずに問う。

「放送前に殺した子供が、お前を守ると言っていた。それだけだ」
「っ!?」

予想外の返答に目を見開き、ヒュッと喉が鳴る。
激しい動揺を抱いてると、仮面の上からでもハッキリ分かった。
定時放送の前に死に、いろはを守ると口にするだろう者
該当する少女はたった一人、みかづき荘の大切なメンバー。
もう二度と会えない、あの子しか思い浮かばない。

「あなたが……フェリシアちゃんを……?」

声を震わせた問い掛けに、相手は何も答えない。
答えるまでもないと、沈黙が嫌と言う程に伝えて来る。
動悸が急激に激しくなり、体中が寒くないのに震え出す。
画面越しに必死に自分を呼ぶバグスターの声すら、どこか遠くに感じた。
斧を防ぐ力が弱まってると、気付く余裕も流れ落ち消える。

385Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:29:35 ID:LPbpj4TY0
「きゃあっ!?」

防御を突破されたと理解した時にはもう遅い。
胸部プロテクターを刃が叩き、痛みと共に地面を転がる。
ダメージを半減し全身に分散する効果で、致命傷にはならずソウルジェムも無事。
なら確実に死ぬまで攻撃を続けると、再び斧が振り被られた。

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

いろはの仲間が健在な以上、エボルの思い通りにはならない。
電撃を纏った槍が突き、得物越しに腕へ痺れが襲う。
舌打ち交じりに後退しつつ、退いた先で待ち構えるはもう一体の黄金のライダー。
ツインブレイカーの猛攻を速さを武器に捌く。

「滅…彼女の仲間を手に掛けたのは本当なのか…?」
「だったらどうした。殺さない理由がどこにある」
「……そうか。では断言しよう。君は1000%、以前の私と同じく自分が悪意を振り撒いてると気付かない、最も度し難い存在になった…!」
「ほざくな!そもそもの元凶はお前だろう!」

怒声と得物で打ち合う男達から数十歩下がり、いろはは膝を付き動けない。
フェリシアが死んだのは放送で聞いたが、でも誰が殺したかは今初めて知った。
記憶の中で、八重歯を覗かせ無邪気に笑う姿がリピートされる。
魔女への復讐に燃えて、でも我慢する努力を続けて。
自分ややちよを悪く言った魔法少女へ怒り、喧嘩沙汰を起こした事もあった。
欠けて欲しくなんかない大切な友達を、殺した男がすぐ近くにいる。
殺し合いでも、自分を守ると言ってくれたらしいフェリシアを――

386Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:30:20 ID:LPbpj4TY0
「クッ…!?」

グリスと拳を叩きつけ合うも、背後からの脅威をセンサーが察知。
一手回避が遅れ肩部装甲に被弾、だが動きを止める程のダメージじゃない。
大きく跳びエネルギー弾を撃った相手を睨み付ければ、向こうも視線を返す。
ガシャコンバグヴァイザーⅡを遠距離形態に変え、銃口と共に瞳を逸らさない少女。
大方、仲間を殺され憎悪を燃やしてるのだろう。

「わたしは……凄く怒ってます!」

発した声には言葉通りの怒りが宿り、だけど憎しみは感じられない。
予想と違い、エボルは僅かに眉を顰める。

「フェリシアちゃんのことで、あなたに怒ってる……だけど…!」

どうして殺したんだと、問い詰めたい気持ちは当然ある。
仕方ないよねで済ませられる程、小さなことなんかじゃない。
けれど、恨みに身を任せて戦い、結果相手を殺すことが。
フェリシアが守りたいと言ってくれた、環いろはな筈がない。
自分が絶望に陥り掛けた時、希望を届けてくれた彼女を裏切りたくないから。

「だからわたしは……フェリシアちゃんが守りたいって思ってくれたわたしのままで、あなたを止めます」

――『そうやって繋いでいった先にあるのは破滅なんかじゃない、希望って言うんだよ』

苛立ちに顔が歪むのが、自分でも分かる。
マゼンタ色のライダーが目の前の娘に重なり、内部パーツの損傷とはまた違う掻き毟られる感触を味わう。
戯言と受け流せば良いのに出来ず、突き動かす衝動へ逆らわずドライバーを操作。
レバーの回転数を一気に速め、エボルボトルの成分を大量に引き出す。

387Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:31:35 ID:LPbpj4TY0
『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

片脚にエネルギーを最大まで流し込み跳躍。
バネが付いていると疑う程の脚力で勢いを付け、破壊力を更に増幅。
ライダーの装甲を纏っていようと、当たれば無傷で済む保障はない。
この地で殺した少女と同じ場所へ送る時だ。

『キメワザ…』

こちらも高威力の技の出し所だ。
ボタン操作で低い電子音声が鳴り、二つの銃口へエネルギーが充填。
発射のタイミングを見極めトリガーを引く。

『CRITICAL CREWS-AID!』

武器内部で形状を変え、音符型のレーザーを発射。
真正面から撃ち落とさんとする光を、エボルも退く素振りを見せず突っ切る。
バグスターを焼き払う威力だろうと関係無い、消し去り蹴り砕く。

『大丈夫だよイロハちゃん!勝ちたいって想いが強ければ、それは本当になるんだから!』
「はい…!絶対に、負けません…!」

仲間の声は、勝ちを譲らぬ己の心は決して無意味なんかじゃあない。
仮面ライダーポッピーが好感度で強化するのは、味方だけに非ず。
自分自身の力をも引き上げ、レーザーが更に巨大化。
突っ切る筈だったエボルはそれ以上進めず、空中へ固定されやがて押し返された。

388Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:32:15 ID:LPbpj4TY0
「この程度がどうした…!」

『DRAGON…DRAGON…EVOL DRAGON!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

地面へ投げ出されるも受け身を取り、ダメージを無視し別のエボルボトルを取り出す。
兎の耳を思わせるモジュールは消え、龍を模った意匠を装着。
格闘戦特化のドラゴンフォームへ変身し、すかさずドライバーを操作。

「スタープラチナ・ザ・ワールド」

だが寸前で時が止まる。
いろはが自分の意志を明確に告げ戦う気なら、男達も見物に徹してはいられない。

「テメーが何を思って殺し合いに乗ったのかは、知ったこっちゃねぇ」

天津からの説明だけでは理解しきれない、滅なりのどうしても譲れないものがあったのか。
いろはの仲間を殺すのも厭わない程に、人類滅亡とやらはさぞ大事に抱えたいものなのか。
何を言い訳されても、変えられない現実を迷わず見据える。
殺し合いを肯定し、この島で出会った仲間達に牙を剥いた。
故に自分がやるのは一つだけ、全力でブチのめす。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

彫像の如く静止したエボルへ叩き込まれるラッシュ。
時が動き出す前に、グリス本体もドライバーへ手を伸ばす。
簡単に倒されない敵と分かっているなら、手札は惜しまず切るに限る。

389Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:32:45 ID:LPbpj4TY0
『ディスチャージクラッシュ!潰れな〜い!』

2秒が経過し、殴り飛ばされるエボルをすかさず捕える無数の鎖。
拘束は簡単に抜け出すだろうが、僅かなりとも隙が生まれるのは避けられない。
仲間が作ったチャンスを無視する者はおらず、サウザーが決着を付けに動く。

『THOUSAND DESTRUCTION!』

「滅…!申し訳ないが、力づくで君を止める!」

両足にエネルギーを収束させ、蹴りを叩き込む。
言葉で止まらないなら、こうする以外に方法はない。
善良な参加者をこれ以上手に掛けるのを、滅亡迅雷.netの同胞達だってきっと望まないのだから。

「天津垓…!貴様…!!」

散々ヒューマギア排他を目論んだ男が、今更ゼアの側に立つとでも言うのか。
ふざけるなと叫び鎖を壊すも、一手遅い。
悪意を砕き、囚われた心を引き上げる蹴りが――



届こうとした瞬間、世界は再び凍り付いた。

390Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:33:35 ID:LPbpj4TY0



首の皮一枚繋がった。
魔法少女が齎す恩恵は刀使と鬼にも届き、能力の強化に成功。
膂力、走力、耐久性、反射神経、思考速度等々。
一つでも上がれば戦闘を格段に有利に出来る要素が、複数纏めて上昇した。
そうまでしても、日輪相手には雀の涙程度かも怪しい慰めに過ぎない。

「あははは…!これもう笑うしかないよね……!」

楽しさの中に呆れとヤケクソを混ぜた、小娘の声が鼓膜を掠める。
彼女にしては珍しい反応も、黒死牟には構う理由も余裕もなし。
五十を超える半月の群れを得物一本で捌く弟へ、ひたすらに手札を切り続ける。

――月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え

虚哭神去を一閃、斬撃波が五つ纏めて襲来。
海中を泳ぐ鮫の背びれを思わせる様で迫り、着物を刻むのすら果たせず霧散。
合間を埋めるべく発生させた三日月をも、綿埃同然に散らされる。
驚きはない、既に一度見せた技で縁壱を阻める道理はないのだから。

剣を振るう先に標的はおらず、空しく空気を噛み切るのみ。
技の悉くを潰され、一度出せば次はもう見飽きた児戯にまで落ちぶれる。
数百年掛けた歩みは小指一本分あるかないかでしかなく、如何に無駄な努力だったかを思い知らされた。
だが分かっていた筈だ、骨の髄まで思い知らされて来ただろうに。
これこそが継国縁壱。
千年万年の時を費やしたとて、追い越すどころか並び立つ事すら不可能。
どこまでいっても月では日に手を届かせられない、幾年経とうと変えられない現実がそこにあった。

391Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:34:15 ID:LPbpj4TY0
――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

だとしても、剣を下ろす理由にはならない。
弟が善良な人間を殺す、鬼を斬るのと同じ目で命を刈り取る。
その光景が生み出されるのだけは、どうあっても受け入れられない。
未だ理由すら分からぬまま、されど剣筋は微塵も衰えず抗う。

「そこっ…!」

感化されてはいないが、結芽もまた実力差を知って尚果敢に挑む。
退いたって、誰からも文句は飛ばない。
むしろこれ程の強者相手に、よくここまで持ち堪えたと労わられるだろう。
でも、はいそうですかと引き下がるのはお断りだ。
デェムシュの時みたいに、決め手に欠けるから一旦退くのではない。
純粋な力量差で及ばないから諦めるのは、非常に腹立たしい。
子供らしい理由なれど、結芽を動かすには十分だった。

黒死牟が繰り出した三日月の群れを、突っ切りながら御刀を突き出す。
向こうは自分に配慮なんかしてないし、して欲しいとも思ってない。
だから感覚を総動員し、足りない分は黒竜の鎧で防ぎ同士討ちは避けられているも、
といっても遊星の援護が無かったら、写シを張り直す間もなく細切れになったと言えるくらいには苛烈だ。

鬼の技も刀使の剣も、大抵の相手なら逃れられない必中の刃。
但し縁壱は「大抵」の枠に括れない、別格の怪物。
気は一切緩めず、さりとて対処不可能に非ずと断定。

――漆の型 斜陽転身

沈み掛けた太陽が再び天へ昇るが様で跳躍。
宙返りし頭部は下に、恐れ多くも神々のおわす天空へ足を向ける。
不安定な体勢ながらも回避は完璧。
全てが見えているかのように斬撃の間を抜け、刀を水平に薙ぐ。
灼熱の刀身が迫っていると分かった時既に、結芽は餌食と化していた。

392Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:34:47 ID:LPbpj4TY0
「うあああっ!?」

一振りで鎧は砕け散り、写シすらも解除。
死の肩代わりが出来ない、年相応の生身を日輪の前に晒す。
疲労は軽くないが、再び身を霊体に変えねば屍へなるのは確実。
だが遅い、再使用までの片手で数えられる間すら致命的な隙。
死ぬと脳が現実を直視する、よりも早く襟首をむんずと掴まれた。

「ひゃっ!?」

後方へ大きく放り投げた娘の声は無視し、己が妖刀を走らせる。
死が口を開き迫りつつあるのは、黒死牟も同じだ。
老爺に首を断たれる寸前だったあの夜よりも、無限城で鬼狩りどもに刃を突き立てられた時よりも。
濃密な終わりの気配に蝕まれながら、刀を振るう事はだけは止めない。

「――――っ」

が、物理的な問題がここで立ち塞がる。
虚哭神去が打ち合いの果てに断たれ、眼球の浮かぶ刀身は見る影もない。
黒死牟自身の血肉や骨から作った妖刀は、岩柱に折られても即座の修復が可能。
しかし縁壱が振るう刀は他の日輪刀とは別物。
不死に近い生命力を持つ無惨にすら、百年以上消えない傷痕を残した赫刀。
今この瞬間、黒死牟の得物は再生不可で使い物にならなくなった。

再生成し構え直す時間は無い。
数秒と掛らず終える作業も、縁壱が相手では自殺行為以外の何ものでもない。
刀を再び手にするまでの猶予を与える、奇特な性質にも非ず。
鬼は斬る、たとえ実の兄であっても。
一切の迷いを捨てた殺意を前に取る手は――

393Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:35:32 ID:LPbpj4TY0
「……っ!」

残されている。
赫刀を防ぎ死を遠ざけるは、偶然手に入れた得物。
魔界最大勢力、ファンガイア族の王のみ所持を許された魔剣。
オーバーロードをも敗走へ追いやった力を手に、思考は焼き切れんばかりに働く。

どう足掻いても縁壱には届かない、それはもう自分でも嫌と言う程分かっている。
得物を変えた所でどうにか出来る相手ではあるまい。
既存の力では何も変えられないのなら、方法は一つ。
荒唐無稽で馬鹿げた発想、それを実行する己への呆れも今は頭から追い出す。

思考を重ねる間にも戦闘は続き、日輪刀は鬼の命へ狙いを澄ます。
四百年前には実現しなかった兄殺しが、神の遊戯盤にて果たされる。
そんな幕引きを横合いからの一閃が妨害、横目で見やり弾き続く刀で胴を真っ二つに。

「…っと!分かってたけど、届かないのってムカついちゃうなぁ!」

迅移を用いた突きも無意味と化し、張り直した写シも一瞬で解除。
結芽自身察していたが、やはりこの程度は何ら脅威になり得ない。
吹き飛ばされた先で大いに不満を吐き出す。

しかし意味はあった。
ほんの僅かに逸れた意識を兄へ戻した時、予想外の姿に瞳が揺らぐ。

394Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:36:09 ID:LPbpj4TY0
「ぐ……ガアアアアアア……!」

苦悶の声を上げる理由は、赫刀の餌食となったからじゃあない。
自らの手で魔剣を突き刺し、心臓を貫いたが為。
目的は至って単純、魔剣が秘める膨大な力を強引に引き出し己が内へ流し込むこと。

詳細を黒死牟は知らないが、ザンバットソードは使い手のライフエナジーへ過剰反応し自ら喰らう性質を持つ。
一方で刀身の素材や散りばめた意匠が高純度の魔皇石なのもあり、剣自体が強大な魔皇力の塊でもある。
つまり剣から強引に魔皇力を引き出すのは、絶対に不可能とも言い切れない。

とはいえ、だ。
魔皇力は元々ファンガイアのような魔族が扱う力。
人間にとっては猛毒に等しく、使用を試みれば自ら命を縮めるも同義。
闇のキバの鎧を纏った紅音也のように、消耗死は免れない。
加えてザンバットソードもまた、所持者の精神を蝕み見境なしの獣へ変える程のじゃじゃ馬。
力を強引に引き出すなど、消滅か暴走の二択以外有り得ない。

普通ならばそう。
しかし此度は前提が大きく違って来る。

上級クラスのファンガイアにも引けを取らない、十二鬼月最強の肉体を持つこと。
無惨の血を混入させられ鬼に変貌する激痛を、過去に乗り越え耐性があること。
いろはとのコネクトを経て、異なる力同士を纏め上げる感覚は得たこと。
刀身に噛み付くザンバットバットが、抑制を働きかけていること。
暴走を促す剣の誘惑を跳ね除ける程に、縁壱への形容し難き感情が強いこと。

複数の理由が重なり、しかし一瞬でも気を抜けば食らい尽くされるだろう力の濁流に見舞われる。
歯が砕けん程に噛み締め、ふいに内側で渦巻く苦痛が和らいだ。
自分の中で僅かに残留していた娘の力が、溶けるように消えていく。
この期に及んでも桜色の少女の顔を思い浮かべてしまう自分へ、忌々し気に思うのも束の間。
カッと六眼を見開き魔剣を引き抜いた。

395Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:36:52 ID:LPbpj4TY0
闘気が嵐を巻き起こす。
上弦の参がここにいれば、短時間での劇的な変化へ眩暈を覚えただろう。
再び弟を見据える黒死牟の頬に、痣とは異なる模様が浮かび上がる。
ステンドグラス状のソレは、ファンガイアの王族が鎧を纏う際と似た現象。
生命の核である心臓へ直に流し込んだ影響で、鬼は新たな力を我が身に宿す。
キバット族の力を借りずとも、意思一つで魔皇力を活性化。
ザンバットソード本体と、深く刻まれた歴代の王達の魔皇力が血のように全身を流れる。
これまで以上に濃厚となった異形の気配へ、縁壱も静かに構え直す。
多少の驚きはあれど、何をするかは分かっていた。

――陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

描いた光輪が幾つも繋がり、やがて龍を象る斬撃へ変化。
牙を突き立てるべく駆け巡り、灼熱で以て頸を落とす。
回避、防御、迎撃のいずれも不可能に等しい、鬼にとっての悪夢。

「やはりお前は……」

これ程に技が冴えながら、魂は神の操るがまま。
受け入れざるを得ない事実へ何を抱いたか、黒死牟自身も分からぬままに疾走。
正しい使い方を理解したと言わんばかりに、ザンバットバットで刀身を研ぐ。
魔皇力を高め、宙へ描いた巨大な蝙蝠が龍と激突。
ファンガイアの紋章に酷似してると知ってか知らずか、弾かれ合い数歩後退。

――肆ノ型 灼骨炎陽

選ぶは戦闘続行。
鬼が生きている、頸を落とすまで刀は納められない。
渦巻く火炎を思わせる斬撃が放たれる。
地獄という相応しき場所へ、鬼を引き摺り降ろす魔の手が伸ばされた。

396Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:37:45 ID:LPbpj4TY0
否と唱えるは魔剣に非ず、鬼が体内より作りし妖刀。
再生成を終えた虚哭神去が長大化し、真紅に染め上げられる。
鬼の生命を否定する灼熱ではない、魔界の王が支配下に置く鮮血だ。
本来の得物に魔皇力を流し込み、赤い二振りの刀が喰らい合う。

――月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾

龍の尾に等しい極大の刃で薙ぎ払う。
火炎が月を焼く、龍が日を砕く。
日輪が龍を炙る、月が火炎を消す。
魔を討つ刃の暴風雨を、魔に浸した刀を振るい突き進む。
宿す力が駆ける速度をも急速に引き上げ、届かぬ筈の太陽へと送り届けた。

「縁壱……!」

赫刀と妖刀が、狙ったように同時に振るわれる。
傷は――浅い。
肩へ小さく触れた程度では、赤子だろうと人間は死なない。
頸を微かに裂いた程度など、再生が亀の歩みになったとてすぐに治る。
互いに剣を繰り出すも、振るった直後大きなブレが生じたのが原因。
縁壱は兄の声を聞き、黒死牟は弟の顔を見た。
だから決着への僅か数歩の距離へ、踏み込めなかった。

(何だ……その顔は……)

己を見つめる縁壱に、どうしてなのだろうか。
憐れみで構ってやった自分へ付いて来る、幼き日を重ねるのは。
目の前にいる弟は人形染みた真顔だというのに。
不安そうに自分を見上げる、まるで悪戯を咎められたような子供に見えたのは。

(何故……そんな目で私を……)

兄弟共に、時が止まった世界へ閉じ込められたかのよう。
動けないまま、言葉一つ出せずにお互いを見る。
ほんの数秒が永遠の静寂にも感じられる中、

397Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:38:46 ID:LPbpj4TY0
「っ!」

示し合わせたかのタイミングで、揃って飛び退き距離を取る。
お互いへの殺意を取り戻したのではなく、肌を尋常ならざる冷気が撫でたからだ。
地面に目を落とせば、立っていた箇所へ氷が張っているではないか。
病院へ集まった者の中に、このような術を持つ人間は皆無の筈。
唯一該当する異形はとっくに逃げ去っただろうに。
横槍を入れた輩をすぐさま探り当て、黒死牟は信じられぬ物を見た。

「ビール!ビール!冷えてるか〜?」

風呂上がりの飲酒を図々しく要求する、ステハゲこと野獣先輩。
姿は赤い巨体でも黄金の鎧でもなく、かといって元の服装とも違う。
大きめの帽子を被り、チリチリの黒髪は虹色の輝きを発す。
両手には鋭利な鉄扇が存在し、パタパタと扇ぐ真っ最中。
何より注目すべきは背後、二体の氷の巫女像が冷気を吐き出していた。

その外見に、その得物に、その術に、何より両の瞳に浮かんだ『弐』『上弦』の文字を知らない筈がない。

「馬鹿な……!何故貴様が童磨の血鬼術を……!?」

野獣先輩童磨説。
大人気漫画、鬼滅の刃に登場する上弦の弐・童磨こそ野獣先輩の正体の可能性が微レ存とする説だ。
多くのファンからも、「二人纏めてとっとと地獄に落ちろ」とお墨付きを頂いてる。

困惑を抱きつつ更に視線を張り巡らさせれば、凍結の被害に遭い身動きを封じられた者がチラホラ。
バインドの魔法で遊星にあえて捕まり、ほんのちょっぴり気が緩んだ隙を突いたのだろう。
怪獣の巨体故効果が薄いキャルが殴り掛かるも、童磨の血鬼術のみならず身体能力も手に入れ野獣先輩は身軽だ。
蝶のようにひらひらと避け、デイパックから取り出した物体を投擲。
ずんぐりとした脚部へ張り付くも痛みは皆無。
ファイブキングの肉体に生半可な攻撃は意味を為さない、その筈だった。

398Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:39:32 ID:LPbpj4TY0
「っ!?なによ…これ…この茶色野郎…!何したの…!?」
「大分溜まってんじゃんアゼルバイジャン」

怒り交じりの問い掛けには答えず、したり顔を浮かべ語録を吐き出す。
唐突に体中が重くなり、荒い呼吸を繰り返すキャルには何が何やらさっぱり。
野獣先輩が投げ付けたのは、病院を襲う前にデェムシュが使ったケロンパス。
疲れを抜き取れるのは一度だけでも、再度貼り付ければ疲労を別の者へ押し付ける事も可能。
放送前の連戦の多大な消耗を、全てキャルが背負う羽目になったのである。

「くっ…これは一体…!?」

凍結の被害に遭った者はまだいる。
滅と戦闘中のライダー達も体が凍り、身動きが取れない。
唯一、スタンドを操作できる承太郎がスタープラチナを出現させ脱出を試みる。
だが元の動きを取り戻したのは、滅の方が早い。
ドラゴンフォームは蒼炎を発生させる装置を搭載済、加えて感情の高まりによって出力は高まる。
融解寸前まで高温を発し、すかさずドライバーを操作。

『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

「ぐぅ…!?」
「がっ…!」

叩き込んだ拳から蒼炎の龍が生み出され、サウザーのみならずグリスをも飲み込む。
盛大に殴り飛ばされた二人から視線を外し、続けてプログライズキーを得物に装填。
標的へ選ばれたのは残るもう一体のライダーだ。

399Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:40:36 ID:LPbpj4TY0
『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

「きゃああああああっ!?」
『イロハちゃ――ひょえええ!?』

片腕にオーラを纏わせ、いろはを拘束。
凍結を受けだされる前にこっちでも動きを封じ、確実に攻撃を当てる。
スティングスコーピオンのデータが刃を生成、斬り上げサウザー達同様に吹き飛ばす。
おまけにドライバーも外れ変身解除。
生身の魔法少女衣装を晒し、アスファルトの上で痛みに呻く。

「そうですねぇ……」

各々の状況を視界に捉えつつ、野獣先輩は冷静に次の行動を模索。
大半の者が消耗しており、かく言う自身も新説シリーズの連続使用で体力的な余裕はない。
負傷こそ童磨になり鬼の再生能力で回付中だが、疲労はどうにもならなかった。
氷の吐息に包まれるのを躱した剣士達もおり、見れば結芽とか呼ばれてたメスガキも凍結は避けた様子。

「やっぱり僕は…王道を往くブラックホールですか(エボルフェーズ4)」

このまま戦闘を続けても、生き残れるかは怪しい。
となったら長居は無用、貴重な手札を失うのは惜しいが使わずに死ぬよりはマシ。
公園の死体達から回収した支給品を掲げ、発動を宣言。
聖都大学附属病院を見下ろす位置に、巨大な黒い穴が生まれた。
デュエルモンスターズのゴールドシリーズ、ブラック・ホール。
フィールド上のモンスター全てを破壊する、強力無比な全体除去魔法カード。
殺し合いで吸い込まれた参加者を、ランダムに別エリアへ転移させる効果を持つ。

「じゃあ俺、ギャラもらって帰るから…」

言葉とは裏腹に得た物は一つもなく、野獣先輩はブラックホールへ飲まれた。
ホモ特有の大胆な逃走に文句を付けられる状況ではない。

400Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:41:06 ID:LPbpj4TY0
「マズい……!」

ウィザードに変身し重量がある状態ですら、踏ん張るのも困難な吸引力。
凍結から抜け出たのも一瞬、すぐに遊星は上空へ吸い上げられた。

「おにーさん!?」

遊星を追い掛けるように結芽も急上昇。
守ってあげると言った手前、一人放置させるのは少々バツが悪い。
単独で放り出されては危険度も高まるのもあり、どうにか腕を掴み分断を防ぐ。
揃って別エリアに飛ばされ、残る者達にも同様の被害が降り掛かる。

「だめ……もう……!きゃっ!?」

咄嗟に病院の壁にしがみ付くも、直前に受けたダメージもあり無駄な抵抗に終わった。
見えない手に摘ままれ引っ張られるように、いろはも地上から離れて行く。
純白の衣装と編んだ桜色の髪が激しく揺れる様は、鬼の六眼にも見えた。
刀を地面に突き刺しどうにか留まろうとした筈が、気付けば地を蹴り自ら空へ。
こちらへ気付いた娘が驚きの顔を浮かべるも、信じられないのは黒死牟自身も同じだ。

(私は……何をしている……)

黒い穴が何処へ通じてるのかは不明。
日の当たる場所が待ち構えている可能性とて低くはない。
自ら死にに向かうに等しいだろうに、何をしているのか。

「黒死牟さ――」

己自身へ愕然としたまま、いろはの腕を掴む。
共に姿が何処とも知れぬ場所へ飛ばされ、声は誰にも届かない。

401Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:41:38 ID:LPbpj4TY0
「おのれぇ…!」

怨嗟の声を吐きながら、滅は人間達から遠ざかる。
まただ、また一人も殺せず自分の内面を掻き乱される結果に終わった。
不甲斐ない己を恨んでも事態は変えられず、己の意志とは無関係に病院を去る。
因縁深いZAIAの人間を最後まで睨み付けたまま。

「く…ああああああ…!流石にヤバいかも……」

巨体で天津達に覆い被さり、吸い込まれるのを防ぐ。
しかしケロンパスの効果で押し付けられた疲労が枷となり、耐えるのにも限界だ。
本当に余計な事をしでかした薄汚い男へ怒りを燃やし、とうとうその時が来る。

「あんの茶色野郎…!次会ったらタダじゃ済まないわよ…!!」

怒声諸共吸収し、ファイブキングも消え去った。
残る天津達にも魔の手が迫り、フッと嘘のようにブラックホールは消失。
運が良いのか悪いのか、効果時間が切れたらしい。

「君達は無事か…?」
「どうにか、と言いてえ所だが…」
『皆いなくなっちゃったね……』

吸収を免れたのは天津と承太郎、それにドライバーの回収が間に合ったポッピー。
あれだけ他にいた参加者は、仲間も敵も全員消失。
悪い夢と思いたいが、破壊された周辺が無情にも現実を突き付けて来る。

放送から間もなく起こった襲撃に端を発した乱戦の、幕引きがこうなるとは予想外。
苦い結果に三人とも暫し言葉が出なかった。

402progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:43:45 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


自分の背より高い目線も、両手足が浮く感覚も、密着した体勢も。
全部この島に連れて来られてから、覚えのあるもの。
唯一違うのは、見上げた先にある顔。
数時間の間に幾度も見た六眼はなく、代わりに青い大きなレンズの仮面。
視線を動かしてみると、自分の知る彼のとは全く異なる外見と気付く。
着物は見当たらず、黒のボディスーツに真っ白な鎧。
胸元に填め込まれた宝石が淡く輝き、触れていないのに熱を感じた。

「黒死牟さん?」
「ああ……」

低い声で短く肯定され、ホッとする。
彼が腕を掴んだ感触はハッキリ記憶してるけど、その後が少々曖昧。
シェイクされたみたいに頭がグラ付き、気付けばこの体勢。
自分が吸い込まれたせいで彼の手を患らわせたらしく、眉を八の字にして言う。

「ごめんなさい…もし太陽に当たっちゃったら、黒死牟さんは危ないのに……」
「不要な気遣いをする暇があるなら……自分と身内の事へ……頭を回せば良かろう……」
「皆のことは勿論心配してます。でも黒死牟さんのことだって、助けたいって思うのは変わらないですよ?縁壱さん…弟さんのことも、含めて」
「……」

困ったような、それでいて迷いなく言い切られ口を噤む。
数秒の沈黙を経て、礼を言いいろはが地に足を着ける。
今更ながら黒死牟も天津達のような、変身する道具を持ってたのに少々驚く。
日を避けるのに全身を装甲で覆うのは、理に適っている。
不思議なのは先の戦闘の際、日光がロビーへ入り込んでも使わなかった理由について。

403progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:44:23 ID:LPbpj4TY0
「これまで私が触れても……一切反応はなかった……使えぬ物と放置していたが……」
「じゃあ、今急に使えるようになったんですか?」

思わず腹部のベルトらしきパーツへ視線を落とす。
青いプレートに描かれた、自身の尾を飲み込む蛇。
不思議そうに見つめるいろはに反応してか、一瞬光を帯びた気がした。

黒死牟が姿を変えた際の名は、仮面ライダーサガ。
ファンガイアの王を守る為に作られたメカ生命体、サガークが我が身をベルト状に変え鎧を纏わせた戦士。
キバット族のようにベルト自体が意思を持つ都合上、所有者と認められなければ本来変身は不可能。
サガークの存在は黒死牟も早期に把握したが、お眼鏡に適わず無反応を貫かれた。
しかしいろはと共に別エリアへ飛ぶ寸前、独りでにデイパックから飛び出し腰へ装着。
激しい戦闘の影響もあってデイパックの口が半分ほど開いていたと、そう気付く暇もなく。
詳しく考えるより先に変身を実行、鎧を纏い太陽を遮断し今に至る。

ファンガイアの王の為の剣、ザンバットソードを振るったからか。
強引な方法なれど、魔皇力を我が物とし操れるようになったが故か。
或いは、登大我に仕えた過去から兄である黒死牟に思う所があった為か。
サガークにしか分からない理由が何にしろ、先の闘争が切っ掛けとなりサガの鎧の資格者に選ばれた。

そういった事情は知る由もなく、ただ日を避ける術が手に入ったと受け入れる。
次に考えるべきは、ここからどう動くか。
聖都大学附属病院からは強制的に離され、他の者もどこに転移させられたかは不明。
殺し合いに抗う者だけでない、乗った者達もだ。
当然その中には縁壱もおり、現在位置が分かる筈もない。

傍らの娘へふと視線をやる。
「たぶれっと」なる絡繰仕掛けの板を取り出し、地図を見ようと奮闘の最中。
取り敢えず自分達の居場所の確認から始め、向かう先を決める気か。

「お前は……」

太陽を遮る道具がある自分を置いて、本来の仲間の捜索を優先すれば良いだろうと。
そう口にしかけ、放って置けないと返すのが安易に想像でき口を閉じる。

「どうかしましたか?」

不思議そうに小首を傾げるいろはへ、何でもないと言うように視線を外した。

404progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:45:06 ID:LPbpj4TY0
【?????/一日目/朝】

【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、魔力消費(中)、悲しみと怒り
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
0:皆は大丈夫かな……。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達を探す。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。

【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、首へ斬傷(微小・再生中)、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?、サガに変身中
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、闇(3時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜1
【思考・状況】
基本方針:分からない。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様もおられるようだが……。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。

405progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:46:02 ID:LPbpj4TY0


【不動遊星@遊戯王5D's】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大・処置済み)、右腕に痛み(処置済み・動かす分には問題無し)
[装備]:ホカクカード×30枚@スーパーペーパーマリオ、何かしらのモンスターカード×40(メイン37、エクストラ3)@遊戯王OCG、オベリスク・フォースのデュエルディスク@遊戯王ARC-V、サテライト・ウォリアー@遊戯王OCG、レッドアイズ・トランスマイグレーション+ロード・オブ・ザ・レッド@遊戯王OCG、ウィザードライバー+ドライバーオンウィザードリング+ウォーターウィザードリング+キックストライクウィザードリング+ディフェンドウィザードリング@仮面ライダーウィザード
[道具]:基本支給品、城之内のデッキとデュエルディスク(ヘルモスの爪入り)@遊☆戯☆王、クリボー@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、ナイトサイファー@グランブルーファンタジー
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗の野望を止める、俺達の手で。
0:?????
1:結芽と行動する。
2:蛇王院と協力する。第一放送終了後指定の場所(有事に備えて三か所のどれか)に集まる。
3:ジャック、遊戯さんを探す。
4:デッキを作る。カードは今拾った。平行して自身のデッキも探す
5:海馬コーポレーション……どういうことだ?
6:主催者は一枚岩ではないかもしれない……?
7:司波……城之内……牛尾……。
8:カードが生成されるシステムを知っておきたい。
9:俺だけでなく遊戯さんもデッキを支給されていないのか?
[備考]
※参戦時期はジャック戦(4戦目)終了後(原作で言う最終回)。
※何のモンスターをホカクカードによってカード化したかは後続にお任せしますが、
 モンスターカード、或いは罠モンスター等効果でモンスターカード扱いになれるカードのみが対象です。
 現時点で判明してるのはセイクリッド・アクベス、BKベイル、星見獣ガリス、ジェット・シンクロン、シグナル・ウォリアー、スター・ボーイ、レッド・ミラー、ファイヤークラッカー、工作列車シグナルレッド、ジェット・ウォリアー、レボリューション・シンクロン、燃える藻、タスケルトン、波動竜フォノン・ドラゴン、ジャンク・フォアード、スカー・ウォリアー、サテライト・シンクロンのメイン13、エクストラ4(サテライト・ウォリアー込みで5)です。
 サテライト・ウォリアーは心意によって作成されてるので除外されます。
 また城之内のデッキからもカードを投入しているようです。
※デッキの代わりにホカクカードが割り当てられています。
※蛇王院、明石、達也、病院にいる参加者と情報交換しました。

【燕結芽@刀使ノ巫女(漫画版)】
[状態]:疲労(大)、結構楽しい、自分でもよく分からない喪失感
[装備]:九字兼定@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品、フレックの手袋@終末のワルキューレ、大尉の首輪
[思考・状況]基本方針:生きて帰る。
0:?????
1:遊星おにーさんに付き合う。多分これで良いんだよね?
2:カードで人は戦えるんだ。不思議。
3:強い人とは戦いたいけど、面倒なのはやだ。
4:群れるのは嫌いだけど、今はちょっとだけ別かも。楽しい。
5:あの面倒な奴(デェムシュ)、もっと面倒くさくなってない?
6:紫様の流派、楽しい! 見様見真似だけど!
7:カイトって人とおにーさんの知り合いを探す。
8:あの人(ポセイドン)も強いのかな。
9:黒死牟おにーさんが使ってた力、頑張れば結芽も使えるかな?
10:にっかり青江を見付けないと厳しいかなぁ…。
11:黒い手袋はズルみたいでいや、使いたくない。
12:主催者を倒せばおにーさんを生き返らせられる…?
13:黒死牟おにーさんの弟の人(縁壱)、ヤバ過ぎて笑うしかないんだけど!
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※九字兼定でも写シなどは使えますが、能力は本来の御刀より劣化します
※万病薬@ドラえもん の効果で病気が治りました。また飲んだ分は没収されてません。
 荒魂がどうなっているかは現時点では不明。後続にお任せします。
※強者との戦い、一人で戦うことの執着が少し薄れています。
※遊戯王の世界の情報を得てます。
※透き通る世界に一瞬だけ至りました。より感覚に慣れていけば習得まで到達するかもしれません。

406progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:47:45 ID:LPbpj4TY0


【キャル@プリンセスコネクト!Re:DIVE】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(中)
[装備]:ウルトラゼットライザー+ウルトラアクセスカード@ウルトラマンZ、怪獣メダル(ゴルザ、メルバ、超コッヴ、ガンQ、レイキュバス)@ウルトラマンZ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、詳細地図アプリ@ロワオリジナル、ウルトラマンベリアルメダル@ウルトラマンZ、NPCモンスターの残骸×??
[思考・状況]
基本方針:クロトや覇瞳皇帝からコッコロたちを守るために更なる力を求める。
0:?????
1:予定通りメダルガッシャ―を目指す。
2:途中誰かに出会ったら、覇瞳皇帝に関して警告し、コロ助への伝言を頼む。
3:エボルト、里見灯花、柊ねむ、カイザーインサイトを警戒。
4:こんな力、強さじゃないってわかってる。けどこれで守れるものがあるなら……。
5:ヤバいってのは十分承知。でもあたしに力を貸しなさい、ベリアル。
6:あの茶色野郎(野獣先輩)ふざけんじゃないわよ、次会ったらタダじゃおかないわ…。
[備考]
※ウルトラゼットライザーは、アクセスカード、
 ファイブキングを構成する怪獣のメダル5枚で一個の支給品扱いです。
※ウルトラアクセスカードは、一番最初に支給された参加者の物のみ支給されています。
※ウルトラゼットライザーは変身の際に、
 インナースペース(安全圏)にいる時間が短くなる様に、
 怪獣の力が本来のスケールで出せない調整されています。
 恐らく、ウルトラマンに変身する際も、同様であると考えられます。
※回収したNPCの残骸の詳細は、後の書き手様にお任せします。


【滅@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:ダメージ(中)、激しい怒り
[装備]:エボルドライバー(複製)+エボルボトル(コブラ、ドラゴン、ラビットライダーシステム)@仮面ライダービルド、オーソライズバスター@仮面ライダーゼロワン、スティングスコーピオンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:人類滅亡。迷いは無い。
0:?????
1:飛電或人は自分が殺す。
2:天津垓を含めた参加者の殲滅。
3:絶滅ドライバーとアズから与えられたプログライズキーを取り戻す。
4:マゼンタ色の仮面ライダー(士)と環いろはに苛立ち。
5:触手を操る男(無惨)は次に会えば殺す。
6:天津の言動に違和感。
[備考]
※参戦時期は43話終了後。


【野獣先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)
[装備]:ブレイバックル+ラウズアブゾーバー@仮面ライダーブレイド(キングフォームに2時間変身不可)
[道具]:基本支給品一式×5、デュエルディスク+デッキ@???、ホームランバット@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ、緑へものスタンガン@おちこぼれフルーツタルト、風間大介のギターケース@仮面ライダーカブト、どこでもドア(6時間使用不可)@ドラえもん、まあまあ棒@ドラえもん、戒の首輪、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:勝ち残り遠野を生き返らせる。
0:?????
1:殺りますねぇ!(尚も衰えぬ殺意)
2:白コートの剣士(鋼牙)や厄介そうな参加者は悪評を流して同士討ちを狙う。
3:仮面ライダーブレイドの名を利用する。
4:後でデッキの力も試しておきたい。
5:遠野を殺した奴は絶対に許さない。
[備考]
※バトル淫夢みたいな戦闘力があります。
※野獣先輩新説シリーズで対象キャラへの変身や能力・技能の獲得が可能になりますが、新説シリーズを使う度に体力が消費されるようです。
 参戦作品以外のキャラクターの説は使用不可能に制限されています。
 他にも天体説@現実など、殺し合いを破綻させるような説の使用も制限により禁止されています。

[全体備考]
※いろは&黒死牟、遊星&結芽、キャル、滅、野獣先輩はブラック・ホール@遊戯王OCGの効果で禁止エリア以外の異なるエリアにそれぞれ転移しました。場所は後続の書き手に任せます。

407progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:48:52 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


『これからどうれば良いのかな…?』

不安そうに尋ねるポッピーへ、天津もすぐには答えられない。
ブラックホールに飲み込まれた仲間の捜索は、勿論行うつもりだ。
しかし肝心の居場所の手掛かりはゼロ、虱潰しに探してすぐ見つかる程会場は狭くない。
となると、彼らが元々目指していた場所へ行けば合流出来る可能性はゼロじゃない。

「環達はともかく、不動は蛇王院と明石って連中と合流場所を決めてたんだろ?」
「ああ。加えてキャルくんもG-6に設置された施設へ行くつもりだったらしい」

もしブラックホールの先が、それらに近いエリアだった場合。
わざわざ病院へ戻るより、本来の移動先を優先するんじゃないか。
ブラックホールを出現させた薄汚い男が、魔法カードを逃走手段として用いたなら。
恐らく全員揃って同じ場所へ転移、とはなっていない筈。
それぞれ異なるエリアに飛ばされたと、考えて良いだろう。

「ともかく、我々も一旦腰を下ろして考えよう」

戦闘での疲労回復も兼ね、CRに戻り一度落ち着いた方が良い。
屋外で立ち話を続けるよりも、危険回避に繋がる。
天津の提案に異論はなく、破壊痕が真新しいロビーから離れる。
正面の出入り口がこの状態では、非常口か何かを通る他ないだろう。
ポッピーに案内を頼み歩き始め、

408progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:49:59 ID:LPbpj4TY0










「……っ!?スタープラチ――」










心臓を鷲掴みにされる錯覚を覚え、本能が警鐘を鳴らす。
脅威に備えろ、でなければ全員死ぬだけだ。
姿も見ぬまま自らの直感に従い、スタンドが時を止める。

「がっ……」

されど遅い。
世界がほんの一時鼓動を止め、時が凍り付く瞬間はやって来ない。
代わりに承太郎を襲ったのは、火炎を身に受けたかの熱さ。
スタープラチへ深く刃が食い込み、斜めに一文字を刻む。
視界を塞ぐ赤が全て己の血だと、察した時には意識が急激に奪われる。

「変身……っ!!」

目の前で起きた光景へ、数秒掛けてようやっと理解が追い付く。
遅過ぎる己への罵倒は後回し、サウザンドジャッカーを激しく振り回し牽制。
襲撃者は木の葉が舞うように跳び、あっさりと回避。
パープルのカメラレンズが標的を捉え、緊張に全身が強張った。

409progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:50:45 ID:LPbpj4TY0
「馬鹿な…!?お前もブラックホールに吸い込まれた筈だ……!?」

驚愕を露わに問い質す天津へ、敵は沈黙を返すのみ。
構えた日輪刀が答えの全てと言わんばかりに、縁壱は眼前の『鬼』を睨み付けた。

いろは達と同じく、縁壱も魔法カードの効果を受け別エリアへ飛ばされた。
天津自身が確かに見ており、実は近くへ潜んでいたのは有り得ない。
だというのに、現実にこの男は目の前に現れ承太郎を斬った。
他エリアから戻って来たのだとしても、流石に早過ぎる。

別のエリアに飛んだのは間違いないが、直前で縁壱はある物を使っていた。
回廊結晶、元はソードアート・オンライン内に存在したアイテム。
予め任意の地点を記録させ、瞬時にその場所への移動を可能とする。
日輪刀以外に主催者が持たせた支給品であり、これで転移先から即座に戻って来れたのだ。

そういった説明を行う気はなく、殺意を露わに剣を向ける。
兄を含めた他の鬼は見当たらないが、見逃す理由にはならない。
最悪の展開へ天津も焦燥感を抱き、どっと冷や汗が流れた。
戦う以外に切り抜けられない、かといって勝てる確率はゼロに等しい。

腹を括るしかないのかと思い掛けた時、デイパックが放られる。
誰がやったと訝しむまでもない。
夥しい血を流し続ける仲間が背を向け言い放つ。

「そいつはアンタが持って行け。この侍野郎に拾われでもしたら、一海に顔向けできねぇんでな」
「承太郎君…?まさか君は…!?駄目だ!認められる訳ないだろう!」
「俺からすれば、ここで全滅する方がよっぽど気に食わねぇ。一番マシな方法を取っただけだ」
「だからといって…!残るなら君ではなく私が……!」
「天津」

言いたいことは分かる、助かる確率の低い者が残るのは合理的だ。
嘗ての自分なら迷わず頷いたろうが、今はもう違う。
絶対に受け入れられず食い下がるも。静かに名前を呼ばれる。

410progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:51:36 ID:LPbpj4TY0
「後は、頼んだぜ」
「――――――――――――――」

一度も振り返らず、短くもハッキリと伝わる言葉をぶつけられ。
そこへ彼なりの信頼が籠めらていると、気付かない訳がない。
長ったらしい遺言なんかじゃあない。
後を任されたとあってはもう、頷く以外に何が出来るという。

「……必ず、檀黎斗を倒し殺し合いを終わらせると誓おう。君と一海君の信頼を、裏切る真似はしない」

そう言うとサウザンドジャッカーにプログライズキーを装填。
エネルギー体のバッタを生み出し、我が身を隠す。
一時的に敵の視界から消え、バッタが霧散するとそこに黄金のライダーは影も形も見当たらなかった。

天津の撤退を気配で確認、承太郎も残る最後の仕事をやり遂げる。
ポケットに手を突っ込み、瀕死の身ながら普段通りの構えを取った。
立っているだけでも抜け落ちる力を、気力のみで支える。

侍が迫る。結局母の待つ家には帰れなかったと苦笑いを浮かべる。
侍が迫る。思った以上に早く花京院やアヴドゥル、イギーとの再会が叶うらしい。
侍が迫る。自分らしからぬセンチな想いはここまでだ。

侍が迫る。拳を解き放つ。

411progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:52:17 ID:LPbpj4TY0
――壱の型 円舞

「オォォォォォラァァァァァーーーーーーーーーーッ!!!!!」

決着は一瞬、赫刀に手応えはあり。
動かなくなった相手を静かに見やり、薄く裂けた頬から一筋の血を垂らす。
死して尚も、逃げた仲間の元へは行かせまいと、立ったまま力尽きた『鬼』を。
滅ぼさねばならなかった強き『鬼』を。

「……」

この地で斬ったどの鬼も、同胞を逃がす為に命を散らして行った。
兄もまた、自分へ他の鬼を殺させまいと立ち塞がった。
人を止めても仲間を守らんとする姿は、自身が尊敬を抱く継国巌勝と何ら変わりない。
家族を守れず、始祖を逃した己なぞよりもずっと立派だ。

「兄上、あなたは……」

しかしそれでも鬼なのだ。
悲しみを生み、憎しみを誘発し、命を壊す。
存在してはならない生物である以上、滅ぼす以外に道はなし。

412progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:53:07 ID:LPbpj4TY0
「……?」

ふと、奇妙なことに気付く。
鬼は太陽に嫌われており、日の光を浴び消滅を免れるのは有り得ない。
そうでなければ日中から大手を振って、人々を食っているだろう。
だが今、天を見上げれば眩しい太陽がこちらを見下ろしていた。
闇が覆っていた先程ならまだしも、日光が降り注いでいながらどうしてあの鬼達は無事なのか。

おかしいと言えば、自分がここへ戻って来られた道具もそう。
あんな血鬼術にも等しい奇怪な結晶を、いつ己は手に入れた。
微塵も不可解に思わず使ったのかが、我が事ながら不思議でならない。

「……行くか」

抱いた疑問は膨らむ前に、空気の抜けた風船のように萎む。
神に弄られた影響は如実に表れ、明らかな矛盾を些事以下と認識。
そんなものより一刻も早く鬼を斬らねばと、白亜の宮殿へ背を向ける。

自分自身が幸せを壊す悪に成り果てたと、気付きもせず。



【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 死亡】



【D-6(島・聖都大学付属病院前)/一日目/朝】

【継国縁壱@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)、胸部に裂傷(中)、肩に切り傷(微小)、頬に傷(微小)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)紅渡(名前未把握)が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
2:兄上、あなたは鬼となって尚も……
[備考]
※首輪による制限が行われていません
※思考が矛盾を感じた場合、それを疑問に思わなくなるようプログラムを受けています。

413progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:54:01 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


『ねえガイ!待ってよ!』

画面越しに何度叫んでも、聞き入れる様子はない。
前方に視線を固定し駆ける天津は、病院を離れてから一度もポッピーの方を見なかった。
聞こえてない訳がないだろうに。

『あのままだとジョータローは……ガイは本当にそれで良いの!?』
「良い訳がないだろう…!」

立ち止まり堪らず叫び返した。
思わずビクリと震えるポッピーへ、視線を寄越さないまま。
俯く顔は仮面で隠れてるけど、どんな表情かは察せられる。

「良い訳が……ないんだ……」

ああするしかなかったと、分からないとは言わない。
誰が見たって、最善の選択だ。
承太郎が言うように、意固地になって残って全滅に陥るよりはずっとマシ。
だからといって、納得なんて到底不可能。
自分の過去を知っても仲間と受け入れてくれた承太郎を、見殺しにしたのと何が違う。
未来ある若者の命をこんな形で終わらせてしまい、後悔してないなんて有り得なかった。

『ガイ……』

項垂れる天津へ何を言って良いか分からず、痛い沈黙が流れる。
黎斗は自分をお助けキャラと言ったけど、この様で何を助けると言うのだろう。
こんなにも近くにいるのに、何一つで出来ない己が恨めしい。
蝕み続ける無力感という名の病の治療法は、ポッピーにも分からなかった。


【D-6/一日目/朝】

【天津垓@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、無力感(大)
[装備]:ザイアサウザンドライバー&アウェイキングアルシノゼツメライズキー&アメイジングコーカサスプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、バグルドライバーⅡ&ときめきクライシスガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品×2、滅亡迅雷フォースライザー&プログライズキーホルダー×7@仮面ライダーゼロワン、ゲネシスドライバー(破損)+チェリーエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、みーたんの抱き枕(破損)@仮面ライダービルド、パンドラパネル@仮面ライダービルド、スクラッシュドライバー+ロボットスクラッシュゼリー@仮面ライダービルド、オレンジロックシード@仮面ライダー鎧武、一海の首輪
[思考・状況]基本方針:檀黎斗とその部下を倒し、罪を償う
0:承太郎君……すまない……。
1:何処かへ飛ばされた仲間達を探す。彼らの元々の目的地へ向かうのも手か?
2:CRの関係者らしい花家大我とも合流しておきたい。
3:ポッピーから聞いたガシャットを見付ける。本当にあれば良いのだがな…。
4:出来る限り多くの人を病院に連れて来て治療したい。が、今戻るのは危険か
5:飛電或人と合流したい。もしアークに囚われていた時にこの場に来ていたのならば必ず止める。
6:滅は次に会えば必ず止める。たとえ力づくでも。
7:これ等のプログライズキーに映っている仮面ライダー達は誰なんだ?知っている人に会えたらいいが…
8:猿渡一海の仲間達を探し彼の最期を伝える。氷室幻徳とは随分離れているか…。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーゲンムズ スマートブレインと1000%のクライシス終了後
※ハイパームテキガシャットなど主催者撃破・会場からの脱出を安易にする強力なガシャットは、ゲームに乗っており尚且つ上位の力を持つ参加者の支給品にあると考えています。(現在の有力候補はポセイドンと縁壱)
※殺し合いの会場が仮想現実の可能性を考えています。
※現在バグルドライバーⅡにはポッピーピポパポが閉じ込められています。

414progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:54:51 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


「おノれ…猿どもメェ……!」

支給品に救われたと言うべきだろうか。
逃げた先の民家へ乱暴に押し入り、中を荒らしながらデイパックに手を伸ばした。
MNRから奪った支給品にあった、複数セットの回復アイテムをがぶ飲み。
どうにか死なない程度には治った為、家具を壊し八つ当たりする程度には元気だ。

尤も、刻まれた傷は決して浅くない。
残った分も使い回復に充てようと考えたが、治療手段は貴重。
寸での所で合理的に今後を見据え、温存を選択。
戦闘に支障はないので、取り敢えずはこのままで良しとする。

「ふザケルナ猿どモ!何度俺をコケにスれバ気が済ム…!!」

傷の痛みすら、受けた屈辱への怒りで塗り潰される。
札使いの小僧や黄金のアーマードライダーらしき者はいなかったので、どこかで野垂れ死んだのだろう。
だが他の連中は未だ健在。
特に胸部の傷をより深く抉った六眼の剣士と、小憎たらしい小娘。
加えて連中に力を齎した桜色の髪のガキに、甲殻類のような髪の札使い。

何より、見ているだけで虫唾の走る薄汚い汚物同然の猿。
奴らは絶対に生かしておけない。
必ずやこの手で殺さねば、怒りで気が狂いそうだ。

野獣先輩はデェムシュの怒りを鎮め、協力関係を築いたと思ってるが大間違い。
複数回使い戦闘を回避した道具の名はまあまあ棒。
対象の口に当てればどれだけ激怒していても落ち着かせられる、と野獣先輩は勘違いしていた。
実際には無理やり我慢させてるに過ぎず、怒りを消し去った訳ではない。

フェムシンムの自分をこき使った男への殺意も上乗せし、改めて猿への怒りを燃やす。
未だ誰も殺せていない鬱憤を、一刻も早く晴らしたいと願いながら。

415progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:55:57 ID:LPbpj4TY0
【D-5 民家内/一日目/朝】

【デェムシュ@仮面ライダー鎧武】
[状態]:疲労(中)、胸に刀傷(大)、全身に細かい斬傷、怒りと屈辱(極大)、高揚感
[装備]:両手剣シュイム@仮面ライダー鎧武、水の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、基本支給品一式×3、回復ポーション×2@ソードアート・オンライン、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスも参加者も皆殺し。
1:今は体力の回復に努める。
2:自分をコケにした猿ども(承太郎、遊星、結芽、いろは、黒死牟、戒斗、野獣先輩)は必ず殺す。
3:逃げた小娘(やちよ、桃)もいずれ殺す。が、2の連中より優先度は低い。
4:猿共に負けるぐらいならば主霊石を使っていく。
5:使える猿を探す。
[備考]
※参戦時期は進化体になって以降〜死亡前。
※水の主霊石を手にしたため水、氷の攻撃が可能になりました。 
 制御はうまくできてない為自分が巻き添えになる可能性はあります。
 代わりに制御と言うブレーキがないため、強めの力を放つことができます。
 なお、彼が凍ってもダメージはありません。
※ドラゴンフルーツエナジーロックシードを食べ進化した為、オーバーロードの能力が強化されました。

『支給品解説』

【ストライクマーク@テイルズオブアライズ】
尖鋭鉱と1500ガルドの費用で入手可能なアクセサリ。
装備すると貫通力が30%上昇。

【サガーク@仮面ライダーキバ】
ファンガイア族に伝わる「命宿すゴーレム」の生成法に則って作られた人工生命体。
ファンガイアの王を守護するという使命に従い、2008年では登太牙に仕えている。
古代ファンガイア語で話す為、ファンガイア以外との意思疎通は困難。
サガークに認められた資格者はサガの鎧を纏った、仮面ライダーサガへの変身が可能となる。

【ジャコーダー@仮面ライダーキバ】
上記のサガークとセットで支給。
縦笛型武器。サガークの側面にあるジャコーダースロットに差し込むことで、サガへの変身の意思を伝えるキーとしても機能する。
サガの意思に呼応して剣状のジャコーダーロッドと、鞭状のジャコーダービュートの2通りに変形可能。
ウェイクアップフエッスルも付属。

【闇@遊戯王OCG】
フィールド魔法
フィールド上に表側表示で存在する悪魔族・魔法使い族モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。
フィールド上に表側表示で存在する天使族モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントダウンする。
使用すると周囲一帯を太陽が見えなくなる程の闇で覆い隠す。
一度使うと3時間使用不可。

【レッドアイズ・トランスマイグレーション@遊戯王OCG】
儀式魔法
「ロード・オブ・ザ・レッド」の降臨に必要。
(1):自分の手札・フィールドから
レベルの合計が8以上になるようにモンスターをリリース、
またはリリースの代わりに自分の墓地の「レッドアイズ」モンスターを除外し、
手札から「ロード・オブ・ザ・レッド」を儀式召喚する。
遊星が心意システムで創造したカード。

【ロード・オブ・ザ・レッド@遊戯王OCG】
儀式・効果モンスター
星8/炎属性/ドラゴン族/攻2400/守2100
「レッドアイズ・トランスマイグレーション」により降臨。
(1):1ターンに1度、自分または相手が
「ロード・オブ・ザ・レッド」以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、
フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
(2):1ターンに1度、自分または相手が
「ロード・オブ・ザ・レッド」以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、
フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
遊星がレッドアイズ・トランスマイグレーションと共に心意システムで創造したカード。
アニメ版よろしく、プレイヤーか仲間に装備させる形での召喚が可能な模様。

416progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:56:39 ID:LPbpj4TY0
【ラビットエボルボトル@仮面ライダービルド】
エボルトが桐生戦兎に憑依した際に使ったエボルボトル。
エボルドライバーに装填する事でフェーズ3の、仮面ライダーエボル・ラビットフォームに変身が可能

【どこでもドア@ドラえもん】
22世紀のひみつ道具の一つ。片開き戸を模している。
目的地を音声や思念などで入力した上で扉を開くと、その先が目的地になる。
本ロワでは一度使うと6時間使用不可。

【まあまあ棒@ドラえもん】
22世紀のひみつ道具の一つ。先端に×形の板が付いた棒。
人(ロボットや動物含む)がどんなに怒っていても、×形の部分で口をおさえて「まあまあ」と言えば怒りを鎮められる。
仕組みとしては×形を相手の口に塞いで怒りを腹の中へ飲み込ませ強引に我慢させる。
その為同じ相手に何度も使用して我慢させすぎると、積もりに積もった怒りエネルギーが火山のように大爆発する。

【ケロンパス@ドラえもん】
22世紀のひみつ道具の一つ。
これを体に貼ると全身の疲れをとることができ、それを他人に貼るとその疲れを移すことができる。

【ブラック・ホール(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG】
通常魔法
(1):フィールドのモンスターを全て破壊する。
本ロワではブラック・ホールを出現させ、吸い込まれた者をそれぞれ禁止エリア以外のエリアへランダムに転移させる。

417progressive -漸進- ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:57:10 ID:LPbpj4TY0
【バグルドライバーⅡ仮面ライダーエグゼイド】
ガシャコンバグヴァイザーⅡとバグスターバックルⅡを合体させる事で完成する変身ベルト。
ライダーガシャットとの併用で装着者を仮面ライダーに変身させる。
檀黎斗がバグスター用に設計したものであり、普通の人間が使用すると大量のバグスターウイルスに感染して消滅する。
本ロワでは上記の制約は取り払われており、バグスターではない全参加者が使用可能。
また神檀黎斗同様にバグスターを封じ込める機能も搭載されている。

【ときめきクライシスガシャット@仮面ライダーエグゼイド】
上記のバグルドライバーⅡとセットで支給。
ライダーガシャットの一つであり、ラブリカ曰く「自分を魅力的にアピールし、異性からの好感度を上げてハートを射止めるゲーム」。
バグルドライバーⅡと組み合わせれば仮面ライダーポッピーに変身可能。

【回廊結晶(コリドークリスタル)@ソードアート・オンライン】
濃紺色のクリスタル。
『任意の地点』を記録させ、そこを出口にすることが出来る。

【回復ポーション@ソードアート・オンライン】
ポピュラーな回復アイテムで、レモン味(のような)不思議な味がする液体が詰まった小瓶。
初期のプレイヤーではこれ一個で全快する。
5個セットで支給。


『施設解説』

【飛電製作所@仮面ライダーゼロワン】
D-5に設置。
お仕事5番勝負に敗北し、飛電インテリジェンスを自主退職した飛電或人を代表取締役社長として新たに立ち上げた株式会社。
社屋は普通の町工場となっており、本編第40話でアークによって破壊されてしまった。
ヒューマギアの修理・再起動を請け負っているだけあって、内部の設備は充実している。

418 ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:57:48 ID:LPbpj4TY0
投下終了です

419Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:54:02 ID:IgssC/qU0
投下します

420Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:54:51 ID:IgssC/qU0
 デェムシュ達との戦いのあと、
 Lのダメージが割と深刻なのもあり、
 一度休憩を挟まなければ今後の彼の身に問題が起きてしまう。
 幸い、ヴォルカザウルスの効果を諸に受けて肉体的な損壊がないのは、
 流石アーマードライダー、もとい仮面ライダーと言ったところだろうか。
 それでも肉体的なダメージは決して無視できるものではなく、近くの民家に身を休める。
 休むのは休息も兼ねているが、別の理由もあった。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。』

 休息から程なくすると空のモニターから顔を見せる檀黎斗。
 Lは重い身体を上げ、戒斗は鋭い眼差しを向け、ベクターはおーおーと額に手を当て眺める。
 派手な主催の登場。しかしモニター越しでは決して彼に関与しきることはできないだろう。
 各々が見届ける中、告げられていく禁止エリアや死者の名前を聞き、静かに時間が過ぎていく。

『さらばだ諸君!6時間後にまた会おう!無事に生き延びられたらの話だがな!ヴァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!』

 尋常じゃないやかましい発言と共に放送は終わる。
 静かになった空を一瞥し、本当に何もなくなるとLがソファに寝転がる。
 だらんとした腕が床をコツンと叩く程度に彼の疲労は大きいものになっていた。

「お二人とも。寝てる間も時間を、無駄にしたくありません。
 今できる情報をまとめますが……二人とも大丈夫ですか?」

 肩で息をしながら軽く上半身を起こし、背もたれに身体を預けるL。
 手段は善良ではないにせよ、その志は間違いなく正しい白の中の人間だ。
 だからこんな状態になろうとも、自分のするべきことをやめることはしない。
 死人だから、と言う自棄は僅かに含まれているかもしれないと言えば嘘になるが、
 だからと言って、考えなしに無為に死ぬようなつもりは毛頭なかった。

「死人が出ておいて吉報と言うのはおかしな話ですが、月君が……キラが死亡しました。」

 別に不思議とは思わなかった。
 Lとて戒斗やベクターと出会わなければ、
 デェムシュ達とはとても戦えるものではなかった。
 だから彼が仮に頭脳で立ち回り続けたものだとしても、
 此処ではそれ以上に理不尽な暴力と言うものがいくらでも待ってるのだろう。
 先のオーバーロードなんてものもそれだ。あれを知略で攻略しろ、
 そんなもの土台無理な話である。

「彼は私の悪評をばらまくことはないでしょうから、
 後顧の憂いは絶てたと言えます……非常に残念ですがね。」

 キラを殺すつもりなどなく、
 あくまでキラを逮捕するつもりで活動していた。
 だから彼とは生きて邂逅を目指していたつもりだったが、
 それすら叶わず、どこの誰かも分からない相手に殺されてしまったようだ。
 宿敵でありつつも似た者同士。どこか奇妙な友情を持っていたような気もするので、
 ひょっとしたら、そういうところが僅かながらにあったのかもしれないとも推理しておく。
 良くも悪くも、この場で最も生きる意味を失っていると言うことに繋がってしまうものの、
 別にそれで不貞腐れたりどうでもよくなったりはしない。事態の解決には尽力を尽くすつもりだ。

「それと死者ですが、やはり予想通りの人数でしたね。」

 およそ、二、三割を想定していたが事実その通りになった。
 やはりあまり悠長にことを構えていられる余裕はないだろう。
 最悪、デスノートと言う極悪支給品がまだ眠っている可能性もある。
 早急に処分、最悪利用することも視野に入れておかなかければならない。

「……それで、現状一番の問題ですが。真月さん。大丈夫ですか?」

 現状一番精神的な影響は、間違いなくベクターにある。
 一番敵対し、同時に複雑な感情を抱いていた少年も何処かへと消えた。

「ハッ、そうかよ。」

 はっきり言うと『知ってた』の一言に尽きる。
 その一言が出てくる程度には予想されていたことだ。
 分かりきったことだ。あいつが此処で長生きできるはずがない。
 かっとビング? そんな甘いものが此処でどれだけの力が作用するのか。
 いや、作用はした。困難へと突き進み、最終的に稲妻の勝利を勝ち取った自分がその証左だ。
 そうやって、かっとビングとは伝播していくもの。ある意味では既に意味を成しておる。
 けれども。そのかっとビングの始祖はもういない。何処とも知れず、死んでいった。

 ガン、と家屋の壁をベクターは強く叩いていた。
 無意識だ。彼はそんなセンチな心は持ち合わせてはいない。
 ああ、そう。それだけで済ませられそうなことが済ませられなかった。
 かっとビングをしたからか、希望を手にしてるからかは定かではない。

「……何死んでんだよ、てめえは。」

421Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:55:23 ID:IgssC/qU0
 だが、そうごちることをせずにはいられなかった。
 この人の心がない奴を伸ばす手はいったい何処へ行った。
 どいつもこいつも、味方につけていくその真っすぐさは何処に消えた。
 底抜けのお人よしの笑顔は、もう決して今後二度と見ることがないのだろう。

 返答とは呼べない返答と共に、後頭部を掻くベクター。
 三勇士で最も仲間を先導し、勝利へと導いた男はもういない。
 だったらどうする? 生き返らせるか? まあ、やろうと思えばやれる。
 ヌメロン・コード。万物の事象を書き換えるそれに手を出せば、誰でも生き返る。
 もっとも、それが主催の言う願いを叶える力を行使する際に持っていたなら別だが。

「名探偵様よ……私怨はありか?」

 どうせなら殺したやつを拝んでおきたい。
 そいつが死んでいた場合でも構わなかった。
 あいつのことだから殺したやつにも手を伸ばしてそうだ。
 だから気になる。殺した相手がどんな奴だったのかを。

「……構いませんが、程ほどに。我々の目的は変わりません。」

 推奨はしない。しかし否定をするつもりもない。
 やむなく殺してしまった、とかそういう可能性もありうる。
 その場合であればLは善側として全力で止めに入るつもりだ。
 そうでないならば、敵である可能性が高いので止めるつもりはなかった。

「ああそうかい。そりゃどうも。」

 まあどこの誰かも分からないし、
 さっき考えた通り既に死んでる可能性もある。
 そう簡単に探せるものではないし、あくまで目的の一つ程度だ。

「……で、お前も大概怒りを隠しきれてねえな。」

 無言を貫きながら壁を背に立つ駆紋戒斗。
 そこにあるのは純粋な怒りの表情だ。

「当たり前だ。戦った戦士に敬意も払えん神だ。」

 すべての死者がそうとは限らないだろう。
 しかし、己の矜持を以って戦い抜いた者達は必ずいるはずだ。
 それを一緒くたに侮辱するような発言をし、楽しんでいるその様。
 度し難いし、許し難い存在となるのは性格上無理からぬことではある。
 もしこの家のテレビから彼が映っていれば、殴り壊していただろう。

「さーてと、名探偵様。瀕死の状態でありますがいかほどに?」

 見下すように、
 しかしそれは急かすかのような表情だ。
 彼としては仇討ち、ないし仇を何としても拝みたいのだろう。
 今までダウナー気味であった彼が、行動的になってるのがその証左だ。

「首輪の回収(麻耶と牛尾)を放置したのは痛いが、
 今更戻る気にもならねえし、E-5へ向かってみるかぁ?」

 此処はC-5。南下すれば程なく主催の言う目的地だ。
 ただし、あくまで何事もなければの話である。
 敵だって向かってくる可能性の高い場所に、瀕死の名探偵を連れて向かう。
 中々リスクのある行動だ。この勢力がそれなりの水準に達してるのは、
 強化されたオーバーロードと参加者を前に勝利を勝ち取ったので十分だ。
 しかし、やはりLの体力の消耗が激しい。変身はできても戦闘は満足にできないだろう。

「いいえ、向かいましょう。」

 ヒョイ、と身体を大きく動かして一気に立ち上がりだす。

「本気か?」

「時間がありませんので。最悪、
 その中の支給品で傷を治す方がいいでしょうし、
 それが敵に渡ったとなればまず我々が不利になるだけです。」

 ごもっともな話である。
 少なくとも支給品に興味がないであろう、
 NPCの侍(縁壱)と槍の男(ポセイドン)はないとしてもだ。
 善悪問わず他の参加者がこぞって狙いに行く可能性は決して否定できない。
 ならば立ち止まってる暇などなく、歩く程度には復帰できるようになる。

「ですがその前に。我々の捜索対象が増えました。」

「あ? 今の死人だろ? いたか?」

「いえ、厳密には増えたと言うよりは、重要度が増しました。
 花家大我です。名簿には宝条永夢と戒斗さんの間にいるのは説明してますよね。」

「それは分かる。だが何が理由だ。」

「明らかに彼は宝条永夢に対する呼び方だけが違いました。
 恐らくですが、彼のことを期待か、彼のことを知ってるのではないでしょうか。」

422Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:56:04 ID:IgssC/qU0
 名簿が知り合い云々は確定であり、
 戒斗の手前にあるが彼は大我のことを知らない。
 となれば、彼が永夢の関係者である可能性は十分にある。
 そのことは死体漁りでも説明はしたが、重要度は別になっていた。

「だが味方と言う保障はなくねえか?」

「ええ。ですが、檀黎斗の情報は持っているかと。」

 攻略の糸口を見つけるには、
 彼がいかような人物かを知る必要がある。
 既に彼の人柄と言うものは大分見えてはいるのだが、
 何気ない情報をかき集めることが地道な推理に繋がるのだから、
 出会って損はないだろう。少なくとも生存してる時点である程度の実力は保障されている。
 敵であった場合は、無論容赦するつもりはなく最悪拷問する気でいるが。

「なるほどね……しっかし、ふらふらの奴が無理しちゃってまあ。」

 立ち上がったはいいがLの足はおぼつかない。
 仕方がねえな、とでも言わんばかりにデュエルディスクにカードを置く。
 希望の戦士が外にて召喚され、形を変えてモンスターの姿へと変えていく。

「てめえが歩くより断然速い、違うか?」

「……そうですね、感謝します。
 ですが、振り落とされる可能性もあるのでほどほどに。」

 常に平静を装うような無表情のLではあるが、
 足の震え【D-5/一日目/朝】

【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:夜空の剣@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを力で叩き潰す。
1:殺し合いに乗っている参加者は潰す。
2:首輪を外せる参加者を見つける。
3:L、ベクターと共に行動する。
4:槍の男、デェムシュは要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※クラックを開き、インベスを呼び出すことは禁止されています。
※Lの考察については半信半疑です。
※攻撃の消滅、反射に制限がかかってます
 どの程度の制限かは後続にお任せします

【L@DEATH NOTE】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:量産型戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、バナナロックシード@仮面ライダー鎧武、真中あおの杖@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(確認済み、武器の類はなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める
1:駆紋戒斗、ベクターと共に行動する。
2:他の参加者を探し、情報交換をする。
3:無暗に犠牲を強いるつもりはないが、綺麗な手段だけで終わらせられるとも思ってない。
4:槍の男。デェムシュには要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
[備考]
※参戦時期は死亡後です
※この殺し合いにドン・サウザンドが関係してる説を考えてます。
 (関係してるだけで関与してない可能性も高く、現時点では推測程度)
※永夢と大我、遊星と牛尾とジャック、遊戯と海馬(両方)と城之内と御伽が知己であると考えてます
 遊星達と遊戯達が同一の世界かどうかまでは確定できていません。

423Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:56:15 ID:IgssC/qU0

【真月零(ベクター)@遊戯王ZEXAL】
[状態]:大分センチな気分、疲労(中)、ダメージ(中)、
[装備]:ショット・オブ・ザ・スター@グランブルーファンタジー、九十九遊馬のデュエルディスク@遊戯王ZEXAL、No.39希望皇ホープ@遊戯王ZEXAL、牛尾デュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s、不動遊星のデュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品一式×3(牛尾、麻耶、自分)
[思考・状況]基本方針:主催にとって良からぬことを始めようじゃねえか。
1:……まったく、とんだお人よしだったぜ。てめえはよ。
2:ナッシュがいることだし少しだけ協力は考えて……いややっぱやめとくか?
3:帰宅部ねぇ。ま、いたら声はかけるか。
4:Lに駆紋、アウトローで構成されてるねぇ。ま、俺らしく外道な手段でやってやるさ。
5:ドン・サウザンドの復活ねぇ……どうだか。
6:槍の男には要警戒。
7:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
8:エクシーズ召喚できるデッキをくれ。と言うかなんだよシンクロって。
9:ホープ・ザ・ライトニングねぇ……まさか俺が新しいホープを手にするとはな。
[備考]
※参戦時期はドン・サウザンドに吸収による消滅後。
※ドン・サウザンドの力、及びバリアン態等の行使は現状できません。
 力が残っていて、バリアンスフィアキューブがあれば別かも。
※Lの考察については半信半疑です。からやはりまだ体力が本調子ではないのが分かる。
 これでは世界一の名探偵ではなく、世界一の安楽椅子探偵になりかねない。
 もう少し甘いものを控え、運動をするべきだったかと頭の片隅に追いやりながらホープへと乗る。
 ベクターと戒斗も乗り、水平に移動するようにホープは空中を駆けだして突き進んでいく。
 既に希望の担い手はいない。されど希望と、かっとビングを受け継いだ男はここにいる。
 それは彼が望んだ形か、望まなかった形か、或いはそうあれかしと願った形なのかは、
 少なくとも誰にも分からないだろう。

424Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 13:56:35 ID:IgssC/qU0
以上で投下終了です

425 ◆7PJBZrstcc:2025/03/18(火) 23:29:54 ID:xjLroEPA0
エボルト、イリヤ、チノ、遊戯、ロゼ、凌牙、空也 予約します

426Successor Soul ◆EPyDv9DKJs:2025/03/18(火) 23:50:02 ID:IgssC/qU0
拙作ですが途切れてた部分があったので修正しておきます

> 常に平静を装うような無表情のLではあるが、
 足の震え【D-5/一日目/朝】

修正後
 足の震えからやはりまだ体力が本調子ではないのが分かる。
 これでは世界一の名探偵ではなく、世界一の安楽椅子探偵になりかねない。
 もう少し甘いものを控え、運動をするべきだったかと頭の片隅に追いやりながらホープへと乗る。
 ベクターと戒斗も乗り、水平に移動するようにホープは空中を駆けだして突き進んでいく。
 既に希望の担い手はいない。されど希望と、かっとビングを受け継いだ男はここにいる。
 それは彼が望んだ形か、望まなかった形か、或いはそうあれかしと願った形なのかは、
 少なくとも誰にも分からないだろう。

427 ◆QUsdteUiKY:2025/03/19(水) 03:42:52 ID:wVv/QNyE0
直見真嗣、クウカを予約します

428スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:45:36 ID:h5j6.Tts0
投下します

429スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:46:30 ID:h5j6.Tts0
 空域。
 生身の人間では決して到達しうることのできない領域。
 もし飛べるとするならば、そこは安全圏と多くの者が思うだろう。
 あくまで、空中と言う領域が何かを知らぬ者からすればの意見だが。

「ABC-ドラゴン・バスターで攻撃!」

「チィ!」

「XYZ-ドラゴン・キャノンで攻撃!」

「フン!」

「XYZ-ハイパー・ドラゴン・キャノンで攻撃!」

「おのれぇ!!」

「ABCードラゴン・バスターの効果発動!
 手札を一枚コストに、貴様の戦車を除外する!」

「させんぞぉ!!」

 それはもう戦いと言っていいのだろうか。
 牛車、基神威の車輪に乗ったDIOが死に物狂いで避けていた。
 砲撃、ビームを筆頭とした圧倒的なまでの弾幕は一個人には過剰すぎる火力だ
 まさに殺意の塊。一撃でも受ければDIOでなくても大概の参加者は昇天が確定する。
 何故、このような展開になっていると言うと時は少々遡る。





 空中を飛び交う赤き機竜、Y-ドラゴン・ヘッド。
 口から雷光を放ち、空を飛び交うモンスターを撃墜していく。
 難なくしのいでいる海馬ではあるものの、空も安全圏ではないのが分かる。
 もっとも、この程度は予想済みだ。ゲームと称しているのであれば、一方的なゲームバランスは避ける。
 無論、最初に憤った通りお世辞にもバランスがいいとは言えないのがこの舞台の特徴でもあるのだが。

(空を飛ぶのは余りあてにするべきではないな。)

 カイトの時のように大型モンスターや、
 何かしらのアクションがあればそこを目指しやすい。
 だが空高くではいかに参加者が大人数だとしてもフィールドの広大さでは余りにも小さい。
 もう少し高度を下げていれば、近くのエリアに里見灯花の姿も確認できたかもしれないが結果論である。
 どうにもほかの参加者との接触がないまま時間がただ流れていく中、事態は急変していく。

「!」

 ドラゴン、鳥獣、機械、いずれの飛行型のモンスターにあらず。
 迫るは獣族と言うべき牛。雷光を轟かせて迫るそれは並のモンスターとは別格。
 迎撃など考えず、旋回しながら上空よりその牛の引く戦車を海馬は見やる。
 傲岸不遜な態度で座る、漆黒のスーツと鎧に包まれた人物。何者か知る由もない。
 だが言葉は不要。海馬にとって蹴散らすべき敵。その認識だけで十分だ。

 DIOは予めメタルビルドへと変身していた。
 元より太陽の遮断が目的だったわけだ。地上全体に太陽が行き届く前に、
 空中は諸に太陽光を浴びるのだからあらかじめ変身しておくのが当然ではある。

「無駄だと分かっているが貴様、何者だ?」

 スーツ越しでは相手の容姿は一切分からない。
 太陽の光を浴びる漆黒の鎧は、地上の黒点のような存在感を放つ。

「突然の無法な行動に挨拶はすまないな。
 何分牛車……いや戦車の扱いには不慣れなものでな。
 私はDIO。今は仮面ライダーの姿をしていることについては、
 太陽光アレルギーなものでね……顔を見せられないことは理解してもらおう。」

「……海馬瀬人だ。二人いるが、名簿上のどちらが俺を指してるかは知らん。」

 機械竜と戦車。
 二つの存在が並走しながら空中で語らう姿は、
 いささかシュールと言わざるを得ない光景だった。
 語らうと言っても簡潔な情報交換……と言いたいところだが、
 海馬が出会ったのはもう一人の自分以外はカイト達だけなので情報は乏しく、
 そしてDIOはその三人とも出会ってるため殆どDIOからの提供ばかりになる。

「誰も彼も殺し合いには懐疑的な存在だった。
 ただ或人は少し気を付けた方がいいだろうな。
 奴は滅と言う男への復讐を望んでいる……ああ、
 言っておくが善悪の概念で言えば滅の方が悪らしい。
 私にとって復讐の議論などするつもりは毛頭ないのだが、
 彼の場合は復讐のためであれば手段を選ぶか怪しくはあるからな。」

 カイトの時と同様に、人物情報について『だけは』真実を語っていく。
 とは言え、今回の相手についてはこの策は余り役に立ちそうにないと思っていた。
 或人やミカンのように精神が不安定な人物ならば、危険人物である自身からの情報を、
 簡単に信じることはなく承太郎が安全な人物と言う言葉にも疑念を持つだろう。
 しかし目の前の男は余りにも冷静だ。成功率が低い手術を前にしても冷静に、正確にメスを入れる。
 嘗てホル・ホースに撃たれそうになったが、あの時の彼以上だ。一歩間違えれば即死間違いなしで、
 命綱も手綱もなく空の世界でモンスターの上で仁王立ちしている彼は、極めて強靭な精神力を持っていることが伺える。
 悪意の種を蒔いたところで、果たして本当に芽吹くかどうかについては懐疑的な部分があることは否めない。

「復讐か。誰が何をしようが、勝手ではあるがな。」

430スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:47:20 ID:h5j6.Tts0
 此方の海馬はバーチャル世界で海馬剛三郎による復讐にあった。
 もっとも、剛三郎が自殺した世界のの海馬と違ってこちらの海馬は、
 株の争奪戦によって失脚と言う形で勝利を収めている海馬にとって、
 海馬剛三郎と言う存在については余り大きな存在ではないのだが。
 言葉通り、心底どうでもいい。最後の戦いを見届けなかったことで、
 アテムに執着するもう一人の海馬と同様、好き勝手やってくれればいい話で終わる。

「それでDIO。貴様は……」

 互いに移動手段があるわけだ。
 こうして並走するのは効率、時間共に無駄になる。
 承太郎とやらに合流するのかと尋ねようとしたが、海馬は咄嗟に飛びのく。
 弾丸の如く迫るザ・ワールドの右ストレートを無傷で躱すにはそれしかなく、
 空中をそのまま落下と言う選択肢を取らざるを得なかった。

 海馬と会話しても、取り込むことはまず不可能だろうとDIOは判断した。
 そして悪意の種も同様。ザ・ワールドを前に飛び降りるを躊躇せず選択している。
 では何故先程万丈や承太郎を善良な参加者と、あえて真実を吹聴する無駄をするのか。
 それは、この舞台においてイレギュラーが多すぎることによる慎重さがある。
 ジョナサンを超える素晴らしいボディ。ジョースターの血筋でもない連中による時の静止時間への入門。
 ザ・ワールドの時間停止の封印。不死身・不老不死・スタンドパワーを兼ね備えても危険視せざるをえないドラゴン。
 更には時間停止ができないことも含め、人間どもから撤退を余儀なくされた先の出来事と多くの出来事が舞い込んでいる。
 今ここで海馬を突き落としたことには成功した。しかし海馬は地面にそのまま落ちてくれるとは到底思えない。
 DIOにとってデュエルディスク、ひいてはデュエルモンスターズは何があるのか全くの未知数の存在である。
 デュエリストに恐怖しているのではない。デュエリストはジョースターの血統同様に侮ってはならぬと言うこと。

「来い! 漆黒の闘龍(ドラゴン)!」

 DIOの予見通り、海馬は漆黒の龍を空中で召喚し、
 身を翻しながらドラゴンに着地、上空のDIOの戦車を見据える。
 此処は地上より遥か上空。バトルシティの決勝戦の対戦を決める戦いや、
 ダーツとの最終決戦の時のようにモンスターが空中に浮いてくれるかどうか。
 部の悪い賭けなど城之内のやることであり、Y-ドラゴン・ヘッドと共に退却するように逃げる。
 無論、逃がすつもりなどない。追走するように戦車が迫りくるも、二体のモンスターは更に上空へと旋回していく。

 そうして始まることとなった、海馬VSDIOのデュエル。
 しかし海馬はもう一人の海馬と違ってブルーアイズこそを切り札にしてるが、
 どちらかと言えばXYZのユニオンモンスターを筆頭としたものを駆使していく。
 そして、その展開力はでたらめなものだ。空中でのカーチェイスは決して優劣はないが、
 移動しながら海馬は短いターンでユニオンモンスターを次々と展開しそれらを融合、
 もとい合体させて強力なモンスターを召喚すると言うのが海馬のデッキのセオリーの一つ。
 砲台を背負ったモンスターを上部に、赤い機械龍を腹に、黄色いキャタピラーを脚部にしたモンスターである、
 XYZ-ドラゴン・キャノン、更にそれ酷似したモンスターであるXYZ-ドラゴン・ハイパー・キャノン、
 紫と緑の双頭の機械竜、ABC-ドラゴン・バスターと一切の呵責も良心もないモンスターを展開し続け今に至った。
 だがこれでも仕留めきれないのは流石DIO、もといイスカンダルの宝具とでも言うべきだろう。
 一発の被弾すらすれば撃墜し、そのまま総攻撃で死に直結するのは間違いないのだから、
 これをなんとか回避に至れている戦車もだがDIOの精神力も相当なものになる。

(チィ!! カイトと違って物量なのが腹立たしい!!)

431 ◆4Bl62HIpdE:2025/03/23(日) 01:47:56 ID:AE2/TlsI0
閃刀姫-レイ、門矢士、七海やちよ、千代田桃、保登心愛、風祭小鳩、桐生戦兎、深海マコト、土部學、モニカ、肉体派おじゃる丸、コッコロ、奈津恵、デェムシュで予約します。
延長申請もしておきます。

432スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:48:08 ID:h5j6.Tts0
 先の戦いでは銀河眼の時空竜には少しばかりだが手を焼かされてはいた。
 しかしあれは一体だけだ。だから一体を注視していればそれほど脅威ではない。
 ……時間を止める能力を無効にする、などと言う無法の効果があったのは想定外の出来事だが。
 しかし海馬はデュエリストの弱点を理解している。だから逃げと言う道を躊躇せず選んだ。
 逃げるなど海馬らしくないように見えるが、無謀な行為をするようなどこぞの凡骨とは考えが違う。
 此方はモンスターと言う壁がなければ銃やナイフと言ったものですら致命傷になりえるものだ。
 海馬は銃を相手にもカードで叩き伏せたりしているが、それが此処でうまくいくとは限らない。
 だから慎重に、漆黒の闘龍に乗りながら着実に勝利への布石を準備してモンスターを揃えていた。
 お陰で攻撃力2800のXYZ、3000のABCとXYZの三体を短時間で揃えることに成功する。
 カイトのタクティクスは決して低いものではない。アストラルつきの遊馬に勝利するだけの実力を持つ。
 しかし、精神的なコンディションや状況も相まって僅かばかりにタクティクスは劣っていたことは否めない上に、
 何より海馬と言う男はあの武藤遊戯に数少ない食らいつくことのできる、文字通り指折りのデュエリストの一人だ。
 そんな彼が冷静に物事を見据えてデュエルを行えば、カイトとの差が開いてしまうと言うのも無理からぬことである。
 しかもDIOには遠距離攻撃の手段がザ・ワールドのみと言うのも手痛いところだった。
 この弾幕の嵐の中、フィードバックするスタンドを向かわせるなど自殺行為に等しい。

(戦車を落としたいが中々うまくいかんな。)

 戦況は圧倒的なまでに海馬が有利だ。
 DIOはメタルビルドに変身して宝具もあるものの、
 肝心の飛び道具を持ち合わせていないと言うのが大きい。
 いや、持ち合わせているのかもしれないがこの弾幕の嵐だ。
 とても支給品を漁るような暇がない、とでも言うべきだろう。
 しかし海馬は油断しない。さっきから足を奪おうとしているのに、
 未だ戦車にはかすり傷すら与えられずにいるというこの状況がその証左である。
 加えて余り攻撃を過剰にすれば地上に砲撃が、もとい余計な被害が出てしまう。
 だから全弾発射と言うわけではない弾幕がDIOを生かしてる部分はあるか。

「X・Y・Zハイパーキャノンの効果でY-ドラゴン・ヘッドを戻しドロー。」

 海馬のデッキは基本的に攻撃的なデッキになる。
 ウイルスによるデッキ破壊、ブルーアイズによるパワーカードの制圧。
 だが小技も十分にあり、発動している罠の効果で手札を増強していく。

「俺のターン、ドロー。」

 一斉掃射ではなく継続的に攻撃をすることで反撃の暇を与えさせない。
 その間に手札を補充して、この勝負を早期に決着をつけることを考える。

「光線と言った方法で除去効果を行うABCやXYZでは、
 必然的に攻撃を回避される可能性があるか。テキスト通りの効果は発揮できない。
 ならば、これならばどうだ。手札を一枚捨てることでブラック・コアを発動する!」

「!?」

 目の前に現れるブラックホールのような黒い球体。
 ブラック・コア。手札を犠牲にすることでカードを除外できる魔法カード。
 言ってしまえばABCの除去効果と同じ。寧ろブラック・コアの消費の分も合わせればマイナスだ。
 しかもABCの除去が当たらないのだ。ブラック・コアも当てられるものだとは思っていなかった。
 なので、デュエルと言う基本概念を海馬は捨てた。

(回避すれば間に合う! だが確実に、
 その方角に攻撃が狙うように砲口が狙っている!
 この男……デュエルを殺し合いとして理解している!!)

 カイトの時の戦いでは全体的にモンスター効果を使ったり、
 カードの効果の範疇に収まった、いわば型にはまった戦いをしていた。
 しかしこれは別だ。避ければ攻撃が待っている。普通の戦いと同じ形式だ。
 数メートル先に点在するブラック・コアは確実に戦車を飲み込む、除外するだろう。
 そうなればDIOの敗北は確実。仮に回避できても軽く数十メートルの落下だ。
 間違いなく落下の隙を狙ってくるのは目に見えている。だからDIOのとった判断は───蹴った。
 戦車を思いきり蹴り飛ばし、強引に軌道を変えてブラック・コアに飲み込まれるのを回避したのだ。
 無論それだけではとどまらない。仮面ライダーの力で跳躍した勢いで豪速でABCへと迫る様に蹴りを、

433スカイ・ハンター ◆EPyDv9DKJs:2025/03/23(日) 01:49:06 ID:h5j6.Tts0
「ABCの効果は発動! このカードリリースし、
 除外されてるアサルト・コア、バスター・ドレイク、クラッシュ・ワイバーンに分解する!」

 叩き込めず、合体していたモンスターがそれぞれの形へと戻り完全に空振りに終わる。
 このままでは完全な隙だらけだ。XYZの二体の攻撃を避けれる状態ではなかった。

「ザ・ワールド!!」

 だから、殴った。
 ザ・ワールドを顕現させたDIOは、
 何と自分のスタンドで自分自身を殴りぬけたのだ。
 パワーAのスタンドは、迫りくる自動車ですら一撃で鎮める。
 いかに仮面ライダーで防護してると言えども胃液が逆流しそうな威力に顔をしかめざるを得ない。
 だがそうするしかなかった。確かに承太郎との戦いではスタンドもなしに飛行していた気がするが、
 少なくともこの舞台ではそのようなことが容易にできるわけではないことは今ここに明記しておく。
 ザ・ワールドに殴り飛ばされたDIOは承太郎に殴り飛ばされたときのように勢いよく飛んでいき、
 海馬が登場していた漆黒の闘龍に乗り込むことに成功し、そのままスタンドの拳を叩き込む。
 既にその手は見ているので飛び降りると同時に、A-アサルトコアへと着地し仁王立ちする。

「デュエルモンスターズ……此処まで面倒なものだとはな。」

 言うなれば無数のスタンド、スタンド能力を内包してるようなものだ。
 何が飛んでくるか分かったものではないのは、スタンドバトルにおけるセオリーでもある。
 だが一個人にそこまでの思考を割くと言うのはまずない。チェスやトランプの比ではない。
 主催が主軸に捉え、制限するというのは十分に納得できるものだと言うことがハイな思考でもよくわかる。

「このままでは千日手だ。いい加減終わりにする。」

「ほう。未だこのDIOを仕留めきれずにいる貴様がいったい何をする?」

「ABC、再度合体するがいい!!」

 海馬がXYZ-ハイパー・ドラゴン・キャノンへ飛び移り、
 ばらばらになったアサルト・コア達がドラゴン・バスターの姿へと戻っていく。

「更に、ABCドラゴン・バスターとXYZードラゴン・キャノンを除外!」

「何!?」

 少なくとも数の利は圧倒的だ。
 デュエルモンスターズに浅いDIOでも理解できる。
 それを捨ててまで出すモンスターに警戒しつつ、
 漆黒の闘龍を殴り倒し、戻ってきた戦車に飛び乗りながら様子をうかがう。

「合体せよ! これぞユニオンモンスターの頂点! AtoZドラゴン・バスター・キャノン!」

 元々が三体で構成されていたモンスターが分離していき、
 Zーメタル・キャタピラーを中心に姿形を変形させていく。
 三つ首の龍のように突き出た顔、何者も逃がさないであろう無数の砲。
 もはや決戦兵器。そう例えるしかないような超巨大兵器が空中に漂う。
 ユニオンモンスター三体を二種類融合させ、更にその二体を融合させると言う、
 圧倒的な高難易度の召喚条件を以って出されたモンスター。当然DIOは警戒するが、
 今までと同じか、それ以上の迫る弾幕を避ける以外に全く対抗策と言うものが取れない。

(下手に近づけば残ってるXYZとやらが邪魔をしてくる! このDIOにできるのは……)

 先ほど漆黒の闘龍に乗ったり降りたりした際に支給品をぎりぎり確認を終えた。
 これならば対処できる。デュエルモンスターズに二度も辛酸をなめさせられている。
 いい加減、カードの重要性も覚えると言うものであり、

「魔法カード『サンダー・ボルト』発動!!」

 緑のカードを翳し、歯をぎらつかせながらDIOは宣言する。
 サンダー・ボルト。相手フィールドの全てのモンスターを破壊する、
 余りにも単純にして強力なカード。素人でもその強みは十分理解できるものだ。
 これならばAtoZだけではない。海馬の足場となるモンスターも消し去ることが可能。
 海馬は攻撃を常に避け続けていた。落下に耐えられるような体はしてないことは伺える。
 全てのモンスターを破壊すれば、海馬はただ死ぬだけの存在となる。確実な勝利を掴める。
 ───はずだった。

「……甘いわぁ!! AtoZのモンスター効果発動!
 相手がカード効果を発動したとき手札を一枚捨てることでその効果を無効にし破壊する!」

「何ィ!?」

 だがDIOは敵を知らない。勉強不足だ。
 いや、一万種類を超えるデュエルモンスターズを把握しろ、
 などいかに名探偵でデュエルの知識も蓄えたLであっても把握はまず不可能だろう。
 逆転の一手となる雷光は、AtoZが跳ねのけて消し飛ばす。

「それが貴様の逆転の一手か……フゥン。なるほど、
 バトルシティで禁止カードに指定したカードならば逆転は可能か。
 だがカードプールは増えた。今となっては完全な脅威とはなりえん。」


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